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猪川小学校の実践から縛られるスタートカリキュラムへの示唆 高橋 直之

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猪川小学校の実践から縛られるスタートカリキュラムへの示唆 高橋 直之
緒川小学校の実践から得られるスタートカリキュラムヘの示唆
高橋 直之
(愛知教育大学大学院 教育学研究科)
A Consideration
Toward
EstabIi sh ing “start
Naoyuki
(Graduate
student,
Curriculum"
TAKAHASHI
Aichi
University
of Education)
1。関心の所在および研究の目的
みられた。このことから、スタートカリキュラ
平成20年版生活科学習指導要領解説で『スタ
ムは生活科の中で提案された概念ではあるが、
ートカリキュラム』が新たに提案された。平成
それが包括するところは生活科という一教科と
23年の学習指導要領改訂全面施行が間近に近
しての枠組みを超え、第1学年のあらゆる場面
づいているが、スタートカリキュラムがどのよ
で有効な考え方だと筆者は感じている。また、
うなものなのか、具体的な姿はまだあまり見え
スタートカリキュラムはこれまでの保幼小連
てこない。その理由の一つとして、概念自体が
携・接続から生まれた考え方でもあるので、こ
新しく提案されたものであるので、その実態が
れまでの保幼小連携研究から得られる示唆も決
つかめないでいることが考えられる。
して少なくない。
本研究を始めた平成21年4月当初はこのよ
そこで本稿では、まだ新しい概念である『ス
うに現状を述べていたが、平成22年度に入ると
タートカリキュラム』について、始めにこれま
全国各地でのスタートカリキュラムに関する研
での研究から見えた、筆者が提案するスタート
究の成果が見られるようになった。平成22年
カリキュラム像を述べる(2)。次にそれを裏
11月には仙台市での取り組みをまとめた実践
付ける実践事例として、東浦町立緒川小学校の
事例集が出された。また、同年11月11日には
事例を挙げ、スタートカリキュラムの考え方が
「幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在
第1学年の諸活動の中でどのように位置づくか
り方について(報告)」も出され、今後の幼小接
示し、考察する(3)。
続に関する示唆に富んだ報告となっている。ス
タートカリキュラムは幼児期と小学校教育の接
続の一つの在り方として、その必要性を認めら
れ、確かに全国に広まりつつある。
スタートカリキュラムは、生活科学習指導要
領解説では「学校生活への適応が図られるよう
合科的な指導を行うことにより工夫された、第
1学年入学当初のカリキュラム」と示されてい
る。しかし、この文面からだけでは具体的にど
のeうなカリキュラムがスタートカリキュラム
に当てはまるのか、見えてこない。
なく
「学校生活の基盤づくり」までを含め
、
筆者は平成21年度1年間、東浦町立緒川小学
、
学校生活全体を捉える
。
--■■--■■-■--■■■-一岫--■誦・-・・・・■個・・・・■・・二柄・・■■一蓼--■■-■--■■■-■■■■■--■■■■■■-■-一
以下
それぞれについて述べる
、
。
校の第1学年の実践を参観し、そこからスター
トカリキュラムの編成に有効だと思われる示唆
を得てきた。その中には日々の学級づくりや特
(1)
別活動の時間など、生活科の授業場面以外でス
4月の“特別プログラム”とせずに1年
間ないしは2年間の視点で捉える
タートカリキュラムに示唆を与える実践も多く
スタートカリキュラムに関する実践研究は全
-
85−
国的な広まりを見せっつある。各地で見られる
ない。
スタートカリキュラムは、「スタート」と名の付
スタートカリキュラムを4月−5月のカリキ
くこともあり、入門期にあたる4月を中心とし
ュラムとしてしまうと、それを実践する教師の
たカリキュラムが多く見られ、スタートカリキ
中にぱ入門期における特別カリキュラム”と、
ュラムを考える際も4月に重点を置いてしまい
その意味を取り違えてしまい、年間計画と切り
がちになってしまう。 しかし、スタートカリキ
離して考えたり、児童の不適応状況をその間で
ュラムで必要とされる指導の工夫は学習指導要
表面的な“解消”へと向かわせようとしてしま
領解説に「人学当初に限らず、2年間にわたっ
ったりすることが危惧される。そういった指導
て積極的に行うことが大切」1)とあることにも
や支援は対症療法的発想であり、根本的解決に
気をつけたい。
は至らない。
スタートカリキュラムは確かに入門期の児童
ただし、人門期における児童への指導・支援
がよりよ<学校生活を始められるようにと考え
として、入学当初(入学直後)の期間は学習指
られ、提案されたものではあるが、その目標を
導要領にも記されている通り3)、特に重要な時
4月の段階で完全に達成してしまおうと考える
期として心構えをもつことは忘れてはならない。
のではな<、1年を通じて、もっと言えば2年
1年ないしは2年という中長期的な捉えでスタ
間を通じてでもスタートカリキュラムを考え、
ートカリキュラムを捉え、その中での4月、5
児童のよりよい学校生活をスタートさせること
月については「重点カリキュラム」として位置
ができればよいのではないだろうか。
づければ、より充実したスタートカリキュラム
「不適応状況」について、東京都教育委員会
となるだろう。
が都内の小学校長を対象に行った調査2)による
と、「1年生が落ち着かない状態が続いた」とい
(2)カリキュラム研究を行い、学校全体での
う回答が24%、発生時期は「4月」が最も多<
意識の共有化、子ども理解の共有化を図る。
57%だが、同時に「年度末まで続いた」と答え
年間を通して、スタートカリキュラムを考え
た校長は55%にも上った。
ていくには、カリキュラムを具体的に編成する
表 東京都における不適応状況(小1プロブレムをはじめと
だけでな<、それを実践してゆ<教師がどのよ
する)の発生時期と終了時期【校長の回答(%)】2)
うな子ども観・授業観・教育観をもって臨んで
<発生時期> <終了時期>
いくか、また学校や学年がどのような体制で子
どもと向き合うかといった、いわゆる教師の“構
え”が重要となってくる。
仙台市では、広瀬小学校と芦屋小学校の教諭
が研究開発を行ったスタートカリキュラムを市
全体に広げ、「仙台市スタートカリキュラム」を
作成した呪これも4月の入門期を中心とした
スタートカリキュラムではあるが、同時にそれ
を指導する教師のための研修「指導法の研究」
にも力を入れて取り組んでいる。小学校教諭同
士でスタートカリキュラムをどのように進めて
いくか共通理解を図ったり、小学校教諭と保育
士・幼稚園教諭の交流会などを積極的に設けて、
この調査結果から発生時期として最も多い、
教育観・子ども観のすり合わせを行ったりして
「4月」に注目をすることも出来るが、「年度末
いる。
まで継続」したという結果も見逃すことができ
スタートカリキュラムは保育・幼児教育から
−86−
小学校段階へ進級する子どもの成長を考えるこ
る姿が多くみられた。
とを目的に提案された。そこから考えれば、ス
緒川小学校第1学年吉川学級の「どうぶつた
タートカリキュラムで重要なことは仙台市のよ
んけん」に向けてのプランニング・タイムでは、
うな指導法の研究などから、教師間の交流など
児童が主体的にこれからの学習を自ら創造して
を通じて子ども理解を深めたり、小学校段階に
いく姿が見られた。翌週の校外学習に向けて学
上がった子どもを見取るためのスタートカリキ
習の構えを確認しつつ、「観察したい」「絵を描
ュラム的“構え”をもつことではないだろうか。
きたい」「声や動きの真似をしたい」「パズルを
もちろん、具体的な4月カリキュラムを考え
つくりたい」「クイズをつくりたい」「動物をつ
ることも非常に重要である。 しかし、それと同
くりたい」などといった意見が現れ、これから
様に、教師同士がカリキュラムの検討を行った
はじまる「どうぶつたんけん」への意欲が高ま
り、学校全体での意識の共有化を行ったり子ど
った。それだけではなく、動物と以前に学習し
も理解の共有化を図ったりすることもスタート
た「はたらくくるま」の体の違いに気付き、動
カリキュラムを編成する上で欠いてはならない。
物に適した材料を判断する児童の姿も見られた。
秋田大学附属小学校での児童の姿、緒川小学
(3)合科的なカリキュラムを編成する
校での児童の姿、そのどちらにも共通していえ
平成20年版学習指導要領解説(生活編)にも
ることは、「児童が思いや願いの実現に向けて、
スタートカリキュラムについて、「生活科を中心
主体的に活動しようとする姿」である。この姿
とした合科的な指導となるように工夫を行うこ
は、平成20年版学習指導要領解説(生活編)で
と」5)とあるように、スタートカリキュラムを
求められる姿まさにそのものだろう。こういっ
編成するにあたっては、「合科的なカリキュラム」
た児童の姿が現れるような合科的なカリキュラ
ということを考慮しながらカリキュラムを編成
ムを編成することが必要である。
したい。その際に、示唆となるのが秋田大学附
ここで重要なことは、「合科的なカリキュラム」
属小学校における「なかよしつくろう」の実践6)
それ自体ではなく、「児童の思いや願い」である。
や、次項にて取り上げる緒川小学校吉川学級に
合科的な学習とは、一教科の範躊に留まらない
おけるプランニング・タイムでの「どうぶつた
「児童の思いや願い」を真に実現するための、
んけん」のウェビングである。
あくまで一つの「手段」とも言えよう。児童は
秋田大学附属小学校の4月カリキゴラム「な
「合科的な学習」をしたいが故に名刺をつくる
かよしつくろう」では、児童同士が握手や挨拶
ことや動物を作ることを思い立ったわけではな
を交しながらともだちを増やしていく「なかよ
い。児童は沢山の友だちと出会いながら沢山の
しつくろう」の活動が進むにつれて、「(「なかよ
友だちをつくっていくために、必要感に駆られ
し」になったけど)名前、忘れちゃった」とい
て名刺を必要としたのであり、「動物をつくりた
った声が児童からあがり、そういった児童の必
い」ために粘土や空き箱を材料とすることを思
要に応じて、「名刺をつくろう!」という『図工』
い立ったのである。
の学習に自然と活動が繋がっていった。この「な
つまり「合科的なカリキュラム」は、それ自
かよしつくろう」の単元ではこの「名刺」を起
体はあくまで「手段」であり「児童の思いや願
点として、名前を丁寧に書く児童の姿(国語)、
い」が存在して初めて、活き活きとした「児童
渡す相手が喜んでくれるような素敵な名刺にな
の思いや願いを実現するカリキュラム」となり
るように絵を描いたり色を塗ったりする児童の
得るのである。
姿(図工)、完成させた名刺をもって再び「なか
そのために教師は、スタートカリキュラムに
よしつくろう」に臨む児童の姿、自分の名刺が
おいて合科的なカリキュラムを編成する際には。
何枚になったのかを数えようとする児童の姿
「児童の思いや願い」が現れるような授業を展
(算数)などといった、児童が主体的に活動す
開するよう工夫する必要がある。また授業を展
−87−
ておきたい。
開していくうちに、思いがけない場面で「児童
の思いや願い」が現れたり、意に反した「児童
の思いや願い」が現れたりすることもあるだろ
3。東浦町立緒川小学校の実践事例と分析
う。そういった場面で適切に受け止めたり判断
筆者は昨年度一年間、東浦町立緒川小学校の
したりすることができるeうな「構え」を常に
第1学年の実践を参観し、そこからスタートカ
備えておく必要がある。
リキュラムの編成に有効だと思われる視点を8
つ得てきた。この中には前項でも述べたような、
(4)「授業内の指導内容」のみに着目するので
日々の学級づくりや特別活動の時間など、生活
はな<、「学校生活の基盤づくり」までを含め、
科の授業場面以外でスタートカリキュラムに示
学校生活全体を捉える。
唆を与える実践も多くみられた。
(3)のように考えると、教科以外でも朝の
以下、その視点を具体的な活動場面から紹介
会や学級活動といった「特別活動」や日々の学
していきたい。
校生活といった日常的な場面でスタートカリキ
ュラムの考え方が現れることも当然考えられる
(1)個に応じた指導
だろう。また、学校の生活場面以外でも、連絡
緒川小の学習の特色ある学習のひとつに「は
帳を通して行う保護者とのやりとりといった場
げみ学習」がある。はげみ学習とは「小学校6
面でも有効かもしれない。スタートカリキュラ
年間をかけて、子どもの学習進度に応じた個別
ムを通して、見えてくる生活科の姿は生活科の
指導を行い、『算数の計算領域、漢字』の学習内
教科としての本質そのものである。
容の反復・習熟を行い定着をはかる」7)もので
このように考えていくと、スタートカリキュ
あり、1年生では算数・国語(文字)の学習が
ラムは極めて生活科の教科の特質に沿ったもの
ある程度修了した3学期からはじまる学習であ
であると考えられる。また、生活科の中で提案
る。それまでに学習した計算・仮名や漢字をド
された概念ではあるが、それが包括するところ
リル形式で各自が自分で自分の進度を確認し、
は生活科という一教科としての枠組みを超え、
プリントを取り、学習を進めていく。必要であ
第1学年のあらゆる場面で有効な考え方だと筆
れば書き取りや計算の練習(力だめし)にはげ
者は感じている。
み、「いけるな」と思えばテスト(検定)を受け
にいく。児童一人ひとりが自分の習熟度に合わ
これまでの研究から、スタートカリキュラム
せて、学習をすすめていく8)。
の全体像を4つの特質を挙げて提案した。これ
子どもは、同学年であっても基礎的な内容の
らから分かるeうに、スタートカリキュラム自
習熟度は異なる。緒川小では、その習熟度の差
体は新しい概念ではあるが、そこに含まれる生
を認め、学級での一斉授業だけではなく、全校
活科の教科観や教師がもつべぎ構え”といっ
TTによる個別学習の時間を設けた。習熟度差に
たものは、これまでに行われてきた実践や幼小
応じた個別指導をしていくために教師、特に担
連携をはじめとした取り組みからも十分に示唆
任は児童一人ひとりの習熟度の度合いを正確に
を得ることができるだろう。また、保育士・幼
把握しなければならない。これは単に「はげみ
稚園教諭との交流を通じて、子ども理解を深め
学習」の進度を把握するだけではなく、日々の
ていくこともこれまでと同様に重要である。平
算数・国語の授業をみながら、この子は繰り上
成23年の新学習指導要領全面実施が近づきつ
がりの計算になると少し苦手になるな」といっ
つあるが、具体的に運用していくカリキュラム
たことも含めて恒常的に児童の学習の様子を把
を開発する前に、どのeうな考えをもってスタ
握するということである。
ートカリキュラムに取り組んでいくべきかを
スタートカリキュラムを考えていく上でも、
『研究』することの重要性を繰り返して強調し
こういった日々の子どもの姿を丁寧に捉え、そ
−88−
こから活動を考えていくということはとても基
たりして、他の児童とも積極的に関わっている。
本的な視点ではあるが、最も重要な視点ではな
そんなA児を他の児童も親しみのあるあだ名
いだろうか。また各教師がそういった
で呼び、一緒に過ごせる時間を楽しくすごして
視点をもつことと同時に、学校の体制として子
いる。また、A児の足の不自由をフォローする
ども一人ひとり「基礎的な内容の習熟度は異な
ために、教室移動の際には学級の児童がA児と
る。」と受け止められることも子どもを成長させ
手を繋いで教室移動を一緒にしてあげるという
てい<上で重要である。
場面がみられる。A児が学級にいることによっ
て見られる児童の関わりあう姿、助け合う姿、
認めあう姿などがある。
図1 自ら学習を進める緒川小の児童の姿
(2)特別支援教育
緒川小学校は、学習環境がオーブンスペース
図2 学級で一緒に学び、すすんで意見を発表するA児
環境であること、5∼6年生のみが2階で生活
するが1∼4年生は1階が主な生活領域になっ
(3)学年での連携(複数教員での指導)
ており、学校の構造上高低差が少ないこともあ
先に述べた「はげみ学習」をけじめとして、
り、体の不自由な児童も多<在籍する。 1年2
緒川小学校では積極的に学年で連携を取りなが
組でも、姉は本来の学区にある隣の小学校へ通
ら活動や指導を行う。特に1年生の授業ではそ
っているが、A児は学区を越えて緒川小学校へ
の光景は多<見られ、2学期に入ると少しずつ
通っている。
学級毎の指導に分かれていくが、1学期は多<
A児は足が不自由で、歩<際に支援が必要で
の授業で学年での指導にあたる。
あり、専任の教員がマンツーマンで支援にあた
「学年での指導」と一口に言っても2種類の
っている。足こそ不自由ではあるが、とても明
指導方法かおる。 1つ目は学年を一つの教室に
るくて元気な性格の持ち主で、廊下などで偶然
集めて合同授業を行う方法。例えば体育などが
出会うと、いつも元気な声を聞かせてくれる。
これにあたる。これは30人の児童を1人の教師
A児は通常学級での指導は難し<、普段から
で見るよりも、60人の児童を2人の教師でそれ
特別支援学級での生活が多い。 しかし、朝の会
ぞれの方向から見ることで指導の目が行き届き
や図工や国語の音読の時間など、学級で一緒に
やすい。
勉強できる内容では積極的に学級に加わり、他
2つ日は同じ授業を各学級で同じ時間に行う
の児童とー緒に学んでいる。Λ児自身も自分が
方法。例えば、国語のひらがなの授業を合同授
1年2組の一一員であるという自覚は強<、積極
業で行うことはあまり有意義ではないと思われ
的に挙手をして意見を述べたり、授業を楽しん
るが、各教室で同時に行うことでその学年のつ
だりする姿がみられる。 1年2組では係活動の
まずきなどを把握したり、すぐに隣の教室に相
役割も割り振られていたり、給食を一一緒に食べ
談に行ったりすることができる。
-
89−
例えば2学期第13週(11月)の授業を見て
境が作られている。
みよう呪全ての授業で学年での連携が図られ
また、緒川小学校では図書の配置も特徴的で
ていることが分かる。学年で進度を揃えること
ある。緒川小学校の校舎内には「図書室」が存
で、一授業を、単元全体どのように展開してい
在しない。その代わ叫こ各学年の教室のすぐ隣
こうかといったことなどを学年の教師間で常に
に、その学年用の図書スペースが設けられてい
相談しながら決めていくことができるし、教師
る。教室のすぐ隣に図書スペースが設けられて
毎の経験などによる指導の差を埋めることにも
いるので、児童にとっても教師にとってもとて
繋がるだろう。また、低学年の学習は各教科毎
もアクセスがしやす<、授業中に分からないこ
に独立して進められるのではなく例えば生活科
とや疑間に思ったことを休み時間に図書スペー
の活動を中心に、各教科が相互に関連しながら
スに調べに行くというような光景に度々出<わ
展開していくことも多い。各学級の学習進度が
す。図書館が1年生にとっても、すっかり学校
揃っていると、学年での合同授業をする際にも、
生活の一部となっており、能動的に本と関わっ
共通の話題で授業を進めることができることも
ていくことができる。同時に図書スベースは児
良さの‥一つだろう。
童にとって貴重なゆとりのある空間にもなって
いるのだろう。こういった教室環境構成を整え、
(4)学習環境づくり
児童の生活の場を潤していくこともスタートカ
保育所幼稚園と小学校で大き<異なるものの
リキュラムにとっては非常に重要なことである。
一つとして、物理的な環境の違いが挙げられる。
それは、“学び”の内容が異なることによって生
じる必然的な段差ではあるが、具体物を通して
思考をすることの多い小学校低学年にとって、
教室環境などを改善したり、よりよい方向へと
考えていくことによって、その段差を不適切な
ものから適切なものへと変えていくことができ
る。 しかし、ただ保育所幼稚園のように、子ど
もがリラックスできるような教室環境を構成す
れば良いというわけでもない。保育所幼稚園も
図3 僅かな時間でも図書スペースで本を読む児童
子どもが様々な活動に取り組めるように砂場に
バケツを用意しておいたり、子どもの関心に合
わせて本の配置を変えていたりするなど、教育
的な意図をもった様々な工夫と配慮がなされて
保育所幼稚園の環境は整えられているのである。
緒川小学校では心理的にゆとりをもてるよう
な空間づくりを行いながら、学習意欲を喚起し
たり、活動を促進したりすることのできる教室
環境構成を日指している。例えば、各学年に学
年のスベースを設け、これから始まる学習に関
図4 ラーニングの掲示物。このように学習の足
連した資料や教具を意図的に置いておくことで、
跡が年間を通して積み上げられていく。
児童の学習意欲を高めたりする工夫がされてい
たり、学習の足跡を学年のスペースに残してお
(5)合科的なカリキュラム
くことで、これまでの学習の振り返り、そして
前項において、活動の中から合科的なカリキ
次の学習への思いを高めていけるような教室環
-
90−
ユラムが展開されていくという例を挙げたが、
が最も大きいものと言えば、学校で過ごす時間
ここでは緒川小学校の「プランニング・タイム」
ではないだろうか。保育所幼稚園では、大きな
という時間から、子どもたちがこれからの学習
時間の流れの中で活動をしてきたが、小学校に
を自ら合科的な学習にしようとする姿を紹介し
入ると、45分という時間を一つの単位として生
たい。
活することを余儀なくされる。45分は、これま
緒川小には毎週金曜日朝の会の後、「プランニ
で行ってこなかった勉強という面からすると、
ング・タイム」という時間が設けられている。
入学したばかりの小学校1年生にとっては長<、
ここでは、次週の計画を「プランニング」とい
また遊びや活動という面からすると、それまで
う一週間の時間割が書かれた表をもとに、どん
保育所幼稚園で行ってきた活動よりはやや短い。
な学習にしていきたいか、それを実現するため
いずれにせよ、45分という時間は学校教育にと
には何を持ち物として持ってこなくてはならな
っては当たり前ではあるが、入門期の児童にと
いのかと言ったことを学級全体で話し合う。教
ってはとても高い壁である。
師から一応の授業計画は示すが、それを一度学
緒川小学校では、「ブロック制」という時間割
級全体で確認し、「来週は金曜に本番の発表があ
を用いている。「ブロック制」とは、2校時文の
るから木曜に練習したい。」「図工の持ち物はボ
授業時間に5分間の休憩を加えた合計95分をま
ンドはもう使わないからいらないよ。」などと言
とめて「1ブロック」とし、その95分の中で、
ったことが話し合われる。
各学級が授業の進度や児童の集中力などに合わ
1年生ではあまり高度な話し合いにはならな
せて、時間を弾力的に運用していける時間割で
いが、学習意欲や学習に対する思いを高めてい
ある。ほとんどの学年では、主に上記のような
く場としてプランニング・タイムが有効活用さ
用いられ方をしているが、1年生では45分をさ
れている。例えば、秋の校外学習で動物園に行
らに細分化し、15分∼20分で区切りをつけるこ
く活動が設定されている前の週のプランニン
とのできるひらがなの練習、算数の学習、音楽
グ・タイムでは、「校外学習で動物を観察してき
の学習を組み合わせ、より柔軟にブロック制を
て、どんなことを勉強していきたいか。」という
活用していた。時間を弾力的に用いることがで
内容が話し合われた。すると、児童からは「ク
きれば、子どもの関心にあわせたり、果中力を
イズを作って、お兄さんやお姉さんに発表した
見ながら学習を進めることが可能である。その
い。」「沢山の動物を描きたい」「動物の鳴き声を
中から徐々に時間を長くしていき、45分を定着
真似したい!」「粘土で動物を作りたい。」「僕は
させることにも繋げていくことができる。スタ
空き箱で作りたい」と言った意見が数多くみら
ートカリキュラムを開発していく上では、以上
れた。結果的にこのプランニング・タイムは1
のような時間の弾力的な運用も考えていきたい。
時間目の図工の授業にそのまま展開してゆき。
「空き箱」と「粘土」の素材の違いに注目して、
(7)地域や家庭との連携
動物の体を作るとき際はどちらの方がより好ま
緒川小学校1年2組の吉川る美教諭は、家庭
しいだろうかといった話し合いにまで授業が深
との連携をとても大事にしている。中でも、連
まった。
絡帳を通して保護者との連携をはかることを重
プランニング・タイムから子ども一人ひとりの
要視しており、連絡帳を覗いてみると児童・保
校外学習に対する学習意欲が高まった場面であ
護者・教師の3者の字が順にびっしり書かれて
る。また、子どもの意見から今後国語や音楽、
いることに気がついた。
算数、図工に授業が合科的に展開されていくこ
児童の字では、明目の持ち物や宿題が毎日書
とが予想できる。
かれている。それだけでなく、その日一日を振
(6)時間の弾力的な運用
り返って楽しかったこと、印象に残ったことを
教室環境の変化と同様、子どもにとって変化
吉川学級では書かせているようだ。はじめの頃
−91−
は一言の感想で終わっていた児童も、書くこと
に喜びを見出せるeうになると、ページ1枚全
動、5歳児にとっては教わった遊びやおもち
ゃを園に持ち帰って、自分でまた工夫してあ
てその日の感想で埋めてしまうという者も見ら
そんだり、それを更に年下の園児に教えたり
れるeうになった。
保護者の字では、日々の児童の様子や、家で
することができる活動となっている。また、
多くの園児にとっては、来年度入学する小学
の様子などが事細かに書かれている。「家ではこ
校を知ることのできる貴重な機会となって
うですが、学校では上手くやっていますか?」
いるので、小学校への期特感を大きく膨らま
ある児童の連絡帳に、毎日仕事で│亡しい母親か
せる活動としても位置づいている。
らこのeうな書き込みがあった。家でも忙しく
あまり接することが出来ていないのだろう。し
面刃 ̄回
かし、心配する気持ちを吉川教諭に託し、悩み
本研究では、スタートカリキュラムの特質を
や思いを相談している。
挙げながら述べることによって、スタートカリ
これらに対し、吉川教諭は丁寧に言葉を返し
キュラムがどのようなものか全体像を提案した。
ている。朝、児童から提出される連絡帳に目を
「4月の“特別プログラム”とせずに、1年間
通し、空いた時間を見つけては言葉を添え、保
ないしは2年間の視点で捉える」、「カリキュラ
護者を励ましたり、児童への言葉かけを書いた
ムを『研究』する」「生活科の本質とも言える合
りしている。もちろんそのためのまとまった時
科カリキュラム」「日々の学校生活全体で捉える」
間などはないし、朱書きを入れるために自習の
の4点を踏まえた上で、各学校において児童の
時間を設けることをしてしまえば本末転倒であ
実態等にあわせてスタートカリキュラムを編成
る。時間はないが、連絡帳に目を通すことの重
することが望ましい。
要性を十分に認識している吉川教諭は合間を縫
っては一人ひとりの連絡帳に目を通し、保護者
や児童と対話をする。こういった日々の積み重
ねは確実に児童一人ひとりや学級、児童をもつ
家族を支えている。
連絡帳を通して家庭と丁寧に関わるという手
立ては保育所幼稚園、中でも保育所において忙
しい保護者と保育者が連絡を取り合う手立てと
しても多く用いられている。小学校へ入学して
も、これまでと同様の手段で保護者が小学校へ
相談することができることは、例え相談相手が
保育者から教師へと変わったとしても、とても
安心できるだろう。
(8)保育園との連携
緒川小学校では、学期に1度の交流会を設
けて、保育園との交流活動を行っている。回
数は少なく、連携とまでは言えないものの、
互恵性を意識した活動が設定されており、普
段ベア活動の6年生に甘えてばかりの1年
生の児童にとっては年下に教えてあげる活
動を通して、大きく成長することが出来る活
92−
Fly UP