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「企業文化」再考

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「企業文化」再考
時 評
「企業文化」再考
第一生命経済研究所
取締役
中野 俊和
企業文化についてはかつて 80 年代に大きく論じられた。「エクセレントカンパニー」を始めとして
多くの書物が出版され、業績と文化の関係についての実証的研究もなされた。そこでは、概ね企業文
化とは構成員によって共有されている価値観、思考や行動の様式、意思決定パターンと定義され、業
績と文化とは浅からぬ関係があるとされてきた。90 年代に入っても「ビジョナリーカンパニー」や日
本においても 2003 年には新原浩朗氏の「日本の優秀企業研究―企業経営の原点―」などで示唆に富
む研究成果が発表されているところである。文化を社風、風土と言い換えてもよいであろう。
企業の文化ないしは風土というものが企業行動および自らの思考や行動にもさまざまに影響を与
えていることは企業人であれば誰しもが理解しているのではないか。同時に自社の文化や風土が如何
なるものであるかについてもおぼろげではあるが掴んでいると思われる。競合する他社との関係で比
較することも多いと思う。
こうした企業文化や風土はいうまでもなく企業それぞれの固有の歴史を背負い、創業者から歴代経
営トップの打ち出してきた経営理念やリーダーシップで有形無形に作られ培われてきたものである。
先輩諸氏から「ウチのやり方」を学び、成功と失敗の事例を見聞きし、自ら実践していく。そのなか
で、例えば「これはウチでは認められる」「認められない」というように、ある事柄の社内での選択
可能性を無意識に同じように嗅ぎ分け行動するようになる。これが共有化された思考回路であり、行
動様式というものであろう。それは各企業人の背骨に流れている髄液や神経の糸と言ってよく、あら
ゆる場面で関係してくることになるのではないか。企業文化は一定の制約条件にも起爆剤にも成りう
るとも考えてよいであろう。
勿論、個々の企業文化に優劣はない。一方で環境特性によって企業に必要な能力は異なる。したが
って企業文化を自社のおかれた環境との関係で捉え直すことが必要となる。
すなわち企業にとっての課題は以下のように設定できることになろう。
①自社の文化、風土は如何なるものであるか。今、社員の思考・行動の基底にあるものは何か。
②それは今後の環境変化に対応して十分に機能するものか。
③その特性を強化するにはどうするか。
④逆に、もし若干でも望ましくないものがあればどう考えるか。
ドラッカーは「未来企業―生き残る組織の条件」のなかで「企業文化は利用せよ、捨てるなかれ」
とも書いている。また、E.シャインは、組織文化の変容にはまず現状の深刻な不均衡の認知が必要で
あるとしながらも、将来への不安感が大きすぎると変容は失敗するとし、問題解決への心理的安心感
が変革には必要であると説く。(「組織文化とリーダーシップ」)
このように企業文化の理解から変革までの全容は必ずしも一筋縄では括れない。まさに企業独自の
やり方が求められることになる。
今、内部統制も含めて企業のガバナンスや企業倫理が大きく問われている時代に、もう一度自社の
企業文化やその源を考えてみることも必要ではないだろうか。これらは決して無縁ではないと考える。
私見だが、企業文化の「行く末」を考えるにあたっては、手始めに「来し方」として自社の長期勤
続(退職)者からの聴き取りも良い契機となると考えている。「文化」と固く枠を嵌めずに「過ぎし
良き日々、苦労話」等の先達の記憶を辿りながら、現役を交えつつ懇談する。秋の夜、「見失ったも
の」「残しておきたいもの」も必ずや見えてくるのではないかと思うが如何であろうか。風化しない
うちに先達たちの記憶を記録することにも価値はある。そしてそこには恐らく我々現役世代にとって
「元気の素」も含まれているように思う。
第一生命経済研レポート 2005.11
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