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年 報 - jamstec
年 報
平成11事業年度
年 報
ホノルル港に入港する「よこすか」
(平成11年8月)
平成11事業年度 写真で見る
海洋科学技術センターのあゆみ
「しんかい6500」が通算500回潜航を達成(平成11年8月)
無人探査機「ハイパードルフィン」の導入(平成11年11月)
世界初、工業的に有用な微生物ゲノムの全塩基配列を決定
(平成11年7月)
深海巡航探査機「うらしま」導入(平成12年3月)
「H−Ⅱロケット 8号機」エンジン部発見(平成11年12月)
むつ研究交流棟完成(平成11年5月)
深層水分析研究棟完成(平成11年8月)
北海道釧路、十勝沖「海底地震総合観測システム
(2号機)
」
開始式(平成11年10月)
コルウェルNSF長官がセンターを訪問(平成11年4月)
May-Jun
a
5 m/s
c
Jul-Aug
5 m/s
Sep-Oct
5 m/s
b
d
Nov-Dec
5 m/s
インド洋におけるエル・ニーニョ現象を発見「ダイポール・モード・イベント」
と命名(平成11年9月)
序
無限の可能性を秘める海洋。昨今、地球環境の悪化、資源の枯渇、食糧問題の深刻化に伴い、海洋の政
治経済的重要性が益々高まっております。海洋環境の保護、海洋の衡平な利用を義務化し、海の憲法と言わ
れる国連海洋法条約では、海洋の科学的調査の推進をその柱の一つとして大きく取り上げています。海を知
るということにより、人類ひいては地球全体に明るい将来を導くことになると考えられるからであります。海洋科
学技術センターでは、世界の中核的研究拠点として、海洋科学技術分野の推進に努めております。
今、新しい千年紀を迎え、当センターは新しい局面を向かえております。その研究分野は海洋のみにとどま
らず、地球全体を含むものへと飛躍しようとするものであります。マントルへの到達を目指し、気候変動、地震、
未知の地下生物圏に関する研究の大きな足掛かりとなる
「地球深部探査船」は昨年10月、建造が開始されまし
た。平成16年度の完工を予定しております。また地球温暖化等の気候変動を予測するため、世界最高性能を
有する超高速並列計算機システム「地球シミュレータ」の関連施設の整備を横浜市杉田において引き続き実施
しております。さらに地球変動予測の実現に不可欠である地球観測研究を行う
「地球観測フロンティア研究シ
ステム」
も活動を開始いたしました。
一方、従来から続けている研究活動でも大きな成果を生んでおります。「地球フロンティア研究システム」で
は、インド洋東部やアフリカ大陸東海岸などで異常気象をもたらす原因となっているインド洋でのエルニーニョ
現象を世界で初めて発見いたしました。すでに発見されている大平洋でのエルニーニョ現象と合わせ、広範
囲にわたる気候変動研究の大きな足掛かりになると考えられております。また、
「深海環境フロンティア」では昨
年7月、工業的に有効利用されている好アルカリ性細菌、バチルスハロデュランスの全ゲノム配列を1年3ヶ月とい
う短期間で決定することに成功いたしました。さらに伊豆・小笠原海域に墜落したH-Ⅱロケット8号機の探査に
つきましても、
「かいこう」、
「ディープ・トウ」等による調査の結果、第1段ロケットエンジン部の発見という大変喜
ばしいという成果をあげることができました。これらは当センターの有する科学力、技術力がさまざまな面で社
会に還元されているものであると言えます。
この年報は平成11年度における当センターの事業内容をまとめたものです。この冊子により、当センターの活
動内容および海洋科学技術に関する研究開発について、皆様方のご協力を賜ることができれば幸いです。当セ
ンター役職員一同、海洋科学技術の推進と人類の明るい未来の開拓のため気概を持って、一層の努力を続け
ていく所存であります。今後とも当センターに対する一層のご支援とご協力を賜りますようお願い申し上げます。
平成12年10月
海洋科学技術センター
理事長 平
野 拓 也
年 報
目 次
序
第1章 総説
1.事業概要 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯1
2.組織と定員 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯6
3.予算と決算 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯8
4.土地と建物 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯9
5.国際交流 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯11
第2章 研究開発活動
1.深海研究部 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯13
2.海洋技術研究部 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯26
3.海洋観測研究部 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯34
4.海洋生態・環境研究部 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯58
5.情報管理室 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯71
6.深海環境フロンティア ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯74
7.海底下深部構造フロンティア ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯84
8.地球フロンティア研究システム ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯89
9.地球観測フロンティア研究システム ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯95
10.深海地球ドリリング計画準備室 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯96
第3章 研究支援活動
1.情報管理室 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯102
2.研修事業 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯111
3.船舶の運航関係業務 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯113
第4章 むつ事務所
1.むつ事務所の活動の概要 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯127
2.むつ事務所の設備・施設の整備 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯127
第5章 研究評価
1.事前評価 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯130
2.中間・事後評価 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯132
第6章 賛助会会員
1.賛助会会員と寄付者名簿 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯143
第1章 総説
1.事業概要
究、プロジェクト研究に発展する研究課題を経常研
究として推進することとしており、平成11事業年度に
は、表3に示すテーマを経常研究として実施した。
海洋科学技術センターでは、我が国の海洋開発
推進のため、内外の関係各機関との緊密な連携の
もとに、平成11事業年度も、研究開発事業、研修事
4)受託研究及び共同研究
業、情報業務及び施設・設備の整備と供用等の事
当センターでは、海洋科学技術に関するもので、
センターにとって実施することが有益であり、他機関
業を実施した。各事業の概要は、次のとおりである。
から実施を依頼された研究を受託研究として行う
(1)研究開発事業
こととしており、平成11事業年度には表4に示すテ
ーマを受託研究として実施した。
当センターでは、研究開発の目的、内容、進捗状
また、他機関と相互にその研究開発能力、研究成
況を勘案し、プロジェクト研究、特別研究、経常研究
果を利用することにより、経費の削減、研究に要する
に区分し、年度当初に策定した計画にしたがって研
期間の短縮及び優れた研究成果が得られる研究を
究を行うとともに、年度途中において、情勢の変化や
共同研究として行うこととしており、平成11事業年度
自由な発想に基づく創造的な研究を随時実施でき
には表5に示すテーマを共同研究として実施した。
るような柔軟な体制で、研究開発を行っている。ま
た、内外の関係機関の要望や協力の下に、受託研
(2)研修事業
究及び共同研究を行っている。平成11事業年度に
当センターでは、研究開発の成果を広く一般に普及
実施した各研究開発事業は、次のとおりである。
し、我が国における海洋開発の推進に必要な人材の
1)
プロジェクト研究
養成に資するために研修事業を行っており、平成11事
当センターでは、経済社会の発展に寄与し、海洋
業年度には、潜水技術等に関する研修や高校生を対
科学技術の向上に資することを目的として、重要ま
象にしたサイエンス・キャンプや、高校生及び高校教諭
たは大規模もしくは総合的な研究・開発をプロジェ
等を対象にしたマリンサイエンス・スクールを実施した。
クト研究として推進することとしており、平成11事業
年度には、表1に示すテーマをプロジェクト研究とし
(3)情報業務
て実施した。
当センターでは、研究開発に必要な内外の海洋
2)特別研究
科学技術文献(図書、雑誌、会議資料、技術レポー
当センターでは、経常研究等の基礎的成果に基
ト等)の収集を行うとともに、研究成果を内外に広
づき、将来のプロジェクト研究に発展させるための
く発表し、普及させるため、各種報告書を刊行した。
研究・開発を特別研究として推進することとしてお
また、海洋情報データベースの構築の推進、スーパ
り、平成11事業年度には、表2に示すテーマを特別
ーコンピューターシステムの運用を行った。
研究として実施した。
(4)船舶等の運用業務
3)経常研究
当センターでは、上記の各事業を推進するため、
当センターでは、個々の研究者の研究能力を活
2,000m級潜水調査船システム
(有人潜水調査船「し
かした自由な発想の研究課題もしくは将来、特別研
─1 ─
んかい2000」、支援母船「なつしま」及び陸上整備
の調査を実施し、平成11事業年度の総航海日数は
場)、無人探査機「ドルフィン−3K」、10,000m級無人
234日となった。
探査機「かいこう」、海洋調査船「かいよう」、6,500m
級有人潜水調査船システム
(有人潜水調査船「しん
5)
「しんかい6500」
かい6500」、支援母船「よこすか」及び陸上整備場)、
日本海、日本海溝、南海トラフ及びハワイ周辺海
深海調査研究船「かいれい」及び海洋地球研究船
域において計64回の潜航を実施した。
「みらい」を保有しており、平成11事業年度における
6)
「よこすか」
これら船舶等の運用実績は次のとおりである。
「しんかい6500」の潜航支援のほか、単独調査を行
1)
「しんかい2000」
い、平成11事業年度の総航海日数は282日となった。
相模湾等日本周辺海域及びマヌス海盆海域にお
7)
「かいこう」
いて、計84回の潜航を実施した。
南海トラフ、南西諸島、日本海溝等の日本周辺海
2)
「なつしま」
域及びマリアナ海溝において計47回の潜航を実施
「しんかい2000」
「ドルフィン−3K」の潜航支援の
した。
ほか、単独調査を行い、平成11事業年度の総航海
8)
「かいれい」
日数は280日となった。
「かいこう」の潜航支援のほか、単独調査・海底
3)
「ドルフィン−3K」
下深部構造調査を行い平成11事業年度の航海日数
試験、訓練潜航及び「しんかい2000」事前調査の
は296日となった。
ほか南西諸島、相模湾、三陸沖等において計51回
9)
「みらい」
の潜航を実施した。
平成10事業年度に引き続き、平成11事業年度は
4)
「かいよう」
共同利用型運航8航海を実施した。航海日数は共同
実海域における各種実験、観測及び深海曳航等
利用運航として297日、総航海日数は320日となった。
表1 プロジェクト研究
項 目
実施期間
担当部・室・課
1
海洋底ダイナミクスの研究
平成10年度∼
深海研究部
2
海底地震総合観測システムの開発・整備
平成 8 年度∼
深海研究部
3
リアルタイム深海底ネットワーク観測技術の研究開発
(旧 深海底ステーションによる長期観測研究)
平成 4 年度∼
深海研究部
4
先進的技術の研究開発
平成10年度∼
海洋技術研究部
5
自律型無人潜水機の研究開発
平成10年度∼
海洋技術研究部
6
海洋観測ブイシステムの開発
平成 5 年度∼
海洋技術研究部
7
海洋エネルギー利用技術の研究開発
平成元年度∼
海洋技術研究部
8
地球深部探査船の研究開発
平成 2 年度∼
深海地球ドリリング計画プロジェク
トチーム、海洋技術研究部、深海研
究部、深海掘削プログラム準備室、
研究業務部
9
熱帯赤道域における観測研究
平成 5 年度∼
海洋観測研究部
─ 2 ─
表1 プロジェクト研究の続き
項 目
実施期間
担当部・室・課
10
海洋音響トモグラフィー技術の研究開発
平成元年度∼
海洋観測研究部、海洋音響トモグラ
フィー運用プロジェクトチーム
11
亜熱帯海域における長期自動観測(旧 海洋自動観測技術の研究開発)
昭和62年度∼
海洋観測研究部
12
亜熱帯循環系における観測研究
昭和61年度∼
海洋観測研究部
13
北極海域における海洋観測技術の開発及び観測研究
平成 3 年度∼
海洋観測研究部
14
海洋−大気相互作用に係る観測技術の開発及び観測研究
平成 9 年度∼
海洋観測研究部
15
海洋レーザ観測技術の研究開発
昭和62年度∼
海洋観測研究部、むつ事務所
16
高緯度海域における物質循環機構解明に関する観測研究
平成 7 年度∼
海洋観測研究部
17
熱帯・亜熱帯域における基礎生産機構解明に関する観測研究
平成 9 年度∼
海洋観測研究部、むつ事務所
18
地球温暖化機構の解明に関する研究
平成11年度∼
海洋観測研究部、むつ事務所
19
成層圏プラットフォーム用海洋観測センサに関する研究
平成10年度∼
海洋観測研究部
20
トライトンブイネットワークの開発整備
平成 5 年度∼
トライトンブイ運用プロジェクトチーム
21
深海生態系に関する研究(旧 熱・物質循環と生物圏の相互作用に関す
る研究)
平成 9 年度∼
海洋生態・環境研究部
22
海洋の生態系変動機構の解明研究
平成10年度∼
海洋生態・環境研究部
23
深海環境フロンティア研究
平成 2 年度∼
フロンティア研究推進室
24
地球フロンティア研究システム
平成 9 年度∼
フロンティア研究推進室
25
海底下深部構造フロンティア研究
平成 8 年度∼
フロンティア研究推進室
26
地球変動予測研究情報システムの整備・運用
平成11年度∼
フロンティア研究推進室
27
地球観測フロンティア研究システム
平成11年度∼
フロンティア研究推進室
28
地球シミュレータ並列ソフトウェア開発
平成10年度∼
フロンティア研究推進室
29
地球シミュレータシステム製作
平成11年度∼
情報管理室、地球シミュレータ研究
開発センター
30
ベンチャー育成のための研究費
平成11年度∼
計画管理課、企画課
31
深海バイオベンチャーセンターの整備(研究機器関係)
平成11年度∼
フロンティア研究推進室
32
沿岸環境・利用の研究開発
平成10年度∼
計画管理課
表2
特別研究
項 目
実施期間
担当部・室・課
1
氷海域における無人潜水機技術の研究
平成10∼12年度
海洋技術研究部
2
ライザー管に関する模型実験及び挙動解析
平成10∼11年度
海洋技術研究部
3
高解像度海洋大循環モデルによる海洋観測評価手法の研究
平成 9 ∼11年度
海洋観測研究部
4
パプア島周辺海域における地震・津波発生メカニズムの研究
平成10∼12年度
深海研究部
5
深海底堆積物試料の古地磁気学的研究による古環境変動の研究
平成11∼13年度
深海研究部
─3 ─
表3
経常研究
項 目
実施期間
担当部・室・課
1
底質試料の岩石化学分析・岩石物性計測のための試料処理手法に関する
研究
平成10∼12年度
深海研究部
2
拡大軸マグマ溜まりの活動と構造に関する研究
平成 8 ∼12年度
深海研究部
3
潜水調査船・無人潜水機を利用した海洋放射能測定に関する研究
平成10∼14年度
深海研究部
4
ケーブル式観測装置を用いた津波および地殻変動の研究
平成11∼13年度
深海研究部
5
深海TV観測機用ランチング・システムの開発
平成 8 ∼11年度
海洋技術研究部
6
LEDによる非接触型データ通信に関する研究
平成 9 ∼11年度
海洋技術研究部
7
前方探査ソーナーによる画質認識の研究
平成 9 ∼11年度
海洋技術研究部
8
「しんかい6500」の推進操縦装置の性能向上に関する研究
平成10∼12年度
海洋技術研究部、研究業務部
9
無人潜水機UROV7Kの運用技術の研究
平成10∼11年度
海洋技術研究部、研究業務部
10
最適浮体配置群による静穏海域造成システムの研究開発
平成 9 ∼11年度
海洋技術研究部
11
減揺装置の性能向上に関する研究
平成11∼13年度
海洋技術研究部
12
トライトンブイセンサーの性能評価および計測データの評価
平成 8 ∼12年度
海洋観測研究部
13
海洋の炭酸系測定の精度向上に関する研究
平成 9 ∼12年度
海洋観測研究部
14
海洋における微量金属元素の挙動に関する研究
平成 9 ∼11年度
海洋観測研究部
15
海洋生態系の複合モデル化に関する研究
平成10∼12年度
海洋生態・環境研究部
16
サンゴ近傍における海水運動の評価手法に関する研究
平成10∼12年度
海洋生態・環境研究部
17
科学潜水ダイバーの潜水後高所移動に関する研究
平成10∼12年度
海洋生態・環境研究部
18
サンゴ礁魚類のバイオマス計測法の研究
平成10∼12年度
海洋生態・環境研究部
19
中・深層生物の採集・飼育装置の開発
平成10∼12年度
海洋生態・環境研究部
20
駿河湾海域の深層水変動特性に及ぼす黒潮の影響に関する研究
平成11∼13年度
海洋生態・環境研究部
21
再生生産に関わるプランクトンの定量把握に関する研究
平成11∼13年度
海洋生態・環境研究部
22
適応、再適応に及ぼす自律神経系の関与に関する研究
平成11∼13年度
海洋生態・環境研究部
23
次世代ネットワークの設計と管理手法の研究
平成10∼11年度
情報管理室
24
海洋計算における並列化手法の研究
平成11∼13年度
情報管理室
表4
項 目
1
2
受託研究
実施期間
委託者
海底ケーブルを用いた地震等多目的地球環境モニタ 平成 7 ∼11年度 科学技術庁
ーネットワークの開発に関する研究
全地球ダイナミクス:中心核にいたる地球システム 平成 8 ∼12年度 科学技術庁
の変動原理の解明に関する国際共同研究
担当部・室・課
深海研究部
深海研究部
3
北太平洋亜寒帯循環と気候変動に関する国際共同研究
平成 9 ∼11年度 科学技術庁
海洋観測研究部
4
炭素循環に関するグローバルマッピングとその高度 平成10∼12年度 科学技術庁
化に関する国際共同研究
海洋観測研究部
5
南海トラフにおける海溝型巨大地震災害軽減のため
の地震発生機構のモデル化・観測システムの高度化 平成 8 ∼12年度 工業技術院地質調査所
に関する総合研究
フロンティア研究推進室
─ 4 ─
表4 受託研究の続き
項 目
実施期間
委託者
担当部・室・課
6
生物系研究資材のデータベース化及びネットワーク
平成 9 ∼11年度 科学技術振興事業団
システム構築のための基盤的研究開発
フロンティア研究推進室
7
高精度の地球変動予測のための並列ソフトウエア開
平成10∼12年度
発に関する研究
海洋観測研究部
8
深海放射能測定に関する研究( )
9
雲仙火山:科学掘削による噴火機構とマグマ活動解
平成11∼13年度 科学技術庁
明のための国際共同研究
平成11年度
表5
項 目
高度情報科学技術研究機構
日本原子力研究所
深海研究部
深海研究部
共同研究
実施期間
共同研究機関
担当部・室・課
1
日本周辺及び米州大陸周辺における海溝型地震と 平成 9 ∼12年度 ウッズホール海洋研究所
それに伴う地質現象のメカニズムの比較研究
2
熱水プルームの長期モニタリングによる変動特性の 平成10∼14年度 Rutgers大学、Washington大学 深海研究部
解明に関する研究
工業技
平成 9 ∼11年度 東京大学海洋研究所、
深海研究部
伊豆小笠原弧及び関連海域の地質に関する研究
術院地質調査所
3
深海研究部
4
冷湧水起源の炭酸塩類の生成環境に関する研究
5
無人探査機用テザーケーブルのリアルタイムカテナリ 平成 9 ∼12年度 三井造船
推定技術の研究
6
深海底調査、観測のための「かいれい」における自動 平成10∼11年度 川崎重工業
海洋技術研究部
操船システムの研究
電力中央研究所、古河電気
海洋技術研究部
圧縮空気を利用した深層水汲み上げ技術の研究開発 平成 8 ∼11年度 工業
波エネルギー吸収機構を用いた超大型浮体の動揺制御 平成11∼13年度 東京大学、メガフロート技術 海洋技術研究部
研究組合
に関する研究
7
8
平成 7 ∼12年度 広島大学
深海研究部
海洋技術研究部
9
太平洋赤道海域における地球温暖化の原因物質と基礎 平成 7 ∼11年度 気象研究所
生産力に関する観測研究
10
海洋音響トモグラフィーデータの解析手法の研究
11
熱帯太平洋域の中層及び深層循環の構造と変動特性の 平成10∼12年度 東京大学海洋研究所
観測研究
12
紀本電子工業 、 堀場製作
地球温暖化モニタリング洋上プラットフォームに関する 平成10∼12年度 所、川崎重工業 、資源環境 海洋観測研究部
基礎研究
技術総合研究所
13
赤道湧昇域における基礎生産力変動と環境因子の観測 平成 7 ∼11年度 ダルハウジィー大学
研究
14
20Hz音源用超磁歪材料の特性評価に関する研究
15
海洋試料に含まれる長寿命放射性核種測定の高感度・ 平成11∼14年度 環境庁国立環境研究所
高精度化に関する研究
16
ROVを用いた中・深層生物の研究
17
日本海固有水の性状及び分布・変動特性に関する研究 平成 9 ∼11年度 富山県水産試験場
海洋生態・環境研究部
18
動物プランクトン自動計測器の海洋生態系研究のため 平成 9 ∼11年度 中央水産研究所
の基盤技術に関する研究
海洋生態・環境研究部
19
高分圧酸素の効用に関する基礎研究
20
東陽テクニカ、シービーム
シービームの海底下探査ソーナーの機能向上に関する 平成 9 ∼11年度
情報管理室
インスツルメント社
研究
高性能テレビカメラによる撮影技術、画質評価、撮像 平成11∼13年度 NHK放送技術研究所
研究業務部・情報管理室・総務部
デバイスの性能向上に関する調査研究
21
平成 9 ∼11年度 沖電気工業 (2課題を統合)
平成10∼11年度 沖電気工業
平成 9 ∼11年度 モンテレー湾水族館研究所
平成 9 ∼11年度 東京慈恵会医科大学
22
自律型無人潜水機
(AUV)
の運用技術に関する研究開発 平成11年度
23
海洋底における地震・地殻変動ネットワーク観測基礎 平成11∼14年度 東京大学地震研究所
研究
─5 ─
東京大学海中工学研究センター
海洋観測研究部
海洋観測研究部
海洋観測研究部
海洋観測研究部
海洋観測研究部
海洋観測研究部
海洋生態・環境研究部
海洋生態・環境研究部
研究業務部
深海研究部
2.組織と定員
本年度の組織及び定員は表1に示すとおりである。
定員については、研究開発基盤の充実と質的向
上のため次長2名及び課長代理2名、深海地球ドリ
リング計画を推進する体制整備のため室長1名及び
係長1名、地球観測フロンティア研究システムの推進
事務体制整備のため課長代理1名、地球深部探査
船に関する開発能力の強化のため研究員1名、自律
型無人潜水機(AUV)開発能力の強化のため研究
員1名、放射性炭素(14C)
を用いた物質循環研究の
強化のため研究員1名、古海洋環境の観測研究の
強化のため研究副主幹1名、併せて11名の増員を
行い、10,000m級無人探査機の運用員2名の減員を
行った。
なお、本年度は、役員10名(内非常勤5名)、職員
223名の合計233名(前年度224名 10名増員 2名
減員)
となった。
─ 6 ─
表1
組織及び定員(平成11事業年度)
定 員
役 員 10(内非常勤5)
職 員 223
総 務 部
経 理 部
企 画 部
総 務 課
規程類の作成、
文書、
庁内取締等
調 査 役
民間協力団体との連絡、
寄付金及び出資の募集、
賛助会の業務
普 及・広報課
広報に関する業務、
研修計画の作成、
各種研修の指導
人 事 課
人事、
任免、
服務、
研修、
労務、
給与、
厚生保険、
福利等
安 全 管 理 室
安全管理
経 理 課
予算、
資金、
決算、
有価証券の出納及び保管、
財産管理、
監査
契 約 課
契約
企 画 課
業務の基本的運営方針、
研究開発の企画立案、
調査、
事業計画作成
国 際 課
国際協力及び交流に関する調査・調整
計 画 管 理 課
研究開発計画の管理、
受託・委託・共同研究、
特許等の業務、
研究成果普及、
研究評価に係る業務
深海地球ドリリング 深海地球ドリリング計画に係わる準備業務
計 画 準 備 室
フロンティア
研 究 推 進 室
基本計画、
運営委員会の庶務
研 究 計 画 課 フロンティア研究等の研究計画、
予算執行管理等に関する業務、
運営管理、
施設・設備の
研 究 事 業 課 フロンティア研究等の庶務、
維持・管理
地質構造に関する研究
第1研究グループ 深海の微細地形、
深 海 研 究 部
力学的調査研究
第2研究グループ プレート構成物の岩石・鉱物的、
力学的特性に関する研究
第3研究グループ 地理内部の物理的構造、
進化のシミュレーションに関する調査研究
第4研究グループ プレート運動、
特殊試料採取、
掘削孔利用各システムの開発
第1研究グループ 地球深部探査船システムの開発、
会 長
理事長
海洋技術研究部
海中音響処理技術の
第2研究グループ 海中音響技術及び音響技術調査観測機器に関する試験研究、
研究開発
理 事
自律型無人潜水機(AUV)、
調査観測システム、
計測・解析
第3研究グループ 海洋機器動力源、
監 事
システムに関する研究開発
第4研究グループ 海洋エネルギー利用技術の研究開発
熱帯海洋における熱輸送・循環の
第1研究グループ 熱帯赤道海域における海洋観測ブイの技術開発、
観測研究
第2研究グループ 中高緯度海域及び黒潮続流域に関する総合的観測研究
海洋観測研究部
(IOEB)
の技術開発、
北極海の海洋循環の観測研究
第3研究グループ 氷海用自動観測ステーション
第4研究グループ 海洋型偏波ドップラーレーダーの研究開発及び海洋・大気相互作用に関する観測研究
第5研究グループ 海洋レーザの研究開発及び海洋における物質循環に関する観測研究
第6研究グループ 同位体比及び微化石群集解析による地球温暖化機構の解明に関する研究
第1研究グループ 海洋生態環境における物理学的研究
海洋生態・環境
研究部
化学的研究
第2研究グループ 海洋生態環境における生物学的、
第3研究グループ 生態の海中研究技術開発に関する研究
研 究 業 務 部
計 画 調 整 課
船舶・海洋観測ブイネットワークの運用及び研究支援業務に関する管理・調整
施設・設備課
施設及び大型共用設備並びに研究用分析機器の整備・管理・保守
海 務 課
潜水調査船及び支援母船並びに海中作業実験船の運航に関する業務
船 舶 工 務 課
潜水調査船及び支援母船並びに海中作業実験船の整備等に関する業務
運 航 チ ー ム 「しんかい6500」及び10,000m級無人探査機「かいこう」の操縦・整備に関する業務
情 報 管 理 室
海洋科学技術情報の収集・分類・整理・加工・提供・保管、
海洋総合観測データの
解析・処理及び管理、
電子計算機システム利用技術の研究
給与、
福利厚生、
広報、
経理、
契約及び物品管理
管 理 課 むつ事務所の庶務、
む つ 事 務 所
運航業務室
大型海洋観測研究船「みらい」の運航管理、
観測データ及びサンプルの処理、
管理提供等
船 舶 ・ 施 設 課 むつ事務所の施設・設備の運用保守管理
大型海洋観測研究船「みらい」の保守・整備及び観測ブイの保守・整備
─7 ─
(1)資本金
3.予算と決算
平成11事業年度においては、41,991,000千円を
平成11事業年度は、海洋科学技術に関する研究
開発並びに研修及び情報事業等の推進に必要な
増資し、277,258,191千円となった。この増資は政
府出資金によるものである。
なお、出資金の増加状況を表2に示す。
経費として総額45,675百万円の予算が認可され、収
支決算においては、60,890百万円の収入決定に対
し、45,950百万円の支出決定、14,940百万円の予
(2)資本剰余金
平成11事業年度末における資本剰余金総額は、
算繰越等を生じた。また、財務決算においては
277,258百万円の資本金を有することとなった一方、
3,149,972千円である。
当期損失金28,624百万円が新たに生じたため、欠
損金総額は、200,069百万円となった。
(巻末の「資
(3)契約
平成11事業年度における契約実績のうち主なも
料」編を参照)
なお、平成7事業年度以降の予算の推移を表1に
のは、研究開発費では「地球シミュレータ用超高速
並列計算機の製作」、
「地球深部探査船の建造」、ま
示す。
表1
た、業務運営費では潜水調査船「しんかい2000」及
予算推移
(単位:億円)
び「しんかい6500」
とこれらの支援母船「なつしま」
及び「よこすか」等の運航管理業務のほか、海洋地
600
10
24
500
球研究船「みらい」の運航管理業務である。
11
26
なお、平成7事業年度以降の契約実績
(支出原因)
400
300
11
29
10
21
10
23
12
25
196
207
平成8年度
平成9年度
200
457
その他
国庫補助金
政府出資金
420
は、表3のとおりである。
314
303
100
0
平成7年度
平成10年度
平成11年度
平成12年度
表2
出資金の増加状況
(単位:千円)
10事業年度
区 分
構成比
(%)
11事業年度
政府出資金
民間出資金
235,237,191
30,000
0.01
30,000
0.0 1
計
235,267,191
100.00
277,258,191
100.0 0
表3
99.99
277,228,191
構成比(%)
99.99
契約(支出原因)状況年度別推移
(単位:千円)
年度
7
8
9
10
11
合 計
件数
契約金額
(4,813)
3
272
(4,543)
10
327
(5,151)
4
367
(4,961)
8
517
(4,931)
11
482
債
債
債
債
債
7,087,518
15,546,580
2,200,301
9,540,574
設計・管理及び工事契約
件数
契約金額
22
20
物件その他の契約
件数
契約金額
964,577
3
250
1,008,150
10
307
4
348
3,246,124
13,291,790
19
993,278
3,341,081
29,484,342
6
40
964,081
5,722,044
22,121,278
24,530,303
7
23
6,118,350
2,314,035
─ 8 ─
備 考
債
1. 1件200万円以上の契約
7,087,518 件数及び契約金額
14,582,003
債
2. 設計・管理及び工事契約は
2,200,301
8,532,424 1件500万円以上
債
内は、全契約件数
3,246,124 3.( )
12,298,512
4. 変更契約件数は除く
債
2,377,000
2
23,762,298 5. 477
債 は債務負担行為
債
16,002,928
4
22,216,268
459
4.土地と建物
(2)
(1) 土 地
建 物
昭和47年4月、国から神奈川県横須賀の国有地
表1のとおり昭和47事業年度から順次整備してお
40,159.57m2の現物出資を受けた。また昭和55年事
り、平成11事業年度迄で各種研究施設棟27棟、延
業年度以来工事を進めていたセンター地先の埋立
べ床面積31,702.50m2となった。
尚、平成11事業年度は、新食堂、海洋技術研究棟、
工事を昭和57事業年度までに18,391.84m 2 を竣工
新本館を建設した。
させた。昭和58事業年度には、国から855.99m 2
を購入、更に昭和60年5月に第2期埋立工事として
4,518.93m2を竣工させ、土地の合計面積は63,926m 2
となった。
尚、この埋立地と既存地盤との間に段差が生じ
ていたため、既存地盤の嵩上げ工事を昭和61∼62
年度で実施した。また、昭和63∼平成11年度で構
内環境整備工事を実施した。
表1
研究施設の整備状況
(単位:m2 )
建屋区分
延床面積
潜水シミュレータ棟
1 , 5 8 6 . 6 4 m2
海域研究棟
整備年度
2
484.37m
建屋区分
47年度
50年度改修
47年度及び
55年度改修
5 8 4 . 8 8 m2
47年度
平成4年度改修
海洋工学実験場
3 , 0 0 0 . 0 0 m2
47∼48年度
平成6年度改修
潜水訓練プール棟
1 , 5 9 5 . 8 4 m2
48年度
平成7年度改修
3 4 5 . 6 0 m2
48年度
53年度改修
48年度
49年度
50年度
51年度
平成7年度改修
52年度
54年度
58年度
平成3年度増築
海洋研修棟
ガスバンク棟
排棄物処理棟
展示館(旧本館)
高圧実験水槽棟
数理解析棟
1 5 3 . 9 0 m2
2 , 2 4 9 . 9 3 m2
6 2 2 . 3 3 m2
7 9 6 . 5 0 m2
動物シミュレータ棟
動物実験棟
潜水調査船整備場
2 0 2 . 0 5 m2
7 5 4 . 8 4 m2
1 , 2 2 0 . 7 3 m2
延床面積
海洋実験機材保管庫
123.84m2
潜水調査船整備場
変電棟
深海総合研究棟
海洋研究棟
無人探査機整備場
情報・電源棟
フロンティア研究棟
室戸陸上局局舎
新プレハブ棟
化学廃液一時保管庫
特別高圧受電所
新食堂
海洋技術研究棟
新本館
72.00m2
5,639.82m2
1,981.80m2
493.51m2
1,124.32m2
1,980.00m2
187.94m2
99.37m2
19.59m2
458.54m2
484.70m2
2,073.23m2
3,366.23m2
31,702.50m2
合 計
─9 ─
整備年度
59年度
平成5年度増築
62年度
平成5年度
平成6年度
平成7年度
平成7年度
平成8年度
平成8年度
平成8年度
平成9年度
平成10年度
平成11年度
平成11年度
平成11年度
─ 10 ─
P
海洋
科学
技術
セン
ター
研究施設等配置図
(3)政府間協力に基づく協力
5.国際交流
日米(日米コモンアジェンダ及び科学技術協定下
近年の地球気候変動をはじめとする地球環境等の
問題に対する関心の高まりに伴い、海洋の観測及び
での協力計画、UJNR協力計画)、日仏、日加、日独、
研究は全球的規模での対応や展開が求められている。
日露の各政府間協力専門部会の下での研究協力を
こうした地球環境等の問題の解明に貢献し、また海洋
実施している。
平成11年度に開かれた政府間協力専門部会は
の観測及び研究をより効果的かつ効率的に推進していく
ために、国際機関や国際共同計画、及び海外の諸研究
以下の通り。
・平成11年6月 日露科学技術協力委員会
機関等との協力関係の構築及び推進を図っている。
・平成11年11月 日米科技協定・地球科学及び
(1)国際共同研究計画
地球環境リエゾン会合
・平成11年12月 日独海洋科学技術パネル
UNESCO(国連教育科学文化機関)のIOC(政府
間海洋科学委員会)
に対しては、運営委員会委員と
(4)海外関係機関との協力
して専門家を派遣して活動の支援を行うとともに、
米国、仏国、独国、加国及びインドネシアの各国
海洋法を中心とした動向の把握を行っている。
また、センターの主要観測調査海域の一つであ
る南太平洋において影響力を有するSOPAC(南太
関係機関と研究協力等に関する覚え書や合意書を
締結、これらの下で研究協力を実施している。
平洋応用地球科学委員会)等その他の海洋関連国
際機関に対しても、必要に応じて適宜研究者を派
1)米国ウッズホール海洋研究所(WHOI)
遣し、その研究活動に貢献している。
平成8年9月に協力協定を更新し、平成11年7月
にはWHOIにて定期協議を実施した。プレートテク
(2)国際共同計画
トニクス、深海生物、海洋音響トモグラフィー、北極
海研究、海洋物質循環、深海掘削船、氷海用自動
センターは以下に示す各国際共同計画に参画、
観測ステーションの共同設置など広範な範囲での
協力を実施中である。
活動への貢献を行っている。
2)米国スクリプス海洋研究所(SIO)
・GOOS(国際海洋観測システム:Global Ocean
平成8年12月に研究協力に関する覚書を更新し、
Observing System)
・ODP(深海掘削計画:Ocean Drilling Program)
海洋大循環に関する研究、太平洋の海洋プレート
・PICES( 北 太 平 洋 科 学 機 構:North Pacific
の変形に関する研究で協力関係にある。
3)米国海洋大気庁太平洋環境研究所
Marine Science Organization)
(NOAA/PMEL)
・CLIVAR(気候変動とその予測可能性に関する
平成9年12月に太平洋観測研究に関する研究協力
研究:The Climate Variability and Predictability
覚書を一部改定し、国際共同研究である熱帯太平洋
Programme)
・SHEBA(北極海表面熱収支観測研究計画:
での係留計測ブイの展開について協力関係にある。
4)米国海洋研究所連合法人(JOI)
Surface Heat Budget of the Arctic Ocean)
・InterRidge(An initiative for international cooper-
ODPの計画管理組織であるJOIと平成10年7月に
ation in ridge-crest studies:国際海嶺研究計画)
科学的深海掘削に関する協力協定を締結し、平成
・InterMARGINS (the International Margins
11年に、IWGサポートオフィスに関する科学技術及
Program)
び運営情報プロジェクトについての協定を締結した。
─ 11 ─
5)米国ハワイ大学海洋地球科学技術学部
(5)
その他の国際協力
(UH/SOEST)
平成10年8月に共同調査に関する実施取り決めを
平成11年8月には、米国ハワイ州ホノルル市にお
締結し、ハワイ諸島周辺における海底地滑り及び海底
いて、有人潜水調査船「しんかい6500」及び支援母
火山の活動の起源や履歴についての調査を行った。
船「よこすか」の一般公開を行い、センターの研究
6)
米国ルトガース海洋・沿岸科学研究所、ワシントン
活動の紹介を行った。
大学応用物理研究所
9月には、国連小島嶼国特別総会にて、平成11年
平成11年3月に海底熱水湧出に係る長期モニタ
リングについての共同研究に関して実施取り決めを
1月と2月に実施したパプアニューギニア津波調査結
果の報告を行った。
締結し、海底熱水湧出の時空間分布を把握するた
10月には、平野理事長がコロンビア大学から招か
めの長期音響モニタリングの観測機器の開発と応
れ、
「海と日本人」
と題した基調講演を行った。講演
用研究を実施する運びとなった。
会場には、
「しんかい6500」の1/2.5模型が展示され、
7)コロンビア大学ラモント・ドーティー地球観測所
(LDEO)
その後、11月まで、ニューヨークのアメリカ自然史博
物館に展示された。
平成9年12月に研究協力に関する覚え書を締結
し、以来、海洋物理学、海洋科学、海洋固体地球
科学の分野で研究情報の交流を行っている。
また、研究協力の覚え書や実施取り決め等を締結
していないものの、以下の機関と研究協力を実施した。
8)
フランス国立海洋開発研究所(IFREMER)
1)米国モントレー湾水族館研究所(MBARI)
平成10年7月に研究協力に関する覚え書を締結
2)米国アラスカ大学
し、平成11年2月には、伊勢・志摩において定期協
3)米国メリーランド大学海洋バイオテクノロジー
議を行った。深海微生物及び海中技術の分野にお
センター
いて研究協力を実施している。
4)
カナダ海洋科学研究所(IOS)
9)独国アルフレッド・ウェゲナー極地・海洋研究所
5)中国国家海洋局第一研究所
(AWI)
6)
オーストラリア海洋研究所(AIMS)
海洋研究、深海微生物の分野で協力関係の発展
7)
オーストラリア連邦科学産業研究機構
(CSIRO)
が期待される。
10)
インドネシア技術応用庁(BPPT)
(6)外国出張、調査団、在外研究員の派遣、
外国人研究者の招聘
平成9年3月に協力協定を締結し、太平洋赤道域の
海洋観測研究について協力関係にある。平成11年6
月に改めて熱帯海洋観測研究(TOCS)
に関する実施取
詳細を資料11
「外国出張等」に示す。
極めを締結した他、平成11年9月に係留ブイによる海
(7)科学技術庁フェローシップ制度に基づく海外
洋気象変動の研究に関する実施取極めを締結した。
11)
カナダ漁業海洋省(DFO)
研究者の受け入れ、科学技術庁関係人材
平成12年3月に研究協力に関する覚え書を締結
交流制度に基づく海外研究者の受け入れ
し、北極海域の気候システムの解明のために、シン
ポジウム・セミナー等を通しての意見交換、両機関
詳細を資料11
「外国出張等」に示す。
の研究資源を用いての共同研究・調査等が実施可
能となった。
(8)外国人来訪者の受け入れ
詳細を資料14「来訪者」に示す。
─ 12 ─
第2章 研究開発活動
(a)海洋プレート沈み込み帯のメカニズムに関する研究
1.深海研究部
平成10年度に引き続き、背弧リフト域の地質・岩
石学的研究を進め、また、銭洲海嶺を含めた南海
(1)研究活動の概要
トラフ東部においても研究対象を拡げた。一方、
深海研究部は、海洋プレートのダイナミクスに起
因する固体地球の変動現象の理解を目的とし、地
地震学的研究の対象は前弧地域に集中し、地域的
な違いを明らかにすることを念頭においている。
震学、地球物理学、地球化学、地質学、エンジニア
背弧リフト域の地質学的、岩石学的研究の対象
リングを専門とする研究員が所属している。研究領
は伊豆・小笠原海域である。最近の3年間で、伊
域は海洋プレート生成域である中央海嶺から、そ
豆・小笠原島弧の南部に位置する孀婦岩構造線周
の消滅域である海溝にいたるまで、変動現象は数
辺において、
「よこすか/しんかい6500」の調査航
百万年を要する地質学的過程から、地震、津波等
海が集中的に行われてきた。この地域は、前弧(古
の急激な変動までの時空間的拡がりを研究対象と
島弧)、背弧側に背弧拡大によって形成された四国
している。以下に平成11年度の研究活動成果を報
海盆、それらの間に現在のプレート沈み込みに伴
告する。ハワイホットスポット調査、北海道釧路・十
う新しい島弧火成活動、背弧リフティングによって
勝沖海底地震総合観測システムの建設等のプロジ
形成された地殻によって構成されている。この地殻
ェクト研究4件、パプアニューギニア津波発生域調
が孀婦岩構造線によって分断され、海底に露出して
査等の特別研究2件をはじめ、共同研究4件、受託
いる。したがって、フィリピン海プレートの形成発達
研究3件、そして経常研究4件が行われた。
史およびダイナミクスの研究、島弧発達過程の各段
階に伴われるマグマティズムの研究のためには、絶
好のフィールドの1つである。また南部伊豆・小笠原
(2)
プロジェクト研究
弧は、北部に対比して異なる地質・地球物理学的
性質をもっており、北部伊豆・小笠原弧で提案され
「海洋底ダイナミクス」
本研究は、海洋プレートの形成の場である中央
海嶺から、その消滅域である海溝にいたるまでの、
た島弧∼大陸形成のシナリオを検証する上で重要
である。
「よこすか/しんかい6500」の調査航海では、潜
海洋プレートのダイナミクスに起因する地球科学的
水船による目視観察、採集した岩石の化学分析と年
変動現象を解明することを目的としている。
本研究は、次の4サブテーマについて進められている。
(a)海洋プレート沈み込み帯のメカニズムに関する
代測定、そして海底地形調査が行われ、現在まで
に以下の事柄が明らかになった。海底地形調査は
北緯26度∼29度30分、東経139度∼141度の範囲で
研究
(b)ホットスポット及び深海盆における海洋プレート
行われた
(図1)。その結果、孀婦岩構造線は、調査
海域において、北北東―南南西の方向性を呈し、
の進化に関する研究
(c)海洋プレート生成域におけるメカニズムと物質
比高約1500mの崖が約200kmにわたって連続して
いることが明らかになった。この急崖で行われた
収支に関する研究
「しんかい6500」の潜航調査により、急崖は600∼
(d)地球超深部の変動メカニズムに関する研究
実施に当たっては、海洋科学技術センター深海研
300万年前の島弧性の火山岩、および上位には300
究部を主体とし、国公立研究所、国内外大学、国外
万年∼25万年を示す堆積岩が分布していることが
海洋研究所の協力のもとに進められている。平成
明らかになった。さらに孀婦岩構造線はこれらの地
11年度の主な成果は以下の通りである。
層を切っていることから、比較的新しい時代におい
─ 13 ─
本州
小海丘群
小笠原諸島
文化海山
火曜海山
孀婦岩構造線
月曜海山
四国海盆
大町海山
天保海山
土曜海山
南
金曜海山
東
水曜海山
木曜海山
海形海山
図1 「よこすか」によって得られたデータより作成した孀婦岩構造線周辺の海底地形図。
ても活動している事が明らかになり、以前の研究か
かは未解明である。したがって我々は平成12年度
ら提案されていた構造発達史が改変されなければ
にも孀婦岩構造線北西部の潜航調査を行い、この
いけないことが明らかになった。
小海丘の構成岩石の組成、年代、磁化および密度
さらに詳細な海底地形図から、いくつかの方向性
構造を明らかにする予定である。
を持ったリニエーション構造が明らかになった。リ
大規模な地震探査を室戸沖東部南海トラフで行
ニエーション構造は、過去および現在のテクトニク
うとともに、熊野灘と足摺岬沖のデータ解析を進め
ス場を示す情報であり、今後さらに深部地殻構造、
た。南海トラフ周辺の速度構造は両者とも全体的
海底年代の研究を行い、それらを合わせて考察す
には似た構造を示しているが、室戸岬沖から足摺
ることにより、テクトニクスを明らかにすることが期
岬沖にかけては、海洋性地殻の沈み込み角度が約
待できる。
7度であるのに対し、熊野灘沖では約11度である。
また我々の詳細な地形図から、孀婦岩構造線の
これまでの研究結果を合わせて考えると、潮岬沖
北西部に直径3∼5km、比高300∼500mの小海丘群
に構造的なギャップがあるらしい。また、前弧域に
が存在することが明らかになった。これらの小海丘
は南海トラフ全域にわたってP波速度3∼4km/sの付
群も基盤のリニエーションと同様な北西―南東方向
加体が存在しているが、室戸岬から足摺岬沖にか
の構造を示している。この構造方向は、孀婦岩構
けてはその厚さが5km以上であるのに対し、東部
造線の北北東−南南西の方向とは直交し、共役関
の熊野以東ではこの層は薄くなる。
係にあることが推定される。このような構造性を呈
この付加体の下には、P波速度5∼6km/sの層が
した小海丘群は、1997年に行われた背弧海盆のハ
存在しているが、この層のトラフ寄りの部分はポア
ブルトラフからも見いだされており、島弧リフティン
ソン比が高く、デコルマ面以下の泥質の堆積物が
グの発達段階において本質的な過程である可能性
付加したものである可能性が示された。日本海溝周
を指摘する。しかしながら、この小海丘が何である
辺は、新しい付加体はあまり見られず、島弧側が侵
─ 14 ─
食されている構造が得られた。三陸周辺の島弧の
ったが、最大規模のタスカルサ海山(約20×30km)
地殻構造は、海岸線よりやや海側から陸側で急激
でも観察されたものには陸上の溶岩はなく、主とし
にP波速度6.2-6.5km/sの中部地殻が厚くなり、島弧
て火山岩起源の砕屑岩であった。これは、火山の
の発達に大きな役割を持つことが示された
(図2)。
成長に伴い、浅海や海岸線で形成された大量の火
島弧のモホ面は、前弧域下では約20kmであり、島弧
山岩起源の砕屑物が、山体のかなりの部分を占め、
の上部マントルのP波速度は、8.0km/sであることがわ
比較的脆弱ななため、崩壊することで地辷りが形成
かった。三陸沖ではプレート境界部に100m程度の薄
されたと考えられる。
い低速度層があることがわかったが、この低速度層
は福島沖でも存在する。福島沖ではこの低速度層の
厚さが約1km程度あり、島弧の海溝陸側斜面を削り
ながらより多くの水や堆積物をとりこみ、上部マントル
の速度を遅くしている可能性があることがわかった。
(b)
ホットスポット及び深海盆における海洋プレートの
進化に関する研究
平成11年度は前年度のハワイ諸島周辺海域の
「かいれい」および「かいこう」による調査結果を受け
て、1)ハワイ諸島で最大規模の地辷り体のオアフ島
北方のヌウアヌウ地辷り域、2)現在最も活動的なキ
ラウエア火山の南側斜面のヒリナ地辷り体、3)
ホット
スポット火山として最も初期段階にあるハワイ島南方
のロイヒ海底火山、4)今年度新たにオアフ島北方の
北アーチ火山域で「しんかい6500」による潜航調査
と
「よこすか」による地形調査等を行った
(図3)
。
主な成果は以下の通りである。
(i)ヌウアヌウ地辷りとモロカイ島北方のワイラウ
地辷りでは、地辷り岩体の幾つかで潜航調査を行
図3 「かいれい」
、
「よこすか」によって得られたデータより
作成したハワイ周辺の海底地形図。
図2 「かいれい」によって得られたデータより作成した三陸沖日本海溝のP波速度構造と震源分布の関係を示す図。
─ 15 ─
(ii)
ヒリナ地辷り域では海面下の急斜面の内、水
深3000mを超える下部では主として、海岸線付近で
形成された火山岩起源の砕屑物からなる砕屑岩が
120m以上の溶岩が観察され、その体積を見積もる
初めての証拠を得た。
(c)海洋プレート生成域におけるメカニズムと物質収支
に関する研究
観察され、最も厚い部分では破砕されている様子
が観察された(写真1)。これはヒリナ地辷りの前面
海洋プレート生成域等における火山活動・熱水
では、沈み込み帯の付加帯に類似した現象が起こ
活動の変動現象を長期間観測し、海底内部の変動
っていることを支持するものである。また、この砕屑
と海底近傍の環境変化との関係を明らかにするた
岩の多くはアルカリ岩であった。従来ハワイ諸島の
めに、海底の流れを計測する超音波多層流速計、
火山では、山体の成長に伴って、噴出物のアルカリ
海底の熱水活動の映像を記録するデジタルカメラ、
岩は初期と晩期に少量のみ噴出すると考えられて
設置回収のための切離し装置等から構成される
いたが、今回の調査で従来のモデルより遥かに多
「海底環境変動観測装置1号機」の製作を行った。
量のアルカリ岩がキラウエア火山の下部に存在する
今後、他の観測機器と合わせ、沖縄トラフ、マリア
可能性が示され、火山体の形成モデルについても
ナトラフ等で観測を行う予定である。
一方、
「共同研究 熱水プルームの長期モニタリ
再検討が必要になった。
ングによる変動特性の解明に関する研究」
と合わせ
て、平成12年1月にマリアナトラフ深海曳航調査を
実施した。マリアナトラフにおいては、南部及び中
部の2地点において海底熱水活動が見つかってお
り、
「しんかい6500」による潜航調査が実施されてい
る。しかしながら、その熱水活動域はトラフに存在
する熱水域の極一部にすぎず、新たな熱水活動の
存在の可能性が示唆されていた。このため、南部
から中部にわたり、熱水活動域の分布を把握し、
「海底環境変動観測装置」を展開する熱水域を選定
するために、深海曳航ソナー及びカメラによる海底
調査、海底地形及び磁力計による地磁気調査を実
写真1 海岸線付近で形成された火山岩起源の砕屑物か
らなる砕屑岩、最も厚い部分では破砕されている
様子が観察された。
施した。この結果、南部の島弧系海底カルデラ内と
リフト系の海嶺上で新たな熱水活動を確認した。
これら2地点は約30マイルしか離れておらず、島弧
系及びリフト系の熱水活動を比較に関して興味深
(iii)
ロイヒ海山では水深2000mを超える部分では
い海域であり、また海底環境変動観測装置の設置
唯一、1990年に存在のみがロシアの潜水船
「ミール」
候補地点の一つとして重要な海域であることが確
で確認されていた南リフト延長部(水深約4800m)
認された。
において、周囲海水より約6℃高い湧水を確認しそ
(d)地球超深部の変動メカニズムに関する研究
の採集を行った。
海洋プレートの表層構造を調べ、構成物質を採
(iv)北アーチではこれまでの調査でハワイ島の面
取することにより、その進化過程を解明することを目
積に匹敵する分布を持つ広大な溶岩流の存在のみ
指している。
「みらい」により採取されるピストンコア
が知られていたが、今回初めての目視観察で実際
深海堆積物試料の解析により、海洋プレートが生成
のシートフローなどが確認された。さらに、深さ約
されてから現在にいたるまでに受けた変動メカニズ
260mの噴火口の一つと考えられる陥没孔では厚さ
ムの推定が可能である。平成11年度は、
「みらい」
─ 16 ─
北太平洋調査航海に於て、ピストンコア試料を採取
するとともに、その試料を用いて磁化測定を行い、
「初島長期観測ステーションの更新及び観測
機器の整備(第3次補正の繰り越し)
」
磁性鉱物の起源とその生成年代の推定を行った。
伊豆半島東方沖群発地震等の地殻変動に伴う深
海底の環境変動現象等の解明のため、リアルタイム
「リアルタイム深海底ネットワーク観測技術の
研究開発」
長期連続観測技術の開発を目的として、平成5年9月
に相模湾初島沖のシロウリガイ群生域に設置した
伊豆半島東方沖群発地震等の地殻変動に伴う深
「深海底総合観測ステーション」では、平成11年7月
海底の環境変動現象等の解明のため、リアルタイム
まで6年近くにわたりリアルタイム連続観測により、群
長期連続観測技術の開発を目的として、平成5年9月
発地震で発生した泥流等をはじめ深海環境変動現
に相模湾初島沖のシロウリガイ群生域に設置した
象の解明に寄与した。しかしながら設置後老朽化
「深海底総合観測ステーション」により、平成11年7
により機器の故障が徐々進み、平成11年7月下旬に
月まで6年近くにわたりリアルタイム連続観測を行っ
は、水中部に致命的な障害が発生して観測の継続
た。この間、群発地震で発生した泥流の検出及び
が困難となった。これに並行して、平成10年度第3
その発生機構等、地震に伴う環境変動現象の他、
次補正予算によりステーションの更新が予算化さ
地中温度の季節変動、懸濁物量の季節変化と海面
れ、平成11年度に従来以上に高精度かつ多面的な
表層の生物増加との相関等の解明に寄与した。平
深海変動現象の解明を目指し、センサの機能向上
成10年4月下旬から5月中旬にかけて発生した伊豆
やADCP、透過度計をはじめとする旧ステーション
半島東方沖群発地震以降は、顕著な群発地震等の
では未搭載であったセンサの搭載並びに水中着脱
変動現象は発生していない。平成11年7月下旬、水
コネクタにより、センサを海底で後付けできる機能
中部に障害が発生し観測が中断した。これに先立
を付加する等の拡張性を図った新ステーションを製
ち、
既に老朽化が進んでいたステーションの更新が、
作した。平成12年3月下旬に旧ステーションを回収
平成10年度第3次補正予算により予算化され、平成
し、これとほぼ同じ位置に新ステーションを設置し、
11年度にセンサの機能向上や水中着脱コネクタに
同3月末より試験観測を開始した。また、ステーショ
よりセンサを海底で後付けできる機能を付加する等
ンと連携した周辺調査等を可能とする曳航調査機
の拡張性を図った新ステーションを製作した。平成
器等の観測機器の整備を行った。
12年3月下旬に旧ステーションとほぼ同じ位置に新
ステーションを設置し、従来以上に高精度かつ多面
「海底地震総合観測システムの開発・整備」
的な深海変動現象の解明を目指し、同3月末より試
平成11年度は、
「海底地震総合観測システム2号
験観測を開始した。また、ステーション周辺海域に
機」
(平成9年度から着手)
を北海道釧路・十勝沖に
おいて平成11年6月上旬並びに7月上旬にそれぞれ
設置し、観測を開始した(図4)。同2号機は光海底
無人探査機「ドルフィン3K」による潜航調査(NT99-
ケーブル方式の観測システムとしては、初めてケー
08航海)並びにディープ・トウによる深海曳航調査
ブル総延長距離200kmを越えた長距離システムで
(KY99-04航海)
を実施し、詳細な海底状況の把握
あり、海底地震計3台、水圧計2台、分岐装置2台、
に加え、深海における観測装置の精密設置用機器
先端観測ステーション1台を備えている。2号機シス
の試験を行い、その試験結果は受託研究「海底ケ
テムの設置により、釧路・十勝沖海底で発生する地
ーブルを用いた地震等多目的地球環境モニタネット
震活動や津波などを高い精度で観測することが可
ワークの開発に関する研究」
(VENUS計画)
におけ
能となり、かつ、陸上観測よりも早く察知するための
る沖縄沖観測点構築等に寄与した。
準備が整った。
設置してから未だ1年を経過していないが、例え
ば、釧路・十勝沖海底での定常的な脈動ノイズを調
─ 17 ─
図4
釧路・十勝沖海底ケーブル観測システムの概略図。
べたところ、最もノイズレベルの低い時
(約5mgal p-p)
「海底地震総合観測システム1号機」は、3年以上に
でも陸上で最もノイズレベルの高い脈動レベルに匹
わたって観測を継続している。1号機の設置によっ
敵することが概略わかった
(図5)
。また、釧路・十勝
て、室戸岬沖南海トラフの海底地震活動や津波な
沖海底の脈動パワーレベルは時間によって大きく変
どの観測精度が向上している。なお、1号機システ
動し、その変化量は100倍から1000倍程度にまでお
ムの地震と津波の観測データは、室戸陸上局から
よぶ。さらに、平成12年1月28日に根室半島南東沖
専用回線により気象庁大阪管区気象台にリアルタイ
で発生したM6.8の地震の際に、微小な圧力変動パ
ム転送されている。
ルスを2号機の水圧計で記録することができたことは
興味深い。これは沿岸の潮位計では検出できなか
ったことから考えても、2号機の水圧計が非常に高
い分解能を有することを示唆している。この記録の
解析により、未知の海底変動現象の発見につなが
るかもしれない。2号機の地震・津波データは平成
12年度前半までに気象庁札幌管区気象台へリアル
タイム転送され、気象庁の地震・津波監視業務にも
用いられる予定である。また、インターネット上での
データ公開を今年度中に開始する。
一方、平成9年3月に高知県室戸岬沖に設置した
─ 18 ─
a)
b)
図5 a)釧路・十勝沖海底ケーブル観測システムのバックグラウンドノイズ(静穏時)
、b)
(動揺時)
。
─ 19 ─
(3)特別研究
など、極めて新しい時代に形成されたことが明らか
となった。また、以上の結果をもとに精密な津波シ
「パプア島周辺海域における地震・津波発生
メカニズムの研究」
ミュレーションを行うことによって、海岸での被害状
況を再現する見通しが得られた。
本研究は、1998年7月17日08時49分(世界時)
にパ
今後更に、地震・津波の発生域に於て反射法な
プアニューギニア島北岸沖で発生したM7.1の地
どの観測を行い、地震学的手法により地下構造を
震、及びその直後に発生した大規模津波について、
求めることによって、過去の海底地滑りの痕跡や、
精密地形・地球物理データ、地殻構造、海底変動目
地震断層の有無を確認し、併せてこれら諸現象の
視などの手法を通じて、その震源過程と震源域で
背景となる広域テクトニクスを明らかにすることが
の海底変動現象、地震断層、津波発生のメカニズム
期待される。
を解明し、併せてその地震の原因となった広域の
ダイナミクスを明らかにすることを目的とする。本調
査研究はまた、複数のプレートの境界域に当たる我
「深海底堆積物試料の古地磁気学研究による
古環境変動の研究」
地球環境の変化が大きな社会問題になっている
が国に於て頻発する地震・津波の原因を解明し、
その被害を軽減するための基礎資料をも提供する
現在、地球の複雑な環境変動メカニズムを明らか
ものである。当該国パプアニューギニア、南太平洋
にすことが我々にとって大きな課題となっている。こ
応用地学委員会(SOPAC)関係国(オーストラリア・
れを解き明かすには過去の地球環境が連続的に記
フィジー等の会員国、英国等の顧問国)
との協力、
録されている深海底堆積物を広域的に解析するこ
日本国内に於ては、地質調査所等の国公立研究機
とが重要である。本研究は磁気解析を導入し、環
関、東京大学地震研究所などとの協力により進めら
境の時空間変動を広域的に追跡することを目的とし
れている。
ている。試料採取は海洋科学技術センターの保有
平成10年度は、上記地震・津波発生域に当たる
シッサノ・ラグーン沖で、
「かいれい」による広域精密
する「みらい」、
「かいれい」を使い、海洋観測研究
部や他機関の協力のもとにおこなっている。
地形・地球物理調査(重力・地磁気・海底反射率調
多量のデータが必要な時空間変動追跡のため
査)、及び「なつしま」/「ドルフィン3K」による海底
に、支援員等の導入で測定をルーチン化している。
目視観察調査を行った。これにより、調査海域の広
将来的には古生物研究などの深海底堆積物を用い
域精密地形などが得られた。特に津波源として海
る他の分野も、ルーチン化でおこなえる総合深海
底地滑りの推定されるラグーン近くの沖合で、非常
底堆積物研究を目指したい。
に新しい時代の大規模な断層運動の痕や海底地辷
平成11年度には北西太平洋海域で採取された深
り痕の存在を確認し、これらの海底変動により大津
海底堆積物を超伝導磁力計を使って連続的に測定
波が発生したことが明らかとなった。
し、磁極反転の記録を得て磁気層序学的に堆積物
平成11年度は以上の成果を受けて、11月に「しん
の年代を明らかにした。またその磁気的特性を連
かい2000」及び母船「なつしま」をシッサノ・ラグーン
続的に測定することにより環境変動の信号を読み出
沖海域に派遣し、計7回の潜航を実施した。前回の
す作業を続けている。現在までに得られた結果は、
「ドルフィン3K」調査の結果をもとに、想定される地
西フィリピン海盆から得られた試料は最大で200万
震断層及び海底地辷り起源の地割れの活動度及び
年前までをカバーし、環境を示す堆積物の磁気的
規模を調べた結果、地震断層については活動度が
特性は70∼90万年前に磁性鉱物の供給が極小とな
小さいのに対し、地辷り性の地割れの起こっている
ったことが分かった。黒潮続流域のコアでは250万
範囲はラグーン沖の急斜面上20km以上に達し、し
年前までの堆積物をカバーし、磁気的特性の変動
かもその東部では生きた化学合成生物群集を伴う
が地球軌道要素の変動周期と良く合うことが分か
─ 20 ─
った。またハワイ諸島周辺海域の堆積物から200万
またこの方向性が、本震発震機構や余震分布の向
年前までの磁気反転の記録を得ることができ、この
きと一致すること、この地震が津波を引き起こさな
年代からオアフ島に発達する世界最大の巨大海底
かった原因は横ずれ断層性のものであったことが
地滑りの起こった年代を特定することができた。
確認された。
平成12年度には北太平洋の環境変動の鍵となる
オホーツク海周辺の「みらい」の航海に参加し、そ
の磁気解析をおこなう予定である。また北太平洋
「熱水プルームの長期モニタリングによる変動
特性の解明に関する研究」
海底熱水活動域から湧出する熱水は、湧出量、
各地域から得られる磁気解析データを使って広域
的な変動を検討し、不明な部分が多い北太平洋の
温度等により様々な形で拡散し、ある程度の規模に
環境変動史を解明する。
なると海底上にプルーム柱を形成する。これら熱水
湧出、熱水プルームを時空間的に捉えるために、音
(4)共同研究
響計測技術を応用した熱水イメージングソナーによ
る長期モニタリングシステムを構築し、熱水湧出の
「日本周辺及び米州大陸周辺における海溝型地震
変動特性を把握することを目的とする。さらに、海嶺
とそれに伴う地質現象のメカニズムの比較研究」
域の熱水活動が地球環境へ与える影響のより正確
日本周辺及び米州大陸周辺の海溝域、或いは海
な定量化のための観測技術の確立、基礎データの
溝より派生する海中活断層に於いては、周辺の陸域
取得・評価を行い、今後の海底熱水活動に関する
に甚大な被害を及ぼす巨大地震・津波・地殻変動な
研究の方向づけを明確にすることを目指している。
どの現象が多く発生している。本研究に於ては、こ
本研究の実施にあたり、熱水イメージングソナーを
れらの諸現象の発生から地殻の破壊、更にはそれ
開発してきた米国のラトガース大学、ワシントン大学
による被害などの事例を調べ、また数値シュミレーシ
と共同でイメージングソナーシステムの長期モニタ
ョンの手法を用いて、これらの現象を引起こすメカニ
リング化に取り組み、従来より実績のある海底長期
ズムを統一的に説明するモデルを確立することを目指
観測技術を応用し観測を行う。平成11年度は、当
している。本研究テ−マに関しては、日米共通の重
センターにおいては、観測機器用の電源供給装置
要研究課題であり、米国ウッズホール海洋研究所の
の部分試作を行った。また、沖縄トラフ及びマリア
研究者も強い関心を示していることから、1996年の
ナトラフの熱水活動域において熱水活動域の分布
JAMSTEC-WHOI定期協議に於いて取り上げられ、
調査を実施した。マリアナトラフでは、今後の観測
共同研究課題として採択されたものである。
対象として新たな熱水活動域を2地点で確認した。
平成11年度は、海上保安庁水路部と協力して、こ
一方、ラトガース大学、ワシントン大学では観測に使
れまでに精密地形調査の行われた南西諸島海溝陸
用するためのソナーシステムの性能評価を米国オレ
側・海側両斜面の広域地形データの整備を行い、
ゴン州沖ファン・デ・フカ海嶺で行い、同装置が低温
地形解析・数値シミュレーション等に必要なメッシュ
の熱水分布の把握にも有効であることを確認した。
データを作成した。また、1998年5月の八重山南方
沖地震の震源域に着目し、8月上旬に「かいこう」潜
航調査、及び母船「かいれい」による航走地球物理
「冷湧水起源の炭酸塩類の生成環境に関する
研究」
調査を実施した。新たに取得された地形データ・
冷湧水環境に伴われる炭酸塩類は、海底下の水
潜航データを解析した結果、この震源域には1)西
理地質・活構造・ガスハイドレート分布等に支配され
北西・東南東方向、2)北北東・南南西方向、3)北
ており、沈み込み帯周辺のテクトニクスや物質移動
西・南東方向の3種の地形リニエーションがあり、そ
を解明する上で重要である。本研究は、冷湧水域
のうち3のものが最も新しい変動を示していること、
に産する炭酸塩類の現場観察・試料採取、ならびに
─ 21 ─
既存のデータ・試料を整理した上で、形成年代測定
潜航ロボット「ドルフィン3K」を用い、観測ステーシ
や同位体分析等を実施して、冷湧水に伴う炭酸塩
ョンの動作開始作業、及び8時間程度のテストデー
類の生成環境を明らかにする事を目的とする。また、
タ取得に成功した。
(図6)
このテストデータ取得の際
プレート沈み込み帯に代表される変動域におけるテ
には、全く同じセンサーからなる自己浮上式海底地
クトニクスと、これら炭酸塩類の形成環境との関係に
震計を設置し、比較観測も同時に実施した。この比
ついても考察を行う事を目的としている。
較観測からは、海底の脈動と呼ばれる雑音のレベル
この研究は平成7年度∼12年度にかけて
(ただし、
が海底と掘削孔内で数倍から数10倍違い、掘削孔
平成8年度後期∼10年度については一時休止)、広
内観測が、地震の検出能力向上に驚くべき効果が
島大学生物生産学部との共同研究として実施され
あることを証明した。電源制御の不調により、地殻
ているものである。項目として、1)既存の海域調査
変動のデータが取得できなかったので、平成11年度
データの整理・解析、ならびに陸上地質試料と海底
末までに、観測ステーションに設置されている装置
試料との比較検討、2)化学・鉱物組成,炭素・酸素
の改良について検討し、その改善案をまとめた。
安定同位体比、14 C年代測定、有機物分析の実施、
を行っている。また、相模湾・南海トラフ・南西諸島
海域における調査をこれまでに実施している。相
模湾に分布する炭酸塩類については、既に論文と
して公表している。
平成11年度は、南西諸島の南方に位置する黒島
海丘上に発達する冷湧水起源の炭酸塩類につい
て、その放射性炭素年代測定と酸素・炭素同位体
比測定を行った。その結果、炭酸塩類の形成年代
は2600年BP以降であることが判明したと共に、また
同位体比測定結果より、炭酸塩の形成にメタン湧水
が関与している事が明らかとなった。一方、関東山
図6
地秩父地域の第三系調査を実施し、ここに発達す
る炭酸塩類試料を収集した。これらについては、平
マニピュレータによる装置動作開始作業。水中コネク
ター接続により、装置の電源投入、姿勢制御等の初
期設定、データ取得が開始されるよう設計されている。
成12年度に解析を実施する予定である。黒島海丘
に発達する炭酸塩類については、次年度に「ドルフ
ィン3K」
・
「しんかい2000」による潜航調査を予定し
(5)受託研究
ており、試料の詳細な分析を実施する。また秩父地
「海底ケーブルを用いた地震等多目的地球環境
域の試料とあわせて比較検討を行う予定である。
モニタネットワークの開発に関する研究」
「海洋底における地震・地殻変動ネットワーク
観測基礎研究」
本研究(VENUS計画)
は平成6年3月に運用停止と
なった沖縄−グアム間海底同軸ケーブル
(旧TPC-2)
本研究は、米国深海掘削計画(ODP)の第186次
を有効利用し、海洋底における諸現象を、長期間、
航海で設置された三陸沖掘削孔の長期地震・地殻
リアルタイムで観測する全地球的規模のシステムを構
変動観測ステーションの立ち上げ、観測、及び観測
築するための観測装置、海底作業技術等の開発を
装置の改善を目的とし、東京大学地震研究所との共
目的として、科学技術振興調整費により東京大学地
同研究として実施された。
震研究所、KDD研究所を始めとする研究機関が参
平成11年9月の「なつしま」航海(NT99-12)では、
加して、平成7年度より実施している。計画の最終
─ 22 ─
年度である平成11年度は、これまでに開発した観測
流様式と岩石採取等で得られたプルーム起源の研
装置並びにディープ・トウや無人探査機「かいこう」
究との整合性を検討する。現在の重力変化・地球
等による海底作業技術により、平成11年8月から10月
自転の時間微分は、より高速な変動である氷床の
にかけて沖縄南東沖水深2150mの南西諸島海溝域
成長・衰退によるところが大きいと考えられている。
海底に、旧TPC-2ケーブルにとりつけた分岐装置を
一方、上記で得られるマントル対流様式から、熱拡
中心する半径約1kmの範囲に「マルチセンサ」、広
散が甚大にならない範囲で時間を逆に戻せば氷床
帯域地震計、地磁気電場・観測装置を初めとする7
の影響が平均化されることを利用し、純粋にマント
種類の観測装置を面的に展開し、リアルタイム観測
ル対流に伴う質量の再配分による過去の地球自転
を可能とする観測点を構築した。同年11月下旬水
や自転軸の変動を議論する。
中部の故障により観測装置からのデータが途絶し
平成11年度の成果は下記の通りである。1000∼
たが、それまでの間、リアルタイム連続観測により、
数1000kmの波長の重力異常と、高解像度の地震波
底層流や水温の日周/半日周変化、海底の画像、
トモグラフィーのデータとを組み合わせ、粘性構造
水温変化が支配的な地中温度変化と、それに基づ
の推定を行い、海洋プレート直下および660km不連
く地中温度勾配等の成果が得られた。本研究で得
続面下に、低粘性層の存在が示唆された。その結
られた海底作業技術などの成果は、プロジェクト研
果からマントル対流を計算すると、下部マントルの
究「海底地震総合観測システムの開発・整備」2号機
上昇するプルームが相境界に妨げられ、高速な水
システムの開発に反映され、またプロジェクト研究
平流をつくりだしていることがわかった。また、より
「リアルタイム深海底ネットワーク観測技術の研究開
深部の内部構造を知るための地球物理データの取
発」において初島沖システムの更新に際し、新シス
得を目的として、以下の3つの地域において、活動
テムの開発にフィードバックされた。
的なプレート境界の地殻・上部マントル構造の研究
を行った。1つ目は、海底地形、重力・地磁気異常
「重力とジオイドによる「スーパープルーム」の
形態の解明」
を用いて、大西洋中央海嶺15°20’N断裂帯付近の
構造を求め、中央海嶺における海洋地殻形成のメ
深海研究部では、科学技術振興調整費による
「全
カニズムを考察した。海嶺下に数100km規模のメル
地球ダイナミクス:中心核に至る地球システムの変動
トの上昇パターンが推定された。2つ目として、海底
原理の解明に関する国際共同研究」のうち、測地学
地形、地磁気異常を用いて、トンガ・ケルマディック
的手法による「重力とジオイドによるスーパープルー
海溝の背弧海盆であるラウ海盆、ハブルトラフの構
ムの形態の解明」を分担している。
造を求め、背弧での海底拡大の一様式を提案した。
全体の研究計画は以下に述べる通りである。グ
そして、深海調査船「かいれい」による南太平洋ポ
ローバル重力データと地震波トモグラフィーデータ
リネシアホットスポット海山群の海底地形、重力・地
を組み合わせることにより、マントルの粘性構造及
磁気異常調査及び岩石採集を行った。次年度以降
び対流パターンを推定する。これを利用し、実際に
に、このデータを解析し、プルーム・海洋プレートの
トモグラフィーで見えているプルームがどの程度の
相互作用の定量的な把握研究を行う予定である。
低粘性を有するかを、さらにプルームに伴うマントル
の流れを求める。その際、対流に伴う長波長の地
「深海放射能測定に関する研究(IV)
」
表の変形も有用な情報となる。これを実際の地形
本研究は、日本原子力研究所からの受託研究で、
データから抽出するため、高精度の海上重力デー
海洋における放射能モニタリングシステムの整備を
タ並びに堆積層厚・地殻・上部マントル構造、地磁
推進するとともに、深海域における放射性核種の挙
気、サイスミシティなどの各種地球物理データの取
動及び分布について、実海域での海洋試験により
得、蓄積と編集を行う。こうして得られるマントル対
明らかにすることを目的として、平成11年度から平
─ 23 ─
成12年度にかけて実施する。
測定装置の、キャリブレーション、整備、保守を行
上記研究目的を達成するため、平成8年度から10
いつつ、機能の向上を計り、海洋放射能の現場で
年度に実施した
「深海放射能測定に関する研究
(III)
」
の計測データを集積して、放射線強度や、核種の分
に引きつづき
(1)
ドルフィン-3K用測定系の整備、
(2)
ド
布の地質構造、冷湧水、熱水との関係をより明確に
ルフィン-3K用データ処理システムの効率化、
(3)海洋
する事を目的とする。また放射線強度、核種の分布
試験及び調査を行った。
のデータベースを作成し、一般に公開する。
平成11年度には、
「しんかい2000」
「ドルフ
、
ィン-3K」
、
平成11年度は、平成10年度までに整備した、デュ
アル方式の「ドルフィン-3K」前部と後部のNaI( Tl)
「しんかい6500」にほとんどセンサを常備して計測を
検出器を使用して、
「ドルフィン-3K」潜航時に、殆ど
行い、データを解析した。これまでに解析したデータ
の潜航でγ線の計測を行った。
は「しんかい2000」で220潜航、
「ドルフィン-3K」で60
Nai
(Tl)
検出器は、それ自身で単独に使用できる回
潜航、
「しんかい6500」で70潜航であり、これらのデ
路構成となっており、Ge半導体検出器と同時使用が
ータを整理し、データベースを作成、このデータベー
可能となるよう配慮した。本年度は、Ge半導体検出
スを取り込んだ海洋放射能測定のホームページを作
器及び電源用耐圧ケースの軽量化のため、より高強
成し、公開準備中である。
度の材質で耐圧ケース胴部、先端部を設計・製作し、
耐圧試験後、機器を組み込み、作動確認を行った。
また、9月には東海大学と共同で開発した前部NaI
(Tl)
「ケーブル式観測装置を用いた津波及び地殻
変動の研究」
検出器のRS232C信号を船上でリアルタイムに表示す
津波の早期検知は沿岸地域の被害軽減のために
る装置の作動確認を三陸沖海域で行い良好な結果
重要である。本研究では、海洋科学技術センターが
を得た。また、デュアル方式NaI(Tl)検出器のデータ
室戸岬または釧路・十勝の沖合いに設置したケーブ
収録装置を効率よく配置すため、
「ドルフィン-3K」操縦
ル式水圧計の観測データを主な研究対象とし、1)津
用コンテナハウス内のラックに、棚パネルを設けた。
波の早期検知を目標とした津波の自動検出手法を開
「ドルフィン-3K」データ処理システムの効率化では、
発するための基礎研究を行う。さらに、2)水圧計デ
WINDOWS95ベースのソフトウェアにより処理・解析
ータに寄与する、潮汐、津波、温度等の要素の影響
されたデータを、総合的に解釈し、データベースを作
について調べ、大陸斜面下の地殻変動現象の検出
成 するた め の パ ーソナルコンピュータとして 、
可能性についても検討することを目的とする。
Macintosh G3-450MHzおよび周辺機器を整備した。
平成11年度は、室戸岬沖の2台の水圧計の3ヶ年分
海洋試験及び実海域での調査は、従来のシステ
の生データを整理・加工し、深海底における圧力変動
ムならびに新らたに整備されたシステムのそれぞれ
データの作成を行った。この圧力変動データは上記
について実施した。平成12年3月の「ドルフィン-3K」
の2つの目的のための基礎データとなる。また、津波の
訓練潜航に際しては、駿河湾、相模湾内において、
線形/非線形計算プログラムを整備した。今後、津波
軽量化したGe半導体検出器を装備し、試験および
の到達予想時間や波高予想に用いる予定である。
調査を行い初期の目的が達成できた。
一方、本研究の一環として、釧路・十勝沖ケーブ
ル式水圧計記録を調べていたところ、同記録に、
(6)経常研究
平成11年1月28日根室半島南東沖地震(M6.9)
に伴
って励起されたと考えられる微小水圧パルス波を
「潜水調査船、無人潜水機を利用した海洋放射能
測定に関する研究」
見つけだしたことは大変興味深い。ノイズレベルの
高い沿岸部の潮位計ではこのような信号を検出さ
この研究は、平成10年度後期から平成14年度に
れておらず、深海底設置型水晶発振式水圧計の検
かけて行うもので、潜水船、無人潜水機に装備した
知能力が極めて高いことを示している。今までの地
─ 24 ─
震学の常識からすれば、根室半島南東沖地震の震
べく作業を行った。これらは海洋科学技術センター
源の深さは50kmから60kmなので津波を励起する
において系統的に試料処理を行う体制を構築する
には深すぎる。同地震の際に観測された津波パル
ための基礎となるものである。試料を深海研究部
ス波を解析することにより、同地震との因果関係が
独自に管理してきたが、今後よりいっそう試料は増
明らかになり、今まで認識されてこなかったと思わ
え続けることが予想され、組織だった保管体制がし
れる、未知の海底地殻変動現象の発見に繋がる可
かれることが望まれる。
能性がある。また、室戸沖深海底の水圧変動が、
2mHz以下の周波数帯において周波数の2乗に反比
例するスペクトル構造を持つ事を見いだした。釧路
「拡大軸マグマ溜まりの活動と構造に関する
研究」
海嶺や海底火山などでのマグマや熱水活動により、
沖深海底でも、その水圧変動はほぼ同様な特徴を
示すが、0.5mHz∼2mHzでは周波数に反比例する
海底地震計に特殊な波形や微動が記録される。これ
周波数帯域が存在することが明らかになった。
らを観測して基礎データを取得し、解析、モデル計算を
行うことで、地下の熱水の活動状況や形態などを探る。
「底質試料の岩石化学分析・岩石物性計測の
ための試料処理手法に関する研究」
従来拡大系やマグマ活動域に起こると期待され
る微動、水中音波、クラックや断層形成に伴う微小
最近の海洋科学技術センターにおける海洋調査
地震等はそれほど普遍的でなく、ローカルな活動を
の性能向上に伴い採取される地質試料が急増し、
示すことがこれまでの研究でわかっている。一方、
多くの試料を系統的だてて測定する必要が出てき
近年陸上の火山でも注目され始めた火山性低周波
た。また希少価値をもつ試料を将来の研究のため
地震とよばれる波形が広く観測された。その発生
に系統的だてて保管する必要がでてきた。本研究
メカニズムは不明な点も多いが、熱水の移動により
は底質試料の処理・保管における基礎を検討し、
引き起こされると考えられ、拡大系での熱水活動が
底質試料取り扱いのスタンダードを構築することを目
非常に盛んであることを示す。
的とする。海底から採取される地質試料は陸上試
平成11年度の研究においては、これまでの観測
料と違い多量の塩類を含んでいる。これは物質を
対象より古い熱水系である明神海丘での観測を行
観察するための試料作成(薄片作成)や化学分析の
った。また、広帯域地震計による観測を初めて行っ
際に大きな妨げとなり試料の脱塩処理をおこなう必
た。その結果、火山性低周波地震が熱水域なら比
要がある。これについて各種方法の検討を行った
較的どこでも観測されることが再確認された。また、
ところ岩石サンプルについては温水処理法が最も
やや複雑な波形が観測され、古い熱水系では熱水
適切であることが分かった。また脆弱な粘土鉱物
の通り道である地下のクラックの状態が複雑である
を多量に含む試料の薄片作成について、潤滑物質
ことを示唆している。また、火山性低周波地震は数
に一般的には揮発性物質が使われるが人体に影響
Hzのところに特に強い信号を持っているが、より低
を与えない不凍液を用いた方法も可能であること
周波の帯域における複合的な信号は観測されなか
が分かった。本年度は未固結堆積物を組織を破壊
った。よって、これまでに取得している記録をモデ
することなく薄片を作成する技術について検討を行
ル計算に使用することに問題ないことがわかった。
う予定である。試料保管について今まで深海研究
今後は、火山性低周波地震のモデル計算により、
部で保有している地質試料保管の実態調査をおこ
熱水の通り道である地下のクラックの形状や、熱水の
なった。近年の海洋調査の性能向上に伴い年間に
流入状態を推定する。直接観測することのできない
採取される岩石の試料数がこの5、6年で平均して
地下の熱水の動態を推定し、今後、熱水域の総合観
400個程度と激増している。この岩石試料を整理す
測を行うような場合、火山性低周波地震を地下活動
るため採取点等の基礎情報をデータベース化する
の指標として同時に観測するための基礎研究とする。
─ 25 ─
2.海洋技術研究部
機と略す)
を開発する。試験機は深度3,500mまで
潜航可能で、3knの巡航速力で300kmの航続距離
(1)海洋技術研究部の概要と研究方針
を目標とする。機体は抵抗を小さくするため、流線
形である。長距離を航行するには、高性能動力源
海洋技術研究部は、深海潜水調査船、無人潜水
と高性能航法システムが不可欠である。前者は、
機、海洋観測ブイ等各種の海洋調査船、海洋観測
固体高分子型燃料電池とリチウムイオン二次電池を
機器の開発並びに水中音響技術等各種海洋観測
用いる。後者は、慣性航法で生じる誤差を最小と
に共通で重要な先進的基盤技術の開発を通じて、
するため、光リングレーザージャイロなどを組み合
海洋、ひいては地球を知るための手段を提供して
わせる。また、自動多段採水装置やサイドスキャン
きた。海洋技術研究部の開発したこれらの海洋調
ソーナーなどの観測機器を搭載して、海水の採取
査船、海洋機器並びに技術は、海洋科学技術セン
や海底調査を行うことができる。
平成11年度は昨年度に引き続き、試験機の建造
ターの研究者のみならず、外部の研究者にも広く用
を進めた。建造後に陸上試験、プール試験を実施
いられ高い評価を得ている。
海洋技術研究部では、海洋を広域に自動的に調査
し各機器が作動することを確認した。写真1と図1
する長距離航行型無人潜水機の開発、エネルギーを
はそれぞれ試験機の外観と構造を示す。深海巡航
はじめとする広大な海洋資源を有効利用しようとする
探査機「うらしま」
と名づけられた。
沖合浮体式波力装置の開発、水中音響、水中映像
等の基礎技術開発を通じ海洋・地球科学技術の進
展に寄与する事を目指している。
(2)
プロジェクト研究
1)
自律型無人潜水機試験機の開発
期間平成10年度から
自律型無人潜水機はあらかじめ作成したスケジ
ュールプログラムにしたがって、自律して海中を航
行できる無人潜水機をいう。この研究では、表1に
主要目を示す自律型無人潜水機試験機(以下、試験
写真1
表1
AUV試験機の主要目
最大使用深度 3,500m
航続距離
(目標)巡航速力にて300km
巡航 約3kt、最大 約4kt
水中速力
主電力源 固体高分子型燃料電池
(4kw)
動力源
(電力源)
補助電力源 油漬均圧型リチウムイオン二次電池
自律制御器
航海機器
通信装置
観測機器
寸法・重量
光リングレーザジャイロ、音響ドップラー流速計、
前方障害物回避装置、音響ホーミング装置等
深度計、高度計、音響トランスポンダ、GPS等
音響テレメトリー装置等
自動多段探水装置、CTDO、サイドスキャン装置、
デジタルカメラ等
約10m
(長)
×1.5m
(幅)
×1.5m
(高)
約7t
─ 26 ─
図1
自律型無人潜水機(AUV)構造図
2)先進的技術の研究開発
本年度は、水素吸蔵合金について調査、検討を行い
期間 平成10年度から
吸蔵性能の試験を行った。本年度は、昨年度に続き、
広範な海洋の調査研究に必要とする、深海潜水
写真3のTi-Mn合金を用いた水素吸蔵装置試験機を
調査船、無人探査機、汎用海洋観測機器等の開発
組立て、吸蔵と排出の性能試験を実施した。
(c)水中音響技術に関する研究
の核となる基盤技術を先進的に研究する。
(a)映像技術に関する研究
水中の音響による通信において、伝送速度が高
TVカメラの映像は、遠隔操作で操縦される無人
速になるほど影響の大きい海底・海面による多重反
探査機
(ROV)
にとって、非常に重要な情報源である。
射や,水中移動体からの通信時に問題となるドップ
本研究では、近年技術進歩の著しいVR(バーチャ
ラシフト等の外乱について十分な知見が得られて
ルリアリティ)
を導入し、臨場感あふれる映像をオペ
いなかった。そこで、高速で信頼性の高いデータ
レータや研究者等に提供するための研究を行ってい
伝送技術を確立することを目的として、水中での音
る。本年度は、複数台のカメラとモニタで構成され
場を解析する研究を行っている。
た多入力多出力処理について検討を行い、一部の
平成11年度は、多重反射波を分離して計測する
製作を実施した。写真2はスクリーンの全景を示す。
ため,受信装置を多チャンネル化し、これと送信装
また安価なパソコンで処理が可能なよう、ソフトウェ
置を海中に係留して、実海域での音場計測を行っ
アエッジブレンディングについて研究を行った。
た。計測は、駿河湾の水深約1,000mの海域におい
(b)動力源に関する研究
て行った。海底付近から様々な変調波を送信し、
この研究では、AUV試験機の動力源として固体高
水平距離で約1,000m離れた海面付近に係留した受
分子型燃料電池を搭載する場合に必要となる燃料と
信装置で受波し、海底・海面の反射を含むデータ
酸化剤を収納する容器を開発する。燃料電池の燃料
を取得した。8チャンネルで受信したデータの復調
と酸化剤はそれぞれ水素ガスと酸素ガスを使用する。
処理を行い、4-DPSK変調方式に対して良好な復調
結果が得られた。復調例を図2に示す。4-DPSK変
調方式では、送信信号は、8つの位相を用い、前の
信号点との位相差を2ビットのデータに割り当てる。
通信路等化処理、及び位相補償処理を行う前のひ
ずんだ信号が、"相対位相へ変換後"のグラフでは、
4つの塊に分離されており、復調が正常に行われて
写真2
曲面スクリーン
写真3
─ 27 ─
力を過小評価している可能性が発現したため、実
海域試験を延期し、シンカーの地切り力の再検討
を行った。
(a)低緯度用TRITONの事故
低緯度用TRITONが年度当初漂流する事故が発
生した。この原因は、漁船に引っ張られ係留索が
破断したためと推定された。この時、係留索の強度
は10トン、シンカーの水中重量は3.5トン、シンカーの
海底地盤への吸着力は1.5∼2トンと見積もっており、
表面ブイが引っ張られた場合、シンカーが地切りし
図2
DPSK 復調結果例(SNR=20.4dB、エラー無し)
て移動し、係留索は破断しないはずであった。この
こ原因としては、吸着力の過小評価が考えられた。
このことを、中高緯度の強流域に当てはめると、
いることがわかる。図中の点線は、復調データの判
シンカーが移動する前にブイが没水することになる。
(b)
シンカーの模型試験
定境界を示しており、この境界をまたがない範囲に
存在すればエラーが生じないことになる。
シンカーの海底地盤への吸着力を正確に把握する
ために、シンカーの模型試験を行った。試験は、1/20
(d)計測およびセンサ技術に関する研究
無人潜水機を利用した海洋調査において、オペレ
ータは無人潜水機の姿勢制御などに多くの労力を要
求されるようになった。無人潜水機の高機能化がさ
らに進めば、高精度センサーと高性能コンピュータに
よる各種の自動機能を取り入れて、無人潜水機の運
動制御を高める必要がある。この研究では、水中で
の運動を高精度で計測できるセンサーを開発する。
の模型で、地盤とシンカーの相互作用(地盤の応力状
態)
を実機に一致させるために、遠心力載荷実験装置
を用い、20Gの円心加速度場で行った。
その結果、これまでのシンカーは、底面積に対して水
中重量が大きすぎ
(1400×1400×40、水中重量5.7トン)
、
完全に海底下に潜り込んでしまい、4∼5トン、場合によ
っては10トン以上の吸着力が働くことがわかった。
(c)
シンカーの検討
平成10年度は、水中での移動距離演算装置の試
設計を行った。平成11年度は、ジャイロの性能向上
を実施し、ドリフト誤差が従来のものに比べ約1/2に
なる性能を得た。
模型試験結果を基に、シンカーを主シンカー
(海底
に着底、1500×1500×800、水中重量3トン)
と中間シ
ンカー
(水中に宙づり、水中重量2.3トン)
の2分割とし
た。また、主シンカーは、てこの原理により地切り易く
するために吊り点を中心からずらすこととした。
3)海洋観測ブイシステムの開発
期間:平成5年度から
本研究開発は広大な海洋空間において、多種類
の海洋データを長期間、継続的、立体的に、かつ高
精度に観測するための、海洋観測ブイシステムを開発
することを目的としている。低緯度用については実運
用に入っており、中高緯度用の開発を進めている。
本年度は、昨年度の強流対策を施した試験機に
より実海域試験を実施する予定であったが、低緯
度用の事故原因を究明する中で、シンカーの地切り
─ 28 ─
4)海洋エネルギー利用技術の研究開発
ことができた。これを基に、平成7年度までに実海域実
期間:平成元年度から
験装置(プロトタイプモデル:長さ50m、幅30m)の詳細
地球環境問題が認識されてきている昨今、クリーン
設計を終了し、平成8年度より建造を開始した。平成
で無尽蔵な自然エネルギーの利用が再び注目されつつ
10年5月末に「マイティーホエール」本体は完成し、7月に
あるとともに、離島、へき地、開発途上国などにおいて
実験海域の三重県度会郡南勢町の五ヶ所湾に曳航・
は,簡便でコンパクトなエネルギー源である自然エネル
係留設置され(写真4)、各搭載機器の調整作業を行っ
ギーの利用が期待されている。沿岸海域において得ら
た後、9月10日より実験を開始した。
れる波エネルギーはその一つとして有効利用が期待さ
約1年半にわたる実海域実験では、発電出力、浮体
れている。当センターでは、波エネルギーを効率良く吸
運動、係留力など装置の機能、安全性及び経済性の
収して沿岸海域の有効利用に役立てるとともに、装置
評価に関わる多くのデータが取得されており、詳細な
の後背海域を静穏化して、この海洋空間を養殖漁業な
解析を開始した。実験期間中の波浪出現頻度分布は
どに活用することのできる沖合浮体式波力装置「マイテ
表2に示すとおり、有義波高0.5m、波周期6秒前後の波
ィーホエール」
の研究開発を昭和62年より実施している。
が卓越しているが、その一方、有義波高4.0m以上の
これまでに理論的検討並びに縮尺模型を用いた水槽
波もあり、通常は比較的静穏な海域である反面、荒天
実験などによって
「マイティーホエール」
の基本的な機能、
時には波高は非常に高くなることが良くわかる。装置
装置の安全性及び経済性などについて見通しを得る
の基本的な機能である発電性能に関しては図3及び
図4に示すように、発電出力は有義波高の二乗にほぼ
比例するとともに波エネルギーから電気エネルギーへ
の総合変換効率の最大値は波周期6.5∼8.5秒におい
て約11%であることが確認された。この値は実海域実
験前に水槽実験及び理論検討から得られた推定値と
一致しており、装置設計の妥当性が確認された。
尚、平成12年3月末までの実験期間における平均発
電 電 力 量 は 2 6 4 k W h /日で あり、これ を 一 般 家 庭
(4人家族、30A契約)の平均使用電力量から計算する
と約28軒分に相当する電力量であった。
写真4 「マイティーホエール」プロトタイプ
表2 実海域実験期間中における波浪出現頻度
有 義 波 高( m )
有 義 波 周 期( s ec )
∼0.5 0.5∼1.0 1.0∼1.5 1.5∼2.0 2.0∼2.5 2.5∼3.0 3.0∼3.5 3.5∼4.0 4.0∼4.5 4.5∼5.0 5.0∼5.5 5.5∼ 0. 0 0
∼ 3
2. 4 2
3∼ 4
4 ∼ 5 13 . 54
8. 9 9
5∼ 6
4. 4 1
6∼ 7
2. 4 0
7∼ 8
1. 6 2
8∼ 9
2. 9 4
9 ∼10
2. 4 8
10 ∼11
0. 6 0
11 ∼12
0. 2 1
12 ∼13
0. 0 0
13 ∼14
0. 0 0
14 ∼
Total(%) 39 . 60
0 . 00
2 . 09
4 . 51
6 . 42
1 0. 2 1
9 . 25
5 . 17
2 . 93
1 . 13
0 . 14
0 . 03
0 . 00
0 . 00
4 1. 8 8
0. 0 0
0. 1 3
0. 6 7
0. 7 7
1. 7 8
2. 2 7
3. 0 2
1. 4 6
0. 7 5
0. 2 6
0. 0 3
0. 0 1
0. 0 0
11 . 13
0. 0 0
0. 0 0
0. 1 2
0. 2 1
0. 2 9
0. 7 1
0. 9 9
0. 7 7
0. 5 2
0. 1 3
0. 1 0
0. 0 2
0. 0 0
3. 8 7
Total(%)
0.00
0.00
0.01
0.03
0.09
0.00
0.00
0.01
0.01
0.05
0.00
0.00
0.00
0.00
0.01
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.14
0.31
0.50
0.41
0.13
0.03
0.02
0.00
1.66
0.05
0.09
0.17
0.19
0.11
0.02
0.02
0.01
0.72
0.05
0.09
0.08
0.13
0.09
0.01
0.02
0.01
0.49
0.01
0.08
0.07
0.05
0.07
0.01
0.01
0.01
0.31
0.00
0.03
0.05
0.01
0.03
0.02
0.02
0.00
0.15
0.00
0.01
0.00
0.01
0.00
0.02
0.00
0.00
0.04
0.00
0.00
0.01
0.00
0.02
0.01
0.01
0.01
0.05
0.00
0.00
0.01
0.01
5.71
0.01
1.59
0.02
0.50
0.03
0.15
0.01
0.04
0 . 0 9 100.00
─ 29 ─
0.00
4.63
18.86
16.42
16.84
14.88
11.39
8.98
図3
有義波高に対する平均発電出力特性
図4 プロトタイプにおける総合変換効率
5)海底設置型生育システムの研究開発
び運用システムの実用化を目指した研究開発を山
期間:平成7年度から
形県と共同で実施している。
日本海特有の冬の季節風による高波浪は、日本
本研究開発では、地域共同開発(平成7∼9年度)
海沿岸の産業活動を著しく制限してきた。荒天時
で作成した生育システムの実用化に向けた改良を
に静穏な海面を確保することは、特に山形県のよう
行うと共に、イワガキの生態をさらに解明し、稚貝
に平坦な海岸線を有する地域においては技術的・
の育成試験を行うことにより、日本海における沿岸
経済的に困難である。そのため、本研究は冬季の
養殖漁業の振興に役立てることを目的とする。
高波浪時においても海底は静穏であることに着目
これら一連の研究開発により、イワガキなどの海
し、これまで利用されていない海底を有効に利用
底に生育する水産生物の増殖技術を確立させ、海
することを目的に、日本海沿岸部に生育するイワガキ
洋資源を強化し、地域経済の発展に貢献する。
を対象として種苗生産技術の確立と、生育装置及
─ 30 ─
平成11年度は本研究開発の最終年度であり、以
(c)
イワガキの生態研究及び育成試験
下の研究開発を実施した。
(a)海底設置型生育装置の研究開発
・種苗生産をする場合の産卵時期について親貝
・イワガキの競合・食害生物、餌量条件、成長量
の水温管理を適正に行うことにより天然イワ
等から検討し、中層垂下方式生育装置を開発
ガキに比べ約1ヶ月早くできることが可能と
した。
(図5)
なった。
・上記中層垂下方式生育装置の30基プロトタイプ
・人工種苗生産における受精技術、幼生飼育密
を製作し、水深40m海域において冬季を含む
度、餌与技術及び付着基質処理技術に関する
約1年間の実験で損傷なく安全に設置できるこ
有用な情報を取得した。
とを確認した。
・開発した生育装置では、天然イワガキの5年に
・本方式100基型による採算性の試算を行い、十
対し約3∼4年で出荷サイズに成長することを確
分可能であることを確認した。
認した。
(b)海底設置型生育装置運用技術の開発
・新たに開発した中層垂下方式生育装置は、排
(3)特別研究
水量10ton程度の定置網用船舶で安全かつ容
1)氷海域における無人潜水機技術の研究
易に設置・揚収できることを確認した。
期間:平成10年度から
・パーソナルコンピュータを用いたGUI(Graphic
この研究は、地球温暖化の影響が顕著に表れる
User Interface)方式による上記生育装置の設計
システムを開発した。
(図6)
とされる北極域において、無人潜水機を利用して氷
海のCTDデータ、氷厚データおよび二酸化炭素量な
どの収集を行う際に必要な計測技術を研究する。
本年度は、無索無人潜水機の機体を試設計し、
製作した。写真5は製作した機体の外観である。
図5
海底設置型生育装置
写真5
図6
海底設置型生育装置設計システム
─ 31 ─
製作機体の外観
(4)共同研究
本年度は、昨年度の検証試験のデータをもとに、
ハードウェア及びソフトウェア両面の改良を実施し
1)無人探査機用テザーケーブルのリアルタイム
た。その後、海上での検証試験を実施、新たに追
加された横推力を補うための制御システム、非線形
カテナリ推定技術の研究
オブザーバー等の有用性の確認をした。当初、2年
期間平成9年度から
「ドルフィン3K」のような有索式無人探査機では、
適切なケーブル操作を怠るとケーブルの切断といっ
間の研究予定であったが、更なる位置保持精度の
向上を目指すため1年間延長をおこなっている。
た事故を起こしかねない。また、ケーブルカテナリ
4)圧縮空気を利用した海水汲み上げ技術の研究
に関する情報が得られないため、操作はオペレー
開発
ターの経験によるところが大きい。本研究では、支
援船・ビークルの測位データおよびケーブル長デー
期間:平成8年度から
タに基づきテザーケーブルのカテナリを実時間で推
この研究は、波力エネルギーで得られた圧縮空
定し、結果を画像表示する技術を開発する。本年
気を利用して、効率よく簡便に底層水を汲み上げる
度は、リアルタイム3D図化を可能とするソフトウェア
技術を開発することを目的とする。
の選択を行った。また、
「ドルフィン3K」訓練潜航航
本年度は最終年度であり、前年度までの成果を
海にて、カテナリ推定プログラムのデバッグに必要
もとに長さ30m、管径150mmの実海域実験装置を
となるケーブル位置データの取得を行った。
整備し、実験を実施した。実験の結果、送気量
50Nm3/hにおいて最大30 /secの揚水量を確認し
2)20Hz音源用超磁歪材料の特性評価に関する
た。また、実験結果による揚水特性は、前年度開発
した数値解析コードによる計算値と一致し、計算に
研究
よりその特性を把握できることが確認された。
期間平成10年度から
この研究は、地球温暖化にともなう海洋の温度上
昇や、気候変動に結びついた太平洋の数10年規模
(5)経常研究
の海洋変動を観測するための超低周波音源開発に
1)深海TV観測機用ランチング・システムの開発
必要な要素技術の研究である。
期間 平成8年度から
トモグラフィー 音 源 で 培った 技 術を応 用して、
20Hz超低周波音源を開発するための基礎技術とし
この研究では、経常研究で開発した「深海用小
て、大プリストレス下における超磁歪材料の特性評
型TV観測機」を有人潜水船に搭載して、実海域で
価を行う。本年度は、実験治具を製作し、大プリス
使用するのに必要なケーブルリールや格納装置な
トレスかけた状態で、超磁歪材料の動的特性を計測
どからなるランチングシステムの開発を行う。本年
した結果、大出力化に寄与するデータが得られた。
度は、構成要素を組立て、機能確認試験を行った。
2)LEDによる非接触型データ通信に関する研究
3)
深海底調査、観測のための「かいれい」における
期間 平成9年度から
自動操船システムの研究
この研究は、赤外線LEDを利用した非接触型デ
期間 平成10年度から
この研究は、
「かいれい」に搭載されているジョイ
ータ通信装置を開発するものである。通常、水中で
スティック式操船装置(KICS)の手動コントローラの
データ通信を行うためには、音響を利用するか、も
代わりにコンピュータを装備し、運用に必要な効果
しくは直接コネクタをつなぐ必要がある。本装置は、
的な定点保持および側線航行が可能な自動操船
音響以外の通信手段であり、より多くのデータを伝
システムを開発する。
送することが可能となる。本年度は昨年度に引き続
─ 32 ─
潜航試験の結果、構成している装置の性能の見
き製作を実施、各種実験を行った。
直し、信頼性の向上を図った。また、安全な運用
3)前方探査ソーナーによる画質認識の研究
の面から浮上位置をGPSで計測し無線で支援母船
期間 平成9年度から
に送信する装置を付加した。
この研究は、自律型無人潜水機が障害となる物
体をソーナーで認識して回避する手法を開発する。
6)減揺装置の性能向上に関する研究
前年度までの実績を踏まえて、本年度は引き続き、
期間 平成11年度から
以下のことを実施した。ソーナーと演算装置を接続
ハイブリッド減揺装置を搭載した「みらい」
と減揺
するインターフェースを試作し、電子回路の調整を
水槽を搭載した「よこすか」で実海域時刻歴データ
行った。演算装置に信号を取り込むソフトウェアを
を取得した。2船の横揺れデータを比較した結果、
試作して、プールで作動状況を確認した。
前者は後者より横揺れ低減効果がかなり大きいこと
がわかった。
4)
「しんかい6500」の推進操縦装置の性能向上
7)最適浮体配置群による静穏海域造成システム
に関する研究
の研究開発
期間 平成10年度から
期間:平成9年度から
この研究では、
「しんかい6500」の、俊敏な運動や
高度な位置姿勢制御を可能とする推進操縦装置に
この研究では、海面に複数の浮体を最適に配置
関する研究を行う。本年度は水槽試験用の1/4.85模
して、その海域を静穏化できる静穏海域造成技術
型の本体・スラスタ・耐圧容器・コントローラ等の改
を構築する。また、浮体による物理環境影響の把握
造・製作を行った。
も行う。昨年度までの実績を踏まえて、本年度は以
下のことを実施した。複数の浮体を配置した場合
5)無人潜水機UROV7Kの運用技術の研究
の静穏度解析手法の数値計算技術を開発し、前年
期間 平成10年度から
度実施した実験結果の比較・検討を行った。この
この研究は、
UROV7Kを深海域で運用するために、
検討により、浮体群背後の透過率の定量的な評価
細径ケーブル方式に適した運用技術を確立する。本
ができ、浮体配置の設計手法に応用することが可
年度は、水深6,000mの海域で潜航試験を実施した。
能となった。
─ 33 ─
3.海洋観測研究部
グループが中心となって全球モデル開発に向けた
モデル開発も進めている。
(1)概要
北極域を担当する第3研究グループでは、北極海の
海氷上に設置して気象・表層海洋観測を行うJ−CAD
平成11年度の海洋観測研究部の概要
(JAMSTEC Compact Arctic Drifter)
を開発した。また
地球表面の約7割を占める海洋の実体を地球的
規模で解明することは、地球環境変動の解明、予測
カナダ等の砕氷船や海洋地球研究船「みらい」を用い
てボーフォート海やチュクチ海の観測を実施した。
のために不可欠である。このため、WCRP(世界気
大気海洋相互作用の観測研究を担当する第4研
候研究計画)のもとCLIVAR(気候の変動制性と予
究グループでは、熱帯域における降水システムの解
測可能性に関する研究)、ACSYS(北極気候システ
明のため、平成11年6月に赤道のナウル島周辺海域
ム研究)やGOOS(世界海洋観測システム)
などの海
において国際集中観測Nauru99に参加した。
洋観測のための国際プログラムが推進されている。
亜寒帯域及び熱帯域の炭素循環過程の観測を担当
海洋観測研究部は、これらの国際プログラムを踏
する第5研究グループでは、北太平洋域を中心に、船
まえ、主として北太平洋及び北極海における海洋
舶観測のほか、セディメントトラップの長期設置などを
観測研究と観測に必要な技術開発を推進してい
通じて、海中における物質の鉛直輸送観測を行った。
古海洋学の研究を担当する第6グループでは、北
る。部としての主たる目的は以下のとおりである。
1)観測により、熱帯域で蓄積された熱が海洋と
極海の古環境を復元するためにノースウインド海嶺
大気を通じて、亜熱帯域、温帯域、亜寒帯域、
およびボーフォート海大陸斜面域において採泥をお
極域へと順次輸送され、発散して行く過程を
こなった。また、むつ地区における古海洋研究の環
明らかにすること。
境整備をスタートした。
2)これら観測データのほか、種々のデータを利用
これらの観測の多くは、主として米国を中心とす
して全球モデルを開発し、海洋及び海上大気
る外国の研究機関との国際共同として実施した。さ
における大規模の変動が全地球的規模の気候
らに、上記の研究計画を補完するため経常研究、特
変動に及ぼす影響の解明、予測をめざすこと。
別研究、共同研究、委託調査などの研究も実施して
平成11年度は前年度までの5つの研究グループに
加え、古海洋学の研究を目的とした第6グループを設
おり、研究テーマの総数は20テーマ以上に及ぶ。
個々の研究の詳細は以下に述べるとおりである。
立した。これら6つのグループの分担により、熱帯赤
道域から北極域にわたり、水・熱及び炭素を中心と
第1研究グループ
する物質の循環観測を展開するとともに、必要な観測
技術の開発やモデルの開発も併せて実施した。各研
プロジェクト研究
究グループの活動状況は以下のとおりである。
熱帯赤道域における観測研究
熱帯域を担当する第1研究グループは、西部熱帯
赤道域においてトライトンブイを開発、
展開したほか、
太平洋熱帯赤道海域は、太陽からの放射熱を最
船舶による観測と併せて海洋構造変動と熱の蓄積、
も多く吸収する海域で、ここで吸収された熱は海洋
発散過程の観測を行った。
および大気の運動などによって中緯度域・高緯度域
亜熱帯域を担当する第2研究グループでは、音響
に再配分され、地球の気候を温暖にしている。特
トモグラフィーシステムを熱帯域にかけて展開し、
に、西部熱帯太平洋域は、世界中で最も暖かい海
この海域の海洋構造変動の長期観測を行ったほ
水(暖水プール)があり、エルニーニョ/南方振動
か、黒潮続流域を中心とする黒潮域において、船
(ENSO)現象に代表されるような気候変動を引き起
舶により海洋構造変動の観測を行った。また、この
こす大気・海洋現象が起こる場所でもあり、地球規
─ 34 ─
模の気候変動現象を解明する鍵を握っている重要
2度、赤道上、南緯2度、南緯5度の計10点に展開し
な海域の一つである。この海域において、船舶か
た。いくつかのブイはトラブルに見舞われたものの、
らの水温・塩分計測、中層係留ブイによる流速観測、
西部熱帯熱帯太平洋域に暖水が過去10年間で最も
表面係留ブイによる海上気象・水温・塩分の時系列
蓄積されているという観測成果をあげた(図1)。史
計測を行い、それらのデータを用いて、海洋の運動
上最大のエルニーニョとされた1997/98年以上に
や熱輸送、大気・海洋相互作用(大気海洋間の熱
暖水が蓄積されていることから、今後暖水域で西風
の移動)
などを解析している。
が強くなれば大規模なエルニーニョが発生する可
本研究において観測航海は、インドネシア技術評
能性が示唆された。
価応用庁及び米国太平洋海洋環境研究所と共同で
また、1999年10月に「かいよう」を用いて行った観
「みらい」により2回、
「かいよう」により1回行った。そ
測航海では、フィリピン共和国ミンダナオ島そばを
れぞれのクルーズの概要を表1に示す。
流れるミンダナオ海流域に設置した係留系を回収し
「みらい」の航海においては、
トライトンブイを東経
た。その結果、この海流は水深160mにおいて平均
138度の北緯2度、赤道上、東経147度の北緯5度、
96cm/sに達するような強い海流であること、数十
赤道上、及び東経156度の北緯8度、北緯5度、北緯
日の周期の変動が存在することが示された
(図2)。
表1 プロジェクト研究「熱帯赤道域における観測研究」にて実施した観測航海の概要
期間
船舶
1999.10.13∼1999.11.20 「みらい」
寄港地
係留系
関根浜→八戸→グアム→
グアム
トライトンブイ設置6基、回収2基、修理1基
ADCPブイ設置1基、回収1基
アトラスブイ回収3基
ADCPブイ設置4基、回収3基
流向流速計ブイ回収1基
1999.10.19∼1999.11.23 「かいよう」 パラオ→パラオ→ケビエン
2000.02.12∼2000.03.26
「みらい」
CTD/XCTD
観測
トライトンブイ設置6基、回収6基
アトラスブイ設置3基、回収2基、修理2基
ADCPブイ設置1基、回収1基
流向流速計ブイ回収7基
関根浜→仙台→マジュロ→
グアム→八戸→関根浜
Monthly 20゜
C Isotherm Depth 2゜
S to 2゜
N Average
20゜
C Isotherm Depth Anomelles(m)
1994
1992
1990
20゜
C Isotherm Depth(m)
2000
1998
1996
1997/98の史上最大と
いわれたエル・ニーニョの
前 年である19 9 6年でも
平年からの偏差は10mで
ある。
E
160゜
E
20
180゜
60
160゜
W
140゜
W
120゜
W
100 140 180 220
100゜
W
140゜
E
160゜
E
-60
180゜ 160゜
W
-40
0
140゜
W
40
120゜
W
100゜
W
このエル・ニーニョのとき
には、西太平洋の暖水は
50m減少し、逆に東太平
洋では80m増加した。
80
西太平洋の2000年3月 4月の20度等温線の深さは210mであり、平年からの偏差は
30mに達する。これは1990年以来過去10年で最大規模である。
図1
赤道に沿う月平均の20度等温線の深さ及びその偏差の時間変化
─ 35 ─
36点
122点
65点
図2 フィリピン共和国ミンダナオ島南方(北緯5度7分東経125度40分)
において行った係留観測より得られたミンダナオ海流の時間変化
経常研究
なばらつきが見られ、センサー毎に設置前に十分検
「トライトンブイセンサーの性能評価と計測データの評価」
定する必要があることが示唆された。
ここで得られた成果は、トライトンブイによる取得
平成9年度よりトライトンブイの運用が開始され、そ
データの品質管理に生かされ、送信されてきたデー
の計測データは研究目的のみならず、広く気象予報
タに善し悪しのフラッグを立てる場合に役立つもの
などにも有益に利用されることが期待されている。
と期待される。
現在は、検定方法などがまだ未確立なセンサーや、
手法が確立されているが、さらに高精度な検定が要
プロジェクト研究
求されることが予想されるセンサーがある。本研究
トライトンブイネットワークの開発整備
開発では、
トライトンブイのセンサーの性能評価とデ
ータの品質への影響を把握するため、検定方法が
センターでは、エル・ニーニョやアジアモンスーン等
確立されていないセンサー
(雨量計、伝導度計、日射
の気候変動に関わる海洋変動研究に資するため、海
計)
を中心に、
トライトンブイのセンサーの性能評価と
上気象、水中の温度、塩分、流速を長期にわたり観測
計測データの評価を行うことを目的としている。
する海洋観測ブイシステム
(トライトンブイ)
を開発した。
平成11年度では、平成10年度と同様に、トライト
トライトンブイネットワークは気候変動の予測を研
ンブイの設置場所で、観測船および米国のアトラス
究の中心に置いているCLIVAR(Climate Variability
ブイデータとの比較を行った。結果は、それぞれの
and Predictability 気候変動と予測に関する研究計
センサー間に有意な差は得られず、トライトンブイに
画)の観測システムの一部として認められ、その計
よるデータは、他の手段で得られたデータと大差な
画の推進に大きな役割を果たすことが期待されて
いことが判った。3種類の雨量計の比較では、トラ
いる。また世界の海で恒常的な海洋観測網を作ろ
イトンブイで使用している光学式雨量計にやや大き
うとしているGOOS(Global Ocean Observing System
─ 36 ─
世界海洋観測システム)
にも貢献するものである。ま
テムにより、1日数回リアルタイムデータを伝送されて
た、米国との二国間協力としてUJNR(天然資源の開
いる。これにより、データを確保するとともに、全世
発利用に関する日米会議)
のTYKKIパネル(太平洋
界通信システム
(GTS)へデータを供給し、既に気象
総合観測研究イニシアチブ)
においても太平洋規模
庁のモデルでも利用されている。
のブイによる海洋観測を促進していく事が合意され
トライトンブイの展開はTAOブイと連携するため、
ている。今後もこのTAO計画と協力しながらトライト
トライトンブイから得られるリアルタイムデータの内、
ン計画を発展させていく。また、インドネシアとの共
TAOブイと同等(水温、風速、気温、湿度の1日平均
同研究はすでに開始されており、来年度のインド洋
値 )のものに ついては 、翌日
( 準 リアルタイム)に
の展開に向けインドとの協力も準備している。
PMELのブイデータとトライトンブイデータを統合後、
「みらい」により1998年3月に4基のブイを西太平洋
センター及び、PMELからインターネットを通じて公
熱帯域に初めて設置した。1999年2月-3月の航海、
開している。このデータ統合及び共同配信は2000
10月-11月の航海でブイ回収設置を行い、1999年11
年1月1日から実施された。
月の段階で10基のブイ
(■の地点)が稼働している。
また、この1999年2月から東経156度線から西の米
国大気海洋庁のTAO計画のアトラスブイにトライトン
ブイが順次置き変わりTAO/トライトンによるエル・ニ
ーニョの共同観測が始めた。2000年3月には、1年
間係留後のブイ4基を回収し、始めて1年間の運用
の実績を待った
(写真1)。これらのブイデータにより
前節で述べた西太平洋のラ・ニーニャに伴う暖水の
蓄積の様子が明らかになった。
ブイデータは、軌道衛星を利用したARGOSシス
写真1 トライトンブイ
60°
N
40°
N
20°
N
0°
TRITON
(2000年3月)
TRITON
(2000年12月)
TRITON
(2001年3月)
TRITON
(2001年∼)
TAO
20°
S
70°
E
90°
E
110°
E
130°
E
150°
E
170°
W
170°
W
150°
W
図3 トライトン・アトラスブイ配置図
─ 37 ─
130°
W
110°
W
90°
W
共同研究
係留系を設置し、2000年2月の「みらい」クルーズに
熱帯太平洋域の中層及び深層循環の構造と変動特性
おいて回収した。
の観測研究
その流速記録から、ウェ−ク島水路の深度5000m
付近に深層循環流と思われる北北東向きの流れが
本研究は、船舶及び係留系を用いた海洋観測に
存在し、水路の東西で異なる大きさ
(図4、西側で約
より、太平洋の熱帯域における中深層の流れの様
2cm/s、東側で3∼4cm/s)
と時間変動を示し、一方が
子の把握に貢献することを目的として、東大海洋研
弱まるともう一方が強まるという傾向のあること、短
究所と共同で行っている。分担としては、海洋科学
期間ではあるが流れの無くなる時もあること、その流
技術センターがニューギニア沿岸を北上する南極
れは4000m深付近になると大きく減衰すること等が
中層水を、東大海洋研究所がメラネシア海盆を通
分かり、それに比べてメラネシア海盆の深層流速は
る深層水の流れをそれぞれ観測している。
時間的・空間的に複雑で、幅の広い深層流が北西
昨年秋の「かいよう」
「みらい」クルーズにおいて、
南緯2.5度東経142度、赤道上東経138度及び147度
向きに一定の場所を流れるというイメ−ジではないこ
とが分かった。
の計3点に設置されていた中層のアンデラ流速計
ニューギニア北方海域における流速観測の結
を回収し、再設置した。また、1999年1月14日から3
果、当該海域では中層においても約1ヶ月周期の変
月4日の白鳳丸KH−99−1次研究航海において、メ
動が卓越していることがわかった。
ラネシア海盆に5系、ウェ−ク島水路に2系の流速計
4000m
5000m
2cm/s
図4 ウェーク島水路における平均流。
オレンジ・赤・紫・青・黒の矢印はそれぞれ水深2000m、3000m、4000m、5000m、
海底における流れである。
─ 38 ─
(2)中部熱帯太平洋トモグラフィー観測実験
第2研究グループ
(a)
目的
海洋音響トモグラフィーシステムの広域立体同時
プロジェクト研究
海洋音響トモグラフィー技術の研究開発
観測機能を利用して、日付変更線付近の太平洋熱
研究期間:平成元年度∼平成12年度
帯域を観測海域として、エルニーニョに伴う顕著な
水温シグナル、十年規模変動に重要な子午面循環
本研究は、地球規模の海洋変動現象の解明に資
および赤道不安定波動などの中規模現象を観測
するため、海洋音響トモグラフィー技術(海中の
し、エルニーニョ現象の機構解明に貢献することを
色々な音の伝わり方を調べて、水温や流れの分布
目的とする。米国ワシントン大学応用物理研究所
などを測定する音波CT技術)の研究開発を行い、
(APL-UW)
との共同研究として中部熱帯太平洋トモ
水温や流れの分布の広域・立体・同時・連続観測
グラフィー観測実験を実施する。
を可能とする理想的なリアルタイム海洋観測システ
(b)観測海域
ムを開発・整備し、太平洋における気候変動観測
研究の一環として、海洋音響トモグラフィーシステム
子午面循環は、存在そのものはモデルでも観測
による重点海域の観測を行うことを目的としている。
データからも確認されているが、その役割について
は明確ではなかった。しかし、Gu and Philander
(1997)が熱帯域と中高緯度の大気と海洋の結合系
(1)概要
平成11年度は、中部熱帯太平洋トモグラフィー観
が、エルニーニョの数年スケールの変動に変調をも
測実験を平成10年度に引き続き実施した。この実
たらすという仮説を提唱するにいたり、その重要性
験は平成10年12月から2年間の計画である。
が認識されるにいたった。北太平洋における十年
平成10年度第三次補正予算により認可された
規模変動との関係が考えられるため、この仮説の
200Hz送受信システム3基が、平成11年5月に完成し
重要な要素である子午面循環のうち、日付変更線
た。この新規製作の3基を既存の5基に加えること
付近でバイパスする経路の存在を検証することが必
により、当初計画である8基によるトモグラフィーシ
要である。このため、トモグラフィーシステムはこの
ステムが完成した。
海域をカバーするように展開することとした。
8式運用によるデータ量の増加に対応するため、
(c)関係者への説明
解析用ワークステーション2台を追加するなど、解析
日本かつおまぐろ漁業連合会、
海外巻網漁業協会、
システムの増強を行った。
中部熱帯太平洋トモグラフィー観測実験におい
て、平成11年2月∼4月にかけて2号機∼5号機の海
近海かつおまぐろ漁業協会他の漁業関係者にもトモ
グラフィー観測について説明し、協力を要請した。
面ブイの通信が途絶え、さらに6月に1号機トランシ
(d)8式の観測体制の完成
ーバの機能が停止した。このため、平成11年8月∼
平成11年5月に新規製作分の3式の200Hz送受信
9月に5基すべての回収を行い、原因究明を行った。
機能停止は電池系のトラブルと分かり、この解決
システムが完成した。これにより、平成元年度より開
および整備を行った後、平成11年12月の「かいよう」
発してきた200Hzトモグラフィーシステムは、当初予
KY99-10航海により同じ海域に7式を設置し、実験
定のとおり、8式によるシステムとして完成した。また、
を再開した。
同時送信の精度向上のため、11次のM系列信号に
よる計測を可能とした。解析システムに関しては、
新たに2台のワークステーションを導入し、データ量
の増加に備えた。
─ 39 ─
(e)電池系のトラブルによる機能停止および回収
変動がみられた。これは、ラニーニャが終息に向か
中部熱帯太平洋トモグラフィー観測実験は平成
うときの一時的な水温変動と考えられる。その後、
10年12月より開始したが、平成11年2月∼4月に掛け
70から80日付近で変動がみられ、その後は比較的
て2号機∼5号機の海面ブイからの通信が途絶え
安定している。これと比較するデータとして、0度180
た。その後、6月には1号機トランシーバの機能が停
度に設置してあるTAOブイのデータがあり、
トモグラ
止し、音波の送受信ができなくなった。この原因の
フィーの解析結果とほぼ同様の水温変化を示した。
究明のため、5基のトモグラフィーシステムすべてを
平成11年12月に設置した7式の送受信システムは
回収することとした。回収には新日本海事(株)所有
の「新日丸」を用い、作業は平成11年8月∼9月に行
正常に動作し、データは陸上に送送信された。
われた。回収の結果、電池系のトラブルであること
このデータを解析することにより3次元の水温分
が判明したため、電池のタイプを変更し、このトラブ
布や測線方向の流速が求まり、赤道域特有の渦の
ルに対処した。また、システムの整備を行った。
活動や南北流などが観測され、ラニーニャの終息と
ともにこれらが弱まっていることが明らかとなった。
(f)再設置および実験再開
北緯3度付近の水温構造の時間変化に着目する
システムのトラブルへの対処および整備が終了し
たため、実験を再開した。
「かいよう」によるKY99-
と、暖水や冷水が交互に現れていることが分かる。
10の航海で、前回と同じ海域に再設置を行った。
これは赤道のLegeckis(レジキス)渦(あるいは赤道
この時、新規製作分の3式も新たに加え、8式のシ
不安定波動)
によるものと考えれられる。東太平洋
ステムでの観測を行うことと予定したが、機材をコ
でのこの緯度付近で発達するこの現象は、Legeckis
ンテナ船にて輸送中に1基が損傷したため、7式に
(レジキス)渦(あるいは赤道不安定波動)
と呼ばれ、
西向きに50cm/s(時速約1.8km)程度の速さで伝播
て実験再開することとした。
トモグラフィー観測は同時送信モード1日と順次送
信モード1日に休止日2日を組み合わせた4日周期の
することが、人工衛星による海面水温の観測等から
知られている。
今 年 の 4 月まで は 水 温 の 変 動 が 顕 著 で あり、
観測を実施している。順次送信モードでは観測デ
ータの一部は海面ブイを用いてリアルタイムで陸上
Legeckis渦が中央太平洋の観測海域にまで達して
に送信されている。
いるものと考えられる。これがトモグラフィーの手法
なお、設置中および設置後にCTD観測、ADCP観
で初めて捉えられた。
このLegeckis渦はラニーニャの時に発達し、エル
測を行い、設置時の水温、塩分および流速構造を
ニーニョの時には衰退することが知られている。今
把握した。
年の3月まではラニーニャであり、その後、終息した
(g)
データ解析
が、この終息と同時期に、この渦活動が弱まってい
平成11年8月∼9月に回収した5式のトランシーバ
ることが分った。
の内部記録装置を確認したところ、それぞれ実験
開始から5月末もしくは6月中頃までの送受信データ
流速の時間変化に着目すると、2号機と4号機の
が記録されていた。これは、海面ブイが機能停止し
間(北緯9度∼13度付近)では、この間の約500kmの
たものの、トランシーバ本体はこの時期まで正常に
間の表層付近(50m程度)から海底付近(5000m程
動作していたことを示すものである。このうち、T5
度)
までの平均流速の南北成分が求まっており、70
とT1間の水温解析の結果、この間(東西約1200km)
日程度の周期で南北に流れが変動していることが
の平均水温の時間変化が得られた。この結果から
分かった。流速は最大で3cm/s程度であった。これ
平成11年の通算日15日から50日に掛けては水温の
はロスビー波を捉えたものと考えられる。
─ 40 ─
このように広域の平均流速の計測は他の観測手
法では難しく、
トモグラフィーによって初めて求まった
ものである。この現象も今年3月を境に弱まっている。
これもラニーニャの終息時期と重なるものである。
図5 Yearday 1999
図6 Yearday 1999
トモグラフィーによるT5 T1間(0.5N、水平距
離約1,200km)
の平均水温の時間変化を示す。
縦軸は深度、横軸は1999年の通算日付で、1月
15日から5月22日までである。ラニーニャが終息に
に向かうときの一時的な水温変動が現れている。
図7
0度、180度に設置してあるTAOブイによる水温
の時系列図。
トモグラフィーによる水温分布と良い一致を示
している。
実験海域図
─ 41 ─
通算日付
(日)
7月1日
6月1日
通常時期
5月1日
時間の進む
向き
4月1日
3月1日
ラニーニャ
時期
2月1日
2000年1月5日
東経
西経
日付変更線
図8
北緯3度の水温の時間変化(°
C)
北緯3度の水温の時間変化を示す。横軸は経度で東西の距離は1,200km、縦軸は日付、コンターは100m∼
400mまでの平均水温。実験開始から4月までは暖水や冷水の変動が顕著であることが分かる。これはLegeckis
(レジキス)渦による水温の変動と考えられる。このLegickis渦は、ラニーニャ時に発達することが知られている。
5月からはこの水温変動がほとんど見られなくなっている。これはラニーニャ終息の時期とほぼ一致する。
ラニーニャ時期
通常時期
流速
(cm/s)
約70日
北
向
き
南
向
き
2000年通算
日付
(日)
2000年1月1日
2月1日
図9
3月1日
4月1日
5月1日
6月1日
7月1日
2号機 4号機間の平均流速(南北成分)
2号機 4号機間(約500km)の平均流速(南北成分)
を示す。これは海面付近(約50cm)から海底付近(約
5000m)
までの平均流速である。最大で約3cm/sの流速が、1月∼3月まででは約70日周期で向きを変えながら
流れている。この現象は4月以降は弱まっている。この時期はラニーニャの終息とちょうど一致するものである。
─ 42 ─
亜熱帯海域における長期自動観測
沖ノ鳥島において、海洋科学技術センターが観
研究期間:平成11年度∼
測した全データ
(1993年4月∼2000年2月)
を取りまと
め、沖ノ鳥島観測データのCD-ROMを作成した。
日本の気候変動を支配するメカニズムを解明する
上で、亜熱帯海域は特に重要である。
また、これまでの観測データを基に、台風モデル
の検証・評価を行った結果、台風の非対称性を考
黒潮は低緯度から高緯度に大量の熱を輸送し、日
慮した取扱いが、必要であることが判明した。
本の気候に重要な影響をもたらすため、季節変動と
年々変動を併せ持つ黒潮の強さ
(流速)
の長期の監視
が不可欠である。他方、亜熱帯海域に広く分布する亜
熱帯モード水は、冬季季節風との相互作用により形成
されるため、日本の気候変動に対する海洋の影響を調
X19
X18
X17
べる上で有効な指標である。特に、日本の夏季の気
X16
X15
候は、アジアモンスーンとENSOが関与することが指摘
X14
X13
X12
X11
X10
X9
X8
X7
X6
X5
X4
されており、その経年変動と沖ノ鳥島の気候とが関係
するため、この海域で長期観測することが重要である。
本研究では、日本の気候変動と亜熱帯海域の変
動との関係を調べるため、低緯度海域と亜熱帯海
X:XCTD観測点
X3
X2
域の境界に位置する沖ノ鳥島において、エネルギ
X1
ー自給型気象・海象観測システムを用いて長期にわ
たる海洋気象観測を行い、低緯度海域の日本の気
候変動に対する影響を明らかにする。
平成11年度は、プロジェクト研究「海洋自動観測技術
図10
調査海域図
の研究開発」
( 昭和62年度から平成10年度まで実施)
において開発確立した「エネルギー自給型気象・海象
ポテンシャル水温(℃)
0
観測システム」
を用いて日本最南端の沖ノ鳥島における
25
26
24
24
23
22 21 20
19
15
長期自動観測を開始した。観測装置の故障による欠測
を最小限に抑えるため、気象計2台体制を維持した。
-200
14
18
18
2000年2月中旬、グアムから横須賀まで回航する
ステムの点検保守を、マリンワークジャパン及び自然
環境リサーチ社の協力の下に実施した。気象計2台
17
16
深 度(m)
「よこすか」を利用して、平成11年度沖ノ鳥島観測シ
13
12
11
10
-400
9
8
7
-600
6
5
の交換、潮位計の交換、水温計の交換及びクロロフ
ィル計の回収を行った。また、気象計1号機用のア
ルゴスデータ伝送装置の点検を行うと共に、気象計
-800
4
2号機用リアルタイムデータ伝送装置を設置した。
グアムー沖ノ鳥島、沖ノ鳥島ー御蔵島内を回航
-1000
中 、2 0 点 の X C T D 観 測 を 実 施した 。この 結 果 、
20
SST26℃の等温線が、沖ノ鳥島を越えて、南下して
いることを、また、19°∼21°Nに黒潮反流が存在す
ることが、確認された。
25
35
図11 グアム ─ 沖ノ鳥島 ─御蔵島間の
水温鉛直分布図
─ 43 ─
30
緯 度(N)
亜熱帯循環系における観測研究
と、黒潮続流域で生成される中規模渦は西進して
伊豆海嶺を通過し、九州南方に達することが分か
北太平洋の亜熱帯黒潮続流域及び亜寒帯海域
る。例えば1993年10月に伊豆海嶺上に見いだされ
は、地球規模の気候変動や温暖化において重要な
た高気圧性の渦は、直径400km、深さ800m以上の
位置を占める。中でも黒潮続流域は海洋から大気
構造があった。この渦は1994年1月に九州南方に到
への熱輸送が著しく大きい海域で、その変動が上
達し、今度は黒潮とともに東進しつつ、黒潮は蛇行
空の偏西風の変動に連動して、気候変動を引き起
の様相を示した。数値モデルを用いてメカニズムを
こすものと考えられている。海洋から大気への熱輸
調べたところ、中規模渦が四国沖の再循環流(四国
送を評価する上で、海面水温がいかにして形成さ
沖暖水)の変動を引き起こしていること、特に高気
れ変動するのか、また、亜熱帯・亜寒帯循環間で
圧性渦と黒潮とが相互に作用して、黒潮の蛇行の
熱・海水交換がいかにして行われているか、という
発達が引き起こされること、が明らかになった
(IP
海洋変動メカニズムの解明が重要である。これを
RCと共同研究)。
担う主要な海洋現象として黒潮続流や直径100km
黒潮続流域の数値モデルの結果を解析すると、
程度の中規模渦などが考えられるため、観測デー
蛇行と渦の生成、再循環流の変動に伴う数ヶ月の
タや海洋数値モデル等を用いて、これら海洋現象
変動がこの海域でも特徴的であった。渦と再循環
の役割を解明すべく研究を推進している。
流の相互作用のメカニズムは黒潮続流域にも適用
衛星観測データや定期航路船データを解析する
0.000E+00
minimum vector
できるものか、検討を進めている。
0.171E+03
maximun vector
45.0
latitude
40.0
35.0
30.0
25.0
130.0
135.0
140.0
145.0
150.0
155.0
160.0
longitude
6.0
図12
8.0
10.0
12.0
14.0
16.0
18.0
20.0
22.0
数値モデルで計算された黒潮・黒潮続流域の流れ(海面)
と水温(200m深)
。
黒潮続流域では南北蛇行が活発で、連動して渦の形成、北の混合水域と南の再循環域の間で海水の交換が
見られる。続流域起源の高気圧性渦は、西進した後、日本南岸の黒潮に作用し、黒潮の蛇行をもたらす。
平成11年度の「みらい」観測は東経150度∼157.5度、北緯32.5度∼37.5度の海域で実施され、水温・塩
分・溶存酸素量などが計測された。
─ 44 ─
平成11年度の「みらい」観測では、蛇行の振幅の
また、東経152.5度、北緯37.5度(混合水域)
に流
大きい東経150度から、シャツキーライズ西側の東経
速計を設置し、15ヶ月間観測を行い、海洋学的に重
157.5度まで、経度2.5度間隔に測線を設定し緯度
要な結果が得られた。図13から、最も顕著な時間
0.5度間隔でCTDによる水塊観測を実施した。観測
スケールは100日程度であること、流れの向きは鉛直
の結果、黒潮の蛇行に伴う水塊輸送の構造が見ら
にほぼ一様であることがわかる。これは、渦がかな
れた。特に黒潮続流下部では塩分極小層が見られ
り順圧的な構造を持っていることを意味する。また、
るが、著しく低塩分のところはレンズ状になっており、
東西平均流は西向きに3cm/sであった。これは、続
そこで溶存酸素量も極大となっていた。これは、新
流の北側にも再循環流があることを示唆する。この
しい亜寒帯水が蛇行とともに黒潮の下部に進入して
ような平均流は渦によって駆動されている可能性が
きていることを示している。一方、混合水域では塩
あるが、その解明は今後の課題である。
分極小層と溶存酸素量極大層は一致しない。また、
これまでの成果は三次元的な海洋の熱輸送過程
等密度面が著しく上昇している箇所では、低塩分か
解明の糸口を見いだしたものである。定量的かつ
つ高溶存酸素の水塊が分布していた。以上の観測
総合的に把握するために、黒潮続流域での集中観
結果は、黒潮続流の蛇行と北太平洋中層水の移動
測(2001年夏季開始)
を計画している。
経路を解明する上で、重要な観測事実であろう。
depth(m)
zonal velocity vx(original)
0
–500
–1000
–1500
–2000
–2500
–3000
–3500
–4000
MAY JUN
1998
–60
–50
JUL
–40
AUG
–30
図13
SEP
OCT NOV DEC
–20 –10
0
JAN
1999
10
FEB MAR APR MAY
20
30
40
50
混合水域の流れの時系列断面図
図は東経152.5度、北緯37.5度での流速プロファイルの時系列で、東西成分
(暖色系が東向、寒色系が西向)
を示す。単位はcm/s。計測水深は100m∼
350mの連続区間、500m、1000m、2000m、4000mで、観測期間は1998年
4月∼1999年7月の約15ヶ月間である。流れの変動は主に渦によってもたら
され、全水深で同一方向に向かう連動した変動が卓越する。平均的には東
西流は西向を示す。
─ 45 ─
JUN
60
JUL
特別研究
高解像度海洋大循環モデルによる海洋観測評価手法
の研究
本研究では、高解像度の海洋大循環モデルを用
いて海洋循環を再現し、観測データとの比較により
海洋現象のメカニズムを調べることを目的としてい
る。数値モデルは水平方向に1/4度(約25km)、鉛
直方向には55レベルの解像度をもち、北極海を除
く全球を対象としている。今年度は、気候値データ
を海面条件とした季節変動実験(20年の時間積分)
の最終状態を初期値として、年々変動を含む海面
風応力、水温データによる経年変動実験を1982年
から1990年代はじめについて実施した。モデルは、
1982-83年、1986-87年のエル・ニーニョ現象や、
1984年、1988年のラ・ニーニャ現象を、東部赤道太
平洋の海面水温が観測より約1∼2度小さい傾向が
あるものの、再現している。図は1982年3月から
1983年9月にかけての赤道太平洋の海面水温分布
を3ヶ月毎に示している。82年7月頃から赤道太平
洋に現れた表層東向流によって暖水プールが東に
移動し、82年末には西経160度から西経110度に広
がり、83年3月から4月かけて赤道域全体で海面水
温が上昇する様子をよく再現している。その後、83
年5月頃から水温は下がり始め、83年秋にはほぼ平
年状態となり、エル・ニーニョ期には見られなかっ
図14 モデルで計算された1982/83年のエル・ニーニョ期
における熱帯太平洋における海面水温。
た赤道不安定波動が再び現れている。
インドネシア通過流量の経年変動もモデルに現れ
ており、特にエル・ニーニョ年の87年は年平均7.7Sv
でモデルの平年の平均流量(12∼13Sv)の約半分
受託研究
程度に減少している。本研究によって、中規模スケ
高解像度海洋大循環モデルを用いた全球データ同化
ールを含む高解像度の海洋循環を再現する数値モ
システムに関する研究
デルを開発することができた。今後さらに時間積分
本研究は、数10kmから数100kmの空間スケール
を進め、亜熱帯、熱帯循環域の観測データと比較、
検討を通して、海洋循環の4次元的な把握と数年か
を持つ海洋の中規模渦を分解する高解像度海洋大
ら10年規模の海洋変動のメカニズムを調べる。
循環モデルによる全球データ同化システムを開発
し、並列計算機環境において並列化、最適化する
ことを目的としている。今年度は、昨年度の同化手
法の調査、予報モデルの高速、効率化に続いて、
同化システムのプロトタイプを作成しテスト計算を実
─ 46 ─
施した。用いたデータ同化手法は、海面高度デー
海面水位データは5日毎に入力し、途中の期間は線
タの変動から海洋内部の水温変動を、相関によっ
形に補完して常時、1/10日のナッジング係数(但し相
て統計的に推定し、推定された水温にモデルで計
関係数をかける)で同化した。同化開始後、10数日
算される水温を近づけることによって、現実により
はナッジングにより運動エネルギーが1割程度減少
近い場を再現するものである。
するが、その後回復しモデル結果と同程度のレベ
テスト実験はいわゆる双子実験といわれるもの
ルに達する。インドネシア通過流等の流量変動の振
で、データ同化していないモデルシミュレーションの
幅に対して、季節変動の時間スケールでは比較的
20年目の海面水位を仮想的な観測データとし、19年
同化の影響は小さいが、数十日周期程度の変動に
目の結果を20年目の結果に同化する計算を行った。
関しては、最初の数ヶ月間は振幅が小さい。これは
数十日の季節内変動が同化によって調節するまでに
数周期必要であることを示している。同化結果の
例として、図に8月4日における100m水深の水温と流
速を示す。上段はモデルシミュレーション19年目、
中段は同化結果、下段は観測データとして用いた
モデルシミュレーション20年目の結果である。図か
ら分かるように、非同化結果(上)
に比べて同化結
果(中)
はミンダナオ渦の位置(東経128度、北緯5度)
や、その北東にある高気圧性渦など、かなり20年目
の結果に近くなっていることが分かる。今後、より定
量的な同化結果の評価と、パラメータ値の調節など
による改良を進める計画である。
第3研究グループ
プロジェクト研究
「北極海域における海洋観測技術の開発及び観測研究」
最近の数値実験の結果から、北極域は気候変動
の影響を非常に敏感に受ける地域であることが良
く知られるようになってきた。また北極海域自身も海
氷や海洋の変動を通じて北極・亜寒帯域の数十年
スケールの気候変動に影響を与え、全海洋を結ぶ
大規模な熱塩循環に大きく寄与していると考えられ
ている。本研究では、気候変動における北極海の
役割を解明するために、多年氷海域及び氷縁海域
において、
・海氷生成・維持に大きく影響を与える北極海特
有の海洋構造の形成・維持機構
図15 全球高解像度モデルによる同化双子実験の結果
例。8月4日における、100m水深の水温と流速(ベク
トル)
。非同化
(上)
、同化結果
(中)
、観測データ
(下)
。
─ 47 ─
・太平洋水や河川水の北極海への流入
・大陸棚と深海盆間の水塊交換、水塊混合過程
・北極海中層(300∼500m)の大西洋水の循環と
その変動
ンブイの内部構成図である。J-CADは、一般気象観
測(風向・風速・気温)
と共に、北極海表層海洋(深
などの過程に注目し、漂流ブイの開発、漂流ブイによる
さ0mから250mくらいまで)の海洋成層構造(水温・
観測、船舶による現場観測、係留系観測を実施している。
塩分)や海流の観測を行い、北極海表層海洋での
成層構造の形成・維持機構や、ここで起きる素過程
1.J-CAD(JAMSTEC Compact Arctic Drifter; 氷
海観測用小型漂流ブイ)の開発
の解明を目的としている。そのため海洋センサーと
して、水温塩分計(CTセンサー)
とともに音響式流
厳しい自然条件のためなかなか現場での海洋観
向流速計(ADCP)
も取りつけられている。観測され
測を行うことのできない多年氷海域では、海氷に設
たデータは人工衛星を経由して研究室まで配送さ
置して自動的にデータを取得する漂流ブイによる観
れ、リアルタイムで北極海の海洋・気象のデータを
測は非常に有用である。これまで開発・観測を行
見ることができる。水中のデータ通信に電磁誘導方
ってきた氷海用自動観測ステーション(IOEB; Ice
式を、人工衛星を経由した観測データの送信や研
Ocean Environmental Buoy)
には気象・海氷・海洋
究室からJ-CADへのコマンドの送信にはオーブコム
物理・生物地球化学など様々なセンサーがついて
(ORBCOMM)衛星通信システムを採用し、なお且
おり多くの結果を出してきたが、設置・回収が非常
つ建造や設置回収を簡易にするため小型化の考慮
に大変であるなど幾つかの問題点も出てきていた。
を加えるなど、最新の技術を集めた氷海観測用漂
そこで、気 象・海 洋 物 理 に 特 化してより簡 易 な
流ブイである。このJ-CADは、2000年4月に北極点
形に改良した新しい漂流ブイJ-CAD(JAMSTEC
付近の多年氷での、9月にボーフォート海の多年氷
Compact Arctic Drifter; 氷海観測用小型漂流ブイ)
での設置を予定しており、それぞれ北極の主要な
の開発建造を1998年より開始した。
海氷の流れである極横断流・ボーフォート循環に乗
図16はJ-CAD1号機の構成図、図19はJ-CADメイ
って北極海での観測を開始する予定である。
風向風速計
Wind sensor
気温センサー
Air temperature sensor
ウォーターラップ機構
(気圧計用)
Water trap system for Barometer
オーブコムアンテナ
ORBCOMM Antenna
防護板
Protection board
浮力材
Floatation
(Surlyn Form)
GPSアンテナ
(アルゴス用)
GPS Antenna for ARGOS
ゴアテックス・フィルター
Gore-tex filter
GPSアンテナ
(オーブコム用)
GPS Antenna for ORBCOMM
データロガー
(TT8)
&メモリー
Data Logger(TT8)& Memory
アルゴスアンテナ
ARGOS Antenna
インダクティブ
ケーブル保護管
Protection pipe for
Inductive modem cable
気圧計
Barometer
SSTセンサー
SST sensor
通信制御部
MetOcean Digital Controllar(MDC)
リチウム電池
Lithium Battery
インダクティブ・カップリング・モデム
Inductive Coupling Modem(ICM)
ブイ本体
(アルミ製)
Main body(Aluminum)
水中ケーブル保護チューブ
(5m)
Protection tube for underwater cable
図17
図16 J-CAD1号機の構成図
(2000年4月に北極点に設置)
─ 48 ─
J-CADメインブイの内部構成図
2.カナダ砕氷船による観測
海氷状況は昨年に比べて非常に良く、西経160度付
カナダ 沿 岸 警 備 隊 所 属 の 砕 氷 船 Sir Wilfred
近では北緯75度近くに氷縁が後退していた
(図20)
。
Laurier号により、1999年度では、
(1)投げ込み式塩
このため、比較的これまで観測が少ないノースウイン
分・温度計(XCTD)
によるボーフォート海陸棚斜面
ド海嶺近くでもCTD・採水観測を行うことが出来た。
域での水温・塩分観測、
( 2)前年度にアラスカ沖ボ
またアラスカ北沖でも氷縁は北緯73度付近まで後退
ーフォート海陸棚斜面域に設置した2つの係留系
しており、1997年のエルニーニョ年以来9月に氷縁が
(BFS-98, BFK-98)の回収、
(3)
ボーフォート海に3つ
異常に大きく後退する年が続いている。
図19はボーフォート海陸棚斜面に沿った観測点
の係留系(アムンゼン湾(AGJ-99), マッケンジー湾
(MCJ-99), バロー海底谷(CBE-99))を設置した。
(A99-020∼043;図18上の緑色の測点)
までの
(上)
回収した2つの係留系による観測は、ワシントン大
水温・
(下)塩分の断面図(水深0-300m)
である。表
学応用物理学研究所(APL/UW)、アラスカ大学フェ
層には相対的に低温度・低塩分の表層水が広がっ
アバンクス校海洋科学研究所(IMS/UAF)、カナダ海
ている。特に北西部は氷縁に近いこともあり海氷の
洋水産省海洋科学研究所(IOS/DFO)
との協同観測
融解水と考えられる塩分26psu以下、水温-1℃以下
の中で行われた。この協同観測では、アラスカ沖ボ
の極めて低温度・低塩分の表層水が存在した。亜
ーフォート海陸棚斜面域での流速場の変動(直接流
表層にはベーリング海に起源を持つと見られる高
量観測)
と陸棚域-深海盆間の水塊交換過程を明ら
温度の水塊が存在する。特にバロー海底谷の口付
かにすることを目的としている。回収された係留系
近(A99-034地点)から東に4℃以上になる高温な水
の結果から、低気圧などの襲来に伴って陸棚斜面
塊がつぎはぎ状に見られた。水深70mから200mに
域では強い傾圧流が形成され暖かい大西洋水の湧
かけては、北極海に特徴的な冷たい塩分躍層の水
昇が起きることや、この湧昇に伴って陸棚斜面上の
塊が存在し、その下で水深約400mに温度極大を持
冷たい塩分躍層の水塊と暖かい大西洋水との混合
つ大西洋水が存在することがわかる。A99-024,
が進むことなどが分かった。またXCTD観測から大
029, 036などの観測点では大西洋水の湧昇が見ら
西洋水の湧昇がより小さい規模の海底地形の影響
れる。ADCPによる流速観測から、これらの湧昇領
などで起きていることが示唆された。
域では陸棚斜面を横切るような渦状の流れが存在
し、また冷たい塩分躍層の水塊と大西洋水との間
で流速の鉛直シアーが強く、これらの水塊の混合を
3.海洋地球研究船「みらい」による観測
海洋地球研究船「みらい」による北極海域(ボーフ
進みやすいことがわかった。このような大西洋水の
ォート海・チュクチ海)観測航海を実施した。観測航
湧昇に伴って水塊混合が盛んに行われることは、ア
海は9月11日にダッチハーバーを出港してから10月6日
ラスカ沖ボーフォート海陸棚斜面の係留系
(BF-K98)
に関根浜に入港するまでの26日間で、そのうち北極
の結果とも一致したものであった。
海域での観測は9月13日にベーリング海峡を通過し
て北極海に入ってから23日に再びベーリング海峡を
通 過し 北 極 海 から出るまで の 1 1日間 であった 。
CTD・採水観測は、ボーフォート海陸棚斜面域を中
心に42測点で行われた
(図18)
。また観測期間中を
通して、一般気象、表層海水の水温・塩分・炭酸ガ
ス分圧・全炭酸・栄養塩・海洋表層の流速場などの
連続観測を行った。観測開始当初は東寄りの強風
が卓越したが、その後は概して風は弱く曇り又は霧
で時折小雪が舞う程度の穏やかな天候が続いた。
─ 49 ─
図18
海洋地球研究船「みらい」1999年北極海域観測航海でのCTD・採水観測地点
図19 ボーフォート海陸棚斜面上(図3中の緑色の測点)
での(上)水温・
(下)塩分の断面図(水深0-300m)
─ 50 ─
第4研究グループ
Brown)
とナウル島がプラットフォームを提供する形
で実施された。今回の観測時期の同海域の特徴は、
人工衛星やTRITON−TAOブイなどのデータから東
大気−海洋相互作用に係る観測研究
部赤道太平洋海域の海面水温が通常に比べて冷
エルニーニョ・南 方 振 動 現 象 に 代 表され る大
たいいわゆるラニーニャ状態にあり、その低海面水
気−海洋相互作用の研究においては、海上におけ
温域が同観測海域にまで侵入していたことがわか
る降水システムの観測が最重要課題の1つであると
っている。そして、特にエルニーニョ現象の発生・
言える。海から水蒸気が供給され雲ができ、雲の
終息に深く関係していると考えられている季節内振
中では水蒸気−水−氷の相変化に伴う熱の吸収・
動(30−60日で地球を1周する大気擾乱のこと)
に伴
放出が起こり、また降水は海水(塩水)
に対して淡水
う対流活動域が同海域を通り過ぎた直後に相当
供給となり海洋の密度構造を変化させるなど、降水
し、極端に対流活動の発達が抑制された状態とな
システムの存在は地球規模の水・熱循環に重要な
っていたことがわかった。事実、同海域で停船観測
役割を果たしているため、その形成・維持機構の解
を行った18日間で船上で観測された雨量はわずか
明が望まれている。また、近年の数値モデルの開
に4mmだった。しかしながら、ドップラーレーダー
発・進展により地球規模で数年∼数十年スケールの
で観測する限り実際にはこのように対流活動が抑制
気候変動を取扱うことが可能になってきたが、精度
される条件であったにもかかわらず多くの降水雲が
の向上のために、一般の全球モデルで扱う分解能
観測された。その中には図21に示すような大規模
よりも時間・空間スケールともに小さい積雲対流を
な降水システムも含まれている。この図21のシステ
いかにモデルに取り入れるかという積雲対流のパ
ムは「みらい」の南方を通過したが、これに伴って
ラメタリゼーションが大きな課題となっており、観測
海洋表層構造も変化していることが確認されてお
による現象の解明と同時に正確なデータ提供が望
り、海洋との結びつきに注目しながら、現在さらな
まれている。
る解析が進行中である。また、降水雲の発生頻度
このような必要性にこたえるべく、我々は海洋地
を周波数解析した結果、過去の研究で指摘されて
球研究船「みらい」に搭載された降水観測に最適な
いる早朝と夜9時頃のピークに加え、特に約2日周期
ドップラーレーダーやラジオゾンデ等を中心観測手
のピークがあることが確認された。同海域で対流活
段として、地球の海洋上でもっとも降水量が多い西
動が活発な12−2月期に対流活動に約2日の周期性
部熱帯太平洋海域を当初の対象海域として観測研
があることは過去の解析研究で西進慣性重力波で
究を開始した。
あることが説明されているが、今回の観測結果はこ
1999年6月から7月にかけて、
「みらい」は国際集中
の約2日周期が時期によらず同海域に遍在している
観測Nauru99に参加した。これは米国エネルギー省
ことを示し、同海域の対流活動を規定するものとし
の重要施策研究テーマである大気放射観測研究プ
て注目される。
ログラムがナウル島に長期観測を目的とした気象観
今後は、同海域で継続的な観測研究を実施する
測ステーションを設置、観測を開始したのにタイミン
ことで、降水活動を何が規定しているのか、また降
グを併せ、1)島での観測がどれだけ実際の海上の
水により同海域の大気、海洋がどのような影響を受
状態を表しているのか(言い換えればどれだけ島
けているのかを解明することが必要となっている。
の影響があるのか)
を評価すること、2)同島近海の
大気、海洋の特徴を集中的に調べること、を主目的
として6ヶ国、30以上の研究機関が参加して行われ
たものである。観測は図20のように2隻の観測船
(「みらい」と米国海洋大気庁の観測船Ronald H.
─ 51 ─
図20「みらい」MR99-K03航海の航跡図(左)
とNauru99時の観測体制(右)。
右図の円は船舶搭載レーダーの観測範囲を示す。
図21
Nauru99中にドップラーレーダーで観測された熱帯の降水システム。
(a)反射強度の水平分布、
(b)
(a)中のB-B'線の鉛直断面。
─ 52 ─
第5研究グループ
組み合わせ、
「みらい」に搭載した。次年度より2年
間をかけて本装置の性能を評価する予定である。
(1)研究開発の概要
1)海洋の物質循環に係わる観測技術の開発及び
プロジェクト研究
「高緯度海域における物質循環に関する観測研究」
観測研究
・海洋レーザ観測技術の研究開発
平成8年度までに行った「船舶搭載型海洋レーザ
平成11年度は、以下に示す「みらい」による4つの
観測装置」による植物プランクトン観測の結果、海
観 測 研 究 航 海 に 参 加した 。
( a )M R 9 9 - K 0 2 航 海
洋レーザ観測装置の有用性を実証した。この結
(5/2/99-6/1/99):北西部北太平洋における春季ブ
果を踏まえ、平成9年度より、実用機として海洋地
ルームの集中観測、
( b)MR99-K04航海(7/23/99-
球研究船「みらい」の船底に搭載する「船底搭載
8/19/99):黒潮続流域でのCO 2 の観測、
( c)MR99-
型海洋レーザ観測装置」を開発している。
K05航海(9/11/99-10/4/99):北部北太平洋、ベーリ
ング海、チャクチ海、ビューフォート海でのCO2の観
・高緯度海域における物質循環に関する観測研究
北部北太平洋及びそれに隣接する海域において
測、
(d)MR00-K01航海(1/5/00-2/8/00): 北西部北
時空間的に連続して生物地球化学的パラメータ
太平洋における冬期の物質循環観測研究。以下に、
ーの観測を行い、粒状物の生成/分解過程、粒
個々の研究の内容を示す。
状物質/溶存物質/ガス成分の輸送過程、およ
(a)MR99-K02航海によって春季ブルームのスポ
びその堆積過程を把握し、高緯度海域の地球環
ット観測を行うことができた。常時表層栄養
境変動に関わる役割を解明する。
塩濃度の高い北西部北太平洋において、ブル
・基礎生産機構解明に関する観測研究
ーム時に栄養塩濃度の減少が観測されたが
海水の化学成分分析、現場法による基礎生産力の
測定、海中光など海洋生物光学的な観測を通して、
枯渇することはなかった。
(b)MR99-K02及びMR00-K01航海において北西
赤道湧昇域における高栄養塩濃度-植物プランクトン
部北太平洋で海水中の全炭酸濃度を測定し
低濃度、暖水プールにおける深層植物プランクトン極
た。平成10年度に実施した秋季(11月)の観
大層の機構、インドネシア通過流に伴うインド洋の植
測結果と合わせて、同海域における全炭酸濃
物プランクトン生産機構を解明する。また衛星搭載海
度の季節変動を明らかにした。また、平成9
色センサーによる広域の植物プランクトン観測データ
年、平成10年に実施されたみらい航海におい
をもとに、現存量の時間変動を求め、基礎生産力観
て採取した海水試料約450本の炭素14、炭素
測データと結合し、広域の基礎生産力を評価する。
13比を測定した。その結果、同海域の中層
水における人為起源炭素14の詳細な分布を
初めて明らかにした。この炭素14の分布は北
(2)主な研究開発の内容
1)海洋の物質循環に係わる観測技術の開発及び
太平洋中層水の形成メカニズムに新たな知見
を与えることが期待される。
観測研究
(c)生物ポンプによる大気CO2の吸収能力を把握
するために、平成9年12月から北西部北太平
プロジェクト研究
洋の3地点(44°N/155°E、50°N/165°E、40°
「海洋レーザ観測技術の研究開発」
N/165°E)でセジメントトラップ実験を実施中
昨年度は「みらい」の船底にレーザ光を発射する
である。図22に測点40°N/165°Eの5000mで
ための光学窓をとりつけた。今年度は、海洋レーザ
捕集されたOpalフラックスとCaCO3フラックス、
観測装置本体を平成9年度に製作した光学ベンチと
およびOpal/CaCO(モル比)
の時系列変化を
3
─ 53 ─
図22 北緯40度、東経165度の水深5000mで捕集されたOpalフラックスとCaCO3
フラックス、およびOpal/CaCO(モル比)
の時系列変化
3
示す。平成10年に比較すると平成11年には
存鉄試料を鉛直的に採取した。また、大気経
Opalフラックス及びOpal/CaCO(モル比)
が増
3
由で海洋表層に供給される鉄の寄与を明ら
加している。同じ傾向が測点44°N/155°Eで
かにするため、各観測点を航行中にハイボリ
も見られた。このことは平成11年には、北西
ュームエアサンプラーにより、エアロゾルを採
部北太平洋の珪藻種の活動が活発であり、生
取した。サンプルは現在分析中である。
物活動が効率よく表層海水中CO2濃度を低下
(f)海洋表層からの粒状有機物のフラックスを見
させていた可能性が示唆される。
積もるためにMR99-K02で5測点,MR00-K01
(d)MR99-k02航海で春季ブルーミングの観測を
で7測点において234Thと POCの測定用の試料
行った。ブルーミングが発生している海域で
を採取した。現段階まで得られたデータによ
は、表面海水中pCO2が局所的に200μatm以
ると本観測海域では、春期において、非常に
下に下がった。このときの大気海洋間のCO 2
高い粒状有機炭素の有光層から深層へのフ
フラックスは−12∼−14mmol/m 2 /dであった。
ラックス
(>350mg-C/m2/d)
を持つ水塊が、パッ
また、混合層内の全炭酸は100μmol/kg程度
チ状に存在することが解った。
であり、周辺海域と比較して濃度が低くなっ
(g)天皇海山列上の1点について、海底堆積物に含ま
ていた。しかし、アルカリ度は混合層内でほ
れる長鎖不飽和アルキルケトンの分析を行い、過
とんど変化していなかった。このことから、表
去11万年にわたる海洋表層水温の復元を行った。
面海水中pCO2 の低下と混合層内の全炭酸濃
その結果、表層水温は2万年前が最も低く、約3度
度の低下には、炭酸カルシウムの生産/溶解の
くらいであり、8万年前以前は約18度と現在の平均
寄与は無視できることが分かった。
水温よりも約4度ほど暖かいことがわかった。
(e)MR99-K02航海とMR00-K01航海おいてテフ
ロンコーテイングしたクリーン採水器により溶
─ 54 ─
プロジェクト研究
160度の間にそれぞれフロントがあることがわかる。
「熱帯・亜熱帯域における基礎生産機構解明に関する
観測研究」
硝酸塩が枯渇している東経160度よりも西側では、
トリコデスミウム
(硝酸塩ではなく気体の窒素を使う
ことができる植物プランクトン)の群集があることが
本研究では、赤道海域における、植物プランクト
わかる。このような生物活動によって、栄養塩など
ンによる炭素の固定能力とその変動を調査するた
のフロントの位置は必ずしも塩分などのフロントとは
め、1997年度より暖水域から湧昇域西端部にかけ
一致しないことが示唆される。
て
(東経145度∼西経165度)基礎生産力などの観測
を中心にした生物地球化学的観測を実施している。
図23に1998年度の観測で得られた結果の一部を示
経常研究
「海洋の炭酸系測定の精度向上に関する研究」
す。海面水温は東経160度付近から東に向かって
序々に低下していき、それに伴って硝酸塩が序々に
全炭酸の標準海水を作成するための実験を開始
増加している。これは、湧昇の影響が日付変更線を
した。亜熱帯海域の表層海水(約100リットル)
を採
越え、東経160度まで達しているためで、エル・ニー
取し、生物活動を抑えるために塩化第二水銀を注
ニヨがあった1997年度の同時期と全くことなる様相
入した。その後、実験室内のCO 2 濃度と海水中の
を呈していた。塩分では東経156度、硝酸塩では東
CO2濃度が平衡になるまで(約6時間)、流路の一部
経160度のところに、リン酸塩では東経150度と東経
分で海水がシャワー状になるようにして循環させ
た 。循 環 を 停 止させ た 後 、1 晩 静 置させ た 後 、
500mlのガラス瓶に分取した。
同様の方法で3バッチの標準海水を作成した。そ
の長期安定性を見るために、現在保存実験を行っ
ている。
経常研究
「海洋における微量金属元素の挙動に関する研究」
本研究は、海水中の微量金属元素(特に溶存鉄)
の分析手法を確立し、北部北太平洋における微量
金属元素の挙動及びその生物地球化学的過程に
おける役割を明らかにすることを目的としている。
これまでに、海水試料への汚染を極力おさえるた
め、新型採水器の導入及び改良、試料前処理の改
良等を行ってきた。平成11年度は、
「みらい」による
北西部北太平洋観測航海(2航海)で、鉛直的に海
水試料を採取した。試料は現在も分析中であるが、
海水中の溶存鉄濃度は0.数 nM程度と非常に低濃
図23 赤道太平洋表層における水温、塩分、リン酸塩、
硝酸塩、トリコデスミウムの分布
度であり、試料採取から分析に至るまで試料が汚
染されることはなかった。
─ 55 ─
受託研究
域観測時に共同で観測を実施した。
「太平洋赤道域における一次生産及び関連諸量の
推定手法に関する研究」
共同研究
「海水化学成分の観測自動化に関する研究」
本研究では、人工衛星データから基礎生産を推
定する手法を開発し、赤道域における植物プランク
本研究は、生物・化学成分自動測定装置および試
トンによる炭素固定能力を調査している。図24は
料自動保存装置の開発を行い、各装置をマイティー
人工衛星による海の色や表面水温から基礎生産力
ホエールに搭載し、実海域試験を行うと同時に沿岸
を我々が開発した手法により堆定した結果
(赤い点)
域における観測を行うことを目的としている。本年度
をこれまでに提唱されているモデル(黄色い点)及
は、平成10年度に製作した化学成分自動測定装置
び観測値(青い点)
と比較したものである。これまで
ならびに試料自動保存装置をマイティーホエールに
提唱されていたモデル計算結果では東側の湧昇域
搭載し、自動観測を開始した。観測は平成12年度ま
で基礎生産が観測値より小さくでるのに対し、我々
で連続して行う予定である。
のモデル計算結果は観測と良く一致していることが
わかる。
共同研究
「大平洋赤道海域における地球温暖の原因物質と
共同研究
基礎生産力に関する基礎研究」
「赤道湧昇域における基礎生産力変動と環境因子の
観測研究」
昨年に引き続き、気象研究所において「みらい」
船上で使用する観測用標準ガスの検定をWMO
主に赤道湧昇域における基礎生産力の変動と
(World Meteorological Organization;世界気象機
光、栄養塩などの環境因子との相互作用の把握を
関)
ガスに基づき、実施した。航海(MR99-K02、
目的として、ダルハウジィ大学(カナダ)
と共同研究を
MR99-K04)
の前後で、観測用標準ガスの濃度差は、
行っている。平成11年11月から12月にかけての赤道
いづれの航海の場合も0.1ppmv以下であった。
図24
太平洋赤道域における基礎生産力の分布
青点は「みらい」による実測値、黄点は従来のモデル計算値、赤点は本研
究で開発したモデルによる計算値
─ 56 ─
共同研究
採取可能な深海底堆積物には、その際の環境変化
「海洋試料に含まれる長寿命放射性核種測定の
高感度・高精度化に関する研究」
の記録が詳細に刻まれており、以下の3つの項目に
ついて過去約15万年間(2回の急激な温暖化イベン
トを含む)の海洋環境の変化を詳細に把握し、温
本研究は、堆積物試料等にふくまれる微量有機
物を単離・精製し、個々の有機物の炭素14を加速
暖化とこれに伴う環境変化のプロセスを解明する
予定である。
器質量分析計で測定するための前処理技術の確立
1)表層水温および表層海流系の変化
を目的とする。平成11年度は前処理装置実機製作
2)海洋における生物地球化学的過程(主に炭素
のための試作機を製作し、MR00-K01航海におい
循環)
の変化
て採取した堆積物を用い予備実験を行い、良好な
3)海洋大循環の変化
結果を得ることができた
本年度は、過去の黒潮変動を復元するために黒
第6研究グループ
潮続流域において3本、地球温暖化の影響が顕著
に現れると予想される北極海において3本の計6本
(1)地球温暖化機構の解明に関する研究
の堆積物コアを採取した(表2)。これらのコアにつ
平成11年度より発足した本プロジェクト研究は、
いて微化石および化学組成分析が進行中である。
海底堆積物の解析に基づいて過去の気候変動およ
船上における予察的な結果では、北極海において
びそのプロセスを復元し、将来の地球温暖化予測
採取されたコアのうち2本は明瞭な明暗サイクルが
のための基礎データを取得することを目標としてい
確認されており、氷期−間氷期に相当すると推定さ
る。第四紀には、数万年から十万年スケールで地
れる。また、むつ事務所試料分析棟を拠点として本
球が温暖・寒冷化を繰り返して来たが、その原因
プロジェクトを推進するため、研究基盤の整備をお
の一つとして大気中の二酸化炭素濃度の変動が考
こなった。
えられている。
「みらい」搭載のピストンコアラーで
表2
コア番号
平成11年度に採取した試料一覧
緯度
経度
水深(m)
採取長(m)
40°33.3' N
40°05.0' N
37°30.0' N
142°55.0' E
149°51.0' E
152°00.0' E
1555
5608
5848
4.78
18.13
18.76
74°33.5' N
74°25.3' N
72°30.3' N
161°13.9' W
160°02.2' W
151°30.9' W
1727
530
3626
9.56
6.48
8.23
(黒潮続流域)
MR99-K04 PC1
MR99-K04 PC2
MR99-K04 PC3
(北極海)
MR99-K05 PC1
MR99-K05 PC2
MR99-K05 PC3
─ 57 ─
( a )石西礁湖でのフィールド研究
4.海洋生態・環境研究部
石西礁湖を対象にした海域調査は、平成11年4月
(1)
はじめに
以降6次にわたって行われた。
地球環境問題は、今日の人類が抱えるもっとも深
( i )石西礁湖の基本データセットに関する調査研究
刻な問題であり、かつ早急に対処されるべき課題
石西礁湖全域のサンゴ、プランクトンのバイオマ
である。地球環境問題の解決策を見いだすために
スと、それに関連する水質や流れ等の環境諸要因
は、環境変動による生物の多様性の変化が、地球
を調査した。サンゴについては、平成10年度に設
環境の将来にどのような影響を与えるかを評価す
定した調査定点・定線を再度調査し、分布状況、白
ることが重要である。同時に、生態系による物質循
化からの回復状況などについての経年変化データ
環を全球的に捉え環境変動メカニズムを明らかに
を取得した。プランクトンと水質に関しては、同じく
することも必要である。海洋は地球表面の7割を占
平成10年度に設定した定点・定線での季節変化デ
めており、海洋生態系の理解なくして地球規模の環
ータを取得した。
( ii )サンゴの初期生態の研究
境変動現象を明らかにすることはできない。そこで、
生物生産性が高く環境変動の影響を受けやすい沿
石西礁湖の環境条件の異なるパッチリーフでの
岸の浅海域と、中・深層域から深海底にいたる深
継続調査により、サンゴの白化、回復、産卵・幼生
海域を中心に、生物学、海洋物理学、海洋化学、海
の着床に至る過程の追跡と環境条件の関わりを検
洋工学など多方面から研究を推進する。
討した。世界規模で起きた1998年度の白化の影響
は、石西礁湖では軽微であり、1999年5月には回復
(2)
プロジェクト研究
した主要サンゴ類が産卵を行った。着床したサン
ゴ幼生の種類・量の追跡により、生残状況や生残
率向上策の検討を行った。
1)
「海洋の生態系変動機構の解明研究」
( iii)サンゴの活性度履歴に関する研究(写真1)
期間:平成10∼12年度
小型の塊状サンゴから、サンゴを殺さずに、直径
サンゴは熱帯から亜熱帯の海域に広く分布し、
地球温暖化やオゾン層破壊の影響を受けて敏感に
2cm、長さ20cmのコアを取得するマイクロボーリング
消長する生物指標である。サンゴによって営まれる
マシンを開発し、試験的にコア採取を行った。得ら
サンゴ礁生態系は、海洋の基礎生産のうえで重要
れたコアで試験的に年輪解析・元素分析を行い、
であり、また多くの海洋生物の幼稚仔の保育場とな
過去のサンゴの活性度履歴が得られる見通しを得
っている。
た。今後は石西礁湖と世界の各地でサンプルを取
本研究では、わが国最大のサンゴ礁海域である
「石西礁湖」
(25×25 km)
を対象とし、平成10、11年
得・解析する計画である。また、より長い50 cmのコ
アを取得する装置の開発も進める。
( b)
フロリダでのフィールド研究(写真2)
度の2年間で、この海域全体のサンゴ礁生態系につ
いて、生きたサンゴ、動植物プランクトン等のバイ
世界で唯一の海中研究室アクエリアスが米国
オマスを求める手法、またその消長に関与する物
NOAAによってフロリダのキーラルゴ沖で運用され
理・化学的諸要因の計測技術の開発を目的として
ている。これは空気での15m深度の飽和潜水施設
いる。この他、米国NOAAの海中研究室を利用し
であり、水深18mのサンゴ礁海域での種々の研究に
たフィールド研究、海中研究の安全性に関する研究
利用されている。水深12∼24mの水深範囲では1日
を行った。併せて、国内外の研究者との研究交流
に9時間程度の海中活動が可能である。海洋科学
を多数行い、世界のサンゴ礁研究そして安全な海
技術センターとニューイングランド水族館の研究者
中研究技術の現状と今後の展望について活発な討
が4名でチームを組み、ここに8日間滞在し、石西礁
論を行った。
湖では行うことのできないサンゴの海中実験を中心
─ 58 ─
に調査を行った。
研究室内のドライ空間に陸上で用いている各種
計測装置を配置し、センサーや計測部をケーブル
経由で海中に展開した。実験はアクリル製のドーム
を有したサンゴ呼吸計による昼夜連続計測を主体
とし、周辺のサンゴの種類や被覆度計測、光合成
活性計測、コア取得など様々な課題について集中
的に行った。
( c )海中研究支援技術の開発
サンゴ礁生態系研究に不可欠な研究者のダイビ
ングに関し、その安全性向上のためのソフト・ハー
ドの研究、また長期の研究活動を可能にする潜水
技術研究等を目的としている。今年度は窒素酸素
飽和潜水に関する医学生理学的研究として、潜水
シミュレータを用いて飽和潜水減圧表、短時間潜水
減圧表の開発評価を行った。
(d)研究交流
写真2
研究推進にあたっては、国内外の研究者との交
海中研究室アクエリアス
(後方)
を用いたサンゴ
呼吸量の昼夜計測
流・協力を積極的に行っている。海中研究ワークシ
ョップ(日・仏・米・豪。石垣島。1999年12月)、国際
サンゴ礁シンポジウム
(日・仏・米・豪・イスラエル・
2)
「深海生態系に関する研究」
タイ。東京。2000年2月)、 UJNRダイビングパネル
期間:平成11年度∼
海洋生態系には、光合成生態系のほかに熱水噴
(天然資源に関する日米会議。東京。1999年12月)
を主催し、世界の最先端の研究開発の現状と今後
出・冷水湧出といった地球内部の変動現象によって
の動向を明確にするとともに、研究成果の普及を行
成り立つ化学合成生態系がある。とりわけ大規模
っている。
なのが深海域にある熱水噴出孔生物群集や冷水湧
出帯生物群集である。これらは、深海底から噴出
する物質を間接・直接的に取り込んで莫大な生物
量を維持しており、噴出物質の循環に大きく関与し
ていると思われる。本研究では、深海調査システム
を活用したフィールド調査および様々な陸上での室
内実験を通して、主に熱水噴出域、冷水湧出域に
生息する深海生物の構造(種構成、分布など)
と機
能(生理、生態、生物間相互作用)
を明らかにする
ことを目的とする。
平成11年度は、日本周辺からマヌス海盆といった
西太平洋の化学合成生物群集を対象に調査を実施
写真1 マイクロボーリングマシンで採取したサンゴのコア
した。日本海溝では、水深7,434メートル、世界最深
の化学合成生物群集を形成するナラクハナシガイの
分布や共生細菌の系統的位置を明らかにし、その
─ 59 ─
「大村湾の貧酸素水塊発生抑制技術の研究開発
3)
共生関係の一端を明らかにした
(写真3)
。南西諸島
(長崎)
海域伊平屋海嶺や伊豆・小笠原諸島海域明神海丘
では、熱水噴出孔生物群集の種構成やマッピング、
期間:平成9-11年度
生息環境との関係、
シンカイヒバリガイ類の成長速度、
本地域共同研究は、長崎県大村湾における貧酸
大型甲殻類の個体群構造と繁殖に関する知見を得
素水塊の発生メカニズムを解明するとともに、その
た。マヌス海盆では、熱水噴出孔と化学合成生物群
発生を抑制する流動攪拌技術を研究開発し、大村
集の分布様式、生物の種構成に関する情報を蓄積
湾浄化戦略構築の基礎とすることを目的として長崎
し、熱水性巻貝類の成長速度に関するデータの取得
県と共同で行われた。平成9、10年度に海域特性
や大型甲殻類の飼育実験を試みた。陸上での室内
の基礎調査、流動攪拌システムの研究開発などを
実験では、熱水噴出域に生息するユノハナガニの飼
終了し、平成11年度には実海域におけるシステムの
育実験を行い、脱皮様式の一端を明らかにした。
性能評価試験を行った。実験に使用したシステム
を写真4、5に、実験結果の抜粋を図1に示す。
実験結果から、通常は盛夏に厚く層を成す海底
の貧酸素水塊が、当該システムの運用により抑制さ
れ、深刻な状況の回避に有効であることが示唆さ
れた。2mg/L以下の溶存酸素濃度は海洋生物が殆
ど棲息できない条件であることを併せて考えると、
海底面の直近を避ければ生物の棲息可能範囲が
大きく広がったと言える。
しかしながら、装置が発生する流動は強風等によ
る自然の流動に比べると非常に小さいため、今回の
結果を全て装置の効果と断定するには至らなかった。
従って、本装置が貧酸素の程度を希釈する効果
を有することは窺われるものの、その規模は小さく、
実用に供するには対象海域の大きさや流動特性を
予め把握しておく必要があると考えられた。
写真4
写真3 日本海溝水深7,434メートルに生息するナラクハ
ナシガイと鰓上皮細胞内で確認された共生細菌
─ 60 ─
制御浮体
写真5
図1
海底設置用流動攪拌装置
システム設置地点(St.S;上段)
と参照点(St.C;下段)
における溶存酸素濃度分布の時系列変化(1999年7月3日∼
9月26日)
図中赤色部分は貝類の生存が危険となる範囲(DO<2mg/L)
を示す。
4)
「サツマハオリムシの簡易採集システム及び飼育
給できるよう小型船舶でも搭載可能でハンドリング
手法の開発」
のよい簡易採集システム
(カメラ付グラバシステム)
期間:平成9∼11年度
の開発を行う。また、サツマハオリムシを良好な状
サツマハオリムシは、消化管を持たず体内に共
態で飼育するための技術を開発し、海洋科学技術
生している化学合成細菌が作り出すエネルギーを
の普及・啓発を行うことを目的とする。
利用する特異な生物で、鹿児島湾奥水深82∼110
平成11年度には、簡易採集システムのうち、グラ
メートルに生息している。現状では、サツマハオリ
バ本体、ケーブルウィンチ、グラバ投入器の製作を
ムシを採集するためには、当センターの潜水調査船
行った(写真6)。システム完成後、実海域で作動試
や無人探査機など大がかりなシステムを必要とする
験を行い、ビデオにより海底の詳細な状況を観察し
ため、研究に用いる試料は限られている。本研究
つつ、サツマハオリムシを採集することに成功した。
は、鹿児島市水族館と共同で、常に研究試料を供
従来から行ってきたサツマハオリムシの飼育により、最
─ 61 ─
5)
「駿河湾における海洋深層水の科学的特性と
適硫化水素濃度に関するデータを蓄積するととも
多段利用システムに関する研究」
に、新たに飼育海水に二酸化炭素を添加し、pH等
水質の調整を試みた。また、サツマハオリムシを透
期間:平成10∼12年度
明なチューブに移動させ、棲管内行動に関するデー
静岡県では駿河湾深層水(焼津沖)の有効利用
タも取得した。前年度から引き続き、鹿児島水族館
事業計画を策定している。
においてサツマハオリムシの生体展示や深海化学合
本研究は、当事業計画の効果的な推進に資する
成生物のビデオ放映を行った。平成11年度には、さ
こと、また実用的な深層水利用技術の確立に資す
らにサツマハオリムシを含む深海化学合成生物に関
ることを目的し、
(a)基礎的・先進的な分析・観測機
する一般向けCD-ROM「深海生物の世界」を展示、
器等の整備と、
(b)駿河湾の取水立地海域やその周
パソコンによる体験学習を行った。これらの展示、
辺海域の深層水の科学的解明、並びにその有効利
公開を通じ、深海化学合成生物に関する研究活動
用法に関する研究開発を静岡県と共同で行うもの
を分かり易く公表し、その科学的意義や重要性につ
である。
平成11年度の実施内容および主な成果は、以下
いて一般の理解、関心を深めることに努めた。
のとおりである。
制御水中部
ライト
( a )分析・観測機器等の整備
昨年度に引き続き、深層水分析システムとして、多
量成分分析装置、微量成分分析装置、および生物
検定・分析装置を整備した。また、立地環境計測シ
ステムとして、船上型計測装置、係留型深層水環境
計測装置、および短期係留型生物環境測定装置を
整備した。これらは、深層水取水地点である焼津市
カメラ
に建設した深層水分析研究棟(鉄筋コンクリート2階
建て、延べ床面積232平方メートル)
に収納した。
(b-1)深層水特性の科学的解明
駿河湾深層水の理化学的特性、生成・変動特性、
グラバ
および循環特性を解明するために、平成11年9月か
グラバ水中部
ライト点灯スイッチ
ら平成12年2月にかけて、採水調査、係留系調査、
およびドルフィン3Kを用いた海底境界層調査を行
グラバ開閉スイッチ
深度計
った。採水調査では、駿河湾における沿岸水、黒潮
系水、親潮系水等の水塊構造が認められたとともに、
取水口設置予定地点近くの取水予定深度(350mお
モニタ
よび700m)
の水質について深層水の特性である低
水温・富栄養・清浄特性などが確認された。係留系
ビデオデッキ
調査では、取水口設置予定地点において取得した
流速および水温等の時系列データに、1日および半日
の潮汐周期変動の他にもっと長周期の変動も見ら
れ、これらの変動が数百mの深度にまで及ぶことが
制御船上部
写真6
サツマハオリムシ簡易採集システム
(グラバ水中部と制御船上部)
観測された。ドルフィン3Kによる調査では、取水口
設置予定地点の海底には人為的な廃棄物は見られ
なかったものの、海底境界層の濁り等について今後
─ 62 ─
もっと詳しく調べる必要があると思われる。
て生物行動モデル
(プランクトンの鉛直移動行動)
を
(b-2)深層水多段利用システムの検討
検討対象とする。生物行動モデルについては、生態
静岡県を対象にして、地域特性を生かしかつ実
系モデルの中でプランクトンの鉛直移動を的確に表
現性の見込みが高い深層水多段利用システムにつ
現できるプランクトン行動モデルを新たに開発する。
いて検討した。水産、農業、冷熱利用、海水淡水化
平成11年度は、プランクトンの行動モデルに関す
等について深層水利用に対する地域のニーズを調
る文献調査結果を基にラグランジュ的手法を用い
べるとともに、これらを効果的に組み合わせて深層
たプランクトン行動モデルを開発した。さらに、この
水を有効に活用する多段利用手法について技術的
モデルを生態系モデルに複合化するためのデータ
可能性を検討した。
フィードバック機構について検討を行い、個々の粒
子の鉛直分布を濃度に換算し生態系モデルとの情
報をやり取りできるようにした。
今後は、
プランクトン行動モデルの感度解析を行い、
単独モデルとしての性能を評価するとともに、モデル
検証のための現場データを取得する予定である。
2)
「サンゴ近傍における海水運動の評価手法に
関する研究」
期間:平成10∼12年度
(a)サンゴ近傍における海水運動の評価の意義
と目的
地形的に複雑なサンゴ近傍における海水の運動
は、サンゴやプランクトンあるいはそこに生息する海
洋生物にとって重要な環境要因の一つである。ま
た、そこでの海水運動の評価手法について検討す
ることは、サンゴ礁生態系変動を解明していく上で
重要なテーマの1つである。
図2 駿河湾焼津沖のB測線における各測点のT-Sダイア
グラム
(平成11年11月)
通常、流動環境の把握には、電磁流速計等を用
いた係留系観測が行われるが、パッチリーフのよう
に小規模で複雑な流れを呈する海域では、計測器
そのもの大きさや、多点に測器を展開するコストな
(3)経常研究
どから考えて使用が難しい。また、サンゴのように
固着して生活する生物にとっては、瞬時の流れより
1)
「海洋生態系の複合モデル化に関する研究」
もある期間どの程度の流れがあったかを知ること
期間:平成10年∼12年
が重要であると考えられる。ゆえに、このような場
本研究は、海洋生態系の一つ一つの現象をでき
所では、時間平均流の強さを計測する石膏球の技
るだけ単純にモデル化し、より精度の高い海洋生態
術が有効である。しかし、この手法は、2∼3日程度
系モデルを構築するために、それらのモデルを複合
の評価しか行えないという欠点がある。
化する方法についての研究開発である。複合化す
そこで、本研究では、昨年(平成10年度)から継
るモデルについては、従来の流動拡散モデル
(物理
続して、石膏球の技術を基礎とし、1週間から10日
モデル)
、物質循環モデル
(生物化学モデル)
に加え
前後、1ヶ月程度の時間平均流の強さが評価できる
─ 63 ─
流速センサー
(長期設置可能)の開発を試み、実海
験では不足している流速センサーの湿重量の変化
域実験を通してその有効性について調べた。
と水温・塩分、流速の関係を検討する補足実験を
行う。これらにより、より正確なパッチリーフ近傍の
(b)成果と今後の課題
石膏球は、美術用石膏の球(直径約5cm)
に、鉄
微細流動構造の把握が期待される。
製のネジ棒を取り付けたもので、その球の湿重量
3)
「科学潜水ダイバーの潜水後高所移動に関する
の変化から平均流の強さに換算できる。また、その
研究」
時の球の変形状態から流向を推測できる。この石
膏球の母体となっている石膏を、歯科用硬石膏、歯
期間:平成10-12年度
科用超硬石膏に改良した流速センサー、石膏に水
潜水後の高所移動による減圧症の原因において
性ペンキ、生分解性ポリマー、セメントなどを混合
は、高所(低圧環境曝露:高地への移動や航空機
した流速センサーをそれぞれ試作した。そして、そ
移動)への移行速度と低圧度が重要である。昨年
れらを用いて実海域実験(石垣島石西礁湖内の定
実施した国内線の航空機客室内圧測定に基づき、
点における50時間の溶解率計測実験:写真7を行
潜水後の高所移動による減圧症害の動物モデル作
い、長期的に計測が可能な流速センサーの評価を
成をラットを用いて行った。小型動物の減圧モデル
行った。同時に、電磁流速計を用いた計測を行い、
作成における最大の問題は、減圧耐性や生体代謝
流速センサーと実測値との比較検討を行った。
量に関連し、ヒトにおいては比較的簡単な定義で
その結果、歯科用石膏を用いた流速センサーは、
ある、短時間と長時間潜水の規定である。そのた
粒子密度が高いため通常の石膏球より2日から3日
めラットにおける飽和潜水からの減圧と、その後の
程度長く流れの計測が可能であることが分かった。
高度3,000mへの移動を設定条件として、小型動物
また、石膏にセメントを配合した流速センサーは、
モデルの作成方法がほぼ確立できた。図3に示した
約1週間から10日前後の時間平均流の計測が可能
環境圧変化のパターン
(空気潜水深度:30mと減圧
であることが推測され、長期的な時間平均流の強
後の高度 3,000m)
により、成ラット:450-550gにおけ
さを計測するのに有効であると考えられた。
る約20%の死亡率と、軽度の減圧症である呼吸異
今後の課題として、試作流速センサーの定量評
常の発現率を5∼10%で再現できるようになった。
価を行うため、電磁流速計を併用した実海域実験
をさらに行う。また、室内実験を通して、実海域実
環境圧(MPa)
0.5
試作石膏球
深度30m
0.4
0.3
電磁流速計
0.2
0.1
高度3,000m
0.0
0.0
水深12m
写真7
石西礁湖(沖縄県石垣島)
における、長期設置型
流速センサーの実海域実験。設置・回収はダイ
バーによって行われる。
1.0
2.0
3.0
4.0
時間
(h)
(ラット)
図3 潜水後の高所移動に伴う減圧症の動物モデル
用加減圧概要
空気による深度30m飽和潜水後の高度3,000での
高所移動
死亡率:20%、軽度の減圧症(呼吸異常)発現率:5∼10%
─ 64 ─
4)
「サンゴ礁魚類のバイオマス計測法の研究」
(f )バイオマス計算
期間:平成10-12年
30分間の魚種別個体数リストと尾叉長・体重曲線
サンゴ礁生態系の中で、魚類は高次の捕食者と
とを総計して総魚体重を求め、サンプリング回数
して位置づけられる。従ってその生物量の把握は
(360)
と対象空間で割り、1立方メートルあたりの魚
重要であるが、サンゴ礁海域には多くの魚類が分
の重量を求める。
布し、しかも海底地形が複雑なため、量的把握が
困難である。このためサンゴ礁での魚類計測は、目
視観察 、魚群探知機、試験操業などを組み合わせ
て行う必要がある。本研究では、従来の計測手法
に、魚群量の定量化法を追加することを目的とし、
三次元テレビカメラの開発と利用を進めている。本
年度はパッチリーフ近傍の魚群量の集計方法を中
心に検討し、以下の調査・解析手順を得た。ちな
みに、同一リーフの水深と場所の異なる12カ所の
データ解析により、魚体重量に 2.5~212.4 g/m3 の数
値が得られた。
( a )計測
図4
計測場所に水中テレビカメラを三脚等で保持し45
分間単位で映像を録画する。この時、カメラの視野の
三次元画像の解析方法
0. 01秒単位で同期させた左右画像から
三次元測量の原理で寸法を計測する
一部にサンゴや岩などが写し込まれるよう調整する。
(b)対象空間の設定と計測
5)
「駿河湾海域の深層水変動特性に及ぼす黒潮
三次元ビデオで得た左右の映像の重なり合う空
等の影響に関する研究」
間から、サンゴなどの目標物の手前、種類識別が可
能な距離範囲の選定を行い、魚類を計数する空間
期間:平成11∼13年度
を選択し、その容積を求める。
本研究は、駿河湾海域を研究対象フィールドとし、
( c )魚種別個体数計測
湾内の中・深層における海況変動の特性を把握す
ダイバーによる魚類行動への影響を除くなどの目
るとともに、その変動因子を解明することを目的とす
的で、45分の映像から30分間を選定し、5秒間隔で
る。駿河湾のように開放性が高く急峻な海底地形
魚種別個体数リストを作成する。
を持つ湾の場合、湾外の黒潮等の変動が湾内奥部
(d)魚種ごと尾叉長計測
に侵入して海中深くまで伝播し、中・深層でも流れ
同一魚種の体長は概ね同一と過程し、ビデオ映
や濁り等が強くて大きな海況変動が見られることが
像全体の中から、魚種ごとに寸法計測を行う個体
指摘されている。駿河湾の深層水を有効に利用研
を数尾ずつ選定し、尾叉長を計測し、平均値を求
究するためには、湾内の中・深層における海況変動
める。
の特性を把握するとともに、湾外の黒潮等との関連
( e )尾叉長・体重曲線作成
性も調べて変動因子を明確にしておく必要がある。
魚種別に尾叉長から体重を求めるには全魚類の
駿河湾深層水施設の取水立地予定海域である焼
尾叉長・体重曲線が必要であるが、それを簡略化
津市沖の石花海海盆に、超音波多層流速計
(ADCP)
するため、魚種を代表的な6体型に概略分類して解
等を取り付けた係留系を設置し、平成11年11月か
析する方針とした。このため、6体型を代表する魚
ら約3カ月間にわたって係留観測を実施した。表層
種を選定し、その尾叉長・体重曲線を得た。
から深層にわたる多層深度で得られた流向・流速
─ 65 ─
図5
超音波多層流速計による流動ベクトルのスティックダイアグラム
(平成11年11月∼平成12年2月)
および水温・塩分の時系列データ解析から、1日お
次年度はQPSとその他の方法を用いて、個体数
よび半日周期の潮汐変動の他にも長周期のかなり
および個体の体積について比較を行う。また、定量
強い変動が存在し、数百メートル程度の深層まで変
性の検討に基づいて得られた最適な手法を用い
動が及ぶことが明らかになった(図5参照)。また、
て、サンゴ礁海域など再生生産が大きな割合を担
駿河湾内および湾外の黒潮流域まで含む広域海況
っている海域において現存量の把握を行う。
モデルの概念設計を行い、次年度における数値モ
デル試作のための準備を行った。
7)
「適応,再適応に及ぼす自律神経系の関与に
関する研究」
6)
「再生生産に関わるプランクトンの定量把握に
期間:平成11∼13年
関する研究」
ヒトは潜水すると徐脈となり、浮上すると頻脈とな
期間:平成11∼13年度
る。この現象には自律神経系が多大に関与してい
海洋表層だけで行われている物質の循環(再生
る。しかも、動物による深海潜水実験では、この減
生産)の重要性は1980年以降明らかにされつつあ
圧時の頻脈が生じない場合、大気圧へ再適応でき
る。これと古典的な食物連鎖との関連は海洋の生
ずに死に至ることも観察されている。本研究は、主
態系構造を解明する上で不可欠である。一方、再
に高圧環境から大気圧へと戻る際、すなわち再適
生生産に関与する微小動物プランクトンは非常に壊
応時の自律神経活動、とくに循環動態を把握して、
れやすく、その現存量を把握するためには、高度な
再適応機序の解明を目的とする。さらに高圧環境下
技術を要する。本年度は定量把握に最も適してい
の生体より、高精度の自律神経機能の計測技術の
るとされるQuantitative protargol stain method(QPS)
開発を目指す。本年は動物実験より、高圧下の生体
を修得した。
からかなり高精度の心拍出量および臓器血流量等
─ 66 ─
写真8
高圧環境から大気圧への再適応研究用の
動物実験装置
中型動物用チェンバー
(ラットによる実験)
の測定ができた。その結果、高圧環境下の徐脈時
に心拍出量の持続的低下と抹消血管抵抗の増加が
認められた。
写真9 「ドルフィン-3K」スラープガン用多連式キャニスタ
8)
「中・深層生物の採集・飼育装置の開発」
期間:平成10∼11年度
海洋生態系を理解する上で、最も欠如している
情報は、海洋の9割以上を占める中・深層に生息す
(4)共同研究
る生物とそれを取り巻く環境に関するものである。
1)
「日本海固有水の性状及び分布・変動特性に
近年、潜水調査船や無人探査機の調査により、中・
関する研究」
深層には多様な生物が存在していることが知られ
期間:平成9∼11年度
るようになった。しかし、中・深層生物の殆どはゼ
ラチン質であるため非常に壊れ易く、船上から吊り
本研究は日本海固有水の効率的な利用、並びに
降ろすプランクトンネットなどで完全な試料を採集す
事業的な利用展開に資するため、その性状や分
ることや、採集した試料を陸上で飼育することは極
布・変動特性の解明を目的としている。平成11年度
めて困難である。そのため、中・深層生物の分類
は7月に海洋調査を実施し、富山湾の滑川市沖合に
学的、生理・生態学的情報は殆ど得られていない。
おいて、水温、塩分、無機栄養塩類の分布を調べ
そこで、中・深層生物専用の採集噐及び飼育装置
た。無機栄養塩類のうち硝酸塩、燐酸塩および珪
の開発を行い、中・深層生物の生物学的特性の解
酸塩の濃度は表層で低く深度が増すに従って高く
明に資することを目的として、平成10年度より3年計
なるが、深度約250m以深では高い値で安定した。
画で本研究を開始した。平成11年度には、1ダイブ
さらに富山湾入善町沖合と北海道熊石町沖合の海
で可能な限り多くの生物試料を得ることを目的とした
域を調査し、比較した結果、これらの3海域におい
「ドルフィン-3K」スラープガン用多連式キャニスタ及
て250∼300m以深に日本海固有水が分布し、水温、
び電動式モータを製作した
(写真9)
。また、中・深層
塩分および栄養塩濃度は概ね一致した。
富山湾内の広範囲にわたる水温、塩分の季節変
生物を良好な状態で採集し、そのまま船上で観察・
撮影が可能なアクリル製捕獲器を製作した。
化から、富山湾の表層付近は河川水や対馬暖流系
─ 67 ─
図6
富山県(滑川)
および北海道(熊石)
における栄養塩類の鉛直分布(平成11年7月)
水などの影響により季節的に変動するが、深度250m
用いて実験を行った結果、センサーを通過するプラ
以深では、水温1.5℃以下、塩分34.1psu前後の日本
ンクトン個体数が10個体/L以下であれば、得られ
海固有水が周年に渡って、安定して分布することが
た計測データは顕微鏡による観察結果とほぼ同じ
明らかとなった。
であり、データの信頼性が高いという結果が得られ
た。また、プランクトン組成によっても計測結果に影
2)
「動物プランクトン自動計測器を利用した海洋
生態系研究のための基盤技術に関する研究」
響を及ぼすと考えられることから、組成が異なるサ
ンプルを用いて実験を行った。海洋中に優占する
期間:平成9∼11年度
動物プランクトンであるコペポーダを用いて計測を
動物プランクトンに関して、新たな測器の特性を
行った場合、計測結果と顕微鏡観察結果とは良い
把握し、その利用を促進することを目的として、中央
相関が得られた。
水産研究所との共同研究を行った。今年度の研究
一方、透明なプランクトンの割合が多いサンプル
において、過去に採集された膨大な量の動物プラ
の場合、顕微鏡観察結果との相関は低くなった。こ
ンクトン固定サンプルを簡便かつ迅速に計測できる
れらのことから、サンプル中に透明なプランクトンが
システムの構築を行った。このシステムによりこれま
多い場合は染色などの方法を用いることが必要で
で困難だった動物プランクトンの長期変動解析など
あることが示された。
が可能となる。動物プランクトン計測センサーには
これらの結果から、常に適切な状況下で固定サ
光 学 式 動 物 プランクトンカウンター( OPC, Focal
ンプル中のプランクトンの個体数および体積を計測
Technologies Inc.)
を用いた。
できるシステムを構築した
(写真10)
。このシステムは
システムを構築するにあたり、まず、データの信頼
センサーを通過するプランクトン密度および流速など
性に影響を及ぼすとされるセンサー通過時のプラ
をリアルタイムでモニターできる。なお、システムの構
ンクトン個体数について実験を行った。センサーを
築にあたってScripps Institution of Oceanographyの
通過する際、プランクトン個体数が過密であると、各
システムを参考にし、Dr. M. M. Mullinの助言を受け
個体が重なってしまい、その結果、個体数、体積と
て、改良を加えた。
もに過小評価となる。個体数を変えたサンプルを
─ 68 ─
サンプル投入チャンバー
上部循環水貯蔵タンク
サンプル希釈チューブ
OPC-1L
下部循環水貯蔵タンク
写真10 光学式プランクトンカウンター
(OPC)
を用いた固定サンプル循環計測システム
3)
「高分圧酸素の効用に関する基礎研究」
7日間に曝露しその生存期間を比較した。大気圧環
期間:平成9-11年
境下では、DNR2mg/kg投与群が、高分圧環境曝露
高圧生理学、潜水医学の研究では、酸素の効用
群ではDNR1mg/kg が最長の延命効果を認めた。
とその毒性が問題になっている。酸素の効用につ
また、骨髄・血液を摘出、抽出し、骨髄細胞を抽出
いては、この高分圧酸素または高分圧酸素と抗癌剤
して、抗癌剤DNRの濃度を測定し、高圧曝露群の
との併用によって腫瘍細胞に働いて腫瘍に対する抑
方が、DNR 濃度の高かった結果より上記延命結果
制効果を示し、また酸素の毒性については肺機能
は抗癌剤の骨髄での代謝が抑制され残存していた
への影響が継続することが知られている。本研究で
ことによることを示唆された。
は高分圧酸素による長期曝露による赤血球産性能
の変化をとらえ、白血病などの血液疾患への応用の
4)
「ROVを用いた中・深層生物の研究」
可否を検討する基礎資料とするとともに、酸素の毒
期間:平成9∼11年度
性について肺の形態学的変化と肺機能の面より追
現在の海洋環境研究において、物質輸送や海洋
究し、潜水者の安全の確保と健康管理の面で利用
生態系を理解する上で、最も情報が欠けているの
していくことを目的とする。
は、中・深層生物とそれをとりまく環境である。そし
平成12年度は、雄Bal b/c マウスにL1210マウス白
て、それらの研究には操作性の高い無人探査機
血病細胞を2×106腹腔内に投与し、白血病マウスを
(ROV)が有効であることは、米国のモンテレー湾水
作成した。白血病発症マウス群と白血病発症マウ
族館研究所(MBARI)
などが実証しつつある。
スに抗癌剤 Dounomaycin( DNR)投与群を大気圧
MBARIは、ROVを用いた研究では世界をリード
環境下と高分圧環境下2ATA、PO 2 1.6ATA.1hr/
した研究機関で、海洋科学技術センターとは、研究
─ 69 ─
協力協定(MOU)の基に平成6年度から、モンテレ
ー湾と相模湾にあるプレート衝突域を対象とした生
物学・地球科学の比較研究を行ってきた。そうした
なか、上記のように中・深層研究の重要性が強く認
識されるようになり、かつ、予備的調査により相模湾
とモンテレー湾に生息する中・深層生物の類似性も
指摘されるようになった。従って、両湾の中・深層
生物群集を比較し、その特徴を明らかにすることを
目的として、平成9年度より3年計画で両機関のROV
を有効に活用した中・深層生物研究を開始した。
平成11年度は、両機関で効率的に中・深層生物
データベースを作成するための基盤技術となる簡易
型画像解析用コンピュータを整備した。また、モン
テレー湾における潜航調査を共同で実施した。こ
れらの調査により観察・採集した中・深層生物のデ
ータベースを構築し、それらの分布深度、分布海域、
栄養生態、生活史などを一部解明した
(写真11)。
写真11 ムラサキカムリクラゲ。機能の不明であった非
常に細長く伸びる1本の触手を用いて餌を捕獲
する様子を初めて観察した。
─ 70 ─
5.情報管理室
り、これに関する情報収集を行った。
具体的なネットワークにおいては、平成10年度に
(1)研究開発の方針
トラフィックの多い建屋に関して100Mbpsのスイッチ
を導入することにより、構内ネットワークの再構築を
情報管理室では、海洋の計算科学技術のより一
行った。また、NetViewソフトウエアを導入すること
層の推進を目ざし、各種観測データのデータベース
により、ネットワークの管理を行うことが可能となっ
化、スーパーコンピュータを用いた数値モデル研究
た。図1にネットワーク管理画面例を示す。また、平
などに関する研究支援、数値シミュレーション結果の
成11年度においては一部建屋をモデルケースとし、
可視化技術及び先端的計算手法やコンピュータ利
GigabitEthernetの接続テストをおこない今後のネット
用環境の調査などの面で研究開発を進めている。
ワーク移行についての調査を行った。図2にネット
平成11年度には、先端技術を用いたネットワーク
ワークトラフィックの監視画面例を示す。これら成果
環境の調査、研究を目的とした「次世代ネットワーク
の一部は、Ocean observation data exchange at JAM-
の設計と管理手法の研究(経常研究)」、海底地形
STECと題してIWS2000(Internet Workshop 2000)
データの処理、可視化手法の研究として「シービーム
APAN Earth Monitoring and Disaster Warning WG
の海底下探査ソーナーの表示機能改善に関する研
で発表した。
究(共同研究)
」を行った。さらに新規課題として、効
率的な並列計算手法の研究を目指して「海洋計算に
おける並列化手法の研究(経常研究)
」
を開始した。
(2)研究開発の概要
1)次世代ネットワークの設計と管理手法の研究
(経常研究)
現在インターネットを含めたネットワークは、研究
活動のインフラ的意味合いが強くなり、データ転送
ばかりではなく様々なコミュニケーションの手段とし
て利用されているため、より高速で信頼性の高いネ
図1 ネットワーク管理画面例
ットワークが期待されている。当センターにおいて
は平成5年度にFDDIを基幹とする構内ネットワーク
が整備され、各建屋内では10base-Tのイーサネット
が運用されていたが、接続ホスト数及びネットワー
クトラフィックの急激な増加により、一部でトラフィッ
クの遅延が生じつつあった。
本研究は、構内ネットワークのトラフィック傾向を
測定し、より効率的な高速の研究用ネットワークを
提案、またその管理手法について研究をおこなうも
のである。また、インターネットにおいてはその急速
な普及によりIPアドレスの枯渇が問題になっており
IPng(IPv6)への移行が予定されている。センターと
してもこれに対応する必要がでてくる可能性があ
─ 71 ─
図2 トラフィック監視画面例
2)海洋計算における並列化手法の研究
本研究では様々な海洋モデルに関するソフトウェ
(経常研究)
アに適した並列化手法を調査し、ソースプログラム
近年のコンピュータ技術の発展に伴い、計算科
を改良することで計算効率を向上させる手法を検
学による数値解析が各研究分野での第三のアプロ
討する。また、そのソフトウェアの使用に最適なハ
ーチとして技術的に確立してきた。当センターでも
ードウェアを検討することを目的とする。
スーパーコンピュータ、並列計算機、共用演算サー
平成11年度には、並列計算を行うために世界的
バが導入されており、様々な研究分野で海洋科学
に用いられている通信ライブラリMPIを用いて、当
の解明や技術の開発の一端を担っている。しかし
センターに導入されている大型コンピュータでの並
ながら、こうした研究開発のためのソフトウェアが
列化による効率向上の比較(ベンチマークテスト)
を
これら高性能な大型コンピュータのパフォーマンス
行った。また、最適なハードウェアの選定の対象と
を十分に生かして使用されていないのが現状であ
して4ノード型のPCクラスタ型並列計算機(1ノード
る。今後、海洋の研究分野においても計算科学に
CPU700MHz メモリ256MB)
を製作した。
よるアプローチが増えることは確実であり、スーパ
ーコンピュータや並列計算機などの高速計算が可
3)
シービームの海底下探査ソーナーの表示機能
能なハードウェアだけでなく、ソフトウェアの面か
改善に関する研究(共同研究)
らも時間的な効率化やコンピュータ資源の有効利
本研究は「みらい」
「かいれい」に搭載されている
用への対策が不可欠である。その対応の一つとし
シービーム社のマルチナロービーム音響測深機
てソースプログラムの並列化によるチューニングの
(MNBES)SeaBEAM2112.004で得られるデータの
問題がある。
表示に関するものである
(平成11年度には「よこす
図1 海底地形図出力例(「かいれい」による)
─ 72 ─
か」及び「かいよう」にもSeaBEAMが装備された)。
底地形図を示す。また、SBPにおいてはアルゴリ
このMNBESには海底下の地層情報を取得するた
ズムの一部を改善するとともに表示方法に関し
めにサブボトムプロファイラ
(SBP)
が装置されており、
ても検討を加えている。図2に鹿島沖の「かいれ
測深データと同時取得することにより海底に関する
い」によるSBP観測例を示す。SSSに関しては、
多くの新しい知見が得られることが期待されてい
同じく「かいれい」で取得された北海道釧路沖
る。さらに、サイドスキャンソーナー
(SSS)
イメージも
の出力例を図3に示す。
同時に取得できるため、このデータとの関連におい
ても表示方法を検討する必要がある。そこで本研
究では、シービーム社の海底地形表示ソフトウエア
SeaViewを使って実海域で取得されるデータを基
に、MNBES、SBP及びSSSの画像を最適に表示す
るための方法を確立することを目的としている。
本研究においては「みらい」「かいれい」で実
海域のデータを取得するとともに、これを一元
的に管理・保管する方向での検討を行った。図1
に「かいれい」で取得されたマリアナ海溝の海
図2 SBP出力例(「かいれい」による)
図3 SSS出力例(「かいれい」による)
─ 73 ─
6.深海環境フロンティア
定する最後のステップが非常に難しく、ゲノムの特性
に応じたストラテジーが必要となる。
(1)研究開発の方針
そこで、平成11年度は、B. halodurans ゲノムの配列
決定の完成へ向けてのストラテジーの開発を、実験
深海を構成する生物学的・物理学的・化学的諸
的手法によるコンティグの整列化、コンピュータ処理に
要素の動態とそれらの相互関係を明らかにするとと
よるコンティグの整列化に分けて行った。結果的に、
もに、深海環境と他の海洋環境との境界における諸
実験的手法をサポートするための情報処理、コンピュ
現象の動態を解明することにより、深海環境のみな
ータ処理結果からの実験へのフィードバックを繰り返
らず海洋環境の全貌を地球規模で把握することを目
すことにより、迅速にゲノムの配列決定を完成させるこ
的とし、研究の進捗に応じて、一定期間、様々な専
とができた。特に、本研究において開発されたコンテ
門科学的背景を有する国内外の研究者を結集した
ィグ編集結合プログラムは、反復配列を介して構築さ
「深海環境フロンティア」において、深海環境を対象
れた間違ったコンティグの整理・編集に大きな効果を
示し、今後のゲノム解析にも十分応用可能なものとな
とする先導的・基礎的研究を実施する。
現在は、深海に棲息する微生物を極限環境微生
った点で評価できる。決定されたゲノムの全塩基配
物ととらえ、微生物が生存する深海の物理化学環境
列の検証と、今後の機能解析へ向けての研究材料の
にまで研究の枠を拡げ、微生物と物理化学環境と
準備を目的として、LA-PCR法による全塩基配列の確
の相互作用の観点から、耐圧、好熱、好冷、有機溶
認作業を行い、246個のDNA断片からなる全ゲノムラ
媒耐性菌等の適応メカニズムを解明し有用微生物
イブラリーを構築した。更に、完成したゲノムの全塩
の開発に応用する。
基配列情報をもとに、
ゲノム構造の解析を行うとともに、
ゲノム上に存在する遺伝子領域の推定や遺伝子機能
(2)研究開発状況の概要
の推定(アノテーション)
も行った。
本研究成果は平成11年8月にプレス発表を行い、
平成11年度は、
「深海環境フロンティア」の「深海
朝日、読売、毎日、日経等、数誌の新聞に掲載された。
(a)
コンティグの整列化
微生物研究グループ」内に設置された研究チームに
Bacillus halodurans C-125株の全塩基配列決定に
より深海微生物のゲノム解析、代謝・適応機能、並び
当たっては、ホールゲノムショットガン法を用い行って
に深海環境応答に関する研究を実施する。
きたが、本法だけで全塩基配列を決定することは、
(3)主な研究開発の内容
現実的に不可能であった。どうしてもアッセンブルに
よって複数のコンティグに分割された。全塩基配列
1)
ゲノム解析の研究
決定を迅速に完成させるには、信頼性の高いシー
①好アルカリ性菌Bacillus halodurans C-125株
ケンスデータを得て正確なコンティグを構成させ、い
かに効率良くそれらコンテイグを整列化させるかによ
のゲノム解析
平成10年5月より好アルカリ性Bacillus halodurans
っている。このコンティグの整列化を、実験的手法に
C-125株ゲノムの全塩基配列決定に向けて、ホール
よるコンティグの整列化と、コンピュータ処理によるコ
ゲノムショットガンシーケンシングのシステムを構築し、
ンティグの整列化の手法を用いて行った。その整列
シーケンシング作業をルーチン化した。平成11年1月
化のフロー図と、各段階におけるコンテイグの数を図
までに、B. halodurans ゲノム4.2Mbの94%にあたる
1に示す。実験的手法としては、クローンの両端のシ
3.99Mbの塩基配列を決定したが、依然として本ゲノ
ーケンス、Genome Walker Kit、フィジカルマップ、
ムは、大小あわせて約600の断片に分割されていた。
multiplex PCR等、一連のステップを踏むことにより行
これら600の断片を繋ぎあわせて、全塩基配列を決
った。特にクローンの両端のシーケンスを用いたコン
─ 74 ─
ティグ整理は非常に有効で、全体の75%のコンティ
を整理し保存した。決定された全塩基配列を約
グが整列化できた。またフィジカルマップも、整列化
20kbのDNA断片(隣接するDNA断片どうしは1kb程
されたコンティグの検証に非常に有効であった。こ
度の共通配列を有するよう)
に分け、それらDNA断
れら二つの手法は、ホールゲノムショットガン法を用
片が増幅可能なプライマー設計
(計492本)
を行った。
いた全塩基配列決定には必須であった。我々がゲ
設計においてはゲノム上に複数個存在する配列
ノム解析において行った、シーケンス反応の最適化
(rRNAオペロンやtransposase等)
と一致しないよう
や情報処理ツールの開発、情報の解析方法は、今
注意した。所定の条件で染色体DNAを鋳型とし
後他の微生物のゲノム解析に応用できることから、こ
PCRを行った。一連の実験は当ゲノムチームの遺伝
の分野の発展に大いに貢献するものと思われる。
子解析マニュアルに従った。
(b)LA-PCR法による全塩基配列の再確認
246個のPCR産物を得、全PCR産物の末端の配列
決定された全塩基配列にアッセンブル上のミスが
のシーケンスを行ったところ、それら塩基配列は元
ないかどうかを再確認するため、全塩基配列を整列
の塩基配列と一致していることが確認された。これ
化されたDNA断片に分け、LA-PCR法により再確認
ら解析結果から決定された全塩基配列は、本来の
を行った。また、この作業により得られる約20kbの
ゲノムの配列と一致していると判断した。今後は、
DNA断片は複数のORFを含んでおり、個々の遺伝
246個全てのPCR産物を機能解析等の研究に用い
子に注目した解析にも有用であるので、各PCR断片
る予定である。
Phred/Phrapによるアッセンブル
201コンティグ
①Sequencherによるコンティグ編集
300コンティグ
②反復配列の解析
コンティグの整列化
③クローンの両端シーケンスを用いた整列化
76コンティグ
④Genome Walker kitを利用した整列化
25コンティグ
⑤フィジカルマップを利用した整列化
25コンティグ
⑥multi plex PCR法を利用した整列化
1コンティグ
⑦ギャップ領域の塩基配列決定
全塩基配列決定
図1
コンティグの整列化までのコンティグ数の推移
─ 75 ─
(c)
ゲノム比較構造解析
動させた。ウィンドウ内のORF転写方向からG組成C
)
ゲノム比較マップの作製
組成のそれぞれが偏ることを利用し、染色体複製方
ゲノム比較マップは2種類の生物のゲノムを比較する
向を予測した。その結果、B. halodurans の染色体
ための表記法で、ドットマトリクス法の応用である。縦
複製終結点は2.20Mb∼2.60Mb間にあると予測され
横それぞれの塩基配列間で、設定した閾値以上の配
た。B. halodurans はB. subtilis と比較して1.3Mbか
列類似性があった場合に、ドットが打たれている。ゲ
ら2.5Mbの区間に大きな逆位が起きているが、ORF
ノム比較マップではどの部分がより良く保存されてい
転写方向は複製フォークの進行方向に高い割合で
るか、どこに挿入や欠失があるかが一目瞭然である。
並んでいることが分かった。
図2( a )から得られるB. halodurans の 特 徴は
(d)遺伝子領域の推定とアノテーション
1.3Mbから2.8Mbの区間に大きな逆位がおきており、
ゲノム解析の次のステップとして、決定された
1.8Mbから2.5Mbに大きな欠失が存在した。この解
4,202,353bpの中から遺伝子領域(ORF)
の推定を行
析法はゲノム全体をマクロな視点で解析するのに有
い、推定された遺伝子に関してその機能を推定し
効であった。図2(b)
は拡大したマップである。ドット
なくてはならない。
が打たれた個所について、縦軸と横軸にどのような
遺伝子領域の推定には、当ゲノムチームと三井情
遺伝子があるのか解析するのに有効であった。そ
報開発株式会社で開発したギャンブラーと三菱総研
れぞれの生物が異なる環境に適応するために生じ
で開発されたジーンハッカーを用いて行った。ギャ
た遺伝子の獲得や欠落、IS配列やファージ等の挿
ンブラーは、塩基配列の中から遺伝子の開始コドン
入などがこれにより明らかになると考える。
と終止コドンを機械的に検索し遺伝子領域を推定
するもので、ジーンハッカーは、これに各アミノ酸の
)oriC、terC領域予測
コドンの使用頻度(codon usage)及びSD配列、開始
B. halodurans には染色体複製終結点となる領域
コドンからSD配列までの距離を考慮に入れて遺伝
(terC)が確定されていない。このため、決定された
子領域を推定する。従ってジーンハッカーを使用す
全ゲノム塩基配列から染色体複製開始、終結領域の
るためには、予めターゲットとなるゲノム上から確定
予 測 を 行 った 。ゲノム塩 基 配 列 に つ いて、5 k b
された遺伝子情報を用いて、学習させた学習パタ
(5000bp)
のウィンドウ幅を設定して、2.5kbごとに移
ーンを用いなければならない。本研究では、予め
B. halodurans(Mb)
B. subtilis(Mb)
B. subtilis(Mb)
B. halodurans(Mb)
(a)2種のバチルス属のゲノムを比較した例
図2
(b)ゲノムの比較マップの一部を拡大した例
2種のバチルス属(B. subtilisとB. halodurans)のゲノム比較マップ
─ 76 ─
我々が確定した約300の遺伝子セットを用いて学習
システム「ギャンブラー」の開発を進めた。
「ギャンブ
させた後、ジーンハッカーを用いて遺伝子領域の推
ラー 」は 、GAMBLER( Genome AssMBLy and
定を行った。その結果、4085のORFがゲノム上に見
gEnome information Research)システムの略で、次
いだされた。
の機能を有する。
・ABD/SCFフォーマートのシーケンスデータの
ホモロジー検索から遺伝子機能が推定された
取り込み
ORFを、枯草菌で既に機能が確定または推定されて
いる遺伝子群との比較を行った結果、ジーンハッカー
・Whole Genome Shotgun Assembler あるいは
で推測されたORFには、枯草菌や他の微生物に必
Phred/Phrapによるアセンブル(指定されたベク
須である遺伝子が一部含まれていないことが明らか
ター配列によるベクターカットを含む)、トレース
になった。このようにジーンハッカーのみでは、全遺伝
データ表示及びコンテイグの検索と編集
子領域を推定することが困難なため、ジーンハッカー
・任意のコドンテーブルと配列長によるORF同
が推定したORF以外で、ギャンブラー上で推定され
定、SD配列候補の抽出、及びアミノ酸に翻訳
たものに関して、再度同様にホモロジー検索を行っ
されたコーデイング領域の表示と編集
て、遺伝子として可能性のあるORFをピックアップし
・NCBI Gapped BLAST、Virginia 大学 FASTA3、
た。最終的にジーンハッカーで捕りきれていない、あ
SSearch、Compugen 社製アクセラレーター対応
るいは誤って推定したORFをギャンブラーで検証し
の Smith and Waterman による自動ホモロジー
ながらこれらの結果をまとめたところ、B. halodurans
サーチ
・指定された条件によるホモロジーサーチ結果
ゲノムには偶然ながら先にジーンハッカーが推定した
からのアノテーションの自動付加
遺伝子数と同様の4085のORFが推定された。
次に、この4085のORFの機能を推定するために、
・アノテーション結果からのDDBJ大量データ登録
一つ一つのORFに対するホモロジー検索結果を目
用フォーマートへの自動整形、出力
で確認しながら、それぞれの遺伝子にアノテーショ
・複数のプロジェクトの実行とデータの整理
ンを付す作業を行ったところ、そのうち機能が推定
「ギャンブラー」は現在、三井情報開発株式会社
されたものが全体の約53%、本菌固有の機能未知
から市販されており、各種の研究機関で広く利用さ
遺伝子と思われるものが約19%存在した。一方、
れつつある。
機能未知で他の生物種にも保存されている遺伝子
群は、全体の約28%で、そのうちの16%は広く色々
2)代謝・適応機能の研究
な生物種に渡って、8.3%はBacillus 属細菌のみに、
①深海微生物の分類、保存に関する研究
また面白いことに3.4%はBacillus 属細菌からは系
(a)好圧性細菌、好アルカリ性細菌の分類
統的に遠い生物種にのみに保存されていた。アノ
日本海溝7300mに発見された新種の貝(カイコウ
テーションされた遺伝子群の他の微生物との比較
ハナシガイ)のコロニーから採取した底泥から、新
検討については、来年度にかけて更に詳細に行っ
種の好圧性細菌の分離・同定を行った。深海微生
ていく予定である。
物実験システムにより温度5℃、圧力68MPaを変化
させることなく継代培養を行った結果、好圧性の
②ゲノム解析コンピュータソフト
「ギャンブラー」の
開発
Moritella 属、Colwellia 属、好圧性菌の報告が今ま
で無かったPsychromonas 属の新種などが培養でき
上記のBacillus halodurans C-125株のゲノム解析
を進めるにあたり、膨大な塩基配列データを処理す
た。また、プロテオバクテリアγサブグループ以外
の新種の培養も示唆された。
るためのコンピュータソフトが必須となった。そこで、
三井情報開発株式会社と共同で、遺伝子解析総合
本年度より始めた有用酵素生産の好アルカリ性
Bacillus 属30株の同定試験は16S rDNAシーケンス
─ 77 ─
②深海環境における微生物学的多様性の研究
が終了し、系統樹などから10種以上の新種の存在
(a)深海底の微生物相に関する研究
が示唆された。
深海環境は、低温、高水圧、太陽光が全く届かな
(b)深海酵母の分類
深海から高頻度に分離される赤色酵母は、その
いなど、陸上とは全く異なる環境である。したがっ
ほとんどがRhodotorula 属に属することが明らかに
て、陸上とは全く異なる生態系が深海環境に存在
なっている。Rhodotorula 属を含む担子菌系酵母
し、陸上の微生物とは異なった性質の酵素や生理
は炭素源、窒素源を用いた資化性試験において曖
活性物質を生産している細菌が存在すると予想さ
昧もしくは不確実な反応を示し、誤同定を招くこと
れる。深海海底の微生物については、熱水鉱床な
が 多 い 。そ の た め 、赤 色 酵 母 Rhodotorula 、
どの特異的な場所についてのみ積極的な研究が行
Sporobolomyces 、Bensingtonia 属に含まれる全種
われてきた。そこで、通常の海底の微生物フローラ
の基準株を含む92株について、18S rDNAとITS領
を解明することを目的として、海底深度と好(耐)塩
域及び5.8S rDNA塩基配列を決定、その系統関係
性微生物の出現頻度の相関について研究した。
を推定し既存の分類体系の評価を行った。その結
海底底土は、日本海溝(深度5791、7337m)、銭洲
果、射出胞子形成能が、属レベルの分類指標として
海嶺(深度2292、2516m)
より採取した。その海底底
不適であり、さらに主要ユビキノンにより区別されて
土よりマリンブロス2216を基本培地として用い、細
いるSporobolomyces 属とBensingtonia 属が一部系
菌の分離/培養を試みた。サンプルは生物群集な
統で混在することが確かめられた。このことは将来
どが存在しない環境を選んだ。塩濃度が3、15%の
的にこの分類群において属レベルの分類学的再構
培地を用いた。
興味深いことに、海底深度が深くなるにつれて、
成が必要であることをあらわしている。
(c)深海微生物及び深海サンプルの保存に関する
好(耐)塩性細菌の分離頻度は低くなることを見い
だした。定量的には、図3に示すように、出現頻度
研究
今年度の深海底泥サンプルは「しんかい2000」で
の対数と深度において直線関係のあることが分か
沖縄海域10種、
「ドルフィン−3K」で相模湾、伊豆・駿
った。ここで出現頻度とは、15%食塩水において
河湾の2海域10種,「しんかい6500」で日本海溝7種、
コロニーを作る微生物数を、3%食塩水での値で
「かいこう」で日本海溝9種の合計36種類、フィリピン
割ったものである。これらの結果は、細菌の高静
海のピストンコアサンプル4本について、液体窒素で
水圧耐性と高塩濃度耐性が排他的であることを示
保存を行った。これにより現在深海底泥サンプルは
している。
245種液体窒素に保存されている。各研究者が分譲
を受けた各種Type strainなどの株は、新たに13株が
1.0
追加され現在81株がいつでも使用できる形で保管
されている。深海底泥より分離した細菌 6 株(好圧
酵母に関しては、日本海溝底泥2サンプルから11
株(これらは形態学的特徴及びバイオログ同定シス
テムの結果に基づいて全て同一種であると考えら
Frequency (-)
Frequency
菌 6・好冷菌 0・好熱菌0)
を新たに保存した。
0.1
0.01
Japan Trench
Izu-bonin
Zenisu ridge
Iheya ridge
れた)、相模湾初島沖底泥3サンプルから27株、相
模湾、伊平屋海嶺採取チューブワームから2株、焼
津沖・銭州海嶺・駿河湾妻良沖底泥から37株分離
0.001
した。計77分離株を10%グリセロール存在下で凍
結保存し、保存株は計413株となった。
図3
─ 78 ─
0
2000
4000
6000
8000
10000 12000
好(耐)塩性細菌の出現頻度と海底深度の関係
伝子発現に、σ54転写因子グループが関わっている
③微生物における圧力適応機構の解析
(a)圧力生理学
ことを明らかとなり、本転写制御の分子機構を解析
加圧によって誘起される細胞内の変化を、細胞生
した。
理学的手法を用いて解析する”圧力生理学 Baro-
圧力応答する深海微生物と比較的近縁な遺伝学
(Piezo-)physiology ”
なる研究領域の確立を目指し
的背景を持つ、大腸菌をモデル微生物として、種々
ている。耐圧性・好圧性・圧力感受性という圧力に
の遺伝子の圧力応答を検討してきた。大腸菌の遺
依存した増殖特性を支配する細胞内分子機構を理
伝子発現における圧力制御のうち、lacプロモータ
解することを目標に、昨年度、出芽酵母から高圧下
ーの30MPa加圧による促進現象を検討した。以前
で増殖する変異株の取得を行った。本年度は、当
より3種のプラスミドに組み込まれたlacプロモーター
該遺伝子の単離を第一目標として研究を行った。
によるCAT遺伝子の発現は、そのプラスミドの性質
出芽酵母Saccharomyces cerevisiae の野生型
により加圧促進が大きく異なることがわかっている
YPH499株では、15∼25MPaの圧力を付加すること
ので、このうち2種のプラスミドを選び、ルシフェラ
によって細胞の増殖は停止する。フローサイトメトリ
ーゼ遺伝子の導入を行い、加圧培養した菌体の抽
ーを用いて細胞集団内での細胞周期の位置分布を
出液の活性を測定した。その結果、CAT酵素を使
調べたところ、興味深いことに、ほとんどの細胞が
用した遺伝子発現と同じく、pUC13プラスミドのみ
G1期でその進行を停止していることが判明した。一
で30MPaに特異的な圧力応答が見られ、この現象
方、出芽酵母に高圧増殖能をもたらす独立した遺伝
は普遍性があることを明らかにした。また、大腸菌
子群として単離されたHPG(High Pressure Growth)
をin situで、非破壊のまま活性測定する可能性を
1、HPG2、HPG3及びHPG4株では、加圧前後に周
示した。
期上の位置分布に大きな差異は認められなかった。
すなわち、
深海由来好冷好圧菌S.violacea のcspA、cspG遺
伝子を単離、解析した。どちらも大腸菌のものと高
(i)野生株では 細胞は自らが置かれた”圧力”環境
い相同性があり、かつ低温誘導性であることを示し
を増殖に不利とみなし、G1期まで周期を進行させ
た。これは低温誘導性遺伝子の代表遺伝子である
そこで待機している、ところが、
cspAのホモログを、好冷菌から初めて分離した研
(ii)HPG株では野生型に対し、高圧増殖において
究である。さらにcspAホモログの発現調節に重要
優位な変異が生じているため常圧下と同様に増殖
だと考えられている、mRNAの5’末端の2次構造を
する、という解釈がなされる。
コンピュータ上で予測し、
それを実験的に確認した。
そこで、HPG株からゲノムDNAライブラリーを作成
し、野生株を形質転換して高圧下でスクリーニング
これはcspAホモログのmRNAの5’末端の2次構造
を実験的に確認した初めての例である。
(c)深海微生物の加圧応答蛋白質の解析
する、というストラテジーでHPG遺伝子群のクローニ
ングを試みている。
好圧性細菌Moritella japonica DSK1株における、
(b)深海微生物の加圧応答遺伝子に関する研究
加圧応答のセンシングメカニズムを解明する目的で、
これ まで に 好 圧 性 細 菌 Shewanella violacea
DSS12株において、窒素代謝に関わる転写因子σ
高圧下の培養で特異的に外膜画分に蓄積される蛋
54
白質の同定を行った。また併せ、大腸菌における同
RNAポリメラーゼの挙動が加圧応答にかかわりを
等遺伝子の加圧応答を解析した。その結果、加圧
持つことが明らかとなった。そこで、本転写因子そ
応答して外膜画分に蓄積される蛋白質を同定でき
のもの(rpoN)、及びσ54 RNAポリメラーゼによる発
た。また、同遺伝子のクローン化に成功し、その発
現に重要な役割を担うntrB、C遺伝子をクローン化
現について解析した。本蛋白質の大腸菌における
しこれらの作用を解析した。その結果、好圧性細
相同蛋白を同定し、その発現が大腸菌の変異株
菌Shewanella violacea DSS12株の加圧応答する遺
(gyrA96)
において加圧応答することも確認した。
─ 79 ─
(d)耐圧性細菌の生体膜組成に関する研究
唆された。
深海底のような、高水圧環境下において生育が可
⑤地下生物圏の予備的研究
能な耐(好)圧性細菌の細胞膜の流動性は低下する
(a)地殻コア
(岩石)試料からの微生物の分離/
と考えられる。従って、高水圧環境下で細胞が生育
培養法の検討
していくためには、細胞膜の流動性を維持する必要
がある。本研究では,耐圧性細菌の細胞膜組成と、
「深海環境フロンテイア」では、これまで深海の泥
生育環境の圧力及び温度など物理的因子との関係
や海水からの微生物の分離・培養の研究は行って
を、理論的に考察することを目的とした。
きたが、固い岩石からなる地殻コアサンプルを取り
日本海溝深海底土壌中から単離したPseudomonas
扱った経験はない。そこで予備的研究として、地殻
属細菌を、種々の生育温度及び圧力範囲で培養し
コアや岩石試料中からの微生物の分離/培養法の
た。その培養細胞を超音波破砕し、内膜脂質脂肪
検討を、地質学的知見も考慮しながら開始した。
酸を解析した。本細菌の生育可能な圧力領域は温
日本海溝から採取された岩石(径20 cm x長さ25
度に依存し、至適圧力は生育温度の上昇に伴い高
cm、種類:シルト岩/堆積岩の一種、6KDive#487、
圧側に移行することが認められた。脂肪酸組成は
深度6337m)
を用い、岩石試料の取り扱い法を検討
C16:0、C16:1、C18:0、C18:1であった。本細菌の細
した。無菌的な岩石切断のため回転刃を持つ無菌
胞膜脂質を抽出し、高圧キャピラリー型示差走査
型岩石切断機の製作を進めるとともに、油圧を利用
熱量測定によって分析した。示差走査熱量測定条
した小型岩石トリマーの利用を検討した。また、内
件は、0.1、40MPa、Scan Speed及びScan Rangeは1
部の微生物は殺さず、岩石表面のみの滅菌法を検
K/min、5∼70℃とした。20℃、30MPaにおいて培養
討した。これらの方法を用いて、岩石中の好気性
した細胞の細胞膜脂質のサーモグラムは、加圧し
の各種微生物の存在を検討した結果、岩石内に生
た測定条件でのみ新たな吸熱ピークが現れた。同
息 する微 生 物 数 は 、通 常 菌 で 約 3.0 x10 3 ∼ 2.7
様に、37℃、30MPaにおいて培養した細胞の細胞
x107/g-dry、極限微生物は3.0 x102∼2.3 x105/g-
膜脂質のサーモグラムにおいても、高温側の吸熱
dryであった。極限微生物としては好アルカリ性細
ピークが、熱量測定時に加圧することで高まること
菌をはじめ好酸性細菌、好冷性細菌、好塩性細菌
が認められた。すなわち加圧環境下において生育
の存在が確認できた。
今回の予備的検討により、
今後の研究課題として、
した細胞の細胞膜脂質は、圧誘導性の相転移を起
次の様な項目が抽出された。
こす性質があることが認められた。
)岩石試料の表面滅菌法
④微生物の溶媒耐性機構の解明に関する研究
表面の殺菌法として、溶剤殺菌法(エチルアル
Toluene 耐性菌Pseudomonas putida IH-2000 株の
コール、クロロホルム)、火炎殺菌法について
溶媒耐性機構の研究を行っている。本年度は、IH2000 株の toluene 感受性Tn5 mutant であるNo.30
検討する必要がある。
)岩石試料(粒状径)
の調製
株を比較対照として研究を行った。変異株では、
土壌試料と異なり、細粒化が容易でない。ど
cytochrome o homologue 遺伝子への Tn5 の転移に
の程度の粒径であれば、岩石中の微生物数を
より、呼吸鎖タンパクレベルで明らかに IH-2000 株
代表した計測ができるか、また破砕中におけ
と異なる構成を持つことがわかった。一方、IH-
る微生物への死滅影響(温度、衝撃度など)
を
2000 株を水/オクタノール分配係数( log Pow)
の異な
軽減できるかも考慮しなければならない。
る4種類の有機溶媒を添加して培養することにより、
)生息微生物の抽出法(微生物懸濁液の調製)
異なる toluene 耐性レベル及び、異なる表層疎水性
岩石層内に封入、固着されている可能性のあ
を示した。すなわち、IH-2000 株の log Pow 応答が示
る微生物の抽出法の確立が必要。
─ 80 ─
)地殻内微生物の分離用培地の設計
好熱古細菌のみではあるが、微生物群集が存在す
)地殻内休眠微生物(ドーマント)
の計測、分離法
ることが分かった。また、それらの微生物群集にお
岩石内の環境から、特にドーマントの存在が
いて、古細菌のrRNAイントロンの進化や伝播を解
大きくクローズアップされる。どのようにして計
き明かす鍵となるrRNAイントロンが存在することが
測するか、分離するかの方法を確立すること
明らかとなった。
同時に、地下熱水中で生きていたと考えられる好
が重要である。
熱細菌の分離に成功した。本菌は幅約0.5μm、長
(b)地殻コア試料の微生物汚染評価法の検討
コア試料を無菌的に採取する方法の確立と同時
さ約4∼7μmの桿菌で、60∼85℃の範囲で増殖し
に、試料の微生物汚染の程度を評価する技術の確
至適温度は78℃、至適増殖pHは7∼7.5、増殖に
立もまた重要である。何故なら、無菌的なコアの採
NaClを要求しない好熱細菌であった。本菌は好熱
取方法は現在知られておらず、且つ一般的にはそ
性水素酸化細菌Hydrogenobacter 属に近縁ではあ
の方法は容易ではないと考えられるからである。そ
るが、本属の細菌の中では初めて分離された硫黄
の評価法の一つとして、地質学的知見も考慮しなが
酸化絶対好気性従属栄養性の種であることから、極
ら本検討を行った。各コアサンプルの表面から中心
めて珍しい新種のHydrogenobacter 属細菌であるこ
に向けて,数cm間隔でサンプリングを行う。そのコ
とが示唆された。現在Hydrogenobacter subterranea
ア 粉 末 試 料 を、適 当 量 の 滅 菌 済 み 生 理 食 塩 水
sp. nov.として新種記載の手続き中である。
(0.85%)
に懸濁する。種々の条件のプレート上で1∼
2週間以上培養した後、コアサンプルの表面からの
3)深海環境応答の研究
距離ごとに生菌数を測定し、
その分布関数を求める。
①深海多細胞生物が有する極限環境適応機構の
解明
その分布関数を数学的に処理し、各種条件下の結
深海に生息する生き物は微生物のみではない。
果を比較することにより、それが陸上由来の微生物
による分布であるのか地殻内微生物による分布で
高等生物もまた多数生存している。これら高等生物
あるのかを判断した。
細胞の各種物理刺激に対する応答の研究を、圧力
応答を中心に行っている。
(c)地下における微生物多様性の研究
(a)加圧チェンバーシステムの開発
先述の様に、日本海溝から採取された岩石中の、
好気性の各種微生物の存在を検討した結果、岩石
高圧下における細胞の挙動をin situで観察する
内に生息する微生物数は、通常菌で約3.0 x10 3 ∼
ため、加圧顕微鏡チェンバーシステムを開発した。
2.7 x107/g-dry、極限微生物は3.0 x102∼2.3 x105/
このシステムは、加圧速度を0から±30MPa/minで
g-dryであった。極限微生物としては好アルカリ性細
制御でき、共焦点レーザー顕微鏡や、ノマルスキー
菌をはじめ好酸性細菌、好冷性細菌、好塩性細菌
微分干渉顕微鏡、そして蛍光顕微鏡が使用可能な、
の存在が確認できた。また、他の地殻コアサンプル
コンピューター制御型リアルタイム細胞観察装置で
からも微生物の生息が確認された。これらの微生
ある。また同時に、化学物質や光、熱、電気など、
物の中には、有用な酵素を生産するものも含まれて
圧力以外の刺激をも細胞に加えられ、培地を還流
いた。
させながら100MPaまで加圧できるチェンバーシス
地下熱水環境のモデルとして、火山活動域におけ
テムである。
(b)
ヒト正常皮膚線維芽細胞への加圧刺激による
る地下熱水溜まりにおける微生物の多様性と好熱性
サイトカイン産生
微生物の分離を行った。地下熱水中の微生物の多
様性を、分子系統学的手法を用いて解析を行った
細胞は化学物質のシグナルを受けて、細胞内情
ところ、生物の生存限界を遥かに超える高温環境
報ネットワークが活性化され、細胞間情報伝達物質
(>250℃)
である地下熱水中にも、極めて限られた超
(サイトカイン)
を分泌する。そこで、圧力シグナルに
─ 81 ─
よっても分泌されるサイトカインがあるかどうかは興
微鏡での観察により、結晶構造が崩壊するのと同時
味ある問題である。ヒト皮膚繊維芽細胞への加圧
に溶解が始まるものと示唆された。一方セルロース
刺激の結果、細胞は70MPa、1hrの加圧刺激でも形
の2-アセチルアミノ誘導体であるキチンは全く異な
態変化することなく、インターロイキン-6
(IL-6)、IL-8、
る溶解挙動を示した。キチンは25MPaで加圧下加
及び単球走化性因子-1( MCP-1)
を産生することを
熱しても超臨界水の領域までその形状を維持し、
明らかとした。これら加圧によって誘導されたサイ
390℃にて10分間放置してようやく溶解した。いず
トカインはpost- transcriptional regulationを受けてい
れの場合も溶解終了後、セルを冷却しながら観察
る事を明らかとした。
を続けたが再結晶等は起こらなかった。多糖類の
(c)加圧下における細胞の形態変化
分解、あるいは溶解後の分解反応が速やかに進行
上記の加圧顕微鏡システムを用いて、細胞の高
しているものと考えられる。
圧下における形態変化を観察した。組織培養細胞
深海酵母(Cryptococcus sp. N6)
を25MPaで加圧
の加圧による形態変化と圧力の依存性を確認でき
下、加熱したところ、250℃で細胞膜構造の崩壊が
た。また、高圧力環境下での培養によって、大腸菌
が伸長する現象を、その場観察と、減圧後の大腸
菌の挙動から考察した。その結果、伸長現象は、
大腸菌の増殖による細胞分離の阻害過程において
伸長するものと推察した。
②超臨界水中における生体関連科学及びコロイド
科学に関する研究
深海の熱水噴出孔や海底火山の上に存在するこ
とが予想される超臨界水の研究を、本格的に開始
した。当面の研究課題として、超臨界水中における
生体関連物質及びコロイドの挙動、超臨界水中に
おける化学反応を取り上げる。
(a)超臨界水溶液研究用装置の開発
超臨界水中で起こる上記の現象を研究するた
め、観察装置の開発を行った。完成した装置は、
光学顕微鏡、光散乱測定装置、紫外・可視分光光
度計、化学反応装置である。これらの内、光学顕微
鏡と光散乱装置は世界で初めての開発である。
(b)超臨界水中への生体関連物質の溶解
超臨界水の物性は、通常の水とは大変異なる。ま
た当然のことながら、大変高温である。従って、通
常水に溶けそうにない物質が溶解する。今回は、水
図4
に不溶性の種々の生体関連物質の溶解を試みた。
セルロースはその強い分子間水素結合のため
に、一般的な溶媒には全く溶解しない。結晶性セ
ルロースの水分散液を25MPaで加圧下、加熱する
と320∼350℃で速やかに溶解した。また、偏光顕
─ 82 ─
高温/高圧水中への酵母菌の溶解
みられた
(図4)
。また、崩壊後の残査は300℃まで残
発・運用及び深海試料の管理・提供等に係る研究
ることが わ か った 。よりサイズ の 小さな 大 腸 菌
支援事業を実施する。
(Escherichia coli(JM109)
)
では、顕微鏡解像度に
よる制約から詳細な検討は行なえなかったが、高濃
2)技術開発状況の概要
度 の 大 腸 菌 分 散 液 の 濁 度 が 1 7 0 ℃から減 少し 、
平成11年度は、深海底泥等に棲息している深海
3 0 0 ℃で 全く確 認 できなくなった 。一 方 キノコ
微生物を保圧状態のまま採取・運搬し、実験室で単
( Flammulina Velutipes、和 名 エノキ)の 菌 糸は
離・培養するための深海微生物実験システムの運
25.2MPa下、250∼310℃で急激に収縮した後、
用、及び深海微生物研究グループの研究活動によ
390℃までかけて徐々に消滅した。
って得られる深海微生物の分類・保存技術の開発
(c)超臨界水中におけるコロイドの挙動
を進めた。
超臨界水中で安定なコロイドを見出すことが、先
ず最初の課題である。そのための予備実験を行っ
3)主な技術開発の内容
ている。本年度は、その候補としてフラーレンを取り
①深海微生物実験システムの運用
上げ、コロイド挙動を観測した。従って本研究は、ま
深海微生物研究グループの支援として、本システ
だ超臨界水中におけるコロイド科学の実験に到って
ムにより深海底泥を用いた実験及び好熱性菌等の
いない。
培養実験を行い、それぞれの実験に対しデータを
純粋な炭素であるフラーレンを水と相溶する有機
提供してきた。
溶媒に溶解後、水に注入することで、容易にフラー
②深海微生物の系統保存
レンを水中に微結晶として安定分散できることを見
本年度の計画に基づき、細菌は日本海溝7300m
出した。フラーレン粒子は負に帯電しており、粒子間
に発見された新種の貝のコロニーから採取した底
の静電的反発が安定性に大きく寄与していることが
泥から、新規培地などにより加圧継代培養を行い、
わかった。また、水の変わりにフラーレンの貧溶媒で
新種の好圧性細菌の分離・同定を行っている。同
ある有機溶媒を使用しても、同様のコロイド状フラー
定が終了し次第、新種記載を行い、合わせてJCM
レンの作製に成功した。これらの現象は、それのみ
に寄託を行う予定である。
酵母については、駿河湾・遠州灘・南海トラフ、駿
でもコロイド科学的に興味ある結果であるが、更に
今後超臨界水中の挙動を検討する。
河湾・伊平屋海嶺のチューブワーム、相模湾、日本海
(d)超臨界水中における化学反応
溝 から計 7 7 株を 分 離した 。そ の 中の 大 部 分 は
深海の熱水噴出孔周辺で起こっていることが期待
Rhodotorula、Rhodosporidium 属 で あった が 、
される反応を、特に生命の起源に関わる問題に焦点
Taphrina californica、Taphrina maculans に近縁なも
を合わせて研究している。グリシンの重合反応を検
のやCryptococcus albidus が含まれていた。また、パ
討し、短いオリゴグリシンの生成が確認できている。
ラオ海溝から分離したRhodotorula sp. はDNA交雑
実験の結果より新種であることが確かめられた。
(4)研究支援技術の開発
系統保存については、細菌19株(好圧菌6・その
他13)
、酵母77株
(駿河湾・遠州灘・南海トラフ37株、
1)技術開発の方針
相模湾・伊平屋海嶺産チューブワーム2株、相模湾
「深海環境フロンティア」が実施する先導的・基礎
的研究を効果的に支援するため、深海実験材料の
27株、日本海溝11株)
、深海底泥試料36種類を新た
に分離し、全て凍結保存した。
採取・運搬・維持等に必要な研究支援技術の開
─ 83 ─
(2)平成11年度成果概要
7.海底下深部構造フロンティア
(1)研究概要
1)海底下深部構造研究
当面重点的に調査を実施する海域を南海トラフ、
本研究の目的は、海洋科学技術センターの機能を
活用して、海溝域で発生する巨大地震の発生メカニ
及び日本海溝とし、図2に示す海域で深部構造探査
を推進している。平成11年度には、
「かいれい」、
ズムの解明(地震発生の長期モデルの構築)
を行う
「かいよう」により、熊野灘沖、足摺岬沖南海トラフ
ことで、平成8年度下期に研究組織を発足し、平成
ならびに福島県沖日本海溝(図3)
において探査を
9年度より本格的な研究を開始した。本フロンティ
実施した。
アの研究課題は以下の3つである。
130°
150°
140°
1)海底下深部構造研究
ユーラシアプレート
2)長期海底変動研究
0
-200
3)海底下深部変形モデリング研究
0
00
-6
-40
00
これらの各研究課題で得られた成果を総合し、
-2
図1に示すような深部構造の数値モデルを構築し、
000
40°
40°
深部構造変形モデリングの高度化を図り、海溝域
0
-200
-2000
三陸∼福島沖
における巨大地震発生メカニズムを解明しようとす
るものである。
00
-2000
-60
-4000
-600
0
-6000
0
-800
0
-200
四国沖
-40
00
30°
30°
-40
00
太平洋プレート
-4000
-2000
-2
00
0
フィリピン海プレート
-4000
140°
130°
図2
150°
海底下深部構造探査実施海域
45°
-2000
-4
00
-600 0
0
-2000
0
00
-6
-2000
-20
-20
00
00
40°
KY9905
0
-200
-2000
KR9906
-2000
-20
00
0
図1
135°
図3
地殻活動数値モデル
─ 84 ─
00
-20
-40
00
30°
130°
■:重点的に調査を実施している海域
00
-40
-6
0
00
-8
-2000
-400
KY9903
KR9904
-40
00
0
-6000
00
35°
140°
平成11年度深部構造探査測線
145°
先ず、平成11年度の室戸岬南方沖の探査で測線
岬沖、足摺岬沖の深部構造の比較が可能となった。
に沿って高密度に海底地震計を展開した結果、こ
一方、福島県沖日本海溝域では、微小地震活動
の領域における地震発生帯の大部分に相当する深
が活発な領域とそうでない領域を対象として構造
さ25km付近までの構造を把握することができ、さら
探査を実施した。その結果、海洋地殻と島弧地殻
に土佐碆付近では、沈み込んでいる海山と考えら
の間に低速度領域が存在するが、低速度層が薄い
れる不整形構造を見出した(図4)。また、平成9年
領域では微小地震が発生しているのに対し、厚い
度及び平成10年度の探査記録を用いた詳細な解析
領域では地震活動度が低いことがわかった
(図6)。
も進み、室戸岬南方沖でも沈み込む海山と考えられ
今後も深部構造探査を推進するとともに、地震発生
メカニズムとの関連についての研究を継続していく。
る不整形構造が発見され(図5)、また、熊野灘、室戸
土佐碆
0
2
5
3
4
5
南海トラフ
2
付加堆積物
4
3
5
Depth (km)
6
6
10
沈み込む海洋性地殻
5
島弧地殻
7
6
8
15
8
7
沈み込んだ海山
20
8
25
30
0
50
図4
100
Distance (km)
150
室戸岬南方沖の測線に沿った深さ約25km付近までの深部構造
34
3
四国
33
3
海山
32
3
31
132
図5
133
134
135
136
13
137
四国沖の構造探査で発見された沈み込む海山(土佐碆付近及び室戸岬南方沖)
と測線
─ 85 ─
0
4
14
15
140
160
13
12
10
2
3
4
5
10
Depth(kmbsl)
5
低速度領域
15
20
島弧地殻
6
5
4
4
5
6
海洋地殻
7
8
25
30
6
上部マントル
0
20
40
60
80
100
120
180
Distance(km)
: OBS
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
4.5
5.0
5.5
6.0
6.5
7.0
7.5
8.0
8.5
P-velocity(km/s)
SE
NW
4
SMK SMS KRZ NEM SIW
NYM
0
3.5
4
4.5
Depth(kmbsl)
5
10
6.5
7
5
6
5.5
3.5
4.5
4
57.5
3 2.5 2
1
23
2.5
4
3.5
4.5
5
5.5
5.5
2
3
4
5
6
7
8
6
6
6.5
15
島弧地殻
65
4 3.544.5
.5
543.5
低速度領域
5
5.56
海洋地殻
7
7.5
20
マントルウエッジ
25
8
30
上部マントル
-60
-40
-20
0
20
40
60
80
Distance(km)
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
4.5
5.0
5.5
120
140
: OBS
6.0
6.5
P-velocity(km/s)
図6 福島県沖の測線に沿った構造
上図:海溝軸に並行にとった測線についての速度構造モデル
下図:海溝軸に垂直にとった測線についての速度構造モデル
この二つの測線は黄色の丸印で示された観測点4で交わる
─ 86 ─
100
7.0
7.5
8.0
8.5
2)長期海底変動研究
構造データが蓄積されてきたので、現在構築中の
室戸沖地震総合観測システムにより得られる地震
地球科学データベースを活用して、深部構造の数値
等のデータ解析システムを平成9年度に構築した。
モデル化も推進する。
このシステムの2ヶ所の地震計と既存の陸上の観測
網のデータを統合して地震活動のモニタリングを行
3)海底下深部変形モデリング研究
っている。一部の地震データ解析については高知
海底下深部構造フロンティアの研究目標である
大学と共同して実施している。
地震発生メカニズムの解明に向けて、地殻変動や
また、海域における微小地震活動を把握するた
応力場の変動、あるいは地震の破壊プロセスを定
め、南海トラフや三陸沖において、自己浮上型の海
量的に評価することを目指した研究を実施してい
底地震計を集中・展開した臨時観測を実施してい
る。その準備段階として解析技術の開発ならびに
る。南海トラフにおける観測では、海底下深部構造
その検証を行い、解析精度の向上を図ってきた。
研究で得られた詳細な速度構造に基づいて震源決
平成11年度には、解析技術の高度化とともに深部
定を行った結果、土佐碆付近に沈み込んでいる海
構造の研究成果を用いたケーススタディも実施し
山の海溝軸側の斜面付近及びプレート境界付近に
ている。
震源が集中することが判明した(図7)。今後もこの
深部構造探査が進んでいる四国沖南海トラフに
ような観測や処理を継続して震源決定精度の向上
おいては、海山の沈み込み構造や、南海地震に起
や地震のメカニズムの推定を行い、深部構造と地
因すると推定される断層が海洋性地殻上面より海
震活動の関連についてさらに研究を進める予定で
底付近まで到達している詳細構造を明らかにして
ある。また、深部構造探査が進むにつれて詳細な
いる。そこで実際の地震記象と理論地震記象のと
150
0
100
50
100
50
5
Depth [km]
10
15
20
25
30
35
150
Distance [km]
1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5
Vp (km/s)
○、●:震源 ◇:OBS
図7
土佐碆付近に推定される沈み込む海山と震源分布
─ 87 ─
(3)今後の展望
比較検証により、1946年南海地震で地震波を発生
させた領域は、地殻変動データや津波データから
推定された広範囲(足摺岬の東方から潮岬付近ま
海溝型巨大地震発生メカニズム解明のための深
での沖合)
なものではなく、その東半分に限られる
部構造モデル構築に当たっては、物性の不均質性
ことがわかった。また、西半分の四国沖の領域につ
の取り扱いやプレート間カップリングの評価、適切
いては、顕著な地震波を励起するような高速破壊は
な境界条件の設定等が解決すべき重要課題であ
起こらなかったが、地殻変動や津波を伴うゆっくり
る。このためには、特定地域における自然地震の集
した破壊が発生したと考えられる。なお、異なるタ
中観測等による地震活動や地殻変動評価、地球科
イプの破壊を起こしたと考えられるこれら二つの領
学データベースを活用した深部構造モデルの構築
域の境界には沈み込む海山(図4)が推定されてお
とソフトウエアの高度化が必要である。
り、この海山は東側で始まった破壊のパターンを大
成果概要の章で述べたように、海底下深部構造
きく変える働きをしたと考えている
(図8)。
研究で得られた詳細構造は、長期海底変動研究や
一方、地震発生過程の中で重要な役割を果たす
海底下深部変形モデリング研究の進展に大きく貢
物性パラメータの一つとして、水とともに熱が挙げら
献している。今後もこれら3研究課題が一体となっ
れる。このため、要素モデルを用いて、時間スケー
て、地震発生帯という場を把握するとともに、地震
ルを考慮した定量的な熱解析評価を行い、深部構
発生過程のダイナミクスを理解することにより、繰り
造の境界面の応力分布に伴う熱の挙動が地震発生
返し発生する海溝型巨大地震の発生予測モデルの
過程に及ぼす影響について定量的な解析評価研究
確立に向けた研究を実施していく予定である。
を実施している。また、スラブ形状形成過程におけ
る熱の影響についても研究を行っており、広域な応
力場の評価を目指していく。
35˚
34˚
35˚
プレート境界
のすべり
四国
分岐断層
軸
フ
トラ
33˚
33˚
破壊開始点
32˚
132˚
5メートルの
すべり
沈み込んでいる海山
134˚
136˚
すべり量 (m)
0
3
図8
1946年南海地震の断層破壊の様子
─ 88 ─
6
32˚
8.地球フロンティア研究システム
ロッパに比べて小さく、これまでの経験も充分では
ないが、小さいだけに研究者仲間は緊密な連携を
(1)研究活動の概要
保ち得るので、機関の垣根を越えて有効な共同研
究を実現したいと考えている。
平成11年度には地球フロンティアにとって大きな
出来事がいくつかあった。第一は8月に地球観測フ
(2)主な研究活動の内容
ロンティア研究システムが発足した事である。これ
は、データ解析やモデルによる研究を主体とした地
1)気候変動予測研究領域
球フロンティアに対し、文字通り野外で観測を行う
今年度は特筆すべき成果としてはインド洋熱帯域
ことによって地球変動の機構に迫ろうとするもので
のダイポールモードの発見がある。この研究はイン
ある。地球規模の変動現象を予測できるようにする
ド洋周辺諸国にとどまらずアジアの各国の社会経
ためには、変動メカニズムの要素となる過程や地域
済活動にも大きな影響を及ぼすものとして、国際的
的現象の機構を観測とモデリングの両面で研究し
に一大研究ブームを引き起こしている。防災科学研
なければいけない。
究所との共同研究としてこの再現実験にも世界で
「地球観測フロンティア」が発足したことによって、
初めて成功しており、現象の予測可能性への期待
も高まっている。高解像度海洋大循環モデルを用
この体制が実現したと言える。
第二に、10月に生態系変動予測研究領域が発足
いた研究としては、海洋科学技術センターの海洋ブ
した事である。これによって、大気・海洋・陸地面
イにより初めて捉えられたインドネシア海域の40日
にまたがる地球表層部の物理的、化学的、生物的
周期変動の再現に成功している。また昨年度に引
プロセスによって 生じる地 球 規 模 変 動( G l o b a l
き続き十 年 から 数 十 年 の 気 候 変 動 を 生 む 現 象
Change)
を総合的に理解し、予測モデルを作ること
(Decadal/Interdecadal Climate Events; DICE)
の解明
に力を注ぎ、北太平洋のDICEの発現機構として亜
を目指した研究体制が出来上がった。
これまで対象ごとに別々に研究が進んで来たの
寒帯循環系による水温偏差の移流効果が重要とな
で、総合といっても容易ではないが、ともかく、目標
ることや、アリューシャン低気圧とアイスランド低気
に向けた出発点についたと言える。
圧の経年変動が晩冬に逆相関を示すことなども見
三番目は、11月にスーパーコンピュータの運用が
開始された事である。機種はNECのSX-5で最高演
い出した。また後者の機構を明らかにしたことで国
際的な注目を集めている。
算速度128GFLOPSという大学の大型計算センター
気候変動の研究は高度計算科学の進展と共に、
に匹敵する能力を持っている。気象研究所、東京
大学気候センターでも昨年3月に計算機の更新があ
その地域へのインパクト、いいかえればグローバル
り、日本の気候・環境のモデリング・コミュニティー
な変動の地域デリバティブ現象の詳細な解明に向
では計算機資源がほぼ一桁増大した。さらに2年後
かっていると言ってもよい。そこで本領域ではモデ
には、地球シミュレーターというその時世界最大と
ルグループのなかに特別に沿海予測可能性実験班
なる並列計算機が完成する。現在、気候モデルは、
(Japan Coastal Ocean Predictability Experiment;
これまでの単なる拡大ではすまされない曲がり角
J-COPE)
も立ち上げている。ここでは水平、鉛直両
にある。また、地球温暖化問題も重要な時期にさ
方向に超高解像度の分解能を持つ入れ子モデルを
しかかり、より確かで詳しい予測が求められている。
導入することによって日本南岸の渦の西進をはじめ、
この重要な時期に世界最良の計算機環境を与えら
かなり現実に近い海況を再現することに成功してい
れる地球フロンティアとその仲間の責任は重大であ
る。加えて開発中の次世代双方向入れ子モデルは
る。日本の気候研究コミュニティーはアメリカやヨー
紀伊半島の<振り分け潮>なる微細現象さえも初
─ 89 ─
めて再現することができたのは特筆すべきである。
い相関が見られることが明らかとなった。
チベット高原は夏季に、地表面からの顕熱・潜熱
大気海洋結合モデルの立ち上げにも力を注いだ
と対流活動を通して、大きな大気加熱を促進し、ア
結 果 、プ ロセス 研 究 用 の 新し い 大 気 モ デル に
ジアモンスーンにおける熱源として重要な役割を果
MOM3を結合する作業が進みつつあり、平成12年
たしていることが指摘されている。
度の早い段階で各種の実験を行えるまでになった。
予測可能性研究グループは予測可能性に深くかか
陸面水循環過程.グループでは、熱帯圏森林の
わる流れの安定性条件についての新しい知見を得
熱・水・CO 2 交換過程を記述するモデルの提示と
るとともに、地球気候系の散逸特性についての基礎
LAI(葉面積指数)
の感度実験を行った。LAI が3よ
研究や将来の予測可能性実験に備えてNJR大気モ
り大きな場合には、光合成や蒸散には大きな影響
デルの長期積分を温暖化、モデル統合化領域と協
がないが、樹冠遮断蒸発には影響が大きいことが
力して行っている。
判明した。
寒冷圏では、既に東シベリア、レナ河域を対象に
2)水循環予測研究領域
して Penman-Monteith 式に基づく Big-Leafモデル
広域水循環グループでは、ECMWF(ヨーロッパ
を適用して積雪・融雪・蒸発・活動層変化を再現で
中期予報センター)作成の15年再解析データにより、
きる1次元モデルを完成させ、一方では、全球河道
世界の各大陸域、海洋域における降水量、水蒸気
網データを作成し、ISLSCP データセットに含まれる
収束量、および蒸発散量の季節変化と年々変動の
全球水文気象データを用いて、特に洪水伝搬過程
特性について、全球的な地域比較を系統的に行っ
についての非線形性問題を長江とミシシッピー河を
た。その結果、降水量の季節変化は、熱帯・モンス
例に調べた。
ーン地域では主として水蒸気収束量により決定され
ており、中・高緯度では地表面からの蒸発散量で規
雲降水過程グループでは、雲凝結核から雲粒が
定されていることが明らかとなった。また、西部熱
形成される過程を、数値拡散を抑えた厳密な数値
帯太平洋・南シナ海などの暖水海洋上では、収束
計算を行った。その結果、凝結核が増加すると雲
量変動と蒸発量変動とのあいだに正のフィードバッ
粒の数密度が増加する、いわゆる Twomey の関係
クが存在しているが、ベンガル湾や大部分の大陸
式は、上昇流が小さい場合には過大評価になるこ
上では負のフィードバックが卓越しているという、大
とを明らかにした。また、この手法を用いて、雲凝
気・海洋(陸面)間の水循環からみた相互作用に、
結核が層状性の雲の光学的特性に及ぼす効果をモ
明瞭な違いのあることが示唆された。
デル化した。
さらに、1988年7月17日に九州で観測されたクラ
ユーラシア大陸での植生指数の季節変化を植生
帯ごとに詳しく調べた結果、
この指数の季節変化は、
ウドクラスターの事例について、3種類の雲解像モ
気温・降水量などの気候要素の関数であるが、植
デル(ARPS, MM5, MRI-NHM)を使ってシミュレー
生ごとのフェノロジーにより、その関数型は大きく異
ションを行い、モデル比較を行った。その結果、モ
なっていることが明らかになった。これらの結果は、
デルで再現された雲システムの振る舞いは、当初考
気候モデルにおいて植生帯ごとの熱・水収支特性
えていた以上に、計算の初期値の与え方で大きく
を考慮した陸面・植生パラメタリゼーションの必要
変化することが明らかとなった。
を示唆している。
3)地球温暖化予測研究領域
一方、中央アジアやモンゴルなど、冬季に積雪の
ある高緯度乾燥・半乾燥地域(草原)では、冬季の
この領域は温暖化、炭素循環、古気候の三部門
積雪と引き続く夏季の植生指数の年々変動に、高
から構成される。温暖化グループは、温暖化が異
─ 90 ─
全 球 化 学 輸 送 モ デ リンググ ル ー プ で は 、
常気象に及ぼす影響を、また古気候グループは最
終氷期の大陸氷床の質量収支等について、興味深
CCSR/NIES大気大循環モデル・対流圏光化学結合
い成果を得ている。炭素循環グループは、海洋炭
モデルによるオゾンの動態解析を行い、世界各地
素循環モデルの最も重要な構成要素の一つである
の観測地点における境界層内および自由対流圏オ
生物ポンプモデルの根本的改良に着手した。
ゾンの濃度の季節変化を良く再現することができ
温暖化研究グループでは、地球シミュレーターに
た。また、UCI CTMモデルによるオゾンの大陸間長
役立てるために、東大 CCSRのモデルをもとに開発
距離輸送による収支を解明するため輸送に伴う光
されたNJR 大気大循環モデルの解像度を上げてテ
化学生成・消滅プロセスの検討を開始した。
ストを行った。大気重力波による運動量の垂直輸
さらに、海洋境界層におけるハロゲンの放出と再
送のパラメタリゼーションの調節を行い、気候のよ
生連鎖反応を考慮した化学反応モデルを開発した。
りよいシミュレーションに成功した。
地域スケール化学輸送モデリンググループでは、
また、モデル統合化領域と密接な協力のもとに、
米国海洋気象局地球流体力学研究所(GFDL)の
次世代対流圏物質輸送モデルを用いた対流圏オゾ
MOM 海洋大循環モデルのテストや大気ー海洋ー
ンの動態解析の準備を行い、化学天気図作成のた
陸面結合モデルの開発に着手した。
めの地域スケール化学・気象結合モデル開発およ
び対流圏オゾントレンドと前駆体物質放出量との相
さらに温暖化予測実験としてGFDL/NOAAと協力
関解析の検討を開始した。
して数値実験を行い、温暖化に伴って陸面の土壌
温室効果ガスモデリンググループでは、全球三次
水分がどのように変わるかを調べた。それによると、
地中海周辺、中央アジア、南部カリフォルニア等の
元大気輸送・生態系結合モデル並びに一次元およ
世界の半乾燥地帯において、温暖化に伴い21世紀
び二次元の全球循環モデルの開発に着手した。
後半までには土壌水分が約30%減少する可能性が
エミッションインベントリー・プロジェクトとしては、
大きいことを示した。
対象化学種としてNOX,SO2,CO,CO2,CH4,C2H6,C2H4,
古気候グループでは、東大 CCSR で開発した大
イソプレン、テルペン、VOC, N2O, NH3などを選定
気ー海洋ー陸面結合モデル、高解像度の大気大循
し、3年間で到達すべきプロジェクトの目標を検討し
環モデル等を使って一連の数値実験を行い、北米
た。作成するグリッドの分解能としては全球1°
メッ
大陸氷床の南限を走るジェットストリームに沿った
シュ、東アジア0.5°
メッシュとすることにした。本年
低気圧の通路に豪雪が起こり、氷床の成長に大き
度は既存のデータセットの収集、各種資料の収集な
な影響を及ぼすことを見つけた。
どを行った。
4)大気組成変動予測研究領域
5)生態系変動予測研究領域
本領域は、全球化学輸送モデリンググループ、地
生態系変動予測研究領域は昨年10月に地球フロ
域スケール化学輸送モデリンググループ、温室効果
ンティア研究システムの第6番目の領域として発足し
ガスモデリンググループの3グループが、実質的に
た。研究目標は、生態系の有する機能が温暖化な
本年度から立ち上がった。また領域内プロジェクト
どの地球規模での環境・気候変動にどのような影
としてエミッションインベントリー・プロジェクトが本
響を与えているのか、逆に、地球規模での環境・気
年度から開始された。本年度は既存のデータセッ
候変動が生態系にどのような影響を与えるのか、そ
トの収集と共に、来年度以降のグリットデータセッ
の機構を解明し、モデル化することである。
トの作成方針を確定した。
─ 91 ─
長い歴史の中で局所的、地域的なテーマと考え
ら百年スケールでの変動と海洋表層の物理的環境
られていた陸域、海洋における生態系の変動過程
場の変動を、既存の海洋データ及び衛星データの
が、温暖化などの地球規模での気候・環境の変動
複合的な解析からモデル化することを目指す。
と密接な関係を有していることが近年の観測やモ
デルの研究から明らかになりつつある。しかしなが
6)
モデル統合化領域
ら、その関係や変動の機構は必ずしも解明されて
モデル統合化領域では、各領域での成果の集成
はいない。生態系、特に陸域生態系は、植生、土
として次の時代に活躍するモデル「次世代気候モデ
壌、水などの構成要素の分布が地域的/局所的か
ル」の開発を目的とする。
つ非均一である上に、要素が複雑に絡み合ってい
地球シミュレーター計画では、これまでの経験と
てその機構を明確にモデル化する事が難しく、
大気、
海洋などに較べその観測、モデル化が遅れている
目指す計算能力から水平格子間隔10kmメッシは大
のが実状である。例えば、一昨年末に京都で開催
変難しいことが認識されている。鉛直方向のエネ
された地球温暖化条約締約国会議(通称 COP-3)
ルギー輸送を担う対流雲をパラメタライズするとい
では、先進国において温暖化ガスの排出量を削減
う考えが不適切になること、かと言って対流雲をも
する数値目標が定められ、同時に、各国の削減量を
モデルで直接表現するにはメッシュが粗すぎるから
評価するに際して、陸域生態系による温暖化ガスの
である。
以上の理由で「次世代モデル」
として次の方向で
吸収量を加えることが合意されたが、現時点では
生態系による温暖化ガスの吸収、放出の機構は明
開発を進めることとしている。
らかとなっておらず、このために、生態系による温暖
(a)
スペクトル大気モデルと高解像度海洋モデル、
化ガスの放出量、吸収量をどのように計測するのか、
およびそれを結合したモデル
その方法も定まっていない。
前述の事情から大気モデルの高解像度化はすぐ
本研究領域は、上記の背景のもとに、気候・環境変
に着手できない。一方、地球フロンティアへの期待
動に係わる生態系の構造と機能の解明を目指して、
として現在よりも解像度を少し高めた大気・海洋結
a. 生態系ー大気系の相互作用に関する研究
合モデルの開発、およびそれを用いた地球温暖化
b. 生態系アーキテクチャの動機に関する研究
予測がある。これに応えるため、T213 スペクトル大
c. 生態系地理分布の動態に関する研究
気モデル(相当するメッシュサイズは60km程度)、水
d. 海洋生物過程変動に関する研究
平格子間隔0.1°の渦を含む高解像度海洋モデルを
の4課題を設定し、研究を開始した。最終的な出
開発し、それを結合して大気ー海洋ー陸面モデル
力はモデルである。
を作る。これはCO2 が徐々に増加していく時の長期
具体的には、アジア・太平洋地域を対象として、
陸域においては、幅広い気候帯での生物種の分布
(100年以上)
にわたる全球気候変化の実験に用い
ることを念頭において開発する。
や生物現存量、一次生産量など生態系の基本的な
(b)水平解像度5km程度の全球大気+陸面モデル
パラメータの現状を把握するとともに、生態系ー大
の開発
気系における物質の循環機構や要素間相互作用等
地球シミュレーターでは10km程度でないと全球
の機構を解明する。さらに、生態系が長期的にどの
での長期積分ができないかもしれないが、いずれ
ように変動するか数十年から百年スケールでの動
5km以下のメッシュの全球大気モデルが可能と予想
態機構の解明とそのモデル化を行う。また、海洋に
されるので、その段階において可能となる、対流雲
おいては海洋の物質循環に大きな役割を果たして
を直接表現する大気モデルを目指して基礎研究を
いる海洋表層の生物群集の構造と機能の数十年か
進める。前述の観点から熱帯域を対象として、沢山
─ 92 ─
のクラウドクラスターが自然に生成・消滅を繰り返
究交流がなされ、ワークショップやシンポジウムは主
し、その中から台風が発生・発達する状態をシミュ
なも の だ け で も CLIVAR-Monsoon パ ネ ル 、
レートできるようにすることを第一歩とする。
GEWEX パネル、日米観測ワークショップ、赤道理論
一方、高解像度化にともない、現在広く使われて
研究パネルが行われた。また、昨年は15名の研究
いるスペクトル法が計算量の観点で不適当となり、
者が1週間から3ヶ月の滞在をし、研究交流を大きく
格子法(差分)
に戻る必要がある。しかし、メッシュ
進めることができた。
サイズを一様に保って球面を格子に切ることは不可
能である。そこで70年代に試みられ、その後かえり
8)国際北極圏研究センター(IARC)
見られなくなった正6面体、正20面体から出発する
全球気候変動における北極域の役割を明らかに
すると同時に、温暖化などの地球変動が起こる過
格子法を再検討し全球モデルの準備を行う。
程で北極域に顕著にあらわれる影響を予測するこ
7)国際太平洋研究センター
(IPRC)
とを目標に研究を行っている。
国際太平洋研究センターはアジア・太平洋域にお
ける気候変動のメカニズムを解明し予測可能性を
海洋・海氷システムの研究としては、北極海の海
明らかにすること、温暖化など地球規模環境変化に
氷と海洋に関する重要なプロセスを解明するため
対する地域的特性を明らかにすることを目標とした、
に、以下のモデルを作成し物理プロセスの解明を
日米共同プロジェクトである。研究課題は、インド
進めた。
洋・太平洋気候の研究、地域的海洋変動の予測可
( a )海氷内部応力が等方でない場合でも表現で
能性およびアジア・オーストラリアモンスーンの研究
きるモデルを作成し、海氷の変形箇所が対
等である。
角線状に伝ぱんする様子を再現した。
(b)海氷熱力学モデル:海氷のさまざまな状態、
インド洋・太平洋の気候研究では、比較的簡便な
たとえばフラジルとよばれる生成して間もない
大気海洋結合モデルを用いた太平洋・インド洋域
氷や、雪から変形した氷なども含めて表現で
の海洋性気候問題を研究するため、インド洋を含
きるモデルを作成した。GCM においてその
むモデルを作成している。また、太平洋の表層・中
効果を調べている。
層循環のメカニズムを解明するためモデルを用い
( c )非静水圧海洋モデル:鉛直水平方向とも解像
た再現実験を行っている。地域的海洋変動の予測
度の高い、鉛直モード展開をふくむ水平方向
可能性の研究では、高解像度モデルおよびデータ
有限要素法を用いたモデルを作成し検証中
解析、データ同化の手法を用いて主に西太平洋に
である。
また、海洋小規模混合プロセスの解明を目的に、
注目して、特に、亜熱帯・亜寒帯循環の交差路であ
る黒潮・親潮及び続流域と、熱帯・亜熱帯循環の交
水温塩分データの解析を進めた。水温と塩分の拡
差路であるフィリピン海、南支那海、太平洋・インド
散係数が異なることに起因する二重混合を、北極海
洋間の通路であるインドネシア通過流を具体的に
陸棚縁で発見した。
テーマとして選び、これら境界流の変動の予測可能
大気・放射平衡システムの研究としては、北極の
性や大循環間の海水交換に及ぼす役割などを研究
雲が変動し熱バランスに重要な寄与をしていること
してきた。
アジアーオーストラリア・モンスーンの研究では、モ
を、北極海中央部のブイ観測データにもとづいて示
ンスーンとエルニーニョの関係や、モンスーンの十年
すことができた。これは最近の気候変動の理解に
規模変動などに関する研究など成果をあげてきた。
大きな貢献をしていくはずである。
また、ハワイという地の利を生かして、活発に研
─ 93 ─
北極振動(AO)
と呼ばれる10年周期変動にかか
わっている大気力学プロセスについて、大気モデル
を駆使し大気内部モードが基礎になっていることを
示した。
大気・海洋結合システムの研究としては、気候変
動の記述と解明をめざして過去のデータを解析し
た。最近30年の海氷減少が雲による熱バランスの
変化によって引き起こされたことを示した。さらに
近年注目されているAOに対応して、海氷の変動も
顕著であることがわかった。太平洋の50年周期程
度の長期変動が、20年周期変動と同期していわゆ
るレジーム・シフトを起こしている可能性を示した。
大気海洋結合モデルの中でも現実の変動に似た
現象が発見されている。この解析を進め、陸域雪
氷面積の多寡が太平洋・大西洋の変動と相関して
いることがわかり、これに注目してデータ解析を遂
行する指針をあたえた。
─ 94 ─
2)水循環観測研究領域
9.地球観測フロンティア研究システム
「広域大気水循環」、
「陸域水循環及び陸域・大気
相互作用」、
「雲・降水過程」の3つのグループで構
(1)研究活動の概要
成する。本年度は、中期観測研究計画を策定する
地球観測フロンティア研究システムは、地球シミュ
とともに、研究者の公募、観測機材の整備等を主に
レータの開発、地球フロンティア研究システム
(モデ
実施した。このうち、シベリア永久凍土帯のレナ川
ル研究)
と三位一体の取り組みにより地球変動予測
中流域であるロシアのヤクーツクでは、タイガ
(森林)
、
の実現、地球温暖化防止への貢献を目指すため、
アラス
(草原)等の混在する広域の水・熱フラックス
平成11年8月に発足した。
を評価するための航空機・ゾンデ等の観測につい
地球シュミレータに向けた次世代の高解像度全球
統合モデルを開発するうえで、広域又は数年にわた
て、ロシア高層気象観測所(CAO)
と実施取り決め
を締結し、ロシア航空機の改造等の準備を行った。
る観測データ、若しくは、モデルの高解像度化に対応
3)国際北極圏研究センター
(IARC)
における観測
した高精度な観測データの不足が強く指摘されてい
研究
る。これらの観測空白域を埋めるには、既存の観測
研究プロジェクト、内外の研究機関と協力し、既存の
「海洋・海氷・大気結合系」及び「複合分野」の2
観測施設等を積極的に活用しつつ、機動的かつ集
グループで構成する。本年度は、中期観測研究計
中的に観測研究を行う新たな枠組みが必要である。
画の策定、研究者の公募、9月の「みらい」における
観測フロンティアは、優秀な研究指導者のリーダ
北極観測とともに、特に生物化学分析環境の充実を
ーシップのもと、流動研究員制度と関係省庁・国
図るため、安定同位体質量分析計(IR-MS)
、ガスマ
研・大学・民間等の枠組みを越えた広範な協力体
ススペクトロメータ
(GC-MS)等の機器を整備した。
制、並びに、観測技術員、研究推進スタッフの活用
によって、時間的・空間的スケールの大きな気候変
動現象の解明、モデル研究に必要なグローバルな
観測データの取得、データ同化のための全球的観
測システムの構築への貢献等を目指した観測研究
に取り組むものである。
(2)主な研究活動の内容
1)気候変動観測研究領域
「熱帯西太平洋・インド洋の大気・海洋相互作
用」、
「亜表層・中層の海洋変動」、
「日本沿海予測実
験(黒潮)」の3つのグループで構成する。初年度で
ある本年度は、中期観測計画を策定するとともに、
研究者の公募・採用、共同研究の締結、観測機材
の整備等を進めた。現地観測については、12年3月
に中層漂流フロート
(プロファイル・フロート)
を黒潮続
流域南方に投入するとともに、水産庁遠洋水産研究
所、気象庁との共同研究により、ボランティア船によ
るインド洋、西太平洋におけるXBT観測を開始した。
─ 95 ─
10.深海地球ドリリング計画準備室
(1)深海地球ドリリング計画の概要
深海地球ドリリング計画は、世界最高の科学掘削
能力を持つ地球深部探査船を建造、運用すること
により、気候変動や地震などの地球変動メカニズム
の解明、未知の地下生命圏やガス・ハイドレートの
探索などを行い、新しい地球・生命科学の創成と
その統合的な理解を目指している。
現在21ヶ国の国際協力のもと、米国の科学掘削
船ジョイデス・レゾリューション号(JR号)
を用いて国
際深海掘削計画(ODP)が進められている。深海地
球ドリリング計画は、このJR号の技術的限界を超え
る能力を持つ地球深部探査船を日本が開発し、そ
れを米国の従来型掘削船と相互補完しつつ国際的
に運用し、両船によって得られた掘削コア試料及び
掘削孔を利用した地球科学及び生命科学研究を推
進しようとするものである。現行ODPは平成15年9
月末に終了することとなっているが、それ以降につ
図1
地球深部探査船システムの概要
いては、地球深部探査船を含む上記の二船体制に
よる統合国際深海掘削計画(IODP)
を発足させる
本システムによって得られるさまざまなデータに基
ために国際的な作業が進められている。
深海地球ドリリング計画推進本部では地球深部
づき、環境変動や海水変動等の地球環境変動に関
探査船の建造とそれに関連する技術開発、地球深
する研究、地震発生帯での破壊プロセスの解明、
部探査船の運用体制の検討、
国内研究体制の整備、
人類未到のマントルまでの掘削によるマントル物質
国際推進体制の整備等を実施している。
の解明、地殻内の生物の探索と研究等が推進され
る。これらの研究を通して、地球科学と生命科学に
飛躍的な発展がもたらされる。
(2)地球深部探査技術の開発
これらの研究を遂行するためには、炭化水素存在
1)地球深部探査船の建造
域を含む不安定地層からの良好な試料採取、地震
期間:平成2年度から
断層や上部マントルに達する大深度掘削、安定した
地球深部探査船システム
(図1参照)
は、海底から
掘削孔による長期観測などが求められるが、現行の
鉛直方向下向きに掘削し、その掘削孔から堆積岩
ライザーレスの科学目的掘削船では、その掘削手法
や火成岩等の地層試料を採取するとともに、掘削孔
による制限から、石油やガス存在域を掘ることはで
内で各種の物理的・化学的計測、地震波等地球深
きず、掘削深度やコア回収率の面での課題が多い。
部の現況を表すデータの収集・調査等を行うことに
そこで、本システムの開発研究は平成2年度より
より、地球温暖化、地震、生命の起源といった人類
開始し、システムの中核をなすライザー関連技術及
の課題に貢献するためのシステムである。
び自動船位保持システム
(DPS)等について、十分な
信頼性を確保するために検討を重ね(図2参照)、
─ 96 ─
過酷な気象・海象条件下において大水深の海域
考慮した区画配置とした。
で、具体的には、有義波高4.5mまでの海象条件下
・DGPS(Differential Global Positioning System:
で、水深2,500m(将来的には水深4,000m)の深海域
差分型地球的衛星測位システム)
による位置制
を海底下7,000mまで掘り抜くことを可能とした。
御に加え、ライザー傾角制御も行えるDPSを採
用した。なお、ライザー傾角によるDPSは、世
界初である。
・陸地から離れた場所での稼働を考慮し、十分
なバリアブルロードを確保した。
・海洋汚染防止対策として、カッティングス、廃棄泥
水など掘削作業場所で発生する特有の廃棄物
を海洋投棄せず、船内貯蔵可能とした。また、将
来の掘削廃棄物処理装置の搭載スペースを確
保している。
(処理装置については現在開発中)
・世界のあらゆる海域での稼働を考慮し、ライザ
ーハングオフ
(船からライザーを吊り下げた状態
図2 ライザー傾角制御DPS試験
で荒天をやり過ごす方法)の海象条件はBMT
(British Maritime Technology)のGlobal Wave
平成11年度は、地球深部探査船の基本設計に着
Statistics(世界的な波浪統計に基づく波周期と
手し、平成12年2月28日に基本設計を終了し(図3参
波高の関係)を調査検討しWorld Wide Sea
照)、その後、平成12年3月27日に三菱重工業(株)
と
State(世界的な海象条件)
を設定し、すべての
本船の建造契約を締結した。
波周期において同Sea Stateから求まる波高に
地球深部探査船の基本設計仕様の特徴は以下
の通りである。
耐えうるライザーシステムを設計した。
・掘削作業の効率化のため、最新の技術開発の
・掘削作業、研究調査活動及び快適な居住性を
図3
成果を取り入れた。
地球深部探査船の側面図
─ 97 ─
2)海底掘削システム試験機の製作
に、基本設計および詳細設計を実施した。
期間:平成10年度から
・ショックアブソーバー
「海底掘削システム試験器の製作」は、
「特殊試料
ツール内のスプリングによって掘削作業時に生じ
採取システムの製作」
と
「掘削孔利用システムの開発」
る振動を吸収し、掘削をスムーズに行うことによっ
で構成される。
て掘進率を向上させる。
・ジャー
( a )特殊試料採取システムの製作
孔内で抑留されたパイプ等を衝撃を与えて自由
「特殊試料採取システム」は、現在、基本設計中
にするために使用する。
の地球深部探査船に装備され、大深度の海底下地
・オーバーショット
層を掘削し試料を採取するシステムである。本シス
主に掘削中の孔内に遺留したドリルパイプ等を
テムは大きく分けて、コアバーレル及びコアビット、
採揚(回収)するために使用される。
孔内ツール、高強度ドリルパイプ、ドリルカラー及
・バンパーサブ
びヘビーウォールドリルパイプからなる。
船体のヒーブ(上下動)
を吸収し、ドリルビット等
(i )
コアバーレル及びコアビット:
にかかる荷重を一定に保つことが可能となる。
コアバーレルは、ドリルストリングとコアビットの間
(iii)高強度ドリルパイプ
に取り付けられる。コア
(円柱状試料片)
は、コアビ
現状技術では例のない鋼製パイプ長10,000mの
ットの中央の穴を通過してインナーコアバーレルに
鉛直掘削に耐えうる強度を持つドリルパイプの開発
収納される。
を行っている。本年度は、設計を進める上で必要
コアバーレルにおいては、
な材料試験を行い、最良な材料の選定を行った。
・9-7/8ロータリーコアバーレル
この材料試験の結果をもとに基本設計を実施した。
・ピストン式コアバーレル
(iv)
ドリルカラー、ヘビーウォールドリルパイプ
・伸縮式コアバーレル
ヘビーウォールドリルパイプは、ドリルストリングの
・小径ロータリーコアバーレル
上部に使用され、船体動揺による曲げ応力と引張
コアビットにおいては、
荷重との組み合わせによる応力変動を受けやすく
・PDC
(Polycrystalline Diamond Compact:多結晶
疲労による損傷を起こす恐れのある重要なパイプ
質焼結ダイアモンド)
コアビット
である。また、ドリルカラーは、コアビットに掘削荷
・ダイアモンドコアビット
重を加えるためにドリルパイプとコアバーレルの間
の開発を進めている。
に挟んで使用され、特別に管肉が厚く重いパイプ
本年度は、ODPから提供された設計図をもとに、
である。
採取されるコアの品質と回収率の向上を目指して、
基本設計を中心に実施した。
本年度は、想定される荷重変動をもとに構造解
析を行い、年度末までに基本設計を終了させた。
(ii)孔内ツール
孔内ツールは、その使用目的等によって、抑留
(b)掘削孔利用システム試験機の開発
(孔内でドリルパイプ等が動かなくなること)や遺留
DSDP(Deep Sea Drilling Project)、ODP(Ocean
物の回収、拡掘(孔径を大きくすること)及びその他
Drilling Program)
による掘削孔は単にコアをサンプ
特殊な用途に使用される。地球深部探査船で用い
リングした後の残骸で終わるのではなく、貴重な科
られるものは、石油掘削業界で使用されているもの
学的遺産として十分に有効利用されなければなら
とは違い、極めて肉薄になるため、新たな開発が
ない。例えば、よりS/N比のよい状態で地震波を検
必要となる。
出するためには地核内の岩盤層に地震計を設置す
本年度は、昨年度の基本コンセプトの検討をもと
ることが望ましく、また、地核内物質循環、地下生物
─ 98 ─
圏を解明するためには海底下からの情報収集が必
要であり、これらの科学目的を達成する上で、孔内
深部に機器を設置した長期観測が非常に有効な手
段となる。
孔内に機器を設置する手法として、まず、掘削船
による運用が挙げられる。掘削船を用いれば重量
物のハンドリング、リエントリオペレーションが容易
となるが、掘削船による機器設置回収の運用頻度
を増大させるということは、掘削船本来の役目、つ
まりドリリング、コアリングの稼働率を著しく低下さ
せてしまうことにつながり、現実的な運用計画とは
いえない。そこで、掘削船に頼らない孔内観測技
術が必要となる。
これを目的にJAMSTECでは平成10年より3カ年
計画で掘削孔利用システム試験機の開発をすすめ
ている。本試験機は船上システム、アクティブランチ
ャー、観測ステーション、孔内センサ等から構成さ
れており、深海調査研究船「かいれい」
(10,000m級
図4
無人機「かいこう」母船)
に搭載され、アクティブラン
掘削孔利用システム試験機の概要図
チャーによって掘削孔内に観測ステーションを設置
する。計測は、光ファイバを介して船上でリアルタイ
ムに計測するモード(2日間程度)
と、無人で長期の
3)
ライザー管に関する模型実験及び挙動解析
観測を行うモードがある。船上のウインチ、ヒーブコ
期間:平成10年度から平成11年度
ンペンセータ、1次ケーブル(ケブラー鎧装光/電気
地球深部探査船における重要技術としてライザー
複合ケーブル)、着揚収装置、移動台車などについ
掘削技術がある。ライザーとは、船と海底に設置し
ては「かいこう」の設備を流用する。本計画の概要
た石油やガスの噴出防止装置とを結ぶ大口径(約
を図4に示す。
500mm)の鋼製パイプである。この中を掘削用ドリ
本開発における技術課題としては、
(i)
リエントリ
ルパイプを通して掘削する。
ーコーンの迅速な発見、
(ii)
リエントリーコーン上で
大水深でのライザー掘削は、ライザー強度の観点
の安定したホバリング性能(水中浮揚性能)、
(iii)水
から非常に厳しい状態となる。ライザー掘削水深目
中機器のヒービング補正、
(iv)観測ステーションをリ
標は2,500mだが、このような大水深でのライザー掘
エントリーコーンに合体するする際の低衝撃性、
(v)
削は、世界の海洋石油掘削においても数例しか行
データ伝送における高信頼性、
(vi)
システムの小型
われていない。また、ライザーの強度評価はコンピ
軽量化、
(vii)観測ステーション回収における高信頼
ュータを利用し、数値解析が行われているが、実験
性、などが挙げられる。今年度はこれら技術課題
データとの比較はほとんどされていない。本研究は
を含めた図面検討を行い、全体システムを構築す
100分の1程度のライザー模型を用いた実験を行
るとともに、部品製作に必要となる設計を完了した。
い、実験データにより数値解析結果を検証し、ライ
ザー設計手法の確立を目的とする。
本年度は、昨年度に設計製作したライザー模型
および実験システムを用い、9月と12月の2回にわた
─ 99 ─
って蛇尾川ダム
(東京電力(株)塩原発電所)
で実験
(3)地球深部探査船の運用業務
を行った。
(図5参照)実験は計測用アルミフレームに
取り付けたテレビカメラでライザー模型の水中での挙
1)
ライザー掘削のための事前調査
動を観察するものである。結果として、ダム風、ダム内
地球深部探査船は炭化水素賦存層、複雑な地下
水流等の外乱影響により十分に安定した実験を行う
構造における大深度掘削など、現行ODPでは不可
ことができなかったが、いくつかのデータからは模型
能であった掘削地点にその科学目標が設定される。
の共振点近傍の挙動を確認することができた。
そのような地点で安全かつ効率的な掘削作業を行
なうには掘削地点の環境データ、すなわち、気象海
象、海底地形、地下構造などを把握する事前調査
が不可欠である。とりわけ、掘削作業遂行に重大な
障害となる、海底面下にひそむハザードを事前調
査によって可能なかぎり予測し、その対応策を掘削
作業計画に盛り込むことで、安全且つ効率的な掘
削が可能となる。
平成11年度は「ライザー掘削のための事前調査
要件に関する調査」を実施し、深海掘削に見られる
様々な掘削ハザードの調査を国内外に展開して、
それらの発生・潜在メカニズムを調査し、掘削孔や
掘削船、環境などに及ぼす影響とその規模、危険
度を評価できた。同時に深海掘削ハザードの探査
に必要な調査機器・手法に関する調査を行ない、
ライザー掘削のための事前調査要求項目基準案を
作成した。
2)慣熟訓練計画の立案に関する調査検討
地球深部探査船運航に係る慣熟訓練は国際運航
移行(平成18年度から開始予定)
のための重要な準
備項目として位置づけられており、国内はもとよりI
ODP関連の各国際委員会にも提言され、その必要
性は国際的な認知を得ている。
地球深部探査船の運航は国際的な費用分担が
前提であり、質の高い慣熟訓練を通して運航や科
図5
蛇尾川ダム実験風景
学サービス等に関し、国際的な要望を満足させる
体制を整えることが極めて重要である。そのため
には、地球深部探査船の検収引き渡し完了後、掘
削作業を伴う慣熟訓練を行い、センター及び運航
関連組織の安全かつ効率的な地球深部探査船運
航能力と研究面における科学支援能力を一層高め
ておくことが必要である。
平成11年度の調査検討は、地球深部探査船運航
─ 100 ─
に関しては訓練期間約1.5年間を想定し、
( 1)慣熟
ーの発行(創刊号∼第3号)、OD21プロモーション
訓練で実施すべき作業・訓練カリキュラム項目の抽
キャンペーン等の活動を行った。OD21プロモーシ
出(2)
ライザー、ライザーレスの両作業モードで様々
ョンキャンペーンについては平成11年度は9大学で
な水深や作業環境で実施していく慣熟訓練実施計
実施し、500人以上の学生/研究者に対し、直接、
画の基本案の作成を行なった。
深海地球ドリリング計画の説明を行なった。これら
また科学サービスについては(1)ODP/TAMU科
の活動を通して、学生/研究者から本計画に対す
学サービスの業務内容実態調査(2)地球深部探査
る熱い期待が寄せられている。また、地球科学/
船運航のための科学サービス組織概要案作成(3)
生命科学分野の研究者から深海掘削に関する要望
地球深部探査船運航のための科学サービス要員訓
やニーズを把握するために2回のアンケート調査(7
練カリキュラム概要案の作成を行なった。
月と1月)
を実施した。
(4)深海地球ドリリング計画の推進
2)国際推進体制の整備
海洋科学技術センターは、地球深部探査船を中
1)国内研究体制の整備
心とした深海地球ドリリング計画と、現在米国を中
深海地球ドリリング計画推進本部では、地球深部
心に行なわれている国際深海掘削計画(ODP)
を統
探査船を中心とした深海地球ドリリング計画推進の
合し、日本のライザー掘削船と米国のライザーレス
ために、国内の関係省庁、大学、関係研究機関等
掘削船の2船体制を軸とした日米主導による新しい
と連携・協力しつつ、地球深部探査船の開発体制
統合国際深海掘削計画(IODP)
を平成15年10月か
及び運用体制、並びに、地球深部探査船を利用し
ら開始するため、国際ワーキンググループ(IWG)、
た研究体制の構築を行っている。深海地球ドリリン
IODP計画検討委員会(IPSC)
をはじめ、様々な活動
グ計画準備室は東京大学海洋研究所と共同で、
を通して、関係各国との連携・協力・実施体制を構
IODP国内連絡委員会の事務局として各種活動の支
築している。IODPへ参加する意向を示している
援を行なっている。
国/国際機関は、平成11年度末現在、日本、米国の
IODP国内連絡委員会は、深海地球ドリリング計
ほかに、英国、ドイツ、フランス、EU、カナダ、中国及
画に対する地球科学及び関連分野の研究者や専門
び欧州コンソーシアム
(構成国:ベルギー、デンマー
家の意見・要望を集約、検討して、これを本計画に
ク、フィンランド、アイスランド、オランダ、ノルウェー、
反映させるための国内委員会として、平成10年4月
ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、アイル
の第1回開催以来、活動を続けている。平成11年
ランド、イタリア)
となっている。
度は引き続き第5回(6月12日)、第6回(10月8日)、第
IWGはIODPの実現を目指して検討を行う科学政
7回(2月3日)
を開催した。IODP国内連絡委員会に
策担当機関の代表からなる委員会で、IODPの科学
は、専門的事項を検討するための専門部会があり、
計画立案の推進と、実施に関する技術、組織、資金
平成11年度は研究推進専門部会、船上研究設備専
等の課題についての検討を行っている。昨年11月
門部会に加え、新たに陸上施設検討専門部会を設
に日米共同で設立されたIWGサポートオフィス
(米国
置し、深海地球ドリリング計画の中核的研究拠点と
ワシントン)にセンターから職員を派遣し、IWG、
しての陸上施設に必要な機能等の検討を行った。
IPSCにおける活動を支援している。
また、米国が提供する掘削船の概念設計に関する
IODP計画検討委員会は、IODPの科学、技術、運
レポートについて、ワーキンググループを設置し国
用計画について、総合的見地から検討を加える国際
内の意見の取りまとめを行った。
委員会であり、深海地球ドリリング計画推進本部で
この他、国内の研究者への深海地球ドリリング計
画(OD21)の普及を目的として、OD21ニュースレタ
は、本委員会への委員の派遣や委員会での活動に
より、IODPへの日本の意向の反映をはかっている。
─ 101 ─
第3章 研究支援活動
1.情報管理室
コンピュータを用いた各種データ解析処理に
関すること
先端的計算機技術の調査に関すること
(1)業務の概要
情報管理室は平成10年度より情報室と数理解析
(2)情報業務
技術室の2室が統合され、情報管理室として再編成
された組織である。これはセンターの研究成果の
1)図書・逐次刊行物等の収集・管理・提供
効果的な普及のため、出版物、Webによる活動紹
海洋関連の図書・雑誌・技術レポート等を幅広
介、観測データの提供等を媒体によらず効率的に
く収集し、分類・整理を行った後保管している。
管理、提供する部門の設置を意図している。その
また、前年度に引き続き情報管理・提供システム
業務は大きくわけて3つあり、まず第1が図書の収
(ILIS/X-EL)への登録を行ない、インターネットを
集管理、出版及び技術相談をおこなう情報業務、
利用した検索が可能な「JAMSTEC所蔵資料検索サ
第2に海洋観測データの処理、品質管理及びデー
ービス」データベースを提供している。
タベースの開発と運用を行うデータ管理業務、そ
また図書運営打合せ会の開催などを通して、利
して第3がパソコンからスーパーコンピュータまで
用者が図書資料を活用しやすい環境作りに努めて
の計算機の運用と研究者への技術支援、またネッ
いる。
トワークの管理、設計を行う数理解析業務である。
組織の特徴としては、研究支援部門及び管理部
表1
門としての機能に加え、インターネット等を利用した
所蔵図書
情報発信技術、そのためのデータ処理技術及び先
種 類
端的計算科学技術に関する研究支援技術の開発を
和 書
10,523 冊
1,020 冊
実現する研究組織を内包していることがあげられる。
洋 書
4,472 冊
434 冊
寄 贈 図 書
488 冊
84 冊
合 計
15,483 冊
1,538 冊
主な業務内容は以下の通りである。
【情報業務】
所
蔵
数
新 規 購 入
海洋科学技術に関する情報の収集、管理、提
供及び保管に関すること
表2
所蔵雑誌
海洋科学技術に関する技術相談に関すること
種 類
刊行物の編集、出版に関すること
和
雑
誌
559 種
35 種
洋
雑
誌
273 種
11 種
合 計
832 種
46 種
【データ管理業務】
海洋観測データの補正、精度向上等品質管理
所
蔵
数
新 規 購 読
技術に関すること
各種海洋観測データのデータベース開発及び
運用に関すること
表3
種
センター関係出版物
類
新
規
刊
観測データの数値解析処理、加工及び保管に
定
物
28 種
関すること
委 託 研 究 報 告 書
0種
【数理解析業務】
受 託 研 究 報 告 書
0種
コンピュータシステム及びネットワークの管理
そ
他
7種
運用に関すること
合
計
34 種
─ 102 ─
期
刊
の
行
行
2)内外情報の収集等
イ.IOC刊行物の管理・提供
地球上の広大な面積を占める海洋はそのほとん
政府間海洋学委員会(IOC)は、海洋の自然現象
どが未だ未知の分野であり、海洋に関する研究開
及び海洋資源に関する知識を増進することを目的
発は、従来のように1機関や1国の力だけで遂行で
として設立された機関であり、当センターは1993年
きないことは明らかである。内外の関係機関の協
度から、国内で2番目にIOC刊行物の提供を受ける
力さらには関係国の政府レベルの協力が不可欠と
ことになった。
なっている。またセンターの研究開発及び業務に
関しての情報ニーズも複雑化・多面化してきてい
入手したIOC刊行物の最新情報は、センターニ
ュース「なつしま」に随時掲載している。
るとともに、海洋科学技術に関する情報量も増大し
ロ .IAMSLIC( International Association of
ている。特に研究開発活動が総合的・学際的・国
Aquatic and Marine Science Libraries and Information
際的になりつつある現在においては、内外の情報
Centers:国際陸水海洋科学情報協会)
関係機関との協力関係を維持し海洋関連情報を収
集しておくことが必要である。
IAMSLICは、海洋科学情報の交換等を目的とし
て1975年に設立され、世界38か国、約200機関が加
盟している。当センターは、我が国では唯一の加盟
(a)国内活動
機関で、1993年から参加している。1999年9月にア
イ.我が国における海洋資料に関する連絡会で
ある「海洋資料交換国内連絡会」
(事務局:海上保
メリカのウッズホールで開催された第24回年次総会
に出席し、参加各国との情報交換を行った。
安庁水路部)に参加し、我が国における海洋資料
刊行の現状や国際機関における刊行状況について
ハ . ASFA( Aquatic Science and Fisheries
Abstruct:海洋科学技術に関するデータベース)
の情報を把握した。
ASFAは総合的な海洋科学技術を対象として国
ロ.神奈川県内に所在する企業及び公共機関等
連の4機関(FAOが事務局)が推進している公的な
の資料室の交換会である
「神奈川県資料室研究会」
データベースである。情報管理室では入力機器を
(神資研)に積極的に参加し、情報管理室の運営の
向上に関する最新の情報を把握した。
導入し、
ASFAデータベースの構築に協力している。
当センターでは、
「JAMSTEC深海研究」と「海洋科
ハ.専門図書館の団体である専門図書館協議会
学技術センター試験研究報告」の英文アブストラク
主催による「専門図書館管理者・実務者セミナー」
ト部分をASFAに提供するという形での協力を行
及び総会に参加し、情報管理室の運営の向上に関
っている。
する最新の情報を把握した。
ニ.国際機関・国際研究プログラムに関する情報
国際機関・国際研究プログラムの動向は、今後
(b)国際活動
の海洋科学研究の大きな枠組みを決める重要な情
当面、地球環境問題等の社会ニーズの高まりに
報であると考え、引き続き情報の入手に努めた。
対応して、地球表面の7割を覆い、人類の接近が困
難である海洋の実態を他国間との協力のもとに把
3)各種出版物の編集・刊行
握することが世界的な趨勢となっており、センター
センターにおける研究成果を広く普及させ、併
の研究開発も国際化しつつある。したがって情報
せて海洋に関する知識を啓蒙するために、表4に
管理室としても、このような情勢に鑑み、海洋先進
示す刊行物を編集・刊行した。また、本年度より、
国である欧米の主要国や主要研究機関、並びに国
より迅速にクオリティの高い出版物を刊行できるよ
際機関、国際研究プログラムの動向について、常
うに専門のスタッフと機材
(Macintosh G4)
を整備し、
時把握しておくことが必要であるとの考えに基づ
DTPソフト
(QuarkXPress, PageMaker, Photoshop,
き情報収集活動を展開している。
Illustrator等)
を利用した電子編集を行なっている。
─ 103 ─
表4
センター刊行物
刊 行 物 名
内 容
平成11年度発行
海洋科学技術センター試験研究報告
研究成果を収録した学術論文誌
第40, 41号
JAMSTEC深海研究
深海調査研究成果を収録した学術論文誌
第15, 16号
JAMSTEC深海研究抄録集
上記の要旨(和・英)を収録
JAMSTEC
海洋情報の啓蒙誌
第43, 44, 45, 46号
海洋科学技術センター年報
事業報告
平成10事業年度
JAMSTEC 1998 Annual Report
事業報告(英文年報)
表5
第4号
1998年版
現在使用できる外部データベース
データベース名
概
要
①
JOIS
科学技術に関する文献や研究テーマ情報等(日本語/英語)
②
STN International
200種以上の国際的なデータベースが利用可能(英語)
③
G−SEARCH
国内・国外のデータベースの窓口(日本語/英語)
④
DIALOG
約450のデータベースが利用可能(英語)
⑤
NACSIS
学術研究活動支援のためのデータベース(日本語/英語)
⑥
AIREX
国内機関及びNASAの宇宙文献運用システム(日本語/英語)
⑦
ASFA
水産関係の国際的な文献情報システム(英語)
(c)
カレント情報
4)調査・情報サービス
所内、所外の利用者に対して各種の情報提供を
行い、利用者が資料もしくは情報を有効に活用で
イ.海洋に関する新聞記事情報を毎日
「ニュース
レター」として提供
きるようにしている。
ロ.海洋に関係した新聞記事の索引を「海の新
聞情報」としてホームページ上にて提供
(a)図書・雑誌
ハ.会議・展示会情報をホームページ上にて随
イ.新着図書案内をセンターニュース「なつしま」
時提供
に掲載した。
ニ.IOC刊行物の刊行情報をセンターニュース
ロ.新着雑誌類のコンテンツサービスを、従来
までの紙での提供から電子情報に変更し、オンラ
「なつしま」及び日本海洋学会機関誌「海の研究」
に随時掲載
インでコンテンツを閲覧できるようにしている。
(d)
レファレンスサービス等
(b)内部・外部データベース
イ.所蔵図書・雑誌・資料等のレファレンスサー
イ.
「JAMSTEC所蔵資料検索サービス」データベ
ビスの実施
ースによる図書検索サービスの実施
ロ.海洋科学技術に関する相談窓口として、外部
ロ.所蔵外の文献等の所在案内について外部デ
からの問い合わせに対する相談及び紹介等を実施
ータベース利用による代行検索の実施(表5)
ハ.科学技術振興事業団(JICST)のSDIサービ
5)JAMSTECホームページの運用
スを利用した特定テーマに関する情報提供を月2
回実施
活用した情報発信活動をより推進するため、目的の
ニ.ユーザーによる外部データベースの使用件
数:293件
当該年度において、JAMSTEC ホームページを
情報が容易に閲覧できるように、和文ページ、英文
ページのリニューアルを計画・実施し、一般の
─ 104 ─
方々が興味を持てるような魅力あるホームページ
センター内外の研究者により、46件の学会講演、論
の構築に努めた。また新たに、海に関して問い合
文投稿等が行われた。これらの詳細は、
「MIRAI
せの多い質問を集めたページや、JAMSTEC が保
Data Web」にまとめ、適宜更新するようにした。
有する調査船、潜水船の洋上での活動を納めたム
ービーを作成し、公開した。
更に「みらい」共同利用観測データの品質管理
業務の一環として、公開用データの品質管理及び、
「みらい」に搭載されているCTDセンサー較正の一
(3)データ管理業務
括管理や溶存酸素瓶容量検定履歴の調査等を実
施した。
1)海洋デ−タ管理業務
「かいれい」等に搭載されているマルチナロービ
「海洋科学技術センターにおける観測データの公
ーム測深機による海底地形調査データや重力、磁
開指針」に基づき、
「みらい」をはじめとしたセンタ
力データ等の一括管理を実施し、次項で述べる
ー保有船舶等の海洋観測、深海調査活動により得
「海底地形データベース」に登録する海底地形デー
られた観測データの効率的な管理、公開を実現す
タセットの整備を行った。また、センターの調査航
るため、その品質管理、精度向上等を定常的に実
海計画の策定や漁業調整の支援として、同データ
施することを目的とした「データ管理体制」の整備
の可視化、提供を行う海底地形図作図提供サービ
を平成10年度より実施している。
スと地球物理系観測データの座標データの提供サ
平成11年度は、データ管理体制を強化するため、
人員を4名から6名に増員し、前年度に引き続き、
表1 「みらい」公開デ−タの利用機関
「みらい」共同利用航海の観測データの管理を進め
るとともに、
『「みらい」を利用して取得されるデー
・Ministry of Home Affairs Housing and Environment,
Maldive
タ/サンプル及び成果の取扱い方針』に基づき、
・NODC/NOAA
その観測データを「MIRAI Data Web」
(図1)上にて
・Northern Kentucky University
・University of Bucharest
公開を開始した。
・University of Cambridge
「MIRAI Data Web」のデータダウンロードアクセ
・IPRC/UH,soest
・気象庁
ス件数は、公開後3ヶ月で3000件を越えた。その主
・鶴見精機株式会社
な利用先を表1に示す。また、
「みらい」観測研究の
・三菱マテリアル株式会社
成果としては、既に「成果公表届」が提出されてい
るものについて集計すると、平成11年度末までに
備考;「MIRAI Data Web」上で利用登録のあった機関
図1「MIRAI Data Web」ペ−ジ例
─ 105 ─
図2 「海底地形図等提供依頼ペ−ジ」及び「海底地形図等提供依頼書」
ービス
(図2)
を開始した。
を行っているデータベース。これにより個々のデー
この他、
「Nauru99ワークショップ」に参加し、国
タベースの操作や属性を意識することなく、様々な
際的な海洋ー大気相互作用に関する観測データの
検索を行うことが可能となる。平成12年度末を目
扱い方針についての調査等を行った。
標に開発を進めているが、今年度は詳細設計及び
一部Webインタフェースとグラフ出力機能等の開発
2)データベース開発
を行った。
情報管理室では、当センターで得られたデータを
適切に管理、提供を行うためデータベースの開発
(b)海底地形データベース
を進めている。これらは順次Web化を行いインター
「みらい」
「かいれい」
「よこすか」及び「かいよう」
ネットを介して公開する予定である。また、個々に
に搭載されているマルチナロービーム音響測深機
開発を行ってきたデータベースについて、公開を目
(MNBES)SeaBEAMで得られるた測深データを処
的として横断的に検索、データ提供ができるよう公
理し、得られた海底地形図や鯨瞰図を管理、提供
開用統合型データベースの開発を進めている。
するためのデータベース。Webインタフェースから
現在、運用または開発を行っているデータベー
検索、画面出力ができる。また、JAVA対応及び
スには運航情報データベース、海洋観測データベ
VRML出力が可能なインタフェースの開発を行っ
ース、深海画像データベース、公開用統合型デー
た。図3にデータベースの画面例を示す。
タベース、図書管理用データベース及び海底地形
データベースがある。このうち、本年度において
(c)運航情報データベース
開発または改良を行ったデータベースの概要を以
下に示す。
センターが保有する船舶、潜水調査船、無人探
査機などの運航情報のデータベース。平成8年度
にWeb版の開発を行い、今年度はWebインタフェー
スの改良により操作性の向上を行った。図4にデ
(a)公開用統合型データベース
当センターで保有するデータを1つのインタフェ
ータベースの画面例を示す。
ースで横断的に検索、データ提供ができるよう開発
─ 106 ─
図3 海底地形データベース画面例
図4
(4)数理解析業務
運航情報データベース画面例
これらの目標を達成するためには「プロセス
(基礎
科学)研究」、
「観測研究」及び「シミュレーション研
1)地球シミュレータ
究」が三位一体となってそれぞれの機能のバランス
近年、地球温暖化など地球環境問題が認識され
のとれた研究展開が重要であるとの報告書が作成
ており、その解決を図るために複雑な現象の解明
された。これを踏まえて、平成9年度に「シミュレー
が必要である。また、地球規模の現象がもたらす
ション研究」に不可欠なインフラを整備するプロジェ
局所気象災害や、地殻変動が引き起こす地震など
クトとして「地球シミュレータ計画」がスタートした。
自然災害の被害を最小限に抑えるためにも、先ず
地球シミュレータとは超高速並列計算機システム
自然現象のメカニズムを解明し、地球環境の変動
で、その概念設計、基本設計、要素技術の設計と
を予測することが重要である。
試作、及び詳細設計は宇宙開発事業団と日本原子
その実現に向けて、平成8年7月に科学技術庁の
力研究所(平成9年度は旧動力炉・核燃料開発事業
航空・電子等技術審議会において、地球温暖化予
団)が行っていたが、平成12年3月のシステム製作
測、
気候変動予測等6テーマの戦略目標が設定され、
段階から当センターも参画することとなった。また、
それより1年前の平成11年3月より、当センターは地
球シミュレータ施設・設備の整備を担当することと
なった。地球シミュレータの設置場所として、元神
磁気ディスク
カートリッジテープ
ライブラリシステム
奈川県工業試験場跡地(横浜市金沢区)が選定さ
地球シミュレター本体
計算ノード部
(32筐体)
れ、平成11年10月末に着工した。
総合ネットワーク部
(65筐体)
地球シミュレータの要求性能は、最終的には約
ケーブル配線用
フリーアクセス
65m
10kmのメッシュで大気大循環全球モデルを駆動可
能とすることから決 められ 、理 論 的 最 高 性 能 は
電気室
免震ビット
空調機械室
40TFLOPS以上で、総主記憶容量は10TBとした。1
50m
計算ノードは8GFLOPSのベクトルプロセッサ8個と
図5
地球シミュレータ完成予想図
16GBの共有メモリで構成され、640台の計算ノード
─ 107 ─
図6
地球シミュレータ施設の完成予想図
(手前から研究棟、地球シミュレータ棟、動力棟)
をクロスバネットワークで直接接続される構成とな
スーパーコンピュータシステムは、図7に示すよう
っている。従って、全プロセッサ数は5120(=8x640)
に、SX-4/20 を中心に集合型光磁気ディスク装置、
個となる。小型化、省エネ化により、現在当センタ
高速ディスクアレイ装置、フロントエンドサーバなど
ーで運用中のNEC SX-4/20(設置面積6x7m、消費
が、
伝送速度 800MbpsのHIPPIチャネルで接続され、
電力約55kVA)
3式分が1x1.4mの1筐体に収まり、
またFDDIクロスバースイッチ(GIGAswitch)
を経由
消費電力は約8kVAとなった。
して既存の構内ネットワークに接続されている。
今後の予定は、平成12年度内に施設が完成し、
平成11年11月に米国オレゴン州ポートランドで
13年度からシステムの搬入・据付け・調整を行い、
開催されたSC99(Supercomputing 99)に、当センター
平成14年3月より当センターが運用管理を行う予定
のスーパーコンピュータを使った研究成果等を展示
である。
した。SC99は最新のコンピュータ技術やスーパー
コンピュータによる計算結果を展示、発表する国際
2)
コンピュータシステム
会議並びに展示会で、世界中のコンピュータメーカ
(a)スーパーコンピュータシステム
ーとスーパーコンピュータを利用している研究機関
地球規模の環境問題を科学的に解明するために
などが集まって1988年から毎年1回、開催されてい
は、広大な海洋が果たす役割を解明していくことが
る。スーパーコンピュータを利用している科学技術
重要であり、観測機器による精密観測はもとより、
庁傘下の5機関が「STA HPC Group」
として展示を
数理解析手法による海洋の諸現象の解明及び数値
行い、当センターのブースでは数値シミュレーション
モデルによる変動の予測が不可欠となっている。こ
の結果など海洋科学技術分野におけるスーパーコ
れらの研究を効率よく推進する上では、大容量記憶
ンピュータの利用をパネルやパンフレット、動画像
装置を備えた超高速演算装置が不可欠であり、当
で紹介した。
センターは、平成7年度の認可予算においてスーパ
ーコンピュータの導入が認められ、平成8年3月1日よ
(b)共用計算機システム
り運用を開始している。
当センターでは従来よりOSとしてVMSを利用して
─ 108 ─
スーパーコンピュータ SX-4/20
20CPUs 8GB main memory
40GFLOPS 16GB extended memory
集合型光磁気ディスク装置
1.58TB
テープライブラリ
5.2TB
Alpha Server8400
(Digital UNIX)
1GB memory 460GB disk
SK-4
共用電子計算機
高速ディスクアレイ装置
403.2GB
AlpherServer4000(2node)
(Digital UNIX)
1GB memory×2
1.6TB disk
NEC
HIPPIチャネル
カートリッジ
磁気テープ装置
400GB
AlpherServer4100
(OpenVMS)
1.5GB memory
86GB disk
HIPPI Gateway
DXE6800
GIGAswitch
FDDI
8mmテープ
ライブラリ
560GB
Firewall Gateway
並列コンピュータ
IBM SP (8node)
INTERNET
(IMnet)
1.5Mbps
IBM
IOX
システム制御/
バックアップ用
ONYX
Switch900
IOX
フロントエンド
サーバ用
WWW Server
FDDI
画像処理装置
SGI ONYX 4CPUs
512MB memory
図7
海洋科学技術センターコンピュータシステム図
きたことにより、その上で動作するソフトウェアが数多
く存在している。そのためソフトウエア資産の継承
Alpha)VMSクラスタ環境をAlphaServer4100に更新
Mutsu Branch
Tokyo Branch
の目的で、平成10年9月末にはDEC7620(OpenVMS
64kbps
IARC(Alaska)
IPRC(Hawaii)
IGCR (Tokyo)
128kbps
128kbps
Hamamatsu-cho bldg
して運用を行っている。また、UNIXの演算サーバと
IMnet
Yokosuka Hq
1.5Mbps
してDigital UNIXで動作するAlpha Server 8400が運
64kbps(ISDN)
用されており、この他平成8年度には、分散メモリ型
Domestic
Networks
Shizuoka Branch
並列計算機として8ノード構成のIBM SPが導入され
ている。
図8
ネットワーク接続図
これら共用計算機システムは全センター的に利用
されているもので、電子メール利用のためのユーザ
登録は平成11年度末で約650ユーザとなっている。
FDDIクロスバースイッチ(GIGAswitch)
を中心に、
各建屋間を結ぶ100MbpsのFDDI(光ケーブル)幹線
と、建屋内のイーサネット
(10base-T/100base-TX)の
3)ネットワーク
支線LANとから成る。
(a)JAMSTECネットワーク
平成5年度に横須賀本部で本格的な構内ネットワ
図8に横須賀本部と各事務所等とのネットワーク
ークが整備され、平成10年度に支線LANを強化し
接続図を示す。東京連絡所は平成6年から横須賀
ている。平成11年度には新たに建設された棟を構
構内ネットワークへの接続が行われていたが、現在
内ネットワークに接続し、年度末には13の建物がネ
はフロンティア研究推進室とあわせて128kbpsの専
ットワーク接続されている。このネットワークは共用
用回線で接続されている。むつ事務所は平成8年3
計算機システムの設置されている数理解析棟内の
月に横須賀構内とネットワーク接続し、平成10年10
─ 109 ─
月から128kbpsの専用回線に増速している。平成11
トで公開したことで飛躍的にアクセス件数が増加し
年10月からは静岡に新たに新設された深層水分析
ている。図5にWWWサーバのアクセス数の月別集
棟に64kbpsのISDN回線で横須賀構内ネットワーク
計グラフを示す。
への接続が行われた。
4)セキュリティ
また、構内ネットワークに接続されるワークステー
ション及び端末は増加の一途をたどり、平成11年度
平成8年6月からインターネットと構内ネットワーク
末現在その数はサーバ及びワークステーション約
の間にファイアウォールを設置することでコンピュー
135台、パソコン(Macintosh)約700台、パソコン
タセキュリティ対策を講じている。平成9年3月には
(Windows他)約380台、X端末約70台となっている。
ファイアウォールを二重化し、障害等に強いシステム
を構築している。また、毎年、サービスとセキュリテ
(b)インターネット
ィの両立を図りつつ、機能を高度化してきたため強
固なファイアウォールとなっている。
インターネット接続は平成5年1月のTISN(国際理
学ネットワーク)
よりはじまり、平成6年10月からは科
インターネット向けのWeb閲覧サービスなど、利便
学技術庁傘下の研究機関をネットワーク化する
性を考えてファイアウォールの機能に組み込んで運
STAnetに768kbpsの専用回線で接続した。その後
用してきたサービスを、平成12年2月よりファイアウォ
平成8年7月に1.5Mbpsに回線を拡張、平成10年5月
ールの内側で行うことにしたことで、全てのコンピ
にはIMnetに接続を切替えて運用している。この高
ュータがファイアウォールの中で運用されている。
速な回線を利用することにより、大きな通信バンド
また、Webサーバに監視機能を設けたことでWebペ
幅を必要とする画像データや動画の通信などを有
ージの改ざんを早期発見、対処できる体制が整え
効に利用することができるようになっている。
られている。
インターネットへの情報発信のため平成6年9月より
更に、平成12年3月からサーバにウィルスチェック
WWWサーバを立ち上げ、JAMSTEC ホームページ
機能を設け、データが流れるサーバ上でウィルスを
を公開している。URLは http://www.jamstec.go.jp/。
発見し、ウィルスが流布することを未然に防ぐ対策
平成10年7月に深海画像データベースをインターネッ
を取っている。
2,000,000
1,800,000
セキュリティ対策のため停止
1,600,000
深海画像DB公開
1,400,000
H2調査ページ
ホームページリニューアル
1,200,000
日本語ページ
リニューアル
対馬丸調査ページ
1,000,000
英語ページ
リニューアル
深海生物ページ
800,000
ナホトカ号調査ページ
600,000
400,000
200,00
0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3
1995
1996
図9
1997
1998
WWWサーバアクセス数の推移
─ 110 ─
1999
2000
2.研修事業
(1)活動の概要と研修実績
普及・広報課では、潜水業務や海洋研究に携わ
る技術者並びに研究者などを対象に潜水に関する
訓練や教育を行い、当該分野の人材育成に努めて
いる。また、これと並行して、潜水作業現場の監督者
等に対する安全衛生教育や、潜水従事者並びに初
心者に対する体験潜水を実施している。一方、平成
写真1
潜水器材に関する講義風景
7年度より高校生及び高等学校の教諭を対象として
「海洋科学技術」に関する啓蒙普及活動を実施して
行われている潜水作業の実態等、潜水業務全般に
いる。
潜水関連の研修は、昨年度と同様に「潜水技術
研修」
と
「体験潜水」の二種類の特別研修と
「潜水業
ついて幅広い情報を提供している。本年度は、8機
関から9名の参加を得て1回実施した。
務管理研修」を実施した。このほか、高校生を対象
とした「サイエンスキャンプ’99」
と、日本財団からの
(4)
サイエンス・キャンプ’
99
補助を得て高校生及び高等学校教諭を対象とした
科学技術庁と科学技術振興事業団及び(財)
日本
「マリンサイエンス・スクール’
99」を実施した。
科学技術振興財団の主催により平成7年度から開始
(2)特別研修
され、本年度は国立試験研究機関20機関と科技庁
傘下の5法人により実施された。
当センターでは8月9日∼11日の2泊3日の日程で57名
1)潜水技術研修
本研修は、原則として、10日間(一部5日間)の日程
で、スキューバ潜水に関する知識や基本的技術を
の応募者の中から作文で選ばれた25名
(男12、女13)
の高校生及び高専生が参加した。
このキャンプでは参加者に当センターで行われて
習得させることを目的として行っている。本年度は、
警察庁をはじめとして、33機関から計272名の参加
いる種々の研究等を紹介するとともに、研究現場を
を得て実施した。
実体験させ、海洋科学技術に対する興味・関心を
高めさせることができた。
2)体験潜水
本研修は初心者を対象にプールにて潜水を体験
(5)
マリンサイエンス・スクール事業
させるコースであり、本年度は科学技術健保組合の
加入者25名に対して、スキューバ潜水の体験潜水
1)
マリンサイエンス・スクール
を2日間で実施した。
本スクールは、高校生と彼らを教育する教師に、
海洋に関する理解を深めさせ海洋科学技術を背負
(3)潜水業務管理研修
う人材の育成に資することを目的とし、平成8年度
から日本財団の補助を得て当センターが開催してい
本研修は潜水作業者及び潜水関連会社等の社
るものである。本スクールの特徴は、高校生だけで
員に対して実施するもので、潜水業務に関する安全
なく教師も対象としているところである。本年度は
衛生教育の内容に加え、飽和潜水の概要や海外で
宮城、福島、新潟、福岡、佐賀、香川、徳島、高知、
─ 111 ─
及び愛媛各県等を重点に全国から募集した高校教
諭(46名)
と高校生(24名)
を対象に、夏休みに2泊3
日の日程で計3回実施した。スクールの内容は、当
センターの研究成果や研究者の体験談、それに実
習を多く取り入れたもので、参加者に海洋に関する
理解を深めさせることができた。
2)海洋科学技術学校
21世紀の海洋科学の研究等を背負って立つ研究
者の卵とも言うべき大学生及び大学院生を対象に、
写真2 マリンサイエンス・スクールでの高圧環境体験風景
地球環境変動の原因を解きあかす為の専門的なス
クールとして本年度から開始した。全国から募集し
た大学生と大学院生(24人)の参加を得て、夏と冬
に3泊4日の日程で2回、海洋地球研究船「みらい」を
利用した海洋科学技術研究の見学及び海洋学に関
するセミナー等により、学生同士の交流と学生間の
ネットワークの構築を行った。
─ 112 ─
3.船舶等の運航関係業務
備」等を実施した。
「かいこう」は、マリアナ海溝、釧路沖、三陸沖、
当センターでは、
「しんかい2000」システムとして、
日本海溝、南西諸島、房総沖及び室戸沖・南海トラ
潜水調査船「しんかい2000」
とその支援母船「なつし
フで調査潜航を実施した。またH2ロケットエンジン
ま」及び無人探査機「ドルフィンー3K」、
「しんかい
部捜索行動を実施した。
「かいれい」は、
「かいこう」の潜航支援のほか、
6500」システムとして潜水調査船「しんかい6500」
とそ
の支援母船「よこすか」、10,000m級無人探査機「か
「かいれい」搭載のマルチチャンネル反射法探査装
いこう」、また海洋調査船「かいよう」、深海調査研究
置による宮城沖、日本海溝及び四国沖・南海トラフ
船「かいれい」及び海洋地球研究船「みらい」を保有
の調査を実施した。また、マルチナロービーム音響
し、深海調査及び海洋観測を始めとする各種の海洋
測深機等によるフィリピン・マリアナ海域・ポリネシ
科学技術に関する試験、調査研究に活用してきた。
ア海域の調査及びトライトンブイの緊急回収航海を
これら、船舶等の運航のうち、主として潜水調査
実施した。
船及び無人探査機の運航と、日常の保守整備につ
「みらい」は、
「北太平洋亜寒帯∼亜熱帯循環系
いてはセンターが直接これを担当し、支援母船並
の変動に関する観測研究」
(日本東方海域)、
「大
びに各種研究船等の運航と一般的整備については
気・海洋相互作用に係る観測研究」
(ナウル海域)、
「高緯度域における物質循環の観測研究」
(北西部
船舶運航会社にその業務を委託している。
平成11事業年度の運航概要は次のとおりである。
太平洋海域)、
「北極海域の観測研究」
(ボーフォート
「しんかい2000」は、駿河湾、相模湾、遠州灘、南海
海・チュクチ海・ベーリング海海域)、
「赤道域にお
トラフ、南西諸島、三陸沖、北海道道東沖、日本海及
ける基礎生産力観測研究」
(太平洋熱帯赤道海域)、
び伊豆・小笠原の日本周辺海域、外航としてパプア
「西部熱帯太平洋の観測研究」
(西太平洋赤道海域)
ニューギニアのマヌス海盆の潜航調査を実施した。
を実施した。
「ドルフィンー3K」は、
「しんかい2000」の潜航ル
各船舶等の整備については、例年どおり、定期
ートの安全確認のための事前調査のほか、鹿児島
的な整備検査工事を行うとともに、機能向上のため
湾、相模湾、駿河湾、日本海、三陸沖、伊豆・小笠
の各種改良を実施した。
原、南西諸島にて調査を実施した。また、H2ロケ
(1)
「しんかい2000/なつしま」の運航
ットエンジン部捜索行動を実施した。
「かいよう」は、
「熱帯赤道域の観測研究(TOCS)」
「なつしま」
は、平成11事業年度16行動を実施した。
「太平洋赤道域トモグラフィー観測」の観測研究、
熱・物質循環と生物圏の相互作用に関する研究及
実績線表を表1、行動実績海域図を図1に示す。
行動内訳は、
「しんかい2000」による潜航行動7行
び海底下深部構造調査等を実施した。
「しんかい6500」は、日本海、日本海溝、南海トラ
動、
「ドルフィン-3K」による潜航行動9行動である。
フ及びハワイ諸島周辺海域の潜航調査を実施した。
潜航調査は、深海調査研究年次計画検討委員会
8月19日ハワイ諸島周辺海域調査行動において、
で策定、深海調査研究推進委員会で審議され、当
センター理事会にて承認された年度計画にしたが
通算500回潜航を達成した。
「よこすか」は、
「しんかい6500」の潜航支援のた
って行なわれた。
平成11事業年度は年間7行動、90潜航(試験・訓
めの航海を実施したほか日本海溝での「UROV7K」
試験行動、
「アールワン・ロボット」実海域試験、H2
練潜航を含む)
を計画し、調査潜航70回、試験・訓
ロケットエンジン部捜索行動を実施した。また、伊
練潜航14回の計84回の潜航を、駿河湾、相模湾、
豆・小笠原海域、マリアナ海域での「海洋底ダイナ
遠州灘、南海トラフ、南西諸島、伊豆・小笠原、日本
ミクスの研究」及び「沖ノ鳥島観測システム保守・整
海・道東沖及びマヌス海盆の各海域で実施した。
─ 113 ─
「ドルフィン-3K」
は、試験潜航4回、
「しんかい2000」
「かいこう」による潜航行動は、試験・訓練潜航11
の潜航ルートの安全確保のための事前調査及び鹿
回のほか、調査潜航を三陸沖、
日本海溝、南西諸島、
児島湾、伊豆・小笠原、日本海、三陸沖、駿河湾で
室戸沖・南海トラフの各海域において36回の潜航
調査潜航を44回実施した。また、平成12年1月にH2
を実施した。
ロケットエンジン部捜索調査を3回実施した。上記
海底下深部構造調査として、マルチチャンネル反射
のとおりに平成11事業年度は、合計51回の潜航を
法探査装置、海底地震計を用い、四国沖・南海トラ
実施した。
フ及び宮城沖・日本海溝海域において調査を行った。
寄港地における一般公開は、敦賀(7月25日)、函
「かいれい」の単独行動としては、フィリピン・マリ
アナ及びポリネシア海域において「かいれい」に搭
館(8月1日)
において実施した。
載している観測機器を用いた調査を実施した。
(2)
「しんかい6500/よこすか」の運航
また、
トライトンブイの緊急回収航海を実施した。
「よこすか」は、平成11事業年度10行動を実施し
(4)
「かいよう」の運航
た。実績線表を表2、行動実績海域図を図2に示す。
行動内訳は、
「しんかい6500」による潜航行動6行
動、
「よこすか」単独による行動4行動である。
「かいよう」は、特殊な船型(半没水型双胴船)の
ため、作業甲板が広くとれ、動揺が少ないなどの利
潜航調査は、深海調査研究年次計画検討委員会
点を有することから、種々の海洋調査研究に適して
で策定、深海調査研究推進委員会で審議され、当
おり、平成11事業年度8行動を実施した。実績線表
センター理事会にて承認された年度計画にしたが
を表4、行動実績海域図を図4に示す。
って行なわれた。
海洋観測研究として、
「海洋音響トモグラフィーシ
平成11事業年度は年間6行動、75潜航(試験・訓
練潜航を含む)
を計画し、調査・訓練潜航60回、試
験潜航4回の計64回の潜航を、日本海、日本海溝、
ステム観測」
(中部熱帯太平洋域)、
「大気-海洋相互
作用に係る観測技術の開発及び観測研究
(TOCS)」
(西部熱帯太平洋海域)
を目的で、2行動実施した。
観測機器の開発・試験として、
「多重反射音場計
南海トラフ及びハワイ周辺海域で実施した。
「 よこす か 」単 独 行 動として は 、無 人 潜 水 機
測試験」
(南海トラフ)
を目的で、1行動実施した。
「UROV-7K」実海域試験(日本海溝)、
「アールワン・
深海調査研究関係として、相模湾、南西諸島、三
ロボット」実海域試験(駿河湾、明神礁)
「海洋底ダ
陸沖において、
「ディープ・トウ」及びマルチナロービ
イナミクス研究」
(伊豆・小笠原、マリアナ海域)、
ーム音響測深機による深海曳航調査等を3行動実
「沖ノ鳥島観測システム保守点検作業」
(沖ノ鳥島)
施した。海底下深部構造調査関係として四国沖、
の目的で実施した。
宮城沖・日本海溝にてマルチチャンネル反射法探査
寄港地における一般公開はハワイ、ホノルル(8月
28日)
において実施した。
装置及び海底地震計(OBS)
を使用した調査を2行
動実施した。
寄港地における一般公開は、関根浜(7月24日∼
(3)
「かいれい/かいこう」の運航
25日)
において実施した。
「かいれい」は、平成11事業年度12行動を実施し
(5)
「みらい」の運航
た。実績線表を表3、行動実績海域図を図3に示す。
行動内訳は、
「かいこう」の試験・訓練3行動、
「か
いこう」による調査潜航を4行動、海底下深部構造
「みらい」は、平成11事業年度に、
8行動を実施し
た。実績線表を表5、行動実績海域図を図5に示す。
調査2行動、
「かいれい」単独調査3行動である。
行動内訳は、共同利用型海洋観測研究8行動であ
─ 114 ─
り、
「高緯度における物質循環の研究」、
「北太平洋亜
音響航法装置のサーバー及びインタロゲータコマン
寒帯・亜熱帯循環系の変動に関する観測研究」、
「大
ダーを二重化した。ペンダントフレームブレーキに遠
気・海洋相互作用に係る観測研究」、
「高緯度域にお
隔ブレーキ操作機能を付加した。
ける物質循環の観測研究」、
「北極海域の観測研究」、
3)
「ドルフィン3K」
「赤道域における基礎生産力観測研究」、
「西部熱帯
平成12年1月14日より平成12年3月20日の間、
「ドル
太平洋の観測研究」を実施した。
一般公開は、大洗(5月2日)
、敦賀(7月18日)
、清水
フィン-3K」用コンテナ内において年次保守整備工
事を実施した。年次検査工事に伴う各機器の点検
(8月4日)
において実施した。
整備及び、必要な部品交換を行ったほか、ケーブ
(6)船舶の整備
ルウインチの開放点検、ビークルマニピュレータ1号
機の開放点検を実施した。
平成10年度補正予算で老朽化対策として前部フ
平成11年度の検査工事と重要な整備事項は次の
レームの換装、上下降スラスター換装、耐圧容器
とおりである。なお、本年度は「しんかい2000」
「しんかい6500」
「なつしま」
「よこすか」
「かいよう」
「かいれい」
「みらい」の法定年次、中間検査工事を
(電源部、通信制御部)
の換装を実施し、また、調査
観測機能の向上としてペイロード油圧弁の増設、ペ
イロード電源操作回路の新設を実施した。
実施した。
1)
「しんかい2000」
4)
「かいよう」
平成11年12月10日から平成12年3月22日の間潜水
平成11年4月5日より5月23日の間、第一種中間検
調査船整備場において、中間検査に伴う各機器の
査工事を行い、各種機器の点検整備及び修繕工事
点検整備及び、必要な部品交換を行った。その後、
を実施した。
駿河湾及び、相模湾にて最大潜航深度潜航試験を
前記検査と同時期の平成11年3月25日から5月23日
含む試験潜航を実施し、3月31日に全ての試験検査
の間、3次元屈折法地震探査エアガンシステムの搭
を終了した。
載工事を実施した。本工事では、潜水関係装置の
本年度は、法定中間検査項目である電源装置の
一部を撤去し、既存の配管、電線等を利用、改造し
主配電盤の開放検査及び、油密検査、インバータの
て、エアガンコンプレッサ、エアガンハンドリング装置、
性能検査、救難安全装置の離脱ボルト及び、電線
探鉱機室(現No3ラボラトリー)他等を設置するとと
カッター等の開放検査、性能検査、油圧計及び、深
もに海底地震計(OBS)100を搭載可能とした。
度計等主要計器の更正試験等を含む全ての検査を
エアガンシステム搭載工事の既存装置撤去と時
実施し、その信頼性の確認を行った。なお、老朽
期を合わせて、多目的海洋調査船への改造に向け、
化対策の一環として主蓄電池充放電管理装置、応
平成11年4月1日からDDC本体の撤去を行い、その
急用電池管理装置の改修工事、前方探知ソーナー
後、平成12年2月3日から3月31日の工期で改造工事
の換装等の工事を行った。
を実施した。改造では、更新・新設による調査観測
機能の向上、航続距離延長他の船体機能及び居住
2)
「なつしま」
スペースの拡充を中心とした生活機能の向上を図
平成12年1月19日より2月22日の間中間検査工事
り、本船を深海作業用小型ROVの支援船、海底地
を実施した。各種機器の点検及び整備を実施した
震計の展開設置、音響トモグラフィーやトライトンブ
ほか、第2甲板要員⑤の部屋にドライラボラトリー機
イの展開をも可能な海洋調査船とした。
能を付加した。また、データロガー、CPP制御装置、
発電機用自動制御監視システムの換装を実施した。
─ 115 ─
5)
「しんかい6500」
スアップの機能を付加、
「かいれい」調査指揮室に
平成11年11月24日から平成12年2月27日の間潜水
プラズマディスプレーを新設、デジタルベータカムの
調査船整備場において、中間検査に伴う各機器の
新設を行い、調査観測機能の向上工事を実施した。
点検整備及び、必要な部品交換を行った。その後、
駿河湾及び、相模湾にて最大潜航深度潜航試験を
8)
「かいれい」
含む試験潜航を実施し、3月13日に全ての試験検査
平成12年2月3日より3月17日の間、年次検査工事
を終了した。
を実施した。各種機器の点検及び整備を実施した
本年度は、法定中間検査項目である電源装置の
ほか、平成12年度インド洋行動の準備工事として、
主配電盤、インバータ主回路部等の開放検査及び、
観測用ウィンチ、ディープトウ等の搭載準備工事を
油密検査、応急安全装置の離脱ボルト及び、電線
施工した。
カッター等の開放検査、性能検査、油圧計及び、深
PSC
(外国船舶監督)対策として生活排水処理に
度計等主要計器の更正試験等を含む全ての検査を
関する改装、観測機器の着水・揚収作業の改善対
実施し、その信頼性の確認を行った。一般工事で
策として船尾部照度の向上工事、また、
「よこすか」
は、観測装置全般の更正試験を実施した。なお、
より譲り受け製造後10年を経過したトランスポンダ
老朽化対策の一環として主蓄電池充放電管理装置
回収用フロートの総点検を実施した。
の改修工事、CTDV計測器の換装を実施した。
9)
「みらい」
6)
「よこすか」
平成11年4月1日から平成11年4月27日の間年次検
平成11年4月2日より5月31日の間、年次検査工事
査工事、保証工事及び平成10年度第三次補正予算
を実施した。各種機器の点検及び整備を実施した
による氷海域航海安全装置整備工事を実施した。
ほか、マルチナロービーム音響測深装置、音響航法
各種機器の点検及び整備を実施したほか、減揺装
装置CPUの換装工事、
「しんかい6500」用外部救難
置ケーブルベア恒久対策工事として、プラスティック
装置の改造工事、
「しんかい6500」充気用高圧空気
ケーブルベアからホイールキャリアケーブルベアに
乾燥機の新設、
「しんかい6500」用同期ピンガーの
換装、氷海域航海安全装置として、赤外線暗視カメ
製作を実施した。また、第3ラボラトリーに空調機、
ラと前部マスト見張り所をフォアマストに新設、レー
第2ラボラトリーに研究用海水ラインを新設し、建造
ダーマストには、従来の航海用レーダーに加え氷塊
以来初めてAフレームクレーン支基ピンの交換、同
監視用レーダーを新設、また、夜間航行・観測中の
軸受を削正加工した。
障害物確認、測器捜索・確認のための5KWキセノ
ン探照灯の新設、Aフレーム、ギャロース振り出し
7)
「かいこう」
時の海面照度向上、安全対策等のため後部作業甲
平成11年12月17日より平成12年3月15日の間、ラン
板照明灯の増設等を実施した。
チャー・ビークルを無人探査機整備場にて、船上装
置は「かいれい」の中間検査工事(平成12年2月4日
から平成12年3月15日の間)
において年次保守整備
工事を実施した。平成10年度補正予算で製作した
予備一次ケーブルを上記期間中に搭載し、保守整
備工事終了後の試験潜航と併せて、小笠原沖にて
予備一次ケーブルの海上試験を実施した。
また、ランチャー・ビークルの重量計測を実施し
たほか、サイドスキャンソナーの船上処理部にノー
─ 116 ─
平成11年度「しんかい2000」「なつしま」運航計画及び実績
4
月
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
NT99-04「しんかい2000」訓練潜航(相模湾、
駿河湾)
清水
①
日
海
事
②
日
海
事
③
日
海
事
④
日
海
事
⑤
日
海
事
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
C
回 航
C ⑥
日業
刊新
工聞
一
般
公
開
1082DIV 1083DIV 1084DIV 1085DIV 1086DIV
土
5
月
日
月
火
水
木
土
日
NT99-06
荒
天
避
泊
那 覇
⑬
416DIV
火
6
月
①
岡
山
大
荒
天
避
泊
水
木
金
②
鹿
児
島
大
日
月
③
セ
ン
タ
ー
火
④
那覇
セ
ン
タ
ー
木
⑥
セ
ン
タ
ー
金
土
水
木
⑦
中
央
水
研
金
②③
セ
ン
タ
ー
日
那覇
土
日
月
火
那覇 フリー ① ②
水
木
火
水
木
① ② ③ ④ ⑤⑥⑦⑧⑨⑩
鹿
児
島
土
⑧
琉
球
大
石 垣
③
日
月
火
水
木
⑨
⑩
セ
ン
タ
ー
石 垣
セ
ン
タ
ー
荒
天
避
泊
荒
天
避
泊
土
日
1099DIV 1100DIV 1101DIV
金
フリー ⑪ ⑫
フォール 414DIV
404DIV 406DIV 408DIV 411DIV
405DIV 407DIV 409DIV 412DIV
410DIV 413DIV
415DIV
金
土
日
月
⑬
水
路
部
那
覇
港
外
NT99-07「しんかい2000」調査潜航(南西諸島)
418DIV
月
土
日
月
火
⑪
水
路
部
⑫
水
路
部
1102DIV 1103DIV 1104DIV
水
木
金
月
火
水
⑦
スミ
ソニ
アン
⑧
千
葉
大
荒
天
避
泊
NT99-09「しんかい2000」調査潜航(伊豆・小笠原)
荒
天
避
泊
C
420DIV 421DIV 423DIV 425DIV フォール
422DIV 424DIV 426DIV
荒
天
避
泊
①
地
調
②
③
九
州
大
セ
ン
タ
ー
④
地
調
⑤
⑥
地
調
整備
セ
ン
タ
ー
1105DIV 1106DIV 1107DIV 1108DIV 1109DIV
荒
天
避
泊
清水
1110DIV
1111DIV 1112DIV
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
⑨
⑩
北
里
大
NT99-09「しんかい2000」調査潜航(伊豆・小笠原)
東
京
水
試
⑪
⑫
セ
ン
タ
ー
セ
ン
タ
ー
整八
備丈
島
沖
月
火
水
⑬
地
調
吊 索 交 換
荒
天
避
泊
荒 横 回 航
天 須 避 賀新
泊
港
土
日
一
般
公
開
回航 富山 ①②
木
金
月
火
⑤
⑥
水
路
部
セ
ン
タ
ー
⑦
水
路
部
427DIV
428DIV
水
9
月
木
金
土
日
月
火
水
⑧
広
島
大
整備
木
金
土
日
金
月
火
⑩
⑨
関根浜
中
央
水
研
⑪
横
浜
国
大
荒
天
避
泊
中
央
水
研
1126DIV 1127DIV 1128DIV
土
水
429DIV 430DIV フォール
日
月
火
水
木
土
⑫
八戸
セ
ン
タ
ー
日
月
火
C
⑧
⑨
441DIV 442DIV
440DIV
水
⑬
地
調
八戸
「ドルフィン-3K」事前調査
①
②③
火
水
431DIV 432DIV
433DIV
土
日
月
木
金
荒 ⑭
天 国 博
避 立
科物
泊 学館
1130DIV
木
金
⑮
地
調
③ 回航
富水
山試
1120DIV
土
日
月
火
2K
陸揚
回航
C
火
水
木
④
京
都
大
⑤
京
都
大
1131DIV 1132DIV
土
日
月
NT99-14「しんかい2000」調査潜航
C
NT99-13「ドルフィン-3K」事前調査・調査潜航(駿河湾、
遠州灘・南海トラフ)
C
潜
航
中
止
セ
ン
タ
ー
(三陸沖)
2K
搭載
NT99-12「ドルフィン-3K」調査潜航(三陸沖)
①
②
③ ④⑤ フリー ⑥⑦ フリー
フォール 434DIV 435DIV 436DIV 437DIV フォール 439DIV フォール
438DIV
金
1129DIV
金
②
1118DIV 1119DIV
木
電池整備・機器整備作業
C フリー
④ フリー
(北海道東沖)
1125DIV
木
③
富山
①
富水
山試
敦一
賀般
公
開
NT99-10「ドルフィン-3K」事前調査(富山湾)調査潜航(日本海)
1117DIV
④
地
調
函館
NT99-11「しんかい2000」調査潜航(日本海富山湾)
函 館
NT99-11「しんかい2000」調査潜航(日本海北海道西方)
水
荒天 ⑩⑪ ⑫ フリー C
避泊 443DIV 445DIV フォール
444DIV
①
地
調
荒
天
中
止
②
海
洋
研
荒 清水
天
中
止
1134DIV
1133DIV
③
静産
岡試
県験
水場
1135DIV 1136DIV 1137DIV
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
整備
⑬
筑
波
大
⑭
静
岡
大
NT99-14「しんかい2000」調査潜航(駿河湾、
遠州灘・南海トラフ、
相模湾)
整備
⑥
創
価
大
⑦
セ
ン
タ
ー
整備 ⑧
神水
奈試
川
1138DIV 1139DIV
月
火
水
⑨ 横 横 神水 須 須 奈試 賀新 賀新
川
港
港
1140DIV 1141DIV
木
金
土
⑩
セ
ン
タ
ー
⑪
岩
手
大
⑫
セ
ン
タ
ー
電 池 交 換
1142DIV 1143DIV 1144DIV
日
月
火
水
木
土
日
ケビエン
C
1145DIV 1146DIV
金
回航(横須賀∼パプア・ニューギニア)
C
外 変
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
NT99-15「しんかい2000」調査潜航(マヌス海盆等)
ケ ビ エ港
ン外
ケ ビ エ港
ン外
水
木
①
横
浜
国
大
②
セ
ン
タ
ー
③
秋
田
大
整備
1147DIV 1148DIV 1149DIV
12
月
金
土
日
④
セ
ン
タ
ー
⑤
P 地
質
N調
G査
所
⑥
セ
ン
タ
ー
⑦
横
浜
国
大
⑧
セ
ン
タ
ー
回航
1150DIV 1151DIV 1152DIV 1153DIV 1154DIV
月
火
水
回航(パプア・ニューギニア∼横須賀)
C
木
金
土
⑨ ⑩
地 P 地
質
震 N調
研 G査
所
回航
マダン
⑪
セ
ン
タ
ー
整備 ⑫
P大
N学
G
1155DIV 1156DIV 1157DIV
日
月
2K
陸揚
火
水
木
金
⑬
英
国
地
質
整備 ⑭
P 地
質
N調
G査
所
1158DIV 1159DIV
土
日
月
火
⑮ 回航
P大
N学
G
マダン
回航
1160DIV 1161DIV
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
「しんかい2000」中間検査工事 NT99-16「ドルフィン-3K」調査潜航(VENUS)
(南西諸島)
回航
C
3K器機整備作業
①② 那覇
那覇
フリーフォール
内 変
回航
C
446DIV
447DIV
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
木
金
1
月
「しんかい2000」中間検査工事 NT00-01「ドルフィン-3K」調査潜航(伊豆小笠原)
C
器機整備作業
八
丈
島
沖
回航(H2ロケット探索)
①
3K艤装
火
水
木
金
土
日
②
③
448DIV 449DIV 450DIV
月
火
水
木
八
丈
島
沖
フリー C
フォール
金
土
C
回航
神戸
木
金
土
3K
陸揚
日
月
2
月
火
水
「しんかい2000」中間検査工事
「なつしま」中間検査工事
海上試運転
神戸
「ドルフィン-3K」年次検査工事
水
3
月
金
フォール 417DIV 419DIV
⑥⑦ フリーC
④⑤
NT99-05「ドルフィン-3K」調査潜航(鹿児島湾) NT99-06 C
「ドルフィン-3K」事前調査
(黒島海丘)
NT99-08「ドルフィン-3K」事前調査(伊豆・小笠原)調査潜航(相模湾)
①
⑩
日
海
事
1088DIV 1089DIV 1090DIV 1091DIV
水
⑤
⑨
日
海
事
1095DIV 1096DIV 1097DIV 1098DIV
1121DIV 1122DIV 1123DIV 1124DIV
11
月
⑧
日
海
事
2K
陸揚
C
日
10
月
火
2K
陸揚
C
回 航
土
1113DIV 1114DIV 1115DIV 1116DIV
8
月
月
⑦
日
海
事
NT99-07「しんかい2000」調査潜航(南西諸島)
1092DIV 1093DIV 1094DIV
7
月
荒
天
避
泊
1087DIV
金
平成12.3.31
30 31
木 金
29
「しんかい2000」訓練潜航(相模湾、
南海トラフ・遠州灘)
一 般 公準
開備
C
11
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
「しんかい2000」中間検査工事
機器搭載・取付け
C
木
金
NT00-02「ドルフィン-3K試験潜航(駿河湾、
遠州灘・南海トラフ、
相模湾)
C
「ドルフィン-3K」年次検査工事
3K搭載
土
日
月
火
水
NT00-03「しんかい2000」試験潜航(駿河湾、
相模湾)
フリーフォール
─ 117 ─
①
②③
④
C
452DIV
451DIV 453DIV 454DIV フリーフォール
C①
沈三
降菱
2K搭載 1162DIV
海
況
不
良
海
況
不
良
②
日
海
事
③
日
海
事
1163DIV 1164DIV
海
況
不
良
④
日
海
事
1165DIV
清清
水水
120˚
125˚
40˚
130˚
135˚
140˚
145˚
150˚
155˚
NT 99-11
NT 99-10
160˚
40˚
NT 99-12
NT 99-13,14
NT 99-04
NT 00-02,03
NT 99-09
NT 99-08
NT 99-06
NT 99-05
NT 00-01
NT 99-16
20˚
NT 99-07
20˚
NT 99-15
0˚
120˚
0˚
125˚
130˚
図1
135˚
140˚
145˚
150˚
平成11年度「なつしま」行動実績海域図
─ 118 ─
155˚
160˚
平成11年度「しんかい6500」「よこすか」運航計画及び実績
4
月
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
平成12.3.31
30 31
木 金
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
神戸
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
神戸
水
木
金
土
日
月
火
水
木
物品搭載
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
C
(MNBES・音響航法装置試験)
月
火
水
木
金
土
⑧
富
山
大
⑨
富
山
大
⑩
地
調
整備
荒
天
避
泊
⑪
地
調
日
月
火
水
⑫
荒
天
避
泊
YK99-05「しんかい6500」調査潜航(日本海・三陸沖・日本海溝)
搭載
回航
C
①
セ
ン
タ
ー
荒
天
避
泊
荒
天
避
泊
②
セ
ン
タ
ー
③
海
洋
研
函館
④
セ
ン
タ
ー
477DIV 478DIV 479DIV
⑥
水
路
部
⑤
地
質
荒
天
避
泊
480DIV 481DIV
⑦
地
質
測
深
調
査
小樽
482DIV
483DIV 484DIV 485DIV
函館
486DIV
セ
ン
タ
ー
487DIV
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
搭載
C
YK99-05(日本海・三陸沖・日本海溝)
整X
備
,
荒
天
避
泊
荒
天
避
泊
月
火
⑬
セ
ン
タ
ー
⑭
セ
ン
タ
ー
YK99-06 UROV-7K試験行動(日本海溝)
回航
C
陸揚
金
土
岸壁試験 C
回 航(横須賀∼ホノルル)
C
電池整備・物品搭載
水
木
ホノルル
外変
488DIV 489DIV
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
整備
荒
天
避
泊
荒
天
避
泊
⑩
地
調
⑪
⑫
整備
⑬
地
調
⑭
荒
天
中
止
水
木
金
水
木
金
土
ホノルル
一
般
公
開
日
月
火
YK99-07「しんかい6500」調査潜航(ハワイ周辺)
ホノルル ①
岡
山
大
②
静
岡
大
③
ハ
ワ
イ
大
整備
荒
天
避
泊
荒
天
避
泊
日
月
火
490DIV 491DIV 492DIV
水
木
金
土
④
岡
山
大
⑤
ハ
ワ
イ
大
⑥
セ
ン
タ
ー
整備
493DIV 494DIV 495DIV
水
木
金
⑦
東
京
工
業
大
⑧
ハ
ワ
イ
大
⑨
米
国
地
質
496DIV 497DIV 498DIV
土
日
月
火
ハ
ワ
イ
大
米
国
地
質
499DIV 500DIV 501DIV
土
日
月
モ
ン
ト
レ
ー
水
族
館
研
究
所
電
502DIV 503DIV
火
水
木
金
土
日
YK99-08「しんかい6500」調査潜航(ハワイ周辺)
荒
天
避
泊
荒
天
避
泊
①
北
海
道
大
②
ハ
ワ
イ
大
③
米
国
地
質
④
ハ
ワ
イ
大
整備
504DIV 505DIV 506DIV 507DIV
⑤
セ
ン
タ
ー
⑥
米
国
地
質
整備
508DIV 509DIV
⑦
セ
ン
タ
ー
⑧
北
海
道
大
コ
ナ
港
外
510DIV 511DIV
池
月
整
火
荒
天
中
止
備
水
木
回航(ホノルル∼横須賀)
⑨
地
調
⑩
ハ
ワ
イ
大
⑪
ハ
ワ
イ
大
⑫
九
州
大
整備
512DIV 513DIV 514DIV 515DIV
⑬
広
島
大
⑭
琉
球
大
⑮
地
調
ホノルル
516DIV 517DIV 518DIV
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
荒
天
中
止
荒
天
避
泊
荒
天
避
泊
②
海
洋
研
③
④
筑
波
大
金
土
日
10
月
回航(ホノルル∼横須賀)
電池整備・吊索交換・物品搭載
YK99-09「しんかい6500」調査潜航(南海トラフ)
C
陸揚
C
X
,
荒
天
中
止
荒
天
中
止
土
日
内変
月
11
月
月
「よこすか」年次検査工事
日
9
月
日
「しんかい6500」整備補給
476DIV
8
月
29
「よこすか」年次検査工事
C
火
7
月
15
「しんかい6500」整備補給
5
月
6
月
14
火
水
木
金
土
日
①
海
洋
研
清
水
519DIV
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
月
520IV
火
水
木
月
セ
ン
タ
ー
521IV 522IV
火
「しんかい6500」中間検査工事
荒
天
避
泊
荒
天
避
泊
⑤
セ
ン
タ
ー
荒
天
避
泊
清
水
523DIV
水
木
金
12
月
⑥
地
調
⑦
地
調
荒
天
避
泊
524DIV 525DIV
土
日
月
火
水
⑧
地
調
⑨
地
調
荒
天
避
泊
526DIV 527DIV
木
金
土
⑩
地
調
海
況
不
良
海
況
不
良
海
況
不
良
⑪
水
路
部
528DIV
日
月
物品陸揚
C
C
陸揚
529DIV
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
C
C
火
水
木
金
「しんかい6500」中間検査工事
YK99-10 アールワン・ロボット航海(明神礁)
YK99-11 H2ロケットエンジン部捜索行動
玉野
C
YK99-11「よこすか」単独調査
(伊豆・小笠原)
C
回航
外変
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
1
月
「しんかい6500」中間検査工事
YK99-11「よこすか」単独調査(海洋底ダイナミックスの研究・マリアナ海域)
回 航
火
2
月
水
木
YK00-01「よこすか」単独調査
グアム
金
土
日
月
グアム
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
YK00-01「よこすか」単独調査(海洋底ダイナミックスの研究、
フィリピン・マリアナ海域)
金
土
日
月
火
水
木
金
土
C
機
器
陸
揚
回航(グアム∼沖ノ鳥島∼横須賀)
グアム
内変
水
3
月
木
金
物品搭載・陸揚 搭載
沈降
三重
菱工
530DIV
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
YK00-02「しんかい6500」試験潜航(南西諸島)
C
回航 回航
セ
ン
タ
ー
531DIV
海
況
不
良
セ
ン
タ
ー
532DIV
海
況
不
良
土
日
月
火
水
木
金
(海洋底ダイナミックスの研究)
(フィリピン・マリアナ海域)
土
日
日
月
火
物品搭載・陸揚
月
火
水
木
金
YK00-03「しんかい6500」試験潜航(南西諸島)
海
況
不
良
セ
ン
タ
ー
533DIV
那覇
セ
ン
タ
ー
海
況
不
良
海
況
不
良
534DIV
─ 119 ─
海
況
不
良
セ
ン
タ
ー
535DIV
海
況
不
良
海
況
不
良
セ
ン
タ
ー
セ
ン
タ
ー
セ
ン
タ
ー
536DIV 537DIV 538DIV
海
況
不
良
海
況
不
良
セ
ン
タ
ー
539DIV
那覇
海
況
不
良
那覇 回航
140˚
120˚E
160˚
180˚
160˚W
YK99-05
▲ YK99-06
40゜
40˚
YK99-09
▲YK99-10
▲
YK99-11
YK00-02,03
20˚
▲
▲
YK00-01
20˚
YK99-07,08
▲
0˚
120˚E
0˚
140˚
160˚
図2
180˚
平成11年度「よこすか」行動実績海域図
●「しんかい6500」潜航調査
▲「よこすか」単独行動
─ 120 ─
160˚W
平成11年度「かいれい」「かいこう」運航計画及び実績
4
月
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
KR99-02「かいこう」訓練潜航(釧路沖)
清水 回航 X
X
,
107DIV 108DIV
土
日
5
月
月
火
水
木
荒
天
避
泊
荒
天
避
泊
金
土
X
宮古
日
月
,
金
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
回航
C
陸揚
火
火
水
木
荒
天
避
泊
荒
天
避
泊
109DIV
荒
天
避
泊
水
木
金
土
神戸
木
16
平成12.3.31
30 31
木 金
29
X
宮古
110DIV 111DIV 112DIV
日
月
火
,
113DIV
水
木
MCS準備
114DIV 115DIV 116DIV
金
土
日
月
金
土
日
月
KR99-04 海底下深部構造フロンティア研究(MCS)
(四国・紀伊半島沖南海トラフ)
C
水
15
KR99-03「かいこう」調査潜航(日本海溝・三陸沖)
MCS作動試験
火
6
月
,
14
土
日
月
神戸
火
水
木
金
土
日
月
火
水
KR99-04 海底下深部構造フロンティア研究(MCS)
(四国・紀伊半島沖南海トラフ)
和歌山
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
C
水
KR99-05トライトンブイ緊急回収航海(西部熱帯太平洋)
MCS解除
C
C
和歌山
C
C
搭載 作動確認
艤装
解除
7
月
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
KR99-06「かいこう」試験潜航(房総沖、
マリアナ海溝)
作動確認 C
X
回 航
,
X
,
KR99-07「かいこう」調査潜航(南西諸島)
回航
回航 グアム
118DIV
117DIV
回 航
日
月
火
水
荒
天
避
泊
荒
天
避
泊
測
深
調
査
回航
水
木
金
土
1
月
土
日
月
火
水
木
121DIV 122DIV
日
月
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
KR99-07「かいこう」調査潜航(室戸沖 南海トラフ)
荒
天
避
泊
整備
火
水
荒
天
避
泊
木
回航
那 覇
X
,
整備
123DIV 124DIV
金
土
日
月
火
125DIV
水
木
荒
天
避
泊
火
水
金
MCS基準
,
X
荒
天
避
泊
126DIV
土
日
月
C
火
物品陸揚・搭載
塩釜
X
,
荒
天
避
泊
荒
天
避
泊
測
深
調
査
120DIV
木
金
土
日
那 覇
木
火
C
陸揚
水
月
KR99-08 海底下深部構造フロンティア研究
金
土
日
月
火
水
木
KR99-09「かいこう」調査潜航(南西諸島)
(VENUS計画)
C
C
回 航
整備
那 覇
127DIV 128DIV
129DIV
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
KR99-09「かいこう」調査潜航(南西諸島)
(VENUS計画)
整備
130DIV
那覇
131DIV 132DIV
火
水
木
KR99-09「かいれい」単独航海(フィリピン・マリアナ)
X
整備
133DIV
金
土
C
木
物
金
土
品
搭
日
日
月
那
火
水
火
木
金
土
X
水
,
木
X
,
金
X
147DIV
日
月
火
水
木
金
土
土
日
148DIV 149DIV
,
海
況
不
良
荒
天
避
泊
X
137DIV
月
火
水
木
金
,
150DIV 151DIV
日
月
火
水
木
金
土
日
KR99-11 H2ロケット
・エンジン部探索(伊豆・小笠原海域)
海
況
不
良
KR99-11「かいこう」調査潜航(伊豆・小笠原)
C
覇
KR99-11「かいこう」調査潜航(南海トラフ・室戸沖)
C
載
月
,
134DIV 135DIV 136DIV
KR99-10「かいれい」単独航海(フィリピン・マリアナ)
三河
X
,
荒
天
避
泊
138DIV 139DIV 140DIV
土
日
横
須
C 物
C賀 横
品陸
新 須新
搭揚
港 賀港
載
外変
月
火
水
木
141DIV 142DIV 143DIV 144DIV 145DIV 146DIV
金
土
日
月
火
水
木
金
KR99-12「かいれい」単独航海(ポリネシア)
パペーテ
「かいこう」年次整備
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
日
月
火
月
火
水
木
金
KR99-12「かいれい」単独航海(ポリネシア)
パペーテ
マジュロ
「かいこう」年次整備
火
水
2
月
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
土
日
月
火
水
木
金
土
日
「かいれい」中間検査工事
神戸
内変
水
3
月
金
KR99-08 海底下深部構造フロンティア研究(MCS)
(日本海溝・宮城沖)
水
12
月
木
KR99-07「かいこう」調査潜航(南西諸島)
月
11
月
測
深
調
査
内変
9
月
10
月
,
119DIV
外変
8
月
X
那 覇
木
金
機
器
陸
揚
土
「かいこう」年次整備
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
「かいれい」中間検査工事
金
一次ケーブルフリーフォール
神戸
KR00-01「かいこう」試験潜航
C
岸壁試験・物品搭載
C
沈降
「かいこう」年次整備
152DIV 153DIV
─ 121 ─
回航
120˚E
140˚E
160˚E
180˚
160˚W
○KR99-02
○KR99-03
▲KR99-08
○KR00-01
▲KR99-04
○KR99-07.11
40˚N
40˚N
○KR99-11
○KR99-09
○KR99-07
20˚N
20˚N
△KR99-10
○KR99-06
△KR99-05
0˚
0˚
△KR99-12
20˚S
120˚ E
20˚S
140˚E
160˚E
図3
180˚
平成11年度「かいれい」行動海域
○:かいこう潜航
△:かいれい単独
▲:MCS調査
─ 122 ─
160˚W
平成11年度「かいよう」運航計画及び実績
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
4
月
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
平成12.3.31
30 31
木 金
金
土
日
月
火
水
木
金
土
(
土
29
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
三
金
井 由 良
土
日
)
月
火
水
木
日
月
中 間 検 査・M C S 搭 載 及 び 改 造 に 伴 う 機 器 撤 去 工 事
(
三
井 由 良
)
回航 C
(海上試運転含む)
C 横浜 一
般
公
開
搭載
搭載
火
6
月
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
KY99-03 海底下深部構造フロンティア研究(MCS)
(南海トラフ・室戸沖)
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
横浜
水
海底下深部構造フロンティア研究(MCS)
(南海トラフ・室戸沖)
由 良
由 良
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
7
月
KY99-04 相模湾深海曳航調査
C
日
月
火
水
木
KY99-05 海底下深部構造フロンティア研究(MCS)
(日本海溝・宮城沖)
C 横 横 須 須 賀新 賀新
港
港
陸揚 陸揚 搭載
金
土
8
月
日
陸揚
沖
出
し
月
火
C
月
火
水
木
金
土
日
搭 C 横 横 回航
載
須 須 搭載
賀新 賀新
港
港
水
木
金
土
日
関
根
浜
一般公開
関
根
浜
月
火
木
KY99-05 海底下深部構造フロンティア研究(MCS)
(日本海溝・宮城沖)
木
金
土
日
月
火
水
木
熱・物質循環と生物園の相互作用に関する研究
塩
釜
港
外
回航
金
土
水
C
陸揚
日
月
火
水
横 須 賀新
港
金
土
マリンサイエンススクール
塩
釜
港
外
水
10
月
13
中 間 検 査・M C S 搭 載 及 び 改 造 に 伴 う 機 器 撤 去 工 事
5
月
9
月
12
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
日
月
火
KY99-06(三陸沖)
搭沖
載出
し
C
月
火
水
木
KY99-07 深海曳航調査(VENUS計画)
那覇
(南西諸島)
那覇
那
覇
港
外
(南西諸島)
回 航
C
C
陸揚
搭載
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
KY99-08 多重反射音場計測試験
(駿河湾・南海トラフ)
月
火
水
木
回航(横須賀∼パラオ)
沖
出
し
C
陸揚
金
土
日
KY99-09 熱帯赤道域の観測研究(TOCS)
(西部熱帯太平洋海域)
C 横 横 搭載 須 須 賀新 賀新
港
港
外変
月
火
水
パラオ
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
KY99-09 熱帯赤道域の観測研究(TOCS)
(西部熱帯太平洋海域)
11
月
パラオ
水
木
12
月
金
土
日
月
火
月
火
回航
ケビエン
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
KY99-10 太平洋赤道域トモグラフィー観測(中部熱帯太平洋海域)
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
太平洋赤道域トモグラフィー観測(中部熱帯太平洋海域)
マジュロ
マジュロ
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
1
月
太平洋赤道域トモグラフィー観測(中部熱帯太平洋海域)
回 航(マジュロ∼横須賀)
マジュロ
マジュロ
C
陸揚
内変
火
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
改 造 工 事
2
月
(
C
三
井
ハイパー 由
機器搭載 良
水
3
月
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
三
水
井 由 良
木
)
金
改 造 工 事
(
三
井 由 良
─ 123 ─
)
木
金
深海生態系に関する研究(三陸沖)
40˚
深海曳航調査(相模湾)
多重反射音響計測試験(駿河湾・南海トラフ)
海底下深部構造フロンティア(三陸沖・四国沖)
20˚
VENUS計画観測機器設置航海
(南西諸島)
熱帯赤道域の観測研究(西部熱帯太平洋海域)
0˚
120˚
トモグラフィー観測(中部熱帯太平洋)
140˚
160˚
図4
平成11年度「かいよう」行動実績
─ 124 ─
180˚
160W˚
平成11年度 「みらい」運航計画及び実績
4
月
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
平成12.3.31
30 31
木 金
29
中 間 検 査 工 事
下
関
造
船
所
回航 確認試験
内変
土
5
月
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
MR99-K02 高緯度における物質循環の研究
大
洗
一
般
公
開
火
水
6
月
回航 確認試験 関
根
浜
木
金
土
日
関
根
浜
月
火
関
根
浜
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
MR99-K03 海洋大気相互作用に関わる研究
横浜
関
根
浜
チューク
ナウル
外変
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
7
月
MR99-K03 海洋大気相互作用に関わる研究
マジュロ
日
月
火
水
木
金
MR99-K04 北太平洋亜熱帯・亜寒帯循環に関わる研究
敦賀 一
般
公
開
内変
グアム
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
関
根
浜
木
金
関
根
浜
土
日
月
火
水
MR99-K04 北太平洋亜熱帯・亜寒帯循環に関わる研究
8
月
清水
一
般
公
開
清水
金
土
日
木
金
土
日
月
火
MR99-K05 北極海域の観測研究
関
根
浜
八戸
関八
根戸
浜
外変
水
木
9
月
10
月
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
MR99-K05 北極海域の観測研究
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
MR99-K05 北極海域の観測研究
ダッチハーバー
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
関
根
浜
八戸
日
月
火
水
木
MR99-K05 北極海域の観測研究
MR99-K06 西部熱帯太平洋の観測研究
関
根
浜
釧路
内変
月
火
水
木
グアム
外変
金
11
月
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
MR99-K06 西部熱帯太平洋の観測研究
月
火
水
木
金
土
MR99-K07 赤道域における基礎生産力観測研究
グアム
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
12
月
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
MR99-K07 赤道域における基礎生産力観測研究
火
金
CTDケーブル工事 下
関
ハワイ
下 回航
関
内変
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
木
金
1
月
MR00-K01 高緯度における物質循環の研究
関根浜
火
2
月
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
MR00-K01 高緯度における物質循環の研究
MR00-K02 西部熱帯太平洋の観測研究
関
根
浜
関
根
浜
マジュロ
仙
台
外変
水
3
月
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
MR00-K02 西部熱帯太平洋の観測研究
グアム
八
戸
内変
─ 125 ─
関
根
浜
関
根
浜
造
船
所
120゜
150゜
180゜
-150゜
(4)
60゜
60゜
(1)
(7)
(3)
30゜
30゜
(8)
(5)
0゜
0゜
(6)
120゜
150゜
180゜
-150゜
km
(2)
0
図5
(1)MR99-K02
(2)MR99-K03
(3)MR99-K04
(4)MR99-K05
(5)MR99-K06
(6)MR99-K07
(7)MR00-K01
(8)MR00-K02
1000
2000
平成11年度「みらい」観測海域図
高緯度域における物質循環の研究
大気-海洋相互作用に係る観測研究
北太平洋亜熱帯・亜寒帯循環系の変動に関する観測研究
北極海域の観測研究
西部熱帯太平洋の観測研究
赤道域における基礎生産力観測
高緯度域における物質循環の研究
西部熱帯太平洋の観測研究 ─ 126 ─
第4章 むつ事務所
1.むつ事務所の活動の概要
たもので、研究員室(8室)、大会議室(80名収容)、
セミナー室、談話室、食堂等から構成される施設で
むつ事務所は、平成9年10月に運航を開始した海
運用を開始した。
洋地球研究船「みらい」がむつ市関根浜港を母港
また、むつ事務所管理部門が業務を遂行する建
とすることから、これを円滑に運用するために、海
物として、日本原子力研究所の建屋を借り受け、事
洋科学技術センターにおける初めての地方事業所
務棟として業務を行っている。
(図1)
として平成7年10月1日に開設された。
(2)広報活動
当事務所の当面の業務は、次の通りである。
・海洋地球研究船「みらい」により実施される研
海洋地球研究船「みらい」の円滑な運航にとって、
究に必要な施設・設備の運用
・海洋地球研究船「みらい」の円滑な運航を可能
母港が所在する地元むつ市市民の理解と協力が不
可欠である。むつ事務所が行う普及・広報活動は、
にするための普及・広報活動
一般市民はもとより、次代を担う青少年を対象に海
・その他むつ事務所運営に必要な業務
洋科学技術の成果と夢を広めることにある。
このため、平成11年7月24日、25日には、むつ市関
(1)施設・設備の運用
根浜港において海洋調査船「かいよう」の入港歓迎
海洋地球研究船「みらい」は、地球規模気候変動
式及び一般公開を行い、736名の見学者があった。
機構解明のため、太平洋全域及びインド洋の広範
また、元潜水調査船パイロットを講師に招いて映
囲にわたって観測を行い、データとサンプルを収集
像で紹介する講演会
(深海底談話室)
を同時開催し、
し、研究に資する。中でも海洋地球研究船「みらい」
247名の参加者があった。
の主要な使命は、西部赤道域及び中高緯度太平洋
さらに、隣接する原研のむつ科学技術館におい
に展開する予定の海洋観測ブイ
「トライトンブイの観
て、深海ジオラマ等の展示模型及び海底ステーシ
測海域での設置・回収にある。
「トライトンブイ」は、
ョン等の画像を海洋科学技術センターの研究成果
エルニーニョ現象に大きな関わりを持つことがわか
として展示することにより海洋研究への理解の促進
っている暖水塊の実態解明に威力を発揮すること
を図った。
が期待されている。
観測機材整備場では、これら海洋観測ブイ整備、
2.むつ事務所の施設・設備の整備
保管、センサーの較正等を行うとともに、ブイデータ
(1)建物
の受信処理及び管理を行っている。
試料分析棟は、
「トライトンブイ」や海洋地球研究
むつ事務所では、業務量及び人員の増加に伴う
船「みらい」により得られた海洋観測データの処理、
採取された試料の分析、保管を行うほか、建屋内
スペースの不足に対応するために、事務棟の改装
に設置された海水前処理システム
(海水中の放射性
を行った。1階にあった和室と休憩室部分を撤去
炭素14Cを加速器質量分析装置で測定するために必
し、会議室及び打合せスペースとして使用すること
要な海水の前処理を行う装置)が、稼働している。
とした。
なお、むつ事務所研究施設等の整備状況を示す。
むつ研究交流棟は、海洋地球研究船「みらい」の
研究航海、共同研究及び研修等で、当事務所を訪
(表1)
れた研究者に良好な環境を提供することを目的とし
─ 127 ─
(2)設備
備えた前室、クリーンルーム仕様(Class-10000)の
ICP-MS室、空調機を収めた機械室の3室により構成
物質循環研究に関する研究や古環境研究に関し
て、海洋地球研究船「みらい」により採取された堆積
されており、ICP-MS室内には更にClass-100の簡易
ブースを設けている。
物等試料の高精度元素分析を行うため、試料分析
このほか、むつ研究交流棟2階大会議室に視聴
棟1階プランクトン保管室を改装し、高分解能ICP質
覚設備の機能向上を計るため、プラズマディスプレ
量分析装置等を備えたICP質量分析室
(写真1)
の整
ーを2台設置するとともに、隣接するロビーに大会議
備を行った。ICP質量分析室は、エアーシャワー室を
室での講演を聴講できるモニターを設置した。
表1
建屋区分
むつ事務所の研究施設等の整備状況
延床面積
(m2)
仕 様
整備年度
観測機材整備場
鉄骨造
3階建、一部吹き抜け
事務棟
鉄筋コンクリート造
2階建
521.90
試料分析棟
鉄筋コンクリート造
2階建
1,942.59
平成8∼9年度
むつ研究交流棟
鉄骨造
3階建、塔屋1階
1,547.42
平成10年度
写真1
3,046.26
ICP質量分析室
─ 128 ─
備考
平成7∼8年度
平成8年度
原研の建屋を借用
し、改装した。
西防波堤
(I)
灯台
津 軽 海 峡
N
西
防
波
堤(
I)
東防波堤灯台
灯柱
東
防
波
堤
西防波堤
(II)
指向灯
海洋地球研究船
「みらい」
観測機材整備場
関 根 浜 港
コンテナヤード
試料分析棟
事務棟
むつ科学技術館
港守衛所
市道美付線
日本原子力研究所むつ事業所
むつ研究交流棟
図1 むつ事務所の研究施設等の配置図(土地は建物用地を原研から借用)
─ 129 ─
第5章 研究評価
3)評価方法
当センターは、平成9年8月に内閣総理大臣決定さ
れた「国の研究開発全般に共通する評価の実施の
各課題について担当研究者の発表及び評価委員
在り方についての大綱的指針」に基づき、センター
による質疑を行った。各評価委員は、この発表・質
において実施する研究開発課題について厳正な評
疑及び配付された被評価者作成の自己評価票等の
価を行い、研究資源(人材、資金)の有効かつ効率
資料をもとに4)
に示す項目に沿って合議により評価
的な活用に資することを目的として、
「海洋科学技術
が行なわれた。
センターにおける研究評価のための実施要領」を同
年10月に策定した。これは、外部の専門家及び有
4)評価項目
識者によって構成される外部評価体制によって、重
評価は以下の評価項目をもとに行われた。
点的資金による研究(プロジェクト研究)課題につい
・研究開発の目的、目標、方向性の妥当性
ては、事前、中間、事後の評価を、また基礎的資金
・研究開発計画の内容と手法の妥当性
による研究(経常、共同研究など)課題については
・研究開発費と実施体制の妥当性
事後の評価を、研究課題評価委員会が定める評価
・期待される成果、波及効果
項目、評価方法に基づき厳正に行うものである。
平成11年度は、
「海洋科学技術 センターにおける
(2)評価結果
研究評価のための実施要領」に基づく正式な研究
1)
「中・深層生態系に関する研究」
課題評価の場として、事前評価を平成11年7月30日
将来性のある重要研究分野である。新しい採集
に、中間・事後評価を平成11年10月から12月にかけ
装置の開発など、当該分野の研究に不可欠な基盤
て実施した。評価結果は、いくつかの研究課題に
的課題への取り組みとして評価できる。特に、現存
ついては改善の必要性について指摘を受けたが、
量だけでなく生産力の計測すなわち飼育実験が取
概ね肯定的な評価がなされた。今後、この結果を
り入れられていることが評価できる。ゼラチン質プ
踏まえた研究開発の推進に努める所存である。評
ランクトン*)の飼育に成功するだけでも大きな成果
価結果は、以下のとおりである。
となり得る。ただし、飼育実験を行うためのサンプ
ル採取に当たっては、吸引式採集装置でよいのか
1.事前評価
検討が必要である。また、特に重点を置くべき課題
を明記したほうがよい。
研究体制については、マンパワ−不足の心配が
(1)実施内容
1)対象課題(別表1)
あるので、客員研究員や委託研究の活用について
研究課題評価の対象として、平成12年度概算要
検討されたい。
現在、表層生態系研究との連携が不明確である
求において新規に着手するとして予算要求を行う
重点的資金による研究開発課題(プロジェクト研究)
が、この研究は5年で終わらせるようなものではない
について、研究課題評価(事前評価)
を実施した。
ので、継続する中で、その連携を確立していくこと
を十分検討すべきである。
2)評価体制
*)ゼラチン質プランクトン:クラゲなど、体がゼラ
海洋科学技術に関して専門的な見地を有する外
部専門家及び科学技術に知見を有する外部有識者
チン質でできており浮遊生活をする生物のこと。
によって構成される
「研究課題評価委員会」
(別表2)
で評価が行なわれた。
─ 130 ─
2)
「地下生物圏研究調査費」
4)
「地球超深部の変動メカニズムに関する研究」
OD21の中での重要な一部分になり得るものと期
将来の研究の基盤整備と考えれば意味があると
待できるので、OD21へ向けた、2年間のフィ−ジビ
考えられるが、非常に大きな長期的研究テ−マで
リティ−スタディとしては評価できる。極限生物の
あり、フィ−ジビリティ−スタディをすることが必要
デ−タを蓄積することは有意義であり、また、期待
である。その中で、方法論と装置の確立を目指し、
される成果として、実用化、社会への利用が考えら
その成果に基づいて、多点展開を含めた5∼10年
れており、夢があることも魅力的である。サンプル
計画を立てるのが妥当であると思われる。その際
を取得する際には、コンタミネ−ション への配慮が
には、他グル−プとの連携を取るよう十分配慮さ
必要と考えられる。14年度以降は、目的等が一般的
れたい。
*)
すぎるので、他の国内外の関連プロジェクトとは異
なお、古地磁気の研究については、海洋地球研
なる特色を出す必要がある。またOD21のサンプル
究船「みらい」を活用した、独立したプロジェクトと
が入手できるのは早くても17年度であるので、ODP
することの可能性を検討してはどうか。
など他の掘削資料を積極的に使うよう、プランニン
5)
「海洋観測ブイシステムデ−タ高度処理技術の
グすることが必要である。
研究」
なお、これまでの深海環境における微生物研究
研究課題としては、妥当であり、トライトンブイの
の成果・今後の研究方針の観点から、本研究計画
デ−タの有効性を高めるために意義が大きく、推進
の意義・必要性を明確にすることが必要である。
すべき課題である。研究開発手法としては、シミュ
*)
コンタミネ−ション:掘削サンプルを取得・回
レ−ションモデルの妥当性の検証についても検討し
収・保管する間に、掘削地点のものではない微生
て欲しい。当該技術の開発は早急になされるべき
物が混入すること。
であり、そのため内外のリソ−スを有効に利用して
研究グル−プを強化し、研究期間を短縮することが
3)
「波力装置応用技術の研究開発」
望ましい。
独創性のある技術を日本が握っており、世界のイ
研究費については、人件費を考えると費用がか
ニシアチブを取れる領域である。今後、波力発電
かることは理解できるが、地球フロンティアとの間で
については、ライフサイクルアセスメントを行い、他
計算機システムの維持にかかる費用の共通化等に
の代替エネルギ−との比較まで行って、取りまとめ
よる経費削減の可能性について、検討の余地はあ
をしておくことが必要であろう。なお、日本の現状に
ると思われる。
おいては、海上における研究プラットフォ−ムが不
足しており、マイティ−ホエ−ルを今後、このような海
6)
「海洋環境の短期的変動の解明に関する研究」
上プラットフォ−ムとして利用する方策についても検
地球温暖化等に関する基礎観測デ−タの乏しい
日本にとって、極めて重要な研究課題であると評価
討すべきではないか。
また、海洋科学技術センタ−はシンポジウムや研
できる。サンゴや有孔虫の分析による短期変動の
究会を開催するなどして、異なる分野の人達からの
高時間分解能の解析については、妥当な計画であ
ニ−ズを的確に把握するよう努め、新しい観点から
るが、その解析をどのように堆積物の解析と結びつ
広く、装置の適切な利用について検討すべきであ
けるのかを明確にすることが必要である。また、国
る。今後は、波エネルギ−を発電以外に利用する
際的相互比較についての計画も立案すべきであろ
技術への展開が期待される。
う。研究費は概ね妥当と考えられる。
─ 131 ─
7)
「次世代型氷海用自動観測ブイの開発」
組み合わせや革新的なセンサ−開発、並びにグ
課題の重要性、先導(端)性の観点から評価でき
ロ−バルなネットワ−クや特定海域での集中した展
る。地球規模の気候変動の解明という観点から、
開などの提案も必要であろう。
簡易化した目的指向の新たなブイ
(次世代型海洋自
動観測ブイ)
を多数展開することは妥当であり、日本
9)全体的な指摘事項
のオリジナリティのある課題である。ブイの開発・設
今回の研究評価では、広範な分野にまたがる大
置は、観測研究との関連が重要であり、ブイの開発
きな長期的研究に係る新規課題も評価対象となっ
自体は短期間で終了するようにし、開発終了したブ
ている。このような課題に関する研究評価のより一
イを多数展開し、観測研究に供することができるよ
層の充実を図るべく、評価体制等の強化について
う努めるべきである。地球温暖化に敏感な北極海
も検討されたい。
域におけるモニタリングやプロセス研究・解析が進
み、地球フロンティア研究システムなどにおけるモデ
2.中間・事後評価
ル研究へも貢献するものと考えられる。なお、衛星
観測などとの連携や研究体制や施設・設備の充実
(1)実施内容
についても配慮することが必要である。
1)対象課題(別表3)
研究体制としては、デ−タの解析体制に対する配
研究開発着手後5年を経過した、もしくは終了し
慮はされており、また国際的な協力のもとで進める
た重点的資金による研究開発課題(プロジェクト研
ようになっているが、国内の北極研究の一層の充実
究)
と平成10年度に終了した基盤的研究
(経常研究、
を図るための働きかけを引き続き行っていくことも
共同研究及び特別研究)
について、研究課題評価
重要である。
(中間・事後評価)
を実施した。
研究開発費は概ね妥当である。
2)評価体制(別表4)
8)
「地球温暖化モニタリング技術の研究開発」
海洋科学技術に関して専門的な知見を有する外
西太平洋海域において、定点での海洋化学的な
部専門家及び科学技術に知見を有する外部有識者
項目を含む海洋観測を日本が継続的に維持すること
によって構成される
「研究課題評価委員会」
(別表4-
が必要であり、本技術がそれを可能にする最有力
1)
と、研究領域ごとに設置された外部専門家による
な候補として、また、日本がオリジナルなデ−タを取
4つの専門部会(海洋固体地球科学研究部会、海洋
得できるという大きな意義があることからも、将来の
観測研究部会、海洋生物・生態研究部会、海洋技
必須技術として一刻も早い実用化に期待する。研
術開発部会)
(別表4-2)で評価が行われた。
究計画についても既に実施したフィ−ジビリティ−ス
タディに基づいて組み立てられている。
3)評価方法
既に国際的な情報交換を開始しているとのこと
「研究課題評価委員会」で、本年度の評価対象課
であるが、今後とも海外の情報の入手や国際的な
題、評価項目、評価方法などの審議を行い、審議結
情報交換や連携の強化に努力されたい。また、開
果をもとに、外部に公開する形で各専門部会を開
発並びに維持・管理などの技術については、国内
催した。
では広くメ−カ−や大学の協力を得ること、国際協
各専門部会では、各担当研究者の発表及び主
力や国際入札を行うなどして妥当なコスト設定を行
査・部会員による質疑応答が行われ、各主査・部会
うことが重要である。
員は、この発表・質疑応答と配布された担当研究
なお、開発においては、当面は観測精度よりも継
続性を目指すとともに、衛星など他の観測手法との
者作成の自己評価票、
論文別刷り等の資料をもとに、
研究課題評価委員会で審議された評価項目に沿っ
─ 132 ─
系の変動はスケールの長いものであり、将来の変動
て評価を行った。
その後、各専門部会での評価結果を踏まえ、
「研
を予測するには5年∼7年のデータ蓄積では不十分
究課題評価委員会」において「平成11年度研究課
である。そのため、サンゴ礁生態系の長期モニタ
題評価」の取りまとめがなされた。
リングの必要性と国際的課題を認識・定着させ、西
太平洋のサンゴ礁に関するデータベースを整備する
4)評価項目
ことが望まれる。我が国ではサンゴ礁の分布が南
評価対象課題の進捗に応じて中間評価もしくは
辺に局限されているので、ロジスティックスの確保が
事後評価に分け、各々に以下の項目をもとに評価が
重要であり、できれば現地にまず実験室(研究者が
実施された。
滞在できるもの)
を設置したほうが良い。一方、
「沿
(a)中間評価(現在継続中であるが、着手後5年
岸海域生態系変動機構の解明」の研究課題から
「海洋の生態系変動機構の解明研究」へ発展させ
以上経過した課題)
・研究開発の目的、目標、方向性の妥当性
たとのことであるが、その発展系列をもっと明確に
・研究開発の概要、計画及び研究開発手法の妥
して欲しい。
研究実施体制は、種々の学問分野とその体系を
当性
・研究開発費、実施体制の妥当性
横断的に取り入れる体制が組まれており、適切な
・研究開発の進捗状況
対応といえる。
経費の観点からは、日本での従来のサンゴ礁研
・今後の予定(計画)
(b)事後評価(前年度までに終了している課題)
究は、継続的・組織的ではなかったが、その轍を
・研究開発の目的、目標の妥当性
踏まないように、相応の研究費を充てることが必要
・研究開発の概要、計画及び研究開発手法の妥
であろう。また、現地調査研究以外の分析等は
JAMSTEC以外の機関の協力が必要であり、外部の
当性
・研究開発費、実施体制の妥当性
人的資源を活かすことのできる実施体制の確立に
・研究開発の達成状況
も、努力と費用が必要であろう。一方、地理情報シ
・成果の波及効果普及及び新たな課題への反映
ステム
(GIS)等他から提供されるデータを活用して、
・成功、不成功の原因についての考察
経費の節減にも努めるべきである。
研究の成果は純粋な学問的興味に終わることな
(2)評価結果
く、行政或いは国民の意識向上に役立つものにす
1)プロジェクト研究「海洋の生態系変動機構の
解明研究」
( 沿岸海域生態系変動機構の解明
ることが必要で、一般に理解しやすい形式で公開
することが望まれる。
を含む)
[中間評価]
2)プロジェクト研究「沿岸漁場モニタリングシステ
サンゴ礁生態系のデータベース作成・数値化の
ム実用化事業」
[事後評価]
ための基礎研究を開始したこと、及びサンゴ礁生
態系研究を地球環境の変動に関する研究に資する
複雑な海洋条件の仙台湾でこの研究にチャレン
という志向は評価できる。マングローブ生態系、海
ジしたことは評価できる。種ガキ天然採苗において
草床藻場生態系を含む熱帯沿岸生態系研究の基
重要な問題である、浮遊幼生の分布・集積機構解
礎研究としても重要であり、将来それらの生態系と
明と水塊流動等環境モニタリングシステム開発とい
の比較研究も課題にして欲しい。また、20年来のダ
う目的・目標は妥当であり、海洋構造の実態解明と
イバーによる海中作業技術研究開発の成果をサン
そのモニタリングシステムの開発・改良という具体的
ゴ礁生態系研究の手法の一部に導入することによ
取り組みも適切なものである。しかしながら、カキ
って新しい展開が期待できる。他方、サンゴ礁生態
幼生分布だけに的を絞ったことで、成果の普及に
─ 133 ─
までの対流を作る方法との費用(エネルギー)対効
限界が生じている。
ハードウェアの開発(水中エレベータシステム)の
果を検討すべきであろう。ただし、表層までの対流
成功は高く評価でき、海洋科学技術の貢献には役
を作る方法については、人工的に赤潮を発生させ
立ったが、地元に移管して運用・管理ができるほど
る危険性についても、慎重に事前検討されたい。
簡易なシステムではないために、成果が地元に還
さらに、栄養塩組成を改善することにより、魚類まで
元・定着していないのが残念である。将来、沿岸域
達する食物連鎖の出発点になる珪藻などの植物プ
では小型簡易型、外洋では大型自動化に発展させ
ランクトンのうち、赤潮原因種以外のものを特異的
るという構想に期待する。地元関係機関の努力に
に増殖させることについても検討されたい。
なお、最終目標としての水質浄化のためには、湾
負う面があるものの、センター独自の実用普及体制
底の堆積物除去等行政などの取り組みが欠かせな
の構築があっても良い。
水中エレベータの技術開発とそれによる環境計
いものである旨強調しておく必要があろう。
測データの集積、及び種ガキ分布データの集積は
行われているが、今後、新規開発したハードウェア
4)プロジェクト研究「海洋底ダイナミクスの研究」
の運用、観測・解析法、そして得られたデータを総
(旧プロジェクト「深海調査研究」のうち平成8・
合的に解析し環境モデルを構築する段階までを地
9年度の固体地球分野を含む)
[中間評価]
域共同プロジェクト研究の計画に含めることを試み
研究目的については、海洋底の広範な問題を視
野に入れており評価できる。タイトルを「深海調査研
てもよいのではないか。
究」から「海洋底ダイナミクスの研究」
と変更したの
3)プロジェクト研究「大村湾の貧酸素水塊発生
も妥当である。
抑制技術の開発」
[中間評価]
各研究者の自主性(いわゆる「研究の自由」)が保
この課題は、水深が浅く閉鎖性が高いため海水
たれている点は評価したい。これは、研究者のや
交換が悪いという特異な自然条件に、都市化という
る気や活力につながるものである。しかしながら、
悪条件が加わった内湾の浄化という極めて現実的
データ解析などを外部委託に依存しすぎであるよう
な問題解決を目的としており、ローカルなニーズに対
に思われる。これは、プロジェクトに携わる研究者
応した課題である。
の負荷が過大であることによるものと思われるが、
しかしながら、流動撹拌装置による成層を壊さ
信頼できるデータ解析に基づき研究を進めるため
ない程度の撹拌の効果をモニタリング・評価する具
には、業者への外注よりも、他機関研究者との共同
体的戦術が見えず、何か工夫がないと科学的・客
研究によるデータ解析を進めるべきであろう。その
観的定量評価ができないと思われる。例えば、より
ためには共同研究を進めやすいシステムを整備す
敏感なマーカーを使って効果判定する道がないか
る必要もあると考えられる。また、特別研究員・流
検討されたい。このプロジェクトの結果が大村湾の
動研究員等を含めた研究体制の強化を図り、研究
生態系にどのような結果をもたらすか、また、どのく
者の負荷の適正化を図ることも必要であろう。
研究開発費に関しては妥当であると思われる。
らいのスケールで水の移動を行えばよいかを見極
める必要がある。そのためには、例えば、事前に
現状では少ない人員と時間の割には良い成果が得
湖やダム湖で小中規模モデルでの研究結果を収集
られている。
し、検討を重ねると同時に、大村湾規模の湾ならば
今後は、各具体的項目間の成果を互いに取り込み
本システムがどの程度必要か、どのような配置が最
つつ、
第II期以降の計画を再構成することが望ましい。
適かをシミュレートしておくことなどが考えられる。
また、JAMSTECの研究者が主著者となった論文が少
また、消費するエネルギーと環境修復によって得
ないので、筆頭論文数を増やすよう努力されたい。
られる効果との収支を計算し、躍層を壊して表層
─ 134 ─
5)
プロジェクト研究「海底地震総合観測システム」
[中間評価]
有効に活かした進め方をしている点は評価できる
が、全体をもう少しシステマチックに進められれば
本システムの開発は、国の地震観測体制として基
なお良い。
本的に重要であり、また、海洋底観測システムの開
経費の観点からは、ブイの形状の改善等コスト低
発はJAMSTEC本来の役割であると考えられるので
減の努力が為されている点は評価したいが、平成
妥当である。研究計画についても、現在2号機まで
12年度の配分が少なく、これで把駐力などの問題
進んでおり、段階的ネットワーク化(システムの複雑
の解決ができるのか不安が残る。
化・高度化)が図られ、当初の目的のデータや新た
な知見を獲得できており妥当である。
また、実験を通して得られた知見、ノウハウ、不
具合点を今後のデータとして整理して残すこと、ま
研究開発経費の面では、技術革新、入札などに
よるコスト削減努力をもっと行うべきであろう。低コ
た海外の機関との情報交換を更に進めることが重
要である。
スト化によって、本格的な海底ネットワークの展開が
可能になることを期待する。
(海洋観測研究の観点からの評価)
観測システムの整備は順調に進んでいると考えら
主として太平洋赤道域の表層の水温、塩分と気
れるが、データ解析はまだ不十分である。共同研究
象要素の時間変化を長期に測定する国際的な共同
は活発に行われており評価できるが、JAMSTEC研
観測の一翼を担うという目的は極めて妥当であり、
究者の論文投稿が少ないので努力されたい。観測
実際に運用が開始されて、データが利用されるよう
データをWeb上で公開していく計画は評価できる。
になったことは高く評価する。
また、他機関の同様なプロジェクトとの十分な調整・
低緯度システムは、予定通り開発を終了し、運用
連携を図り、効率的な研究・開発を進めて欲しい。
フェーズへ移行したが、国際的にこの観測を長期間
観測システムの機器開発の点では、1号機での経
にわたり続けることが期待されており、ブイの展開を
験が十分には2号機に活かされていないように思わ
確実に継続する体制を確立することを望む。また、
れるので、これまでの成功・失敗、両方の経験を十
現状では海洋地球研究船「みらい」による、係留・
分に活かして3号機以降の開発を進めていくことが
回収・保守作業が行われているが、他の船舶によ
必要である。更にJAMSTEC主導で開発を行おうと
る作業の可能性も追求する必要があるのではない
するならば、技術開発専任の人材の確保は必要不
か。中高緯度システムについては、荒天に十分耐え
可欠である。
ることが可能か、2点だけで科学的に十分意味のあ
一方、今後展開型ステーションの開発を継続する
ためには、現在のタイプの展開型ステーションの開
るデータを取得可能か、再度きちんと検討する必要
がある。
発をそのまま続けるのではなく、デ−タの回収方法
等基本から検討をし直す必要がある。
経費については、現場でのトライアンドエラーを
含めて考えると、開発段階ではやむを得ないのか
も知れないが、できるだけ多数を展開できることが
6)
プロジェクト研究
「海洋観測ブイシステムの開発」
望ましいので、コストを下げる努力をすべきである。
[中間評価]
(海洋技術開発の観点からの評価)
7)
プロジェクト研究「高緯度海域における物質循
地球的な気象・気候が問題となっている今日、日
環機構の解明に関する観測研究」
[中間評価]
本がこのような広域の観測に努力することは大いに
亜寒帯の物質循環の研究を総合的に研究すると
意義があり、目標、方向性は妥当である。また、条
いう方向は妥当である。大規模なテーマで、しかも
件の緩い低緯度用のブイから開発を始めるという段
毎年海洋地球研究船「みらい」を運用する任務を果
階的な開発計画も妥当性がある。不具合の事例を
たしながら、着実に研究成果をあげている。また、
─ 135 ─
9)共同研究「深層水放水技術に関するフィージビ
国際協同研究JGOFSの北太平洋プロセススタディ
リティー・スタディー」
[事後評価]
の中心的プロジェクトとしての期待にもこたえてい
る。系統的観測の欠除していた領域の実態を解明
深層水利用の気運が広まりつつある今日、深層
していくための貴重なデータが蓄積されてきており、
水を「放水」
しつつ有効利用しようとする本研究は、
これから先の成果発表に大きな期待を待つ。今後
地味ではあるが社会的に重要な研究である。放水
は、全体として何をやったかが問われることになる
が肥沃化をもたらすであろうことを実際に放水地で
ので、各サブテーマの連携を明確にし、2∼3年ご
観察し、応用のための具体的な土木的手段も提案
との中期的な成果取りまとめを進めて欲しい。
特に、
したという点では評価できる。ただし、様々な地
堆積物を用いた古海洋復元のサブテーマについて
形・目的のために各地に展開されていくであろう全
は興味深い研究成果が得られており、面白い研究
施設に共通の提案とするには、今一歩の感がある。
であるが、他のサブテーマとの関連付けが明確で
養殖業では、病原菌ウイルス等の自然海への放
ないため、独立したテーマとすることも含めて検討
散が問題となっている。その観点から、今後深層水
して欲しい。
を養殖等に使用する場合は、取水した海水と放水
研究体制については、海洋物理学及び生物学の
する海水の水質の比較検討が望まれる。
研究者との提携が必要と考える。亜寒帯における
なお、
「深層水」の意味についてはいくつかの異
中層水循環に関しては現在実施中の科学技術振興
なる用語例があるため、今後海洋科学技術センタ
調整費による「北太平洋亜寒帯循環と気候変動に
ーで深層水利用技術に関する研究開発を行うに当
関する国際共同研究」の研究グループとの協力によ
たっては、当該研究で使用している深層水の定義
り、より大きな成果を追求できるだろう。
を明示しておく必要がある。
もう少し仕事が進んだら、亜寒帯域の特徴を浮
10)共同研究「太平洋赤道海域における基礎生
き上がらせるために、他の海域との比較も考えると
産力観測」
[事後評価]
よいのではないか。
基礎生産力の全球的な分布を衛星観測データか
8)経常研究「熱水噴出域環境の解明と生命現象
ら求めるための基礎的研究として評価できる。
赤道域のクロロフィル量を従来より良い精度で推
の相互作用に関する研究」
[事後評価]
目的・目標の設定は妥当なものであった。陸上の
定するアルゴリズムを提出しており、当初目標は達成
温泉と深海の熱水噴出域との対比という手法も妥
されている。相手方とセンターの特色を活かした研
当であった。一方、深海の細菌群集の十分な量の
究であり、費用対効果の高い研究であったと評価で
採集ができなかったのが残念である。分析材料の
きる。提案されたモデルの式は、赤道太平洋域の一
採取に工夫を要する。
部での検証が済んでいるものの、今後中高緯度で
良き共同研究者に恵まれ、経費の割に高い成果
の検証によりその一般性を検討してもらいたい。ま
が得られたと評価できる。細菌の成長速度につい
た、この研究を、物質循環変化や気候変化の研究
ては、休止期の細菌数や他の環境要因があること
に役立てるような方向で進展されることを望む。
を予測させるものがあるので、更なる研究を望む。
11)
経常研究
「栄養塩標準サンプルに関する研究」
海洋科学技術センターにおいて、このような純理
[事後評価]
学的研究が実施されていることは心強い。残され
精度の高い、長期的・広域的な海洋観測が必要
た課題、発展を期待させる課題が提示されていた
ので、その実現を期待したい。
とされる状況において、測定の基準となる標準サン
プルを信頼できる形で作ることは大変重要な研究
テーマである。しかしながら、今回の研究では、実
─ 136 ─
14)共同研究「ケーブルの捻れ特性を考慮した無人
験計画の立て方、事前の調査ともに不十分であり、
目的を達成できなかった。テーマが大きすぎたこと
探査機の効率的運用技術の研究」
[事後評価]
や研究環境の変化のために、研究員一人で研究を
ケーブルの捻れという地味だが重要な問題につい
ていろいろな観点から解析し、その対策を考察して
推進することに支障を生じたように思う。
課題の重要性に鑑み、今回の経験を活かし、よ
おり、意義のある研究であったと評価できる。ROV
り慎重に計画を立て、所期の目的を達成すべく、再
ハンドリング方法について重要な成果が得られ、そ
度この研究テーマへ取り組んでもらいたい。
れが運用に反映されつつある。世界的にも難しい問
題について貴重な成果を得ているので、成果をまと
12)経常研究「溶存有機炭素 * )の放射性炭素前
め、国際学会・シンポジウム等で発表してもらいたい。
処理装置の開発」
[事後評価]
C加速質量分析器の利用の一環として溶存有機炭
15)共同研究「自動採水装置の研究」
[事後評価]
素の Cを測定するという目的はタイムリーでありかつ重要
多数の海水サンプルが採水できる多段採水装置
14
14
なテーマである。計画・経費も妥当であると評価できる。
の製作という目的・方向性は妥当である。3年間の
前処理装置としてはかなり開発が進んだと言える
研究計画の2年間のみ終了した段階で、
「自律型無
が、回収率が50%程度というのはやや問題であり、
人潜水機(AUV)試験機」の開発プロジェクトに統合
現状のままで実サンプルの処理を行うには心配があ
されたとのことであり、自動化までテストできなかっ
る。今後のフォローとして、水銀ランプを替える、窒素
たのは残念であるが、基礎的装置の検討及び試験
ガスを循環させるなどの変更を加え、最終的に信頼
をし、ある程度の結果を得ている。AUVへの適用
できる装置にまで改善する必要がある。また、回収
可能性は示されたと言えるが、生物付着や汚れの
率のチェックを各種の物質について行うべきである。
問題については今後の課題である。
16)共同研究「大深度細径ケーブル無人探査機
*)溶存有機炭素:口径0.2マイクロの濾紙を通過
(UROV)の光通信の研究」
[事後評価]
した有機物のことを指す。これには、完全に溶解し
光ファイバーの海中への応用が今後多くなると考
ている非生物態有機物に加え、0.2マイクロ以下の
えられ基礎的で重要な研究であると評価できる。ス
コロイドやウイルス等も含まれる。
プーラの最外周にろうを塗ること等、アクシデントのフ
13)経常研究「モード理論による海中音場解析の
ィードバックが十分なされ、運用上重要なノウハウが
得られたと言える。本テーマで設定した目標に対し
研究」
[事後評価]
水中音響の基礎的・学術的研究で目的・目標は妥
て十分な成果を挙げていると評価でき、今後の応用
当と言える。音波伝搬は海洋観測の重要な要素の
分野も広いと考えられる。なお、スプーラ落下試験の
一つであり、このような基礎的な研究で成果を挙げ
際に光の減衰特性に一部歪みがでている実験デー
たことに意義がある。
タが示されているが、この歪みに関して原因解明を
経費の観点からは、コストパフォーマンスの良い
行い、知見を得ておくことは、有用なことと考える。
研究であると評価できる。
17)全体的な評価
今後この研究で得られた知見、手法が海中デー
負荷が過重になっているのではないかと懸念さ
タ計測や通信に応用されることを期待する。
なお、海洋科学技術センターは、大型プロジェクトに
れる研究員が見受けられた。センタ−全体で調整
関心が集中しがちであるが、センターの発展のためには
を行い、各研究員の負荷が適正なものとなるよう配
この研究のような基礎的なことにも重点を置き、海洋科
慮する必要があると考える。
学技術における世界的中核として発展することを望む。
─ 137 ─
別表1
平成11年度 研究課題評価(事前評価)対象課題
対象課題名
担当研究部
中・深層生態系に関する研究
海洋生態・環境研究部
地下生物圏研究調査費
深海環境フロンティア
波力装置応用技術の研究開発
海洋技術研究部
地球超深部の変動メカニズムに関する研究
深海研究部
海洋観測ブイシステムデータ高度処理技術の研究
海洋観測研究部
海洋環境の短期的変動の解明に関する研究
海洋観測研究部
次世代型氷海用自動観測ブイの開発
海洋観測研究部
地球温暖化モニタリング技術の研究開発
海洋観測研究部
別表2
平成11年度 研究課題評価委員会(事前評価)委員構成
(委員長他、五十音順)
氏名
所属
委員長
浅井 冨雄
東京大学名誉教授
委員
浅井 恒雄
日本科学技術ジャーナリスト会議事務局長
才野 敏郎
名古屋大学大気水圏科学研究所教授
谷口 旭
東北大学農学研究科教授
玉木 賢策
東京大学海洋研究所教授
委員
(海洋観測研究部会)
委員
(海洋生物・生態研究部会)
委員
(海洋固体地球科学研究部会)
委員
委員
(海洋技術開発部会)
新田 義孝
前田 久明
─ 138 ─
(財)電力中央研究所企画部部長
東京大学大学院工学系研究科教授
別表3
平成11年度 研究課題評価(中間・事後評価)
における評価対象課題
1.重点的資金による研究開発(プロジェクト研究)7件
研究課題名
担当研究部
評価区分
海洋の生態系変動機構の解明研究(沿岸海域生態系変動機構
海洋生態・環境研究部
の解明を含む)
中間評価
沿岸漁場モニタリングシステム実用化事業
海洋生態・環境研究部
事後評価
大村湾の貧酸素水塊発生抑制技術の開発
海洋生態・環境研究部
中間評価
海洋底ダイナミクスの研究(旧プロジェクト
「深海調査研究」の
深海研究部
うち平成8・9年度の固体地球分野を含む)
中間評価
海底地震総合観測システム
深海研究部
中間評価
海洋観測ブイシステムの開発
・海洋技術開発の観点からの評価
・海洋観測研究の観点からの評価
海洋技術研究部
海洋観測研究部
中間評価
高緯度海域における物質循環機構の解明に関する観測研究
海洋観測研究部
中間評価
2.基盤的資金による研究開発(経常研究・共同研究)9件
研究課題名
研究区分
担当研究部
評価区分
熱水噴出域環境の解明と生命現象の相互作用に
関する研究
経常研究
海洋生態・環境研究部
事後評価
深層水放水技術に関するフィージビリティー・スタディー
共同研究
海洋生態・環境研究部
事後評価
太平洋赤道海域における基礎生産力観測
共同研究
海洋観測研究部
事後評価
栄養塩標準サンプルに関する研究
経常研究
海洋観測研究部
事後評価
溶存有機炭素の放射性炭素前処理装置の開発
経常研究
海洋観測研究部
事後評価
モード理論による海中音場解析の研究
経常研究
海洋技術研究部
事後評価
ケーブルの捻れ特性を考慮した無人探査機の効
率的運用技術の研究
共同研究
海洋技術研究部
事後評価
自動採水装置の研究
共同研究
海洋技術研究部
事後評価
大深度細径ケーブル無人探査機(UROV)
の光通信
の研究
共同研究
海洋技術研究部
事後評価
─ 139 ─
別表4-1
平成11年度 研究課題評価委員会(中間・事後評価)委員構成
(委員長他、五十音順)
氏名
所属
委員長
浅井 冨雄
東京大学名誉教授
委員
浅井 恒雄
日本科学技術ジャーナリスト会議
事務局長
才野 敏郎
名古屋大学気水圏科学研究所教授
谷口 旭
東北大学農学研究科教授
委員
(海洋観測研究部会)
委員
(海洋生物・生態研究部会)
委員
委員
(海洋固体地球科学研究部会)
委員
(海洋技術開発部会)
新田 義孝
(財)電力中央研究所企画部部長
備考
欠席
塩原 肇
東京大学地震研究所海半球観測研究 玉木主査の
代理
センター助教授
前田 久明
東京大学大学院工学系研究科教授
─ 140 ─
別表4-2
平成11年度 専門部会評価委員構成
・海洋固体地球科学研究部会
(主査他、五十音順)
氏名
所属
主査
玉木 賢策
東京大学海洋研究所教授
部会員
塩原 肇
東京大学地震研究所海半球観測センター助教授
部会員
野津 憲治
東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験
施設教授
部会員
湯浅 真人
工業技術院地質調査所産学官連携推進センター長
・海洋観測研究部会
(主査他、五十音順)
氏名
所属
主査
才野 敏郎
名古屋大学大気水圏科学研究所教授
部会員
今脇 資郎
九州大学応用力学研究所教授
部会員
金子 新
広島大学工学部教授
部会員
時岡 達志
気象庁総務部参事官
・海洋生物・生態研究部会
(主査他、五十音順)
氏名
所属
主査
谷口 旭
東北大学農学研究科教授
部会員
赤羽 光秋
青森県水産試験場場長
部会員
太田 秀
東京大学海洋研究所教授
部会員
白木 啓三
産業医科大学教授
─ 141 ─
・海洋技術開発部会
(主査他、五十音順)
氏名
所属
主査
前田 久明
東京大学大学院工学系研究科教授
部会員
菊池 年晃
防衛大学校応用物理学教室主任教授
部会員
清水 久二
横浜国立大学工学部教授
部会員
本田 中二
電気通信大学システム工学科教授
─ 142 ─
第6章 賛助会会員と寄付者名簿
平成12年3月31日現在
ア
イ
ワ
印 刷
※
(株)浅
(株)
三
沼 組
ア
ジ ア
海 洋 (株)
石 川 島 播 磨 重 工 業 (株)
泉
産
業
三
ン
ド
※栄
ネ
シ
※三
(株)
(株)エ
ス
・
イ
ー
三
エ
ー
ト
マ
ッ
(株)大
ク
ス
沖 電 気
業
設
テ
ク
業
ノ
マ
和
事
セ
テ
バ
(株)
備
(株)
リ
ン (株)
銀
業
ス
(株)
調
工
装
ン
タ
技
工
水
行
ム
タ
業
建
(株)商
組
工
洋
清
(株)
林
建
業
空
洋
シ
エヌ・ティ・ティワールドエンジニアリングマリン
(株)
オ
幸
(有)シ
(株)エ ヌ・ テ ィ・ テ ィ フ ァ シ リ テ ィ ー ズ
工
晃
(財)塩
イ
(株)
備
(株)三
(株)
・
設
三
ア 石 油 (株)
光 電 設
建
※(株)三
(株)伊 藤 高 壓 瓦 斯 容 器 製 造 所
イ
共
(株)
三
井
(株)湘
(株)
昭
(株)化 学 分 析 コ ン サ ル タ ン ト
研
(株)
設
船
ー
南
和
高
分
子
(株)
(株)白
石
鹿 島 建 設
(株)
新
日
本
海
事
(株)
カ
バ 工 業
(株)
新
日
本
製
鐵
(株)
川 崎 重 工 業
(株)
※新
崎 設 備 工 業 (株)
須
賀
工
業
(株)
鈴
鹿
建
設
(株)
保
険 (株)
※川
ヤ
※川
本 工 業
(株)
(株)関 西 総 合 環 境 セ ン タ ー
※
(株)関
キ
住
電 工
ャ
(株)キ
共
ノ
ュ
ン
ー
販
ビ
立
ッ
売
ク
管
・
財
電
気
工
業
(株)
※住
友
林
業
緑
化
(株)
※清
(株)き
ん
で
ん
セ
京 浜 急 行 電 鉄
工
電
(株)
業
設
ナ
(株)
(株)
ー
(株)
一
勧
業
銀
行
(株)
※第
一
設
備
工
業
(株)
(株)
第
一
電
子
工
業
(株)
(株)大
氣
社
(株)
大
成
建
設
(株)
国 際 気 象 海 洋
(株)
大
成
設
備
(株)
五 洋 建 設
(株)
※大
成
電
機
(株)
コ ン パ ッ ク コ ン ピ ュ ー タ (株)
大
※三
く
機
ン
械
山
ト
(株)さ
イ
鉱
機
進
(株)第
ケ ー ・ エ ン ジ ニ ア リ ン グ (株)
神 戸 ペ
重
属
※(株)総合 企 画 ア ン ド 建 築 設 計
(株)グローバルオーシャンディベロップメント
D
金
災
友
業
D
火
(株)
住
電
K
上
業
友
和
谷 組
海
工
住
(株)共
(株)熊
友
熱
友
イ
(株)
冷
住
(株)
ア
菱
ら
工
銀
業
行
(株)
─ 143 ─
東
大
ダ イ
京
火
日
ハ
災
本
ツ
デ
海
上
土
ィ
保
木
ー
ゼ
険 (株)
(株)
ル (株)
太
陽
火
災
(株)大
浦
砂
保
中
工
中
代
科
田
土
学
火
(株)
災
総
合
海
上
研
究
保
日
本
所
日
本
精
機
(株)テ
ザ
ッ
ク
亜
東
京
東
京
※東
東
建
海
設
上
製
綱
光
芝
プ
火
繊
電
工
災
維
ロ
気
ラ
ン
ト
(株)ハ
東
同
洋
和
飛
熱
火
災
島
海
業
上
建
(株)中
村
東
カ
電
イ
濱
(株)
ニ
工
気
(株)
(株)
(株)
ク
線 (株)
船
機
子
日
計
算
電
オ
機
池
飛
行
ニ
ア
(株)
機
L
(株)
(株)
D
C
(株)
組
ナ
中
氷
(株)
電
電
郵
設
テ
底
会
本
(株)間
陽
海
協
(株)
ア (株)
(株)東
洋
険
線
リ
信
大
保
所
無
パ
通
害
鋼
本
(株)
洋
(株)
日
産
東
産
(株)
設
物
建
水
損
本
宝
洋
(株)
日
東
東
素
(株)
日
ク
酸
本
本
(株)
ー
ジ (株)
日
刷
ュ
ー
プ (株)
本
印
ニ
(株)
日
版
北
ス
製
本
※凸
東
ェ
所
(株)
シ
ヴ
本
本
究
険 (株)
事
建
日
研
管
ム
ル
(株)日
(社)日
査
日
ー
工
サ
険 (株)
(株)
業
保
コ
木
調
保
鋼
本
本
上
境
本
※日
険 (株)
海
環
日
見
災
本
店
(株)鶴
東
火
日
品
務
中
球
業
工
(株)竹
(株)地
食
本
(株)日
行
央
学
日
険 (株)
銀
熱
※(株)竹
千
上
和
(有)田
高
海
サ
製
本
鎖
タ
工
グ
川
ン
ボ
業
ー
商
(株)日
立
(株)
ト (株)
事
(株)
作
所
製
保
険 (株)
設
(株)
日
立
造
船
(株)
所
日
立
電
線
(株)
建 設
(株)
鉄
工
奈
良
建
設
(株)
日
立
西
芝
電
機
(株)
※日
比
谷
総
合
西
松
建
設
(株)
(株)広
瀬
建
築
保
険 (株)
日
南 石 油
(株)
(株)フ
日
油 技 研 工 業
(株)
(株)富
士
銀
行
日
鉱 金 属
(株)
(株)フ
ジ
ク
ラ
日
動
火
災
海
上
日
産 火 災 海 上 保 険 (株)
日
新 火 災 海 上 保 険 (株)
深
富
本
(株)日
海
本
海
洋
洋
学
サ
ル
グ
ン
ベ
ゼ
設
ロ
備
事
ジ
務
建
ジ
ク
パ
ス
ジ
士
(株)
所
設 (株)
ャ
ッ
士
富
ト
ー
ロ
富
(株)
科
士
ラ
(株)フ
※ニッ ス イ エ ン ジ ニ ア リ ン グ (株)
日
田
プ
ン
(株)
タ
通
電
(株)
機
(株)
※古
河
総
合
設
備
(株)
河
電
気
工
業
(株)
日
本
海
洋
掘
削
(株)
古
日
本
海
洋
計
画
(株)
古
日
本
海
洋
事
業
(株)
─ 144 ─
(株)細
野
山
電
太
気
七
(株)
商
店
松
下
通
信
工
業
(株)
(株)ユ
(株)マ リ ン ・ ワ ー ク ・ ジ ャ パ ン
郵
(株)丸
横
川
建
築
(株)マ
三
設
計
ル
井
海
上
事
務
タ
火
災
所
ン
険 (株)
ワ
若
井
建
設
(株)
三
井
造
船
(株)
三
井
三
リ
ー
菱
(株)三
ス
重
菱
安
田
※山
ヤ ン
業
工
総
(株)
業
合
※(株)明
(株)森
事
研
電
京
介
建
火
災
海
岸
マ
築
上
建
ー
デ ィ
ー
事
務
ブ
浜
テ
ッ
ゴ
ク
ム
ク
(株)
(株)
星
ー
ル
ド
ウ
築
社
ェ
建
イ
設
(株)
(株)
(社)信
託
協
会
所
ス プ リ ン グ エ イ ト サ ー ビ ス (株)
舎
電
所
保
険 (株)
設
(株)
ゼ
ナ
ッ
平成11年度寄付会員
(株)
究
船
テ
(株)緑
保
※三
ア
気
事
業
連
合
会
(株)東
(社)日
(社)日 本
芝
本
産
ガ
業
ス
機
械
協
工
会
業
会
ル (株)
(株)ユ ア サ コ ー ポ レ ー シ ョ ン
─ 145 ─
(注)
※は平成11年度新規加入
海洋科学技術センター
所 在 地■
237-0061 神奈川県横須賀市夏島町2番地15
電話(0468)66-3811(代表)
むつ研究所■
035-0022 青森県むつ市大字関根字北関根690番地
電話(0175)25-3811(代表)
東京連絡所■
105-6791 東京都港区芝浦1丁目2番地1号 シーバンスN館階
電話(03)5765-7101
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