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アヒルの種

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アヒルの種
「経営革新優秀企業表彰」 優秀企業
トップインタビュー
「計画⇒実行⇒確認⇒改善」の経営革新
プロセスで的確な事業運営方法を確立する。
有限会社椎名人工孵化場
代表取締役
椎名 秀治
氏
椎名人工孵化場は、大正12年に創業者である椎名誠一氏が手探りで合鴨の専門
孵化場としてスタートした。種鴨を仕入れ産卵した受精卵を人工孵化させ、食肉
業者や農家に販売するビジネスである。当時は電気も十分あったわけでなく、手
作りの孵卵機に熱源としてランプを使用しての創業であったという。アヒルのは
く製が海外で人気のあった昭和の初めごろは輸出が盛んに行われていたが、動物
愛護の機運の高まりとともに輸出が減少し、さらに輸入される種鴨に対する関税
が撤廃されたことから価格競争力の劣る日本国内の合鴨の人工孵化は海外から輸
入した親鴨を使った事業へと変わっていった。椎名社長は昭和63年から後継者候
補として椎名人工孵化場を手伝うことになり、平成4年には事業全般を承継した。
それと同時に有限会社椎名人工孵化場を設立し、代表取締役として経営全般を担
当するようになっていった。
経営革新への取組みが必要と考えた理由は
事業を承継し、当時は勝手な思い込みもあり、売上を上げれば儲けが上がる、拡大
すればどんどん儲かる、と考えていました。そんな思いとは裏腹に、売れば売るほど
忙しくはなったがどうも利益は変わらない。それどころか落ちている。そんな状況に
陥ってしまい悩みに直面していました。今思えば生産計画の不備、エサのやりすぎな
どによってロスが大きくなっていたのですが、当時は原因がわからず、まずは国内に
情報はないものかといろいろと調べてみました。しかし鴨(ダック)に関する文献は
全くなく、家族からも「鴨の飼育は難しいんだ。こんなものだ。」と言われたものの納
得できず、海外の文献を検索し始めました。その当時英語はさっぱりできなかったの
でラジオの英会話講座で文法や語彙を勉強し、少しずつ原書を理解できるようになり
ました。何か良い文献はないかと都内の大手書店を歩いているうちに、八重洲ブック
センターに国際部があることを知り、通い詰め、鴨に関する雑誌から始まり学術論文
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に至る文献を取り寄せてもらうようになると、鴨の飼育が難しいというのはどうも嘘
のようで、海外ではとても良い飼育成績が出ており、今までのやり方は何かが間違っ
ていたんじゃないかとの感触をつかみました。しかしその時点では指導者もいなかっ
たし、自分がどのポジションにいるのかを把握する物差しも持っていなかったため、
実際に海外に出かけて自分の目で現実を確かめることを決意し、定期購読していた海
外の雑誌に載っていた国際見本市や国際会議(学会)の中で比較的行きやすいタイ、
マレーシアなどの国際見本市を見て歩きました。国際見本市の会場では、フランスに
あるGrimaud社アジア担当のVincent氏と出会い、その1カ月後にはVincent氏が日本に
来ることになり、私も後に引けなくなってしまったというのが本音でした。実際に商
談してみると、農場経営・孵化場運営アドバイス、マニュアルの提供、希望があれば
先進的な農場の見学も手配していただけることになり、種鴨の輸入事業を開始するこ
とになりました。当時国内の合鴨の孵化場はどこも、イギリスの種鴨を代理店経由で
輸入していましたので、フランスから代理店を通さず直接輸入するのは全く新たな取
り組みでした。経営革新についてはもともと認定を意識していたわけではありません
が、商工会の指導員を身近なアドバイザーとしてお付き合いしていた関係で「こんど
DUCKの輸入事業をやるんですよ」と話したところ、経営革新計画の承認制度があるの
で事業推進の道しるべとして活用してみては?とのアドバイスを受け、承認申請に臨
むこととなりました。
経営革新計画に盛り込んだ内容や目標は
「合鴨の輸入ルートの独自開拓により、他社との差別化、さらに、種鴨卸売業、合鴨
飼育用品卸売業への進出」をテーマに、平成19年12月から平成23年10月の4年計画を
作成しました。その狙い、目標としては、輸入への挑戦とその円滑化。得られる技術
情報を農場、孵化場へ定着させること、すなわち、先端の農場経営を目指すことを意
識していました。さらには輸入プロセスの習得により養鶏用品の輸入事業の足掛かり
を付けることも考えていました。
グリモウダッグの親鴨
グリモウマニュアル
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承認計画への具体的な取組みは
まずは何よりも輸入を成功させることに力を注ぎました。輸入には様々な法律が絡
み、財務省では税務関係、農林水産省では検疫関係、環境省では梱包材の検疫関係な
ど、それぞれの役所ごとに必要となる書類があり、一つ一つこなしていきながら手続
きのマニュアル化を進め、後の作業の負担軽減を図っていきました。
技術面では、先端技術を農場、孵化場に定着させるため数値に基づく管理を徹底し
ました。従来はただ作業としてやっていたことを数値化することによって実証データ
として活用するように意識しました。これは経営革新計画の承認申請書のフォームと
同じ考え方で、計画⇒実行⇒確認⇒改善のサイクルを回すことによって的確な事業運
営方法の確立を目指しました。
承認計画の成果や効果は
輸入実務は慣れてくれば機械的に処理でき
るので計画実施中はどちらかというと標準に
対して自分のポジションはどこに位置してい
るのかに主眼を置いて計画を進めました。そ
れにより無駄に消費していた飼料費の節約も
できたし、
農場生産計画の正確さの格段のアッ
プもできました。
売上高は1.5倍、経常利益は9倍に拡大し、
付加価値額の伸び率は76.5%、一人当たり付
加価値の伸び率は120.6%と大きく伸びました。
親鴨の農場
承認計画の成功要因は
日本の鴨産業は海外に比べて遅れており、勘による農場経営となっています。海外
では数値による緻密な経営が主流となっていますが、当社は今回の経営革新への取り
組みを通じてどんぶり勘定的な生産から精密経営への第一歩を踏み出したことが成功
につながったと考えます。ヨーロッパの農場マネジメントスタイルを知り、技術の向
上も実現したことにより、会社全体の収益性改善を成し遂げました。
現状の課題、経営者として取り組まれていることは
今回、経営革新でそれなりの成果は得られました。しかしながらそれはほんの一部
に数値による経営を取り入れたにすぎません。本年度は大手メーカーにて生産管理に
携わってこられた専門家を招聘し、農業経営に工業的エッセンスを入れて行こうと進
んでいます。品質管理と農場作業の標準化が本年のテーマです。
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今後の夢、将来の展望は
当社販売の雛も農家を経て鴨肉として市場
に出ます。品質向上に絶えず取り組むことが
いずれは大きな強みになると思っています。
最近、合鴨糞堆肥を製品化しようと事業計画
を立てました。有機農家と連携し、自然農業
のサイクルをグルグル回すのが目標です。
合鴨糞堆肥製品化プラント
これから経営革新にチャレンジされる経営者にアドバイスを
経営革新と聞くと、小規模事業者からすると自社が革新なんてとんでもない、と考
えてしまうことがあると思います。しかし、普段、問題として感じている部分を解決
し自社を良くしていくための計画を経営革新に乗せてみてはいかがですか? なんと
いっても計画を立てることに意義があります。案外と小規模企業ほど伸び代がたくさ
んあるものかもしれません。商工会など、相談に乗ってくれる機関は身近にあります
よ。
有限会社 椎名人工孵化場
椎名社長は10年以上あるオー
ケストラのサポーターとして活
動しています。自分専用のシー
トが用意されているので毎月一
回渋谷のコンサートホールを訪
れ、クラシック音楽を楽しんで
います。
いい音楽を聴きながらちょっ
とした文化貢献にもなるリラッ
クスタイムを楽しんでいるよう
です。
承認年月日
平成19年11月30日
承認の類型
③ ④
代
表
者
椎名
所
在
地
山武郡横芝光町木戸6177
秀治
電話番号
0479−84−1008
資
本
金
5,000千円
売
上
高
約85,000千円
従業員数
5名
業
種
孵卵業・鴨肉卸業
L
http://www.shiina.co.jp/
U
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R
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