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Jpn. J. Clin. Immunol., 38(3)157~163(2015)Ⓒ 2015 The Japan Society for Clinical Immunology
157
原 著
完全自動化測定器による抗リン脂質抗体測定の意義
奥 健 志,オルガアメングアル,久 田 諒,大 村 一 将,中 川 育 麿,
渡 邊 俊 之,坊 垣 暁 之,堀 田 哲 也,保 田 晋 助,渥 美 達 也
The function and the significance of full-automated tests for detecting antiphospholipid antibodies
Kenji Oku, Olga Amengual, Ryo Hisada, Kazumasa Oomura, Ikuma Nakagawa,
Toshiyuki Watanabe, Toshiyuki Bohgaki, Tetsuya Horita, Shinsuke Yasuda and Tatsuya Atsumi
Department of Rheumatology, Endocrinology and Nephrology,Hokkaido University Graduate School of Medicine
(Accepted January 29, 2015)
summary
Antiphospholipid antibodies (aPLs) are a group of heterogenous antibodies with immunological and functional variations
that are detected in the sera of patients with antiphospholipid syndrome (APS). Detection of these antibodies in an efficient and
accurate manner remains a significant issue. It requires numerous immunological and functional tests, burdening the laboratory
departments, and as a consequence, not sufficiently performed in many cases. We retrospectively studied a total of 212 subjects
with or without collagen diseases including APS that visited the outpatients of multiple institutions (department of internal
medicine at Health Science University of Hokkaido, department of medicine II and department of gastroenterology at Hokkaido
University Hospital). All the subjects were measured aPL (anticardio anticardiolipin antibody IgG/IgM, anti-β2-glycoprotein
I antibody IgG/IgM) using a fully automated chemiluminescence analyzer and compared measurement results with those
obtained using the conventional ELISA method. These methods were found to have similar diagnostic accuracy, with κ values
exceeding 0.6. Of 61 APS patients 41 (67%) were positive for two or more tests: significantly higher than other disease such
as systemic lupus erythematosus (3/37, 9%) or non-SLE collagen disease (1/53, 2%). The fully automated chemiluminescence
analyzer, which can simultaneously measure multiple aPLs, was thus determined to be useful for diagnosing APS.
Key words antiphospholipid syndrome; antiphospholipid antibodies; anticardiolipin antibodies; anti-beta2GPI antibodies
抄 録
抗リン脂質抗体症候群(APS)に出現する病原性自己抗体である抗リン脂質抗体(aPL)は免疫学的にも機能的
にも多様な自己抗体群で,それらをどのように効率的・正確に同定するかはいまだに重大な問題である.更に,
aPL の測定には多数の免疫学的・機能的検査が必要であり,検査部門の負担が大きく必要十分な検査が行われない
事が多い.そこで,北海道大学病院内科 II および消化器内科,北海道医療大学内科に通院する APS 患者を含む膠
原病及び非膠原病患者・健常人合計 212 例の保存検体を用い後方視的に完全自動化化学発光免疫測定器にて aPL
(抗カルジオリピン抗体 IgG/IgM,抗 β2 グリコプロテイン I 抗体 IgG/IgM)を計測し,従来の ELISA 検査法と比較
した.その結果,両者は同等の診断確度を有していた.また,APS 患者では 2 種以上の aPL 陽性となる症例が,
41/61(67%)と全身性エリテマトーデス(SLE)(3/37, 9%),非 SLE 膠原病(1/53, 2%)等他患者群・健常人に比
べ高率であった.これらの点から複数の aPL を同時に測定できる完全自動化化学発光免疫測定器は APS の診断に
有用であることが判明した.
シドニー改変 とよばれる.
1)
1.はじめに
aPL とは広義には種々のリン脂質あるいはリン脂
抗リン脂質抗体症候群(APS)は,抗リン脂質抗
質に結合し形態変化を来した血漿蛋白に結合する自
体(aPL)と総称される抗体群が関連する自己免疫
己抗体を意味するが,その全てが病原性を示すわけ
性血栓症および妊娠合併症である.APS 患者の約
ではない.APS と関連する,即ち病原性を有する
80−90%が女性で,平均発症年齢は 40 歳前後であ
aPL として分類基準上定義されているのは抗カルジ
る.現在の APS の国際分類基準案は,札幌基準・
オリピン抗体(aCL)IgG/IgM,抗 β2 グリコプロテ
北海道大学大学院医学研究科内科学講座免疫代謝内科
学分野
イン I(抗 β2GPI 抗体(aβ2GPI))IgG/IgM 及びルー
プスアンチコアグラントだが,本邦で臨床検査とし
日本臨床免疫学会会誌(Vol. 38 No. 3)
158
て保険収載されているのはその一部である.その
認する,の 3 段階を経て判定する.
為,施設によっては保険外での抗体検査を行ってい
しかし実際には,臨床検査上の LA の同定は aPL
るが,上記 aPL を測定するには ELISA 検査のみで
の多様性から必ずしも容易でない.凝固検査を用い
も 4 種類が必要であり,検査室の費用・時間両面で
て検出するため,ワーファリンやヘパリンなどの抗
の負担が大きい.
血栓療法施行中には判定できないなど良質な血漿サ
ンプルが必要である.また使用する試薬によって感
2.抗リン脂質抗体(aPL)の検出法
度が異なる等試薬の取り扱いや検査の選択・検査結
APS に関連する aPL の対応抗原はリン脂質に結
果の評価が複雑である.
合した血漿蛋白であることが分かっており,β2GPI
とプロトロンビンが主な分子であることが明らかに
Automated Coagulation Laboratory(ACL)アキュ
なっている.このうち測定系が早くに確立し,APS
スター
®
分類基準で aPL として定義されているのが β2GPI(カ
Automated Coagulation Laboratory(ACL) ア キ ュ
ルジオリピンに結合し構造変化を来した β2GPI)を
スター(製造業者:インスツルメンテイション ラボ
対応抗原とする自己抗体である.
ラトリー社,米国)は化学発光免疫測定法により定
量的に自己抗体の定量測定を行う機器であり,完全
抗カルジオリピン抗体と抗 β2-グリコプロテイン I
自動化化学発光分析機である Bio-Rad を用いて 2
抗体
段階法にて測定を行う.cardiolipin 及び β2GPI でコー
®
一連の aPL 測定法で,aCL の免疫学的検出法は
ティングした磁性分子を用いて測定する.磁性分子
もっとも早く確立された.当初はリン脂質であるカ
を血液検体とともに incubation した後に,磁性分離
ルジオリピンが aCL の直接の対応抗原と考えられ
し洗浄した後,トレーサーを添加する.トレーサー
ていたが,現在は APS と関連した aCL はカルジオ
は,イソルミノールで標識された抗ヒト IgG 抗体も
リピンに結合し変形した β2GPI を認識しており ,
しくは抗ヒト IgM 抗体などで構成されている.ト
この点がポリクローナルB細胞活性化を伴う膠原
レーサーを投与して incubations することによった
病(APS を合併しない SLE 等)や感染症患者にみ
磁性体に結合したヒトイムノグロブリンを capture
られる非特異的 aCL との違いである.aCL はプレー
することができる.その後,化学発光を促す試薬が
トにカルジオリピンを固相化した ELISA で検出さ
添加され,それによって relative light units(RLUs)
れるが,ELISA 底面のカルジオリピンは blocking
として定量評価する.このカットオフは全ての抗体
buffer で用いられる血清中の β2GPI との複合体をプ
価について米国健常者の 99 パーセンタイル値を元
レート底で形成しており,γ 線処理を行い,陰性荷
に 20 U/ml に設定されている.
2)
電を帯びさせた ELISA プレートに β2GPI を固相化
今回,著者らは ACL アキュスターを用いて APS
した ELISA で検出される aβ2GPI と本質的には同じ
を含む膠原病患者における診断能について検討した.
抗体群を検出していることになる.
ループスアンチコアグラント
3.患者と方法
患者
ループスアンチコアグラント(LA)は,in vitro
対象患者は北海道大学病院内科Ⅱ膠原病外来また
のリン脂質依存性凝固反応を阻害する(凝固時間を
は北海道医療大学内科外来を 2005 年 4 月から 2013
延長させる)免疫グロブリンと定義される.国際血
年 3 月までに受診した抗リン脂質抗体症候群患者
栓止血学会の抗リン脂質抗体標準化委員会が測定の
61 名(原発性抗リン脂質抗体症候群患者 55 名)と
ガイドラインを示しており ,異なる試薬を用いて
対照患者群として上記期間中に,同施設を受診した
1)リン脂質依存性凝固時間が延長していることを
全身性エリテマトーデス患者 37 名(抗リン脂質抗
スクリーニング 2)正常血漿とサンプル血漿を混
体症候群を含まない),非 SLE 膠原病患者 53 名(関
和するミキシングテストを行い,凝固時間延長のパ
節リウマチ 24 例,強皮症 7 例,筋炎 4 例,血管炎
ターンを測定することで凝固時間延長が阻害因子の
症候群 6 例,シェーグレン症候群 5 例,他の自己免
存在の為であることを示す 3)リン脂質による吸
疫疾患 7 例)膠原病外来を受診したが膠原病以外
収中和試験でこの阻害因子が APL であることを確
の診断(非自己免疫性血栓症・妊娠合併症,感染
3)
奥・完全自動化測定器による抗リン脂質抗体測定
159
症,等)に至った症例 16 例を連続的に抽出した.
7.0 IgM phospholipid units 以上と設定し,aβ2GPI の
また,北海道大学病院消化器科外来を受診し消化器
基準値は,同様に IgG が 2.2 units/ml 以上,IgM が
疾患(非肝硬変の慢性ウィルス性肝炎)として診断
6.0 units/ml 以上と設定した.
され,APS や SLE をはじめとする自己免疫疾患が
診断されていない患者 34 名の総計 201 例について
解析方法
検討した.健常人 10 例についてもあわせて検討し
APL パネル及び home made ELISA による各抗体
た.今回の研究で用いた検体は,被験者に対して具
の APS 診断に対する感度・特異度・尤度比・オッ
体的な研究内容を提示せず,将来の医学研究のため
ズ比を測定した.また,各群における APL パネル
との目的で文書により同意を得て保管したものであ
の抗リン脂質抗体価の比較は Kruskal-Wallis 検定を
る(包括同意)
.更に,今回の研究にあたり院内倫
用いた.0.05 以下の p 値を統計学的に有意と設定し
理審査委員会の研究計画に対する承認を得た上で,
®
た.全ての解析は XLSTAT (Addinsoft, France)で
面接・説明が可能な各患者に対しては面談及び文書
行った.
による本研究への同意を得た.
APS 群と各患者群の間に年齢・性別の有意差を
認めなかった.抗リン脂質抗体症候群の診断は札幌
基準シドニー改変 を用いて行った.
1)
方法
4.結 果
APL パネルの測定結果
コホート全体における APL パネルでの測定値の
平均はそれぞれ,aCL IgG 177.9(最小値 0 −最高値
5955.7)U/ml,aCL IgM 15.5(0−678.4)U/ml,
aβ 2GPI IgG 755.6(0−52115.1)U/ml,aβ 2GPI IgM
抗リン脂質抗体の測定
21.12(0−1471.3)U/ml であった.これら各抗体測
全ての患者において,説明と同意のもと得られた
定における陽性(20U/ml 以上)率はそれぞれ 51/212
保存血清を用いて,後方視的に抗カルジオリピン抗
例(24.1%)
,18/212 例(8.5%)
,59/212 例(27.8%)
,
体(aCL)IgG/IgM,抗 β2GPI 抗体(aβ2GPI)IgG/IgM
18/212 例(8.5%)であった.
を Quanta Flash Antiphospholipi Assay Panel(INOVA,
APS,SLE,非 SLE 膠原病患者,他疾患患者,消
USA. 以下 APL パネル)と一般的手法で作成された
化器疾患患者の各群で APL パネルによる抗体価を
home made ELISA で aCL IgG/IgM,aβ2GPI IgG/IgM
比較したところ,全ての抗体検査において APS 患
を測定した
者群では他の患者群に比べ有意に高力価を示した
.
3, 4)
簡潔に説明すると,aCL ELISA もしくは aβ2GPI
(図 1 ).健常人 10 例では home made ELISA,APL
ELISA はそれぞれカルジオリピン,β2GPI をプレー
パネルいずれの検討においても,全ての aPL が陰
ト底面にコートし,リン酸緩衝生理食塩水(PBS)
性であった.
で 2 回洗浄し,非特異的蛋白結合を抑制する為に
3 %ゼラチン 50 ml+ 1 %のウシ血清アルブミンを
APL パネルの測定精度
用いる.β2GPI ELISA に用いるプレートは底面を予
表 1 に APS 診断における APL パネルの感度,特
め放射線照射により表面処理された micro titer plate
異度,陽性尤度,陰性尤度,オッズ比及び正分類
(MaxiSorp; Nunc 社)であり,これによりプレート
率を示した.APL パネルはいずれの抗体検査にお
表面に β2GPI が結合する陰性荷電を作り出す.
いても 90%以上の高い特異度を示した.また,感
その後,プレートは 1 時間室温で incubate し,
度は,aCL,aβ2GPI のいずれも IgG 抗体検査におい
PBS-Tween20 で 3 回洗浄した.アルカリフォスファ
てそれぞれ 68.3%,75.0%と高値であった.一方,
ターゼを結合した抗ヒトヤギ IgG/IgM 抗体を用い
IgM の aCL お よ び aβ2GPI の APS 診 断 に お け る 感
て検出する.
度はそれぞれ 25.0%,28.3%と比較的低値であった
APL パネルによる抗体測定の基準値は前述通り,
( 表 1 ).APL パ ネ ル で は aCL IgG,aβ2GPI IgG が
20 U/ml と設定されている.Home made ELISA の基
0.86 と比較的高い正分類率を示した.APS 群におい
準値は,これまでの報告通り ,いずれも 132 人の
て各抗体の単独陽性例は aCL IgG 3/61 例(4.9%),
健常人コントロールの 99 パーセンタイルから,IgG
aCL IgM 1/61(1.6 %),aβ2GPI IgG 4/61(6.6 %),
aCL が 18.5 IgG phospholipid units 以上で IgM aCL は
aβ2GPI IgM 3/61(4.9%)であった.
5)
日本臨床免疫学会会誌(Vol. 38 No. 3)
160
図 1 各患者群における APL パネルを用いて抗リン脂質抗体価
抗リン脂質抗体症候群(APS),全身性エリテマトーデス(SLE),非 SLE 膠原病患者(collagen disease),膠原病外来を受診し
た非膠原病患者(other),消化器疾患患者群(慢性ウィルス性肝炎患者;hepatitis)の各患者群において APL パネルを用いて aCL
IgG(A)
,aCL IgM(B),aβ2GPI IgG(C),aβ2GPI IgM(D)について測定した.縦軸は各抗体価を示しており,単位は U/ml.
APS 群は全ての抗リン脂質抗体価において p < 0.0001(Kruskal-Wallis 検定)で他群より高値を認めた.グラフ上,aCL IgG, aCL
IgM, aβ2GPI IgG, aβ2GPI IgM それぞれ 6000 IU/ml, 100 IU/ml, 12000 IU/ml, 1000 IU/ml をデータプロットの上限値として,これら以
上の力価を示したデータも上限値としてプロットしている.
表 1 APL パネルによる測定結果と抗リン脂質抗体症候群
感度(%)
(95% CI)
特異度%
(95% CI)
PLR
(95% CI)
NLR
(95% CI)
OR
(95% CI)
正分類率
(95% CI)
aCL IgG
68.3
(55.0−79.7)
93.7
(88.4−97.1)
10.9
(5.8−20.8)
0.34
(0.23−0.47)
32.1
(13.6−75.8)
0.86
(0.812−0.91)
aβ2GPI IgG
75.0
(62.1−85.3)
90.2
(84.1−94.5)
7.7
(4.61−12.9)
0.28
(0.17−0.41)
27.6
(12.4−61.5)
0.86
(0.82−0.91)
aCL IgM
25.0
(14.7−37.9)
97.9
(94.0−99.6)
11.9
(3.8−37.4)
0.77
(0.64−0.86)
15.6
(4.6−52.5)
0.76
(0.70−0.82)
aβ2GPI IgM
28.3
(17.5−41.4)
99.3
(96.2−100.0)
40.5
(7.1−236.0)
0.72
(0.60−0.82)
56.1
(9.1−339.4)
0.78
(0.72−0.84)
いずれか陽性
84.0
(64.6−94.1)
90.1
(82.0−94.9)
8.49
(4.46−16.2)
0.18
(0.072−0.44)
47.83
(14.2−161)
0.88
(0.83−0.95)
2 項目以上陽性
67.2%
(54.3−77.9)
93.4%
(87.8−96.6)
10.24
(5.31−19.7)
0.35
(0.24−0.51)
29.2
(12.4−68.5)
0.86
(0.81−0.91)
3 項目以上陽性
20.7%
(12.2−33.0)
99.3%
(95.5−100)
28.3
(3.77−213)
0.80
(0.70−0.91)
35.5
(6.32−199.3)
0.76
(0.70−0.82)
4 項目陽性
17.2%
(9.5−29.2)
100%
(96.6−100)
測定
0.83
(0.74−0.93)
aCL; 抗カルジオリピン抗体,aβ2GPI; 抗 β2GPI 抗体,PLR; 陽性尤度比,NLR; 陰性尤度比,OR; オッズ比,95% CI; 95%信頼区間
0.75
(0.69−0.81)
奥・完全自動化測定器による抗リン脂質抗体測定
APL パ ネ ル と 従 来 の ELISA 検 査(home made
161
測定抗体数と APS 診断
APL パネルにおいていずれか 1 個以上の aPL が
ELISA)
これら APL パネルでのデータは従来の ELISA 検
陽性であった場合(表 1「いずれか陽性」)の APS
査(home made ELISA) に よ る 結 果 と 同 様 で あ り
診断に対する感度・正分類率は特定の自己抗体が単
(表 2 )
,APL パネルと従来検査との間で APS 診断
独陽性である場合より高値であり,陽性抗体数が増
に関する抗体陽陰性の一致率を見る為に,κ 値を算
えるに従って,感度・正分類率は低下し,特異度は
出したところ,各検査項目において,0.6 以上であ
上昇した(表 1 ).
り,従来の検査との相同性が高いことが判明した
また,各患者群における陽性抗体数を表 3 に示し
(抗カルジオリピン IgG/IgM,抗 β2GPI 抗体 IgG/IgM
た. 4 種の aPL 全てが陽性であった患者 10 例は全
の κ 値;0.64, 0.65, 0.72, 0.75).これらデータは,対
例が APS であった. 3 種の抗体陽性例は APS 群で
象コホートを膠原病患者(APS 患者+SLE+非 SLE
4/61 例( 7 %),SLE 群で 1/37 例( 3 %)であった
膠原病患者)とした場合や,膠原病外来受診患者
が,他群では 0 例であった.更に 2 種の抗体陽性例
(膠原病患者 + 膠原病外来受診の非膠原病患者)と
は APS 群では 27/61 例(44%)と他群に比べて高
値であった(SLE 2/37 例( 6 %),非 SLE 膠原病群
した場合でも同様であった.
1/53 例( 2 %),非膠原病群 1/16( 6 %),消化器
疾患群 0/34( 0 %),健常人 0/10( 0 %)).
表 2 Home made ELISA による測定結果と抗リン脂質抗体症候群
感度(%)
(95% CI)
特異度%
(95% CI)
PLR
(95% CI)
NLR
(95% CI)
OR
(95% CI)
正分類率
(95% CI)
aCL IgG
71.9
(59.0−81.9)
92.2
(85.1−96.2)
9.26
(4.67−18.4)
0.30
(0.20−0.46)
30.4
(12.3−75.2)
0.85
(0.80−0.91)
aβ2GPI IgG
62.5
(42.6−78.8)
94.3
(86.8−97.8)
10.88
(4.40−26.9)
0.40
(0.24−0.67)
27.3
(8.38−89.1)
0.87
(0.81−0.94)
aCL IgM
22.0
(13.3−34.3)
100.0
(95.6−100.0)
aβ2GPI IgM
21.7
(9.4−42.5)
97.8
(91.7−99.8)
9.78
(2.03−47.2)
0.80
(0.64−1.00)
12.2
(2.53−59.2)
0.82
(0.75−0.89)
いずれか陽性
95.5
(76.2−100)
90.1
(82.0−94.9)
9.65
(5.16−18.1)
0.05
(0.01−0.34)
191.3
(32.07−1142)
0.91
(0.86−0.96)
2 項目以上陽性
68.2%
(47.1−83.7)
90.8%
(83.2−95.2)
7.42
(3.74−14.7)
0.35
(0.19−0.65)
21.2
(7.06−18.2)
0.87
(0.81−0.93)
3 項目以上陽性
31.8%
(16.3−52.9)
92.9%
(85.7−96.7)
4.46
(1.74−11.4)
0.73
(0.55−0.98)
6.07
(1.93−19.1)
0.82
(0.75−0.89)
4 項目陽性
4.3%
(0.0−23.0)
100%
(95.0−100)
測定
0.78
(0.68−0.89)
0.72
(0.65−0.79)
0.96
(0.88−1.04)
0.81
(0.73−0.88)
aCL; 抗カルジオリピン抗体,aβ2GPI; 抗 β2GPI 抗体,PLR; 陽性尤度比,NLR; 陰性尤度比,OR; オッズ比,95% CI; 95%信頼区間
表 3 各群における APL パネル陽性症例数
APS
SLE
膠原病
非膠原病
消化器病
健常人
0 個陽性
1 個陽性
2 個陽性
3 個陽性
4 個陽性
8 例(13%)
12 例(20%)
27 例(44%)
4 例( 7 %)
10 例(16%)
31 例(84%)
3 例( 8 %)
2 例( 6 %)
1 例( 3 %)
0
45 例(85%)
7 例(13%)
1 例( 2 %)
0
0
13 例(81%)
2 例(13%)
1 例( 6 %)
0
0
29 例(85%)
5 例(15%)
0
0
0
10 例(100%)
0
0
0
0
合 計
61 例
37 例
53 例
16 例
34 例
10 例
膠原病 ; 非 APS 非 SLE 膠原病患者群,非膠原病 ; 非膠原病患者群(膠原病外来受診),消化器病 ; 消化器疾患患者群(慢性ウィルス性肝炎患者群)
.
日本臨床免疫学会会誌(Vol. 38 No. 3)
162
これらから複数の抗体陽性例は APS 群(41/61 例
を来しやすいと考えられている .
8)
(67%)
)で他群(SLE 3/37 例( 9 %)
,非 SLE 膠原
これらを踏まえて,多数の aPL の抗体価を定量
病群 1/53 例( 2 %)
,非膠原病群 1/16 例( 6 %),
的に評価する試みがなされている.著者らは APS
消化器疾患群 0/34 例( 0 %)
,健常人 0/10 例( 0
患者を含めた膠原病患者全体における aPL データ
%))に比べて有意に高値であった(p < 0.0000001,
を用いて,各 aPL の存在や抗体価の血栓症に対す
Kruskal-Wallis 検定).
るハザード比を測定し,それを数式処理することに
よって,抗リン脂質抗体スコアを定義した.このス
5.考 察
コアは,適切なカットオフを設定することにより,
今回の結果から,APL パネルによる抗体測定は
従来の APS 分類基準に比べ感度・特異度共に良好
従来法での測定と同等の検査能があることが判明し
な APS 診断に寄与するツールであることや,スコ
た.これまでの報告でも,IgG 検査(aCL,aβ2GPI)
ア高値が膠原病患者において将来の血栓発症の極め
の APS 診断における感度は高値で,IgM 検査は特
て高いリスクであることが判明した .このスコア
異度が比較的高値であることは明らかであったが ,
は他施設において validation がされている
今回も同様であった.
スコアは 14 種類の aPL を測定することにより計
6)
9)
.APL
5, 10)
今 回,aCL,aβ2GPI 両 者 共 に 陰 性 で あ っ た APS
算されるのだが,より少数の aPL の組み合わせで
患者は APL パネルの検討では 8/61 例,home made
も同様に APS 診断や血栓症の予測に寄与すること
ELISA では 6/61 例であった.一般に,APS 患者に
5)
が 確 認 さ れ て お り(modified aPL score) ,aPS/PT,
おいて,ループスアンチコアグラントでのみ診断可
aCL, aβ2GPI を用いた検討でも現在の分類基準より
能と考えられる割合は 20~40%前後とばらつきがあ
良好な診断能を有することが判明している.今後,
るが,今回の患者コホートでは比較的低頻度であっ
aPL の自動測定化を抗リン脂質抗体スコアのような
た.前述のようにループスアンチコアグラントは検
抗体価の定量評価ツールと併用することにより,良
査に関与する不確定な要素が多く,また煩雑であり
好な APS 診断能や血栓予測能に寄与する可能性が
正確な検出・測定が困難である.近年,ループスア
高い.
ンチコアグラントの主要な対応抗原が β2GPI の他に
プロトロンビンであることが判明し,フォスファチ
終わりに
ジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体(aPS/PT)
抗リン脂質抗体の測定はあらゆる血液検査の中
が aCL, aβ2GPI と並んで APS に特異的な自己抗体,
でも難解で検査室の負担は大きい.今回,全自動
すなわち aPL であることが指摘されている.更には,
APL 測定システムである ACL アキュスターが従来
これら 3 抗体(aCL, aβ2GPI, aPS/PT)を用いること
の home made ELISA での検討と比べ同等の aPL 検
によってループスアンチコアグラント検査自体を代
出能を有していることを明らかにした.これら機器
替できる可能性も指摘されている .即ち,aPS/PT
を有効に利用することによってより簡便に aPL を
を含めた測定を今回の様な自動測定機器を用いて行
測定できるようになり,ひいては APS の正確・迅
うことは aPL の測定を容易にし,APS の診断能を
速な診断につながるものと考える.
7)
高める可能性が高い.
今回の APS 患者コホートでは,APL パネルで測
定した 4 種の aPL それぞれの単独陽性例を認めた.
また, 4 種の検査を用いることにより, 3 種類以下
の場合に比べ APS 診断の感度・正分類率が上昇す
ることが明らかになった.実際に APL パネルでの
検討では,複数の aPL が陽性である割合は APS 群
において他群に比べて高値であった.これらは,以
前から報告されており,APS では膠原病患者の aPL
陽性例や,感染症などに際する一時的な aPL 出現
例に比べ,aPL が多種・高力価で出現しやすいとさ
れ,更には APS の中でもそのような症例では再発
文 献
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