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畜産合同会議in四賀報告書

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畜産合同会議in四賀報告書
第4回
畜産合同会議
in 四賀
会議報告書
1
熱い想いをぶつけ合い、
進むべき道を確かめ合った 2 日間。
畜産業界の可能性を予感させる発見が
ここには、確かにあった。
index
index ................................................................................................................................................ 2
主催者ご挨拶 .................................................................................................................................... 3
会議概要 ........................................................................................................................................... 4
開催地紹介(松本市四賀地区) ........................................................................................................... 5
視察報告-1 アルプス自然農園、合鴨水稲圃場、クラインガルテン ......................................................... 6
視察報告-2 松本市四賀堆肥センター ................................................................................................ 8
視察報告-3 会田共同養鶏組合(GP センター、平飼い鶏舎、大型自家配合飼料工場) .................................. 10
特別講演 「食と農・畜産の再生戦略」 ............................................................................................... 12
会議報告-1 アジア(ミャンマー)non-GMO トウモロコシ取り組み報告 .................................................. 16
会議報告-2 オーガニック畜産における現状 ...................................................................................... 18
会議報告-3 らでぃっしゅぼーや MD 報告 ......................................................................................... 20
会議報告-4 生産者意見交換 ........................................................................................................... 22
エピローグ 第 4 回畜産合同会議を終えて ........................................................................................ 26
P h o t o G a l l e r y ..................................................................................................................... 27
2
主催者ご挨拶
ここで生まれた道は、
日本の新しい
農業・畜産のモデルになる。
会田共同養鶏組合・理事長 中島学
今回、第 4 回畜産合同会議に多くの畜産関係者の皆様にご参加いただきました。本当
にありがとうございます。かねてより「ゆうきの里・四賀」の循環型農業をご覧いただきたい
と思っておりましたので、皆様をお招きする機会が得られたことを、大変嬉しく思っており
ます。また、皆様との会話から多くの発見もあり、私自身、得るものの大変多い有意義な
時間になったと実感しております。
長年、私どもが取り組んできた畜産というのは、効果・効率を最優先とする近代畜産と
は全く対照的なものであることは、皆様も十分にご承知のことと思います。近代畜産から
すれば、これほど“おろかな”なことはないのかもしれません。しかし、ここに来てヨーロッ
パを源流とする『アニマルウェルフェア(動物福祉)』という考え方がアメリカへと渡り、日本
にやってくるのは時間の問題という段階まで来ています。これは、私たちが 20 年以上も前
から実践してきたことです。自分たちが信念を持って進んできた道が間違いではなかった
と、世界的にも証明されつつあるのではないかと思います。
安心・安全を軸とした畜産の道を進み続けるには多くの困難がありますが、私たちがこ
れまで取り組んできたこと、そして今後も取り組み続けていこうとしていることは、世界的な
流れから見ても、間違いなく日本の新しい畜産のモデルとなるはずです。今回の主要テ
ーマであった non-GMO、飼料米の問題なども困難な課題ではありますが、それだけ取り
組む価値のあるものだと確信しております。目の前の課題は、当然一つずつクリアしてい
かなくてはなりませんが、長い目で日本の畜産を考え、共に発展してゆける道を今後も皆
様と模索していきたいと思っております。
3
会議概要
●開催日 2009 年 6 月 5 日(金)~6 日(土)
●会場
長野県松本市四賀地区
・視察…四賀地区各所、会田共同養鶏組合
・セミナー…会田共同養鶏組合
・会議、宿泊…松茸山荘 別館
●主催
Radix の会、会田共同養鶏組合、らでぃっしゅぼーや株式会社
●参加者数
65 名(スタッフを含む)
タイムスケジュール
6 月 5 日(土)
13:00~
四賀地区視察
・アルプス自然農園
・合鴨水稲圃場
・クラインガルテン(緑ヶ丘、坊主山)
・松本市四賀有機センター
・会田共同養鶏組合
(GP センター、平飼い鶏舎、大型自家飼料配合施設)
16:00~
特別セミナー「食と農・畜産の再生戦略」
・講師:蔦谷栄一氏(農林中金総合研究所・特別理事)
18:40~
懇親会
6 月 6 日(土)
8:00~
会議「生産の現場と消費者の提案を確認する」
・アジア non-GMO トウモロコシ取り組み報告
・オーガニックチキン・卵認定報告
・らでぃっしゅぼーや MD 報告
・意見交換会
10:00~解散(希望者のみ市内見学)
4
開催地紹介(松本市四賀地区)
長野県中部に位置する松本市四賀地区。北アルプスの眺望や長野県内最大の福寿草群生地
をはじめとする豊かな自然を有し、今も日本の農村風景を残す地域。2005 年の市町村合併により
松本市に編入されたが、それ以前より「エコビレッジ四賀」をスローガンに掲げ、有機・地域循環
型社会づくりを実践。有機農産物の栽培、畜産厩肥や生活汚泥を良質の堆肥へとリサイクルする
堆肥センターの実現、滞在型自然農園・クラインガルテン内でも、有機農法による植物栽培を義
務付けるなど、地区一体となった有機・循環型社会が日常として機能している。
地区の財産である自然を生かした地域づくりは、全国の農村が抱える問題を打破した具体的事
例として注目され、視察依頼も後を絶たない。1998 年には財団法人あしたの日本を創る協会から
ふるさとづくり大賞・内閣総理大臣賞を、2004 年には農林水産省有識者会議による「立ち上がる
農山漁村」に選定されるなど、高い評価を受けている。
5
視察報告-1
アルプス自然農園、合鴨水稲圃場、クラインガルテン
日本の原風景といっても過言ではないほど、美しい田園風景が広がる四賀地区。
この地域にとって、有機は特別なことではない。
有機は日常の中に当然あるべきものとして、ごく自然に存在していた。
アルプス自然農園(有機 JAS 認定農場)
合鴨水稲圃場
この地域の水稲栽培を
支えているものに合鴨農
法がある。雑食性の合鴨
は害虫や雑草を食べるた
め、除草剤や殺虫剤を使
わずとも効果的な除草と防
▲水田を元気に泳ぐ合鴨たち
虫が行える。また、泳ぎ回る合鴨によって水田はか
四賀地区は、有機農法に取り組む農家が多く、有
き混ぜられ、酸素を稲に効率よく届ける手助けにも
機 JAS の認定を受けている畑も少なくない。キュウリ
なる。さらに糞尿は良質の堆肥となる。
を栽培している、このハウスもそのひとつである。訪
メリットばかり思える合鴨農法にも苦労はある。特
問した当日は、ちょうど初なりキュ
に農家が頭を悩ませるのが野生生物だ。自然豊か
ウリの出荷日。まるまると太ったキ
な場所だからこそイタチやキツネなども多い。合鴨
ュウリが、出荷の時を今か今かと
が襲われる被害は毎年後を絶たないのだそうだ。
待っていた。「どうぞ、遠慮なく召
自然を守りつつ、野生生物とどう共存していくのか。
し上がってください。除草剤や農
これも農村が抱える課題のひとつだろう。
薬は使っていませんから、そのままどうそ。」とアル
プス自然農場のスタッフさん。そのみずみずしさと、
濃い味に感嘆の声を上げ
る人も…。
四賀地区で有機農法を
実践する農家は決して特
別な存在ではない。有機
農業が当たり前のものとし
て、この地に根付いている
ことを感じることができた。
▲立派なキュウリに感動
▲水田の中には、当たり前のように合鴨の小屋がある
6
クラインガルテン(緑ヶ丘・坊主山)
クラインガルテンとは、一言で言うなら「滞在型の
市民農園」である。休憩や宿泊のできる小屋(ラウ
ベ)で過ごしながら、小屋と共に提供される畑で花
や野菜の栽培を楽しむ。
田舎暮らしを望む熟年
夫婦や、自然の中で子
育てを した い と考える
若い世代を中心に注
目を集めている施設だ。
ラウベと呼ばれる休憩小屋。
日本各地にクラインガ
ルテンはあるが、ここは日本における先駆け的な存
在として特に知られている。坊主山に 53 区画、緑ヶ
▲小屋から出たら、目の前が畑。この距離感も人気の秘密だ、
丘に 78 区画があり、募集のたびに応募が殺到する。
この人気を支える一因に、他地域にはないさまざま
かしかねない。そのリスクを積極的な交流で回避す
な工夫があるのだそうだ。特にユニークな取り組み
るだけでなく、地域の活性化に結び付ける仕組み
が「田舎の親戚」制度である。地域住民がボランテ
は、お見事の一言に尽きるだろう。
ィアで、利用者に農作業のアドバイスを行ったり、時
また、クラインガルテン内での植物栽培は有機農
には農作業も手伝う。また、さまざまな交流イベント
法で行うことが定められている。都市生活者をター
の運営にも地
ゲットとした施設でも、ここが「ゆうきの里」の一端で
域住民は積極
あることに違いはない。だから、施設内での植物栽
▲高台にある広場から施設内が一望できる
的に参加する。
培も有機農法で行うという確固たる信念に基づいた
ともすれば、
ルールだ。例外を設けず、地域外からの来訪者も
都市生活者の
地域循環社会の中に取り入れていく仕組み。これ
流入は、地域
が四賀地区の根幹を支えていると言えるのではな
の暮らしを脅
いだろうか。
7
視察報告-2
松本市四賀堆肥センター
地域循環型社会の実現で要となるのが、不要物を循環の輪に取り込むための仕組みだ。
目の前にあるゴミは、それを処理するための施設さえあれば、宝へと変えられる。
松本四賀堆肥センターは四賀地区にとって、まさに“打ち出の小槌”なのだ。
方式がベストだったのだ。
四賀地区は畜産農家から排出される厩肥の量が
少なくない。処理費用は莫大な出費となる。畜産厩
作られた堆肥は「福寿有機 1 号」という名で販売さ
肥や生活汚泥は何もしなければゴミだが、うまく活
れている。土が柔らかくなり、糖度の高い
用すれば優良な地域資源となる。マイナス要因を
美味しい作物ができるとして、四賀
プラスに変えていくためにも、また、より高度な循環
地区の農家やクラインガルテンの利
型社会の実現のためにも、堆肥センターの実現は
用者、さらには地区外からも引っ張
必要不可欠だった。地域住民の強い希望と行政の
りだこだ。実はこの堆肥、長野県
積極的なアクションにより、松本市四賀堆肥センタ
堆肥共励会の『優秀賞』を2年連
続で受賞している。このことからも、
ーは 2000 年に満を持してスタート。現在では、年間
▲福寿有機 1 号
で 3,224 トンもの優良な堆肥を生産できる施設にま
その実力が相当なものであること
を伺い知ることができる。
で成長し、地域
になくてはならな
い施設となって
いる。
この施設で採
用されているの
は、堆積発酵方
▲堆肥の発酵層
式という堆肥の
製造方式だ。一次発酵に 30 日、二次発酵に 30 日、
さらに熟成に 30~60 日、ト
▲ストックヤードはとにかく広い
ータルで 90~120 日という
長い時間を要する。また、
発酵と熟成のために、かな
りのスペースも必要となっ
てくる。効率だけを重視す
るなら、別の選択肢もあっ
たのかもしれない。しかし、
▲スクリュー攪拌機
▲袋詰め機
ゆうきの里にふさわしい堆肥を作るには、堆積発酵
8
▲講師の蔦谷氏も熱心に視察
松本市四賀有機センター・概要
◆事業名 .................................. 山村振興等農林漁村特別対策事業
-ウルグァイ・ラウンド農業合意関連対策―
◆事業主体 ............................. 松本市
◆運営管理 ............................. 松本市
◆敷地面積 ............................. 16,000 平米
◆建物面積 ............................. 5,420 平米
◆発酵方式 ............................. 蓄積発酵方式
◆処理能力 ............................. 40.5 トン/日
◆堆肥生産量 ........................ 3,224 トン/年
◆総事業費 ............................. 559,000 千円
◆商品名 .................................. 福寿有機 1 号
フローチャート
9
視察報告-3
会田共同養鶏組合(GPセンター、平飼い鶏舎、大型自家配合飼料工場)
四賀村で長年養鶏業を営む会田共同養鶏組合。
近代養鶏とは一線を画する真摯なものづくりを信条とし、現状に満足することを良しとしない。
積極的な投資と未知の分野への挑戦は、畜産業界の刺激にもなっている。
GP センター
平飼い鶏舎
GP セ ン タ ー と は
会田共同養
「Grading( 選別)」と
鶏組合には 18
「Packing(包装)」の
棟の平飼い鶏
頭文字をとったもの
舎がある。その
で、文字通り卵の選
一角に、らでぃ
別、洗浄、パック詰
めを行う。工場内に
っしゅぼーや
専用の鶏舎も
▲完全武装での見学となった
▲鶏インフルエンザ対策は万全
は、異物混入などの事故を阻止するための設備が
あった。1 坪あ
随所に施されていた。その衛生管理は完璧といえ
たり 15 羽という広々とした環境で飼育される鶏は、
るものだ。さらに鶏インフルエンザの影響で衛生管
ストレスもなく健康そのもの。まさに「アニマルウェル
理はいっそう厳しいものとなっていた。視察に際し
フェア」を体現しているといえる鶏舎だ。
ては、頭から足先まで厳重に防護服で身を包むと
鶏インフルエンザ対
いう念の入れ様。リスク管理の重要性を十分に理解
策のため、一定の間
していなければできない対応だ。
隔をおいた場所から
作業工程も日々進化しており、今年はひび割れ
の見学となったが、そ
検知器を導入。さらに洗い工程での目視検査も加
れでも 動物福 祉 を 実
えられたのだそうだ。これにより、らでぃっしゅぼー
現している環境である
やに寄せられる卵の割れのクレームは、2.8%から
ことが、十分に理解で
0.6%にまで低下。常に上を目指して続ける会田共
きた。
▲らでぃっしゅぼーやの鶏舎もありました
同養鶏組合の
姿勢と行動力が、
視察を長野放送が取材!
明確な数字とな
会田共同養鶏組合内の視察に同行された他、
って現れたので
生産者へのインタビューも行われました。鶏イ
はないだろうか
ンフルエンザの問題などもあり、畜産業界の動
向にマスコミも注目しているようです。
ろうか?
▲最終工程での目視検査も念入りだ
10
大型自家配合飼料施設
今回の視察最大の見所が大型の自家配合飼料
施設であった。国内でこれほどの規模を誇る飼料
の配合施設はないとのこと。
視察の当日には、
non-GMO トウモロ
▲飼料の配合は一元管理。タッチパネルも導入されている
コ シを 使っ た 飼 料
ュータで一元
の配合実演も行わ
管理され、配合
れることもあり、参
精度の高さは
加者の熱の入りよう
相当なものだ。
も違う。
現 在 、 Radix
降りしきる雨の中、
の会を中心に
はじま った 配合 実
チャレンジが進
演。大型トラックか
ら配合機械へと流
▲作業の流れも一目瞭然
んでいる、アジア(ミャンマー)産 non-GMO トウモロ
▲いよいよ配合実演スタート
コシを使った配合飼料のテスト生産も、この施設を
し込まれるトウモロコシから、粉塵が舞い上がる。そ
お借りして実施される予定となっている。海外産の
の瞬間を捉えようと近くへと走りよる参加者も。
飼料用トウモロコシには、
1976 年に開設したこの施設は、100 トンサイロ 10
アフラトキシン(カビ毒)の
本を擁し、月産 1000 トンの稼動にも対応できる能力
問題がつきまとう。そのよ
を有している。トウモロコシだけでなく飼料米の配合
うなリスクを 十分承知の
も可能であり、かな
上で、新たなチャレンジ
りフレキシブルな飼
への協力を快諾してくだ
料生産が行える。
さった、会田共同養鶏組
また、飼料の配合
合の中島氏に心から
に関しては、コンピ
感謝!である。
▲実演で使われたトウモロコシ
11
▲解説をする中島組合長
特別講演
「食と農・畜産の再生戦略」
今回、特に期待の大きかったのが本企画。
農林中央総合研究所・蔦谷栄一氏のセミナーだ。
グランドデザインを描くことの重要性を説く蔦谷氏から
得られるものは多かったのではないだろうか。
◆プロフィール
宮城県出身。1971 年に東北大学経済学部卒業し、農林中央金庫に入庫。1996 年に
株式会社農林中金総合研究所の基礎研究部長に就任。常務などを経て、現在特別
理事職。同時に早稲田大学非常勤講師、国際農林水産センター顧問等も務める。
◆著書
持続型農業からの日本農業再編(日本農業新聞)、エコ農業~食と農の再生戦略~
(光の家協会)、海外における有機農業の取り組み動向と実情(筑摩書房)、日本農業
のグランドデザイン~地域社会農業のネットワークで田園都市国家をつくる~(農林漁
村文化協会)他
全体像と作り手が見えない日本農業
日本の特徴を知れば策が見える
最近の私の気持ちを率直に申し上げますと、鬱々
日本の農業には 4 つの基本認識があると思いま
としているというのが正直なところです。この背景に
す。それを踏まえて、現状の論点をお話します。
は 3 つの原因があります。
まず、日本農業のトータルビジョンが見えてこない。
これが最大の問題ではないかと思っています。私の
著書の中でも提言してきたこと、水田のフル活用、
動物福祉といったことが実現しつつありますが、ど
れも対処療法的です。やむをえない背景もあります
が、このような状況で先が続くのかと不安にならざる
を得ないのです。2 つ目に行き過ぎた消費者重視と
いうことがあります。今、消費者庁を作る方向で政
府が動いていますが、消費者庁より食糧庁を再建
日本農業の基本認識
●日本は省資源国ではあるが、
森林・水等の資源大国
●農業の国際競争力は乏しい。
所得再配分による支援が必要
●農業者が最も欲しているのは
金目以上に将来展望
●戦後農政の総決算
(品目横断的経営安定対策)から
戦後農政の転換が必要
現状での主な論点(政策課題)
①農家所得の確保
②減反廃止
③農地集積
④食糧自給率向上と食糧安全保障
⑤担い手
⑥都市農業
すべきだと思うのです。食糧について明確な責任を
もてない農水省というのはいかがなものかと。3つ
目が大手町主導型の農政です。国全体としては総
合的なビジョンが重要ですが、方法論として地域に
下ろす際には地域に目線を置いた予算なり施行な
りが必要です。しかし、そこが欠けているのです。
12
が出来上がっています。日本は生産性と付加価値
中でも、特に申し上げたいのが、減反廃止、食糧
の高い畜産や野菜に特化し、単価の低い土地利用
自給率向上と食糧安全保障、担い手の問題です。
減反問題はオールオアナッシングで語られること
型の作物を海外に依存することで、国際分業、輸
が多すぎる気がします。継続する、あるいは止めて
入自由化のメリットを最も享受してきたのだと言えま
しまえということで極論に分かれるのでは問題の解
す。しかし 2 年前の穀物の価格高騰をきっかけに、
決になりません。日本の減反は 5 割を超えかねない
食糧の安全保障が重要ということが、ようやく浸透し
状況が迫っています。台湾の米の生産調整は 5 割
始めたというのが現状です。
を超えていますが、3 年前に台湾を訪ねた際、耕作
さらに担い手の問題。私は基本的に兼業農家を
放棄地が多く荒れた水田が続いていました。日本
再評価すべきだと大変強く主張しています。兼業農
はあんな風にしてはならないと、強く思っています。
家ががんばっているうちに、バトンタッチできる仕組
食糧自給率向上と食糧安全保障については、米
みを作るべきだと。また、農業は家族農業が基本と
食文化圏では食糧自給率が低下し、畜産文化圏
も考えています。農業と同時に地域・伝統・文化を
では向上あるいは変わらないという実情があります。
守るのは、地域が一体となってすべきことだと思い
これは、米食文化圏は食生活の変化で米の消費が
ますし、これは家族農業あってのもの。しかし、それ
減り、食肉、油脂類、小麦の消費が増えていること
だけでは維持しきれないという場面が出てきている。
が背景にあります。WTO の世界の中では、海外の
そういった意味で法人化も必要でしょう。多様な担
競争力に対抗できないということで、食肉などは輸
い手で支えていく地域農業を想定すべきであろうと
入する。それに伴って自給率が低下するという構図
考えているわけです。
13
特別講演「食と農・畜産の再生戦略」
ザインの骨格になるのです。
日本農業のグランドデザインを描く
誇れる“我が地域”が日本を元気に
日本が向かうべき方向はどのようなものか?私は
下の図の右側(図 1)ではないかと思います。
結論的に申し上げたいのが、次の図通りです。(図
▲図 1:農業(農産物)の諸要素と日本農業のあり方
土地利用型農業は国が政策的に誘導し、その上
に高度技術集約型農業があり、これらを大規模・専
▲図 3:距離・時間の縮小と関係性・環境の回復
業農家とその他の多様な担い手で受け持つ。これ
3 参照)
に自給的農業と市民参加型農業が加わるという構
現在、生産者と消費者が離れ、二者の関係性が希
図です。農村地域を支えるには多様な担い手の力
薄化したことがさまざまな問題を引き起こしています。
が必要ですし、都会も農村も農的要素と都会的要
それに対し、今後は意識的に循環や関係性を取り
素を両方持つことも重要です。
戻していくことが重要だと思います。ここでキーワー
さらに、これからの日本農業をどのように考えたら
ドとなってくるのが「地域」です。なかでも景観が非
いいのかということについて、私の考える大きい道
常に重要であると。町並みの美しさや棚田とマッチ
筋を図にしました。(図 2 参照)
した家並みには、人を惹きつける力があります。多
まず、3 つの大きな柱となるものがあります。生産
様な担い手を獲得していくためにも、地域みんなに
調整水田をいかにして畜産用の飼料稲栽培に結
び付けていくのかということ。これが 1 つ目の柱です。
愛される、また都会の人が魅力を感じるような景観
が必要なのだと思うのです。こういうことを積み重ね、
2 つ目が日本農業の特徴、特色を生かした農業。3
理解してくれる消費者とがんばっていくことが契機
つ目が三角の図で表している部分。安定供給、安
になるのだと思います。とにかく、夢を捨てないでが
全、価格、品質安全、コミュニケーションの 5 要素で
んばっていただきたい。夢がなければ面白くないし、
日本農業を分解し、役割分担をしていくということで
元気も出ない。いつ変わるかはとにかくとして、こう
す。この 3 本の柱をベースに、固定概念を打破し、
いう地道な取り組みが日本の農業、国全体を変え
そこから生まれた方向性ができる。これがグランドデ
ていくのではないかと思っています。
14
▼図 2:「日本農業のグランドデザイン」の流れ
15
会議報告-1
アジア(ミャンマー)non-GMOトウモロコシ取り組み報告
non-GMO の安定的な確保が難しくなっている中、新たな産地開発が急務となっている。
Radix の会では、東南アジアに目をむけ、non-GMO トウモロコシの確保の可能性を探っている。
その進捗状況の報告が、パシフィック・トレード・ジャパンのペイソー氏から行われた。
肥料は必要です。収穫量は 1 エーカーあたりピン
パシフィック・トレード・ジャパン
マナーが 1.5 トン、シャン州が 2 トン。収穫量で言え
Phay Soe(ペイ・ソー)氏
ばシャン州優位と言えます。
保管と輸送
ヤンゴン周辺には 1000 トン~4000 トン以上保管
産地と気候
可能な倉庫が複数ありま
ミャンマーは穀物栽培の盛んな国です。トウモロコ
す。使用料は月 10~30
シ産地は国内に複数あり、ピンマナー管区周辺地
万程度。日本向け穀物
域とシャン州のタウンジーが有名。特にピンマナー
を扱う倉庫もあり、レベル
は農業省の実験研究室もあり、交流も可能。農家と
は低くないと思います。
の契約も比較的容易だと思われます。
▲ヤンゴン周辺にある保管倉庫
また、ボイラ熱を使用した乾燥機がタウンジーにあり、
気候は地域によって異なるため、定植時期もまち
1 日に 200 トンの乾燥能力があるそうです。
まちです。ピンマナー管区周辺地域は 5 月に種を
輸出は海路になります。ミャンマーで輸出に対応
蒔き、9 月に収穫。タウンジーは 7 月ごろ定植、11 月
してい る 港はヤ ンゴンのみです が、Thilawa 港 、
の出荷が一般的です。収穫後は自然乾燥(天日干
MITT 港、Asia world 港、政府管理港の 4 港がありま
し)を行い、出荷まで保管されます。
す。輸出会社の評価が一番高
いのは MITT 港で、ヤンゴン市
種トウモロコシと栽培方法
内から 1 時間程の距離にありま
す。ミャンマーの輸出能力は進
ミャンマーでは農業省独自品種とタイから輸入さ
れる 2 種類の種トウモ
化しており、コンテナー積み以
ロコシが流通。赤いも
外にも 15,000~20,000 トンクラ
のは殺菌剤を塗布して
スの船舶での輸出も増加しています。トウモロコシも
あり、定植時の虫食い
15,000 トン程度まとめられればチャーター船での輸
を防止する目的があり
出も可能。また、輸出時はSGSという(その他、日本
ます。栽培に農薬は基
本的に使いませんが、
▲MITT 港
の品質管理会社もある)品質管理第 3 者団体が立
▲タイで流通する種とうもろこし
赤いものは殺菌剤を塗布してある
会い、責任を持って対応してもらえます。
16
◆ミャンマーの基本情報
○公用語 ................... ビルマ語
○最大都市 .............. ヤンゴン(旧首都)
○首都は ................... ネピドー(旧首都ヤンゴン)
○国家元首 .............. タン・シュエ
○首相 ........................ テイン・セイン
○面積 ........................ 676,578km²
○水面積率 .............. 3.06%
○GDP ........................ 1,159 ドル(1 人当り)
○人口 ........................ 50,020,000 人
○隣接国 ................... 中華人民共和国、ラオス、タイ、バングラデシュ
◆視察スケジュール(実施期間:2009 年 5 月 20 日~5 月 28 日)
5 月 20 日
成田~ヤンゴン
5 月 21 日
ヤンゴン輸出社から情報収集と倉庫視察
5 月 22 日
ヤンゴン、午後から深夜バスでピンマナーへ移動
5 月 23 日
ピンマナー圃場視察と農業省担当者と打合せ、
5 月 24 日
マンダレー穀物市場とサンプル集め、
5 月 25 日
午前便で へーホー(タウンジー)へ移動、CP圃場視察
5 月 26 日
トウモロコシ乾燥工場訪問後ヤンゴンへ移動
5 月 27 日
MITT 輸出港視察
5 月 28 日
輸出手続きや輸出許可申請、支払い条件などの情報収集。
午後便で日本へ
17
会議報告-2
オーガニック畜産における現状
有機畜産 JAS という制度をどう捉えていくのか、意見が分かれるところである。
自分たちの信念と有機 JAS という枠組みをどう摺り合わせていけばよいのか、
有機畜産 JAS の黎明期から、この分野を牽引してきた共栄ファームの中村氏に話を聞いた。
オーガニックの根底にあるべきこと
共栄ファーム
最近、共に認証団体設立に奔走した黒富士牧場
中村孝治氏
さんのリアルオーガニック卵と、私どものオーガニッ
クチキンが有機畜産 JAS を取得しました。
だからといって、オーガニックチキンが差別化商
有機畜産 JAS 実現への道のり
品とは思っていません。ヨーロッパのオーガニックは
根底に循環型農業があり、100 年、200 年という歴
10 数年前、狂牛病でヨーロッパが混乱していた頃
史があります。日本のような付け焼刃ではないので
のことです。畜産、特に養鶏を中心とした志ある仲
す。動物福祉、動物愛護、環境保全といったことも
間と共に、オーガニックの実情を知ろうと欧米への
根底にあります。例えばオランダのオーガニックチ
視察や先方の認証団体との意見交換などを行って
ューリップ。普通のチューリップよりも 2~3 割は高い
おりました。そこで海外のオーガニックを目の当たり
のですが、よく売れるそうです。日本の消費者には
にし、痛感したのです。このままでは、日本の畜産
理解しづらい感覚かもしれません。これは、オラン
はダメだと。
ダの消費者がオーガニックの本質を理解しているこ
私たちは日本に戻り、畜産分野でのオーガニック
とのあらわれなのでしょう。
認証団体設立に動きました。アメリカ、ヨーロッパの
また、一番大切だと思うのが、生産者が自ら自主
認証団体の多くは民間の団体で、むしろ国の認証
基準を作っているということです。流通側が作った
団体よりも権威があります。アメリカのオーガニック
基準を押し付けられたものではないのです。
消費者協会(OCA)のハーレー会長(当時)を日本
先を行く国を見ると、有機畜産 JAS を取得すること
にお招きしたこともありました。
自体、たいしたことではないと感じますし、日本の有
ところが、困ったことにオーガニックを判断できる
機畜産 JAS はこれからだと思うのです。
人材が日本にいないのです。当時アメリカでは立検
査官と呼ばれる専門知識を持った人材がいたので
有機畜産 JAS 認証の第一歩は飼料の確保
すが、当時の日本には 2 人しかいなかった。とにか
く情報もですが、専門家が絶対的に少ない状況。
飼料用穀物はなかなか日本で手当てができない
そのような中、とにかくオーガニックチキンを作るん
のが実情です。私の場合、最初はミネソタ州辺りの
だという一心で、がむしゃらに奔走し続けました。
ヒッピーさんたちが作っているオーガニック原料を、
後にフィリピンの少数民族リトル・タジャン、NGO と
18
組んでオーガニックのとうもろこしと大豆を約 6 年間。
実情です。例えば、食品用のとうもろこしや大豆は、
最近では、カナダ、アメリカ、中国あたりからの輸入
飼料用としては認めらないというようにちょっと変な
が多いですね。
ところもあるのです。
認証取得にあたっては、ブロイラーについていうと、
オーガニック飼料を入手する際、問題になるのが
アフラトキシンという毒カビです。アジア、南米はリス
平米 10%以下であるとか、放牧場を作るとかがありま
キーだと私は思っています。北米もちょっと危ない。
す。餌は抗生物質なし、non-GMO が当然のことな
となると、カナダやロシアあたりが中心になってくると
がら要求されます。消毒についても JAS の枠組みの
いう現状があります。今は黒富士牧場さん、ワタミさ
中でやっていく必要があります。原料、飼料工場、
んと共同資本で飼料協議会を作り、カナダと提携し
農場、処理場、小分けとあらゆる段階で認証が必要
て飼料用穀物を確保しています。
となります。検査員が有機畜産 JAS の基準にあって
いるかをそれぞれの工程に入って確認作業をしま
さらにオーガニックの餌を作る工場にも認定が必
すし、認定のために膨大な資料も必要となります。
要です。日本配合飼料さんが北海道と関東に認定
工場を持っておられますので、そこにお願いしてい
ます。今は順調に回っていますが、先々原料がどう
オーガニックは差別化商品ではない!
しても買えないという事態が出てくる可能性も否定
最後に、私どもはそんなに大きな会社ではありま
できません。飼料米の可能性を探っていかなけれ
せんが、オンリーワンの商品を届けることで、取り組
ばならないと思っていますし、早々に取り組んでい
みや商品を知ってもらえればなと思っています。た
きたいと考えています。
だ、非常に高価なものですから、飼料米を取り入れ
ていくことも含めて、コストを下げる工夫もしていきた
日本の有機畜産 JAS は成長途上
いと考えています。将来的には、こういうものは特別
有機畜産 JAS は、かなり複雑です。農産の有機 JAS
なものではなく、あたりまえのものだというオーガニ
検査員はたくさんいるのですが、畜産はその複雑な
ックチキンを作っていきたいと考えています。オーガ
工程ゆえに人材が少ない。さらに圃場の問題が難
ニックは、絶対に差別化商品ではありません。作り
しいこともあり、なかなか広がりません。有機畜産
手の思いがこめられている、第三者の機関によるチ
JAS そのものはトレーサビリティですし、システム認
ェックを通じて客観的な評価がされている、そういっ
証と今度は ISO も入ってきたので結果認証も併せ
た要件を揃えることが出来てこそのオーガニックで
持った仕組みになっていますが、課題が多いのが
はないかと、私は思っています。
19
会議報告-3
らでぃっしゅぼーやMD報告
生産者だけでは問題を抱えきれなくなった今、流通側が担うべき役割は確実に増えている。
消費者と生産者をつなぐ立場にある、らでぃっしゅぼーやは何をしようとしているのか。
上原食品課長がらでぃっしゅぼーやを代表して生産者に思いを伝えた。
り目を向けてはいないようです。
飼料用穀物の確保は、今後厳しくなっていくのは
らでぃっしゅぼーや株式会社
食品課長
確実です。飼料メーカーから言わせると、
上原篤志氏
non-GMO は既に価値観レベルの話になっており、
何をもって安全?という段階に来ているようです。
飼料メーカー独特の見方だとは思いますが…。
大手商社の動向
生産者と共に考え、行動する
先日、伊藤忠商事さんから興味深い話が聞けまし
たので、ご報告させていただこうと思います。
このような厳しい状況の中、我々はどういう商品作
まずアメリカからの輸入状況ですが、コーンスター
りをしていくかということですが、短角牛、放牧豚、
チ用、約 370 万トンが 1~2 年のうちに完全に GMO
平飼い鶏は継続的に取り組んでいくことに間違い
に変わるだろうということです。コーングリッツは 12
ありません。これに加えて、オーガニックやリーズナ
万トン程度と量が小さいので当面は大丈夫ではな
ブルな価格帯というような、ラインナップの多様化は
い か と 。 飼 料 用 は ピ ー ク 時 で 約 100 万 ト ン
現実問題として必要です。しかし、これだけ餌が上
non-GMO が入っていましたが、今は 30 万トン程度
がるとコストダウンにも限界があるのは明らかです。
だそうです。
安心・安全=ある程度の対価が、これまでの常識で
アメリカに限って言えば対価を払えば量を確保で
したが、この業界は新しいステージに進まなくては
きるものの、輸入量が減少している分、物流コストの
ならない段階に差し掛かっています。この問題を生
上昇は避けられません。つまり、アメリカに物はある
産者だけで考える時代も終わっていて、私たちも積
のに持って来られないという状況になりかねないと
極的に関わっていくことが必要だと思っています。
いうことです。アメリカ以外ですと、アルゼンチンは
農業の在りようにも通じるのですが、生産者と流通
90%GMO に対応。中国は未だ non-GMO 王国で
にも家族経営的な関係性が必要なのではないでし
すが輸入国に転換しつつあるため、当てにはでき
ょうか?血縁関係がなくても、こういう集まりやコミュ
ないだろうと。
ニティも家族の一形態として機能していけるのでは
輸入代替国として東欧・ルーマニア辺りを有力視
ないかと思うのです。ですから、コストダウンにはどう
しており、今はモデルを作りつつあるという話です。
いう方法があるだろうかと、我々らでぃっしゅぼーや
東南アジアはアフラトキシンの課題があるので、あま
も、皆さんと共に考えていきたいと思っています。
20
価格戦略をデザインする
グランドデザインを描ける企業へ
皆さんが根底で考えているのは、自分たちが信念
昨日、GP センターや平飼い鶏舎などの現場を見
を持ってやっていることをもっと多くの消費者に知っ
学しましたが、ぜひ会員さんにも見ていただきたいと
てもらいたい、全国に広がって欲しいということかと
改めて感じています。価格の価値判断は情報を与
思います。でも、そのための方法が見えなくて、少し
えることでかなり変わってきます。いいものであると
立ち止まっているような気がします。そういう点にお
いうことを認めてもらうには、その根拠となる情報を
いて、コストというのは非常に重要なヒントになってく
受け取り側が理解できる形で提供することが重要だ
るのではないでしょうか。
と思うのです。また、会員さんを現場に呼んだりしな
リーマンショック以降、コストという意識のモデルが
がら、そういう機会を提供していければいいなと思っ
いくつか出てきています。例えば、ハイブリット車で
ているところです。
す。品質については潜在顧客、購入していない人も、
非常によいものであると認めていたわけです。それ
また、蔦谷氏の話がなぜ心に響いてくるのかと考
えていたのですが、蔦谷氏が現場をよく知っている
を品質は維持したまま価格を下げる努力をした結果、 からなのだと思います。本や新聞からの情報だけで
今の爆発的な普及につながったわけです。一方、
はなく、自分で見聞きしたことを自分なりに解釈して、
ユニクロのように元々は安価で品質は低かったとこ
自分の言葉で話しておられる。それが、強い説得力
ろを、価格変えずに品質を上げていくことで、大きな
になっているのではないかと。人が何かを理解しよう
市場を獲得したという戦略もあります。
するとき、現地に行って本質を自らの目で確かめる
価格戦略的には対極にある二者ですが、はたして
ということは、やはり必要不可欠なのだと改めて実感
我々はどちらの戦略に学ぶべきであろうかというと、
したわけです。
前者であると確信しています。品質には当然自信が
らでぃっしゅぼーやは今年で 21年になりますが、
ありますし、違いの分かる消費者からも認められて
結果が証明しているように年商 220 億超の企業とな
います。ベースはできているわけですから、それをど
りました。これからの 20 年は、結果を求めるより先に
こまで努力して価格を下げていけるのかという部分
グランドデザインを描かなければならないのだろうと。
をクリアできれば、一気に広がる可能性が十分ある
国がグランドデザインを示せないなら、我々が示さな
と思っています。また、これにいち早く気づき、取り
くてはならない。これまでの 20 年間、日本の農業や
組んだ者が生き残るのではないでしょうか。
食文化のグランドデザインを描いてきた企業として、
これからもそうあるべきだと思っています。
21
会議報告-4
生産者意見交換
質疑応答、意見交換の時間。生産者は次々と発言していく。
さすが、畜産業界の猛者たち。生ぬるい発言は皆無。ユニークな発想や鋭い提言ばかりだ。
ここでは、特に目立った発言をピックアップしてご紹介しよう。
ペイソー氏、中村氏の報告を受け、口火を切った
分たちのところに米があって、内陸で作れるように
のは米沢郷グループの代表を務める伊藤幸蔵氏。
なると、流通面での仕組みが変わってくる。これも
伊藤氏は最近のとうもろこし相場の高騰は一時的な
面白いなと思っている。」
ものではなく当たり前の相場として定着してしまう可
国内で生産ができれば、輸入にかかる物流コスト
能性を言及。対抗策として飼料米やアジア内での
は大幅に圧縮できる。これは、コストダウンに直結す
連携の重要性を訴えた。また、長年ファーマーズク
るのはもちろん、地産地消の流れにも良い影響を
ラブ赤とんぼを率い、稲作をホームグラウンドとして
与えるのは間違いないだろう。
きた経験から飼料についてもこのように述べた。
◆
◆
伊藤氏が現実に目を向ける一方、より俯瞰的な視
「地域に畜産が入ってくるこ
点から語ったのが、秋川牧園の秋川正氏である。
とで生まれる堆肥をどうや
「日本において畜産業の存
って地域に還元していくか
在価値とは何だろう?と考
を、農家も含めて考えない
えさせられました 。地域の
といけない。今、有機肥料も
人にとって畜産農家がすぐ
輸入品が増えている。米を
そばにあることが嬉しいと思
作るためにどれだけ輸入
ってもらえるような畜産のあ
▲米沢郷グループ代表
伊藤幸蔵氏
▲秋川牧園 秋川正氏
肥料に頼っているかと考えると、想像したくない数
り方とはどういうことだろうか
字になるはずです。結局、日本は外のものに頼っ
と。今一度、深いところから考え直してみたい。」
て米を作ってるだけになりかねない。畜産の現状と
秋川氏の意見は、より俯瞰的に見渡した日本農業
どう違うのか?ということです。」
の全体像であり、畜産の存在価値という大きなテー
現時点では、飼料や堆肥を輸入に頼らざるを得
マにまで拡大したものであった。蔦谷氏がセミナー
ない実情がある。しかし、いつまでも海外に頼って
で語ったグランドデザインを描くという作業に必要な
いられない。海外からの入手が難しくなる前に、国
視点で、秋川氏は畜産業界を見つめ、何をすべき
内で手当てできる仕組みづくりが重要だということだ。
か考えているようだ。
また、国内での循環を作ることで、システム面にも変
◆
化が出てくるだろうとも。
豚肉でオーガニック認証を取得した経験を持つ、
「今までは輸入を前提に飼料工場は海沿いに建て
ファーマーズ・ジャパンの岸晃弘氏は、有機畜産
ていた。その物流コストはかなりのもの。それを自
JAS を取得するかどうか考えたのだと言う。
22
「結論から言うと、豚肉の有
飼料米は伊藤氏からの刺激が大きかったとのこと。
機畜産 JAS はお休みという
生産者間の交流が、畜産業界の発展を形作ってい
か止めました。何を考えた
ることが、この発言からも伺えた。さらに、話は土着
かというと、餌の国産自給
微生物の活用へと発展する。
化を考えるほうが先なので
「土着微生物にはすさまじい力があるんです。新し
はないかと。本州と北海道
では状況がずいぶん違いま
く作った豚舎はでは土着微生物を培養しています
▲ファーマーズ・ジャパン
岸晃弘氏
が、3500 頭の豚が入っているのに見事に臭いがな
す。私のいる北海道なら、家畜が食べる餌をつくる
い。なのに、全然普及しないんですね。本当にもっ
ことができるのではないかと。」
たいない話です。」
実際、岸氏は 3 年ほど前から短角牛の餌を全て
◆
北海道産にするというチャレンジを始め、今では繁
意欲的な取り組みを行っている生産者の中でも、特
殖から飼育、肉の仕上げまで全てを北海道内でま
にシステム面で先進的な取り組みを行っているのが
かなえる仕組みづくりに成功している。さらに、北海
四日市酪農の杉山明氏だろう。
道で手に入るものを使った、豚の飼育にも取り組み
「 う ち は 、 non-GMO 飼 料
始めており、手ごたえは十分あるという。
100%でやってます。取り組
◆
みの一環として、ISO22000
軽快なフットワークで幅広い取り組みを続けるのは
の認証取得もしました。ト
中津ミートの松下憲司氏だ。
レーサビリティについては、
「我々のやっていることは、
non-GMO の餌の出自を全
煎じ詰めればヨーロッパの
オーガニックになるんです。
トレーサビリティは餌だけでなく秤や温度計といっ
違いは餌が手に入らないこ
た、生産に関するものも同様に行っています。」
とだけ。この餌の問題とい
うのは解決が難しい。飼料
▲四日市酪農 杉山明氏
て確認しています。さらに、
膨大な時間と費用を要し、人的コストも相当投資し
▲中津ミート 松下憲司氏
なくてはならない ISO22000 の取得は容易なことで
米を使いたいと思ってあちこち探したのですが、な
はない。それをやってのけた杉山氏の熱意には頭
かなか確保できません。今年こそ飼料米をやりた
の下がる思いである。
いと思っています。」
23
会議報告-4 生産者意見交換
ISO やトレーサビリティに関わる上での苦労を違う立
我々の現実をもっと見て欲しい。せめて、サラリー
場から実感している人もいる。シバフレッシュミート
マン並みの収入を畜産農家が得られるよう、政府
の野島和雄氏だ。
への働きかけも必要なのではないでしょうか。」
▲シバフレッシュミート
野島和雄氏
「オーガニックは取り組み
次なる担い手が育たないと畜産業界は衰退する
自体がトレーサビリティと
しかない。極論かもしれないが畜産農家の生活を
いう側面を含むので、もの
守ることは、日本の食糧安保にも直結していると言
すごく気を使います。加工
える。Radix の会が果たさなくてはならない役割は、
だけでも大変なことを考え
こういうところにもあるのかもしれない。
◆
ると、生産されている方の
苦労は並大抵ではないと
多くの生産者が餌の手当て、オーガニック、国内
思います。私は作業スタッフ全員にそのことを伝え
自給化といった話題に注力する中、異色とも言える
るようにしています。どのような経緯を経てきた商
発言をした人物がいた。黒富士牧場の向山洋平氏
品かを理解してはじめて、大事にするきっかけにな
だ。鶏卵において日本で始めて有機畜産 JAS 認証
るんじゃないかと。」
を受けるなど、長年オーガニック畜産分野を牽引し
てきた向山茂徳氏のご子息である。
どんな商品にも完成までに経てきた道筋がある。
何も知らなければ目の前の商品はただのモノでし
「黒富士牧場では有機畜産
かないが、背景の“物語”を知ることで違って見えて
JAS や、non-GMO でやって
くる。それは扱う商品への愛情であったり、自分の
いくのは、もう当たり前のこ
仕事への誇りであったり、よい方向へと気持ちをシ
とです。今、力を入れたいと
フトさせる力になるのではないだろうか。
思っているのが、商品パッ
◆
ケージなどのデザインをし
▲黒富士牧場 向山洋平氏
生産者の力だけでは超えられない壁もある。
っかり練っていくということです。品質にこだわるの
Radix の会で畜産部会役員も務める木次乳業の佐
は、もちろん重要ですが、自分たちが作ったものの
藤貞行氏が強く訴えたのは、畜産農家の生活保障、
よさを伝える努力も同時にやらないと、農業自体の
政府への働きかけだ。
魅力が伝わらないのかな、というのがあります。」
▲木次乳業 佐藤貞之氏
「農業はやりたいけど経営
いいものを作っていれば、きっと良さを分かっても
はしたくないという方が結
らえる。作り手は消費者に期待しがちだ。しかし、消
構います。つまり畜産は経
費者は期待するほど勉強熱心ではないのかもしれ
営が成り立た ないんです
ない。もののよしあしを判断するのに、自分の手に
ね。農林省は消費者ばか
入る範囲内での情報で結論を出してしまうという行
りに目を向けるのではなく
動を取ってしまう場合も少なくはないのだ。
24
消費者の不勉強と感心の低さを嘆く前に、自ら歩
今、日本は先の見えない不況の中にある。消費者
み寄り、積極的に自らを知ってもらう努力をする。こ
の財布の紐も固くなる一方で、テレビや雑誌では激
れは、蔦谷氏がセミナーで提言されたコミュニケー
安特集がもてはやされている状況だ。マスコミは消
ションの重要性を理解し、実践していると言えるの
費者にとって耳障りのいい情報を流すばかりで、消
ではないだろうか。
費者が求めていないと思っている「安さの理由」を
有機畜産やオーガニックを作ってきた世代は、ど
語ることはない。安さを追求して作られるものと同列
うしても、それがまだまだ当たり前にはなっていない
で語られるのを避けるためには、自分たちで「高い
と考えがちだ。しかし、それを当然のものとして広げ
理由」を伝えることも、こんな時代だからこそ重要な
ていく原動力となるのは、向山氏のようにオーガニ
のだろう。
ックや有機畜産は当たり前だという大前提の中で育
◆
ってきた世代なのかもしれない。
熱く議論することも大切だが、時には現状を冷静
◆
に見つめ、現実的な分析をすることも必要だ。今回
これだけ畜産農家ががんばっているのに、経営が
の会議で泉原兵庫 MD 部長は、冷静な視点で自ら
成り立たないのはなぜか?その根底にあるのは、
がするべきことを模索していた様子であった。
実は日本人が持っている価格に対する相場感が問
「冷静に判断しますと、今
題なのではないかと発言したのは、らでぃっしゅぼ
の日本の農業で有機農業
ーやの親跡取締役であった。
が、今後拡大できるのかと
「例えば、5 月、一般的な
いう疑問を持っています。
卵は相場 160 円/kg。安い
また、non-GMO の餌も、本
ですよね。1kg の卵を作る
当に今後わが国でやって
のに、3kg 位の餌が必要な
いけるのかと。そこで、何も
のに、今はコーンが 50 円
考えずに流されていくと我々がいる価値がない。す
/kg。簡単に言うと、150 円
で餌をクリアして 160 円で
▲らでぃっしゅぼーや
泉原兵庫MD部長
ばらしい農業の方向性や体系を作り上げていくた
▲らでぃっしゅぼーや
親跡博史取締役
めに、私たちも生産者と共に知恵を絞っていかなく
売るんだから、利益は 10 円にしかならない。極端
てはならないと思うのです。」
ではありますが…。そういう背景がありながら、餌
生産者と消費者をつなぐだけの流通は、機能とし
は飼料米の方がいいよね…ということになっていく
て不十分。生産者と共に考えることのできる流通に
のかと。でも、積み上げ式で価格設定をしてしまう
なってこそ、その使命を果たせる。模索の中で導き
と、消費者が買えないという話になる。そういう相
だされた答えは、きっと生産者の思いに応えるもの
場があって、そんなもんだよなんて…もしかすると、
であろう。それは、今後のらでぃっしゅぼーやのスタ
それ自体がおかしいのかもしれない。」
ンスが証明してくれるに違いない。
25
エピローグ
第4回畜産合同会議を終えて
Radix の会
畜産部会の使命とは!
Radix の会・事務局長 後藤和明
酪農品は戦後日本の食卓を豊かにした立役者である一方、食生活の洋風化を進める要因に
もなった。2006 年には、畜産物・油脂類がカロリベースで全体の 29%を占めるに至り、そ
の事が食糧自給率の低下にもつながっている。何でも行き過ぎはまずい。歴史の教訓である。
ここで、一見幸せに見える食卓の裏側にある、畜産現場の厳しい現実を挙げてみよう。
◆安価な輸入飼料と効率優先の経営により、大規模業者優位の時代に。
対抗できない中小畜産農家は生き残りが厳しく、生産者の減少も著しい。
◆大規模生産が起因すると思われる、
BSE や鶏・豚インフルエンザ等の重篤な病気の発生。
◆水質汚染・悪臭など家畜糞尿による環境汚染対策の必要性と、
堆肥化のための設備投資費用が重い負担に。
◆新興国の畜産生産の増大、バイオエタノール原料の需要拡大による飼料価格高騰。
non-GMO 飼料生産鈍化にも影響。
◆各種政府補てんへの期待感よりも、飼料価格高騰への不安が先行。
◆WTO 農業交渉により、酪農品の関税率大幅引き下げの可能性。
事の次第によっては、安い輸入品に日本の畜産業が脅かされる懸念も。
他の課題もあるが、畜産業界の深い棘は、上記 6 点に集約されるのではないだろうか?
1996 年、Radix の会の活動は畜産基準の策定から始まった。その後、生産地の視察勉強会
や代案飼料の模索、オーガニックトウモロコシ生産への挑戦、そして消費者交流といった活
動を継続してきたが、その間にも畜産業を取り巻く国内外の状況、環境は厳しさを増し、生
産現場を圧迫し続けている。
第 4 回畜産合同会議は、
厳しい時代にこそ足元を再確認しようとの想いから企画を行った。
いち早く循環型地域社会の形成に成功した四賀地区と、そこで 20 年前より平飼い養鶏に取
り組む会田共同養鶏組合を訪ね、畜産業のあるべき姿を探った。また、中期ビジョンを共有
する意味で「日本農業のグランドデザイン」の提言者である蔦谷栄一氏によるセミナーも開
催した。全国から集結した多くの参加者から、気づきと出会いへの感謝の言葉を沢山頂戴し
た。これほど嬉しいことはない。本会議での経験がこれからの畜産業のグランドデザインを
描く際、ヒントとなれば何よりである。
Radix の会は、国内外に広く視野を向けると同時に、持続可能な畜産業の発展に貢献する
使命に燃えている。来年の再会の時を楽しみに、まずは畜産部会の皆々様に感謝!
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Photo
Gallery
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第 4 回畜産合同会議・会議報告書
Produce:後藤和明(Radix の会事務局)
Photo:Phay Soe(パシフィック・トレード・ジャパン)
Edit・Photo・Layout:小川恵(フリーライター)
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