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米国発金融危機の経済・ビジネスへの影響

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米国発金融危機の経済・ビジネスへの影響
米国発金融危機の経済・ビジネスへの影響(総論)
2009 年2月
海外調査部
要
約
1.リーマン・ショック以降の世界の金融市場動向
・ 2007 年8月の仏大手銀行BNPパリバ傘下ファンドの資産凍結をきっかけに世界の
金融市場を大きく揺るがせた米国サブプライムローン問題は、2008 年9月の米大手
証券会社リーマン・ブラザーズの経営破たんにより世界規模の金融危機に発展した。
金融市場ではリスク回避行動が顕著なものとなっており、商品市況では、7月上旪
をピークに急速な調整局面を迎えている。為替市場では 2008 年初以来下落傾向にあ
ったドルが反騰に転じるなか、円が独歩高で推移している。
・ 金融危機が短期間で世界的に波及したのは、緩和的な金融環境のもと金融機関の過
剰なリスクテイク行動が常態化するなかで、クロスボーダー金融取引が実体経済以
上に速いペースで拡大したことがある。
2.金融危機の各国・地域マクロ経済・現地ビジネスへの影響
・ 世界の金融機関の累積損失額は、1兆 4,000 億ドル超と推計されており、80 年代
以降の金融危機では最大級となっている。地域別には米国に続いて欧州の損失が
大きく、日本を含めたアジアのダメージは限定的なものとなっている。
・ 実体経済面では、米国、欧州先進国経済が調整局面にある中、その他の地域にも
a)国際金融市場における信用収縮、b)米国経済の後退に伴う実需の減尐、と
いう二つのチャンネルを通じてダメージをもたらしている。さらに国際金融市場
からの資金調達難、対内直接投資の減尐、労働者送金の減尐などの影響が出始め
ている。他方、資源国では、年央以降の資源・エネルギー価格の調整に伴う交易
条件の悪化が経済成長にも影響を与える懸念が強まっている。
・ マクロ経済環境の悪化は、海外での現地ビジネスにも徐々に悪影響をもたらしつ
つある。金融環境の悪化は、金融や住宅・不動産セクターのほか、自動車セクタ
ーに直接的なダメージを与えているほか、アジアなど工業国・地域では電機・電
子、繊維セクターなどの輸出産業への下押し圧力も顕在化している。
3.金融危機への中央銀行、政府、国際機関の対応と連携
・ 各国・地域中央銀行は、2007 年半ば以降流動性の枯渇や信用収縮を未然に防止す
べく、短期金融市場への資金供給や、不振金融機関への緊急融資などの措置を講
じてきた。2008 年 9 月のリーマン・ショックをきっかけに、インフレリスクの後
退や実体経済面の悪化懸念を背景に、金融政策を発動するに至った。
-1-
Copyright 2009 ©JETRO. All rights reserved.
・ 今回の局面では、主要中央銀行による協調行動(短期金融市場への流動性供給、
協調利下げ)や通貨交換協定(スワップ協定)の締結や上限枠の拡大などの措置
が比較的早い段階で講ぜられたのがひとつの特徴となっている。また、各地域内
でも中央銀行間で連携する動きが見られた。
・ G7は 10 月 10 日に「あらゆる利用可能な手段を活用する」との行動計画を発表
し、これを受けて米国、欧州先進国による金融対策が相次いで打ち出された。続
く 11 月 15 日にはG20 サミット(金融・世界経済に関する首脳会談)が開催され、
「改革のための原則を実施するための行動計画」が公表された。
・ 国際機関では、IMFがアイスランド、ハンガリーなどへの支援を決定したが、
通常の上限枠を超えた融資が短期間で決定された。世界銀行も、各種プログラム
を通じて、迅速な支援を行う枠組みを創設した。日本は外為特会よりIMFに対
し、最大 1,000 億ドルの資金融通を行う準備がある旨表明したほか、世界銀行と
の間で途上国の銀行支援ファンドに 20 億ドル拠出する基本合意を締結した。
・ 実体経済への下押し圧力が顕在化する中で、今後の焦点は各国・地域政府による
景気対策に移りつつある。具体的には金融機関支援に加え、雇用対策、中小企業
や不動産・建設業、自動車セクターを中心とした企業支援、公共投資の拡大によ
る実需刺激策が柱となっている。
4.今後の見通し
・ 主要国際機関、民間機関の予測によると 2009 年の世界経済の成長率は 0~1%台
へと大きく減速すると見込まれており、回復期は 2009 年後半以降にずれ込むとの
見方が主流となっている。他方で、新興国経済が相対的に底堅く推移しているこ
と、商品市況の落ち着きなどの先行きに希望を抱かせる材料もある。また各国・
地域経済の緊密度の高まりは、ダメージを分散すると同時に、ひとたび景気が底
入れした場合、従来以上に回復ペースが速まる可能性も指摘できる。
・ 回復のきっかけとしては、まず米国経済が金融機能の修復と個人消費の底入れを
下支えに回復に向かうという過去にも見られたシナリオが考えられる。このシナ
リオが現実化する前提として、ドルの基軸通貨体制が維持されることがある。こ
の点、G20 サミット前に「新ブレトンウッズ合意」形成への期待が高まった。現
時点では、ドルに代わる基軸通貨は見当たらないのが現状だが、今回の危機は現
行の国際金融の枠組みのあり方について、規制、監督体制を含め世界大で再考す
る絶好の機会を提供しているとも言える。現在のドル基軸通貨体制の再構築を含
め、あらゆる可能性について真摯な議論を尽くすことが求められる。
-2-
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米国発金融危機の経済・ビジネスへの影響(総論)
2009 年2月
海外調査部
はじめに
2007 年8月の仏大手銀行BNPパリバ傘下ファンドの資産凍結をきっかけに世界の金融
市場を大きく揺るがせた米国サブプライムローン問題は、モノライン保証会社や政府系住
宅金融機関や証券会社の信用不安を経て、2008 年9月 15 日に米大手証券会社リーマン・ブ
ラザーズが経営破たんするに至って世界規模の金融危機に発展した。混乱は金融市場にと
どまらず、国際金融市場における信用収縮や対米輸出の鈍化などを通じて、米国以外の各
国・地域の実体経済にも悪影響を及ぼしつつある。
1.リーマン・ショック以降の世界の金融市場動向
(1)世界の金融市場および国際商品市況の動向
①大幅な調整局面を迎えた世界の株式市場
主要国・地域の株式市場は、2007 年前半まで概ね良好なパフォーマンスを維持していた
が、2007 年半ばには、主要先進国の株式市場が不振に陥る中で、新興国の株価が堅調に推
移するという二極化の現象が見られ、一時は「デカップリング論」(世界各国・地域景気の
非連動性)が注目を浴びた。しかし、2008 年第1四半期以降、新興国・地域の株価も軒並
み下落傾向を辿り、2008 年9月 15 日のリーマン・ブラザーズの経営破たんをきっかけに、
図表Ⅰ-1 世界の主要国・地域の株価騰落率
'%(
20
世界
10
先進国 G7
0
先進国 米国
△ 10
先進国 日本
△ 20
先進国 ユーロ
△ 30
先進国 英国
△ 40
新興国 アジア
△ 50
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
2Q
2007
3Q
2008
4Q
1月
2009
(資料)モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナルから作成。
-3-
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新興国 欧州
新興国 ラテンアメリカ
図表Ⅰ-2 世界株価指数(MSCI、現地通貨建て)と主要イベント
①2007 年
'ポイント(
470
07/6/22 米大手証券ベアスターンズが傘下のヘッジファンド救済へ
07/7/10 米格付期間S&Pがサブプライム関連証券を大量に格下げ
450
07/10/19 G7 金融市場の混乱が世界経
済減速の要因となりうるとの懸念を表明
07/2/27 中国上海株価が急落、世界同時株安
430
07/7/27 サブプライム問題、企業業
績悪化懸念から米株価急落、世界
同時株安
410
07/11/26 米シティグ
ループがアブダビ投資
庁より出資受け入れ
07/7/30 独産業銀行'IKB(の流動性問題発生、救済買収へ
07/8/15 仏BNPパリバ傘下のファンド凍結
390
07/8/26 独ドイツ・ザクセン州立銀行の資金調達難、救済買収へ
07/12/12 米欧5中銀、強
調して短期金融市場に流動
性を供給する緊急声明発表
07/12/19 米格付機関S&P
がモノライン大手を格下げ
07/9/18 米FRB、FF金利の誘導目標を0.5%引き下げ、年4.75%に
370
07/9/20 英ノーザンロック銀行の経営危機、英中銀が緊急融資へ
07/11月上旬 金融市場混乱の影響長期化、実体経済への影響懸念から世界同時株安
07/12
07/11
07/10
07/09
07/08
07/07
07/06
07/05
07/04
07/03
07/01
07/02
350
②2008 年
'ポイント(
450
08/1/15 米シティグループ、07年第4四半期に巨額の損失を計上
08/1/18 米ブッシュ大統領、最大1500億ドルの緊急景気対策の骨子発表
08/8/5 FRB 政策金利据え置き
08/8/6 保険最大手AIGが08年4-6月期の巨額の損失を公表
08/8/14 ユーロ圏15カ国の4-6月期実質GDPが前期比0.2%
減と統計公表以来初のマイナス成長に
400
08/3/11 米欧5中銀、協調して短期
金融市場に流動性を供給する緊急
声明発表
08/3/16 米JPモルガン・チェース、ベ
アスターンズの買収を発表
08/3/18 米FRB再利下げ
'0.75%引き下げ、年2.25%に(
08/12
08/11
08/11/9 中国が2010年まで4兆元の景気刺激策を発表
08/11/9 G20 各国政府による財政支出拡大への支持を盛り込
んだ共同声明を採択
08/11/15 緊急首脳会合'金融サミット(で、金融安定化に向け
「あらゆる追加的措置をとる」との首脳宣言を採択
08/10
08/05
08/04
08/03
08/02
08/7/11 米地銀のインディマックが業務停止
08/7/13 米ポールソン財務長官、政府系住宅金融公社
への公的資金投入の緊急声明
08/7/17 米証券メリルリンチ08年4-6月期に巨額損失
を計上
08/01
200
08/10/8 米欧6中央銀行によ
る協調利下げ'各行とも
0.5%(
08/09
250
08/11/6 IMF、先進
国経済が09年に戦後
初のマイナスとの予
測を公表。ECB、英中
銀がそろって利下げ
08/9/15 米大手証券リーマ
ン・ブラザーズ経営破たん
08/5月~ 欧米、日本の各
国金融機関のサブプライ
ム関連損失計上が相次ぐ
08/08
300
08/07
08/1/22 米FRB、緊急FOM
CでFFレートの誘導目標を
0.75%引き下げ、年3.5%に
08/06
350
08/10/10 G7、公的資金注
入など5項目を盛り込んだ
「行動計画」の実施で合意
08/4/14 全米第4位銀行のワ
コビアが3億5000ドルの巨
額損失を計上
08/4/30 FRB再利下げ
'0.25%引き下げ、年2%に
(資料)モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル、日本経済新聞、東洋経済統計月報、
ジェトロ「通商弘報」より作成。
-4-
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世界同時株安の色合いを強めた。モルガン・スタンレーが公表するMSCI(モルガン・
スタンレー・キャピタル・インターナショナル、現地通貨ベース)の世界株価指数は、2007
年 10 月に過去最高値(453.658 ポイント)を更新した後、ほぼ一貫して下落基調をたどっ
た。
2008 年 10 月には、
約 4 年ぶりに 300 ポイントを割り込み、2008 年 11 月 20 日には 218.645
ポイントとピーク時の約半分の水準にまで急落した。新興国・地域の株価も例外ではなく、
ピーク時からの下落率は、アジアおよびラテンアメリカは約6割、欧州新興国については
約7割に達しており、先進国の5割を上回るペースで調整した(図表Ⅰ-1、I-2)。
②クレジット市場は新興国経済への懸念を反映
株式市場と同様に、クレジット市場でも新興国・地域のリスクに対する懸念が急速に高
まっている。主要国政府(もしくは中央銀行)向け債権に対するクレジット・デフォルト・
スワップ(CDS、クレジット〔債権のデフォルトリスク〕の引受けに際して支払われる
プレミアム(保険料)は、2008 年9月半ば以降急激に上昇した。たとえばアルゼンチン向
け債権のCDSは、2005 年から 2007 年7月半ばにかけては 280 b.p.(ベーシスポイント=
1%の百分の 1)から 550b.p.のレンジでの推移となっていたが、2008 年にかけて徐々に騰
勢を強め、リーマン・ショック後の9月末には 1,000b.p.を突破した。その後も上昇傾向は
図表Ⅰ―3 主要新興国のCDSの推移(2007 年初=100)
アジア
中南米
3000
1600
アルゼンチン
ブラジル
チリ
コロンビア
1400
1200
メキシコ
2500
ペルー
インド中銀
インドネシア
韓国
マレーシア
ベトナム
パキスタン
フィリピン
タイ
2000
1000
中国
アルゼンチン
800
1500
チリ
韓国
パキスタン
中国
600
1000
メキシコ
マレーシア
400
ペルー
ブラジル
200
タイ
ベトナム
インドネシア
フィリピン
インド中銀
500
コロンビア
0
07/01
07/02
07/03
07/04
07/05
07/06
07/07
07/08
07/09
07/10
07/11
07/12
08/01
08/02
08/03
08/04
08/05
08/06
08/07
08/08
08/09
08/10
08/11
08/12
09/01
07/01
07/02
07/03
07/04
07/05
07/06
07/07
07/08
07/09
07/10
07/11
07/12
08/01
08/02
08/03
08/04
08/05
08/06
08/07
08/08
08/09
08/10
08/11
08/12
09/01
0
中東・アフリカ
中東欧・ロシアCIS
3000
2500
1200
クロアチア
チェコ
ウクライナ
ハンガリー
リトアニア
カザフスタン
ポーランド
ルーマニア
14000
南アフリカ
トルコ
チェコ
1000
12000
エジプト'右目盛り(
ロシア
10000
2000
800
ルーマニア
8000
ウクライナ
ハンガリー
ポーランド
クロアチア
ロシア
カザフスタン
1500
1000
600
6000
400
4000
リトアニア
500
200
0
2000
-5-
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09/01
08/11
08/12
08/09
08/10
08/08
08/06
08/07
08/04
08/05
08/02
08/03
08/01
07/11
07/12
07/09
07/10
07/08
07/06
07/07
07/04
07/05
07/02
07/03
0
07/01
07/01
07/02
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07/04
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07/07
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07/12
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08/02
08/03
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08/05
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08/07
08/08
08/09
08/10
08/11
08/12
09/01
0
図表Ⅰ-4 主要新興国および中央銀行向け債権(10 年)のCDSの水準と推移
2007年
'国名(
2008年
12月末 6月末 12月末
ウクライナ
アルゼンチン
パキスタン
カザフスタン
ロシア
ルーマニア
インドネシア
リトアニア
エジプト
クロアチア
ベトナム
トルコ
ハンガリー
南アフリカ
フィリピン
305.5
554.0
598.0
233.6
105.8
100.7
211.1
89.3
35.2
79.5
182.7
238.0
67.4
92.1
209.4
454.3 3,035.4
716.2 3,775.7
729.9 2,831.7
259.2
570.2
130.0
702.7
225.0
640.8
341.1
640.3
157.5
593.0
64.0
577.7
119.4
446.4
359.0
512.7
379.3
380.6
161.1
404.0
227.3
398.1
320.5
360.4
2009年
'07年末と
1月30日
の比較(倍((
3,100.0
(10.1)
2,881.0
(5.2)
2,831.7
(4.7)
718.4
(3.1)
649.2
(6.1)
617.7
(6.1)
586.7
(2.8)
584.2
(6.5)
568.4
(16.1)
420.9
(5.3)
402.7
(2.2)
388.8
(1.6)
380.0
(5.6)
377.8
(4.1)
374.1
(1.8)
2007年
'国名(
12月末
コロンビア
メキシコ
ペルー
ブラジル
韓国
インド中銀
ポーランド
チリ
チェコ
タイ
マレーシア
中国
スロベニア
スロバキア
174.0
87.0
149.9
139.0
56.1
205.5
36.4
42.5
27.2
74.2
53.5
39.5
32.2
26.3
'単位:ベーシスポイント(
2008年
2009年
'07年末との
6月末 12月末 1月30日
比較(倍((
199.0
333.0
369.3
(2.1)
139.1
313.3
360.4
(4.1)
156.0
333.3
360.0
(2.4)
153.5
324.2
344.6
(2.5)
122.7
319.1
298.6
(5.3)
267.8
305.8
280.1
(1.4)
68.8
238.8
275.3
(7.6)
68.2
217.1
241.9
(5.7)
41.8
183.5
235.1
(8.6)
152.7
251.5
232.0
(3.1)
125.9
218.9
218.7
(4.1)
84.5
182.9
197.9
(5.0)
51.6
117.2
189.6
(5.9)
39.9
165.0
167.1
(6.4)
(資料)図表Ⅰ-3ともトムソン・ロイター社データ。原データは CMA Data Vision。
続き、11 月末には 4,000b.p.を超える水準に達した。他の新興国についても、インド、ブ
ラジルなどが比較的落ち着いた動きとなっているものの、アジア、中南米、中東欧、中東・
アフリカ各地域ともおおむね同様の傾向を辿っている(図表Ⅰ-3、I-4)。
③米国長期金利は史上最低水準に近接
米国のサブプライム問題は 2007 年8月のBNPパリバ傘下ファンドの資産凍結が引き金
となって、世界の金融市場を混乱に巻き込むこととなった。各国・地域の金融市場では信
用不安が台頭し、資金調達環境が極度に悪化したことから、各中央銀行は、金融市場の安
図表Ⅰ-5 主要中央銀行の政策金利の推移
'%(
8
7
豪州
6
英国
5
4
米国
カナダ
ユーロ圏
3
スイス
2
1
日本
(注)スイスはロンドン銀行間オファー金利の上限および下限目標の中間値。
(資料)各国・地域中央銀行、トムソン・ロイター社データから作成。
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09/01
08/07
08/01
07/07
07/01
06/07
06/01
05/07
05/01
04/07
04/01
03/07
03/01
02/07
02/01
01/07
01/01
00/07
00/01
0
定化に向け、短期金融市場への流動性の供給に乗り出した。ただ、この時点では資源・エ
ネルギー価格を中心とする国際商品市況の高騰を背景に、インフレ懸念が台頭していたこ
とから、主要中央銀行の金融政策の基本スタンスは引き締め方向にあり、実際に利下げに
動いたのはFRB(米国連邦準備理事会)のみであった。
その後、金融市場の混乱がより深刻さを増すにつれて、2007 年 12 月に英国およびカナダ
が利下げを実施し、ECB(欧州中央銀行)
、日本銀行も 2008 年 10 月に利下げに転じた。
また、FRBは 2008 年 12 月 17 日には、FFレートの誘導目標を 0-0.25%とすることを決
定し、同時に公開市場操作を通じて市場への資金供給量を調整する量的緩和政策の導入に
踏み切った(図表Ⅰ-5)
。
他の中央銀行の金融政策スタンスも 2008 年8月ごろまでは概ね引き締め方向にあったが、
9月から 12 月にかけて、アジア(中国、韓国、台湾、ASEAN、インド、パキスタンなど)、
欧州先進国(非ユーロ圏先進国、ポーランド、ハンガリー、チェコなど)
、および中東アフ
リカ(トルコ、イスラエル)
、中南米(メキシコ)などが利下げに転じた。ロシア、ブラジ
ル、南アフリカ共和国(以下南ア)など新興大国ではインフレ懸念から、政策金利を据え
置いていたが、南アは 12 月 11 日に、ブラジルは 2009 年 1 月 21 日に利下げに転じた。
こうした状況下で、主要国の短期金利および長期金利はおおむね低下基調を辿っており、
特に米国の長期金利(10 年国債)は、2008 年 11 月以降急速に低下しており、既往の最低
水準(2.3%、1953 年4月)を下回る水準で推移した。ただ、2009 年に入ると、米国オバ
マ政権の景気対策に対する期待感などを背景に、若干ながらも騰勢に転じている(図表Ⅰ
-6)
。
図表Ⅰ-6 主要国・地域の長期金利(10 年国債利回り)の推移
'%(
'%(
7.00
2.50
6.50
6.00
2.00
5.50
5.00
1.50
4.50
4.00
1.00
3.50
3.00
ユーロ
英国
米国
0.50
2.50
中国
豪州
日本(右目盛り(
(資料)トムソン・ロイター社データから作成。
-7-
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09/01
08/12
08/11
08/10
08/09
08/08
08/07
08/06
08/05
08/04
08/03
08/02
08/01
07/12
07/11
07/10
07/09
07/08
07/07
07/06
07/05
07/04
07/03
07/02
0.00
07/01
2.00
④急速な調整局面を迎えた商品市況
2002 年以降、ほぼ一貫して上昇トレンドにあった国際商品市況は、2008 年 7 月上旪をピ
ークにその後は急速な調整局面を迎えている。2008 年前半までの急激な上昇はドルの減価
に伴ってドル建て金融資産を回避した投資資金が、原油、貴金属、穀物など市場に流入し、
新興国における需要拡大期待ともあいまって市況を押し上げる展開となった。年後半には、
急激な上昇に対する反動に加え、米国発金融危機の実体経済への波及とそれに伴う需要減
尐観測を要因として急速な調整局面を迎えた。国際商品市況全体の動きを示すロイター・
ジェフリーズCRB指数は、2008 年半ばまで 2007 年初より 50%以上の上昇と示したが、
2008 年 12 月中旪時点ではピーク時の半分以下の水準まで下落している(図表Ⅰ-7)。
図表Ⅰ-7 主要商品市況(ロイター・ジェフリーズCRB指数)の推移
'2007年初=100(
240
220
総合
非エネルギー
200
エネルギー
穀物
産業素材
貴金属
180
160
140
120
100
80
08/12
08/11
08/10
08/09
08/08
08/07
08/06
08/05
08/04
08/03
08/02
08/01
07/12
07/11
07/10
07/09
07/08
07/07
07/06
07/05
07/04
07/03
07/02
07/01
60
(資料)トムソン・ロイター社データから作成。
⑤外国為替市場ではドルが反騰
主要国・地域通貨は、2008 年前半までは対ドルで概ね堅調あるいは横ばい圏内で推移し
てきたが、7月から8月にかけて、ユーロ、英ポンド、スイスフラン、豪ドル、など先進
国および資源国通貨が調整局面入りし、9月以降はブラジル、ロシア、インドなど新興国
通貨が下げ足を早めた。人民元はほぼ一貫して強調での推移となっていたが、11 月下旪ご
ろより徐々に調整色を強めている。こうしたなか、円は、a)日本の金融機関のダメージ
が相対的に限られていたこと、b)日米金利差の縮小・逆転を背景にほぼ独歩高となって
おり、10 月下旪には 95 年8月以来となる円高水準にまで上昇した。その後も米FRBによ
る断続的な利下げが続き、12 月 17 日に政策金利(FF金利誘導目標)を過去最低水準とな
る 0-0.25%まで引き下げ、量的緩和政策の導入に踏み切ると、円はさらに買われる形とな
り、1 ドル=87 円台まで上昇した(図表Ⅰ-8)
。
ドルの名目実効レート
(広義)
は 2007 年初から米国経済の先行き不透明感が強まるなか、
-8-
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先進国・地域および新興国通貨に対してほぼ一貫して軟調に推移してきたが、2008 年半ば
以降反騰に転じており、直近のボトム(2008 年7月 15 日)から 2009 年1月上旪時点まで
で約 15%程度増価した(図表Ⅰ-9)
。
図表Ⅰ-8 主要国・地域通貨の対ドルレートの推移(2008 年初=100)
140
108
130
106
120
104
110
100
102
90
100
80
70
円
ユーロ
英ポンド
スイスフラン
豪ドル
インドルピー
ロシアルーブル
ブラジルレアル
中国人民元(右目盛り(
98
60
96
08/01
08/02
08/03
08/04
08/05
08/06
08/07
08/08
08/09
08/10
08/11
08/12
09/01
(資料)トムソン・ロイター社データから作成。
図表Ⅰ-9 ドルの名目実行レート(2007 年初=100)
110
全体
105
主要貿易相手国
その他貿易相手国
100
95
90
85
80
07/01
07/04
07/07
07/10
08/01
08/04
08/07
08/10
09/01
(注)ドルの名目実効レートとは、貿易相手国・地域通貨に対するドルの価値を貿易額による加重平均に
より算出した指数。主要通貨指数(Major Currencies)とその他指数(OITP、Other important trading
partners)とこれらを合計した広義指数(Broad)の 3 つの指数から成る。主要貿易相手国はユーロ
圏、カナダ、日本、英国、スイス、オーストラリア、スウェーデンの 7 カ国・地域。その他貿易相手
国はメキシコ、中国、台湾、韓国、シンガポール、香港、マレーシア、ブラジル、タイ、フィリピ
ン、インドネシア、インド、イスラエル、サウジアラビア、ロシア、アルゼンチン、ベネズエラ、
チリ、コロンビアの 19 カ国・地域。
(資料)FRB統計から作成。
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(2)金融危機発生の要因と世界的波及の背景・プロセス
今回の金融危機の要因については、a)2001 年~2005 年にかけての世界的な金融緩和を
一因とする住宅・不動産バブルの発生、b)信用力の低い住宅ローン(サブプライムロー
ン)の急速な普及、c)金融機関および住宅ローンブローカーのサブプライムローンビジ
ネスへの過度の傾斜、d)証券化1・再証券化のプロセスを経た複雑な金融商品に関する不
十分な情報開示とリスク管理の甘さ、e)格付機関の審査能力への依存、などが指摘され
ている(図表Ⅰ-10)。
金融危機が短期間で世界的に波及した要因としては、緩和的な金融環境のもと、金融機
関による過剰なリスクテイク行動が常態化するなかで、各国・地域間のクロスボーダー金
融取引が実体経済以上に速いペースで拡大したことがあげられる。クロスボーダー銀行取
引の残高は 99 年には 9.9 兆ドルであったが、2007 年時点では約 3.5 倍の 34 兆ドルへ、国
図表Ⅰ-10 サブプライムローン問題から世界的金融危機に至ったプロセス
2001年~2006年:サブプライムローン問題の潜伏・萌芽期
金融緩和・低金利
↓
金融機関の収益機会の縮小 → 過剰なリスクテイク'レバレッジの増加(
↓
↓
株式・債券など金融商品からオルタナティブ投資への傾斜
↓
↓
↓
商品価格高騰
← 住宅・不動産・商品への投資活発化 新興国への投資活発化
'審査・査定基準の緩和(
↓
・住宅・不動産バブルの発生
インフレ懸念の台頭
・低所得者向け住宅ローンの普及
2007年:サブプライムローン問題の顕在化
金融引き締めの本格化 →
住宅バブルの崩壊
↓
サブプライムローン問題の顕在化
・金融機関のバランスシート毀損
・証券化市場の麻痺
・リスク回避行動の顕在化
→
・金融機関の破綻
・モノライン保証会社の信用力急低下
・保険会社の信用力急低下
↓
・米国実体経済への影響
・CDSなどクレジット・デリバティブ市場
・関連業界の雇用削減
へのダメージ
・株価、住宅価格下落に伴うセンチメントの悪化
・所得環境悪化、逆資産効果に伴う消費の停滞
・資金調達環境悪化による設備投資の停滞
2008年:サブプライム問題から世界金融危機への発展
・欧州、日本、新興国経済への影響
・世界的な信用収縮に伴う資金調達環境の悪化
・米国の内需減退、ドル安に伴う対米輸出の鈍化
・世界的な財取引の収縮
'背景(
・米国経常赤字をはじめとする不均衡
・世界経済の金融市場へのエクスポージャー拡大
・世界経済および金融市場の緊密度の高まり
1
証券化とは、資金調達を行おうとする企業(発行体)が、金融資産(売掛債権、割賦債権、クレジット・
リース債権、住宅ローン債権など)や実物資産(商業用不動産など)を資金調達目的のSPV(Special
Purpose Vehicle、証券発行のための特別目的事業体、特別目的会社(SPC)や信託、匿名組合などの総
称)に譲渡した上で、SPV が証券を発行し、資金調達を行う一連のプロセスを指す。証券化を行うことに
より、a)会計規則上の一定の要件を満たせば、譲渡する資産を企業(発行体)のバランスシートから外す
ことが可能となり(オフバランス化)
、自己資本比率などの財務指標の改善につながる、b)資産そのもの
の信用力による資金調達が可能となるため、発行体が直接資金調達を行う場合に比べ、低金利での資金調
達が可能となる(低利調達)
、などのメリットがある。金融機関も、a)貸付先(発行体)への与信増に伴
うリスクを圧縮でき、自己資本比率を低下させずに済む、b)手数料収入が見込まれる、などといったメ
リットとから、証券化ビジネスを積極的に拡大した。割賦債権やリース債権、住宅ローン債権など多数の
小口債権は、大数プールとしてまとめられ、債務不履行リスクの低い部分から高い部分へと数個に切り分
けられ、それぞれ格付けを取得した上で、証券会社が引き受け、投資家に販売される。証券化商品を販売
した金融機関サイドでは、証券化された金融商品をさらに再証券化して投資家等に販売するケースが多く
見られ、組成された金融商品がより複雑化し、格付けの難易度も高まることとなった。
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際市場における債券発行額も 5.5 兆ドルから 22 兆ドルへと4倍以上に拡大しており、双方
を合わせた額(57 兆ドル)はすでに世界のGDP(54.6 兆ドル)を上回る規模に達してい
る(図表Ⅰ-11)
。さらに先進国のみならず、新興国・地域経済の金融市場へのエクスポー
ジャーが高まっていることも一因と考えられる。世界の上場企業の時価総額は 80 年代~90
年代にはおおむねGDPの 50%~80%程度の水準であったが、2000 年代には 70%~120%
の水準で推移しており、2007 年はITブームにより株価が高騰した 99 年(118%)の水準
をも上回った(122%)
。特に新興国が多く属する中所得国では 2005 年以降の株式市場の規
模拡大は著しいものとなっており、東アジア・大洋州、南アジア、サブサハラアフリカの
増勢は目立つ格好となっている(図表Ⅰ-12)
。
図表Ⅰ-11 クロスボーダー金融取引の拡大
① クロスボーダーの銀行取引額
②国際市場における債券発行額
'%(
'兆ドル(
40
'%(
'兆ドル(
25
70
45
国際市場における債券発行額'残高(
クロスボーダー銀行取引(残高(
35
40
60
20
対GDP比率'右目盛り(
30
対GDP比率'右目盛り(
35
50
30
25
15
40
25
20
30
20
10
15
15
20
10
10
5
10
5
0
5
0
0
99
00
01
02
03
04
05
06
0
87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07
07
(資料)BIS(国際決済銀行)および国際連合統計から作成。
図表Ⅰ-12 世界の主要地域の株式市場時価総額/GDP比
'%(
'%(
①
所得水準別
②地域別 東アジア・大洋州
160
高所得国
180
140
中所得国
160
120
低所得国
140
世界
120
欧州・中央アジア
中南米
南アジア
世界
100
80
80
60
60
40
20
20
0
0
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
40
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
100
ユーロ圏
中東・北アフリカ
サブサハラアフリカ
(注)地域および所得水準の区分は世界銀行の基準による。
(資料)世界銀行統計から作成。
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加えて、CDSなどの金融派生商品や証券化商品の取引拡大も今回の危機が広範に及ん
だ要因と考えられる(図表Ⅰ-13)
。もともとこれらの商品は金融機関あるいは事業会社の
リスクヘッジあるいはリスクのコントロールを目的として開発されたが、金融緩和が続く
中でレバレッジの積み増しを通じた過剰なリスクテイク行動が常態化したことで、今回の
危機によるダメージが増幅したとみられる。
図表Ⅰ-13 CDSの想定元本の残高
70
62.2
'兆ドル(
60
54.6
45.5
50
34.4
40
26.0
30
20
10
0.6
0.9
1.6
2.2
2.7
3.8
1H
2H
1H
2H
1H
2H
5.4
1H
8.4
12.4
17.1
0
2001
2002
2003
2H
1H
2004
2H
1H
2005
2H
1H
2006
2H
2007
1H
2008
(資料)国際スワップデリバティブ協会(ISDA)資料から作成。
実体経済面においても、貿易取引を通じ各国・地域経済の相互依存関係が深化し、経済
的な緊密度がより高まった結果、米国経済の失速の影響が比較的早い段階で世界的に伝播
したと考えられる。世界のGDP全体に占める輸出の比率(90 年実質ドル価格)は 70 年代、
80 年代とも平均 10%台半ばの水準にあったが、90 年台は 24.0%、2000 年代は 33.2%(2007
年は 37.9%)と 90 年台以降、急速な高まりを見せている(図表Ⅰ-14)
。同時に、地域経
済内の緊密化も進んでおり、アジア域内(ASEAN+6)の域内貿易比率は 90 年の 33.0%
から 2007 年には 43.1%へ、NAFTA(北米自由貿易協定)でも 37.2%から 41.0%へと
高まっている。
図表Ⅰ-14 世界のGDPに対する輸出(財・サービス)の比率
40
'%(
35
2000年代平均
30
90年代平均
25
20
80年代平均
15
70年代平均
(資料)国際連合統計から作成。
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2005
2000
1995
1990
1985
1980
1975
1970
10
2.金融危機の各国・地域マクロ経済・現地ビジネスへの影響
(1)各国・地域の金融機関の損失額
IMFが 2008 年 10 月に公表した「世界金融安定性報告」によると、今回のサブプライ
ムローン問題をきっかけとする金融機関の累積損失額は 1 兆 4,050 億ドルと、米国のGD
Pの 10%近くにも達すると推計されている。これは、米国のS&L危機(86 年~95 年、2,730
億ドル)の 5 倍超、90 年代の日本の金融危機(90 年~99 年、7,450 億ドル)の 2 倍近くに
も達しており、80 年代以降の通貨・金融危機のなかでは最大級のものとなっている。2007
年第 2 四半期から 2008 年8月までの 1 年間の地域別の損失規模は米州が 3,340 億ドル(G
DPの 1.8%)
、欧州は 2,290(同 1.2%)に達しているのに対し、アジアは 240 億ドル(同
0.2%)
、
日本は約 170 億ドル
(金融庁推計による 2007 年4月~2008 年9月の数値、
同 0.3%)
となっており、金融機関が被った損失は相対的に限られたものとなっている(図表Ⅰ-15)
。
図表Ⅰ-15 金融危機による損失(損失額および対GDP比)
過去の金融危機との損失比較
'金額および対GDP比(
'10億ドル(
'10億ドル(
1,600
1,400
地域別の金融機関の損失と対GDP比
'2007年第2四半期から2008年8月まで(
その他金融機関の損失'左目盛り(
34%
40%
400
35%
350
30%
300
2.0%
金融機関の損失
1.8%
銀行の損失'左目盛り(
1,200
対GDP比(右目盛り(
対GDP比(右目盛り(
25%
800
250
20%
200
15%
150
10%
100
5%
50
1.2%
1.2%
1.0%
334
15%
400
1.6%
1.4%
1,000
600
1.8%
10%
0.8%
0.6%
229
0.3%
200
3%
0
24
0%
0.2%
0.2%
17
0
米国S&L危機 日本の金融危機 アジア通貨危機 米国サブプライ
'86-95(
'90-99(
'98-99(
ム問題'2007-(
0.4%
0.0%
米州
欧州
アジア
日本
(注)1.地域別の銀行の損失の対GDP比は、2007 年の各地域の名目GDPの数値により算出。
2.日本については金融庁公表の数値(2007 年 4 月から 2008 年 9 月までの証券化商品保有額の
実現損失)を 2008 年 9 月末のインターバンクでの為替レート(1 ドル=104.76 円)で換算。
GDP比は 2007 年暦年の数値を使用。
(資料)IMF「世界金融安定性報告」
(2008 年 10 月)
、金融庁「我が国の預金取り扱い金融機関のサブ
プライム関連商品の保有額等について」
(2008 年 11 月)
、国際連合、内閣府経済社会総合研究所、
日本銀行統計から作成。
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(2)各国・地域のマクロ経済への影響
①先進国・地域経済に対する影響
世界的金融危機は、おおむね次のチャンネルで米国をはじめとする各国・地域の実体経
済にダメージをもたらしている。まず、米国内においては、金融機関の信用不安の増幅、
資金調達力の低下に伴って、リスクテイク能力が著しく低下した。これに伴って、事業会
社や家計の借入れ・資金調達が困難となり、設備投資および家計消費支出の低迷をもたら
した。同時に、住宅および金融関連業界の巨額の損失計上に伴って、人員削減が進むなど
雇用調整圧力が高まった。雇用・所得環境の悪化は、株価や住宅価格下落に伴う逆資産効
果ともあいまって、家計消費支出にダメージを与えた。こうした状況から、全米経済研究
所(NBER)は、2007 年 11 月 28 日、2001 年からスタートした景気拡張期が 2007 年 12
月に終了し、同月から景気後退期入りしているとの判断を示した2。
米国外の経済に対しては、a)国際金融市場における信用収縮、b)米国経済の後退に
伴う実需の減尐、という二つのチャンネルを通じて下押し圧力を強めつつある(図表Ⅰ-
16)
。欧州先進国に関しては、米国との比較において、金融機関のサブプライムローン関連
商品へのエクスポージャーが低いと想定されたこと、家計の株式の保有比率が低いことな
どから、実体経済への影響は限定的との見方もあったが、英国、スペイン、アイルランド、
アイスランドなどでは米国と同様あるいはそれ以上の住宅・不動産バブルの調整に直面し
ており、金融機関のバランスシートの毀損も著しく、各国とも景気は調整局面に入りつつ
ある(図表Ⅰ-17)
。ユーロ圏(15 カ国)のGDP成長率は 2008 年第2四半期、第3四半
期ともマイナス成長となった。10 年超にわたって安定成長を持続してきた英国も、2008 年
図表Ⅰ-16 米国発金融市場不安の実体経済への影響経路
'米国内の影響)
'海外への影響)
金融市場不安
→
株価下落
国際金融市場における信用収縮
↓
'新興国を中心に(海外から
の資金調達難
金融機関の信用力低下
信用収縮
↓
家計および企業における借入
れ・資金調達が困難に
↓
企業の設備投資の抑制・減尐
関連業界の雇用調整
逆資産効果
↓
家計における消費の
抑制・減尐
企業の設備投資・家計の消費の
抑制・減尐
↑
対米輸出の鈍化・減尐
2NBERでは、景気動向指数(合成指数)をベースに個別系列(所得、消費、生産、雇用)の転換点を決
定し、GDP等も用いて総合的に景気基準日付(景気の山谷)を判定している。一般的に用いられる「G
DPが2四半期連続でマイナス成長すれば景気後退期」との見方は公式な判定ルールではない。
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第3四半期に約 16 年ぶりとなるマイナス成長を記録した。
日本は、金融機関によるサブプライムローン関連商品へのエクスポージャーが低かった
こと、企業の財務体質が比較的健全であり、金融機関の不良債権比率も低下傾向にあった
こと、家計におけるリスクアセットの保有比率が相対的に低かったことから実体経済への
直接的な影響は軽微にとどまってきた。他方、2002 年1月を起点とする今回の景気拡張局
面が過去最長を更新し、循環面での調整圧力が強まっていたことに加え、2008 年 9 月以降
の急激な円高に伴う輸出企業の業績悪化懸念が現実のものとなりつつあるなかで、景気へ
の下押し圧力も強まりつつある。GDPも 2008 年第 2 四半期、第3四半期ともマイナス成
長に陥るなど、米国にやや遅れる形で調整色を強める展開となっている(図表Ⅰ-18)。
図表Ⅰ-17 主要国の住宅・不動産価格
'前年同月比、%(
'前年同期比、%(
40.0
50.0
30.0
40.0
20.0
30.0
10.0
20.0
0.0
10.0
カナダ'新築住宅価格(
△ 10.0
豪州'8都市(
デンマーク'住宅・事業用(
フィンランド
フランス'中古住宅(
日本
ノルウェー
シンガポール'住宅用不動産(
スペイン
0.0
アイスランド
アイルランド
韓国'住宅購入価格(
△ 20.0
△ 10.0
オランダ
英国'ネーションワイド(
米国'S&Pケースシラー、20都市(
(資料)各国統計、トムソン・ロイター社データから作成。
図表Ⅰ-18 主要先進国・地域のGDP成長率
6.0
'前期比年率、%(
4.0
2.0
0.0
△ 2.0
△ 4.0
ユーロ圏'15カ国(
日本
米国
英国
△ 6.0
(資料)各国・地域統計から作成。
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Q4 2008
Q3 2008
Q2 2008
Q1 2008
Q4 2007
Q3 2007
Q2 2007
Q1 2007
Q4 2006
Q3 2006
Q2 2006
Q1 2006
Q4 2005
Q3 2005
Q2 2005
Q1 2005
Q4 2004
Q3 2004
Q2 2004
Q1 2004
△ 8.0
Q3 2008
Q1 2008
Q3 2007
Q1 2007
Q3 2006
Q1 2006
Q3 2005
Q1 2005
Q3 2004
Q1 2004
Q3 2003
Q1 2003
Q3 2002
Q1 2002
Q1 2001
08/03
07/03
06/03
05/03
04/03
03/03
02/03
01/03
Q3 2001
△ 20.0
△ 30.0
③アジアおよびその他地域への影響
アジア工業国やその他の新興国経済では、金融機関の直接の損害は限られていた反面、
実体経済のチャンネルを通じたダメージが顕在している。ただ、その度合いは国・地域に
よって一様ではない。もともと、金融センターであるシンガポールや香港では直接的な影
響が不可避の状況にあるが、その他の新興国においては、a)経済全体の輸出依存度が高
く、米国経済失速の影響を受けやすい(ASEAN、中国など)
、b)経常赤字のファイナ
スを海外からの短期資金に依存しており、短期間で外貨準備が払底するリスクが高まって
いる(中東欧)
、c)直接的な影響は限定的だが、資金流入が細ることで経済への影響が避
けられない(アフリカなど)
、のようなパターンに分けることができる。
ⅰ)米国への輸出依存度が高く、米国経済失速の影響を受ける可能性がある国・地域(A
SEAN、中国など)
アジアの各国・地域の輸出は 2008 年9月~10 月時点ではさほどの影響は見受けられなか
ったが、11 月以降、中国、韓国、台湾、タイなどをはじめとして、総じて減速傾向を強め
ている(図表Ⅰ-19)。中国・広東省では1-9月時点でアパレル・玩具などの対米輸出の
伸び悩んでいると伝えられていた(参照記事:「伸び悩む広東省の対米輸出 ‐アパレル、
玩具など減尐‐」
(広州発)2008 年 10 月 20 日)ほか、フィリピン、ベトナムなどでも輸出
の先行き懸念が強まっている(参考記事:
「日系メーカーの受注減が顕在化-世界同時不況
の産業・企業への影響- 」
(フィリピン)2008 年 11 月 13 日 マニラ発)。
米国への輸出依存度の観点から特に注目すべきは中国である。中国経済は 2000 年以降米
国への輸出依存度を高めており、米国向け輸出の対GDP比率は 80 年代の 0.7%、90 年代
の 2.9%から 2007 年には 7.3%にまで上昇している(図表Ⅰ-20)
。
図表Ⅰ-19 アジア主要国の輸出動向
60
'前年同月比、%(
50
50
中国
香港
40
韓国
台湾
'前年同月比、%(
40
30
マレ-シア
シンガポール
タイ
フィリピン
30
20
20
10
10
(資料)各国貿易統計から作成。
-16-
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08/11
08/09
08/07
08/05
08/03
08/01
07/11
07/09
07/07
07/05
07/01
08/11
08/09
08/07
08/05
08/03
08/01
07/11
△ 30
07/09
△ 30
07/07
△ 20
07/05
△ 20
07/03
△ 10
07/01
△ 10
07/03
0
0
実際に、米国景気の減速が鮮明となった 2008 年7-9月期の中国の実質GDP成長率は、
外需の減尐が一因となって前年同期比 9.0%と 2005 年第4四半期以来となる大幅な減速を
記録し(参考記事:
「1〜9月期の経済成長率、1ケタに減速−世界経済の変調が響く−」
(中
国)2008 年 10 月 21 日 北京発)
、第4四半期も同 6.8%と 2001 年第4四半期(6.6%)以
来、7年ぶりの低成長に陥った。
その中国に対しては、アジア各国・地域の中国への依存度も高まっている。マレーシア
の対中輸出のGDP比は 90 年代の 2.0%から、2007 年には 8.2%へ、タイは 0.8%から 6.0%
へと大きく上昇している(日本は 0.4%から 2.5%へ上昇)
。すなわち、日本を含めたアジ
ア諸国は、米国経済低迷の影響を直接被るのみならず、中国経済の減速という「媒介項」
を通じて間接的にダメージを受ける可能性が強まっている。
図表Ⅰ-20 アジア主要国の対米・対中輸出依存度
'%(
合計
対米輸出のGDP比率
対中輸出のGDP比率
80年代 90年代 2000年代
80年代 90年代 2000年代
80年代 90年代 2000年代
2007年
2007年
2007年
バングラディッシュ
ブルネイ
カンボジア
中国
インド
インドネシア
ラオス
マレーシア
ミャンマー
パキスタン
フィリピン
タイ
ベトナム
韓国
日本
シンガポール
香港
0.8
3.2
0.2
0.7
0.7
3.8
0.2
7.8
0.0
0.9
5.7
3.6
0.0
10.1
3.7
26.8
24.3
2.4
2.4
1.9
2.9
1.4
3.4
0.5
15.6
1.7
1.9
9.3
7.2
0.7
5.5
2.7
26.4
25.3
3.6
5.2
23.9
6.0
2.1
3.8
0.3
19.0
2.5
3.1
9.7
10.0
9.2
5.8
3.0
21.2
25.2
4.6
3.1
27.5
7.3
2.1
3.2
0.5
15.0
0.0
2.4
6.2
7.8
14.8
4.7
3.3
16.5
17.6
0.1
0.1
0.1
0.0
0.2
1.1
0.7
0.1
0.3
0.2
0.6
0.0
0.0
0.5
2.5
16.0
0.1
0.1
0.3
0.1
0.9
0.5
2.0
2.6
0.1
0.3
0.8
1.3
1.7
0.4
3.3
35.1
0.1
2.4
0.3
0.6
1.9
0.8
6.0
1.8
0.4
3.9
4.1
4.8
6.2
1.5
12.3
60.0
0.1
1.4
0.5
1.1
2.6
1.9
8.2
2.4
0.7
13.6
6.0
4.1
9.7
2.5
17.9
67.8
0.9
3.3
0.2
0.7
0.8
4.0
1.3
8.5
0.1
1.2
5.9
4.2
0.0
10.1
4.1
29.3
40.3
2.5
2.4
2.2
2.9
1.5
4.3
1.0
17.6
4.3
2.0
9.7
8.1
2.0
7.2
3.1
29.7
60.4
3.7
7.6
24.2
6.0
2.7
5.7
1.0
24.9
4.3
3.5
13.6
14.1
14.0
12.0
4.5
33.5
85.1
4.7
4.5
28.0
7.3
3.2
5.8
2.3
23.2
2.4
3.1
19.8
13.9
18.9
14.4
5.8
34.4
85.4
(資料)IMF "World Economic Outlook" (2008 年 10 月)および"Direction of Trade"から作成。
ⅱ)経常赤字のファイナスを海外からの短期資金に依存しており、短期間で外貨準備が払
底するリスクが高い国・地域(中東欧諸国など)
中東欧諸国はEU加盟あるいはその期待を背景に、海外からの直接投資が大幅に増加し、
高い経済成長を実現してきた。国内ではバブルが発生すると同時に、大幅な経常赤字をも
生み出した。海外からの短期資金への依存度も高く、ひとたび短期資金が流出を始めれば、
極めて短期間で外貨準備が払底するリスクを抱えていた(図表Ⅰ-21)
。金融危機後はその
リスクが一部で顕在化するに至っており、すでにハンガリー、ラトビアなどはIMFによ
る支援が決定している。
-17-
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図表Ⅰ-21 中東欧主要国・地域の経常赤字および海外からの短期借入れの推移
海
外
か
ら
の
短
期
借
入
れ
(
外
貨
準
備
に
対
す
る
比
率
)
200
'凡例(
2007年
'%(
エストニア
ラトビア
95-99年
平均
ルーマニア
ハンガリー
100
リトアニア
スロバキア
チェコ
ブルガリア
ポーランド
0
0
△5
△ 10
△ 15
経常収支'対GDP比、逆目盛り(
△ 20
△ 25
'%(
(注)95 年-99 年平均は各年の比率を平均した数値。
(資料)国際決済銀行(BIS)
、IMF統計から作成。
ⅲ)直接的な影響は限定的だが、資金流入が細ることで経済への影響が避けられない国・
地域(アフリカなど)
。
アフリカなどもともと国際資本市場との結びつきが弱く、金融危機の影響は限定的との
見方が主流となっていた(参考記事:
「直接的影響は考えにくいがマクロ経済の安定に尽力
を」
(アフリカ)2008 年 10 月 24 日 ナイロビ発)
。ただ、これらの国・地域に関しても金
融危機の影響は不可避とみられる。特に低所得国に関してはもともと国内の経済基盤が脆
弱である上、政府開発援助や対内直接投資、さらに労働者送金などの資金流入が細ること
で、経済成長への影響は避けられないとみられている(参考記事:「UEMOA/CEMAC 地域、金
融危機の影響は限定的だが援助の減尐に警戒」(アフリカ)
2008 年 10 月 24 日 (アビジ
ャン発)
)。
また、2008 年半ばごろまでの資源価格の高騰を背景に、好況を呈してきた資源国経済に
も影響が出始めている。たとえば、湾岸協力会議(GCC)諸国では、2008 年前半までは
インフレ対策が最重要課題となってきたが、資源価格の下落および資金調達環境の悪化か
ら、これまで進めてきた大型プロジェクトのファイナンスに支障を来たす可能性が高まっ
ているほか、ローンの審査厳格化を通じて、個人消費にも影響が及んでいる。このためサ
ウジアラビアは 11 月 23 日には政策金利の引き下げを実施するに至っている(参考記事「イ
ンフレ懸念は後退、プロジェクトの見直しは必至」GCC(湾岸協力会議)2008 年 12 月
17 日 ドバイ発)
。
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図表Ⅰ-22 金融危機の新興国・地域経済への影響
・対米輸出の減少(中国、ASEAN)
・国際金融市場からの資金調達難(中東欧、中東)
・直接投資の減少、政府開発援助、労働者送金の減少(中東欧、アジア、アフリカ)
・資源価格下落による交易条件の悪化(中東、アフリカ、ロシア・CIS)
(3)現地ビジネスへの影響
ジェトロが 2008 年 10 月から 12 月中旪までに海外センター・事務所より収集した情報に
よると、海外各国・地域においては、金融、住宅・不動産業など直接のダメージを蒙った
業種のみならず、製造業にも金融危機の影響が徐々に顕在化しており、現地企業や現地日
系企業も総じて厳しい局面にある。自動車関連産業は、金融環境の悪化に伴うローン金利
の引き上げや審査基準の厳格化などが販売に大きく影響しているほか、電機・電子部品で
も受注が低迷しているほか、輸出代金の回収に支障を来たしたりするケースも散見される。
ベトナムのプリンターのように低価格品への影響は限られるものの、高付加価値品の落ち
込みが激しいなど、セグメント別に影響が異なる製品も見られた。繊維産業では、バング
ラデシュ、ベトナム等では大きな影響はなく、むしろ低価格の販売強化のチャンスと捉え
る向きもある一方で、タイ、フィリピンなどでは欧米向けを中心に輸出鈍化・減尐傾向が
鮮明化するなど、各国により影響度の度合いが異なる格好となっている。
図表Ⅰ-23 地域別産業・現地企業・日系企業への影響
電機・電子
自動車・二輪車・部品
繊維・アパレル
アジア ・5~20%の減産へ'10月下旬以降、インドネ ・金利上昇、ローン審査厳格化で販売台数減 ・米国からのアパレル受注激減'1-7月、スリ
シア(
尐。09年は30%の大幅減尐を見込む'11月、
インドネシア(
・台湾企業からの支払い回収できず'10月、シ ・09年の生産台数は前年比18%減を予想'タ
ンガポール(
イ工業連盟(。欧州向け輸出に懸念'11月、タ
イ(
・電化製品の09年輸出予測を前年比8-12% ・日系メーカーの10月の売上高が前年同月比
増から3-5%増へ下方修正、電子製品は1% 約35%減(11月、フィリピン(
以下との予測'10月、タイ(
・欧州向けエアコン輸出の伸びは08年の前年 ・日系メーカーの米国向け部品受注が10月初
比20%超から09年には10%程度となると見込 旬から停止'11月、フィリピン(
む'10月、タイ(
・08年の輸出額が最大10%減尐する見込み。 ・内販向け二輪車、自動車が当初計画より販
自動車用電子部品の落ち込みが大きい'11 売台数が落ち込み'11月、フィリピン(
月、フィリピン(
・プリンターのローエンドの生産は堅調に増加
しているが、欧米向けハイエンドの生産が当
初計画を20%下回った'11月、ベトナム(
ランカ(
・08年の輸出額は前年比7~8%増、09年は2
~3%増。欧米向けが低迷'11月、タイ(。
・売掛金の回収に苦慮。米国の輸出代金の支
払いが30~60日遅れている'11月、タイ(
・低価格品の売れ行きに影響はなく、むしろ
チャンスとの声'11月、バングラディッシュ(
・中小工場では輸出鈍化への懸念があり、選
別化が進むとの見方'11月、バングラディッ
シュ(
・08年1-9月の輸出は前年同期比15.6%減、
08年では20%減を予測'11月、フィリピン(
・繊維企業には対米輸出も含めて影響は見ら
れない'11月、ベトナム(
・米国向けは禁輸措置により影響はないが、
日本・欧州の市場縮小の影響が出始めてい
る'11月、ミャンマー(
中南米 ・為替下落によるコストアップ、金利上昇によ ・大手日系二輪車メーカーが10月より生産調
るローン販売の抑制に対する懸念'11月、ブ
ラジル(
ロシア・
CIS
整'11月、ブラジル(
・09年の国内自動車販売台数は前年比17%
減を見込む'11月、アルゼンチン(
・金利引き上げとローン審査基準厳格化によ
り自動車販売の伸びが急減速'10月、ロシア(
・11月の外国ブランド車販売台数は前年同期
比14.9%減。2004年以降ではじめてのマイナ
スを記録'12月、ロシア(
(注)日付はジェトロ海外センター・事務所からの報告日付、または報告の内容に基づく。
(資料)ジェトロ「通商弘報」
、ジェトロ海外センター・事務所からの報告に基づき作成。
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3.金融危機への中央銀行、政府、国際機関の対応と連携
(1)各国・地域の政府および中央銀行による対応と連携
①中央銀行の対策
サブプラム問題が顕在化した 2007 年半ばごろから各中央銀行では、流動性の枯渇や信用
収縮を未然に防止すべく、さまざまな措置を講じてきた。具体的には、①市場オペレーシ
ョン等を通じた、短期金融市場への資金供給、②不振金融機関に対する緊急融資、公的資
金注入、国有化、③金融機関に対する貸出枠の上限引き上げなどである。金融政策の面で
は、2008 年半ばごろまで、各地域とも国際商品市況の高騰を一因とするインフレ上昇懸念
が払拭されなかったことから、多くの中央銀行は引き締めスタンスを維持していたが、リ
ーマン・ショック後の実体経済への下押し圧力が顕在化するに至って、主要中央銀行は相
次いで利下げに転じ、米国や英国の政策金利は歴史的な低水準にまで引き下げられた。
さらに、主要中央銀行による協調行動(短期金融市場への流動性供給、協調利下げ)や
通貨交換協定(スワップ協定)の締結や上限枠の拡大などの措置が比較的早い段階で講ぜ
られたのも今回の金融危機対応のひとつの特徴となっている(図表Ⅰ-24、Ⅰ-25)
。2007
年末に欧米主要中央銀行による金融市場安定化のための協調行動がとられ(2007 年 12 日公
表、17 日実施)
、2008 年には 3 月 11 日、9 月 18 日、9 月 29 日にそれぞれFRBと各主要
中央銀行の通貨スワップ協定の締結、上限額の引き上げが実施され、10 月 8 日には欧米主
要中央銀行による協調利下げが実施された(協調利下げは、米国同時多発テロが発生した
2001 年 9 月 17~18 日以来、日銀は 10 月 31 日に追随利下げ)。
また各地域内においても、各中央銀行間で連携する動きが打ち出されている。欧州では
北欧理事会の枠組みの下で、金融危機の影響が深刻化したアイスランドに対して、北欧 4
カ国(ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク)が共同で 25 億ドルの追加
融資を決定した(11 月 20 日)
。アジアでも日中韓首脳会談において、チェンマイ・イニシ
アティブ3の枠組みのもとで締結されていた日本・中国・韓国間の通貨スワップ取極めの規
模拡大が合意され、韓国との通貨スワップの規模が拡大されることとなった(日本から韓
国への発動上限枠が 130 億ドル相当から 300 億ドル相当へと拡充)。
②政府の対策
中央銀行と足並みをそろえる形で、各国・地域政府からも相次いで金融危機対策が打ち
出された。金融規制・監督体制が各国により異なるため、実施主体はさまざまであるが、
実施された対策は、a)預金者保護、b)金融機関の資金繰り支援のための銀行間取引等
3短期流動性問題への対処および既存の国際的枠組みの補完を目的とした東アジアにおける自助・支援メカ
ニズム。二カ国間通貨スワップ協定(BSA)およびASEANマルチのスワップ協定からなり、通貨・
金融危機により流動性問題に直面した国が、自国通貨もしくはハードカレンシー(通常は米ドル)を相手
国通貨と交換するスキーム。2000 年5月のASEAN+3蔵相会議で合意に至り、2003 年末にASEAN
5カ国と日中韓のネットワークが完成。2007 年 10 月時点でBSAに基づくネットワークは8カ国間で 830
億ドル、ASEANマルチのスワップ協定は 20 億ドルとなっている。
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図表Ⅰ-24 主要国・地域中央銀行の金融危機対策①(2007 年8月~2007 年 12 月)
欧州
英国
カナダ
スイス国立銀行'SNB( 日本'日本銀行、BOJ(
'欧州中央銀行、ECB( 'イングランド銀行、BOE( 'カナダ銀行、BOC(
FF金利安定のためNY 2000億ユーロ規模の流
16.4億加ドルの短期資
連銀通じ240億ドルの流 動性供給'9-14日(
金供給
動性供給(10日(
米国'FRB(
2007 8月
公定歩合を0.5%引き下 400億ユーロ'期間3カ
げ、年5.75%に'緊急利 月(の資金供給を発
下げ、17日(
表。
9月
312億5000万ドルの短
期資金を供給'6日(
中国'中国人民銀行(
バークレイズ銀行に対する
合計18億1700万ポンドの
緊急融資を実施'20日、29
日(
定例理事会で金利据え ノーザン・ロックに対する流
置き。同時に422億ユー 動性供給'14日(
ロの短期資金供給を発
表'6日(
民間銀行の預貸金の基準
金利を引き上げ。1年の融
資が0.18%引き上げ、
7.02%、1年物定期預金は
3.60%に(6日(
FF金利誘導目標を
0.5%引き下げ、年
4.75%へ'18日(
10月 FF金利誘導目標を
0.25%引き下げ、年
4.5%へ'31日(
11月
民間銀行の預貸金の基準
金利をそれぞれ0.27%引き
上げ。1年の融資が7.29%、
1年物定期預金は3.87%に
(14日(
12月 FF金利誘導目標を
0.25%引き下げ、年
4.25%へ'11日(
政策金利を2年4ヶ月ぶりに 政策金利'翌日物金
0.25%引き下げ年5.5%に 利(を0.25%引き下げ、
(6日(
4.25%に'4日(
米欧中央銀行5行による金融市場安定化のための協調行動。FRB による入札型のターム物貸出、FRB とECB、SNB とのス
ワップ協定などにより年末の短期資金の逼迫に対応'12日公表、17日実施(
2007年内に計400億ド 200億ドルの越年資金
ルの越年資金供給
供給
銀行に対し2週間の無
限貸出枠を設定
-21-
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図表Ⅰ-24 主要国・地域中央銀行の金融危機対策②(2008 年1月~2009 年1月)
米国'FRB(
欧州
'欧州中央銀行、ECB(
英国
'イングランド銀行、BOE(
2008 1月 FF金利誘導目標を0.75%引
き下げ、年3.5%へ'緊急利
下げ、22日(
FF金利誘導目標を0.5%引き
下げ、年3.0%へ'30日(
2月
カナダ
'カナダ銀行、BOC(
政策金利'翌日物金利(を
0.25%引き下げ、4.0%に
'22日(
スイス国立銀行'SNB(
日本'日本銀行、BOJ(
中国'中国人民銀行(
政策金利を0.25%引き下げ年
5.25%に(7日(
3月
政策金利'翌日物金利(を
0.5%引き下げ、3.0%に'4
日(
米欧中央銀行5行による資金供給拡大の緊急声明。FRBが最大200億ドルを供給し、ECBとSNBへの通貨スワップ上限額を増額'240億ドルか
ら360億ドルへ('11日(
プライマリーディーラー向け
のターム物債券貸出開始(11
日(
FF金利誘導目標を0.75%引
き下げ、年2.25%へ'16日(
4月 FF金利誘導目標を0.25%引
政策金利を0.25%引き下げ年
き下げ、年2%へ'30日(
5.00%に(10日(
7月
政策金利を0.25%引き上げ
4.25%に'13カ月ぶり(。イ
ンフレリスクへの対応
9月 主要中央銀行による協調。FRBは総額2,740億ドルのドル資金を自国市場に供給。FRBと各中銀がスワップ協定。日銀は600億ドルをスワップ調達(18日(
総額250億ドルの短期資金供
給'15日、16日(
貸出金の基準金利を6年7ヵ月ぶりに引き下
げ。期間1年物で、7.47%から7.20%へ0.27
ポイント引き下げ(16日(
FRBによる各主要中央銀行'ECB、BOE、BOC、SNB、BOJ、デンマーク中銀、ノルウェー中銀、スウェーデン中銀、豪準備銀(とのスワップ上限枠を2,900億ドルから6,000
億ドルへ拡大'29日(
10月 スウェーデン中央銀行を含めた欧米6中央銀行による協調利下げ(8日(。
FF金利誘導目標を0.50%引 政策金利を0.50%引き下げ 政策金利を0.50%引き下げ年 政策金利'翌日物金利(を 政策金利'3カ月物LIBOR(
き下げ、年1.5%へ'8日(
年3.75%に(8日(
4.5%に(8日(
0.50%引き下げ、2.5%に'8 の目標レンジを2.25~3.25%
日(
から2.00~3.00%へ引き下
げ'8日(
人民元建て基準金利を引き下げ。預金の
基準金利は4.14%から3.87%に、貸出金の
基準金利は7.20%から6.93%に、それぞれ
0.27ポイント引き下げ(各1年物、9日(
FF金利誘導目標を0.50%引
き下げ、年1.0%へ'29日(
11月
翌日物金利の誘導目標を
0.25%引き下げ、2.25%に
(21日(
政策金利を0.50%引き下げ 政策金利を1.50%引き下げ年
年3.25%に(12日(
3.0%に(10日(
無担保コールレート'オー
バーナイト物(の誘導目標
を0.2%引き下げ、0.3%に
'31日(、同時に補完当座
預金制度を導入
政策金利目標レンジを2.00
~3.00%から1.50~2.00%へ
引き下げ(7日(
政策金利目標レンジを1.50
~2.00%から0.50~1.50%へ
引き下げ(20日(
12月
1月
2009
人民元建て基準金利を引き下げ。預金の
基準金利は3.87%から3.60%に、貸出金の
基準金利は6.93%から6.66%に、それぞれ
0.27ポイント引き下げ(各1年物、30日(
人民元建て基準金利を引き下げ。預金の
基準金利は3.60%から2.52%に、貸出金の
基準金利は6.66%から5.58%に、それぞれ
1.08ポイント引き下げ(各1年物、27日(
日中韓の通貨交換'スワップ(協定の発動上限枠の拡大'12日(
FF金利誘導目標を0-0.25% 政策金利を0.75%引き下げ 政策金利'レポ金利(を1.0% 翌日物金利の誘導目標を 政策金利目標レンジを0.50 無担保コールレート'オー 人民元建て基準金利を引き下げ。預金の
へ引き下げ、史上最低水準 年2.50%に(10日(
引き下げ、2.0%に。水準は
0.75%引き下げ、1.5%に(9 ~1.50%から0.00~1.00%へ バーナイト物(の誘導目標 基準金利は2.52%から2.25%に、貸出金の
に。同時に量的緩和政策導
1951年以来の低水準に'4日) 日(
引き下げ(11日(
を0.2%引き下げ、0.1%に 基準金利は5.58%から5.31%に、それぞれ
入(17日(
'19日(
0.27ポイント引き下げ(各1年物、22日(
政策金利を0.50%引き下げ 政策金利'レポ金利(を0.5% 翌日物金利の誘導目標を
年2.00%に(21日(
引き下げ、1.5%に。1694年の 0.5%引き下げ、史上最低
中銀創設以来最低水準'8日) の1.0%に(20日(
(資料)各中央銀行、日本経済新聞、東洋経済統計月報、ジェトロ「通商弘報」から作成
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図表Ⅰ-25 G20 各国・地域の金融危機対策(2008 年 9 月以降)
(○:実施あるいは実施過程にあるもの、▲実施枠組みの創設あるいは実施の表明がなされたもの(
流動性の供給および金融政策対応
金融市場の流動性改善
流動性 政策金利 金融市場機 通貨スワップ協 有担保ス
銀行の債務の一 流動性喪失資産の 関連資
供給 引き下げ 能の修正・調 定の創設・拡充 ワップ(注1( 部・全部保証(注2( 直接・間接買取(注3) 産売却
整
の促進
先
進
国
(
O
E
C
D
加
盟
国
)
G7
米国
○
○
○
○
○
○
カナダ
○
○
○
○
○
○
EU/ECB
○
○
○
○
○'注4(
▲'注4(
フランス
○'注4(
ドイツ
○'注4(
イタリア
○
▲'注4(
○
○(注9(
英国
○
○
○
○
日本
○
○
○
○
豪州
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
その他 韓国
先進国 メキシコ
トルコ
途
上
国
○
'注7)
○(注8(
○
○
ブラジル
○
ロシア
○
BRICS インド
○
○
○
○
中国
アルゼンチン
○
○
▲
金融安定化措置
株式の空 預金保険の
売り制限
上限引き上
げ
○
○
○
▲'注4( ○'注4(
▲'注4(
○'注4(
▲'注4(
○
○'注4(
▲'注4(
○
○(注9(
○(注4(
▲
○(注9(
▲
○
○(注4,5(
○
▲(注4,5(
○
○(注9(
○'注6(
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
南アフリカ
その他
インドネシア
途上国
サウジアラビア
○
その他資金調達環境の改善
資本注 公的管 国有化 不良資
入
理
産の買
取
○
○
○
○
○
○
○
○
(注) 1.イングランド銀行による特別流動性供給スキーム(一定期間内に優良債券を担保に短期国債を貸し出す制度)など。
2.中央銀行あるいは政府による銀行の資金調達に対する保証の付与など。
3.米国によるCP資金調達ファシリティおよび豪州のMBS買い取りなど。
4.欧州行動計画(10 月 12 日)では「金融システム安定化にコミットし、金融機関の破綻を回避し、資本注入を含む適切な手段を講じる」との内容が盛り込まれた。
5.ドイツではすべての民間預金に対する保証が政府によりコミットされた.イタリアでは預金者 1 人当たり 10 万 3,291.38 ユーロまでが保証される。
預金は既存の銀行間預金保護基金を通じて保護され、同基金に対しても政府保証が付与されている。
6.空売り制限は 9 月半ばまで、取引所による空売りにかかる開示規制の強化が検討されている。
7.10 月中、トルコ金融政策委員会は借入金利を維持するとの決定をしたが、貸出金利は 50b.p.引き下げた。
8.10 月 9 日、トルコ中銀は外国為替預金市場における介入を復活、外国為替および銀行券取引の上限額を引き上げた。
外貨買いの入札が中止される一方、外貨売り入札を開始。
9.欧州行動計画以前に実施されたもの。
(資料)"G-20 Study Group On Global Credit Market Disruptions "をベースにジェトロ「通商弘報」
、海外センター・事務所からの報告に基づき一部加筆。
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への政府保証の付与、c)金融機関への資本注入・国有化、d)不良債権・流動性喪失資
産の買い取り、などである。
(3)国際会議・国際機関の対応
①G7(先進7カ国財務大臣・中央銀行総裁)およびG20 の対応
リーマン・ブラザーズ破綻直後、G7の財務大臣・中央銀行総裁は9月 22 日の電話会談
に続いて、10 月 10 日には米国ワシントンでの会合後、金融市場を安定化させるために「あ
らゆる利用可能な手段を活用する」との行動計画を発表した。これを受けて、米国、ユー
ロ圏各国政府により、金融機関への公的資本の注入や銀行債務の保証などの金融危機対策
が相次いで打ち出された。他方、今回の金融危機は先進国にとどまらず、新興国にも重大
な影響をもたらすとの見方が強まり、BRICsも含めたG20 の枠組みへの期待が高まっ
た。各国・地域政府は 11 月 15 日開催のG20 首脳会合(金融・世界経済に関する首脳会談、
金融サミット)に向けて政策提言および行動計画を策定、公表した。これらの提言の一部
は、金融サミット後に公表された宣言中の「改革のための原則を実行するための行動計画」
として盛り込まれた。改革のための行動原則は、a)透明性および説明責任の強化、b)
健全な規制の拡大、c)金融市場における公正性の促進、d)国際連携の強化、e)国際
金融機関の改革の5つの柱からなっている。行動計画の主な内容は図表Ⅰ-26 の通りである。
図表Ⅰ-26 金融・世界経済に関する首脳会談(G20 金融サミット)の行動計画の概要
行動原則
2009年3月31日までの措置
中期的措置
・金融機関による複雑な金融商品 ・リスク開示の強化
の義務的開示の強化
透明性及び説明責任の
・証券の価格評価のガイダンス強
強化
・国際会計基準設定主体のガバナ
ンス強化する
健全な規制の拡大
・景気循環の増幅効果'プロシクリ ・自国の規制体系の構造及び原則
規制枠組み
カリティ(緩和の提言策定
を見直し
・金融セクター評価プログラム報告
'FSAP(に着手
健全性に関する監督 ・信用格付会社に対する規制強化 ・信用格付会社の登録制の導入
・CDS、OTC'店頭(デリバティブ取
引のシステミック・リスク低減のため
の取り組み
・内部管理体制強化のためのリス ・金融市場と金融商品の発展と技
リスク管理
ク管理指針の策定
術革新への迅速な対応
・流動性リスク管理のための手続き
策定・実施
・カウンターパーティ・リスク計測の
ための手法を策定
・地域及び国際レベルでの規制上 ・不正な金融取引に対する国内・国
金融市場における公正
の協力強化
際的措置の発動
性の促進
・公正取引規則の見直し
国際連携の強化
・FSFの参加国の新興国への拡大 ・ブレトン・ウッズ機関の包括的な改
・早期警戒の実施
・IMFの役割強化
・必要な場合には資金基盤を増加 ・新興国、途上国に対する能力構
築プログラムの提供
・融資手法の見直し
(資料)金融・世界経済に関する首脳会談の共同声明から作成。
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実施主体
会計基準設定主体
各国・地域規制当局、監督当局
IMF、金融安定化フォーラム
'FSF(
各国・地域規制当局・主体
各国・地域規制当局、監督当局、
IOSCO'国際証券監督機構(
各国・地域規制当局、監督当局
バーゼル委員会
監督当局、金融機関
各国・地域当局
金融活動作業部会'FATF(
FSF
IMF、世界銀行
国際金融機関'IFI(
②IMF(国際通貨基金)および世界銀行の対応
ⅰ)IMFによる各国への支援状況と「短期流動性融資制度」の導入
a)各国への支援状況
金融危機が世界的な広がりを見せる中で、アイスランドおよび一部新興国では通貨危機
に直面、あるいは外貨準備が底をつく事態に見舞われた。アイスランドはもともと物価高
により高金利を維持していたうえ、信用面でも高い格付けを取得していたことから、経済
規模に比べ巨額の非居住者預金が流入していた。しかし、今次の金融危機により短期間で
これらの資金が流出した結果、外貨準備が払底し、IMFへの支援要請に踏み切った。新
興国では、ハンガリー、ウクライナ、パキスタン、ラトビアベラルーシ、セルビアの6カ
国がIMFへの支援、2009 年1月中旪までにこれらの国々への支援が決定した(図表Ⅰ-
27)
。今回の支援では、通常のスタントバイ取極めによる融資額(当該国の累積クオータ〔出
資割当額〕の 300%まで)を大きく上回る水準での貸し出しが短期間で決定された。
これら新興国が急激な外貨準備の減尐に見舞われたのは個別国の要因もあるが、概ね次
の点を指摘することができる。
・ 2003 年以降の世界経済の順調な成長の下で、海外からの直接投資が大幅に増加した。欧
州各国についてはEU加盟の期待もその動きを後押しした。
・ 国内景気の活況は一部でバブル的な状況を生み出すと同時に、大幅な経常赤字をも生み
出してきた。さらに海外からの短期資金への依存度も高く、ひとたび短期資金が流出す
れば短期間で外貨準備が払底する潜在的なリスクを抱えていた。
・ 世界的な信用収縮が新興国を巻き込む過程で、そのリスクが現実のものとなった。
・ 資源輸出国(ハンガリー:食糧品、ウクライナ:鉄鋼)については、2008 年半ば以降の
商品市況の急激な調整に伴い、交易条件ショックが発生し、経常収支の悪化を招いた。
図表Ⅰ-27 IMFによる支援状況(金融危機に伴う 2008 年 10 月以降のスタンドバイ取極め)
支援開始(公表(日
ハンガリー
2008年11月6日
期限
2010年4月 (17カ月(
ウクライナ
アイスランド
パキスタン
2008年11月8日 2010年11月 '2年間(
2008年11月19日 2010年11月 '2年間(
2008年11月24日 2010年10月 '23カ月(
ラトビア
2008年12月23日
2011年3月 '27カ月(
ベラルーシ
2009年1月12日 2010年3月 (15カ月(
セルビア
2009年1月16日 2010年3月 (15カ月(
IMFによる支援決定額計'2009年1月上旬時点(
支援規模
157億ドル'123億ユーロ(。EU'84億ドル
〔65億ユーロ〕、世銀'13億ドル(の協調融
資とも併せ、254億ドルの協調融資
164億ドル
210億ドル
76億ドル
IMF'23.5億ドル〔17億ユーロ〕)、EU(43億
ドル〔31億ユーロ〕)、北欧諸国'25億ドル
〔18億ユーロ〕(、世銀'5億5760万ドル〔4億
ユーロ〕(、チェコ'2億7880億ドル〔2億ユー
ロ〕(、欧州復興開発銀行等をあわせ105億
ドル'75億ユーロ(の協調融資
24.6億ドル
5.3億ドル
655億ドル
(資 料(IMF資 料か ら作 成。
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対クオータ
比率
1015%
802%
1190%
500%
1200%
419%
75%
なお、IMFでは、2008 年 10 月時点で 2,000 億ドルの融資が可能であり、必要であれば、
さらに 500 億ドルの追加融資が可能としている。
b)
「短期流動性融資制度」の導入
IMFでは従来の枠組みに加え、より迅速かつ大規模な支援を実施することを目的に「短
期流動性融資制度」
(SLF)の導入を決定した(2008 年 10 月 29 日)。従来の枠組みの下
では、主として、スタンドバイ取極め4が利用されてきたが、SLFでは、資本市場参加国
を対象に、当該国のクオータの5倍までの融資を3カ月の期限で借り入れることが可能と
なる。良好な経済政策運営の実績があることや、債務水準が持続可能であることなどが条
件とされており、政策実施、政策監視(モニタリング)などの条件(コンディショナリテ
ィ)を付されることなく、迅速な借り入れが可能となる。なお、2008 年 12 月上旪時点での
同制度の利用実績は未だ明らかにされていない。
ⅱ)世界銀行
世界銀行もIMFと足並みをそろえる形で、投資資金の流出で苦境に陥っている途上国
向けの緊急融資に乗り出した。中核となる国際復興開発銀行(IBRD)が今後3年間で
1,000 億ドルの融資を行う準備がある旨を表明。2008 年内の融資額は前年の 135 億ドルか
ら 350 億ドルに達するとした。加えて、20 億ドルの緊急融資ファシリティを新たに設け、
国際開発協会(IDA、資金総額 420 億ドル)を通じ承認手続きを短期で行う枠組みも創
設した。さらに傘下の国際金融公社(IFC)を通じ、a)貿易取引の円滑化のための国
際貿易金融プログラム(Global Trade Finance Program)の資金枠の拡大(15 億ドルから
30 億ドルへ)
、b)危機に瀕した銀行への資金注入を行う基金(
「途上国銀行資本増強ファ
ンド」
〔仮称〕
)を設立(10 億ドル)
、c)インフラ整備プロジェクトの資金調達円滑化のた
め、3 億ドルの投資と 150 億ドルを他の資源配分区分からの付け替え、などの措置を打ち出
している。なお、b)の基金設立について、日本は 20 億ドルの拠出を表明している。
(3)各国政府による景気対策
金融危機の実体経済への影響が徐々に顕在化していく中で、今後の焦点は各国政府によ
る景気対策に移りつつある(図表Ⅰ-28)
。
各国の景気対策は主に、a)家計支援および雇用対策(所得税減税、住宅ローン減税や
生活支援給付金の実施など、英国、イタリア、日本など)、b)企業支援(中小企業の資金
繰り支援)
、c)公共投資の拡大による実需刺激策(空港・港湾・高速道路の整備など、欧
州、英国、中国、インドなど)
、d)金融機関支援(公的資金の注入、政府資本参加枠の拡
4
短期的な国際収支上の困難に直面している国への中長期的援助。妥当な期限内に国際収支上の困難が解
決されうるとの信頼にたる政策が適用されるとの条件の下で適用される。利用限度は年間で当該国のクオ
ータの 100%、通算で累積クオータの 300%。義務的返済期限は3年3カ月~5年。
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図表Ⅰ-28 主要国・地域政府による景気対策①(北米、欧州〔EU、イタリア、英国〕
)
国・地域
北米 米国
概要・金額
1680億ドル'08年~09年(
金融安定化法'7,000億ドル(
景気対策法案(8,190億ドル)
欧州 EU
「金融危機からの回復:欧州の行動枠組
み」公表
2,000億ユーロ'加盟国1、700億ユーロ、
EUと欧州投資銀行'EIB(が300億ユーロ(
公表・法案成立日時
年月日
家計支援・雇用対策
2008年2月13日 ・1,167億ドルの所得税減税
2008年10月14日
概要
企業支援
・510億ドルの法人税減税
・自動車大手2社に対し最大174億ドルのつなぎ融
資'12月19日(
2009年1月28日下院 ・メディケイド(低所得者向けの公的医療 ・過去5年の純損失の繰り戻し
通過(上院審議中) 保険)の州政府への補助率引き上げ
・職業訓練と失業給付の引き上げ
・設備投資の特別償却
・フードスタンプの増額
・勤労者500ドル、夫婦1,000ドルの所得
税税額控除
2008年10月29日
2008年11月28日
イタリア
800億ユーロ'5年間(
2008年11月28日
・低所得世帯への特別給付金'約24億
ユーロ(
・失業補償の拡充'10億ユーロ(
英国
370億ポンド
2008年10月13日
40億ポンド'EIB(
2008年10月30日
予算編成方針「Pre-Budget Report」'200
億ポンド(
2008年11月24日
・付加価値税引き下げ'08年12月から09
年末までの時限措置、17.5%→15.0%
へ(
エリザベス女王による施政方針演説
2008年12月3日
・貯金1ポンド当たり50ペンスを政府が支
給する'上限300ポンド(。
09年中に総額400億ポンド投資
5億ポンドの雇用対策
2009年1月5日
2009年1月12日
中小企業向け資金支援策
2009年1月14日
金融機関支援策第2弾
2009年1月19日
自動車業界支援に23億ポンド
2009年1月23日
公共投資
金融機関支援
資本注入に最大3,500億ドル。残額支援についてはオ
バマ政権で用途を検討中。
・高速道路整備
・連邦その他の公共施設の省エネ投資
・水質改善、治水、環境保全関連投資
・鉄道その他の公共輸送機関の整備
・EIBによる中小企業への融資枠を100億ユーロから ・エネルギー相互接続インフラやブロードバンド等通
300億ユーロに引き上げ
信関連などインフラ整備プロジェクトのため50億
ユーロ'2009~10年(のEU予算を追加'1月28日追
加案の詳細を欧州委が発表(
・中規模企業への貸し出しを年間10億ユーロに増強 ・気候変動、エネルギー安全保障、インフラ投資へ
の融資を最大年間60億ユーロまで増強する。
・中小零細企業向け信用保証機関'CONFIDI(の資 ・鉄道、幹線道路等に37億ユーロを投入'2009年か ・100億~120億ユーロの公的資金注入
本強化に最大4億5,000万ユーロ
ら15年(
・アビー、バークレイズ、HBOS、HSBC、ロイズTSB、
ネーションワイド住宅組合、ロイヤル・バンク・オブ・ス
コットランド'RBS(、スタンダード・チャータードの8行を対
象に資本注入枠準備'500億ポンド(。うちロイズTSBと
RBSに合計370億ポンド注入
・欧州投資銀行'EIB(は、金融危機で苦境にある英
国中小企業の救済策として、40億ポンド'約49億
ユーロ(の融資枠を設定
・住宅、教育、交通、その他の建設投資に30億ポン
ド。うち環境ビジネス促進のためには5億3,500万ポ
ンドを支出
経営難に陥った銀行への資金支援、経営難に陥った銀
行からの情報収集と金融当局間での情報共有など
・教育、交通、住宅に重点を置いた投資
・雇用者が採用を行った場合の補助金、
新規事業開始への財政支援、失業者の
ための訓練機会の強化に対し、5億ポン
ドを支出すると発表。2年間で50万人の
就職あるいは訓練を想定
・a.運転資本スキーム'Working Capital Scheme:
WCS(、b.小企業向け融資保証'Enterprise Finance
Guarantee Scheme:EFG(、c.エンタープライズ・ファ
ンドを通じた支援'Capital for Enterprise Fund:
CEF(、の3つの柱からなる。WSCにより、200億ポン
ド分の融資枠が確保され、50%は政府保証
・政府が金融機関の将来的な損失の90%を肩代わりす
る資産保護スキームが柱。引き換えに中小企業等への
融資を促す方針
・自動車業界への融資保証など
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図表Ⅰ-28 主要国・地域政府による景気対策②(欧州〔スイス、スウェーデン、スペイン〕
)
国・地域
欧州 スイス
概要・金額
約8億9,000万フラン。09年第1四半期の景
気次第で、第2弾として5億フラン以上を追
加投入
預金保護の上限引き上げ
「金融安定政策プラン」
金融機関の資金流動性確保
公表・法案成立日時
年月日
家計支援・雇用対策
2008年11月12日 「失業・雇用緊急対策用の準備基金」を
積み立ててきた国内中小企業650社に、
同基金を廃止して09年1月に税金を控除
するかたちで還付
企業支援
預金保護の上限を25万クローナから50万クローナに引き上
げ
2008年10月6日
・政府が新規資金調達する場合、最高1兆5,000万クローナ
'21兆円(まで政府が保証
・安定化基金 政府が150億クローナ出資、金融機関から一
定の特別安定化料を徴収し、15年以内にGDPの2.5%に相
当する規模の基金とする
・必要に応じ18億クローナ'252億円(の公的資金注入
2008年10月20日政府
発表、10月27日国会可
決、10月30日、欧州委
員会承認
・失業者の再就職支援
・失業者を雇用する場合の、雇用主税の軽減
経済危機対策(1)
雇用対策中心'09年から11年の3年間で総額 2008年12月5日発表 幅拡大
・高等職業教育'25歳以上の成人対象(の強
スウェーデン 229億クローナ(とインフラ整備
化
経済危機対策'2(
自動車産業救済策
経済危機対策'3(
中小企業の資金繰り支援
スペイン
60億ユーロ
概要
公共投資
金融機関支援
・自然災害対策、省エネルギー型建物への改築、国 ・UBSの不良資産流動化のための受け皿となる600億ド
道補修維持、国鉄CFFのインフラ整備'3億4,000万 ルを上限として基金を創設。不良資産の買い取り期間
フラン(
は09年3月末まで(10月16日(
・研究開発'環境保護、安全技術に重点(のための政府出
資会社設立'30億クローナ(
・国営の信用保障期間設立。自動車関連企業が、欧州投
資銀行のグリーン・テクノロジー転換用融資を受ける最大
200億クローナ'2,400億円(の政府保証を供与
・自動車関連企業に50億クローナ'600億円(を上限に救
済融資。
2008年12月11日発表
・雇用主税、従業員給与の源泉徴収分などの税納付を
2ヵ月間猶予'09年2~12月分の期間限定。猶予分につい
ては、年利8%分を加算して支払う条件付(
・中小企業向け小型貸付の拡大'貸付上限額のの引き上
げほか(
・売上高5億クローナ以上の国内自動車企業に緊急ロー
ンを与える権限を国債局に付与
2009年1月22日発表
2008年4月8日
・道路・鉄道整備事業実施'09~10年に100億クローナ
を道路・整備事業に計上していたが、さらに10億クローナ
を追加して道路、鉄道の保全強化(
・建物の改修、改築、保全への所得税減税
・08年個人所得税(IRPF)の一律400ユー ・09年から付加価値税還付を従来の年ごとから月ご
ロ減額
とに切り替えるとともに、中小企業向け融資の支援
・資産税'地方税(を08年分以降廃止
18億ユーロ
経済対策
2008年8月14日
金融機関支援策
2008年10月10日
経済対策
2008年11月8日
追加経済対策'108億5,000万ユーロ(
2008年11月28日
・中小企業への融資、住宅建設や公営住宅購入の
ための融資への国による支援・保証(2010年まで延
長(
・失業者世帯の住宅ローン返済延期
・研究・開発'R&D(、再生可能エネルギー、環境と
・10年中までに扶養家族のある失業者を いった戦略的産業部門での社会保険料の企業負担
正規雇用した企業に対し、社会保険料 を軽減する
の企業負担分を年間1人当たり1,500
ユーロ補助
・個別産業支援'28億5,000万ユーロ(。8億ユーロが ・市町村における公共事業'80億ユーロ(20万人の
自動車産業に
雇用創出を狙う
-28-
Copyright 2009 ©JETRO. All rights reserved.
・300億ユーロ~500億ユーロ規模の「金融機関資産買
い取り基金」の設置
図表Ⅰ-28 主要国・地域政府による景気対策③(欧州〔ドイツ・フランス〕、アジア(日本、インド、インドネシア〕
)
欧州
国・地域
ドイツ
概要・金額
金融市場安定化法'700億ユーロ(
総合経済対策'500億ユーロ、真水125
億ユーロ程度との試算(
概要
家計支援・雇用対策
企業支援
総額3,600億ユーロの銀行救済策
・資本財について2009年から2年間で最高25%の減価償却
・復興金融公庫から150億ユーロの信用供与
・個別産業への支援'自動車(2010年末まで、新規登録乗
用車の自動車税を1年間免除
2009年1月13日 ・基礎控除を2年間で170ユーロずつ引き上げ
・新車登録後9年以上経過した車を廃棄して、欧州排ガス基
・最低税率を15%から14%に引き下げ。
準「Euro4」以上に対応する新車購入者に、2,500ユーロを支
'減税規模は09年:29億ユーロ、10年:60.5億ユー ・中小企業が行う環境・エネルギー分野の研究開発に、今
ロ(
後2年間で9億ユーロの助成を用意。
・操業短縮した企業が雇用を維持する労働者のために支払う社会保障費負担を半減。
2008年10月13日
景気刺激策
2008年10月23日
追加景気対策'500億ユーロ(
フランス
公表・法案成立日時
年月日
2008年10月18日
2008年11月5日 ・住宅維持・補修の補助金増額
・短時間労働者手当の支給期間を1年間限定で12
カ月から18カ月に拡大
公共投資
金融機関支援
・資本注入・不良債権の買い取り合計700
億ユーロ'連邦議会の承認があればさら
に100億ユーロの増額可(
・交通インフラ整備のため、09年、10年に20億ユーロ
・復興金融公庫'KfW(の市町村向けインフラ構築融資枠を
30億ユーロ分拡大
・今後2年間で、保育所、学校、病院、道路、鉄道、ブロード
バンド網などの整備に173億ユーロ'連邦政府:140億ユー
ロ、州政府:33億ユーロ(を投入。
大手銀行6行に総額105億ユーロの資金
を投入'10月20日(
・新規投資に関する事業所税を全額免除
・企業の研究開発投資の税控除を即時還付
・企業救済を目的とした政府系ファンド'SWF(の設置
追加景気刺激策'260億ユーロ、09-10
年(
アジア
日本
「生活対策」27兆円'真水5兆円(、「生活防
衛のための緊急対策」'23兆円(
インド
景気刺激策'2008年度の歳出超過は
2,000億ルピー程度(
追加景気刺激策
2008年12月4日
・企業の資金繰り支援'114億ユーロ(
2008年10月30日 ・住宅ローン減税
12月12日 ・上限2兆円の生活支援給付金
2008年12月7日 ・低所得者向け住宅ローンの拡充⇒住宅公庫
'NHB(へ400億ルピーを拠出
・インフラ開発金融公社'IIFCL(による無税債券を
発行'1,000億ルピーを市場より調達(
・IIFCLに対する資金調達ルールの緩和'債券発行
の許可(
・価格統制下のガソリンを5ルピー/ℓ,ディーゼルを2
ルピー/ℓ値下げ'12月6日より適用(
2009年1月2日
・低・中所得者住宅向け用地提供促進
・住宅・自動車・中小企業対策'20億ユーロ(
・中小企業の資金繰り対策 総額30兆円のセーフティネット
・TGVの路線拡張、国立大学・研究機関の改築など予定さ
れていた公共投資計画を09~10年に前倒しし、総額105億
ユーロを投入。
・金融機関への資本参加枠の拡大
・物品税を一律4%引下げ'基本税率は14%⇒10%(⇒輸入相殺
関税'CVD(も一律4%引下げ
・輸出サービスへの免税範囲拡大'通関サービス、荷役サービス
等(
・輸出信用の付保期間を90日間から180日間に延長
・輸出にかかる物品税および中央売上税'CST(還付ルールの徹
底'110億ルピーを追加拠出(
・中小企業の資金繰りを改善支援⇒中小企業開発銀行'SIDBI(
へ700億ルピーを拠出
・中小企業向け無担保ローンの上限引き上げ'500万ルピー⇒
1,000万ルピー(
・繊維産業向けの技術向上支援スキーム拡充'140億ルピーを追
加拠出(
・ハンディクラフト産業の小規模事業者向けへの関税優遇措置
・輸出に係る税還付制度の徹底、還付対象を2008年9月1日まで ・インフラ開発金融公社'IIFCL(の無税債券発行による資金 ・国有銀行に対する2,000億ルピー'2年
遡及
調達枠拡大
間(の公的資金注入枠の整備
・輸出企業に対する関税払戻しスキーム'DEPBスキーム(の期間
・対外商業借入れ'ECB(規制の緩和'上
延長'2009年末まで(
限撤廃、適格者の拡大(
・輸出入銀行に対するインド準備銀行'RBI(から500億ルピーの信
・外国人投資家'FII(による社債投資額上
用供与
限引き上げ'60億米ドル⇒150億米ドル(
・熱処理鋼、セメントに対する相殺関税および特別追加関税減免
・ノンバンクに対する流動性供給'2,500億
・2009年6月を期限とする州政府の大型バス購入支援
ルピー相当(
・新規購入の商用車に対する50%加速償却容認' 2009年1~3月
・リース販売など販売金融を担うノンバン
購入分(
ク各社に対する公的金融機関の信用供
与
・中小企業向けローンに対する50%保証お
よび限度額の1,000万ルピーへの引き上
げ
・州債発行規制緩和による資金調達容認
インドネシア 金融セーフティネットの緊急政令
・金融機関への緊急融資、公的資金注入
2008年10月16日
最低賃金に関する労働移住、工業、内
務、商業の4大臣共同令。
2008年10月22日
10項目の緊急経済対策
2008年10月28日
基準的な最低賃金を決める各州知事に対して、2009年度
の最低賃金の上昇率を09年の経済成長率'6%(以内に抑
えるよう求める。
外貨確保、国債の買い戻し、違法輸入防
止強化などを柱とする10項目の緊急経済
対策。
2008年10月30日
合計12兆5,000億ルピア'約1,136億円(の経済対策。うち10
兆ルピア'約909億円(は大きな影響を受けた産業に対する
救済策の実施等に、残りの2兆5,000億ルピア'約227億円(
は、部品・原材料の輸入関税撤廃に充てる。
2009年度予算
27.5 兆ルピア'約2.300 億円(の景気刺
激策
・付加価値税の政府肩代わり'17 分野(で10 兆ル
ピア'約840 億円(、輸入関税の減免'14 分野(で
2.5 兆ルピア'約210 億円(。
・付加価値税の減免は、原材料への適用が難しい
ことから、製品に該当する3 分野に限定、残り14 分
野は所得税の減免措置に変更する方針。
-29-
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図表Ⅰ-28 主要国・地域政府による景気対策④(アジア(韓国、シンガポール、タイ、中国、香港、マレーシア〕)
アジア
国・地域
韓国
概要・金額
家計・建設業界向け支援策'9兆ウォン(
総合対策'11兆ウォン(
「グリーン・ニューディール事業」推進案
'50兆ウォン(
シンガポール 経済対策'23億シンガポールドル(
公表・法案成立日時
(2008年(
家計支援・雇用対策
2008年10月21日 ・家計の不動産関連支出の負担軽減
2008年11月3日
概要
企業支援
公共投資
・建設業界の流動性支援
・不動産・建設業の景気活性化
・規制緩和を通じた投資拡大
・信用保証の供与拡大等を通じた中小企業支援
2009年1月6日発表 4大河川・周辺整備事業'4年間で18兆ウォンを投入、28万人の雇用を創出(、グリーン交通網構築'4年間で11兆ウォンを投入、16万人の雇用を創出(など
2008年11月21日
雇用確保に向けた経済対策'205億シン 2009年1月22日発表
ガポールドル(
・政府が企業に対し、従業員'永住権を含む国民の
み(1人当たり、月給'2,500Sドルを上限(の12%分の
現金支払い。
・労働者の技術研修コストの一部を政府が負担する
プログラム「SPUR」の適用を専門職、技術者、管理
職にも拡大。
・'07年7月1日から導入した(低所得労働者の就労
継続を奨励する支援金制度「WIS」への特別追加支
援。
・向こう2年で、教師、病院スタッフ、税関職員など公
共部門の職員1万8,000人を雇用。
タイ
6項目の経済対策
18項目の景気刺激策'1,167億バーツ(
中小零細企業支援策'400億バーツ(
失業手当給付期間の延長
2008年10月13日
2009年1月13日閣議 ①15年間の無料教育'幼稚園~高校(【190億万
決定、20日一部修正 バーツ】
②月収15,000バーツ未満の社会保険加入者と公務
員への給付金2,000バーツを1回給付 【189億7,040
万バーツ】
③地域社会を発展させる「足るを知る経済」の促進
策【152億万バーツ】
④サマック内閣で導入された「6ヶ月6項目」の生活
支援策の6ヶ月延長'燃料物品税削減を除く( 【114
億920万バーツ】
⑤高齢者向けの生活補助【90億バーツ】
⑥失業者向け職業訓練の提供【69億バーツ】
⑦医療ボランティア募集のための補助 【30億バー
ツ】
2009年1月20日閣議
決定
・中小企業支援'運転資金貸付、設備投資資金貸付枠の拡
大(、起業支援'適格要件の緩和、投資限度枠の引き上
げ(、中小企業金融の適格基準緩和など
・10賦課年度より、法人税率を18%から17%に削減。
・工業・商業物件の不動産税の40%払い戻し。政府機関
'JTC、HDB、SLA)管理の商業物件については、テナントに
賃貸料の15%を払い戻し。
・景気後退により、開発プロジェクトの延期を計画する開発
会社支援のため、新規開発許可を得た用地の不動産税の
納付を最長2年、猶予。
・海外で発生した収入のシンガポール送金'税金を1年間に
限り免除(。
・バス、タクシー、商用車両への道路税30%の払い戻し'1
年間(
・政府関連手数料の引き上げを1年間凍結。
・新技術の実証実験奨励のため、基金に2億Sドル投入。
・R&D活動をさらに支援するため国家研究基金'NRF)に、4
億Sドルを追加投入。
・中小企業を含め4,500億バーツの融資増加
①観光促進 【10億バーツ】
②食品産業・中小企業の支援 【5億バーツ】
③タイのイメージ回復 【3億2,500万バーツ】
中国
景気刺激策'4兆元、2010年末(
香港
中小企業向け基金スキーム改正
中小企業向け基金スキーム改正
総合経済政策
・失業手当の給付期間を現行の180日から240日に
延長することを原則承認。2008年12月31日から2009
年12月末まで適用。
・安価な住宅建設の拡大
・主要9大産業'鉄鋼、自動車、造船、石油化学、紡績、軽
工業、非鉄金属、設備製造、電子情報(の今後3年間に渡
る振興計画を策定中
2008年10月28日
・中小企業向け融資枠の拡大、期限延長
2008年12月12日
・枠を70億香港ドルから1,000億香港ドルに拡大
2008年11月4日 ① 低中コストの住宅25,000戸を建設'12億リンギ( ① 零細企業への融資'2億リンギ(
② 開発中止となっていた住宅開発プロジェクトの再 ② 投資ファンドの設立'15億リンギ(
開'2億リンギ(
③ ハイパーマーケットの営業時間を平日23時まで、週末は
③ 公務員の住宅ローンを25年から30年へ延長
夜中の1時まで営業時間を延長を許可。
④ 外国人知的労働者の労働許可証の本人への直 ④ 建設・製造業向けのセメント・鉄鋼製品の輸入税廃止
接発行
⑤ 外国人及び外国企業は、50万リンギ以上の商業不動産
⑤ 従業員積立基金への自己拠出率の引き上げ
を外国投資委員会の許可無しで購入が可能。
製造業支援
2008年11月14日
マレーシア
製造に関わる中間財、原材料438品目の輸入関税の免除、
製造業ライセンスの自動発行、駐在員事務所の認可期間
拡大、地域流通センター、国際調達センターの税優遇適用
条件の緩和など。
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・公共事業の前倒し実施'13億Sドル相当の公共インフラプ
ロジェクトを09年へと前倒し実施(
・環境関連プログラムへの投資'クリーンエネルギー、産
業・一般家庭向けエネルギー効率の向上など環境関連プロ
グラムに今後5年で10億Sドル投資。(
・郊外商業拠点の再開発'都市機能の分散化の一環とし
て、ジュロン、カラン、パヤレバの郊外3カ所の再開発。(
・教育、医療インフラの改善
・メガプロジェクト'交通、エネルギーインフラ(予算の増額
'1,000億バーツ(
①灌漑事業【20億バーツ】
②小型貯水池建設【7億6,000万バーツ】
③村落レベルでの道路整備【15億バーツ】
④医療施設の改善 【10億9,580万バーツ】
⑤警官向け住宅建設 【18億800万バーツ】
⑥国庫金への補てん 【191億3,950万バーツ】
⑦緊急事態用の予備予算 【23億9,100万バーツ】
①:自営業などの個人所得税0.5%の最低税率課税対象を
年間所得6万バーツから100万バーツに引き上げ。コミュニ
ティ企業の課税所得対象を年間120万バーツ未満から180
万バーツ未満に引き上げ。VC事業に対する税制優遇を拡
充。
②:2009年中に当該不動産の権利譲渡が行われる新規の
住宅取得について、取得費用の控除枠30万バーツを設
置。
③:民間企業の国内研修旅行を促進するため、研修旅行の
宿泊費や会議場経費で2009年度に生じた分について、倍
額を費用計上することを認める。
2009年1月27日閣議
決定、28日報道官発
表
2008年11月9日
金融機関支援
中央銀行が定める金融機関の債務再構
成基準に従った債務再構成について、
2009年1月1日~12月31日まで税制優遇
を付与。一部事業を移管する場合、2009
年1月1日~12月31日まで税制優遇を付
与。
・鉄道、高速道路、空港など重大インフラ、農村インフラの
整備
① 警察署、軍施設の改修工事'5億リンギ(
② 地方道路、集会所、小規模の橋などの基本的な公共イ
ンフラプロジェクト'6億リンギ(
③ 道路、学校、病院などの公共施設の整備'5億リンギ(
④ サバ、サラワク州を含む地方及び村の道路整備'5億リ
ンギ(
⑤ 都市部の電車、バスなどの公共交通機関の改善'5億リ
ンギ(
⑥ 政府関連機関による人材育成強化
図表Ⅰ-28 主要国・地域政府による景気対策⑤(アジア〔フィリピン、ベトナム〕
、大洋州、中南米、ロシア・CIS)
アジア
国・地域
フィリピン
ベトナム
大洋州
豪州
公表・法案成立日時
概要
概要・金額
(2008年(
家計支援・雇用対策
企業支援
公共投資
経済再生計画の枠組み'3,000億フィリピ 2009年1月7日発表 ・雇用安定'インフラ整備による雇用創出等(
・雇用安定'インフラ整備による雇用創出等(
ンペソ(
・貧困層保護'現金支給等(
・海外フィリピン人労働者'OFW(保護'帰還支援等(
・輸出産業労働者の保護
・消費者保護のための物価安定
景気刺激策(17兆ドン)
2009年1月15日発表 貧困世帯1人当たり20万ドン(1世帯当り100万ドン以 ①流動資金借入時の利子補填(4%(
下)の手当て
②資本金200億ドン・従業員500人以下の企業向け信用保
証措置、ベトナム開発銀行に2,000億ドンを導入し、信用保
証リスク基金の資本増強
③付加価値税、輸出入税、法人税の減税・猶予
景気刺激策'104億豪ドル(
預金保証'3年間(
自動車産業支援策'62億オーストラリ
ア・ドル(
中南米
2008年10月14日 ・年金支給:48億豪ドル
・子どもを持つ低中間所得世帯向け支援:39億豪ド
ル
・初回の住宅購入者支援:15億豪ドル
2008年10月24日 ・預金額の3年間全額保証'100万オーストラリア・ド
ルを超える保証については保証料を課す(。
2008年11月10日
・自動車産業支援策'62億オーストラリア・ドル(
ビクトリア州の経済刺激策'2億4,500万
豪ドル(
2008年11月20日
追加刺激策'47億豪ドル(
2008年12月12日
ブラジル
金融危機対策減税
2008年12月11日 ・個人所得税の引き下げ
メキシコ
成長・雇用促進プログラム
家計・雇用のための国民的合意
・産業強化施策で、特に自動車、防衛、食品、観光、国際教
育、航空輸送、金融サービス、情報通信技術'ICT(などの
分野を重視。今後4年間にわたり、2億4,500万オーストラリ
ア・ドル'以下豪ドル、1ドル=約63円(を拠出。
・鉄道や道路のインフラ整備などのために47億豪ドルを支
出。ニューサウスウエルズ'NSW(州ハンターバレーの石炭
鉱山からニューキャッスルの輸出積み出し港までの鉄道路
線整備も含まれる。
2008年10月8日
・金融取引税、工業製品税の引き下げ
・中小企業支援のための臨時プログラムを実施
・臨時雇用促進プログラムの拡張
2009年1月7日発表 ・雇用保護プログラムの強化
・産業用電力価格の引き下げ
固定電力料金利用対象者の拡大
・労働者年金積立口座からの資金引出枠の拡大
・失業者に対する社会保険の拡大
・「就職斡旋サービス」'国家雇用サービス(の強化
・ガソリン価格の年内凍結
・中小企業からの政府調達拡大'全体の20%に(
・石油産業における中小サプライヤー開発基金設立
・中小企業に対するコンサルティングサービス強化
・国立開発銀行'NAFIN(,メキシコ貿易銀行
'BANCOMEXT(の中小企業融資21%拡大
・液化石油ガス'LPG(価格の10%値下げ
・農村向け融資の10%拡大
・低所得家庭の高エネルギー効率家電買い替え支 ・開発銀行全体の融資26%拡大
・住宅購入向け金融支援の拡大
・「Made in Mexico」マークの考案・登録・普及促進
ロシア・CIS カザフスタン 金融危機対策プログラム'100億ドル(
ロシア
原油輸出税の引き下げ
「金融とその他セクターの情勢の健全化
に向けた実施計画」
「ロシア連邦国税基本法第1、2章と
個々の立法活動の修正」
国内自動車生産拡大のための投資優
遇策復活
金融機関支援
2008年11月25日
2008年11月~12月
2008年11月7日
2008年11月26日
2008年11月28日
・不動産市場安定化'40億ドル(、中小企業支援'10億ド
ル(、農業部門'10億ドル(など
・インフラプロジェクト'技術革新、工業(の遅延案件に10億 ・民間銀行大手4行に総額35億ドル規模
ドル拠出
の資金投入で合意'11月13日(
・石油会社の経営を圧迫している原油輸出税の減税:2008
年11月1日から1トン当たり287.3ドルに、12月1日から192.1
ドルに、2009年1月1日から119.1ドルに引き下げ'2008年10
月、372.2ドル(。
・国内需要の創出のほか、金融機関、住宅建設、農業、自動車、農業機械産業、軍産複合体、原料複合体、輸送複合体、小規模ビジネスを支援する55の施策を規定。
・2009年1月1日より法人税を24%から20%へ引き下げ。国
内で類似製品が生産されていない技術設備を輸入した場
合のVATの支払いを免除
・自動車・自動車基幹部品の組み立てメーカーに対し、生産
開始後54ヶ月で現地調達率を30%まで引き上げることを条
件に、2007年11月に締め切った部品の輸入関税率低減措
置申請を2008年11月28日付で復活。
(資料)ジェトロ「通商弘報」および海外センター・事務所からの報告に基づき作成。
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・インフラ投資促進'651億ペソ(
・新たな製油所建設に着手'うち120億ペソ(
・国家インフラ計画の加速
・2008年の余剰歳入のインフラ投資への活用'石油公社
PEMEX,州政府(
・公共事業向け融資・融資保証拡大
大など、日本、米国、EU各国など)となっている。特徴的なのは、b)企業支援には、
中小企業支援のほか、自動車や住宅産業など特定業界への支援策が含まれるほか(フラン
ス、スペインなど)
、中長期的な成長に資するとの観点から、エネルギー安全保障、環境、
情報通信分野への資源配分を促す内容が多く盛り込まれている点である。
通常、為替相場において変動相場制度を採用している場合においては、財政政策を発動
させた場合、利子率の上昇を通じて自国通貨を増価させ輸出の減尐を招くことにより、財
政支出による有効需要の効果を打ち消すことになり、結局無効となるといわれる(マンデ
ル=フレミングモデル)
。このため、景気刺激策としては金融政策が有効といわれるが、主
要中央銀行はすでに大幅な利下げを断行しており、さらなる発動の余地は限定的となりつ
つあること、実体経済面での需要の急減速が著しく、目下の状況への緊急対応が求められ
ていること、為替相場においても 2008 年9月以降ドル高基調が続いていることなどから、
先進国・途上国とも相次いで財政出動による景気刺激策を打ち出すに至っている。
(4)危機克服に向けた各界からの提案
世界的金融危機の解決に向けたG20(11 月 15 日、米国ワシントン)開催に向けて、各国
政府、国際機関、民間サイドから数多くの政策提言が示された。その多くは、a)緊急性
の高い問題の解決に向けた提言、b)中長期的な観点から、グローバルレベルでの金融規
制、監督体制の構築に向けた提言、により構成されている(なお、EUの提案については
参考記事「
『国際的な金融システムの再構築へ行動指針−EU首脳会合で合意−』
(EU)2008
年 11 月 10 日 ブリュッセル発」を参照)
。
①IMFのワーキングペーパー
IMFの調査部ではG20 に向けて、提言を取りまとめた(”The Tasks Ahead” IMF
Working Paper WP/08/262 、なお本提言はIMFの公式見解ではなく、IMFチーフエコ
ノミスト Olivier Blanchard 氏主導によるワーキングペーパーとして公表された)。本提言
は 、 即 時 に 着 手 す べ き 政 策 ( Policies for Now ) お よ び 中 長 期 に 取 り 組 む べ き 課 題
(Directions for Reforms)の二本柱から成る。なお、この提言はIMFのストラスカー
ン専務理事によるG20 首脳への書簡にも反映された。
ⅰ)即時に着手すべき政策(Policies for Now)
a) 需要を持続するための政策実施
世界的に需要が急速に減退しており、追加的な金融・財政政策についての議論が必要。
さらに保護主義の台頭には強く抵抗すべき。
b) 新興国・地域への流動性供給
新興国・地域経済の必要資金が枯渇しており、国際社会レベルで迅速かつ十分な資金
供給を行う必要がある。
c) 低所得国の保護
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低所得国では、貿易相手国経済の減速、直接投資の減尐、外国金融機関からの信用枠
の減額などから資金繰りに支障をきたしている。現在の枠組みのもとでは、IMFに
よる迅速な支援も限界があることから、a)潤沢な外貨準備を有する国からの借入ス
キームの構築、b)主要中央銀行などとの協調により、二国間、多国間で流動性供給
するスキームをアレンジする、などが考えられる。
ⅱ)中長期に取り組むべき課題(Directions for Reforms)
a) 金融規制の設計
システミック・リスクの低減に向け、各国レベルでは景気変動に抵抗力のあるマク
ロ・プルーデンスルールの導入が有望である。危機波及を食い止めるには、集中決済
機構・取引所の活用や個別金融機関の問題解決に向けたより強力な規制の枠組みの構
築が必要となる。市場の規律強化のため、格付け機関への監督の枠組み、リスク管理
に向けた取り組み強化が必要となる。
世界レベルでも調和の取れた監督および規制の枠組みが必要。すでに金融安定化フ
ォーラム(FSF)において一定の取り組みがなされているが、対象地域を拡大すべ
き。さらに開示規制、報告義務についても見直しが図られるべき。
b) 効率的な早期警戒システムの設計
早期警戒システム構築のためには、各国および関連機関間での協力が必要であり、
特に巨大金融コングロマリットのクロスボーダーな活動やデリバティブのポジショ
ンの監査レベルを引き上げる必要がある。金融セクターとマクロ経済のリンケージに
ついてのより詳細な調査が必要。同時に各国および監督当局の参加を促す仕組み、リ
スク評価プロセスを整備する必要がある。
c) 効率的な協調行動の必要性
今回の金融危機では国際協調不在のコストが極めて高くつくことが示された。従来
の先進国のみの枠組みを超えた、広汎な視野をもちかつ効率的な協調行動が可能な構
成国グループによる国際協調の枠組みを設けることが必要。世界銀行、金融安定化フ
ォーラムに加え、IMFも情報収集・分析面でこの枠組みを支援することが可能。
②日本・麻生太郎総理大臣
同じくG20 の開催に当たって、日本の麻生総理大臣は、次のような提案を行った(金融・
世界経済に関する首脳会合
麻生総理 配付資料「危機の克服」
(2008 年 11 月5日)
)
。麻生
総理大臣の提案は、a)短期的な金融市場安定化策、b)中期的な金融危機防策、c)長
期的な通貨体制、の3本柱から成る。
ⅰ)短期的な金融市場安定化策
・公正な価格評価と、信頼できる基準に基づいた不良債権の早期開示と、バランスシー
トからの切り離し。
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・公的資金による資本注入。
・金融機関の不良債権処理と、借り手企業の過剰債務解消との一体的処理。
・中央銀行による流動性供給、地域内でのドル供給メカニズムの進展。
ⅱ)中期的な金融危機防止策
・グローバル・インバランス問題の是正。
・国際金融機関改革:IMF の金融市場の動きに対するモニタリング機能、早期警戒機
能の向上。
・外為特会よりIMF に対し、最大 1,000 億ドルの資金融通を行う用意。
ⅲ)長期的な通貨体制
・ドルの基軸通貨体制を維持すべき。
・各地域における貿易、金融両面における統合プロセスを推進(開かれた地域主義)。
③英シンクタンク:Centre for Economic Policy Research(CEPR)によるG20 への提
言 ”What G20 Leaders must do to stabilise our economy and fix the financial
system”
CEPRは欧州を中心に 700 名の研究者をカバーするネットワークを構築しているが、
G20 の開催に当たって、a)各国の政府・中央銀行の対応には出口戦略が欠けていること、
b)危機から改革に向けての具体的な行動指針が必要、との観点から、G20 の経済学者か
らの意見を徴集した(日本からは伊藤隆敏・東京大学教授が参画)
。集められた意見は、金
融危機への対応策、
「新ブレトンウッズ体制」のあり方や保護主義台頭への抑止策など多岐
に渡るが、なかでも優先されるべき政策として、以下の4点が示された。
ⅰ)金融面での止血のための追加的な措置と、財政出動による景気刺激(緊急対策)
金融機関への資本注入、クロスボーダー金融取引の政府保証、不良債権処理、危機
に直面した国への金融支援に加え、国際的な協調の下での迅速かつ実効性のある財政
政策の発動が必要。
ⅱ)既存機関の機能強化
IMFの資金調達強化(SDRの新規発行、市場での資金調達など)、G7の役割の
見直し、G20 の重視、新国際会議の創設、IMFによる改革の正当性の修復と透明性
の維持強化。
ⅲ)従来の枠組みを超えて考える(中長期的な対策)
巨大国際金融機関への監視強化(国際銀行協定など)を目的として、国際金融機構
(WFO)
、国際倒産処理メカニズムの創設、金融監督当局の創設。
ⅳ)副作用をもたらさない
上記の措置を実施するに当たり、保護主義的な手法を採ることで金融機関の金融仲
介能力やグローバルな取引システムに損害を与えることがないようにすること
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④ジョージ・ソロス(著名ヘッジファンド経営者)
同氏は 2008 年春に発行された“New Paradigm for Financial Markets”(PublicAffairs
2008)
、邦訳「ソロスは警告する」
(徳川家広訳、講談社、2008 年9月)において、以下のよ
うな政策を提言している。同氏の提言は主として、米国のサブプライムローン問題の解決
に焦点を当てたものであるが、ヘッジファンド等よるレバレッジ規制など、金融規制・監
督の枠組みに関する提言も含まれる。
ⅰ)バブルの発生を未然に防止するため、レバレッジ(金融機関やファンドによる借入れ)
の規制を導入する
ⅱ)健全な資本構造を有し、厳格な証拠金取引を必要とするCDSの清算機関の創設
ⅲ)住宅バブル崩壊を一段と悪化させない観点から、住宅の競売を防ぐ
ⅳ)時限立法により、破産手続き担当判事による住宅ローン融資条件(本宅のみ)の変更
を認める(民主党 バーニー・フランク下院議員の提案に基本的に賛成)
⑤ロバート・シラー(米経済学者、エール大学教授)
同教授の提言(
“The Subprime Solution” Princeton University Press, 2008)も、直
接的には米国サブプライムローン問題への対処を中心に構成されているが、長期的に進め
られるべき取り組みとして、金融危機の未然予防の観点から、バブルの発生を抑制しリス
クを低減させるためのパッケージを提示している。
ⅰ)短期的には、緊急の救済措置が必要であり、特にサブプライム問題でダメージを受け
た低所得者層をターゲットとする必要がある。
ⅱ)長期的にはバブルの発生を抑制しリスクを低減させるパッケージが必要(金融民主化)
具体的には、
a)金融に関する情報インフラの充実(あらゆる所得層に対応する包括的な金融アドバイ
ザー、消費者保護のための新たな監督機関の創設、ディスクロージャーの改善など)
b)リスクをコントロールするための市場の創設(不動産に取引に関するリスクヘッジ市
場の創設。シカゴ商品取引所で住宅価格先物指数(S&P Case/Shiller Index として一
部がすでに実現)
c)個人向けのリスクマネジメント機関の創設
d)個人の所得に連動し、柔軟に条件変更が可能な住宅ローン商品の開発
e)金融に関する契約関係・規制の簡素化、など
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4.今後の見通し
(1)台頭する悲観論
①IMFおよびその他機関の世界経済見通し
IMFは 10 月 8 日に定例(年2回)の「世界経済見通し」を公表し、その後 11 月6日、
2009 年1月 28 日とわずか4カ月の間に2度の改定を実施した。2009 年の世界経済につい
ては 10 月時点では 3.0%成長としていたが、金融環境の激変、先進国の需要の減退、途上
国からの資金流出などの要因を織り込み、1 月時点では戦後最悪となる 0.5%成長にとどま
るとしており、特に先進国のGDPは 2.0%減と戦後初めてマイナス成長となるとの予測を
示している。OECD(11 月 25 日)
、世界銀行(12 月 9 日)なども 2009 年の大幅な減速
を予測しており、概ね1%未満にとどまるとの見方が主流となっている(図表Ⅰ-29)。
OECDでは四半期毎の経済見通しも公表しているが、これによるとOECD全体では
2008 年第2四半期から 2009 年第2四半期まで1年間マイナス成長が持続し、プラスに転ず
るのは 2009 年後半と見込んでいる(図表Ⅰ-30)
。
図表Ⅰ-29 IMF、OECD、世界銀行、民間予測機関の世界経済見通し
'前年比、%(
IMF(2009/1)
OECD(2008/11)
世界銀行(2008/12)
CF(2008/12)
2008
2009
2010
2008
2009
2010
2008
2009
2010
2008
2009
世界
3.4
0.5
3.0
2.5
0.9
3.0
2.4
0.4
先進国
1.0 △ 2.0
1.1
1.4 △ 0.4
1.5
1.3 △ 0.1
2.0
米国
1.1 △ 1.6
1.6
1.4 △ 0.9
1.6
1.4 △ 0.5
2.0
1.2 △ 1.3
ユーロ圏
1.0 △ 2.0
0.2
1.1 △ 0.5
1.2
1.1 △ 0.6
1.6
1.0 △ 0.9
英国
0.7 △ 2.8
0.2
0.8 △ 1.1
0.9
0.8 △ 1.5
日本
△ 0.3 △ 2.6
0.6
0.5 △ 0.1
0.6
0.5 △ 0.1
1.5
0.4 △ 0.9
途上国
6.3
3.3
5.0
6.3
4.5
6.1
中国
9.0
6.7
8.0
9.5
8.0
9.2
9.4
7.5
8.5
9.3
7.8
インド
7.3
5.1
6.5
7.0
7.3
8.3
6.3
5.8
7.7
6.9
6.3
ロシア
6.2 △ 0.7
1.3
6.5
2.3
5.6
6.0
3.0
5.0
ブラジル
5.8
1.8
3.5
5.3
3.0
4.5
5.2
2.8
4.6
南アフリカ
3.8
3.3
4.2
3.3
3.0
4.2
3.4
2.8
4.4
'注(1.CFは「Consensus Forecast」の略。
2.先進国、途上国の定義は各機関による。OECDの先進国はOECD加盟国全体。
2.IMFの南アフリカの予測は2008年10月時点のもの。
'資料(IMF"World Economic Outlook Update"'2009年1月(、OECD"Economic Outlook No. 84"(2008年11月(、
世界銀行"Global Economic Prospects"(2008年12月(、Consensus Economics Inc."Consensus Forecast"、
"Asia Pasific Consensus Forecasts"(2008年12月(から作成。
図表Ⅰ-30 OECDによる四半期経済見通し
6
5
4
3
2
1
0
△1
△2
△3
△4
△5
'前期比年率、%(
予測
米国
ユーロ圏
日本
OECD全体
Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4
2006
2007
2008
(資料)OECD "Economic Outlook No. 84"(2008 年 11 月)から作成。
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2009
2010
②実体経済へのダメージの度合いと期間
今回の金融危機が実体経済に与えるダメージの規模、調整期間については、IMF のワーキ
ングペーパー(図表の注参照)の分析がひとつの目安となる。これによると、過去のOE
CD21 カ国の 122 回の景気後退期について、信用収縮(credit crunch)や深刻な住宅価格調
図表Ⅰ-31 信用収縮、資産価格の調整と景気後退の長さ・深さ
①信用収縮とGDP成長率
5
3.64
3.78
4.33
信用収縮無し
信用調整あり
信用収縮あり
3
1
-1
-1.82
-3
-2.19
-2.7
GDP伸び率(%、中央値)
期間(四半期、平均値)
②住宅価格調整とGDP成長率
5
3.2
4.47
4.6
住宅価格調整無し
住宅価格調整あり
深刻な住宅価格調整
3
1
-1
-1.52
-3
-2.18
-2.64
GDP伸び率(%、中央値)
期間(四半期、平均値)
③株価調整とGDP成長率
5
3.48
3.82
3.61
株価下落無し
株価下落あり
深刻な株価下落
3
1
-1
-1.63
-3
期間(四半期、平均値)
-1.98
-2.05
GDP伸び率(%、中央値)
(注)1.信用収縮は信用調整のケースのうち、信用の縮小幅が上位 25%のものを指す。
2.深刻な住宅価格調整(株価下落)は、住宅価格調整(株価下落)のケースのうち、調整幅(下
落幅)が上位 25%のものを指す。
(資料)Stijn Claessens, M. Ayhan Kose, and Marco E. Terrones,”What happens During Recessions,
Crunches and Busts?" IMF Working Paper (WP/08/274) Dec.2008
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整(house price busts)、株価調整(equity price busts)を伴ったケースをもとに実体経
済との関係について分析を試みている。これによると、信用収縮や大幅な住宅価格、株価
の調整を伴う景気後退は通常のものに比べ深刻かつ長期化する傾向にあることが示されて
おり、なかでも住宅価格調整を伴った景気後退がより深刻化するとされている(図表Ⅰ-
31)
。
今般の金融危機はもともとの原因が米国の住宅価格の調整によるものであり、現時点で
も主要国の住宅市場は調整局面を脱しえていない。加えて、大幅な株価下落を伴っており、
一部で信用収縮も観察されていること、を考慮すると、今後尐なくとも 1 年程度は実体経
済における深刻な下押し圧力の払拭は見込みがたいということになる。
(2)回復ペースが予想以上に速まる可能性も
ただ、先行きに希望を抱かせる材料がないわけではない。まず、危機時における国際
的な協調体制が整ってきていることがある。今回の金融危機に際し、各国・地域中央銀行
では、流動性の供給や利下げなどの措置を相次いで講じたほか、IMFでも「短期流動性
融資制度」を導入するなど、既存の枠組みを超えた対応が迅速になされている。アジア域
内でも、2003 年末に発足したチェンマイ・イニシアティブ(短期流動性問題への対処を目
的とした東アジアの自助・支援メカニズム)の強化に向けた取り組みが進められている。
実体経済面では、2008 年まで世界経済を牽引してきた新興国のうち、インド、ブラジル
などの新興大国のダメージが限定的にとどまっていること、2008 年前半まで急激な上昇が
続いてきた国際商品市況が落ち着き始めていることも好材料である。これはスタグフレー
ションに陥る可能性を低め、金融・財政政策の自由度が高まることを意味する。物価の調
整は財の供給を抑制する一方、需要を増加させ、結果として物価は新たな均衡点に向かう。
このメカニズムが正常に働くとすれば、世界経済は時間をかけながらも供給サイドの調整
を経た後、その後徐々に巡航速度に回帰するとみられる。
さらに各国・地域経済の緊密度の高まりは、各国・地域が受けるダメージを分散させる
と同時に、ひとたび米国経済が回復に向かった場合、従来以上に速いペースで海外に波及
する可能性も秘めている。むろん、再度の金融機関の破綻、通貨危機の発生など、こうし
たシナリオを危うくするリスクファクターも多く存在するが、想定以上に回復期が早まる
可能性も認識する必要があろう。
(3)金融危機後の世界経済システム
では、回復のきっかけは何か。まず考えられるのは、米国経済が金融市場の修復と個人
消費の底入れを下支えに回復に向かうという過去にも見られたシナリオである。これは米
国が引き続き巨額の経常赤字を計上する一方、ドルの信認をテコに海外からの資本を輸入
し、経常赤字をファイナンスすることで維持できるシナリオである。すなわち、現在のド
ルが基軸通貨として機能することが前提となる。
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この点、G20 サミットを前に、サルコジ・フランス大統領、ブラウン・英国首相などか
らは、新たな国際通貨体制を構築するための、「『新ブレトンウッズ会議』を開催する必要
がある」といった意見が多く出された。この点に関して、IMFのストラスカーン専務理
事はG20 宛の書簡(2008 年 10 月9日付)では、
「『新ブレトンウッズ合意』形成に対する
要求が数多くあり、私もこれを是認している。しかし、最初のブレトンウッズ合意の重要
な教訓は、基本的な問題に関して真摯かつ熱意ある議論を通じて、その基礎が注意深く築
かれてきたことである。
」として、
「新ブレトンウッズ合意」の形成に一定の理解を示しつ
つも、積極的な賛同を示すには至っていない。さらにドルに代わる基軸通貨としてユーロ
があげられることもあるが、国際決済通貨としてのプレゼンスはドルと比較して見劣りが
する状況にあり5、昨今のユーロ圏の経済状況からは、欧州中央銀行(ECB)が「最後の
貸し手」としての役割を果たしえるか、疑問なしとはしない。他国通貨も同様で、中国人
民元は外貨準備高こそ世界一の地位にはあるが、そもそも国際通貨としての要件も満たし
ているとはいいがたい。
しかし、今回の危機は、現行の国際金融の枠組みのあり方について、規制・監督体制を
含め世界大で再考する絶好の機会を提供しているとも言える。現在のドル基軸通貨体制の
再構築を含め、あらゆる可能性について真摯な議論を尽くすことが求められる。
以上
5IMFの統計によると、
2008
年 9 月末時点の世界外貨準備(6 兆 8,941 億ドル)を構成する通貨は、
明らかにされているだけでも米ドルが2兆 8,144 億ドル、ユーロが1兆 1,130 億ドル相当、英ポンド
が 1,986 億ドル相当、円が 1,359 億ドル相当となっている。なお、各国の貿易取引通貨に関しては主
要先進国で公表している国は多くないが、日本の場合、2008 年上半期(輸入ベース)でドルが 73.9%、
円が 21.1%、ユーロが 8.5%であり、英国(2001 年、輸入ベース、ユーロ圏外との貿易)は、ドル
61.0%、ユーロは 1.0%であった。
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