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第11回 OLPCpp1-2

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第11回 OLPCpp1-2
岐阜大学 工学研究科 選択科目 「起業家精神とイノベーション概論」
One Laptop Per Child: Vision vs. Reality, Kenneth L. Kraemer, Jason Dedrick, and Prakul Sharma,
Communications of the ACM, June 2009, Vol. 52, No. 6, pp.66-73.
子供たち一人ひとりにラップトップを:ビジョンと現実 (速水:翻訳)
そのビジョンは,世界中のビジネス,政治,後方支援,そして競合する利害の現実によって圧倒されている.
1.序
2005 年 1 月にスイスのダボスで行われた世界経済フォーラムにおいて,ニコラス・ネグロポンテ(Nicholas
Negroponte)は,One Laptop Per Child (OLPC) の構想を明らかにした.OLPC は,100 ドル PC とも呼ばれ,世界
中の恵まれない学校の子供たちに,自分で学習し,お互いに教え合うような手段を提供することによって教育を
変革するだろうとされた.ネグロポンテは,これらのラップトップ・コンピュータを 2007 年末までに,毎年 1 億 5 千
万台,出荷できるだろうと推定した.2000 万ドルの初期資金を集め,主要な情報技術産業のプレイヤーと,資金
提供や提携の関係を結び,開発途上国からの関心を得て,非営利の OLPC プロジェクトは,国際社会のリーダ
ーたちと世界のメディアの間に興奮を生み出した.しかしながら,2009 年 6 月の時点では,わずかに数千万台の
ラップトップが供給されてきただけである.これらのラップトップは,2007 年に最初に使用可能になった.そして,
OLPC は,その野心的な望みを劇的にスケールダウンせざるを得なくなってきた.
いくつかの開発途上国は,実際に OLPC のラップトップを配布して使用可能にしているが,計画されていた採
用をキャンセルする国や,大量に入手するかどうかを判断する前に,パイロットプロジェクトの結果を待っている
国もある.その間,OLPC の組織はキーとなるスタッフの不足,予算カット,イデオロギーの幻滅に苦労してきた.
それは,ある人たちには教育のミッションがラップトップをドアの外に出すということだけに縮小してしまったように
見えるからである.それに加えて,低価格の商業的なネットブックが,Acer, Asus, Hewlett-Packard, そして他の
PC ベンダーたちによって販売され,大きな初期の成功をおさめてスタートしてきた.
つまり,自分たちが貧しい子供たちに何百万台ものラップトップを配るということよりも,OLPC は PC 産業に低
コストの教育向け PC を開発するように動機付けてきた.PC 産業は開発途上国に低コストの計算機の選択肢を
直接,提供し,それは OLPC 自身のイノベーションと競合した.その意味で,OLPC の明らかな失敗は,開発途上
国の子供たちに新しいツールを提供するという,より広い成功への一つのステップかもしれない.しかしながら,
PC 産業だけでは,もっとも貧しい何百万人の子供たちに利益を得ながら到達することができないということも明
らかである.
この論文で,我々は OLPC の経験を振り返り,つぎの2つの最も重要な論点に焦点を当てて,分析する.第一
に,開発途上国の環境を理解し,それに適応することに OLPC がどのように成功し,また失敗したかについてで
ある.もう一つは,OLPC の努力を打ち負かすか,あるいは協力するという,PC 産業の予期しなかった強烈な反
応であり,それにはインテルやマイクロソフトという巨大企業が含まれている.
OLPC は XO ラップトップという新しい技術を創り出した.それは,いなかの貧しい地域の学生たちのニーズに
強い注意を払って開発された.それでも,OLPC は,社会的,組織的な問題に応えることができなかった.それは,
開発途上国の文脈で,そのイノベーションを普及させようとするときに生じる問題である.それに加えて,OLPC
は PC 産業が 100 ドル PC の脅威を知覚して,強烈な反応をとるということを過小評価して見誤ってきた.その脅
威とは,100 ドル PC が,PC 産業自身にとって生まれつつある市場に広く配布されるということである.
OLPC のケースは開発途上国におけるイノベーション普及の一般的な事例と見なすこともできる.我々の分析
は,ロジャースによって示されたイノベーション普及の理論にもとづいている.その分析は,証明されたイノベー
ションでさえ,そのイノベーションが導入されようとしている地域の社会的,文化的環境を誤解すると,その普及
が困難になることを示している.我々はまた,開発途上国における情報技術の採用についての文献から,いくつ
かの特徴的な知見を得ている.そしてその知見を OLPC の経験を分析することに使用し,開発者と政策決定者
に対する示唆を導き出す.
「イノベーションと企業活動」 第 11 回
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岐阜大学 工学研究科 選択科目 「起業家精神とイノベーション概論」
本来の OLPC のビジョンは,低コストのラップトップを開発し,それを配布することを通して教育を変革すること
であった.そのラップトップは,開発途上国におけるすべての子供たちにとって新しい学習モデルを体現するもの
であった.時間とともに変わってはいるけれども,そのビジョンは,OLPC の憲章にあるつぎの文章に表現されて
いる.
“OLPC は心の底では,技術の計画ではない.また XO も単語のもつ伝統的な意味において製品ではない.
OLPC は,非営利組織であって,地球上のもっとも遠く離れた地域にいる子供たちにも自分たちの潜在的な可能
性を利用する機会を提供するという究極の目的を実現するための手段である.そして子供たちに世界中のアイ
デアにふれて,より生産的で,より健全な世界のコミュニティに貢献する機会を提供しようとする.”
http://www.olpcnews.com/people/negroponte/new_olpc_mission_statement.html
OLPC は,MIT メディア研究所の前所長,ニコラス・ネグロポンテ Nicholas Negroponte によって発案され,率い
られてきた.OLPC は,そのビジョンを,自己学習を育成し,開発途上国のしばしば厳しい環境に適合するような
ハードウェアとソフトウェアの非凡なイノベーションを通して達成しようとした.ハードウェアは,学校の中でコンピ
ュータネットワークを大規模に配置できるようにするための 100 ドル・ラップトップとした.
OLPC によって開発された XO ラップトップは,電源供給,ディスプレイ,ネットワーク機能,キーボード,タッチ
パッドにおけるハードウェアのイノベーションを反映しており,それによって耐久性と対話形式をもつラップトップ
を実現している.計算機の外形は,汚れと湿気に耐えることができ,すべてのカギとなる部品はディスプレイの後
ろに入るように設計されている.それは,回転し,逆向きにできるデュアルモード(屋外ではモノクローム,屋内で
はカラー)のディスプレイ,無線メッシュ・ネットワーク用の可動式のゴムでできている WiFi アンテナ,そしてゴムの
被膜でシールされたキーボードをもつ.そのキーボードは異なる言語にカスタマイズ可能である.
低消費電力と丈夫さのために,XO の設計ではすべてのモータ駆動による部品は意図的に排除された.XO は,
MIT メディア研究所,OLPC,そしてクアンタ(広達電脳:Quanta Computer)によって共同開発された.クアンタは,
台湾に本拠を置く,設計から製造までを手がける企業(ODM:Original Design Manufacturer)である.XO は中国の
上海市松江区(Songjiang)にあるクアンタの工場で製造された.
XO のためのソフトウェアは,Fedora Linux オペレーティング・システムの縮小版と,特別にデザインされたシ
ュガー(Sugar)と呼ばれるグラフィカル・ユーザ・インタフェース(GUI: Graphical User Interface)から構成されてい
る.それは,学習,解放されること,そして協力することに関連した自然主義の概念を探索するためのプロジェク
トによって開発された(注 a).
(注 a) XO ソフトウェアの特徴は,次の通りである.
(1)Webブラウジング,電子メイル,オンラインのチャット,文書作成,作図,音楽作成,そしてプログラミングなど
の協調と表現の機能.
(2)他のユーザが,物理的,そして論理的に近くにいることを示す,グループと近所を示す機能.
(3)そのコードをユーザが改造しようとすることを奨励するカギとなるソースコードの開示
(4)ユーザが行った活動を保存する“ジャーナル”によって,ファイルとフォルダを置き換えたこと.
(5)タグ付け,クリップ化,共有,検索をシステムの基本機能としたこと.
2.パイロット計画の実施
いくつかの開発途上国の首相や教育相を含む政府の高官は,OLPCに熱中し,購入することと試行的な配布
プロジェクトへの参加の両方(あるいはどちらか)を約束した.OLPC が 6 カ国で実施したパイロットプロジェクトは,
肯定的な変化を報告している.その変化とは,学校に入学する子供たちの数の増加,欠席の減少,科目の増加,
そして教室への参加が増えることである.しかしながらこれらの変化が,直接,OLPCに関連しているかどうかは
明らかでない.それは多くの評価が独立でなく,また体系的でないからである.エチオピアとウルグアイでの独立
の評価は,ラップトップを通して学習教材が入手可能になることの肯定的な効果を示している.一方では,バグ
のある入力デバイス,接続性,ソフトウェアの機能性,そして教師の訓練という問題点もまた示されている.
「イノベーションと企業活動」 第 11 回
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