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支え合いマップで福祉はこう変わる

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支え合いマップで福祉はこう変わる
1
支え合いマップを生かした
当事者発、ご近所発、超福祉
そしてあなたの立ち位置も…
支え合いマップで
福祉はこう変わる
住民流地域福祉論・概説
序 章 住民を主役に据え、ワーカーは後押し役に<2>
第1章 担い手と受け手を分別せず<3>福祉の基本構図を変える
第2章 福祉の主役は当事者<7>住民流の最大の特徴は?
第3章 「自分らしく生きたい」<10>当事者が求める福祉レベルとは?
第4章 ご近所が福祉の最前線<18>「中央から発する福祉」の限界
第5章 マップでご近所ごとにアセスメント<26>課題はどのように抽出する?
第6章 前線から後方支援へ<35>推進機関の役割は?
第7章 「協働したくない」?<38>地域福祉力を弱めているのは誰だ?
第8章 「助けられ上手」も活動だ<43>福祉資源とは何か?
終 章 マップが促す統合的視点<47>私たちのものの考え方が問われている
住民流福祉総合研究所<木原
孝久>
350-0451 埼玉県入間郡毛呂山町毛呂本郷 1476-1
TEL049-294-8284
2
<序章>住民を主役に据え
ワーカーは、後押し役に
私どもが支え合いマップを開発して20年、
「地域を『見える化』するツール」として普
及してきました。そのためマップを単に要援護者を探す手段としか見ない人もたくさんいま
す。要援護者が見つかったら、それで(マップは)御用済みで、後は自分たちのやり方でその
問題に対処していこうとするのです。しかし要援護者を探すだけなら、民生委員に聞けば、
8割方は知っています。わざわざマップを作る必要はないのです。
支え合いマップをつくるのは、これまでにない新しい地域福祉に踏み込むのだということ
が、模索の中でわかってきました。
■
マップは主として人々の(福祉的な)関わり合いの状況を調べます。一見何もしていない
ようで、彼等らしいやり方(住民流)で取り組んでいることがわかります。ならばそれらを
大事にしながら、後方から応援していけば、一定レベルの福祉が実現するはずなのです。そ
れで充足されない部分を関係機関が補えばいい。マップづくりはつまり、住民主体の福祉づ
くりをめざしているのです。
■
住民の主体的な福祉行為はどんな原理に基づいているのか、どういうルールがあるのか、
その結果どういう地域福祉になるのか。例えば…
①住民は50世帯程度の小さな圏域(
「ご近所」と命名)でふれあい、助け合っています。
その中で要援護者は安定した自立生活を送れているのです。②ご近所では当事者が主役とな
っており、関係者主導の福祉とは様々な面で違いが生じています。しかも③世話焼きさんと
いう天性の資質の持ち主がメインの担い手になっています。それ以前に、④彼らは担い手と
受け手といった区別をしていません。要援護者も「私は助けられる一方」とは思っていない
ということです。⑤社会から福祉という営みだけを抜き出すこと自体も不自然と感じていま
す。要援護者個々の問題にも地域の様々な要素が絡み合っていることが、マップを作ると見
えてくるからです。マップづくりは私たちを今までとは違った世界に導いてくれるのです。
3
<第1章>担い手と受け手を分別せず
■福祉の基本構図を変える
⑴これは「自明の理」であるか?
福祉を単純化して言えば「要援護者に福祉サービスを提供すること」でしょう。そこで以
下の3つの事実を思い浮かべます。全く自明の理に思えますが、はたしてそうか。
➊福祉はサービスの受け手と担い手に分けられる。
➋担い手が受け手にサービスを提供する。
➌サービスのやり取りの主導権は担い手が握る。
この構図が実際の福祉現場で、どういう問題を生じさせているか。一つは、担い手の「専
横」です。例えば関係者や活動家向けの研修でこういう課題を提示してみました。
「坪井さ
んは、
妻の亡きあと、
誰も寄せ付けず、
引きこもってしまいました。
どうしたらいいのか?」
。
驚くべきことに、彼らの少なからずが「坪井さんをサロンに連れ出す」と言うのです。
もう一つ、
「中村さんは要介護になってから、老人クラブのイベントに参加できなくなり
ました」
。これに対して、
「中村さんをサロンに参加させる」
。じつは老人クラブのイベント
の会場ではサロンも開催されているという設定にしていたのです。
「引きこもりの坪井さんがサロンに来るわ
けないでしょう?」と私が言うと、
「どうし
担い手
て?」と言った顔をするのです。また「中
村さんは老人クラブのイベントに参加した
推進者
受け手
いのであって、勝手にサロンに切り替えさ
せるのはよくないのでは?」と言うと、納
得がいかないという顔をするのです。
担い手は受け手に対してこの程度の主導権は主張していいと思っているのでしょう。一
4
人暮らしの人に見守り隊を派遣すること自体、受け手の意向を無視したやり方です。引きこ
もりの人を担当した民生委員が、戸を開けてくれるまで何年も通っているという話をよく聞
きます。担当者の私が訪問してあげているのにそれを拒むのは言語道断と思っているのでし
ょう。この傾向は「推進者」も同様です。
⑵担い手と受け手の区分けができない!
ところで、支え合いマップを作ると、興味深い事
実を発見します。
右の写真は輪島市のマップ作りで見つけたもので、
ベッド生活の一人暮らし女性(右端)宅で開かれて
いるサロンです。そこに周囲の年寄りたちがおしゃ
べりにやってきます。その中に認知症の女性もいます。彼女がデイサービスから戻ったのを
見計らって寄り集まって来るらしいのです。これを「自明の事実」に照らし合わせると…
➊誰が福祉の担い手で誰が受け手なのか。お互いが受け手であり、担い手でもある。
➋おしゃべりの中で彼らの問題が解決されている。誰が誰にサービスしたか分からない。
➌それ以前にこの営みの主催者は誰かもはっきりしない。
3項目のすべてが崩れてしまいます。
⑶要援護者同士が絡み合っていた
今度はマップそのものを紹介しましょう。北海道のある地区(50世帯ほど)で作った
もので、そこにワーカーなら、
「この人こそが『福祉サービスを必要としている人』だ」と
みなすはずの家が6軒も見つかりました。この中の3軒が、域外で開かれているサロンに参
加していますが、彼ら同士がご近所内でも関わり合っていました。主役は一人暮らしのAさ
ん。半身マヒの車いす生活ですが、Cさんがたまに泊りに来ています。
この地区を担当の民生委員は、施設に入所しているBさんを見舞いに行ったら、
「里帰り
したい」と言います。しかし家は既に空き家。ならばと、Aさんが引き受け入れてくれまし
た。里帰りのBさんを赤飯を炊いて歓迎してくれたといいます。
その後も次なる試みが検討されています。認知症で昼間一人暮らしのEさんや、老老介護
5
で疲れているDさんも
〔ご近所〕
招いて、Aさん宅でサ
市外から義母転入
ロンを開こう、Aさん
C家
がD家を訪問してみよ
うとか。F家の長男が
んでもらおうかとも。
彼らは、担い手と受
け手という区分け方を
父・妻(要介護)・長男・次男
長男は車の運転が趣味
F家
長男に移送を
してもらったら?
(A,B,C,Eさんの)
B家
施設からA家へ里帰り
たちをAさん宅まで運
「A家のサロンに参加?」
E家
ので、これら要介護者
D家
「訪問してみようか…」
車の運転が趣味という
施設入所
老々で
夫が妻を介護中
たまに泊りに行く
母と息子
母が認知症
日中は独り
夜間もたまに
民生委員
A家
半身マヒ、車椅子、一人暮らし女性
入所の勧めを拒否、家をバリアフリーに
していません。ABC
DEFの6人が複雑に
絡まり合っており、推進者の民生委員自身、その区分けをしていないようです。
⑷担い手も受け手も推進者も地域の助け合いの輪に
住民のこんなやり方を尊重するのなら、推進者や担い手と受け手の構図は変わってきます。
担い手
推進者
受け手
受け手は地域の住民同士の助け合いの輪の中に戻る。そして担い手も推進者もその輪の中の
一人に加わることです。推進者はまた、住民の助け合いの輪の外に居て、それらを邪魔しな
6
いように後方支援するのです。
⑸要援護者(受け手)こそ担い手になりたがっている
「自明の理」のもう一つの問題は、要援護者を受け手の位置に固定させることです。要援護
者も、
「自分は人に助けてもらう一方の人間だ」などとは考えてはいません。むしろ「私も
担い手の一人だ」と。関係者はその人に「役割を与える」という言い方をしますが、あくま
で相手を「要援護者」の位置に据え置きたいという姿勢が見え見えです。そんな位置関係に
固執せず、相手を素直に担い手だと考えればいいことなのです。そこから意外なことが生ま
れてきます。
川崎市の介護ボランティアグループ「すずの会」にケアマネから老々世帯のケースが持ち
込まれました。夫に癌が見つかった。妻(K子さん)は要介護3で障害もある。
「どちらかが
施設に入らないと共倒れになる」とケアマネが脅したのに2人は自宅で頑張るの1点張り。
そこですずの会はどうしたか。なんとK子さんの家でサロンを開いてもらったのです。そ
こに近隣の人が来て、ふれあいが実現。趣味活動もできる。夫との生活も継続できる。斜向
かいに80歳でうつ状態の一人暮らし女性(T子さん)がいる。グループは彼女に「K子さん
のサロンを手伝ってね」
。一方のK子さんには「T子さんの面倒を見てね」
。両者とも「私も
ボランティアだ」と張り切った。その後K子さんの担当医が診察して要介護度が下がってい
るのでビックリ。
「あんたたち、彼女に何をしたの?」リーダーの鈴木恵子さんは「ちょっ
とした処方をしただけですよ」
。
⑹担い手になった要援護者に「治療」効果が
要援護者が担い手になることで、その人に「治療」効果が出てくるということです。私ど
もは「ボランティア・セラピー」と言っています(アメリカでは「ヘルパー・セラピー」)。
大分県の特別養護老人ホームが、在宅の認知症の人への訪問活動を始めようというとき、
試しに施設の認知症の人を連れて行ってみようと考えました。
これが大成功。在宅の人の悩みに相槌を打っている間に本人の症状に改善が見られたので
す。その後、在宅訪問には重度の人を優先的に連れて行くことにしたといいます。要援護者
ほど担い手に据えた方が福祉的にもいいということなのです。
7
<第2章>福祉の主役は当事者
■住民流の最大の特徴は?
この際、3ページの➌について、大事なことを紹介しましょう。福祉の主役は当事者であ
るということです。地域福祉のワーカーは、自分が地域福祉を進める主役だと、当たり前の
ように考えているようですが、それは間違いです。
⑴「引きこもり」でも2人は見込んでいた
次頁のマップは長野県茅野市のワーカーが、市内の要介護家庭で本人から聞き取りした
ものです。老々で共に要介護という大変な家ですが、この奥さんが、私どもの言う「助けら
れ上手さん」で、周りの人にあれこれお願いしていました。あなたはゴミ出しを、あなたは
庭木の剪定を、あなたはバス停まで私を送ってとか。地域では受け手主導なのです。
庭木の手入れ
庭の草取り
移送
雪かき
A子さん
移送
移送
生協を一緒
に購入
ゴミ出し
では、引きこもりの人はどうなのか。主導権を主張するどころか、支援の手を拒否してい
る。ところが実際はそうでもないのです。
次ページのマップは、死後2週間で発見された一人暮らし女性です。初めは「誰も見守っ
ていなかったから亡くなった」と町内会役員は言っていましたが、
「こんな人でも、誰かは
見込んでいたはずだ」と粘ったら、2人見つかりました。右側の人には「何かあったら頼む
ね」と言っていたそうです。
8
ではなぜこの2人の人材が発見できなかったのか。探す気がなかったから、としか言い
ようがありません。民生委員が
訪問していたのに、戸を開けて
くれないので、あきらめてしま
ったのです。本人の意向を徹底
的に調べていれば、この人も2
料理ボランティア
仲間
Aさんに見込まれた人
(最近引越していた)
人を見込んでいたことが分か
ったはずなのです。これがワー
カーが実践すべき「受け手主導
Aさん(孤独死した女性)
(油絵の趣味あり)
を尊重」することなのです。
地域では当事者同士が絡まり合って、誰が担い手か誰が受け手かわからないというのは、
当事者同士がそれぞれ福祉の主体者として関係し合うということなのです。
そこにワーカーが「担い手」として割り込むことはできないのです。あくまでそんな「関
係」をセットしたり、環境を用意する程度と考えてください。
⑵自助力とは「助けられ上手」のこと
当事者が主役だということは、当事者に主導権があると共に、主体者としてふさわしい行
動を取らねばならないということでもあります。
「ふさわしい行動」とは以下の通りです。
①自分の運命の主人公は私である。
②私の抱えた問題の解決策は私が考える。
③解決するための自己努力を欠かさない。
④必要な資源は私が発掘し、活用する。
⑤同じ問題を抱えた者同士、助け合う。
地域では住民はこれらを福祉の基本的な要件だと主張しているように見えます。ならばな
おさら、住民にはこの主体者意識をきちんと持っていただかねばなりません。
私どもの作るマップでは、当事者が自分の問題をどのように解決したいのか、誰に助けて
9
もらいたいのかなど、本人の意思を確認し、それに沿って支援策を考えていきます。
一方で、当事者としての自覚をもって行動するように、私どもでは「自助の手帳」という
ワークシートを作成し、各自で自助力を強化してもらうようにしています。
「助けられ上手
講座」の開催マニュアルも作成し、全国に広げています。
今の関係者は自助力の強化にあまり関心を持っていません。地域福祉が当事者主体の原則
を大事にしているのなら、当事者の自助能力の強化に力を入れるべきです。
ここで留意すべきは、自助力とは、自分の力で問題を解決する力ではなくて、周囲の人た
ちを上手に活用することで身の安全を確保し、問題を解決する力のことなのです。このこと
が理解されていないために、例えば親を介護しながら疲労で倒れてしまうといった事件が起
きているのです。マスコミもこの大事な一点をなかなか理解しようとしていません。
⑶住民流の柱は「当事者主導」に基づいたもの
ちなみに、住民流地域福祉の理論の柱はほとんど当事者主導の原理から導かれたものです。
➊福祉は「自分らしく生きたい」(第 3 章)をめざすのも、当事者の主張に沿ったものです。
同じ章で触れた
「普通よりもはるかに高いレベルの福祉」
を保障すべきというのも同様です。
➋福祉の最前線がご近所であるべき(第 4 章)なのは、当事者がここで生活し、ご近所の支援
を最も頼りとしているからです。だから、
➌推進機関は後方へ下がれ(第6章)と言っているのです。
➍協働も関係機関が当事者の居るご近所と協働するか(第7章)が問われているのです。
➎福祉資源についても、当事者がニーズを発信したり、助けられ上手であったり、当事者同
士助け合うことのすべてが福祉資源(第8章)の営みと規定しているのも、当事者が主役だか
らなのです。そして、今述べたように、
➏自助力の強化(第2章)に力を入れなければならないのも、当事者が主役だからこそです。
➐「担い手と受け手を区分けするな」(第1章)もそうですし、
「要援護者をこそ担い手にせ
よ」(第1章)、その結果、当人に「治療」効果が見込めるという「ボランティア・セラピー」
の発想も、当事者主導から導かれたものです。
➑「障害は才能だった」(第3章)も、障害を当事者の側からポジティブに見直したことから
生まれた発想です。
10
<第3章>「自分らしく生きたい」
■当事者が求める福祉レベルとは?
⑴引きこもりの彼女は油絵に夢中になっていた
8ページのマップを再度見てください。死後2週間で見つかった人も2人は見込んでい
たことが判明しました。その人を通せば、接触できたはずなのです。
ところが、もう一つの接触の機会があることがわかってきました。死後、女性の家の中に
入った人が、こう言っていました。壁という壁に油絵が飾ってあった、と。
もしこの角度から接触すれば、もっと容易に関係ができたのではないか。
「これだけ描い
たのなら、個展を開きましょうよ。値札も付けましょう」と。ところが私たちは当人の「福
祉課題」にばかり目が向きがちです。
「引きこもりを何とか解決しなくては」と。しかし彼
女は油絵を描きたかった。関係者(推進者)と本人の思いがずれていたのです。
⑵自己実現こそが当事者側からの福祉課題
厚労省は地域福祉の理念で、
「どんなに要援護状態になろうとも、住み慣れた家や地域で
安全かつその人らしく生きていけるように応援しよう」と言っています。油絵はまさに「そ
の人らしく」に該当する部分でしょう。これを「自己実現」と称する人もいます。当事者主
体の福祉に従うのなら、本人の第一番目の欲求である「自己実現」を真っ先に応援すべきな
のです。
⑶「その人らしく」をめざす方法の基本図
ここに「その人らしく」を主目標にした問題解決法の基本図を示してみましょう。今まで
はBを解決するのが福祉だと考えてきました。本解決法は、取り組み(支援)の主たる対象
をBからAに移すということです。
11
A
生きる目標
ライフスタイルを全うし
たい。天命を実行したい。
B
やりたいことをしたい。
不利な条件
C
有利な条件
障害がある。要介護。
特技がある。○にこだわ
生活困難。ひきこもり
っている。人間大好き
まずA。当事者本人がめざしている「自分らしい生活」の実現という目標。次いでB。
その目的を果たすための「不利な条件」
。福祉関係者が主に関心を持ち、取り付いている対
象で、要介護、障害がある、生活が困難といったこと。最後にCは、目的実現のための本
人の有利な条件。関係者が「ストレングス」と称している部分です。特技がある、こだわっ
ているものがある等。大事なことは、本人は明らかにAを第一義に置いているということ
です。
⑷これで福祉の取り組み方はどう変わる?
福祉が自己実現の支援だとしたら、今までとどこがどう変わってくるのか。次頁に並べた
中で解説が必要なのは、➏と➐でしょう。
➏「その人らしくの実現」と福祉の対象がレベルアップしたことで、その実現に必要な資
源の探し方が違ってきます。福祉機関の役割は少なく、地域資源の出番が多くなります。
前掲の油絵の場合も、個展を開くとなると、必要なのは絵画関係者の協力です。ただ絵が
好きだというだけでは困ります。個展を開くための人脈を持っている人、絵の出来具合を評
価できる眼力の持ち主でなければなりません。場合によっては彼女の絵を販売してくれなけ
れば困ります。購入してくれる顧客を確保できる人でも。
12
➊「その人らしい生活」の実現度は、本研究所が提唱している「豊かさ
ダイヤグラム」で測定すると便利(14頁に詳述)
。
➋B障害・要介護者へのサービスは、
「目的」から、
「その人らしく」と
いう目的を果たすための「手段」に移行していく。
➌Aを充足させるためにライフプランを作成する。それを阻むBに対処
するためにケアプランを作成するのが筋だ。
➍現在は専らBの解決のための資源を探しているが、むしろAを強力に
後押しする地域資源(主に住民資源)の発掘に力点を移すべきである。
➎Cを生かしてAを充足させる努力の過程で、Bの問題が緩和されるこ
とも。
➏Cを生かしてAを生かすには相当良質の人材の確保が求められる。
➐守秘義務の障害も消えていく。
ということで、地域資源と言っても、できる限り「高級資源」であってほしいのです。当
事者はいろいろなハンディキャップを抱えているのですから、その人に資源を投入する場合
に、その分かなり良質の資源であることが望まれるわけです。
➐Aのライフプランと、Bのケアプランを一体として作成するとなると、障害になるの
が守秘義務です。住民にプラン作りに参加してもらわねばならないのですから。人はプライ
バシーの尊重を強く主張します。しかし「その人らしく」と指標を高めれば、それを隠す必
要はなくなります。隠したいという気持ちも薄れてくるのではないでしょうか。
13
⑸「その人らしく」の課題解決の実際
<事例 1>一人暮らしの高齢男性。様々なハンディを抱えている。この場合のポイントは、ハ
ンディBに替わるたくさんの能力Cを持っていること。
A
生きる目標
自立した生活がしたい。
B
創意工夫するのが楽し
C
み。人のためにも。
不利な条件
有利な条件
脳梗塞で片麻痺。言語
部品取り寄せパソコン
障害。尿漏れ。部屋乱
作る。ビデオで町内イ
雑。無収入。補装具拒
ベントを撮影し配布。
否。サービス拒否。
補装具拒否は本人曰く「使い勝手が悪いから」
。サービス拒否は「自立意欲を
失うのがこわいから」
。自立志向の表れで、むしろ「有利な条件」だった。そ
れにパソコンを組み立てる技術があるし、創意工夫が得意。ボランティア精
神もある。これらを生かせないか。
①パソコン組み立て講座を支援。自宅開催で「部屋はきれいにしよう」
。
②ビデオ講座も開ける。両講座で収入も。
③創意工夫の腕を生かし、片麻痺でも着脱できる補装具を関係者と開発。
生活の不便も解消。
④町内会がビデオ作製を有償で依頼。パソコンの修理も含めて事業に。
14
⑹豊かさダイヤグラムで「その人らしさ」を測定
「その人らしい生活」がどの程度できているかを測る物差しとして、本研究所では「豊かさ
ダイヤグラム」を開発しました。
<豊かさダイヤグラムの測り方>
➊自分らしくの充足度を測る「豊かさダイヤグラム」とは?
項目はここにあるように6つ。①仕事・収入、②健康、③趣味・学習、④家族・夫婦、⑤
友達・ふれあい、⑥社会活動。ボランティア。
家庭・夫婦
⑤完全に充足
友達
④かなり充足
③どちらとも言えない
趣味・学習
②あまり充足せず
①貧しい!
健康
社会活動
<解説>認知症の女性
黒い線だったのが、赤い
にア
お金・仕事
線(点線)に改善された。
➋項目別に充足度を5段階で評価し、6つの点を結べば豊かさ満開度
認知症の80代の一人暮らしの女性。
「趣味」は畑で野菜作り。収穫した野菜でおしんこ
を作っている。その畑で隣り合った仲間(3人)とおしゃべり(
「友達」
)
。家族では、妹が
すぐ近くに住んでいて毎日様子を見に来る。火は使わせない。娘が時々やって来る。
<ダイヤグラムで豊かさ満開にする法>
➊どうすれば充足度がアップするか。作戦を考える。
この女性の場合、収穫した野菜で仲間と料理作り。それなら火も使える。作ったおしんこ
15
を配れば「社会活動」
。おしんこを市場で売ればお金にもなる。
➋効率的な豊かさ満開策を考える。
この6つを個別に追究しても、
「あぶはち取らず」になってしまいます。それよりも、基
点になるものがあって、それを基に、ついでに他の項目も充足させてしまう方がいいでしょ
う。一石六鳥作戦です。
次のダイヤグラム。会社でセクハラに遭って家に引きこもる女性。彼女は何かやっていな
いかと隣人に聞いたら、何もやっていないと言う。会社勤めをしていた時、パソコンぐらい
やっていたはずだと言ったら、その通りだと。そのパソコンで何かやっていないかとさらに
聞いていったら、ネットショッピングはしていると。ならばそれに取り付こう。押しかけて
いって「店」を開いてと言う。その中から「これを買ってくれ」
。お礼にいくらか払う。そ
うこうしているうちに交流ができてくるのではないか。
家庭・夫婦
少しふれあいが始まる
趣味・学習
友達
ネットショッピング
②
社会活動
健康
③
ショッピングの代行
お金・仕事
①
代行料を払う
➌①→②→③の流れが要援護者の場合によく使えるパターン。
要援護者は人に助けてもらう一方になりがちです。
「社会活動」が不充足になりやすい。
そこで本人の趣味を生かして、人の役に立てるように仕掛ければ、
「ふれあい」が生まれ、
場合によっては「収入」が見込めるのです。
16
⑺「普通よりも遥かに高い」レベルの福祉を
日本財団の「ゆめちょ総選挙」で「障害者を一流のショコラティエに!」というプロジ
ェクトが選ばれました。そのプロジェクトによる新店舗が大阪府高槻市に開店しました。こ
の店は自閉症・発達障害者・児を支援する「社会福祉法人北摂杉の子会」がオープンしたも
ので、チョコレートと焼き菓子の専門店「LaLa-Chocolat by 久遠」です。
全国に複数の直営・販売・ブランチ拠点を持つこのプロジェクトを率いるのは、
「障害が
重い人は月給3千円でも仕方がない」といった常識に納得がいかず、福祉の世界に飛び込ん
だという元設計コンサルタントの夏目浩次さん。福祉作業所の常識を悉く覆しています。
➊超ハイクラスホテルや星付きレストラン等のチョコレートを手掛けるトップショコラ
ティエ・野口和男氏が全面協力し技術指導や業務受注
➋野口氏の力で最高の素材を安く入手
➌メジャーチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」からのオファーを獲得
➍繁華街中心の一等地に出店
➎店舗はオシャレなブルックリンスタイルを採用
夏目さんがチョコレートを選んだのには理由があります。純チョコレートは柔軟な素材で、
作る人のスピードに合わせてくれる上、機械ではできない手作業に丁寧に手をかければかけ
るほど商品価値が高まるため、単に障害があってもできるというだけでなく、こだわりを持
ってじっくり作業をするという障害特性がプラスに働くのです。
障害者向けの授産と言えば、月額一万円もらえばいい方。こういうやり方が、世間の障害
者のイメージを作り上げているのでは? それを覆すような試みが今、始まっています。
この超一流の店の店員が障害者なのです。彼らを見て、来店した人は障害者にどんなイメ
ージを描くのか、考えてみてください。当事者が本当に満足する福祉のレベルは、ワーカー
たちが考えているものよりも、遥かに高いということに気づかねばなりません。
人の善意にすがらねばならないというだけで、要援護者は大事なプライドが傷つけられて
います。その傷を癒せるような福祉レベルとは、
「一般と同じ水準」ではなく、
「一般よりも
17
やや高いレベル」でもなく、
「一般よりも遥かに高いレベル」なのです。今の水準は「一般
よりもやや低いレベル」でしょう。だから当事者は助けてもらいたくないのです。
このレベルの福祉を実現するには、普通のボランティアでは務まりません。超一流のショ
コラティエでなければならないし、超一流の素材が使われなければならず、それを売るのは
超一流の店舗でなければなりません。この舞台装置をセットできるワーカーこそがこれから
求められている人材と言えるのです。
⑻「障害は才能だった」-当事者の能力開発で新機軸
当事者は担い手になりたがっていると言いました。障害を抱えていると言って簡単に対象
者と決めつけてはいけません。誰にも何らかの能力はあるはずだという強い信念があれば、
障害の中にもかすかな能力の芽を発見できないことはありません。障害ゆえの特異な行動や
性向の中に、もしや「能力」に転換できるものはないかと探す動きが、今始まっています。
自閉症者が、天井などの細かいシミが気になるということを逆利用して、印刷所で刷り上
ってくる印刷物のちょっとした印刷ミスに瞬時に気づくという「能力」として活かしている
といった具合です。
知的障害を伴う自閉症の少年が豆腐製造会社に就職しました。油揚げを作るためには、豆
腐を均一の厚さに切る必要があるのですが、これはかなりの熟練者でなければ難しい作業で
あるにも関わらず、物事に極端にこだわってしまう彼は、そのこだわりによって短期間でマ
スターし、
「彼が切る豆腐からはいい油揚げができる」と評判にまでなったといいます。
「丁寧さにこだわる」障害特性は、自動車会社で新車を清掃する作業や、木工所や電子機器
製造会社などにおいても高く評価されているそうです。また、
「記憶する」ことにこだわる
子もいますが、ある玄関マットのリース会社に就職した子は、一般の従業員でもすべての商
品(約120種類)を覚えるのに3年かかると言われているのを僅か1週間でクリアし、お
客が必要とするマットを瞬時に選び出す能力は、他の社員がとても及ばないほどだというの
です(上岡一世著・
「自閉症の理解とその支援」より)
。
「障害は才能」という見方の背景にあるのは、障害や病気に対するポジティブな発想です。
あくまで当事者の側から「障害」を見た時にこうした発想が出てくるのです。
18
<第4章>ご近所が福祉の最前線
■中央から発する「トップダウン福祉」の限界
⑴センターに居たまま相手を動かそう?
コミュニティ・ソーシャルワークの理論書を読むと、ワーカーが軸となって地域福祉が
動いているといった感じがします。彼らがニーズ把握のために地域へ出かけるのをアウトリ
ーチと言っていますが、それでも市町村部に対象者を引き寄せるのが基本で、せいぜい校区
に拠点を設けるぐらい。要するに「困ったらこっちへ来なさい」です。そして足元にサービ
スやそれを担う組織を作る。センターには様々な委員会や連絡協議会を編成する。
一方、センターから遠い小地域福祉については、自治区に自治会長の推薦による「○○委
員」等を委嘱して、近隣の福祉活動を担ってもらう。一人暮らしの高齢者の見守りには「見
守り隊」を編成してもらう。それをセンターから指揮する。かなり粗っぽいやり方です。重
要なのは、要援護者の意向をほとんど考えていない点です。
⑵「ご近所」という最適の助け合い圏域があった
関係者の気になることの1つは、圏域という概念があまり意識されていない点です。
地域は以下のようになっています。この中の市町村と地区・校区についてはよく理解され
ています。その次が自治区。問題はその次の「ご近所」です。
ご近所
自治区
校区
市町村
支え合いマップづくりを20年間続けていて発見した最大の事実は、住民はおよそ50世
帯単位で何となくまとまって生活しているということです。自治区の下にあるのは班や組だ
けだと思うでしょうが、その間に50世帯の「ご近所」があったのです。
支え合いマップはその50世帯を単位に実施します。それ以上広い範囲でやると、
「お互
いが見えない」と参加した住民は言います。許容範囲は30世帯から80世帯の間です。こ
れが、人々がふれ合ったり助け合ったりするのに最適の圏域だということです。
19
⑶当事者は何よりも「ご近所福祉の充実」を願っている
この「ご近所」には、他の圏域にはない様々な特性があります。
➊当事者はご近所圏域で生活していて、そこから出にくい。
➋自立生活のために足元の善意に頼らざるを得ない。
➌ここを最良の福祉の場にしてもらいたいと願っている。
➍しかしご近所は関係者からは遠すぎて、ここまでは誰も来ない。
➊自治区でサロンや趣味の会、老人会を開いても、要援護者は行けない、と言っていま
す。マップを作ると、やはり行っていません。
➋足元の人たちが日常的に見守ってくれたりしています。だから自立生活ができているの
です。この営みを大事にしなくてはいけません。
➌これこそが当事者の地域福祉への願いなのです。市町村部でも校区でもなく、とにかく
まずはご近所福祉を充実させてくれ、と。
➍マップづくりで気づくのは、ここまで足を運ぶワーカーがいないということです。
⑷「互助」が行われているのは「ご近所」のみ
➎ご近所で行われているのが互助。他の圏域は共助。
➏ご近所で住民流(の互助)が支配。関係者流は嫌われる。
➐互助の実態は見えにくい。マップを作ると見える。
➎「互助」は文字通りの互助。一方「共助」は、実質は「福祉活動」
。要援護者にサービ
スすることです。同じ「住民」でも、自治区以上の住民とご近所の住民は質的に違うのです。
第1章で取り上げた、担い手と受け手の特異な関係は、ご近所での互助のことだと言って
もいいでしょう。自治区以上は「サービス」の世界です。
次頁の図をご覧ください。各住民は、ジグソーパズルのピースのように、他のピースとつ
ながる手(①②③④)を持っています。基本は担い手の手と、受け手の手。それ以外にも多
20
様な関係を作るための手も複数あるでしょう。
③ 住民(要援護者)一人一人がピースの一つ
②
④
①
ご近所にはそういう複数のつながりの手を持つ住民がいて、ピッタリ合う手同士がつなが
っているのです。5ページのマップにあるように、一人の要援護者も、他の要援護者に対し
ては担い手としての手を差し出し、他の住民に対して受け手としての手を差し出しています。
これらの全体を住民は「助け合い」と言っているのでしょう。
➏ご近所では、ほかにも、いくつかのルールが支配しています。
①助け合いは水面下で。助けられる側にはプライドの危機だから。
②助け合いは日常生活の中で実行する。意図的にはやらない。
③助けてもらう側が助け手を掘り起こすのが基本。
④天性の(世話焼きの)資質の持ち主が担う。養成には馴染まない。
⑤助け助けられは、相性の合う者同士で。
①自治区ではよく会食会などの福祉サービスが実施されていますが、ご近所でそんなやり
方は嫌われます。ここは住民の生活の場で、お互いが尊厳を守りながら生活しています。福
祉というのは、受け手の尊厳の危機ですから、よほどこれに神経を使う必要があります。本
人が「助けられている」と思わない仕掛けが必要です。
②福祉は困った人を助けることでしょう。そうした営みは、住民の日常生活では異常なの
です。生活の中に紛れ込んだやり方こそが求められています。
21
③は述べました。自助とは、自身と家族で何とかすることではなく、身の安全を図るため
に周囲の人をうまく活用すること。自助力があるとは、
「助けられ上手」のことなのです。
④小地域福祉の場で活躍する人は、自治会長が推薦したり、関係機関による研修を受けた
人などを委嘱していますが、住民はそういうやり方を好んでいません。人を助けるというの
は、生まれ持っての資質が必要だと住民は考えます。現にご近所で要援護者に関わっている
人はいずれも天性の世話焼きさんです。
このルールを守っている機関は、
まずないでしょう。
地域福祉がうまく機能していないのはこれが原因です。
⑤担い手主導の地域福祉では、担い手や推進者が人選し、その配置を考えます。住民は相
性の合う者同士が繋がっています。その方が結局は機能するし、長続きするのです。
⑸ご近所力の強さの秘密とは?
関係者は住民の活動を「インフォーマル」と命名しています。だからと言って、その活動
に価値がないということではありません。ご近所の活動には意外な福祉力があるのです。
①ご近所には世話焼きさんがいて、足元の要援護者の面倒を見ている。
②わずか50世帯で、要援護者の数も少ないから対応し易い。
③当事者も自助努力をしているから、それだけ効率がいい。
④当事者同士も助け合っている。
⑤生活の中で関われるし、緊急事態にも対処できる。
⑥「おすそ分け」と「お返し」の習慣が生きている。
⑦多様なニーズにきめ細かく対応できる。
⑧当事者も福祉資源になっている。
⑨ちょっとした支援で、自立生活ができる。
①ご近所には大中小、併せて数名の世話焼きさんが活躍しています。大型は10名程度の人
の面倒を、中型は5名、小型は1,2名。生まれ持って人を助けるのが大好きというのです
から、大変な人材です。彼らはご近所の中でしか活躍していません。自治区以上では広すぎ
てどうしようもないのです。
22
右のマップを見てください。
釧路市の民生委員が足元のご
近所での世話焼きさんの活躍
ぶりを調べたものです。モスグ
リーン色が世話焼きさんです。
下段に大型世話焼きさんが2
人。中段の左右に中型世話焼き
さんが2人います。その他、隣
家の1人か2人に関わってい
るのが小型世話焼きさんです。
これらの人たちで、ご近所内の
大部分の要援護者に関わって
…高齢者世帯
…民生委員
いました。
…高齢者一人暮らし
…世話焼きさん
②マップで分かるように、要
援護者は数えるほどしかいないので、少ない世話焼きさんで対応できます。
③ご近所だと要援護者の足元に親しい人もいるので、困った時は助けを求めやすいのです。
④市町村域につくられた当事者グループは、あまり助け合いはできていません。お互いが
遠いので、助け合いようがないのです。しかし同じご近所に住んでいれば、それが可能にな
ります。現に、同じご近所に住む一人暮らしの女性同士は、大抵助け合っています。
⑤ご近所は生活の場です。その生活の中で隣人を見守ったり、おすそ分けを配ったりして
います。だからやり易いのです。緊急事態が発生しても、すぐに駆けつけられます。災害時
に被災者宅に駆けつけているのは、ほんの数軒内の人だけです。
⑥ご近所には「おすそ分け」と「お返し」の伝統が根付いています。その循環の中に、移
送や食事サービスも組み込まれています。
次頁のマップでは10名ぐらいの人が、隣家に食事の「おすそ分け」をしています。移送
サービスをしている人も2人います。その多くが「お返し」を受けていました。改めてNP
O等によるサービス事業を立ち上げるとなると、一仕事になるでしょう。
23
買い物・通院支援
おすそ分け
お返し
➆7ページのマップのように、一人の要援護者が近隣の、夫々得意な腕を持っている人を
活用しています。
「多様なニーズにきめ細かく対応できる」ということでもあるのです。
⑧おすそ分けとお返しの循環のように、当事者もお返しをしています。
⑨要援護状態の人が自立生活を送るのは、なかなか困難なことですが、ご近所では、周り
の人のちょっとした支援で、それができてしまいます。隣家が毎日様子を見るとか、買い物
などを代わりにしてあげる、何かあったら関係機関に連絡してくれる等の、一つ一つは些細
な行為ですが、それらが実現すれば、かなりの要介護の人でも生きていけます。
⑹ご近所の助け合いを最優先に
ご近所の助け合い力を強めるために、心得るべきことは以下の通りです。
➑関係機関が関わるよりも、住民の助け合いを優先。
➒助け合いのご近所を作るため、なるべくご近所内で助け合う。
➓ご近所福祉は、ご近所内の有志で「推進」していく。
24
➑関係者は要援護者に対して、すぐ「サービス」を付けようとします。サービスを提供す
れば相手は喜ぶだろうと思っているのです。しかしこの「サービス」にはいろいろマイナス
な面もあります。支え合いマップづくりの場で、その実例が次々と出てきます。
一つは依存性があること。デイサービスを週に一回利用すると、やがて週2回を求めるよ
うになります。また、サービスの入った人の周囲の人たちは、
「もう役目は済んだ」と引い
て行きます。制度的な人材が入ると近隣住民は関わらなくなります。
➒「助け合おう」という気持ちになりやすいのは、ご近所という小さな圏域であることは
間違いありません。そこで当事者はなるべくご近所の人に頼るようにする必要があります。
コミュニティワーカーだけでなく、民生委員もケアマネも、できる限りサービスを出し惜
しみし、
「ご近所で助け合う」ように働きかけていく必要があるのです。
➓私どもでは、ご近所福祉はご近所の人たちで主体的に進めてもらおうと考えています。
助け合いの機運はそうすることから生まれてくるのではないでしょうか。ご近所という小さ
な圏域で、
しかも世話焼きさんの資質を持っている人たちで進めてもらえば、
可能なのです。
⑺ご近所支援の主役はご近所福祉サポーター
⓫ご近所福祉の支援役は自治区圏域のサポーター(民生委員等)
。
⓬ご近所でできないことを校区や市町村部に上げる役割も。
ご近所福祉が最優先、と言っても、世話焼きさんたちはまだ、
「自分たちでご近所福祉を
進めよう」という気持ちにはなっていません。
「ご近所」という圏域があることさえ意識し
ていません。そこで、
⓫ご近所福祉の大切さ、それを地元の人で進めることの大切さを理解してもらい、本気で
実践してもらうように後押しする人材が欠かせません。しかしコミュニティワーカーはあま
りに遠い所に居て、接近のしようがありません。幸いこのご近所圏域の近くに民生委員のよ
うな人材がいます。
彼らにご近所福祉サポーターの役を担ってもらったらいいのです。
ただ、
この役は、ある程度の資質が求められるので、誰でもいいというわけにはいきません。
25
ご近所
第3層
(自治区)
第2層
(校区)
第1層
(市町村)
ご近所福祉サポーター
⓬サポーターのもう一つの役割は、ご近所の手に余るテーマについて、上層圏域に上げて
いくことです。校区には生活支援コーディネーターがいるわけですから、そちらへ繋いでい
くのです。こうすることで初めて、生活支援コーディネーターの出番が出てくるのです。
⑻マップで「距離感覚」が磨かれる
マップづくりをすると、距離感覚が磨かれます。福祉システムを作る時、
「距離」がどう
いうものか、距離が自分たちの活動をどう規定しているかを知らねばうまくいきません。
人々は大抵、自治区単位で活動しています。住民集会も老人会もサロンも、自治区単位で
開いていますが、数百世帯の地区の公会堂は住民にとっては「かなりの距離」です。だから
要援護者は参加していません。奄美大島の大和村は約70世帯ごとに自治区があるので、中
心部でイベントが開かれると住民の多くがやってきます。
校区あたりでサロンや食事会を開いている所がありますが、一体どういう感覚なのか。会
場の周辺の人が来るだけでしょう。校区で活躍する生活支援関連のNPOに活動の悩みを聞
いたら「ニーズがやって来ない」でした。ましてや要援護者に市の中心部までサービスの申
請に来いなどと言うのは、距離感覚の欠如そのものです。
ご近所なら見えると言っても限度があって、かなりの詮索好きも自分の周りの10世帯程
度しか知っていません。
孤立した人に誰が関わっているのかを住民に聞いても
「誰もいない」
と言いますが、当人と同じ向こう三軒の人なら知っています。しかし玄関が背中合わせの家
同士はお互いに見えないと言いますから、マップづくりではそこまで確認していかないと駄
目です。
26
<第5章>支え合いマップで
ご近所ごとにアセスメント
■福祉課題はどのように抽出する?
⑴課題も解決策も「住民に聞け」
支え合いマップづくりの最大の目的は、地域の福祉課題を抽出することです。
「アセスメ
ント」というのは、このことなのでしょう。
「アセスメント」は一般的にはこう定義されて
います。
「利用者に関する情報を収集・分析し、自立した生活を営むために解決すべき課題
を把握する」
。ここからさらに広がって、地域そのものもアセスメントの対象にしていきま
す。私どもの「アセスメント」のやり方は、一般のやり方とは大きく異なっています。
➊アセスメントは支え合いマップで実践する。
➋これをご近所ごとに実施する。
➌マップ作りの場で、ご近所の福祉課題と解決策まで考える。
➍その作業を地元ご近所の住民と一緒に実施する。主役は住民。
➊地域福祉を進めるためのアセスメントを、私どもでは支え合いマップづくりで実践して
います。地域の要援護者個々の状況から、その人への住民の関わり、もっと広くは住民一般
の抱えた課題(地域課題)とともに、その地域のあらゆる面からの実態もチェックします。
大事なことは、それらの人や自然、住民の作り上げた生活スタイルなどを、個々別々でな
く、それらの絡まり具合も含めて把握するのです。地域ではその中の人も、人が作り上げた
生活文化も密接につながっているという理解に基づいているのです。
➋私どものマップ作りによるアセスメントの最大の特徴は、ご近所ごとに実施するという
ことです。
当事者の課題を解決するという視点からすれば、
彼らの主たる生活の場である
「ご
近所」で必要な情報を得る必要があるからです。
自治区や校区といった広い範囲で実施するほど、その地域特有の実態は薄れていきます。
27
ご近所なら、特徴ははっきりしています。
➌私どものやり方のもう一つの特徴は、マップ作りの場で、課題の解決策まで抽出してし
まうことです。ニーズと資源を別々に拾い出し、後でそれらを組み合わせるといった手法と
は全く違います。ニーズと資源はマップ作りの場で組み合わせるのです。
➍しかもこの作業はご近所の住民と一緒にします。というよりも、アセスメントの主役は
彼らなのです。
⑵支え合いマップで聴取すべきこと
マップ作りの場でまず調べることは、以下の諸点です。
①問題を抱えた人は、それをどのように解決したいのか。
②どのように行動しているのか。
③周囲の人はどうしてあげたいと思っているのか。
④そのためにどのような行動を取っているのか。
⑤地域で当人の問題解決に繋がりそうな人や組織、活動はないか。
前項の➍で述べたように、あくまでマップ作りの場で最良の解決策を、住民と一緒に導き
出すのです。出てきた課題は、その住民主体で取り組んでもらうのですから。またマップ作
りの場にいた人たちを中心にご近所福祉推進体制を作ってもらわねばなりません。
次頁のマップを見てください。北陸地方の過疎地で、車がないと買い物も行けない。一人
暮らしの高齢者は夫々どんな解決努力をしているのかを調べたら、こんな結果が出ました。
息子が来た時についでに買ってきてもらう、隣の人にお願いする、周りの人に片っ端からお
願いしてしまう。集落に一軒だけある店に、買いたいものを取り寄せてもらう、電車に乗っ
て買い物に行く、生協の移動販売を利用する等。
これらの個々の努力を生かして、例えばAさんの息子が来た時ついでに買ってきてもらう
等の工夫をすれば、何とか解決できるのではないか。当事者の問題解決努力をそっくりいた
だいちゃうという手法もあるのです。
28
⑶アンケートや住民懇談会でニーズの本体は掴めない
支え合いマップづくりをせずにどうやって要援護者のニーズを把握するのか。例えば住民
懇談会を自治区や校区ごとに開いていますが、参加者の多くが自治会長などの役を持った男
性で、そこで出てくる福祉問題と言えば「一人暮らし高齢者が多い」と言った、誰もが既に
知っていることが多く、そうでなければ「どこどこ辺りには交通事故が多い」といった土木
関連の問題で、認知症の人がこのあたりを歩いているといった、具体的な情報が出されるこ
とはほとんどありませ
ん。
・・・交通(車)に不便をしている人
アンケート調査にし
買い物協力者
息子・娘
ても、本音と建て前を
使い分ける日本人です
から、あまりあてにな
買い物を
らない数字が出てきま
す。
してあげる
息子
電車を利用
それに比べて、マッ
プ作りの場は、文字通
注文すると
取り寄せてくれる
買い物を
してあげる
商店
りの井戸端会議場で、
ご近所内の各家の内奥
息子
いろんな人に頼む
の情報がボロボロと出
てきます。その中に、
私たちが探している地
買い物を
してあげる
域の福祉課題が含まれ
ているのです。
今のニーズ把握の方
法は、ニーズの本体に
息子
踏み入ってはいないの
です。
移動販売を利用
息子
29
⑷マップによる問題解決の標準的な枠組み
[事例 1]気になる人
B男さん
カラオケ会場
父子共に引きこもり。
父は車いす生活で、息
子はパニック症候群な
C男さん
(民生委員)
無尽の
メンバー
もいきません。初めは
接触の手がかりが見つ
からなかったのですが、
その後、意外な事実が
見つかりました。➋が
本人の行為、➌が住民
の関わり。これだけで
は心もとないのですが、
D男さん
息 子や父と話す
無尽へ
誘ったら?
ゴミ
ステーション
畑
車 イスでゴ ミ出し
父子世帯。
時 々息子 も
父は車イス生活。
➍にあるように接触で
カラオケへ誘ったら?
そう」( カラオケや収穫祭
カラオケや収穫祭へ
「車 で連 れ出 そう」
収穫祭 へ)
ので、放置するわけに
畑で会話
息子はパニック症候
群。
共に引きこもり
きる可能性が、意外な
A子さん
ほどたくさんあること
が分かってきたのです。
地域の気になる人
➊生活状況・気になること
■父親と息子の2 ■父親は車椅子生活。
人世帯。
■頑固で誰とも交流しようと
■共に引きこもり。 しない。
➋本人(家族)の対策行動
■畑へ行く途中に坂があり、綱
を張って登っている。
■畑で隣り合わせたA子さん
■息子はパニック ■息子はコンビニの職も失い、 には話をする。おしんこを作っ
症候群。
家に引きこもっている。
てプレゼントしてくれる。
30
➌住民の対策行動
➍解決のヒントになる人・行動
■息子がゴミステーション ■以前はもっとオープン
➎解決案
■カラオケや無尽に誘う。
に来た時にD男さんが声を で、カラオケにも行ってい ■畑へ行く途中の坂をバリ
たし、地区で開かれている アフリーにしてあげる。
かけている。
(頼母子講)にも参 ■彼が作ったおしんこをご
■畑が隣り合わせのA子さ 「無尽」
んも話しかけている。自分 加していたという。
ちそうになる。
の死後、息子が心配だとA ■今もカラオケグループが ■息子の仕事をみんなで探
子さんに言った。
あるし無尽もやっている。 してあげる。
民生委員兼町内会長Tさん
[事例2]気になること
こちらのテーマは「地域の気になること」
。農
家主体の地域に新住民が移り住みましたが、両
者が溶け合わず、町内会長は対策に苦慮してい
ました。マップを作ってみると、初めは交流の
Aさん
手がかりが見つからなかったのですが、個人的
Bさん
には交流しているのではと質問を変えたら、犬
畑の貸し借り
の散歩友達とか、畑の貸し借りで交流が行われ
犬の散歩
友達
ていたことがわかりました。会長自身、彼らが
子ども会には加入しているのを思い出したの
新住民
です。それらを生かし交流イベントをすれば…
地域の気になること
➊気になる内容
■旧住民と新住民 ■農家中心の地域に公営
の交流がない。
➋住民が取っている対策行動
■個々では交流していた。
住宅ができ、
若い住民が住 ■Aさんは、公営住宅の3軒の人に
み着いたが、
両者の交流が 畑を貸していた。
ない。
彼等は自治会にも加 ■Bさん(一人暮らし女性)は、ア
入しないと自治会長が嘆
パートの3軒と犬の散歩友だちにな
いている。
った。
31
➌解決のヒントになる人・行動
➍解決案
■前記のように個人的なつながりをもっと探
■当面は①犬の散歩友だち、②畑の
ってみたら、参考になる事例が出てくるかもし 貸し借り、③自治会に子ども会の関
れない。
係―これらのつながりを他の人につ
■「交流がない」と嘆いていた自治会長も、
「私 いても調べた上で、これらを生かし
は子ども会の役員をやっていて、子ども会には た交流イベントを企画したらどう
彼等も加入していることがわかった」
か。
⑸ジグソーパズル方式の実際
20ページで触れたジグソーパズル方式は具体的にはどのようにやるのか。事例を紹介し
ましょう。本研究所が開催した支え合いマップ作り全国集会で発表されたものです。発表者
は一乗康純氏(当時、福井県おおの市在宅介護支援センター)。以下はその一部を抜粋。
■60戸の地域に50名の高齢者
K村は60戸、65歳以上は50名以上。老人会には全員が加入している。月に1回、集
会場でふれあいサロンが開催され、毎回40名ほどの参加者がある。
■高齢者問題以外に7つの地域課題が見つかった
❶過疎化の問題。
❷40歳以上の独身男性が7人いる。
❸ここの田んぼは生産組合という村の役員さんたちが一括して引き受けていて、この組合
は約10名で運営しているが、その後継者がいない。
❹町が近いこともあり、
親子で住んでいる家が多く、
小さい子どももいるが、
それでも段々
と子どもが減り、お年寄りが増えてきた。少子高齢化の問題。
➎この村には郵便局もお店も一切ない。月に1回、移動販売車が来るが、客は1人くらい
しかいない。せっかく販売車は来ても、利用者が集まらない。
➏村のボスがいる。区長、市議会議員をしている方が、福祉推進委員も兼ねている。
32
■独身女性のUターンで一石二鳥とか…
これらの情報をもとに「支え合いのプラン」を考えてみた。
まず過疎化の問題。特に生産組合の後継者が不足し、40歳以上の独身男性が7人もいる
問題。生産組合の後継者をハローワークで公募する。または農業経営者のUターンを助成す
る。引退を控えた組合員が10人ほどいて、10人の人が就職できる余地がある。来てもら
う人は、独身の女性を優遇する。そうすれば独身男性との出会いになる期待が持てる。
少子高齢化については、毎月行われている老人会のサロン(
「お誕生日会」
)の参加率が非
常に高いので、子どもたちも一緒に誕生日会をしたらどうか。
移動販売車の利用者がいないことについては、月に1回のふれあいサロンにたくさん人が
集まってくるから、その日にサロンへ来ればいい。前回聞いた注文の品を渡すとか。
福祉推進委員が区長と兼任ということについては、民生委員さんと同じ婦人会の役員をさ
れている方がいる。この人に福祉推進委員をやっていただいたらいい。
■すべてを一つの面として見る
個々の情報を聞いただけでは、そのことに対しての個別対応しかできない。それに福祉機
関は、
地域の雇用問題や少子高齢化、
独身男性の問題等について、
普段関わりを持たないが、
そういうことも含めて、地域での生活があるのだから、それぞれを別々に見るのでなく、す
べてを1つの面として見る必要がある。
(以上、一乗氏)
⑹地図を広げれば「文化的諸要素」の課題が出てくる
一乗氏の指摘にもある通り、地域でのジグソーパズルのピースには、人だけでなく、その
地域の様々な要素も加えなければなりません。次頁の図を見てください。地域を構成する諸
要素にはこのようにさまざまなものがあるのです。
その最も大きなものは、
「人間が幸せに生きるために作り出したもの」
(
「文化<WAY O
F LIFE>」
)です。宗教や交通、文化・芸術、集落づくり・ふれあい、地域グループ、
自治、商工業、教育、保健・福祉、防災、家族、ライフスタイル。それに風土も。
支え合いマップづくりで住宅地図を広げると、これらのいくつかが(それらが絡まり合っ
て)人間のよりよい生活を妨げている(または支えている)ことが分かってきます。それが
要援護者には増幅されて迫って来る場合も少なくありません。店や医療機関がないと、一般
33
住民も不便ですが、
一人暮らしの高齢者や要介護者になると、
その不便さはもっと深刻です。
マップを作っての地域福祉では、人だけの問題というのはむしろ少なくて、大抵はこれらの
文化的諸要素と複雑に絡まり合っているとみていいでしょう。
マップづくりのために住宅地図を広げると、ごく自然にこれらの文化的諸要素の課題が浮
かび上がってきます。マップを使わないと、大抵は特定の要援護者の心身の課題だけに関心
を集中させることになり、結局は手持ちのサービスにつなげてしまいます。これもまたマッ
プづくりの効能と言えましょう。
①家族
老親と独身息子の世帯が多く、将来介護の心配が
②集落作り 子供がほとんどいなくて、集落自体消滅の危機
住民
要援護者
③グループ
地域グループが要援護者を排除している
④ふれあい
個々のふれあいはあるが集落としての連帯が希薄
⑤自治
自治会の脱退者が多く、両者が反目している
⑥交通
歩道がない箇所で交通事故が頻発
➆商工業
⑧教育
⑨文化芸術
シャッター通りが増える一方。買い物に不便
集落に小学校がなく、遠くまでバスで通学
公民館が集落外にあり、要援護者は通えない
⑩防災
土地が低く、津波が来たら逃げられない
⑪宗教
特定宗教の信者と住民とが溶け合わない
⑫ライフスタイル 親戚関係の絆や縛りが強すぎる
⑬保健福祉
医療機関が遠くて、みんなタクシーで通っている
⑭公共機関 役所が近くになく、住民は不便に思っている
⑮風土
坂が多くて、高齢者は公会堂にも行きづらい
34
ある集落でマップづくりをしたら、そこでは自治会の集団脱会があり、両者が反目してい
ました(上記⑤の問題)
。運悪く、脱会者に孤立者や90代の一人暮らしの要介護者が混じ
っています。さらにこの集落には要介護者よりも病弱者がたくさんいて、災害時にどうやっ
て避難支援したらいいのか(⑩)。おまけに公民館が集落からかなり離れた所にあり、病弱者
は一人も行っていませんでした(⑨)
。救いは、有力な大物世話焼きさんや元看護師や介護
士、元自衛隊(近くに基地がある)の男性等が複数いて、彼らを支えていました(③⑬)
。
⑺支え合いマップづくりを成功させるために
マップで成果が出てくるために、私どもでは以下のような基本ルールを決めています。
➊マップづくりはご近所ごとに実施する。30~80世帯。自治区ごとに実
施するなら、この規模でいくつかに分ける。
➋そのご近所に在住の住民、5人ほどに集まってもらう。
➌ご近所の人たちが足元の気になる人や気になる事を抽出し、解決策を考え
合う。実質的なご近所ケア会議。自治会役員や民生委員等は支援者。
➊試しに一度百世帯や二百世帯の範囲でマップづくりをしてみるとわかります。
「この辺
りはわからない」となって、結局は50世帯程度しか見えてなかったとなるはずです。
➋各自自分の周囲の10世帯程度しか見えていないということが分かってきました。一人
当たり10世帯ですから、最低5人は必要となります。
➌ご近所の人たちが自分のご近所内の気になる人の情報を出し合い、対策を考え合う。マ
ップづくりは実質的なご近所ケア会議なのです。
ただ、参加者同士が持てる情報を出し合うのですから、今まで知らなかったことも知るこ
とになります。だからこそ助け合いができるのです。ご近所内の気になる人の情報はご近所
内の主だった人の間では共有する必要があるのです。ただしその情報はご近所内に閉じ込め
ること。また自治会長や民生委員が行政からもらった情報を出すのは禁物です。
35
<第6章>前線から後方支援へ
■推進機関の役割は?
⑴「第1層(市域)偏重主義」を改めなければ…
関係者は、自分の居る市域(第1層)で推進組織を立ち上げ、ニーズを把握し、サービスを
組み立て、そして下の層に活動組織を作らせるのが地域福祉だと考えているようです。
当事者の側から考えたら、まずは彼らの足元であるご近所の福祉(助け合い)を強化したり、
それをバックアップする自治区の支援体制づくりに全力を投入すべきなのです。その支援活
動の中で第1層や第2層でやるべきことが出てきたら、それをやればいいのです。
もっとひどいのは市域や校区で会食やサロンなどのサービス事業そのものまで直接やっ
てしまうことです。地域は圏域に分かれていて、自分はどの圏域に属しているのかを知り、
その圏域でやるべきことをやればいいのです。
⑵まずご近所対応、次いで町内へと-ボトムアップ
以下は石川県野々市市の地域包括支援センター主査の池上森彦さんが、私どもの月刊誌に
寄稿した原稿から、一部を抜粋しました。
池上さんも支え合いマップを地域福祉に活用しています。
「取り組む圏域としては、町内
会を1つの単位として考えています。その町内会を2班から3班単位に分け、数回実施する
形をとっています。
そうすると、
毎回 50 世帯から 70 世帯ごとに実施することができます」
。
「マップで出てきた課題に、まずは班でできることを検討します。次に町内会でできること。
班や町内会でできないことは地区で考え、地区でできないことは市全域で考えるのです」
。
班に特有の
問題は班で
他班にも共通する
問題は町内会で
町内会で対応
できない課題は
地区単位の
仕組みで
それでも難しい
テーマは
市単位の
仕組みで
「マップづくりの中で、各町内会で共通する課題があることに気づきました。例えば高齢者
のゴミ出し。その高齢者は、自分ではゴミ出しが難しくなり、向かいの高齢者夫婦にお願い
36
していました。ある時、高齢者夫婦が体調不良となりゴミ出しが出来なくなり、民生委員が
ゴミ出しを引き継ぎました。しかしこのままだと民生委員への負担が大きくなり、なり手が
いなくなるのではと相談を受けました」
。
「その課題に、班でできること、町内会でできることを考えました。他の町内会でも同じよ
うな課題が出たため、町内会活動と並行して市全域で取り組むサービスを考えていくことと
なりました。シルバー人材センターに(マップづくりで)ゴミ出しのニーズが多いことを伝
え、ワンコインサービスの導入につながりました」
。
「次に、買い物が困難という課題も共通して挙げられます。町内会の解決策として、スーパ
ーまでの買い物送迎を町内会で行うという案も出ました。通所介護事業所の送迎車を借りて
送迎ができないかなど様々な案が出ました。他町内会でも同じ課題が出ていることを受け、
モデル町内会を作り、生協・町内会・社協・包括で相談し買い物支援策として、生協の移動
スーパーを週1回20分ですが、集会所まで来てもらうようことになりました」
。
「最後に地域との関わりが少ない高齢者の課題です。ある町内会では誰でも気軽に集まれる
ことができ、なおかつ高齢者が活躍できるコミュニティカフェを町内の公民館で運営するこ
ととなりました。地域との関わりが薄い高齢者も気軽に来られるような仕掛けを町内会が主
体的に考えていきました。その結果町内会の行事に参加していなかった高齢者が、公民館に
足を運ぶようになり、新しいつながりが生まれるようになりました」
。
「この町内会の活動を受け、孤独死対策や高齢者の生きがいづくりにコミュニティカフェを
運営したいという町内会が増えてきました。しかし、立ち上げや運営のノウハウがないため
実施が難しい町内会も多くありました。そこで、包括として市内全域を対象としたコミュニ
ティカフェ開設支援講座を全5回コースで実施し、コミュニティカフェを立ち上げたい町内
会や人に参加してもらいました」
。
⑶特定ご近所の取り組み課題を他のご近所にも
支え合いマップ作りの最終目的は「取り組み課題」を抽出することですが、その際に、圏
域ごとにそれらを割り振るという方法があります。ご近所の人たちがすべきこと、自治区で
取り組むべきこと、校区で取り組むべきこと、市町村の関係機関がやるべきことに、マップ
作りの場で振り分けるのです。各圏域の関係者がご近所でのマップ作りに同席すれば、自分
37
たちの圏域のやるべき課題を持ち帰ることができるのです。
次のマップを見てください。このご近所では家庭介護中の人が5人います。その人たちに
サポートに入っている人を調べてみたら、その多くが家庭介護経験者でした(●印)
。
…介護中の家庭(線は関わる人)。介護経験者がサポートしている。
買い物を手伝ってあげたり、庭の草取りをしてあげたりなど、介護者の周辺的なしごとを
代わりにやっているのです。
そこで例えば「家庭介護経験者で介護サポート・チームを作る」という取り組み課題を「一
般化」して、自治区の人はそれを傘下の他のご近所にも適用する。校区の関係者はこれを他
の自治区にも適用させるのです。
⑷2つの「一般化」を使いこなせるか?
池上さんの一般化は、ご近所でできないことを自治区や校区で特定サービスを立ち上げる
ことで解決することですが、私どもの一般化は、特定ご近所で実践されている活動を他のご
近所にも広げていく、そのために自治区や校区の担当者が、それぞれ他のご近所、他の自治
区に広げていくという意味で使っています。いずれもが必要な作業なのです。
池上方式を積み重ねていけば、それが校区なり市町村域の事業体系になるし、私どもの方
式を推し進めていけば、それだけマップづくりの効率が上がっていきます。新たにマップづ
くりをする時に、既出の取り組み課題も使える場合が多いはずですから。いずれは、地域福
祉計画や福祉活動計画ができてくるかもしれません。
38
<第7章>「協働したくない」?
■地域福祉力を弱めているのは誰だ?
⑴「
(協力しろと)言ってくれればやるのに…」
地域福祉を担っているのは①自助、②共助、③公助だといわれています。大事なのは3
者が「協働」することですが、それが実現できていません。その主な原因はワーカーである
ことは間違いありません。支え合いマップづくりをしていて、気になる人を発見します。難
しいケースもあって、住民は手が出ない-こういう場合に大抵、突き当たるのは、その家に
はワーカーは入っているという事実です。
ワーカーはおそらく当事者の「未解決のニーズ」を知っているはずです。それを住民に公
開したがらない。住民のこういう溜息を何度聞いたことか。
「言って下さればやるのに…」
。
ワーカーが協力を求めれば、進んで協力するのに、声をかけてくれない。
⑵「自立させないシステム」ができている
協働が始まるためには、いろいろなハードルを越えなければなりません。その前に、ま
ず住民の力をどれほど評価しているかという点です。ワーカーは、サービスを付ければ「一
件落着」と思い込んでいるようです。
極論を言うならば、
「サービス」と「自立支援」は正反対とも言えます。自立を進めるた
めのサービスという考え方もあるでしょうが、現実にはそうはなっていません。
家族はできればサービスを受けてほしいと思うし、民生委員もサービスにつなげれば「一
件落着」と考えています。ケアマネもサービスを付けることを優先する。事業所は「商売」
ですから、せっかく確保した利用者を自立させようとは思いません。地域全体が当事者を自
立させたくない体制になっているのです。当事者に自立生活をさせようとするときに住民の
力が必要になるわけですから、その気がなければ協働という発想は出てこないのです。
⑶「協働」が始まるための5つの条件
ワーカーが協働しようと思うのはどういう時なのか、言い換えれば、協働にはどういう
要件があるのかを整理してみましょう。
39
➊サービスの枠外のニーズにしっかり対処しようと思うか?
➋当事者の「その人らしい生活」まで考えているか?
➌当事者の自立生活支援を第一に置いているか?
➍当事者や家族に「プライバシー主張」を断念させる気があるか?
➎協働はまずはご近所の人と。ケア会議もご近所でと思うか?
➊ケアマネがケアプランを作る際、枠外のニーズが出てきます。それを何とか処理した
いと思うか、
「まあいいか」と思うかで違ってきます。ケアマネに協働の意思がほとんどな
いということは、
「まあいいか」
派が多いということなのか。
➋ただの生活困難の問題だ
けではニーズが出て来ないか
もしれませんが、国が求めてい
る「住み慣れた家や地域でその
人らしく生きられるように支
援する」となると、住民の協力
を仰ぐ以外に手はありません。
右のマップでは、認知症の女
性(■印)が、近くを歩き回っ
ています。徘徊ではなく、
「私も入れて!」と。ところが、昔の同窓生を訪れたら「来ない
で」
。趣味グループも同様。ゲートボールは入れてくれた。サロンも、井戸端会議も。彼女
は何をしたがっているのでしょうか。
「自分らしく生きたい」ということでしょう。彼女を
入れてくれたらそれが実現するのです。ところがケアマネジャーは「あちこち歩くと危険だ
から施設に入りましょう」と説得していました。それよりは、趣味グループに「彼女を仲間
に入れてください」と言うべきでしょう。
➌「その人らしい生活」を送らせたい、地域で自立生活を送らせたいのならば、施設は入所
者を在宅へ戻さなければなりません。デイサービスセンターも「卒業」させるべきです。
40
➍ワーカーが対象者の関わりで地域と協働するとなると、守秘義務が邪魔になります。本
来ならば当事者に「周りの人に助けてもらいましょう」と説得すべきなのですが、それがで
きる人はあまりいません。
➎協働する相手はまずはご近所の人たちであるべきです。ところが地域ケア会議などには、
ご近所の人を入れていません。当事者の自立生活を事実上支えているのは、ご近所の人たち
なのです。おかしなことです。
⑷プロだけでなく、みんな「協働」が苦手?
次頁のマップを見てください。A家は老々世帯。夫が半身不随。妻は聴覚障害。この家に
入っているのはヘルパーのみ。住民側としては、シルバーボランティアと民生委員が訪問し
ているようです。その近くのB家、77歳の一人暮らし女性も要介護。ここにもシルバーボ
ランティアが入っています。中央部にいる一人暮らしの女性2人(C家とD家)には、足元
のシルバーボランティアが日常的に見守っているようです。左の方にE家、65歳の知的障
害の女性が90代の母と生活しています。
ここまでの事実で、何が浮かび上がってくるのか。①まずA家。ヘルパーが入っているこ
とが分かっています。彼女がAさんの生活状況を知っているはずです。ヘルパーは自分では
対応できないことをなぜご近所と連携しようとはしないのか。もう一つ「シルバーボランテ
ィア」と「民生委員」は、自分が入るよりも、当事者の近くに住む人に関わりを促す役割を
果たすべきなのです。
②E家の知的障害の女性は、
中年までは授産施設に通っていたという。
そのあとは家に引きこもるのみ。授産施設はアフターケアをご近所に頼むことはできないの
か。③右端のブロックで、F家が、デイサービスを利用しています。それも毎日です。この
人に地域参加を促していけば、毎日ということはなくなります。1つ分かったのは、左端に
デイ利用者が居るけれど(G家)
、F家の人と同じデイサービスらしいということです。な
らばデイサービスセンターは2人を地域で交流させることもできます。地元にはサロンがあ
るのだから、そこに参加してもらうように働きかけることもできるのではないか。ヘルパー
や事業所(ここでは授産施設やデイサービスセンター)のようなプロだけでなく、民生委員
やボランティアもまた協働ができていないということなのです。
41
●
C
●
D
シルバー
ボランティア
民生委員
知的障害女性(65)E
E
毎日
サロン
G
●
ヘルパー
F●
●
妻・聴覚障害
A
●
夫・半身不随
週2回
●
要介護
B
デイサービス
デイサービス
一人暮らし女性(77)
⑸「協働」の3原則
住民との連携のあり方で、
「住民ができないものを引き取る」という言い方がなされます。
もっともな話ですが、そのあとがあります。できそうになったら返すとか、住民と一緒に取
り組むという選択肢も残っているのです。
➊住民と一緒に
➋住民から引き受けない
➌住民に返す
東京の江東区の団地でマップづくりをしていたら、参加者の一人が言い出しました。
「隣
室のゴミ出しを手伝っていたら、最近、もう結構ですと言われた」
。
「そういえば私も断られ
た」と言う人も出てきました。区がゴミ出しサービスを始めたというのです。おそらくこれ
以降、隣人のゴミ出しを手伝う人はいなくなるでしょう。プロの手が入るたびに、住民は一
歩一歩引いて行くのです。よく住民と関係者は「車の両輪」と言いますが、これは間違いで
した。プロが入れば住民は引く-これを「トレードオフ」と言うのだそうです。
民生委員は、ご近所の難問を関係機関につなげるのが仕事だと思っているようです。こう
42
することでご近所は難問にチャレンジしようという意欲が失せてしまうのです。簡単に引き
取らずに、
「私も応援しますから、もう少し頑張りましょうよ」と励ますことでご近所の福
祉力は強まっていくのです。
長野県須坂市社会福祉協議会に関わっていた時、社協内にごみステーションがあるので、
わけを尋ねたら、(社協に雇用されている)ヘルパーが預かって来るのだと。その数40件。
私は「ゴミ出し程度は住民でやってもらいましょうよ」と提案しました。また住民に返そう
というわけです。
それから1年ほどして、ゴミ出しの件はどうなったかと聞いたら、もうほとんどは返した
という。
当事者の周辺マップを作って、
世話焼きさんなどを見つけ、
お願いしたといいます。
社協の担当者に聞いてみると、一旦引き取ってしまうと、それを返すのは難しいと言ってい
ました。
「あら、ヘルパーさんが持っていってくれるんじゃなかったの?」と渋い顔をされ
たというのです。だから、できる限り「引き取らない」方がいいのです。
⑹「ご近所福祉サポーター」が協働の仲介を?
奈良県のある地区(百世帯程度)で「ご近所ケア会議」が毎月開かれています。ご近所内
の世話焼きさんが集まって、各自が関わっている対象者の状況を報告し合うのですが、そこ
で一人、気になる人の報告がありました。96歳の男性が(妻の入院で)昼間一人になった
のです。そこでご近所ケア会議を主宰している「ご近所福祉サポーター」がケアマネに相談
して、ヘルパーとデイサービスを入れることにしました。
サポーターが毎月、住民(向こう三軒の4人)とサービス、息子の役割を組み込んだ月間
予定表を作り始めたのです。住民の役割は、①服薬管理、②クーラーの調節、③配食の配膳、
④デイへの準備です。息子の担当は土曜と日曜。
この「協働」ができたのは、ご近所福祉サポーター(といっても、普通の住民の一人)が
ケアマネと息子さんと住民の3者を調整したからです。
そこで考えました。
今までは関係者に協働を促すようにしてきましたが、
もしかしたら
「ご
近所福祉サポーター」のような人物が住民と関係者と当事者(家族)の間に立って、3者を
調整した方が実現可能なのかもしれないと。協働の仲介者です。この人が普段、ご近所と自
治区や校区の関係者と繋げているので、ついでに協働の仲介役も担ってもらったらどうか。
43
<第8章>「助けられ上手」も活動だ
■福祉資源とは何か?
⑴老人クラブが包括システムからはずされた!
ある市が、老人クラブを地域包括ケアシステムから外したということが話題になってい
ます。今の老人クラブは、地域福祉にたいした役割を果たしていないとみなされたのか。地
域包括ケアシステムの中で彼らに期待されているのは何でしょうか。
今の老人クラブは要介護者を仲間に入れていません。虚弱になった仲間をイベントに連
れ出すこともあまりやっていません。もしそれをやっていれば、要介護になってもその人ら
しく生きるという、まさに包括システムがめざしていることが実現します。仲間に加えた要
介護者からニーズを聞き取り、関係機関へ発信していくこともできます。
要介護者を仲間に加えるとか、仲間のニーズを社会へ発信するといった行為は、あまり評
価に値しないという見方があるのも事実です。
⑵「ボランティア」から「ソーシャル」へ
私どもでは、各自が社会に対して持っている義務を意識し、それを履行することを「ソ
ーシャル」という言葉で表現しています。これまでの「ボランティア」という言葉では、そ
の定義があまりに狭すぎて、現実に沿わないと感じたのです。
「ボランティア」でなくても、
社会に貢献できるチャンスはもっといろいろあるはずなのです。
日常生活の中で、
「ソーシャル」を実行すべきチャンスはだれにでも訪れるし、分に応じ
て実行することで社会は健全に保たれるし、問題を抱えた人も救われるのです。これで福祉
資源の範囲も一挙に広がっていきます。
45頁の表を見てください。特徴は、
「市民一般」と「要援護者」の2種類に分けて、
「ソ
ーシャル」の5つの分類の夫々に該当する行為を当てはめていったことです。
「ソーシャル」
行為が、一般市民だけでなく要援護者にもあるとしたわけです。
右から左へ向かって5種類の「ソーシャル」が並んでいます。
「社会貢献」や「社会良識」
は「正のソーシャル」
、つまり「社会のためによいことをする」というそのものずばりの社
会的行為。左の方は「社会に迷惑をかけることはしない」とか「悪いことはしない」といっ
44
た、負のソーシャルともいうべき行為。真ん中にあるのは「公衆道徳」ですが、それも2種
類に分けられます。
従来は、社会活動と言えば「ボランティア」
、企業なら「社会貢献」ぐらいしかありませ
んでした。いくら寄付をしても「ボランティア」をしたほどの充足感が得られないできまし
た。ましてや、公衆道徳を守ったり、人に迷惑をかけないといった程度のことには、何の値
打ちもないと思っています。
若者がオレオレ詐欺のグループにいとも気軽に加わっています。いっぱしのサラリーマン
気取りで、老人宅に「集金」に出かける。今ほど悪行への抑制が自他で働かない時代は今ま
でなかったのではないか。しかし、いじめをしない、ハッキングはしない、危険ドラッグは
吸わないということで、社会はどれだけ助かることか。
これと同じことが言えるのが「要援護者」のソーシャル活動です。例えば孤立死して周り
の人に迷惑をかけないように、積極的にご近所の人たちと交流することが求められます。認
知症などを隠すことから、周りの人は支援の手を差し伸べにくくなります。
「身内が認知症
になりました」と公言することがいかに大事なことか。そのためにも要援護者のこれら一連
の行為の社会的な価値をもっと評価する必要があるのです。
次は「公衆道徳」
。社会人として当たり前のことをするという部分ですが、要援護者の場
合は、
「自立に努める」となります。介護予防にも積極的に取り組むこともそうです。
「社会の良識」では、問題を抱えた側から、どんなことに困っているのか、それをどうして
ほしいのかなどを周りにきちんと訴えることが、これに属するかもしれません。
同じ要援護者同士で助け合うのもそうです。自分たちが安心して暮らせるためにはどんな
社会的サービスが求められるのかなどを公的機関に訴えるといったことも含まれます。
最後の「社会貢献」では、要援護者なりに社会に対してできることで貢献することが求め
られています。そういう行為を実行した結果、思わぬ介護予防効果が出てきたりします。私
どもでは「ボランティア・セラピー(アメリカでは「ヘルパーセラピー)」と呼んでいます。
と言うわけで、老人クラブが、要介護者をメンバーに加えたり、彼らの求めていることを
社会に発信していくことこそが、老人クラブらしい貢献なのだと納得できれば、彼らの反応
も変わってくるかもしれません。
45
負の「ソーシャル」
正の「ソーシャル」
➎悪いことをしない
➍社会に迷惑かけない
➌公衆道徳
■犯罪につながること
はしない。
■犯罪になる行為はし
ない。
■社会が迷惑すること
はしない。
■犯罪ではないが、人を
貶めることはしない。
市民として守るべきこと
市民一般
■万引きはしない。
■オレオレ詐欺しない。
■危険ドラッグ吸わない
■ハッカーしない。
■セクハラ・パワハラ・
いじめはしない。
■企業の社会的責任
公害を排出しない。有
害商品の販売自粛。
■騒音を出さない。
■入山登録はきちん
とする。
要援護者
■障害や要介護(認知
症)を隠さず、地域に
オープンにする(援助
の手を差し伸べやす
いように)。
■引きこもらずに隣
人と交流する(孤立死
して周りに迷惑をか
けない) 。
■やって
■やるべきこと
はならな
いこと
■タバコの
ポイ捨ては
しない。
■交通ルー
ルを守る。
■車内で高
齢者に席を
譲る。
■ゴミ出し
のルールは
守る。
■障害があっても要介
護でも可能な限り自立
努力をする。
■介護予防に努める。
➋社会の良識
■やるべきことをする。
■義務ではないが、実行
するのが好ましい。
■顧客サービス。
■生活の接点で要援護
者の支援・見守り。
■グループで助け合い。
■ご近所で助け合い。
■周りに積極的に助け
を求める。
■助け手を掘り起し活
用する。
■必要なサービスを行
政等に提案する。
■同じ障害・要介護仲
間と助け合う。
■広く地域の要援護者
で連帯する。
➊社会に貢献
■社会のために進ん
で良いことをする。
■企業の社会貢献。
■各種ボランティア。
■チャリティ。寄付。
■障害があっても要
介護でも社会のため
にできることはする。
■同じ障害者や要介
護の人のためにでき
ることはする。
46
⑶その活動組織はたしかに「機能」しているか?
その人材や組織が本当に機能しているのかをきちんと確かめる必要があるのに、こ
の地域には老人クラブがあるとか、サロンがたくさんできているとか、福祉委員が活
躍しているといったことを鵜呑みにして、それらを「福祉資源」としてリストアップ
するのが当たり前になっています。こういうやり方では生きた資源を確保することは
できません。支え合いマップでは、その「機能性」如何を確かめる作業もしています。
⑷人材発掘は「養成」主義から「天性」主義へ
福祉関連の各種ワーカーはほとんど養成研修を受け、試験をパスして登用されます。
しかし現場では、それとは別のルールが支配しています。人材は生まれ持ってその資
質を持ったものが担うということです。養成に関わる方々は不愉快に思うでしょうが、
福祉という営み(の多く)は研修を受けて習得されるものではないのです。
足元の寝たきり男性(一人息子は何もできない)の下の世話を続けてきた女性をマ
ップ作りで見つけました。おむつ代わりのシーツが足りないと、ご近所の4,5軒か
ら調達していました。マップを作る醍醐味の1つは、こうした優れた世話焼きさんを
見つけ出すことです。
⑸ニーズと資源はセットで探すもの
「要支援」者を地域に委ねるにあたって、生活支援コーディネーターを配置したうえ
で、地域に彼らを受け止めてもらう体制を作るということになりました。それはいい
として、その時こういう文面に出くわしたのです。まず○年度にはニーズ把握に専念
し、翌年に資源発掘を目指す、と。これには驚きました。
マップ作りではニーズと資源はセットで見つけることになっています。資源という
のは独立して存在するものではなくて、そこにあるニーズに具体的にどう役立ってい
るか、役立ちうるかによって、資源であるかどうかが決まってくるのです。ただ資源
だけをリストアップすることにどんな意味があるというのか
47
<終章>マップが促す統合的視点
■私たちのものの考え方そのものが問われている
今の時代は、何でも分別することをよしとしています。福祉の世界でも、あらゆる
部面で分別するのが常識になっています。担い手と受け手を分別し、前者が後者にサ
ービスをすればいいと。ニーズと資源を区分けし、まずニーズを把握し、別に資源を
探す。フォーマルとインフォーマルを分別し、ケア会議などは関係者だけでやる。
①福祉の担い手と受け手を区分けせず一体と見る。
②ニーズと資源を切り離さず、常にセットで考える。
③自助と共助と公助を一体で考える。別々に考えない。
④安全保持から「その人らしく」までを一続きのニーズと見る。
⑤人々のあらゆる社会的行為を「ソーシャル」で統合する。助けを求め
るのも福祉活動。
⑥ご近所から自治区、校区、市町村域をひとつながりに見る。
➆福祉を、社会全体の営みと区分けしない。
⑴だから協働、連携、ネットワークができない
それ以前に福祉という営みを社会全体から切り離すのが当たり前になっています。
しかし住宅地図を開き、要援護者の生活状況だけでなく、周囲との関係や、自然条件、
自治や経済状況などを総合的に見ていかないと真の問題解決にならないとわかってき
ます。地域福祉を考えていくには統合的な視点が欠かせないのですが、マップを作れ
ば自然にそういう作業をやることになるのです。上の7項目が統合的視点の事例です。
今のワーカーのように、分別的な視点で福祉を考えている限り、協働や連携、ネッ
トワークはむずかしいでしょう。協働するには、自助と互助、共助、公助を常に一体
のものとして見ていかねばならないからです。住民と協働する気がほとんどないのも、
「やっぱり」とうなずけます。
48
⑵まずは「ご近所包括ケアシステム」づくり
地域包括ケアシステムの構築が喫緊の課題になっています。市町村ごとに地域の実
情に合ったシステムづくりが進んでいます。しかし当事者の立場からすれば、本当は
まず「ご近所包括ケアシステム」づくりをしてほしいのです。現実には市の中心部で
保健福祉の関係者が集まって会議を開いています。ご近所の人たちは入れてもらえま
せん。むしろ当事者を囲んで、その人に関わっているご近所さんを中心にして、そこ
にワーカーも参加するのが本来のあり方でしょう。下のマップは37ページと同じご
近所です。元看護師がいてご近所さんの相談に応じていました。
…元看護師
…相談に乗ってもらっている人
…家庭介護経験者(現役とOB)
市域でのシステムづくりは難題ですが、ご近所圏域ごとに、そこの実態に即したシ
ステムを作るのなら、難しくはないはずです。包括ケアシステムを作るには、統合的
な視点が必要ですが、ご近所でマップづくりをすれば、巧まずして統合的な見方がで
きるのです。マップで発掘したご近所の関わり合いや、機能している各種人材を素材
にベストの保健福祉システムを構築していくのです。と言っても、大げさに考える必
要はありません。上のマップ(のご近所)なら、元看護師や家庭介護経験者が中核にな
るのでいいのです。各ご近所での住民流のシステムづくりの作業の中から、市域では
どんなシステムを作ればいいのかが見えてくるはずです。
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