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ドイツを中心とした 欧州のダイカスト技術と製品展開

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ドイツを中心とした 欧州のダイカスト技術と製品展開
「世界のダイカスト事情」
ドイツを中心とした
欧州のダイカスト技術と製品展開
日立金属 ㈱ 金 内 良 夫
欧州におけるダイカスト技術は非常に先進的であり、また、アプリケーションについても先駆的で適用実績も多
い。本報告ではドイツを中心とした欧州における特徴的な鋳造工程、後処理工程、金型構造などについて紹介する。
Spritzgussmaschine von Gebrueder Eckert 社(ニュー
1.はじめに
ルンベルグ、独)のエッケルト式マシン(写真 1)や
非鉄金属の溶融成形プロセスとして、ダイカスト
Warmpressgussmaschine 社(プラハ、当時はおそら
(以下、HPDC)は重要かつ主要な工法である。HPDC
プロセスはアメリカのバース氏によって、当時の活版
印刷用の活字鋳造機として考案され普及に至っている
が、それとほぼ同時期には欧州でも生産が開始されて
いる。ホットチャンバ機は比較的低融点かつ鉄の侵食
が少ない材料の成形に用いられた。活字合金(鉛−ス
ズ系合金)や亜鉛合金が代表的なものである。1930 年
代にはコールドチャンバ機も実用となり、アルミニウ
ムをはじめ、マグネシウムなどの比較的融点の高い金
属の成形も行われるようになった。
ダイカストマシンは当初、ダイカストメーカ自社内で
の使用に限定されるような、比較的小規模の開発、製造
の段階であったが、マシンの製作販売を行う Messing-
写真 1 エッケルト式 ダイカストマシン
写真 2 ポーラック式 ダイカストマシン
特集「世界のダイカスト事情」企画趣旨
編集委員 西 直美
2007 年の日本国内でのダイカスト生産量は 1,158,018 t で、2002 年以降 6 年連続で過去最高を更新し続け
ている。2008 年も好調に推移しており、1 ∼ 6 月の生産量は対前年比 103.6 %である。しかし、今後は昨
今の原油高、原材料高などの影響が懸念される状況にある。また、自動車、家電などを中心としたグロー
バルな最適地生産が進展することも考えられ、少なからず影響を受けることが予想される。
そのような中、諸外国のダイカスト事情を把握することは、日本のダイカストが今後進むべき方向を探
る上で重要であると考えられる。例えば、中国のダイカスト生産量は 2002 年以降毎年平均 15 %近く成長し、
2007 年には 188,900 t となり、ついに日本を追い抜いて世界一のダイカスト生産国になった。また、技術面
においては 2007 年の GIFA で見られたように欧州では新工法と新材料を組み合わせて新たなダイカスト用
途を開発するなど注目すべきものが多い。
本誌では、今年前半に海外でのダイカスト関連の国際会議、展示会に参加された方及び業務で出張され
た方に、肌で感じた海外のダイカスト事情をご紹介頂くこととした。ドイツ、アメリカ、中国、韓国、タ
イ 5 か国を中心に取り上げた。今後のダイカストの方向性を探る一助になれば幸いである。
1
く独領と思われる。現在のチェコ。
)のポーラック式マ
シン(写真 2)など、ダイカストマシンビジネスが台頭
1)
2.1 軽合金鋳物の生産全体に占める HPDC 製品
の割合
してきたのも、この頃である 。これらの鋳造機は日
図 2、 図 3 に そ れ ぞ れ 日 本 お よ び ド イ ツ(2005
本にも輸入され、戦後まで日本の HPDC 産業を支え
年)における軽合金鋳物全体に対する HPDC 製品の
続けた。またこの頃は、コールドチャンバ機はドイツ
割合を示す。他の製法に対し、HPDC 製品の割合が
を中心に普及を始めており、ホットチャンバ機は北米
比較的大きいのは共通していえることであるが、ド
を中心として普及していたようである。
イ ツ は 日 本 に 比 べ て 15 % 以 上 割 合 が 少 な い。 そ の
現在、欧州ではコールドチャンバ式、ホットチャン
分、グラビティ鋳造(以下、GDC)、低圧鋳造(以下、
バ式共に世界有数の鋳造機、周辺機器、補材サプライ
LPDC)の割合が多くなっている。図 4、図 5 に、それ
ヤを有し、HPDC での成形技術や商品化事例において
世界をリードしていると言っても過言ではない。本報
告では、筆者が目にした、ドイツを中心とした欧州の
HPDC 技術のうち、主だったものを報告すると共にそ
の特徴を生かした製品の例を紹介する。
2.欧州における HPDC 製品市場の特徴
図 1 に欧州におけるアルミニウム鋳物全体の生産量
図 2 日本における軽合金鋳物市場の HPDC 製品割合
動向を示す。欧州における主要生産国はイタリア、ド
イツ、フランスである。統計的にすべてを調査するこ
とは多少の困難があるが、概ね各国においてその 50%
以上を HPDC が占めている。また、古い統計ではある
が、後述するドイツでの生産量において大きなずれが
見られないことから、他の国々に対しても大幅な増減
や順位の入れ替わり等はないと考える。しかしポーラ
ンドやハンガリー、ロシアなどの旧東欧諸国への自動
図 3 ドイツにおける軽合金鋳物市場の HPDC 製品割合
車産業進出が著しいこと、エネルギーが比較的経済的
かつ潤沢に入手できるこれらの諸国の生産量は年々増
加する傾向にあると思われる。
欧州での素形材産業におけるテクノロジーリーダー
的役割を果たしているのはドイツであるし、少なくと
も現時点では、アジアにおけるそれは日本であると言
えるであろう。以降、日本とドイツにおける HPDC 産
業を比較してみたい。
図 4 日本における工法別の生産量推移
図 1 欧州各国のアルミニウム鋳物生産量推移
2|素形材 2008 .9
図 5 ドイツにおける工法別の生産量推移
世界のダイカスト事情
ぞれ日本およびドイツの工法別に生産量を分け、年度
して、HPDC「以外」の工法による製品の生産量の伸
別に整理したものを示す。
び方である。製品のライフサイクルによる消滅と新規
特徴的な事象としては、ドイツでは全体の生産量の
部品の生産とを考えると、日本では鋳物部品の HPDC
増加に伴い、LPDC や GDC の生産量も増加している
化 が 年 々 進 ん で い る と い え る。 ド イ ツ で は GDC、
が、日本では HPDC 製品の伸びに対する製品の生産量
LPDC も HPDC 同様に年々増加していることから、工
はほぼ横ばいであることである。この事から、日本で
法メリットを生かした製品展開が行われていると考え
は新規設定される製品は HPDC 化される傾向が強い
られる。換言すれば、日本では HPDC 化されにくい製
事を示していると考える。
品についてはアルミ鋳物化は進まず、ドイツでは工法
2.2 各産業分野における軽合金鋳物市場の占有傾向
の選択により、その工法の長所を生かしてアルミ鋳物
先の項で軽合金鋳物中の HPDC 製品の占有状態につ
化される製品が生まれてきている、と考えられる。両
いて述べた。ここでは軽合金鋳物市場において、どの
国共に自動車産業に大きく依存していることを考える
産業分野への出荷量が多いかを調査した。図 6、図 7
と、日本ではドイツに比べ、自動車分野における新規
にそれぞれ日本およびドイツ(2005 年)の産業分野別
のアルミ鋳物部材に対するイノベーションの機会が少
出荷割合を示す。図中の自動車、輸送機器については
ないともいえるであろう。
二輪を含めた自動車全般を示している。
両国とも自動車産業分野への依存は非常に高いが、
3.HPDC における技術的特徴
日本は特にその傾向が強いと言える。ドイツの統計に
ドイツの HPDC 技術開発は、非常にバランスが取れ
「輸出」という項目がある。内容については明らかで
ていることが特徴のひとつであると筆者は考える。こ
はないが、自動車産業関連のものが大半を占めると仮
こでいう「バランス」というのは、問題解決のオプショ
定すると、日本とドイツはほぼ同様の構成を示すこと
ンを広く有し、成果目標に対して幅広く選択し、効率
になる。
よくアウトプットを出せることである。
一般機械
電気機械
2.7%
5.7%
その他
3.4%
また、それらの活用を行うエンジニアの企業間での
「交流の機会(ミーティングや会合のような技術交流
ではなく、同業会社間で発生する転職のこと)」も多く、
全体的に技術的に高いレベルに維持できる環境を持っ
ている。
基本的にひとつの HPDC メーカが世界各地域で生産
輸送機器
88.2%
図 6 日本の産業分野別出荷割合
展開する例は少ないが、投資会社によるアライアンス
や M & A により同等の機能を有するグループとして機
能させ、自動車メーカからの世界規模での調達要求を
満たす動きが強い。高い技術力と、いわゆる「欧米型」
の企業文化により、単独企業のみに依存せず積極的な
世界進出を図っていることは、日本と大きく異なると
ころである。
3.1 材料
日本ではアルミニウムの精錬事業はほとんど撤退し
ているのが現状だが、ドイツではアルミナから金属ア
図 7 ドイツの産業分野別出荷割合
ルミニウムへの精錬は Trimet 社など数社を中心に行
われている。環境税などの導入による対策コストや電
2.3 まとめ
力コストの上昇の中、戦略的に継続しているものと考
日本では、軽合金鋳造においては HPDC が主流工法
える。
であり、また、その需要の多くを自動車産業に依存し
鋳物への適用材は基本的に ISO に準拠した材料を
ている。これらの点についてはドイツも同様である。
使っている。ドイツ連邦規格(Deutsche Industrie Nor-
大きく異なるのは軽合金鋳物全体の生産量の伸びに対
men, DIN)では、たとえば 226 合金(Al - 9% Si - 3% Cu
3
系)、230 合金(Al - 12% Si - 3% Cu 系)などと番号付け
ざまな高品位化、高効率化のためのプロセスが開発さ
されている。一般的に、製品にそれぞれ「AlSi 9 Cu 3」
れ、実用化されていることである。最近の事例では、
や「AlSi 7 Mg」などという鋳出し文字で表示されてい
セミソリッドプロセスにおいては半溶融ダイカスト
る。これは HPDC 製品だけでなく、GLP、LPDC 製品
(ビューラー:スイス)、SSR 法(IDRA:イタリア)、
でも同様である。
真空ダイカスト法では Vacural( フレッヒ:ドイツ)、
Rheinfelden 社などを代表とする、鋳造用プレミア
MFT(BDW:ドイツ)などが挙げられる。これらの
ム合金のサプライヤが存在し、特に自動車用 HPDC 部
技術の多くは 1980 ∼ 90 年代で開発されたもので、近
品において実績をあげている。また、HPDC 製品メー
年では革新的プロセスの開発は目立ってはいない。し
カが自社で材料開発する例もあるが、材料メーカとの
かし基本的な品質改善や向上のためのコンセプトとし
共同開発や、材料メーカのブランドで HPDC 事業を
ては、現状のコンセプトでほぼ網羅されていると考え
行うといったような形態をとることもある。
られ、現在はこれらの工法のメリットを活用し、さま
代表的な例として、Rheinfelden 社の Silafont - 36(Al -
ざまな製品用途を開拓して実現する段階であると言っ
Si - Mg 系 )、Castasil - 37(Al - Si - Mn 系 )、Magsimal - 59
てよいであろう。
(Al - Mg - Si 系)、Rio Tinto Alcan 社 の Aural シリーズ
また、昨今の環境問題に対するソリューションとし
(Al - Si - Mg 系、Al - Si - Mn 系 な ど )、Alcoa 社 の C 446
ての位置づけとしても重要である。特に、前述した軽
(Al - Mg - Mn 系)、C 611(Al - Si - Mg 系)などが挙げら
量化を目的とした自動車向けのアルミニウム部材の実
れるであろう。これらは自動車用のシャシー部品、ボ
現に対しては、材料技術と共に極めて重要な生産技術
ディ部材などに用いられている。特に Al - Si - Mg 系の
である。
材料においては、独自の T 6 処理を組み合わせてじん
欧 州 の HPDC マ シ ン は 元 来 高 速 射 出 を 基 本 と し
性を確保することも行われている。これらの技術によ
ているので、近年日本で行われている「超高速射出
り実現された部品は、ASF(Audi Space Frame)に代
HPDC」を過去より実現していたことになる。これは
表されるオールアルミ車体などの骨格や継手(node)
HPDC 製品の設計の特徴(薄肉、小さい抜け勾配)も
2)
として採用されている。写真 3 に代表的な例を示す 。
さることながら、コンパクトかつ高い剛性を意識した
金型とする習慣があることによると考える。
金型の構造的には日本のそれとほぼ同一であり、型
材の鋼種、熱処理、表面処理なども大きな差はない。
しかし近年、金型クラックの補修にレーザー溶接を用
いる技術や、金属粉を用いてのラピッドプロトタイピ
ング技術を応用した、自由な内部冷却経路を実現でき
る金型製作技術など、特徴的な技術が開発されている。
また、引き抜き中子を動作させるための油圧シリン
写真 3 オールアルミ車体に採用されている
ダイカスト部品の例 ダの外筒に、中子動作のガイド機能を有する特殊なも
のを用いる例(図 8)や、傾斜ピンを用いずに HPDC
マシンの型開閉力で中子を動作させる方法(写真 4)
これらのプレミアム材は製品特性の向上と、それに
など、いくつかの独創的なアイデアも見られる。
伴う軽量化や、アプリケーションの増加などをもたら
油圧シリンダに冷却水ジャケットを設け、作動油温
す反面、ADC 12 などの一般材と比較して金型やショッ
の上昇を低減させる効果を狙ったものもある。
トスリーブなどを早期に溶損させたり、金型への焼付
中子動作シリンダの内部の作動油は、動作の都度入
きを発生させたりするため、生産性の悪化とコスト上
れ替わるような動きはしておらず、ほとんど一定の箇
昇が避けられない。昨今のエネルギー事情の悪化や炭
所を往復している。このような作動油は金型からの熱
酸ガス排出削減に向けて、これらの問題の解決による
影響を受けやすく、温度上昇に伴って粘度低下が発生
広い普及が期待される。
しシールからのリーク量が増加する傾向になる。キャ
3.2 工法
ビティ表面に発生する、最大静止摩擦力を駆動力とし
欧州の HPDC における最も特徴的なことは、さま
た引き抜き抵抗に打ち勝つためには、中子シリンダに
4|素形材 2008 .9
世界のダイカスト事情
に実用剛性を確保することは極
めて有効であると考えられる。
金型の冷却、加熱について特
徴的なことは、オイルを用いた
加熱経路を金型に積極的に配置
し て い る 例 が 多 い こ と で あ る。
これは立ち上がり品質の安定化
を狙っている。企業によっては
金型予熱のための捨てショット
という文化のない、換言すれば
1 ショット目から良品を取るよ
うにする、というところもあり、
この場合外段取りでの金型予熱
図 8 引き抜き中子用外筒ガイドシリンダ
を十分に行う必要がある。
温調用オイル回路は、主に主
型に配置されることが多い。こ
うすることで鋳造時の入熱によ
る入子の熱膨張を主型が阻害し
ないようにして、入子の変形を
防止し、また鋳ばり発生や製品
の変形などを防ぐこともできる。
オイルによる温調は専用媒体が
必要で、オイル漏れの発生や媒
写真 4 傾斜ピンレス引き抜き中子
体の交換による廃液処理などの
問題がある。近年、0.6 MPa 程度
発生する動作初期の突入的な力が必要になることがあ
の高圧水を 150 ℃前後まで加熱して、これを熱媒体と
るが、リーク量が増加するとその力のピークがブロー
して循環させるシステムも販売され、適用されている。
ドになり、衝撃的な力が発生しにくくなる。このよう
金型冷却には、有効に冷却するため水を用いる場合が
な場合、中子シリンダの動作不良が発生する。作動油
多い。欧州の水は一般的に硬水であり、内部冷却穴に
の粘度を一定にするため、冷却
は重要になる場合がある。
アンダーカット形状の成形に
おいてもいくつかの独創的な例
が見られる。たとえばイジェク
3)
ターコアの活用 や、取り出し
ロボットによる抜き動作を組み
合わせたもの(図 9)などがあ
る。HPDC という工法は、部品
剛性を出しやすい閉断面形状の
成形において比較的不利な溶融
成形法ではあるが、これらのよ
うなアイデアの活用によって、
崩壊性中子などを用いることに
比べて、大幅なコストをかけず
図 9 取り出しロボットのアシストによるアンダーカット部の成形
5
はミネラル分などの蓄積が見られるが、メンテナンス
(1)ロボットによる方法
の頻度を増やして堆積物を除去するなどして対応して
ロボットは鋳造後の製品取り回しに用いられている
いる。
ことは周知であるが、一部に鋳ばり取りなどの鋳仕上
鋳造用の金型は熱交換器としての機能を有すること
げへの適用も行われている。これは一部の日本のダイ
は一般的に理解されている事実であるが、機能分担の
カスターでも採用されている。
考え方として、大まかに ① 熱変形による影響を緩和
他にはロボットに回転主軸および ATC(自動工具交
するための、オイルなどによる温度調節 ② 熱を外部
換機)を装備し、後加工を行うようにしたものもある。
に排出するための冷却水、ということである。② の点
これにより、通常は後加工工程で処理していたものを
については欧州も日本も同様だが、① に対する考え方
鋳仕上げと同時に行うことができるようになることは
は興味深い。
大きなメリットとなる。加工部位や形状によっては専
スプレーについては通常の水溶性離型剤が圧倒的主
用の加工機もしくは 5 軸加工機などが必要になる場合
流だが、油性離型剤の原液塗布技術も開発され、2000
がある。このような工程は設備費用や工程増加に伴う
年代初頭から実用に供されている(写真 5)。これは特
生産コスト上昇を招くことがある。鋳仕上げ工程のロ
殊油をベースとして離型剤成分を添加した離型剤を、
ボットを活用すればこれらの問題を解決できる。
高速で回転する円盤を有するベルガン状のノズルを用
副次的なメリットとして、冶具が不要であることが
いて、微細液滴化して金型に付着させる技術である。
挙げられるであろう。小規模の寸法違いを有する複数
熱せられた金型表面に付着すると、離型効果のある強
の同類部品が混在するラインにおいて、それぞれの冶
固な乾燥被膜を形成することが特徴であり、比較的高
具を準備する必要がなくなること、段取替えによるロ
温の金型においても焼付き発生が少なくなる。また塗
スを抑えることができることなど、そのメリットは大
布量が微量であることから塗布後にエアブローなどを
きい。
行う必要がなく、サイクルタイム短縮に寄与できる。
(2)トリミングプレス装置の活用
その反面、金型表面の冷却効果は期待できないので、
日本でも鋳仕上げにプレス装置を活用する例は多い
金型に十分な内部冷却を配する必要がある。これが無
が、ランナー、ゲートランナー、オーバーフローの除
理な場合、外部から補助的に外却水を別ノズルにより
去だけでなく、それらの除去跡の仕上げ、見切り部の
噴霧する等の措置を行う必要がある。
鋳ばり除去などを同時に行う精密トリミングを活用し
ている例が多く見受けられる(写真 6)。
特に大型の薄肉製品における鋳仕上げでは、非常に
有効な手段であると考えられる。たとえば大型薄肉品
写真 5 原液少量塗布離型剤スプレー装置
(日本アチソン ㈱ 提供)
3.3 仕上げなど
欧州、特に旧西欧地区における人件費は高額であり、
HPDC の生産においても潤沢に人員配置ができる環境
ではないのは、日本と同様である。効率的な生産を実
現するために、後工程の自動化、省力化は日本同様、
力が入れられている分野である。
6|素形材 2008 .9
シートバック トリミング金型
写真 6 精密トリミングで仕上げた製品の例
世界のダイカスト事情
大規模な風洞中に炉から出たばかりの製
品を投入し、ある特定の温度領域を一定
の冷却速度で通過させるように強制冷却
(空冷)を行うものである。製品の表面と
内部を同じ条件で冷却させる必要がある
ため、薄肉の HPDC 製品に対して有効で
あると思われる。
4.まとめ
基本的な生産技術や設計技術および市
写真 7 タップ機構付きトリミング装置
場について、日本のそれとは大きな差は
の代表であるドアパネルなどに対しては、マシニング
ない。一般的に、金型の納期も含めた製品実現のため
センターによる加工を行うとすると、大きな設備を準
のリードタイムは日本の方が短いといえるし、製品の
備する必要がある。加工によらず、トリミングプレス
実質的(為替によらない)製造コストもそれほど大差
で打ち抜けるような製品設計にすると、後工程にかか
はないと考えられる。
るコストを大幅に低減できる。当然、製品設計も加工
しかし欧州は古くから HPDC を行っており、また、
公差を必須とするのではなく、たとえば HPDC の粗材
その需要をリードする自動車産業も世界に先駆けて発
公差を前提とするなど、ある程度ラフな精度が許容で
達している地域である。HPDC は生産性の高い工法で
きる設計が必要となる。
あるという認識が浸透しており、そのため HPDC によ
またこの技術は、鋳仕上げ箇所の多い製品に対して
る部品実現の志向が強い。この点では 2. 1 項で述べた
も有効である。プレス型の構造も複雑で、HPDC 金型
内容と矛盾するようであるが、元来高い鋳造技術を有
の摺動中子に匹敵するような機構により鋳抜き穴のば
している基盤であるため、金型、砂型にかかわらず鋳
り取りを行うプレス型や、内蔵されたチップソーによ
造技術も高く、アプリケーションも豊富である。その
り多数個取り製品に対するランナー切断を同時に行う
ため HPDC 以外の工法で実現された部品も依然多く、
もの、鋳抜き孔に対して直タップによるネジ切りを行
ロットの大きさなどの生産合理面からも工法選択がな
う機構を有するものなどもある(写真 7)。
されている、という解釈ができると考える。
製品の要求仕様を許容できる範囲で広げておくこと
材料やプロセス技術もさることながら、金型見切り
で、さまざまな工程オプションを選択できるというこ
を考えた柔軟な製品設計、金型の構成要素の最適化を
とになる。製品設計と生産手段とを上手に組み合わせ
行い、さらにそれらを総合して、革新的アプリケーショ
ることで、効率的な製品化が実現できる。
ンの開発を進めて市場に供給する、という点において、
3.4 熱処理
世界における HPDC 産業のイノベーション起点である
真空 HPDC を用いると、製品内に巻き込まれるガス
ことは疑いようのない事実である。プロセスのみでな
が低減することで溶体化処理を伴う T 6 熱処理の実施
く、製品展開も含めた欧州の HPDC 産業における今後
が可能となることは知られている。HPDC は急冷凝固
の動向を注視していきたいと考える。
プロセスであるため、鋳造組織は微細となる。そのた
め Al - Si 系合金の場合、他のプロセスに比較して低温、
参考文献
短時間の溶体化処理で効果が期待できる。しかし一般
1 )日本ダイカスト協会編:日本ダイカスト史(日刊工業新
的に HPDC は薄肉かつ複雑形状であるため、高温に長
時間暴露されると大小の変形を発生させ、その修正に
大きなコストをかけざるを得なくなる。
溶体化処理での変形を最小限にすることと、効果的
な溶体化処理効果を得ることとのバランスとして、低
温溶体化+空冷焼入れによる熱処理を行っている例が
ある。この場合の空冷はいわゆる自然放冷ではなく、
聞社)(1986)
2 )たとえば海老澤賜寿雄:軽金属,Vol. 53, No. 4, 176 など
3 )海老澤賜寿雄:素形材,Vol. 49, No. 2, 25
株式会社アルキャスト お客様センター
〒360−8577 埼玉県熊谷市三ケ尻 5200
(日立金属 ㈱ 熊谷軽合金工場内)
TEL 048−531−1146 FAX 048−531−1873
7
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