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サイエンス・レクチャーレポート(講義内容のまとめ)

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サイエンス・レクチャーレポート(講義内容のまとめ)
SL2009 レポート第1号
2009.10.27
伊丹北高校進路部
サイエンス・レクチャーを略してSLとします。全6回のレクチャーのうち3回分の報告をSL2009
レポート第1号としてまとめました。間違いや疑問点があれば、進路部木村まで申し出てください。生
徒の受講者による受講レポートといっしょにお読みください。
さて、第 1 回講師の酒井先生には自著である『地球学入門』(東海大学出版会)を寄贈していただき
ました。ありがとうございました。この本は大学1・2年のテキストとしてよく使用されており、様々
な写真や図表が多く、興味深い本です。進路指導室で貸し出します。この『地球学入門』と本校図書館
にある岩波書店『KAGAKU no ZITEN』や各種百科事典、皆さんが使用している教科書等より基本的な用
語を解説します。
プレートテクトニクス:地球の半径は約 6400km であるが、地殻(深さ 7~40 km)、マントル(深さ
2900 km)、外核(深さ 5100 km)、内核(深さ 6400 km)の層構造をなしている。地殻とマントル最上
部の厚さ 100km 程度の硬い部分をプレート(リソスフェアー)といい、その下の融解していて軟らか
い部分をアセノスフェアー(岩流圏)という。「プレートが軟らかいアセノスフェアーの上を年間 1
~10cm の速度で運動しており、プレートが相互に接する境界部分で地震や火山、造山運動などの地殻
変動が発生している。しかし、プレートそのものはほとんど変形しない」というのがプレートテクト
ニクスの考え方である。
プルーム:マントル内の大規模な対流運動をプルームという。plume は帽子の羽飾り、羽毛のように
上がる煙などを意味する。マントルは深さ 2900km 程度であるが、その中を下降するプルーム(コー
ルドプルーム)と上昇するプルーム(ホットプルーム)がある。
トラフ:細長いが、海溝よりは幅が広く浅い海底のくぼみ。舟状海盆ともよばれる。たとえば、南海
トラフは、最深部で 5000mもないが、深くない深発地震を伴っており、プレートの沈み込みによって
できた海溝と同じ性格を持っている。
(数学Ⅱの教科書より)マグニチュード:地震の大きさを表す数値としてマグニチュードが用いられ
る。震源から放出される地震波のエネルギー E ジュールと、マグニチュード M の間には
log10 E = 4.8 + 1.5M の関係がある。 M が1だけ大きくなると、 E は 101.5 = 10 10 倍、すなわち約
31.26 倍になる。 M が2だけ大きくなると、 E は 10 3 = 1000 倍となる。
(地図帳より)裏表紙に「世界の自然環境」として海溝・海嶺、地震と火山、プレート、地球内部の
動き等の図がある。また、P128 に大陸の移動、地球の歴史の図表がある。
回
1
月日
講 師
内 容
9.11
地球生物圏史
ヒマラヤ山脈の誕生とモンスーン気候の始まり
(金)
酒井 治孝 教授
酒井先生は小学生のころ学校の先生からヒマラヤ山脈のことを聞いて興味を抱き、それが現在の研
究の原点だと話されました。1998 年に研究チームを率いてヒマラヤ山脈に行かれ、そのときに採集さ
れた最高峰エベレスト(標高 8848m)の岩石片も展示してもらい、実物を見ることができました。ま
た、化石の標本や断層の写真等も展示していただきました。様々な写真や図表を再現することができ
なくて残念ですが、レクチャーの要旨を掲載します。
モンスーンは夏と冬、季節によって風向が変わる風であるが、アジアの気候システムの中核をなす
のがモンスーンで、モンスーン気候がもたらす多雨と高温は、南・東アジアの稲作には不可欠で、そ
こに住む 30 億あまりの人々の食生活を支えている。アジアはモンスーンの恩恵を受ける「湿潤アジア」
と、中央・西アジアのように農業に灌漑が必要な「乾燥アジア」にわけられる。アジアのモンスーン
のメカニズムにはヒマラヤ山脈が影響している。平均高度 5000mのヒマラヤ・チベット山塊の岩石が
夏には熱源として、冬には雪と氷に覆われた冷源として、南・東アジアのモンスーンをもたらす。ま
た、南のインド洋からの暖かい空気、北のシベリアからの冷たい空気をさえぎる衝立となっている。
そのヒマラヤ山脈は、約 5000 万年前のインドプレートとユーラシアプレートの衝突による造山運動か
ら生じた。インドプレートの速い動きによって海底の堆積層が隆起し、インドとユーラシアの間にあ
ったテチス海を閉ざした。これらの堆積岩は軽かったのでプレートの下に沈まずに山脈を形成した。
かつて海だった証拠として、高山地帯に貝などの化石がある。中国は 4000 万年ころまでは乾燥してい
たが、ヒマラヤ山脈が高くなりモンスーンが発生して湿潤な気候になった。インドプレートは現在も
動いており、この近辺では地震が多い。2008 年の四川地震もその例である。そのときの断層のずれ方
は 1995 年の兵庫県南部地震と似ている。
回
2
月日
講 師
内 容
9.18
固体地球物理学
今後 30 年以内に発生すると予測される
(金)
平原 和朗 教授
南海トラフ巨大地震とは?
平原先生は理学部に入学して物理を勉強し、相対性理論や量子力学等は難しいと思ったが、弾性波
動論や複素関数論は得意だったので、地震の研究をすることにされたそうです。そのころ、地震の研
究者は少なかったようです。地震の研究は計算機にたよることが多く、今ではスーパーコンピュータ
を使うようになっています。地震波の伝播のシュミレーション映像なども豊富で、興味深いレクチャ
ーでした。また、緊急地震速報のPR番組もみせてもらい、地震が発生したら自分の頭の上に落ちて
くる物はないか、避難できる経路があるかの確認が大切だとのことでした。
南海トラフ巨大地震は 2050 年、おそらく 2035 年までには発生する。マグニチュード8(M8)以
上の地震が紀伊半島沖を震源として起きる。今起きると経済的な影響が大きいので対策を考えなけれ
ばいけない。最近は大地震が多く、地震学上重要な時代である。プレートの境界で地震が発生するが、
地震が多い地域では名水が出る等のメリットもある。地震について研究するには、岩石・断層を調べる
地質学的方法、GPSで観測されるプレート運動を調べる方法、CT(コンピュータ断層撮影)のよ
うに地球を輪切りにして地球内部の3次元構造を考える方法などがある。海底の地形の研究も進んで、
中央海嶺ではマントル物質が湧き出し、海溝ではプレートが沈み込んでいて、2億年より古い海底が
ないこともわかった。3次元構造でのコールドプルーム、ホットプルーム等のマントル対流によりプ
レートが移動し、地震を発生させるエネルギーが蓄積する。数億年のスケールでは大陸が分裂してき
たが、それをもたらすプレートの移動により、数百年単位で大地震が繰り返し発生している。日本列
島は4つのプレート(ユーラシア・北米・太平洋・フィリピン海プレート)が接していて地震が多い。日
本においては古文書が多く、南海トラフ巨大地震については 684 年白鳳から 1854 年安政までほぼ 200
年おきに発生していることがわかる。そして、南海トラフ巨大地震の発生 50 年前から後 10 年間近畿
から中国地方東部において内陸地震が活発化する傾向がある。地震への対策としては建造物の耐震化
が重要だが莫大なコストがかかる。地震予知については現在はまだ十分とは言えないが、数年単位で
進化しており、今後の課題である。
回
3
月日
講 師
内 容
9.25
地球物質科学
大陸衝突帯の秘密:地下 100km からの手紙
(金)
平島 崇男 教授
平島先生は 1983 年大学院生のとき、スピッツベルゲン調査隊に参加したこととその年に超高圧変成
岩が発見されたことが現在の研究に繋がっており、若い時の出会いが大きいと話されました。スピッ
ツベルゲン島は北極海に浮かぶノルウェー領の島で 7・8 月の 40 日間、氷河に囲まれた露岩地帯の地質
調査を行い、4憶6千年前の古大西洋の消滅に伴うカレドニア造山運動で形成された変成岩の地質図
を作成されたそうです。その帰路、アメリカ・スタンフォード大学でのペンローズ会議に参加し、そ
こで超高圧変成岩発見の報告に接し、それ以降、岩石学にエキサイトしているとのことでした。
地球の構成は大気・海洋・岩石圏からなり、岩石圏は地殻・マントル・コア(核)からなる。大陸
の地殻は花崗岩(御影石)が、大洋の地殻は玄武岩がほとんどである。そして、上部マントルに多い
カンラン岩は隕石に似ており、コアは金属流体の状態でそれが地磁気のもとである。火成岩の分類は、
二酸化ケイ素濃度により暗色( SiO2 45%~)、中間(52%~)、明色(65%~)の3つの色調に区分できる。
さらに色調ごとに、粒子サイズによって、火山岩(細粒)
・半深成岩・深成岩(粗粒)の3区分があり、
3
合計9種類に分類される。色調と密度には相関があり、明色粗粒の花崗岩は密度 2.75 g / cm 、暗色細
3
3
粒の玄武岩は 3.00 g / cm 、暗色のカンラン岩は 3.30 g / cm である。変成岩とは地表(低温低圧)で安
定な岩石が、地下(高温高圧)の物理条件で固体状態のまま変化したものである。海洋底の玄武岩の沈
み込みでは、沈み込む深さ・温度圧力の条件でエクロジャイト相とブルーシスト相に分かれる。また、
変成作用では石墨が 1000℃、100kbar の条件でダイヤモンドの結晶に相転移する例もある。そして、
地殻物質が 100km 以上の深さで変成し、再び地表まで上昇したものが超高圧変成岩であり、石英が変
成したコース石、石墨が変成したダイヤモンド等の鉱物が含まれていることが指標になる。1983 年に
ショパンとスミスにより発見され、その後中国等でも発見され、現在では 20 か所ほどで見つかり、大
陸衝突帯では普遍的な地質現象と考えられている。マントル物質より重い超高圧変成岩がなぜ地表に
分布しているのかが問題だが、圧力による片麻岩の密度変化が上昇の駆動力とし作用すると考えられ
る。さて、ショパンの超高圧変成岩の発見は、最も古くから研究されていたイタリアアルプス造山帯
の地道なフィールドワークで偶然見つかった。
「偶然の発見」に気付き、それを「科学」とするために
は、地球科学の知識にとどまらず物理学・化学・生物学の多様な知識が役立つ。地道な努力と幅広い
知識は大切である。そして、フィールドワークで研究していくには考える力と体力が必要である。
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