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菜の花で取り組む資源循環プロジェクトの調査・研究

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菜の花で取り組む資源循環プロジェクトの調査・研究
平成24年度
東大阪市地域研究活動報告書
菜の花で取り組む資源循環プロジェクトの調査・研究
平成 25 年 3 月 31 日
大阪産業大学人間環境学部
花田眞理子
目次
Ⅰ.研究の背景と目的
(1) 研究の背景
(2) 研究の目的
Ⅱ.菜の花プロジェクトとは
Ⅲ.東大阪における菜の花栽培ルート
(1) 資源賦存量(作付可能面積)
(2) 収穫量および環境負荷削減量の推計
(3) コスト分析
(4) 課題
Ⅳ.東大阪における BDF 製造ルート
(1) 資源賦存量(廃食油排出施設等)
(2) 回収量および環境負荷削減量の推計
(3) コスト分析
(4) 課題
Ⅴ.菜の花栽培と BDF 製造で取り組む地域資源循環プロジェクトの効果と課題
(1) 事業効果の把握
(2) 環境面・経済面・社会面における効果
(3) 東大阪市における地域資源循環を通じたまちづくりの留意点
Ⅵ.菜の花プロジェクトの事業化先進事例の実地調査
(1) あいとうエコプラザ菜の花館
(2) 大町地域づくり工房
(3) 洲本市菜の花エコプロジェクト
(4) 西東京菜の花エコ・プロジェクト
Ⅶ.東大阪と菜の花栽培
(1) 司馬遼太郎記念館と菜の花忌
(2) 「菜の花を休耕田に咲かそう」プロジェクトの実施
(3) 野崎参りと菜の花
Ⅷ.東大阪における菜の花プロジェクトの方策の提案
Ⅸ.おわりに
Ⅰ.研究の背景と目的
(1)
研究の背景
① 持続可能な社会(Sustainable Society)をめざす動き
近年、地球温暖化の進行が身近な異常気象事象として感じられるようになり、資源エネル
ギー資源の枯渇や自然環境の悪化などと相まって、経済社会の持続可能性(Sustainability)の
危機が指摘されるようになってきた。従来の、経済効率を優先するような社会のあり方は、持
続可能ではない、という観点から、持続可能な社会の実現のために、
『低炭素社会』
、
『循環型社
会』
、『自然共生型社会』という3つの社会をめざしていかなければならない、というのが21
世紀の世界的な共通認識となっている。
また、地球規模の環境問題への取り組みは、地域社会における活動が重要であるとの考え
方(Think Globally、Act
Locally)から、地域の様々な主体による協働の取り組みが推進さ
れてきた。その中でも「菜の花プロジェクト」と呼ばれる取り組み、すなわち、菜の花を栽培
し、菜種油を生産し、さらに廃食油を回収して軽油代替燃料として利用するという地域資源循
環プロジェクトは、持続可能な社会を目指す3つの社会の姿すべてに関連した、まさに地域に
おける協働プロジェクトであると言えよう。
② 大阪府の諸施策
さて大阪府は平成 18 年度から、
「BDF 利用社会実験」事業を 3 年にわたって実施した。こ
れは、府下の休耕田などで菜種を栽培して食用油を作り、使い終わった廃食油は BDF(バイオ
ディーゼル燃料)に精製して、軽油に混合して路線バスで燃料利用するというエネルギーの地
産地消の実証実験である。その結果、こうした取り組みは、農地保全に資するだけでなく、カ
ーボン・ニュートラルの観点(植物由来の燃料は、植物の生長時に二酸化炭素を吸収している
ことから、燃焼時に排出する二酸化炭素を温室効果ガスの排出にカウントしないという考え方)
から、地域の温室効果ガス排出削減に貢献し、さらに地域の行政・企業・農家・府民団体など
の協働を通じて、環境教育や意識啓発につながるということが示された。なお筆者は、この「大
阪府バイオディーゼル燃料利用実証検討会」において会長を務め、実証実験を通じたネットワ
ークづくりに関わった経緯がある。
さらに大阪府では平成 19 年、「都市農業の推進及び農空間の保全と活用に関する条例」が
制定されている。これは、農業者、農業団体、府民が一体となって農空間の保全と活用を進め
ていくことをめざすものである。つまり府民参加で遊休農地を守り活かそう、という趣旨であ
り、食糧生産だけでなく、防災、ヒートアイランドの緩和、景観形成、教育・福祉など、農空
間のもつ様々な公益的機能が評価されている。その中で、遊休農地の解消に向けた取り組みの
一つとして挙げられているのが「資源・景観作物の栽培」であり、上記の社会実験で子供たち
とともに進める菜の花栽培の様子がパンフレットにも紹介されている。
また平成 24 年に制定された「大阪府バイオマス利活用推進マスタープラン」でも、
「具体
的取組」として、
『BDF(バイオディーゼル燃料)利用の推進:農家をはじめ府民参加による菜
の花の栽培⇒菜種⇒BDF 化施設⇒BDF 化⇒燃料利用⇒二酸化炭素排出・吸収⇒菜の花の栽培
⇒・・・・・・・』というモデルが図示されている。
つまり、
最近の大阪府の施策においては、菜の花栽培と BDF 利用のプロジェクトに関して、
農空間の利用や、資源循環、温室効果ガスの削減、協働による地域づくりや啓発など、さまざ
まな効果が期待されていると言えよう。
③ 東大阪市「地球温暖化防止実行計画【区域施策編】」の策定
東大阪市では、国の「地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年)」の規定に基づき、
市域の自然的社会的条件に応じた温室効果ガスの排出抑制等の施策を推進するため、平成22年
3月に、「地球温暖化防止実行計画【区域施策編】」を策定した。その中で、計画推進の上で高
い効果をもたらすことが期待でき、かつ東大阪市の特徴を活かした、各種施策を横断する取組
を5つの重点プロジェクトとして発表したが、その一つが『菜の花で取り組む資源循環プロジ
ェクト』である。すでに市内各所で市民団体が取り組んでいる菜の花栽培活動を踏まえて、
『・・・・耕作放棄地や堤防等の地形を活かし、菜の花の栽培を進めるとともに、菜種から油をつ
くり、給食等で活用し、さらにはBDF化を行い、公用車等で利用するなど、身近に資源循環を
体験することのできる菜の花プロジェクトを検討します』とされている。
(2)
研究の目的
東大阪市において、
『菜の花で取り組む資源循環プロジェクト』を実施するための検討材料
として、東大阪市域の諸資源(地理的条件、文化・歴史的条件、人口、産業等の地域資源)の
特徴を考慮しながら、賦存量推計やコスト分析などのシミュレーションを行い、実施に向けた
課題を整理することが本研究の目的である。
さらに、市域内における資源・エネルギーの循環プロセスを構築するために、東大阪市の
特色を活かした協働推進の具体的な方策についての提案をめざすこととする。
Ⅱ.菜の花プロジェクトとは
菜の花プロジェクトとは、
「休耕田などに菜の花を植え、菜種を収穫し、搾油して菜種油
に。その菜種油は家庭での料理や学校給食に使い、搾油時に出た油かすは肥料や飼料として使
う。廃食油は回収し、軽油代替燃料(BDF)にリサイクルする。BDFを地域で利活用する。
」
(菜の花プロジェクトネットワークHPより引用)という「地域自立の資源循環サイクル」の
取り組みである(図1参照)。
1998年に滋賀県愛東町(現・東近江市)でスタートし、従来の廃食油の回収リサイクル事
業の拡大と相まって、地域振興、観光資源、環境教育など、地域特性を活かしたバイオマス利
活用の先進モデルとして、現在では全国100カ所以上で展開されている。この取り組みでは、
農地を本来の農地として利用すると同時にエネルギー需給の自立を促すことで、地域活性化に
寄与することが期待されている。
図Ⅱ-1 菜の花プロジェクトの概要
(菜の花プロジェクトネットワークHP
http://www.nanohana.gr.jp/index.php?%BA%DA%A4%CE%B2%D6%A5%D7%A5%ED%A5%B8%A5%A7%
A5%AF%A5%C8%A5%CD%A5%C3%A5%C8%A5%EF%A1%BC%A5%AF%A4%C8%A4%CF%A1%A9
より引用)
日本では、菜種油の生産コストが、人件費を中心としてかなり高価につくため、菜種油を
原料とした燃料の利用を拡大させるのは困難であるとされる。ただし、啓発効果や地域づくり
などの点では高く評価されている。
菜の花プロジェクトが環境に与える効果としては、以下の諸点が考えられる。
①BDFで代替した分の化石燃料の使用量を削減できること
②廃食油を下水に流さずにすむため、水質汚染が回避できること
③カーボン・ニュートラルの観点から温室効果ガスの排出を削減できること
④BDFの利用によって有害物質の大気への排出が軽減されること
⑤美しい景観が形成されること。
本稿では以下の章で、菜の花プロジェクトのプロセスを、
「菜の花栽培ルート」と「BDF製
造ルート」に分けて、分析することとする。(図2参照)
図Ⅱ-2 菜の花プロジェクトのプロセス
*菜の花栽培ルート:菜種栽培・収穫・搾油・精油⇒菜種油/油かす
*BDF製造ルート:菜種油/廃食油回収⇒BDF(バイオディーゼル燃料)
Ⅲ.東大阪における菜の花栽培ルート
菜の花プロジェクトにおいて、菜種を播いて菜の花を栽培し、その種を収穫して搾油・精油するプ
ロセスを「菜の花栽培ルート」と呼ぶことにする(図Ⅲ-1参照)。このルートにおける生産物は、
『菜
種油』と搾油後の『油かす』である。なお、搾油のみで精油せずに時間をかけた濾過工程を経て菜種油
を製造する場合、また搾油した油をそのまま BDF の原料として使用する場合もある。
このルートの各プロセスでは、二酸化炭素の吸収や農地保全、地産地消や地域活性化など、さまざ
まな効果が考えられる。
図Ⅲ-1 菜の花栽培ルートのプロセス
(1)
資源賦存量(作付可能面積)
菜の花栽培ルートでの物理的な賦存量は、東大阪市における菜の花の栽培可能面積に起因す
ると考えられる。具体的には農地や公有地のうち、現在、未利用低利用の状態にあるもの、
および河川の土手や堤防などの面積である。
① 未利用地面積(田畑)

農林業センサスに報告されている東大阪市の耕作放棄地面積は 11ha(販売農家 1ha、自給
的農家 4ha、土地持ち非農家 7ha)であった(
「2010 世界農林業センサス報告書」より)
。
しかしこの数字はかなりラフであり、しかも根拠データの住居表示が古いなど、やや正確
性に疑問が残る。

国土地理院の空撮写真(市西 2007 年、市東 2008 年公表)をもとに、大阪府土地改良事業
団体連合会 農空間技術・情報センターが測量した未利用農地の面積は、東大阪市域全体で
67932.054 ㎡=約 6.8ha である。根拠データは地番も含めて詳細に示されており、かなり
信頼性が高いものと判断した。
② 低利用地面積(公有地)
公有地のうち、その利用がなされていないとして公有財産監査対象となっている土地につ
いて、栽培利用が可能かどうか検討した。その結果、ほとんどの土地はすでに今後の利用
が見込まれる中で、地下に調節池があり用途に制限があるため、地上を活用しにくい「長
瀬調節池」の利用は可能であると思われた。その面積は「包括外部監査結果報告書(平成
23 年 2 月)」によれば 5946.91 ㎡=約 0.6ha である。別の資料によると実測値は約 0.64ha
であるとの情報もいただいたが、今回は報告書の数字を採用することにした。
③ 河川の土手・堤防など法面の面積
現在、市内の市民グループが、恩智川など河川の堤防で菜の花栽培を行い、景観形成によ
る地域環境の向上に取り組んでいる。しかし菜の花プロジェクトのプロセスを考えた場合、
菜の花の刈取り・集積・乾燥などの収穫作業が困難なこと、法面での作業に関する安全上の
懸念が残ること、さらに河川管理者との調整が必要なことなどを鑑み、これらの場所では、
菜の花による景観形成の目的に限定した方が現実的であると判断し、今回の菜種収量の推計
からは外すこととした。
(2)
収穫量および環境負荷削減量の推計
① 推計の前提
菜種の単位収量:1.65t/ha(165kg/10a)
(菜の花栽培を実施している各地の公開されている収穫量を参考にした値。東近江市の
栽培マニュアルにおいて、10a あたりの単位収量を 150kg と 200kg の 2 ケースで示し
ており、その間の数値は妥当であると考えられる。農業者ではない学生主体で実施
した大阪産業大学の菜の花栽培の実績収量は 35~185kg であり、連作障害が出る以
前の 3 年間の平均単位収量は 153.6kg であった。北海道滝川町の単位収量は 260kg
だが、これは大規模栽培による高収量と考えて参考値からは外した)
(経済産業省のポテンシャル推計では 226kg とされている)
菜種の搾油率:30%
(菜種の平均油分は 40%であるが、焙煎効率の影響などを考慮して 搾油率は 30%とす
る)
菜種油(L)から BDF (L)の換算係数=1
菜種油(L)の比重:0.91
軽油燃料の C02 排出量:2.58kg-C02/L
(出典:
「算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧平成 24 年 11 月公表」
(環
境省・経済産業省)より)
② 推計結果
表Ⅲ-1 東大阪市における菜の花栽培によるポテンシャルの推計
面積
(ha)
菜種(トン)
菜種油
(トン)
BDF 換算量
(kl)
油かす
(トン)
7.4
12.21
3.663
4.025
8.547
*面積は、未利用農地(6.8ha)と低利用公有地(0.6ha)の合計
*油かすは、搾油後の残渣=菜種収穫量×(1-0.3)で計算
③ 温暖化防止効果と副産物
BDF代替を通じた軽油使用量削減による温室効果ガスの排出削減量
10384.5kg-CO2
油かす販売(kg あたり 30~200 円)による売上高
約 25 万円~171 万円
(3)
コスト分析
① 菜の花栽培の収益構造
東近江の菜種栽培農家の収益データの事例を参考にすると次のようになる。
表Ⅲ-2 栽培農家の菜種収益データ(10a あたり)
2011 年 3 月
<収入明細>
金額
収入内訳
単価
数量
(150kg/1
0a)
なたね販売代金
116 円
なたね販売代金栽培
12,000
助成金(市)
円
戸別補償(戦略作物
20,000
助成)
円
戸別補償(産地資金)
15,000
円
戸別補償(畑作物所
20,000
得補償営農継続)
円
金額
(200kg/10a)
150kg
17,400 円
23,200 円
10a
12,000 円
12,000 円
10a
20,000 円
20,000 円
10a
15,000 円
15,000 円
10a
20,000 円
20,000 円
戸別補償(畑作物所
8,470 円
140kg 以
得補償数量払)
/60kg
上
1,411 円
8,470 円
収入合計
85,811 円
98,670 円
<支出明細>
播種まで
支出内訳
単価
数量
金額
金額
種子代
3,800 円
0.7kg
2,660 円
2,660 円
10,093 円
10,093 円
石灰・肥料等
人件費(耕運含)
耕運経費(トラクター
経費)
管理
収穫
1,500 円
4 時間
6,000 円
6,000 円
1,000 円
2 時間
2000 円
2000 円
小計
20,753 円
20,753 円
追肥(2 回分)
1,205 円
1.75 袋
904 円
904 円
人件費
1,500 円
1 時間
1,500 円
1,500 円
小計
3,609 円
3,609 円
コンバイン利用料
7,000 円
1/10a
7,000 円
7,000 円
人件費(運搬)
1,500 円
1 時間
1,500 円
1,500 円
小計
8,500 円
8,500 円
乾燥
乾燥機利用料
27 円
200kg
5,400 円
7,200 円
袋詰め
袋詰め委託(袋代込)
180 円
6袋
1,080 円
1,440 円
支出合計
39,341 円
41,502 円
150kg/10a の場合、所得は 46,470 円
200kg/10a の場合、所得は 57,168 円
⇒いずれにしても、野菜と同様の農業収益は見込めない
⇒公的な栽培補償(補助金)が重要な財源になる
② 東大阪市の場合の助成金
東大阪市「花とみどりいっぱい運動」による補助金の利用が可能
事業補助金<60 円/㎡
(4)
(例:約 38000 円/10a・年の収益)
課題
① 原料の確保・・・・・農家の栽培意欲を維持できる利益還元(野菜並みの採算性)は見込
めない ⇒ 補助金?輪作?
② 販路の確保・・・・・地域住民+大阪市民(地産地消、食の安全、製品のブランド化)
⇒東大阪のもつstoryを活かす必要がある
(5)
各地の菜種地油のブランド価値
全国各地で生産されている菜種油は、その精油方法や品質などにより、100g換算にして70円から
940円と価格は様々であるが、中心価格帯は150~300円である。
その中で最も価格が高い(100g
940円)のは、
「美麻高原菜の花オイル100」
(長野県大町市NPO法
人地域づくり工房)はである。これは『日本初、エクストラヴァージン・ナタネ油』として、調理用で
はなく調味用として販売されている。有名レストラン「クイーン・アリス」の石鍋シェフ(料理の鉄人)
に「イタリアのオリーブ油に匹敵する」と絶賛され、現在、注文を受けてその都度搾油し、調味油とし
てレストランに卸している。その他、地域の農家レストランなどでも使用されている。この菜種油の特
徴は、自然の風味と栄養素が失われぬよう、時間をかけた「自然濾過」のみで製造していることである。
脱色・脱臭していないので、色が濃く、香りが強い。高価なこともあり、調味料・ドレッシングとして
の利用が勧められている。この高価格でのニーズの存在が、菜種農家からの菜種の高価買い取りを可能
にし、経済的にも持続可能な循環システムが構築されている。
ストーリー性がブランド価値を生み出すという実例である。
図Ⅲ-2 地域づくり工房の「美麻高原 菜の花オイル」と調理例
*単にトーストに塗るだけでも美味しい、とのこと
*そばつゆやてんぷらにもレシピは広がる(菜種オイルソムリエ研究会ブログより写真引用:
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2f/98/99dfd5f2313ab35a29d3add3a1e23fea.jpg
)
Ⅳ.東大阪におけるBDF製造ルート
菜種油やその他の植物油を食用に使った後の廃食油は、下水に流せば水質汚濁の原因となり、浄水
のためのコストやエネルギーも大きいなど、その処理が環境面で重要な影響を与える課題である。そこ
で、廃食油を回収し、BDF に精油して軽油の代替燃料として利用するというプロセスが「BDF製造ル
ート」である。
図Ⅳ-1 BDF製造ルートのプロセス
(1)資源賦存量(廃食油排出施設等)
東大阪において、排出される廃食油をすべて回収するとしてBDF製造のための資源賦存量を推
計する。菜の花栽培ルートで収穫した菜種油の利用方法やその内訳などは未定なので、今回はすべ
て食用に利用してからその廃食油をBDFの原料とすることにした。そのため、ここでは廃食油の
みをBDFの原料としている。なお、原単位は千葉県「モデル・バイオマスタウン設計業務調査」
および北海道「道内観光地向けバイオディーゼル燃料導入マニュアル」をもとに設定したものであ
る。また一般家庭からの一人当たり年排出量は、先行研究および自治体アンケート結果などから平
均値を算出した。
① 事業系廃食油排出量の原単位と東大阪市内の施設存在数
大手ホテル(旅館)
8,000(4,000~12,000)kg/カ所
百貨店・スーパー
7,200(4,800~9,600)kg/カ所
ファストフード店
7,200kg/カ所
1.57kg/床
:9カ所
:74 カ所
総菜小売店(料理品小売業)1,920kg/カ所
病院
:38 カ所
:38 カ所
:4,607 床(25 医療施設)
学校給食を食べている人
0.53kg/人
:27885 人
②一般家庭からの廃食油排出量の原単位と人口
1.57(O.95~1.9)kg/人・年
:507,312 人
(2)回収量および環境負荷削減量の推計
① 推計の前提(一部再掲)
廃食油(L)から BDF (L)の換算係数=0.9(実施事業における実績の最小値)
菜種油(L)の比重:0.91
軽油燃料の C02 排出量:2.58kg-C02/L
② 東大阪市内の廃食油回収可能量
事業系・・・・・943,612kg
家庭系・・・・・796,480kg
③ 推計結果
表Ⅳ-1 東大阪市におけるBDF製造によるポテンシャルの推計
廃食油回
収可能量
(事業者)
廃食油回
収可能量
(家庭)
943,612kg
796,480kg
BDF 製造量
1,566,083kg
BDF 燃料生産量
(比重換算)
1,720,970L
④ 温暖化防止効果と副産物
BDF 代替を通じた軽油使用量削減による温室効果ガスの排出削減量
4,440,102.6kg-CO2
(ただし、前章で推計した菜の花栽培による削減効果を含む値)
BDF 製造過程で発生するグリセリンや洗浄廃液の処理費用の発生が見込まれる
(3)コスト分析
① 回収段階
回収段階は、排出者(市民、事業者等)の協働の取り組みとし、費用に含めない。回収方式
とその特徴について、以下に整理する。
<市民>
常設拠点方式: 回収ボックスを収集圏内に数箇所設置。(月 1 回程度の収集)
・ 自治会館や役所に常設する方式
・ 回収容器をステーションに常設する方式
・ 地域リーダーの軒先等へ常設
⇒ある程度、回収日時等は自由であり、市民にとっても利用しやすい。
拠点回収方式 :回収日時と場所を指定。回収業者が指定場所に回収容器(ドラム缶等)を
その都度、持ち込み回収。
⇒自治会の立会い等が求められる。
既存ルート回収方式:通常のごみ回収時に回収。ごみを出す際に密閉容器で出してもらう。
⇒自治体が密閉容器を配布する等の対応事例がある。
<事業者>
持ち込み:直接、業者が持ち込む方式
既存ルート回収方式:廃食用油回収業者のルートを通して回収。既存回収業者が持ち込み。
常設拠点方式 :回収ボックスを排出事業所内(複数で共同で持つことも可)に設置し、半
月から 1 か月に 1 回程度の収集。
② 精製段階
回収された廃食油は、メタルールや苛性ソーダなどの薬品によってグリセリンを分離させる
「エステル化」という化学反応によって、軽油代替燃料のBDFとなる(図Ⅳ-2)。BDF製
造機器や規模にもよるが、廃食油を投入してからBDFが製造されるまで、およそ2~3日か
かる。
図Ⅳ-2 BDF製造工程
(ダイアモンドエンジニアリング株式会社の HP より引用:
http://www.diamond-eng.co.jp/products/3208.html )
図Ⅳ-3 廃食油からバイオディーゼルまでの各段階の油の様子
あいとうエコプラザ菜の花館にて撮影
このBDF精製段階における収支の推計をまとめたのが、表Ⅳ-2である。これは、新エネ
ルギー・産業技術総合開発機構「バイオマスエネルギー導入ガイドブック」の値をもとに推計
したものであるが、この推計によれば、運転維持費(ランニングコスト)は 52.44 円/L で、収
入による初期投資(プラント建設費)回収年数は 9.2 年となる。
表Ⅳ-2 BDF製造事業の収支の推計
支出
設定条件
建設費
運転維持費
・処理規模:
200L/日
・ユーティリティ費:
104 万円
・メンテナンス費:
・BDF 精製量:
1550 万円
180L/日(90%)
・稼働日数:
250 日
23 万円
・人件費:
86 万円
・グリセリン等処分費:
23 万円
計:236 万円
収入
BDF 販売:405 万円(90 円/L ×180L ×250 日)
ここでは 1 リットル当たり 52.44 円と算出された運転維持費が、実際に事業化している事例を見る
と、87.7 円(東近江市)
、82 円(京都市)など、もっと高くなっている。例えば 82 円/L の場合、初期
投資の回収年数は 40 年以上となる。
事例:東近江市あいとうエコプラザ菜の花館におけるBDF製造コスト
119.8 円/L(年間3万 L 生産した場合)
(そのうち 32.1 円は軽油取引税であり、軽油と混合しなければ非課税)
⇒運転維持費(人件費+光熱水費+薬品代+プラント減価償却費)は 87.7 円
事例:大阪府BDF燃料利用社会実験 STEP1(平成 18 年度)
菜の花栽培からBDF製造までの全工程を業者委託し人件費算入すると 5462 円
一方、上記推計の「収入」で設定したBDF価格 90 円/L は実勢価格より安く、今後軽油価格の上
昇が見込まれることからも、もっと高く設定できると思われる。その場合は利益が大きくなるため、回
収に要する年数は少なくなる。
(5)
課題
① 原料の確保・・・・・品質の安定、回収ルートと協働ループの確立
② 副産物(グリセリン)などの処理
③ 法規制への対応・・・・・品確法、軽油取引課税
④ 販路の確保・・・・・地域内での利用(地産地消を進めるため、利用先や利用方法の独自性を
アピールする必要あり)
⇒東大阪のもつstoryを活かせるか?
Ⅴ.菜の花栽培と BDF 製造で取り組む地域資源循環プロジェクトの効果と課題
(1)事業効果の把握
事業の経済的な費用対効果を算出する場合、市場の内部に発生する費用と効果は貨幣価値に
よって把握しやすいが、本プロジェクトのように地域循環など、地域づくりを目指す事業の場
合は、経済面のみならず、環境面や社会面の効果も考慮する必要がある。この場合、市場の外
部に発生する外部効果および将来にわたって発生する効果などについても合わせて考慮する必
要がある。(
「経済価値」は,正味現在価値ベースである)
事業効果=直接的経済効果十間接的経済効果+外部効果
① 直接的経済効果=Σ(事業収入-運転費用)-施設設備費
事業収入:生成物(エネルギー・副産物)販売収入,廃棄物引取収入
運転費用:原材料費・運搬費・エネルギー費用・補修費・人件費など
② 間接的経済効果:廃棄物処理にともなう行政コストの削減や地域経済への波及効果など
③ 外部効果:環境改善効果・環境意識向上など
事例:菜の花プロジェクト(H18 年度大阪府 BDF 燃料利用社会実験)の種蒔き参加者(大人
125 名、小学生 333 名)と一般府民(インターネット府政モニター375 名)に対して、菜種の収
穫作業(ある程度の負担を伴う作業)への参加意欲を尋ねたアンケート結果では、参加意思を
表明した割合は、一般府民が 36%に対して、大人の参加者は 60%、小学生の参加者では 66%
であり、菜の花プロジェクトへの参加を通じた教育効果が確認されている。
(2)環境面・経済面・社会面における効果
① 環境面
地球温暖化防止
(石油系燃料の代替使用による二酸化炭素排出の削減効果)
廃棄物(廃食用油)のリサイクル
(地域での資源循環の構築を通したリサイクル効果)
(排出しないことによる水質保全効果)
農空間の積極的利用
② 経済面
地域の活性化・農業振興
(地域での菜の花栽培との連携を通した効果)
③ 社会面
地域イメージの向上
地域住民の環境意識の啓発
(家庭からの廃食用油の回収を通した効果)
(菜の花栽培を通じた地域のつながりの確認)
(環境教育効果)
図Ⅴ-1 菜の花プロジェクトによる効果
(NPO 法人愛のまちエコ倶楽部資料より)
(3)東大阪市における地域資源循環を通じたまちづくりについて
① 東京都産業労働局「農業農地を活かしたまちづくりモデル」の5類型
ⅰ)地場産業連携・活性化タイプ
ⅱ)レクリエーションタイプ
ⅲ)地域コミュニティ形成タイプ
農業体験や学童農園などがコミュニティを形成
ⅳ)安心安全なまちづくりタイプ
大災害時には農地を身近な避難場所として活用
ⅴ)美しい田園風景保全タイプ
② 農林水産省バイオマス連絡会議の「菜の花プロジェクト」資料による地域循環推進のための
ポイント
・ 地域で取り組むことができるテーマをもとに、地域の知恵やアイデアをどこまで出して、どこまで
取り込むことができるか、農業などの第一次産業がどれだけ成立していくか、地方公共団体のバッ
クアップがどれだけ可能か。
・ 特に地域のキーパーソンと行政施策がうまく連携することにより、取組が機能する。
・ BDF 燃料については、小規模、地域分散型が望ましい。
・ 取組を継続的に進めていくためには、ボランティアではなく「業」として成立させることが重要で
ある。
・ 取組にあたっては、リーダーを含めて地域住民が楽しく取組に参加していることが重要である。
東京都のまちづくりモデルでは、東大阪市には、ⅲ)とⅳ)のタイプのまちづくりが適していると考
えられる。
また農林水産省の資料に挙げられているポイントは、今後東大阪市で菜の花プロジェクトを推進し
ていくうえで参考にすべき重要な諸点と言えよう。
Ⅵ.菜の花プロジェクトの事業化先進事例の実地調査
(1)あいとうエコプラザ菜の花館
滋賀県東近江市(旧愛東町)は菜の花プロジェクト発祥の地である。もともと琵琶湖の水質保
全を目的として石鹸使用運動、廃食油リサイクルの取り組みが始まったが、平成 10 年位にはあい
とう菜の花エコプロジェクトがスタートした。
現在、NPO 法人愛のまちエコ倶楽部が指定管理者としてあいとうエコプラザ菜の花館を管理運
営し、東近江市全域における廃食油回収と粉石けんおよびBDF製造事業を行っている。また、農
家に麦からの転作を呼びかけて菜の花栽培を全面委託し、菜種を買い上げ菜種油地産地消事業とし
て学校給食への利用、油かすの販売なども行っている。
菜の花プロジェクト関係の視察も多く、来館者を集めるなど観光資源にもなっているとのこと
であった。
あいとうエコプラザ菜の花館の全景
BDF製造機
「菜の花エコプロジェクト」の説明板
菜種搾油・精油機と油かす製造機
菜種油製造過程の説明板
廃食油回収システムの説明板
BDF 利用先の説明板
菜種油(商品)
廃食油回収ボックス(拠点設置用)
BDF 燃料を利用している運搬カート
副産物の油かす(商品)
市内の廃食油回収拠点マップ
廃食油石鹸(商品)
(2)大町地域づくり工房
スキー場跡地(閉鎖後のゲレンデ)を利用して、蕎麦と菜種の混作を開始し、現在では輪作で
栽培している。「菜の花農業生産組合」に栽培を委託し、菜種を買い取るが、買取価格が高いのが
特徴である。それを可能にしているのは、焙煎せずに時間と手間をかけて搾油を行い、調理用では
なく「エクストラヴァージン調味用オイル」として、菜種地油のブランド化に成功していることと、
その都度受注量だけ搾油して販売するルートを確保していることである。
また、民家の離れを改造した小屋で、廃食油からBDF製造を行っているが、寒冷地なので固
化することから、冬場はBDFの製造は休止中であった。
NPO の事務所は駅に近い商店街の一角にあり、小水力発電にも取り組むなど、地元密着で「小
金を回す」仕組みづくりを進めているためか、地元の方がひっきりなしに訪れていた。
今回のエコツアーの案内は NPO 法人の傘木代表であった。
NPO 地域づくり工房
スタッフブログ 2010 年 5 月 10 日より引用
視察時の現地(まだ雪深いゲレンデ)
(http://npo.omachi.org/?p=3137)
NPO 地域づくり工房の入口
菜種油のヴァージン・オイルの説明
菜の花農業協同組合(菜種貯蔵・搾油所)
蕎麦と菜種の輪作やプロジェクトの説明
種(菜種、エゴマ、ヒマワリなど)と油の展示
BDF の精製場所(民家の離れ)
種の貯蔵
入口の看板
BDF 製造プラント
(左が傘木代表)
廃食油利用による BDF 製造の説明
(3)洲本市菜の花エコプロジェクト
淡路島の兵庫県洲本市では、休耕田で農家が菜の花栽培を行い、刈取り以降の工程はウェルネ
スパーク夢工房が、搾油・精油・販売などを行っている。
廃食油は市内の一般家庭から、ペットボトルなどに入れて、他の家庭ごみと同様、「廃食用油
の日」に市が回収し、夢工房の製造施設で BDF を製造している。現在B5生成施設を建設中である。
洲本市の市花は菜の花である。洲本市は平成 19 年に策定した「地域新エネルギービジョン」
で、重点プロジェクトとして、
「菜の花エコプロジェクト」を挙げている。内容は、日量 100L の廃
食油を処理することにより、年 84 トンのCO2 削減の目標を掲げるものである。
なお洲本市は司馬遼太郎「菜の花の沖」の主人公のモデル、高田屋嘉兵衛の出身地であること
から、東大阪市とは菜の花を軸にした縁がある。パーク内の菜の花ホール(高田屋嘉兵衛顕彰館・
歴史文化資料館)には灯火革命のコーナーがあり、菜種油の栽培と普及が、江戸時代の庶民文化の
発達を支えたこと、1714 年の記録によれば、菜種油は大坂の移出品の 27%(金額ベース)を占め
ており、北前船によって諸国に運ばれたことなどが記されており、各種の燈明皿や行燈なども展示
されていた。
高田屋嘉兵衛の顕彰碑
洲本市「新エネルギービジョン
~自然と仲直りする洲本~」
BDF利用の送迎バス
ウェルネスパーク五色の宿泊施設「浜千鳥」の室内設置パンフレット
五色町の農空間は菜の花盛り
温室の周囲のスペースも菜の花畑に
隣は名産のたまねぎ畑
東の大野町も菜の花栽培が盛んだとのこと
ウェルネスパーク内
夢工房全景
BDF製造機
BDF製造施設
BDFのタンク
菜種油を利用していたころの行燈など
菜種油搾油施設(右にB5施設建設中)
燈明皿の一種
菜の花ホール(高田屋嘉兵衛顕彰館・歴史文化資料館)にて
(4)西東京菜の花エコ・プロジェクト
西東京市は、東京の通勤圏の郊外である保谷市と田無市が合併して 2001 年にできた市である。江
戸時代に玉川上水の整備に伴って開発が行われ、明治以降も東京を支える都市郊外の農村地帯として発
展した。戦後は西武戦の開通などによって、東京のベッドタウンとして人口が増えてきたが、現在でも
住宅地や社宅・集合住宅などの中に畑が残っており、市内の 13%は高地である。西東京菜の花エコ・プ
ロジェクトは、地元の熱心な農家と市民が一緒に菜の花などの栽培を通じた農業体験から 2003 年に出
発した。市内の東大農場での農場塾では 10a のヒマワリ栽培から花押までの実習や口座に協力したり、
市の環境課の廃油回収と BDF 製造に働きかけたりと多彩な活動を繰り広げている。
今回は、茂木千佳子代表と、土地を無償提供している江戸時代からの農家の都築氏にヒアリング、
さらに「エコプラザ西東京」で環境保全課の三村氏から、廃油回収をはじめとする資源循環の輪を広げ
る取り組みについてお聞きした。また、翌日は旧東大農場の公開日であることがわかったため、現地調
査も行ってヒマワリの栽培地を確認することができた。当日は様々な市民団体がボランティアで運営協
力しており、地域協働の仕組みが活かされていることを感じた。
借りている耕作地はこの一画
芽の出てきた菜の花畑を前に、都築氏と茂木氏
こぼれ種と思われる菜の花はすでに咲いていた
播種ではなく苗を植えるやり方の菜の花畑
西東京市の資源循環について語る環境保全課三村氏
東京大学生態調和農学機構(旧東大農場)
さまざまな実験・実習圃場。奥は菜の花畑
不用品交換の箱は「0円均一」
正門を入って右手のエリアがヒマワリ栽培地
近くの路上にて地元農家の野菜・花卉類直売所
Ⅶ.東大阪と菜の花栽培
(1)司馬遼太郎記念館と菜の花忌
2月 12 日は、東大阪市名誉市民である作家司馬遼太郎の命日で「菜の花忌」と呼ばれている。
これはちょうど菜の花の咲く季節であること、司馬氏が黄色い花が好きだったことに加えて、氏の
『菜の花の沖』という長編小説に由来する。司馬遼太郎記念館を支えるボランティアグループが中
心になって、「街に菜の花を咲かせよう2.12菜の花忌」運動が呼びかけられ、2003 年の菜の花
忌から、地域の市民団体・学校園・企業などが協力して、司馬遼太郎の命日「菜の花忌」に合わせ
て菜の花を植える運動が始まった。今では、菜の花忌に合わせて 2 月から 3 月にかけて、記念館の
周辺だけではなく、小阪、八戸ノ里周辺にも、菜の花のプランターが並んで菜の花ロードとなり、
訪れた人々をあたたかく迎えている。あわせて、街歩きやバルなども開催されるようになった。
菜の花のプランターであふれる記念館周辺
菜の花マップ(東大阪物産観光まちづくりセンターHP)
記念館の庭(書斎前)
ただし、記念館のスタッフやボランティアの方に尋ねても、これらの菜の花がイベント終了後
どうなっているのかはっきりとわからなかった。シンポジウム来場者や当日来館者に配布するそう
であるが、残りは廃棄されているのが現状のようである。
せっかく司馬遼太郎ブランドを背負っている「菜の花忌」由来の、「東大阪の菜種」が取れる
絶好の機会なので、ぜひその活用を提案したい。運動の知名度も上がってきている折から、さらな
る地域活性化につなげていく好機と考える。
様々な市民団体や学校園・企業などの協働によって、菜の花忌が近づくと町は菜の花一色に染まる
(2)「菜の花を休耕田に咲かそう」プロジェクトの実施
東大阪市内では、すでに市民団体による菜の花栽培の取り組みが進められている。その一つがNP
O法人環境カウンセラー協会による菜の花プロジェクトである。「菜の花を休耕田に咲かそう」プロジ
ェクトと銘打つたこの取り組みは、東大阪市の補助金平成22年度「豊かな環境創造基金」を活用したも
のである。玉串保育所近くの畑を借りて、園児・保護者・先生とともに種を播き、近隣の大学生の協力
などを得ながら、刈取り・菜種採取・搾油まで実施した。また、廃油キャンドルつくりを通じた環境教
育にも取り組み、市民の環境意識向上を目指す取り組みであった。
このような市民パワーは東大阪市の重要な資源の一つであり、今後のまちづくりに果たす役割が期
待されよう。
(3)野崎参りと土手の菜の花
東大阪市と菜の花のつながりは古く、野崎参りの様子を描いた江戸時代の絵にも、船と土手の参
詣人の掛け合いの背景に、土手を埋めた菜の花が描かれている。前節で紹介した東大阪市環境カウンセ
ラー協会は、平成 16~20 年に、市の東部を南北に流れる恩智川の土手に菜種を播いて育てる取り組み
を行ってきた。現在はほとんど手を入れていないそうであるが、毎年春には、約 8km にわたって黄色い
じゅうたんが広がる光景は見事で、通りかかった市民の目を楽しませている。
野崎小唄
作詞:今中
1)
野崎参りは
楓溪
作曲:大村
屋形舟でまいろ
どこを向いても
菜の花ざかり
粋な日がさにゃ
蝶々もとまる
呼んで見ようか
土手の人
恩智川の土手の菜の花
(東大阪市・市政フォトニュース http://www.city.higashiosaka.lg.jp/0000002856.html
)
能章
Ⅷ.東大阪における菜の花プロジェクトの方策の提案
先進事例の現地視察やヒアリングおよび東大阪における取組の調査を通じて、東大阪市の特色を
活かした菜の花プロジェクトに関していくつか提案を行いたい。
(1) 司馬遼太郎記念館「菜の花忌」のために育てられた菜の花から菜種油を生産
⇒
記念館内の Café で軽食のトーストやアイスクリームに調味料としてかけて供する
⇒
記念館で開かれる読書会や講演会の際に、灯油として利用し、往時を偲ぶ
(2) 休耕田で菜の花を栽培
⇒
間引いた菜の花や菜種油を学校給食に使用する
東大阪市の歴史や文化に触れる機会とする
⇒
油かすを近隣の農家や家庭菜園に提供する
(3) 廃食油を回収してBDFを製造する
⇒
花園ラグビー場で発電機やボイラー燃料などに使用する
Ⅸ.おわりに
今回の研究では、東大阪は、菜の花プロジェクトとの親和性が高く、資源賦存量も十分見込まれる
ことが明らかになった。この成果をもとに、今後、「菜の花で取り組む資源循環プロジェクト」の実証
研究へのステップアップを目指したい。具体的には以下のような実証研究が考えられる。
(1)
市内のモデル地区(未利用農地か市有地)で菜の花栽培を実施し、収量や発生する費用に
ついて、東大阪における実証的なデータを収集する
(2)
市内の業者に呼びかけ、廃油回収とBDF製造・利用の市内循環の構築を呼びかける
(3)
菜の花プロジェクトを実施する際に利用することのできる環境教育教材とそのマニュアル
を開発・作成する
(4)
学校園や企業、市民団体など、市内の多様な主体を巻き込むような取り組みを探究する
特に、環境教育教材開発は本年度の研究のさらなる展開として重要なテーマであり、本年度中に準
備を進める必要があると考えた。そこで、屋外の播種や刈取り作業に関連した観察会などで利用可能な
機器(携帯式デジタル顕微鏡など)を購入し、年度内に実際の環境イベントでその有用性を確かめるこ
とができた。これによって、本年度の成果を次年度以降の実証的な研究につなげることができたものと
考えている。
以上
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