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大気汚染の削減がインドの米収穫量を増加させる(米国)【PDF:54KB】

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大気汚染の削減がインドの米収穫量を増加させる(米国)【PDF:54KB】
NEDO海外レポート
NO.991,
2006.12.13
【環境】大気汚染
大気汚染の削減がインドの米収穫量を増加させる (米国)
カリフォルニア大学が行った新しい研究によると、人間活動による大気汚染の削減
が世界で最も貧しい地域の一つであるインドの農業に思わぬ恩恵をもたらす可能性が
あるとのことである。この研究成果は 12 月 4 日発行のオンライン版全米科学アカデミ
ー会報( Proceedings of the National Academy of Sciences:PNAS)に掲載された。
インドでは
緑の革命
と呼ばれる 1960 年代から 1970 年代にかけて米の収穫量が
急激に増加し、主食である米の自給が可能になった。しかし、1980 年代半ば以降は収
穫量が伸び悩み、人口密度が高く貧しいこの国が再び食糧難に陥るのではないかとい
う懸念を呼んだ。収穫量が伸び悩んでいる原因については度々説明が試みられてきた
が、気候変動を引き起こす 2 つの汚染の複雑な相互作用を考慮に入れたものはこれま
でになかった。その汚染源の一つは、大気中の煤やその他の微小粒子(エアロゾルと
総称される)から生成される茶色雲(Atmospheric Brown Clouds:ABCs)であり、
もう一つは二酸化炭素などの温室効果ガスによって引き起こされる地球温暖化である。
画像は 2006 年 2 月 5 日に NASA の人工衛星 Aqua が捉えたものである。
帯状の靄がヒマラヤの南に位置するインド北部を覆っている。靄はネパール
南部とバングラデシュの上空にもかかっている。
出典:Jeff Schmaltz/Moderate Resolution Imaging Spectroradiometer
Land Rapid Response Team, NASA Goddard Space Flight Center
PNAS に掲載された論文の中で、カリフォルニア大学バークレー校天然資源学部の
Maximilian Auffhammer と同大学サンディエゴ校の研究者 V. "Ram" Ramanathan お
よび Jeffrey Vincent は、インドの米収穫量に関するデータを過去に遡って分析し、大
気中の茶色雲と温室効果ガスの複合作用が深刻化する状況にどのような影響を及ぼし
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ているのかを検証した。
その結果、これらが組み合わさるとマイナスの影響がもたらされることが分かった。
また、その影響は 1980 年代半ば以降に強まっており、収穫量に陰りが見え始めた時期
と一致していることも確認された。研究チームは、気候への悪影響がなければ 1990
年代の数年間における収穫量は 20∼25%高かっただろうと推測している。
スクリップス海洋研究所(Scripps Institution of Oceanography)大気科学教授の
Ramanathan を中心とする国際チームが以前に行った研究では、茶色雲によってイン
ド亜大陸の乾燥と冷却が進んでいることが分かっている。エアロゾルの減少は温暖化
傾向を一層強める可能性があるので気候に対する影響は相殺されることになるが、今
回の研究はこれら 2 種類の汚染物質を同時に削減すればインドの米農家の利益になる
としている。その理由は、エアロゾルの減少は降水量を増加させ、温室効果ガスの減
少は米の成長に悪影響を与える夜間の気温上昇を緩和させることにある。
Ramanathan は次のように述べる。「温室効果ガスと茶色雲に含まれるエアロゾル
は地球温暖化に反対の影響を与えることが知られている。この学際的研究の結果、こ
れらが合わさると米の生産に悪影響を及ぼすことが分かった。喜ばしくない発見であ
ることは明らかだ。」
ワシントンに拠点を置く非営利の独立系シンクタンク
Center for Global
Development の主任研究員 Peter Timmer は次のように付け加える。「インドの農業
生産モデルを気候と汚染のモデルに関連づけた結果、インドが茶色雲の汚染によって
犠牲にしてきた食糧生産はすでに何百万トンにも及んでいるという重要なデータが導
き出された。」
研究チームは「茶色雲と温室効果ガスが農業に及ぼす影響は、深刻な大気汚染を抱
えるアジアに対策の契機を与えることにもなる」と指摘する。カリフォルニア大学の
世界紛争協力研究所(Institute on Global Conflict and Cooperation:IGCC)で環境
研究の責任者を務める経済学者の Vincent は次のように述べる。「インドの大気汚染
対策は、人口の大半が集中する都市部に暮らす住民の健康を懸念して行われることが
多い。私達の研究は、貧しい農村地域の経済的な健全性の面からも対策を促すもので
ある。」
また、同大学バークレー校で農業資源経済学の助教授を務める Auffhammer はこう
付け加える。「この研究はインドでも雨の多い地域に重点を置いているが、茶色雲はア
ジアの主要な米生産国の全域で見られるものであり、収穫量が減少している国も多い。
大気汚染が農業の生産量に影響を及ぼす仕組みについて理解を深めることは、世界で
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最も人口密度の高い地域の食料安全保障を確実なものにするために極めて重要であ
る。」
この論文は、Auffhammer、Ramanathan および Vincent の 3 年におよぶ共同研究
の成果である。この研究は、Giannini Foundation、国立科学財団(National Science
Foundation)、米国海洋大気庁(National Oceanic and Atmospheric Administration)、
世界紛争協力研究所(IGCC)などの支援によって行われた。
出典:Reducing pollution could increase rice harvests in India, study says
http://www.berkeley.edu/news/media/releases/2006/12/04_rice.shtml
Copyright © 2006 UC Regents. All rights reserved. Used with permission.
翻訳:山本 かおり
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