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干潟 ヒガタ 生産力 セイサンリョク 改善 カイゼン 対策

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干潟 ヒガタ 生産力 セイサンリョク 改善 カイゼン 対策
「平成17年度藻場・干潟生産力等改善モデル委託事業」
の干潟生産力改善対策事業報告書
1.事業名
平成17年度藻場・干潟生産力等改善モデル委託事業
のうち干潟生産力改善対策事業
2.実施機関及び担当部局
独立行政法人水産総合研究センター
中央水産研究所
浅海増殖部
3.事業のねらい
干潟域は、生物生産、水質浄化、多様な生物の生息、親水機能等様々な機能を持つ。水産の
視点からは、アサリを代表とする漁場としての重要性、そして環境の面では多種多様な生物の
産卵場や幼稚仔の成育場として機能する重要な海域である。しかし、近年では、干潟の減少や
生産力低下及び水質悪化が全国各地で発生し、我が国の沿岸漁業に大きな影響を及ぼしており、
これらの早急な問題解決が強く求められている。その原因の推定と対策の提案が幾つかなされ
ているものの、対策の持続的な効果が明らかになっていないなどの理由により全国に普及する
までには至っていない。
そこで、本事業においては、干潟の機能と生産力や生産力改善のために過去に取り組まれた
調査・研究成果についてのとりまとめ、餌料環境やアサリの肥満度と食性の海域間差に関する
調査、そして実証事業による(生産力改善のための)要素技術の検証と効率的な管理技術に関す
る情報収集を行い、生産力改善のためのガイドラインに必要な基礎資料を作成することを目的
とする。
4.事業概要及び結果
(1)調査研究成果のとりまとめ
アサリを中心とした干潟関連の文献を元にレビューを作成した(添付資料1)。さらにこれ
らの文献リストを作成した。この文献リストには平成17年度末時点で約 400 編の文献が収容
されており約 240 編については内容の要約が付けられている。さらに 350 編については PDF
あ る い は ハ ー ド コ ピ ー で 所 蔵 し て お り 、 PDF は 下 記 サ イ ト で 閲 覧 可 能 で あ る 。
(http://cse.fra.affrc.go.jp/swat/higata/higata_reff/HIGATA_LIST20060115.htm)
(2)水産総合研究センターによる新たな調査研究
平成17年度調査では、餌料環境と食性の地域的差異を比較検討することを目的として、5
海域においてアサリと底質を年4回(7,10,12,2月)採集した。7月標本については
安定同位体比、消化管内容物、肥満度、グリコーゲン含量、微細藻類組成、植物色素濃度につ
いての分析が終了している(添付資料2)。
(3)検討委員会
本事業の効率的・効果的な推進を図るために、学識経験者等をもって構成する干潟生産力改
善対策事業に係わる検討委員会を設けて、事業の基本的方向、推進方法、生産力改善ガイドラ
インの作成について審議することを目的とする。平成17年度には2回の検討委員会及び検討
委員会の下部会合としてのワーキンググループ会合を4回開催した(添付資料3)。
(4)ガイドライン
ガイドライン骨子素案を作成し、検討委員会、ワーキンググループ会合において検討を行っ
た(添付資料4)。
5.資料
①(添付資料1)アサリ・干潟関連調査研究のレビュー
②(http://cse.fra.affrc.go.jp/swat/higata/higata_reff/HIGATA_LIST20060115.htm)アサリを中心とし
た干潟生産力関連の文献調査
③(添付資料2)水産総合研究センターの調査研究成果
④(添付資料3)干潟生産力改善事業検討委員会、ワーキンググループ会合
⑤(添付資料4)ガイドライン骨子
(添付資料1)
アサリ・干潟生 態系関連調査研究のレビュー
目
次
1. はじめに
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1
2. アサリの生態
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
2.1 分類
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2
2.2 分布
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
2.3 産卵
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2
2.4 浮遊幼生
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
2.5 着底後の移動
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4
2.6 生息密度
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4
2.7 成長と減耗
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4
3. 生息環境
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5
3.1 水質
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5
3.2 底質
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7
3.2 流動
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
8
3.4 餌料
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8
3.5 捕食種・競合種
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9
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9
4.1 資源管理の現状
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9
4.2 漁業管理
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11
4.3 漁場管理
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
11
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
13
4. 二枚貝の資源管理
引用文献
1. はじめに
干潟等の浅海域は、生物生産、水質浄化、多様な生物の生息、親水機能等様々な機能を
持ち、水産の視点からは、高い生産性を背景に漁場、産卵場や幼稚仔の成育場として機能
する重要な海域である.一般に干潟とは,「潮汐の干満周期によって干出と冠水を繰り返す
砂泥質の平坦な地形」と一般に定義される場合が多いが(栗原 1980),ここでは二枚貝の漁
業が行われる浅海域を含む水深 10m 程度までの海域を干潟と称することにする.
アサリなどの二枚貝は,濾過食者に分類され,干潟域の主要なベントスのひとつであり,
水産的な価値も高い.一方で,近年,二枚貝資源の減少が全国各地で報告されており(例
えば 関口・石井 2003),その要因については,干潟面積の減少による生息場の消失だけで
なく,海域の環境条件と関連した浮遊幼生の減少や着底稚貝の減耗に起因していると考え
られる.例えば,Ishii et al.(2001)は,有明海におけるアサリ漁獲量の激減を浮遊幼生の
生残率の変動に起因していると報告している.柿野(2000)は,東京湾におけるアサリ漁
獲量の減少と埋立面積との関係について明らかにしており,近年のアサリ漁獲量の減少を
着底後の稚貝の減耗によるものと報告している.イタリアにおいても,近年アサリの生産
量の減少が報告されているが,その要因はアオサ類(Ulva rigida)の増加による貧酸素化に
よる減耗と考えられている(Meliá et al. 2004,Meliá and Gatto 2005).以上述べたように,
二枚貝資源の増減を決定する要因は,海域ごとに異なっており,各成長段階とその場の環
境条件との関連を明らかにし,どの成長段階において減耗が最も大きいのかを把握するこ
とが二枚貝漁場を維持していく上では重要である.
本レビューでは,はじめに二枚貝(とくにアサリに注目して)の生態について述べ,次
いで干潟の物理・生物化学的な環境条件と二枚貝の生育環境との関連についてとりまとめ
た.最後に,二枚貝漁業の資源管理について,漁業管理と漁場管理の2つに分けてレビュ
ーする.
-1-
2. アサリの生態
2.1 分類
アサリの学名は Ruditapes philippinarum であり,Tapes philippinarum , T. japonica , T.
denticulate , T. semidecussata , T. bifurcate , Pahia philippinarum , Venerupis philippinarum ,
Amygdalum philippinarum と記載されることもある.アサリは,軟体動物門(Mollusca),二
枚貝網(Bivalvia),異歯亜種(Heterodona),マルスダレガイ目(Veneroida),リュウキュウ
アサリ亜科(Tapetinae)
,アサリ属(Ruditapes)に分類される.
2.2 分布
分布は,日本列島全域(北海道~九州)に生息し,サハリンや千島南部および沿海州か
ら朝鮮半島・中国本土などまでみられ,広く漁業などで利用されている.東部太平洋にも
分布するが,これはカキ種苗に混入して日本から移入したものといわれている(鳥羽 2002).
イタリアでは,現地に生息する近縁種の T. decussatus と比べて高い生産力と貧酸素耐性をも
つことから,1983 年からアサリを輸入し,現在では重要な産業対象となっている(Meliá et
al. 2004).
2.3 産卵
アサリは雌雄異体であり,性比に関する報告は少ないが概ね1:1といわれている.舞
鶴湾では雌雄同体が発見されているが,これは非常に稀なケースである.また,アサリ近
縁種の Ruditapes decussates では,隣接的雌雄同体が存在することが報告されている(Delgado
and Camacho 2002).
アサリの成熟期に達する個体の最小殻長は,佐世保湾(高 1954)や舞鶴湾(辻ら 1994)
で 10mm 以上と報告されているが,アサリの産卵が認められる個体は,一般に殻長 20mm
以上の場合が多い.また,高緯度に生息する個体ほど最小成熟サイズが大きく,厚岸湖で
雄 22~27mm と雌 30~35mm(山本・岩田 1956),サロマ湖では雄 24~26mm,雌 26~28mm
(五嶋 1996)と報告されている.
アサリ 1 個体あたりの産卵量は,基本的には親貝の大きさとその成熟度に依存する.誘
発実験によって求められた殻長と産卵量の関係を図 2.1 に示す(鳥羽ら 1992,千葉県水産
研究センター 2004).各殻長サイズでの最多産卵量と平均産卵量を示すと,前者において
殻長と産卵量が対応しているが後者では不明瞭である.最大産卵量は,殻長 25,30,35mm
で,それぞれ 1.5×106~2.0×106,2.0×106~3.0×106,5.0×106~6.0×106個程度である.こ
こでの最多産卵量は雌個体 1 回あたりの産卵可能な最大値を示していると考えられる.
アサリの産卵期のピークは,東京湾・伊勢湾・三河湾において,春季~夏季と秋季の 2
回(鳥羽ら 1992,萩野・石川 1985,山田ら 1996),松川浦では年 1 回の場合と 2 回の場
合が確認され,舞鶴湾では秋季の 1 回(辻ら 1994),北海道の厚岸湖やサロマ湖では夏季
の 1 回(五嶋ら, 1996)である.これはアサリの成熟度が水温によって影響を受けるためで,
地理的な産卵パターンを区分すると,東京湾以南で産卵盛期が年 2 回,松川浦を境界とし
た以北では年 1 回であると推察される.一方,同じ海域でも生息場所の局所的な温度や餌
-2-
料環境の違いによっても産卵パターンに違いが生じる.東京湾では,干出域において産卵
が年 1 回の場合があり,非干出域では明確に年 2 回の産卵が確認されている.
図 2.1 親貝の大きさと産卵量の関係.各点は産卵した雌親貝 1 個体を示す.最大値と平
均値は,殻長を 2mm ごとに区分して大きさ別に求めた値を結んだ折れ線(千葉県
水産研究センター 2004).
2.4 浮遊幼生
受精卵は,直径 63~66μm で,ゼラチンの外被で包まれており,約 1 時間で第 1 分裂が
起こり,5 時間半で孵化して浮遊幼生となる.受精 10 時間後にトロコフォア幼生,22 時間
後に殻を形成しベリジャー幼生となる(日本水産資源保護協会 1985).ベリジャー幼生は,
D 型幼生・殻長期・変態期に分けられ,殻長が 185~230μm 前後で着底を開始し,底生生
活へと移行する(鳥羽 1987, 粕谷ら 2003).
浮遊幼生期における殻長成長速度については,鳥羽(1992)が室内実験で得られた結果
より,水温に依存した式で推定している.一方,粕谷ら(2003)は,東京湾において広域
観測で得られた殻長頻度分布の日変化から殻長成長速度を推定している.粕谷ら(2003)
は,鳥羽(1992)が室内実験から求めた殻長成長速度の推定式と,彼らの現場観測結果か
ら推定した殻長成長速度値を比較したところ,現場観測で求めた成長速度が非常に高くな
ったことを報告している.このような差異は,室内実験下において高密度の飼育のため餌
制限をうけ成長が抑制された可能性を示している(粕谷ら 2003).
浮遊幼生の浮遊期間は,東京湾において夏季,秋季それぞれ 10 日間と 15 日間と報告さ
れている(粕谷ら 2003).このような浮遊期間の差異は,着底する殻長サイズに違いがみ
られないことから,水温低下による殻長成長速度の低下が要因と考えられる(粕谷ら
2003b).浮遊幼生は,春季から秋季にわたり確認されており,特に産卵のピーク時である
春~夏と秋に多く見られる(山田ら 1996, Miyawaki and Sekiguchi 1999, 佐々木 2001,Ishi et
al. 2001).
浮遊幼生に関する知見は,きわめて少ない.その一因は,二枚貝幼生の識別法は,幼生
-3-
の形態学特徴を顕微鏡で観察して行うものであったため,種の識別には熟練を要すると共
に多大な時間が必要であったことが挙げられる.近年,二枚貝の種に特異的な抗原に対す
る抗体を作成し、これに蛍光あるいは酵素標識をつけて対象とする浮遊幼生に反応させ,
その標識を定性・定量することによって結果を判定する方法が開発された.本手法と PCR
法などの分子生物学的手法との組み合わせによって,大量の試料を精度良く処理すること
が可能となり,広い海域においてパッチ上に分布する浮遊幼生の動態を解明する上で有効
な手段となった(浜口ら 1997).本手法は,既に三河湾(松村ら 2001)や東京湾(粕谷 2003)
において用いられており,今後,浮遊幼生の動態に関する知見が明らかになるものと期待
される.
2.5 着底後の移動
辻・宗清(1996),井上(1980)の報告によれば,着底後のアサリの移動に関する報告は,
数m程度である.しかしながら,着底初期段階の稚貝は,殻長が 250μ~1mm程度である
ため,この時期において漂砂等によって,受動的に移動することが予想される.中村(1991)
は,福島県沿岸に生息するウバガイを対象として,波による二枚貝輸送を考慮した資源動
態モデルを提案し,ウバガイが波による輸送により水深 7~8m付近に集積されることを示
した.柴田ら(2001)は,干潟上に被覆網を設置した区域と設置しない区域において,両
区での稚貝(対象とした稚貝の殻長 4mm 程度)の残留率について調査を行っている.この
調査結果によれば,被覆網を設置した区において,稚貝の残留率が高かったことから,被
覆網設置の緩流効果によって稚貝の移動が抑制されたと考えられた.柴田ら(2001)の結
果は,波浪や流れによって,稚貝が受動的に移動していることを示唆している.また,柴
田(2004)は,盤洲干潟岸側部において初期着底稚貝の高密度域を観測しており,この高
密度域形成は,稚貝の岸側部への移動と関連していることを示唆している.
2.6 生息密度
アサリの生息密度は,東京湾千葉県北部や木更津地区において最大 2500 個/m2,1200 個
/m2が確認されている(柿野 1996).生息密度が高くなると種内での競合が起こり,成長
速度の低下を招き(Weinberg 1998),生残率にも影響を及ぼすと考えられる(Meliá et al. 2004).
また,種苗放流によるまきつけ密度は,海域の天然稚貝の発生量,餌料環境,食害種,競
合種等によって異なるが,バーレイ入江における 3~4mmのアサリ稚貝の生産率とまきつけ
密度の検討結果によれば,1m2あたり 30~60 個程度に抑えることを推奨している(鳥羽監
訳 1996).
2.7 成長と減耗
成長速度については,地域的に異なり,殻長 30mm に達するまで北海道厚岸湖や風連湖
では3年程度(高谷 1988,中川ら 1992)であるが,東京湾では,1 年程度(西沢ら 1992,
小沼ら 2003)である.一般に成長速度は,水温と密接に関連していると考えられる.また,
同海域内においても成長速度の違いがあることが報告されているが,これらは餌料環境の
違い起因するものであると考えられており(西沢ら 1992,小池ら 1992,小沼ら 2002),
-4-
餌料環境も成長を制限する重要な要素である.
生残率については,成長段階により異なっており,例えば柿野ら(1992)によれば,東
京湾において,殻長 1mm 未満の初期稚貝から幼貝になるまでは 0.2%,殻長 10~20mm の
幼貝から成貝になるまでは 20%と報告している.生残率は,貧酸素や洪水時の出水等,一
過性の環境悪化による貝類の大量へい死事例の報告がある(柿野 1986,陣之内ら 1991,
蔵田 2000).以上のように成長速度や生残率は,流れや地盤高といった物理的環境,貧酸
素・低塩分・硫化水素などの化学的環境,食害生物や競合種といったものが関連している
と考えられている.これについては,生息環境の部分で詳細に述べることにする.
3. 生息環境
3.1 水質
a)水温
水温は,アサリの成長,成熟,濾水量,酸素消費量,鰓の繊毛運動,潜砂速度等に関連
している.前にも述べたようにアサリは,日本列島全域(北海道~九州)に生息し,サハ
リンや千島南部および沿海州から朝鮮半島・中国本土などまでみられることから,幅広い
生息水温帯を有している.生息水温範囲としては,-2~32.5℃と報告されており(倉茂
1957),自然界において水温による制約はほとんどないと考えられる(中川 1996).一般に
水温が高いほど成長速度は早いとされるが,磯野(1998)によれば,アサリは約 25℃付近
において成長が最大となると報告している.
一方,水温は二枚貝の濾水量や酸素消費量などに大きく影響を与える(秋山 1985, 細川
ら 1996, 磯野・中村 2000, 中村ら 1990, 沼口 1994, Inoue & Yamamuro 2000).アサリに関
しては,濾水量は水温の上昇とともに増加し,水温 28℃付近で最大となり,それ以上では
濾水量は低下する(秋山 1985).ちなみに殻長の大きい個体ほど濾水量は大きいが,濾水
量を単位重量あたりに換算すると小型の個体ほど濾水量が大きくなる(細川ら 1996,
Hiwatari et al. 2002).一方,酸素消費量に関しては,水温上昇とともに増加するが最大とな
る値が濾水量と比べて高くなる.磯野ら(1998)は,アサリの組織呼吸量について測定し
ているが,これによると 40℃で呼吸量が最大となり,それ以上では低下すると報告してい
る.ホトトギスガイをアクリルコアで培養した酸素消費速度(呼吸速度)実験結果によれ
ば(Inoue and Yamamuro 2000, 井上・山室 2004),水温 5~30℃の範囲において呼吸速度は
増加する.
二枚貝の潜砂速度は,一般に水温の上昇とともに増加すると考えられている(日向野ら
1993, 櫻井ら 1996).日向野ら(1993)は,チョウセンハマグリとコマタガイを対象として,
殻長ごとに水温 10,25℃に対する潜砂速度を測定している.これによると,個体間による
ばらつきが大きいが,殻長 20mm のチョウセンハマグリとコマタガイ個体は,水温 25℃に
比べて 10℃では,それぞれ 1/3,1/2 程度に潜砂速度が減少し,5℃ではほとんど潜砂しなか
った.櫻井ら(1996)は,水温 5~25℃の範囲について,アサリ,バカガイ,ウバガイの潜
砂行動について検討している.これによれば,アサリ(殻長約 27mm)は水温上昇に伴って
潜砂反応時間(試験個体を静置後,潜砂行動を始めるまでの時間)と潜砂速度は増大し,
潜砂深度の変化についてはほとんど認められなかった.
-5-
b)塩分
塩分は,二枚貝の生息域を決定する重要な要素である.中村ら(1997)は,宍道湖と中
海に生息する二枚貝4種(ヤマトシジミ,アサリ,サルボウ,ホトトギスガイ)を対象と
して,水温 25℃の条件下で 1.5~32psu の範囲で耐性実験を行っている.アサリ(平均殻長
16.3mm, n=160 個体)については,10~32psu 間での塩分濃度はほとんど死亡する個体は見
られないが,5psu 以下では実験開始 9 日目で半数が死亡し,さらに 2.5psu では 12 日目に全
個体が死亡したと報告されている.蔵田(2000)は,サロマ湖におけるアサリ漁場におい
て春先に大量斃死が起こり,その原因を冬季の低水温時における低塩分と貧酸素によるも
のと推察し,低水温下(1℃)の条件下で塩分と溶存酸素に対する耐性実験を行っている.
この実験結果によると,塩分が 15psu 以下の環境が 15~20 日持続した場合,溶存酸素濃度
に関わらず塩分が斃死の要因となることを述べている.
二枚貝の潜砂行動に及ぼす塩分の関係については,櫻井ら(1996)による報告がある.
これによると殻長約 27mm のアサリ個体を用いて 15~32.5psu の範囲で実験を行った結果,
潜砂反応時間,潜砂速度,潜砂深度について有意な差はみられなかった.しかしながら,
塩分が 13psu では 2 日経過しても潜砂行動を示さなかったことから 15psu 以上では潜砂行動
に影響は及ぼさないと推察している.
浮遊幼生の遊泳行動に及ぼす塩分選択性については,チョウセンハマグリ(日向野・安
永 1990)やアサリ(石田ら 2005)の研究がある.石田ら(2005)は,トロコフォア期・D
状期・アンボ期・フルグロウン期における塩分選択性について検討し,着底期であるフル
グロウン期では,21~23psu の低塩分層に強い選択性を示した.アサリ浮遊幼生がその成長
後期に高塩分層を選択し,エスチャリー循環を利用して湾奥河口域等への回帰を行う可能
性は低いと考えられた.
c)溶存酸素・硫化水素
溶存酸素は,水棲生物にとって呼吸に欠くことのできない重要な環境要素であり,また
海域の貧酸素や底質の還元化に伴い発生する硫化水素は,生物の呼吸を阻害する.二枚貝
の溶存酸素・硫化水素に対する影響については,日向野(2005)による詳細なレビューが
あるので,ここでは簡単にまとめることにする.アサリの貧酸素耐性については,柿野
(1982),萩田(1985),中村ら(1997)により実験的に調べられている.中村ら(1997)
によれば,水温が 25℃,塩分 25psu,無酸素水(<0.05mg/l)の条件で殻長約 28mmのアサリ
個体では,LT50 ,LT100となる期間がそれぞれ 2 日と 4 日と報告している.このようにアサ
リ成貝が無酸素の条件下でも数日間は耐えることができのは,低酸素条件下において無気
呼吸を維持し代謝を低くするためである.このときグリコーゲンとアミノ酸を貯蔵物質と
して利用し,生命を維持すると考えられる.柿野(1986)は,東京湾奥部(三番瀬)にお
いて,大規模な範囲で青潮の発生は,必ずしもアサリ,バカガイの斃死につながらないと
報告しており,単発的な海域の貧酸素化によって斃死には至らないと思われる.
硫化水素については,溶存酸素と同様に中村ら(1997)の実験結果より,水温が 25℃,
塩分 25psu,DO(1.0mg/l)の条件下で,硫化水素濃度 0,10,20,30mg/lについて実験した
結果,硫化水素が 0mg/lではDOが 1.0mg/lという条件にもかかわらず生残に影響は全くみら
-6-
れなかったが,硫化水素が 10mg/l以上では影響が大きく,LT50 ,LT100となる期間がそれぞ
れ2日,4日と報告している.また,萩田(1985)の英虞湾で行った現場実験によれば,
硫化水素 1~5mg/lの条件において 2 日間で 100%が斃死したとしている.アサリの斃死は貧
酸素化だけでなく,硫化水素も関連している可能性は十分考えられる.
d)有害化学物質
アサリ成貝の有機スズ化合物の耐性は強いことが報告されている(引用).一方,発生初
期における耐性については成貝のそれよりも低い濃度で影響を示す(黒田 1996).黒田
(1996)は,アサリの受精卵とD型幼生に対する有機スズの影響について調べ,有機スズが
添加された受精卵は,受精後数時間で胚に形態異常や発生停止や,1 日後の孵化率が低くな
ることや,孵化した胚に占める奇形胚の割合も有機スズ濃度とともに増加すると述べてい
る.D型幼生については,48 時間後にLC50 となる濃度がTBTCが 17.5μg/ℓ,TPTCが 32.7μg/ℓ
であり,アサリ成貝の有機スズ(TBTC,TPTC)のLC50と比べて低濃度であることが明らか
になった.海水中の有機スズ化合物濃度は,三河・伊勢湾では 0.004~0.014μg/lの範囲とい
う報告があり,アサリについて影響を及ぼす濃度ではない.しかしながら,港湾などの沿
岸域では有機スズ化合物が底泥中に高濃度に蓄積しており(中田ら 2004 日水誌, 高田ら
2004, 山崎ら 2005),潮汐などに伴う再懸濁によって海水中に回帰するため,その近辺に生
息するムラサキイガイが高濃度にPCBを蓄積することが報告されている(高田ら 2004).ム
ラサキイガイは,大量の海水を濾過するため海水中の汚染物質を効率的に濃縮させ,ポリ
塩化ビフェニル(PCBs)の場合には数万程度の生物濃縮係数を示すといわれる(引用).
3.2 底質
底質
柳橋(1992)によれば,アサリ,バカガイ,トリガイ,ミルクイの 4 種の浮遊幼
生を用いて底質粒径に対する着底選択性を調べた結果,アサリについては粒径 1~2mm と
粒径 2~4mm 区において着底のピークがみられた.また,竹山ら(2005)は,粒径の異な
る底質をそれぞれ敷き詰めたコンテナボックスを現場海域に設置し,アサリ浮遊幼生の着
底数について調べ,粒径 0.85~2.0mm の荒砂で着底量のピークがみられたことを報告して
いる.
阿久津ら(1995)は,北海道尾岱沼のアサリ造成漁場での底質の硬度および粒度とアサ
リの生息量との間に相関関係があることを見出し,特にコーンペネトロメーターを用いた
硬度の測定法がアサリの生息に適した底質を調べる上で有効であったと報告している.奥
宮ら(2001)は,盤洲干潟の岸沖方向においてコーンペネトロメーターを用いて底質硬度
を測定し,アサリの成長速度と底質硬度との関係を示している.
櫻井ら(1996)は,粒径と潜砂行動との関係について調べた結果,有意な差は認められ
なかったことから,シルト 10%以下で粒径が 0.063~0.5mm 範囲において潜砂行動に影響は
ないと考えられた.
-7-
3.3 流動
波浪・流れ
波浪と流れは,浮遊幼生の移動,着底条件,底生生活での生息場所の安定(底面変動),
餌料供給などに関連する.
3.4 餌料
1)餌料源の解析
二枚貝は,一般に濾過食性であり,懸濁物粒子を入水管から取り入れ鰓で漉し取り摂餌
する.餌料となる懸濁物粒子は,植物プランクトンや底生微細藻類の他に,デトライタス
といった粒状態有機物が重要とであると考えられる.二枚貝の餌料源を把握する方法とし
ては,二枚貝の生息する直上水を採取し,それを分析する方法(沼口 1990, 沼口 2001ab),
消化管の中を直接観察する方法がある(井上 1977, 小池ら 1992, Ito 1997).しかしながら,
直上水のみの分析では,二枚貝が実際にそれを摂取しているかどうかの疑問が残り,また
消化管内容物による食性の解析は,消化の早い餌に関して過小評価してしまう危険性があ
る.一方で近年,安定同位体比を利用した食性解析が行われている(Kharlamenko et al. 2001,
Kasai et al. 2004, Kasai and Nakata 2005, Yokoyama and Ishii 2003 Kanaya et al. 2005).二次生産
者・高次生産者のδ13Cとδ15Nは,食物中のδ13Cとδ15Nからそれぞれ 1‰,3‰増加することを
利用して,複雑な食物網を解析することが可能である.
沼口(2001)は,アサリ漁場において直上水中の植物色素量とアサリの消化盲嚢に含ま
れる植物色素量を調査している.彼らは,現場で採取されたアサリを 4 日間無給餌で飼育
した後,再度,現場の海底に設置し,潮時ごとにアサリ個体をサンプリングし,消化盲嚢
に含まれる植物色素量を分析した結果,上げ潮から満潮時にかけて植物色素量が著しく増
加したことを報告している.Ito(1997)は,北海道根室湾沿岸で春季に採取したウバガイ
の消化管内容物を調べている.消化管内容物中で検出されたプランクトンと同時に海水中
のネットプランクトンとの符号は部分的に認められた.一方,Melosira sulcuata などの底生
性珪藻はネットプランクトン中に少なかったが消化管内に多く出現した.これは沿岸性の
二枚貝類が攪乱で再懸濁した餌料粒子を利用することを示唆している.
小池(1989)や小池ら(1992)は,東京湾小櫃川河口に広がる河口干潟(盤洲干潟)に
おいて,底生生物群集の食物網を解明するため,岸沖方向に測点を設けて消化管内容物の
珪藻と炭素安定同位体比について分析した.消化管内容物による分析結果より,二枚貝類
は,着草(藻)性と着泥(砂)性の珪藻が混在しており,また,安定同位体比より,アサ
リ・シオフキは,底生珪藻分画で採取された生物相を食性としていると推定された.しか
しながら,この研究では,消化管内容物中には浮遊性の珪藻はほとんど検出されてなかっ
たが,消化されてしまう有機物は検出できないという問題点がある.また,浮遊性の珪藻
あるいは鞭毛藻といった植物プランクトンの安定同位体比について,検討されてないこと
から,必ずしも底生微細藻類が主要な餌料源とは結論することはできないように思われる.
Kasai(2004)は,伊勢湾に面する河口干潟において,アサリ,シオフキの二枚貝 2 種と,
河川水,干潟直上水,湾央水中の粒状態有機物の炭素及び窒素同位体比(δ13C,δ15N)を測
定し,これらの 2 種の食物源について解析している.この結果によれば,干潟直上水の 80%
-8-
を陸起源有機物が占めているにもかかわらず,アサリ,シオフキの安定同位体比は,海由
来の有機物である植物プランクトンや底生微細藻類の摂取を支持しており,これらの餌料
源を選択的に摂取していることが示唆された.また,Yokoyama & Ishii(2003)は,伊勢路
川が流入する五ヶ所湾における堆積物表層の粒状態有機物,水中の粒状態有機物,堆積物
から分離した底生微細藻類,シズクガイについて安定同位体比を調べ,その主要な食物源
が海域由来の粒状態有機物と底生微細藻類であることを明らかにしている.Kanaya et al.
(2005)は宮城県に位置する蒲生干潟において,アサリ,サビラシラトリ,イソシジミの
二枚貝 3 種の炭素源について底生珪藻類と水中の懸濁物(SS)の割合を明らかにしている.
天然に生育する個体と囲いによって飼育した個体との炭素同位体比結果は,前者において,
炭素源の 61%をSSから摂取し,後者では炭素源の 62%を底生微細藻類から摂取していた.
この結果は,アサリの食性がSSの供給量と堆積物の再懸濁に関連していることを示唆して
いる.
3.5 捕食・競合種
アサリを食害する生物としては,東京湾においてツメタガイ(柴田・河西 1999),有明
海においてツメタガイ(平山ら 1996),ナルトビエイ(川原ら 1998, 山口 2003),三河湾
においてツメタガイ・キセワタガイ・ヒトデ(瀬川ら 1996, 瀬川ら 1997),浜名湖におい
てキヒトデ(岡本ら 1999)が報告されている.宮城県万石浦においては,輸入アサリに混
入して定着したサキグロタマツメタガイによる食害が深刻な問題となっており,地元の潮
干狩り場では,潮干狩りが中止に追い込まれる事態となっている(大越 2004).北海道厚
岸のアサリ漁場では,キヒトデの大量出現によって平成 6,7 年は禁漁に追い込まれている
(秦ら 2004).
4. 二枚貝の資源管理
資源管理とは,関係する漁業の規制を通じて対象とする資源を望ましい状態に維持ある
いは回復させるための,資源評価,具体的な目的の設定,管理戦略と管理手段の選択と適
用,及び管理効果の評価を含む一連の手続きである(竹内ら 2004).資源管理の手順とし
て,資源量調査,生育状況調査,生物環境調査,施設状態調査を実施し次いでこれらの情
報より管理を行うための施策を講じ,有効な資源を持続的に維持していく必要がある(全
国沿岸漁業振興開発協会 1997).資源管理の具体的な手段としては,漁期・漁場の制限や
漁獲量や殻長制限など,何らかの漁業の規制によるものと(漁業管理),覆砂や作澪,害敵
駆除といった漁場環境の改善(漁場管理)の2つがある.ここでは,はじめに資源管理の
現状について述べ,次いで漁業管理と漁場管理の2つにわけて述べる.
4.1 資源管理の現状
アサリの資源管理は,各都道府県において海面漁業調整規則に基づいた殻長制限と禁漁
期間が定められており,殻長制限は,概ね 20~30mm の範囲で設定されている.禁漁期間
については
,北海道のみ産卵期にあたる夏季に設定しているが,その他の地域における
-9-
禁漁期間の設定については記載されていない(表 1).一方,これとは別に各自治体の漁業
組合単位で,漁具規制,禁漁期設定,漁獲対象の殻長制限,捕食動物の駆除といった自主
的な取り組みが行われている.しかしながら,アサリなどの二枚貝は,浮遊期間をもつた
め各漁業区域を超えて分散,定着すると考えられるため,資源を回復させるには、より広
域的となる資源の動向が同一な地域単位での管理が必要と考えられる.そこで熊本県と大
分県では,アサリ資源回復を目的とした県下統一的な資源管理をそれぞれ平成 16 年(5 ヶ
年),平成 17 年(7 年間)から開始している(水産庁 2004,水産庁 2005).
表 1 都道府県の海面漁業調整規則による規制サイズ・禁漁期間の概要(平成 13 年 5 月時点)
対象種
あさり
はまぐり
都道府
規制サイズ
禁漁期間
県
(単位 mm)
開始~終了
北海道
〃
宮城
福島
千葉
東京
神奈川
静岡
愛知
三重
兵庫
鳥取
山口
香川
愛媛
福岡
佐賀
長崎
大分
熊本
宮城
神奈川
茨城
千葉
東京
石川
静岡
愛知
三重
7.16~9.30
7.16~8.31
殻長
殻長
殻長
殻長
殻長
殻長
殻長
殻長
殻長
殻長
殻長
殻長
殻長
殻長
殻長
殻長
殻長
殻長
殻長
殻長
殻長
殻長
殻長
殻長
殻長
殻長
殻長
20
25
27
25
20
20
25
20
25
30
20
25
20
30
30
20
25
20
30
20
30
45
40
30
30
30
30
摘要
釧路及び根室支庁管内沖合海域以外
釧路及び根室支庁管内沖合海域
はまぐり含む
6.01~7.31
ちょうせんはまぐりを含む
ちょうせんはまぐりを除く
-10-
4.2 漁業管理
二枚貝漁場を適正にかつ効率よく運用していくためには,殻長サイズの規制や漁獲量規
制といった漁業の管理が不可欠な要素である.漁業管理を行う上では,対象とする水産生
物資源の再生産を維持できるように適切な漁獲量を設定する必要がある.そのためには,
事前調査と生物資源量の変動を予測するモデルが必要であると考えられる.ここでは資源
管理を実施するための生物資源モデルについてレビューする.
中村(1991)は,浮遊幼生が着底して稚貝として底生生活に入ってから半年間における
生残過程を稚貝の成長,波による岸沖方向輸送及び底質に影響される自然死亡を考慮した
資源動態方程式を提案した.このモデルは,福島県沿岸域のホッキガイ漁場において適用
され,ホッキガイの資源生態特性,海岸地形と底質分布ならびに波浪出現状況等を計算条
件として,ホッキガイ稚貝分布の時間的変化を数値解析することで,ホッキガイ漁場の優
良漁場と不良漁場特性の違いについて明らかにしている.Solidoro et al.(2003)は,餌制限
と水温を考慮した成長モデル(Solidoro et al. 2000)を個体群動態モデルに取り入れ,最適の
漁獲努力量と種苗放流サイズ及び種苗強度を明らかにしている.また,Paster et al.(2001)は,
Solidoro et al.(2000)の成長モデルを低次生態系モデルに組み込み,アサリ漁場適地選定シ
ステムを提案している.本システムでは,低次生態系モデルによって得られたアサリの要
求エネルギー(必要とされる餌料)
,水深や健全性といった空間分布を考慮して,より最適
なアサリ漁場位置を明らかにしている.Meliá et al.(2004)は,アサリを対象として水温と
個体密度に依存した成長生残率を取り入れた個体群動態モデルを開発している.さらに
Meliá and Gatto(2005)は,Meliá et al.(2004)の個体群動態モデルを改良し,経済的な効
果を取り入れたモデルを提案している.
4.3 漁場管理
二枚貝漁場は,河川・波浪等の影響により地盤高や底質等が比較的変化し易く,また,
害敵生物や競合生物の増加は,二枚貝の成育等を阻害すると考えられる.そのため,漁場
の状況を調査し,必要と認められた場合,改善対策を行うことで漁場を維持管理していか
なければならない.二枚貝生産力を改善あるいは維持していく方法には,工学的手法(覆
砂・作澪・耕耘等)と生物学的手法(害敵駆除・種苗生産等)の 2 要素がある.
1)底質・水環境改善工法
底質がシルトなどの泥分を多く含む場合は,アサリ生息環境の妨げになるため底質改善
を行う必要がある.底質改善の方法としては,覆砂(客土・盛砂)や耕耘が挙げられる.
アサリ漁場において,覆砂する砂の粒径は 0.125~1.0mm((社)全国沿岸漁業振興開発協会
1993)とすることが妥当と考えられる.シルト分の多い底質に覆砂した場合,地盤沈下が
みられることがあり,地盤沈下防止のためのナイロン製の土木安定シートを敷設し覆砂す
る事例が報告されている(酒井,1992).また,覆砂後には多くのアサリ稚貝の着底がみら
れることが各地のアサリ増殖場造成で報告されているが(上田・山下 1997,堤ら 2000,
堤ら 2002,大隈ら 2004),水質環境の悪化などによりシルト分の堆積により底質環境が再
び悪化する可能性があり,覆砂後数年でその効果が無くなることがある.こういったシル
ト分の堆積は,周辺海域からの供給によるところが大きいので,導流堤の設置(菅原 1977)
-11-
や作澪(井上 1983)などによりシルトの堆積を防止する方法がとられる.
アサリ生育地において,流動環境が停滞すると前述したように浮泥の堆積による底質環
境の悪化やアサリ餌料である懸濁物の供給が減少することが予想される.そこで干潟内で
の作澪や排水路改修などによって海水交換を促進し,餌料環境の改善や浮泥堆積の防止を
行う.井上(1983)は,山口湾において堆積した浮泥が原因と考えられる漁場において,
作澪を施すことによって浮泥が排除できることを報告している.山口ら(2000)は,中海
において閉鎖的な水域に外海と連なった海域との間に,アサリの生残について検討してい
る.神奈川県横浜市に位置する平潟湾では,金沢湾と連なる野島水路に遮水壁が設置され,
底質・水質環境が悪化したが,1994 年に遮水壁撤去によって,湾内には多くのアサリが生
息するようになった(越川ら 1999).一方,海水交換の促進は,海域の浮遊幼生の分散を
強め,浮遊幼生の回帰する確率を減少させる(中村 1977)ため,海水交換が浮遊幼生の分
散にどの程度影響するのかを検討する必要がある.作澪や排水路の改修といった工法は,
浮遊幼生量が十分で沈着稚貝量が十分期待できる漁場でありながら,底質がよくない漁場
に適用する工法であり,特に稚貝の沈着・生育場の造成に用いられる.
一方,逆に波浪などによって底質が不安底となることは,二枚貝の減耗(柿野ら 1991,
西沢ら 1992,千葉水試・千葉漁組連合 1998)に大きく影響すると考えられる.このよう
な場合,消波堤や潜堤などによる消波(小川 1984)や被覆網などの設置による緩流効果(柴
田ら 2001)の対策がとられる.柿野(2000b)は,ノリ養殖支柱柵による波浪減衰効果に
ついて検討している.しかしながら,緩流効果は,餌環境の悪化や浮泥の堆積(俵ら 1977)
などの,緩流効果による負の影響についても検討する必要がある.
一方向に流れが卓越する場合,すなわち恒流成分が大きい漁場では,浮遊幼生の分散を
大きくさせ,漁場に着底する確率を減少させる.中村(1991)は,太平洋に面した福島県
沿岸のホッキガイ漁場において,一方向流が卓越しない年にホッキガイ稚貝が大量発生す
る傾向があることから,浮遊幼生が漁場から遠く離れた海域に輸送されないことが大量発
生の必要条件であるとしている(中村 1991).浮遊幼生や卵の分散を防止する対策は,潜
堤や堤防などを設置することで,循環流を人工的に起こし滞留時間を長くするという工法
が考えられる(杜多 1989).しかし,滞留時間の増加に伴い水質環境の悪化が懸念される
ため,施工前の十分な検討が必要である.
2)害敵駆除
一般に食害生物対策は,海域からの食害生物駆除や防御ネットなどの設置によって行わ
れている.柴田・河西(1999)は,ツメタガイ駆除方法とその駆除効率について検討して
いる.ツメタガイを駆除するには,本種が夜間砂上に現れる特性を生かして,夜間におい
て底引き網を用いて広い範囲にわたって捕獲する方法が最も効率がよいとしている.しか
しながら,底引き網による駆除は,藻場や海底地形がフラットでない場所では適用できな
いため,海域ごとに駆除方法を検討する必要があろう.辻・宗清(1997)は,舞鶴湾にお
いて,目合約 1.9cm の網を海底面に被せ害敵生物の侵入を防止する実験を行っている.アサ
リ養殖ガイドではツメタガイの食害対策として,アサリを網袋に入れ,その半分くらいを
底土に埋めて殻長 7~10mm の稚貝を養殖することを提案している.網袋は,目合が 6mm
程度のプラスチック網でつくると水の交換が良く,大型のツメタガイの侵入を防除できる.
-12-
しかしながら,この方法はコストパフォーマンスなどの面から見てあまり現実的でないと
思われる.
ヒトデ類によるアサリの食害が問題となっている北海道では,その対策としてヒトデ指
針を作成している(北海道立釧路水産試験場 2004).この指針では,篭,桁網,スターモ
ップの 3 手法が紹介されており,駆除場所の条件にあわせて駆除を実施することを提案し
ている.
ナルトビエイによる食害が問題となっている有明海では,本格的な捕獲による駆除が実
施されている(山口 2003).熊本県ではエイ対策として,アサリ生息域に網を設置するこ
とでエイの侵入を妨害する方法や,網や釣り糸を使って直接駆除する方法が行われている.
しかしながら,網による防御は,干潟面積が広大なため莫大な手間と費用がかかること,
またナルトビエイは食用に向かないことから,直接漁獲しても焼却もしくは埋立処分にす
るしかない等の問題があり,各漁協とも苦慮しているのが現状である(中原・那須 2002)
.
以上述べたように二枚貝の食害問題は,現状において対象種を直接駆除する方法が最も
現実的であるが,効率的に駆除を行うためにも,対象とする食害種の生態について詳しく
調べる必要がある.また,食害種は輸入アサリに混入してくる事例もあるため,今後は他
海域からの人為的な移入による食害種の検討も十分行う必要がある.
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-18-
(添付資料2)
水産総合研究センターの調査研究成果
干潟生産力改善対策事業
平成17年度の現地簡易調査結果報告
平成18年3月8日
独立行政法人水産総合研究センター
中央水産研究所
浅海増殖部
目的
干潟の最重要水産資源の一つであるアサリの漁獲量は長期的な減少傾向にある。減少要因と
して水質や底質の変化にともなう餌料環境の悪化が考えられるが、アサリの摂餌生態に関する知
見は非常に限られている。そこで、アサリの食性の発育段階別の地域的・季節的な差異を比較検
討することで、アサリの餌料環境と干潟生産力の関係を明らかにする。
調査内容および手法
1)アサリの食性と餌環境の広域調査
各地のアサリ漁場となっている干潟でアサリおよび底質を季節毎に周年採集し、アサリおよび底
質中の粒状有機物の安定同位体比、アサリの胃内容物、底質中のクロロフィル濃度、底質中の生
物相分析を行う。また、アサリの栄養状態の指標として、肥満度、グリコーゲン含量を測定する。
H17年度は、東京湾(中央水研)、浜名湖(静岡県水試の協力)、三河湾(愛知県水試の協力)、
周防灘(瀬戸内水研の協力)、有明海(熊本県水研センターの協力)で調査を行い、餌料環境と食
性の地域的差異を比較検討する。
2)ベントフローラを用いた干潟表面の色素分布調査
干潟での一次生産を植物群別に調査することは多大な労力と時間を要する分析が必要であり、
色素分布量の広域的な解析例はほとんど無い。しかし、アサリの餌料環境調査を行う上で底生微
細藻類および直上水中の浮遊微細藻類の時空間的な分布量に関する情報は必須である。
ベントフローラは、底質表面の色素量を波長別に定量測定することで藻類群別の色素量測定の
大量処理が可能な装置である。ベントフローラを用いて砂干潟での一次生産力の時空間的な分析
を行い、干潟生産力と物理環境の関係を明らかにするための基礎資料とする。
今年度は、ベントフローラによる分析の有効性を検討するために、アサリ漁場に合わせた波長分
解のチューニングを実際の植物相との比較により行う。また、東京湾盤洲干潟および豊前海中津
干潟で広域調査を行い、干潟内の色素分布と地盤高や河川水の影響等を分析し、アサリの餌料
環境の差異を比較検討する。
アサリ、底質サンプル採集地
ベントフローラ調査地
東京湾
浜名湖
有明海
三河湾
周防灘
図1 調査地点図
-1-
1)アサリの食性と餌環境の広域調査
結果
Achnanthes brevipes v. brevipes 海産
Achnanthes brevipes v. intermedia 海産
Achnanthes lanceolata
淡水性
Achnanthes minutissima
淡水性
Achnanthes sp.
海産
Achnanthes sp. (cf.convergens) 淡水性
Achnanthes subhundsonis
淡水性
Actinocyclus sp.
海産
Actinoptychus senarius
海産
Amphora group ①
海産
Amphora group ②
海産
Amphora group ③
海産
Amphora group ④
海産
Amphora pediculus
淡水性
Amphora spp.
海産
Anaulus sp.
海産
Auliscus sculptus
海産
Berkeleya sp.
海産
Biddulphia sp.
海産
Campylosira spp.
海産
Catenula adhaerens
海産
Cocconeis placentula
淡水性
Cocconeis pseudomarginata
海産
Cocconeis scutellum
海産
Cocconeis sp.
海産
Cocconeis spp.
海産
Coscinodiscus sp.
海産
Cyclotella meneghiniana
淡水性
Cyclotella sp.
海産
Cyclotella sp. (cf. atomus)
海産
Cyclotella stelligera
淡水性
Cyclotella striata
海産
Cylindrotheca closterium
海産
Cymatotheca sp.
海産
Cymbella minuta
淡水性
Cymbella sinuata
淡水性
Cymbella turgidula v. nipponica 淡水性
Delphineis sp.
海産
Delphineis surirella
海産
Denticula sp.
海産
Dimeregramma sp.
海産
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
浮遊生
浮遊生
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
浮遊生
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
浮遊生
浮遊生
底生性
浮遊生
浮遊生
浮遊生
底生性
浮遊生
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
浮遊生
底生性
Dimeregramma spp.
海産
Diplomenora sp.
海産
Diploneis smithii
海産
Diploneis sp.
海産
Eunotogramma spp.
海産
Fallacia forcipata
海産
Fallacia spp.
海産
Fogedia sp.
海産
Fragilaria construens v. binodi 淡水性
Fragilaria construens v. venter 淡水性
Fragilaria sp.
海産
Fragilaria vaucheriae
淡水性
Gomphonema minutum
淡水性
Gomphonema parvulum
淡水性
Gomphonema quadripunctatum
淡水性
Gomphonema spp.
淡水性
Gomphonemopsis sp.
海産
Grammatophora marina
海産
Hantzschia sp.
海産
Haslea sp.
海産
Hyalosira sp.
海産
Licmophora abbreviata
海産
Lyrella sp.
海産
Melosira varians
淡水性
Navicula capitata
淡水性
Navicula confervacea
淡水性
Navicula cryptocephala
淡水性
Navicula cryptotenella
淡水性
Navicula gregaria
海産
Navicula group ①
海産
Navicula group ②
海産
Navicula group ③
海産
Navicula group ④
海産
Navicula group ⑤
海産
Navicula group ⑥
海産
Navicula group ⑦
海産
Navicula neoventricosa
淡水性
Navicula pupula
淡水性
Navicula radiosa f. nipponica 淡水性
Navicula salinarum
海産
Navicula sp. (cf. perrhombus) 海産
底生性
浮遊生
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
浮遊生
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
Navicula spp.
海産
Navicula tenera
海産
Navicula viridula v. rostellata 淡水性
Navicula yuraensis
淡水性
Navicula zanonii
海産
Neodelphineis pelagica
海産
Nitzschia amphibia
淡水性
Nitzschia dissipata
淡水性
Nitzschia frustulum
淡水性
Nitzschia group ①
海産
Nitzschia group ②
海産
Nitzschia group ③
海産
Nitzschia lanceola
海産
Nitzschia sp. (cf. hantzschii) 海産
Nitzschia spp.
海産
Odontella aurita
海産
Opephora small group
海産
Opephora spp.
海産
Opephora(?) sp.
海産
Paralia sulcata
海産
Parlibellus spp.
海産
Petroneis sp.
海産
Plagiogramma sp.
海産
Plagiogrammopsis sp.
海産
Plagiotropis sp.
海産
Planothidium delicatulum
海産
Planothidium sp.
海産
Planothidium spp.
海産
Pleurosigma spp.
海産
Rhoicosphenia abbreviata
海産
Seminavis sp.
海産
Seminavis spp.
海産
Skeletonema costatum
海産
Stauroneis sp.
海産
Surirella angusta
淡水性
Synedra fasciculata group
海産
Tabularia(?) sp.
海産
Thalassionema nitzschioides
海産
Thalassiosira lacustris
海産
Thalassiosira sp.
海産
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
浮遊生
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
浮遊生
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
浮遊生
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
底生性
浮遊生
底生性
底生性
底生性
底生性
浮遊生
浮遊生
浮遊生
表1 2005年7月に調査海域に出現した珪藻類
光学顕微鏡で同定が出来ない種に関しては、属レベルあるいは形態上のグループで
示してある。
2005年7月に浜名湖・三河湾・中津干潟・有明海に出現した微細藻類の殆どは珪藻類で、海
産・淡水性、底生性・浮遊生の122種類が見られた。このほかに藍藻や緑藻、渦鞭毛藻が
出現した。
-2-
1)アサリの食性と餌環境の広域調査
-27
底質POM
陸生植物
-25
13
δ C (‰)
-23
-21
-19
植物プランクトン
-17
底生微細藻類
-15
-13
小鈴谷
豊川河口
東幡豆
川口
小島
石原
砂原4
横砂
舘山寺
佐久米
鷲津
2
12
22
-20
-19
アサリ軟体部
植物プランクトン
13
δ C (‰)
-18
-17
-16
底生微細藻類
-15
-14
-13
小鈴谷
豊川河口
三河湾
東幡豆
川口
小島
有明海
石原
砂原4
横砂
中津干潟
舘山寺
佐久米
浜名湖
鷲津
2
12
22
盤洲干潟
図2 底質POMおよびアサリの炭素安定同位体比
(横線は、既往の知見からの各餌料のδ13Cの目安の値)
各漁場で7月に採集した底質中のPOM(粒状有機物)およびアサリの炭素安定同位体比
(δ13C)を測定したところ、海域によって微細藻類の出現傾向が異なり、有明海および中津干
潟では植物プランクトンの影響が強いと思われるδ13C値が得られたのに対し、三河湾及び浜
名湖では底生微細藻類の影響が強く見られる場所があった。また、盤洲干潟においては、
最も上流域で陸生植物の影響が強く見られた(図2上)。
一方、アサリのδ13C値は、底質中のPOMには必ずしも対応せず、中津干潟では、底質
POMもアサリも植物プランクトンの値を反映すると考えられるδ13C値を示したが、浜名湖と三
河湾では、底質POMがプランクトンの値を反映しても、アサリは、底生微細藻類を摂餌する
と考えられるδ13C値を示した。また、有明海と盤洲干潟のアサリは植物プランクトンと底生微
細藻類の両方を摂餌すると考えられるδ13C値を示した(図2下)。
-3-
1)アサリの食性と餌環境の広域調査
三河湾
12000
5000
10000
4000
細胞数×100 / 3 ml
細胞数×100 / 3 ml
有明海
8000
川口
小島
6000
4000
2000
0
38173
東幡豆
豊川河口
小鈴谷
3000
2000
1000
0
淡水浮遊
淡水底生
海産浮遊
海産底生
淡水浮遊
中津干潟
海産浮遊
海産底生
浜名湖
5000
3000
4000
細胞数×100 / 3 ml
細胞数×100 / 3 ml
淡水底生
石原
砂4
横砂
3000
2000
1000
0
2000
鷲津
舘山寺
佐久米
1000
0
淡水浮遊
淡水底生
海産浮遊
海産底生
淡水浮遊
淡水底生
海産浮遊
海産底生
図3 底質コアサンプル中の藻類組成
7月に採集した底質中の微細藻類組成を分析したところ、海域によって淡水・海産、浮遊
性・底生種の出現パターンに違いが見られた(図3)。アサリの炭素安定同位体比の分析結
果(図2)と比較すると、餌料環境と摂餌に関して以下のことが推測される。
有明海(川口:–17.0±0.3‰、小島: –17.1±0.2‰)では、植物プランクトンと底生藻類の両
方が餌料として利用されるが、存在比の割に底生藻類の利用度が高い可能性がある。
三河湾(東幡豆:–14.2±01‰、豊川河口:–14.8±0.2‰、小鈴谷:–14.8±0.1‰)では、底
生珪藻の現存量が多く、アサリにも多く利用されている。
中津干潟(石原:–18.5±0.3‰、砂4:–17.8±0.8‰、横砂:–18.1±0.3‰)では、海産藻類で
比較すると底生微細藻類のが多いにもかかわらず、アサリのδ13Cが低いことから、淡水性の
底生微細藻類をアサリが摂餌している可能性がある。
浜名湖(鷲津:–15.3±0.1‰、舘山寺:–15.6±0.3‰、佐久米:–15.0±0.4‰ )に関しては、
植物プランクトンと底生微細藻類の現存量比は同程度だが、餌としては底生珪藻が重要で
あることが示唆される。
以上のように、海域によって餌料環境とアサリの摂餌物に差異が見られたが、今後分析を
継続して、周年を通して採集したサンプルの分析結果から、これらのデータの意味を考察す
る必要がある。
-4-
1)アサリの食性と餌環境の広域調査
緑藻, 1%
藍藻, 4%
緑藻, 1%
底生珪藻, 4%
底生珪藻, 32%
渦鞭毛藻, 39%
三河湾
有明海
浮遊珪藻, 7%
N=10
藍藻, 21%
浮遊珪藻, 92%
渦鞭毛藻, 11%
緑藻, 0%
渦鞭毛藻, 21%
浮遊珪藻, 21%
底生珪藻, 42%
中津干潟
底生珪藻, 79%
浜名湖
浮遊珪藻, 36%
図4 アサリの消化管内容物
アサリの消化管内容物を顕微鏡下で観察したところ、消化管に見られる藻類は、底質中の
組成と必ずしも一致しないことがわかった。
有明海では、底質と比較して消化管内での浮遊珪藻の量が圧倒的に多く、これは、浮遊生
のThalassionema nitzschioidesの群体の影響と考えられた。
三河湾では、底質中で浮遊性が底生性珪藻よりも少なかったのに対して、消化管内容物
では、浮遊性のほうが底生性珪藻よりも多く、藍藻と渦鞭毛藻が多かった。
中津干潟では、 底質中と消化管中の組成が一致し、浮遊性のほうが底生性珪藻よりも少
なかった。
浜名湖においては、底質中と消化管中の珪藻の組成が一致したが、消化管内容物には渦
鞭毛藻が多く見られた。
以上のように、消化管内容物と底質サンプル中の餌料種組成は必ずしも一致せず、炭素
安定同位体比から推定される摂餌生態とも一致しない。これは、底質や胃内容物の分析が
スナップショット的なデータであることに加えて、消化管内容物の全てが同化されていないこ
とを示唆する。アサリの摂餌生態を明らかにするには、安定同位体比分析が不可欠である。
-5-
1)アサリの食性と餌環境の広域調査
肥満度 (g/mm3×1000)
chl
phaeo
15
10
5
0
浜名湖
グリコーゲン含量/乾重量
(g/g)
濃度 (g/l)
20
三河湾
中津干潟
0.3
0.25
0.2
0.15
0.1
0.05
有明海
0
浜名湖
三河湾
中津干潟
有明海
相関検定
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
肥満度
chl a
phaeo
浜名湖
三河湾
中津干潟
有明海
chl a
phaeo
P値
0.21
-0.35
0.49
0.241
グリコーゲン
P値
0.69
0.009
-0.38
0.2
図5 アサリ漁場の色素濃度、アサリの肥満度およびグリコーゲン含量
各アサリ漁場の底質中のクロロフィル濃度(chl)およびフェオ色素濃度(phaeo)を測定した
ところ、7月の三河湾ではクロロフィルとフェオ色素が等濃度であったが、中津干潟と有明海
ではフェオ色素濃度が顕著に高い傾向が見られ、浜名湖は中間の傾向を示した。
アサリの栄養状態の指標として、肥満度とグリコーゲン含量を測定し、色素濃度との対応
を調べたところ、肥満度と色素濃度の相関はなく、グリコーゲン含量とクロロフィル濃度との
間に正の相関関係がみられた。
さらに、重相関分析により以下のような結果が得られた。
G = 0.26 + 3.5×10-2C - 8.4×10-3 P (r=0.79)
K = 0.22 + 1.5×10-3C - 2.4×10-3 P (r=0.38)
G:グリコーゲン、K:肥満度、C: chl a、P: phaeo
グリコーゲン含量は、クロロフィル濃度と正の相関関係にあり、フェオ色素濃度とは負の相
関関係にあった。肥満度に関しても、重相関係数が低いものの、同様な傾向がみられた。以
上の結果から、アサリはデトライタス等の死んだ餌よりも生きた微細藻類を栄養源にしてい
ることが示唆され、中津干潟や有明海でのアサリのグリコーゲン含量が低いことは、餌料不
足の影響が考えられるが、結論を導くには周年を通したさらなるデータの追加と分析が必要
である。
-6-
2)ベントフローラを用いた干潟表面の色素分布調査
緑: 緑藻植物
青: 藍職植物、灰色植物
茶: 不等毛類、ハプト植物、渦鞭毛植物 、珪藻植物
赤: 紅藻植物
その他: クリプト植物
図6 ベントフローラ
ベントフローラは、底質表面の植物色素を励起した際に発する波長をスペクトル別に解析
することで、植物群別の色素量を定量的に測定することができ、従来の据え置きのHPLCと
異なり、持ち運びが可能なために干潟での色素分布の大量測定が期待できる装置である。
東京湾盤洲干潟および豊前海中津干潟で広域調査を行い、干潟内の色素分布と地盤高
や河川水の影響等を分析し、アサリの餌料環境の差異を比較検討した。また、測定値と実
際の藻類組成との関係を確認するためのキャリブレーション作業を行っている。
盤洲干潟で調査を行ったところ、23定点をトリプリケートで測定したにもかかわらず、約2
時間と、従来の手法に比べて圧倒的な時間短縮が可能であった(図7)。
アサリの餌料環境を調査するには、浮遊生と底生の珪藻を分けて測定することが出来な
いこと、フェオ色素の測定が出来ないことなどの問題があるが、干潟の一次生産力を把握す
るためには有用な装置であると考えられた。
0
0.2
0.4
Chl.-a量 (mg/㎡)
0.6
0.8
1
1.2
1.4
緑藻
藍藻
珪藻
St.1'
St.3'
St.5'
St.2
地点名
St.4
St.6
St.8
St.10
St.12
St.14
St.16
St.22
千葉県盤洲干潟BF調査 地点別Chl.-a量整理結果
図7 盤洲干潟の色素分布調査結果
-7-
(添付資料3)
干潟生産力改善事業検討委員会、ワーキンググループ会合
1)第1回拡大ワーキンググループ会合
平成 17 年 5 月 23 日
水産庁8階 漁政部第2会議室
会合参加者
水産庁
漁港漁場整備部 整備課:
宇賀神 義宣(課長)、横山 純(課長補佐)、
梅津 啓史(漁港基準係長)
計画課:
井上 清和(課長補佐)
増殖推進部
研究指導課: 町口 裕二(研究企画官)
漁場資源課: 加藤 英雄(課長補佐)
所属機関
(検討委員会委員)
東京大学農学部
港湾空港技術研究所
水セ北海道区水産研究所
水セ東北区水産研究所
水セ瀬戸内海区水産研究所
水セ西海区水産研究所
水セ養殖研究所
水セ水産工学研究所
水セ中央水産研究所
水セ中央水産研究所
水セ中央水産研究所
(事務局)
水セ中央水産研究所
水セ中央水産研究所
水セ中央水産研究所
所属部署
氏名
農学生命科学研究科水域保全学研究室
沿岸生態研究室
海区部 海区産業研究室
海区部 海区産業研究室
生産環境部 藻場・干潟環境研究室
海区部 資源培養研究室
生産システム部 増養殖システム研究 G
水産土木工学部 環境分析研究室
海洋生産部 低次生産研究室
水産経済部 動向分析研究室
浅海増殖部
日野 明徳
中村 由行
伊藤 博
神山 孝史
濱口 昌巳
前野 幸男
日向野 純也
齊藤 肇
中田 薫
玉置 泰司
輿石 裕一
浅海増殖部 浅海生態系研究室
浅海増殖部 浅海生態系研究室
浅海増殖部 浅海生態系研究室
張 成年
渡部 諭史
片山 知史
2)干潟の生産力改善対策モデル事業の説明会及び第2回ワーキンググループ会合
平成 17 年 7 月 8 日
日本郵政公社2F 農林水産省共用会議室
説明会議題
①本事業の概要説明
②本事業の進め方に係る基本方針案について
③本事業についての意見交換、質疑応答、都道府県からの要望聴取
ワーキンググループ会合議題
①説明会での意見交換、質疑応答、要望について
②水研センターの調査研究状況報告
③文献調査結果の検討と今後の進め方
④今後の調査研究の進め方、検討委員会開催について
会合参加者
水産庁
整備課:
研究指導課:
漁場資源課:
内閣府沖縄総合事務局:
瀬戸内海漁業調整事務所:
九州漁業調整事務所:
宇賀神 義宣(課長)、不動 雅之(広域整備係長)、
横山 純(課長補佐)、梅津 啓史(漁港基準係長)、
宮園 千恵(指導係)
山口 茜(企画係)
加藤 英雄(課長補佐)
、佐々木 真一郎(調整係)
山本 哲也(水産振興係長)
石田 洋志(指導係長)
正岡 克洋(漁場整備係)
杉山 昌穂(振興課長)
検討委員会委員
東京大学農学部
農学生命科学研究科水域保全学研究室
日野 明徳
水セ瀬戸内海区水産研究所 生産環境部 藻場・干潟環境研究室
濱口 昌巳
水セ養殖研究所
生産システム部 増養殖システム研究 G
日向野 純也
水セ水産工学研究所
水産土木工学部 環境分析研究室
齊藤 肇
水セ中央水産研究所
海洋生産部 低次生産研究室
中田 薫
水セ中央水産研究所
浅海増殖部
輿石 裕一
(事務局)
水セ中央水産研究所
浅海増殖部 浅海生態系研究室
張 成年
水セ中央水産研究所
浅海増殖部 浅海生態系研究室
渡部 諭史
参加都道府県
岩手県、宮城県、福島県、茨城県、千葉県、東京都、神奈川県、静岡県、愛知県、三重県、
兵庫県、岡山県、広島県、山口県、香川県、愛媛県、福岡県、長崎県、熊本県、大分県
3)第1回検討委員会
平成 17 年 8 月 12 日
水産庁8階 漁政部第2会議室
議題
①本事業についての県への説明会、県の要望と第2回WGの概要
②水研センターの調査研究状況報告
③文献調査
④ガイドライン項目について
⑤パイロット事業案について
⑥事業推進計画(3カ年のスケジュール)の検討
⑦次回委員会、ワーキンググループ会合予定
委員会参加者
水産庁
整備課:
研究指導課:
計画課:
検討委員会委員
東京大学農学部
港湾空港技術研究所
豊橋技術科学大学
東京大学海洋研究所
水セ北海道区水産研究所
水セ東北区水産研究所
水セ瀬戸内海区水産研究所
水セ西海区水産研究所
水セ養殖研究所
水セ水産工学研究所
水セ中央水産研究所
水セ中央水産研究所
水セ中央水産研究所
(事務局)
水セ中央水産研究所
水セ中央水産研究所
水セ中央水産研究所
梅津 啓史(漁港基準係長)
町口 裕二(研究企画官)
井上 清和(課長補佐)
山本 竜太郎(課長補佐)
農学生命科学研究科水域保全学研究室
沿岸生態研究室
建設工学系
海洋生物資源部門
海区部 海区産業研究室
海区部 海区産業研究室
生産環境部 藻場・干潟環境研究室
海区部 資源培養研究室
生産システム部 増養殖システム研究チーム
水産土木工学部 環境分析研究室
浅海増殖部
海洋生産部 低次生産研究室
水産経済部 動向分析研究室
日野 明徳
中村 由行
青木伸一
河村知彦
伊藤 博
神山 孝史
濱口 昌巳
前野 幸男
日向野 純也
齊藤 肇
輿石 裕一
中田 薫
玉置 泰司
浅海増殖部 浅海生態系研究室
浅海増殖部 浅海生態系研究室
浅海増殖部 浅海生態系研究室
張 成年
片山 知史
渡部 諭史
4)第3回ワーキンググループ会合
平成 17 年 10 月 31 日
水産庁8階 漁政部第2会議室
議題
①水産庁挨拶
②会合の目的
③パイロット事業の概要説明(資料1~4)とそれに対する意見
④各県の平成 18 年度事業実施内容に関する意見集約
⑤その他
会合参加者
水産庁
整備課:
研究指導課
漁場資源課
ワーキンググループメンバー
東京大学農学部
水セ水産工学研究所
水セ瀬戸内海区水産研究所
水セ養殖研究所
水セ中央水産研究所
水セ中央水産研究所
水セ中央水産研究所
水セ中央水産研究所
水セ中央水産研究所
梅津 啓史(漁港基準係長)
山本 竜太郎(課長補佐)
町口 裕二(研究企画官)
山口 茜(企画係)
佐々木真一郎(調整係)
農学生命科学研究科水域保全学研究室
水産土木工学部 環境分析研究室
生産環境部 藻場・干潟環境研究室
生産システム部 増養殖システム研究チーム
浅海増殖部
(事務局)
日野 明徳
齊藤 肇
濱口 昌巳
日向野 純也
輿石 裕一
中田 薫
張 成年
片山 知史
渡部 諭史
5)意見交換会+第4回ワーキンググループ会合
平成 18 年 1 月 23 日
三番町共用会議所
議題
①水産庁挨拶
②参加者紹介
③干潟生産力改善ガイドラインの骨子(案)の説明
④各県の平成18年度取組予定内容の説明と意見交換
⑤その他
交換会、会合参加者
水産庁
整備課:
研究指導課
漁場資源課
ワーキンググループメンバー
東京大学農学部
水セ水産工学研究所
水セ瀬戸内海区水産研究所
水セ養殖研究所
水セ中央水産研究所
水セ中央水産研究所
水セ中央水産研究所
梅津 啓史(漁港基準係長)
町口 裕二(研究企画官)
山口 茜(企画係)
佐々木真一郎(調整係)
農学生命科学研究科水域保全学研究室
水産土木工学部 環境分析研究室
生産環境部 藻場・干潟環境研究室
生産システム部 増養殖システム研究チーム
浅海増殖部
(事務局)
日野 明徳
齊藤 肇
濱口 昌巳
日向野 純也
輿石 裕一
片山 知史
渡部 諭史
参加都道府県
福島県、茨城県、静岡県、愛知県、三重県、兵庫県、岡山県、山口県、愛媛県、長崎県、
熊本県、大分県
6)平成17年度第2回藻場・干潟生産力等改善モデル事業全国会議
平成 18 年 2 月 13 日
三田共用会議所
議題
①干潟生産力改善対策事業紹介
②ガイドライン骨子案について
参加者
東京大学農学部
農学生命科学研究科水域保全学研究室
水セ中央水産研究所
浅海増殖部
水セ中央水産研究所
干潟の部
日野 明徳
輿石 裕一
渡部 諭史
7)第2回検討委員会
平成 18 年 2 月 24 日
水産庁8階南別館共用第7会議室
議題
①水産庁挨拶
②参加者紹介
③水研センターでの取り組み(経過報告)
④パイロット事業計画の紹介
⑤ガイドライン骨子案について
⑥平成18年度計画
⑦その他
委員会参加者
水産庁
整備課:
漁場資源課
検討委員会委員
東京大学農学部
港湾空港技術研究所
豊橋技術科学大学
水セ北海道区水産研究所
水セ東北区水産研究所
水セ瀬戸内海区水産研究所
水セ西海区水産研究所
水セ養殖研究所
水セ水産工学研究所
水セ中央水産研究所
水セ中央水産研究所
水セ中央水産研究所
水セ中央水産研究所
水セ中央水産研究所
水セ中央水産研究所
梅津 啓史(漁港基準係長)
佐々木真一郎(調整係)
農学生命科学研究科水域保全学研究室
沿岸生態研究室
建設工学系
海区部 海区産業研究室
海区部 海区産業研究室
生産環境部 藻場・干潟環境研究室
海区部 資源培養研究室
生産システム部 増養殖システム研究チーム
水産土木工学部 環境分析研究室
浅海増殖部
海洋生産部 低次生産研究室
水産経済部 動向分析研究室
(事務局)
日野 明徳
中村 由行
青木伸一
伊藤 博
神山 孝史
濱口 昌巳
前野 幸男
日向野 純也
齊藤 肇
輿石 裕一
中田 薫
玉置 泰司
張 成年
片山 知史
渡部 諭史
(添付資料4)
干潟生産力改善に向けたガイドライン骨子
1.緒言・ガイドラインの趣旨
2.干潟とは(解説)
1)干潟の消失
2)干潟の保全
3.干潟の生産力とは
1)水産としての生産力
2)二枚貝類生産の変遷と現況
3)生産力維持・改善のための取り組み
4.生産力把握方法--二枚貝(アサリ)の状態把握--および対処方策
1)二枚貝資源診断
2)干潟環境診断
5.生産力改善技術
1)母貝場確保
2)水域全体の回復計画
3)加入(着底)促進
4)底質改善
5)水環境改善
6)貧酸素対策
7)風波、潮流軽減
8)食害生物対策
9)有害生物除去
10)その他
6.管理方策
7.参考文献
8.用語説明(基礎となる知見)
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