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東京工業大学 リベラルアーツセンター 理系女子応援プロジェクト 2013.6

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東京工業大学 リベラルアーツセンター 理系女子応援プロジェクト 2013.6
東京工業大学 リベラルアーツセンター 理系女子応援プロジェクト 2013.6.13 (Thu)―改訂版―
―理系×女子、リケジョ。
“理系女性ならではの可能性”
“社会で活躍するために、今身につけておくべき素養”
これらについて学び、議論する場を設けることを目的に立ち上がったプロジェクト―
それが
です。
人生を楽しむ達人からのメッセージ
リケジョ(理系女子)応援プロジェクトは、“リケジョであることを活かして、社会で活躍したい!”
という思いを持った7名で構成された、リベラルアーツセンターの学生プロジェクトです。
私たちは、2012年6月から活動を始め、スタディツアーと称し、
様々な分野で活躍されている女性へのインタビューを行ってきました。
そこで得たことを発信したい思いから、資生堂の蓑田さん、ライターの片瀬さんをお招きし、
講演会とディスカッションのイベントを開催しました。
これらの活動をまとめたのが、本冊子「RIKEJO 8」※なのです。
本プロジェクトを通して出会ってきた女性たちはまさに、人生を楽しむ達人!
この冊子には、自分を活かして楽しく生きるためのヒントが散りばめられています。
理文・性別・年齢・国籍、その他さまざまな属性に関わらず
参考にしていただけることが、たくさんあると思います。
たった40ページの冊子ですが、あなたの心に響く言葉が見つかれば、幸いです。
東京工業大学 リベラルアーツセンター
リケジョ(理系女子)応援プロジェクト リーダー 原田真実
※.本冊子は、メンバーの7名に、プロジェクト立ち上げ当初から常に一緒に歩んで下さった、リベラルアーツセンター職員の
大里英里さんを合わせた8名、という意味を込めて「RIKEJO 8」と名付けさせていただきました。
Contents
1.メンバー紹介 …………………………… 2
2.About us ……………………………… 4
3.スタディツアー ………………………… 7
(1)東工大 山口しのぶ研究室訪問
―理系と文系の融合をめざして
……………… 8
(2)ソニー株式会社 ダイバーシティ開発部訪問 ………12
―女性が活躍しやすい社会、会社をつくるには?
(3)資生堂リサーチセンター新横浜訪問 ………………18
―科学を一般的に伝え、世間に知的ツッコミを入れる
(4)日経BP社訪問
………………24
―リケジョでよかった!理文を繋ぐ、伝える仕事の楽しさ
4.講演会「私たちの活きる今と未来」…30
―輝く理系女性と考える、多様性社会
資生堂 蓑田裕美さん×ライター 片瀬京子さん
5.感想…………………………………38
6.まとめ………………………40
あとがき
2
メンバー紹介
メンバー紹介
(編集:山元奈緒)
リーダー/イベント企画/ソニー・日経BP社 ST※担当
生命工学科
2年
原田 真実(はらだ
まみ)
理系女子の可能性を探りたい、色々な人と出会いたい、ということ
でこの「リケジョ応援プロジェクト」を立ち上げました。
今年の目標は、
“自分を褒められる自分になること”。色々なことに
挑戦しながらも、基本となる生活リズムを崩さないようにしたいで
す。将来は、漠然としていますが、人と人を繋ぐ仕事に就きたいと
思っています。
※以下、ST…スタディツアーのこと
記録/イベント企画/資生堂 ST担当/刊行物総編集
生命工学科
2年
荻野 紗良(おぎの
さら)
自分の将来像が漠然としているので、今活躍されている理系女性
にお会いして見識を広げ、学生のうちに何をすべきなのかを伺い
たくて参加しました。
今年の目標は、色々なことに挑戦し、夢に向かって積極的に動く
こと!また、自分のキャパを知って自己管理能力を高めたいです。
将来は、医療に関わる研究をしつつ、
科学を伝える仕事をしたいと思っています。
副リーダー/山口研究室 ST担当/刊行物デザイン
生命工学科
2 年 境澤 穂波(さかいざわ
ほなみ)
大学2年生になってから、自分の世界が狭いなと感じることが
多くなり、視野を広げたく、このプロジェクトに参加しました。
去年は、たくさんの人に出会っただけで終わってしまったの
で、今年はその先へ行きたいなと思っています。
興味の幅が広がりすぎてまだ将来の夢は決まって
いませんが、やりがいのある仕事を見つけて
一生働き続けたいです!
エラー! 指定したスタイルは使われていません。
メンバー紹介
資生堂 ST担当/刊行物デザイン
生命工学科
2 年 張 繆儿(ちょう
もうじ)
私は中国から来た留学生です。留学を通して、様々な視点や
考え方を得、見聞を広げていきたいと思っています。このプ
ロジェクトには、日本の社会や会社のシステムを知る良い機
会だと思い参加しました。 将来は、医療や創薬について研究
し、バイオテクノロジーを用いて人々の
健康や社会に貢献したいと考えています。
ソニー ST担当/刊行物デザイン
社会工学科
2年
前河 一華(まえかわ
いちか)
ゼロから立ち上げるプロジェクトに興味があり、リケジョ応
援プロジェクトに参加しました。
今年の目標は、今後も続けていける「何か」を見つけること。
久しぶりに楽器を始めようかと考えています。所属する学科
が扱う分野が多岐に渡っていて、まだ将来のことが
決まらないので、そんなことも含め、色々模索
する年にしたいです!
資生堂 ST担当/刊行物デザイン
生命科学科
2 年 宮下 梨菜(みやした
りな)
大学2年生になってから、何か新しいことを始めたいと
思っていたところ、リケジョ応援プロジェクトの存在を
知り、参加させていただきました。
今年は今までよりアクティブに活動したいなと思ってい
ます!将来についてはまだ何も決まっていないので、
リケジョの活動を通して学んだことを生かし、
これから考えていきたいと思います。
山口研究室・日経BP社 ST担当/刊行物リーダー
生命工学科
2年
山元 奈緒(やまもと
なお)
単調な大学生活に飽き、刺激が欲しい、何か自分自身が動
いてひとつのことを成し遂げたい、と思っていたところ、
メンバーの1人からこのプロジェクトについて聞き、
やるしかないと感じ、参加しました。
今年の目標は、英語を極めること、留学生との交流を
もっと増やすこと、専門科目も抜かりなく勉強する
ことです!将来は、「科捜研の女」になるか、
国際機関で働きたいと思っています。
3
4
About Us
Start
―理系×女子、リケジョ。
日本の大学生の約10%しかいない、希少な存在。
「リケジョであることを活かして社会で活躍したい!」
と思っても、不安がいっぱいあります。
“理系は「常識がない」とか「コミュ障だ」とかよく言われるけど、
理系と文系の間にギャップはあるのかな?”
“理系で働く女性は少ないけど、
それって女性が不利な環境にあるってことなのかな?”
そんな不安を払拭したい気持ちから、このプロジェクトは始まりました。
Process
2012
6.15
プロジェクト発足
8.7
スタディツアーⅠ
東工大 山口しのぶ研究室
9.7
スタディツアーⅡ
ソニー
10.31
スタディツアーⅢ
資生堂
12.12
スタディツアーⅣ
日経BP社
2013
2.16
イベント
「私たちの活きる今と未来
~輝く理系女性と考える多様性社会~」
刊行物「RIKEJO 8」 発行
6.13
刊行物「RIKEJO 8」改訂版 発行
About Us
Activities
~スタディツアー~
東工大
山口しのぶ教授
実際に社会で活躍されている理系
女性、およびそのような女性に
関わる方々を訪問しました!
Study
tour
ソニー
そこで、実際の仕事や今後私たちに求
萩原貴子さん
ツアーは、プロジェクトメンバー以外
前田奈津子さん
からも参加者を募り、男女問わず多く
資生堂
蓑田裕美さん
められることについて、伺いました。
の人に参加していただきました。
毎回、視野が広がるような刺激を与え
て頂き、非常に有意義な時間を過ごす
ことが出来ました。
日経BP社
高畠知子さん
中川ヒロミさん
山根小雪さん
片瀬京子さん
~イベント~
2013年2月16日
『私たちの活きる今と未来
~輝く理系女性と考える多様性社会~』
というイベントを開催しました。
13:30~17:30
理文も性別も年齢も関係ない!
多様な属性の方々が、約60名集まって
第一部:講演(対談)
下さいました。
第二部:discussion
キーワードは下の2つ。
Guest
・多様な属性が活かせる社会
・自分を活かす
対談形式の講演の後、参加者を少人数の
グループに分け、ディスカッションを行
いました。
(報告は30ページ)
Event
片瀬京子さん
蓑田裕美さん
5
6
About Us
―2012年春、東工大に新しい風が吹いた
理系=オタク・常識がない・コミュニケーション能力に乏しい
というマイナスイメージから、合コンしたくない大学ランキング No.1 にまで輝いた、東工大。
ここに「リベラルアーツセンター(以下、CLA:Center for Liberal Arts)」が設置されました。
「東工大生の人間としての教養、つまり“根っこ”の部分を担う教育の場を創造する」
これがCLAの使命です。
ガチガチの理工系大学で「教養は大事!」と声を上げることは
上記のイメージを払拭する手助けになると思います。
いつか東工大生がモテる日がやってくるかも?
さて、CLAには、学生プロジェクトというものがあります。
その一つが私たち、リケジョ応援プロジェクトです。
私たちの発足当初の目的は、
「“理系女子ならではの可能性”、“社会で活躍するために、今身につけておくべき素養”
などについて学び、議論する場を設けること」でした。
議論の場、つまり何かしらのイベントを企画することが目的だったのです。
しかし、そこですぐに壁にぶち当たりました。
“理系女性ならではの可能性”、“社会で活躍するために、今身につけておくべき素養”
って何なのでしょう?
まだまだ未熟で、社会のことを全然知らない私たちには、それを考える素地がありませんでした。
そこで生まれたのが、スタディツアーです。そこでは、
イベントチラシ
実際に社会で活躍されている女性の方々に、インタビューに伺いました。
東工大、ソニー、資生堂、日経BP社・・・
様々な分野の輝く女性の方々にお会いし、たくさんの刺激を受けました。
スタディツアーを通して私たちは、今の社会の実情を知り、新しい発見をしまし
た。
そして何より、将来に対し前向きに考えることが出来るようになりました。
このスタディツアーで得たことを、多くの人と共有し、将来を考える上で参考
にしてもらいたい!
そうした気持ちから、この冊子の作成、2月16日のイベント開催をするに
至りました。
冊子には、読者が輝く自分になるためのヒントを得られるように、
スタディツアーで伺った内容を、惜しみなく掲載しています。
イベントには、講演者としてスタディツアーでお世話になった、
資生堂の蓑田さん、ライターの片瀬さんにお越しいただきました。
イベントについては、本冊子30ページに報告がまとめられています。
(文責:原田真実、編集:境澤穂波)
Study Tour
東工大 山口しのぶ研究室訪問
7
ソニー訪問
国際機関で働いていた経験を活かし、グローバル
だれもが知っている大企業、ソニー。そこで
に活躍されている女性研究者山口しのぶ先生。そ
Diversity 化に取り組む萩原貴子さん、齋藤麻衣子
の視点、考え方は刺激的で、まさにこれからの社
さんから、現在の日本の女性の社会進出の現状、
会に必要なものだと感じられることばかり。“理
これからどのような社会にしていくべきなのかに
系、文系という枠組みは自分たちが勝手に作って
ついて、深く考えさせられる機会を頂きました。
いるのでは?”“24時間自分の時間なのは学生の
Diversity をキーワードに女性活躍推進を目指す
うちだけ!”など、心動かされるメッセージや、理
お二人のお話、そして現在ソニーで活躍されてい
文の枠を越えた様々な活動をなさっている経験
る女性研究者の方々の経験談には、これからの社
豊富な先生のお話、必読です!
会を生き抜くためのヒントが詰まっています!
全 4 回のスタディツアーのまとめを、メンバー一同、心をこめて書き上げました。
皆さんと共有したいお話がたくさんつまっています。
どうぞ、ご覧ください!
資生堂訪問
日経BP社訪問
皆さん、サイエンスコミュニケータという存在を
今ご活躍中の4人の女性記者・編集者・ライターの
知っていますか?一言で言うと、科学を様々な年
皆さんは実は全員理系出身。理系というバックグ
齢やバックグラウンドの人に分かりやすく伝える
ラウンドを強みとし、大学時代に学んだ知識を存
人です。そのサイエンスコミュニケータの第一人
分に活かして働かれています。そんな皆さんに、
者である蓑田裕美さんは、資生堂の研究開発職も
伝える仕事を選ばれた理由、仕事とプライベート
経験され、様々な活動に携わっています。学生時
の両立、忙しい中でも美を保つ秘訣など、リケジョ
代に多くの経験をし、自分の好きなことに積極的
が気になる質問をたくさんぶつけました!“働く
に取り組まれている蓑田さんの生き方に、刺激を
女性の理想像”のお話し、ぜひご覧ください!
受けること間違いなしです!
(文責:境澤穂波、編集:山元奈緒)
8
Study Tour 1. 東京工業大学 山口しのぶ教授
理系と文系の
融合をめざして
理
系
×
国
際
協
力
Study Tour 1. 2012.8.7 (Tue)
東京工業大学
学術国際情報センター
山口研究室
や ま ぐ ち
山口しのぶ
教授
山口しのぶ教授は国連で勤務された経験を生かして、「世界の未来に貢献できるグローバルエンジニア
の育成」に力を入れる、素敵な先生の一人です。
記念すべきスタディツアー第1回目は、我々の大学でグローバルに活躍されている山口教授にお話をう
かがいました。境澤と山元が企画し、プロジェクトメンバー5人で研究室を訪問し、インタビューの後、
研究室の方々ともお話させていただきました。
以下、山口教授の研究内容のご紹介とQ&Aをお送りします。
(文責:境澤穂波、編集:張繆儿/前河一華、撮影:前河一華)
Profile
職歴
東京工業大学学術国際情報センター教授 (2006)
東京工業大学学術国際情報センター助教授 (2002)
青山学院大学文学部講師 (1999-2002)
コロンビア大学教育大学院国際開発科助手 (1997-1998)
国連教育科学文化機関パリ本部教育局、北京事務所教育専門(1991-1997)
Study Tour 1 東京工業大学 山口しのぶ教授
山口教授の研究内容
山口教授は学術国際情報センター先端研究部門情報技術国際共働分野の教授として国内外の政府機関および国際機
関との協働のもと、情報通信技術(ICT)を活用した開発プロジェクトに取り組み、現在はモンゴル国とラオス人民民主共
和国において持続可能な開発に関する研究を行っています。
モンゴル国においては、2004年以来、ICTを活用した教育の質及び機会の向上を目指す取組みを続け、同国の教育者、
教育行政官等に専門的・技術的アシスタンスを与えるとともに、現地の状況に適した効果的かつ持続的なICTの活用法を
探るための調査と評価を行っています。2012年9月にはモンゴル教育省より名誉功労者として表彰されました。
また、ラオスにおいては2003年以来、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)世界文化遺産センターとの連携を通じ、世
界文化遺産地域における持続可能な開発手法の研究を行っています。ラオス政府及びルアンパバーン世界遺産局をパート
ナーとし、ルアンパバーン世界文化遺産地域における情報管理・情報技術分野のニーズアセスメント及び協働プロジェク
トを実施しています。この取り組みは高く評価され、ラオス国から東工大に労働勲章が授与されました。
←後列左から2番目が
山口しのぶ教授
9
10
Study Tour 1 東京工業大学
Q
uestion&
山口しのぶ教授
A
nswer
Q1.
山口先生は国際機関で働いていた経
験がおありですが、将来世界へはばたくため
に 大学生のうちに 身に着けておくべき
素養や、働いていく中で先生ご自身が 学生
時代にやっておけばよかったと感じたこと
を教えてください。
A1.
学生時代は Twilight zone
やりたいことを思いっきりできるのは学生のうち。大学を卒業すると、社会人としての責任、家庭人としての責任などが出て
きて、こうはいきません。私はこの学生の時期を"Twilight zone"とよんでいます。学生にはこの時期にコミュニケーション力
を身につけてほしいと思います。コミュニケーション力とは語学力だけではなく、自ら見聞きし、考え、そして周囲の人と対話
することで備わっていくものです。また、様々な事に興味を幅広く持ち、自分を内面から磨く術をみつけてほしいですね。私の
研究室の学生は国内外の学会に積極的に参加していますが、その際に学生には、「壁の花にはなるな」と伝えます。学会で発表
し、質問に答えるだけでなく、レセプションなどでも、自分の意見を伝え、参加者と対話することで視野を広げていってほしい
と思います。そのためにはコミュニケーション力がとても大事。人の話を聞く力と、理解する力が重要です。
読書で学ぶ
ジャンルを問わず幅広く読書することをお勧めします。実際私は今、読書の時間が欲しいです。社会人になって気づいたこと
は、学校で身に着けた様々な知識は意外なところで役立つということです。中国に出張に行った際、「日本人は中国の文化を勉
強するそうだが、本当か」と尋ねられ、とっさに高校の時に覚えた「春望」を暗唱する機会がありました。その後仕事がとても
やりやすくなった経験には自分自身でも驚いています。興味を幅広く持ち、ハングリー精神で学ぶことは非常に大事です。
内面から輝く-Empathy
また人は、美しくありたいという願望を誰もがもつと思いま
すが、美しさとは外面からだけではなく、内面からもにじ
みでてくるものだと思います。内面から輝くためには、より
多くの人と共感することが大切です。ここでいう共感とは
empathy=心を広く持って人の話を聞く、ということを意味
します。また、自分がおかれている環境、享受しているもの
や出会った人々に対して日々感謝することも大切です。
Q2.
先生ご自身は文系出身の方ですが、仕事の上では理系人と接する機会が多いと思います。その中で、理系人に足りないな
と感じたこと、理系大学で教授をなさっていて理系と文系のギャップを感じたことはありましたか?
Study Tour 1 東京工業大学 山口しのぶ教授
A2.
この質問自体が不思議に思えます。
私にとっては、この質問自体が不思議に思えます。人を理系と文系に分けて考えたことがないからです。大学では多くの人が
共存して学んでおり、それぞれ様々なバックグラウンドや専門性を持っています。よって、多様な考え方や異なる意見があるの
は当然と考えます。UNESCO では年齢、国籍、専門性を含め多様な価値観を持つ同僚と一緒に働いていました。そこにあるのは
「理系」と「文系」という区別というよりは、Background の違いでした。
Q3.
国際機関や、東京工業大学など、男性の多い環境で働いてい
る経験などから、女性の働きやすい環境とはどのようなも
のだと思いますか?
A3.
お互いを尊敬できる環境
女性・男性の区別なく、働きやすい職場とは
・自然に意見が言える環境。お互いに他人の意見を聞く環境
・プロフェッショナルとして尊敬できる環境
・同じミッションを持つ人間がいる環境
ということだと思います。そういう意味では、東工大は非常に働
きやすい環境です。
少数派であることは逆に活かす
私は本学における理系女子はユニークな存在だと思います。女子が少ないという環境で、みなさん少数派は多数派が持ってい
ない視点や意見・価値観を持っていると思います。それを出して行ったらどうでしょうか。少数派であることを逆に活かしてみ
てください。
ストレスの管理
気持ちよく働くためには、ストレスを自分で管理する能力が大切です。私の場合は、気のおけない女友達との会食や、ネイル、
趣味の社交ダンスやジムでの体力づくりを通じてストレスを解消しています。また、喜びをわかちあえる家族がいることはとて
も大切です。
Q4.
A4.
なぜ東工大で働こうと思われたのですか?
自国の次世代の教育に関わりたい
私は21歳まで普通の家庭で育った普通の女の子でした。大学の奨学金で交換留学をしたあと、28歳から国連で働きはじめ、
いろいろな国で働くようになりました。そのような経験から、あるとき、「自国の次世代の教育に関わりたい」と思うようにな
りました。今、日本で大学の先生として働いているのはとても幸運だと思います。今自分が本当にしたいことは何なのか、を考
え、それにしたがって生きていくことは重要だと思います。大事なのは、常に"listen to your heart"の姿勢を保ち続けることだ
と思います。
――初めてのスタディツアーでメンバー一同緊張していましたが、温かく迎えてくださり、
研究室の方々ともお話させていただいて、先生のおちゃめな素顔も垣間見ることができました。
とても楽しいひと時を過ごすことができました。貴重なお話をどうもありがとうございました!
11
12
Study Tour 2 ソニー株式会社 萩原貴子さん
女性が活躍しやすい社会、
会社をつくるには?
Study Tour 2. 2012.9.7 (Fri)
ソニー株式会社
は ぎ わ ら
た
か
ダイバーシティ開発部
こ
萩原貴子
さん
誰もが知っている大企業、ソニー株式会社(以下、ソニー)では、常に女性が活躍しやすい会社ということを考え、実践し
ている専任組織があります。第2回スタディツアーは、ソニーのダイバーシティ開発部を訪問し、統括部長の萩原貴子さんと、
部員で採用・次世代育成に取り組まれている方のお二人に、今の社会・会社で必要とされていることやそのためにすべきこと、
すでに実施されていること等についてお話しいただきました。
原田、前河が企画し、外部からの参加者も募集し、17人で品川のソニーを訪問しました。萩原さんにお話を伺った後、事前
にお送りしていた質問に対する、東工大OGの前田奈津子さんのご回答を紹介していただきました。その後、萩原さんと齋藤さ
んのお二人に、質疑応答のお時間を設けていただきました。
以下、萩原さんのお話とQ&Aをお送りします。
(文責:原田真実、編集:張繆儿/前河一華)
萩原貴子さんのお話
多様性の必要性
ソニーは、技術力を活かして製品やサービス等様々な形で社会へ発信している会社です。ビジネス領域は、スマートフォン
やゲームも含むエレクトロニクス事業、エンタテインメント事業、金融事業等、多岐にわたります。様々なビジネス分野での
グローバルな活動において、多様な価値観を受容し、新たにチャレンジすることは、ソニーのDNAでありイノベーションの源
泉だと捉えられています。ソニーでは、健全な職場環境の整備と多様な人材の採用・育成・登用により、経営戦略としてのダ
イバーシティを推進しています。人はそれぞれ違った属性を持っています。性別や年齢、国籍や障がいの有無、受けてきた教
育、宗教やライフスタイル等々、こういった様々な違いがその人の個性となり、集団に多様性を生み出します。多様な人が集
まると、多様な意見が出てきます。その違いをぶつけ合い、共有し、認め合う過程を通して新しい価値を生み出す可能性につ
ながってきます。多様な個性を発揮し尊重しあうことが、新しい価値やイノベーションを生み出す原動力になるのです。
Study Tour 2 ソニー株式会社 萩原貴子さん
組織集団が変革し続け成長していくためには、そこに集まる人たちが力
を発揮し続けることが重要で、そのためにはそれぞれが対等に意見を言え、
それぞれの個性と能力を活かせることが重要です。簡単なようでなかなか
DIVERSITY
難しいことでもあり、多様性を活かす組織環境を作っていこうという意識
と努力が必要です。
日本人にも求められるリーダーシップ
日本は、欧米に比べて多様性が少ない、あるいは発揮しにくく活かしきれていないと言われています。同じような属性で同
じような価値観の人たちが集まると阿吽の呼吸で物事を決めたり効率的に動いたりすることが可能かもしれません。さらに、
同質性の高い集団の中では、多様性を重んじる集団を率いるリーダーシップを育むことは難しいでしょう。グローバルな環境
では多様性の力がますます重要視されています。今後グローバルに活躍することが期待される日本人にとっても多様性を活か
すリーダーシップも重要だと思います。
女性活躍推進
日本では女性の経済参加が少ない!
日本においては、性別(男女の差)という属性の違いによって生まれる格差の大きさが課題となっています。世界経済フォ
ーラムによるジェンダーギャップ指数によると日本は世界135ヶ国中101位です (2012) 。教育・健康の水準は、日本の女性
は男性とほとんど差がありませんが、経済・政治への参加は大きく男性を下回っています。企業における女性の取締役も日本
では圧倒的に少ないのが現状です。
ソニーでの取り組み
― 育児休暇、復職100%!!メンタープログラム
日本が、“多様性を活かして成長する”ことのできていない事例のひとつが女性の活躍推進が十分ではないということでも
あります。ソニーでは、多様性を活かせる環境整備の第一ステップとして、女性がその力を発揮し、責任ある立場で仕事をす
る機会を増やしていけるよう、女性社員の意識を高める施策、男性社員、上司の理解を深めるための施策等、様々な取り組み
を実施しています。
具体的には、女性対象の座談会やセミナー等のイベントや研修を
実施し、ロールモデルを紹介したり、女性社員のキャリアに関する
意識を高め、リーダーシップについて考えたりする等の機会を提供
しています。ソニーには、育児をしながら仕事をしている女性がた
くさんいます。妊娠した女性社員のほぼ100%が育児休職をとり、
ほぼ100%が復職しキャリアを継続していますが、出産、育児と仕
事の両立を支援するイベントなども毎年開催しています。
また、「メンタープログラム」という制度を女性社員に提供しています。メンタープログラムとは、上司・部下という関係
ではない他部門の先輩をメンター(指南役)として紹介し、キャリア等について相談に乗ってもらう制度です。男性に比べて
身近にロールモデルとなる上司や先輩が少ない女性にとっては、情報収集や相談相手の確保として、また女性同士のネットワ
ーキングを補足する施策として女性社員の方々からも好評です。
13
14
Study Tour 2 ソニー株式会社 萩原貴子さん
女性の潜在力を活かす!
女性は強い!悩むことは自分を強くする
日本企業の中で責任あるポジションで活躍する女性は相対的に少ない現実があり、女性のロールモデルも多くはありませ
ん。女性が企業や社会の中でキャリアを積んでいく中で、出産やキャリアについて選択を迫られる機会は男性よりも多いと言
われています。選択するためには考え悩むことが求められますので、この悩む機会を通して自分の意思を確認し、自分を強く
していくことも可能です。そのためか、多くの女性社員の方々と接していて、一見控えめに見える女性達の底力を感じさせら
れることが度々あります。
これからの男性は女性以上に悩むことが必要!?
女性自身には自分の力と覚悟を再評価して自信につなげて欲しいと思いますし、企業としても女性の力は組織に秘められた
潜在力でありアセットでありもっと活躍の場を広げていければと思います。同時にこれからの男性は、ライフプランを考える
にあたり、女性以上に意識的に自分に向きあい考えること、悩むことが必要なのかもしれないとも思います。
女性はライフプランとキャリアを自分のバランスで整える
女性がライフプランを考えるにあたり、女性の身体や健康について正しい知識をもって、出産にいつ向き合うのかを考える
ことが必要ではないかと思います。これからは、キャリアと子どもを持つことを二者択一で考えるのではなく、出産・育児・
介護等のライフプランとキャリアを自分のバランスで整えていく時代になってくると思います。また、そういう時代にしてい
ってほしいと思います。女性が自分の身体について、正しい知識を持ってライフプランを考えることで、出産、育児、キャリ
アについての選択肢をもつことができるはずですし、それは自分自身が納得し自分の人生に責任を持った生き方ができること
につながると思います。
いろいろな経験を活かして自分が納得できるキャリアを
ある調査で、現在働いている女性の中で、子どものいる女性のほうが子どものいない女性よりもキャリアアップ意識が強い
という結果がありました。子どもを持ちながら仕事をすることは、時間の使い方等様々な制約も出てきているはずですが、キ
ャリアを築くことに対して覚悟をもって向き合う女性達が多いということではないでしょうか。男女を問わず子育てを経験し
ている人達は、時間をより有効に活用しようと効率的に仕事をするケースが多いとか、コミュニケーション能力が高いと言わ
れることがあります。皆さんには、出産、育児、介護等、いろいろな経験を活かして自分が納得できるキャリアを作っていっ
ていただきたいです。
最前列左から3番目が→
萩原貴子さん
Study Tour 2 ソニー株式会社 萩原貴子さん、前田奈津子さん
Q
uestion
Part1.
Q1.
A
&
nswer
まえ だ
な
つ
こ
東工大OG前田奈津子さん
社会で活躍するために、今身につけておくべき素養とは、なんですか?
大学生のうちに○○をしておけばよかった!と思うことがあれば、教えてください。
A1.
貧乏旅行!視野を広げる
バックパックで世界中を貧乏旅行した経験が今役に立っていると思います。旅行の時に自分の持っているお金などの資源をや
りくりしたことは、決められた財源の中で物つくりをする業務に直結していますし、英語圏以外の人とコミュニケーションを取
ったことは、何とか自分の意図を他人に伝えようとする姿勢につながっています。視野を広げるということも大切ですね。
Q2.
今の社会は、家庭と仕事を両立する女性にとって、過ごしやすい社会なのでしょうか?
A2.
過ごしやすい環境は自ら作る
人によって、理想とする両立のバランスは様々です。そのバランスをしっかり決めて、家族や会社など周りの協力を得て、過
ごしやすい環境を自ら作っていくことが大切でしょう。
Q3.
男性と女性では、職場での扱いに差はありますか?また、女性であることや男性であることを、活かせる場面は
ありますか?
A3.
逆にラッキー
ユーザーも多種多様
なので、いろいろな個性
を持ったメンバーで働く
ことは重要です。マイノ
リティである女性は、
それだけで自分の意見
が注目されるので、
逆にラッキーだと
思っています。
15
16
Study Tour 2 ソニー株式会社 萩原貴子さん、前田奈津子さん
Part2.
Q1.
A1.
ダイバーシティ開発部
実際に職場で、女性に対する差別などはあるのですか?
行き過ぎた配慮…
女性に対する直接的な差別はありません。しかし、例えば海外出張の仕事がでてきた場合、「彼女は子どもがいるから大変か
な…」と上司の行き過ぎた配慮で、出張候補から外されてしまったりすることがあると言う話を聞くことがあります。こういう
行き違いを避けるためには、女性社員からは、必要であれば海外出張もしたいという意思や、子どもがいても海外出張をできる
環境は整えられるという状況を上司にも知っておいてもらう必要がありますね。あと、会社によっては採用の時の書類に配偶
者・子どもの欄があるところもあります。残念ながら一般的に日本企業では、女性が転職を考える場合、年齢や家族状況等が男
性よりも制約になることもあるように感じました。
Q2.
女性がキャリアを積んでいく上で存在する壁については、それを無くすことよりも、対処することが重
要だと思います。この考えについてはどう思われますか?
A2.
乗り越えるのが容易でないからこそ、
共に考え支援しあう
そうですね。壁となっていると思われることを認識
し、時間をかけながらでも将来的に変えていくことも
必要ですが、現実的にどう対処していくか考えること
も、今を生きる私たちにとっては重要なことだと思い
ます。その壁を乗り越える人たち、あるいは壁を壁で
ないと社会に思わせる人たちの事例が増えていくこ
とで、社会も変わっていくと思いますが、個々人にと
っては容易なことばかりではありません。だからこそ、
共に考え支援しあうことが必要ですし、将来に向けて
の仕組みや新たな制度を作る側となって意思決定に
関われる女性が増えていくことも必要なんですね。
Q3.
育休後のサポートは、どのようになっていますか?
A3.
様々なイベントや情報発信で環境整備
イクメンも大活躍!
ソニーでは様々な勤務制度を準備し、それぞれの働き方を考えられるようサポートしています。このような制度を積極的に活
用できる環境や上司や同僚の理解が重要です。そのために、男性・女性の両方の社員に対して子育てとの両立を支援するイベン
トを実施したり、マネージャーを対象としたワークライフバランス講演会を実施したりと、様々なイベントや情報発信で環境を
整えています。また、育児休職中の女性社員と職場復帰 1 年目の社員が情報交換をするイベントなども毎年実施し、悩みを共有
し支援しあえる環境を作っています。ちなみに、男性社員も育児休暇を積極的に活用しています。社内のイクメンをHP で紹介
するなど、男性社員も子育てをしやすい環境づくりも進めています。2008年には「にっけい子育て大賞」も受賞しました。
Q4.
多様性があったからこそ、できたことはありますか?
A4.
女性の視点、発想が必要
コミュニケーションも円滑
Study Tour 2 ソニー株式会社 萩原貴子さん、前田奈津子さん
人口比から見てお客様の半分は女性ですね。
「世界の消費は女性が支配する ※1」とも言われます。商品の企画・開発・マーケ
ティングをする担当者が男性ばかりでは女性のお客様のニーズに十分応えられるでしょうか。女性の視点、発想も重要になって
きます。例えば、最近の「ウォークマン」のイヤフォンは、女性好みのデザインや色とりどりの商品が出ていますよね。技術開
発の世界でも、環境対応を意識した技術研究成果に、ステンドグラス風のデザインを組み込んだ次世代の太陽電池「色素増感太
陽電池」等も開発されています。組織やチーム運営においても、男女双方のメンバーの存在があることで、コミュニケーション
が円滑になり一人ひとりの成果がよりあがりやすいということも言われています。
(※1)参考文献『ウーマン・エコノミー
世界の消費は女性が支配する』マイケル・J・シルバースタイン、ケイト・セイヤー著、ダイヤモンド社
Q5.
男性と女性の根本的な違いってありますか?
A5.
熱い男性、クールな女性?
生物学的には脳の構造に違いがあるということは指摘されていま
す。女性は一般的に複数のことを同時にこなすことが得意で、コミュ
ニケーション能力が高いと言われています。性別よりも個々の違いと
いう面もありますので、一概には言い切れませんが、男性には目標に
向かって熱く燃え、女性は現実的に状況判断をする傾向が強いとも言
われています。それが正しいとすると、突出した成果を上げることが
得意な人は男性に多く、安定した成果を上げることが得意な人は女性
に多いと言えるかもしれません。
Q6.
男女関係なく、自分で自分の進む道を切り拓いていくべきだと
考えると、女性活躍推進の活動にも疑問が湧いてきます。
本当に女性のみをサポートする必要はあるのでしょうか?
A6.
客観的に見て、女性へのサポートは必要
性別に関係なく一人ひとりが自分の進む道を切り拓いていくとい
うことは重要だと思います。ただ、現実の社会や組織を客観的に見て
みると、責任のある立場にある女性が少ないという事実があります。女性の能力が男性に比べて明らかに低いはずではないのに、
自分が望むようなキャリアを築けていない女性が数多くいるのは、個人の責任だけではないのではと思っています。キャリアを
作るのに成功してきた女性達、そして男性達も、迷った時、困った時に、直接的か間接的か、誰かのアドバイスや応援等、何か
しらの支援を受けて乗り越えてきています。そういう支援が、色々な理由で女性のほうには届きにくい環境にあるのではないか
と思っています。冒頭に紹介した明らかなジェンダーギャップを少しずつでも解消していくためには、男性の意識改革や制度の
見直し等を含め、女性を対象としたサポートは当面必要だと思います。
Q7.
現場で、女性がストレスに思うことは何ですか?
A7.
女性だからと甘やかされる?
甘えない!
意識の高い女性にとっては、行き過ぎた配慮や女性だからと甘やかされてしまうこと、その結果として自分が成長する機会を
逃しているのではと感じることではないでしょうか。逆に女性はそういう立場に甘えてしまわないように意識していくことが大
切ですね。
――女性の社会進出は多様性社会への一つの切り口である、という新たな視点を得て、
私たちの中でモヤモヤとしていたものが解消され、スッキリしました!男子学生も参加し、
共に考えることができて非常に有意義なスタディツアーでした。お話ありがとうございました!
17
18
Study Tour 3 資生堂 蓑田裕美さん
科学を一般に伝え、
世間に知的ツッコミを入れる
Study Tour 3. 2012.10.31 (Wed)
資生堂リサーチセンター新横浜
み
の
だ
ひ
ろ
み
蓑田裕美
さん
蓑田裕美さんには、東工大生命理工学部で毎年開催している「バイオコン」(学生が小中高生向けの教材を開発するコンテスト)
の審査員でもお世話になっています。資生堂で研究開発職を経て、今は学術室にお勤めになりながら、サイエンスコミュニケータ、
WEcafe事務局代表などの幅広い活動をされていて、私達リケジョの憧れであり、是非お話をお伺いしたいと思いました。
スタディツアー第3回目はHalloweenの日に、資生堂の研究開発拠点であるリサーチセンター新横浜を訪問し、蓑田さんにお話
しいただきました。荻野・張・宮下が企画、プロジェクトメンバーに加えて東工大内の学生、また蓑田さんご紹介の他大院生も参
加して下さり、合わせて16人で伺いました。蓑田さんに資生堂でのお仕事のお話を伺った後、研究施設見学をさせていただき、学
生時代や今のサイエンスコミュニケータとしてのご活動、幸せについて等の質問にお答えいただきました。
以下、蓑田さんのお話とQ&Aをお送りします。
(文責:荻野紗良、編集:張繆儿/前河一華、撮影:張繆儿)
Profile
ウィークエンド・カフェ・デ・サイエンス(WEcafe)事務局代表
国立科学博物館認定サイエンスコミュニケータ
株式会社 資生堂品質評価センター 学術室 勤務
東京大学農学部生命科学研究科修了(修士)。資生堂に就職し、2年間研究職を経験したの
ち学術広報を担当する学術室へ異動した。学生時代に受講した国立科学博物館のサイエンス
コミュニケ-タ養成講座での経験をフルに生かし、自身で立ち上げたボランティアでのサイ
エンスカフェ運営や、社内での学術広報活動を行っており、資生堂では彼女の存在を通じて
研究所のスタッフにもサイエンスコミュニケーションが浸透し始めている。また、女性向け
研究助成制度「資生堂女性研究者サイエンスグラント」を運営し、受賞者を招いてのサイエ
ンスカフェを行うなど幅広く活動している。
Study Tour 3 資生堂 蓑田裕美さん
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資生堂でのお仕事
蓑田さんは、ここで2年間洗浄製品の研究開発をされた後、3年目から同じく研究所に
ある学術室で働いていらっしゃいます。資生堂でのお仕事について伺いました。
メーカーの良さ
自分で作ったもの、携わった商品がお店に並び、お客さまが使ってくれると嬉しいです。B to C(Business to Consumer)のや
り甲斐があります。
楽しい化粧品研究
化粧品は、研究・開発・生産・品質保証・お客さま研究を日々繰り返すことで、よりよい製品に進化していきます。化粧品は皮
膚科学を始め様々な科学が融合した分野。テクノロジーを学んだことのある工学部の方々はそれが強みになることも多いでしょ
う。工学部出身者は化粧品の分野でも活躍しています。
研究所には業務上の理由で髪を明るく染めた方がいたり、顔にパックをしている方がいたりするんですよ。
「間をつなぐ」仕事
私は、研究者と顧客との間をつなぐ仕事をしています。
学術室では、商品に対する顧客からの学術的な問い合わせに答えています。例えば、「dプログラム」は敏感肌の方でも使える
化粧品。商品にどのようなエビデンスがあるのかを説明したり、医師や研究者向けに技術広報をしたりします。異分野の方へ伝え
るときは、いかに言葉を換えて伝えるかが大切です。
さらに、資生堂では「資生堂 女性研究者サイエンスグラント」という、優秀な女性研究者に対する1000万円の研究助成を毎
年行っています。私は、このグラント受賞者をゲストに迎えた「サイエンスカフェ」の企画運営とファシリテータを務めています。
20 Study Tour 3 資生堂 蓑田裕美さん
研究者、技術者に求められる能力
研究者や技術者は、自身の研究内容やその魅力を他者へ伝えられなければなりません。そ
のためには、異分野との交流、自分自身は技術情報を深く理解し、それを伝えるときには技
術をわからない一般の方々の立場で捉える力が必要になります。自分自身も理系の世界に閉
じこもらず、社会を知らなくてはならないのです。
社会貢献をしたい
どのような仕事をするにしても、並行して社会貢献もしたいと思っています。仕事をしながら、社会貢献とし
て自分の能力を活かしたボランティアをしている社会人は多いです。例えば弁護士による無料法律相談や、ウェ
ブデザイナーがNPO法人のホームページ作成を手伝うなどがそうですね。私の場合は、科学イベントを開くサ
イエンスコミュニケータのノウハウを活かし、「予算がないけれどもサイエンスカフェを開催したい」と希望す
る地方の科学館へ無料で出向くなどの活動をしています。「プロボノ」と呼ばれる、こうした各分野の専門家が
職業上持っている知識・スキルや経験を活かして社会貢献するボランティア活動では、うまく仲間を増やせます。
また、企業でもそうしたムーブメントを起こしたいと考えています。
―蓑田さんは様々な人の間をつなぐ、
「真ん中」に携わっているため、関わる人も多く、仕事も多岐に渡って
いるようです。
研究施設見学!
お話の後、蓑田さんに研究施設内をご案内していただきました。とにかく社内がキレイ!
社内の至る所にショーケースがあり、色々な商品を紹介していただきました。ありがとうございました!
←2列目左から2人目が
蓑田裕美さん
Study Tour 3 資生堂 蓑田裕美さん
Q
&
uestion
A
nswer
Q1.
大学生時代はどのように過ごしていましたか?
A1.
進路は修士で決めた
農工大には数学を使わず、英語・生物・地理で入学しました(笑)。絵を描くのが好きだったので、進学先を選ぶときには美
大か農学部で迷ったんです。学部時代は、将来何をしようかまだ決めていませんでした。一度、理化学研究所の広報職に憧れ
ましたが、修士以上の経験がないとだめだと知りました。当時、学部卒だと文系就職、公務員、技術系の営業が多かったのです
が、私の場合は理系の経験をもっと生かしたかったので修士に進学しました。東大院(農学部)ではお米の遺伝子の研究をして
いました。
修士で外に出て、サイエンスコミュニケータという職能を知ったのがM1のとき。そこから将来の方向性が決まった感じです
ね。大学院に在学していた間に、お茶大、東大の社会人向け講座、国立科学博物館の合計3つのサイエンスコミュニケータ講座
に通ってみました。
様々なサイエンスコミュニケータ講座に通ううち、文章を書くことは得意でないことも分かったのですが、イベントコーディ
ネートやファシリテーションの活動は向いていそうだと分かり、それを強みにしようと思いました。学生時代からサイエンス
WEcafe の主催もしていました。
就活にて、「理文を繋ぐ仕事をしたい」
面白い技術者と、文系のデザインする人を繋ぐ仕事をしたいと思い、理系を活かせる仕事がしたくて、食品会社をメインに、
ラジオ会社なども受けました。4つほど内定をいただいた中で、化粧品メーカーは研究、開発、技術広報など色々できそうかな、
と考えて選びました。仕事をするうえでの環境が変化していっても、本質的に面白いから続けよう、と思える仕事が良いと私は
思っています。
Q2.
大学生のうちに身につけておくべき素養は?
A2.
外に出ていく!アルバイトも色々
東工大は教養が充実しているようで羨ましいです!私の時には大学にそうした環境がなかったので、外部に求めたんですね。
先程言ったように、社会人向けの講座や国立科学博物館のサイエンスコミュニケータ講座に通いましたし、人とは違うアルバイ
トも色々しました。明治大学で社会人向けビジネス講座の事務をしたり、不動産屋さんで物件案内・営業をしたり、上野動物園
で観光者向けのアルバイトをしたり!外国人観光客や異文化の方と接する機会が多かったのも楽しかったです。
同じ学科、サークルだけで集まっていると考え方も偏りがちなので、できるだけ外に出て自分と違う価値観の人と出会うと良
いと思います。社会人、違う世代、理系でない人と話すことが大切。その意味でサイエンスコミュニケータは大きかったです。
井の中の蛙にならず、色々な価値観があることを知ることが大切です。
Q3.
研究職の魅力は何だと思われますか?
A3.
誰も解明してないことを解明できる
企業・アカデミックの研究職を問わず、その分野の 1st でいられるのは大きいと思います。研究のわくわく感が楽しい。また、
研究者をアシストする仕事(特許申請をサポートする弁理士や、研究をマネジメントするリサーチ・アドミニストレーターなど)
も意外と沢山あります。
21
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Study Tour 3 資生堂 蓑田裕美さん
Q4.
仕事をしている上で、女性ならではのことはありますか?
A4.
自分の強みを作る!
当社では男女共に活躍しているので、女性ならでは、男性ならでは、ということは特にないですね。ここでは女性はマイノリ
ティーではないので、それ以外の強みがもちろん必要ですね。今のところ、私の強みは、研究所で「サイエンスコミュニケータ」
を名乗って活動していることでしょうか。自分の強みを作り、自分が求められるように努力しています。
Q5.
人生において何を幸せと感じますか?
A5.
幸せの三原則!
良い質問ですね!
就活で苦戦していた頃、本で読んで「幸せの三原則」を知ったんです。幸せは、1つのことで一元的には決まらず、次の3つ
の柱によって決まるというものです。
① self
自分→趣味、思想が充実していること
② intimacy
親しみ→親しい人との関係が充実していること
③ achievement
達成→仕事などの目標があり、充実していること
このお陰で心が折れずに支えてもらえました。大学院時代、自分の研究がうまくいっていなかった時は、他のことができてれ
ばよいと思えたし、今は、趣味ができなくても仕事で目標が達成できている、とか、逆に仕事でうまくいかなくなったら趣味で
科学イベントたくさんやろう、と思えます。
1つのことがうまくいかなくても、他のことで豊かさのバランスをとる。1つのことに偏りすぎると、それが折れた時に辛い
から、他のことで立ち直れるかどうかが大切だと思いますね。
Q6.
A6.
理系と文系を繋ぐとは、どのようなことだと思われますか?
自分にとっては常識でも、他者にとっては「当たり前でない」という姿勢
理文というか、その研究の専門家と専門でない人を繋ぐ、という感じですね。自分が日常的に使っている用語でも、他者にと
っては当たり前でないことを痛感します。そのことを頭に入れながら、言葉で伝えなければいけません。研究者に何かをインタ
ビューするときは、その人の気持ち、立場で、研究者目線で聞きます。それを発信するときは、話を聴くお客さまの「受け手目
線」で話します。
「知的ツッコミ」
「情報を鵜呑みにしない、賢い市民社会を作ること」が私の目標で、それに貢献したいと思っています。
メディアで色々と発信されている「科学」に対して、
「ちょっと待てよ」と知的ツッコミを入れるのです。そして、それを周
りにも促せるようにするのです。知的ツッコミとは、批判的精神のことです。科学でも政治でも必要なスタンスだと思います。
Study Tour 3 資生堂 蓑田裕美さん
Q7.
世間では何かと理系に教養がない、と言われますが、それは世間が理系のことを知らないことも一因に思えます。
理系以外の人も理系に歩み寄るべきではないでしょうか?
A7.
専門家は伝える責任、専門家でない人は歩み寄る
科学でも政治でも、私たち一般市民が専門家に任せてしまうと、主体的に考えることが欠けている傾向にある気がしていま
す。もしも私が政治や哲学分野の出身者であれば、サイエンスカフェではなく哲学カフェを開いていたかもしれません(笑)。
全体的に異分野同士のコミュニケーションが不足しているのかもしれませんね。
おととしアメリカへ行ったときは、一般の人向けの科学雑誌が売れていて、みんなが教養として科学を学ぶ雰囲気がありまし
た。目指すべき社会は、専門家は異分野の方々へ伝える意識をもち、専門でない私たち市民は歩み寄る、その両方が実現する
未来です。本質的には理文に分ける必要はないと思います。芸術も大切ですよね。
Q8.
活動範囲がとても広くて憧れます。どのようにして両立されているのですか?
A8.
ポリシーを持って決めていく!
色々できるなら目いっぱいやる時期も必要です。チャレンジしたいことが多すぎてパンクしそうなときは、優先順位を決めると、
自ずと絞られてきます。私がボランティア活動する際には、
「未来の社会の建設に貢献できることを選ぶ」というモットーがあり
ます。自分なりのポリシーを持って決めていけば良いのです。最初は何でもトライしてみれば良いと思います。私の場合は、色々
なボランティアや趣味にチャレンジしてみたあとに、だんだんと働き盛り世代・子育て世代向けの科学コミュニケーション活動に
集中してきました。
――終始、蓑田さんの明るく素敵なお人柄に引き込まれました。化粧品開発もとても楽しそうで、
研究施設の見学など非常に貴重な体験をさせていただき感謝しております。女子として、もっと化粧品のことも
知りたくなりました!蓑田さんの生き方は格好良くて、リケジョとして本当に憧れます。ありがとうございました!!
23
24
Study Tour 4 日経BP社 高畠知子さん、中川ヒロミさん、山根小雪さん、片瀬京子さん
リケジョでよかった!
理文を繋ぐ、伝える仕事の楽しさ
Study Tour 4. 2012.12.12 (Wed)
日経BP社
た か は た
と
も
こ
な か が わ
高畠知子
や
ま
さん、
ね
さ
ゆ
中川ヒロミ
き
山根小雪
か
た
せ
さん、
き ょ う こ
片瀬京子
さん、
さん、
専門・先端・先見 の3つのキーワードのもと、経営や技術、生活力など様々の分野の情報を提供する日経BP社。
今回は山元と原田企画、第4回スタディツアーとして日経BP社を訪問し、記者・編集者・ライターとしてご活躍さ
れている方々のお話を伺いました。お話を伺った4人の女性はどなたも大学での専門は理工系。しかし、
「自分に研究
は向かない!」ということに気が付き、伝える仕事という道を選ばれました。
大学で学んだ自分の専門知識を最大限に生かし、理系であることを強みとしている皆様のお話に参加者全員が大変
刺激を受けました。自分の仕事を愛し、人生を楽しみ、内面からの輝きがあふれでる皆様と、リケジョの対話の様子
をご紹介したいと思います!
(文責:山元奈緒、編集:前河一華/張繆儿、撮影:張繆儿)
Study Tour 4 日経BP社 高畠知子さん、中川ヒロミさん、山根小雪さん、片瀬京子さん 25
前列左2番目から山根小雪さん、→
中川ヒロミさん、片瀬京子さん
Profile
*高畠
知子さん
津田塾大学卒業後、同年、日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社。日経BP社出版局編集第一部部長(インタビュー当時)に
就任し、2013年1月より出版局長。
*中川
ヒロミさん
青山学院大学大学院
修士修了後、同年日経BP社に入社 。日経コミュニケーションという通信の専門誌で記者を務め、9年後に
単行本の編集部に異動。主にIT系の本を編集。10ヶ月間の産休・育休後、職場に復帰。
*山根
小雪さん
東京農工大学大学院
修士修了後、同年日経BP社へ入社。「日経コミュニケーション」編集部に配属。「日経エコロジー」から
「日経ビジネス」編集部へ異動し、現在に至る。
*片瀬
京子さん
東京工業大学大学院
修士修了後、同年日経BP社へ入社。雑誌編集部に勤務し、現在はフリーのライターとして活躍中 。
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Study Tour 4 日経BP社 高畠知子さん、中川ヒロミさん、山根小雪さん、片瀬京子さん
高畠さん:私の学生時代は、ちょうどパソコンが民間に普及し
はじめてきたときで、パソコンに関する記事が多かったん
です。パソコンだけでなくIT系の雑誌も伸び盛りのときで、
そういった記事にたくさん触れるなかで、自分も新しい技
術について書きたい、技術の面白さを多くの人に伝えたい
と思うようになりました。それでライターという道を選び
Q1.
出版社に入社したきっかけは何ですか?
A1.
研究職でなくとも、
研究経験を活かした仕事
ました。
——片瀬さん
中川さん:昔からエンジニアに憧れていて、身近なもの作れる
人って格好良い!なりたい!って思っていました。それで
機械系の学科に入ったのですが、大学4年生の卒業研究でプ
ログラミングをしたとき、自分のセンスのなさに気が付い
てしまったんです(笑)。もうこれ以上エンジニアの道を続
けるのは無理なんじゃないかな、って思ったのですが、就
活が終わってしまっていて、仕方なく大学院に進みました。
苦痛のマスター2年間を過ごしました。途中で大学院をやめ
たいとも思いましたが、就職口を探してから大学院をやめ
ようと思い、まずアスキーの中途採用試験を受けに行った
んです。そしたら面接で、
「あなたはとりあえず大学院を卒
業しなさい。」って言われちゃって(笑)。まずはアスキーで
バイトさせてもらうことにしました。そのアスキーでのバ
イトがすごく面白くて、もしかして編集の仕事が自分に合
っているのかも、と思い始めました。それで大学院2年生の
就活のとき、日経BP社を受けることにしました。同級生は
みんなメーカーの研究・開発職に応募していましたが、私
山根さん:私は、家族が出版関係の仕事をしていたので、実は
は出版の仕事を選んでよかったと思っています。
出版社には絶対入りたくないって思っていたんです(笑)。
片瀬さん:私は、高専から大学へ編入したので、大学院に進む
私も中川さんと同じくエンジニアに憧れていて、理系に進
のは当たり前だと思っていて、何の迷いもなく大学院に進
んでエンジニアになろうとしていたんですが、向いてなか
みました。でも実際に大学院にいってみると、周りの人々
ったんですよね。研究成果がなかなかでなくて、教授にも
の エ レ ク トロ ニ クス へ の情熱 が 想 像 以上 に すご い も の
「お前研究に向いてないよ。
」って言われちゃったんです!
で・・・圧倒されました(笑)。自分はこんなにエレクトロ
今でも大学院のつらかったときの夢をみますね・・・(笑)。
ニクスに没頭できないなあ、って思って、研究・開発など
とにかく研究職は無理だって思って、何が自分に向いてい
技術を活かす職以外に自分に合う仕事はないかと考えてい
るのかなって考えたんです。話すのが好きで、人の成果を
たんです。たまたま研究室に日経エレクトロニクスという
聞くのも好き、あとはせっかく理系に進んだのだからその
日経BP社の雑誌があって、それでこの会社を知り、ここな
知識やスキルを活かせる仕事がいいな、ということでライ
ら技術職ではなくても、今までの経験を活かした仕事がで
ターの仕事が一番向いているのかなと思いました。当時、
きるんじゃないかな、と思って、受けることにしました。
環境至上主義みたいに環境のことを扱っている雑誌が多か
ったのですが、その中で日経BP社の「日経エコロジー」と
いう雑誌は、経済と環境を結び付けていたんです。その視
点にとても惹かれて、受けることにしました。
1
Study Tour 4 日経BP社 高畠知子さん、中川ヒロミさん、山根小雪さん、片瀬京子さん
Q2.
お仕事をしていて、
“リケジョ”でよかったと
思ったことはありますか?
A2.
技術の「すごい」を共感できる
——山根さん・中川さん
山根さん:たくさんありますね~。例えば、理系の社長さんに
取材に行くと、理系の話題で盛り上がることができるんで
す。彼ら理系男性は、自分がすごいと思う理系技術を、私
たちもすごいと思えることに感動してくれるんです。
中川さん:そうそう、特に理系の取材先の方たちは、「女性が
これほど技術に興味を持っているなんてすばらしい・・・!」
と、好印象を抱いてくれるので、そこからの取材がとても
スムーズに進むんですよね。理系ということで親近感がわ
くみたいで、初対面でも取材がしやすくなりますね。
片瀬さん:
「理系」であることのメリットは思いのほか沢山あ
ると思います。取材相手の方が理系の場合は、化学式や方
程式、技術的な専門用語を使って話しても大丈夫かなと心
片瀬さん:私がコミュニケーションで大切にしたいと思ってい
配される方もいますが、そこについては、安心してもらえ
ることは、目の前の人を好きになる、ということです。例
るのかなと思っています。ただ、一方で、ちょっと大変な
えば自己紹介のとき、
「私は~ということが好きです。同じ
こともあります。私はフリーなので、会社ではなく自分の
興味を持っている人は話しかけて下さい!」と言いがちで
ところに直接依頼がくるんですね。私が理系出身と知って
すが、逆に、自分から積極的にその人の興味について聞い
いる人からは、理系なんだから理系のことはなんでも大丈
てもいいと思います。つまり、目の前にいる人のことを知
夫でしょうというおおまかなくくりで依頼がくるんです。
ろうとするんです。そうして話していると、自分が知らな
だ か らま るで 専 門 外 の 分 野ま で 依 頼 さ れ る ことも あ っ
いことが本当にたくさんあると気が付きます。でも知らな
て・・・そのときは大変なんです(笑)。
いことは恥ずかしいことではなくて、これから学べること
がたくさんあるってこと。だから、まずは目の前にいる人
Q3.
を好きになって、そして恥ずかしいなんて思わずに相手に
コミュニケーションをとるうえで教養を身に着ける
ついてどんどん聞いて、色んなことを知っていけばいいの
ことが大切だと思うのですが、教養を身に着けるために、
かなと思っています。
今、すべきことは何だと思いますか?
A3.
Q4.
本を読む!興味を深めるために
一個人として、人生の中で何を幸せにして生きてい
らしゃいますか?また、その中で日経BP社の立ち位置はど
——高畠さん
のようなものでしょうか?
高畠さん:本を読むことだと思います。やはり本をたくさん読
んでいる人が書く文章は違うなって思います。特に文学系
A4.
の本を読んでいる人は、使っている表現がうまくて、文章
——片瀬さん・山根さん
に深みや説得力があるんです。でも、本を読んですぐ文章
がうまくなるわけじゃないから、今のうちにたくさん読ん
でおくといいですよ。どんな本を読むかはなんでもいいと
思います。まずは興味のある内容の本から始めたらいいん
じゃないかな。
「教養を身に着けるために読まなきゃ・・・!」
という気持ちではなくて、自分の興味を深めるという気持
ちで楽しく読むのが大切ですよ!
理文を「つなげる」仕事が生きがい
2
27
28
Study Tour 4 日経BP社 高畠知子さん、中川ヒロミさん、山根小雪さん、片瀬京子さん
とをしていますよと伝えて、つなげるようなもの。それが
この仕事の面白いところです。
山根さん:私は、理系と文系のブリッジになること、そしてマ
スコミを通じた“世直し”を目標にしています。皆さんも
感じていると思うのですが、あまりにおかしなことが世の
中まかり通っているんです。それに対してマスコミができ
ることは、正しい情報を流して謙虚に世直しをすることだ
と思います。それが私の生きがいのひとつですね。でも一
番の生きがいは取材です!取材をして、様々な業界を見て、
新しく発見することがたくさんあります。世の中にはなん
て素晴らしい人がたくさんいるのだろうっていつも感動し
ます。原稿の締切に追われるのは確かにつらいですけど、
それでも日々の仕事は本当に楽しいし、なんといっても取
材が本当に楽しいので、その楽しさを生きがいに人生を送
っています。
Q5.
中川さん:私は理系エンジニアになることを挫折した身ではあ
仕事もしたいですが、女子としてはやはり結婚願望
りますが、理系エンジニアに対する憧れは今でもとてもあ
があります!プライベートと仕事の両立はどのようになさ
って、彼らを応援したいと思っています。だから、理系の
っていますか?
エンジニアに役立つような本を出すようにしています。例
A5.
えば、私が編集を担当した本の中に、
『スティーブ・ジョブ
たまには無計画、でうまくいく
驚異のプレゼン』という本があります。これは、プレ
——中川さん
ゼンが苦手、英語が苦手な理系の人々がそういう苦手意識
山根さん:そうですね・・・プライベートと仕事の両立を考え
をなくすことに役立てたらな、と思って編集した本です。
すぎると、どちらも中途半端になるんです。だからそうい
理系の人々が活躍する手助けができたらと思って仕事をし
うことは考えないようにしています!
ズ
ています。
片瀬さん:世の中には、お互いに思
い込みを捨てて話をすれば分か
り合えることがたくさんあると
思います。たとえば、理系と文
系の間に壁があるのなら、それ
はお互いがお互いに興味を持た
ないとか、理系はこう、文系は
こうという思い込みがあるかも
しれません。でも、実際に話し
てみると意外と違いがないと分
かることもあるはずです。私の
仕事は、その両者の間で、実は
こっちにはこんなに面白いこと
があるよと、実は同じようなこ
3
Study Tour 4 日経BP社 高畠知子さん、中川ヒロミさん、山根小雪さん、片瀬京子さん
中川さん:今は本を編集することが中心なので、家でも仕事が
できるんです。子どもが寝てから原稿を読んだりしている
――4人の女性の皆様は本当に輝いていて美しいで
ので、子育てと仕事の両立はそこまで大変ではありません。
す。仕事が楽しい!ということがご自分に輝きを与え
私がとても覚えているのは、FacebookのCOO(最高執行
ていて、それがキレイの秘訣なのだと思います。私た
責任者)のシェリル・サンドバーグさんが、仕事をしてい
ちも自分を輝かせることのできる仕事をしたいと強
る女性の、
「結婚や出産によって仕事を続けられなくなった
く思いました。素敵なお話ありがとうございました!
時が不安です」という発言に対して、
「結婚の予定もないう
ちから心配しても仕方がない。先回りをして心配しすぎな
いほうがいい。
」と言ったことです。何でも計画的にするの
ではなくて、その場その場で考える“無計画主義”になっ
てみるといいです。
日経ビジネスオンラインプロデューサー
To
Q6.
仕事以外の趣味は何ですか?
A6.
人間の脳には睡眠と発汗!
柳瀬博一さん
今回の日経BP社訪
問スタディツアーを
——山根さん
アレンジして下さっ
片瀬さん:プロ野球を観ることと、落語を聞きに行くことです。
た柳瀬博一さんは、現
実は以前はどちらとも、絶対つまらない、と思っていたの
在日経ビジネス、日経
ですが、人に勧められて行ってみたら意外と悪くなかった
ビジネス オンライン、
というか、面白かった!それから、今では半ば趣味になっ
双方のメディアを担
ています。
当するチーフ企画プ
ロデューサーとして
中川さん:おいしいものを食べてFacebookで自慢すること!
ご活躍されています。
昨年度より東工大の教授になられた池上彰先生の取材の関係
山根さん:テニスをすることです!早朝にテニスをしてから取
で東工大にいらっしゃった際に、私たちリケジョ応援プロジェ
材に行く、なんてこともあるんですよ!以前は、夏はサー
クトは柳瀬さんに初めてお会いしました。プロジェクトの運営
フィン、冬はスノーボードをしていましたが、それらは普
に関して、たくさんのアドバイスをいただき、そればかりでな
段できないので、テニスを始めました。人間の脳は、徐々
く、今後のスタディツアーの対象として最適な方を何人か紹介
に“ゴミ”のようなものがたまり、鬱々としてくるらしく
して下さるなど大変お世話になりました。今回の日経BP社訪
て、睡眠と発汗だけがこれらを解消できるみたいです。だ
問スタディツアーでは、柳瀬さんのお力で4人もの素晴らしい
からたくさん運動して汗かいて、寝る!
女性ライターの皆様のお話を伺うことができました。また、柳
瀬さんとの打ち合わせの中で聞くお話は大変興味深いもので、
Q7.
落ち込んだときはどうやって気分を切り替えて
打ち合わせそっちのけでずっと聞いていたいと何度も思いま
いらっしゃいますか?
した。
スタディツアーだけでなく、プロジェクトに関してもアドバ
A7.
寝ます!——片瀬さん・中川さん・山根さん
イスを下さり、そしていつも心躍るお話をしていただき、あり
片瀬さん:私は、なんで落ち込んでいるのかを考えます。それ
がとうございました。
で終わりです。ただ論理的に考えて、あとは寝ます!
やなせ
柳瀬
ひろいち
博一さん
1988年、日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社、日
中川さん:とにかく寝ます!それに私は落ち込むより怒る人な
んですよね(笑)!怒りを感じたら、その辺走るか、寝るか、
経ビジネス編集、日経ロジスティクス創刊を経て、199
たくさん食べてリフレッシュします!
6年に書籍部門の出版局立ち上げに参加。2008年まで書
籍編集者として活躍。2008年より日経ビジネスオンライ
山根さん:私は落ち込みが持続しないタイプで、寝ればすっ
きりするんです。
4
ンのプロデューサー。TBSラジオ「文化系トークラジオ
Life」サブパーソナリティとしても活躍中。
29
30
Event 私たちの活きる今と未来 片瀬京子さん、蓑田裕美さん
Event. 2013.2.16(Sat)
〈講演者〉
2013年2月16日(土)、私たちリケジョ応援プロジェクトの活動の締めくくりとして、
スタディツアーでもお世話になったお二人をお招きし、イベントを開催しました。
●片瀬 京子 さん(ライター)
高専から東工大へ編入し、修士課程まで電子工学
Program
を学んでいた片瀬さん。周りがメーカーに就職す
る中、出版業界を選び、日経BP社に就職。現在は
フリーのライターとしてご活躍中。
最近の著書に『ラジオ福島の300日』、『挑む力』、
『誰もやめない会社』などがある。
●蓑田
裕美 さん(資生堂
学術室)
東大農学部の修士課程では、お米の研究をしてい
たそうだ。その後、資生堂に就職し、2年間の研究
職を経て、現在は学術室勤務。
サイエンスコミュニケータの資格を活かし WEcafe
事務局代表としてもご活躍中。
“専門と専門外の人をつなぐ”ことをモットーに、
様々な活動に取り組んでいる。
当日初対面のお二人でしたが、それを微塵も感じさせないほど
息の合ったトークショーを披露して下さいました!さすがです!
お話の後には参加者から多くの質問が飛び交い、大盛況でした。
またこのイベント、参加者がまさに多様!
“理系女性”と書かれたピンクのチラシで広報を行ったにもかかわらず、
半数以上が男性でした。
更に、年齢も中学生から社会人まで、専攻も国籍もばらばら!
様々なバックグラウンドを持った人が集まり、
非常に興味深い会となりました。
イベントでのご対談と質疑応答、ディスカッションを
まとめましたので、ぜひご覧下さい!
↑当日配布したプログラム
Event 私たちの活きる今と未来 片瀬京子さん、蓑田裕美さん
第一部
対談
―片瀬京子さん×蓑田裕美さん―
―お仕事内容・きっかけは―
蓑田さん(蓑)
:まず、ライターとは具体的には何をされているのですか?
片瀬さん(片)
:ライターというと、書くことだけが仕事だと思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、
実は取材する時間の方が長いんですよ。まずは取材し、それを元に記事を作成しています。
蓑:へぇ~そうなんですか!学生の頃から書く仕事をしたいと思っていたのですか?
片:就活時は、既にそう思っていました。でも、修士課程に進んだ時点では、周りの友人と同じように研
究職に就くと思っていたんです。
蓑:ではなぜ今のお仕事に就かれたんですか?
片:修士の時、周りの友人は自分より遥かに電子工学を好きなのだと気づき、その分野は彼らに任せた方
がいいと感じました。そこで、他に自分に出来ることは何だろうと昔を振り返ったところ、中学生の頃先
生に作文をほめられた記憶が、ぽんと浮かび上がってきたのです。そこから、原稿を書く仕事に興味を持
ちました。蓑田さんはどんなお仕事をされているのですか?
Hiromi
Minoda
蓑:資生堂に入社してすぐは、洗顔フォームの開発をしていました。出社し
て最初にやる仕事は試作品で洗顔することだったので、朝は化粧のやる気
が起きないことも(笑)その後、技術広報の部門に移り、今に至ります。
ここでは優れた技術を多くの人が理解しやすい形に翻訳し、伝える仕事
をしています。
片:研究と広報と両方のお仕事を経験されているんですね。
蓑:元々は研究でなく、理系出身であることを活かして人と人を繋ぐ仕事
が出来る場所として、資生堂に就職したんです。私は修士の時に、サイエンスコ
ミュニケーションの分野を知り、社会人向けの養成講座をいくつか受講し、そこでコミュニケーションの
楽しさを再認識しました。思えば中学の美術部時代から、他校との合同展覧会の企画など人を繋ぐ役割を
担うことが楽しみでしたね。
―ライターでは理系出身は強み―
蓑:仕事では、理系出身であること活かせていますか?書く仕事は文学部出身が多いと思っていたのです
が、理系出身で苦労しませんでしたか?
片:全体的には理系出身のライターは少数派ですが、理系の知識が必要な記事は多く存在します。そのた
め、理系出身であることは、大きな強みにできます。
また、日経BP社はビジネス系の雑誌と、理系の専門誌を柱にしている会社なので、理系出身者が他の出版
社よりも多いです。そのため、書くことに慣れていない理系出身者にも、添削して書き直し……という訓
練の場が整っていました。
蓑:理系出身とは言え、自分の専門と異なる分野のことを取材することもありますよね。そんな時でも、
相手に突っ込んで深めていくことが出来ますか?
片:専門分野は狭いので、当然分からない分野もたくさんあります。でも、取材前に著作や研究内容を調
べ、出来る限りの準備をして臨むことで、カバーしようと努力しています。
―仕事の醍醐味は情報のリンクへの期待感―
蓑:仕事の醍醐味を感じるのはどんな時ですか?
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Event 私たちの活きる今と未来 片瀬京子さん、蓑田裕美さん
片:聞いたけど原稿に反映出来ない部分は、現場にいる自分たちだけの記憶に留まります。伝える仕事を
しておきながらなんですが、それが一番の醍醐味だったりするんです(笑)
というのも、その場では聞いたうちの8割しか発信出来なくても、残りの2割が別の機会にリンクして、
それを記事に反映できることがあるのです。溜めておいた2割がいつか繋がるかもしれない、その期待感
が、楽しいのです。
蓑:なるほど。私自身、中学生のころは絵本作家になりたいと思っていて、その頃は理科社会なんて役に
立たない!と思っていたんです。でも大人になって「あ、あれはあの時学んだ……」と、断片的に知って
いたものがリンクする瞬間がよくあるんです。
好奇心旺盛な人って、
“今すぐには役に立たないもの”を学んで、それがいつかリンクする瞬間を楽しいと
思える人なんでしょうね。
―面白いことのために苦手を克服する―
蓑:学生から「自分のやりたい事をどう探せばいいですか?」と質問を受けることがあります。私は、2
0代前半で就いた仕事がいきなり天職だなんて、なかなか無いと思うんです。とにかく与えられた仕事に
対して前向きに取り組むうちに、適職が見えてくると思います。
片瀬さんは、仕事を始めてから「向かないな」と思ったことはありますか?
片:ありますね。取材が苦手でした(笑)。初めはこの仕事って、書くだけだと思っていたんです。でも実
際は、仕事の大半が取材。実は私、元々話すのがあまり好きじゃないので、本当に困りました。最初の三
年間は、どうしてこの仕事を選んだのだと思うこともありましたよ。
蓑:そこで辞めずに続けたことはどうしてですか?なにか試行錯誤されていたんですか?
片:決められた時間内でゼロからものを作っていく雑誌作りの仕事が面白かったんです。面白いことを続
けていくためには、苦手を克服しなければならない、という考えで頑張りました。
今では取材も好きですよ。
蓑:そう、不得意でもやめる必要はないんですよね。面白いと思って取り組むうちに、苦手な部分が補わ
れていく……それが外からは、専門性が高まっていくように見えるのだと思っています。
―バイトや授業は自分への投資―
片:学生時代にはどんなアルバイトをしていましたか?
蓑:私は自分への投資になるような面白いことをしようと思い、明治大学の事務や不動産での物件案内、
動物園の売店など変なバイトをしていました。不動産では、社員と一緒に宅建の勉強をしたり、動物園で
は国ごとの興味の違いを観察したりして、サービス業の面白さを感じましたよ。
片瀬さんは、アルバイト以外に学生生活で印象に残っていることはありますか?
片:文学概論という講義が印象的でしたね。毎週、与えられた課題にその場で答え、紙を提出し、翌週は
その内容をネタに授業が行われるという、参加型の講義でした。あの辺に座っている人の考えがじわじわ
っと伝わってきて、非常に興味深かったです。また、他学科の授業を受けて刺激を受けたりしていました。
蓑:専門以外の授業では、普段と異なる側面での友人の考え方が見えたりして、面白いですよね。
―自分の限界を自分で決めるな―
蓑:自分を知り、自分を活かす方法について、何かお考えはありますか?
片:自分はこうだ、と決めつけないようする事が大事だと思います。私は普段はあまり自分の経歴を話さ
ないようにしています。理系出身、新聞社系出版社出身というと、いかにも難しい科学記事が得意で好き
という印象がありませんか? でも、ほかのものもやってみたいので、そういう枠は自分では設けない、決
Event 私たちの活きる今と未来 片瀬京子さん、蓑田裕美さん
めない方がいいかのなと思っているのです。
蓑:私も、得意不得意を早いうちに決めつけないことが大事だと思いますね。私は、何事にも主体的に取
り組んでいく中で、自然と自分の得意不得意が見えてくると思っています。将来やりたいことだって、変
わってくることもあります。
ちなみに、やりたい事がたくさんある場合両立させるコツはあるのか、という質問が出ていますが、これ
についてはどう思われますか?事前に同僚たちへ意見を求めたら、
「気合いだよ、気合い!」という答えし
か得られなかったのですが(笑)
片:例えばランニングが続かない人は決まって「時間が無い」と言いますが、続けている人は「本当に一
日に一時間作ることは不可能なんですか?」と言います。本当に走りたい人は、どうにかして時間を作っ
て走るんですよね。結局は……気合いということになるのでしょうか(笑)
蓑:そうかもしれませんね(笑)片瀬さんは、一番忙しかった時期は、いつですか?
片:去年の今頃ですね。自分のキャパシティを分かっておらず、実力以上に多くの仕事をしようとしてい
ました。現実的な意見を言うと、様々なことをしっかりと両立するには、思い切って何かを捨てることも
大事だと思います。
蓑:私が一番忙しかったのは修士の時ですが、自分のキャパシティを知るのに最もリスクが小さいのは学
生の時だと思うんです。だから、学生の間は何でもやってみればいいと思います。目の前の課題に果敢に
挑戦する行動力は、偶然起きたことをチャンスに変える力に繋がります。本当に忙しくなってきたら、活
動に優先順位をつけて自分の軸を決めればいいのかな、と思います。
―異質さを認める―
蓑:多様な人が自分を活かせる社会に必要なことは何かという質問があるのですが?
片:それぞれが、自分と異質な人を受け入れることが大事だと思います。
長く同じことを続けていると、自分の世界を基準に考えてしまいがちです
が・・・
蓑:それに関して私は、芸大の人に「農学を学んでいます」と言ったら“能
楽”と勘違いされた経験があります(笑)その時自分にとって当たり前の
ことが相手にとってはそうでないのだ、と感じましたね。皆さんは、大学
以外で何かコミュニティに所属していますか?年齢や学科など立場の全
Kyoko
Katase
く違う多様な人たちと接して、皆が皆一緒ではないと知る経験は大事ですよ。
違う意見の人がいるから、面白いんですよね。
―幅広く、末永く学ぶ―
蓑:学生のうちに身につけておくべき素養に関するご意見、学生へのメッセージはありますか?
片:自分の大学生活の反省として、無駄なことをもっとやっておけば良かったと思います。無駄というの
は、一見すぐには役に立たないという意味で、本当は無駄ではないのです。いつかどこかで繋がっていく
可能性があるもので、その蓄積は自分の財産になります。私は学生時代の反動か、今の仕事で一見無駄な
ことの蓄積を楽しんでいます。
蓑:そう、学べるのは学生のうちだけではないんですよね。むしろ、社会人になってからも継続的に自分
を磨き続けなければ、社会の変化についていけません。
片:最後にメッセージを。社会人は学生に対し非常に優しい気持ちを持っています。話を聞きたい等、協
力が必要な時は積極的に社会人を利用してくださいね!
33
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Event 私たちの活きる今と未来 片瀬京子さん、蓑田裕美さん
Question & Answer
Q1. 理文を分けることについてどのようにお考えですか?
A1. 理文を分ける必要はない。自分に足かせをせず「面白そう」と思ったことに挑戦!
蓑田さん(蓑):化粧品は化学の総合芸術と言われます。お肌のハリについて研究する人、化粧品の化学的なレシピを考え
る人、魅力的な肌とは何か、心理学的に迫る人。様々なジャンルの人が集まることで新しいものを生み出すのです。
片瀬さん(片):例えば、私は関東平野の外で生活したことがないので、関西出身と聞くと一つのイメージが湧きます。で
も、関西の人からすれば、大阪と京都でも違うし、大阪内でも北と南で違い、ひとことでまとめられたくはないでしょう。
理系文系も、そんなものです。どちらかと言えばこっち、と便宜上分かれているだけなので、過剰に囚われる必要はない
と思います。
蓑:サイエンスカフェでは、参加者は理文を気にしておらず、多様な分野のプロフェッショナルが集まる交流会だと思っ
ている人が多いです。例えば脳科学の専門家を招いても、その人を先生と崇め奉るのではなく、参加者が「私は芸術の専
門家」
「私は主婦で家事のプロ」と、一つの対等なジャンルとして脳科学者のゲストを捉えています。ちなみに、お客さん
には芸術の専門家が多いのですが、理文で分けると芸術はどっちにも入らないですよね。理文は大学受験で分けられてい
ますが、今は大分境界領域も増えてきています。出身がこうだから、などと考えるのは自分に足かせをすることになって
しまうので、枠に捉われず、何でも果敢に挑戦するのがいいと思います!
Q2. 片瀬さんは、自分を決めない、得意不得意を決めない、と仰っていましたが、苦手なことに
も積極的に手を出していくのはエネルギーがいることだと思います。エネルギーをどのように
得ているのですか?
A2. 悩んだらやってみて、達成感を次のエネルギーにする
片:最初は不安に思っても、仕事は必ず終わります。終えると、達成感と自信を得られます。全く異なるジャンルの仕事
を終えた時には、それが顕著です。そこで得た達成感をエネルギーにして、次の行動に向かっています。
蓑:例えば、私は昔、積極的にリーダーを務める方ではありませんでした。しかし高校で文化祭実行委員長決める際、な
かなか決まらなかったので、思い切って手を挙げてみました。すると、意外と上手くまとめられたのです。それが自信に
なり、以降様々な場面で積極的にリーダーを務めるようになりました。
「やるかやらないか悩んだらやってみれば?」祖母
に言われた言葉です。後悔する人はどの道を選んでも後悔します。それなら、やらないで悔やむよりも、やって失敗だっ
たなと思う方が良いのではないかと思います。
Q3. 自分の意見を否定されたとき 、その中で自分の意見をどう守っていくか、守りつつ成長
するためのバランスはどうされていますか?また、企業の選び方のアドバイスはありますか?
A3. 批判されてなんぼ!
自分の中の優先順位を決める
蓑:何か新しいことをする時にはそれに対して疑問を持ったり、否定、批判したりする人がいて当然です。今まで通りの
社会で良いと思っていたらその通りにしていればいいですが、私はそうではなくて、皆が科学的なことについて物怖じせ
ずに、主体的に考えられる社会を作っていくことを目指しています。ならば、批判されてなんぼ。批判されないのは、
全く社会に影響力が無いということの裏返しです。批判される時こそ、社会に対してメッセージを投げかける活動ができ
ているのだな、と思うことにしています。
Event 私たちの活きる今と未来 片瀬京子さん、蓑田裕美さん
企業選びについて、私は就活で食品会社、化粧品会社が決まってどちらにしようかと悩んだ時に、科学とそれ以外の方々
の懸け橋になる仕事ができるか、で選びました。結局は自分がやりたいと思う仕事があることが重要だと思います。
片:否定的なことを言われるのは、相手が自分に関心があるからだと、ポジティブに受け止めていいと思います。言われ
たことは聞いて、それを受け入れるかどうかは自分で決めればいいです。
また、悩んだ時には、どちらを選んだら後々自分が後悔しないかを基準に決めたらいいと思います。
「あの時教授がこう言
ったから教授の言う通りにした」か、
「教授に反対されたのが嫌で違うことをした」か。振り返った時に自分がどう思うか、
で考えると良いのではないでしょうか。
また、起業をしたい、フリーで働きたいという希望を持っている人もいるかもしれませんが、それでも、まずは会社に入
ってみるといいと思います。「会社はこうやって動くのか」「社会人はこうやって頼み事をするのか」など、いろいろなこ
とを学べるからです。こういった知識は、会社の外へ出たときにこそ、役立ちます。
Q4. 今中学3年生です。学年が上がるに連れて苦手な科目が出てきています。どうやって付き合っ
ていけばいいでしょうか?
A4. 今苦手でも、合わないと思わなくていい!忘れた頃に魅力に気づくかも
蓑:まず、できなくても適性がない、合わないと思わなくていいと思います。私自身、歴史や古典が苦手でしたが、今は
歴史番組が面白いと思えるし、古典の世界を楽しめる瞬間もあります。今出来ないからと、諦めてしまうのはもったいな
いです。たとえテストで点数がとれなくても、自身の個性、考え方を活かして面白い発想が出来れば、その分野で社会に
貢献出来ることが多々あります。
片:今嫌いだったり不得意だったりするものも、しょうがないな、付き合ってみるか、くらいの気持ちでとりあえず取り
組んでいると、好きになる日が来るかもしれません。タイミングはいつか分からないですが、もう一生これとはおさらば
だ、とは決めないで下さい。忘れた頃に相手の魅力が見えてくることがありますよ。
Q5. 仕事選びについて、向いていると思って仕事を選んでもやっていくうちに合わないなと感じた
場合、諦めずに前に進むのか、方向転換して違うジャンルに飛び込んで行くのか、見極めどころは
ありますか?
A5. 方向転換の理由は、諦めではなく、他よりも魅力的な道の存在
蓑:私の職場には、薬剤師から転職した人や、銀行で働いた後に大学院に入り直して違う分野を学んだあとに来た人もい
ます。彼らを見ていて、別のジャンルに飛び込むというのは、諦めるというよりも、もっと魅力的な道が見つかったから
飛び込んでみる、ということなのだという印象を受けます。合わないから辞めるのではなく、他に魅力的な道を見つけた
から転職するのです。そもそも最初から100%自分に合った仕事に就けることはそうないので、目の前の課題に果敢に
チャレンジする中で、ライフワークを見つければいいと思います。
片:天職を探すことって結婚相手を探すことと似ていると思うんですよね。30億人の男性全員と面接して、その中で私
に一番合っている人を見つけようと思っても、時間も方法もないです。じゃあ教室の隣の席の人と結婚するかというと、
そうでもない。適度なところでみんな、この人が私のパートナーだと決め、結婚しているんだと思うんです。天職を探す
のは一つ素晴らしいことですが、探したまま人生が終わってしまう可能性もあります。見極めどころは難しい問題ですが、
どこかで自分の生きる場所を認めるべき時が来るのではないでしょうか。
――他にも質問がたくさん出て、時間がオーバーしてしまうほどでした!
ありがとうございました!
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Event 私たちの活きる今と未来 片瀬京子さん、蓑田裕美さん
(1)第一部を受けてのブレインストーミング
—互いにアイデアを出し合い、発想を誘発する。
1グループ5~6人のグループを6つ作り、各自、第一部で感じたことを付箋に書き出し、グループごとに模
造紙に貼っていくことによって、ブレインストーミング(ブレスト)を行いました。(ブレストとは、集団でア
イデアを出し合うことで新しいアイデアを誘発する会議方式で、集団思考や集団発想法とも呼ばれます)
付箋に書かれた中でも特に印象的だった言葉のうち、ほんの一部をご紹介いたします。
・自分で自分を決めつけない
・入ってから興味は変わる
・楽しい、得意←経験に基づく
・専門とそれ以外の人をつなぐ
・自分と合わない人間、物事とどう向き合うか
・批判されてナンボ→自分を出すのはいいこと。人を否定しなければOK?
・正解がないことを受け入れる。社会は正解がないことがほとんど
・失敗を恐れない。若い頃の失敗なんて所詮大したことない
・属性の違う人の意見を聞く
・周りの「多様さ」の幅を知る
・やるかやらないか迷ったら、やってみよう!
・片瀬さんの「無駄なことをしておけば良かった」を聞いて安心した
・不得意だからってあきらめてはいけない
・色んなことに手を出すのもいいけど、見切りをつけることも大切!
・コミュニケーションが大切。人と向き合い、話すことを厭わない。
・区別は悪くない
・リケジョの強みって沢山あるんだな!女子を意識する必要はないんだな!
・自分の進路を決めるとき、振り返って後悔しないと思う選択肢を選ぶ
・色々な進路決定のプロセスを聞けて良かったです。
↑ブレストで用いた模造紙の様子
同じ話を聞いても、感じとることは人によって様々。自分とは全く違う視点を得ることで、より深く第一部の
対談について考えることが出来たと思います。このブレストの時間は、次のプログラムを削って延長するほど、
盛り上がりました。
ブレスト終了後、全員立ち上がって各班の模造紙を見て回りましたが、班によっても書かれている内容が異な
り、非常に興味深かったです。そんな中でも、書かれた内容が近い付箋を一か所にまとめて数えることで、多く
の人が強く印象を受けたことが何なのか、一目瞭然になりました。
例えば「自分で自分を決めつけない」「自分と異なる人を認める」「失敗を恐れない」などの言葉は比較的多く
見られました。
ブレストの時間からは、ソニーのスタディツアーでお世話になった
萩原貴子さんも参加してくださいました。
萩原さんの言葉の中で興味深かったものを一つご紹介します。
魔法のことば「私はあなたの味方です」
萩原さんの優しさが伝わってくるこの一言。人によって捉え方は様々
ですが、“誰か一人でも味方がいれば、失敗を恐れず挑戦することが
できる”という解釈が一つ出来るのではないでしょうか。
Event 私たちの活きる今と未来 片瀬京子さん、蓑田裕美さん
(2)ディスカッション
—意見を通わせ、答えを考える。
グループごとに議題を2つのうちから選んでもらい、ファシ
リテーターを中心に、ワークシートに沿って議論を進めていき
ました。ブレストで出てきた言葉も適宜参照し、約30分間議
論した後、各グループの代表が話し合った成果を発表しました。
どのような議論が行われたのか、発表の一部をご紹介します。
議題①:「自分は普段どのような属性の人と接しているか、異
なる属性の人と交流するにはどうすればよいか」
参加者の発表(一部抜粋)
まず「差別と区別の差とは何だろう?」と考えてみた。学生のうちは、趣味や好きなものによって数人ずつの
グループができるけれど、社会に出たら、様々な属性の人と調和をとって上手くやっていかなければならない。
理系と文系の区別はただ大学の学習スケジュールの違いである。それなのに分けてバイアスをもって接するのは
差別的だが、例えば男女の違いは生まれつきのものであり、区別すべきでないときもある一方、分けなければい
けないときもある。これは差別ではなく必然的な区別だ。自分の努力でどうにかなる差別とどうにかならない区
別をしっかり把握した上で、バイアスを持たずに他の属性の人と関わっていくべき。
議題②:「自分の好きなこと、得意なことを見つけるにはどうすればよいか、またそれぞれが異なる場合にどう
向き合うか」
参加者の発表(一部抜粋)
好きなことは得意なことだとは言い切れないと思うけど、好きなことによってコミュニティーを作るなどして、
得意なことに繋げられるはず。得意なものも、好きじゃないと続かないから、好きと得意は結局相関関係がある。
また、例えば理系大学のとある学科の中では数学ができない方だとしても、社会で見れば「数学が得意」な部類
に入るように、得意なことは、属性の違う人と関わって初めて浮き出てくる。いろいろなものに触れることこそ
が自分の「得意」の発見に繋がると思った。
発表を聞いていると、2つの課題は別々に設定したものでしたが、
・「好き」は属性の違いを生む
・属性の違う環境に触れることで初めて「得意」が浮き出る
といった、両者を結びつけるような考えも聞くことができました。
プロジェクトメンバーだけでは得られなかった発想が多くあり、
このイベントを通して、やはり多様な人たちと意見を交わすこと
は面白い、と改めて感じました。
年齢も性別も専攻も国籍も異なる多様な人たちが集い議論する、
素晴らしい会になったと思います。
来てくださった皆様、ありがとうございました。
37
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感想
悩む
プロジェクトメンバーの感想です!(編集:宮下梨菜)
今回お会いした方々は、皆さんとてもキラキラしていました。自分の得意なこと・好きなことを把握し、
それを仕事や趣味・ボランティア等の形で実行しているからだと思います。また、人生の岐路でしっかり
と悩む機会を持ち、自ら道を選択している点も重要だと感じました。女性は相対的に悩む機会が多いと感
じますが、それは強みなのだと捉え、今後も大いに悩み議論していきたいと思います。
実際このプロジェクトの運営でも、悩む機会はたくさんありました。しかし悩む度に、メンバーやCLA
の大里さん・高橋さんの存在の大きさを感じました。特にこの刊行物は、全員の協力無しでは絶対に出来
上がらなかったものです。いっぱい悩んだからこそ、気づくことが出来たありがたさだと思います。悩む
こと…やはりこれは自分を強くすると、実感できた8ヶ月間でした。皆ありがとう!
原田 真実
自分を磨く
周りに理系出身女性のロールモデル自体が少ないので、このプロジェクトでそうした方々にお会いしてお話
を伺うことができたのがとても嬉しく、自分の将来像を前よりも明確に持つことができました。また、女性
が働く環境に不安を感じていましたが、男女、理文など関係なく皆が自分を活かして働けば良いということ
を学んで、とても勇気をいただきました。学生生活を大切にして自分を磨き、周りから必要とされる人間に
なって社会で活躍したいと強く思いました。それは同時に自分の幸せを追求することにもなると思います。
プロジェクト運営を通してまさに教養を身につけることができました。この刊行物も、ワードで苦戦しなが
らも皆で作成したのが楽しく、自分たちの活動を形に表すことができて嬉しいです。
これからも常に様々な方にお会いしてお話を伺い、自分で深める姿勢を続けていきたいと思います。本当に
ありがとうございました。リーダーの真実、メンバーの皆、ありがとう!
荻野 紗良
憧れ
スタディツアーでは普段お話を聞けないような人たちにたくさん話を聞くことができました。特にサイエンス
コミュニケータという仕事や、記者という仕事はどのようなものなのか全く知らなかったので、自分の見識が
広がりました。みなさん自分の仕事にやりがいと誇りを持っていて、きらきら輝いていて、私もああいう社会
人になりたいなと強く憧れを抱きました。また、リケジョPJでの活動は初めてのことばかりで大変でしたが、
依頼やプロジェクト運営の仕方、イベントの作り方など、他では経験できないことがたくさんでき、とても勉
強になりました。今後、スタディツアーで得たこと、PJ運営で学んだことを将来へ活かしていきたいです。
また、高校が同じだった真実との他愛もない会話が私にとってのスタートでしたが、こうやってイベントをや
るまでの活動ができてよかったです。メンバーとの出会いも、お世話になった人達との出会いも、今後も大切
にしたいです。
境澤 穂波
感想
絶好な機会
プロジェクトのパーティーに誘っていただいて、そこで初めてリケジョ応援プロジェクトを知りまし
た。そこで憧れた先生とお話しできて、すごく有意義な活動だと思い、リケジョプロジェクトに参加
させていただきました。ツアーの進行に連れて、自らスタディツアーを計画、運営し、プロジェクト
の活動もより多くの人に認められて良かったです。また、刊行物班に所属し、部活で得たスキルを活
かし、版面編集に力を出すことができました。そして、会社の見学は、自分自身に対しても、会社シ
ステムの学習、社会をより深く理解する絶好な機会でした。自分が将来進む方向についても、もっと
明確に見えました。
張 繆儿
素敵な女性たちにインタビュー
約8ヶ月という限られた期間のプロジェクトでしたが、自分自身得るものがたくさんありました。このプ
ロジェクトの当初の目的であった「理系女性の将来像のイメージをつかむこと」はもちろん、企業への依
頼文書の書き方等、社会人のマナーも知ることができました。そして、このプロジェクトをやってきて一
番良かったと思えることは、今学んでいることに自信を持てたことです。素敵な女性達にインタビューし
てきたことで、大学時代何に取り組んでいこうかが明確に定まりました。幹部メンバー以外のスタディツ
アー参加者も皆、
「ためになった」
「また機会があれば参加したい」と言ってくださったので、この活動を
してきて良かったと思いました。
前河 一華
世界が広がる
理系の大学に入って自分が何をできるのか、何をしたいのかなんて全然考えられなくて、年を経て色々
なことが定まっていくにつれ自分の可能性が狭まっていくような気がしていました。けれどもスタディ
ツアーを通して一口に理系と言っても様々な仕事があること、理系文系にとらわれない仕事がたくさん
あることを知って、視野を狭めているのは実は自分自身なのだと気づき、世界が広がったように感じま
した。プロジェクトの中では自分はあまり中心となってやることはできませんでしたが、このプロジェ
クトに参加できて、スタディツアーでお話を聞くことができて本当によかったと思っています。
宮下 梨菜
何でも挑戦
様々な職種の方々のお話を聞き、本当にたくさんのことを学び、感じました。頂いた言葉のなかでも特
に私の心に残っているのは、山口しのぶ教授の、
“24時間自分の時間なのは大学生だけ!”というメッ
セージです。自分のやりたいことが好きなだけでき、何にでも挑戦することができる今このときを存分
に楽しもう、と心を動かされ、去年は本当にたくさんのことに挑戦した年になりました。これからもも
っともっと色んなことに挑戦し、スタディツアーを通して学び、感じたことを心にとめて自分の道を歩
んでいきたいなと思っています。最後に、このリケジョプロジェクトの皆とスタディツアーをアレンジ
し、刊行物を作成し、イベントを作り上げられたこと、本当に感謝しています。
山元 奈緒
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まとめ
まとめ
この活動を通して学んだこと…。ほんの一部しかここには書けませんが私たちなりにまとめてみました。
今社会で求められているのは…
多様性を活かせる場。様々な属性・Background を持った人たちが、それぞれ活きる場です。
男性も女性も、理系も文系も、国籍や文化の違いも、全部その属性・Background の違いの一つに過ぎないということは、
当たり前のことのようで、自分たちにとっては大きな発見でした。
それぞれが対等に意見を言い、お互いを尊敬し合って認め合い、新しい価値を生み出していく…
それが出来なければ会社は、日本は、生き残れないんですね!
自分を知る
現在、日本の女性は、経済的・政治的に社会に進出している人は少ないです。でもマイノリティであるということは、何をして
も目立つということで、見方を変えればそれはむしろ有利なのだという発想には、勇気をもらいました。
何をしても目立つなら、面白いことをしたい!
それには自分の強みを見つけて(つまり、自分の得意なこと・好きなことを分析する)自分が活きるステージを見つけること
が大事です。これが大事だということは、男性も女性も変わりません。
今の時代、会社に入れればそれで安心というわけではなく、周りから求められる存在にならなくてはなりません…
自分の特徴を知って、それが活きる場で働くことは、自分も楽しいし、結果的に周りと自分を差別化することにもつながると
思います。
伝えること
多様な人がいる環境では、自分の考えを相手に正確に伝えることは簡単ではありません。
① 自分にとっての常識は相手にとっては常識ではない
ということを念頭に置き
② 相手はどこまで知りたいと思っているのか
を意識して、専門用語を簡単な言葉に置き換えたり、説明を上手く省いたりしなければなりません。上手く省くには、
自分自身が伝える内容について十分理解していることも求められます。
もちろんこれらをプロ並みに上手く出来るようになるのは困難なことです。
しかし、意識することだけは出来ると思います。
その意識が、結果的に多様な人が活きる場にもつながるのではないかと考えます。
大学生活の過ごし方
今は、自分の視野を広げるのに非常に有効な時期だというのは皆さん共通でおっしゃっていたことでした。
幅広く興味を持って、様々な世界に触れる“時間”が私たちにはたくさんあります。
例えば本を読んだり、旅やアルバイトで、自分とは異なる属性・Background を持つ人と接したり、
新しい趣味を見つけたり…
このように様々な世界に触れ、視野を広げることこそ「教養」なのではないかな、と思います。
しかし現状、特に理系は、専門外の世界に対して、初めから「この分野は私の専門じゃない」と突き放す傾向にある気がします。
もったいない!
今は失敗しても、結果的につまらなくてもいいから、多くのことに挑戦してみたいと思います。
(文責:原田真実、 編集:荻野紗良)
あとがき
リベラルアーツセンター「理系女子応援プロジェクト」について
東京工業大学リベラルアーツセンターでは、
「理工系の知識をそなえ、現代社会の問題
に立ち向かうことのできる社会的リーダーの、人間としての根っこを太くする教育」を
目標に活動を行っています。この教育は、もっとも重要なステークホルダーである学生
諸君の意見も取り入れながらデザインしており、この冊子で報告される「理系女子応援
プロジェクト」もそのような「リベラルアーツ教育」に創造的に参加する学生諸君の努
力が結実したものです。
女子学生の少ない東京工業大学ですが、本プロジェクトに示された女子学生諸君によるプロジェクト遂行への情熱
と努力は驚くべきものです。彼女たちのもつ可能性が十分に花開いた形で結実しています。
プロジェクト・メンバーは、企画・立案から実際の活動、総決算としてのシンポジウム、そしてこの報告とすべて
を自分たちで行ってきました。その過程で学んだことをこれからの学生生活に生かしていただきたいと思います。
リベラルアーツセンターとしても、このプロジェクトによって示唆されているリベラルアーツ教育のあり方につい
て、しっかりと受けとめ、今後の東工大のリベラルアーツ教育に活かしていきたいと思います。
リベラルアーツセンター長
くわことしお
桑子敏雄
Special Thanks
・スタディツアーを引き受けて下さった輝く女性の皆様
山口しのぶ教授、萩原貴子さん、前田奈津子さん、蓑田裕美さん、
高畠知子さん、中川ヒロミさん、山根小雪さん、片瀬京子さん
・お忙しい中何度も助言下さり導いて下さった
柳瀬博一さん(日経BP社)
桑子敏雄教授(リベラルアーツセンター長)
・いつも温かく見守ってくださった
・いつもいつもサポートして下さった
大里英里さん、高橋玲子さん
(リベラルアーツセンター職員)
・様々な場面でたくさん助けてくれた
田川翔さん(学生プロジェクトサポートチーム)
・スタディツアーやイベントに参加してくれた皆様・・・
関わって下さった全ての方々に感謝いたします。本当にありがとうございました!
RIKEJO 8
2013 年 2 月 16 日 発行
改訂版 2013 年 6 月 13 日 発行
発行者
理系女子応援プロジェクト
発行所
国立大学法人 東京工業大学リベラルアーツセンター
〒152-8552
東京都目黒区大岡山 2-12-1 W9-139
TEL:03-5734-3782
E-mail:[email protected]
Rikejo project
Presented by
Girls of titech
We thank all the people who cooperated.
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