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近代印刷の始まり グーテンベルの印刷法は、その後長い間、ヨーロッパで

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近代印刷の始まり グーテンベルの印刷法は、その後長い間、ヨーロッパで
近代印刷の始まり
グーテンベルの印刷法は、その後長い間、ヨーロッパでの印刷術の主流を成してきました。また、グーテ
ンベルグが書体としてゴシック体を採用したのは、当時のドイツでは写本(主に聖書)の書体としてゴシ
ック体が使われていたため、そのスタイルを踏襲したためです。ゴシック体を別名「ドイツ文字」という
のも、こういう歴史があったためです。
今で言うゴシック体と、ドイツ文字は全く違うスタイルです。下図のドイツ文字のことを、正しくは
Gothic といいます。これに対して、私たちが普通に使っている言葉のゴシック体は欧米ではサンセリフ
体(Sans Serif=セリフの無い文字。セリフとは文字の画線の上下や左右に付く装飾)
、もしくはグロテ
スク体(Grotesque または Grotesk)と言います。この書体名の混同につきましては別の章で解説した
いと思います。下図は、スイス・ハース社が販売していたドイツ文字(Gothic 体)です。
【ハース社 Gothic 体】
1)HAAS(ハース)社
グーテンベルグ以降、書体はゴシック体(ドイツ文字)以外にもオールドローマン系の書体が僅かではあ
りますが、新しいデザインの書体が発売されるようになりました。
書体メーカーの魁として、1580 年スイス・バーゼルに設立された HAAS 社があります。私が訪問した
1980 年代でも、まだ活字の鋳造を続け多くの優れた書体(タイプフェイス)を開発販売しました。下の
写真は静かなたたずまいの HAAS 社の外観です。
【ハース社】
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エントランスには、HAAS 社で活躍した有名な書体デザイナーの写真があります。
【デザイナー達のポスター】
左上が、Univers の作者で有名なフランス人、アドリアン・フルティガー(Adrian Frutiger)氏、その
右 下 の 少し 小さ な 写真が 、 Helvetica の 作者で ス イ ス人 のマ ッ クス・ ミ ー ディ ンガ ー (Max A.
Miedinger)氏です。
HAAS 社を一躍欧文活字メーカーのトップに押し上げたのが、Helvetica という書体でした。始め、この
書 体 は 、 ノ イ エ ハ ー ス グ ロ テ ス ク 【 Neue HAAS Grotesk ( Neue=New : 新 し い 、
Grotesk=Gothic:ゴシック体。つまり「ハース社の新しいゴシック」という意味です。)
】という書体名
で 1950 年代の初め頃、販売されましたが人気が高まり、1957 年から上記のマックス・ミーディンガー
氏の手によりマイナーな改刻が行われ、書体名も、Helvetica(ヘルベティカ=The Swiss という意味)
と改め発売を開始しました。(下図が Helvetica)
【Helvetica】
この書体は、爆発的な人気を得てその後、半世紀近く後述の Univers と共にゴシック体(サンセリフ体)
のトップの座を維持してきました。
Helvetica と双璧を成すもう一つのサンセリフ体に、同じく HAAS 社がアドリアン・フルティガー氏の
手により制作したユニバース(Univers)という書体があります。下図が Univers です。
【Univers】
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両書体とも、ほぼ同じ年代(1956 年~1597 年)の作品で、人気を二分しました。Helvetica が硬い、
ガッチリしたイメージを持つのに対し、Universe は柔らかい、ソフトなイメージを持っています。従っ
て、Helvetica が工業製品や鉄道、道路などの表記に使用されるのに対し、Univers は衣服や食品などの
表記に多く使用されました。また、Univers は当時としては珍しくシスティマティックな、Family(一
つの書体の中に、様々な太さや、斜体、扁平など多様なスタイルを含めた集合体)の考え方を取り入れ、
後の写植やパソコンのフォントに近い方式を採用しました。Univers は、書体名の後に 56 とか 48 とか
の数字が付いていますが、これはその書体の太さや傾きの度合いなどを決めた数字です。次の図はその一
例を示したものです。
【傾きの度合い】
1)-1HAAS 社の書体
HAAS 社は、上記 2 書体以外にも数々の優れた書体を開発し、現代タイポグラフィーの基礎を築いた活字
メーカーです。HAAS 社が開発し、現代にも引き継がれている名作の数々をご紹介します。ただ、下記の
書体は全て HAAS 社が独自に開発したものとは限りません。伝統的な欧文書体を HAAS 社が活字として
改刻・販売した書体も含まれます。
①ドイツ文字(=ブラックレターBlack Letter)
グーテンベルグが印刷術と活字鋳造法を確立した 1450 年代以降、いわゆる「ドイツ文字」が活字の主流
でした。ここでは「Black Letter」として一括りにしていますが、HAAS 社は 1927 には下図のような
ドイツ文字を製造・販売していました。後の「Wedding Text」や「Cloister Black」に引き継がれる
基本となった書体です。優雅な気品を感じます。
【Black Letter】
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②ボドニ(Bodoni)
1800 年ころ、Giambatista Bodoni によって作成された「ボドニ」は 欧文開発を語るうえで歴史に残
る名作で、世界各国の活字メーカーによって鋳造されていますが、HAAS 社は 1924 年に Edmund
Thiele に制作されたボドニを販売しています。以後、この HAAS 版ボドニは、ベルリンの Belthold 社
やフランクフルトの D.Stempel AG 社へと引き継がれていきます。
【Bodoni】
③コマーシャル グロテスク(Cmmercial Grotesk)
いまでこそ、よく見掛ける「エジプシャン体」と言われる装飾系の書体ですが、HAAS ではこの書体を
1940 年に開発しています。詳しくは「欧文書体の分類」の項で述べますが、スラブセリフという四角の
大きな飾りが付くのが特徴で、その縦画の形がエジプトの柱の形状に似ていることから、エジプシャン体
と言われています。
【エジプシャン体】
④バンドーム(Vendome)
1945 年ころ開発された、オールドローマン体の傑作「バンドーム」は HAAS 社が改刻し、1951 年 HAAS
版バンドームとして発売されました。
【HAAS 版バンドーム】
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⑤クラレンドン(Clarendon)
1845 年 Robert Besley によって制作された「クラレンドン」は、エジプシャン体の素と言われていま
す。上記③のコマーシャル グロテスクのように〝遊びの要素〟を取り入れたエジプシャン体ではなく、
正当派エジプシャン体の草分けで、本文組は勿論のこと会社名などの表記に現在でも広く使用されていま
す。HAAS 版 Clarendon は 1952 年に発売されました。
【クラレンドン】
⑥アンチック オリーブ(Antique Olive)
これは、HAAS 社のオリジナル書体です。前述のヘルベティカとユニバースの大ヒットに気をよくした
HAAS 社が 1963 年ころから発売を開始した書体です。独特な雰囲気を持ち、見出しなどに使われました
がその人気はあまり長続きしませんでした。
【アンチック オリーブ】
⑦メリディアン(Meridian)
オリジナルは 1945 年ころ、主に本文用として制作されました。HAAS 社では、この書体をユニバースを
制作したアドリアン フルティガー氏に HAAS 版の制作を依頼しました。1955 年に販売されています。
【メリディアン】
HAAS 社は、1580 年に設立された最も伝統ある活字メーカーの一つです。しかし、下の写真のように手
作業で活字を一本ずつ制作する、いわば「小さな町工場」の域を脱することは出来ませんでした。
【HAAS 社】
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他に大きな活字メーカーが次々と出現し、小さな HAAS 社は生き残りを賭けて色々な書体を開発しました。
その代表的な 2 つの書体をご紹介します。
⑧バジリア(Basilia)
1978 年、スイス・バーゼル在住の著名な書体デザイナーのアンドレ・ギューター(Andre Gurtler)氏
が制作した書体です。この書体はかなりヒットし長く使用されました。豊富なファミリー(ウエイトの違
うものや、斜体など一連のイメージで制作した書体のシリーズ)を持っていることは、当時では珍しいこ
とでした。多くのファミリーの中から代表的な書体を示します。下図は Basilia Medume です。
【バジリア】
ヘルベティカ、ユニバースの大ヒットと共に、上記バジリアのヒット気を良くした HAAS 社は、バジリア
の作者アンドレ・ギューター氏をチーフに「チーム‘77 バーゼル(Team’77 Basel)
」という 3 人の
デザイナーで作るチームを HAAS 社内に結成し、新しい書体の開発に取り組みました。
HAAS Unica(ハース・ユニカ)という書体です。この書体は、Helvetica をベースとし、その欠点を
直しより現代的な明るいイメージにした、という触れ込みで世界中に宣伝をしましたが、Helvetica とそ
う大きな違いがなく、社運を賭けたこの書体の失敗によって HAAS 社は衰退していきました。
1980 年代の前半、
ドイツの活字メーカーD.Stempel AG
(ステンペル社)
に吸収され、
その後 MonoType
社の傘下に入ることになりました。
次の図の Helvetica と HAAS Unica の比較をご覧下さい。Unica のデザインコンセプトは優れたもの
があるのですが、Helvetica との差異がユーザーには明確に伝わらず「Helvetica と Universe の良い
とこ取り」と酷評されました。
⑨HAAS Unica
【HAAS Unica】
⑩HAAS Helvetica
【HAAS Helvetica】
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JやK、R、£などに僅かな違いは見られるものの、Helvetica に取って代わるほどの魅力は無く、
Helvetica が現代まで使用されているのに対し、Unica は日の目を見ることなく姿を消してしまいました。
※ この HAAS 社の項で使用した写真や書体見本は全て、私が同社を訪問して撮影したり、入手した
印字サンプルを掲載しました。特に、当時の HAAS 社の活字サンプルは非常に貴重なものです。
2)D. Stempel AG(ステンペル社)
スイス・ハース社に遅れること約 300 年の 1895 年、ドイツ・フランクフルト郊外に David Stempel
氏が活字鋳造会社「ステンペル社」を創設しました。元々、財閥であったステンペル氏は、当時のハース
社を傘下に収め、ハース書体の販売権を持つと共に、優秀なパンチカッター(父型彫刻師)を多数雇用し、
伝統的な書体の復刻や、独自の書体開発を進め、ヨーロッパの活字文化の担い手となりました。
下の写真は、ステンペル社のエントランスにある創業者 David Stempel 氏の肖像画。その次の写真の右
から 2 番目が、私が訪問したときの社長、ウオルター・グライスナー氏、その右隣が若き日の私です。
【ステンペル社のエントランス】
【グライスナー氏と筆者(一番左)】
ステンペル社の書体は、非常に多数あり枚挙に暇がありませんのでここでは省略いたしますが、最初はド
イツ文字の鋳造からスタートし、以後伝統的な格調高い多くの作品を残しました。また、同社は世界的に
有名な書体デザイナー、ヘルマン・ツアップ氏(Hermann Zapf)を世に出したことでも功績がありま
す。ツアップ氏につきましては、別章で詳しく説明致します。
ハース社を傘下に収めたステンペル社はその後、ライノタイプ社(Linotype GmbH)、モノタイプ社
(Monotype)とグループを結成し、その伝統は現在もある両社に引き継がれています。
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