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Untitled - 分権型政策制度研究センター

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Untitled - 分権型政策制度研究センター
❖ 主催者挨拶
皆さんこんにちは。お忙しいところお集まりいた
だきましてありがとうございます。分権型政策制度研究セ
も、かなり醒めた時代になっていないだろうか、そんなふ
うに思っております。
ンターのセンター長として、ひと言ご挨拶申し上げます。
とはいえ、この国の将来を考えるならば、いかに分権型
知事さんや市長さん、それから私ども分権という問題に
の政治構造、経済構造に変えていくかというのは、避けて
関心のある研究者、ジャーナリストで分権型政策制度研究
通れない課題であり、その意味では我がセンターももうひ
センターを設立しましたのは、ちょうど 10 年前の 2005
と踏ん張りしていきたいと思っておりますので、どうか、
年になります。
ご支援をお願いしたいと思います。
当時、三位一体改革が話題を呼んでいたときでありまし
今日は、このセンターの1つの事業としまして「地方創
て、補助金・負担金の削減をめぐる攻防が大きな課題でし
生、これでいいのか」というシンポジウムを開催させてい
たが、我々の問題意識は、そこに留まっていても始まらな
ただくことになりました。最後まで、どうか、お聴きいた
いだろうということでした。分権型の政策あるいは制度を
だければありがたく思います。
構想するという理念で研究をしていこうと設立したのがこ
のセンターでありました。しかし今日、分権型の社会とは
簡単ですが、センター長としてのご挨拶は、以上とさせ
ていただきます。
何かについて、言葉としてはまだまだ残ってはいるとして
❖ パネルディスカッション
今日、ここにお集まりの方たちは、おそらく、地
それから、地方創生と言いますか地域再生は長年の課題
方創生ということに、日々、お仕事のなかでかかわってい
であったはずで、今、言われたからと慌てるというのはど
る方であろうというふうに思います。改めて私が申し上げ
ういうことなのだろうと。つまり分権改革という視点から
るまでもないのですが、2014 年5月に日本創成会議が消
みれば、やはり中央が旗を振らなければ動かないのかとい
滅可能性都市の一覧を発表し、その後、9月の内閣改造時
う情けない気持ちにもなっております。
に、地方創生担当大臣と、首相自身を本部長とする「まち・
本日は4人の方にお集まりいただきまして、まずそれぞ
ひと・しごと創生本部」が創設されました。さらに、2014
れ問題提起をしていただこうと思います。簡単にご紹介申
年 12 月にはまち・ひと・しごと創生法が施行され、全国
し上げますと、私に近いほうから千葉大学法政経学部の広
の都道府県・市町村は 2015 年度中に地方版総合戦略を作
井良典先生です。それからそのお隣が、鳥取県智頭町長の
るということとなりました。そして、おそらくどこも大わ
寺谷誠一郎さんです。そして大阪市立大学大学院創造都市
らわになっているのではないでしょうか。
研究科の松永桂子さんでいらっしゃいます。そして、読売
私もいくつかの自治体の総合戦略を拝見してきましたが、
新聞東京本社編集委員の青山彰久さんでいらっしゃいます。
一生懸命作っているのは事実であるかもしれません。しか
お1人ずつにまず問題提起のプレゼンテーションをいた
し、自治体は、総合計画ないし長期計画を長年にわたって
だきまして、その上で論点をつなぎながら議論をしていき
作ってきているわけでありまして、どうもこの表紙を付け
たいと思っております。ではよろしくお願いいたします。
変えただけではないかと思うようなものも、少なくないと
思うのです。
グローバル化の先のローカル化
――定常型社会への転換
図1
皆様こんにちは。ご紹介いただきました広井でご
ざいます。
まず、このような貴重な機会に参加させていただきまし
て非常に光栄に思っております。今日は楽しみにしてまい
りました。私は本日、
「地方創生、これでいいのか」を人口
減少とのかかわりで、思うところをお話させていただけれ
ばと思います。
図 1 は昨年の増田レポート以来、皆様もよく見た図だと
思います。日本の人口の長期トレンドです。ひと言で言っ
図2
て、ジェットコースターのようになっているのですね。今
ちょうど我々は頂点に立っていて、ジェットコースターの
落下寸前といったところにいるわけです。確かに人口減少
社会はいろいろ大変な課題を我々に突きつけるわけですが、
私はむしろそこに、非常にポジティブな可能性もあるので
はないかと思っています。特に分権とのかかわりで言えば、
むしろこれは本当の分権社会が実現していくスタートライ
ンに私たちは立っている、そういう時代状況なのではない
かと思うわけです。
図3
ジェットコースターのように直立して人口が増えていた
時代というのは、言うまでもなく明治の初め以降ですけれ
ども、この時代というのは、人口がどんどん増えるのと平
行して、集権制がどんどん強まっていった時代です。最初
は国を挙げての富国強兵、第2次大戦以降は経済成長をひ
たすら求めるということで、まさに集権の強さ、言い換え
れば人も金もすべてが東京に向かって流れていたという時
代と重なっているわけですね。
それとは違う流れがこれから始まろうとしているわけで
すから、集権化が進んでいったこれまでの人口増加時代の
延長で物事を考えるのは、むしろ非常に不合理ですね(図
れが出てくる。さらに、
「時間軸の優位から空間軸の優位」
2)
と書きましたが、成長拡大の時代というのは世の中が1つ
私は大学におりますので一番身近で感じるのが、松永先
の方向に向かって進んでいきますので、
「こっちは進んでい
生もおっしゃっておられますけど、若い世代が非常にロー
る」
、
「こっちは遅れている」という時間軸で物事を見るこ
カル志向を強めているということです。
とになります。
「東京は進んでいる」
、
「地方は遅れている」
それから今申し上げたように、これまでとは逆の人の流
とか、
「アメリカは進んでいる」
、
「アジアは遅れている」と
いうことですね。
図4
一方で、今私たちが向かいつつある成熟の時代、私は「定
常型社会」といいますが、ここでは空間軸が優位になりま
す。空間軸というのは何かというと、それぞれの地域が持
つ個性や固有の価値に、人々の関心が向くような流れです。
若い世代の動きも、それを先取りした流れではないかと思
います。
例えば静岡のある町の出身の学生が、
「自分の生まれ育っ
た町を世界一住みやすい町にするのが自分のテーマである」
とか、新潟のある町の出身の学生が「自分のテーマは、新
潟の農業をもっと活性化させることである」と言ったり、
図5
あるいは愛国心ではなくて「愛郷心」を卒論のテーマにす
るなど、こうしたことがここ数年で非常に顕著になってい
ます(図 3)
。
いまだに若者が“内向き”だという批判があって、やた
らと「グローバル人材」ということが強調されるわけです
けれど、むしろローカル人材の育成やその支援が重要では
ないかと思います。
参考までに私の身の回りの話をしましたが、いろいろな
統計資料を見ても、
「地元に残りたい」という傾向が、顕著
に表れていることをお示ししておきます(図 4)
。
さらに、首都圏の私立大学に入学する地方出身者の割合
図6
が、近年低下しています(図 5)
。以前は東京の大学に全国
から学生が集まっていましたが、それがどんどん減ってい
って、今では首都圏の大学に通っているのは7割近くが首
都圏出身者ですね。これも、地域志向、ローカル志向、地
元志向の一端だと思います。
また、意外に認識されていない事実だと思いますが、失
業率の都道府県別ワースト15をみると、意外にもベスト
10 に大都市圏がいくつも入っています(図6)
。以前は大
都市に出れば仕事があるという時代だったわけですが、も
うそうではなくなっていて、大都市圏のほうが失業率が高
い。若者のローカル志向というのは、そうした時代変化も
ず従来型の拡大・成長路線が基調にあるような気がしてい
感じ取っているとも言えると思います。
るからです。もちろん地方創生は非常に重要なことですけ
全体として私が言いたいことは、高度成長期的な発想か
れども、まず、アベノミクス的な「24 時間戦えますか」と
らの転換がなにより重要であるということです(図 7)
。地
いう経済をフル稼働させる方向性、とにかく金融緩和で経
方創生や増田レポートなどに違和感があるのは、相変わら
済を拡大していくのだという方向性では、かえって出生率
は低下するだろうと思います。皆様ご存じのように、出生
図7
率が一番低いのが東京で、一番高いのが沖縄です。こうし
た事実を見ると、むしろゆとりある定常型社会の実現こそ
が、結果的に出生率の回復にもつながるのではないかとい
うことです。
それから意外に気づかれていない点ではないかと思いま
すが、私たちが今直面している問題は、高度成長期の負の
遺産のようなものだということです。新たに今生じている
動きは、むしろ希望の持てるものです。
この3月と7月に秋田に行きましたが、そのときにいろ
いろと気づかされました。考えてみれば当然ですが、秋田
県で社会減が一番大きかったのは昭和30 年代~40 年代の
図8
集団就職の時代です。最近は社会減は大幅に減っているの
ですね。今起こっている問題のルーツは高度成長期にあり、
むしろ近年の若者の動きは、そこからの回帰が始まろうと
しているという意味で、希望の持てることでもあります。
同じように首都圏の高齢化が問題だといわれますが、そ
れも実は高度成長期に、首都圏に一斉に人が集まってきた
ことの負の遺産です。いま芽生えつつあるものは、むしろ
新しい希望のあることだというふうに考えてよいのではな
いかと思います。
2010 年に全国の自治体に対して行ったアンケート調査
の一部をお示ししていますが(図 8)
、
「今後の地域社会や
図9
政策の大きな方向性」について、少し単純化して、
「成長型
社会」
、
「定常型社会」
、
「縮小型社会」のどれが望ましいか
を尋ねたものです。
「成長型社会」と答えた自治体は1割程
度しかなく、残りの大多数の自治体で「定常的な社会」を
挙げています。この辺がやはり今後を考えるうえでの出発
点になるのではないかと思います。
後は補足的な話になりますが、明治以降、いろいろな社
会資本整備がずっと行われてきました(図 9)
。鉄道や道路
をはじめとして順番に整備されているわけですけれども、
実はこれまで整備されてきた社会資本というのは、空間的
にはその範囲が1つの自治体では完結しないもの、ローカ
たわけです。
ルではなくてナショナルな社会資本が中心だったというこ
これらはすでに飽和状態にありますから、今後伸びる分
とです。だから、プランニングのあり方として、自ずと中
野というのは、福祉や環境、文化、まちづくり、農業など、
央集権的な体制になるのが効率的だということになってい
ローカルなものが中心になっています。つまり問題解決の
ユニットが、ナショナルではなくローカルなものになっ
図 10
てきたということです。これが、分権がなぜ重要かとい
う、ひとつの大きな要因ではないかと思うわけです。
さらにいろいろな国の輸出依存率を見ると、日本は相
対的に輸出依存率が低い国であるわけです(図 10)
。他
の国は概ね3~4割ぐらいという中で、日本は 10 数パ
ーセントです。高度成長期を中心に過度に輸出立国とい
うことが強調されてきた側面がありますが、こうしたこ
とを考えると、むしろグローバル経済から物事を発想す
るよりも、経済の地域内循環から出発して、ローカル、
ナショナル、グローバルと積み上げていくほうが、むし
ろ強い経済になっていくという発想が重要ではないか
図 11
ということです。
「グローバル化の先のローカル化」
、つまり、ローカ
ライゼーションの時代、分権の時代に、今まさに入ろう
としているということになるのではないかと思います
(図 11)
。
以上とさせていただきます。ご静聴ありがとうござい
ました。
地方は“戦国時代”に
広井先生、どうもありがとうございました。
さてそこからどう発想していくかということは、また議
うに参勤交代させていたのです。莫大なお金を使わせて、
論したいのですが、次は、まさに「ローカルの時代」を積
大名を江戸に半年間釘付けにして、暴動が起きないように
極的に進めていらっしゃる寺谷町長のお話をうかがいたい
という施策をとった。
と思います。よろしくお願いします。
また敗戦後の復興には、まず人手が必要でした。その人
皆さんこんにちは。鳥取県というと、地方創生担
手はどこに居るのかといったら、地方の山や田んぼや畑に
当大臣の石破茂さんの地元なのですね。地元の町長が「地
いっぱい居ますよと。そこで義務教育を終えた子どもたち
方創生、これでいいのか」などというと、なにか反旗を翻
を「君たちは日本を救う金の卵である」というキャッチフ
すようなイメージがあるのですが、物事にはいいところ悪
レーズのもとに集団就職させて、東京に集めたのですね。
いところがあるのが常でして、私は決して地方創生を頭ご
国が旗を振りながら高度成長にのって、見事に復興したと
なしに否定するものではありません。
いう歴史があります。
なぜ、今地方創生なのかということを冷静に考えてみま
次に何が起こったかというと、平成の大合併です。これ
すと、やはりこれは国主導の政策なのですね。歴史的に国
は、自治体の規模は大きいほうがいいと国主導で合併を推
と地方の関係を考えてみますと、皆様ご存じのように、江
奨してきたわけですね。はたして合併は正解だったかとい
戸時代には、地方の大名に力を持たせて攻め込まれないよ
うと、必ずしもそうでなかった。
そして、今回のこの地方創生も、いわゆる政治的なもの
しかしこれは勝負ですから、総合戦略は出さなきゃいか
から謳われているということです。ここでは、
「地方からい
ん。ただし、ここでふっと、私にも疑問が浮かんでまいり
い球を出せ」と。いい球を出した地方には交付金を出すけ
ました。
れども、ボーッとしているところは悪いけど切り捨てるぞ
確かに今は戦国時代であり、一方で夢のある時代でもあ
と、非常に荒っぽい話なのですね。そうすると地方の我々
るけれども、交付金の総額をみれば 2000 億程度で、これ
は、ボーッとしていたらいつ国から見放されるかわからな
で国ほんとうに本気なのでしょうかと。これを全国の自治
い。なんとかしなきゃいかんということで、いわば戦国時
体が奪い合いをするわけですね。そんなことで、ほんとう
代に入ったのではないかと思います。今までは、隣の町と
に地方創生ができるのでしょうかと。
仲良く手を組んでいたけれども、もうそれどこではない。
それから皆さんもお気づきでしょうけれども、総合戦略
いつ隣の町にやっつけられるかもしれない。手なんかつな
を出せと言われています。地方から一挙に文章が出てくる
いでいられないよと。
わけですね。これをどうやって選別するのでしょうか。活
それと同時に、少し角度を変えて見ると、これほど夢の
字だけを見て、ほんとうにその思いが伝わるかどうかとい
ある時代は今までなかったのではないかなとも思います。
うことですね。自治体名を伏せたうえで、夢のある、いい
要するに、地方が命がけで本物の提案を出せば、ひょっと
提案を選ぶとおっしゃっていますけれども、果たして本当
すると、名もない町が一夜にしてトップランナーになれる
にできるのかどうか。
可能性もあるのではないかと。こんなシーソーのような世
の中になってきたなということを実感しております。
もう1つは、我々は交付金に踊らされているのではない
かなとも思います。しかしここでちょっと待てよと。地方
先般、石破大臣にお会いして、
「大臣、坂本龍馬は 24 歳
創生というのは、地域の住民が幸せになることです。お金
のときに『この日本国を洗濯いたし候』と、かっこいい言
でほんとうに幸せになるならば、国は1兆円でも2兆円で
葉を残していますよ」と申し上げました。24 歳にして、
「こ
も3兆円でも出せばいい。しかし、私はお金で幸せになれ
んな日本ではだめだ。洗濯しなきゃいかん」と。悪いけれ
るのかなと、最近、疑問を持ち始めました。
ども、与野党問わず今こういう代議士がいるのでしょうか。
もちろん総合戦略は提出しました。そしてこれから智頭
全員とは言わないけど、偽物が多いような気がするし、
町は「おせっかいの町」を宣言をします。なぜ、地方創生
何か薄っぺらい。板垣退助は、
「自由な発想は土佐の山間よ
から「おせっかい」に至ったかというと、昔はいい意味で
り出ず」と言っています。何もかも東京が一番ではないの
も悪い意味でも、何をするにも「おせっかい」の人がいま
だと。土佐のような田舎からでもすごい発想が出てくるん
したね。ところが今、おせっかいをする人がいなくなって
だよということを言っているのですね。ということは、一
きた。むしろ下手な口出しをすると自分に跳ね返ってくる
夜にしてトップランナーになれる地方がある可能性もある、
から、やめておこうと。嫌な事件がたくさんありますが、
そういうことなのかなと。だから私は石破大臣に、
「大臣は
これは「おせっかい」がなくなったから、見逃されている
地方創生大臣として、
『俺は北海道から九州まで、今一度大
ことがたくさんあるのではないかと私は思い始めました。
掃除をしてみせる』と、これぐらいの気迫でやってくださ
いわゆる家庭内暴力の問題。若い人が“できちゃった結
い」と、冗談とも本気とも言えないことを言いました。
婚”で簡単に子どもを産むけれども育て方がわからない。
日本の国土というのは7割弱が山なのですね。そしてす
子どもが夜泣きをすれば寝られない。腹が立ってきて赤ち
ぐ海があります。北海道は別にしても、ほとんどが山とい
ゃんを叩く。それが続けば、子どもは小学校くらいになる
う地方に「いい提案を出せ」と言っても、大半からは同じ
と家にいたくなくなって外をうろうろし始める。そういう
ような球しか出てこないのではないでしょうか。あっと驚
ことを、隣近所はみんなわかっているというのですね。で
くような球が、ほんとうに出てくるのでしょうか。
も、
おせっかいはやめよう、
自分に跳ね返ってくるからと。
学校の問題も同じみたいですね。先生も、いじめがある
がおっしゃったようにかつては集団就職があって、個人が
ことはなんとなくわかるんですね。
「最近あの子、ちょっと
会社なり組織なり行政なりに就職をして、そこで社会に貢
様子がおかしいな」と。でも、わかっているけども、口出
献するという社会構造を私たちはあたりまえのように考え
しをしない。
ていました。そうした中でいまの教育のあり方や偏差値社
そこで私は、地方創生という名の下に、交付金も大切だ
会というものができてきたのだと思いますが、おそらく
けども、地域を守るためには原点から始めなければという
2000 年代の後半頃――私はちょうど人口減少が始まった
ことで、全町民に向けて「おせっかいの町」というのを、
2008 年が起点だと思っているのですが――、新しい芽が
提唱しようかと思っています。
でてきたのですね。もう有名な事例になりましたが、2005
年くらいから海士町が若者をどんどん受け入れ始めていて、
若者の変化とセンスある地域経営
その芽が出てきたのが 2008 年くらいでした。
なかでも目立った動きとしては、高校の変化です。隠岐
続きはまた後でお聞きしたいと思いますが、おせ
っかいは、なかなか重要な部分だと思います。
続いて、松永さんお願いいたします。
私は今、大阪市立大学に勤めています。大学教員
になったのがちょうど 10 年前で、スタートを切ったのは
島根県立大学でした。島根県の方、今日、いらっしゃって
いますか?
今でこそ秋田県が一番人口減少が激しく、高齢化が進ん
でいるということになってしまったのですけれど、長らく
島根県が、人口減少や高齢化のナンバー1でして、そこの
県立大学にいましたので、フロンティア的な取り組みを見
聞きする機会が多くありました。過疎という言葉が生まれ
たのも島根県とされていますけれども、人口減少と嘆いて
いても仕方がないといって、行政はもちろん、住民発の動
き、いろいろな小さな芽がありました。
地方創生というと政策論と考えられがちですけれども、
一方で注目したいのは、先程広井先生がおっしゃったロー
カル志向という価値観ですね。社会の価値観、あるいは世
代の価値観が転換してきているということです。これをど
のように地方創生に結びつけられるのかというのが、行政
サイドの大きな課題かと思っています。
まず、今まで見聞きしてきたこと、ローカル志向の顕著
な例を2つご紹介したいと思います。ローカル志向という
のは、単に「地方回帰」ということを越えた現象であると
考えています。
1つは、これまでの経済成長のなかで、先程、寺谷町長
諸島は4 つの島で構成されていて、
高校が1 つありますが、
当時、その高校を廃校にするかどうかという提案がずっと
出されていた中で、クラスが 1 つ増えたんです。もちろん
海士町の役場の職員の方の努力もさることながら、それを
牽引したのが、東京から I ターンしてきた当時 20 代の岩
本さんという方だったのです。
彼の話を聞いていると、とても社会貢献意識が強いので
すね。先ほど広井先生がおっしゃっていたように、従来は
海外に向かっていった若者たち、例えば私たちの世代では
途上国に行くということが流行りのようになっていたので
すが、若者の「社会にコミットしたい」という欲求が、急
に地方へ、しかもとりわけ条件不利の影響が先鋭的に現れ
ているような離島や中山間地域に向いたんです。このこと
が、今は海士町に最先端のこととして起きているけれども、
おそらく全国同時多発的に出てくるのではないかと思いま
した。
この若者がどういう「人種」かといいますと、個人とし
て社会貢献意識が高い人々というよりは、従来は「個人・
組織・社会」という三層構造でしたが、
「個人」と「社会」
の距離がすごく近い時代になってきたことの象徴として出
現した若者たちなのではないかと思ったのですね。それは、
Facebook とかTwitter といったソーシャルネットワーク、
この技術革新が社会とのつながりに対する若者の意識を変
えたことと案外無縁ではないと思っています。
もう1つ、島根県で象徴的に感じたのは、おそらく 90
年代後半ぐらいからの行政側のたゆまぬ努力、例えば定住
対策などですね、これがあったからこそ花開いたのだと思
体を山ほど見てきたと。いろいろなところで聞くのは、
「こ
います。私は島根県西部の人口 6 万 1000 人くらいの浜田
れだけ電気代が安いですよ」
、
「これだけ流通コストが抑え
市にいましたが、その隣に人口2万 6000 人の江津市があ
られますよ」
、
「道路が近いですよ」と、すべて効率を重視
ります。1市1町が合併したところですが、吸収されたほ
した従来の文脈上にある企業誘致策なんですね。それには
うの旧桜江町は 90 年代、当時人口 4000 人もなかったと
全く食指が動かないというわけです。
思いますけど、地元の島根大学から「このままでは 2023
では、なぜ徳島だったか。役場の担当者が全く出てこな
年には桜江町はなくなりますよ」と言われたのですね。そ
かった、と言うのですね(笑)
。むしろ惹かれたのはそこに
こで、もう定住対策しかないということで江津市は 90 年
住んでいる人です。もちろん NPO があって、定住の受け
代から取り組んできました。それは、単に定住だけでなく
入れをしてきた実績があるのですが、
NPO の人たちも、
「困
て、今問題になっている空家も当時から問題でしたが、空
っているからぜひ来てください」というわけではない。
「来
家を改装して移住者に住んでもらって、しかも産業振興も
たかったらどうぞ」という、ちょっと突き放した感じだっ
やってもらうという、3点セットの政策を 20 年来やって
たと。それがとても豊かに見えたそうです。
いったのですね。
3・11 以降、バックアップ機能が重視され、やはり東京
今、それがどうなっているかというと、若い人たちのロ
一極集中ではリスクが高いと言われるようになりました。
ーカル志向に結びついています。当時、駅前には島根の中
映像の世界では、つい最近までテレビ局の下請け会社は映
でも一番ひなびているのではないかという商店街があった
像データをバイク便などで直接やり取りする必要から東京
のですね。全部のシャッターが閉まっているのではないか
近郊にあったそうですが、それもネットを介したデータ送
というほどでした。それが、15 店舗も再生したのです。す
付で番組制作ができるようになっている。神山町には映像
べて、I ターンや U ターンによるものです。例えば、閉鎖
制作会社もあります。
していた銀行の1階は、若者感覚を取り入れたおしゃれな
だから、IT産業などグローバル化の最先端にいるよう
バーになっています。2階、3階はニューヨークから U タ
な産業というのは、実はローカルに親和性が高いのではな
ーンしてきたデザイナーのオフィスです。パソコンが1台
いかと思っています。これまでのような企業誘致や特産品
あれば場所を問わず、どこでもできるという仕事の領域が
づくりではないような産業というものが、地方に確実に出
増えていると思いますけれども、そうしたデザイン系の事
てきているし、それに従事する若い層がいるわけです。そ
業が入っています。役場では商店街再生のビジネスプラン
の人たちを見ていると、働き方がすごく柔軟なのですね。
コンテストを開催し、今年で6年目になりますが、起業す
パソコンで仕事をしながら、息抜きに薪割りをしたり、近
る人には賞金だけではなく伴走型の支援をして、定着させ
くの海でサーフィンをやったり、ワーク・ライフ・バラン
るということをしています。今に始まったローカル志向と
スを模索して地方に向かっているということもあると思い
いうよりも、90 年代から続いている動きですね。これが島
ます。
根県の特徴だと思っています。
地方創生というと、国からメニューが降りてきて交付金
もう1つ、ローカル志向で今注目したいのが、これも非
が降りてきて、それに沿ったことをやらなければならない
常に有名な徳島県神山町のケースです。こちらは島根県と
と思いがちですが、結局誘致される人材は、むしろそうし
は全く違うローカル志向なのです。神山町も中山間地域で
たことを嫌っていることが多いというのが、逆説的です。
すが、やはり人口減、空家が目立っていまして、しかし、
むしろ地場の人たちとの交流をつなげていく。そうした政
町はさほど熱心に企業誘致などはしていませんでした。
策サイドの地域経営、現状を見据えたセンスが問われる時
今、IT 企業など 12 社が東京をはじめとする大都市から
移転してきています。その人たちは、企業誘致をする自治
代なのではないかなと思っています。
「地方版総合戦略づくり」に抱く違和感と
その先にあるもの
ありがとうございます。聞いていると自分も歳を
とったなと、そういう感じます(笑)
。理解を超えるような
若者が増えていることは、事実ですよね。
では青山さん、お願いします。
中立的な観察者の立場にはなりたくないとは思い
ながら、見たくもない現実を直視しなければいけないとい
う問題があるので、あえて言うと、私は新藤先生たちと 20
数年間、地方分権改革の勉強をさせてもらってきたのです
が、安倍内閣の地方創生が出てきたとき、率直にいえば、
やはり時計の針は逆に回ったのかと、非常に嫌な感じがし
たのは事実です。
この1年半の各自治体の動きを私なりに見ていくと、大
きく3つのパターンがあると思います。
1つめのパターンは、寺谷さんもおっしゃっていました
が、今がチャンスだと。このタイミングに合わせて、国の
言うキーワードを使って一気に進めようではないか、とい
うパターンです。
2つめは、これは自治分権の歴史、原則からすると、ま
ったく逆なので無視したいと。90 年代から始まった分権改
革の歴史はなんだったのかということになりかねないから
ですね。しかし、これは理念上のパターンであって、実際
にはほとんどありません。あるのかもしれませんが、私は
「総合戦略を作らない」という自治体にまだ行き会ってい
ないので、わかりません。
第3のパターンは、まあ、そうは言っても、嫌だな、変
だなと思いながらも、何もやらないわけにもいかないから、
とりあえずお付き合いするかと。今まで作ってきた計画を
少し変えて出すしかないかなと。
「仕事をしたくない」
、
「や
る気がない」と思う人もいるかもしれないけど、そうでは
なく「しのぐしかないな」という意味ですね。
さらに言うと、例えば福島の自治体などは原発避難で、
今、大変な苦しみを抱えているわけです。ここにも一律に
総合戦略を作れとされています。町村会は「そんな余裕は
ありません」と盛んにいったけれども、取り合ってもらえ
なかったと聞いていますが、こうした自治体も含めて、仕
方がないから、あるものに表紙を付けて、チャチャッとや
ろうかということになるのですね。
この3番目のパターンは、どう考えても、我々がイメー
ジして目指してきた国・地方関係からすれば、きわめて不
健全です。こんなやり方が長続きするはずがないと、私は
思いました。
第1のパターンについて。初めは「なんだこれは」と思
ったのです。けれども昨年、福岡県の町村長の方たちと勉
強会をしたときに、私が「これはおかしいですね」と言っ
たら、筑豊の町長さんが、青山さんがそう言うのもわから
ないわけでもないが、我々は今大変な苦境にあるのだと。
今やっと、政治が地方に光を当ててくれたところなのだか
ら、これを使わない手はない。そのことを理解せよと、こ
う言われたのですね。
あらためてこの地方政策の歴史をたどってみると、そう
だったなあと。田中角栄にみられる社会基盤整備、公共事
業の時代がずっと続いて、それがある程度満額になってき
たと同時に、そろそろもっと地方で知恵を出したほうがい
いということで、ふるさと創生事業が1つの到達点として
ありました。この精神を継ぎながら、いろいろな要素はあ
りましたが、この線だけで見れば、その次に地方分権改革
がくるわけです。
そしてここで、国にべったりではなく自分たちの足で立
つのだという意味での地方分権改革の一部を切り取って、
小泉改革が来るのですが、ご存じのとおり、一般財源が大
幅に減らされてしまうわけです。3兆円の税源移譲に対し
て、4兆円の補助金カットと5兆円の交付税カットですか
ら、結果的に地方財政の緊縮化になった。この矛盾が、例
えば第1次安倍政権のときの参議院選挙によく現れたよう
な気がするのですが、その結果として政権交代があって、
その要素に、地方を切り捨てていくのかという主旨のこと
があったようにも思います。
しかしそれを受けた民主党の政権交代で、何かが起きる
かと思いましたが、結果として政策がなかった。政権交代
に備えて、野党時代にこれからの地方政策、国・地方関係
をどうしていけばいいのかという真剣な政策検討もなかっ
たし、党内できちんとした合意がなかったのだと思います。
ってしまうのだと思うのです。
地方財政を大きく減らしはしませんでしたが、だからどう
もう1つは、KPI(Key Performance Indicator)
。これ
するというわけでもなかった。大きな目標を示すこともな
をここ数年の文脈で見ると、民主党政権による高校の授業
かったということだと思うのです。
料無料化を自民党は野党時代に「ばらまきだ」批判してき
だから、筑豊の町長さんが「政治が地方に目を向けたの
たので、ばらまきにならないようにするために脂汗を流し
は、何 10 年ぶりなんだぞ」というのは、こうした意味だ
て考えたようです。それで行き着いたのが、後で必ず検証
ったのですね。
できるようにしておくというこの方法ですね。これは別に
ただしこれがおかしいのは、例えば全国でも早く地方戦
略を立てて早く国に認めてもらって、国に「地方のモデル
彼らのオリジナルではなくて、業績評価制度、アングロサ
クソンの行政改革の手法です。
だ」と言ってもらおうとしていること。これが純粋な戦略
しかし、よく考えてみれば、これを地域作りに当てはめ
になるわけですね。その1つが、京都府の京丹後市。この
るというとき、松永先生がご紹介された海士町、それから
市長さんは、今まで京都府北部というのは高速道路等が遅
智頭町もそうですが、あまり考えもしない官僚や新聞記者
れていたので、これを機に国の意向に沿って全国でトップ
は、
「成功事例です」といわれてばっと飛びつくところがあ
にいこうということだったのですが、実際には何か月もか
ります。確かに成功しているように見えますけれども、こ
けても同じだから、さっさとつくって出せと指示したとい
こまでくるには20年30年と試行錯誤の歴史があるわけで
う話を聞きました。それにしても、今、5万 8000 人の町
す。地域づくりというものは、失敗しながら、少しずつ少
ですが、これを 2060 年には7万 5000 人にするという、
しずつ進んでくる。長い歴史があるはずなんです。
大変な意欲的な計画を作るわけですね。
それを今回の KPI の場合、2019 年をゴールにして数字
これを見て仰天したと言ったのが、増田寛也さんです。
で表せということです。地域づくりというのは、数字では
『地方消滅――創生戦略篇』
(中公新書)で、推計では 2040
ない。むしろ、その土地に対するみんなの情熱、思い入れ
年に 41.2%も人口が減るというのに、それを 2060 年に7
を結集していくことが推進力になると思うのですが、この
万 5000 人にするとはどういうことですかと。要は、
「現実
方法はおかしいなと思いました。
的に考えてくださいね」と言っている。
イギリスの地方自治に詳しい大学の先生に伺ったら、私
悲しい笑い話だと思うのですが、一生懸命に人口を増や
も驚きましたが、業績評価制度を地方自治に当てはめる方
すような戦略をたてて国に認めてもらおうと思ったら、ど
法というのは、イギリスに先行事例があるのですね。2000
うもそうではないらしいと。増やせばいいのか減らせばい
年の労働党内閣のときに導入したのですが、最近になって
いのか、どっちなんだという、わけのわからないことにな
全廃しているのです。それは、国が誘導しながらやってい
るのですね。この問題というのは、非常に根が深い。今回
くことによって、一番失われるものは自発性だと。地域の
の作り方に根本的に大きな問題があるのだと思います。
「国
自発性が失われるとして、現在の保守・自由党連立内閣が
が決めて地方が従う」というにおいがするということです
廃止しているのだそうです。1周遅れの国とは、なんとも
よね。
悲しいものだなという感じがしないでもありません。
国は、
「計画を作ってください」と。でも分権改革を経て
頭が痛くなるようなことがいろいろ出てきているのです
いますから、
「これは義務ではありませんよ」と。しかし同
が、そうは言っても、現実とは向き合わなければいけませ
時に、
「作らなければお金をあげません」とも言っています
ん。私が今思っているのは、とりあえず戦略は作るしかな
から、実質義務ですね。同じスタイルの計画を 1700 の自
いですよね。でも作ったら、今までの流れを考えれば根本
治体に作らせるのと同時に、この計画と交付金の配分を結
的にこの思想はおかしいですから、よく考えて、来年度以
合しているということが、さっきの笑い話のような話にな
降どんどん修正していけばいいと思うのです。そのときに
考えていく物差しをどこに持つのかは、今、お三方がおっ
しゃったまさにそのことだと思うのです。
集落ごとの話し合いでもいいと思いますが、自分たちの
地域には何が足りないのか。何 10 年も地域づくりをやっ
さきほど広井先生が、人口グラフを示されました。明治
てきて、何を失敗して何がうまくいかなかったのだろうか
から一気に階段を昇るように増加して、2010 年のピーク
と考えること。自分たちでここまではできたけれど、ここ
を境に落ちようとしている。これを経済学者の先生の話を
から先は役場にやってもらいたいというような話を積み上
伺いながら私が理解したのは、工業化と人口増加、それか
げていく政策、計画ということですね。そうでなければ、
ら農村から都市へ人口が集まる都市化という、人口増加・
結局、単なる金取りの計画になってしまうと思います。
工業化・都市化、これは1セット。同じ論理で動いている。
中山間地フォーラムという組織では、下からのワークシ
簡単に言えば、明治の初めの頃の日本で一番人口が多かっ
ョップ方式が全てだと言っています。政府はこの方法を採
たのは新潟県ですが、生産の現場の主力が農村から重工業
用することで来年3月の締め切りに間に合わなくても不利
に移っていけば、当然都市に人口が移っていくというのは、
にならないようにしろという提言を8月に出しましたが、
ある意味説明がつく話です。
政府は聞く耳を持ちませんので、やはり締め切りは来年の
人口減少の局面に何が起きるかといえば、それが全部逆
3月です。今からでも遅くはないので、そういうふうにす
になるわけです。脱工業化です。それから逆都市化、日本
るというのが、本来のあり方です。私は、今のやり方をそ
では田園回帰と言っています。もう、都市の人口は増えな
のままやっても、成功するはずがないと思うし、成功する
い。農山村の人口が微増していく逆都市化がヨーロッパで
町があるとすれば、それはもともと成功する町なのです。
は起きているし、日本でも、お二方の先生がさきほど挙げ
もしかしたら、単に初めから「勝ち組」と「負け組」を
られたように、若者の考え方が変わってきているし、現実
つくることが想定されていて、
「こんなにお金と手間をかけ
の経済も変わってきている。これは亡くなった宇沢弘文先
たのに、あなたのところはだめでしたね。こうなったら次
生の話なども思い出して聞くと、人口増加の時代は、お金
のことを考えますよ」と、最初から答えが用意されている
が全て。便利なら便利なほどいい。私も首まで高度成長に
政策なのかもしれない、などといろいろ、思うところもあ
漬かってきた世代ですから、こういう時代を生きてきまし
ります。
たが、今は違います。お金だけが全てなのか。便利なら便
利なほどいいのか。もっと大事なのは、美しさとか生活の
質ではないかと、こういうことを考えている世代、若い人
たちがしっかり増えてきているということなのですね。
今の政権の持っている価値観やその政策体系について、
*****
ありがとうございました。
この政権は地方創生を非常に強調しているのだけど、一
方で矛盾していないかと思う点がいくつもありますね。例
えば総合戦略で自県の大学に子どもを通わせて、次の時代
官僚でもおかしいと思っている人と、しかたがないと思っ
を担う人材を地域で養成する。それは結構だと思いますが、
てついていく人と、2種類いるような気がしますけれども、
他方で、文科省は人文社会科学系や教育学系の学部を廃止
いずれにしても、メインストリームはそうなっていません
せよと。1県に 1 つは公立大学があるわけですが、その学
が、現場を見れば明らかに違うはずです。だから、もう一
部構成の主なものは、教育学と人文社会科学系ですよね。
度、もう1つのパラダイムを考えながら、計画を少しずつ
これを大幅に縮小あるいは廃止せよと言っています。自県
修正していくことです。
の大学で次の世代を養成せよという話とどう整合性がとれ
あと1つだけ追加すれば、これは国のために作る政策で
るのかとも言いたくなります。
はないですよね。国の言うキーワード、型にはめて作って
青山さんが少し触れられましたが、地域からまちをつく
も、お金がもらえるならいいかもしれませんが、地域は再
っていくというまちづくりが必要であって、これが総合戦
生しないと思います。
だから大事なのは、
人々の参加です。
略だからこれに沿ってまちづくりせよと言われても、従っ
てはだめだというお話でした。
私は正直、高いところが嫌いだから、地上に残ります。
さて、そうだとすると、寺谷町長さん、智頭町では総合
地上に残って、あなたたちが捨てたもの、忘れていったも
戦略をどのようにつくられたのかについて、お話を伺えま
の、壊したものを集めて、細々と生きていくよと。それで
すか。
も楽しいぞということなのですね。
ということで、今まで日本にあって失われているものを
命がけで、誰にもできないことを
甦らせたいという人が来ているのに、帰れというわけにい
かないなと。せっかく移住してきたのだし、難しいと思う
先生方のお話を伺って、はっと気がつくことがた
くさんありました。そうしたなかで、地方創生には悪い面
もあると思いますが、いい面としては、地方の人間が本気
になって考え始めたということではないでしょうか。高度
成長期には、国にお金があったから役人が勝手にメニュー
を作って地方に行き、
「町長、こういうメニューがあるから
お前のところでいらんかね」と。
「では、私のところではこ
れをもらいましょうか」などと答えると全部予算がついて
いたという、極端に言えば、地方のリーダーは考えなくて
も良かったんです。国におんぶに抱っこで済んでいた、と
いうことですね。
それが今は、国にお金がないからできないよと。地方創
生というテーマのなかで、お前たちも考えろよということ
につながってくるのではないかなという気もします。ただ、
国の言うことを聞くだけでは、埒があきません。
智頭町は小さい町ですけれども、実は“ご法度”の大麻
栽培をやっています。こんなことは誰も考えなかったこと
なのですが、ある日移住してきた若者が「大麻を栽培した
い」と言うのですね。古来、麻は日本にずっとあったもの
で、神道との関係が深く宮中行事でも使われてきた。今は
国産の麻がないから中国から輸入しているが、ぜひやって
みたいと。
それを聞いて、ふと、ずっと日本にあったにもかかわら
ず途絶えてしまったものをもう1度甦らせるということに、
ある思いが浮かびました。
日本は今、ものすごいスピードで進化していっています。
昨日までのものが今日はもう変わってしまったり、あるい
はすぐに捨てて新しくしたりする。みんなで宇宙船ヤマト
に乗ろうとしているのに、乗り遅れてしまう町はダサイよ
と。そんな雰囲気を感じるときがあります。
がチャレンジだけはしてみようと言いました。
大麻に強い弁護士を探したら、いるのですね。智頭町ま
で来てもらいました。その弁護士に「誰が大麻栽培の認可
権を持っているのか知っているか」と聞かれたので、
「国で
しょう」と答えたら、知事だと言うのです。知事が OK さ
えすれば、いいんだと言う。
そうなれば、
話は別です。
知事に猛アタックしたところ、
最後にハンコを押したのですね。すごい知事ですよ。
しかし、次の日から平井知事のところにはブーイングで
す。国からも文句を言われる。めちゃくちゃになりかけた
んですが、知事は、智頭町長の寺谷がやりたいと言ってい
て、私に認可権があるからいいじゃないのと。それでおさ
まった。ところが次の日からは、今度私のほうに風が吹い
てきた。それはバッシングでもブーイングでもなく、大麻
栽培の許可が下りたというので、どうやったのか教えてく
れというものです。
何を言いたいかというと、誰でもできることには何のイ
ンパクトもないということです。それから、国が反対して
いることをあえてやると、わりとうまくいくということで
すね。こんなことできるわけがない、というのをクリアし
たら、それまで眠っていた見知らぬ世界というのは、すご
いものです。製薬会社から問い合わせはあるし、宮内庁か
らも良くやってくれたと。今は中国からの輸入品を使って
いるけれども、国産を使いたいからがんばれと。驚いたの
は、花火屋さんです。江戸時代は花火の火薬の中に大麻の
茎を粉にして、混ぜてあわせていたと。そうすると、とて
も遠くに散るというのですね。厚労省は苦々しく思ってい
るかもしれませんが、打ち首にしてやるという沙汰はあり
ません。
ですから地方創生というのは、地方が命がけになって、
自分たちが生きていくのだという姿勢にならなければ国の
ずだと思うのです。例えば、大都市圏の中にあるローカル
術中にはまってしまいます。青山さんが全部おっしゃいま
な志向が今後どのように地域に生かされていくべきなのか、
したけれどもね。広井先生も、高度成長期の負の遺産だと
あるいはどのような地域を作っていくべきなのか、どのよ
おっしゃいました。それでも生きていかなければいかんと
うにお考えになりますか。
いう、その悩ましさを、私は快感に変えてしまうしかない
なと思っているのですけれども。
ローカル志向というのは、いろいろな意味合いが
あると思うのですが、地域志向、地元志向、微妙に違った
この度は、
「一億総活躍」などと言い始めています。これ
ものです。飛行機に例えると、地域からの離陸と着陸とい
は何でしょうか。一億総活躍などといったら、東京など人
うような言い方もできると思います。高度成長期には、と
数の多いほうが活躍できる場がある。これまで、地方は人
にかく地域からどんどん飛行機が飛び立つように離陸して
間が少ないから、なんとかしなければといっていたのでは
いたのが、これからは地域に着陸してくるような時代にな
なかったのでしょうか。
っていくと。
かつて金の卵だと言われて地方から東京にやってきた人
もう1つ、さっき触れなかったこととして、人口全体に
たちが東京で結婚して、子どもを産んだ。その子どもたち
占める子どもと高齢者の割合を「地域密着人口」とよんで
は今、ストレス社会に悩まされています。
います。これは、人生の中で特に地域との関わりが強い層
私に言わせれば、そんなことなら参勤交代ならぬ山勤交
ですね。
代しろと。あなたたちはみんな田舎につながって、その血
過去 50 年間というのは、地域密着人口が減り続けた高
は山林や畑や田んぼに連なっている。だから、
「僕は東京で
度成長期でした。2000 年頃からは、高齢者が中心ですけ
生まれたよ」と言っても、実は地方につながっているんだ
れども、逆に谷底から増えるようになってきまして、これ
よと。だから、1度地方に帰ってこいという戦略で、今、
からの 40~50 年は地域密着人口が一貫して増える時代で
国に訴えているのは、東京の大手 10 社と組んで、ストレ
す。この意味でも、これまでの時代と逆の方向に、地域と
ス予備軍にいる人々を智頭町に連れて来て、森林セラピー
のかかわりが増える層が多くなっていく、しかも現役世代
というテーマでゆっくりのんびりさせる。半日はパソコン
にもローカル志向が強まっているということで、全体とし
を使って仕事をしたらいい、というようなものです。
てローカライゼーション、ローカル化が進まざるをえない
要するに、山勤交代、山に返すということを訴えていま
という方向にあるのではないでしょうか。
すが、これが無視されてしまったら、おそらく地方創生は
ただ、それを都市と農村ということに当てはめると、松
失敗するでしょう。うまくいけば、もしかすると大きな動
永先生のお話にもありましたように、明らかに若者のロー
きが出てくるかもしれません。
カル志向が強まってはいますが、放っておいてもそれが進
んでいくかというと、必ずしもそうではない。結構、ハー
ローカルな視点と世界的な視野をもって
ドルは高い。かなり社会貢献意識が高くモチベーションも
高い若者は、U ターン I ターンができますが、みんながそ
ありがとうございます。私も智頭町で栽培されて
いる大麻を拝見して、栽培している青年にお会いしました。
広井先生にお話をお伺いしたいと思うのですが、冒頭に
人口減少社会がポジティブな可能性を持っているのだとい
うお話を伺いましたけれども、ローカルな志向といったと
き、いわゆる地理的な意味で「中央」とそれ以外の「ロー
カル」というのが浮かんできますが、それだけではないは
うとは言えません。私はやはりここで、支援策のようなも
のが非常に重要になっていくと思っています。
地域おこし協力隊は、私はいい制度だと思うので数万人
規模に増やしてもいいのではないかと思います。しかしな
がら、国レベルでやっているというところに問題があるの
で、都道府県レベルで地域おこし協力隊のような政策が進
められてもいいのではないかと思います。
つまり、ローカル志向の芽はかなりいろいろあるのだけ
中世のギルドではないですけども、ビジネスは1人でやっ
れども、それがほんとうに時代の潮流となっていくために
ているけれども、やはり地域で結びつきたいと。地域のコ
は、バックアップのための施策が必要だということです。
ミュニティというものをとても大事にされていると思いま
何もしなければ、都市と農村というのは非対称的な関係に
す。ワーク・ライフ・バランスということが、ずっと言わ
あり、都市のほうが優位あるいは強い立場にあるので、そ
れていますけれども、こうした働き方が1つの働き方とし
れをいろいろな形の支援策、再分配する政策を用意できる
て選択されているというのがあるのではないでしょうか。
かが決め手になってくるのではないかと思います。
それから、こうした動きにはどれくらいの経済効果があ
松永先生は先ほど江津市の話をされました。確か
るのか。どうやって増やすかとおっしゃいましたが、おそ
に、そうした仕掛けができる若者を私も知っているのです
らく、これは劇的に増えるものではなくて、小さなトレン
が、そういう若者だけではない。これをどう拡大していく
ドとなるものではないかと思います。一方で、先ほどお話
とお考えになりますか。
にあった KPI、数値目標という目的志向型の計画をつくり、
こうした若者がどれほどいるかも、あまりわかっ
ていないところです。実感的には1%もいない層なのかも
しれません。ただ、社会的なインパクトはすごく大きいと
思うのですね。
今、広井先生から地域おこし協力隊のお話もでましたが、
それに向かって邁進していくというのは、これ自体が成長
主義の考え方ではないかと思うのです。
KPI と対極的な政策が、今ヨーロッパで出てきています。
サルコジ前大統領のとき、フランスでは“GDP を捨てる委
員会”のようなものがつくられました。スティグリッツや
今後、1000 人から 3000 人に増やすようですね。私が支
センなど名だたる経済学者が入った委員会です。フランス
援策として重要だなと思うのは、やはり地域には経済、産
はもう GDP では国力を計らないということで、では何で
業というものがあると同時に、個人個人の仕事があります。
計るのか。それを検討する委員会による報告書を見ると、
その総体が経済と結びついている。先進国と日本を比較し
2つの大きな指標があります。
て特徴的だと思うのは、スモールビジネスというか、業を
1つは個人の豊かさを捉えていく発想ですね。例えば時
自分で起こすような生業(なりわい)ですね。社会貢献意
間の使い方や希望しただけ余暇を取れたかとか、そういう
識の高い人はソーシャルビジネスと思いがちですけれども、
ものを数値化していく。KPI とは違う、豊かさの質を数値
例えばカフェや飲食店経営とか、あるいはフリーランスで
化していくという作業ですね。少し前にブータンの幸福度
できる職業があります。
指標がありましたが、これとも通じる、それをさらに洗練
統計で見ると、中小企業、スモールビジネスの数自体は
すごく減っているのですが、新たに起業されるのは、ほと
させたような形かと思います。
それからもう1つサルコジ委員会で提言されていたのは、
んどが生業です。
1980 年代には年間 29 万人くらいだった
私たちは、1国だけ、あるいは1自治体だけで生きること
ようですが、今でも 22 万人ぐらいいると。そう大きく減
を考えるのではなくて、限りある資源や環境の中で生かさ
少していません。スモールビジネスというのは、これまで
れているということを考えなければいけないと。ですから、
は経済成長の過程で言うと大企業の下請けや経済社会の中
地球環境全体を考えなければいけない。これを見ていると、
の歯車の 1 つとして捉えられていましたが、今生まれてい
ナショナルかローカルかというレベルの話ではなくて、こ
るようなローカル志向のフリーランスの人たちというのは
れからの人口減少社会において経済成長を維持するのか定
異なっています。私は今社会人大学院を担当していて、夜
常化させていくのかを考えるにあたって、超ミクロな個人
と土曜日の授業を担当しています。受講生には、公務員の
と超マクロな世界的な視野の両方を持つ必要があるのでは
方が一番多いのですが、最近目立っているのが、1人で業
ないかと気づかされます。ですから、ローカル志向という
を営む人、特に 30 代 40 代の方たちです。その人たちは、
のは、あくまでそうした個人個人の働き方が出現してきた
ことと見られると思います。
こうしたトータルな議論は、この地方創生政策では重要
地方創生というのはナショナルレベルの議論ですので、
なはずなのに、やはり欠落しています。私は同時代ではな
本来はこれを超えたものが、自治体側から出されてもおか
いですけども、過去の国の政策を見ていると、大平首相の
しくなかったのではないか。今回の計画作りに携わった大
ときに田園都市構想というのがありました。当時の報告書
学の教員も多いと思いますが、そういう立場から豊かさを
をみると、研究者と官側が 8 つぐらいのグループに分かれ
問い直すような指標のようなものが、自治体側からの提案
てかなりディスカッションをしたようです。高度成長期が
として出されても良かったのではないか。ただ、そういう
終わり、その後の 21 世紀のあり方についての議論です。
声はあまり聞かれず、国が求める KPI などに揺り動かされ
案外、今言われていることと変わらないというか、豊かさ
ている限り、地方創生はプレミアム商品券や即物的で数値
を根本的に問い直すということが、実はオイルショックの
化されたものになってしまうのではないかなと思いました。
後に、真剣に議論されていたのだなと、今になって、それ
ありがとうございます。
連れ合いが小さな事業をやっているのですが、私のとこ
ろもやっと東京都の最低賃金を払うことにしたのよ、と。
を読んだりしているのです。この過去の議論というのは、
あまり顧みられることはないのでしょうか。今の地方創生
に通じる議論が、かなりあると思いました。
スモールビジネスで起業というのは、私ももちろん歓迎す
るのですが、他方で、OECD 加盟国の中で日本の貧困水準
今、考えるべきは「地域再生」
は下から数えた方が早いという状況です。この辺を、どう
融和させるか。簡単な話ではないのだけど、それはどうお
考えになりますか。
そうですね。今まで日本は経済成長してきました
が、経済成長は人口増加分に支えられているところが大き
かったわけです。先ほどの広井先生の図にあったように、
明治以来 150 年間も人口増加を続けてきた国はなく、その
人口ボーナスに支えられてきたわけです。
しかしながら今回、地方創生でも一億総活躍社会でも、
600 兆円の GDP を目指すといっています。ひいては1人
あたりの生産性を上げていくということになると思います
が、
「底」の問題を、やはり真剣に考えなければいけないと
思います。
これまで生産性を上げるために、日本の産業では加工で
付加価値を上げてきましたが、加工は低賃金国にとって替
わられて、
むしろ資源が価値を持ってきています。
だから、
産業構造自体を生産性を高める方向に変えるという大規模
な転換は、国レベルで議論すべきことだと思います。そう
した議論と地方創生というのは切り離されて考えられてい
ますが、地方にできることには限りがあるので、そのとき
に可能な経済政策となると、起業やスモールビジネス政策
が親和的ではないかと考えたところです。
確かに高度成長が終わって、第1次オイルショッ
ク、第2次オイルショックを経て、その段階で豊かさとい
うことが議論されたことは、私もよく覚えています。
青山さん、先ほどからのお話のなかで、誰も触れていま
せんが、東京では年寄りの面倒を見切れないので、皆さん
地方に行ってくださいという話が出ていますね。若者の田
園回帰の話はでていますが、この大都市圏の高齢者問題を
どのように考えるべきか。
1990 年の福祉八法の大改正というのは、私に言わせれ
ば、日本の社会福祉行政の大転換だったと思うのです。し
かしそれは簡単に忘れ去られてしまって、今や、高齢者問
題はもう手に負えないから地方に行ってくださいと。こう
いう話になっているわけですが、青山さんの観点から、ど
うお考えなのかお聞かせ願えればと思います。
年をとって地方に移住することがいけないという
つもりは、さらさらありませんが、政策としてそれを促す
ことに対しては、腹の底から怒りを感じます。なぜかと言
えば、公共サービスというのは、人が住んでいるところに
きちんと出していくこと、これを目標にしてきているので
すよね。CCRC のような政策というのは、公共サービスの
出しやすいところに人は移れと言っているわけです。これ
は、政策としてはまことに本末転倒で、物事の本質を誤ら
まちをつくるのは町長ではない
せるのではないかと思っています。
その一番の原因は、どうやら「地方創生」という言葉に
あるのではないかという気がしています。地方というのは、
国・地方関係というように、東京から見た場合の地方にな
りますが、皆さんが総合戦略を作っている過程では、あた
りまえですけれど、もう一度よく確かめたいと思うのです
が、それは地方ではないですよね。地域です。地域という
のは、それぞれの人々がかけがえのない人生を送る場所で
すよね。そこは、1人で生きているだけではなくて、いろ
いろなネットワークが織り込まれている場所です。本来は、
ここで人口が増えなくても、きちんと暮らしていける仕組
みをもう一度作っていこうということですよね。
だから、
「地方創生」ではなくて、
「地域再生」と言い換
えるべきなのでしょう。安倍政権が「地方創生」としたの
は、うっかり言ってしまったのではなくて、意図があるの
だと思うのです。しかし、地方創生と言いながら、地方経
済や地方都市、農村のことばかりに関心がいくよう誘導し
ていく、このワーディングの最大の問題は、新藤先生も言
われたように、大都市圏の人口減少問題や人口構造問題、
これをまったく政治的アジェンダから外してしまっている
ことですね。これをもし、
「地域再生」と言っていたら、東
京に住んでいる年寄りのことは東京がきちんと責任を持ち、
安心して暮らしていける地域にするということになるはず
なのです。
もっとさらに言ってしまえば、今さら田舎に帰れない人
だってたくさんいますよね。CCRC ということで民間企業
がつくったそういうまちに暮らすために、なけなしの残り
金を全部そこにはたいて、倒産したらどうするのでしょう
ね。そういう危うさもあるし、非常に不健全ですね。アメ
リカのごく一部の層にしかできないことなのではないかと。
選択してやってみる市町村があっても、私はいいと思いま
すが、政府が言っているからやってみようというのだけは、
やめたほうがいいなと思います。
福祉八法の改正があったとき、地方分権改革は、地方自
治の根幹中の根幹の問題でした。その原点に帰るべきなの
ではないでしょうか。
広井さんは社会保障がご専門ですが、私はアメリ
カの CCRC と、今いわれている話では全く違うと思います
が、確かに高齢化が進行していく中で、高齢者を東京から
移動させるなどと言っている今の状況を、どうお考えにな
りますか。
これは、
いろいろ言いたいことがあります。
私は、
人為的に高齢者を地方に移せばいいという発想には、大い
に疑問があります。基本はやはり、住み慣れた地域で暮ら
していけること、これが基本だと思います。
他方で、私が危惧するのは、今後、高齢者介護のニーズ
がとても大きくなって、単純化していえば、地方の若者が
そのためにますます首都圏に集中するということになって
も、またいろいろな問題が生じるということです。これは
非常にむずかしい問題だと思います。ただ基本は、住み慣
れた地域でということになると思います。
同時に社会保障全体の構造として、私は、
「もっと人生前
半の社会保障を」と以前からずっと言っています。日本の
社会保障は良くも悪くも高齢者関係の支出の比重が、諸外
国と比べてとても大きい。もちろん高齢者関係がきわめて
重要であることは間違いないのですが、さきほどからの話
にあるように、若者や子育て世代への支援がきわめて小さ
いというのが、構造的にかなり問題です。
やはりここは、例えば年金は今、60 兆円近い規模になっ
ていますけれども、せめてそのうちの1~2兆円ぐらいを
若者の支援に充てていくような政策を考えていく必要があ
るのではないかと思います。
それから、これはあまり議論されることがないですが、
これから首都圏の高齢化がどんどん進んでいくと、年金の
受給者が首都圏に集中することになるので、年金マネーが
大都市圏にますます集中してしまって、また都市と地方の
格差が拡がってしまうのではないかということがあります。
これは、社会保障のあり方や空間的な分布の問題など、さ
まざまな問題が込み入っていて難しいのですけれども。
住み慣れた地域を基本としながらも、しかし社会保障の
構造はかなり変えていく必要がありますね。何度も言いま
すが、若者支援というのが、かなりキーポイントになって
が考えたことではなくて、お母さんが百人委員会に入って
くるのではないかと思います。
提案したことです。
要するに、
山に子どもを連れていって、
全体として、結局、地方創生の問題点は、アベノミクス
辛辣な言い方をすると「放し飼い」
。危ないとか汚いとか、
や TPP という一連の流れの中で、ある種の弥縫策として出
何も言わない。子どもがなすがまま、ほったらかし。そう
てきているような面があるわけで、全体の体系や思想にや
やって育てたいと。園舎はないので、山の中に連れていく
はり問題があると思います。青山さんが「もう1つのパラ
わけです。雨が降ろうが雪が降ろうが、連れていくのです
ダイム」に触れられましたが、これは結局、都市と農村、
よ。それであとは、ほったらかし。
東京と地方という話だけではなく、さきほど松永さんも言
そしてあるテレビ局が、その子どもたちの姿を2年間、
われていたように、まさに日本をどういう社会にしていく
追い続けたのですね。1時間番組にして放映したら、いっ
のかという話にかかわってくることだと思いますので、そ
ぺんに智頭町に問い合わせがきた。それで今度はNHKが、
れとセットで議論していかなければならないと思います。
世界 160 か国で6回放送した。名もない小さな町が、一挙
寺谷さん、智頭町には有名な「森のようちえん」
に外国に飛んで行ったのです。まさにそうだったんです。
があります。全国各地から、ここで子どもを育てたいと移
飛んでいったとたんに、町役場は朝から、
「グッドモーニン
住してくる人がたくさんいるわけです。その動機は、どの
グ」ですよ(笑)
。電話はがんがんかかってくるし、職員は
ような状況なのですか。
パニックです。外国からの移住も始まっていますので、今
それから、私は、森のようちえんに子どもを通わせてい
るあるお母さんに「ご主人はどうしているのか」と聞いた
ことがあるのですが、福島の方だったのですが、
「置いてき
たわよ」と。その辺はどうなっているのでしょう。
智頭町では「百人委員会」というものを作ってい
は空き家がなく、東京などからの移住希望者は待っている
状況です。
当初は、文科省も厚労省もどうのこうのと言っていまし
たが、
「こういう教育もあっていいのかな」などと言い始め
ました。
ます。よく、
「国にも県にも市にも金がない、俺の町にも金
もう1点、移住者の雇用の問題ですが、光ファイバーを
がない。だからいくら言っても、お金がないからできない
入れていますから、パソコン 1 つでどこでも仕事ができま
んだよ」と逃げるリーダーがいます。確かに、よくご存じ
す。そういう仕事をしながら、子どもを山に入れていると
のように金はありません。金がなければどうすればいいの
いう状況ですね。林業をやりたいという人も少しいますが、
かと言ったら、簡単なことなのですね。要は知恵を出せば
まだプロとはいえない状況です。
いい。自分に知恵がなければ、借りればいいのですね。恥
そういうなかで、今度、智頭町はサドベリースクールを
ずかしいことではありません。私には、正直、知恵があり
つくります。智頭小学校に籍を置きながら、6年間学校に
ませんから、町民の皆さんには「悪いけど、俺は知恵がな
は行かない。中学生になったら智頭中学校に在籍するけど、
いから貸してくれ」と。教育あるいは福祉について、林業、
学校には行かない。そのかわりに山に行く。これは、国の
農業、なんでもいい。1年間、喧々諤々、いろいろ模索し
言うことを聞かないわけですから、
「智頭町は何をやってい
て提案してくれと。我々には考えもつかないような、すご
るのだ」と文科省は非常に厳しい目で見ています。私は、
いなと思うものは、直に予算を付けてしまうぞということ
県の教育長には、智頭町を見るなと。見てしまえば国の言
ですね。議会とはケンカになりましたけど、それはどうで
うことを聞かざるを得ないから、見て見ぬ振りをしておい
もいいことです。
てくれと言っています。責任は全部、私が取りますので、
その中で、東京から智頭町に移住してきた子連れのお母
負けずにそういう新しい思いのつまった自由な学校を作り
さんが、
「わあ!こんな緑に囲まれた町で子育てができるっ
たいなと思っています。これも、町の 93%が山だからでき
て最高だわ」と言ったことが、大ブレイクしたのです。私
ることだと思っています。
それともう1つ。広井先生も、松永先生も、ローカル志
をお聞かせいただければと思います。
向とおっしゃっています。私はまちづくりというのは、何
これではだめですよね
(笑)
。
日本全体を見たとき、
も町長なんかができるテーマではないと思っています。誰
いわゆる人口政策という名の下に、マクロとして数字で捉
にできるのか。私はそれは、これからの子どもたちだと思
える必要性は、私もよくわかります。しかしそこに大きな
っています。
落とし穴があるということに、気づくべきだと。
ということで、大人の百人委員会を作りましたが、一昨
人間は、人口ではないのです。1人1人は、かけがえの
年、地元の高校生による百人委員会を作りました。高校生
ない人生を持った人間なわけです。単なる砂つぶのような
が町についていろいろ考えて提案する。そして、これはす
存在ではないということをつくづく思います。
ごいなと思うものには予算を付けてしまいます。
一例を挙げれば、今年の春、高知県の山間地にある大豊
それから何が起きたかというと、中学校の先生が、2年
町に2週間いました。大野晃・高知大学教授が、限界集落
生の子どもたちにも百人委員会をやらせてくれと言ってき
という言葉をはじめて論文でつかったときにフィールドワ
ました。
「なぜ、2年生なの」と聞くと、2年生で考えたこ
ークした町です。86 の集落があります。
とを予算化してもらうと、3年生で実現化できます。そう
そこで、90 歳のおばあさんと一緒に田起こしをしたので
すると、自分たちが考えたことが実際に出来たことを見届
すね。東京の感覚で言えば、90 歳といったら、もう誰にも
けて卒業していくわけですね。それをぜひやりたいという
期待されずに、ただニコニコしているようなイメージです
ので、今年は 400 万円の予算を付けました。子どもたちは、
けど、彼女は違いました。自分の畑をまだ自分で耕してい
びっくらこいていましたよ。私はもし失敗してもかまわな
る。野菜をつくって現金を稼いでいるのですね。
いと思っています。全責任は私が取りますから。
「凜とした」という言葉を思い浮かべましたが、凜とし
ですから、まちというのは、ほんとうに素直な気持ちで
た生き方とはすごいものだと思いました。もう1つは、そ
申し上げますが、町長がつくるものではない。リーダーと
のおばあさんは、一昨年、ゆずの苗木を 100 本植えている
いうのは、責任を取るためだけにいるということですね。
のです。誰が考えたって、もう長くないはずなのに、と思
責任から逃げているようでは、リーダーになる必要はない。
いますよね。その理由を怒られないように聞いてみたら、
地元の子どもたちが、自分たちで自分たちの町のことを必
「ゆずの苗木を植えれば必ず実がなるだろう」と。
「実がな
死で考える。地方創生というテーマの中で交付金をつける
れば、誰かが必ず世話をしてくれるはずだ」と言うわけで
なら、むしろ子どもたちに出してほしい。町にはいらない
す。
から、地域に出してやってくれ、高校生にだしてやってく
大豊町は、江戸中期から、増田寛也さんに言わせればた
れ、中学生に出してやってくれ、そういうことだと思って
ぶん「安楽死集落」ということになるんだと思いますね。
います。
しかし、
そこには二百数十年、
三百年からの歴史があって、
そこでみんなきちんと生きている。東京の人間よりはるか
「地方創生」をどうするか
にまともな生き方をして、そしてこれからもずっとここで
みんなが生きていってほしいと思って、つなごうとしてい
ありがとうございます。本日のテーマである「地
方創生、これでいいのか」という、まさに、
「これでいい」
というためのご見解を伺いましたが、その通りだと納得す
るところがあります。
それでは、青山さんから一言ずつ、
「地方創生は、これで
いいのだ」と言うためには何が必要か、それぞれ、お考え
る人がいるということですよね。こうしたことは、
「人口」
という言葉で、データで、数字でしか人間を理解しない人
たちには見えないものではないかなと思います。
マクロで見ることが必要なことは、十分わかっています
が、人間はあくまでも1人1人かけがえのない人間として
存在していると。それを活かすために、政治や行政はある
のではないのか。それをあまりにも単純化し過ぎる人たち
なされていても、国レベルでなされなかったというのは、
の議論には、私はついていかないし、聞く必要もないなと
問題ではないかということです。
思ってこの頃聞かないようにしています(笑)
。
今の青山さんのお話をうかがって、先ほどローカ
ありがとうございます。では、広井先生、お願い
します。
ル志向がキーワードになっていましたが、地域が注目され
私は、日本社会はもともと非常に分権的な社会だ
ているのは、地方創生とは違う文脈からです。やはり自分
という認識が大事だと思っています。イギリスやフランス
の役割は顔が見える身近な社会、地域にあるのだというこ
は、実はきわめて集権的なんです。おおざっぱにいうと、
と。それを認識している社会が、今、強まりを見せている
集権的な国が最初に資本主義に乗り出したわけですから。
のだと思います。
日本は江戸時代までそうであったように、もともとは分権
もう1つ、地域活性化とか地域再生とか、こうした言葉
的な社会なんです。
をどう考えるかということと通じる話ですが、地域活性化
今、人口減少状態になる中で、
「なつかしい未来」などと
や地域再生というのは行政の言葉でしかないとも思うので
いう言葉もありますが、まったく新しい状況に入っている
す。
というより、もともとあったものに回帰しているというこ
私が島根県で感じたのは、青山さんの大豊町の話と一緒
とではないでしょうか。単なる過去への回帰ではなく新た
で、やはり東京とはちがって生涯現役で社会的な役割があ
なかたちにはなっているわけですけれども。基本的な認識
るということ。そのほとんどが農業ですが、最近の農業と
として、日本はもともと非常に分権的な社会であるという
いうのはJAのような系統出荷ではありません。いまや直
こと、それが出発点として大事なわけです。それを今後ど
売所は全国に1万 8000 軒、道の駅は 1000 軒を突破した
のように捉えていくかという、そういう時代状況なのでは
ということですが、消費者と生産者が直につながれる場が
ないかと思います。
この 10 年でどっと増えてきたことによって、今クローズ
ありがとうございました。パネリストの皆さん、
アップされているような健康寿命にも貢献しているのでは
まだ話されたいことが多々あるでしょうし、私もお伺いし
ないかと感じることが非常に多かったのです。
たいことがいっぱいあるのですが、お約束しました時間を
島根県には 80 代の女性グループがけっこうたくさんあ
って、リーダーはほんとにかくしゃくとしていらっしゃる。
少し過ぎてまいりました。
あらためてこの話をまとめる必要はないとは思っており
いつも強調しておっしゃるのは、勘違いされては困ると。
ます。しかし、最後にひと言だけ申し上げれば、自分が今、
私たちが直売所をやっているのは、地域のためではない。
生きている地域をどうするのかということは、やはり外か
まして地域活性化のためではない。何のためにやっている
ら与えられるものではないですね。そんな当たり前のこと
かといえば、自分たちのためなんだと。自分たちが 80 歳
を偉そうに言うなと言われるかもしれませんが、自分でそ
になっても笑いあえる場を作るために、この活動を続けて
の足元を見て、考えることなのだろうと。そういう観点か
きたとおっしゃるのです。
ら、政府の方針がどうであれ、地域のことをしっかり考え
地域活性化というのは、単なる行政からのお仕着せの手
段かもしれない。本来はそれぞれの営みがあるわけで、そ
ていくことが重要であり、百家争鳴の議論を起こしていき
たいものだと思っております。
れはもちろん数値には換算できないし、計画には織り込み
では4人のパネリストの皆さんに心よりお礼を申し上げ
づらいものですけれども、そうしたものを積極的に評価し
て、シンポジウムを終わりたいと思います。どうもありが
ていくことが、ほんとうの地方創生、地域創生なのではな
とうございました。
いか。そのための議論を尽くすことが、自治体レベルでは
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