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計量短信 Vol. 58 2015-08-30 フランスはメートル法

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計量短信 Vol. 58 2015-08-30 フランスはメートル法
計量短信
Vol. 58
2015-08-30
フランスはメートル法発祥の地にして、現在のメートル法確立にもフランス
科学アカデミーなど、フランスの学術界が深く関わりました。メートル条約総
会の議長は、フランス科学アカデミーの院長に委嘱すると条約に定められてい
るなど、現在もメートル条約の活動にはフランスが大きな影響を及ぼしていま
す。ところがこのようなフランスにあって、統一的な国家計量標準機関(NMI)
を設立する動きは長くありませんでした。この背景には、国際度量衡局(BIPM)
という一次校正機関が国内にあるので、いざとなれば国家標準をすぐに校正し
てもらえ、独自の NMI 設立への切迫した必要性がなかったことが考えられます。
けっして国際機関を私物化していたわけではありませんが、BIPM を国内に誘致
した背景には、安全保障として身近に計量標準管理機関を置くという力学が働
いたことは想像に難くありません。
そのような中にあって、20 世紀後半、1969
年になって統一的な国家機関、国家計量局
(Bureau national de métrologie/BNM)の設
立を見ます。本機関は法的にフランスの計量
機関としての法人的位置づけと共に、科学的、
図1.BNM のロゴ
技術的見地から計量に関連のある機関が任意
に加盟する、任意団体としての側面も持っていました。このことは新たな課題
に対しては機動的に関係する研究機関と協力する体制が取れる反面、法的位置
づけとしては依然曖昧である、という問題がありました。
このため、2005 年に BNM を元にして国立計量標準研究所(Laboratorie
national de métrologie et dʼessais/LNE)が発足し、唯一の NMI として今日
に至っています。
同所の HP によると、LNE は BNM の所掌を引き継ぐと共に、国立科学・工学研
究機関 CNAM(Conservatoire national des arts et métiers:フランス国立工
芸院)、原子力・代替エネルギー省 CEA(Commissariat à l’énergie atomique et
aux énergies alternatives)及びパリ天文台(Observatoire de Paris)の計
量に関する関係研究所のネットワークから
成っている、としています。つまり LNE の
実体は複数の研究機関からなる連合体の性
格が強く、この点ではやはり特殊な形態と
言えます。
図2.LNEM のロゴ
ちなみに LNE に継承された BNM と紛らわし
いですが、同国には計量局(Bureau de la Métrologie)という機関が存在し、
こちらは法定計量を所掌しています。また、同国の認定機関としてフランス認
定委員会・Cofrac が存在します。
文責:臼田孝 本文章は個人の見解であり筆者が属する如何なる組織を代弁するものでもありま
せん。引用明記のない写真・図版は筆者または産業技術総合研究所に帰属します。
計量短信
Vol. 58
2015-08-30
これらの関係を日仏に対比すると、下記のようになります。
図3.日仏基準認証分野の所掌機関
(参考:海外計量事計量 認定と法定計量 https://www.nmij.jp/~imco/OIML/accreditation_and_legal_metrology.pdf)
同 HP によると LNE の陣容としては、パリに本部を置く他、国内 7 カ所にオフ
ィス・事業所を置く他、海外(香港、上海、米国)にオフィスを擁する他、職
員は 800 人。そのうち 68 人が博士号をもち、70 報のレビュージャーナルに研究
論文を発表している、としています。
単純な比較は出来ませんが、日本の当該機関である NMIJ 産総研計測標準研究
部門(H27 に改組し、現在は計量標準総合センター)が 2012 年の同所年報で報
告している数値では、職員数 240 人で 367 報のレビュージャーナルに論文を報
告しています。
表1.LNE と NMIJ の職員数および研究発表
研究者
研究論文
800 人(LNE)
うち 47%が研究者及び技術者
240 人(NMIJ)
70 報
367 報
LNE は 2015 年 8 月現在の HP 情報から、NMIJ は 2012 年度の年報から
このように比較すると、LNE は研究機関と言うより、試験機関としての性格が
強いように見えます。実際、海外のオフィスでは CE マーキング等、認定支援を
行っているようです。一方で、パリ天文台など、有力な研究機関をネットワー
クすることで研究面でのプレゼンスも発揮しているようです。
欧州の大国の NMI として、英国の LNE やドイツの PTB とどう対峙していくか。
設立 10 年目を迎えて LNE の今後の運営が興味深いところです。
文責:臼田孝 本文章は個人の見解であり筆者が属する如何なる組織を代弁するものでもありま
せん。引用明記のない写真・図版は筆者または産業技術総合研究所に帰属します。
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