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第5版 はしがき - LEC東京リーガルマインド

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第5版 はしがき - LEC東京リーガルマインド
第5版
はしがき
セブンサミット入門編の前版が刊行されて1年が経過する間、会社法及び行政不服審査法が大幅に
改正されました。会社法は、平成 17 年に制定されて以来最大の法改正となり、新たな制度が多く盛り
込まれました。これにより、会社経営者や企業法務に携わる実務家に多大な影響が及ぶのみならず、
日本における企業の在り方全体に多大な変化がもたらされることが予想されます。また、行政不服審
査法も全面改正され、国民にとって利便性が高く、公正性も向上された行政不服申立制度が始動しよ
うとしています。会社法は平成 27 年5月1日に、行政不服審査法は平成 28 年中に施行されるとの公
算が高いと目されていますが、受験生においては、速やかに新法を学習しておく必要があります。
また、司法試験制度も大きく変わりました。司法試験の試験科目の適正化及び法科大学院における
教育と司法試験との有機的連携を図るため、司法試験短答式試験の試験科目が憲法・民法・刑法の3
科目に絞られるとともに、5年間の受験期間内に3回しか受験できないという制限も廃止され、毎回
受験することができるようになりました。
さらに、平成 26 年度司法試験の最終合格者数も減少するに至りました。平成 26 年度の司法試験受
験者数は 8,015 人であり、平成 25 年度の司法試験受験者数 7,653 人と比べて増加したにもかかわらず、
平成 26 年度司法試験の最終合格者数は 1,810 人であり、平成 25 年度司法試験の最終合格者数の 2,049
人よりも約 200 人弱ほど減少しています。このような減少傾向は、来年度以降も継続する可能性があ
ります。
本書は、従来から、司法試験等の制度・傾向の変化、法令の改正、および判例の進展に対応すべく、
年々、改良を重ねてきましたところ、今回の改訂も、上記の大きな変動に対応しています。
なお、民法では、司法試験の裁判実務重視の傾向の定着に鑑み、学説の争いの状況を見直して解釈
論部分(<問題の所在><考え方のすじ道><アドヴァンス>の塊)を減少させて説明文化し、<考
え方のすじ道>を、できる限り判例・通説の立場にするとともに立場いかんにかかわらず短文にする
ことに努めました。また、皆さんの利用の便宜のために、前版の「第3版増補版」に次ぐこの版は
「第4版」を欠版として「第5版」としました。
今回の改訂により一層内容が充実した「セブンサミット・テキスト入門編」を活用して、実務法学
入門の門を叩いた皆さんが、法科大学院既修者コース入学試験・司法試験予備試験・司法試験の合格
をスムーズに達成されることを心よりお祈り申し上げます。
2014年12月吉日
LEC東京リーガルマインド
法律総合研究所
司法試験部
第3版増補版
はしがき
第3版が刊行されてから1年が経ちました。この間、各分野で法改正が行われ、注目すべき判例・
裁判例が多数出されました。とりわけ、従前から問題となっていた非嫡出子の法定相続分について、
平成 25 年9月4日、民法第 900 条第4号ただし書部分を違憲とする判例が出されたことは、大きな話
題となりました。
第3版増補版では、入門講座の段階でおさえておくべき最新の重要判例を巻末にまとめて掲載しま
した。また、法改正情報のほか、平成 25 年司法試験及び予備試験の短答式試験問題から厳選した基本
的かつ重要な良問についても、巻末にまとめて掲載しました。
本書を使用し、くり返し復習を重ね、上級講座でのより細部にわたる学習と実戦的訓練を重ねれば、
司法試験・予備試験の合格水準を優に超えることができるはずです。そのような意味で、本書は、司
法試験・予備試験合格を目指す皆さんに対して、学習の到達点を示すことができたものと自負してお
ります。
今回の改訂によって、「セブンサミット・テキスト入門編」が、受験生の皆さんに一層お役立てい
ただけるものとなっていることを、心より願っております。
2014年1月吉日
LEC東京リーガルマインド
法律総合研究所
司法試験部
第3版
はしがき
司法試験の受験資格を得るには、法科大学院修了ルートと、予備試験合格ルートの2ルートがあり
ます。
入門講座を受講なさる皆様の中には、いずれのルートを目指すか悩んでいらっしゃる方も多いかと
思われます。セブンサミット・テキスト入門編第2版刊行から1年あまりが経過致しましたが、その
間にも、法曹養成にかかわる状況は大きく変動しています。
まず、法科大学院では統廃合の動きが進みました。司法制度改革の一環として生まれた法科大学院
ですが、実際は各校の司法試験合格率に大きな差が出ているため、今後は合格率上位校への人気が高
まり、合格率上位校に入学するためにはより一層の学習が必要になると思われます。
他方、予備試験は、2012 年に第2回予備試験が実施されました。また、第1回予備試験合格者が受
験した 2012 年司法試験では、予備試験合格ルート受験生の合格率は 68.2%と高水準となっています。
予備試験合格は司法試験における高確率での合格につながるといえます。
もっとも、司法試験合格者全体の中では、法科大学院修了者が圧倒的に多いことに変わりはありま
せん。そのため、法科大学院修了ルート、予備試験合格ルートいずれにおいても、司法試験最終合格
のためには入門の段階から基礎的事項の着実な理解と法的思考法を体得しておくことが求められてい
ます。
セブンサミット・テキストは法科大学院進学を目指す方にとっても、予備試験合格を目指す方にと
っても充実した内容を提供するテキストとなっております。
第3版では、第2版刊行以降の法改正に対応し、入門講座の段階で学ぶべき重要判例を新たに追加
致しました。また 2012 年司法試験および予備試験の短答式試験の過去問題を厳選して追加するととも
に、本文の記述の誤植訂正および表現・二色刷りの更なる適切化に努め、より一層充実したテキスト
となっております。
入門講座を受講される皆様が「セブンサミット・テキスト」を用いて、法的基本的知識と思考法を
修得し、将来の法曹界を担う人材となっていかれることを切に願います。
2013年1月吉日
LEC東京リーガルマインド
法律総合研究所
司法試験部
第2版
はしがき
2011 年にセブンサミット・テキスト民法を編纂してから、1年が過ぎようとしています。
社会を取り巻く環境の変化はさらに激しさを増し、これに対応する法律・制度の構築・変更が多く
なされております。ただし、民法の債権法改正は 2013 年2月を目処に中間試案の取りまとめを行なう、
というスケジュールが予定されており、昨年、セブンサミットを編纂した頃に議論されていたよりも、
かなり後ろ倒しとなりました。
しかし、現状の民法を時代に合うように変えていかなければいけない、という問題意識は依然とし
てあります。そのため、わずか1年の間ですが、多数の重要判例が出されました。また、予備試験に
おける出題傾向からすると、より充実した判例学習が必要となっていることがうかがわれます。
そこで、第2版の編纂にあたり、初版の発刊から現在に至るまでの最新判例・重要判例を補充いた
しました。
なお、民法の親権の停止等に関する改正、非訟事件手続法、家事事件手続法・人事訴訟法に関して
は、発展編の中で整理・改正対応をいたしました。
2012年1月吉日
LEC東京リーガルマインド
法律総合研究所
司法試験部
はしがき
私たちは 30 年余の司法試験受験界を指導し、この間多くの受験教科書を作成してきました。「プロ
ヴィデンス・テキスト」は、<問題の所在><考え方のすじ道><アドヴァンス>の三部構成による
論点の立体的理解、入門編・論基礎編・択基礎編の三段階で段階的・発展的に知識を増やしていく画
期的構成、自然と頭に入ってくる文章・豊富な図表、といった特徴によって、多くの受験生の支持を
得てきました。今回の「セブンサミット・テキスト」は、これまでの「プロヴィデンス・テキスト」
の良い点を残しつつ、その後の法改正・新判例を盛り込み、新たな図表を挿入して、一層の分かりや
すさを追求しました。
☆
今年、2011 年は法曹養成にとって節目となる年です。法科大学院を修了せずとも司法試験の受験資
格を得ることができる予備試験が始まります。法科大学院へ進学する時間的・経済的余裕の無い社会
人にとっては、法曹への道が再び開かれることになります。大学生にとっては、在学中に自分の力を
試すことができる機会として予備試験というチャンスを活かすことができます。「セブンサミット・
テキスト」は、予備試験合格の出題科目のうち、法律基本科目である憲法・行政法・民法・商法(会
社法)・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法の7科目を網羅しています。
☆
資格試験の勉強では、ゴールから逆算することが重要です。予備試験合格にせよ、法科大学院への
入学・修了にせよ、通過点です。司法試験合格から逆算した場合、従来の「プロヴィデンス・テキス
ト」では不十分な点がありました。「セブンサミット・テキスト」は、法科大学院で何を学ぶか、司
法試験で何が問われるか、という観点から内容を充実化させました。全科目にわたって充実化させた
点は3つです。
まず、判例の理論構成をより詳細に理解できるよう、判決文の引用を長めにしました。もちろん、
二色の塗り分けを活用していますので、詳細さと見易さを両立しています。
次に、入門講座の段階で学ぶべき内容と、発展的な講座(予備試験に特化した講座)で学ぶべき内
容の区分けを見直しました。法科大学院入試や予備試験は、旧司法試験に比べて、出題範囲が圧倒的
に広がっています。特に、行政法で学習する様々な行政事件、会社法が定める企業再編の制度、民事
訴訟・刑事訴訟の実務的な制度などは、旧司法試験では必ずしも勉強していなかった分野です。これ
らの知識を入門段階からしっかりと押さえる一方で、応用的な論点は入門段階からは外しました。初
めから全てを理解しようと無理するのではなく、基本的(ただし、幅広い)知識の修得に焦点を当て
たテキストとなっています。
最後に、学界・実務での最新の議論をコラム的に紹介しています。法科大学院では、教授や実務家
が独自の視点から条文の構造(複数の条文が組み合わさって1つの制度が構築されています)を解説
したり、判例の解釈について通説とは異なる見方を紹介したり、といったことがあります。入門段階
では難しい部分もありますが、法科大学院での勉強や合格後の実務の先取りとして、きっと皆さんの
将来に役立つことでしょう。
☆
新司法試験における判例重視、実務的な知識の出題傾向を盛り込み、予備試験・法科大学院・国家
公務員試験を受験する方々を広く対象としたテキストとしています。特に、民法においては、この度
の債権改正法試案の発表をふまえ、その改正の方向性を「セブンサミット・テキスト」の基本原則に
すえて編成し直してあります。法律を学ぼうとする多くの方が、「セブンサミット・テキスト」を用
いてリーガルマインドを修得し、21世紀の法曹界、そして高度知識情報社会を担っていかれること
を切に願っております。
2011年3月吉日
LEC東京リーガルマインド
法律総合研究所
「セブンサミット・テキスト」編集著者代表
司法試験部
反町
勝夫
以下、「セブンサミット・テキスト」の特長をご紹介します。
1
事例
導入事例で制度の概要のイメージを持つ!
抽象的な法律概念を身近な事例とともに紹介しています。具体的なイメージをつかんでから学
習することができます。
2
論点
各テーマにつき、論点一覧を掲載!
各テーマについて、論点は1つではありません。また、ある論点が次の論点への前提となって
いることも多く、議論のレベルを最初からしっかりと把握することが必要です。
そこで、各テーマで複雑な論点が絡む場合には冒頭に論点一覧を掲載しました。どのレベルで
論証すべきかを把握しながら学習を進めることができます。
3
整理表
混同しやすい知識を表でコンパクトに整理!
似たような概念だが、要件や手続きが異なっていたり、効果が全く違っていたり、ということ
が法律の世界にはよくあります。初学者が間違えやすい知識を明確に区別できるように表で整理
しています。
4
改正法
本試験受験時に予定されている法改正もフォロー
近年、法改正が活発化し、学習当初に学んだ法律が改正されてしまうという現象もしばしば。
そこで、皆さんが本試験を受験される際に成立しているであろう法改正情報もフォロー。試験直
前の法改正にも余裕を持って対応することができます。
5
考え方のすじ道
問題に対する論理を<問題の所在><考え方のすじ道><アドヴァンス>
の3ステップで根底から理解!
法律問題に対して的確な解答をするためには、問題の所在を明確に認識し、論理を積み上げて
答えることが必須です。そこで、<問題の所在>と<考え方のすじ道>で法律家としての思考プ
ロセスを身につけ、さらに深く考えてもらえるよう、<アドヴァンス>で代表的な学説の見解と
論拠を紹介、整理しています。
6
発展編
入門レベルと発展レベルを区別し、相互にリンク
法律には、最初に理解しておくべき事項の他、一通りの学習ができてから改めて取り組むべき
問題もあります。「今の段階でどの程度まで学習をしておくべきか」は初学者を悩ませる課題で
す。そこで、入門編と発展編の二部構成としています。
7
判例
判旨のより深い理解のために事案もしっかりと掲載!
従来の予備校教材における判例の紹介は、判決要旨の紹介にとどまっており、簡潔な整理に役
立ちますが、判例理論を事案に基づいて理解するという視点からは十分ではありませんでした。
そこで、事案が判例理論の要素となっている判例について事案と判決理由を詳細に紹介していま
す。
8
考えてみよう!
「考えてみよう!」のコーナーでより発展的な内容もカバー!
法律は、現実社会を取り扱うため、常に新しい事象に対してどのように考えるべきかという新
しい論点が日々生まれてきています。そのような最新の議論状況も取り上げ、学習してきた内容
の応用事項を掲載しています。未知の論点が司法試験で問われている今、知らない問題点、最先
端の問題について、自分なりの解答を導くための訓練もできます。
9
まとめ表
複雑な条文構造もまとめ表でわかりやすく整理!
法律の条文の多くが難解なものです。単文、複文が入り混じったり、適用対象となる事象が読
み取りにくかったりします。また、学説の対立などもわかりにくいことが多いです。そのような
難解な事項もまとめ表で問題のレベル、判例の立場などが一目で分かるように工夫しています。
セブンサミット民法
目
次
Ⅰ
第1編
第1章
第2章
第3章
第1節
第2節
第2編
第1章
序論 ....................................................... 1
民法の指導原理 .........................................................1
私権...................................................................4
権利変動原因 ..........................................................10
意思表示に基づく権利変動原因 ................................................ 11
意思表示に基づかない権利変動原因 ............................................ 11
物権と債権 ................................................ 13
物権..................................................................14
第1節 物権総説....................................................................
第2節 物権の効力..................................................................
第3節 物権の消滅..................................................................
第4節 所有権......................................................................
第1款 相隣関係..................................................................
第2款 所有権の効力(物権的請求権) ..............................................
第2章
第1節
第2節
第3章
第3編
第1章
債権..................................................................23
債権総説.................................................................... 23
債権の効力.................................................................. 27
物権と債権の差異 ......................................................28
私権の主体・客体 .......................................... 29
私権の主体 ............................................................29
第1節 はじめに....................................................................
第2節 自然人......................................................................
第3節 法人........................................................................
第1款 法人総説..................................................................
第2款 法人の能力................................................................
第3款 法人の機関................................................................
第4款 権利能力なき社団 ..........................................................
第4節 複数主体....................................................................
第1款 共同所有..................................................................
第2款 多数当事者の債権関係 ......................................................
第2章
第1節
第2節
第3節
第4編
第1章
第2章
第3章
第1節
第2節
第4章
14
16
22
22
23
23
29
30
34
34
37
45
46
55
55
62
私権の客体 ............................................................65
私権の客体総説.............................................................. 65
物権の客体.................................................................. 71
債権の客体.................................................................. 74
権利移転型契約1:売買 .................................... 75
契約の種類 ............................................................75
売買契約の成立から効力発生まで、及び効力の概観 ........................78
売買契約の成立要件 ....................................................80
相対立する意思表示の合致 .................................................... 80
契約内容の確定.............................................................. 94
売買契約の有効要件 ....................................................99
第1節 客観的有効要件............................................................. 100
第2節 主観的有効要件............................................................. 107
第1款 主観的有効要件総説 ....................................................... 107
第2款 能力.....................................................................
第3款 意思表示.................................................................
第3節 無効と取消し...............................................................
第1款 無効と取消し総説 .........................................................
第2款 無効.....................................................................
第3款 取消し...................................................................
第4款 無効と取消しとの関係 .....................................................
第5章
売買契約の効果帰属要件(代理) .......................................165
第1節 代理総説...................................................................
第2節 代理行為...................................................................
第1款 代理行為総説.............................................................
第2款 顕名.....................................................................
第3款 代理行為の瑕疵...........................................................
第4款 代理人の能力.............................................................
第3節 代理権.....................................................................
第1款 代理権総説...............................................................
第2款 復代理...................................................................
第3款 代理権の範囲.............................................................
第4款 代理権の消滅.............................................................
第4節 無権代理...................................................................
第1款 無権代理総説.............................................................
第2款 無権代理行為の一般的効果 .................................................
第5節 表見代理...................................................................
第1款 表見代理総説.............................................................
第2款 代理権授与の表示による表見代理 ............................................
第3款 権限外の行為の表見代理 ...................................................
第4款 代理権消滅後の表見代理 ...................................................
第5款 表見代理の重畳適用 .......................................................
第6款 無権代理と表見代理 .......................................................
第6章
第1節
第2節
第7章
第1節
第2節
第3節
第4節
第5節
第8章
第1節
第2節
第9章
108
116
155
155
156
159
162
165
170
171
171
174
181
181
181
187
190
196
197
197
199
215
215
216
222
234
235
237
売買契約の効力発生要件 ...............................................238
条件・期限................................................................. 239
期間....................................................................... 244
売買契約による権利の移転(物権的効果) ...............................245
物権変動総説...............................................................
不動産物権変動.............................................................
明認方法...................................................................
動産物権変動...............................................................
即時取得...................................................................
245
252
271
277
281
売買契約による債権・債務の発生(債権的効果その1) ...................297
売買契約によって発生する債権・債務の内容 ................................... 297
売買契約の効力............................................................. 303
売買契約上の債務の履行(債権的効果その2) ...........................306
第1節 任意の実現.................................................................
第1款 弁済.....................................................................
第2款 供託(弁済供託) .........................................................
第3款 代物弁済.................................................................
第4款 弁済の提供...............................................................
第5款 受領遅滞.................................................................
第2節 債務不履行(広義) .........................................................
第1款 総説.....................................................................
第2款 現実的履行の強制(強制履行) .............................................
第3款 同時履行の抗弁権 .........................................................
第4款 損害賠償請求.............................................................
第5款 担保責任.................................................................
第6款 危険負担.................................................................
306
306
318
321
322
328
335
335
336
340
347
383
419
第 10 章
売買契約上の債務の消滅(債権的効果その3) ..........................425
第1節 債務消滅原因総説...........................................................
第2節 解除.......................................................................
第1款 解除総説.................................................................
第2款 解除の要件...............................................................
第3款 解除の方法・効果 .........................................................
第4款 解除権の消滅.............................................................
第3節 相殺.......................................................................
第1款 相殺総説.................................................................
第2款 相殺の要件...............................................................
第3款 相殺の方法・効果 .........................................................
第4節 更改.......................................................................
第5節 免除.......................................................................
第6節 消滅時効...................................................................
第7節 混同.......................................................................
第5編
第1章
第2章
第1節
第2節
第3節
第3章
第1節
第2節
第3節
第6編
第1章
第2章
権利移転型契約2:特殊な売買等及び売買類似の契約 ......... 469
総説.................................................................469
特殊な売買等 .........................................................470
信託....................................................................... 470
終身定期金................................................................. 471
第三者のためにする契約 ..................................................... 472
売買類似の契約 .......................................................473
贈与....................................................................... 474
交換....................................................................... 476
和解....................................................................... 477
使用型契約 ............................................... 479
総説.................................................................479
貸借型契約 ...........................................................479
第1節 賃貸借.....................................................................
第1款 賃貸借契約総説...........................................................
第2款 賃貸借契約の成立 .........................................................
第3款 賃貸借契約の効力 .........................................................
第4款 当事者の変更.............................................................
第5款 賃貸借契約の終了 .........................................................
第6款 借地借家法による修正 .....................................................
第2節 使用貸借...................................................................
第3章
第1節
第2節
第3節
第4節
425
426
427
429
434
447
448
449
451
465
466
468
468
468
479
479
481
485
493
509
514
532
用益物権設定型契約 ...................................................537
地上権.....................................................................
永小作権...................................................................
地役権.....................................................................
入会権.....................................................................
537
537
538
538
Ⅱ
第7編
第1章
第2章
第1節
第2節
第3節
第3章
第1節
第2節
役務型契約 ............................................... 539
総説.................................................................539
雇用.................................................................541
雇用契約総説............................................................... 541
雇用契約の効力............................................................. 542
雇用契約の終了............................................................. 549
請負.................................................................550
請負契約総説............................................................... 550
請負契約の効力............................................................. 551
第3節
第4章
第1節
第2節
第3節
第4節
第5章
第1節
第2節
第3節
第4節
第8編
第1章
第2章
第1節
第2節
第3節
第3章
第4章
第9編
第1章
第2章
第1節
第2節
第3節
第4節
第3章
第 10 編
第 11 編
第1章
第2章
第3章
第4章
請負契約の終了............................................................. 566
委任.................................................................567
委任契約総説...............................................................
委任契約の効力.............................................................
委任契約の終了.............................................................
特殊の委任.................................................................
567
568
571
575
寄託.................................................................576
寄託契約総説...............................................................
寄託契約の効力.............................................................
寄託契約の終了.............................................................
特殊な寄託.................................................................
576
578
578
579
信用型契約 ............................................... 581
総説.................................................................581
消費貸借 .............................................................582
消費貸借契約総説........................................................... 582
消費貸借の効力............................................................. 587
消費貸借の終了............................................................. 587
ファイナンス・リース契約 .............................................588
割賦販売法 ...........................................................588
組織型契約 ............................................... 589
総説.................................................................589
組合.................................................................590
組合契約総説...............................................................
組合の効力.................................................................
組合員の変動(脱退および加入) .............................................
組合の終了.................................................................
590
592
597
598
フランチャイズ契約 ...................................................598
消費者法 ................................................ 599
債権・債務の移転 ........................................ 600
総説.................................................................600
債権譲渡 .............................................................601
債務引受 .............................................................643
契約上の地位の移転 ...................................................647
第 12 編 債務者の責任財産保全のための債権の効力 .................... 649
第1章
第2章
第1節
第2節
第3節
第4節
第5節
第3章
第1節
第2節
第3節
第4節
第5節
責任財産の保全総説 ...................................................649
債権者代位権 .........................................................651
債権者代位権総説...........................................................
債権者代位権の要件 .........................................................
債権者代位権の行使方法・内容 ...............................................
債権者代位権の効果 .........................................................
債権者代位権の転用 .........................................................
651
652
657
659
660
詐害行為取消権 .......................................................667
詐害行為取消権総説 .........................................................
詐害行為取消権の法的性質 ...................................................
詐害行為取消権の要件 .......................................................
詐害行為取消権の効果 .......................................................
特定債権保全のための取消し .................................................
668
669
672
679
682
第 13 編
第1章
債権担保型契約 .......................................... 685
物的担保型契約 .......................................................685
第1節 担保物権総説...............................................................
第2節 抵当権設定契約.............................................................
第1款 抵当権総説...............................................................
第2款 抵当権の設定.............................................................
第3款 被担保債権の範囲(基本的効力1) .........................................
第4款 抵当権の効力の及ぶ目的物の範囲(基本的効力2) ...........................
第5款 物上代位(基本的効力3) .................................................
第6款 法定地上権(用益権との調和1) ...........................................
第7款 劣後賃借人の例外的保護(用益権との調和2) ...............................
第8款 抵当不動産の第三取得者の地位 .............................................
第9款 抵当権侵害...............................................................
第 10款 抵当権の処分 .............................................................
第 11款 抵当権の消滅 .............................................................
第 12款 共同抵当 .................................................................
第 13款 根抵当...................................................................
第3節 質権設定契約...............................................................
第1款 質権総説.................................................................
第2款 各種の質権...............................................................
第3款 質権の詳細...............................................................
第4節 非典型担保.................................................................
第1款 非典型担保総説...........................................................
第2款 譲渡担保.................................................................
第3款 所有権留保特約...........................................................
第4款 仮登記担保...............................................................
第5款 買戻し・再売買の予約 .....................................................
第2章
人的担保型契約 .......................................................771
第1節 人的担保総説...............................................................
第2節 保証契約...................................................................
第3節 連帯債務等.................................................................
第1款 連帯債務等総説...........................................................
第2款 不可分債権・債務 .........................................................
第3款 連帯債務.................................................................
第4款 不真正連帯債務...........................................................
第4節 多数当事者間の債権・債務の諸形態と考察の視点 ...............................
第5節 代理受領...................................................................
第 14 編
第1章
771
772
790
790
792
795
801
804
806
意思表示に基づかない財産関係の変動 ...................... 809
物権の法定変動 .......................................................809
第1節 総説.......................................................................
第2節 所有権の原始取得...........................................................
第3節 法定担保物権...............................................................
第1款 留置権...................................................................
第2款 先取特権.................................................................
第2章
685
687
687
688
689
691
698
699
708
710
713
724
725
727
728
730
731
736
738
747
748
749
764
769
770
809
810
814
814
823
債権の法定変動 .......................................................829
第1節 総説.......................................................................
第2節 事務管理...................................................................
第3節 不法行為...................................................................
第1款 不法行為総説.............................................................
第2款 不法行為の一般的成立要件 .................................................
第3款 不法行為の効果...........................................................
第4款 不法行為の特則...........................................................
第4節 不当利得...................................................................
第1款 一般不当利得.............................................................
第2款 不当利得の特則...........................................................
829
830
837
837
840
849
860
888
888
900
第3章
事実状態を尊重する法定制度 ...........................................908
第1節 占有及び占有権の意義 .......................................................
第1款 占有権の成立と態様 .......................................................
第2款 占有権の取得.............................................................
第3款 占有権の効果.............................................................
第4款 占有訴権.................................................................
第5款 占有権の消滅.............................................................
第6款 準占有...................................................................
第2節 時効.......................................................................
第1款 時効総説.................................................................
第2款 取得時効.................................................................
第3款 消滅時効.................................................................
第4章
第 15 編
908
908
912
913
918
921
921
922
922
941
961
親族法・相続法による財産権の変動 .....................................966
家族法 .................................................. 967
序章.........................................................................967
第1章 親族.................................................................972
第1節 親族法総説.................................................................
第2節 婚姻.......................................................................
第1款 夫婦関係の発生...........................................................
第2款 婚姻の成立・無効・取消し .................................................
第3款 夫婦関係にあることの夫婦間の効果 .........................................
第4款 婚姻の解消...............................................................
第3節 親子.......................................................................
第4節 後見・保佐・補助...........................................................
第5節 扶養.......................................................................
第6節 親族一般...................................................................
第2章
972
974
974
974
974
974
974
976
976
977
相続.................................................................978
第1節 相続法総説................................................................. 978
第2節 遺言....................................................................... 982
第3節 法定相続................................................................... 983
第1款 相続人................................................................... 984
第2款 相続の効力............................................................... 993
第3款 相続の承認・放棄 ......................................................... 997
第4款 財産分離................................................................. 998
第5款 遺留分................................................................... 999
第6款 共同相続................................................................ 1005
参 考 文 献 表・文 献 略 記 表
内田貴「民法Ⅰ(第4版)、Ⅱ・Ⅲ(第3版)、Ⅳ(補訂版)」東京大学出版会
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (内田・Ⅰ~Ⅳ・頁)
大村敦志「基本民法Ⅰ(第3版)、Ⅱ・Ⅲ(第2版)」有斐閣 ・・・・・・・・・・・ (大村・Ⅰ~Ⅲ・頁)
大村敦志「もうひとつの基本民法Ⅰ・Ⅱ」有斐閣 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (大村・もうひとつ・頁)
大村敦志「民法読解総則編」有斐閣 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (大村・読解総則)
佐久間毅「民法の基礎1(第3版)、2」有斐閣 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (佐久間・1、2・頁)
山本敬三「民法講義Ⅰ(第3版)・Ⅳ‐1」有斐閣 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ (山本・Ⅰ、Ⅳ‐1・頁)
佐久間毅他「リーガルクエスト民法Ⅰ・Ⅱ・Ⅵ(第2版)」有斐閣 ・・・・・ (LQ・Ⅰ、Ⅱ、Ⅵ・頁)
潮見佳男「プラクティス民法債権総論(第4版)」信山社
・・・・・・・・・・・・・ (潮見・プラクティス債権総論・頁)
潮見佳男「債権各論Ⅰ・Ⅱ(第2版)」新世社
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (潮見・債権各論Ⅰ、Ⅱ・頁)
道垣内弘人「担保物権法(第3版)」有斐閣 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (道垣内・頁)
中田裕康「債権総論(新版)」岩波書店 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (中田・頁)
平井宜雄「債権総論(第2版)」弘文堂 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (平井・債権総論・頁)
平井宜雄「債権各論Ⅱ不法行為」弘文堂 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (平井・債権各論Ⅱ・頁)
近江幸治「民法講義Ⅰ(第6版補訂)、Ⅱ(第3版)、Ⅲ(第2版補訂)、Ⅳ(第3版補訂)、Ⅴ
(第3版)、Ⅵ(第2版)、Ⅶ」成文堂 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (近江・Ⅰ~Ⅶ・頁)
鈴木禄弥「民法総則講義」~「相続法講義」創文社 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ (鈴木・総則~相続・頁)
星野英一「民法概論Ⅰ~Ⅳ」良書普及会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (星野・Ⅰ~Ⅳ・頁)
我妻栄「民法講義Ⅰ~Ⅴ4」岩波書店 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (我妻・Ⅰ~Ⅴ4・頁)
我妻栄「民法大意(第2版)上中下」岩波書店 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (我妻・大意上~下・頁)
遠藤浩他編「民法⑴(第4版増補補訂3版)、⑵・⑶(第4版増補版)、⑷第4版増補補訂版、⑸
(第4版)、⑹(第4版増補補訂版)、⑺(第4版)、⑻・⑼(第4版増補補訂版)」
有斐閣双書 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (双書⑴~⑼・頁)
山田卓生他「民法Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ(第3版補訂)、Ⅴ(第4版)」
有斐閣Sシリーズ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (SⅠ~Ⅴ・頁)
幾代通「民法総則(第2版)」青林書院 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (幾代・頁)
四宮和夫・能見善久「民法総則(第8版)」弘文堂 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (四宮=能見・頁)
米倉明「民法講義総則Ⅰ」有斐閣 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (米倉・Ⅰ・頁)
鎌田薫「民法ノート物権法①」日本評論社 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (鎌田・頁)
舟橋諄一「物権法」有斐閣 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (舟橋・頁)
高木多喜男「担保物権法(第4版)」有斐閣 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (高木・頁)
柚木馨・高木多喜男「担保物権法」有斐閣 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (柚木=高木・頁)
奥田昌道「債権総論(増補版)」悠々社 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (奥田・頁)
星野英一「借地・借家法」有斐閣 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (星野・借地借家法・頁)
幾代通著、徳本伸一補訂「不法行為法」有斐閣 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (幾代=徳本・頁)
加藤一郎「不法行為(増補版)」有斐閣 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (加藤・頁)
「注釈民法⑴~(26)」有斐閣 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (注釈~・頁)
「新版注釈民法⑴~(28)」有斐閣 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (新版注釈~・頁)
中田裕康他編「百選Ⅰ・Ⅱ(第6版)」有斐閣 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (百選Ⅰ、Ⅱ〔事件番号〕)
星野英一他編「百選Ⅰ・Ⅱ(第5版補正版)」有斐閣
・・・・・・・・・・・・・ (百選Ⅰ、Ⅱ[第5版]〔事件番号〕)
「平成~年度 重要判例解説」有斐閣 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (H~重判〔事件番号〕)
内田貴・大村敦編「民法の争点」有斐閣 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (争点Ⅰ、Ⅱ・頁)
第1編
第1編
序論/1
序論
民法は、市民生活の基本となる法律であり、これを理解しておくことは、民法以外の法律の理解
の前提になるばかりでなく、司法試験合格にとって非常に大切である。しかし、民法は千条以上も
の条文を持つ大きな法律なので、条文の順序に学んでいたのでは理解に長期間を要する。そこで、
体系的かつ実践的に改革した法的思考方法により、まず全体構造を把握してから、次第に細部に入
るようにした。このように、民法の全体のかたちをつかみ、今勉強している部分が全体の中のどの
あたりなのかを常に意識しながら勉強を進めることが重要である。
特に、司法試験や学期末試験などを受ける場合、出題者の意図を把握するためには、全体構造が
把握されていること、その全体構造の中のどの部分が出題されているかを把握することが重要とな
る。そこでの出題意図は、その前提となる原理・その原理に基づく理論をふまえて展開されている
ので、論理一貫した論文を作成するためには、どうしても体系的把握、したがって全体構造を体得
していることが必要なのである。もちろん、この全体構造自体が出題されることはないが、この全
体構造からの視点が不可欠なのである。この全体構造こそ、政治哲学や法哲学の影響を強く受けて
いる。そして、21 世紀の激動の時代こそ、世界観の変革、そして法律世界の変革が目まぐるしく
展開するのである。現在の基本法典の大改正はその表れである。
本編では、全体構造の民法編で説明したことを受けて、民法の三大原則とその修正、および民法
1条の解釈を中心に解説する。全体構造で述べたが、民法は私法の一部をなしており、時代の変遷
はまず私法に影響を及ぼし、その一部である民法に影響を及ぼしている。ここでは、民法とその指
導原理について、これまでの通説を維持し、一部修正を付加して解説する。
第1章
民法の指導原理
一
民法の三大原則(指導原理)
1
民法の三大原則
①
権利能力平等の原則
②
所有権絶対の原則
③
私的自治の原則
*
私的自治の原則からは、①個人の意思が積極的に活動する場合における「法律行為自由の原
則」「契約自由の原則」「社団設立自由の原則」「遺言自由の原則」と、②個人の意思が消極
的ないし違法的に活動する場合に関する「過失責任の原則(自己責任の原則)」とが導かれる。
2
沿革
以上の原則は、西欧において、近代市民革命を通して成立してきたものである。すなわち、近代
市民革命以前の封建社会においては、個人的生活関係も封建的な身分的階層秩序や封建的土地所有
によって支配されていた。近代市民革命はこのような身分的階層秩序や封建的土地所有を内容とす
る封建制を廃止することを目的としていた。そこで、
2/第1編
序論
第1章
民法の指導原理
①
特権的階層を否定して、すべての個人は自由平等に活動することができるとし、
②
これらの個人に何らの封建的拘束も受けない自由な所有権を承認し、
③
個人的生活関係の形成は、封建的秩序によるのではなく、個人の意思にゆだねられるべきで
ある、
としたのである。
これによって成立したのが前述の民法の三大原則である。この三大原則は、資本制経済の中核で
ある商品交換の規範関係を規定する私法の指導原理として、高度な権利体系を形成してきた。
3
内容
⑴
権利能力平等の原則
すべての自然人は、国籍・階級・職業・年齢・性別等によって差別されることなく、平等に
権利・義務の主体となることができるという原則。
個人について他人の支配に属さない自主独立の地位を保障するものであり、封建的身分制か
らの個人の解放を意味する。
⑵
所有権絶対の原則
近代的所有権は何らの人為的拘束を受けない、完全円満な支配権で、神聖不可侵であるとい
う原則。
自由平等という近代法の大原則は、人を身分・土地・権力から解放したが、土地をも身分・
権力から解放した。すなわち外界の物を全面的に使用・収益・処分し得る所有権を考え出した
のである。これによって市民は自らの創意、工夫によって生産関係と流通過程において飛躍的
な発展を図ることができるようになった。
⑶
私的自治の原則
すべての個人は、自由な意思に基づいて自律的に法律関係を形成することができ、反面、自
由な意思によらなくては、権利を取得し、義務を負わされることはないという原則。
*
私的自治の原則は、自由・平等という近代法の建前のうちの自由の理念を、私的関係に適
するかたちで、端的に表したものということができる。この私的自治の原則からは、前述し
たように、①「法律行為自由の原則」(契約自由の原則)や、②「過失責任の原則」が導か
れる。
①
法律行為自由の原則:契約等の法律行為については、個人の自由な意思により、原則と
して、自由に、いかようにも決定できるということ。
②
過失責任の原則:人は故意または過失に基づいて他人の権利・利益を侵害し、損失を与
えた場合にのみ損害賠償責任を負うとすること。
→過失責任の原則は、自らの行為について十分注意すれば責任を負わされることはない、と
いう意味で人々の自由な行動を裏面から保障している
第1編
二
序論
第1章
民法の指導原理/3
指導原理の修正
以上の三つの指導原理は、近代市民革命以降の近代社会の原則であるが、今日では、資本主義の
高度化により二つの側面から変容を受けている。第一は、資本主義の普遍化・一般化により、企業
法たる商法の理念が一般市民法たる民法の体系の中に浸透してきたことであり、これを「民法の商
化」という。第二は、資本主義の高度化により、経済的弱者保護のために、民法自体の中にも憲法
の福祉主義の影響がみられることであり、これを「民法の社会化」という。さらに、冷戦終結後
20 年が経過した今日、わが国は「第三の大立法期」を迎えており、2005 年施行の民法典の現代語
化の後、民法以外の法律では、2006 年の非営利法人法・公益法人法の全面改正。2006 年の信託法
の全面改正。2006 年施行の会社法の全面改正が行われている。そして現在進行中の債権法改正が、
現行の民法典の全面改訂のきっかけとなっている。この「第三の大立法期」を支える「指導原理の
修正」も明らかにしなければならないが、以下では、これまでの通説を前提とし、一部付加的に説
明を加えることとする。
1
民法の商化
民法の商化とは、資本主義の進展とともに、企業に関する商法が、市民法体系において主導権を
握るようになり、民法もその影響を受けるようになったということを意味する。世界的には、ス
イス債務法をはじめ、民商法を一つの法典に定めているものがある。この度の債権法改正試案に
おいても、商法典の条文のいくつかが民法典の中に組み込まれている。
⑴
表示主義の尊重
私的自治は当事者の真意に基づく法律効果を原則とするが、取引の円滑化のために、表示行
為の社会通念上の意味が重視されるようになった。
⑵
財産に関する動的安全の保護
取引においては静的安全の保護が原則であるが、取引の安全を保護し、流通を促進するため、
人が従来享有している利益よりも取引上の活動を保護する場面も生じた(動的安全の保護)。
その最も顕著なものが公信の原則である。
2
民法の社会化
民法の社会化とは、憲法の福祉主義の影響を受けて、弱者保護を図るという観点である。すなわ
ち、近代市民社会においては、一で述べたような原則が採用された結果、人々の自由な経済取引が
保障されることとなり、資本主義が発展したが、今日二つの面で修正がなされている。一つは労働
者と使用者との労働契約関係および消費者と事業者との間の情報の質ならびに交渉力の格差による
弊害に対処するための修正であり、二つ目は経済的・社会的弱者・不適合者を保護するための修正
である。
この結果、従来の自由・平等の内容も実質的なものとしてとらえ直さなくてはならなくなり、憲
法においては、国家が福祉政策を行うことによって積極的に経済的弱者を保護しなくてはならない
という福祉主義が採用され、民法自体の内部においても指導原理の社会化が進行した。この度の債
権法改正試案においても、消費者契約法の条文および理念が組み込まれている(なお、労働契約法
は採用されていない)。
4/第1編
⑴
序論
第2章
私権
人間像の修正
かつて資本主義は、様々な身分階級に属する人間(具体的人間像)を打破し、法の下にすべ
ての人間が自由かつ平等であるという理念(抽象的人間像)を前提としたが、現代資本主義は、
この抽象的人間像に修正を迫り、具体的人間として再構成しようとするものである。もちろん、
かような修正は、抽象的・観念的な法人格としての「権利能力」を廃棄しようとするものでは
ない。
⑵
所有権絶対の原則の修正
憲法 29 条が規定するように、財産権の内容は公共の福祉に適合するように法律で定めるべき
ものとされている。これを受けて、相隣関係による制限(民 209 条以下)を定め、法令による
所有権の内容の制限(206 条)を定めている。さらに、各種の特別法(借地借家法等)による所
有権の内容の制限、土地収用(土地収用法)や用途制限(都市計画法)などがある。このよう
に所有権の内容・行使について、国家の見地からの制約や自治体の公共の利益からの制約が認
められている。しかし、自然権的な所有権絶対の原則は認められない。
⑶
私的自治の原則の修正
⒜
契約自由の原則の修正
経済的強者が定める約款に国家的監督を加えたり、一定の場合に契約締結を強制するなど
して、社会的弱者の保護を図っている。
⒝
過失責任の原則の修正
現代の高度の危険性を有する企業活動により一般市民が犠牲になることを防止するため、
無過失責任や代位責任、挙証責任の転換等を定め、過失責任の原則を修正している。本来、
対等の立場にある人の間での責任分配の方法である「過失責任」の原則が、現代社会の複雑
高度化によって修正を迫られるのは当然の成り行きである。
第2章
私権
一
はじめに
1
私権の意義
私権とは、私法上の権利、すなわち個人的生活関係において個人が私的利益を享受する地位をい
い、公法上の権利である公権と対比される概念である。私権と公権との中間に「社会権」がある。
私権とは、さしあたり民法上の権利であると理解しておけば足りる。
2
私権の種類
⑴
私権の内容(権利者の享受する利益)による分類
⒜
人格権:人の人格的利益(ex.身体、自由、名誉)を目的とする私権。
⒝
身分権:身分上の地位(ex.親、夫婦)に基づいて認められる権利。
⒞
財産権:権利の内容が財産的価値を有するもの。
⒟
社員権:社団を構成する社員が社員としての資格に基づき社団に対して有する包括的権利。
第1編
⑵
序論
第2章
私権/5
私権の作用(権利者のなしうる行為)による分類
⒜
支配権:権利者の意思だけで権利の内容を実現することができる権利。
ex.物権、無体財産権、人格権
⒝
請求権:他人に対してあることを請求することができる権利。
ex.債権、物上請求権
⒞
形成権:権利者の一方的意思表示により法律関係の変動を生じさせることができる権利。
ex.取消権、解除権、婚姻の取消し
⒟
抗弁権:他人の権利の行使を妨げる効力を持つ権利。
ex.同時履行の抗弁権、保証人の催告・検索の抗弁権
⒠
⑶
二
管理権:財産的事務の処理をする権利。
ex.相続財産管理人の管理権
私権の効力による分類
⒜
絶対権:権利の効力が一般人に対して及ぶもの。
ex.物権、無体財産権
⒝
相対権:特定の相手方に対してのみ及ぶにすぎないもの。
ex.債権
私権の公共性
債権や物権などの私権は、これらの権利者が全く自由に行使できるというものではない。民法の
明文上の制約として、1条1項から3項までの三つがある。
1
公共の福祉
1条1項において「私権は、公共の福祉に適合しなければならない。」と定めている。「公共
の福祉」とは、社会共同生活の全体としての向上・発展を意味する。すなわち、私権は個人の利
益を実現するものであるが、社会の中で実現されるものである以上、私権の内容および行使は、
社会共同の利益と調和するものでなければならない。1条1項はこうした私権の社会性を宣言し
たものである。人はすべて平等であるから、一人の私権の行使は、同等の他人の私権の行使と常
に衝突している。その衝突した私権を調整する基準が必要となる。それが「公共の福祉」なので
ある。個人主義の暴走を抑止する機能を果たしている。
ex.自己の所有地を公道の拡張のために提供しなければならないこともあり得る(もちろん、
補償を受けることができる、憲 29Ⅲ)。
2
信義誠実の原則(信義則)
⑴
意義
1条2項においては、「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければなら
ない。」と定めている。信義誠実の原則(信義則)とは、当該具体的事情のもとにおいて、相
互に相手方から一般に期待される信頼を裏切ることのないよう誠意を持って行動すべきという
原則である。
6/第1編
⑵
序論
第2章
私権
妥当範囲
信義則は、私的取引関係における相互の信頼関係を要求するものであり、当初は緊密な関係
に立つ債権者・債務者間を規律する債権法を支配する原則であった。その後、それ以外の領域
(物権法・家族法・訴訟法など)においても、社会的接触関係に立つ者同士(契約関係に入ろ
うとする者同士、夫婦関係、相隣関係など)の関係を規律するものとして適用されるようにな
った。
⑶
機能
⒜
法律行為、特に契約の解釈基準としての機能
当事者間にどのような内容の契約が生じるかを決定(解釈)するに当たり、信義則がその解
釈基準となることがある。この度の債権法改正においては、多くの契約・債権の解釈において
「信義誠実の原則」が適用される予定である。
⒝
社会的接触関係に立つ者の間の規範関係を具体化する機能
ex.①
⒞
契約締結上の過失
②
賃貸借契約の解除の制限(信頼関係破壊の理論)
③
雇用契約における安全配慮義務
法に明文のない場合や、形式的な法適用によって不都合が生じる場合の準則となる機能
イ
禁反言の原則
自己の行動に矛盾した態度をとることは許されないとする原則。
ロ
クリーン・ハンズの原則
自ら法を尊重する者だけが、法の尊重を要求することができるとする原則。
ハ
事情変更の原則
契約締結後の事情の変化等により、従来の契約を維持することが著しく信義公平に反す
るようになった場合に、契約内容の改訂または解除を請求することができる、とする原則。
ニ
権利失効の原則
長期間にわたり権利を行使しない場合には、その権利を失効させ、もはや権利としての
効果を生じさせないとする原則。
第1編
序論
第2章
私権/7
社 会 的 接 触 関 係 に 立 つ 者 の 間の 規
範関係を具体化する機能
<信義則の機能に関する判例のまとめ>
契約準備段階に入った者は、信義則の支配する緊密な
最判昭 59.9.18/
契約準備段階の
関係に立つから、相互に相手方の人格、財産を害しな
百選Ⅱ〔3〕
過失
い信義則上の義務を負うとし、損害賠償責任を認めた
不動産の賃貸借において賃借人が賃貸人に無断で賃借
信頼関係破壊の 物を転貸した場合に、賃貸人に対して背信的でない特
最判昭 28.9.25
段の事情があるときは、賃貸人は賃貸借契約を解除
理論
(612Ⅱ)できない
安全配慮義務
国が公務員に対し負っている安全配慮義務は、ある法
律関係に基づいて特別な社会的接触関係に入った当事 最判昭 50.2.25/
者間において、当該法律関係の付随義務として信義則 百選Ⅱ〔2〕
上認められる
明 文 のな い場 合、 形 式 的な 法 適 用 では 不都 合が
生じる場合の準則となる機能
抵当に入れた建物の所有者が敷地の賃借権を放棄して
大判大 11.11.24
も、抵当権者には対抗できない
禁反言の原則
賃貸人の承諾によって適法に成立した転借権を、賃貸
人が賃借人と合意解除することによって消滅させるこ 大判昭 9.3.7
とはできない
◆
消滅時効完成後に時効完成を知らないで債務の承認を 最大判昭 41.4.20
した者の時効援用は認められない
/百選Ⅰ〔41〕
事情変更の原則
事情の変更により当事者に解除権を認めるには、事情
変更が客観的に観察して信義則上当事者を契約に拘束 最判昭 30.12.20
することが著しく不合理と認められることを要する
権利失効の原則
解除権を有する者が久しくこれを行使せず、相手方に
おいてその権利はもはや行使されないものと信ずべき
正当の事由を有するに至ったため、その後にこれを行 最判昭 30.11.22
使することが信義則に反すると認められるような特段
の事由がある場合、解除は許されない
最判平 24.3.16/H24 重判〔2〕
生命保険契約における保険料不払いによる無催告失効条項は、①民法 541 条により求められ
る催告期間に比して長期の猶予期間が設定され、保険料自動振替貸付による失効回避の措置も
保障されるなど、保険契約者の権利保護を図るために一定の配慮がされていることに加えて、
②保険料不払いの際に払込みの督促を行う態勢と運用が確保されており、保険契約者において
保険料支払債務の不履行があったことを気付くことができると考えられるから、信義則に反し
て消費者の利益を一方的に害するもの(消費者契約法 10 条後段)には当たらない。
8/第1編
3
序論
第2章
私権
権利濫用の禁止
⑴
意義・趣旨
1条3項において「権利の濫用は、これを許さない」と定めている。権利濫用の禁止とは、
外形上は正当な権利の行使のようにみえるが、具体的・実質的にみると権利の社会性に反し、
権利の行使として是認することが妥当でない行為を禁止することをいう。
すなわち、権利の濫用を禁止した1条3項は、私権の行使に際して生じる他の法益との衝突
を具体的見地から調整しようとするものである。
⑵
要件(判定の基準)
権利濫用の有無の判定基準については、権利を行使する者の主観的態様(害意など)を重視
するか、それとも行使される権利がその社会的機能からみて保護に値するか否かという客観的
基準(要するに、権利行使によって得られる権利者の利益と、相手方または社会全体に及ぼす
損害との比較衡量によるということ)を重視するか、あるいはその両者を考慮するかという点
で見解が分かれる。
判例には、主観的態様と客観的基準の両面から権利濫用としているものがある。
◆
宇奈月温泉事件(大判昭 10.10.5/百選Ⅰ〔1〕)
事案:
Xは、宇奈月温泉を経営するY会社が、他人の土地2坪程をかすめて引湯管を設けて
いるのに目を付け、その土地を買い受けてYに不当に高額な価格での買取りを要求した
が拒否された。そこで、XがYに対し引湯管の撤去を請求した事案。
判旨:
所有権の侵害による損失はいうに足らず、侵害の除去が著しく困難であり、それがで
きるとしても莫大な費用を要すべき場合において、当該除去請求は単に所有権の行使た
る外形を有するにとどまり、真に権利救済を目的とするものではないのであって、社会
観念上所有権の目的に違背してその機能として許されるべき範囲を逸脱するものであり
権利の濫用にほかならない、と判示し、Xの請求を棄却した。
◆
最判平 25.4.9/H25 重判〔1〕
事案:
本件建物は、繁華街に位置する建物であり、A商事が所有していた。Yは、本件建物
の地下1階部分(本件建物部分)でそば屋を営業し、遅くとも、平成8年9月までには
本件建物部分について賃借権を得ていた。Yは、営業開始以来、A商事の承諾を得て、
本件店舗の営業のために、本件建物の地下1階への入口である1階部分の外壁等に看板
等を設置していた。平成 22 年1月、A商事は、本件建物をBに売却し、同年4月、Bは
Xに本件建物を転売した。その際、作成された売買契約書には、本件建物の賃借権の負
担等はXに承継されること、本件建物に看板等があることが明記されていた。
Xは、Yに対し、所有権に基づく本件建物部分の明渡し、賃料相当額の損害金の支払、
本件看板等の撤去を求めて訴えを提起した。原審は、本件建物部分の明渡し及び損害金
の支払請求は棄却したものの、本件看板等の撤去請求については、本件建物部分の賃借
権には本件看板等の設置権原が含まれておらず、Xの撤去請求が権利濫用に当たる事情
もないことから、これを認容した。
第1編
判旨:
序論
第2章
私権/9
「本件看板等は、本件建物部分における本件店舗の営業の用に供されており、本件建
物部分と社会通念上一体のものとして利用されてきた……。Yにおいて本件看板等を撤
去せざるを得ないこととなると、本件建物周辺の繁華街の通行人らに対し本件建物部分
で本件店舗を営業していることを示す手段はほぼ失われることになり、その営業の継続
は著しく困難となることが明らかであって、Yには本件看板等を利用する強い必要性が
ある。」
「他方、上記売買契約書の記載や、本件看板等の位置などからすると、本件看板等の
設置が本件建物の所有者の承諾を得たものであることは、Xにおいて十分知り得たもの
ということができる。また、Xに本件看板等の設置箇所の利用について特に具体的な目
的があることも、本件看板等が存在することによりXの本件建物の所有に具体的な支障
が生じていることもうかがわれない。」
したがって、「上記の事情の下においては、XがYに対して本件看板等の撤去を求め
ることは、権利の濫用に当たる」。
⑶
効果
⒜
権利本来の効力は認められない。
イ
他人の形式的な侵害行為を排除することはできない。
ロ
形成権(解除権など)の場合、その行使によって生じるはずの法律関係は発生しない。
⒝
ex.宇奈月温泉事件
正当な範囲を逸脱して他人に損害を与えたときには、不法行為として妨害除去あるいは損害
賠償を命ぜられる場合がある。
◆
信玄公旗掛松事件(大判大 8.3.3)
権利の行使といえども、法律において認められた適当な範囲を超過し、失当な方法を行った
ため他人の権利を侵害した場合には、不法行為が成立するとした。
⒞
権利の濫用が著しいときは、権利を剥奪される場合がある。もっとも、この効果は、特別の
規定がある場合に限定すべきである。
*
ex.親権の喪失(834)
なお、権利濫用の禁止は、一般条項であり、その要件も不明確なので、民法の他の条文
などによる救済が不可能な場合に、補充的に最後の手段として使うべきものである。
4
私権の実現
私権を有する者は、義務者に対して、義務の履行を要求し、権利を侵害する者に対しては、その
侵害を排除し、または損害賠償を請求することができる。しかし、このように私権を実現するため
に他人の協力を必要とする場合に、その他人が協力しない限り、裁判所に対して協力を求めなけれ
ばならない。自分の力で権利の内容を実現するいわゆる自力救済(例えば、自分の更地の上に知ら
ない間に他人が建物を建ててしまったとき、それを壊して取り払ってしまうこと)は原則として許
されない。これを認めると社会の秩序は保たれないからである。
もっとも、国家による保護を待っていたのでは権利救済が不可能あるいは著しく困難となる場合
には、例外として、必要な限度で自力救済を認めてよい。
10/第1編
第3章
序論
第3章
権利変動原因
権利変動原因
権利とは何か。権利は目に見えない。大脳皮質によって理解する以外にない。文字通り、概念
の産物である。
しかしながら、このような概念たる権利を所有し、または、保持している場合には、その人は
ある生活空間における利益・安全・心理状況を享受できる。
例えば、マンションの一区画を賃借しているあなたは、その賃借マンションを通常の利用形態
に従った利用をしても、オーナーや他人から文句を言われない状況にある。つまり、マンション
を自由に使える利益、安心して住んでいられること、またその心理状態などを権利の内容という。
また、このような利益内容が侵害される場合は、その侵害する人に対して「侵害するな」と主張
することができる。これを権利とか請求権という。
ところで、このような権利をあなたが有するのはなぜだろうか。その根拠を探求することが法
律のレベルの問題である。これを、法律の根拠・正当事由・正当性・法の正義ということができ
る。
そこで、このような権利の正当性が生まれる根拠は何か、どのような要件のもとで変動するか
が、ここでの問題である。
現在の我々は、個人の自由な意思・発想を根幹にして社会の秩序・安全・制度を作っている。
これを「意思主義」、「個人責任」、「私的自治」、「過失責任」などという。そこで、権利の
変動は、意思表示に基づく場合を原則とし、この意思表示がない場合について、国家が法律を根
拠として「権利の変動」を生じさせている。
意思表示に基づく法律関係
法律行為
法律行為
私権の主体
私権の客体
私権の主体
法定要件
法定要件
意思表示に基づかない法律関係(法定権利)
第2節
意思表示に基づかない権利変動原因/11
第1節 意思表示に基づく権利変動原因
意思表示に基づく権利変動について、図表の該当箇所を参照すること。これから売買契約を第一
に取り上げ、以下に図示したプロセスに従って詳しく解説をしていく。この体系は、皆さんが大学
で学ぶ順序や市販のテキストの解説順序とは違う。
しかし、近い将来に予定されている債権法改正において、改正後の条文は、この「LEC体系」
の解説順序と同様のものとなっている。LEC体系は、訴訟・実務という行動科学に準拠したマニ
ュアルであるので、実務に準拠して考えられている債権法改正と似てくるのも、けだし当然である。
第2節 意思表示に基づかない権利変動原因
意思表示に基づかない権利変動について、図表の該当箇所を参照すること。意思表示に基づかな
い権利変動は、国会で議決する法律・内閣で作る政令・自治体で作る条例等を根拠とする。社会が
複雑化・高度化すればするほど、当事者の意思(大半は契約である)に基づく権利変動を離れた、
「意思表示に基づかない権利変動」が増大するのである。その主たるものは行政法規の性質を有す
る。
私権の変動は、その根拠要件・効果との分析である。人の義務付けを「人の意思」に置く近代法
は、まず、①法律行為(主として契約)を、行動科学に従い、成立・有効・帰属・効力発生のプロ
セスに分類し、契約の利益交換を、弁済・債務不履行・解除などの法律構成により、実現する。次
に、②意思以外の財貨の移転を正当化する根拠として、一般的な法律の定め、生活類型に基づく法
律の定め、さらに人の新たな活動を正当化するための法律の定めを必要とする。法律は、立憲主義
の下では、「人の意思」を間接的に代表する「議会の意思」である。
<意思表示に基づく法律関係と意思表示に基づかない法律関係>
[意思表示に基づく法律関係]
[意思表示に基づかない法律関係]
法律行為・契約自由の原則
正義・公平の原則
○ 占有訴権
○単独行為・契約・合同行為・決議
○ 法定物権(留置権・先取特権・物権的請求
1 成立要件
権)
2 有効要件
○ 添附
⑴ 客観的要件(内容)
○ 時効
確定性
○ 法定相続
実現可能性
○ 法定親権
適法性
○ 法定債権(423・424)
社会的妥当性
○ 賃借権に基づく妨害排除等
⑵ 主観的要件(意思)
○ 事務管理
意思能力・行為能力
○ 不法行為
意思の瑕疵・欠缺
○ 不当利得
3 効果帰属要件
4 効力発生要件
5 効力発生後における債権の一生
12/第1編
序論
第3章
権利変動原因
権利変動原因との関係では、人の意思は、意思表示として法的に分析される。そして、①意思表
示の中身は、単独行為(放棄・解除)、契約、合同行為(社団の設立行為)、決議(会社の決議)、
協約、に分かれる。②契約は、経済取引の中心であり、権利移転型・貸借型・役務提供型等に分類
できる。③売買契約は、法的主体相互が、財貨の交換をなす重要な契約であり、私法の主要な論点
は、この売買契約の要件・効果の一連の法律構成で尽くされる。
財貨・利益の移転は、意思表示以外による場合、法律の根拠を必要とする。それは、準法律行為
(催告等)・事実行為(事務管理等)・心理状態(善意・悪意)・事件(時の経過・人の死等)で
ある。私法の世界においては、人と人との利益の配分は、正義・公平の原則が貫徹していなければ
ならない。抽象的な人の正義が自由な個人の意思に基づくという哲学は、21 世紀に入り、国家・
社会・共同体の正義・善によって修正・補完されなければならない。それは、契約の解釈を通じて、
また法律(広義)の制定及び解釈を通じてなされる。
<意思表示に基づく法律関係と意思表示に基づかない法律関係の具体例>
単独行為
意思表示に基づく
法律関係
(法律行為)
意思表示に基づか
ない法律関係(法
律行為以外)
法定債権
法定権利
準法律行為
事実行為
不法行為
心的状態
事件
契
約
合同行為
決議
占有訴権
法定物権
添附
時効
法定相続
法定親権
事務管理
不法行為
不当利得
相手方のない単独行為・相手方のある単独行為
①売買契約の成立要件
②売買契約の有効要件
③売買契約の効果帰属要件
④売買契約の効力発生要件
⑤売買契約による物権変動
(1)売買型
弁済
債権の消滅
債務不履行
⑥効力発生
原始的・後発的不
後の債権
損害賠償
能
解除
⑦債権譲渡
(2)賃貸借型
①賃貸借、②使用貸借、③消費貸借
①委任
②請負
(3)役務提供型
③寄託
④雇用
債権の保全
人的担保
(4)債権の確保
物的担保
債権の担保
非典型担保
相殺
組合契約・会社設立
株主総会の決議・取締役会決議
占有保全・保持・回収の請求権
妨害予防・妨害排除・返還請求権
発見・附合・混和・加工
取得時効・消滅時効
権利の移転
親族の範囲・夫婦・実親子・養親子
第2編
第2編
物権と債権/13
物権と債権
物権と債権は、講義やテキストにおいては、まったく異なる権利として説明される。両者は峻別
された権利内容である。しかしながら、権利の内容を条文に従って厳格に分析していくと、両者の
違いは相対的である。もっとも、まずここでは概念的な両者の区別についての説明からはじめる。
民法は主に私権に関する法律である。そして、私権のうちで、一般の取引においてもっとも重要
なものは財産権であり、民法上の財産権としては、物権と債権がある(財産権には、他に特別法に
規定される無体財産権(ex.特許権)などがある)。
物権とは、物を直接支配する権利である。これに対し、債権とは、特定人(債権者)が他の特定
人(債務者)に対して一定の行為を請求する権利である。
では、具体的に物権と債権との間にいかなる差異があるのだろうか。例えば、物権である地上権
(265)と債権である賃借権(601)を比べてみると、いずれも他人の土地を使用させてもらう権利
という点において相違はない。
<土地に対する債権契約と物権契約の相違>
A
①
土地賃貸借契約の場合
②
地上権設定契約の場合
B
A所有の土地
しかし、①債権である賃借権にあっては、賃貸借契約に基づき賃貸人が賃借人に目的物を使用さ
せる債務を負担し、その債務の履行として賃借人に使用させることになる。つまり、賃借人の土
地使用はあくまで賃貸人を介してされるのである。これに対し、②物権である地上権の場合には、
ひとたび地上権設定契約により地上権が設定されたならば、地上権者は地上権そのものに基づい
てその土地を使用し得るのであって、地主を介して使用するのではない。
これを言いかえれば、物権は人と物との関係であり、物権を有する者は目的物を直接支配できる
のに対し、債権は人と人との関係であり、債権者が物を支配するとしても、それはあくまで債務
者の行為を介した間接的なものにすぎない。(しかし、物権を有する者といえども、物権の円満
な所有のためには、妨害者という人に対する請求を介さなければならない。いかに人対物との関
係といえども、妨害している人がいる限り、その人に対する請求を通して物に迫る以外にない。
権利は、物権・債権にかかわらず、人対人の関係を通して実現するものであるからである。訴訟
においても、強制執行においても、被告に対する請求という形にならざるを得ない。)
これが債権と物権の大きな違いである。以下では、物権と債権の差異に着目しつつ、両者を静態
的に分析する。
14/第2編
物権と債権
第1章
第1章
物権
物権
第1節 物権総説
一
物権とは
1
意義
物権とは、物を直接的・排他的に支配する権利をいう。
*
物を支配するとは、使用権能・収益権能・処分権能を総括的に指称するものである。
例えば、ある物の所有者が、その所有権(206)に基づいて、自由にその物を使ったり(使
用)、人に貸して賃料を得たり(収益)、売ったり(処分)することができることを、「物
を支配する」という。
2
性質
⑴
直接性:他人の行為を介在せずに、自己の意思のみに基づいて物を支配できること。
⑵
排他性:一つの物権が存在する物の上には、同じ内容の物権は成立し得ないということ。
*
同一物について同一内容の直接的支配権をいくつも認めると、自己の意思のみに基づいて
支配することは困難となる。つまり、直接性と排他性は密接不可分の関係にある。
なお、物権の排他性から取引の安全を確保するために、物権の内容や帰属を外部から認識
できるような工夫(公示方法、177・178)がされている。
二
物権法定主義
1
はじめに
⑴
意義
物権は、民法を始めとする法律で定められたもの以外は、当事者が合意で創設することがで
きない(175)。これを物権法定主義という。
この原則は、以下の二つの意味を持つ。
民法その他の法律に定めている以外の新しい種類の物権を作ることはできない。
②
法律の定める種類の物権につき、それらの規定と違った内容を与えてはならない。
⑵
①
趣旨
①
封建制度の複雑な物権を整理して、資本主義取引に適するように自由な所有権を中心とす
る物権関係を確立する(歴史的な理由)。
②
物権の種類を限定することにより公示が確実に行われるようにして、取引の安全を図る
(実際上の理由)。
第1節
2
物権総説/15
種類
民法は以下の種類の物権を認めている。
<民法上の物権の体系>
観念的
物
全面的物権
所有権
権
地上権
用益物権
永小作権
地役権
入会権
民法上の物権
制限物権
留置権
担保物権
先取特権
質
権
約定担保
物権
抵当権
事実的
物
占有権
法定担保
物権
注
権(占有)
注)我々がある外界の物体を所持している場合、これを法律では「占有している」という。占有と
は、物に対する現実的支配である。このような現実的支配は、正当化される場合と不正な場合と
がある。
正当化される場合とは、意思表示に基づくか、又は法律に基づいて現実的支配が是認される場合
である。この場合は、現実的支配をなしうる観念的な権利が占有の背後に存在する。つまり、実際
に物を事実上支配しているかどうかを問わず、正当化根拠が「権利」として認められるのである。
所有権・地上権・永小作権・賃借権など、物の使用価値の支配を目的とする権利を「本権」という。
したがって、非占有担保たる抵当権などは本権の定義から除かれる。
これに対して、占有が不正である場合、すなわち、権利によって裏付けられない占有は不法な状
態であって、保護されないはずであるが、例外がある。それが「占有権」である。これは、単に占
有している事実、現実にその物を支配している事実に一定の法的効果を認める、という権利である。
泥棒が他人の物を窃取して所持している段階であっても、その占有自体に法律効果が認められる。
盗人が他人の物を持っている状態も法律上保護されているのである。これは、長い歴史の沿革から
認められている権利である。
なお、占有は、現に物を支配している事実状態そのものから生じるのであるから、その支配を失
えば占有を失う。したがって、占有権は消滅する。なぜなら、占有権は、観念的に認められるもの
ではないからである。そこで、占有権は物権ではないと考えることも可能である。しかし、通説は、
占有権も物権であると説明しており、上の図でも「事実的物権」として紹介している。
<舟橋諄一「物権法・法律学全集(18)」(有斐閣)・277 頁以下参照>
16/第2編
3
物権と債権
第1章
物権
慣習法上の物権
慣習法上の物権には、①民法典ができる以前から存在していたものと、②民法典ができた後取引
の必要から商慣習として発達したものがある。前者の例が、水利権(大判大 14.12.11)や温泉専
用権(鷹ノ湯温泉事件/大判昭 15.9.18/百選Ⅰ〔45〕)であり、後者の例が、譲渡担保権である。
→このような慣習法上の物権も、175 条に反しない
∵
175 条の「その他の法律」には、法の適用に関する通則法3条により法律と同一の効力を有
するものとされる慣習法が含まれる。
*慣習法と法律の関係
⇒発展
第2節 物権の効力
一
はじめに
各種の物権は、それぞれ特有な効力を有している。それらについては、後に個々の物権を取り上
げる際に述べていくとして、ここでは、すべての物権に共通の一般的効力について説明する。
物権の一般的効力としてあげられるのは、通常、①優先的効力と②物権的請求権である。これら
は、いずれも物権の直接的排他的支配性という特質から導かれる効力である。
二
1
優先的効力
物権相互間の優先的効力
⑴
意義:互いに相容れない物権相互間では、時間的に先に成立した物権が優先するという原則。
⑵
趣旨:物権の排他性。
*
取引安全のため公示の原則が採用されている結果、優先的効力は、実際には公示、すなわ
ち、不動産では登記(177)、動産では引渡し(178)を先に備えた方が優先することになっ
ている。ただし、先取特権等の例外もある(329 以下)。
2
債権との関係における優先的効力
⑴
意義:同一物について物権と債権が競合する場合には、その成立の前後にかかわらず、物権
が債権に優先する。
ex.ある物を所有者から借り受けた者と買い受けた者とがいる場合、原則として買い受
けた者が優先する(売買は賃貸借を破る)。
⑵
趣旨:物権が物を直接支配し得るものであるのに対し、債権は債務者の行為を介して間接的
に物を支配し得るものにすぎないから。
⑶
例外:不動産賃借権(605)
第2節
三
物権の効力/17
物権的請求権
事例
Aの家の庭には、隣家Bの家で飼われている猫(甲)が自由に出入りしており、Aも甲を可
愛がってきた。甲は、Aの庭にある石灯篭の根元がお気に入りの場所であり、夜にBの家に帰
る以外はその場所にいることが多かった。
ある日、Aは、遠く離れて住んでいた息子夫婦が戻ってくることとなり、孫であるCととも
に同居することとなった。可愛そうなことに、Cは、重度の猫アレルギーであり、猫に触るだ
けでなく猫の毛等によってジンマシンが出てしまう体質だった。
そこで、Aは、Bに上記を説明し、甲をAの家の敷地に入れないように依頼し、Bもそれを
了承した。しかし、甲はBの言うことを聞かず、相変わらずAの庭の石灯篭の下に居座る生活
が続いている。
①Aは、Bに対してどのような請求ができるか。その場合の費用はどうなるか。
②甲が2か月前にBによってDから盗まれてきたものであった場合、Aは誰に対してどのよう
な請求ができるか。また、その場合の費用はどうなるか。
A
A宅
1
B宅
意義
物権の円満な支配状態が妨害された事実、またはそのおそれのある事実のある場合に、その事実
を支配している人に対して、あるべき状態の回復、または妨害の予防を求める請求権。
2
根拠
①
202 条 1 項の「本権の訴え」という文言が物権的請求権を予定している。
②
占有権にすら占有訴権(197 以下)が認められているのだから、ましてや本権である物権に
は、当然に認められるはずである。
③
3
自力救済が禁止されている民法の下で物の直接的支配を全うするため 。
法的性質
⇒発展
18/第2編
4
物権と債権
第1章
物権
種類
①
物権的返還請求権
②
物権的妨害排除請求権
③
物権的妨害予防請求権
<物権的請求権の種類・内容>
所有権
占有権
請求内容
①
物権的返還請求権
占有回収の訴え(200)
目的物の返還
②
物権的妨害排除請求権
占有保持の訴え(198)
妨害の除去
③
物権的妨害予防請求権
占有保全の訴え(199)
侵害を生ずる原因を除去すること
<返還請求権・妨害排除請求権・妨害予防請求権の相違>
<請求権者>……占有を失った物権者
返
還
①
占有回収の訴えと異なり、詐取・遺失の場合も除外されない
②
所有者以外の第三者に占有権限がある場合(ex.賃借人)でも、所有者は直
接自分に対して明渡しを請求できる(最判昭 41.10.21)。学説は反対
請
<相手方>
求
権
……所有者に対する関係で、占有権原を有しないのに占有しているすべての者
①
占有回収の訴えと異なり、善意の転得者に対しても行使できる
②
相手方は現に目的物を占有している者でなければならない
③
占有補助者・占有機関に対しては行使できない
妨
<請求権者>……当該物権の完全な実現を妨げられている者
害
<相手方>
排
<差止請求>……物権的請求権は、しばしば差止請求の法的根拠とされてきた
……請求権者の保有する物権につき、現に妨害状態を生じさせている者
除
現在の判例は、公害問題については、「人格権」を根拠として妨害排除および
請
妨害予防請求を認めている。日照被害の差止については、「土地・建物の利用
求
に結びついた、物権的請求権と人格権の複合的なもの」としている
権
環境権については、判例は認めていない
妨
<請求権者>……妨害されるおそれのある物権の保有者(一度妨害が生じたことは要しない)
害
<相手方>
予
……将来、請求権者の保有する物権を妨害するおそれのある者
<請求内容>……①
防
単に物権の妨害になるような行為をしないこと
ex. 木材の伐採・搬出をしないことなどの不作為
請
②
求
妨害のおそれが生ずる原因を除去して妨害を未然に防ぐ措置をとること
ex. がけの損壊を防ぐ工事をすることなどの作為
権
5
請求権の内容(費用負担の問題)(内田・Ⅰ・370 頁、佐久間・2・305 頁) ⇒発展
<問題の所在>
B所有地に生育していた樹木が、台風により隣接するA所有地に倒れ込んだ。この場合、Aとし
ては、Bに対して土地所有権に基づき樹木による妨害の排除を請求することが考えられ、Bとして
は、Aに対して樹木の所有権に基づき樹木の返還を求めることが考えられる。このようなA、Bの
請求は認められるか。また、認められるとした場合、その費用はいずれが負担すべきか。
第2節
物権の効力/19
物権的請求権の内容として、権利者は自己の費用による妨害除去行為を受忍すべき旨を相手方に
請求し得るにすぎない(受忍請求権)のか、相手方の費用により妨害を除去すべき旨を請求し得る
(行為請求権)のかが問題となる。
<物権的請求権の事例>
B所有地
A所有地
<考え方のすじ道>~行為請求権修正説
物権は物に対する直接の支配権であるが、自力救済が禁止されている制度上、物に対する妨害事
情を支配する地位にある者に対して妨害の除去を請求し得なければ、物権は有名無実となってし
まう
↓よって
物権的請求権は、原則として、相手方の費用で物の返還、妨害の除去、妨害の予防を請求し得る
権利(行為請求権)であると解する
↓もっとも
常にこのように考えると、同一事実について返還請求権と妨害排除請求権が競合するような場合
に、いずれが先に権利行使するかによって費用の負担者が異なる結果となる等の不都合が生じる
↓そこで
物権者と相手方との利益の合理的調和の観点から、返還請求については、相手方がその意思によ
り占有を取得したのでない場合には、相手方に取戻行為の受忍を請求し得る(受忍請求権)にと
どまるものと解する
↓よって
AはBの費用で樹木を排除すべきことをBに請求できるが、Bは自己の費用による樹木の取戻し
を受忍すべきことをAに請求できるにすぎない
<アドヴァンス>
⑴
行為請求権説(判例、従来の通説)
物権的請求権は、相手方に対して妨害を除去するための積極的行為を請求し得る権利であり、
その費用も相手方負担となる。
(理由)
権利者には一般的に自助行為が認められていないから、妨害事情を支配する地位にある者に
対して、その妨害の除去を請求できなければ、物権は有名無実となる。
(批判)
①
不可抗力による妨害の場合にまで費用を相手方の負担とするのは、相手方に酷である。
20/第2編
物権と債権
②
第1章
物権
同一事実についてある者の返還請求権と他の者の妨害排除請求権が衝突するような場合
には、いずれが原告となるかによって費用負担者が決定されるという不都合がある。
⑵
行為請求権修正説(我妻、柚木)
原則として⑴説と同様の立場を採りつつ、返還請求権については、相手方がその意思により占
有を取得したのでないときには、例外として相手方に取戻行為の受忍を請求し得るにとどまる。
(理由)
⑴説の(理由)、および⑴説に対する(批判)②。
(批判)
⑶
①
妨害排除、妨害予防については、⑴説に対する(批判)①と同様の批判が妥当する。
②
返還請求について例外を認める理論的根拠が明らかでない。
受忍請求権説・忍容請求権説(鈴木、近藤)
物権的請求権は、一般に物権侵害という客観的状態を物権者自らが除去することを相手方に
忍容させる権利であり、その費用は原則として請求者の負担となる。
*
この見解では、相手方が同時に不法行為者である場合に限り、不法行為による損害賠償請
求として、物権的請求権実現の費用を相手方に請求できることになる。
(理由)
物権的請求権は、物権の円満な状態を回復するための物に対する追及権であって、人に対する
権利ではないから、相手方に回復行為を受忍すべきことを請求し得るにすぎない。
(批判)
侵害が相手方の所有物から生じている場合には、この説の結果は必ずしも妥当ではない。
⑷
責任説(川島、舟橋)
⑶説と同様、物権的請求権を侵害除去の忍容請求権であると解しつつ、ただ、侵害行為が相
手方の帰責事由による場合には、相手方の費用による妨害の除去請求を肯定する。
*
この見解は、相手方に帰責事由がある場合には、費用負担のみならず積極的な除去行為を
も相手方に請求し得る点で、⑶説と異なることになる。
(理由)
過失責任の原則から、法がある人に一定の積極的行為を行う義務を負わせるためには少なくと
も過失が必要である。よって、相手方に対して積極的に妨害排除の行為をなすべき義務を課すた
めには故意過失等の要件が必要である。
*
物権的請求権の相手方に関し、例えば、Aの土地所有権がBの所有物によって侵害されて
いても、その物がBからCに譲渡されれば、Aの物権的請求権の相手方はCであるというの
が、従来の判例であった。これに対し、近時の判例は、「他人の土地上の建物の所有権を取
得した者が自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合には、たとい建物を他に
譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、土地所有者に対し、右譲渡による
建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできない」とした
(最判平 6.2.8/百選Ⅰ〔47〕)。
第2節
◆
物権の効力/21
大判昭 12.11.19/百選Ⅰ〔46〕
「侵害又ハ危険カ自己ノ行為ニ基キタルト否トヲ問ハス又自己ニ故意過失ノ有無ヲ問ハス此
ノ侵害ヲ除去シ又ハ侵害ノ危険ヲ防止スヘキ義務ヲ負担スルモノト解スルヲ相当トス」として、
⑴説を採用している。
*
ただし、判例は、侵害が不可抗力によって生じた場合については判断を留保している。
6 契約上の請求権や不法行為に基づく損害賠償請求権との関係(請求権競合)
(内田・Ⅰ・373 頁)
⑴
不法行為責任との関係
不法行為責任については金銭賠償の原則が採用されており(722Ⅰ・417)、原状回復請求は
認められないから、物権的請求権とは請求の内容が異なる。
→物権的請求権と不法行為責任の競合は生ぜず、要件を満たす限り、いずれの請求も認めら
れる
ex.Aの土地にBが廃棄物を不法投棄した場合、Aは土地所有権に基づく妨害排除請求権
と不法行為に基づく損害賠償請求権の双方を行使し得る。
⑵
契約責任との関係
<問題の所在>
Bは、A所有の家屋を賃借していたが、賃貸借契約終了後も家屋を返還しない。この場合、
Aとしては賃貸借契約に基づき家屋の返還を請求することと、家屋所有権に基づき家屋の返
還を請求することが考えられるが、いずれを行使し得るか。契約に基づく請求と、物権的請
求権の双方が成立するようにみえる場合に、いずれの請求をなし得るのかが問題となる。
<考え方のすじ道>~判例・通説
契約に基づく請求と、物権的請求権は、その要件・効果が異なっており、両者は別個独立
の権利といえる
↓よって
それぞれの要件が満たされている以上、両者の競合を否定すべき理由はないから、権利者
はいずれの権利も自由に選択して行使することができると解する
<アドヴァンス>
⒜
請求権(実在)競合説(判例、通説)
契約に基づく請求と物権的請求権の双方の要件を満たす限り、権利者はいずれを行使して
もよい。
(理由)
契約責任と物権的請求権は、要件・効果を異にする別個独立の権利であるから、双方の要
件を満たしている限り、その競合を否定する理由はない。
⒝
法条競合説(川島、広中、近江)
契約に基づく請求が成立する場合には、契約に基づく請求権が物権的請求権を排除して優
先的に適用される。
22/第2編
物権と債権
*
第1章
物権
この見解でも、契約上の請求権が時効消滅したような場合には、物権的請求権を行使
し得るとするのが一般である。
(理由)
所有権等の物権が問題となるのは、特別な関係のない他人間の関係に限られ、契約という
特別な関係のある者相互間では、契約が物権法の規定を排除して適用される。
7
権利行使期間
物権的請求権は、物権と独立して消滅時効にかかることはない(判例)。そして、所有権そのも
のは消滅時効にかからないので、所有権に基づく物権的請求権は永久に存続すると見るのが判例・
通説であるが、権利失効の原則が適用される余地がある。
第3節 物権の消滅
⇒発展
第4節 所有権
・
はじめに
1
意義
所有権とは、その物の使用・収益・処分という支配権能のすべてを有している支配権であり、
このことから全面的支配権といわれている。
2
所有権絶対の原則とその修正
民法の三原則は権利能力平等、所有権絶対、私的自治である。封建制度の要件は、下部構造と
しての①百姓の土地緊縛(経済外的強制を媒介とした封建時代の収奪)と、法制面としての②幕
府・大名・武士間の主従制(恩貸制と主従制の結合した知行制度)にある。この二要件を打破し
たのが、すべての人を権利義務の主体と認める原則(これを権利能力平等という)と人間以外の
ものを権利の客体とする原則(これを所有権絶対の原則という)である。
この所有権絶対の原則は、他の二つの原則とともに、すぐれて歴史的な概念である。特に、所
有権絶対の原則は 19 世紀は広く認められていたが、20 世紀における福祉国家の理念に従い、種々
の制限が加えられてきたものである。これについては既に述べた。
現に我国の所有権は、憲法 29 条2項・民法1条1項によって公共の福祉による限界を画されて
おり、相隣関係による制限(209 条以下)を定め、法令による所有権の内容の制限を定めている
(206)。さらに、各種の特別法(借地借家法等)による所有権の内容の制限、土地収用(土地収
用法)や用途制限(都市計画法)などがある。
第2編
物権と債権
第2章
債権/23
~考えてみよう!~ 所有権の拡張:知的財産
知的財産権とは、著作権と各種工業所有権(特許権・商標権など)の総称です。これらの権利については、
知的生産物に対する権利ですが、この知的生産物は有体物ではないので、民法の規定が及びません。そこで、
個別に法律が定められています(著作権法、特許法等)。
この知的財産に対する権利の保護としては、この権利に基づく侵害者への差止請求という形で現れ、物権と
同様の保護を受けているといえます。このように知的財産権は物権に類似する権利であるという側面もありま
すが、一方で物権とは異なる性質もあります。ひとつは権利の発生に登録を要する場合があることです(特許
権など)。もうひとつは人格権に基づく差止請求権が認められていることです。以上の点に注意しつつ、知的
財産権が物権類似の権利であることをおさえておきましょう。
第1款
相隣関係
⇒発展
第2款
⇒
所有権の効力(物権的請求権)
第2節
第2章
物権の効力
「三
物権的請求権」(p.17)
債権
第1節 債権総説
一
債権の意義・性質
1
意義
債権とは、特定人から特定人に対して一定の財産上の行為を請求する権利をいう。
*
2
この一定の財産上の行為を「給付」または「給付行為」という。
性質
近代法の下では、人の行為は意思の自由を前提とするのであって、人が行為しようとする意思を
支配することはできない。そのため、人たる債務者の行為が客体である債権には、以下のような
性質がある。
⑴
直接性がない
債権は債務者の行為を待って初めて実現するものであり、直接支配性がない。
→債権に基づく妨害排除請求は原則として認められない
*
⑵
不動産賃借権の場合は例外的に妨害排除請求権が認められる場合がある。
排他性がない
同一の特定人に対する同一内容の債権の併存が認められ、排他性はない。
→優先的効力もなく、公示も不要である
24/第2編
⑶
物権と債権
第2章
債権
不可侵性はある
不可侵性は、すべての権利に共通の性質であるから、債権にも認められる。
→したがって、債権侵害に対して損害賠償請求(709)ができる
~考えてみよう!~ 債権の相対性の二つの側面
債権の性質として、債権の相対性ということが挙げられます。この債権の相対性には二つの側面があります。
ひとつは債務者の意思への依存ということです。債権が履行されるかどうかは、債務者が履行するかどうかと
いう債務者の意思にかかっており、債権者としては債務の履行を促す、もしくは強制手段をとるしかないので
す。
もうひとつは、債権が人に対する権利であるというところから、物に対する強い支配力を持たないという点で
す。たとえば賃借権は物の利用に関する権利ですが、これは者に対する支配力を行使するというのではなく、あ
くまでも債務者に当該物を貸すということを求める権利であるにすぎません。また、債権は債務者の財産に対す
る支配力が弱いために、債権者が増えてもそれに対応することができず、一方債務者が財産を流出させてもこれ
を止めることはできないのです。
二
債権の目的(内容)
1
はじめに
債権の目的(内容)とは、債務者の履行行為、すなわち給付を意味する。
請求できる「特定の行為」のことを「給付」、債務者がその特定の行為をすることを債務の「履
行」という。そして、債務が履行されると、債権はその存在目的を達成し消滅する。債権が消滅
する点に着目した債務者の行為を「弁済」という。
cf.債権の目的物:給付物、すなわち、給付行為を構成する目的物。
債権の目的(内容)は、物権と異なり、特に制限する規定はない。したがって、債権の目的は契
約自由の原則により、まずは当事者の意思によって決定される。そして、当事者の意思が明らか
でない場合は、民法上の任意規定によって補充的に解釈される。
*
債権の目的(内容)の決定は、法律行為の確定の問題である。いかなる事項について、確定
されていなければならないかについては、債権の消滅の項を参照。
2
要件
⑴
債権の目的は、金銭に見積もることができないものでもよい(399)。
→金銭に見積もることができないとは、金銭的評価に適さない場合のほか、金銭的に価値の
ない場合をも意味する
*
大正時代の裁判例として、土地の受贈に際して寺僧が贈与者の祖先のために永代常念仏を
唱える約束を有効としたものがある(東京地判年月日不明(大正2年(ワ)992 号))。
⑵
当事者の意思に基づいて、すなわち法律行為によって発生する債権については、法律行為の
客観的有効要件(①確定可能性、②実現可能性、③適法性、④社会的妥当性)を満たしている
必要がある。
第1節
三
債権の強制執行方法の違いによる分類
四
金銭債権について
1
意義
債権総説/25
⇒発展
金銭債権とは、一般には、一定額の金銭の引渡しを目的とする債権(金額債権)をいう。
2
特色
金銭は代替物の極限ともいうべきものであり、そこに金銭債権の特色(402・403)と例外の問
題が生ずる。
⑴
金銭債務の遅滞においては不可抗力をもって抗弁できない(419Ⅲ)。
⑵
債権者側の損害の有無を問題とせず、当然一定率による賠償義務を負わされる(419ⅠⅡ)。
結局、債権者は、債務不履行の事実さえ立証すればよいということになる。
五
利息債権について
⇒発展
六
選択債権について
⇒発展
七
第三者による債権侵害
1
はじめに
債権は債務者に対する権利であり、債務者の債務不履行の場合は、いわば債務者により債権が
侵害される場合であるといえる
↓これに対して
債務者以外の第三者によって債権が侵害されたとして、不法行為が成立する場合はないか
→①第三者による債権侵害を理由に不法行為が成立し得るのか、これを肯定するとして、②い
かなる場合にいかなる要件の下で不法行為が成立するのか、が問題となる
ex.売買契約が締結されている土地について売主から二重に譲り受けた場合や、他社の従業
員を引き抜いて雇用契約を締結した場合に、不法行為が成立しないかが問題となる。
2
第三者による債権侵害と不法行為の成否
第三者による債権侵害が不法行為を構成し得るかは、債権が相対的な権利であることから問題
となっていた。しかし、債権も権利である以上、権利の通有性としての不可侵性が認められる。
そして、この不可侵性を侵害した第三者の行為は違法となり得る。
26/第2編
物権と債権
第2章
債権
したがって、第三者の債権侵害が違法と評価された場合、不法行為(709)のその他の要件を満
たしている限り、不法行為が成立する。判例(大判大 4.3.10/百選Ⅱ〔20〕)も、第三者による
債権侵害は不法行為を構成し得るものとしている。
◆
大判大 4.3.10/百選Ⅱ〔20〕
「対世的権利不可侵ノ効力ハ実ニ権利ノ通有性ニシテ独リ債権ニ於テノミ之カ除外例ヲ
為スモノニアラサルナリ」として、第三者の債権侵害による不法行為成立の可能性を肯定
した。
3
債権侵害の諸類型と不法行為成立要件
⑴
債権の帰属自体を侵害した場合
ex.債権の準占有者あるいは受取証書持参人として債務者から弁済を受け、債権者の債権
を消滅させた場合(478、480 参照)等。
物権の帰属が侵害される場合と異なるところがないので、故意があるときに限らず、過失が
あるにすぎないときでも不法行為が成立する。
⑵
債権の目的たる給付を侵害し、かつ債権を消滅せしめた場合
ex.①
売買の目的物を第三者が滅失せしめ、売主がその債務を免れた場合。
②
債務者の行為を目的とする債権について第三者が債務者を拘禁する場合。
この場合にも、不法行為が成立し得ることについては争いがない。
もっとも、侵害者の主観的要件については、過失で足りるとする見解と、債権を侵害するこ
とについての故意が必要であるとする見解がある。
⑶
債権の目的たる給付を侵害したが債権は消滅しない場合(損害賠償義務に転化して債務が存
続する場合)
ex.二重譲渡や、労働者の引き抜きなどのように、債務者に働きかけて既存の契約と両立
できない内容の契約を締結し、履行せしめるような場合。
⒜
原則否定説(判例、通説)
自由競争のルールに反するような公序良俗違反・保護法規違反の形態で侵害がなされた場
合に限り、不法行為が成立する。
(理由)
①
対抗要件の場面では、第二譲受人は背信的悪意者でなければ保護されるのに、不法
行為の場面では悪意の第二譲受人が責任を負わされるとするのでは、対抗要件制度の
趣旨が貫徹できなくなる。
②
経済的自由競争の建前からは、二重契約の締結・履行をなさしめたとしても、これ
を大幅に適法視しなければならないから、単なる悪意の場合は違法性がないといえる。
⒝
原則肯定説(有力説)
第二譲受人に故意・過失があれば、不法行為が成立する。
(理由)
①
取引安全の要請による対抗要件制度と、損害の公平な分担を目的とする不法行為制
度は別次元のものであり、不法行為法が対抗要件制度の要請に従う必要はない。
第2節
②
債権の効力/27
既に成立している契約を破棄せしめることが自由競争のルールに適っているかは疑
問である。
◆ 最判昭 30.5.31
不動産の二重譲渡の事案において、第二譲受人が売主・第一譲受人間の契約について悪
意であっても、対抗要件さえ備えれば第二譲受人に完全な所有権が帰属するのであるから、
これによって第一譲受人が害されたとしても、第二譲受人に不法行為責任を課すことはで
きない、とした。
⑷
債務者の責任財産を減少させた場合
ex.①
債務者の財産を格安の値段で購入し、あるいは極めて有利な条件で代物弁済を受
けるなどの行為(法律行為による場合)。
②
債務者の責任財産を損傷、隠匿、窃取するなどの行為(事実行為による場合)。
①のような法律行為による場合については、詐害行為取消権による保護にゆだねるべきで
ある。
また、②のような事実行為による場合については、不法行為が成立する余地があるが、債
権者に対する侵害としては間接的なものであるから、債権侵害の故意が必要であるとされる。
第2節 債権の効力
一
債権の効力
1
債務者との関係で認められる効力
⑴
給付保持力
給付内容を保持することを法律によって保障される、すなわち不当利得にならないこと。
→債権の最小限の効力であり、すべての債権が有する
*
⑵
給付保持力しかなく訴求可能性のない債権を自然債務という。
裁判外の請求力
債権者が、裁判外において債務者に対して履行を請求できること。
⑶
訴求力(裁判上の請求力)
債務者が履行をしない場合に債権者が裁判所に訴えることができること。
⑷
強制力(執行力、掴取力)
債務者が履行しない場合に、債権者が国家機関の権力によって強制的に債権の内容を実現し
得ること。
*
⑸
2
執行力を欠く債務を責任なき債務という。
損害賠償請求権(415)
債権の効力が第三者に及ぶ場合
⑴
債権者代位権(423)
⇒「二
債務と責任」(p.28)
28/第2編
⑵
物権と債権
第3章
物権と債権の差異
詐害行為取消権(424)
*
第三者による債権侵害に対する損害賠償請求権(709)も、債権の効力が第三者に及ぶ場合
ということができる。
二
債務と責任
1
意義
債務:債務者の給付義務・履行義務。
責任:債務者の一般財産が、債権の強制的実現の引き当てになっている状態(掴取力に服してる
状態)。
2
債務と責任の分化
通常の債権は、請求力と掴取力とを本質的に有しており、したがって債務と責任の分化はみられ
ない。しかし、以下の場合については分化がみられる。
⑴
責任なき債務(債務はあるが、責任はない場合)
ex.強制執行をしない旨の特約のある債務。
⑵
債務なき責任(債務はないが、責任だけ存在する場合)
⒜
物上保証人
⒝
物的担保の対象である不動産の第三取得者
*
なお、保証は、債権者に対する独立した債務(保証債務)があるので債務なき責任には当
たらない。
⑶
有限責任(債務はあるが、責任は一定の範囲に限定されている場合)
⒜
相続の場合の限定承認(922)
⒝
株式会社の株主(会 104)
⒞
合資会社の有限責任社員、合同会社の社員(会 580Ⅱ)
第3章
・
物権と債権の差異
はじめに
物権と債権の差異をまとめると以下のようになる。
①
直接支配性の有無(→⑤と関連)
②
排他性の有無(→③と関連)
③
公示の要求
④
種類・内容(物権法定主義
⑤
物権的請求権の有無
*
例外として、不動産賃借権は債権でありながら、①排他性(605)、②妨害排除請求権が認
vs
契約自由の原則)
められる場合がある。これを不動産賃借権の物権化の傾向という。
第3編
第3編
私権の主体・客体
第1章
私権の主体/29
私権の主体・客体
一般に法律問題は、①誰が(私権の主体の問題)、②何に対する関係で(私権の客体の問題)、
③いかなる法律関係に立っているか(法律関係の問題)、という三つの観点から分析するのが合理
的である。そして、民法の指導原理は、権利能力平等の原則、所有権絶対の原則、私的自治の原則、
の三つに集約されるが、権利能力平等の原則が私権の主体の問題において、所有権絶対の原則が私
権の客体の問題において、私的自治の原則が法律関係の問題において、それぞれ指導的な役割を果
たす。
第3編ではこれらのうち、私権の主体の問題と、私権の客体の問題について説明する。
第1章
私権の主体
第1節 はじめに
一
権利義務の主体
ここでは、法律行為の主体となる自然人と法人に関する問題について検討を加える。
私権すなわち権利義務の主体となり得る地位・資格のことを権利能力という。すなわち、権利能
力とは、ある者に対して金銭の支払を請求する債権を取得したり、ある物の所有権を取得し得る地
位・資格のことである。このような権利能力を有する者を人といい、民法上、人には自然人と法人
がある。
二
自然人
このうち自然人とは、我々人間のことである。人間は生きている間はすべて権利能力者である。
民法は、3条1項で「私権の享有は、出生に始まる」と定めている。したがって、たとえ赤ん坊で
あっても、両親の財産を相続することなどにより土地の所有権や人に対する債権を有することが認
められる。
しかし、権利能力が認められる者であっても、その者のした行為の効果がすべてその者に帰属す
ることが妥当でない場合がある。例えば、いまだ3歳に満たない子供が両親から相続した土地を仲
のいい友達にあげるといっても、それを贈与としてそのまま認めることは妥当ではない。そこで、
ある者のした行為の効果がその者に帰属するためには権利能力の他にさらに意思能力や行為能力が
必要とされている。
30/第3編
三
私権の主体・客体
第1章
私権の主体
法人
法人とは、自然人以外のもので、権利能力を認められたものをいう。会社や学校法人・宗教法人
等がその典型例である。民法は団体につき民法その他の法律の規定による場合に初めて法人となる
ことを認めている(33)。以前は、法人については民法で一般規定を置くとともに、公益法人につ
いての一般規定も民法において設けられていた。しかし、平成 18 年に法人三法が制定され、法人
規律の法体系は大幅に変わった。法人三法とは、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」
(以下、「一般法人法」と称する)、「公益社団法人及び公益財団法人の認定に関する法律」(以
下、「公益認定法」と称する)、及び「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律および公益社
団法人及び公益財団法人の認定に関する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律」(以下、
「法人関連整備法」と称す)の三法である。
これらにより、法人に関する民法の規定は極めて簡略化され、法人の大綱のみを定めたものとな
った。法人一般については一般法人法が規律することとなり、公益目的であるか、公益も営利も目
的としないものであるかを問わず、規定に従った手続をとって登記をすれば、法人が成立する(準
則主義)。その上で、公益認定法に基づく行政庁の公益認定を受けると、公益法人としての特殊な
取り扱いを受けることになる。営利目的の会社については、すでに会社法が施行されているので、
会社法が規律することになる。以下、法人三法の規定にもとづいて、法人の本質も踏まえつつ、法
人の能力・法人の機関に関する問題を説明する。
四
権利能力なき社団・財団
法人格を取得することが可能であるにもかかわらず、様々な理由で、規定に従った手続をとって
登記をしていない団体や、法人となるべく設立中の団体も、実在する。この場合には、法人と異な
り、権利能力が認められていないため、権利能力なき社団・財団と呼ばれる。
第2節 自然人
事例
Aは、働き盛りのサラリーマンである。Aには、3年前に大恋愛の末結婚した妻B、2歳にな
る女児Cに加え、Bのお腹の中に6か月になる胎児Dがいる。
ある日、Aが通勤途中に踏切を横断しようとしたところ、信号機が鳴っていないにもかかわら
ずE電鉄の電車がやってきて、Aははねられて死亡してしまった。
この場合、胎児Dは、E電鉄を相手に何か請求することができないのか。
B
A
(D)
C
第2節
一
自然人/31
権利能力
権利能力とは、私法上の権利・義務の帰属主体となる地位・資格をいう。
3条1項は、すべての自然人は平等に差別されることなく権利能力を有するという権利能力平等
の原則を定めたものである。
この原則は、個人が封建的身分制から解放されたことを意味する。すなわち、自然人であれば生
きている限りだれでも権利能力が認められ、現在では、かつての奴隷のような私権の主体となり得
ない者は存在しない。
*
このように権利能力は人が生まれた時に発生し、死亡した時に終了する。
なお、この出生・死亡は事実上の問題であり、戸籍上の記載と実際の出生時期が異なる場合に
は、実際の出生時期から権利能力が認められる。
二
権利能力の始期
1
原則
自然人は、出生時から権利能力を取得する(3Ⅰ)。
→ここにいう「出生」とは、生きて母体から完全に分離することをいう(全部露出説、通説)
(理由)
*
①
基準は明確であることが望ましい。
②
私法上権利の主体たり得るためには、独立の存在であることが必要である。
この他に、胎児の母体からの一部露出時を基準とする一部露出説、独立して呼吸を開始した
時を基準とする独立呼吸説などがある。刑法では一部露出説が判例・通説である。
2
例外:胎児の法律上の地位
⑴
権利能力の始期の例外
胎児はまだ人ではないので、権利能力を有しないのが原則である。しかし、やがて人となる
ことが予想されながら、生まれるのがわずかに遅いという単なる偶然によって、一切の権利を
否定されるというのは均衡を失する。
そこで、民法は以下の三つの場合に、胎児も出生したものと「みなす」ことにして、例外的
に胎児の権利能力を肯定し、胎児の保護を図っている。
*
①
不法行為に基づく損害賠償請求(721)
②
相続(886)
③
遺贈(965)
胎児については、認知の規定があるが(783Ⅰ)、これは父の側から認知することを認めた
もので、胎児側からの認知請求を認めたものではないので、権利能力の例外ではない。
32/第3編
⑵
私権の主体・客体
第1章
私権の主体
「既に生まれたものとみなす」(721、886、965)の意味
<問題の所在>
①胎児が出生すれば、胎児中の事件について主体として損害賠償請求でき、また、胎児中
に死亡した被相続人の財産を相続し、あるいは遺贈を受けることができ、②死産の場合には
損害賠償請求できず、また、相続することも遺贈を受けることもできない、という点につい
ては争いはない。
では、胎児の間に、母が胎児を代理して損害賠償請求や示談・遺産分割などをすることが
できるか。胎児の法律上の地位と関連して問題になる。
すなわち、「既に生まれたものとみなす」とは、①胎児中は権利能力はないが、ただ無事
に生まれてくると胎児の時にさかのぼって権利能力があったものとして扱うという意味なの
か(停止条件説、判例)、②胎児中でも生まれたものとみなされる範囲内ではいわば制限的
な権利能力があり、死産の場合には胎児中までさかのぼって権利能力がなかったものとして
扱うという意味なのか(解除条件説)、が問題になる。
<考え方のすじ道>~判例(停止条件説)
現行法上、胎児の財産を管理する法定代理人制度は存在しない
→胎児中に権利能力を認めても、胎児の利益保護を図ることはできない
↓そこで
胎児中は権利能力はないが、ただ無事に生まれてくると胎児の時にさかのぼって権利能力
があったものとして扱うべきである
↓よって
胎児中には法定代理人は存在し得ず、母は胎児を代理して損害賠償請求や示談・遺産分割
などをすることはできない
<アドヴァンス>
⒜
解除条件説(多数説)
胎児の間でも生まれたものとみなされる範囲内ではいわば制限的な権利能力があり、死
産の場合にはさかのぼって権利能力がなかったことになる。
→出生までの間も権利能力があるので、胎児にも法定代理人を付けられる
(理由)
①
死産の事例がかつてより格段に少なくなっている今日では、配偶者と胎児とに相
続させ、胎児が生きて生まれなかった場合に相続関係を改める方が適当である。
②
配偶者と胎児が相続人である場合に、胎児中は権利能力がないものとしてまず配
偶者と直系尊属に相続させ、胎児が生まれた後に相続を回復させることは法律関係
を複雑にする。
③
胎児に法定代理人を付けることによって、遺産の分配に参加させることが可能に
なる。
⒝
停止条件説(判例)
胎児の間は権利能力はないが、無事に生まれると相続の開始や不法行為の時にさかのぼ
って権利能力を取得する。
第2節
自然人/33
→出生までは権利能力がないので、胎児に法定代理人は付けられない
(理由)
胎児の出生まで遺産の分配を停止すると解する方が実際的だし、胎児に法定代理人
を置くことが、必ずしも胎児の利益につながるとは限らない。
*
ただし、母と胎児の財産的な利害が一致しないこともあることから、立法論としては
胎児のために財産管理人を選任して胎児のために財産の管理に当たらせるべきだと解さ
れている。また、解除条件説によって胎児に法定代理人が付けられるといっても、不法
行為による損害賠償請求・相続・遺贈の三つの場面のみであることに注意すること。
◆
阪神電鉄事件(大判昭 7.10.6/百選Ⅰ〔3〕)
電車事故で死亡したAに、父と妊娠中の内縁の妻がおり、この両者が電鉄会社との間で、
今後本件に関し一切の請求をしないという内容の和解契約を結び、親族縁者の総代としてA
の実父が胎児の分も含めて弔慰金の交付を受けたが、その後、出生した子が損害賠償の請求
をした事案で、この和解契約は後日出生した子に対し何ら効力はないと判示した。
⑶
出生の証明と戸籍
戸籍法 49 条により出生後 14 日以内に届け出ることが義務付けられているが、戸籍上の記載
はただの手続上の関係にすぎない。権利能力の取得という実体的関係は、出生という事実によ
って決せられるのであって、戸籍上の記載によって左右されるものではない。
三
権利能力の終期
1
総説
⑴
自然人
自然人の場合は、死亡時が権利能力の終期である。
なお、失踪の宣告によって死亡が擬制される(31)が、これは一定期間生死不明な者の従来
の住所・居所を中心とする権利関係を確定するものであって、その者の権利能力がこれによっ
て消滅するわけではない。
⑵
法人
法人の権利能力の終期は、清算結了時(一般法人法 207)である。
2
同時死亡の推定
数人の者が死亡し、どちらが先に死亡したか明らかでない場合、いかに取り扱うべきか。特に相
続に関して問題となる。
32 条の2は、「数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生
存していたことが明らかでないとき」に関し数人の者の同時死亡を推定するから、数人の者が汽
船の沈没のような共同の危難によって死亡した場合のみならず、内地で明確な日時に死亡した者
と、外地で不明な日時に死亡した者との死亡の前後を決める場合にも適用される。もっとも、本
条が適用されるのは、死亡が確実な者の間での死亡時期についてであり、前提となる死亡自体が
不明な場合はまず失踪宣告等で死亡の事実を確定することを要する。
34/第3編
私権の主体・客体
第1章
私権の主体
そして、利害関係人が一方の死亡の時と他方の死亡の時とが異なることを証拠をあげて証明しな
い限り、双方は同時に死亡したものと取り扱われる。よって、本来なら被相続人・相続人の関係
に立つ者どうしのあいだでも相続は起こらず、遺言者と受遺者のあいだでも遺贈は効力を生じな
い。
ただし、同時死亡の場合でも、代襲相続は認められる。
ex.汽船が氷山に衝突し、乗っていた甲一家4人のうち、甲とその息子が死亡し、妻と娘がボ
ートで救出された場合
→息子は父の相続人とならず、娘・妻はそれぞれ2分の1を相続する。ただし、もし息子に子
があれば、子(孫)が代襲相続によって父の相続人となり、妻は2分の1、娘は4分の1、
孫は4分の1を相続する(887Ⅱ、901)
第3節 法人
第1款
法人総説
事例
Aらは、地域の老人を近所の温泉等に連れて行くボランティア活動を行うサークルVのメンバ
ーである。Zは、Aらが行っているボランティアサービスを受けている地域の老人の一人であ
る。
妻に先立たれ子供もいなかったZは、Lらの活動に甚く感謝し、自分が有している空き家をA
らに譲渡しボランティア活動の拠点として使用してもらいたいと考えるに至り、Aに対してその
旨を伝えた。
AらはZの提案を受け、大いに喜んだが、その後の調査で、現状ではボランティア活動をして
いるサークルV名義では不動産の登記ができないことがわかった。Aらが、団体名義で登記する
にはどうすればよいか。
Z
V(法人?)
A
B
C
D
E
F
一
はじめに
1
法人の意義
自然人でなくして、法人格を認められたもの(権利義務の主体となり得るもの)。
第3節
2
法人
第1款
法人総説/35
法人の種類
社団法人・財団法人。
公益法人・営利法人・中間法人。
<公益法人と営利法人>
公益法人
営利法人
公益目的
○
×
営利目的
×
○
一般法人法3
○印:あり
会社法3
×印:なし
<法人の種類>
公法人と私法人
種類
公法人
私法人
意義
国家的公共の事務を遂行することを目的とし、公法
に準拠して成立した法人
私人の自由な意思決定による任務のために、私法に
準拠して設立された法人
社団法人と財団法人
その実体が社団にあるものとして構成された法人
社団法人
→社員を不可欠の要素とし、最高の意思決定機関と
しての社員総会を中心として自律的活動を行う
その実体が財団にあるものとして構成された法人
財団法人
→社員や社員総会を欠き、寄附行為によって示され
た設立者の意思を活動の準則とする
具体例
国、公共団体
会社、私立学校
一般社団法人
会社
一般財団法人
相続財産法人
①一般法人法により設立された社団法人又は財団法
公益法人と営利法人
人であって、
公益法人
宗教法人
②公益認定法により公益性の認定を受けた法人
社会福祉法人
→その目的が「学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その
学校法人
他の公益」を目的とする法人(民 33Ⅱ)
会社法上、株式会社の株主は、「剰余金の配当を受
ける権利」又は「残余財産の分配を受ける権利」の
営利法人
いずれかを有する(会 105Ⅱ)
会社法上の会社
→対外的活動で利益を得て、得た利益を構成員に分
配することを目的とする法人
内国法人と外国法人
外国法によって法人格を認められた法人で、日本に
おいてその名で活動する場合
外国法人
→外国法人のあるものについて、国内においてもそ
の 法 人格 を認 め( 民 35Ⅰ) 、 登記 によ る公示
(36)を要求しているが、ただ、特別権利能力に
一定の制限を加えている(35Ⅱ)
内国法人
日本法に基づいて設立する法人
外国の行政区画
外国の商事会社
外国の相互保険会社
36/第3編
私権の主体・客体
3
法人の設立
二
法人の本質
1
法人を構成する契機
2
第1章
私権の主体
⇒発展
⑴
実体的契機:取引の主体となるのに適した実体(社団・財団)の存在。
⑵
価値的契機:政策的見地から価値判断をして、取引の主体たるに値するものに法人格を付与。
⑶
技術的契機:自然人でない存在を権利義務の帰属点にたらしめる技術(法人格)。
法人の本質に関する学説の争い
⑴
法人学説
法人の本質論に関しては、法人を構成する契機として上のいずれの契機を強調するかの差異
から、以下のような対立がある。
⒜
法人擬制説
権利義務の主体となり得る実体は本来自然人に限るべきであり、法人は法が特に権利義務
の帰属主体を擬制したものであるとする見解。
⒝
法人否認説
団体などをめぐる法律関係をその実質に則して把握しようとするときには、つきつめたと
ころ、個人または財産のほかに法人の実体なるものはなく、法人は法律関係における権利義
務の帰属点としてのみ認められる観念上の主体であるとする見解。
⒞
法人実在説
法人は、実質的に法的主体たり得る実体を有するところの一つの社会的実在であると考え
る見解。
この社会的実体を何とみるかにより、さらに、法人は団体意思を有する社会的有機体である
とする有機体説、権利主体たるに適する法律上の組織体と考える組織体説、独立の社会的作用
を担当する集団が法人の実体だとすれば十分だとする社会的作用説などに分かれる。
⑵
法人の本質に関する学説の争いの実際的意義
法人学説の対立は、具体的には以下の①~④の論点の解釈に影響するとされてきた。
⑶
①
法人の行為能力の範囲(法人の目的による制限)
②
法人の不法行為能力の性質とその適用範囲
③
法人の理事の地位(占有者たる地位)
④
権利能力なき社団の法的地位
法人学説の現在における意義
以上のような法人学説は、19 世紀のドイツ普通法以来の最大の論争点の一つであるとされて
きた。しかし、近年では、法人学説間の争いは重要視されていない。すなわち、法人学説は、
「社会の構成単位を個人と見るかどうかをめぐる時代思潮の流れの中で、重要な意味を持った。
しかし、今日のように、法人が重要な経済主体として活動し、それに関する法技術的装置が完
成している法体系のもとでは、現実の問題を解決するための解釈論には直結しなくなっており、
第3節
法人
第2款
法人の能力/37
その意味では、このような論争を行なうことの意味自体が失われている。これらの理論を歴史
的に研究する意味と、現在の解釈論における意味とを混同すべきではない」とされているので
ある。
もっとも、典型的な法人学説は、法人制度のいくつかの機能の一面を強調してそれぞれに説
明しているので、それぞれの法人学説の理解をしておくことは、法人制度の多面的な機能を理
解する上で必要であるといえよう。そこで、以下では、従来の法人学説の典型的なモデルと、
各論点との関係をふまえて説明していく。
以下、今日における通説といわれている法人実在説について、必要に応じて触れていくにと
どめる。
第2款
一
法人の能力
はじめに
法人は成立した時から権利能力、意思能力、行為能力(従来の通説が使用する概念)を備える。
ところが、法人は一定の「目的」(34)のために作られたものであるから、その「目的」が法人の
活動を制約する。ここで、「目的」が法人のいかなる能力を制約するかについては争いがある。
二
権利能力
1
一般的権利能力(法人格)
法人は、法により権利義務の統一的帰属点たる資格を与えられたものであるから、法人格を当然
に有する。
2
権利能力の制限
⑴
性質による制限
法人は財産法上の取引単位とするために法人格を付与された自然人でない存在であるから、
性・年齢・親族関係に関する権利義務など自然人的特性を有する権利義務は享有し得ない。
⑵
法令による制限
そもそも法人格は法により与えられるものだから、法令による個別的制限が存在する。
⑶
目的による制限(34)
34 条の「目的の範囲」が、権利能力を制限するものなのか否かについては、学説上争いがあ
るので、項を改めて説明する。
38/第3編
3
私権の主体・客体
第1章
私権の主体
目的による制限
<問題の所在>
34 条の規定は、法人が権利を取得し義務を負担するという法律効果が生ずるのは「目的の範
囲内」の事項に限られることを定めている。そこで、「目的の範囲」を超えた理事の法律行為
がどのような効力を有するかを考える前提として、同条が法人の「目的の範囲」によって何の
範囲を定めたものなのか、換言すれば何を制限したものか、が問題になる。
<考え方のすじ道>~判例
法人は社会的に有用な一定の目的のために権利義務の主体たる地位を認められたもの
↓とすれば
法人の目的は法人の権利能力自体を制限すると解される
↓さらに
法人はその目的の範囲内で活動するもの
↓よって
法人の目的は同時に法人の行為能力を制限したものでもあると解される
↓そうであるとすれば
「目的の範囲」を超えた理事の法律行為は法人に効果帰属せず、無効である
↓もっとも
このように解すると、相手方の取引の安全を害するおそれがある
↓そこで
34 条の「目的の範囲」は目的たる事業を遂行するのに必要な行為を広く含むと緩やかに解す
べき
*
この<考え方のすじ道>は、行為能力という概念を認めており、法人実在説を前提にしてい
るものである。
<アドヴァンス>
⑴
権利能力制限説・権利能力行為能力制限説(判例)
⒜
34 条の解釈
34 条の「目的の範囲内」というのは、法人の権利能力の範囲を定めたものであり、この範
囲外の事項については当該法人は法人格を有しない。そして、法人はその制限された権利能
力の範囲内で権利を有し、義務を負うのであるから、この権利能力の範囲は同時に当該法人
の行為能力の範囲でもある。
(理由)
①
法人は一定の社会的作用を営む目的を達成するため、権利義務の帰属主体たる地位を与
えられたものである。
②
権利能力の範囲を超えて行為能力は存し得ないから、権利能力の範囲は同時に行為能力
の範囲をも画することになる。
⒝
「目的の範囲」を超えた理事の法律行為の効力
「目的の範囲」外の事項について法人には権利能力がないのであるから、法人との関係に
おいては何らの法的効果も生じない。
第3節
⑵
法人
第2款
法人の能力/39
行為能力制限説
⒜
34 条の解釈
34 条の「目的の範囲」とは、法人の享有し得る権利の種類がその法人の目的によって制限
されるという意味ではなくて、その目的の範囲内の行為によって権利を有し義務を負うとい
う意味である。すなわち、34 条は法人の行為能力の範囲を定めたものであり、法人の権利能
力は、性質・法令による制限を別にすれば無制約である。
(理由)
①
一般法人法 78 条は、法人が不法行為による賠償義務を負うとしており、この点に関
しても権利能力が及ぶことを前提としている。にもかかわらず、「目的の範囲」が権利
能力を制限したと考えると、不法行為をすることも「目的の範囲内」に含まれることに
なりかねず、妥当でない。よって、法人の権利能力は無制約なものと解すべきである。
②
法人が社会的に独自の活動をする存在である以上、権利義務の種類によっては権利能
力が直接的に否定され、その結果権利義務の帰属自体も否定されるとすることは、法人
の本質(実在説)に反する。
⒝
「目的の範囲」を超えた理事の法律行為の効力
「目的の範囲」外の事項は法人の権利能力の範囲内の行為であったとしても、行為能力の
範囲外の行為であるから、当該行為によって法人が権利義務を負うことはない。
*
この立場からも、代理法理に準拠して、無権代理規定の類推により追認が可能であると
解されている。
⑶
代理権制限説
⒜
34 条の解釈
34 条によって制限されるのは、法人(すなわち理事)の活動およびその結果としての法人
への権利義務の帰属の範囲であって、法人の権利能力そのものの範囲ではない。法人の権利
能力は性質・法令の許す範囲内のあらゆる財産上の権利義務につき無制約的に認められる。
そして 34 条は、具体的な法人において理事の代理権(代表権)のみを制限するものである。
(理由)
①
法人を権利義務の主体として認める以上、権利能力に関して自然人と別異に考える必
要はない。
②
34 条は、目的外の取引が法人の構成員ないし一般社会の利益を害するおそれがあるこ
とを考慮して、法人の背後にある個人や社会の利益を守るために理事の権限を制限した
ものにすぎない。
⒝
「目的の範囲」を超えた理事の法律行為の効力
「目的の範囲」外の行為といえども、当該法人としては、なお権利能力を有する事項で
あるから、範囲外の事項についての理事の行為は権限踰越の無権代理行為(無権代表行
為)である。その結果、法人の側で追認して法人につき効果を帰属せしめる余地もあるし、
表見代理(表見代表)となって法人につき効果が生ずる余地もある。ただし、具体的に追
認をだれがどのように行うのか(理事か、総会決議によるか)、法人の「目的」が登記事
項であること(一般法人法 22、301Ⅱ)と表見代理の関係など問題も残る。
40/第3編
⑷
私権の主体・客体
第1章
私権の主体
内部的責任説
⒜
34 条の解釈
34 条の「目的の範囲」とは、単に法人の代表機関としてし得る行為に関して、機関が法
人に対して負うべき内部的義務を定めたにすぎない。
(理由)
①
⑶説の(理由)①。
②
「目的の範囲」外の行為であっても常に法人について確定的に効力を生ずることにな
り、相手方の保護(取引安全)が徹底される。
⒝
「目的の範囲」を超えた理事の法律行為の効力
有権代理行為として常に法人に効力が帰属する。ただし、代表権濫用の問題は残る。
<目的による制限の法的性質の整理>
目的以外の行為の効力
34 条と一般法人法 78 条(旧民法 44 条1項)の関係
権利能力制限説
無効
34 条は、法人が法律行為を通して権利義務を取得しう
べき範囲を規定している。これに対し、78 条は、不法
行為に関する法人の権利能力を規定していると解され
る
行為能力制限説
無効
→ た だし 、無 権代 理規
定の準用により追認
が可能と解される
34 条は、法人の権利能力を制限した規定ではない。ま
た、78 条は、法人自身の不法行為に対する法人の責任
を規定しており、権利能力が法人に及ぶことを前提と
している
代理権制限説
無権代表
→ 表 見代 表、 追認 が問
題となる
34 条は、理事の代表権を制限するにすぎない。また、
78 条は、職務権限外の行為でも、理事の不法行為につ
いては、報償責任の観点から法人に特別に責任を負わ
せた規定である
内部的責任説
有効
→ 代 表者 の内 部的 責任
を生ずるにすぎない
☆旧民法 44 条1項(法人三法の施行前の規定)
法人は、理事その他の代理人がその職務を行うについて他人に加えた損害を賠償する責任を
負う。
☆一般法人法 78 条(代表者の行為についての損害賠償責任)
一般社団法人は、代表理事その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を
賠償する責任を負う。
4
「目的の範囲」の判断
これまでみたように、「目的の範囲」(34)内か否かは、理事の法律行為の効力に大きな影響を
与える。そこで、「目的の範囲」内か否かの判断が重要となる。この判断は、営利法人(会社)
の場合と非営利法人の場合で若干異なる。
第3節
⑴
法人
第2款
法人の能力/41
営利法人(会社)の場合
判例は、取引安全の見地から「目的の範囲」を緩やかに解し、34 条の「目的」は、定款等に
定められた目的自体と同一ではなく、その目的たる事業を遂行するのに必要な行為を広く含む
ものとし、その範囲を画するに当たって、「行為の客観的な性質に即し、抽象的に判断」すべ
きであると解している(八幡製鉄事件)。
◆
八幡製鉄事件(最大判昭 45.6.24/百選Ⅰ〔8〕)
政治献金は会社の目的の範囲内かが争われた事案で、政治献金も、客観的・抽象的に判断
して会社の社会的役割を果たすためにされたものと認められる限りにおいて、目的の範囲内
の行為といえるとした。
⑵
非営利法人の場合
これに対して、非営利法人に対しては、あくまで目的の範囲による制限を前提にしつつ、個
別の事情に応じて目的の範囲を判断していくという方法が採られている。
◆ 最判昭 41.4.26
農業協同組合の理事長が組合員以外の者に対し、定款に違反していることを知りながら組
合の目的事業と全く関係のない土建業の人夫賃の支払のため金員を貸し付けた事案で、目的
の範囲内に属しない、と判示した。
⑶
判例の整理
・
営利法人(会社)の場合
<「目的の範囲」に含まれるとされた例~営利法人>
判例上、「目的の範囲内」と認められた事案
代理・周遊・仲立・信託等を目的とする会社の金銭の貸付
大判大 5.11.22
機械類を販売する会社の機械製作の引受
大判昭 5.9.11
鉄道会社石炭採掘権の取得
大判昭 6.12.17
銀行の抵当権実行による漁業権の取得
大判昭 13.6.8
銀行が取引先のために物上保証人になること
最判昭 33.3.28
42/第3編
・
私権の主体・客体
第1章
私権の主体
非営利法人の場合
<「目的の範囲」に含まれないとされた例~非営利法人>
判例上、「目的の範囲内」と認めらなかった事例
生糸の加工・販売を目的とする同業組合が、組合員のためまゆを買い入れその
代金債務を引き受けた行為
大判大元.9.25
信用組合の員外貸付
大判昭 8.7.19
信用組合の債務引受
大判昭 16.3.25
農業協同組合の員外貸付
最判昭 41.4.26
労働金庫の員外貸付
最判昭 44.7.4/百
選Ⅰ〔83〕
「博愛慈善の趣旨に基づき病傷者を救治療養すること」を目的とする財団法人
が、国民健康に関する新事業を行うため、許可を得ない段階で敷地・建物・備
品を売却した行為
最判昭 51.4.23
三
行為能力
1
はじめに
行為能力という言葉を自然人に関して言われるのと同義にとらえる限り、法人には行為能力はな
い、といわざるを得ない。しかし、法人の行為能力とはこれとは異なり、機関がその権限内で行
った行為の効果が法人に帰属する、という面をとらえていわれるのが一般である。
2
法人学説との関係
法人実在説では、法人の実体を認めるので、法人の行為能力という法律概念を観念することがで
きる。
しかし、法人擬制説ではそもそも法人の実体を認めないから、法人の行為能力という法律概念も
当然に観念できない。法人の権利義務の帰属に関しては、法人擬制説では理事の代理権の問題が
あるだけであるということになる。
3
行為能力の範囲
「目的の範囲」(34)の解釈による。取引安全の見地から、一般的には広く解する傾向にある。
第3節
四
不法行為能力
1
一般法人法 78 条の法的性格
法人
第2款
法人の能力/43
一般法人法 78 条は法人の不法行為能力について規定する。この規定の解釈は、34 条の法的性質
についての理解の違いから、以下のような影響が生じる。
⑴
権利能力・行為能力制限説
法人は活動する実体であり、理事を通じて法人自身が不法行為を行う。
・
一般法人法 78 条は法人の不法行為能力を規定したもの
・
代表機関の不法行為は、法人の不法行為としての側面と理事個人の不法行為(709)とし
ての側面を併せ持つ
⑵
代表権制限説
法人は実体を持たないので不法行為をし得ない。
2
・
あくまでも代表機関の不法行為について報償責任の観点から責任を負うにすぎない
・
一般法人法 78 条は法人の不法行為能力とは関係ない
・
理事(代表機関)の行った不法行為について法人にも責任を負わせたもの
・
この立場によると理事個人が責任(709)を負うのは当然である
成立要件
①
法人の代表機関の行為であること
②
職務を行うについて他人に損害を与えたこと
③
理事の行為が不法行為(709)の一般的成立要件を具備すること
→具体的には、故意または過失に基づいて他人の権利を違法に侵害するものであること
⑴
「代表理事その他の代表者」(一般法人法 78)の解釈(要件①について)
⒜
「代表者」に含まれるもの
理事、仮理事、特別代理人、清算人。
⒝
「代表者」に含まれないもの
監事、社員総会(通説)、代表機関の選任した任意代理人(判例)、支配人(判例)。
→ただし、これらの者による不法行為の場合にも、法人が 715 条による使用者責任を負
うことはあり得る
⑵
「職務を行うについて」の解釈(要件②について)
一般法人法 78 条は、法人は、理事その他の代理人がその「職務を行うについて」他人に加え
た損害を賠償する責任を負うとしている。そこで、「職務を行うについて」とはどのような意
味か、条文上明らかでなく問題となる。
この点につき、当該行為が職務内容に属するか否かは相手方からみて不明確であり、相手方
保護の観点から、この文言の意義は柔軟に解釈すべきである。そこで、「職務を行うについ
て」とは、行為の外形上職務行為と認められるもの、及び社会通念上相当な牽連連関係に立ち、
法人の目的のためにされたと認められる行為これと関連するものも含むと解される(判例)。
44/第3編
私権の主体・客体
第1章
私権の主体
ただし、損害の公平な分担の観点から、相手方が悪意の場合にはその保護を考慮する必要は
なく、相手方が重過失の場合も、悪意の場合と同視できる。したがって、相手方が悪意又は重
過失ある場合には、たとえ行為の外形上職務行為に属する場合であっても、法人は一般法人法
78 条に基づく責任を負わないと解すべきである(判例)。
<法人の不法行為の法律構成>
[法人の不法行為のまとめ]
範囲外
法人:責任なし
理事:709 条
外形上
職務の範囲内か
範囲内
法人:一般法人法 78 条
理事:709 条責任を負うか争いあり(*)
*
一般法人法は、117 条1項で役員等の対第三者責任を規定し、
その規定は会社法 429 条1項に酷似するところ、会社法 429 条1
項の責任の法的性質及び不法行為責任との関係については争いが
ある。
◆ 大判大 9.10.5 等
判例は、715 条の場合と同様に、外形理論を採用している。すなわち、内部的には正当な職
務の範囲とはいえない場合であっても、行為の外形上代表機関の行為と認められる場合の他、
職務行為と社会通念上相当な牽連関係に立ち、法人の目的のためにされたと認められる行為
をも含むとする。ただし、理事の行為が外形上その職務行為に属する場合であっても、相手
方がその職務行為に属さないことを知っていたり、または知らないことについて重過失ある
場合は、法人は責任を負わないとしている。
3
709 条による法人の不法行為責任
法人の不法行為責任は、一般不法行為責任に関する 709 条の適用によっても認められる。代表
者や被用者の不法行為を要件としないで、法人自身が不法行為をしたとすることができるのであ
る(企業責任)。
4
ex.公害の責任、欠陥商品についての製造物責任。
理事の個人責任
一般法人法 78 条によって法人が不法行為責任を負う場合、直接行為をした理事も 709 条に従っ
て責任を負う。両者の責任の関係は不真正連帯債務と解されている(通説)。
∵
法人の機関の職務を行うについてなされた不法行為は、法人自身の不法行為と解され
る。しかし、機関の行為には①法人としての行為と、②機関としての行為との二面性が
ある(法人実在説から)。
第3節
5
法人
第3款
法人の機関/45
一般法人法 78 条と民法 715 条の関係
<一般法人法 78 条と民法 715 条の適用関係>
行為者
行
為
法人の責任
法人以外の者の責任
理事
職務を行うについて他人に損
害を与える行為
損害賠償責任
(一般法人法 78)
理事の 709 条の責任(両者の関係は
不真正連帯債務)
被用者
事業の執行について他人に損
害を加える行為
損害賠償責任
(715Ⅰ)
被用者の 709 条の責任(両者の関係
は不真正連帯債務)
第3款
一
法人の機関
はじめに
法人の機関に関しては、特に法人の代表者たる理事の役割が重要である。本項目では特に法人の
理事の代表権の制限(一般法人法 77Ⅴ、84 等)と、これと関連して法人に関する取引の相手方の
保護が問題になるが、ここでは概略の指摘にとどめ、詳しくは発展編で扱う。
二
法人の代表理事の代表権の範囲
1
原則
⇒発展
法人の一切の事務について法人を代表する(一般法人法 77Ⅳ)。
2
例外
①
定款による制限
→制限につき善意(過失は不問)の第三者は保護される(一般法人法 77Ⅴ)
②
利益相反行為(一般法人法 84)
→違反すると無権代表となる→相手方は表見代表により保護される
三
法人に関する取引の相手方の保護
四
法人の各種機関
1
法人の機関
⇒発展
一般法人法によって、社団法人と財団法人の機関は、ほぼ同様の定めとなった。
⑴
社団法人の機関の組織は、三重である。まず、社員全員によって構成される社員総会が最高
の意思を決定する。その意思決定に基づいて、社員の受任者たる理事その他の機関が、業務を
執行する。そして、必須の機関ではないが、監事や会計監査人が、総社員のために執行機関の
業務執行を監督するのである。
46/第3編
⑵
私権の主体・客体
第1章
私権の主体
財団法人においては評議員、評議員会、理事、理事会、監事が必須の機関である(一般法人
法 170)。代表理事が財団法人の業務を執行し、法人を代表する(一般法人法 197・77Ⅳ)。
2
社員総会
⑴
社団法人には、意思決定機関として社員総会が置かれる。
⑵
理事会が設置されていない社団法人においては、社員総会は、法人の組織、運営、管理その
他一切の事項について決議をすることができる(一般法人法 35Ⅰ)。これに対し、理事会が設
置されている場合、社員総会の決議は、法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限られる
(一般法人法 35Ⅱ)。
3
評議員会
⑴
財団法人には、評議員が3名以上置かれ、評議員会が意思決定機関となる。
⑵
評議員会は理事及び監事の解任権を有し(一般法人法 176Ⅰ)、理事・監事の職務執行を監督
する。評議員会の決議は、法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限られる(一般法人法
178Ⅱ)。
4
監事
法人の監査機関として監事がある。法人には、定款、寄附行為または総会の決議をもって、1人
または数人の監事を置くことができる(一般法人法 60Ⅱ・61、170)。
社団法人においては、監事は原則として任意の機関である(理事会・会計監査人が設置される社
団法人においては必須)。これに対し、財団法人においては監事は必須機関である。
5
会計監査人
会計監査人は、大規模一般社団法人・大規模一般財団法人(いずれも負債額 200 億円以上)にお
いては必須である。
会計監査人は株式会社における監査役に相当する機関であり、法人の計算書類及びその附属明細
書を監査する権限を有する。監査後、会計監査人は、会計監査報告を作成する。その他、会計監査
人は、①会計帳簿の閲覧・謄写をすること、②理事及び使用人に対し、会計に関する報告を求める
ことができ(一般法人法 107、197)、③理事の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定
款に違反する重大な事実があることを発見したときは、遅滞なく、これを監事に報告しなければな
らない(一般法人法 108、197)。
第4款
一
権利能力なき社団
はじめに
社会に存在する団体がすべて法人格を有するわけではない。団体であって、その実体が社団であ
るにもかかわらず法人格を持たないものを権利能力なき社団という。例えば、町内会、学友会、
学術団体、サークルなどである。このような権利能力なき社団は、法人格を得ていない理由に応
じて分類すれば以下の2種類が考えられる。
第3節
①
法人
第4款
権利能力なき社団/47
法人格を取得しようとすれば可能なのに、面倒だとか官庁の監督を受けたくないといった理
由で、法人格を取得する手続を自らしていない団体。
②
二
法人となるべく設立中の団体。
成立要件
◆
最判昭 39.10.15/百選Ⅰ〔9〕
①
団体としての組織をそなえ、
②
多数決の原則が行われ、
③
構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、
④
その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理その他、団体としての主要な点が確
定していること。
三
権利能力なき社団の民法上の取扱い
1
はじめに
権利能力なき社団は、形式的には法人でない。しかし、実体面においては社団法人に類似してい
る。そこで、その法律上の取扱いに当たっては、社団法人に関する民法等の規定をできるだけ類
推していくべきであるとされた。
ただ、近時は、それぞれの団体の特性に照らして、適切な効果を個別に認めていくべきとする見
解が有力である。
2
権利能力なき社団の内部関係
権利能力なき社団の内部関係、例えば社員の資格、社員総会の運営方法、代表方法等については、
当該社団の規則に定めがない場合には、原則として、法の社団法人に関する規定を類推適用すべ
きである。
(理由)
内部的な事項に関する法の社団法人の規定は、法人格のいかんにかかわらず、社団としてあ
るいは団体としての処理方法を規定したものと考えられる。
3
権利能力なき社団の権利・義務の帰属(対外関係)
社団自体は権利能力がない以上、権利義務の帰属主体たり得ない。したがって、形式的には法律
関係はすべて構成員に帰属するものと考えざるを得ない。
そこで、問題はそれがどのように帰属するかである。
*
この点に関しては、①財産権の帰属、②不動産の公示方法、③債務と責任の帰属、④代表者
の個人責任、⑤強制執行、⑥権利能力なき社団の代表者が死亡または交代した場合の登記手続、
という6点について学説上争いがある。
48/第3編
⑴
私権の主体・客体
第1章
私権の主体
財産権の帰属
権利能力なき社団の財産は、その社団の目的のために存在し利用されるものであり、実際上は
構成員の個人財産とは区別され、独立に管理運営されている。
しかし、権利能力なき社団は法人格を有しないことから、財産の帰属主体となることができな
いため、その財産が法形式上だれにどのように帰属するのか、その形式的帰属主体が問題とな
る。
まず、権利能力なき社団は権利能力を有しない以上、社団財産が法的に社団自体に帰属すると
解することはできない。また、権利能力なき社団は各構成員の目的や利益を超越した単一性の
強い団体であることからすれば、社団財産の社員への分属を認めることはできない。とはいえ、
経済的・実質的にみれば、その財産は社団自体に帰属しているとみることができ、その実態を
できる限り反映すべきである。
そこで、権利能力なき社団の財産は、社団を構成する総社員に総有的に帰属すると解すべきで
ある(判例・多数説)。このように、権利能力なき社団の財産が総社員に総有的に帰属すると
した場合、構成員は潜在的持分すら有しないことになるから、持分の処分や分割請求をするこ
とはできないことになる。
◆ 最判昭 32.11.14
権利能力のない労働組合に対し、脱退組合員が財産の分割を請求した事案について、総有
説を採用し、請求を棄却した。
⑵
登記能力(不動産の公示方法)
<問題の所在>
⑴でみたように、権利能力なき社団の財産は総構成員に総有的に帰属するとすれば、社団
の不動産についても、総構成員の共有名義で登記するのが原則である。しかし、これでは構
成員の変動があった場合の手続が煩雑であるし、構成員数の多い社団では実際上登記が不可
能となる。そこで、社団名義での登記や、社団代表者であることを示す肩書付きでの代表者
個人名義の登記を認めることはできないか。権利能力なき社団の登記能力が問題となる。
<考え方のすじ道>~判例
登記官が形式的審査権しか有しないことから、登記申請人が権利能力なき社団たる実質を
備えているかどうかを審査できない
↓そうだとすれば
権利能力なき社団名義の登記を認めると、登記官はすべて申請どおり受理せざるを得なく
なり、虚無人名義の登記の多発を許すことになる
↓
このような事態は、無効な登記の発生を防止し、不動産取引の安全を図ろうとする不動産
登記法の趣旨に反する
↓また
強制執行や滞納処分の潜脱手段とされるおそれもある
↓よって
権利能力なき社団名義の登記は認められないと解する
第3節
法人
第4款
権利能力なき社団/49
↓また
代表者の肩書付きでの代表者個人名義の登記も、実質上社団を権利者とする登記を認めるこ
とになるから、認められないと解する
↓もっとも
常に総構成員の共有名義での登記を要求するのはあまりにも現実的ではない
↓そこで
代表者が総構成員からの受託者としての地位において、個人名義で登記することは認められ
ると解する
<アドヴァンス>
⒜
代表者個人名義説(判例、登記実務)
総構成員の共有名義の登記か代表者個人名義の登記のみが認められ、社団名義の登記や、
代表者の肩書付きの自然人名義の登記は認められない。
(理由)
①
不動産登記令は、権利能力なき社団に登記申請人(登記名義人)たる資格を認めていな
い(不登令 3①②)。
②
登記官には形式的審査権限しかなく、申請人が権利能力なき社団たる実質を備えている
かどうかを審査できないから、虚無人名義の登記の発生を許すおそれがある。
⒝
社団名義説(星野、森泉)
権利能力なき社団名義の登記も認められる。
(理由)
①
権利能力なき社団が、民事訴訟法 29 条で当事者能力を認められ、所得税法 4 条等でも
法人に準じた扱いをされていることからすれば、その権利主体性の内容は実質的に承認さ
れているといえる。
②
構成員個人に対する債権者からの団体財産への執行を断ち切るために、また、団体に対
する債権者が団体財産である不動産に執行し得るためにも、団体名義の登記が許されるべ
きである。
⒞
代表者肩書説(加藤、幾代)
代表者であることを示す肩書付きでの代表者の個人名義の登記を認めるべきである。
(理由)
このような登記を認めることによって、社団財産と個人財産とを区別し得るし、また真実
の権利関係と公示を一致させることができる。
◆ 最判昭 47.6.2
権利能力なき社団の資産は総構成員に総有的に帰属しているのであり、「社団の資産たる
不動産についても、社団はその権利主体となり得るものではなく、したがって、登記請求権
を有するものではないと解すべきである」として、⒜説を採用した。
50/第3編
⑶
私権の主体・客体
第1章
私権の主体
債務と責任の帰属
<問題の所在>
代表者が権利能力なき社団名義で取引を行った場合のように、実質的にみて社団自身が債
務を負ったと考えられる場合、その債務は法形式的にはだれにどのように帰属するか。また、
かかる債務について、社団自身の財産が引当てとなるのは当然であるが、そのほかに構成員
も責任を負うのだろうか。
権利能力なき社団の債務および責任の帰属が、財産の帰属と関連して問題となる。
<考え方のすじ道>~判例
財産の帰属→総有説の論証
↓このように
権利能力なき社団の財産が総構成員に総有的に帰属すると解する以上、社団債務について
も同様に総構成員に総有的に帰属すると解すべきである
↓よって
社団債務については社団財産だけがその引当てとなり、構成員は規則に特に規定のない限
り、責任を負わないものと解する
↓なお
このように解すると債権者の保護に欠けるとも思えるが、この点については、代表者を保
証人にするなどの方法によって事前に対処すれば足りるので不都合はない
<アドヴァンス>
⒜
総有説(判例、多数説)
権利能力なき社団の債務は総構成員に総有的に帰属する。そして、社団財産のみがその
引当てとなり、構成員は、規則に特別の規定がない限り、出資を限度とする有限責任を負
うにとどまる。
(理由)
社団財産の帰属について、総構成員に総有的に帰属すると解する以上、債務についても
同様に解すべきである。
⒝
単独所有説(森泉)
社団債務は社団自体に帰属する。そして、原則として社団財産のみがその引当てとなり、
定款等に責任を負う旨の特約がない限り、社員は個人的責任を負わない。
(理由)
社団財産が社団自体に帰属し、社員の個人財産と分別管理される独立の財産である以上、
社団の債務も社団財産をもって引当てとすべきである。
第3節
⒞
法人
第4款
権利能力なき社団/51
分析説
イ
営利・非営利で区別する見解(福地、星野)
権利能力なき社団をその目的により営利社団、非営利社団に分け、非営利社団が負担
した債務については構成員は有限責任を負うにとどまるが、営利社団が負担した債務に
ついては構成員も責任を負う。
(理由)
非営利社団については、構成員は利益配分を受けないから構成員に無限責任を課すの
は酷であるが、営利社団については、構成員は利益の配分を受けるのであるから損失の
危険を負担してもやむを得ない。
ロ
潜在的持分の有無で区別する見解(鍛治)
構成員が潜在的持分を有するかにより区別し、潜在的持分を有しない構成員のみが有
限責任を負う。
(理由)
無限責任の根拠を潜在的持分の有無に求めることが、利益の帰する所に責任も帰する
という原則にもっとも適合的である。
◆
最判昭 48.10.9/百選Ⅰ〔10〕
「権利能力なき社団の代表者が社団の名においてした取引上の債務は、その社団の構成
員全員に、一個の義務として総有的に帰属するとともに、社団の総有財産だけがその責任
財産となり、構成員各自は、取引の相手方に対し、直接には個人的債務ないし責任を負わ
ないと解するのが、相当である」として、⒜説を採用した。
⑷
代表者の個人責任
<問題の所在>
権利能力なき社団の債務について、原則として構成員は有限責任を負うにとどまるとす
ると、債権者の利益を害するおそれがあるとも考えられる。そこで、一般の構成員は有限
責任を負うにとどまるとしても、権利能力なき社団のために行為をなした代表者について
は個人的責任を負わせることができないかが問題となる。
<考え方のすじ道>~多数説
↓そもそも
権利能力なき社団の債務についても総構成員に総有的に帰属すると解すべきであるか
ら、社団財産のみがその引当てとなり、代表者も個人責任を負わないと解する
↓
このように解しても、取引の相手方は代表者の個人責任まで通常予期しておらず、ま
た、個人責任を負わせたいのであれば保証等によれば足りるので、不都合はない
52/第3編
私権の主体・客体
第1章
私権の主体
<アドヴァンス>
⒜
否定説(多数説)
権利能力なき社団の債務については、社団財産のみが引当てとなり、代表者は個人責任
を負わない。
(理由)
①
法人の場合、組合の場合、単なる代理の場合との均衡を考えると、権利能力なき社団
の代表者に個人責任を負わせるのは負担が重すぎる。
②
取引の相手方も、社団の取引につき代表者の個人責任を予期することは少ないし、個
人責任を予期するのであれば、保証などによれば足りる。
⒝
肯定説(森泉)
権利能力なき社団の債務については、第一次的には社団財産が引当てとなるが、社団財
産で支払えない場合には、第二次的に代表者が担保責任を負う。
(理由)
権利能力なき社団については、その組織内容、財産状況などを公示する登記・登録が設
けられていないことにかんがみ、債権者保護を図るべきである。
⒞
一部肯定説
イ
営利社団について代表者の責任を認める見解(福地)
権利能力なき社団を公益社団と営利社団とに分け、営利社団については代表者が補充
的な担保責任を負う。
(理由)
営利社団については、代表者が補充的な担保責任を負う特約があると解するのが信義
則に合致する。
ロ
営利を目的としない社団についてのみ代表者の責任を認める見解(星野)
権利能力なき社団のうち、営利を目的としない社団に関してのみ、代表者の無限責任
を認めるべきである。
(理由)
営利を目的としない社団の場合には、社員の責任が有限責任にとどまる(⑶の論点に
おける ⒞ イ説参照)から、債権者保護のために代表者の責任を認める必要がある。
◆
東京高判昭 34.10.31
下級審ではあるが、特約がなければ代表者は相手方に対して直接個人的責任を負わない
として、⒜説を採用した。
第3節
⑸
⒜
法人
第4款
権利能力なき社団/53
権利能力なき社団の財産に対する強制執行
社団債権者が強制執行する場合
不動産について債権者が強制競売の申立てをするには、債務者と不動産の所有名義人が一
致することが必要。
→社団債権者が社団の不動産に対して強制執行しようとする場合において、当該不動産が
代表者の個人名義で登記されているときには、債権者は当該不動産が社団所有であるこ
とを立証して、総構成員の共有名義の登記に改めた上で、社団に対する債務名義に基づ
いて執行することになる
⒝
代表者の債権者が社団の不動産に強制執行してきた場合
<問題の所在>
代表者の債権者Aが、代表者B名義で登記されている不動産に対して強制執行してきた
場合、社団甲は、差押えの無効を主張できるか。
<考え方のすじ道>
不動産の所有権は社団の構成員に総有的に帰属
↓
代表者は無権利者であり、登記に公信力はない以上、Aの差押えは原則として無効
↓しかし
常に無効とすると、登記を信頼したAにとって酷である
↓
Aを保護する法律構成が問題
↓そもそも
94 条2項の類推適用
↓
社団に帰責性があるかが問題
↓あてはめ
不動産登記法は権利能力なき社団に登記申請人たる資格を認めておらず、権利能力なき社
団の登記名義は代表者の個人名義によるしかないのが現実である
→社団はB名義の登記をせざるを得ない以上、帰責性はない
↓したがって
94 条2項は類推適用されず、甲は差押えの無効を主張できる
<アドヴァンス>
代表者の債権者が代表名義で登記されている不動産に対して強制執行してきた場合、社
団が第三者異議の訴え(民事執行法 38)によってこれを覆すことができるかについては争
いがある。
54/第3編
私権の主体・客体
イ
第1章
私権の主体
否定説(柚木、加藤)
(理由)
社団代表者は団体財産の受託者として信託的にその財産関係の主体になっているので
あり、実体上の権利と公示が全く一致していないわけではないから、社団はその所有権
を第三者に主張できない。
ロ
肯定説(星野、森泉)
(理由)
権利能力なき社団は、登記実務によって社団名義ないし代表者肩書付きの登記を拒否
され、真実の権利関係と一致しない個人名義登記を余儀なくされているのであるから、
個人名義登記から生じる不利益を社団に帰せしめるのは酷である。
⑹
権利能力なき社団の代表者が死亡または交代した場合の登記手続
代表者個人名義で不動産の登記をしている場合において、代表者が死亡し、または代表者が
交代した場合に、いかなる登記手続をとるべきかについては争いがある。
⒜
信託的構成(判例)
代表者交替の場合には信託法の信託における受託者更迭の場合(信託法 56)に準じ、新代
表者が旧代表者に対して自己の個人名義に所有権移転登記手続の協力を求め得る。
⒝
委任的構成
代表者は委任による代理人として社団財産を管理するものであり、登記面において個人名
義で不動産を管理するのも、委任による代理人としてである。よって、受任者たる代表者が
死亡した場合には死亡によって委任関係が終了し、代表者が交替した場合には旧代表者につ
き登記上その者の名義とすることの委任が終了するから、新たな受任者たる新代表者に、旧
代表者(ないし相続人)は登記を移転する義務がある。
4
権利能力なき社団の取引方法
代表機関は社団(総構成員)の名において、社団の代表者として法律行為をすることができる。
そして、代表機関が社団のためにその目的の範囲内で行った法律行為の効果は、実質的には社団
(総構成員)に帰属する。
5
不法行為による責任
権利能力なき社団の代表者が、職務を行うにつき不法行為を行った場合には、一般法人法 78 条
を準用して社団の不法行為責任を肯定するのが通説である。ただし、一般法人法 78 条の解釈に対
応して、準用を認める根拠の解釈が分かれている。
すなわち、一般法人法 78 条は法人の実在性に基づいて法人の不法行為能力を認めたものである
とする見解によれば、権利能力なき社団も社会的に存在する実体である以上、同条の準用を認め
るべきことになる。
また、一般法人法 78 条は法人の不法行為能力を認めたものではなく、他人の行為に基づく代位
責任を定めた政策的規定であるとする見解からは、権利能力なき社団についてもこのような政策
的配慮が妥当することから、同条の準用を認めるべきとする。
第4節
複数主体
第1款
共同所有/55
第4節 複数主体
第1款
一
共同所有
はじめに
民法は単独所有を原則としている。しかし実際には我々が共同生活を営んでいる上で、共同で
物を所有することは少なくない。そこで、民法はこのような所有形態を「共有」として 249 条以
下に規定を置いている。ただ通常これは狭義の共有と呼ばれ、広義の共有には他に「合有」「総
有」という形態がある。
そこで「共有」と「合有」、「総有」の違いについて説明する。
1
共有
数人がそれぞれ共同所有の割合としての持分を有して一つの物を所有することを共有という。
→各共有者は、その持分につき処分の自由を有する
→各共有者は、共有物につき持分に応じた分割請求の自由(256Ⅰ本文)を有する
*
「持分」という言葉は二つの意味で使われる。一つは共有者各自が有する「持分権」という
所有権の意味である(252、255)。もう一つは、共有者の権利の割合である「持分の割合」の
意味である(249、250、253 等)。
2
合有
各共有者は、持分を潜在的には有するが、持分処分の自由が否定され(676Ⅰ)、また目的物の
分割請求の自由も否定される(676Ⅱ)共同所有を合有という。
ex.民法上の組合財産に対する組合員の共有(668)。
*
3
なお、判例は、この概念を用いない。
総有
各共同所有者は目的物に対して使用・収益権を有するのみで、管理権は慣習や取決めによる代
表者がこれを行使する形態の共同所有を総有という。
→総有では、共同所有者の持分が潜在的にも存せず、したがって持分の処分や分割請求が問題に
ならない
ex.入会権、権利能力なき社団(判例・通説)。
56/第3編 私権の主体・客体
4
第1章
私権の主体
共有の二大特徴
①
持分権譲渡の自由(明文なし)
②
分割請求の自由(256Ⅰ本文)
<共同所有の形態>
内容
各人の結合関係
種類
共 有
(249)
合 有
(668)
総
有
*
ある目的物を共有
する限りで、偶然
的に関係するにす
ぎず団体を形成し
ない。(249)
共同目的達成のた
め、団体的結合を
作っている。
(667:共同事業)
各人は団体に包摂
されるが、各人も
全面的に独立性を
失ったわけではな
い。
管理権と収益権と
の関係
管理権も収益権も
(他の持分権によ
る制約を受けると
はいえ)各人に帰
属する。(252)
収益権は(団体的
制約を受けるとは
いえ)各人に属す
るが、管理権は団
体に属する。
(674・670)
収益権は各人に属
するが、管理権は
団体に属する。
持分権の譲渡と分割の請求
具体例
個々の目的物
について
いずれも各人
の自由である
(256)
財産全体につ
いて
極めて制限さ
れている。
(676・677)
結合の存する
限り持分権の
処分は制約さ
れており、分
割請求もでき
ない。676)
組合財産
(通説)
(判例は合有概
念を認めない)
できない。
(そもそも持分権を認められ
ない)
入会権(通説)
権利能力なき社
団の財産関係
(判例・通説)
共同相続財産
(判例)
共有が個人的色彩が最も強く、総有が団体的色彩が最も強い
二
共有者の権利一般
1
共有持分の割合
各共有者の持分の割合は、共有が当事者の意思に基づいて発生する場合には、合意により決定
される。そのほか共有が法律上発生するときには、法律上持分が規定される(241 但、244、900)
こともある。
持分の割合が明らかでないときは、持分の割合は等しいものと推定される(250)。
2
共有物についての債権
⑴
共有者の一人が共有物について他の共有者に対して有する債権は、債務者たる共有者の特定
承継人に対しても行うことができる(254)。
ここにいう「共有物について…有する債権」は、共有物の使用・収益・管理について共有者
間に生じた債権をさし、共有物購入にあたり他から融資を受けた債務等については共有者間で
生じた債権に含まれず、原則通り承継しないとする(大判大 8.12.11)。
⑵
共有者の一人が他の共有者に対して共有に関する債権を有するときは、分割に際して債務者
たる共有者に帰すべき共有物の部分をもってその弁済をなさしめることができる(259Ⅰ)。債
権者はこの弁済を受けるため、債務者に帰すべき共有物の部分を売却する必要があるときは、
その売却を請求することができる(259Ⅱ)。
第4節
三
共有の内部関係
1
共有持分
複数主体
第1款
共同所有/57
共有者がそれぞれ目的物に対して持っている権利を持分権という。持分権は量的に制限された
所有権である。イメージとしては、所有権というゴムボール数個を一つの物の枠に押し込んだも
のである(共有の弾力性)。共有者の一人が持分権を放棄したり、相続人なくして死亡したため
持分権が消滅した場合には、ゴムボールの一つが破裂したかのように残りの共有者の持分が拡大
する(255)。
また、持分権の譲渡は自由である(明文の規定はない)→共有の二大特徴の一つ
2
目的物の利用
⑴
使用
各共有者は、共有物の全部につき、その持分に応じた使用をすることができる(249)。具体
的にどのように使うか(例えば、だれが先に使うのか)について、共有者で協議するのが通常
である。この協議は、目的物の管理に当たる。
⑵
変更→全員の同意が必要(251)
物理的処分(山林の伐採等)
法律的処分(物全部の売却と解除等)
⑶
管理→持分の価格の過半数で決する(252 本文)
利用行為(物全部の賃貸と解除等)
改良行為(共有地の地ならし等)
⑷
保存行為→各共有者が単独でできる(252 ただし書)
共有物の現状維持を図る行為(家屋の修繕等)
<共有の内部関係>
概念
意義
保存行為
(252 ただし書)
共 有 物の現
状 を 維持す
る行為
管理行為
(252 本文)
目 的 物の利
用改良行為
変更行為
(251)
共 有 物の性
質 も しくは
形 状 または
そ の 両者を
変 更 するこ
と
・
・
・
・
・
・
・
・
具体例
目的物の修繕
腐敗しなすい物の売却
共有物の侵害に対する妨害排除請求
不法占有者に対する返還請求
物全部の賃貸借契約の締結、取消・解除
→解除につき、544 条1項は適用されな
い(判例)
共有地の地ならし
山林の伐採
土地の形状の変更
(ex.田を畑にする行為)
・ 物全部の処分、その契約の取消・解除
要件
各共有者が単独
で為しうる
持分の価額の過
半数で決める
共有者全員の同
意が必要
58/第3編 私権の主体・客体
3
第1章
私権の主体
共有物の引渡請求
⑴
共有持分の価格が過半数を超えるものであっても、共有物を単独で占有する他の共有者に対
して当然にはその明渡を請求することはできない(最判昭 41.5.19/百選Ⅰ〔74〕)。
⑵
少数持分権者は、多数持分権者から占有使用を承認された第三者に対し、自己の持分権に基
づき、共有物の明渡を請求できない(最判昭 57.6.17)。
⑶
共有者の一部の者が共有物を第三者に使用貸しした場合に、それを承認しなかった他の共有
者は、かかる第三者に当然にはその明渡を請求できない(最判昭 63.5.20)。
4
管理費用
⑴
共有物に関する管理の費用その他の負担は、持分の割合に応じて負担する(253Ⅰ)。
⑵
共有者のうち、この義務を 1 年以内に履行しない者があるときは、他の共有者は相当の償金
を支払ってその持分を取得できる(253Ⅱ)。
5
その他の共有者相互の関係
⑴
共有者間で持分権の存否、範囲について争いがあるときは、一方の共有者は、単独で相手方
に対して、持分権の確認の請求をすることができる(大判大 11.2.20)。
⑵
共有者の一人から他の数名の共有者がその持分を買い受けたときは、各自自己の買い受けた
持分の移転登記を請求しうる(大判大 11.7.10)。
⑶
共有者の一人が約定の方法に反する目的物の使用収益をしたり(大判大 8.9.27)、他の共有
者の使用収益を妨害したとき(大判大 11.2.20)は、他の共有者は単独でその差止を請求するこ
とができる。
四
共有の対外関係
<共有の対外関係>
共有者の 1 人から請求でき
るもの
共有者全員から請求する
必要のあるもの
共有物返還請求権
○
×
妨害排除請求権
○
×
共有物の不法行為に対する損害賠償請求権
(*1)
○
×
共有関係の主張
×
○
持分権確認請求
○
×
不法登記の抹消請求
○(最判平 15.7.11/百選
Ⅰ〔75〕)等多数の判例
×
共有物全体についての時効中断
(*2)
×
○
*1
自己の持分についてのみ行使できる(最判昭 41.3.3)。
*2
持分権に基づく時効の中断は、全共有者に及ばない。
第4節
五
1
複数主体
第1款
共同所有/59
共有物の分割
分割請求権
⑴
原則
各共有者はいつでも共有物の分割を請求することができる(256Ⅰ本文)。
⑵
法的性質
分割請求権は、各共有者に何らかの方法で具体的に分割を実現すべき法律関係について一方的
な意思表示によって発生させる形成権であり、消滅時効にかからない。
2
分割の制限
⑴
共有者は5年を超えない期間内で不分割の契約を締結することができる(256Ⅰ但)。不分割契
約は更新することができるが、その期間は更新の時より5年を超えることができない(256Ⅱ)。
⑵
不分割特約は持分譲受人にも承継されるが、不動産についてはその登記がなければ承継人に
対抗できない。
3
分割の方法
⑴
協議による分割
⒜
分割の請求があるときには、共有者は分割について協議しなければならない(258Ⅰ)。
⒝
協議で分割する際の方法は自由とされている。
イ
現物分割:
共有物自体を分割
ロ
代金分割:
共有物を売却してその代金を分割
ハ
価格賠償による分割:
共有者の一人が単独所有権を取得し、他の者がその者から価格
の支払いを受ける場合
⑵
裁判による分割
原則として、現物分割だが、分割不可能又は著しく目的物の価格が減少するおそれがあるとき
は、競売して代金を分ける(258Ⅱ)。
⒜
一部価額賠償
◆
最大判昭 62.4.22
現物分割すると、各共有者の取得物につき価額の点で多少の過不足を生じ、しかも共有
者全員が現物分割を希望し、客観的にも現物分割が好ましい事情がある場合には、右過不
足につき、他の共有者より価額の高い物を取得する者が超過価額につき金銭による支払い
をするのと引換に、現物分割による所有権を取得できるとした。
60/第3編 私権の主体・客体
⒝
第1章
私権の主体
全面価額賠償
◆
最判平 8.10.31/百選Ⅰ〔76〕
事案:
裁判による共有物分割に於いて全面的価格賠償の方法によることができるかにつ
き争われた事案。
判旨:
「共有物分割の申立てを受けた裁判所としては、現物分割をするに当たって、持
分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足の調
整をすることができる……のみならず、当該共有物の性質及び形状、共有関係の発
生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済
的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的
に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当と認められ、
かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、
他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を
害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の
単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠
償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許されるも
のというべきである。」
◆ 最判平 11.4.22
共有にかかる土地及び借地権につき全面的価格賠償の方法により分割することが許され
るとした。
*
なお、本判決においては、全面的価格賠償の方法により共有物の分割を命ずる場合の
判決のあり方につき、以下の補足意見が述べられている。
「裁判所が判決により全面的価格賠償の方法による共有物分割を命ずる場合には、当
該共有物を取得する者にその対価たる価格の支払能力があることが不可欠の要件となる。
この判決は、一方当事者に判決確定と同時に共有物を単独で所有させる反面、他方当事
者には共有持分を失わせる対価として金銭債権を取得させるにとどまるから、その債権
の回収可能性について不安を残したのでは共有者間の実質的公平を損なうことになるか
らである。……共有物分割訴訟の多くは共有不動産に係るものであり、全面的価格賠償
の方法による分割により現物の取得を希望する者が、取得する共有持分についての移転
登記手続又はその物の引渡し(以下「登記手続等」という。)を請求することが少なく
ない。この場合、対価取得者から現物取得者への共有持分権の移転と現物取得者の対価
取得者への金銭支払義務の負担は、共有物分割によって発生し、相互に対価関係に立ち、
相牽連する関係にあるから、持分権移転に伴う登記手続等と金銭の支払とを関連的に履
行させることが公平に適うものということができ、この両者の間に双務契約におけるの
と同様の同時履行関係を認めるのが相当である。
しかし、このように同時履行関係があるといっても、当事者が常に同時履行の抗弁を
主張するとは限らない。原告が全面的価格賠償の方法による分割を求めたのに対し、被
告が現物分割を求めて強く争っている場合に、被告から予備的にでも同時履行の抗弁が
提出されることを期待することには限界がある。このような場合においてもなお、現物
取得者の金銭債務の履行を確保する方策を講ずる必要があるからには、裁判所は、同時
履行の抗弁の有無にかかわらず、その裁量により、登記手続等につき金員支払との引換
給付を命じ得るとしなければならない。」
第4節
4
複数主体
第1款
共同所有/61
分割への参加
共有物につき権利を有する者及び各共有者の債権者は、自己の費用で分割に参加することがで
きる(260Ⅰ)。ただ、これらの者に対し共有者は分割の通知をする必要はない。しかし、参加請
求があったのに、参加させないで分割したときは、分割の結果を請求者に対抗できない(260Ⅱ)。
5
分割の効果
⑴
分割により従前の共有関係が終了し、新たな所有関係が形成される。
⑵
各共有者は他の共有者が分割によって得た物につき売主と同じくその持分に応じて担保の責
任を負う(261)。
⑶
持分権上の担保物権
⒜
持分権者が共有物の一部又は全部を取得した場合
イ
全部取得の場合
担保物権の目的となっている範囲では持分権はそのまま存続し、担保物権はその持分の
上に存続する。
ロ
一部取得の場合
持分権者の取得した部分についても、他の者の受けた部分についても、それぞれ持分権
が消滅せずに存続し、それらの持分権の上に担保物権が存在する(大判昭 17.4.24)。
∵
抵当権がその部分に集中して存続すると考えると、現物分割の仕方いかんによって
抵当権者を害するおそれがあるから。
⒝
共有物が代金分割又は価格賠償により、第三者又は他の共有者に帰属し、持分権者が代金
又は価格を取得する場合
この点については、争いがあり、担保物権者はその持分権者が受ける代金または価格の上
に、物上代位の規定に従って権利を行使することができるが、それとともに、担保物権は他
人に帰属した持分権の上に存続すると解する説が有力である。
⑷
証書の保存
⒜
各分割者はその受けた物に関する証書を保存しなければならない(262Ⅰ)。
⒝
共有者一同又はその中の数人に分割した物に関する証書は、その物の最大部分を受けた者
がそれを保存しなければならない(262Ⅱ)。
⒞
最大部分を受けた者がないときは、分割者の協議によって証書の保存者を定め、もし協議
が調わないときは裁判所がその者を指定する(262Ⅲ)。
⒟
証書の保存者は、他の分割者の請求に応じてその証書を使用させなければならない(262
Ⅳ)。
62/第3編 私権の主体・客体
六
第1章
私権の主体
準共有
数人が共同して所有権以外の財産権を有する場合(264)
→特定の権利(ex.地上権・永小作権・抵当権等の所有権以外の物権や賃借権等の債権、無体
財産権)について別段の定めがない限り共有の規定が準用される
*
債権については、金銭債権等は多数当事者の債権に関する規定(427 以下)がまず適用される
ので、準共有の規定が適用される余地は少ない。
第2款
多数当事者の債権関係
一
多数当事者の債権関係総説
1
はじめに
当事者が複数人存在する場合であって、権利の客体が物であれば共有であり、財産権であれば準
共有となる。それでは債権の場合はなんというか。これを多数当事者の債権関係という。実際上は
債権者・債務者が一人ではなく、一方または双方が複数存在する場合も当然に存在する。
そこで以下では、債権者・債務者が複数存在する場合の法律関係についての概略を示す。
2
債権者側が複数人の場合
連帯債権、不可分債権、分割債権がある。
⑴
連帯債権
連帯債権とは、複数の債権者が、それぞれ、債務者に対して全部または一部の履行を請求で
き、1 人の債権者が弁済を受ければ、総債権者について債権が消滅する債権をいう。
実際の例はほとんどなく、民法にも規定はない。
連帯債権ではないか論じられるものとして、例えば、①債権が二重譲渡され、確定日付ある
通知が同時に到達した場合における各譲受人が有する債権、②賃貸人の転借人に対する賃料請
求権と転借人に対する賃料請求権との関係がある。
⑵
不可分債権
不可分債権とは、債権がその性質上、不可分であるときをいう。
不可分債権の場合、「各債権者はすべての債権者のために履行を請求し、債務者はすべての
債権者のために各債権者に対して履行をすることができる」(428)。
不可分債権となる場合として、性質上の不可分の場合と、当事者の意思表示による不可分の
場合とがある。
⑶
分割債権
⇒「二
分割債権・債務」(p.63)
第4節
3
複数主体
第2款
多数当事者の債権関係/63
債務者側が複数人の場合
連帯債務、不可分債務、分割債務、保証債務がある。
分割債務以外は担保としての機能が重要であるので、詳しくは後述し、ここでは概略のみ解説す
る。
⑴
⇒
第 13 編
債権担保型契約
「第2章
人的担保型契約」(p.771)
連帯債務
連帯債務とは、債務が性質上、可分である場合で、債務者が共同で債務を負ったとき、債権者
と債務者との間に連帯債務とする合意のあるとき、または法律の規定があるときをいう。また、
不可分の利益の償還または対価の支払いについては、その債務がその性質上可分であるときは連
帯債務とする。
⑵
不可分債務
不可分債務とは、債務がその性質上、不可分であるときをいう。例えば、①共同賃借人の賃借
物返還債務、②山林共有者の負う監守料の支払義務、③共同賃借人の賃料債務などをいう。
⑶
分割債務
⑷
保証債務
⇒
二
1
⇒「二
第 13 編
分割債権・債務」(p.63)
債権担保型契約
「第2章
人的担保型契約」(p.771)
分割債権・債務
はじめに
⑴
意義
一つの債権・債務について相続等により複数の当事者が生じた場合、民法の原則は、分割可
能である限り債権も債務も頭割りで分割される、というものである(427)。これを分割債
権・債務という。これは、物の共同所有において民法が共有物分割による個人所有への解体を
促進する方向での制度設計をしていたのと同様、民法の基礎にある個人主義の現れということ
ができる。
⑵
具体例
被相続人甲について共同相続が生じABCの三人が相続人となった場合、甲がDに対して負
っていた 100 万円の債務は、相続人ABCの間で相続分に従って分割される。
<分割債権債務-債務者死亡による共同相続人の債務>
甲
D
100 万
A
B
C
64/第3編 私権の主体・客体
2
第1章
私権の主体
分割債権・債務の成立(発生原因)
1個の可分給付につき複数の債権者または債務者がいる関係は、別段の意思表示、法律の定め
(44Ⅱ、719Ⅰ等)、特段の慣習等がない限り分割債権・債務関係とされる(427:分割主義の原
則)。
∵
*
民法の個人主義の見地から。
分割債務によるとすれば、各債務者の無資力に関するリスクは債権者が負担することになる
ため、債権者にとって酷な結果になることが多い。それゆえ、近時の通説的見解は、427 条をな
るべく制限的に解釈し、たとえ明示の意思表示がなくても、後述の不可分債務・連帯債務と認
定すべき場合があると主張している。
3
分割債権・債務の効力
⑴
対外的効力
分割債権・債務が成立する場合には、分割されたそれぞれの債権・債務は相互に全く独立し
たものとして取り扱われる。つまり、各債権者は自己の債権のみを単独で行使することができ
るし、各債務者は自己の債務だけを弁済すればよいことになる。
→分割の割合は、別段の意思表示のないときは原則として平等である(427)
ex.A・B・Cの三人がXに対して 300 万円の債権を有するときには(あるいは債務を負
うときには)、これが分割債務になると、A・B・Cのそれぞれが 100 万円ずつ請求で
きる(あるいは債務を負う)。
<分割債権・分割債務の事例>
A
B
C
100(万円)
100
100(万円)
X
X
100
ABCがそれぞれ 100 万円
の債権をXに対して有する
⑵
100
100
A
B
C
ABCがそれぞれ 100 万円の
債権をXに対して負担する
当事者の一人について生じた事由の他の者に対する効力
分割債権・債務関係では、債権者・債務者の一人について生じた事由はすべて相対効しか持
たない。
ex.上の例で、債権者XがAに対して 100 万円の債務の免除をしても、B・Cの 100 万円
の債務には何の影響も及ぼさない。
⑶
内部関係
427 条は、対外関係を規定したものであって、分割債権者または分割債務者相互の内部関係
を定めたものではない。ただ、別段の定めのない限り、内部関係においてもその割合は平等と
解される。他の債権者の分を受領したり他の債務者の分を支払うのは、委任(643)か事務管
理(697)、場合によっては不当利得(703・704)・不法行為(709)の問題になる(各分割額
について各人だけの債権または債務があるのと大差がない)。
第3編 私権の主体・客体
第2章
第2章
私権の客体/65
私権の客体
第1節 私権の客体総説
一
はじめに
私権の客体とは、例えば、ある土地の所有権の場合にはその土地というように、私権の内容を
実現するために必要な対象をいう。
私権の客体は私権の種類によって異なる。物権については、権利の客体は原則として物すなわ
ち有体物(85)である。特許権や著作権のような無体財産権については、権利の客体は精神的産
物、精神的創作である。人格権については、権利者自身が自己の人格権の客体である。解除権や
取消権のような形成権については、解除や取消しの対象となる法律関係が権利の客体となる。
分かりにくいのは債権の場合である。例えば、売買契約において売主が買主に対し目的物を引
き渡すよう請求する権利について考えてみると、この特定物引渡請求権という債権の客体はその
物(特定物)でないかともいえ、その限りでは物権と同じだといえそうだからである。しかし、
このような特定物引渡請求権の場合でも、その権利の客体は問題の特定物自体ではなくて、債務
者の引渡しという作為(給付)なのである。すなわち、債権の客体は債務者の給付であって、物
はせいぜいその給付の対象(給付物)でしかなく、その意味において物は債権の間接的な客体と
いうことになる。
ところで民法は、私権の客体については一般的規定を置いていない。これは、上で列挙したと
おり、権利の客体は多種多様であって、その通則を掲げることは技術的に困難だからである。た
だ、民法は私権の客体の一部である「物」についてだけは特別の規定を設けている。前述のごと
く「物」は直接的に物権の客体になるだけでなく、特定物の引渡を目的とする債権のように間接
的に他の権利にも関連を及ぼすほど重要な意味を持っているからである。
二
1
物の意義
意義
⑴
有体物:空間の一部を占めて有形的存在を有する物、すなわち、液体・気体・固体。
ex.土地、建物、宝石。
⑵
無体物:権利や自然物のように姿のないものを指す。
ex.物権・債権・著作権などの権利や、熱・光・電気などのエネルギー。
→熱・光・電気などのエネルギーが、法律概念上有体物か無体物かについては争いがある
(⇒「3
物(有体物)概念の拡張」 p.66 参照)
66/第3編 私権の主体・客体
2
第2章
私権の客体
民法における物
広い意味での物には無体物も含まれるが、民法は、物を有体物に限定している(85)。
(趣旨)
物権・債権等の無体物をも物とするならば、物を客体とする物権は無体物の上にも成立する
ことになり、その結果、債権の上の所有権とか、所有権の上の所有権をも承認せざるを得なく
なって、奇妙な事態となるからである。
*
かかる趣旨からすれば、85 条は所有権(物権)の客体適格を限定する意味しか持たない。
それゆえ、「物」に関する他の規定を必要に応じ無体物に関して類推適用することは、85 条
に反せず認められる。
ex.従たる権利
3
物(有体物)概念の拡張
有体物の定義について、上述の考え方(空間充填説という)では物概念が狭すぎ、今日の社会経
済的実情に適さないとして、有体物の定義を法律上排他的支配可能なものととらえ、電気・熱・
光や倉庫内の在庫品全部というような集合物、あるいは企業そのものをも一個の物として、それ
らの上に所有権の成立を認めるべきであるとする見解がある(排他的支配可能性説)。
しかし、上述のように、有体物以外のものについても、必要があれば、物に関する規定を類推適
用できるので、あえて物概念を拡張させる必要はないと思われる。
三
不動産と動産
<不動産と動産の区別>
土地
土中の岩石等
不動産
242 条ただし書の適用のない符合物
ex.石垣、敷石、沓脱石、庭石
ex.銅像、線路、一般の立木、種子
土地の定着物(86Ⅰ)
242 条ただし書の適用された定着物
立木法の立木
建物
動産
土地に付着した物
従物(87)
付加一体物
242 条ただし書の適用の余地のある付合物
付合 物
土地の構成部分
第1節
1
私権の客体総説/67
不動産
土地及びその定着物のことをいう(86)。
⑴
土地
地表を中心として、人の支配・利用の可能な範囲でその上下に及ぶ立体的存在をいう。
→地中の岩石・土砂は、土地の構成部分をなすものであって、土地と別個の物ではない
*
一筆の土地(登記簿上一個の物とされている土地)の一部についての売却、取得時効は一物
一権主義に反せず、認められる。
⑵
土地の定着物
土地の定着物とは、土地に継続的に付着し物理的、社会的に容易に分離しにくい物をいう。
⒜
土地から独立しない定着物
土地から独立しない定着物は、取引通念上、土地の構成部分として取り扱われる。これらは、
土地を売り渡したとき、その所有権も移転する。
ex.樹木、取り外しの困難な庭石、石垣、沓脱石
⒝
土地から独立した定着物
建物は土地から独立した定着物であり、常に独立の不動産とされる。このことは、①建物登
記と土地登記を区別する不動産登記法の規定、②370 条本文、から導かれる。その結果、土地
を売り渡したときに地上の建物の所有権は移転しない。
イ
建築中の建物がどの段階から建物といえるか。この点判例は、屋根をふき荒壁をつけた
段階から建物といえるとしている(大判昭 10.10.1)。
ロ
建物が増築された場合に、増築部分が独立の建物になるか。この点判例は、物理的構造
からだけでなく、取引・利用上の観点からも判断すべきであり(最判昭 39.1.30)、増築部
分を除くと既設部分が経済上の独立性を失うときは、増築部分を独立の建物とすることは
できないとする(最判昭 31.10.9)。
⒞
土地から独立させうる定着物
イ
立木は、建物のような独立の不動産ではないが、土地の定着物として不動産とされる。
これに対し、立木ニ関スル法律によって登記された立木(樹木の集団)は、土地とは別
個独立の不動産であり、土地と分離して立木を譲渡したり、抵当権を設定したりすること
ができる。
ロ
未分離の果実は、原則として独立の物ではない(分離した時に独立の物となる)。
ただ、土地から独立させて取引することもできる。判例は、未分離の果実を独立の動産
に準じて取り扱っている。蜜柑・桑葉等は本来土地の定着物であるが、成熟すれば独立し
て所有権の対象となり、明認方法によって所有権を第三者に対抗することができる。
2
動産
⑴
通常の動産
不動産以外の物(有体物)は、すべて動産とされる(86Ⅱ)。ただし、自動車など登録によ
って法律上不動産と類似の扱いを受ける動産もある。
68/第3編 私権の主体・客体
⑵
第2章
私権の客体
特殊の動産
⒜
無記名債権(86Ⅲ)
権利者(債権者)を特定せず、証券の所持人をもって権利者とする債権をいう。
ex.商品券、入場券、乗車券。
→公示方法(178)、即時取得(192)の適用を受ける
⒝
金銭
金銭は動産の一種であるが、通常物としての個性を有せず、交換価値そのものとして存在す
るのであって、動産に適用される規定の多く(178、192 等)は金銭には適用されない。
もっとも、金銭が取引の手段として機能しない場合(ex.古銭の売買)や、不法行為(特
に刑法の領域)では、一つの動産としての取扱いを受ける。
◆
最判昭 39.1.24/百選Ⅰ〔77〕
「金銭の所有権者は、特段の事情のないかぎり、その占有者と一致すると解すべきであり、
また金銭を現実に支配して占有する者は、それをいかなる理由によって取得したか、またそ
の占有を正当づける権利を有するか否かに拘わりなく、価値の帰属者即ち金銭の所有者とみ
るべきものである。」
<金銭の特殊性~価値の返還請求権>
・通常の物として取り扱われる場合
動産一般としての取扱いを受ける
ex. 封金として他人に寄託、すでに強制通用力を失った金銭
・交換手段である価値の担い手として機能する場合
判例・通説:金銭の占有があるところに所有権がある
→金銭所有者は、その占有を離脱した金銭を手中に有する他人に対し、個々の金
銭への物権的請求権の行使をなしえない。
金銭の価値量を給付目的とする不当利得返還請求をなしうるにとどまる
→即時取得の規定も適用されない(善意・悪意が問題とならず、193・194 条の適用も
ない)
(理由)
金銭は交換価値以外の何者でもなく、高度の代替性ゆえにその個性は無視される。
よって、占有がある場合にのみ金銭を支配できる状態にあるといえる。
価値の割当を変更する旨の合意に基づかず、金銭の占有が移転した場合、原所有者の利益が害される
ex. 盗んだ場合、遺失物を拾った場合、管理者の場合、消費貸借の場合、取消の場合
現物が盗取者の手元にある場合等、金銭が価値として流通されたのでない場合、所有権に基づく
返還請求を認める見解(好美)
(理由)
現所有者の利益を保護しつつ、貨幣の流通性を害しない理論を構成する必要がある。
第1節
3
私権の客体総説/69
動産と不動産の区別の意味
<不動産と動産の相違>
動産
公示方法
登記(177)
引渡(178)
公信力
なし(通説)
あり(192)
先取特権
特定不動産上に成立(325)
登記を要件とする(337、338、340)
特定動産上に成立(311)
占有を要件としない
質権
登記を対抗要件とする(177)
占有の継続を対抗要件とする(352)
抵当権
客体となる
原則:客体とならない
例外:自動車、航空機
用益物権
客体となる(265 等)
客体とならない
買戻
客体となる(579)
客体とならない
国庫に帰属(239Ⅱ)
占有者が所有権取得(239Ⅰ)
その上に成立する権利
不動産
無主物
四
1
元物と果実
元物
元物とは、果実を産出する物をいう。
2
果実
果実とは、物より生ずる経済的収益たる物をいう。
3
天然果実
⑴
意義(88Ⅰ)
「物の用法に従い収取する産出物」すなわち、元物から直接産出される経済的利益を、天然
果実と呼ぶ。
⒜
有機的産出物
ex.植物の果実、動物の仔、牛の乳、羊毛、畑の野菜、地中から出てきた竹。
⒝
有機的産出物でなくても、元物が直ちに消耗せず、継続的に収取されて、経済上元物の収
益と認められる収穫物
ex.鉱区から採掘される鉱物、計画的に森林から輪伐される材木。
⑵
帰属(89Ⅰ)
「収取する権利を有する者」の範囲は、物権法・債権法の規定のほか、当事者の意思による。
70/第3編 私権の主体・客体
第2章
私権の客体
<天然果実の収益権者①>
収取権者
善意占有者(189Ⅰ)
所有権者(206)
地上権者(265)
永小作権者(270)
不動産質権者(356)
特定物の引渡前の売主(575)
使用借人(594)
賃借人(601)
受遺者(992)(※1)
収取権のない者
地役権者
抵当権者(371)(※2)
受任者
受寄者
事務管理者
※1
遺言者が別段の意思を表示した場合は不可
※2
被担保債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に抵当権の効
力が及ぶ
<天然果実の収益権者②>
4
備考
条文
留置権者
目的物を使用・収益できるわけではない。ただ、債権の弁済に充
当するために、果実を収受することができる
297
動産質権者
同上
350
買戻の買主
別段の意思表示がない限り、不動産の果実と代金の利息は相殺し
たものとみなされる
579 ただし書
親権者
親権者が負担した養育費・財産管理費用と、子の財産の収益とは
相殺したものとみなされる
828 ただし書
法定果実
⑴
意義(88Ⅱ)
「物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物」を法定果実という。
ex.不動産を利用させた場合の地代・家賃、貸ふとんの賃料。
⑵
帰属(89Ⅱ)
「これを収取する権利の存続期間に応じて、日割計算によりこれを取得する」。法定果実の
収益権者が誰であるかは、契約や法律の規定によって決まる。
*
使用利益
元物そのものの利用による利益(ex.居住の利益)を使用利益という。果実の収益権・返
還義務に関する規定(89、189、190)はこれに類推すべきと解されている(大判大 14.1.20)。
五
その他の物の分類
⇒発展
第2節
物権の客体/71
第2節 物権の客体
一
物権の客体の要件
所有権の客体となるには、以下の要件が必要とされる。
①
「物」すなわち有体物であること(有体性、85)
85 条は、物権の客体を有体物に限定するための規定であるが、今日では、無体物の上にも所
有権を始めとする物権が成立することを認めざるを得ないため、85 条は物権の対象を限定する
意味を持っていない。既に民法の中でも権利の上に物権が成立する場合を規定している。
ex.転抵当権(376Ⅰ)、転質権(348)、権利質(362)、準占有権(205)等。
②
排他的支配が可能であること(支配可能性)
→月や星は、有体物であっても、物権の客体となり得る物ではない
◆
最判昭 61.12.16/百選Ⅰ[第5版]〔11〕
海はそのままでは土地に当たらないとしつつも、国が一定範囲を区画し、排他的支配を可
能にした上で、公用を廃止し、私人の所有に帰属させた場合には、その区画部分は所有権の
客体たる土地に当たる、とした。
③
生きている人の身体でないこと(非人格性)
→現代法では、人の身体に対して排他的支配は認められていない
*
④
すでに分離された身体の一部(毛髪・歯など)は、「物」として物権の客体となり得る。
特定していること(特定性)
∵
物が特定していなければ、何に対して直接的支配をし得るのかが分からない。
*
特定性具備の有無は、物理的状態のみならず、社会的・経済的な観点をも顧慮して決定さ
れる。したがって、当初の客体が終始固定していなくても(1個の物の構成部分が変更して
も)特定性は失われるわけではない。
ex.特定の株式会社の総財産を客体とする企業担保権(その総財産の構成要素は変動するに
もかかわらず、総財産としては終始特定しており、それについて担保権が存続する)
→同様のことは、集合物譲渡担保についてもいえる
⑤
独立しており、物の一部ではないこと(独立性、単一性)
二
一物一権主義
1
意義
一つの物権の客体は1個の物でなければならない。
*
一物一権主義は、物権の排他性を示す「一つの物には一つの物権」という意味で用いられ
ることもあるので、注意が必要である。
72/第3編 私権の主体・客体
2
3
第2章
私権の客体
内容
①
1個の物の一部には独立の物権は存在し得ない(独立性)。
②
数個の物に対して一つの物権は存在し得ない(単一性)。
趣旨
①
物の一部や物の集団の上に1個の物権を認める社会的必要性がない。
②
物の一部や物の集団の上に物権が成立していることを示す公示方法がないのに、これを認め
ると権利関係が複雑となり取引の迅速・安全を害することになる。
4
例外
社会的必要性があり公示方法があれば、一物一権主義の趣旨に反しない
↓そこで
例外的に、⑴
⑵
⑴
物の一部に物権を設定できる(独立性の例外)
集合物に1個の物権を設定できる(単一性の例外)
独立性の例外
⒜
1筆の土地の一部
<1筆の土地の一部に対する権利関係>
分筆前の土地
分筆後の土地
分筆する
B
A所有
A
AがBに土地の一部を譲渡した場合、AB間で所有権が移転する(大判大 13.10.7/百選Ⅰ
〔11〕)。また、Aの土地の一部について、Bは時効取得し得る。
(理由)
①
Bの所有権を認める社会的必要性がある。
② AB間(当事者間)では取引安全を考慮して公示を備える必要がない。
*
Bがこの所有権を第三者に主張(対抗)したいときは、分筆した上で登記すればよい。
第2節
⒝
物権の客体/73
土地に生立する樹木
イ
立木法に基づく登記により公示された立木は、独立の不動産とみなされる。
ロ
立木法によらない立木の場合
原則として、立木は土地の一部であり独立の物権の客体とはならないが、土地から独立し
て取引の対象とし得る場合もある。
(理由)
これを認める社会的必要性があり、明認方法という公示方法もある。
⒞
未分離の果実・桑葉・稲立毛
原則として土地の一部であるが、立木と同様、分離前に独立に取引の対象とし得る。
⑵
単一性の例外
⒜
各種の財団抵当法・企業担保法
企業を構成する数個の物を一体として1個の担保権の目的とするもの。
⒝
在庫商品などの集合物に設定された譲渡担保権
以下の要件を満たす場合には、集合物の上に単一の物権を認めることができる。
◆
①
集合物が個々の構成物とは異なる独自の利益を有すること。
②
物権に関する特定性の要件を満たしていること。
③
物権に関する公示の原則に適合していること。
集合動産の譲渡担保(最判昭 62.11.10)
「構成部分の変動する集合動産であっても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するな
どの方法によって目的物の範囲が特定される場合には、1個の集合物として譲渡担保の目的と
することができるものと解すべきである。」
5
原則・例外の整理
<一物一権主義の例外>
独立性の例外
①
②
③
④
①
②
単一性の例外
一筆の土地の一部につき、所有権の成立は可能。時効取得も可
地役権は承役地の一部に設定可(282Ⅱただし書)
立木法によらない立木
未分離の果実・桑葉・稲立毛
抵当権の効力は従物にも及ぶ
立木法上の「立木」(樹木の集団)は不動産とみなされ、一括して所有権お
び抵当権の目的となりうる(立木法2Ⅱ)
③ 集合動産の譲渡担保
④ 各種の財団抵当法・企業担保法
74/第3編 私権の主体・客体
第2章
私権の客体
<一物一権主義の原則と例外>
原則
例外
土地
土地登記簿上「一筆」の土地とし
て登記されたものが1個の所有権
の客体とされる
①
②
③
一筆の土地の一部を時効取得できる
一筆の土地の一部にも物権が成立する
282 条2項ただし書
建物
土地とは別個独立の不動産であ
り、一棟の建物が1個の所有権の
客体となる
一定の要件の下で、一棟の建物の一部分を独立の所有
権(区分所有権)の客体とすることが認められている
(建物区分1)
立木等
土地の一部であって独立の所有権
の客体とならない
取引上の必要がある場合、立木だけを別個独立不動産
として所有権譲渡・抵当権設定の目的とすることがで
きる
集合物
集合物を構成する個々の物の上に
格別の所有権が成立し、集合物が
全体として1個の物権の客体にな
ることはない
①
企業を構成する多数の財産の集合体や企業体それ
自体の上に1個の担保物権を成立させることを認め
る(工場抵当法、企業担保法)
② 種類・所在場所・量的範囲を限定することで、目
的物の範囲が特定される場合には1個の集合物とし
て譲渡担保の目的とすることができる
第3節 債権の客体
債権とは、特定の人が他の特定の人に対し、特定の行為を請求できる権利である。これが債権の定
義である。
債権は債務者に対する権利であるから、債権の内容を実現するかどうかは債務者の自由な意思に委
ねられる。つまり、債権の内容は、債務者の行為、債務者の作為・不作為をいう。この債務者の作
為・不作為を給付という。
近代法は、人を権利の主体と位置づけ、権利の客体となることを否定した。したがって、債権の客
体は法的主体たる人と分離した作為・不作為それ自体をいう。これを「与える債務」「なす債務・作
為債務」「なさない債務・不作為債務」という。現行民法では、雇用契約・請負契約・委任契約など
である。
債権法改正試案では、役務提供契約という新たな典型契約を定めている。現代社会においては、実
務専門家が行う法務サービス業・コンサルタント業などや、医師・弁護士・公認会計士などが行う士
業活動など、「役務提供契約」がますます増加・拡大している。
第4編 権利移転型契約1:売買
第4編
第1章
1
第1章
契約の種類/75
権利移転型契約1:売買
契約の種類
有名契約(典型契約)と無名契約(非典型契約)
⑴
有名契約:民法の規定する 13 種類の契約。
⑵
無名契約:有名契約のいずれにも属さない契約。
⑶
混合契約:複数の有名契約の要素を含む契約。
ex.製造物供給契約:注文により物を製作して売る契約→請負・売買の両性質を兼ねる
2
双務契約と片務契約
⑴
双務契約:契約の各当事者が互いに対価的な意味を有する債務を負担する契約。
→対価的な意義を有するかは当事者の主観で決まる
⑵
片務契約:一方の当事者のみが債務を負うか(ex.贈与)、または双方の当事者の債務が
互いに対価たる意義を有しない契約(ex.使用貸借)。
*
3
区別の実益→同時履行の抗弁権(533)・危険負担(534 等)の適否など
有償契約と無償契約
⑴
有償契約:契約当事者が互いに対価的意義を有する出捐(経済的損失)をする契約。
→利息付消費貸借に注意(有償の片務契約である)
⑵
*
無償契約:契約当事者が互いに対価的意義を有する出捐(経済的損失)をしない契約。
区別の実益→売買の規定(特に担保責任・570 等)が準用されるかなど
<有償・無償契約と双務・片務契約の関係>
双務契約
有償契約
売買、交換、賃貸借、雇用、請負、
有 償 委任 、有 償寄 託、 組合、 和解
(終身定期金) *1
片務契約
利息付消費貸借
*2
無償契約
贈与、無利息消費貸借
-
使用貸借、無償委任、無償寄託
(終身定期金)
*1
*1
終身定期金はそれと結びつく関係によって双務契約とも片務契約ともなり得る。
*2
消費貸借は貸主が借主に交付して初めて効力を生ずるものとされるから(587 参照)、こ
の契約からは借主の返還義務を生ずるだけであり、片務契約に属する。しかし、利息を支払
うべきときは、貸主の元本貸与と借主の利息の支払とは互いに対価的意義を有するから、有
償契約である。
76/第4編 権利移転型契約1:売買
4
第1章
契約の種類
要物契約と諾成契約
⑴
諾成契約:当事者の意思表示の合致のみで成立する契約。
⑵
要物契約:契約の成立に当事者の合意のほか、物の引渡しなどの給付をすることを成立要件
とする契約。
*
要物契約(その給付物)には以下のものがある。ただし、④⑥については争いあり。
①
消費貸借(貸し付ける物、587)
②
使用貸借(貸し付ける物、593)
③
寄託(寄託物、657)
④
手付契約(手付金、557)
⑤
質権設定契約(質物、344)
⑥
代物弁済契約(給付物、482)
~考えてみよう!~ 諾成契約における契約書の役割
諾成契約の場合には、契約書の作成は必須ではありません。しかし不動産の売買など、重要な取引
については契約書が交わされるのが普通です。
この契約書には2つの役割があります。1つは証拠としての役割です。つまり諾成契約でよいといっ
ても、裁判で争われた場合には当該契約が締結されたこと、すなわち合意があることを示さなければな
りませんが、口約束では証明が難しくなってしまいます。そこで、契約書によって合意の存在を証明す
るのです。
もうひとつは、細かな契約条件について簡便に定めるためです。細部についてはあまり話し合わずに
契約書に書かれたとおり合意することが多いため、契約書を作成して、細部についても合意したことと
するのです。
5
要式行為と不要式行為
⑴
要式行為:法の要求する方式を履践しないと不成立ないし無効となる法律行為。
⑵
不要式行為:方式を必要としない法律行為。
*
民法が定める典型契約は、すべて不要式行為であり、単なる合意に拘束力を認めている。
これは、契約自由の原則の一内容である方式の自由の現れといえる。なお、保証契約におい
ては、契約内容を明確にして保証人を保護する必要性が強いことから、平成 16 年改正によっ
て要式契約とされている(446ⅡⅢ)。
第4編 権利移転型契約1:売買
6
第1章
契約の種類/77
典型契約の分類
<典型契約の分類>
名称
双務・片務
有償・無償
要物・諾成
解除の遡及効の有無
贈与
片務
無償
諾成
有
売買
双務
有償
諾成
有
交換
双務
有償
諾成
有
消費貸借
片務
無償
(有償もある)
要物
(*1)
有
使用貸借
片務
無償
要物
無
(解釈)
賃貸借
双務
有償
諾成
無
(620)
雇用
双務
有償
諾成
無
(630)
請負
双務
有償
諾成
有
委任
片務
(双務もある)
無償
(特約で有償)
諾成
無
(652)
寄託
片務
(双務もある)
無償
(有償もある)
要物
(*2)
無
契約総則その他の規定を排除すべきと解されるところ、
合同行為とする説が有力
組合
和解
双務
*1
有償
諾成
無
(684)
有
消費貸借の要物性は現代の発達した取引の実情に合わないので緩和される傾向にある。
判例は、金銭の「現実ノ授受アリタルト同一ノ利益」を借主に与えればよい、としている。
*2
寄託契約の要物性にも合理性がないといわれている。寄託の予約を認めることと、少な
くとも有償寄託について諾成的契約を認めるべきことについては、異論はない(星野・
Ⅳ・297 頁)。
なお、寄託契約の解除に遡及効が認められない点について は明文はないが、寄託者は返
還時期の定めがあると否とに関わらず、寄託者はいつでも返還を請求して寄託契約を終了
させることができる(662、663)以上、解除は不要であると解されている(広中俊雄・債
権各論講義[第6版]・301 頁)。
78/第4編 権利移転型契約1:売買
第2章
第2章
売買契約の成立から効力発生まで、及び効力の概観
売買契約の成立から効力発生まで、及び効力の
概観
・
はじめに
売買とは、当事者の一方(売主)が相手方(買主)に財産権を移転する義務を負い、買主が売主
にその代金を支払う義務を負う契約である。すなわち、売主の「財産権を移転する義務」と買主の
「代金を支払う義務」とが、対立する債務となり、双務契約・有償契約という。これは、売買の定
義である。具体的に売買契約を検討する場合は以下のようになる。
Aが、Bファースト・フード店でハンバーガーを買う場合、契約が有効に成立し、効力を発生す
るためには、①成立要件、②有効要件、③効果帰属要件、④効力発生要件という4つの要件が必要
である。要件を分けて検討することにより、細部にわたる問題点を整理して説明することができる。
はじめに、本章でこれらを簡単に説明してから、次章以降で各要件について具体的に説明していく。
1
契約の成立要件
売主と買主との間で財産的価値のある何物かを売買することで意見が一致している、その外観・
外形が存在すればよいという条件である。
→契約が成立すらしていないならば、有効要件以下の要件を考えることは無意味である
2
契約の有効要件
次に検討する要件である。成立した契約が有効か否か、という問題である。
→この有効要件は、さらに二つに分けることができる
①客観的有効要件:契約の内容に着目した要件である。「客観」というが、契約の中身をいう言
葉である。
②主観的有効要件:契約当事者の主観的事情に着目した要件である。「主観」というが、契約を
した主体に属している要素をいう。年齢とか意思表示の中身を問題とする。
3
契約の効果帰属要件
契約は本人ではなく他人にやってもらうことがある。物を買う場合、友人に頼むことや従業員に
買わせるなど、本人以外の人が行う場合が多い。その場合、他人が購入しても、その効果は本人に
帰属するのである。そうでなければ、他人に頼んだ意味がない。この場合、友人や従業員を代理人
とか代表者などという。
第4編 権利移転型契約1:売買
4
第2章
売買契約の成立から効力発生まで、及び効力の概観/79
契約の効力発生要件
物を買ったとしても、それは来月1日に郵送するとか、代金の支払は2週間後に支払うとかいう
ことは多い。このように契約の効力が具体的に発生する期日を遅らせる特約を期限とか条件とかい
う。この期限が到来してはじめて請求できるのである。その意味で、契約の効力発生要件を別に考
える意味がある。
<契約の成立から効力発生までのプロセス―代理の例―>
契約の成立要件
①対立する意思表示の客観的合致
不充足
②対立する意思表示の主観的合致
③顕名(代理行為特有の成立要件)
充足
契約不成立。以後の
契約の有効要件
要件の検討必要なし
客観的有効要件
①契約内容が確定可能であること
②契約内容が実現可能であること
③契約内容が適法であること
④契約内容が社会的妥当性を有すること
不充足
主観的有効要件
①代理人(表意者)が意思無能力ではないこと
無効または取消し
②代理人の意思と表示に不一致がないこと
③代理人の意思決定過程に瑕疵がないこと
*
②③につき、本人の意思が問題となる場合
に注意(101Ⅱ)。
*
代理人の行為能力は不要(102)。
充足
契約の効果帰属要件
①本人の権利能力
②代理権の存在
不充足
充足
効力発生要件(条件や期限が付いているときのみ検討)
①条件
イ
停止条件の成就
ロ
解除条件の不成就の確定
②期限の到来
充足
契約の効力発生
効果不帰属
80/第4編 権利移転型契約1:売買
第3章
第3章
売買契約の成立要件
売買契約の成立要件
第1節 相対立する意思表示の合致
一
意思表示
1
意義
意思表示とは法律用語である。分かりやすくいえば、未来のことについて表意者が希望すること、
あるいは望むことを発言することをいう。法律的に表現すると、「一定の法律効果に向けられた意
思の外部への表明」をいう。つまり、本を買いたいと思ったときに、店員に向かって「この本を売
ってください」というその発言を意思表示という。
2
意思表示の過程
このような意思表示は、次のような過程を経てなされる。
①
一定の法律行為を行おうとする動機が存在する
ex.このパンはおいしそうだから食べたい
↓
②
具体的に法律効果を意欲する意思(内心的効果意思)が形成される
ex.このパンを買おうと思う
↓
③
その意思を相手方に伝えようとする意思(表示意思)が形成される
ex.このパンをくださいと言おうと思う
↓
④
効果意思が実際に表示される(表示行為)
ex.このパンをくださいと言う
→表示行為によって外部から推断される効果意思を表示上の効果意思という
<意思表示の過程>
(買主側)
動機
このパンを
食べたい
(売主側)
内心的効果意思
「このパンを買おう」
と心の中で思う
表示行為
表示意思
「このパンを
買いたい」と
言おうと思う
表示上の効果意思
「このパンを買いたいと
思っているな」と店の主人は思う
「このパンを
買いたい」と相手に言う
(推測する)
第1節
3
相対立する意思表示の合致/81
意思表示の成立
意思表示は、従来、①内心的効果意思、②表示意思、③表示行為を要素とするとされていたが、
①②をも要素とするこのような考え方に反対する見解もある。
⑴
効果意思
意思主義→内心的効果意思は意思表示の本体であり、内心的効果意思を欠けば意思表示は成
立しない
表示主義→表示上の効果意思があれば意思表示は成立する
⑵
表示意思
表示意思については、意思表示の要素とせずに(成立要件とせずに)、効力の問題とする見
解が一般である。
⑶
表示行為
いずれの説も意思表示の要素としている。
二
法律行為
1
はじめに
法律行為を定義する前に、法律要件との関係を説明する。
2
法律要件と法律効果
法律は、一方が他方にある請求をすることができる。相手はしなければならないという関係、こ
れを権利義務の関係という。つまり、他人にあることをせよと請求できる権利義務の体系を法律
関係という。そこで、このような権利義務が発生するのはどのような原因・根拠があるときなの
かを要件とか条件とかいう。法律の場合なので、法律要件という。つまり、
権利・義務→一定の事実を原因として変動(発生・変更・消滅)する。
私法法規は、一定の事実(法律要件)があれば、一定の私権の変動(法律効果)が生じる、とい
うかたちで存在する
↓すなわち
法律要件とは一定の権利変動が発生するための条件をいい、法律効果とは法律要件が充足された
ときに与えられる効果をいう
<私法法規の構造>
私法法規
法律要件
→
法律効果
(私権の変動)
ex.売買契約という法律要件によって、①代金債権の発生、②所有権の移転、③引渡請求権の
発生、という法律効果が発生する。
82/第4編 権利移転型契約1:売買
3
第3章
売買契約の成立要件
権利変動の態様
法律行為とは意思表示を要素とする私法上の法律要件であり、法律要件とは一定の権利変動が発
生するための条件である。この権利変動、すなわち権利の発生・変更・消滅には次のような態様
がある。
<権利変動の態様>
1
⑴
⑵
権利の発生(取得)
2
権利の変更
3
権利の消滅(喪失)
⑴ 絶対的消滅(喪失)
主体の変更
絶対的発生(取得)
⑵ 相対的消滅(喪失)
客体の変更
→原始取得
→権利の移転
⒜ 数量的変更
ex. 先占、拾得、時効取得
ex. 所有内容の増減
相対的発生(取得)
⒝ 性質的変更
→承継取得
ex. 物の引渡債権
包括承継
↓
特定承継(*1)
損害賠償請求権
移転的取得
⑶ 作用の変更
設定的(創設的)取得(*2)
ex. 登記による対抗
ex.抵当権・地上権
力の取得
*1 包括承継・特定承継は、前主の権利を包括的に承継するか否かで区別する。例えば、相
続は、前主の権利を包括的に承継するので包括承継である。
*2 移転的取得・設定的(創設的)取得は、前主の権利をそのまま承継するか、内容の一部
を別個の権利として承継するかで区別する。抵当権・地上権は設定的(創設的)取得の例
である。
⑴
⑵
三
法律事実
1
意義
法律要件を組成する個々の要素。通説はこれを「要件事実」とするが、裁判実務では、法律事
実に該当する具体的事実を「要件事実」とする。
2
分類
<法律事実の分類>
容態(人の精神作用に基づく事実)
外部的容態(行為)
意思表示
意思実現
社会類型的行為
準法律行為*
違法行為(ex.債務不履行、不法行為)
内部的容態
観念的容態(ex.32Ⅰ、54、94Ⅱなどの「善意」)
意思的容態(ex.474Ⅱの「債務者の意思」)
事件(人の精神作用に基づかない事実)
ex.人の生死、時の経過、果実の分離、添付
*
適法行為
準法律行為:直接に法律効果の発生を意欲する旨以外の精神作用の表示。
→主要なものとして、意思の通知と観念の通知が挙げられる
第1節
⑴
相対立する意思表示の合致/83
意思の通知:一定の意思(意欲)の通知
→意思内容がその行為から生ずる法律効果以外のものに向けられている点で意思表示と異な
る
ex.制限行為能力者の相手方の催告(20)、無権代理行為の相手方の催告(114)、時効中
断事由としての催告(153)、弁済受領の拒絶(493 ただし書)、弁済受領の催告(493
ただし書)、契約解除のための催告(541)。
⑵
観念の通知:ある事実を通知すること。
ex.社員総会招集の通知(62)、代理権を与えた旨の表示(109)、時効中断事由としての
承認(147③)、債権譲渡の通知・承諾(467)。
<観念の通知・意思の通知および意思表示の分類>
事実
観念の通知
ex.B を代理人として選任した旨の表示、債務譲渡の通知
伝える中身が……
自己の意思
意思がその行為から生じ
る法律効果に向けられて
いるか
Yes
意思表示
No
四
法律行為の分類
1
要素たる意思表示の態様による分類
⑴
意思の通知
ex.受領拒絶の
意思の通知
単独行為:一人の1個の意思表示で成立する法律行為。
⒜
相手方のあるもの
ex.解除(541 等)、債務の免除(519)。その解除の意思表示は相
手方に向かってするものであるから。
⒝
相手方のないもの
ex.遺言(960 以下)。遺言は、自分の所有物についての所有権を放
棄することである。一見すると相続人に向かって遺言をするので、
相手方のある意思表示のように見えるがそうではない。
⑵
契約:対立する2個以上の意思表示が合致して成立する法律行為。
→法律行為の中で最も重要
ex.売買契約(555)、賃貸借契約(601)、消費貸借契約(587)。
⑶
合同行為:方向を同じくする2個以上の意思表示が合致して成立する法律行為。
ex.社団法人の設立。効果が契約と違うので合同行為という。一人の意思表示の瑕疵の取
消しに制限がある点で、契約と異なる。
⑷
決議:団体や団体の複数人からなる機関が、団体内部を規律するためにする意思の表明。
ex.社員総会の決議(一般法人 49)。
84/第4編 権利移転型契約1:売買
⑸
第3章
売買契約の成立要件
協約:当事者の一方または双方が多数の者または団体であって、当事者の合意がその多数の
者またはその団体の構成員に対して規範としての効力を認められるもの。
ex.労働協約。
<意思表示の結合の仕方による分類>
2
単独行為
……
契
約
……
合同行為
……
決
議
……
協
約
……
発生する効果の種類による分類
⑴
債権行為:債権を発生させる法律行為。
ex.賃貸借契約(601)
⑵
物権行為:物権の発生・変更・消滅を生じさせる法律行為。
ex.抵当権設定契約
⑶
準物権行為:物権以外の権利の終局的な発生・変更・消滅を生じさせる法律行為。
ex.債権譲渡(466)、債務免除(519)
*1
売買(555)・贈与(549)などの契約は、債権行為と物権行為双方の側面を有する。
*2
債権行為は発生した債権が履行されて初めて法律行為の目的が達成されるのに対し、物
権行為と準物権行為は、履行の問題を残さない点で相違する。つまり、物権行為・準物権
行為は履行が完了することが成立要件・有効要件とされるのであり、履行が完了していな
い時点では、物権行為・準物権行為はいまだ成立していないのである。この意味において、
「履行の問題を残さない」といわれるのである。このように履行の問題を残さない物権行
為と準物権行為とを併せて処分行為という。
第1節
相対立する意思表示の合致/85
<債権行為と処分行為の分類>
債権行為
法律行為
物権行為
処分行為
準物権行為
3
意思表示の形式による分類(要式行為と不要式行為)
⑴
意義
要式行為:意思表示が一定の形式(書面の作成等)を要するもの。
不要式行為:意思表示が一定の形式(書面の作成等)を要しないもの。
⑵
原則と例外
⒜
原則
通常の法律行為は、不要式行為である(法律行為自由の原則)。
⒝
例外
意思表示を特に慎重・明確にする必要がある場合、例外的に一定の形式が要求され、形式に
反した法律行為は不成立または無効とされる。
ex.遺言(967)、保証契約(446Ⅱ)、婚姻(739)、養子縁組(799)
4
その他の分類
⑴
生前行為と死後行為
生前行為:死後行為以外の行為。
死後行為:行為者の死亡によって効力の発生するもの(ex.遺言、死因贈与)。
⑵
独立行為と補助行為
独立行為:独立の実質的な意義を持つ法律行為。
補助行為:独立の実質的な意義を持たない法律行為(ex.同意、許可)。
⑶
主たる行為と従たる行為
主たる行為:従たる行為の前提となる行為。
従たる行為:効力発生のため他の法律行為または法律関係の存在を必要とする行為。
ex.夫婦財産契約(婚姻の成立を前提)、質権設定契約・保証契約(債権または貸借契約
の存在を前提)
⑷
有因行為と無因行為
有因行為:給付行為が原因と不可分なもの。
無因行為:給付行為が原因と可分なもの(ex. 手形行為)。
86/第4編 権利移転型契約1:売買
⑸
第3章
売買契約の成立要件
有償行為と無償行為
有償行為:財産の出捐を目的とする行為のうち対価のあるもの。
ex.売買(559 参照)、交換、賃貸借、雇用、請負。
無償行為:財産の出捐を目的とする行為のうち対価のないもの。
ex.贈与、使用貸借 。
⑹
財産行為と身分行為
財産行為:法律行為によって変動せしめられる法律関係が財産関係である行為。
身分行為:法律行為によって変動せしめられる法律関係が身分関係である行為。
*
民法総則編の法律行為に関する規定は、財産行為を前提としており、身分行為には当然に
は適用がないとされる。
五
契約の成立
契約は、原則として、申込みの意思表示と承諾の意思表示が合致することによって成立する。一
般的には次のように説明される。
1
いかなる点で合致すればよいか
⑴
客観的合致
契約の客観的な内容における合致→給付内容に着目
ex.何をいくらで買うかということ。
⑵
主観的合致
相手方と契約を成立させようとしているとみられること→契約の主体に着目
ex.甲と乙が互いに相手方と契約を締結しようとしていること。
2
どの程度合致すればよいか
内心において合致していなくても外形において合致していれば足りる(表示主義、通説)。
債権法改正の基本方針~契約の成立
【3.1.1.07】(契約を成立させる合意)
<1>契約は、当事者の意思およびその契約の性質に照らして定められるべき事項について合意がなされたこ
とにより成立する。
<2>前項の規定にもかかわらず、当事者の意思により、契約を成立させる合意が別途必要とされる場合、契
約はその合意がされたときに成立する。
《コメント》
<1>は、各当事者がそれぞれの意思およびその契約の性質に照らして、定められるべき事項について
両当事者が合意をすれば、その合意は契約を成立させる終局的な合意であるという原則を示したものであ
る。
<2>は、<1>のような合意とは別に、例えば後ほど正式な書面に契約書を作成するとか、取締役会
決議を必要とするなどの場合を想定した規定である。
第1節
3
相対立する意思表示の合致/87
不合致と錯誤
①契約が成立しているか(成立要件の問題)
→外形的一致があれば足りる(表示主義)
↓
②その契約の客観的意味の確定(契約の解釈の問題、すなわち、契約内容の確定の問題)
↓
③確定された内容と真意との間に不一致があれば錯誤として処理(主観的有効要件の問題)
→契約が成立したかということと、成立した契約が有効かということは、別の問題であり、契
約が成立して初めて有効要件の問題となる
*
今日は、できるだけ契約の成立要件を緩く解釈して契約の成立を広く認め、両当事者の不
一致は、客観的・主観的有効要件のレベルでの解釈で処理する方向にある。内心の不一致を
理由に契約の成立を否定した判例(大判昭 19.6.28/百選Ⅰ〔18〕)もあるが、疑問視する者
が多い。
六
申込みと承諾
1
意義
⑴
申込み:相手方の承諾があれば、契約を成立させることを目的とする確定的な意思表示
⑵
承諾:特定の申込みに対して、これに同意することにより契約を成立させる確定的な意思表
示
*
相手方がOKと答えても契約が成立したとするのは尚早であって、契約を成立させるには
適当でないような意思表示は、申込みに当たらず、申込みの誘引(誘因)という。
申込みか、申込みの誘引かは、相手方のOKという意思表示によって直ちに契約が成立し
たと解するのが妥当か否かによって判断される。
債権法改正の基本方針~申込みと承諾
【3.1.1.12】(申込み)
<1>申込みは、その承諾により契約を成立させる意思表示である。
<2>申込みは、それにより契約の内容を確定しえないときは、その効力を生じない。
【3.1.1.21】(承諾)
承諾は、申込みに同意して、契約を成立させる意思表示である。
2
意思表示の効力発生時期
契約が成立するためには、契約の申込みと承諾という 2 個の意思表示の効力が有効に発生してい
る必要がある。かかる相手方のある意思表示について、民法は、相手方の了知と効力発生の関係
について規定を設けている。
88/第4編 権利移転型契約1:売買
第3章
売買契約の成立要件
<意思表示の到達プロセス>
表白
発信
到達
了知
相手方のある意思表示は、①表白(表意者が外部に表すこと。ex.書面の作成)、②発信、③
到達(相手方が了知し得べき状態となること、ex.相手の家に書面が配達された)、④了知
(相手方がその意味を知ること)、というプロセスを経て相手方の下に届く。
⑴
・
到達主義(原則):
到達によりはじめて意思表示の効力が生じる(97Ⅰ)
到達主義の適用要件
イ
「隔地者」:
意思表示が発信されてから相手方に了知されるまでに取引上問題とされ
る程の時間の経過を要する場合
↓では
対話者間の場合(ex. 電話による場合)はどうか
→隔地者の場合に準じ、到達主義でよい(通説)
ロ
「到達」:一般取引上の通念により相手方の了知しうるようにその勢力範囲に入ること。
→相手方が了知することは不要(判例)
ex.・郵便が郵便受けに投入された場合
・本人の住所で同居の親族・内縁の妻が受領した場合
・会社の事務室で会社の代表取締役のたまたま遊びに来ていた娘に交付した場合
・たまたま一日二日留守であっても、帰ってくるのが通常であれば、配達された
郵便物を内縁の妻が本人の不在を理由に受領を拒んでも、到達となる
・本人の不在を理由に家人が受領を拒絶し翌日配達された場合、配達の日が到達と
なる
・内容証明郵便が受取人不在のまま受取人が受領しないまま留置期間を経過して
差出人に還付されても、諸般の事情から、遅くとも留置期間満了時点で受け取
り任意到達したものと認められる
ハ
受領能力
⇒「3
意思表示の受領能力」(p.90)
第1節
⑵
⒜
発信主義(例外):
相対立する意思表示の合致/89
意思表示を発信した時に効力が生じる。
契約の承諾の意思表示(526)
∵
迅速を尊ぶ取引において、承諾者が直ちに履行に着手しうるようにするため。
買主
A
発信
<契約の承諾の意思表示の効力発生時期>
申込み
売主
B
到達←申込みの意思表示の効力が生ずる(97Ⅰ)
承諾
到達
発信←承諾の意思表示の効力が生ずる
∥
契約成立(526Ⅰ)
*
ただし、内田先生は、今日①意思表示が到達しないリスクは極めて小さいこと、②通信
技術の普及により発信と到達の時間的間隔が問題とならなくなっていることを理由に、申
込み者保護のため「到達主義に改めるべき」とされる(内田・Ⅰ・43 頁)。
*
電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律は、インターネット
等の電子的な方法を用いて承諾の通知を発する場合には、瞬時に意思表示が到達するため、
その契約成立時期を、承諾の通知が到達した時点へと変更している(到達主義への転換。
電子消費者契約法4)。
また、インターネット等を用いた電子取引において、消費者の操作ミスに基づくトラブル
が急増しているが、操作ミスのため消費者に重過失が認められ、錯誤に基づく契約の無効
(民 95)を主張できないことが多かった。そこで、同法3条は、電子消費者契約に関して
は、事業者が操作ミスを防止するための措置を講じていない場合には、たとえ消費者に重過
失があったとしても、操作ミスにより行った意図しない契約を無効とすることができるよう
にした(民法 95 条の特例措置)。
債権法改正の基本方針~契約の成立時期
【3.1.1.22】(隔地者間の契約の成立時期)
<1> 隔地者間の契約は、承諾が申込者に到達した時に成立する。
<2><3> 略
⒝
制限行為能力者の相手方がした催告への制限行為能力者側の確答(20)
∵
⒞
到達主義だと制限行為能力者側に不測の結果を生じさせるおそれがある。
株主総会の通知
∵
多数の株主のうち1人でも到達しなければ全部が無効になるのでは総会が開けない。
90/第4編 権利移転型契約1:売買
⑶
第3章
売買契約の成立要件
到達主義の結果(発信主義との比較)
<到達主義と発信主義の比較>
到達主義
不着・延着の場合
任意の撤回
⑷
3
発信主義(特に契約の承諾)
不着・延着は表意者に不利でない
…承諾が不着でも契約成立する
不着・延着は表意者に不利
…不着なら意思表示は効力不発生
延着なら遅れて効力発生
到着前なら任意撤回できる
発信すれば任意に撤回できない
(発信者に不利)
97 条1項は、意思の通知・観念の通知にも類推適用される。
意思表示の受領能力
⑴
意義
意思表示の内容を理解しうる能力。
到達があったといえるには、了知しうべき状態の成立が必要であり、したがって、意思表示
の受領者に了知しうるだけの能力(=受領能力)が必要である(98 の2)。
⑵
受領能力の有無
<受領能力の有無>
受領能力
*1
未成年者
×
成年被後見人
×
被保佐人
○
被補助人
○
受領無能力者(未成年、成年被後見人)側から到達を主張することはできる(98 の2本
文)。
*2
表意者は受領無能力者に対して、到達すなわち意思表示の効力発生を主張しえない。し
かし、受領無能力者の法定代理人が到達を知ったときは、その時から制限行為能力者に対
して到達を主張できる(98 の2ただし書)。
*3
未成年者が行為能力を認められる場合、受領能力も肯定される(我妻)。受領能力は、
他人の意思表示を理解するための能力であり、行為能力よりも能力の程度が低くてよいか
らである。
4
申込みから承諾まで
七
特殊の契約成立の態様
⇒発展
⇒発展
第1節
八
手付
1
意義
相対立する意思表示の合致/91
契約締結の際に、当事者の一方から相手方に交付される金銭その他の有価物。
→本体たる契約(ex.売買)とは別個の従たる契約であり、要物契約である
2
種類
⑴
証約手付:契約が成立したことを示す効力を持つもの。
→手付であれば、すべてこの性質を持つ
⑵
違約手付:契約上の債務を履行しない場合に没収されるもの。
→更に2種類に区別される
⒜
損害賠償額の予定としての手付
当事者の一方が契約上の債務を履行しない場合に、損害賠償として、手付を交付した者
(買主)はそれを没収され、手付を収受した者(売主)はその倍額を償還する旨を定めるも
の。
⒝
違約罰としての手付
債務不履行の場合に当然没収され、債務不履行による損害賠償は、これとは無関係に請求
される。
*
⑶
通常、違約手付といった場合は、420 条3項の趣旨から、⒜の意味と解される。
解約手付:両当事者が解除権を留保し、それを行使した場合の損害賠償額となるもの。
→手付の金額だけの損失を覚悟すれば(買主が手付を放棄するか、売主が手付金額の倍額を
買主に返すかすれば)、債務不履行がなくても解除できる
→手付は、特約なき限り、解約手付と推定される(557Ⅰ)
3
手付契約の解釈
⑴
黙って手付を交付した場合
→証約手付+解約手付である(557Ⅰ)
⑵
損害賠償額の予定として交付した場合
違約手付としての手付を交付した場合、その手付は証約手付かつ違約手付の性質に加えて、
解約手付の性質も有するか、すなわち、違約手付の約定がある場合、その約定は 557 条 1 項を
排除するのかが問題となる。なぜなら、契約の拘束力を強める違約手付と契約の拘束力を弱め
る解約手付とでは、矛盾するようにも思えるからである。
92/第4編 権利移転型契約1:売買
第3章
売買契約の成立要件
この点について、判例・通説は、特に解約手付を排除する旨の意思表示がない限り、557 条1
項は排除されず、かかる手付は違約手付と解約手付の性質を併有すると解している(併存肯定
説)。その理由は、①解約手付は軽率な取引者を手付損のみで救済する機能を有しているから、
同条項の適用範囲を制限すべきではないこと、②損害賠償額の予定としたのは債務不履行時に
も手付損のみで清算する意思であり、さらに手付損による契約解除の意思を推定しても当事者
の意思には反しないことにある
上記見解の他に、併存否定説や違約罰の場合と損害賠償額の予定の場合とを区別して検討す
る区別説があるが、少数にとどまる。。
◆
最判昭 24.10.4/百選Ⅱ〔47〕
違約手付と解約手付の併存を可能とした上で、契約書に違約金を支払うべき旨の約定があ
るだけでは、557 条の適用を排除する意思表示があったといえないとし、併存肯定説を採った。
4
解約手付における解除の要件
①
「当事者の一方」が
②
「契約の履行に着手するまで」に
③
手続的要件(解除の意思表示、手付の倍額の提供)
⑴
「当事者の一方」の解釈(要件①について)
解約手付による約定解約権に基づき売主が解除する場合、売主自身は契約の履行に着手して
いてもよいか、すなわち、「当事者の一方」とは、解除される側のみを指すか、解除する側も
含むのかが問題とされていた。
この点について、判例・通説は、「当事者の一方」とは解除される側のみを指し、自ら履行
に着手していても、相手方が履行に着手するまでは解除権の行使が認められると解する。その
理由は、①557 条1項は、相手方の解除によって、履行に着手した当事者が不測の損害を被るこ
とを防止する趣旨であること、②いまだ履行に着手していない当事者は、解除されても不測の
損害を被るとはいえず、解約手付に基づく解除権の行使を甘受すべき立場にあることにある。
◆
最大判昭 40.11.24/百選Ⅱ〔48〕
解約手付により解除をする当事者は、自ら履行に着手していても、相手方が履行に着手し
ていない以上、557 条1項による解除をし得ると解している。
⑵
「契約の履行に着手するまで」の解釈(要件②について)
売主が履行の準備を始めた場合、買主は解除できなくなるか、「契約の履行に着手するま
で」(557Ⅰ)の意味が一義的に明らかでないので問題となる。
この点、判例(最大判昭 40.11.24/百選Ⅱ〔48〕)によれば、「契約の履行に着手する」と
は、債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識し得るよう
な形で履行行為の一部をなし又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした
場合をいう。
よって、売主が履行の準備を始めたにすぎない場合は、「契約の履行に着手」したとはいえ
ず、買主は契約を解除することができる。
第1節
◆
相対立する意思表示の合致/93
最大判昭 40.11.24/百選Ⅱ〔48〕
「民法 557 条1項にいう履行の着手とは、債務の内容たる給付の実行に着手すること、す
なわち、客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし又は履行の提供をす
るために欠くことのできない前提行為をした場合を指す」とした。
◆
最判平 5.3.16/百選Ⅱ[第5版]〔48〕
事案:
Y所有の土地・建物につきXとの間で売買契約が成立し、Xが手付を交付した。そ
の後、Yが手付の倍額を支払う旨の口頭の提供をした上で、契約を解除する旨の意思
表示をした。しかし、Xはそれ以前に土地の測量およびその費用負担、口頭の提供に
よる履行の催告をしており、これが「履行の着手」に当たるから解除はできないと主
張して、本件土地の引渡しおよび移転登記を請求した事案(ただし、売買代金の履行
期は未到来であった)。
判旨:
「『履行ノ著手』に当たるか否かについては、当該行為の態様、債務の内容、履行
期が定められた趣旨・目的等諸般の事情を総合勘案して決すべきである。……約定の
履行期前において、他に特段の事情がないにもかかわらず、単に支払の用意ありとし
て口頭の提供をし、相手方の反対債務の履行の催告をするのみで、金銭支払債務の
『履行ノ著手』ありとするのは、履行行為としての客観性に欠けるものというほか
な」い、として履行の着手に該当しないとした。
*
着手の具体例
⒜
買主が履行期到来後売主に対ししばしば明渡を求め、この間明渡があればいつでも残
代金の支払いをなしうる準備があればよい(最判昭 30.12.26)。
⒝
しばしば履行を求め、売主が移転登記に応ずればいつでも支払えるよう残代金の準備
をしていればよい(最判昭 33.6.5)。
⒞
借家人のいる家屋につき売主がしばしば借家人に明渡を求めたこと(最判昭 30.12.26)。
⒟
農地の売買において、売主・買主が連署の上許可申請書を知事宛に提供したときは、
履行に着手したものといえる(最判昭 43.6.21)。
⒠
売主は借家人らを立ち退かせた上で、土地建物を引き渡す約束の売買において、売主
は一、二度借家人に立ち退きを要求しただけで放置していた。買主は、その間、しばし
ば仲介人に対して引渡を催告されたい旨を依頼したが、らちがあかないので、土地・建
物の引渡及び移転登記を求める本訴を提起するとともに、売主に残代金を提供して受領
を求めた事実があった場合は履行の着手があったものと認められる(最判昭 51.12.20)。
94/第4編 権利移転型契約1:売買
⑶
第3章
売買契約の成立要件
売主の解約手付による解除
手付の倍額の提供(要件③について)
手付を交付した者(買主)が解除するには解除の意思表示だけで足りるが、手付を受領した者
(売主)が解除するには手付金の倍額を提供することが必要である(大判大 3.12.8)。
∵
「その倍額を償還し」との文言に合致し、当事者の公平という点からも妥当であるから。
*
売主が手付の倍額を提供する場合、単に口頭により手付の倍額を償還する旨を告げその受
領を催告するのみでは足りず、現実の提供が必要となる(最判平 6.3.22)。
∵
5
①
「倍額を償還して」との文言。
②
買主が同条項により手付を放棄して契約の解除をする場合との均衡。
解約手付による解除の効果
①
契約は遡及的に消滅する。
→ただし、履行に着手する前であるから、原状回復請求権(545Ⅰ)は生じない
②
損害賠償請求権は生じない(557Ⅱ)。
→ただし、債務不履行により解除された場合には、手付が損害賠償額の予定の意味でない限
り、手付の額と無関係に債務不履行に基づく損害賠償を請求できる(この場合、手付を交
付した者は不当利得として手付金の返還を請求できる)
*
なお、契約が解除されずに履行された場合には、手付を交付した者は手付の返還を請求で
きるが、代金の一部に充当されることが普通である。
第2節 契約内容の確定
・
法律行為の解釈
1
意義
法律行為の解釈とは、法律行為の内容を確定・補充することを意味する。すなわち、法律行為の
客観的有効要件の第一の要件である内容の確定性に関するものである。
法律行為は、当事者の意思を一定の言語に表現したものであり、一義的に明らかでない場合もあ
り、裁判所がその内容を明らかにするためには解釈が必要となる。
もっとも、法律行為といっても種々のものがあり、その性質により解釈の仕方も異なるといえる。
以下では、契約の解釈を念頭において説明する。
第2節
2
契約内容の確定/95
契約の解釈の手順
契約の解釈の手順は、通常、次のように行われているものと考えられている。
⑴
当事者が定めている事項の解釈
当事者が意図したことを探究して解釈する。
→意思主義:表意者の内心の意味を探究する
表示主義:表示された言葉の客観的意図を探究する
↓
当事者が表示に与えた意味が食い違う場合、裁判所はいかに解すべきか
→両当事者を含む社会における慣習・取引慣行(当事者の知・不知は問わない)や、条理・信
義則により解釈する
⑵
当事者が定めていない事項の解釈
両当事者を含む社会における慣習・取引慣行→任意規定→条理・信義則により補充する。
債権法改正の基本方針~契約の解釈に関する準則の明文化
【3.1.1.40】(本来的解釈)
契約は、当事者の共通の意思に従って解釈されなければならない。
【3.1.1.41】(規範的解釈)
契約は、当事者の意思が異なるときは、当事者が当該事情のもとにおいて合理的に考えるならば理解したで
あろう意味に従って解釈されなければならない。
【3.1.1.42】(補充的解釈)
【3.1.1.40】および【3.1.1.41】により、契約の内容を確定できない事項が残る場合において、当事者がそ
のことを知っていれば合意したと考えられる内容が確定できるときには、それに従って解釈されなければなら
ない。
【3.1.1.43】(条項使用者不利の原則)
<1> 約款の解釈につき、【3.1.1.40】および【3.1.1.41】によってもなお、複数の解釈が可能なときは、
条項使用者に不利な解釈が採用される。
<2> 事業者が提示した消費者契約の条項につき、【3.1.1.40】および【3.1.1.41】によってもなお、複数
の解釈が可能なときは、事業者に不利な解釈が採用される。[ただし、個別の交渉を経て採用された条
項については、この限りではない。]
◆
大判大 10.6.2/百選Ⅰ〔19〕
意思解釈の資料となるべき事実上の慣習が存在する場合には、法律行為の当事者がその慣習
の存在を知りながら特に反対の意思を表示しないときは、これによる意思を有するものと推定
するのが相当である。したがって、その慣習による意思の存在を主張する者は、特にこれを立
証する必要はない。
96/第4編 権利移転型契約1:売買
第3章
売買契約の成立要件
~考えてみよう!~ 約款規制
約款は便利なものです。しかし、約款を用いることで、一方当事者にすぎない企業側が契約の内容を一方的に
決めることになります。客は約款の内容をよく検討しないまま、包括的にこれを受容しているだけです。そこで、
約款の内容を規制し、消費者側にとって不当な条項の効力が及ばないようにしようということが考えられます。
判例は、不当な内容の契約条項の規制を一般的な枠組みを提示することなく、公序良俗・信義則などの一般条
項を適用するか、契約条項を「解釈する」形で行っています(隠れた内容規制)。また、消費者契約法が 2000 年
に制定され、不当条項については無効となるように整備されました(消費者契約法8、9)。
このように約款については、その効力を制約していこうという流れがありますので注意を要します。
3
主物と従物
⑴
はじめに
⒜
意義
イ
従物:独立の物でありながら、客観的・経済的には他の物(主物)に従属して、その効
用を助ける物。
ロ
主物:従物を附属させる対象となる物。
ex.母屋と物置、家屋と建具、刀と鞘。
⒝
制度趣旨
主物と従物の制度とは、経済的関係における物の主従的結合体を同一の法的運命に従わせ
ようとする制度をいう。この制度の趣旨は、以下の2点にある。
すなわち、主物の経済的効用を助けている従物を主物の法律的運命に従わせることが、①
当事者の合理的意思に合致するし、②社会経済上も望ましいといえるのである。
⑵
従物の要件
①
継続的に主物の効用を助けること。
②
主物に付属すると認められる程度の場所的関係にあること。
③
主物と同一の所有者に属すること。
→他人の所有物でも従物といえるか(87 条の適用範囲)が問題になる
⇒「⑸
他人の所
有物でも従物といえるか」(p.98)
④
独立性を有すること。
◆
大判昭 5.12.18/百選Ⅰ[第5版]〔85〕
建物の内部と外部を遮断するのに役立っている建具などは建物の構成部分であり、それに至
らない障子・襖・畳等は従物であると判示した。
⑶
従物の取扱い
⒜
原則:従物は主物の処分に従う(87Ⅱ)。
イ
処分は、譲渡(所有権の移転)や物権の設定のような物権的処分だけでなく、売買・賃
貸借のような債権的処分をも含む。
ロ
主物の対抗要件を具備すれば従物についても対抗力が生じる。
∵
ハ
公示関係もまた、従物に及んでいると解されるから。
主物の上の抵当権の効力は従物にも及ぶ。
第2節
◆
契約内容の確定/97
最判昭 44.3.28/百選Ⅰ〔84〕
主物たる不動産に対する抵当権の効力は従物たる動産に及び、その抵当権設定登記の対抗力
も従物についても生じると判示した。
⒝
例外:当事者の反対の意思表示により排斥することができる。
∵
⑷
87 条2項は任意規定であるから。
従たる権利
Aの所有する土地の賃借人Bが借地上に所有する建物をCに売却した場合、建物の買主Cは
土地賃借権をも取得するか。87 条は、有体物(85)たる従物に関する規定であるので、賃借権
のような無体物についてどのように解すべきかが問題とされていた。
この点、87 条2項の趣旨は、従物を主物と同様の法律的運命に従わせることによって、社会
経済的利益を全うするという点にあるが、かかる趣旨は従たる権利の場合にも妥当することか
ら、87 条2項を、従たる権利についても類推適用すべきである(判例・通説)。そして、建物
所有には土地賃借権が不可欠であるから、土地賃借権は建物の従たる権利といえ、建物の買主
Cは、87 条2項類推適用により、土地賃借権をも取得する。
*
判例・通説に立っても、建物の買主Cが取得した借地権を土地所有者に対抗できるかは別
問題である。
<借地人が所有する建物を売却した場合の借地権の移転>
地主
A
貸主
建物売却
B
所有
B
借主
C
借地権
◆ 最判昭 40.5.4
借地上の建物に設定された抵当権が実行された事案について、抵当権の効力は敷地の賃借権
にも及び、賃借権は競落人に移転するとした。
*
ただし、この判例は 87 条2項を類推適用すると明確に述べているわけではない。
◆ 大判大 10.11.15
元本債権について転付命令があった場合について、将来の利息債権も差押債権者に移転する
ものとした。
98/第4編 権利移転型契約1:売買
⑸
第3章
売買契約の成立要件
他人の所有物でも従物といえるか(従物の要件③について)(内田・Ⅰ・356 頁、新版注釈⑵・
635 頁)
甲は自己所有の家屋を売却する契約を乙と締結したが、その家屋に備え付けられたクーラーは
丙の所有物であったという事案において、乙はそのクーラーについても甲に対して引渡しを請求
できるか。87 条1項は、従物の要件の一つとして、主物の所有者の所有に属することを要求して
いるが、主物の所有者以外の者の所有物の場合にも、従物を主物の処分に従わせることができる
かが問題となる。
この点、87 条の趣旨は、従物が主物と結合して経済的効果を高める関係にある場合、同一の法
律的運命に従わせて社会経済的利益を全うする、という点にある。そして他人の物であっても、
主物の経済的効果を高めるという客観的関係は生じ得るのであるから、第三者の権利を侵害しな
い範囲では、87 条の趣旨を類推して従物関係を認めるべきである。
よって、主物の所有者以外の者に属する物であっても、その所有者の権利を害さない範囲では
87 条の趣旨を類推し、従物関係が認められる(通説)。通説によれば、乙は甲に対してクーラー
の引渡しを請求できることになる。
もっとも、従物については他人物売買となるから、その物についての物権変動は当然には生ぜ
ず、物の所有者が追認した場合や、即時取得の要件を満たした場合にのみ物権変動が生じること
になる。
<従物の具体例>
主物
湯屋営業用建物
従物
判例
畳、建具、造作、湯屋営業道具、煙突
大連判大 8.3.15
納屋、便所、湯殿
大判大 7.7.10
料理店
庭に配置された石灯篭、五重塔
大判昭 15.4.16
宅地
石灯篭、取り外しのできる庭石
最判昭 44.3.28/百選Ⅰ〔84〕
母屋
第4編 権利移転型契約1:売買
第4章
・
第4章
売買契約の有効要件/99
売買契約の有効要件
はじめに
前章で契約の成立要件について説明したが、契約が成立したかということと、契約が有効かとい
うことは別問題であり、契約が成立しても、必ずしも有効とは限らない。
では、成立した契約は、どのような要件を満たせば有効となるのだろうか。ここでは、契約の内
容に着目した客観的有効要件と、当事者の個別的な事情に着目した主観的有効要件に分けて分析
する。
~考えてみよう!~ 契約の「成立要件」と「有効要件」
契約が 100%意味のあるものになるためには、実は、多くの要素(要件・条件)が必要とされます。このよ
....
....
うな要素を整理するために使用される言葉が「成立要件」「有効要件」です。同じ意義を有する言葉として
「効果帰属要件」「効力発生要件」などもあります。
ところで、そもそもなぜこのような言葉を使う必要があるのでしょうか。
それはこれらの多くの要素を学習していくために、このような言葉を使用して段階的・体系的に学習してい
くことが「思考経済」に資するからといえます。私達の歴史において「ニュートンの万有引力の法則」や「ア
インシュタインの相対性理論」がいかに自然現象の効率的な把握=「思考経済」に貢献してきたかはご存知で
しょう。社会科学においてもこの点は同様であり段階的・効率的な把握は「思考経済」に資するものといえる
のです。
....
一般的に契約の「成立要件」は「意思の合致」と定義されますが、その内容は具体的ではありません。ここ
ではどのような「要素」が確定すれば「意思の合致」が存在するかを具体的に考えてみる必要があります。こ
こでも上述した「思考経済」を生かした解釈をしてみましょう。
ここで「意思の合致」の中身を分析すると、契約当事者(主体)と契約内容(客体)のそれぞれが合致して
いる必要があることは自明でしょう。主体である人(Aさん等)が一致しない場合には、ある人とある人との
約束(=契約)といえないことは明らかです。しかし、契約内容(客体)については「およそ何か」を売る、
貸す、作る等といった合意があれば意思の合致を認めることができるとされます。それだけでも約束として十
....
分評価しうるわけです。以上がいわゆる契約の「成立要件」のレベルの話とされています。
....
そして、それ以上に契約内容を具体的に考える問題は全契約の「有効要件」の問題とされるのです。すなわ
ち、契約内容が現在において確定しているのか(確定性)、実現するものなのか(実現可能性)、内容が適法
....
なものか(適法性)、社会的に妥当なものか(社会的妥当性)といった問題は「(契約の客観的)有効要件」
....
の問題として扱われる問題とされるのです。「契約の「成立要件」が問題となった判例はあまり存在しない」
といわれる事情はこのような事情に基づくからでしょう。
100/第4編 権利移転型契約1:売買
第4章
売買契約の有効要件
【契約の成立要件と有効要件】
契約の成立要件
申込
意思の合致
承諾
契約の有効要件
①
確定性
②
実現可能性
③
適法性
④
社会的妥当性
等
このような契約の「成立要件」「有効要件」を訴訟の観点から見ると、請求原因と抗弁という形に置き換
....
えられます。すなわち、契約の履行を望む者が「意思の合致」という契約の「成立要件」を主張立証してい
.
き(請求原因)、契約の成立を否定したい者が、意思の不完全性や契約内容が妥当でないこと等契約の「有
...
効要件の不存在」を主張立証していくことになるわけです(抗弁)。
ここでは、XがYに甲土地を売った事例を素材に考えてみましょう。
まず、Xは請求原因として、YがXに対して甲土地を 1000 万円で売ってほしい旨の申込みの意思表示を
し、Xがこれを承諾した事実を主張立証することになります。これに対して、Yは抗弁として、Yが申込み
の意思表示をしたのは、甲土地のすぐ近くに新駅ができ、値段が上がると勘違いしたためで、契約は錯誤無
効だと主張立証することができます。
【訴訟上の観点からみた契約の成立要件と有効要件】
成
立
要
件
契約の効果発生を希望する者が、主張立証
(請求原因)
有
効
要
件
契約の効果不発生を争う者が、
その不存在を主張立証(抗弁)
第1節 客観的有効要件
一
はじめに
客観的有効要件は、契約の内容に着目した有効要件で、契約内容の①確定可能性、②実現可能性、
③適法性、④社会的妥当性の四つを内容とする。このように、客観的有効要件をさらに細かく分
けて分析を進めていく手法を、科学では「要素還元主義」という。つまり、客観的有効要件を構
成している要素をさらに分析・細分化して解説を進めるからである。
→このうち、一つでも満たされないものがあると、契約は客観的有効要件を欠き無効となる
第1節
二
客観的有効要件/101
確定可能性
契約の内容が確定し得ること。
*
契約内容が不明瞭であるときには、契約の解釈という作業がされる。契約の解釈の際には、
前述のように当事者の意思、慣習、任意規定、条理の順に検討していく。しかし、いくら解
釈をしても契約の内容が確定できないときには、そのような契約には法的保護を与えること
はできない。そこで、契約は無効となる。
ex.甲が乙に何かいいものを売るという契約。
三
実現可能性
1
有効要件性
契約内容の実現が契約成立時から不可能な場合(原始的不能)には、強制的に実現するすべが
なく、法的保護が無意味なため、その契約は無効となるとするのが通説である(無効説)。
これに対して、契約成立後に不能となった場合(後発的不能)の扱いとの均衡から、原始的不
能の場合にも契約は有効とする見解が近時有力である。この見解によると、実現可能性は契約の
有効要件ではないことになる(有効説)。
ex.太陽まで連れて行く契約(物理的不能)。
給付が法律で禁止されている物を売る契約(法律上の不能)。
2
実現不可能な契約関係の処理
無効説によったとしても、契約が原始的に不能であっても、一定の場合には、信義則(1Ⅱ)
の見地から、契約締結上の過失として契約責任を認めることができる。
これに対して、有効説によると、契約が原始的に不能であっても契約は有効であり、債務者に
責任があれば債務不履行となる。
四
適法性
1
強行法規に違反する契約
伝統的には、契約が内容の不当性を理由に無効となる場合として強行規定違反と公序良俗違反と
があり、前者は 91 条(反対解釈)、後者は 90 条に根拠が求められた。この見解によると、法令
違反の契約が無効となるか否かは、当該法令が強行規定であるかどうかという点に集約される。
しかし、近時は、両者ともに 90 条を根拠に無効とする見解が有力である。この見解によると、
当該行為が公序良俗違反にあたるかどうかによって判断されることになる。
102/第4編 権利移転型契約1:売買
第4章
売買契約の有効要件
<伝統的見解>
強行規定違反=91 条違反として無効
内容が不当な契約
公序良俗違反=90 違反として無効
<近時の有力説>
公序良俗違反行為=90 条違反として無効
内容が不当な契約
それ以外の行為=有効
*
2
個別の法令に違反するか否かは、公序良俗違反を判断する際の一要素となるにすぎない
取締規定に違反する契約
行政上の考慮から一定の行為を禁止または制限し、その違反に対して刑罰や行政上の不利益を課
す規定を取締規定という。
この点、伝統的見解によると、取締規定には、強行規定(効力規定)であるものとそうでないも
のとの2種類があり、当該法令が強行規定であるか否かによって無効か否かが決まることになる。
この見解によると、当該規定の趣旨によって、強行規定(効力規定)か否かを判断することになる。
これに対して、最近の有力説によると、取締規定に違反した行為が公序良俗に反するか否かによ
って無効か否かが決まることになる。判断を公序良俗違反か否かに集約することによって、違反
が軽微であるか、当事者は違法であることを認識していたか、取引の安全は害されるか、取締規
定の目的は達せられるか、などの具体的事情を考慮した柔軟な判断が可能となる。
<伝統的見解>
単なる取締規定:違反しても無効とならない。
取締規定
強行規定(効力規定):違反すると私法上の契約の効力も無効となる(91)。
*
強行規定(効力規定)か否かは、規定の趣旨から判断する
<最近の有力説>
公序良俗違反行為:私法上も無効となる(90)
取締規定違反行為
その他の行為:私法上は無効とならない
*
公序良俗違反か否かは、違反が軽微であるか、当事者は違法であることを認識していたか、
取引の安全は害されるか、取締規定の目的は達せられるか、などの具体的事情を考慮して柔軟
に判断される
第1節
◆
客観的有効要件/103
最判昭 35.3.18/百選Ⅰ〔16〕
「同法(食品衛生法)は単なる取締法規にすぎないもの‥であるから、被告が食肉販売業の
許可を受けていないとしても、右法律により本件取引(売買契約)の効力が否定される理由は
ない。」
◆ 最判昭 39.1.23
食品衛生法で禁止されている有毒物質の混入したあられを販売した事案で、単に食品衛生法
に違反するだけでは無効とはならないが、本件では売買契約の両当事者が違法であることを知
りながらあえて一般大衆の購買ルートに乗せたという点をとらえて、その反社会性から公序良
俗違反で無効とした。
3
脱法行為
強行法規に直接には抵触せずに、他の手段を使うことによって、その禁じている内容を実質的に
達成しようとすること。
実質的な強行法規違反であり、原則として無効であるが、社会的・経済的必要性が高いという事
情があれば有効となる。
五
ex.譲渡担保
社会的妥当性
契約の内容が、社会的妥当性を欠く(公序良俗に反する)場合、たとえこれを直接禁止する規定
がなくても、このような契約は無効となる(90)。
1
公序良俗違反の行為の類型
⑴
人倫に反する行為(社会的公序違反行為)
基本的な倫理観念に反する行為は、人倫に反する行為として無効となる。
⒜
家族的秩序違反
ex.妾契約、母と子が同居しないとする父子間の契約
◆
最判昭 61.11.20/百選Ⅰ〔13〕
法律上の妻のいる男性が、法律婚が完全には破綻していないが妻と別居状態にある間に、
いわば半同棲中の不倫関係にある女性に対してなした遺産の3分の1の包括遺贈も、不倫
関係が遺言により濃密になったわけでもなく、相続人の生活を脅かすような遺贈でもない
こと等の諸般の事情を考慮して、有効とした。
104/第4編 権利移転型契約1:売買
⒝
第4章
売買契約の有効要件
犯罪行為に関する行為
ex.犯罪の対価として金を与える契約
◆
最判平 23.12.16/H24 重判〔1〕
請負人が、注文者に対して、建築基準法等に違反した建物の建築を目的とする請負契約
に基づく報酬の支払いを求めた事案において、最高裁は、①確認済証等を詐取して違法建
物の建築を実現するという計画は極めて悪質であるところ、請負人はその依頼を拒絶でき
たのにあえて了承したこと、②本件違法建物は耐火構造に関する規制違反など居住者や近
隣住民の生命、身体等の安全に関わる違法を有すること、③本件建物の違法の中には一た
び建物が完成してしまえばその是正が相当困難なものが含まれていることに照らすと、本
件建物の建築は著しく反社会性の強い行為であるとし、本件請負契約は公序良俗に反し無
効であるとした。
⒞
人格的利益を侵害する行為
ex.芸娼妓契約、共同絶交
⑵
経済・取引秩序に反する行為(経済的公序違反行為)
⇒発展
近時、不公正な取引や市場を不健全にする行為を念頭に、市場の秩序という意味での経済的
公序という概念を提唱する見解が有力である。この場合には、契約の一部無効や相対的無効な
ど柔軟な救済が認められるべきとされる。
⒜
暴利行為
他人の窮状に乗じて、著しく高利の金銭消費貸借契約を結ぶ場合などがこれにあたる。
債権法改正の基本方針~公序良俗規定の具体化
【1.5.02】(公序良俗)
<1> 略
<2> 当事者の困窮、従属もしくは抑圧状態、または思慮、経験もしくは知識の不足等を利用して、その
者の権利を害し、または不当な利益を取得することを内容とする法律行為は、無効とする。
⒝
著しく不公正な取引方法
霊感商法・原野商法など、契約内容のみならず、契約締結にいたる勧誘行為まで含めて、
全体として公序良俗に反すると評価がされる場合がある。
不公正な内容の契約条項を無効とする規定として、消費者契約法8条から 10 条がある。
⑶
憲法的価値・公共的政策に違反する行為
憲法や公法的規定によって定められた価値や政策をどのように私法の領域に実現するかとい
う問題が、最近論じられている。
⒜
憲法的価値と抵触する行為
ex.男女で異なる定年退職年齢を定める就業規則は、不合理な差別として(憲 14 参照)、
公序良俗に反する(最判昭 56.3.24)
第1節
⒝
客観的有効要件/105
取締規定違反
判例は、取締法規違反そのものを根拠として違反行為を無効とし(91 参照)、特段の事情
があって取締法規違反だけでは無効にできないような場合は、90 条を援用する。
これに対して、学説上は、私法上無効となるか否かは、取締規定違反か効力規定違反かで
はなく、公序良俗違反(90)といえるか否かによって決すべきとする見解が有力である。
2
動機が不法な契約(動機の不法)
⇒発展
<問題の所在>
契約内容自体には公序良俗違反はないが、その契約を締結するに至った動機に不法(公序良
俗違反)がある場合に、契約の効力に影響するか。
例えば、賭博資金に充てるために借金をした場合、契約自体は通常の金銭消費貸借契約であ
るが、その動機が公序良俗に違反するものといえる。そこで、このような消費貸借契約が無効
となるかが問題となる。
<考え方のすじ道>~総合判断説
公序良俗に反するものは無効にすべきであるという要請と不法動機を知らなかった相手方また
は第三者は保護されるべきという取引の安全の要請の調和を図る必要がある
↓そこで
動機の違法性の程度、動機と法律行為の牽連性の程度、取引の安全等の総合判断により、不
法動機による法律行為が無効になるかを決すべきである
<アドヴァンス>
⑴
表示無効説(我妻)
動機が法律行為の内容として明示または黙示に表示された限りにおいて、当該法律行為を
無効とする。
⑵
相手方悪意・有過失無効説(川島)
動機は法律行為の効果意思そのものではないが、相手方が動機の不法を知りまたは知り得
べき場合には、当該法律行為は不法性を帯びる。
⑶
総合判断説(舟橋、幾代、四宮)
動機の違法性の程度、動機と法律行為の牽連性の程度、取引の安全等の総合判断により、
不法動機による法律行為が無効になるかを決すべきである。
⑷
相対的無効説(谷口)
不法な企図を実現するための法律行為は常に無効となるが、善意・無過失の相手方に対し
ては無効を主張し得ない。
◆
大判昭 13.3.30/百選Ⅰ〔15〕
賭博後の弁済の資金のための貸金は、賭博のための資金としての貸金と同様に公序良俗違
反の法律行為であって、賭博の前であるか後であるかは、結論を左右しない。
106/第4編 権利移転型契約1:売買
◆
第4章
売買契約の有効要件
最判昭 29.8.31/百選Ⅱ[第5版]〔73〕
事案:
密輸資金の融資を甲から強く要請された乙がやむを得ず融資したという事情の下
で乙から甲に貸金返還請求がされた事案。
判旨:
本件請求は不法動機のために既に交付された金銭の返還請求であり、何ら不法目
的を実現せんとするものではないことを強調した上で、甲からの強い要請によって、
密輸による利益の分配も損失の分担もなく金銭を貸した乙の不法性は甲のそれと比
べて極めて微弱であるとして本件消費貸借契約に 90 条の適用はないとした。
*
この判例は、両当事者が不法動機を認識している場合でも、種々の事情を総合して公序
良俗違反にならないとしたものである。
3
公序良俗違反の判断時期
◆
最判平 15.4.18/百選Ⅰ〔14〕
事案:
X鉄鋼専門商社は、Y証券会社に対し、30 億円の資金を年8%の利回りで運用するこ
との了承をえた。そして、A信託銀行との間で、昭和 60 年6月 14 日に、委託者兼受益者
をX、受託者をA信託銀行、株式等により資金運用することを内容とする特定金銭信託契
約(本件特金契約)が締結された。本件特金契約に関し、信託元本 30 億円に同日から
1990 年3月 25 日までの期間の本件特金契約の運用益を加えた額から投資顧問料および信
託報酬を控除した金額が 30 億円とこれに対する同期間内の年8%の割合による金員の合
計金額に満たない場合には、YがXに対し、その差額に相当する金員を支払う旨の損失保
証契約が締結された。さらに、期間延長に伴い、追加損失保証契約も締結された。
その後、バブルがはじける中で、Xは、Yに対し、主位的に損失保証契約および追加
損失保証契約の履行として 23 億円余の支払を求め、予備的にYによる利益保証約束によ
る投資勧誘が不法行為にあたるとして 13 億円余の支払を求めて訴えを提起した。
判旨:
法律行為が公序に反することを目的とするものであるとして無効になるかどうかは、法
律行為がされた時点の公序に照らして判断すべきである。なぜなら、民事上の法律行為の
効力は、特別の規定がない限り、行為当時の法令に照らして判定すべきものであるが、こ
の理は、公序が法律行為の後に変化した場合においても同様に考えるべきであり、法律行
為の後の経緯によって公序の内容が変化した場合であっても、行為時に有効であった法律
行為が無効になったり、無効であった法律行為が有効になったりすることは相当でないか
らである。
そこで、本件損失保証契約についてこれを検討すると、本件損失保証契約が締結され
たのは、昭和 60 年6月 14 日であるが、この当時において、既に、損失保証等が証券取
引秩序において許容されない反社会性の強い行為であるとの社会的認識が存在していた
ものとみることは困難である。そうすると、本件損失保証契約が公序に反し無効である
と解することはできない。
*
もっとも、本件の主位的請求は、証券取引法 42 条の2第1項3号によって禁止されている
財産上の利益提供を求めているものであるとして、法律上、この主位的請求が許容される余
地はないとした。
第2節
主観的有効要件
第1款
主観的有効要件総説/107
第2節 主観的有効要件
第1款
主観的有効要件総説
一
はじめに
1
意義
主観的有効要件は、契約当事者の能力や意思という個人的要素に着目した有効要件である。これ
は、次の二つに整理できる。
2
①
契約当事者が一定の能力(権利能力・意思能力・行為能力)を備えていること。
②
意思表示の過程に問題がないこと。
①の場合
例えば、当事者が自然人である場合、意思能力と行為能力が必要である(権利能力は生きている
限り、当然に有する)。意思能力を欠くと、契約成立の要素である申込みや承諾の意思表示が無
効となり、契約は有効に成立しない。また、行為能力が制限されている場合には、意思表示は取
り消し得るものとなり、取消権が行使されると申込みや承諾がさかのぼって無効となる結果、契
約も効力を失うことになる。
3
②の場合
意思表示の過程に問題があるケースとして、民法が規定しているのは、心裡留保(93)、通謀虚
偽表示(94)、錯誤(95)、詐欺・強迫による意思表示(96)の四つの条文である。
このうち、93 条~95 条は、当該意思表示を行った当事者に意思が欠けている場合であり(意思
の不存在という)、いずれも効果は意思無能力と同様に無効である。これに対し、詐欺・強迫に
よる意思表示(96)は意思表示に瑕疵がある場合であり、その効果は行為能力の制限と同じく、
取り消し得る意思表示となる。
二
意思主義と表示主義
1
意義
⑴
意思主義:表意者の内心と表示とがくい違う場合に、表意者の内心の意思(内心的効果意思)
を重視するもの(その結果、表意者を保護することになる)。
⑵
表示主義:表意者の内心の意思がどうあれ、実際に表示されたもの(表示行為ないしは表示上
の効果意思)を重視するもの(その結果、相手方や第三者の方をより保護すること
になる=取引の安全に役立つ)。
108/第4編 権利移転型契約1:売買
2
第4章
売買契約の有効要件
意思主義と表示主義の調整
意思表示に問題がある場合、その意思表示をした表意者の利益を重視すれば、このような意思表
示は無効または取り消し得るものとした方がよい(意思主義の要請)
↓しかし
意思表示に問題があるといっても、その(問題のある)意思表示を、完全に有効な意思表示だと
信頼して取引に加わった人を無視してまで、常に意思表示の効力を否定してしまうのでは、これ
らの人たちに予想できない損害を与える危険がある(表示主義の要請)
↓そこで
法は、原則として有効だが例外として無効、あるいは原則として無効だが例外として有効、とい
う規定を置き、このような表意者保護の要請と相手方ないしは第三者保護の要請を調整している
*
この観点から、民法の規定を整理すると次のようになる。
<意思主義と表示主義との調整規定>
原則
第2款
一
例外
心裡留保(93)
表示主義(本文)
意思主義(ただし書)
虚偽表示(94)
意思主義(Ⅰ)
表示主義(Ⅱ)
錯
誤(95)
意思主義(本文)
表示主義(ただし書)
詐
欺(96)
意思主義(Ⅰ)
表示主義(Ⅲ)
強
迫(96)
意思主義(Ⅰ)
な
し
能力
権利能力
権利能力とは、私法上の権利・義務の帰属主体となる地位・資格をいう。
権利能力がなければ、そもそも権利を有し、義務を負うことができない。
権利能力についてはすでに詳述した。
二
意思能力
1
はじめに
意思能力とは、自己の行為の結果を弁識するに足るだけの精神能力をいう。
すなわち、自分の行為によって自分の権利義務にどのような変動が生ずるのかが理解できる程度
の能力である(法律行為によって異なるが、およそ6、7~10 歳の子供の精神能力)。
*
意思無能力とは、例えば幼年、高度の精神病、あるいは泥酔により自分の行為による権利
義務の変動の結果を理解できない場合をいう。
第2節
2
主観的有効要件
第2款
能力/109
効果
明文の規定はないが、私的自治の原則(個人意思自治の原則)から、意思能力ない者の行為は無
効とされる(判例・大判明 38.5.11/百選Ⅰ〔5〕、通説)。
→意思能力のない者が契約等の行為をしても、その者にその効果が帰属することはない
∵
意思無能力者保護のため
*
もっとも、意思無能力による無効は、表意者本人の保護を目的とする制度であることから
無効主張ができるのは意思無能力者たる表意者側のみであるという見解がある(相対的無
効)。
三
行為能力
事例
高校2年生のA(17 歳)は、初めての彼氏ができたことがきっかけで、携帯電話を持ちたいと考
えた。しかし、妻を早く亡くし、男手一人でAを育ててきた父親Bは「高校生のうちは携帯電話を
持たせない」との教育方針を有しており、Aからの懇願に対して首を縦に振ることはなかった。
どうしても携帯電話が欲しいAは、Bに無断で、携帯電話会社Cの代理店Dで契約を締結し、念
願の携帯電話を取得した。
①携帯電話の契約を後から知ったBは、AC間の携帯電話に関する契約を取り消すことができる
か。
②Aが、契約の際、自分は 20 歳であると言い、Dがそれを信じたため契約を締結したという事
情があった場合、①の結論は変わるか。
1
はじめに
⑴
行為能力
行為能力とは、自らの行為により法律行為の効果を確定的に自己に帰属させる能力をいう。
⑵
行為能力制度
⒜
意義
一般的・恒常的に能力不十分とみられる者を一定の形式的基準で画一的に定め、行為当時
に具体的に意思能力があったか否かを問わず、一律に法律行為を取り消すことができるとす
る制度。
⒝
趣旨
私的自治の原則から、意思能力を欠く者の行為は無効
↓しかし
①
意思能力がなかったことの立証は困難であるから、意思無能力であったことの立証の
困難を救済し意思無能力者の保護を図る必要があるし、
110/第4編 権利移転型契約1:売買
②
第4章
売買契約の有効要件
意思無能力の立証がされると、相手方の取引安全を害するから、意思能力のない者を
定型化することにより注意を喚起し、相手方の取引の安全を図る必要がある
③
意思能力を有する者でも、取引の複雑な利害関係や仕組みに対処する能力を有せず、
独立の経済人として取引するに適しない者も存在するから、このような者も保護する必
要がある
↓そこで
画一的な基準で決まる行為能力制度を設けた
⒞
制限行為能力者とその保護者
未成年者→親権者・未成年後見人
②
成年被後見人→成年後見人
③
被保佐人→保佐人
④
被補助人→補助人
⒟
①
効果
未成年者・成年被後見人の行為は原則として取り消すことができ(5Ⅱ、9)、被保佐人、
被補助人の行為も一定の場合には取り消すことができる(13Ⅳ、17Ⅳ)。そして、取消しの
効果は遡及的無効である(121 本文)。
→制限行為能力者は「現に利益を受けている限度」において返還すれば足りる(121 ただし
書)
→ただし、追認(122)、法定追認(125)によって確定的に有効になる。また、取消権の消
滅時効(126)もある
*
制限行為能力者が返還義務を負う「現に利益を受けている限度」(現存利益)の範囲に
ついては争いがあるが、取り消し得べき行為によって得た利益が、そのまま形を変えて残
存している場合に限りこれを返還すべきであると解するのが通説である。例えば、遊興費
などで受領した金銭を消費してしまった場合には、現存利益はないが、生活費などで消費
した場合は、それだけ自己の財産の減少を免れたのであるから、現存利益はあると解され
ている。
⑶
条文の構造
条文上、制限行為能力者として、未成年者(5Ⅰ本文)・成年被後見人(8)・被保佐人
(12)・被補助人(16)が規定されている。それぞれについて保護者の権限等についての図表を
掲載する。
第2節
主観的有効要件
第2款
能力/111
<制限行為能力者の行為の種類と保護者の権限の種類>
行為の種類
未
成
年
者
成
年
被
後
見
人
被
保
佐
人
被
補
助
人
2
特定の行為だけ単独で有効に
できる
イ 単に権利を得または義務
を免れるべき行為(5Ⅰた
だし書)
ロ 処分を許された財産の処
分(5Ⅲ)
ハ 許された営業に関する行
為(6Ⅰ)
日常生活に関する行為以外
は、単独で有効にできる行為
なし
保護者の種
類
代理権
保護者の権限の種類
同意権
追認権
取消権
親権者又は
未成年後見
人
○
(824)
○
(5Ⅰ)
○
(122)
○
(120Ⅰ)
成年後見人
○
(859)
×
○
(122)
○
(120Ⅰ)
身分上の行為は別
ex.認知(780)
特定の行為(13Ⅰ列挙事由)
だけ単独で有効にできない
保佐人
×
ただし、
876 条の4
○
(13Ⅰ)
○
(122)
○
(120Ⅰ)
特定の行為(17Ⅰ、家庭裁判
所の審査により決まる)だけ
単独で有効にできない
補助人
×
ただし、
876 条の9
○
(17Ⅰ)
○
(122)
○
(120Ⅰ)
権利能力・意思能力・行為能力の関係
権利能力とは、取引をする「市民社会」に入る資格のことである。この権利能力という会員証が
なければ、対等の個人が互いに交渉して取引を行う市民社会に入ることはできない。
そして、取引は通常契約によってなされるが、契約は相対する意思表示の合致によって成立する。
そこで、十分な意思表示ができる状態にない者は、自ら取引に参加させるべきではない。この十
分な意思表示ができる状態を意思能力がある状態という。たとえば、赤ちゃんにはその能力がな
い。
ただ、意思能力があったとしても、自分の行為の意味や、相手の出方、それが自分にとって有利
か不利かといったことがある程度判断できないと、悪賢い人に食い物にされかねず、せっかくの
財産も失ってしまいかねない。そこで、未成年者等、能力的に劣った人には、本人を保護するた
め、取引に一定の制限をする必要が生ずる。これが、行為能力の制度である。
112/第4編 権利移転型契約1:売買
第4章
売買契約の有効要件
<権利能力・意思能力・責任能力・行為能力の関係>
意義
適格
制限行為能力者の行為の効力
権利能力
私法上の権利・義務の帰属主体とな
る地位・資格
自然人・法人
権利・義務が帰属しない
意思能力
行為の結果を弁職するに足るだけの
精神能力
具体的行為ごとに
判断する
(7~10 歳程度の
能力)
無効
不法行為の面で自己の行為の責任を
弁職するに足る精神能力
具体的行為ごとに
判断する。判例上
は、意思能力より
少し高く設定され
ている(11~12 歳
程度の能力)
不法行為責任を負わない
(712、713)ただし、
714 条参照
自らの行為により法律行為の効果を
確定的に自己に帰属させる能力
未成年者・成年被
後見人・被保佐
人・被補助人につ
き制限される
(5、9、13、17)
取り消すことができる
責任能力
行為能力
第2節
3
主観的有効要件
第2款
能力/113
条文の全体像
<制限行為能力者制度に関する条文の構造>
未成年者
成年期(4)
未成年者の行為能力(5)
権利を得、義務を免れる行為(5Ⅰただし書)
例外
自由財産の処分(5Ⅲ)
営業に関する行為(6)
後見開始の審判(7)
成年被後見人の意義
行為能力
成年被後見人
審判の取消し(10、19)
後見開始(8)
後見開始の審判の効果
成年被後見人の行為能力(9)
保佐開始の審判(11)
被保佐人の意義
被保佐人
保佐開始の審判の効果
審判の取消し(14、19)
保佐人(12)
被保佐人の行為能力(13)
補助開始の審判(15)
被補助人の意義
被補助人
補助開始の審判の効果
審判の取消し(18、19)
補助人(16)
被補助人の行為能力(17)
相手方の催告権(20)
制限行為能力者の相手方の保護
詐術を用いた場合の相手方の保護(21)
114/第4編 権利移転型契約1:売買
4
第4章
売買契約の有効要件
具体例
<未成年者の契約を取り消した後の法律関係>
①
未成年者BがA店から自動車を購入した後、未成年取消しをした場合
売主
買主
A
B
店
未成年
売却
10 万
¥
Bが契約を取り消すと
不当利得
A
B
不当利得
(703、704)
②
未成年者BがC店に自動車を売却した後、未成年取消しをした場合。
売主
買主
B
C
未成年
店
売却
¥
10 万
Bが契約を取り消すと
相互に不当利得の関係
703
原
則
¥
704
10 万
3万は
消費
未成年者は自分が未成年であることを知
っているので 704 のはず
ただし、Bが制限行為能力者なので、Bは現存利益の返還で足りる
¥
7万
現存利益
121 ただし書
現存利益←生活費に使った場合には全額返還
浪費した分については返還しなくてよい
第2節
5
主観的有効要件
第2款
能力/115
保佐人の追認権・取消権
平成 11 年改正により、120 条1項により保佐人も当然に取消権、追認権を有することが明文上
明らかになった。
なお、保佐人が取消権を行使しても、保佐人には原則として代理権がないので、取消権行使の効
果から生ずる返還請求権についても保佐人に何らかの権限を認めないと意味がない。そこで、保
佐人には受領権限はないものの、保佐人は相手方に対し被保佐人本人へ返還するよう請求するこ
とができると解すべきである。
6
制限行為能力者のまとめ
平成 11 年改正によって新たに補助の制度が新設された現行法上においては、成年後見制度、保
佐の制度、補助の制度の三つの制度が、対象者の精神能力の度合いに応じて使い分けられている。
<制限行為能力者の精神能力の程度による分類>
*
7
精神上の障害により事理
を弁識する能力を欠く常
況にある者
精神上の障害により事理
を弁識する能力が著しく
不十分なる者
精神上の障害により
事理を弁識する能力
が不十分なる者
成年被後見人
被保佐人
被補助人
日常生活に関する行為以
外、単独では有効な行為
ができない
13Ⅰ列挙事由以外は
単独で有効な行為が
できる
家庭裁判所が定めた行為
以外は、単独で有効な行
為ができる
11 条ただし書、15 条1項ただし書、19 条は、これらの制度が重複しないことを確認している。
制限行為能力者の相手方の保護の制度
①
取消権の短期消滅時効(126)
②
法定追認(125)
③
相手方の催告権(20)
④
制限行為能力者の詐術(21)
◆
⇒発展
最判昭 44.2.13/百選Ⅰ〔6〕
「無能力者であることを黙秘していた場合でも、それが、無能力者の他の言動などと相俟
って、相手方を誤信させ、または誤信を強めたものと認められるときは、なお詐術に当たる
というべきであるが、単に無能力者であることを黙秘していたことの一事をもって、右にい
う詐術に当たるとするのは相当でない」とした。
116/第4編 権利移転型契約1:売買
8
第4章
売買契約の有効要件
行為能力制度(定型化)のメリット・デメリット
⑴
メリット
①
制限行為能力者の定型化により、後見登記等(後見登記等に関する法律によって創設)に
より制限行為能力者か否かが分かるので、取引安全が図られる。
②
制限行為能力者自身も、行為能力が制限されていることをいちいち立証する必要がないの
で、便利である。
⑵
デメリット
通常の大人なみの判断能力をもった 18、19 歳の青年が、取引の主体としての資格を認められ
ず、経済活動が制約される。
従来、生活必需品契約(衣類を買ったり、食料を買ったり、医者にかかったりという契約)
や電気の利用・自動販売機への硬貨の投入・バスへの乗車といった大量かつ定型的な契約につ
いては、成年被後見人等でも確定的に有効な契約ができると解すべきだとする主張がなされて
いたが、この点は9条ただし書で解決された。
四
不在者の財産管理
五
失踪の宣告
第3款
⇒発展
⇒発展
意思表示
一
心裡留保
1
はじめに
心裡留保とは、表意者が表示行為に対応する真意のないことを知りながらする、単独の意思表示
をいう。
ex.全くその気はないのに冗談で「車をあげるよ」と言った場合。
2
要件(我妻・Ⅰ・287 頁)
①
意思表示の存すること。
②
表示上の効果意思に対応する内心の効果意思が存在しないこと。
③
表意者が②のことを知っていること。
*
表意者がこれをした理由は関係ない。
第2節
3
主観的有効要件
第3款
意思表示/117
効果
⑴
原則:有効(93 本文)。
⑵
例外:相手方が行為の当時、悪意または有過失のときは無効(93 ただし書)。
∵
相手方保護の必要性がないから。
ex.「車をあげるよ」といわれた者(相手方)が、冗談だと知っていた場合や、普通に考え
れば冗談だと知ることができた場合。
*
なお、悪意または有過失の立証責任は、無効を主張する側(真意とは異なる意思表示を行
った側)にある。
債権法改正の基本方針~心裡留保
【1.5.11】(心裡留保)
<1> 表意者がその真意ではないことを知って意思表示をした場合は、次のいずれかに該当するときに
限り、その意思表示は無効とする。
<ア> その真意ではないことを相手方が知っていたとき。
<イ> その真意ではないことを相手方が知ることができたとき。ただし、表意者が真意を有するもの
と相手方に誤信させるため、表意者がその真意ではないことを秘匿したときは、この限りでな
い。
<2> 略
4
適用範囲
⑴
相手方のない意思表示
ex.認知の届出
→適用される(相手方がいないのでただし書の適用はなく、意思表示は常に有効となる)
⑵
身分上の法律行為
ex.養子縁組(最判昭 23.2.23)
→適用されない(742①、802①参照)
∵
当事者の真意に基づくことが必要だから。
→真意がなければ婚姻の意思表示をしても無効
⑶
団体的行為
ex.株式申込み
→適用されない
∵
5
画一的効力を認める必要があるから常に有効と解すべき。
転得者の保護
⇒二
6
虚偽表示
「11
94 条2項の類推適用」(p.128)
代理との関係(93 条類推適用)
⇒第5章
「三
売買契約の効果帰属要件(代理)
第2節
代理人と相手方の通謀虚偽表示」(p.178)
代理行為
第3款
代理行為の瑕疵
118/第4編 権利移転型契約1:売買
二
第4章
売買契約の有効要件
虚偽表示
事例
お笑い芸人の乙は、バラエティ番組で、「大物芸能人お宅訪問」という企画に参加した。その
中で、大物芸能人・甲から出演者へ豪華プレゼントを提供するというコーナーがあり、乙に対し
て、甲が有する土地(本件土地)を破格の値段で譲るという演出がなされた。その際、テレビの
視聴者に向けて現実味を出すために、売買契約書を作成し、登記名義も乙へ移したことを示す登
記事項証明書を添えて放映した。
甲及び乙は、放送中に本件土地を 100 万円で売買する合意をしたが、テレビでの演出であるこ
とから、真実は本件土地についての売買をするつもりなどはなかった。しかし、撮影が深夜にま
で及んだことから、売買契約書を破棄したり、登記名義を甲に戻したりする手続をとることがで
きなかった。乙は、後日、登記を甲に戻すつもりでいたが、大物芸能人である甲のことを妬まし
く思うとともに、自己の生活資金に窮していたこともあって、登記名義を甲に戻さないままでい
た。そこで、甲は、乙に対して、本件土地の登記名義を甲に戻すように求めたが、乙は一切返答
しなかった。
この場合、甲は、甲・乙間の上記売買契約について真実は売却する意図がなかったのであるか
ら、通謀虚偽表示(94Ⅰ)にあたるとして、本件売買契約の無効を主張し、登記名義を甲に戻す
よう求めることができるか。
94Ⅰ
甲
1
ト
○
乙
はじめに
相手方と通謀してする真意でない意思表示を虚偽表示という。
→このような意思表示は無効とされる(94Ⅰ)
2
虚偽表示の要件
①
意思表示の存すること。
→第三者からみて意思表示たる価値ある外形が作られることが必要である
3
②
表示上の効果意思に対応する内心の効果意思が存在しないこと。
③
表意者が②のことを知っていること。
④
真意と異なる表示をすることについて相手方と通謀すること。
効果
⑴
原則
虚偽の意思表示は、当事者間では無効である(94Ⅰ)。
∵
当事者双方が表示どおりの法律効果を発生させないことを合意している以上、これに法律
効果を発生させる意味はないから。
第2節
⑵
主観的有効要件
第3款
意思表示/119
例外
善意の第三者に対しては、その意思表示の無効を対抗することができない(94Ⅱ)。
∵
4
表示行為の外形を信頼した第三者の利益を保護しなければならないから。
適用範囲
⑴
単独行為
⒜
相手方ある単独行為(ex.債務免除)
⒝
相手方のない単独行為(ex.遺言など)
→適用あり
→適用なし
ただし、①共有者のために、その共有者と通謀して持分を放棄した場合、②一般財団法人
設立関係者が通謀に基づいて財産出捐行為を仮装した場合には、94 条1項の規定を類推適用
して無効とするのが相当とされる(判例、四宮)。
⑵
身分行為
∵
⑶
→2項の適用なし、第三者との関係においても無効
真実の意思を尊重すべきだから(意思主義)。
要物契約
要物契約で物の交付がない場合に 94 条2項の適用があるかにつき、判例は肯定している。
5
94 条2項総説
⑴
制度趣旨
虚偽表示は無効が原則である(94Ⅰ)
↓しかし
虚偽表示も当事者以外の者からみれば有効な意思表示であるようにみえるので(外観の存
在)、このような有効な意思表示であるという外観を信頼して、取引関係に入ってきた者の信
頼を保護する必要がある
↓また
虚偽の意思表示をすることによって自ら実体の伴わない外形を作り出した権利者(外観作出
に対する本人の帰責性)はその権利を失うことになってもやむを得ない
↓そこで
94 条2項は善意の第三者(外観への第三者の信頼)に虚偽表示の無効を対抗できないことに
して、その保護を図っている
↓
例えば、AB間の売買契約が虚偽表示であることを知らない(=善意の)第三者Cが不動産
をBから買い受けたような場合には、真の所有者であるAは、AB間の売買契約の無効をCに
対抗することはできず(94Ⅱ)、結局Cが不動産の所有権を取得できる
*
このように、外観の存在・本人の帰責性・第三者の信頼の三つを要件として取引の安全を
図る制度のことを一般に表見法理あるいは権利外観法理と呼ぶ。
→94 条2項以外にも民法(110、478 等)、商法(商法 14)、会社法(会社 13、同 354 等)な
どにおいて、このような表見法理の一環である規定が置かれ、取引の安全が図られている
120/第4編 権利移転型契約1:売買
⑵
第4章
売買契約の有効要件
「善意の第三者」の解釈に関する論点
表意者保護と「善意の第三者」保護(取引の安全)との調整をいかに図るべきかという視点か
ら、以下の点が問題となる。
①
⒜
「第三者」の意義・具体例
⒝
転得者
②
6
「第三者」について
イ
転得者は「第三者」(94Ⅱ)に含まれるか。
ロ
善意の第三者からの悪意の転得者。
「善意」とは
⇒p.124
⒜
無過失の要否。
⒝
登記(対抗要件、権利保護要件)の要否。
「善意の第三者」(94Ⅱ)の意義
⑴
「第三者」の意義
「第三者」とは、虚偽表示の当事者およびその包括承継人以外の者であって、虚偽表示に基づ
いて新たにその当事者から独立した利益を有する法律関係に入ったために、虚偽表示の有効・
無効につき法律上の利害関係を有するに至った者(=「新たな」・「独立の」・「法律上の」
利害関係人)をいう。
⑵
具体例(典型的なもの)
①
虚偽表示による譲受人から更に目的物を譲り受けた者→「第三者」に含まれる
<94 条2項の第三者-転得者>
94Ⅰ
A
B
返還請求
転得者
C
94Ⅱ
所有権
第2節
②
主観的有効要件
第3款
意思表示/121
虚偽表示による譲受人から抵当権の設定を受けた抵当権者→「第三者」に含まれる
<94 条2項の第三者-抵当権者>
94Ⅰ
A
銀行
C
B
抵当権
cf.代理人や法人の代表者が虚偽表示をした場合の本人や法人→「第三者」に含まれない
∵ 新たな利害関係人ではないから。
<94 条2項の第三者-代理人の相手方>
本人
A
94Ⅱ
代理人と相手方の通謀虚偽表示
代理人B
③
C
仮装債権の譲受人→「第三者」に含まれる
<94 条2項の第三者-仮装債権の譲受人>
有効な債権譲渡
(466)
仮装預金債権
A
D
94Ⅰ
Dは 94Ⅱの「第三者」
X銀行
cf.債権の仮装譲受人から取立てのため債権を譲り受けた者→「第三者」に含まれない
∵ 独立の利害関係人ではないから。
<94 条2項の第三者-債権の仮装譲受人から取立てのための債権の譲受人>
取立てのための
債権譲渡
仮装譲受け
代金債権
A
B
C
94Ⅰ
Cは「独立」の利害関係を持たない
X
122/第4編 権利移転型契約1:売買
第4章
売買契約の有効要件
<判例における 94 条2項の「第三者」の整理>
第三者にあたるとされた者
第三者にあたらないとされた者
①
不動産の仮装譲受人からさらに譲り受けた者
②
仮装譲受人の不動産につき抵当権の設定を受けた者
③
仮装債権の譲受人
④
仮装譲受人から目的物を譲り受ける契約をした者
⑤
虚偽表示の目的物に対して差押えをした金銭債権者
⑥
仮装譲受人が破産した場合の破産管財人
①
一番抵当権が仮装で放棄された場合に、一番抵当権者となったと誤信した二番抵当権者
②
債権の仮装譲受人から取立てのための債権を譲り受けた者
③
債権を仮装譲渡した者が、その譲渡を無効として債務者に請求する場合の債務者
(ただし、債務者が弁済あるいは準消費貸借契約を締結した場合は該当する)
⑶
④
代理人や代表機関が虚偽表示をした場合における本人・法人
⑤
仮装譲受人の単なる債権者
⑥
仮装の「第三者のためにする契約」における第三者
⑦
土地の仮装譲受人がその土地上に建物を建築し、その建物を賃貸した場合の建物賃借人
「第三者」からの転得者
⒜
「第三者」からの転得者は「第三者」(94Ⅱ)に含まれるか
直接の第三者が悪意の場合であっても、その第三者と取引した転得者が善意であれば、94
条2項の「第三者」として保護されるのか。たとえば、仮装譲受人Bからの譲受人Cは、A
B間が仮装譲渡であることを知っていた(悪意)場合、Cから目的物を譲り受けた善意のD
は保護されるかが問題となる。
「第三者」からの転得者が、「第三者」に含まれないとすると、転得者はその前者に追奪
担保責任(561)を追及することになりかねず、法律関係が錯綜することになる。また、転得
者であっても、意思表示の外形を信頼して取引関係に入ったのであれば、保護の必要性は直
接取引した者と同じである。したがって、転得者も 94 条2項の「第三者」に含まれると解す
るべきであり(判例、通説)、Dは善意であれば保護される。
<94 条2項の第三者-悪意の第三者からの転得者>
94Ⅰ
A
B
譲渡
第三者
C
×悪意
譲渡
転得者
D
○善意
第2節
⒝
主観的有効要件
第3款
意思表示/123
善意の第三者からの悪意の転得者
<問題の所在>
仮装譲受人Bからの譲受人Cは、AB間が仮装譲渡であることを知らない(善意)が、C
から目的物を譲り受けたDが悪意の場合、かかる転得者Dは保護されるか。直接の第三者は
94 条2項の「第三者」として保護され得るが、その第三者と取引した転得者が悪意の場合、
転得者は保護されるのか問題となる。
<94 条2項の第三者-善意の第三者からの転得者>
94Ⅰ
A
B
譲渡
第三者
C
○善意
譲渡
転得者
D
×悪意
<考え方のすじ道>~判例
この点、①ひとたび善意者が現れて 94 条2項で保護されれば、あとの者はすべてその地位
を承継するものと考えられ、②法律関係の早期確定の要請を図る必要がある
↓よって
「善意の第三者」からの悪意の転得者も保護されると解する(絶対的構成)
<アドヴァンス>
イ
絶対的構成(判例、内田)
善意の権利取得者からの転得者が悪意の場合にも、有効に権利取得できる。
(理由)
①
相対的構成を採ると、悪意転得者(D)は、真の権利者(A)から追奪され、その結
果として前主たる善意者(C)が担保責任(561)を追及されることになり、善意者を保
護しようとした 94 条2項の趣旨に反する。
②
①の場合に、担保責任の追及を許さないという解釈も考えられるが、このように解す
ると悪意の転得者が全く保護されないことになり、善意者が目的物を処分することが事
実上不可能になる。
③
転得者は前主(直接の「第三者」)の地位を主張することもできると考えられる。
④
法律関係の早期確定の要請。
ロ
相対的構成
保護の有無は、財産を取り戻そうとする当の相手方がだれであるかに応じて個別的・相
対的に判断されるべきである。
(理由)
①
具体的衡平に合致する。
②
悪意者が、わら人形(善意者)を介在させて不当に保護を受けようとすることを防止
できる。
◆ 大判昭 6.10.24
絶対的構成を採り、善意の第三者からの悪意の転得者を保護した。
124/第4編 権利移転型契約1:売買
第4章
売買契約の有効要件
7 「善意の第三者」(94Ⅱ)の要件(内田・Ⅰ・54 頁、佐久間・1・122 頁、争点・65 頁)
⑴
「善意」の意義
第三者が保護されるためには、条文上「善意」である必要がある。善意とは、第三者としての
地位を取得した時に、虚偽表示の事実を知らないことをいう。
さらに、94 条2項の「善意の第三者」として保護されるためには、その善意が過失に基づか
ないものであること(無過失)や登記を備えることが必要か、が解釈上問題となる。
⑵
無過失の要否
<問題の所在>
「善意」の第三者として保護されるためには、無過失であることが必要か。
債権法改正の基本方針~虚偽表示
【1.5.12】(虚偽表示)
<1> 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
<2> <1>による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
A
94Ⅰ
<94 条2項の善意の第三者-無過失を要するか>
94Ⅱ
B
C
善意
よりCの保護になる
(無過失)
↓
Aの帰責性が強いのでこの場面
ではCの方をより保護すべき
<考え方のすじ道>~判例
第三者が保護された場合に犠牲となる原所有者は、自ら虚偽表示をしたという帰責性がある
↓とすれば
このような帰責性ある原所有者保護より、第三者保護を重視すべき
↓よって
第三者が保護されるには善意であれば足り、無過失までは要しない
<アドヴァンス>
⒜
無過失不要説(判例、我妻)
(理由)
詐欺においては自ら騙されるという落度はあるが、虚偽表示においてはさらに、自分で外形
を作出した者が外形のとおり責任を負うべき場合である。
⒝
無過失必要説(内田、幾代)
(理由)
①
94 条2項は表見法理の一態様である。権利外観規定の適用と解される他の規定では、第
三者が保護される要件として無過失を要求していることが多い(112、480 等)。
②
無過失を要求することによりきめ細やかな利益衡量ができる。
第2節
③
主観的有効要件
第3款
意思表示/125
たとえ虚偽表示であることを知らなかったとしても、それが不注意に由来するもので、実
際には信頼に値する外観がなかったような場合、そのような第三者を保護する必要はない。
◆ 大判昭 12.8.10
善意で足りると判示している。
⑶
登記の要否
第三者として保護されるためには、登記を備えることが必要かが問題となる。
下記の図に即して検討すると、Cとの関係では、AB間の売買契約は有効と扱われるから、
Cからみれば、AとCは前主・後主の関係にあり、対抗関係(177)には立たないことになる。
また、AC間に対抗関係を認めることは、善意の第三者に対して、仮装行為の無効を実質上貫
徹する結果となり、取引の安全を図ろうとする立法趣旨に反する。よって、CがAに権利を主
張するためには、対抗要件としての登記は不要と解すべきである(判例、通説)。
次に、対抗要件としての登記を不要と考える場合、権利保護要件としての登記が必要となる
かが問題となるが、94 条の適用場面の場合には、自ら虚偽の外観を作出した真の権利者の帰責
性が大きいことから、真の権利者を保護するよりも、第三者の保護を重視すべきであり、権利
保護要件としての登記も不要と解すべきである(判例、通説)。
判例・通説に対し、登記を必要と解する見解もある。この見解は、登記の動きからみると、
いったんAからBに所有権が移って再びAに戻るかのようにみえ、実質的にはBからAとCの
二重譲渡があったのと同様の関係として問題状況を理解できることを理由に、登記を必要と解
している。
A
94Ⅰ
<94 条2項の第三者-登記を要するか>
94Ⅱ
B
C
ト
○
対抗要件(177)としての意味を持つ
登記
権利保護要件としての意味を持つときがある
◆ 最判昭 44.5.27
94 条2項類推適用の場合に関してであるが、不要説に立つ旨を判示した。
8
「対抗することができない」の意味
「対抗することができない」とは、「第三者」に対して表意者側からは無効を主張できないこと
をいう。具体的には、以下の二つの意味を持つ。
①
「第三者」の側から有効と主張できるし、また、原則どおり無効と認めることもできる。す
なわち、善意の「第三者」の側から意思表示の無効を認め、自己の権利取得を否定することも
できる。
∵
94 条2項は、第三者を保護する規定であるから。
126/第4編 権利移転型契約1:売買
A
第4章
売買契約の有効要件
<94 条2項の「対抗することができない」の意味-第三者側>
94Ⅱ
B
C
94Ⅰ
CはAB間の無効を認めることもできる。
②
仮装譲渡人の債権者など他の第三者も、善意の「第三者」に無効主張できない。
<94 条2項の「対抗することができない」の意味-他の第三者>
D(Aの債権者)
A
B
94Ⅱ
C
94Ⅰ
9
虚偽表示と二重譲渡(四宮=能見・206 頁)
⑴
真の所有者が土地を譲渡した場合
<問題の所在>
AB間の虚偽表示によって、B所有であるかの外観を有しかつ登記名義もBになっている土
地が、Bから善意のCに転売された。ところが、真の所有者であるAは、同じ土地をDに譲渡
していた。このような場合、CD間にはどのような法律関係が生じるか。
<虚偽表示と二重譲渡の事例>
①
B
②
94Ⅰ
ト
○
③
A
D
C
94Ⅱ
対抗関係?
<考え方のすじ道>~判例・通説
本来、AB間の譲渡は無効であり(94Ⅰ)、Cは無権利者Bからの譲受人である
↓しかし
Cは善意の「第三者」なので、94 条2項によりCとの関係ではAB間の譲渡は有効とされる
→この場合にCとDの優先関係をいかに決すべきか
↓この点
94 条2項が適用される結果、所有権はAからCが直接に取得するのであり、A→B→Cと移
転したことになるわけではないから、AからCDへと二重譲渡されたことになり、CDは対
抗関係に立つ
第2節
主観的有効要件
第3款
意思表示/127
↓よって
Aを起点としてCとDとに二重譲渡があった場合と同じように、両者を対抗関係とみて、そ
の登記の先後によると解すべきである
<アドヴァンス>
⒜
CDは対抗関係に立つとする見解(判例、通説)
(理由)
94 条2項が適用される結果、所有権はAからCが直接に取得するのであり、A→B→Cと
移転したことになるわけではないから(法定承継取得説)、AからCDへと二重譲渡された
ことになり、CDは対抗関係に立つ。
⒝
CはDに対し対抗要件なしに所有権を主張できるとする見解(高森、四宮)
(理由)
①
94 条2項が適用される結果、AB間の仮装譲渡は有効であったものとして扱われ、所
有権はA→B→Cと移転したことになるから(順次取得説)、AからBDへ二重譲渡さ
れたことになる。そして、Bに登記がある以上、DはBに優先されるから、Bからの譲
受人Cは、Dに対し登記なくして所有権取得を対抗し得る。
②
Dは登記を持たないAから譲り受けた者だから保護の必要性は低い。
◆ 最判昭 42.10.31
⒜説を採用している。
⑵
虚偽表示の相手方が土地を譲渡した場合
AB間の虚偽表示によってB所有のような外観を有している土地を、Bが、CとDに二重に
譲渡した場合、CD間にはどのような法律関係が生じるのか。
CとDは、ともに典型的な 94 条2項の「第三者」であり、善意であれば同条で保護される。
このような場合のCD間は対抗関係といえ、その優先関係は登記の先後で決することになる。
A
①
94Ⅰ
<虚偽表示の相手方からの二重譲渡の事例>
B
②
C(善意)
ト
94Ⅱ
○
③
94Ⅱ
D
(善意)
対抗関係
128/第4編 権利移転型契約1:売買
10
第4章
売買契約の有効要件
要物契約と 94 条2項(四宮=能見・182 頁)
要物契約にも 94 条2項は適用されるだろうか。たとえば、Aは、Bに対して仮装の貸金債務
を負い、その旨の契約書を作成したが、金銭の授受はなされていない場合、Bから右債権を譲
り受けたCは、94 条2項により保護されるだろうか。消費貸借契約は要物契約であるから、目
的物の交付を欠く場合には契約は不成立であり(587)、契約の有効性についての規定である 94
条2項によってはも瑕疵は治癒されないのではないかが問題となる。
しかし、94 条2項は、外形に対する信頼を保護するという外観法理の一環であり、また、第
三者を保護するために、虚偽表示によって外観を作出した者が債務その他の負担を負うことに
なってもやむを得ない。そして、要物契約における目的物の交付を欠く場合であっても、契約
成立を信じさせる外形が存在する場合には、その外形を信頼した第三者を保護すべき要請にお
いては同一であるといえる。したがって、要物契約の成立を信じさせるに足る外形が存在し、
第三者がそれを信頼した場合には、94 条2項により完全な要物契約と同様の効力が認められる
と解すべきである。
よって、要物契約にも 94 条2項は適用され、瑕疵は治癒される。
◆ 大判昭 8.9.18
消費貸借契約について、肯定説を採用した。
また、質権設定についても、同様の見解を採用している(大判昭 6.6.9)。
11
94 条2項類推適用(内田・Ⅰ・60 頁、佐久間・1・131 頁)
⑴
⇒発展
はじめに
94 条2項は、権利外観法理の現れとみられるために、本来の虚偽表示の事案以外でも、権利
外観法理を適用すべきだと考えられる場面でしばしば類推適用される。そして、類推適用が問
題となるのは、主に以下の3つである。
⑵
①
本来の意味での通謀虚偽表示が存在しない場合
②
93 条ただし書によって無効となる場合の転得者
③
取消しやこれに準ずる無効の場合
本来の意味での通謀虚偽表示が存在しない場合
<問題の所在>
Aは税金対策として、自己所有の建物を息子のB名義で保存登記し放置しておいたところ、
Bが勝手にこれをCに処分してしまった。
この場合、Cは無権利者であるBから土地を譲り受けた者にすぎないし、また登記に公信力
はないから(192 条参照)、所有権を取得し得ないはずである。しかし、登記を信頼して取引を
した善意のCの犠牲の下に、自ら不実の登記を作出したAを保護するのは不当である。そこで、
Cを保護するための法律構成が問題となる。
第2節
主観的有効要件
第3款
〔Ⅰ〕
<94 条2項類推適用-通謀虚偽表示が不存在の事例>
売買契約
A
B
C(善意)
94Ⅱにより保護
通謀虚偽表示 (B名義
の登記)
〔Ⅱ〕
A
B
(B名義
の登記)
通謀
虚偽表示なし
C(善意)
意思表示/129
いかに保護するか
<考え方のすじ道>~判例
確かに、AB間には「通謀」も「虚偽の意思表示」もなく、94 条2項を直接適用できない
↓しかし
Aに所有権を失ってもやむを得ない事情があれば、B名義の登記を見てB所有と信じたCを
保護すべき(価値判断)
↓そもそも
94 条2項の趣旨は、虚偽の外観がある場合にこれを作出した帰責性ある表意者の犠牲の下に、
外観を信頼した善意の第三者を保護するもの(権利外観法理の現れ)
↓とすれば
①虚偽の外観の存在、②真の権利者の帰責性、③外観への信頼がある場合は、同条項を類推
適用して第三者を保護すべき
↓この点(あてはめ)
本件でも、①「不実の登記」という虚偽の外観が、②真の権利者たるAによって作出され
(権利者の帰責性)ており、①、②の要件は満たす
↓よって
③の要件を満たす場合、94 条2項の類推適用によりCは保護される
(通謀がないこと、「不実の登記」は意思表示ではないこと、の2点につき類推となる)
↓
Cの主観的要件の論点・登記の要否の論点
<アドヴァンス>
①通謀がない場合や、②仮装登記がされた場合(意思表示がない場合)で、94 条2項を直接
適用できないときには、94 条2項の類推適用が問題になる。
⒜
権利者Aが、Bの承諾を得ずに不実の登記を作出したところ、Bが勝手にCに処分した場
合(意思外形対応型‐外形自己作出型)
→94 条2項の類推適用を肯定
(理由)
130/第4編 権利移転型契約1:売買
①
第4章
売買契約の有効要件
この問題の焦点は、不実の登記を作出した権利者と、不実の登記を信頼し、その不動
産につき法律上の利害関係を持つに至った善意の第三者とのいずれを保護すべきか、と
いう点にある。それならば、Aの意思に基づき作出された外形を信頼した第三者の保護
について、名義人の承諾の有無によって差異を設けるべきではない。
②
94 条2項は、権利外観理論ないし禁反言法理を実定法上に具現したものであるとの見
地からすると、名義人の関与は本条の適用の要件ではない。
◆ 最判昭 41.3.18
Aが建物を新築し、B名義で保存登記をしたところ、Bが無断でCに処分したという事
案で、94 条2項を類推適用し、善意(無過失不要)の第三者を保護した。
⒝
他人が不実の登記を作出したが、真実の権利者が、他人名義の登記の存在を知っても、こ
れを明示、黙示に承認していた場合(意思外形対応型‐外形他人作出型)
→黙示の承認によっても 94 条2項の類推適用を肯定し得る
(理由)
①
権利関係を公示するところに不動産登記の機能があり、公示制度の理想は、実体を正
確に反映するところにある。そうであるとすると、権利者の名義が実体と異なる仮装登
記の存在は、登記制度の理想に反するし、そこから生じる問題も大きい。
②
登記を公示方法とする以上、実体関係と登記を一致させ得るのに、それをほしいまま
に放置するところに責任を認めるべきである。
◆
最判昭 45.9.22/百選Ⅰ〔21〕
事案:
Xは、本件土地建物をAより買受け所有権移転登記を経由したが、当時情交関係
にあったBがその後無断で実印等を持ち出し自己に所有権移転登記手続をした(昭
和 28 年6月4日、XからBに対する売買による所有権移転登記が為されたことは、
当事者間に争いがない)。かかる事実についてXはその直後に知ったので、BはX
に謝罪するとともに登記名義をXに回復することを約し、翌6月5日、Xと同道し
て司法書士を訪ね、登記名義人の変更方を依頼したが、そのためには諸費用として
合計約2万 8000 円を必要とすることが分かり、当時その捻出が困難であったので将
来適当の機会を見てこれを実行することとした。その後、昭和 31 年6月頃からはX
とBが同棲するようになり、さらにはBとXは婚姻したこともあり、登記は回復さ
れなかった。また、XがC銀行から金銭の借入れをする際には、B名義のまま根抵
当権設定登記が為された。
その後Bは自己名義の部分についてYに売却し、所有権移転登記手続をした。こ
のためXはYに対して所有権移転登記抹消登記手続訴訟を提起した。
第2節
判旨:
主観的有効要件
第3款
意思表示/131
およそ、不動産の所有者が、真実その所有権を移転する意思がないのに、他人と
通謀してその者に対する虚構の所有権移転登記を経由したときは、右所有者は、民
法 94 条2項により、登記名義人に右不動産の所有権を移転していないことをもって
善意の第三者に対抗することをえないが、不実の所有権移転登記の経由が所有者の
不知の間に他人の専断によってされた場合でも、所有者が右不実の登記のされてい
ることを知りながら、これを存続せしめることを明示または黙示に承認していたと
きは、右 94 条2項を類推適用し、所有者は、前記の場合と同じく、その後当該不動
産について法律上利害関係を有するに至った善意の第三者に対して、登記名義人が
所有権を取得していないことをもって対抗することを得ないものと解するのが相当
である。けだし、不実の登記が真実の所有者の承認の下に存続せしめられている以
上、右承認が登記経由の事前に与えられたか事後に与えられたかによって、登記に
よる所有権帰属の外形に信頼した第三者の保護に差等を設けるべき理由はないから
である。
Xは、その所有する土地につき昭和 28 年6月4日にBがXの実印等を冒用してX
からBに対する不実の所有権移転登記を経由した事実をその直後に知りながら、経
費の都合からその抹消登記手続を見送り、その後昭和 29 年7月 30 日にBとの間の
婚姻の届出をし、夫婦として同居するようになった関係もあって、右不実の登記を
抹消することなく年月を経過し、昭和 31 年 11 月 12 日にXが株式会社C銀行との間
で右土地を担保に供して貸付契約を締結した際も、Bの所有名義のままでCに対す
る根抵当権設定登記を経由したというのであるから、XからBに対する所有権移転
登記は、実体関係に符合しない不実の登記であるとはいえ、所有者たるXの承認の
下に存続せしめられていたものということができる。してみれば、昭和 32 年9月に
右土地を登記簿上の所有名義人たるBから買い受けたものと認められているYが、
その買受けにあたり、右土地がBの所有に属しないことを知らなかったとすれば、
Xは、前叙のとおり、民法 94 条2項の類推適用により、右土地の所有権がBに移転
していないことをもってYに対抗することをえず、Yの所有権取得が認められなけ
ればならない。
⒞
真実の権利者甲の意思に基づいて第一の外形が作られた後、名義人乙の責任行為により第
二の外形が作られ、その外形に基づいて乙が処分したが、第二の外観を作出することについ
ては甲の承諾がないケース(意思外形非対応型‐法意併用型)
甲
<94 条2項の類推適用-意思外形非対応型‐法意併用型>
乙
丙
甲は乙名義の仮登記にしておいた(甲の帰責性)
↓
乙が勝手に本登記に変更
↓
その上で乙が丙に売却 → 丙は善意無過失まで必要
◆ 最判昭 43.10.17
94 条2項、110 条の法意に照らし、外観尊重および取引保護の要請に応ずるために、善意
無過失の第三者を保護すべきであると判示した。
132/第4編 権利移転型契約1:売買
*
第4章
売買契約の有効要件
「第三者」の主観的要件
判例は、他の類推適用場面と、この意思外形非対応型の場合とで取扱いを異にする。すな
わち、意思外形非対応型の場合には、94 条2項と 110 条を併用し、「第三者」の主観的要
件として、善意無過失を要求している。
(理由)
94 条2項適用場面や他の類推適用場面では権利者の帰責事由が大きいので、第三者の
信頼が無過失に基づく必要がない。これに対し、意思外形非対応型の場合は、真の権利者
の承認した外形以上の権利を第三者が取得するので、第三者の無過失を要求することによ
り、権利者の利益保護を図る必要がある。
⒟
真実の権利者甲の積極的な関与はないが、その不注意により虚偽の外観が作出された場合
(意思外形非対応型‐類推適用型)
甲
◆
<94 条2項の類推適用-意思外形非対応型‐類推適用型>
乙
丙
甲は言われるがままに登記済証を渡すなどした(甲の帰責性)
↓
乙が勝手に自己名義に登記を移転
↓
その上で乙が丙に売却 → 丙は善意無過失まで必要
最判平 18.2.23/百選Ⅰ〔22〕
Y1 が本件不動産の登記済証、Xの印鑑登録証明書等を用いて虚偽の不動産登記を備え、X
所有の不動産をY2 へ譲渡した事案について、「Y1 が本件登記手続きをすることができたの
は、Xの余りにも不注意な行為によるものであり、Y1 によって虚偽の外観(不実の登記)が
作出されたことについてのXの帰責性の程度は、自ら外観の作出に積極的に関与した場合や
これを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重いものというべきである。そして、
Y2 はY1 が所有者であるとの外観を信じ、また、そのように信じることについて過失がなか
った」から、Xは、Y1 が本件不動産の所有権を取得していないことをY2 に対し主張するこ
とができない、とした。民法 94 条2項、110 条の類推適用を根拠とした。
⒠
過小な外形に対する信頼(消極的外観信頼)を保護するもの
→まれなケースであるが、94 条2項が類推適用された事案がある
◆
最判昭 45.11.19/百選Ⅰ[第5版]〔23〕
甲から乙に所有権が移転された際、甲・乙の依頼した司法書士の過誤で抵当権の設定の外形
が生じた。その外形を信頼して丙が甲から所有権を譲り受けたという事案で、判例は、乙が抵
当権者であるかのような虚偽の外観は乙の意思に基づくものであるとし(司法書士は乙の手
足)、前掲最高裁昭和 43 年判決を引用して、乙は、善意無過失の丙に対して抵当権者ではな
いということを主張し得ないと判示した。
第2節
*
主観的有効要件
第3款
意思表示/133
本件の事案では、意思外形非対応型の解決に準じて、第三者に善意無過失を要求してい
る。それは、以下の理由によるものと考えられる。すなわち、本件の真実の権利者(所有
者)乙は、所有権保全の仮登記のための書類であると思って書類に捺印し、司法書士に手
続を依頼している。つまり、抵当権設定の登記という外観の作出は、真実の権利者が意図
したものではない。そこで、真実の権利者の帰責性が弱いと考えられることとの均衡上、
第三者保護のための要件を加重したのである。
⑶
93 条と転得者
心裡留保による意思表示の直接の相手方が悪意(または有過失)であったために意思表示
が無効となった場合(93 ただし書)、転得者(第三者)は全く保護されないのだろうか。93
条は、第三者との関係について、何ら規定していないことから問題になる。
心裡留保による意思表示の相手方が悪意(または有過失)の場合に、意思表示を無効とし
た(93 ただし書)のは、このような相手方が保護に値しないからである。
しかし、心裡留保の事情を知らない転得者が登場した場合には、この者を保護する必要性
がある。そもそも、心裡留保において相手方が悪意・有過失のため意思表示が無効とされる
場合は、通謀虚偽表示の場合と社会的な事実としてはほとんど同じであり、また、外観法理
という趣旨からいっても、94 条2項の類推の基礎がある。
よって、善意の転得者を 94 条2項の類推適用により保護するべきである。
主観的要件の論点・登記の要否の論点
⇒「7
「善意の第三者」(94Ⅱ)の要件」
(p.124)
<94 条2項の類推適用-93 条ただし書の事例>
通謀虚偽表示
①
A
B
94Ⅰで無効
C
善意の第三者
94Ⅱで保護
心裡留保
②
A´
B´
93 ただし書で無効
悪意
C´
善意の第三者
94Ⅱ類推で保護
債権法改正の基本方針~心裡留保
【1.5.11】(心裡留保)
<1> 表意者がその真意ではないことを知って意思表示をした場合は、次のいずれかに該当するときに限り、
その意思表示は無効とする。
<ア> その真意ではないことを相手方が知っていたとき。
<イ> その真意ではないことを相手方が知ることができたとき。ただし、表意者が真意を有するものと相
手方に誤信させるため、表意者がその真意ではないことを秘匿したときは、この限りでない。
<2> <1>による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
134/第4編 権利移転型契約1:売買
三
第4章
売買契約の有効要件
錯誤
事例
会社をリストラされ、妻と離婚した甲は、慰謝料を捻出するため、家族とともに長年住んでき
たマンションを売りに出すことにし、新聞に 1000 万円で売る旨の広告を載せた。一方、宝くじ
で 1000 万円を当てた乙は、かねてからの念願だった愛人を住まわせる部屋として、甲が売りに
出した物件が最適だと考え、これを買うことにした。
いざ契約の日。甲はうつむき加減で、乙は抑えきれないハイテンションで契約に臨んだ。その
際、甲は生活の疲れからか、売買代金の欄に、「1000 万円」と書くべきところを「100 万円」と
書いてしまった。乙は、甲の書き損じに気付いていたが、これで 900 万円分を愛人との海外旅行
にあてられると思って黙っていた。
いざ物件の引渡しと代金支払の日。甲からマンションの鍵と登記済証を受け取った乙は、「契
約書には 100 万円と書いてありますよね。」と言って、100 万円だけ置いて愛人との海外旅行に
行ってしまった。
踏んだり蹴ったりの甲は、乙に契約はなかったことにしてくれと言えるか。
1
はじめに
⑴
意義
錯誤とは、表示行為から推測される意思(表示上の効果意思)と内心的効果意思とが一致し
ない意思表示であって、その一致しないことを表意者が知らないことをいう(判例、従来の通
説)。
ex.アイスクリームを買おうと思って、「ソフトクリームをください」と言ってしまった場合
⑵
趣旨
前の例のような場合、アイスクリームを買いたい表意者としては、意思表示を無効にしたい
であろう。しかし、常に無効としてしまうと、今度はソフトクリームが欲しいのだろうと思っ
た相手方に不測の損害が生じてしまい取引の安全が害される。
そこで、表示と意思の不一致に気が付いていない表意者の保護と、取引の安全との調整のた
めに、95 条が規定されている。
2
要件
⇒発展
①
法律行為の要素に「錯誤」があること(95 本文)
②
法律行為の「要素に」錯誤があること(95 本文)
③
表意者に重過失がないこと(95 ただし書)
(かつての通説=二元的構成説)。
第2節
3
主観的有効要件
第3款
意思表示/135
「錯誤」の意味(要件①について)(内田・Ⅰ・63 頁、佐久間・1・144 頁)
⑴
錯誤の分類
錯誤は、それが意思表示のどの段階に存するかによって、次のように分類される。
<錯誤の分類・態様>
動機の錯誤
狭義の動機の錯誤→意思表示に影響しない
→意思表示にとって間接的な意味しか持たないもの
(自己の領域内の出来事にすぎないから)
属性の錯誤(性状の錯誤等)
錯誤
内容の錯誤
ex.アイスクリームをソフトクリーム
と同じものだと考えていた。
表示上の錯誤
ex.誤って他の契約書に署名した。
言い間違えた。
表示行為の錯誤
*
動機の錯誤について、①主観的理由の錯誤、②属性の錯誤、③前提事情の錯誤の三つに分
ける見解もある(四宮=能見)。前提事情の錯誤とは、他に連帯保証人がいると思って保証
契約を締結したのに、実際には連帯保証人はいなかったという場合等を指す。かかる錯誤に
ついては、その事情についての錯誤が法律行為の「要素」といえるかを検討すべきとされる
(四宮=能見)。
⑵
錯誤の態様
それぞれの錯誤の態様の理念型を、具体的にみると次のように分析される。
<錯誤の態様の具体例>
動機
↓
内心的効果意思
↓
表示意思
↓
表示行為
〔動機の錯誤〕
おいしそうだ
↓
アイスクリームを
買おう
↓
「アイスクリームを
ください」と言おう
↓
「アイスクリームを
ください」
〔内容の錯誤〕
おいしそうだ
↓
アイスクリームを
買おう
↓
「ソフトクリームを
ください」と言おう
↓
「ソフトクリームを
ください」
〔表示上の錯誤〕
おいしそうだ
↓
アイスクリームを
買おう
↓
「アイスクリームを
ください」と言おう
↓
「ソフトクリームを
ください」
136/第4編 権利移転型契約1:売買
⑶
第4章
売買契約の有効要件
動機の錯誤を根拠に無効を主張し得るか
<問題の所在>
判例および従来の通説は、錯誤とは内心的効果意思と表示行為との不一致を表意者が知ら
ないことであるとしてきた。そうであるとすると、意思表示の形成過程に誤りがあるにすぎ
ない動機の錯誤は、「錯誤」に当たらないことになる。そこで、動機の錯誤により無効を主
張できる場合がないか問題となる。
債権法改正の基本方針~錯誤
【1.5.13】(錯誤)
<1> 法律行為の当事者または内容について錯誤により真意と異なる意思表示をした場合において、その錯
誤がなければ表意者がその意思表示をしなかったと考えられ、かつ、そのように考えるのが合理的であ
るときは、その意思表示は取り消すことができる。
<2> 意思表示をする際に人もしくは物の性質その他当該意思表示に係る事実を誤って認識した場合は、そ
の認識が法律行為の内容とされたときに限り、<1>の錯誤による意思表示をした場合に当たるものと
する。
<3><4> 略
《コメント》
1 項は、現民法 95 条本文を基礎にして定めているが、2 項は、現在の「動機の錯誤」を条文化している。
「人にもしくは物の性質その他当該意思表示に係る事実を誤って認識した場合」と定めているのがこの動
機の錯誤に該当する場合である。
これにより、ここで述べられている動機の錯誤に関する論点はほぼ条文により解決される。
<考え方のすじ道>~判例
動機は通常意思表示の内容ではなく、動機に錯誤があっても効果意思と表示行為に不一致はな
いから、動機の錯誤は 95 条にいう「錯誤」に当たらず、無効主張できないとも考えられる
↓しかし
一般に錯誤が問題となるのは、動機の錯誤の場面においてであり、95 条の適用の余地がないの
では、同条の趣旨、すなわち表意者保護が全うし得ない
↓もっとも
常に動機の錯誤も「錯誤」に当たるとすると、動機を知り得なかった相手方に不測の損害を与
える(取引の安全を害する)
↓そこで
表意者保護と取引安全の調和の見地から、動機が明示または黙示に表示され意思表示の内容と
なっているときには、例外的に「錯誤」に含まれる
↓よって
この場合には、「要素」、「無重過失」という 95 条の他の要件を満たせば、無効の主張がで
きると解する
第2節
主観的有効要件
第3款
意思表示/137
<アドヴァンス>
⒜
二元的構成説・動機表示説(判例、我妻)
動機に属する事由が明示または黙示に表示されれば、動機も意思表示の内容となり、動機に
関する錯誤が法律行為の要素に関するときは無効となるが、表示されないときは 95 条にいう
「錯誤」に当たらない。
(理由)
①
動機の錯誤と他の錯誤との区別は、主観的・心理的なものであり、必ずしも明白ではな
いから客観的基準をたてる必要がある。
②
動機が表示されることを要求することによって、表意者本人の保護と取引の安全とを調
和させることができる。
⒝
一元的構成説(四宮、内田)
「錯誤」とは、端的に、動機も含めた真意(錯誤がなかったならば有したであろう意思)と
表示との不一致を表意者自身が知らないことをいい、動機が表示されたかどうかにかかわらず、
動機の錯誤も 95 条にいう「錯誤」に当たる。
(理由)
①
動機は、その性質上表示することとは相容れないものであるから、表示を要求して取引
の安全を図ることは適当ではない。
②
取引の安全のためには、表示行為に対する相手方の善意、信頼の有無が問題なのであっ
て、錯誤が表意者の内心における意思に関するかどうかは、どうでもよいことである。
③
判例は、動機が表示されているときには、動機の錯誤も配慮されるとするが、他の錯誤
も取引の安全を害する点では、同じであるから、動機の錯誤にだけ表示を要求し、他の錯
誤に要求しないのは、一貫しない。
④
動機の錯誤と表示行為の意味に関する錯誤とは区別が不明瞭である。
⑤
動機の錯誤が「錯誤」に当たるとしても、他の錯誤と同じように、無効主張が認められ
るためには種々の要件を必要とするのであるから、無効を認めすぎることにはならない。
*
この立場は、相手方の取引安全との調整のために、無効主張の要件として相手方の悪
意・有過失が必要であるとする。
そこで、何に対する悪意・過失が必要となるのかが問題となるが、①相手方が表意者の
錯誤について悪意または過失のある場合のみならず、②錯誤に陥っている事項が錯誤者に
とって重要であることを相手方が知りまたは知り得べきであった場合の、双方を含むもの
と解すべきであるとする。なぜなら、双方の場合とも表意者を保護すべきであるからであ
る(四宮)。
138/第4編 権利移転型契約1:売買
◆
第4章
売買契約の有効要件
最判昭 32.12.19/百選Ⅰ[第5版]〔17〕
事案:
Yは、債務者AからBも連帯保証人となったと言われて連帯保証人となったが、Bは
保証人ではなかった。その後、Aの債権者XがYに対し保証債務の履行を求めたので、
Yが、XY間の連帯保証契約は錯誤により無効であると主張した事案。
判旨:
「保証契約は、保証人と債権者との間に成立する契約であって、他に連帯保証人があ
るかどうかは、通常は保証契約をなす単なる縁由にすぎず、当然にはその保証契約の内
容となるものではない。されば、原判決説示のごとくYにおいてBも連帯保証人となる
ことを特に本件保証契約の内容とした旨の主張、立証のない本件においては」錯誤によ
り無効であるとはいえないと判示した。
*
他に保証人が存在することを契約内容としていた場合の処理
判例の見解を前提とすると、他に保証人がいることを保証契約の内容とした旨の立証があ
った場合には、動機の錯誤であっても無効主張ができることになる。もっとも、他に保証人
がいたとしても責任を負うべき範囲については錯誤はないから、責任の負うべき範囲につい
ては無効主張できないと解される。同旨の下級審判例(大阪高判平 2.6.21)もある。
⑷
主債務の不存在を知らなかった場合の保証契約の効力
◆
最判平 14.7.11/H14 重判〔1〕
事案:
Aは、空クレジット(商品の売買契約がないのに、購入する形をとること)を計画
して、信販会社Xと立替払契約を締結し、Aは、Xの立替払いによって、売主Bから
商品を購入した。この立替払契約に基づいて、YはAが負担する債務について連帯保
証契約を締結したが、Yは主債務が空クレジットによるものであることを知らなかっ
た。Yは保証契約は錯誤により無効であると主張した。
判旨:
保証契約は、特定の主債務を保証する契約であるから、主債務がいかなるものであ
るかは、保証契約の重要な内容である。そして、主債務が、商品を購入する者がその
代金の立替払いを依頼しその立替金を分割して支払う立替払債務である場合には、商
品の売買契約の成立が立替払契約の前提となるから、商品売買契約の成否は、原則と
して、保証債務の重要な内容であると解するのが相当である……本件保証契約におけ
るYの意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったというべきである。
⑸
取引にかかる課税の有無への誤解
◆
最判平元.9.14/百選Ⅰ〔24〕
事案:
離婚に伴う妻への財産分与の際に、不動産譲渡の課税が妻に課せられることを妻も
誤信しており、夫もそのことを気遣っていたが、夫に極めて高額の譲渡所得税が課せ
られることが判明した。
判旨:
「動機が黙示的に表示されているときであっても、これ(動機)が法律行為の内容
となることを妨げるものではない。」
第2節
~考えてみよう!~
主観的有効要件
第3款
意思表示/139
錯誤理論-合意主義による再構成
<アドヴァンス>で示した見解は、錯誤に関する理解に関わるものです。伝統的通説である二元論と、こ
れに対する批判から生まれた一元論に加えて、最近は合意主義の観点から錯誤を再構成しようとする見解も
有力に主張され、債権法改正の基本方針にも取り入れられていますので、ここで少し詳しく見てみましょう。
合意主義の観点から錯誤を再構成しようとする見解は、最近有力に示されていますが、問題を錯誤の枠内
とするか否かにより、二つの見解に分かれています。
⑴
新二元論
新二元論も、伝統的な二元論と同様に 95 条の「錯誤」は表示の錯誤に限られるとする見解ですが、
その理由づけにおいて異なる点があります。すなわち、第一に、表示の錯誤とは異なり、動機の錯誤の
場合には、内心的効果意思と表示意思との間に不一致がないため、意思表示を有効としても、意思に基
づく責任が課されたものであるといえます。そして、第二に、表示の錯誤は言語使用の失敗であり、こ
れは誰にでもおこりうるし、あらかじめ対処しておく方法はないといえますが、動機の錯誤は、情報不
足により誤って意思形成がなされてしまったという情報収集の失敗であって、これについては合意によ
ってそのリスクを相手方に転嫁しておくことが可能であるといえます。以上のような理由により、動機
の錯誤の場合には、意思表示は無効とならず、表意者がそれによるリスクを負担すると考えるのです。
従って、この見解にたつと、表意者が情報収集の失敗に関するリスクを相手方に転嫁するには、あら
かじめ相手方にその合意をとっておくことが必要となり、このような合意がおこなわれている場合にの
み意思表示の効力が否定されることとなります。
⑵
新一元論
新一元論は、合意主義の観点から錯誤法を一元的にとらえなおそうとする見解です。この見解は、表
示錯誤か動機錯誤かにかかわりなく、法律行為の要素に錯誤があれば、錯誤無効が認められると考えま
す。
そして、この見解によると、要素の錯誤が錯誤無効の要件とされる趣旨は、合意の拘束力にあるとさ
れます。すなわち、合意に拘束力が認められるのは、それを正当化する理由がある場合に限られるとい
う立場を前提とし、95 条により錯誤無効が認められるのは、合意の拘束力を正当化する理由が錯誤に
よって失われるからであると考えるのです。したがって、要素の錯誤とは、そうした合意の拘束力を正
当化する理由、つまり合意の原因に関する錯誤であると考えられます。
4
法律行為の「要素」の意味(要件②について)
⑴
意義
要素の錯誤とは、表意者が意思表示の内容の主要な部分とし、この点について錯誤がなければ、
①表意者は意思表示をしなかったであろうし、かつ、②意思表示をしないことが、一般取引の
通念に照らして至当と認められるものを指す(大判大 7.10.3)。
何が法律行為の要素であるかは、法律行為の構成要素、意思表示の成立過程から形式的・画一
的に決定すべきではなく、具体的行為について実質的に判定しなければならない。
⑵
趣旨
起草者が、「法律行為の要素」に錯誤がある場合だけに限った狙いは、意思と表示とのくい違
いが著しい場合にだけ意思表示が無効になるように限定することで、取引安全に配慮するため
であったとされる。
140/第4編 権利移転型契約1:売買
第4章
売買契約の有効要件
債権法改正の基本方針~錯誤
【1.5.13】(錯誤)
<1> 法律行為の当事者または内容について錯誤により真意と異なる意思表示をした場合において、その錯
誤がなければ表意者がその意思表示をしなかったと考えられ、かつ、そのように考えるのが合理的であ
るときは、その意思表示は取り消すことができる。
<2><3><4> 略
5
表意者に重過失がないこと(要件③について)
⑴
重過失の意義
表意者に重大な過失がある場合には、法律行為の要素に錯誤があっても表意者自ら無効主張を
することはできない(95 ただし書)。重過失とは、錯誤に陥ったことにつき、普通人に期待さ
れている注意を著しく欠いていることをいう。
立証責任は、その立証によって利益を受ける相手方にある。
⑵
相手方が悪意の場合
表意者が錯誤に陥っていることにつき相手方が悪意である場合には、95 条ただし書は適用さ
れない(無効主張できる)とされている(判例、通説)。この場合、相手方には保護すべき利
益が欠けるからである。相手方の詐欺によって錯誤に陥った場合はなおさらである。
<重過失ある表意者と悪意の相手方>
A
譲渡
錯誤(重過失)
Bが悪意であればAは
B 無効主張できる
債権法改正の基本方針~錯誤
【1.5.13】(錯誤)
<1><2> 略
<3> <1><2>の場合において、表意者に重大な過失があったときは、その意思表示は取り消すことが
できない。ただし、次のいずれかに該当するときは、この限りでない。
<ア> 相手方が表意者の錯誤を知っていたとき
<イ> 相手方が表意者の錯誤を知らなかったことにつき重大な過失があるとき
<ウ> 相手方が表意者の錯誤を引き起こしたとき
<エ> 相手方も表意者と同一の錯誤をしていたとき
<4> 略
第2節
6
主観的有効要件
第3款
意思表示/141
錯誤要件の整理
<錯誤の要件の論点整理>
要件
「錯誤」
法律行為の
要素に錯誤
があること
「要素」
の錯誤
表意者に重過失がない
こと
論点
判例の結論
「錯誤」の意義
内心的効果意思と意思表示の内容たる表示的効果
意思との不慮の不一致(大判大 3.12.15)
動機の錯誤が「錯誤」
に含まれるか
動機が明示または黙示に表示され意思表示の内容
となっている場合に、例外的に「錯誤」に含まれ
る(大判大 3.12.15)
「要素」の錯誤の意義
表意者が意思表示の内容の主要な部分とし、この
点について錯誤がなかったら、表意者は意思表示
をしなかったであろうし、意思表示をしないこと
が一般取引通念に照らして妥当と認められるもの
(大判大 7.10.3)
重大な過失の判断
普通の知慮を有する者の注意の程度を標準として
抽象的に判断する(大判大 6.11.8)
重大な過失の立証責任
相手方が悪意の場合
7
相手方(大判大 7.12.3)
表意者が錯誤に陥っていることにつき相手方が悪
意である場合は、95 条ただし書は適用されない
(大判大 10.6.7)
効果
⑴
錯誤の効果
錯誤に基づく意思表示は無効である。
⑵
無効を主張できる者(主張権者)
錯誤による意思表示は「無効」とされる。本来無効の主張はだれでもし得るはずだが(120
条参照)、この無効は、相手方も主張することができるか、問題とされてきた。
無効は本来だれでも主張できる(120 条参照)。客観的にみて契約などに法的効力を与える
のがふさわしくない場合(90 条参照)などに、主張できる者を限定する必要がないからであ
る。
しかし、錯誤による意思表示を無効とする趣旨は、90 条違反とは異なり表意者の保護にあ
る。そうすると、表意者に無効の主張をする意思がないにもかかわらず、相手方や第三者か
らの無効の主張を認める必要はない。したがって、原則として、表意者及びその承継人以外
の者は無効主張できないと解すべきである(判例、通説)。
ただし、例外として、債権保全の必要があり、かつ、表意者が錯誤を認めている場合、債
権者である第三者は、債権者代位権行使(423 条1項本文)の前提として無効を主張できる
(判例)。
142/第4編 権利移転型契約1:売買
⒜
第4章
売買契約の有効要件
原則
◆ 最判昭 40.6.4
表意者に重過失がある場合には、相手方も第三者も無効を主張し得ない。
◆ 最判昭 40.9.10
相手方や第三者は表意者の意思に反して無効を主張し得ない。
⒝
例外
◆
最判昭 45.3.26/百選Ⅰ[第5版]〔18〕
債権保全の必要があり、かつ表意者が錯誤を認めている場合は、債権者代位権行使の前提
として無効を主張できる。
<錯誤無効の主張権者の事例>
A
Aの錯誤無効
売却
703
B
AのBに対する 703(不当利得返還請求権)を甲が代位行使する(423)
↓
その前提として無効主張ができる
423
甲
⑶
取消権との差異
このように錯誤無効を錯誤者自身の保護につきると解し、無効主張権者を限定すると、錯誤によ
る無効は取消しに近くなる。ただし、取消権のように時効や除斥期間によって消滅することはな
い。
⇒
第4章
売買契約の有効要件
第3節
無効と取消し
「第3款
取消し」(p.159)
債権法改正の基本方針~錯誤
【1.5.13】(錯誤)
<1> 法律行為の当事者または内容について錯誤により真意と異なる意思表示をした場合において、その錯
誤がなければ表意者がその意思表示をしなかったと考えられ、かつ、そのように考えるのが合理的であ
るときは、その意思表示は取り消すことができる。
<2><3><4> 略
8
錯誤無効と第三者保護(内田・Ⅰ・85 頁)
⑴
錯誤無効主張前の第三者
<問題の所在>
A所有の甲土地につき、順次AからB、BからCと譲渡されたが、その後、AB間の売買契
約につき錯誤を理由としてAが無効を主張した。この場合、Cは無権利者からの譲受人となり、
甲土地の所有権を取得できないのが原則である。
第2節
主観的有効要件
第3款
意思表示/143
しかし、CはAB間の事情については何ら知り得ないのが通常であり、このようなCが一切
保護されないのでは、著しく取引安全を害する。そこで、このようなCを保護できるか、錯誤
無効主張前の第三者を保護すべき法律構成が問題となる。
債権法改正の基本方針~錯誤
【1.5.13】(錯誤)
<1><2><3> 略
<4> <1><2><3>による意思表示の取消しは、善意無過失の第三者に対抗することができない。
<考え方のすじ道>
錯誤無効の場合と詐欺取消しの場合とを比べてみると、自ら勘違いした場合である錯誤の場
合よりも、他人に騙された詐欺の場合の方が、表意者保護の要請は強い
↓そして
詐欺取消しの場合ですら転得者は善意であれば保護される余地がある(96Ⅲ)のであるから、
表意者保護の要請のより弱い錯誤無効の場合には、なおさら転得者保護を認めるべきである
↓また
95 条ただし書は錯誤による無効が対抗できない場合が存することを認めているから、錯誤無
効の場合にも取消しの効果を制限した 96 条3項を類推適用すべき基礎があるといえる
↓よって
錯誤無効主張前の第三者については、96 条3項の類推適用により保護すべきであると解する
<アドヴァンス>
・
96 条3項類推適用説(内田、近江)
錯誤無効主張前の第三者については、96 条3項類推適用により保護を図るべきである。
(理由)
①
仮に前の取引が詐欺で取り消されると、善意(無過失)の転得者は保護される。そして、
錯誤と詐欺を比べると、自分で勝手に勘違いした場合を想定している錯誤よりも他人に騙
された詐欺の方が表意者保護の要請が強いはずなのに、96 条3項によって、逆に、錯誤の
場合に表意者をより厚く保護することになり、アンバランスである。
②
95 条ただし書の存在によって無効が対抗できない場合の存することを承認しているとい
えるから、96 条3項を類推適用する根拠があるといえる。
③
詐欺と錯誤はともに意思表示に至る過程に瑕疵がある場合に表意者を保護するものであ
るから、同一に扱うのが合理的である。
⑵
錯誤無効主張後の第三者
錯誤無効の主張後に第三者が生じた場合については、詐欺取消後の第三者保護の場合と同様、
対抗問題として処理するか、または 94 条2項類推適用により第三者を保護することになる。
144/第4編 権利移転型契約1:売買
9
第4章
売買契約の有効要件
共通錯誤
⑴
意義
当事者双方が契約の共通の基礎について誤った表象を有し、それを前提として契約している場
合のように、当事者双方が同一の錯誤に陥っている場合。
ex.当事者双方が、安物の腕時計を有名ブランドの腕時計と誤信して、高値で売買契約を締
結した場合。
⑵
共通錯誤の問題点
⒜
表意者に重過失がある場合
共通の錯誤の場合、95 条ただし書きは適用されず、表意者に重過失がある場合にも無効主
張ができるとすべきである。
(理由)
両者が同様の錯誤に陥っていた以上、当事者の一方に重過失があったとしても、契約を
有効にして他方を保護すべき必要はない。
⒝
相手方の悪意・過失
錯誤無効主張の要件として相手方の悪意・過失を要求する見解に立っても、共通の錯誤の
場合には、この要件は常に満たされることになる。
(理由)
共通の錯誤の場合には、錯誤に陥った事項が表意者にとって重要であることを互いに知り
または知ることができるといえる。
債権法改正の基本方針~錯誤
【1.5.13】(錯誤)
<1> 法律行為の当事者または内容について錯誤により真意と異なる意思表示をした場合において、そ
の錯誤がなければ表意者がその意思表示をしなかったと考えられ、かつ、そのように考えるのが合
理的であるときは、その意思表示は取り消すことができる。
<2> 略
<3> <1><2>の場合において、表意者に重大な過失があったときは、その意思表示は取り消すこ
とができない。ただし、次のいずれかに該当するときは、この限りでない。
<ア> 相手方が表意者の錯誤を知っていたとき
<イ> 相手方が表意者の錯誤を知らなかったことにつき重大な過失があるとき
<ウ> 相手方が表意者の錯誤を引き起こしたとき
<エ> 相手方も表意者と同一の錯誤をしていたとき
<4> 略
10
他の制度との関係
⑴
錯誤無効と詐欺取消しの関係
→詐欺された場合、通常は動機の錯誤でもあることから、無効と取消しの二重効が問題となる
第2節
主観的有効要件
第3款
意思表示/145
債権法改正の基本方針~詐欺
【1.5.16】(詐欺)
<1> 詐欺により表意者が意思表示をしたときは、その意思表示は取り消すことができる。
<2> 信義誠実の原則により提供すべきであった情報を提供しないこと、またはその情報について信義
誠実の原則によりなすべきであった説明をしないことにより、故意に表意者を錯誤に陥らせ、また
は表意者の錯誤を故意に利用して、表意者に意思表示をさせたときも、<1>の詐欺による意思表
示があったものとする。
<3><4> 略
⑵
錯誤無効と瑕疵担保責任(570)の関係
⇒
第9章
「第5款
四
売買契約上の債務の履行(債権的効果その2)
第2節
債務不履行(広義)
担保責任」(p.383)
詐欺
事例
乙は、自分が所有する土地(本件土地)から 10 メートルの地点に地下鉄の駅ができ、少なくと
も現在の地価の3倍になるだろうと述べて、甲との間で、相場の倍の値段である 1000 万円で本件
土地を売却する契約を交わした。甲は、これで大儲けできるとはしゃいで、連日深夜まで飲み歩
き、テンションが上がるにまかせて、交際中の丙とも婚約した。ところが、地下鉄の駅ができると
いうのはまったくの嘘であり、乙に騙されたことが後で判明した。甲は、高級クラブからの支払請
求に加えて、丙からは「貧乏な人とは結婚したくない」と婚約の解消を迫られている。
このままでは大損してしまう甲は、乙に 1000 万円を支払わなければならないか?
1
はじめに
人を欺罔して錯誤に陥らせる行為を詐欺という。
表意者が詐欺を受けてした意思表示には、表示と内心の効果意思との不一致は存しないので、こ
れを無効とするには及ばない。しかし、他人の違法な行為によって動機付けられたという事実を
考慮して、民法はこれを取り消し得るものとしている。
2
要件
⑴
詐欺のあること
①
故意
他人をして錯誤に陥らせ、かつその錯誤によって意思を決定・表示させようとすること。
②
欺罔行為があること
人を欺くこと(沈黙も、信義則上相手方に告知する義務がある場合には欺罔行為となる)。
③
違法性
取引上要求される信義に反するものであることが必要。
⑵
詐欺による意思表示
他人の詐欺によって、表意者が錯誤に陥り、その錯誤によって意思を決定・表示したこと。
146/第4編 権利移転型契約1:売買
第4章
売買契約の有効要件
債権法改正の基本方針~詐欺
【1.5.16】(詐欺)
<1> 詐欺により表意者が意思表示をしたときは、その意思表示は取り消すことができる。
<2> 信義誠実の原則により提供すべきであった情報を提供しないこと、またはその情報について信義誠実
の原則によりなすべきであった説明をしないことにより、故意に表意者を錯誤に陥らせ、または表意者
の錯誤を故意に利用して、表意者に意思表示をさせたときも、<1>の詐欺による意思表示があったも
のとする。
<3> 略
<4> 略
《コメント》
なお、試案は詐欺による意思表示について、信義則の原則による規定を定めている。この規定も、錯誤
における「不実表示」と同じく、消費者契約法4条2項の「不利益事実の不告知」の場合を一般化こここ
に定めている。
3
第三者の詐欺(96Ⅱ)
96 条1項は、表意者に対してだれが欺罔行為をした場合かを明記していない
→では、欺罔行為が、相手方以外の「第三者」によってされた場合に、その詐欺による意思表
示を取り消すことができるか
↓例えば
AがCに騙されて、二束三文のBの山林に価値があるものと信じ、Bから高値で山林を譲り受
ける契約をした場合、Aは、AB間の契約を取り消すことができるか
↓この点
被詐欺者保護の見地からは、この場合も取り消し得るものとすべきと思える
↓しかし
常に取り消し得るものとすると取引安全を害するし、被詐欺者にも何らかの落ち度が認められ
るのが通常である
↓そこで
96 条2項は、第三者が詐欺を行った場合には、相手方がその事実を知っていたときに限り取り
消すことができるものとした
*
その他の要件・効果は、1項の場合と同じである。
<第三者の詐欺の事例>
買 主
売買契約
A
詐欺
C
第三者
売
主(相手方)
B
第2節
主観的有効要件
第3款
意思表示/147
債権法改正の基本方針~詐欺
【1.5.16】(詐欺)
<1><2> 略
<3> 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合は、次のいずれかに該当するときに限り、
その意思表示は取り消すことができる。
<ア> 当該第三者が相手方の代理人その他その行為につき相手方が責任を負うべき者であるとき。
<イ> 表意者が意思表示をする際に、当該第三者が詐欺を行ったことを相手方が知っていたとき、または
知ることができたとき。
<4> 略
4
効果
⑴
原則
詐欺による意思表示は取り消すことができる(96ⅠⅡ)。
⑵
例外
この意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない(96Ⅲ)。
∵
5
取引の安全
「善意の第三者」との関係
⑴
「善意の第三者」の意義
詐欺による意思表示の取消しは、「善意の第三者」に対抗できない(96Ⅲ)。
ここにいう「善意の第三者」とは、詐欺の事実を知らないで、詐欺による法律行為に基づいて
取得された権利について、新たな独立の法律上の利害関係に入った者をいう。
詐欺による意思表示によって、単に反射的に利益を取得した者は含まない(判例、通説)。
<96 条3項の「第三者」の具体例の整理>
売主Aを騙してAの不動産を買ったBから転得したり、抵当権の設定を受けた者
該当例
売主Aを騙してAの農地を買ったBから、農地法5条の許可を条件として所有権を取得しうる地
位を譲渡担保にとった者(最判昭 49.9.26/百選Ⅰ〔23〕)
詐欺による取得者Bの債権者のうち、①目的物を譲り受ける契約をした者、②目的物に対して差
押をした者、③Bが破産した場合の破産管財人
該当しない例
A所有の不動産にBの一番抵当権、Cの二番抵当権があり、Bが詐欺によってその一番抵当権を
放棄し(その結果、いったんはCの二番抵当権が一番抵当権に昇格する)、後その放棄を取り消
した場合のC(大判明 33.5.7)
BCDがAに対して連帯債務を負担していて、Bが詐欺によって代物弁済をし(その結果CD
は、いったんは連帯債務を免れる)、後にその代物弁済を取り消した場合のCD(大判昭
7.8.9)
148/第4編 権利移転型契約1:売買
⑵
第4章
売買契約の有効要件
「善意の第三者」の解釈に関する論点
民法は、取引の安全を考慮して、詐欺による意思表示の取消は「善意の第三者」には対抗する
ことはできない(96Ⅲ)としている。「善意の第三者」の解釈に関しては、表意者保護と第三
者保護(取引の安全)との調整から、以下の点が問題となる。
①
善意の第三者として保護されるための要件
⒜
無過失の要否
⒝
登記(対抗要件、権利保護要件)の要否
②
6
第三者の範囲⇒p.150
⒜
第三者はいつまでに利害関係に入ることを要するか
⒝
取消後の第三者の保護
「善意の第三者」として保護されるための要件
⑴
無過失の要否
<問題の所在>
96 条3項の「善意」の第三者は、無過失をも要するか問題となる。
債権法改正の基本方針~詐欺
【1.5.16】(詐欺)
<1> 詐欺により表意者が意思表示をしたときは、その意思表示は取り消すことができる。
<2><3> 略
<4> <1><2><3>による意思表示の取消しは、善意無過失の第三者に対抗することができない。
<考え方のすじ道>
そもそも、自由競争の中で詐欺される者には何らかの落ち度が認められる場合が多い
↓そして
かかる落ち度ある表意者の保護よりも、取引の安全保護を重視すべきである
↓よって
「善意」は無過失たることまでは要しない
<アドヴァンス>
⒜
不要説(94 条2項の場合の不要説から)
(理由)
①
取引の安全を後退させる方向で明文にない保護要件を付加するのは妥当でない。
②
被詐欺者の不注意による不利益を第三者に転嫁すべきではなく、より取引の安全を重視
すべきである。
⒝
必要説
イ
94 条2項について不要説を採るが、96 条3項については必要説を採る見解(須永)
(理由)
94 条2項と 96 条3項とでは、原権利者の帰責性の強さが異なるから、第三者の保護のた
めの要件も同一に解する必要はない。
第2節
ロ
主観的有効要件
第3款
意思表示/149
94 条2項も 96 条3項も無過失を要求する見解(内田、四宮)
(理由)
①
いずれも一種の表見法理を採用したものである。
②
無過失を要求することによって、原権利者と第三者とのどちらを保護すベきかを、具
体的状況に応じてきめ細かく判断できる。
⑵
登記(対抗要件、権利保護要件)の要否
<問題の所在>
96 条3項の第三者が不動産の所有権の取得を主張するのに、登記を要するかが問題となる。
<考え方のすじ道>
取消権者と取消前の第三者は、前主後主の関係にあり、対抗関係に立つわけではない
→対抗要件としての登記は不要
↓また
詐欺の場合は、詐欺にかかったうかつな被害者の保護よりも取引安全を重視すべき
→第三者に権利保護要件としての登記を要求する必要はない
↓したがって
第三者は登記を備える必要はない
<アドヴァンス>
⒜
必要説(我妻、内田)
第三者は登記または引渡しという対世的権利保全手続の具備を要する。
(理由)
詐欺にあった被害者の犠牲において、取引安全のため善意の第三者を保護しようという場合
であるから、保護される第三者は、権利の確保のためになし得ることをすべてして、ほぼ確定
的に権利を取得したといえる程度にまで達していることが必要である。
⒝
不要説(四宮、原島)
第三者は登記を具備することを要しない。
(理由)
96 条3項は「善意の第三者」に対する関係では、意思表示は取り消されず、相手方は有効
に権利を取得したものとみなす趣旨であり、不動産が取消権者から第三者へと転々とした場合、
その間の関係は前主・後主の関係であり、対抗問題ではない。したがって、第三者は登記なく
して取消権者に対抗することができる。
⒞
折衷説(須永)
原則として対世的権利保全手続(登記または引渡し)の履践を要するが、第三者がその取得
した権利を対世的にも保全するため、法律上し得るだけのこと(例えば仮登記など)をしてさ
えいれば(その結果としての第三者対抗力を後に取得することができないことがあっても)よ
い。
150/第4編 権利移転型契約1:売買
◆
第4章
売買契約の有効要件
最判昭 49.9.26/百選Ⅰ〔23〕
事案:
Xは本件土地をAに対して売却する売買契約を締結したが、Aはその際に支払能力
がないのにこれがあるように装って、Xの代理人を誤信せしめて契約を締結した。こ
のためXは、本件契約を昭和 41 年7月 26 日に取り消した。
一方Aは、本件土地の仮登記を得、昭和 41 年7月2日本件土地をYに売り渡し、仮
登記移転の附記登記をしていた。このためXは、Yに対して所有権に基づいて仮登記
の附記登記の抹消を求める訴訟を提起した。
第一審:
Aに欺罔の意思がなかったと認定して、Xの請求を棄却した。
控訴審:
詐欺をした者から善意で転得した者がその所有権取得について対抗要件を備えて
いるときは、この者に対して詐欺による取消の結果を対抗し得ないが、目的物の所
有権を取得せずにその物についての債権を有するだけの場合およびその所有権を取
得した場合でも対抗要件を備えないときは、右転得者はいまだ排他的な権利を取得
したものではないから、この者に対しては詐欺による取消の結果を対抗しうると解
するのが相当である。
Yは所有権移転仮登記上の権利移転の付記登記を経ているだけであって所有権取
得の対抗要件を備えている者ではないから、Xは詐欺による取消の結果を対抗する
ことができるとして、Xの請求を認容した。
最高裁:
民法 96 条1項、3項は、詐欺による意思表示をした者に対し、その意思表示の取
消権を与えることによって詐欺被害者の救済をはかるとともに、他方その取消の効
果を「善意の第三者」との関係において制限することにより、当該意思表示の有効
なことを信頼して新たに利害関係を有するに至ったものの地位を保護しようとする
趣旨の規定であるから、右の第三者の範囲は、同条のかような立法趣旨に照らして
合理的に画定されるべきであって、必ずしも、所有権その他の物権の転得者で、か
つ、これにつき対抗要件を備えた者に限定しなければならない理由は、見出し難い
として、Xの請求を棄却した。
*
事案の特殊性(仮登記があった事案である)もあり、この判例が取消前の第三者につい
ての登記不要説といってよいかどうかは見解が分かれている。
*
この論点に関しては、94 条2項の場合と同様、対抗要件としての登記の要否と権利保護
要件としての登記の要否の双方を検討する必要があることに注意すること。
7
第三者の範囲
⑴
第三者はいつまでに利害関係に入ることを要するか
AがBに騙されて自分の土地をBに売ってしまった場合でも、Bが善意の第三者Cにその土
地を転売していれば、AはCに対して意思表示の取消しを対抗できない(96Ⅲ)。それでは、
Cが土地を譲り受けたのが、Aによる取消前であっても取消後であっても同じように 96 条3項
によって保護されるのか、同項はなんら限定していないので問題となる。
第2節
主観的有効要件
第3款
意思表示/151
しかし、96 条3項の趣旨は、取消しの遡及効(121)を制限することによって、これによって
特に害される第三者を保護しようとするものである。したがって、96 条3項の「第三者」は、
取消前に利害関係に入った者をいうと解すべきである(判例、通説)。
よって、取消後の第三者は、96 条3項によっては保護されないこととなる。そうすると、C
が土地を譲り受けたのが、Aによる取消前の場合は 96 条3項によって保護され、他方、Aによ
る取消後の場合は 96 条3項によって保護されない。
<詐欺取消しと取消前の第三者>
A
①
B
②
C
③Aが詐欺取消し
↑
Cが利害関係に入った時点では
Bは有効な権利者であった
(取り消される前なので)
◆
大判昭 17.9.30/百選Ⅰ〔51〕
判例は、96 条3項適用否定説を採用している。
⑵
取消後の第三者の保護
<問題の所在>
⑴の事例で、CがAB間の契約の取消後に土地を譲り受けており、96 条3項の「第三者」に
該当しない場合、かかるCはいかなる保護も受けられないのであろうか。
<詐欺取消しと取消後の第三者>
A
①
B
③
②Aが詐欺取消し
C(取消後の第三者)
<考え方のすじ道>~判例
不動産に関する物権変動は、取引の安全のために、可及的に登記による公示にかからせること
によって画一的な処理を図るべきである
↓この点
取消後の表意者には登記を要求しても酷ではない
↓また
取消しの遡及効も法的な擬制なのであって、取消しに取消時点での復帰的物権変動を観念する
ことは可能である
↓したがって
取り消した表意者と取消後の第三者との関係は二重譲渡類似の関係として 177 条によって処理
すべきである
152/第4編 権利移転型契約1:売買
第4章
売買契約の有効要件
<アドヴァンス>
⒜
94 条2項の類推適用説Ⅰ(幾代)
取消しの前後で区別せず、意思表示を取り消して有効に登記を除去し得る(逆にいえば詐欺
を脱して有効に取り消し得る)状態の到来した時点以後は、94 条2項の類推適用によって善
意(・無過失)の第三者は保護される。
(理由)
①
取消しの効果は遡及的に無効になるという民法の原則を維持し得る。
②
取り消し得べき法律行為に基づく登記を有効に除去し得る状態にあるのに放置する者は、
94 条2項の類推適用によって、取消しの効果を善意(・無過失)の第三者に対抗し得ない、
という解釈論的構成を採用し、これを詐欺の場合にも適用すべきである。
(批判)
取消権者が登記を除去し得る状態が到来した時点以後は、取消権者の帰責事由は増大する
のに、第三者が保護を受けるためにはかえって取消権者の登記除去可能な状態の到来を証明
しなければならないという余計な負担を課せられるのは不合理である。
⒝
94 条2項の類推適用説Ⅱ(四宮)
イ
取消しの前後を区別し、取消前に関しては、民法の用意した第三者保護の規定により
(もっとも、そういった規定は 96 条3項しかない)、取消後に関しては、登記を有効に除
去し得る状態にあるのに放置する場合は、94 条2項の類推適用により、取消しをもって善
意(・無過失)の第三者に対抗し得ない。
(理由)
①
⒜説の(理由)①。
②
取り消すか否かは取消権者の自由であり、同じく登記除去の放置といっても、取消前
のそれと取消後のそれとでは懈怠の程度に顕著な差がある。そして、94 条2項の類推適
用には本人の帰責事由が必要であるから、取消前の登記除去放置については 94 条2項を
類推するに適さない。
ロ
そして、取消権を行使したにもかかわらず、登記の回復がされていなかったという事実
は、取消権者の懈怠と推定してよく、取消権者の方で、登記の回復につき怠りのなかった
ことを立証しない限り、善意の第三者は保護される。
(批判)
取消しの前後で区別すると、取消権を行使し得るにもかかわらず取り消さずに放置してお
く方が、すぐに取り消す者より保護されることになって不合理である。
(反論)
取消前における登記の放置と、取消後におけるそれとでは、懈怠の程度に顕著な差があり、
取消し一般について、前者の場合にまで善意の第三者を保護することは、登記の公信力を認
めない民法の体系からして不合理である。
第2節
⒞
主観的有効要件
第3款
意思表示/153
復帰的物権変動説(判例)
意思表示後に利害関係に入った第三者との関係は、二重譲渡の原則に従って解決する。すな
わち、取消しによる所有権の復帰も登記によって公示しなければ、第三者に対抗することはで
きない(177)。
(理由)
①
不動産に関する物権変動は、可及的に登記による公示にかからせるべきである。
②
第三者の主観を問わずに、登記の有無による画一的な処理が可能となる。
③
取消後の表意者に登記を要求しても酷ではない。
④
取消しの遡及効は法的な擬制であり、取り消されるまでは取り消し得る行為も有効なので
あるから、取消しの時点で復帰的物権変動があったかのように扱うことができる。
(批判)
①
この見解は、転得者が取消前に出現した場合には、取消しの遡及的無効が生ずる(詐欺
の場合は、遡及的無効は、96 条3項によって制限されるにすぎない)ことを前提にしなが
ら、取消後に出現した場合には遡及効を無視して、取消しによる所有権の復帰を新たな物
権変動があったのと同じに取り扱うが、それは矛盾である。
②
この見解によれば、詐欺の場合でないと(強迫の場合など)、取消前の転得者は善意で
も保護されず、取消後の転得者は逆に悪意でも保護される場合があることになって不都合
である。
◆
大判昭 17.9.30/百選Ⅰ〔51〕
判例は、⒞説を採用している。
<取消しと第三者保護における判例・学説の整理>
不動産
取消前の第三者
動産
取消後の第三者
取消前の第三者
取消後の第三者
制限能力
保護されない
177 条
強迫
詐欺
*1
(*1)
96 条3項
(*2)
96 条3項
裁判例(東京高判昭 32.12.24)は、192 条の類推適用を否定しているが、学説は、192 条
を類推適用すべきとしている(注釈(7)・107 頁)
*2 この点、判例は出ていない。
154/第4編 権利移転型契約1:売買
五
強迫
1
意義
第4章
売買契約の有効要件
他人に畏怖を与え、かつその畏怖によって意思を決定、表示させようとして害悪を告知する等の
行為を強迫という。民法は、強迫を受けて表意者のした意思表示も詐欺の場合と同様、これを取り
消し得るものとしている(96Ⅰ)。
2
要件
⑴
強迫
①
故意
他人に畏怖を与え、かつその畏怖によって意思を決定・表示させようとすること。
②
強迫行為があること
強迫とは、相手に畏怖の念を生じさせる行為をいう。
③
違法性
強迫行為は違法なものでなければならない。違法性の有無は、一方で目的が正しいか否か、
他方で強迫の手段がそれ自体として許された行為であるか否かの両者を相関的に考察して判断
される。
⑵
強迫による意思表示
他人の強迫によって、表意者が畏怖の念を生じ、その畏怖によって意思を決定・表示したこと。
<強迫の事例>
目的・手段ともに
正当な場合
使用者が、横領した被用者の身元保証人に、証書を差し入れな
いと告訴すると言って、借用証文を差し入れさせた場合
→強迫にあたらない
大判昭 4.1.23
目的が不正当な場
合
不正の利益を得る目的で、会社取締役の不正を告発すると通知
して、その結果、無価値の株式を相当の価格で買い取らせるに
至らせた場合
→強迫にあたる
大判大 6.9.20
目的が正当なもの
と誤信した場合
Y が X に詐欺行為があると誤信して告訴をし、定期米売買の精
算書の交付を迫ったので、X は畏怖を感じて和解契約に応じた
場合
→強迫にあたる
大判明 37.11.28
3
効果
強迫による意思表示は取り消すことができる(96Ⅰ)。
この強迫取消しは善意の第三者にも対抗できる(96Ⅲの反対解釈)。
∵
表意者に帰責性がない。
* 取消後の第三者については、詐欺と同じ問題が生じる。
→判例(177)と四宮説(94Ⅱ類推)等の対立がある
第3節
無効と取消し
第1款
無効と取消し総説/155
第3節 無効と取消し
事例
甲は、乙の自宅に招かれ、その美術品のコレクションを観覧した。すると、コレクションの中
に、従前より探していた織部好みの茶碗と酷似した茶碗を発見した。興奮した甲は、乙に対し
「この茶碗は、織部が切腹の直前に、弟子の小堀遠州に譲り渡したものに違いない。ぜひ、私に
譲ってほしい。金に糸目はつけない。」と述べた。
乙は、その茶碗は自らフリーマーケットにおいて 500 円で購入した安物であることを覚えてい
たが、甲の半可通ぶりに腹を立てたこともあって、「では、あなたの大切にしている、長谷川等
伯の掛け軸と交換でよろしければ、喜んで譲りましょう」と告げた。甲は、しばし考えたが、本
物の織部の茶器であれば大切な掛け軸と交換しても惜しくないと考え、これに応じることにし
た。乙は、甲から茶碗と引き換えに掛け軸の引渡しを受け、直ちにこれを事情を知らない美術商
丙に 500 万円で転売した。
甲は、乙に対して、本件交換契約の無効ないし取消しを主張できるか。
また、甲は丙に対しても、かかる無効ないし取消しを主張して、等伯の掛け軸の返還を請求で
きるか。
第1款
一
無効と取消し総説
はじめに
「無効」「取消し」の制度は、ともに公益の擁護や当事者の個人的利益の保護、または民法が私
的自治を基礎として意思の欠如等を理由に、当事者がその法律行為によって達成しようとした法
律効果の発生を阻止する制度である。
もっとも、「無効」は、客観的にみて契約が法的効力を与えるにふさわしくない場合であるのに
対して、「取消し」は、表意者保護のために有効にするか否かの選択権を与えるべき場合である
という違いがある。
そこで、本章では、この「無効」「取消し」の内容について詳しく説明する。
二
無効・取消しと契約の有効要件との関係
1
契約が無効とされる場合
⑴
客観的有効要件を満たさない場合
ex.内容の不確定、原始的不能、強行規定違反、公序良俗違反。
156/第4編
⑵
権利移転型契約1:売買
第4章
売買契約の有効要件
意思表示において、表示に対応する意思が欠缺している場合(主観的有効要件を欠く場合の
うちの一部)
ex.意思無能力、心裡留保、虚偽表示、錯誤。
*
効果帰属要件を欠いている場合、すなわち、代理権を欠いている場合は、本来の無効とは
異なり、本人に効果が帰属しないため効力を生じない。正確には、本人への効果不帰属であ
るが、この場合を無効ということもある。
2
三
契約が取り消し得るとされる場合(主観的有効要件を欠く場合の一部)
⑴
制限行為能力者の意思表示(ex.成年被後見人、被保佐人、未成年者)
⑵
意思表示の過程に瑕疵がある場合(ex.詐欺、強迫)
無効と取消しの相違(原則)
<無効と取消しの相違>
主張の要否
効力喪失時期
追認
消滅の有無
例
無効
不要=当然に
効力なし
最初から効力
なし
追認により効
力を生じない
(119)
放置しておい
ても無効
意思無能力・
90 条違反・錯
誤
取消し
必要=取消権
者(120)の取
消しがあて初
めて効力を失
う(121)
取り消さない
間は効力があ
るが、取り消
されると最初
から効力なし
(121)
追認により確
定的に有効に
なる(122)
放置しておく
と取り消すこ
とができなく
なる(126)
制 限 行 為 能
力、詐欺・強
迫による意思
表示
第2款
一
無効
意義
無効は、何人の主張をも待たずに、当然にかつ絶対的に、効力のないものである。
*
無効は、前述した(1)の場合(客観的有効要件を満たさない場合)は、絶対的無効(すべて
の人が、すべての人に対して主張できる)であるが、(2)の場合(主観的有効要件を満たさな
い場合)には、条文上または解釈上、無効を主張する者や無効主張される者が制限される。
特定の人のみが無効を主張し得ると解される場合を、相対的無効ないし取消的無効というこ
とがある。
第3節
二
1
無効と取消し
第2款
無効/157
基本的効果
当事者間
⑴
当事者が意図した法律効果は、初めから発生しない。
⑵
無効行為から表見的に生じた債務は不発生とみなされ、履行済みのものについては、不当利
得返還請求権(703、704)が発生する。
2
第三者間
⑴
原則:すべての人に対し無効を主張し得る(絶対的無効)。
例外:①虚偽表示において善意の第三者が生じた場合(94Ⅱ)、②心裡留保の場合で善意の
転得者が生じた場合等 94 条2項が類推適用される場合には、無効を第三者に対抗でき
ない(相対的無効)。
⑵
第三者保護の手段
取得時効(162、163)、即時取得(192)、債権の準占有者に対する弁済(478)等。
三
一部無効
法律行為の内容の一部について無効原因がある場合、第一に、その部分は無効となる。第二に、
無効の条項以外の残部の効力が有効として維持されるのか、残部を含めた全体が無効となるのか
が問題となる。できるだけ有効と解するのが通説である(これを「一部無効」という)。一部無
効について、次のように解する。
1
明文がある場合
当該規定による(360Ⅰ後段、410、563、580Ⅰ後段、604Ⅰ後段、利息制限法1Ⅰ等)。
2
明文がない場合
無効な条項について、契約の解釈基準を適用する。すなわち、①法律の規定、②慣習、③条理に
よって補充して合理的な内容に修正する。このようにして確定した契約全体の内容を、また、無
効部分を除いた残余の部分だけの契約内容を、それぞれ当事者の契約であるとして強制すること
が契約自由の原則に反しないかどうかを検討する。そして、反する場合には、その全体を無効と
する。このような解釈手順によって一部無効の契約を処理する方法を「一部無効の理論」という。
◆ 大判昭 10.3.2
50 円の借金の連帯保証を引き受けただけなのに、主債務者が勝手に 1500 円と証書を書き換
えた場合に、50 円の範囲内で保証契約は有効とした。
158/第4編
権利移転型契約1:売買
第4章
売買契約の有効要件
債権法改正の基本方針~法律行為の一部無効
【1.5.47】(法律行為の条項の一部無効)
法律行為に含まれる特定の条項の一部が無効となる場合、その部分のみが無効となる。ただし、以下の各号
に該当する場合には、当該条項はすべて無効となる。
<ア> 法令に特別の定めがあるとき
<イ> 当該条項の性質から他の部分の効力を維持することが相当ではないと認められるとき
<ウ> 当該条項が約款の一部となっているとき(法令に特別の定めがある場合を除く)
<エ> 当該条項が消費者契約の一部となっているとき(法令に特別の定めがある場合を除く)
【1.5.48】(無効な条項の補充)
法律行為の一部が無効とされ、その部分を補充する必要があるときは、当事者が当該部分の無効を知ってい
れば行ったであろう内容により、それが明らかでないときは、まず慣習により、慣習がないときは任意規定に
より、これらによることができない場合には、信義誠実の原則に従って、無効となった部分を補充する。
【1.5.49】(法律行為の一部無効)
法律行為の一部が無効とされるときでも、法律行為の他の部分の効力は妨げられない。ただし、一部が無効
であるとすれば、当事者がそのような法律行為をしなかったであろうと合理的に考えられるときは、法律行為
全部が無効となる。
四
無効行為の追認
1
原則
無効の行為は、行為者の追認によって初めから有効とすることができない(119 本文)。
∵
行為の無効は、当事者のみならず第三者も主張し得るのであるから、行為者の追認により初
めから有効であったとすれば、第三者に不測の損害を与えるため。
→ただし、無効であることを知って追認すればその時に新たな法律行為をしたものとみなされる
(119 ただし書)
*1
なお、無権代理は、本人が追認すると契約時にさかのぼって本人に効果が帰属する(116)。
∵
無権代理は無効と違い、無権代理人と相手方との間には有効な契約が存在し、その法律効
果が本人に帰属しないというにすぎない。したがって、本人が効果帰属を認める(追認す
る)のであれば、遡及効を認めることに何ら不都合はない。
*2
2
処分権なき者の処分行為(561)に対する真の権利者の追認にも、116 条が類推適用される。
公序良俗違反の場合
客観的有効要件の欠如(公序良俗違反など)の場合は、その状態が続く限り、追認によって有効
とならない。当事者の意思で公序良俗違反が変動してはならないからである。
3
追認の要件
無効行為の追認の認められる要件は、無効原因によって必ずしも同じではない。
⑴
強行法規や公序良俗に違反する行為は、その状態が続く以上、両当事者が追認しても有効と
はならない。
統制法規違反で無効である行為を、その法規撤廃後に追認すれば有効となる。
第3節
⑵
無効と取消し
第3款
取消し/159
虚偽表示のように両当事者の私的事由に基づいて無効となった場合には、両当事者が追認す
れば有効となる。
⑶
一方当事者の私的事由によってその意思表示が無効となり、その結果法律行為が無効となる
場合(錯誤・意思無能力)には、これを無効とする趣旨が表意者保護にある以上、表意者の追
認によって有効とすることができる。
⑷
詐欺・強迫による意思表示が取り消された結果法律行為自体の遡及的無効を来たした場合に
は、相手方が法律行為がなかったものと信じるに至っている以上、もはや取消しをした一方当
事者の追認だけではこれを有効とすることはできない。両当事者の追認が必要となる。
4
遡及的追認の可否
⑴
当事者間の関係では過去にさかのぼって有効となしうる(契約自由の原則)。
⑵
第三者に対する関係でも、これに不利益を及ぼさない範囲ならば遡及的追認が可能。
→無権代理行為の追認(116)の類推適用
⑶
非権利者の処分行為も、権利者の追認があれば遡及的に有効(116 類推、最判昭 37.8.10/百
選Ⅰ〔37〕)。
五
無効行為の転換
第3款
⇒発展
取消し
一
はじめに
1
意義
表意者が制限行為能力者であった場合および意思表示に瑕疵がある場合に、いったん発生した意
思表示としての効力を廃棄する旨の、表意者の意思表示。
2
取消権者
瑕疵ある意思表示(詐欺・強迫)を取り消す場合は、表意者、その代理人・承継人に限られる
(120Ⅱ)。これに対して、制限行為能力者の意思表示を取り消す場合は、制限行為能力者、その
代理人・承継人のみならず、同意権を有する者(保佐人・補助人)も含まれる(120Ⅰ)。
3
取消しの方法
取消しは、一方的な意思表示のみによって法律行為が発生する単独行為であるから、相手方の地
位を不安定にしないように、一定の方法が定められている。
⑴
取り消し得べき行為の相手方が確定している場合
相手方に対する単独の意思表示による(123)。
⑵
取り消し得べき行為の相手方が確定していない場合
客観的に取消しの意思表示と認められる行為があれば足りる。
160/第4編
4
権利移転型契約1:売買
第4章
売買契約の有効要件
取消しの効果
遡及的に無効となる(121 本文)。
⑴
当事者間
一度生じた債権債務は発生しなかったことになり(遡及効)、既に履行がされている場合に
は、受領者は、受け取った物を不当利得(703、704)として返還しなければならない。
*
制限行為能力者の返還義務は現存利益に制限される(121 ただし書)。
∵
制限行為能力者の取消権を実効あらしめるため。
cf.生活費に充てた場合には、その分自己の財産の減少を免れたのであるから、利益が現
存する場合に当たる(判例・通説)。
⑵
第三者との関係
取消権者は、行為の相手方に対し取消しをすれば、その後は原則として無効の効果を主張し
得る。
→第三者の保護は、その旨の規定(96Ⅲ等)による
5
民法典上の「取消し」と「撤回」
⑴
120 条~126 条の「取消し」
①
制限行為能力者のなした法律行為(4Ⅱ、9、12Ⅲ)。
②
詐欺・強迫による意思表示。
③
865 条、866 条、919 条2項に準用される。
⑵
撤回
撤回とは、法定の取消原因によらないで、自由意思により法律行為の効力を将来に向かって消
滅させることをいう。
①
未成年者の営業・転業の許可の取消し(6Ⅱ・823Ⅱ)。
②
無権代理行為の取消し(115)。
③
選択の撤回(407Ⅱ)。
④
契約申込の撤回(521・524)。
⑤
懸賞広告の撤回(530)。
⑥
解除の撤回(540)。
⑦
認知の取消し(785)。
⑧
相続の承認・放棄の撤回(919Ⅰ)。
⑨
遺言の撤回(1022 以下)。
⑶
特殊な取消し
取消権行使の方法、相手方に関する 123 条、取消の遡及効の点で本来の取消しと同様であるが、
取消事由を要しないことや、本来の取消しと両立する点で、撤回に類する。
①
書面によらない贈与の撤回(550)。
②
夫婦間の契約の取消し(754)。
第3節
⑷
無効と取消し
第3款
取消し/161
裁判上の取消し
⒜
身分上の取消しは、取消事由・取消権者・取消しの効果(748・808)の点で本来の取消し
と異なる。
①
婚姻の取消し(743~)。
②
協議離婚の取消し(764)。
③
縁組の取消し(803~)。
④
協議離縁の取消し(812)。
⒝
⑸
詐害行為の取消し(424)。
法律行為の取消しではない取消し
⒜
家庭裁判所のなす処分
①
後見開始の審判の取消し(10)。
②
保佐開始の審判の取消し(14)。
③
失踪の宣告の取消し(32)。
⒝
行政官庁の処分
・
公益法人公益認定の取消し(公益認定法 29)
二
取り消し得べき行為が有効な行為として確定する場合
1
はじめに
取消権は、ある特定の者の利益を擁護するために与えられるものであるが、取消権者に長期間に
わたって取消権の行使を認めれば、相手方を不安定な状態に置くことになる。そこで取り消し得
べき行為を有効に確定して、法律関係を安定させる制度として以下のものがある。
2
追認
⑴
意義
取消権者による取消権の放棄のための意思表示。
*
正確にいえば、取り消し得べき行為の追認は、その行為が欠陥あるものであるにかかわら
ずそのまま拘束力を維持することに確定させる旨の意思表示である。
⑵
要件
①
取り消し得る行為をした者、その代理人・同意権者または承継人がすること(122・120)。
*
未成年者・被保佐人は、それぞれ法定代理人・保佐人の同意を得て追認をし得るが、成
年被後見人は同意を得ても完全な行為をし得ないため、追認をし得ない。
②
「取消しの原因となっていた状況が消滅した後」、すなわち詐欺・強迫を脱した後、または
制限行為能力者が行為能力者となった後に追認をしたこと(124Ⅰ)。
*
③
ただし、法定代理人が追認する場合にはこの要件は不要である(124Ⅲ)。
取消権者が、その行為が取り消し得べきものであることを知っていること。
*
③の要件に関して、124 条2項は成年被後見人の場合のみ規定しているが、意思表示であ
る以上、制限行為能力者一般について要求すべきである(通説)。
162/第4編
⑶
権利移転型契約1:売買
第4章
売買契約の有効要件
方法
取消しと同様である(123)。
⑷
効果
追認があると、初めから有効なものとして確定する(122)。
*
なお、122 条ただし書の「第三者の権利を害することはできない」は、適用の余地のない
規定である。なぜなら、第三者との関係は、対抗要件などの一般原則により決まるからであ
る。
3
法定追認 ⇒発展
4
取消権の消滅時効 ⇒発展
取消権は、追認をし得る時から5年、行為の時から 20 年が経過すれば消滅する(126)。
→前者は短期消滅時効期間、後者は除斥期間と解するのが通説であった
しかし、現在の通説は、両者とも除斥期間としている
5
相手方の催告権
行為能力の制限を理由とする場合のみ相手方に催告権がある(20)。詐欺・強迫の場合はない。
この催告権は、取り消し得べき行為をなるべく早く確定することで、法律関係の安定を図るため
に認められたものである。
相手方の催告に対する返答の不発信によって、取消しあるいは追認とみなされる。
第4款
一
無効と取消しとの関係
無効と取消しが競合する場合
無効も、取消しも意思表示の有効要件が欠ける場合の効果であるが、ときには、双方の要件を満
たしてしまうことがある。双方が競合する場合として、以下のものが考えられる。
①
制限行為能力者が意思無能力の状態でした行為
ex.意思能力のない未成年者の行為、成年被後見人が事理弁識能力を欠くときにした行為。
②
詐欺によって要素の錯誤を生じた場合(96、95)
③
詐欺または強迫によって公序良俗・強行法規違反の行為がされた場合(96、90)
④
強度の強迫によって全く意思決定の自由が奪われた状態での行為
⑤
無資力の債務者が虚偽表示によって財産を隠匿した場合(94Ⅰ、424)
第3節
二
1
無効と取消し
第4款
無効と取消しとの関係/163
無効と取消しの二重効
無効と取消しの二重効の肯否(一般論)
<問題の所在>
詐欺にあったAが重要な錯誤によってした意思表示が、95 条本文の要件も 96 条1項の要件を
もみたす場合、錯誤無効の主張と詐欺取消しの主張の双方をすることができるか。
<考え方のすじ道>~通説
無効も取消しも自然的概念と異なり、共に法律行為の効果を否認する手段にすぎず、法律的
概念においては無効な行為を取り消すことも可能である
↓
無効と取消しの二重効を認めることができる
↓
では、錯誤無効と詐欺取消しの二重効を肯定する場合の効果をいかに解するか
↓そもそも
錯誤も詐欺も、共に表意者保護の制度にほかならない
↓よって
表意者は無効か取消しか、いずれを選択して主張しても構わない
↓ただし
錯誤無効を主張する場合は 96 条3項を類推適用して、無効の効果を相対的に解すべきである
<アドヴァンス>
⑴
無効と取消しの二重効を認めることができるのか
無効と取消しの二重効を肯定するのが通説である。取消しも無効と同じように法律行為の効
果を否認する手段にすぎず、無効の法律行為は無であって取り消す余地がないと考えるのは、
法律概念を自然的存在物と同視するものであることを理由とする。
⑵
二重効の効果
⒜
選択的主張説(通説)
無効、取消しのいずれかを選択的に主張できる。
(理由)
錯誤も詐欺も、共に表意者保護の制度にほかならないのみならず、無効と取消しは相容
れない観念ではない。
*
なお、錯誤無効と詐欺取消しが競合したが錯誤無効を主張するという場合には、96 条
3項の類推適用によって第三者保護を図るべきであるとされている。
164/第4編
権利移転型契約1:売買
第4章
売買契約の有効要件
(理由)
①
95 条ただし書は、「重大な過失」がある場合に表意者の無効主張を認めないが、
これは無効が対抗できない場合があることを承認したものである。
②
自分勝手に勘違いをした場合を想定している錯誤よりも、他人に騙された詐欺の
方が本人の保護の要請が強いはずなのに、詐欺取消しの場合のみ 96 条3項で第三
者が保護される(本人の保護が薄くなる)のは均衡を失する。
⒝
二つの効力排除規範によって基礎付けられた一つの法的地位に基づく主張ができる。そ
の内容は、二つの効力排除規範を統合することによって問題点ごとに決定されるが、原則
として、行為者に最も有利な規範をもって形成されるとする見解(四宮)
(理由)
①
選択的主張では、行為者はどちらか一方の規範による保護しか受けられないことにな
り、不当である。
②
二つの原因によって行為の効力が排除されるといっても、行為者は、経済的・実質的
には、原状回復に向けた単一の法的地位を取得するにすぎない。
2
取消事由が制限行為能力の場合(特殊な問題)
一般に無効行為を取り消し得ると解する見解の中でも、さらに、制限行為能力者が意思無能力
の状態で法律行為をした場合、制限行為能力者は意思無能力による無効を主張し得るかが、特に
問題とされてきた。
しかし、意思無能力者に無効主張を認めたのは表意者本人を保護するためであるので、意思無
能力を理由に無効を主張し得るのは表意者本人に限定すれば不都合はないことから、この場合に
も、無効と取消しの二重効を認め、意思無能力による無効を主張することができるのは、制限行
為能力者に限る(無効主張肯定説)と解すべきである(通説)。
「⑵
⇒第2節
第3款
三
7
無効を主張できる者(主張権者)」(p.141)
通説の立場に立った場合、意思無能力による無効主張について、取消しの規定(121 ただし書、
122 等)を類推すべきではないかが次に問題となる。
この点について、意思無能力による無効は、行為能力の制限を理由とする取消しに準ずべきで
あるという見解が主張されているが、一般的には、意思無能力者を保護すべきであるとの立場か
ら、制限行為能力者の不当利得返還義務の範囲を軽減する 121 条ただし書の類推適用、及び法定
代理人又は能力を回復した表意者の一方的追認(効力は遡求しない)を認めるにとどめ、126 条の
類推適用は否定すべきとされている。
第1節
第5章
代理総説/165
売買契約の効果帰属要件(代理)
第1節 代理総説
一
はじめに
1
意義
本人と一定の関係にある他人(代理人)が、本人のために意思表示をし、またはこれを受けるこ
とによって、その法律効果を全面的に本人に帰属させることを認める制度。
代理人が本人の名で法律行為をする権限(代理権)を本人から与えられた場合(任意代理とい
う)、または法律の規定によって有する場合(法定代理という)において、代理人がその代理権の
範囲内において本人の名ですることを示してした法律行為は、本人に対して直接にその効力を生ず
る。この関係は、相手方が代理人に対してなした意思表示(受働代理という)について準用する。
2
代理制度の存在理由
⑴
私的自治の補充機能(法定代理制度に関して)
意思無能力者や制限行為能力者は、権利能力を有してはいるが、単独で完全に有効な法律行
為をすることができない。
→保護者が代わって法律行為をすることで、その効果を有効に制限行為能力者に帰属させるた
めの制度が必要
→法定代理制度
⑵
ex.成年被後見人の成年後見人、未成年者の親権者または未成年後見人。
私的自治の拡張機能(任意代理制度に関して)
現代の経済社会では、取引関係が複雑かつ広範囲にわたる。
→他人を使って法律行為をさせ、その法律効果を本人に帰属させる制度が必要
→任意代理制度
二
代理の要件
①
代理人が、本人に効果を帰属させる旨を明らかにして意思表示をし(能働代理)、または
本人に効果を帰属させる旨の相手方の意思表示を受領する(受働代理)こと(代理行為)。
*
②
意思表示の効果の帰属者を明らかにすることを「顕名」という。
*
代理人が本人に対する関係において当該代理行為につき代理権を有すること(代理権)。
代理権は本人の代理的授与行為(任意代理の場合)または法律の規定(法定代理の場合)
によって与えられる。
166/第4編
権利移転型契約1:売買
第5章
売買契約の効果帰属要件(代理)
<代理の要件>
本人
③
に代
よ理
る権
代授
理与
権行
為
<代理権>
代理人
①
甲
④
<権利能力>
事
務
処
理
契
約
効果帰属
<代理行為>
①
契約関係(成立要件・有効要件)
相手方
乙
②
丙
代理意思・代理表示(顕名)
乙と丙の間に契約がなされるので、契約の成立要件・有効要件はここで論じる。つまり、こ
の乙丙間の契約を基準に考える。
②
通説は、代理意思と代理表示(顕名)を要すると解する。他説は、代理表示で足りるとする。
③
代理権の発生原因である代理権授与行為は、甲乙間の事務処理契約から生じると解するか、
これとは別途独立の甲乙間の代理権授与契約(または甲の単独行為)により生ずるかについて
争いがあるが、いずれでもよい。
三
他人効の根拠
代理において法律行為をする者は、本人ではなく代理人であると解されている(代理人行為説、
通説)。そこで、かつては、代理人の行為の効果が他人である本人に帰属すること(他人効)の根
拠が問題とされていた。
この点について、代理制度が私的自治の補充・拡張機能を有することにかんがみれば、代理人を
本人に媒介する関係である代理権は顕名以上に重要である。また、夫婦間の日常家事債務(761)や、
商代理(商 504 本文)など、顕名がなくても代理関係が生じる場合を法が認めている。したがって、
顕名ではなく代理権の授与こそが他人効の根拠であると解すべきである(通説)。
なお、他人効の根拠は法典上解決しているため(99Ⅰ)、実際上の見地からはこれを論じる意義
はあまりないとの指摘がある一方、近江先生は、この議論を踏まえて 100 条本文を解釈している。
第1節
四
代理と類似する観念
1
はじめに
代理総説/167
代理とは、他人の事務を処理する関係における処理者の対外的地位の一つであるが、このような
代理に類似するものとして、いくつかの制度を挙げることができる。
ここでは、このような制度について概観した上で、そのうちの使者について詳しく論じる。
<他人を介する行為の類型による法形式の種類>
甲(本人)
契約
乙(表示等)
丙(相手方)
甲が意思決定者
甲名義で契約
甲名義のみ
甲代理人乙
乙名義で契約
他人効なし
他人効あり
使者(伝達機関・表示機関)
署名代理
代理
乙が意思決定者
間接代理(ex.問屋・仲買人)
<管理者の対外的地位の類型化>
管理者の
地位の態様
事実行為の可否
他人効の有無
他人(甲)名義か
代理権
×
○
○(甲)
間接代理権(問屋)
×
×
×(乙)
授権における被授権者
たる地位
×
○
×(乙)
信託の受託者たる地位
○
○
×(乙)
排他的管理権
○
○
×(乙)
○印:適用あり
×印:適用なし
168/第4編
2
権利移転型契約1:売買
第5章
売買契約の効果帰属要件(代理)
使者
⑴
意義
本人の決定した効果意思を相手方に表示し(表示機関)、または完成した意思表示を伝達す
る者(伝達機関)をいう。
ex.自分の使用人に口上をもって表示させる場合(表示機関)。
完成した表示を書いた手紙を持参させる場合(伝達機関)。
cf.代理:効果意思を代理人が決定する。
使者:効果意思は本人によって決定されており、使者はこれを表示または伝達をする
にすぎない。
⑵
代理と使者の相違点
<代理と使者との相違点>
代理の場合
意思決定
使者の場合
代理人が決定する
本人が決定する
意思能力
必要
意思能力
行為能力
不要(102)
行為能力
意思能力
行為者の能力
意思能力
不要
必要
不要
本人の能力
行為能力
行為能力
意思の不存在
代理人の意思と表示を比較
本人の意思と使者の表示を比較
被詐欺・強迫
代理人で判断(101Ⅰ)
本人について判断
婚
姻
不可
可
復
任
制限あり(104~106)
原則として許される
責
任
無権代理人の責任(117)
原則としてなし
⑶
本人の意思と使者の表示の不一致
表示機関たる使者が本人の意思と異なる意思表示を行った場合、本人の意思と表示に不一致
がある場合として、本人の錯誤(95)として処理されるのが原則である。
しかし、使者が故意に本人の意思と異なる表示をしたときにまで、錯誤の規定により処理す
るとすれば、95 条の要件を満たす限り本人は無効主張できることになり、相手方の利益を著し
く害する。そこで、相手方を保護する法律構成が考えられないかが問題となる。
第1節
五
代理総説/169
任意代理と法定代理
<任意代理と法定代理の相違>
種類
復任権の存否
代理人の責任
代理権の消滅(111)
授権行為の基礎たる契約関係の消滅
任意代理
原則 なし(104)
① やむをえない
事由あるとき
② 本人の許諾を
えたとき
①
②
通常の場合(105Ⅰ)
本人の指名に従った場
合(105Ⅱ)
代理人
死亡
○
○
破産手続開
始の決定
○
○
後見開始
×
○
解除
○
○
本人
代理人
死亡
○
○
破産手続開
始の決定
×
○
後見開始
×
○
①
法定代理
常に復任権あり
(106)
通常の場合
(106 前段)
② やむを得ない事由があ
るとき(106 後段)
本人
六
代理の許される範囲
1
意思表示
代理は意思表示について認められる(99)が、特に本人自らの意思決定を絶対的に必要とするも
のについては許されない。
ex.婚姻・認知・遺言などの身分上の意思表示。
2
観念の通知・意思の通知
代理は、催告・総会招集通知などの観念の通知、意思の通知にも認められる。
3
事実行為等
事実行為(拾得・発見・加工)、不法行為には認められない。
170/第4編
権利移転型契約1:売買
第5章
売買契約の効果帰属要件(代理)
第2節 代理行為
事例
Aは、結婚し子供も生まれたことから、自宅を購入しようと考えた。いろいろと調べた結果、
不動産屋Bの店頭に紹介されていた物件甲(以下、甲という。)を購入したいと考えるに至っ
た。しかし、素人が自分で不動産取引をすると損をするとの噂を聞いたため、不動産取引に詳し
い友人Cに自分に代わって取引をしてもらうこととした。
Cは、Bに出向き、Aのために購入したいと述べた上で、甲の売買契約を取りまとめ、契約書
には「A」と署名した。
①甲の売買契約は、AB間の契約として有効に成立しているか。
A
B
?
C
甲
②甲は、埋立地を住宅地にして売りに出された不動産であったが、工事が不十分で、陥没の恐れ
があり住宅地としては不適当な不動産であった。ABはこの事実を知らなかったが、Cは、仕事
上この事実を知っていたものの特にABに告げることなく上記契約を締結していた場合、Aは売
買契約を錯誤を理由として無効主張をできるか。
③Aからの依頼を受けたあと、Cは体調を崩してしまった。そこで、Aの許可を得てDを復代理
人として選任し、DがBとの間で契約を締結した。この場合、AB間に甲の売買契約が成立する
か。さらに、Cは②の事情(本件土地が陥没の恐れがあること)を知っていたが、Dが知らなか
った場合、Aは錯誤を理由として無効主張をできるるか。
③
A
B
④
W
A
B
(Z)
C
C
D
④Aは、Cに対して売買契約の依頼をした後、突然体調を崩し、そのまま亡くなった。Cは、そ
の事実を知ってはいたが、Aの相続人であるAの妻W及び子供Zにとっても自宅は必要であろう
と考え、Bとの間の甲売買契約をAの代理人として締結した。甲の売買契約は、Aの相続人WZ
とBとの間で有効に成立しているか。
第2節
第1款
・
代理行為
第2款
顕名/171
代理行為総説
はじめに
現行法上、代理において法律行為を行うのは代理人であって(代理人行為説:判例・通説)、本
人はただその効果を受けるにすぎない。したがって、本人については意思表示の成立要件が備わ
る必要がなく、本人は相手方がだれであるかを知る必要さえない。そこで、「代理行為」は代理
人と相手方との関係で問題になる。
代理人の締結した契約の効果が本人に帰属するには、代理人に代理権がありかつその行為が代理
権の範囲内でされなければならない。しかし、それとともに、そもそも代理人が相手方と有効に
契約を締結しないと問題にならない。ここで有効に契約が締結されたといえるためには、
①
契約一般の成立要件・有効要件を満たすこと、
②
代理行為として有効にされたこと、
の二つが必要である。このうち、①は代理に特有の問題ではない。これに対して、②に関して
は代理に特有な問題が生じ、具体的には以下の三つが挙げられる。
①
本人が契約を締結する場合と代理人が契約を締結する場合とで意思表示の仕方に違いはある
か(顕名の問題)。
②
当事者の善意・悪意や意思表示の瑕疵をだれについて判断するか(代理行為の瑕疵の問題)。
③
代理人に行為能力は必要か(代理人の能力の問題)。
第2款
顕名
一
はじめに
1
意義
代理人と相手方との間で締結された契約の効果が本人に帰属するには、「本人のためにすること
を示して」することを要する(99Ⅰ)。これを顕名主義という。
具体的には、代理意思(自己の法律行為の効果を本人に帰属させる意思)を表示することが必要
である。
ex.「A代理人B」(任意代理の場合)、「未成年者甲法定代理人親権者父乙、母丙」(法定
代理の場合)
*
なお、代理人であることを明瞭に示さなくとも、当該事案のすべての事情から判断してその
趣旨が明らかになればよい。
172/第4編
2
権利移転型契約1:売買
第5章
売買契約の効果帰属要件(代理)
趣旨
民法が顕名主義を採用したのは、契約に当たっては相手がだれかということが重要な関心事にな
るからである。例えば、相手が甲であれば信用があるから取引しようと思うが、乙が相手であれ
ば危険だから取引したくないということもあり得る。したがって、その取引が甲を相手にするの
か、乙を相手にするのかはっきり分からないのでは困るのである。
3
例外
顕名がない場合には、その代理行為は「自己のためにしたものとみな」される(100 本文)。顕
名がない場合には、相手方は直接行為をしている者に効果帰属すると考えるのが通常であるから
である。これにより、たとえ代理人が代理意思を有していても、錯誤を主張して自己への効果帰
属を否認することは封じられる。
もっとも、顕名主義は相手方保護のために採られるのであるから、相手方が代理意思の存在につ
いて悪意・有過失である場合にまで顕名を必要不可欠とする必要はない。そこで、「相手方が、
代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができた」場合には、顕名がなくとも本人
に法律行為の効果が帰属する(100 ただし書)。
二
100 条本文の効果(幾代・313 頁)
<問題の所在>
代理人Bが顕名をせずに代理行為をし、相手方Cが代理意思について善意・無過失であった場合、
CはBとの間の法律関係を主張することができる(100 本文)。
それでは、Cから本人Aに代理関係を主張することが許されるか、「自己のためにしたものとみ
なす」(100 本文)の意義が問題になる。
<考え方のすじ道>~通説
100 条本文の趣旨は、相手方の保護にある
↓とすれば
相手方から本人への効果帰属を主張することは許されると解すべき
<アドヴァンス>
1
肯定説(通説、我妻、近江)
相手方は本人に対して代理関係を主張することもできる。
(理由)
①
代理権が存する以上は、代理効果は既に発生しており、顕名がそれを発生させるわけ
ではない。
②
100 条本文は相手方保護のための規定である。
第2節
*
代理行為
第2款
顕名/173
相手方に選択権があることになるが、相手方にとって取引先がだれであるかが取引上一
般に重要でないと考えられる場合には、相手方が代理人との法律関係を主張することは信
義則(1Ⅱ)上許されないと解される。
ex.特定の個人を相手とするのでなく、不特定の営業主を相手とする取引の場合。
2
否定説(幾代)
本人からも、相手方からも代理行為であると主張することはできず、BとCとの間の法律関
係に確定してしまう。
(理由)
100 条本文は、単に相手方保護という趣旨を超え、行為を客観的・画一的に性格付ける趣
旨である。
三
本人の名前を直接表示した場合(我妻・Ⅰ・346 頁、幾代・308 頁)
<問題の所在>
代理人が法律行為を直接本人名義でした場合、「本人のためにすることを示して」(99)といえ
るか。相手方が代理人を本人と誤解している場合、法律行為をいかに扱うかが問題になる。
<考え方のすじ道>~判例・通説
代理行為において顕名が要求されたのは、効果帰属主体を明示し取引の安全を図るためである
↓この点
代理人が本人の名だけを示して行為した場合にも本人の名は知らされているのだから、効果の
帰属主体は明確であり、相手方保護に欠けるところはない
↓したがって
代理人が代理意思を有する場合には、法律行為を直接本人名義でしたとしても「本人のために
することを示して」といえ、代理行為と認められる
<アドヴァンス>
この問題は、代理人に代理意思があるか否かの視点から考察されるのが一般的である。
1
代理人に代理意思ある場合
代理権の範囲内の法律行為を直接本人名義でしたとしても、行為をめぐる諸般の事情から代
理意思のあるものと認められる限りは代理行為は成立する、とするのが判例・通説である。
(理由)
他人効の基礎となる代理権自体は存在するのだから、本人にとっても酷にならず、相手方
も本人との取引関係であると誤解しているにすぎないから。
2
代理人に代理意思がない場合
代理人が相手方との取引結果を自己に法的に帰属させようとしている場合である。
ex.信用が高い「A」の名で取引することによって、Bが巨利を博し得る場合。
→原則:法律効果は代理人と相手方との間に帰属する
∵
代理意思が欠缺するから代理行為は無効である。
事項索引/あ-け
事項索引
※
分冊科目のセブンサミットテキストには、通し番号による頁数を付しており、事項索引及び判例索引は、当該頁数を記載した全
分冊共通のものとなっている(民法Ⅰ・1頁~538 頁、民法Ⅱ・539 頁~1012 頁)。
あ
明渡猶予制度 .............................. 709
与える債務 ................................ 298
安全配慮義務 ...................... 6, 381, 543
い
異議をとどめない承諾 ...................... 628
遺言 ...................................... 982
遺言自由の原則 ....................... 979, 982
遺産分割と登記 ........................... 1008
意思主義 ........................ 107, 246, 247
遺失物拾得 ................................ 810
意思能力 .................................. 108
意思の通知 ................................. 83
異時配当 .................................. 727
意思表示 .............................. 80, 116
意思表示に基づかない財産関係の変動......... 809
遺贈 ...................................... 983
一物一権主義 ............................... 71
一般先取特権 .............................. 824
委任 ...................................... 567
違法性阻却事由 ............................ 847
入会権 .................................... 538
遺留分減殺請求権 ......................... 1000
遺留分権利者 .............................. 999
遺留分の算定 ............................. 1000
遺留分の範囲 .............................. 999
因果関係 .................................. 357
姻族 ...................................... 977
う
請負 ...................................... 550
受戻権 ............................... 756, 761
え
永小作権 ..................................
役務型契約 ................................
援用 ......................................
援用権者 ..................................
537
539
927
928
お
親子 ...................................... 974
か
解雇権濫用法理 ............................ 549
解除 ...................................... 426
解除契約 .................................. 428
解除権の不可分性 .......................... 434
解除後の第三者 ....................... 263, 443
解除条件 .................................. 240
解除と登記 ................................ 263
解除前の第三者 ....................... 263, 441
買戻し .................................... 770
解約手付 ................................... 91
確定可能性 ................................ 101
確定期限 .................................. 242
加工 ...................................... 814
貸金等根保証契約 .......................... 788
瑕疵担保責任 ......................... 384, 402
過失 ...................................... 841
果実 ....................................... 69
果実収取権 ................................ 821
過失責任の原則 ......................... 1, 844
過失相殺 ............................. 374, 852
割賦販売法 ................................ 588
仮登記 .................................... 259
仮登記担保 ................................ 769
簡易の引渡し .............................. 278
間接強制 .................................. 337
間接責任 .................................. 590
観念の通知 ................................. 83
管理行為 ................................... 57
き
期間 ...................................... 244
期限 ................................. 239, 241
危険責任の法理 ............................ 877
期限の利益 ................................ 243
危険負担 .................................. 419
期限前の弁済 .............................. 902
帰責事由 .................................. 355
帰属清算 .................................. 755
寄託 ...................................... 576
基本権限 .................................. 223
求償権 ............................... 782, 798
強制履行 .................................. 336
供託 ...................................... 318
共通錯誤 .................................. 144
共同相続 ................................. 1005
共同相続と登記 ...................... 264, 1006
共同抵当 ............................. 708, 727
共同不法行為 .............................. 881
共同保証 .................................. 787
強迫 ...................................... 154
業務執行者 ................................ 589
共有 ....................................... 55
共有持分 ................................... 57
虚偽表示 .................................. 118
極度額 .................................... 729
極度額減額請求権 .......................... 730
寄与分 .................................... 997
金銭債権 ................................... 25
金銭債務 .................................. 374
金銭賠償 .................................. 362
禁反言の原則 ................................ 6
く
組合 ................................. 589, 590
組合の財産関係 ............................ 595
組合の対外的関係 .......................... 594
組合の対内的関係 .......................... 593
クリーン・ハンズの原則 ...................... 6
け
形式主義 ............................. 246, 247
こ-し/事項索引
形成権 ...................................... 5
継続的保証 ................................ 788
契約 ....................................... 83
契約自由の原則 .............................. 1
契約準備段階の過失 ........................ 379
契約上の地位の移転 ................... 601, 647
契約締結上の過失 ....................... 6, 377
結果債務 .................................. 298
血族 ...................................... 977
権限外の行為の表見代理 .................... 222
検索の抗弁権 .............................. 778
原始取得 .................................. 810
現実的履行の強制 .......................... 336
現実の提供 ................................ 326
現実の引渡し .............................. 278
原始的不能 ........................... 101, 352
原状回復 .................................. 362
原状回復義務 .............................. 439
現存利益 ............................. 110, 899
元物 ....................................... 69
顕名 ...................................... 171
権利外観法理 ......................... 119, 215
権利質 ............................... 737, 745
権利失効の原則 ......................... 6, 966
権利に関する登記 .......................... 523
権利能力 .......................... 29, 31, 108
権利能力なき社団 ....................... 30, 46
権利能力平等の原則 .......................... 1
権利保護要件 ......................... 149, 270
権利濫用の禁止 .............................. 8
こ
故意 ...................................... 841
行為能力 .................................. 109
更改 ...................................... 466
交換 ................................. 470, 476
後見 ...................................... 976
交互侵奪 .................................. 920
工作物責任 ................................ 877
公示の原則 ........................... 261, 281
公序良俗違反 .............................. 103
公信の原則 ................................ 281
公信力説 .................................. 629
合同行為 .............................. 83, 591
口頭の提供 ................................ 323
後発的不能 ................................ 101
抗弁 ...................................... 622
抗弁権 ...................................... 5
抗弁の切断 ................................ 628
合有 .................................. 55, 595
告知 ...................................... 428
雇用 ...................................... 541
婚姻 ...................................... 974
混同 ...................................... 468
混和 ...................................... 814
さ
サービス契約 .............................. 539
債権 ................................... 13, 23
債権者主義 ................................ 419
債権者代位権 .............................. 651
債権者代位権の転用 ........................ 660
債権譲渡 .................................. 601
債権的登記請求権 .......................... 254
債権の準占有者に対する弁済 ................ 310
催告 ...................................... 938
催告の抗弁権 .............................. 777
財産行為 ................................... 86
財産的損害 ................................ 849
再売買の予約 .............................. 770
裁判上の催告 .............................. 938
裁判上の請求 .............................. 938
債務者主義 ................................ 419
債務者に対する対抗要件 .................... 610
債務なき責任 ............................... 28
債務引受 ............................. 601, 643
債務不履行 ........................... 335, 348
債務不履行の事実 ..................... 348, 350
詐害行為取消権 ............................ 667
詐害行為取消権の効果 ...................... 679
詐欺 ...................................... 145
先取特権 .................................. 823
錯誤 ...................................... 134
指図による占有移転 ........................ 278
し
敷金 .............................481, 482, 507
私権 ........................................ 4
時効 ...................................... 922
時効の援用 ................................ 927
時効の中断と停止 .......................... 937
時効の利益の放棄 .......................... 934
自己契約 .................................. 191
持参債務 .................................. 301
使者 ...................................... 168
自主占有 .................................. 911
事情変更の原則 .............................. 6
事前求償権 ................................ 785
自然債務 .................................. 335
下請負 .................................... 552
質権 ...................................... 730
実現可能性 ................................ 101
実子 ...................................... 975
指定充当 .................................. 315
私的自治の原則 .............................. 1
私的実行 .................................. 748
自働債権 .................................. 449
事務管理 .................................. 830
指名債権 .................................. 603
社会的妥当性 .............................. 103
借地借家法 ................................ 514
終身定期金 ................................ 471
従たる権利 ............................ 97, 695
従物 .................................. 96, 694
手段債務 .................................. 298
受働債権 .................................. 449
取得時効 .................................. 941
取得時効と登記 ....................... 264, 951
主物 ....................................... 96
受領遅滞 .................................. 328
種類債権 .................................. 299
種類債権の特定 ............................ 301
準委任 .................................... 567
準事務管理 ................................ 832
準消費貸借 ................................ 584
準法律行為 ................................. 82
事項索引/す-ち
消極的損害 ................................ 849
条件 ................................. 239, 240
使用者責任 ................................ 871
使用貸借 .................................. 532
承諾 ....................................... 87
承諾転質 .................................. 734
譲渡担保 .................................. 749
譲渡担保権の対外的効力 .................... 756
譲渡担保権の対内的効力 .................... 754
消費者法 .................................. 599
消費貸借 .................................. 582
消費貸借の予約 ............................ 586
消滅時効 ............................. 468, 961
所持 ...................................... 909
除斥期間 .................................. 966
処分清算 .................................. 755
書面によらない贈与 ........................ 475
所有権 ..................................... 22
所有権絶対の原則 ........................ 1, 22
所有権的構成 .............................. 751
所有権留保 ................................ 764
自力救済 .................................... 9
信義誠実の原則 ......................... 5, 376
信義則 ................................. 5, 376
親権者 .................................... 976
親族 ...................................... 977
親族の範囲 ................................ 977
信託 ...................................... 470
人的担保 .................................. 771
信用保証 ............................. 788, 994
信頼関係破壊の理論 ..................... 6, 511
信頼利益 .................................. 364
心裡留保 .................................. 116
す
随伴性 ............................... 686, 772
数量指示売買 .............................. 414
せ
請求権 ...................................... 5
請求権競合 ................................. 21
制限行為能力者 ....................... 110, 115
制限種類債権 .............................. 300
製作物供給契約 ............................ 550
精神的損害 ................................ 849
製造物責任 ................................ 885
正当理由 .................................. 230
責任転質 .................................. 734
責任なき債務 ............................... 28
責任能力 .................................. 357
積極的債権侵害 ............................ 354
積極的損害 ................................ 849
善管注意義務 .............................. 568
専門家契約 ................................ 541
占有 ...................................... 908
占有回収の訴え ............................ 919
占有改定 ............................. 278, 286
占有機関 .................................. 910
占有権 .................................... 908
占有訴権 ............................. 908, 918
占有と相続 ................................ 947
占有保持の訴え ............................ 918
占有補助者 ................................ 910
占有保全の訴え ............................ 919
そ
相殺 ...................................... 448
相殺適状 .................................. 451
造作買取請求権 ............................ 527
相続 ...................................... 978
相続と登記 ................................ 264
相続人の順位 .............................. 984
相続人の廃除 .............................. 991
相続人の範囲 .............................. 984
相続人の不存在 ............................ 993
相続の承認 ................................ 998
相続の放棄 ................................ 998
相続分 .................................... 995
相続放棄と登記 ........................... 1006
双方代理 .................................. 191
双務契約 ................................... 75
総有 ....................................... 55
贈与 ................................. 470, 474
即時取得 ............................. 281, 286
損益相殺 ............................. 373, 852
損害概念 .................................. 363
損害の金銭的評価 ..................... 357, 369
損害賠償額の予定 .......................... 375
損害賠償請求 .............................. 347
損害賠償の範囲 ....................... 357, 364
た
代価弁済 .................................. 710
対抗要件 .................................. 252
第三者に対する対抗要件 .................... 612
第三者のためにする契約 .................... 472
代襲相続 .................................. 992
代償請求権 ................................ 376
代替執行 .................................. 337
代物弁済 .................................. 321
代理 ...................................... 165
代理権授与行為 ............................ 182
代理権授与の表示による表見代理 ............ 216
代理権消滅後の表見代理 .................... 234
代理受領 .................................. 806
代理商 .................................... 575
代理占有 .................................. 909
代理人の権限濫用 .......................... 192
諾成契約 ................................... 76
諾成的消費貸借 ............................ 585
他主占有 .................................. 911
多数当事者の債権関係 ....................... 62
建物買取請求権 ............................ 524
他人の債務の弁済 .......................... 902
他人物売買 ................................ 408
単独行為 ................................... 83
担保価値維持義務 .......................... 746
担保権的構成 .............................. 752
担保責任 .................................. 383
ち
地役権 ....................................
遅延賠償 ..................................
地上権 ....................................
嫡出子 ....................................
中間省略登記 ..............................
538
364
537
975
256
つ-ふ/事項索引
直接強制 ..................................
直接責任 ..................................
賃借権の譲渡 ..............................
賃借権の物権化 ............................
賃貸人たる地位の移転 ................. 503,
337
590
493
480
507
つ
追及効 .................................... 689
追認 ................................. 161, 199
通常損害 .................................. 365
て
停止条件 .................................. 240
抵当権 .................................... 687
抵当権者の同意の登記がある場合の賃貸借 ..... 709
抵当権消滅請求 ............................ 711
抵当権侵害 ................................ 713
抵当権の順位の譲渡 ........................ 724
抵当権の順位の変更 ........................ 725
抵当権の順位の放棄 ........................ 724
抵当権の譲渡 .............................. 724
抵当権の放棄 .............................. 724
適法性 .................................... 101
撤回 ...................................... 160
手付 ....................................... 91
典型契約 ................................... 75
転質 ...................................... 734
転貸 ................................. 493, 494
天然果実 ................................... 69
添付 ...................................... 811
てん補賠償 ................................ 364
転用物訴権 ................................ 894
と
問屋営業 .................................. 575
登記共同申請の原則 ........................ 253
登記請求権 ................................ 253
動機の錯誤 ................................ 136
動産 ....................................... 67
動産先取特権 .............................. 824
動産質 ............................... 736, 743
同時死亡の推定 ............................. 33
同時配当 .................................. 727
同時履行の抗弁権 .......................... 340
到達時説 .................................. 615
到達主義 ................................... 88
特定遺贈 .................................. 983
特定物債権 ................................ 299
特別受益者 ................................ 997
特別損害 .................................. 365
特別養子縁組 .............................. 975
取消し ............................... 155, 159
取消後の第三者 ....................... 151, 264
取消しと登記 .............................. 263
取消前の第三者 ............................ 151
取締規定 .................................. 102
取立債務 .................................. 301
取次契約 .................................. 575
な
名板貸 .................................... 221
仲立営業 .................................. 575
なす債務 .................................. 298
に
二重譲渡 .................................. 261
日常家事に関する代理権 .................... 226
認知 ...................................... 975
ね
根抵当 .................................... 728
根保証 .................................... 788
は
媒介契約 .................................. 575
配偶者 .................................... 977
賠償者の代位 .............................. 375
背信的悪意者 .............................. 267
排他性 .................................... 590
売買 ....................................... 77
白紙委任状の交付 .......................... 219
発信主義 ................................... 89
ひ
被害者側の過失 ............................ 854
非債弁済 .................................. 901
非嫡出子 .................................. 975
必要費 .................................... 486
非典型契約 ................................. 75
非典型担保 ................................ 748
表見代理 .................................. 215
表見法理 ............................. 119, 215
表示主義 .................................. 107
表示に関する登記 ..................... 261, 523
費用償還請求権 ............................ 821
ふ
ファイナンス・リース契約 .................. 588
付加一体物 ................................ 693
不確定期限 ................................ 242
不可分債権 ................................ 792
不可分債務 ............................ 63, 792
不可分性 .................................. 686
不完全履行 .......................348, 352, 433
付記登記 .................................. 260
復代理 .................................... 187
付合 ................................. 812, 814
付合物 .................................... 693
付従性 ............................... 686, 772
不真正連帯債務 ............................ 801
負担付贈与 ................................ 470
普通養子縁組 .............................. 975
物権 ................................... 13, 14
物権行為の独自性 ..................... 246, 248
物権行為の無因性 ..................... 246, 249
物権的請求権 ............................... 17
物権的登記請求権 .......................... 254
物権的返還請求権 ........................... 18
物権的妨害排除請求権 ....................... 18
物権的妨害予防請求権 ....................... 18
物権変動 .................................. 245
物権変動的登記請求権 ...................... 254
物権変動の時期 ....................... 246, 250
物権法定主義 ............................... 14
物上代位 .................................. 698
物上代位性 ................................ 686
物上保証人 ................................ 688
事項索引/へ-わ
不動産 ..................................... 67
不動産先取特権 ............................ 825
不動産質 ............................. 737, 744
不動産物権変動 ............................ 252
不当利得 .................................. 888
不特定物債権 .............................. 299
不法原因給付 .............................. 902
不法行為 .................................. 837
不要式行為 ................................. 76
フランチャイズ契約 ........................ 598
分割債権・債務 ............................. 63
分別の利益 ................................ 787
分離物 .................................... 696
無効 ................................. 155, 156
無効行為の追認 ............................ 158
無効と取消しの二重効 ...................... 163
無主物先占 ................................ 810
無償契約 ................................... 75
無断譲渡 .................................. 494
無名契約 ................................... 75
へ
申込み ..................................... 87
物 ......................................... 65
併存的債務引受 ............................ 645
変更権 .................................... 303
変更行為 ................................... 57
弁済 ...................................... 306
弁済による代位 ............................ 316
弁済の充当 ................................ 315
弁済の提供 ................................ 322
騙取した金銭による弁済 .................... 892
片務契約 .............................. 75, 583
ほ
包括遺贈 .................................. 983
法人 .............................. 30, 34, 589
法定果実 ................................... 70
法定充当 .................................. 315
法定担保物権 .............................. 814
法定地上権 ................................ 699
法律行為 ................................... 81
法律効果 ................................... 81
法律事実 ................................... 82
法律要件 ................................... 81
保佐 ...................................... 976
補充性 .................................... 773
補助 ...................................... 976
保証 ...................................... 772
保存行為 ................................... 57
ま
埋蔵物発見 ................................ 810
み
身分行為 ................................... 86
身元保証 ............................. 788, 994
む
無限責任 ..................................
無権代理 ..................................
無権代理と相続 ............................
無権代理人の責任 ..........................
590
197
203
202
め
明認方法 .................................. 271
免除 ...................................... 468
免責的債務引受 ............................ 644
も
や
約定担保物権 .............................. 731
約款 ....................................... 96
ゆ
有益費 .................................... 486
有限責任 .................................. 590
有償契約 ................................... 75
優先弁済的効力 ............................ 686
有名契約 ................................... 75
よ
用益物権 .................................. 537
養子 ...................................... 975
養子縁組 .................................. 975
要式行為 ............................... 76, 85
要物契約 ..........................76, 583, 731
り
利益相反 ..................................
履行拒絶 ..................................
履行遅滞 .........................348, 350,
履行引受 ..................................
履行不能 ....................348, 351, 352,
履行補助者 ........................... 356,
履行利益 ..................................
利息 ......................................
流質契約 ..................................
留置権 ....................................
留置的効力 ........................... 686,
191
383
430
646
432
358
364
583
734
814
820
れ
連帯債務 .............................. 63, 795
連帯保証 .................................. 786
わ
和解 ................................. 470, 477
大審院・最高裁判所/判例索引
判例索引
※
分冊科目のセブンサミットテキストには、通し番号による頁数を付しており、事項索引及び判例索引は、当該頁数を記載した全
分冊共通のものとなっている(民法Ⅰ・1頁~538 頁、民法Ⅱ・539 頁~1012 頁)。なお同一年月日の判例については、登載判例
集等を記して、特定している。
大審院・最高裁判所
大判明 33.5.7 .............................. 147
大判明 35.10.14 ............................ 284
大判明 37.6.22 ............................. 555
大判明 37.11.28 ............................ 154
大判明 38.5.11 ............................. 109
大判明 39.2.5 .............................. 677
大判明 39.3.31 ............................. 177
大判明 39.12.24 ............................ 914
大判明 40.5.20 ............................. 319
大連判明 41.12.15 ..................... 263, 266
大判明 42.5.14 ............................. 626
大判明 42.10.4 ............................. 585
大判明 43.1.25 ............................. 929
大判明 43.2.25 ............................. 279
大判明 43.7.6 .............................. 661
大判明 44.2.9 .............................. 584
大判明 44.3.20 ............................. 735
大連判明 44.3.24 ........................... 671
大判明 44.10.3 ............................. 677
大判明 44.12.16 ............................ 326
大判明 45.7.1 .............................. 190
大判明 45.7.3 .............................. 319
大判大元.9.25 .............................. 42
大判大元.12.6 ............................. 878
大判大 2.1.24 .............................. 584
大判大 2.4.26 .............................. 883
大判大 2.5.8 ............................... 584
大判大 2.6.19 .............................. 586
大判大 2.6.28 .............................. 596
大判大 3.7.4 ............................... 845
大判大 3.8.13 .............................. 255
大判大 3.12.8 ............................... 94
大判大 3.12.15 ............................. 141
大判大 3.12.26 ........................ 555, 560
大判大 4.3.10 ............................... 26
大判大 4.4.1 ............................... 605
大判大 4.4.27 .............................. 280
大判大 4.7.10 .............................. 624
大判大 4.9.20 ......................... 919, 920
大判大 4.12.10 ............................. 679
大判大 5.2.2 ............................... 255
大判大 5.5.31 .............................. 697
大判大 5.7.22 .............................. 918
大判大 5.11.22 .............................. 41
大判大 5.12.25 ........................ 733, 738
大判大 6.1.20 .............................. 572
大判大 6.2.7 ............................... 190
大判大 6.3.31 .............................. 316
大判大 6.6.27 .............................. 432
大判大 6.7.26 .............................. 826
大判大 6.9.20 .............................. 154
大判大 6.10.27 ............................. 438
大判大 6.11.8 .............................. 141
大判大 7.1.1............................... 745
大判大 7.3.2.......................... 264, 954
大判大 7.3.25.............................. 585
大判大 7.4.20.............................. 697
大判大 7.7.10............................... 98
大判大 7.8.14.............................. 326
大判大 7.8.27.............................. 369
大判大 7.9.26.............................. 677
大判大 7.10.3......................... 139, 141
大判大 7.12.3.............................. 141
大判大 7.12.7.............................. 310
大判大 7.12.19............................. 834
大判大 8.3.3................................. 9
大判大 8.3.15.............................. 694
大連判大 8.3.15............................. 98
大判大 8.6.26.............................. 663
大判大 8.8.25.............................. 620
大判大 8.9.15.............................. 429
大判大 8.9.27............................... 58
大判大 8.12.11.............................. 56
大判大 9.3.29.............................. 327
大判大 9.5.28.............................. 241
大判大 9.10.5............................... 44
大判大 9.12.6......................... 385, 387
大判大 9.12.24............................. 680
大判大 10.2.14............................. 190
大判大 10.3.23............................. 326
大判大 10.4.4.............................. 859
大判大 10.4.14............................. 276
大判大 10.5.3.............................. 488
大判大 10.5.17............................. 442
大判大 10.6.2............................... 95
大判大 10.6.7.............................. 141
大判大 10.6.18............................. 681
大判大 10.9.26............................. 486
大判大 10.9.29............................. 585
大判大 10.11.3............................. 568
大判大 10.11.15............................. 97
大判大 10.12.15............................ 406
大判大 11.2.20.............................. 58
大判大 11.3.26............................. 488
大判大 11.6.6.............................. 584
大判大 11.7.10.............................. 58
大判大 11.9.19............................. 916
大判大 11.10.25............................ 584
大判大 11.11.24......................... 7, 726
大連判大 12.12.14.......................... 704
大判大 13.5.22............................. 920
大判大 13.5.27............................. 432
大判大 13.6.12............................. 738
大判大 13.7.18............................. 327
大連判大 13.9.24........................... 305
大判大 13.10.7.............................. 72
大連判大 13.12.24.......................... 752
大判大 14.1.20......................... 70, 915
大判大 14.3.13....................385, 386, 387
判例索引/大審院・最高裁判所
大連判大 14.7.14 ........................... 735
大判大 14.7.18 ............................. 726
大連判大 14.7.18 ........................... 954
大判大 14.10.5 ............................. 190
大判大 14.10.29 ............................ 190
大判大 14.11.28 ............................ 845
大判大 14.12.3 ............................. 325
大判大 14.12.11 ............................. 16
大判大 14.12.15 ............................ 644
大判大 15.2.16 ............................. 865
大判大 15.4.21 ............................. 584
大判大 15.4.30 ............................. 255
大連判大 15.5.22 ........................... 373
大判大 15.10.4 ............................. 255
大判大 15.11.25 ............................ 432
大判昭 2.7.4 ............................... 994
大判昭 3.5.31 .............................. 347
大判昭 3.8.1 ............................... 718
大判昭 3.8.8 ............................... 284
大判昭 4.1.23 .............................. 154
大判昭 4.3.30 .............................. 405
大判昭 4.6.19 .............................. 361
大判昭 4.12.11 ............................. 294
大判昭 4.12.16 ............................. 663
大判昭 5.4.7 ............................... 326
大決昭 5.4.11 .............................. 638
大判昭 5.5.3 ............................... 920
大判昭 5.6.4 ............................... 588
大判昭 5.7.2 ............................... 485
大判昭 5.7.26 .............................. 374
大判昭 5.9.11 ............................... 41
大決昭 5.9.30 .............................. 338
大判昭 5.10.10 ............................. 663
大判昭 5.12.18 ......................... 96, 694
大判昭 6.1.17 .............................. 528
大判昭 6.3.18 .............................. 498
大判昭 6.6.9 ............................... 128
大判昭 6.10.21 ............................. 717
大判昭 6.10.24 ............................. 123
大決昭 6.11.21 ............................. 638
大判昭 6.12.17 .............................. 41
大判昭 7.2.23 .............................. 291
大判昭 7.3.5 ............................... 177
大判昭 7.4.11 .............................. 880
大判昭 7.5.9 ............................... 556
大判昭 7.5.13 .............................. 720
大判昭 7.6.6 ............................... 192
大判昭 7.8.9 ............................... 147
大判昭 7.9.30 民集 11・1859 .................. 528
大判昭 7.9.30 民集 11・1868 .................. 585
大判昭 7.10.6 .......................... 33, 859
大判昭 8.2.13 .............................. 291
大判昭 8.2.24 .............................. 585
大判昭 8.3.6 ............................... 584
大判昭 8.7.19 ............................... 42
大決昭 8.8.18 ......................... 634, 635
大判昭 8.9.15 .............................. 584
大判昭 8.9.18 .............................. 128
大判昭 9.2.26 .............................. 326
大判昭 9.3.7 ............................ 7, 498
大判昭 9.5.2 ............................... 929
大判昭 9.5.4 ............................... 234
大判昭 9.6.30 .............................. 584
大判昭 9.9.15.............................. 243
大判昭 9.12.28............................. 276
大判昭 10.3.2.............................. 157
大判昭 10.3.12............................. 659
大判昭 10.4.25............................. 335
大判昭 10.5.13............................. 821
大判昭 10.5.31............................. 291
大判昭 10.10.1.............................. 67
大判昭 10.10.5............................... 8
大判昭 11.2.14............................. 932
大判昭 11.3.11............................. 604
大判昭 11.3.13............................. 634
大判昭 11.6.16............................. 584
大判昭 12.8.10............................. 125
大判昭 12.9.17............................. 408
大判昭 12.11.19............................. 21
大判昭 13.3.30............................. 105
大判昭 13.5.14............................. 607
大判昭 13.6.8............................... 41
大判昭 13.12.26............................ 920
大連判昭 14.3.22........................... 938
大判昭 14.7.19............................. 954
大判昭 14.7.26............................. 707
大判昭 14.12.6............................. 180
大判昭 15.4.16.............................. 98
大判昭 15.5.29............................. 310
大判昭 15.8.12............................. 725
大判昭 15.9.18.............................. 16
大判昭 15.10.9............................. 640
大判昭 15.11.26............................ 725
大判昭 15.12.14............................ 856
大判昭 16.3.15............................. 190
大判昭 16.3.25.............................. 42
大判昭 17.4.24.............................. 61
大連判昭 17.5.20........................... 226
大判昭 17.9.30....................151, 153, 264
大判昭 17.10.2............................. 408
大判昭 18.7.20............................. 556
大判昭 19.2.18............................. 920
大判昭 19.6.28.............................. 87
大判昭 19.12.6............................. 382
大連判昭 19.12.22.......................... 236
大判昭 20.5.21............................. 781
最判昭 23.2.23............................. 117
最判昭 23.12.14............................ 326
最判昭 24.10.4.............................. 92
最判昭 25.10.26............................ 408
最判昭 25.12.19............................ 266
最判昭 26.5.31............................. 496
最判昭 26.11.27....................... 286, 296
最判昭 27.4.25............................. 511
最判昭 28.1.22............................. 908
最判昭 28.1.30............................. 518
最判昭 28.6.16............................. 342
最判昭 28.9.25.......................... 7, 495
最判昭 28.12.18 民集 7・12・1446 .............. 371
最判昭 28.12.18 民集 7・12・1515 ......... 490, 492
最判昭 29.1.22............................. 405
最判昭 29.1.28............................. 382
最判昭 29.3.11............................. 527
最判昭 29.7.20............................. 492
最判昭 29.8.31 民集 8・8・1557 ........... 106, 904
最判昭 29.8.31 民集 8・8・1567 ................ 281
大審院・最高裁判所/判例索引
最判昭 30.4.5 .............................. 492
最判昭 30.5.31 民集 9・6・774 .................. 27
最判昭 30.5.31 民集 9・6・844 ................. 408
最判昭 30.6.2 .............................. 279
最判昭 30.10.11 ............................ 680
最判昭 30.10.18 ............................ 302
最判昭 30.11.22 ......................... 7, 966
最判昭 30.12.20 .............................. 7
最判昭 30.12.26 ............................. 93
最判昭 31.4.6 .............................. 529
最大判昭 31.7.4 ............................ 338
最判昭 31.10.9 .............................. 67
最判昭 31.11.27 ............................ 326
最判昭 32.1.22 ............................. 485
最判昭 32.2.15 ............................. 910
最大判昭 32.6.5 ............................ 324
最判昭 32.7.25 ............................. 518
最判昭 32.11.1 ............................. 677
最判昭 32.11.14 ............................. 48
最判昭 32.12.19 ............................ 138
最判昭 32.12.24 ............................ 429
最判昭 33.1.14 ............................. 496
最判昭 33.3.28 .............................. 41
最判昭 33.6.5 ............................... 93
最判昭 33.6.14 ............................. 407
最判昭 33.6.20 ............................. 251
最判昭 33.7.29 ............................. 276
最判昭 33.8.5 .............................. 863
最判昭 33.9.18 ............................. 503
最判昭 34.1.8 .............................. 914
最判昭 34.2.5 .............................. 232
最判昭 34.2.12 ............................. 256
最判昭 34.5.14 ............................. 346
最判昭 34.6.19 ....................... 797, 1012
最判昭 34.8.7 ......................... 273, 276
最判昭 35.2.9 .............................. 526
最判昭 35.2.11 ............................. 288
最判昭 35.2.19 ............................. 225
最判昭 35.3.1 民集 14・3・307 ............ 274, 276
最判昭 35.3.1 民集 14・3・327 ................. 913
最判昭 35.3.18 ............................. 103
最判昭 35.4.21 ............................. 259
最判昭 35.5.6 .............................. 902
最判昭 35.6.23 ............................. 936
最判昭 35.6.28 ............................. 511
最判昭 35.9.20 ............................. 525
最判昭 35.10.21 ............................ 221
最判昭 35.11.22 ............................ 326
最判昭 35.11.29 ....................... 264, 444
最判昭 36.1.17 ............................. 232
最判昭 36.2.10 ............................. 702
最判昭 36.2.16 ............................. 843
最判昭 36.5.4 ......................... 275, 276
最大判昭 36.7.19 ...................... 680, 683
最判昭 36.7.20 ............................. 954
最判昭 36.7.31 ............................. 594
最判昭 36.11.21 ............................ 433
最判昭 36.11.24 ............................ 255
最判昭 36.11.30 ............................ 836
最判昭 36.12.12 ............................ 196
最判昭 36.12.15 ....................... 386, 387
最判昭 37.3.8 .............................. 903
最判昭 37.3.29 ............................. 500
最判昭 37.4.20............................. 207
最判昭 37.5.18............................. 947
最判昭 37.8.10........................ 159, 214
最判昭 37.8.21............................. 311
最判昭 37.9.4.............................. 859
最判昭 37.9.21............................. 326
最判昭 37.10.9............................. 681
最判昭 37.11.16............................ 373
最判昭 37.12.25............................ 531
最判昭 38.1.25 民集 17・1・41 ................. 919
最判昭 38.1.25 民集 17・1・77 ................. 485
最判昭 38.2.22....................... 264, 1006
最判昭 38.5.24............................. 524
最判昭 38.5.31............................. 594
最判昭 38.10.15............................ 913
最判昭 38.10.30............................ 938
最判昭 38.11.5............................. 839
最判昭 38.12.24............................ 900
最判昭 39.1.23 民集 18・1・37 ................. 103
最判昭 39.1.23 民集 18・1・76 ................. 681
最判昭 39.1.24.............................. 68
最判昭 39.1.30.............................. 67
最判昭 39.2.4.............................. 872
最判昭 39.2.25............................. 435
最判昭 39.3.6.............................. 264
最判昭 39.4.2.............................. 226
最判昭 39.5.23............................. 220
最大判昭 39.6.24........................... 854
最判昭 39.10.13............................ 532
最判昭 39.10.15............................. 47
最判昭 40.3.4.............................. 921
最判昭 40.5.4............................... 97
最判昭 40.6.4.............................. 142
最判昭 40.6.18............................. 205
最大判昭 40.6.30........................... 776
最判昭 40.9.10............................. 142
最判昭 40.9.21............................. 258
最判昭 40.10.7............................. 584
最大判昭 40.11.24....................... 92, 93
最判昭 40.11.30............................ 872
最判昭 40.12.3............................. 331
最判昭 40.12.17............................ 906
最判昭 40.12.21............................ 902
最判昭 41.3.3............................... 58
最判昭 41.3.18............................. 130
最判昭 41.3.22............................. 347
最判昭 41.4.14........................ 403, 415
最大判昭 41.4.20........................ 7, 936
最判昭 41.4.21............................. 511
最判昭 41.4.26.......................... 41, 42
最大判昭 41.4.27...................... 520, 524
最判昭 41.4.28............................. 752
最判昭 41.5.19.............................. 58
最判昭 41.6.9.............................. 286
最判昭 41.9.8.............................. 410
最判昭 41.10.21............................. 18
最判昭 41.11.18............................ 885
最判昭 41.12.20............................ 646
最判昭 41.12.23............................ 376
最判昭 42.1.20....................... 264, 1007
最判昭 42.2.21............................. 531
最判昭 42.4.20............................. 194
最判昭 42.4.28............................. 530
判例索引/大審院・最高裁判所
最判昭 42.5.30 ............................. 286
最判昭 42.6.23 ............................. 965
最判昭 42.6.27 ............................. 854
最判昭 42.6.30 ............................. 874
最判昭 42.7.19 ............................. 856
最判昭 42.7.21 ............................. 945
最判昭 42.10.27 民集 21・8・2110 ............ 929
最判昭 42.10.27 民集 21・8・2161 .. 629, 631, 632
最判昭 42.10.31 ............................ 127
最大判昭 42.11.1 ........................... 867
最判昭 42.11.2 ............................. 872
最判昭 42.11.9 ............................. 677
最判昭 43.2.16 ............................. 584
最判昭 43.6.21 .............................. 93
最判昭 43.8.2 .............................. 268
最判昭 43.8.20 ............................. 413
最判昭 43.9.26 ........................ 656, 932
最判昭 43.10.8 ........................ 959, 960
最判昭 43.10.17 ............................ 131
最大判昭 43.11.13 .......................... 938
最判昭 43.11.15 ............................ 788
最判昭 43.11.21 ............................ 818
最判昭 43.12.24 ............................ 726
最判昭 44.2.13 ............................. 115
最判昭 44.2.14 ............................. 703
最判昭 44.3.4 .............................. 808
最判昭 44.3.28 ..................... 97, 98, 694
最判昭 44.5.1 .............................. 325
最判昭 44.5.2 .............................. 259
最判昭 44.5.27 ............................. 125
最判昭 44.6.24 ............................. 657
最判昭 44.7.4 .......................... 42, 690
最判昭 44.7.8 .............................. 960
最判昭 44.7.17 ............................. 507
最判昭 44.7.25 ............................. 813
最判昭 44.9.12 ............................. 556
最判昭 44.10.30 ............................ 947
最判昭 44.11.27 民集 23・11・2251 ........... 938
最判昭 44.11.27 民集 23・11・2265 ........... 856
最判昭 44.12.18 ............................ 228
最判昭 44.12.19 民集 23・12・2518 ............. 677
最判昭 44.12.19 民集 23・12・2539 ............. 229
最判昭 45.3.26 ........................ 142, 656
最判昭 45.4.10 ............................. 609
最大判昭 45.6.24 民集 24・6・587 .............. 461
最大判昭 45.6.24 民集 24・6・625 ............... 41
最判昭 45.7.15 ............................. 320
最判昭 45.7.16 ............................. 897
最判昭 45.7.28 ........................ 220, 236
最判昭 45.9.22 ............................. 130
最大判昭 45.10.21 ................ 905, 906, 907
最判昭 45.11.19 ............................ 132
最判昭 45.12.4 ............................. 743
最判昭 45.12.11 ............................ 496
最判昭 45.12.15 民集 24・13・2051 ............. 959
最判昭 45.12.15 民集 24・13・2081 ............. 230
最判昭 46.1.26 ....................... 264, 1010
最判昭 46.2.19 ............................. 486
最判昭 46.3.25 ............................. 756
最判昭 46.4.23 ............................. 504
最判昭 46.6.3 .............................. 226
最判昭 46.7.16 ........................ 486, 820
最判昭 46.9.21 ............................. 319
最判昭 46.10.28............................ 905
最判昭 46.11.5............................. 954
最判昭 46.11.19............................ 681
最判昭 46.11.30............................ 949
最判昭 46.12.16............................ 331
最判昭 47.4.20............................. 373
最判昭 47.6.2............................... 49
最判昭 47.6.22............................. 520
最判昭 47.7.13............................. 520
最判昭 47.9.7.............................. 342
最判昭 47.11.16............................ 821
最判昭 47.12.22............................ 570
最判昭 48.2.2.............................. 508
最判昭 48.6.7.............................. 851
最判昭 48.7.3.............................. 208
最判昭 48.7.17............................. 486
最判昭 48.7.19............................. 607
最判昭 48.9.18............................. 703
最判昭 48.10.9.............................. 51
最判昭 48.11.16............................ 856
最判昭 48.11.30............................ 677
最判昭 48.12.14............................ 929
最判昭 49.3.7......................... 612, 616
最判昭 49.3.19............................. 506
最判昭 49.3.22............................. 868
最判昭 49.9.2.............................. 484
最大判昭 49.9.4............................ 214
最判昭 49.9.26 民集 28・6・1213 .......... 147, 150
最判昭 49.9.26 民集 28・6・1243 .......... 891, 894
最判昭 49.12.12............................ 678
最判昭 49.12.17............................ 862
最判昭 50.1.31............................. 374
最判昭 50.2.13............................. 524
最判昭 50.2.25.......................... 7, 544
最判昭 50.2.28............................. 767
最判昭 50.3.6.............................. 664
最判昭 50.11.28............................ 520
最判昭 50.12.8............................. 628
最判昭 51.2.13........................ 411, 441
最判昭 51.3.4.............................. 453
最判昭 51.3.25............................. 854
最判昭 51.4.9.............................. 189
最判昭 51.4.23.............................. 42
最判昭 51.6.17............................. 820
最判昭 51.6.25............................. 230
最判昭 51.7.8.............................. 875
最判昭 51.12.20............................. 93
最判昭 51.12.24............................ 946
最判昭 52.3.17............................. 608
最判昭 52.9.29............................. 960
最判昭 53.3.6.............................. 944
最判昭 53.9.21........................ 455, 565
最判昭 53.10.5............................. 680
最判昭 53.12.22............................ 509
最判昭 54.3.20............................. 563
最判昭 54.9.7.............................. 457
最判昭 55.1.11............................. 617
最判昭 55.1.24............................. 673
最判昭 56.1.19............................. 573
最判昭 56.2.16............................. 546
最判昭 56.3.24............................. 104
最判昭 56.12.17............................ 759
最判昭 57.1.21........................ 401, 414
大審院・最高裁判所/判例索引
最判昭 57.3.4 .............................. 885
最判昭 57.3.12 ............................. 718
最判昭 57.3.30 ............................. 843
最判昭 57.6.17 .............................. 58
最判昭 57.7.20 ............................. 843
最判昭 57.12.17 ............................ 799
最判昭 58.2.24 ............................. 759
最判昭 58.3.24 ............................. 911
最判昭 58.5.27 ............................. 547
最判昭 58.12.19 ............................ 674
最判昭 59.4.10 ............................. 548
最判昭 59.9.18 .......................... 7, 380
最判昭 60.7.19 ............................. 825
最判昭 60.11.29 ............................ 476
最判昭 61.3.17 ............................. 924
最判昭 61.11.20 ............................ 103
最判昭 61.12.16 ............................. 71
最大判昭 62.4.22 ............................ 59
最判昭 62.4.24 ............................. 284
最判昭 62.6.5 .............................. 960
最判昭 62.7.7 ......................... 202, 238
最判昭 62.11.10 ........................ 73, 826
最判昭 62.11.12 ............................ 761
最判昭 63.3.1 .............................. 211
最判昭 63.5.20 .............................. 58
最判昭 63.7.1 .............................. 309
最判平元.2.7 .............................. 522
最判平元.9.14 ............................. 138
最判平元.12.21 ............................ 858
最判平 2.1.22 .............................. 704
最判平 3.3.22 民集 45・3・268 ............ 715, 721
最判平 3.3.22 民集 45・3・293 ................. 518
最判平 3.4.2 ............................... 404
最判平 3.4.11 .............................. 548
最判平 3.7.16 .............................. 820
最判平 4.3.19 .............................. 929
最判平 4.10.20 ............................. 405
最判平 4.11.6 .............................. 638
最判平 4.12.10 ............................. 195
最判平 5.1.21 .............................. 210
最判平 5.3.16 ............................... 93
最判平 5.3.30 .............................. 619
最判平 5.10.19 ............................. 556
最判平 6.2.8 ................................ 20
最判平 6.2.22 .............................. 763
最判平 6.3.22 ............................... 94
最判平 6.3.25 .............................. 721
最判平 6.4.21 .............................. 375
最判平 6.5.31 .............................. 240
最判平 6.7.18 .............................. 500
最判平 6.9.13 .............................. 212
最判平 6.10.11 ............................. 535
最判平 7.1.24 .............................. 870
最判平 7.6.9 ............................... 843
最判平 7.7.7 ............................... 850
最判平 7.9.19 .............................. 897
最判平 7.11.10 ............................. 711
最判平 7.12.15 ............................. 911
最判平 8.1.23 .............................. 843
最判平 8.1.26 .............................. 418
最判平 8.2.8 ............................... 680
最判平 8.10.14 ............................. 496
最判平 8.10.28 ............................. 381
最判平 8.10.29............................. 269
最判平 8.10.31.............................. 60
最判平 8.11.12 民集 50・10・2591 .............. 949
最判平 8.11.12 民集 50・10・2673 .............. 433
最判平 9.1.28.............................. 991
最判平 9.2.14.............................. 564
最判平 9.2.25.............................. 500
最判平 9.6.5............................... 608
最判平 9.7.1............................... 382
最判平 10.2.26............................. 532
最判平 10.3.24............................ 1001
最判平 10.4.30............................. 839
最判平 10.5.26............................. 894
最判平 10.6.11............................ 1001
最判平 10.6.12 民集 52・4・1087 ............. 858
最判平 10.6.12 民集 52・4・1121 ............. 675
最判平 10.6.22............................. 930
最判平 10.9.10............................. 802
最判平 11.2.23............................. 597
最判平 11.3.25............................. 503
最判平 11.4.22.............................. 60
最決平 11.5.17........................ 754, 758
最判平 11.6.11............................. 676
最判平 11.6.24............................ 1001
最判平 11.10.21............................ 930
最大判平 11.11.24.............708, 715, 721,722
最判平 12.3.9.............................. 674
最判平 12.6.27........................ 295, 296
最判平 13.3.13............................. 884
最判平 13.7.10............................. 930
最判平 13.11.22............................ 654
最判平 13.11.27............................ 415
最判平 14.1.29............................. 856
最判平 14.3.28............................. 502
最判平 14.7.11............................. 138
最判平 14.11.5............................ 1002
最判平 15.4.18............................. 106
最判平 15.7.11.............................. 58
最判平 16.4.27............................. 857
最判平 16.11.12............................ 872
最判平 16.12.24............................ 856
最判平 17.2.22............................. 826
最判平 17.3.10....................718, 722, 724
最判平 17.9.16............................. 380
最判平 17.12.16............................ 946
最判平 18.2.7.............................. 753
最判平 18.2.23............................. 132
最判平 18.3.30............................. 845
最判平 18.6.16............................. 857
最判平 18.12.21............................ 746
最判平 19.7.6 民集 61・5・1769 ......... 841, 843
最判平 19.7.6 民集 61・5・1940 .............. 705
最判平 20.1.24............................ 1002
最判平 20.4.24............................. 846
最判平 20.6.10............................. 852
最判平 20.6.12............................. 846
最判平 20.7.4.............................. 855
最判平 20.10.10............................ 580
最判平 21.1.19............................. 368
最判平 21.1.22 民集 63・1・228 ............. 1010
最判平 21.1.22 民集 63・1・247 .............. 963
最判平 21.3.10............................. 768
最判平 21.3.24............................ 1003
判例索引/高等裁判所・地方裁判所
最判平 21.3.27 ............................. 606
最判平 21.4.28 ............................. 858
最決平 22.12.2 ............................. 755
最判平 22.12.16 ............................ 258
最判平 23.1.21 ............................. 959
最判平 23.4.22 ............................. 381
最判平 23.4.28 ............................. 843
最判平 23.7.21 ............................. 843
最判平 23.12.16 ............................ 104
最決平 24.1.26 ............................ 1004
最判平 24.2.2 .............................. 846
最判平 24.2.24 ............................. 368
最判平 24.3.16 民集 66・5・2216 ................. 7
最判平 24.3.16 民集 66・5・2321 ............... 956
最判平 24.9.4 .............................. 513
最判平 25.2.28 ............................. 453
最決平 25.3.28 ............................. 338
最判平 25.4.9 ................................ 8
最判平 25.6.6 .............................. 939
最判平 25.7.12 ............................. 879
最大決平 25.9.4 ............................ 985
高等裁判所・地方裁判所
東京高判昭 27.10.31 ........................ 624
東京地判昭 31.10.12 ........................ 521
東京地判昭 32.6.25 ......................... 521
東京高判昭 32.12.24 ........................ 153
東京高判昭 34.10.31 ......................... 52
高松高判昭 35.11.30 ........................ 319
東京高判昭 36.12.20 ........................ 562
津地四日市支判昭 47.7.24 ................... 883
東京地判昭 48.7.27 ......................... 562
神戸地判昭 53.8.30 ......................... 355
札幌地判昭 63.6.28 ......................... 381
大阪高判平 2.6.21 .......................... 138
京都地判平 3.10.1 .......................... 381
大阪地判平 5.3.24 .......................... 545
大阪地判平 7.7.5 ........................... 884
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