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IT 新改革戦略と AHS( 路車協調システム

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IT 新改革戦略と AHS( 路車協調システム
特集
新 改 革 戦 略 推進の意義と展望
IT 新改革戦略と
AHS( 路車協調システム)
磯貝徹二
技術研究組合 走行支援道路システム開発機構
常務理事 研究所長
研究経緯、実現を目指すサービスとその効果、今後の展
開について記述する。
1 はじめに
なお、
「路車協調システム」は、IT新改革戦略で使用さ
れている「インフラ協調システム」と同義語である。ま
今、何故「路車協調システム」なのか?
た、AHS研究組合で対象としている「AHS(Advanced
Cruise-Assist Highway System )」はリアルタイムな
2006 年1月に発表された IT 新改革戦略の主目標の
路車協調の領域で厳密には同義ではないが、最近は「路
一つに「世界一安全な道路交通社会の実現」が掲げられ、
車協調システム」も AHS と同様の意味で使用される場
その実現手段として「インフラ協調システム」が明示さ
合が多い。
れた。同じように、欧米先進国においても交通事故削減
の高い目標が掲げられ、これを達成するには「路車協調
2 「路車協調システム」の発想と特徴
システム」の導入が必須であるとの認識から、その実現
に向けた活動が加速している。
現在、世界的に取り組まれている「路車協調システム」
は、1996 年に AHS 研究組合が設立されて初めて本格
的な研究が開始され、以来本分野のパイオニアとして取
2-1 基本的な発想と特徴
①膨大な交通事故データを分析した結果、交通事故原因
り組んできたテーマである。以下に、その発想と特徴、
の 75%は発見の遅れ、判断・操作の誤り等ドライバ
図1 事故対策と時間軸
事前
直前
前もって実施する対策
事故が起こるすぐ前の対策
道路自体の改良
道路標識、道路照明の設置
安全教育の実施
技術的な理由で
取り組みが
遅れていた領域
最中・直後
事故が起きた時と
すぐ後の対策
後 対策
シートベルトの装着義務化
エアバックの普及
ガードレールの設置
事故による死亡者数を削減する領域
事故件数を削減する領域
20
事後
事故が起こってしまった
後の対策
緊急通報の確立
救急医療の高度化
図 2 基本ユーザサービス体系
目的
時間軸
事前の行動の支援
基
本
ユ
ー
ザ
サ
ー
ビ
ス
体
系
交通挙動
安全車間保持
障害物衝突防止
車線保持(直線)
車線保持(カーブ)
安全車線変更
出会い頭衝突防止
右折衝突防止
左折衝突防止
横断歩行者衝突防止
踏切事故防止
縦方向挙動の支援
安
全
性
の
向
上
直前の行動の支援
基本ユーザサービス
横方向挙動の支援
交差挙動の支援
最中の行動の支援
効
率
・
環
境
の
向
上
直後の行動の支援
事後の行動の支援
その他
縦方向挙動の支援
横方向挙動の支援
交差挙動の支援
適正車間保持
車間短縮
最適速度
通行の確保
車線変更最適化
車線利用率最適化
分合流最適化
発進挙動最適化
発進停止の減少
その他 (利便、快適・・・ドライバー基本機能など)
7サービス
の事故直前の行動に起因する事が判明した。
②事故の発生前後を時間軸上で解析すると、これらはド
図 3 サービスレベルと役割分担
ライバの「事故の直前」の行動によるものである。従
現状
って、
一層の事故削減のためには従来の「事故の事前」
、
「事故の最中」
、
「事故の事後」の諸対策に加え、IT技術
の進歩で可能になったリアルタイムな「事故の直前」
対策が有効である。
(図 1)
情報
操作
③従来の
「インフラ単独システム」
や
「車両単独システム」
ではその効果に限界が有り、更に一段高い目標を達成
責任
支援レベル��
S tem
System
支援レベル��
支援レベル����
S tem
System
System
S tem
System
System
System
するためには、インフラと車両との協調による「路車
協調システム」が必須である。
として現在では世界的な共通認識となっている、
「基
これらの新しい視点と発想から「AHS:路車協調シス
本ユーザサービス」
、
「サービスのレベル」を例示する。
テム」が構想された。これは従来の安全システムとは異
②「基本ユーザサービス」は事故データを解析し事故削
なる、新たなパラダイムの新社会システムである。
減に有効な「基本ユーザサービス」を時間軸・目的・
交通挙動ごとに体系化したもので、研究上の重要な指
2-2 「路車協調システム」の基本コンセプト
針である。
(図 2)
①最初の活動として、研究開発の指針となる新たなパラ
③「サービスのレベル」は発展段階を考えた3段階の支
ダイムの基本コンセプトを構築した。
「基本ユーザサ
援レベル「i(情報提供)
、c(操作支援)
、a(自動走行)
」
ービス」
、
「サービスのレベル」
、
「路車役割分担の原則」
、
と「運転者とシステムとの役割・責任分担」とを明確
「路車協調システムの安全性・信頼性の考え方」等で
あり、
「路車協調システム」を研究する上での基本概念
21
化した。新社会システムの枠組を決める上で重要な概
念である。
(図3)
特集
新 改 革 戦 略 推進の意義と展望
「既存システムの活用」や「他サービスとの共用」によ
3
「路車協調システム」の
第一期研究活動(1996 年∼ 2002 年)
り早期実現と普及を目指すと共に、低コストで早期に
提供可能な「地図連携によるサービス」の開発や「車両
から得られる交通情報を活用するサービス」の開発に
3-1 研究成果と試験走路/実道での検証
も注力する。
②「交差点系サービス」については、第一期で実施した
①4年間の研究成果を集大成し「路車協調システム・モ
試験走路での実験の結果、交差点の極めて複雑な挙
デルコース」を試験走路に構築した。事故削減効果の
動を全てセンサで把握するには限界がある事が明ら
大きい「7サービス」
(図 2)の有効性やシステムの実
かになり、同時にまた、これらの交差点情報をドライ
現性に関する評価・検証を目的に「スマートクルーズ
バに対して適切に表示する方法にも課題が残った。交
21」を 2000 年に実施した。
差点での事故は事故件数の過半数を占める重要課題で
安全車両システムを開発する ASV との連携を始め、
あり、引き続き、路車機能分担の見直し、極力軽いイ
国内外の大学、車両メーカとも連携し、国際的な協調
ンフラ構成、ドライバへの効果的な表示方法(HMI )
、
の下で効率的で効果的な実証実験を実施した。
車載地図データ活用による低コストサービスの研究等
②また、
「スマートクルーズ 21 」の研究成果である AHS
が必要である。
(路車協調システム)技術を世界に公表するため、公
③また、交通事故削減の研究に加え、急増する高齢者ド
開実験「Demo2000 」を開催した。海外 18 カ国からの
ライバが安心して運転できる走行支援や渋滞削減・環
200 名を含め 2,400 名の参加が有り、体験乗車、講演
境改善に向けた要請にも応えていく。
会、シンポジウム等を通して「路車協調システム」の
理解を広め、同時に各方面からの意見を収集できた。
5
世界に先駆けた「路車協調システム」のコンセプトや
早期実用化に向けた展開
(首都高・参宮橋での社会実験)
有効性が世界的に認知され、欧米が「路車協調システ
ム」に取り組む契機となった。 ③全国 7 箇所の実道に、それぞれの問題解決を目的とし
5-1 既存車載器を活用した一般車両での
社会実験
た実験システムを設置し、ASV と協力してそれぞれ
①首都高速道路の事故最多発地点で「前方障害物情報提
の観点から個別具体的に検証・評価と課題抽出を実施
供サービス」の実験・評価を長期にわたり実施し継続
した。
中である。
(図 4)
②早期実用化を目指し、現在世の中で使用されている車
4
「路車協調システム」の
第二期研究活動(2003 年以降)
載器(3 メディア VICS対応車載器)を搭載した一般車
(混入率約 10%)により実験を行った。実道での一般
車両による「路車協調サービス」の実験は世界で初め
4-1 第一期の成果・課題と第二期研究活動の
方向
①「単路系サービス」については、第一期研究により「路
ての試みである。
5-2 「サービス評価手法」の試行
車協調システム」の有効性が確認でき、実用化の可能
①短期間で評価できる適切な手法が存在しないため、
性を見出せた事が大きな成果である。一方、サービス
新たな手法を開発し試行した。従来手法は発生する
提供の基本となる通信プラットフォーム、車載器を実
事故件数を評価指標とする事から、評価に長期間を
用化していく上でその「普及発展のシナリオ」が描け
要し、またサンプル数が少なく深い現象解析は不可
ないという現実課題に直面した。従って第二期では、
能である。
22
図 4 首都高参宮橋での社会実験
東京都心方面
センサーが渋滞や停止・
低速車両を検知
赤外センサー
渋滞末尾情報板
約 300m
VICS ビーコン
ピッ!
→
上り
←
下り
八王子方面
首都高速情報
カーブの先の
状況を簡易図
形で表示
カーナビの表示
②急ブレーキ、急ハンドル、走行
速度等の「車両挙動」を観測し、
図 5 4 年間の事故発生状況推移
事故発生の潜在要因である「ヒ
ヤリハット」と考えられる挙動
や更にその要因を構成する「不
完全・不安定な走行状態」等を
新たな評価指標とした(ハイン
その他事故
追突(その他)
事故件数
(件/年度)
二次事故
160
追突(対低速)
120
リッヒの法則)
。これにより、
事故件数に比較して桁違いに多
80
量の要因データを基に短期間で
種々の分析・評価が可能になっ
た。なお、AHS研究組合で開
発した画像センサは 100ms毎の
40
20件
0
H14.4-H15.3
H14年度
45件
H15.4-H16.3
H15年度
33件
H16.4-H17.3
H16年度
7件
H17.4-H18.3
H17年度
車両位置・速度を把握でき、こ
れまで知り得なかった挙動の分析・評価ツールとして
広範に活用できる。
5-3 参宮橋社会実験の成果
認され、特に高齢者に高い評価を得た。
③車載器でサービスを受けられる車両は全体の 10%に
限定された中でも、予想以上の顕著な効果が得られた。
車載器搭載率が上がれば更に有効度はアップする。
①車載器によるサービスで、
「ヒヤリハット」と考えられ
④車載器によるサービスと共に情報板によるサービスも
る事象が 10%以上減少し、車両挙動が安全側に変化
実施し、長期的に事故削減効果を計測した。サービス
することが実証された。
開始以降大幅な事故削減効果が継続していることが確
②アンケートにより「サービスの有効性と受容性」が確
23
認された。
(図 5)
特集
新 改 革 戦 略 推進の意義と展望
⑤試行した「サービス評価手法」の有効性が確認された。
また、通報されない事故が通報された事故件数の2倍
6
発生している実態等も初めて観測された。
5-4 参宮橋実験成果の展開
実用化に向けた
路車協調サービスの展開
6-1 ITSプラットフォーム活用の
路車協調サービス
①大型情報板と DSRC とを概略比較した。情報内容を
ドライバに適切に伝える効果の実験によれば、大型
① ITSプラットフォーム活用による普及促進
情報板では 50%のドライバ認知率に対し、車載器か
多くの事業者が共通に利用できる ITS プラットフ
ら直接情報提供する路車協調では 90%と効果が高い。
ォームが「官民共同研究」で開発された。AHS 路車協
また、インフラ整備コストでは大型情報板が約 5,000
調サービスも ITS プラットフォーム上で実現できれ
万∼1億円に対し、DSRC はその 10 分の1以下であ
ば、1,000 万台を超える ETC サービス等との共用が
り、路車協調サービスの普及は「車載器普及が鍵」で
図られ、普及促進を図る絶好の機会となる。
ある。
② AHS路車協調サービスへの適用
②このようなサービスが有効と思われる箇所を推定する
ITS プラットフォーム上で実現する場合、リアルタ
と自動車専用道の急カーブは 800 箇所以上、直轄国
イム性確保がポイントとなる。受信情報を「1秒以内
道の急カーブ、クレスト部は 3,000 箇所以上存在し、
に車載器からドライバに伝達する事」が目安になるが、
これらの箇所への展開が期待される。因みに上記箇所
ほぼ達成できる見通しである。
への導入効果は事故削減の直接効果だけで合計約 200
また共通プラットフォーム活用の利点として、ド
億円/年と想定される。
ライバとのインタフェース手段は画像に加え音声での
図 6 路車協調サービスの展開イメージ
管理者
民間
道路行政への
様々な活用
インターネットなど
GPS
地図と連携した
安全情報の
提供
クルマが
入手しがたい
情報の検知
大容量双方向通信
(DSRC)の活用
カーナビ
道路
クルマの情報を
活用
ドライバーへの
情報提供
様々なメディア
からの情報提供
デジタル地図
車々間通信
他車両
多様な
民間情報サービス
路車間通信
路側センサ
メールが
届きました
この先、△kmに
!
交通事故発生!
○○m先、
右折してください
ドライバ
車載器
様々なITSサービスの利用
自車両
24
提供も可能である事、路側
からの受信情報と自車両の
図 7 路車協調サービスのロードマップ
走行状態とを連動させた処
理が可能となる事などから、
ドライバに対してより適切
で煩わしさの少ない情報を
適切なタイミングで提供す
る事が可能となる。
以上から、早期実用化を図
る有効な AHS 路車協調サー
ビス提供は充分可能であり、
他の多くのサービスとの相乗
ドライバー向けサービス
車輌側
高度車両制御車
車間通信
車
両
の
I
T
化
車
両
制
御
︵
レ
ー
ン
キ
ー
プ
、
被
害
軽
減
ブ
レ
ー
キ
︶
ソフトインフラ活用情報提供
(カーブ進入、一時停止交差点、
歩行者優先ゾーン案内、等)
単路系サービス
(前方障害物、路面情報)
路車協調
単路系サービス(前方障害物衝突
防止、カーブ進入、路面情報活用
操作支援、等)
交差系サービス(合流、出合い頭、
右左折、歩行、等)
円滑サービス
(サグ・トンネル、合流部、等)
ITS
車載器
(限定されたエリアでの)
自動運転
AHS-�
操作支援
警報支援
AHS-�
注意喚起支援
カ
ー
ナ
ビ
・
V
I
C
S
E
T
C
情報提供
効果による普及拡大が期待さ
AHS-�
●道路状況把握
●路面状況把握
地図や各種データベースの整備、等
道路センサ、路面センサ
れる。 道
路
管
理
者
向
け
サ
ー
ビ
ス
●特別危険物車両管理
特別危険
●交通事故原因分析
●渋滞要因分析
●路面管理支援
●構造物管理支援
ETC
VICSビーコン
道路情報基盤
DSRC プローブ
収集基盤
5.8GHz DSRC
提供基盤
6-2 AHS路車協調
サービスの展開方向
イ
ン
フ
ラ
側
道路のIT化
①有効で多彩な路車協調サービスの開発が期待される
⑥プローブ情報の収集と提供
が、今後のサービス研究に資するため、サービス展開
⑦サグ部における情報提供
のイメージと、路車協調システムのロードマップとを
なお、上記7システムについては既に前出の「スマー
紹介する。
トウェイ展開による安全運転支援の取り組み」
(5.2 項)
②「路車協調サービス」を提供する他システムとの関連
で解説されているのでご参照頂く事としたい。
とその動向とを今後の展開イメージとして図6にまと
めた。
③道路の IT化、車両の IT 化を軸に「路車協調システム」
7 おわりに
のロードマップを図 7 に示す。
「情報提供」
、
「注意喚起
支援」を当面のターゲットとし、一般ドライバ向けサ
世界一安全な道路交通社会を世界に先駆けて実現する
ービスに加え、道路管理者向けサービスも可能なイン
ため、当研究組合も 10 年に及ぶ「路車協調システム」の
フラ活用を目指す。
研究成果を活用し更なる貢献努力をしていきたい。そし
てこの事が国際競争力を持つ新たな産業の創生に繋がる
6-3 重点的に推進する安全運転支援システム
事を期待している。
今後、ITS プラットフォームを活用した多様な路車協
最後になりますが、多大なご指導とご支援を頂いてい
調システムの導入が期待されるが、次の7システムは早
る国土交通省 ITS 推進室、国土技術政策総合研究所の
期実用化を目指し重点的に推進を加速する。
関係の皆様には心よりお礼申し上げます。
①前方障害物情報提供
(いそがい・てつじ)
②前方異常情報提供 ③道路環境情報提供 参 考 文 献
(1)2006 AHS シンポジウム
URL: http://www.ahsra.or.jp/jpn/c04j/2006/
01summary/index.html
④合流支援
⑤デジタル道路地図データを活用した情報提供
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