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【実践報告2-2】
小学生と高校生による清掃活動を実践して
愛知県立犬山高等学校
1 はじめに
平成 16 年度から継続してきた「豊かな心の育成を目指す指導の在り方に関する研究」も,3年目を迎え
た。これまでのアンケート結果の分析からは,子供たちの体験と自己肯定感との相関,規範意識や思いや
りの醸成とのかかわりが明らかになっており,今年度は実践活動を通してこれを検証することにした。
2 学校の概要
愛知県立犬山高等学校は,犬山町立犬山実科高等女学校としての開校以来,平成 18 年で創立 96 年目を
迎える高等学校である。昭和の初めからは県立の犬山高等女学校と校名を改め,戦後の学制改革により現
在の県立犬山高等学校となった。現在は,全日制課程に普通科 15 学級,商業科4学級,定時制課程4学級
からなり,卒業生は総数2万3千人余を数える伝統校である。
犬山市内から通学している在校生は,30%程度であるが,町立学校として設立されたという歴史もあり,
地域の協力を得て教育活動を展開している。特に商業科においては,地元企業の協力によって全生徒がイ
ンターンシップ体験をしており,課題研究授業における福祉施設への訪問実習など,授業にも地元の協力
が欠かせない。
また,JRC部員が福祉施設での除草作業や募金活動に取り組んだり,生徒や保護者,教員の有志ボラ
ンティアが,定期考査の最終日に通学路清掃を行ったりもしている。
本校は,このような体験的な活動によって,生徒に勤労と奉仕の精神,地元に対する帰属意識を養い,
地域に根ざし,地域の信頼にこたえる学校づくりを目指している高等学校である。
しかし現実には,生徒の対応や言葉遣いについて地域の方から注意を受けることもあり,円滑なコミュ
ニケーションスキルや,豊かな情操,社会生活に欠かせない規範意識をはぐくむためにも,学校における
集団生活以外に,地域との触れ合いの機会を活用することが今後ますます重要であると考えられる。
3 研究内容
(1) 活動の発端
本校では,毎年,定期考査の最終日などを活用して,生徒会主催の通学路の清掃を行っている。生徒と
教員の有志を中心として,学校から名鉄犬山駅,犬山口駅まで,普段生徒が通学路としている道のごみを
拾って歩くものである。
定期考査中に活動を停止していた部活動を再開するきっかけとして部活動単位で参加することもあれ
ば,生徒指導部の教員が,遅刻の多い生徒への指導の一貫として参加を促し,一緒にごみを拾うこともあ
る。生徒と教員とが共同で活動する機会でもあり,また,地域の方から温かい励ましを受けることも多い。
平成 18 年度は,この通学路清掃の第1回を5月中旬,第2回を1学期の期末考査後の6月 30 日に実施
した。第2回の際,「町たんけん」として校外学習に出ていた犬山北小学校3年生との出会いがあった。
互いがあいさつや言葉を交わし,ごみを拾った小学生が高校生の持っている大きな袋にごみを入れに来る
ほほえましい場面もあった。その数日後,小学生から犬山高等学校に感謝の手紙が届いた。
そこで,この出会いをきっかけとして,それまで交流のなかった小学校と高等学校とが合同で活動する
機会を設けられるよう模索し,双方の生徒,児童の成長の場としての活用を検討することにした。
犬山高 1
(2) 研究の目的
本研究は,高校生が有志による自主的活動として取り組んできた通学路清掃活動において,年齢の離れ
た小学生3年生と共に活動することによって,生徒の自己肯定感,自己存在感,自己有用感が高まるなど
の変容やその波及効果についてアンケートによって探ろうとするものである。
ただし,通学路清掃の主体である生徒会執行部の,小学生からの気持ちにこたえたいという思いを核に
して,その余韻のある時期に,最初の交流活動を設定することを優先し,できる限り生徒が自主的に立案
し,実施できるようにする。
(3) 研究の実際
ア 交流活動の立案と参加者募集
6月 30 日の通学路清掃の際に出会っ
た,犬山北小学校3年生から7月上旬に
「私たちの町をきれいにしてくださって
つづ
ありがとう」との感謝の手紙の綴りが届い
た。感謝の言葉だけでなく,自分たちの最
近の話題なども添えられている色彩豊か
なものだった。これを活動の主催者である
生徒会執行部に見せて感想を話し合って
いたところ,手紙の中に「またいっしょに
掃除をしたい」という言葉があったことか
ら,次回の清掃活動を小学生と合同で実施
できるようにしようということになった。
その後,両校の教員を通して行事予定を
確認し,高等学校が定期的に実施している
通学路清掃の日時では,小学生の参加は難
しいということになった。そこで,夏休み
の出校日の日程が同じ8月3日であるこ
とから,この日に交流活動を設定すること
小学生からの手紙
を考えて小学校と調整し,活動場所につい
ても,高等学校の活動する通学路では危険なため,犬山北小学校に隣接する丸山緑地公園での実施が決定
した。
7月中旬,生徒会執行部と学校が企画書を作成し,全校生徒に参加を呼び掛けた。その際,小学生から
の手紙も掲載し,臨時の清掃活動を企画した理由を説明した。
・活動日
平成 18 年8月3日(木)
・活動時間 午前 11 時∼11 時 30 分
・参加者
犬山高等学校 生徒 41 人,教員 10 人
犬山北小学校 児童(3年)96 人,教員3人
・活動場所 犬山北小学校に隣接する丸山緑地公園
・活動内容 除草,落ち葉清掃,ごみ拾い
犬山高 2
ウ アンケートの実施
活動に当たって,参加生徒の変容を把握するためにアンケートを実施した。その際,交流活動という体
験による変容だけを把握するために,活動の目標などに関する指導時間は設けず,ただ小学生と一緒に清
掃活動を行うことだけを伝え,活動する直前(事前アンケート)と活動終了後(事後アンケート)にアン
ケートを実施して,意識の変容について分析した。
(資料1 p.6)
エ 交流活動
当日は,活動場所の丸山緑地公園に集合し,あいさ
つをして活動した。
最初に整列した場では,小学生の元気なお礼とあい
さつの言葉で始まり,高校生にはやや戸惑いが見られ
た。しかし,教員の誘導もあり,作業をするうちにし
だいに距離も縮まり,自然に会話をしながら活動する
ことができた。
30 分程度の活動の後,全員が小学校に移動し,飲み
物をごちそうになって解散した。
活動の様子
オ アンケート結果
事前アンケートにおいて,参加の動機について調査した項目では,募集から実施までの期間も短かった
ため,出校日の午後に部活動を予定している生徒を中心に参加を呼び掛けたという経緯もあることから,
「部活動の一環」との回答が多くなっている。一方,
「成績に影響するから」という動機で参加した生徒は
いなかった。
Q1 なぜ参加しようと思いましたか
%
60
Q1 参加してどのように思いましたか
53.6
%
60
50
50
40
40
41.4
29.2
30
30
20
.0
10
12.1
7.3
4.8
4
0
10
4.8
7.3
0
何も思わない
時間の無駄だった
つまらなかった
普通
達成感を得ることができた
さっぱりした
気分がよくなった
楽しかった
なんとなく
暇だから
部活動の一環
0
9.7
2.4
0
先生に言われた
成績に影響するから
ボランティア活動が好き
掃除が好き
0
21.9
20
また,実施後のアンケートによる参加後の感想であるが,参加した半数以上の生徒が部活動の一環とい
う気軽な気持ちで参加したにもかかわらず,6割強の生徒が,
「楽しかった」を始め,
「さっぱりした」
「達
成感を得ることができた」など満足感を感じた活動であったと回答し,
「つまらなかった」との回答は全く
犬山高 3
なかった。小学生と共に活動することで,自己有用感を自覚することができ,これが肯定的な回答になっ
て表れたと考えられる。
交流活動が参加生徒に意識に与えた影響については,活動の前後のアンケートに同じ項目を設けており,
その変化から把握することができた。
共通の質問項目である「小学生と活動す
るに当たってどのような点に留意するか」
Q2 気を付けた点(比較)
という活動前のアンケート項目と,活動後
のアンケート項目「小学生と実際に活動す
るに当たってどのような点に留意したか」
との回答には変化がみられた。活動後は,
項目ごとの選択者が全体として平均化し
ており,特に,事前アンケートでは「安全」
を第一に考えていた生徒が多かったのに
対して,事後においては,
「態度や物腰」
に気を付けたとの回答が増えている。また,
留意点として「言葉遣い」を選択した者が
減少している。
こうした変化については,活動場所を公
園に限定したことから,安全についてはそ
れほど配慮する必要がなく,それよりもむ
Q3 接し方(比較)
しろ小学生と一緒に活動する際に,言葉遣
いだけでなく態度や物腰全体に配慮が必
要であると感じたということの表れと思
われる。また,初対面の年少の者に声を掛
けて近づいていった活動の様子と併せて
考えると,相手のことを思い積極的に活動
できたことを意味していると考えられる。
次の共通項目である
「小学生との接し方」
についての意識・立場については,
「一緒に
清掃する」
「一緒に清掃しただけ」
と回答し
た生徒が事前・事後とも最も多い。活動の
前後で変化のあった選択肢としては、事前
では選択者の無かった「保育士のような立
場で接する」
と回答した生徒が増えていた。
このことも,活動を通して低学年の小学生
を見守りつつ優しく接し,
「頼られる存在」という自分を実感したことの表れと思われる。
4 研究の成果
今回,異校種である小学校の児童たちとの清掃活動に当たって,高等学校からの参加者にそれほどの強
い動機や目的意識をもたせたわけではない。しかし,参加したほとんどの生徒が「楽しかった」「もう一
犬山高 4
度やってみたい」などという満足感を感じたことが明らかになった。
日ごろ接している年齢の近い友人などとは違い,年齢の大きく異なる小学生と共に活動を行うことによ
り,高校生としての自覚,ひいては社会の様々な構成員の一員としての自覚をもたせることができたと考
えられる。また,活動を通して,小学生の素直で意欲的な活動態度を目の当たりにすることで,日ごろの
自分を省みる機会を得ることができ,同時に自己の有用性を感じ,相手を思いやり,気遣いをしながら活
動したことが意識調査のアンケートからうかがわれる。
5 今後の課題
今回は,小学生からの感謝の手紙をきっかけに,生徒会執行部の生徒たちの参画により,全校生徒に呼
び掛けて実現した清掃活動であった。
高等学校としては,普段の通学路清掃とそれほど差がないこともあり,事前,事後のアンケートでどれ
ほどの変容がみられるかという危惧もあった。しかし,定期的な通学路清掃で地域の方々から感謝の言葉
を掛けられるのとはまた異なり,年少の小学生との活動を通じた生徒の変容とその自覚には顕著なものが
あった。
こうした指導の過程を通して,高等学校においても,生徒の自主的な気持ちは,必ずしも自発的に育っ
ていくものではなく,教員が小さなきっかけを見逃さず,生徒にいろいろな働き掛けを行い,有意義な方
向へと指導していくことで,生徒たちが主体的に動き,他へ働き掛け,相手と心を通わせ,活動を終えた
時に達成感や充実感を味わっていくものであるということを改めて認識した。
今回は,半ば偶然に端を発した研究実践であり,生徒の自主的な活動を促す仕掛けの効果についてもそ
れほど確信があったわけではなかった。しかし,生徒の反応は予想以上であり,その後,犬山北小学校の
催しに犬山高等学校の生徒が加わったり,犬山高等学校の生徒が文化祭の作品を小学生に贈ったりという
交流が自然に続いている。双方の学校が,お互いの年間活動の様子について理解を深めることで,より有
効な交流が続けられるものと期待している。
今後とも,地域との連携を図り,生徒たちの興味・関心を引くプログラムを提示し,積極的に指導して
いくことで,豊かな心をはぐくむ実践を続けていきたいと考えている。
犬山高 5
(資料1)
美化ボランティア活動 事前アンケート
あなたの学年と性別に○を付けてください。
1・2・3年
男・女
次の各質問に当てはまる内容の番号をひとつ答えてください。
Q1 この活動に参加するのは今回で何回目ですか?
回目
Q2 なぜ参加しようと思いましたか?
1 掃除が好きだから
2 ボランティア活動が好きだから
3 成績に影響するから
4 先生に言われたから
5 部活動の一環だから
6 暇だから
7 なんとなく
Q3 今回,小学生と一緒に清掃活動を行いますが,どのような点に気を付けたいですか?
最も近いものを選んでください。
① 小学生と一緒に清掃活動を行う際に,どのような点に気を付けたいですか?
最も近いものを選んでください。
1 言葉遣い
2 態度・物腰
3 服装
4 会話の内容
5 小学生の安全
6 特に気を付けたいと思わない
7 その他(
)
② 小学生と一緒に清掃活動を行いますが,どのように接しますか?
最も近いものを選んでください。
1 一緒に清掃する
2 責任者のような立場で,小学生に指示を出す
3 保育士のような立場で,小学生が楽しめる環境を提供する
4 保護者のような立場で,小学生を見守る
5 別に気にしない
6 その他(
)
ご協力ありがとうございました。
犬山高 6
美化ボランティア活動 事後アンケート
あなたの学年と性別に○をつけてください。
1・2・3年
男・女
次の各質問に当てはまる内容の番号をひとつ答えてください。
Q1 参加してどのように思いましたか。
1 楽しかった
2 気分が良くなった
3 さっぱりした
4 達成感を得ることができた
5 普通
6 つまらなかった
7 時間の無駄だった
8 何とも思わない
Q2 実際に小学生と一緒に清掃活動を行って気を付けた点は何ですか?
最も近いものを選んでください。
1 言葉遣い
2 態度・物腰
3 服装
4 会話の内容
5 小学生の安全
6 特に気を付けなかった
7 その他(
)
Q3 小学生と実際に清掃活動を行って,どのように接しましたか。
最も近いものを選んでください。
1 一緒に清掃しただけ
2 責任者のような立場で,小学生に指示を出した
3 保育士のような立場で,小学生が活動しやすいように心掛けた
4 保護者のような立場で,小学生を見守って活動した
5 別に気にしなかった
Q4 今回,小学生と一緒に活動して,あなたが感じたことは何ですか。
ご協力ありがとうございました
犬山高 7
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