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Untitled - LEC東京リーガルマインド

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Untitled - LEC東京リーガルマインド
第5版
はしがき
セブンサミット入門編の前版が刊行されて1年が経過する間、会社法及び行政不服審査法が大幅に
改正されました。会社法は、平成 17 年に制定されて以来最大の法改正となり、新たな制度が多く盛り
込まれました。これにより、会社経営者や企業法務に携わる実務家に多大な影響が及ぶのみならず、
日本における企業の在り方全体に多大な変化がもたらされることが予想されます。また、行政不服審
査法も全面改正され、国民にとって利便性が高く、公正性も向上された行政不服申立制度が始動しよ
うとしています。会社法は平成 27 年5月1日に施行されることが政令によって決定し、行政不服審査
法は平成 28 年中に施行されるとの公算が高いと目されていますが、受験生においては、速やかに新法
を学習しておく必要があります。
また、司法試験制度も大きく変わりました。司法試験の試験科目の適正化及び法科大学院における
教育と司法試験との有機的連携を図るため、司法試験短答式試験の試験科目が憲法・民法・刑法の3
科目に絞られるとともに、5年間の受験期間内に3回しか受験できないという制限も廃止され、毎回
受験することができるようになりました。
さらに、平成 26 年度司法試験の最終合格者数も減少するに至りました。平成 26 年度の司法試験受
験者数は 8,015 人であり、平成 25 年度の司法試験受験者数 7,653 人と比べて増加したにもかかわらず、
平成 26 年度司法試験の最終合格者数は 1,810 人であり、平成 25 年度司法試験の最終合格者数の 2,049
人よりも約 200 人弱ほど減少しています。このような減少傾向は、来年度以降も継続する可能性があ
ります。
本書は、従来から、司法試験等の制度・傾向の変化、法令の改正、および判例の進展に対応すべく、
年々、改良を重ねてきましたところ、今回の改訂も、上記の大きな変動に対応しています。
なお、刑事訴訟法では、司法試験の裁判実務重視の傾向の定着に鑑み、学説の争いの状況を見直し
て解釈論部分(<問題の所在><考え方のすじ道><アドヴァンス>の塊)を減少させて説明文化し、
<考え方のすじ道>を、できる限り判例・通説の立場にするとともに立場いかんにかかわらず短文に
することに努めました。もっとも、刑事訴訟においては、例えば身柄拘束中の被疑者の取調べのよう
に判例の立場も実務の立場も理論的な点において必ずしも明確でない場合があることは、付言してお
きます。
今回の改訂により一層内容が充実した「セブンサミット・テキスト入門編」を活用して、実務法学
入門の門を叩いた皆さんが、法科大学院既修者コース入学試験・司法試験予備試験・司法試験の合格
をスムーズに達成されることを心よりお祈り申し上げます。
2015年1月吉日
LEC東京リーガルマインド
法律総合研究所
司法試験部
第4版
はしがき
第3版が刊行されてから1年が経ちました。この間、各分野で法改正が行われ、注目すべき判例・
裁判例が多数出されました。とりわけ、従前から問題となっていた非嫡出子の法定相続分について、
平成 25 年9月4日、民法第 900 条第4号ただし書部分を違憲とする判例が出されたことは、大きな話
題となりました。
第4版では、第3版刊行後の法改正に対応したことはもちろん、上述の判例をはじめ、入門講座の
段階でおさえておくべき最新の重要判例を新たに掲載し、平成 25 年実施の司法試験及び予備試験の短
答式試験問題の中から、基本的かつ重要な良問を厳選して追加しました。また、本文の記述の誤植訂
正及び表現・二色刷りの更なる適切化に努めました。さらに、はじめて法律を学ぶ皆さんが短期間で
司法試験・予備試験に合格することができるよう、本文をより実務的で簡潔な表現に改めました。と
くに、重要な論点については、判例・実務の立場で一貫した学習をすることができるよう、論証内容
や取り扱う学説等の記述を見直し、一層の充実を図りました。
本書を使用し、くり返し復習を重ね、上級講座でのより細部にわたる学習と実戦的訓練を重ねれば、
司法試験・予備試験の合格水準を優に超えることができるはずです。そのような意味で、本書は、司
法試験・予備試験合格を目指す皆さんに対して、学習の到達点を示すことができたものと自負してお
ります。
今回の改訂によって、「セブンサミット・テキスト入門編」が、受験生の皆さんに一層お役立てい
ただけるものとなっていることを、心より願っております。
2014年1月吉日
LEC東京リーガルマインド
法律総合研究所
司法試験部
第3版 はしがき
司法試験の受験資格を得るには、法科大学院修了ルートと、予備試験合格ルートの2ルートがあり
ます。
入門講座を受講なさる皆様の中には、いずれのルートを目指すか悩んでいらっしゃる方も多いかと
思われます。セブンサミット・テキスト入門編第2版刊行から1年あまりが経過致しましたが、その
間にも、法曹養成にかかわる状況は大きく変動しています。
まず、法科大学院では統廃合の動きが進みました。司法制度改革の一環として生まれた法科大学院
ですが、実際は各校の司法試験合格率に大きな差が出ているため、今後は合格率上位校への人気が高
まり、合格率上位校に入学するためにはより一層の学習が必要になると思われます。
他方、予備試験は、2012 年に第2回予備試験が実施されました。また、第1回予備試験合格者が受
験した 2012 年司法試験では、予備試験合格ルート受験生の合格率は 68.2%と高水準となっています。
予備試験合格は司法試験における高確率での合格につながるといえます。
もっとも、司法試験合格者全体の中では、法科大学院修了者が圧倒的に多いことに変わりはありま
せん。そのため、法科大学院修了ルート、予備試験合格ルートいずれにおいても、司法試験最終合格
のためには入門の段階から基礎的事項の着実な理解と法的思考法を体得しておくことが求められてい
ます。
セブンサミット・テキストは法科大学院進学を目指す方にとっても、予備試験合格を目指す方にと
っても充実した内容を提供するテキストとなっております。
第3版では、第2版刊行以降の法改正に対応し、入門講座の段階で学ぶべき重要判例を新たに追加
致しました。また 2012 年司法試験および予備試験の短答式試験の過去問題を厳選して追加するととも
に、本文の記述の誤植訂正および表現・二色刷りの更なる適切化に努め、より一層充実したテキスト
となっております。
入門講座を受講される皆様が「セブンサミット・テキスト」を用いて、法的基本的知識と思考法を
修得し、将来の法曹界を担う人材となっていかれることを切に願います。
2013年1月吉日
LEC東京リーガルマインド
法律総合研究所
司法試験部
第2版
はしがき
法曹になるための新しい道である予備試験が実施されてから1年が経とうとしています。資格試験
対策においては、試験内容を分析・検討し、それに即した学習をすることが最も効果的です。刑事
訴訟法では、基本的事項の理解が試されています。
また、最終的な目標となる司法試験合格のためには、判例学習が必須となります。判例からは、条
文の解釈として導かれる規範のみならず、その規範を事案に対してあてはめる方法も学ぶことができ
ます。判例ごとにその先例としての意義は異なりますが、セブンサミット・テキストにおいてはその
意義に応じて判例の掲載方法を工夫しております。今回の改訂においても、以上の観点から、近時の
判例を新規に掲載いたしました。
この度の改訂が、「セブンサミット・テキスト」を使用される受験生の方に役立つものとなること
を切に願っております。
2012年6月吉日
LEC東京リーガルマインド
法律総合研究所
司法試験部
はしがき
私たちは 30 年余の司法試験受験界を指導し、この間多くの受験教科書を作成してきました。「プ
ロヴィデンス・テキスト」は、<問題の所在><考え方のすじ道><アドヴァンス>の三部構成に
よる論点の立体的理解、入門編・論基礎編・択基礎編の三段階で段階的・発展的に知識を増やして
いく画期的構成、自然と頭に入ってくる文章・豊富な図表、といった特長によって、多くの受験生
の支持を得てきました。今回の「セブンサミット・テキスト」は、これまでの「プロヴィデンス・
テキスト」の良い点を残しつつ、その後の法改正・新判例を盛り込み、新たな図表を挿入して、一
層の分かりやすさを追求しました。
☆
今年、2011 年は法曹養成にとって節目となる年です。法科大学院を修了せずとも司法試験の受験
資格を得ることができる予備試験が始まります。法科大学院へ進学する時間的・経済的余裕の無い
社会人にとっては、法曹への道が再び開かれることになります。大学生にとっては、在学中に自分
の力を試すことができる機会として予備試験というチャンスを活かすことができます。「セブンサ
ミット・テキスト」は、予備試験合格の出題科目のうち、法律基本科目である憲法・行政法・民
法・商法(会社法)・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法の7科目を網羅しています。
☆
資格試験の勉強では、ゴールから逆算することが重要です。予備試験合格にせよ、法科大学院へ
の入学・修了にせよ、通過点です。司法試験合格から逆算した場合、従来の「プロヴィデンス・テ
キスト」では不十分な点がありました。「セブンサミット・テキスト」は、法科大学院で何を学ぶ
か、司法試験で何が問われるか、という観点から内容を充実化させました。全科目にわたって充実
化させた点は3つです。
まず、判例の理論構成をより詳細に理解できるよう、判決文の引用を長めにしました。もちろん、
二色の塗り分けを活用していますので、詳細さと見易さを両立しています。
次に、入門講座の段階で学ぶべき内容と、発展的な講座(予備試験に特化した講座)で学ぶべき
内容の区分けを見直しました。法科大学院入試や予備試験は、旧司法試験に比べて、出題範囲が圧
倒的に広がっています。特に、行政法で学習する様々な行政事件、会社法が定める企業再編の制度、
民事訴訟・刑事訴訟の実務的な制度などは、旧司法試験では必ずしも勉強していなかった分野です。
これらの知識を入門段階からしっかりと押さえる一方で、応用的な論点は入門段階からは外しまし
た。初めから全てを理解しようと無理するのではなく、基本的(ただし、幅広い)知識の修得に焦
点を当てたテキストとなっています。
最後に、学界・実務での最新の議論をコラム的に紹介しています。法科大学院では、教授や実務
家が独自の視点から条文の構造(複数の条文が組み合わさって1つの制度が構築されています)を
解説したり、判例の解釈について通説とは異なる見方を紹介したり、といったことがあります。入
門段階では難しい部分もありますが、法科大学院での勉強や合格後の実務の先取りとして、きっと
皆さんの将来に役立つことでしょう。
☆
司法試験における判例重視、実務的な知識の出題傾向を盛り込み、予備試験・法科大学院・国家
公務員試験を受験する方々を広く対象としたテキストとしています。
セブンサミットテキストにおいては、いずれも入門講座と論文対策講座に分けて構成しています。
☆
セブンサミット刑事訴訟法の特長として、以下の4点があります。
1.学界で有力な説を主張されている先生方のご見解を紹介
学界で有力な説を主張されているものの、いわゆる基本書をお書きになっていないため、そ
のお考えを知るためには論文を読まざるをえない先生のご見解を、簡潔に紹介するコーナーを
設けています。主として、井上、三井、酒巻、川出、大澤、古江の各先生です。
2.判例・実務に沿った論証パターン
学界で有力な見解のみならず、判例・実務で採用されている考え方に基づいて、「考え方の
すじ道」を作成・修正しました。
また、判例・実務と学界の考えが対立する論点については、一覧表を掲載し、ひと目で理解
できるようにしました。
3.民訴との異同
民訴法との異同について、比較するための一覧表と、コラム形式での解説を掲載しました。
4.「実務に迫る!」
第一線で活躍されている弁護士の方に、実務の最前線がわかるコラムを書いていただきまし
た。これにより、実務の現実を垣間見ることができるでしょう。
☆
法律を学ぼうとする多くの方が、「セブンサミット・テキスト」を用いてリーガルマインドを修
得し、21世紀の法曹界、そして高度知識情報社会を担っていかれることを切に願っております。
2011年3月吉日
LEC東京リーガルマインド
法律総合研究所
「セブンサミット・テキスト」編集著者代表
司法試験部
反町
勝夫
以下、「セブンサミット・テキスト」の特長をご紹介します。
1
事例
導入事例で制度の概要のイメージを持つ!
抽象的な法律概念を身近な事例とともに紹介しています。具体的なイメージをつかんでから学
習することができます。
2
論点
各テーマにつき、論点一覧を掲載!
各テーマについて、論点は1つではありません。また、ある論点が次の論点への前提となって
いることも多く、議論のレベルを最初からしっかりと把握することが必要です。
そこで、各テーマで複雑な論点が絡む場合には冒頭に論点一覧を掲載しました。どのレベルで
論証すべきかを把握しながら学習を進めることができます。
3
整理表
混同しやすい知識を表でコンパクトに整理!
似たような概念だが、要件や手続きが異なっていたり、効果が全く違っていたり、ということ
が法律の世界にはよくあります。初学者が間違えやすい知識を明確に区別できるように表で整理
しています。
4
改正法
本試験受験時に予定されている法改正もフォロー
近年、法改正が活発化し、学習当初に学んだ法律が改正されてしまうという現象もしばしば。
そこで、皆さんが本試験を受験される際に成立しているであろう法改正情報もフォロー。試験直
前の法改正にも余裕を持って対応することができます。
5
考え方のすじ道
問題に対する論理を<問題の所在><考え方のすじ道><アドヴァンス>
の3ステップで根底から理解!
法律問題に対して的確な解答をするためには、問題の所在を明確に認識し、論理を積み上げて
答えることが必須です。そこで、<問題の所在>と<考え方のすじ道>で法律家としての思考プ
ロセスを身につけ、さらに深く考えてもらえるよう、<アドヴァンス>で代表的な学説の見解と
論拠を紹介、整理しています。
6
発展編
入門レベルと発展レベルを区別し、相互にリンク
法律には、最初に理解しておくべき事項の他、一通りの学習ができてから改めて取り組むべき
問題もあります。「今の段階でどの程度まで学習をしておくべきか」は初学者を悩ませる課題で
す。そこで、入門編と発展編の二部構成としています。
7
判例
判旨のより深い理解のために事案もしっかりと掲載!
従来の予備校教材における判例の紹介は、判決要旨の紹介にとどまっており、簡潔な整理に役
立ちますが、判例理論を事案に基づいて理解するという視点からは十分ではありませんでした。
そこで、事案が判例理論の要素となっている判例について事案と判決理由を詳細に紹介していま
す。
8
考えてみよう!
「考えてみよう!」のコーナーでより発展的な内容もカバー!
法律は、現実社会を取り扱うため、常に新しい事象に対してどのように考えるべきかという新
しい論点が日々生まれてきています。そのような最新の議論状況も取り上げ、学習してきた内容
の応用事項を掲載しています。未知の論点が司法試験で問われている今、知らない問題点、最先
端の問題について、自分なりの解答を導くための訓練もできます。
9
まとめ表
複雑な条文構造もまとめ表でわかりやすく整理!
法律の条文の多くが難解なものです。単文、複文が入り混じったり、適用対象となる事象が読
み取りにくかったりします。また、学説の対立などもわかりにくいことが多いです。そのような
難解な事項もまとめ表で問題のレベル、判例の立場などが一目で分かるように工夫しています。
セブンサミット刑事訴訟法
目 次
第1編
第1章
第1節
第2節
第2章
総説 ....................................................... 1
入門講座の受け方 .......................................................1
両訴訟法の効率的学習法 ....................................................... 1
刑事訴訟法の学習法 ........................................................... 4
刑事訴訟法とは何か .....................................................8
第1節 刑事訴訟法の意義............................................................. 8
第2節 刑事訴訟法の目的............................................................. 9
第3節 刑事手続の流れ.............................................................. 11
第1款 手続のアウトライン ........................................................ 11
第2款 手続を支える制度と原則 .................................................... 16
第2編
第1章
第1節
第2節
第3節
第2章
第1節
第2節
第3章
第1節
第2節
第3節
第4章
訴訟に関わる人々 .......................................... 19
裁判所・裁判官・裁判員 ................................................20
裁判所...................................................................... 20
裁判官...................................................................... 23
裁判員...................................................................... 25
検察官・司法警察職員 ..................................................28
検察官...................................................................... 28
司法警察職員................................................................ 29
被疑者・被告人 ........................................................31
被疑者...................................................................... 31
被告人...................................................................... 31
外国人被疑者・被告人の保護に関する問題 ...................................... 32
弁護人・補佐人 ........................................................33
第1節 弁護人......................................................................
第1款 総説......................................................................
第2款 弁護人の選任..............................................................
第3款 弁護人の任務・権限 ........................................................
第2節 補佐人......................................................................
第5章
第1節
第2節
第3編
第1章
第2章
第1節
第2節
第3章
33
33
33
35
37
犯罪の被害者 ..........................................................37
総説........................................................................ 37
被害者の刑事手続上の地位 .................................................... 38
捜査 ...................................................... 47
捜査総説 ..............................................................47
任意捜査と強制捜査 ....................................................53
総説........................................................................ 54
任意処分と強制処分の区別 .................................................... 54
捜査の端緒 ............................................................61
第1節 総説........................................................................
第2節 刑事訴訟法に規定のある捜査の端緒 ............................................
第1款 検視......................................................................
第2款 告訴・告発・請求 ..........................................................
第3款 自首......................................................................
第4款 現行犯逮捕................................................................
第3節 刑事訴訟法に規定のない捜査の端緒 ............................................
第1款 職務質問..................................................................
第2款 職務質問にともなう所持品検査 ..............................................
61
62
62
63
66
66
66
66
70
第3款
第4款
第4章
自動車検問................................................................ 74
集会参加者の検問 .......................................................... 77
捜査の実行 ............................................................78
第1節 被疑者の身柄の確保 .......................................................... 78
第1款 総説...................................................................... 79
第2款 逮捕...................................................................... 81
第3款 勾留...................................................................... 90
第4款 逮捕・勾留をめぐる諸問題 .................................................. 96
第5款 逮捕・勾留に対する被疑者の防御 ........................................... 113
第2節 物的証拠の収集・保全 ....................................................... 116
第1款 総説..................................................................... 117
第2款 捜索・押収............................................................... 118
第3款 検証・鑑定............................................................... 148
第4款 物的証拠の収集・保全をめぐる諸問題 ....................................... 152
第5款 物的証拠の収集・保全と被疑者の防御 ....................................... 167
第3節 供述証拠の収集・保全 ....................................................... 169
第1款 総説..................................................................... 169
第2款 被疑者の取調べ........................................................... 170
第3款 被告人の取調べ........................................................... 178
第4款 第三者の取調べ........................................................... 182
第5款 取調べに対する被疑者の防御 ............................................... 183
第4節 任意捜査の規制............................................................. 184
第1款 任意捜査の限界........................................................... 184
第2款 任意同行・任意の取調べ ................................................... 186
第3款 おとり捜査............................................................... 191
第4款 コントロールド・デリバリー ............................................... 197
第5章
捜査における被疑者の防御 .............................................198
第1節 総説.......................................................................
第2節 黙秘権.....................................................................
第1款 総説.....................................................................
第2款 黙秘権の内容.............................................................
第3款 黙秘権の効果.............................................................
第3節 積極的に捜査処分を争う権利 .................................................
第4節 自らの証拠を収集・保全する権利...............................................
第5節 弁護人依頼権...............................................................
第1款 総説.....................................................................
第2款 接見交通権...............................................................
第6節 違法捜査に対する救済 .......................................................
第6章
第7章
第1節
第2節
第4編
第1章
199
200
200
201
210
212
212
214
214
216
234
捜査の構造 ...........................................................235
捜査のおわり .........................................................239
捜査から公訴へ............................................................. 239
起訴後の捜査............................................................... 240
第1審手続 ............................................... 241
公訴.................................................................242
第1節 公訴提起総説...............................................................
第1款 検察官による事件処理 .....................................................
第2款 公訴の原則...............................................................
第3款 起訴・不起訴の控制 .......................................................
第2節 公訴提起の手続.............................................................
第1款 起訴状の提出.............................................................
第2款 起訴状一本主義...........................................................
第3款 公訴提起の効果...........................................................
第4款 審判対象の特定...........................................................
第3節 訴因と公訴事実.............................................................
第1款 審判の対象...............................................................
242
242
244
249
260
260
261
267
268
277
277
第2款 公訴事実の複数...........................................................
第4節 訴訟条件...................................................................
第1款 総説.....................................................................
第2款 訴訟条件の種類...........................................................
第3款 訴訟条件の追完...........................................................
第4款 訴因と訴訟条件...........................................................
第5款 公訴時効.................................................................
第2章
公判手続 .............................................................321
第1節 総説.......................................................................
第1款 公判中心主義.............................................................
第2款 迅速な裁判...............................................................
第3款 訴訟指揮と法廷警察 .......................................................
第4款 訴訟行為.................................................................
第2節 公判の準備.................................................................
第1款 被告人の出頭確保 .........................................................
第2款 証拠の収集・保全 .........................................................
第3款 公判準備の手続...........................................................
第3節 公判手続...................................................................
第1款 公判廷の構成.............................................................
第2款 公判期日の手続...........................................................
第3款 公判調書.................................................................
第4款 簡易な手続...............................................................
第5款 裁判員の参加する裁判手続 .................................................
第3章
322
322
325
327
330
333
333
338
339
349
349
352
357
358
363
証拠.................................................................371
第1節 総説.......................................................................
第1款 証拠法の意義.............................................................
第2款 証拠総説.................................................................
第3款 証明の対象・必要・方法 ...................................................
第4款 自由心証主義.............................................................
第5款 挙証責任と推定...........................................................
第2節 証拠調べ手続...............................................................
第1款 総説.....................................................................
第2款 証拠調べの実施...........................................................
第3節 証拠の要件.................................................................
第1款 総説.....................................................................
第2款 自然的関連性.............................................................
第3款 法律的関連性.............................................................
第4款 伝聞証拠.................................................................
第1目
第2目
第3目
第4目
第5目
第5款
第6款
第7款
第4章
279
300
300
302
305
307
312
372
372
372
380
391
396
407
407
411
420
420
422
436
443
総説...................................................................................................................................... 443
伝聞法則の例外 ..................................................................................................................... 452
伝聞書面 ............................................................................................................................... 456
伝聞証人 ............................................................................................................................... 480
伝聞証拠をめぐるその他の問題 ................................................................................................ 483
証拠禁止................................................................. 492
自白..................................................................... 506
共同被告人・共犯者の供述 ................................................. 527
公判の裁判 ...........................................................542
第1節 裁判の意義.................................................................
第2節 裁判の内容.................................................................
第1款 総説.....................................................................
第2款 有罪判決.................................................................
第3款 無罪判決.................................................................
第4款 訴訟費用.................................................................
第3節 裁判の効力.................................................................
第1款 総説.....................................................................
第2款 形式的確定力.............................................................
第3款 一事不再理効と既判力 .....................................................
542
545
545
545
553
554
555
555
556
556
第4款
免訴判決の効力........................................................... 563
第5編
上訴審手続 ............................................... 567
第6編
非常手続 ................................................. 567
第7編
裁判の執行 ............................................... 568
参
考 文 献 表 ・ 文 献 略 記 表
「刑事訴訟法(第3版)」(有斐閣アルマ)、田中開・寺崎嘉博・長沼範良著
「入門刑事手続法(第6版)」(有斐閣)、三井誠・酒井匡著
・・・・・・・・・・
・・
(アルマ・頁)
(入門刑事手続・頁)
「刑事訴訟法(第5版)」(有斐閣Sシリーズ)、上口裕・後藤昭・安冨潔・渡辺修著
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(Sシ・頁)
「刑事訴訟法(第3版)」(成文堂)、上口裕著
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(上口・頁)
「刑事訴訟法(第3版)」(成文堂)、寺崎嘉博
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(寺崎・頁)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(田宮・頁)
「刑事訴訟法(新版)」(有斐閣)、田宮裕著
「刑事訴訟法(第6版)」(弘文堂)、田口守一著
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「刑事訴訟法講義(第4版)」(有斐閣)、池田修・前田雅英著
「刑事訴訟法Ⅰ」(成文堂)、光藤景皎著
・・・・・・・・・・
(田口・頁)
(池田=前田・頁)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(光藤Ⅰ・頁)
「口述刑事訴訟法・上(第2版)・中(補訂版)・下」(成文堂)、光藤景皎著
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「刑事手続法⑴(新版)」(有斐閣)、三井誠著
「刑事手続法Ⅱ~Ⅲ」(有斐閣)、三井誠著
「刑事訴訟法」(有斐閣)、平野龍一著
(光藤上・中・頁)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(三井(1)・頁)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(三井Ⅱ・Ⅲ・頁)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(平野・全集・頁)
「刑事訴訟法概説」(東大出版会)、平野龍一著
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(平野・概説・頁)
「刑事訴訟法・上(新版)・下(新版補正第2版)」(弘文堂)、松尾浩也著
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「刑事訴訟法(第7版)」(日本評論社)、白取祐司著
(松尾上・下・頁)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「刑事訴訟法講義案(4訂版)」(司法協会)、裁判所書記官研修所編
「刑事実務証拠法(第5版)」(判例タイムズ社)、石井一正著
(白取・頁)
・・・・・・・・・・
・・・・
(書研・頁)
(石井・実務証拠法・頁)
「検察講義案(平成 24 年版)」(法曹会)、司法研修所検察官教官室編
・・・・・
「刑事第一審公判手続の概要(平成 21 年版)」(法曹会)、司法研修所監修
(検察講義・頁)
・・・
(第一審・頁)
「刑事事実認定入門(第2版)」(判例タイムズ社)、石井一正著
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(石井・事実認定入門・頁)
「刑事訴訟法判例百選(第9版)」(有斐閣)、井上正仁・大沢裕・川手敏裕編
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「刑事訴訟法判例百選(第8版)」(有斐閣)、井上正仁編
「判例教材
・・・・・・
(百選〔事件番号〕)
(百選[8版]〔事件番号〕)
刑事訴訟法(第4版)」(東京大学出版会)、三井誠・井上正仁編
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「平成~年度
重要判例解説」(有斐閣)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「演習刑事訴訟法」(有斐閣)、長沼範良ほか
「事例演習刑事訴訟法」(有斐閣)、古江頼隆著
(判例教材・頁)
(H~重判〔事件番号〕)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(演習・頁)
(事例演習・頁)
「事例研究刑事法Ⅱ刑事訴訟法」(日本評論社)、井田良・田口守一・植村立郎・河村博編著
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ケースブック刑事訴訟法(第4版)」(有斐閣)、井上正仁ほか著
(事例研究・頁)
・・・・・・・・・・・・・・
(CB・頁)
「注釈刑事訴訟法⑴~⑺(新版)」(立花書房)、伊藤栄樹他編
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「注釈刑事訴訟法」(有斐閣新書)、田宮裕著
(著者名・注釈⑴~⑺・頁)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(田宮・注釈・頁)
「大コンメンタール刑事訴訟法(第2版)1~11」(青林書院)、河上和雄ほか編著
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「条解刑事訴訟法(第4版)」(弘文堂)、松尾浩也編
(大コンメ1~・頁)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「刑事訴訟法の争点(第3版)」(有斐閣)、松尾浩也・井上正仁編
・・・・・・
(条解・頁)
(争点[3版]・頁)
「刑事訴訟法の争点(新・法律学の争点シリーズ)」(有斐閣)、井上正仁・酒井匡編
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「刑事手続上・下」、三井誠他編(筑摩書房)
・・・・・・・・・・・・・・
(争点・頁)
(著者名・刑事手続上・下・頁)
「捜査法体系Ⅰ~Ⅲ」(日本評論社)、熊谷弘・松尾浩也・田宮裕編
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(著者名・捜査体系Ⅰ~Ⅲ・頁)
「公判法体系Ⅰ~Ⅲ」(日本評論社)、熊谷弘・佐々木史朗、松尾浩也・田宮裕編
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(著者名・公判体系Ⅰ~Ⅲ・頁)
「証拠法体系Ⅰ~Ⅲ」(日本評論社)、熊谷弘・佐々木史朗、松尾浩也・浦辺衛編
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(著者名・証拠体系Ⅰ~Ⅲ・頁)
「実例刑事訴訟法Ⅰ~Ⅲ」(青林書院)、松尾浩也・岩瀬徹編
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(著者名・実例刑訴Ⅰ~Ⅲ・頁)
「増補令状基本問題・上・下」(一粒社)、新関雅夫ほか
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「月刊法学教室」(有斐閣)
「ジュリスト」(有斐閣)
(令状基本問題・上・下・頁)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(法教・(号).(頁))
(ジュリ・(号).(頁))
「法律時報」(日本評論社)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(法時・(号).(頁))
「最高裁判所判例解説刑事篇
平成~年度」(法曹会) ・・ (最高裁判所判例解説・刑・H○・頁)
第1編
第1編
第1章
総説
第1章
入門講座の受け方/1
総説
入門講座の受け方
第1節 両訴訟法の効率的学習法
両訴訟法は、共通する部分が多く、異なる部分も対比して勉強すれば、効率的に勉強できる。
以下、両訴訟法の効率的学習法を説く。
一
両訴訟法の共通点
両訴訟法は、ともに公法であり、手続法である点で共通する。また、ともに国民の人権保障の見
地から、裁判が適正・公平かつ迅速に行われる必要があるという点で共通する。
従って、両訴訟法は、次のような共通の概念や原理・原則が要求される。すなわち、両訴訟法とも
①
当事者(原告・被告/検察官・被告人)が、訴訟追行の主導的役割を果たし、裁判所は当事
者の提出した資料を客観的に判断する第三者的地位にとどまる(当事者主義)。
②
適正かつ公平な裁判を確保するため、管轄、除斥・忌避・回避、裁判の公開、口頭主義、証
拠裁判主義、自由心証主義、三審制等が規定されている。
③ 迅速な裁判を確保するため、訴訟要件(訴訟条件)、確定判決の不可変更力が定められている。
二
両訴訟法の相異点
しかし、民事訴訟法は私権の確保を目的とし、刑事訴訟法は人権を保障しつつ真実を発見するこ
とを目的とする。従って、次のような相違が生じる。
すなわち、①私権の確保・実現は、当事者間の自由な自治に委ねられている。そのため、民事訴
訟の追行は原則として当事者の自主的判断・活動にまかされている(私的自治の訴訟法上への反
映)。
これに対して、刑事訴訟法では、真実発見のためには個人の自由やプライバシーを侵害する逮
捕・勾留や捜索・押収といった強制処分を定めざるをえない。そこで、とりわけ人権保障への配慮
が要求される。すなわち、法定された訴訟手続によらなければ処罰されないという手続法優位の思
想に基づく。
また、②民事訴訟法は、当事者の私的利益の確保を目的とする手続法である。そのため、当事者
の意思が尊重される。
これに対して、刑事訴訟法では、個人の尊厳に直接関係を有する生命・身体などに関わる刑罰権
の実現を目的とする手続法である。そのため、人権保障と調和した、真実に基づく事件の解決が要
求される(消極的実体的真実主義)。
2/第1編
総説
第1章
入門講座の受け方
以上のような両訴訟法の性格の違いから、具体的には以下のような違いが生じる。
例えば、①当事者主義という概念は、民事訴訟法では私的自治を訴訟に反映するための概念であ
るが、刑事訴訟法では真実発見とともに被疑者・被告人の人権保障を確実にするための概念である。
また、②民事訴訟では、当事者間の合意に基づく訴訟終了の制度があるが、刑事訴訟法にはない。
<民事訴訟法と刑事訴訟法の対比①>
民事訴訟
テーマ
刑事訴訟
訴訟物
審判の対象
訴因
訴えの提起・取り下げ
審判の設定・取り下げ
裁判所による判決の他に、請求の放
棄・認諾・裁判上の和解がある
訴訟の終結
公訴の提起・公訴の取消し
裁判所による有罪・無罪判決の確定
当事者が行う
判決の範囲の確定
不告不理の原則
既判力(拘束力)
判決の主な効力
既判力・一時不再理効
訴えの変更
審判の対象の途中変更
訴因の変更
事実上・法律上の主張と証拠による
事実認定
審判過程
事実上・法律上の主張と証拠による
事実認定
法律判断は裁判所の職責
法律上の主張レベル
法律判断は裁判所の職責
事実上の主張レベル
犯罪成立要件事実の主張責任は検察
官にあり
自白
拘束力なし
主張責任の分配に従って当事者が主
張
当事者及び裁判所を拘束(弁論主義
の第二原則)
当事者の提出した証拠方法(証人
等)の証拠調べ(証人尋問等)を実
施し、得られた証拠資料(証言等)
に基づき事実を認定する
証拠レベル
当事者の提出した証拠方法(証人
等)の証拠調べ(証人尋問等)を実
施し、得られた証拠資料(証言等)
に基づき事実を認定する
伝聞法則・自白法則・証拠調べ手続
の厳格な法規制あり(証拠裁判主
義)
自由心証主義(自白の補強法則の規
制あり)
格別の規制なし
証拠能力
自由心証主義
証明力
当事者が行う(弁論主義の第三原
則)
証拠の提出
当事者主義(当事者の提出責任)
当事者の責任
証拠の収集・保全
各当事者の責任だが、検察官に強大
な権限を与えつつ、人権を保障する
ための捜査法といわれる領域があ
る。任意捜査の原則・強制処分法定
主義
人が日常生活上の決定や行動の基盤
とすることをためらわない程度に真
実であることの蓋然性が認められれ
ばよい
証明の程度
合理的な疑いを容れない程度
第1節
三
両訴訟法の効率的学習法/3
両訴訟法の効率的学習法
以上のような両訴訟法の異同を前提に、一方の訴訟法を学習する際に、他方の訴訟法の制度・用
語の理解を踏まえながら、この訴訟法ではどこが同じで、どこが違うのかを意識するという方法が
効率的である。また、他方の訴訟法にはあのような制度・論点があったのに、この訴訟法にはその
ような制度・論点がないのはなぜかを考えることが効率的である。このような学習法により、まさ
に、1つのエネルギーで2つの効果をもたらす学習法が可能となる。
四
両訴訟法セブンサミットテキストの特長
このセブンサミットテキストは、以上のような両訴訟法の効率的学習を実現するため、訴訟法の
原理・原則に沿って問題点を記述するように努めた。両訴訟法が比較・対照できるようにテキスト
の目次・構成を編成した。以下、両訴訟法のテキストの目次・構成を参考のために掲げる。
<民事訴訟法と刑事訴訟法の対比②>
民事訴訟法
第1編
総説
第2編 訴訟に関わる人々
第1章 裁判所
第2章 当事者
第3編
訴訟の準備
第4編 第1審手続
第1章 訴訟の開始
第2章 審判の対象
第3章 審理の過程
第4章 訴訟の終了
第5章 多数の者が関与する訴訟
第5編 上級審手続
第1章 上訴一般
第2章 控訴審手続
第3章 上告審手続
第4章 抗告手続
第6編 再審手続
第7編
特別な訴訟手続
刑事訴訟法
第1編
総説
第2編 訴訟に関わる人々
第1章 裁判所・裁判官・裁判員
第2章 検察官・司法警察職員
第3章 被疑者・被告人
第4章 弁護人・補佐人
第5章 犯罪の被害者
第3編 捜査
第1章 捜査総説
第2章 任意捜査と強制捜査
第3章 捜査の端緒
第4章 捜査の実行
第5章 捜査における被疑者の防御
第6章 捜査の構造
第7章 捜査のおわり
第4編 第1審手続
第1章 公訴
第2章 公判手続
第3章 証拠
第4章 公判の裁判
第5編 上訴審手続
第1章 上訴一般
第2章 控訴審手続
第3章 上告審手続
第4章 抗告手続
第6編 非常手続
第1章 再審
第2章 非常上告
第7編 裁判の執行
4/第1編
総説
第1章
入門講座の受け方
第2節 刑事訴訟法の学習法
一
手続法の学習の特性
手続は、多くの人の行為の集積によって、日々形成されていく。その際、過去の手続が現在の手
続に影響を与えることも多く、将来の手続を見越して現在の手続を考えることも多い。したがって、
常に、手続の流れの全体をイメージしながら、個々の制度・論点を学習していかなければならない。
手続法は、個々の制度自体は極めて技術性が強く、自己の体験やTVによるイメージもなく、無
味乾燥な学習になりがちである。しかし、個々の制度は、あるべき手続像を指導する様々な原理・
原則の具体化である。したがって、常に、この制度はなんのためにあるのかを意識しながら、すな
わち、原理・原則に遡りながら、個々の制度・論点を学習していかなければならない。また、手続
の具体的なイメージを持つために、判例の(とりわけ事案の)学習が大切である。
二
刑事訴訟法の条文
刑事訴訟法は、戦後作られた法律なので旧民事訴訟法(カタカナ、手続の順に配列されていな
い)よりは分かりやすかったが、新民事訴訟法(手続の順による配列を徹底している)よりは分か
りにくい。例えば、法典の第一編の「裁判所」では、裁判所の多くの強制権限を規定し、第二編第
一章「捜査」において、その規定の多くを準用するという立法技術を採っている。常に条文を参照
することによって、このような条文構造の複雑さ(学習上の煩わしさ)を早い時期から克服してお
かないと、特に面倒くさがり屋には、弱点科目になりかねない。参考のために、典型的な準用例と
捜査法・証拠法の条文のグルーピングとをあげておく(後掲の図参照)。
三
論文式対策と短答式対策
捜査法・証拠法という論点の多い二大領域を抱えているため、論文式試験において、細かい制度
の整理をさせる問題の出題もない。細かい制度も含めて整理して記憶するという学習は、主として
短答式試験の対策になり、論文式試験の対策は、理解・論証の記憶・答案構成が中心となる。した
がって、刑事訴訟法は、入門段階から論文まで、理解中心の面の強い骨太な科目である。
第2節
刑事訴訟法の学習法/5
<被疑者勾留の場合の被告人勾留の規定の準用>
60 条以下と勾留
207 条~209 条との関係
60 勾留要件・期間・期間更新
207・211・216(期間は、208・208 の2)
61 勾留に際して事件告知
207・211・216
62 勾留の令状主義
207・211・216
63 召喚状の方式
64 勾留状の方式
207・211・216
65 召喚手続
66 勾引の嘱託
67 前条の手続
68 被告人の出頭・同行命令
69 裁判長・受命裁判官の権限
70 勾留状の執行機関
207・211・216
71 勾留状の執行機関
逮捕前置の為適用場面がありえない
72 勾留状の執行機関
逮捕前置の為適用場面がありえない
73 勾留状の執行手続
207・211・216
74 勾留状執行中の留置
207・211・216・209
75 勾引された被告人の留置
207・211・216・209
76 勾引と告知事項
77 勾留と告知事項
逮捕前置の為、209 が明文で除外
78 勾引・勾留と弁護人の選任
207・211・216・209
79 勾留の弁護人等への通知
207・211・216
80 勾留と接見交通
207・211・216
81 接見交通の制限
207・211・216
82 勾留理由開示請求
207・211・216
83 勾留理由開示手続
207・211・216
84 勾留理由開示手続
207・211・216
85 勾留理由開示手続
207・211・216
86 勾留理由開示手続
207・211・216
87 勾留の取消し
207・211・216
88 被告人の保釈請求
207Ⅰただし書により被疑者の保釈はない
89 権利保釈
被疑者の保釈はない
90 職権保釈
被疑者の保釈はない
91 長期拘禁による勾留取消
207・211・216(被疑者の保釈はない)
6/第1編
総説
第1章
入門講座の受け方
<捜査段階での捜索・押収への第1編の規定の準用>
99 条以下
99
99Ⅱ
差押・提出命令
電子計算機の差押え
99 の2
記録命令付差押え
218 条と 222 条との関係
99Ⅰを 222Ⅰで押収捜索に準用
218Ⅱに規定
218Ⅰに規定
100 郵便物の差押
222Ⅰで押収捜索に準用
101 領置
221 に規定
102 捜索
222Ⅰで押収捜索に準用
103 押収拒否権(公務上秘密)
222Ⅰで押収捜索に準用
104 押収拒否権(公務上秘密)
222Ⅰで押収捜索に準用
105 押収拒否権(業務上秘密)
222Ⅰで押収捜索に準用
106 差押・捜索の令状主義
218・220 に規定
107 差押・捜索の令状の方式
219 に捜索差押検証につき規定
108 差押捜索令状の執行機関
109 差押捜索令状の執行機関
110 令状の呈示
110 の2
111 執行に必要な処分
111 の2
222Ⅰで押収捜索検証に準用
電磁的記録に係る記録媒体の差押え
222Ⅰで押収捜索に準用
の執行方法
222Ⅰで押収捜索に準用
電磁的記録に係る記録媒体の差押状
222Ⅰで押収捜索検証に準用
の執行を受ける者等への協力要請
112 執行中の出入り禁止
222Ⅰで押収捜索検証に準用
113 執行への立会権・立会義務
222Ⅵで押収捜索検証の立会義務を規定
114 執行への立会義務(責任者)
222Ⅰで押収捜索検証に準用(②被疑者の捜索)
115 女子の身体捜索への立会
222Ⅰで押収捜索に準用
116 夜間の押収・捜索
222Ⅲで令状押収捜索に準用
117 夜間の押収・捜索
222Ⅲで令状押収捜索に準用
118 執行中止と必要な処分
222Ⅰで押収捜索検証に準用
119 物がない場合の捜索証明書
222Ⅰで押収捜索に準用
120 押収品目録の交付
222Ⅰで押収捜索に準用
121 押収物の保管
222Ⅰで押収捜索に準用
122 押収物の売却金の保管
222Ⅰで押収捜索に準用
123 押収物の還付
222Ⅰで押収捜索に準用
124 押収贓物の還付
222Ⅰで押収捜索に準用
125 受命・受託裁判官
126 被告人の捜索
127 前条の場合への準用規定
第2節
刑事訴訟法の学習法/7
128~142 検証
222Ⅰで検証に準用するもの・しないもの有り
165~174 鑑定
224・225 が鑑定受託者につき規定
<捜査法の条文のグルーピング>
法典
第2編・第1章
捜査
189条~197条
捜査総論
198条
被疑者の取調べ
199条~217条
被疑者の身柄確保
199条~209条
通常逮捕から勾留へ
210条・211条
緊急逮捕から勾留へ
212条~217条
現行犯逮捕から勾留へ
218条~222条の2
捜査機関の為す差押・捜索・検証・通信傍受
223条~228条
捜査機関の為す第三者の取調、第三者への鑑定等の嘱託
229条
検視
230条~244条
告訴
245条
自首
246条
検察官への事件送致(送検)
<証拠法の条文のグルーピング>
法典
第2編・第3章
第2節
証拠
証拠調べ手続
296条~310条
証人尋問
143条~164条
規則106条~127条
規則199条の2~203条
証拠法
317条~328条
317条
総則規定
318条・319条
自由心証主義と自白法則
320条~328条
伝聞証拠
8/第1編
総説
第2章
第2章
刑事訴訟法とは何か
刑事訴訟法とは何か
第1節 刑事訴訟法の意義
一
意義
刑事訴訟法とは、刑法を実現するための手続を定めた法律、あるいは、刑罰権の具体的実現を目
的とする手続に関する法律をいう。
犯罪を原因とし刑罰を科せられるべき事件のことを刑事事件という。民事上の紛争は当事者の間
の話合いで決着をつけることもできるが(私的自治の原則)、刑事事件については、真実の発見と
個人の人権を保障することが要請されるので、必ず刑事訴訟法に従って事件を解決することが必要
である(憲 31)。こうして、刑事訴訟法は、刑法と並んで、刑罰法律関係を形成するための不可分
かつ必然的な一部といえる。
<刑法と刑事訴訟法の関係>
刑法
二
刑罰権の具体的実現
刑事訴訟法
刑法と刑事訴訟法
刑法は、刑事訴訟法によって実現される。犯罪と刑罰を規定する刑法は、刑事訴訟法のみによっ
て実現される(憲 31)。その意味で、刑法と刑事訴訟法は一体の関係である。
また、刑事訴訟法を刑罰法律関係を形成するための不可分かつ必然的な一部と考えることは、刑
法は刑事訴訟の手続に依拠しなければ実現し得ない、犯罪が起きても犯人を直ちに処罰し得ない、
ということを意味する。これは「手続なければ刑罰なし」といわれる。
かつては、刑法は犯罪の成立要件とその効果を規定・宣言するので実体刑法、訴訟法はその規範
内容を実現する施行手続を司る部分なので、形式刑法とよばれた。そして、訴訟法は刑法の形式的
部分、さもなくばせいぜいその「助法」にすぎないと考えられてきたのである(実体法重視思想)。
しかし、今日では、上述のとおり、「刑法は訴訟法あってのもの」といえる。それゆえ、刑事訴
訟法は刑法から独立の意義をもった法律と解され、手続自体のもつ価値が重視されるに至っている
(手続法重視思想)。
したがって、手続法固有の規範によって、実体法規範が変容を受ける場合がある。
ex.①
証拠収集手続に違法があれば、証拠としての許容性が認められず、証拠は法廷から排
除され、その結果、犯罪を証明する証拠が不存在となって無罪となる場合がある。
⇒第4編
②
第3章
第3節
「第5款
証拠禁止」(p.492)
手続的理由から実体法にはない刑が言い渡される場合がある。
→被告人が控訴した事件については原判決の刑より重い刑を言い渡すことはできない
という不利益変更禁止の原則(402)の結果、例えば原判決が窃盗を認定して懲役1
年を言い渡した場合に、控訴審が強盗を認定しても一年を超える刑の言渡しはでき
ない
第2節
三
刑事訴訟法の目的/9
憲法と刑事訴訟法
日本国憲法は、他の例をみないほどの詳細な刑事手続上の人権規定をもっている。そして、それ
は旧憲法のような法律の留保を排した、憲法自体の基本法的要求である。さらに、それは裁判所の
違憲審査制に支えられている。これらの理由等により、刑事訴訟法は、最高法規たる憲法規範にし
たがって解釈・運用される必要がある。この意味で憲法と刑事訴訟法とは一体であるといえる。
また、憲法上の要請である人権保障を重視した刑事訴訟法は「憲法的刑事訴訟法」とも呼ばれて
いる。
<憲法と刑事訴訟法の関係>
憲法
一体
刑事訴訟法
第2節 刑事訴訟法の目的
一
はじめに
刑訴法1条は、「この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障と
を全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とす
る」と規定する。すなわち、ここでは、主に①基本的人権の保障、②事案の真相の究明(実体的真
実の発見)、③刑罰法令の適用実現とが、刑事訴訟法によって実現されるべき目的としてうたわれ
ている。
<刑事訴訟法の目的>
刑事訴訟法の目的
二
①
基本的人権の保障
②
実体的真実の発見
③
刑罰法令の適用実現
実体的真実主義の意義
実体的真実主義には、積極的実体的真実主義と消極的実体的真実主義がある。
まず、積極的実体的真実主義は、犯罪は必ず発見して処罰遺漏がないようにしようとするもので
ある(積極的な処罰確保の理念)。
これに対して、消極的実体的真実主義とは、罪のない者を処罰することがないようにしようとす
るものである(消極的な処罰阻止の理念)。消極的実体的真実主義によると、罪のない者が誤って
処罰されるようなことのない、人権を尊重した手続が要請される。
10/第1編
総説
第2章
刑事訴訟法とは何か
<積極的実体的真実主義と消極的実体的真実主義>
積極的な処罰確保の理念
手続面
実体面
犯罪の発生
刑の執行
ベルト・コンベヤ
刑法
刑訴
消極的な処罰阻止の理念
実体面
手続面
障 害物
犯罪の発生
刑法
三
刑の執行
刑訴
人権の保障
捜査段階の被疑者も、公判段階の被告人も、いまだ犯罪者と確定されたわけではない。刑事上の罪に
問われているすべての者は、法律に基づいて有罪とされるまでは無罪と推定される権利を有する。
このような被疑者・被告人に対して、憲法 31 条以下は、刑事手続における人権保障規範を詳細に
規定した。このことから、刑事訴訟法の重要な目的として人権保障の実現があげられることが理解
できる。
人権保障にも、①国家から不当な侵害を受けない権利を保障する消極的な人権保障と、②自己の
刑事事件に関する手続に自ら関与し、自己を主張する権利を保障する積極的な人権保障とがある。
①の例としては、憲法の保障する令状主義(憲 33、35)、弁護人依頼権(憲 34、37)、自己負罪許
否特権(憲 38)などがあり、②の例としては、各種の情報獲得権、証人審問権(憲 37Ⅱ)などがある。
被疑者・被告人
消極的人権保障
証人尋問
積極的人権保障
情報獲得
無罪の推定
不当に 人権を侵害した捜査
<人権保障の2つの意義>
第3節
四
刑事手続の流れ
第1款
手続のアウトライン/11
適正手続
実体的真実主義と人権保障とは、両立することが理想である。しかし、両者が対立・矛盾する場
合もある。その場合にいずれの価値を優先させるかが大きな問題である。
この点、人権保障を重視した手続を適正手続とするとしても、そこでは実体的真実主義の要請も
前提となっている。そうだとすれば、実体的真実主義と人権保障との適正なバランス状態を適正手
続と解すべきである。
すなわち、適正手続とは、実体的真実主義と人権保障との適正なバランスがとれた手続をいう。
*
なお、実体的真実主義と適正手続を比較し、憲法 31 条は、「適正手続」を定めたものであり、
したがって、適正手続は実体的真実主義に優先するという立場もある(田口・22 頁参照)。
<適正手続の理解>
実体的真実の発見
人権保障
適正なバランス状態
∥
適正手続
第3節 刑事手続の流れ
第1款
一
手続のアウトライン
はじめに
刑事手続は、犯罪の発生によって、まず、①捜査がはじまり、②公訴の提起から、③公判及び裁
判、それから場合により④上訴(などの救済手続)、という4つの段階を経て進行し、⑤その後刑
の執行等で終了する。
①
捜査は、司法警察職員等の捜査官が犯罪の嫌疑を抱いたときに開始される。犯行現場の見分、
鑑識活動、証拠品の収集、聞き込みなどの基礎的捜査を重ねて被疑者を割り出すと、逮捕や取
調べへと進む。その後、事件は検察官に送られ、これを受けた検察官は、その結果を検討・吟
味し、必要であれば補充捜査を加え、公訴を提起するかどうかの事件処理をする。
②
被疑者は、嫌疑が不十分なら不起訴となるが、嫌疑があっても、検察官の裁量によって起訴
猶予とされることもある。起訴には、軽微な罰金事件について書面審理だけですませる略式命
令請求と普通の公判請求の方式がある。
③
普通の公判請求の方式の場合、冒頭手続に続いて証拠調べが行われる。証拠調べの手続では、
検察官から捜査で集めた書証やその他の証拠の取調べが請求される。自白事件では被告人が書
証に同意するであろうからその取調べがなされ、否認事件等で同意がないと、証人尋問の手続
に入る。証拠調べがすむと最終弁論がなされ、有罪又は無罪の判決が下される。
12/第1編
④
総説
第2章
刑事訴訟法とは何か
第1審の裁判に対しては、不服申立てとして控訴でき、控訴審判決に対しては、さらに上告
できる。
⑤
それぞれの裁判があって、一定期間を経過すると裁判は確定し、刑言渡しの有罪判決であれ
ば、刑の執行が行われる。なお、再審・非常上告という救済手続もある。
<刑事手続の流れ>
事件の発生
捜査の端緒……職務質問、所持品検査、自動車検問
警察段階の捜査
証拠の収集・保全……検証・実況見分・
押収・捜索
被疑者の取調べ
被疑者の身柄確保……逮捕
検察官への事件送致
検察段階の捜査
司
法
機
関
の
審
査
証拠の収集・保全……上記の捜査
証人尋問の請求
被疑者の身柄確保……勾留
勾留理由開示・接見交通権
検察官の事件処理……不起訴・起訴猶予
起訴~起訴便宜主義
第1審公判手続
冒頭手続……起訴状朗読、黙秘権の告知、被告事件に対する陳述
証拠調べ……厳格な証拠法則
最終弁論
判決……有罪・無罪
管轄違い・公訴棄却・免訴
上訴手続
……判決の確定
判決確定後の救済手続
……再審、非常上告
第3節
二
刑事手続の流れ
第1款
手続のアウトライン/13
手続の流れ
<刑事手続の流れ>
事件の発生
警 察 の 段 階
捜査の端緒
被害者や第三者による通報・職務質問・聞込み・告訴・告発等
証拠の収集・保全
実況見分・検証・押収・捜索・鑑定嘱託
被疑者の取調べ
捜査の実行
↑
供述拒否権の告知
被疑者の身柄確保
逮捕(通常逮捕・現行犯逮捕・緊急逮捕)
↑
検察官への事件送致
被疑事実・弁護人選任権の告知、弁解の機会/接見交通
送致事件の受理
証拠の収集・保全
上記の捜査、証人尋問の請求
検 察 の 段 階
捜査の実行
被疑者の身柄確保
捜査の終結
検察官の事件処理
(逮捕)
、勾留請求→勾留質問→勾留(釈放)
↑
勾留理由開示
接見交通
不起訴(狭義の不起訴・起訴猶予)←検察審査会・付審判請求手続
家庭裁判所送致
起訴(起訴状提出)
公判請求、略式命令請求、即決裁判請求
第1回公判期日前手続
裁判所の事件(起訴状)受理
事件の配転
起訴状謄本の送達及び弁護人選任に関する照会通知→国選弁護人の選任
事前準備
第1回公判期日の指定←被告人の召還・保釈、訴訟関係人への期日通知
14/第1編
総説
第2章
刑事訴訟法とは何か
冒頭手続
人定質問(裁判長)
↓
起訴状朗読(検察官)
↓
黙秘権等の告知(裁判長)
↓
被告事件に対する陳述(被告人・弁護人)
↓
↓
(簡易公判手続)
証拠調べ手続
第 1 審 公 判 手 続
冒頭陳述(検察官)
↓
↓ 被告人・弁護人の冒頭陳述
最終弁論
犯罪事実に関する立証(検察官)
(人証・書証・物証)
↓
犯罪事実に関する立(反)証(被告人・弁護人)
↓
被告人調書等の請求・取調べ
↓
情状に関する立証(検察官、被告人・弁護人)
↓
被告人質問
↓
証拠調べ終了
↓
論告・求刑(検察官)
↓
弁論(弁護人)
↓
最終陳述(被告人)
↓
結 審
↓
判決宣告(有罪・無罪、管轄違い・公訴棄却・免訴)→確定
↓
第3節
刑事手続の流れ
第1款
手続のアウトライン/15
↓
控 訴 審
上 訴 手 続
上 告 審
控訴申立て
↓
訴訟記録等の送付
↓
控訴趣意書の提出(謄本の送達)
↓
公判期日の手続
↓
裁判(控訴棄却、原判決破棄、公訴棄却)→確定
↓
上告申立て
↓
裁判(上告棄却、原判決破棄)→確定
↓
(判決の訂正)→確定
再審
確定後非常手続
非常上告
三
刑事訴訟の構造
<刑事訴訟の構造>
審判対象レベル
(1)訴因(殺人罪の成立)
法律上の主張レベル
(2)殺人罪の構成要件に該当し、違法性阻却事由及び
責任阻却事由が存在しない
刑法 199 条に基づき訴因の存否
を判断
事実上の主張レベル
立証レベル
(3)事実(①殺害行為、②故意)
経験則・論理則(目撃証言と自白がある
以上、①②の事実の存在について高度の
蓋然性をもって推論できる)に基づき事
実の存否を推認
(4)証拠(目撃証言、自白)
事実認定の三段論法:証拠(小前提)を経験則(大前提)に当てはめて事実を認定(結論を得る)
法適用の三段論法:事実(小前提)を法規(大前提)に当てはめて法的に評価(結論を得る)
16/第1編
総説
第2款
手続を支える制度と原則
一
第2章
刑事訴訟法とは何か
はじめに
刑事訴訟法の目的として、実体的真実主義と人権保障の調和が大切であることはすでに述べた。
そこで、以下、刑事訴訟法の目的を達成するために刑事訴訟の各段階でどの様な手続構造がとられ
ているかを検討する。
もっとも、実体的真実主義と人権保障の調和ないしはこれから検討する各制度、原理、原則によ
ってすべての問題が解決されるわけではなく、まず第一には解決の枠を示しているはずの条文の解
釈により、問題点を分析することが重要である。
二
訴訟の構造に関する原理
1
弾劾主義と糾問主義
弾劾主義と糾問主義は、元来、訴訟開始に関する原理とされてきたが、今日では、刑事裁判の
運営に関する原理として用いられている。
⑴
弾劾主義
弾劾主義とは、訴追者により訴追されることにより手続が開始され、訴追者が主張・立証の
責任を負い、被告人は訴追者に協力する義務を負わない方式をいう。
わが国の刑事訴訟法は、国家訴追主義(247)を採用していること、また、歴史的経緯から弾
劾主義の訴訟構造を採用していると解されている。
⑵
糾問主義
糾問主義とは、犯罪の真相解明にあたる者(糾問官)が手続を開始し、訴訟関係者に真相解
明に必要な証拠の提供を法的に義務づける方式をいう。
<刑事訴訟の構造>
糾問主義
弾劾主義
裁判所
裁判所
被糾問者
訴追者
被告人
第3節
2
刑事手続の流れ
第2款
手続を支える制度と原則/17
当事者主義と職権主義
弾劾主義をとれば、検察官と被告人と裁判所という三つの主体による三面的訴訟構造が実現し、
被告人も一方の訴訟主体となる。では、弾劾主義の訴訟構造の下で、現行法上訴訟追行(審判対
象の設定・変更、事実の提出と証拠の提出)の責任はだれが負うのであろうか。
現行法は、いわゆる起訴状一本主義を採用(256Ⅵ)しており、捜査と公判との連続性は切断さ
れ、裁判所は白紙の状態で公判に臨み冷静な判断者の地位に退くこととなった。したがって、審
判対象の設定(256ⅢⅣ)及び変更(312Ⅰ)は検察官の専権であり、証拠調べの請求は、検察官、
被告人または弁護人が行う(298Ⅰ)。このように、訴訟追行の主導権を当事者に委ねる建前を当
事者主義といい、現行法は、原則として当事者主義を採用し、裁判所の役割と検察官の役割とを
明確に区別して訴訟の公平さを保障している。
もっとも、現行法には、職権証拠調べ(298Ⅱ)、訴因変更命令(312Ⅱ)の規定があることか
ら、当事者主義を補充するため、例外的に訴訟追行の主導権を裁判所に委ねる職権主義を採用し
ている。
3
公判中心主義
公判中心主義とは、犯罪事実の確認は公判でなさなければならないことをいう。犯罪事実の確
認が公判でなされる必要があることから、捜査はあくまでも公判への準備活動であり、裁判の中
心は公判において決せられることになる。
三
刑事手続の各段階における制度と原理
詳細は、後掲の該当箇所で理解しよう。
1
2
捜査を支える制度と原則
⑴
令状主義(憲 33、35)
⑵
強制処分法定主義(197Ⅰただし書)
⑶
任意捜査の原則(197Ⅰ)
⑷
捜査比例の原則
公訴を支える制度と原則
⑴
起訴独占主義(247)
⑵
国家訴追主義(247)
⑶
起訴便宜主義(248)
18/第1編
3
4
総説
第2章
刑事訴訟法とは何か
公判を支える制度と原則
⑴
起訴状一本主義(256Ⅵ)
⑵
公判中心主義
⑶
当事者主義
上訴を支える制度と原則
事後審査の原則
<刑事手続の各段階を支える原則>
捜査
公訴提起
公判
①令状主義
①起訴独占主義
①起訴状一本主義
②強制処分法定主義
②国家訴追主義
②公判中心主義
③任意捜査の原則
③起訴便宜主義
③当事者主義
④捜査比例の原則
上訴
①事後審査の原則
刑の執行
第2編
第2編
訴訟に関わる人々/19
訴訟に関わる人々
Introduction
本編では、刑事手続に関与する主体について学ぶ。
裁判所に関係する項目としては、民事訴訟法でも登場した、管轄や裁判官の除斥・忌避・回避
について学ぶ。また、近年の司法制度改革により導入された裁判員制度については、裁判官と裁
判員との異同が特に重要であり、短答式試験でも出題されているので条文を確認しながら、しっ
かりおさえておこう。
検察官については、一般的にどのような地位、権限を有しているのかについて、司法警察職員
との関係にも注目しながら学習しよう。特に、客観義務の話は、試験で出題される可能性の低い
項目であるが、検察官にも職務基本規定(職業倫理に関する基本ルール)をつくるべきだという
議論と相まって注目されている。
被疑者・被告人については、まずはいかなる憲法上の権利を有しているのかを条文で確認して
みよう。憲法の学習と重なる部分である。訴訟法上の権利(防御権)については、本編では大ま
かに学ぶ。
そして、刑事手続において特に重要な役割を担うのが弁護人である(弁護「士」ではないこと
に注意)。本編では、弁護人がどのように選任されるのか、弁護人の任務・権限はどうなってい
るのか、被疑者・被告人との関係はどうなのかについて学ぶ。特に最後の「被疑者・被告人との
関係」が重要であるので、しっかりと学習しよう。
最後に、刑事訴訟において近年、重要性が高まっているのが犯罪被害者の保護である。近年の
めまぐるしい法改正はその重要性の現れといってよい。刑事手続上、被害者にいかなる地位・権
利が認められているのか、面倒がらずに条文で確認して学習しよう。
被告人、前へ。
裁判官(*)
検察官
弁護人
被告人
**
傍聴席から見て「右に弁護人、左に検察官」が基本
傍聴人
*
裁判員裁判の場合は、裁判官3人・裁判員6人で合議体を構成するのが原則である。
20/第2編
訴訟に関わる人々
第1章
裁判所・裁判官・裁判員
刑事手続は、さまざまな人々による多くの行為の集積である。それらの人々の中には、裁判所・
裁判官、検察官・司法警察職員などのように、法の適用ないし執行の職責を負う公務員あるいは、
弁護士のように専門家として常時刑事手続に関与する者もいる。また、被疑者・被告人などのよう
に、通常の市民であって一時的に関与する者もいる。さらに、刑事司法の主体ではないが、近時、
犯罪被害者の刑事手続への関与の問題が注目されている。
そこで本編では、①裁判所・裁判官・裁判員、②検察官・司法警察職員、③被疑者・被告人、④
弁護人・補佐人、および⑤犯罪の被害者について述べてゆく。
<訴訟に関わる人々>
第2編
訴訟に関わる人々
第1章
第2章
第3章
第4章
第5章
第1章
裁判所・裁判官・裁判員
検察官・司法警察職員
被疑者・被告人
弁護人・補佐人
犯罪の被害者
裁判所・裁判官・裁判員
第1節 裁判所
一
裁判所の組織
1
裁判所の意義
裁判所には、次の2つの意義がある。
⑴
国法上の意義における裁判所
司法行政権を行使する司法行政官庁としての裁判所
⒝
裁判所の全職員を含めた単位である官署としての裁判所
⑵
⒜
訴訟法上の意義における裁判所(=法典上の「裁判所」)
官署としての裁判所に属する裁判官で構成される裁判権を実行する機関
2
裁判所の種類と構成
裁判所は、最高裁判所と下級裁判所に分かれ(憲 76Ⅰ)、下級裁判所としては、高等裁判所、
地方裁判所、家庭裁判所および簡易裁判所がある(裁2Ⅰ)。
第1節
裁判所/21
<裁判所のしくみ>
最高裁判所
高等裁判所
地方裁判所
下
級
裁
判
所
家庭裁判所
簡易裁判所
二
裁判所の管轄
裁判所の管轄とは、特定の裁判所が特定の事件について裁判をなすことができる裁判上の権限を
いう。裁判所の管轄は、法定管轄と裁定管轄とに分かれ、法定管轄はさらに事物管轄、土地管轄お
よび審級管轄に区別される。
<管轄の種類>
簡易裁判所(裁 33)
地方裁判所(裁 24)
事物管轄
法定管轄
高等裁判所(裁 16)
土地管轄(2Ⅰ)
第1審(裁 24、31 の3、33)
審級管轄
管
轄
家庭裁判所(裁 31 の3)
第2審(裁 16)
上訴審
第3審(裁7)
指定による管轄
裁定管轄
移転による管轄
22/第2編
1
訴訟に関わる人々
第1章
裁判所・裁判官・裁判員
法定管轄
⑴
事物管轄
事物管轄とは、事件の軽重や性質による第1審の管轄の分配をいう。
事物管轄が、上級裁判所と下級裁判所とで競合する場合は、原則として、上級の裁判所が審
判する(10Ⅰ)。各裁判所の事物管轄は以下のとおりである。
⒜
簡易裁判所
罰金以下の刑にあたる罪および選択刑として罰金が定められている罪の他、窃盗罪・横領
罪など一定の罪について事物管轄を有する(裁 33Ⅰ②)。ただし、簡易裁判所は、原則とし
て禁固以上の刑を科すことはできない。例外として、住居侵入罪・窃盗罪・横領罪など一定
の罪については3年以下の懲役を科すことができる(同Ⅱ)。簡易裁判所は、この制限を超
える刑を科すのが相当と認めるときは、事件を地方裁判所に移送しなければならない(332、
裁 33Ⅲ)。
⒝
地方裁判所
原則として、一切の事件について事物管轄を有する(裁 24)。
⒞
家庭裁判所
少年法で定める少年の保護事件の審判について事物管轄を有する(裁 31 の3Ⅰ③)。
⒟
高等裁判所
刑法 77 条ないし 79 条の罪(内乱に関する罪)に関する事件につき事物管轄を有する(裁
16④)。
⑵
土地管轄
土地管轄とは、事件の場所的関係による第一審の管轄の分配をいう。
各裁判所はそれぞれ管轄区域をもっており、その区域内に犯罪地または被告人の住所・居
所・現在地がある事件について土地管轄権が認められる(2Ⅰ)。
⑶
審級管轄
審級管轄とは、上訴との関係における管轄をいう。
上訴には、控訴・上告・抗告の3種類がある。このうち、控訴はすべて高等裁判所が管轄し
(裁 16①)、上告は最高裁判所の管轄に属する(裁7①)。抗告のうち、地方裁判所・家庭裁
判所および簡易裁判所の決定に対する抗告はすべて高等裁判所の管轄となり(裁 16②)、特別
抗告は、最高裁判所の管轄となる(裁7②)。
⑷
2
関連事件の管轄
⇒第4編
第1章
第3節
「第2款
公訴事実の複数」(p.279)
裁定管轄
裁定管轄とは、裁判所の裁判によって管轄が定められる場合をいう。
これには、管轄裁判所が明らかでない場合の管轄の指定(15、16)と、本来管轄裁判所がある
のに、特別の事情により、他の裁判所に管轄権を生じさせる管轄の移転(17、18)とがある。
第2節
裁判官/23
第2節 裁判官
一
裁判官の種類
裁判官には、最高裁判所長官、最高裁判所判事、高等裁判所長官、判事、判事補および簡易裁判
所判事の6種類がある(裁5)。
・訴訟法上の意義における裁判官(=法典上の「裁判官」)
また、裁判官の訴訟法上の地位の区別としては、以下のようなものがある。
①合議制の場合には、裁判官の1人が裁判長となる。それ以外の裁判官は陪席裁判官と呼ばれる。
②受命裁判官とは、合議制裁判所から一定の訴訟行為を行うよう命じられた当該合議制裁判所の構
成員たる裁判官をいい、③受託裁判官とは、ある裁判所から一定の訴訟行為をなすよう嘱託された
他の裁判所の裁判官をいう。
<裁判官の種類>
合議制
裁判長
陪席裁判官
裁判所
合議制
受命裁判官
一定の訴訟行為を行うことを
命じられる
裁判所
受託裁判官
ある裁判所から一定の訴訟行為をなすように
嘱託された他の裁判所の裁判官
二
裁判官の除斥・忌避・回避
1
公平な裁判所の要請
裁判は適正であるとともに、両当事者にとって公平でなければならない。そこで、憲法 37 条1
項は、「被告人は、公平な裁判所の……裁判を受ける権利を有する」と規定した。
ここに「公平な裁判所」(狭義)とは、その組織・構成からみて偏頗な裁判をするおそれのな
い裁判所をいう(最判昭 23.5.5)。この組織・構成の公平を担保するため、裁判官の除斥・忌
避・回避の制度が設けられている。
24/第2編
*
訴訟に関わる人々
第1章
裁判所・裁判官・裁判員
公平な裁判所(広義)を担保する制度としては、①裁判官の除斥・忌避・回避の制度の他、
②当事者主義の諸制度、③起訴状一本主義(256Ⅵ)、④陳述の制限(296 ただし書、301、
302)などがある。
2
除斥
除斥とは、不公平な裁判をするおそれが推認される法定の事由があるときに、裁判官を職務か
ら当然に排除する制度をいう(20)。手続的には職権で除斥の決定をする(規 12)
⇒発展
除斥事由のある裁判官は、当然に職務の執行から排除される。それにもかかわらずその裁判官
が関与すれば、当事者は忌避の申立てをすることができる(21)。除斥事由のある裁判官が判決
に関与したときは、絶対的控訴理由となる(377②)。
3
忌避
忌避とは、不公平な裁判をするおそれがあるときに、当事者の申立てにより、裁判官を職務の
執行から排除する制度をいう(21)。
忌避理由は、除斥事由があること、または、不公平な裁判をするおそれがあることである
(21)。判例(最決昭 48.10.8/百選〔A22〕)は、訴訟手続内における審理の方法、態度はそれ
だけでは忌避の理由とならないとする。
忌避申立には時間的制限があり、事件について請求または陳述をしたときは、不公平な裁判を
するおそれを理由とする申立てはできない(22 本文)。事件について請求または陳述をしたとき
は、裁判を受ける意思を黙示的に示したとみうるからである。ただし、事後に忌避事由が発生し
たり、またはこれを知った場合はこの限りではない(22 ただし書)。
忌避申立に対する裁判は合議体でおこない、忌避された裁判官はその裁判に関与できない
(23)。ただし、訴訟を遅延させる目的でのみされたことの明らかな忌避申立などについては、
忌避された裁判官も却下決定に関与できる(簡易却下)(24)。却下決定に対しては即時抗告が
でき(25)、簡易却下に対しても準抗告ができる(429Ⅰ①)。
◆
最大決平 23.5.31/H23 重判〔2〕
裁判員制度の憲法適合性を争点とする事案において、最高裁判所長官が、長官就任後、①裁
判員の参加する刑事裁判に関する法律の施行を推進するために裁判員制度を説明するパンフレ
ット等の配布を許すとともに、②憲法記念日に際して裁判員制度の実施に関し、現状認識や見
通し及び意見を述べたこと等に照らし、「不公平な裁判をする虞」(21Ⅰ)があるとして、忌
避の申立てがなされた。
本決定は、①、②のような司法行政事務に関与したからといって、それゆえに事件を審理裁
判する職責に差し支えが生じると解する根拠はなく、司法行政事務への関与は、具体的事件と
の関係で裁判員制度の憲法上の適否について法的見解を示したものではないから、「不公平な
裁判をする虞」(21Ⅰ)があるとはいえないとした。
4
回避
回避とは、自己に忌避の原因があると思料する裁判官がみずから職務の執行からしりぞく制度
をいう(規 13)。
第3節
裁判員/25
第3節 裁判員
平成 16 年第 159 回国会(常会)において、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(平成 16 年
5月 28 日法律第 63 号)が制定された。平成 21 年5月から裁判員制度がスタートした。制度施行か
ら平成 23 年3月末までの約2年間で、延べ 3,377 人の被告人が裁判員制度の対象事件となり、その
うち、判決、決定、その他で終局した被告人の員数は 2,099 人(うち 2,053 人が有罪)となってい
る。そして、1万 1889 人が裁判員に選任され、裁判員候補者としては延べ 17 万 7794 人が選定され
た。
裁判員の参加する裁判手続については、「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」が刑事訴訟
法の特則を定めている。詳しくは後述(⇒第4編
第2章
第3節
「第5款
裁判員の参加する
裁判手続」 p.363)するが、ここでは、裁判員制度の意義と内容について概略を解説する。
一
裁判員制度の意義
一般国民の中から選任された裁判員が裁判官と共に刑事訴訟手続に関与することは、「司法に対
する国民の理解の増進とその信頼の向上に資することにかんがみ」(裁判員1)、裁判員制度が導
入された。
裁判員制度とは、裁判官と国民の中から選任された裁判員で構成する裁判体が重大事件を対象と
して、事実認定、法令の適用、刑の量定を行う制度をいう。
二
⑴
内容
死刑または無期の懲役・禁錮に当たる罪に係る事件および、法定合議事件であって故意の犯罪
行為により被害者を死亡させた罪に係るもの、といった重大事件を対象とする(裁判員2Ⅰ)。
⑵
原則として裁判員の参加する合議体の裁判官の員数は3人、裁判員の員数は6人である(裁判
員2Ⅱ本文)。そして、裁判所は、審判の期間等を考慮して必要と認めるときは、補充裁判員を
置くことができる(裁判員 10)。
事実の認定・法令の適用・刑の量定に関する判断は、裁判官と裁判員の合議体の過半数であっ
て、裁判官及び裁判員のそれぞれ1人以上が賛成する意見による(裁判員6ⅠⅢ、66Ⅰ、67Ⅰ)。
これに対し、法令の解釈・訴訟手続に関する判断・その他裁判員の関与する判断以外の判断は、
裁判官の過半数の意見による(裁判員6Ⅱ、68Ⅱ・裁 77)。
⑶
市町村の選挙管理委員会は、衆議院議員の選挙権を有する者の中から(裁判員 13)、1年毎に
くじで選定された裁判員候補者予定者名簿を調製する(裁判員 21Ⅰ)。そして、この裁判員候補
者予定者名簿の送付を受けた地方裁判所は、裁判員候補者名簿を調製する(裁判員 23Ⅰ)。裁判
員は、その中から事件毎にくじで選定される(裁判員 26Ⅲ)。
裁判員は、公判期日への出頭義務(裁判員 52)、守秘義務(裁判員9Ⅱ)等の義務を負う。義
務違反その他一定の場合に、裁判員は解任される(裁判員 41)。
26/第2編
⑷
訴訟に関わる人々
第1章
裁判所・裁判官・裁判員
裁判員の保護のため、裁判員となった労働者が、裁判員であることを理由として解雇その他不
利益な取扱いを受けないこと(裁判員 100)、裁判員を特定するに足りる情報(氏名等)を公にし
てはならないこと(裁判員 101)等の規定が置かれた。また、裁判員に対する請託・威迫行為、裁
判員の秘密漏洩行為等についても刑事罰が設けられている(裁判員 106~108)。
⑸
裁判員裁判に対する控訴審
◆
東京高判平 22.5.26/H23 重判〔9〕
「裁判員制度の導入は、量刑についても、国民の健全な社会常識に根差した感覚を反映させ、
判決の納得性をより一層高めることを目的としているところ、事後審査審である控訴審に裁判
員が構成員として加わっていないことを考えると、上記目的を達成するためには、情状に関す
る証拠も原則として第一審でその評価を受けるべきものであり、その意味で、これまで以上に
第一審中心の審理が行われることが要請されているというべきである。」
◆
最判平 24.2.13
裁判員裁判に付された覚せい剤取締法違反、関税法違反被告事件において、第1審は被告人
に無罪を言い渡したが、控訴審では、第1審判決には明らかな事実誤認があるとして被告人を
有罪と認めた。最高裁判所は職権で下記のように判断した上で、自判し、第1審判決を支持し
た。
「刑訴法は控訴審の性格を原則として事後審としており、控訴審は、第1審と同じ立場で事
件そのものを審理するのではなく、当事者の訴訟活動を基礎として形成された第1審判決を対
象とし、これに事後的な審査を加えるべきものである。第1審において、直接主義・口頭主義
の原則が採られ、争点に関する証人を直接調べ、その際の証言態度等も踏まえて供述の信用性
が判断され、それらを総合して事実認定が行われることが予定されていることに鑑みると、控
訴審における事実誤認の審査は、第1審判決が行った証拠の信用性評価や証拠の総合判断が論
理則、経験則等に照らして不合理といえるかという観点から行うべきものであって、刑訴法382
条の事実誤認とは、第1審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることを
いうものと解するのが相当である。したがって、控訴審が第1審判決に事実誤認があるという
ためには、第1審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることを具体的に
示すことが必要であるというべきである。このことは、裁判員制度の導入を契機として、第1
審において直接主義・口頭主義が徹底された状況においては、より強く妥当する」。
また、判例(最決平25.4.16/H25重判〔5〕①事件、最決平25.10.21/H25重判〔5〕②事
件)は、以下の事案において、第1審判決の事実認定における経験則違反を具体的に認定した。
すなわち、①事件は、メキシコ人である被告人が、氏名不詳者らと共謀の上、営利の目的で、覚
せい剤を日本国内に輸入しようと計画し、氏名不詳者がメキシコ国内から覚せい剤を隠匿した段
ボール箱を航空貨物として東京都内に発送して日本国内に持ち込んだが、税関職員の検査によっ
て覚せい剤が発見されたため、被告人は覚せい剤取締法違反(覚せい剤営利目的輸入罪)及び関
税法違反により起訴されたという事案において、被告人が貨物の中身は覚せい剤かもしれないと
思ったが、覚せい剤輸入の故意及び共謀はないと主張したことにつき、「被告人は、輸入貨物に
覚せい剤が隠匿されている可能性を認識しながら、犯罪組織関係者から輸入貨物の受取を依頼さ
れ、これを引き受け、覚せい剤輸入における重要な行為をして、これに加担することになったと
第3節
裁判員/27
いうことができるのであるから、犯罪組織関係者と共同して覚せい剤を輸入するという意思を暗
黙のうちに通じ合っていたものと推認されるのであって、特段の事情がない限り、覚せい剤輸入
の故意だけでなく共謀をも認定するのが相当である。原判決は、これと同旨を具体的に述べて暗
黙の了解を推認した上、本件においては、上記の趣旨での特段の事情が認められず、むしろ覚せ
い剤輸入についての暗黙の了解があったことを裏付けるような両者の信頼関係に係る事情がみら
れるにもかかわらず、第1審判決が共謀の成立を否定したのは不合理であると判断したもので、
その判断は正当として是認できる。」旨判示した。
さらに、②事件は、被告人が氏名不詳者らと共謀の上、営利の目的で、ベナン共和国C国際空
港において、航空機に搭乗する際、粘着テープ等で小分けにした覚せい剤を隠し入れたスーツケ
ースを機内に積み込ませ、成田空港でスーツケースを同航空機から搬出させたが、税関職員の検
査によって覚せい剤が発見されたため、覚せい剤取締法違反(覚せい剤営利目的輸入罪)及び関
税法違反により起訴されたという事案において、被告人がスーツケースの中に覚せい剤が収納さ
れていたことを知らなかった(以下「知情性」という。)と主張したことにつき、第1審判決は、
被告人に事情を知らせないまま覚せい剤を回収する方法がないとはいえないとして、被告人に無
罪を言い渡したところ、「覚せい剤密輸組織によるこの種の犯罪において、運搬者が、覚せい剤
密輸組織の者からにしろ、一般人を装った者からにしろ、誰からも何らの委託も受けていないと
か、受託物の回収方法について何らの指示も依頼も受けていないということは、現実にはあり得
ない」とした上で、「この経験則と被告人が大量の覚せい剤が隠匿された本件スーツケースを携
帯して来日したことなどからは、被告人は本件スーツケースを日本に運ぶよう指示又は依頼を受
けて来日したと認定でき、渡航費用等の経費は覚せい剤密輸組織が負担したと考えられることな
ども併せ考えれば、被告人において、少なくとも、本件スーツケースの中に覚せい剤等の違法薬
物が隠匿されているかもしれないことを認識していたと推認できる。」「密輸組織が多額の費用
を掛け、摘発される危険を冒してまで密輸を敢行するのは、それによって多額の利益が得られる
からに他ならず、同組織は、上記利益を実際に取得するべく、目的地到着後に運搬者から覚せい
剤を確実に回収することができるような措置を講じるなどして密輸を敢行するものである。そし
て、同組織にとってみれば、引受け手を見付けられる限り、報酬の支払を条件にするなどしなが
ら、運搬者に対して、荷物を引き渡すべき相手や場所等を伝えたり、入国後に特定の連絡先に連
絡するよう指示したりするなど、荷物の回収方法について必要な指示等をした上、覚せい剤が入
った荷物の運搬を委託するという方法が、回収の確実性が高く、かつ、準備や回収の手間も少な
いという点で採用しやすい密輸方法であることは明らかである。これに対し、そのような荷物の
運搬委託を伴わない密輸方法は、目的地に確実に到着する運搬者となる人物を見付け出した上、
同人の知らない間に覚せい剤をその手荷物の中に忍ばせたりする一方、目的地到着後に密かに、
あるいは、同人の意思に反してでもそれを回収しなければならないなどという点で、準備や実行
の手間が多く、確実性も低い密輸方法といえる。そうすると、密輸組織としては、荷物の中身が
覚せい剤であることまで打ち明けるかどうかはともかく、運搬者に対し、荷物の回収方法につい
て必要な指示等をした上で覚せい剤が入った荷物の運搬を委託するという密輸方法を採用するの
が通常であるといえ、荷物の運搬の委託自体をせず、運搬者の知らない間に覚せい剤をその手荷
物の中に忍ばせるなどして運搬させるとか、覚せい剤が入った荷物の運搬の委託はするものの、
28/第2編
訴訟に関わる人々
第2章
検察官・司法警察職員
その回収方法について何らの指示等もしないというのは、密輸組織において目的地到着後に運搬
者から覚せい剤を確実に回収することができるような特別な事情があるか、あるいは確実に回収
することができる措置を別途講じているといった事情がある場合に限られるといえる。したがっ
て、この種事案については、上記のような特段の事情がない限り、運搬者は、密輸組織の関係者
等から、回収方法について必要な指示等を受けた上、覚せい剤が入った荷物の運搬の委託を受け
ていたものと認定するのが相当である。」「本件では、上記の特段の事情はなく、被告人は、密
輸組織の関係者等から、回収方法について必要な指示等を受けた上、本件スーツケースを日本に
運搬することの委託を受けていたものと認定するのが相当である。」旨判示した。
第2章
検察官・司法警察職員
第1節 検察官
一
はじめに
検察官は、検察権を行使する主体であり、刑事訴訟において当事者の一方たる原告(訴追者)の
役割を務める。もっとも、民事訴訟の原告のように、利害対立を前提として一方の利益を追求する
といった地位にあるのではなく、訴追官として「公訴を行」うにも、裁判所に「法の正当な適用を
請求」するという精神を堅持する必要がある(検察4)。
二
組織
検察官の行う事務を統轄するところを検察庁という。これは、裁判所とは異なり、国家意思を表
示する官庁としての意義はなく、官署にすぎない。各裁判所に対応して、最高検察庁、高等検察庁、
地方検察庁、区検察庁がおかれる(検察1Ⅱ、2)。
検察官には、検事総長、次長検事、検事長、検事、副検事の5種類がある(検察3)。
<検察庁のしくみ>
最高検察庁
高等検察庁
地方検察庁
区検察庁
第2節
三
司法警察職員/29
権限
検察官の権限は、刑事手続の全般に及び、犯罪の捜査から刑の執行にいたるまで、刑事手続のす
べての段階において重要な役割を果たしている。すなわち、①司法警察職員と並んで捜査権限があ
り(191Ⅰ)、②公訴提起の権限があり(247)、さらに③公判では証拠提出、意見陳述等の権限が
あり(298Ⅰ等)、最後に④刑の執行を指揮する権限がある(472)。
四
客観義務
検察官の客観義務とは、検察官は単に被告人の有罪を請求するだけでなく、法と正義の実現をめ
ざして公平・公正たるべきであるとの職務規範をいう。
検察官の客観義務の主張は、検察官に広範な権限が認められているのは、単なる一方当事者では
ないからであり、裁判官に準ずる地位にあることを自覚的に議論しようとするものである。しかし、
これによって検察官への権限集中を正当化するとすれば、あるべき刑事司法の形態から遠ざかる。
広汎な権限が認められている検察官に一定の公正な権限行使の義務が生じるのは当然であるが、同
時にその権限をできる限り分散するとともに、その当事者主義的地位を明確にして、現行法の当事
者主義的訴訟構造と調和する方向も模索しなければならない。
第2節 司法警察職員
一
司法警察職員
司法警察職員とは、捜査を担当して、検察官の検察権の行使を補助する者をいう(191Ⅰ、193)。
司法警察職員は、一般司法警察職員と特別司法警察職員とからなる。このうち一般司法警察職員
には司法警察員(司法巡査以外の司法警察職員)と司法巡査との区別がある。また、特別司法警察
職員には、海上保安官、労働基準監督官、麻薬取締官、郵政監察官、刑事収容施設職員、船長等が
ある。
二
検察官と司法警察職員の関係
1
両者の関係
前述のように、検察官も司法警察職員も捜査機関であるから、両者の関係が問題となる。そこ
で、法は、両者は捜査に関し互いに協力しなければならないとの訓示規定をおいている(192)。
30/第2編
訴訟に関わる人々
第2章
検察官・司法警察職員
<検察官と司法警察職員の関係>
検察官:刑訴法上の機関として一人一人独立
協働関係
司法警察職員
特別司法警察職員(海上保安官、麻薬取締官 etc.)
一般司法警察職員(警察官)
司法警察員
司法巡査
警察官
cf.199
司法警察活動(犯罪捜査)
行政警察活動(治安維持 etc.)
*
警察官の場合、公安委員会規則によって、199 条の「司法警察員」は警部以上の者で
あり、他の条文(例えば、検視に関する 229 条2項等)の「司法警察員」は巡査部長以
上の者である。
2
指示・指揮
検察官と司法警察職員とは、原則として、対等・協力関係にある。しかし、捜査は、公訴の提
起および維持のために行われるから、検察官は、この目的に合致した捜査が行われるように司法
警察職員に指示できなければならない。また、自ら捜査するときは、司法警察職員を指揮できな
ければならない。そこで、法は、検察官に司法警察職員に対する指示権および指揮権を与えた。
⑴
一般的指示
検察官は、その管轄区域により、司法警察職員に対し、その捜査に関し、必要な一般的指示
をすることができる。この指示は、捜査を適正にし、その他公訴の遂行を全うするために必要
な事項に関する一般的な準則を定めることによって行われる(193Ⅰ)。
⑵
一般的指揮
検察官は、その管轄区域により司法警察職員に対し、捜査の協力を求めるのに必要な一般的
指揮をすることができる(193Ⅱ)。
これは、検察官が自ら捜査を行い、または行おうとする場合に、司法警察職員一般に対して
必要な指揮をとることを認める趣旨である。
⑶
具体的指揮
検察官は自ら犯罪を捜査する場合において必要があるときは、司法警察職員を指揮して捜査
の補助をさせることができる(193Ⅲ)。
これは、検察官が具体的事件を捜査している場合に限られる。また、この権限は、一般的指
揮が司法警察職員一般を対象とするのとは異なり、特定の司法警察職員を対象とする。
⑷
司法警察職員は、⑴~⑶の検察官の指示または指揮に従わなければならない(193Ⅳ)。司法
警察職員が正当な理由なく従わなかった場合、検察官は、懲戒罷免権者に対し懲戒罷免の訴追
をすることができる(194)。
第2編
第3章
訴訟に関わる人々
第3章
被疑者・被告人/31
被疑者・被告人
第1節 被疑者
一
はじめに
被疑者とは、公訴提起前に嫌疑を受けて捜査の対象になっている者をいう。
二
被疑者の地位
被疑者には、捜査の客体としての側面があることは否定できない。もっとも、被疑者は起訴されれば
被告人となり、訴訟の一方当事者となることから、現行法は、起訴前手続においても被疑者の当事者性
を高め、いわば防御の主体として被疑者にも積極的に防御活動を展開させることとしている。
第2節 被告人
一
1
はじめに
意義
被告人とは、公訴の提起を受けた者をいう。
2
被告人の特定
二
被告人の地位
⇒第4編
第1章
第2節
第4款
「一
被告人の特定」(p.268)
被告人は、当事者として積極的地位にあると同時に証拠方法として消極的地位にもある。
1
積極的地位
被告人は、訴訟の当事者として検察官と対等の地位にある(当事者平等の原則)。しかし、事
実上は被告人の方が劣位にある。そこで、当事者平等の原則を実現するため、被告人にはさまざ
まな権利が認められている。
⑴
当事者としての基本的権利
当事者としての基本的権利として、①黙秘権(憲 38Ⅰ、法 311Ⅰ)、②弁護人選任権(憲 37
Ⅲ、34 前段、法 30)、③国選弁護人請求権(憲 37Ⅲ、法 36)、④接見交通権(39Ⅰ)等があ
る。
⑵
身柄関係
身柄関係については、⑤勾留理由開示請求権(憲 34 後段、法 82)、⑥勾留取消請求権(87)、
⑦保釈請求権(88)等がある。
32/第2編
⑶
訴訟に関わる人々
第3章
被疑者・被告人
証拠関係
証拠関係については、⑧証人審問権(憲 37Ⅱ、法 157Ⅲ、304Ⅱ)、⑨証拠開示請求権(299
Ⅰ)、⑩証拠保全請求権(179Ⅰ)、⑪証拠調請求権(298Ⅰ)、⑫証明力を争う権利(308)等
がある。
⑷
その他の被告人の主体的権利
その他、被告人の主体的権利として、⑬公判出頭権(286)、⑭任意供述権(311Ⅱ)、⑮有
罪陳述権(291 の2)、⑯証拠同意権(326Ⅰ)、⑰異議申立権(309Ⅰ)、⑱不服申立権(351、
419、420、429 等)がある。
このうち、③⑦は被告人にのみ認められている権利であったが、平成 16 年の改正によって、③
については、一定の事件について被疑者段階にも認められるようになった(法 37 条の2~37 条の
5)。もっとも、④についても、被告人は弁護人と自由に接見できるが、被疑者の場合には捜査
の必要性から接見時間等が指定される場合がある、という違いがあり、被告人の地位は被疑者の
地位よりも強化されている。
2
消極的地位
被告人は訴訟の対象であるから、その身柄は保全の対象となる。したがって、被告人は、公判
への出頭確保のため、召喚(57)、勾引(58)、勾留(60)等の対象となる。
また、被告人は証拠方法であって必要とする事項につき供述を求められたり(311ⅡⅢ)、検証
の客体となることもある(128 以下)。
第3節 外国人被疑者・被告人の保護に関する問題
⑴
外国人被疑者に対する権利告知
訳文の付与の要否や、黙秘権告知の場合の言語(特に少数言語の場合)が議論されている。
⑵
外国人被疑者の取調べ
当該外国語での録取の要否、日本語調書への訳文添付の要否が議論されている。
⑶
外国人からの証拠物の押収
捜査官の外国語力との関係で、任意提出の意味を理解させたといえるかが議論されている。
⑷
起訴状謄本の送達(271)に翻訳文の添付が必須かが議論されている。
⑸
公判廷における法廷通訳
175 条は「陳述をさせる場合には」とあるが、口頭による訴訟行為はすべて通訳を要するもの
と解されている。その際の、言語の選定(特に少数言語の場合)、通訳の正確性確保のための
措置が、議論されている。
第2編
第4章
訴訟に関わる人々
第4章
弁護人・補佐人/33
弁護人・補佐人
第1節 弁護人
第1款
・
総説
はじめに
弁護人とは、刑事訴訟につき選任され、もっぱら被疑者・被告人のために弁護をなすことを任
務とする者をいう。
被疑者・被告人は、当事者としてみずから自己の利益を防御する権利を持っているが、被疑
者・被告人は法律上の知識に乏しい。よって、法律的知識の上でも、証拠収集能力の点でも被疑
者・被告人よりもはるかに強力な検察官の攻撃に対し、自らの権利・利益を一人で守ることはで
きない。被疑者・被告人が身柄を拘束されている場合は、活動の自由が奪われているのでなおさ
らである。そこで、憲法 37 条3項および 34 条は、被告人および身柄を拘束された被疑者の弁護
人依頼権を保障した。さらに法はこれを一歩進めて、身柄の拘束・不拘束を問わずすべての被疑
者に弁護人選任権を保障した(30)。
被告人とは異なり、被疑者の国選弁護制度(裁判所または裁判長が弁護人を選任する制度)は憲法
上の要請ではない(憲 37Ⅲ後段、最大判平 11.3.24)。しかし、30 条1項の弁護人依頼権の保障を実
質化するため、平成 16 年の改正により 37 条の2以下が設けられ、必要的弁護事件(289Ⅰ)のうち被
疑者に勾留状が発せられている場合を対象とした被疑者国選弁護制度が導入された。被疑者・被告人
の弁護人には、私選弁護人と国選弁護人とがあるが、その権限に違いはない。
弁護人については、①弁護人の選任、②弁護人の任務・権限が問題となるので以下順に述べて
いく。
第2款
一
弁護人の選任
私選弁護
私選弁護とは、一定の者が弁護人を選任する場合をいう。
私選弁護人の選任権者は、被疑者・被告人(30Ⅰ)のほか、その法定代理人、保佐人、配偶者、
直系の親族および兄弟姉妹である(同Ⅱ)。
二
国選弁護
1
意義
国選弁護とは、被疑者・被告人のために国(裁判所・裁判長または裁判官)が弁護人を選任す
る場合をいう。
34/第2編
訴訟に関わる人々
第4章
弁護人・補佐人
私選弁護人の依頼権をいくら保障しても、弁護料を払えない貧しい人にとっては画餅に等しい。
また、このような事態を放置することは法の下の平等にももとる。そこで憲法 37 条3項後段は、
被告人が自ら弁護人を依頼することができないときは、国でこれを選任することとした。法 36 条
はこれを受け、さらに、法 37 条の2は被疑者にまで拡大している。
2
選任(被告人の場合)
国選弁護人は、①請求による場合、②職権による場合、③必要的弁護の場合に選任される。
⑴
請求による場合
⒜
被告人が貧困その他の事由で弁護人を選任できないときは、裁判所は、その請求により、
被告人のため弁護人を付する(36)
↓この点
36 条は、被告人が国選弁護人の選任を請求することを要件としているため、憲法 37 条 3 項
後段に牴触しないかが問題
↓確かに
憲法 37 条3項後段は、被告人に選任の意思があってもその能力がないときに国が弁護人を
付ける趣旨で、それがそのまま法 36 条に明文化されたと解するのが通説である
↓しかし
国選弁護によってはじめて真に弁護人の援助を受ける権利が実質上保障されるから、国選
弁護人の選任を被告人の請求にかからせる法 36 条の規定は憲法の本来の趣旨から外れてい
る
↓したがって
被告人が弁護権の内容と放棄の結果を知り、自己のおかれた状況を知り、任意かつ明示的
に放棄した場合に限って、国選弁護人を選任しないことが許されるというべき(田宮・光
藤)
⒝
被告人の請求があれば、裁判所は国選弁護人を付さなければならない。しかし、被告人が
国選弁護人を通じて防御活動をする意思がないことを示したと評価できる事情によりこれを
辞任に追い込んだ場合、判例(最判昭 54.7.24/百選〔A26〕)は、その再選任の請求を権利
の濫用として却下することも許されるとする。
⑵
職権による場合
被告人が未成年であるとき、年齢 70 年以上の者であるとき等、その他必要と認めるときには、
被告人の意思如何にかかわらず、裁判所は職権で弁護人を付することができる(37)。
これは、被告人の防御能力が類型的に劣っていると思われる場合に、裁判所が後見的役割を
果たす制度である。37 条各号の事件であってすでに弁護人が選任されている場合であっても、
その弁護人が出頭しないときは、裁判所は職権で弁護人を付することができる(290)。
⑶
必要的弁護の場合
死刑または無期もしくは長期3年を超える懲役もしくは禁固に当たる事件を審理する場合に
は、弁護人なしに開廷することはできないので、この場合に弁護人が出頭しないとき、または、
弁護人がいないときは、裁判長は職権で弁護人を付する(289)。
⇒第4編
第2章
第3節
第1款
「三
弁護人の出頭」(p.350)
第1節
⑷
弁護人
第3款
弁護人の任務・権限/35
選任行為の法的性格
国選弁護人の選任は、①36 条等により弁護人を付する決定をし、②これに基づき、裁判長が
特定の弁護人を具体的に任命(選任)する(38Ⅰ)という二段階の手続をふんで行われる。
このうち①の法的性格が裁判であることは明らかである。問題となるのは、②の法的性格如
何である。この点、弁護士の承諾により選任の効力が生ずるとする公法上の契約説もある。し
かし、裁判所の命令であるとする裁判説が判例(最判昭 54.7.24/百選〔A26〕)・通説である。
この裁判説に従うと、国選弁護人の選任は裁判所の意思表示によることになる。もっとも、実
際は弁護士会を通じて内諾のある者を選任するのが普通である。
3
終任
三
平成 16 年改正における公的弁護制度の整備
1
勾留状が発せられている被疑者に対する国選弁護制度の導入
⇒発展
死刑又は無期もしくは長期3年を超える懲役もしくは禁錮に当たる罪の事件について被疑者に
対して勾留状が請求ないし発付されている場合において、被疑者が貧困その他の事由により弁護
人を選任することができないときは、裁判官は、その請求により、被疑者のため弁護人を付さな
ければならない(37 の2)。
2
弁護人の選任要件及び選任手続の整備
被疑者段階では、明確な資力基準を定め、被疑者に資力申告書の作成・提出を義務付けるもの
とする。一定の資力がある被疑者は、私選弁護申出を行ったが、弁護人を選任できなかったこと
を国選弁護の要件とする(37 の3)。
任意的弁護の場合の被告人も、選任要件及び選任手続については被疑者の場合に準じるものと
している(31の2)。
第3款
一
弁護人の任務・権限
任務 ⇒発展
弁護人の本来の任務が、訴訟代理、保護、防御を通じて被疑者・被告人の人権を擁護することに
あるのは当然である。しかし、弁護人は、基本的人権を擁護するのみならず、社会正義を実現する
こともその使命とする(弁護1)。そこで、いわゆる弁護人の真実義務が問題となる。
この点は一般に次のように説かれている(なお、東京地判昭 38.11.28/百選[第8版]〔A21〕参
照)。
①
被告人が真犯人であることを弁護人に告白し、弁護人も被告人が犯人であると確信する場合
であっても、証拠により犯罪の証明がなされないかぎり有罪とはされないのであるから、有罪
とするに足りる証拠がないときには、弁護人は証拠不十分による無罪を主張することができる。
36/第2編
②
訴訟に関わる人々
第4章
弁護人・補佐人
被告人が実は身代わり犯人であることを弁護人に告白し、弁護人も被告人が無罪であると確
信する場合には、たとえ被告人が有罪を望んだとしてもそれは被告人の正当な利益とはいえな
いので、弁護人としては無罪の主張をすべきである。
③
弁護人は、被告人の正当な利益を擁護する者であるから、被告人に対する不利益行為は許さ
れない。したがって、無罪を主張する被告人の意思に反して有罪の弁論をすることは許されない。
二
権限
弁護人の権限は、一般に、被告人の訴訟行為を代理する権限(代理権)と代理に親しまない権限
(固有権)とに分けられる。
<弁護人の権限>
1(1)
代理権
弁
護
人
の
権
限
1
本人の明示の意思に反しても許されるもの(独立代理権)
1(2) 本人の明示の意思に反しえないが、黙示の意思には反しうるもの
(従属代理権)
2(1)
弁護人のみが有する権利(狭義の固有権)
2(2)
弁護人が被告人と重複して有する権利
固有権
代理権
⑴
本人の明示の意思に反しても許されるもの(独立代理権)
①勾留理由開示請求権(82Ⅱ)、②勾留取消または保釈請求権(87、88、91)、③証拠保全
請求権(179)、④公判期日変更請求権(276Ⅰ)、⑤証拠調請求権(298Ⅰ)、⑥異議申立権
(309ⅠⅡ)など。
⑵
本人の明示の意思に反しえないが、黙示の意思には反しうるもの(従属代理権)
①忌避申立権(21Ⅱ)、②上訴申立権(355、356)など。
2
固有権
⑴
弁護人のみが有する権利(狭義の固有権)
①訴訟書類・証拠物の閲覧謄写権(40、180)、②鑑定の立会権(170)、③上訴審における
弁論権(388、414)など。
⑵
弁護人が被告人と重複して有する権利
①捜索差押状の執行の立会権(113Ⅰ)、②検証の立会権(142・113)、③証人尋問の立会権
(157Ⅰ、228Ⅱ)、④証人等に対する尋問権(157Ⅲ、304Ⅱ)、⑤第一審公判における最終陳
述権(293Ⅱ)、⑥共同被告人に対する質問権(311Ⅲ)など。
第2編
訴訟に関わる人々
第5章
犯罪の被害者/37
第2節 補佐人
・
はじめに
弁護人に類似した制度として補佐人制度がある。被告人の法定代理人・保佐人・配偶者・直系の
親族および兄弟姉妹は、いつでも書面で届出の上、補佐人となることができる(42Ⅰ)。補佐人は、
被告人の明示の意思に反しない限り、その訴訟行為を代行できる(42Ⅲ)。
補佐人制度は、被疑者には認められていない。
第5章
犯罪の被害者
第1節 総説
犯罪の捜査・訴追が被害者自身によって行われていた時代もあったが、それでは公平な法の実現
がなされ得ないことから、国家組織の発展とともに、犯罪の捜査と訴追は国家の任務とされるよう
になった。そのため、被害者は、もはや刑事司法の主体ではなくなった。
しかし、被害者が犯罪の「当事者」であることは確かである。また、被害者は、犯罪により直接
被害を被っただけではなく、犯罪の被害者として刑事手続に関与することにより、かえって被害を
受けることもある(二次的被害)。そこで、被害者に刑事手続への関与を認めるとともに、刑事手
続において被害者を保護しつつ、その救済を実現すべきである。
以上のような観点から、被害者をより保護しようとの刑事政策的要求が高まり、刑事手続上も被
害者の地位を向上させ、権利保護を厚くすべきだという風潮が、近時強くなった。そこで、刑事手
続において、犯罪被害者への適切な配慮を確保し、その一層の保護を図るために、「刑事訴訟法及
び検察審査会法の一部を改正する法律」及び「犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随す
る措置に関する法律」(以下、犯罪被害者保護関連2法という)が、平成 12 年に公布された。つい
で、平成 16 年に「犯罪被害者等基本法」が公布され、平成 19 年に「犯罪被害者等の権利利益の保
護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」が公布された。
本章では、犯罪被害者保護関連2法以降の法改正にも触れつつ、被害者の刑事手続上の地位、被
害者保護のあり方について検討する。
*
特に、強姦事件においては、被害者の心情等に配慮した手続をとる必要がある。まず、捜査段
階では、従来告訴期間が制限されていたが、被害者の心情を考えると、短い期間のうちに告訴す
るか否かを決めることは困難ではないかという問題があった。この点は刑事訴訟法の改正により、
告訴期間が撤廃された。また、被害者が告訴をしなかった場合に捜査を始めることができるか、
告訴を欠いた親告罪の捜査の可否が問題となる(⇒第4編
第1章
第4節
第1款
「二
告
訴を欠いた親告罪の捜査の可否」 p.302)。公訴提起段階では、手段たる暴行を暴行罪で起訴す
ること(一部起訴)の可否が問題となる(⇒第4編
一罪の一部起訴」 p.245)。
第1章
第1節
第2款
三
1
「⑵
38/第2編
訴訟に関わる人々
第5章
犯罪の被害者
最後に、公判段階においては、被害者の名誉・羞恥心等に十分に配慮する必要がある。従来は、
公判事実と関係の薄い質問を制限する(295)、証人尋問を公判期日外に行う(281)等の配慮が
解釈上認められてきた。そして、平成 12 年の刑事訴訟法改正により、証人保護のための措置を採
ることができるようになり(157 の2~157 の4)、被害者等の意見陳述の機会も確保された
(292 条の2)。さらに、平成 19 年の刑事訴訟法改正により、「被害者参加」制度(316 条の 33
以下)が新設された。
第2節 被害者の刑事手続上の地位
一
捜査段階
1
被害届・告訴
私人による訴追が認められていない法制下では、犯罪の被害者の意思を刑事手続に反映させる
制度を設けておくことが、刑事司法への信頼を確保する上で重要である。そこで、被害者には、
捜査の端緒としての被害届の他に、告訴(230)の制度がある。
被害届は犯罪の申告にすぎないが、告訴は犯人の訴追・処罰を求める意思表示であり、親告罪
においては訴訟条件となる。したがって、親告罪においては、告訴がない限り公訴を提起するこ
とができないから、被害者の意思が直接刑事手続に反映されることになる。
*
なお、いわゆる性犯罪の中には親告罪とされているものがあり(刑 180Ⅰ等)、その場合の告
訴は、犯人を知った日から6か月を経過したときはすることができないとされていた(改正
前 235)。しかし、これらの犯罪については、犯罪による精神的ショックや犯人との特別の関
係から、短期間では告訴をするかどうかの意思決定が困難な場合があるため、現在では、同
条が規定していた告訴期間の制限は撤廃されている(235Ⅰ①)。
2
取調べ・証人尋問
捜査が行われる場合、犯罪の被害者は参考人としての取調べ(223)を受けるほか、証人尋問
(226、227)の対象となる。その結果は、参考人の供述調書・公判廷外の証人尋問調書として、
一定の要件の下に証拠とされる(321Ⅰ)。
捜査機関による配慮を欠いた取調べは、被害者が受けた犯罪による被害をさらに拡大する要因
ともなり得る。それゆえ、被害者の名誉やプライバシーに十分配慮した、慎重な取調べが必要で
ある。
二
公訴段階
検察官の起訴・不起訴の決定(247、248)にあたって、被害状況や示談の有無、被害者の宥恕の
意思表示などが大きな要因として考慮される。また、親告罪については告訴が訴訟条件とされてい
るので、被害者の意思が直接反映されることになる。
告訴のあった事件について検察官が公訴を提起し、又はこれを提起しない処分をしたときは、告
訴人等に対しては速やかにその旨を通知しなければならない(260)。また、検察官が告訴のあった
事件について公訴を提起しない処分をした場合は、請求のあるときは速やかにその理由を告げなけ
第2節
被害者の刑事手続上の地位/39
ればならない(261)。さらに、検察官のした不起訴処分に不服がある場合には、検察審査会への審
査申立て(検察審査会法)を行うことができ、職権濫用罪(刑 193~196、破防 45 等)については付
審判請求・準起訴手続(262 以下)をすることができる。
ただし、検察審査会の起訴相当・不起訴不当の議決に強制力はなく、また付審判請求・準起訴手
続も、職権濫用罪に限られている点で、被害者の意思を反映させる手段としては十分とはいえなか
った。しかし、検察審査会法が改正され、検察審査会が起訴相当の議決をした後、検察官が再考を
しても不起訴処分を維持した場合、検察審査会は、再審査を行って起訴をすべき旨の議決ができ、
その議決によって公訴提起の効果を生じさせることができる(検審 41 条の6、41 の 10)。
*
従来、被害者が死亡した場合の遺族は、検察審査会に対して審査の申立てをすることができな
かった。しかし、被害者の遺族は、被害者と同様、訴追権の適切な行使に高い関心を抱いている
ものと考えられることから、検察審査会法2条・30 条の改正により、被害者の遺族にも審査申立
権が認められるようになった。
三
公判段階
公判段階では、①証人となる被害者の保護、②被害者の公判手続の傍聴、③公判記録の閲覧、④
刑事和解が問題となる。
1
証人となる被害者の保護
証人としての被害者保護に関しては、証人等威迫罪(刑 105 の2)が規定されているほか、保
釈に関して、その除外事由及び取消事由として、いわゆる「お礼参り」のおそれがある場合が規
定されている(89⑤、96Ⅰ④)。また、証人への危害を予防するために、証人等の住居、勤務先
等に関する情報の開示を制限することができる(295Ⅱ、299 の2)。
さらに、改正法によって、証人の精神的負担軽減のための措置が新設された。すなわち、①証
人の不安や緊張を和らげるため、法廷において、証人の証言中、適当な者を証人に付き添わせる
ことができる(証人付添人)(157 の2)。また、②証人が被告人や傍聴人の面前で証言する場合
の精神的圧迫を軽減するために、法廷で、証人と被告人又は傍聴人との間に、衝立を置くなどの
遮へい措置をとることができる(157 の3)。さらに、③いわゆる性犯罪の被害者等については、
裁判官、訴訟関係人や傍聴人のいる法廷で証言することにより受けるおそれのある精神的圧迫を
軽減するために、証人を法廷の外の別室に在室させ、法廷にいる裁判官や訴訟関係人はテレビモニ
ターに映る証人の姿を見ながら証人尋問を行う、ビデオリンク方式による証人尋問を行うことがで
きる(157 の4)。なお、性犯罪が複数の犯人によって行われ、各被告人の公判が分離されている
場合、被害者がそれぞれの公判で同一の証言を繰り返させられることは、精神的圧迫を重ねて受け
ることになるため、ビデオリンク方式による証人尋問の状況をビデオテープ等に録画し、訴訟記録
に添付して調書の一部とすることができることになった(157 の4)。
40/第2編
2
訴訟に関わる人々
第5章
犯罪の被害者
公判手続の傍聴
一般に、傍聴は無制限に許されるものではない。しかし、被害者やその遺族は、当該事件にお
いて直接被害を受けた者として、当該事件の審理の状況等に深い関心を有するものであり、その
立場を考慮すると、裁判の傍聴において一般の傍聴希望者と同列に取り扱うことは適当ではない。
そこで、犯罪被害者保護法2条は、「被害者等……から公判手続の傍聴の申出がある場合には、
当該刑事被告事件の係属する裁判所の裁判長は、傍聴席及び傍聴を希望する者の数その他の事情
を考慮しつつ、申出をした者が傍聴できるよう配慮しなければならない」旨を定めている。
3
公判記録の閲覧
公判係属中の訴訟記録は、検察官・弁護人等の訴訟関係人以外の者は、閲覧等をすることがで
きないものと解されていた(40、270 等参照)。これは、①刑事事件の訴訟記録が本来刑事訴訟手
続において使用されることを目的とするものであること、②公判係属中に訴訟関係人以外の者に
閲覧・謄写を認めると、公判に支障が生じたり、関係者の名誉・プライバシーが侵害されるおそ
れがあること、を考慮したものである。
しかし、①被害者等が損害賠償請求訴訟を提起している場合に、刑事裁判の係属中においても、
その民事訴訟のために刑事の訴訟記録を利用する必要性が生じ得る場合がある。また、②公判に
提出された証拠等については、裁判所によって証拠能力が認められ公開の法廷で取り調べられた
ものであることなどを考慮すると、刑事裁判が係属中であっても、被害者等にその閲覧・謄写の
機会を与えることが、被害者の保護に資する場合もある。そこで、犯罪被害者保護法3条は、一
定の要件の下に、公判記録の閲覧・謄写を認めることとした。
4
刑事和解
実務上、刑事訴訟の過程で、被告人と被害者との間で、被告事件に関し、損害の賠償等につい
て示談が成立し、いわゆる示談書が裁判所に提出されることがある。示談は、加害者と被害者と
の間の私的な契約であって、刑事手続上の制度となってはいなかったが、訴追裁量や量刑に事実
上大きな影響を及ぼしていた。また、被害者の物的損害に対する救済としては、犯罪被害者等給
付金支給法、証人等の被害についての給付に関する法律等が定められているが、これらの損害の
回復についても、示談が事実上大きな役割を演じている。
しかしながら、従来、この示談書では民事執行法上の強制執行ができないため、刑事裁判終了
後、加害者によって自発的に履行されなかったときは、被害者等は改めて民事訴訟を提起しなけ
ればならず、被害者に費用・時間等の点で相当の負担を強いることとなっていた。
そこで、犯罪被害者保護法 13 条は、被告人と被害者等との間で、被告事件に関する民事上の争
いについて合意が成立した場合には、当該刑事被告事件が係属している裁判所に対して、被告人
と被害者等が共同して和解の申立てをできることとし、裁判所においてその内容を公判調書に記
載したときは、裁判上の和解と同一の効力を有することとした。これが、刑事和解と呼ばれる手
続である。
当該公判調書には、民事執行法上の債務名義性が付与される。すなわち、被告人から合意に基
づく履行がない場合には、被害者は、当該公判調書により直ちに強制執行することが可能となっ
た。
第2節
*
被害者の刑事手続上の地位/41
和解記録は強制執行など民事手続での利用が予定されているから、民事訴訟法 91 条3項の規
定にならい、公判調書に記載された合意をした者又は利害関係を疎明した第三者は、裁判所書
記官に対し、当該公判調書その他の当該合意に関する記録の閲覧若しくは謄写、その正本、謄
本若しくは抄本の交付又は和解に関する事項の証明書の交付を請求することができる(犯罪被
害保護 14 条、15 条)。なお、被害品の回復については、押収物の還付(124)も一定の役割を
果たしている。
5
被害者等の意見陳述の機会
裁判所は、被害者等(290 の2Ⅰ)又は被害者の法定代理人から、被害に関する心情その他の被
告事件に関する意見の陳述の申出があるときは、公判期日においてその意見を陳述させなければ
ならない(292 の2Ⅰ)。ただし、裁判所は、審理の状況その他の事情を考慮して、相当でないと
認めるときは、意見の陳述に代え意見を記載した書面を提出させ、又は意見の陳述をさせないこ
とができる(292 の2Ⅶ)。なお、意見陳述は反対尋問を経るものではないので、犯罪事実の認定
のための証拠とすることができない(292 の2Ⅸ)。
6
被害者参加手続
被害者参加人は検察官・被告人のほかに当事者として参加するものではなく、検察官経由で①
証人尋問②被告人質問③弁論としての意見陳述を行うものである(316 条の 33~316 条の 39)。
四
被害者特定事項の秘匿制度
1
被害者特定事項の秘匿制度の意義
平成 19 年の刑事訴訟法の一部改正により、裁判所は、一定の事件を取り扱う場合において、申
出があるときは、被告人又は弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは、被害者特定事項(氏名
及び住所その他の当該事件の被害者を特定させることとなる事項をいう)を公開の法廷で明らか
にしない旨の決定をすることができることになった(290 の2)。
刑事裁判においては、被害者の氏名及び住所等が、起訴状の朗読、冒頭陳述、証人尋問、被告
人質問、書証の朗読、論告・弁論等により公開の法廷で明らかにされることがある。しかし、性
犯罪等の一定の犯罪に関する事件において、被害者の氏名及び住所等が一般に明らかにされると
被害者等のプライバシーや名誉が著しく侵害されるおそれがある。そこで、被害者保護の観点か
ら被害者特定事項の秘匿制度が創設された。また、同様の趣旨から、証拠開示の際に、検察官は、
一定の場合に、被害者特定事項が、被告人の防御に関し必要がある場合を除き、被告人その他の
者に知られないようにすることを弁護人に対して求めることができるものとされた(299 の3)。
42/第2編
2
訴訟に関わる人々
第5章
犯罪の被害者
対象となる事件
⑴
強制わいせつ及び強姦の罪(刑 176~178 の2、181)、わいせつ又は結婚の目的にかかわる
略取誘拐の罪・人身売買の罪(同 225、226 の2Ⅲ)、わいせつ又は結婚の目的にかかわる略取
誘拐の罪・人身売買の罪を犯した者を幇助する目的でする被拐取者収受罪(同 227Ⅰ)、わいせ
つ目的被拐取者収受罪(同 227Ⅲ)、強盗強姦及び同致死傷罪(同 241)、又はこれらの罪の未
遂罪に係る事件(法 290 の2Ⅰ①)。
⑵
児童福祉法 60 条1項の罪若しくは同法 34 条1項9号に係る同法 60 条2項の罪又は児童買春、
児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律4条から8条までの罪に係る事
件(290 の2Ⅰ②)。
⑶
犯行の態様、被害の状況その他の事情により、被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされ
ることにより被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認められる
事件(290 の2Ⅰ③)。
⑷
犯行の態様、被害の状況その他の事情により、被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされ
ることにより被害者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖さ
せ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認められる事件(290 の2Ⅲ)。
3
申出のできる者及び申出の方法
申出のできる者は、当該事件の被害者等(被害者又は被害者が死亡した場合若しくはその心身
に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹をいう。)若しくは
当該被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士である(290 の2Ⅰ)。
被害者特定事項の秘匿の申出は、あらかじめ、検察官にしなければならず、この場合におい
て、検察官は、意見を付して、これを裁判所に通知する(290 の2Ⅱ)。
4
秘匿の方法
裁判所の決定があった場合には、起訴状の朗読は、被害者特定事項を明らかにしない方法でこ
れを行うものとされ(291Ⅱ)、また、証拠書類の朗読は、被害者特定事項を明らかにしない方法
でこれを行うものとされた(305Ⅲ)。裁判所は、被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしない
旨の決定をした場合には、必要があると認めるときは、被害者の氏名その他の被害者特定事項に
代わる呼称を定めることができるとされており(規 196 の4)、被害者特定事項を明らかにしな
い方法として、被害者特定事項に代わる呼称を用いることなど(たとえば、被害者が1名であれ
ば単に「被害者」、被害者が複数ならば、「被害者A」、「被害者B」)が考えられる。
さらに、裁判所の決定があった場合には、裁判長は、訴訟関係人のする尋問又は陳述を制限す
ることにより、犯罪の証明に重大な支障を生ずるおそれがある場合又は被告人の防御に実質的な
不利益を生ずるおそれがある場合を除き、訴訟関係人のする尋問又は陳述が被害者特定事項にわ
たるときは、当該尋問又は陳述を制限することができる(295Ⅲ)。
第2節
5
被害者の刑事手続上の地位/43
証拠開示の際の被害者特定事項の秘匿要請
検察官は、証人等の尋問を請求する場合には、証人の氏名及び住居を弁護人に知る機会を与え
る必要があり、また、証拠書類及び証拠物について取調べの請求をする場合には、あらかじめ弁
護人にこれを閲覧する機会を与えなければならない(299)。しかし、検察官は、その際に、被害
者特定事項が明らかにされることにより、被害者等の名誉若しくは社会生活の平穏が著しく害さ
れるおそれがあると認めるとき、又は被害者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若
しくはこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認めるときは、
弁護人に対し、その旨を告げ、被害者特定事項が、被告人の防御に関し必要がある場合を除き、
被告人その他の者に知られないようにすることを求めることができることとされている(299 の
3)。
ただし、被告人に知られないようにすることを求めることについては、被害者特定事項のうち
起訴状に記載された事項以外のものに限られる(299 の3ただし書)。
◆
最決平 20.3.5/百選〔A27〕
事案:
殺人が5件及び銃砲刀剣類所持等取締法違反事件が1件の事案において、上告審係属
中に刑事訴訟法の被害者特定事項の秘匿決定に関する改正がなされた。そこで、被害者
のうち2名の遺族からの申出を受けた検察官が、秘匿決定相当の意見を付して本件の審
理を担当する最高裁第1小法廷に対し同申出があった旨の通知をしたところ、最高裁は、
検察官及び弁護人の意見の結果を踏まえ、以下のように判示して、両名については、刑
事訴訟法 290 条の2第1項により、他の被害者3名については、同条3項により、被害
者特定事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定を行った。
判旨:
「弁護人は、本件につき、被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定を
することが、憲法 37 条1項の定める公開裁判を受ける権利を侵害し、ひいては、憲法 32
条の裁判を受ける権利そのものを空洞化するおそれがあると主張するが、同決定が、裁
判を非公開で行う旨のものではないことは明らかであって、公開裁判を受ける権利を侵
害するものとはいえないから、所論は前提を欠くというべきである。」
44/第2編
訴訟に関わる人々
第5章
犯罪の被害者
<刑事手続への訴訟関与者の関与>
<裁判所・裁判官>
<警 察・検 察>
<被疑者(被告人)
・弁護人>
事件の発生
現行犯(212)
、職務質問(警職2Ⅰ)
、検視(229)
、
告訴(230)
、告発(239)
、請求(刑 92 など)
、
自首(245)
捜査の実行
(189)
証拠の収集
(197Ⅰ)
令 状 に よ る 抑 制
捜査の端緒
警 察 の 段 階
捜索・差押・検証(218~220)
実況見分、領置(221)
鑑定嘱託(223~225)
公務所又は公私の団体への照会(197Ⅱ)
参考人取調(223)
・被疑者取調(198Ⅰ)
被疑者の黙秘権
告知(198Ⅱ)
犯人の身柄確保
通常逮捕(199)
逮 捕
緊急逮捕(210)
現行犯逮捕(212・213)
↓
引致・引渡(202・211・214・215Ⅰ・216)
↓
犯罪事実・弁護人選任権の告知
弁解の機会(203・211・216)
↓
釈放又は留置(203・211・216)
検察官送致
弁護人選任権(30)
(246・203Ⅰ)
検察官事件受理
捜査の実行
(191)
証拠の収集
上掲捜査
証人尋問請求
(226・227)
証人尋問(228Ⅰ)
・勾留理由開示請求(82・207Ⅰ)
・勾留取消請求(87・207Ⅰ)
・勾留裁判に対する準抗告(429Ⅰ②)
検 察 官 の 段 階
犯人の身柄確保
逮 捕
勾留請求
(204・205Ⅰ)
勾留質問(61)
勾 留
(60・207Ⅰ・Ⅱ)
捜査の終結
又は釈放(207ⅠⅣ但書)
検察官の事件処理
不起訴(248)←
検察審査会
付審判請求手続(262Ⅰ)
家庭裁判所への送致
起 訴
(247)=起訴状の提出(256)
弁護人の接見交通権(39)
接見拒否に対する準抗告(430)
第2節
事件受理
被害者の刑事手続上の地位/45
裁判官の勾留
(280・規 187)
事件の配布
第 1 回 公 判 期 日 前 手 続
起訴状謄本の送達(271・規 176)
弁護人選任権等の告知(272・規 177・178)
国選弁護人の選任(36-38・規 28・29)
事前準備
事前準備
(規 178 の 2)
公判期日の指定
事前準備
(273Ⅰ・規 178 の4)
被告人の召喚(273Ⅱ・62・65)
公判廷出席
公判期日の変更(276)
(282)
開 廷
出 頭
(282)
(286)
冒 頭 手 続
人定質問(規 196)
検察官の起訴状朗読
(291Ⅰ)
被告人に対する訴訟上の権利の説明
(291Ⅲ前段・規 197)
罪状認否
被告人・弁護人の被告
事件についての陳述
(291Ⅱ)
検察官の冒頭陳述
① 検察官の立証
(296)
簡易公判手続
291 の2
規 197 の2
検察官の証拠調請求
(298、規 193Ⅰ)
被告人又は弁護人
の意見(規 190Ⅱ)
証 拠 調 手 続
却下決定
証拠決定(規 190Ⅰ)
証拠調決定
証拠調の範囲・順序・方法の決定・変更(297)
証人等―尋問(304)
証拠調の実施
<証拠調>
証拠書類―朗読(305)
証拠物―展示(306)
証拠調に関する異議申立(309)
証拠調を終わった証拠書類、
証拠物の提出(310)
書証についての同意・
不同意(326)
46/第2編
訴訟に関わる人々
第5章
犯罪の被害者
②
被告人・弁護人の立証
①と同じ手続
被告人調書等の取調請求(301)
証拠の証明力を争う機会(308・規 204)
証拠排除決定(規 207)
職権証拠調(298Ⅱ)
③
情状に関する立証
①と同じ手続
被告人質問(311)
終
検察官の論告
了
(求刑)
(293Ⅰ)
弁 論 手 続
被告人・弁護人の最終陳述権
(293Ⅱ)
弁論終結
弁論再開
判決の宣告
(43Ⅰ・342、規 34・35)
実体裁判
有罪判決
無罪判決
管轄違判決(329)
形式裁判
公訴棄却判決(338)
免訴判決(337)
刑の免除(334)
刑の言渡(333Ⅰ)
執行猶予あり
執行猶予なし
保護観察付(333Ⅱ・刑 25 の2)
保護観察なし(333Ⅱ・刑 25)
第3編
第3編
捜査
第1章
捜査総説/47
捜査
犯罪が発生すると、普通はまず警察の捜査がはじまり、やがて検察官による公訴提起を経て、裁
判所の審判手続へと至る。そして、有罪判決があれば、刑の執行まで進むことになる。このように
捜査→公訴→公判→刑の執行という順序で手続が進行するので、刑事手続は捜査からはじまるとい
ってよい。そこで、以下、この刑事手続の流れに沿って、捜査から叙述をはじめることにする。
もっとも、捜査から叙述をはじめる形式は現行法の条文の順序には沿っていない。すなわち、現
行法の編立て・順序は、裁判所を中心として組み立てられているので、例えば、①総則にある捜
索・押収などの処分も裁判所がやるのが原則で、捜査へはこれを準用するという方式がとられ、②
捜査自体については、やっと各則の段階で、しかも「第一審」の中で規定するという形になってい
る。
しかし、これは、現行法のよって立つ本質にそぐわない。現行法では、裁判所の公正確保のため
に当事者主義が採用され、公判と捜査はきっぱりと分断されている。したがって、捜査は「第一
審」とは区別された準備手続であるということを自覚するためにも、捜査を独立に考察するのが望
ましいのである。
<捜査の目次>
公 訴提 起
捜査の端緒
第3編
捜査
第3編
第1章
捜査
第1章
第2章
第3章
第4章
第5章
第6章
第7章
第4編
第5編
第7編
第1審手続
上訴審手続
裁判の執行
第6編
非常手続
捜査総説
捜査のはじまり
任意捜査と強制捜査
捜査の実行
捜査における被疑者の防御
捜査の構造
捜査のおわり
捜査総説
一
はじめに
1
意義
捜査とは、捜査機関が犯罪が発生したと考えるときに、公訴の提起・遂行のため、犯人を発
見・確保し、証拠を収集・保全する行為をいう。
48/第3編
*1
捜査
第1章
捜査総説
捜査は「捜査機関」の処分ないし行為をさす。私人の現行犯逮捕のような行為は「捜査」
ではなく、その協力行為にすぎない。さらに、被疑者の準備活動は、公判との関係では捜査
機関の活動と等質の効果をもちうるが「捜査」には含まれない。
*2
特殊の行政機関が行う調査は、捜査に類似しているけれども、捜査機関の行う公訴提起に向
けられた活動ではないから捜査ではない。もっとも、捜査に近似した法的規制が要請される。
*3
捜査は、「第一審公判手続」や「上訴」のような手続の段階をさす語ではなく、処分の集積
にすぎない。手続の段階をあらわす「公判」手続・「上訴審」手続とは異なる概念である。
<捜査の位置づけ>
捜
査
公訴提起
処分の集積
(ex.逮捕、捜索、取調べ)
第一審手続
上訴審手続
任意処分
強制処分
2
目的
捜査の目的は、犯罪の嫌疑の有無を解明して、公訴を提起するか否かの決定をなし、公訴が提
起される場合に備えてその準備をすることである。具体的には、①被疑者の身柄保全、②証拠の
収集保全が捜査の目的となる。
すなわち、まず、刑事訴訟においては、被告人の所在を確定できないと手続を進めることはで
きない(271、286)。そこで、公訴を提起することが予測されるときは、あらかじめ犯人の身柄
を確保しておく必要がある。また、被疑者が、犯罪の証拠を隠滅するおそれがある場合にも、身柄
を拘束する必要がある(60、規 143 の3)。それゆえ、①被疑者の身柄保全が捜査の目的となる。
次に、公判では証拠により事実を認定する(317)。そこで、公訴提起後公判で用いる証拠を準
備する必要がある。それゆえ、②証拠の収集保全が捜査の目的となる。
<捜査の目的>
公訴の提起及び維持のために必要(公判中心主義)
被告人の所在確定が困難なときは
被告人の在廷(286)
予め身柄を確保する必要あり
逮捕・勾留
公判での証拠必要(317)
証拠隠滅防止のために被疑者
の身柄を確保する必要あり
証拠収集・保全の必要あり
捜索・押収
第3編
二
捜査
第1章
捜査総説/49
手続の流れ
<捜査手続の流れ>
犯罪の発生
捜査機関の探知=捜査の端緒
現認、被害申告、職務質問、告訴(230 以下)等
捜査の実行
189
警 察 の 段 階
証拠の収集・保全
197Ⅰ
捜索・差押え・検証(218~220)
、領置(221)
、鑑定嘱託(223~225)
参考人取調べ(223)
、被疑者取調べ(198)
犯人の身柄確保
=逮捕
通常逮捕(199)
現行犯逮捕(212、213)
緊急逮捕(210)
引致・引渡し(202、211、214、215Ⅰ、216)
微罪処分
家裁送致
246 ただし書
少 41
検察官送致
犯罪事実・弁護人選任権の告知・弁解の機会
(203、211、216)
釈放又は留置(203、211、216)
246、203Ⅰ
検察官事件受理
捜査の実行
証拠の収集・保全
検 察 の 段 階
犯人の身柄確保
(警察段階と同様、証人尋問請求)
(226~228)
逮捕
勾留請求(205)
勾留質問(207、61)
検察官の事件処理
控制
起訴
256
起訴後の捜査
家裁送致
不起訴
少 41
248
勾留又は釈放
(207、60)
準起訴手続(262)
検察審査会
50/第3編
捜査
第1章
三
捜査の原則
1
はじめに
捜査総説
捜査では、捜査機関の活動と被疑者・被告人その他関係者の人権とが、絶えず矛盾・対立する
要素を持っている。すなわち、犯罪は性質上隠密に行われることが多いので、捜査機関が犯人及
び証拠を捜査することは容易ではない。そこで、犯人検挙という目的のために、捜査は被疑者・
被告人その他関係者の人権侵害を伴いがちなのである。もっとも、捜査といえども、憲法の保障
下にある刑事手続の一環である以上、常に捜査の必要性と人権保障との合理的な調和を全うしつ
つ適正に行われなければならない。そこで、法は両者の調和を図るための以下のような基本原則
を採用している。
2
捜査の原則総論
⑴
令状主義
令状主義とは、強制処分を行うには原則として裁判所または裁判官の発する令状に基づかな
ければならないことをいう(憲 33、35、法 197Ⅰただし書、199Ⅰ、218 等)。
捜査機関は、犯罪捜査のため市民の身体の自由、住居・書類・所持品やプライバシーを侵害
する処分を行う必要がある。しかし、捜査機関が逮捕、捜索、押収など最も人権侵害の危険の
ある強制処分を自らの判断だけで行うことができるとすると、捜査の必要性と人権保障の合理
的調和を全うできないおそれがある。
そこで、捜査機関による一般的・探索的な捜査活動の抑止を目的として、原則として中立・
公平な第三者である裁判官が「正当な理由」に基いて発する、被疑者や捜索すべき場所、押収
すべき物を特定・明示する令状により逮捕、捜索、押収がなされなければならないとするのが
令状主義である。令状主義は、処分の範囲を令状によって示し捜査現場での権限濫用を防ぐこ
とを目的としている。
令状主義は、強制処分一般に妥当する原則であって(62、106、167Ⅱ、199Ⅰ、207、218、
225Ⅲ)、必ずしも捜査における強制処分のみに限らないが、令状主義がその機能を実際上より
よく発揮するのは、捜査においてである。
*
令状とは強制処分の裁判書をいう。
ex.逮捕状、勾引状、勾留状。
⑵
任意捜査の原則
任意捜査の原則(197Ⅰ)とは、捜査目的が強制処分によっても任意処分によっても達成され
る場合には、任意処分によって行われるべきとする原則をいう。この原則は、強制捜査を法規
上も運用上もなるべく例外にとどめることによって、捜査と人権の調和を図ろうとするもので
ある。
第3編
⑶
捜査
第1章
捜査総説/51
捜査比例の原則
捜査比例の原則(197Ⅰ「必要な」との文言)とは、捜査上の処分は、必要性に見合った相当
なものでなければならないという原則をいう。捜査は、被疑者等の自由、財産その他私生活上
の利益に直接重大な脅威を及ぼすものである以上、捜査の必要と人権保障の間にはほどよい調
和が求められなければならない。このような観点から、捜査比例の原則が生まれた。
任意捜査の原則もこの原則の現れである。強制処分を行う場合にも、できるだけ権利・利益
が侵害される程度の少ない方法・種類が選択されなければならない。
3
将来捜査の可否
<問題の所在>
将来発生する犯罪に向けられた捜査は許されるか。規則 156 条1項は、「罪を犯した」と過
去形をもって規定しているところ、かかる規定が将来発生する犯罪に向けられた捜査を禁止す
る趣旨なのかが、明文上明らかでなく問題となる。
<考え方のすじ道>
確かに、犯罪が密行化・多様化している現在の状況下では、将来発生する犯罪についても、
間もなく特定の犯罪が行われると相当の確度で推認できる場合があり、その場合の捜査の必
要性は否定できない
↓しかし
捜査について、強制処分法定主義が採られ、強制処分については令状主義が採られている趣
旨は、一般的探索的捜査を防止する点にある
↓にもかかわらず
将来発生する犯罪についての捜査を認めると、十分な司法審査ができず、令状主義の趣旨を
没却することになり、妥当でない
↓さらに
規則 156 条1項が「罪を犯した」と過去形をもって規定していることからすると、法は過去
の特定の犯罪に限って捜査を許容するものと解するの自然である
↓そこで
将来発生する犯罪に向けられた捜査は許されない(消極説)
<アドヴァンス>
⑴
消極説(光藤)
(理由)
①
将来行われる犯罪行為については、いかに犯罪の発生が確実と思われる場合でも、不
確実の要素があるので、予め強制処分の令状を発付することはできない。
②
予測の域を出ない将来の犯罪事実を具体的に特定し得るか疑問があり、その内容が確
定しないと、令状自体が憲法の禁じる一般令状となりかねない。
52/第3編
捜査
③
第1章
捜査総説
規則 156 条1項は、「被疑者又は被告人が罪を犯したと思料されるべき資料を提供し
なければならない」として、過去形をもって表現しているとおり、被疑者が罪を犯した
状況の存在を請求の実質的要件としている。
⑵
積極説(井上、稗田)
(理由)
①
過去の犯罪であっても、令状発付の段階での犯罪事実の存否の判断は、それが行われ
た蓋然性があるというだけのものにとどまるのであり、将来の犯罪についても、経験則
上、間もなく特定の犯罪が行われると相当の確度で推認できる場合があり得る。
②
犯罪が行われることが確実と認められる場合には、その犯罪事実も、強制処分を行う
ことが正当であるといい得る程度に特定できる。
③
刑訴規則 156 条1項の定める令状請求の方式は、通常の場合を念頭においたものであ
り、令状発付の要件が判断できる限り、例外を認めてもよい。
◆
札幌高判平 9.5.15/H9重判〔1〕
「右電話傍受の際、過去に行われた犯罪のみならず、現に行われており、将来も行われよ
うとしている犯罪についての通話がなされていることが判明したときでも、右犯罪が過去に
行われた犯罪と関連があり、かつ、過去に行われた犯罪につき必要性・相当性がなお存在す
る限り、傍受等を中止することなく継続でき、傍受等によって収集した証拠を犯罪の捜査及
び立証に使用できる」として、条件つきながら積極説に立っている。
四
国際犯罪と捜査
国際化の時代をむかえ、犯罪や刑事手続についても、海外のテロ、ハイジャック、薬物・銃器の
移動、外国にまたがる贈収賄、その他外国人犯罪などで問題が生じるようになった。そこで、外国
における証拠の収集や犯人の保全などの国際捜査が必要となる。
第一に問題となるのは、わが国の捜査官が、わが国の刑事訴訟法に基づいて、外国で捜査活動を
行うことができるかである。①証拠の収集・犯人の保全に関する捜査、②裁判活動等の刑事司法活
動は主権の発動であるので、現実には相手国の承認がなければすることができない。したがって、
相手国の承認がなければ、国際捜査共助として行われる相手国の捜査に立ち会うこと等ができるだ
けである。
そこで、第二に、国際捜査共助が問題となる。まず、①証拠の収集については、通常、嘱託によ
る共助の方法をとり、相手国にその国の手続により証拠収集を行ってもらうことになる。次に、②
犯人の保全に関する捜査については、外国政府による国外退去措置などにより連れ戻す等の方法も
あるが、法律上は、逃亡犯罪人の引渡しの制度によることになる。
第三に、外国の司法機関に対して共助を要請する場合には国際司法共助が問題となる。共助によ
って得られた証拠の証拠能力については、伝聞法則との関係で、特に供述証拠が問題となる
⇒第4編
第3章
第3節
「第4款
伝聞証拠」(p.443)。
第3編
第2章
捜査
第2章
任意捜査と強制捜査/53
任意捜査と強制捜査
Introduction
1
まずは、197 条1項を確認しよう。必要な「取調」(197Ⅰ本文)というのは、人の供述を求
める狭い意味での取調べ(198、223 参照)ではなく、広く捜査活動一般を指す。それを受けて
同項ただし書には、「強制の処分」は刑訴法上に特別の根拠規定がなければできないと定めら
れている。
このように、「強制の処分」とそれ以外の捜査活動(任意処分)は適法となる要件が異なる
から、その区別が重要となる。刑訴法は「強制の処分」の定義を示していないから、様々な見
解が登場する。この点について、判例がどのように考えているのか、それに対し現在の学説は
どう反応しているのかを理解しよう。判例・学説を理解する上で、なぜ「強制の処分」は特別
の根拠規定がなければできないのか(強制処分法定主義)、また、「強制の処分」について、
原則として、捜査機関から独立した裁判官による事前チェックを受けて、令状に基づいて行う
という令状主義が働くのはなぜか(憲 33、35 参照)を考えてみよう。
ちなみに、197 条1項が任意捜査の原則を定めたものである、といわれることがあるが、なぜ
そのようにいえるのか。「一見すると『強制の処分』と任意処分の間の優先関係は定められて
いないのではないか」という疑問に答えられるようにしよう。
2
さて、捜査はどのように始まるのかというと、実に多種多様である。犯罪の被害者や第三者
からの申告(被害届等)、職務質問(警察官職務執行法2Ⅰ)、犯罪の現認など。これらをま
とめて捜査の端緒という。平たく言えば、「犯罪がある」と考えるに至ったきっかけである。
捜査の端緒としては、刑訴法に規定があるもの(主として、検視、告訴、告発、請求、自首
など)とそれ以外(職務質問、自動車検問など)とに分けられるが、特に重要なのが職務質問
である。夜に無灯火で自転車に乗っていたら警察官に呼び止められ質問を受けるのがその例で
あるが、職務質問は行政警察活動であり、司法警察活動である「捜査」(すでに犯罪が起きて
いることが前提)とは異なることを確認しておこう。そして、どういう要件のもとにできるの
か、その限界はどこにあるのか、さらには職務質問に伴うことが多い所持品検査は、そもそも
それは許される捜査活動なのか、要件・限界はどうかなど、判例を中心に理解しよう。
そこの君!
止まりなさい!
54/第3編
捜査
第2章
任意捜査と強制捜査
第1節 総説
一
意義
任意捜査とは、任意の処分による捜査の方法をいい、強制捜査とは、強制の処分による捜査の
方法をいう。
二
任意処分と強制処分の区別の必要性
197 条1項は、「捜査については、その目的を達するために必要な取調をすることができる。た
だし、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない」
と規定する。したがって、強制処分は法律にこれを許す特別の規定がある場合にしか用いること
ができないのに対し、任意処分は別段法律の定めがなくても実施することができる。ここに、両
者を区別する意義がある。
三
問題点
一般に、強制処分に当たらない行為が任意処分とされるので、まず、強制処分は何かを確定す
る必要がある。また、任意処分であれば全て許容されるわけではなく任意処分の限界が問題とな
る。
<捜査の適法性についての判断方法>
捜査の適法性
YES
強制捜査
強制処分に
あたるか
問題点:強制処分の意義
NO
任意捜査
問題点:任意捜査の限界
第2節 任意処分と強制処分の区別
一
強制処分の意義
<問題の所在>(197 条の「強制」)
強制処分は、法律にこれを許す特別の規定がある場合にしか用いることができない。他方、任
意処分は、別段法律の定めがなくても行うことができる(197Ⅰ)。そこで、任意捜査と強制捜査
を区別する必要がある。ところが、法は何が「強制の処分」(197Ⅰただし書)であるのかについ
て、明確な定義を示していない。そこで、任意処分と強制処分の区別の基準として、強制処分の
意義が問題となる。
第2節
任意処分と強制処分の区別/55
<考え方のすじ道>
従来は、「強制」の通常の意味から、①直接強制の行われる場合、又は、②少なくとも間接強
制を伴う場合とされてきた
↓しかし
科学技術が捜査に応用され、強制を伴わず秘密裡に個人の法益が侵害される危険が増大した今
日、上記の強制の有無を基準としていたのでは、ほとんどが任意捜査になってしまい、十分な
権利保護が図れない可能性
↓そもそも
プライバシー等の無形的な権利・利益を十分に保障するために、それに対する侵害及び侵害可
能性に対し有効なコントロールを及ぼすべき
↓そこで
物理力によらずとも、個人の権利・法益を侵害するものは基本的に強制処分と解すべき
↓ただし
現行法が定める強制処分の要件・手続の厳格さからすれば、かかる厳格な要件・手続により保
護する必要のある権利・法益の制約を伴う場合に限定すべきである
↓そこで
「強制処分」とは、物理力によると否とを問わず、個人の権利・法益を侵害するもののうち、
厳格な法定の要件・手続によって保護されてしかるべき重要な権利・利益の制約を伴うものを
指すと解する
<アドヴァンス>
1
処分をする側の処分手段を基準とする説
⑴
物理的な実力ないしは強制力を用い、あるいは人に義務を負わせることを強制処分とする
見解(平野、団藤)
(理由)
逮捕や捜索・差押など従来から強制処分の典型とされてきたものは、多くの場合に目に
見える物理的作用を伴っている。
(批判)
写真撮影などのように個人のプライバシー侵害をもたらす行為は任意処分として司法的
抑制の対象外になってしまい妥当でない。
⑵
強制と任意との間に「強制にわたらない実力」という段階があり、「説得」のための有形
力の行使が任意処分として許される場合があるとする見解(出射)
(批判)
2
①
197 条1項の規定に適合するものであるか疑問である。
②
「実力」という新たな範疇の法的性格が必ずしも分明ではない。
処分を受ける側の侵害態様を基準とする説
⑴
有形力の行使であるか否かではなく、同意を得ないで個人の権利・法益を侵害する処分か
否かを基準とする見解(田宮、光藤)
56/第3編
捜査
第2章
任意捜査と強制捜査
(理由)
①
科学技術を捜査に応用した新たな捜査方法が登場し、それらはプライバシー権等の侵
害の危険を伴うものであるが、伝統的な強制処分の概念によると任意処分と解すること
になる。しかし、伝統的な概念によると、それらの方法を十分にコントロールすること
ができないおそれがある。
②
プライバシーを権利として承認し、それに対する侵害及び侵害可能性に対し有効なコ
ントロールを及ぼすためには強制処分と捉え、憲法 31 条の保障を受けさせるべきである。
(批判)
捜査は、進んで協力する場合は別として、どのような処分であれ大なり小なり相手方の
権利・利益を制約する面があることは否定できない。それゆえ、制約の程度を考慮しなけ
れば大部分の捜査活動が強制処分の範疇に入ることになりかねない。
⑵
明示または黙示の意思に反して、重要な権利・利益の制約をともなう処分か否かを基準と
する説(井上)
(理由)
①
2⑴説の理由①。
②
現行刑訴法の強制処分に関する一連の規定をみると、そこに定められた要件や手続は
かなり厳格なものである。そうだとすれば、およそ何らかの権利や利益の制約があれば
強制処分だというわけでなく、法定の厳格な要件・手続によって保護する必要のあるほ
ど重要な権利・利益の制約を伴う場合にはじめて、強制処分になると解すべきである。
(批判)
強制処分を重要な権利・利益の制約に限るとすれば、有形力の行使であっても、重要な
権利・利益の制約とまでいえなければ任意処分にあたることになり、強制処分法定主義の
機能が弱まる危険がある。
*
いずれの説も権利・利益の侵害を基準とするが、2⑴説は侵害の有無を基準にし、2⑵説
は侵害の程度を問題にする点が異なる。
◆
最決昭 51.3.16/百選〔1〕
事案:
Xは、A市の路上において、酒酔い運転の上、道路端のコンクリート製のゴミ箱
等に軽4輪貨物自動車を衝突させる物損事故を起こし、現場に到着したK・L巡査
から運転免許証の提示と飲酒検知のための風船への吹込みを求められたが、いずれ
も拒否した。そこで、両巡査はXを警察署に任意同行し、運転免許証の提示及び飲
酒検知のための風船への吹込みを求めたところ、Xは運転免許証の提示には応じた
が、飲酒検知のための風船への吹込みには応じなかった。その後、母親が来署すれ
ば風船への吹込みに応じるとXが述べたので、両巡査は母親を待ちながら吹込みに
応じるよう説得を続けていたが、Xからマッチを貸してほしいと言われてこれを断
ったときに、Xが「マッチを取ってくる」と言いながら急に立ち上がり、出口の方
に向かおうとしたため、K巡査はXが逃げるのではないかと思い、Xに近寄り、
「風船をやってからではいいではないか」と言って両手でXの右手首を掴んだとこ
ろ、XはK巡査の両手を振り払い、左肩や制服の襟首を掴んで引っ張り、右手拳で
同人の顔面を殴打するなどの暴行に及んだ。
Xは、公務執行妨害罪の現行犯人として逮捕され、起訴された。
第2節
第1審:
任意処分と強制処分の区別/57
公務執行妨害罪の成立否定(K巡査の行為は任意捜査の限界を超える)。
「右暴行は、……任意捜査の段階でなされた同巡査による一連の制止行為に対
し、その最中になされたものであるところ、右制止行為は、職務の執行としてな
されたものの、任意捜査の限界をこえ、任意とは称しながら実質上逮捕するのと
同様の効果を得ようとする強制力の行使というべきであつて、違法たるを免れな
い」として、K巡査がXの手首を掴んだ行為を違法とし、結果として公務執行妨
害罪の成立を否定した。
控訴審: 破棄自判(公務執行妨害罪の成立肯定)(K巡査の行為は任意捜査の限界を超えな
い)。
「一般に、任意捜査の手続においては、強制にわたることは許されないのは当
然であるが、具体的事案において、通常の方法によつては所期の説得の効果があ
げえない状況が存し、かつ、捜査上緊急の必要性が認められるため、やむなく軽
度の実力を用いたとしても、これが直ちに任意捜査の適法性の限界を超える強制
力の行使とはいえない場合があると解され、そうとすれば、その限界は、実力行
使が当該事案における捜査の必要性、緊急性に即して客観的に相当と認められる
か否かによつて決するのが相当と考えられる。そこで、これを本件についてみる
に、……Xに酒酔い運転の合理的疑いが認められるものであるのに、Xにおいて、
……飲酒検知を促す説得にも頑として応じず、しかも、Xは高度の酩酊状態にあ
つて、時に粗暴な言動をなしていたことが証拠上明らかであり、更に、酒酔い運
転においては、科学的な証拠保全が最も重要であるところ、当時の時間的状況等
から判断して、呼気検査に代る有効適切な方法は他にないというべきであるから、
Xが呼気検査を拒否して立去れば捜査上著しい支障をきたすおそれのあつたこと
が明らかであり、また、……K巡査らにとつては、Xが立ちあがり出入口の方へ
行こうとした行為は、突然の出来事であつたと認められ、捜査の支障となる行為
が急迫してなされたものというべきである。そして、右のような本件の具体的事
情の下で、K巡査が出入口の方へ向つたXの左斜め前に立ち、両手で同人の左手
首を掴んだ行為の程度も左程強いものであつたとは認められないので、右K巡査
の行為は、Xの飲酒検知拒否に対し飜意を促すためにとつた説得手段として、任
意捜査の範囲内の客観的に相当な実力行使と認めるべきである。なお、その直後
のK巡査のXに対する行動は、Xの粗暴な振まいを制止するためのものと見受け
られるので、以上の同巡査の行動をとらえて、Xを逮捕すると同様な効果をえよ
うとする強制力の行使であり、Xにとつては急迫不正の侵害に該るものというこ
とはできない。」として、K巡査がXの手首を掴んだ行為を適法とし、結果とし
て公務執行妨害罪の成立を肯定した。
58/第3編
捜査
上告審:
第2章
任意捜査と強制捜査
上告棄却(公務執行妨害罪の成立肯定)。
「捜査において強制手段を用いることは、法律の根拠規定がある場合に限り許
容されるものである。しかしながら、ここにいう強制手段とは、有形力の行使を
伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に
制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ
許容することが相当でない手段を意味するものであつて、右の程度に至らない有
形力の行使は、任意捜査においても許容される場合があるといわなければならな
い。ただ、強制手段にあたらない有形力の行使であつても、何らかの法益を侵害
し又は侵害するおそれがあるのであるから、状況のいかんを問わず常に許容され
るものと解するのは相当でなく、必要性、緊急性などをも考慮したうえ、具体的
状況のもとで相当と認められる限度において許容されるものと解すべきである。
これを本件についてみると、K巡査の前記行為は、呼気検査に応じるようXを
説得するために行われたものであり、その程度もさほど強いものではないという
のであるから、これをもつて性質上当然に逮捕その他の強制手段にあたるものと
判断することはできない。また、右の行為は、酒酔い運転の罪の疑いが濃厚なX
をその同意を得て警察署に任意同行して……、Xの母が警察署に来ればこれに応
じる旨を述べたので……母の来署を待つていたところ、Xが急に退室しようとし
たため、さらに説得のためにとられた抑制の措置であつて、その程度もさほど強
いものではないというのであるから、これをもつて捜査活動として許容される範
囲を超えた不相当な行為ということはできず、公務の適法性を否定することがで
きない。」として、K巡査がXの手首を掴んだ行為を適法とし、結果として公務
執行妨害罪の成立を肯定した。
考えてみよう! ~任意処分と強制処分の区別に関する最決昭 51.3.16 の位置づけ~
昭和 51 年決定が示した任意処分と強制処分の区別の基準をどう理解するかについては様々な見方があり
えますが、①明示又は黙示の意思に反するか否か、②重要な権利・利益に対する実質的な侵害ないし制約を
伴うことになるか否かという2つの基準によるべき旨を示したものと理解する見解が多数説といえるでしょ
う(井上・後掲・47 頁)。
これに対して、川出先生は、昭和 51 年決定は、任意処分と強制処分との区別基準を、被侵害権利・利益
の質ではなく、処分の方法・態様(手段)が意思を制圧するような強度のものであったか否かによって区別
しているのではないかとしています(古江・後掲・13 頁、川出・後掲・27 頁)。昭和 51 年決定は、区別基
準として、①「意思に反する」ではなく「意思の制圧」と述べていること、また、②「重要な権利・利益の
制約」ではなく「身体、住居、財産等の制約」と述べていることに鑑みると、有形力の行使の程度が相手方
の意思に反してはいるがそれを制圧する程のものではなかったことを重要視していると思われるからです。
もっとも、このような見方によると、通信傍受(盗聴)のような処分は、対象者が気付かないうちに行わ
れるため意思の制圧はなく、任意処分となってしまいそうです(古江・後掲・13 頁)。
そこで、川出先生は、昭和 51 年決定が示したのは、「強制の処分」(197Ⅰ)のうち物理的な有形力の行
使等、警察官の行為が直接に相手方に向けてなされるような場合(古江先生はこれを「第 1 類型」と呼びま
す)に関する基準のみであり、通信傍受のような相手方が認識していない状態で行われる場合(古江先生は
これを「第2類型」と呼びます)には、同決定の射程は及んでいないことになるとします(川出・後掲・29
頁)。その上で、電話傍受の合憲性が問題となった判例(最決平 11.12.16 ⇒p.165)を例に挙げつつ、第
2類型については、推定的な意思に反した重要な権利・利益の制約であるか否かが任意処分と強制処分の区
別の基準として採用されていることになろうとしています(古江・後掲・13 頁、川出・後掲・29 頁)。
このように、川出先生は、問題となる処分の態様に応じて、最高裁は2つの基準を使い分けていると見て
います(川出・後掲・29 頁)。
【参考文献】 川出敏裕「任意捜査の限界」『小林充先生・佐藤文哉先生古稀祝賀刑事裁判論集(下)』(判
例タイムズ社)・23 頁以下、井上正仁「強制捜査と任意捜査の区別」『刑事訴訟法の争点[第3版]』(有斐
閣)・54 頁以下、古江頼隆『事例演習刑事訴訟法』(有斐閣)・9頁以下
第2節
二
任意処分と強制処分の区別/59
新しい強制処分と強制処分法定主義
<問題の所在>(197 の「強制の処分」)
197 条1項ただし書は、強制処分はそれが「法定」されている場合にのみ実施しうると規定する。
この点、処分を受ける側の権利侵害をきたす場合を強制処分と考えると、現行法に正面からは文
言上定めのない強制処分が生じることになる(現場写真撮影、録音・録画等)。そこで、これら
の強制処分は法律に規定がない以上許されないのか、それとも法律に規定がなくても一定の要件
のもとで許されるのか、強制処分法定主義の意義が問題となる。
<考え方のすじ道>
↓そもそも
197 条1項ただし書は、国民の重要な権利・利益を奪う処分の適否は国民自身が国会を通じて明
示的に決断すべきとの憲法 31 条の趣旨にもとづいて解釈すべきである
↓したがって
当該処分が強制処分としての性格を有する以上、197 条1項ただし書の適用を受けるものと解
する
↓もっとも
新たな捜査方法が法定のいずれかに当たるかどうかは、その捜査方法で使用される文言のみな
らず、その捜査方法の性質にかんがみて判断すべきである
<アドヴァンス>
1
新しい強制処分説(田宮)
強制処分法定主義(197Ⅰただし書)は、現行法の定める古典的な強制処分についてのみあ
てはまり、新しい非類型的な捜査活動については、刑訴法の予想しなかったものである。し
たがって、法文の根拠がなくとも実質的な令状主義の趣旨に合致していれば適法となりうる
とする見解。
→197 条1項ただし書は、令状主義の重要性に照らしてとくに設けられた総則・確認規定
(理由)
①
現行法下の強制処分法定主義は令状主義と同義語であり、旧法とは異なって、令状主
義が実質的に保障されている以上、強制処分を事前に法文として明記する重要性は乏し
くなった。
②
法律上に規定のない新しい捜査手段を「強制処分」の枠内に取り込み、令状主義の支
配下に置くことにより、法的な規制を及ぼしていくことが可能となる。
(批判)
①
「強制の処分」(197Ⅰただし書)が刑訴法に規定のあるものばかりだとすると、それ
以外の強制処分が全て許されることになりかねない。これでは、197 条1項ただし書の規
定が、ほとんど実質的に意味のないものになってしまう。
②
現実の捜査の場面における法運用において、被処分者の権利保障という面で不確実な
運用を許すことになる。
60/第3編
2
捜査
第2章
任意捜査と強制捜査
強制処分法定主義(197Ⅰただし書)は、令状請求・発付の手続・要件・効果等が事前に法
文として明記されていることを要求するものとする見解(三井、井上)
(理由)
①
強制処分法定主義は、憲法 31 条が「法律の定める手続によらなければならない」と定
めたのを受けて規定されたものである。とすれば、個人の重要な権利・利益をその人の
意思に反してでも制約することを内容とする強制処分は、国民の代表による明示的な選
択を体現する法律上の根拠規定がない以上行うことができないはずである。
②
令状主義と強制処分法定主義は、相互に密接に連関はするもののそれぞれに独自の意
義をもつ別個の存在である。
(批判)
新しい捜査手段が強制処分とされると一切許されないということになり妥当でない。
(反論)
任意捜査としたうえでその限界を論ずるか、従来の法定されたもののいずれかに当ては
めて解釈することによって、その規制を図ることができる。
<強制捜査の適法性についての判断方法>
捜査の適法性
No
強制捜査か
Yes
強制捜査
No(新しい捜査方法)
任意捜査
既存のものか
*
Yes
No
法律に特別の定めがあ
るか
Yes
Yes
法律に定めのあ
るものの性質を
有するか
No
法律の要件を充
たすか
Yes
No
違法
適法
違法
*一般的適法要件(デュープロセス)を充たすか
Yes
適法
No
違法
第3編
第3章
捜査
第3章
捜査の端緒/61
捜査の端緒
第1節 総説
・
はじめに
一
意義
捜査の端緒をきっかけに、捜査が始まる。捜査の端緒とは、捜査機関のもとに集まってくる犯
罪についての情報の手がかりのことをいう。
捜査がいつ始まるかは、189 条2項により「犯罪があると思料」したときという主観的基準によ
り示されているだけで、外からは捜査がいつ始まったのかはわかりにくい。そこで、捜査が始ま
るきっかけとなる事象、すなわち捜査の端緒に注目する必要がある。
<捜査の端緒>
捜査の端緒
犯罪があると思料(189Ⅱ)
捜査の端緒に注目する必要
二
捜査の開始
主観的基準でありわかりにくい
類型
捜査の端緒には様々なものがあり、いくつかの視点から区分することができる。
1
主体による分類
① 捜査機関の活動に由来するもの
ex.聞込み、風説、新聞その他出版物の記事、検視、職務質問、自動車検問、現行犯
逮捕。
② 犯人や被害者の申告・告知等による場合
③ 第三者の申告・告知等による場合
ex.被害届、告訴、自首。
ex.告発、請求、匿名の申告。
* 司法警察活動と行政警察活動との接点:総論
捜査機関の活動に由来する捜査の端緒の場合、犯罪の認知のない段階の警察活動が問題と
なる。警察活動は、①犯罪の予防・鎮圧を目的とした行政警察活動と②刑事訴訟法上の犯罪
捜査である司法警察活動とに大別され、捜査の端緒活動はこのうち行政警察活動に属する。
ただ、犯罪探知活動はただちに捜査活動(司法警察活動)に連動するので、行政警察活動
であるにもかかわらず、実質的には捜査活動がなされるおそれがつきまとう。そして、捜査
開始以前の活動であっても、将来捜査に発展する可能性があり、また市民からすれば一定の
不利益を受けることに変わりない。したがって、この段階の警察活動も適正手続(憲 31)の
精神に背馳するような方法は利用すべきではなく、行政処分法定主義・警察比例の原則によ
るべきである。
62/第3編
2
捜査
第3章
捜査の端緒
刑訴法に規定があるか否かによる分類
①
刑訴法に規定のある捜査の端緒
⇒「第2節
刑事訴訟法に規定のある捜査の端緒」(p.62)
ex.検視(229)、告訴(230 以下)、告発(239)、請求(238Ⅱ)、自首(245)、現
行犯逮捕(212 以下)。
②
刑訴法に規定のない捜査の端緒
⇒「第3節
刑事訴訟法に規定のない捜査の端緒」(p.66)
ex.職務質問、所持品検査、自動車検問、第三者の届出、匿名の申告、聞込み、風説、
新聞その他出版物の記事。
*
捜査の端緒は、法によって限定されておらず、むしろ幅広く情報を獲得することが重要で
あるとされている。したがって、法的には、端緒を独自に議論したり、区分を論じたりする
意味はあまりない。
そこで、説明の便宜から、現行犯逮捕については被疑者の身柄保全の部分に譲り、以下、
2の「刑訴法に規定があるか否かによる分類」に従って説明する。
第2節 刑事訴訟法に規定のある捜査の端緒
第1款
検視
・
はじめに
1
意義
検視とは、変死者(犯罪による疑いのある死体)または変死の疑いのある死体があるときに、
犯罪の嫌疑の有無を確認するため、死体の状況を調べる処分をいう。
2
手続
検視はことがらの重大性から検察官の権限とされる(229Ⅰ)が、検察事務官または司法警察員
に行わせることができる(代行検視、229Ⅱ)。
検視は要急処分(急速を要する捜査)であるため令状を要しない。検視のために他人の住居に
立ち入ることができるかについては問題となり、これを肯定する見解もある(高田、伊藤)。し
かし、憲法 35 条に照らし、住居主の同意を要すると解するべきである(田宮、平野)。
第2節
刑事訴訟法に規定のある捜査の端緒
第2款
告訴・告発・請求/63
<行政検視と司法検視>
行政検視
公衆衛生、死因・身元確認、死体処理などの行政目的で警察署長など
= が死体を見分すること
変死
検視(229)
=司法検視=捜査の端緒
犯罪の嫌疑あり
捜査
第2款
告訴・告発・請求
一
告訴
1
意義
告訴(230 以下)とは、犯罪の被害者その他一定の者が、捜査機関に対して犯罪事実を申告しそ
の訴追を求める意思表示をいう。告訴は、通常、捜査の端緒としての意味を持つにすぎないが、
親告罪においては、告訴の存在が訴訟条件とされる。
⇒第4編 第1章 「第4節 訴訟条件」(p.300)
*1
告訴能力
◆
名古屋高金沢支判平 24.7.3/H24 重判〔3〕
告訴は、「犯罪被害にあった事実を捜査機関に申告して、犯人の処罰を求める行為であっ
て、その効果意思としても、捜査機関に対し、自己の犯罪被害事実を理解し、これを申告し
て犯人の処罰を求める意思を形成する能力があれば足りる」とした上で、告訴当時 10 歳 11
か月の小学5年生であり、普通の学業成績を上げる知的能力を有した被害者の告訴能力を認
めた。
*2
被害届とは、被害を受けた本人またはその家族など被害関係者が被害事実を申告すること
をいう。被害届は、捜査の端緒という点では告訴と同様であるが、①犯罪の事実を申告する
だけで、訴追を求める意思表示を欠く点、②被害届には告訴に伴う法律上の諸効果(ex.
183、260 以下)が生じない点で告訴と異なる。
2
手続
⑴
告訴権者
告訴権者は、犯罪の被害者、被害者の法定代理人等法定されている(230 以下)。
64/第3編
⑵
捜査
第3章
捜査の端緒
告訴期間
原則として、犯人を知った日から6か月以内にしなければならない(235)。告訴期間は各告
訴権者ごとに計算する(236)。
*
ただし、平成 12 年の改正により、強姦等の性的自由に対する犯罪(刑法 176~178)・営利
目的等の略取・誘拐罪(刑法 225、227ⅠⅢ)については、6か月の告訴期間制限は撤廃された。
⑶
方式
告訴は、書面または口頭で、検察官または司法警察員に対し行う(241Ⅰ)。口頭のときは告
訴調書が作成される(241Ⅱ)。なお、告訴は代理人によって行うこともできる(240 前段)。
⑷
告訴の取消しと告訴権の放棄
①
告訴は、公訴の提起があるまで取り消すことができ(237Ⅰ)、その方式は告訴の場合に
準じて扱われる(243)。取消し後は、告訴権が消滅するので、再告訴はできない(237
Ⅱ)。
②
告訴権の放棄ができるかが問題となるが、明文の規定がなく、実際上その必要性も乏し
いので許す必要はないと解される(最決昭 37.6.26)。
⑸
その後の手続
告訴により捜査が開始され、①司法警察員は、告訴に関する書類・証拠物を速やかに検察官
に送付する義務を負う(242)。②検察官は、告訴人等に対する起訴・不起訴処分の通知義務を
負い(260)、告訴人等による請求があるときは、不起訴理由の告知義務を負う(261)。
3
告訴の効力(告訴不可分の原則)
親告罪の告訴に関し、1個の犯罪事実ないし共犯関係について、告訴の効力は全体に及ぶ。こ
れを告訴不可分の原則という。この原則には、①客観的不可分の原則と、②主観的不可分の原則
とがある。告訴の取消しについても同様である。
⑴
客観的不可分の原則
⒜
意義
客観的不可分の原則とは、一罪の一部についての告訴の効力は、その全部に及ぶことをい
う。明文の規定はないが、①告訴をする場合、通常、訴追の範囲を犯罪の一部に限定する意
思はないであろうし、②被害者等に事件の分割を許すべきではないという理由で認められて
いる。
<客観的不可分の原則>
客観的不可分の原則
一罪
告訴の効力
告訴
⒝
客観的不可分の原則の例外
⇒発展
第2節
⑵
刑事訴訟法に規定のある捜査の端緒
第2款
告訴・告発・請求/65
主観的不可分の原則
⒜
意義
主観的不可分の原則とは、共犯者の1人(または数人)に対してなした告訴は、他の共犯
者に対してもその効力を生ずることをいう(238)。①告訴は特定の犯人を選別するものでは
なく、犯罪事実の訴追を求める制度であること、②被害者に犯人特定の能力がないという理
由で認められている。
⒝
主観的不可分の原則の例外
⇒発展
<主観的不可分の原則>
告訴の効力
共
犯
者
A
共
犯
者
B
告訴
二
告発
1
意義
告発(239)とは、第三者(すなわち、告訴権者及び犯人以外の者)が、捜査機関に対して、犯
罪事実を申告しその訴追を求める意思表示をいう。
2
手続
告発は、何人でも犯罪があると思料するときに行うことができる(239Ⅰ)。告発は一般には権
利にすぎないが、公務員がその職務を行うことにより犯罪を発見したときは、告発の義務がある
(239Ⅱ)。また、一定の犯罪については訴訟条件となる(独禁法 96Ⅰ等)。
告発の手続・効果については、告訴の場合に準じて扱われる(238Ⅱ、241~243、183)。
*
告訴との相違点
告発の手続の告訴との相違点は、①代理人によりなし得ないこと、②期間の制限がないこと、
③起訴後の取消し・事後の再告発が禁止されていないこと、である。
三
請求
請求(237Ⅲ、238Ⅱ参照)とは、第三者が、捜査機関に対して、犯罪事実を申告しその訴追を求
める意思表示をいい、告発類似の制度である。ただ、特定の罪について認められている(刑 92Ⅱ、
労働関係調整法 42 等)点において、告発と異なる。
手続については、告訴の規定が準用される(237Ⅲ、238Ⅱ)。
66/第3編
捜査
第3款
自首
・
第3章
捜査の端緒
はじめに
自首とは、犯人が、罪を犯したことが発覚する前に、みずから捜査機関に自己の犯罪事実を申告
し、処分に服するとの意思表示をいう。
刑法上、刑の減軽の理由となるので(刑 42Ⅰ等)、告訴・告発に準じた慎重な手続をとる(245・
241、242)。
第4款
現行犯逮捕
⇒第4章
第1節
第2款
「三
現行犯逮捕」(p.85)
第3節 刑事訴訟法に規定のない捜査の端緒
第1款
職務質問
一
はじめに
1
意義
職務質問とは、①警察官が、主として犯罪の予防、公安の維持等のために、いわゆる挙動不審
者等を見出した際、これを停止させて行う質問行為をいう(警察官職務執行法(以下、警職法と
いう)2Ⅰ)。もっとも、②その場で質問することが本人に不利であり、または交通の妨害にな
ると認められる場合には、付近の警察署、派出所、または、駐在所に同行を求めることができる
(警職法上の任意同行、警職法2Ⅱ)。この任意同行も、質問形態の一つであるので、広義では
職務質問に含まれる。
職務質問は、質問の結果、特定の犯罪について嫌疑を生ずれば、捜査が開始されることになる
ので、捜査の端緒のひとつといえる。
①
<職務質問の意義>
狭義の職務質問(警職法2Ⅰ)
②
警職法上の任意同行(警職法2Ⅱ)
①+②
2
広義の職務質問
法的性格
職務質問は、司法警察活動ではなく行政警察活動の一環
↓ただ
この場合の行政警察活動は、犯罪にかかわるものであって大きく司法警察活動に接近
↓すなわち
職務質問を継続している間に嫌疑が少しずつ固まり、質問が、ときには、捜査としての被疑者
の取調べの性格をもつ
第3節
刑事訴訟法に規定のない捜査の端緒
第1款
職務質問/67
↓さらに
捜査としての司法警察活動も、行政警察活動としての職務質問も、活動の主体は同じ
→主体である警察官自身、両者の区別の意識が乏しい場合が少なくない
↓それゆえ
職務質問と犯罪捜査を明確に区別することは、実際上困難
↓この点をふまえて
①
職務質問が実質的に犯罪捜査の一環と見られる場合、質問行為につき警職法と刑訴法が競
合的に適用される
ex.職務質問が取調べと同視されれば、警察官による供述拒否権の告知(198Ⅱ)は当
然の要請
②
職務質問の違法性が捜査手続の効力に影響を及ぼすことがある
<行政警察活動と司法警察活動の関係>
行政警察活動(警職法)
*
①
②
③
④
職務質問(警職法2Ⅰ)
任意同行(警職法2Ⅱ)
精神錯乱者・泥酔者の保護(警職法3①)
迷子・病人負傷者の保護(警職法3②)等
行政警察活動は何時でも司法警察活動に移行しうる
司法警察活動(刑訴法)
二
有形力の行使の限度
<問題の所在>
例えば、酒気帯び運転の疑いがあったので、警察官が職務質問をするために、自動車の窓から
手を差し入れエンジンキーを回転してスイッチを切った行為が、「停止させて」の範囲に含まれ
るか。警察官は、警職法2条1項に基づき不審者を「停止させて」職務質問をすることができる
が、職務質問のために、有形力を用いて停止させることは適法であろうか。「停止させて」の意
義が問題となる。
<考え方のすじ道>~判例同結論
↓そもそも
対象者が職務質問に応ぜずこれを拒否する場合に、それ以上一切職務質問できないとするので
は、犯罪の発見・検挙に重要な意義を有する職務質問の実効性が失われる
↓そこで
職務質問における「停止させて」には、強制にわたらない程度の有形力の行使が含まれる
↓具体的には
有形力の行使に必要性・相当性が認められる限り、「停止させて」に含まれる
68/第3編
捜査
第3章
捜査の端緒
↓あてはめ
自動車を発進させようとする者を制止させるため、エンジンキーを回転してスイッチを切るこ
とは必要かつ相当
↓よって
本件における停止行為は適法
<アドヴァンス>
1
厳格任意説(井上正治)
実力行使を不可とする見解。
(理由)
職務質問は、条文上明らかなように任意処分であり、強制処分ではない(警職法2Ⅲ)。
2
限定肯定説Ⅰ:例外的実力説(松尾)
任意を原則としつつ、犯罪の重大性、嫌疑の濃厚を要件に実力行使を許容とする見解。
(理由)
①
「実力行使」と「強制」を観念的に区別することは可能であろうが、実際には両者は連
続しており、強制でないと言い切ることは難しい。法の趣旨は、原則として「実力行使」
も許さないことにあると考えられる。
②
重大な犯罪を犯したと疑われる者について、その容疑が極めて濃厚で、緊急逮捕も不可
能ではないが、なお慎重を期するというような場合には例外が認められてよい。
3
限定肯定説Ⅱ:ゆるやかな任意説(半谷)
任意手段における任意性の意味を緩やかに、規範的にとらえて、質問を一度拒絶されても、
「異常な挙動その他」に現れた疑いの強さ、関係ありと思料される犯罪の軽重との関連におい
て「警察比例の原則」に従って、執拗に説得活動を実行しうるとする見解。
4
限定肯定説Ⅲ:実力説(出射義夫)
任意と強制の中間である「実力」の段階までが許されるとする見解。
(理由)
単純に任意処分か強制処分かという2つの典型的概念のみを使って解釈しようとすること
が無理であって、その中間に純粋に任意でもなく、また、強制でもない「実力」という段階
が存在する。そして、この「実力」の段階は強制に至らないことから許される。
5
限定肯定説Ⅳ:制約説(田宮)
強制捜査たる身柄「拘束」に至らぬ程度の自由の制限を認める見解。
(理由)
①
職務質問は、必ずしも任意処分ではなく、多少強制の要素が介入することを認め、その
限界は憲法 31 条が要請している合理性によって判断すべきである。
②
嫌疑の段階的発展に応じて順次任意から強制に手続が展開していくさまを率直に説明す
ることができる。
*
3説から5説の実体には、ほとんど実際上の差異はなく、説明のための論理操作の違いに
すぎないとの評価がある。
第3節
◆
刑事訴訟法に規定のない捜査の端緒
第1款
職務質問/69
最決昭 29.7.15
職務質問中、駐在所から突然逃げ出した者を 130 メートル追跡し、背後から腕に手をかけて、
「どうして逃げるのだ」といって引きとめた事案において、任意に応じない者を停止させるた
めこの程度の実力を行使しても適法だ、と判断した。
◆
最決昭 53.9.22
酒気帯び運転の疑いのある者が車に乗りこんで運転しようとした際、窓から手をいれてエン
ジンキーを回転してスイッチを切った事案において、停止させる方法として「必要かつ相当」
だと判断した。
◆
最決平元.9.26
交通事故後の現場整理をしていた警察官が、つばを故意に吐きかけられたと認識し、相手方
の胸元をつかんで歩道上に押し上げた事案につき、職務質問のためにこの程度の行動をとるこ
とは、「職務質問に付随する有形力の行使として当然許される」と判断した。
◆
最決平 6.9.16/百選〔2〕
覚せい剤使用容疑で職務質問を開始した警察官が、運転車両の窓から腕を差し入れ、エンジ
ンキーを引き抜いて取りあげた事案につき、「停止させる方法として必要かつ相当な行為であ
る」と判断した。
◆
東京高判平 22.11.8/H23 重判〔1〕
事案:
被告人に対して覚せい剤取締法違反の嫌疑を抱いた警察官は、職務質問の開始から強
制採尿令状の提示まで、約4時間にわたって被告人を職務質問の現場に留め置いた。被
告人側は、このような身柄拘束が違法であると主張して争った。
判旨:
「留め置きの適法性を判断するに当たっては、……巡査部長が、被告人から任意で尿
の提出を受けることを断念し、捜索差押許可状(強制採尿令状。以下「強制採尿令状」
ともいう。)請求の手続に取りかかっていることに留意しなければならない。すなわち、
強制採尿令状の請求に取りかかったということは、捜査機関において同令状の請求が可
能であると判断し得る程度に犯罪の嫌疑が濃くなったことを物語るものであり、その判
断に誤りがなければ、いずれ同令状が発付されることになるのであって、いわばその時
点を分水嶺として、強制手続への移行段階に至ったと見るべきものである。したがって、
依然として任意捜査であることに変わりはないけれども、そこには、それ以前の純粋に
任意捜査として行われている段階とは、性質的に異なるものがあるとしなければならな
い。」
「同令状を請求するためには、予め採尿を行う医師を確保することが前提となり、か
つ、同令状の発付を受けた後、所定の時間内に当該医師の許に被疑者を連行する必要も
ある。したがって、令状執行の対象である被疑者の所在確保の必要性には非常に高いも
のがあるから、強制採尿令状請求が行われていること自体を被疑者に伝えることが条件
となるが、純粋な任意捜査の場合に比し、相当程度強くその場に止まるよう被疑者に求
めることも許される」と判示した。
70/第3編
捜査
第2款
職務質問にともなう所持品検査
一
はじめに
1
意義
第3章
捜査の端緒
所持品検査とは、相手が身につけ所持している物を開示させて警察官が点検したり、警察官自
ら開示する処分をいう。
所持品検査は、任意捜査の一環として、同意を得て身体を捜索するという形で行われたり(197
Ⅰ)、捜索という強制処分として行われることもある(218Ⅰ、220Ⅰ)。しかし、捜査の端緒と
して問題となるのは、職務質問に伴う所持品検査である。
職務質問に伴う所持品検査には、4段階の態様がある。
2
①
所持品の外部を観察して質問する行為。
②
所持品の開示を要求し、開示されたらこれを検査する行為。
③
所持人の承諾のないときに、所持品の外部に触れる行為。
④
承諾のないときに、所持品のチャック等を開けて、中身を見る行為(強制的な開示)。
法的性格・許容規定
⑴
法的性格
職務質問に伴う所持品検査は、職務質問の際に必要に応じて行われるものである。そして、
職務質問は、個人の生命、身体及び財産の保護、各種の犯罪の予防、鎮圧を目的とする行政警
察活動である。したがって、職務質問に伴う所持品検査の法的性格も、犯罪捜査である司法警
察活動と異なり、行政警察活動に属する。
⑵
許容規定
職務質問に伴う所持品検査については、明文の許容規定はない。ただ、警職法2条4項、銃
砲刀剣類所持等取締法 24 条の2第1項が一定の要件の下で凶器の所持の有無を調べることを許
容している。
もっとも、所持品検査の態様ごとに検討すると、①は職務質問の範囲と考えられ、②は相手
方の任意の承諾があり、職務質問に随伴すると考えることができる。よって、これらの態様の
所持品検査が許されることには格別の問題はない。そこで、問題は、③、④の態様のように任
意の承諾がない場合にも実力行使の余地を認めるか否かである。この点、前述の規定の場合以
外は許されないとする消極説と、警職法2条1項を根拠とする職質付随処分説の対立がある。
第3節
刑事訴訟法に規定のない捜査の端緒
第2款
職務質問にともなう所持品検査/71
<所持品検査の分類>
職務質問に伴う所持品検査 ―― 明文規定なし(もっとも、警職法2Ⅳ、銃刀法 24 ノ2Ⅰあり)
人
権
侵
害
の
程
度
二
小
①の態様 ――― 職務質問の範囲
問題なし
②の態様 ――― 任意の承諾があり、職務質問に随伴
③の態様
④の態様
問題
→任意の承諾がないのに実力行為を認めるか否か
大
適法性・限界
<問題の所在>
例えば、銀行強盗事件が発生した際、警察官が、通報で停止させたXらに対してボーリング・
バックの開披を繰り返し求めたが応じなかったので、Xらの承諾のないまま、ボーリング・バッ
クのチャックを開けたという場合、この警察官の行為は、所持品検査として許容されるか。任意
の承諾がない場合にも、職務質問に伴う所持品検査は適法であろうか。職務質問に伴う所持品検
査については、明文の規定がないので問題となる。
<考え方のすじ道>~判例
所持品検査は、職務質問に密接に関連し、かつ職務質問の効果をあげるうえで必要性・有効性
の認められる行為
→職務質問(警職2Ⅰ)に付随する行為として認められる
↓そして
所持品検査は任意処分である職務質問(警職2Ⅲ)の付随行為として許容されるものであるか
ら、所持人の承諾を得て行うことが原則
↓もっとも
行政警察の責務たる犯罪の予防・鎮圧等の目的を無視することはできず、所持人の承諾のない
限り所持品検査は一切許容されないと解するのでは職務質問の実効性が失われる
↓そこで
所持人の承諾がなくとも、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り所持品検査に
おいても許容される場合があると解すべき
↓具体的には
所持品検査の必要性・緊急性、これによって害される個人の法益と保護されるべき公共の利益
の権衡等を考慮し、具体的状況の下で相当と認められる限度で許容されると解すべき
72/第3編
捜査
第3章
捜査の端緒
↓あてはめ
①
銀行強盗事件という重大事件が発生した状況下、通報を受けて停止させたというもの
→Xに対する容疑は濃厚→所持品検査の必要性肯定
②
Xはボーリング・バックの開披の要求に応じなかった
→容疑を確かめる緊急の必要あり→所持品検査の緊急性肯定
③
所持品検査の態様は、バックのチャックを開けたというものにすぎない
→法益侵害の程度はそれほど大きいものではない→所持品検査の相当性肯定
↓よって
本件における所持品検査は適法
<アドヴァンス>
1
消極説(光藤)
銃砲刀剣類所持等取締法 24 条の2の要件が存する場合に、提示要求、開示要求の前提として、
銃砲刀剣類の有無を着衣の上からはたいて点検することが、右条項を根拠としてぎりぎり許容
される限度である(③・④の段階の所持品検査を否定する見解)。
(理由)
2
警職法2条から一般的な所持品検査を基礎づけることはできない。
職質付随処分説(判例)
警察比例の原則により、所持品検査の必要性、緊急性を考慮し、侵害される法益と公共の利
益との権衡を図りながら、相当と認められる限度で許容すべきである(③に加えて④の段階ま
で認める見解)。
(理由)
所持品検査は、職務質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果を上げるうえで必要性、
有用性の認められる行為である。したがって、所持品検査の根拠は警職法2条に求められる。
(批判)
所持品検査が職務質問に付随して許される以上、その任意処分性を超えることは許されな
い。
◆
米子銀行強盗事件(最判昭 53.6.20/百選〔4〕)
事案:
銀行強盗事件が発生したというので緊急配備についていた警察官が、通報で停止させ
た被告人らに、ボーリングバッグおよびアタッシュ・ケースの開披を求めたが応じなか
ったので、その承諾がないままボーリングバッグのチャックをあけると、大量の札束が
でてきた。引き続き、アタッシュ・ケースを開けようとしたが、鍵がかかっていたので
ドライバーでこじ開けたところ、これにも大量の札束が入っていたという事案(なお、
被告人らはその直後に緊急逮捕された)。
判旨:
①
所持品検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげる
うえで必要・有効であるから、警職法2条1項に基づいて許される場合がある。
②
所持品検査は、任意手段である職務質問の附随行為として許容されるのであるか
ら、相手方の承諾を得て、その限度において行うのが原則である。
第3節
刑事訴訟法に規定のない捜査の端緒
③
第2款
職務質問にともなう所持品検査/73
しかし、流動する各般の警察事象に迅速適正に対処すべき行政警察の責務にかん
がみると、相手方の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相
当でなく、「捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査に
おいても許容される場合がある」と解すべきである。
④
もっとも、捜索に至らない程度の行為であってもこれを受ける者の権利を害する
ものであるから状況のいかんを問わず許されるわけではなく、「限定的な場合にお
いて、所持品検査の必要性、緊急性、これによって害される個人の法益と保護され
るべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限
度においてのみ、許容される」。
とした上で、バッグの開披については、所持品検査の緊急性・必要性が強かった反面、
検査の態様は、施錠されていないバッグのチャックを開披し内部を一べつしたにすぎず、
法益侵害の程度も大きくないから適法とした。これに対して、アタッシュケースの鍵を
こじ開けたことは刑訴法上の捜索とといえるが、緊急逮捕手続に先行して逮捕の現場で
時間的に接着してなされた捜索手続と同一視できるとして、結論的には適法とした。
◆
大阪覚せい剤事件(最判昭 53.9.7/百選〔94〕)
警察官が覚せい剤の使用ないし所持の容疑の認められる者に対して、職務質問中、その者の承
諾がないのに、その上衣の内ポケットに手を差し入れて所持品を取り出したうえ検査した事案に
ついて、所持品検査の必要性・緊急性を認めたうえ、次のように判示した。すなわち、警察官の
行為は「一般にプライバシー侵害の程度の高い行為であり、かつ、その態様において捜索に類す
るものであるから、本件の具体的状況のもとにおいては相当の行為とは認めがたいところであっ
て、職務質問に附随する所持品検査の許容限度を逸脱したものと解するのが相当である」。
*1
この2つの判例について、前者のボーリングバッグの場合では、重大犯罪の容疑であり、
施錠されていないバッグのチャックを開けて中味を一見したにすぎなかったので適法と判
断されたと考えることができる。これに対して、後者の場合では、覚せい剤取締法違反と
いう前者に比べれば比較的軽い罪であったこと、上衣の内ポケットに手を差し入れて中味
を取り出した上検査した点でプライバシー侵害の程度が大きかったことで違法と判断され
たといえる。
*2
判例は、職務質問と所持品検査では、同じ警察活動とはいえ規制の基準に差異を設けて
いると指摘される。すなわち、まず、職務質問では、少なくともたてまえ上は、条文のス
トレートな解釈によって導き出すものであるため、「必要性、相当性」のみを援用してい
る。これに対して、所持品検査では、「緊急性」を加え、あわせて相当性の詳細な判示に
より諸利益の厳格なバランシングを要請しており、その例外性が強調されている。
<職務質問と所持品検査の根拠条文・適法性基準>
根拠
基準
職務質問
警職法2Ⅰ
必要性・相当性
所持品検査
明文規定なし
必要性・相当性・緊急性
→より厳格なバランシング
74/第3編
捜査
第3款
自動車検問
一
はじめに
1
意義
第3章
捜査の端緒
自動車検問とは、警察官が犯罪の予防、検挙のため、進行中の自動車を停止させ、当該自動車
の運転者等に対し必要な事項を質問することをいう。
2
分類
交通検問:交通違反の予防検挙を主たる目的とする検問。
②
警戒検問:不特定の一般犯罪の予防検挙を目的とする検問。
③
緊急配備検問:特定の犯罪が発生した際、犯人の検挙と情報収集を目的として行う検問。
*
①
③の緊急配備検問については、既に認知された特定の犯罪につき行われるものであれば、そ
れは刑訴法上の捜査活動といえ、行政警察活動として行われる①・②とは体系を異にするもの
といえる。
自動車検問の形態
<自動車検問の分類>
特定車両
・
・
・
逮捕行為としての停止行為
交通違反車両に対する捜査としての停止行為
道交法による行政処分としての停止行為(道交法 61、63Ⅰ、67Ⅰ)
特定犯罪:緊急配備活動としての検問 ⇒上記③
不特定車両
不特定一般犯罪:警戒検問 ⇒上記②
不特定犯罪
3
不特定交通犯罪:交通検問(一斉検問)⇒上記①
問題点
自動車検問のうち、③の緊急配備検問は 197 条の任意捜査として、あるいは警職法上の職務質
問(警職法2条)として許される
→停止の際の有形力行使の限度は、任意捜査の場合、職務質問の場合と同様
↓また
①・②の交通検問・警戒検問でも不審な車両を対象とするときは、警職法によるほか、道交法
上の交通違反者としての停止が可能
↓そこで
問題は、①・②における無差別一斉検問の法的根拠
↓この点
無差別一斉検問については、所持品検査と同様に直接の根拠規定がない
第3節
刑事訴訟法に規定のない捜査の端緒
第3款
自動車検問/75
↓さらに
自動車検問は、緊急事態の非常例外措置というよりは無差別の一般的な警戒活動であり、しか
も固有の捜査からはむしろ距離のあるところに位置する
↓そこで
所持品検査とは違った意味で、自動車検問(一斉検問)の法的根拠と要件が問題
二
無差別・一斉検問の適法性
<問題の所在>
警察官が、走行中の自動車に対して無差別・一斉に停止を求めて警戒検問を行うことは許容さ
れるであろうか。明文がないので問題となる。
<考え方のすじ道>~反判例
↓この点
判例は、警察法2条1項を根拠に、任意処分性を強調した上で許容されるとし、①相手方の任
意の協力を求める形で行われ、②自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、
態様で行われる限り、適法なものとする
↓しかし
組織法である警察法を具体的な警察活動の根拠とすることは無理
↓そもそも
自動車のもつ性質上、停止させなければ職務質問の要件の存否は不明
↓また
自動車利用者が歩行者以上に有利に扱われることは妥当ではない
→自動車検問は、職務質問の前提として、警職法2条1項を根拠に認められる
↓もっとも
職務質問は任意の手段であり(警職2Ⅲ)、停止を求めうる権限は無制限なものではない
↓そこで
①
自動車の停止が任意の手段であること
②
犯罪を犯し、又は犯そうとしている者が自動車を利用している蓋然性が高いこと
③
自動車利用者の自由の制限が公共の安全と秩序の維持のためにやむを得ないものであるこ
との要件がみたされた場合は適法
<アドヴァンス>
1
違法説(中武)
(理由)
交通検問では、異常な挙動が基準となっていないので職務質問には当たらず、また、その
他根拠条文もない。
76/第3編
2
捜査
第3章
捜査の端緒
適法説Ⅰ:警察法2条1項説(判例、出射)
(理由)
警察法2条1項は、組織体としての警察の所轄事務の範囲を定めるとともに、その所定の
責務を遂行すべきことを規定したもので警察官にとって権限行使の一般的根拠となり得る。
(批判)
警察法は組織法であり、警察の一般的責務を定めた警察法2条1項を具体的な警察活動の
根拠とすることは無理がある。
3
適法説Ⅱ:警職法2条1項説(大阪高判昭 38.9.6、荘子、平良木)
(理由)
①
自動車のもつ性質上、停止させなければ職務質問の要件の存否は不明である。また、警
職法2条1項は、自動車利用者を職務質問の対象者から除外していない。
②
自動車利用者が歩行者以上に有利に扱われることは妥当ではない。したがって、自動車
検問は自動車利用の負担として、任意処分の範囲で許される。
(批判)
検問を行う時点では、職務質問の要件の存否は確認されていないから、警職法2条1項の
文言にはそぐわない。
4
適法説Ⅲ:憲法 31 条説(田宮、田口)
憲法 31 条を根拠として交通検問を認めつつ、判例による必要性と相当性の限定を加えようと
する見解。
(理由)
警職法2条説では、職務質問と同様にある種の実力行使を正当化しようとし、他方、警察
法2条説は、純粋な任意処分の限度でのみ許されるとするが、合理性・適正を要求する憲法
の趣旨にてらし、具体的必要性と相当性に見合った警察力という意味で妥当な限界の設定が
可能となる。
(批判)
下位規範を離れて憲法に実質的内容を盛り込み、裁判所に合理的な線引きを期待すること
は法的安定性を欠く。
第3節
◆
刑事訴訟法に規定のない捜査の端緒
第4款
集会参加者の検問/77
最決昭 55.9.22/百選〔5〕
事案:
警察官2名が、飲酒運転など交通違反の取締りを目的として赤色燈を廻すという方法
で無差別に車両の停止を求めていた事案。
判旨:
「警察法2条1項が『交通の取締』を警察の責務として定めていることに照らすと、
交通の安全及び交通秩序の維持などに必要な警察の諸活動は、強制力を伴わない任意手
段による限り、一般的に許容されるべきものであるが、それが国民の権利、自由の干渉
にわたるおそれのある事項にかかわる場合には、任意手段によるからといって無制限に
許されるものでないことも同条2項及び警察官職務執行法1条などの趣旨にかんがみ明
らかである。しかしながら、自動車の運転者は、公道において自動車を利用することを
許されていることに伴う当然の負担として、合理的に必要な限度で行われる交通の取締
に協力すべきものであること、その他現時における交通違反、交通事故の状況なども考
慮すると、警察官が、交通取締の一環として交通違反の多発する地域等の適当な場所に
おいて、交通違反の予防、検挙のための自動車検問を実施し、同所を通過する自動車に
対して走行の外観上の不審な点の有無にかかわりなく短時分の停止を求めて、運転者な
どに対し必要な事項についての質問などをすることは、それが相手方の任意の協力を求
める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で
行われる限り、適法なものと解すべきである。」として、法的根拠を警察法2条1項に
求めて、一定の要件のもとで適法としている。
*1
警察法2条1項説は、警職法の文言によみとれない以上、警職法が予定するような警察
権力と国民の利益・自由が鋭い緊張関係をはらむ「場」とは離れて自動車検問を位置づけ
るもので、純粋な任意処分の限度でのみ許されるとする。判例は、警察法説をとる以上、
判旨にあるとおり任意処分性を強調するのが当然であると指摘されている。
*2
警戒検問については、交通検問との目的の相違から、実施地域が自動車を利用する犯罪
の発生が見込まれる場所に限定される必要があることはいうまでもない。
◆
大阪高判昭 38.9.6
一斉警戒検問に関する事案について、警職法2条1項説に立ちつつ、警職法の職務質問は任
意の手段であるから、適法であるためには、以下の要件を充足する必要があるとした。
①
道路に障害物を置く等物理的な停車強制の方法を用いないこと。
②
罪を犯し、または犯そうとしている者が自動車を利用している蓋然性があること。
③
自動車利用者の自由が公共の安全と秩序の維持のために制限されてもやむを得ないと認
められること(自動車を利用する重要犯罪に限る、検問しなければ検挙が困難である、検
挙手段として適切である、最小限度の自由の制限にとどまる)。
第4款
⇒発展
集会参加者の検問
78/第3編
捜査
第4章
第4章
捜査の実行
捜査の実行
第1節 被疑者の身柄の確保
Introduction
1
被疑者・被告人の身柄拘束は、逮捕・勾留という手続によって行われる。
まずは、刑訴法における逮捕の意義を確認しよう。逮捕とは、被疑者に対して最初に行われ
る強制的な身柄拘束処分であり、法に決められた短時間の留置という効果を伴う。令状による
逮捕(通常逮捕)が原則である(199)。そして、現行犯逮捕・準現行犯逮捕(212、213)、緊
急逮捕(210)について、通常逮捕と要件・手続においてどのような違いがあるのかを比較する
ことが大事である。特に、現行犯逮捕、緊急逮捕の適法性を判断するのは難しい問題なので、
まずは条文で丁寧に要件を確認しながら、それぞれの要件の意義について明らかにする姿勢が
大事である。
他方、勾留とは、被疑者・被告人を拘束する裁判及びその執行である。実体的な要件に違い
はないが(60、207Ⅰ)、被疑者勾留と被告人勾留とでは多くの違いがあるので、本文の表を参
照しながら確認してほしい。
2
逮捕・勾留に関しては、被疑事実ごとに行われること(事件単位の原則)、被疑者勾留には
適法な逮捕が先行する必要があること(逮捕前置主義)、同一の被疑事実については原則とし
て逮捕・勾留は1回しか許されないこと(逮捕・勾留一回性の原則)をおさえよう。なぜこの
ような原則があるのか、趣旨から理解することが重要である。
そして、逮捕・勾留に関する非常に難しい問題として、別件逮捕・勾留がある。最初に、こ
れがどういう事態なのかを確認しよう。さらに、余罪取調べの限界とも結びついて学説は百家
争鳴というべき状態であり、裁判例も含めて、理論構成が多岐にわたり、厄介である。1回で
理解することは難しいので、それぞれの見解がどの点で違うのかというところから理解しよう。
3
そうして、逮捕・勾留という強制処分に対して、被疑者がどのような防御手段をとれるか確
認しよう。特に勾留に対しては、準抗告という法が明示した対抗手段があり(429Ⅰ②)、実務
上使われることも多い。条文を読んで確認しておこう。
殺人の容疑で
逮捕します。
逮捕状
ひぇ
第1節
第1款
一
被疑者の身柄の確保
第1款
総説/79
総説
はじめに
被疑者の身柄は、捜査が終わったときの事件処理の対象であり、また、公判審理が開かれればそ
の対象になるのであるから、これを確保しておく必要がある。さらに、公判審理においては、証拠
によって事実を認定していくので、公判開始前に証拠が破壊・隠滅されることがないように防止し
ておく必要がある。したがって、被疑者に逃亡のおそれがあり、あるいは、罪証隠滅のおそれがあ
る場合には、その身柄を保全しておかなければならない。
被疑者の身柄保全の方法には、①逮捕と、②勾留がある。以下、被疑者の身柄保全手続を概観し、
令状主義との関係を考察する。
二
被疑者の身柄確保手続
被疑者の身柄保全手続は、逮捕→被疑者勾留と進み、起訴を経て、被告人勾留に至る。
<被疑者の身柄確保手続>
(205Ⅱ)
逮捕
72 時間
10 日(208Ⅰ)10 日(208Ⅱ)
被疑者勾留
三
令状主義との関係
1
令状主義の要請
延長
2か月(60Ⅱ)
起訴
被告人勾留
1か月
更新
更新
身柄保全は、強制処分
↓したがって
令状主義(憲 33)が妥当
∵
捜査機関が強制処分を実施するにあたり、第三者たる裁判官に処分の実施の是非を判断さ
せ、①捜査機関の権限濫用を防止し、②被疑者の人権を保障
↓具体的には
逮捕につき 199 条1項、勾留につき 62 条が令状主義を規定
→被疑者勾留については 207 条によって 60 条以下の規定が準用されている
*
法は、「総則」において被告人の勾留について一般的規定をおき、207 条1項により準用
するという立法の方法をとった。「裁判所又は裁判長と同一の権限を有する」(207Ⅰ)と
いうのは、総則の規定がそのような「権限」の形をとっているので用いられた用語法であ
り、「準用する」という語と同義である。
80/第3編
2
捜査
第4章
捜査の実行
令状主義の例外
逮捕に関する令状主義の例外としては、①現行犯逮捕(憲 33、法 212、213)、②緊急逮捕
(210)がある。もっとも、②緊急逮捕については、①現行犯逮捕とは異なり、憲法が明文で規定
するものではない。そこで、令状主義の原則に反しないか、その合憲性が問題とされている。
これに対して、勾留には令状主義の例外はない。逮捕により、既に身柄を拘束されている被疑
者についての処分であるから、例外を設ける必要がないためである。
<逮捕状のサンプル>
逮捕状(通常逮捕)
被疑者
罪
氏
名
○
年
齢
昭和○○年○月○日生(○○歳)
住
居
東京都○○区×××3丁目4番5号
職
業
土工
名
○
○
○
強盗
被疑事実の要旨
別紙のとおり
引致すべき場所
警視庁○○警察署又は逮捕地を管轄する警察署
有
平成○年○月○○日まで
効
期
間
有効期間経過後は、この令状により逮捕に着手することができない。この場合には、これを当裁判
所に返還しなければならない。
有効期間内であっても、逮捕の必要がなくなったときは、直ちにこれを当裁判所に返還しなければ
ならない。
上記の被疑事実により、被疑者を逮捕することを許可する。
平成○年
1月29日
東
京
地
方
裁
裁
判
判
請求者の官公職氏名
警視庁○○警察署
司法警察員
警部
逮捕者の官公職氏名
警視庁○○警察署
司法警察員
警部補
逮捕の年月日時及び場所
平成○年1月31日午後3時15分
記
司法警察員
名
押
印
警部補
○○
○○
記
警部補
印
○○
○○
送致する手続をした年月日時 平成○年2月
記
名
押
印
司法警察員
警部
平成○年2月
記
東京地方検察庁
押
印
○○
印
2日午前9時30分
送致を受けた年月日時
名
○○
印
平成○年1月31日午後3時15分
押
○○
○○
○○
○○
印
2日午前10時35分
検察事務官
○○
印
○○
印
○○警察署で逮捕
引致の年月日時
名
所
官
○○
○○
印
印
第1節
第2款
第2款
逮捕/81
逮捕
一
総説
・
はじめに
⑴
被疑者の身柄の確保
意義
逮捕とは、被疑者を法に決められた短期間拘束する身柄拘束処分のことをいう。
⑵
種類
逮捕には、①通常逮捕(199Ⅰ)、②緊急逮捕(210)、③現行犯逮捕(212、213)の3種類
がある。
<逮捕の種類>
種
別
通常逮捕(199)
現行犯逮捕
(212Ⅰ)
準現行犯逮捕
(212Ⅱ)
緊急逮捕
(210)
二
通常逮捕
1
はじめに
要
①
②
件
逮捕状を請求できる者
逮捕できる者
検察官
司法警察員
検察官
検察事務官
司法警察員
司法巡査
逮捕の相当な理由
逮捕の必要性
①
②
犯罪及び犯人の明白性
犯罪の現行性・時間的接
着性の明白性
③ 逮捕の必要性
① 犯罪及び犯人の明白性
② 時間的接着性(場所的接
近性)
③ 時間的接着性の明白性
④ 212Ⅱ各号に該当する事実
の存在の逮捕者による認識
⑤ 逮捕の必要性
① 一定の重罪事件
② 高度の嫌疑
③ 緊急性
④ 逮捕の必要性
上のほか一般私人
(213)
上のほか一般私人
(213)
検察官
検察事務官
司法警察員
司法巡査
通常逮捕と同様
通常逮捕とは、令状(逮捕状)による逮捕のことをいう(199Ⅰ)。
憲法 33 条は、逮捕するには、「権限を有する司法官憲」の発する令状によることが原則である
としており、通常逮捕が逮捕の原則型である。
以下、通常逮捕の要件、手続につき概観する。
82/第3編
2
捜査
第4章
捜査の実行
通常逮捕の要件
通常逮捕の手続要件としては、後述の手続の履践が要求されるが、実体要件として、①逮捕の
理由と、②逮捕の必要性の存在が要求される。
⑴
逮捕の理由
逮捕の理由とは、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある」(199Ⅰ)こ
と、つまり、嫌疑の相当性があることをいう。
⑵
逮捕の必要性
逮捕の理由がある場合であっても、「明らかに逮捕の必要がないと認めるときは」逮捕状の
請求は却下される(199Ⅱただし書)。「逮捕の必要がない」とは、被疑者の年齢、境遇、犯罪
の軽重および態様などの諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅
する虞がない等の事情をいう(規 143 の3)。
*
軽微な犯罪の場合
一定の軽微犯罪について逮捕しうるのは、被疑者が、①住居不定か、②捜査機関の出頭要
求に応じない場合に限られている(199Ⅰただし書)。すなわち、犯罪の重さと自由拘束の不
利益を比較して、犯罪が軽い場合には、特別の必要性の存在が要求されているのである(加
重要件)。
⑶
捜査機関への不出頭と逮捕の必要性
逮捕の必要性の要件との関係で、被疑者が数回の呼び出しにも応じないときに逮捕しうるか
が問題となる。これは、捜査機関への不出頭により、逮捕の必要性の要件が充たされるかの問
題である。
3
⇒発展
通常逮捕の手続
通常逮捕は、①逮捕状の請求→②逮捕状の発付→③逮捕の実行という順序で行われ、④逮捕後
の手続に至る。
<通常逮捕の手続>
1
逮捕状の請求
⑴
請求権者
検察官または司法警察員(警察官である司法警察員については、いわゆる指定警部以上のもの
に限られる)に限定(199ⅡⅢ、規 141 の2)
∵ 請求権者にも逮捕の理由と必要性について慎重に考慮させ、逮捕状が濫発されるのを防止
する趣旨
⑵ 請求の方式
①一定の方式の請求書(規 142)及び②逮捕の理由と必要性があることを認めるべき資料を提供
することが必要(規 143)
第1節
被疑者の身柄の確保
第2款
逮捕/83
逮捕状請求書(甲)
平成○年○月○○日
東京地方裁判所
裁判官
殿
東京都 ○○ 警察署
刑事訴訟法第 199 条第 2 項による指定を受けた司法警察員
警部 ○ ○
下記被疑者に対し、殺人
1
被疑者
氏
年
職
住
名
齢
業
居
○ ○
印
被疑事件につき、逮捕状の発付を請求する。
記
○ ○ ○ ○
昭和○○年○月○日生(○○歳)
無職
不定
2
7日を超える有効期間を必要とするときは、その期間及び事由
3
引致すべき官公署又はその他の場所
東京都○○警察署又は逮捕地を管轄する警察署
4
逮捕状を数通必要とするときは、その数及び事由
5
被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由
司法巡査○○作成の捜査報告書 1通
現場写真撮影報告書
目撃者○○の供述調書
⑴
⑵
⑶
6
被疑者の逮捕を必要とする事由
被疑者は、本件犯行後、いずれかに逃走しており、所在不明であるため
7
被疑者に対し、同一の犯罪事実又は現に捜査中である他の犯罪事実について、前に逮捕状の請求又はその発付があったときは、その旨及びその
犯罪事実並びに同一の犯罪事実につき更に逮捕状を請求する理由
8
30万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、2万円)以下罰金、拘留又は科
料に当たる罪については、刑事訴訟法 199 条第 1 項ただし書に定める事由
9
2
被疑事実の要旨
被疑者は、平成○年○月○○日午前○時ころ、東京都新宿区高田馬場○丁目○○番地○○公園内におい
て、××××(当22年)に対し、所携の登山用ナイフにて、同人の胸部を1回突き刺し、よって、同人を
左胸刺創に基づき失血死させて殺害したものである。
逮捕状の発付
⑴
要件
請求を受けた裁判官は、逮捕の理由と必要性について審査
↓
逮捕の理由があると認めるときは、明らかに逮捕の必要がないと認められる場合を除いて、逮
捕状を発付しなければならない(199Ⅱ)
⑵ 方式
逮捕状には、被疑者の氏名・住居、罪名、被疑事実の要旨、引致すべき場所、有効期間などが
記入され、裁判官が記名捺印(200、規 144~146)
3
逮捕の実行
⑴
逮捕権者
検察官、検察事務官または司法警察職員(199Ⅰ)
→請求権者よりも広い ∵ 迅速な逮捕の実現
⑵ 通常執行(201)
被疑者に逮捕状を示さなければならない
∵ 被疑者に、罪名、被疑事実の要旨又は引致すべき官公署などを理解させるため
⑶ 緊急執行(201Ⅱ・73Ⅲ)
逮捕状を所持していなくても、急速を要する場合には、被疑事実の要旨及び令状が発せられて
いる旨を告げて逮捕できる
↓もっとも
あとで、できる限り速やかに逮捕状を被疑者に示さなければならない
4
逮捕後の手続
被疑者は逮捕後、一定期間留置されるが、その後は検察官による勾留請求へと進む可能性がある。こ
のとき、①司法巡査又は司法警察員が逮捕し検察官に送致する場合(警察ルート)と、②検察官又は検
察事務官が直接逮捕した場合(検察ルート)の2つの流れができる。
84/第3編
①
捜査
第4章
捜査の実行
司法巡査または司法警察員による場合
48 時間(203Ⅰ)
逮捕
24 時間(205Ⅰ)
引致(202)
司法巡査
②
→
検察官への送致
司法警察員
①犯罪事実の要旨の告知(203Ⅰ)
②弁護人選任権の告知、一定事件におい
ては被疑者国選制度の告知(203Ⅲ)
③弁解の機会
検察官の勾留請求
検察官
・弁解の機会
検察官または検察事務官による場合
48 時間(204Ⅰ)
逮捕
引致(202)
検察事務官
4
検察官の勾留請求
→
検察官
①犯罪事実の要旨の告知(204Ⅰ)
②弁護人選任権の告知、一定事件において
は被疑者国選制度の告知(204Ⅱ)
③弁解の機会
逮捕に際しての実力行使
逮捕に際して被疑者が抵抗したり逃走しようとしたとき、これを実力で阻止できるのはどの範
囲であろうか。警職法7条の場合を除き、直接の明文規定がないため問題とされている。
警察比例の原則が妥当することは当然であるが、逮捕の実効性を確保するため合理的に必要な
限度の実力の行使は当然許されると考えられる。
また、逮捕を妨げる第三者に対する実力の行使についても、基本的に同様に考えられる。
*
逮捕に際しての実力行使の問題は、通常逮捕の場合のみならず、他の逮捕の場合にも当然に妥
当するものである。
◆
最判昭 50.4.3
現行犯逮捕の事案について、「その際の状況から見て社会通念上逮捕のために必要かつ相当で
あると認められる限度内の実力を行使することが許され」ると判示した。
*
5
この判例は現行犯逮捕の事案であるが、通常逮捕、緊急逮捕にもあてはまる一般論である。
逮捕された被疑者に対する捜査処分
逮捕の目的は、逃亡や罪証隠滅の防止である(規則 143 条の3参照)が、いったん保全された
身柄を他の目的に利用することもできないわけではない。実際に被疑者の取調べなどが行われ、
捜査に大きな役割を果たしている。
⑴
許される場合
被疑者が任意に応じる場合・明文の許容法規がある場合等がある。
ex.実況見分の立会い。
⑵
許されない場合
新たな強制処分を行う場合。
→別個の令状によるべき
ex.検証への立会い、強制採尿。
第1節
三
1
被疑者の身柄の確保
第2款
逮捕/85
現行犯逮捕
はじめに
⑴
意義
現行犯とは、現に罪を行い、または現に罪を行い終わった者をいう(212Ⅰ)。そして、誰で
も令状なしで、現行犯人を逮捕することができる(213)。
*
旧刑訴法では、犯行中に確認されれば「現行犯」という身分が生じ、何時間経過しても後
から逮捕することができた。これに対し、現行法の現行犯は時間的概念であり、犯罪を明認
しても時間の経過により現行犯人ではなくなり、逮捕することはできなくなる。
⑵
趣旨
現行犯逮捕が令状主義の例外として許されるのは、①犯罪の実行が明白で、司法判断を経な
くても誤認逮捕のおそれがないと認められ(現認性)、かつ、②逮捕状の発付を待っていたの
では犯人が逃走し、または証拠を隠滅するおそれが高く、令状請求の時間的余裕がない(緊急
性)ためである。
2
現行犯逮捕の要件
現行犯逮捕の要件としては、①犯罪及び犯人の明白性、②犯罪の現行性・時間的接着性の明白
性、の存在が要求される他、③逮捕の必要性の要否については争いがある。
⑴
犯罪及び犯人の明白性
犯罪及び犯人の明白性とは、その犯人により特定の犯罪が行われたことを逮捕者が現認(直
接に覚知)したことをいう。
一般的に、外見上、犯罪と犯人の明白性が明らかでなければならない。したがって、事案の
性質上、それが犯罪であっても、外観だけからは犯罪であるか否かが明確でない行為(贈収賄
における金品授受行為等)については、原則として、現行犯逮捕を避けるべきである。
*
もっとも、ある者の行動を私人がみてもそれが犯罪の実行行為だとは分からないが、捜査
機関が予め持っている資料・情報に基づく限り、通常人ならば現行犯と確知できるような場
合には逮捕が許される場合もあると考えられる(東京高判昭 41.6.28)。
⑵
犯罪の現行性・時間的接着性の明白性
犯罪の現行性・時間的接着性とは、①その犯罪が現在の事件として逮捕者の眼前で行われて
いる(現に罪を行っている現行犯人)か、または②犯行後時間的にきわめて接着した段階にあ
ることが逮捕者に明らかである(現に罪を行い終わった現行犯人)ことをいう。
⒜
現に罪を行っている現行犯人
現に罪を行っているかどうかは、逮捕に着手する直前を標準とすべきである。
⒝
現に罪を行い終わった現行犯人
現行犯人とは別に準現行犯人という概念があることからして、行為を終了した直後とは、
犯行に極めて接着した時間的段階であると解する。
86/第3編
⒞
捜査
第4章
捜査の実行
場所的近接性
現行犯人は時間的段階における概念であるが、「現に罪を行い終わった」という要件の中
に、場所的要素を含んでいることは否定できない。一般的にみて、犯行現場と逮捕場所の場
所的近接性が小さくなればなるほど、犯行と逮捕の時間的接着性も小さくなると考えられる
からである。
したがって、犯行の現場から遠く離れてしまった犯人は、もはや現行犯人とはいえない。
⑶
逮捕の必要性
通常逮捕及び緊急逮捕につき裁判官が令状を発する場合、逮捕の必要性が要件となっている
(199Ⅱただし書、規 143 の3、211)。しかし、現行犯逮捕については明文がないことから、
そもそも逮捕の必要性が要件となるかが問題となる。
⑷
⇒発展
現行犯人の認定
現行犯人であるか否かの認定は、「事後的に客観的な立場から判断されるべきではなく、行
為当時の状況にもとづいて客観的、合理的に判断されるべき」である(最決昭 41.4.14)。
⑸
現行犯人の認定資料
現行犯人の認定資料は、原則として、逮捕者自身が直接見聞した被疑者の挙動、状態、証跡、
その他の客観的状況(被害者らの事前の通報、事件直後における衝動的供述を含む)である。
一般に、被害者の供述以外に外見上犯罪のあったことを直接覚知しうる状況が全く存在しない
場合には、逮捕者の判断の客観性の担保が全く存在しないことになるから、現行犯逮捕するこ
とは、許されないことになろう。
◆
京都地決昭 44.11.5/百選〔13〕
「被疑者を現行犯人として逮捕することが許容されるためには、被疑者が現に特定の犯罪を
行い又は現にそれを行い終わった者であることが、逮捕の現場における客観的外部的状況等か
ら、逮捕者自身においても直接明白に覚知しうる場合であることが必要と解されるのであって、
被害者の供述によること以外には逮捕者においてこれを覚知しうる状況にないという場合にあ
っては、……現行犯逮捕の如きは、未だこれをなしえないものといわなければならない。」と
した。
3
現行犯逮捕の手続
<現行犯逮捕の手続>
1
逮捕の実行
「何人でも、逮捕状なくして」(213)行うことができる
∵ 厳格な要件の存在により判断の客観性を保障する事情が存在
2
逮捕後の手続
(1) 私人が現行犯人を逮捕した場合
→直ちに捜査機関に引き渡さなければならない(214)
(2) 他の手続
→通常逮捕の場合と同様(216)
* とりわけ 203 条1項、204 条、205 条、207 条
第1節
4
被疑者の身柄の確保
第2款
逮捕/87
準現行犯
⑴
意義
準現行犯とは、①⒜ 犯人として追呼されているとき、⒝ 賍物または明らかに犯罪の用に供し
たと思われる凶器その他の物を所持しているとき、⒞ 身体または被服に犯罪の顕著な証跡があ
るとき、⒟ 誰何されて逃走しようとするとき、の一つにあたり、②罪を行い終わってから間が
ないと明らかに認められる者をいう(212Ⅱ)。
そして、準現行犯は、現行犯とみなされる(212Ⅱ)。
⑵
準現行犯の合憲性
準現行犯は、本来の現行犯とは明らかに異なり、時間的接着性が緩やか
→憲法 33 条は、令状主義の例外を現行犯逮捕のみと規定したので、準現行犯を定めた 212 条
2項は合憲かが問題
↓思うに
①
準現行犯は旧刑訴法以来の概念で憲法はこれを前提にしたと考えてよく、そのように法
定された強度の証跡がある
②
犯行後「間がないと明らかに認められるとき」というように要件を厳格に絞っているの
で、令状主義の精神に反するとまではいえない
↓よって
「間がない」という要件を厳格に解釈し、運用する限りは違憲とはいえない
⑶
準現行犯の要件
準現行犯の要件としては、①犯罪及び犯人の明白性、②時間的接着性(ひいてはこれに対応
する場所的近接性)、③時間的接着性の明白性、④212 条2項各号に該当する事実の存在の逮捕
者による認識、が要求される。
⒜
時間的接着性・場所的近接性(「間がない」)
時間的接着性とは、犯罪実行行為終了後時間的に極めて近接した段階をいい、最大でも数
時間をでてはならない(通説)。場所的近接性が要求されるのは当然である。
◆
和光大学内ゲバ事件(最決平 8.1.29/百選〔15〕)
事案:
内ゲバ事件が発生した旨の連絡を受け警戒中の警察官が、犯行終了後約1時間な
いし1時間 40 分を経過した頃、犯行現場から約4キロ離れた場所で被告人らを発見
し、職務質問を振り切って逃走しようとする同人らを追跡して逮捕した事案。
判旨:
「被疑者らに対して行われた本件各逮捕は、刑訴法 212 条2項2号ないし4号に
当たる者が罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるときにされたもの
であって、適法である。」と判示した。
⒝
時間的接着性の明白性(「明らかに認められる」)
時間的接着性の明白性という要件は、何の情報も与えられていない一般人の立場から判断
するものではなく、逮捕者がそれまでに得ていた情報に加えて、1号ないし4号に該当する
事実を含むその場の具体的状況などの要素を考慮して判断されるものである。
88/第3編
⒞
捜査
第4章
捜査の実行
212 条2項各号に該当する事実の存在の逮捕者による認識
212 条2項各号に該当する事実は、罪が終わってから間がない者であることを推認させる証
跡となる。
もっとも、4号の要件は犯罪との結びつきが弱く、これ自体で被逮捕者を特定の犯罪の犯
人と認めるのは危険である。よって、それ以外の状況から犯罪と犯人の明白性を判断すべき
で、犯人に関する情報、被逮捕者の挙動等がその資料となる。
四
緊急逮捕
1
はじめに
緊急逮捕とは、①一定の重罪事件で、②高度の嫌疑があり、③緊急性が認められる、という三
つの要件がある場合に、これらの理由を告げて無令状で逮捕することをいう。この場合には、④
事後に「直ちに」逮捕状請求の手続をすることも要件となる(210)。
2
緊急逮捕の合憲性
かつては、憲法 33 条が令状主義の例外を「現行犯」逮捕のみと規定していることから、一定の重大
犯罪について令状なしに逮捕を許容する緊急逮捕を規定している法 210 条は憲法 33 条に反するのでは
ないかが問題となっていた。
この点について、判例(最大判昭 30.12.14/百選〔A1〕)は「厳格な制約の下に、罪状の重い一
定の犯罪のみについて、緊急巳むを得ない場合に限り、逮捕後直ちに裁判官の審査を受けて逮捕状の
発行を求めることを条件とし、被疑者の逮捕を認めることは、憲法 33 条の趣旨に反するものではな
い」旨判示し、法 210 条は憲法 33 条に反しないとしている(合憲説)。
学説上は、合憲説の中でも様々な理由付けがなされているが、現在、緊急逮捕が合憲であるこ
とに争いはなく、法 210 条が憲法 33 条に違反する旨述べて上告する弁護人も実務上存在しない。
◆
最大判昭 30.12.14/百選〔A1〕
「厳格な要件の制約の下に、罪状の重い一定の犯罪のみについて、緊急巳むを得ない場合に
限り、逮捕後直ちに裁判官の審査を受けて逮捕状の発行を求めることを条件とし、被疑者の逮
捕を認めることは、憲法 33 条の趣旨に反するものではない」と判示した。
3
緊急逮捕の要件
緊急逮捕の要件としては、①一定の重罪事件であること、②高度の嫌疑、③緊急性、④事後に
「直ちに」逮捕状請求の手続をすること、が要求される。
⑴
一定の重罪事件
「死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁固にあたる罪」のことをいう。
第1節
⑵
被疑者の身柄の確保
第2款
逮捕/89
高度の嫌疑
「罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由」という嫌疑の充分性は、通常逮捕にいう「相
当」な嫌疑よりも程度の高い嫌疑を意味する。そして、高い嫌疑とは、現行犯、準現行犯に準
ずるような嫌疑を要するというべきである。
⑶
緊急性
裁判官に逮捕状を請求していたのでは、仮に逮捕状が発付されたとしても被疑者の逃走など
により逮捕することが不可能もしくは著しく困難になる場合をいう。
⑷
事後に「直ちに」逮捕状請求の手続をすること
「直ちに」とはどの程度の時間的隔たりを意味するか、「直ちに」の意義が問題
↓思うに
令状によらない例外的強制処分であることから厳格に解すべき
↓よって
「即刻ないしその足で」の意味に解すべき
↓もっとも
逮捕状請求のための書類整備などの必要最小限の時間的猶予は許される
◆
大阪高判昭 50.11.19
逮捕後、実況見分を行った後被疑者を取り調べて供述調書を作成したため遅延した事例に
つき、「直ちに」の要件が欠け違法と判断した。
4
緊急逮捕の手続
<緊急逮捕の手続>
1
逮捕の実行
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、理由を告げて、被疑者を無令状で逮捕すること
ができる(210Ⅰ1文)
2
逮捕後の手続
⑴ 逮捕状の請求
直ちに裁判官に対し逮捕状請求(210Ⅰ2文)
但し、請求者は限定されていない(199Ⅱと対比)
⑵ 逮捕状の発付
緊急逮捕後に逮捕状の請求を受けた裁判官は
① 緊急逮捕時に緊急逮捕の要件が備わっていたか
② 審査時に通常逮捕の要件が存するか、を審査
⑶ その後の手続
① 逮捕状が発せられない場合→直ちに被疑者を釈放しなければならない(210Ⅰ3文)
② 逮捕状が発せられた場合→通常逮捕の場合と同様(211)
* とりわけ 203 条1項、204 条、205 条、207 条
90/第3編
捜査
第3款
勾留
一
総説
・
はじめに
第4章
⑴
捜査の実行
意義
勾留とは、被疑者・被告人を比較的長期間拘束する裁判およびその執行のことをいう。
勾留には、①起訴前の被疑者段階で拘束される被疑者勾留(起訴前勾留)と、②起訴後被告
人となってから拘束される被告人勾留(起訴後勾留)がある。このうち、捜査段階で問題とな
るのは、①の被疑者勾留である。
⑵
目的
①
被疑者・被告人の逃亡防止。
∵
②
罪証隠滅の防止。
∵
*
将来行われるべき裁判を円滑に進行させるため。
捜査の実効性に配慮。
被疑者の取調べを勾留の目的に加える見解もある。しかし、これは、法文上からも、黙秘
権の実質的保障ないし現行法上の被疑者の地位という観点からも支持されえない。
◆
最判昭 58.6.22
「未決勾留は、刑事訴訟法の規定に基づき、逃亡又は罪証隠滅の防止を目的として、被疑
者……の住居を監獄内に限定するもの」と判示する。
二
被疑者勾留
1
勾留の要件
勾留の要件としては、①勾留の理由、②勾留の必要性、という実体要件と、③逮捕が先行して
いること、④勾留質問、という手続要件が要求される。
<勾留の実体要件・手続要件>
実体要件
勾留の要件
手続要件
①
勾留の理由
②
勾留の必要性
③
逮捕の先行 (逮捕前置主義⇒p.96)
④
勾留質問
第1節
⑴
被疑者の身柄の確保
第3款
勾留/91
実体要件
⒜
勾留の理由(207Ⅰ・60Ⅰ)
イ
被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること
犯罪の「相当な」嫌疑は、通常逮捕の場合よりも高いものが要求される。
ロ
住居不定・罪証隠滅のおそれ・逃亡のおそれのいずれか1つにあたること
*
⒝
軽微事件では、住所不定の場合に限る(207Ⅰ・60Ⅲ)。
勾留の必要性(207Ⅰ・87Ⅰ)
「必要がなくなったとき」とは、上記の理由以外で、被疑者を勾留することが相当でない
と認められる場合をさす(87 参照)。
*
「勾留の理由」「勾留の必要性」の意味
講学上、⒜ イを勾留の(狭義の)「理由」とし、⒜ ロの各事由と「相当性」を合して
「必要」と呼ぶ例もある。しかし、条文の文言の違い(60 と 199)および勾留理由の厳重
性を反映させ、⒜イ・⒜ ロは「勾留の理由」として考えることとする。
*
⑵
逮捕の規則 143 条の3の対応規定はない。
手続要件
⒜
勾留の前に逮捕手続が先行していること(207Ⅰ、逮捕前置主義)
⇒第4款
⒝
「二
逮捕前置主義」(p.96)
裁判官の勾留質問を受けること(207Ⅰ・61)
イ
意義
勾留質問とは、裁判官が被疑者に対して被疑事実を告げて、これに対する陳述を聞く手
続のことをいう(207Ⅰ・61)。
ロ
告知事項
明文はないが、裁判官は弁解の機会を与えるだけでなく、勾留の理由および黙秘権を告
げることを要すると解すべきである。
ハ
勾留質問手続と弁護人の立会い
明文の規定はないが、裁判官の裁量によって勾留質問手続に弁護人立会いを認めること
は問題ない(通説)。ただ、捜査における当事者主義的理解の必要性及び手続の公開性の
要請からすれば、勾留質問においても被疑者は弁護人の援助を受けることができると解す
べきであり、その旨の明文が設けられるのが望ましいと考えられる。
92/第3編
2
捜査
第4章
捜査の実行
勾留の手続の流れ
勾
被疑者
被疑者に対する
氏
名
○
年
齢
昭和○○年○月○日生(○○歳)
住
居
不定
職
業
無職
強盗
○ ○
留 状
○
被疑事件について、同人を代用施設○○警察署留置施設に勾留する。
被疑事実の要旨
別紙記載のとおり
刑事訴訟法60条1項各号に定
裏面のとおり
める事由
有 効 期 間
平成○年○月○○日まで
この令状は、有効期間経過後は、その執行に着手することができない。この場合には、これを当
裁判所に返還しなければならない。
平成○年○月○○日
東
京 地
方 裁 判 所
裁 判 官
○○
○○
印
勾留請求の年月日
平成○年○月○○日
執行した年月日時及び場所
平成○年○月○○日午後○時○○分
東京地方検察庁
○○警察署 司法警察員 巡査部長 ○○ ○○ 印
記
名 押
印
執行することができなかったと 平成○年1月31日午後3時15分
きはその事由
記 名 押 印
平成 年 月
日
勾留した年月日時及び取扱者
平成○年○月○○日午後○時○○分
○○警察署 司法警察員 巡査部長 ○○ ○○ 印
(被疑者用)
刑事訴訟法60条1項各号に定める事由。
下記の1、2、3号に当たる。
1 被疑者が定まった住居を有しない。
2 被疑者が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある。
3 被疑者が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある。
勾留期間の延長
延 長 期 間
延 長 期 間
平成○年○月○○日まで
平成 年 月
日まで
理
由
理
由
事案複雑・裏付け捜査未了
平成○年○月○○日
東京地方裁判所
裁判官 ○○ ○○ 印
勾留状を検察官に交付した年月日
平成 年 月
日
裁判所
裁判官
勾留状を検察官に交付した年月日
平成○年○月○○日
裁判所書記官 ○○ ○○ 印
平成 年 月
裁判所書記官
日
勾留状を被疑者に示した年月日時
勾留状を被疑者に示した年月日時
平成○年○月○○日午後○時○○分
監獄官吏
○○警察署司法警察員
巡査部長 ○○ ○○ 印
平成 年 月
監獄官吏
日午
時分
第1節
被疑者の身柄の確保
第3款
勾留/93
<勾留の手続>
1
勾留請求
請求権者は、検察官に限られる(204Ⅰ、205Ⅰ)
2
勾留質問
裁判官が被疑者に対して被疑事実を告げて、これに対する陳述をきく(207Ⅰ・61)
3
勾留状の配布
(1) 要件
①勾留の理由、②必要性、③適法性(207Ⅳただし書)を審査
(2) 方式
勾留状には、被疑者の氏名・住居・罪名、被疑事実の要旨等が記載され、裁判長又は受命
裁判官が記名押印(207Ⅰ・64、規 70)
4
勾留状の執行
検察官の指揮により、検察事務官、司法警察職員、刑事施設職員が執行(207Ⅰ・70)
→弁護人等への通知が必要(207Ⅰ・79、規 79)
3
勾留期間
<勾留期間-10 日・10 日・5日>
勾留請求
勾留延長の請求
10 日
(208Ⅰ)
公訴提起
釈放
勾留延長の請求
10 日
(208Ⅱ)
公訴提起
釈放
(208ⅠⅡ)
5日間
(208 の2)
公訴提起
釈放
(208 の2)
公訴提起
釈放
勾留を請求してから 10 日(208Ⅰ)が原則である。
→やむを得ないときは 10 日を限度として延長できる(208Ⅱ)。
→一定の罪にあたる事件についてはさらに5日を限度として延長できる(208 の2)。
4
勾留の場所
勾留の場所は、「刑事施設」である(207Ⅰ、64Ⅰ)。刑事施設は「刑事施設」が原則であるが、
「留置施設」(いわゆる警察留置場)も含まれ(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法
律 14 条)、これをいわゆる代用刑事施設という。実務では、被疑者の勾留の場所は代用刑事施設
とされる場合が多いが、このように代用刑事施設を勾留の場所として用いることは、許されるの
であろうか。
94/第3編
捜査
第4章
捜査の実行
この点、代用刑事施設存置論は、①拘置所は全国で 120 箇所余りしかないのに比べ、警察留置
場の数は多く、被疑者の取調べ等捜査の必要からすれば被疑者の身柄は捜査機関の近くにあった
方がよいこと、②1980 年4月からは留置業務が警察署の総務課に移管され、捜査官と留置責任者
が分別されたことなどから、代用刑事施設は存置すべきであるとする。この立場からは、勾留の
場所を拘置所とするか代用刑事施設とするかは、裁判官の裁量の問題ということになる。
これに対して、代用刑事施設廃止論は、勾留の場所を代用施設とすると、四六時中、被疑者の
身柄が捜査機関の下にあることになるので自白強要等の人権侵害のおそれがあり、勾留の場所は
原則として拘置所とすべきで、代用刑事施設はあくまで例外とすべきであるとする。
なお、この問題は、被疑者の取調べの法的性格(⇒第3節
第2款
二
「2
被疑者取調べ
の法的性格」 p.173)と相関関係にある。取調べの密室性が改善され、その任意性が保障されれ
ば、拘束場所の問題の重要性も減少する。この点についての改善が進まないのであれば、特に否
認・黙秘事件や重大事件については拘置所に勾留すべきである。もっとも、接見の便宜などの被
疑者の利益が認められる場合は、代用刑事施設に勾留することも認められるであろう。
三
被疑者勾留と被告人勾留の相違
・
被疑者勾留と被告人勾留の異同
被疑者勾留(起訴前勾留)と被告人勾留(起訴後勾留)とでは、①勾留の実体的要件、②勾留
質問、③勾留理由開示制度、④勾留の執行停止制度、⑤異議申立てなどについては、根拠条文は
異なるものの内容については違いはない。
これに対して、①勾留の主体、②勾留の期間、③逮捕前置主義の有無、④保釈の可否、⑤接見
指定の可否等については、両者に違いがある。
<被疑者勾留と被告人勾留の相違>
被疑者勾留(207)
被告人勾留(280、60)
検 察 官 の 請 求 に よ り 裁 判 官 が 行 う ① 第1回公判期日までは裁判
(204Ⅰ、205Ⅰ、207)
官が行う(280)
② それ以降は裁判所(60)
10 日 + 延 長 10 日 + 再 延 長 5 日 2か月+1か月ごとの更新
(208、208 の2)
(60Ⅱ)
⑴
主体
⑵
勾留の期間
⑶
逮捕前置主義
逮捕を前提とする(207)
逮捕を前提としない
⑷
保釈
認められない(207Ⅰただし書)
認められる(88 以下)
⑸
接見指定
できる(39Ⅲ)
できない(39Ⅲ)
⑹
不服申立
準抗告(429Ⅰ②)
抗告(419)
第1節
四
逮捕と被疑者勾留の相違
・
逮捕と被疑者勾留の相違点
被疑者の身柄の確保
第3款
勾留/95
逮捕及び勾留は、被疑者の身柄拘束に向けられている点において共通するが、①令状の性質、
②要件、③審査、④場所、⑤期間、⑥不服申立制度、⑦接見交通権等において異なっている。
<逮捕と被疑者勾留の相違>
逮
捕
勾
留(起訴前)
実務-許可状(捜査機関に逮捕の権限 命令状
(勾留という強制処分の執行を命ずる
を与える裁判の裁判書)
裁判官の裁判の裁判書)
⑴ 勾留の理由(207Ⅰ・60Ⅰ)
⑴ 逮捕の理由
① 犯罪の嫌疑
→「被疑者が罪を犯したことを疑う
② 住所不定、
に足りる相当な理由があるとき」
罪証隠滅のおそれ、
(199Ⅰ)
要
件
逃亡のおそれ、
⑵ 逮捕の必要性
の内の1つ
⑵ 勾留の必要性
① 逮捕状の請求をした者の出頭を求 ① 事実の取調べができる(43Ⅲ)
② 証人尋問、鑑定命令もできる(規
めてその陳述を聞き
裁判官による
33Ⅲ)
又は
審査の内容
② その者に対し書類その他の物の提
示を求めることも可(規 143-2)
逮 捕 状 に 記 載 さ れ る 「 引 致 す べ き 場 「刑事施設」
所」(200)
刑事施設及び被収容者等の処遇に関
する法律は、警察署に付属する「留置
場
所
施設」を刑事施設に代用すること(代
用刑事施設)を認めており、実務では
そこに慣行が定着
*注
当初の拘束から最大 72 時間(203Ⅰ、 原則:10 日(208Ⅰ)
205)
延長:10 日(208Ⅱ)
期
間
再延長:一定の事件について5日
(208 の2)
① 勾留取消(207Ⅰ・87)
救済制度等
な し
(429Ⅰ②反対解釈)
② 勾留理由開示(207Ⅰ・82 以下)
③ 準抗告(429Ⅰ②)
39Ⅰに掲げる者(弁護人又は弁護人に 39 Ⅰ に 掲 げ る 者 及 び 法 令 の 範 囲 内
接見交通権
なろうとする者)とのみ接見可
(81)の者と接見可
令状の性質
*
被疑者の勾留場所として代用刑事施設を指定することについては、①あくまで例外的に許
されるにとどまり、代用刑事施設を指定するには特段の事情又はやむを得ない例外的事情が
必要であるとする見解(例外説)と、②代用刑事施設と刑事施設とを別異に取り扱う必要は
なく、代用刑事施設を指定するにも特別の要件は不要であるとの見解(非例外説・東京地決
昭 47.12.1)との対立がある。⇒二 「4 勾留の場所」(p.93)
96/第3編
捜査
第4章
捜査の実行
第4款
逮捕・勾留をめぐる諸問題
一
逮捕・勾留の効力のおよぶ範囲
1
事件単位の原則
逮捕・勾留の効力の範囲は、何を基準に判断されるのであろうか。例えば、A事実(ex.平成○
年○月○日殺人)ですでに勾留されている者を、さらにB事実(ex.平成×年×月×日殺人)で勾
留すること(二重勾留)も許されるか。
この点、逮捕・勾留の手続は、特定の事実を基礎になされることが予定されている(200、203、
204、207Ⅰ・60Ⅰ・64 等)。また、逮捕・勾留は裁判官の司法審査を受けた被疑事実についての
み及ぶという点で、令状主義を原則として維持することができる。
よって、逮捕・勾留の効力は、犯罪事実を基準とするのが妥当である(事件単位説、通説)。
そうすると、二重勾留も認められることになる。
2
事件単位説における「事件」の範囲
事件単位説に立った場合、「事件」の範囲が問題
↓
先行する逮捕と勾留で罪名や事実に変動があっても、その基本的事実間に同一性(被疑事実の
同一性)があればよい
↓
「公訴事実の同一性」(312 参照)
⇒第4編
第1章
第3節
第2款
「四
訴因変更の可否」(p.288)
3
余罪捜査の必要を理由とした勾留延長の可否
二
逮捕前置主義
1
⇒発展
はじめに
⑴
意義
逮捕前置主義とは、被疑者の勾留には適法な逮捕が先行する必要があるとする原則をいう。
<逮捕前置主義>
逮捕
↓
必ず必要
起訴前勾留(208)
起訴
起訴後勾留(60)
第1節
⑵
被疑者の身柄の確保
第4款
逮捕・勾留をめぐる諸問題/97
根拠
①
207 条1項は、逮捕から引き続いて検察官が請求するという形でしか勾留を予定していな
い(「前3条の規定による」)。
②
逮捕と勾留の二段階で要件の審査をした方が、司法的抑制の徹底のためにも好ましい。
③
いきなり勾留を認める方が拘束期間が短いようにも見えるが、逮捕だけで釈放される場
合もあり、その方が被疑者に有利である。
2
逮捕事実と異なる事実に基づく勾留請求の可否
逮捕事実と異なる事実に基づく勾留請求は許されるであろうか。このような請求が、逮捕前置
主義に反しないかが問題となる。例えば、A罪(ex.窃盗罪)で逮捕した被疑者を、後に発覚した
B罪(ex.殺人罪)で勾留請求することができるか。
<逮捕事実と異なる事実に基づく勾留請求>
B罪で勾留(切り替え勾留)
A罪で逮捕
この問題の本質は、逮捕前置主義における前置されるべき「逮捕」を、人を基準にして考える
かそれとも事件を基準として考えるかにある。したがって、前述の逮捕・勾留の効力の及ぶ範囲
の問題がそのまま妥当し、事件単位説からすれば、A罪での逮捕の効力は、B罪には及ばない
(A罪とB罪とでは、被疑事実の同一性がないことを前提とする)。このように解することで、
二重の司法的チェックも機能し、B罪についての逮捕・勾留の理由・必要がないとされる場合も
あり得るため、被疑者の権利保障に資するといえる。
よって、B罪については逮捕が前置されておらず、逮捕前置主義の要請に反することになるか
ら、B罪で勾留請求することはできない。
3
付加してなされた勾留請求の可否
<問題の所在>
逮捕事実とは異なる事実を付加して勾留請求をなすことは許されるであろうか。このような
請求が、逮捕前置主義に反しないかが問題となる。
例えば、A罪(ex.窃盗罪)で逮捕して、A罪に逮捕を経ていないB罪(ex.殺人罪)の事実
を付加して勾留することは許されるか。
<逮捕事実と異なる事実を付加した勾留請求>
A罪で逮捕
A罪で勾留
B罪で勾留(付加勾留)
98/第3編
捜査
第4章
捜査の実行
<考え方のすじ道>
↓そもそも
逮捕前置主義の趣旨は、2度の司法的抑制により無用の拘束を制限することにある
↓そして
この場合に、逮捕を経ているA罪で勾留される被疑者は、以後 10 日間は司法審査の機会はない
↓そうだとすれば
B罪の事実を付加しても、A罪で勾留の理由と必要性がある場合には、B罪について再び逮
捕・勾留がなされるよりも、拘束時間の点で被疑者に有利といえる
↓よって
A罪の勾留の要件を備えることを前提として、B罪の勾留を付加することも許される
↓ただし
あくまでもA罪の事実が勾留の基本
→A罪の事実につき勾留の理由又は必要性がなくなれば、被疑者の勾留は取り消されるべき
<アドヴァンス>
⑴
消極説(東京地決昭 35.5.2)
(理由)
⑵
①
事件単位の原則の徹底。
②
付加する事実についても、逮捕が前置されている必要がある。
積極説(田口、光藤)
(理由)
①
逮捕された事件については逮捕前置主義が守られており、付加された事実については
逮捕期間が短縮されるので、被疑者にとって有利である。
②
被疑者はいずれにしろ逮捕された事件で勾留されるので、事件単位の原則をこの程度
修正することは許される。
4
違法逮捕に基づく勾留請求
⑴
違法逮捕に基づく勾留請求の可否
違法な逮捕を前提とする勾留請求は許されるであろうか。逮捕と勾留は別個の手続であり、
逮捕が違法であっても勾留請求の可否には影響を与えないとも考えられるため問題となる。
この点について、①逮捕と勾留は異質な処分ではなく、いずれも裁判のための身柄保全処分たる
性格を有していること、②法は逮捕自体について不服申立てを認めておらず(429 参照)、逮捕
における違法はすべて勾留請求の段階で一括して司法審査に服せしめることを予定しているこ
と、③逮捕手続に重大な違法があれば、直ちに被疑者は釈放されているはずで、その継続とし
ての勾留請求は許されないことから、逮捕手続に違法がある場合には、勾留請求は認められな
いと解するのが、通説である。
⑵
逮捕手続にいかなる違法がある場合に勾留請求が認められないのか
逮捕手続に違法がある場合に勾留請求が認められないとしても、逮捕手続の違法が常に勾留
請求の違法を基礎づけるわけではない。軽微な手続上の瑕疵は、勾留請求の適法性に影響を及
ぼさないと考えられる。
第1節
⑶
被疑者の身柄の確保
第4款
逮捕・勾留をめぐる諸問題/99
具体的検討
⒜
逮捕状によらない違法な逮捕(要件を充たさないのに現行犯逮捕した等)の場合
→憲法の定める令状主義に反する重大な瑕疵があり、勾留請求は許容されない。
⒝
任意同行が実質的逮捕と評価され、引き続いて正式な逮捕手続がとられ勾留請求された場
合、任意同行を正当な逮捕と同視して、勾留請求を認められないか
イ
予め逮捕状の発付を得て任意同行した場合
→実質的逮捕時点を起点とする制限時間内である限り請求は認められる(神戸地決昭
43.7.9)。
ロ
実質的逮捕の時点で未だ逮捕状が発付されていなかった場合
→実質的逮捕の時点で緊急逮捕の要件があり、かつその後、現に令状による逮捕手続が
なされた以上、勾留請求が実質的逮捕時点を起点とする制限時間内である限り請求を
認める(東京高判昭 54.8.14/百選〔16〕)。
三
逮捕・勾留の一回性の原則
1
はじめに
⑴
意義
逮捕・勾留の一回性の原則とは、同一犯罪事実について逮捕・勾留は1回しか許されないと
いう原則をいう。
⑵
内容
逮捕・勾留の一回性の原則には2つの側面がある。
⒜
一罪一逮捕・一勾留の原則
一罪一逮捕・一勾留の原則とは、同一の犯罪事実につき、同時に2個以上の身柄拘束を許
さないという原則をいう。→横の関係
住居侵入罪での逮捕・勾留
t.
窃盗罪での逮捕・勾留
⒝
再逮捕・再勾留禁止の原則
再逮捕・再勾留禁止の原則とは、同一の犯罪事実による身柄拘束は異なった時点であって
も1回しか許さないという原則をいう。→縦の関係
住居侵入罪での逮捕・勾留
t.
窃盗罪での逮捕・勾留
100/第3編
捜査
第4章
捜査の実行
<再逮捕・再勾留禁止の原則>
犯罪
↓
事情の変化など
↓
逮捕・勾留
⑶
釈放
再び逮捕・勾留できるか
根拠
明文の規定はないが、①訴訟行為の一回性の原則、及び、②同一事件について逮捕・勾留の
繰り返しや重複を無条件に許せば、法が定める厳格な身柄拘束期間の制限(203 以下)を無意味
にし、人権保障が危うくなることから認められている。
2
一罪一逮捕・一勾留の原則
・
「一罪」の範囲
<問題の所在>
一罪一逮捕・一勾留の原則における「一罪」とは、何を指すのであろうか。例えば、ある被
疑事実(A:ex.第一賭博行為)と別の被疑事実(B:ex.第二賭博行為)との間に、常習
一罪(包括的一罪)等の実体法上一罪の関係がある場合、A事実で逮捕・勾留後保釈された被
告人について、改めてB事実について逮捕・勾留することは、一罪一逮捕・一勾留の原則に反
し、許されないのではないか、保釈はその勾留の効力自体を維持したまま被告人の拘束を解く
制度なので、問題となる。
<一罪一逮捕・一勾留の原則>
逮捕
勾留
保
A事実
釈
B事実
逮捕
勾留
<考え方のすじ道>
↓そもそも
国家の刑罰権は実体法上の一罪ごとに1個発生するものだから、刑罰権発動の是非を審査す
る訴訟上も、実体法上一罪を1個のものとして取り扱うべきである
↓そこで
「一罪」とは原則として、実体法上一罪を意味すると解すべき
↓もっとも
実体法上一罪という基準を形式的に適用すると、捜査や身柄保全の必要性に不当な制約を及
ぼすことになりかねない
第1節
被疑者の身柄の確保
第4款
逮捕・勾留をめぐる諸問題/101
↓この点
一罪一逮捕・一勾留の原則の実質的根拠は、訴訟手続上のみならず逮捕・勾留段階でも、訴
追側は実体法上の一罪全部について同時処理の義務を負うという点にある
↓そして
同時処理が可能でなければ、右の同時処理義務を課し得ない
↓よって
同時処理が不可能であった場合には、同原則を適用する前提を欠き、改めて逮捕・勾留する
ことが例外的に許されると解する(例外的許容説)
↓あてはめ
例えば、B事実にあたる行為がA事実の逮捕・勾留後になされた場合など、A、Bの同時処
理が不可能であった場合には、改めてB事実について逮捕・勾留をなすことができる
<アドヴァンス>
⑴
単位事実説(福岡高決昭 42.3.24/百選[第8版]〔20〕、村上)
勾留の対象は実体法上の一罪と必ずしも一致することなく、現実に犯された個々の犯罪事
実である。よって、「一罪」とは、単位事実をいうとする。
(理由)
①
捜査段階の流動性・発展性からして、必ずしも勾留手続における犯罪事実を公判段階
における公訴事実と同一に考える必要はなく、事実的側面を重視すべきである。
②
勾留は主として被告人あるいは被疑者の逃亡、罪証隠滅を防止するために行われるも
のであって、その理由の存否は現実に犯された個々の犯罪事実ごとに検討することが必
要である。
(批判)
①
本案審理の手続対象が1個の場合にも、身柄関係ではそれがあてはまらないとするの
では、結局、勾留における個数の基準が不明瞭になる。
②
実質上も、運用によっては不当な勾留の繰り返しを許容するおそれがあり、捜査の便
宜に傾きすぎる危険がある。
⑵
実体法上一罪説(岐阜地決昭 45.2.16)
一罪は実体法上の一罪を意味する。
(理由)
実体法上一罪に対しては1個の刑罰権が発生し、公判段階においてはこれを手続単位と
して審理され、判決が言い渡される。起訴前段階についても基本的にこれを異にする理由
はない。刑事手続全体にわたって、いわば一罪一手続とでもいうべき原則が当てはまる。
(批判)
実体法上の一罪という基準を形式的に適用すると、捜査や身柄保全の必要性に不当な制
約を及ぼすことになりかねない。
102/第3編
⑶
捜査
第4章
捜査の実行
修正実体法上一罪説①:例外的許容説(多数説、福岡高決昭 49.10.31)
実体法上一罪説に立ちながら、同時処理が不可能であった場合には一罪一逮捕・一勾留の
原則の適用がなく例外的に改めて逮捕・勾留することが許される。
(理由)
実体法一罪説の実質的根拠は、検察官の同時処理義務に求められる。そして、この義務
を課しうるのは、同時処理が可能であったことを前提とするから、同時処理が不可能であ
った場合には、例外的に改めて逮捕・勾留することが許される。
(批判)
①
同時処理の「可能性」という概念自体明確でない面があり、判断しにくい。
②
同時処理の可能性を強調すると、濫用された場合、捜査が不可能であったという理由
で一罪につき何度も勾留を許さざるを得ないことになる危険性がある。
⑷
修正実体法上一罪説②:限定的例外許容説
実体法上一罪説に立ちながら、当初の勾留前に発生した事実については、ほぼ例外なく同
時処理の可能性があったとみなす運用をすべきであるとする見解(三井)
(理由)
検察官の同時訴追義務と類似した観念的な同時処理義務を想定する限り、当初の勾留前
に犯されていた事実については捜査処理が不可能であったとはいえない。
⑸
検討
最初の被疑事実(A事実)と2番目の被疑事実(B事実)との間に実体法上一罪の関係が
ある場合、A事実で逮捕・勾留後保釈された後、改めてB事実で被疑者を逮捕・勾留できる
か、について各学説からの帰結は以下の通りである。
<「一罪」の意義に関する各説からの帰結>
事実単位説
実体法上一罪説
例外的許容説
B事実にあたる行為
B事実による
がA事実の逮捕・勾
逮捕・勾留可
留後になされた場合
B事実による
逮捕・勾留不可
B事実による
逮捕・勾留可
B事実にあたる行為
がA事実の逮捕・勾 B事実による
留前になされたが、 逮捕・勾留可
発覚しなかった場合
B事実による
逮捕・勾留不可
B事実による
逮捕・勾留可
:上記⑶説
B事実にあたる行為
場合によっては、
が、A事実の逮捕・
B事実による
勾留時に既に発覚し
逮捕・勾留可
ていた場合
B事実による
逮捕・勾留不可
B事実による
逮捕・勾留不可
第1節
◆
被疑者の身柄の確保
第4款
逮捕・勾留をめぐる諸問題/103
福岡高決昭 42.3.24/百選[第8版]〔20〕
「一罪一勾留の原則から検討するに、勾留の対象は逮捕とともに現実に犯された個々の犯
罪事実を対象とするものと解するのが相当である。したがって、被告人或いは被疑者が或る
犯罪事実についてすでに勾留されていたとしても、さらに他の犯罪事実について同一被告人
或いは被疑者を勾留することが可能であって、その場合に右各事実がそれぞれ事件の同一性
を欠き刑法第 45 条前段の併合罪の関係にあることを要しない。
それらの各事実が包括的に一罪を構成するに止まる場合であっても、個々の事実自体の間
に同一性が認められないときには、刑事訴訟法第 60 条所定の理由があるかぎり各事実毎に勾
留することも許される……。けだし、勾留は主として被告人或いは被疑者の逃亡、罪証隠滅
を防止するために行われるものであって、その理由の存否は現実に犯された個々の犯罪事実
毎に検討することが必要であるからである……」。
3
再逮捕・再勾留禁止の原則
⑴
再逮捕・再勾留禁止の原則の例外
⒜
再逮捕について
一度逮捕・勾留がなされると、どんな事情の変化が生じても再逮捕・勾留は一切許されな
いとするのは、必ずしも合理的ではない
↓そして
逮捕については、法が再逮捕を前提にした規定をおいている(199Ⅲ・規 142Ⅰ⑧)
↓よって
再逮捕禁止の原則の例外は認められる
⒝
再勾留について
再勾留についてはこれを許した明文は存在しない
↓しかし
逮捕前置主義(207Ⅰ)が採用されていることからすれば、再逮捕のみ認め再勾留は認めら
れない、と両者を切り離して考えることは相当でない
↓したがって
再勾留禁止の原則の例外も認められる
◆
仙台地決昭 49.5.16/百選〔19〕
「本件常習賭博は、……前記起訴にかかる常習賭博と一罪をなすものであり、その逮捕勾
留中に同時に捜査を遂げ得る可能性が存したのである。……したがって本件逮捕勾留は、同
時処理の可能性のある常習一罪の一部についての逮捕・勾留であるから、一罪一勾留の原則
を適用すべきである」。
104/第3編
捜査
第4章
捜査の実行
「本件逮捕勾留は一罪一勾留の原則により適法視しえないものであるが、本件は常習賭博罪
中の一部の事件である関係上、一個の犯罪事実につき再度の逮捕勾留がなされた場合に該当す
ると思料されるので、再逮捕勾留の適否が問題となる。刑訴法 199 条3項、刑訴規則 142 条1
項8号は、……不当な逮捕のむし返しを防ぐという司法抑制の実効性を確保するための措置で
あり、この記載を欠くことにより裁判官の判断を誤らせる虞れを生じさせるものであるから、
右記載を欠く逮捕状請求にもとづく逮捕状は違法無効であり、逮捕の前提を欠くことになるの
でその勾留も違法とすべきである。同一の犯罪事実とは公訴事実の単一性および同一性がある
犯罪事実であり本件においてもその単一性があり同一の犯罪事実であるところ、前記認定のご
とく前掲起訴にかかる常習賭博につき逮捕状の発付があった事実の記載を欠き、違法というべ
きである」。
「本件において、……被疑者は保釈後、本件と一罪をなす常習賭博事件中、未取調の事件に
つき任意捜査に応じて取調を受けているのであり、本件につき一般的な逮捕要件としては格別、
再逮捕の必要性が存するかどうかについては多大な疑問が残り、又、逮捕状発付当時以前に逮
捕勾留がなされたことを窺わせる資料も存しなかったのであって前記記載を欠いたことにより
実質的な司法審査を誤る可能性は十分存したといわざるを得ない。」として、起訴後に発覚し
た起訴前の賭博行為について為された裁判官の勾留決定を取り消した。
⑵
再逮捕・再勾留禁止の原則の例外が認められる要件
⇒詳細は4
再逮捕・再勾留禁止の原則の例外が認められるとしても、法が身柄拘束期間の厳格な制約
(203 以下)を規定し、令状主義によるチェックを強化していることからすれば、このような再
逮捕・再勾留はやはり例外とされなければならない。そこで、いかなる場合に許容されるのか、
その要件が問題となる。そして、その際には、先行の身柄拘束がどこまで進んでいたか、身柄
釈放の理由は何であったかによって、場合を分けて考える必要がある。
⒜
被疑者を逮捕したが引致するまでに被疑者が逃走した場合
⒝
被疑者を逮捕し、引致した後に被疑者が逃走した場合
⒞
逮捕後、捜査機関が逮捕の理由または必要性が消滅したとして被疑者を釈放した場合
⒟
勾留後、勾留の理由または必要性が消滅したとして釈放された場合
⒠
勾留期間満了により釈放された場合
⒡
先行の逮捕手続が違法であった結果釈放した場合
⇒詳細は「4
4
再逮捕・再勾留禁止の原則の例外が認められる要件」
再逮捕・再勾留禁止の原則の例外が認められる要件
⑴
被疑者を逮捕したが引致するまでに被疑者が逃走した場合
逮捕状の効力は、被疑者を引致するところまで及ぶ
→引致が完了しない間は、未だ逮捕の目的を達したことにはならない
↓したがって
いったん開始された逮捕の続行に他ならず、厳密な意味での再逮捕の問題ではない
第1節
⑵
被疑者の身柄の確保
第4款
逮捕・勾留をめぐる諸問題/105
被疑者を逮捕し、引致した後に被疑者が逃走した場合
逮捕の効力は引致までであって、その後の留置は刑訴法によって認められた付随的な効果
→既に逮捕の目的を達している先の逮捕状で被疑者を逮捕することはできない
↓そこで
新たな逮捕状の発付を得て再逮捕
∵
⑶
再逮捕は被疑者の逃走に起因するので、被疑者に不当な不利益を与えるわけではない
逮捕後、捜査機関が逮捕の理由または必要性が消滅したとして被疑者を釈放した場合
<問題の所在>
逮捕後に逮捕の理由または必要性が消滅したので、途中で被疑者を釈放したり、または、
逮捕期間満了により被疑者を釈放したところ、その後に新たな証拠が発見され、逮捕の必要
が生じたような場合、再逮捕が許されるであろうか。再逮捕につき被疑者に帰責性が存しな
いことから問題となる。
<考え方のすじ道>
↓そもそも
逮捕については、再逮捕を予定した規定がある(199Ⅲ、規 142Ⅰ⑧)
↓そこで
①
新証拠や逃亡・罪証隠滅のおそれなどの新事情の出現により再捜査の必要があり
②
犯罪の重大性その他諸般の事情から、被疑者の利益と対比してもやむを得ない場合であり
③
逮捕の不当な蒸し返しといえないとき
例外的に再逮捕も許されると解する
<アドヴァンス>
⒜
否定説(吉川、平場)
再逮捕を否定する見解。
(理由)
①
このような場合に再逮捕を許すのは、捜査官の怠慢を被疑者の犠牲で補うことにな
って不当である。
②
⒝
刑訴法の人権擁護的機能を失わせるおそれがある。
肯定説(多数説)
被疑者を釈放後、①新証拠や逃亡・罪証隠滅のおそれなどの新事情の出現により再捜査
の必要があり、②犯罪の重大性その他諸般の事情から、被疑者の利益と対比してもやむを
得ない場合であって、③逮捕の不当な蒸し返しといえないときは、例外的に再逮捕も許さ
れるとする見解。
(理由)
先行した身柄拘束は、比較的短いから、上記の要件を充たす場合には例外を認めるこ
とができる。
106/第3編
⑷
捜査
第4章
捜査の実行
勾留後、勾留の理由または必要性が消滅したとして釈放された場合
勾留後の釈放の場合は、逮捕より期間も長く被疑者に与える苦痛も大きい
↓よって
より厳格に解すべき
↓すなわち
上記の①~③の事情を勘案し、場合によっては 10 日より短い期間に限って再度の勾留を許す
べきである
⑸
勾留期間満了により釈放された場合
捜査官としては、刑訴法上許容されている被疑者に対する身柄拘束期間を使い果たしている
↓また
再逮捕・再勾留を許すことは、被疑者にとって、加害の程度が大きい
↓よって
①~③の要件に加え
④
殺人等の犯罪として極めて重大な事件について
⑤
先行の勾留満了後たまたま重要な証拠が発見され、かつ具体的事実に基づき逃走のおそ
れが極めて高いと認められる場合などに限り再逮捕・再勾留が許容されると解すべき
◆
東京地決昭 47.4.4/百選〔17〕
「先行の勾留期間の長短、その期間中の捜査経過、身柄釈放後の事情変更の内容、事案の軽
重、検察官の意図その他の諸般の事情を考慮し、社会通念上捜査機関に強制捜査を断念させる
ことが首肯し難く、また、身柄拘束の不当な蒸し返しでないと認められる場合に限るとすべ
き」とした。
⑹
先行の逮捕手続が違法であった結果釈放した場合
<問題の所在>
先の逮捕が違法であったため、勾留請求前に被疑者を釈放し、または、勾留請求したがこれ
が却下されたために被疑者を釈放した場合、同一事実について再逮捕することが可能であろ
うか。捜査機関の違法、落ち度という事態が存するとともに、再逮捕時に新しい事情の発生
がないことから問題となる。
<考え方のすじ道>
↓確かに
前の逮捕の違法はそれに基づく勾留請求却下で「清算」されているとも考えうる
↓しかし
前の逮捕が適法であった場合さえ、事情変更なしに再逮捕ができないことと比べ不均衡
↓かといって
捜査官がいったん逮捕段階で手続上の違法を犯したならば、その違法の程度を問わず、そ
の後あらゆる場合に、再逮捕が許されないとするのは、妥当とはいえない
↓そこで
無条件で逮捕を許容するのではなく、瑕疵の程度によって再逮捕を認めるべきである
第1節
被疑者の身柄の確保
第4款
逮捕・勾留をめぐる諸問題/107
↓したがって
一方、犯罪の嫌疑がないのに逮捕した、正当な理由もなく時間制限を無視したような場合
には、その違法は重大であり、再逮捕は許されないとすべきであるが、他方、逮捕の実体
的要件は調っているが逮捕の種類を誤ったにすぎないような場合には、再逮捕を認めても
よいと解する
<アドヴァンス>
⒜
肯定説(棚町)
再逮捕を認める見解。
(理由)
前の逮捕の違法はそれに基づく勾留請求却下で「清算」されており、そして、現に逮捕
の理由と必要性がある以上、適法に再逮捕を認めることができる。
(批判)
前の逮捕が適法であった場合さえ、事情変更なしに再逮捕ができない以上、前の逮捕に
違法があった場合には、被疑者に対する以後の強制処分権が失われると解するのが妥当で
ある。
⒝
逮捕手続の瑕疵の程度によって再逮捕を許容する見解(折衷説、田宮、光藤)
当初の逮捕手続に著しい違法がある場合には、再逮捕は許されない。
ex.逮捕の理由および必要がないのに逮捕した場合、やむを得ない事由がないのに逮捕
から勾留までの制限時間を遵守しなかった場合。
しかし、逮捕の種類を誤ったような形式的瑕疵の場合には、再逮捕が認められる。
ex.緊急逮捕すべきところを現行犯逮捕した場合
⒞
否定説(三井、平場)
先行の逮捕が違法であった場合には、再逮捕は許されない。
(理由)
①
法は同じ事情のもとでは1回の逮捕しか認めておらず、違法があれば事情の変更がな
くとも改めて逮捕できるとするのは合理性がない。
②
捜査における適正手続の理念および司法の廉潔性からこれを禁じなければ、実際上逮
捕が不当に繰り返される危険がある。
(批判)
捜査官がいったん逮捕段階で手続上の違法を犯したならば、その違法の程度を問わず、
その後あらゆる場合に、再逮捕が許されないとするのは、妥当とはいえない。
◆
浦和地決昭 48.4.21
事案:
緊急逮捕の「直ちに」の要件を欠き、勾留請求却下後、再逮捕された事案。
判旨:
「超過した時間が比較的僅少であり、しかも右の時間超過に相当の合理的理由が存
し、しかも事案が重大であって治安上社会に及ぼす影響が大きいと考えられる限り」
特別の事情の変更なくとも再逮捕は許されるとしている。
108/第3編
捜査
第4章
捜査の実行
<再逮捕・再勾留の整理>
1
逮捕後、引致前に逃走
未だ逮捕の目的を達成していない
→再逮捕の問題ではない
2
逮捕、引致後に逃走
逮捕の目的は達成されている
→新たな逮捕状が必要
3
逮捕後に釈放された場合
捜査の必要性と被疑者の利益との調和
→一定の要件の下で認めうる
4
勾留後、勾留理由・必要性消滅 3の場合よりも厳格に解釈して認めうる
10 日より短い期間の指定も可能
により釈放された場合
5
勾留期間満了により釈放された 3の場合の要件に更に要件を加重して、限定的
に認めるべき
とき
6
先行逮捕が違法であるとき
四
別件逮捕・勾留
1
別件逮捕・勾留の意義
争いあり
→瑕疵の程度により取扱いを異にするべき
別件逮捕・勾留は法令上の用語でないため、様々な定義がなされている
① 最広義:ある事件の捜査過程で別の事件により被疑者の逮捕が行われるすべての場合のこと
②
広義:本件について逮捕の要件がないのに専らその取調べのため、逮捕の要件の具備して
いる別件を利用して、ことさら逮捕すること
③
狭義:重大な本件について取り調べる目的で、逮捕の理由も必要もない軽微な別件を使っ
て逮捕すること
そもそも、別件逮捕の問題性は、別件自体をみれば一応逮捕の要件が備わっているが、実は逮
捕の要件のない本件を身柄拘束下に取り調べるためになされたという点にあるから、②広義の定
義が妥当である。①最広義では、余罪捜査の一般的な問題であり、③狭義では、別件の逮捕自体
が違法であることが明らかであるから、ことさら「別件逮捕」という観念を持ち出す必要がない
ことになる。
ex.甲を殺人事件(本件)で捜査していたところ、同人に恐喝(別件)の嫌疑が生じ、殺人
事件について逮捕の要件がないことから、もっぱら殺人事件を取り調べる目的で、要件の
備わっている恐喝事件で甲を逮捕、勾留した場合
*
別件逮捕・勾留については、①当該逮捕・勾留が違法とされる基準は何か(⇒「2
別件
逮捕・勾留の適法性」 p.109)、②逮捕・勾留の際には違法な別件逮捕・別件勾留であるこ
とが不明であったけれども、公判段階に至って、本件を含む余罪の取調べが行われたことが
立証された結果、違法な別件逮捕・別件勾留であることが明らかにされた場合に、余罪取調
べは許されるか(⇒第3節
第2款
「三
身柄拘束中の被疑者に対する余罪取調べ」
p.174)、及び③違法な別件逮捕・勾留であるとされた場合に、その間に作成された自白調書
の証拠能力等はどうなるか(⇒第4編
第3章
法則総説」 p.492)、という3点が問題となる。
第3節
第5款
「一
違法収集証拠排除
第1節
被疑者の身柄の確保
第4款
逮捕・勾留をめぐる諸問題/109
<余罪捜査と別件逮捕>
余罪取調べ
(余罪捜査[狭義]
)
本
罪
(A)
余
罪
(B)
余罪捜査
[広義]
ねらい
別件逮捕
2
別
件
(A)
本
件
(B)
別件逮捕・勾留の適法性
<問題の所在>
別件逮捕・勾留はいかなる場合に違法となるのであろうか。別件逮捕・勾留の違法性の判断
基準が問題となる。
<考え方のすじ道>~本件基準説
反対説:別件について要件を欠く場合のみ違法な身柄拘束となるとする(別件基準説)
↓しかし
別件につき逮捕・勾留の要件を欠いていれば身柄拘束が違法になるのは当然
→問題とすべきは別件については要件を充足している場合
↓そもそも
事件単位説
↓
重大な本件の取調べを目的として比較的軽微な別件で逮捕・勾留する手続は、捜査機関が真に
意図する本件について司法審査を経ていない点で令状主義(憲 33、法 199)の精神を潜脱する
もの
↓また
別件による拘束に引き続いて本件による拘束が予定されている点で、法が身柄拘束期間を厳
格に制約していること(203 以下)にも反する
↓よって
本件の取調べを目的としながら別件を理由としてなす逮捕・勾留は違法と解すべき(本件基準説)
↓もっとも
逮捕段階で、捜査機関の真意を知ることは困難
→身柄拘束の目的は客観的事情すなわち、後の取調状況等から推知するほかない
110/第3編
捜査
第4章
捜査の実行
<考え方のすじ道>~別件基準説
↓この点
逮捕・勾留の効力は事件単位であること(事件単位説)を根拠に、本件の取調べを目的とし
ながら別件を理由としてなす逮捕・勾留は違法とする説(本件基準説)もある
↓しかし
逮捕・勾留の要件が認められるのに本件の取調べ目的があるというだけで逮捕・勾留が違法
となるのは不合理
↓また
本件の取調べ目的が考慮されるのは、別件についての逮捕・勾留の理由及び必要性の有無の
判断に際してである
↓したがって
別件について要件を欠く場合のみ違法な身柄拘束となるとする(別件基準説)
↓もっとも
捜査官の本件取調べの意図は必ずしも容易に知りうるわけではないので、別件についての逮
捕・勾留の理由・必要がないとして令状請求を却下することは殆どありえず、その後に行わ
れる余罪取調べの適法性の問題を中心的に議論することになる
<アドヴァンス>
⑴
実質基準説Ⅰ:別件基準説(渥美、松本)
逮捕の被疑事実である別件を基準に、逮捕の理由及び必要を判断する見解。
→本件取調べの目的は、別件の逮捕の適法性には直接影響しない。
(理由)
①
本件取調べの意図を令状審査段階で知ることは困難であり、令状裁判官に無理を強い
ることになりかねない。
②
捜査官に本件を取り調べる意図があることが判明したのであれば、別件についての逮
捕・勾留の必要がないということになり、それを理由に令状請求を却下すればよい。
(批判)
①
別件基準説は、別件に対する通常の要件審査で足りることを意味し、逮捕権の濫用と
いう別件逮捕の脱法的本質を無視する考え方である。
②
⑵
別件基準説は、実質的には別件逮捕概念の否認論に他ならない。
実質基準説Ⅱ:本件基準説(多数説、金沢地七尾支判昭 44.6.3)
別件逮捕は、本件を基準に判断し、本件について取り調べる目的でなされた逮捕・勾留は、
たとえ別件についての逮捕の要件が具備していても、これを違法とする見解
(理由)
①
逮捕の目的が別罪の取調べにある場合には、実質的にみて令状主義に反するといえる。
②
別件逮捕・勾留の後、本件による逮捕・勾留が予定されているときは、法の定めた厳
格な身柄拘束期間(203 以下)を潜脱する結果となる。
③
⑶
逮捕・勾留の目的は取調べにはないので、取調べを目的とする身柄拘束は違法である。
別件逮捕中に行われた本件に関する取調べが余罪取調べとして許される範囲を超えていな
いかという形で、別件逮捕の問題に対処する見解(旭川地決昭 48.2.3)
第1節
被疑者の身柄の確保
第4款
逮捕・勾留をめぐる諸問題/111
(批判)
別件逮捕の問題への対処の重点を余罪取調べの限界の問題におくことは、実質上、不当
な別件逮捕の事前抑制を弱めるおそれがある。
◆
狭山事件(最決昭 52.8.9)
事案:
恐喝未遂の被疑事実での逮捕・勾留中に、強盗強姦殺人・死体遺棄の事実について
の取調べが行われた事案。
判旨:
「(問題の逮捕・勾留は)専ら、未だ証拠の揃っていない『本件』について被告人
を取調べる目的で、証拠の揃っている別件の逮捕・勾留に名を借り、その身柄の拘束
を利用して、『本件』について逮捕・勾留して取調べるのと同様な効果を得ることを
ねらいとしたものである、とすることはできない」として別件逮捕・勾留にあたらな
いとした。
*
最高裁判例は、「専ら」本件の取調べを目的とする逮捕を違法とすることを予定するニ
ュアンスを示しているものの、個別の事案で違法を認めたものはない。したがって、判例
がいずれの立場に立つかは明らかではないといえる。
◆
浦和地判平 2.10.12
事案:
放火の疑いがある被告人について、捜査機関が放火の事実では身柄を拘束するに足
りる嫌疑が十分でないと考えたため、嫌疑の明白な不法残留の事実で被告人を現行犯
逮捕し、勾留期間内に、不法残留の事実と共に放火の事実についても取調べが行われ
た。勾留6日目以降は専ら放火について取調べが行われた。その後、被告人は放火に
つき自白するに至ったが、起訴後の公判において、被告人は放火について一貫して否
認し、自白調書の証拠能力・信用性が争われた事案。
判旨:
「いわゆる別件逮捕・勾留に関する人権侵害の多くは、もし本件に関する取調べの
目的がないとすれば、身柄拘束をしてまで取り調べることが通常考えられないような
軽微な別件について、主として本件の取調べの目的で……身柄を拘束し、本件につい
ての取調べを行うことから生じていることが明らかである。そして、このような場合
……未だ身柄拘束をするに足りるだけの嫌疑の十分でない本件について、被疑者の身
柄を拘束した上で取り調べることが可能になるという点では、典型的な別件逮捕・勾
留の場合と異なるところがないのであるから……『本件についての取調べを主たる目
的として行う別件逮捕・勾留』が何らの規制に服さないと考えるのは不合理である。
当裁判所は、違法な別件逮捕・勾留として許されないのは……典型的な別件逮捕・
勾留の場合だけでなく……『未だ重大な甲事件について被疑者を逮捕・勾留する理由
と必要性が十分でないのに、主として右事件について取り調べる目的で、甲事件が存
在しなければ通常立件されることがないと思われる軽微な乙事件につき被疑者を逮
捕・勾留する場合』も含まれると解する……。このような……逮捕・勾留は、形式的
には乙事実に基づく……が、実質的には甲事実に基づくものといってよいのであって、
未だ逮捕・勾留の理由と必要性の認められない甲事実取調べを主たる目的として……、
乙事実の嫌疑を持ち出して被疑者を逮捕・勾留することは、令状主義を実質的に潜脱
し、一種の逮捕権の濫用にあたると解される」。
112/第3編
捜査
第4章
捜査の実行
考えてみよう! ~別件逮捕・勾留についての新たな展開~
1 本件基準説の新しい潮流(川出説)
別件逮捕・勾留に関する問題は、おもに令状審査段階における捜査官の内心の意図・目的の扱い等を巡
って本件基準説と別件基準説が議論を戦わせていた、というのがこれまでの状況であったといえます(古
江・後掲・77 頁)。
しかし、近年、身体拘束中の捜査の実体という客観面に着目した新たな論理構成が川出先生により提唱
されています(古江・後掲・77 頁)。まず、川出先生は、起訴前の身体拘束の趣旨を、被害者の逃亡・罪
証隠滅を阻止した状態で身体拘束の理由とされた被疑事実につき起訴・不起訴の決定に向けた捜査を行う
ためのものと理解します。その上で、別件を被疑事実とする身体拘束が本件の捜査のために主として利用
された場合には、当該身体拘束の実体は本件についてのものと評価されるのにもかかわらず、本件につい
て裁判官の審査を経ていないため令状主義の潜脱となり、そうした違法な身体拘束期間中に行われている
がゆえに余罪(本件)の取調べも違法になるとするのです(古江・後掲 78 頁、川出・後掲①及び後掲
②・37 頁)。その際の判断にあたっては、別件と本件の取調べ時間の比率・割合、別件と本件の関連性、
取調べの内容、本件についての供述の自発性などを考慮すべきであるとします。
なお、別件基準説が、別件について身体拘束の要件を具備している限り適法とする考え方であり、本件
基準説が、別件について身体拘束の要件が具備されていても本件の取調べに利用する意図・事実等があっ
た場合には違法となるとする考え方であるとすると、この川出先生のご見解は本件基準説に分類されると
いえます(古江・後掲・78 頁)。
もっとも、令状請求時の捜査官の内心の意図・目的といった主観的要素以外の客観的要素も重視してい
る点や、違法な身体拘束の全体を違法とするのではなく、身体拘束の実体が本件についてのものと評価さ
れるに至った以降の部分についてのみ違法と評価することを認めているという点(古江・後掲・79 頁)は、
これまでの本件基準説には見られなかった特徴です。
2 新しい別件基準説
他方、新しい別件基準説という考え方も、実務家の間で有力に主張されています。
まず、この見解は、令状審査の段階で裁判官が捜査官の隠れた意図・目的(本件につき取り調べる目
的)を見抜くことは不可能であるから、この段階では、別件について逮捕・勾留の要件を備えている限り、
適法とせざるをえないとします。そのうえで、身体拘束期間を通じてその大半を本件の追及に費やし別件
の取調べは単に形式を整えるために過ぎない場合や、別件の身体拘束の当初においてのみ別件の取調べを
行い事後の勾留期間はすべて本件の取調べを行っているような場合には、当初から別件についての身体拘
束の要件を欠いていたか、あるいは、途中から別件についての身体拘束の理由・必要性が消滅するに至っ
た違法なものと認められると考える見解です(古江・後掲・79 頁、小林・後掲・214 頁)。
ここで行われている適法性判断の内容は、主に客観的な捜査の実体に着眼しているという点で、上述し
た川出先生のご見解と共通する部分があるといえそうです(中谷=岩田・後掲・433 頁、古江・後掲・79
頁)。
【参考文献】 川出敏裕『別件逮捕・勾留の研究』(東京大学出版会)(①)、同「任意捜査の限界」『刑事
訴訟法判例百選[第6版]』(有斐閣)・34 頁以下(②)、古江頼隆『事例演習刑事訴訟法』(有斐閣)・72
頁以下、小林充「いわゆる別件逮捕・勾留の適否」『令状基本問題(上)[増補]』(一粒社)・211 頁以下、
中谷雄二郎・岩田瑶子「ピッキング所持から始まって…」『事例研究刑事法Ⅱ 刑事訴訟法』(日本評論
社)・427 頁以下
3
別件逮捕・勾留が違法とされた場合の効果
①
別件による逮捕状・勾留状請求が却下される。
②
別件逮捕に引き続く勾留や同延長は許されない。
③
別件逮捕後の本件による逮捕は、再逮捕として違法となる。
④
本件の取調べも違法となる。
⑤
別件逮捕中の自白の証拠能力も否定される。
第1節
4
被疑者の身柄の確保
第5款
逮捕・勾留に対する被疑者の防御/113
別件逮捕・勾留に対する司法的抑制
⑴
事前抑制
①
別件による逮捕・勾留ないし勾留延長・取消しの審査。
②
本件による逮捕・勾留ないし勾留延長・取消しの審査。
⑵
事後の抑制
①
別件逮捕・勾留中に獲得された自白を排除する。
②
別件の起訴が行われたときに公訴権濫用を理由とし、公訴棄却(338④)する。
⇒第4編
第5款
第1章
第1節
第3款
二
2
⑵
「⒞
違法捜査に基づく起訴」(p.258)
逮捕・勾留に対する被疑者の防御
一
逮捕に対する被疑者の防御
1
はじめに
逮捕された被疑者の権利・防御の方法には、以下のものがある。
①
逮捕理由と逮捕された場合における自己の権利を知る権利(203)。
②
弁護人選任権(30)、弁護人との接見交通権(39Ⅰ)。
*
逮捕された被疑者は、39 条1項に規定する者以外の者と接見する権利を有しない(80 参
照)。
③
逮捕に重大な違法がある場合には、勾留への準抗告(429Ⅰ②)によって救済を求める。
その他、逮捕自体に対して準抗告が認められるかについては、明文の規定がなく争いがある。
⇒「2
2
逮捕に対する準抗告の可否」
逮捕に対する準抗告の可否
現行法上、現に執行されている逮捕自体の違法を争う方法は直接には規定されていない。そこ
で、逮捕に対する準抗告が解釈上認められないか、429 条1項各号の準抗告の対象として「逮捕に
関する裁判」が挙げられていないことから問題となる。
この点については、①429 条1項各号には準抗告の対象として「逮捕に関する裁判」が挙げられ
ていないこと、②逮捕といった緊急処分は不服申立てになじまず、逮捕期間中に有効な被疑者側
の不服申立手段を設けることは技術的に不可能であること、③逮捕に関する違法は一括して後の
勾留請求の段階における裁判官の司法審査で規制するのが法の趣旨と解されることから、逮捕に
対する準抗告は認められないと解する(否定説、判例・通説)。
◆
最決昭 57.8.27
「逮捕に関する裁判及びこれに基づく処分は、刑訴法 429 条1項各号所定の準抗告の対象と
なる裁判に含まれないと解するのが相当である。」とした。
114/第3編
捜査
第4章
捜査の実行
二
勾留に対する被疑者の防御
1
はじめに
勾留は自由の拘束であり、被疑者にとって不利益の大きい処分である。そのうえ、①期間が 10
日ないし 20 日(場合により 25 日)とかなり長期に及ぶこと、②保釈の制度がない(207Ⅰただし
書)ことから、主として、身柄の解放に向けた防御活動が必要となる。
勾留に対する被疑者の権利・防御活動の方法・手段には以下のものがある。
①
勾留理由開示請求(207Ⅰ・82)。
②
勾留の取消請求(207Ⅰ・87)。
③
勾留の執行停止(207Ⅰ・95)。
④
勾留の裁判に関する準抗告(429Ⅰ②)。
⑤
接見交通権(39、80)。
以下、①~⑤のそれぞれにつき検討する。
2
勾留理由開示制度
⑴
意義
勾留理由開示制度とは、勾留されている被疑者に対して、裁判官が、公開の法廷で勾留の理
由を開示する制度のことをいう(憲 34 後段、法 207Ⅰ・82 以下)。
⑵
趣旨
①
被疑者は勾留にあたり、勾留状を示され(207Ⅰ・73Ⅱ)、勾留質問の際事件の告知も受
けているが(207Ⅰ・61)、それだけでは不十分である。
②
⑶
その後の事情変化の可能性もある。
効果
勾留理由開示は勾留の取消しをもたらすものではないので、制度自体に限界
↓しかし
3
①
その後、準抗告を申し立てることにより取消しに結びつき得ること
②
裁判官に対して勾留要件について再検討の機会を与える、という意味がある
勾留の取消し
①
勾留の理由又は必要がなくなったときに、被疑者・弁護人等は勾留の取消しを請求できる
(207Ⅰ・87)。
②
裁判官は職権で取消しができる(207Ⅰ・87)。
③
勾留が不当に長くなったときは、理由または必要が消失していなくとも、勾留を取り消す
義務がある(207Ⅰ・91)。
第1節
4
被疑者の身柄の確保
第5款
逮捕・勾留に対する被疑者の防御/115
勾留の執行停止
裁判官は、適当と認めるときは、勾留中の被疑者を親族その他の者に委託し、又は被疑者の住
居を制限して、勾留の執行を停止することができる(207Ⅰ・95)。これは、保釈以外の方法で、
裁判官が職権で勾留の執行を仮に解く方法である。
ex.病気治療のための入院、両親・配偶者等の重病または死亡、家庭の重大な災害、入学試験。
5
勾留に対する準抗告
⑴
勾留の裁判に対しては、準抗告により検察官または被疑者からその取消し・変更を請求する
ことができる(429Ⅰ②)。
⑵
「犯罪の嫌疑」がないことを理由として準抗告の申立てができるであろうか。
→429 条2項が、「勾留に対しては……犯罪の嫌疑がないことを理由として抗告をすることはで
きない」とする 420 条3項を準用していることから問題
↓この点
法文上から、犯罪の嫌疑がないことを理由として準抗告はできないとする見解(通説)
↓確かに
被告人の場合は、いったん起訴がなされたら犯罪事実の存否は公判の審理に委ねられるべき
で(公判中心主義)、抗告のような派生的手続で争うのは適当でなく、420 条3項は合理性が
あるといえる
↓しかし
被疑者の場合は、まだ公訴を提起されていないので、犯罪の嫌疑の審理が公判の審理と重複
するおそれもない
↓また
犯罪の嫌疑の存在は、被疑者勾留の要件の中でもっとも基礎をなすものである
↓そこで
「犯罪の嫌疑」がないことを理由として準抗告の申立てができると解する
6
外部交通
⑴
弁護人(弁護人となろうとする者を含む)との接見交通
原則として被疑者は自由に接見できる(39Ⅰ)。
検察官などは、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、その日時、場所及び時間を
指定することができるが、その指定は、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するようなも
のであってはならない(39Ⅲ)。
⇒第5章 第5節 第2款 「二 接見交通の指定」(p.222)
⑵
弁護人以外の者との接見交通
弁護人以外の者との接見交通は、法令の範囲内で認められる(207Ⅰ・80、81)。
116/第3編
捜査
第4章
捜査の実行
第2節 物的証拠の収集・保全
Introduction
1
捜索・差押え(222Ⅰ・99・102 など)に関する規制は憲法に由来するものである(憲 35)。
これらは、原則として、捜査機関とは独立した裁判官による事前チェックを経て発付される令
状に基づいて行われる(令状主義・218)。規制の趣旨を踏まえて、それぞれの要件・手続を、
条文で確認しながら、発付段階と執行段階の適法性について注意深く検討するようにしよう。
次に、捜索・差押えが無令状で行うことができるのはどのような要件をみたしたときか、具
体的には 220 条1項柱書の「逮捕する場合」と同項2号の「逮捕の現場」に関する解釈論が重
要であり、実際の認定も難しい。見解の対立するところをチェックしつつ判例の理解を深めよ
う。
また、捜査機関が物の占有を取得する処分としては、差押え以外に領置(221)がある。違い
をおさえておこう。
動くな、警察だ。
ガサ入れに来た。
捜索
差押
許可状
2
上記以外に物的証拠を収集する処分としては、検証と鑑定が挙げられる。前者が捜査機関の
行う処分であるのに対し、後者は特別の知識経験に基づく専門家による行為という違いがある
(なお、裁判官に必要な知識を供給しその判断力を補充するための「鑑定」(165 以下)との異
同に注意)。どちらも一定の事象の観察・分析を含む処分といえる。
3
身体検査には、①身体の捜索(222Ⅰ・102)、②検証としての身体検査(218Ⅰ後段)、③鑑
定処分としての身体検査(223Ⅰ、225・168)の3種類がある
これらの違いを踏まえて、強制採尿の許否・必要な令状の種類や、血液・呼気の採取におけ
る問題を考える必要がある。最高裁判例(最決昭 55.10.23)が出て以降、いわゆる「強制採尿
令状」が実務上定着したわけであるが、学説上批判も多い。単なる要件の問題というよりは、
捜索、差押え、検証、鑑定処分をどのように理解するか、いかなる法益の保護を目的として規
定されたものか、という点に遡って考える必要がある。各行為の性質、態様を踏まえて各強制
処分について刑訴法が異なる規律を設けている意味を考えながら、判例を丸暗記するのではな
く、様々な角度から検討してみてほしい。
第2節
4
物的証拠の収集・保全
第1款
総説/117
さらに、比較的新しい問題としては、写真・ビデオ撮影や通信傍受の問題がある。とくに、
後者は二当事者間の会話を捜査機関がキャッチするものであるから、通信の秘密(憲 21Ⅱ後
段)との関係が問題となる。通信傍受法が定める「傍受」とは何か(通信傍受2Ⅱ)を確認し
ながら、検証令状ではなくわざわざ傍受令状という特別の令状によらなければならないことの
意味、要件、手続などを理解しよう。
第1款
一
総説
はじめに
捜査機関は、犯罪があると思料するときは、証拠を収集しなければならない(189Ⅱ)。証拠には、
物的証拠と供述証拠とがあるが、適正な捜査を進めるためには、とりわけ物的証拠の収集が重要で
ある。
<証拠の分類>
物的証拠の収集・保全
証拠の収集・保全
供述証拠の収集・保全
捜査機関による物的証拠の収集・保全にも任意処分と強制処分がある。任意処分としては実況見
分があり、強制処分には、捜索、押収、検証、鑑定がある。押収には差押え、領置、提出命令の3
つが含まれるが、捜査段階では差押え、領置のみが認められている。
<物的証拠の収集・保全方法>
捜索
強制処分
押収
差押え
領置
提出命令
検証
物的証拠の収集・保全
鑑定人が行う鑑定
任意処分
実況見分
鑑定受託者が行う鑑定
⑴
「捜索」:一定の場所、物または人の身体について、物または人の発見を目的として行われる
強制処分(222Ⅰ・102)。
⑵
「押収」:物の占有を強制的に取得する処分。
⒜
「差押え」:物の占有を強制的に取得する処分(99Ⅰ・218Ⅰ、220Ⅰ、222Ⅰ)。
⒝
「領置」:遺留物や任意提出物の占有を取得する処分(101・221、222Ⅰ)。
⒞
「提出命令」:差押えの対象となる物を指定し、所有者、所持者または保管者にその物の提
出を命じる裁判(99Ⅲ、100ⅠⅡ)。
*
平成 23 年改正により、電磁的記録に対する差押えについて、手続法の整備がなされた。
⇒第2款
二
「6
コンピュータと差押え」(p.132)
118/第3編
⑶
捜査
第4章
捜査の実行
「検証」:場所、物または人について、強制的にその形状・性質を五官の作用で感知する処分
(218Ⅰ)。
⑷
「鑑定」:特別の知識経験を有する者による、事実の法則またはその法則を具体的事実に適用
して得た判断の報告(223Ⅰ)。
⑸
実況見分:「検証」と同じ内容のことを任意処分として行う場合のこと。
二
令状主義との関係
1
令状主義の要請
物的証拠の強制収集(捜索、押収、検証、鑑定)は、財産権及び住居のプライバシーなどの国
民の基本的権利を侵害するおそれ
↓そこで
令状主義(憲 35)が妥当
∵
適正な捜査の必要性と、国民の基本的権利の保護との調和
↓具体的には
2
3
①
218 条1項が差押え、捜索及び検証につき令状主義を規定
②
219 条1項が、捜索する場所、差し押さえる物等の特定性を要求
令状主義の内容
①
令状は、正当な理由に基づいて発せられること。
②
令状における対象物が特定されていること(一般令状の禁止)。
③
権限のある司法官憲(裁判官)から捜索・押収を承認されること。
令状主義の例外
物的証拠の収集・保全における令状主義の例外としては、①逮捕に伴う捜索・差押え(憲 35Ⅰ、
法 220ⅠⅢ)、②令状によらない検証(220ⅠⅢ、218Ⅲ)、がある。
⇒第2款
「三
⇒第3款
一
第2款
逮捕に伴う捜索・差押え」(p.136)
「3
令状によらない検証」(p.150)
捜索・押収
一
総説
1
差押えの対象
差押えの対象は、「証拠物」または「没収すべき物と思科するもの」(222Ⅰ・99Ⅰ)であり、
有体物と解されている(通説)。
ex.人の会話や磁気ディスク等の形になっていない情報そのもの
建造物、身体の一部
→対象となりうる
→対象とはなりえない。
第2節
*
物的証拠の収集・保全
第2款
捜索・押収/119
郵便物や電信書類については要件が緩和されている。
通信事務を取り扱う官署その他の者が保管・所持するものは、被疑者が発・受信人なら無条
件で、またその他の場合なら、被疑事件に関係があると認めるに足りる状況があるときに、差
し押さえることができる(222Ⅰ・100ⅠⅡ)。
∵
開披しなければわからないという郵便物等の性質により、捜索と同様の要件の下で(102
ⅠⅡ)特例を認めた。
2
押収拒絶権
捜査機関が令状により差押えを実施しようとしても、その差押えが制限される場合がある。
⑴
公務上の秘密に関する押収拒絶権
公務上の秘密は、公務員等から職務上の秘密に関するものである旨の申立てがあると、監督
官庁等の承諾がなければ押収をすることはできない(222Ⅰ・103、104)。
∵
捜査による事実解明の利益よりも、国の重大な利益に関する秘密の保護を優先させよう
とする趣旨。
⑵
業務上の秘密に関する押収拒絶権
医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士(外国法事務弁護士を含む)、弁理士、公証人、
宗教の職にある者またはこれらの職にあった者が、業務上委託を受けたため、保管・所持する
物で他人の秘密に関するものについては、押収を拒むことができる(222Ⅰ・105)。
∵
他人の秘密を取り扱う機会の多い業務に従事している者に対して、秘密の保持を認め、
これらの業務を利用する社会一般の業務に対する信頼を保護する趣旨。
*
⑶
なお、これらは押収拒絶の権利であって、拒絶義務を認めたものではない。
報道機関と押収拒絶権
105 条は制限列挙(通説)→報道機関に押収拒絶権は認められない
↓しかし
報道機関の有する報道の自由ないし取材の自由は、現代社会において重要な地位を占める
↓したがって
差押えによって報道の自由が妨げられる程度及び将来の取材の自由が受ける影響を、捜査の
必要性との対比において十分考慮しなければならない
→真にやむをえないと認められる場合にのみ差押えが許されると解すべき
◆
TBS事件(最決平 2.7.9/百選〔20〕)
「……報道機関の取材結果に対して差押をする場合において、差押の可否を決するに当たっ
ては、捜査の対象である犯罪の性質、内容、軽重等及び差し押さえるべき取材結果の証拠とし
ての価値、ひいては適性迅速な捜査を遂げるための必要性と、取材結果を証拠として押収され
ることによって報道機関の報道の自由が妨げられる程度及び将来の取材の自由が受ける影響そ
の他の諸般の事情を比較衡量すべきであることは、明らかである(最高裁〔日本テレビ事件決
定〕……参照。)」とした。
120/第3編
*
捜査
第4章
捜査の実行
日本テレビ事件決定は、「国家の基本的要請である公正な刑事裁判を実現するためには、
適性迅速な捜査が不可欠の前提であり、報道の自由ないし取材の自由に対する制約の許否に
関しては両者の間に本質的な差異がない」として、上記のような比較衡量は、裁判所による
提出命令の場合のみならず、捜査機関による差押えの場合にも適用されることになった。し
かし、「公正な刑事裁判の実現」と「適正迅速な捜査」とを同一平面で論じていることに対
しては妥当でないとの批判もある。
3
捜索
物を差し押さえる場合、外から見えているときは別として、捜索が必要である。そこで、被疑者
の身体、物又は住居その他の場所については「必要があるとき」(102Ⅰ)、それ以外の者の身体、
物又は住居その他の場所については「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に」
(102Ⅱ)捜索ができるとされている(222Ⅰ・102)。
このように、被疑者とそれ以外の者で捜索の要件が異なるのは、被疑者については、通常、押収
すべき物の存在の蓋然性が認められることから、「正当な理由」が一般的に推定されるからである。
二
令状による捜索・差押え
1
はじめに
捜索・差押えには、原則として裁判官の令状が必要である。同一の機会に行われる捜索と差押
えについては、普通、1通の「捜索差押許可状」が発付されることになる。
以下、令状による捜索・差押えの要件、手続につき概観する。
2
令状による捜索・差押えの要件
令状による捜索・差押えの要件としては、①「正当な理由」の存在が要求される他、②捜索・差押
えの対象の特定性が要求される。また、③明文の規定はないものの、捜索・差押えの必要性も要件と
して要求されると考えられる(最決昭 44.3.18/百選〔A3〕)。
このうち特に問題となるのが②対象の特定性であり、場所の明示と物の明示が必要である。
<令状による捜索・差押えの要件>
令状による捜索・差押えの要件
①
「正当な理由」の存在(憲 35Ⅰ)
②
捜索・差押えの対象の特定性(憲 35Ⅰ、219Ⅰ)
③
捜索・差押えの必要性(明文規定なし)
第2節
物的証拠の収集・保全
第2款
捜索・押収/121
<捜索差押許可状のサンプル>
捜
索 差
押 許 可 状
被
疑 者 の 氏 名
○ ○ ○ ○
及 び 年 齢
昭和○○年○月○日生(○○歳)
被疑者に対する 強盗 被疑事件について、下記のとおり捜索及び差押えをすることを許可
する。
東京都○○区××町7丁目6番地5号所在
捜索すべき場所、身体又は物
被疑者の居宅並びにその附属建物
差し押さえるべき物
被疑者の ・登山用ナイフ 1丁
・ジャンパー 1着
・ズボン 1本
・スニーカー 1足
その他の本件に関係があると思料される衣類・メモ
有 効 期 間
平成○年○月○○日まで
有効期間経過後は、この令状により捜索又は差押えに着手することができない。この場合に
は、これを当裁判所に返還しなければならない。
有効期間内であっても、捜索又は差押えの必要がなくなったときには、直ちにこれを当裁判
所に返還しなければならない。
平成○年○月○○日
東
請求者の官公職氏名
⑴
京 地 方 裁 判 所
裁 判 官
○○警察署
○○
○○
印
司法警察員 警視 ○○ ○○
場所の明示
捜索令状には、「捜索すべき場所、身体もしくは物」の特定が必要である(憲 35Ⅰ、法 219Ⅰ)。
⒜
特定が要求された趣旨
場所の明示が要求された趣旨は、人の住居権・管理権の保護にある。すなわち、明示を要
求することによって、
①
令状を発する際の裁判官の審査の慎重を期す。
②
執行にあたる捜査機関に権限の範囲を周知・徹底させて恣意を防ぎ、一般的探索のよ
うな権限濫用を抑制する。
③
処分を受ける者に受忍の限度を明らかにし、違法があった場合の事後の裁判所への不
服申立(430)を効果的にさせる、こと等に特定の趣旨がある。
⒝
特定の程度
特定したといいうるためには、どの程度の記載があればよいか
↓この点
法が特定を要求した趣旨からは、できる限り具体的・個別的に特定することが必要
↓しかし
捜査の発展的性格に照らすと、捜査機関に対して令状請求段階で厳格な特定を要求するの
が困難な場合がある。にもかかわらず、厳格な特定を要求すると、自白偏重の捜査になり
かねない
122/第3編
捜査
第4章
捜査の実行
↓そこで
合理的に解釈してその場所を客観的に特定しうる程度に記載することを必要とするととも
にその程度の記載があれば足りる(判例)
↓具体的には
住居権・管理権の個数を基準に特定明示すべきであり、同一人のものであれば数室分を包
括して記載しても良いが、アパート等では占有者の区分ごとに特定すべき
◆
最決昭 30.11.22
「合理的に解釈してその場所を客観的に特定しうる程度に記載することを必要とすると
ともにその程度の記載があれば足りる」とした。
⑵
物の明示
差押令状には「差し押えるべき物」の明示が必要である(憲 35、219Ⅰ)。物の明示の趣旨は
財産権の保護にある。すなわち、明示を要求することによって、一般的差押のような権限濫用
を抑制することに、その趣旨がある。
⒜
概括的記載の可否
<問題の所在>
「差し押さえるべき物」の特定ありといえるためには、どの程度の記載があればよいの
であろうか。どの程度の概括的記載が許されるかが問題となる。
例えば、「会議議事録、闘争日誌、指令、通達類、連絡文書、報告書、メモその他本件
に関係ありと思科せられる一切の文書及び物件」との記載は、「差し押さえるべき物」の
特定に十分か。
<考え方のすじ道>~判例
↓確かに
差し押さえるべき物の特定を要求した法の趣旨からは、できる限り具体的・個別的な記
載が望ましい
↓しかし
捜索・差押えは犯罪捜査の初期に行われることが多く、捜査機関自体も捜索場所や差押
物の詳細については把握し得ない場合が通常
→この段階で詳細な明示を要求することは実際上不可能を強いることになり、かえって
被疑者・参考人の取調べ中心の捜査を助長することにもなる
↓そこで
ある程度包括的な記載も許されると解する
↓もっとも
その場合でもできるだけ物の形状・内容等を示して特定を図るべき
↓したがって
できる限り具体的な物件を例示し、その例示に準じるものを指すことが明らかである場
合には「その他本件に関係ある文書、物件」という記載方法も許されると解する
↓あてはめ
本件の概括的記載は、会議議事録等の具体的な例示の後になされたものであり、令状記
載の例示物件に準じるものを指すことが明らかであるから、本件記載は、「差し押さえ
るべき物」の特定に十分であるといえる
第2節
物的証拠の収集・保全
第2款
捜索・押収/123
<アドヴァンス>
◆
最大決昭 33.7.29/百選〔A4〕
事案:
「会議議事録、闘争日誌、指令、通達類、連絡文書、報告書、メモその他本件
に関係ありと思料せられる一切の文書及び物件」と記された目的物の記載が不特
定ではないかが争われた事案。
判旨:
「本件(捜索差押)許可状に記載された『本件に関係ありと思科せられる一切
の文書及び物件』とは、『会議議事録、闘争日誌、指令、通達類、連絡文書、報
告書、メモ』と記載された具体的な例示に附加されたものであって、〔令状記載
の被疑事件に関係があり、かつ右例示の物件に準ずるような闘争関係の文書、物
件を示すことが明らかであるから、物の明示に欠けるところはない〕」とした。
*
この判例に対して、「本件に関連する一切の物件」といった表示はそれ自体、あま
りにも無限定で、捜査機関による権限行使の範囲を令状で明確に限定しようとする憲
法 35 条の趣旨に反するきらいがある。表示に先行する具体的例示の存在だけでは不十
分であり、少なくともそこにいう「本件」の内容を具体的に示す必要があるとする見
解も有力である。
⒝
罰条の記載の要否
<問題の所在>
219 条は、捜索差押令状に「罪名」の記載を要求している。ところが、実務上特別法違反
については個々の適用罰条は記載されず、例えば「地方公務員法違反」「公職選挙法違
反」などのように法令名だけが表示されるのが慣行となっている。そこで、このような記
載が「罪名」の記載を要求した 219 条の趣旨に反するのではないかが問題となる。
<考え方のすじ道>~判例
↓そもそも
法が、逮捕状と異なり、差押令状には被疑事実の記載を要求しない以上、罰条の記載も
不要と解される
↓したがって
罰条の記載までは不要と解する
<アドヴァンス>
イ
罰条の記載まで必要とする見解(田宮)
(理由)
①
特別法違反については、同一法令に多種の罰則が含まれている場合があり、これ
を個別化しなければ「正当な理由」を示したとはいえない。
②
差し押さえるべき物の特定につきある程度の概括的記載を許容する以上、罰条に
よる個別化作用を期待すべきである。
ロ
罰条の記載は不要とする見解(判例、平良木)
(理由)
①
捜索上の秘密保持。
124/第3編
捜査
②
第4章
◆
捜査の実行
事実が変わることにより証拠排除の問題が生じ不都合である。
最大決昭 33.7.29/百選〔A4〕
事案:
「地方公務員法違反」とのみ記された罪名の記載が争われた事案。
判旨:
「捜索差押許可状に被疑事件の罪名を、適用法条を示して記載することは憲法
の要求するところでなく、捜索する場所および押収する物以外の記載事項はすべ
て刑訴法の規定するところに委ねられており、刑訴法 219 条1項により右許可状
に罪名を記載するにあたっては、適用法条まで示す必要はない。」とした。
⒞
被疑事実の記載の要否
逮捕状とは異なり、法は捜索差押令状には、被疑事実(またはその要旨)を記載すること
を要請してはいない(219Ⅰ、200 参照)。その理由は、①被疑者を含む関係者の名誉保護、
②捜査の秘密保持、③捜査の迅速性・実効性の確保等にある。
しかし、目的物の記載がやや概括的であるため被疑事実の記載によってその特定化を図る
必要があるときには、記載が禁じられるわけではない。むしろ、運用としては、被疑事実の
要旨をも記載して、物の特定に資することを考えるべきであると考えられる。
3
捜索・差押えの手続
<捜索・差押えの手続>
1
令状の請求
⑴
請求権者
検察官、検察事務官または司法警察員(218Ⅳ)
⑵
方式
①一定の方式の請求書(規 155)及び②一定の資料を提供することが必要(規 156)
2
令状の発付
⑴
要件
請求を受けた裁判官は、①「正当な理由」の存在、②対象の特定性、③必要性を審査
→令状の発付に際して、捜索・差押えの理由の他、捜索差押えの必要性をも判断するこ
とができるか、逮捕の場合(199Ⅱただし書)と異なり、明文にないため問題となる
が、肯定すべき
∵
任意捜査で十分捜査目的を達成しうることが明らかな場合まで、あえて市民生活
の平穏を侵害する強制処分を許すべきではない(∵197Ⅰ「必要な」)
↓
犯罪の態様や軽重、対象物の重要性の程度、捜索・差押えを受ける者の不利益の大小な
ど諸般の事情に照らして、明らかに捜索・差押えの必要がないと認められる場合には、
司法的抑制の観点から、裁判官は捜索差押令状の請求を却下すべき
⑵
方式
捜索差押令状には、被疑者もしくは被告人の氏名、罪名、差し押さえるべき物、捜索す
べき場所などが記載され、裁判官が記名捺印(219、規 157、157 の2)
第2節
3
物的証拠の収集・保全
第2款
捜索・押収/125
令状の執行
⑴
執行者
検察官、検察事務官、司法警察職員(218Ⅰ)
⑵
令状の呈示
処分を受ける者に令状を示さなければならない(222Ⅰ・110)
∵
手続の公正を担保し、相手方の利益を保護するため
→令状は執行に先立って示すのが原則
条文は令状の呈示時期については格別明示的に定めていないが
判例(最決平 14.10.4/百選〔23〕)による
↓しかし
証拠隠滅防止等その実効確保のため必要があるときは、令状呈示前の捜索準備行為とし
て現場保存措置をなしうる(大阪高判平 6.4.20/H6重判〔3〕参照)
⑶
⇒4
令状の執行
①
令状の執行にあたっては、錠をはずしたり封を開いたり、その目的を達するために
必要な処分をすることができる(222Ⅰ・111Ⅰ)
②
執行中に出入り禁止等の措置を取ることができる(222Ⅰ・112)
③
日の出前、日没後の捜索・差押えは、令状にこれを許す旨の記載がなければ許され
ないが、日没前に着手していた場合や賭博場・飲食店など夜間でも公開性の高い場所
については例外が認められている(222Ⅲ・116、117)
⑷
責任者の立会い
処分を受ける者の利益保護と手続の公正を担保するために、責任者の立会いが要求され
る
①
公務所の場合は、その長又はこれに代わるべき者に通知して立ち会わせる
②
その他の住居等については、住居主、看守者またはこれらの者に代わるべき者を立
ち会わせなければならない(222Ⅰ・114)
③
女子の身体について捜索状を執行する場合には、原則として成年の女子の立会いが
必要(222Ⅰ・115)
◆
④
被疑者・弁護人には立会権はない(222Ⅵと 113 の対照)
⑤
捜査機関の側で必要であれば被疑者に立ち会わせることができる(222Ⅵ)
最決平 14.10.4/百選〔23〕
事案:
覚せい剤所持の被疑事実で捜査中、被疑者在室のホテル客室の捜索差押許可状の発付
を得た警察官が、事情を支配人に伝え、借りたマスターキーで客室のドアを開けて入室
し、ベッドに横たわっていた被疑者に、「警察や、ガサや」と声をかけたうえで被疑者
を制圧し、入室してから約1分後に令状を呈示して捜索を開始し、発見した覚せい剤等
を差し押さえた。
決旨:
「警察官らは、被疑者に対する覚せい剤取締法違反被疑事件につき、……捜索差押許
可状執行の動きを察知されれば、覚せい剤事犯の前科もある被疑者において、直ちに覚
せい剤を洗面所に流すなど短時間のうちに差押対象物件を破棄隠匿するおそれがあった
ため、……実施したことが認められる。
126/第3編
捜査
第4章
捜査の実行
以上のような事実関係の下においては、捜索差押許可状の呈示に先立って警察官らが
ホテル客室のドアをマスターキーで開けて入室した措置は、捜索差押の実効性を確保す
るために必要であり、社会通念上相当な態様で行われていると認められるから、刑訴法
222 条1項、111 条1項に基づく処分として許容される。また、同法 222 条1項、110 条
による捜索差押許可状の呈示は、手続の公正を確保するとともに、処分を受ける者の人
権に配慮する趣旨に出たものであるから、令状の執行に着手する前の呈示を原則とすべ
きであるが、前記事情の下においては、警察官らが令状の執行に着手して入室した上そ
の直後に呈示を行うことは、法意にもとるものではなく、捜索差押の実効性を確保する
ためにやむを得ないところであって、適法というべきである。」と判示し、①マスター
キーを用いた入室を捜索に「必要な処分」として適法とし、②令状の執行に着手して入
室した上その直後に令状の呈示を行うことも適法とした。
4
令状の執行と「必要な処分」
⑴
意義
「必要な処分」(222Ⅰ・111)とは、捜索・差押えの目的を達するために合理的に必要な範
囲の付随処分をいう。
⑵
宅配便の配達を装って扉を開けさせる行為の可否
捜索場所への立ち入りに際し、宅配便の配達を装って扉を開けさせるのは、おとり捜査にも
似た欺罔的行為であるが、他方で証拠隠滅防止等のため捜査上必要ともいえる。
そこで、このような行為が「必要な処分」として認められるか問題となる。
捜索場所への立ち入りに際し、宅配便の配達を装って扉を開けさせるのは、おとり捜査にも
似た欺罔的行為である
↓そうだとすれば
このような欺罔的行為は原則として許されない
↓しかし
捜査官が来たと知れば直ちに証拠隠滅等の行為に出ることが予測される場合もあるし、特に薬
物犯罪などでは、短時間で容易に証拠隠滅が可能である
→円滑に捜索に着手するために、社会的に相当な手段方法をとる必要性
↓また
111 条1項が解錠を明文で認めている以上、欺罔により錠をはずさせる行為は錠の破壊に比べて
執行を受ける者に対する被害がより少ない方法であり、社会的により相当な方法である
↓したがって
証拠隠滅の蓋然性が認められるような場合には、執行に不可欠な事前行為であり、「必要な処
分」(222Ⅰ・111Ⅰ)として許されると解する
◆
大阪高判平 6.4.20
覚せい剤取締法違反被疑事件において、X方の捜索差押令状の発付を受けた警察官が「宅急
便です」と声をかけてXにドアを開けさせた事案で、「必要な処分」(111)にあたるとして社
会通念上相当であると判示した。
第2節
5
物的証拠の収集・保全
第2款
捜索・押収/127
令状による差押えの範囲
⑴
令状による差押えの執行と差押えの範囲
一般令状禁止の趣旨
→令状記載の上で「差し押さえるべき物」が特定していなければならないだけでなく、捜査
官が令状により捜索・差押えすることができる物件は、令状に記載された物件に限られな
ければならない
↓したがって
被疑事実は記載要件ではないが、特定の被疑事実に関するということが差押え可能な物件
の範囲を画する
◆
最判昭 51.11.18/百選〔24〕
事案:
恐喝被疑事件について、差押物を「本件に関係ある、一、暴力団を標章する状、バッ
チ、メモ等、二、拳銃、ハトロン紙包の現金、三、銃砲刀剣類等」と記載した令状に基
づき、組事務所において賭博の計算関係を記載したメモを差し押さえた事案。
判旨:
「右捜索差押許可状……の記載物件は、右恐喝被疑事件が暴力団であるO連合O組に
所属し又はこれと親交のある被疑者らによりその事実を背景として行われたというもの
であることを考慮するときは、O組の性格、被疑者らと同組との関係、事件の組織的背
景などを解明するために必要な証拠として掲げられたものであることが、十分に認めら
れる。そして、本件メモ写しの原物であるメモには、O組の組員らによる常習的な賭博
場開帳の模様が克明に記録されており、これにより被疑者であるAと同組との関係を知
り得るばかりでなく、O組の組織内容と暴力団的性格を知ることができ、右被疑事件の
証拠となるものであることが認められる。してみれば、右メモは、前記許可状記載の差
押の目的物にあたると解するのが相当である。」とした。
*
原審判決(大阪高判昭 49.3.29)は、右のメモは賭博特有のメモであることが一見して明ら
かであり、恐喝被疑事件に関係があるものとはとうてい認められず、また、令状記載の「暴力
団を標章する状、バッチ、メモ等」に該当するものとも考えられないので、その差押えは令状
に記載されていない物に対してなされた違法なものといわざるを得ないとした。
◆
最決平 19.2.8/百選〔22〕
事案:
警察官らは、Xに対する覚せい剤取締法違反被疑事件につき、「覚せい剤、覚せい剤
使用器具類、覚せい剤計量器具類、覚せい剤分包紙袋類、覚せい剤取引関係文書・手
帳・メモ類、被疑者使用の携帯電話及び付属の充電器」を差し押さえるべき物とし、X
方居室等を捜索すべき場所とする捜索差押許可状に基づき、X方居室の捜索を開始した
ところ、注射器4本、チャック付きビニール袋等が発見された。その後、捜索実施中の
X方に、A運輸株式会社から、伝票に依頼主兼受取人としてXの氏名が記載された荷物
が配達され、Xはこれを受け取った。そこで警察官らは、Xに荷物を開封するよう何度
も説得を試みたが、Xは心当たりがない荷物なので開封したくないなどと言い、これを
拒んだ。そこで、警察官らは「ガサで来ているから、荷物の中身を確認する必要があり、
その権限がある。権限で開ける。」と告げたところ、Xは投げやりな感じで「見るんな
ら見ればいいべ」と発言した。この発言を受けて、警察官らは本件荷物を開封したとこ
ろ、覚せい剤5袋が発見されたため、Xを覚せい剤取締法違反の被疑事実で現行犯逮捕
し、覚せい剤5袋も逮捕の現場で差し押さえた(220Ⅰ②、Ⅲ)。
128/第3編
捜査
第1審:
第4章
捜査の実行
覚せい剤自己使用罪、営利目的覚せい剤所持罪成立(本件荷物の開封は適法)。
「覚せい剤取締法違反の嫌疑の程度に加え、被告人が、約 10 分間の説得の後、最終
的には『見るんなら見ればいいべ』と開封を承諾するような発言をしたことからする
と、警察官による本件荷物の開封は、警察官職務執行法所定の職務質問に付随して行
われる所持品検査として、適法である」として、本件荷物の開封を所持品検査として
適法とした。
これに対してXは、所持品検査は任意の承諾がなく違法であると主張し、さらに本
件令状をXに呈示した時点で本件荷物がX宅に届けられておらず、また荷物の中に覚
せい剤が存在していることをうかがわせるような形跡はなかったのであるから、本件
荷物への捜索は違法であるなどと主張して控訴した。
控訴審:
控訴棄却。
「本件荷物には、本件令状に係る被疑事実に関連し……、本件令状で差し押えるべ
き物とされている覚せい剤等が入っている蓋然性が十分に認められる状況が存したと
いえ、かつ、警察官らが本件荷物を開封する行為は、捜索差押許可状の執行について
の必要な処分(刑訴法 222 条1項、111 条1項)に当たるということができるから、本
件荷物の開封行為は、本来、本件令状に基づく捜索の執行として、被告人の承諾がな
くとも、適法に行い得たものと認められる」。「本件荷物の開封につき、Xの任意の
承諾があったと解するには疑義があ」るとした上で「捜索差押許可状に基づく捜索差
押えの範囲がその許可状を被疑者に示した時点で捜索場所に存在する物に限定されな
ければならないとすべき明文上の根拠はない。さらに、実質的にみても、刑訴法 219
条1項が捜索差押許可状に差し押えるべき物、捜索すべき場所を記載しなければなら
ないとしたのは、人の居住権・管理権を保護するためであると解されるが、執行の途
中で被疑者が捜索場所で所持・管理するに至った物について捜索差押えを行ったとし
ても、新たな居住権・管理権の侵害が生じるわけではないから、そこに令状主義逸脱
の問題はないというべきである。したがって、本件令状をXに示した時点において本
件荷物がX宅に届いていなかった点をとらえて、本件令状に基づき本件荷物を捜索す
ること許されなかったとする所論は理由がない」として、本件荷物の開封を令状に基
づく捜索の執行に伴う「必要な処分」として適法とした。
最高裁:
上告棄却。
「警察官が、被告人に対する覚せい剤取締法違反被疑事件につき、捜索場所を被告
人方居室等、差し押さえるべき物を覚せい剤等とする捜索差押許可状に基づき、被告
人立会いの下に上記居室を捜索中、宅配便の配達員によって被告人あてに配達され、
被告人が受領した荷物について、警察官において、これを開封したところ、中から覚
せい剤が発見されたため、被告人を覚せい剤所持罪で現行犯逮捕し、逮捕の現場で上
記覚せい剤を差し押さえたというのである。所論は、上記許可状の効力は令状呈示後
に搬入された物品には及ばない旨主張するが、警察官は、このような荷物についても
上記許可状に基づき捜索できるものと解するのが相当である」として、本件荷物の開
封を令状に基づく捜索の執行として適法とした。
第2節
⑵
物的証拠の収集・保全
第2款
捜索・押収/129
場所に対する令状による捜索の範囲
場所に対する令状で、人の身体や、同居人らの携帯物を捜索できるであろうか。場所に対す
る令状の効力の及ぶ範囲が問題となる。
⒜
人の身体の捜索の可否
<問題の所在>
捜索場所の外延は管理権の同一性で画されるし、場所の令状の効力が備品・付属物等その
場所内に存在する物に及ぶことに異論はない。では、場所に対する捜索令状によって、そ
の場にいる人の身体を捜索することができるであろうか。場所に対する令状の効力が、そ
の場にいる人の身体にも及ぶかが問題となる。
<考え方のすじ道>
↓確かに
捜査機関としては、場所の令状だけでそこに居合わせた者の身体捜索ができるとなれば、
捜査の便宜に資することになる
↓しかし
①
捜索対象として場所と身体とは区別されている(222Ⅰ・102)
②
身体の捜索により侵害される利益は、場所の捜索により侵害される利益より重大で、
保護の必要も大きい
↓したがって
場所に対する捜索令状によって人の身体を捜索することは許されない
→必要ならば、身体に対する捜索令状を準備すべき
↓もっとも
居合わせた者が差押えの目的物を身体に隠すのを目撃したような場合を考えれば、一切
許されないというのも不合理
↓そこで
捜索場所に居合わせた者が捜索の目的物を隠匿していると認めるに足りる合理的理由の
あるような場合には、捜索令状を執行するための現場保存的措置たる「必要な処分」
(222Ⅰ・111Ⅰ)として例外的に許されると解する
<アドヴァンス>
イ
消極説(例外的肯定説)(田宮、三井)
原則として別の令状を要するが、捜索場所に居合わせた者が捜索の目的物を隠匿して
いると認めるに足りる合理的な理由のある場合には、例外的にその者の身体に対する捜
索が認められるとする見解。
(理由)
①
捜索の対象としての人の「身体」は「場所」と区別して規定されている(222Ⅰ・
102)。
②
身体の捜索により侵害される利益(人格の尊厳や人身の自由)は、場所の捜索に
より侵害される利益(生活の平穏や業務の円滑)より重大で保護の必要も大きい。
130/第3編
捜査
③
第4章
捜査の実行
例外的な人の身体に対する捜索は、捜索令状を執行するための現場保存的措置で
あることから、「必要な処分」(222Ⅰ、111Ⅰ)にあたる。
ロ
積極説(一般的肯定説)(佐藤、河上)
一定の条件を付した上で、身体に対する捜索を積極的に解する説。
(理由)
その場所に通常存在する人の身体については、ある程度の捜索は、場所に対する捜
索令状が当初から当然許したものと解すべきである。
⒝
居住者・同居人の携帯物の捜索の可否
<問題の所在>
場所に対する捜索令状の執行に際して、居住者・同居人の鞄等の携帯物の中身も捜索する
ことができるであろうか。場所に対する令状の効力が、居住者・同居人の携帯物にも及ぶ
かが問題となる。
<考え方のすじ道>~判例
↓そもそも
居住者または実質的にこれに準ずる地位にある者については、物が携帯されているかそ
の場所におかれているかは偶然の事情による
↓また
捜索場所の捜索令状には、通常、そこに存在する鞄等の備品類も含めて全体として捜索
の許可を受けたものと解される
↓したがって
居住者・同居人に対する携帯物の捜索は許される
↓さらに
居住者・同居人が現に携帯品を所持していたとしても、場所に対する令状の効力は携帯
品に及ぶと考えられる
∵
居住者等は、居室内においてしばしばそこにある物を移動させることがあり、偶然
その移動中に捜査官が捜索に立ち入ったときに令状の効力が及ばなくなってしまうとい
うのは不都合
<アドヴァンス>
イ
肯定説(田宮、松尾)
捜索場所に居住する人の鞄等の携帯物については、居室・居宅の備品あるいは、付属
物として令状の効力が及ぶ。
(理由)
①
居住者・同居人の鞄等の携帯品は、通常、どの居室・居宅にもある物であり、携
行品として随時戸外に持ち出されることが予定されている点を除けば、その中にあ
る限りタンスや金庫などの備品と変わりはない。
②
捜索場所の捜索令状には、通常、そこに存在する鞄等の備品類も含めて全体とし
て捜索の許可を受けたものと解される。
第2節
ロ
物的証拠の収集・保全
第2款
捜索・押収/131
社会的に相当と認められる範囲内で肯定する説(丸谷)
必要と認められる場合には社会的に相当と認められる範囲内で携帯物の内容物の捜索
を行うことができる。
◆
最決平 6.9.8/百選〔21〕
事案:
Yに対する覚せい剤営利目的所持罪の疑いで、Y及びその内縁の夫Xの居住す
るマンションの居室を捜索場所とする令状により、同室を捜索していたところ、
Xがボストンバッグを手にしていたため再三任意提出するよう求めたが、Xがこ
れを拒否したため、身体を制圧して強制的にバッグを取り上げその中を捜索、覚
せい剤が発見されたためXを覚せい剤所持罪の現行犯逮捕した事案。
判旨:
「警察官は、Xの内妻であったYに対する覚せい剤取締法違反被疑事件につき、
同女及びXが居住するマンションの居室を捜索場所とする捜索差押許可状の発付
を受け、……右許可状に基づき右居室の捜索を実施したが、その際、同室に居た
Xが携帯するボストンバッグの中を捜索したというのであって、右のような事実
関係の下においては、前記捜索差押許可状に基づきXが携帯する右ボストンバッ
グについても捜索できるものと解するのが相当である」。
*
この判例は、マンションの居室を捜索場所とする令状で、被告人の同居人が携帯す
るボストンバッグの捜索ができるとしたものである。
⒞
第三者の携帯物の捜索の可否
<問題の所在>
場所に対する捜索令状の執行に際して、偶然捜索場所に居合わせた第三者の所持する鞄
等の携帯物の中身も捜索することができるであろうか。場所に対する令状の効力が、第三
者の携帯物にも及ぶかが問題となる。
<考え方のすじ道>
↓そもそも
捜索場所にあったとしてもそれが第三者の管理下にある物については、居室・居宅の常
備品とはいえない
↓また
第三者の携帯物は、令状発付の際、捜索場所に当然伴うものとして令状裁判官の審査を
受けたものとみなすことはできない
↓したがって
各別の令状が出されていないかぎり、原則として第三者の携帯物の捜索は許されない
↓もっとも
第三者が差押えの目的物を携帯物の中に隠すのを目撃したような場合を考えれば、一切
許されないというのも不合理
↓そこで
第三者がその場にあった物を隠匿するのを捜査官が現認した場合には、「必要な処分」
(222Ⅰ・111Ⅰ)として例外的に許される場合があると解する
132/第3編
捜査
第4章
捜査の実行
<アドヴァンス>
イ
例外的肯定説Ⅰ:証拠隠匿行為等を捜査官が現認した場合を除き、否定する見解(多
数説)
原則として捜索できないが、証拠隠匿行為等を捜査官が現認した場合には「必要な処
分」として捜索できる。
(理由)
①
抽象的で曖昧になりがちな「場所」と比べ、「物」はプライバシーの権利をいっ
そう特殊・具体的な形で化体しており、ある場所にあるだけでその場所に付属する
物と決めつけることは許されない。
②
第三者の携帯物は、居室・居所の常備品とはいえず、令状発付の際、捜索場所に
当然伴うものとして令状裁判官の審査を受けたものとみなすことはできない。
③
実質的にも第三者の携帯物の中に令状発付の基礎となった被疑事件に関する証拠
物があるとは考えられないので、証拠隠匿行為等の特別な事情がある場合以外はそ
の捜索を許すべきではない。
ロ
例外的肯定説Ⅱ:第三者の物であることが合理的に判断できるのに、それが怠られた
ケースなどにかぎり、捜索が違法となるとする見解(三井)
(理由)
場所のプライバシーと物のプライバシーとは別個に保障されるものであるから、第
三者の管理下にある物については原則として別個の令状が必要である。しかし、実際
にはその判別が困難であるから、第三者の物であることが合理的に判断できるのに、
それが怠られたケースに限り違法の問題が生じる。
ハ
一般的肯定説:社会的に相当と認められる範囲内で肯定する説(丸谷)
必要と認められる場合には社会的に相当と認められる範囲内で携帯物の内容物の捜索
を行うことができる。
6
コンピュータと差押え
電磁的記録物を差し押さえることはできるであろうか。電磁的記録には多量の情報が収められ、
かつそれ自体可読性がないため、いかにして押収対象物を特定するか、特定のためプリントアウ
トできるか、等が問題となる。
⑴ 内容を確認していないフロッピー・ディスクの差押えの可否(捜索すべき物の特定性の有無)
<問題の所在>
差し押さえるべき物を「組織的犯行であることを明らかにするための磁気記録テープ、フロ
ッピーディスク、パソコン一式」とする捜索差押許可状の発付を得た上で捜索を行った結果、
組織的関与を裏付ける情報が記録されている蓋然性が高いと認められるフロッピーディスク
100 枚が発見された場合、現場でその内容を確認することなく差し押さえることが許されるか。
情報それ自体は有体物でないので、捜索・差押の対象とならないが、磁気ディスク・フロッピ
ーディスク等の電子記憶媒体の形になっていれば、有体物であるから差押えの対象となる点につ
いては争いがない。しかし、憲法 35 条・法 219 条1項は「捜索すべき‥‥物」の特定性を要求し
ているため、内容を確認しない包括的な差押は禁止されることから、問題となる。
第2節
物的証拠の収集・保全
第2款
捜索・押収/133
<考え方のすじ道>
↓そもそも
包括的差押えは、一般令状禁止(憲 35、219)の趣旨に反する
↓また
フロッピーディスクには通常多量の情報が収納されており、被疑事実と無関係な情報が多
数混入しているため、これを包括的に差し押さえると、被処分者のプライバシーや日常の
業務に与える影響が大きい
↓そこで
フロッピーディスクと被疑事実との関連性を確認しないで一般的包括的に差押えをするこ
とは原則として許されない
→ディスクの内容をプリントアウトして、具体的内容・範囲を特定した上で、被疑事実と
関連する物だけを差し押さえるべき
↓もっとも
被疑事実と関連する物を選別するためには時間を要し、かつ、電磁的記録は処理・加工・
消去が容易であるため、被処分者やその関係者らによる罪証隠滅の危険が大きい
↓したがって
①
対象情報がフロッピーディスク内部に含まれていると疑うに足りる合理的理由があり
②
選別が容易でなく
③
被処分者らによる証拠破壊のおそれがあるときは
例外的にフロッピーディスク全部を包括的に差し押さえることもできると解する
<アドヴァンス>
◆
大阪高判平 3.11.6/H4重判〔2〕
「捜査機関による差押は、そのままでは記録内容が可視性・可読性を有しないフロッピ
ー・ディスクを対象とする場合であっても、被疑事実との関連性の有無を確認しないで一
般的探索的に広範囲にこれを行うことは、令状主義の趣旨に照らし、原則的には許され」
ない。「しかし、その場に存在するフロッピー・ディスクの一部に被疑事実に関連する記
載が含まれていると疑うに足りる合理的な理由があり、かつ、捜索差押の現場で被疑事実
との関連性がないものを選別することが容易でなく、選別に長時間費やす間に、被押収者
側から罪証隠滅される虞れがあるようなときには、全部のフロッピー・ディスクを包括的
に差し押さえることもやむを得ない措置として許容されると解すべきである。」とした。
◆
最決平 10.5.1/百選〔25〕
「令状により差し押さえようとする、パソコン、フロッピーディスク等の中に被疑事実
に関する情報が記載されている蓋然性が認められる場合において、そのような情報が実際
に記録されているかをその場で確認していたのでは記録された情報を損壊される危険があ
るときは、内容を確認することなしに右パソコン、フロッピーディスク等を差し押さえる
ことが許されるものと解される」。
134/第3編
⑵
捜査
第4章
捜査の実行
アウトプットの可否
差し押さえた磁気ディスクやフロッピー・ディスクを捜査機関が自己の所有するコンピュー
タを用いてアウトプットすることは、差押令状の発付がある以上、「必要な処分」(222Ⅰ・
111Ⅰ)として許される
↓しかし
電磁的記録は、通常その機械特有の固有のランゲージで記録されており、捜査機関が磁気デ
ィスク等を持ち帰って、独自にアウトプットすることは事実上不可能
↓そこで
差押えの現場で、被処分者のコンピュータを利用して情報をプリントアウトするというよう
なアウトプットの方法は許されるかが、問題となっていた
↓しかし
高度化するサイバー犯罪への適切な対処等を目的とした平成 23 年改正により、差し押さえる
べき物が電磁的記録に係る記録媒体であるときは、差押状の執行をする者は、その差押えに
代えて、①差し押さえるべき記録媒体に記録された電磁的記録を他の記録媒体に複写し、印
刷し、又は移転した上、当該他の記録媒体を差し押さえること(110 の2①)、又は②差押え
を受ける者に差し押さえるべき記録媒体に記録された電磁的記録を他の記録媒体に複写させ、
印刷させ、又は移転させた上、当該他の記録媒体を差し押さえること(110 の2②)といった
処分をすることができるものとされたため、この問題は立法的に解決された(222Ⅰ・110 の
2)。
↓なお
差押えの執行自体について、捜査官に専門的知識・技能がないときには、専門家たる補助者
を依頼して現場に立ち入らせることは「必要な処分」(222Ⅰ、111Ⅰ)として許されると解
され、また、次に述べるとおり、被処分者自身に対して必要な協力を求めることもできる
⑶
被処分者ないしその他の関係者に対する協力の強制の可否
⒜
事件の関係者の協力がなければ、どのような情報処理システムなのか、また、どの電磁的
記録媒体にどのような内容の電磁的記録が記録・保存されているのか判明しないことがある。
そして、このような場合には、被処分者ないしその他の関係者の協力が必要である。
かつては、協力義務を定めた規定が存しなかったことから、協力を強制することはできず、
任意協力を求めるしかなかったが、平成 23 年改正により、差し押さえるべき物が電磁的記録
に係る記録媒体であるときは、差押状又は捜索状の執行をする者は、処分を受ける者に対し、
電子計算機の操作その他の必要な協力を求めることができることとされたため、この問題は
立法的に解決された(111 の2、222Ⅰ)。
⒝
また、必要があるときは、記録命令付差押え(電磁的記録を保管する者その他電磁的記録
を利用する権限を有する者に命じて必要な電磁的記録を記録媒体に記録させ、又は印刷させ
た上、当該記録媒体を差し押さえることをいう)をすることも、平成 23 年改正により認めら
れた(99 の2、218Ⅰ)。これは、プロバイダ等に協力を要請することを想定した規定である。
なお、記録命令付差押状又は同許可状には、記録させ又は印刷させるべき電磁的記録及び
これを記録させ又は印刷させるべき者を記載しなければならない(107Ⅰ、219Ⅰ)。
第2節
⑷
物的証拠の収集・保全
第2款
捜索・押収/135
差し押さえるべき電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体からの複写
⒜
平成 23 年改正により、差し押さえるべき物が電子計算機であるときは、当該電子計算機に
電気通信回線で接続している記録媒体であって、当該電子計算機で作成若しくは変更をした
電磁的記録又は当該電子計算機で変更若しくは消去をすることができることとされている電
磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるものから、その電磁
的記録を当該電子計算機又は他の記録媒体に複写した上、当該電子計算機又は他の記録媒体
を差し押さえることができることとされた(99Ⅱ、218Ⅱ)。
これは、たとえば、コンピュータが差押え対象である場合に、そのコンピュータとネット
ワークで接続しているサーバのうち、そのコンピュータで作成するなどした電子ファイルを
保管するために用いられているものから、そのコンピュータと関連のある一定の電子ファイ
ルをコピーし、これを差し押さえることを可能にするものである。
⒝
なお、この場合には、差押状又は差押許可状に、差し押さえるべき電子計算機に電気通信
回線で接続している記録媒体であって、その電磁的記録を複写すべきものの範囲を記載しな
ければならない(107Ⅱ、219Ⅱ)。
⑸
通信履歴の保全要請に関する規定
⒜
検察官、検察事務官又は司法警察員は、差押え又は記録命令付差押えをするため必要があ
るときは、電話会社やインターネット・サービス・プロバイダなどの電気通信事業者等に対
し、その業務上記録している電気通信の送信元、送信先、通信日時その他の通信履歴の電磁
的記録(いわゆる通信ログ)のうち必要なものを特定し、30 日を超えない期間を定めて、こ
れを消去しないよう、書面で求めることができる旨の規定が、平成 23 年改正により新設され
た(197Ⅲ)。
⒝
また、⒜ の求め又は 197 条2項の捜査関係事項照会を行う場合において必要があるときは、
みだりにこれらの要請に関する事項を漏らさないよう電気通信事業者等に対して求めること
ができる旨の規定も、あわせて新設された(197Ⅴ)。
⒞
なお、消去しないよう求める期間については、特に必要があるときは、30 日を超えない範
囲内で延長することができるが、通じて 60 日を超えることはできない(197Ⅳ)。
⑹
電磁的記録の没収に関する規定
不正に作られた電磁的記録又は没収された電磁的記録に係る記録媒体を返還し、又は交付する場
合には、当該電磁的記録を消去し、又は当該電磁的記録が不正に利用されないようにする処分をし
なければならない等の規定が、平成 23 年改正により新設された(498 の2Ⅰ、498 の2Ⅱ)。
7
令状による捜索・差押え時における写真撮影
⇒第4款
「四
写真・ビデオの撮影」(p.159)
捜索・差押え時に、とりわけ差押目的物以外の物件を写真撮影することが許されるかが、令状
主義との関係で問題となる。また、不当な写真撮影に対して、準抗告ができるかも問題である。
⑴
捜索・差押え時の写真撮影の可否
⒜
一般に、他人の住居内における写真撮影の性質は検証(218Ⅰ)に当たり、検証令状を得て、
差押目的物の写真撮影を行うことは適法である。
136/第3編
⒝
捜査
第4章
捜査の実行
捜索・差押え時に、差押目的物以外の物件を写真撮影することは、許可状に記載されていな
い物件をも捜索・差押えしたのと実質的に異ならないといえ、令状主義を潜脱するものであ
るから許されない(通説)。
⒞
捜索・差押えの執行状況を記録したり、差押物の位置関係の記録のための写真撮影は許容さ
れる。
∵①
捜査の実効性の観点から、差押えに際しての証拠価値を保全するために、その証拠物
の発見場所や存在状況を写真撮影しておく必要がある
②
捜索・差押えを受ける者にとってプライバシーの侵害は、捜索・差押えの実施に不可
避的に伴うから、その範囲内である限り受忍限度内であるといえる
すなわち、撮影による捜査の必要性が大きく、プライバシー侵害の程度が軽微であれば、
対象となる物の写真撮影に際してそれ以外の物が被写体として入ったとしても必ずしも違法と
なるものではない。
⑵
違法な写真撮影に対する準抗告の可否
違法な写真撮影に対して準抗告できるか。
この点、写真撮影は検証であるから、「押収……に関する処分」(430Ⅱ)にあたらない。よ
って、写真撮影に対して準抗告できない(判例)。
◆
最決平 2.6.27/百選〔35〕
不当な写真撮影に対する準抗告の申立てに対し、写真撮影が検証であることを理由に準抗告
の申立てを棄却した。
実務に迫る!~捜索差押えに対する防御~
捜索・差押えは、たいてい捜査の比較的初期に行われるため、通常の事件では、実は弁護士を呼ぶ段階で
はもう終わっている場合がほとんどです。
あらかじめ捜索等が予想される事件といえば、公安・労働・選挙・経済事犯等の特殊な場合がほとんどで
すね。
そういう場合の防御としては、まずは捜査官に令状をしっかり読ませることでしょう。たいてい捜査官は
いかにも聞かれては困るといった感じで早口に読み上げますから、それをゆっくり読ませ、書き取ります
(録音も可)。特に、捜索等の場所的範囲については重要なのでしっかり確認します。事案によっては、探
索的捜索(ガサ入れして証拠を見つけてから立件しようとする捜査手法)の可能性もありますから、捜査官
に被疑事実の確認をすることも重要です。
あとは、いかに立会いをしっかりやるかです。実質的な立会いができるように捜査官の人数を絞るように
要求し、場合によっては弁護士も立会人となる旨伝えます。条文の構造上は弁護人に立会権がないように読
めますから、そこをクリアして立会いできるかが交渉のしどころといえるでしょう。
三
逮捕に伴う捜索・差押え
1
はじめに
⑴
根拠
<問題の所在>
捜索・差押えは、原則として令状に基づかなければならない(憲 35、法 218Ⅰ)。しかし、
憲法 35 条及びこれを受けた刑訴法 220 条は、無令状捜索・差押えをなしうると規定している。
そこで、時間的限界・場所的限界・物的限界を決するにあたり、この令状主義の例外が認め
られる根拠が問題となる。
事項索引/あ-け
事項索引
あ
き
悪性格立証 ................................ 436
アレインメント制度 ........................ 359
機会提供型 ................................ 192
偽計による自白 ............................ 513
期日間整理手続 ....................... 341, 346
希釈の法理 ................................ 500
擬制同意 .................................. 486
起訴後の捜査 .............................. 240
起訴状 .................................... 260
起訴状一本主義 ............................ 262
起訴独占主義 .............................. 244
起訴便宜主義 .............................. 246
起訴猶予処分 .............................. 243
忌避 ....................................... 24
基本的事実同一説 .......................... 289
客観的不可分の原則 ......................... 64
糾問主義 ................................... 16
糾問的捜査観 .............................. 236
狭義の証明 ................................ 377
供述証拠 .................................. 374
供述代用書面 ......................... 456, 478
供述調書 ............................. 171, 207
供述不能 .................................. 457
強制採血 .................................. 156
強制採尿 .................................. 152
強制処分 ................................... 54
強制連行 .................................. 155
共同被告人 ................................ 527
共犯者の自白 .............................. 536
虚偽排除説 ................................ 509
挙証責任 .................................. 396
許容的推定説 .............................. 405
記録命令付差押え .......................... 134
緊急採血 .................................. 158
緊急執行................................... 83
緊急処分説 ................................ 137
緊急捜索・差押え .......................... 145
緊急逮捕 ................................... 88
緊急配備検問 ............................... 74
い
異議申立て ................................ 329
移送 ....................................... 22
一罪一逮捕・一勾留の原則 ................... 99
一事不再理効 .............................. 556
一部起訴 .................................. 245
一部認定 .................................. 546
一斉検問 ................................... 75
一般司法警察職員 ........................... 29
一般接見 ............................. 216, 218
一般的指揮 ................................. 30
一般的指示 ................................. 30
一般的指定制度 ............................ 229
一般令状禁止 .............................. 127
違法収集証拠排除法則 ...................... 492
違法性の承継 .............................. 502
違法捜査 .................................. 234
違法な手続による自白 ...................... 514
違法な取調べによる自白 .................... 514
違法排除説 ................................ 510
員面調書 .................................. 468
う
疑わしきは被告人の利益に .................. 397
写し ...................................... 428
え
疫学的証明 ................................ 395
お
押収 ......................................
押収拒絶権 ................................
押収物の目録の交付 ........................
おとり捜査 ................................
117
119
168
191
か
概括的記載 ................................ 122
概括的認定 ................................ 546
回避 ....................................... 24
回復証拠 .................................. 374
外部的成立 ................................ 544
科学的証拠 ................................ 430
覚せい罪自己使用罪 ........................ 294
確定力 .................................... 555
家庭裁判所 ................................. 22
仮還付請求 ................................ 168
簡易公判手続 .............................. 358
管轄 ....................................... 21
間接証拠 .................................. 373
鑑定 ................................. 118, 150
鑑定受託者 ........................... 151, 476
鑑定書 .................................... 475
鑑定処分 .................................. 151
鑑定人尋問 ................................ 417
鑑定留置 .................................. 151
く
具体的指揮 ................................. 30
具体的指定書 .............................. 231
具体的防御説 .............................. 283
け
警戒検問 ................................... 74
形式裁判 .................................. 543
形式的確定力 .............................. 555
形式的挙証責任 ............................ 396
刑事弁護人推薦制度 ........................ 215
刑事免責 .................................. 203
刑事和解 ................................... 40
刑罰関心同一説 ............................ 290
決定 ...................................... 542
厳格な証明 ................................ 379
現行犯 ..................................... 85
現行犯逮捕 ................................. 85
検察官 ..................................... 28
検察官処分主義 ............................ 244
検察官面前調書 ............................ 459
こ-し/事項索引
検察審査会 ............................ 39, 250
検視 ....................................... 62
検証 ................................. 118, 148
検証調書 .................................. 470
現場供述 .................................. 474
現場指示 .................................. 474
現場写真 .................................. 423
検面調書 .................................. 459
権利保釈 .................................. 335
こ
合意書面 .................................. 487
勾引 ...................................... 333
公開主義 .................................. 322
交互尋問 .................................. 414
公訴棄却 .................................. 304
公訴権濫用論 .............................. 254
公訴時効 .................................. 312
公訴事実 .................................. 261
公訴事実の同一性 ................ 288, 289, 560
公訴提起 .................................. 260
公訴の取消し .............................. 248
公知の事実 ................................ 381
交通検問 ................................... 74
高等裁判所 ................................. 22
口頭主義 .................................. 323
公判期日 .................................. 349
公判準備 .................................. 339
公判前整理手続 ....................... 341, 346
公判中心主義 .......................... 17, 322
公判調書 ............................. 357, 393
公判手続の更新 ............................ 357
公判手続の停止 ............................ 357
公平な裁判所 ............................... 23
合理的な疑い .............................. 392
勾留 .................................. 90, 334
勾留質問 ................................... 91
勾留の執行停止 ....................... 115, 337
勾留の取消し .............................. 114
勾留の必要性 ............................... 91
勾留の理由 ................................. 91
勾留理由開示制度 .......................... 114
呼気検査 .................................. 206
呼気採取 .................................. 159
国選弁護 ................................... 33
告訴 .............................. 38, 63, 302
告訴期間 ................................... 64
告訴の追完 ................................ 306
告訴不可分の原則 ........................... 64
告発 ....................................... 65
国家訴追主義 .............................. 244
コントロールド・デリバリー................. 197
さ
再現写真 .................................. 424
最終陳述権 ................................ 354
最終弁論 .................................. 353
罪体 ...................................... 523
罪体説 .................................... 523
再逮捕・再勾留禁止の原則 ................... 99
裁定管轄 ................................... 22
再伝聞 .................................... 481
裁判 ...................................... 542
裁判員 ..................................... 25
裁判員制度 ................................. 25
裁判員の参加する裁判手続 .................. 363
裁判書 .................................... 545
裁判官面前調書 ............................ 457
裁判所 ..................................... 20
裁判所に顕著な事実 ........................ 382
裁判の確定 ................................ 555
裁量保釈 .................................. 335
差押え .................................... 117
3号書面 .................................. 468
参考人 .................................... 182
参考人の取調べ ............................ 182
し
事件単位説 ............................ 96, 175
時効期間 .................................. 314
自己負罪拒否特権 .......................... 200
事実上の推定 .............................. 403
自首 ....................................... 66
自然的関連性 .....................376, 420, 422
実況見分 ............................. 118, 150
実況見分調書 .............................. 471
実質証拠 .................................. 374
実質的確定力 .............................. 556
実質的挙証責任 ............................ 396
実質的表示説 ......................... 269, 272
実体裁判 .................................. 543
実体的真実主義 .............................. 9
自動車検問 ................................. 74
自白 ................................. 170, 506
自白法則 .................................. 508
事物管轄 ................................... 22
司法警察員 ................................. 29
司法警察職員 ............................... 29
写実的証拠 ................................ 422
写真撮影 .................................. 159
遮へい措置 ................................. 39
臭気選別 .................................. 433
終局裁判 .................................. 543
終局処分 .................................. 243
自由心証主義 .............................. 391
従属代理権 ................................. 36
集中審理主義 .............................. 323
自由な証明 ................................ 379
主観的不可分の原則 ......................... 65
縮小認定 ............................. 284, 308
主尋問 .................................... 415
受託裁判官 ................................. 23
主文 ...................................... 545
受命裁判官 ................................. 23
準起訴手続 ................................ 252
準現行犯 ................................... 87
準抗告 ...........................115, 168, 234
召喚 ...................................... 333
情況証拠 ............................. 373, 449
証言義務 .................................. 413
証言拒否権 ........................... 200, 413
証拠 ...................................... 372
証拠開示 .................................. 345
証拠禁止 ............................. 376, 492
証拠決定 .................................. 411
証拠裁判主義 .............................. 377
証拠調べ手続 .............................. 407
事項索引/す-に
証拠資料 .................................. 373
証拠能力 ............................. 376, 420
証拠法 .................................... 372
証拠方法 .................................. 373
証拠保全 .................................. 213
情状 ...................................... 389
承諾捜索 .................................. 148
証人 ...................................... 411
証人尋問 ............................. 182, 339
証人適格 ............................. 412, 531
証人等威迫罪 ............................... 39
証明力 .................................... 376
証明力を争う証拠 .......................... 488
職務質問 ................................... 66
所持品検査 ................................. 70
書証 ...................................... 375
除斥 ....................................... 24
職権主義 .............................. 17, 324
審級管轄 ................................... 22
人権擁護説 ................................ 510
親告罪 .................................... 246
真実義務 ................................... 35
人身保護手続 .............................. 235
迅速な裁判 ................................ 325
身体検査 .................................. 151
人的証拠 .................................. 375
信用性の情況的保障 ........................ 452
す
推定 ...................................... 403
訴訟法的事実 .............................. 386
即決裁判手続 .............................. 360
疎明 ................................. 377, 380
た
退廷命令 .................................. 486
逮捕 ....................................... 81
逮捕・勾留の一回性の原則 ................... 99
逮捕前置主義 ............................... 96
逮捕に伴う捜索・差押え .................... 136
逮捕の必要性 ............................... 82
逮捕の理由 ................................. 82
代用刑事施設 ............................... 93
択一的記載 ................................ 277
択一的認定 ................................ 546
弾劾主義 ................................... 16
弾劾証拠 ............................. 374, 487
弾劾的捜査観 .............................. 235
ち
地方裁判所 ................................. 22
抽象的防御説 .............................. 283
直接主義 .................................. 323
直接証拠 .................................. 373
つ
追完 ...................................... 332
追起訴 .................................... 281
通常逮捕 ................................... 81
通信傍受................................... 162
罪となるべき事実 .......................... 274
せ
て
請求 ....................................... 65
声紋鑑定 .................................. 431
責問権の放棄 .............................. 332
接見交通権 ................................ 216
接見指定 .................................. 222
説明写真 .................................. 426
善意の例外 ................................ 498
全件送致主義の原則 ........................ 239
宣誓義務 .................................. 413
DNA鑑定 ................................ 435
提示命令 .................................. 411
提出命令 .................................. 117
適正手続 ................................... 11
デュー・プロセス .......................... 184
伝聞証拠 .........................443, 445, 446
伝聞証人 .................................. 480
伝聞法則 ............................. 374, 443
伝聞例外 .................................. 452
そ
と
訴因 ............................ 261, 282, 307
訴因共通説 ................................ 290
訴因の特定 ................................ 273
訴因変更 .................................. 280
訴因変更の可否 ............................ 288
訴因変更の要否 ............................ 282
訴因変更命令 .............................. 297
増強証拠 .................................. 374
捜査 ....................................... 47
捜索 ................................. 117, 120
捜査の端緒 ................................. 61
捜査の目的 ................................. 48
捜査比例の原則 ............................. 51
相対的排除説 .............................. 494
相当説 .................................... 137
相反供述 .................................. 457
訴訟行為 .................................. 330
訴訟指揮 .................................. 327
訴訟条件 ............................. 300, 398
訴訟条件の追完 ............................ 305
訴訟費用 .................................. 554
同意書面 .................................. 483
同意録音 .................................. 166
当事者主義 ............................ 17, 324
当事者対等主義 ............................ 324
当事者録音 ................................ 166
盗聴 ...................................... 162
当番弁護士制度 ............................ 215
毒樹の果実 ........................... 499, 502
特信情況 ............................. 460, 464
特信文書 .................................. 479
特別司法警察職員 ........................... 29
独立源の法理 .............................. 500
独立代理権 ................................. 36
土地管轄 ................................... 22
取調受忍義務 .............................. 172
な
内部的成立 ................................ 544
に
二重起訴の禁止 ............................ 267
任意性 ............................... 483, 517
は-ろ/事項索引
任意性説 .................................. 510
任意捜査 .............................. 54, 184
任意捜査の原則 ............................. 50
任意同行 .................................. 186
任意の取調べ .............................. 188
人証 ...................................... 375
は
罰条の変更 ........................... 287,
犯意誘発型 ................................
判決 ......................................
判決の宣告 ................................
反証 ......................................
反対尋問 ..................................
300
192
542
354
375
415
ひ
被害者 ..................................... 37
被疑者 ..................................... 31
被疑者取調べ ......................... 170, 173
非供述証拠 ................................ 374
被告人 ................................ 31, 350
被告人勾留 ................................. 94
被告人質問 ................................ 418
被告人の特定 .............................. 268
被告人の取調べ ............................ 178
微罪処分 .................................. 239
非常手続 .................................. 567
筆跡鑑定 .................................. 432
必要的弁護 ................................. 34
必要的弁護事件 ............................ 350
必要な処分 ................................ 126
ビデオリンク方式 ........................... 39
非伝聞 .................................... 448
ふ
不可避的発見の例外 ........................
不起訴処分 ................................
物証 ......................................
物的証拠 ..................................
不特定認定 ................................
不任意自白 ................................
不利益推認の禁止 ..........................
498
243
375
375
546
513
210
へ
併合起訴 ..................................
別件基準説 ................................
別件捜索・差押え ..........................
別件逮捕・勾留 ....................... 108,
弁護人 ................................ 33,
弁護人依頼権 ..............................
弁護人接見 ........................... 216,
弁護人選任権の告知 ........................
弁論主義 ..................................
弁論の分離 ................................
弁論の併合 ........................... 356,
528
110
147
174
350
214
218
215
323
356
528
ほ
包括的黙秘権 .............................. 200
法定管轄 ................................... 22
法廷警察 .................................. 329
法定証拠主義 .............................. 391
冒頭陳述 .................................. 409
冒頭手続 .................................. 352
法律上の推定 .............................. 403
法律的関連性 ......................... 376, 421
補強証拠 ............................. 521, 536
補強証拠適格 .............................. 526
補強証拠能力 .............................. 538
補強の程度 ................................ 525
補強法則 .................................. 521
補強を要する事実の範囲 .................... 523
補佐人 ..................................... 37
保釈 ...................................... 334
補償 ...................................... 554
補助証拠 .................................. 374
補正 ...................................... 332
ポリグラフ検査 ...................204, 434, 517
本件基準説 ................................ 110
本証 ...................................... 375
ま
麻酔分析 .................................. 205
む
無罪判決 .................................. 553
め
命令 ...................................... 542
免訴 ...................................... 304
も
毛髪鑑定 .................................. 433
黙秘権 .................................... 200
ゆ
有罪判決 .................................. 545
誘導尋問 .................................. 415
よ
要証事実 ..................................
余罪 .............................227, 336,
余罪捜査 ..................................
余罪取調べ ................................
余事記載 ..................................
予断排除の原則 ............................
予備的記載 ................................
374
439
174
174
265
261
277
り
利益原則 ..................................
立証趣旨 ..................................
略式手続 ............................. 271,
略式命令 ..................................
量刑 ......................................
領置 ................................. 117,
397
411
359
360
552
148
れ
令状主義 ...........................50, 79, 118
令状主義潜脱説 ............................ 176
ろ
録音テープ ................................ 426
論告 ...................................... 354
判例索引/最高裁判所
判例索引
最高裁判所
最判昭 23.5.5 ............................... 23
最大判昭 23.5.26 ........................... 565
最判昭 23.7.14 ............................. 400
最大判昭 23.7.19 ........................... 513
最大判昭 23.7.29 ........................... 522
最判昭 23.10.30 ....................... 523, 526
最判昭 24.2.22 ............................. 390
最判昭 24.4.30 ............................. 524
最大判昭 24.7.13 ........................... 359
最判昭 24.12.13 ............................ 492
最判昭 25.7.12 ............................. 526
最決昭 25.9.30 ............................. 479
最判昭 25.11.21 ....................... 206, 515
最判昭 26.6.15 ............................. 284
最判昭 27.3.5 .............................. 266
最大判昭 27.4.9 ............................ 462
最判昭 27.5.6 ......................... 376, 418
最決昭 28.3.5 .................... 196, 238, 284
最判昭 28.5.29 ............................. 290
最決昭 28.9.30 ............................. 284
最判昭 28.10.9 ............................. 389
最判昭 28.10.15 ............................ 477
最決昭 28.11.20 ............................ 284
最判昭 29.1.21 ............................. 293
最判昭 29.1.28 ............................. 283
最決昭 29.5.4 .............................. 524
最判昭 29.5.14 ........................ 291, 293
最決昭 29.7.14 ............................. 314
最決昭 29.7.15 .............................. 69
最判昭 29.7.16 ............................. 209
最決昭 29.7.28 ............................. 463
最判昭 29.8.20 ............................. 284
最判昭 29.9.12 ............................. 483
最判昭 29.9.24 ............................. 333
最決昭 29.11.11 ............................ 458
最判昭 29.12.2 ............................. 479
最判昭 29.12.17 ............................ 284
最判昭 30.1.11 ............................. 466
最決昭 30.1.25 ............................. 485
最判昭 30.9.13 ............................. 383
最決昭 30.11.22 ............................ 122
最判昭 30.11.29 ............................ 466
最判昭 30.12.9 ............................. 451
最大判昭 30.12.14 ........................... 88
最判昭 31.3.27 ............................. 479
最判昭 31.4.12 ............................. 309
最判昭 31.5.17 ............................. 382
最判昭 31.7.17 ............................. 329
最判昭 32.1.22 ............................. 482
最大判昭 32.2.20 ................. 202, 203, 206
最判昭 32.7.19 ............................. 512
最判昭 32.7.25 ............................. 477
最判昭 32.9.30 ............................. 464
最決昭 32.11.2 ............................. 527
最判昭 33.1.23 ............................. 332
最判昭 33.2.13 ............................. 409
最判昭 33.2.21........................ 292, 293
最大決昭 33.2.26........................... 385
最判昭 33.5.20............................. 264
最大判昭 33.5.28........................... 384
最判昭 33.5.28........................ 537, 552
最大決昭 33.7.29...................... 123, 124
最判昭 34.12.11............................ 291
最決昭 35.2.11............................. 284
最判昭 35.9.8.............................. 472
最判昭 36.3.9.............................. 461
最判昭 36.5.26............................. 474
最大判昭 36.6.7...................140, 141, 504
最判昭 36.6.13............................. 283
最決昭 36.11.21............................ 179
最大判昭 37.5.2............................ 210
最決昭 37.6.26.............................. 64
最大判昭 37.11.28.......................... 275
最判昭 38.9.13............................. 514
最判昭 38.10.17............................ 451
最大判昭 40.4.28........................... 299
最決昭 40.12.24....................... 282, 284
最決昭 41.2.21............................. 432
最決昭 41.4.14.............................. 86
最決昭 41.6.10............................. 382
最判昭 41.7.1.............................. 513
最判昭 41.7.21........................ 258, 259
最決昭 41.7.26........................ 227, 229
最決昭 41.11.22............................ 439
最決昭 42.5.19............................. 314
最大判昭 42.7.5....................... 440, 441
最判昭 42.8.31............................. 297
最判昭 42.12.21............................ 525
最決昭 43.2.8.............................. 435
最判昭 43.10.25............................ 491
最決昭 43.11.26............................ 299
最決昭 44.3.18........................ 120, 237
最決昭 44.4.25........................ 347, 348
最決昭 44.7.14............................. 337
最決昭 44.10.2............................. 264
最大判昭 44.12.24.......................... 161
最判昭 45.11.25....................... 511, 513
最判昭 46.6.22............................. 284
最決昭 46.7.30............................. 553
最判昭 47.5.30............................. 317
最判昭 47.6.2.............................. 475
最決昭 47.7.25............................. 292
最大判昭 47.11.22.......................... 209
最大判昭 47.12.20.......................... 326
最判昭 48.3.15............................. 310
最決昭 48.10.8.............................. 24
最判昭 50.4.3............................... 84
最判昭 50.5.30............................. 273
最判昭 50.10.24............................ 406
最決昭 51.3.16............ 56, 58, 185, 190, 196
最判昭 51.10.28............................ 540
最判昭 51.11.4............................. 544
最判昭 51.11.18....................... 127, 147
最決昭 52.8.9.............................. 111
最決昭 53.2.16............................. 288
高等裁判所・地方裁判所/判例索引
最決昭 53.3.6 .............................. 292
最判昭 53.6.20 .............................. 72
最決昭 53.6.28 ............................. 487
最決昭 53.7.3 .............................. 181
最判昭 53.7.10 ................... 218, 223, 230
最判昭 53.9.7 ............73, 492, 494, 495, 511
最決昭 53.9.22 .............................. 69
最判昭 53.10.20 ............................ 255
最判昭 54.7.24 .......................... 34, 35
最決昭 54.10.16 ............................ 483
最決昭 55.3.4 ......................... 283, 284
最決昭 55.4.28 ........................ 229, 238
最決昭 55.5.12 ............................. 319
最決昭 55.9.22 .............................. 77
最決昭 55.10.23 .................. 153, 154, 157
最決昭 55.11.18 ............................ 213
最決昭 55.12.17 ............................ 257
最決昭 56.4.25 ............................. 276
最決昭 56.7.14 ........................ 318, 319
最決昭 57.5.25 ............................. 395
最決昭 57.8.27 ............................. 113
最決昭 57.12.17 ............................ 458
最決昭 58.5.6 .............................. 546
最判昭 58.6.22 .............................. 90
最決昭 58.6.30 ............................. 467
最判昭 58.7.12 ............................. 520
最判昭 58.9.6 .............................. 299
最決昭 58.12.19 ............................ 387
最判昭 59.1.27 ............................. 245
最決昭 59.2.29 ........................ 189, 190
最決昭 59.12.21 ............................ 424
最決昭 60.11.29 ............................ 271
最判昭 61.2.14 ............................. 161
最決昭 61.3.3 .............................. 479
最判昭 61.4.25 ........................ 496, 502
最決昭 62.3.3 .............................. 434
最決昭 63.2.29 ........................ 315, 316
最決昭 63.9.16 ............................. 496
最決昭 63.10.25 ............................ 295
最決平元.1.23 ............................. 514
最大判平元.3.8 ............................ 323
最判平元.6.29 ............................. 254
最決平元.7.4 .............................. 190
最決平元.9.26 .............................. 69
最決平 2.6.27 .............................. 136
最決平 2.7.9 ............................... 119
最判平 2.12.7 .............................. 310
最判平 3.5.10 ......................... 223, 232
最判平 3.5.31 ......................... 230, 233
最決平 6.9.8 ............................... 131
最決平 6.9.16 ..................... 69, 156, 502
最大判平 7.2.22 ....................... 203, 469
最決平 7.3.27 .............................. 351
最判平 7.6.20 .............................. 464
最判平 8.1.29 .......................... 87, 143
最決平 8.10.29 ............................. 497
最判平 9.1.30 .............................. 206
最決平 10.5.1 .............................. 133
最大判平 11.3.24 ............. 33, 198, 218, 224
最決平 11.12.16 ........................ 58, 165
最判平 12.6.13 ........................ 224, 225
最決平 12.7.17 ............................. 436
最決平 12.10.31 ............................ 469
最決平 13.4.11........................ 283, 285
最決平 14.10.4............................. 125
最判平 15.2.14........................ 501, 502
最判平 15.10.7............................. 561
最決平 16.7.12........................ 191, 194
最決平 17.9.27............................. 475
最判平 18.11.7............................. 489
最決平 18.11.20............................ 320
最決平 18.12.8............................. 457
最決平 19.2.8.............................. 127
最決平 19.10.16....................... 392, 406
最決平 20.3.5............................... 43
最決平 20.4.15............................. 162
最決平 20.8.27............................. 473
最決平 20.9.30............................. 343
最決平 21.9.28............................. 149
最判平 22.4.27............................. 392
最決平 22.7.2.............................. 344
最決平 22.12.20............................ 335
最大決平 23.5.31............................ 24
最決平 23.8.31............................. 347
最決平 23.9.14............................. 425
最判平 23.10.20............................ 469
最判平 24.2.13.............................. 26
最決平 24.2.29............................. 287
最判平 24.9.7.............................. 438
最決平 24.12.17............................ 442
最決平 25.2.20............................. 438
最決平 25.2.26............................. 425
最決平 25.3.18............................. 344
最決平 25.4.16.............................. 26
最決平 25.10.21............................. 26
高等裁判所・地方裁判所
東京高判昭 26.1.30......................... 526
横浜地判昭 26.6.19......................... 195
札幌高函館支判昭 26.7.30 ................... 459
東京高決昭 28.7.14......................... 164
東京高判昭 31.5.29......................... 526
東京地決昭 35.5.2........................... 98
大阪高判昭 35.5.26......................... 514
岐阜地決昭 38.5.22......................... 228
大阪高判昭 38.9.6....................... 76, 77
東京地判昭 38.11.28......................... 35
東京高判昭 41.6.28.......................... 85
東京高決昭 41.6.30......................... 205
福岡高決昭 42.3.24.................... 101, 103
神戸地決昭 43.7.9........................... 99
金沢地七尾支判昭 44.6.3 .................... 110
東京高判昭 44.6.20......................... 141
京都地決昭 44.11.5.......................... 86
岐阜地決昭 45.2.16......................... 101
仙台高判昭 47.1.25......................... 158
東京地決昭 47.4.4.......................... 106
東京地決昭 47.12.1.......................... 95
旭川地決昭 48.2.3.......................... 110
浦和地決昭 48.4.21......................... 107
大阪高判昭 49.3.29......................... 127
仙台地決昭 49.5.16......................... 103
福岡高決昭 49.10.31........................ 102
東京地決昭 49.12.9......................... 173
判例索引/高等裁判所・地方裁判所
大阪高判昭 50.11.19 ......................... 89
福岡高那覇支判昭 51.4.5 .................... 296
大阪高判昭 52.6.28 ......................... 518
東京地決昭 53.9.21 ......................... 469
東京高判昭 53.11.15 ........................ 143
東京高判昭 54.2.7 .......................... 491
東京高判昭 54.5.8 .......................... 433
大阪地決昭 54.5.29 ......................... 168
富山地決昭 54.7.26 .................... 188, 190
東京高判昭 54.8.14 .......................... 99
函館地決昭 55.1.9 .......................... 144
東京地決昭 55.1.11 ......................... 168
東京高判昭 55.2.1 .......................... 432
東京地決昭 55.3.26 .................... 426, 505
大阪高判昭 56.11.24 ........................ 297
広島高判昭 56.11.26 ........................ 147
名古屋地決昭 57.8.5 ........................ 232
大阪高判昭 57.9.27 ......................... 266
東京高判昭 57.10.15 ........................ 196
東京地決昭 57.11.29 ........................ 232
東京高判昭 58.1.27 ......................... 446
東京高判昭 58.7.13 .................... 426, 429
名古屋高判昭 58.8.10 ....................... 249
東京地判昭 58.9.30 ......................... 305
札幌高判昭 58.12.26 ........................ 145
高松高判昭 59.1.24 ......................... 561
東京高判昭 59.4.27 ......................... 203
旭川地判昭 60.3.20 ......................... 181
大阪高決昭 60.8.20 ......................... 269
東京高判昭 60.10.18 ........................ 193
東京高判昭 60.12.13 ........................ 515
大阪高判昭 61.1.30 ......................... 516
札幌高判昭 61.3.24 ......................... 552
福岡高判昭 61.4.28 .................... 176, 177
東京高判昭 62.1.28 ......................... 383
名古屋高判昭 62.9.7 ........................ 246
東京高判昭 62.12.16 ........................ 193
東京地判昭 62.12.16 ........................ 513
東京高判昭 63.4.1 .......................... 162
東京高判昭 63.11.10 ........................ 462
大阪高判平元.3.7 .......................... 295
東京高判平 2.8.29 .......................... 155
浦和地判平 2.10.12 ............... 111, 175, 177
浦和地判平 3.3.25 .......................... 514
千葉地判平 3.3.29 .......................... 166
浦和地判平 3.9.26 .......................... 505
東京高判平 3.10.29 ......................... 441
大阪高判平 3.11.6 .......................... 133
大阪高判平 3.11.19 ......................... 516
福岡地判平 3.12.13 ......................... 220
東京高判平 4.10.14 ......................... 548
東京高判平 4.10.15 ......................... 164
福岡高判平 5.3.8 ........................... 140
東京高判平 5.10.21 ......................... 467
福岡高判平 5.11.16 ......................... 221
大阪高判平 6.4.20 ..................... 125, 126
福岡高判平 7.8.30 .......................... 497
大阪高判平 8.11.27 ......................... 485
札幌高判平 9.5.15 ........................... 52
名古屋高判平 10.1.28 ....................... 442
東京高判平 10.6.8 .......................... 549
千葉地判平 11.9.8 .......................... 515
東京高判平 14.9.4 .......................... 501
名古屋高金沢支判平 20.6.5 .................. 344
東京高判平 20.11.18........................ 343
東京高判平 22.1.26......................... 387
宇都宮地判平 22.3.26 ....................... 436
東京高判平 22.5.26.......................... 26
東京高判平 22.5.27......................... 462
東京高判平 22.11.8.......................... 69
東京高判平 23.3.29......................... 438
名古屋高金沢支判平 24.7.3 ................... 63
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