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地球温暖化対策に貢献する 原子力の革新的技術開発

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地球温暖化対策に貢献する 原子力の革新的技術開発
第31回原子力委員会
資 料 第 2 - 1 号
地球温暖化対策に貢献する
原子力の革新的技術開発ロードマップ
(案)
平成20年7月15日
原子力委員会
目 次
はじめに ····················································· 1
1.基本的な考え方 ············································· 2
(1)地球温暖化対策における原子力発電の位置づけ················ 2
(2)地球温暖化対策の一つとしての原子力························ 2
(3)
「原子力の革新的技術開発ロードマップ」について············· 5
(参考)原子力技術によるCO2排出の削減について················· 7
2.原子力の技術開発が目指す地球温暖化対策への貢献のあり方 ······ 10
(1)地球温暖化対策に貢献する原子力技術のビジョン·············· 10
(2)ビジョンの実現に必要なシステムの性能要求·················· 11
(3)ビジョンを実現できる技術システムの候補···················· 14
(4)まとめ ··················································· 16
3.原子力分野における革新的技術開発のロードマップ·············· 18
(1)軽水炉の高度利用(短期的観点から取り組む技術開発活動) ····· 18
(2)中期的観点から取り組む技術開発活動························ 20
(3)長期的観点から取り組む技術開発活動························ 20
(4)原子力の核熱利用の実現を目指す技術開発活動················ 21
(5)原子力の技術開発を持続させるために必要な技術開発活動 ······ 21
(6)革新的エネルギー技術のブレークスルーの実現に·············· 21
貢献する原子力科学技術
4.実現に向けた推進方策、必要な基盤整備等······················ 24
(1)エネルギー技術の外部性の評価活動·························· 24
(2)国民との相互理解の充実···································· 24
(3)科学的・合理的な規制の追求、基準の整備···················· 24
(4)他の分野、民間との連携による実用化、普及の促進············ 24
(5)国際展開、国際協力に向けた取組···························· 24
(6)国の科学インフラの充実···································· 25
(7)技術移転、知識管理と人材育成······························ 25
添付資料-1 地球温暖化対策に貢献する原子力の革新的技術開発 ····· 26
ロードマップに関する検討経緯
添付資料-2 原子力の革新的技術開発のロードマップの策定について · 27
別添資料
課題毎の原子力の革新的技術開発ロードマップ
はじめに
2007 年 6 月にドイツ・ハイリゲンダムで開催された G8 首脳会合では、気候変動問題に
対処するために、2050 年までに世界全体の温室効果ガスの年間排出量を少なくとも半減
することを真剣に検討することが合意された。
また、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、2007 年に発行した第4次評価報告
書では、気候変動の影響を削減し、遅らせ、回避するために達成を目指すべき温室効果
ガスの大気中濃度について、複数の安定化レベルを示しており、うち最も低いレベル(二
酸化炭素換算濃度 445~490ppm)に大気中濃度を安定化させ、全球平均の気温上昇を産業
革命以前比で 2~2.4℃に抑えるには、年々増大しつつある世界の温室効果ガス排出量を
10~15 年以内に減少に転じさせ、2050 年頃には 2000 年の排出量の半分以下にすること
が必要であるとしている。
このような大きな削減を経済社会に破局をもたらすことなく実現するには、全ての国
において、持続可能な社会を目指す技術と社会のイノベーションを実現する取組が迅速
かつ精力的に進められる必要がある。
原子力委員会は、従来より「原子力政策大綱」
(平成 17 年 10 月 原子力委員会決定)
において、エネルギーの安定供給の確保と地球温暖化対策に貢献している原子力は、今
後ともその役割を増大させていくべきであるとの考え方を示してきている。
今般、原子力委員会では、地球温暖化対策に貢献する原子力技術の研究・技術開発活
動に関して、目指すビジョン、研究開発に取り組むべき技術システムと技術システムに
求められる性能、ビジョンの実現に向けた取組の道筋等を検討し、本報告書をとりまと
めた。本報告書は、2050 年までに温室効果ガスの排出量を半減し、究極的には温室効果
ガスの排出をゼロにすることを目指して策定された「環境エネルギー技術革新計画」
(平
成 20 年 5 月 19 日、総合科学技術会議)と相まって、地球温暖化対策に貢献する研究・
技術開発活動の指針を示すものである。今後、文部科学省、経済産業省等の関係府省に
おいては、本年7月に開催された北海道洞爺湖サミットにおいて、
「2050 年までに世界全
体の温室効果ガス排出量の少なくとも 50%の削減を達成する目標というビジョンを、国
連気候変動枠組条約(UNFCCC)のすべての締約国と共有し、かつ、この目標を UNFCCC の
下での交渉において、これら諸国と共に検討し、採択することを求める」とされたこと
も踏まえて、本報告書の示すところに則って取組を行うべきである。また、原子力分野
の研究者・技術者、環境エネルギー技術の関係者が、研究開発テーマの設定、各分野で
行われている研究開発の連携の模索、原子力技術と社会のイノベーションを目指す施策
の検討等に際して、本報告書を参考にされることを期待する。
1
1.基本的な考え方
(1) 地球温暖化対策における原子力発電の位置づけ
①温室効果ガス排出量が小さいエネルギー源の必要性
人類の福祉の向上のためには、人々がエネルギーを利用できるようにすることが必要
であるが、人類が持続可能な発展を目指すためには、利用できるエネルギーが安全性、
経済性に優れ、社会や環境に悪影響を与えないものでなければならない。
最近に至り、エネルギー供給部門が温室効果ガスの排出量を年々増加させてきたこと
が地球規模の気候変動の主要因と認識されるようになり、排出を抑制しなければ後世代
の人間活動に困難がもたらされるような影響を伴う気候変動が生じることが予見された。
このため、人類社会は、省エネルギー、エネルギー利用の効率化に努めることはもちろ
ん、エネルギー供給部門においても発生エネルギーあたりの温室効果ガス排出量が少な
い技術の採用を重視していくべきであるとされるようになった。
②発電分野における対策の重要性
図 1-1 に示される分野別CO2排出量(直接排出)の推移をみると、発電部門や運輸
部門における排出量の増加が大きく、全体に占める割合も大きくなってきている。特に
発電分野は、排出量が最大の分野であり、現在、世界のCO2排出量の約 3 割を占め、し
かもその割合は着実に増加してきている。このことから、地球温暖化対策の観点から、
以下の取組が急務であるとわかる。
1)電力消費を抑制するために効率の良い電力利用技術の採用を推進すること
2)炭素排出量の少ない発電技術(低炭素発電技術)を導入していくこと
ⅰ)既存施設を低炭素発電技術で置き換えていくこと
ⅱ)増大する電力消費を満たすために発電設備を新設する際にはできるだけ低炭素
電源を導入していくこと
2
図1-1 分野別CO2排出量(直接排出)の推移
発電分野
産業分野
運輸分野
住宅及びサービス
その他
森林伐採
精製所他
国際輸送
年
出典:IPCC第4次評価報告第3WG報告書
各電源のCO2排出特性を比較した図 1-2 によれば、低炭素発電技術として利用可能
な技術としては、①CCS(炭素回収・貯留技術)装置を装備した化石燃料発電技術(ただ
し、まだ実証段階に至っていない。
)
、②原子力発電技術、③水力発電技術、④水力以外
の再生可能エネルギーに基づく発電技術(太陽光発電技術、風力発電等)が挙げられる。
この中で原子力発電は、単位電力発生量当たりのCO2排出量が 3~40g/kWh(キロワッ
ト時)程度1であり、排出量が最も小さい部類に属する。また、原子力発電技術は世界の
発電量の 15%の供給を担っており、16%を担っている水力発電技術と並んで、実用に供
されている低炭素発電技術の中で最も供給規模の大きいものの一つと言える。
1
原子炉の建設資材の製造・輸送、ウラン採掘、濃縮、再処理、廃止措置、放射性廃棄物の管理の各過程に
おいて動力源や熱源として用いた化石エネルギーからの排出量が考慮されている。
3
図1-2 各電源のCO2排出特性
1372
1062
1200
1026
1000
834
774
発電過程からの排出
657
600
469
400
245
104
5
49 15 22
9
15
7
40
3
海上低
陸上高
陸上低
高
低
90
13
海上高
187
200
その他の過程からの排出
499
398
IGCC 高
800
低
Tons of CO2 [eq.t/GWh]
1400
褐炭
亜炭
石炭
重油
天然ガス
太陽光
水力
IGCC 低
高
低
高
CCS
SCR
低
高
CCS
低 NOx
CCS
低
高
低
高
0
バイオ
マス
風力
原子力
各種発電プラントの、ライフサイクル評価に基づくCO2排出原単位算出結果 (高、低:同カテゴリ中のプラントで、最大または最小の値)
(CCS:炭素回収・貯留技術適用プラント)
出典)Comparison of Energy Systems Using Life Cycle Assessment, WEC, 2004より作成
(2)地球温暖化対策の一つとしての原子力
現在、少なからぬ数の国が、エネルギー安定供給確保及び地球温暖化対策の強化の観
点から、原子力発電の規模の増大や新たな導入を検討している。また、IEA の「450 安定
化ケース」においては、省エネルギー技術や化石燃料消費量の少ない民生技術の積極的
採用等と並んで、原子力の積極的な利用の推進が温室効果ガス排出量の削減目標達成の
有力な手段として位置づけられている。
これは、原子力発電は、将来において大規模発電を担うことを目指す他の低炭素発電
技術と比較して、経済的には同程度、若しくは低コストであること、大規模な発電技術
として、その導入、普及に十分な実績があることから、その導入・規模拡大により、確
実に温室効果ガスの削減が可能であると考えられるからである。
しかし、全世界の電力供給のうち原子力発電が担う割合(約 15%)は、この 10 年間程
度あまり変化せず、むしろ低下傾向にある。この理由としては、第一に、急増する電力
需要に対して、多くの国において発電コストが安く、建設期間の短い石炭火力や天然ガ
ス火力が選択される傾向が強かったこと、第二には、原子力発電の安全性に対する人々
の不安感を背景に、ドイツなどいくつかの国で原子力を選択肢としない政策が採用され
4
てきていること、第三には、核拡散や核テロへの懸念から、途上国における原子力発電
所の建設や原子力発電技術の移転に先進国が慎重であったことが挙げられる。
このような事情を踏まえ、今後、原子力発電が地球温暖化対策の有力な手段として世
界で広く利用されていくためには、以下の取組を着実に行っていくことが重要である。
第一は、既設の原子力施設における安全確保である。具体的には、これまでも「人は
誤り、機械は故障する」ことを前提に多重の防護を用意する「深層防護」の考え方に基
づく安全設計と運転管理が行われてきているが、今後とも安全確保に係る様々な活動に
対して、それぞれの安全上の重要度に相応しい資源を配置して取り組む組織文化である
「安全文化」の下でこれらの活動を着実に進めていくことである。
第二は、投資リスクの低減である。具体的には、初期投資の大きさ、建設期間や投資
の回収期間の長さ等に伴う投資リスクの大きさが、原子力発電に対する投資へのハード
ルを高くしているため、標準設計の採用をはじめとする投資リスク低減策を講じること
である。
第三は、平和利用の担保である。具体的には、各国の原子力活動を国際原子力機関
(IAEA)の保障措置活動の下におくこと、核物質の不法移転を防止する核物質防護の枠
組を整備すること、原子力関連資機材・技術について輸出国による輸出管理の取組を行
うこと、これらに関する国際的な取組のあり方を点検し、必要に応じて強化していくこ
とである。
(3)
「原子力の革新的技術開発ロードマップ」について
原子力発電については、我が国産業がその技術的能力を涵養してきているからといっ
て、もはや研究開発に対する公的投資が不要ということにはならない。その理由として、
第一には、高レベル放射性廃棄物の処分を進めるためには、安全な処分が実現できるこ
とについて国民の理解を得ていくことが最大の課題であり、高レベル放射性廃棄物の処
分に係る知見を充実するための研究開発が必要とされていることである。
第二には、高経年化対策に関する研究開発が必要とされていることである。既設の軽
水炉については、運転時間が30 年を超えたものが出てきており、安全を確保するための
機器類の点検、整備等を行うことで 60 年は運転できると考えられているものの、安全性
を確実に確保できることを確認していく観点から研究開発が必要とされている。
第三には、社会の進歩や技術の普及に伴って、技術に対する社会からの要求は高度化
することから、原子力エネルギー供給技術が、将来の市場においても長期にわたる安定
したエネルギー供給技術として評価されるように、その性能を高度化するための研究開
発や新しい市場の獲得を可能とするような革新技術を目指す研究開発を絶えず実施して
いくことが必要とされることである。
5
そこで、本報告書においては、今後、原子力が地球温暖化対策に貢献していくために
は引き続き原子力分野の研究開発が必要であるとの認識に立って、研究開発に関る関係
者の間で開発目標等についての共通認識を得るため、まず、原子力の技術開発が目指す
べきビジョンを考察し、ついで、ビジョンの実現に向けた取組の道筋(ロードマップ)
等を取りまとめる。各章の構成は以下のとおり。
1)地球温暖化対策に貢献するために原子力の技術開発が目指すべき5つのビジョン
を提示する。
(第2章(1)
)
2)ビジョンの実現を担う技術システムの性能として、4つの要求事項を提示する。
(第2章(2)
)
3)ビジョンの実現のために研究開発活動に取り組むべき技術システムを整理する。
(第2章(3)
)
4)各技術システムを技術開発の計画期間等で分類し、ビジョンを実現するためのロ
ードマップを明らかにする。
(第3章)
5)ロードマップに示す取組を推進する際の留意事項等を明らかにする。
(第4章)
ロードマップ等を明らかにすることにより、関係者の連携協力によって、技術の実用
化に至る研究開発が効果的、効率的に実施される可能性が高まり、また、市場に供給さ
れる技術やその時期が明らかにされることで、関係者が市場における革新を実現するた
めの戦略を共同して開発することが可能になることを期待するものである。
6
(参考)原子力技術によるCO2排出の削減について
(1)原子力技術によるCO2排出削減状況
① 我が国におけるCO2排出削減への貢献
現在、我が国において稼働中の原子力発電所は、ベースロード電源(電源供給
の基礎部分を担う電源)として年間 3,062 億 kWh の電気を供給している(2005 年
度)
。これを LNG 火力発電所で供給するとすれば、我が国の年間CO2 排出量は、
1 億 27 百万トン、約 1 割増加することになる。
② 世界におけるCO2排出削減への貢献
現在、世界で稼働中の原子力発電所は、設備容量の合計が 3 億 7000 万 kW、年
間発電量は 2 兆 6580 億 kWh となっている(2005 年)
。この電力量を LNG 火力発電
で供給するとすれば、世界の年間CO2排出量は 11 億トン、約 4%増加すること
になる。
(2)短・中期のCO2排出削減ポテンシャル
① 我が国における設備利用率の向上による貢献
我が国の原子力発電所の設備利用率は、現在のところ 69.9%(2006 年度)で
あるが、欧米主要国(仏を除く)では 90%程度で運転されている。したがって、
仮に、
我が国の原子力発電所の設備利用率を20%引き上げて運転でき、
その分 LNG
火力や石炭火力発電による供給を減らすことが出来れば、年間CO2排出量を
5,000 万トン程度削減できる。
② 我が国における建設中の原子力発電所の運転開始による貢献
135 万 kW の原子力発電所を増設して設備利用率 90%で運転することとし、
その
分、火力発電による供給を減らすことができれば、年間CO2排出量を 600 万トン
程度削減できる。そこで、現在建設中及び安全審査中のプラント 5 基すべてが運
転を開始し、同規模の火力発電の運転を停止することができれば、年間CO2排出
量を 3,000 万トン程度削減できる。
③ 世界における設備利用率の向上による貢献
世界の原子力発電所の設備利用率の平均は、84%(2006 年)であるが、欧米主
要国(仏を除く)では 90%程度で運転されている。仮に、すべての原子力発電所
の設備利用率を 90%程度に引き上げ、その分 LNG 火力や石炭火力による発電を減
らすことが出来れば、年間CO2排出量を 8,000 万トン程度削減できる。
④ 世界における建設中の原子力発電所の運転開始による貢献
7
135 万 kW の原子力発電所を増設して、その分 LNG 火力や石炭火力による発電を
減らすことができれば、年間 600 万トン程度のCO2の排出削減が実現する。そこ
で、世界で現在建設中の 34 基、2,780 万 kW の原子力発電所が運転を開始し、そ
の分、火力発電所の運転を停止することができれば、世界の年間CO2排出量を約
1 億 2 千万トン、0.5%削減することができる。
(3)中・長期のCO2排出削減ポテンシャル
① 世界の原子力発電によるCO2排出削減ポテンシャル
IEA の World Energy Outlook 2007 は、標準シナリオの場合、2030 年における
世界の年間CO2排出量は約 420 億トンに達するとしている。これに対して、人類
が IPCC の評価による最も低い温室効果ガス安定化レベルである 450ppm を目指し
て地球温暖化対策に取り組む場合には、2030 年の世界全体の一次エネルギー需要
を現状の約1.2倍に抑え、
年間CO2排出量を230億トンに留める必要があるとし、
そのためには、省エネルギーを大胆に進めるとともに、再生可能エネルギーを現
状の約 2.1 倍、原子力を現状の約 2.4 倍に増やして一次エネルギーの約 12%を担
うようにする必要があるとしている(450 安定化ケース)
。この場合、原子力発電
による電力供給量は2030年で6兆5600億kWhと標準ケースに比べて2倍となる。
これが実現した場合、相当する電力量を火力発電(LNG)で供給した場合と比較し
て、年間CO2排出量を 27 億トン2削減できることになる。
さらに IEA は、本年 6 月に Energy Technology Perspective 2008 を発表し、
450 ppm という安定化レベルの達成のために 2050 年までにCO2排出量を現状か
ら半減するシナリオ(ETP2008 BLUE Map)を提示している。これによれば、2050
年時点のCO2排出量を標準ケースから 480 億トン削減したものとする必要があ
り、この場合、原子力発電による電力供給量は 2050 年で 9 兆 8570 億 kWh(現在
の約 3.6 倍)になるとしている。これが実現した場合、相当する電力量を火力発
電(LNG)で供給した場合と比較して、年間CO2排出量を 41 億トン 2 削減できる
ことになる。
② 輸送部門を通じての原子力のCO2排出削減ポテンシャル
発電部門に次いでCO2排出量の伸びが著しい運輸部門では、
エネルギー源を石
油からバイオ燃料や水素や電力という二次エネルギーに転換する努力が行われて
いる。電力に転換が行われると電力需要がそれだけ増大することになるが、その
2
図 1-2「各電源の CO2排出特性」図の中間値を用いて原子力委員会事務局試算
8
増分を原子力発電や再生可能エネルギーによる発電が担えば、化石燃料由来の
CO2排出量が削減されることとなる。
また、水素が主力になるとすれば、現在の天然ガスを用いた水蒸気改質プロセ
スでは、水素 1Nm3(ノルマル立方メートル;摂氏 0 度、1 気圧の状態に換算し
た気体の単位)を生成する際に 0.9kgのCO2が排出される(生成過程由来のみ。
投入エネルギー由来を含まず。
)が、原子力発電を用いた水の電気分解や、核熱を
使って水の高温熱分解を行って水素を生産する場合には、
製造過程でのCO2排出
量をゼロにすることができる。
このため、輸送部門において水素、電気等による燃料代替が進めば、現在、50
億トンに達しようとしているこの部門のCO2排出量の削減に原子力が大きく貢
献することができる。
図 2-1 450 安定化ケースにおける
一次エネルギー消費の試算
消費量の試算
一次エネルギー
従来型化石エネルギー CCS化石エネルギー 再生可能エネルギー 原子力
出典:World Energy Outlook – 2007
800
5%
700
一次エネルギー消費 量( EJ
)
13%
600
標準シナリオ:現状施策継続
約 -20% 450安定化ケース:
1次 エネルギー消 費 量 (EJ)
12%
500
6%
400 13%
21%
3%
300
200
81%
82%
63%
2050年に排出量半減
2030年時点で、
○エネルギー消費
現状の約1.2倍
(標準シナリオ比約△ 20%)
○従来型化石エネルギー
現状の約0.95倍
○原子力エネルギー
現状の約2.4倍
○再生可能エネルギー
標準シナリオ
現状の約2.1倍
450安定化ケース
100
0
2005年
2030年
9
・水力発電 約2.3倍
・バイオマス発電 約2.3倍
・風力発電 約9倍
・太陽光発電 約135倍
2.原子力の技術開発が目指す地球温暖化対策への貢献のあり方
(1)地球温暖化対策に貢献する原子力のビジョン
「原子力政策大綱」は、
「原子力発電がエネルギー安定供給及び地球温暖化対策に引き
続き有意に貢献していくことを期待するためには、2030 年以後も総発電電力量の 30~
40%程度という現在の水準程度か、それ以上の供給割合を原子力発電が担うことを目指
すことが適切」としており、また、以下の取組を合理的に組み合わせて並行して推進す
るべきとしている。
1)現在使用中のシステムを安全の確保を大前提に最大限有効活用するための工夫を細
部にまで配慮しつつ直実に実施していく短期的な取組
2)このシステムをより効率的なシステムに置き換えたり、新しい市場を開拓できるシ
ステムを導入する準備に取り組んでいく中期的取組
3)新しい利用分野を開拓し、現在のシステムを抜本から換える技術の研究開発に創造
力と挑戦心をもって取り組んでいく長期的取組
なお、原子力科学技術に係る基礎的・基盤的な研究開発については、原子力政策大綱
において、我が国の原子力利用を分野横断的に支え、かつ新しい技術概念を獲得・創出
する重要な取組として位置づけられており、他のエネルギー技術の技術進歩をも支える
ことにより地球温暖化対策にも貢献するものである。
以上に加えて、最近の地球温暖化対策を巡る内外の議論も踏まえ、原子力の技術開発
が目指すべき地球温暖化対策に対する貢献のビジョンを以下のように整理する。
ビジョン1:既存の原子力発電技術が、温室効果ガスを発生しない発電技術として、国
内外において、社会に受容されつつ、現在より一層効果的かつ効率的に地
球温暖化対策に貢献していること
ビジョン2:既存技術を発展・改良させた原子力発電技術が、既存施設の寿命到来後に
も、長期的な地球温暖化対策として国内外において広範に採用されている
こと
ビジョン3:将来社会において、持続可能性の高い革新的原子力エネルギー供給システ
ムが発電部門に導入され、原子力技術が脱炭素社会の実現に対する貢献を
一層拡大していること
ビジョン4:原子力エネルギー供給技術が、温室効果ガスを排出しない熱源として海水
脱塩、水素製造等における熱需要に応えていること
ビジョン5:原子力科学技術が、エネルギー産業の技術インフラやエネルギー技術革新
10
インフラの一部として、持続性の高いエネルギー技術の供給や革新に貢献
していること
(2)ビジョンの実現に必要なシステムの性能要求
(1)に示すビジョンの実現に役立つ原子力技術システムは、社会に受け入れられる
性能を実現するものでなければならない。本項では、ビジョンの実現に役立つシステム
に対する性能要求として、①安全性・信頼性、②持続可能性、③経済性、④立地制約の
緩和の 4 点について、その具体的なあり方を検討する。
なお、求められるシステム性能は、それを受け入れる社会の価値観とともに変化して
いくこと、市場において競合する他の技術との比較で決まる面もあることから、競合技
術の動向も調査しつつ、絶えず見直しを行ない、再設定していくことが必要である。
① 安全性・信頼性
a.安全性:
安全性に係る性能要求としては、定量的安全目標、従業員の安全に対する配慮が挙
げられる。
定量的安全目標:
原子炉施設の安全性に関して、チェルノブイリ事故以降、公衆災害の発生可能
性が十分小さいことを明示することの重要性が議論され、その目安として炉心損
傷確率や大規模な放射性物質の放出する事態の発生頻度で与えられる定量的安全
目標案が用意されるようになっている。こうした安全目標が社会的に受け入れら
れ、尊重されるように取り組んでいくことが重要である。
なお、リスク評価結果には不確かさが伴うが、不確かさを支配する一つの要因
は地震リスクである。我が国においては、地震発生時の原子力施設の安全性に対
する社会の関心が高いこと、平成 7 年の兵庫県南部地震以来、地震学及び地震工
学に関する知見が飛躍的に増大していることから、こうした新知見を踏まえて、
既存施設の耐震安全性の確認やリスク評価の見直しを行い、リスク評価の不確か
さを減じるとともに、安全目標達成状況を再確認する作業を着実に実施すること
が重要である。
また、故障や失敗が事故に至る確率や潜在する事故の重大性を軽減する機能や
取組は、炉心損傷確率の不確かさを減じて、防災対策発動の必要性を減じること
ができる。安全機能等の実現において動的機器に対する依存性を減らす、自己制
御性やフェイルセイフ性を高くする、炉内の放射能量を減らすこと等の取組は、
固有の安全特性を強化する取組とも呼ばれ、安全目標を余裕をもって達成する具
11
体的な手法となるものである。
従業員の安全に対する配慮:
従業員の安全に対する配慮も重要である。このため、労働災害リスク評価に基
づき、このリスクを十分低く設計・管理するとともに、被ばくリスクを実行可能
な限り小さくすることが求められる。
b.信頼性:
信頼性に係る性能要求としては、運転信頼性やトラブル発生頻度が挙げられる。
運転信頼性:
原子炉施設の信頼性に対する要求は、運転している時間の割合を示す設備利用
率、緊急停止の発生頻度、運転開始後燃料交換や設備の検査のために運転を停止
するまでの期間の長さ、燃料交換や設備の検査のために運転を停止している期間
の長さ、さらには設備の寿命などで表され、このような性能について具体的に要
求事項に設定することが重要である。既存施設の運転管理についても将来の市場
に向けた施設の設計においても、既存施設の最良値を確実に実現できることを性
能要求として掲げるのが一般的である。
なお、近年、既存の軽水炉について、設備の寿命を 80 年とするために必要な研
究開発課題の議論が開始されているが、次世代炉に対する性能要求として、この
数字(設備寿命 80 年)を掲げることもある。
トラブル発生頻度:
原子炉施設は、
「人は誤り、機械は故障する」ことを前提として、公衆災害の
発生に至る可能性を十分小さくするために深層防護の考え方を採用しているが、
動的機器の数を減らすなどして、こうした誤りや故障の発生頻度自体を小さくす
ることを目指して、これを性能要求として掲げることもある。
② 持続可能性
持続可能性に係る性能要求としては、廃棄物処分場の確保可能性、燃料の確保可能
性、核拡散抵抗性が挙げられる。
a.放射性廃棄物処分場の確保可能性:
原子力施設の運転や廃止に伴って発生する放射性廃棄物は、できるだけ減容し、
安定化処理した上で、地下に埋設処分される。高レベル放射性廃棄物の場合には地
下 300 メートル以深に処分される。高レベル放射性廃棄物は発熱体であるため、こ
の処分場の所要面積は廃棄体の発熱量に依存する。そこで、将来、原子力発電が大
規模に行われる場合には、処分場の開設頻度を大きくしないで済むようにするため、
この廃棄物の発熱密度を低下させることが重要になる。これは発熱に寄与するアク
チニド元素や核分裂生成物をなるべく廃棄物に入れないで燃料の一部に加え、原子
12
炉で別の核種に変換することによって達成可能であるので、長期的観点からの研究
開発においては重要な性能要求として掲げられる。
b.燃料の確保可能性:
炉心に増殖特性を付与して、ウラン資源の利用率を高めることによって発電あた
りの核燃料物質の消費量を小さくすることで、燃料の確保可能性を高めることがで
きる。そこで、長期的観点から実現を目指すべき技術システムに対して、この燃料
確保可能性を性能要求として設定すべきである。また、ウラン鉱石以外にもウラン
を含む自然物があるので、ここからウランを採取することにより、利用可能なウラ
ンを増加させることができる。さらに、インドでは、トリウム資源を利用すること
で、燃料を確保するための研究開発も行われている。
c.核拡散抵抗性:
原子力技術を持続的に利用していくためには核不拡散の確保が不可欠であり、核拡
散抵抗性に係る性能要求としては、核兵器への転用の防止及び不法接近に対する防御、
妨害破壊行為に対する防御が挙げられる。
核兵器への転用の防止及び不法接近に対する防御:
原子炉によるエネルギー供給を利用する国が増えて、機微な技術や物質を扱う
原子力施設が世界各地に分散して多数設置されるようになると、核拡散リスクは
増大する。このため、十分な保障措置を実施できる体制の整備や技術開発を進め
るとともに、個々の施設の核拡散抵抗性を高めていくことが必要になる。また、
個々の施設においては機微な物質や枢要区域に対する不法な接近を深層防護の考
え方に従って排除することが求められる。
なお、施設に存在する機微な物質を核拡散の観点から魅力の薄いものにするこ
とは固有の抵抗性を高める観点から有効であるとして、これを性能要求として掲
げることもある。
妨害破壊行為に対する防御:
9.11テロ以来、妨害破壊行為に対する防御も重視されるようになり、重要
な原子力施設については設計基礎脅威を定めて、これに対する防御を用意するこ
とが求められている。
③ 経済性
良いサービスを行うため、また、市場において優位性を保つために、経済性を性能
要求として掲げるべきである。エネルギー源の経済性の第一の指標は kWh あたりの発
電費用や kcal あたりの発生費用といった単位エネルギー量の生産コストであり、これ
は資本費(設備の建設費とこれを調達する費用(金利)
)と燃料費等から構成される。
建設費を下げるには、kW あたりの材料重量や工数を小さくすることや、設計や工法の
13
標準化や工場組み立て作業の増加による建設期間の短縮が重要である。特に後者は投
資リスクに影響する。
燃料費等は、ウランの調達費用から燃料加工費、再処理費、廃棄物管理費などから
構成される。我が国は、経済性に限定せず総合的評価に基づいて再処理を行うことを
選択したが、この選択は燃料費等の低減に努めることの重要性を変えるものではない
ことに留意すべきである。
④ 立地制約の緩和
技術開発を通じて原子力施設を立地していく上での制約が緩和できることもあるた
め、これをシステム性能の要求事項として掲げることもある。
立地制約としては、例えば、現行の安全審査指針では、原子炉の中心からある距離
の範囲内は非居住区域とすることが求められている。また、耐震安全の観点から、原
子炉施設を十分な支持性能を持つ地盤に設置することが要求されている。さらに、発
電機を回転するのに蒸気タービンを使うために、使用した蒸気を冷やして水に戻すた
めの低温源が必要であり、わが国では海水を低温源に使用するために原子力発電所を
海岸に立地している。
今後、原子力発電や原子炉熱供給が内外の多くの地域で普及していくためには、立
地条件に応じてモジュラー化(小型標準化)して非居住区域を小さくすること、耐震
安全の観点からは免震構造を採用すること、大陸の内部においても建設できるように
冷却塔技術を高度化することなどの工夫を採用して、立地制約を軽減していくことが
重要になる。
特に、小型炉については、年間製造基数を多くすることが経済性を確保するために
肝要であることから、このような点に配慮して立地制約が少ない標準設計を確立する
ことが重要となる。
(3)ビジョンを実現できる技術システムの候補
原子力エネルギー供給技術システムは、エネルギー発生・変換技術、燃料サイクル技
術、安全確保・核拡散抵抗性確保技術から構成される。
エネルギー発生技術には核分裂原子炉、加速器駆動原子炉、核融合炉があり、エネル
ギー変換技術には主として水蒸気タービンが選択されるが、ナトリウム冷却炉では水と
異なる冷却材を用いたランキンサイクル、高温ガス炉ではガスタービンも研究開発対象
になっている。
核分裂原子炉、加速器駆動原子炉の燃料サイクル技術は、核燃料物質を採掘して、濃
縮し、燃料に成型加工する技術、エネルギー発生部門から取り出された使用済燃料から
ウランやプルトニウム、さらにはマイナーアクチニドを回収する技術、その過程及びエ
14
ネルギー発生施設の運転や関連施設の廃止により排出される放射性廃棄物を管理する技
術から成る。核融合炉の燃料サイクル技術には、初装荷用トリチウムの生産技術及びト
リチウムを採取して“燃料”を作り出す増殖ブランケット技術がある。
安全確保・核不拡散抵抗性確保技術は、上記の技術と密接に関連してシステムを構成
するが、同一のエネルギー供給技術に関するものでも、性能要求の変化に対応して高度
化されていかなければならないものである。
(1)に示したビジョンを実現するためには、以上の様々な技術候補の中から、所要
の性能が実現できる可能性を見定めて技術を選び、それらを組み合わせてシステムの性
能の実現を目指すことが必要になる。なお、原子力エネルギー供給技術の利用状況や競
合技術の性能に応じて所要の性能に係る要求水準が変化することがあるため、このよう
な変化に適応できる技術を選ぶことも重要である。
以上を踏まえ、ビジョンを実現するために研究開発が必要とされる技術システムの候
補及び重点をおくべき性能要求について検討した結果を以下に示す。
① ビジョン1の達成:このためには、既存の軽水炉技術、軽水炉の燃料サイクル技術
及び安全確保・核不拡散技術について、安全性・信頼性、経済性、持続可能性を改
良・改善するための研究開発を実施して、効果的かつ効率的な地球温暖化対策であ
る既存の原子力発電所の稼働率の向上や出力の増加を図るべきである。特に、燃料
サイクル技術のうち、再処理や MOX 燃料製造に関しては、施設の運転保守性の向上
や廃止措置費用の低減を追求して経済性の向上を図る研究開発を、また、放射性廃
棄物に関しては、高レベル放射性廃棄物の処分事業の実現に向けて必要な研究開発
を重点的に実施するべきである。
② ビジョン2の達成:このためには、安全性・信頼性、経済性、持続可能性の点で既
存の軽水炉より市場性の高い次世代軽水炉技術の実用化開発を実施するとともに、
高性能燃料に関する核燃料サイクル技術及び安全確保・核不拡散技術の改良・改善
のための研究開発を実施するべきである。また、小さい電力系統に適した中小型原
子炉を安全性・信頼性や経済性はもとより、立地制約の小さいものとして開発する
ことも、このビジョンの実現に貢献できる。
③ ビジョン3の達成:このためには、国際共同作業で第Ⅳ世代の原子炉候補として選
定した原子炉技術とその燃料サイクル技術、加速器駆動炉技術とその燃料サイクル
技術、核融合炉技術(以上の炉技術にはエネルギー変換技術も含む)並びにそれぞ
れの安全確保・核不拡散技術を、将来社会において持続的な発展を可能とするとの
観点から求められる安全性・信頼性、経済性、持続可能性、立地制約の要求を満た
すものとすることを目指して研究開発を進めるべきである。我が国としては、第Ⅳ
世代の原子炉候補のうちからはナトリウム冷却高速炉とその燃料サイクル技術を、
15
核融合炉技術についてはトカマク型磁気閉じ込め方式を重点的に研究開発しており、
その他の炉型(ヘリカル方式・レーザー方式)については、優れた実用化技術候補
を探索する基盤的研究の対象としている。なお、海水ウランの採取技術もまた、持
続可能性の観点からこのビジョンの実現に有効な寄与をなす可能性があるので、そ
の可能性を高めるための努力を行う価値がある。
④ ビジョン4の達成:このためには、海水脱塩や水素製造等の熱源として事業者が原
子炉熱を利用できるような安全性・信頼性、経済性の性能要求を設定して、原子炉
技術とその燃料サイクル技術及び安全確保・核不拡散技術の研究開発を進めるべき
である。なお、海外では、オイルサンド・オイルシェールからの石油抽出、バイオ
燃料の製造、地域の熱供給などに原子炉の核熱を利用する取組や研究開発が行われ
ている。
⑤ ビジョン5の達成:このためには、電力半導体用シリコンへのドーピング施設の充
実、エネルギー技術に関する技術開発活動に貢献できる量子ビームテクノロジー研
究開発活動の推進等が考えられる。
(4)まとめ
以上の検討を踏まえ、原子力技術開発が目指すビジョンと達成する技術について表 2
-1 のとおり整理する。
16
表 2-1 原子力技術開発が目指すビジョンと達成する技術
原子力基礎・基盤研究
原子力技術開発が目指すビジョン
○ ○ ○
量子ビームテクノロジー研究開発
原子力による革新的水素製造技術
核融合エネルギーの研究開発
高速増殖炉とその燃料サイクル技術
中小型炉
次世代軽水炉技術
原子力安全確保・核不拡散技術
軽水炉の燃料サイクル技術
既存の軽水炉技術
ビジョンを達成する技術
ビジョン1
○
既存原子力発電技術が温暖化対策に貢献
ビジョン2
○ ○ ○ ○
○
改良技術が長期的な温暖化対策に貢献
ビジョン3
○
○
○
○
革新的原子力エネルギー技術による貢献
ビジョン4
○
○
○
○
原子力エネルギー技術が熱源として貢献
ビジョン5
○ ○
原子力科学技術が技術革新に貢献
17
3.原子力分野における革新的技術開発のロードマップ
前章において整理したビジョンに係る技術開発活動は、計画期間等によって以下のと
おり分類することができる。
1)ビジョン1の実現という、直ちに成果が求められる短期的観点からの技術開発
活動
2)ビジョン2の実現という、既に実用化候補となっている技術を実際に実用技術
にまで発展させて 2030 年頃には市場においてシェアを確保することを目指す
中期的観点からの技術開発活動
3)ビジョン3の実現という、現在実用化候補の実証を目指した取組がなされてい
る革新的技術を 2050 年頃には市場に参入できるものとする長期的技術開発活
動や、現在、実用化候補技術の探索が行われている技術を 21 世紀後半には市場
に参入できるようにすることを目指した長期的観点からの技術開発活動
4)ビジョン4の実現という、多様なエネルギー源を利用できるため、実現すべき
技術システムの性能要求や実現時期が競合技術の動向に左右されやすい熱源市
場において、原子力の核熱利用の実現を目指す技術開発活動
5)こうした原子力エネルギー供給技術に共通して必要な安全確保技術、燃料サイ
クル技術、核不拡散技術を改良・発展させていく技術開発活動という、原子力
の技術を持続させるために必要な技術開発活動
6)ビジョン5の実現という革新的エネルギー技術のブレークスルーの実現に貢献
する原子力科学技術の進歩を目指す技術開発活動
これを踏まえ、以下の各節において、それぞれの技術システムについて、ビジョンを
実現するための取組の道筋(ロードマップ)を明らかにする。また、それぞれの技術シ
ステムに求められる主な性能要求は、表 3-1 のとおりである。なお、それぞれの技術シ
ステムに関するロードマップの詳細については、別添資料「課題毎の原子力の革新的技
術ロードマップ」を参照されたい。
(1) 軽水炉の高度利用(短期的観点から取り組む技術開発活動)
①原子力安全確保技術
趣旨:現在、我が国で利用されている軽水炉は、発電過程で温室効果ガスを排出
せず、大規模かつ安定に電力を供給している。したがって、この軽水炉の安全を
18
確保しつつ、より効果的かつ効率的に電力供給を担えるように細心の注意を払い
つつ改良改善を進めることは、地球環境保全とエネルギー安定供給に大きく貢献
することができる。
取組の内容:
a.現行軽水炉に対して、高い安全性、信頼性を維持していくために、中越沖地
震等を踏まえた耐震安全確保、高経年化対応、燃料の高燃焼度化、検査制度
の改善など、新たな知見、経験を適宜に反映したリスク管理活動を着実に推
進するための基盤技術の充実を図る。
b.現行軽水炉がより高い設備利用率で運転したり、定格出力を上昇して運転で
きるよう、運転中機器の検査診断技術の開発、リスク情報を活用した科学的・
合理的な試験・検査計画の評価技術、合理的な安全規制を可能にする基礎・
基盤研究の充実を図る。
成果の反映時期:取組は実行可能な限り迅速に進め、成果を順次現場に反映して
いく。
② 核燃料サイクル技術
趣旨:我が国は、原子力エネルギーを安定的かつ長期的に利用していくために、
核燃料サイクルの推進を基本方針としている。今後、安全の確保を図りつつ、そ
の着実な推進を図るとともに、経済性の向上を図り、我が国において核燃料サイ
クルの推進を意義あるものとするよう努めることが重要である。
取組の内容:
a.核燃料供給に不可欠なウラン濃縮について、技術の改良・改善、最新技術の
導入によって、経済性向上と大規模化を実現し相当規模の自給率を達成する
ことで、安定的な原子力利用の基盤を強化する。
b.使用済燃料を再処理し、プルトニウム、ウラン等を回収し有効利用する技術
について、燃料の高燃焼度化等に伴う処理方法の改良改善を図り、安定的な
原子力利用の基盤を強化する
c.高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関して、段階的に技術の実証、安全規
制基盤の充実に資する研究開発を進め、事業をスケジュールにそって推進す
ることにより、原子力の持続的な利用の基盤を強化する。
d.低レベル放射性廃棄物の処理処分や原子力施設の廃止措置について、技術開発
により、より安全で、経済的な方法を実現し、廃棄物の低減や資源の再利用
につなげることで、原子力の持続的な利用の基盤を強化する。
成果の反映時期:取組は実行可能な限り迅速に進め、成果を順次現場に反映して
いく。b.については、2015 年頃までの実現を目指す。
19
(2)中期的観点から取り組む技術開発活動
① 次世代軽水炉の技術開発
趣旨:2030 年前後に見込まれる既設軽水炉の大規模な代替炉建設需要に備えると
ともに、世界的な原子力回帰に伴う原子力発電所建設需要に対応する。
取組の内容:安全性、経済性、信頼性等に優れ、世界標準を獲得し得る次世代軽
水炉を開発し、国内外の市場に投入する。
成果の反映時期:2030 年の市場において優位性を有することを目指す。
② 中小型炉の研究開発
趣旨:原子力発電導入国の多様なニーズに対応し、国際的な原子力の利用拡大に
貢献する。
取組の内容:途上国や島嶼国等における中小規模の発電需要に対応可能なコンパ
クトで安全性の高い中小型炉を開発する。
成果の反映時期:2015 年頃以降に海外市場への展開を目指す。
(3)長期的観点から取り組む技術開発活動
① 高速増殖炉(FBR)とその燃料サイクル技術の研究開発
趣旨:安全で信頼性の高い FBR サイクル技術は、ウラン資源の飛躍的な有効利用を
可能とし、放射性廃棄物の潜在的有害度の低減に貢献でき、原子力エネルギーの持
続的利用に貢献する。
取組の内容:高速増殖原型炉「もんじゅ」の運転再開をはじめ、安全性、経済性、
環境負荷低減性、資源有効利用性、核拡散抵抗性に関する開発目標・設計要求を
設定し、これらを満足する概念設計を 2015 年に得ることを当面の目標として、FBR
サイクル技術を実証・実用化するための研究開発を実施する。
成果の反映時期:2015 年を目標として進められる概念設計に成果を順次反映し、
2050 年よりも前の商業炉の開発を目指す。
② 核融合エネルギーの研究開発
趣旨:核融合エネルギーは反応が連鎖的に起こる恐れが無く安全性に優れ、燃料
が豊富で地域偏在性がなく、そして、高レベル廃棄物が発生せず、より環境に優
しく、持続可能なエネルギー源である。
取組の内容:核融合エネルギーの科学的・技術的実現可能性を実証する国際協力
プロジェクト「ITER 計画」及びこれを補完・支援する「幅広いアプローチ活動」
を活用して研究開発を推進する。
成果の反映時期:21 世紀中葉までに実用化の目処を得るべく研究開発を促進する。
20
(4)原子力の核熱利用の実現を目指す技術開発活動
原子力による革新的水素製造技術
趣旨:高温ガス炉を用いて温室効果ガスを排出することなく水素を製造する技術
を確立し、従来の水素製造技術を置き換え、発電分野以外の温室効果ガスの排出
削減に貢献する。
取組の内容:水素製造等の高温ガス炉を用いた熱供給システムの実用化を目指し
て、以下を行う。
1)高温ガス炉高性能化技術
2)水の熱分解による革新的水素製造技術
成果の反映時期:当面、HTTR 等を活用して高温ガス炉及び原子炉熱を利用した水
素製造技術を開発し、2020 年頃に実用システムの原型を提示することを目指す。
(5)原子力の技術開発を持続させるために必要な技術開発活動
① 原子力の安全確保・核不拡散技術
趣旨:次世代軽水炉、中小型炉、高速増殖炉、核融合、原子力による水素製造等
の革新的原子力技術に係る安全性、信頼性及び核拡散抵抗性を高めていくための
研究開発を行うとともに、その知見を新たな規制等のあり方に反映していく。
取組の内容:それぞれの研究開発の中で、安全確保・核不拡散技術に係る研究開
発も併せて行う。
成果の反映時期:各技術の開発段階に応じて、成果を順次現場に反映していく
② 原子力基礎・基盤技術
趣旨:軽水炉の高度利用、次世代軽水炉、中小型炉、高速増殖炉、核融合、原子
力による水素製造等の革新的原子力技術の持続的な発展を維持する。
取組の内容:核データ、原子炉設計解析ソフト、安全解析ソフトの整備、革新的
材料の照射試験等の継続的実施による充実など、核工学・炉工学の研究、燃料・
材料工学の研究、環境・放射線工学の研究、革新的核燃料サイクル技術の探索な
どに継続的に取り組む。例えば、
a.海水等からのウラン等の有用金属を回収する技術を、技術革新により競争力の
ある技術とすることができれば、ウランその他有用な鉱物資源の供給を安定
的に行うことができる。
b.長寿命核種を分離し、短寿命化等の変換が経済的に実施できれば、放射性廃棄
物処分の負担を大幅に軽減することができる。
成果の反映時期:成果を順次現場に反映していく。
(6)革新的エネルギー技術のブレークスルーの実現に貢献する原子力科学技術
趣旨: 量子ビームは、材料改質や微細加工、微小試料の構造解析、軽元素や磁性
体の解析など物質・材料を原子レベルで「みる」
「つくる」ことができる強力な手
21
段であり、量子ビームテクノロジーを高度化・活用することにより、材料開発等、
革新的エネルギー技術の開発にブレークスルーをもたらすことが可能である。これ
を用いて、燃料電池や水素貯蔵用の高機能性材料の創出等を行い、水素社会実現に
向けたロードマップを着実に推進する。また、太陽電池の高性能化などを通して、
様々な高機能の地球環境保全技術の開発に貢献する。
取組の内容:量子ビームテクノロジーを高度化・活用するための研究開発を行う。
成果の反映時期:成果を順次現場に反映していく。
表 3-1 原子力技術開発に求められる主な性能要求
性能要求
原子力
技術開発
軽水炉の高度利用
次世代軽水炉
中小型炉
高速増殖炉サイクル
技術
原子力による革新的
水素製造技術
核融合
安全性・信頼 持続可能性
性
現状と同等以上
の安全性
経済性
立地制約の
緩和
(軽水炉:プルサ
ーマルの着実な
推進)
(ウラン濃縮:
1,500tSWU/年の
達成)
(プラント設計寿
命:80 年)
(使用済燃料の発
生量の削減)
(軽水炉:将来的
に設備利用率
90%)
(ウラン濃縮:国
際的に比肩しう
る経済性)
(被ばく線量の大
(建設工期:30 ヶ (耐震性:免震
幅な低減)
月以下)
技術の採用)
(設備利用率:
97%)
現状と同等以上
途上国の電力
の安全性
系統への柔軟
な対応
(炉心損傷確率: (ウラン及びTRU (炉建設費:20 万 (耐震性:免震
10-6/炉年未満)
の廃棄物への移 円/kWe 以下)
技術の採用)
行率:0.1%以下) (再処理・燃料製
(低除染TRU 燃料 造費0.8 円/kWh
で増殖比1.2以 以下)
上等)
(炉心損傷確率:
~2010(熱効率:
10-7/炉年未満)
約40%)
~2050(熱効率:
50%以上)
(トリチウムの
高い閉じ込め機
能)
原型炉建設判断 高ベータ(高圧
までにトリチウ 力)定常運転法の
ムの増殖、回収機 確立
能を実証。
※上記は、今後の技術開発において、現時点で想定されている主なもの。開発段階の進捗により追加・
修正されうるものである。
22
図 3-1 課題毎の原子力の革新的技術開発ロードマップの概要
(1)軽水炉の高度利用
2000
2010
2020
2030
2040
2050
原子力安全確保技術
▼初期プラン ト40年経過
▼初期プラント60年経過
・耐震バックチェック、 中越沖地震を踏まえた耐震安全確保
・現行軽水炉の高 経年化対応、高燃焼度化
・稼働率向上(検査診断技 術、リスク情報の活用 、長 期サイクル運 転、炉出力向上)
核燃料サイクル関連技術
原子力の持続的活用のための技術開発
・ウ ラン濃縮・新燃料技術
・放射性廃 棄物の処理・処分技術
・使用済燃 料再処理 技術
・原子力施 設の廃止措置技術
●2030年代(平成 40年代後 半)目途
高レベル放 射性廃棄 物処分 開始
(2)中期的観点から取り組む技術開発活動
次世代軽水炉
●次世代軽水炉
経済性、信頼性、安全性の飛躍的向上
・国内リプレース対応
・世界標準炉として海外市場へ展開
中小型炉
●中小型炉
海外市場への展開(次世代軽水炉等大型炉とは異なる市場を対象として世界展開を実現)
・大幅なコンパクト化、メンテナンスコストの低減
を通じた経済性の向上に資する要素技術
(3)長期的観点から取り組む技術開発活動
高速増殖炉( FBR)サイクル技術
実験炉「常陽」(茨城県大洗町)
77年臨界、現在まで運転中。
原型炉「もんじゅ」
(福井県敦賀市)
94年臨界
現在、運転再開準備中
幅 広いアプローチ( BA) 活動
核融合エネルギー
ウラ ン資源利用率の飛躍的な向上
放射性廃棄物の大幅な減少
商業炉 ●高速増殖炉
実証炉
国際熱核 融合実 験炉( ITER)
・燃焼プラズマの達成
・長時間燃焼の実現 等
・国際核融合エネルギー研究センター
・国際核融合材料照射施設の工学実証・工学設計活動
・サテライト・トカマク計画
原型炉
・連続的な発電
・安全性、経済性、運転信頼性等の確認
(4)原子力の核熱利用の実現を目指す技術開発活動
原子力による革新的水素製造技術
●高温ガス炉水素製造システム
・技術基盤(ISプロセス、高温ガス炉)の確立
高温工学試験炉(HTTR)
高温ガス炉による水素製造試験
(茨城県大洗町)
98年臨界
・工業材料を用いたパイロットプラント
による技術確立、性能検証
温室効果ガスを排出せず、経済的、大量かつ安定に水素を製造
(5)革新的な原子力の技術開発を持続させるために必要な技術開発活動
原子力の安全確保・不拡散技術
・次世代軽水炉、中小型炉、高速増殖炉、核融合、原子力に よる水素製造等の革新的原子力技術 に係る安全性、 信頼性 、
また、核拡散抵抗 性を 高めていくた めの研 究開発をそれぞれの技 術開発 の中で一体的に行う。
原子力基礎・基盤技術
原子力の持続的活用のための技 術開発
・海水ウラン回収技術
・分離変換技術
核工学・炉 工学
燃料・材料工学
環境・放射線工学
・軽水 炉(既存 )の安全な運転、効率化、高経年化対 策
・原子 力に対する国民の安全 信頼を 確保
・新し い原子力システムの開発に 必要となる 基盤技術を 確保
(6)革新的エネルギー技術のブレークスルーの実現に貢献する原子力科学技術
(6)革新的エネルギー技術のブレークスルーの実現に貢献する原子力科学技術
量子ビームテクノロジーによる地球環境保全技術の開発
量子ビームテクノロジーを高度化・活用することにより材料開発にブレークスルー
・環境耐性・浄化 植物新品種の創出
・燃料電池・水素貯蔵材料の開発
・高発電効率太陽電池パネルの開発
・カーボンニュートラルなプラスチックの創製
※ 本ロードマップは、現時点での見込みであり、その推進は、各々の段階での評価等を経て、見直されることを前提としている。
23
4.実現に向けた推進方策、必要な基盤整備等
(1) エネルギー技術の外部性の評価活動
エネルギー技術の研究開発活動やエネルギー政策の推進のためには、技術の外部不
経済(技術を用いた経済活動に伴って第三者が受ける不利益)の評価と、その情報共有
が不可欠である。
EU では米国 DOE と連携して「ExternE」(External Costs of Energy)という先見性のあ
るエネルギー技術の外部コスト評価の取組を行ってきたが、今後は途上国を取り込んだ
エネルギー技術の評価を世界規模で推進することが必要であり、これに我が国がリーダ
ーシップをとるべきである。
(2)国民との相互理解活動の充実
我が国が地球温暖化対策として原子力利用を推進していくためには、国民や地域社会
の理解と信頼が不可欠であり、地球温暖化対策としての原子力の位置付けを国民に説明
するだけでなく、国民や地域社会との相互理解活動を進めていくことが重要である。ま
た、併せて、児童生徒や社会人に対して原子力分野の学習機会の充実を図っていく必要
がある。
(3)科学的・合理的な規制の追求、基準の整備
新たな原子力技術システムを研究開発の終了後遅滞なく導入普及するためには、研究
開発段階の進展に合わせて、規格基準類の整備を行うとともに、科学的・合理的な規制
を追求していくことが必要である。
(4)他の分野、民間との連携による実用化、普及の促進
原子力技術が温室効果ガスを排出しない熱源として様々な産業分野において利用され
るためには、使いやすい熱源にしていく工夫が必要であり、原子力以外のエネルギー技
術分野との連携・共同作業を推進する必要がある。
(5)国際展開、国際協力に向けた取組
地球温暖化問題は、今後ともエネルギー需要が着実に増大する途上国のエネルギー政
策への対応が重要であるため、原子力発電が地球温暖化対策として有効であることにつ
いての国際的なコンセンサスの形成に努めるとともに、原子力利用の前提となる安全、
核不拡散、核セキュリティを確保する国際体制の強化を図りつつ、原子力を導入しよう
24
とする国々の原子力利用のための基盤を整備する取組に積極的に協力していくべきであ
る。
また、我が国の原子力産業が国際展開を推進できる環境を整備する観点から、輸出に
係る公的金融の活用、貿易保険の活用等を進めるべきである。さらに、第Ⅳ世代原子力
システムに関する国際フォーラム(GIF)、国際原子力エネルギー・パートナーシップ
(GNEP)、ITER 計画等の原子力の研究開発に係る二国間、多国間の枠組を通じて、研究開
発の効果的・効率的推進を図るべきである。
さらに、IAEA を中心に、原子力を安定的に利用するための国際的な核燃料供給保証の
議論も進んでおり、我が国はこれらに、主要なメンバーとして引き続き積極的に参画す
るべきである。
(6)国の科学インフラの充実
本ロードマップを実施する上では、様々なブレークスルーにつながる新しいアイデア
の懐妊をもたらし、新エネルギー技術の研究開発を進展させる原理的知見を生み出す観
点から、大学や研究機関における基礎的・基盤的研究を着実に進めることが重要である。
(7)技術移転、知識管理と人材育成
エネルギー供給技術は、国が研究開発を行うとしても、民間の活動により市場を通じ
て普及するものであるため、研究開発のなるべく早い段階から市場の声を聴いて、これ
を反映することが重要である。ロードマップの実現のためには、市場からのフィードバ
ックを受ける実証試験の成功が重要であり、このような実証試験を起業家精神に溢れた
民間事業者と連携して実施することが必須である。
また、技術の実証及び実用化は、産学官の役割分担を踏まえつつ柔軟な実施体制で推
進されることが重要であり、知的財産を適切に管理しつつ、効果的・効率的な技術移転
システムを構築することが必要である。
さらに、研究開発の成果として得られる技術の実用化や、これまでに得られた知識・
経験を次代において積極的に活用するためには、組織内部あるいは組織間で知識・技術
を体系的に管理して、円滑に継承、移転することが不可欠である。
また、国内外の人材の流動性の向上、研究データや関連情報の発信のための基盤整備
を進めるなど、多面的かつ国際的な知識のネットワークも構築・整備していくべきであ
る。さらに、原子力分野の人材の育成のあり方について総合的に検討して関係者に発信
し、産業界、教育界において適切な取り組みが行われるようにすることが重要である。
25
添付資料-1
原子力の革新的技術開発ロードマップに関する検討経緯
2008年第6回原子力委員会
2008年2月12日(火)10:30~12:00(中央合同庁舎4号館共用643会議室)
議題: 5. 原子力の革新的技術開発のロードマップの策定について
第1回検討会(2008年第8回原子力委員会)【非公開】
2008年2月19日(火)13:30~(中央合同庁舎4号館 共用第3特別会議室)
議題: 1. 調査、審議方針の確認
2. 関係機関からのヒアリング(経産省)
第2回検討会(2008年第9回原子力委員会)【非公開】
2008年2月21日(木)10:30~(中央合同庁舎4号館 共用第1特別会議室)
議題: 1. 関係機関からのヒアリング(文科省)
第3回検討会(2008年第11回原子力委員会)
2008年2月28日(木)10:00~11:40(中央合同庁舎4号館 共用第3特別会議室)
議題: 1. 原子力の革新的技術開発ロードマップについて
(ロードマップ骨子案の検討等)
第4回検討会(2008年第14回原子力委員会)
2008年3月12日(水)13:30~15:40(中央合同庁舎4号館 共用643会議室)
議題: 1. 原子力の革新的技術開発ロードマップ中間取りまとめ(案)
について
第5回検討会(2008年第16回原子力委員会)
2008年3月18日(火)13:30~14:40(中央合同庁舎4号館 共用643会議室)
議題: 1. 原子力の革新的技術開発のロードマップについて
中間取りまとめ 2008年4月2日(水)
総合科学技術会議 基本政策推進専門調査会
第4回 環境エネルギー技術革新計画WGに参考資料として提出
第6回検討会(2008年第30回原子力委員会)
2008年7月8日(火)10:30~12:00(中央合同庁舎4号館 共用1015会議室)
議題: 1. 原子力の革新的技術開発のロードマップについて
第7回検討会(2008年第31回原子力委員会)
2008年7月15日(火)10:30~12:00(中央合同庁舎4号館 共用1015会議室)
議題: 1. 原子力の革新的技術開発のロードマップについて
26
添付資料-2
原子力の革新的技術開発のロードマップの策定について
平成20年2月12日
原 子 力 委 員 会
1. 趣 旨
エネルギー問題や地球温暖化問題の抜本的解決に向けて、中長期的には温室
効果ガスの排出を究極的にゼロとするような革新的な技術開発の取組が求め
られているところ。
このため、温室効果ガス排出削減等、地球温暖化対策に資する原子力エネル
ギー利用の多様化、高度化を図る革新的技術開発、その他の原子力技術につい
て、効果的かつ効率的に推進するため、研究開発課題を明確にするとともに、
その優先付けや推進方策に関する検討を行う等、その実現に向けたロードマッ
プの策定を行う。
2. 検討方法
原子力の革新的技術開発のロードマップの検討に当たっては、原子力委員会
において臨時会を開催し、関係機関からのヒアリング及びその結果を踏まえ
た調査、審議を行い、3月中旬を目途に取りまとめる。
なお、関係機関からのヒアリングは、研究開発に係る機微情報を含む可能性
があるため、非公開で行う。
また、当該ロードマップに係る原子力委員会の調査、審議に当たっては、必
要に応じて有識者の参加を得ることとする。
3. 検討スケジュール(予定)
2月中旬~ 原子力委員会臨時会(2回程度)
・調査、審議方針の確認
・関係専門家、関係府省等からのヒアリング(非公開)
2月下旬
~3月中旬
3月中旬
原子力委員会臨時会(2回程度)
・原子力の革新的技術開発の選定に係る調査審議
原子力委員会臨時会
・ロードマップ取りまとめ
27
(別 紙)
原子力の革新的技術開発のロードマップの調査、審議の会合
への参加を依頼する有識者について
・岡田 漱平 日本原子力研究開発機構 理事
・田中
知 東京大学大学院工学系研究科 教授
・松井 一秋 エネルギー総合工学研究所 理事
・山名
元 京都大学原子炉実験所 教授
・横山 速一 電力中央研究所理事・原子力技術研究所長
その他、必要に応じ、有識者を招聘し、調査審議への参加を依頼する。
28
別添資料
課題毎の原子力の革新的技術開発ロードマップ
地球温暖化対策に貢献する原子力技術
温室効果ガスの排出削減に大きく貢献している原子力技術
○発電分野は、二酸化炭素排出量(直接排出)の約3割を占め、今後も大き
な伸びが予想されている。また、低炭素技術の導入機会も多く、当該分野
での削減対策は重要課題。
○原子力は発電過程で二酸化炭素を排出しない供給技術の中で、水力と並
んで、最も供給規模の大きなものの一つであり、供給基盤を担える技術。
○エネルギー安定供給を図りつつ、2050年までに世界の温室効果ガスの排
出量を半減するためには、省エネの促進、再生可能エネルギーの最大限
の利用と並んで、地球規模での原子力の利用の拡大が不可欠。
○原子力の利用の拡大のためには、安全性の向上等、利用への不安に応
える研究開発や更なる持続性のための研究開発が重要。
ベンチマーク/技術の意義
○原子力発電関連技術では、これまで世界的に原子力発電所の建設が停滞し
ていたこともあり、建設能力のある主要なメーカーは、東芝-WH(米)、日立-
GE(米)、三菱、アレバ(仏)の4連合の他、アトムプロム(露)に集約。
○日本は、産業技術力の面でやや先んじているが、米仏露の主要メーカーと
比べ、海外市場への対応は遅れており、国際競争力の維持、発展が重要。
○地球規模でのCO2排出削減、持続的社会の構築に貢献するためには、短期
では既存軽水炉の高度化、次世代軽水炉の開発による経済性等の更なる向上、
中長期では、高速増殖炉サイクル技術、核融合技術による持続的な安定供給
確保や原子力での水素製造技術によるエネルギー供給の多様化等の取組みが
求められており、日本の高い技術力を活かした積極的取組が必要。
分野別CO2排出量の推移
(直接排出)
発電分野
産業分野
運輸分野
住宅及びサービ
森林伐採
ス その他
精製所他
国際輸送
年
出典:IPCC第4次評価報告第3WG報告書
原子力技術のロードマップ(主要なもの)
2010
2020
2030
2040
2050
●次世代軽水炉
原子力技術開 発 が目 指 すビジョンと
達成 する技術
●安全確保を大前提とした
安全確保を大前提とした現行軽水
現行軽水炉の
炉の高度利用
高度利用
(経済性(建設工期 30ヶ月以下)、持続可能性(プラント設計寿命 80年)、立地制約(免震技術の採用)の向上)
・国内リプレース対応
・世界標準炉として海外市場へ展開
・耐震安全の確保、高経年化対策の実施、高燃焼度化等の高度利用
・検査システムの高度化等による設備利用率の向上
【民主導の取組を国が支援】
・大幅なコンパクト化
・メンテナンスコストの低減
・導入国のニーズへの対応
●中小型炉
海外市場への展開
・要素技術の開発 (実証を経て、経済性、安全性、信頼性の一層の向上を図り、大型炉とは異なる市場を対象として、世界展開を実現)
●高速増殖
●高速
増殖炉
炉
・原型炉「もんじゅ」
・要素技術の開発
・実証炉
ITER計画
建設 幅広いアプローチ
運転
・商業炉
核融合炉
実用化の目途
・水素製造技術の確証 ・実用規模の水素製造の実証
・ HTTRによる実証・実用化データ取得
◇原子力利用を支える基礎基盤技術
・安全、核不拡散の確保等
ウラン資源利用率の飛躍的な向上
放射性廃棄物の大幅な減少
●原子力による革新的水素製造技術
CO2を排出しない水素製造技術の実現
熱→水素の効率は、40~ 50%、熱→電気→水素の効率は、19~ 24%
・放射性廃棄物処理、処分技術等、
核燃料サイクル技術、廃止措置技術
◇量子ビームテクノロジーによる地球環境保全技術
◇革新的な環境エネルギー技術の実現に貢献
・高機能半導体、燃料電池・水素貯蔵材料、高発電効率太陽電池パネル等の開発の基盤技術
低
高
陸上低
陸上高
海上低
海上高
IGC C低
低
高
技術の国際展開
IGC C高
低
高
低
CCS
高
S CR
CCS
低
低N Ox
高
CCS
低
高
現在世界に約370GWの発電容量をもつ原子力発電を、火力発電(LNG)で代替し
た場合と比較して、年間11億トン(世界の排出量の4%)のCO2排出を削減。これを、
国内も含めて、世界の原子力発電所が欧米並みの設備利用率で運転することがで
きれば更に年間8000万トンのCO2排出削減が可能。加えて、世界で建設中の34基
(2780万kW)の原子力発電所が運転開始
各電源のCO2排出特性
1372
すれば1.2億トンの排出削減が
1400
発電過程からの排出
1062
可能。(LNG火力代替との比較)
1200
1026
その他の過程からの排出
1000
またIEAのWorld Energy
834
774
800
Outlook 2007では、IPCCの
657
600
499
評価における最も低い温室効
469
398
400
果ガス安定化レベルある450
245
187
200
104
90
ppmの達成のために、原子力
49 15 22 9 15 7 40
13
5
3
0
発電の電力量が6560TWhに
増加する必要性を示唆。
褐炭
石炭
重油
天然ガス
太陽光 水力 バイオ
風力
原子力
これを実現することにより、
亜炭
マス
LNG火力代替との比較で、
各種発電プラントの、ライフサイクル評価に基づくCO 排出原単位算出結果
年間27億トンのCO2排出削
(高、低:同カテゴリ中のプラントで、最大または最小の値)
減が可能。
(CCS:炭素回収・貯留技術適用プラント)
CO2排出量To ns(トン/100万kWh)
of CO 2 [ eq .t/G Wh ]
CO2削減の技術ポテンシャル
一次エネルギー消費量( EJ
)
普及シナリオ/必要な措置
IEAのWorld Energy Outlook 2007では、2030年の原子力エネルギー需要は、現状
の約2.4倍になると試算されている(450安定化ケース)。この達成のために、以下の措
置・取組が必要。
○エネルギー技術に関する経済性等のライフサイクル評価
○原子力エネルギーの安全性、信頼性等についての国民との相互理解の促進
○科学的・合理的な規制の整備
従来型化石エネルギー CCS化石エネルギー 再生可能エネルギー 原子力
出典:IEA:World Energy Outlook – 2007
○他のエネルギー技術分野との
標準シナリオ:現状施策継続
800
連携
5%
450安定化ケース:
○原子力エネルギー利用が温暖
700
約 -20
20%
% 2050年に排出量半減
13%
化対策として有効との国際的な
2030年時点で、
600
12%
コンセンサスの形成促進、並び
○エネルギー消費
500 6%
に安全、核不拡散、核セキュリ
21% 現状の約1.2倍
ティを確保する体制強化
(標準シナリオ比約△20%)
400 13%
3%
○我が国の科学インフラの充実
○従来型化石エネルギー
300
現状の約0.95倍
のための基礎・基盤研究
63%
82%
200 81%
○技術移転に関するネットワーク
○原子力エネルギー
450
現状の約2.4倍
整備、世代を超えた知的財産
標準
100
安定化
○再生可能エネルギー
シナリオ
管理及び人材育成等に関わる
ケース
0
現状の約2.1倍
適切な取組
2005年
2030年
1 次 エ ネ ルキ ゙ ー消 費 量 (E J )
※ロー ドマップは現時点 での見込みであり、その推進 は各々の段階 での
評 価等 を経て、見直 されることを前提としている。
2000
2
出典)Comparison of Energy Systems Using Life Cycle Assessment, WEC, 2004より作成
現在、少なからぬ数の国が、地
球温暖化対策の強化およびエネ
ルギー安定供給確保の観点から、
原子力発電の規模を増大したり、
新たな導入を検討している。
我が国としては、原子力産業の
国際展開を推進するとともに、第
4世代原子力システムに関する国
際フォーラム(GIF)、国際原子力エ
ネルギー・パートナーシップ(GNEP)、
ITER計画等、原子力の研究開発に
係る二国間、多国間の枠組みを通じ
研究開発の効果的、効率的推進を
図る。
また、IAEAを中心に、原子力を安
定的に利用するための国際的な核
燃料供給保証の議論も進んでおり、
我が国はこれらに、主要なメンバー
として積極的に参画している。
Generation IV International Forum
GNEP:Global Nuclear Energy Partnership
1
各 論
2
原子力安全確保技術 -科学的・合理的な安全規制の整備・運用-
温室効果ガス排出削減とエネルギー安定供給を同時解決
○原子力は大規模で安定なエネルギー供給が可能。
しかも発電過程で温暖化ガスを排出しないため、
温室効果ガス排出削減とエネルギー安定供給に
直接的に役立つ。
○原子力安全の確保なくして、原子力を安定的かつ持
続的なエネルギー供給源として利用することはでき
ない。
○規制当局が科学的・合理的な安全規制を整備・運用
するために「原子力安全確保技術」の開発は必須。
2000
2010
ベンチマーク/技術の意義
○現行軽水炉の高度利用・・・中越沖地震を踏まえた耐震安全確保、
○現行軽水炉の高度利用・・・中越沖地震を踏まえた耐震安全確保、
現行軽水炉の高経年化対応、高燃焼度化
現行軽水炉の高経年化対応、高燃焼度化
○原子力安全の高度化は世界共
通の課題であり、安全技術や運
転経験等に関する知見・教訓を
国際的に共有することが重要。
□次世代軽水炉の研究開発・・・先進安全系、免震技術
□次世代軽水炉の研究開発・・・先進安全系、免震技術
□高速増殖炉(FBR)サイクル技術・・・FBR安全評価技術
□高速増殖炉(FBR)サイクル技術・・・FBR安全評価技術
□核燃料サイクル・廃止措置関連技術・・・地層処分の安全評価技術
□核燃料サイクル・廃止措置関連技術・・・地層処分の安全評価技術
これら□については、次頁以降で記述
これら□については、次頁以降で記述
○我が国の原子力安全研究のレ
ベル は、 新 設の原 子炉 建設 が
停滞していた欧米と同程度か、
分野によっては我が国がリード。
ほぼ同じ
技術のロードマップ ( 「現行軽水炉の高度利用」 関係 )
2020
2030
2040
2050
原子力安全確保に関する技術的課題
経済性・安全性を飛躍的に
向上させた次世代軽水炉
現行軽水炉の高度利用
▼耐震指針改訂
▼中越沖地震 ▼初期プラント40年経過
耐震安全確保等
●耐震バックチェック
・残余のリスク
●中越沖地震の教訓の反映 ・耐震裕度
高経年化対応
・照射脆化
・SCC機構解明
高燃焼度化
稼働率向上
▼初期プラント60年経過
●現在の燃焼度上限値
3次元耐震安全解析
●高経年化評価手法の高度化
●より実効性の高い検査手法
●60~70GWd/t高燃焼度燃料
●70GWd/t~高燃焼度燃料
の安全評価手法の整備
の安全評価手法整備
ウラン燃料:55GWd/t
MOX燃料:40~45GWd/t ・改良合金評価
・RIA、LOCA試験
●検査制度の改善
・PSA技術
●先進安全系の導入
●免震技術導入
●設備利用率10%向上
・長期サイクル運転
・炉出力の向上
普及シナリオ/必要な措置
○基本的な考え方: 国の原子力安全委員会が策定する安全研究計画(原子
力の重点安全研究計画)に沿って、重点的かつ効率的に研究を推進。
○産学官の連携・役割分担: 研究分野毎に、産学官の専門家が、共有した目
標のもとで取り組むべき技術的課題、その課題への対応方法及び役割分担
等を明確にして、連携して研究を推進(※)。
(※)産学官の専門家により策定した今後の安全研究課題等に関するロードマップ
燃料高度化技術戦略マップ2007、高経年化対応技術戦略マップ2007
SCC機構解明試験
RIA試験
温室効果ガス排出削減ポテンシャル
○国内の原子力発電所の設備利用率の10%
向上により年間約2500万トンのCO2削減。
(LNG火力代替との比較)
○世界で建設中の34基(2780万kW)の原子
力発電所が運転開始すれば、年間約1.2
億トンのCO2排出削減が可能。(LNG火力
代替との比較)
技術の国際展開
○安全研究分野は、グローバリゼーションがかなり進行して
いる分野。
○OECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)などを
通じて、多国間による安全研究国際プロジェクトが進行中。
国際的に共通な安全上の課題の解決や研究の効率的推
進を図っている。
(例)我が国がリードしている研究分野
軽水炉プラント安全:OECD/ROSAプロジェクト
高経年化 : OECD/SCAPプロジェクト
3
核燃料サイクル関連技術
技術の概要
○核燃料供給に不可欠なウラン濃縮について、常に最新技術を導入し、世界最高水
準の性能及び経済性を実現し、相当規模(国内需要の1/3程度)の自給率を達成
○使用済み燃料を再処理し、プルトニウム、ウラン等を回収し有効利用
○再処理の過程で発生する高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術は、
最終処分を実現していく上で不可欠
○発生する廃棄物の安全で効率的な処理処分を実現し、廃棄物量の低減や資源の再
利用につなげるために、低レベル放射性廃棄物の処理処分や原子力施設の廃止
措置を安全かつ合理的に行うための必要な技術開発を実施
ベンチマーク/技術の意義
○ウラン濃縮技術については、最先端技術の融合により、国際的に比肩し得る技術レベル
及び経済性を有する新型遠心分離器を開発
○軽水炉使用済燃料の再処理については、1990年代に仏国及び英国の大型商用再処理
施設が稼働し、我が国ではそれらの技術導入と独自の技術開発・技術移転に基づき、
現在六ヶ所再処理施設がアクティブ試験運転を実施
○高レベル放射性廃棄物の処分については、各国は、自国内での地層処分を政策とし
ており、それぞれ自国の地質環境の特性や廃棄物の仕様等を踏まえ研究開発
○低レベル放射性廃棄物の処理処分、廃止措置については、それぞれ自国の規制等を
踏まえ、安全かつ合理的な技術を確立すべく、技術開発
技術のロードマップ
2000
2010
2020
2030
2040
2050
●新型遠心分離器を用いたカスケード試験
●順次、六ヶ所ウラン濃縮工場へリプレースとして導入
ウラン濃縮・
◆最終操業規模1,500トンSWU/年規模を実現
新燃料技術
●回収ウラン利 ◆回収ウラン利用への機動的対応可能性を確保
用技術の開発
●ふげんMOX燃料、高燃焼度燃料等の再処理試験を通じた技術的知見を蓄積
●現行溶融炉の運転/保守を通じて技術的知見を蓄積
◆再処理技術、ガラス固化に関する技術的知見を蓄積
軽水炉燃料再処理
●坑道掘削時の調査研究/地下施設での調査研究
高レベル廃棄
文献調査 概要調査
精密調査
物処分研究
低レベル廃棄
物処理処分
基盤技術の開発と既存
施設における処理、貯蔵
廃止措置技術
基盤技術の開発と中小施設
の廃止によるデータ取得等
建設~
◆2030年代(平成40年代後半)を目途に
高レベル放射性廃棄物の処分を開始
開発した技術の適用、高度化と廃棄体化施設、処分施設の整備、運転
開発した技術の適用、高度化と大型施設の廃止措置着手
普及シナリオ/必要な措置
○機微技術として、国際的な核不拡散体制下におかれる濃縮技術開発は、
官民一体となったプロジェクト遂行が不可欠
○再処理技術については、原子力機構が、六ヶ所再処理工場の設計・建設・
試運転に対して人的協力や技術情報の提供を行うことにより技術移転中
○高レベル放射性廃棄物の処分については、経済産業省資源エネルギー
庁が中心となって設置した「地層処分基盤研究開発調整会議」を通じ、関
係研究開発機関が連携・協力して研究開発。また、処分事業の実施主体
である原子力発電環境整備機構は、処分事業の安全な実施等を目的とし
て技術開発
○低レベル放射性廃棄物、廃止措置については、産学官の連携の基に、社
会のニーズを踏まえた技術開発を推進していくことが必要
温室効果ガス排出削減ポテンシャル
○現在世界に約370GWの発電容量をもつ原子力発電
を、火力発電(LNG)で代替した場合と比較して、年間
11億トン(世界の排出量の4%)のCO2排出を削減。
○ IEAのWorld Energy Outlook 2007では、IPCCの評
価における最も低い温室効果ガス安定化レベルであ
る450ppmの達成のために、原子力発電の電力量が
6560TWhに増加する必要性を示唆。これを実現する
ことにより、火力発電(LNG)で代替した場合と比較し
て、年間27億トンのCO2排出削減が可能。
技術の国際展開
○再処理技術では、日本原燃と連携し米国の進めるGNEP構
想に係る協力としての技術情報提供を実施
○高レベル放射性廃棄物の処分については、国際共同研究
プロジェクトへの参加や各国の海外研究開発機関との研究
協力。また、国際的な人材育成プログラムへの参加協力や
東アジア諸国との情報交換を通じた技術支援
○低レベル放射性廃棄物の処理処分、廃止措置については、
OECD/NEAなどの国際協力の枠組みを活用するとともに、フ
ランス原子力庁(CEA)等との2国間協力を実施
4
次世代軽水炉の開発
技術の概要
ベンチマーク/技術の意義
○供給安定性に優れた原子力は、我が国で唯一のクリーンな基幹電源であり、
経済成長に必要な電力を比較的低コストで安定的に供給できるため、二酸化炭
素の排出削減と経済発展の両立に資するエネルギー源である。
○2030年前後に見込まれる大規模な代替炉建設需要に対応するため、安全性、
経済性、信頼性等に優れ、世界標準を獲得し得る次世代軽水炉の技術開発を
行う。
○具体的な技術開発項目としては、使用済燃料の発生量を低減する技術や、免
震技術等の開発を行う。
(技術の意義)
○長期にわたる新規建設低迷期を乗り越え、2030年前後の大規模な代替炉建設
需要の到来に備えるためには、今後我が国原子力産業における技術・人材の厚み
を十分に維持・発展させていくことが必要である。
○原子力産業における技術・人材は、基本的には実際のプラント建設や運転及びこ
れに向けた研究開発を通じてのみ維持・発展させることが可能である。
(ベンチマーク)
○我が国は、継続的に軽水炉建設を行ってきており、設計・製作、建設、運転のいず
れの分野においても、世界最高水準の技術レベルを維持している。
技術のロードマップ
2000
2010
2020
2010年
▼基本仕様
次世代軽水炉
概念設計
検討
2030
2050
2030年頃
▼運転開始
2015年
▼基本設計
基本設計・
要素技術開発
2040
詳細設計/安全審査/建設等
次世代軽水炉の運転
性能目標;プラント設計寿命:80年、建設工期:30ヶ月以下、耐震性:免震技術の採用等
普及シナリオ/必要な措置
○次世代軽水炉の開発成果を世界展開するには、核
不拡散、原子力安全及び核セキュリティの確保を大
前提として、我が国原子力産業が保持する枢要技術
の知的財産を適切に管理しつつ世界展開を図る必要
がある。他方、次世代軽水炉の世界展開を実効的に
進めるためには、この知的財産の戦略的な活用につ
いても考慮する必要がある。
○開発と一体的に、次世代軽水炉に必要な規格基準
を整備する。また、次世代軽水炉に適合した規制制
度について提案するとともに、安全当局との連携を図
り、規制高度化を一体的に推進することが重要である。
温室効果ガス排出削減ポテンシャル
○現在世界に約370GWの発電容量をもつ原子力発電を、火力発
電(LNG)で代替した場合と比較して、年間11億トン(世界の排出
量の4%)のCO2排出を削減。
○ IEAのWorld Energy Outlook 2007では、IPCCの評価におけ
る最も低い温室効果ガス安定化レベルである450ppmの達成の
ために、原子力発電の電力量が6560TWhに増加する必要性を
示唆。これを実現することにより、火力発電(LNG)で代替した場
合と比較して、年間27億トンのCO2排出削減が可能。
技術の国際展開
○ 30年前、世界に十数社あった原子力プラント
メーカーも現在は5グループのみであり、三菱
重工、日立、東芝がこれらのグループの中心的
存在である。
○我が国では、既に最新鋭のABWRが複数機
運転実績を有する他、米国等での建設計画も
ある。また、APWRは国内で建設準備中であり、
米国向けに一部仕様を見直したUS-APWR
の建設計画などがある
5
中小型炉の開発
技術の概要
ベンチマーク/技術の意義
○供給安定性に優れた原子力は、我が国において現段階で唯一のクリーンな基
幹電源であり、経済成長に必要な電力を比較的低コストで安定的に供給できる
ため、二酸化炭素の排出削減と経済発展の両立に資するエネルギー源である。
○途上国や島嶼国等における中小規模の発電需要や海水脱塩等のための多様
な熱源需要に対応可能なコンパクトで安全性の高い中小型炉を開発することに
より、原子力発電導入国の多様なニーズに対応し、国際的な原子力の利用拡
大に貢献。
○現在、民間を中心に最適な炉型等について検討が行われており、国はこれら
の取組について支援を行うこととしている。
○我が国の原子炉メーカーは、90年代以降、世界の原子力市場が停滞した時期
も国内において建設を継続してきたため、現在は一定の競争力を有している。
○多様なニーズに対応可能な原子炉を提供することにより、世界の温暖化対策
及びエネルギー安全保障に一層貢献することが可能となる。
技術のロードマップ
2000
2010
中小型炉
(既存技術も活用)
2020
2030
2040
2050
2015年以降
▼民間ベースでの国際展開(準備ができたものから)
要素技術開発等
民間中心の開発
(国は一部支援)
海外市場への展開
海外市場での一層の普及
性能目標;高い安全性、大幅なコンパクト化、メンテナンスコスト低減、等
普及シナリオ/必要な措置
温室効果ガス排出削減ポテンシャル
○原子炉メーカーが研究機関等と協力しながら
研究開発を実施。開発リスクが高い研究開発
や波及効果の大きい研究開発について、提案
公募方式により、国が研究開発を支援。
○現在世界に約370GWの発電容量をもつ原子力発電を、火力発
電(LNG)で代替した場合と比較して、年間11億トン(世界の排出
量の4%)のCO2排出を削減。
○海外市場への展開のために、国際協力銀行
(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)などの金融、保
険制度の活用を検討。
○ IEAのWorld Energy Outlook 2007では、IPCCの評価におけ
る最も低い温室効果ガス安定化レベルである450ppmの達成の
ために、原子力発電の電力量が6560TWhに増加する必要性を
示唆。これを実現することにより、火力発電(LNG)で代替した場
合と比較して、年間27億トンのCO2排出削減が可能。
○原子力エネルギー利用の新規導入や拡大を
行う国々の基盤整備に向けた自立的取組を積
極的に支援。
技術の国際展開
○中小型炉技術については、日米協力の枠組みの
中で、IAEA等が行った途上国のニーズ調査等を
基に設計要件をとりまとめ、既に検討されている
設計概念を調査する。また、中小型炉に関する互
恵的な技術分野で共同研究開発の検討を進める
とともに、研究成果の活用を通じて、核不拡散、原
子力安全及び核セキュリティの確保を大前提とし
つつ、途上国等への我が国の原子力発電技術の
国際展開を促進し、もって原子力産業の一層の国
際競争力強化を目指す。
6
高速増殖炉(FBR)サイクル技術
技術の概要
○高速増殖炉(FBR)サイクル技術は、ウラン資
源の飛躍的な有効活用を可能とし、長期的なエ
ネルギー安定供給に大きく貢献するものであり、
長期的な温室効果ガス排出削減に大きく貢献
できるものである。放射性廃棄物の潜在的有害
度の低減に貢献できる可能性を有する。
ベンチマーク/技術の意義
○世界各国が高速増殖炉サイクル技術の研究開
発をスローダウンした間においても、我が国で
は、着実に研究開発を進めてきた。
○我が国は運転中の実験炉「常陽」と運転再開間
近の原型炉「もんじゅ」並びに高速炉用の燃料
製造施設を保有し、豊富なインフラを有している。
技術のロードマップ
2000
2010
2020
2030
2040
2050
2008年度 ・Na取扱技術の確立
▼運転再開 ・発電プラントとしての信頼性実証
原型炉「もんじゅ」の運転
高速増殖炉実用化に向けた研究開発等の場として活用
原型炉「もんじゅ」
高速増殖炉実用化
研究開発
革新技術の研究開発
高速増殖炉システム:13項目
燃料サイクルシステム:12項目
2025年頃
2015年
▼実用施設・実証施設の概念設計 ▼実証炉の実現を目指す
実用化研究開発
2050年よりも前に
▼商業炉の開発を目指す
実用化に至るまでの研究開発計画を提示
高速炉実証ステップ
実用化ステップ
普及シナリオ/必要な措置
○原子力発電を、世界レベルでの温室効果ガスの排
出量削減に役立てていくためには、ウラン資源の利
用効率を飛躍的に高め、長期的な原子力発電の利用
を可能とする高速増殖炉サイクル技術の導入が必要
となる。将来的に、我が国の技術を世界的に展開す
ることができれば、環境問題での国際貢献を果たすこ
とが期待される。核不拡散などの課題に留意した、
GIFなどの多国間協力の中で、検討を進める。
○この研究開発は、独立行政法人である原子力機構を
中核として進められている。今後、必要な資金や要員
を確保していくために、研究開発型独立行政法人の
制度等の改革を、引き続き検討していく必要がある。
温室効果ガス排出削減ポテンシャル
○現在世界に約370GWの発電容量をもつ原子力発電を、火力発
電(LNG)で代替した場合と比較して、年間11億トン(世界の排出
量の4%)のCO2排出を削減。
○ IEAのWorld Energy Outlook 2007では、IPCCの評価におけ
る最も低い温室効果ガス安定化レベルである450ppmの達成の
ために、原子力発電の電力量が6560TWhに増加する必要性を
示唆。これを実現することにより、火力発電(LNG)で代替した場
合と比較して、年間27億トンのCO2排出削減が可能。
○高速増殖炉は、現在把握されている利用可能なウラン資源だけ
でも二千年以上にわたって、発電過程でCO2を発生しない原子
力発電を利用できるとの試算がある(OECD)。
技術の国際展開
○多国間の枠組みやの二国間の枠組み
を活用し、高速増殖炉サイクル技術の研
究開発に関わる国際連携を進めるととも
に、我が国の技術を国際標準とするべく、
アピールを行っている。
○本年度運転再開予定の原型炉「もん
じゅ」を国際的な研究の場の中核として
使用する。
7
原子力エネルギーの着実な利用に資する基礎基盤研究
技術の概要
ベンチマーク/技術の意義
○原子力の持続的な発展に資する、海水からウラン等の有用金属を回収する捕集
材の開発、長寿命核種の短寿命化等による放射性廃棄物処分の負担を大幅に
軽減させるための分離変換技術等の研究開発。
○原子力エネルギーの着実な利用に資するため、原子力施設の設計やその基礎
となる核工学・炉工学の研究、燃料・材料工学の研究、環境・放射線工学の研究
など、原子力の基礎・基盤技術の研究開発。
○近年、先進各国は原子力研究をスローダウンさ
せ、なかでも国立研究所の民営化(営利化)等
の動きの中で基礎研究が一段と削減を受けて
いる状況では、我が国の原子力基礎工学研究
ポテンシャルは、国際的にも極めて重要な位置
づけを得ている。
ほぼ同じ
技術のロードマップ
2000
2010
海水ウラン回収
2020
2030
2020年までに
実用化に必要なコスト削減
(年間1200t規模(日本のウラン需要の1/6))
2040
2050
使用済み燃料
[1t]
U [0.94t]
再処理
Pu [11kg]
ヨウ素 [0.3 kg]
分離変換技術
2015年頃までに
技術的可能性を検証する
高レベル
廃棄物
Tc-白金族
Tc-白金族 [5kg]
[5kg]
有効利用
マイナーアクチノイド
マイナーアクチノイド
(MA)
(MA ) [1kg]
[1kg]
核分裂によ る
核変換が可能
Sr-Cs
Sr-Cs [6kg]
[6kg]
核熱設計手法 【高精度炉物理・炉工学解析コード開発】
核データ 【JENDL-4の整備】
燃料物性 【マイナーアクチノイド含有燃料物性の研究】
燃料・材料工学
燃料サイクル 【革新的再処理技術の開発】
原子力材料 【損傷コード開発】
環境・放射線工学 環境動態予測技術 【包括的(陸・海・空)のモデルの開発】
極微量核物質分析技術 【保障措置微量分析技術開発】
放射線防護技術 【線量評価データ集、DNA損傷からの影響解析】
核工学・炉工学
中性子捕獲による
核変換が可能
○ 軽水炉(既存)の安全な運転、効率化、高経年化対応
○ 原子力に対する国民の信頼を確保
○ 新しい原子力システム(次世代軽水炉、高速増殖炉、分離変換技術、
核融合炉)の開発に必要となる基盤技術を確保
その他の元素
その他の元素 [38kg]
[38kg]
熱、放射線利用の後、
減衰するまで保管
地層処分
・現在改修中の材料試験炉(JMTR)の再稼働
・高速炉臨界実験装置(FCA)や照射後試験施設等における実験技術(照射試験技術、照射後試験技術)の向上
・スーパーコンピューティング技術の重要化に伴う計算機資源の確保(定期的な能力の向上)
普及シナリオ/必要な措置
温室効果ガス排出削減ポテンシャル
○日本原子力研究開発機構は、我が国で唯一の原子
力の総合研究機関として、照射済み試料、核燃料物
質、及び放射性物質を取り扱える基礎・基盤研究施
設の維持ならびに最新の高度分析技術を用いた試験
研究装置の適時の導入・整備を行い、これを基盤に、
基礎研究から応用研究までを一体的に推進するとと
もに、大学、民間等と連携する原子力技術開発のプ
ラットフォームを提供する。また、産業界等の要請に
応えた研究を効率的に進めるため、原子力エネル
ギー基盤連携センターの機能を強化し、産業界と一
体的に推進できる体制を整備する。
○研究開発型独立行政法人の制度等の改革を、引き
続き検討していく必要がある。
○ 原子力エネルギーシステムの発展をとおして、長期間にわたっ
て温室効果ガスの排出抑制に貢献。
○現在世界に約370GWの発電容量をもつ原子力発電を、火力発
電(LNG)で代替した場合と比較して、年間11億トン(世界の排出
量の4%)のCO2排出を削減。
○ IEAのWorld Energy Outlook 2007では、IPCCの評価におけ
る最も低い温室効果ガス安定化レベルである450ppmの達成の
ために、原子力発電の電力量が6560TWhに増加する必要性を
示唆。これを実現することにより、火力発電(LNG)で代替した場
合と比較して、年間27億トンのCO2排出削減が可能。
技術の国際展開
○今後予想されるアジア地域等での原子力エ
ネルギー技術の急速な展開に対応するため、
各国で行われる技術者研修の指導者を育成
するための研修体制を整備し、最先端の技術
を備えた世界の原子力研修センターとして国
際貢献し、原子力技術者の育成に努める。
○IAEA、OECD/NEAなどの国際機関の活動
に積極的に参加・連携し、学術的及び工学的
視点から国際社会を先導することで国際貢献
するとともに、技術の普及を図ることで国際標
準化を目指す。
8
核融合エネルギー
技術の概要
ベンチマーク/技術の意義
○核融合エネルギーは、軽い原子核同士を融合させた際に発生する莫大なエネル
ギーを取り出し利用する。
○軽水炉、燃料サイクル技術等の既存原子力技術と比して、核融合エネルギーでは、
反応が連鎖的に起こる恐れがなく安全性に優れる点、燃料が豊富で地域偏在性
がない点、高レベル放射性廃棄物が発生しない点において、将来のエネルギー
として優位性を有する。
○化石燃料を使用する発電に比して、温暖化ガスを排出しない点、燃料枯渇の恐れ
がない点で、絶対的な優位性を有する。
○国内研究では、JT-60による世界最高性能の
実証を行うなど、世界をリード。
○ITER計画において、ホスト極である欧州ととも
に、日本は準ホスト国として、先端機器調達にお
いて大きな貢献をするなどして主導。
○原型炉実現に向けて、日欧協力により幅広い
アプローチを我が国で実施し、世界をリード。
技術のロードマップ
2000
2010
2020
● ITERの建設
2030
● ITERの運転
運転期間
● ITERを支援・補完する先進的研究開発
幅広いアプローチ(BA)
原型炉
・国際核融合エネルギー研究センター
・国際核融合材料照射施設の工学実証・工学設計活動
・サテライト・トカマク計画
普及シナリオ/必要な措置
○研究機関や大学、産業界、行政等で構成する核融
合エネルギーフォーラムにおいて、国内意見を集約し、
国内における産学官相互の連携を図っている。また、
国内の連携だけではなく、ITER計画や幅広いアプ
ローチにおける多国間の国際協力を推進しているほ
か、米国・欧州・韓国・中国と二国間の研究協力協定
を結び、アジアそして世界の拠点として、研究者交流
や共同研究を推進。
○ITER計画及び幅広いアプローチについては、政府と
して協定に署名し、国際約束に基づく事業として必要
な資源配分を行い、推進。
2050
・燃焼プラズマの達成
・長時間燃焼の実現、等
建設期間
ITER計画
2040
温室効果ガス排出削減ポテンシャル
○ 核融合発電が実用化された場合、CO2排出源単位において、
石炭火力発電、石油火力発電による排出量の90%以上を削
減することができる。
○核融合反応の原燃料は海水中に豊富に存在するため、燃料
の枯渇を恐れることなく、エネルギー生産を続けることが可能。
実用化の目途
技術の国際展開
○国際共同プロジェクトとして実施し、参加国間
で経費を分担し、成果を共有する意義が大き
いことから、ITER計画を、日本・欧州・米国・
ロシア・中国・韓国・インドの7極の国際協力プ
ロジェクトとして実施している。我が国は、ITE
R機構に機構長等を派遣しているほか、ITER
の主要機器の調達を担当し、我が国の技術
が多く採用されているなど、ホスト極である欧
州とともにITER計画を先導している。
○ITER計画を補完・支援する先進的核融合研
究開発である「幅広いアプローチ」を日欧協力
により我が国で実施している。原型炉設計等
を他国に先駆け日欧で行うことにより、当該技
術の国際標準化が見込まれる。
9
原子力による革新的水素製造技術
原子力エネルギーの多様な利用 — CO2を排出せずに水素を製造 —
○炭酸ガス排出量の削減のためには、水素は化石燃料
代替の有力候補である。2020、2030年以降、大量の
水素需要に応える新たな水素供給設備が必要。
○既存技術による水素製造(水蒸気改質法)は、製造プ
ロセスで大量の炭酸ガスを排出。
○温室効果ガスを排出せずに、経済的、大量かつ安定に
製造することができる、高温ガス炉からの高温熱を用
いる革新的水素製造技術
ベンチマーク/技術の意義
熱化学法ISプロセス
水素 400℃ 高温ガス炉
H2
+
I2
2HI
900℃
ヨウ化水素と
硫酸の生成
H 2SO4
酸素
1/2O2
+
SO2+H2O
2HI + H2SO4
硫黄(S)
ヨウ素(I)
I2 + SO2 + 2H2 O の循環 SO2
I2 の循環
+
H2O
H2O
ヨウ化水素の分解
水
硫酸の分解
○水を熱分解して水素を製造する技術であるIS
プロセスの運転制御法を開発し、2004年に毎時
30リッター規模の連続水素製造を達成した。ま
た、2005年に実用材料(セラミックス)製反応器
の試作に成功した。
○米仏はISプロセスの共同研究を進めており、本
年、実用材料製装置による毎時200リッター規
模試験を開始する計画となっている。
技術のロードマップ
2000
2010
2010年
2020
2015年
2030
2020年
実用化のための開発目標:水素製造コスト約20円/m3
◆工学規模要素技術 ◆ 高性能実用機器開発
工学規模製造試験
HTTRによる高温
ガス炉技術の開発
2050
2030年頃の商業規模での導入
▼工学規模水素 ▼高温ガス炉との ◆信頼性確証、技術実証
製造試験開始 結合試験開始
(実用システムの提示)
熱化学法による
水素製造技術 要素技術開発
2040
高温ガス炉と
の結合試験
水素製造量
1,000m3/h
規模の達成
●水素製造システムとの統合技術
▼:ホールドポイント
段階的な開発を進める
ための判断ポイント
熱化学法の技術開発目標
• 高効率化:40%以上、高耐久性:3000時間以上
高温ガス炉の技術開発目標
• 燃料の高燃焼度化(120GWd/t)、高出力密度化(6W/cc)
• 構造材の長寿命化(黒鉛・耐熱金属材料)
高温ガス炉技術
HTTR
国際協力:GIF等の活用
高温ガス炉水素製造の実用化と普及
● 実証・実用化データ取得
普及シナリオ/必要な措置
○研究開発は基盤研究から実証研究へ移行しつつあ
り、水素製造装置を製作する化学プラントメーカー、
及び、燃料電池自動車等に水素を供給する水素供給
会社、並びに水素還元製鉄等を行う製鉄会社等の水
素ユーザーとしての産業界と強く連携をとりつつ、基
盤技術の確立、実証試験に至るまで、政府方針の下、
産学官が一体となった研究開発体制が必要。なお、
製鉄においては、地球温暖化対策として水素を利用
した還元製鉄技術の開発が進められている。
○実用化に向けては、水素循環社会の実現のための
社会基盤・制度の整備が必要。
温室効果ガス排出削減ポテンシャル
1.10億t
0.22億t
2015年
0.55億t
2030年
2050年
○それぞれの年の水素需要予測(自動車・定置用燃料電池)
2015年:246億m3、2030年:610億m3、2050年:1220億m3
それが全て天然ガス水蒸気改質プロセス(0.9kgCO2/水素1m3)
で製造されていると仮定し、それを全て本技術で製造したと
仮定した場合の推定値。
技術の国際展開
○第4世代原子力システム国際フォーラム(GI
F)の日、米、仏、韓、カナダ、ユーラトム等が
参加する超高温ガス炉(VHTR)において、燃
料及び水素製造に関する研究協力を実施し
ており、材料についても2008年から開始する。
○商用化を目指した高温ガス炉建設計画を有
する米国等との国際協力を日本メーカーと連
携して行う。また、わが国の技術を世界に拡
げるため、HTTRの建設・運転・保守により蓄
積された成果を有効活用する。
10
量子ビームテクノロジーによる地球環境保全技術の開発
技術の概要
ベンチマーク/技術の意義
○量子ビームは、材料改質や微細加工に優れた電子・イオン・RIビーム、微小試料
の構造解析に優れた放射光(X線)、軽元素や磁性体の解析に優れた中性子線と
いった物質・材料を原子レベルで「みる」「つくる」ことが可能な基盤技術である。
○量子ビームテクノロジーを高度化・活用することにより材料開発にブレークスルー
をもたらし、燃料・太陽電池や水素貯蔵用の高機能性材料、海水からウラン等の有
用金属を回収する捕集材の開発、さらには、環境耐性・浄化能力に秀でた植物品
種の創出などにより、地球環境保全に貢献する技術開発を行う。
○我が国では世界最高レベルのビーム強度を有
する放射光施設、中性子線施設が稼働中、もし
くは、まもなく稼働予定。
○各種量子ビームの利用技術に関しては、我が
国が世界をリードしているが、欧米やアジア各
国の追い上げも激しい。
技術のロードマップ
2000
2010
環境耐性・浄化 植物新
品種の創出
燃料電池・水素貯蔵材料
の開発
高発電効率太陽電池パネ
ルの開発
カーボンニュートラルな
プラスチックの創製
2020
2030
● 二酸化炭素吸収能力改善に有効な遺伝子特定
◆ 二酸化炭素を高吸収できる植物新品種を創出
● 新触媒の機構解明、開発
◆ 貴金属フリーの燃料電池用新触媒を開発
● 水素吸蔵、放出メカニズム解明
◆ 水素貯蔵新材料の開発
2040
燃料電池用-電解質
膜を開発
2050
植物由来の原料で
カーボンニュートラ
ルな材料を生成
● 多結晶シリコン材料中の鉄の挙動解明
◆ 高変換、高信頼性、長寿命の材料開発
● 放射線加工技術の高度化
◆ バイオベースプラスチックの開発
普及シナリオ/必要な措置
○量子ビーム施設を有する独立行政法人等の研究機関と産業界や大学と
の連携研究体制のもと行う。特にSPring-8、大強度陽子加速器施設(JPARC)、フォトンファクトリー(PF)、RIビームファクトリー(RIBF)等の先端
的な量子ビーム施設を中核的な拠点として研究開発を推進し、得られた
研究成果は産業界によって迅速に実用化できる連携体制を構築する。
○関係する研究機関や民間企業との連携強化が必要である。そのために
は民間企業等による各種量子ビーム施設の横断的かつ積極的な利用を
促進・支援することが必要。
○社会的な認知度を向上させるためには、研究成果の速やかな実用化
(商品化)が何よりも重要であるため、強力な産学官の連携体制を構築す
る。
温室効果ガス排出削減ポテンシャル
○各技術毎に温室効果ガス排出削減ポテ
ンシャルを見積もることは困難。目的とす
る実用化技術(燃料電池、太陽電池等)の
温室効果排出削減ポテンシャルに依存す
る。
高発電効率太陽電池
パネルの材料の開発
技術の国際展開
○各種量子ビーム施設を国際公共財と
して、外国人研究者にも開放する。
○既に、アジア原子力協力フォーラム
の枠組みで、放射線利用技術の普
及・推進を行っているが、更に加速す
る。
11
量子ビームの活用による水素社会の実現
―燃料電池・水素貯蔵材料の開発―
①高耐久性・高性能の燃料電池材料
②貴金属フリーの触媒
③水素貯蔵用の新材料
放射光
を開発する必要
②触媒中の
貴金属の低
減・代替技術
の開発
量子ビー ムで「
みる 」
燃料電池構成図
放射光による触媒機能の解明
水素吸蔵機構の解明
固体高分子型燃料電池
③水素貯蔵用
の新材料開発
量子ビームで「つくる」
イオン
電子
①高耐久性・高性能の燃
料電池材料の開発
高性能電解質膜の開発
中性子
H
?
H+
Pt
触媒機能の観察
水素吸蔵材料の構
造解明
水素吸蔵タンクの
可視化
中性子による燃料電池内部の生
成水・水素の直接観察
中性子小角散乱法
中性子ラジオグラフィ
高分子
中性子ラジオグラフィ
H+
イオンビームや電子線による
ナノサイズの水素伝導路の
導入
水素の挙動解析
生成水の分布観察
12
RIビームの活用による高発電効率太陽電池パネルの開発
○物質にRI(マンガン-57等)を注入し、RIが崩壊してできる鉄-57のγ線エネルギーを超精密に測定すること
により、温度、光、電場によって鉄原子の挙動がどのように変化するかを調べることができる。
○同手法を用いて太陽電池用シリコン結晶に製造過程で混入され、太陽電池の性能に大きな影響を及ぼす
鉄不純物の挙動を精密に調べることにより、長寿命、高発電効率の太陽電池の開発を目指す。
図:
シリコン型太陽電池パネル
RIビーム
(マンガン-57)
放射線検出器
シリコン原子
γ線
注入
挙動
崩壊したRI
(鉄-57)
図:RI注入のイメージ
(成果例)
図:
単結晶のシリコンに埋め込まれた鉄
原子核から出る放射線(ガンマ線)の
エネルギー分布。
赤色は格子間、緑色は格子内にある
鉄原子を表す。
下へ行くほど試料が高温であり、鉄
原子の動きが激しくなっていることな
どが分かる。
13
バイオベースプラスチックの開発
ポリ乳酸
(例)軟質塩化ビニルに替わるポリ乳酸の開発
柔軟化ポリ乳酸
可塑剤(20%)
○植物由来で環境に優しい
カーボンニュートラル材料
○強度や透明性が高い
○生体適合性がある
○放射線分解型
○室温で硬くて脆い
100℃で
30分加熱
ポリ乳酸が再結晶化してしまい、可塑剤が染み出し
て、ポリ乳酸が白濁化し、硬くなる
柔らかいポリ乳酸の特長
○高濃度の可塑剤の内部保持により柔軟性と透
明性を維持
○環境に優しく、弾力性に富む
○生体適合性を保持
再結晶化
電子線照射
柔らかいポリ乳酸の応用分野
100℃で
30分加熱
○軟質塩化ビニルの代替材料(壁紙等の建材、
80℃で1週間加熱しても、
可塑剤がほとんど染み出
さない
パッキン、電線被覆材、自動車用部品等 )
○コンピュータや携帯電話等の家電内部の
防振材
○カテーテル等の医療材料
橋かけポリ乳酸
橋かけ点
橋かけにはトリアリルイソシア
ヌレート(TAIC)が必要
橋かけ構造によりポ
リ乳酸が再結晶化せ
ず、可塑剤を保持し、
柔軟化ポリ乳酸とし
て形状保持
可塑剤増加(40%)
で弾力性向上
14
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