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“団塊の世代”と これからのシニアマーケット - Nomura Research Institute

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“団塊の世代”と これからのシニアマーケット - Nomura Research Institute
NRI Public Management Review
“団塊の世代”と これからのシニアマーケット
社会産業コンサルティング部
主任コンサルタント
1.はじめに
安田
純子
か。また、
“団塊の世代”をその象徴とする「こ
れからの高齢者」は、どのような特徴があり、
最近、いわゆる「2007 年問題」-“団塊の
「シニアマーケット」ではどのようなポジシ
世代”の大量退職(ベビーブーマー・リタイ
ョンを占めるのだろうか。そして、それを踏
アメント)-とともに、再び「シニアマーケ
まえて、
「シニアビジネス」やそれを支える政
ット」、「シニアビジネス」への注目が高まっ
策(主に自治体レベルでの取り組み方策)は
ている。
どうあるべきなのだろうか。改めて、整理し
「高齢化」への危機意識の高まりとともに、
てみたい。
最初に「シニアマーケット」あるいは「シニ
アビジネス」への注目が集まったのは、1980
年代末期~1990 年代初頭である。この頃は、
2.シニアマーケットの展望
厚生省(当時)が“ゴールドプラン(高齢者
保 健 福 祉 推 進 10 ヵ 年 戦 略 )” を 打 ち 出 し
まず、シニアマーケットの「規模」につい
(1989 年)、建設省(当時)が高齢者向け公
て展望したい。一般に、マーケットの「規模」
共賃貸住宅“シルバーハウジング”を制度化
は、以下のような要素から規定される。
(1987 年)するなど、各省庁による高齢者向
マーケット規模=対象人口×1人あたり消費額
け政策の充実が始まった頃でもある。
「対象人口」から見ていこう。
「シニア」の
その後、2000 年に介護保険制度が施行され、
定義は、日本では特に定まったものがないた
民間事業者の参入が促進されたため、その前
め、50 代後半から 60 代前半の高齢者 *1 一歩
後の時期に「介護マーケット」や「介護ビジ
手前の人を指して使う場合や、高齢者そのも
ネス」への注目が高まり、実際に多様な企業
のを指す場合、両者を含めて幅広く捉える場
が介護ビジネスに参入している。
合など多様である。アメリカ等では「シニア」
「高齢化が進むとシニアマーケットは拡大
というと退職後の高齢者そのものを指すこと
する」、「高齢者は資産もあって経済的に豊か
も勘案し、本稿では、65 歳以上の高齢者を中
だからシニアマーケットは有望」と見る人も
心として捉えていくこととする。
いる反面、
「 高齢者は資産を持っていても収入
図表1は、国勢調査の結果(実績値)と国
が少ないから財布のひもが固い」、「高齢者の
立社会保障・人口問題研究所による将来推計
収入のほとんどは年金なので、今後、その年
人口から作成したものである。このデータの
金が削られるとますます消費に後ろ向きにな
最新の実績値である 2000 年時点の高齢化率
る」と悲観的に見る人もいる。果たして本当
(65 歳以上人口の割合)は 17.4%である。
のところ、このマーケットは有望なのだろう
より詳細に見れば、前期高齢者(65~74 歳)
*1
日本の政策では、多くの場合 65 歳以上を「高齢者」と称している。
NRI パブリックマネジメントレビュー September 2006 vol.38 -1-
当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法および国際条約により保護されています。
Copyright© 2006 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
が 10.3%、後期高齢者(75 歳以上)が 7.1%
高齢化率は、今後も着実に高まり続け、
2015 年には 26.0%、2025 年には 28.6%、
という構成である。
先頃、公表されたばかりの平成 17 年国勢
2050 年には 35.7%に及ぶ。途中、2018 年に
調査の速報値 *2 では、高齢化率は 21.0%と、
は後期高齢者の割合が前期高齢者の割合を上
2000 年時点より 3.6 ポイントも上昇している。
回るという予測になっている。
図表1
1.4
年齢4区分別に見た人口の推移と将来推計
(億人)
(%)
40
35
1.2
30
1.0
25
0.8
20
0.6
15
0.4
10
2050年
2045年
2040年
2035年
2030年
2025年
2020年
2015年
2010年
2005年
2000年
1995年
1990年
1985年
1980年
1975年
1970年
1965年
1960年
1955年
1950年
1947年
1940年
0
1930年
5
0.0
1920年
0.2
75歳以上
65~74歳
20~64歳
0~19歳
高齢化率
75歳以上
出所)実績は総務省統計局『国勢調査報告』(各年 10 月 1 日)、推計値は国立社会保障・人口問題研究所
『日本の将来推計人口』(平成 14 年 1 月推計)による各年 10 月 1 日の推計人口(中位推計値)
「高齢化が進む」と言うと高齢者数そのも
齢者数が実数ベースで増えるのは 2020 年頃
のが増えるように錯覚するが、実際には高齢
までで、それ以降はほぼ横ばいになるという
者数(実数)は 2050 年まで増え続けるわけ
ことがはっきりするためである。
ではない。図表2は、図表1のカテゴリの積
つまり、シニアマーケットの規模を規定す
み上げ順を上下逆にしたものであるが、こう
る要素のうち、
「対象人口」については、2020
すると大きく印象が変わってくる。印象が変
年で頭打ちになるのである。
わる原因は、順番を変えたことによって、高
図表2
1.4
年齢4区分別に見た人口の推移と将来推計
(億人)
1.2
0~19歳
20~64歳
65~74歳
75歳以上
1.0
0.8
高齢者数は横ばい
0.6
0.4
0.2
2050年
2045年
2040年
2035年
2030年
2025年
2020年
2015年
2010年
2005年
2000年
1995年
1990年
1985年
1980年
1975年
1970年
1965年
1960年
1955年
1950年
1947年
1940年
1930年
1920年
0.0
出所)実績は総務省統計局『国勢調査報告』(各年 10 月 1 日)、推計値は国立社会保障・人口問題研究所
『日本の将来推計人口』(平成 14 年 1 月推計)による各年 10 月 1 日の推計人口(中位推計値)
*2
回収された調査票の 1%を抽出して集計した結果が「速報値」として公表されている。抽出による標本
誤差が含まれるため、後日公表される全数集計による結果数値(確報値)とは必ずしも一致しない。
NRI パブリックマネジメントレビュー September 2006 vol.38 -2-
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それでは、
「1人あたり消費額」の方はどう
図表3
か。
「消費額」そのものではないが、その源と
(万円)
600
なる「所得」を見てみると(図表3)、2000
高齢者世帯の年間所得の推移
626.0
616.9
602.0
589.3
579.7
500
年時点の高齢者世帯の所得は、平均 319.5 万
であったものが、2003 年には平均 290.9 万ま
400 328.9
230
300
で徐々に下がっている。全世帯平均も同様に
200
低下傾向であり、必ずしも高齢者の所得だけ
100
が減っているわけではないが、高齢者世帯平
0
319.5
246
1999年
均所得額は全世帯平均の約半分の水準である。
304.6
240
2000年
高齢者世帯平均値
304.6
228
2001年
290.9
234
2002年
高齢者世帯中央値
2003年
全世帯平均値
「高齢者は収入が少なくても資産持ちであ
るため、豊かだ」という点もよく指摘されて
出所)厚生労働省『国民生活基礎調査』
(各年)より
作成
いるため、併せて貯蓄額も見ておこう。貯蓄
額(図表4)は、世帯主年齢が 65 歳以上の
図表4
世帯主年齢65歳以上世帯の
貯蓄額の推移
世帯では、2002 年時点の 2,420 万円から 2004
年時点の 2,504 万円へと徐々に増えているう
(万円)
3,000
え、全世帯の平均と比べても約 1.5 倍と、高
2,500
齢者の方が豊かである。
2,000
これらを合わせてみると、資産はそれなり
1,500
にあり、必ずしも高齢者の経済力が低下して
1,000
いるとは言えないが、所得が減少傾向にある
500
1,688
1,692
1,690
2002年
くなる”可能性も大いにあり得る、と考えら
若年世帯と比べて世帯差・個人差(分散)が
2,504
2,423
0
ことにより、消費に対して“財布のひもが固
れる。そして、さらに重要なのは、高齢者は
2,420
2003年
世帯主年齢65歳以上平均値
2004年
全世帯平均値
出所)総務省『貯蓄動向調査』(平成 12 年)および
『家計調査』(平成 14~16 年)より作成
大きいという点である(図表5、図表6)。少
図表5
8.4
6.5
3.8
2.2
高齢者世帯平均値
1.3
5.8
0.8
3.9
2.1
0.5
1,000万以上
言える。
9.0
900~1,000
マーケット」を捉えようとするのは不適切と
0
11.2
9.1
800~900
5
14.2
12.2
5.9
100万円未満
大きいことを加味すると、平均像で「シニア
11.6 11.3
700~800
10
17.7
15.2
600~700
15
で横ばいで推移している。このように分散が
19.8
500~600
20
400~500
低く、図表3のとおり概ね 230~240 万の間
27.4
300~400
(%)
25
高齢者世帯の年間所得の推移
200~300
あるため、年間所得の中央値は平均値よりも
100~200
数の超高額所得者が平均を押し上げる傾向に
全世帯平均値
出所)厚生労働省『国民生活基礎調査』
(平成 16 年)
より作成 ※平成 15 年 1 年間の所得
NRI パブリックマネジメントレビュー September 2006 vol.38 -3-
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図表6
世帯主年齢65歳以上世帯の
貯蓄額の分布
図表7
60歳
世帯主年齢65歳以上平均値
70歳
75歳
健康で障害等がなく
支援や介護を必要としない期間
80歳 82歳
要介護期 ~ ターミナル期
(要支援・要介護高齢者)
3.5~4年 0.5~1年
17.5年
男性
(団塊の世代:2007~2025年)
4.5~5年 0.5~1年
女性
21.4年 (団塊の世代:2007~2029年)
4,000万以上
3,000~4,000
2,500~3,000
2,000~2,500
1,600~1,800
1,800~2,000
1,400~1,600
1,200~1,400
1,000~1,200
800~900
900~1,000
700~800
600~700
400~500
500~600
300~400
200~300
100~200
100万円未満
18.6
(%)
18
16
14
12
10.3 9.9
10 8.3
7.9
6.7
6.6
6.4
6.3
8 5.2 5.5 5.5 5.3
5.6 5.05.1
4.8 4.3 4.7 4.24.3
4.6
4.7 4.53.9 3.8
6
3.6 3.8 3.5
3.4 3.3
2.9 2.9 3.4 3.0 2.8 2.7
2.8
4
2
0
高齢期の状態像と期間
全世帯平均値
3.団塊の世代の特徴と「シニアマーケット」
におけるポジション
出所)総務省『家計調査』(平成 16 年)より作成
「シニアマーケット」は、高齢化とともに
次に、
“団塊の世代”の特徴と位置づけを見
今後どんどん拡大していくかのように思われ
ていきたい。
“団塊の世代”とは、終戦直後の
がちであるが、総じて見ると、2020 年頃に概
1947~1949 年に生まれた第1次ベビーブー
ね市場規模が決まってしまい、以降はシェア
マーを指す言葉であり、今、まさに「シニア
の奪い合いという厳しい状況になっていく可
マーケット」の入り口に立とうとしている。
能性が高いと言える。では、市場規模はどの
図表7から考えると、この世代が「要支援・
くらいまで成長するのだろうか。
要介護者」となるのは、男性の場合で 2025
「シニアマーケット」のうち、介護保険制
年頃、女性はもう少し先の 2029 年頃からで
度によってすでに顕在化している「介護マー
あり、それまでの約 20 年にわたって「シニ
ケット」の市場規模は約 6 兆円となっており、
アマーケット」を牽引していくことになる世
これは携帯電話の電気通信事業の市場規模
代である。このため、この世代の特徴を捉え
(約 7 兆円)に迫る一大マーケットである。
ておくことが重要である。 *3
まず、量的な面で、とにかく人数が多い。
介護保険の対象となる要支援・要介護高齢者」
は高齢者全体の 15%程度に過ぎず、8 割以上
前後の世代に比較して約3割多いのである。
は「元気高齢者」である。高齢者から見た期
また、終戦後、旧い日本から新しい日本へ
間の長さ(図表7)も、
「要支援・要介護高齢
の過渡期に育ち、高度経済成長を支えてきた
者」になる前の期間は男性で 17.5 年、女性は
世代であるため、新しいことをしようという
やや長く 21.4 年と、
「要支援・要介護高齢者」
価値観や世直し意識、自己表現欲などが強い
として過ごす期間(男性 4~5 年、女性 5~6
世代である。
年)に比べて 3~4 倍の長さである。
「介護マ
若い時代には流行風俗をリードしてきたが、
ーケット」については約 9 割が保険からの給
実年期(管理職時代)はバブル崩壊のあおり
付であるという特殊要素があるため、単純に
で、企業戦士としては不完全燃焼であった人
「シニアマーケット」の規模は「介護マーケ
も多い。その反動から、セカンドライフに積
ット」の 3~4 倍という計算はできないが、
極的に人生の意味を込めようとする傾向も見
市場規模が決まってしまう 2020 年までに数
られる。
兆円規模に膨らむ可能性も有している。
*3
また、インターネットやパソコンが使える
株式会社野村総合研究所「2010 年の日本」『第2章セカンドライフ・イノベーション』より要約抜粋
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最初の高齢者群でもある。今後の情報社会で
は IT リテラシをある程度有しているという
図表8 3つの生き方を組み合わせた“団塊の世
代”によるセカンドライフ・イノベーション
のは重要な要素と言える。
老齢期には特有の
心配があり、長寿
リスクもある。資
産は安易に取り崩
したくない。
そして、就業への意欲も高く、
“ 団塊の世代”
の約8割が「仕事を持ち続けたい」と考えて
「働くこと」 と「金
で金を殖やすこと」
の2つの活動は重
要性を持ち続ける。
いる。これは、前述の「不完全燃焼」解消に
道楽的生き方
(自己実現)
稼ぐ生き方
対するモチベーションのほか、60~64 歳まで
労働から解放され、それぞれ
の人生をゆっくり楽しむ。
団塊世代は、企業戦士として
サラリーマン社会で我慢して
きたためか、自己実現生活へ
の思いがひときわ強い。
社会還元的
生き方
世の中に奉仕するこ
とで、第二の人生の
意味を引き出す。
広義の自己実現。
の間は年金が支給されないため、何らかの形
で稼ぎをつなぐ必要があることや、資本金 1
円、LLC 等の会社法改正、特定非営利活動促
4.
“団塊の世代”が築く新たなマーケット像
進法(NPO 法)等によって前世代に比べ起業
や社会貢献活動が行いやすい環境が整ってい
“団塊の世代”は、消費を牽引する主体で
るといった社会環境も大いに影響している。
あるとともに、働き、社会に貢献する主体と
ただし、就業の目的や希望する就業形態は多
もなっていく。彼らは、自己実現のために自
様かつ複合的で、リタイア前に勤めていた企
らの興味・関心の高い領域で働き、社会貢献
業での継続雇用や定年延長のほか、他社・他
をし、興味・関心の高い領域で消費するとい
業務への転職、パートタイム型就労や起業な
う、
「生み出しながら消費する」新しい消費ス
どへの希望も見られる。
タイル、新しいマーケットを確立しようとし
就業以外にも、NPO 活動やボランティア活
ている。働き、活動することへの支援政策は、
動、地域活動など、社会還元的要素の強い活
同時に、彼らによる消費の喚起へもつながっ
動への興味・関心や参加意欲も高い。
ていくと考えられる。
平均寿命の延伸により、リタイア後の人生
シニアは、個々人によって必要な、あるい
の自由時間は数万時間にのぼっており、これ
は、嗜好する商品やサービスが異なるため、
はもはや“余生”ではなく、
“2 周目の人生(セ
まとまった需要を顕在化させることが難しく、
カンドライフ)”と言う方が適切である。
大きな単一の市場とはなりにくいが、高齢者
“団塊の世代”のセカンドライフには画一
の興味・関心の数だけ多種多様な中規模マー
化された「典型」や「標準」がなく、自己実
ケットが多様に生まれる可能性を有している。
現を目指した「道楽的生き方」、
「 稼ぐ生き方」、
これから成立し得るマーケットのヒントは、
「社会還元的生き方」3 つの生き方を、自ら
“団塊の世代”のライフスタイルや活動の中
の個性・嗜好に合わせて組み合わせながら、
にあるのである。
リタイア後のシニアは団体等に属してない
それぞれがイノベーションしていく形になる
と想定される(図表8)。
場合も多いため、B to B to C のビジネスモデ
ルがつくりにくいことから、これまでの「シ
ニアビジネス」はマスマーケティング的な手
法による B to C モデルで行われてきたもの
が多い。しかし、属するものがないからこそ、
意思決定の制約が少なく、趣味・嗜好によっ
てニーズが多様になっていくため、本来は、
「高齢者」をひとくくりに捉えたマスマーケ
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ティング的な手法では捉いにくい市場なので
図表9
ある。これまでの「シニアビジネス」の多く
団塊自由人によるNPO、ソーシャルビジネスの拡大
ソーシャルビジネス領域の拡大
は、成功してきたとは言い難い状況で、企業
の CSR(社会貢献活動)等と結びつけて、
「シ
ニアビジネス」の目的を単に売上や利益に求
行政 Government
めない企業も見られる。
公共
Public
私(民)
Private
「シニアビジネス」で一定の売上や利益を
確保するには、
“団塊の世代”のライフスタイ
民営化
地方行財政改革
ルや活動の動向をウォッチし、「マーケット」
の萌芽を見定めていくことが必要である。
•まちづくり
•イベント
•文化
•教育学習
•福祉
•健康
•人材育成 等
社会還元的生き方
コミュニティー活性化
図表10 団塊の世代の生き方と
ソーシャルサービスの特性
5.
“団塊の世代”の活力を「ソーシャルビジ
ネス」に生かす
<団塊の世代の生き方>
近年、社会環境変化に伴い、例えば、少子
社会還元的生き方
(社会に期待しない、
自らなんとかしたい)
「準行政サービス」とも言える
社会性・公共性が高い
サービス領域
道楽的生き方
(自己実現)
行政サービスより身近な内容で
住民から感謝されやすく
やりがいを感じやすい領域
稼ぐ生き方
(時間持ち、小金持ち)
就業ほどの収入にはならないが、
自らのふんだんな時間を活用して
ささやかな収入を確保できる領域
高齢化に対応した福祉系サービス、環境意識
の高まりを受けた環境保全活動、国際化に対
応した国際交流支援など、行政でも民間でも
担いきれない「公共」領域での政策ニーズが
<ソーシャルサービスの特性>
高まりつつある。
行政では、財政制約から、人員削減等の合
理化・効率化の動きがある。行政は、民営化
6.
“団塊の世代”の活力を生かす高齢者支援
施策のあり方
やアウトソースの促進、ボランティアの活用
等により行政だけでは担いきれない領域にも
対応できる体制や仕組みを模索している。
1)これまでの元気高齢者政策の限界
民間企業では、規模の成長重視から利益重
これまでの高齢者政策は、日常生活に必要
視への経営方針の転換が進み、事業領域の「選
な所得の確保や、介護・医療など、問題の大
択と集中」により低収益事業は再編・淘汰が
きい領域への対応が優先されてきたため、自
進んでいる。その一方で、SCR(社会貢献活
立した元気高齢者向けの施策は、必ずしも充
動)を重視する傾向も見られる。
分とは言えない状況である。
こうして生じた「公共」領域を支えるのが
近年、国レベルで、特定非営利活動促進法
「ソーシャルビジネス」である(図表9)。
「ソ
(NPO 法、1998 年)、健康増進法(2003 年)、
ーシャルビジネス」の特徴は、社会性・公共
新会社法(2005 年)、改正高年齢者雇用安定
性の高い価値のある事業である反面、民間ビ
法(2006 年)等が成立し、これにより、高齢
ジネスとして行えるほどの収益を確保できる
者が主体的に活動できるような環境がようや
事業でないことである。これは、
“ 団塊の世代”
く整備された。
しかし、自治体で行われている政策は、主
の特性に非常に適した事業領域と言える(図
表10)。
に老人クラブ等の活動や文化・スポーツ・レ
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クリエーション等趣味的要素の強い活動を行
図表11
シニアの活動の変化
政が主催あるいは“お膳立て”した教室や会
に「参加する」という受動的な「参加促進」
による「生きがい支援施策」である。これか
ら当面の対象となる“団塊の世代”は、前述
老人クラブ等の活動や
内容 文化・スポーツ・レクリエーション等
趣味的要素の強い活動が中心
就労、起業、NPO・ボランティア
活動、地域活動等の
より社会貢献型の活動が中心に
形態
行政が主催もしくは設定した
各種教室や会・クラブ等、
用意された器への受動的な参加
「受ける」「参加する」
地域社会の一員として、
自ら企画し、仲間を集め、行動
する、主体的に創り出す参画へ
「創る」「還元する」「次代に残す」
場 シニア・元気高齢者世代のみを
対象とした取り組み
他(多)世代との交流を
ベースとした取り組みへ
のとおり、新しいことへの挑戦意欲や自己表
現欲が強く、他人によって“お膳立て”され
た筋書きに沿って、他人と同じことをするの
はむしろ嫌いな世代であり、このような旧来
型の施策では馴染まなくなってきている。
アウトソースにあたっては、活動者自らの
アイディア・知恵・技術等を生かせるよう工
2)
“団塊の世代”の活力を生かす高齢者支援
施策のあり方
夫が必要である。従来のように行政が仕様を
作成・提示し、入札等で受託者を選定する仕
“団塊の世代”の力を引き出すには、本人
組みから、企画公募等を通じて、事業の領域・
の真の生きがい(楽しいと思う気持ち、やりが
内容や方法を自由に企画・提案できる仕組み
い、充実感)につながるよう、活動の内容、形
へと転換すべきである。企画公募型の場合、
態、場を見直し、受け身での「参加」から、
行政が住民ニーズを想像して仕様を作成する
自らの企画によって主体的に活動する「社会
委託事業に比べ、地域の課題やニーズに即応
参画」へと転換していくことが必要である(図
した内発的なアイディアを直接的に汲み上げ
表11)。そのためには、個々人の力を束ね、
ることができる点にメリットがある。
“ 団塊の
自発的に活動する基盤となるグループ・団体
世代”が持つ「やる気と知恵と能力」を活用
を育成することが必要である。自治体は、こ
する方法として、企画公募型でソーシャルビ
のようなグループ・団体の活動が次第に定
ジネスを事業化していく方式が有効であると
着・自立できるように、その発展段階に応じ
考えられる。
て連続的に支援していくことが必要である。
NPO 先進国であるアメリカでは、企画公募
例えば、
「起業塾」を開催し、それをきっかけ
型ファンディング(資金助成)方式が、NPO
として起業を目指すグループの形成を支援
支援政策の一般的な形態となっている。日本
(相談・コーディネート)し、グループがま
でも、
「特区」制度の取り組みの中で、企画ア
とまってきたら法人設立のための準備金を貸
イディアと実行能力の双方を評価しながら事
与し、法人設立後は行政からソーシャルビジ
業を実現化させる仕組みが確立されてきた。
ネスの一部領域をアウトソースして活動が行
このほかにも、経済産業省のモデル事業型政
えるようサポートしつつ、実際に活動を通じ
策 や 財 団 法 人 地 域 総 合 整 備 財 団 (ふ る さ と 財
て地域にも貢献してもらう、というような形
団)の融資・補助事業、さらには、CSR を重
である。
視する民間企業や先進的な取り組みを行う
NPO 法人でもこの手法が取り入れられつつ
ある。
企画公募型事業の成功のカギは、企画アイ
ディア選定の仕組み(評価指標、評価主体、
評価プロセス等)づくりにある。透明性・納
NRI パブリックマネジメントレビュー September 2006 vol.38 -7-
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得性の高い仕組みを確立することが必須の要
件である。
また、このような支援における行政の役割
は、従来のように、前面(上)に立って、必
要な資源(ヒト・モノ・カネ・情報)と筋書きを
“お膳立て”して引っ張る(リードする)よ
うな形から、活動者・民間のやる気と知恵と
能力とを「資源」と捉えて組み立て(オーガ
ナイズし)、後ろ(下)から後押しする」形へ
と、発想を転換していくことが必要である。
(参考文献)
1.
「ベビーブーマー・リタイアメント」中村実・
安田純子(共著) 野村総合研究所
2.「2010 年の日本 雇用社会から起業社会へ」
野村総合研究所(山田澤明・齊藤義明・神尾
文彦・井上泰一) 東洋経済新報社
※「団塊世代のセカンドライフに関する調査」
(2005.8)結果の一部を掲載
3.NRI 顧客セミナー「高齢社会をめぐる新たな
動き」(2005 年 10 月 12 日)基調講演資料
筆 者
安田 純子(やすだ じゅんこ)
社会産業コンサルティング部
主任コンサルタント
専門は、少子・高齢化政策、社会保障・医
療・ 介護 ・ 福祉 政策 、 当該 分野 の 政策立
案・評価及び自治体計画策定支援 など
E-mail: j-yasuda@nri.co.jp
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