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租税条約個別 論点③

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租税条約個別 論点③
#
05
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マエストロの解説
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マエストロの解説
□□□□■□□□□■□□□
複雑になりすぎた 法人税をもう
一度勉強しよう
外国(租税条約を締結している相手国)の居
住者の給与所得については、一般に、給与所得
の基因となった勤務(雇用に基づくもの)が行
われた国にも課税権があるとされている。した
がって、日本人(日本居住者)が外国へ出張
税務における第一人者 〝税務マエストロ 〟による税実務講座
し、そこで 10 日間会社の業務を遂行した場合、
今週のマエストロ&テーマ
租税条約個別
論点③
−給与所得と短期滞在者免税
#
19
品川克己
課税できることとなる。具体的な課税方法、納
税方法は国それぞれであるが、こうした個人の
勤務に基づく所得に対して、租税条約は非常に
重要な役割を果たしている。
1
給与所得に対する課税原則
一般に、給与所得の所得源泉地は、給与の支
払いの基因となった勤務の提供地とされてい
日本公認会計士協会租税
調査会専門委員(国際租
税専門部会)
税理士法人プライスウォーターハウスクーパ
ース
(マネージング・ディレクター)
る。たとえば、日本の所得税法 161 条では、
「俸
略歴
役務の提供に基因するもの」を「国内源泉所
89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国
際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及
給、給料、賃金、歳費、賞与又はこれらの性質
を有する給与その他人的役務の提供に関する報
酬のうち、国内において行う勤務その他の人的
得」としている。このように、給与の支払地や
び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロー
支払者の所在地ではない点に留意を要する。
スクールにて客員研究員として日米租税条約につ
したがって、たとえば外国企業の従業員であ
いて研究。97年より00年までOECD租税委員会
に主任行政官として出向(在フランス)
し、
「 OECD
移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」
の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財
務省を辞職し現職。
20
#
る外国人(非居住者)が、その日本子会社に出
張で来日し、そこで親会社のための業務遂行し
た場合、その出張期間に対応する給与について
は、たとえ、その給与が本国(居住地国)で支
払われていても、日本で納税する必要がある。
次回のテーマ
経営戦略に応える
企業再編成税制
税理士
朝長英樹
経営戦略の1つとして組織再編成税制を活
用できる方法を、同税制等の創設を主導し
た筆者が事例形式で解説する。
※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
[email protected]
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その 10 日間分の給与について、出張先の国が
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租税条約においても、同様の課税原則が定めら
れている。
(OECD モデル条約第 15 条第 1 項)
第 16 条、第 18 条及び第 19 条の規定が適用
される場合を除くほか、一方の締約国の居
住者がその勤務について取得する給料、賃
金、その他これらに類する報酬に対しては、
酬に対しては、次の a)から c)までに掲げ
勤務が他方の締約国内において行われない
ることを条件として、当該一方の国におい
限り、当該一方の国においてのみ租税を課
てのみ租税を課することができる。
することができる。勤務が他方の締約国内
a) 報酬の受領者が当該課税年度に開始若
において行われる場合には、当該勤務から
しくは終了する 12 箇月の期間を通じて合
生ずる報酬に対しては、当該他方の国にお
計 183 日を超えない期間当該他方の国内
いて租税を課することができる。
に滞在すること
なお、実際の勤務地における課税方法につい
ては、その国によって様々であろうが、一般に
給与の支払いが本国(居住地国)で行われるこ
とから、源泉地(対応する勤務の行われた国)
で源泉徴収することは困難となる。したがっ
b) 報酬が当該他方の居住者でない雇用者
又はこれに代わる者から支払われること
c) 報酬が雇用者の当該他方の国内に有す
る恒久的施設によって負担されるもので
ないこと
て、一般には、その個人の確定申告による納税
(2)短期滞在者免税の要件
ということになる。
短期滞在者免税は、上記のように、次の 3 つ
を要件としている。
2
短期滞在者免税
(1)給与所得に対する免税―特例
上記のように、給与所得については、実際の
勤務が行われた国において、対応する給与に対
して課税することが原則とされている一方、実
① 相手国における滞在が 183 日以内である
こと
② 報酬が相手国の居住者でない者から支払
われること
③ 報酬が相手国の PE に負担されるもので
ないこと
際の納税方法は確定申告による自主性に頼らざ
これらの要件のすべてを満たしている場合に
るを得ないところである。また、短期間の滞
のみ、源泉地国で免税となる。つまり確定申告
在、勤務において、その勤務に対する給与につ
等の必要もなくなる。
いてだけ納税することは、手続上、煩雑であ
り、負担も無視できないところである。たとえ
① 相手国における滞在が 183 日以内である
こと
ば 3 日間出張したために、3 日間分の給料につ
この要件の判断にあたっては、183 日の計算
いて確定申告、納税することは非現実的でもあ
の仕方がよく問題となる。具体的には、たとえ
る。このようなことから、短期間の滞在勤務に
ば本国からの出張で相手国に入国した日及び帰
ついては、勤務地(源泉地)で免税とする規定
国のために出国した日を、それぞれ 1 日として
が、租税条約に定められている。これは、通
計算するのか、もしくは 0.5 日として計算する
常、
「短期滞在者免税」と呼ばれている。
のかという問題がある。この問題は、それぞれ
(OECD モデル条約第 15 条第 2 項)
1 の規定にかかわらず、一方の締約国の居
住者が他方の締約国の居住者が他方の締約
国内において行う勤務について取得する報
の国の解釈、取扱いによるところで共通の考え
はないが、一般に、それぞれ 1 日と捉える国が
多いようである。
また、183 日を超えているか否かの基準とな
る「1 年」の考え方は、近年大きく変わってき
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ている。以前は、まさしく暦年で 1 年をとらえ
者を「雇用者」ととらえるべきと考えられてい
ていた。したがってある年の 9 月 1 日に入国
る。したがって、真の雇用者が、国外の仲介者
し、翌年 5 月 31 日に出国した場合、初年度にお
であるか労働力の使用者であるかの判断に当
ける滞在日数は 122 日、翌年の滞在日数は 150
たっては、次の要素を考慮して判定されること
日で、いずれの年においても 183 日未満とな
となる。
り、この要件を満たすものと考えられていた。
⃝被用者の労働により生じた結果の責任又はリ
しかしながら、昨今の租税条約では「当該課税
年度に開始する若しくは終了する 12 箇月の期
間を通じて」と定められているため、この例で
は、初年度は 9 月 1 日から開始する 12 箇月のう
ちに滞在する期間は 272 日であり、また翌年度
も 5 月 31 日に終了する 12 箇月の間の滞在日数
は 272 日となり、いずれの年も 183 日以内とい
う要件を満たさないこととなる。
② 報酬が相手国の居住者でない者から支払
われること
スクをだれが負っているか。
⃝労働者に支持する権限はだれが有している
か。
⃝労働が、だれの監督と責任のもとで行われて
いるか。
⃝国外の雇用主への報酬の計算方法と受領する
賃金との関連性
⃝被用者が使用する器具等の提供者
③ 報酬が相手国の PE に負担されるもので
ないこと
この要件は、給与が勤務地の法人等の費用と
この要件は、雇用者が、勤務を行う国(出張
されていないことを求めている。源泉地国(出
先)に恒久的施設を有する場合に、その恒久的
張先国)で費用とされていないということは、
施設がこの給与を「負担しない」ことを求めて
同時に源泉地国の課税所得の減少をもたらして
いる。この「負担する」とは、実際に恒久的施
いないということであり、このことが源泉地国
設の所得計算に当たり、この給与を経費として
免税の根拠を与えているといえる。
控除したかどうかではなく、恒久的施設の所得
なお、この要件の充足のため、国外の仲介者
計算上、控除が認められているかどうかで判断
(人材派遣業者)を形式上の雇用者として、外
されることとなる。つまり恒久的施設の費用と
国人労働者を 183 日以内の期間で雇用するス
しての要素があれば、この要件は満たさないこ
キームが指摘されてきている(
「International
ととなる。より具体的にいえば、当該勤務(業
Hiring-out of Labor」とよばれている)
。これ
務の遂行)が相手国に存在する恒久的施設のた
は、
「雇用者」の実態をどのようにとらえるか
めになされたものである場合には、この要件は
という問題であるが、一般に、行われる労働に
満たされないこととなる。恒久的施設が存在す
権限を持ち、それに関する責任とリスクを負う
る場合には留意を要する。
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