...

2014年stereo誌スピーカーコンテスト 応募原稿 2014年9月6日 千葉県

by user

on
Category: Documents
6

views

Report

Comments

Transcript

2014年stereo誌スピーカーコンテスト 応募原稿 2014年9月6日 千葉県
2014年stereo誌スピーカーコンテスト 応募原稿
2014年9月6日
千葉県香取市 沖野直毅
総評
事情によりスリムなスピーカーが必要となり設計しました。
付録のユニットは特にツイーターのスペックだけ見るとその非力さに期待が遠のきましたが、出てく
る音を聞くと十分な品質に驚きます。
この良質なユニットの実力を、自分なりに進化した方法にチャレンジすることで出し切れたと思いま
す。 一方、短い時間でネットワークを設計し組み上げるという制約下で、F特や位相特性に少々クセ
もあり、聴感だけでは困難な微妙な調整を測定とシミュレーションの助けを借りて行う方法は、今後は
欠かせないと改めて感じました。
なお、仕事の予定の関連で塗装仕上げの時間があまり取れず、少々雑な仕上がりとなってしまった
のが心残りですが、音質には満足しており、当分の間、愛機として活躍してもらうつもりです。
応募部門 :匠部門
作品名 :クリアミント
(副題) (エココンセプト3Dスパイラルスピーカー)
諸元
・サイズ: W 240mm x D 260mm x H1,000mm
・重量 : 9.2Kg
・空気室容積: V1 / V2 = 6.4L / 2L
・バスレフ周波数: fd1 / fd2 = 54Hz / 122Hz
・クロスオーバー: 3KHz、12db/Oct
使用材料 ・胴体 : VP125 塩ビ管 ・ソケット
・バッフル: シナアピトン合板 18mm厚 x2枚
・スパイラル: ポプラ合板 11mm厚
・ベース:シナ合板17mm厚+21mm厚
コンセプト ・音の設計
PT20のクリアな音質を引出す為クロス
オーバーを低めとし、PW80はスリムボディ
に3Dスパイラルの歯切れの良い低域を合
わせ、ミントのような清涼感ある音質を得る。
ネットワークは ARTA・LIMPによる測定と
Speaker Workshopによるシミュレーションを
大いに参考にして構成する。
・デザイン
クリアな音のイメージを連想させ、モダンなリビングにも置けるよう視覚上圧迫感の少ないスリ
ムな塩ビ管と配色のスリムタイプ。 ネットワーク回路は頭上の塩ビソケット内にセットして視覚上
のアピールポイントとする。
エココン 今回の3Dスパイラルダクトは、積層ディスクタイプの2条スパイラルで従来と変わらないが、円筒部
セプト 分は切り出さずにVU75塩ビ管を使用。 短冊状のディスクを切出す方式とすることで、板材の無駄を
大幅に減らした。 更に、ディスク角度・積層枚数の可変構造であるため、多めに作っておくことで調
整と他への流用が可能。 以上より「エコ3Dスパイラル」と呼ぶこととする。
そしてバッフル部分とベース部分を除く主構造は塩ビ管とし、組み立て式の個々の部品は不要とな
れば簡単に分解して他への流用が可能であることと、所定のリサイクル処理も可能であることから、
これもエココンセプトと呼ぶことができる。 正直言うと塩ビ管スピーカーで「匠部門」に応募すること
への躊躇も最初はあったのだが、スピーカー自体の狙いとエココンセプトがマッチしており、ネット
ワークシミュレーションの活用と合わせて応募に不足無しと判断した。
1 / 8 ページ
●開発経過
ユニット stereo誌8月号が手元に届き、まず最初に 2012年作品の「スター」に取り付け、ARTAとLIMPを使
特性の い測定を行って、7月24日に塩ビ管WEBサイトの日記にデータ(FRD/ZMA形式)を公開した。 その
測定 データをダウンロードすれば測定環境の無い人でもSpeaker Workshopによるシミュレーションができ
たはずで、どれだけの人が活用してくれたかは不明だが、これをきっかけとしてパッシブネットワーク
設計にシミュレーションを活用する人が増え、マルチウエイ製作の盛り上がりに繋がればと思う。
(PT20,PW80どちらもバッフル取り付け面からの距離1mとして測定)
シミュ ユニット測定で判明したのは、PW80の9KHz付近にピークがあり、ウーハースルーはもちろん、
レーショ 6dg/Octでも音質への悪影響が大きいだろうことと、3~6KHz付近の位相回転が激しく、クロス付近
ン
の暴れを完全に解消するのは困難であるということ。
逆に言えば、どうせ位相がピッタリ合わないならば、好みの音圧特性になるように変則的なLCR値
で構成しても良いとも言えるので、クロス3KHz付近をターゲットとしてシミュレーションをした。
3KHz付近は聴感上も敏感なのでここでクロスするのはリスクもあるが、半日程度で変則12db/Oct
で以下のような特性を得た。 実際に「スター」に取り付けた状態でこの定数で聴いてみたところ、
少々ツイーターレベルが高いものの、音質的にもコンセプト上も十分リファレンスとなりえる音だった。
折角TP20の能率をTW80に合わせて作ってくれているので、できればアッテネーション無しのまま行
きたい。
2 / 8 ページ
エンク VP125によるスリムボディで高さの制限も加わり、内容積の配分をどうするかが最初のポイント。計
ロージャ 算書と図面を並行して進めながら、妥協点を見出す方法とした。
設計 容量少な目のスリムボディに、いつもの扁平ではなくL/Dの大きなスパイラルのため輻射帯域が狭
く低域が薄くなる心配があるが、Q0値が高いため中低域はそこそこのレベルを維持できそうなことか
ら、fd1を50~60Hzあたりに持ってゆくこととする。
形式上はfd1<fd2となる逆ダブルバスレフだが、V2が2Lと小さいためfd2の共振はあまり期待せず、
スパイラル中域漏れの音響フィルターの役割とみなし、実質シングル3Dスパイラルバスレフに近い。
fd2の周波数はfd1へ近づけるとダクト間の干渉を受けそうなので、f0近くへ上げるほうを選択した。
2014 stereo誌コンテスト用スピーカー設計
Sd
グロス
逆DBS
28.3 cm2
V0'
内径(cm)
12.4 面積(cm2)
長さ(cm)
35 長さ(cm)
内容積(L) 4.226699
第1ダクト
V1'
V2'
12.4
12.4
25
20
3.019071 2.415256
V1d'
外径(cm)
長さ(cm)
外容積(L)
V2d'
8.9
8.9
13.2
6.6
0.82119 0.410595
21.3
パイプ材
VP125
バッフル板
シナアピトンt18x2
PT20
PW80
入口面積率
入口面積 cm2
等価ダクト半径(cm)
円筒長さ(cm)
内径(cm)
内容積率
内容積(L)
ダクト等価長(cm)
S1
R1
0.9
25.4469
2.84605
21.3
8.3
0.7
0.806722
31.70216
第2ダクト 外面積(cm2)
長さ(cm)
外容積(L)
102.0703
8.4
0.857391
入口面積率
入口面積 cm2
等価ダクト半径(cm)
1.6
46.86471
45.23893
3.794733
S2
R2
ネット
d1
3Dスパイラル
内容積(L)
V1
V2
6.424579 2.004661
Fd1
C1=SQRT(πR1^2/(V1(L1+R1)))
C2=SQRT((V1+V2)/V2)
160*C1*C2 (Hz)
d2 リング状ダクト
0.338596
2.050566
54.17543 ← V2の影響を無視した式
Fd2
C1=SQRT(πR2^2/((V1+V2)(L2+R2)))
C2=SQRT((V1+V2)/V1)
160*C1*C2 (Hz)
0.663401
1.145439 ← V1の影響
121.5816 ← V1の影響を考慮した式
3 / 8 ページ
0.550646
1.292575
113.8803
製図
いつものように、AutoCadLT互換のフリーの2次元CAD 「Draft Sight」で作図し、一部の部品は実寸
印刷のうえテンプレートとして使用した。
4 / 8 ページ
●製作 エココンセプトなスパイラルは自身初の工法に挑戦。11mm厚合板 W90cm x L17cm からのスパイ
ラルディスク切り出しは、まずは穴あけから。7mm径x80個、10mm径x166個をハンドドリルで。 その
後、ジグソーで40枚切り出し。
各ディスク端面をグラインダーで斜めに削った後、6mmの寸切りボルトに通して、VU75に「ガタガタ」
に入るように外径を削り込んでゆく。
100円ショップで買ったウレタンスポンジのすきまテープを螺旋外周に貼り付け、パイプに挿入。 き
つくてスキマテープが剥がれてしまうようなら、削り込みが足りない。今回は2回目でOKになった。
常に分解調整がきくよう、ディスクは塩ビ管に接着せず摩擦で勘合されている状態とする。
初めての工法であったが、案外スムーズに出来上がった。
(左)全部品を切り出し勢ぞろい。 (中・右)ベースを仮組みし、リング状ダクトの外筒下部に低音出
口となる角穴を4か所開ける前と穴あけ塗装後。
←バッフル幅が狭
く、PW80背面の音
抜け用面取方向
を考慮して、45°
回転取り付けとし
た。
5 / 8 ページ
PT20の ツイーターの正面の取り付けプレート、プラ製で裏面にそのままスポンジを貼ってもエア漏れしそう
改良 なのでその予防と、強度アップのためにエポキシパテ埋め。 また、振動板周囲のフェルト分のクリア
ランスが広すぎて、ここからのエア漏れで音の濁りが生じそうだったので、3か所の脚部分をヤスリで
少し削り、クリアランスを半分程度にした。あまり押さえるのも良くないかと思うので加減が難しい。
削り前 / 削り後 パテ埋め後 分解状態 / 組み立て後 この後、同梱されたスポンジシールを貼りバッフル板に取り付けてみたが、ずいぶんしっかりした上
にエアタイト状態も確認できた。
ネット 音出し後にネットワーク回路とシミュレーション結果は以下のようにシンプル化した。 音質優先で
ワーク ユニット金額の倍以上のパーツ金額となってしまったが、そもそもこれだけのネットワーク素子をつぎ
込む価値のある高品質ユニットが雑誌の付録というのが逆に信じ難い。
使用パーツ
・ハイパス側: コンデンサ:Mundorf 1.0μF + Audyn 1.5μF、 コイル:Jantzen 0.7mH 空芯
・ローパス側: コイル:Jantzen 1.0mH 空芯、 コンデンサ:Shizuki 10μF
6 / 8 ページ
頭部のソケットは、下側の仕切り板でエアタイトとし、上の板とは4mmほどのスキマが空くためボル
トの頭や結束バンドを通せる。 まだ調整中の写真につき各部品は結束していないが、100円ショップ
で買った半透明のフタをすれば程よい目隠しになる。
塗装 塩ビ管部分は水性ウレタンスプレーを塗ったのだが、下地の目荒らし処理が雑でグラインダー跡が
仕上げ 消えておらず少々失敗。 バッフル板はいつものように水性クリアニスの6回塗りでこちらはバッチ
リ。
↓ 頭部仕切りには、共鳴防止のため 100円ショッ
プで買ったφ100mm発泡スチロール球の半割りを
接着。 バッフル内部には、オトナシートに凸凹にシ
リコンシーラントを付けた物を貼り付けて中高域を
分散させる。
7 / 8 ページ
●音出し 高域はツイーターがやや強めだが、フラット化のため抵抗を入れると音の鮮度が落ちることから、コ
試聴 ンセプト的にもそのままでOKと判断した。 ローパスのコンデンサ側に入れていた1.5Ω抵抗は撤去
し、相対的に中域2KHz付近の肩を張る特性に戻すことでバランスを多少改善した。
高域の音質は、PT20の素性が良く出ているのではないかと思う。 カッチリ明快、ドーム型ゆえ指
向性も広く、音場も予想していたより前後左右に広く展開する。 シミュレーション前の測定では出て
いなかった7KHzのピークが出現し、ツイーターの音圧が実際以上に高めとの印象につながってしまう
ようだ。 エージング前後で変わる部分なのかもしれない。
いずれにしても、シミュレーション結果からほぼそのままの定数で完成したわけで、これをするか否
かでは結果が変わってくることも多いと思うし、時間短縮上も大差がある。
中低域~低域にかけては、音出しでfd1が低すぎたため(50Hz)スパイラルディスク枚数を20→18枚
に減。 Q0の高いユニットであることで内容積が少な目な割には出ているため、質感や音楽を聴くう
えでの楽しさは維持している。 ローパスフィルターを通しているためかスピード感やダンピングは若
干落ちる印象だし、70~120Hzあたりが少々凹んでいるため、たっぷりとした量感とはいかないのも仕
方ないところか。
得意な音楽ジャンルは、アコースティックギターを中心とした小編成のアンサンブルやホールトーン
の多いオーケストラ。 ボーカル物も案外良く、存在感はさすがにFE103-SOL等の出来の良いフルレ
ンジには叶わないものの、高域の音圧が高めなのに「サ」行が耳障りになるようなこともなく、見通し
も良いのでこれはこれで魅力のある音質と思う。
しかし、当初心配していた3KHzクロスによる悪影響か、リスナーが頭の位置を少し動かすと定位が
やや曖昧になる面があり、なるほどそういうことかと勉強にもなった。
測定
狭い部屋での測定なので特に低域
は参考程度。中高域のクロスオー
バー付近の繋がりは特性上も良さ
そう。
インピーダンスのfd1の山が小さく、
PW80の駆動力の小ささから仕方の
無いところか。予想通りfd2はほとん
ど確認できない。
吸音材無しの状態で中域に大きな
共振が無いのは成功で、第1空気
室頂部の半球と第2空気室の最下
部に設けたポケット形状による音響
フィルターが功を奏したと思う。 3D
スパイラルで毎回苦労する部分な
ので、一つの成果である。
以上、当初の目標を満足するスピーカーが出来たと思います。 今回もすばらしいユニットをstereo
誌の付録にしていただき、どうもありがとうございました。
以上
8 / 8 ページ
Fly UP