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改訂監査基準及び監査基準委員会報告800及び805

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改訂監査基準及び監査基準委員会報告800及び805
会計・監査
改訂監査基準及び監査基準委員会報告800及び805
(公開草案)の概要(その2)
ゆう き
ひでひこ
公認会計士 結城 秀彦
一読すると、抽象的・概念的な説明に終始しており、
5.一般目的の財務報告の枠組み vs
特別目的の財務報告の枠組み
具体的なイメージが掴めないと感じることが多いか
もしれない。しかしながら、一般目的又は特別目的
の枠組みの分類は、監査人にとって単なる抽象論・
4つの枠組みのうち、初めに一般目的の財務報告
概念論に終始していて済む問題ではない。
の枠組みと特別目的の財務報告の2つの枠組みにつ
改訂監査基準等は、特別目的の財務諸表の監査に
いて検討する。
一般目的又は特別目的の財務報告の枠組みがどの
おいては、追記情報の開示(改訂監査基準八 第
ようなものであるかについては、監査基準の改訂に
四 報告基準特別目的の財務諸表に対する監査の場
関する意見書(平成26年2月18日)に示された改
合の追記情報)を求めており、監査人は適用される
訂監査基準(以下、「改訂監査基準」という。
)及び
枠組みに応じて監査報告書への追記の要否を検討し
なければならない。
「監査基準委員会報告書800『特別目的の財務報告
の枠組みに準拠して作成された財務諸表の監査』
(以
この取扱いは、財務報告の枠組みの受入可能性を
下、「監基報800」という。)、監査基準委員会報告
検討した結果として、監査を実施する場合の判断尺
書805『個別の財務表又は財務諸表項目に対する
度(モノサシ)である財務報告の枠組みが広範な利
監査』(以下、「監基報805」といい、以下、監査
用者に通用するものではなく特定の者のみに理解さ
基準委員会報告書を「監基報」という。
)
」並びに「
『監
れているようなものであれば、他の者が財務諸表を
査基準委員会報告書800「特別目的の財務報告の
利用した場合に誤用される可能性が高いため、監査
枠組みに準拠して作成された財務諸表に対する監
報告書及び監査の対象とする財務諸表が特定の者に
査」及び監査基準委員会報告書805「個別の財務
よる利用を想定している旨を記載して注意喚起を図
表又は財務諸表項目に対する監査」』に係るQ&A」
るものである。
言わば、監査人による財務報告の枠組みの受入可
(以下、「 Q&A」という。)のそれぞれの公開草案
能性の検討の結果、
到達した枠組みの分類の判断が、
に記載されている。
また、一般目的又は特別目的の財務報告の枠組み
監査業務の最終段階において、特別目的財務諸表の
についての理解を深めるためには、
これら以外にも、
監査に関する注意喚起の記載の有無として監査報告
監基報200「財務諸表監査における総括的な目的」
書上の記載に表されることとなる(図表5参照。)。
このような実務上要求される事項を勘案すると、
及び監基報210「監査業務の契約条件の合意」(以
下、それぞれ「監基報200」、
「監基報210」という。
)
監査人は、監査において適用される財務報告の枠組
を参照することも必要となろう。
みが一般目的であるか特別目的であるか、その分類
これらの監査基準に関連する意見書及び報告書を
の考え方を理解して適切に峻別を行う必要がある。
図表5 財務報告の枠組みに応じた監査報告書の記載(筆者作成)
監査人の財務報告の
受入可能性の検討
監査業務の
新規契約締
結又は契約
の更新
適用される
財務報告の枠組みは?
一般目的か?
特別目的か?
改訂
意見書
監基報
200
監基報
210
監基報
800
監基報
805
改訂監査基準
八 特別目的の財務諸表
の監査に係る追記情報
監査人の判断
監査報告書の記載
一般目的の財務報告の
枠組みである。
特別目的の財務諸表の
監査に係る追記情報なし
特別目的の財務報告の
枠組みである。
特別目的の財務諸表の
監査に係る追記情報付
(改訂監査基準の八)
・広範な者ではなく、財務報告の枠組み(監
査の判断尺度)を理解した特定の者を監
査報告書等の利用者として想定している
ことを注意喚起
・財務報告の枠組みは、常に「一般に公正妥
当と認められる○○会計の基準」である
と表現されるものとは限らない。
テクニカルセンター 会計情報 Vol. 453 / 2014. 5 © 2014. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC 27
改訂監査基準等は、目的にその分類軸を置いて財
あるプロセスに従って定められた枠組みに準拠して
務報告の枠組みを一般目的・特別目的の2つに分類
財務諸表を作成し、利用者に提供する(Q&AのQ4
している。「目的」とは監査の規準である財務報告
参照)
。
一般目的の財務報告の枠組みには、以下に示す、
の枠組みの目的であり「監査の対象とする財務情報
に対する利用者のニーズを満たすこと」であり、こ
一 つ 又 は 複 数 の 特 徴 が 見 受 け ら れ る( 監 基 報
の分類においては、財務報告の枠組みが誰のどのよ
210A8項及びA9項参照。
)
。
うなニーズを満たすものであるかに沿って一般目
・企業が利用すべき基準を公表する権限を有する又
的・特別目的に分類する。
は認知されている会計基準設定主体が設定する財
「一般目的の財務報告の枠組み」とは、広範囲の
務報告の基準である
利用者に共通する財務情報に対するニーズを満たす
・確立された透明性のあるプロセス(広範囲の利害
ように策定された枠組みをいい、「一般目的の財務
報告の枠組み」に準拠して作成される財務諸表を
「一
関係者の見解についての審議及び検討を含む。
)
般目的の財務諸表」という(監基報 200 A4 項、
に従って設定されたものである
・一般目的の財務諸表の作成を定める法令等によ
監基報 700「財務諸表に対する意見の形成と監査
り、適用される財務報告の枠組みとして認められ
報告」第6項(1))。
ており、一般目的の財務報告の枠組みではないこ
これに対して、「特別目的の財務報告の枠組み」
とを示す反証がない
とは、特定の利用者の財務情報に対するニーズを満
・一般に認知されている確立された会計慣行として
たすように策定された枠組みのことをいい、「特別
認められている
目的の財務報告の枠組み」に準拠して作成される財
・認知されている会計基準設定主体が設定する一般
務諸表を「特別目的の財務諸表」という(監基報
目的の財務報告の枠組み又は法令等により規定さ
200 A4 項、監基報 800 公開草案第5項)
。
れている財務報告の枠組みを基礎として、適用除
なお、改訂監査基準では、特別目的の財務諸表は、
特定の利用者のニーズを満たすべく特別の利用目的
外又は修正を加えた枠組みであるが、認知された
に適合した会計の基準に準拠して作成された財務諸
会計基準設定主体又は法令が、小規模企業のため
表であると説明されている。
に特別に設定した財務報告の枠組みとして認めて
いる
一般目的の財務報告の枠組みは、広範囲の利用者
を前提として汎用性のある財務情報を作成するため
の枠組みとして設定される。例えば、一般目的の財
一般に認知されている確立された会計慣行が含ま
務諸表の作成者と利用者は、個々の利用者が必要と
れていることから判るように、一般目的の財務報告
する特定の情報のすべてを記載した財務諸表を作成
の枠組みは、必ずしも一般に公正妥当と認められる
者に求める関係になく、財務諸表作成者もそのよう
企業会計の基準のみで構成されるものではない。
な対応を行うことが想定されていない。その代わり
上記の特徴に照らして一般目的の財務報告の枠組
に、財務諸表作成者は、広範囲の利用者に共通する
みとして考えられるものとしては、例えば、図表6
財務情報に対するニーズに基づいて、認知されてい
に例示されているものが考えられる。
る会計基準設定主体(又は法令)によって透明性の
図表6 一般目的の財務報告の枠組みの具体例(筆者作成)
特徴
例示
企業が利用すべき基準を公表する権
限を有する、又は認知されている会
計基準設定主体が設定する財務報告
の基準
企業会計基準委員会が設定する企業会計基準、
又は
国際会計基準審議会が公表する国際会計基準
一般目的の財務諸表の作成を定める
法令等により、適用される財務報告
の枠組みとして認められており、一
般目的の財務報告の枠組みではない
ことを示す反証がないもの
金融庁長官が指定する指定国際会計基準
法令等に規定されている一般目的の
財務諸表の作成において利用する財
務報告の枠組み
会社計算規則
28 テクニカルセンター 会計情報 Vol. 453 / 2014. 5 © 2014. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC
みの内容、例えば、取引の認識・測定・表示及び開
これに対して、特別目的の財務報告の枠組みは、
特定の利用者の個別の財務情報に対するニーズに対
示について、具体的に取り決めを行い、利用者のニ
応するために特別の利用目的に適合するように策定
ーズに合致するように財務諸表を作成することも想
されたテーラーメード型の枠組みであると言われ
定される。
特別目的の財務報告の枠組みには、以下に示す、
る。
一つ又は複数の特徴が見受けられる(監基報800
例えば、特別目的の財務諸表の作成者と利用者は、
公開草案A1項及びA2項参照。
)
。
利用者が特定されているため、特定の利用者が必要
とする特定の情報のすべてを記載した財務諸表を作
成者に求め得る関係にあり、財務諸表作成者はその
・一般目的の財務報告の枠組みを基礎とし、特定の
ような情報を記載した財務諸表を作成し、利用者に
利用者のニーズに照らして必要な修正や適用除外
を加えて策定されている。
提供する。
言い換えれば、財務諸表作成者は、識別可能な特
・一般目的の財務報告の枠組みを基礎とし、他の財
定の財務諸表利用者の財務情報に対するニーズに照
務報告の枠組みで要求されている事項の全部又は
一部を組み合わせて策定されている。
らして財務報告の枠組みを策定し、利用者の明示的
・一般目的の財務報告の枠組みにおいては要求され
又は黙示的な合意を得て、財務諸表を作成・提供す
ていないが、規制当局が、監督上、必要な事項を
る。
満たすように、財務報告の枠組みの内容が定めら
特別目的の財務報告の枠組みは、一般目的の財務
れている。
報告の枠組みのように、認知されている会計基準設
定主体が設定する一般目的の財務報告の枠組み又は
・財務諸表の作成者及び利用者の間で、財務報告の
法令等により規定されている財務報告の枠組みでは
枠組みの個々の内容が具体的に取り決められてい
なく、例えば、ある一般目的の財務報告の枠組みを
る。
基礎としてその一部を適用除外としたり、複数の一
般目的の財務報告の枠組みの規定を組み合わせるな
上記の特徴に照らして特別目的の財務報告の枠組
ど、一般目的の財務報告の枠組みをカスタマイズし
みとして考えられるものとしては、例えば、図表7
て特定の利用者のニーズに対応する。あるいは、財
に例示されているものが考えられる(Q&AのQ5参
務諸表の作成者は、利用者との間で財務報告の枠組
照。)。
図表7 特別目的の財務報告の枠組みの具体例(筆者作成)
特徴
例示
一般目的の財務報告の枠組みの内容
のうち、一部の事項を適用除外した
もの
会社計算規則及び一般に公正妥当と認められる企業会
計の基準のうち、
貸借対照表のみを作成し、注記表の一
部の項目のみを表示する場合の財務報告の枠組み
一般目的の財務報告の枠組みを適用
するが、他の財務報告の枠組みにお
いて要求されている事項の一部を追
加して組み合わせたもの
会社計算規則及び一般に公正妥当と認められる企業会
計の基準に基づく計算書類とともに、キャッシュ・フ
ロー計算書を作成する場合の財務報告の枠組み
規制当局の定める財務報告に関する
規則であるが、確立された透明性の
あるプロセスに従って設定されたも
のとはいえず、会計慣行としても一
般に認知されていないもの
財務諸表の作成者及び利用者の間で
定められた財務報告に関する取り決
め
特定の法律に基づく事業部門別収支に関する計算規則
銀行取引基本約定書の財務報告条項に関連して、投資
有価証券や土地等、特定の会計処理に関する具体的な
取り決めが含まれた財務報告の枠組み、又は、年金基金
において理事者が決定して適用する財務報告の枠組み
テクニカルセンター 会計情報 Vol. 453 / 2014. 5 © 2014. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC 29
ここで留意しておきたいのは、監査人が行おうと
する財務諸表監査が、一般目的であるか、又は特別
な財務諸表に対する監査は一般目的の財務諸表に対
する監査である。
目的であるかは、監査報告書及びその対象とする財
例えば、会社法に基づく監査が求められていない
務諸表(以下、「監査報告書等」という。
)の利用者
会社が銀行取引基本約定に定められた財務報告条項
が特定されているか否かによって一律に判断される
に基づいて任意監査を受ける際に、銀行が会社計算
ものではない点である。
規則を適用して計算書類等を作成して監査を行うこ
特定の利用者がそのニーズを満たすものとして一
とを受け入れるのであれば、監査報告書等の利用者
般目的の財務報告の枠組みを受け入れて財務諸表が
(会社及び取引銀行)は特定され、
又、
特定の目的(財
作成されている場合、一般目的の適用される財務報
務報告条項の遵守)を果たすために監査報告書等が
告の枠組みに準拠して作成された財務諸表が特定の
作成されている。しかしながら、
計算書類作成には、
目的に利用されることとなる(監基報706「独立
言わば「大は小を兼ねる」ものとして、一般目的の
監査人の監査報告書における強調事項区分とその他
財務報告の枠組み(会社計算規則)が適用されてい
の事項区分」A8項参照)。しかしながら、
この場合、
るため、この監査は一般目的の財務諸表に対する監
作成されている財務諸表は、適用されている枠組み
査として取り扱われる(図表8参照。
)
。
に照らして、一般目的の財務諸表であり、そのよう
図表8 一般目的又は特別目的の財務諸表に対する監査のいずれであるかの判断の例示(筆者作成)
銀行取引基本約定に定められた財務報告条項に基づいて任意監査を行う
場合(適用される財務報告の枠組みは、会社計算規則)
任意監査(会社法に基づく監査で
はない。
)
・銀行取引基本約定
(財務報告条項)を満たすとい
う特定の目的
・財務報告の枠組みは法令等によ
り定められていない。
・監査報告書及び監査の対象
とする財務諸表の利用者は
会社及び銀行のみに特定
財務諸表作成に適用する財務報告
の枠組みとして、会社計算規則を
適用して計算書類を作成
・適用される財務報告の枠組
みは、一般目的の財務報告
の枠組み
・財務諸表の利用者(銀行)も合意
一般目的又は特別
目的の財務諸表の
監査のいずれか?
一般目的の
財務諸表の
監査
・財務報告の枠組みの内容に
沿って判断。
・財務諸表の作成目的や利用
者が特定されている こと
に拠らない。
このように、ある監査業務において、監査の対象
前述の通り、監査報告書においては、財務諸表作
とする財務諸表が一般目的であるか特別目的である
成に適用されている財務報告の枠組みが特別目的で
かについては、当該財務諸表に適用されている枠組
ある場合には追記情報が必要となることを勘案し、
みそれ自体が本来広範な利用者の共通のニーズ又は
目的に照らした一般・特別の財務報告の枠組みの分
特定の利用者のニーズのいずれを満たすことを想定
類に関する考え方を正しく理解しておくことが必要
して策定されたものであるかに基づいて判断され
である。
る。
(注)本稿は2014年4月1日現在の状況を前提と
して記述されている。
換言すれば、必ずしも監査報告書等の利用者が特
定されているか否か、又は監査の対象とする財務諸
表の作成目的に基づいて判断される訳ではない。
30 テクニカルセンター 会計情報 Vol. 453 / 2014. 5 © 2014. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC
(次号へ続く)
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