...

362号 - 結核予防会

by user

on
Category: Documents
62

views

Report

Comments

Transcript

362号 - 結核予防会
結核・肺疾患予防のための
362
No.
このマーク
(複十字)
は、
世界共通の結核予防運動の
旗印です。
2015.5
結核ゼロ
をめざして
世界の人と
ともに
第66回結核予防全国大会報告特集
本誌は複十字シール募金の
収益により作られています
http://www.jatahq.org
結核予防会ではネパール中部巨大地震による被災地への義援金を承っております。詳しくは本誌P32をご覧ください。
公益財団法人結核予防会
総裁秋篠宮妃殿下
ご動静
第66回結核予防全国大会より
平成 27 年 2 月 26 日、27 日
ホテルオークラ福岡(福岡県福岡市)
とき
ところ
妃殿下は,26日の研鑽集会等と27日の大会式典にご臨席になりました。式典ではお言葉(下記)
を述べられ,秩父宮妃記念結核予防功労賞受賞者に表彰状を授与されました。
第六十六回結核予防全国大会 秋篠宮妃殿下おことば
平成二十七年二月二十七日(福岡県)
「 第 六 十 六 回 結 核 予 防 全 国 大 会 」 がここ 福 岡 県 において 開 催 さ れ、 全 国 よ り
お 集 ま りの 皆 さ ま にお 会いで き ま し た こと を 、 大 変 う れ し く 思いま す 。
は じ めに、 本 日、「 第 十 八 回 秩 父 宮 妃 記 念 結 核 予 防 功 労 賞 」 を 受 け ら れ る
皆 さ ま に、 心 よ り お 祝い申 し 上 げ ま す 。 長 年 に わ た り 、 結 核 の 予 防 や 対 策 に
取 り 組 ん でこ ら れ ま し た ご 努 力 に 対 し 、 深 く 敬 意 を 表 し ま す 。
日 本 では、 結 核 罹 患 率 は 毎 年 低 下 していま すが、 未 だに 年 間 約二万 人 が 新 たに
結 核 を 発 症 していま す 。 ま た、 結 核 患 者の高 齢 化 、 若い患 者 層における 外 国 人の
割 合 の 増 加 や、 大 都 市 で の 罹 患 率 が 高いこ と な ど、 多 様 な 課 題 が あ り ま す 。
患 者 発 見の遅 れによる 集 団 感 染 事 例 も 発 生 してお り ま す 。 このよ う な 状 況の中 、
日 本 で 約 四 十 年 ぶ り に 結 核 の 新 しい 治 療 薬 が 開 発 さ れ ま し た 。 こ う し た
新 た な 成 果 も 活 か し な が ら、 関 係 者 が 力 を 合 わ せ て、 結 核 対 策 を 引 き 続 き
着 実 に 進 めていく こと は 、 大 切 な こと で あ り ま しょう 。
昨 日の研 鑽 集 会 では、「 社 会 要 因の多 様 化 と 結 核 」 について、 様 々な立 場 からの
お 話 を 伺いま し た。 結 核 罹 患 率 を 更に 低 下 させていく ために、 私 た ちの身 近にある
社 会 的 な 要 因 について 、 改 めて 考 え る 機 会 に なったので は ないかと 思いま す 。
一方 、 世 界 で は、 年 間 およそ九百 万 人 が 新 たに 結 核 を 発 症 し、 約 百五 十 万 人 が
命 を 落 としていま す 。 その多 く はアジア・ アフリ カ 諸 国に 集 中 してお り 、 これ らの
国々に対して、患 者の発 見や治 療のための人 材 育 成 、結 核 を 含めた保 健 医 療システムの
構 築 な ど 、 日 本 の 経 験 を 活 か し た 協 力 が 求 めら れ て お り ま す 。
結 核 予 防 会 は、 国 の 内 外 に お け る 結 核 予 防 な ど 多 様 な 取 り 組 みに 加 え、
東日本 大 震 災の被 災 者 支 援に関しても 、福 島 県 外への避 難 者に対 する健 康 支 援 活 動 を
継 続 し ていま す 。 ま た、 今 後 の 大 規 模 な 災 害 に 備 え た 検 討 も 、 進 めている と
聞 いて お り ま す 。 災 害 時 に も 、 結 核 予 防 会 が 被 災 者 の 健 康 を 守 る た めに
よ り よい貢 献 が で き ま す よ う 、 願って お り ま す 。
本 大 会 に 参 加 さ れている 皆 さ ま が、 日 頃 よ り 結 核 予 防 活 動 に 力 を 尽 く さ れて
いることに深 く 感 謝いたしますとともに、 皆 さまが健 康に留 意 されながら、これからも 、
人 々の 健 康 を 支 え る た めに ご 活 躍 く だ さいま す こ と を 希 望 し、 式 典 に 寄 せ る
言 葉 といた し ま す 。
Message 学術担当常務理事に就任して
結核予防会
ぬき
わ
とし
ひろ
貫和 敏博
常務理事 平成26年10月より,結核予防会常務理事に就任い
あるわけです。
さて,結核研究所では定期的に外部委員による
たしました。
学術担当理事として,結核研究所にも居室をもち,
「あり方検討委員会」を開催し,自己点検を行ってい
主としてその研究展開を第一に考えています。退職し
ます。昨年は,多岐にわたる所内研究グループが,
た東北大学では抗酸菌病研究所に赴任しながら,改組
相互に共同できるプロジェクトとしての多剤耐性
により加齢医学研究所となり,肺癌,肺線維症を研究
(MDR)結核,潜在性結核菌感染(LTBI)の研究が提
し,結核に関しては必ずしも専門ではありません。
言されました。
そうした中で,結核の低蔓延化を達成した欧米の
このうち多剤耐性結核は,日本では幸い社会・医
学会に参加すると,米国のATS,欧州のERSでも,
療システムが整い,年間100名未満の発生である一
発展途上国の結核制圧に協力する目標を,毎回年次
方,アジア諸国では,合計数十万人の患者が存在し,
集会開会式で確認する意義が理解できませんでし
人的交流の上からも,今後,日本がアジア諸国と取
た。しかし結核予防会に加わり,その広範な活動を
り組むべき課題であります。折しも40年ぶりに日本
知ると共に,昨年来なお収束しない西アフリカ諸国
から新規抗結核薬が市販され,その海外での臨床展
エボラ出血熱の流行,東京の公園の蚊にデング熱ウ
開が期待されています。結核研究所は国内の諸機関
イルスの発見等の事態が発生しました。すなわち感
や企業,また海外の諸機関や病院とも共同研究を展
染症の問題は,国内問題にとどまらず,航空機によ
開するべく,現在準備を開始いたしました。複十字
る迅速な伝播や,労働力等人的交流が日常的な今日
病院の結核対応諸先生方や,実績ある国際部には直
の先進国においては,
「人間の安全保障」上重要な課
接的なご協力をお願いすることになります。どうぞ
題であり,結核はまさしく継続対応が必要な疾患で
よろしくお願いします。
■ メッセージ
学術担当常務理事に就任して
■ シリーズ生活習慣病(2)
脂質異常症
貫和 敏博… ……1
■ 全国大会報告
●第66回結核予防全国大会を顧みて
松田峻一良… ……2
●研鑽集会:
「社会要因の多様化と結核」
・紙芝居「結核裁判」
小林 典子… ……4
●「結核問題と本会事業」支部長会議
… ……5
●全国大会式典:厚生労働大臣祝辞・福岡県知事挨拶 ………6
●大会決議・宣言文採択
… ……7
■ 第20回国際結核セミナー・平成26年度全国結核対策推進会議報告
●「結核菌ゲノム情報がもたらす対策の革新」
第20回国際結核セミナー
(平成27年3月5日)
に参加して
髙﨑 仁… ……8
●平成26年度世界結核デー記念フォーラム参加報告
「結核サーベイランスの歴史と未来」
久場 睦夫… ……9
●平成26年度全国結核対策推進会議「結核対策-さらなるゴールを
目指して-」に参加して
河内 祐介………10
■「健康・医療戦略参与会合」における日本医師会横倉会長の
結核制圧への提言について
竹下 隆夫………11
■ 第2回日経アジア感染症会議報告
貫和 敏博………11
■ シリーズ 結核対策活動紹介
岡山県結核医療相談・技術支援センターにおける医療関係者支援
實比呂子・兼信定夫・山野井尚美・芦田英厚・榛川亜紀子……12
重
■ 教育の頁
一塩基多型を利用した新しい結核菌遺伝系統分類法の開発
前田 伸司………14
■ 結核予防会が行う国際協力
JICAアムハラ州感染症対策強化プロジェクト活動報告
-サーベイランスシステム強化を通じた感染症対策-
太田 正樹・外山 祐実・紺 麻美……16
■ 日本結核病学会総会
「抗酸菌感染症制圧を目指して, 新たなステージへ」
-第90回日本結核病学会総会報告-
堀田 康弘………18
及川 眞一………20
■ 思い出の人を偲んで
山口智道先生を偲んで
-結核予防会活動の原点一健を支えられた-
島尾 忠男………22
■ ずいひつ
子どもたちの幸せを願って
中畔都舍子………24
■ 第 19回結核予防関係婦人団体中央講習会開催報告
結核予防婦人会の更なる活動を目指して
杉木 則子………25
■ 第 34回(平成 26 年度)結核予防会事務職員セミナー報告
結核予防会支部職員として
塩澤 宏典………26
■ 平成 26 年度診療放射線技師研修会を終えて 古清水里江………27
■ 75 周年を迎えた結核予防会の課題
第4回本部・第一健康相談所合同業績発表会開催報告 篠原 孝彰………28
■ たばこ
「次世代をタバコの害から守るために」
第24回日本禁煙推進医師歯科医師連盟学術総会を開催して
齋藤 麗子………30
■ 日本CT検診学会夏期セミナー2015のお知らせ
………32
▽ 予防会だより
・シールだより
…
○新宿区「女性の健康週間」
イベント
健康になる
!キレイになる
!楽しくなる
!なるなるフェスタ2015 ○平成26年度結核予防会全国支部事務局長研修会
並びに全国支部事務連絡会議
○2015年世界結核デー報告
○平成27年度複十字シール
〔表 紙〕
清瀬から西武線で一直線。秩父「美の山公園」の
4月は満開の桜。
“吉野の千本桜”に喩えられるとか。
そこで見つけたもう一つの見もの
は山吹の群生。黄色の世界が,
こんなに美しいとは知らなかった。
撮影地 秩父「美の山公園」 撮影者 工藤翔二氏
5 / 2015 複十字 No.362
1
全国大会報告
第66回結核予防全国大会を顧みて
平成27年2月26・27日の両日,結核予防会総裁秋
篠宮妃殿下のご臨席を仰ぎ,第66回結核予防全国大会
がホテルオークラ福岡で開催されました。
両日あわせて全国から1,320人の参加を得て,二日
間にわたる各行事では,参加者の皆様の終始熱心な討
議や研鑽活動に加えて,和やかな雰囲気の中で参加者
松田 峻一良
理事長 の交流も深められ,成功裏に大会を終えることができ
差と健康」と題して,非正規労働者の増加とそれに伴
ました。以下,その概要について報告します。
う様々な健康問題について取り上げ,貧困と格差は結
ー 第1日 ー
核やメンタル障害など健康障害の原因になる。日本の
■全国支部長会議
貧困と格差は世界的にも深刻なレベルにあり,問題の
公益財団法人結核予防会理事長 工藤翔二氏,公益
財団法人福岡県結核予防会理事長 松田峻一良氏,厚
解決には,格差が持ち込む分断を乗り越え,社会的な
連帯が必要というメッセージをいただきました。
生労働省健康局結核感染症課課長 井上肇氏の挨拶の
シンポジウム「社会要因から考える結核対策」では,
後,松田理事長の議事進行の下,
「結核問題と本会事業」
岩本治也氏(福岡県保健医療介護部保健衛生課企画監)
と題して以下の講演と報告を受け,
協議が行われました。
と加藤誠也氏(結核予防会結核研究所副所長)が座長を
「我が国の結核対策の現状と感染症法の改正について」
厚生労働省健康局結核感染症課課長 井上 肇氏
務め,4人の演者から発表がありました。
南貴博氏(福岡県結核予防会呼吸器内科部長)から
「世界の結核の現状と課題」
は,外国出生者の結核の現状や問題
(公財)
結核予防会代表理事・結核研究所所長
点と患者発見や治療における取り組
石川 信克氏
みについて紹介し,今後我が国でも
「結核予防会75周年 ― 業績の回顧と今後の役割 ― 」
外国出生者の結核対策がより重要に
(公財)
結核予防会評議員会会長,顧問,
なってくるとの報告がありました。
結核研究所名誉所長 島尾 忠男氏
「
『診療放射線技師法』
の改正と残された胃透視・
田尾義昭氏(国立病院機構福岡東医
医療の合併症の対応,労働・居住環
(公財)
結核予防会常務理事 竹下 隆夫氏
境がもたらす集団感染等の問題につ
■全国結核予防婦人団体連絡協議会理事会,同定期
いて取り上げ,早期発見・早期予防
社員総会
の体制整備の重要性について報告が
報告・収支決算及び平成27年度事業計画・収支予算案
南 貴博氏
療センター呼吸器感染部長)からは,高齢結核患者の
乳房撮影時の医師立会い不要化の要望について」
理事会では,中畔会長の議事の下,平成26年度事業
ありました。
財津裕一氏(福岡県北筑後保健福
田尾 義昭氏
等が審議され,承認されました。続いて行われた定期
祉環境事務所所長)からは,高齢者施設や外国人研修
社員総会では,
「健康の歌」斉唱の後,理事会の議案報
生等の結核発症時に地域の保健所等
告の審議,承認を行い閉会となりました。
がどのような対応をしているか紹介
■支部長午餐会
し,特に外国人の結核対策では,外
恒例の支部長午餐会は,総裁秋篠宮妃殿下のご臨席
国人関係団体・学校側と職員・研修
のもとに和やかに行われました。
生・学生側それぞれに問題点や課題
■研鑽集会とアトラクション
があるとの報告がありました。
研鑽集会は,
「社会要因の多様化と
三苫紀美子氏(健康を守る佐賀県婦
結核」をメインテーマに,基調講演,
人の会会長)からは,地元佐賀県にお
シンポジウム,紙芝居の3部構成に
ける婦人会の活動報告と今後の取り
よって行われました。
組みについて報告がありました。
院教授の矢野栄二氏が「貧困・社会格
5 / 2015 複十字 No.362
財津 裕一氏
続いて,座長の司会進行のもと演
まず基調講演では,帝京大学大学
2
公益財団法人福岡県結核予防会
矢野 栄二氏
者全員による活発な討論が行われた
三苫 紀美子氏
後,厚生労働省結核感染症課課長の井上肇氏から各演
表彰が行われ,国際協力功労賞1名,事業功労賞
(団体,
者発表に対する所見や国の考え方などについて発言を
個人)9名,保健看護功労賞3名に総裁から表彰状が授
いただきました。この中で,格差問題に関して,従来
与されました。
の厚労省単独の結核対策から各省庁横断の総合的対策
議事では,福岡県保健医療介護部長 福山利昭氏が
へと大きな転換が必要となる重要な提言というコメン
議長に,福岡県結核予防会副理事長 是久哲郎氏が副議
トがありました。
長に選任され,議事が進められました。まず,全国支
紙芝居では,三浦瑞枝氏(複十字病院看護師)のナ
部長会議及び研鑽集会の概要報告を結核予防会理事長
レーションによる地獄の「結核裁判」を鑑賞した後,そ
の工藤翔二氏が行いました。続いて,
前日開催された
「大
の後日談として,結核予防会本部・婦人会関係者が閻
会決議・宣言起草委員会」で取りまとめられた決議及び
魔大王,結核菌,患者青井細吉の孫に扮して,寸劇を
宣言文案が松田福岡県結核予防会理事長,木下福岡県結
披露しました。昭和25年作成の紙芝居,今なお強いイ
核予防婦人会会長からそれぞれ読み上げられ,いずれ
ンパクトがあり深く感銘を覚えたところです。
も満場の拍手で採択されました。
(決議・宣言文は7ペー
最後に,結核研究所所長の石川信克氏が研鑽集会全
体のとりまとめを行い,終了となりました。
ジ記載のとおりです。
)
また,次期開催県は神奈川県とす
ることが了承されました。
引き続いて,精華女子高等学校吹奏楽部によるアト
ラクションが催され,演奏と多彩な踊りを交えた演技
に会場から大きな拍手が鳴り響くなど,会場全体が和
やかで楽しい一時に包まれました。
大会式典
■特別講演
「博多の祭りと町人文化」と題して,漫画家で博多
町家ふるさと館館長である長谷川法世氏の講演が行わ
れました。博多の町の立地や生い立ちにも遡り,博多
アトラクション
■大会歓迎レセプション
福岡県知事,福岡市長,福岡県議会及び福岡市議会
の議長を始め県内外から300人がご参加いただき,福
町人の文化や祭りがどのように出来上がっていったの
か,博多どんたく隊の法被を纏った博多町人文化連盟
のメンバーによる祭囃子の実演も交えて,分かりやす
くお話をいただきました。
岡県産の食材を使った料理等を囲んで交流を深めるこ
とができました。
また,総裁秋篠宮妃殿下からは,秩父宮妃記念結
核予防功労賞の受賞者や研鑽集会の座長・演者等の
方々,紙芝居・アトラクションの関係者,大会式典特
別講演の演者等に対して,ねぎらいのお言葉をかけて
いただきました。
ー 第2日 ー
■大会式典
式典は,大会運営委員長の福岡県知事 小川洋氏及
び結核予防会理事長 工藤翔二氏の挨拶で始まり,結核
予防会総裁秋篠宮妃殿下のおことばを賜りました。
続いて,秩父宮妃記念結核予防功労賞第18回受賞者
特別講演
■終わりに
本大会を成功裏に終了できましたのは,福岡県並び
に結核予防会本部を始め多くの関係団体のご支援,ご
協力の賜物であります。深く感謝申し上げます。
5 / 2015 複十字 No.362
3
全国大会報告
研鑽集会:
「社会要因の多様化と結核」
・紙芝居「結核裁判」
結核予防会結核研究所
対策支援部長 小林 典子
第66回結核予防全国大会は,伝統ある寺社や博多山笠で
弁護士は結核菌の依頼を受けた“風の神”が引き受け,それぞ
有名な博多区にあるホテルで行われました。まだ寒さが残る
れの陳述が始まりました。65年前の紙芝居ですので,治療や
2月末の開催でしたが,太宰府天満宮の飛梅が見頃を迎え,
対策は現在と異なる個所もありますが,楽しく結核について
博多の街は時折,早春のやわらかな日差しに包まれました。
学ぶことができる教材です。裁判の結果は,
「結核菌が恐る
今回の研鑽集会は,基調講演とシンポジウムの他,紙芝居
べき侵略者であることは,いまさら論を待たずして明白であ
やアトラクション等,盛り沢山の内容が用意されました。企
る。当被告が被害者の青井細吉の死因に関与せることも明白
画に携わった立場から,
その概要を報告させていただきます。
である。よって,被告を有罪と判定する」と判決が下され,
世界保健機関(WHO)は近年,結核の社会要因を重要な問
その後,地獄では集団健診が行われたとのことでした。
題として取り上げています。わが国においても社会経済的な
会場から大きな拍手をいただき紙芝居が終了したあと,再
格差は年々大きくなり,公衆衛生の様々な分野で格差社会に
びスクリーンに「あれから65年」の文字が映し出されました。
おける健康問題が議論されています。基調講演では「雇用形
そして,結核予防会創立75周年の全国大会のお祝いに駆け
態の多様化と健康問題」と題して,帝京大学大学院教授 矢野
つけた閻魔大王と結核菌太郎(有罪となった結核菌)が舞台に
栄二先生にお話しいただきました。社会全体に格差が広がっ
登場。死んだふりをして,青井細吉の孫(青井太子)に住み着
ているという認識を持ち,一部の社会的弱者への対策でな
いて生き伸びてきた結核菌太郎は,その間HIV・エイズと手
く,従来の枠を超えた社会的連帯の中に最終的解決の糸口が
を組んで世界に結核高まん延国を22カ国も作ったことを自慢
ある,との指摘は深い示唆に富むものでした。
し,結核予防会や婦人会の努力で住みにくくなった日本を離
続くシンポジウムでは,外国出生者や高齢者等が抱える社
れることを告白します。
「結核死亡者が毎年2,000人では商売
会要因が結核に及ぼす影響・問題について,福岡県結核予防
はあがったり」と,閻魔大王も結核菌と一緒に旅立つことに
会呼吸器内科部長の南 貴博先生,国立病院機構福岡東医療
なりました。現在,結核予防婦人会で活躍中の青井太子さん
センター呼吸器感染部長 田尾義昭先生,福岡県北筑後保健
は
「もう帰ってこんでよかよ~」
と二人
(?)
に手を振り,
「会場
福祉環境事務所長 財津裕一先生にご発表いただき,健康を
の皆様,本気で結核のない世界をめざしましょう」と力強く
守る佐賀県婦人の会の三苫紀美子会長には九州ブロックの代
呼びかけました。
表として,婦人会活動のご報告と今後の取り組みについてお
話いただきました。
青井太子役の木下幸子福岡県結核予防婦人会会長,閻魔
大王役の竹下隆夫結核予防会常務理事,結核菌太郎と紙芝居
総合討論では,座長の福岡県保健医療介護部保健衛生課企
のナレーター役の三浦瑞枝看護師(複十字病院)さんへの大き
画監 岩本治也先生と加藤誠也結核研究所副所長の進行によ
な拍手の後,石川信克結核研究所長がまとめを行い,研鑽集
り,
活発な討議が行われました。外国出生者の対策において,
会は無事終了いたしました。最後に,シンポジウムで特別発
入国後早期の健康診断は早期発見の有力な手段であること,
言をいただいた厚生労働省結核感染症課長 井上 肇先生を始
また,診療場面でタブレット端末の翻訳機能を利用して意思
め,ご出演いただいた皆様,企画や準備において貴重なご助
伝達を図るなど,現場の取り組みを興味深く聴かせていただ
言とご支援をいただいた方々に心から感謝を申し上げて報告
きました。高齢者については認知症を伴う患者の対応が話題
といたします。
になりましたが,医療機関と保健所がDOTSカンファレンス
を通して連携することにより,施設の受け入れがスムーズに
なった事例が紹介されました。路上生活者健診が早期発見に
結びついているなど,社会要因との関連性において一歩進ん
だ開催地福岡の結核対策から学ぶことの多いシンポジウムで
した。
休憩の後,正面スクリーンに居眠りをする閻魔大王の絵が
大写しになりました。紙芝居「結核裁判」の始まりです。レト
ロなタッチの紙芝居は,昭和25年に一般国民向けの普及啓発
教材として制作されたものです。結核予防会顧問 島尾忠男
先生のご推薦で,今回皆様にご披露することになりました。
しょう つか
被告は結核菌,裁判長は閻魔大王,検事は三途川のお婆さん,
4
5 / 2015 複十字 No.362
寸劇「あれから 65 年」の結核菌と閻魔大王
「結核問題と本会事業」
支部長会議
全国大会初日の2月26日(木)10時~ 11時30分,結核予防会全国支部長会議がホテルオークラ福岡において,結
核予防会支部・本部及び厚生労働省より96名の参加を得て開催された。
はじめに,本部工藤理事長,福岡県支部松田支部長,厚生労働省健康局結核感染症課井上課長から挨拶があり,
開催地の福岡県支部松田支部長が議長となり
「結核問題と本会事業」
について協議に入った。
「我が国の結核対策の現状と感染症法の改正に
ついて」
厚生労働省 井上結核感染症課長
昨年5年ぶりに改正された感染症法の改正項目の中
における結核の関わりについて説明がなされた。
また,昨年の法改正では結核に対する対応を強化
し,現場の医療従事者が対応しやすい体制を整えた
「結核予防会 75 周年-業績の回顧と今後の役割」
結核予防会 島尾顧問
結核予防会75周年の歴史を,第1期~第5期に区分
し,第1期~第4期において,結核予防会が時代の変
遷とともにどのように歩んできたかを解説された。
また,第5期においては,結核予防会の4つの柱を
挙げ,結核予防会の果たすべき役割を示された。
が,来年度は結核部会において法改正を踏まえたうえ
での結核に関する特定感染症予防指針の見直しを議論
するとの報告がなされた。
「世界の結核の現状と課題」
報告 「診療放射線技師法」の改正と残された
胃透視・乳房撮影時の医師立会い不要化の要
望について
結核予防会 竹下常務理事
結核予防会 石川代表理事
最後に報告事項として,
「診療放射線技師法」の改正
世界の結核の現状報告に続き,結核制圧のために
と残された胃透視・乳房撮影時の医師立会い不要化の
は,自国の結核対策だけでは不十分であり,世界的に
要望について,竹下常務理事より報告された。
連携した取り組み,支援体制が必要であると報告され
主な内容は,①「放射線技師法」第26条改正のポイ
た。続いて世界の結核制圧の取り組み,日本の取り組
ント,②透視・乳房撮影時の医師不要化問題について,
み,2015年以降の結核世界戦略(End TB)について説
③今後の検討スケジュールのポイントについて,であ
明がなされた。
る。
日本の取り組みにおいては,日本が築いてきた大き
今後については,8月を目途に乳がん検診,胃がん
な歴史的,政策的財産を閉ざさず世界に発信していく
検診等についての報告書がまとめられるので,その報
必要性が述べられ,結核予防会としては率先して世界
告書をもとに厚生労働科学研究費補助金の特別班設置
の結核制圧を目指すために全施設・支部が協力するこ
を求め,
「がん予防重点教育及びがん検診実施のため
と,複十字シール運動を強化することが求められた。
の指針」改正を要望していくと報告された。
(文責:普及広報課)
厚生労働省 井上結核感染症課長
5 / 2015 複十字 No.362
5
全国大会報告
厚生労働大臣祝辞
公益財団法人結核予防会総裁,秋篠宮妃殿下のご臨席を賜
を目指しております。この目標を達成するため,結核の患者
り,第66回結核予防全国大会が開催されることを,心からお
に対し保健所の保健師が行う直接服薬確認療法を一層進める
慶び申し上げます。
こととしており,このため,今般の感染症法の改正により,
保健所と医療機関・薬局等との連携強化を位置付けたところ
初めに,秩父宮妃記念結核予防功労賞を受賞された皆様に
です。
心からお祝い申し上げますとともに,皆様のこれまでの御尽
力と御功績に対し,深く敬意を表します。
結核対策においては,関係者の皆様の御理解と御協力が
不可欠ですので,引き続き,施策への御理解をいただくとと
我が国の結核の患者数は,これまでの官民一体の取組が
功を奏し,罹患率及び患者数ともに順調に減少してきており
もに,格別の御支援,御協力を賜りますようお願い申し上げ
ます。
ます。
その一方で,高齢化の進展とともに,結核の新たな登録患
結びに,大会の開催に御尽力いただきました福岡県と結核
者の半数以上は70歳以上の高齢者が占めるに至っておりま
予防会を始めとする関係者の皆様に,心から御礼申し上げま
す。また,若年層の新たな結核患者では,外国人の割合が増
すとともに,お集まりの皆様のご健勝と今後益々の御活躍を
加しています。このように,これまでと異なる課題も生じてき
お祈りして,私からの祝辞とさせていただきます。
ており,
引き続き,
結核予防対策を進めていく必要があります。
平成27年2月27日
厚生労働省としましては,2020年の東京オリンピック・パ
ラリンピックの開催に向けて,結核の低まん延国になること
厚生労働大臣 塩崎 恭久
(代読 厚生労働事務次官 村木 厚子)
福岡県知事挨拶
本日ここに,結核予防会総裁 秋篠宮妃殿下の御臨席を仰
施設など関係機関が相互に連携し,患者が発生した場合の疫
ぎ,第66回結核予防全国大会が盛大に開催されますことを,
学調査や接触者に対する健診,長期治療が必要な患者への服
心からお慶び申し上げます。大会が私ども福岡県で開催され
薬支援など,きめ細かな結核対策に取り組んでいるところで
ますのは,昭和29年以来,約60年ぶりでございます。全国
あります。
各地から,ようこそ,福岡県にお越しいただきました。心か
ら歓迎を申し上げます。
本大会を契機に,多くの方に結核の現状や対策についての
認識が深まり,結核制圧を目指して,ここ福岡から広く全国,
本大会の開催に当たりまして,結核予防会をはじめ,多く
そして世界に運動の輪を広めていくことができれば幸いです。
の関係の皆様方に御支援,御協力を賜りました。厚くお礼申
し上げます。
福岡県は,先端産業が多く,よく工業県と思われておりま
また,本日,受賞される皆様,誠におめでとうございます。
すが,全国14位の有数の農林水産業県でもあります。豊かな
皆様の長年にわたる御尽力と御功績に対しまして,心から敬
自然に育まれた海の幸,山の幸に恵まれ,それらを生かした
意を表し,お祝い申し上げます。今回の受賞を契機とされ,
美味しい料理も沢山ございます。県内には,70の酒蔵がある
一層御活躍されますことを御期待申し上げます。
酒どころでもあります。
観光地としては,太宰府天満宮,門司港レトロ地区,柳川
さて,結核は,かつて,国民病と言われ,不治の病と恐れ
の川下りなどに加え,昨年放送された「軍師官兵衛」ゆかりの
られておりましたが,診断技術や治療法の進歩,公衆衛生
福岡城跡や「花子とアン」の舞台となった飯塚の伊藤伝右衛門
の向上,生活環境の改善などにより罹患率は急速に減少し,
邸なども,最近,多くの方々の関心を集めております。
現在では適切な治療を行えば完治できる病気となっており
ます。
皆様には,是非,この機会に,このような福岡県の食,文
化,歴史を存分に堪能していただきたいと思います。
しかしながら,国内では,毎年二万人以上の新たな結核
患者が発生しており,依然として主要な感染症のひとつであ
結びに当たり,本大会を通じて,結核予防がさらに前進す
ります。また,高齢者や糖尿病など基礎疾患を持つ方,国際
ること,そして,本日御出席の皆様の御健勝と御活躍をお祈
化の進展に伴う外国で生まれた方々の結核患者が増加するな
り申し上げまして挨拶とさせていただきます。
ど,結核を取り巻く状況は複雑化しております。
福岡県では,このような結核に関する状況の変化に対応す
るため,保健所を中心に,県内の市町村や医療機関,高齢者
6
5 / 2015 複十字 No.362
平成27年2月27日
福岡県知事 小川 洋
2 月 27 日,第 66 回結核予防全国大会議事において,決議案を結核予防会福岡県支部松田峻一良支部長より,宣
言文を福岡県結核予防婦人会木下会長から,それぞれ報告し,参加者から賛同の拍手をもって採択された。
第66回結核予防全国大会決議
平成26年5月に,
結核予防会は創立75周年を迎えました。この間,
官民を挙げて結核対策が進められ,
平成25年の新登録患者は20,495人,
罹患率は人口10万対16.1にまで減少しました。
しかし近年我が国では,社会的格差による健康問題が議論されております。高齢者,生活困窮者,不安定就労者,高まん延国出身者な
どの社会経済的弱者における結核罹患率は高く,さらなる対策の強化が求められております。また患者中心の医療提供のために結核病床
の不採算の解消が重要であります。
一方,世界に目を向けると,結核は依然として大きな健康問題であり,2013年には約900万人が発病し,約150万人が死亡しています。
特にアジア・アフリカなど開発途上国では罹患率が高いのみならず,多剤耐性やHIV合併結核等従来の課題に加え,小児結核への取り
組み,人口高齢化による再燃再感染等も問題となっております。
これらに対し結核ゼロを目指した世界結核新戦略に呼応し,平成26年に策定された「改定版ストップ結核ジャパンアクションプラン」
を確実に推進し,官民挙げて世界および日本の結核制圧に向けた取り組みを行う必要があります。日本では,2020年までに結核低まん延
化(罹患率人口10万対10以下)を達成すること,国際的には日本発の新しい診断技術や抗結核薬などを積極的に活用することなどが重要
であります。
さらに,結核予防会の基本方針の柱である,呼吸器疾患対策,生活習慣病対策にも継続的に取り組む必要があります。
よって,今大会において検討の結果,次の事を決議いたします。
1.国内における結核対策としては,
①国,地方公共団体,結核予防会及び結核予防会都道府県支部においては,結核に関する正しい知識の普及啓発に努め,結核に対す
る意識の向上を図ること。
②国,地方公共団体,結核予防会及び結核予防会都道府県支部においては,地域特性をふまえた結核医療提供体制を確立し,実効性
のある結核対策の充実に努めること。
2.結核の国際協力としては,
,
①国は,
「改定版ストップ結核ジャパンアクションプラン」に基づき,開発途上国への支援を推進するとともに,結核対策を含む保健
分野に経験がある関係団体の主体的活動を支援すること。
②我々は,日本発の新しい診断技術や抗結核薬の有用性を積極的にアピールし,国際連携を強化することによりその普及を図り,世
界の結核対策に貢献すること。
3.呼吸器疾患対策としては,
①我々は,国民に対する呼吸器疾患の普及啓発に努め,
「健康日本21(第2次)
」が掲げるCOPDの認知率向上を目指すこと。
②我々は,COPDの調査・研究を支援するとともに,肺機能検査を健診に導入することや,肺がん検診の推進等,呼吸器疾患の早期
発見に努めること。
4.生活習慣病対策としては,
①国は,特定健診・特定保健指導について,生活習慣病予防における指針のもと円滑な実施の支援に努めること。
②国,地方公共団体,結核予防会及び結核予防会都道府県支部は,
「結核とタバコ」の関連性を広く世間に訴え,禁煙教育に努めること。
③我々は,特定健診・特定保健指導の推進を国民運動にしていくため,関係機関と連携し,スマートライフプロジェクト等の普及啓
発活動を支援すること。
5.複十字シール運動の推進としては,
我々は,結核予防の普及啓発や国際協力の貴重な財源となる複十字シール運動を盛り上げるため,関係者・団体への働きかけに努め
ること。
6.我々は,東日本大震災被災地への健康支援を継続して実施すること。
以上について,一層努力いたします。
平成27年2月27日
第66回結核予防全国大会
第66回結核予防全国大会宣言
近年我が国では,社会的格差による健康問題が議論されております。結核感染の社会要因として,高齢者,ホームレス,不安定就労者
など社会経済的弱者や高まん延国出身者がハイリスクグループと考えられ,医療機関への受診や治療継続確保のための対策が求められて
おります。
我々は,国内においては,これらの社会要因が地域に密着した問題であることを認識し,医療従事者をはじめ国民に対して結核に関す
る正しい知識の普及啓発を積極的に実施するとともに,地域特性をふまえた結核医療提供体制の確立を関係機関に働きかけ,実効性のあ
る結核対策の充実に努めます。さらに,東日本大震災被災地への健康支援を継続していきます。
世界に向けては,日本が高まん延国を克服した経験を活かし,かつ,日本発の新技術を積極的に活用するよう官民挙げて働きかけます。
また,平成26年に策定された「改定版ストップ結核ジャパンアクションプラン」を確実に実施するとともに,我が国が従来から取り組
んできた開発途上国への支援の手を緩めず,結核の制圧ひいてはユニバーサル・ヘルス・カバレッジ達成へ向け総力を挙げて取り組みます。
さらに,COPD,肺がんをはじめとする呼吸器疾患対策と特定健診・特定保健指導等による生活習慣病対策の推進を図り,人々が健康で
明るい生活を営めるよう努力します。
以上宣言します。
平成27年2月27日
第66回結核予防全国大会
5 / 2015 複十字 No.362
7
「結核菌ゲノム情報がもたらす対策の革新」
第20 回国際結核セミナー(平成27年3月5日)
に参加して
国立国際医療研究センター
髙﨑 仁
呼吸器内科・国際感染症センター 記念すべき20回目の節目にあたる今年の国際結核セ
VNTRの拡張型クラスターに対して全ゲノム解析を行
ミナーのテーマは,
「結核菌ゲノム情報がもたらす対
い,一部が大阪市のものと一致したことを報告し,遺
策の革新」
。特別講演は,上海医科大学のQian Gao氏
伝情報の共有により都市・地域を超えた感染地域の特
による
「中国における結核の伝播」
(座長;石川信克氏)
定につながる可能性について報告した。④長崎大学熱
であった。世界最大の人口を抱える中国は,世界有数
帯医学研究所の和田氏は,ゲノム解析(菌株の固有情
の結核大国でもある。年間の肺結核患者数は130万人
報)は,正確な系統解析,伝播経路の判定,早期診断
とインドに続く世界第二位,うち8.3%を占める多剤
(MDRなど)
,拡散危険度の推定,集団事例把握など
耐性結核患者数は世界第一位である。この大国の結核
に役立つと報告した。⑤結核研究所の前田氏は,
「一
対策が世界の結核の将来に与える影響は甚大であり,
塩基多型(SNPs)による結核菌系統分類法の開発」と題
Gao氏はこれを「壮大な挑戦」と表現しつつも,その着
し,特定の遺伝系統によって変化しやすい座位を絞り
実かつ先進的な研究成果の数々が印象的であった。
込んでVNTR座位を選定する手法などを示した。⑥
Gao氏は,クラスター形成を有する菌株を「最近の
国立感染症研究所・病原体ゲノム解析研究センターの
感染」
,有しない菌株を「内因性再燃」と位置づけ,肺
黒田氏は,従来のVNTR等からゲノム解析への転換
結核患者の約3割が最近の感染であることを示した。
または併用によって,クラスター解析のみならず,伝
さらに,多剤耐性結核は「最近の感染」と関連があり伝
播経路の特定,病原体の種・遺伝型・薬剤耐性・病原
播能力が高いこと,塗抹陰性の約30%が二次感染を引
性なども知ることができるとした。
き起こしていたこと,再発病の42%が再感染である
時宜を得た極めて有益なセミナーであった。ゲノム
ことを示した。中国における感染の伝播は深刻な問題
解析技術の進歩は,結核菌の本質を様々な角度から解
であり,介入のターゲットとなりうる特定のリスクグ
明する可能性を秘めており,今後の結核撲滅に向けて
ループ(HIV,ホームレスなど)は同定されていない。
の長い道のりにおいても,まさに「革新」的な手法であ
今後,多剤耐性結核感染者の増加を招く危険性がある
ると確信した。一臨床医としては,この分野の研究か
と警告した。
ら将来,新規抗結核薬の開発が爆発的に前進すること
シンポジウム(座長;加藤誠也氏)では,
「ゲノム情
にも期待する。
報の結核対策への応用―現在から未来―」をテーマ
に,3地域からの先進的な疫学調査結果の報告と,ゲ
ノム解析の最前線に関する発表の後,活発な議論が展
開された。
①茨城県日立保健所の片見氏は,INH低濃度耐性が
多発している地域があることへの「気づき」を契機に,
菌株の分子解析を行い,実地疫学との融合による新し
い接触者調査について発表した。②山形県衛生研究所
の瀬戸氏は,低蔓延地域におけるVNTR一致の17ク
ラスターを対象に全ゲノム解析を実施した結果,同一
株と判定されたのは7クラスターのみであったと報告
し,ゲノム解析の優位性と実地疫学(保健所)
・分子疫
学(衛生研究所)の連携の重要性を説いた。③兵庫県神
戸市環境保健研究所の岩本氏は,都市型結核における
8
5 / 2015 複十字 No.362
特別講演 上海医科大学 Qian Gao 先生
平成26年度 世界結核デー記念フォーラム参加報告
「結核サーベイランスの歴史と未来」
今回世界結核デー記念フォーラムに参加し,講演と
座談会を拝聴しました。
講演はまず結核予防会顧問の島尾忠男先生が『
「結核
独立行政法人国立病院機構沖縄病院
久場 睦夫
呼吸器内科 統計のこれまでの流れ」~人口動態統計のはじまり~』
労力を改善すべく1986年全国電算化サーベイランス
を話されました。明治維新からさほど時を経ない明治
システムが開始されました。電算化サーベイランスシ
15年に初の人口動態統計がなされ,明治32年死因分
ステムの発展経緯を解説されましたが,その根幹で普
類に結核の項目が初めて明記されたとの事です。当時
遍となるものは地道な情報収集である事を述べられま
結核は死因の第2位で結核に罹患した人については納
した。今後の課題として様々な構想をあげられました
税額,耕作面積も調査されており,結核が特に貧困層
が,
その中で臨床現場にいる者として,
1.情報の精度・
に蔓延していた背景を明らかにし,有効な薬剤のない
信頼性の向上,2.登録漏れの削減,を身近に感じま
当時の結核を如何に克服するかという苦慮が滲み出て
した。電算化された今日,サーベイランス情報の信頼
いる,とのお話が印象的でした。サーベイランスとは
性をみる事例として「年末現在登録患者中病状不明の
疾病の流行とそれに対する対策実施の状況を常時把握
割合」
の全国平均は2000年,2012年でそれぞれ31%,
し,対策・政策に反映させるため情報の収集と分析を
46%と不良で,かつ悪化を指摘されました。
「病状」は
行う,との事で,統計の創始期からサーベイランスの
最近の菌所見,X線所見の更新入力をもって判定され
主題が貫かれていたと見抜かれた御講演に感銘を受け
るので,それが一定期間更新されないと「病状不明」に
ました。
なるものであり,
「登録時培養結果未把握」も登録後培
養結果を確認しないと「病状不明」となる。これらは現
場の情報収集の努力が問われるものであり,また我々
臨床家の確実な検査・情報提供が問われるものであ
る。結核を担当する臨床現場においては,登録患者の
情報を早期に着実に報告する事が結核対策において大
変重要な根本的責務である事を再認識いたしました。
講演に続いて座談会「結核サーベイランスの未来に
向けた提言」がありました。佐々木隆一郎先生(長野県
結核の統計 1954(限定復刻版)
飯田保健福祉事務所所長)
,竹内文生先生(国立看護大
引き続き結核研究所名誉所長の森亨先生が『
「結核統
学校看護学部教授)
,大角晃弘先生(結核研究所臨床・
計の見方・考え方」~電算化サーベイランスの確立~』
疫学部副部長)がそれぞれの立場から結核サーベイラ
を講演されました。戦後の1953年第1回結核全国実
ンス発展の経緯から未来にいたるまで,経験・意見を
態調査が行われ1954年「結核の統計」発刊にいたり,
述べられました。大角先生はサーベイランスの内容改
1973年結核審議会が答申され,筆者の居住する沖縄
訂について検討中であり,
情報項目の見直しでは行政・
県においては復帰間もない1975年に結核サーベイラ
臨床・研究の立場による意見の乖離を調整していく,
ンスが始まりました。これは沖縄県の結核対策に本土
との事でした。結核克服へ向けてのサーベイランスの
復帰前から尽力されておられた結核研究所の青木正和
有り方が益々発展していくものと期待されます。
先生,森亨先生がこのサーベランスを立ち上げ結核対
今回のフォーラムで結核対策にサーベイランスシス
策をご指導され,沖縄県の大きな立ち後れをさらに急
テムが如何に重要であるか,結核臨床にいる者として
速に全国並みへと改善されていかれた大きな礎となる
情報の早急・着実な提供,保健所をはじめ各関連分野
ものです。両先生をはじめとする結核研究所の先生方
と連携を深める事が如何に重要かの認識を新たにし,
の御苦労がしのばれます。1978年第1回結核登録者調
結核低蔓延化・撲滅に向け更なる努力が必要と大いに
査が行われたが,調査の統計は手作業で,その多大な
感じ入りました。
5 / 2015 複十字 No.362
9
平成26年度全国結核対策推進会議
「結核対策ーさらなるゴールを目指してー」に
参加して
奈良県医療政策部保健予防課感染症係
主査 / 保健師 はじめに
平成27年3月6日の全国結核対策推進会議では全国
河内 佑介
ることで成果を上げることができる,と締め括っ
た。
の保健所,医療機関等より239人が参加し,講演,ポ
●奈良市保健所 東田まゆみ氏は,管内の高齢者施設
スター展示,シンポジウムを通して情報の共有と意
における結核・感染症対策に関するアンケート調査
見交換が行われたのでその概要を報告する。
と施設担当者への面接を実施し,結果を基にマニュ
講演
アルを作成した取り組みを報告。保健所と施設担当
1 厚労省結核感染症課の梅木和宣課長補佐は,「感
者との情報共有の場が必要であるとまとめた。
染症法改正の概要等について」,①新たな感染症の
●愛知県瀬戸市にある高齢者総合福祉施設ウィロー
二類感染症への追加,②感染症に関する情報の収集
ふたば 丹羽住江氏は,高齢者施設の結核対策とし
体制の強化,③結核菌に関する第三種病原体として
て,施設内で発生した結核患者の事例について振り
の取扱い対象の変更および,DOTSに関して,保健
返り施設独自の結核対策マニュアルを作成した旨を
所長は,結核患者に対し必要があると認めるときは
報告。早期発見できる体制づくりが重要であると訴
関係機関へ指導の実施を依頼できると報告した。
えた。
2 国立病院機構東広島医療センターの重藤えり子氏
●新山手病院 高田修嗣氏は,CNIC(感染管理認定
は,結核医療の基準の見直しについて,LVFXの位
看護師)の立場より,医療機関に併設される介護老
置づけや,初回標準治療の期間がそれぞれ180日,
人保健施設における結核対策について報告。CNIC
270日と期間を明記したことのほか,関節リウマチ
の役割について,医療機関における全ての人を感染
等の自己免疫疾患患者や腎不全および血液透析を実
から守る,というCNICの役割は高齢者施設等にお
施する患者への交結核薬の用法・容量について報
いても同様であり,積極的なアピールの必要性を説
告。また,新薬デラマニド(DLM)の使用に関す
明した。
る原則と施設要件,使用の実際について,DLMの
安全かつ有効な使用について呼びかけた。
3 結核研究所副所長 加藤誠也氏は,「結核院内
(施設内)感染対策の手引き」について,院内(施
●結核研究所対策支援部保健看護学科 浦川美奈子
氏は,高齢者施設における介護施設・職員対象の結
核ハンドブックの検討を行ったことについて報告し
た。
設内)感染対策の基本,患者の早期発見のほか,職
おわりに
員採用時のIGRA検査実施とその結果による対応に
今回の推進会議では特に「多職種による高齢者に対
ついてなど報告,ハイリスクグループのスクリーニ
する結核対策の重要性」が共通認識された。医療機関
ング検査の実施についても注意喚起した。
のみならず高齢者施設やICT・CNICなどの多職種・
4 結核研究所対策支援部保健看護学科 永田容子氏
は,DOTS実施率の算定方法に関する補足説明につ
多部門との連携が重要であり,今後,結核対策を通じ
て地域包括の更なる連携が進むことを期待したい。
いて解説し,DOTSの質を向上させる必要性を強調
した。
シンポジウム
テーマ『高齢者の結核~地域で支えるネットワーク
づくり~』
(座長:犬塚君雄氏 ,永田容子氏)
●複十字病院 佐々木結花氏は「高齢者結核 診断・
治療・それから」をテーマに専門医療機関の立場よ
り,年齢群別の画像所見,喀痰検査成績,Delayに
ついてなどを報告。高齢者対策も地道な努力を続け
10
5 / 2015 複十字 No.362
壇上のシンポジストの方々
「健康・医療戦略参与会合」における日本医師会
横倉会長の結核制圧への提言について
結核予防会
専務理事 竹下 隆夫
平成25年2月,わが国が世界最先端の医療技術・サー
こうした動きに逸早く対応してくださったのは健
ビスを実現し,健康寿命延伸を達成すると同時に,そ
康・医療戦略参与の一人である日本医師会の横倉義武
れにより医療,医薬品,医療機器を戦略産業として育
会長である。平成26年12月8日に開かれた第9回参与
成し,日本経済再生の柱とすることを目的として「健
会合において,WHOと当会の資料を駆使されて,
「結
康・医療戦略室」が内閣官房に設置された。そして,
核制圧に向けた取り組みの一層の強化を」と題した提
同年6月に閣議決定した「日本再興戦略」及び関係閣僚
言を行っていただいているので,ご紹介させていた
申合せによる
「健康・医療戦略」
に基づき,同年
「健康・
だく。
医療戦略推進本部」と「健康・医療戦略参与会合」が内
閣に置かれた。さらに,
平成26年5月に成立した
「健康・
医療戦略推進法」に基づき,同年7月には「医療分野の
研究開発推進計画」が策定され,その「4.新興・再興
感染症の予防法と治療法の研究開発強化」をテーマと
した項目の中で,
『2014年5月に採択されたWHO(世
界保健機関)の結核対策に関する新戦略を受け,2020
年までにわが国が結核「低蔓延国」入りできるよう,結
核に関する研究を推進する』
と謳われた。
・病巣中の結核菌は長年生き残る。多剤耐性結核も登場。
・世界で年間860万人が結核に罹患し,130万人が命を落と
している。
(WHO:2012年)
・日本でも,毎年約2万人が発病し,2千人以上が亡くなっ
ている。→決して過去の病気ではない。
・日本は先進国中では唯一の「結核」中蔓延国であり,経
験と最新の技術を保有している。
・結核予防会とJICAは1960年代から結核技術研修を実施。
・世界的な連携や取り組みなしには,日本の結核も減らせない。
⇒結核撲滅対策の強化を!
結核予防会
常務理事 平成27年1月16日から2日間,沖縄県名護市で,昨
貫和 敏博
験センター構築などが可能であるか議論された。
年に引き続き第2回日経アジア感染症会議が開催され
一方,エボラ感染症の流行は,初期対応における先
た。本会議の意義は,複十字誌昨年5月号に島尾顧問
進諸国の反省が必要と指摘され,エボラ感染症流行に
より詳細に報告されている。本会議の特徴は,主催は
より現地医療システムが崩壊し,その支援が深刻な話
日本経済新聞社・日経BP社というプライベート・セ
題として討議された。抗インフルエンザ薬として開発
クターでありながら,国内外の幅広い機関が集い議論
された日本のファビピラビルのエボラ感染症への適用
をする点である。日本政府(厚生労働省,外務省等)は
拡大や,その普及,備蓄なども取り上げられた。また
じめ,WHO関係者やアジア各国の政府代表者,国内
エボラウィルスなどの病原体を研究できる国内BSL4
では国立感染症研究所,大学,またGHIT,結核予防
施設運営への住民の理解促進も指摘された。
会等の諸団体,さらに企業(製薬,検査等)が参加し,
分科会で議論をした。
特筆すべきは,本会議を議論に止めず,そのステー
トメントの実行チェックとして「感染症対策推進コン
本年の議論の中心は,結核とエボラ流行国支援であ
ソーシアム
(仮称)
」
が発案され,さらに来年の第3回会
る。結核の問題は,低蔓延化が進む日本国内と,なお
議でその進展が確認される。本会議が沖縄で開催され
対策が十分でない周辺アジア諸国の連携が必要で,日
る意義の一つは,MDR結核やエボラ感染症等の国境
本よりの積極的支援が課題となる。ことに40年ぶりの
のない感染症に対する「人間の安全保障」的視野の認識
新薬であるデラマニドの併用薬剤臨床試験,あるいは
が広がる中,沖縄の地政学的役割として,感染症分野
多剤耐性(MDR)結核菌の遺伝子検査等の新規診断技
を含めた国際医療拠点の整備の本格化にもある。結核
術を,欧米諸国に対抗し,将来的にいかにアジア諸国
予防会では,本会議の方向を踏まえ,今後の積極的展
と連携した新薬許認可システム構築や,新たな臨床試
開の努力が必要とされる。
5 / 2015 複十字 No.362
11
結核対策
活動紹介
岡山県結核医療相談・技術支援
センターにおける医療関係者支援
岡山県保健福祉部健康推進課
○重實比呂子 兼信定夫 山野井尚美 芦田英厚 榛川亜紀子
岡山県の結核の現状
岡山県の新登録患者数は平成25年232人(昨年比
−51人)
,罹患率は12.0%(昨年比−2.6%)で,全
相談センターでの相談対応の流れ
結核医療相談
技術支援
相談者
国に比べ低まん延化が進んでいます。また,高齢化
率は28.0%(H26.10.1現在)で全国に比べて高齢化
も進み,新登録患者のうち70歳以上が6割以上を占
めています。
結核医療相談・技術支援センター設置の目的
国の予防指針の改正にあわせ,平成25年2月に岡山
①電話・メール
による相談
医療機関,
福祉施設
及び
教育関係の
⑤文書・
メール回答
医療関係者
②専任看護師による
相談受付・内容整理
③看護師から専門医師へ
相談内容の引継
④専門医師による
コンサルティング
県結核予防計画を改定し,岡山県の課題が明らかにな
りました。
医師との仲介役として,相談窓口対応は専任看護師
当時,4人に1人(25%)が診断の遅れによる患者の
が行うこととしました。
発見となっており,
院内感染事例の発生もありました。
今までに結核について専門の機関へ相談したいと
相談センターの周知
この背景に
① 結核を診療できる医師が少なくなってきている。
し,医師会や病院協会へ配付をしました。また,医師
② 基礎疾患を有する高齢者の診断が困難となって
会報へ掲載したり,保健所を通じて地区医師会等関係
いる。
③ ①②の状況により医療連携体制の再構築をする必
要が生じている。
等があり,これに対応するため,国の指針に基づき県
内の中核的な病院を岡山県結核診療連携拠点病院に指
定(平成25年2月)し,拠点病院内に地域医療機関へ
なし 23%
あり 77%
機関への周知も行いました。その他,報道にも依頼し
新聞などへ掲載していただきました。
医療機関の相談センターの必要度を調査
平成25年10月に開設後,結核の発生(年間の新登
結核医療相談
相談者
録患者数232件)に比例して相談は入ってきていまし
技術支援
たが,結核患者の診療等に携わったことのある医師の
の相談対応や技術支援を行う岡山県結核医療相談・技
②専任看護師による
センター存在の安心感
(n=36)
①電話・メール
結核についての専門的助言や知識の必要度を把握する
医療機関,
術支援センター(以下「相談センター」とする)を設
福祉施設
ため調査を行いました。保健所設置市を含む岡山県の
思わない 0%
無回答 6%
③看護師から専門医師へ
置することとしました。
による相談
相談受付・内容整理
あ及び
まりそう思わない 3%
相談内容の引継
保健所・支所において,結核登録患者の届け出があっ
教育関係の
⑤文書・
相談センターの役割
④専門医師による
た医療機関と患者対応を行ったことのある77医療機
メール回答
医療関係者
公的な相談窓口を設置し相談ニーズを喚起しつつ,
関へ調査票(無記名自記式調査)を郵送し,県庁へ
83%
多くの医療機関で結核専門医の意見を取り入れた診療
FAXにて回答いただきました。結果,61医療機関か
ややそう思う 8%
を実施するため,県の委託事業として開始しました。
ら回答がありました。
(回答率79%)
役割として
① 医療機関への結核医療に関する個別相談対応・技術
支援
② 相談対応等のため,結核に関する最新知識,技術向
上に関する情報収集
③ 相談・技術支援事例や最新知識を蓄積し,地域の医
療機関へ研修により還元(還元研修の実施)
としました。
12
思ったことがありましたか
(n=61)
相談センター設置については,パンフレットを作成
5 / 2015 複十字 No.362
コンサルティ
ング
とてもそ
う思う
今までに結核について専門の機関へ相談したいと
思ったことがありましたか
(n=61)
なし 23%
あり 77%
今までに結核について,専門の機関へ相談したいと
思ったことがあると回答があった医療機関は77%あり
ました。
相談したいと思ったことのある内容は,診断に関す
ることや治療に関することが半数近くあり,潜在性結
核感染症患者に関することや検査に関すること,院内
感染防止策に関することなど,様々な相談ニーズがあ
ることが分かりました。
結核医療相談
相談者
結核専門の相談窓口の今後の利用については,87%
技術支援
が希望されていました。
①電話・メール
相談センターの実績
医療機関,
による相談
②専任看護師による
相談受付・内容整理
福祉施設
平成25年10月~平成26年12月までの相談実績は
③看護師から専門医師へ
及び
153件(月平均11件)で,相談件数は順調に伸びてき
相談内容の引継
教育関係の
⑤文書・
④専門医師による
ています(平成26年8月以降は,月10件以上の相談
メール回答
医療関係者
●早期発見につながったと思われる事例
(事例1)
接触者健診の対象者で経過観察中の患者が症状(発熱・咳)が
あって受診したものの医療機関で異常なしといわれていた。本
人が保健所へ相談し,保健所がセンターへ相談したことで結核
発症が分かった。
(事例2)
地域の医療機関からT-SPOT(+)で今後の治療について相談
あり。CD- Rを送付してもらった結果,
結核発症の疑いがあり,
結核菌が喀痰培養(+)で判明した。
(事例3)
● HIV/AIDS・臓器移植(免疫抑制剤使用)
施設入所者の発熱への対応についての相談。受診を勧め,結核
● 珪肺・血液透析を要する腎不全
と診断され,入院となった。
● 最近の結核感染(2年以内)
(事例4)
● 胸部 X 線画像で線維結節影(未治療の陳旧性結
発熱が続く患者の治療相談。照会医は,T-SPOT(+)
,胸郭
形成術後である患者の喀痰を検査したが,塗抹陰性,PCR陰性
● 生物学的製剤使用
で治療を迷っていた。相談を受け,CD-Rを送付してもらい,
経過を追って喀痰検査の実施を指示した結果,培養陽性で結核
菌(+)となり結核が分かった。
コンサルティング
が継続)
。相談センターからも,かかりつけ医におい
て検査や診断を行えるように助言しており,相談セン
(2)連携体制
ターを利用しながら診療している事例も増加しつつあ
地域のかかりつけ医が結核の疑いをもち診断される
ります。相談内容は,治療に関することが最も多く74
まで診療への助言が得られたことで,基礎疾患をもつ
今までに結核について専門の機関へ相談したいと
件,検査や診断に関することが59件(複数回答)で
思ったことがありましたか
(n=61)
高齢者が専門科を有する医療機関で適切な医療が継続
した。
して受けられることにつながりました。また,相談セ
相談センター設置によるかかりつけ医等との
なし 23%
連携体制の構築
ンターの助言を受けながら必要な検査を実施し,結核
(1)診療等への安心感
あり 77%
と分かった医療機関からは,退院後の受け入れも良好
になっていました。
平成 25 年 10 月~平成 26 年 12 月までに相談センター
まとめ
を利用した 62 名に対して,
相談センターから調査票
(無
① 医療機関において,結核専門相談のニーズがある。
記名自記式調査)を郵送し,県庁へ FAX にて回答い
② 結核専門相談窓口設置は,診療等における安心感に
ただき,36 名から回答がありました。
(回収率 58.1%)
つながる。
③ 結核専門知識の助言は,地域のかかりつけ医におけ
る診療や退院後の患者受入等につながっている。
センター存在の安心感
(n=36)
思わない 0%
あまりそう思わない 3%
無回答 6%
今後に向けて
相談センター設置は診療における安心感につながっ
とてもそう思う
83%
ややそう思う 8%
ており,結核患者(疑い含む)を診療する医療機関が
増える等,結核医療連携体制整備につながると感じて
います。
また,今後低まん延化が進む中,結核の集団感染を
予防していくためにも,結核専門の相談窓口の重要性
結核に関する公的な相談窓口設置が診療における安
を感じています。
心感につながったかどうか尋ねたところ,83%が「と
しかし,開設していることはまだ浸透しておらず,
てもそう思う」と回答され,
「ややそう思う」とあわせ
できるだけ多くの医療機関に適時適切に利用していた
ると,9 割以上が安心感につながっていました。
だくため,相談技術支援事例の集約化を図りながら,
感想の中には「結核の対応に迷うことが多いので,
結核に関心のない方へも医師会等を通じて周知を行っ
開設は大変助かる」
「相談体制をぜひ継続してほしい」
ていきたいと考えています。今後も相談センターによ
といった声もありました。
る医療関係者支援という新たな取り組みについての評
また,相談センターに入ってきていた事例に,早
価を行い,より充実したものとなるよう努めていくと
期発見につながったと思われる事例が 4 事例ありま
ともに機会をとらえ全国の関係者の皆様にも報告させ
した。
ていただきたいと考えています。
5 / 2015 複十字 No.362
13
教育の頁
一塩基多型を利用した新しい
結核菌遺伝系統分類法の開発
結核研究所抗酸菌部
結核菌情報科長 はじめに
前田 伸司
集団感染や院内感染疑い事例において,疑いを明
SNP分析法は注目される技術で,例えば,ヒトでの
確に否定あるいは確認するための手段として結核菌
大規模な遺伝型と疫学研究によりSNP部位の塩基配
の型別が行われる。近年,型別の標準法は,IS6110
列の違いで肝炎ウイルスに対するペグインターフェ
RFLP(制限酵素断片長多型)分析から反復配列多型
ロンガンマとリバビリンの併用治療が有効か,あら
(VNTR)分析法にシフトして来ている。また,新し
かじめ予想できるようになっている。結核について
い型別法としては,次世代シークエンサー(NGS)を
もSNPの有無で菌の病原性の高さや薬剤耐性化しや
用いた結核菌分離株の全ゲノム比較で報告されてい
すいなどの性質が,今後の研究によって明らかになっ
る一塩基多型(SNP)を調べて型別する方法である。
てくるかもしれない。
図1 遺伝子の挿入あるいは欠損によるSNPの生成
SNPは,ランダムに生じる場合と菌ゲノム上の遺
伝子の一部欠損や挿入等の事象が生じて対象菌が主
要な進化系統から分岐する際に生じる場合があるこ
とが知られている
(図1)
。そのため,特定部位のSNP
を調べることで菌を遺伝系統に従って分類すること
ができる。今回,このようなSNPを利用した新しい
結核菌型別システムの構築を行った。
図2 SNPsを利用した結核菌の系統解析
結核菌の遺伝系統(特に北京型結核を
対象とした)に応じた SNP 分析システム
NGSを用いた結核菌の全ゲノム解析で同定された
遺伝系統と関連したSNP部位(特に日本国内では北京
型結核菌の祖先型が主流な
菌型なのでこの遺伝型の菌
を効率よく型別できるよう
な)を選択し,系統的に型別
できる分析システムを構築
した( 図2)
。23箇所のSNP
部位の変異を迅速に検出す
る方法として,リアルタイ
ムPCRの系を利用した。分
析の手法としては,最初に
2カ所,すなわち3284855位
と1477596位 のSNPを 調 べ
ることで,非北京型と北京
型及び北京型結核菌はさら
に新興型と祖先型へと大き
14
5 / 2015 複十字 No.362
く3グループに区分し,それぞれの系統ごとに追加の
図3 SNP法(23箇所)による結核菌の系統分析
SNP解析を行った
(図3)
。
構築した SNP 解析システムでの
結核菌臨床分離株の分析
東京,韓国,台湾から分離された結核菌,それぞ
れ219株,293株及び210株について本システムで実
際に分析を行った。地域に依存して存在する結核菌
のサブタイプが異なることを想定して研究を行った
が,地域によって北京型祖先タイプと北京型新興タ
イプ共に各サブタイプの存在比は異なるものの,存
在する遺伝型の種類は,日本,韓国及び台湾でほと
んど変わらなかった(図4)
。つまり,北京型結核菌に
ついては,調べたどの地域においてもSNP分析で同
一パターンの結核菌が広まっていることが分かった。
今後の応用
図4 ‌S
NP分析による日本、台湾及び韓国から分離された結核菌
のサブタイプ存在比
  ‌祖先型(A)については10箇所、新興型(B)は4箇所のSNP分
析を行いサブタイプに分類した。
A
SNPを利用した新規型別法の判別能力はそれほど
高くなく,東アジア地域ではSNP分析で同じ型の結
核菌が広まっていることが明らかになった。しかし,
本法で解析を行うことで,院内感染や集団感染疑い
事例において,現在利用されているVNTR法より短
時間で関連の否定が可能となる場合(対象株同士の遺
伝系統が異なった場合など)があると考えられる。ま
た,本SNP法とVNTR法を組み合わせた型別を行う
ことで,手間のかかかるVNTR法の分析座位数を減
らすことが将来可能となると考えられる。
B
このように新規の型別法を含めて複数の手法を組
み合わせることで,全体として型別法の簡便化・迅
速化等を図り,今後,実地疫学の現場で結核菌型別
が容易に利用できる環境を作る必要があると考えら
れる。
(4月より 北海道薬科大学薬学部生命科学分野 所属)
5 / 2015 複十字 No.362
15
結核予防会が行う国際協力
JICA アムハラ州感染症対策強化プロジェクト活動報告
-サーベイランスシステム強化を通じた感染症対策-
結核予防会 国際部
太田 正樹,外山 祐実,紺 麻美
アフリカの東に位置するエチオピア。中北部に位置するアムハラ州(13県中3県の22郡を対象)でサーベイランスシステムの確立,強化を
目的として約7年にわたり実施されたプロジェクトが,2015年3月に終了しました。
アムハラ州
事務所前にて
(左より 外山,太田,紺)
策を取る仕組みづくりが必要です。また,例えば,
今年のマラリアは例年と異なった流行をしていると
エチオピア連邦民主共和国(通称エチオピア)は,東アフリカに
位置し,周囲をソマリア,ケニア,南スーダン,スーダン,エリ
トリア,ジブチに囲まれた内陸国である。アフリカ最古の独立国。
人口約9,400万人(2013年現在)
。サハラ以南のアフリカでは,ナ
イジェリアに次いで2番目に人口の多い国である。
多民族国家のエチオピアは,民族ごとに構成される9つの州と2
つの自治区からなる連邦制をとっている。(ウィキペディアより)
いった異常事態に気づくには,医療機関から定期的
に患者数のデータを集めるだけでなく,そのデータ
を解析しておく必要があります。そこで重要な鍵を
握るのが「サーベイランス」
。感染症患者のデータを
収集して,対策や予防に役立てるシステムのことで
す。
今,西アフリカを始め世界で大きな問題となって
いるエボラウィルス病。あるいは,昨年日本で70
まず,村の医療機関は管轄の郡保健事務所へ,毎
年ぶりに国内感染が報告されたデング熱。感染症集
週,マラリアなど20種類の定められた感染症にかかっ
団発生のような異常事態に対応するには,医療機関
た患者さんの数などのデータを報告します。郡は情
が集団発生を保健行政機関へ報告し,保健行政機関
報を取りまとめ,これを県の保健局,州の保健局と
がそれに対して,患者の隔離,ワクチン接種など対
いった上位機関へ報告します。この際,データが毎
週定期的にきちんと正確に報告され,一方,報告を
受けた上位機関は,報告されたデータから感染症の
流行状況を解析,把握し,その結果を下位の保健行
政機関や医療機関へ還元することが重要です。特に,
感染症集団発生などの異常事態を検知し,適切な集
団発生対応を早期に取ることが非常に重要になりま
す。早く異変に気づくことができれば,早く対応が
可能になり,感染症の拡大も防ぐことができるから
です。
ヘルスセンターへ供与した家具を運ぶ子どもたち
(後方 ヘルスセンター)
16
5 / 2015 複十字 No.362
プロジェクトの活動と成果
このサーベイランスシステム整備のため,プロジェ
クトでは保健行政職員への研修,必要な機材供与,
関係者で情報共有を行う会議の開催,また,感染症
集団発生時の調査支援など様々な活動を行ってきま
した。感染症情報の収集,解析,感染症集団発生へ
の対応と,感染症情報の解析結果の下位機関への還
元。サーベイランスと呼ばれるこの仕組みの強化を
通じて,感染症対策の向上を目指しました。
例えば,サーベイランス担当官への研修。公衆衛
生サーベイランスの原則,報告対象疾患の症例定義,
報告様式の説明だけでなく,集団発生調査のステッ
サーベイランス研修の様子
プ,基本的な疫学の知識,集団発生調査の机上演習
を行い,感染症集団発生が起きた際に対応できるよ
う研修を実施しました。この研修が実際の集団発
生の現場で有効であったことも証明されています。
2013年12月以降,エチオピアでは麻疹が全国的に流
行しました。この研修に参加したことのあるサーベ
イランス担当官は,自力で麻しん患者データの疫学
的分析を実施し,最も罹患率の高いリスクグループ
を特定し,その後のワクチンキャンペーンをどのよ
うに進めるべきか判断を下すことができたのです。
マラリア発生動向調査の様子
プロジェクトでは,郡保健事務所やヘルスセンター
を訪問し,実際に報告された記録用紙や記録方法の
確認,課題に対するアドバイスを行ってきました。
このようなモニタリングを通じて,報告や情報還元
の必要性を理解してもらうことにつながりました。
こういった取り組みの結果,2014年の感染症サー
ベイランス全国会議でアムハラ州は最優秀州に選ば
れるまでになりました。ヘルスセンターやヘルスポ
ストなどの医療機関は平均して90%がサーベイラン
スデータ週報を期日までに提出しており,プロジェ
モニタリングの様子
クトが目標としていた基準を達成しました。また,
マラリアや麻疹といった集団発生が感知され,それ
に対する介入策がとられるなど,サーベイランスシ
ステムが機能し,感染症対策に生かされています。
プロジェクトは終了しましたが,今後はエチオピ
ア連邦保健省やアムハラ州保健局の努力により,さ
らにサーベイランスシステムが強化され,自立発展
することを期待しています。
集団発生調査(住民へのインタビュー)
5 / 2015 複十字 No.362
17
「抗酸菌感染症制圧を目指して,新たなステージへ」
第 90 回日本結核病学会総会報告
会期:平成27年3月27日~ 28日
会場:長崎市・長崎ブリックホール
結核研究所 生体防御部
新抗結核薬・化学療法プロジェクト 堀田 康弘
研究員 平成27年3月27日~ 28日, 長崎大学理事・副学長
の河野茂会長のもと, 長崎市で第90回日本結核病学
が, 日本結核病学会治療委員会と販売製薬会社により
会総会が開催されました。今回の総会のテーマは,「抗
作成され, その内容がランチョンセミナー 6で発表さ
酸菌感染症制圧を目指して, 新たなステージへ」であ
れていました。会場では, QT延長や低アルブミン血
り, 制圧を目標に掲げられている一方で増加の一途を
症などの想定される個々の薬剤の副作用及び薬剤間
辿るMAC感染症を含めた非結核性抗酸菌症並びに,
相互作用に関する討論, そして, 小児や妊婦, 授乳婦
罹患率の減少が鈍化している結核に関わる最新の知
への適応拡大および新規レジメン開発に向けた可能
見が数多く発表され, 活発な討論が交わされていまし
性などについて多くの議論が交わされていました。
た。本総会が長崎で行われるのは2回目であり, 平成
さらに, 昨年10月に肺結核の保険適応追加申請が行
6年の第69回日本結核病学会総会以来のことです。今
われたニューキノロン系薬剤クラビット(一般名:レ
年は, 結核研究所名誉所長の森亨先生が,「結核病学会
ボフロキサシン)や, 薬価が高いものの臨床での治療
90年を振り返って~これまでの軌跡と未来への展望
効果が認められているオキサゾリジノン系薬剤ザイ
~」をテーマに, 戦後から今日までの結核対策につい
ボックス(一般名:リネゾリド)などの再開発医薬品
て記念講演をされたのがとても印象的でした。戦後
の使用についても目線合わせが行われていました。
間もない頃, 国民病として猛威を振るった結核に対し
その他にも, 数多くの新薬候補化合物が見出されてお
て1951年に結核予防法が制定され, その後, 結核医療
り, それらを含めたレジメン開発が進んでいる現状を
の基準が定められ, 今日では感染症法のもとで管理さ
知りました。
れている現状まで, とても内容の充実したご講演でし
「結核治療の基準」については, ランチョンセミナー
た。他に, 特別講演4題, シンポジウム13題, ミニシン
4で, 重藤えり子先生(東広島医療センター感染症診療
ポジウム7題, そして一般演題が225題と, 例年を上回
部長)から, 新薬の位置づけをはじめ, 薬剤の使用期間
る数の発表が行われました。
や地域DOTSなどの変更点を中心にご説明がありま
【新規抗結核薬の導入と結核治療基準の見直し】
昨年の9月に, 新規作用点を持った抗結核薬デル
18
性菌を出現させないために「適正使用に関する指針」
した。
【非結核性抗酸菌症患者の増加に対する対策】
ティバ(一般名:デラマニド)がわが国で販売開始と
2007年以降7年ぶりの病院施設を対象とした全国
なり, 多剤耐性肺結核に対して保険適応が認められ現
疫学調査結果が発表されました。本研究は, 班長の阿
場で用いられ始めています。それに関連したシンポ
戸学先生(国立感染症研究所免疫部部長)のもとで進
ジウム6やミニシンポジウム2がとても印象に残って
められ, 当研究所の御手洗聡部長や複十字病院の森本
います。また, 国内では未承認ですが, 2012年12月に
耕三先生達も携わっている全国規模のアンケート調
FDAで承認された新薬Sirturo(一般名:ベダキリン)
査(回収率62.3%)で, 研究班を代表して倉島篤行先生
の臨床試験が国内でも始まったことが, ミニシンポジ
(複十字病院)がシンポジウム2で報告されていまし
ウム2で発表されていました。これら貴重な新薬の耐
た。驚いたのは言うまでもなく, 肺NTM症の罹患率
5 / 2015 複十字 No.362
は人口10万対14.7人であり, 同期間の新登録結核年
年)は16.1 / 10万人です。約60年の間で著しく順調
換算罹患率(12.9人 / 10万人)を上回るという結果で
に患者数が減少した背景には, 人々の生活水準の向上,
した。その中で, 肺MAC症
(罹患率:12.9人 / 10万人)
公衆衛生対策の改善, そして, 全国の結核対策の推進
が約88%を占め, 最も重要な課題として挙げられ, 治
に携わった方々の貢献が挙げられます。しかし, その
療導入時期や治療期間, 予後, 第一選択薬に耐性化し
減少率も近年では鈍化しており, その理由について石
た場合の対策等について討議されていました。罹患
川先生が社会構造や人口統計の視点からご説明され,
率が増加傾向を示し, 難治化するNTM症に対して画
結核が根絶されるまで研究を続ける意義について話
期的な新薬及びレジメンの開発が望まれます。
されていました。また, 加藤先生は, 結核病床を持つ
【結核罹患率の推移と結核医療体制】
特別講演1と2で, 当研究所所長の石川信克先生と
副所長の加藤誠也先生が, 日本の結核低蔓延化に向け
病院が不採算であることを強く指摘され, 必要な結核
病床の確保と患者様の病態に応じた適切な治療, さら
に治療完遂に向けた患者支援等きめ細やかな個別的
対応が今後求められることを示されていました。
た取り組みや結核医療体制の現状と課題について報
告されていました。本総会のテーマにも挙げられて
以上, 私が出席した講演を中心に印象を記しまし
いる抗酸菌感染症制圧のための戦略についての内容
た。次回の第91回日本結核病学会総会(平成28年5月
でした。結核予防法が制定された1951年の罹患率が
26日~ 27日)は, 石﨑武志会長のもと金沢市で行われ
10万対698.4人であったのに対し, 今日の罹患率
(2013
ます。
会場となった長崎ブリックホール(長崎市)
平和祈念像(長崎市)
5 / 2015 複十字 No.362
19
シリーズ
生活習慣病
(2)
脂質異常症
結核予防会複十字病院
及川 眞一
糖尿病・生活習慣病センター長 【はじめに】
脂質異常症とは「血液中の脂質濃度が異常に高い状
態や低い状態」を意味します。しかし,濃度だけが問
題となるのではなく,
「代謝の仕組みが異常な状態」
も意味しています。日常の臨床で測定されるものは
コレステロールと中性脂肪(トリグリセリド)です。
このような脂質がなぜ増えたり減ったりするのか,
という仕組みを理解すると,生活習慣病が見えてき
ます。特に食事との関連から概説します。
【脂質成分の運搬】
脂質は油に溶けます(脂溶性)が水には溶けません
(非親水性)
。脂肪成分がタンパク質(アポ蛋白)と一
緒になることで水に溶け込むことができます。脂質
とタンパクが一緒になった状態を「リポ蛋白」といい
ますが,中性脂肪もコレステロールもこのような状
態で体内を運搬されます。ここでは理解しやすいよ
うに,アポ蛋白を「トラック」
,中性脂肪やコレステ
ロールを「荷台の荷物」として理解して下さい。アポ
蛋白にはいくつかの種類があって,それぞれの働き
が異なりますが,ここでは複雑になるので,その「機
能」
については触れません。
【異常症の仕組みを探る】
血中の脂質濃度は「合成」と「分解」のバランスで決
まります。合成が高まれば(亢進すれば)
,あるいは
分解が低下(異化障害)すれば濃度は上昇します。こ
のような変化を来す原因は1.体質的なもの−つま
り,生来持っている特質,2.病気があるための検査
値異常として認められるもの,3.食事など生活習慣
の問題,などが考えられます。
体質的なものは「原発性脂質異常症」と呼び,病気
や生活習慣によるもの(主な要因は食生活)を「二次性
脂質異常症」と呼んでいます。ここでは原発性脂質異
常症には触れません。以下に合成や分解の問題を説
明します。
1.小腸
小腸は食物中の油脂成分(ほとんどが中性脂肪)を
吸収します。食物中の油脂成分の量(あぶらの量)が
多ければ吸収される油脂成分も多くなります。中
20
5 / 2015 複十字 No.362
性脂肪は食後に上昇しますが,コレステロールは変
化しません。これは食物中の油脂成分のほとんどは
中性脂肪であることと一致します。この中性脂肪は
小腸の細胞の中で別ルートから吸収されたコレステ
ロールと一緒になってカイロミクロンというリポ蛋
白に合成されます。小腸由来の運搬車−トラックと
その荷台には中性脂肪とコレステロールが載せら
れ,体内を循環します。これは肝臓に運ばれて脂質
成分は再利用されます。
コレステロールは食物中に含まれる量としては中
性脂肪ほど多くはありません。食物中のコレステロー
ルが吸収される量は最大で1日500mg程度です。鶏
卵1個 に 約250mgか ら300mgの コ レ ス テ ロ ー ル が
含まれますがこれが全て吸収されるわけではないの
で,コレステロールの吸収効率はそれほどよいもの
ではありません。一方で,肝臓ではコレステロールを
胆汁中に放出して,小腸に排泄します。コレステロー
ルはこのようにして糞便中に排泄されますが,小腸
では1日に1 〜 2gが再吸収されるといわれています。
コレステロールは身体にとって無くてはならないも
のなので無駄にならぬように工夫されています。
以上のことから血中の脂質を異常に増やさぬため
には「油脂成分を取り過ぎない=適切な量を摂取す
る」といった食事療法が大切です。だからといって
油脂成分を全く摂らないことはむしろ健康を害しま
す。油脂成分には「脂溶性ビタミン」や必須脂肪酸(人
間の体内では合成できないため,食物からのみ,摂
取する必要がある栄養成分)が含まれ,これは生命維
持に必要な栄養素です。
2.肝臓
肝臓はブドウ糖を利用し,また,栄養素を蓄える
臓器−「倉庫」として重要ですが,タンパク質など身
体の様々な成分を合成する「工場」でもあります。こ
こでは中性脂肪もコレステロールも合成されます。
小腸で吸収された中性脂肪は肝臓に運ばれて別のト
ラックに積み替えられて血液中に出されます。
中性脂肪を合成する主な材料は(1)小腸から吸収
された中性脂肪(肝臓で調製されます)
,
(2)糖質(ブ
ドウ糖や果糖)です。油脂成分を多く摂取すると肝臓
での中性脂肪合成も高まります。また,炭水化物や
中性脂肪
コレステロール
小腸
中性脂肪
肝 臓
コレステロール
コレステロール
HDL
カイロミクロン
中性脂肪
中性脂肪
コレステロール
LDL
VLDL
細胞
脂肪組織
果物の過剰な摂取も肝臓での中性脂肪合成を高めま
す。多量の炭水化物摂取はコレステロール合成に影
響すると考えられます。これらの脂質合成には糖尿
病に関係するインスリンというホルモンも強く影響
たまりすぎます。これが動脈で生じると「動脈硬化
症」となります。HDLのコレステロール(HDLコレス
テロール)の量は生活習慣で変化します。アルコール
の多飲はHDLコレステロールを増やすようですが,
します。
3.中性脂肪の蓄積
脂肪組織では肝臓から放出されたトラックから中
性脂肪成分を受取り,中性脂肪として蓄えます。ま
た,ブドウ糖から中性脂肪を合成して蓄積します。
HDLというトラックの運搬が遅くなり(代謝遅延)
,
肝臓に戻りにくくなった結果と考えられます。した
がって,適度なアルコールの飲用は勧められますが,
飲み過ぎはマイナスになります。運動不足や喫煙と
いった生活習慣,あるいは糖尿病ではHDLコレステ
飢餓状態ではこの蓄積脂肪(中性脂肪)が分解されて
エネルギーに利用されます。必要以上に摂取された
栄養成分(糖質,脂質)は中性脂肪に形を変えて,飢
餓に備えているわけです。
以上のように食物由来の中性脂肪や糖質(炭水化
物)は小腸−肝臓−脂肪組織といった経路でつながっ
たわけです。したがって,油脂類や炭水化物を多量
に摂ると脂肪細胞内の脂肪量が増加し「脂肪過多」=
「肥満」
ということになります。
「過食」
=
「肥満」
といっ
た仕組みが理解されます。
4.コレステロールの利用
あらゆる細胞はコレステロールを利用して細胞の
膜を形成します。肝臓からはコレステロールを積ん
だトラックが放出されます。これは全ての細胞に運
ばれてコレステロールを供給しています。それぞれ
の細胞で利用され終わったコレステロールは細胞の
膜から引き抜かれて肝臓に戻されます。コレステロー
ルを肝臓に戻すために使用されるトラックはHDLと
呼ばれます。いわゆる善玉コレステロールです。こ
の機能が低下すると,細胞の中にコレステロールが
ロールが減少して動脈硬化になりやすい状況になり
ます。
【まとめ】
生体は飢餓に備えた仕組みを完成させ,余分な栄
養分を蓄えることに成功しました。しかし,現代は
常に栄養を摂取することができるようになり,必要
以上に蓄積されることがメタボリックシンドローム
などを引き起こすようになったということができま
す。中性脂肪もコレステロールも身体には絶対的に
必要なもので,食物から吸収して利用することが効
率が良いわけです。しかし,食事の取り方で中性脂
肪やコレステロールが過剰になってしまいます。細
かな仕組みは省きましたが,食事の適度な量と食物
の組み合わせがこれらの血中濃度を正常に保つこと
になります。しかし,血中濃度が上昇した時には日
常生活だけではなく,糖尿病やホルモンの病気の結
果であることも考えられますので,普段と異なった
値が認められた際にはかかりつけの先生に相談する
ようにして下さい。
5 / 2015 複十字 No.362
21
思い出の人を偲んで
山口智道先生を偲んで
―結核予防会活動の原点一健を支えられた―
山口 智道
先生
元(財)結核予防会評議員・第一健康相談所名誉所長
平成26年10月1日逝去 享年88歳
島尾 忠男
結核予防会 顧問 一健に入職
先生は昭和24年3月に東大付属医学専門部を卒業され,1
したが,先生はこれに幹事役として加わり,一健での研究
成果の一部を「喀痰中結核菌の陰性化の予測に関する研究」
年間のインターンの後に,大学の医局を経験することなく,
としてまとめて,昭和34年に医学博士の学位を受けておら
昭和25年12月に結核予防会の第一健康相談所,通称一健に
れる。医学博士の学位というと,日常の業務とは関係のな
入職された。同期には同じく一健に入職された松田美彦先
い基礎研究を行って受ける人が多かった時代に,先生の学
生や結核研究所に入職された高原喜八郎先生,豊原希一先
位は正に日常業務での成果を纏めて取られた立派な学位で
生など,予防会とご縁のある方も多い。
あった。
敗戦後間もない時期には,早朝から受診を待つ人の列
が一健の前にできたと言われたほど一健が賑わった時期は
療研の幹事も担当
去っていたが,都内唯一の結核の外来診療専門機関として,
予防会の外来化学療法共同研究グループとは別に,全国
また集団検診を行う機関として一健が世の中から頼りにさ
の大学や国公私立結核療養所,病院などが参加して,結核
れていた時代であり,当時の結核治療の主流を占めていた
の診断や治療を共同で研究する組織として,
「結核療法研究
人工気胸療法を一健では盛んに外来で行っていたので,受
協議会」通称「療研」が組織されていたが,先生は後に結核予
診者も多かった。先生はここに新進気鋭の若手医師として
防会の外来診療組織を代表して幹事として加わり,その運営
加わって活動を始められた。
に参画され,日常業務である結核診療の中から研究成果を
外来化学療法の研究に従事
先生の入職された頃は,結核の治療法が劇的に変わった
22
核外来化学療法研究グループ」を組織し,共同研究を開始
得,
これをまた日常の診療に還元するという姿勢を貫かれた。
転換期の予防会施設の運営を担当
時期であった。昭和26年4月には結核予防法が施行され,
昭和30年代は結核予防法に定められた施策を忠実に,熱
健康診断と予防接種は直ちに実施されたが,医療費の一部
心に実施した時代であったが,昭和40年代に入るとその成
を公費で負担する結核医療の制度は,同年10月から実施さ
果が表れて結核は急速に減り始め,その影響は先ず学校の
れた。その中で,治療の主力は虚脱療法で,外科的な虚脱
児童生徒から青年層に著明に見られ,結核はかつての青年
療法に加えて,人工気胸術が結核治療の主流であり,これ
の病から中高年の病に姿を変え,検診での患者発見率も急
に加えてストレプトマイシンとパスが各々単剤で化学療法
速に低下していった。誇るべき成果であるが,結核予防会
として採用されたが,化学療法で結核が治るとは考えられ
にとっては,皮肉なことに結核関係業務の縮小,他の業務
ていなかった時代であった。翌27年11月には新しい抗結核
への転換が大きな課題となってきた。この困難な時期に,
薬であるイソニアジドとチビオンが加わり,昭和29年に入
先生は一健の医務第一科長,診療部長,副所長として,所
ると肺切除などの直達療法が治療の主流となり,化学療法
長を助けて,結核の診療機能など必要な業務の維持と,肺
では漸くストマイとパス,あるいはヒドラジドとパスの併
がんや循環器管理など健康診断対象の拡大や人間ドックの
用が医療基準に採用された。昭和30年代に入ると治療の主
開設などの新しい業務の展開を的確に行ってきた。
役は化学療法,特にイソニアジド,ストレプトマイシンと
昭和58年には今村昌耕先生の後任として渋谷診療所所長
パスの3剤併用が治療の主軸となり,一時は治療の花形で
に昇任され,同時に結核予防会の評議員にも就任して,本
あった人工気胸療法は漸次廃れていった。
会の運営にも参画されることになった。昭和51年には満60
一健の使命の一つに,結核予防会の機関の一つとして,
歳となり,予防会の規定では定年になられたが,余人を持っ
研究業務がある。治療の主軸となった結核化学療法の研究
て代え難しということで所長を続けられ,平成元年には古
を支える動きの一つとして,結核予防会は全国横断的に「結
巣の一健の所長に就任され,平成8年に所長職を退かれた
5 / 2015 複十字 No.362
が,長年の功績が評価され,第一健康相談所名誉所長の称
り,水道橋に来る楽しみの一つが無くなったと嘆いておら
号が授与された。その後は嘱託として,外来診療は平成26
れた由である。
年の夏まで続けられた。患者さんとの会話を楽しみながら
の診療であったと承っている。
一健こそ予防会活動の出発点
一健は今なお都内唯一の外来で結核患者を診療する機関
昭和14年5月に結核予防会が創立された時に,当時第一
であり,その結核予防会の施設としての使命を保ちながら,
生命の矢野恒太社長はちょうど活動を始めていた保生会の
健康診断活動はかなり業務の枠を拡大して行っており,こ
水道橋の本館と健康相談所,開設直前であった東村山の保
とに平成22年に公益財団法人に移行してからは,結核の経
生園を総て結核予防会に寄付することを決め,この決断の
験を活かしながら生活習慣病対策を行うことが,国の内外
お陰で誕生したばかりの予防会は,本部と健康相談所,療
での結核対策の支援,肺がん,COPD,肺結核などの呼吸
養所を備えて活動を始めることができた。水道橋の本部と
器疾患管理と共に,予防会活動の4本柱の一つとして掲げら
一健は,結核予防会活動の原点とも言える施設であり,敗
れている。その基礎作りを一健や渋谷診療所で担当された
戦後の早い時期にはそうそうたるスタッフを備えて,集団
のが山口先生であった。
検診や疫学に関しては“結核研究所何するものぞ”との意気
碁の相手がいなくなった
先生の唯一の趣味は囲碁であった。以前には一健の医
と気概に燃えて仕事をしていた。
そこに新卒で飛び込んできて,鍛えられ,期待に応えて
成長し,一健を支える柱となったのが山口先生である。
局には碁の好きな先生方が多く,一時期は藤沢秀行名人の
一健が総合健診推進センターと姿を変え,更なる発展を
直接のご指導も受けた由であるが,先生の晩年には棋院五
期待されている現状を,天国から見守り,導いて頂けるこ
段の先生のお相手をできる者が一健にも本部にもいなくな
とを確信している。
囲碁の対局中(1997年)
後方左端 山口先生
上野公園にて(2009年)
かわいいお孫さんの
お酌で晩酌
(1995年頃)
5 / 2015 複十字 No.362
23
ずいひつ
子どもたちの幸せを願って
公益社団法人全国結核予防婦人団体連絡協議会
中畔 都舍子
会長 第66回結核予防全国大会in福岡が盛会裏に終了
惜しんではならないと思っています。そのために,
し,アトラクションでの福岡の女子高生の世界ナン
先ず大人自身が自らを律する心を持ち続けることが
バーワンの吹奏楽の演奏に感動と興奮の余韻が醒め
大切であることは言うまでもありません。
やらぬまま帰宅した矢先,
「複十字」編集委員から随
近年,未曾有の災害が続いている日本において,
筆の原稿依頼があり,我が身も省みず平素思ってい
日本人は非常時のみならず平時においても自らを律
ることの一端を申し上げたいと思います。
して行動する「よさ」を発揮できると私は信じていま
私は全国47都道府県の地域に軸足をおくボラン
す。今こそ自らを律する心を育てることに思いを馳
ティア団体の組織の一人として日々生活を営んでい
せ,次の世代の子どもたちに継承していく気運を高
ます。
めたいと思います。けれど,私たちは善い事をした
今,社会という枠組みの中で,個人の欲求と団
いと願いつつも利己的な行為に走ってしまう弱さを
体,組織の要求との調和を図ることが求められてい
持っています。時には感情を制御できずに自らが思
ます。調和を図る過程において当然葛藤も生じましょ
い描いた行動が出来ずに悩み,心に痛みを覚えるこ
うが,各個人がお互いに相手の尊厳と人権に敬意を
ともあります。と同時に崇高かつ善とする行為を成
表し尊重すること,節度を保ち思いやりのある心遣
し得るように自らを律し励ますことも出来ます。私
いをすることで,各個人が生き生きと円滑に暮らせ
たちは大人として自分自身を省み,律する心を育み
る社会が成立するでありましょう。そのために自ら
続けることが必要ではないでしょうか。自らを律す
を律する心を保ち続けることが大切かと思います。
る心を育てることは,自らの定めた人生の目標を達
平成23年3月11日の東日本大震災は我が国に未曾
成するために,また生きることへの希望を果たすた
有の災害をもたらしました。震災津波で被害を受け
めに,他人と関わり,より良い結果を得るために時
過酷な状況の下にあっても,被災された方々は避難
には自らを奮い立たせたり,自らの思いを制御した
所などで辛抱強く耐え忍び,互いを気遣い譲り合い
りする働きの営みだと思っています。
整然と行動しておられました。被災地の同胞の気高
今,文部科学省では確かな学力,たくましく生き
い姿に私たちは感動と感銘を覚えました。日本国民
る健康と体力と並んで教育の今日的課題として挙げ
ならず世界各国の人たちも被災された方々に思いを
られていることが“豊かな人間性の育成”です。道徳
寄せ,慰め励ましたいと支援に立ち上がり果敢に行
教育は豊かな人間性の育成に大きな役割を担ってい
動してくださいました。
ます。子どもたちの成長にとって大切にしなければ
一方,現在の我が国では自らを律することを忘れ
ならない豊かな人間性とは「美しいものや自然に感動
た大人たちのモラルの低下が進み,身勝手ともいえ
する心などの柔らかな感性,正義感や公正を重んじ
る行動が子どもたちに悪影響を及ぼしています。児
る心,生命を大切にし,人権を尊重する心などの基
童虐待など筆舌に尽くしがたい苦しみを強いている
本的な倫理観,他人を思いやる心や社会貢献の精神,
事例を耳にします。私たちは子どもたちが適切な環
他人との共生等,道徳的価値を大切にする心である」
境のもとで心身ともに健やかに成長し,豊かな道徳
と捉えられています。
性を身につけ,将来よき大人として,自立してくれ
ることを願っています。そして私たちはその支援を
24
5 / 2015 複十字 No.362
未来に生きる子どもたちの幸せを願いながら…。
第19回結核予防関係婦人団体中央講習会開催報告
結核予防婦人会の更なる活動を目指して
公益社団法人全国結核予防婦人団体連絡協議会
事務局 杉木 則子
平成27年2月9日・10日の2日間,
東京都千代田区のKKRホテル東京において第19回結核予防関係婦人団体中央講習会が開催されました。
全国各地より 111 名が参加し,開講式では結核予防会総裁秋篠宮妃殿下よりお言葉を賜りました。総裁秋篠宮妃殿下におかれましては,
各種講演にご臨席のほか,班別討議の様子もご覧いただきました。
1 日目
2日目
第1講演は「結核という病気について~患者さんから学ん
第5講演は「結核予防婦人会活動と複十字シール募金運動
だこと~」と題して,複十字病院診療主幹 佐々木結花先生
の意義」と題して,結核予防会事業部顧問で当協議会理事・
に,自身の診療経験を基に,結核について知る,早期発見
事務局長 山下武子氏から,複十字シール募金運動によって
の重要性,結核対策を継続していく必要性についてご講演
継続できる国際協力の重要性について講演されました。そ
いただきました。
して普及啓発活動による一層の理解と協力を求めた結果,
第2講演は「ワクチンで子どもを守ろう-BCG接種-」と
題して,結核研究所名誉所長 森亨先生から,BCG接種の接
種率と予防効果についてご講演いただきました。
講演後に受講生から10万円以上の募金が集まりました。
最後は,慶應義塾大学商学部教授 博士 吉川肇子先生の進
行による「クロスロードゲーム」を取り入れた班別討議が行
第3講演は「知っていますか? COPD(たばこ病)
」と題し
われました。まず5名ずつ22班に分かれて,問題で示され
て,結核予防会理事長 工藤翔二先生から,喫煙こそ肺への
るリスクのある現状を想像し,適切な解決策に向けて各自
ダメージの要因であるということ。そして普及啓発活動こ
が考え,その下した決断を自分の言葉で説明しなければな
そが今求められているとご講演いただきました。
りません。互いの問題解決に向けての意見に対して,活発
第4講演は「喫煙および受動喫煙の有害性~理解されない
に議論がされていました。
のはなぜか~」と題して,中央内科クリニック院長 村松弘
結核予防婦人会は,こうした講習会を毎年2月東京にて開
康先生から,受動喫煙は分煙では完全に防げないこと,ま
催し,全国各地より100名以上の会員が集まります。参加者
た主流煙よりも副流煙の方が体に有害である,そしてタバ
にとってこの2日間は呼吸器疾患,生活習慣病,複十字シー
コは単なる健康問題だけではないという興味深いご講演を
ル運動による国際協力について深く理解するよい機会とな
いただきました。
ります。そしてこの学びを各地域に持ち帰り知識を広め,同
第 19 回結核予防関係婦人団体中央講習会日程表
第 1 日 2 月 9 日(月)
13:10
13:50
14:15
15:15
15:55
16:40
開講式
主催者挨拶 結核予防婦人会 会長
主催者挨拶 結核予防会 理事長
総裁おことば 秋篠宮妃殿下
来賓挨拶 厚生労働省 健康局長
健康の歌斉唱
写真撮影
講演①(50 分)
『結核という病気について~患者さんから学んだこと~』
公益財団法人結核予防会複十字病院 診療主幹 佐々木 結花
講演②(30 分)
『ワクチンで子どもを守ろう- BCG 接種-』
公益財団法人結核予防会結核研究所 名誉所長 森 亨
講演③(45 分)
肺の生活習慣病『知っていますか? COPD(たばこ病)』
公益財団法人結核予防会 理事長 工藤 翔二
講演④(45 分)
『喫煙および受動喫煙の有害性~理解されないのはなぜか~』
中央内科クリニック 院長 村松 弘康
第 2 日 2 月 10 日(火)
8:30
時に今後の更なる活動に大きな意味を成すのだと思います。
「結核のない世界」を目指して,結核予防婦人会の皆様の
更なるお役に立てるよう,事務局として今後も努力をして
まいります。
講習会場の風景
講演⑤(30 分)
『結核予防婦人会活動と複十字シール募金運動の意義』
公益財団法人結核予防会 事業部顧問
公益社団法人全国結核予防婦人団体連絡協議会
理事・事務局長 山下 武子
9:10
11:40
12:00
班別討議⑥(140 分)
《 考える・まとめる - 計画を立てる - 》
「クロスロードで考える婦人会活動の活性化」
慶應義塾大学商学部 教授 博士(文学) 吉川 肇子
全体発表会・総評
婦人会の皆様へ(20 分)
終講式
主催者挨拶 結核予防婦人会 副会長
主催者挨拶 結核予防会 専務理事
修了証・バッジ授与 受講生代表挨拶
蛍の光斉唱
班別討議にて受講生と解決策について語る吉川肇子教授
5 / 2015 複十字 No.362
25
第 34 回(平成26年度)結核予防会事務職員セミナー報告
結核予防会支部職員として
結核予防会茨城県支部
公益財団法人茨城県総合健診協会 塩澤 宏典
健診情報部精度管理課 この度,平成27年1月13日から15日まで,東京都
まま結論を選択する研修を受けました。十人十色の意
清瀬市の結核研究所にて開催された「第34回結核予防
見や考えの違いを深く聞くことができ,様々なリスクの
会事務職員セミナー」に参加させていただきました。
捉え方を知り,状況判断能力を磨くことが出来ました。
本セミナーは2泊3日の合宿形式の集合研修のため,
さらに,ワークショップでは,班ごとにテーマに
様々な不安と期待がありましたが,終わってみれば,
沿って発表しました。参加者の意見を聞いていると,
自身にとって大きな収穫となりました。セミナーに参
業務に対しとても情熱的で,活発な意見が交わされま
加させていただけた事を深く感謝するとともに,ここ
した。私たちの班は,組織で活躍する為に
「責任を持っ
でその内容を報告させていただきます。
て業務を遂行し,苦手意識を持たず会社の業務の全て
まず初めに,結核予防会が昭和14年に設立されてか
を知ることが必要である」と考え,さらに「職員同士協
ら,現在に至る75年間の歴史等を講義いただき,健康
力し合い,一丸となって取り組むことで,より組織へ
づくりや疾病対策等の取り組みを学びました。
日本は,
貢献できる」という結論に至りました。能力,経験と
先進国の中でも結核患者が多い「中まん延国」であるこ
もにとても未熟な私は,当初この結論が非常に大きな
とを踏まえ,結核予防会は,
「次の東京オリンピックを
壁で,難しいものと感じました。しかし,周囲の雰囲
迎えるまでに罹患率(人口10万対)16.1から10.0以下
気に触発されて,全ての班が発表を終えた頃には,組
へ減らす」という目標を掲げています。そのためにも,
織へ貢献できる人材になりたいという強い思いがふつ
支部職員として根気よく結核の怖さや正しい知識を広
ふつと湧き起こりました。
く普及,啓発していかなくてはならないと感じました。
最後に,ビジネスマナー研修を受講しました。相手
また,高齢化の進む日本において,働ける人を増加
への思いやりの気持ちを常に意識し,明るく,誠実に,
させることで医療費等の削減及び生産力の向上といっ
優しい心を持って,受診者に信頼される健診・検査を
た国益へと繋げる健康寿命延伸活動やCOPD,胸部疾
提供できるよう,今後の業務に活かし,実践していき
患対策への取り組み及びカンボジア等海外での結核対
たいと思います。
策支援など,国内事業のみならず国際的な健康づくり
今回の研修では,総勢45名の支部職員が集い,研修
機関としての様々な活動を学びました。結核予防会は
のみにとどまらず積極的な情報交換や意見交換を行う
非常に社会貢献度の高い組織である事を認識するとと
ことができ,大変有意義な3日間となりました。温か
もに,健診を通じてそのような活動に少しでも貢献で
くお世話していただいた本部の方々,熱心に指導して
きていると思うと,自分の仕事に誇りとやりがいを強
いただいた講師の皆様に感謝するとともに,出会いと
く感じる事が出来ました。
繋がりを大切にし,今後支部職員としての自覚を持っ
次に,クロスロードという実話を基にした教材を用
い,様々な場面や非常事態を想定し,情報が不揃いな
26
5 / 2015 複十字 No.362
て日々精進し,いつの日かまた皆様とお会いできる日
を楽しみにしています。
日本対がん協会・結核予防会共催
平成26年度 診療放射線技師研修会を終えて
公益財団法人長野県健康づくり事業団
古清水 里江
がん・結核検診課 平成27年3月12日から14日までの3日間,平成26
量肺がんCT検診の現状と課題」
として,米国の肺がん
年度診療放射線技師研修会が開催され,全国から42名
CT検診の公的医療保険適用の話であった。年齢やBI
が参加した。
値等受診者対象を明確にすることで死亡率を下げ,早
初日は,胃・胸部・乳がん検診ごとのグループ討議
期発見により医療費の削減が図れるとのこと。また肺
から始まった。各施設の状況やデジタル化などの取り
がんCT検診を普及させるため認定技師の必要性と求
組み,疑問・問題点について,多くの意見交換が行わ
められる技能について学んだ。
れた。
続いて京都医療科学大学の遠藤啓吾先生の「福島原
午後は,日本画像医療システム工業会の野口雄司先
発事故による放射線の健康影響と診療放射線技師の役
生の講演で「診療報酬改定からの課題」として,今後の
割」の講義から,現在話題になっている健康被害につ
国内の地域ごとの人口や高齢化による年齢層の変化,
いて理解できた。住民は技師の行動をみているため,
医療提供体制の見直しや診療報酬の改定など,技師に
正しい科学的な知識で住民の不安に寄り添う必要があ
関わる分野まで詳細な解説をいただいた。
ると説かれた。
続いて,栃木県保健衛生事業団の阿部聡子先生に
最後に,東京都結核予防会の畠山雅行先生による
よる「乳房超音波検査」の講演では,乳房超音波検診の
「CT画像の読影」については,理解度確認のテストと
画像から次の検診まで生命予後に影響しない乳がん
CT画像のテストが行われた。難しい症例も多く,残
を見落とさず,かつ良性病変を拾いすぎないとして,
念ながら上位正解者のお土産をいただくことは叶わ
MMGと比較しながら超音波画像の特徴や病変の見え
ず,自己研鑽に励む努力が必要であると感じた。
方について症例の解説をいただいた。
最後の講演は,東北大学多元物質科学研究所の百生
敦先生の「スーパーレントゲン」
(X線位相イメージン
3日目のモーニングセミナーは,畠山先生による胸
部X線写真の読影について講義があった。病変の表現
の仕方や着目ポイントなどの解説をいただいた。
グ)という,X線の波の性質を利用した研究で,物質
最初の講演は複十字病院の尾形英雄先生の「肺結核
を通り抜けた波の伝わるタイミングの変化(位相差)を
画像の成り立ち」で,結核菌自体には遊走能・毒性が
画像化するものとして,今後リウマチ診断の実用化に
ないが,菌と闘うリンパ球とマクロファージが塊とな
向けて技術開発が進行しているとのことであった。
り画像として写ること,またリンパ節へ移動するなど
2日目はモーニングセミナーが開催され,メーカー
の特性や,実際に健診で発見された画像の解説では,
2社によるバリウム検査の偶発症と胃背景粘膜からみ
結核の好発部位である肺尖はポジショニングが重要と
るピロリ菌感染についての実用的な講義があった。
の指摘をいただいた。
午前中は胃のフィルム評価をしていただき,グルー
続いて,オーバルコート健診クリニックの馬場保昌
プごとにディスカッションが行われた。各施設の体制
先生による「胃がんX線検診における良悪性判定の求
や撮影の工夫など多岐にわたる話を聞くことができた。
め方と読影の取り組み方」の講演で,X線・肉眼・組
午後の講義は複十字病院の花井耕造先生から「低線
織所見相互の比較対比を繰り返し学習することなど,
読影の基本やその姿勢について学んだ。
最後の講演は,大垣市民病院の川地俊明先生の
「診療
放射線技師読影の実践と教育」
だった。読影補助を行う
上での必要な知識習得,教育システム,そして受診者
や医療従事者との深い信頼関係が重要だと再認識した。
研修会で得た多くの知識は私だけではなく,職場で
も活かせるよう研鑽していきたい。
最後に,講師の先生方をはじめ,世話人及びスタッ
フィルム評価の様子
フの皆様に感謝致します。
5 / 2015 複十字 No.362
27
75周年を迎えた結核予防会の課題
第4回 本部 ・ 第一健康相談所合同業績発表会開催報告
実行委員会事務局代表
本部財務部経理課 篠原 孝彰
2015年2月21日(土)
,第4回目となる本部・第一
積み重ねてきた伝統,経験に加え,さらに事業を向上
健康相談所合同業績発表会を第一健康相談所3階人間
させていくための改善点や課題について,また新たな
ドック待合室にて開催しました。
試みについて等の発表がありました。日常業務からみ
当日は101名の参加(本部31名,第一健康相談所60
名,他施設10名)がありました。また,公益財団法人
神奈川県結核予防会事務局次長の平田直俊様にもお越
つけた課題を事業所の垣根を越えて共有することがで
きるよい機会であると,改めて感じました。
特別講演は,例年当会内の役職員による講演でした
が,今年は75周年記念ということもあり,名古屋大学
しいただきました。
工藤理事長のあいさつの後,
「75周年を迎えた結核
大学院国際言語文化研究科教授の福田眞人先生にお越
予防会の課題」をテーマに,本部より6演題,第一健康
しいただき,
『結核の文化史』と題したご講演をお願い
相談所より8演題計14演題(下記一覧参照)の発表を1
しました。
部,2部に分かれ,それぞれの座長のもと発表,質疑
結核には「死という現実の恐怖」とは対照的に,
「美
人薄命」
,
「天才・創造的人間の宿命」等のイメージがあ
応答を行う形で進行しました。
結核予防会が設立して三四半世紀となり,現在まで
り,また療養所を舞台とするサナトリウム文学が登場
するなど独特な病の一面も有していることについてご
解説いただきました。ボッティチェリの「ヴィーナス
の誕生」を例に挙げ,医学的な専門知識とは異なる観
点からわかりやすくお話ししていただき,出席者の皆
様も興味深く受講している様子でした。
最後になりましたが,業務多忙の中,特別講演を引
き受けて下さった福田先生,演題発表をされた方々,
また座長を務めて下さった皆様に心より御礼申し上げ
ます。昨年11月から集まった7名の運営委員とともに
何とか無事に終了することができましたのは皆様のご
協力の賜物です。誠にありがとうございました。
特別講演 福田眞人先生
発 表 演 題
1 部 演題番号・所属
28
タイトル
2 部 演題番号・所属
タイトル
1 臨床検査科
超音波検査への取り組み
1 放射線科
CT による COPD 検診の導入
2 事業部
婦人会スタディツアー開催の目的と意義
2 情報システム課
身近で起こる漏えい?
3 国際部
予防会のカンボジアにおける活動
3 情報処理課・ 管理課
VPN による遠隔読影システム
~ 75 年の伝統と最新技術を用いたソリューション~
4 施設健診課
来所健診における労災二次健診の
取り組みについて
4 ビル管理室
ゴミの分別の取り組みについて
5 保健看護科
トラブルにならない採血をめざして
-出張健診における採血の現状と工夫-
5 出張健診企画課
メンタルヘルス実施に向けて
6 総務課
総裁お成り業務について
6 人事課
源泉徴収票の見方について
ネットワーク・
7
健診事業課
ネットワーク健診事業における
提携医療機関数の推移と今後の課題
7 診療部
再開、禁煙外来
5 / 2015 複十字 No.362
予防会だより
新宿区「女性の健康週間」イベント
健康になる! キレイになる! 楽しくなる! なるなるフェスタ2015
平成27年3月7日(土)
,新宿区四谷保健センターで開催された新宿区『女性の健
康週間』イベントに,はじめて肺年齢測定ブースを出展しました。このイベントは新
宿区が毎年3月1日~ 8日の女性の健康週間に合わせて,女性の健康づくりについて
考え,取り組むきっかけにすることを目的として開催しています。手作り豆腐教室,
がんや睡眠に関する講演,健康・栄養・歯科に関する相談,スポーツアロママッサー
ジ,骨密度・体組成・血圧測定など様々なメニューが用意されていました。当日は
雨模様にもかかわらず多くの女性が来場され,
健康への関心の高さが伺われました。
当会出展ブースには161名もの肺年齢測定希望者が列をなし,終始順番待ち
の状態でした。
(文責:普及広報課)
平成26年度結核予防会全国支部事務局長研修会並びに全国支部事務連絡会議
3月20日(金)
,
「アルカディア市ヶ谷(私学会館)
」
(東京都千代田区)3階「富士の間(西)
」において,80名の参加
を得て標記会議が開催された。
プログラム
14:10 1.挨 拶
結核予防会理事長 工藤翔二
2.事務局長研修会
講演「医療・介護の連携政策~現状と課題~」
演者 厚生労働省保険局医療介護連携政策課
課長補佐 田中義高 様
15:10 3.事務連絡会議
(1)平成27年度事業計画(案)の協議
①普及啓発事業計画(案)
②複十字シール運動実施計画(案)
③出版事業計画(案)
④国際協力事業計画(案)
⑤日本郵政入札に関する進捗状況について(口頭報告)
(2)連絡事項
①検診車への医師同乗問題について
②2 015年度ACジャパンキャンペーン支援団体の
選出について
③第66回結核予防全国大会について(報告)
④平成27年度結核研究所研修日程について
⑤病院賠償責任保険について
⑥平成27年度行事予定について
(3)その他 16:30 意見交換会 4階 鳳凰の間
2015年世界結核デー報告
世界で新たに結核を発病する人は年間900万人と推計されています。しかし,そ ザンビア(ザンビア事務所)
の三分の一にあたる300万人は適切な結核医療から取り残されています。
3月24日の世界結核デーを記念して,“Reach the 3 Million” -Reach, Treat, Cure
Everyone-(300万人へ届けよう-すべての患者を見つけて,治療し,治す)
のテーマの
下,
世界各地で様々な活動が行われ,
結核制圧に向けた取り組みの重要性を訴えました。
本会海外事務所,複十字シール募金による現地支援活動パートナーの活動の様子
を報告します。
(文責:国際部)
フィリピン(フィリピン事務所)カンボジア(カンボジア事務所)ネパール(JANTRA)
マニラで記念イベントに協力
プノンペンで保健省主催
記念イベントに協力
カトマンズの貧困地区で
集団結核菌検査を実施
ルサカ市で
結核予防啓発イベントを主催
タイ(TB/HIV Research Foundation)
チェンライで
結核予防啓発イベントに協力
5 / 2015 複十字 No.362
29
「次世代をタバコの害から守るために」
第24回日本禁煙推進医師歯科医師連盟
学術総会を開催して
十文字学園女子大学
人間生活学部幼児教育学科 教授
健康管理センター長 齋藤 麗子
2月28日,3月1日の二日間,東京で禁煙医師連盟
シンポジウム1「FCTC と東京オリンピック」では
学術総会を開催した。1992年5月31日の世界禁煙デー
寺原朋裕(厚生労働省健康局がん対策・健康増進課た
の日に東京で禁煙医師連盟の発会式があり,それか
ばこ対策専門官)
,尾崎治夫(東京都医師会副会長・
ら23年経過し今回は第24回の総会を迎えた。発会当
東京都医師会タバコ対策検討会委員)
,野上純子(東
時の我が国の喫煙率は今よりはるかに高く,男性の
京都議会議員)
,大和浩(産業医科大学産業生態科学
喫煙率は60%を超え,男性医師の喫煙率も35~40%
研究所健康開発科学研究室教授)
,岡本光樹(岡本総
という時代であった。その中でせめて医師,歯科医
合法律事務所)などのシンポジストからオリンピッ
師はタバコを吸わず,患者さんにはタバコの害を説
クまで従来の開催国同様に受動喫煙防止条例の策定
明し,病気の治療とともに禁煙につなげようと立ち
が不可欠であることがそれぞれの立場から述べられ
上 が っ た わ け で あ っ た。 今 年 は2005年2月27日 に
た。東京オリンピックまでまだあと5年あるのでと
FCTCタバコ規制枠組み条約が発効されてちょうど
エールも送られた。
10年が経つ。また,2020年の東京オリンピックをタ
シンポジウム2(ファイザー共催セッション)
「次
バコの煙の害が無い東京で成功することも願ってプ
世代を守るための医療者の役割」では羽鳥裕(日本医
ログラムを組んだ。二日間にわたり,内容の濃いシ
師会常任理事)
,岡田寿朗(公益財団法人8020 推進財
ンポジウムを開催し,170人の参加者を得て成功裏に
団 8020 地域保健活動推進委員会委員長)
,藤原英憲
終了したのは,ご参加の皆様のおかげと感謝する。
(日本薬剤師会常務理事)
,中板育美(日本看護協会常
御来賓の挨拶では 正林督章(厚生労働省健康局が
任理事)
,白根璃沙子(神戸大学医学部学生)のシンポ
ん対策・健康推進課長)
,外山千也(厚生労働省元健
ジストそれぞれの職能団体としての喫煙対策の従来
康局長)より,医師連盟への期待も述べられているよ
と今後の取り組みについて述べられ,今後はそれぞ
うで身の引き締まる思いとなった。招待講演では「子
れが連携して取り組む重要性が指摘され,再確認し
どもたちのためにFCTC の内容の実現を」と題して
た。今回は若い考えとして医学生の参加も試み,フ
小宮山洋子
(フリージャーナリスト・元厚生労働大臣)
レッシュな意見も聞かれた。
は国会内に禁煙議員連盟をスタートさせた苦労話も
二日目は大会長講演「母子保健における喫煙対策30
うかがえた。小宮山様には3年前の総会では現職の厚
年の変遷」斎藤麗子(十文字学園女子大学教授)が最
生労働大臣としてご挨拶いただいていた。
近の母子手帳の良い変化や,子どもを取り巻く受動
喫煙状況がまだまだ改善されていない点など多くを
指摘した。
シンポジウム3「次世代に向けて~ FCTC の完全
履行のために」松沢成文(参議院議員,前神奈川県知
事)
,細野助博(中央大学総合政策学部教授)
,平野公
康(国立がん研究センターがん対策情報センターたば
こ政策研究部研究員)
,小池梨花(東京都台東区台東
保健所健康部参事)議会,経済学,企業としてのJT
について,行政それぞれの立場からの意見と提言が
興味深いものであつた。
小宮山元厚生労働大臣
30
5 / 2015 複十字 No.362
今回の学術総会では「次世代をタバコの害から守
る」を主要テーマとし,タバコの煙の無い東京でオリ
市並びに開催国に残すことを推進する」と示されてい
ンピックを成功させることと,FCTC発効10周年を
る。外国の方たちを心からおもてなしするだけでな
記念する総会と欲張った。閉会の時に発表した「無煙
く,オリンピックの終了後に我が国がどれほど良く
都市東京宣言」にもあるように大会宣言として参加者
変わっているかが,問われるのである。今回のオリ
の賛同を得て採択された。今後この宣言をマスコミ,
ンピックではスモークフリー社会として人々に受動
医学界,医師会,議員などに広めていきたいと思っ
喫煙の無い社会という大きなレガシーをもたらして
ている。これからの私たちの様々な働きかけで,受
ほしいと思う。来年の学術総会は沖縄県那覇市を予
動喫煙の害のない社会をめざしたい。
定している。今後一年間もそれぞれの立場で,受動
2020年にはオリンピックが東京で開催され,その
喫煙から身を守るために働きかけをしていくのが,
ための準備は始まっている。IOCのオリンピック憲
タバコ病で亡くなったり病気を発症した喫煙者や受
章には「オリンピックの良い遺産(レガシー)を開催都
動喫煙者たちに対しての我々の役割ではないか。
WHO タバコ規制枠組条約(FCTC)発効 10 周年
タバコの煙のない社会を作る東京宣言
( 無煙都市東京宣言 )
来る 2020 年、国際都市東京で、56 年ぶりの夏季オリンピック・パラリンピック競技大会が開催さ
れます。日本の高度経済成長を象徴するイベントであった前回の東京オリンピックは、新幹線や高速
道路の整備だけでなく、日本人の衛生意識やモラルの向上にも大きく寄与しました。下水道の整備に
より汚れた河川が甦り、ゴミのポイ捨てなどは影を潜め、手洗いが奨励されて赤痢などの感染症が減
り、さらには、下げ止まっていた犯罪率も再び低下していきました。今の日本では「あたりまえ」の
ことばかりですが、これらはオリンピックという国家的イベントが日本にもたらした、世界に誇るべ
き正の遺産(レガシー)であり、私たちもその恩恵を享受しています。
では 21 世紀の東京オリンピックで、我々は次の世代に対し、どのような遺産を遺すことができる
のでしょうか。
国立がんセンター疫学部長だった平山雄先生は 1981 年、世界で初めて、受動喫煙と肺がんとの関
係を明らかにしました。彼の遺志を継ぐ世界中の研究者たちが、数え切れないほどの研究を積み重ね、
能動喫煙が全ての臓器に害を及ぼすことに加え、受動喫煙の害も、前世紀のうちに科学的に揺るぎな
い事実となりました。これらの科学的根拠に基づいて世界保健機関(WHO)は、WHO として初の国際
条約であるタバコ規制枠組条約 Framework Convention on Tobacco Control (FCTC)を起草し、世界
中の国々が合意しました。日本も 2004 年、19 番目の批准国として、包括的なタバコ規制により人々
が健康に生きる権利を守ることを世界に対して約束したはずです。
今年 2015 年は、その条約が発効して 10 年の節目にあたります。私たち医療専門職の役割は、医学
という科学の恩恵を社会にしっかりと届け、一人でも多くの人の命を救い、健康を守ることにありま
す。私たちは、平山博士をはじめとする多くの科学者たちの正の遺産を受け継ぎ、未来を担う子ども
たちを含むすべての人々がタバコの害を受けずに暮らせることが「あたりまえ」の社会を作らなくて
はなりません。飲食店などの完全禁煙に多くの市民が賛成している今、機は熟しています。実効性あ
る受動喫煙の法的規制により顧客のみならず従業員の健康を守ることをはじめ、FCTC の完全実施へ
の動きを加速させることが重要です。いのちを守ることの大切さを、次の世代に伝えて参りましょう。
私たち、日本禁煙推進医師歯科医師連盟と学術総会参加者はここに、全医療専門職と市民社会を代
表し、あらゆる人々がタバコの煙を浴びることなく健康的な毎日を過ごせる「空気のバリアフリー社
会」を作ることを誓い、東京オリンピックの選手村予定地を臨むこの築地より、高らかに宣言致しま
す。
2015 年 3 月 1 日
第 24 回日本禁煙推進医師歯科医師連盟学術総会参加者を代表して
大会長
齋藤 麗子
5 / 2015 複十字 No.362
31
シール
だより
多額のご寄附をくださった方々
〈指定寄附等〉(敬称略)
鈴木謙三記念医科学応用研究財団,水島康
子(複十字病院)
,
プラスジョイテックスカンパニー
(新山手病院)
,
小形清子(新山手病院,
グリュー
ネスハイム新山手)
,小川昌美 ,日本ビーシージー
製造(本部)
〈複十字シール募金〉(敬称略)
福井県 - 福井県工業技術センターゆうわ会,
おおい町,池田町結核成人病予防婦人会,福
井県看護協会,あわら市職員組合,越前町保
健推進員会,勝山市役所健康長寿課,福井県
健康管理協会,福井県立病院看護部,福井県
食生活改善推進員連絡協議会
岐阜県 - 岐阜大学,可茂建設業協会,長良
義肢製作所,日産プリンス飛騨販売,アルフレッ
サ日建産業,米金商店,国際ゾンタ 26 地区エリ
ア 2 岐阜クラブ,岐阜県産業保健センター,ヒル
ムタ興業,大垣ケーブルテレビ,岐阜県立可茂
特別支援学校,岐阜県立飛騨寿楽苑
京都府 - 浄美社
大阪府 - 岡島建三,
大村屋,
富士フイルムメディ
カル,東洋ビルクリーンサービス,フクダ電子近畿
販売,
月岡榮子,
新いづもや,
柳瀬昌弘,
嶽盛博文,
下出喜久子,井上紀代子,森内茂光,池田玲
子,摂津薬局,健栄製薬,市岡医院,中山きみ子,
山本智英,日立メディコ関西支店,コニカミノルタ
ヘルスケア,土田元浩,上田英雄,山川英治郎,
林秀春,
郡慶三,
吉村直樹,
寺坂邦広,
渡邉和彦,
丶
林正明,ディエスジャパン,西川正一
愛媛県 - 吉野病院,長楽寺,兵頭クリニック,
村上耳鼻咽喉科,明長寺,クロスタニン四国販
売,伯方造船,丸石設備工業,西蓮寺,井門ク
リニック,内科消化器科羽鳥病院,セトデン,悠々
会,ロッキー産業,片山医院,大久保内科クリニッ
ク,シンワ,セラテック,潮冷熱,日本食研ホール
ディングス,瀬川隆久税理士事務所,眞理神経
クリニック,レディ薬局,三木特殊製紙,浅野病院,
喜多医師会,おべ工業,カネシロ,武智ひ尿器
科・内科,キタムラメディカル,太陽印刷,四国ガ
ス松山本社,愛媛県看護協会,イサムモーター,
高圧ガス工業,愛媛県国民健康保険団体連合
会,佐伯ビル管理,愛媛新聞社,伊予鉄道,木
元裕子,清水明,山下外記,和気尚美,眞田明
志,池田築,坂上博,伊予銀行
宮崎県 - 宮崎県職員,宮崎市保健所,宮崎
県健康増進婦人の会,川井田医院,政所医院,
向洋クリニック,藤浦循環器科内科クリニック,ど
んぐりこども診療所,永山小児科アレルギークリ
ニック,友絵こどもクリニック,沖内科・小児科医
院,辰元病院,県南病院,共立医院,千代田病
院,宮崎県保険医協会,西弘印刷,
ソフトテックス,
合田初子
本部 - 福田喜一郎,古屋長子,平井理子,松
本博義,峯島茂兵衛,矢島眞気子,小平靖,諸
岡真弓,石井迪子,石黒増夫,観音寺奥村アキ,
杉田製線,中澤悠紀彦 ,日本化薬法務総務部
総務担当係,東京都同胞援護会事業局,日新
化熱工業,八千代銀行総務部総務課,ヤマト特
殊鋼,文光堂,伊藤地塩,藤井宏昌,堀内雅子,
松本淳一郎,宮田耕作,小野沢格子,滝沢武
雄,椿診療所椿弥一,土肥松男,荒木元,伊藤
冨貴子,
飯田光照,
櫻美会石川医院宮川美知子,
今井清兼,
江﨑眞一,
大和田外科医院大和田實,
今井千草,霞会館,全国友の会,市川早苗,小
林糸子,東秀彦,福岡孝儔,細川春雄,舛谷昌,
舞田正暉,増地昭男,増田一郎,宝生寺村田
秀寛,泰耀寺矢田,栁川祚三惠,海晏寺山本
宗孝,山原八重,和田朋子,小野沢静雄,御園
生保子,佐藤潮,常行寺修多羅亮玄,霜田光一,
鈴木照男,外山洋,田澤夏代,多田稔造,河野
和雄,髙橋静子,高良義雄,竹内行夫,竹中小
夜江,土屋キヨ,手島敦子,冨士野みや,中嶋
庄亮,野口精吉,浅沼俊道,井田栄一,井上日
宏,宝蔵院石井栄城,石村英雄,榎本浩,木
村将,木島孝作,まつもとや織畑直義,金丸昊
一,草野高昭,小島海雄,大山智子,坂倉建築
研究所,福永昭代,岸本俊一,松村芳朗,廣川
昌子,小林保彦,小俣宗昭,下田賢司,鈴木明,
千野素行,田村市兵衛,キョーワ PVT 飯田和道,
市川雄一,喜多崇介,加藤千潯,笠原庄治,久
松孝之,久富順平,熊田忠真,毛部川幸子,田
島ルーフィング,秩父石灰工業,本浄寺,浜田寛
子,山脇服飾美術学院清水かつ子,深澤能里子,
福田紘志,福田孟,平岡貞義,平沢久男,宮崎
富夫,秦工務店秦寿吉,田中耕三郎,田村碩子,
善照寺,鳥飼和子,中谷律子,中村福子,長谷
川奎一,野間毅,同文社野田照子,上谷英二,
木曽マス子,早川一胤,平林千江,前川本店,
前田幸一,協和製作 KK 宮下博明,森田恭一,
葉山義洋,
青木秀久,
渡辺電機工業,
長谷川寿々
子,村上美知子,市川美津子,勝本慶一郎,辻
田元子,カトリックレデンプトール修道会,手嶋敏,
藤倉化成,岩田達明,福田暉,寺田真文,石田
弘子,海老沢節子,小石幸雄,武田秀夫,高井
亮治,八木孝雄,常田貞子,井上晴雄,竹中一
雄,武川節,尾形恵子,大島義和
日本 CT 検診学会 夏期セミナー 2015のお知らせ
■
■
■
■
会 期:平成27年7月25日(土)
会 場:主婦会館 プラザエフ(〒102-0085 東京都千代田区六番町 15 TEL: 03-3265-8111)
ア ク セ ス:JR 四ッ谷駅麹町口 徒歩1分 東京メトロ 南北線/丸ノ内線 四ッ谷駅 徒歩 3 分
参 加 費 医師,メーカー,工学関係者
放射線技師他
会 員
10,000 円
  5,000 円
一 般
15,000 円
10,000 円
■ 参加応募開始および締め切り:5月末(予定)~定員に達し次第,終了
■ 定 員:200名
■ プログラム  9:05 ~ 11:05
第14回 肺気腫セミナー
テーマ「肺気腫に合併する喘息,間質性肺炎」
テーマ「研究から実践へ Part2」
11:15 ~ 13:55
第   9  回 技術セミナー
14:05 ~ 16:40
第19回 読影セミナー
テーマ「CT 肺がん検診:観察検診の概要」
※時間等,変更になる場合がございます。
プログラム等の詳細は,日本CT検診学会ホームページに掲載いたします。 http://www.jscts.org/index.php?page=seminar_index
■ 問い合わせ先
日本CT検診学会 事務業務代行 株式会社クバプロ 担当 : 棚瀬
TEL:03-3238-1689 FAX:03-3238-1837 E-mail:[email protected]
平成27年5月15日 発行
複十字 2015年362号
編集兼発行人 前川 眞悟
発行所 公益財団法人結核予防会
〒101-0061 東京都千代田区三崎町1-3-12
電話 03(3292)9211(代)
印刷所 株式会社サンニチ印刷
東京都渋谷区代々木2-10-8ケイアイ新宿ビル
電話 03(3374)6241
結核予防会ホームベージ
URL http://www.jatahq.org/
32
5 / 2015 複十字 No.362
ネパール地震災害義援金ご協力のお願い
このたびネパール巨大地震により被災された方々には謹んでお見舞い申し上げます。
当会は長年にわたりネパールの結核対策強化事業を支援してまいりましたが,このたびの震
災で活動ができない状況になっております。1日も早い事業再開に向けて被災地への義援金を
お願い申し上げます。
【受付期間】 4/30(木)~ 5/25(月)
【振 込 先】 三菱東京UFJ銀行/神保町支店(支店コード013)普通 2200390
ザイ)
ケッカクヨボウカイ リジチョウ クドウショウジ
公益財団法人結核予防会 理事長 工藤翔二
【担 当】 結核予防会事業部 齋藤 Tel 03-3292-9287
平成27年度複十字シール
安野光雅氏の楽しい世界 第14 回
● 里山の営み●
今回は里山の懐かしい農作業がテーマです。春先には田んぼを耕して苗を植え,秋には稲刈り,脱穀,籾すりを
してようやく米の収穫にたどりつきます。そんな作業の合間に家畜の世話や,野菜などを植え育て,秋には収穫の喜
びを分かち合います。日本のどこにでもある懐かしい里山の営みをシールの世界で表現しました。
事業部普及広報課
小型 シール(6 枚綴り)
大型 シール(24 枚綴り)
安野光雅(あんの みつまさ)プロフィール
大正 15 年 3 月 20 日島根県津和野町生まれ。昭和 13 年,絵本「ふしぎな絵」で絵本界にデビュー。画文集,エッセイも多い。その業績に対し,
国内外から数々の賞が贈られている。2012 年文化功労者受章。
「ふしぎな絵」
「ABC の本」天動説の絵本」
「旅の絵本」
「檜本平家物語」
「口語訳 即興詩人」司馬遼太郎の歴史紀行「街道をゆく」の装画,
「絵のある自伝」「わが友の旅立ちの日に」「会えてよかった」など。
津和野町立安野光雅美術館に足を運んでみてください!
〒699-5605 島根県鹿足郡津和野町大字後田イ 60-1
TEL0856-72-4155 http://www.town.tsuwano.lg.jp/anbi/anbi.html
Fly UP