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SD法で測定されたへき地のイメージ

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SD法で測定されたへき地のイメージ
SD法で測定されたへき地のイメージ*
上田敏見・瀧野千春・杉村健・今井靖親・玉瀬耕治・藤田正**
(心理学教室)
心理学教室では、昭和53年度文部省教育方法等改善経費“へき他校における教育実習の指導
法の改善”(代表者上田敏見)により、奈良県吉野郡上北山村および下北山村教育委員会、上北
山村立西原小学校(2級へき他校、5学級、26名)、下北山村立池原小学校(2級へき他校、
6学級、79名)の協力を得て・次のような計画の下に研究を行なった。
l1j授業参観を行う。
12〕授業、学校生活などを録画する。
制 教育長、校長、教職員、保護者代表と懇談する。
14〕SD(Semantic Differential)法により、へき他校などについて学生がもつイメージを
測定する。
15〕 ’学校の設備”、“子どもの様子”、“教師の印象”の3つの観点について、学生に感想
文を書かせる。
上記の計回は、昭和53年11月6日から10日の間に、教官6名と心理学専攻生48名によ
って実施された。このプロジェクトの目的の1つは、へき他校における教育の実態をビデオフィ
ルムにして、教育実習の事前指導に役立てようとすることであった。これについては、訪問した
2つの小学校における1日の生活や懇談会の様子などを、60分用のフイルム各1巻に収録した。
このフイルムは心理学教室と各小学校に保管されている。
もう1つの目的は、計画の14〕と151で述べたように、S D法によるイメージの測定と感想文の分
析を行うことであった。本稿では、主としてS D法の結果を報告し、感想文についても若干ふれ
ることにする。
方
調査対象
法
奈良教育大学心理学専攻生46名で、そのうち実際にへき他校を訪問した者が
30名(以下訪間群とよぶ)・ビデオフィルムを視聴した者が16名(以下ビデオ群とよぶ)で
あった。なお、46名の中には、へき地出身者および当地を訪れた者はいなかった。
SD法の尺度と概念
図1に示した25の形容詞対からなるS D法の尺度を用いた。これは、
‡ Images on Remote Mountain Areas assessed by Semmtic Differential Methods.
榊
Toshimi Ueda,Chiharu.Takino,Takes㎞ Su餉mura,Yasuchika I㎜i,
Koj i Tamase,&Tadashi Fujita(Depart ment of Psychology,Nara
University of Education,Nara)
一149一
菊池(1962)が学校に対するイメージを測定するのに用いたものである。評定されるイメージ(
概念)は’へき地’、‘へき地の学校”、“へき地の教師”および’へき地の児童”の4つであ
った。
とかやでどやかと
な も ち
な て
て
な
もりやいらやりも
1 面 白 い
たいくつな
2 つ ら い
3 のんびりした
楽
4 変
な
きゅうくつな
っ た
あたりまえの
5 簡 箪 な
むずかしい
6 暗
い
明
7 良
い
悪
い
楽
し い
8 つまらない
9 暖
か
ひんやりした
な
10 あやふやな
11美 し い
確
12 どうでもよい
大
な
い
切
な
やかましい
活
い
弱
発
な
い
親しみやすい
16 親しみにくい
17 親 切
か
醜
13静 か な
14 不活発な
15 強
る い
不親切な
な
21あてになる
生々 した
複 雑 な
本 当 の
頼り ない
22 こ
や さ しい
18 くたびれた
19 単 鈍
な
20 う そ
の
わ
い
23変化のある
24 よそゆきの
決りきった
ふだ んの
25 ぼんやりした
はっきりした
図1
ビデオテープ
S D 尺 度
現地にて村の様子・学校の様子(校舎・授業風景、クラブ活動など)を録画
し、西原小学校と池原小学校それぞれ60分用にまとめた。
手続き S D法の評定は、訪間群ではへき地訪問の前後に、ビデオ群はビデオ視聴の前後に
行われた。事前評定と事後評定の間隔は20日前後であり、次の要領で行われた。
4枚つづりのS D尺度用紙を配布し、1枚目の上の余白に“へき地”と書かせた。そして、“
あなたが’へき地’ということばを聞いたとき、どのようなイメージが浮かびますか。下の25の
形容詞の対について、7段階のどれかに1つずつO印をつけて下さい。”という教示を与えて、
一150一
評定を行わせた。つづいて、へき地の学校、へき地の教師、へき地の児童について、同様な評定
を行わせた。
結 果 と 考 奏
■前評定と事後評定
各評定について、S D尺度の左端から右端へ1点から7点までの得点
を与え、各尺度ごとに平均値を算出した。したがって、4点または4点に近い場合には、平均し
てみると’どちらでもない}と評定されていることになる。そこで、平均値が3点以下と5点以
上の場合に、それぞれ形容詞が示す特徴をもっていると考え、3点以下の場合には3点との差の
絶対値、5点以.上の場合には5点との差の絶対値を各尺度について算出した。この値が0.5以上
の場合に、その特徴が強いとみなしれ
表1は、事前評定について差の絶対値が大きい形容詞を示したものである。’へき地”につい
ては、静かな、のんびりした、親切な、美しいが主な特徴としてあげられ、“へき地の学校”で
も、これらに加えて暖かな、大切な、ふだんのがあげられている。“へき地の教師”については、
親切な、暖かな、親しみやすい、ふだんの、強い、むずかしいというようなイメージを持ってお
り、“へき地の児童”では、のんびりした、暖かな、明るい、ふだんの、親切な、面白いがあげ
られている。
表1 事前評定の結果
順位 へ き
1
静かな
2
3
4
5
地
へき地の学校
へき地の教師
へき地の児童
のんびりした1.09
親切な
一98
のんびりした1.13
のんびりした1.02
暖かな
・98
暖かな
.89
暖かな
.89
親切な
、74
親切な
.69
親しみやすい
.80
明るい
.76
美しい
.61
大切な
.68
ふだんの
.65
ふだんの
、70
ふだんの
一26
静かな
、63
強い
.57
親切な
.69
6
暖かな
.19
美しい
。56
むずかしい
.55
面白い
。50
7
単純な
.18
ふだんの
.52
活発な
.48
大切な
一48
8
大切な
.12
明るい
.24
明るい
。43
本当の
・45
9
本当の
.03
親しみやすい.07
つらい
一41
楽しい
41
本当の
面白い
.30
強い
.39
1O
’
1.48
.00
表2は、事後評定について差の絶対値が大きい形容詞を示したものである。“へき地’の訪問
群では、静かな、美しい、のんびりした、親切ながあげられ、順位は異なるが事前評定と同じ特
徴を示している。これに対して、’へき地”のビデオ群では、ふだんの、明るい、暖かなが新た
に加わっている。’へき地の学校”の訪問群では、事前評定で示された静かなとふだんのに代っ
て、事後評定では親しみやすいが入っており、ビデオ群では、明るい 親しみやすい、楽しいが
事後評定であげられている。以上の結果から、訪問またはビデオ視聴によって、へき地の学校は
親しみやすいという印象を持つようになったこと、ビデオ視聴によって、へき地およびへき地の
一151一
学校が明るいという印象を持つようになったことがわかる。
’へき地の教師”の訪問群では、事後評定において大切など明るいが、またビデオ群では大切
な、明るい、活発な、やさしいが新たにあげられている。このように、訪問でもビデオ視聴でも
ともに、へき地の教師は大切であり、明るいという認識が得られたことに注目すべきである。
“へき地の児童”については、訪間群、ビデオ群ともに、明るい、親しみやすい、暖かな、大
切なが主な特徴としてあげられている。これら4つのうち、親しみやすいと大切なは事前評定で
は低い値を示していたものであり、訪問またはビデオ視聴によって印象づけられた特徴であると
いえる。また、事前評定で最高位をしめていたのんびりしたは、事凌評定では低い値になってい
る点も注目すべきである。
表2 事後評定の結果
き
へ
順位
訪
へき地の学校
地
ビデ オ群
問 群
訪
問 群
ビデ オ群
1
静かな
.93
ふだんの
.56
暖かな
.77
明るい
.94
2
美しい
.73
のんびりした
・50
大切な
・63
暖かな
.94
3
のんびりした
.60
明るい
・50
親切な
。53
大切な
.94
4
親切な
。馳
暖かな
・50
のんびりした
、50
美しい
.75
5
暖かな
.20
美しい
・50
美しい
.50
親しみやすい
.63
6
大切な
、1O
静かな
.50
親しみやすい
.50
親切な
.56
7
親しみやすい
.07
大切な
・幽
面白い
.37
楽しい
.50
一
親切な
・幽
明るい
.37
ふだんの
.50
一
本当の
・31
楽しい
.30
面白い
.31
一
楽しい
・00
良い
.10
本当の
.13
8
9
1O
へき地の児童
へき地の教師
順位
訪
ビデ オ群
問 群
訪
問 群
ビデ オ群
1
親切な
1.03
暖かな
名4
暖かな
、70
明るい
。81
2
暖かな
一97
大切な
・94
親しみやすい
一70
親しみやすい
.75
3
大切な
.97
親しみやすい
・81
明るい
一63
大切な
.63
4
親しみやすい
.77
親切な
・69
大切な
.53
暖かな
.62
5
むずかしい
.70
明るい
・56
のんびりした
、43
楽しい
.44
6
明るい
・67
活発な
・50
親切な
。40
ふだんの
.38
7
強い
.50
やさしい
・50
面白い
。30
親切な
.37
8
あてになる
.37
ふだんの
・50
ふだんの
.23
面白い
.31
9
楽しい
.27
むずかしい
・44
やさしい
.20
のんびりした
.31
1O
本当の
.27
生々した
・44
良い
.17
やさしい
.31
訪問およびピデォ祝暁の影■
訪問およびビデオ視聴の影響をみるために、各尺度について
事前評定と事後評定における平均得点の有意性検定を行った。表3は、有意差がみられた尺度に
ついて、平均値の差の絶対値が大きい順に示したものである。たとえば、“へき地’の訪問群で
一152一
明るいが0.90となっているのは、暗いから明るいの方向に評定平均値が0.90変化したことを
示す。
‘へき地一については訪問群で6つ、ビデオ群で10の尺度に有意な変化がみられ、ビデオ視
聴による変化の方が多い。訪問群にみられる明るい、弱い、複雑な、良い、楽しいの5つは、ビ
デオ群でも共通している。訪問によって親しみやすさが増し、一方、ビデオ複聴によってやかま
しい、面白い、あたりまえの、きゅうくつなの方向に変化している。“へき地の学校”について
は訪問群で7つ、ビデオ群で4つの尺度に有意な変化がみられ、訪問による変化の方が多い。両
群に共通してみられる変化はやかましいときゅうくつなであり、訪問群ではあたりまえの、面白
い、不活発な、良いで変化がみられる。
’へき地の教師”については、決まりきったとあたりまえのという方向への変化が両群で共通
している。ビデオ群では“へき地の学校}と同時に、きゅうくつなとやかましいの方向に変化し
ている。“へき地の児童”については両群とも7つの尺度で変化がみられ、弱い、不活発だ、き
ゅうくつな、あたりまえの、複雑なの5つで共通している。
全体を通してみると、訪間群では23、ビデオ群では25の尺度において変化がみられ、その
うち両群で共通しているのは14であった。共通の変化がみられた14の尺度については、実際
に訪間してもビデオを見ても同じ効果があったことを示す。両群に共通していない尺度について
は、訪問とビデオ視聴それぞれ特有の効果があったと考えられるが、その特徴を明確にするのは
難しい。変化した尺度の数を概念ごとに調べてみると、“へき地”が16で最も多く、次に“へ
き地の児童”が14、“へき地の学校}が11、“へき地の教師”が7であった。変化した尺度
が多い概念は、少ない概念に比べて、訪問やビデオ視聴によって認識が変化しやすかったことを
示す。それと同時に、事前評定で描いていたイメージと実際の姿とが大きくくい違っていたこと
を示すものと考えられる。
表3
事前評定と事後評定の差(絶対値)
訪
へき地の学校
地
き
へ
順位
ビデオ群
問 群
訪
問 群
ビデ オ群
1
明るい
.90
やかましい
L31
あたりまえの
.93
きゅうくつなL07
2
弱い
、g0
明るい
止。o
面白い
・74
やかましい
3
複雑な
.84
はっきりした止00
不活発な
.73
はっきりした、94
4
親しみやすい.67
面白い
.94
よそゆきの
.63
決りきった
5
良い
、57
あたりまえの・94
やかましい
.56
6
楽しい
.57
楽しい
きゅうくつな
・53
良い
.53
7
8
9
10
.94
’
きゅうくつな、69
一
良い
一68
一
複雑な
.63
■
弱い
.62
一153一
■
■
■
一
一
一
’
I
■
1.06
・63
へき地の児童
へき地の教師
訪 問 群
ビデオ群
順位
訪 問 群
1 決りきった 止07
きゅうくつなL12
静かな
2 よそゆきの
やかましい 1.12
弱い
3 あたりまえの・63
あたりまえの.75
不活発な
4
5
6
7
決りきった .63
うその
.80
■
複雑な
.67
一
きゅうくつな.60
複雑な
一
あたりまえの一60
不活発な
一67
一
・
・
一
感想文の内容
L27
ビデオ群
L27
}00
弱い
L62
きゅうくつな止OO
あたりまえの.88
つらい
.75
たいくつな .69
.69
.68
学校訪問群については、訪間した夜に先に述べた3つの観点から感想文を書
かせた。その主な内容は次の通りである。
①学校の設備一運動場が広く、教育器機などは充実している。教員住宅があり恵まれてい
る。
②子どもの様子一純粋で素朴で素直で礼儀正しい。明るく活動的であり、人なっっこい。
お互いに仲良く、上級生と下級生の間にも望ましい関係がみられる。体格が劣る。競争心に
欠け・教師に対する甘えがみられ、自主性が乏しい。
③教師の印象一教育への強い熱意をもっている。若い先生が多く、チームワークがよい。
家族的な雰囲気で、きめ細かな指導をしている。担任教師の子どもへの影響力が強い。複式、
複々式学級の指導が難しい。少人数のため教師の発言が多い。研修の機会が少ないと自己流
になりはしないか。
④その他一貴重な体験ができてよかった。最初に抱いていたイメージと違い自然が美しく、
ひらけている。地域ぐるみで教育への取組みがみられる。へき他校で教育実習をしてみたい。
就職が決まれば喜んで赴任するが、長期間になると自信がない。
なお、懇談会の席上で、保護者の代表から、3年間ということでなく、ずっと定着してへき地
教育に取組む先生がほしいこと、子どもの学力や社会性の向上について力を入れてほしいことな
どの意見が出された。
<附記〉 本研究の実施にあたり、上北山村教育長新谷真一郎先生、下北山村教育長北喜八郎先
生、西原小学校長奥野利文先生、池原小学校長仲井淳郎先生をはじめ教職員の方々、および保護
者の方々に御援助、御協力いただきました。厚く御礼申し上げます。
一154一
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