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情報技術マップとIT ロードマップ(2006年度上半期)

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情報技術マップとIT ロードマップ(2006年度上半期)
NRI 技術創発
情報技術マップと IT ロードマップ(2006 年度 上半期)
野村総合研究所
技術調査部 グループマネージャー
古明地 正俊(こめいち まさとし)
情報技術本部にて IT 動向の調査と分析を行う IT アナリスト。専門は、サーバおよびユビ
キタスネットワーク関連技術。ユビキタスネットワーキングフォーラム企画部会委員。
野村総合研究所
技術調査部 上級研究員
田中 達雄(たなか たつお)
情報技術本部にて IT 動向の調査と分析を行う IT アナリスト。専門は Web サービス、セマ
ンティック Web などの XML 関連技術、リッチクライアント、開発方法論、認証技術など。
野村総合研究所
技術調査部 主任研究員
城田 真琴(しろた まこと)
情報技術本部にて IT 動向の調査と分析を行う IT アナリスト。専門は EAI / BPM、SOA
などのミドルウェア領域、グリッドコンピューティング、セキュリティ技術など。
1.情報技術マップ ........................................................................................................ 5
2.IT ロードマップ ........................................................................................................ 6
(1)ビジネスインテリジェンス(BI)のロードマップ ........................................ 6
(2)エンタープライズセマンティック Web のロードマップ ......................... 11
3.まとめ ..................................................................................................................... 17
要旨
情報技術の進展は目まぐるしく、ブロードバンドやモバイルなど情報技術を巡る環境変化が激しさを増している。そ
のため、企業が適切な IT 投資を行うためには現在利用可能な技術の客観的位置づけを把握するとともに、将来利用可
能となる重要技術の動向を予測し、その予測にもとづき技術戦略を立案することが重要である。NRI(野村総合研究所)
では、このような活動を IT ナビゲーションと呼んでおり、その一環として 2001 年より継続的に情報技術マップと IT
ロードマップを作成している。
キーワード:情報技術マップ、IT ロードマップ、BI、CPM、セマンティック Web
In the midst of rapid development of information technology (IT), the environment surrounding IT in which includes
broadband networks, mobile terminal devices and information devices has also been increasingly changing. In order for
a business enterprise to make a suitable IT investment, it is required to understand an objective position of the
technology which is usable at present, at the same time, map out a technical strategy which predicts a trend of the
important technology available in the future. Nomura Research Institute, Ltd.(NRI) names such activity "IT navigation".
Since 2001, we have been creating the information technology map and the IT road map as part of this activity.
Keywords : Information Technology map, IT road map, BI, CPM, Semantic Web
4
レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
Copyright © 2006 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
情報技術マップと IT ロードマップ(2006 年度 上半期)
1.情報技術マップ
が属する「中核技術」、技術的変化が少なく成
情報技術マップは、現在利用可能な膨大な
熟した技術が属する「成熟技術」の 3 つの領域
数の情報技術を俯瞰し、客観的に位置づける
に分割される。通常、技術は情報技術マップ
“マップ”である。NRI では NRI グループおよ
の上方から現れ、次第に下方に移動していく。
びその顧客企業に対して、各情報技術への取
図1のマップ中の各点はそれぞれ 1 つの技
り組みに対する指針を提供することを目的と
術に対応しており、最近特に動きのあったい
して 2001 年より継続的に情報技術マップを
くつかの技術名を代表としてマップに当ては
作成している。
めた。図中で矢印を付けた「コンプライアン
図 1 に 2006 年度上期に作成した情報技術
ス」
「オープンソース開発環境」
「リッチクラ
マップを示した。マップの横軸は技術を分野
イアント」
「Windows 2003」
「Linux(カーネ
ごとに分類したものであり、
「マネジメント」
ル 2.4)」
「ブレードサーバ」
「生体認証」
「イン
から「端末技術」まで 13 の領域に大別してい
スタントメッセージング」等の技術はこの半
る。また、縦軸は技術の成熟度を示しており、
年間で技術の成熟度が大きく進んだ技術であ
先端的な技術を必要とする一部のプロジェク
る。矢印は成熟度の変化を示しており、矢印
トで利用される技術が属する「先端技術」、多
の始点は各技術の半年前の成熟度を、矢印の
くのプロジェクトで一般的に利用される技術
終点は現在の成熟度を示している。ここ半年
マネジメント
運用管理
開発方式
開発言語
システム
連携・ミドル
データ
ベース
サーバOS
サーバ
ハード
ネットワーク セキュリティ 業務アプリ
端末技術
●
●
◆
コンテンツ
ナレッジ
軽量
O/Rマッピング ESB
コンテナ ● フレームワーク ●
SOA
●
コンティニュイティ
セマンティック
Web
● ビジネス
●
●
X:先端技術
オートノミック
●
● ITIL
コンピューティング
●
●
コンプライアンス
●
●
プロビジョニング
●
EA
●
●
▼
●
Y:中核技術
●
オープンソース オープン
ソース
ミドル
DBMS
●
リッチクライアント
●
●
●
▼
●
●
●
●
●
●
統合運用ツール
●
●
●
●
●
メインフレーム ●
●
◆
▼
RSS
●
RFID
●
●
●
●
●
▼
生体認証
◆
▼
●
IP-VPN
●
●
●
●
ICカード
●
シン
クライアント
▼
●
シングル・サインオン
●
●
●
◆
テキスト
マイニング
●
●
●
●
キーワードのヒット数の増加率が大きい技術
Linux
(カーネル2.4)
Windows
2000
Visual Basic ●
●
●
COBOL
●
●
●
▼
●
●
●
Z:成熟技術
◆
●
IPコンタクト
センター
◆
●
●
●
●
携帯電話通信
無線LAN
●
ビジネス
インテリジェンス
●
◆
▼
●
●
ブレードサーバ
●
第3世代
Windows2003
▼
●
Webサービス
●
オープンソース
開発環境
◆
●
●
●
◆
●
構成管理ツール
●
64Bitサーバ
Linux
(カーネル2.6)
BPM・BAM
▼
◆
●
●
●
●
●
インスタント
メッセージング
◆
●
▼
●
コンテンツ
マネジメント
全文検索
ERP
●
●
●
POS
成熟度の進みが大きい技術
図 1 2006 年度上期の情報技術マップ
5
レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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NRI 技術創発
で成熟度が大きく進んだこれらの技術は、既
中心に、一時期導入が進んだ。しかし、多額
に普及が進み安定して使うことが可能となっ
の投資に見合うだけの効果が得られるのかと
てきている。また、
「統合運用ツール」
「軽量
いう点に疑問符がついたこと、ユーザが使い
コンテナ」
「O/R マッピングフレームワーク」
こなせるようになるまでに時間がかかること
「構成管理ツール」
「SOA」
「BPM ・ BAM」
などから、広く企業に浸透するには至らなか
「オープンソースミドル」等の技術は日経 BP
った。
社など、雑誌のキーワード検索ヒット数の伸
しかしながら、1昨年あたりから再度、BI
びが大きく、世間の話題に上がることも多い
は注目を集めるようになり、ここにきて日本
技術である。これらの技術に対しては、その
企業にも BI の概念が定着し、さらなる進化
技術の成熟度に応じて技術動向の調査、研究
の兆しも見え始めている。そこで本稿では、
開発による技術獲得、さらには獲得した技術
BI の今後の進化の方向性について展望する。
の横展開を検討すべきである。
■ BI の方向性は大きく2つ
2.IT ロードマップ
IT ロードマップは、各技術分野の 5 年先ま
図 2 に BI のロードマップを示す。筆者が
考える BI の方向性としては大きく 2 つあり、
での精度の高い技術見通しを立て、NRI グル
1 つ が CPM( Corporate
Performance
ープおよびその顧客企業の IT 戦略の意志決
Management)と呼ばれるものである。これ
定を支援することを目的としたマップであ
は、従来、部門ごとの最適化を目指して構築
る。NRI では今後重要となることが予想され
されてきた BI を、全体最適という観点から、
る技術分野のロードマップを継続的に作成し
全社規模での戦略的な活用を指向するもので
ており、本稿では、それらの中からビジネス
ある。
インテリジェンスおよびエンタープライズセ
もう 1 つの進化の方向性はリアルタイム性
マンティック Web の動向について紹介する。
を追求した BI であり、
「リアルタイム BI」あ
るいは「オペレーショナル BI」と呼ばれるも
(1) ビジネスインテリジェンス(BI)の
ロードマップ
ビジネスインテリジェンス(BI)が再び脚
光を浴び始めている。BI とは、日々の企業活
動により蓄積されるデータ資産から、企業の
意思決定などに役立つ情報を引き出すための
のである。このリアルタイム BI は、将来的に
は、BPM(Business Process Management :
ビジネスプロセスマネジメント)と融合して
いくと考えられる。
以下、CPM とリアルタイム BI について解
説する。
技術や方法論であり、2000 年前後に大企業を
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情報技術マップと IT ロードマップ(2006 年度 上半期)
ン ダ ー に よ っ て 、C P M 以 外 に も E P M
■ CPM
企業がビジネス環境の変化に迅速に対応し
(Enterprise Performance Management)、
ていくためには、意思決定のスピードをでき
BPM(Business Performance Management)
るだけ早めていくことが求められる。そのた
など異なる呼び方をしているが、これらに本
めには、自社の現状を可能な限り正確に把握
質的な違いはなく、同じ概念を指すと思って
しておくことが必要であり、それゆえ高品質
よい。
CPM は、BI を含め、バランススコアカー
かつ網羅的な情報が収集されている必要が出
てくる。このように企業の競争力強化のため、
ドやシックスシグマ、ABC(Activity Based
経営判断に必要な情報を漏れなく収集し、戦
Costing :活動基準原価計算)などの方法論
略的に活用していこうという取り組みから生
や予算計画、戦略策定などのプロセスから構
まれたのが CPM である。
成される非常に包括的な概念であることか
ら、その本質を見失いがちである。特に一般
もともと CPM は、米国の調査会社である
ガートナーが提唱した用語である。同社では、
的な認知度がそれほど高くない現状において
CPM を「企業がビジネスパフォーマンスを監
は、ビジュアル的にわかりやすいこともあっ
視および管理するために使用するプロセス、
て CPM というとバランススコアカードで
方法論、評価基準、システムを指す包括的な
KPI(Key Performance Indicator :主要業績
用語である」としている。
指標)を管理し、ダッシュボードを構築する
ことであるという誤解も見受けられる。
CPM は大手の BI ベンダーが現在、最もマ
しかし、これらはあくまで CPM を構成す
ーケティング上注力している領域であり、ベ
→2004年度
2005年度
2006年度
部門ごとのBI
2007年度
全体最適化(CPM)
全般
バッチ指向
リアルタイム指向
▲SOX法
草案公開
日本版
SOX法
の施行
プロセス指向
☆SOX法による
需要拡大
☆BPMとの
融合
▲日本版SOX法施行
継続運用フェーズ
IT活用フェーズ
SOA黎明期
SOAの
普及
2009年度→
▲
SOX法に対する準備開始
コンサルフェーズ
外部
環境
2008年度
SOA普及期
☆BPM利用拡大
CPM
技術
領域
リアル
タイムBI
コンセプト先行
▲大手ベンダー
製品発表会
ベンチャー企業中心
ベンダー啓蒙期
黎明期
需要拡大、普及開始
☆大手ベンダー製品投入
普及期
図 2 BI(ビジネスインテリジェンス)のロードマップ
7
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る重要な要素であるが、CPM そのものでは
算システム、ダッシュボードという関係にな
ない。CPM の本質とは、経営目標に基づいて
る。なお、これらの方法論やアプリケーショ
策定された戦略、実行計画、予算を達成する
ンの組み合わせに答えというものは存在しな
ために、日常のオペレーションレベルのデー
い。自社の環境やこれまでの取り組みに合わ
タをフィードバックし、進捗が遅ければ加速
せて最適な組み合わせを検討する必要がある。
させたり、方向性が間違っていれば修正する
なお、CPM は継続的な業績管理に役に立
など計画と行動を修正するための PDCA
つだけではなく、業績データのドリルダウン
(Plan-Do-Check-Action)サイクルを徹底する
や監査証跡の提供などの機能も備えているこ
とから、日本版 SOX 法などのコンプライア
ことである(図 3)。
ンス対応の面でも注目を集めている。これま
このように CPM とは経営戦略の実行を最
ではややコンセプト先行の感があったが、
適化するためにデザインされた一連のプロセ
スや手法を指すが、このプロセスの中で用い
「ダッシュボード経営」やこの SOX 法への対
られるツールが、バランススコアカードや予
応という観点から、ユーザの認知度、導入意
戦 略
1.戦略の策定
2.計画
計画立案
予算化
シナリオ策定
戦略目標
戦略マップ
統合された
データ
4.行動と改善
3.モニタリング
予測&モデル化
アクション
スコアカード
レポート/分析
実 行
図 3 CPM の実現ステップ
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情報技術マップと IT ロードマップ(2006 年度 上半期)
欲も高まっており、2008 年ごろから既に BI
いう情報をタイムリーに提供することで、迅
を構築しているユーザを中心に普及が始まる
速な意思決定を可能とするものである。言い
と予想される。
換えれば、従来の BI が「過去に何が起こった
か?」の分析に焦点を当てていたのに対し、
■ リアルタイム BI
これまでの BI は、主に企業の経営層や経
営企画部門、マーケティング部門が主なユー
ザであり、企業の戦略的な意思決定プロセス、
今後の BI は「今、何が起きているか?」
「これ
から何が起こりそうか?」をリアルタイムに
分析、予測するものだといえよう。
また、DWH から定期的に抽出されるサマ
特に中長期的な戦略の策定に活用されてき
リーデータを分析対象としていた従来の BI
た。そこでは、一般的に前日までのトランザ
と比べて、リアルタイム BI の場合は個々の
クションデータが夜間バッチで DWH にロー
顧客の購買データのような粒度の細かいトラ
ドされ、ある程度時間をかけて分析されると
ンザクションデータが分析対象となる。最終
いうのが通常であり、アプリケーションによ
的に分析された結果は単にレポーティングさ
っては、1 日遅れでもなく、週次、月次のデー
れるだけに留まらず、業務システムへフィー
タが分析対象になるというケースも一般的で
ドバックされ、業務の改善に役立てられるの
ある。
もリアルタイム BI の特徴である。
しかし、ビジネスを取り巻くスピードが増
このリアルタイム BI の実現に向けて、現
している昨今においては、中長期的な戦略の
状では欧米のベンチャー企業が中心となっ
立案だけでは十分ではなくなってきている。
て、製品開発を進めている段階で、黎明期と
目の前で起きている重要なビジネスイベント
いえよう。しかし、昨年あたりから大手 BI ベ
(在庫切れ、納期遅延など)をいかに早く検出
ンダーがこうしたベンチャー企業を買収する
し、迅速に分析し、意思決定を行い、ビジネ
という動きも見られ始めており、2007 年頃か
スチャンスを逃さない適切なアクションを取
ら大手ベンダーの製品投入が開始され、2009
れるかが企業の競争優位を確保する上で重要
年ごろに普及すると予想される。
になりつつある。
つまり、これまでの BI が企業の経営者層
■ 将来に向けて∼ BI と BPM(Business
に対して中長期的な意思決定に必要な情報を
Process Management)の融合∼
提供してきたのに対し、今後、必要となるで
BPM は業務プロセスの最適化を図ること
あろう BI は現場のマネージャなどに対して、
を目的として、プロセスの設計∼実行の自動
今、ビジネスの現場で何が起こっているかと
化∼モニタリング∼改善などの機能を有する
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ミドルウェアである。これまで、ビジネスイ
いる。こうしたパートナーシップが目指すと
ンテリジェンスと BPM は別個のテクノロジ
ころは、業務プロセスの中に高度な意思決定
ーとして開発されてきた。BI は履歴データに
のための分析機能を埋め込むことで、各プロ
対して処理を行うという考え方のもとに開発
セスにおいて KPI の測定を可能にし、ビジネ
されてきたため、業務プロセスというコンテ
スパフォーマンスの詳細な分析を行うことで
キストの中で分析を行うという機能を欠いて
ある。BPM は単に業務プロセスを定義し、実
いる。一方、BPM はプロセスの自動化に主眼
行するだけのものではなく、絶えずモニタリ
が置かれたもので、一般的な BI ツールが持
ングを行い、最適化していくことが重要であ
つ高度な分析機能は持ち合わせていない。
る。これはビジネプロセス上の重要な局面で、
しかし、今後はこの 2 つの技術の融合が進
BI の深い分析に基づいた適切な意思決定を
むと予想される。業務プロセスの可視化とそ
行い、その結果をプロセスにフィードバック
の効率化を追求するユーザニーズは、BI をデ
していくことで、一層促進されることになる
ータセントリックなツールからプロセスセン
だろう(図 4)。
また、このように業務プロセスの中で KPI
トリックなツールへと進化させるだろう。
最近では、BI ベンダーと BPM ベンダーの
を測定していくことは、先に述べた CPM を
提携などが発表されるケースが目立ち始めて
実現する上でも重要である。プロセスを実行
マーケティング
ビジネスイベント
のモニタリング
リアルタイム
BIシステム
受注
フ
ィ
ー
ド
バ
ッ
ク
ビジネスイベント
のモニタリング
リアルタイム
BIシステム
KPIの表示
DWH
配送
フ
ィ
ー
ド
バ
ッ
ク
ビジネスイベント
のモニタリング
リアルタイム
BIシステム
アラート
アフターサービス
フ
ィ
ー
ド
バ
ッ
ク
重要なビジネスイベント
のキャプチャ
・・・・・・
BPMの領域
予測分析
CPMとの連携
DWH
BIの領域
図 4 BI と BPM の融合
10
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情報技術マップと IT ロードマップ(2006 年度 上半期)
していく中でポイントとなる箇所で KPI を
やり言葉となっている昨今のビジネス環境に
測定し、それが事前に定義したビジネス上の
おいて、BI の果たす役割もさらに大きくなっ
目標に合致しているかを検証していくこと
ていくと期待される。
は CPM の推進においても求められるからで
ある。
(2) エンタープライズセマンティック Web の
ロードマップ
では、BI と BPM が融合していく上で必要
なことは何であろうか? これまで別の世界
これまで「Web ページの検索性を高める技
で展開されてきた両者の橋渡しの役割を担う
術」として紹介されてきたセマンティック
のはメタデータである。既存の BI と BPM に
Web であるが、ここ最近、企業情報システム
おいても、メタデータは非常に重要な役割を
における統合技術の将来を担う技術として評
果たしているが、BI と BPM の融合において
価されつつある。本節では、これを「エンタ
も、面倒なコーディング作業を軽減する上で
ープライズセマンティック Web」と呼び、そ
メタデータを効率的に利用できるかがキーと
の登場の背景や将来動向について紹介する
なる。たとえば、BI の中で用いられているデ
(図 5)。
ィメンション(次元)やメジャー(集計値)、
ラベルなどのメタデータを BPM で利用でき
■ 揺籃期(∼ 2006 年度)
1998 年にティム・バーナーズ・リー氏に
る、あるいは BPM で用いられるプロセス定
義などのメタデータを BI で利用できれば、
よって提唱されたセマンティック Web は、
BI と BPM システム間でのデータ交換が容易
当初、膨大な Web の中から利用者が求める
になると予想される。両者が融合するにはま
情報を的確に検索するための検索技術とし
だ時間がかかると予想されるが、将来的には
て、しばらくの間、大学や政府系研究機関な
大手 BI ベンダーが小規模な BPM ベンダーを
どアカデミックな世界で研究が進められた。
買収するなどして、BPM の技術を獲得し、よ
その後 2004 年 2 月に研究成果の 1 つとして
りプロセス指向の BI 製品−ビジネスプロセ
セマンティック Web の標準仕様である
スインテリジェンス−を実現する製品を発表
「RDF1」
「OWL2」を W3C3 が策定している。仕
することが予想される。
様が標準化されたことで、ベンチャー企業を
中心に実装製品も提供され始め、その頃から
以上、本節では、BI の今後の動向について
次第にアカデミックな研究段階から企業での
解説した。
「データ経営」や「ダッシュボード
1
RDF : Resource Description Framework の略。
経営」
「リアルタイム経営」といった言葉がは
2
OWL : Web Ontology Language の略。
3
W3C : World Wide Web Consortium の略。
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NRI 技術創発
用者が、
“丸の内”と“歯医者”というキーワ
実用段階へ緩やかに移行し始める。
ードで検索をするシナリオである。従来の
ここからはセマンティック Web について、
Web 検索では、那覇空港近くの丸の内歯科が
少し解説をしておきたい。
検索されてしまったり、丸の内で近くに勤務
している人の歯医者での出来事が検索されて
◆セマンティック Web とは
しまったりするが、セマンティック Web 検
セマンティック Web とは、
『情報リソース
に意味(セマンティック)を付与することで、
索では、各 Web ページに意味(たとえば、タ
人を介さずに、コンピュータが自律的に処理
イプ: HP、職種:歯医者、場所:丸の内)が
できるようにするための技術』である。
付与され、その意味に対して検索キーワード
(“丸の内”と“歯医者”)がマッチングされる
ため、Web ページ上の文字列が検索キーワー
図 6 は、丸の内近辺の歯医者を探したい利
∼2003年
2004年
2005年
セマンティックWeb技術萌芽期
2006年
2007年
2008年
セマンティックWeb技術成長期
2009年
2010年
セマンティックWeb技術成熟期
▲RDF, OWL
(W3C標準勧告)
標準技術
動向
セマンティックWebサービス普及期
セマンティックWebサービス黎明期
▲OWL-S 1.0 ▲OWL-S 1.1 ▲WSDL-S 1.0
△WSDL2.0
(DAML)
(W3C Note) (IBM & LSDIS Lab Note) (W3C標準勧告?)
△UDDI V4 Semantic Search
(OASIS標準承認?)
△SEE TC設立
(OASIS)
対応製品黎明期
ベ
ン
ダ
ー
動
向
データ
統合
サービス
統合
(ベンチャー企業の萌芽)
△Oracle
対応製品普及期
(大手ベンダー製品化)
△HP
△webMethods
△Microsoft △Tibco
▲WSDL-S
▲SDO発表
▲Semantic SDO
対応ツール発表
(IBM & BEA) の方向性示す(IBM)
(IBM)
実証実験
ユーザ
動向
対応製品拡大期
エンタープライズセマンティックWeb黎明期
セマンティックWebサービス
セマンティックWebサービス
対応製品黎明期
対応製品普及期
エンタープライズセマンティックWeb普及期
& サービス統合適用も始まる
▲Semantic検索 ▲Anti Money▲フェアマーケットバリュー
(Citibank)
(State Street)
(金融ポータル
KauppalehtiOnline)
△Price Management
(大手ソフトベンダー)
▲コンテンツ管理
▲Semantic Search
(CitiGroup) ▲Financial Service
(フィンランド美術館)
▲KM
▲Financial Report BI (Wolters Kluwer)
(スイス・ライフ)
(大手ネットワーク機器ベンダー)
図 5 エンタープライズセマンティック Web のロードマップ
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情報技術マップと IT ロードマップ(2006 年度 上半期)
ド(“丸の内”と“歯医者”)と異なっていても、
(データ)そのものであり、その情報の意味を
利用者が求める情報を的確に検索することが
説明する「タイプ、職種、場所」がメタデータ
可能となる。
となる。
この場合、
“何を意味として付与するか”が
それに対しオントロジーは、
“ある特定分
課題となるが、現時点のセマンティック Web
野の概念や知識”であり、
“語彙の定義”や
では、RDF で記述されたメタデータと XML
“語彙と語彙の関係”を記述する。図 7 の例で
スキーマもしくは OWL で記述されたオント
は、職種と職業は同意語として認識され、医
ロジーを付与することができる。
者は歯医者の上位概念であり、専門分野が歯
メタデータとは、
“情報に関する情報”であ
り、情報リソースの意味の一部を記述する。
科の医者は歯医者であるとの定義がなされて
いる。
図 7 の例では、
「HP、歯医者、丸の内」が情報
従来のWeb検索
丸の内 歯医者
ようこそ
丸の内歯科へ…
場所は
那覇空港近く…
検索
丸の内で
近くに勤務…
この前、
歯医者で…
文字は合っているが利用者
が求める情報ではない
セマンティックWeb検索
丸の内 歯医者
田中デンタル
クリニック…
場所は
オアゾ内…
文字は合ってい
ないが利用者が
求める情報である
ようこそ
丸の内歯科へ…
場所は
那覇空港近く…
タイプ:HP
職種:歯医者
場所:那覇市
検索
丸の内で
近くに勤務…
この前、
歯医者で…
田中デンタル
クリニック…
場所は
オアゾ内…
タイプ:ブログ
タイプ:HP
職種:歯医者
場所:丸の内
意
味
を
付
与
図 6 従来の Web 検索とセマンティック Web 検索の違い
オントロジー
メタデータ
HP、歯科、丸の内
情報(データ)
タイプ、職種、場所
メタデータ
<タイプ>HP</タイプ>
<職種>歯医者</職種>
<場所>丸の内</場所>
XMLで記述した場合
職業
医者
同意語
職種
上位
概念
専門分野
歯医者
値
歯科
専門
図 7 メタデータとオントロジー
13
レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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NRI 技術創発
◆セマンティック統合を実現する
¡
オントロジーの重要性
結局オプションフィールドが使われ共通
化が崩れる。
メタデータはいわゆるデータフォーマット
であり、既存の統合技術の中でも普通に使わ
共通データフォーマットは必要ではある
れている。しかし、メタデータだけでは、広
が、これのみに頼った統合では広範な情報を
範な情報を柔軟に統合することはできない。
柔軟に統合することは困難である。
企業間取引などでは、共通化されたメタデー
それに対しオントロジーも使うエンタープ
タを使うことで統合をしやすくする試みがな
ライズセマンティック Web では、異なるメ
されているが、共通化されたメタデータを使
タデータ同士の統合も容易にする。図 8 では、
う場合、以下のような問題が出てくる。
異なるメタデータを使っている Web ページ
を意味的に同一とみなしている。つまり、オ
¡
過度に均一化され、実用性がなくなる。
ントロジーを使うことで、データフォーマッ
¡
作成や変更に時間がかかる。
トの違いがもはや統合の障害とならないこと
¡
強直化し柔軟性がなくなる。
を示している。
オントロジー
職業
同意語
セマンティックWeb検索
丸の内 歯医者
医者
検索
職種
上位
概念
歯医者
値
ようこそ
丸の内歯科へ…
場所は
那覇空港近く…
タイプ:HP
職種:歯医者
場所:那覇市
丸の内で
近くに勤務…
この前、
歯医者で…
田中デンタル
クリニック…
場所は
オアゾ内…
タイプ:ブログ
タイプ:HP
職種:歯医者
場所:丸の内
専門分野
今井総合病院…
場所は丸の内…
タイプ:HP
職種:歯医者
専門分野:歯科、皮膚科
場所:丸の内
歯科
専門
メタデータだけしかなかったら
検索結果にあがらない。
オントロジーで補完することで
検索結果にあがる。
利用しているメタデータが異なっている
(広範な情報リソースを扱う場合には頻繁にありえること)
図 8 オントロジーを利用した検索
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情報技術マップと IT ロードマップ(2006 年度 上半期)
メタデータのみを使う従来の統合技術で
にする。
は、コンピュータが自律的に認識できるのは、
データのフォーマットまでであるのに対し、
¡
オントロジーまで使うエンタープライズセマ
ンティック Web では、データの意味まで認
る仕様や用語を吸収)
¡
識させた統合を可能にする。つまり自律的に
処理できる範囲が広がり、今までデータの意
分散リソース管理(リソースごとに異な
コンプライアンス管理(不適切な語彙の
検出など)
¡
Business Intelligence / Corporate
味を人間が目で見て判断しなければならなか
Performance Management(多様なデー
ったような処理(統合)に対しても自動化す
タの統合)
ることが可能になる。
¡
このようなデータの意味の違いは、データ
を人間が恣意的に作成するものである限り、
語彙の吸収)
¡
企業間に限らず、企業内でも頻繁に起こり得
ることである。
サプライチェーン管理(企業間で異なる
アンチマネーロンダリング(不正取引の
関係管理ならびに推論)
¡
トレーサビリティ(企業間で異なる語彙
の吸収)
■ 普及期(2007 年度∼ 2009 年度)
情報検索/情報共有分野での適用が先進企
◆事例:大手ネットワーク機器ベンダー
業を中心に進み、構造化データならびに非構
大手ネットワーク機器ベンダーでは、売上
造化データの統合技術としてもセマンティッ
分析システムのためのデータ統合に適用して
ク Web が有効であることが広く認知される。
効果を上げている。具体的には、新製品投入
それに合わせ、情報検索/情報共有以外のソ
後から売上分析可能までの時間を 8 週間から
リューションにも応用が開始され、データ統
1 週間に短縮している(図 9)
。
合のための基盤技術として浸透し始める。
大手ネットワーク機器ベンダーでは、製品
情報検索/情報共有以外に適用が考えられ
ごとの売上分析を BI システムで行っている
るソリューションには、以下のものが挙げら
が、製品数も多く、その関係が複雑で、かつ
れる。たとえば、コンプライアンス管理では、
地域や顧客ごとに語彙やルールが異なるた
企業内で記述される文書の中から不適切な語
め、新製品投入後にその新製品の売上を BI
彙を検出し、サプライチェーン管理では、取
システムで分析可能にするまでに 8 週間もの
引先ごとに異なる語彙やオントロジーをお互
時間を要していた。その多くは分散する“デ
いのシステム同士が自動的に解釈できるよう
ータ変換やルールのための定義やプログラ
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NRI 技術創発
置づけられ、データ統合製品のほとんどにセ
ム”の変更に費やされていた。
マンティック Web が含まれるようになる。
適用後は、データ変換に必要な情報やルー
ルを標準技術(RDF、OWL)で一元的に定義
さらに、今まで企業内もしくはグループ企
したため、新製品投入後から 1 週間で売上分
業内、特定の取引先に限られていたオントロ
析が可能となっている。
ジーの提供ならびに統合の範囲がインターネ
ット上の不特定多数に広がりを見せる。これ
によりインターネット上に複数企業や組織、
■ 成熟期(2010 年以降)
個人のオントロジーが溢れ、その中から適宜
データを統合するために不可欠な技術に位
ETL
Javaプログラム
Excel
売上分析結果
BI
ストアド
プロシージャ
ストアド
プロシージャ
新商品
売上管理
目標設定
レポート
クエリ分析
ミーティング
ソフトウェアの
変更計画
ETLの
変更
ストアド
プロシージャ
の変更
Java
プログラム
の変更
Excel
シート
の変更
8週間
売上分析結果
推論エンジン
新商品
売上管理
目標設定
レポート
クエリ分析
ミーティング
BI
オントロジー定義
のアップデート
1週間に短縮
図 9 大手ネットワークベンダーの適用事例
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情報技術マップと IT ロードマップ(2006 年度 上半期)
必要なオントロジーを結びつけることでシス
オントロジーレベルとなると手作業での開発
テムのインテリジェント化/自動化がより進
が現状必要となる。ある保険会社の事例では、
むようになる。
メタデータならびにオントロジーの整備に約
また、SOA(サービス指向アーキテクチャ)
6 か月∼ 10 か月もの時間を要している。
が普及期に入るこの時期には、サービス統合
最後に、モデリング手法や方法論が未成熟
をよりインテリジェント化/自動化されたも
であることが挙げられる。現在、先進的な製
のにするために、セマンティック Web サー
品には、メタデータやオントロジーをモデル
ビスが揺籃期を迎える。
ベースで開発するツールが用意されている
セマンティック Web サービスは、サービ
が、それぞれ個別のモデルを採用しており、
スにセマンティックを付与することでコンピ
製品選択によって習得すべきモデル表記法が
ュータにサービスの内容を自動的に理解さ
異なるのは、利用者側にとっては不便である。
せ、適切なサービスを自動的に選択・組み合
今後、セマンティック Web の普及に伴いモ
わせ・実行可能にする技術である。
デリング手法や方法論が成熟していくことに
期待したい。
◆実現に向けての課題
しかし、セマンティック Web を導入する
3.まとめ
上で課題がない訳ではない。はじめに課題と
NRI の IT ナビゲーション活動の一端とし
なるのは、セマンティック Web そのものが
て情報技術マップと IT ロードマップについ
技術的に理解しづらいことにある。RDF や
て紹介した。NRI は今後も継続的に情報技術
OWL といった標準仕様の基本的な構造はシ
の環境変化を敏感に捉え、顧客企業および
ンプルであるが、その考え方や規則、用語は
NRI グループの IT 戦略立案へ貢献していき
難解である。
たいと考えている。
次に、実際にセマンティック Web を適用
する場合、個々のデータにセマンティック
(主としてメタデータやオントロジー)を付与
する必要があるが、このセマンティックの作
成には大変な労力を必要する。また、継続し
たメンテナンスも必要となる。先進的な製品
には、既存データからメタデータを自動生成
する機能を持ち合わせているものもあるが、
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