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「日本のプライベートバンキングは今、ZERO to ONE の時代」

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「日本のプライベートバンキングは今、ZERO to ONE の時代」
「日本のプライベートバンキングは今、ZERO to ONE の時代」
北山
雅一 氏
公益社団法人 日本証券アナリスト協会
PB 教育委員会委員、PB 資格試験委員会委員
株式会社キャピタル・アセット・プランニング 代表取締役
■ プライベートバンカーの意義
日本のプライベートバンカーとは何かを語ることは難しい。既にプライベートバンクの定義
すら難しい状況である。あるコンサルティング会社は「Private Bank」を 5 つのタイプに分類
している。
タイプⅠは、オンショア PB で、受益者の資産とクライアントの居住国が同じ国にある資産
を管理するプライベートバンクである。
タイプⅡが、ジュリアスベアのようなオフショアプライベートバンクである。このタイプは、
受益者が居住する国と異なる国の資産を管理する。オフショアプライベートバンクは、タック
スヘイブンのような優遇税制がある国や、スイスやルクセンブルグ、リヒテンシュタインのよ
うな強力な秘密保持法がある国にある。したがって、顧客はオンショア PB よりはその銀行に
訪れる機会は少ない。
タイプⅢは、ピクテの様なスイススタイルのプライベートバンクである。このタイプは、投
資ポートフォリオの管理やアセットマネジメントサービスに特化し、一般的な銀行業務をしな
い。したがって、相対的に顧客数や従業員数も少なく、非上場であることが多い。また、時折、
オーナーが直接株式を保有し、無限責任を負うパートナーシップの会社である時もある。
タイプⅣは、UBS やクレディスイス、EFG プライベートバンクのようなユニバーサルバン
クのプライベートバンクディビジョンとして機能するタイプである。このタイプは、ユニバー
サルバンキンググループの子会社としてオンショア、オフショア PB として存在し、投資やポ
ートフォリオ管理に加え、フルレンジの銀行業務や投資商品を提供する。
タイプⅤは、メリルリンチのようなインベストメントバンクの PB 部門である。このタイプ
は、ブロカレッジ業務に近く、インベストメントバンキングのクライアントが、事業譲渡や IPO
によって獲得した資金の再投資に係わるサービスを提供する。また、通常リレーションシップ
1
マネジメントアプローチというより、強力なプロダクトプッシュアプローチをとり、インベス
トメントバンクの商品販売業者として行動する。
ただ、欧米のプライベートバンクを以上のように定義したとしても、我国のプライベートバ
ンキング業務は 5 つのタイプのどれでもない。しいて言えばタイプⅤのブロカレッジ業務に近
く、事業譲渡や IPO によって獲得された資金に公募投信や私募投信、外貨建て劣後債等を強力
にプッシュすること、さらには一人の投資運用サービスを提供することがプライベートバンキ
ング業務と認識されている感がある。
一方で日本証券アナリスト協会が考えるプライベートバンキング業務とは、主として企業経
営者等である資産家及びそのファミリーに対し、その事業とファミリーの世代を超えた繁栄と
成長を約束し、戦略設計に基づき金融資産・不動産・保険・信託を活用し税務対策をも実行し
ながら継続していく業務と考えている。
従って、日本証券アナリスト協会はプライベートバンキング業務を個別金融商品や不動産商
品の選択を行う部分最適性ではなく、ある特定の企業経営者及びそのファミリーの成長を実現
する全体最適性を追求する業務と考えていると思われる。
このため、我国におけるプライベートバンカーの意義とは、上記の業務をゴールとする者で
あって、銀行員・証券マン・生保マンでなくても上記業務を行う者はプライベートバンカーで
あろう。また、税務上の制約が多い日本ではスイスの純粋プライベートバンカーとも異なるこ
とになる。
■ 我が国にプライベートバンカーはいるか?
プライベートバンキング業務をある企業経営者またその家族の三世代、四世代にわたる繁栄
と社会への貢献を支援する業務と考えたとすれば、例えば、戦略性あるプロダクトの開発と販
売を継続することが第一に必要であり、ファミリー企業への後継者の参加、さらには企業経営
に参加しないファミリーメンバーへの財産の移転、家族全体の平和、さらにはファミリーの税
引後の手取額を最大にする税務対策の実行といった課題がある。そしてこういったファミリー
ミッションの達成を長期にわたり支援するのがプライベートバンキング業務であるとすれば、
プライベートバンカーは、ⓐ全体最適性を追求するオールラウンドプレーヤーか、ⓑそれぞれ
の業務に精通するプロフェッショナルとゲートキーパーの組合せが必要となろう。
業界間の垣根が高く縦割り社会の日本において、タイプⓐのすべての領域で業務を行えるオ
ールラウンダーは存在しない。
もし、日本でプライベートバンカーが存在し得るとすれば、タイプⓑのビジネスモデルの中
でのプレーヤーであろう。
図表 1 は、タイプⓑのアライアンス型 PB を表している。タイプⓑの中心にいるワンエージ
ェントが日本型 PB とすれば、従来もこの業務を目標とし、実行してきた者(法人も)は、少
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ないながらも存在する。そして、この潮流が今、大きなうねりとなりだしている。
= 図表 1 =
■ 日本のアライアンス型 PB は、今、
「Zero to One」
米国でペイパルを創業し、X ドットコムと合併させて IPO を果たし、イーベイに売却した米
国の起業家ピーター・ティールは「Zero to One」という本を最近書いた。0 から 1 を創造する
ことが、企業成長の原動力であり、その国の経済成長の基盤である。
今、日本の PB ビジネスは、まさに「0 to 1」の状態にある。金融ポート、保険、不動産、自
社株といったそれぞれの資産に係わるプロフェッショナル、税務対策の専門家、企業戦略のプ
ロフェッショナル(経営者そのものであるかもしれないが)を駆使しながらターゲットとする
固有の企業、その家族の目標実現のため最適なソリューションを提供するプライベートバンカ
ー。こういうアライアンス型 PB ビジネスが、今日本で形成されつつある。特に、2015 年 1 月
からの相続税改正(増税)を契機にこの動きが加速している。
2015 年 1 月からの我国の相続税改正は、
基礎控除が現行の 40%減、最高税率においては 50%
から 55%への引上げが予定されている。基礎控除が配偶者と子供 2 人で 4,800 万円というの
は、米国に比べてはるかに少額であり、英国、フランス、ドイツに比べても少ない。もちろん
最高税率が 55%というのは相当高いが、それにもまして自社株、事業用資産に対する軽減措置
である事業承継税制が他の 9 ヶ国に比べ、圧倒的に薄いことに問題がある。
相続税課税の目的が社会への財の再配分であったとしても、自社株と事業用不動産等のコア
3
アセットは他のアセットと全く異なる。自社株は相続税の課税対象にならないという先進諸国
があるなか、日本の事業承継税制は弱いといえる。
プライベートバンキングの役割が、中小中堅企業、とりわけファミリービジネスの戦略立案、
実行に対する支援も含まれるのであれば、プライベートバンカーは事業承継税制をフルに活用
し、さらに多様な対策を実行しながらファミリービジネスの次世代、次々世代へ円滑なる移行
を推進支援する役割がある。
こういう状況のなか、我国のプライベートバンキング、プライベートバンカーは、他の欧米
諸国とは相当異なるビジネスプランを実行することが予想される。これはファイナンシャルプ
ランナーが他の欧米諸国では一任の投資アドバイスを行うのに対し、日本のFPは中流階層の
家計の収支コントロールにあるのと似ている。
我国のプライベートバンカーは、企業経営者及びそのファミリーをターゲットとして、ビジ
ネスとファミリーと自社株を含むアセットの統合的管理を目指すべきであり、今後戦後ベビー
ブーマーの企業経営者の事業と資産の円滑なる移転承継を主たるビジネスとして進化すべきで
ある。
日本のプライベートバンキングは、今が「Zero to One」なのである。
図表 2 =
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= 図表 3 =
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