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第1章 特集・金融商品取引法∼ファイナンス実務の

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第1章 特集・金融商品取引法∼ファイナンス実務の
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
− INDEX −
序章 (弁護士 中森 亘)
.............................................................................................................4
第 1 章 特集・金融商品取引法∼ファイナンス実務の観点から
1 金融商品取引法の重要概念(弁護士 谷口 明史)
..............................................................................................................7
2 金融商品取引法におけるファンド規制(弁護士 澤木 一隆)
............................................................................................................23
3 金融商品取引法と資産流動化への影響(弁護士 中森 亘)
............................................................................................................31
4 改正法がファンドの投資活動に与える影響(弁護士 原 吉宏)
............................................................................................................39
第 2 章 ファイナンス取引における実務上の諸問題
1 資産流動化スキームと倒産手続に関する実務上の諸問題
(第 2 回 倒産隔離について①)(弁護士 中森 亘・弁護士 堀野 桂子)
...........................................................................................................46
2 アセット・ベースト・レンディング 実務上の諸問題(弁護士 村島 雅弘)
...........................................................................................................54
第 3 章 ファイナンス法入門
1 証券化入門(弁護士 澤木 一隆)
...........................................................................................................61
3
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
序 章
弁護士 中森 亘
1 ファイナンス実務における新たな展開
その他、本年5月1日には会社法が施行され、
別冊「ファイナンス編」Vol.1(4月25日刊)
有限会社法制の廃止や合同会社(LLC)の新設、
をお届けしてから4 ヶ月が経ち、この間、ファイ
種類株式の多様化・柔軟化など、ファイナンス
ナンス実務にとって極めて重要な展開がありま
実務にも大きな影響を及ぼすと思われる事項が
した。それは「金融商品取引法」の誕生です。
多く含まれています。その一方、信託制度の現
すなわち、本年6月7日、
「証券取引法等の一部を
代化と利用拡大等が期待された信託法の改正は
改正する法律」(平成18年法律第65号)及び「証
先送りとなりました。
券取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う
2 今号の内容について
関係法律の整備等に関する法律」(同第66号)
(1) 新法令紹介
が国会で可決成立し、同月14日、公布されまし
さて、今号は金融商品取引法の誕生にあわ
た。これらの法律は、証券取引法をはじめとす
せて発刊を企画したものですが、まず、新法
る投資家保護ルールを定めた諸法規を構造的に
令の紹介として金融商品取引法を特集しまし
見直し、
「金融商品取引法」(現行の「証券取引
た。当事務所では、本年8月末から10月上旬
法」を改題)を中心とする法体系へと改組する
にかけて計3回(大阪2回、東京1回を予定)
、
ことを主眼とするものであり、わが国の金融・
同法が実務に与える影響等について解説する
資本市場における新たな幕開けといっても過言
セミナーの開催を予定していますが、今号で
ではないでしょう。金融商品取引法の詳細につ
は、そのうちファイナンス実務(ファンドや
いては今号の特集に譲りますが、同法は、投資
資産流動化スキームなど)に影響を与える事
家保護に関する横断的ルールの構築と規制の柔
項を中心に解説しています。金融商品取引法
構造化(柔軟化)とを同時に指向するものであ
の条文構造はかなり複雑で内容も平易とはい
り、金融・資本市場に対し、投資家のきめ細か
えませんが、内部で議論を重ね、取引実情等
い保護を要求する一方で新たな金融商品・サー
にあわせてできるだけ分かり易く解説するこ
ビスの開発を促すものであって、金融イノベー
とを心掛けました。なお、実務上どういった
ションの更なる進展に寄与するものと期待され
運用がなされるかは、今後発表される政省令
1
ます 。
や監督指針、パブリックコメントの結果等に
1 ちなみに、同法はその第1条で、「この法律は、企業内容等の開示の制度を整備するとともに、金融商品取引業を行う者に
関し必要な事項を定め、金融商品取引所の適切な運営を確保すること等により、有価証券の発行及び金融商品等の取引等
を公正にし、有価証券の流通を円滑にするほか、資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成等を図
り、もって国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的とする。」と定め、証券取引法(第1条)と比較す
ると、投資家保護のほか、「国民経済の健全な発展」に資するという点を法の目的として明確にするとともに、
「資本市場
の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成」を図ることを立法目的に追加した点が特徴的といえます。なお、
大崎貞和氏『解説 金融商品取引法』弘文堂17頁は、これらの点を捉え、同法は「消費者(投資者)の保護のみならず、経
済社会の重要なインフラストラクチャーである資本市場の機能を確保するための経済立法という性格を帯びている」と指
摘されています。
4
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
依存するところが大きいため、今後もこれら
与されていない方にも分かり易くファイナン
を注視していく必要があります。
ス法務を理解していただけることを主眼とし
(2) 実務上の諸問題
て、ファイナンス法入門というコーナーを新
次に、実務上の諸問題では、前号に引き続
たに設けました。金融イノベーションが益々
き、①資産流動化スキームと倒産手続との関
進む中、資産流動化や私募ファンドの組成な
係、 ま た、 最 近 注 目 さ れ て い る、 ② ア セ ッ
ど、ファイナンス実務に対する基礎知識は今
ト・ ベ イ ス ト・ レ ン デ ィ ン グ(Asset Based
や必須といっても過言ではないでしょう。こ
Lending =ABL)を取り上げています。①に
れらをできるだけ平易に解説しようというの
つ い て は、 今 回 は、 倒 産 隔 離(Bankruptcy
が本コーナーの趣旨であり連載していく予定
Remote)の意義や手法に関する諸論点を整
です。なお、本号では、「証券化入門」と題し
理しました。対象となる論点が幅広く、また、
て、資産の流動化・証券化スキームの基本を
紙面の都合もあるため、今号と次号の2回に分
できるだけ平易に解説していますので、既に
けて解説する予定です。②で取り上げたABLは、
ある程度経験を積んでおられる方でも、頭の
「債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に
関する法律」の改正法である「動産及び債権
の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関
整理としてご一読いただければと思います。
3 序章の最後に
私どもにおきましては、今後も継続して研究・
する法律」が平成17年10月に施行されて以来、
研鑽を重ね、皆様からのご批判・ご教授等も仰
担保供与資産の乏しい中小企業に対する担保
ぎながら、更なる専門知識の獲得とスキルの向
融資の一手法として注目されているものです
上を図ってまいる所存ですので、今後ともご指
が、その具体的な実務上の諸論点を解説しま
導とご鞭撻を賜りますよう宜しくお願い申し上
す。譲渡担保は実務から発展したいわば私的
げます。
担保であり、その法的構成等については判例、
以 上
学説ともいまだ議論が錯綜している状況です
が、本稿では、学術的な議論よりも実務上の
本冊子に関するご意見・ご感想、ファイナン
諸論点の方に焦点を当てています。
ス・金融法分野でご関心のあるテーマ等をお知
(3) ファイナンス法入門
らせ下さい。
最後にファイナンス実務にそれほど深く関
(E-mail:[email protected])
5
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
第1章 特集・金融商品取引法∼ファイナンス実務の観点から∼
【用語の表記について】
改正法
証券取引法等の一部を改正する法律(平成 18 年法律第 65 号)
整備法
証券取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律
(平成 18 年法律第 66 号)
現行証取法
証券取引法等の一部を改正する法律(平成 18 年法律第 65 号)第 1 条(見せ玉への対応、罰則の強化等)
施行後の証券取引法(*)
改正証取法
証券取引法等の一部を改正する法律(平成 18 年法律第 65 号)第 2 条(公開買付制度等の改正)
施行後の証券取引法
金商法
金融商品取引法(証券取引法等の一部を改正する法律〔平成 18 年法律第 65 号〕第 3 条施行により
証券取引法が改組された法律)
中間整理
金融審議会金融分科会第一部会「中間整理」(平成 17 年 7 月 7 日)
第一部会報告
金融審議会金融分科会第一部会報告「−投資サービス法(仮称)に向けて−」
(平成 17 年 12 月 22 日)
*証券取引法等の一部を改正する法律(平成18年法律第65号)第1条(見せ玉への対応、罰則の強化等)は既
に施行済みですが、同条施行前の証券取引法と同条施行後の証券取引法を特に区別する場合には、前者
を「旧証取法」
、後者を「現行証取法」とします。
【改正法の施行期日について】
・見せ玉への対応、罰則の強化等
平成 18 年 7 月 4 日
・公開買付制度、大量保有報告書
公布の日から起算して 6 月を超えない範囲内(平成 18 年 12 月 7 日まで)
制度等の改正
において政令で定める日(一部については公布の日から起算して 1 年を超
えない範囲内(平成 19 年 6 月 7 日まで)において政令で定める日)
・証取法の金商法への改組
公布の日から起算して 1 年 6 月を超えない範囲内(平成 19 年 12 月 7 日ま
・四半期開示の法定化
で)において政令で定める日(四半期開示の法定化、内部統制報告書制度
・内部統制報告書制度等
等については、平成 20 年 4 月 1 日以後に開始する事業年度から適用される)
・
「一般社団法人及び一般財団法人
6
「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」の施行日(同法は、公布の
に関する法律」の施行に伴う金
日〔平成 18 年 6 月 2 日〕から起算して 2 年 6 月を超えない範囲内〔平成
商法の改正
20 年 12 月 2 日まで〕において政令で定める日から施行される)
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
1 金融商品取引法の重要概念
弁護士 谷口 明史
第1 はじめに∼改正の基本的視点(横断化と柔構
造化・柔軟化)
いう2つのキーワードを軸に、改正法及び金商法の
構造を理解する上でポイントとなる、有価証券・金
現行証取法は条文構造が難解で、法の趣旨を理解
することは必ずしも容易ではなく、このことは金商
融商品・金融指標、金融商品取引業、特定投資家な
3
どの重要概念について解説します 。
法になっても基本的に変わりません。したがって、
まずは、証取法(金商法)の大きな構造の理解ととも
第2 有価証券・デリバティブ取引(金融商品・金
融指標)∼金商法の対象範囲
に、改正法(証取法から金商法への改組)の趣旨を理
1 証取法上の「有価証券」概念の機能
解することが、金商法を理解する近道といえます。
改正法(証取法から金商法への改組)の基本的視
現行証取法上の「有価証券」概念は、同法の
点を一言でいえば、第一部会報告3頁において、「規
適用範囲を画する極めて重要な概念です。すな
制全体について横断化と柔軟化を図ることにより、
わち、ある権利又は証券が「有価証券」とされ
利用者保護を確保しつつ、利用者利便の向上を図る
た場合には、①適用除外有価証券を除いて、開
ことが重要である」とされていたとおり、
規制の「横
示規制が適用されます。また、②有価証券の売
1
4
断化」と「柔構造化(柔軟化)
」であるといえます 。
買・引受等を営業 として行うことは「証券業」
横断化においては、現行法における規制の隙間を
とされ、原則として、証券業の登録が必要とな
埋めることに重点が置かれており、主として、有価
るとともに、当該業者には行為規制が適用され
証券概念の拡大や業者の業務範囲の拡大等が図られ
ます。さらに、③有価証券の取引に関しては、
ています。しかしながら、現行証取法においては、
インサイダー取引等の不公正取引が禁止される
有価証券概念が公衆縦覧型の開示規制や業規制(参
こととなります 。
5
入規制等)
、
行為規制等の適用に直結するという「ワ
有価証券概念には、開示規制、業規制、行為
ンセット規制構造」になっているため、このような
規制及び不公正取引の適用範囲を画するという
「かたい構造」
のままその対象範囲を拡大した場合、
過剰規制となる部分が生じてしまい、金融イノベー
ションを阻害してしまうおそれがあります。そこ
機能があるのです(下記参照)。
(証取法の構造)
①開示規制
で、規制の横断化とともに、金融イノベーションの
促進との両立を図るため、投資家の特性等に応じて
有価証券
②業規制、行為規制
2
規制の「柔構造化(柔軟化)
」がなされています 。
本稿では、
「横断化」と「柔構造化(柔軟化)」と
③不公正取引
1. 神田秀樹「金融商品取引法案について」証券レビュー 46巻第6号7頁、松尾直彦・岡田大・尾﨑輝宏「金融商品取引法制の
概要」商事法務1771号4頁
2. 神田教授は、「『柔軟化』という言葉を使った場合でも、
『柔構造化』だという意味で、構造を柔軟にするのだというふうに
御理解いただきたい」と述べています(前掲注1・神田10頁)
。
3. 本稿で解説する重要概念以外にも、「金融商品取引業協会」「金融商品取引所」などの重要概念がありますが、紙幅の関係
上、割愛させていただきます。
4. 後述するとおり、金商法においては「営業」ではなく、「業」が用いられています。
5. 近藤光男・吉原和志・黒沼悦郎『証券取引法入門(新訂第二版)』商事法務13頁
7
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
2 金商法上の「有価証券」概念等の機能
ブ取引、「金融指標」を参照指標とするデリバ
(1) 金商法においても、有価証券の範囲が拡
ティブ取引についても業規制及び行為規制の
大された上で(有価証券の範囲の拡大につい
対象とされています。また、③不公正取引に
ては後述します。
)
、上記のような有価証券概
ついても、例えば「有価証券の売買その他の
念の機能は維持されています(金商法第2条第
取引又はデリバティブ取引等について、不正
1項・第2項)
。
の手段、計画又は技巧をすること」が禁止さ
さらに、金商法では、
「有価証券」概念に加え
れる(同法第157条第1号)など、有価証券の
て、
「金融商品」(同法第2条第24項)及び「金
みならず、デリバティブ取引もその適用範囲
融指標」(同条第25項)という概念も新たに
を画するものとなっています。
定義されることとなりました。金商法におけ
る「金融商品」
、
「金融指標」は、それぞれデ (金商法の構造)
リバティブ取引の原資産、参照指標に当たる
6
ものであり 、かかる「金融商品」及び「金融
指標」という概念を用いて、金商法が適用さ
れる「デリバティブ取引(市場デリバティブ
取引、店頭デリバティブ取引又は外国市場デ
①開示規制
有価証券
金融商品
金融指標
デ
リ
バ
テ
ィ
ブ
取
引
②業規制、行為規制
③不公正取引
リバティブ取引)
」が定義されています(同法
第2条第20項ないし第23項)
。つまり、金融商
品・金融指標という概念は、金商法の適用対
象たる「デリバティブ取引」の範囲を画する
概念です。
3 有価証券・デリバティブ取引の範囲の拡大∼
対象範囲の横断化
(1) 有価証券
現行証取法第2条第1項は、「この法律にお
(2) 金商法における「有価証券」概念と「デ
いて『有価証券』とは、次に掲げるものをい
リバティブ取引」
(金融商品・金融指標)概念
う。」として、同項第1号から第11号に、その
の機能についてみれば、まず、①開示規制の適
権利について証券又は証書が発行されている
用範囲については、金商法においても「有価
ものを列挙し、同条第2項前段において、同
証券」概念によって画されており(同法第4条
条第1項に掲げる有価証券に表示されるべき権
等)
、この点は証取法と同様です。
「デリバティ
利は、証券が発行されていない場合でも、こ
7
ブ取引」には開示規制の適用はありません 。
れを有価証券とみなすとされています。また、
これに対して、②業者規制の適用範囲につい
同条第2項後段では、証券又は証書に表示され
ては、例えば、
「有価証券の売買、市場デリバ
るべき権利以外の権利であっても有価証券と
ティブ取引又は外国市場デリバティブ取引」
みなす権利として、同項第1号から第8号まで
が金融商品取引業の1つとされ(同法第2条第
の権利を列挙しています(いわゆる「みなし
8項第1号)
、顧客に対する誠実義務を課せら
有価証券」)。
れる(同法第36条)など、
「有価証券」のみな
金商法においても、かかる構造は維持され
らず、
「金融商品」を原資産とするデリバティ
ており、その上で、金商法第2条第1項各号に
6. 前掲注1・松尾他8頁、小島宗一郎・松本圭介・中西健太郎・酒井敦史「金融商品取引法の目的・定義規定」商事法務1772
号22頁。
7. 前掲注1・神田22頁
8
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
列挙される「有価証券」及び同条第2項後段に
ない取引についてもその適用対象とします(金
列挙される「みなし有価証券」の範囲が広がっ
商法第2条第20項ないし第25項)。すなわち、
「デリバティブ取引」とは、市場デリバティブ
ています。
具体的には、
「有価証券」について、抵当証
券の追加(同条第1項第16号)
、カバードワラ
取引、店頭デリバティブ取引又は外国市場デ
リバティブ取引をいうものとし(同条第20項)
、
ントの範囲の拡大(同項第19号)などの改正
「市場デリバティブ取引」(同条第21項)
、
「店
がなされています。
「みなし有価証券」に関し
頭デリバティブ取引」(同条第22項)及び「外
ては、
信託受益権について、
現行証取法では「銀
国市場デリバティブ取引」(同条第23項)に
行その他政令で定める者の貸付債権を信託す
関する一般的な定義規定が設けられています。
る信託の受益権のうち、政令で定めるもの」
新たに規制対象となるデリバティブ取引とし
のみが有価証券とされていますが、金商法で
ては、通貨・金利スワップ、クレジット・デリ
は信託受益権一般が有価証券とされ(同法同
バティブ、天候デリバティブが挙げられます 。
条第2項第1号・第2号)
、また、集団的投資ス
また、新たなデリバティブ取引の出現にも
キーム(ファンド)の包括的な定義規定が設
対応できるよう、取引類型及び原資産・参照
けられました(同項第5号・第6号。これらの
指標について、政令で指定できる規定が設け
規定に掲げられた権利を、以下「集団投資ス
られています。
10
キーム持分」といいます。
)
。さらに、
「みなし有
価証券」の政令指定の規定についても、現行
証取法(同法第2条第2項第8号)と異なり、流
なお、有価証券・金融商品・金融指標につ
いては後掲の表1をご参照ください。
4 第一項有価証券と第二項有価証券∼有価証券
概念の柔構造化
通性の要件(
「流通の状況が前項の有価証券に
準ずる」という要件)が削除され、流通性の
金商法においては、有価証券について、
「第一
有無を問わず有価証券及びみなし有価証券と
項有価証券」と「第二項有価証券」という区別
「同様の経済的性質」を有する権利については
が新たに設けられました。これは、有価証券概
政令指定できることとされるとともに、政令
指定の対象が「金銭債権」から「権利」に拡
8
念の柔構造化といえます。
「第一項有価証券」とは、金商法第2条第1項
大されています(金商法第2条第2項第7号) 。
に掲げる有価証券又は同条第2項前段に規定され
(2) デリバティブ取引
る有価証券表示権利であり、「第二項有価証券」
現行証取法においては、有価証券デリバティ
9
とは、同項後段の規定により有価証券とみなさ
ブ取引のみが適用対象とされています が、金
れる権利です(同法第2条第3項)。例えば、
株券、
商法においては、有価証券デリバティブ取引
社債券、特定目的会社の特定社債券や優先出資
や金融先物取引法の適用対象である金融先物
証券などの流通性の高いもの(いずれも有価証
取引を金商法の適用対象とするほか、現行証
券が発行されていない場合を含みます。
)は「第
取法・金融先物取引法の適用対象とされてい
一項有価証券」となり、信託受益権、集団投資
8. 政令指定要件の緩和により、政令指定による有価証券概念の拡張が、これまでより柔軟に行われるようになることが期待
されます(大崎貞和『解説 金融商品取引法』弘文堂24頁)。
9. 現行証取法においては、有価証券先物取引、有価証券指数等先物取引、有価証券オプション取引などの有価証券デリバティ
ブ取引のみが適用対象とされています(現行証取法第2条第22項ないし第27項)
。
10.「デリバティブ取引」の詳細については、前掲注6・小島他22頁参照
9
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
スキーム持分、合同会社の社員権などの流通性
ブ取引概念の拡大に併せて、業規制の対象範
の低いものは「第二項有価証券」となります。
囲も拡大され、
「販売・勧誘」、
「資産運用」及
そして、①「募集」及び「売出し」の定義(同
び「資産管理」が本来業務として位置づけら
法第2条第3項・第4項)
、②「特定組織再編成発
れています。これによって、現行証取法及び外
行手続」及び「特定組織再編成交付手続」の定
国証券業者に関する法律に基づく証券業、投
義(同法第2条の2第4項・第5項)
、③少人数向
資信託及び投資法人に関する法律(以下「投
け勧誘の告知(同法第23条の13第3項)の各規
信法」といいます。)に基づく投資信託委託業・
定において異なる規制がなされています。これ
投資法人資産運用業、有価証券に係る投資顧
らは、いずれも主として開示規制に関するもの
問業の規制等に関する法律(以下「投資顧問
であるため、
「第一項有価証券」と「第二項有価
業法」といいます。)に基づく投資顧問業・投資
証券」の区別は、開示規制の柔構造化の1つとも
一任契約に係る業務、金融先物取引法に基づ
いえます(開示規制の柔構造化については後述
く金融先物取引業、信託業法に基づく信託受
します。
)
。
益権販売業、抵当証券業の規制等に関する法
律(以下「抵当証券業法」といいます。)に基
第3 金融商品取引業
づく抵当証券業、商品投資に係る事業の規制
1 業規制の横断化
に関する法律に基づく商品投資販売業が、
「金
12
融商品取引業」に統合されることとなります 。
(1) 金融商品取引業
現行証取法上、有価証券の定義と並んで、同
なお、現行証取法では、証券業を定義する
法第2条第8項各号に掲げる「証券取引行為」
ために「営業」 が用いられている(同法第2
の概念が、証取法の適用範囲を決定する上で、
条第8項)のに対して、金商法では「業」が用
重要な役割を果たしており、証券業の登録制
いられています(同法第2条第8項)。これは、
の適用範囲、証券会社等の行為規制等の適用
第一部会報告10頁で、「業として規制の対象
範囲、及び不公正取引禁止規定の一部の適用
とする範囲について、営利性などを要件とせ
11
範囲を画する機能があるとされています 。
13
ず可能な限り広くとらえるなどの措置を検討
同様に、金商法の適用範囲を決定する上で
していくことが望ましい。」とされていたこと
重要な役割を果たす概念が、同法第2条第8項
を受けたものであり、営利性を要件としない
各号に列挙されている「金融商品取引行為」
趣旨です。
(同法第34条参照)です。そして、金融商品
(2) 自己募集・自己運用
取引行為のいずれかを業として行うことが「金
金融商品取引業の本来業務のうち、「販売・
融商品取引業」とされ(同法第2条第8項)
、金
勧誘」に関する重要な改正として、有価証券
融商品取引業者(同条第9項)には参入規制や
の発行者自身による販売・勧誘行為(いわゆ
行為規制が適用されることとなります。
る「自己募集」)が金融商品取引業の1つとさ
金商法においては、有価証券やデリバティ
れ、同様に、「資産運用」に関する重要な改正
11.前掲注5・近藤他32頁
12.前掲注1・松尾他8頁
13.現行証取法上の「営業」の解釈に関しては争いがあり、商法における営業概念と同様に、
「営利の目的をもって反復継続し
て行うこと」と解する説(神崎克郎・志谷匡史・川口恭弘『証券取引法』青林書院394頁)、それに加えて対公衆性を要す
ると解する説(河本一郎・大武泰南『証券取引法読本〔第7版〕
』有斐閣147頁等)などがあります。
10
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
として、いわゆる「自己運用」が金融商品取
に金融商品取引業登録が不要な場合(適格機
引業の1つとされました。
関投資家等特例業務)が定められています(同
法第63条)。この点については後述します。
す な わ ち、 現 行 法 に お い て も、 投 信 法 に
(3) 登録制への統合
おいては投資信託の受益証券の自己募集は
14
規制対象とされており(同法第27条)、同様
現行法においては、証券業(PTS業務 、元
に、抵当証券業法においては抵当証券の自己
引受け、有価証券店頭デリバティブ取引を除
募集も規制対象とされています(同法第2条第
く。)や証券仲介業、投資顧問業、信託受益権
1項)が、現行証取法では、自己募集は証券業
販売業等は登録制とされていますが、例えば、
には含まれておらず(同法第2条第8項第6号
商品投資顧問業等は許可制であり、投資一任
参照)
、そのため集団投資スキームの自己募集
契約に係る業務や投資信託委託業・投資法人
について規制の隙間があることが指摘されて
資産運用業は認可制とされています。
これに対し、金商法においては、認可制が維
いました。そこで、金商法においては、投信
法や抵当証券業法の規制を統合するとともに、
持されるPTS業務(同法第30条)を除き、登録
集団投資スキームの自己募集に関する規制の
制に統一されます(同法第29条。但し、適格
隙間を埋めるため、委託者指図型投資信託の
機関投資家等特例業務は届出制となります。
)
。
受益証券、外国投資信託の受益証券、抵当証券、
(4) 登録金融機関について
集団投資スキーム持分等についての自己募集
現行証取法上の銀・証分離規制(同法第65
(
「募集又は私募」
)を業として行うことは金
条、第65条の2)は、金商法においても維持
融商品取引業とされ(同法第2条第8項第7号)、
されており、登録金融機関は、現行証取法上
原則として、第二種金融商品取引業の登録が
の証券業に該当する有価証券関連業及び投資
必要となります(同法第28条第2項第1号)。
運用業を行うことはできません(同法第33条、
また、自己運用についても、金商法では、
主として有価証券又はデリバティブ取引に係
第33条の2)。
2 業規制の柔構造化∼金融商品取引業の区分
る権利に対する投資として、集団投資スキー
金商法における金融商品取引業は、その業務
ム持分等を有する者から出資又は拠出を受け
内容の範囲に応じて、第一種金融商品取引業、
た 金 銭 そ の 他 の 財 産 の 運 用(指 図 を 含 み ま
第二種金融商品取引業、投資助言・代理業、投資
す。
)を行うこと(自己運用)が金融商品取引
運用業に区分され(同法第28条第1項ないし第4
業とされ(同法第2条第8項第15号)、原則と
項)、各区分に応じた参入規制等を設けることに
して、投資運用業登録が必要となります(同
より、業規制の柔構造化が図られています 。
15
法第28条第4項第3号)
。
業規制を理解するためには、①どのような業
しかしながら、集団投資スキームにおける
務を行う場合に、第一種金融商品取引業、第二
自己募集や自己運用を金融商品取引業とする
種金融商品取引業、投資助言・代理業、投資運
と、過剰規制によってファンド等の健全な活
用業に該当するのか、②それぞれの業者登録を
動までも阻害するおそれもあるため、例外的
するためには、どのような要件が必要か(参入
14.私設取引システムのことをいいます(金商法第2条第8項第10号)。
15.金融商品取引業とは別に「金融商品仲介業」(金商法第2条第11項)が定められています。これは、現行証取法の「証券仲
介業」の名称を改めるとともに、その業務として、デリバティブ取引等の委託の媒介(同項第2号)及び投資顧問契約・投
資一任契約の締結の媒介(同項第4号)を新たに追加したものです。
11
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
規制・財産規制等)
、③それぞれの業者登録をし
スキーム(ファンド)の自己募集(私募に限られま
た場合、どのような業務を行うことができるの
す。)及び自己運用に関しては、金商法第29条の登
か(業務範囲・兼業規制)
、に分けて理解する必
録が不要とされ、届出で足りるとすることにより、
要があります。
業規制の柔構造化が図られています(同法第63条
①については後掲の表2、②及び③について
第1項・第2項)。これが適格機関投資家等特例業務
は、後掲の表3をご参照ください。なお、既存業
であり、以下の要件に該当するものをいいます。
者に関する経過措置については、後掲の表4をご
なお、適格機関投資家等特例業務に該当する有価
証券の私募(同法第63条第1項第1号)又は自己運
参照ください。
用(同項第2号)を行う場合、虚偽告知の禁止(同
第4 適格機関投資家等特例業務∼集団投資スキー
法第38条第1号)、損失補填等の禁止(同法第39条)
ムにおける業規制の柔軟化
及びこれらに関する罰則(同法第63条第4項)を除
健全な活動を行っているファンドを通じた金融イ
き、行為規制の適用はありません(同法第63条第4
ノベーションを促進しつつ、市場の公正性・透明性
項、第63条の3第3項)。
を確保する観点から、適格機関投資家向け集団投資
自己募集(私募)
(第 63 条第 1 項第 1 号)
①適格機関投資家等(適格機関投資家 +政令で定めるもの〔その数が政
16
令で定める数以下の場合に限る〕)を相手方として行う集団投資スキーム
持分の「私募」 であること
17
②私募の相手方が、適格機関投資家以外の者を投資家とする特定目的会社
又は匿名組合の営業者その他政令で定める者に該当しないこと
自己運用
(第 63 条第 1 項第 2 号)
集団投資スキーム持分を有する適格機関投資家等(適格機関投資家+政令
で定めるもの〔その数が政令で定める数以下の場合に限る〕)から出資・拠
出された金銭の自己運用(金商法第 2 条第 8 項第 15 号に掲げる行為)で
あること
第5 行為規制の横断化
1 規定の統合
金商法においては、前述のとおり、現行法上
その詳細については後掲の表5をご参照くださ
い。
2 他の法律における金商法上の規定の準用等
の投信法、投資顧問業法、金融先物取引法等に
改正法においては、同じ経済的機能を有する
基づく業規制が「金融商品取引業」として統合
金融商品には同じルールを適用するという観点
されたことに伴い、金融商品取引業者に適用さ
から、他の業法においても金商法上の行為規制
れる行為規制も統合され、横断的な規制がなさ
を準用すること等によって、行為規制の横断化
れています(金商法第36条ないし第43条の4)。
が図られています。
16.適格機関投資家とは、「有価証券に対する投資に係る専門的知識及び経験を有する者として内閣府令で定める者」をいいま
す(金商法第3条第1号)。なお、第一部会報告26頁では、開示規制に関する文脈においてではありますが、
「適格機関投資
家の範囲については、取引の実態などに即して見直しを行い、その拡大を図ることが適当である。具体的には、事業会社
について適格機関投資家の範囲を拡大するとともに、事業会社以外の法人や個人についても、一定の者が適格機関投資家
となる途を開くことを検討することが適当と考えられる」とされています。
17.適格機関投資家等以外の者が当該権利を取得するおそれが少ないものとして政令で定める場合に限られます。
12
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
具体的には、例えば、銀行法における「特定
現行証取法における行為規制は、投資家の属
預金等契約」
、保険業法における「特定保険契
性を問わず適用されることとなっていますが、
約」
、信託業法における「特定信託契約」につい
金商法においては、適切な利用者保護とリスク・
ては、それぞれ金商法上の行為規制が準用され
キャピタル供給の円滑化を両立させる等の観点
ています(改正後の銀行法第13条の4・第52条
から 、新たに特定投資家(プロ)の概念を創設
の45の2、改正後の保険業法第300条の2、改正
し、投資家を特定投資家と一般投資家(アマ)
後の信託業法24条の2)
。また、不動産特定共同
に区分した上、特定投資家との間で取引を行う
事業法については、金商法と同じ規制を課すた
場合には、一定の行為規制は適用されないこと
め、①再勧誘の禁止規定が設けられ(改正後の
とされています(金商法第45条)。
18
不動産特定共同事業法第21条第2項)
、②適合性
特定投資家とは、適格機関投資家、国、日本
の原則や損失補填の禁止等に関する金商法上の
銀行、金商法第79条の21に規定する投資者保護
規定が準用されています(同法第21条の2)。同
基金その他の内閣府令で定める者をいい(金商
様に、商品取引所法、農業協同組合法、中小企
法第2条第31項)、金商法上、投資家は、①一般
業等協同組合法においても行為規制の横断化が
投資家に移行できない特定投資家 、②選択によ
図られています。
り一般投資家に移行できる特定投資家 、③選択
3 金融商品販売法の改正
により特定投資家に移行できる一般投資家 、④
行為規制の横断化に関連する重要な改正が、金
融商品販売法の改正です。具体的には、第1に、
19
20
21
22
特定投資家に移行できない一般投資家 の4つに
区分されます。
説明義務の対象事項の拡充等であり、「取引の仕
上記のとおり、特定投資家を相手方とする場
組みのうち重要な部分」や「当初元本を上回る
合には、適合性原則、取引態様の事前明示義務、
損失が生ずるおそれ」が説明義務の対象事項に追
契約締結前の書面交付義務など、情報格差の是
加され(改正後の金融商品販売法第3条第1項第
正を目的とする行為規制について規制緩和がな
1号ないし第7号)、第2に、新たに断定的判断の
されています(金商法第45条)。これに対して、
提供等の禁止規定が設けられています(同法第4
市場の公正確保をも目的とする規制(例えば、
条)。
虚偽表示又は断定的判断の提供による勧誘の禁
止〔38条1号・2号〕、損失補填の禁止〔38条の2
第6 特定投資家∼行為規制の柔構造化
1 特定投資家とは
第2号、39条〕)は適用除外とはされていません。
詳細については後掲の表5をご参照ください。
18.前掲注1・松尾他12頁
19.特定投資家のうち、適格機関投資家、国、日本銀行です(金商法第34条の2第1項参照)
。
20.金商法第79条の21に規定する投資者保護基金その他の内閣府令で定める者がこれに該当します(金商法第34条の2第1
項)。第一部会報告19頁では「この分類にあたるものとして、例えば、公開会社、一定規模以上の会社、地方公共団体や
政府関係機関などが考えられる。ただし、地方公共団体や政府関係機関については一般投資家への移行を認めるべきでな
いという意見があった。」とされています。
21.第一部会報告19頁では「②以外に分類される以外の法人などについては、この分類とすることが適当と考えられる。個人
についても、現状、富裕層の存在などを勘案すると、一定の要件を満たす場合には、選択により特定投資家への移行が可
能とすることが適当と考えられる。」とされていました。これを受けて、金商法も、特定投資家へ移行できる一般投資家に
ついては、法人(金商法第34条の3)と個人(同法第34条の4)を区別しています。
22.③以外の個人がこれに該当します。
13
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
23
2 移行の手続等
(1) 特定投資家に対する告知義務等
上記②に該当する特定投資家から金融商品
ものとして内閣府令で定める個人、知識、経
験及び財産の状況に照らして特定投資家に相
当するものとして内閣府令で定める個人で
取引行為(第2条第8項各号に掲げる行為)を
す(第34条の4第1項)。金融商品取引業者が、
行うことを内容とする申込みを受けた場合で、
かかる個人から特定投資家への移行の申出を
「当該申込みに係る金融商品取引契約と同じ金
受けた場合に、かかる申出を承諾する場合に
融商品取引契約の種類として内閣府令で定め
は、当該個人が特定投資家へ移行可能な個人
るものに属する金融商品取引契約を過去に当
に該当することを確認した上、当該個人が特
該特定投資家との間で締結したことがない場
定投資家として扱われることによるリスクを
合」には、事前に、一般投資家に移行できる
理解している旨を記載した書面を交付しなけ
旨の告知が必要です(金商法第34条)
。また、
ればならないとされています(金商法第34条
告知義務の有無にかかわらず、上記②に該当
の4第2項)。
する特定投資家から、一般投資家に移行する
旨の申し出がなされた場合(第34条の2第1
項)には、正当な理由がある場合を除き、か
第7 開示規制
1 開示規制の柔構造化
かる申出を承諾しなければなりません(第34
第一部会報告では、「投資商品の流動性に着目
条の2第2項)
。その他、書面交付義務(第34
した開示制度」を整備するとの方向性が示され
条の2第3項)等が定められています。
ていました。これに従い、金商法では流通性の
(2) 一般投資家から特定投資家への移行(法
程度に応じた開示規制が整備されています 。
人の場合)
24
なお、開示規制は主として「発行者」に対し
金融商品取引業者が、一般投資家である法
て適用されるものですが、「発行者」とは、
「有
人から特定投資家への移行の申出(金商法第
価証券を発行し、又は発行しようとする者」で
34条の3第1項)を受けた場合に、かかる申
あり、金商法第2条第2項各号の「みなし有価証
出を承諾する場合には、承諾日、期限日等を記
券」については、「権利の種類ごとに内閣府令で
載した書面による当該法人の同意を得なけれ
定める者が内閣府令で定める時に当該権利を有
ばならないとされています(第34条の3第2項)。
価証券として発行するものとみなす」とされて
(3) 一般投資家から特定投資家への移行(個
います(金商法第2条第5項)。発行者に関する規
人の場合)
25
定は、現行証取法第2条第5項と同様です (現行
一般投資家から特定投資家に移行可能な個
証取法の規定については証券取引法第二条に規
人は、匿名組合の営業者その他これに類する
定する定義に関する内閣府令(以下「定義府令」
23.特定投資家から一般投資家への移行、一般投資家から特定投資家への移行の手続についての詳細は、政令に委任されてい
ます(金商法第34条の5)。
24.開示規制については、谷口義幸・野村昭文「企業内容等開示制度の整備」商事法務1773号38頁をご参照ください。
25.第一部会報告においては、「投資サービス法の下では、様々な種類の投資商品が新たに開示規制の対象となってくることが
想定されるが、発行者については、現在と同様、『開示に必要な情報を確実に入手して提供できるもの』を発行者として捉
えるとの考え方に沿って整理していくことが適当と考えられる。」とされています(同報告27頁)
。
14
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
26
といいます。
)8条参照 )
。
2 流通性の高い上場有価証券等
27
上場会社等 について、開示規制の充実が図ら
れています。
しかし、①同項第5号に掲げる権利(集団投
資スキーム持分)のうち、当該権利に係る出
資対象事業が主として有価証券に対する投資
29
を行う事業 であるものとして政令で定めるも
すなわち、①現在、取引所の自主ルールとし
の(有価証券投資事業権利等)、②同項第1号(信
て実施されている四半期開示が法定化され(金
託受益権)から第4号まで、第6号・第7号に
商法第24条の4の7)
、また、②適切な財務・企
掲げる権利のうち、①に掲げる権利に類する
業情報の開示を確保するため、上場会社等は、
権利として政令で定めるもの、③その他政令
事業年度ごとに、内部統制報告書の提出が義務
で定めるもの、についてはそれぞれ適用除外
付けられる(同法第24条の4の4)とともに、内
有価証券から除かれています(つまり開示規
部統制報告書については、公認会計士・監査法
制が適用されます。金商法第3条第3号)
。
人による監査の対象となります(同法第193条の
(2) 第二項有価証券に関する開示規制の柔軟
2第2項)
。さらに、③上場会社等は、有価証券報
化
告書、四半期報告書及び半期報告書について、
金商法においては、第二項有価証券(同法
その記載内容が金融商品取引法令に基づき適正
第2条第2項後段に掲げられる「みなし有価証
であることを確認した旨を記載した確認書の提
券」)に関して、「募集」「売出し」の概念が変
出が義務付けられます(同法第24条の4の2、第
更されており、開示規制が適用される場合に
24条の4の8、第24条の5の2)
。
おいても開示規制の柔軟化が図られています。
3 流通性の乏しい有価証券(みなし有価証券〔第
2条第2項後段〕
)
(1) 適用除外有価証券(金商法第3条)
金商法第2条第2項後段に掲げる「みなし有
すなわち、金商法においては、第一項有価
証券と第二項有価証券という区別が新たに規
定されたことを受けて、「募集」の定義が第一
項有価証券と第二項有価証券で異なっており、
30
価証券」については、原則として開示規制の
第一項有価証券については、現行証取法 とほ
適用除外とされています(金商法第3条第3
ぼ同様の規定がなされていますが(金商法第2
28
号) 。
条第3項第1号、第2号)、第二項有価証券につ
26.例えば、現行法上、信託の委託者、任意組合契約における業務の執行を委任される組合員、投資事業有限責任組合契約に
おける無限責任組合員、匿名組合契約における営業者が「発行者」とされ(定義府令第8条第3項)、信託受益権については「当
該権利に係る信託の委託者が当該権利(委託者が譲り受けたものを除く)を譲渡する時」、組合契約上の権利については、
「当該権利に係る契約の効力が生ずる時」に発行したものとされます(同条第4項)。
27 .上場会社その他政令で定めるものをいいます。
28.但し、開示規制の対象とならない「みなし有価証券」についても、金融商品取引業者等の行為規制である契約締結前の書
面交付義務を通じて投資者に情報提供がなされることとなります(金商法第37条の3第1項)
。
29.「主として有価証券に対する投資を行う事業」については、政令で、その集団投資スキーム等の総出資総額の50%超を有
価証券に出資する事業と規定される予定です(前掲注23・谷口他43頁)
。
30.現行証取法上の少人数私募は、組合契約出資持分につき、50名未満の投資家への勧誘であり、組合契約に転売制限(一括
譲渡以外の譲渡禁止)が規定されていることが要件であり(証取法第2条3項2号ロ、同施行令第1条の7第3号、定義府令第
7条3項10号)、プロ私募は、組合契約出資持分につき、適格機関投資家への勧誘であり、組合契約に転売制限(適格機関
投資家以外への譲渡禁止)が規定されていることが要件です(証取法第2条3項2号イ、同施行令第1条の5第3号、定義府令
第5条3項7号)。
15
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
項第2号)。
いては、
「その取得勧誘に応じることにより相
31
当程度多数 の者が当該取得勧誘に係る有価証
券を所有することとなる場合として政令で定
第8 おわりに
める場合」が「募集」とされ、それ以外は「私
以上、金商法を理解するための重要概念について
募」とされます(同項第3号)
。つまり、多数
ご説明しましたが、本稿が、皆様の金商法理解の一
人に勧誘しても最終的な所有者が一定数未満
助となれば幸いです。
(例えば500名未満)であれば、私募となり、
公衆縦覧型の開示規制の適用はありません。
なお、金商法の重要ポイントの1つとして、集団
投資スキームに関する改正がありますが、これに関
同様に、
「売出し」に関しても、第一項有価
する全般的な解説については本冊子別稿・澤木弁護
証券については、現行証取法とほぼ同様の規
士執筆部分を、また、金商法の資産流動化スキーム
定がなされていますが(金商法第2条第4項第
への影響については本冊子別稿・中森弁護士執筆部
1号)
、第二項有価証券については「その売付
分をそれぞれご参照ください。
け勧誘等に応じることにより、当該売付け勧
また、改正法には、現行証取法の金商法への改
誘等に係る有価証券を相当程度多数の者が所
組以外にも、罰則の強化等や公開買付制度の改正な
有することとなる場合として政令で定める場
ど重要な改正が含まれていますが、この点について
合」が「売出し」とされ、最終的な所有者が
は、本冊子別稿・原弁護士執筆部分をご参照くださ
一定数未満(例えば500名未満)であれば公
い。
衆縦覧型の開示規制の適用はありません(同
31.「相当程度多数」の基準としては、政令で「500名以上」と規定される予定です(前掲注23・谷口他43頁)。
16
以上
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
(表1)
有価証券・金融商品・金融指標
第 A 有価証券
一
項
有
価
証
券
①国債証券
②地方債証券
③特別の法律により法人の発行する債券(④・⑪に掲げるものを除く)
④資産流動化法に規定する特定社債券
⑤社債券
⑥特別の法律により設立された法人の発行する出資証券(⑦・⑧・⑪に掲げるものを除
く)
⑦協同組織金融機関の優先出資に関する法律(「優先出資法」)に規定する優先出資証
券
⑧資産流動化法に規定する優先出資証券又は新優先出資引受権証券
⑨株券又は新株予約権証券
⑩投信法に規定する投資信託又は外国投資信託の受益証券
⑪投信法に規定する投資証券若しくは投資法人債券又は外国投資証券
⑫貸付信託の受益証券
⑬資産流動化法に規定する特定目的信託の受益証券
⑭信託法に規定する受益証券発行信託の受益証券
⑮法人が事業に必要な資金を調達するために発行する約束手形のうち、内閣府令で定
めるもの(CP等)
⑯抵当証券法に規定する抵当証券
⑰外国又は外国の者の発行する証券又は証書で①から⑨まで又は⑫から⑯までに掲げ
る証券又は証書の性質を有するもの(⑱に掲げるものを除く)
⑱外国の者の発行する証券又は証書で銀行業を営む者その他の金銭の貸付けを業とし
て行う者の貸付債権を信託する信託の受益権又はこれに類する権利を表示するもの
のうち、内閣府令で定めるもの
⑲金融商品市場において金融商品市場を開設する者の定める基準及び方法に従い行う
市場デリバティブ中のオプション取引に係る権利、外国金融商品市場において行う
取引であって市場デリバティブ取引中のオプション取引と類似の取引に係る権利又
は金融商品市場及び外国金融商品市場によらないで行う市場デリバティブ取引中の
オプション取引又は店頭オプション取引に係る権利を表示する証券又は証書
⑳ ①∼⑲に掲げる証券又は証書の預託を受けた者が当該証券又は証書の発行された国
以外の国において発行する証券又は証書で、当該預託を受けた証券又は証書に係る
権利を表示するもの
・①∼⑳に掲げるもののほか、流通性その他の事情を勘案し、公益又は投資者の保護
を確保することが必要と認められるものとして政令で定める証券又は証書
B みなし有価証券①
A①∼・までに掲げる有価証券等に表示されるべき権利(有価証券表示権利)は、当
該権利を表示する当該有価証券が発行されていない場合においても、当該権利を当
該有価証券とみなす
第 C みなし有価証券②
二
項
有
価
証
券
① 信託の受益権(A⑩に規定する投資信託の受益証券に表示されるべきもの及びA⑫
∼⑭までに掲げる有価証券に表示されるべきものを除く)
② 外国の者に対する権利で①に掲げる権利の性質を有するもの(A⑩に規定する外国
投資信託の受益証券に表示されるべきもの並びにA⑰・⑱に掲げる有価証券に表示
されるべきものに該当するものを除く)
③合名会社若しくは合資会社の社員権(政令で定めるものに限る)又は合同会社の社
員権
④外国法人の社員権で前号に掲げる権利の性質を有するもの
⑤組合契約(民法第 667 条第1項)、匿名組合契約(商法第 535 条)、投資事業有限
責任組合契約(投資事業有限責任組合契約に関する法律第 3 条第 1 項)又は有限責
17
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
責任事業組合契約(有限責任事業組合契約に関する法律第 3 条第 1 項)に基づく権利、
社団法人の社員権その他の権利(外国の法令に基づくものを除く)のうち、当該権
利を有する者(「出資者」)が出資又は拠出をした金銭(これに類するものとして政
令で定めるものを含む)を充てて行う事業(「出資対象事業」)から生ずる収益の配
当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利であって、次
のいずれにも該当しないもの(Aに掲げる有価証券に表示される権利、B及びC①
∼④・⑥・⑦を除く)
イ 出資者の全員が出資対象事業に関与する場合として政令で定める場合における当
該出資者の権利
ロ 出資者がその出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対象事業に係る財産
の分配を受けることがないことを内容とする当該出資者の権利(イに掲げる権利を
除く)
ハ 保険業法第 2 条第 1 項に規定する保険業を行う者が保険者となる保険契約、農業
協同組合法第 10 条第 1 項第 10 号に規定する事業を行う同法第 5 条に規定する組
合と締結した共済契約、中小企業等協同組合法第 9 条の 2 第 7 項に規定する共済事
業を行う同法第 3 条に規定する組合と締結した共済契約又は不動産特定共同事業法
第 2 条第 3 項に規定する不動産特定共同事業契約に基づく権利(イ及びロに掲げる
権利を除く)
ニ イからハまでに掲げるもののほか、当該権利を有価証券とみなさなくても公益又
は出資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定め
る権利
⑥外国の法令に基づく権利であって、⑤に掲げる権利に類するもの
⑦①∼⑥に掲げるもののほか、Aに規定する有価証券及びC①∼⑥に掲げる権利と同
様の経済的性質を有することその他の事情を勘案し、有価証券とみなすことにより
公益又は投資者の保護を確保することが必要かつ適当と認められるものとして政令
で定める権利
D 金融商品
①有価証券
②預金契約に基づく債権その他の権利又は当該権利を表示する証券若しくは証書で
あって政令で定めるもの(①に掲げるものを除く)
③通貨
④①∼③に掲げるもののほか、同一の種類のものが多数存在し、価格の変動が著しい
資産であって、当該資産に係るデリバティブ取引(デリバティブ取引に類似する取
引を含む)について投資者の保護を確保することが必要と認められるものとして政
令で定めるもの(商品取引所法第 2 条第 4 項に規定する商品を除く)
⑤①若しくは②に掲げるもの又は③に掲げるもののうち内閣府令で定めるものについ
て、金融商品取引所が、市場デリバティブ取引を円滑化するため、利率、償還期限
その他の条件を標準化して設定した標準物
E 金融指標
①金融商品の価格又は金融商品(D③に掲げるものを除く)の利率等
②気象庁その他の者が発表する気象の観測の成果に係る数値
③その変動に影響を及ぼすことが不可能若しくは著しく困難であって、事業者の事業
活動に重大な影響を与える指標(②に掲げるものを除く)又は社会経済の状況に関
する統計の数値であって、これらの指標又は数値に係るデリバティブ取引(デリバ
ティブ取引に類似する取引を含む)について投資者の保護を確保することが必要と
認められるものとして政令で定めるもの(商品取引所法第 2 条第 5 項に規定する商
品指数を除く)
④ ①∼③に掲げるものに基づいて算出した数値
18
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
(表2)
金融商品取引業者に関する参入規制等
第 28 条(*)
第 2 条第 8 項
①有価証券の売買、市場デリバティブ取引又は外国市
場デリバティブ取引
②有価証券の売買、市場デリバティブ取引又は外国市
場デリバティブ取引の媒介、取次ぎ、代理
③取引所金融商品市場における有価証券の売買又は市
場デリバティブ取引等
④店頭デリバティブ取引又はその媒介、取次ぎ若しく
(第一項有価証券の場合)第一種金融商品取引業
(第二項有価証券の場合)第二種金融商品取引業
(第一項有価証券の場合)第一種金融商品取引業
(第二項有価証券の場合)第二種金融商品取引業
(第一項有価証券の場合)第一種金融商品取引業
(第二項有価証券の場合)第二種金融商品取引業
第一種金融商品取引業
は代理
⑤有価証券等清算取次ぎ
(第一項有価証券の場合)第一種金融商品取引業
(第二項有価証券の場合)第二種金融商品取引業
⑥有価証券の引受け
第一種金融商品取引業
⑦有価証券(委託者指図型投資信託の受益証券、外国
第二種金融商品取引業
投資信託の受益証券、抵当証券、集団投資スキーム
持分等)の募集又は私募(自己募集)
⑧有価証券の売出し
(第一項有価証券の場合)第一種金融商品取引業
(第二項有価証券の場合)第二種金融商品取引業
⑨有価証券の募集・売出しの取扱い、私募の取扱い
(第一項有価証券の場合)第一種金融商品取引業
(第二項有価証券の場合)第二種金融商品取引業
⑩PTS業務
第一種金融商品取引業
⑪投資顧問契約に基づく助言
投資助言・代理業(投資助言業務)
⑫投資信託運用委託契約、投資一任契 約に基づく金
投資運用業
銭その他の財産の運用(指図を含む)
⑬投資顧問契約又は投資一任契約の締結の代理又は媒
投資助言・代理業
介
⑭投資信託、外国投資信託の受益証券に表示される権
投資運用業
利を有する者から拠出を受けた金銭その他の財産の
運用(指図を含む)
⑮信託受益権、集団投資スキーム持分を有する者から
投資運用業
出資又は拠出を受けた金銭その他の財産の運用(指
図を含む)
⑯金銭、証券又は証書の預託を受けること
第一種金融商品取引業(有価証券等管理業務)
⑰社債等の振替
第一種金融商品取引業(有価証券等管理業務)
⑱①∼⑰に類するものとして政令で定める行為
第二種金融商品取引業
* 条文上「第一項有価証券」「第二項有価証券」という用語が用いられていませんが、区別の基準が同
じであるため、便宜上、上記用語を用いています。
19
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
(表3)
金融商品取引業者に関する参入規制等
【参入規制・財産規制・主要株主規制等】
適用条文
参入規制
第 29 条
適格に遂行するに
第 29 条の 4 第1項
足りる人的構成
第 1 号ニ
最低資本金規制
第 29 条の 4 第1項
第一種金融
第二種金融
投資助言・
商品取引業者
商品取引業者
代理業者
登録(*1)
登録
登録
登録
○
○
×
○
○
○(*2)
×
○
○
×
×
○
○
×
×
○
○
×
×
○
○
×
×
×
×
○(*3)
○(*4)
×
投資運用業者
第4号
株式会社であるこ
第 29 条の 4 第1項
とが必要
第 5 号イ
純財産額規制
第 29 条の 4 第1項
第 5 号ロ
主要株主規制
第 29 条の 4 第1項
第 5 号ニ∼ヘ、同
条第 2 項、第 32 条
∼第 32 条の 4
自己資本規制
第 29 条の 4 第 1
項第 6 号イ
営業保証金規制
第 31 条の 2 第1項
*1 但し、PTS業務は「認可」が必要(第30条第1項)。なお、PTS業務に関する認可基準に関し、
第30条の4参照。
*2 法人の場合に限られます。
*3 個人の場合に限られます。
*4 投資助言・代理業のみを行う者に限られます。
【業務範囲・兼業制限】
第一種金融商品取引業者
業務範囲
投資運用業者
金融商品取引業、第 35 条第 1 項各号に掲げる
業務、付随業務(第 35 条第 1 項)
兼業制限
あり(届出業務〔第 35 条第 2 項・第 3 項〕、
第二種金融商品取引業者
投資助言・代理業者
第二種金融商品取引業又は投資助言・代理業
(第 35 条の 2 第1項)
なし(第 35 条の 2 第 1 項 *)
兼業承認〔同条第 4 項〕)
* 但し、当該兼業業務に関する法律の適用は排除されません(第35条の2第2項)。
20
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
(表4)
既存業者に関する経過措置等
適用条文
金商法施行の際に新有価証券につき金融
商品取引業を行っている者
金商法施行の際に新有価証券につき登録
金融機関業務を行っている登録金融機関
証券会社
改正法附則
第 17 条第 1 項
改正法附則
第 17 条第 2 項
改正法附則
第 18 条
金商法施行の際に集団投資スキーム持分
につき金商法第 2 条第 8 項第 15 号の業
務を行っている者
改正法附則
第 48 条
金商法施行の際に適格機関投資家等特例
業務を行っている者
改正法附則
第 49 条
登録金融機関
改正法附則
第 54 条
改正法附則
第 147 条
銀行、協同組織金融機
関その他政令で定める
金融機関でない者
銀行、協同組織金融機
関その他政令で定める
金融機関
投資信託委託業者
信託契約
代理店
信託受益権
販売業者
銀行、協同組織金融機
関その他政令で定める
金融機関でない者
銀行、協同組織金融機
関その他政令で定める
金融機関
投資顧問業者
投資一任業者
抵当証券業者
金融商品
先物業者
銀行、協同組織金融機
関その他政令で定める
金融機関でない者
銀行、協同組織金融機
関その他政令で定める
金融機関
商品ファンド業者
登録を受けたものとみなされる業務・
業者の義務等
その他の経過措置
−
施行日から 6 月間は、金商法第 29 条の規定にかか
わらず、引き続き業務を行うことができる
−
施行日から 6 月間は、金商法第 33 条の 2 の規定
にかかわらず、引き続き業務を行うことができる
*2
①金商法第 28 条第 1 項第 1 号・第 2 号・第 3 号
ハに掲げる行為に係る業務
②有価証券等管理業務
③第二種金融商品取引業
−
施行日前に取得の申込の勧誘を開始した権利に係
る業務(特例投資運用業務)が終了するまでの間は、
金商法第 29 条の規定にかかわらず、引き続き当該
特例投資運用業務を行うことができる
施行後 3 ヶ月以内に金商
当該適格機関投資家等特例業務
法第 63 条第 2 項の届出
をしなければならない
*3
金商法上の登録金融機関とみなされる
第二種金融商品取引業
*2
改正法附則
第 148 条
金商法上の登録金融機関とみなされる
*3
改正法附則
第 159 条(*1)
改正法附則
第 200 条
改正法附則
第 201 条
①投資運用業
②第二種金融商品取引業
第二種金融商品取引業
*2
金商法上の登録金融機関とみなされる
*3
整備法第 37 条
整備法第 41 条
整備法第 57 条
*2
整備法第 61 条
投資助言・代理業
投資運用業
金商法施行日前に行った抵当証券の販売・代理・
媒介については従前の例による
①金商法第 28 条第 1 項第 2 号に掲げる行為に係
る業務
②第二種金融商品取引業
金商法上の登録金融機関とみなされる
整備法第 151 条
第二種金融商品取引業
*2
整備法第 60 条
*2
*4
−
*2
*3
*1 改正法附則第161条参照。
*2 金商法の施行日から起算して3 ヶ月以内に金商法第29条の2第1項各号に掲げる事項を記載した書面及び同条第2項各号に掲げ
る書類を内閣総理大臣に提出しなければならない。
*3 金商法の施行日から起算して3 ヶ月以内に金商法第33条の3第1項各号に掲げる事項を記載した書面及び同条第2項各号に掲げ
る書類を内閣総理大臣に提出しなければならない。
*4 金商法第29条の4第1項第4号(最低資本金規制)及び第52条第1項第2号の規定は、施行日から起算して六月を経過する日ま
での間は、適用しない(改正法附則第203条第1項)
。
*5 金商法第4条、第13条第1項、第15条第1項並びに第23条の13第1項・第3項の規定は、施行日以後に開始する有価証券発行勧
誘等(金商法第4条第1項第4号に規定する有価証券発行勧誘等)又は有価証券交付勧誘等(金商法第4条第2項に規定する有価
証券交付勧誘等)について適用し、施行日前に開始した現行証取法第2条第1項各号に掲げる有価証券又は同条第2項の規定に
より有価証券とみなされる同項各号に掲げる権利(旧有価証券)の取得の申込みの勧誘又は旧有価証券の売付けの申込み若し
くはその買付けの申込みの勧誘については、なお従前の例による、とされています(改正法附則第14条)。
21
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
(表5)
行為規制
適格機関投資
特定投資家を
家等特例業務
相手方とする場合
顧客に対する誠実義務(第 36 条)
×
○
標識の掲示義務(第 36 条の 2)
×
○
名板貸しの禁止(第 36 条の 3)
×
○
社債の管理の禁止等(第 36 条の 4)
×
○
広告等の規制(第 37 条)
×
×
取引態様の事前明示義務(第 37 条の 2)
×
×
契約締結前の書面交付義務(第 37 条の 3)
×
×
契約締結時等の書面交付義務(第 37 条の 4)
×
×
保証金の受領に係る書面交付義務(第 37 条の 5)
×
×
クーリングオフ制度(第 37 条の 6)
×
×
虚偽告知の禁止(第 38 条第 1 号)
○
○
断定的判断等の禁止(第 38 条第 2 号)
×
○
不招請勧誘、再勧誘等の禁止(第 38 条第 3 号∼第 5 号)
×
×
投資顧問契約・投資一任契約等の締結・解約に関する偽計
×
○
損失補填等の禁止(第 39 条)
○
○
適合性原則等(第 40 条)
×
第 1 号のみ ×
最良執行方針等(第 40 条の 2)
×
第 4 項のみ ×
分別管理が確保されていない場合の売買等の禁止(第 40
×
○
原則
通則
等の禁止、損失補填の禁止(第 38 条の 2)
条の 3)
22
投資助言業務
忠実義務・善管注意義務(第 41 条)
−
○
に関する特則
利益相反行為・損失補填等の禁止(第 41 条の 2)
−
○
有価証券の売買等の禁止(第 41 条の 3)
−
○
金銭又は有価証券の預託の受入等の禁止(第 41 条の 4)
−
×
金銭又は有価証券の貸付等の禁止(第 41 条の 5)
−
×
投資運用業に
忠実義務・善管注意義務(第 42 条)
×
○
関する特則
利益相反取引・損失補填等の禁止(第 42 条の 2)
×
○
運用権限の委託の制限(第 42 条の 3)
×
○
分別管理義務(第 42 条の 4)
×
○
金銭又は有価証券の預託の受入等の禁止(第 42 条の 5)
×
×
金銭又は有価証券の貸付等の禁止(第 42 条の 6)
×
×
運用報告書の交付義務(第 42 条の 7)
×
×
有価証券等管
善管注意義務(第 43 条)
−
○
理業務に関す
分別管理義務(第 43 条の 2、第 43 条の 3)
−
○
る特則
顧客の有価証券を担保に供する行為等の制限(第 43 条の 4)
−
×
弊害防止措置
二以上の種別の業務を行う場合の禁止行為(第 44 条)
−
○
等
その他の弊害防止措置等(第 44 条の 2)
−
○
親法人又は子法人等が関与する行為の制限(第 44 条の 3)
−
○
引受人の信用供与の制限(第 44 条の 4)
−
○
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
2 金融商品取引法におけるファンド規制
弁護士 澤木 一隆
上述した「規制対象の拡大」、「規制内容の拡大」
第1 はじめに(ファンドとは)
及び「規制の柔構造化(柔軟化)」という三つの
1 はじめに
本号別稿・谷口弁護士執筆部分においても言
及されているように、改正法(証取法から金商
観点から、簡潔に解説します。
2 ファンドとは?
本論に入る前に、「ファンド」という用語につ
法への改組)の基本的視点は、規制の「横断化」
き、若干の解説を加えたいと思います。
と「柔構造化(柔軟化)
」です。
この改正法の基本的視点は、金商法における
「ファンド」とは、法律上の用語ではなく、一
ファンドに対する規制においても、貫かれてい
般に、複数の投資家から資金を集めてそれを投
ます。すなわち、金商法は、利用者(投資者)
資し、そこから得られるリターンを投資家に分
の 保 護 と い う 観 点 か ら、 現 行 法 に お け る 規 制
配する仕組みをいいます 。
1
の隙間を埋めるべく、従前、証取法その他の法
「ファンド」の法的仕組みについては、いく
令において規制対象とされていなかったファン
つかの種類がありますが、大きく分けて組合型
ドをも広く規制対象としました(規制対象の拡
と信託型に分類できます。組合型としては、主
大)
。また、従来は規制されていなかったファン
として、民法に基づく任意組合、投資事業有限
ドの行為についても、新たな規制を及ぼしまし
責任組合契約に関する法律に基づく投資事業有
た(規制内容の拡大)
。
限責任組合及び商法に基づく匿名組合を用いる
他方、金商法は、過剰規制による金融イノベー
ものが挙げられます。前二者は、組合員(投資
ションの阻害を防止するべく、上記のようにファ
者)全員が一つの組合契約を締結して組合を設
ンドに対する規制を拡大する一方で、一定の場
立し、投資者は当該組合に対して出資をします。
合には、その規制を緩和しています(規制の柔
そして、その組合員の中の一人又は数人が業務
構造化(柔軟化)
)
。
執行組合員となり、組合に対して出資された財
本稿では、金商法におけるファンド規制を、
産を全組合員を代表して運用します(図1)
。
(図 1)
組合員
組合員
組合員
組合員
組合員
組合員
組合員
業務執行組合員
組合契約
また、後者(匿名組合を用いるもの)は、
各匿名組合員(投資者)が営業者という組合財
産を保有・運用する者との間で匿名組合契約
を個別に締結し、営業者に対して出資をしま
1. 経済産業省経済成長に向けたファンドの役割と発展に関する研究会「経済成長に向けたファンドの役割と発展に関する研
究会報告書」(平成17年12月27日)2頁
23
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
す。そして、営業者はそのようにして出資さ
過ぎず、その場合には、営業者から委託を受
れた財産を運用します。もっとも、
多くの場合、
けたアセットマネージャー(AM)が、営業者
営業者は当該匿名組合の財産の保有を目的と
の財産の運用を行います(図 2)。
して設立されたペーパーカンパニー(SPC)に
(図 2)
組合員
組合員
組合員
組合員
組合員
組合員
組合員
匿名組合契約
営業者
アセットマネージャー
他方、信託型は、ファンドの財産を運用す
により受益権者となり、信託譲渡された財産
る者(委託者)が投資者から出資を募り、そ
(ファンドの財産)から生じる収益を配当とし
のようにして募った出資を信託会社(受託者)
て受領する権利を得ます。委託者は信託会社
に対して信託譲渡し、代わりに委託者は信託会
に対して運用の指図を行うことにより、信託
社から受益権を取得します。そして、
委託者は、
譲渡された財産(ファンドの財産)を運用し
当該受益権を投資者に交付し、投資者はそれ
ます(図 3)。
(図 3)
実線:出資
破線:受益権
委託者
運用指図
信託譲渡
投資者(受益権者)
受益権
投資者(受益権者)
投資者(受益権者)
信託会社
(受託者)
投資者(受益権者)
投資者(受益権者)
信託型のファンドのしくみは、主として投
資信託において用いられています。他方、組
1 概説
合型のうち、匿名組合を用いた仕組みは、不
本号別稿・谷口弁護士執筆部分において言及
動産を投資対象とするファンドにおいて多く
されているように、現行証取法と同様に、金商
用いられています。そして、その他の組合を
法においても「有価証券」概念が同法の適用範
用いた仕組みは、それ以外のファンドにおい
囲を画する概念として用いられています。
て多く用いられています。
24
第2 規制対象の拡大
そして、金商法は、ファンドに関連して「集
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
2
団投資スキーム持分」 という概念を創設し、こ
(但し、除外事由有り。)
の「集団投資スキーム持分」を「有価証券」の
一つに加えることにより、現行証取法では規制
又は
対象とはなっていなかったファンドをも包括し
て規制対象としました。
外国の法令に基づく権利であって、これらの
2 集団投資スキーム持分
権利に類するもの
(1) 金商法の規定(原則)
金商法は「集団投資スキーム持分」を次の
この「集団投資スキーム持分」の定義にお
ように定義しています(金商法第2条第2項第
いて、重要な部分はその後段の部分です。す
5号柱書、第6号)
。
なわち前段に掲げられている種々の権利は、
あくまでも例示にすぎず(このことは、前段
① 民法第667条第1項に規定する組合契約に
基づく権利
② 商法第535条に規定する匿名組合契約に基
づく権利
の最後に「⑥その他の権利」と規定されてい
ることから明らかです)、ある権利が「集団投
資スキーム持分」に該当するか否かは、この
定義の後段によって画されます。
③ 投資事業有限責任組合契約に関する法律第
この点、「集団投資スキーム持分」の定義の
3条第1項に規定する投資事業有限責任組合
後段は、「当該権利を有する者が出資又は拠出
契約に基づく権利
をした金銭(これに類するものとして政令で
④ 有限責任事業組合契約に関する法律第3条
定めるものを含む。)を充てて行う事業(出資
第1項に規定する有限責任事業組合契約に
対象事業)から生ずる収益の配当又は当該出
基づく権利
資対象事業に係る財産の分配を受けることが
⑤ 社団法人の社員権
できる権利」となっていますが、この部分を
⑥ その他の権利
より精緻に分析すると、①ある者から事業の
ために金銭その他の財産の拠出を受けた者が、
のうち
②当該財産を用いた事業を行い、③当該事業
から生じる収益を拠出者に分配することと解
当該権利を有する者が出資又は拠出をした金
されます。かかる「集団投資スキーム持分」
銭(これに類するものとして政令で定めるも
の定義は、上述したファンドの仕組みにより
のを含む。
)を充てて行う事業(出資対象事業)
即したものとなっており 、金商法は、この「集団
から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業
投資スキーム持分」という概念により、ファ
に係る財産の分配を受けることができる権利
ンドのすべてを包括的に金商法の適用対象と
3
2.「集団投資スキーム持分」という用語は、法律案要綱で用いられた用語ですが、金商法自体では用いられていません。もっ
とも、本稿では、説明の便宜のため、この「集団投資スキーム持分」という用語を用いて説明をさせて頂きます。
3. 現行証取法でも組合型のファンドの一部は、すでに「有価証券」に含まれ、同法の適用対象となっています(現行証取法
第2条第2項第3号、第4号、第5号、同法施行令第1条3の2、第1条3の3)
。もっとも、現行証取法においては、権利の種類
によってファンドを定義し、さらにその投資対象をも限定しているため、
「有価証券」に含まれるファンドの種類が限定さ
れています。すなわち、現行証取法のファンド規制は、金商法のようにファンドのすべてを包括的に同法の適用対象とす
るものではなく、また、将来、法の想定してない権利によってファンドが組成された場合にも、それをカバーすることは
できない態様のものです。
25
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
4
5
しました 。また、権利の内容をあくまで例示
ルが及ぼされています 。
列挙したことにより、将来、法の想定してい
(2) 金商法の規定(例外)
ない権利によってファンドが組成された場合
金商法では、上述した「集団投資スキーム
においても、そのようなファンドも金商法の
持分」に形式的には該当する権利であっても、
適用対象とすることができる構造となってい
以下に掲げる権利については、「集団投資ス
ます。
キーム持分」には該当しないものとしています。
なお、
「集団投資スキーム持分」として、例
①出資者全員が事業に関与する場合として
示列挙されている権利は、現在主として組合
政令で定めるもの(金商法第2条第2項
型のファンドにおいて用いられている権利を
第5号イ)
列挙したものであり、上述した組合型のファ
②出資者が元本の払戻しを受けるのみに留
ンドの3類型(民法上の組合、投資事業有限責
まるもの(金商法第2条第2項第5号ロ)
任組合契約に関する法律に基づく投資事業有
③保険契約、農業協同組合法若しくは中小
限責任組合及び商法上の匿名組合)に加えて、
企業等協同組合法に基づく共済契約、
ファンドにおいて用いられる可能性がある有
又は不動産特定共同事業契約に基づく
限責任事業組合契約に関する法律に基づく有
権利(金商法第2条第2項第5号ハ)
限責任事業組合に基づく権利及び社団法人の
社員権が挙げられています。
④ その他、当該権利を有価証券とみなさ
なくても公益又は出資者の保護のため
また、信託型のファンドについては、金商
支障を生ずることがないと認められる
法は、別途、
「信託の受益権」のすべてを「有
ものとして政令で定めるもの(金商法
価証券」と定義することにより、やはりその
第2条2項5号ニ)
適用対象としています(金商法第 2 条第 1 項
①及び②の場合が「集団投資スキーム持分」
第 10 号、第 12 号から第 14 号、同条第 2 項
から除外されるのは、純粋の事業を利用者(投
。もっとも、信託の受益権に関
柱書、第 1 号)
資者)保護ルールの対象となるファンドと区
しては、業規制の点からは、信託業法におい
別する趣旨と解されます。例えば、弁護士や
て高度な業規制が課されていること等から、
税理士のような専門家の集団が共同事業を行
業規制は同法に委ね、金商法では業規制の対
うために組合を設定し、組合の各構成員が日
象とはしていません。他方、行為規制の点か
常的に事業の運営に関与している場合などが
らは、信託業法における既存の行為規制との
これにあたります 。
6
重複的適用を避け、また、行為規制違反の処
また、③の場合が「集団投資スキーム持分」
分や検査を同法に基づいて一元的に行うよう
から除外されるのは、上述の信託の受益権と
にするため、立法技術上、同法を改正し、同
同様に、これらの権利については既に他の法
法において重複しない範囲で金商法の行為規
律において業規制及び行為規制がなされてい
制を準用することにより、組合型のファンド
るため、業規制については、それぞれの規制
と実質的に同等の利用者(投資者)保護ルー
法に委ね、行為規制については、それぞれの
4. なお、現在存在するファンドのうち、今回の証取法から金商法への改組に伴い新たに規制対象となると解されるものは、
事業型ファンド(ファンドがラーメン店を経営するいわゆる「ラーメンファンド」など)や設備投資ファンド(ファンド
が設備を購入してリースを行うもの)などです。
5. 松尾直彦他「金融商品取引法制の概要」商事法務1771号9頁
6. 大崎貞和『解説金融商品取引法』20頁
26
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
規制法を改正し、それらの法において重複し
持分)の発行者が投資者を募ることは、一般の
ない範囲で金商法の行為規制を準用すること
事業会社が投資者を募る場合と場面を異にしま
により、実質的に「集団投資スキーム持分」
す。すなわち、ファンドにとっては、ファンド
と同等の利用者(投資者)保護ルールが及ぼ
の持分(集団投資スキーム持分)こそが「商品」
7
であり、ファンドの持分(集団投資スキーム持
されるためです 。
そして、
「集団投資スキーム持分」を包括的
分)の発行者が投資者を募ることは、いわば「商
な定義規定としたことから、将来、形式的に
品」を販売することに他なりません。確かに、
ファ
金商法を適用すると不都合が生じるおそれが
ンドの最終的な目的は、ファンドの持分(集団
生じた場合に、機動的に「集団投資スキーム
投資スキーム持分)の販売により得た資金を運
持分」の例外を設けることができるよう、④
用してその収益を投資者に配当し、自らもその
の規定が設けられたものと解されます。
運用行為に対して報酬を得ることにあります。
しかし、多くのファンドにおいては、ファンド
第3 規制内容の拡大
の運用成績如何に関わらず、ファンドの持分(集
1 自己募集
団投資スキーム持分)の販売により得た資金の
本号別稿・谷口弁護士執筆部分においても言
中から、ファンドの持分(集団投資スキーム持
及されているように、金商法は、集団投資スキー
分)の発行者に対して報酬が支払われます。す
ム持分の発行者自身による募集又は私募(いわ
なわち、ファンドの持分(集団投資スキーム持
ゆる「自己募集」
)を金融商品取引業とし(金商
分)の発行者は、投資者を募ることのみによっ
法第2条第8項第7号ヘ)
、かかる自己募集を行う
て利益を得るのであり、よって、ファンドの持
には、第二種金融商品取引業の登録が必要とし
分(集団投資スキーム持分)の発行者が投資者
8
ました(金商法第28条第2項第1号) 。
9
を募ることは営業行為に他なりません 。 ゆ え
現行証取法では、ファンドの持分(集団投資
に、ファンドの持分(集団投資スキーム持分)
スキーム持分)の発行者自身が募集を行ったと
の発行者による自己募集行為について、業規制
しても、管轄財務局への有価証券届出書の提出
を行う必要性が認められるのです 。
10
(現行証取法第4条)並びに目論見書の作成及び
また、以上に加え、ファンドの持分(集団投
投資者への交付(現行証取法第13条、第15条)
資スキーム持分)については、商品組成と販売
といった発行開示が求められるのみであり、私
が一体化して行われることが多いこと、最近の
募を行う場合にはそれらの発行開示も求められ
問題事案においては集団投資スキーム(ファン
。ましてや、
ません
(現行証取法第4条第1項但書)
ド)の自己募集の形式が採られていたこと、及
自己募集という勧誘行為自体が、業としての規
び商品ファンド法や不動産特定共同事業法にお
制を受けることはありません。
いて自己募集を業規制の対象としている例があ
しかし、ファンドの持分(集団投資スキーム
ることなども、ファンドの持分(集団投資スキー
7. 前掲注6・大崎20頁
8. なお、第二種金融商品取引業の登録をするために必要となる要件等については、本号別稿・谷口弁護士執筆部分をご参照
下さい。
9. これに対し、一般の事業会社が投資者を募る(株式会社の場合には自社株式の募集)のは、別の何らかの事業目的のため
の資金調達が目的であり、株式の発行と販売自体によって利益を得るためではありません。
10.前掲注6・大崎42頁から44頁
27
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
ム持分)の自己募集行為に対して業規制を課す
11
て、信託の受益権又は集団的投資スキー
理由として挙げられています 。
ム持分を有する者から出資又は拠出を
2 自己運用
受けた金銭その他の財産の運用(その
金商法は、金融商品の価値等の分析に基づく
指図を含む)を行うこと
投資判断に基づいて主として有価証券又はデリ
これらの投資運用業の業務は、現在の投資
バティブ取引に係る権利に対する投資として、
法人及び投資信託に関する法律(以下「投信
集団投資スキーム持分を有するものから出資又
法」といいます。)に基づく投資信託委託業及
は拠出を受けた金銭その他の財産の運用を行う
び有価証券に係る投資顧問業の規制等に関す
ことを金融商品取引業とし、当該運用行為を行
る法律(以下「投資顧問業法」といいます。
)
うには、投資運用業の登録が必要としました(金
に基づく投資一任契約に係る業務(以下「投
12
商法第2条第8項第15号、第28条第4項) 。これ
資一任業務」といいます。)にほぼ相当する業
により、ファンドの、主として有価証券又はデ
務です。金商法でかかる投資運用業が規定さ
リバティブ取引への運用(自己運用)について
れたことに伴い、上記投資信託委託業及び投
も、業規制の対象となることが明確化されまし
資一任業務は、金商法に基づく投資運用業に
た。
取って代わり、投信法からは投資信託委託業
なお、投資運用業とは、次の行為のいずれか
を業として行うことをいいます(金商法第28条4
に関する規定が削除され、投資顧問業法は廃
止されます。
このように、投資運用業とは、現行の投資
項)
。
①投資法人の資産運用委託契約、その他の
信託委託業及び投資一任業務に相当する業務
投資一任契約に基づき、金融商品の価
に取って代わるものであり、特に新設された
値等の分析に基づく投資判断に基づい
ものではありません。したがって、金商法に
て有価証券又はデリバティブ取引に係
よる投資運用業の新設自体は、ファンドにとっ
る権利に対する投資として、金銭その
て特にインパクトのあるものではありませ
他の財産の運用(その指図を含む)を
ん。しかし、上述したように、ファンドが行う、
行うこと
主として有価証券又はデリバティブ取引への
②金融商品の価値等の分析に基づく投資判
運用(自己運用)が、業規制の対象となるこ
断に基づいて有価証券又はデリバティ
とが明確化されたことが、ファンドにとって
ブ取引に係る権利に対する投資とし
大きな意味を持ちます。
て、投資信託又は外国投資信託の受益
すなわち、現在は、少なくとも組合型のファ
証券等を有する者から拠出を受けた金
ンドにおいては、ファンドの運営はファンド
銭その他の財産の運用(その指図を含
を運営する組合員である業務執行組合員とそ
む)を行うこと
の他の投資者である一般組合員との共同事業
③金融商品の価値等の分析に基づく投資判
であると考えられ、一般的には、そのような
断に基づいて有価証券又はデリバティ
ファンドの業務執行組合員は投資顧問業法に
ブ取引に係る権利に対する投資とし
基づく投資顧問業の登録を行ったり、投資一
11.第一部会報告10頁
12.なお、投資運用業の登録をするために必要となる要件等については、本号別稿・谷口弁護士執筆部分をご参照下さい。
28
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
任業務の認可を得る必要はないものとして扱
13
バティブ取引への運用業(自己運用)は投資運
用業(金商法第28条4項3号)であり、これらの
われています 。
しかし、上記のような解釈に疑義を挟む向
きも少なくはなく、現状においても、投資対
いずれについても、金融商品取引業の登録が必
要となります。
象に有価証券が含まれる組合型のファンドの
上記の規制は、いずれも投資者保護を目的と
運用者については、投資一任業務の認可を要
したものです。しかし、新たな金融商品の出現
求すべきであるという見解もあります。第一
に的確に対応し、金融イノベーションの促進を
部 会 報 告 に お い て も、
「集 団 投 資 ス キ ー ム
図るためには、規制構造を「柔構造化(柔軟化)
」
(ファンド)について投資対象に有価証券が含
する必要性も指摘されてきたところです。第一
まれるにも関わらず、認可投資顧問業者の関
部会報告においても、「一般投資家(アマ)を対
与なく運用を行っているものが見受けられる
象とするファンドについては利用者保護の観点
ところ、法令の規定の実効性を担保する観点
から十分な規制を課すこととしつつ、もっぱら
から、商品ファンド(組合型)について農林
特定投資家(プロ)のみを対象とするファンド
水産大臣又は経済産業大臣の許可業者である
については、一般投資家を念頭においた規制を
商品投資顧問業者などによる運用が義務付け
相当程度簡素化し、金融イノベーションを阻害
られている例も考慮し、集団投資スキーム
するような過剰な規制とならないよう、十分な
(ファンド)の運用(投資商品への投資)につい
配慮が必要と考えられる。」との報告がなされて
ても、
『資産運用業』の対象とすることが適当
14
と考えられる。
」との報告がなされています 。
16
います 。
そこで、金商法においては、上記の集団投資
金商法の上記規定は、このような議論を受
スキーム持分の販売・勧誘業(自己募集)及び
け、主として有価証券又はデリバティブ取引
その主として有価証券・デリバティブ取引への
への運用を行うファンドの運用者が、金融商
運用業(自己運用)について、特定投資家のみ
品取引業に該当し、投資運用業の登録が必要
を対象とするファンドについては、それらを「適
になることを明確化したものです。
格機関投資家等特例業務」として、一定の届出
なお、金商法は、投資運用業を行う者に対
を条件に、金融商品取引業の登録を不要として
して、金融商品取引業者に共通の義務に加え
います(金商法第63条)。以下に、その内容を詳
15
て、種々の行為規制を課しています 。
述します。
2 柔構造化(柔軟化)の内容
第4 規制の柔構造化(柔軟化)
1 適格機関投資家等特例業務について
(1) 販売・勧誘業について
特例業務届出者(下記(3)で述べる意味を有
上述したように、集団投資スキーム持分の自
します。以下同じです。)については、次に掲
己募集は第二種金融商品取引業であり(金商法
げる要件を満たす集団投資スキーム持分の販
第28条2項1号)
、その主として有価証券・デリ
売・勧誘業(自己募集)につき、金融商品取
13.経済産業省経済成長に向けたファンドの役割と発展に関する研究会「経済成長に向けたファンドの役割と発展に関する研
究会報告書」(平成17年12月27日)24頁
14.第一部会報告11頁
15.これら行為規制の具体的内容については、本号別稿・谷口弁護士執筆部分をご参照下さい。
16.第一部会報告21頁
29
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
引業の登録が不要となります(金商法第63条
第1項第1号)
。
(3) 特例業務届出者
上述した販売・勧誘業及び運用業について
17,18
・ 適格機関投資家等
で、次のいずれにも
該当しない者を相手方として行う私募
19
20
の金融商品取引業の登録の免除は、一定の事
項を内閣総理大臣に届け出た者(この者を「特
①その発行する資産対応証券 を適格機関
例業務届出者」といいます)にのみ認められ
投資家以外の者が取得している特定目
ます(金商法第63条第2項)。このように、登
的会社
21
録を不要とする代わりに、一定の届出を要求
②集団投資スキーム持分に対する投資事業
したのは、集団投資スキーム持分の販売・勧
に係る匿名組合契約で、適格機関投資
誘業及び運用業についての実態把握を可能と
家以外の者を匿名組合員とするものの
するためです 。
営業者又は営業者になろうとする者
③①又は②に掲げる者に準ずる者として内
閣府令で定める者
(2) 運用業について
特例業務届出者については、集団投資スキー
22
ム持分 を有する適格機関投資家等から出資さ
23
特例業務届出者については、上記のように
金融商品取引業の登録が免除される他に、行
24
為規制が限定される 一方で、一定の場合には
内閣総理大臣に対し報告等を命ぜられ、また
監督官庁より質問・検査を受けることとされ
ています(金商法第63条第7項、第8項)。
れ、又は拠出された金銭(これに類するもの
以 上
として政令で定めるものを含む)の運用業(自
己運用)につき、金融商品取引業の登録が不
要となります(金商法第63条第1項第2号)。
17.適格機関投資家とは、「有価証券に対する投資に係る専門的知識及び経験を有する者として内閣府令で定める者」をいいま
す(金商法第2条第3項第1号)。なお、現行証取法上の「適格機関投資家」については、証券取引法第二条に規定する定義
に関する内閣府令第4条第1項をご参照下さい。
18.適格機関投資家以外の者で政令で定める者(その数が政令で定める数以下の場合に限ります)及び適格機関投資家をいい
ます。
19.適格機関投資家等(上記①から③のいずれにも該当しないものに限ります)以外の者が当該権利を取得するおそれが少な
いものとして政令で定めるものに限ります。
20.資産の流動化に関する法律第2条第11項に規定する資産対応証券をいいます。
21.資産の流動化に関する法律第2条第3項に規定する特定目的会社をいいます。
22.同一の出資対象事業に係る当該権利を有する者が適格機関投資家等(上記2①から③のいずれにも該当しないものに限り
ます)のみであるものに限ります。
23.前掲注5・松尾他12頁
24.特例届出者に対する行為規制の内容については、本号別稿・谷口弁護士執筆部分をご参照下さい。
30
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
3 金融商品取引法と資産流動化への影響
弁護士 中森 亘
【不動産流動化の基本スキーム図】
有限責任中間法人
(一般社団法人)
基金拠出者
③基金拠出
④出資
②受益権譲渡
⑤ローン
SPC
オリジネーター
(代金)
①信託
信託会社
(合同会社)
(受益権)
⑥TK 出資
(匿名組合契約)
金融機関
投資家
…etc
⑦AM 契約
アセット
マネージャー
第1 はじめに
督指針が重要な意味をもつものと考えられますが、
金商法で図られる有価証券概念の拡大や自己募集
現時点ではそれらは明らかになっておりません。し
の規制対象化等は、資産流動化スキームにも影響を
たがって、以下に述べる内容も、現時点ではやや不
与えそうです。金商法の条文構造はかなり複雑です
確定なものとならざるを得ない部分もあることを予
が、金商法施行が流動化スキームに具体的にいかな
めご了承ください。
る影響を与えるかについてできるだけ容易に理解で
1
きるよう、以下、不動産流動化の基本スキーム を
第2 個別検討
例にとって検討してみます。なお、金商法の規定の
既述のとおり、金商法では、現行のいわゆる縦割
多くは政省令に委ねられており、また、実務の運用
り型規制の弊害を是正するべく、投資家保護ルール
においては、金融庁から今後発表されるであろう監
の横断化が指向されているところ、その方策の一つ
1. 不動産の原保有者(オリジネーター)が当該不動産を信託財産とする信託契約を信託銀行等との間で締結し(①)、これによ
り設定を受けた信託受益権を資産の受け皿(ビークル)としてのSPC(倒産隔離を図るため中間法人などが社員持分を保有
します。③④)に譲渡することで、オリジネーターはSPCからその対価を得ます(②)。SPCはその対価の原資を金融機関等
からのローン(ノンリコースローン)(⑤)や、自らが営業者となって投資家等から得た匿名組合出資(⑥)などで調達します。
なお、SPCは資産の管理・運用等をアセットマネージャー (AM)に委託します(⑦)。
31
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
として、規制対象としての「有価証券」概念の拡大
されることになりました(いわゆる「みなし
が図られています。規制の対象を広げることで、投
有価証券」。金商法第2条2項柱書前段・同項
資家保護を図る必要のある投資商品に金商法を広く
1号)。これに伴って、不動産信託受益権の売
適用することが可能となり、これらに統一的な規制
買等も、信託業法ではなく金商法の適用を受
を及ぼせるというわけです。流動化スキームへの影
け、他の有価証券と同様の規制に服すること
2
響を考える上でも、この「有価証券」概念の拡大
になります 。具体的には、不動産信託受益
という視点(流動化スキームで登場する各種権利が
権の売買、売買の媒介・取次ぎ・代理、引受
金商法によりどのような位置付けになるか)から検
け、売出し、募集・売出し・私募の取扱い等
討するのが分かり易いと思われます。
を業として行うことは原則として「金融商品
1 信託受益権について(スキーム図①②)
4
取引業」となり(同法第2条第8項第1、2、6、
8、9号等)、このうち、売買、売買の媒介・
(1) 現行法上の位置付け
現行法上、不動産信託受益権の販売等は、
取次ぎ・代理、売出し、募集・売出・私募の
信託業法で規制の対象になっているだけで、
取扱いを業として行うことは「第二種金融商
3
5
証取法の適用を受けません 。 平 成16年12月
品取引業」(同法第28条第2項第2号) 、引
30日に施行された改正信託業法(以下本稿で
受けを業として行うことは「第一種金融商品
は単に「信託業法」といいます。
)では、信託
取引業」(同法第28条第1項第3号・同条第7
受益権(証取法上有価証券に表示される権利
項)として、それぞれ、内閣総理大臣の登録
または有価証券とみなされる権利を除く。
)の
を受けなければなりません(同法第29条)
。
販売又はその代理もしくは媒介を行う営業の
これら法律上の位置付けの変更によって、
ことを「信託受益権販売業」と定義され(信
「信託受益権販売業」は「金融商品取引業」
託業法第2条第10項)
、信託受益権販売業は、
(第二種金融商品取引業)に包摂されること
内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ営
になりますので、金商法の施行と同時に信託
むことができないとされています(信託業法
業法における信託受益権販売業に関する規定
第86条第1項)
。
はすべて削除されます 。
(2) 金商法における位置付け
6
なお、有価証券とみなされる信託受益権で
ア みなし有価証券
すが、有価証券届出書の提出や目論見書の作
これに対して、金商法では、不動産信託受
成・交付などといった開示規制の対象からは
益権を含む信託受益権が広く有価証券とみな
除外されています(同法第3条第3号)。これ
2. 有価証券概念の拡大に関する詳細ついては、谷口弁護士の本号別稿をご覧ください。
3. 信託受益権につき、現行証取法第2条第2項第1号は、「銀行その他政令で定める者の貸付債権を信託する信託の受益権のう
ち、政令で定めるもの」のみを有価証券とみなして、同法を適用する旨規定しています。
4. ちなみに、第一部回報告別紙6では、「信託受益権販売業は、信託の引受けそのものに関する権限を有しておらず、また、
既に発行された信託受益権の販売を行う業であることから、投資サービス法における販売・勧誘業と位置づけ、対象範囲
に含めることが適当と考えられる。」とされています。
5. なお、信託受益権の自己募集そのもの(信託会社による信託の引受け)は、信託業法における規制の対象となることから、
重ねて金商法の規制対象とはせず、「金融商品取引業」と位置づけられていません(同法第2条第8項第7号参照)。一方、
信託契約代理店(信託業法第2条第8項、第9項等)が信託会社のために行う信託契約締結の代理・媒介は、金商法におけ
る有価証券の募集・私募の取扱いとなり、第二種金融商品取引業としての登録が必要となります。
6. なお、「証券取引法等の一部を改正する法律」附則第200条により、信託業法第86条第1項の信託受益権販売業の登録を受
けている者は、金商法施行日において、金商法第29条の金融商品取引業の登録を受けたものとみなされます。
32
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
は、有価証券の概念を拡大して規制対象の範
売業の登録を要しない場合として、ⅰ)その
囲を広げつつも、有価証券(金融商品)その
勧誘、契約締結等の販売に関する対外的行為
ものの性質や流動性、取引の性質などに応じ
の一切を信託受益権販売業者に委任しその旨
た規制を加えるという金商法の基本方針(柔
を当該委任にかかる契約に明記した場合で自
7
構造化)によるものと考えられます 。
イ オリジネーターによる販売行為につい
らは全く販売行為を行わない場合、ⅱ)信託
の委託者兼当初受益者である信託受益権の保
有者(オリジネーター)が、当該信託受益権を
て
では、不動産信託受益権を上記基本スキー
顧客への販売を目的とする信託受益権販売業
ムのようにSPCに譲渡するオリジネーターは、
者に当該目的を契約書等に明記した上で買い
有価証券の売買を行うものとして第二種金融
受けさせる場合、ⅲ)当該オリジネーターが
商品取引業の登録が必要になるのでしょうか。
当該信託受益権を引当てに実質的な受益者
この点は、まず、信託受益権の譲渡を「業
を募ることを目的とする特別目的会社に当該
9
として」行うか否かという点がポイントにな
目的を契約者等に明記した上で譲渡する場合、
ります。既述のとおり、
「金融商品取引業」
の3つが挙げられています。この点、上述の
として規制の対象になるのは、あくまで「業
とおり、金商法施行に関連する政省令や監督
として」行う場合に限定されます。一般にこ
指針等はまだ発表されておらず、信託受益権
の「業として」とは、
「反復継続して」(行
の売買等に関する上記監督指針がそのまま踏
為は1回切りでも反復継続する意思をもって
襲されるか否かは明らかではありませんが、
行った場合は含まれることに注意)の意味と
「信託に関する引受けその他の取引の公正を
理解されており、これを前提とすれば、例え
確保することにより、信託の委託者及び受益
ば、オリジネーターが単発的にSPCに譲渡を
者の保護を図り、もって国民経済の健全な発
行うような場合には金融商品取引業には該当
展に資すること」(信託業法第1条)を目的
8
しないということになります 。
とする信託業法とかけ離れた規制が行われる
また、信託受益権販売業に関するものです
とは考え難く、基本的には同様の考え方が引
が、金融庁による「信託会社等に関する総合
き継がれるものと予想されます。もしそうだ
的な監督指針」(以下「監督指針」といいま
とすれば、金商法施行後も、オリジネーター
す。
)10-2-1では、信託受益権の保有者がこ
がこの3つのいずれかの要件に該当する場合
れを第三者に譲渡するに際して信託受益権販
には、第二種金融商品取引業の登録を要しな
7. 金商法における開示規制については、谷口弁護士の本号別稿をご覧ください。
8. 監督指針に関する平成16年12月28日金融庁公表「パブリックコメントの概要及びコメントに対する考え方」10-2-1・6項
目参照。但し、「業として」の意義に関する金融庁による公権的解釈は現時点では明らかになっていません。なお、信託業
法や証券取引法では「営業」という文言が用いられていたのに対し、金商法では単に「業として」という文言が用いられ
ています。これは、営利性などの要件をはずしてより広く規制を及ぼそうという趣旨であることに注意が必要です(第一
部会報告参照)。
9. ここでいう「実質的な受益者」の意義が明らかではありませんが、信託業法施行規則第37条第1項第5号柱書では、資産流
動化法第2条第3項に規定する特定目的会社(TMK)が発行する資産対応証券を取得した者その他実質的に当該信託の利益
を享受する者のことを「実質的受益者」と定義されており参考になります。一般的には、TMKにおける優先出資者、特定
社債権者のほか特定目的借入にかかるレンダーも実質的受益者に含まれ、さらに、その他のビークル(合同会社など)を
用いた場合におけるノンリコースレンダーや匿名組合員もこれに当たると考えてよいでしょう(小林卓泰他『Q&A 新しい
信託業法解説』三省堂242頁、既出金融庁パブリックコメント回答等参照)
。
33
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
いということになります。
すが、これまでにも述べたとおり「業として」
ウ SPCによる自己運用について
という業務性の要件をクリアすること、ある
なお、金商法では、主として有価証券又は
いは、投資運用業の登録を受けたアセットマ
デリバティブ取引に係る権利に対する投資と
ネージャーに運用の指図を受けること など
して、いわゆる集団投資スキームにおいて出
が考えられるところ、後者の場合にSPC自身
資持分を有する者(出資者)から出資又は拠
の登録が不要になるかどうかは現時点では未
出を受けた金銭その他の財産の運用を業とし
確認です。
て行うこと(いわゆる自己運用)が金融商品
11
もっとも、かかるSPCの自己運用について
取引業(投資運用業)に該当することとされ、
は、金商法で新たに導入された「適格機関投
所定の登録を要することになりました(金商
資家等特例業務」に該当する場合の特例措置
法第28条第4項第3号、第2条第8項第15号ハ、
が認められていますので(同法第63条第1項
10
12
第29条) 。そして、この集団投資スキーム
第1号ロ) 、この場合には事前届出だけで済
の出資持分に匿名組合契約に基づく出資が含
むということになり、行為規制も大幅に軽減
まれており(同法第2条第2項第5号)
、かつ、
されます。実際の流動化スキームにおいては、
上述のとおり、信託受益権が有価証券とみな
匿名組合出資者が「適格機関投資家等」に該
されることとなりましたので、基本スキーム
当する例が大半だと思われますので、現実に
図のように匿名組合員から出資を受けてこれ
はさほど影響はないともいえます。
を信託受益権というみなし有価証券に投資す
2 中間法人への基金拠出について(同③)
る営業者としてのSPCの行為は、この投資運
中間整理の段階では、有限責任中間法人への
用業に該当し様々な規制を受けるということ
基金拠出も規制対象として挙げられていました
になります。
が、第一部会報告が発表された段階では、中間
しかし、低コスト性や機動性が求められる
法人法で基金返還債権への利息付与が禁止され
ビークルが、このように登録を要しかつ厳し
(中間法人法第66条)、基金拠出者への利益配当
い規制の対象になるということは流動化実務
が認められていないことから、「金銭的収益とし
にとって大きな障壁です。さらに、この投資
てのリターンを期待するものとして一律に投資
運用業者は株式会社(取締役会・監査役設置
商品の範囲に含めることは適当ではないが、清
会社又は委員会設置会社)であることが登録
算時の残余財産の拠出者への分配は可能である
要件の一つとされており(同法第29条の4第
ことから、利用者保護上必要な場合が生ずれば
1項第5号イ)
、合同会社ではこの要件を充た
政令指定で対応することが適当と考えられる」
さないことから、ビークルとして合同会社を
とされるに至り、これを受けて、金商法は、社
使えないという流動化スキームの根幹にかか
団法人の社員権その他の権利のうち、当該権利
わる問題もあります。
を有する者が出資または拠出した金銭を充てて
そこで、合同会社たるSPCが投資運用業の
行う事業から生じる収益の配当または当該事業
登録を回避できる方法がないかということで
にかかる財産の分配を受けることができる権利
10.なお、投資運用業等の詳細については、澤木弁護士及び谷口弁護士の本号別稿をご覧ください。
11.金商法第2条第8項第12号、同項第15号ハにより、運用の「指図」を行うことも投資運用業に含まれます。
12.なお、この「適格機関投資家等特例業務」の創設は規制の柔構造化といわれているものですが、詳細については、谷口弁
護士の本号別稿をご覧ください。
34
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
を有価証券とみなして同法の適用を認めるもの
ていますので、政令で定められた場合には開
の(金商法第2条第2項第5号)
、
「出資者がその出
示規制の対象になる可能性があります。
資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対
(2) 具体的な論点
象事業に係る財産の分配を受けることがないこ
以上から、例えば、匿名組合出資の自己募
とを内容とする当該出資者の権利」(同法第2条
集スキームなどで、スポンサー等が予め出資
第2項第5号ロ)については適用対象から除外し
してビークルとしての合同会社を設立してお
ました。中間法人への基金拠出もこの除外され
き、(募集終了)後にその社員持分を中間法人
る権利に該当しますので、金商法は適用されな
に譲渡するという手法がとられることがあり
いということになります。
ますが、この譲渡が「業として」行われる場
3 合同会社(LLC)への出資について(同④)
合などは第二種金融商品取引業の登録を要す
(1) みなし有価証券
ることになります。
会社法施行により新たに導入された合同会
13
また、このように中間法人に対して譲渡す
社(LLC) の社員はその全員が有限責任とさ
ることを予定して合同会社に対する出資を行
れていることから、その持分たる社員権は株
う場合は、第一種金融商品取引業である「有
式に類似するものとして、会社法施行と同時
価証券の引受け」(有価証券の募集等に際し、
に、証取法上、みなし有価証券に指定されま
当該有価証券を取得させることを目的として
14
した(現行証取法第2条第2項第6号) 。この
当該有価証券の全部又は一部を取得すること。
点は金商法においても引き継がれ(金商法第2
金 商 法 第2条 第8項 第6号、 第28条 第1項 第3
条第2項第3号)
、合同会社の社員権の売買等
号・同条第7項)に該当するのではないかとい
を業として行うことは金融商品取引業に該当
う点も問題になります。この点、社員持分を
します。ただし、信託受益権と同様、その自
現物拠出(中間法人法第11条等)する手法が
己募集は金融商品取引業に該当しません(同
妥当との見解がありますが 、現物拠出が上記
法第2条第8項第7号参照)
。
なお、開示規制ですが、開示規制の適用除
外を規定した金商法第3条第3号イで「第2条
第2項第5号に掲げる権利(筆者注:上記社員
15
「引受け」の定義にある「取得」に該当しない
と言い切れるかは疑問なしとしません。
4 ローン・匿名組合出資について(同⑤⑥)
(1) ローンについて(⑤)
権も含まれます。
)のうち、当該権利に係る出
金銭消費貸借契約に基づく貸付金債権は「有
資対象事業が主として有価証券に対する投資
価証券」ではなく、「みなし有価証券」とも
を行う事業であるとして政令で定めるもの」
されません。なお、上述の第一部会報告では、
は適用除外から除かれる、つまり開示規制の
ABL等について、「現状、資金の出し手の大宗
適用を受けるとされています。この点、SPC
が融資を業とする金融機関であることの実態
としての合同会社は信託受益権というみなし
や、条件や開示内容について個々に交渉を行
有価証券に対する投資を行うことを目的とし
う余地があることなどから、法制的にも通常
13.本年5月1日から施行された会社法においては有限会社制度が廃止されたため(既存の有限会社は特例有限会社として存続
しますが、会社法上は株式会社として扱われます)
、新たに導入された合同会社(LLC)がビークルとして利用されることが
多くなると思われます。この点については、前号(Vol.1)の原弁護士の論稿「会社法施行と資産流動化実務」で取り上げま
したのでご覧ください。
14.なお、会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第180条。
15.橋本昌司「新会社法の施行と今後の流動化ビークル」ARES vol.18・76頁
35
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
の相対の貸付けと切り分けて規定することが
家等特例業務」の特例が認められており(同
困難であり、今回の法改正においては投資サー
法第63条第1項第1号)、これに該当すれば事
ビス法による規制対象としないが、今後とも
前届出だけで済むということになります。流
参加者の広がりや取引の実情などについて注
動化実務における大半のケースはこの特例に
視し、引き続き検討を行うべきものと考えら
該当するといえるでしょう 。
18
れる」との指摘がなされていることに注意が
なお、上述の社員権と同様、匿名組合出資
必要です。
も政令で指定され場合は開示規制の対象にな
(2) 匿名組合出資について(⑥)
ると考えられます(同法第3条第3号イ)。
現行証取法と同様、金商法においても匿名
組合契約に基づく権利は有価証券とみなされ
5 アセットマネジメント契約について(同⑦)
(1) TK出資の募集の取扱い等
ます(金商法第2条第2項第5号)
。注意すべき
アセットマネージャーが、みなし有価証券
は、信託受益権などとは異なり、匿名組合出
たる匿名組合出資持分の募集取扱い等の業務
資については、その自己募集といえども、こ
を行うことは、現行証取法上、証券業に該当
れを業として行う場合には金融商品取引業(第
するものとされていますが、金商法において
二種金融商品取引業)として規制を受けるこ
は第二種金融商品取引業となり所定の登録
とになったということです(同法第2条第8項
が必要となります。また、信託受益権が有価
16
第7号ヘ、第28条第2項第1号) 。したがって、
証券とみなされることから、アセットマネー
現行証取法におけるのと異なり、SPCが自己
ジャーがその売買の媒介、代理等を業として
募集を行う場合でも原則としてSPC自身が金
行う場合にも登録が必要となるのは、既述の
融商品取引業の登録を行う必要があり、現行、
とおりです。
証券業の登録を回避するために行われている
(2) 投資助言・代理業及び投資運用業について
いわゆる自己募集スキーム(SPCに役職員を
現行では、各業法(投資顧問業法、投信法等)
派遣して勧誘を行うなど)はそれだけでは有
において個別に投資助言行為や投資運用行為
効でないことになります。この登録義務を回
の規制が行われています。金商法では、これ
避するためには、
「業として」行わないか、別
らの規制の横断化を図る趣旨から、これらを
の金融商品取引業者に募集等の取扱いをなさ
「投資助言・代理業」と「投資運用業」という
17
しめ自らは募集行為をしない などが考えられ
2つのカテゴリーに整理し、横断的な規制が加
ますが、後者の場合にSPC自身の登録が不要
えられます 。ここでいう「投資助言・代理業」
と
か否かは現時点では未確認です。なお、当該
は、①投資顧問契約 に基づき有価証券の価値
自己募集についても、上述の「適格機関投資
等に関し又は金融商品の価値等の分析に基づ
19
20
16.現行証取法と異なり、「募集又は私募の取扱い」ではなく「募集又は私募」そのものを対象にすることで、自己募集を規制
対象としたものです。詳細は谷口弁護士の本号別稿をご覧ください。
17.信託受益権販売業登録に関する既出の監督指針参照。
18.渡邉雅之「金融商品取引法の証券化取引への影響」金融法務事情1771号1頁など。
19.これらの点は、澤木弁護士及び谷口弁護士による本号別稿をご参照ください。
20.金商法第2条第8項第11号柱書で、当事者の一方が相手方に対して、有価証券の価値等に関し又は金融商品の価値等の分析
に基づく投資判断に関し、口頭、文書その他の方法により助言を行うことを約し、相手方がそれに対し報酬を支払うこと
を約する契約のことを、「投資顧問契約」とされています。
36
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
く投資判断に関し助言を行うこと、及び、②
21
関する規定などが設けられており、残すこと
投資顧問契約又は投資一任契約 の締結の代理
が必要と考えられる」とされていたのを受け
又は媒介を行うことを、それぞれ業として行
て、整備法においても、資産流動化法は金商
うことであり(金商法第28条第3項、第2条第
法施行に伴う廃止法令としては挙げられてお
8項第11・13号)
、また、
「投資運用業」とは、
らず、金商法施行後も同法は存続することに
①投資法人の資産運用委託契約又は投資一任
なります。
契約に基づき金銭その他の財産の運用(その
ア 自己募集
指図を含む)を行うこと、②投資信託受益証
したがって、TMKスキームについては、基
券等を有する者から拠出を受けた金銭その他
本的にはこれまでの規制内容と大きく変わる
の財産の運用(その指図を含む)を行うこと、
ところはありません。現行法と同様、金商法
及び③受益証券、信託受益権又は集団投資ス
上も、特定社債及び優先出資は有価証券とな
キーム持分等を有する者から出資又は拠出を
りますが(金商法第2条第1項第4・8号)、い
受けた金銭その他の財産の運用(その指図を
ずれも、自己募集規制の適用はありません(自
含む)を行うことを、それぞれ業として行う
己募集が金融商品取引業とならない。)。
こととされています(同法第28条第4項、第2
条第8項第12・14・15号)
。
なお、現行の資産流動化法第207条では、
「特定目的会社の取締役又は使用人は、当該
上述のとおり、信託受益権がみなし有価証
特定目的会社の発行する資産対応証券の募集
券とされたことにより、アセットマネージャー
等(証取法第2条第3項に規定する有価証券の
がSPCから委託を受けてSPCの保有する信託受
募集又は私募をいう。)に係る事務を行って
益権に関し上記に該当する業務を行う場合は、
はならない。」とされていますが、金商法施
その業務内容に応じて所定の登録が必要にな
行と同時に改正される資産流動化法第207条
22
る と 考 え ら れ ま す 。なお、この場合でも、
では、「特定目的会社の取締役又は使用人は、
SPCの自己運用にかかる指図については、上
当該特定目的会社の発行する資産対応証券の
述の「適格機関投資家等特例業務」に関する
募集等(金商法第2条第3項に規定する有価証
特例があります。
券の募集又は私募をいう。)の取扱いについ
6 流動化スキームにおけるその他の論点
て次条第2項の規定による届出が行われたと
(1) 特定目的会社を利用するスキーム
きは、当該資産対応証券の募集等に係る事務
「資産の流動化に関する法律」(資産流動
を行ってはならない。」とされ、同法第208条
化法)に基づく特定目的会社(TMK)を使っ
は、第1項で、特定資産譲渡人(オリジネー
た流動化スキームについて少し触れておきま
ター)が資産対応証券の募集等の取扱いをす
す。まず、第一部会報告において、資産流動
ることは金融商品取引業に該当しないものと
化法については、
「投資信託・投資法人法と同
して、従前どおりオリジネーターによる募集
様に、資産流動化に特化したビークルとして、
等の取扱いを許容し、第2項において、その
ファンド業務の制限や追加的なガバナンスに
場合には内閣総理大臣への事前届出を義務付
21.金商法第2条第8項第12号ロで、当事者の一方が相手方から金融商品の価値等の分析に基づく投資判断の全部又は一部を一
任されるとともに、当該投資判断に基づき当該相手方のため投資を行うのに必要な権限を委任されることを内容とする契
約のことを、「投資一任契約」とされています。
22.アセットマネージャーがかかる登録を要するというのは実務上小さくない問題であり、具体的にどういった業務が登録を
要する投資運用業等に該当するかにつき、今後のパブリックコメント等で明らかにされることが期待されます。
37
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
けています。したがって、改正後の資産流動
(3) 宅地建物取引業法の改正
化法においては、オリジネーターが募集等を
金商法の施行とともに宅建業法の改正もな
取り扱わない場合には、TMKによる自己募集
され、宅建業者が不動産信託の当初委託者兼
23
が可能になるということになります 。
受益者となりかつ当該信託受益権の売主とな
イ 特定出資について
る場合には、その売買の相手方に対して、当
TMKも社団法人ですから、TMKへの特定
該信託受益権に係る不動産に関する重要事項
出資も、上述のLLCへの出資と同様、金商法
を記載した書面を交付して説明する必要があ
第2条 第2項 第5号 に い う「社 団 法 人 の 社 員
ります(改正宅建業法第35条第3項)。また、
権」として有価証券とみなされることになる
金融商品仲介業等を営む宅建業者が、不動産
と考えられます。
信託受益権又はこれに投資する匿名組合出資
持分等の売主になる場合またはこれらの売買
(2) 不動産特定共同事業
冒頭の基本スキームにおいて不動産の現物
をSPCに譲渡する場合は、不動産特定共同事
を媒介する場合にも、同様の義務が課されま
す(同法第50条の2の4)。
業法が適用されます。この点、金商法の施行
後も不動産特定共同事業法そのものは存続し、 第3 最後に
不動産特定共同事業契約に基づく権利も有価
以上、金商法が流動化スキームに与える影響につ
証券とみなされず(金商法第2条第2項第5号
いて概観しましたが、規制の拡大・強化の一方で、
ハ)
、金商法の適用は受けません。これは、不
投資活動の健全な発展を阻害しないという意図から
動産特定共同事業法にもともと不動産という
出た規制柔軟化の恩恵もあり、近時、成長著しい流
商品特性に応じた規制が多く定められている
動化・証券化市場については、金商法施行による影
24
ことを生かす趣旨だと思われます 。ただし、 響は最小限に留まるのではないかという見方もでき
規制横断化の一環として、不動産特定共同事
るでしょう。ただし、この辺りの見極めは、今後発
業においても、一部、金商法における販売・
表される政省令やパブリックコメント、監督指針等
勧誘規制が準用され(改正後の不動産特定共
の内容を確認してからということになりそうです。
同事業法第21条の2など)
、金商法と同様の規
制が適用されることになります。
23.特定社債などを株式などと同様の一項有価証券に区分けした結果、集団投資スキームにおける自己募集の規制が及ばなく
なったものと思われますが、他の資産流動化スキームと比較して、このようにTMKによる自己募集だけを規制から外すこ
とは、規制の横断化という視点からしてもやや不均衡であるとも思われます(渡邉雅之「金融商品取引法の証券化取引へ
の影響」金融法務事情1771号1頁参照)。
24.ちなみに、第一部会報告別紙3では、「不動産特定共同事業の出資持分の販売については、『リスク』と『リターン』の考え
方から『投資性』があると考えられるが、『不動産特定共同事業法』において業規制がなされている。同法では、説明義務
や断定的判断の禁止といった投資商品の販売・勧誘に関する一般的な規制に加え、不動産の特性を踏まえた許可要件(宅
地建物取引業の免許)を設けるなど、一部に商品特性に応じた規制が定められている。不動産特定共同事業については、
以上の点を考慮して、投資サービス法との関係を整理することが適当と考えられる。
」と記述されています。
25.参考文献は、これまでに挙げたもののほか、平川雄士「金融商品取引法の適用範囲」ビジネス法務2006.9・54頁、伊藤哲
哉他「証券取引スキーム規制のポイント」経理情報2006.8.1・26頁、小西真機他「
『横断化』と『柔軟化』が図られた金
融商品取引法」(Lexis企業法務2006.6・23頁)、松尾直彦他「金融商品取引法制の概要」(商事法務1771号4頁)
、小島宗
一郎他「金融商品取引法の目的・定義規定」商事法務1772号18頁、神田秀樹他『速報 Q&A 金融商品取引法の要点解説』
きんざい、大崎貞和『解説 金融商品取引法』弘文堂、神田秀樹・資本市場研究会『利用者の視点からみた投資サービス法』
財務詳報社、等。
38
25
以上
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4 改正法がファンドの投資活動に与える影響
弁護士 原 吉宏
後保有割合が1%以上増減した場合には、当該
第1 はじめに
改正法は、いわゆる「村上ファンド」が行った、
変動の日から5営業日以内に変更報告書を提出
ニッポン放送、大阪証券取引所及び阪神電鉄等の上
しなければならない旨規定する(現行証取法
場株券等の買付手法に対する問題意識を背景とし
第27条の23、第27条の25・一般報告)一方、
て、上場株券等を対象として投資活動を行うファン
日常の営業活動として継続的に大量の株券等
ド(買 収 フ ァ ン ド、 ア ク テ ィ ビ ス ト・ フ ァ ン ド
1
等)に対する規制を強化しています。
すなわち、改正法は、①大量保有報告制度の特例
の見直し、②市場内外の取引を組み合わせた買付行
2
の売買を行っている機関投資家 については、
事務負担等を考慮して、以下のように報告頻
度や期限を軽減する特例措置(特例報告)が
認められています(現行証取法第27条の26)
。
為に対する公開買付規制の適用の明確化、③買付者
すなわち、ⅰ株券等の保有目的が「会社の
が競合する場合の公開買付けの義務化、④ファンド
事業活動を支配すること」(事業支配目的)
自体に対する短期売買規制の適用、⑤取引所の主要
ではなく、かつ、ⅱ株券等の保有割合が内閣
株主規制の厳格化等の改正を行っています。
府令で定める割合(現行証取法では10% )を
3
このような規制の内④以外は、ファンドのみなら
超えない場合には、①基準日(3 ヶ月毎の末
ず、機関投資家や一般事業会社をも対象とするもの
日)において新たに5%超を保有する状態に
ですが、改正法の成立により、その他の改正部分も
なったときは翌月15日までに報告する、②以
含めて、上場株券等を対象として投資活動を行う
後の基準日において保有割合につき1%以上の
ファンドは、様々な制約を受けることになります。
増減があったときは当該基準日の翌月15日ま
本稿では、改正法が、今後のファンドの投資活動
でに報告する(但し、基準日の属する月の後
に与える影響について、ご説明致します。
4
の月末時点で2.5% 以上の増減があったとき
には翌月の15日までに報告する)、という制
第2 大量保有報告制度
1 大量保有報告書
(1)現行証取法の規制
度が採られています。
ところが、このような制度の下では、実質
的には事業支配が目的と評価できるような
5
現行証取法では、原則として、上場株券等
ファンドによる大規模買付け についても、保
の保有割合が5%超となった場合は、その日か
有目的を「純投資」とすることで特例報告制
ら5営業日以内に大量保有報告書を提出し、以
度を利用し、約3 ヶ月半の間、水面下で上場
1. 主として上場企業の株式を数%∼数十%を取得し、株主としての監視監督権を活用して、配当の増額や企業価値向上を通
した株価の上昇によるキャピタルゲインの獲得を目指すファンドのことを言います(経済産業省「経済成長に向けたファ
ンドの役割と発展に関する研究会報告書」〔平成17年12月27日〕59頁)
。
2. 株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令(以下「大量保有府令」といいます。)第11条
3. 大量保有府令第12条
4. 大量保有府令第16条
5. 大量保有報告書の提出対象となる「保有者」概念とファンドの関係については、河本一郎 「大量報告(5%ルール)から
何が分かるか」企業会計vol58・№1・2頁参照。
39
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
株券等を大量に買い進めることが可能になる
要提案行為等)という文言に変更しました(改
という問題点が指摘されるようになりました。
正証取法・金商法第27条の26第1項)。この改
また、現行証取法では、株券等保有割合が
正により、株主提案等を通じて会社の経営に
10%を超えた後に10%を下回る取引が行われ
関与することを活動内容とするアクティビス
た場合には、当該取引については特例報告の
ト・ファンドは、特例制度を利用することは
対象となり、迅速な開示が行われないという
極めて難しくなると言えます 。さらに、株券
問題がありました。
等保有割合が5%を越えた日から政令で定める
7
(2)改正点
期間内に重要提案行為等を行う場合にはその5
そこで、改正法では、大量保有の報告期限・
営業日前までに大量保有報告書を提出し(改
頻度を短縮し、毎月2回以上(概ね2週間毎)
正証取法・金商法第27条の26第4項)、株券等
設けられる基準日から5営業日以内に、①新た
保有割合が1%以上増加した日から政令で定
に5%超を保有したときは大量保有報告書を、
める期間内に重要提案行為等を行う場合には
②以後の基準日において1%以上増減があった
その5営業日前までに変更報告書を提出するこ
とき、その他大量保有報告書に記載すべき重
ととされました(改正証取法・金商法第27条
要な事項の変更として政令で定めるものが
の26第5項)。
あった場合は変更報告書をそれぞれ提出する
また、改正法では、株券等保有割合が内閣
こととされました(改正証取法・金商法第27
府令で定める割合(現行証取法では10%)を
条の26第1ないし3項)
。この改正により、ファ
下回り、特例報告の対象となった場合には5営
ンド等が潜行して上場株券を取得できる期間
業日以内に変更報告書を提出することとされ
は最大で20日間程度に短縮されることになり
ました(改正証取法・金商法第27条の26第2
6
項第3号)。
ます 。
次に、改正法は、機関投資家に一般報告を
(3)小括
義務づける要件である、現行証取法の「事業
以上の規制強化により、ファンドや機関投
支配目的」という概念を明確化するため、
「事
資家は、従前よりも格段に大量保有報告書や
業活動に重大な変更を加え、又は重大な影響
変更報告書を提出する場面が増えることにな
を及ぼす行為として政令で定めるもの」(重
り、事務負担が重くなります。
8
【特例報告の期限・頻度の比較】
大量保有報告書
変更報告書
現行証取法
株券等保有割合
提出期限
3 ヶ月ごとの
基準日の属する
基準日時点で 5%超
月の翌月 15 日まで
3 ヶ月ごとの基準日時点で 同上
直前の報告から
1%以上の増減
基準日の属する月の後の月 その月末の属する月の
末時点で直前の報告から
翌月 15 日
2.5%以上の増減
改正法
株券等保有割合
提出期限
原則 2 週間ごとの
基準日から
基準日時点で 5%超
5 営業日以内
原則 2 週間ごとの基準日
同上
時点で直前の報告から 1%
以上の増減
6. 中川秀宣「市場規制の抜け穴をふさぐTOB制度の整備」ビジネス法務06年6月号22頁
7. 大崎貞和『解説 金融商品取引法』弘文堂112頁
8. 横山淳「大量保有報告制度の見直し」(2006年5月8日付株式会社大和総研制度調査部情報・金融商品取引法シリーズ11)
6頁より抜粋
40
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
2 EDINET
現行証取法では、市場外で3分の1に近い数(例
現行証取法では、有価証券報告書等はEDI
えば、30%)の株券等の買付けを行った後に市
NET(証券取引法に基づく有価証券報告書等
場内で買付けを行う(例えば、4%)ことで株券
9
の開示書類に関する電子開示システム )を利用
保有割合が3分の1を越える場合、公開買付規制
した電子媒体による提出が義務づけられる一
を潜脱することが可能になるという問題があ
方、大量保有報告書及び変更報告書については、
り、他方、こうした脱法的な態様の取引を防ぐ
電子提出は任意とされました(現行証取法第27
ために、上記のような市場外取引と市場内取引
条の30の2、第27条の30の3第2項)
。
を実質的に一体の買付行為として把握して公開
このため、インターネットによる迅速な公衆
買付規制を適用するという考え方を採ると、い
縦覧を回避することを目的として、敢えて電子
かなる場合に「一体の買付行為」と評価され公
提出を避け、紙媒体で大量保有報告書を提出す
開買付規制が及ぶのか、明確でないという問題
ることも可能でした。そこで、金融庁は、昨秋
がありました 。
11
より紙媒体で提出された大量保有報告書につい
そこで、改正法では、①一定期間(X ヶ月)
内に、
てもインターネットで閲覧できることとしまし
②市場取引、市場外取引又は新株発行により一
たが、紙媒体の情報を電子データ化するには一
定割合(A%)を超える株券等を取得し、③その
定の時間が必要になるため、電子開示に係る事
内、市場外取引により買い付けた株券等が一定
務量が多いとき等には、必ずしも即時開示が行
割合(B%)を超えており、④当該株式取得後の
10
われないという問題が指摘されていました 。
株券等所有割合が3分の1を超える場合には、公
そこで、改正法では、大量保有報告書及び変
開買付けによらなければならないこととし、公
更報告書についても、EDINETによる電子
開買付規制の適用範囲を明確化しました(改正
提出を義務づけました(改正証取法・金商法第
証取法・金商法第27条の2第1項第4号)
。
27条の30の2)
。
Xは6 ヶ月を超えない範囲で政令により定める
こととされ、A、Bの割合も政令で定めることと
第3 公開買付(TOB)制度
1 概説
改正法は、公開買付制度についても様々な改
正を行っています。この改正は買収防衛等、M
&A実務に携わる関係者に重要なインパクトを
12
されていますが、新聞報道によれば 、金融庁と
しては、Xを3 ヶ月、Aを10%、Bを5%とする方
針で検討中のようです。
3 買付者が競合する場合における公開買付の義
務化
与えるものであり、ファンドについても、上場
現行証取法では、公開買付けが行われている
株券等の大規模な買付行為を行う場合等に影響
期間中に、競合する者が公開買付けによらずに
を受けますので、以下、改正事項の骨子を概観
取引所市場内で当該株券等を大量に買付けるこ
します。
とも可能とされていましたが、改正法では、買
2 市場内外の取引を組み合わせた買付行為
付者間の公平性を確保する観点から、公開買付
9. https://info.edinet.go.jp/EdiHtml/main.htm参照
10.前掲8・横山7頁
11.いわゆる「3分の1ルール」のあり方について論じた文献として、井上広樹「公開買付規 制の改正−潜脱防止策のあり方」
MARR141号24頁参照。
12.平成18年4月20日付日本経済新聞朝刊参照
41
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
けが行われている場合において、3分の1を超え
金商法第27条の10第1項)。
る株券等を所有している者が、
一定期間
(X ヶ月)
また、意見表明報告書に公開買付者に対する
内に一定割合(A%)を超える買付等を行う場合
質問を記載したとき(改正証取法・金商法第27
には、当該買付けは公開買付けによらなければ
条の10第2項第1号)は、公開買付者は、政令で
ならないものとされました(改正証取法・金商
定める期間内に、対質問回答報告書を提出する
法第27条の2第1項第5号)
。
ことが義務づけられました(改正証取法・金商
Xは6 ヶ月を超えない範囲で政令により定める
法第27条の10第11項)。対質問回答報告書は公
こととされ、Aの割合も政令で定めることとされ
衆縦覧されることになります(改正証取法・金
ています。
商法第27条の14第1項)。
4 公開買付の買付条件の変更等の柔軟化
6 対象者の請求に基づく公開買付期間の延長
現行証取法では、投資者保護の観点から、買
改正法では、公開買付期間が短く設定された
付価格の引下げは禁止されていますが(現行証
場合、公開買付けに反対する対象会社が対抗提
取法第27条の6第3項)が、例えば、対象会社が、
案等を投資者に提示し、これに基づいて投資者
買収防衛策として、公開買付け中に株式分割や
が適切に判断するための時間を確保すること等
株式の無償割当等を行った場合には、希釈化に
を目的として、対象会社の請求に基づく公開買
より株価が下落するにも拘らず、買付価格を引
付期間の延長制度を新設しました。
き下げることができず、買収者が不測の損害を
被るという問題がありました。
すなわち、公開買付けの対象会社は、公開買
付期間が一定期間(X)より短い場合は、意見表
そこで、改正法では、公開買付者と対象会社
明報告書において、公開買付期間を一定期間(X)
との公平なバランスを確保する観点から、公開
に延長することを請求する旨及びその理由を記
買付者が、
「対象者が株式分割、その他政令で
載することができ(改正証取法・金商法第27条
定める行為を行ったときは内閣府令で定める基
の10第2項第2号)、当該意見表明報告書が公衆
準に従い買付等の価格の引下げを行うことがあ
の縦覧に供されたときは、公開買付者は、公開
る」旨の条件を付していた場合には、公開買付
買付期間を一定期間(X)に延長しなければなら
けの価格引下げを認めることとしました(改正
ないこととされました(改正証取法・金商法第
証取法・金商法第27条の6第1項1号)
。
27条の10第3項、27条の3第1項参照)。
5 意見表明報告書の提出の義務化
現行証取法では、公開買付けの対象会社は、
公開買付けに関する意見を公表した場合等に意
Xについては政令で定められますが、30営業日
13
とされる見込みです 。
7 全部買付の義務化
見表明報告書の提出が義務づけられるに過ぎま
現行証取法においては、公開買付者は、応募
せ ん で し た(現 行 証 取 法 第27条 の10第1項 )
株券等の合計が買付予定数を超えるときには、
が、改正法は、公開買付けへの応募の可否を判
按分比例の方法により、超過部分の買付け等を
断する投資者に対する情報提供を充実する観点
行わないことも可能とされています(現行証取
から、公開買付けの対象会社が、公開買付開始
法 第27条 の13第4項 )。 し か し、 こ の よ う な 制
公告から政令で定める期間内に意見表明報告書
度の下では、例えば、公開買付け後に上場廃止
を提出することを義務づけました(改正証取法・
となる場合、いわゆる手残り株が生じる株主が
13.松尾直彦・岡田大・尾
輝宏「金融商品取引法制の概要」商事法務1771号13頁。なお、現行証取法では公開買付期間は
20日から60日とされていますが、改正法に伴う政令の改正により、20営業日から60営業日に変更される見込みです。
42
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
不安定な地位に置かれるという問題がありまし
を入手し易い立場にあったファンドによる「短
た。
期利益を狙った売り抜け行為」を規制できない
のは不合理である、との問題点が指摘されてい
そこで、改正法では、株主保護の観点から、
ました。
公開買付後における株券等所有割合が一定割合
(X)を上回る場合は、公開買付者に応募株券等
2 そこで、改正法では、ファンド(特定組合
の全部を買い付けることを義務づけました(改
等)の財産に属する株式に係る議決権の割合に
正証取法・金商法第27条の13第4項)
。
より、短期売買規制の適用の有無を判断するこ
ととなりました(金商法第165条の2)
。
Xは政令で定められますが、3分の2と規定され
14
る見込みです 。
【ファンドによる短期売買規制の見直し】
第4 主要株主の短期売買規制
1 現行証取法では、主要株主がその地位に基づ
出資者(5%)
出資者(5%)
出資者(5%)
いて取得した重要な未公表事実を利用して内部
者取引を行うことを防止するため、①主要株主
主要株主(10%以上)
組合等(15%保有)
←規制対象に
(10%以上の議決権を保有する株主)が6 ヶ月
の期間内に買付け等をした後に売付け等をし、
上場会社等
又は売付け等をした後に買付け等をして利益を
得たときには、当該利益を会社へ提供する義務
を負わせる(現行証取法第164条)と共に、自
第5 取引所の株式保有制限規制
発的な売買差益提供義務の履行を促す趣旨か
1 現行証取法では、株式会社形態の取引所につ
ら、②主要株主が売付け等又は買付け等を行っ
いては、主要株主規制として、①5%超の議決
た場合には、当該取引に関する報告書を翌月
権を保有する者は内閣総理大臣に対象議決権保
15日までに内閣総理大臣に報告し、公衆縦覧
有届出書を提出しなければならない(現行証取
に供すること(現行証取法第163条)としてい
法第103条の2)、②20%(その財務及び営業の
15
ます(主要株主の短期売買規制) 。
方針の決定に対して重要な影響を与えることが
そして、現行証取法では、
「主要株主」の該
推測される事実として内閣府令が定める事実が
当性については、ファンド自体ではなく、出資
ある場合 には15%)以上の議決権を保有する
16
17
者毎に判断すると解釈されています ので、ファ
者は原則として内閣総理大臣の事前認可を取得
ンドとしては10%以上の議決権を保有してい
しなければならない(現行証取法第106条の
ても、各出資者の議決権保有割合が10%を下
3)、③50%超の議決権を保有することは原則
回っている場合には短期売買規制が適用されな
として禁止する(現行証取法第103条)という
いという規制の「隙間」があり、大量(10%
3段階の規制がなされていました。
以上)の株券等を買付けて、会社の非公開情報
このような規制の下、平成17年に村上ファ
14.前掲13・松尾他13頁
15.神崎克郎・志谷匡史・川口恭弘『証券取引法』青林書院928頁
16.前掲5・河本5頁、前掲7・大崎114頁
17.証券取引所及び証券取引所持株会社に関する内閣府令第9条の4・財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則第8
条第6項第2号イ∼ホ
43
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
ンドは、大阪証券取引所の株券を約10%取得
2、第207条第1項第2号)。
し、更に20%超の取得を目指して認可を申請
2 小括
しました。結果的に当該申請は認可されません
ライブドアや村上ファンドの関係者による
でしたが、
本件を契機として、
「取引所が特定・
証券取引法違反事件を契機として、証券犯罪に
少数の株主に支配され、取引所の自主規制機能
対する世間の関心はかつて無い程高まっていま
と特定の株主との利益相反の問題が生ずるおそ
す。また、金融庁、証券取引等監視委員会又は
れ」が注目されることとなりました。
検察庁も、今後、従前にも増して証券(金融商品)
そこで、改正法では、20%(一定の場合には
取引に関する取締りを強化することが予測され
15%)以上の取引所の議決権保有についても、
ます。上場株券等を投資対象とするファンドと
原則として禁止することとされました(金商法
しては、証取法(金商法)に抵触する疑義のあ
第103条の2)
。
る取引については常に法律専門家の意見を確認
2 この改正によって、今後、ファンドが取引所
の20%以上の株式取得を目指すような事態は
する等、コンプライアンス体制を確立すること
が不可欠な時代になったと言えるでしょう。
生じ得なくなりました。
第7 施行時期
第6 罰則の強化
1 改正法の概要
改正法は、ライブドア等、昨今の一部の上場
は、平成18年7月4日より施行されています(改
正法附則第1条第1号)。
企業の不正事件を受け、投資者保護の徹底、公
2 次に、公開買付制度の見直しに係る部分や、
正かつ透明な証券取引の確保及び証券取引に対
大量保有報告制度の「事業支配目的」を「重要
する国民の信頼の確保を図る観点から、不公正
提案行為等」に改正する部分等は、公布の日(平
取引等に対する罰則を強化しています。
成18年6月14日)から起算して6月を超えない
すなわち、改正法では、有価証券届出書等の
範囲内において政令で定める日から施行され
虚偽記載、風説の流布・偽計、相場操縦行為等
ることとされています(改正法附則第1条第3
に対する法定刑について、旧証取法における5年
号)。
以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又は併料
3 さらに、大量保有報告に係る特例報告の頻
(法人両罰5億円以下)から、10年以下の懲役若
度・期限の短縮の部分や電子提出の義務化の部
しくは1000万円以下の罰金又は併料(法人両罰
分等が、公布の日から起算して1年を超えない
7億円以下)に引き上げられました(現行証取法・
範囲内において政令で定める日から施行される
金商法第197条、第207条第1項第1号)
。
こ と と さ れ て い ま す(改 正 法 附 則 第1条 第4
また、インサイダー取引等に対する法定刑に
号)。公開買付規制の改正等よりも施行時期が
ついて、旧証取法における3年以下の懲役若しく
遅いのは、機関投資家等の社内システムの整備
は300万円以下の罰金又は併料(法人両罰3億円
等、新制度への対応に相当の準備期間を要する
以下)から、5年以下の懲役若しくは500万円以
との配慮に基づくものです 。
18
下の罰金又は併料(法人両罰5億円以下)に引き
4 その他の部分については、公布の日から起算
上げられました(現行証取法・金商法第197条の
して1年6 ヶ月を超えない範囲内において政令
18.前掲7・大崎113頁
44
1 以上の改正の内、まず、罰則の強化について
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
で定める日から施行されることとされています
(改正法附則第1条柱書)
。
が、政令や内閣府令への委任事項が多いため、未だ
改正後の規制の全容は明らかとなっていません。
よって、今後の実務対応を考えるに際しては、政令
第8 結語
以上、改正法は、ファンドによる上場株式等に対
等の制定動向に注目し、十分な情報収集・検討を行
19
うことが必要になると考えられます 。
する投資活動の局面に大きな影響を及ぼすものです
以上
19.本文で引用した文献の他、本稿のテーマに関する参考文献として、以下のものがあります。
・柏健吾「証券取引法等改正案が組織再編・M&Aに与える影響」MARR141号36頁
・梅津英明「相談室[会社法務] 公開買付制度の改正」企業会計vol58・№5・140頁
45
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
第2章 ファイナンス取引における実務上の諸問題
1 資産流動化スキームと倒産手続に関する実務上の諸問題
∼ 第2回「倒産隔離」について ①
弁護士 中森 亘
弁護士 堀 野 桂 子
第1 はじめに(
「倒産隔離」の意義)
1
前号 では、資産原保有者(オリジネーター)の
3
象として 、資金を供給あるいは投資できるという
4
ことになります 。
倒 産 手 続 に お い て 資 産 譲 渡 の 真 正 売 買 性(true
流動化スキームの存在意義が以上のような点にあ
sale)が否定された場合、流動化スキームがどのよ
ることから、オリジネーターの信用リスク、端的に
うな影響を受けるかという問題について解説しまし
言えば、オリジネーターの倒産から資産の信用力そ
た。今回は、それに関連していわゆる「倒産隔離」
のものが隔離されていることが必要不可欠であり、
(Bankruptcy Remote)の問題を取り上げます。こ
これが達成されていない流動化スキームは、そもそ
の「倒産隔離」という用語には明確な定義がなく、
もスキームとして認められないということになりま
実際、論者や文脈などによってその意味するところ
す。そして、この隔離を達成するためにわざわざ大
や包摂する範囲が異なる場合もありますが、基本的
掛かりな仕組みを構築するのですから、その仕組み
には、資産流動化スキームの根幹となるべき対象資
自体によって、オリジネーター以外による倒産リス
産(アセット)の価値(収益力)と信用力を、
プレー
クを生じさせてしまっては意味がありません。そこ
ヤー(スキームの関係当事者)の倒産から防御する
で、「倒産隔離」と言われる場合には、①オリジネー
(影響を排除する)こと、という捉え方で誤りはな
ター倒産からの防御という視点のほかに、②資産の
いでしょう。すなわち、前号でも述べましたが、流
譲渡先(受け皿)となるビークル(Special Purpose
動化スキームは、オリジネーターが保有する資産を
Vehicle、以下「SPV」といいます。)の倒産からの
2
オリジネーターから切り離して 、当該資産の価値
防御という視点も含めて論じられるのが通常です。
(収益力)と信用力のみを引当てにした資金調達を
例えば、資産を直接保有するSPVに倒産手続が開始
可能ならしめるための仕組みであり、金融機関や投
してしまうと、キャッシュフローが打撃を受け想定
資家からみれば、このようにオリジネーターの信用
されていた弁済や配当を受けられなくなったり、対
リスクから解放された資産の価値や信用力のみを対
象資産の早期処分を余儀なくされてしまうなどの危
1. 前号「Kitahama Law Review 速報」別冊ファイナンス編Vol.1(平成18年4月25日発行)
。
2.「切り離す」とは、法的にも会計的にも切り離すという意味であり、この切り離しによって、オリジネーターの信用リスク
から資産が解放されることになります。なお、この切り離しの程度はスキームが目指すところによって異なるといえます。
3.「オリジネーターの信用リスクから解放される」というのは、究極的にはオリジネーターの倒産リスクから解放されるとい
う意味になりますが、ここでは、企業に内在する様々な信用リスク(経営不振、取引先倒産、制度転換等々)一切から解
放されるという意味を含んでいます。
4. この点、資産の価値を引当てとする資金調達方法として、資産に担保を設定して融資するという方法があります(担保融
資)。しかし、例えば、担保の実効性に着目すると、担保設定をしたのみでは、実際の担保実行に当たって生じ得る手続リ
スクやコストリスク等から解放されませんし、債務者に倒産手続が開始した際には、その倒産手続の種類によって様々な
権利行使の制限や権利内容の変更を受けてしまいます。
46
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
険があります。これでは、オリジネーターの倒産と
同様の事態となってしまいますので、SPVの倒産か
ら資産の信用力を隔離するということもスキーム維
それでは、まず、オリジネーター倒産からの
隔離の問題について解説します。
オリジネーターがSPVに資産を譲渡した後、オ
リジネーターに倒産手続が開始した場合、流動
持のため必須になるのです。
なお、流動化スキームではオリジネーターとSPV
化スキームはいかなる影響を受けるのでしょう
以外にも様々なプレーヤーが登場します。これらの
か。オリジネーターがいったん資産をSPVに譲渡
プレーヤーの倒産からの隔離もスキームによっては
している以上、後にオリジネーターが倒産しよ
必要になるでしょう。頭書に「プレーヤーの倒産」
うと何ら影響はないようにも思えます。しかし、
という表現を使ったのもその意味です。そして、こ
この問題を考えるに当たっては、倒産手続にお
れらをどこまで含めて考えるか、また、倒産の影響
いては、弁済原資の極大化、全債権者の一般的
としてどこまでの範囲を想定しどの程度までの防御
利益及び公平性の確保、手続の公正・透明性の
5
を図ればよいのか 、さらには、倒産とはどこまで
確保などといった理念が貫かれており、倒産手
の事態を指すのか等々、論じ出すと切りはありませ
続が開始されると、流動化スキームにとってい
んが、これがまさに「
『倒産隔離』には明確な定義
わば外部者である裁判所や管財人らが中心と
がなく、論者等によって意味するところも異なる場
なって、これらの理念に沿って粛々と手続が遂
合がある」と頭書に述べたことの趣旨です。
行されていくという点に注意が必要です。そこ
本稿では、あわせて倒産法も理解してもらうとい
では、スキーム全体が一つの投資スキームとし
う意図から、
「倒産隔離」の意義をできるだけ広く
て構築されているという点に対する配慮は働か
捉え、本号以降2回程度に分けて、流動化スキーム
ず、倒産企業(オリジネーター)が帳簿上保有
における「倒産隔離」について解説していきたいと
している資産だけでなく、実質的に保有してい
6
思います 。そして、本号では、まず、オリジネーター
ると認められる資産、場合によっては処分済み
倒産からの隔離という問題を取り上げ、次号におい
の資産までをも併合した倒産処理が指向されや
て、SPV倒産からの隔離や倒産隔離に関連するその
すいといえます 。
他の諸問題について解説したいと思います。
7
このように、オリジネーターに倒産手続が開
始されると、概して流動化スキームはその影響
オリジネーター
SPV
金融機関
投資家等
を受けやすい素地があるということを前提に、
以下、「倒産隔離」として取り上げられる諸問題
を整理していきます。
資産
2 倒産手続に関連する具体的諸問題
(1)真正売買(true sale)について
第2 オリジネーター倒産からの隔離
1 概説
まず、大前提として、オリジネーターから
SPVへの資産譲渡が金融取引などではなく、
5. 例えば、倒産手続が開始された後の影響を排除するというだけでなく、支払不能などの倒産手続開始原因が発生しないよ
うにする措置(倒産予防措置)や万一倒産状態に陥ってしまったとしても倒産手続を開始させない措置(倒産手続予防措置)
なども考えられます。
6. なお、「倒産隔離」の基本的な意義等は、澤木弁護士による本号別稿「証券化入門」をご参照ください。
7.マイカルグループの会社更生手続において、同グループが行っていた流動化スキームにおける真正売買性の認否等を巡っ
て、倒産法や金融法等を専門とする学者や実務家らを巻き込んでの白熱した議論が展開されたことは記憶に新しいところ
です。
47
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
真正な売買であると認められる必要がありま
はなかったものとなり、原則として当該行為
す。これがいわゆる真正売買の問題であり、
がなされる前の状態(原状)に復されること
これが何故求められるのか、また、かかる真
になります(破産法第167条等)。以下、流動
正売買性が否定された場合、流動化スキーム
化スキームにおいて問題になりうる3つの場合
がいかなる影響を受けるか等については前号
(財産処分と対抗要件充足行為の否認、詐害行
において解説しましたのでここでは繰り返し
為取消権の行使)について解説します。
ませんが、流動化スキームの核は資産譲渡す
ア 財産処分行為の否認
なわち資産の売買であり、この売買が法的に
流動化スキームにおいてオリジネーターが
真正なものと認められないというのは、いわ
倒産した場合、管財人等によって、オリジネー
ば倒産隔離以前の問題ともいえます。したがっ
ターからSPVへの資産譲渡が否認されるとい
て、以下では、この真正売買性の問題は一応
うことがあり得ます。この点、従前の判例法
8
9
クリアされていることを前提に話を進めます 。
理 では、資産処分の対象が不動産である場
(2) 否認権について
合には適正価格による処分であってもなお否
上述したように、倒産手続は全債権者のた
認の対象になるとされていましたが、これで
めの公平な手続であり、一部の債権者による
は買主の地位を不安定にし取引の安全を害す
抜け駆け的行為は許されないことになってい
る、適正価格による処分では財産の増減がな
ます。そして、これを制度的に確保するため、
く詐害性が認められないなどといった批判も
倒産手続においては、管財人(破産、会社更
強かったところ、平成17年1月1日に施行さ
生)や監督委員ら(民事再生)による否認権
れた改正破産法(第161条)により、相当の
(破産法第160条以下、民事再生法第127条以
対価を得てした財産の処分行為については、
下、会社更生法第86条以下)が認められてい
次の場合に限って否認が認められるというこ
ます。これは、倒産手続開始前になされた債
とになりました。すなわち、①隠匿、無償供
務者(後の倒産者)による一定の行為(財産
与、その他の破産債権者を害する処分(隠匿
処分等)を否認して取り消すことができると
等の処分)をするおそれを現に生じさせるも
いうものであり、管財人等はこれを行使する
のであること、②破産者が財産処分時、対価
ことにより、散逸した債務者の財産を取り戻
として得た金銭そのほかの財産について隠匿
し、弁済原資の極大化と債権者間の公平性を
等の処分をする意思(隠匿等処分意思)を有
図ることができます。管財人等によりかかる
していたこと、③相手方 が財産処分時に破
否認権が行使された場合、当該否認対象行為
産者の上記隠匿等処分意思を知っていたこと、
10
8. 前号でも少し触れましたが、この真正売買性の判断基準をいかに捉えるかは一つの大きな論点であり、現在も議論が錯綜
しているものと思われます。次号以降で整理したいと考えています。
9. 大判昭和8年4月15日民集12巻637頁、最判昭和39年11月17日民集18巻9号1851号などで、その主な理由は、不動産とい
う責任財産として比較的確実な固定資産を金銭に変えることで、費消、隠匿等の危険性を高めるからというものでした。
10.なお、この「相手方」が、法人である破産者の理事等、株式会社の支配的持分権者、株式会社の親法人、株式会社以外の
法人の支配的持分権者または親法人に準じる者等である場合は、悪意が推定されます(同条第2項柱書)ので注意が必要で
す。これに関連して、流動化スキームにおいてこの「相手方」とは、買主たるSPVと解釈するのか、その背後にいる投資
家と解釈するのか、議論があるところです(山本和彦「債権流動化と否認権」金融法務事情1060号170頁)
。この点、山
本教授は、実質的にSPVは導管に過ぎないため、その背後にいる投資家で判断するべきとも考えられるがSPV構成はそのよ
うな導管の独立を生命線とする以上、結局、形式論を重視せざるを得ず、主観の判断は投資家ではなくSPVを基準とせざ
るを得ないとしています。
48
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
のすべてを充足する場合に限って否認の対象
時代と異なり、現在では「動産及び債権の譲
になることが明文化されました。かかる明文
渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する
化に合わせて、民事再生法(第127条の2第1
法律(以下「動産・債権譲渡特例法」といい
項)や会社更生法(第86条の3第1項)にも
ます。)に基づく登記による第三者対抗要件
同様の規定が置かれました。このような否認
具備が可能となったことで、譲渡実行と同時
対象行為の明確化により、流動化スキームに
にこれを具備することができるようになって
おいても、予めこれらの条件に抵触しないス
おり、上述の対抗要件充足行為の否認の問題
キームの組成・実行を行うことで、オリジ
は実務上それほど問題にはならないといえる
ネーターが倒産に至った場合の資産譲渡に対
でしょう。
する否認リスクを相当程度低減することが可
11
能になったといえるでしょう 。
ウ 詐害行為取消権について
なお、倒産手続における上記否認権と類似
イ 対抗要件充足行為の否認
の制度として、民法で認められた詐害行為取
以上のように資産譲渡そのものに対する否
消権(同法第424条ないし第426条)があり
認リスクを低減できたとしてもなお、いわゆ
ます。これは、「債務者が債権者を害するこ
る対抗要件否認(破産法第164条、民事再生
とを知ってなした法律行為の取消し」を債権
法第129条、
会社更生法第88条)の問題が残っ
者が裁判所に請求できるというもので、沿革
ています。すなわち、支払停止等があった後、
的には否認権と共通の起源をもつとされてい
権利の設定、移転または変更をもって対抗
ます。ただ、その行使要件、対象行為、効果
要件充足行為がなされた場合に、それが権利
等の点で否認権とはやや異なる部分もあり、
の設定、移転または変更があった日より15
法律上の権利としては別個・独立のものとさ
日を経過した後、支払停止等があったことを
れています 。この詐害行為取消権は倒産手
知ってなされたものである場合、管財人等は
続に関するものではありませんが、債権者が
かかる対抗要件充足行為を否認することがで
これを行使して認められると資産譲渡が取り
きます。このため、原因行為としての資産譲
消されるという点では、資産の信用力を隔離
渡自体が否認されなかったとしても、対抗要
するという倒産隔離の問題とパラレルに考え
件充足行為が否認されることによって資産譲
ることもできます。いずれにしても、流動化
渡を管財人等に対抗できなくなり、その結果、
スキームの組成・実行に当たっては、当該資
SPVのもとから対象資産が破産財団(破産手
産譲渡が民法第424条第1項にいう詐害行為
続の場合)に復帰することになってしまいま
に該当しないかどうかのチェックも欠かせな
す(破産法第167条第1項等)
。もっとも、対
いといえるでしょう。
象資産が不動産の場合は資産譲渡実行と同時
に登記手続がなされることが大半でしょうし、
12
(3) コミングリング・リスク(Commingling
Risk)について
対象資産が債権の場合でも、民法第467条第
これは、金銭債権の流動化スキームにおけ
1項に基づく譲渡通知による第三者対抗要件
るサービサーや、不動産流動化スキームにお
具備しかなく、オリジネーターの信用維持等
けるプロパティーマネージャーの倒産に関し
の問題でこれを先送りにせざるを得なかった
て問題となるものであって、必ずしも、オリ
11.なお、「パネルディスカッション・証券化取引と倒産手続に関する諸論点」NBL828号6頁参照。
12.伊藤眞『破産法(第4版補訂版)』有斐閣370頁等。
49
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
ジネーターの倒産によって生じる問題ではあ
保険会社X社(委託者)ではなくA社に帰属す
りませんが、往々にして、オリジネーター自
るとされた判例 があり、当該判例では、「A社
身がサービサーやプロパティーマネジャーの
が本件預金債権をA社の他の財産と明確に区分
業務を兼務している場合があるので、オリジ
して管理していたり、あるいは、本件預金の
ネーター倒産からの隔離の問題としてここで
目的や使途についてA社とX社との間の契約に
取り上げることにします。
よって制限が設けられ、本件預金口座がX社に
14
コミングリング・リスクとは、サービサー
交付されるべき金銭を一時入金しておくため
等がSPVから委託を受けて金銭債権や賃料債
の専用口座であるという事情があるからと
権等を回収したものの、SPVに当該回収金を
いって」預金債権の帰属者の認定を左右する
引き渡す前に倒産してしまった場合、当該回
事情になるものではないと判示されました。
収金がSPVの固有資産と混合して倒産手続の
そのため、たとえ専用口座を設け分別管理が
効力を受け、その結果、SPVが当該回収金に
なされていたとしても、預金債権の帰属者が
対して有する引渡請求権は、一般債権(破産
受託者(サービサー等)と認定されてしまう
債権、更生債権等)として倒産手続において
リスクが大きいといわざるを得ません。
配当を受けられるのみになる(十分な満足を
一方、公共事業の前払金保証事業に関する
得られない)というリスクのことです。これは、
法律が定める契約に基づいて、公共工事の前
民法上、
「金銭の所有と占有は一致する」とさ
払金が地方公共団体から請負人の別口口座に
れていることから生じてしまう問題です。
振り込まれ、その後に当該請負人が破産した
この点、サービサー等が回収金保管のため
事案において、当該地方公共団体を委託者兼
に専用口座を設けて分別管理している場合に、
受益者、請負人を受託者、預金口座に振り込
当該専用口座に回収金が入金されているとき
まれた前払金を信託財産とする信託契約の成
には、金銭であっても分別管理により特定が
立を認め、当該預金は破産財団に組み入れら
十分なされており、サービサー等の個別資産
れない(信託法第16条)とした判例がありま
との混同は生じていないので、回収委託者で
す 。この事例は、前払金の振込みが下請け保
あるSPVの独自資産とみなすことができるの
護などを趣旨とする法律に基づく枠組みに基
13
ではないかという議論 があります(これを認
づくものであったことが考慮されており、一
める場合は、SPVは取戻権を有するという構
般化するのは難しいかも知れませんが、この
成になるでしょう)
。しかしながら、損害保険
考え方をサービサー等が回収した金銭に応用
代理店A社(受託者)が保険契約者から収受し
することができれば、コミングリング・リス
た保険料のみを入金する目的で開設したA社名
クを回避できる可能性があります 。
義の普通預金口座にかかる預金債権が、損害
15
16
その他、コミングリング・リスクに対して
13.山本和彦「証券化と倒産法」ジュリスト1240号20頁が参考となります。
14.最判平成15年2月21日民集57巻2号95頁(なお、この判決には、A社にX社より預金口座開設の代理権が授与されていたと
認定した上、本件預金債権の帰属者をX社であると認定すべきとの反対意見が付されています。)。また、最判平成15年6月
12日民集57巻6号563頁は、会社の債務整理を委任された弁護士が当該債務整理事務遂行のために当該委任会社から受領
した金銭を弁護士名義の専用の別口口座に預けた場合に、当該預金債権は委任会社ではなく、当該受任弁護士にあると判
示しています。
15.最判平成14年1月17日民集56巻1号20頁。
16.松下淳一「更生手続と証券化取引」判例タイムズ1132号112頁等。
50
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
ターがSPVもしくは信託会社等から対象不動
SPVがとりうる防御策としては、サービサー
産のリースバックを受けているスキームで、
等から回収金の引渡しを受ける間隔を可及的
オリジネーターに破産手続が開始された場合
に短縮するか、サービサー等への回収委託契
を検討してみます。この点、旧破産法下にお
17
約時に預金口座開設の代理権を与えること に
いて賃借人破産の場合の特則となっていた民
よって預金債権の帰属者をSPVと認定される
法旧第621条 は、上述した破産法改正により
余地を残すことなどが考えられます。
削除されましたので、賃借人が破産した場合
(4) 双方未履行双務契約について
にも民法ではなく破産法の上記規定が適用さ
18
例 え ば、 破 産 手 続 で は、 手 続 開 始 時 に お
れます。そして、この規定に従い、オリジネー
いて双方の債務の全部又は一部が未履行の状
ターの破産管財人が賃貸借契約の解除を選択
態にある双務契約については、破産管財人
した場合、当該契約は終了し賃料が支払われ
は、当該契約に基づいて自らの債務を履行し
なくなりますから、SPVのキャッシュフロー
て相手方に債務の履行を請求するか(履行選
は止まってしまいます。もちろん、解除後明
択)
、あるいは履行しないで契約を解除するか
渡しに至るまでの賃料(もしくは賃料相当損
(解除選択)
、の選択権を有しています(破産
害金)や対象不動産に関する原状回復請求権
法第53条第1項)
。履行選択された場合の相手
は財団債権として優先的に弁済を受けられま
方の債権は、破産手続上、財団債権と扱われ
すが(破産法第148条第1項第4号)、例えば、
るのに対し(同法第148条第1項第7号)、解除
予め約定していた即時解除に基づく違約金請
選択された場合には契約関係が遡及的に消滅
求権などは破産債権として認められるにとど
し、相手方の原状回復請求権(民法第545条
まります(同法第54条第1項)。もっとも、敷
第1項)は、破産手続上、取戻権又は財団債権
金を預かっていれば目的物の返還時に充当さ
となるものの(破産法第54条第2項)、損害賠
れ 、この限度では回収できることになります。
償請求権(民法第545条第3項)は単なる破産
ただ、この場合でも、一定額を超える違約金
債権になるにとどまるとされています(破産
については公序良俗違反として無効とされる
法第54条第1項)
。同様の規定は民事再生法(第
場合もありますので注意が必要です 。
49条等)や会社更生法(第61条等)にも置か
れています。
以上の規律を前提に、例えば、オリジネー
19
20
いずれにしても、オリジネーターが賃借人
となっているスキームでは、倒産隔離上、以
上のような問題があり、これを防御する方法
17.遠藤曜子「取引法判例研究」NBL782号69頁以下。
18.民法旧第621条は、「賃借人カ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ賃貸借ニ期間ノ定アルトキト雖モ賃貸人又ハ破産管財人ハ第
617条ノ規定ニ拠リテ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ各当事者ハ相手方ニ対シ解約ニ因リテ生シタル損害ノ賠
償ヲ請求スルコトヲ得ス」と定め、賃借人が破産した場合、賃貸人と管財人の双方に解約権を認め、かつ、解約による損
害賠償請求権を認めていませんでした。
19.判例では、敷金返還請求権は、賃借目的物返還時においてそれまでに生じた被担保債務(契約で定められますが通常は賃
貸借契約から生じる一切の債務)を控除しなお残額がある場合に、その残額について具体的に発生する権利とされていま
す(最判昭和48年2月2日民集27巻1号80頁)。したがって、目的物返還時の未払賃料等があれば敷金が存在する限度で充
当により当然に消滅し、相殺のような当事者の意思表示は不要ということになります(最判平成14年3月28日民集56巻3
号689頁)。
20.東京地判平成8年8月22日(判タ933号155頁)など。例えば、解除時の残期間にもよりますが、残期間の賃料総額相当額
を違約金と定めるような契約は、一定の合理性が認められない限りその有効性が否定されることが多いと思われます。
51
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
としては、オリジネーターがテナントに転貸
の譲渡の効力が及ぶのかという問題が主に譲
しているケースでは、マスターレッシーたる
渡担保に関連して議論されており、これも一
オリジネーターが契約関係から離脱した際に
種のオリジネーターに関する倒産隔離の問題
は転借人(サブレッシー)との間で直接の契
として位置付けることが可能です。この点、
約関係が生じるような手立てを予めとってお
これをあくまで対抗関係の問題と解し、対抗
21
く 、あるいは、民法第613条に基づきサブ
要件が備わっている以上、管財人にも効力が
レッシーに直接賃料を請求するというような
及ぶという見解と、手続開始後においてはオ
ことが考えられます。
リジネーターの財産管理処分権は管財人に専
以上のことは、賃貸借契約だけでなく双務
属するのだから(会社更生法第72条第1項参
契約すべてに当てはまる問題であり、例えば、
照)、過去の譲渡行為に管財人は拘束されない
請負契約に基づく請負報酬債権や継続的取引
という見解とが対立している状況です。理論
契約に基づく売掛金債権等を対象とする流動
的にはなかなか答えを出すのが難しい問題で、
化スキームでも同様の問題が発生し得ます。
ここでは深追いはしませんが、私見では、後
(5) 将来債権の流動化
者の見解は権利の帰属の問題と管理の問題と
動産・債権譲渡特例法の施行(改正)により、
を混同しているきらいがあり、純理論的には
将来発生する債権を対象にした流動化がにわ
管財人と譲受人(SPV)との対抗関係と考え
かに注目を集めつつあります。すなわち、債
ざるを得ないと思います。ただ、その場合に、
務者(第三債務者)が不特定の将来債権につ
管財人としては、その収益が自分の懐に入っ
いても、上記法改正により、債権の発生原因
てこない事業を継続するということに対する
を特定すれば譲渡登記が可能となり、第三者
モチベーションを失うでしょうから(破産手
対抗要件を具備することができるようになり
続はそもそも事業継続は前提になっていませ
ました。例えば、将来継続的に発生する売掛
ん)、極端な場合、事業を廃止したり、譲渡し
金や一つの建物について発生するテナント賃
てしまうリスクが考えられます。これに対し
22
料などの譲渡 も、第三債務者たる取引先やテ
ては、例えば、当初の譲渡契約において事業
ナントの変動にかかわらず、第三者対抗要件
の継続を義務付けたり、事業譲渡を禁止する
を具備することが可能となり、流動化の対象
ような条項(コベナンツ)を定めておいて予
23
たりうるということになります 。かかる将来
防するということも考えられるでしょうが、
債権の流動化スキームにおいては、例えば、
管財人がかかるコベナンツに拘束されるのか
将来債権をSPVに譲渡したオリジネーターに
という問題があります。いずれにしても、今後、
会社更生手続等が開始した場合、管財人にこ
議論されていくべき問題だと思われますので、
21.なお、いわゆるサブリース事業に関するものですが、一定の事情のもとでは、賃貸人(マスターレッサー)はマスターリー
ス契約の終了を転借人(サブレッシー)に対抗できないと判示した最判平成14年3月28日民集56巻3号662頁があります。
この論点については、中西弁護士による前号(Vol.1)論稿「マスターリース契約の終了と転借人の地位」をご参照ください。
22.賃料の前払い及び賃料債権の処分の対抗力を制限していた破産法旧第63条(会社更生法等も準用)が削除されたことも大
きな影響があると考えられます。
23.前掲注11では、これにより事業の証券化の可能性も広がるという見方が紹介されています。すなわち、これまではキャッ
シュフローを生み出す事業を当初からSPVに移すか、事業を行うオリジネーター自体を組織変更して準SPV化するというよ
うな大掛かりな仕組みがとられていたのが、オリジネーターが行う事業から生じる金銭債権を将来債権として譲渡すると
いう比較的単純な仕組みで対応できるというものです。
52
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
ここでは論点の指摘だけにとどめておきたい
24
と思います 。
(次号に続く)
24.当該論点については、前掲注11のほか、主に賃料債権の譲渡に関して、田原睦夫他「座談会・新破産法の基本構造と実務」
ジュリスト1308号116頁以下、中田裕康「将来の不動産賃料債権の把握」みんけん(民事研修)547号3頁以下などでも議論
されていますのでご参照ください。
53
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
2 アセット・ベースト・レンディング 実務上の諸問題
弁護士 村島 雅弘
第1 はじめに
1 アセット・ベースト・レンディングとは?
アセット・ベースト・レンディング(以下、
産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特
例等に関する法律」(以下「新特例法」といいま
す。)が施行されました。
「ABL」といいます。
)とは、
「企業の事業そのも
新特例法は、旧特例法の下では、将来の売掛
のに着目し、事業に基づくさまざまな資産の価
債権についても、第三債務者を特定することが
値を見極めて行う貸し出しである。
」と表現され
登記必須事項であったことや、動産譲渡の対抗
1
て い ま す 。 す な わ ち、 企 業 活 動 か ら 生 じ る
要件である「引渡し」(民法第178条)について
キャッシュフローを基礎にして金融機関等が貸
は公示機能がなかったことなどのABLを実行する
付を行う手法であり、商品である動産や売掛金
上での問題とされてきた部分を改正して、ABLを
等の債権を担保とすることで貸付債権の保全を
実行し易くした点に特徴があります。今後、添
図ります。
え担保としての債権や動産を、主たる担保とし
2 ABLが注目されている背景
て有効活用し、企業の資金調達の幅を広げるこ
これまで、わが国における金融機関等の融資
とでABLの活用が期待されています。
は、不動産担保や保証に過度に依存していると
いう問題がありました。また、創業間もないベ
第2 ABLをめぐる実務上の諸問題
ンチャー企業にとっては、担保として十分な不
前記のとおり、新しい貸付手法としてのABLです
動産を保有しないことが多く資金調達が困難で
が、以下、これに対する実務上の諸問題について、
あり、そのことがベンチャー企業の育成の観点
譲渡登記の効力に関する主要論点を鳥瞰した後、有
から問題視されてきました。
事におけるABL担保としての債権・動産譲渡登記に
他方、不動産の評価額と同じかそれ以上の規
模を有するとされる企業が顧客に対して有する
売掛金や在庫商品についてはこれまでは添え担
関する論点につき概説します。
1 譲渡登記の効力
(1) 動産譲渡登記
保としてしか活用されなかったのが実情です。
ABLにおける貸付債権担保のためによく利
これら極めて流動的な債権を担保にすること
用されるのは動産譲渡担保権です。動産譲 は、資金を貸し付ける側からすれば、与信を管
渡担保権とは、簡単に言えば、債権を担保す
理するのが困難であり、また、不動産における
る目的で、担保目的物である動産の所有権を、
抵当権設定登記のように、対抗要件具備の事実
設定者(債務者、あるいは第三担保提供者)
を適切に第三者に公示する制度がなかったから
から担保権者(債権者)に移転する形式の非
です。このような状況を踏まえ、平成10年10月
典型担保です。かかる動産譲渡担保権に関し
に施行された「債権譲渡の対抗要件に関する民
ては、新特例法により対抗要件の具備につき
法の特例等に関する法律」(以下「旧特例法」と
登記制度が新設されました。この新特例法
いいます。
)が改正され、平成17年10月より「動
に基づき、動産譲渡登記がなされると、民法
1. 株式会社野村総合研究所「動産・債権等の活用による資金調達手段」平成18年3月
http://www.meti.go.jp/press/20060530003/abl-ippan-set.pdfをご参照ください。
54
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
第178条における動産譲渡の対抗要件具備が
伴うものであることが必要ですので、担保
あったものとみなされます。かかる登記制度
目的動産に第三者が所有権を有する場合、
に関連した主要論点について以下整理します。
動産譲渡登記における「譲渡」には該当し
ア 占有改定との関係
ません。
動産譲渡登記をした場合でも、かかる登
ウ ファイナンスリースとの関係
記に先行して目的動産が占有改定によって
所有権留保と同様に、動産譲渡登記で特
第三者に譲渡されていた場合、譲渡登記の
定された集合動産の中に、リース物件が含
2
効力はこの第三者に優先しません 。従って、ABL
まれている場合、かかるリース物件は集合
を担保するために、貸付先企業の商品等動
動産譲渡担保権の目的物とはなりません。
産に譲渡担保権を設定し、登記を経由しよ
ファイナンスリースには、金融的側面(リー
うとする金融機関等は、かかる譲渡担保権
ス会社がユーザーに代わってサプライヤー
の設定以前に、目的動産が第三者に譲渡さ
から物件を購入する)と賃貸借的側面(リー
れていないかを確認する必要があります。
ス会社は当該物件の所有権を有したまま
また、たとえ動産譲渡登記がなされても、
ユーザーに当該物件を使用させる。
)があ
後行者が即時取得(民法第192条)をして
りますが、このファイナンスリースの法的
しまう可能性があります。もっとも、即時
性格の解釈(金融的性格の無名契約説、使
取得が成立する要件として、取得者の善意
用権設定説、金銭消費貸借説等)如何に
無過失が求められますが、先行者が動産譲
関わらず、所有権はリース会社にある以上、
渡登記をしていれば無過失であるとの判断
動産譲渡登記における「譲渡」には該当し
は妨げられ易いと考えられます。
ないことになります。
イ 所有権留保との関係
エ 動産売買先取特権との関係
動産譲渡登記で場所によって特定された
動産先取特権は、「債務者がその目的で
集合動産の中に、第三者の所有権留保物が
ある動産をその第三取得者に引き渡した後
含まれている場合、当該動産の保管場所へ
は、その動産について行使することができ
の搬入が動産譲渡登記の前後いずれである
ない」(民法第333条)と定められていま
かを問わず、所有権留保が集合動産譲渡担
す。そして、動産譲渡登記が、ⅰ)譲渡担
3
保権に優先します 。動産譲渡登記の目的
保権者は民法第333条における「第三取得
となる動産の「譲渡」とは、それが担保目
者」に該当する のか、ⅱ)動産譲渡登記
的(譲渡担保権等)ないし真正譲渡(売買・
が民法第333条における「引渡し」に該当
贈与・信託等)なのかを問いません(新特
するのかが問題となりますが、新特例法第
例法第1条、第3条)が、所有権の移転を
3条第1項において動産譲渡登記が具備さ
4
2.【付随的論点】三すくみ問題[坂井・三村法律事務所編『Q&A動産・債権譲渡特例法解説』三省堂48頁]
登記に優先的な効力(先行する占有改定に対して)を認めるかについて立法過程で議論がありましたが、結局優先的効力
は認められなくなりました。仮に登記に優先的な効力を認めた場合、
例えば、
ⅰ)甲から乙に担保目的譲渡につき占有改定、
ⅱ)甲から丙に真正譲渡につき占有改定、ⅲ)甲から丁に担保目的譲渡につき動産譲渡登記をした場合で、ⅰ)∼ⅲ)が
この順番で発生した場合、乙は丙に優先し、丙は丁に優先するが、丁は乙に優先するという問題が生じることになります。
このことを「三すくみ問題」呼ばれています。
3. 河野玄逸「流動資産譲渡担保の管理・実行と法的留意点」金融法務事情1770号 57頁
4. 最三小判昭和62年11月10日(民集41巻8号1559頁)
(判例要旨)動産譲渡担保権者は、民法第333条の「第三取得者」に該当する。
55
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
れれば民法第178条の「引渡し」があった
においては、債権譲渡登記と抵当権設定登
ものとみなされること、ⅲ)民法第333条
記の先後によって優劣が決まる と解され
における「引渡し」には占有改定も含まれ
ています。この理は、将来債権の譲渡につ
ると解されていることから、動産譲渡登記
いても当てはまるものと考えられます。
で特定された集合動産に第三者の動産先取
イ 動産売買先取特権に基づく物上代位と
特権の目的物が含まれている場合でも、先
に動産譲渡登記を具備することで、先取特
5
6
の関係
債権譲渡登記がなされた後は、動産売買
権を主張できなくなると解されています 。
先取特権に基づく物上代位は債権譲渡登記
オ その他
に優先されません 。ABLを実施する金融機
7
工場財団抵当権との関係については、か
関側としては、取引先企業の有する棚卸資
かる抵当権設定登記の後に動産譲渡登記を
産と売掛金について、動産・債権譲渡登記
具備した場合、譲渡担保権者は、かかる抵
をセットで取得しておけば、仕入債権者(先
当権の負担付の動産担保を取得することに
取特権者)からの優先権主張は、ほぼ有効
なります。代理占有下(例えば、貸付先企
に遮断できることになります 。
業が商品を倉庫会社に預けている場合)に
ウ 租税滞納処分との関係(債権譲渡にお
ある動産譲渡登記も可能です
(2) 債権譲渡
8
ける権利移転時期)
債務者不特定担保の債権譲渡登記の時期
企業の顧客に対する売掛金を担保として
が、担保提供者の租税滞納後(法定納期限
金融機関等が金銭を貸し出すことがあります。
等経過後)である場合、国税等の優先割り
この場合に旧特例法から認められていた債権
込みを受けるおそれが考えられます(国税
譲渡登記が利用されることがあります。企業
徴収法第24条第1項) 。また、債権譲渡登
に資金を貸し付ける金融機関等にとっては、
記後に租税等の法定納付期限が到来する場
従来から貸付債権の保全の為に債権譲渡が利
合にも国税等が優先する場合があるかにつ
用されてきました。この債権譲渡の対抗要件
いては、判例(最一小判平成13年11月22
として債権譲渡登記を利用する場合がありま
日民集55巻6号1056頁)によると、将来
す。そこで、以下債権譲渡登記に関連した主
集合債権譲渡担保権設定契約(①債権を一
要法律論点を整理します。
括して譲渡すること、②譲渡担保権の実行
ア 不動産抵当権に基づく物上代位との関
係
不動産抵当権に基づく物上代位との関係
9
通知をするときまでは設定者が弁済を受領
できることを内容としていました。)をし、
確定日付による通知をした時点で、確定的
5. 前掲注2・坂井・三村58頁
6. 最二小判平成10年1月30日民集52巻1号1頁
抵当権に基づく物上代位と債権譲渡の優劣については、物上代位に基づく差押と、債権譲渡ないし債権譲渡の対抗要件の
先後によらず、抵当権設定登記と債権譲渡の対抗要件の先後によるとの判断がされました。
7. 最三小判平成17年2月22日民集59巻2号314頁
(判決要旨)先取特権者が物上代位を行使するのは「払渡」ないし「引渡」の前に差押える必要がある(民法第304条第1
項但書)のは、抵当権とは異なり公示方法がない動産売買先取特権における第三者の利益保護する趣旨も含む。従って、
債権譲渡がなされ第三者対抗要件が具備された後、先取特権者は当該目的物を差し押さえて物上代位することはできない。
8. 前掲注3・河野56頁
9. 前掲注3・河野62頁
56
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
に債権譲渡についての第三者対抗要件とし
れは債権担保の目的を達するのに必要な範
ての効力を認め、国税当局の差押と将来債
囲にとどまり、なお設定者に一定の物権が
権譲渡担保権設定通知との優劣につきその
残存しているという立場をとっていると考
先後によるとしました。他方で、上記判例
えられています 。そこで、実務上、ⅰ)
と一連の事件において、将来債権譲渡担保
譲渡担保権実行通知、ⅱ)目的動産に対す
権設定通知によって第三者対抗要件として
る占有の確保、ⅲ)目的動産の処分・換価
の効力を有するとしても、将来債権が譲渡
といった手続を行うことになります 。
担保権の目的財産となるのは、契約時では
イ 実行通知
10
11
なく、個別債権の発生時期であるという裁
動産譲渡担保権の実行は、譲渡担保権の
判例(東京高判平成16年7月21日(金融法
実行意思を設定者に通知することにより開
務事情1723号43頁)が存在します。さら
始され、目的動産の完全な所有権が担保権
に、将来不特定債権の譲渡につき登記とい
前
者に移転すると解されています 。すなわち、
う対抗要件を具備する手段が新特例法にて
述のとおり、譲渡担保権を設定した目的動
定められたことから、集合債権譲渡につい
産の物権は一部設定者のもとに残存すると
ては、個別債権ではなく債権の枠としての
いう判例理論からは、担保権者が完全な所
譲渡であると考えると、個別債権の発生時
有権を実質的かつ確定的に取得するには実
期ではなく、集合債権譲渡の契約時に将来
行通知が必要となるということです。特に
債権が譲渡担保権の目的財産になるという
集合動産譲渡登記においては、かかる通知
考え方もあり得ます。これらに関して、今
によって譲渡担保権の目的動産が固定化さ
後の議論を注視していく必要があるといえ
れ、設定者は、担保目的物の処分権を喪失
ます。
するとともに、担保目的物たる集合物の流
2 処分・回収
ABLを保全するために対抗要件を具備したとし
12
動性が失われ、複数の個別動産譲渡担保権
13
に転化すると解されています 。
ても、実際に担保が実行される場面についての
ウ 占有の確保
手続を理解しておく必要があります。そこで、
(ア)自力救済の禁止
担保権の実行方法に関連した実務上の諸問題に
ついて以下詳述します。
(1)動産譲渡担保権の実行
ア 実行手続
譲渡担保権の設定により目的動産の所
有権は担保権者に移転すると考える立場に
よっても、担保権者は、自己に目的物件の
所有権があるので貸付先企業の支払が滞っ
動産譲渡担保権の実行は、もっぱら私的
た場合には直ちにかかる企業が占有する動
実行によるとされています。判例によると、
産を回収できるわけではありません。民法
譲渡担保権の設定により、目的動産の所有
の大原則として、自力救済は禁じられてい
権は一応譲渡担保権者に移転しますが、そ
るばかりか、担保権者が設定者の占有下に
10.道垣内弘人『担保物権法(第2版)』有斐閣 296頁以下
11.前掲注1・野村 第7章第2節・担保権の行使http://www.meti.go.jp/press/20060530003/abl-ippan-set.pdfをご参照くださ
い。
12.譲渡担保の私的実行に実行通知が必要という議論は、実務的には悩ましいところです。実行通知(例えば、内容証明郵便
の送付)をすることによって、設定者が動産を移動したり、隠匿したりする蓋然性が事実上高まるからです。
13.龍池信宏「完 倒産手続における非典型担保(2)譲渡担保、所有権留保」金融法務事情1776号41頁
57
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
ある目的物件を勝手に持ち出すことは刑法
以外に法的に民事執行手続を利用して動産
上の窃盗罪を構成する可能性があります。
競売を行うことが考えられます。しかし、
(イ)任意の引渡
前述の通り、譲渡担保権は純粋な担保権と
14
そこで、担保権者としては、設定者から
はされていない ので、民事執行法第190
任意の目的動産についての引渡し同意書を
条第1項における「動産を目的とする担保
取り付けて、設定者の占有下にある動産を
権」とすることは出来ず、また、同条第2
持ち出す手段が考えられます。もっとも、
項において「担保権の存在を証する文書」
後に設定者が担保権者の強迫等により任意
として新特例法第11条第2項の「登記事項
持出同意書に署名させられたといったこと
証明書」の提出も考えられますが、そもそ
を言い出す可能性は残ります。
も新特例法における動産譲渡登記には被担
(ウ)引渡請求訴訟と保全処分
保債権額の公示が予定されていないことや、
担保権者としては、法的に自己に目的動
「登記事項証明書」は法定文書とする手当
産の所有権があることから、所有権に基づ
はされていないことなどから、やはり、動
く動産引渡請求訴訟を提起することも考え
産競売は難しいのではないかという議論が
られますが、かかる手段では判決が確定し
なされています 。
執行するまでに相当な期間を要します。そ
オ 仮差押の活用
15
こで、かかる引渡請求権を法的に確保する
このように占有確保のために、動産引渡
ため、民事保全法上の仮処分手続によって
請求権に基づく民事保全手続にも限界があ
目的動産の保全を図る手段があります。具
ることから、端的に貸金返還請求権を被保
体的には、a)占有移転禁止の仮処分、b)
全権利として動産の仮差押を行うという手
処分禁止の仮処分、c)引渡断行の仮処分
段が考えられます。この方法によると、実
が考えられます。ただし、これらは仮の処
行通知をする必然性はありませんし、特に
分であることから、所有権に基づく動産引
目的動産が著しく価値の減少が生じる虞が
渡請求訴訟において、確定判決を得て、目
あるときや目的動産の保管に不相応な費用
的動産の占有確保を確定的にする必要があ
を要するときは、緊急換価(民事保全法第
ります。また、保全処分が迅速に行われた
49条第3項)という手続も予定されている
としても、即日に裁判所による判断が行わ
ので効果的な手段となります 。
れるわけではありません。従って、裁判所
カ 換価・処分
16
による保全処分の判断が出るまでは、目的
担保権者は、目的動産を換価・処分する
動産につき占有の移転を監視しておくなど
ことで最終的に債権の回収を図ります。目
の対策を講じて移転先を把握しておくこと
的動産の換価をするには譲渡担保権設定契
が必要な場合もあるでしょう。
約の内容によりa)処分清算型と、b)帰属
エ 民事執行手続による動産競売
清算型の2種類があります。前者は、担保
動産譲渡担保権の実行に関し、私的実行
権者が、目的動産の処分を行い、設定者の
14.所有権の移転という法律構成で考えるのが多数説です。
15.森田修「『新しい担保』の考え方と執行手続き」ジュリスト1317号205頁以下
16.仮処分に関しても民事保全法第52条第1項準用で緊急換価が認められた裁判例(宮崎地日南支部平成16年6月11日判決(金
融法務事情1735号57頁〕等をご参照ください。)があります。
58
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
債務の弁済に充当する方法で、後者は、担
いとの見解を示しています(最一小判昭和
保権者が目的動産の評価を行い、評価額が
41年4月28日 民 集 第20巻4号900頁 )
。
債務を上回れば、かかる差額につき担保権
破産や民事再生においても、別除権として
者が設定者に交付することで清算を行う方
扱われるのが通説・実務となっています。
法です。なお、この換価・処分は必ずしも
なお、集合動産譲渡担保権においては、担
目的動産の占有確保後に行う必要があると
保権設定者の倒産手続開始決定により目的
いうものではなく、その意味で、占有の確
動産の固定化が生じ、譲渡担保権者は、固
保が必然というわけではありません。確か
定化時点における個別動産の集合体に対し
に、処分清算型であれば、占有を確保しな
て権利を行使することになり、固定化以後
いと目的動産の処分は困難でしょう(第三
の特定の保管場所に搬入された動産に対し
者が他人の占有下にある動産を購入する可
ては、担保権者としての権利を主張するこ
能性はあまり考えられません)
。ただ、そ
とができないとの見解もあります 。
18
れは実際の処分可能性の問題であって、占
破産手続における否認権に関しては、動
有の確保が処分の論理的前提とされる訳で
産譲渡担保権については、詐害行為否認に
はありません。他方、帰属清算型の場合に
つき、明文で「担保の供与」を除外してい
は、担保権者が目的物を評価して清算金の
ること(破産法第160条第1項)、差額があ
支払が必要な場合には、かかる清算金の支
る場合に「債務の消滅に関する」ものは否
払と目的物の引渡しは同時履行の関係(最
認できるが(同法同項第2項)、担保権設定
一 小 判 昭 和46年3月25日 民 集25巻2号
は「債務の消滅」にはあたらないとすると
208頁)であることから、先に目的動産の
否認できません。また、偏頗行為否認では、
占有を確保することはできません。いず
「既存の債務」に対する譲渡担保権設定で
れにしても、処分清算型か帰属清算型かは、
は否認ができますが、借入と同時に譲渡担
担保権設定者と担保権者の間にて締結され
保権が設定されたときは、「既存の債務」
た契約の内容によります。
とは言えないことから否認できないことに
キ 倒産手続との関係
な り ま す(同 法 第162条 第1項 )
。 た だ、
担保権者が目的動産に対する所有権を有
ABLにおいては、ある時期の借入と同時に
するという考えを突き詰めると、設定者に
将来動産について譲渡担保権に供したとし
ついて開始された倒産手続において、譲渡
ても、その後に変動する担保動産の明細書
担保権者は取戻権(破産法第62条、民事
を差し入れて目的物を確認しているような
再生法第52条、会社更生法第64条)を有
場合は、「既存の債務」に対する担保設定
17
するとの見解に親和性があります 。しかし、
として、かかる明細書差し入れ行為を偏頗
判例は会社更生手続に関して更生担保権者
行為否認できることになります 。
に準じてその権利の届出をし、権利行使を
すべきであり、目的物件に対する所有権を
主張してその引渡しを求めることはできな
19
(2) 債権譲渡担保
ア 実行手続
債権譲渡担保権契約を設定している場合、
17.前掲注10・道垣内322頁
18.前掲注1をご参照ください。
19.宗田親彦『破産法概説 新訂第2版』慶応義塾大学出版364頁
59
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
債務者である担保権設定者が債務の履行を
停止条件つき債権譲渡契約という手法がと
せず期限の利益を喪失した場合に、担保権
られることがあります。ただ、かかる方法
者が担保権の実行手続を行うことになりま
は破産法における対抗要件否認ないし危機
す。
否認をされる虞があります(最二小判平成
具体的には、債権譲渡登記を具備してい
る場合には、第三債務者に対して登記事項
16年7月16日 民集58巻5号1744頁参照)
。
イ 倒産手続との関係
証明書を交付し通知することで債務者対抗
前記、動産譲渡担保権における議論に同
要件としての効力が生じます(新特例法第
じく、会社更生においては、更生担保権と
4条第2項)
。従って、かかる通知により債
なり、破産・民事再生においては、別除権
権者である担保権者は、第三債務者に対し
という扱いになります。また、倒産手続の
て債権の支払を求めることができます。他
開始により担保目的債権が固定かされるか
方、債権譲渡登記を具備していない場合
という議論や破産における否認の議論も動
は、新特例法の適用はなく、民法第467条
産の場合と同じです。
に基づき、債務者である担保権設定者から
第三債務者に対して債権譲渡の通知をする
か、第三債務者から債権譲渡の承諾を得る
新特例法によって動産譲渡についての登記制度が
ことで、債権者である譲渡担保権者は第三
新設されたことから、今後益々 ABLによる融資は
債務者に債権の支払を求めることができま
普及すると考えられます。ただ、最終的に貸付債権
す。実務上は、債権譲渡担保権設定契約時
の回収が困難となった場合に担保権の行使として動
に債権譲渡通知を徴収しておいて、債務不
産譲渡担保権ないし債権譲渡担保権を実行すること
履行以前は、第三債務者は債務者たる譲渡
になりますが、前述のとおり、実務上問題もあり、
担保権設定者が債権の弁済を受け、債務不
今後の議論・法整備の進展が期待されます。
履行が生じた際にあらかじめ徴収しておい
た債権譲渡通知を第三債務者に送付するか、
60
第3 おわりに
以上
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
第3章 ファイナンス法入門
1 証券化入門
弁護士 澤木 一隆
第1 はじめに
又は資本の証券化とは異なり、バランスシート
今号の「Kitahama Law Review 速報・別冊ファ
の左側に計上される資産を用いた資金調達手法
イナンス編」より、ファイナンス法務にそれほど関
です。すなわち、資産の所有者が、当該資産か
与されていない方にも分かり易くファイナンス法務
ら生じる運用益(利息や賃料収入など)及び売
を理解して頂くことを目的として、ファイナンス法
却益を引当てとして、多数の投資家から直接に
入門というコーナーを新たに設けました。
資金を調達することをいいます。
第一回目は、ファイナンス実務の中でも大きなウ
このような資産の証券化による資金調達と、
エイトを占める「証券化」を取り上げます。本稿で
株式や社債を利用した資金調達との最大の違い
は、
「証券化」の基本概念に始まり、その具体的な
は、後者は企業それ自体の信用力、すなわち企
しくみに至るまで、
「証券化」というものを法的な
業がその事業活動から得る収益、企業が保有す
側面からできる限り簡明に説明させて頂きたく思い
る資産の価値を引当てとするものであるのに対
ます。
し、前者は、資産自体の運用益及び売却益といっ
た当該資産から生じる価値のみを引当てとする
第2 証券化とは?
1
証券化とは(広義)
証券化とは資金調達手法を表わす言葉であ
ものである点にあります。
資産の証券化=
り、広義には、広く直接金融全般を指す言葉と
資産から生じる運用益及び売却益を引当てとし
しても用いられます。すなわち、銀行などの金
て行う直接金融手段
融機関からの借入れによる資金調達(間接金融)
ではなく、多数の投資家から直接に資金を調達
なお、直接金融手段の中でも証券の発行を伴
する直接金融を広い意味での証券化と捉えるこ
うもの、すなわち資産に対する権利を細分化し、
とが可能です。例えば、株式や社債の発行によ
それを証券に表章して流通性を持たせたものの
る資金調達もこれに含まれ、株式については「資
ことのみを「証券化」といい、それ以外のもの
本の証券化」
、社債については「負債の証券化」
を「流動化」という場合もあります。しかし、
という言い方も可能です。
本稿では、証券化を上述のように広く直接金融
2 証券化とは(狭義・資産の証券化)
を指すものとして把握することとします。
他方、通常ファイナンス実務において用いら
れている「証券化」という言葉は、
「資産の証券
化」を意味することがほとんどです。資産の証
第3 資産の証券化が行われる背景
1
オフバランス
券化とは、株式や社債の発行といったバランス
資産の証券化が行われる最大の背景として
シート(貸借対照表)の右側に計上される負債
は、オフバランスが挙げられます。資産の証券
61
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
化は、かかるオフバランス効果を得ることを目
2
資金調達手段の多様化
的とするものが多く、そのため、かかるオフバ
また、オフバランスの他にも、資金調達手段
ランス効果が得られるようなしくみを組成する
の多様化を目的として、資産の証券化が行われ
ことが重要なポイントとなります。
ます。すなわち、従来から存在していた、銀行
オフバランスとは、会計上の概念であり、事
などの金融機関からの借入れ及び株式又は社
業運営に活用している資産・負債であっても、
債の発行といった資金調達の方法と併せて、資
バランスシート(貸借対照表)には計上されな
産の証券化の方法による資金調達を行うことに
い状態をいいます。
よって、資金調達手段の多様化を図り、資金調
すなわち、資産の証券化を行うことにより、
達に関するリスクヘッジを行う目的からも資産
証券化の対象となる資産を供出する企業(
「オリ
の証券化が行われます。
ジネーター」と呼ばれます。
)は、資産を事業運
3
投資家側のメリット
営に活用したまま、当該資産をバランスシート
他方、投資家は、資産の証券化商品へ投資す
から外すことができます。また、資産の証券化
ることによって、当該資産自体に対して投資す
により調達した資金は、バランスシートに負債
る場合と実質的に同様の効果を得ることができ
としては計上されません。
ます。したがって、資産の価値が細分化された
その結果、オリジネーターは、例えば、資産の
資産の証券化商品に投資をすることによって、
証券化により調達した資金によって既存の借入れ
投資家は、現実に当該資産に投資するのに比し
の返済を行うことによって、事業運営に活用して
て、格段に少ない資金で、当該資産自体に対し
いる資金量を減少させることなくバランスシート
て投資する場合と実質的に同様の効果を得るこ
上の負債を減少させることができます。
とができます。
オリジネーターは、かかるオフバランスによっ
て、資産利益率等の財務上の指標を向上させる
第4 証券化の基本的しくみ
1
ことができます。
基本的なしくみ
証券化は、基本的には以下のようなしくみを
もって行われます。
証券化の基本的仕組
オリジネーター
②株式などの出資・
社債の発行・借入れ
①譲渡
(証券化の対象となる
SPC
資産を供出する企業)
(Special Purpose Company)
資産
62
投資家
特別目的会社
③代金支払
投資家
投資家
投資家
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
証券化はオリジネーターが証券化の対象とな
る資産を別個の法主体に譲渡することから始ま
資金調達を行いますが、かかる資金調達におい
ても様々な工夫が凝らされます。
ります(①)
。このように、オリジネーターが資
SPCが行う資金調達方法としては、上述のよう
産を譲渡するのは、資産自体の価値をオリジネー
に、株式を発行するなどの方法により出資を募
ターから切り離すとともに、オリジネーターの
る方法と、社債の発行や借入れが挙げられます。
倒産からの隔離(以下で説明します。
)を図るた
なお、ここでの借入れはノンリコースローン(下
めです。
記参照)が用いられるのが通常です。
オリジネーターより資産の譲渡を受ける法主体
SPCはこれらの資金調達方法のどれか一つを選
は、通常の事業会社ではなく、当該資産の証券化
択して行うのではなく、これらを投資家のニー
のみを目的とする法人が用いられます。なお、か
ズに合わせて様々に組み合わせます。特に、出
かる法人は特別目的会社と呼ばれ、英語の「Special
資と社債又は借入れとの組み合わせは、レバレッ
Purpose Company」の頭文字をとって「SPC」と
ジ効果(下記参照)を得ることができるので、
略されます。詳細については、以下で説明します
多用されています。
が、かかるSPCとしては、証券化の規模や性格に
応じて、合同会社、株式会社、外国法人の東京支
ノンリコースローン
店、資産の流動化に関する法律(以下、「資産流
一定の責任財産のみを引当てとして行われる
動化法」といいます。)に基づく特定目的会社(SPC
貸し出しのこと。遡及(リコース)しないとい
と区別するため、「TMK」と略されます。)、投資
う意味で、ノンリコースローンと呼ばれる。証
信託及び投資法人に関する法律に基づく投資法人
券化においては、資産から生じる価値のみを引
などが利用されます。
当てとして資金調達が行われるので、借入れに
このように、当該資産の証券化のみを目的とす
る法人が用いられるのは、証券化の対象となる資
おいても当該資産のみを責任財産とするノンリ
コースローンが採用されるのが通常である。
産から生じる価値のみを引当てにした資金調達を
実現するためです。すなわち、SPCはオリジネー
レバレッジ
ターから資産の譲渡を受けた対価として、オリジ
負債の利払い及び返済額が固定していることを
ネーターにその代金を支払いますが(③)、かか
利用し、負債の比率を大きくすることによって、
るSPCは当該資産の購入代金を株式などの出資、
いわばてこ(レバレッジ)を効かすように、出資
社債の発行又は借入れにより調達します(②)。
に対する配当比率の変動幅を大きくすること。
SPCは資産の証券化のみを目的とし、その保有資
例えば、100の資金を出資のみで集めたSPCが
産は証券化の対象となる資産のみであるので、必
5の配当原資を得た場合には、配当率5%であ
然的に、かかるSPCにより発行された株式の配当
るが、同じく100の資金を50の出資、50の借
原資又は社債の利払い原資若しくは償還原資や、
入れ(利率3%)で得たSPCが同じくの5の配当
かかるSPCが行った借入の利払い原資又は返済原
(利払い)原資を得た場合には、配当率は7%
資は、当該資産から生じる価値のみとなるので
となるというように配当比率が拡大する。もっ
す。このように、いわば、SPCは、資産から生じ
とも、このようにレバレッジを効かした場合に
る価値を個々の投資家の取得に適する形に転換す
は、配当比率の減少割合も大きくなるので、注
るための「器」として用いられるのです。
意が必要である。
2 資金調達の工夫
上述のように、SPCは、オリジネーターから譲
渡を受ける資産から生じる価値を引当てとして
なお、かかるレバレッジの程度を知る指標と
して資産の価格に対する負債の割合(「ローン・
トゥ・バリュー」又は「LTV」)が用られる。
63
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
レバレッジ効果の解説図
順位が優位な借入れを「シニアローン」、劣位な
借入れを「メザニンローン」といいます。
負債比率 0%の場合
第5 証券化のしくみに必要とされる条件
配当原資
配当
5
5
(5%)
1 ここまでは、証券化の基本的しくみにつき説
明しましたが、かかる証券化のしくみには、さら
に必要とされる条件が存在します。
そのような必要条件を満たしていない証券化商品
は、大きなリスクを抱え込むこととなり、証券化
のしくみを組成する際には、この必要条件の充足
負債比率 50%の場合
利払い
1.5
配当(利払い)
(3%)
原資
5
の有無を確認することが重要になります。
以下、この証券化のしくみに必要とされる条件
につき、説明します。
2
オリジネーターの倒産からの隔離(真正売
買)
配当
3.5
(7%)
(1) オリジネーターの倒産からの隔離
オリジネーターの倒産からの隔離とは、証
券化の対象とした資産が、当該資産の原所有
者であるオリジネーターの倒産の影響を受
けないようにすることをいいます。すなわち、
さらに、社債の発行や借入れにおいては、償
オリジネーターが倒産した際に、証券化の対
還(返済)順位等が異なる複数の社債の発行又
象とした資産がオリジネーターの責任財産と
は借入れが行われることもあります。
みなされないようにすることです。
社債を例にとると、例えばA号、B号及びC号と
仮に、かかるオリジネーターの倒産からの
いう3種類の社債を発行し、B号社債の利払い又
隔離が不十分であると、オリジネーターにとっ
は償還はA号社債の利払い又は償還がなされたこ
ては、会計上も、資産の証券化によるオフバ
と、C号社債の利払い又は償還はA号社債及びB号
ランスが認められない可能性が生じます。確
社債の利払い又は償還がなされたこと、という
かに、会計上の問題であるオフバランスは法
停止条件を付します。こうすることにより、A号
律上の問題である倒産隔離とは別個の問題で
社債の信用力はより高まり、高格付けを得るこ
はありますが、実際には、両者の判断は密接
とができます。もちろん、
一方で、
信用力の高まっ
に関連しています。
た分、A号社債の利率は低くなり、他方、C号社
また、オリジネーターの倒産からの隔離が
債については、信用力は低くなり、その分利率
不十分であると、当該証券化により組成され
は高くなります。なお、このように償還順位等
た権利は一方的にオリジネーターの信用リス
の異なる複数の社債を発行することを「トラン
クを負担するものとなり、投資対象としても
シェ(フランス語で「区分」の意味)分け」
、分
魅力を欠くものとなります。
けられたそれぞれの社債のことを「トランシェ」
といいます。
また、借入れの場合にも返済順位が異なる複
数の借入れを行う場合があり、この場合、返済
64
そこで、かかるオリジネーターの倒産から
の隔離を図ることが不動産の証券化のしくみ
の必要条件とされています。
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
(2) 真正売買
オリジネーターの倒産からの隔離は、オリ
かかる倒産手続の回避は、支払停止や債務超
ジネーターから証券化の対象となる資産を別
過といった倒産原因を作らないこと、及び倒産
個の法主体であるSPCに譲渡することにより
手続開始原因が生じても倒産手続が開始されな
図られます。もっとも、当該譲渡が真実譲渡
いようにすることにより図られます。
する意思をもって行われたものではない、形
すなわち、上述したようにSPCは当該資産の証
式的なものに過ぎないと解された場合には、
券化のみを目的とするものとされ、余計な事業
当該譲渡は譲渡担保に過ぎないものと解され
は営まず、そのため予め想定された債務しか負
倒産隔離は認められません。すなわち、オリ
担せず、それらの債務は資産の運用益及び売却
ジネーターの倒産からの隔離の有無は、専ら、
益で十分に弁済できるように設計されます。ま
オリジネーターからSPCへの譲渡が真正なも
た、資金計画に一時的な狂いが出たとしても、
のか否かという点で判断されます(これを「真
債務の弁済に支障が出ないように、予め一定の
正売買」の問題といいます。
)
。
流動性資金が留保され(「キャッシュ・リザー
この真正売買性の判断は、当事者が真実売
買の意思を有するか否かという当事者の主観
ブ」といいます。)、SPCが支払を停止することが
防止されます。
により決せられることになり、客観的事実の
また、資産の価格の下落等により、当初予定し
積み上げによりかかる主観を推認することに
ていた債務の返済原資が得られない場合に備え、
なります。
SPCは債権者との間で責任財産をSPCが保有する
具体的には、資産の買戻し特約の有無(オ
リジネーターが予め定められた金額で資産を
3
みの必要条件とされています。
不動産に限定する責任財産限定特約を締結し、
SPCが債務超過に陥ることを防止しています。
買い戻す権利を有している場合には、真実売
他方、SPCは、SPCに対する倒産手続開始の申
買の意思は認められにくい。
)や証券化の対
立権を有する取締役及び債権者との間で、倒産
象となる資産が不動産である場合には修繕費
手続不申立特約を締結し、例えSPCに倒産手続開
の負担の有無(オリジネーターが本来所有者
始原因が生じたとしても倒産手続が開始される
の負担するべき修繕費まで負担する場合には、
ことを防止しています。
真実売買の意思は認められにくい。
)などの客
なお、倒産手続の中でも会社更生手続は他の倒
観的事実を考慮して真正売買性の判断を行い
産手続と異なり、債権者が有する担保権が保全さ
ます。
れないという特色を有します。そのため、SPCに
SPCの倒産手続の回避
対する資金の貸し手(「レンダー」といいます。)
一般に、証券化の関係者及び投資家は、SPCが
は、SPCの有する資産に対し担保権を設定するこ
倒産手続(現行の日本法においては、破産手続、
とによって債権の保全を図っているので、倒産手
民事再生手続、会社更生手続及び特別清算手続
続の中でも会社更生手続が開始されることを嫌い
をいいます。
)
をとることを好みません。これは、
ます。そのため、SPCとしては、そもそも会社更
倒産手続がとられると、裁判所や管財人など証
生手続の適用がない会社(会社法施行前の有限会
券化実務に明るくない(と信じられている)者
社、合同会社など)が好まれます。
の介入を招き、手続の進捗に相当の手間と時間
を要することとなるので、関係者間のみで任意
に破綻処理を行うのに比べ迅速な処理ができな
いと信じられていることが原因と思われます。
そこで、SPCの倒産手続の回避も証券化のしく
4 SPCの出資者の影響力の排除
SPCも法人である以上、SPCの定款変更や取締
役の選任・解任を行いうる議決権を有する出資
者が存在します。しかし、かかる出資者がSPCの
65
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
目的を変更したり、取締役を交代させ、自らの
年に新設された制度です。この中間法人の特色
意のままにSPCを運営したりすると、それまで築
は、必ずしも法人の出資者(基金拠出者)と法人
き上げた証券化のしくみは意味をなさなくなっ
の業務執行を行う社員とを同一とする必要がない
てしまいます。そこで、SPCの出資者の影響力を
点にあります。すなわち、中間法人においては、
排除することも、不動産の証券化のしくみの必
法人の出資者(基金拠出者)が、当該法人の業務
要条件とされています。
執行に何らの関与もできないスキームを組成する
かかる必要条件を満たす方法としては、現在
ことが可能です。
証券化においては、この「法人の出資者が当
は、ほとんどの場合、中間法人法に基づく中間
法人が用いられます。
該法人の業務執行に何らの関与もできない」と
中間法人とは、「社員に共通する利益を図るこ
いう中間法人の特色を生かして、中間法人をSPC
とを目的とし、かつ、剰余金を社員に分配するこ
の出資者とすることにより、証券化のしくみに
とを目的としない社団」のことをいい、本来は公
出資をする者が、SPCに影響力を及ぼすことを排
益や営利を目的としない団体(同窓会、親睦会、
除しています。
町内会など)に法人格を与える目的で、平成14
SPCの出資者の影響力の排除
中間法人
社員(議決権あり)
①基金の拠出(出資)
基金拠出者
理事(業務執行)・監事
社員でない者
②出資
議決権付普通株式
又は社員権
100%保有
SPC
5
66
二重課税の回避
されています。
わが国の税制においては、法人が得た利益は、
具体的には、資産流動化法に基づく特定目的
法人の所得として課税され、出資者への配当は
会社(以下、「TMK」といいます。)及び投資信
かかる課税後の利益の中からなされます。他方、
託及び投資法人に関する法律に基づく投資法人
そのようにして配当された配当金は投資家が得
については、一定の要件を満たすことによって、
た利益として、投資家の段階でもさらに課税さ
法人段階での課税がなされず、かかる二重課税
れます。
を回避することができます。そこで、TMKや投
このように、法人が行う配当に対しては、通
資法人をSPCとして用いる場合には、かかる二重
常、二重に課税がなされてしまい、その分だけ
課税の回避のための一定の要件の充足の有無が
配当が目減りし、商品として魅力を欠くものと
重要となります。
なってしまいます。そこで、かかる二重課税を
また、合同会社や株式会社をSPCとして用いる
回避することも、証券化のしくみの必要条件と
場合には、商法上の匿名組合の形式で出資を行
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
うことにより、かかる二重課税を回避すること
を利用する場合においては、原則として、不動
ができます。
産特定共同事業法の適用があることに留意しな
ければなりません。同法の適用を受けると、匿
第6 証券化の代表的なしくみ
1
名組合の営業者(本しくみにおける合同会社)
匿名組合+合同会社
が同法に基づく許可を得る必要が生じるなど、
証券化の代表的なしくみとしては、まず、匿
種々の制約が生じます。そこで、不動産の証券
名組合と合同会社を用いるしくみがあります。
化において、匿名組合と合同会社を用いるしく
これは、合同会社をSPCとして用い、二重課税
みを利用する場合には、同法の適用を回避する
を回避するため、出資を商法上の匿名組合の形
ため、対象不動産を一旦信託銀行に信託譲渡し、
式で募るものです。合同会社は後述するTMKと
信託受益権化した上で、証券化を行います(営
異なり、設立手続が容易であること、また、会
業者が不動産信託受益権を取得する場合には、
社更生法の適用がないことから、匿名組合と合
同法の適用はないと解されています)。不動産の
同会社を用いるしくみは、下記の不動産特定共
規模や性質から当該不動産を信託受益権化がで
同事業法の適用の問題が生じない限り、好んで
きない場合には、後述するTMKを用いるしくみ
用いられます。
が、専ら用いられます。
なお、証券化の中でも、不動産の証券化に際
して、この匿名組合と合同会社を用いるしくみ
匿名組合+合同会社
中間法人
不動産を信託受益権化した
上で証券化を行う場合
合同会社
持分出資
②不動産信託
受益権の譲渡
オリジネーター
②代金支払
①不動産の 信託譲渡
①不動産の 信託受益権
信託銀行
2
特定目的会社
基金拠出
基金拠出者
投資家
合同会社
( 営業者 )
②ノンリコース
ローン
②匿名組合出資
投資家
金融機関
上記の匿名組合と合同会社を用いるしくみに比
上 述 の よ う に 資 産 流 動 化 法 に 基 づ くTMKを
して、しくみの組成が煩雑です。そのため、上
SPCとして利用するしくみです。TMKを用いて証
述したように、証券化の対象とする不動産を信
券化を行う場合には、通常の法人の設立手続に
託受益権化できない場合など、TMKを利用しな
加えて、資産流動化法に基づき、業務開始届出
ければならない一定の理由がある場合に、この
を管轄の財務局に対して行わなければならず、
しくみが選択されるのが通常です。
67
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
な お、TMKに お い て は、 株 式 会 社 の 社 債 及
するものを優先出資、並びにTMKが資産の取得
び普通株式に相当するものを、それぞれ特定社
のために行う借入れを特定目的借入れといいま
債及び特定出資、議決権のない優先株式に相当
す。
特定目的会社
中間法人
基金拠出
特定出資
投資家
投資家
譲渡
オリジネーター
基金拠出者
TMK
代金支払
投資家
特定社債
優先出資
特定目的借入れ等
投資家
第7 最後に
冒頭にも記載しましたように、本稿は、証券化と
いうものを、法的な側面からできる限り簡明に説明
本稿が、ファイナンス法務の理解の一助となり、
することを目的としたものです。ただ、その反面と
少しでも、みなさまの業務のお役に立てれば幸甚で
して、敢えて捨象せざるを得なかった議論、また紙
す。
面の都合上、簡明に説明しきれなかった部分もある
68
かとは思いますが、ご容赦頂ければと思います。
以 上
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
69
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
執筆者等のご紹介
◆中森 亘
【略歴】
1991年 京都大学法学部卒業/ 1995年 弁護士登
録(大阪弁護士会)
・北浜法律事務所(現北浜法
律事務所・外国法共同事業)入所/ 2002年 同事
務所・パートナーに就任
【主な公職等】
大阪府立大学大学院経済学研究科・非常勤講師(会
社法・M&A) /大阪大学臨床医工学融合研究教育
センター・招聘助教授(知財法) / NPO法人バイオ
グリッドセンター関西・監事
【主な所属団体】
信託法学会、不動産金融工学学会など
【主な取扱業務】
ファイナンス・金融取引、M&A、会社法、倒産法(事
業再生)、不動産法、保険法、知財法、その他の企
業法務に関する法的助言・評価・分析、スキーム
組成、各種ドキュメンテーション、交渉、裁判対応、
バイオ・IT系を中心とするベンチャー支援等
【主な著作等】
「わかりやすい会社法の手引」(共編著・新日本
法規2003年)など
◆澤木 一隆
【略歴】
1997年 東京大学法学部卒業/ 2000年 弁護士登
録(第二東京弁護士会)
・濱田松本法律事務所入
所/ 2002年 事務所統合により森・濱田松本法律
事務所に所属/ 2005年 弁護士法人北浜パート
ナーズ(現弁護士法人北浜法律事務所東京事務
所)に移籍
【主な取扱業務】
一般民事、商事、証券・金融関係法領域(不動産
投資信託、資産の証券化・流動化、証券取引法、
銀行法、信託法など)
【主な著作等】
弁護士業務実務ノウハウ「不動産の証券化(1)(2)」
(ニ弁フロンティア2002年10・11月号)/「JREIT
の概要と諸問題」(JICPAジャーナル2003年5月
号)/実務相談 株 式 会 社 法(補 遺 )(商 事 法務
2004年、共著)/会社法の法律相談(学陽書房
2005年、 共 著 ) / 速 引 例 解 会 社 法(き ん ざ い
70
2006年、共著)等
【講演】
「知的財産権によるファイナンス」(2006年 経済産
業調査会主催)/「一日でわかる新会社法」(2006
年 大阪および東京にて新日本監査法人との共催)
◆荒川 雄二郎
【略歴】
1994年 立命館大学法学部卒業/ 2000年 弁護士
登録(大阪弁護士会)・北浜法律事務所(現北浜
法律事務所・外国法共同事業)入所/ 2002年 第
一東京弁護士会に登録換・弁護士法人北浜パート
ナーズ東京事務所(現弁護士法人北浜法律事務
所東京事務所)勤務/ 2006年 米国University of
Southern California Gould School of Lawに留学中
【主な取扱業務】
M&A法、金融法、会社法、倒産法、税法、その他
一般民事・商事に関する相談、交渉、裁判対応
【主な著作等】
破産の法律相談(共著、学陽書房2004年)/会
社法の法律相談(共著、学陽書房2005年)
【講演等】
「一日でわかる新会社法」(2006年大阪および東
京にて新日本監査法人との共催)
◆原 吉宏
【略歴】
1999年 京都大学法学部卒業/ 2000年 弁護士登
録(大阪弁護士会)・北浜法律事務所(現北浜法
律事務所・外国法共同事業)入所
【公職・役職等】
2006年 大阪府立大学非常勤講師(会社法)
【主な取扱業務】
会社法(M&A、企業防衛、内部統制等)、金融法(証
券化、銀行、保険、信託業等)、不動産法(都市開発、
サブリース、各種不動産取引)、事業再生(会社
更生、民事再生、特定調停等)、その他、企業活
動に関する裁判対応、意見書・契約書作成、交渉、
相談
Kitahama Law Review 速報 別冊(Finance Law Vol.2)
◆中西 敏彰
【略歴】
2001年 京都大学法学部卒業/ 2002年 弁護士登
録(大阪弁護士会)
・北浜法律事務所(現北浜法
律事務所・外国法共同事業)入所
【主な取扱業務】
企業再建・再編、倒産法、会社法、金融法、保険法、
不法行為法、不動産法、その他一般民事・商事
◆谷口 明史
【略歴】
1999年 慶應義塾大学商学部卒業/ 2004年 弁護
士登録(大阪弁護士会)
・北浜法律事務所(現北
浜法律事務所・外国法共同事業)入所
【主な取扱分野】
金融法(不動産流動化、金融機関のコンプライア
ンス等)、会社法(M&A、内部統制等)
、倒産法、
労働法、その他一般民事・商事
◆村島 雅弘
【略歴】
1992年 関西学院大学卒業/ 1992年 豊田通商株
式会社入社(財務部)/ 1996年 英国University
of BATH, School of Management(MBA) 修 了 /
2005年 弁護士登録(大阪弁護士会)・北浜法律事
務所(現北浜法律事務所・外国法共同事業)入所
【主な取扱分野】
国際取引、事業再生、金融関連法、その他一般民
事・商事 ◆花井 淳
【略歴】
2000年 京都大学法学部卒業/ 2000年株式会社
第一勧業銀行(現株式会社みずほ銀行)入行(融
資業務に従事)/ 2005年 弁護士登録(大阪弁護
士会)・北浜法律事務所(現北浜法律事務所・外
国法共同事業)入所
【主な取扱分野】
◆伊達 伸一
【略歴】
2003年 大阪大学法学卒業/ 2004年 弁護士登録
(大阪弁護士会)
・北浜法律事務所(現北浜法律事
務所・外国法共同事業)入所/ 2006年 弁護士法
人北浜パートナーズ(現弁護士法人北浜法律事務
所東京事務所)に移籍
【主な取扱分野】
倒 産 法(事 業 再 生 等 )
、 不 動 産 関 連 法、 会 社 法
(M&A、企業再編等)
、保険法、金融法(不動産流
動化等)、労働法、その他一般民事・商事
事業再生、金融関連法、労働法、その他一般民事・
商事 ◆堀野 桂子
【略歴】
2004年 大阪大学法学部卒業/ 2005年弁護士登
録(大阪弁護士会)・北浜法律事務所(現北浜法
律事務所・外国法共同事業)入所
【主な取扱分野】
事業再生、金融関連法、労働法、その他の一般民
事・商事
71
編集長 編集長 中島 健仁
今年の梅雨は記録的な雨でした。夏には台風もたくさん来そうですし、
猛暑も予感させます。
当事務所の本部のある
大阪は、
もはや温帯ではなく熱帯に属するのではないかと思えるくらいです。米国でも記録的猛暑だそうで、地球温暖
化とともに異常気象が続きそうです。21世紀は、
人類が地球規模の環境問題を真剣に考えないと人類の生存そのもの
が危うくなる世紀なのですね。
さて、
今回のKitahama Law Review速報の別冊は、
金融商品取引法の特集です。資産の流動化を含めたいろい
ろな手法が経済の活性化の起爆剤として用意されています。
これらの手法を生かして経済の活性化を図ることはバブ
ル崩壊による構造不況からの脱出の強い味方となるでしょう。但し、
これらの道具を使う側には哲学が必要です。哲学
なき制度利用があってはならないことを、
われわれはバブルの崩壊から学んできたはずです。好景気がいつか来た道で
あってはなりませんよね。
最近とある地方都市の中心にある不動産をどのように活性化させるか、
の相談を受けたことがあります。現在あるビ
ルを取り壊し、区画整理をして、核となる商業コンプレックスをたて、再開発する、
という取り組みです。
なるほど、地方都
市を活性化したい、
と言う気持ちは良く分かります。
しかし、
またまた、
どこの都市も同じ金太郎飴で良いのでしょうか。会
議中、
「手に取るな やはり野におけ れんげ草」
と言う句が頭に浮かんでしまいました。地方都市は都市の方向を目
指さないで、農村回帰を目指した方がよいのではないでしょうか?日本の田舎はやはり田舎であって欲しい、
とそんな気
がしたのです。
資産の流動化の手法を使って農業法人による農地を活用し農村を復興する、
そんなアイデアこそ、
環境の世紀21世
紀に求められる哲学ある制度の利用ではないでしょうか。
大 阪 〒541-0041 大阪市中央区北浜1丁目8番16号 大阪証券取引所ビル 北浜法律事務所・外国法共同事業
TEL:06-6202-1088
(代)
FAX:06-6202-1080・9550
東 京 〒100-0005 東京都千代田区丸の内2丁目5番2号 三菱ビル11F 弁護士法人北浜法律事務所東京事務所
TEL:03-5219-5151
(代)
FAX:03-5219-5155
福 岡 〒812-0018 福岡市博多区住吉1丁目2番25号 キャナルシティ
・ビジネスセンタービル9階 弁護士法人北浜法律事務所福岡事務所
TEL:092-263-9990
(代)
FAX:092-263-9991
http://www.kitahama.or.jp
(監修)池田 辰夫 (編集部)中島 健仁 山浦 美紀 伊達伸一 村島 雅弘 花井 淳 堀野桂子 楠井 映子
TEL 06-6202-9540 E-MAIL [email protected]
本冊子は、当事務所の依頼者等が一般的な情報として活用することを目的として作成されたものであり、特定の問題に関する法的助言を提供
するものではありません。
また本冊子の送付をご希望されない方は、編集部までご連絡頂きますようお願い致します。現受領者の方以外にも、本冊子の受領をご希望な
さる方がおられましたら、編集部まで、ご連絡下さい。
2006年(平成18年)8月31日発行 別冊 第2号/発行 北浜法律事務所・外国法共同事業、
弁護士法人北浜法律事務所東京事務所、
弁護士法人北浜法律事務所福岡事務所
編集後記
Fly UP