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R
Y
O
K
U
【 カエルリョク】
No.
9
Wi n t er 2 0 11
R
特集 仕事と生活を変える
スロー とシェア
特別寄稿 西垣 通 /久保田晃弘
◎ インタビュー
佐々木則 夫
なでしこジャパンの 咲 かせ方
◎ 連載
鶴田真由/遠藤 諭/しりあがり寿
Y
O
K
U
日本女子サッカーにとっての長い﹁冬の時代﹂を吹き飛ばすかのように
ワールドカップで優勝に輝いた﹁なでしこジャパン﹂は
震災で心沈む日々を過ごしていた日本人に歓喜と勇気を与えてくれた。
やり方だったので、選手は懸命に模索し
後、なでしこジャパンの監督に就任して
が 出 た。 こ れ だ、 と 思 い ま し た。 そ の
たら、選手たちが非常に順応し、持ち味
ヨーロッパの強豪クラブとの試合をやっ
日本女子代表とその下の監
僕はU
督も兼任していたので、そのつながりで
もしれないと思っていました。
はないか。それによって何か変化するか
スタイルを構築していく必要があるので
そろそろ世界を意識したチームとしての
ていくことはもちろん大事だけれども、
るには、これまでのように個の質を上げ
要素をもっと安定した力として発揮させ
が強くチームワークがいい。この3つの
ある。次に協調性がある。そして結束力
可能性を感じていました。まずスキルが
ちを見てきて、女子のサッカーに大きな
コーチでしたが、それまで2年間選手た
り ま せ ん。 北 京 オ リ ン ピ ッ ク 前、 僕 は
ら、選手にとってこんなにいい経験はあ
る。 し か も 相 手 は 強 豪 国 ば か り で す か
なれば3位決定戦までフルに試合ができ
ベスト4になることでした。ベスト4に
次の目標は4年後の北京オリンピックで
アテネ・オリンピックでベスト8に終
わったとき、なでしこジャパンが立てた
手 で 結 成 し た「 な で し こ チ ャ レ ン ジ 」と
に、 未 来 の な で し こ 候 補 で あ る 若 い 選
で決めることなんです。そこで澤を中心
えられるものではなく、選手たちが自分
な い か、 と。 し か し 目 標 は、 上 か ら 与
ピオンを目指していく必要があるのでは
標意識の違いによるところが大きいので
メダルが獲れなかったのは、そういう目
手)に話しました。もう一歩のところで
とを新キャプテンに選任した澤(穂希選
次のロンドン・オリンピックに向けて
ス タ ー ト を 切 る に 当 た り、 僕 は そ の こ
果に表れた。
違っていたのです。その意識の差が、結
戦 っ て い た。 我 々 と は 最 初 か ら 目 標 が
ムは、明らかにチャンピオンを目指して
ル、ドイツ、アメリカの上位入賞3チー
否めませんでした。それに対してブラジ
4に達した時点で力尽きたという印象は
スト4。目標は達成しましたが、ベスト
でにない手応えを感じつつも、結果はベ
を迎えました。欧米の強豪相手にいまま
え、気勢が上がる中で北京オリンピック
の中にやればできるという自信が芽生
そんな折に東アジア・サッカー選手権
で優勝。初めての優勝体験に、選手たち
ていました。
からは、スタイルの確立に主眼を置き、
リーから
U
意識の差は結果に表れる
どのように指導を行い、世界最強のチームを組み立てていったのか?
スキルと協調性、チームワークをベース
ベテランと若手、それぞれの選手の力を引き出し、見事に栄冠に導いた監督は
ビジネスにも応用可能な﹁プレイヤーズファースト﹂の組織マネジメント論。
に、攻守にアクションするサッカーに徹
しました。そしてみんなが世界一になる
なでしこジャパンの咲かせ方
サッカ ー
日本女子代表 監 督
底してトライしてきました。最初は僕が
のだという目標意識を自主的に共有し、
佐々木則夫
主導して自分のイメージするサッカーを
強い思いをもって臨んできた中で迎えた
人が集まってミーティングを
の代表チームを含む3つのカテゴ
はないか。ならば我々も限りなくチャン
選手たちに伝え、それを理解してもらう
聞き手/編集部 撮影/池田晶紀
70
カ エ ル リョク × ヒ ト
Norio Sasaki
H e a d C o ach, Japan Women’s Nat ion a l Te a m of Foot ba l l
N o . 9 Wi n t e r 2 0 1 1 2
3 K A E R U R Y O K U
-
19
-
20
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カ エ ル リョク × ヒ ト
たんです。
のが、あのドイツ・ワールドカップだっ
こ と。 こ れ が 大 事 で す。 そ う す る と、
導者が目指すイメージや思いを共有する
同じ時間、同じメニューをやっても、成
果がまったく違ってくる。ほめるだけで
関係、組織の中で自分をどう活かしてい
ぶれないことが重要。上下関係や横との
ことには努めています。公平で、基準が
を評価する際の基準をわかりやすくする
リティに変化はないんですが、選手が僕
に当たっても、僕自身の性格やパーソナ
は大きくは変わらないと思います。指導
選手時代も監督になってからも、ベース
コーチを経て監督になったわけですが、
ジャでコーチと監督を務め、なでしこの
て来ました。引退した後は、アルディー
僕 は 帝 京 高 校、 明 治 大 学、 N T T 関
東(現・大宮アルディージャ)でプレーし
を 動 か す「 人 道 術 」が 必 要 な の だ と 思 い
ニックやスキルよりも、まず人の気持ち
く ん で す よ。 で す か ら 指 導 者 は、 テ ク
と、それがすごくいい質につながってい
そうした中で共有感を持てるようになる
ろうが若手であろうが、偏りなく叱る。
そういう選手に対しては、ベテランであ
チームワークを乱すようなことをする。
て 積 極 的 な プ レ ー を し な い、 あ る い は
また、ひたむきにやらない、失敗を恐れ
は な く「 横 か ら 目 線 」で 接 し て 伝 え る。
どうフォローするか。それを、上からで
し、どのタイミングで叱るか、その後で
指導者に求められる﹁人道術﹂
くかなど、サラリーマン時代に学んだバ
ます。何か目標を持ったときは、特に。
なく、叱らなければいけないこともある
ランス感覚が、いまになって役立ってい
する必要があります。コーチ時代、イタ
指導者は、選手のことを第一に考えた
上で、何を、どうすべきかを迅速に決断
監督にはいろいろなトレーニングの引
き出しも必要ですが、人が人を動かす以
リア遠征をしたとき、練習を終えてバス
るのかもしれません。
上、 ま ず お 互 い を 理 解 し 合 う こ と で す
で宿泊先のホテルへ帰る途中、雪が降り
が あ り ま し た。 イ タ リ ア で は タ イ ヤ に
チェーンをしないものだから、車は全然
前に進まなくて、見る見る内に大渋滞。
その間にも雪はどんどん降り積もってい
く。選手たちの疲労を考えると、このま
まいつ動き出すとも知れない車内で待ち
続けていいものかどうか。そこで自分で
分くらいだということがわかっ
理だということと、街まで徒歩で大体1
時間
時ご
督に進言しました。結局、選手たちを誘
導してホテルに到着したのは夜
イルだと思っています。その目標を達成
て、共有していくのがこのチームのスタ
世界の状況を把握した上で自ら目標を立
が、僕は選手が自分たちのいまの状況や
監 督 が 目 標 値 を 立 て て 選 手 を 促 し、
引っ張っていくというやり方もあります
ない。ありのままの自分を出して、その中で
し、相手が女子選手であれ、男子選手であ
クニックで指導に当たっても結果は見えてる
人もいましたが、人から与えられた知識やテ
も、ない人からも。中には助言をしてくれる
女 子チームを指 導した経 験のある人から
これは受け容れられる、こういう言動は嫌が
れ、僕という人間のパーソナリティは変わら
も含めて、自分たちで考え、行動する。
られるということを感じながら分析し、身に
意識は常に持っています。
そういう「プレイヤーズファースト」の
迅速に決断する必要がある。
指導者は、選手のことを第一に考えた上で、
試合中もベンチの我々が指示を出す前
するためにサッカーにどう取り組むか、
監督に就任した当初から、「女性の指導は
大変だろう」と周りからよく言われました。
スタイルを目指しています。
自分たちで判断し、工夫する。そういう
に、刻々と変わる状況を素早く見極め、
大宮アル ディージャ 強化・普及部長時代の
佐々木監督(写真提供:大宮アルディージャ)
私生活をどうするか。そこに生じる責任
実践の中で男女差異を理解する
は常に持っています。
い う「 プ レ イ ヤ ー ズ フ ァ ー ス ト 」の 意 識
消耗はかなり抑えることができた。そう
眠や食事を取れた分、選手たちの体力の
で、雪の中を歩いたとはいえ、十分に睡
ろ。バスは明け方近くにやっと着いたの
10
外に出て歩いて様子を見に行くと、誘導
路も詰まっているから警官を呼ぶのは無
FIFA 女子ワールドカップド イツ 2011
表彰式(写真提供:J リーグフォト)
FIFA 女子ワールドカップド イツ 2011 表彰式(写真提供:J リーグフォト)
た。これは歩いた方が早いと判断し、監
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ね。選手を理解するだけでなく、僕のこ
帝京高校キャプテンとしてインターハイに優
勝。父親との記念写真(写真提供:講談社)
始めてバイパスで渋滞にはまったこと
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とも理解してもらう。そして、選手と指
Norio Sasaki
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I n te rv i e w
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付けていくしかないと思っています。
脳科学の本とか、男女の構造の違いに
ついて書かれたいろいろな文献を読む
と、なるほどと思い当たることがたくさ
んあります。例えば、右脳と左脳をつな
ぐ神経線維の束は男性より女性の方が太
く、その分右脳と左脳の情報交換が活発
な の で、 女 性 は 細 か い と こ ろ ま で よ く
気 が つ く の だ そ う で す。 だ か ら 鼻 毛 が
ちょっとでも出ていようものなら、それ
が気になって話も聞いてくれない。最近
は年齢のせいか眼が衰え、すぐ目脂が出
るんですが、目脂なんか付けたまましゃ
べっていたら、その一点だけをいつまで
も ジ ー ッ と 見 て ま す か ら ね( 笑 )
。選手
間でも仲間の些細な変調などに敏感に気
づくので、それがチームワークの良さに
つながっているのかなと思います。
フ ィ ジ カ ル の 面 で い え ば、 練 習 メ
ニューに有酸素能力を引き出すトレーニ
ングがあるのですが、男子の場合は限界
まで力を振り絞った後は、次の練習では
ほとんど動けなくて使いものにならな
い。ところが女子は、倒れるまでやるん
だけれども、その後はけろっとして次の
練習をする。それは手を抜いているわけ
ではなく、体の構造がそういう風に出来
ているんですね。女性は子供を産む性な
ので、生命を維持するため無意識の内に
体にストップをかけるのだそうです。そ
ういう本能レベルの違いも実践の中で理
解していきました。
スキルや協調性、結束力は、
選手だけでなく、
コンディション以外にも僕が知っておい
度についてどう感じているかとか、体の
音を口にしやすいので、選手が練習の強
ます。人は心身が癒されているときは本
門に行うメディカルトレーナーを帯同し
れるスタッフや、体のメンテナンスを専
試合やキャンプにはドクターのほか、
栄養管理など食事面からサポートしてく
るし、ひいては選手たちのためでもある
が仕事をしやすくなるということでもあ
こともすぐに察知できる。それは、彼ら
督の方向性とずれていないか、そういう
なら、選手のコメントを聞いたときに監
じ目線で考えられますから。例えば広報
イメージが持てるでしょうし、みんな同
ますが、僕が伝えることでより具体的な
カーの質など多少は理解していると思い
に き ち ん と 伝 え る。 総 務 や 広 報 も サ ッ
待をしているとか、そういうことを事前
バー構成とか、この選手にはこういう期
べても遜色ないところに来ています。実
のなでしこジャパンは、諸外国の力と比
一戦、結果を出して行かなければ。いま
質を上げていくためにも、我々が一戦、
せん。底辺を広げ、女子サッカー全体の
ですから、まだまだメジャーとはいえま
し女子サッカーの競技人口は3万5千人
非常にありがたいと思っています。しか
していただけるようになったこの状況は
ばってきたので、そういう意味でも注目
を作ろうという志でこれまでずっとがん
で、サッカーへの情熱と後輩が育つ土壌
マイナースポーツゆえの厳しい境遇下
あるのは幸せなことです。
れにもう一度チャレンジするチャンスが
ないことがあった。次の世界大会で、そ
フットボーラーとして、まだでき得てい
含めひとつのチームとして、選手たちは
取って勝ったとは思っていません。僕を
して足元を見る限り、イニシアティブを
ワールドカップでは結果的にチャンピ
オンにはなりましたが、フットボールと
感じました。
力や最後の最後まで耐える力を得たなと
スに転じて戦った選手たちの姿に、集中
で、ともすれば重圧となるところをプラ
スタッフ 全 員 に 必 要 な 要 素 なんです。
たほうがいい情報は、トレーナーから報
のです。
組織における監督 の 役 割
告してもらいます。
てもらっています。それに対して僕も意
るプランをパワーポイントでプレゼンし
したDVDを元に、選手の弱点を強化す
クニカルコーチには、試合や練習で撮影
指導してほしいと伝えています。またテ
キーパー陣の強化プロジェクトを作って
で、 キ ー パ ー コ ー チ に は 責 任 を 持 っ て
るとまだまだウィークなところがあるの
チ。日本チームのキーパーは世界から見
も自分が前面に出ていって対処していま
トラブルを起こしたりしたときは、いつ
営んでいたのですが、社員がミスしたり
思っています。僕の父親は土木建築業を
れに基づいたものでなければいけないと
す か ら、 組 織 の 中 で の 自 分 の 言 動 は そ
サッカーの将来に対する責任も附帯しま
仕事や役職には、選手たちの未来や女子
王様になってしまう。しかし監督という
組織の中でマネジメントの決定権を持
つようになると、ひとつ間違えれば裸の
に多くの国の方々から支援していただい
共有するためでした。震災に際して本当
たちに見せたのも、その意識をみんなで
録した映像と東日本大震災の映像を選手
前日に、なでしこのこれまでの歴史を記
カップのとき、決勝トーナメント初戦の
我々には日本を代表するスポークスマ
ン と し て の 役 割 も あ り ま す。 ワ ー ル ド
げていきたいと思っています。
に君臨することで、認知度の向上につな
が勝負の世界ですが、ベスト4の中で常
力があっても優勝できるとは限らないの
果を出したいと思っています。
らさらにサッカーの質を上げ、チャンピ
れる立場での戦いとなりますが、これか
ロンドン・オリンピックまで、あと半
年。今度は各国から研究され、目標とさ
あとは僕をサポートしてくれるコー
チ、 テ ク ニ カ ル コ ー チ、 キ ー パ ー コ ー
見はするけど、ただ言われたとおりにす
した。肩書は部下を守るためにある。幼
しているように、我々も目の前の壁を乗
たちが苦しい大きな壁を乗り越えようと
ささき・のりお 1958年、山形県生まれ。転居
先の埼玉県で小4からサッカーを始める。 年、帝
※チャン ピ オ ンバッジ
勝 者 の 証 と し て F I F A︵ 国 際 サ ッ カ ー 連 盟 ︶か ら 贈 ら れ る
エンブレム。次回のFIFAワールドカップまでユニフォー
ムに付けることが許される名誉あるもの。
オ ン バ ッ ジ( ※ )に 恥 じ な い プ レ ー で 結
るのではなく、自分から積極的にどんど
たので、日本の女性がこんなにがんばっ
ているのだということを大舞台でアピー
年期に父の背中から学んだことが、いま
の自分に生きているのかもしれません。
んやってくれと。そうやってお互いを信
頼し、専門分野で各自が責任を持って能
ルし、
「サンキュー・フォー・ユア・サポー
ト」という感謝のメッセージを世界中に
ワールドカップでマスメディアに大き
く報道していただき、その中で結果を残
り越えなければいけないんじゃないか、
世界の舞台でさらなる成長を
せ た こ と で、 マ イ ナ ー だ っ た 女 子 サ ッ
京高校サッカー部主将としてインターハイ優勝。日
本高校選抜の主将を務める。明治大学卒業後、日本
電 信 電 話 公 社 に 入 社 し N T T 関 東 サ ッ カ ー 部︵ 現 大
宮 ア ル デ ィ ー ジ ャ︶ で M F、 D F と し て 活 躍。
年に現役引退、指導者の道を歩む。 年、大宮アル
ディージャ初代監督に就任。2008年、日本女子
代表﹁なでしこジャパン﹂監督に就任。 年北京オ
リ ン ピ ッ ク ベ ス ト 4、2 0 1 0 年 ア ジ ア 大 会 初 優 勝
を果たし、ドイツで開催されたFIFA女子ワール
90
動的に動き、連携することが大切です。
スキルや協調性、結束力は、選手だけで
要な要素なんですよ。
カーの認知度はずいぶん高まりました。
と。そういう負荷的な意義を背負った中
伝えよう、日本の何万、何十万という人
総務や広報とのコミュニケーション
も、大会前は特に重要です。僕がどうい
特に、いまの中堅から上の選手たちは、
ドカップ2011では日本サッカー初の世界一に導
いた。 年、国民栄誉賞受賞。著書に﹃なでしこ力
さあ、一緒に世界一になろう!﹄
︵講談社︶がある。
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76
08
なく、組織を運営するスタッフ全員に必
う こ と を や ろ う と し て い る の か。 メ ン
11
f e a t u r e
カ エ ル リ ョ ク × 仕事と生活
特集:
仕事と生活を変える
スローとシェア
時代の変化とともに、世界観や人間観も変化する。
地球環境や国際情勢や経済状況の変容によって、
私たちの仕事や生活はどのように変わっていくのだろうか。
そしてそのために、IT はどんな役割を果たしうるのか。
「スロー」と「シェア」
(共有)を2つのキーワードとして
私たちの未来について考えてみたい。
仕事場をシェアする co-lab 千駄ヶ谷のオー
プ ン ス ペ ース( 右 )。 も の づ く り を シェア
するファブラボ鎌倉。蔵を再生して拠点に
した(上)。中 学 校 が アートスペースとシェア
オフィスになったアーツ 千代田 3331(下)
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特別寄稿:西垣
通、久保田晃弘 取材・文:民井 雅弘 写真:五十嵐絢也
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カ エ ル リ ョ ク × 仕事と生活
f e a t u r e
リアルの揺らぎ
︱
い な い の か?
小さな子供をかか
元が崩れていくような不安にむしば
室 は 窓 が 無 く、 空 気 の 流 れ が 悪 い の
度 が 集 中 管 理 さ れ て い る。 私 の 研 究
節 電 で、 研 究 室 の エ ア コ ン は 設 定 温
街は照明を落としているのでどこ
も 薄 暗 い。 勤 務 先 の 大 学 も き び し い
第一原発事故である。
大 震 災、 そ し て こ れ に と も な う 福 島
因は言うまでもなく、三・一一東日本
世 界 の マ ク ロ な 状 況 も、 論 理 的 に は
リアルというのは身近でミクロな
も の だ。 テ レ ビ や 新 聞 で 報 じ ら れ る
信感がうまれたことである。
いわゆる権威をもった専門家への不
と。 第 二 は、 こ れ と 関 係 が あ る が、
アル︵現実︶﹂が揺らいでしまったこ
れが日頃から強固だと信じていた﹁リ
大震災と原発事故で明らかになっ
た こ と は 二 つ あ る。 第 一 は、 わ れ わ
治性をおびたプロパガンダにすぎな
えるメッセージというよりむしろ政
ち の 一 連 の 発 言 が、 学 問 的 真 実 を 伝
原子炉工学や放射線医学の専門家た
つ い て マ ス コ ミ を つ う じ て 流 さ れ た、
て い る。 だ が、 と り わ け 原 発 事 故 に
を 含 み が ち な こ と は、 誰 で も 気 づ い
動揺をふせぐためにある種の虚構性
政 府 が 発 す る メ ッ セ ー ジ が、 国 民 の
る こ と は 間 違 い な い。 危 機 に 際 し て
まれるようになってしまった。
で お そ ろ し く 蒸 し 暑 い。 も の を 考 え
リ ア ル の 一 部 の は ず な の だ が、 あ ま
い、 と い う 強 烈 な 印 象 を も た ら し て
えたお母さんたちが困りはてるのも
よ う と し て も、 頭 が ぼ う っ と し て ま
りリアルな感じがしない。リーマン・
しまった。
無理はない。
と ま ら な い。 と は い え、 こ の 程 度 の
シ ョ ッ ク や ア ラ ブ政 変 や 地 球 温 暖 化
第 二 の﹁ 専 門 家 へ の 不 信 ﹂ が、 こ
ういう不安のベースを形づくってい
辛 さ は、 被 災 地 の 人 た ち の 苦 難 と 比
な ど の 影 響 は、 本 当 は 万 人 に 及 ぶ の
マ ス コ ミ 報 道 に よ れ ば、 原 発 を め
ぐるこういう歪みは何十年も前から
今 年 の 夏 は、 陰 気 で 憂 鬱 な 熱 気 が
日 本 列 島 を 覆 い つ く し た。 最 大 の 原
べものにならないのは確かだ。
だ が、 直 接 関 係 者 以 外 の 一 般 人 に は
の こ と ら し い。 日 本 を 代 表 す る 一 流
り す る と、 と た ん に リ ア ル が 脅 か さ
どこか抽象的で縁遠く思えてしまう。
発事故のほうはかなり事情がちがう。
れ る の を 感 じ る。 リ ア ル と は、 日 常
大津波の惨禍はすさまじいもの
だ っ た が、 地 震 は も っ と も 予 測 の む
率 直 に 言 っ て、 人 災 の 部 分 が 大 き
生活における身体的な実感とむすび
れ一般人はいったい誰の発言を信頼
い。 す で に 語 り つ く さ れ た 感 も あ る
ついたものなのだ。
の 専 門 家 が こ の 有 り 様 で は、 わ れ わ
が、 津 波 に た い す る 事 前 の 備 え が お
原 発 と い う の は、 科 学 技 術 の な か
でもかなり特殊な性格をもっている。
ところが一方、隣家で小火騒ぎがあっ
粗 末 す ぎ た こ と に 加 え て、 直 後 の 対
三・一一以前の日本はどんな国だっ
た だ ろ う か。 い ろ い ろ 問 題 は あ る に
地域の巨大な利権がからんでいるこ
た り、 職 場 の 同 僚 が リ ス ト ラ さ れ た
応 が 非 常 に ま ず か っ た。 水 素 爆 発 に
せ よ、 ひ と ま ず 安 全 で 飢 餓 か ら は 遠
と、 原 発 事 業 を 推 進 す る た め に 危 険
人 為 を 超 え た と も 言 え る。 だ が、 原
よっ て 大 量 の 放 射 性 物 質 が 空 中 に ば
証 さ れ た と こ ろ だ っ た の だ。 だ が あ
く、 そ の 意 味 で は 強 固 な リ ア ル が 保
た い と い う 政 治 力 学 が 働 く こ と、 な
の可能性からできるだけ目をそむけ
ず か し い 天 災 だ か ら、 自 然 の 猛 威 が
ら ま か れ た の で、 福 島 だ け で な く 東
の 日 以 来、 そ の う ち 直 下 型 大 地 震 が
か ら 少 し ず つ 醸 成 さ れ て き た 大き な
と は い え、 今 回 は っ き り し た 専 門
知 に た い す る 信 頼 感 の 喪 失 は、 以 前
崩れたら現代生活は送れない。
ングをつんだ専門家による専門知が
科 学 技 術 分 野 に つ い て は、 ト レ ー ニ
て 並 の 医 師 を し の ぐ 知 識 を も って い
ネット を 利 用 して 自 分 の 病 気 につい
動 機 を も って い る 患 者 が、 イ ン タ ー
な い だ ろ う。 に も か か わ ら ず、 強 い
ら正確な判断をくだすのは容易では
イン タ ー ネットの 情 報 と 自 覚 症 状 か
よいか、などについて知りたくなる。
か、 ど こ で ど う い う 治 療 を 受 け れ ば
今年とれた米はセシウム汚染されて
は、肉は、魚は本当に大丈夫なのか?
け れ ど、 ス ー パ ー で 売 っ て い る 野 菜
し ま っ て い る。 政 府 は 安 心 だ と 言 う
特定多数が意見を交換しながらつく
ンターネットで一般人をふくむ不
大学や研究所などで専門家がつ
く り あ げ る 専 門 知 に た い し て、 イ
てはならないのである。
方そのものをより深く問い直さなく
る だ ろ う と か、 ま る で 日 常 生 活 の 足
響でやがて日本人の大半がガンにな
襲 っ て く る だ ろ う と か、 放 射 線 の 影
正しい記述が残る。それが集合知だ﹂
ば、 検 索 エ ン ジ ン の お か げ で 自 然 に
﹁みんなが適当にネット投稿していれ
は、 既 存 の 百 科 事 典 よ り も 新 説 や 新
内容の更新頻度が高い項目について
学問的中立性が疑わしいというのは、
関係なすべての専門知も同じように
ど が 原 因 だ ろ う。 だ か ら、 原 発 と 無
専門知とファスト I T
すればよいのだろうか⋮⋮。
日本一帯が潜在的危険地域になって
傾 向の 象 徴 的 な 表 れではないだろう
ることも、今では稀ではないのだ。
すい、という利点もあげられる。
た だ し、 集 合 知 に つ い て は、 大 き
な 誤 解 が 広 が っ て い る の も 確 か だ。
る。 正 反 対 の 主 張 も あ る。 必 ず し も
インターネットを上手に検索すれ
ば、 あ る 問 題 に つ い て 実 に 多 様 な 知
になったことも一因と言えるだろう。
様 な知 識にふれること ができるよう
の発達によって、われわれ一般人が多
ン タ ー ネットの 普 及 と 検 索エン ジン
思 い つ く が、 そ れ だ け で は な い。 イ
になってしまったこと。これらはすぐ
柄 に 詳 し い だ け の﹁ フ ツ ー の 人 間 ﹂
つ き、 量 産 さ れ る 専 門 家 が一部 の 事
スト
の一部だと信じている人も
検 索 エ ン ジ ン も、 既 存 の 専 門 知 を
手軽に効率よく入手するためのファ
るのは止めておく︶
。
大 問 題 に つ い て は、 本 稿 で 深 入 り す
く な い︵ 真 の 効 率 化 と は 何 か と い う
がきかなくて不便になる場合も少な
な る 面 も あ る に せ よ、 か え っ て 融 通
行 し て い る。 た だ し、 そ れ で 便 利 に
に ど の 職 場 で もファス ト
は大流
あ り、 イ ン タ ー ネ ッ ト の 普 及 と と も
タで代 替するというのがその典 型で
人 手 で やって い た 仕 事 をコン ピュー
値 観 の 相 違 も あ り、 ウ ィ キ ペ デ ィ ア
史 や 政 治 な ど の 知 識 に つ い て は、 価
正 確 だ と い う 印 象 を も っ て い る。 歴
タ関連知識についての記述はかなり
は 個 人 的 に は、 た と え ば コ ン ピ ュ ー
そ れ な り の 編 集 は な さ れ て お り、 私
任だという声もないではない。だが、
公 表 さ れ な い の で、 誤 り が 多 く 無 責
え る こ と が で き、 ま た 筆 者 の 名 前 は
アは原則として誰でも内容を書き換
キ ペ デ ィ ア ﹂ が あ る。 ウ ィ キ ペ デ ィ
分 か り や す い 例 と し て は、 無 料 で
公開されているネット百科事典﹁ウィ
もに有名になった。
導入されたいわゆるウェブ2・0とと
﹂とよばれる。この言
intelligence)
葉 は、 二 〇 〇 〇 年 代 後 半 に 米 国 か ら
﹁グ
イ ン タ ー ネ ッ ト は こ れ ま で、
ローバル﹂という概念と結びついて語
より質に強い﹂ことである。
知﹂
の形成に有効なことだ。そして
﹁量
の 重 要 な 特 色 の 一 つ は﹁ ロ ー カル な
こ の 問 題 に 関 し て、 忘 れ ら れ が ち
な 大 切 な 点 を あ げ て お こ う。 集 合 知
くかは、
まさに二一世紀の課題なのだ。
弱 点 を お ぎ な う 集 合 知 を 形 成 してい
う 恐 れ も あ る。い か に し て 専 門 知 の
な 集 合 知 として位 置 づけられてしま
レ ン ト の 個 人 的 感 想 な ど が、 代 表 的
な 攻 撃 的 意 見 や、 人 気 の あ る 芸 能 タ
記 述 を 優 先 する というアル ゴリ ズム
検 索 エ ン ジ ン が、 ア ク セ ス 数 の 多 い
布 し て い る。こ ん な 妄 想 は ま さ に 集
と い っ た、 と ん で も な い 考 え 方 が 流
検索リストの上位にある知識や議論
多 い。 平 気 で コ ピ ペ︵ コ ピ ー & ペ ー
の記述がかならずしも正確だとは言
ら れ て き た。 た と え ば 生 産 者 は、 世
﹂と呼ぶことにしよう。これまで
じこむのはあまりに愚かというもの。
ウ ィ キ ペ デ ィ ア は オ ー プ ン で あ り、
としてとらえることもできるだろう。
購 入 で き る。 だ か ら 中 間 の 流 通 業 者
価 格 をつけ た 生 産 者 か ら 商 品 を 直 接
出品リストを見比べて、もっとも安い
ン 市 場 で 出 品 販 売 で き る。 消 費 者 は
を採用していれば、センセーショナル
ないことが実感されるのである。
む し ろ、 検 索 エ ン ジ ン か ら え ら れ る
相 互 批 判 が 可 能 だ か ら だ。 さ ら に、
識や議論が関連していることがわか
合 知 の 自 殺 行 為 に 他 な ら な い。 も し
が 信 頼 で き る と は 限 ら な い。 慣 れ て
スト︶レポートを出す学生などはま
え な い か も し れ な い。 だ が こ の 点 は
界のどこに居 ようと 商 品 をオンライ
を﹁ フ ァ ス ト
く る と、 多 面 的 に 問 題 を と ら え る や
さ に そ の 典 型 例 だ。 だ が、 検 索 エ ン
逆 に 言 え ば、 権 威 者 の 学 説 に よ る 全
り あ げ る 知 は﹁ 集 合 知
事実がすみやかに内容に反映されや
か。 原 因 は い ろ い ろ 考 え ら れ る。 専
︵ 情 報 技 術 ︶の 大
これまでの
半 は、 効 率 化 の た め の も の だ っ た。
集合知とスロー I T
門 知 の 爆 発 的 な 増 大 と と も に、一挙
門 分 野 が か ぎ り な く 細 分 化 さ れ、 専
効率化のための
り 方 が わ か っ て く る。 そ し て、 科 学
知 識 命 題 を、 た だ 無 批 判 に 頭 か ら 信
ジンがリストアップしたお仕着せの
学の大衆化とともに学問的権威も傷
あ り、 簡 単 に 一 義 的 な 答 な ど 得 ら れ
技 術 の 分 野 で も、 さ ま ざ ま な 学 説 が
(collective
に 知 の タ コ ツ ボ 化 が 進 ん だ こ と。 大
明 ら か に 行 き 過 ぎ で は あ る。 と く に
これまでの I T は、ほとんどが効率化を図るための、いわば「ファスト I T」だった。
だがこれからは、集合知に基づいた「スロー I T」を目指すべきではないだろうか。
情報学 の第一人者が唱 える「『グローバルと量 』から『ローカルと質 』へ 」の文明論。
面的な知の支配が難しいという利点
I
T
I
T
N o . 9 Wi n t e r 2 0 1 1 10
11 K A E R U R Y O K U
文:
多 様 な 知 識 命 題 に ふ れ て、 知 の あ り
スローとシェア
ファスト I T からスロー I T へ
西垣 通
た と え ば、 自 分 の 体 調 が お か し く
なったとき、われわれはその病名は何
仕事と生活 を 変 える
I
T
I
T
I
T
情 報 は も と も と ロ ーカ ル な 存 在 で あ る 。
だからこそスロー I T が 有 効 なのだ。
特 集:
[ 特別寄稿1 ]
カ エ ル リ ョ ク × 仕事と生活
f e a t u r e
だ け で は、 商 品 の 質 の 細 か い 相 違 は
イン タ ー ネット に 掲 示 さ れ た 商 品 名
の場合、これは机上の抽象論である。
盛 ん に 唱 え ら れ た も の だ。 だ が 多 く
抜き理論﹂は、経済学者によって一時
など不要となるといったいわゆる﹁中
す れ ば、 各 地 点 で 人 々 が 定 期 的 に き
汚 染 が 観 測 さ れ る か も し れ な い。 と
ス ポ ッ ト で は、 思 い が け な い 高 濃 度
け で は き ま ら な い。 い わ ゆ る ホ ッ ト
放射性物質は雨や風で運ばれるか
ら、 汚 染 の 度 合 い は 複 雑 で、 距 離 だ
をぜひ知りたいのだ。
人 間 を 経 済 的・ 機 械 的 な 量 的 要 素 に
それは文化を貧しくするだけでなく、
前者の便利さを否定するつもりは
な い が、 後 者 を 捨 て て し ま う な ら、
ローカル・サービスの違いである。
供 で き な い 料 理 の﹁ 質 ﹂ に こ だ わ る
ジ ネ ス と、 あ る 時 点 と 場 所 で し か 提
ロ ー カ ル な 存 在 な の で あ る。 だ か ら
とはもともとグローバルというより
で あ る。 基 礎 情 報 学 に よ れ ば、 情 報
は、
﹁ 意 味 内 容の 共 有 ﹂という 点 か ら
情報学 (Fundamental Informatics)
と い う 学 問 を 研 究 し て い る が、 こ れ
が有効なのだ。
情報概念そのものをとらえ直す試み
わ か ら な い。 商 品 配 送 の 確 実 性 を ふ
こそ、スロー
れはもともと、生きた身体をもつロー
還 元 す る こ と に 他 な ら な い。 わ れ わ
データをインターネットで交換しな
カルな存在なのである。
め こ ま か く 放 射 線 量 を 測 定 し、 そ の
誰 も 注 文 な ど し な い だ ろ う。 オ ン ラ
集合知が求められるのは当然ではな
が ら 安 全 度 を 確 か め て い く、 と い う
く め、 取 引 の 信 頼 性 が 疑 わ し け れ ば
中間流通業の役割は残るのである。
イ ン 市 場 の 有 効 性 は 否 定 し な い が、
について も、ファス
そろそろ
ト
だけでなく、スロー
に真
う か。 こ れ こ そ、 わ れ わ れ が 直 面 し
によって、三・
はたしてスロー
一 一 以 来 亀 裂 の 入 っ て し ま っ た﹁ リ
を と ら え る こ と は、 新 た な 集 合 知 の
ど︶
﹂という視座からインターネット
﹁ ロ ー カ ル と 質︵ サ ー ビ ス の 差 異 な
数など︶
﹂ と い う 固 定 観 念 で な く、
の生命を守るスロー
ざすファスト
とは異なり、人間
の で あ る。 こ れ は、 効 率 化 だ け を め
た、 具 体 的 な 行 動 指 針 が た て ら れ る
供を登校させられるかどうかといっ
潮流とも深く関連しているのである。
と、実はこのことは、情報学の新たな
いのだろうか。少し理論的な話をする
剣 に 取 り 組 むべき 時 が き たのでは な
れ て き た。 こ れ は、 イ ン タ ー ネ ッ ト
は﹁ リ ア ル ﹂ よ り
こ れ ま で、
む し ろ﹁ バ ー チ ャ ル ﹂ と 結 び つ け ら
ている問題に他ならない。
アル﹂を建て直すことができるだろ
形 成 に つ な が る。 専 門 知 が 抽 象 的 で
味 内 容 と不 可 分 なことは 誰で も 気 づ
一視されることが多かった。情報が意
こ れ ま で﹁ 情 報 ﹂ と い う 概 念 は、
形式的な記号や データとほとんど同
イン タ ー ネット が な くて も わ れ わ れ
固まっていたことも一因である。実際、
ア に よって 日 常 的 リ ア ル の ベ ー ス が
新聞、電話、テレビなどの既存メディ
ミクロでローカルな汚染の状況であ
一 般 人 が 実 際 に 知 り た い の は、 よ り
抽象モデルによるものだろう。だが、
二乗に反比例するといった専門知の
で あ る。 こ れ は、 拡 散 濃 度 が 距 離 の
は 避 難 せ よ、 と い っ た 指 示 が 出 た の
子炉から何キロメートルまでの住民
る と い う 考 え 方 を と っ た。 だ か ら 原
らの距離によって汚染の程度がきま
て い る。 こ こ に は 価 値 観 の 相 違 が 現
きた運動がスローフードだと言われ
ア で、 地 元 の 食 文 化 を 守 る た め に 起
に 対 し て、 一 九 八 〇 年 代 の 北 イ タ リ
す る と い う の が 売 り 物 で あ る。 こ れ
質 の 商 品 を、 手 早 く し か も 安 く 提 供
フ ー ド は、 世 界 中 ど こ に 行 っ て も 同
バ ー ガ ー・ チ ェ ー ン な ど の フ ァ ス ト
ド と ス ロ ー フ ー ド で あ る。 巨 大 ハ ン
ファストとスローという対比に関
して思いだされるのは、ファストフー
いていたのである。
実 は 暗 黙の う ち にそ ういう 前 提 を 置
とになる。前述の﹁中抜き理論﹂も、
どこへも情報をたちどころに送れるこ
ネットの高速回線を使って、地球上の
おかれがちだった。とすればインター
される、というナイーブすぎる仮定が
意 味 内 容 も原 則 としてそのま ま 伝 達
デジタル信号︶を送信しさえすれば、
に、形式的な記号︵たとえば0と1の
曖昧にされてきたのである。そのため
えるのである。
を鍛え直さねば
にはまず、集合知
ろうか。そのため
なるのではないだ
くり直すもの﹂に
だ が こ れ か ら は、
わば﹁リアルをつ
たりするためのものとされてきた。
り、 日 常 生 活 を 改 善 し た り 相 対 化 し
新 しい
は 楽 し く 暮 ら し て い た の だ。 だ か ら
が普及した二〇世紀末、すでに郵便、
の一つとし
いているのだが、学問的にはこの点が
る。 つ ま り、 自 分 の 住 む 町 や 職 場、
れている。価格や売り上げ個数といっ
だ が、 今 で は そ う い う 議 論 は も は
や 成 立 し な い。 私 の 研 究 室 で は 基 礎
新たなリアルをつくる
子 供 の 学 校 な ど が、 そ れ ぞ れ ど れ く
た﹁ 量 ﹂ に こ だ わ る グ ロ ー バ ル・ ビ
ならないと私は考
の 役 割 はい
と は プ ラ ス ア ルファで あ
らい放射性物質で汚染されているか
にコンピュータで扱うことのできる
る の で は な く、 ア ト ム と ビ ッ ト の ハ
た と え そ の 後、 ど ん な 仕 事 に 就 い た
る な ど の 目 標 の 有 無 に か か わ ら ず、
︵アーティスト︶やクリエイターにな
し て い く と い う 体 験 は き っ と、 作 家
ら か た ち や 色、 質 感 や 触 感 を 生 み 出
材 と 対 話 し、 自 己 と 対 峙 し、 そ こ か
さ ま ざ ま な 人 々 と 出 会 い な が ら、 素
味がある。豊かな環境と時間の中で、
わ せ た り す る、 と い う こ と 以 上 の 意
さまざまな方法で加工したり組み合
も の を つ く る と い う こ と に は、 単
に物理的なオブジェクト︵もの︶を、
私たちは常に、﹁わかりやすさ﹂がも
その実ものごとの本質を見誤らせる。
は、一見わかりやすそうに見えるが、
た 二 項 対 立、 二 律 背 反 の も の の 見 方
ピ ュ ー タ か、 人 間 か 機 械 か、 と い っ
し て 捉 え ら れ が ち だ っ た。 手 か コ ン
報 ︶ は、 ど う し て も 相 反 す る も の と
タ ル、 ア ト ム︵ 物 質 ︶ と ビ ッ ト︵ 情
た よ う に、 こ れ ま で ア ナ ロ グ と デ ジ
ル へ、 ア ト ム か ら ビ ッ ト へ ﹂ で あ っ
の モ ッ ト ー が﹁ ア ナ ロ グ か ら デ ジ タ
強 く 結 び つ け る こ と に あ る。
通 常 の 研 究 者、 特 に メ デ ィ ア ラ ボ に
ディアラボの中に設けられているが、
ズ・ セ ン タ ー﹂ は、 良 く 知 ら れ た メ
を 務 め る﹁ ビ ッ ト・ ア ン ド・ ア ト ム
自 由 人 の ひ と り で あ っ た。 彼 が 所 長
そ う し た リベラル なマ イン ド を 持つ
であるニール・ガーシェンフェルドも、
サ チュー セッツ 工 科 大 学 ︶の 研 究 者
で あ る こ と が 多 い。 M I T︵ 米 国 マ
純 粋 主 義 者 は 保 守 で あ り、 折 衷 主
義 者 は リベラル なマ イン ドの 持 ち 主
に気づいた人たちもいた。
ネスライクな研究や、ナルシスティッ
パガン ダ 力 を生かした企 業との ビジ
所 属 す る 研 究 者 の 多 く が、 そ の プ ロ
ら生れる新しい価値の中にあること
と し て も、 ど ん な 場 所 で 暮 し た と し
た ら す 甘 い 誘 惑 に 対 し て、 懐 疑 的 に
年代
て も、 い わ ゆ る 教 養 科 目 の よ う な も
を与えてくれる貴重な経験になるに
違いない。
クな自己宣伝に走り がちなのに対し
価 格 化 と 普 及 が、 も う ひ と つ の も の
タと直結したデジタル工作機器の低
ン や 3 D プ リ ン タ な ど、 コ ン ピ ュ ー
し な が ら 近 年、 カ ッ テ ィ ン グ・ マ シ
強 制 的 に 結 び つ け ら れ て き た。 し か
と、 体 全 体 で 感 じ る こ と と 直 接 的、
ら れ が ち で あ っ た。 も ち ろ ん 機 器 の
存の価値観に沿った文脈の中で考え
と い っ た、 マ ー ケ ッ ト・ ト ー ク や 既
とを﹁安く﹂﹁早く﹂﹁上手く﹂行う、
置 き か え る、 あ る い は 手 で で き る こ
善 と す る 文 化 の 影 響 で、 手 を 機 械 で
実 際 デ ジ タ ル・ フ ァ ブ リ ケ ー シ ョ
ン 技 術 も、 そ う し た わ か り や す さ を
設 置 し、 そ の 技 術 を 一 人 で も 多 く の
一般市民のためのオープンな工房を
そこで彼が行ったのは、デジタル・
ファブリケーション技術を活用した、
展途上の国に求めていった。
見 向 き も し な か っ た、 ス ラ ム 街 や 発
ITの よ う なエリ ー ト 大 学 が あ ま り
の 場 を、 大 学 の 外、 特 に こ れ ま で M
て、ガーシェンフェルドは自らの活動
づくりの方法を市民に提供し始めた。
低 価 格 化 に よ っ て、 技 術 の 個 人 所 有
や 技 術 を 持 っ た 研 究 者 や 技 術 者、 あ
人 と 共 有 し よ う と し た こ と だ。 知 識
そ う し た も の づ く り は こ れ ま で、
人 間 の 目 で 見 る こ と、 手 で 触 れ る こ
それは、デジタル・ファブリケーショ
コ ン ピ ュ ー タ な ら ぬ﹁ パ ー ソ ナ ル・
るいは経済的に恵まれた一部の人た
が 促 進 さ れ、 そ こ か ら パ ー ソ ナ ル・
ファブリケーション﹂が可能になる。
ちではなく、
ン技術と総称される情報や機械を介
セスに他者の視点を挿入する。
しかしながら世の中には、デジタル・
が 自 社 の マ ッ キ ン ト ッ シ ュ を﹁ The
年に アップル
フ ァ ブ リ ケ ー シ ョ ン 技 術 の 本 質 が、
入 さ せ る 方 法 で、 も の づ く り の プ ロ
﹁ファブラボ﹂の誕生
ならなければならない。
イ ブ リ ッ ド、 す な わ ち﹁ 折 衷 ﹂ 性 か
I
T
I
T
の 以 前 に、 人 間 や 社 会 に 対 す る 洞 察
金 属 と い っ た フ ィ ジ カ ル な 物 質 を、
そうした既存の視点の延長線上にあ
たとえば原発事故の放射性物質汚
染 に 関 し て、 政 府 は 当 初、 原 子 炉 か
な実践知という性格をもつのである。
集 合 知 は よ り 現 場 に 即 し た、 具 体 的
て位置づけられるものなのだ。
い だ ろ う か。 そ れ に も と づ い て、 子
I
T
普 遍 的 な 性 格 を も つ の に た い し て、
﹁ グ ロ ー バ ル と 量︵ 価 格、 ア ク セ ス
I
T
デ ジ タ ル 情 報 と、 紙 や 木 材、 樹 脂 や
カーシェア やオフィスシェアなど、
「シェア」への動きが本格化している。
個 人のものづくりを手 助 けするデジタル工房「ファブラボ」はそのひとつ。
デジタル・ファブリケーション技 術 が 促す「 脱 工 業 社 会 」は 我 々 に 何 をもたらすのか?
N o . 9 Wi n t e r 2 0 1 1 12
13 K A E R U R Y O K U
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T
90
デ ジ タ ル・ フ ァ ブ リ ケ ー シ ョ ン 技
術 の 第 一 の 特 徴 は、 そ れ が 情 報、 特
スローとシェア
I
T
アトムとビットを 結 びつける
ファブラボ:工業の個人化がもたらすもの
にしがき・とおる 1948 年、東京生まれ。東京大学大学院
情報学環教授。東京大学工学部卒、工学博士。専門は情報
学、メディア論。日立製作所研究員、スタンフォード大学客
員研究員、明治大学教授などを経て 1996 年より東京大学教
授。
『基礎情報学(正・続)』
『スローネット』など著書多数。
仕事と生活 を 変 える
I
T
I
T
1
9
8
4
晃弘
文:久保田
ファブリケーションの個人化とは
文化 の脱 工 業 化ということである。
特 集:
I
T
I
T
[ 特別寄稿 2 ]
カ エ ル リ ョ ク × 仕事と生活
f e a t u r e
と 呼 ん だ よ う に、 ガ ー シ ェ ン フ ェ ル
れ た 人 た ち の た め の コ ン ピ ュ ー タ ︶﹂
︵複
Computer For the Rest of Us
雑な操作ができないために取り残さ
の 社 会 ﹄ に あ る よ う に、 学 習 者 が
し ろ イ ヴ ァ ン・ イ リ イ チ の﹃ 脱 学 校
よ う な 権 威 化 し た 制 度 で は な く、 む
個 人 化 工 業 の 社 会 は、 今 日 の 大 学 の
る、
コミュニティづくりにある。実際、
れ ら が シ ェア さ れ る こ と か ら 生 ま れ
コトをハイブリッドにすることで、そ
も﹁ こ と づ く り ﹂ で も な く、 モ ノ と
ピュータとファブリケーションのハ
テ ィ か ら 生 ま れ る 文 化 で あ る。 コ ン
ストラクチャを共有するコミュニ
よ り 重 要 な の は、 そ う し た イ ン フ ラ
イブリッドから生まれるものをDT
内発的に動機づけられて﹁自ら学ぶ﹂
年 4 月 現 在、 少 な く と も 世
ド が 行 な お う と し た の は、 ま さ に
行為を求めている。その意味で、パー
産 ﹂﹁ 廃 棄 ﹂
﹁ 効 率 ﹂﹁ 均 質 ﹂
﹁無限﹂
である。脱工業文化においては、﹁生
にするさまざまなハイブリッドツー
ソ ナ ル・ フ ァ ブ リ ケ ー シ ョ ン を 可 能
時 間 体 制でシン クロす ること が 可
ファレンスシステムで繋がれていて、
界 の フ ァ ブ ラ ボ は、 常 に ビ デ オ カ ン
すなわち文化の脱工業化ということ
︶ で あ る と 定 義 す れ ば、
Fabrication
フ ァ ブ リ ケ ー シ ョ ン の 個 人 化 と は、
P、DTMに続くDTF︵ DeskTop
﹁ The Fabrication For the Rest of
能である。コミュニティを社会ではな
カ所以上に存在する世
﹂であった。それはいいかえれば、
Us
ものづくりのユニヴァーサルデザイ
ル は、 同 じ く イ リ イ チ の い う﹁ コ ン
く 個 人 の 観 点 か ら 見 れ ば、 そ れ は ア
カ 国、
ンであり、市民デザイナーによるパー
もある。
﹁自立共生﹂を意味するコン
ヴィヴィアリティのための道具﹂で
界
ストラクチャでもある。国際的なネッ
ソナルな工業社会のためのインフラ
50
ブラボ﹂はこうして誕生した。
ためのオープンな工房としての﹁ファ
ト ワ ー ク で つ な が っ た、 一 般 市 民 の
シ ョ ン・ ツ ー ル を 使 っ て も の づ く り
チームが、パーソナルなファブリケー
ファブラボの実験を通じてガー
シ ェン フ ェ ル ド は、 個 人 や 小 規 模 の
ればならない。
技 術や 創 作 の 神 話 学 校 を 卒 業 し な け
るいは﹁作家﹂や﹁作品﹂を愛でる、
れられやすい﹁職人﹂や﹁達人﹂、あ
は、 こ れ ま た マ ー ケ ッ ト 的 に 受 け 入
ヴィヴィアリティを実現するために
したりしたいだけであれば、別にファ
の 効 率 を 良 く し た り、 楽 し さ を 体 験
を 見 誤 ら せ が ち で あ る。 も の づ く り
ト・ ト ー ク 同 様、 フ ァ ブ ラ ボ の 本 質
く﹂
﹁早く﹂
﹁上手く﹂というマーケッ
革命﹂となっていたが、
この邦題も﹁安
の 翻 訳 本 の タ イ ト ル が﹁ も の づ く り
する。ガーシェンフェルドの
﹃
で、 個 人 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ が 確 立
何 ら か の コ ミ ュニ テ ィ に 属 す る こ と
イデンティティの概念と同義になる。
白 い ね ﹂ と い っ た 類 の コ メ ント の 背
心の高さである。
﹁レーザー加工機っ
ション︶ツールそのものに対する関
た人たちの、
︵デジタル・ファブリケー
ファブラボの展示やデモを行うた
びに感じるのが、工業文化の中で育っ
無用の長物である。
と い っ た 見 慣 れ た こ と ば も、 も は や
さ ま ざ ま な 素 材 や 方 法 で﹁
Hello
プリンタって面
自 ら が﹁ パ ー ソ ナ ル・ フ ァ ブ リ ケ ー
づ く。 い ま だ に﹁ モ ノ で は な く コ ト
の づく り ﹂ だ けでは ないことに も 気
た活動にとって、最も重要なのが﹁も
源のハイブリッドによってDTM
が 生 ま
P (DeskTop Publishing)
れ、 コ ン ピ ュ ー タ と︵ M I D I ︶ 音
いうことに対する暗黙の批判でもあ
イ バ ー の よ う な も の に す ぎ な い、 と
て す ご い ね ﹂﹁
﹁なぜつくるのか﹂を考える
去 し た こ と が 象 徴 的 な、 ま さ に ガ ー
﹂という文字列をつくること
World
で、 コ ン テ ン ツ そ の も の の 価 値 を 消
を す る こ と が、い か に 周 囲 の 世 界 に
ブラボなんか必要ない。
言﹂ともいうべき
ションを実現するうえで最大の障害
をつくる ﹂と 公 言 しては ば か ら ない
が普及したよう
(DeskTop Music)
に、 技 術 の パ ー ソ ナ ル 化 が 新 た な コ
﹄
シ ェ ン フ ェ ル ド の﹁ フ ァ ブ ラ ボ 宣
大きな影響を与えるかを目の当たり
景 に あ る の は、 そ こ か ら つ く ら れ て
は、技術的なことではない﹂﹁最大の
デ ザ イ ナ ー が 少 な か ら ず い る が、こ
つ く る の か ﹂ あ る い は﹁ 何 が で き る
ブ リ ケ ー シ ョ ン 技 術 を 使 っ て﹁ 何 を
﹄ で、 ガ ー シ ェ ン フ ェ ル ド
障 害 は 何 か と い え ば、 パ ー ソ ナ ル・
こ で も モ ノ か コ ト か、 と い う 議 論 は
ミ ュ ニ テ ィ を 生 み、 そ の こ と が 市 民
﹃
ファブリケーションが可能であると
冒 頭 の、 ア ナ ロ グ か デ ジ タ ル か、 あ
て も、 ガ ー シ ェ ン フ ェ ル ド の 考 え た
の視点を含んでいる。﹁教育﹂といっ
ま ざ ま な 知 識 を 大 切 に す る﹁ 教 育 ﹂
活動のポイントは、
﹁ も の づ く り ﹂で
論 同 様 不 毛 で あ る。 実 は フ ァ ブ ラ ボ
る い は ア ト ム か ビ ッ ト か、 と い う 議
ト ラ ク チ ャ の 概 念 が 確 か に あ る が、
に は、 文 明 の 基 礎 と な る イ ン フ ラ ス
の 自 立 を サ ポ ー ト す る。 フ ァ ブ ラ ボ
想 像 力 を 解 放 す る。 も の を つ く る た
も、 そ こ か ら 生 ま れ る の は、 た か だ
ら な い。 そ ん な こ と を 考 え た と し て
のか﹂を議論することが重要にはな
めの方法や道具に誰もがアクセスで
を 万 人 に 与 え、 も の づ く り に 対 す る
し た り 廃 棄 し た り す る 必 要 な ど な い。
きるようにすることで﹁秘伝の○○﹂
が 有 限 な 資 源 を 使 っ て、 も の を 生 産
る。 そ の 過 程 の 中 か ら こ そ、 日 常 生
理 屈 か ら い え ば、 も の は つ く ら な け
﹁達人ならではの○○﹂といった神
な 視 点 か ら 考 え て み れ ば、 そ も そ も
作 す る 作 品 く ら い な も の だ ろ う。 そ
活の中で、貴重な資源を用いてまで、
れ ば つ く ら な い 程 良 い。 だ が、 そ れ
話 と い う 名 の 既 得 権 は 消 滅 す る。 そ
と、 完 成 さ せ な い こ と は、 忌 み 嫌 う
れ以前に考えなければならないのが
ものをつくることの必然性が生まれ、
で も な お、 人 は 生 き て い る 限 り、 も
れでもまだ記述できない何かが残っ
べ き も の ど こ ろ か、 む し ろ 美 徳 で あ
﹁なぜつくるのか﹂そして﹁つくるこ
さ ら にその プロセス を さ ま ざ ま な 人
のをつくりつづける。重要なのは、﹁何
ス や、 作 家 様 が 自 己 主 張 の た め に 制
とによって何が起こるのか﹂である。
と シ ェア す る こ と で、 そ の 意 味 が 強
︶﹂ も の を つ く る の か を
﹁ な ぜ︵ Why
考えることにある。ものづくりにとっ
る も の に つ い て は、 沈 黙 し て は い け
ト ゲ ン シ ュ タ イ ン ︶ 以 前 に﹁ 語 り え
ない﹂のだ。
て 一 番 大 事 な こ と は、 実 は も の づ く
語りえぬものについて沈黙する︵ヴィ
た 時、 そ れ を 初 め て、 こ と ば に で き
化 さ れ る。 社 会 や 他 者 は 常 に 自 己 の
年 に 出 版 さ れ た﹃ Nomadic
りそのものにはない。
参考文献
﹄ は、 本 を ひ と た び め く
Furniture
れ ば す ぐ に わ か る よ う に、 伝 統・ 制
イデンティティの概念と同義になる。
鏡であり、それゆえコミュニティはア
ない﹁人間技﹂と呼んでみればいい。
﹃ 人 間 の た め の デ ザ イ ン︵ Design
︶
﹄
﹃生きのびる
for Human Scale
た め の デ ザ イ ン︵ Design For The
︶
﹄
﹃地球のためのデザ
Real World
︶
﹄な
イ ン︵ The Green Imperative
ど の 著 作 で 有 名 な ヴ ィ ク タ ー・ パ パ
ネ ッ ク が、 ジ ェ ー ム ス・ ヘ ネ シ ー と
ガーシェンフェルドのファブラボ
活 動 が、 自 ら を 伝 説 化 し よ う と 努 め
度などの既成の価値観に縛られた社
会 生 活 を 脱 し、 自 然 へ の 回 帰 を 提 唱
て き た M I T や メ デ ィ ア ラ ボ を、 知
ん な 決 し て 美 し い と は 限 ら な い、 ラ
文 字 で 書 か れ て い る。 で は な ぜ、 こ
説明や背 後にある考え方 が手 書きの
で 紹 介 さ れ て い る だ け で な く、 そ の
のさまざまな事例が写真や図面付き
で あ る。 こ の 本 に は、 こ の 遊 牧 家 具
環 境 負 荷の少 ないDIY家 具のこと
できて、軽量で持ち運びがしやすく、
具 体 的 に は 折 り 畳 め た り、 重 ね た り
﹂をそのまま訳せば﹁遊牧
Furniture
家 具 ﹂ と い う こ と に な る が、 そ れ は
で、 市 民 の 手 で 実 現 で き る 時 代 が 到
ネ ッ ク の 思 想 が、 今 こ そ 本 当 の 意 味
しろ逆に
年代のイリイチやパパ
来 ぬ 未 来 の た め の も の で は な い。 む
か さ れ る。 フ ァ ブ ラ ボ は 決 し て ま だ
んど古さを感じさせないことにも驚
脚 光 を 浴 び る と 同 時 に、 今 な お ほ と
イヴされたその文化や価値観が再び
し た 今、 1 度 は 思 い 出 の 中 に ア ー カ
し た も の で あ る。 フ ァ ブ ラ ボ が 実 現
ルチャーの思想をダイレクトに反映
想 像 力 を 束 縛 し て き た。 デ ジ タ ル・
が、 逆 に 人 々 の も の づ く り の 権 利 や
看 破 し た よ う に、 手 や 職 人 の 特 権 化
利をかえって制約している﹂ことを
学義務が大多数の人々の学習する権
ディカリズムである。イリイチが﹁就
き る ﹂ よ う に す る こ と は、 日 常 の ラ
くりの過程を再定義する。﹁誰でもで
し て き た、 封 建 的 で 保 守 的 な も の づ
ン技術は、﹁手﹂や﹁職人﹂を特権化
ブラボのデジタル・ファブリケーショ
ら ぬ 間 に 解 体 し て い く よ う に、 フ ァ
N e i l G e r s h e n f e『
ld Fab: The Coming
from Personal
Revolution on Your Desktopー
』
( Basic
Computers to Personal Fabrication
/
)
Books
年代のいわゆるヒッピーカ
イ ト ウェイ ト の DIY 家 具 が 必 要 な
来 し た、 と い う べ き な の だ。 フ ァ ブ
ファブリケーション技術が人々にも
す る、
のか。DIYでものをつくることは、
ラ ボ が 可 能 に す る の は、 過 去 と 未 来
た ら す こ と、 も の づ く り の た め の 情
イヴァン・イリイチ『脱学校の社会』
(東京創元社 現代社会科学叢書/
)
2
0
0
5
﹄
共 に 著 し た﹃ Nomadic Furniture
が 最 近 再 版 さ れ た。
﹁ Nomadic
身の回りの生活環境を自分の手で創
のハイブリッドでもある。
で 抱 い て い た、 も の づ く り の 前 提 に
報をオープンにして多くの人々と共
造 し、 日 々 そ れ を 改 良 し て い き な が
有 す る こ と、 そ れ ら は 市 民 が こ れ ま
ら、 も の を つ く る こ と 自 体 を 生 活 に
情 報と 道 具 の 共 有
取 り 入 れ て い く 過 程 で あ る。 非 工 業
文化に根差した日常の生活におい
疑 問 を 投 げ か け、 も の を つ く る 権 利
[1]
『 Nomadic
James Hennessey, Victor Papanek
Furniture: D-I-Y Projects That Are Lightweight &
』
( Schiffer Publishing
Light on the Environment
)
[2]
/
[3]
2
0
0
8
70
脱工業文化におけるエコロジカル
1
9
7
7
73
︶﹂つくるのかでもなく、
How
︶﹂ を つ く る の か で も、﹁ ど の
︵ What
ように︵
か美術館に奉納されるマスターピー
る。だからといって、デジタル・ファ
つまりコンピュータのスクリーンセ
い る も の が、 結 局 は ツ ー ル の デ モ、
う に、 フ ァ ブ ラ ボ は そ の 根 底 に、 さ
F
A
B
いう知識の欠如だ﹂と述べているよ
3
D
シェアでつくるコミュニティ
年の著書
に し た。 そ し て 同 時 に、 実 は こ う し
24
コ ン ピ ュ ー タ と︵ 通 常 の ︶ プ リ
ンタのハイブリッドによってDT
2
0
0
5
N o . 9 Wi n t e r 2 0 1 1 14
15 K A E R U R Y O K U
www.idd.tamabi.ac.jp/art/contents/staff/kubotaakihiro/
スローとシェア
[1]
て、 失 敗 す る こ と や、 完 全 で な い こ
仕事と生活 を 変 える
2
20 0
1
1
[2]
70
くぼた・あき ひろ 1960 年、大阪生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科教授。東京大学大学院
工学系研究科船舶工学専攻博士課程修了。工学博士、様々な 領域を横断・結合するハイブリッドな
、
『ポスト・テ クノ(ロジ ー)ミュージック』
創作の世界を開拓中。主な著書に『消えゆくコンピュー タ』
(監修)などがある。
(共著)
、
『 FORM+CODE - デザイン/アート/ 建築における、かたちとコード』
「ファブラボジャパン」プロジェクトメンバ ー のひとり。写真は、多摩美術 大学が(株)ナカダイと
共催した『産廃サミット』にて。左は LAN ケーブル をリサイクルして作ったアート作品 。
特 集:
F
A
B
[3]
f e a t u r e
カ エ ル リ ョ ク × 仕事と生活
ファストからスロー へ
グロー バ ル からロ ー カルへと向 かう新 たな潮流がある。
人とのつながりを基本としたものづくりや 働き方が
どのように世界を変えていくか。
スロー&シェアを仕事や創造の現場で実践している先駆者たちを訪ねて
その可能性を探ってみた。
スロー&シェア から始まる
新 たなもの づくりと 働き方
特 集:
仕事と生活 を 変 える
スローとシェア
17 K A E R U R Y O K U
ファブラボ鎌倉2階の工房スペ ース。様々
な工作機械を使ってものづくりを実践する
ワークショップなども開か れている
N o . 9 Wi n t e r 2 0 1 1 16
カ エ ル リ ョ ク × 仕事と生活
f e a t u r e
練成中学校を改修して、2010 年 6 月にグランドオープ
営している。
1 階のメインギャラリーを中心に、各教室では常時、
フ
ァ
ブ
ラ
ボ
最先端工作機械を備えた
日本初の実験工房
鎌倉市扇ガ谷にあるその工
房 は、 築
年 以 上 とい
う酒蔵を秋田県湯沢市から移
築したものだ。解体した材料
をもとに、無垢の木や土壁と
いった自然素材を活かしてリ
都鎌倉にしっくりとなじんで
試みである。開かれた公民館
ことができる社会﹂を目指す
分たちの欲しいものを作る
ノベーションした建 物は、古
その伝統的な和風空間の2階
のような場所として機能す
具、情報は共有され、誰もが
るファブラボでは、技術や道
レーザーカッター、小型CN
ものづくりに参加できる。
プ リ ン タ ー、
ミシンといった最先端の工作
機械である。
な 人 が 必 要 な も の を、 必 要
Cミリングマシン、デジタル
﹁
(ファ
FabLab
Kamakura
ブラボ鎌倉)
﹂
。マサチュー
それができることを実証し
な と き に 必 要 な 量 だ け 作 る。
社会的な役割だ。
ていくことがファブラボの
﹁ここは、ものづくりをもう
ボ筑波﹂とともに開設された。
新 たな コミュニティ
背景には先端のデジタル&IT
な ぜ、ものづくりが自 分た
ちの手に取り戻せるのか。その
と語るのは慶應義塾大学環
境情報学部准教授でファブラ
ブラボ鎌倉にある
プリン
の 発 達 が ある。例 え ば、ファ
ボジャパンの発起人でもある
くための実験工房なんです﹂
一度自分たちのものにしてい
I Tの 活 用 で 生 まれる
本 で 初 め て 実 現 し た 施 設 で、
年 月に﹁ファブラ
唱 し た﹁ フ ァ ブ ラ ボ ﹂ を 日
のづくりの復権を促し、必要
ガーシェンフェルド教授が提
セ ッ ツ 工 科 大 学 の ニ ー ル・
ファブラボの活動を通し
て、日々の暮らしにおけるも
あ る の は、
に設けられた工房スペースに
い る よ う に 見 え る。 し か し、
レーザーカッターで制作された作品。様々な
方法でものづくりの基本を学ぶことができる
タ ー。 次元 データを元に樹
マーケットの論理に縛られて
が、その普及 版 が家電製品 並
脂などを射 出、積層して原 型
田 中 浩 也 先 生。 大 量 生 産 や
3
D
そっくりの立体物を作る機械だ
れる人たちこそ先端技術を
きは行政と民間の協働からも生まれている。
3
いるものづくりを市民に解放
います﹂
失われた喜びとして﹁もの
づくり﹂の復権を模索する世
个国以上に広がりそ
次産業革命﹂とも言わ
地上3階、地下1階の元校舎に多数のテナントが入る。屋 上
もコンサ ート や ダンス公演 などに使用される
し、
﹁市民ひとりひとりが自
シャルメディアなどでかなり
必要としていることを肌で
インドにファブラボが出来た
界もあれば、いまを生きるた
みに低価格化してきた。さらに、
実現できました。しかし、作
ことを聞いて、早速、現地に
オープン化されネットワーク化
う側が分断されたことによっ
赴いたときのことだ。
感じました﹂
田中先生には忘れられな
い 光 景 が あ る。
年、
によって、専門性で閉ざされた
た。そんなものづくりの喜び
て身近になくなってしまっ
ることの喜びは、作る側と使
ものづくりの垣根が一段と低く
された デジタル データの活用
なったのだ。そこに新たなコミュ
めの技術としてファブラボが
「アーツ千代田 3331」は、東京都千代田区外神田の旧
必要とされる世界もある。
ファ
そこは
人ほどの小さ
な村で電気や水のインフラさ
に「3331」は江戸の一本締めに由来している。
﹁人とつながる喜びは、ソー
村の人々は、自分たちの必要
なものをファブラボで作り出
﹁第
う な 勢 い を 持 つ フ ァ ブ ラ ボ。
1
0
0
2
し、自分たちの生活に役立て
「アートのための英語塾」などスクールも開講。ちなみ
れるローカルでスローな﹁も
発表するための「オープンレジデンス」を実施するほか、
験できる場にしたいと思って
や、教え合うことの喜びも体
ブラボによって世界の様々な
都心にある空間をシェアして様々な活動の拠点とする動
ニティも生まれていく。
え 満足ではない。しかし、W
状況が見えてくるという。
─ アーツ千代田 3 3 3 1
N o . 9 Wi n t e r 2 0 1 1 18
19 K A E R U R Y O K U
ていたのだ。
やクリエーターを対象に、東京に滞在して制作・研究・
﹁人々の生き生きとした姿に
きるので、シェアオフィスのイメージを実感したい人に
のづくり革命﹂に、いま大き
スローとシェア
仕事と生活 を 変 える
機、ソ ー ラ ー ク ッ カ ー ま で、
元中 学 校 が アートスペ ース&
シェア オフィス に
2
0
0
とっても価値のある施設だ。また、世界のアーティスト
な注目が集まっている。
館内を歩き回ってそれぞれの活動や展示を見ることがで
同時に『世界の周辺』と言わ
デザイン事務所、印刷会社などがテナントとして入り、
は も ち ろ ん 感 動 し ま し た が、
展覧会、
イベント、
公演などが開かれている。ギャラリー、
作ることの 喜 びを体 験する─ファブラボ 鎌倉
3Dプリンター。3D スキャナーで取り込ん
だデータをもとに、現物そっくりの立 体的
な「コピー」を作り出す
1
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3
D
5
iFiアンテナから自家発電
を中心とするグループが、学校のイメージを保ちつつ運
慶應義塾大学環境情報学部の田中浩也准教
授。ファブラボ・ジャパンの発起人のひとりだ
ンした文化芸術の拠点施設。アーティストの中村政人氏
デジタルミシンやデジタルニッティングマ
シンを使えば、オリジナルのファッション
も簡単に作ることができる
特 集:
2
0
1
1
レーザ ーカッターによって、各種の素材を正確に切り出すことが可能になった
レーザーカッターで木を切り出す。人を傷付けるものを除けば、“ほぼ ” あらゆるものが 作 れる
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9
インターネットの草創期
のように年々倍増し、じきに
[ Joy of Sharing ]
下 足箱が、入居したテナントの郵便受けに変身した
カ エ ル リ ョ ク × 仕事と生活
f e a t u r e
[ Joy of Sharing ]
様 々 なシェアスペ ース が
続々と誕生
入居率常時
%
うです。単に空き部屋対策で
やっているようなところで
ウや創造性のあるコミュニ
は、人と人をつなげるノウハ
1階にはコンシェルジュ
が常駐する受付や自転車通
意志が欠けていました。コン
ティを作っていこうという
以 上、 何 か が 起 き な け れ ば
セプトを持って人を集める
ム、2階には長屋のように並
ん だ ブ ー ス と 共 有 ス ペ ー ス、
勤に対応したシャワールー
階には作業スペー
ス と 共 用 会 議 室 な ど。 そ れ
意味はない。だからこそシェ
3 階、
レーションという名前にこ
アオフィスではなくコラボ
だわっています﹂
ながら、ゆるやかなつながり
を持ったクリエーターたち
ぞれのスペースには個性的
が 仕 事 場 を 構 え て い た。 co-
展 開 す る 田 中 陽 明 氏。 武 蔵
麻布、二子玉川などで事業を
の主
こ う 語 る の は co-lab
宰者で千駄个谷以外にも西
居希望者がいる人気の﹁シェ
( コ ラ ボ ) 千 駄 个 谷 は、
lab
入 居 率 1 0 0 % で、 常 に 入
後、大手ゼネコン設計部を経
野美術大学建築学科を卒業
て、 慶 應 義 塾 大 学( S F C )
タジオ﹂である。
最近、クリエーターの世界
ではすっかり定着した感が
科 を 修 了 と い う 経 歴 を 持 つ。
アードコラボレーションス
あ る の が﹁ シ ェ ア オ フ ィ ス ﹂
をスタートさせたの
co-lab
は
年。クリエーター
大 学 院 政 策・ メ デ ィ ア 研 究
だ。インディペンデント系の
界でも初めてだった。
に特化したコンセプトは業
クリエーターなどにとって
は一種のゴールだった。しか
立派な事務所を構えること
問を感じてゼネコンを辞め
﹁箱物だけを作ることに疑
ま し た が、 そ の 内、 メ デ ィ
し、昨今の経済的状況によっ
負担が大きく、貸す側も空き
ティづくりと箱をデザイン
アアートで学んだコミュニ
て、借りる側は事務所費用の
ど の 活 用 法 を 模 索 し て い た。
と思い始めました﹂
することをミックスしたい
で行 っている。
部屋対策として古いビルな
そこで、オフィス空間を分割
基本は人のつながり
してレンタルしたり、共同で
シェアしたりするスタイル
バーチャルな世界に浸りきっ
て い た 疑 問 も あ っ た と い う。
を 選 び、 様 々 な ミ ー テ ィ ン
指した。公募制にして入居者
るコラボ型のスペースを目
く、人のつながりを基本にす
従来の会社や働き方にと
らわれない人たちが、新たな
付いていったのだ。
﹁集合知﹂がビジネスに結び
るメンバーが日々新たなアートや情報を発信している。
が広がっていった。
ネット草創期の人々が置
かれていた環境や働き方につ
時代から感じ
た人々が感じ始めていた疎外
コミュニティや仕事観、そし
い て、
感や無力感。もう一度、実空
てコミュニケーションを生
増えてきそうだ。
﹁確かにシェアオフィス的な
知的交流やプロジェクトの共同推進をオープンソース形式
%を切るところも多いよ
co-lab 所 属のクリエーターが同じフロアに入 居して、
N o . 9 Wi n t e r 2 0 1 1 20
21 K A E R U R Y O K U
ど入居者同士のコラボレー
スローとシェア
グやイベントを用意するな
ス が 各地に次々と誕生している。
間におけるリアルなコミュニ
ジェリーカフェ」など、自由な働き方を支援するスペー
ケーションが見直されてくる
このほかにも神戸の「カフーツ」などのコワーキングス
み出していく。これもスロー
ペ ースや、ノマドワーカーに対応する渋谷の「ジェリー
ションを促進する仕組みを
しているが、サイド オフィス 的 な 仕 事 場 の 需 要 は今後
という直感だった。
内田洋行やサイボウズなど賛同企業の会員のみを対象と
たものだろう。
広まってきた。オフィス・コロボックルは、異なる企業
&シェアの潮流がもたらし
が複数集まってオフィスをシェアするシステム。現在は、
ものは増えましたが、入居率
が展開する co-lab のひとつ co-lab 西麻布の1階にあり、
S
F
C
東日本大震災を契機に仕事場を分散するという考え方も
整えた。すると、背景の異な
氏が代表を務め、地上7階地下1階の複合ビルに入居す
co-lab を主宰する田中 陽明さん。クリエイ
ティブファシリテーターという立場で co-lab
の集合体としての力をバックアップしている
エーターの新たな拠点。気鋭のアーティスト、新野圭二郎
50
「co - lab 西麻布
─ KREI open source studio」
コンシェルジュが 常駐する co-lab の受付。隣にはトライアスロンのシミュレーション体験などができる自転車ショップが入っている
仕事と生活 を 変 える
2
0
0
3
「オフィス・コロボックル」
るクリエーターたちによる
東京・日本橋大伝馬町の古いビルを利用したアート系クリ
1
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0
ブランディング、人材開発などを行う拠点。田中陽明氏
は、 単 な る
そ こ で co-lab
オフィスのレンタルではな
「Creative Hub 131」
4
co-lob 千駄ヶ谷 のフロアイメージ。2 階は主にブースタイプ、3、4 階 は ル ームタイプ。各階にハイ
エンドの複 合機 やネット回線が 設けられている
コクヨグル ー プの 製 品、ソリューションの先端開発や
仕 事 場 をシェアする ─ co -lab
4F
3F
2F
入居者にはデザイン系の会社やフリーランス
が多いが、社会起業系の人も増えつつある
特 集:
f e a t u r e
カ エ ル リ ョ ク × 仕事と生活
スローとシェアを考えるための 6 冊
選:編集部
働き方をシェアする ─ PAX Coworking
特 集:
仕事と生活 を 変 える
はまさに感動的だ。
気やパーティ文化を日本で
の動きに対応したビジネスへの視点は刺激的だ。
を認めるところも多いとこ
生や市民が自分たちの手に取り戻していく過程
再現したいと〟交流するレス
京 ﹂ を 2 0 0 7 年 に 作 っ た。
想のネット社会をわかりやすく提言している。
「シェア」を根底に置いたこれからの社会像や、こ
ろから、コミュニティやコラ
義とする空間や、ノマド的な
はその上
PAX Coworking
階にある。
あると説く。
「もっとゆっくり」を基本とする理
の到来を告げる気鋭の論考。
熱狂させ、
「ファブラボ」が始まる。大量生産や
人と人との結び付きに
﹁ものづくり﹂や﹁オフィス﹂
するものとして語られるこ
ワーキングスタイルを共有
な意味を与えて共有する「キュレーション」時代
ア」を考える人には必読の書だ。
マーケットの論理に縛られた「ものづくり」を学
回帰する働き方
でシェアやコラボレーション
い空間になりましたが、そん
﹁相席を基本にして店は面白
と、成功したビジネスの事例を多数紹介。
「シェ
ていくことにつながる。消費社会研究家が説く
な出会いや交流が毎日昼間
ロー IT こそが、新たな世界を切り開く可能性が
が、感覚を共有する新たな消費や人間関係を作っ
か。それを考えていったこと
な コ ミ ュ ニ ケ ー ションに 立 脚 し て 活 用 す る ス
情報圏が生まれている。情報を自ら選んで新た
あらゆるものを作る」という講義が学生たちを
に起きるにはどうしたらいい
ディアなど人と人とのつながりを介した新たな
ガ ー シ ェ ン フ ェ ル ド が MIT で 行 っ た「“ ほ ぼ ”
月、東京・世
済を成立させ始めた。様々なモノやサービスを
シェアすることによって急進展するコラボ消費
的所有ではなく、モノを共同で「利用」すること
を2010年
解決するとするファスト IT に対して、ローカル
少子高齢化でモノが売れなくなる社会では、私
PAX
社 会 を 効 率 化 し さ え す れ ば、 世 界 の 諸 問 題 は
来 の 情 報 発 信 が 有 効 性 を 失 い、 ソ ー シ ャ ル メ
ニール・ガーシェンフェルド
ソフトバンク クリエイティブ 1890 円(税込)
スに格別な興味を持ったと
広告、広報、報道、マーケティングといった従
三浦 展
NHK 出版 1575 円(税込)
造と自由な生き方だ。
イ ン タ ー ネットを 通 じ た コ ラ ボ レ ー ション と
5 『 もの づ くり革命 ─ パーソナル・
ファブリケーションの夜 明け 』
新たな関係や仕事を生み出
西垣 通
春秋社 1785 円(税込)
コミュニティが、いままでにない持続可能な経
4 『これからの日本 のために
「シェア」の話 をしよう』
いま様々なシェアやコラ
ボ レ ー シ ョ ン の ス タ イ ル が、
佐々木俊尚
ちくま新書 945 円(税込)
─ I T 社会の新たなかたち 』
し て い る。 人 と の 結 び 付 き
レイチェル・ボッツマン/ル ー・ロジャース
NHK 出版 1995 円(税込)
3 『スロー ネット
を基本にしたローカルでス
─「つながり」の情 報革命 が 始まる 』
ローな働き方や生き方を選
2 『キュレーションの時代
ぶ人たちが、着実にその数を
〈共有〉からビジネスを生みだす新戦略 』
6
増やしていることは確かな
1 『シェア
5
ようだ。
4
8
﹂
ペ ー ス﹁ PAX Coworking
( パ ッ ク ス・ コ ワ ー キ ン グ )
英国ブラッドフォード大学院で平和学を修
了した佐谷恭さん。旅での出合いをコンセ
プトにしたレストランとコワーキングス
ペースを運営する
ト ラ ン 〟﹁ パ ク チ ー ハ ウ ス 東
の動きが広まる中、個人の働
とも多い。
1
ボレーションの成立を第一
き方にはどのような変容が起
そんなコワーキングス
もコワーキングスペースにつ
きているのだろうか。
ながっていきました﹂
IT社会のひとつの象徴と
して、ノマド(遊牧民)的な
たのが佐谷恭氏だ。
田谷区の経堂にオープンし
ワーキングスタイルがクラウ
ドの進化などによって加速し
設者であるトニー・バッチガ
ている。しかし、パソコンや
ルーポ氏が来日した折、
ューヨークの代表的なコ
ニ
ワーキングスペース﹁ニュー・
い。そんなときにたまたま見
を訪れて、レス
Coworking
トランと連携した世界でも
い っ て も、 電 源 の 問 題 ひ と
も、孤立した環境では限界が
た知人のブログに、海外のコ
珍しいコワーキングスペー
﹁ノマド的な働き方が可能と
ある。そこで登場してきたの
した写真があった。ひと目見
ワーキングスペースを紹介
い う。 た だ し、 佐 谷 氏 が こ
スマートフォンがあればどこ
﹂
(コワー
が﹁ Coworking
キング)というスタイルだ。
て、これだと思いました﹂
だわるのはコワーキングス
ワ ー ク・ シ テ ィ﹂ の 共 同 創
コワーキングとは、主にフ
リーランスなど独立して働く
佐谷氏は京大を卒業して
富士通に入社。その後、世界
ペースのビジネス展開では
つとっても効率がとても悪
て、情報やアイデアを交換し
株式会社﹁旅と平和﹂を設立。
各国を旅した経験をもとに
でも仕事ができるといって
ながらビジネスの相乗効果を
個人がオフィス環境を共有し
得 る 働 き 方 を い う。﹁ ド ロ ッ
なく、あくまで面白い場の創
3
海外のゲストハウスの雰囲
プイン﹂と呼ばれる一時参加
2
6 『考える「もの」たち MIT メディア・ラボ が 描く未来 』
ニール・ガーシェンフェルド
毎日新聞社 2310 円(税込)
「 ファブラ ボ 」を 提 唱 し た ガ ー シェンフェ ルド
が、1999 年に発表したデジタル世界の未来予想
図。ウェアラブルコンピューターなど、デジタ
ル技術の可能性を探ると同時に、
「人間が機械に
ではなく、機械が人間に合わせる」ための方法
など、現在でも有効な示唆を多く含んでいる。
“ 交 流 するレストラン”のコン セプトを
進 化させた経堂の PAX Coworking
スローとシェア
23 K A E R U R Y O K U
N o . 9 Wi n t e r 2 0 1 1 22
カ エ ル リョク 養 成 講 座
に使われる花
昨今は虚礼廃止とも
言われているが
贈り物が必要な
場面はまだまだ多いぞ
割れる、切れる、分かれるなどが連想される
いろいろな考えの人が
陶器、ガラス類、鏡、はさみ、包丁
火や火事が連想される
を考えるということだな
ライター、灰皿、真っ赤な色の花
いるから、相手の気持ち
されるものはタブーに
不幸や不運が連想
なってますが⋮⋮
結婚ギフトで刃物はタブーだったけど
幸せを切り開くとか分かち合うと
万能バサミ、コンパクトなフード
解釈して、お洒落なデザイン包丁セットや
プロセッサーなんかも人気ですって
お土産って必要?
海外ではどんな
鮮度保持の
難しい生ものや
小分けできない
食べ物は避ける
ひとつずつ
梱包されている
結婚や出産などの
節目に、部下に何か
お世話になった
上司の異動や
定年の際にお礼の
気持ちを表したいわ
よく知ることが
相手のことを
一番だな
嗜好品を送るときには
付けたいのはアルコールや
注意を払う。特に気を
魚卵なども要注意
糖尿病や痛風など
人や家族に、気遣いの足りない
体調管理に苦労している
人と思われることがある
喫煙具。ビール券や甘いもの
贈りたいなあ
菓子類などがよい
贈った品物の感想を
ようで失礼。相手に敬意を示す
聞かない。答を強制されている
というスタンスが大事
25 K A E R U R Y O K U
結婚のお祝いに
避けたいもの
新築・引越祝いで避けたいもの
まず最低限のマナーを
る。菊 な ど は 葬 式
知っておくことが大切だ
=寝付く」に通じ
連想される
ただ機械的に守ればいいと
鉢 植 え は「 根 付 く
く」などの意味が
いうものではないんだろうね
われる
「踏みつける」
「敷
有給を取って
香典返しによく使
海外旅行に
鉢植え、菊
靴下、靴、肌着
お茶
お歳暮の
連想される
手土産が喜ばれる
人が多い
4や9(死や苦)が
そうなのよねー
くし
のだろう?
が連想される
いった意味にとる
何を贈ったらいいか
「 もっと 働 け 」と
いつも迷ってしまう
病気が長引くこと
切れにつながる
行ったときにも
パジャマ
「 時 間 を 守 れ 」や
時期だけど
時計、カバン
手巾(てぎれ)=手
ビジネスパーソンの た め の
入院のお見舞いで避けたいもの
毎年悩むなあ
ハンカチ
ギフト力アップ講座
上司や目上の人には
避けたいもの
祝い事で避けたいもの
どんなにヤル気があったっ
て、うまくいかないことも
ある。そんなときは……!
気分を変えれば、見方が変
わる。見方が変わればビジ
ネスが変わる。明日のシゴ
ト を 活 性 化 さ せ る た め に、
Point
今日から取り入れたい「ギ
フト力」向上メソッド。
感謝やお祝いの気持ちをモノに託して贈
るギフトという行為は、よりパーソナル
でその人のセンスが発揮できるチャンス。
日常のちょっとした心づかいや感謝を表
すのに有効活用したい。
イラスト: ナカオ☆テッペイ
監修: 富田
いずみ
N o . 9 Wi n t e r 2 0 1 1 24
カ エ ル リョク 養 成 講 座
いるものと同等のものを避け、
をよく見て、合うものを選んで
老舗の品など、格を意識しても
くれたなあ」と感じてもらえる
のを選ぶ。ただしあまり高価な
ような、便利でお洒落なものが
ものだと、分を超えた態度に見
お勧め。さりげないメッセージ
られてしまうこともあるため気
カードを送るだけでも気持ちを
を付けたほうがよい。
有給休暇を取って
ることを踏まえ、自分が使って
自身に「普段の自分の仕事ぶり
海外旅行に行った
敬意を伝えるための贈り物であ
ぎたものではなく、贈った相手
とき、お土産は会社の
人たちにも必要なの?
高額のもの、ブランドに頼りす
A
伝えられる。
自分が休めるのは、会社の仲間がその分、仕事をして
くれるからと思う場合は、感謝の気持ちを込めて贈っ
てみてはいかがでしょう。所属する部署のみんなが分
けられるような菓子などがおすすめ。
珍しい日本酒や焼酎などを贈る
の処理のことも考え、迷惑に
と喜ばれるかもしれない。また
なりそうなものは避ける。
はワインに合うドライフルーツ
くだけすぎないように。
の詰め合わせやナチュラルチー
ズのセット、燻製のナッツやオ
リーブ類などの変化球が効果的。
恩人の上司が定年
ばワイン好きには同じお酒でも
るようなものでも OK 。その後
部署全員で贈ったけれど
相手の得意分野を避けて、例え
れる人には、その場で笑いを取
個別に贈ってもいい?
サプライズ系の品物に喜んでく
A
商品を自分流にカスタマイズする。相手の嗜好やタイプを贈り物に反映す
特別の恩義を感じていた相手に気持ちを伝える場合は、
るために、絶えず情報収集力を磨くことが大切。デコレーションで個別の
スタンドプレイに思われることもあるので、まわりに
メッセージを入れられる品は年々増えている。足を運ばなければ商品が手
人がいない状況で渡すか、自宅に贈ったほうがよいこ
に入らない、老舗の和菓子店や料亭、洋菓子店なども知っておきたい。
ともある。目上の方にお金を贈ることはタブーだった
が、今は定年退職する人へ会社や部署一同として金封
を贈ることは一般的になっている。お花やギフト券な
どを添えたり、お別れ会などを設けたりするなどの配
慮も大切。
メンズファッションに強い BOQ は、知る人ぞ知る上質なブ
ランドやメーカーの商品を取り揃えている。靴のケア用品
など、国内外の一流品を数多く閲覧できる。
boutique.boq.jp/gift.htm
思いが言葉以上に
伝わることがある
でも、贈っただけで十分に
27 K A E R U R Y O K U
相手が喜ばないものだと
About」の「ギフト」
「お祝い」ガイド担当。
伝えたと思い込むのは禁物
や雑誌などマスコミへの出演も多数。生活情報サイト「All
マイナスにもなるのだな
品の企画宣伝、スタイリングにまで幅広く携わり、テレビ
何より相手の方に喜んで
かめた、感度の高いギフトをマナーとともに紹介する。商
いただけることが大事
など様々なショップを回り、自分の目で見て手に取って確
記憶に残る贈り物を
ギフトコーディネーター。食品、ファッション、インテリア
す れ ば、 相 手 の ハ ー ト も
監修 冨田いずみ
動くってことですね
PROFILE
海外で会社の同僚や
ccm.stylestore.allabout.co.jp
取引先の方の自宅に招かれた
包装を200種類から選ぶことも可能。商品の情報量が多い。
場合の手土産は?
できる。購入品に「寄せ書きのメッセージ」を添えることや、
お歳暮でも
ギフトに特化したサイト COCOMO では「ギフト診断」が
もう悩まないで
すむぞ
ネットで調達、ギフトの達人サイト
A
一般的にチョコレートや花を持参する人が多い。日本
の文化伝統に興味のある相手なら、壁に飾れる写真や
版画、ポストカードなどは会話のきっかけにもなる。
さらに、オリジナルの版画や作家物の工芸も好まれる。
N o . 9 Wi n t e r 2 0 1 1 26
た。それでも一年た つ こ ろ に は 最
開きながら、居眠り ば か り し て い
二時間の電車の中。 毎 日 そ の 本 を
厚い本を買った。読 書 時 間 は 往 復
話に加わりたくて、 ぼ く も そ の 分
に盛んにその話をし て い た 。 そ の
クリストフ』を読んで、休み時間
高校のころ、先輩 格 の 同 級 生 た
ち が ロ マ ン・ロ ラ ン の『 ジ ャ ン・
に書いたという『復興期の精神』
な っ た。 そ れ が 高 じ て、 戦 時 中
う味をはじめて知って、ファンに
の味を知った。文章上の皮肉とい
の隙間のところから、大人の文章
面白い。ちょっと難しい。でもそ
ぼくもその本を入手し、読んだ。
的思考』だった。マネをしたくて
て い る。 そ れ が 花 田 清 輝 の『 映 画
ら、空いた方の手に本を一冊抱え
た。ある日プラカードを持ちなが
住していたのだと思う。
題はもう胸の中に住みついて、定
世界に踏み込んでいた。楕円の問
花田を卒業して、美術の実体的な
後に花田・吉本論争というのが
あったようだが、そのときはもう
信を与えられた。
うまく簡単には説明できない
が、とにかくこの一文でえらく自
つ楕円を描こうとしないのか。
を持てないのか。二つの焦点を持
とか、抱腹絶倒とかいわれる本を
本、笑える本を探した。奇想天外
う、と考えながら、本屋で面白い
どうしよう、不眠をどう克服しよ
で、そんな状態のとき、入院す
ることになった。さあ大変、夜を
いったり、多様化している。
といったり、トラウマがどうのと
当時はノイローゼといった。最近
どんどんふくらむもので、それを
書物
後近くのページまで た ど り 着 い た
チマンのアルバイト を し て い た 。
描きたがる。どうして二つの焦点
を一つにして、歪みのない真円を
ものごとの焦点は一つではな
く、複数ある。でも人はその焦点
文は強く食い込んできた。
た。でも心配というのは始めると
じゃないかといういらぬ心配だっ
の 発 端 は、 自 分 の 心 臓 が 止 る ん
時に少しずつ不眠症にもなり、そ
でも文章を書きはじめていた。同
沢七郎の『言わなければよかった
の か、 き っ か け は 忘 れ た が、 深
られたのか、たまたま手に取った
ものかと慌てたとき、誰かに教え
ぜんぜん笑えない。こんなにない
手にしてみても、ぜんぜん面白く
はこの言葉をあまり聞かず、ウツ
が、つくづくうんざ り し た 。 も う
ない。何か見えすいてしまって、
その仲間に予科練(戦前の軍隊予
が、 中 で も「 楕 円 幻 想 」と い う 一
備 校 )帰 り の ダ ン デ ィ な 人 が い
いたが、あの小説とはまた違う表
そ れ は 三 木 成 夫 の「 南 と 北
の 生 物 学 」と い う も の。 雑 誌
上京して美術学校に通いなが
ら、渋谷の路上で通 称 サ ン ド イ ッ
のに日記』という文庫本に出合っ
情を持つ文章世界だった。文章と
めて読む論理に驚いた。
た。ふと読み出した ら 、 意 表 を つ
その後また時代が進んで、不眠
症も小さく縮んでいったころだと
載された文章の切抜きであ
おいた。
思うが、ある地味な学生から、こ
内臓部、後方の体壁部
たとえば人の胴体を輪
切 り に す る と、前 方 の
「正論」に五回に分けて短期連
このおかしさは何だろうか。作
られたユーモアとは違う。文 章 そ
の一文は絶対に面白いから読んで
いうものが、紐宇宙論の紐のよう
のもの、その全体に お か し さ が 染
欲しい、とすすめられた。その学
常 に わ か り や す いけ
と に 大 別 さ れ る。 非
に感じられた。自分も書きはじめ
み込んでいる。そのときは言葉が
生はぼくの仕事のあれこれをよく
かれたように面白い 。 お か し い 。
見つからなかったが、いまでいう
知っていて、文章もよく読んでく
だ。 た と え ば 喧 嘩
ど、はじめての考え
読み進むのがもった い な く な り 、
と天然のおかしさということにな
れていて、そういう人には絶対に
る。一冊の本ではないとこ
るのか。人物そのもの、生活その
面白いはずだと、強くすすめられ
をしていて危いとなる
ろがよけい秘密めいて面白
もの、存在そのものから本当のお
た。その学生とは何度か話して、
と、人は内臓のある腹を抱え込ん
ていた文章というものに、自信を
かしさが染み出している、そんな
共通感覚もあったので、すすめら
与えられ、未来を与えられた。
ものが世の中にあることを知った。
れるままに読んでみた。
あるものだ。
なる。だから脳は体壁部の頂点に
統制する脳ができて考えるように
必要になり、さらにそれら五感を
めたのが動物。動くには目や耳が
体壁部に手足が伸びて移動をはじ
そういういわば内臓機能だけの
存在が植物で、それをカバーする
授業を手伝っていたのだ。
授で、ぼくに読むことをすすめて
る。晩年は東京芸大の解剖学の教
げ る。 と い う の も 彼 の 提 唱 に よ
気 中 に 上 陸( 誕 生 )し、 産 声 を 上
の中に生れ育ち、鰓呼吸のあと大
返 す。 つ ま り 赤 ん 坊 は 羊 水( 海 )
いる。個体発生は系統発生をくり
とに、確信を持つことができた。
は、うぶすな書院発行の三木成夫
その後もっと読みたくて、中公
新 書『 胎 児 の 世 界 』を 買 っ た。 先
くれた地味な学生は、その芸大で
ぼくはこれを読みながら、それま
ではっきりしなかった頭と心の問題
れても何とか持ちこたえられる。
ると致命傷だが、背中は少々叩か
で、背中を丸める。内臓をやられ
か っ た が、 内 容 は、 は じ
も ち ろ ん『 楢 山 節 考 』で 深 沢 七
郎という作家がいる こ と は 知 っ て
ページを閉じた。入 院 ま で と っ て
う、と思い知った。
その後アルバイト時代を過ぎ
て、仕事をするようになり、自分
赤 瀬川原平
を読んだ。これは少々難しかった
紐宇宙論の
紐みたいな
こんなスノッブの読書はやめよ
作家・美術家/
深沢七郎 著
N o . 9 Wi n t e r 2 0 1 1 28
29 K A E R U R Y O K U
が、それぞれ別の焦点としてあるこ
三木成夫は発生生物学の人で、
その発想は雄大で、実証を超えて
『海・呼吸・古代形象』の中に収め
られている。
三木成夫 著
述 の「 南 と 北 の 生 物 学 」は、 い ま
飛躍しすぎる点もあるから、オー
ソドックスな学会の外に置かれて
(うぶすな書院)
『 海・呼吸・古代形象 ─ 生命記憶と回想 』
文 章を書くことに
自信と未来 を与え、
頭と心 の 問題 を解 いてくれ た 本
(中公文庫)
『 言わなければよかったのに日 記 』
(講談社文芸文庫)
花田清輝 著
『復興期の精神』
(講談社文芸文庫)
花田清輝 著 ※
『新編映画的思考』
※『映画的思考』
(未來社)を再編集した『新編映画的思考』
(未來社)の文庫化
あかせがわ・げんぺい/ 1937 年、神奈川県
横浜市生まれ。武蔵野美術学校中退。前衛
芸術家として 60 年に「グループ ネオ・ダダ」、
63 年 に ハ イレッド・センター を 結 成 して
活動。81 年、尾辻克彦の筆名で発表した
『父
が消えた』で第 84 回芥川賞を受賞。86 年
には路上観察学会を発足させる。カメラコ
レクターとして、また、ライカ同盟、日本
美術応援団などの活動でも知られる。著書
に『櫻画報大全』
『芸術原論』
『老人力』
『全
面自供!』などがある。
私をカエタ
/
連載 第 9 回
店があった。店の中には専門の
た。密教は何でもありなのだ。
僧 侶 が い て 脈 診 を し て く れ た。
めると体が重い。酸素不足を実感し
た。今日の宿だ。朝食にと沢山の取
私の顔を見て「うーむ、弱って
ている体に気づいて来た頃、ポプラ
れ た て の 果 物 と 自 家 製 ヨ ー グ ル ト、
いるね。肉は食べない方がいい
︿ 日目 ﹀
夕 方、 デ リ ー に 到 着。
イスラム過激派組織からテロを実行
グラノーラ、そしてこの辺りで取れ
ね。 朝、 ミ ル ク を
読 経 が 終 わ り 宿 へ 帰 る 途 中、
寺院の門の近くにチベット医の
もホテルもややセキュリティーが厳
る穀物で作られたパン、卵を出して
の木々に囲まれた民家にたどり着い
しくなっていた。
くれた。どれも自然の恵みと人の愛
するとの予告があったようで、空港
︿ 日目 ﹀
早 朝、 ま だ 暗 い う ち に
ラ ダ ッ ク 行 き の 飛 行 機 に 乗 り 込 む。
杯 飲 ん で、
出発して1時間も経つと、窓外に太
粒噛み砕
類の果物の木と畑、牛に囲まれた生
心の奥底でずっと憧れている、数種
いて丸い練り物の錠剤になって
くれた。薬は薬草から作られて
とパワーアップの薬を処方して
き、 白 湯 と 一 緒 に 飲 み な さ い 」
夜寝る前にこの薬を
中に浮かび上がって来た。ゴツゴツ
活。微妙に場所は違えど、すでにも
情が感じられ、心と体がホッとする。
と波打つ稜線。所々に雪を被ってい
う3度も訪れているヒマラヤ山脈の
年で一番満月のエネ
ウ
る。男っぽい。通路を挟んで反対側
いる。その薬草を練りこませた
ド
の席に移動すると、まだ青白い空に
麓はおそらく私の魂の故郷なのだ。
3600メートル。さすがに歩き始
丈夫だと思っていてもここは標高
道の真ん中で車が止まった。そこ
で 車 を 降 り て 歩 く こ と 分 弱。 大
な気がする。
サ以上にチベットの香りがするよう
ことはないが、きっとこの場所はラ
の建物だった。まだラサには行った
圏で、村の家々もみなチベット様式
く。この辺りはチベット密教の文化
ラマが訪れた際に宿泊する場所と聞
しばらく車を走らせるとチベット
密教の施設が見えてきた。ダライ・
いているかのようだった。
コントラストは人間の心の内側を覗
がる圧倒的な自然と軍事施設。その
た。国境が近いからか。目の前に広
道々、軍事施設が多いのが気になっ
い か 体 は 大 丈 夫 そ う だ。 宿 ま で の
レーの空港に降り立つ。飛行機に
乗る前に高山病の薬を飲んでいたせ
ガタガタと車で進んで行くと、かつ
今宵はアズールという山々に囲ま
れた場所でキャンプ。瓦礫の荒野を
たりしている様子にはびっくりし
れて団子を作り、食べながら読経し
でバター茶を飲んだり、器に粉を入
思えていた。しかし、さすがに途中
大切な何かを象徴しているようにも
は感じられないが、それがかえって
印象があった。そこにストイックさ
んというと読経の時にも動いている
が鳴り響く。チベット密教のお坊さ
ぶ。読経と共にシンバルや太鼓の音
所から位の高いお坊さんが順番に並
らしい。礼拝所の中では祭壇に近い
上がってくる。その様子が何とも愛
寺院で学ぶ子供達が急いで礼拝所に
礼拝の始まる合図のようだ。すると
屋上に上がり法螺貝を吹く。それが
いながら建っていた。 人の僧侶が
した山にいくつものお堂が重なり合
ポタラ宮を模したかのように傾斜
日目 ﹀
朝 5 時 に 宿 を 出 発 し、
ティクセ寺院を訪れる。チベットの
休息。
風にはためき、お坊さんたちの奏で
そして読経。テラスには五色の旗が
た。 鳴 り 響 く 太 鼓 と シ ン バ ル の 音、
さん達が祈り部屋でお経をあげてい
れ物の筒の装飾までもが美しかった。
のタンカはもちろんのこと、その入
だったものが展示されていた。数々
併設された博 物 館に王家の所 蔵品
と結びついて勢力を得た寺院らしく、
は2016年だそうだ。かつて王家
れ公開される。ちなみに次のお祭り
には大きなタンカが中庭に張り出さ
ヘミス寺院。
最大の仏教祭典が行なわれるという
佇んでいる寺院 があった。ラダック
を隠すように山間にひっそりと
車で上がっていくと、まるで身
練。乾燥した岩肌の山々の間を
慣 れて 来 た と 思った ら 再 び 試
メ ー ト ル 程。 せ っ か く 高 地 に
移動する。エゴは標高4300
一度宿に戻り、朝食をとり荷
物をまとめてエゴという村まで
日から飲んでみよう。
ルギーの強い日にその光に照ら
ドウは、
はクレーターまでくっきりと見える
日
まるい月が浮かんでいた。どんどん
︿ 日目 ﹀
エゴからシェイの町近
くまでサイクリング。様々な色のグ
て村があったという場所にテントが
る美しい響きが風に乗って山間の谷
日目 ﹀
高 山 に な れ る 為、
ラデーションの山々。信じられない
張られていた。しかもテントの中に
年に一度の大祭の時
されると聞いたことがある。今
景色。今、自分がどうしてラダック
は絨毯が敷き詰められていて、なん
宿に着くと、豊穣を祝うためにお坊
といってもたまにはやや登り坂もあ
下っていく。しかし、いくら下り坂
考えながらひょうひょうと坂道を
だ。馬の方がよかったなぁ。などと
それにしても、前屈みになって乗
らなければならない自転車は窮屈
川が流れていた。空を見上げると意
ろには空は満天の星。頭上には天の
と顔を出して来た。食事を終えるこ
て い る と 星 が ひ と つ、 ま た ひ と つ、
たダイニングテーブルで夕食を頂い
くばかり。野外にセッティングされ
り。あまりのラグジュアリーさに驚
る。そんな自分が嫌になる。都会が
が合ってゆく。なんとなくホッとす
玉手箱を開けた時のよう。都会に体
が急速に早回しされる。浦島太郎が
を繋げてメールを開いてみる。時間
で久しぶりに湯船に浸かる。ネット
︿ 最 終 日 ﹀ 空 港 近 く の ホ テ ル で 休
憩することにした。こぎれいな部屋
︿
の風を浴びながらこの村を走り抜け
る。
「やや」
登り坂でも相当キツイ!
識が吸い込まれていく。標高が高い
を駆け抜ける。音の粒子が散ってい
メートルのところですか
き来する中、排気ガスを
舟からの景色は圧巻。あまりに自分
00メートル級の山々の合間を進む
日目 ﹀
インダス川を下るラフ
テ ィ ン グ ツ ア ー に 参 加 す る。 5 0
うに思う。一眠りして窓外を眺める
生きているのだなぁ、と他人事のよ
「 被 害 」「 避 難 勧 告 」「 放 射 能 」 と い
好きで都会が嫌い。この矛盾にいつ
吸いながら前へ進む。途
と、眼下には沢山の水を含んだ森が
も疲れる。
中の村に着いた時には少
を囲んでいるモノが大きいので、自
横たわっていた。酸素の薄い超乾燥
と空との波動が合いやすい。どんど
しだけ気持ちが萎えてい
分が小人に思えてくる。
みる。
ん孤独になっていく。どんどん宇宙
た。 後 ろ か ら 車 で フ ォ
自然は圧倒的だ。昔々、ここは海
だった。そして、陸と陸がぶつかっ
飛行機を降り、愛車に乗り込むと、
台風一過で外は清々しい風と美しい
ら っ! 自 転 車 か ら 降
りてひいて歩いてもひー
ローしてくれている王様
てこの山脈が出来上がった。当たり
光に満ちていた。その夢のように美
搭乗時間。飛行機に乗り込むと今
朝の朝刊が配られる。久しぶりに日
サイクリングはここで終
前だけど、地球は生きている。その
しい景色は、窓から吹き込む風と共
の子供に還って行く。
了。 自 転 車 を 乗 り 捨 て、
大きな流れの中に自分たちは生きて
にどんどん目の前を通過していく。
「やることやって、早く宇宙へ還り
車 に 乗 り 込 む と、 ふ と、
いる。地球が再びリセットしようと
そして、ラジオからは「森に降った
ひ ー、 は ー は ー。 で も、
自分は何をしているのだ
しているのかもしれない。だとする
本の新聞を開くと、そこには「台風」
ろう、と思う。自分たち
と、その一部である人間もリセット
放 射 能 を 早 く 除 染 し な け れ ば ……」
たいなぁ」そうココロが呟いていた。
が、勘違いした文明国か
せざるをえなくなる。それが、もう
という声が聞えてきた。
地帯から戻るとその豊かさが身に沁
う文字が溢れていた。大変な現実を
ら来た可笑しな人間たち
始まっているのだと思う。
︿
に 思 え て な ら な か っ た。
や軍事施設。軍の車が行
ちょっぴり自己嫌悪。
頑張る! 村を出ると目
に見えてくるのはまたも
なんといってもここは3800
ここに?
12
2
自然に近づいて来ている。
︿
陽が顔を見せ、ヒマラヤ山脈が雲の
1
1
ているのかがわからなくなる。
何故、
1
く。 素晴らしい。
1
と! ベッドまでセッティングされ
ていた。何から何まで至れり尽くせ
3
N o . 9 Wi n t e r 2 0 1 1 30
31 K A E R U R Y O K U
左:朝のお祈りの始まりを告げる僧
映画
「カルテット!」に出演。12 月 17 日シネマイクスピアリにて先行ロー
ドショー、1月7日から丸の内ピカデリーほか全国でロ ードショー。
現在、NHK BS プレミアム「黄金の扉」、BS 日テレ「森人」、TOKYO
FM「フロンティアーズ~明日への挑戦」にてナレーション出演中。
10
4
6
右:いつも素敵なピクニックランチ
【今後の活動】
1
2
5
自然と向き合う旅
の星空が忘れられません
視 点 を 変 える、視 界 が 変 わる /
鶴田真由 アズール で のキャンプ。刻々と変
化する景色の美しさ、そして満天
Text:Mayu Tsuruta Photo:Daisuke Nakayama
どんなことでも、踏み出す瞬間が 一番難しい。難しいから、ふいに素の姿が表れる。
そんな自分に会いたくて、人は新たに 動き始める。インド 北 部・ラダックへ の 旅。
あまりの景色の良さにテンションがあがり思わず 1 枚
神奈川県出身。1988 年、テレビドラマ「あぶない少年」で女優デビュー。
番組を通してアフリカを旅したことがきっかけとなり、2008 年 2 月に
アフリカ開発会議(TICAD)の 親善大使を委嘱され、ケニアやスーダン
などを視察した。旅先へは必ず愛用のカメラを持参して撮影する。
鶴田真由(つるた・まゆ)
/
なぜ、子供たちは﹁遊び﹂が好き
で、あるいはゲームとして楽し
になるといったものが、シリア
んでいるうちに脳が鍛えられ
と つ は﹃ モ ン ス タ ー ハ ン タ ー ポ ー
スゲームである。
携 帯 型 ゲ ー ム は、 現 代 の 典 型 的
な﹁遊び﹂といえる。ここ数年の国
タブル﹄だが、遊びの基本的な楽し
る、あるいは英語や漢字の勉強
子供や学校の同級生たちと日が暮れ
み を 凝 縮 し た よ う な ゲ ー ム だ っ た。
内ゲーム市場を代表するゲームのひ
るまで遊んだ経験があると思う。﹁今
なのだろうか? たいていの日本人
は、小学生や中学生のころに近所の
日、何して遊ぼう?﹂という問いか
で応用可能な共通メカニズム
と で、 い ろ い ろ な サ ー ビ ス
にしたらどうだという議論が
ゲーミフィケーションにお
い て は、 こ れ を 体 系 化 す る こ
信機能を使うと4人までのプレイ
あ る。 モ バ イ ル ロ ケ ー シ ョ ン
ゲーム中に出てくるモンスターを倒
ヤーが協力し合ってモンスターと戦
していくのだが、携帯ゲーム機の通
でやる。一緒に遊ぶ﹁仲間﹂を選ぶ
うことになる。
協力するだけでなく、
てい自分たちでやりたいことを選ん
こともある。自分たち自身でオリジ
ゲームを提供する
け が 示 す よ う に、
﹁ 遊 び ﹂ は、 た い
ナルなルールや目標を決めて、それ
競い合い、認め合い、慣れないプレ
社
てそれをみんなで共有できるのが最
い結果であるにしろ、何かを体験し
ことなど関係ないあっけらかんとし
となったのだが、これは、実生活の
ラリーマンまでも巻き込んでブーム
しながらゲームは進行する。若いサ
︵
く と い っ た ル ー ル ︶、﹁ ス テ ー タ ス ﹂
︵決まった時間に決まった場所に行
イヤーも一緒なら教えてあげたりも
に 従 っ て 遊 ぶ こ と も 多 い。 そ し て、
大の楽しみといってよい。
た﹁ピュアな遊び﹂そのものである。
き込まれた人は少なくないでしょ
く、その広範な知識、深い論考に引
について論じていること自体が楽し
私 も ず い ぶ ん 前 に 読 ん だ。﹁ 遊 び ﹂
ス﹄
︵高橋英夫訳、中央公論社刊︶を、
ほ ど の 間 に 少 し ず つ 盛 り 上 が って
ないかという議論 がある。ここ1年
世の 中のた め に 生 か すことはで き
て、この遊 びのエネルギーを実 際の
と こ ろ が、こ う し た ホ イ ジ ン ガ
のいうような﹁遊 び﹂を逆手にとっ
﹁
こうした形のゲーミフィケー
シ ョ ン の 例 と し て は、 上 述 の
実現されるものだという。
いったルールの組み合わせによって
と一緒に何かを見つける仕組み︶と
﹂というサービスが
Foursquare
と︶
、﹁ 共 同 発 見 ﹂︵ 文 字 ど お り 仲 間
う。この本の中で、ホイジンガは﹁人
きている、
﹁ ゲーミフィケーション ﹂
で付帯物なのだ。
イジンガにおいては、それはあくま
べ﹂という大人も多い。しかし、ホ
効果もあるはずである。だから﹁遊
キケンな部分を知るなど、教育的な
人間関係や行動規範、自然や社会の
ポ イ ン ト で あ る。 子 供 が 遊 ぶ の は、
の中に目的があるとしていることが
には違わないのだが、遊びそれ自体
ホ イ ジ ン ガ の 述 べ て い る﹁ 遊 び ﹂
は、我々の知っている遊びと本質的
なエネルギーを費やしている。ゲー
その代表だ。要するに、遊びの感覚
る大人のDSトレーニング﹄などが
い。ニンテンドーDSの﹃脳を鍛え
スゲーム﹂と言われてきたものに近
﹁ カ ジ ュ ア ル ゲ ー ム ﹂ と か﹁ シ リ ア
の で あ る。 日 本 の ゲ ー ム 業 界 で は、
ンなどに取り入れていこうというも
組みを、サービスやアプリケーショ
び﹂や﹁ゲーム﹂で培われてきた仕
まだ正確な定義の与えられていな
い言葉だが、ひとつは、単純に﹁遊
疫不全ウイルス︵HIV︶様ウイル
定プロセスが違ってくる。いままで
れからどうするか﹂という行動の決
な る。 ま た、 海 外 旅 行 先 で は、﹁ こ
全体が遊び場のように感じるように
る。ちょうど、自分の住んでいる街
られるステータス︶を奪い合ってい
料理店の﹁メイヤー﹂の座︵ Mayor
=市長=よく利用している人に与え
いうもので、私も都内のエスニック
サービス上でもチェックインすると
は、 お
当 て は ま る。 Foursquare
店や施設などに入ったときにこの
は旅行ガイドなどを開いて、地域を
ム文化の強い国において、平均的な
︶という考え方である。
︵ gamification
確認して、例えば、夕食はどんな料
インゲームとそのプレイヤーによっ
﹂
スの酵素の構造の解析が、﹁ Foldit
︵フォールドイット︶というオンラ
歳までにオンラインゲー
若者は、
ムを 万時間もプレイする。ならば、
MMORPG︵多人数同時参加型
オンラインRPG︶と呼ばれるタイ
ゲーム化したソフトウェアを遊んで
ま で、 コ ン ピ ュ ー タ の プ ロ グ ラ ム
て行われたというニュースがあった
プのオンラインゲームがあるのをご
たぶんゲーミフィケーションの究
極の形は、世の中の雇用の仕組みや
ルギーを世の中を少しでもよくする
たユーザーの生の声が飛び込んでく
存知だろうか? こうしたゲームの
中では、プレイヤーは、バーチャル
仕事のスタイルというものに一大変
そのゲームに費やされる情熱やエネ
る。いま自分がいる地点の近くで誰
なもうひとりの自分として活動す
革を起こすものになる可能性がある
写真を見て決めたりしていた。それ
かが残した﹁TIPS﹂︵有益情報︶
る。そして、ゲーム上で結成して一
と思う。仕事がゲームのように遊ん
﹁ゲーム愛好者らが
︵
AFPBB
News
酵素の構造を解析、米研究﹂
︶。いま
や﹁つぶやき﹂が読めるのだ。こう
緒に活動する﹁ギルド﹂という集団
ことに使えないかというのだ。
したコメントを投げ合うこと自体が
に所属することになる。たかがゲー
が や り たい 仕 事 に 就 くこ と がで き、
でいる感覚になるのではなく、自分
というイ
tainment and Design)
ベントで ジェーン・マク
るといってよいのである。
の労働と遊びの理想社会がそこにあ
ミッションをこなしている。ある種
おり寝食を忘れていきいきと自分の
軍人の胸を見えなくなるほど飾って
ところで、現代にいたる前までの
社会では、我々の身の回りには様々
貢献することができたらすばらしい。
それによって、世の中に様々な形で
に そ の 仕 事 が で き る とい う こ と だ。
それに一生懸 命になれる仲間と一緒
もらうことで解けてしまったのだ。
で は な か な か 解 け な か っ た 問 題 が、
ゲ ー ム 的 だ し、
﹁遊び﹂のスピード
ムとあなどるなかれ、人々は、あら
か﹁この店の雰囲気サイコー﹂といっ
感というものがある。
ゆる労力も時間も惜しまず、文字ど
ゴニガルという女性ゲー
な ぜ、こ う し た ゲ ー ムの 中 で は、
誰も がポジティブに一生懸命になれ
いた勲章は、ゲーミフィケーション
(Technology Enter-
プレゼンテーションを聴
ムクリエイターが行った
るのだろうか? その理由は、まさ
に﹁遊び﹂の基本要素に裏打ちされ
で指摘されている﹁ステータス﹂だ
100年を生き長らえる
覚まされた。人類が次の
な内容を含んでいて目を
のポジティブかつ革新的
に応用しようという以上
ることもあまりないかもしれない。
に仕事をするメンバーに恵まれてい
必 ずしも 多 くはないだろうし、一緒
自分のやりたい仕事をしている人は
ているはずなのだ。現実の世界では、
協力して戦う時間は、とても充実し
を選 び、お互いに認め合った仲間と
ような古くさい事柄が、我々の祖先
いとか、面倒くさいと思われている
だと思えてくる。無駄とか、息苦し
同発見﹂を体験させるものだったの
のいう﹁アポイントメント﹂や﹁共
どの仕組みは、セス・プリーバッチ
ろう。節句や成人式や祭やタブーな
の﹁ ゲ ー ム で 築 く よ り
必 要 に な る。 と こ ろ が、
のかもしれない。
たちのゲーミフィケーションだった
こうしたゲーミフィケーションの
事例として、今年9月には、ヒト免
をプレイするために膨大
人々は全世界で、ゲーム
には、途方もない努力が
な儀式やルールが溢れていた。昔の
良い世界﹂というプレゼ
どうやって目的を達成するかの方法
ていると思う。例え ば、自 分たちで
い て か ら で あ る。 彼 女
ゲーム技術を様々な分野
ンテーションは、単純に
昨年、TED
し か し、 私 が、 ゲ ー ミ フ ィ ケ ー
シ ョ ン に つ い て 興 味 を 持 っ た の は、
のアプリを立ち上
が、
Foursquare
げ る と、
﹁ こ こ の × × が 旨 い!﹂ と
のページを開き、店の特徴や料理の
理を食べようかと考えてレストラン
るのだ。
間の本質は遊びである﹂と説いてい
の バ ッ ジ の よ う な、
Foursquare
その人がやったことの成果を示すこ
学者ホイジンガの﹃ホモ・ルーデン
よい結果であるにしろ、好ましくな
のセス・プリ バ
— ッチによれ
ば、 そ れ は、﹁ ア ポ イ ン ト メ ン ト ﹂
S
C
V
N
G
R
﹁遊び﹂といえば、オランダの歴史
C
E
O
N o . 9 Wi n t e r 2 0 1 1 32
33 K A E R U R Y O K U
●関連 URL
アスキー総合研究所所長
21
「世界を覆うゲームレイヤを作る」
http://www.ted.com/talks/lang/jpn/seth_priebatsch_
the_game_layer_on_top_of_the_world.html
「ゲームで 築くより良い世界」
http://www.ted.com/talks/lang/jpn/jane_
mcgonigal_gaming_can_make_a_better_world.html
1956 年、新潟県長岡市生まれ。株式会社アスキー・メディアワークス、アスキー総合
研究所所長。コンピュータープログラマーを経て、85 年にアスキー入社。90 年より
パソコン総合誌『 月刊アスキー』編集長、編集主幹を務める。2008 年より現職。
ミリオンセラ ー『 マーフィー の法則 』などの単行本も手がける。著書に、
『日本人が
コンピュー タを作った』
『ソーシャルネイティブの 時代』
(ともにアスキ ー 新書)など。
1
世 界が ゲ ームに なったら?
連載 第 9 回
「遊び」とは、自分たちで遊びたい仲間を決めて、自分
たちがやりたいゲームを自分たちのル ールで自発的に
やるものである。世界全体にこの遊びのメカニズムを取
り入れられたら、人々はいきいきと自分のテーマに取り
組むことができ、世界をよりよくできるかもしれない。
写真は GROOVISIONS:BROCKMANN LIGHT(株式会
社キューブ)を使って構成・撮影した
新 しい「 自然 」/
遠藤 諭 Text & photos:Satoshi Endoh
人やモノの ’ちょっとした変化 ’ を 見つけるのは うれしい。
発見フェチを自認する遠 藤 諭 がお届けするライフスタイル ばなし。
遠藤諭( えんどう・さとし )
なることを支 える
システムの実現
「TRI」による
衣 類 な ど 中 古 品 の 販 売・ 買 取 在 庫
と つ に、 例 え ば 入 社 間 も な い ア ル
み が あ り ま す。 こ の 技 術 や 教 育 を
バイトでも買取査定をできる仕組
完璧にシステム化をすることに固
ウハウを尊重した買取価格決定へ
執 し ま せ ん。 そ の 一 例 が 店 舗 の ノ
次のようになる。
た 独 自 の シ ス テ ム、 そ れ が T R I
似できないビジネスモデルに沿っ
の シ ス テ ム 化 で す。 他 の 企 業 が 真
店舗スタッフが、TRI端末︵買
取用PCやPDA端末︶のバーコー
の特徴です﹂
現場スタッフの足元を揃える
新 シ ス テ ム 導 入 の き っ か け を、
取締執行役員 管理本部長の堀内
康隆氏に聞いた。
﹁ ブ ッ ク オ フ は、 独 自 の 業 態 を ス
創業以来
ピーディに展開していくがために、
年 間、 シ ス テ ム に 大 き
決 定 し て い る と こ ろ だ。 こ こ に T
注 目 し た い の は、 ス タ ッ フ が 最
終的に店舗側の判断で買取金額を
的に出力されるという仕組みだ。
けるラベルがプリンターから自動
金 額 を 決 定。 す ぐ に 商 品 に 貼 り 付
舗独自の条件などを考慮して買取
考 価 格 が 表 示 さ れ、 ス タ ッ フ は 店
を 読 み 取 る と、 本 部 か ら の 買 取 参
ドリーダーでケースのバーコード
TRIを使った買取にはいくつ
か の 方 法 が あ る が、 C D の 場 合 は
管理を支援する基幹系システム
販売・買取・在庫管 理の
生 か す た め の シ ス テ ム で す か ら、
デ ル で 発 展 し て き ま し た。 そ の ひ
﹁ブックオフは独自のビジネスモ
●
︵T
﹁ Total Reuse Infrastructure
RI︶﹂を導入した。
ブックオフコーポレーションは、
昨年 月より、書籍、CD、雑貨、
Solution
R I の 特 徴 が あ る。 セ ー ル ス I T
部 の 店 舗 で、 元 子 会 社 の 買 取・ 販
な 投 資 を し て き ま せ ん で し た。 一
技 術 は、 あ れ も こ れ も で き る よ う
統 一 を 最 優 先 す る こ と。 デ ジ タ ル
﹁リユースビジネスをする基礎の
けたことはなんだったのだろうか。
の ス ピ ー ド で 行 か な い と、 現 在 の
ら わ か っ て い ま し た。 し か し、 こ
﹁これは無茶な計画だとは初めか
のハードスケジュールである。
展 開 に 入 っ て い る 段 階 だ。 か な り
て現在は約600店の加盟店への
売システムを業態発展とともに拡
ソ リ ュ ー シ ョ ン 部 長、 野 末 朋 宏 氏
に と 考 え が ち で す が、 ま ず は 3 種
はこのように語る。
類のPOSシステムの混在を統一
対 応 で き な い。 そ し て、 短 期 間 で
リユースビジネスの早い展開には
構築が完了したのはNTTデータ
店 舗 導 入 を 行 う た め に、 通
と堀内氏は語る。
月に
との一番の成果だと思っています。
常 の 月 末 の シ ス テ ム 切 替 を、 月 中
でもできるようにするなど具体策
を提案してくれました﹂︵野末氏︶
レジをひとつにすることの可能性
稼 働 し た T R I に 対 す る 店 舗、
本部それぞれの反応はどうなのだ
ろう?
﹁ 店 舗 で は、 在 庫 管 理 に か か る 時
間 が 短 く な り、 導 入 後 に 7 割 の 店
舗で総労働時間が短縮していく傾
向 も 見 え て い ま す。 ま た 毎 月 棚 卸
し を し て い る の で す が、 棚 卸 し 差
上の約1%あったものが0・3%に
なりました﹂
︵野末氏︶
次に本部での評価である。
﹁ものが見えるようになったという
み で は、 店 舗 の 日 報 を 見 た い と き
の が 本 部 側 の 実 感 で す。 前 の 仕 組
に F A X で 送 っ て も ら い、 電 話 で
問 い 合 わ せ を し て い ま し た。 日 報
など 本 部で欲しい店 舗の数 字 が見
握 で き る よ う に な り、 問 い 合 わ せ
えることで必要 なときに数 字 を把
刷新・統一
え る た め に も、 シ ス テ ム を 抜 本 的
を 解 決 し、 業 態 の 新 た な 展 開 を 考
問 題 を 生 ん で い た。 こ う し た 問 題
教育をしなければいけないという
はスタッフが異動する度に新たな
り、 店 に よ っ て 機 種 が 違 う 状 態 で
プログラムを書き換える必要があ
従 来 の P O S で は、 新 た な ジ ャ
ンルの商品の買取をするためには、
混在していました﹂
し、 レ ジ シ ス テ ム も 3 つ の 機 種 が
大して使ってきたのが実情でした
店舗基幹システムの
社名 ブックオフコー ポレー ション株 式会 社
創業 1991 年 8 月
資本金 2,564,000,000 円
事業内容 中古書店「 BOOKOFF」の展開と、新規中古
業態の開発・運営・加盟店経営指導
PDA を使った買取も行っている。商品の情報を入力
し、参考価格を表示、買取金額を決めていく
2 0 0 7 年 に は﹁ 未 来 の レ ジ を
考 え る 会 ﹂ を 発 足、 現 場 で 培 わ れ
あったからです。単に開発だけでは
プ を 描 い た 提 案 で し た。 技 術 に 関
なく、このシステムが将来のビジネ
しては、 年から開始している、中
ス展開にどう役立つのかロードマッ
年 に は ベン ダ ー を 選 定 す る コ ン
と し て 基 幹 シ ス テ ム 構 築 へ 向 い、
点 か ら 整 理 し た。 次 な る ス テ ー ジ
いう 姿 勢 と 力 がNTT データには
お 客 様プロフィール
てきた査定の仕組みを全体的な視
に変える必要があったのだ。
本社 神奈川県相模原市南区古淵 2-14-20
という関係ではなく、ビジネスパー
﹁決定の理由は、依頼主とベンダー
NTTデータだった。
ペ を 行 っ た。 そ こ で 選 ば れ た の が
頼していました﹂
︵野末氏︶
の 開 発 実 績 が あ り ま し た の で、 信
通販サイト、ブックオフオンライン
古 本と新 刊 本をともに購入できる
店舗ありますが、
れたと思っています﹂
︵堀内氏︶
ネスの可 能 性を私たちに与えてく
や せ る た め、 新 た な リ ユ ー ス ビ ジ
す。 T R I は 扱 う 商 品 を 容 易 に 増
ステムはその進展を後押しできま
ジで様々な 商 品 を 扱 えるというシ
た い と 考 え て い ま す。 ひ と つ の レ
早い時期に100店舗まで達成し
す。現在全国で
大 型 店 舗 を 積 極 的に展 開していま
バ ザ ー と い う、 様 々 な 商 品 を 扱 う
ました。現在、ブックオフスーパー
つのレジで 行 うこと が可 能 になり
いたものも、本やCDと一緒にひと
システムを開発する際に気を付
ど以前は別のレジで在庫管理して
﹁ T R I に よ っ て、 洋 服 や 雑 貨 な
を聞いてみた。
最 後 に、 基 幹 シ ス テ ム を 整 備 し
た上でのブックオフの将来的展望
このTRIのポリシーなのである。
ル な シ ス テ ム で あ る こ と、 そ れ が
で 機 能 を 盛 り 込 み す ぎ ず、 シ ン プ
に し た と い う 経 緯 が あ る。 あ く ま
し た 結 果、 1 日 4 回 の デ ー タ 収 集
え て い た が、 店 舗 側 の 意 見 を 考 慮
開 発 当 初、 在 庫・ 販 売 デ ー タ の
リ ア ル タ イ ム 収 集・ 参 照 機 能 を 考
気を付けなくてはなりません﹂
来 の 良 さ が 失 わ れ て し ま う た め、
す べ て 対 応 し て い る と、 T R I 本
い こ と で は あ り ま せ ん が、 そ れ に
い う ニ ー ズ が 当 然 出 て き ま す。 悪
ろ で﹃ こ ん な も の も 見 せ て よ ﹄ と
﹁いろいろ情報が見えてきたとこ
そう答える堀内氏に継いで野末
氏はこう語る。
れるということがなくなりました﹂
の電話で2人の人間の時間が奪わ
トナーとして一緒にやっていこうと
07
リユースのインフラに
●
年 月 よ り 導 入 を 開 始、 今 年
9月には全直営店約400店での
T R I 運 用 が 行 わ れ 出 し た。 そ し
30
09
Mission
6
ことを考えるようにしました﹂
「 Total Reuse Infrastructure( T RI )」
して現場スタッフの足元を揃える
店舗 国内に直営店 485 店、加盟店 592 店
(2011 年 9 月末日現在)
ブックオフコーポレーション様が、従来の本・CD だけではなく衣類・宝飾品・スポーツ品等も
含めたトータルリユース業へと舵を切る中、我々が重視したことは「お客様とNT T データが
パ ートナーとしてともに事業の成長を考え、実現する」ことです。お客様と一緒に将来の事業
を想像し、そこで必要となる仕組みをともに作っていく。今回はその第一ステップとして TRI
というトータルリユース事業のインフラを整備しました。
今後は本取り組みを足がかりに、ブックオフコーポレーション様の機動的な事業展開を支援
し、お客様とともに事業の発展に邁進します。
(ビジネスソリューション事業本部 顧客接点ソリューション担当)
20
スタッフたちが店舗でこの TRI を使っている姿を
どれだけイメージできるか。開発時に気を付けて
いたことはそのことです。つまりカウンター内や
棚でのオペレーションを 邪魔しないシステムを
作り上げることです。例えば、買取時に印刷す
る書類のプリンターの速度 1 秒にもこだわりまし
た。1 日に何百人というお客様と何千点という商
品を扱う店舗では、機能をシンプルにすることは
必須でした。
異 が 減 っ て き て い て、 平 均 し て 売
野末朋宏 氏
独自のビジネスモデルに沿った
新たな基幹系システムの導入
通常の小売業では商品に標準規格があり、バー
コードが 付いています。しかし、リユースビジネ
スでは、一部の書籍や輸入版の CD のように、バー
コードがない商品を扱うこともあります。こうし
た規格が統一されていないものを効率よく買取、
販売していくことが、このビジネスのポイントで
す。TR I はそれを踏まえ、新たに様々な商材を扱
えるものにしようと開発をしました。
20
● NT T デ ータ担当者より
6
氏
堀内康隆
N o . 9 Wi n t e r 2 0 1 1 34
写真:五十 嵐 絢 也
35 K A E R U R Y O K U
セールス I T ソリュー ション部長
ブックオフコーポレーション 様
10
取締執行役員 管理本部長
9
N TT データ「ともに 生み出す。」事例 Case Study
【コラボ消費】
スロー &シェア
イ
ンターネットが普及した当初、多
例えば「カウチサーフィン」。ホスピタ
を行って金利を決めるマーケット型のも
くの人が利用したのは企業が作成
リティ・エクスチェンジネットワークと
のがある。
した「ホームページ」の閲覧だった。その
呼ばれ、登録者同士が相談の上で「宿を
ややシステムは似ているが、いま最も
後、官公庁のパブリックな情報、そして
提供しあう」ものだ。2004 年に開始され、 注目を集めているのは「クラウドファン
ブログで個人が発信する情報が増え、こ
2011 年 10 月末時点ですでに 336 万人
ディング」。こちらも、個人が個人に「お
の数年爆発的に増えたのが、いわゆる
を超えるメンバーが登録しており、日本
金を出してもらう」という仕組みだが、
ソーシャルネットワークサービス(SNS)
の 登 録 メ ン バーも 約 2 万 3000 人 と い
基本的に金利はなし。単なる「出資」また
の普及だ。SNS の最大の特徴は、個人同
う。今年10月のある週のデータを見ると、 は「寄付」、あるいは、なんらかのリター
士のコミュニケーションであり、知り合
1週間で 3 万人以上がメンバーの家を利
ンが伴う「購入型」だ。サービスによって
い同士であれ、見知らぬ人同士であれ、 用している。海外のメンバーに外国語を
違いはあるが、その多くが映画製作、アー
ソーシャルソフトウェアを利用すること
教えてもらったり、逆に料理を教えたり
トイベントの開催といったもの。
によって、リアルタイムのやりとりが可
という交流も大きな魅力となっている。
社会貢献活動などを「支援」するプロ
能になったことだ。こうした環境の中で
また、ウェブサイト上で様々なプロ
ジェクトも数多い。
「購入型」のものは、
生まれたのが「コラボ消費」である。
ジェクトに、個人として「出資」
「融資」
音楽ライブイベントならば、
「1000 円支
最初に登場したのは、個人と個人が、 「寄付」を行うサービスも増えている。
援すると CD1 枚」
「1万円支援すれば自
ネットワーク上でやりとりをした上で、 「ソーシャルレンディング」は、お金を
宅で演奏」といった「リターン」が付いて
不要品を交換したり、ひとつのモノや場
借りたい人と融資したい人を P to P で
くる。
所を共有したりすることだ。モノを「私
結び付けるサービス。2005 年ごろから
ただ「消費」するだけではなく、イベン
有」せず「共有」するための物々交換のサ
欧米で少額の貸金業として拡大している。 トに参加し、相手と関わり、共感したい
イト、不要品を登録しあいリユースする
「 借 り た い 人 」は「30 万 円 を 3 年 返 済。 という気持ちをソーシャルネットワーク
サイトが数多く立ち上がった。
利子 12%」などと希望を書いて「出品」
上で持ちたい。そんな思いにうまくマッ
最近はさらに、これが「発展」した形と
し、これを落札するオークション型の仕
チした今日的なサービスとして、大きな
カウチサーフィン
ソーシャルレンディング
37 K A E R U R Y O K U
広がりを見せている。
クラウドファンディング
カウチサーフィン
www.couchsurfing.org
KIVA
www.kivajapan.jp
Ready for?
www.readyfor.jp
登録は無料。メンバー同士の相互評価やレビュー
などで信頼度を高める仕組み。運営サイトにクレ
ジットカードで寄付をすると「身元承認マーク」が
付き、宿泊先を選ぶ目安になる
開発途上国の個人起業家に 25 ドルから融資し、支
援するサイト。約 42 万人が融資を受けており、返
済率は 98.1%。画面はグアテマラで衣料品店を開
こうとする 30 歳の女性で、融資希望額は約 30 万円
達成したプロジェクトはロックバンドの CD 製作
資金募集から、被災地支援プロジェクト、バング
ラデシュの高校生に衛星授業を行うプロジェクト
など多彩。達成率 100%を超えたものも数多い
「ことば」
:日本と世界の I T が 見える
ローカルでスローなコミュニケーションを成り立たせるための技術とは?
「情
報」という言葉が溢れている。 ティックスとは、制御、通信、コミュニ
これを契機に、オートポイエーシス理
日々のニュースも、放射能の
ケーション、フィードバックを生物、機
論、ラディカル構成主義、機能的分化社
測定数値も情報、口コミも、検索エンジ
械の区別なく扱う理論である。同時に「通
会学といった分野の研究が登場する。こ
ンが瞬時に吐き出す数十万の URL も、つ
信技術の発達で、世界は狭く近くなり、 れらをひとつの学問としてとらえようと
ぶやきも友人からのメールも、そのすべ
数千 km 離れた人間がリアルタイムでコ
したのが、
「ネオサイバネティックス」で
てが「情報」と呼ばれる。情報、人間、社
ミュニケーションを取ることにより、グ
ある。
会、コミュニケーションとはいったい何
ローバル化が進み、情報技術は新しい民
その中における「基礎情報学」とは、情
なのか。人はどうやってこの「情報社会」
主主義の形を産む」という「電脳ユート
報の送信者、受信者、あるいはその送受
で生きていくべきなのか。その答に挑も
ピア」型の思考も広まる。
信を観察する第三者にとって「同じ」も
うとするのが「基礎情報学」と呼ばれる
しかしハインツ・フォン・フェルスター
のではなく、それぞれの立場によって情
研究で、いま注目を集めるネオサイバネ
は 50 年代に入り「生命体は自らの視点
報の意味や価値は違うとし、多元的な世
ティックスの一分野だ。
で世界を主観的に観察し、生きるための
界の中での意味やあり方を分析、再定義
「情報理論の父」と呼ばれたアメリカ
行為を行う点で機械とは決定的に違う」
しようとする。
の科学者クロード・シャノンが 20 世紀
とした。つまり、機械は情報をインプッ
これは機械と人間が共存せざるを得
の半ばに発想したのは、いかにして電気
トされれば常に同じ結果を出力するが、 ない社会の中で「必須の知」と捉えられ
信号としての「情報」を「発信機」から「受
人間を含む生命体は「生存に意味がある」
る。高速でグローバルな情報伝達を重視
信機」に、速く大量に送るかという理論
と判断したとき、自分の記憶や経験に
するよりも、ローカルでリアルなコミュ
だった。情報は「信号」であり、本来その
よって行動し、さらにその行為によって
ニケーションを尊重するための IT や、生
「内容」や「意味」とはまったく無関係な
自らを変えていく、というものだ。脳の
命体としての人間を劣化させない IT 、と
ものだった。
機能や社会のシステムを、機械の仕組み
いったものの手がかりもまた、
「基礎情
そして 1948 年、世界的ベストセラー
と同じように分析しようとするサイバネ
報学」の研究から生まれると期待されて
に なった の が ノーバート・ ウィーナー
ティックスに対し、この理論は2次サイ
いる。
の『サイバネティックス』だ。サイバネ
バネティックスと呼ばれた。
【基 礎 情 報 学 】
も言えるサービスが続々と登場している。 組みと、運営会社が融資希望者の格付け
情報がグローバルかつスピーディにつながる社会の中で、ソーシャルネットワーク上に築かれる
N o . 9 Wi n t e r 2 0 1 1 36
なパワーシフトがおきている。
も?)からとりあえずアジアに大き
は元気満々鼻息が荒い。欧米(日本
一 歩 を 踏 み 出 し た し、 中 国 や 韓 国
レだ。一方で中東は革命で変化の第
かリーマンのショックだかでヨレヨ
タ だ。 ア メ リ カ だ っ て 戦 争 の 傷 だ
人様の世界だってすごいぞ。ギリ
シャ発の危機でヨーロッパがガタガ
凶暴になるってことだ。
ると、台風はこれからもっともっと
の台風。これが温暖化の仕業だとす
ら台風、こんなじゃなかった今まで
だまだ揺れるってことだぞ。それか
て言う人もいる、恐ろしいことにま
震、地殻の活動期がやってきたなん
ま さ に と い う 感 じ で ド ン! と「 大
激動」だ。なんてったってあの大地
いつつあるアメリカが日本の資源
に す る だ ろ う し、 相 対 的 に 力 を 失
動する気候は世界の農業を不安定
い か も し れ な い。 で も 温 暖 化 で 変
ろ う? 確 か に 今 は、 食 糧 や 資 源
は輸入で調達した方がコストは安
で調達できるようにしたらどうだ
あるいは食糧やエネルギーも
年 後 を 考 え た ら、 も う 少 し 自 国 内
パー国連を作るという目標!
う か? そ の た め に 必 要 な ス ー
定するような世界を作れないだろ
の 平 準 化 で、 覇 権 で な く 共 生 で 安
す 世 界。 パ ワ ー シ フ ト に よ る 国 力
く、 た く さ ん の 国 が 議 論 し て 動 か
ろ う? 今 み た い に 一 握 り の 国 が
富を独占して世界を動かすのでな
ことを目標にしてみたらどうだ
化した安定した国際社会を作る
例 え ば 年 先、 ア メ リ カ も ヨ ー
ロ ッ パ も 今 の 力 を 失 っ た 後、 多 極
てきた今こそ新たな
も克服すべき問題があきらかになっ
な問題がむきだしになっている。で
続き、人々は迷い、そして今、様々
指していいのか分からない数十年が
れない。そんな世界も
やかで安定した未来ができるかもし
もしれないけど、失う不安のない穏
う。今のような豊かさは一部失うか
でも実現したらどんなにいいだろ
スーパー国連も、資源の地産地消
も今すぐなんて実現できやしない。
前では大きな目標を持てたらいい
い。ただ言いたいのは大きな変化の
し、そもそも正しくないかもしれな
ゲキドーだね。いやいやカタカナ
な ん か で 軽 く 書 い ち ゃ い け な い。
大地、気候、そして人間界に大き
な変化が目白押しだ!
を立てるチャンスかもしれない。そ
言ってられない。つまり日本は
れもちょっとやそっとで達成できる
かもしれないけど
の間、目標には苦労しないってこと
調達をどこまで保障してくれるか
んな不安を少なくするためにエネ
分 か ら な い し、 今 す ぐ は 問 題 な い
もうボクなんか不安でいっぱい
だったりする……。でもここで発想
ルギーや食糧の地産地消をすすめ
この先どうなっちゃうんだろう?
の転換だ! 考えようによってはい
ろ ん な 問 題 が 出 て き た か ら こ そ、
Wi n t e r 2 0 11
「こうならねばならない」
というでっ
9
るという目標。
N o.
かい目標を持てるかもしれないん
C on t e n t s
Front C o ve r : 佐々木則夫 Pho t o : 池田晶紀
目標には苦労しないぜ(笑)
50
年がんばっ
50
年
今後とも、よろしくご愛読のほどお願い申し上げます。
50
年先の目標
は「カエルチカラ」ですが、
小誌は「カエルリョク」と読みます。
50
年はかか
※ 誌名『K A E R U R Y O K U 』は、当社のブランドメッセージ
「変える力を、ともに生み出す。」から採りました。メッセージ
50
9
回
36
いろいろ書いてきたけど漫画家の
ボクなんかが言うことは夢物語だ
34
「ことば」:日本と世界 の IT が 見える
スロー&シェアと IT
な、と思うのだ。
38
NTT データ「ともに生み出す。」事例:
9 ブックオフコー ポレーション 様
50
たら実現するかもしれない。
32
しりあがり寿 の日々杞憂
第 9 回 目標には苦労しないぜ(笑)
日本は第二次大戦後、豊かな国に
なろうとして 年後にその夢はほ
遠藤 諭 新しい「自然」
第 9 回 世界がゲ ームになったら?
ぼ実現した。そしてその後、何を目
30
る。 目 標 が な く て ム ナ シ イ な ん て
28
連載エッセイ:
鶴田真由 視点を変える、視界が変わる
第 9 回 自然と向き合う旅
50
よ う な 目 標 じ ゃ な い、
私をカエタ書物:
赤瀬川原平
紐宇宙論の紐 みたいな
年の間には
24
だ(笑)。
カエルリョク養成講座:
ビジネスパーソンのためのギフト力アップ 講座
50
連載 第
特集:仕事 と生活を変える スロ ーとシェア
西垣 通 ファスト IT からスロー IT へ
久保田晃弘 ファブラボ:工業の個人化がもたらすもの
レポ ート:スロー&シェアから始まる新たなものづくりと働き方
スローとシェアを考えるための 6 冊
8
じゃないか?
2
き っ と 何 か 大 き な 危 機 が あ る、 そ
巻頭インタビュー:
佐々木則夫
なでしこジャパンの咲かせ方
読 者 ア ン ケート に ご 協 力 下 さい
『KAERURYOKU』9 号をお読み下さいましてありがとうございました。今後の編集の参考にいたしますので、同封したハガキの注意事項をご覧の上、ご意見・ご感想を
(講談社)を プレゼントいたします。
お寄せ下さい。抽選 で 10 名様に佐々木則夫 監督 の『なでしこ力 さあ、一緒に世界 一になろう』
プレゼントご 応 募上 のご注 意
ご応募は『 KAE R U R Y O K U 』読者の方々に限らせていただきます/● ご応募はお 1 人様 1 回まで/● 冊子に同封した応募ハガキからのみご応募いただけます/● 関係者によるご応募はご遠慮下さい/● 応募締切は
平成 23 年 12 月 31 日。当日消印有効です/● プレゼント内容などは 告知なく変更となる場合がございます。あらかじめご了承下さい/● プレゼント企画について、メールによるお問い合わせは受け付けておりません。
N T T データ広報部『KAERURYOKU』読者アンケ ート係 0 3 - 5 5 4 6 - 8 0 5 1 まで電話でお尋ね下さい/ ● 応募者多数の場合は抽選とさせていただきます。当選者の発表は発送をもって代えることといたします。
応募受付状況や抽選結果に関するお問い合わせにはお答えいたしかねますので、あらかじめご了承下さい/● 応募内容に誤りや漏れがある場合や、虚偽の記載がある場合には当選を無効とする場合がございます/
● アンケートハガキにご記入いただいた個人情報は、
プレゼントの発送及び個人を特定しない統計的資料の作成の目的で利用し、
「 広報誌『KAERURYOKU』
のご送付について」に記載している「個人情報の取り扱いについて」
と同様にお取り扱いいたします。
●
No.9 Winter 2011 2011 年 11 月 30 日発行(非売品)
【発行】株式会社 N T T データ 広報部 〒 135-6033 東京都江東区豊洲 3-3-3 豊洲センタービル 電話 03-5546-8051 http://www.nttdata.co.jp/
(本誌に掲載した社外からの寄稿や発言は、当社の見解を表すものではありません。また、本誌に記載されている会社名、製品名およびロゴは、NTT デ ー タもしくは各社の商標または登録商標です)
【制作スタッフ】
編集長 小崎哲哉 編集 伊藤宏子/小幡 惠/民井雅弘/渡邉裕之 編集協力 斉藤雅子/杉瀬由希/日 本サッカー 協会 アートディレクション 宮崎光弘 デザイン 入澤花絵/村山麻衣子
企画・制作 上田壮一/鳥谷美幸
【印刷・製本】株式会社サンニチ印刷 Printed in Japan
39 K A E R U R Y O K U
N o . 9 Wi n t e r 2 0 1 1 38
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【 カエルリョク】
No.
9
Wi n t er 2 0 11
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特集 仕事と生活を変える
スロー とシェア
特別寄稿 西垣 通 /久保田晃弘
◎ インタビュー
佐々木則 夫
なでしこジャパンの 咲 かせ方
◎ 連載
鶴田真由/遠藤 諭/しりあがり寿
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