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ほ乳類の卵子に必要なもの 性転換雌マウスの卵子

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ほ乳類の卵子に必要なもの 性転換雌マウスの卵子
ステムは、どこかに異常があることを意味している。
ヒトを調べても、必ず父親由来の遺伝子だけが発現し、
共同研究者の武藤博士らは、正常なXX雌マウスとB
母親由来のIgf 遺伝子の発現は抑制されている。この
母親由来のIgf2
6.YTIR雌マウスとの間で卵巣を置換し、交配後、子が
ように、ゲノム刷込みは遺伝子が由来した親の性に依
誕生するかどうかを調べた。その結果、B6.Y 雌マ
存して発現を異にする現象であり、「遺伝子上に父母
ウスからXX卵巣由来の子が誕生するのに対して、正
の由来が刻印されているかのようだ」という意味から
常なXX雌マウスからXY卵巣由来の子は誕生しない
ことが明らかになった。もちろん、XY卵巣の中にも
命名された現象だ。Igf 遺伝子は父方発現遺伝子で、
命名された現象だ。Igf2
この他に母方発現遺伝子があり、両者あわせて80以上
卵子はきちんと存在している。この研究から、B6.YTIR
雌マウスの子宮環境やホルモン状態は子を産む為に問
題がなく、不妊の原因は卵巣あるいは卵子そのものに
の刷込み遺伝子の存在が確認されている。ゲノム刷込
みの分子機構は、DNAのメチル化であること、そし
て刷込み遺伝子のDNAメチル化は、卵子や精子が形
あると推察された。
成される過程でそれぞれ特異的に完了することがこれ
ほ乳類の卵子に必要なもの
までの研究で明らかにされている。つまり、卵子は雌
特異的なDNAメチル化修飾を受けなくては、受精後、
ここで、ほ乳類の卵子が受精して個体発生を支持す
刷込み遺伝子の発現が異常となり、正常に個体発生で
る為に必要とされる三大要件を上げてみたいと思う。
きない。
まず、生殖細胞に不可欠なのが減数分裂を完了する能
力である。減数分裂は半数体細胞を形成する為に不可
性転換雌マウスの卵子
欠で、もし、半数体が形成されないと、世代を重ねる
そこで、私たちは、B6.YTIR雌マウスの卵子がどう
毎に子孫のゲノム量が倍化していくことになるが、そ
異常なのかを突き止めることにした。解析の結果、B
のような事実はない。これは「核成熟」と呼ばれるこ
6.YTIR雌マウスの卵子は第一減数分裂が正常に行われ、
ともある。次に、卵子は減数分裂や受精、加えて着床
半数体(マウスの体細胞は二倍体で常染色体が38本と性
前発生に必要な分子(蛋白質やmRNA等) を卵細胞質
中に蓄えておく必要がある。これは「細胞質成熟」と
呼ばれ、多種多様な因子が関与していることからなか
染色体が2本で2n=40、生殖細胞では染色体数が半減す
なか実体がつかめないのが現状だ。単純には、卵子が
精子と比較して非常に大きいのは(マウスでは体積比
均等に分離されず、受精後、4細胞期以降に発生しな
いことが明らかとなった。一方、B6.YTIR雌マウスの
がおよそ8000倍)、こうした因子を細胞質中に蓄えてい
卵子は、Y染色体を持っているにもかかわらず、きち
る為でもある。そして、3つめの要件はゲノム刷込み
んと雌型のゲノム刷込みを完了していることがわかっ
である。前者2つに加えて私たちは「ゲノム成熟」と
た。つまり、ゲノム刷込みは遺伝的な性と一致せず、
言うこともある。
表現型の性と一致することが明らかとなった。
ゲノム刷込みについてIgf 遺伝子(インスリン様成
ゲノム刷込みについてIgf2
長因子;胎児の成長に寄与) を例に説明すると、私た
ちの細胞の核の中には母から受け継いだIgf 遺伝子と
ちの細胞の核の中には母から受け継いだIgf2
続いて、B6.YTIR雌マウスの卵子における減数分裂の
異常が、「核成熟」の異常なのか「細胞質成熟」の異
常なのかを明らかにする為に、核置換をすることにし
父から受け継いだIgf 遺伝子の両者が存在している。
父から受け継いだIgf2
二倍体9個体では、個体発生に必要な遺伝情報を母か
ら1セット、父から1セット、必ず受け継いでいる。
た。正常なXX雌マウスの卵細胞質にB6.YTIR雌マウス
の卵子の核を移植した結果、XYの核を持った卵子は
正常に減数分裂を進行させることが示された。このこ
ところが、このIgf 遺伝子はどの世代においてもどの
ところが、このIgf2
とから、B6.YTIR雌マウスの卵子は、核成熟能を持つこ
TIR
るので常染色体19本と性染色体1本でn=20) となるこ
とが確認された。しかし、第二減数分裂では染色体が
図1 B6.YTIR 性転換雌マウス
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新・実学ジャーナル 2008.12
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