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金子 勝氏 - 紀陽銀行

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金子 勝氏 - 紀陽銀行
●慶應義塾大学
経済学部教授
金子 勝氏
か ね こ
企業経営
これからの日本経済と
講演
ま さ る
●金子 勝氏
1952年 生まれ
1975年 東京大学経済学部卒業
1980年 東京大学大学院経済学研究科
応用経済学専攻博士課程単位
取得修了後、東京大学社会科
学研究所助手
1984年 茨城大学人文学部専任講師
1985年 同 助教授
1986年 法政大学経済学部助教授
1989年 同 教授
2000年 慶應義塾大学経済学部教授
<主な著書>
(岩波ブックレット)
『原発は不良債権である』
『新・反グローバリズム』
(岩波現代文庫)
『「脱原発」成長論−新しい産業革命へ』
(筑摩書房)
他
去る 9 月 12 日に開催された紀陽ビジネスクラブ特別講演会(和歌山会場)における金子勝氏のご講演内
容の要旨を掲載します。
社会保障、インフラ、耐久消費財など、産業の構
はじめに
造も社会のシステムも大きく変わりだしています。
「失われた 20 年」の中で、皆さんは散々「景気
今日は、「集中メインフレーム型から地域分散ネッ
はよくなる、よくなる」と聞かされながら、ずっ
トワーク型の社会へ」というテーマでご説明させ
と停滞してきた現実があります。しかし、世界で
ていただきます。
は大きな変化が起きています。特に技術的な変化
(注 1)ICT とは:
Information and communication Technology の略
で、情報や通信に関する技術の総称
が大きく、最近は「ICT(注 1)」と呼ばれていま
すが、いわゆる IT によって、エネルギーや食糧、
1
経済季報 2014 冬号
講演
これからの日本経済と企業経営
クで、ようやく底打ちをしました。これが過去の
金融自由化と景気循環
不況です。現在、金融は猛烈に緩和していますから、
景気には景気循環の波があり、よくなったり悪
実体経済がそんなによくなくても株だけは上がっ
くなったり波を打ちます。1970 年代に固定相場が
ているのが現状です。安倍首相がアベノミクスも
終わり、変動相場になり、通貨が市場で取引され
何もやらないうちから上がってきていました。ア
るようになりました。ドルと金のつながりがなく
メリカの投資家が日本の株を大量に買っていたか
なり、中央銀行は通貨をいくらでも発行できるよ
らですが、私たちは、こういう金融を軸にしたバ
うな状態になりました。それまでは社会の景気が
ブル循環、景気の変化を考えなければいけません。
よくなれば自分の景気もよくなったと感じること
ところが、経済学のテキストは、いまだに実体
ができ、社会全体の景気循環が一体化していまし
経済を軸にしてできた景気循環で説明しているの
た。しかし、ここ 20 年から 30 年の間、「景気がよ
で、何かピンぼけな感じがします。一旦、その常
くなった」と言われているのに自分はよくないと
識のバイアスをはずしてしまうと、バブル循環が
いうズレを感じるようになりました。実は、1980
よく見えます。私はリーマンショックもぴたりと
年代から景気循環の波の中身が大きく変わってし
当てました。私だけではなくて、世界中で言って
まったからだと思います。
いましたが、日本のメディアが全然そういうこと
金融が自由化されてしまうと、どういう景気の
を取り上げなかっただけです。汚染水問題も世界
循環になるかというと、まず株や不動産の価格が
中のメディアが糾弾しています。オリンピック招
上がります。株や不動産の資産価格が上がると得
致のためとはいえ、安倍首相の発言は国際公約で
をする人は、資産を持っている人たちですから、
すから、これから厳しい監視の目が私たちに注が
所得の上層の人たちが最初に潤います。次に、消
れます。日本のメディアが外国の状況を全然取り
費が拡大し、例えば自動車や住宅関連が好調にな
上げないから、国内の人たちには、その自覚があ
り、最後に雇用が少しずつ拡大してきます。雇用
りません。
は大体、非正規雇用の人が主軸ですので、とりあ
えず生活ができるようになったというのが、景気
株価の動向と内閣支持率
がよくなった状況ということになります。
しかし、資産価格が実体経済より大きく上がっ
面白い現象があります。日経平均株価の動きを
てくると必ずバブルになってしまいます。バブル
アメリカの株価に重ね合わせると、ほとんど同じ
が崩壊すると、非正規雇用の人たちが突然リスト
です。1997 年に日本では山一証券と北海道拓殖銀
ラされ、不良債権の押し付け合いが始まり、また
行が破綻したことから世界に先駆けて本格的な金
所得格差が開きます。これを克服するために中央
融危機に入ってしまったところだけがずれていま
銀行がもっと金融緩和をして、資産価格が吊り上
すが、あとはほとんど同じです。
がるようにひたすら金融緩和に走る経済になりま
日 経 平 均 株 価 の ほ か に も う 一 つ 重 要 な の は、
す。
NHK 放送文化研究所が出している「政治意識月例
私はこれを「バブル循環」と言っていますが、
調査」です。内閣の支持率と不支持率のデータを
1980 年代は世界中で不動産バブルが起きました。
毎月取っていますが、その支持率は恐ろしいくら
1990 年代の後半末には IT バブル、いわゆる株バブ
い株価とぴったり連動しています。株が上がれば
ルが起き、2000 年代の半ばには住宅バブルが起き
政権の支持率が上がる、何度首相が変わっても株
ました。これが 2008 年 9 月 15 日のリーマンショッ
価が上がらないので、短命で終わってしまう。な
2
経済季報 2014 冬号
んて情けない国になってしまったのでしょうか。
というサクセスストーリーはそこで終わってし
一方、アメリカはどうでしょう。アメリカ経済
まっています。その後の経営者たちは何か産業を
はそんなによくなっていません。下げ止まったこ
興したわけではなく、大学を卒業した後どこかの
とは確かですが、地方銀行はバタバタ倒れていま
大手企業のひとつを選び、入社後は高い調整能力
す。失業率が回復したといっても、増えているの
のもと昇進したにすぎず、何かの事業を興すといっ
は非正規雇用者がほとんどで、富の格差が拡大し
た経営者とは全く別物になってしまいました。
ています。FRB も金融緩和を続けていますが、い
今はあまり読まれなくなってしまいましたが、
つまでもこんな異常なことは続けていられません。
ヨーゼフ・シュンペーターという有名な経済学者
の説によると、大恐慌がなぜ起きて、イノベーショ
ンがなぜ起きなくなったかというと、大企業がで
国際会計基準と企業決算
きあがり、官僚化し、機能化してしまうために、
では、なぜこんなふうになってしまうのかをよ
経営者という役割が要らなくなってしまうからで
く考えてみると、一番大きい理由は、1990 年代末
す。当初、オオカミのように周辺を嗅ぎ回り、リ
に「グローバルスタンダード」という名のもとに
スクを取って、何か産業を興すくらいの勢いで動
国際会計基準が導入されたことです。国際会計基
くような、そういう経営者精神を持った経営者は
準に対して批判する経済学者はあまりいませんで
大企業化すると要らなくなってしまう。それが資
したが色々な弊害が出ています。企業の決算に一
本主義のイノベーションの力を落としてしまうの
番影響を与えたのは、企業が持っている金融資産
だということを非常に強調しています。資本主義、
について帳簿上の価格で決算するのをやめて、そ
社会主義、民主主義の説明が、ほとんど今の日本
のときの市場の価格、時価で表す時価会計主義に
に当てはまります。たとえ赤字になっても我慢し
なったことです。
て、こだわって次の製品を開発しようとか、次の
これまでの減損会計では、例えば、ある企業の
時代を読んで産業を育てようとか、そういう行動
10 億円の株が 13 億円になっていたとしても、3 月
様式を取る経営者がほとんどいなくなってしまい、
末に決算をするときに 10 億円のまま決算でき、3
サラリーマン重役の社長が、無責任で、お互いか
億円分の値上がり益は課税されないで企業の中に
ばい合うような集団となり、財界の真ん中に君臨
ためておくことができました。これがバブルを生
してしまいます。そうなると、政治に要求するの
み出したという話となり、3 月末に 13 億円だと 13
は金融緩和をして株価を上げ、円安にすることだ
億円で決算しなければいけないという時価会計に
けになります。株価が上がり円安になれば、本業
移行されました。時価会計では企業の実態が悪く
が悪くても隠れてしまうからです。
ても株価が上がると企業決算がよくなってしまう、
例えば、今年 3 月末の電機産業大手の決算を見
ということになります。実は、円安の効果も同じ
てわかるとおり、ほとんどの企業は売り上げが落
です。企業、特に大手の企業は円安や株高を要求
ちています。しかし、資産価格の上昇と資産売却
するために金融緩和の要求が高くなるのです。
とリストラ効果のおかげで、販売量が落ちていて
残念なことに、日本の経営者の中に、もはや盛
も黒字になるため経営者は責任を問われません。
田昭夫氏とか井深大氏とか本田宗一郎氏とかいう
円安の効果は、通常半年ぐらい遅れて貿易に反
人たちはいなくなってしまいました。創業者社長
映します。12 月ぐらいから円安効果が始まってい
で成功したのは、稲盛和夫氏が最後ぐらいで、い
ますが、残念ながら、13 カ月連続で貿易赤字の状
わゆる中小企業からはい上がって大企業になった
態になっています。輸出数量は増えていませんが、
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経済季報 2014 冬号
講演
これからの日本経済と企業経営
円安効果で何とか輸出金額を保っています。しか
ので、その間にどんどん外国の金融機関が日本の
し、化石燃料や空洞化で中国から逆輸入した製品
株式市場を占めるようになりました。そうすると、
などの輸入金額がどんどん増えてしまっているの
株価を上げるために、外国人投資家に受けのいい
です。産業が空洞化してしまい、日本製品の売る
政策をしなければいけなくなります。小泉首相の
ものがなくなってしまった結果です。日本の家電
時代には、イラク戦争に賛成し、対日改革要求の
などはアメリカだけではなく、アジアでも、サム
中から郵政民営化をすすめ、さらにアメリカでも
スンや LG に席巻されています。
てはやされた小さな政府論に呼応して、構造改革
日本は不良債権問題から原発事故まで、誰も責
で小さな政府論を展開しました。現在の安倍首相
任を取らなくなってしまった国です。責任者といっ
は構造改革のほかに、TPP 推進やアメリカの FRB
てもサラリーマンで上に上がっただけだから、誰
と同じような異例の金融緩和をし、アメリカの投
も自分の責任ではないようにします。株価が上が
資家を引き入れています。常に、「外国人投資を引
り円安になれば大量の不良債権問題も本業の業績
き入れる」という言葉が出て、株価が上がり、円
不振も隠してくれます。そういう誘惑が政治や経
安になり、全体として企業の決算がそれだけでよ
済に働くようになっています。だから、内閣支持
くなってしまう。1990 年代末に起きたグローバリ
率も大きく動くようになって、今の安倍内閣の支
ズムの影響が、ついには日本の政治を飲み込むよ
持率も、株価が上がった瞬間に急騰し、株価が下
うにして動くようになっているというのが本当の
がれば支持率も急落するということを繰り返して
ところです。
います。何ともプアな感じの経済、政治の仕組み
さらに問題なのは、失敗の反省がないというこ
です。景気循環が変わり、アメリカの金融資本主
とを私たちが認識していないということです。何
義が軸になって、金融緩和で投機マネーが株や不
を失敗し、なぜ「失われた 20 年」になったのか反
動産の価格を上げると、景気を引っ張るようになっ
省がありません。失敗の原因をしっかり確かめな
てしまって、ものをつくったりしている人たちの
いで、とりあえずよくなる方へ走ると、病気だっ
実感と大きくずれ始めました。事実上、時価会計
てよくなりません。まず診断してどこが悪いかを
主義になることによって、企業決算が株価や為替
決めないと、治療の順番は決まらないわけです。
のレートに大きく左右されて、特に輸出企業、あ
しかし、私たちは失敗の原因をしっかり確かめな
るいは保有株の多い企業ほど、決算が左右される
いで、とりあえずよくなる方へ飛びつくようになっ
ようになってきてしまいました。従って、株価が
ています。実はそれが失敗の最大の原因です。原
上がってくれることを求める声が、強く政治に影
因は私たちの内側、もっと言うと、そういう情報
響を与えるという構造が、1990 年代終わり頃から
を垂れ流すメディアの側にあるのです。私たちは
のグローバリゼーションの中で定着してしまった
そういうことをしっかりと見ないといけません。
というのが現状です。
小泉政権時には国際競争力がガタガタに落ちまし
た。すると、政権交代した民主党は小泉構造改革
の結果、国民生活の格差が広がったからまずこの
日本の株式市場の変化
格差を是正しようという議論になりました。本来、
もう一つ、金融自由化の結果どういうことが起
構造改革は痛みを伴ったあとに成長があるはずで、
きたかというと、日本の株式市場の大半を外国人
成長を取るのか、格差を是正するのかという二項
投資家が占めるようになりました。日本の証券会
対立ではなく、本当は構造改革が成長をもたらす
社や金融機関はバブルの処理に失敗していました
のかという検証や議論をするべきです。そういう
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経済季報 2014 冬号
検証がないものですから、自民党政権に戻ると、
産業の国際競争力の低下
今度は構造改革が足りなかったからという総括に
なり、ゆり戻しが始まりました。
結局、日本の企業は「失われた 20 年」に突入
「選択と集中」ということで長期的な投資の戦略
し、ただひたすらリストラをしました。「選択と集
を立てないで、とにかくもうかるところに特化し、
中」と称して、コストのペイしないものはみんな
何かが欲しければ内部留保をためて M&A で買っ
海外に外注しました。そうして今では半導体にし
てくればいいというアメリカ的経営をみんな称揚
ろ、自動車にしろ、白物家電にしろ、外注先であ
します。外資系ファンドは M&A を職業としてい
る中国や韓国、台湾の方が技術を身につけてキャッ
るので、M&A が増えればどんどんもうかります。
チアップしてきています。
小泉政権時、企業はこぞって内部留保をためた結
またその間イノベーションは大きく進み、特に
果、下請けにはお金が落ちてこず、従業員はどん
スパコン(スーパーコンピューター)は 1990 年代
どん非正社員化していくシステム、制度に変わっ
までは、日本がトップを誇ったベクター型スパコ
てしまいました。気が付いてみると、一つ一つの
ンと呼ばれる、東大の「地球シミュレータ」に代
企業は合理的になったけれど、社会全体で見ると、
表される「鉄腕アトム」に出てくるような巨大な
圧倒的に若い人に非正社員が広がり、一番購買意
スパコンが主流でしたが、今では黒いボックスの
欲のある層が、ものを買わなくなり、全体として
ようなものが無限に並列に繋がっていくようなタ
デフレに落ち込んでいったということが起きたわ
イプのスカラー型スパコンに完全に移行して、世
けです。
界で 2 割〜 3 割のシェアを持っていた日本のスパ
「市場に任せなさい」というのは戦略など何も考
コンのシェアが全くゼロになりました。スカラー
えなくてもいいので、無責任な経営者にとっては
型スパコンはそれを動かす CPU が非常に発達して
一番都合がいいのです。市場に任せれば、規制緩
います。特にインテル製のマイクロプロセッサー
和すれば、神様はお導きの手で運んでくれるわけ
が圧倒的に発達して、消費電力が少なく、高速・
ですから。何が悪かったのかといえば、市場が悪
小型化しています。このスカラー型スパコンは凄
かっただけで、規制緩和が足りなかっただけだと
まじいデータを集積するようになり、産業の競争
いう話になってしまっています。
力の差が出始めました。最近ようやくビッグデー
タというようになりましたが、物づくりの基本は
このビッグデータを利用者本位のコンテンツやソ
フトで、いかに利用しやすいように持ってくるか
というところにシフトしてきています。日本の強
さは、広い範囲の中小企業がいて、それが極めて
高い技術水準を持っていて、親会社と子会社、子
会社同士のコミュニケーションの力が非常に緊密
で、自動車などを見ればわかるように、2 万点を超
える部品があっても、クレームがつくと、バッと
集まってお互いに調整して、あっという間に直し
てしまいます。日本は、そういうすり合わせの技
術力が圧倒的に高かったわけですが、それが必要
でなくなったわけです。
5
経済季報 2014 冬号
講演
これからの日本経済と企業経営
グーグルやアマゾンは大量のスパコンを集積し
収ができるモデルがあって、一人一人が自己責任
ています。世界で 300 台ぐらいあるスパコンのう
で競争している世界ではないということです。
ち 200 台以上はアメリカが持っています。金融機
もう一つの要因は、海軍が IT 技術を重視したこ
関も全部スパコンで取引していて、私たちは太刀
とです。仮に戦争が起こったとすると、中央司令
打ちできません。「ハイ・フリークエンシー・トレー
室が破壊されると通信網が壊れてしまいます。し
ディング」といって、ホストコンピューターとス
かし、基地ごとにネットワーク型にサーバーで繋
パコンが結び付いて、プログラムで 1 秒間に何百
いでおけば、どこかが攻撃されてもリスクは局限
回と取引しています。こちらがパソコンなどで取
されるという発想から IT 技術の導入に力を入れま
引をしている間に、市場のデータを即座に読んで、
した。つまり、このように産業の一番コアなとこ
その動きに応じた大量の取引を作るわけですから、
ろで、どのような動きを作れているかが最大のポ
とても勝てません。
イントです。
アメリカは市場任せで動いているというのは全
株が上がったり円安になったりしているのは一
くのでたらめです。1990 年代後半、アメリカでは
時的なものであって、景気後退の原因を取り除い
クリントン政権下において、金融自由化と情報スー
た訳ではありません。目先の利益に踊らされてい
パーハイウェイ構想のもとでの IT シフト戦略が
るうちに気が付いてみると、格差社会が進み、地
すすめられました。金融は失敗したと思いますが、
域経済の崩壊があちらこちらで起き、産業の競争
IT シフトを進めた結果、社会は大きく変わりまし
力もすごく落ちてしまいました。市場の方を向い
た。IT 技術の進歩には二つの要因があります。
て何でもやることは成長戦略でも何でもありませ
一つは、新規事業を支える投資システムがある
ん。今、日本がまた同じ間違いをしようとしてい
ことです。資産家がいて、有望なものに投資をし
ることは、世界全体がどういう方向へシフトを始
ています。証券市場が発達しているから、例えば
めているかを少しみればわかります。
「100」投資して「98」損しても、「2」が上場した
瞬間に莫大な利益が返ってきます。しかし、日本
新しい産業構造への転換
にはそういうモデルがなかったので、代わりに政
府系金融機関が民間銀行と協調融資をして、リス
今起きている技術的な大きな変化にどれだけつ
クをカバーしていました。最後のモデルは京セラ
いていけているかが大切です。原発などを建てて
でした。その後は、政府系金融機関をひたすら民
いるよりは、スパコンをどんどんつくって、ネッ
営化して、その仕組みをなくしてしまいましたの
トワーク化するほうが、この国にとっては非常に
で、そこで終わっています。日本のように自己責
重要なことです。それに向けて若い人たちをもっ
任で、裸で勝負をするようなモデルは世界のどこ
と技術開発に投入できるようにしていくことに
にもありません。新しい事業はおおむね失敗を伴
よって、基礎力が大きく変化してきます。残念で
いますので、初期の赤字を支える仕組みがないと、
すが、今はそういう方向には進んでいません。小
それ以上進むことができません。失敗の中から一
泉改革の失敗に対する反省がなく、また同じメン
つか二つ成功すれば莫大な利益や大きな産業が生
バーが同じことを始めているので、ある意味で同
まれる、そういう世界であり、研究はそういった
じ失敗が再現される可能性があります。
ものです。例えば、シェールガスなども初期は資
当面、金融緩和や景気対策をやれば景気がよく
産家が投資し、赤字をカバーしています。アメリ
なるのは当たり前です。しかし、よく見ればわか
カでは資産家が投資をして、証券市場で莫大な回
るように、本当の経済の実力は製造業やサービス
6
経済季報 2014 冬号
業、農業も含めた産業の基盤にあります。この産
これに対して、分散ネットワーク型の典型はコ
業が本当に立ち直るシナリオがなければ、地方全
ンビニです。コンビニのレジはまさにビッグデー
体が潤って裾野の広い経済には生まれ変わりませ
タです。日本中のコンビニでどこの店のどのタイ
ん。消費増税に伴う景気対策としての設備投資の
プのところで何がどれだけ売れているかが瞬時に
拡大は、増税前の駆け込み需要になるため、店舗
データになり、客のニーズが瞬間的につかめ、在
や住宅建設と公共事業がらみの建設業などが主軸
庫の管理が必要なくなり圧倒的にコストが抑えら
になり、本当の意味での設備投資は盛り上がりま
れます。そのデータを解析すれば、どういうタイ
せん。就業構造基本調査を見ても、この 1 年で非
プのところにどういう品ぞろえをすると一番よく
正規雇用は 100 万人増え、正規雇用は 50 万人減っ
売れるのかが、よくわかります。分散ネットワー
ていて、真の雇用の安定は作り出せていません。
クは常にアマゾンのような独占を作り出す一方で、
本当に業を未来に繋ごうとすると、最低でもコア
対抗する動きも出てきています。典型的なのが、
になる技術やノウハウを引き継ぐところは正社員
全国で 1 万 5 千ヵ所を超えている農村の直売所で
で守っていかなければならないにも関わらず、依
す。これは一人ひとりがバーコードを持っていて
然として守れていない状況が続いています。
商品を補充するので、在庫管理の必要はありませ
ん。また、小規模なので、出店する場所の近場で
商品を調達し、農協系の銀行で決済すれば会計係
地域分散型への変革
も必要ありません。
大事なのは集中メインフレーム型から地域分散
農協がネットワークを組みだすと、とんでもな
ネットワーク型になるというストーリーです。20
いことが起こり始めます。例えば、鹿児島県と北
世紀は集中メインフレーム型、大きなものを作っ
海道で大根の漬物を漬けます。北海道には柚子が
て、同じものを大量に作ってコストを下げていく
ない、鹿児島県には昆布がないといったら、直接
というモデルです。これは大手の企業、とりわけ
交換するかもしれません。そうすると、大阪とか
日本でいうと、製鉄とか化学とか、そういう産業
名古屋とか東京がフラット化して商品を集積する
がかなり多いです。それに対して分散ネットワー
役割が落ちてしまうかもしれません。
ク型は、一個一個は小規模ですが、IT 技術でつな
恐ろしいことがいろいろなところで起き始めて
げることによって十分効率的に、安定的にできて、
います。エネルギーはその最たる例です。今は見
一個一個分散でも自立して成り立っていく、21 世
えませんが、スマートハウスやスマートファクト
紀型はこういうモデルに変わります。
リー、スマートシティというものがあります。社
わかりやすい例でいうと、スーパーとコンビニ
会の風向きを読むのがうまい GE は数千人のシステ
(コンビニエンスストア)です。集中メインフレー
ムエンジニアを雇って、単なるスマートグリッド
ム型であるスーパーは大量に同じものを仕入れて
だけではなく発電器も含め参入しています。日本
コストを下げて売ります。これは人口が増えて経
でも中部電力などにおいて、水力発電の最も効率
済が成長している限り伸びていくやり方です。人
的な発電システム、火力発電の効率的な稼働など
口が増えず経済の成長が停滞すると、今度は大規
に ICT 技術を使い始めています。もちろん家庭で
模化路線で郊外にショッピングモールを建設し、
太陽光やガスで発電した電気をためて、コンピュー
30 キロ圏の顧客を集めます。すると、地元商店街
ターで空調などをコントロールするスマートメー
が潰れ、気が付いてみると地域が衰退してしまっ
ターにも進んでいくでしょう。スマートファクト
たという状態になります。
リーでも同じようなことが起きます。これら省エ
7
経済季報 2014 冬号
講演
これからの日本経済と企業経営
ネがビジネスになり、新しい製品の性能を次々に
最もいいシステムを作っていかなくてはいけなく
高めていくイノベーションが起き始めています。
なります。ヨーロッパではケースマネジャーや、
再生エネルギーは一個一個が不安定でも、ICT
かかりつけ医などのシステムで、地域で安心な仕
技術でコントロールされることによって効率的に
組みを作っています。日本では政府の信頼性がな
運用できます。つまり、大きな規模で効率化を図
いので、なかなかプライバシー問題の壁が厚いの
らなくても省エネが可能になってきます。農業も
ですが、電子カルテ化したかたちで一人ひとりの
遺伝子組み換えで農薬をまくような大規模な産業
情報がきちんと管理され適切に配分すれば、医療
は、本来的にもうだめになっていきます。中小で
費も介護も効率化することができます。そうする
丁寧に安全なものを作って、ネットワーク型で、
と地域型になります。
地域で加工したり流通したりということで付加価
(注 2)ジェンダーとは:社会的、文化的な性差
値が回っていくような仕組みにしないといけませ
ん。これもまさに分散型です。
社会保障もそうなっていくと思います。年金依
最後に
存の社会保障は多分だめになっていきます。地域
で雇用を作るには、医療や介護、保育や教育で雇
考えてみると、今までよく地方分権とかいわれ
用が生まれるような福祉、現物給付サービスを軸
てきましたが、行政だけ分権しても、実体経済や
にした福祉に組み替えないといけなくなります。
人々の雇用と結び付いていないので何も変わりま
その時のキーワードは「ジェンダー(注 2)」で、
せん。社会が新しい分散ネットワーク型で成り立
たぶん「女性」です。年金に過剰に依存している
つようになり、それに見合う産業が地域で生まれ、
社会福祉の国は、どこも財政赤字で子どもが生ま
行政サービスも合致する、そういうところから変
れません。老後の不安解消で大事なのは医療や介
わっていくことによって、それが決して古い仕組
護、子育てでは保育や教育です。これは女性が進
みではなく、ICT 技術という新しい技術を背景に
出しやすい職場であると同時に、今のところ家庭
して可能になってきます。
の女性が負担を負っています。この負担を徹底的
21 世紀の分散ネットワーク型の社会へ向かって
に軽くすると女性が進出しやすくなります。女性
いくということは、経済の仕組みを変えるだけで
に納税者になって働いてもらい保険料の納付者に
はなく、意思決定を含めて地域に住んでいる人自
なってもらうヨーロッパ型の福祉に変えていかな
身が決断していく社会システムへの転換が要請さ
い限り、恐らく子どもも生まれません。夫婦 2 人
れます。21 世紀は集中メインフレーム型の重厚長
が働いてリスクをカバーしていくためのサービス
大の大きな産業を軸にして作られてきた経済から、
が供給されて、そのサービス分野で女性がたくさ
分散ネットワーク型に大きくシフトしていくだろ
ん働き、地域に雇用が生まれ、お金が回る仕組み
うと思います。もちろん、大きな産業自身がなく
にしなければいけません。
なるわけではありません。経済の仕組みの重点が、
都市部と、中・山間地や農村部とは、全くニー
大きくシフトしていくことが予想されるのではな
ズが違っています。暖かいところと寒いところで
いかと思います。
も全く違っています。だから、地域ごとにステー
世界的に 100 年に一度の金融危機みたいなもの
クホルダー、つまりサービスの供給者や利用者、
を乗り切っていくには、ライフスタイルも大きく
負担者が、病院や診療所、介護や訪問看護をやっ
変えてしまうような新しい産業、多くの投資やニー
ている人たちを全部集めて、ネットワーク化して、
ズが一気に巻き起こるような方向の大きな転換が
8
経済季報 2014 冬号
必要になってくると思います。それは、今述べた
ような社会システムをも変えていくような転換に
なるのではないかと思います。
エネルギー転換は、コストの高い原発などより
はるかに大きな効果を持ち始めるでしょう。イン
フラは道路の代わりに送配電網になります。建物
の構造が変わるので、すべて建て替えなければい
けなくなります。自動車も買い換えなくてはいけ
なくなります。それは需要であって税金ではあり
ません。大きくライフスタイルを変えるような需
要を巻き起こし、新しい成長軌道を作り出すこと
によって大転換を図っていく、そういう壮大なス
トーリーで日本は先頭に立たなければなりません。
なぜなら「3・11」の福島原発事故は明らかに人
災で、原発は集中メインフレーム型の象徴でもあっ
たので、まさに集中メインフレーム型の終焉が起
き始めました。これを最も深刻に受け止めて克服
し、新しい時代の産業を作っていく、新しい社会
システムを作っていくとしたら、日本がまずその
先頭に立たなければいけません。東京五輪誘致の
際の安倍首相のスピーチは約束です。それを私た
ちが誇りを持って実行しなければ、この状況を私
たち自身が克服することはできないし、この閉塞
状況も本当の意味で打ち破ることはできないとい
うことを最後に強調して、私の話を終えたいと思
います。ありがとうございました。
(文責:紀陽銀行 経営企画部 広報・CSR 推進室)
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経済季報 2014 冬号
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