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グローバルな情報社会の構築に向けて - Nomura Research Institute

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グローバルな情報社会の構築に向けて - Nomura Research Institute
特集
転換期の ICT産業
グローバルな情報社会の構築に向けて
デジタルデバイドをめぐる国際社会の動向と課題
大橋郁夫
CONTENTS
Ⅰ デジタルデバイドとは
Ⅱ 国際社会の動き
Ⅲ WSISの成果の実施とフォローアップ
Ⅳ 今後の課題
要約
1 情報通信技術(以下、ICT)の進展とともに、各国におけるICTの利用技術に
格差が拡大し、それが各国の経済格差につながっている。この格差を「デジタ
ルデバイド」と呼ぶ。国際社会では、デジタルデバイドをグローバルな課題と
して認識し、それの解消の検討を始めることとなった。
2 2000年のG8サミット(主要国首脳会議)では、沖縄IT憲章をまとめ、デジタ
ルデバイド解消の方策の検討を始めた。国連は国連ミレニアム宣言で、開発途
上国への支援策の一つとして、ICT支援を含め、ミレニアム開発目標のなかに
ICT関係の指標を設定することとなった。さらに、デジタルデバイドの解消を
地球的規模の課題として位置づけ、国際電気通信連合(ITU)が主導する形
で、2回にわたり世界情報社会サミット(以下、WSIS)を開催した。
3 このWSISの合意を受けて、デジタルデバイドを解消するため、11項目の行動
方針やその他の合意事項の実施状況および進捗状況についての報告とフォロー
アップ(追跡調査)が毎年、行われることとなり、2008年は3回目の状況報告
などがあった。
4 デジタルデバイドを解消するための国際社会の課題は、情報通信分野の有用性
に対する理解を深め、積極的な活用を考えること、一方、国際機関の課題は情
報通信分野の優先順位を高めることである。また、わが国の課題は、戦略的な
援助ができるように体制を整備し、デジタルデバイド解消の施策を実施するこ
とである。
知的資産創造/2009年 3 月号
当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法および国際条約により保護されています。
CopyrightⒸ2009 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
Ⅰ デジタルデバイドとは
以下、ITU)だけでなく、国連本部とともに
その他の関係する国際機関が多数参加し、ITU
2003年12月と05年11月の2回にわたり、国
連サミットという形で世界情報社会サミット
が主導する国連サミットという形でWSISが
開催されたのは画期的なことであった。
(the World Summit on the Information
Society、以下、WSIS)が開催された。
確かに最近のICTの発展には目覚ましいも
のがある。これまでは有線でつなぎ、固定し
この会議では、情報通信技術(Information
た場所同士でしか利用できなかった電話が、
and Communication Technology、以下、ICT)
無線通信の新技術を導入することにより持ち
を中心にして、デジタルデバイド(後述)を
運びが可能となり、出先や移動中にも通話が
デジタルオポチュニティ(情報利用機会)に
できるようになった。また、インターネット
変え、国際社会をグローバルな情報社会とし
を利用して、世界の情報を即時に入手し、電
て構築するために、参加各国、関係国際機関
子メールによってインターネットの利用環境
などがそれぞれ努力し、協力する旨の合意が
にある世界中の人々と、国境を越えて自由に
なされた。
情報交換ができるようになった。
これまでの国連サミットは、地球温暖化を
このようなさまざまな分野でのICTの利活
はじめとする環境問題や食糧問題など、地球
用は、各国の経済社会の発展に大きな役割を
的規模で取り組む必要のある課題について論
果たしている。
議するために、国連本部が中心になって開催
されてきた。
かつては、電話が利用できるかどうかが地
域の関心事であったのが、今や移動電話が利
そうしたなか、デジタルデバイドという
用できる地域かどうか、インターネットがブ
ICTの利活用の格差への是正を、地球的規模
ロードバンド環境にあるかどうかが主要な関
で取り組むべき課題として認識し、電気通信
心事となってきた。移動電話やインターネッ
の伝統的な技術者集団である国際電気通信連
トをはじめとするICT利用技術は、すでに経
合(International Telecommunication Union、
済・社会活動の重要なインフラの一つと位置
図1 固定電話、移動電話の加入数およびインターネットの利用者数
︵電話 百万回線/インターネット 百万人︶
3,500
3,285
3,000
インターネット
移動電話
固定電話
2,749
2,500
2,219
2,000
1,763
1,034
1,000
500
0
1,467
1,424
1,500
1,157
1,083
961
02
03
04
1,210
1,284
1,005
868
722
616
489
2001 年
1,138
1,287
1,262
1,204
05
06
07
出所)総務省「情報通信白書平成20年版」
(http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/whitepaper01.html)
グローバルな情報社会の構築に向けて
当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法および国際条約により保護されています。
CopyrightⒸ2009 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
づけられている。
8.2%である。地域別では、普及率が最も高
ITUによると、世界のインターネットの利
いオセアニアで31.7%、続いて欧州の20.3%、
用者は急激に増加しており、2001年には4億
南北アメリカの11.8%となっている。また、
8900万人であったが、2007年には14億6700万
アジアは6.6%、アフリカは1.1%と低い普及
人に達している。この7年間でインターネッ
率である。
トの利用者は、年平均17.0%で増加した
注1
(前ページの図1)。
インターネット加入全体に占めるブロード
バンド加入の比率(ブロードバンド率)は、
インターネット普及率は、全世界平均で
南北アメリカが82.5%、欧州が68.3%と高い
水準になっている(図2)。
他方、インターネット普及率の高いオセア
図2 地域別のインターネット普及率とブロードバンド率
35
%
82.5
31.7
30
25
68.3
63.4
10
70
ンド率は51.0%となっている。2007年の固定
60
電話回線数は、世界全体で12億8400万回線
50
52.3
40
インターネット
普及率(左軸)
11.8
30
8.2
6.6
15.8
5
アフリカ
1.1
欧州
南北アメリカ
オセアニア
アジア
全世界︵平均︶
0
ニアのブロードバンド普及率は52.3%、イン
20.3
51.0
20
15
ブロードバンド率
(右軸)
90
%
80
20
10
0
26.5%)、続いて南北アメリカの9億2000万
民総所得〉1万1116ドル以上、35カ国)、中
82.1
23.5
所 得 国( 上 位: 同3596〜 1 万1115ド ル、 下
14.3
インターネット利用
49.2
13.6
移動電話
4.0
位:同906〜3595ドル、合計87カ国)、低所得
国(同905ドル以下、48カ国)と区分して情
固定電話
17.2
報通信サービスの普及状況を比較すると、高
2.5
40
60
80
100
120
注)所得グループの定義および対象国数は以下のとおり
高所得国…国民1人当たりGNI(国民総所得)1万1116ドル以上 35カ国
上位中所得国…国民1人当たりGNI 3596 ∼ 1万1115ドル 36カ国
下位中所得国…国民1人当たりGNI 906 ∼ 3595ドル 51カ国
低所得国…国民1人当たりGNI 905ドル以下 48カ国
計 170カ国
出所)総務省「情報通信白書平成 20 年版」
(http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/
whitepaper/whitepaper01.html)
次に多いのが欧州で、11億9000万加入(同
各国を高所得国(国民1人当たりGNI〈国
27.9
20
固定電話と移動電話を合わせた電話加入数
0.8%)となっている。
113.1
0%
っている。
入(同6.3%)、オセアニアの4000万加入(同
45.6
低所得国
年から07年までの年平均成長率19.2%)とな
加入(同20.5%)、アフリカの2億8000万加
57.6
下位中所得国
移動電話の加入者数は、32億8500万加入(01
アジアで、20億5000万加入(全体の45.8%)、
図3 所得グループ別固定電話、移動電話、インターネット利用の
普及率(2007年)
上位中所得国
(01年から07年までの年平均成長率3.1%)、
を地域別に見ると、加入者数が最も多いのが
出所)総務省「情報通信白書平成20年版」
(http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/
whitepaper/whitepaper01.html)
高所得国
ターネット普及率の低いアジアのブロードバ
所得国と低所得国の間には大きな利用格差が
存在しており、ICTの国際的な利用格差は顕
著になっている(図3)。
知的資産創造/2009年 3 月号
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2007年の普及率を見ると、高所得国の固定
各国、関係する国際機関、NGO(非政府組
電話加入は45.6%、移動電話加入では113.1%、
織)などが参加してWSISが開催され、デジ
インターネット利用では57.6%とすべてに高
タルデバイドの解消とグローバルな情報社会
水準にあるが、低所得国の固定電話加入は
の構築に向けて、国や国際機関を含む参加機
2.5%、移動電話加入は17.2%、インターネッ
関が努力することになったのである。
ト利用は4.0%と低水準にとどまっている。
本稿では『知的資産創造』2006年8月号の
両所得グループの普及格差は、固定電話加入
「グローバルな情報社会の構築と今後の課
では43.1ポイント(2006年は49.8ポイント)、
題」に続いて、地球的規模の重要課題として
移動電話では95.9ポイント(同75.2ポイント)、
位置づけられるデジタルデバイドの解消とグ
インターネット利用では53.6ポイント(同
ローバルな情報社会の構築をめぐるWSIS合
49.0ポイント)となっており、06年の普及格
意後の動きを振り返るとともに、国際社会の
差と比較すると、固定電話は若干縮小したも
取り組みについて考察する。
のの、移動電話とインターネットについては
普及の格差が拡大している注2。
Ⅱ 国際社会の動き
このように、ICTを「持つもの」と「持た
ないもの」との格差を、前述のようにデジタ
「デジタルデバイド」という言葉は、1995年
ルデバイドといい、生活環境や地域の違いが
7月に米国商務省がまとめた「Falling through
そのまま、移動電話を利活用する機会や、パ
the Net(ネットからこぼれ落ちる)」という
ソコンを利用したインターネット利活用の機
報告書のなかで初めて用いられ、一般的に使
会の格差となる。移動電話やインターネット
われ始めたとされる。
が経済活動や社会活動に不可欠なものとなっ
その後、1999年11月には同省が「The Digi-
ているがゆえに、その利用機会の格差が所得
tal Divide Summit(デジタルデバイド・サ
や経済力の格差につながることになる。
ミット)
」を主催し、2000年1月に、当時のビ
このような格差は高所得国にも国内問題と
ル・クリントン大統領が一般教書演説でこの
して存在するが、高所得国と低所得国の間で
デジタルデバイドを政策課題として取り上げ
はさらに顕著になっており、こうしたデジタ
たことにより、世界的に定着したものと思わ
ルデバイドの解消は、地球的な規模で取り組
れる注3。
むべき重要課題として位置づけられることと
なった。
一方、ITUでは、デジタルデバイド解消の
ために議論の場をつくる動きが、1998年11月
このため、2000年に九州・沖縄で開催され
たG8サミット(主要国首脳会議)のテーマ
にミネアポリスで開催された全権委員会議で
すでに始まっていた注4。
の一つとしてデジタルデバイドの解消が取り
その後、ITUは、デジタルデバイドの解消
上げられ、国連ミレニアムサミットで発出さ
をテーマとする会議を開催するために、関係
れた「国連ミレニアム宣言」でも言及された。
国際機関に働きかけ、1999年4月の国連調整
こうした動きとともに、ITUが主導して、
管理委員会で、情報社会に関する会議を国連
グローバルな情報社会の構築に向けて
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サミットの一つとしてITU主導で開催するこ
国連経済社会理事会(United Nations Eco-
とが承認された。
nomic and Social Council、以下、ECOSOC)、
2000年のITU理事会では、事務局に対し、
ITU、ユネスコ(the United Nations Educa-
03年にWSISを開催するために、日時や場所
tional, Scientific and Cultural Organization、
について具体的に検討するように指示が出さ
以下、UNESCO)、国連貿易開発会議(the
れた
。しかしながら、当時、WSISの開催
United Nations Conference on Trade and
を希望する国としてスイスとチュニジアの2
Development、以下、UNCTAD)、経済協力
カ国が名乗りを上げており、ITUがこれら2
開発機構(the Organization of Economic Co-
カ国との間で調整を行い、2001年のITU理事
operation and Development、以下、OECD)
会で、03年に第1フェーズとしてスイスのジ
の7機関、国際ビジネス団体としてはWEF
ュネーブで、05年に第2フェーズとしてチュ
(World Economic Forum:世界経済フォー
ニジアのチュニスで開催することが決定され
ラム)、GBDe(The Global Business Dialogue
た
。また、この2回にわたるWSISの開催
on electronic commerce:電子商取引グロー
は、2001年12月に国連総会で正式に決定、承
バル・ビジネス・ダイアログ)、GIIC(Global
認された
Information Infrastructure Commission:世
注5
注6
注7
。
界情報基盤委員会)の3機関の、合計27機関
1 G8サミット
が参加するマルチステークホルダー(利害関
わが国では、2000年7月に、デジタルデバ
係者)方式で、検討を進めることとなった。
イドの解消をテーマの一つとしたG8サミッ
その検討結果は、次回(2001年)G8サミッ
トが開催された。
トの開催地であるイタリアのジェノバで、行
同サミットで採択された「沖縄IT憲章(グ
動計画として報告を行うこととなった。
ローバルな情報社会に関する沖縄憲章)」で
ドット・フォースは、3回の会合で議論を
はデジタルデバイド解消の重要性を唱え、
重ね、2001年6月に「ジェノバ行動計画」と
「誰もが情報通信ネットワークへのアクセス
してまとめられ、7月のジェノバサミットに
を享受しうるべきである」という原則が確認
おいて、ドット・フォースによりこれが提示
された注8。
された注10。同時に本行動計画の項目ごとに
これを受けて「ドット・フォース(デジタ
実施チームが組織され、翌年のG8サミット
ルオポチュニティ作業部会)」が設置され、
でそれぞれの実施チームの実施状況について
デジタルデバイド解消のための検討を進める
報告することとなった。それを受けて、2002
こととなった。
年6月のカナダのカナナスキスサミットで、
このドット・フォースはG8各国政府に加
えて、ほかにも9カ国の政府代表注9、企業、
ジェノバ行動計画の実施状況報告書が提出さ
れた注11。
NPO(民間非営利組織)、また、国際機関と
し て は 国 連 開 発 計 画(United Nations Development Fund、以下、UNDP)、世界銀行、
10
2 国連の動き
国連でもデジタルデバイド解消の重要性に
知的資産創造/2009年 3 月号
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ついての認識が深まり、デジタルデバイドを
opment Goals、以下、MDGs)をまとめた注14。
議論するための専門家会合が2000年4月に開
MDGsは2015年までに達成すべき8つの目
催された。この専門家会合では、ICTタスク
フォース(特別チーム)やトラストファンド
(途上国支援基金)の設置が提案された。
標を掲げ、18のターゲットを示している。
デジタルデバイドの解消については、目標
の一つである「開発のためのグローバル・パ
ま た2000年 7 月 に、ECOSOCの ハ イ レ ベ
ートナーシップの推進」のもとで、ターゲッ
ルセグメント閣僚会議でICTの重要性を強調
トとして、「民間セクターと協力し、特に、
した閣僚宣言が出された
。さらに国連の
情報通信分野の新技術により利益が得られる
コフィー・アナン事務総長(当時)は、同月
ようにする」と記され、100人当たりの電話
の九州・沖縄サミットに参加するG8首脳に
回線および移動電話加入者数と、100人当た
対し、デジタルデバイドの解決に向けて書簡
りのパソコン台数およびインターネット利用
を送付している。
者数を指標として定めている。
注12
そして同年9月には国連ミレニアムサミッ
このMDGsの指標を定めた後、ICTタスク
トが開催され、国連ミレニアム宣言が採択さ
フォースは、2001年11月に第1回の会合を開
れた
。この国連ミレニアム宣言のパラグ
き、短期活動項目と中長期活動項目を決定
ラフ20の決意の5番目には、デジタルデバイ
し、正式に発足した注15。中長期的活動項目
ドの解消を目的として、「ECOSOC2000年閣
は8項目あり、そのなかの「国連事務総長に
僚宣言に含まれる勧告に従い、情報通信技術
対する助言」を除いた残りの7項目は、ドッ
をはじめとする新技術の恩恵が全ての人々に
ト・フォースにより提言されたジェノバ行動
行き渡るようにすること」と記述されてい
計画提案の引き写しとなっている。
注13
る。
主な活動目的は、ICTとMDGsをリンクさ
ICTタスクフォースについては、2000年11
月に同タスクフォースの設置に関するアドバ
せWSISに寄与するということで、3年間と
いう時限で設立されることになった。
イザリーグループ(AG)の会合が開かれ、
同グループが01年2月に、ICTタスクフォー
3 WSISジュネーブ会合
スの権限、責務、構成などについて国連事務
WSISは、2001年12月21日の国連総会で開
総長に報告をしている。その報告を受けて国
催が正式に決定され、02年7月に第1回準備
連事務総長報告書がECOSOCに提出され、
会合が始まった。3回の準備会合を経て、
ICTタスクフォースの設置の準備を進めるこ
2003年12月にジュネーブでWSISジュネーブ
ととなった。
会合が開催された。
他方、 2001年9月には、国連ミレニアムサ
WSISの第1フェーズとして開催されたジ
ミットの結果のフォローアップ(追跡調査)
ュネーブ会合は、各国の首脳レベルが参加し
として国連ミレニアム宣言の実施のロードマ
て、情報社会に関する共通のビジョンを確立
ップが国連総会に報告され、その報告のなか
するとともに、そのビジョン実現のために関
でミレニアム開発目標(Millennium Devel-
係各国および関係者の合意を形成することを
グローバルな情報社会の構築に向けて
11
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目的とするものであった。
この会合には54カ国の政府首脳、83人の情
報通信大臣など、176カ国、約2万人が参加
し、「基本宣言」と「行動計画」という形の
のために合意した、重要な11の原則を述べて
いる(表1)。その11の原則とは、
①開発のためのICT利活用における政府お
よび関係者の役割
最終文書が採択された。
②情報インフラの整備
「基本宣言」は、⑴情報社会に関する共通ビ
③情報・知識へのアクセス
ジョン、⑵すべての人々のための情報社会:
④人材開発
重要原則、⑶共通の知識に基づくすべての
⑤ICTの利用における信頼性とセキュリテ
人々のための情報社会に向けて──という3
ィの確立
つの事項に整理され、67のパラグラフから構
⑥環境整備
成されている注16。
⑦ICTアプリケーション:生活のすべての
⑴では、持続可能な開発と生活の質の向上
面における利益
を可能とする情報社会を構築すること、ICT
⑧文化的多様性と独自性(アイデンティテ
は生産性を向上させ、雇用を創出するなど、
ィ)
、言語の多様性、ローカルコンテンツ
情報社会を発展させるために共通のビジョン
⑨メディア
として参加者の共通の理解・認識を示してい
⑩ICTの倫理的側面
る。
⑪国際的および地域的協力
⑵では、すべての関係者が情報社会の構築
──である。
表1 WSISジュネーブ会合の「基本宣言」に掲げられた11原則の概要
12
原則
概要
1
開発のためのICT(情報通信技術)利活用に
おける政府および関係者の役割
政府、産業界、市民社会、国連およびその他の国際機関が情報社会の発展のために重要
な役割と責任を担っていること、およびそれらの関係者の相互の連携が不可欠である
2
ICTインフラの整備
情報社会においては、ネットワークに接続できることが重要な意義を有する。ICTインフ
ラおよびそのサービスへの、ユビキタスで公平・低廉なアクセスは重要な課題である。
また、ブロードバンドなどの活用が社会の発展を促進する
3
情報・知識へのアクセス
公共財(アーカイブ等)の容易な利用、オープンソースソフトウェア等の提供および学
術振興などによる知識・情報へのアクセスの促進が情報社会の発展にとって重要である
4
人材開発
継続的な教育やICTリテラシーの強化を行っていくことが重要である。また、障害者など
への配慮も必要である
5
ICTの利用における信頼性とセキュリティの
確立
プライバシー保護や消費者保護とともに、グローバルなサイバーセキュリティ文化の醸
成・促進、さらにセキュリティに悪影響を及ぼすICTの活用を防止することが大切である
6
環境整備
透明で競争的な政策、知的財産権の保護と知識の普及・共有、オープン・非差別・需要
に基づく標準化、多国間・透明・民主的なインターネット管理などが重要である
7
ICTアプリケーション:生活のすべての面に
おける利益
ICTアプリケーションは人々の生活のあらゆる場面において役立つものであり、e政府、
eビジネス、eヘルスなどのさまざまな分野において重要である
8
文化的多様性と独自性(アイデンティティ)
、
言語の多様性、ローカルコンテンツ
人間の尊厳の基盤となる文化の多様性を確保し、言語・価値観・伝統を尊重することが
重要である
9
メディア
情報社会においてメディアの果たす役割は重要である。伝統的なメディアも継続的に重
要な役割を果たす。これらメディアの多様性確保も大切である
10
ICTの倫理的側面
情報社会においても、自由・平等・連帯・責任分担・自然尊重などの基本的価値を尊重
すべきである。ICTの利用においては人権とプライバシーや思想・良心・宗教を含む基本
的な自由を尊重すべきである
11
国際的および地域的協力
情報社会は国際的・地域的協力により支えられるものであり、包括的かつ世界的な情報
社会の構築のため、「行動計画」に記載された「デジタル連帯綱領(Digital Solidarity
Agenda)
」にあらゆる関係者が参加することを要請する
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⑶では、「行動計画」を実施するために、
⑦各国の実情を考慮して、すべての小中・
まず、関係者の協力強化の決意、次に、デジ
高等学校が情報社会の課題に対応するた
タルデバイド解消のために、国際的に合意さ
めのカリキュラムを用意すること
れた開発目標を達成するための具体的な進捗
状況の評価とフォローアップ、最後に、グロ
⑧全世界の人々がテレビやラジオを利用で
きるようにすること
ーバルな情報社会の構築のために、ここで取
⑨コンテンツの開発を進め、インターネッ
り上げた施策が役に立つとの確信を表明して
ト上で自国の言語が利用できるようにす
いる。
ること
「行動計画」では、「基本宣言」によって示
された共通のビジョンと原則に基づき、関係
⑩全世界の50%以上の人々がICTに接続で
きる環境を整備すること
者が協力することによってICTの利用が促進
──である。
され、国連ミレニアム宣言に含まれる開発目
Ⓒでは、設定された目標を具体化するため
標を踏まえて、発展可能な情報社会の実現を
に、表1で示した「基本宣言」⑵の11の重要
目指す具体的な方法について、ⒶからⒻまで
原則のそれぞれについて具体的な行動方針を
6つの事項に整理し、29のパラグラフにまと
示している。
めている注17。
Ⓓでは、情報社会におけるデジタルデバイ
Ⓐは序言として、「行動計画」を「基本宣
ドの解消を目指して国際的な協力をし、人
言」の具体的な行動を示すものとして位置づ
的・財政的・技術的環境を整えることをねら
け、Ⓑでは、2015年までに達成を目指した
いとしたデジタル連帯綱領についてまとめて
ICTに関する10の開発目標を示している。
いる。
そのⒷの開発目標は、それぞれの国の状況
を踏まえて、
Ⓔでは「行動計画」のフォローアップと評
価のため、各国の事情を考慮して、現実的な
①世界の村々をICTによって接続し、公共
のアクセスポイントを設置すること
②大学、専門学校、小中学校をICTによっ
て接続すること
国際評価基準を考案し、進捗状況を監視・分
析・報告するためのシステム構築の必要性に
ついて述べている。
Ⓕでは、第2フェーズとなるチュニス会合
③科学研究センターをICTによって接続す
ること
に向けて準備会合を開き、チュニスでは、グ
ローバルな情報社会の構築、デジタルデバイ
④公共図書館、文化センター、美術館、郵
ドの縮小、デジタルデバイドからデジタルオ
便局などをICTによって接続すること
ポチュニティへの転換を目指したジュネーブ
⑤保健所、病院をICTによって接続するこ
の第1フェーズの結果を踏まえた適切な最終
と
文書の作成と、それぞれのステークホルダー
⑥政府や地方自治体をICTによって接続
が、国内、地域および国際のそれぞれのレベ
し、Webサイトや電子メールアドレス
ルでジュネーブ会合の「行動計画」のフォロ
を設定すること
ーアップおよび実施状況について検討するこ
グローバルな情報社会の構築に向けて
13
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ととしている。
この結果、国連事務総長のもとに設置され
ジュネーブ会合でこの「基本宣言」と「行
るタスクフォースが既存の資金援助メカニズ
動計画」を第1フェーズ(以下、ジュネーブ
ムの問題点を2004年12月までに検討し、この
フェーズ)として取りまとめるに当たり、最
結論に基づき、「自主的なデジタル連帯基
後まで紛糾した案件は「インターネットガバ
金」の創設を含めて検討することになった。
ナンス(統治)」と「デジタル連帯基金」で
4 WSISチュニス会合
あった。
インターネットガバナンスについては、
2005年11月、3回の準備会合を重ねて、チ
「ICANN(the Internet Corporation for
ュニスでWSISの第2フェーズ(以下、チュ
Assigned Names and Numbers)
注18
中心の
ニスフェーズ)が開催された。
現行組織で対応すべき」とする立場と、「政
このチュニス会合では、前回のジュネーブ
府間の国際組織を設立して管理させるべき」
会合の「基本宣言」および「行動計画」の具
とする立場が対立したが、最終的に「国連事
体的な実施方法や、前回未決着となっていた
務総長に対し、各国政府、民間団体などの幅
デジタル連帯基金およびインターネットガバ
広い参加のもと、インターネットガバナンス
ナンスという2つの課題について論議するこ
に関するワーキンググループを設置し、2005
ととなった。
年までにその結果について報告を行うことを
ITUの発表した数字によると、このチュニ
要請する」との文言で妥協し、チュニスの第
ス会合には、46カ国の国家元首級および197
2フェーズで再び議論することになった。
人の大臣クラスの参加を含めて、174カ国、
デジタル連帯基金については、デジタルデ
1万9400人余が参加し、「チュニスコミット
バイド解消のためのプロジェクトの実施にお
メント」と「情報社会に関するチュニスアジ
いて、世界銀行、UNDP、2国間協力など既
ェンダ(以下、チュニスアジェンダ)」とい
存のスキーム(枠組み)を有効に活用すべき
う形の最終文書が採択されている注19、20。
との立場と、新規の基金を設立すべきとの立
場が対立したが、最終的に、「現在あるメカ
ニズムが、ICT関連の開発の課題に対応する
前回のジュネーブフェーズで持ち越された
のに適当であるか否かの徹底的な見直しが、
課題のうちデジタル連帯基金については、同
2004年12月までに完了する必要がある。この
フェーズの議論を踏まえ、既存の資金メカニ
見直しは、国連事務総長主導の作業部会のも
ズムの現状について検討するタスクフォース
とに行われ、WSISの第2フェーズにおいて
を設置した。このタスクフォースが2回の審
検討される。この見直しの結果に基づき、基
議を経て最終報告書をまとめ、同報告書は
本宣言において言及されているように、デジ
2005年2月にジュネーブで開催されたWSIS
タル連帯基金の効果、実現性および創設も含
第2回準備会合に提出された。
んだ、財政メカニズムの改善と改良が考慮さ
れる」との表現で合意に達した。
14
(1) デジタル連帯基金
この報告書では、政府、民間企業、市民社
会、国際開発機関の協力の重要性が強調され
知的資産創造/2009年 3 月号
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るとともに、既存の資金メカニズムについて、
った注21。
①活用については、現状では不十分で、イ
ンフラ開発およびICTへのアクセス強化
(2) インターネットガバナンス
として、オープンアクセス、公正競争な
インターネットガバナンスについては、ジ
どの政策や、投資リスク・金融負担の軽
ュネーブフェーズの合意として、「行動計画」
減が重要であること
のなかで、国連事務総長に対しワーキンググ
②妥当性については、ICT能力開発プログ
ループ(Working Group on Internet Govern-
ラム、ルーラル(農村)地域におけるア
ance、以下、WGIG)の設置が要請され、そ
クセス、地域のバックボーンインフラ、
の合意に基づき2004年11月に設置され、05年
小島嶼国の取引費用の軽減などが課題で
6月まで4回の会合を重ね、05年7月に報告
あること
書が国連事務総長に提出され、公表された注22。
③改革・改善の方策については、国内・地
その内容は、インターネットガバナンスの
域・国際レベルにおける協調、仮想金融
組織モデルとして、国連機関がICANNを直
施設の創設等、多数当事者間のパートナ
接監督するものから、今のICANNの形態は
ーシップ、国内資金メカニズム、ローカ
そのまま残し、全く別の議論の場としてフォ
ルコンテンツへの支援などについて今後
ーラムを設けるものまで4つの組織モデルを
の検討が必要であること
示したものとなっている。
──を共通認識とした。そのうえで、デジ
これらの動きに対して、米国商務省は2005
タル連帯基金については、EU(欧州連合)、
年6月30日に、米国の持つルートゾーンファ
アフリカ諸国および米国、日本などでの非公
イル注23の変更権を放棄しないことや、現在
式な調整の結果、「デジタルデバイドをデジ
のICANNの活動を支持することなど4項目
タルオポチュニティに転換させる目的を持っ
を表明している注24。
てジュネーブに設置されたデジタル連帯基金
このような状況のもとチュニス会合では、
について、この基金は義務的でない性格を持
インターネットの安定性と安全性を実現する
ち、既存のメカニズムを補完するものとして
ためには、すべての関係者がそれぞれの役割
歓迎する」という趣旨の表現を盛り込むこと
と責任の範囲内で関与することが重要である
で合意した。
という認識が形成され、サイバー犯罪の対
このWSIS第2回準備会合の合意を踏まえ
策、迷惑メール対策などICTの不正な利用を
て、チュニスフェーズでは、現在の資金メカ
防止するための手段としても、必要となるイ
ニズムの改善・制度的な改革と、新たに設立
ンターネットガバナンスの範囲は、入手の可
されたデジタル連帯基金を「──自発的な性
能性、信頼性、サービスの品質を含む社会的
格を有する革新的な資金メカニズムとしての
および技術的な課題を含むこととなった。
デジタル連帯基金を歓迎する。──情報社会
これを具体的に実施するために、インター
の資金を調達する既存メカニズムを補完する
ネット管理に関する幅広い課題を議論する新
ものである」という表現で認知することにな
し い フ ォ ー ラ ム(Internet Governance Fo-
グローバルな情報社会の構築に向けて
15
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rum、 以下、IGF)を2006年第1四半期まで
い、合意文書のなかに、合意事項の実施とフ
に設置するための手続きを、国連事務総長が
ォローアップの規定を盛り込むこととなった。
開始することで合意した。さらに2006年第
具体的には、まずチュニスアジェンダパラ
2四半期までに第1回のIGF会合を開催する
グラフ(以下、パラグラフ)99で、WSISの
こととし、以後5年間、このような形でIGF
終了後もWSISの目標達成のために、国、域
会合を開催することで妥協が成立した
内(近隣地域の国家間)、世界レベルのそれ
。
注25
ぞれで、実施とフォローアップのメカニズム
(3) 行動計画のフォローアップ
を確立することとする文言を入れた。
チュニスアジェンダでは、WSISの行動計
国レベルでは、各国政府に対し、①国家の
画の具体的な実施について、すべての関係者
e戦略を自国の開発計画の一部とすること、
が参加し、フォローアップを行うことが重要
②ICTを政府開発援助(ODA)の中心とし
な鍵であると強調している。
て導入することなど、政府自らが実施メカニ
このため、国、域内、世界レベルごとの実
施とフォローアップのメカニズムを策定する
ズムを構築することを奨励した(パラグラフ
100)。
ととともに、「情報社会に関する国連グルー
次に域内国間レベルでは、MDGsをはじめ
プ(United Nations Group on Information
とする国際的に合意された開発目標の達成に
Society、以下、UNGIS)」を設置することと
向けて、域内国レベルの情報および成功事例
している。さらに、ジュネーブ会合の「行動
の紹介、開発におけるICT利活用に関する政
計画」の行動方針として掲げたC1からC11
策論議の促進などのWSISの実施・活動をす
までの各テーマについては、これまでのWSIS
べきであるとしている。
の経験を活かして、ITU、UNESCOおよび
また、国連地域委員会は、他の機関と連携
UNDPのいずれかが参加することとなった。
して地域的なWSISのフォローアップ活動を
このように、G8サミット、国連サミッ
すべきであるとしている。
ト、WSISなどでそれぞれデジタルデバイド
これらの活動は民間セクター、市民社会、
の解消方策について議論し、WSISジュネー
国連その他の国際機関の参加を含むマルチス
ブ会合で合意した行動計画の実施について、
テークホルダー方式が不可欠であるとしてい
チュニスアジェンダでは、デジタルデバイド
る(パラグラフ101)。
解消のために個別のテーマごとに担当機関を
国際レベルでは、情報環境整備の重要性を
定めて、毎年フォローアップを実施すること
念頭に置いて、各国連機関がそれぞれの権限
となった。
と予算の範囲内で、マルチステークホルダー
Ⅲ WSISの成果の実施と
フォローアップ
方式でフォローアップをすべきであるとして
いる(パラグラフ102)。
また、国連機関相互間では、国連システム
調整委員会(CEB)との調整を図り、WSIS
WSISは、これまでの国連サミットとは違
16
のプロセスのなかで、ITU、UNESCOおよ
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びUNDPの こ れ ま で の 活 動 を 考 慮 し て、
行動方針(C1〜C11)は、チュニスアジェン
WSISの 成 果 の 実 施 と 促 進 を 目 的 と し た、
ダでは、ITU、UNESCOおよびUNDPの3機
UNGISの設置を国連事務総長に要請してい
関のWSISプロセスにおける経験、活動を活
る(パラグラフ103)。
かして、それぞれの関係するテーマについて
さらに、2006年6月までにWSISの成果を
先導的、促進的な役割を果たすべきであり、
実施するための国連機関間の調整の具体的な
そのために調整機関、促進機関として、それ
方法について、ECOSOCを通じて国連総会
ぞれのテーマの会合に参加すべきであるとし
に報告を要請している(パラグラフ104)。
ている(パラグラフ108、109、表2)。
パ ラ グ ラ フ105で は、ECOSOCがWSISの
これを受けて、それぞれの行動方針につい
成果を見守ることを要請し、このフォローア
て調整機関、促進機関を定め、毎年5月にジ
ップをECOSOCとして制度的に把握できる
ュネーブで、それらの機関が中心となってフ
ようにするために、ECOSOCに対し、その
ォローアップ会合を開催することになった。
下部機関である「開発のための科学技術委員
会(Commission of Science and Technology
1 フォローアップ会合
for Development、以下、CSTD)」の権限の
見直しを求めている。
これを受けて、2006年7月28日にECOSOC
はWSISのフォローアップとCSTDの見直し
チュニスアジェンダの別添文書に基づき、
2006年5月から毎年ジュネーブで開催される
11の行動方針のフォローアップ会合は、2008
年で3回目を迎えた注27。
について決議を行った注26。
ジュネーブ会合の「行動計画」にある11の
本節では、ITUが中心になってフォローア
ップを行うことになった行動方針C2のICTイ
表2 行動方針の役割分担
調整機関/促進機関の候補
C1
開発のためのICT利活用における政府および関係者の役割
ECOSOC /国連地域委員会/ ITU
C2
ICTインフラの整備
ITU
C3
情報・知識へのアクセス
ITU / UNESCO
C4
人材開発
UNDP / UNESCO / ITU / UNCTAD
C5
ICTの利用における信頼性とセキュリティの確立
ITU
C6
環境整備
ITU / UNDP /国連地域委員会/ UNCTAD
C7
ICTアプリケーション
e政府
eビジネス
eラーニング
eヘルス
e雇用
e環境
e農業
eサイエンス
UNDP / ITU
WTO / UNCTAD / ITU / UPU
UNESCO / ITU / UNIDO
WHO / ITU
ILO / ITU
WHO / WMO / UNEP / UN-Habitat / ITU / ICAO
FAO / ITU
UNESCO / ITU
●
●
●
●
●
●
●
●
C8
文化的多様性と独自性(アイデンティティ)
、言語の多様性、
ローカルコンテンツ
UNESCO
C9
メディア
UNESCO
C10
ICTの倫理的側面
UNESCO / ECOSOC C11
国際的および地域的協力
国連地域委員会/ UNDP / ITU / UNESCO / ECOSOC
出所)情報社会に関するチュニスアジェンダ別添文書
グローバルな情報社会の構築に向けて
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ンフラの整備と、同C5のICTの利用における
今後の会議の進め方については、参加者か
信頼性とセキュリティの確立という2つにつ
ら、世界的な規模、地域的な規模、国家的な
いて見る。
規模の計画について必要に応じてデータを蓄
積すべきであること、このようなそれぞれの
(1) ICTインフラの整備(行動方針C2)
パラグラフ108と別添文書に基づき、ITU
ること、インターネットでICTの開発状況に
がWSISの す べ て の ス テ ー ク ホ ル ダ ー を 招
ついて評価可能な方法を考えるべきであるこ
き、ICTインフラの整備(行動方針C2)の会
と──などの意見が出された。
合を開催することになった。
最後に、このような作業を促進するための
この第1回会合は、2006年5月18日にジュ
グループづくりを推進できるように、オンラ
ネ ー ブ のITU本 部 で 開 催 さ れ、APC(the
インツールを緊急に開発すべきであるとする
Association for Progressive Communi-
意見が出された。 cations)と世界銀行が共同主宰者となった。
第2回会合は、2007年5月16日にITU本部
この会議では、まず、米国MIT(マサチ
で開催された。同会合では、まず、ITUがそ
ューセッツ工科大学)のニコラス・ネグロポ
れまでに実施した行動が紹介された。
ンテ教授が提唱する、100ドルのノートパソ
具体的には、インターネット上で作業がで
コンを開発し「子ども1人にノートパソコン
きるポータルを設置し、すべての関係者の間
1 台(OLPC:One Laptop per Child)」 を
で十分に相互通信ができるようにした点と、
提供する計画が紹介された。
行動方針C2の促進目的を、ITUの内部の論
次に、EC(欧州委員会)がEU加盟国とと
議で明確化した点である。後者では、①各国
もに、WSISのフォローアップとして、e政
のe戦略の促進、②それぞれの地域における
府、eヘルス、e教育、eビジネスなどのe
ICT政策の調整、③地域と大規模国内計画の
戦略の策定、および規制部門の人材育成を含
策定、④パブリックアクセス、開発のための
む民間部門の投資にインセンティブを与える
ICT利用、有線と無線の技術によるブロード
ような安定的かつ予測可能な法的枠組みを確
バンド接続、地球規模の大規模ICTインフラ
立し、また研究開発部門の国際協力の重要性
計画の開始、⑤インターネット上の金融プラ
に優先順位を置くべきであるとした。
ットフォームの開発、⑥ICT開発評価のツー
さらにITUが、カタールのドーハで開催さ
ルの設置──といった項目が紹介された。
れ た 世 界 電 気 通 信 開 発 会 議(World Tele-
現在進められている大規模プロジェクトも
communication Development Conference、
明らかにされ、それらにはサハラ以南のアフ
以下、WTDC)で採択された決議17を紹介
リカ43カ国(ECとITUを含む)およびカリ
した。これは、世界をサハラ以南のアフリ
ブ17カ国(同)のICT政策の調整、次に太平
カ、 米 国、 ア ラ ブ、 ア ジ ア・ 太 平 洋、CIS
洋諸島国14カ国(同)でのICT政策に携わる
(独立国家共同体)の5地域に分けて25の地
人材の育成、国際光ファイバー計画として西
域開発計画が採択された決議である。
18
計画を結びつけるための提携を行うべきであ
アフリカ無限可能性プロジェクト(IWTGC
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〈Infinity Worldwide Telecommunication
を招き、行動方針C5のICTの利用における信
Group of Companies〉を含む)、太平洋諸島
頼性とセキュリティの確立に関する会合を開
国でのICTを活用した衛星の多様な利用計画
催することとなった。
──があると紹介された。
また、ITU事務総局が各国に対し、e戦略
その第1回会合は2006年5月15、16日の両
日、ITU本部で開催された。
およびWSISの結果を実施するための調整の
この会合は、多くの関係者が協調すること
仕組みについて照会状を送り、実情を聴取し
で活動の重複を避け、情報交換、知識創造、
ている旨の報告がされた。
事例集の共有、官民のパートナーシップを確
さらに、WSISの関連データベースの更新
に努めるとともに、2006年のWTDCで採択
立することを目的としたものである。
この会合の主要テーマは、サイバーセキュ
された実施計画についても現状が報告された。
リ テ ィ の 世 界 的 な 協 調 で あ り、2005年 の
第3回会合は、2008年5月19日にITU本部
WSISサイバーセキュリティテーマ会合で指
で開催された。
摘された、
この会合ではITU事務局から、2007年の会
合以降の各国のICTインフラの整備状況につ
①各国の対策、事例集、ガイドラインの共
有化
いて、前述の6つの分野のそれぞれに関する
②監視、警告、発生時対応能力の開発
報告があった。続いて、ジュネーブ駐在の大
③技術標準と業界の解決策
使らがパネリストになって、ICTインフラの
④各国の法的対応と国際社会の法的調整と
整備について外交的な視点で議論するパネル
の調和
ディスカッション(以下、パネル)や、ICT
⑤プライバシー、データ、利用者の保護
プロジェクトを成功に導くためのメカニズム
──の5つの主要項目を含む政府、民間お
というテーマで関係者が議論するパネルが行
よび他のステークホルダー間の提携の可能性
われた。
に焦点が当てられた。
最後に、ITUとマイクロソフトが共同開発
第2回会合は、2007年5月14、15日の両日
した「ITU Global View(ITUグローバルビ
に開催された。2006年の第1回会合を踏ま
ュー)」のデモンストレーションがあり、イ
え、中心課題として、①国家戦略、②法的枠
ンターネットを利用して、誰でも簡単に地球
組み、③監視・警戒・事故対策、④スパム
規模でICTの発展状況を知ることができるよ
(迷惑メール)およびそれに関連する脅威──
うになったと紹介された。
の4つのテーマを設定し、それぞれ作業部会
が設置された。
(2) ICTの利用におけるサイバー
セキュリティの確立(行動方針C5)
パラグラフ108と別添文書に基づき、ITU
は、ICTの利用時の信頼と安全を構築するた
めの実施プロセスに関係するすべての関係者
その基本的な考え方は、これら4つの分野
の活動の進捗状況や将来計画とともに、国際
協力、国際協調を図り、将来の議論にも対応
することである。
同年5月17日には、ITUがグローバル・サ
グローバルな情報社会の構築に向けて
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イバーセキュリティ・アジェンダ(Global Cy-
に取られる選択肢、政府や産業界が利用者保
bersecurity Agenda、 以 下、GCA) を 設 定
護のために有する責任などについて議論され
し、増大するサイバーテロの脅威を国際的に
た。
解決するための検討を開始した注28。
その検討のため、世界的に著名な専門家を
で、大学の研究者やITU-T(ITUの標準化部
メンバーとするハイレベル専門家グループ
門)の関係者らがパネリストとして参加し、
(High Level Experts Group、以下、HLEG)
インターネットの提供するヴァーチャル(仮
を設け、そのHLEGで検討した報告書をITU
想)な世界に多くの人々が参加するようにな
事務総局長に提出することとした。
ると、実世界とヴァーチャルな世界との境界
第3回会合は、2008年5月22、23日の両日
の壁が急速に低下して、ヴァーチャルな世界
開催された。この会合には、39カ国から政府
の比重が高まることになる。このような状況
関係者、22の企業専門家、50人の国際機関関
でサイバー攻撃の弊害を除去するためにどの
係者、NGO、学会の代表者が参加し、合計
ようにすべきかなどについて議論が行われた。
125人に達した。
23日には、ICTの利用に信頼と安全を構築
22日には、最近のインターネットに現れる
するために設定可能な目標や、効果測定・進
脅威とその解決策について、6つのセッショ
捗状況について、現状報告を含めて関係者か
ンからなるパネルが行われ、パネリストとし
ら活発な議論が行われた。
て参加した政府、企業、国際機関、学会、市
セッション4のテーマはグローバルな解決
民団体の関係者と会場の参加者との間で、活
が求められるセキュリティ対策などの課題
発な議論が交された。
で、GCAの議長や大学の研究者などがパネ
セッション1のテーマは、サイバーテロの
リストとして参加し、5月21日に開催された
脅威に対する管理で、シスコ・システムズ、
GCA会合の審議状況についてGCAの議長か
AT&T、マイクロソフトなどの関係者がパ
ら報告され、その後グローバルな戦略の実施
ネリストとして参加し、データ、ネットワー
のための指針の策定や協力について議論が行
クへの既存の脅威を縮小できるか、短期的、
われた。
中期的にどのような脅威が想定できるか、ソ
セッション5のテーマは、ステークホルダ
フトウェア会社、ハードウェア会社、サービ
ーの活動の現状で、パネリストとして参加し
スプロバイダーが取るべき措置などについて
たブラジル、APEC(アジア太平洋経済協力)、
議論が行われた。
インターポール(国際刑事警察機構)、欧州
セッション2のテーマは、サイバー攻撃に
対する市民の防御で、スイス、フィンランド
20
セッション3のテーマは、サイバー攻撃
評議会(CE)、民間企業の関係者からそれぞ
れの活動状況について報告が行われた。
のセキュリティ会社や国際機関の関係者がパ
セッション6のテーマは、行動方針C5の
ネリストとして参加し、インターネットや情
目標達成で、パネリストとして参加したITU
報セキュリティに関する利用者への啓蒙、サ
担当者から、C5実施に関するこれまでの状
イバー攻撃を受けたとき、利用者保護のため
況と今後の展開について紹介され、今後の課
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題として、GCAの5つの作業分野(法制度、
きであるとした。
技術および手続き、組織・体制、人材育成、
このため2007年と08年の2年間、CSTDの
国際協力)とC5の活動との関連をどのよう
会議には、ECOSOCの承認を受けたこれま
にするか、一定の整理が必要である旨の指摘
でのNGOだけではなく、WSISに参加した他
がされた。
のNGOや市民社会団体も参加できることと
なった。
2 CSTD
CSTD第10回総会は、2007年5月21日から
CSTDは、1979年に開催された「開発のた
25日まで国連欧州本部で開催された。この会
めの科学技術ウィーン会議」で設置が決めら
議で、新たなメンバー国を選出するととも
れた「開発のための政府間科学技術委員会」
に、WSISの結果を踏まえて、デジタルデバ
とその諮問委員会を前身として、前述のよう
イドを解消し情報社会の構築に寄与しうると
に、93年4月にECOSOCの下部機関として
考えられるテーマと、本来の開発のための科
ニューヨークで設立された。
学技術のなかでこれから利用可能と考えられ
CSTDは、科学技術に関する課題について、
分析および政策提言を行い、国連総会および
るテーマに焦点を当てて作業計画の策定を検
討することとなった。
ECOSOCにハイレベルの助言をすることを
さ ら にCSTDはECOSOCに 対 し て、WSIS
目的としている。また、1993年7月以降、
の結果の実施状況について国連の各機関が
UNCTADがCSTDの事務局事務を行うこと
CSTDに報告し、関係機関が情報共有できる
になった。そのため、CSTDの会合は主に国
ような内容の決議をECOSOC総会で採択す
連欧州本部(パレ・デ・ナシオン)で開催さ
ることを要請した注30。
CSTD第11回総会は、2008年5月26日から
れている。
パラグラフ105で、このCSTDが、WSISの
5月30日まで国連欧州本部で開催された。
成果について制度的なフォローアップを行う
この会議では、まず、科学技術が、開発目
機関の候補として位置づけられたことを受け
標、特に国連ミレニアム宣言に含まれる目標
て、ECOSOCは2006年7月28日に、CSTDの
を達成するために必要不可欠な道具であるこ
役割・権限の見直しを含む決議を行った注26。
とと、途上国が科学技術と技術革新を国内開
この決議でECOSOCは、WSISの成果を制度
発戦略の中心に据え、マルチステークホルダ
的にフォローアップする機関の中心にCSTD
ー方式でこの戦略を策定することが重要であ
を正式に位置づけた。また、CSTDの組織強
ると指摘した。
化のためにこれまで33カ国であったメンバー
さらに、インターネットのような情報通信
国を43カ国に増やし、有効かつ有意義な開発
技術が知識の共有や分散にも役立ち、開発目
援助活動を行うこととした注29。
標の達成を早めることになるので、デジタル
さらに、ECOSOCは、CSTDの政府間機関
デバイドで取り残された地域の貧しい人々
としての性格は保持しつつも、WSISで実施
が、インターネットを含む情報通信技術や電
したマルチステークホルダー方式を活用すべ
子文献の利用を容易にできるようにするため
グローバルな情報社会の構築に向けて
21
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の方策について意見を交わした。
また、ブロードバンド技術の普及は、特別
ることを提案したギリシャ政府の申し出を歓
迎することが合意された。
に注意を払うべき政策課題であるとして、行
それを受けて、2006年2月16、17日および
動方針C7にあるe 政府、e 医療、e ビジネス、
5月19日に国連欧州本部で、IGF会合の開催
e 教育、e 農業などを安価で容易にブロード
方法、取り扱うべき論点などについて関係者
バンド技術を使って利用できるようにする方
の意見を聞く会議が開かれた。
策を考えることが重要であるとしている。
この会合でCSTDは、1つの決議と4つの
5月19日の会議には、IGFの開催準備を進
めるためのアドバイザリーグループとして、
決定をECOSOC総会で採択することを要請
ニティン・デサイ国連事務総長特別顧問を議
した。
長とする46人のメンバーが指名されるととも
1つの決議とは、WSISの結果の実施とフ
ォローアップの進捗状況の評価をECOSOC
に、国連欧州本部にマーカス・クマー氏を長
とするIGF事務局に相当する組織が設けられた。
が行うことであり、4つの決定とは、
①CSTD第12、13回総会にNGOや市民団体
が参加できるようにすること
②CSTDの作業に学術団体が参加できるよ
うにすること
③CSTD第12回総会で、事務局長がCSTD
の2年間の科学、技術、技術革新に関す
る議論の状況を報告すること
④CSTD第11回総会の報告書と第12回総会
の仮議題と関連文書を採択すること
──である注31。
このようにCSTDは総会で、2つの中心的
テーマの1つとしてWSISに関する議論を行
っているが、これらは手続き的な議論や報告
(1) 第1回会合
IGF第1回会合は、2006年10月30日から11
月2日までアテネ郊外で開催された。世界各
国の政府関係者、国際機関関係者、民間企
業、市民団体、教育機関などから約1200人が
参加した。
第1回会合の議題は、会合の全体テーマを
「開発のためのインターネットガバナンス」、
横断的優先事項を「人材育成」として、個別
のテーマを以下の4つとした。
①開放性:自由な情報流通・表現の自由
②セキュリティ:セキュリティへの対応協
力
が中心で、これまで調整の当事者としての主
③多様性:インターネットの多様性
体的な議論はあまり見られなかった。 ④アクセス:インターネット接続
ただし、第1回会合では、全体会合のレポ
3 IGF
インターネットガバナンスについて、チュ
ニス会合では、IGFを設立して5年間協議を
22
ートを作成するものの、交渉した結果を反映
した決定や決議のような合意文書などの成果
物は作成しないこととなった。
進め、5年後に関係者の意見を聴取し、その
①の開放性については、「表現の自由」と
後もIGFを継続するかどうかを決めるという
その自由を使うための「責任」とのバラン
ことになり、その第1回会合のホスト国にな
ス、「著作権」と「知識へのアクセス」のバ
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ランス、政府の役割・責任とその限界などに
提供されえない言語コンテンツの提供に対す
ついて議論があった。表現の自由の重要性
る支援、知識格差および身体的障害への対応
は、共通認識はあるが絶対的なものではない
などについても、多様な意見が出された。
こと、インターネットは超法規的なものでは
④のアクセスについては、インターネット
なくオフライン(実社会)と同様の規制がか
社会が直面する公共政策の多面的かつ枢要な
かるべきこと、途上国においては、インター
問題であること、市場環境の整備による競争
ネットへのアクセスおよび情報へのアクセス
促進と競争阻害要因の除去が根本的に重要で
が重要なテーマであること、表現を規制する
ある一方、電力の不足、ICTスキル(技能)
各国の法律とボーダレスなインターネットと
の不足、財源の不足など市場によるアプロー
の関係──などについて多様な議論があった。
チの限界も指摘された。
②のセキュリティについては、インターネ
最後に、アドバイザリーグループの議長も
ットのセキュリティが経済・社会の発展と密
勤めるデサイ議長より、「この会合は厳密な
接に関係しており情報社会の利益を実現する
意味での成果物を出すことは不可能であり、
ために必要であること、インターネットの開
議長総括はいかなる合意も結論も導き出すも
放性の維持と安全確保の関係、スパム、フィ
のではない」とのコメントが出された後、各
ッシング、ウィルスなどからプライバシーを
セッションなどの活動についての報告がされ
保護しつつユーザーを守るための方法、安全
た。
確保のための認証や身元確認の重要性と、信
また会場からは、ワークショップ、全体会
頼できる認証機関の必要性、利用者の意識の
合その他の活動についての報告があり、最後
向上と加害者に対する厳しい目の醸成、ベス
にデサイ議長の、「この会合は政府関係者、
トプラクティス(成功事例)等の情報共有と
国際機関、民間企業、市民団体など異なる分
国際連携の有効性、公的な規制と市場による
野の参加者がオープンな場で交流する壮大な
規制──などについて多様な意見の交換があ
実験の場である」との旨の発言で締めくくら
った。
れた注32。
③の多様性については、国際化ドメイン
名、多言語主義およびローカルコンテンツを
(2) 第2回会合
中心に議論された。インターネット上の多言
2007年2月に、第1回会合結果の成果や反
語化の要求は文化の多様性の確保要求に基づ
省点を第2回会合に反映するための準備会合
くもので、インターネットが多言語化しない
が開催された。この会合では、第1回会合に
場合の「言語デバイド」の可能性が指摘され
おけるマルチステークホルダー方式が機能し
た。最新のインターネットブラウザーがすべ
ていることが評価され、今後もこれをIGFで
て国際化ドメイン名対応となっていること、
継続していくことが確認された。
一方、国際化ドメイン名の導入における技術
5月および9月には第2回会合の開催方法
的な安全性・安定性確保の課題もあることに
や取り扱うテーマについて、関係者から意見
ついて多様な議論が行われた。市場を通じて
を聴取するオープンコンサルテーション会合
グローバルな情報社会の構築に向けて
23
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が開催された。取り扱うテーマについては、
るため政府補助の必要性を論じる意見や、あ
各国からさまざまな意見が出されたが、特
るいは、これらの課題よりも途上国における
に、一部の途上国政府から、IP(インターネ
アクセスやセキュリティのほうがより重要で
ット・プロトコル)アドレスやDNS(ドメ
あると主張する意見も見られた。さらに、人
イン・ネーム・システム)の管理のあり方な
材育成の重要性についての共通認識が図ら
ど、インターネットの資源問題を追加すべき
れ、マルチステークホルダー方式による議論
との意見が出された。さらに、途上国政府や
の広がりが、これらの課題を解決する重要な
NGOからは、マルチステークホルダー方式
要素であるとする意見があった。
をより効果的なものとするため、参加者の地
域バランスを確保すべきとの意見が出された。
②アクセス
第2回会合は、2007年11月12日から15日ま
「アクセス」は、主に、インターネットへの
でブラジルのリオデジャネイロ開催され、世
アクセス拡大に関する政策、特に途上国のイ
界109カ国から約1300人が参加した。この会
ンターネットアクセスの拡充と料金低減のた
合では、第1回会合で議題とされた「アクセ
めの方策などについて議論するセッションで
ス」「セキュリティ」「多様性」「オープン
ある。
性」に、「重要なインターネット資源」を新
このセッションの参加者からは、インター
たな議題として加え、各議題ごとのメインセ
ネットアクセスは、とりわけ途上国にとって
ッションおよびこれらの議題に関係する84の
重要な課題であり、2007年現在では10億のイ
ワークショップなどが開催された。
ンターネットユーザーが大きな恩恵に浴して
いるが、今後は、インターネットアクセスが
①重要なインターネット資源
可能になる次の10億、その後可能になる数
「重要なインターネット資源」は、今回の会
十億の人々のインターネットアクセスに焦点
合から加えられた、主にIPアドレス、DNS
を移して議論すべきだとの指摘があった。
などのインターネット資源に関する課題を議
論するセッションである。
さらにインターネットアクセスを向上させ
るためには、オープンな市場や、国がユニバ
この会合では、重要なインターネット資源
ーサルアクセス政策を策定・実行すること、
に関する幅広い議論が行われ、特にIPアドレ
政府、民間企業、市民社会などマルチステー
スやDNSの管理について論議が集まった。
クホルダーが一体となって、この課題に取り
一部の参加者からは、重要なインターネット
組むことの重要性が意見として出された。
資源の管理のあり方について議論する新たな
ま た、 本 セ ッ シ ョ ン を 通 じ て、「 ア ク セ
ワーキンググループを国連が設置すべきとの
ス」の課題は、IGFのメインテーマであり、
提案があったが、これに対し、現行の枠組み
次の10億人がインターネットにアクセスでき
で議論すべきとする意見もあった。また、
るよう、新たな試みや機会を提供することが
IPv6(インターネット・プロトコル・バー
重要との指摘がなされた。
ジョン6)ネットワークの構築を早急に進め
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③多様性
リティ向上のために関係者の果たす役割、児
「多様性」は、インターネットでの多言語利
童の保護、サイバー犯罪への対応などについ
用の促進、各地域独自のコンテンツ流通の促
て議論するセッションである。
進、障害者のインターネット利用の拡充など
について議論をするセッションである。
本セッションでは、法制度的な観点から多
くの議論がされた。参加者からは、国境のな
このセッションでは、ユニバーサルデザイ
いインターネットでは、各国の法執行機関の
ンやサポート技術など、障害者を含め、すべ
ハイレベルでの協力が必要との意見があっ
ての人々がインターネットにアクセスするた
た。また、参加者の一部から規制強化の必要
めの施策についての議論が交わされた。ま
性を指摘する意見があったが、これに対し、
た、文化、言語等の多様性やDNSの役割な
過剰な規制に対する懸念やマルチステークホ
ど、さまざまな側面からの議論もあった。
ルダー方式による協力でも十分に対応可能と
の反論があった。また、法制度の国際的な協
④開放性
調やオンライン世界に対する現行法の適合性
「開放性」は、自由な情報流通の重要性と表
現の自由の確保、知的財産権保護との調和な
どについて議論するセッションである。
このセッションでは、参加者からIP(Internet Protocol)と知的財産権(Intellectual
を重視すべきとの意見が出された。
議論を通じ、セキュリティ対策を講じるう
えで、すべての関係者が継続的に協力する関
係をつくり出していくことが不可欠であると
の意見が多く出された。
Property)の2つのIPのバランス、表現の
最 終 日 に 議 長 総 括 が 行 わ れ、「 次 の10億
自由と情報流通の自由、労働への対価を楽し
人」という表現に象徴されるように、IGFの
む自由の間のバランス、さらにプライバシー
中心課題は、インターネットへのアクセスを
と表現の自由の間のバランスが「開放性」の
拡大することである旨が強調された。
重要な論点であるとする意見があった。ま
また、インターネットへのアクセスを一層
た、人権の尊重は、政府だけでなく、ビジネ
拡大するためには競争の促進が重要であり、
スやその他のステークホルダーにも関係する
経済的に難しい地域では財政支援も重要であ
ことであるとの指摘があった。
る。さらに、途上国におけるインターネット
さらに、児童ポルノ、クレジットカード詐
エクスチェンジ(IX:インターネット回線
欺、サイバーテロ対策などは、人権の尊重に
の中継地点)の構築も重要な課題であるとの
基づいた実用的な解決策を構築すべきとの指
指摘がされた注33。
摘があった。このほか、フリーソフトウェア、
これまでIGF会合は年に1回開催されてい
オープンスタンダードの重要性、これらと知
るが、議論のテーマが拡大しているため、会
的財産との関係に関する議論も行われた。
議としての合意文書は作成しないという形で
実施されている。
⑤セキュリティ
このように、チュニスアジェンダで定めら
「セキュリティ」は、インターネットセキュ
れ たWSISの 実 施 と フ ォ ロ ー ア ッ プ は、
グローバルな情報社会の構築に向けて
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ITU、UNESCO、UNDPが行動方針のいずれ
に、通信ネットワークには国の安全保障や国
かのテーマに議事進行役として役割を果た
家主権に関する部分があったために、国際的
し、CSTDおよびIGFは、それぞれが開催す
な紛争の解決や調整の話し合いの場として、
る会合で、相互に連携と独自性を保持しつ
比較的早い時期に国際機関が設立された。こ
つ、毎年実施されている。
れが現在のITUの前身である国際電信連合
Ⅳ 今後の課題
で、その設立は、郵便分野の国際機関である
万国郵便連合の設立(1874年)に先立つ9年
前の1865年であった。
第Ⅲ章まで、WSISの合意形成後、デジタ
その後、第一次世界大戦に対する反省か
ルデバイドの解消とグローバルな情報社会の
ら、政治的な問題についても、まず国際機関
構築をめぐる3年間の動きを見てきた。そこ
で話し合うことが重要とする考えが国際社会
では、国連機関相互の協力、国連機関の会合
の大きな流れとなり、1919年に国際連盟が設
における各国およびNGOなどの関係者の活
立された。
動をはじめとするさまざまな取り組みが行わ
れていることを紹介した。
この国際連盟で、国際機関としては初めて
国際援助活動が論議され、「経済社会問題に
本章では、今後の課題について、国際社
おける国際協力の発展」という報告書が1939
会、国際機関、わが国というそれぞれのフェ
年8月にまとめられ、総会で報告されてい
ーズに分けて考える。
る。
以後、第二次世界大戦を経て、国際社会
1 国際社会の課題
国際社会は、国家を基本単位として成立す
る社会である。しかし、国際社会では国内の
い国を支援するという国際開発援助を本格的
に考えることになった。
ような強制的な執行力を保有する権力機構が
第二次世界大戦が終結する直前の1944年
存在しないため、国家間で紛争が生じたとき
に、関係国が米国のブレトン・ウッズに集ま
の最終的な紛争解決の手段は、従来は軍事力
り、為替相場の安定、欧州の復興と自由貿易
であった。だが、このような軍事力の行使に
制度などを維持するための戦後処理体制が議
よる決着がもたらす弊害に対する反省から、
論された。その結果、基軸通貨となったドル
各国はまず話し合いによる解決を考えるよう
に支えられ、圧倒的な優位を誇る米国経済を
になった。そのような紛争解決の話し合いの
背景にして、為替相場の安定を図ることを目
場として国際会議が開催された。
的として、1945年に国際通貨基金(IMF)が
その後、国と国との紛争解決や調停のため
26
は、貧富の格差に目を向け、富める国が貧し
設立された。
に、その国際会議を運営する事務局が設置さ
また同年、荒廃した欧州の戦後復興支援の
れ、その事務局が運営する会議の場で話し合
ために、国際復興開発銀行(IBRD)が設立
いをすることが多くなった。なかでも通信分
された。そして戦争の原因ともなった保護貿
野は、「通信主権」という言葉があるよう
易をあらため、自由貿易制度を維持するため
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に、
「関税と貿易に関する一般協定(GATT)」
そのころ、米国のジョン・F・ケネディ大
が、1947年に多国間協定として締結され、48
統領の提唱により、第一次「国連開発の10
年にジュネーブで、23カ国が貿易交渉につい
年」構想がスタートした。この構想は2000年
て協議しており、これがGATTの発足とされ
までの40年間、4次にわたって継続された
ている。
が、現在では、その時代時代に起きた困難に
今日の国際開発援助は、この3つを中心と
するブレトン・ウッズ体制と、欧州の戦後復
直面し、当初期待した成果は達成できなかっ
たとする評価が定着している。
興を目的として1947年に米国が計画し実行し
このような流れのなかで、前述のように、
たマーシャル・プランから始まったと考える
2000年9月の国連ミレニアム総会は、21世紀
ことができる。
における国際社会の目標を国連ミレニアム宣
その後、アジア、アフリカの植民地が独立
言としてまとめ、すべての人々が開発の権利
し、こうした新興独立国のインフラ整備をは
を実現し、欠乏から解放されるべきことを宣
じめ、司法・行政・安全保障などすべての面
言した。翌2001年9月には、これまでの国際
での立ち遅れに対して、国家として運営して
開発目標を統合して、共通の枠組みにまとめ
いくために、「援助」というコスト負担が不
たMDGsを設定したこともすでに述べたとお
可欠とする認識が広まった。
りである。また同年9月には、9.11同時多発
1960年、途上国開発援助を推進するため、
テロが発生し、国際社会がテロ対策に取り組
国際開発協会(IDA)が創設され、IBRDと
むなかで、テロの温床となりうる「貧困」と
ともに、現在の世界銀行グループの原型にな
いう問題を解決する必要性についての国際的
った。そのころは東西対立も深刻で、ソ連が
な関心が高まった。そしてその後、開発関連
周辺の衛星諸国をはじめ共産化候補諸国へ援
の国際会議が次々と開催されることとなっ
助を拡大し、西側も自陣営強化のための援助
た。
戦略を考える必要に迫られることになった。
2002年3月には、国連開発資金会議がメキ
そのようななかで、米国の国際収支は著し
シコのモンテレーで開催され、MDGsを達成
く悪化し(1958年以降、赤字転落)、
「Burden
するために必要な開発資金を開発途上国に円
sharing(役割分担)」の要求が「同盟諸国」
滑に流入させるための方策が話し合われた。
に発せられるに至り、1960年、マーシャル・
この会議で、ODAの増額および貧困国の
プランの欧州側の受け皿であった欧州経済協
債務緩和を中心とする「モンテレー合意」が
力 機 構(Organization for European Eco-
行われた。2002年9月に南アフリカのヨハネ
nomic Co-operation:OEEC) がOECDへ と
スブルグで開催された持続可能な開発に関す
改組されることに関係各国が同意し、そのな
る世界サミットは、1992年にリオデジャネイ
かで開発援助グループは、翌61年正式に、
ロで開催された地球サミット(国連環境開発
OECDの 下 部 機 関 と し て 開 発 援 助 委 員 会
会議)の実施状況の包括的な評価と新たな課
(Development Assistance Committee、以下
題についての議論を目的としていたが、議論
DAC)に改組された。
の最大の焦点は、開発途上国の貧困問題であ
グローバルな情報社会の構築に向けて
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った。
効果を高めるために、調整、オーナーシッ
持続可能な開発に関する世界サミットで採
プ、相互説明責任、および開発成果マネジメ
択された「ヨハネスブルグ宣言」では、「人
ントを高めることが必要であるとしている。
間社会を富める者と貧しい者に分断する深い
しかし、援助の対象分野については総花的
溝と、先進国と開発途上国との間で絶えず拡
で、今後重要と思われる分野を重点化し、優
大する格差は、世界の繁栄、安全保障および
先順位をつけて配分するという考え方が見ら
安定に対する大きな脅威となる」と明記し、
れない。
開発問題が世界の安定・安全保障に関連して
いるという認識を示している。
時系列的に見ると、2000年の九州・沖縄サ
ミットで沖縄IT憲章が策定され、国連ミレ
2005年9月には、MDGsを含む国連ミレニ
ニアムサミットの国連ミレニアム宣言で、デ
アム宣言の再評価が行われ、国連首脳会合で
ジタルデバイドの解消を盛り込んではいる
採択された「成果文書」では、MDGsを含む
が、02年のモンテレー合意やヨハネスブルグ
一連の開発目標を実現するとの強い決意が表
宣言ではデジタルデバイドについての言及が
明された(表3)。
されていない。2003年12月のWSISのジュネ
このように、国連を中心にした国際会議で
ーブフェーズでは、デジタルデバイドを解消
表明された国際的な開発援助の中心は2つあ
してグローバルな情報社会を構築するための
った。1つは「援助の量」で、MDGsを達成
合 意 文 書 が ま と め ら れ た が、04、05年 の
するためには援助資金の増額が必要であり、
OECD閣僚理事会でも何の言及もされなかっ
具体的な目標としては、各援助国は2015年ま
た。
でに、ODAのGNI比を0.7%にするというこ
また、前述のように、2005年9月には、国
とである。2つ目は「援助の質」で、援助の
連首脳会合が開催され、そこでMDGsや開発
表3 国際社会と国際開発援助の流れ
1
専門分野別国際機関の設立
1865年 ITU(国際電信連合)設立
1874年 UPU(万国郵便連合)設立
2
1919年
国際連盟の設立
1939年 「国際開発援助」の報告書を総会提出
3
1945年
国際連合(国連)の設立 1945年 IMF(国際通貨基金)、IBRD(国際復興開発銀行)の設立……ブレトン・ウッズ体制
1948年 欧州の復興を目的として、アメリカがマーシャル・プランを提唱
今日の国際開発援助は、ブレトン・ウッズ体制とマーシャル・プランから始まった
4
1961年
国際開発協会(IDA)の設立
IBRDとともに世界銀行グループを形成
1961年
欧州経済協力機構(OEEC)が、経済協力開発機構(OECD)に改組
開発援助委員会(DAC)が設置
1961年
28
「国連開発の10年」
(*第1次〈1961~70年〉)構想がスタート(現在第5次計画〈2001~10年〉の途中)
5
2000年
国連ミレニアムサミット
6
2001年
米国同時多発テロ、ミレニアム開発目標(MDGs)を策定
7
2002年
8
2002年
国連開発資金会議(モンテレー)
「持続可能な開発に関する世界サミット」(ヨハネスブルグサミット)
9
2003年12月
WSISジュネーブ会合
10
2005年9月
国連首脳会合、MDGsの見直し
11
2005年11月
WSISチュニス会合、APEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議
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問題が議論され、05年にサミット成果文書が
て、自らの権限で支援を可能とするように、
策定されている。このなかでは、ICTは開発
できるだけ活動範囲を広くして、途上国を支
のための科学技術の8つの小項目の1つとし
援するべきという考え方を持っている。
て扱われているにすぎず、教育、農業開発、
さらに、その国際機関の分担金は途上国に
雇用、保健問題などのような独立した項目と
はできるだけ少なく、経済力のある先進国が
しても扱われていない。
できるだけ多く負担すべきであるとする考え
このように、デジタルデバイドの解消やグ
方も持っている。
ロ ー バ ル な 情 報 社 会 の 構 築 は、 国 連、
国際機関は、国連の常任理事国が持つ拒否
OECD、世界銀行などの国際開発援助のいわ
権や、一部の金融関係の国際機関の出資割合
ゆる中心機関から見ると、ICTの整備・活用
に基づく累積投票権による意思決定の方式を
がまだ独立した分野としての位置づけがされ
除き、加盟国の総会では、分担割合にかかわ
ていないし、優先順位も低いままとなってい
らず、基本的に一国一票システムの多数決で
る。
意思決定が行われる仕組みになっており、一
今後、各国およびこれらの機関は、ICTの
利活用が、グローバルな社会に与える影響や
般的には、数の上で圧倒的な多数を占める途
上国が有利な状況である。
途上国の経済発展に大きな効果を持つことに
このため、先進国は国際機関の活動にでき
ついて理解を深め、支援を行う先進国は、こ
るだけ制限を加えて、設立の本来の目的を達
れらの事柄に十分配慮することが求められ
成するために必要最小限の業務にとどめよう
る。また、途上国などの受益国に対しては、
とするが、途上国はできるだけ広範囲の業務
ICTが経済社会の発展の原動力となり、自国
を国際機関に担わせようと考えている。それ
の問題解決に役立つことについて理解を求め
は、国際機関を活用して、自国をはじめとす
るとともに、支援の希望分野としての優先順
る途上国の支援活動を行わせることを視野に
位を高めるように働きかけることが重要であ
入れているからである。
る。
このような国際機関の役割に関する基本的
な認識の違いのため、国際機関の意思決定に
2 国際機関の課題
は途上国と先進国の妥協が常に必要となり、
国際機関は、国際会議の常設化に伴う会議
さらに、新しい業務に取り組むには条約や規
運営のための事務局という設立の経緯から、
則の改正が必要となる。そのため、国際機関
その活動の主な目的は会議の円滑な運営であ
の新しい活動について十分な根拠を整備して
り、事務局の活動は、基本的に各国の主権に
実施するには、妥協や改正手続きのための審
影響が及ばないような構成となっている。そ
議日数が必要となる。この結果、国際機関が
のため、活動範囲をできるだけ制限し、加盟
新規の業務に迅速に対応して活動することは
国の負担する分担金はできるだけ少なくすべ
困難となる場合が多い。
きというのが先進国の一般的な考え方である。
他方、途上国は、国際機関が当事者とし
他方、政府間国際機関はすでに数多く存在
しており、新しい業務を考えるときには何ら
グローバルな情報社会の構築に向けて
29
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かの形で他の国際機関と業務が重複すること
的に開催されており、これまでに3回実施さ
も多いと考えられる。
れている。この会合は、それぞれのテーマの
このようなことから、WSISでデジタル連
幹事役などが日程の調整やアジェンダの調整
帯基金の新設を議論した際は、他の資金援助
を行うなど一定の役割を果たしているが、テ
機関との重複があるので、国連機関の一つと
ーマ全体をまとめる責任機関が存在していな
して設置することには反対であるが、関係者
い。調整機関としてはUNGISが設置されて
が国連の外で独自に設立し、デジタルデバイ
いるが、このグループのメンバーとして、
ド解消のために資金援助活動を行うことは歓
CSTDやIGFなどは参加していない。グルー
迎するという内容で、先進国と途上国の妥協
プの幹事機関が回り持ちで会合を開催すると
が図られた。
しているが、議事録を見るかぎりでは、行動
これを受けて、2005年3月にジュネーブで
方針のそれぞれの会合でのテーマの重複を調
グローバル・デジタル連帯基金が正式に発足
整するなど、一体的な事務局としての役割を
し、活動を始めている
果たしているとは認められない。
。
注34
さらに、国際機関のなかには、すでに設立
そのため、国連機関の調整を新しく担当す
の目的を達成したにもかかわらず、組織とし
ることになったCSTD、インターネットガバ
ての生き残りを図るために、CSTDのように
ナンスについて議論するIGF、ICTを途上国
WSIS合意のなかに新しい業務の追加を考え
支援のために活用することを目的として設置
る機関もある。
されたGAID、途上国のICT資金援助を目的
また、九州・沖縄サミットで設置されたド
に発足したグローバル・デジタル連帯基金な
ット・フォースが、ICTタスクフォースと合
ど、WSISに関連する機関の間での調整が十
体して国連組織の一部になり、WSISの終了
分に行われていない。
を 契 機 に、 新 し い 組 織 と し て「Global
WSISのフォローアップ会合はITUの建物
Alliance for Information and Communi-
を中心に開催されていることから、ITUが
cation Technologies and Development(情
WSISのフォローアップのための責任機関と
報通信技術と開発協力のための世界連帯、以
なって全体の調整をするのがふさわしいとも
下、GAID)」 と 名 称 を 変 え て 生 き 残 り、
考えられるが、前述のような先進諸国の考え
CSTD総会でパネルを開催するなどの活動を
方や国際機関としての仕組みからも、ITUが
している例もある注35。
全体の調整機関としての役割を果たすことに
このようにさまざまな国際機関が存在して
いるなかで、前述のようにWSISでは、それ
機関からの反対も予想される。
ぞれのテーマについて、幹事役となる国際機
他方、国際機関の調整という役割を持つこ
関を定め、会合を開催してそのテーマの進捗
とになったCSTDは、事務局機能も十分では
状況についてフォローアップや情報交換を行
なく、参加国も従来の担当省庁からの出席者
うこととなった。
がほとんどで、ICTについての経験も蓄積も
この会合は、毎年5月にジュネーブで集中
30
ついては、ITUの加盟国だけでなく他の国際
なく、会議では他の国際機関からWSISのフ
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ォローアップ報告を受けるだけにとどまって
このようにわが国は、国際的にも比較的早
いる。したがって、CSTDは現状では十分な
い時期にICTの重要性に着目し、デジタルデ
主体性を持って調整機能を果たしているとは
バイドを解消するために、国際協力を実施す
認められない。
ることを宣言したのだが、5年を経過した後
このため、サイバーセキュリティなど特定
の2006年の実施状況を見ると、国際公約の成
のテーマに関しては、それぞれの会合で重複
果として具体的な実績を見つけるのは困難な
して議論されている。こうした現状から、既
状況となっている。
存の国際機関が集まって会合を開催している
今の形だけでは不十分だと思われる。
このような多岐にわたる広範なテーマに関
これは、日本政府がODAの仕組みに関し
て、デジタルデバイド解消を目的とする特別
のスキームを新たに準備しないで、従来の
して、重複を避けて統一的に取りまとめるた
ODA供与スキームをそのまま適用したため、
めには、その責務を有する組織が必要である
従来のスキームのなかに埋没したことが理由
と思われるが、既存の機関にその責務を負わ
の一つであると考えられる。
せるには、業務範囲の問題や他の機関との調
整など困難な点が多い。
そもそも5年間で150億ドルという国際公
約は、150億ドルを別枠で特別に確保したも
他方、このために新しい組織を設置するこ
の で は な く、 既 存 の 一 般 会 計ODA予 算 の
とには、多くの先進国からの反対が予想され
ICT関連部分を5年間積み上げて150億ドル
る。
程度にするというのが基本的な考え方であっ
このような現状を踏まえると、WSISの成
た。
果を活かし、グローバルな情報社会を構築す
従来のODA供与スキームは、分野ごとの
るには、各加盟国が国際機関の持つ問題を共
バランスを考慮して、分野別の供与割合があ
有して、各国の首脳レベルで国際機関を活用
る程度事前に決められている。そのため、
するためのコンセンサスを形成したうえで、
ICT分野だけを突出させて重点的に供与する
各加盟国が、それぞれの国際機関に対して、
ことは認められにくいというわが国政府独自
連携・協力して指導して一定の調整を図るこ
のODA供与スキームを考えると、特別枠で
とが求められる。
も設定して実施しないと国際公約の実施は困
難であった。
3 わが国の課題
外務省のWebサイトによれば、これまで
前述のように、わが国は2000年の九州・沖
のわが国の国際協力は、第1の目的を「大国
縄サミットで、デジタルデバイドの解消を議
に相応しい国際社会への責務」とし、その具
題として取り上げ、合意文書の一つとして、
体的な目標を「途上国の開発と人道支援を通
沖縄IT憲章を取りまとめた。また、同サミ
じた世界の平和と安定、経済成長を通じた貧
ットに合わせてデジタルデバイドを解消する
困の削減」としている。
ために、その5年間で150億ドル程度のODA
の公的資金の供与を国際公約した。
人道支援が第1とするこの考え方は、援助
の効果よりも援助自体が目的となり、援助の
グローバルな情報社会の構築に向けて
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総花主義、バランス主義という考え方にもつ
で戦略的に評価・判断することとなれば、
ながりやすい。
ODAの供与が戦略的かどうか、効果的かど
その結果、戦略的な国際協力の実施が後回
しになり、わが国政府の国際社会に対するメ
ッセージが発信されにくくなり、国際社会に
対する存在感を高めにくくなる。
32
うかの説明が公式に必要となるため、現状の
改善に資するものと考えられる。
中国やジンバブエへの例でもあったよう
に、相手国からもありがたがられない援助や
わが国の援助・国際協力は、国民の税金が
効果の見えない支援、単にODAの量的拡大
原資であることを考えると、外務省のWeb
のみが重要とするこれまでわが国のODA供
サイトに2番目の目的として位置づけられて
与のあり方は、再検討が必要であると思料す
いる「グローバル化の中での日本の国益の確
る。
保」を目的の第一として考えるべきであり、
次にわが国で、グローバルな情報社会の構
納税者に説得力を持って説明するには、援助
築の動きが政府内で優先順位を高めることが
の効果を常に考えた、戦略的な国際協力とい
できないのは、わが国行政の縦割り構造に由
う考え方が必要となる。
来するものと考える。わが国の行政は独特の
厳しい財政事情のなかで、一般会計ODA
縦割り構造で、省庁の数だけ「国」があると
予算が政府全体で約7000億円(2008年度)で
いわれ、その弊害が指摘されて久しい。これ
あることを考えると、案件ごとにわが国の国
は、さかのぼれば、第二次世界大戦の敗戦を
益は何で、現在はその案件がどのように国益
経て日本国憲法が制定されたものの、立法お
に寄与してるのかについての議論が必要であ
よび行政は引き続き明治憲法下の組織の考え
る。一般会計ODA予算が有効に活用されて
方を引きずっていたため、国会と行政機関と
いるかどうかの基準は、国益にかない、かつ
は、新憲法の想定するそれぞれの新しい役割
相手国の国内経済に寄与しているかどうかで
についての認識が不十分であったためと考え
判断するのが基本である。米国では議会が
られる。
ODA予算を審議して供与先を決定し、その
上述のように、わが国の行政機関は、明治
実績を評価しているように、わが国でも、行
以来の縦割り組織の伝統を継続して維持して
政府が決定した内容を国会が追認するのでは
いるため、政府全体の調整が不十分となる場
なく、最終的な評価・判断は国会の責任で議
合が多い。他方、国会は国権の最高機関とし
論し、国益を踏まえて決定する事項とすべき
て位置づけられているにもかかわらず、明治
であると考える。
憲法体制の翼賛機関としての伝統を墨守し
供与の結果、相手国の経済成長に役立った
て、最高機関としての役割をいまだに十分果
かどうかとともに、わが国の企業などが相手
たさずに、行政府の単なる追認機関となって
国の市場に参加する可能性が拡大したかどう
いることが多い。特にこの行政の縦割り構造
かなど、わが国の経済利益も含めた相互の具
は、国内の問題解決が迅速かつ効果的にでき
体的なメリットを、援助の当事者以外の第三
ないだけでなく、国際社会でもさまざまな問
者が客観的資料に基づき国会に提出し、国会
題を引き起こしている。
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本来、国際社会の交渉とは、国家戦略に基
関する基本方針
づいて、あらかじめ優先順位を決めて迅速に
──の3点を審議することとした注36。
対応すべきものであるが、わが国政府は、国
これを受けて、安全保障会議設置法などの
家戦略の欠如のために各省の協議が整わず、
一部を改正する法案が2007年4月に国会に提
国としての意思決定が迅速にできないため、
出されているが、その後内閣が変わったため
交渉が不利になった事例が多く存在する。
国会で審議未了となり、廃案になっている。
しかし、縦割りの行政組織でも事前に調整
こうしたことから、わが国では、いまだ国
をして国家戦略を策定しておけば、国として
家戦略や外交・安全保障戦略が策定できる体
の優先順位が明確になり、複数の省庁に関係
制が整備されていない。このため、これらの
する事案の場合でも、迅速に意思決定が行え
戦略の必要性について、政府として本格的に
るようになると考える。
議論されないだけでなく、そもそもわが国に
形式的には、各内閣がそれぞれその内閣の
国家戦略を策定し、その国家戦略を受けて、
はその必要性を認識する人も少ないという状
況にある。
外交・安全保障戦略が策定され、さらにその
しかし、たとえば、もしわが国に国家戦略
ときどきの重要な事項、たとえばICT戦略な
が存在し、その戦略に基づいて2000年の九
どが策定されることが本来の姿であると考え
州・沖縄サミットでODAの150億ドル供与が
る。
決められたものと想定すると、現在の制度の
しかし現状では、事前に調整をした国家戦
もとで考えられる障害を克服し、5年後に目
略や外交・安全保障戦略が存在しないだけで
に見える実績を上げることができたのではな
なく、それを策定する組織もわが国政府には
いかと思料する。
存在していない。
現在の障害の第1は、財政当局との事前協
このような現状に対する問題意識から、
議である。財政当局と事前に必要額の詳細を
2006年11月に「国家安全保障に関する官邸機
積み上げて協議して決定することは、一般的
能強化会議」が発足し、07年2月に報告書が
には至難の技である。国家戦略として位置づ
取りまとめられた。そのなかで、これまでの
けることによりあらかじめ財政当局との調整
わが国には国家戦略を策定する体制がないこ
をし、一定の金額を政治的に決めることがで
とを指摘し、国家戦略をつくる体制として、
きるような仕組みとすることが必要である。
これまでの「安全保障会議」を「国家安全保
第2の障害はODAの要請主義である。従
障会議」と名称を変更し、国家安全保障の司
来のODA供与スキームに基づき、相手国か
令塔機能として、新たに、
らの要請を待つというやり方は実施までに長
①外交・安全保障の重要事項に関する基本
方針
い時間が必要になるが、この要請主義を省く
ことにより迅速に対応できると考えられる。
②複数の省庁の所掌に属する重要な外交・
安全保障政策
また、要請主義ではなくわが国の主導による
支援プロジェクトとして内容を考えることに
③外交・安全保障上の重大事態への対処に
よって、わが国の国益も考慮したプロジェク
グローバルな情報社会の構築に向けて
33
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トを策定することができるようになる。そう
して位置づけ、担当部門を設置し、その部門
すると、デジタルデバイドの現状とICTイン
がICTの途上国支援を実施することになれ
フラ整備にかかる国ごとの費用をわが国が独
ば、各省庁の所管にとらわれることなく、同
自に調査し、さらにインフラ整備の結果、想
部門は各省庁の上に立って利活用とインフラ
定される相手国のICT利活用による便益増進
の整備を一体的に担当することができる。こ
も一体的に考えることができるようになる。
れによって、ICTの利活用とインフラ整備を
さらに、相手国の自助努力によって整備す
一体的に計画・策定し、相手国の経済成長に
る部分と、わが国の支援によって整備する部
つながる効果的な支援ができるようになる。
分とを併せて一体的なインフラ整備と考える
このように国家戦略を策定し、上述した現
ことができる。これまでのインフラ整備と整
状の3つの障害を除去することができれば、
備後の利活用を一体的に進めることにより、
途上国の実情を踏まえて、途上国の発展につ
それぞれの相手国の国情に合わせたICTの利
ながるICTプロジェクトを柔軟に構築するこ
活用ができるようになる。一方、相手国にも
とが可能となり、九州・沖縄サミットの国際
負担や自助努力を求めることにより、相手国
公約であった150億ドルの供与は、目に見え
がICTの理解や利活用について認識を深める
る形で実績を残すことができたのではないか
ことにつながる。また、通信方式やe 政府、
と思料する。
e ヘルス、e 教育などのアプリケーション(利
用)についても、わが国の技術標準を考慮し
デジタルデバイドを解消し、グローバルな
たシステムを一体的に提供することが可能と
情報社会を構築するために、国際社会におい
なる。その結果、わが国の技術標準を相手国
ては、デジタルデバイドを解消するための施
が採用することになり、それはわが国の国際
策の優先順位を高めるとともに、途上国自身
競争力の強化にも資すると考えられる。そし
がその必要性、重要性について十分な理解を
てこのシステム全体を一体的に支援すること
して自国の経済発展につなげていくことが求
は、わが国の援助供与のモデルとして当該国
められる。
をはじめ、他の途上国や国際社会に対してわ
かりやすいという利点にもなる。
第3の障害は縦割り行政である。わが国に
おいて、ICTの利用は多くの省庁にまたがる
分野である。
34
国際機関は、新しい業務に迅速に対応でき
る体制を構築するとともに、今後重要と思わ
れる新しい分野の優先順位を高めることが求
められる。
わが国は、まず行政の縦割りの弊害を克服
インフラは総務省が担当し、それを利用す
し、ときの政権が優先的な予算措置を含む国
る医療は厚生労働省、教育は文部科学省とい
家戦略を策定することのできる体制の整備が
うように、それぞれの所管省庁は所管する部
必要である。そのなかで政策の優先順位を明
分だけを担当し、これまではそれらの関係省
確に定め、デジタルデバイドの克服やグロー
庁との調整に多くの時間と労力が費やされて
バルな情報社会の構築など、ICT戦略の位置
きた。しかし、ICT支援を国家戦略の一つと
づけを政府全体の意思として明示することが
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必要である。
18 インターネットを全世界的に管理することを目
今後国際化が一層進展するなかで、わが国
は、国家戦略を策定することによって、予算
措置の問題、要請主義の問題、縦割り行政の
問題などを解決することができる。それによ
的として、カリフォルニア州法により1998年に
設立された米国法人
19 http://www.itu.int/wsis/doc2/tunis/off/7.pdf
20 http://www.itu.int/wsis/doc2/tunis/off/
6rev.1pdf
りわが国の国際的な発言力・発信力が強化さ
21 http://www.itu.int/wsis/tffm/final-report.pdf
れ、わが国は国際競争力を高め、国際的なプ
22 http://www.wgig.org/docs/WGIGREPORT.pdf
レゼンス(存在感)を高められることになる
と考える。
23 インターネットのドメインネームを構成するト
ップ・レベル・ドメイン(現在は259TLD〈ト
ップレベル・ドメイン〉)のリストで、プライマ
リーおよびセカンダリーネームサーバーの名前
注
1 総務省「情報通信白書平成20年版」
(http://www.
johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/
whitepaper01.html)
とIPアドレスが並べられる
24 h t t p : / / w w w . n t i a . d o c . g o v / n t i a h o m e /
domainname/USDNSprinciples_06302005.htm
25 http://www.intgovforum.org/meeting.htm
2 注1参照
3 h t t p : / / w w w . n t i a . d o c . g o v / n t i a h o m e /
digitaldivide/summit/
4 ITUミネアポリス全権委員会議決議73
5 ITU2000理事会決議1158
6 ITU2001理事会決議1179
7 国連総会決議56/183
8 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/summit/
ko_2000/it1.html
9 参加した国は、ボリビア、ブラジル、エジプ
ト、インド、インドネシア、セネガル、南アフ
リカ、タンザニアで、中国は参加国とされてい
たが、すべての会議に欠席
10 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/summit/
ko_2000/genoa/it5.html
11 h t t p : / / w w w . m o f a . g o . j p / m o f a j / g a i k o / i t /
genova_kodo.html
12 h t t p : w w w . u n . o r g / d o c u m e n t s / e c o s o c /
docs/2000/e2000-19.pdf
13 http://www.un.org/millennium/
14 http://www.un.org/millenniumgoals/
15 http://www.unicttaskforce.org/about/
16 http://www.itu.int/dms_pub/itu-s/md/03/
wsis/doc/S03-WSIS-DOC-0004!!PDF-E.pdf
17 http://www.itu.int/dms_pub/itu-s/md/03/
26 ECOSOC決議2006/46
27 http://www.itu.int/wsis/implementation/index.
html
28 http://www.itu.int/osg/csd/cybersecurity/gca
29 http://www.unctad.org/Templates/Page.asp?in
tItemID=2698&lang=1
30 h t t p : / / w w w . u n c t a d . o r g / e n / d o c s /
ecn162008d4_en.pdf
31 h t t p : / / w w w . u n c t a d . o r g / e n / d o c s /
ecn162008d5_en.pdf
32 http://www.intgovforum.org/cms/index.php/
athensmeeting
33 http://www.intgovforum.org/cms/index.php/
secondmeeting
34 http://www.dsf-fsn.org/
35 UN Press Release, DEV/2572, PI/1707, April
17, 2006
36 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/anzen/index.
html
著 者
大橋郁夫(おおはしいくお)
理事
専門は情報通信政策
wsis/doc/S03-WSIS-DOC-0005!!PDF-E.pdf
グローバルな情報社会の構築に向けて
35
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