...

スイス 連邦原子力安全検査局 (ENSI)

by user

on
Category: Documents
7

views

Report

Comments

Transcript

スイス 連邦原子力安全検査局 (ENSI)
スイス連邦
連邦原子力安全検査局 (ENSI)
This document is translated by Nuclear Waste Management
Organization of Japan (NUMO) and is not authorized by ENSI.
地層処分場
放射性廃棄物の安全な処分
1
目次
はじめに
地層処分場への長い道のり
放射性廃棄物はどこから発生するのでしょうか
百万年とはどのくらいの長さなのでしょうか
2つの放射性廃棄物処分場
スイスは処分場を探しています: 地層処分場特別計画
地下を明らかにします
地層処分場の地表には何があるのでしょうか
建設技術に対する高い要求
バリアが放射性物質を防ぎます
地下水
ガスの発生とその結果
地上施設の自然災害
地震が起きた場合
距離による安全確保: 地層処分場のための保護範囲
地層処分場の長期的な放射線リスク
安全性を優先します
3
4
6
8
10
12
14
16
18
20
22
24
26
28
30
32
34
発行者
情報小冊子――地層処分場/第2版
© 2013 連邦原子力安全検査局 (ENSI)
発行所
連邦原子力安全検査局 (ENSI)
CH-5200 ブルック (Brugg)、インドゥストリーシュトラーセ (Industriestrasse) 19番地
電話: +41(0)56 460 84 00
ファクス: +41(0)56 460 84 99
電子メール: [email protected]
ホームページ: www.ensi.ch
図表とイラスト
ヌガー有限会社 (nougat GmbH)、CH-4056 バーゼル (Basel)、ザンクト・ヨハンス・フォー
アシュタット (St. Johanns-Vorstadt) 17番地
8/9ページ: ニーダーヴェーニンゲン・マンモス博物館 (Mammutmuseum
Niederweningen) のイラストを使用した風景画
2
はじめに
読者の皆様へ
スイスにおける放射性廃棄物は、原子力発電所、医療機関、工場、研究機関における放射性物質の
利用により、40年以上前から発生しています。放射性廃棄物は、施設の操業中およびその廃止措置に
際して発生します。
スイスは、原子力法により、これらの廃棄物の処分方法を地層処分と定めています。世界の専門家は、
唯一この処分方法が、長期間にわたり高レベル放射性廃棄物の危険から人間と環境を守るということ
に同意しています。同様に原子力法により、地層処分場のサイト選定についても、スイス自国において
行われねばならないと規制されています。
廃棄物発生者が、放射性廃棄物処分の責任を負っています。1972年に、廃棄物発生者により設立さ
れたスイス放射性廃棄物管理協同組合 (NAGRA) は、安全な廃棄物処分のための解決策を開発しなけ
ればなりません。連邦原子力安全検査局 (ENSI) は、監督官庁として必要な安全技術規準を策定し、
NAGRAの提案を評価します。
放射性廃棄物処分のためのサイト選定は、学際的に困難な課題です。したがって、連邦評議会は、
2008年に地層処分場特別計画を可決しました。この選定手続では、安全性が最優先されます。それは、
関係官庁、専門組織、地域に早期に参加を求めることを保証します。それにより、この特別計画は、体
系的で、透明で、参加型の手続に対する前提を作り出します。この計画は、国際的に匹敵するものが見
当たらないほど貴重な手段です。
参加は情報を拠り所としています。「安全技術フォーラム」 (www.technischesforum.ch) は、特別計画
における中心的な情報提供と意見交換のプラットフォームとなっています。このフォーラムには様々な組
織や審議会の専門家が参加しています。このフォーラムは、住民、市町村、立地地域、組織、州、影響
のある近隣諸国の公的機関から出された安全と地質学に関する技術的、科学的な質問について議論し、
またそれに答えるのに役立っています。
独立した監督官庁として、連邦原子力安全検査局は安全技術フォーラムの監督を委ねられています。
連邦原子力安全検査局は一般社会に適切な情報が提供されることを保証します。私たちは、この小冊
子によって、地層処分の安全技術上の観点の概要を皆様にご提供します。これは、安全技術フォーラ
ムにおける具体的な質問や回答に基づいています。ご一読いただきますようお願い申し上げます。
ミヒャエル・ヴィーザー
廃棄物処理監督部長
理事会員
3
地層処分場への長い道のり
スイスには放射性廃棄物があります。これは発電と医療機関、工場、研究機関における放射性物質の使
用から生じたものです。放射性廃棄物の放射能が減衰するまでには、長い時間を要します。私たちは、受
益世代として既に、放射性廃棄物の処分に関する持続的な解決法を探し、実行に移す義務を負っていま
す。スイスの原子力法は、すべての放射性廃棄物は地層処分場へ運ばれねばならないと定めています。
法律により、安全な廃棄物処分は、廃棄物発生者の義務であり、廃棄物処分の費用も負担することに
なっています。医療機関、工場、研究機関から発生する放射性廃棄物の処分については連邦が管轄し、発
電から生じる放射性廃棄物については原子力発電所の事業者が管轄します。廃棄物を処分するために、
原子力発電所事業者は、連邦と共同してスイス放射性廃棄物管理協同組合 (NAGRA) を設立しました。
NAGRAは廃棄物処分のための技術的・科学的基礎を作り上げ、地層処分場のための立地地域を提案し、
立地地域の特徴を明らかにするための調査を実施し、施設の建設と操業を準備します。独立した監督官庁
として、連邦原子力安全検査局は、NAGRAが法規を遵守しているかどうか、また、科学と技術の国際的水
準を考慮しているかどうかを確認します。連邦原子力安全検査局は、作業に際して、研究機関や民間企業
出身の独立した専門家の支援を受けます。
放射性廃棄物は原則としてスイスで処分されねばなりません。国際的解決は、法律においては排除され
ていないものの、実際には国際的処分場はたとえ個別国家の法的枠組条件に基づくとしてもほとんど実現
されないでしょう。
未解決の疑問はどのように解明されるのでしょうか?(安全技術フォーラム、質問第13番及び第40番)
連邦評議会は2006年6月28日の処分の実現可能性実証プロジェクトに関する決定において、原子力発
電会社が廃棄物処分プログラムと同時に連邦評議会に、連邦原子力安全検査局、原子力廃棄物処分
委員会、原子力安全委員会、経済協力開発機構原子力機関 (OECD/NEA) の専門家の鑑定書と見解に
含まれているすべての未解決の課題、指摘、推奨を体系的に把握する報告書を提示して説明することを
命じました。事業者は、その後の手続において、未解決の疑問に、どのように適時かつ適切に答えるか
を示さねばなりません。NAGRAは、2008年10月に報告書NTB 08-02を提出することで、この指示に応じま
した。この報告書は連邦原子力安全検査局によって評価されました (ENSI 33/114)。
4
スイスにおける地層処分場建設への重要な一歩は、適切な立地地域を探すことです。このサイト選定
は、「地層処分場特別計画」に取り決められています。ここでは、高レベル放射性廃棄物のための処分
場の立地地域と低中レベルの放射性廃棄物のための処分場の立地地域が選定されます。サイト選定
は2008年以来続いており、約14年間続けられます。
しかし、適切な立地地域が見つかった場合でも、放射性廃棄物が搬入され、最終的にすべての坑道
が再び完全に閉鎖されるまでには、さらに長い道のりがあります。この道におけるマイルストーンは、
様々な承認ステップであり、これらは建設、操業、モニタリング期間、閉鎖を含んでいます。規則に則っ
た閉鎖またはモニタリング期間の終了後に、連邦評議会は、処分場がもはや原子力エネルギー法の対
象でないことを確認します。連邦は、これ以後、環境モニタリングと同様に、さらなる措置を実施すること
ができます。現在の計画では、高レベル放射性廃棄物の搬入は2035年より前には、また、低レベルの
放射性廃棄物の搬入は2045年より前には始まらないでしょう。多くの低レベルの放射性廃棄物は、原
子力発電所の操業停止後に、初めて発生します。高レベル放射性廃棄物は、搬入が可能になるまで、
冷却のために約40年間中間貯蔵されねばなりません。
(参考文献)
• ENSI 33/110: 廃棄物処理義務者の2008年廃棄物処理プログラムに関する見解、ENSI、ブルック、
2012年。
• ENSI 35/114: NTB 08-02『廃棄物処分証明に関する鑑定書及び見解における推奨の取扱いに関する
報告書』に関する見解、ENSI、ブルック、2012年。
地層処分場を巡る議論における主要な質問
• 低レベルの放射性廃棄物か高レベル放射性廃棄物か? 低レベルの放射性廃棄物と高レベル放射
性廃棄物に関する処分概念は異なります。高レベル放射性廃棄物と比べて放射能が弱い低レベル
の放射性廃棄物は熱を発生しないため高レベル放射性廃棄物より密に積み重ねることができます。
それに対して高レベル放射性廃棄物は強い放射線を出し、多くの熱を発生します。そのため、高レベ
ル放射性廃棄物に対しては、特に厳しい安全要件が適用されます。
• 外部からの影響か、外部への影響か? 地層処分場は外部からの影響、例えば、水の浸入に対して
保護されねばなりません。一方、地層処分場に搬入された放射性廃棄物が環境へ有害な影響を及ぼ
すことは許されません。
• 操業の安全か、長期安全性か? 放射性廃棄物の埋設中、処分場は安全でなければなりません。し
かし、処分場は、操業後も百万年後まで、ずっと安全でなければなりません。
• 地上施設か、地下施設か? 処分場には、地表にも深い地下にも施設があります。閉鎖とともに坑内
の構築物は埋められ、地上施設は取り壊されます。
• 直ちに決定、それとも後で決定?地層処分場への長い道のりにおける多くの決定はまだ行われてい
ません。従って、処分場の計画と建設は、段階的に、技術と科学の最新の知見に合わせることができ
ます。
5
放射性廃棄物はどこから発生するのでしょうか?
体積では10%の高レベル放射性廃棄物
(長寿命中レベル放射性廃棄物を含む)
発電所
放射能毒性
発電
医療機関
操業停止
工場
研究機関
放射能毒性
体積では90%の低中レベル放
射性廃棄物
スイスにおける放射性廃棄物
放射性廃棄物の体積の3分の2は、原子力発電所の廃棄物から、また、3分の1は医療、産業、研究機関からの廃棄物
から成っています。全体積の約10%は高レベル放射性廃棄物であり、これは放射能毒性の約99%を含んでいます。
スイスの核廃棄物は外国へ輸出されるのですか?(安全技術フォーラム、質問第23番)
スイスで発生した放射性廃棄物は、原子力法によりスイス国内で処分することが原則です。処分の
ために放射性廃棄物を輸出することは、そのための国際法上の合意が存在する場合は、例外的事例
として可能です。2006年までは、使用済燃料は、再処理のためにフランス(ラ・アーグ)と英国(セラ
フィールド)へ送られていました。該当する廃棄物の帰還は、予定では2020年までには完了しているで
しょう。2006年以来、再処理のための輸出は、10年間のモラトリアムによって禁止されています。
6
スイスにおける放射性廃棄物の3分の2は原子力発電所から、また3分の1は医療機関、工場、研
究機関から発生したものです。廃棄物は、高レベル放射性廃棄物、長寿命中レベル放射性廃棄物 、
短寿命低中レベル放射性廃棄物 に区分され、長寿命中レベル放射性廃棄物は高レベル放射性廃
棄物と共通の地層処分場で処分されます。
高レベル放射性廃棄物は、原子力発電所からの使用済燃料およびその再処理から生じるガラス
固化体です。高レベル放射性廃棄物の体積は約7500 m3で貯蔵容器に含まれています。長寿命中
レベル廃棄物には、再処理から発生する廃棄物(例えば燃料集合体の被覆管及びエンドピース)と
原子力発電所と研究施設の運転に伴い発生する中レベル廃棄物が含まれています。長寿命中レ
ベル放射性廃棄物の体積は約2300 m3になります。高レベル放射性廃棄物と長寿命中レベル放射
性廃棄物を合わせると、スイスの全放射性廃棄物の放射能毒性の約99%になります。
低中レベル放射性廃棄物は、大部分が原子力発電所および研究施設の運転と廃止措置に伴い
発生する廃棄物ですが、医療や産業からの廃棄物も含みます。LIWの体積は約90,000 m3で、廃棄
物総排出量の約90%に相当します。しかし、それらは全放射能毒性の約1%しか含んでいません。
廃棄物の量は、廃止措置を含め、原子力発電所の稼働期間は50年と仮定されています。
これらの廃棄物は、地層処分場への搬入までは、中間貯蔵施設に保管されます。各廃棄物容器
について、物質の含有量と含まれる放射能が記録されています。廃棄物の体積を可能な限り少なく
保つために、例えば有機廃棄物は、技術的に可能な限り焼却されます。廃棄物は、固化され、安定
化された形でのみ、地層処分場へ搬入することができます。そのために、廃棄物には、例えば、ガラ
ス、セメント、またはビチューメンのような材料が含まれています。
高レベル放射性廃棄物の輸送と中間貯蔵のための容器は、輸送と取扱いの際の万一の偶発事
故に備えて設計されています。これらの輸送用容器(例えば「キャスク」)は、特にその大きさにより、
地層処分には適していません。したがって、使用済燃料と再処理から発生したガラス固化体は、地
層処分前に、封入施設の中で、最終処分場で処分用の容器に封入されます。低中レベル放射性廃
棄物の入った容器は、厚いコンクリート容器に積み替えられます。
(参考文献)
• NTB 08-01: 廃棄物処理義務者の2008年廃棄物処理プログラム、NAGRA、ヴェッティンゲン。
• UVEK (2011): 使用済燃料管理の安全と放射性廃棄物管理の安全に関する合同会議――第4回
全スイス報告書 (Joint Convention on the Safety of Spent Fuel Management and on the Safety of
Radioactive Waste Management – Fourth National Report of Switzerland)、ブルック (Brugg)、
2011年。
重要な概念
• 放射能: 外部からの影響なしに変化し、その際、電磁波 (γ) または粒子 (α, β) を放射する特
定物質の性質。
• 放射能毒性: 放射性物質の放射線が原因となる健康上の潜在的危険を表す計量単位。
7
氷河下のスイス
過去260万年の間、つまり第四紀には、スイスは氷河によって大
きな影響を受けています。巨大な氷の塊が、アルプスから何度も北
部スイスまで覆っていました。その際、最大の氷河作用は、数十万
年前に起こり、最後の氷河作用は2万年近く前に起こりました。
母岩が常に安定していることは、どこからわかるのでしょうか?
(安全技術フォーラム、質問第10番、第15番、第45番)
オパリナス粘土のような母岩となりうる岩石は、数百万年も前に生成されました。地質学
によって見通せる期間は、地層処分場としての所要期間よりも百倍以上長いのです(高レ
ベル放射性廃棄物については百万年、低中レベル放射性廃棄物については十万年)。そ
れゆえ、専門家は、地質学的変化を理解することができ、選定された地域について、所要
期間におけるありうる変化(例えば地殻変動、風化、隆起、侵食)を確実に評価し、母岩の
封じ込め能力の劣化が生じうるかどうかを判断できるのです。
水面下のスイス
母岩の生成: オパリナス粘土の例
約1億8千年前にスイスは熱帯の浅い海に覆われていました。海の中では粘
土が堆積し、これが時間が経過するにつれて固まり、今日のオパリナス粘土
岩になりました。オパリナス粘土という名称は、アンモナイト・リトケラス・オパ
リーヌム (Leioceras opalinum) に由来し、これは化石として今日まで保存され
ています。
始祖鳥
今から2億年前
1億5千万年前
1億年前
ビーチでの5分間は飛ぶように過ぎ去り、歯医者での5分間は永遠に続くように思えることがあります。時
間は、比較によってのみ計ることができます。人間の目から見れば、地球時間の時計は非常にゆっくりと時
を刻みます――それは非常に緩慢なので、私たちは地質学的な出来事をほとんど把握できないほどです。
地球は46億年以上前に形成されました。アルプスの褶曲は、かつての深海の堆積物が数百万年にわたり
今日の巨大な山脈にまで押し上げられたもので、地球の歴史の経過を理解することができます。しかし、地
表では状況が非常に速く変化することがあります。最古の人間の集落は、わずか数千年前のものです。
まさにこの長い時間だからこそ、唯一地下の地層が、放射性廃棄物処分の安全を確保します。「放射性
廃棄物の処分構想に関する専門家グループ」 (EKRA = Entsorgungskonzepte für radioaktive Abfälle) は、
2000年に環境・運輸・エネルギー・通信省の委託により、様々な処分施設を比較し、この処分概念を確立し
ました。
8
百万年とはどのくらいの長さなのでしょうか?
地表は変化します
最近の地球の歴史において
は、地表は次々に変化しまし
た。氷河が何度も前進しては、
融けて消えました。その際、
氷河は、川や湖のある今日
の谷間を作り出したものの、
氷堆石の形の瓦礫も残してい
ます。その間、もっと深い地下
の地質は、変化しないままで
した。
オパリナス粘土(母岩)
恐竜の絶滅
アルプス褶曲
5千万年前
ジュラ山脈褶曲
氷河期
現在
「地層中での最終処分は、放射性廃棄物を処分するための唯一の方法であり、これは(最長で10万年を超える)
長期安全性に対する要求に一致しています。」誰も次の百万年の間に何が起こるかを正確にはわかりません。
しかし、地質学者は、何が起こるかを評価することができます。地層処分の概念は、ありうる将来の変化を想定
しています。
(参考文献)
• EKRA (2000): 放射性廃棄物のための処分構想――最終報告書、連邦環境・運輸・エネルギー・通信省 (UVEK)、ベルン。
• ラープハルト (Labhart), T. (2004): スイスの地質学
• ENSI 33/070: 地質学的立地地域の提案に関する安全技術鑑定書、第4章、ENSI、ブルック、2010年。
処分場はその上にある岩盤層の侵食からどの程度守られるのですか?(安全技術フォーラム、質問第27番)
岩盤層の侵食を判断するには、谷の形成過程を理解することが重要です。クレットガウ (Klettgau)、トゥーアタール (Thurtal)、ライ
ンタール (Rheintal) における複数の例に基づいて、どの谷の形がいつどのように形成されたのかを示すことができます。しかし、侵
食過程はまだ完全には理解されておらず、現在、研究の対象となっています。重要なのは、考えられるすべての変化が考慮された
深い地下に、放射性廃棄物の処分場を建設することです。そのことにより、処分場を百万年間は侵食から守ることができます。
9
2つの放射性廃棄物処分場
今日発生している放射性廃棄物は、数千年間にわたって危険性を有しています。それゆえ、廃棄物は、
人間と環境が長期間にわたって確実に保護されるように処分されなければなりません。そのような長期
間の保護を提供するのは地層処分場だけです。地表の貯蔵施設で保管する、廃棄物を海に沈める、ま
たは廃棄物をロケットで宇宙へ発射するなど、他の処分概念は「放射性廃棄物の処分構想に関する専
門家グループ」 (EKRA) 」によって検討されたものの、あまりに不確実であるとして否定されました。今日
の処分概念は、低レベル放射性廃棄物に対する地層処分場の建設とともに、高レベル放射性廃棄物
のための地層処分場の建設も予定しています。その際、共通の地上施設を持つ複合処分場も可能です。
地層処分場は、岩盤研究所、パイロット施設、主要施設から成り立っています。建設開始前に、将来
の地層処分場の場所に岩盤研究所が設けられます。この研究所では、直接母岩において実験を行い、
立地地域の特性を確認することができます。得られたデータが高い安全要件を満足している場合に初
めて、処分場の建設が始まります(まずパイロット施設、次いで主要施設)。パイロット施設では、地層処
分場にとって代表的な廃棄物が搬入され、比較的長期間にわたってモニタリングされます。岩盤研究所
でも、パイロット施設でも、処分とバリアの両方の概念の基礎となっている重要な前提とパラメータを検
討することができます。パイロット施設が埋め戻された後、主要施設での放射性廃棄物の埋設が始まり
ます。
低中レベル放射性廃棄物の埋設が始まるのは、早くて2035年以降です。高レベル放射性廃棄物は、
十分に冷却されるまで、約40年間中間貯蔵する必要があります。高レベル放射性廃棄物の埋設が開始
されるのは、おおよそ2045年以降で、約20年後に埋設は終了します。その後、監視段階が続き、その期
間は今後当局が決定します。監視段階の間、廃棄物の回収が大きな困難を伴わずに可能でなければ
なりません。アクセス坑道の常時開放のような技術的措置により、回収は容易になります。これは、労
力を惜しまなければ地層処分場の閉鎖後も常に可能です。人間と環境の持続的保護が保証されれば、
連邦評議会は閉鎖を命じます。地層処分場のまだ開いている部分は、その後、埋め戻され閉鎖されま
す。閉鎖された処分場を後に続く世代が、メンテナンスしたりモニタリングする必要はありません。しかし、
現在通常に行われている環境モニタリングの一環としてさらに継続することもできます。
(参考文献)
• BFE (2008): 地層処分場特別計画――構想の部、連邦エネルギー庁、ベルン。
• NTB 02-02: オパリナス粘土プロジェクト、地層処分場の施設と操業に関する構想、NAGRA、ヴェッティ
ンゲン、2002年。
複合処分場にはどのような長所と短所があるのでしょうか?(安全技術フォーラム、質問第41番)
複合処分場とは、高レベル放射性廃棄物と低中レベル放射性廃棄物のための2つの空間的に区分された処
分エリアを使用し、地表は共通施設を使用するものです。長所は、建物とアクセス坑道を共通して利用できるこ
とです。複合処分場に対しては、個別地層処分場と同等の安全要件が適用されます。地下にある両処分場が
相互に影響を与えることは許されていません。したがって、複合処分場の建設は、地下に十分な場所があり、安
全技術上の欠陥が生じないことを前提としています。これはサイト固有のチェックが必要です。
10
地層処分場
主要施設
深い地下に
地層処分場は、主要施設、パイ
ロット施設、岩盤研究所から成り
立っています。高レベル放射性廃
棄物のための地層処分場は(図示
されているように)地下400~900
メートルに計画されています。低中
レベル放射性廃棄物は200~800
メートルの深さに埋設されることに
なっています。
パイロット施設
岩盤研究所
例えばパイロット施設や監視段階に関する既存の処分場概念をさらに発展させるためには、今後、ど
のような研究が必要なのでしょうか?(安全技術フォーラム、質問第40番及び第54番)
NAGRAは、5年毎に、処分プログラムにおいて、どのような廃棄物が存在しているのか、既存の処分
場概念をどのようにさらに発展させ、実現するつもりなのか、また、どのような研究開発計画を次の数十
年間に予定しているのかを説明しなければなりません。この処分プログラムは、連邦原子力安全検査
局によって評価されます。例えばパイロット施設と監視段階に関する処分場概念に対する要求をより正
確に規定するために、連邦原子力安全検査局は独自の研究を行っています。例えば、この監督官庁は、
「パイロット施設の設計や総量」、「モニタリングの計画と設備」、及び「処分場の設計」という3つの研究
プロジェクトを立ち上げました。
11
「地層処分場特別計画」(以下、特別計画という)は、スイスにおける放射性廃棄物の地層処分場候補
地の選定手続を定めています。特別計画は、土地利用計画の手段であり、連邦と州の間の協力を取決
めています。地層処分場特別計画のコンセプトは、連邦エネルギー庁によって他の官庁や機関の協力
のもとに策定され、2008年に連邦評議会によって承認されました。この特別計画には透明で公正なサイ
ト選定を可能にすることが求められています。
地層処分の目標は、人間と環境を長期間にわたって保護することです。したがって、サイト選定は、主
に安全技術上の基準に基づいて行われます。社会的観点や経済上の観点のような他の基準は、従属
的な役割を果たします。手続の最後に(高レベル放射性廃棄物と低中レベル放射性廃棄物それぞれ の
ための、または全ての廃棄物のための)サイトが決定されます。
特別計画は3段階で構成されています。第1段階で、NAGRAは、地質学的に適切な立地地域(低レベ
ル放射性廃棄物処分場は6地域、高レベル放射性廃棄物処分場は3地域)を提案しました。これらは連
邦が定めた安全と技術的実現可能性に関する基準を満たしています。NAGRAは、その際、最新の地質
学的知識を拠り所としました。また、多数の規制規準を考慮しなければなりませんでした。連邦原子力
安全検査局は、NAGRAの提案を検討し、その提案地域に同意しました。国内外の組織は、提案された
地域を第2段階で綿密に調査するよう勧告しました。第2段階の準備として、地域協力関係の構築が行
われました。立地地域は、いわゆる地域会議において、自分たちの利益を主張することができます。第1
段階は、2011年の末に、連邦評議会による地質学的立地地域の決定によって完了しました。
12
スイスは処分場を探しています: 地層処分場特別計画
第2段階では、立地地域は安全性で比較されます。この比較に基づき、NAGRAは、第3段階で
詳細な調査を行うための立地地域を提案します。さらにNAGRAは、個別立地地域の地域会議と
共同で、地上施設の設計と配置に関する提案を策定します。NAGRAは、それぞれ高レベル放射
性廃棄物処分場と低レベル放射性廃棄物処分場について、少なくとも2つの立地地域と、関連す
る地上施設区域を提案しなければなりません。ここでは、引き続き最優先の安全技術的評価に
加えて、社会的、経済的、土地利用的観点に基づいて評価が行われます。提案は連邦原子力
安全検査局と他の連邦の専門部局によって検討され、承認のために連邦評議会に提出されま
す。
第3段階では、残った立地地域の綿密な調査が行われます。立地地域も参加して、処分場プロ
ジェクトが具体化されます。立地地域は、地域開発の促進のためのプロジェクトを提案し、補償
措置のための基準を作り上げます。NAGRAは、調査に基づき、高レベル放射性廃棄物処分場と
低レベル放射性廃棄物処分場のためのサイトを提案します。最後にNAGRAは選定したサイトの
概要承認申請書を提出します。申請書は改めて連邦原子力安全検査局と他の連邦専門部局に
よって審査されます。連邦評議会は概要承認を与えます。これは国会によって批准されねばなり
ません。これらの立地決定は、任意の国民投票の対象となっています。したがって、スイスの有
権者は、サイト選定に関する最終的決定権を持っているのです。
(参考文献)
• BFE (2008): 地層処分場特別計画――構想の部、連邦エネルギー庁 (BFE)、ベルン、2008年。
• HSK 33/001: 地層処分場特別計画――立地評価に関する安全技術基準の由来、説明、適用、
原子力施設安全本部 (HSK)、ヴューレンリンゲン、2007年。
13
測定ステーション
震源
振動
反射岩盤層
地震測定
専門家は、音響測深機と同様に、地震測定により地下
を詳しく調査します。震源から発せられた振動は、その
際、岩盤層で反射します。反射した振動は、地表の測定
ステーションによって記録されます。所要時間から岩盤
層の深さを計算することができます。
適切な処分場サイトを選定する過程では、地質学的に地下を知る必要があります。そのための
データと結果は、幅広い地質調査によって得ることができます。基本的に、調査対象岩盤への直
接的な調査(例えばボーリング)と、岩盤への間接的な方法(例えば物理探査)があります。地質学
者は、岩石露頭箇所(サイトにおいて調査対象岩盤が現れている場所)でさらに結果を取得します。
地層処分場の安全に関する重要なファクターは、母岩と周囲の枠組岩盤が破損していないこと
です。したがって、これらの岩盤を傷つけない調査方法には大きな重要性があります。特に地震探
査では、地下の正確な画像を獲得します。
地震波測定の原理は、船舶の音響測深機と類似しています。信号源(爆破、震動発生)から震動
が地中へ発せられます。これらの振動は波状に広がります。岩盤層の境界で振動は反射し、地表
の測定ステーションで記録されます。地下を通り抜ける振動の所要時間に基づいて、反射する岩
盤がどれほどの深さにあるのかがコンピューターで計算されます。そのような多くの測定を分析評
価することにによって、地下の地質学的構造を決定することができます。
地震測定の方法は、既に数十年前から、地質学の様々な分野で、例えば、資源(石油、天然ガ
ス、地下水)の探査、建設用地や廃棄物による汚染地域の調査、または自然災害を評価する際に
用いられています。そのため、専門家は過去の多くの経験を利用することができます。地下におけ
る地質学的構造と物理的パラメーターの解像度は、測定装置によって大きく異なります。地層処分
場の深層領域における10メートルオーダーの必要解像度は、今日の地震学の方法によって達成
することができます。
地球物理学において使用される他の方法には、重力による測定方法、電気による測定方法、電
磁気による測定方法、または磁気による測定方法があります。
14
地下を明らかにします
地下の地質構造と物理的特性の全体像を得るためには、しばしば様々な、相互に補完する地球科
学的調査が用いられます。
物理探査では、調査対象の地下を網羅的に空間把握することができるものの、間接的な測定方法
のため、ある種の不正確さが残ります。したがって、得られた測定データを実験結果及びボーリング
と比較しなければなりません。ボーリング、掘削機による調査などの方法により、ある点に限定した正
確な情報は得られるものの、これらを全国的に用いることはできません。最終的にどのような測定方
法を使用するのかは、調査の目的によって異なります。
(参考文献)
• HSK 35/99: 使用済燃料集合体、ガラス固化された高レベル放射性廃棄物及び長寿命中レベル放
射性廃棄物のためのNAGRAによる処分証明に関する鑑定書(オパリナス粘土プロジェクト)、第
2.3章。
• NAGRA: http://www.seismik-news.ch
物理探査によって母岩であるオパリナス粘土の下側の比較的大きな断層も認識することができ
るのでしょうか?(安全技術フォーラム、質問第32番)
オパリナス粘土のような堆積作用によってできた表土に属する地層では、比較的大きな断層は、
通常は地震探査によって確実に認識することができます。これらの地層は、様々な物理的性質
に基づいて確実に調べることができるからです。結晶質岩の場合、堆積作用によってできた表土
の下側における断層は、しばしば認識することができません。オパリナス粘土に達していない(少
なくとも約1億8千万年前から活性化していなかった)オパリナス粘土の下側の大きな断層が、次
の百万年の間に再活性化され、上方へ伸びる確率は非常に僅かです。しかし、こういったケース
を完全に排除することはできないので、これは安全解析において考慮されます。
15
地層処分場の地表には何があるのでしょうか?
操業施設
封入施設
巻上げ櫓
斜抗/立坑
サッカー競技場11個分の面積
高レベル放射性廃棄物の地
層処分場の地上施設は、
NAGRAの見積りによれば、大体
200メートル×400メートルの広
さを占めます。この平面には、
処分場の建設と操業に必要とさ
れる基盤施設が置かれます。
地上施設の計画はいつ具体化されるのでしょうか?(安全技術フォーラム、質問第60番)
特別計画のプロセスの一部として、地上施設の基本的特徴(用地、主要な建造物の大きさと位置)が、
概要承認のために策定されます。これは、第2段階(用地の位置)及び第3段階(極めて重要な建造物の
大きさと位置)において、地域との緊密な協力の下行われます。2012年1月に、NAGRAは、立地地域との
話し合いにおいて、地上施設のための可能な場所を紹介しました。手続のその後の経過において、
NAGRAは、地上施設のために少なくとも1つのエリアを各地域毎に提案しています。詳細な配置の決定と
建物の設計は、建設許可のための書類の作成とともに、2026年以降(低レベル放射性廃棄物処分場)、
または2040年以降(高レベル放射性廃棄物処分場)に初めて行われます―つまり、サイト選定が行われ
た数年後です。
16
地層処分場を目に見える形で表すものは、地上施設になるでしょう。それは地層処分場への入口で
す。ここにはアクセス坑道と操業のための建物があります。放射性廃棄物は受け取られ、詰め替えら
れます。地上施設は、原子力施設として、原子力法の厳格な安全要件の対象となります。
建設段階の間、用地は斜坑施設と立坑施設の建設のための場所です。NAGRAは、地上施設のため
に必要な面積を高レベル放射性廃棄物処分場についてはおよそ200×400メートル、低レベル放射性
廃棄物処分場についてはおよそ150×350メートルと見積もっています。高レベル放射性廃棄物処分
場に必要な面積は、サッカー競技場の約11倍に相当します。立坑施設が建設されれば、巻上げ櫓も
用地またはその近隣に建てられます。立坑施設の正確な立地場所は、建設承認とともに定められま
す。
操業段階では廃棄物が受け入れられ、封入施設へ移されます。地層処分場への搬入は、車両また
はエレベーターで斜坑または立坑を経由し行うことができます。また、事務室、実験室、作業場、さらに
地下換気施設を収容する施設が必要です。高レベル放射性廃棄物のために、封入施設にはいわゆる
「ホットセル」が含まれています。その中では廃棄物が輸送コンテナから貯蔵コンテナへ積み替えられ、
埋設の準備が行われます。同様の作業が、今日では、ヴューレンリンゲンの中間貯蔵施設で行われ
ています。
サイトは、道路、可能であれば線路によりアクセス可能となります。道路および線路は、建設と操業
に必要な資材(砂利、セメント)や地層処分場の建設に際して生じる掘削物、廃棄物や緩衝材の輸送
に使われます。
地域住民の主な影響は、建設段階の期間に生じると予想されます。その際、掘削された岩石の輸送
によって騒音と埃による影響が生じることがあります。掘削物の搬出は、可能であれば、鉄道によって
行われます。NAGRAは、建設段階の最初の数年間については、掘削物を搬出し、砂利とセメントを搬
入する列車を1週間あたり5~10本と予想しています(1日あたりトラック約30~60台に相当)。建設段階
の後では、放射性廃棄物の輸送が行われますが、建設段階に比べると僅かな交通量になると予想さ
れます。NAGRAは、それぞれ、高レベル放射性廃棄物については1~2ヶ月毎に1回の鉄道輸送を、低
中レベル放射性廃棄物については1週間あたり1~2回の鉄道輸送を前提としています。それにさらに
操業材料(空の地層処分場用キャニスタ、掘り出した土砂、緩衝材)について1週間あたり2~3本の列
車が加わります。
連邦原子力安全検査局は、操業段階の間、防護措置と安全措置によって、輸送中と廃棄物搬入中
の事故による危険が最小限に抑えられるように監視します。
(参考文献)
• NTB 02-02:オパリナス粘土プロジェクト、地層処分場の施設と操業に関する構想、NAGRA、ヴェッ
ティンゲン、2002年。
• NTB 11-01:地層処分場の地上施設用地の配置とその開発に関する提案、NAGRA、ヴェッティンゲン、
2011年。
17
アクセス坑道
地層処分場の建設に際して、掘削された
空洞の周囲に、亀裂の入った掘削損傷区
域が生じます。透水性の岩石においては、
これらの区域を密封しなければなりません。
止水材
地層処分場の技術的実現可能性を判断す
る際の重点項目
スイスにおける地層処分場は、200~900メートル
の深さに設置することが予定されています。建設に
際して、専門家は、従来の深部採鉱から得られた多
• 今日の前進式切羽技術と保安技術によ
る実現可能性
• 空洞の周囲にある掘削損傷区域の最小
化
• 建設中と操業期間中における空洞の安
定性の確保
• 水の浸入の抑制
• バリア及び安全概念の整合性がある保
安手段
くの経験を利用することができます。専門家は特に
地盤と岩盤の強度及び水の浸入に注目しています。
しかし、地層処分場の長期安全性(長期間の封じ込
めと放射性物質の漏出防止)には、追加の考慮事項
も必要です。その際、埋設区域とアクセス坑道を区
別しなければなりません。
埋設区域は、母岩の中にあり、母岩は天然のバリ
アとして放射性物質を閉じ込め、漏出を防ぎます。し
たがって、地層処分場は、母岩のバリア効果が保持
されるように設計されなければなりません。
18
建設技術に対する高い要求
アクセス坑道の周囲には掘削損傷区域が生じます。この区域は地層
処分場の長期安全性にどのように影響するのでしょうか?
掘削物
(安全技術フォーラム、質問第28番)
アクセス坑道は、母岩と枠組となる岩石及びその上にある被覆層を
密閉
貫通します。長期安全性については、母岩とその上下の岩盤のみが、
放射性核種の漏出防止に対する基準となります。したがって、斜坑と
立坑の掘削損傷領域の封じ込めは、優先的に考慮されねばなりませ
ん。これらの領域は、例えばベントナイトで密封されます。水または水
掘削物
分と接触すると、ベントナイトは膨潤し、隙間を塞ぎます。その際、膨
潤に必要な水は、周囲の岩石の間隙水から供給されます。モン・テリ
密閉
岩盤研究所での実験は、ベントナイトの完全な飽和が数百年後によう
やく完結することを示しています。母岩上部のアクセス坑道区間は、
さらに様々な箇所で膨張可能な材料によって密封されます。そのこと
により様々な地下水位が回復されます。
密封の後
高レベル放射性廃棄物が搬入されると、処分場の横坑
には膨潤するベントナイトが填充されます。そのことにより、
掘削損傷領域の亀裂は再び埋められます。
膨潤するベントナイト顆粒
建設技術(掘削方法、保安、支持材)と緩衝材の選択は非常に重要です。横坑内の岩盤中の、いわゆる掘削
損傷区域を最小化することが求められています。同様に封じ込めに貢献している母岩の上の岩盤(枠組岩盤)
に対しては、バリア作用を確実にするために、同様の建設技術上の要求が適用されます。
重なっている岩盤を貫くアクセス坑道(斜坑と立坑)の場合、主要な観点は、建設技術上の実現可能性と建設
中及び操業中の水の浸入を抑制することが重要です。さらに防止されねばならないのは、水がアクセス坑道に
沿って密閉作用のある岩盤領域(母岩及び周辺岩盤)にまで達することです。
地層処分場を閉鎖するために、アクセス坑道は充填され、密封されます。このような密封の水密性は、地層処
分場の長期安全性に直接的影響を及ぼします。埋設区域とアクセス坑道には、密閉作用のある、例えば、膨潤
し、それにより密封する性質も持つベントナイトによる充填が予定されています。ベントナイトは、様々な粘土鉱
物から成り立っている材料であり、粘土に富む多くの岩石と同様、放射性物質の漏出を防ぐ優れた特性を示し
ます。密閉作用のある岩盤領域の上部にあるアクセス坑道は、様々な地下水位が再び回復されるように充填さ
れます。
(参考文献)
• HSK 35/99: NAGRAの処分証明に関する鑑定書(オパリナス粘土プロジェクト)、第3.2章、HKS、ヴューレンリ
ンゲン、2005年。
19
組み合わせた構造になっています
人工バリアと天然のバリアによって、できる限り放射性核種の漏出
を防ぎます。高レベル放射性廃棄物は、低中レベル放射性廃棄物
よりも技術的に複雑なバリアが必要です。
高レベル放射性廃棄物地層処分場
上方の岩盤
充填
母岩
地層処分用容器
廃棄物
低レベル放射性廃棄物地層処分場
下方の岩盤
充填
地層処分用キャニスタ
廃棄物
人工バリアと天然のバリアは、地層処分場において放射性核種の放出を遅らせ、それらの周囲の岩盤への移
行を制限します。バリアによって受動的安全性を確保することができるため、処分場を長期間にわたって監視す
る必要はありません。
人工バリア
廃棄物
高レベル放射性廃棄物は、しっかりとした形態にされます。再処理から生じる廃棄物は溶融ガラスで固化されま
す、使用済燃料は燃料自体が廃棄物です。燃料もガラスも放射性物質の漏出を防ぎ、どちらも地層処分場では
非常にゆっくりと劣化します。低中レベル放射性物質も、ガラス、セメント、ビチューメンなどによりしっかりと固定
されます。
地層処分用キャニスタ
廃棄物を封入した地層処分用キャニスタは、廃棄物が早い時期に溶解するのを防ぎます。高レベル放射性廃
棄物に対しては、現在の処分概念に基づいて、15 cmの厚さのある鋼鉄が使用され、これにより廃棄物は数千年
間にわたり封じ込められます。この期間内に放射性物質の大部分は崩壊します。さらに、鋼鉄容器の腐食で発生
する物質は、放射性核種を化学反応により吸着することができます。低中レベル放射性廃棄物のキャスクは、地
層処分のために、厚いコンクリート容器に封入され、空隙にはモルタルが注入されます。
20
バリアが放射性物質を防ぎます
放射性廃棄物の処分について、例えばドイツは岩塩層を選択しているのに、なぜスイスは粘土質岩に処分しよ
うとするのですか?(安全技術フォーラム、質問第30番)
世界中の多くの国々が、地層処分場建設プロジェクトを進めています。それらの国々は、例えば、岩塩(ドイ
ツ)、結晶質岩(フィンランド、スウェーデン)、粘土質岩(スイス、ベルギー、フランス)のような様々な母岩を選ん
でいます。「理想的な」母岩は存在しません。各国の地質から処分場の地質学的条件を定めています。例えば、
スイスでは地層処分に適した岩塩は存在しないものの、それに適した粘土が存在しています。それぞれの国に
おけるプロジェクトは、定められた防護目標を達成できるような母岩を用いています。
キャニスタが廃棄物よりも早く壊れることはないのですか?(安全技術フォーラム、質問第11番)
廃棄物には、処分用キャニスタの耐用年数よりも長い崩壊時間(半減期)を持つ放射性核種が含まれていま
す。したがって、地層処分場の安全概念は、多重バリアの原理に基づいています。これは人工バリアと天然の
バリアの設計により、放射性核種の拡散を防ぎ、安全なレベルを保つ考え方です。処分用キャニスタが壊れるこ
とは、この処分概念において既に考慮されています。
放射性核種が、長期間、または問題となる量以上が、人間の生活圏に到達しないようにするためには、天然の
バリアまたはサイトに関する以下の特性が貢献します。
•
•
•
•
•
•
母岩と上下層の岩盤の十分な強度と深い位置
透水性の低い小さな岩盤の小さな間隙
亀裂を自ら塞ぐ岩盤の能力
長期にわたり持続する地質学的安定性
変形が起こらないか、または僅かである
侵食から保護されている
充填
高レベル放射性廃棄物の処分坑を充填するために、粘土材料(ベントナイト)が使用されます。ベントナイトは、
その膨潤性により処分坑を完全に埋め、亀裂が生じても自ら密閉する働きをします。その上、ベントナイトは非
常に小さな透水性しかありません。ほとんどの放射性核種はベントナイトに吸着され、移行が遅れます。これに
より放射性核種の大部分は、ベントナイトを通り抜ける前に崩壊します。低中レベル放射性廃棄物の場合、処
分坑にはセメントモルタルが充填されます。この材料にもほとんどの放射性核種が付着します。
天然バリア
母岩と周辺岩盤
母岩は地層処分場の埋設区域の放射性物質を吸着し、拡散を防ぎ遅らせます。母岩の上部と下部には、わ
ずかに浸透性のある上下の岩盤があることがあります。これは同様に放射性廃棄物の閉じ込めに貢献します。
これらの岩盤(母岩とその上下の岩盤)は、「閉じ込め岩盤層(密閉作用のある岩盤領域)」と呼ばれます。人工
バリアと同様、天然バリアも放射性核種の漏出を受動的に防ぎます。
(参考文献)
• ENSI 33/070: 地質学的立地地域の提案に関する安全技術鑑定書、第4章、ENSI、ブルック、2010年。
• HSK-AN-5262: 処分証明: 長い道のりの段階、HSK、ヴューレンリンゲン、2005年。
• HSK 35/99: 使用済燃料集合体、ガラス固化された高レベル放射性廃棄物及び長寿命中レベル放射性廃棄物のための
NAGRAによる処理証明に関する鑑定書(オパリナス粘土プロジェクト)、第4章、HSK、ヴューレンリンゲン、2005年。
• NTB 08-03: SMA処分場とHAA処分場のための地質学的立地地域の提案――要求、手続、結果の説明、第2章、NAGRA、
ヴェッティンゲン、2008年。
• NTB 08-04: SMA処分場とHAA処分場のための地質学的立地地域の提案――地質学的基礎、解説の部、第4章、NAGRA、
ヴェッティンゲン、2008年。
21
地下水
処分場の放射性物質は、水に溶けて拡散しますので、水が地下のどこに存在し、どのように流れ
るのか理解することが重要です。
水は地下のほとんどすべての地層に(処分場のための母岩の中やその上にある被覆層の中にも)
存在します。しかし、母岩は非常に水密性があるため、隙間水は自由に流れることはできません。た
だし、溶けた物質は、拡散によって非常にゆっくりと間隙水の中を動くことがありますが、1000年間に
わずか2、3センチメートルです。
また、水に溶けた多くの放射性物質は、粘土鉱物に吸着します。その上、粘土質の母岩には、非
常に微細な穴があり、放射性核種を保持することができます。しかし、母岩が地表近くに曝され風化
してもろくなった場合、保持する特性を失います。したがって、母岩は地下の非常に深いところに位
置していなければならず、岩盤は十分に厚くなければなりません。粘土質の母岩は、自らが時間の
経過で漏れ出る箇所を閉塞する能力を持っています。例えば、サン・テュルサンヌ (St-Ursanne)
(ジュラ州)にあるモン・テリ岩盤研究所では、オパリナス粘土中に坑道を掘削した後、濡れた箇所が
いくつか観察されましたが、それらは数ヶ月後には自然に塞がりました。
処分場の建設に際しては、放射性廃棄物を埋設する前であっても、透水性の岩盤いわゆる帯水層
は、横断するアクセス坑道(立坑、斜坑)による影響から防護しなければなりません。帯水層は、飲
料水またはミネラルウォーターの貯水槽として保護しなければなりません。そのためには、トンネル
工事で普通に行われている、防水と排水のための方法を用いることができます。もちろん、完全な防
水は、達成できません。
岩盤の水密性と深い地下での水の動きについては、何がわかっているのですか?
(安全技術フォーラム、質問第10番)
放射性廃棄物の地層処分は、何十年も前から国際的研究の対象になっています。深層地下水
に関する知識は、工業化が始まって以来、石油と天然ガスの探鉱から得られています。温泉掘削
と温泉、地熱井掘削とNAGRAの調査(例えば透過性テスト、地震探査、水試料の分析)によって、
地下の構造と地下水の存在に関するさらなる認識が得られました。NAGRAはこの結果を報告書
NTB 08-04にまとめました。この知識によって、地下における水の動きを今日では理解することがで
き、容易に記述することができるのです。
22
流入した地下水は、排水するか汲み上げなけ
ればなりません。したがって、アクセス坑道の経
路を適切に選択することにより、水の浸入や他
の建設上の問題を最小限に抑えることを目指し
ています。
地層処分場の操業中には、水が地表からアク
セス坑道に沿って埋設区域まで達するのを避け
なければなりません。粘土質の母岩は、加わっ
た水に反応し、その好ましい特性を部分的に失
うことがあるからです。したがって、連邦原子力
安全検査局は、その指針ENSI-G03において、地
表とアクセス坑道からの水の浸入を妨げるか、
または抑制しなければならないことを確認するこ
とにしています。
(参考文献)
• ENSI 33/115: NTB 10-01『SGT第2段階におけ
る暫定的安全分析のための地質学的基礎資
料の評価』に対する見解、ENSI、ブルック、
2011年。
• ENSI-G03: 地層処分場の設計原則とセーフ
ティケース(安全証明)に関する要件、ENSI、
ヴューレンリンゲン、2009年。
帯水層
帯水層
上層岩盤
粘土質岩中の水に関する調査からは何がわ
かっているのですか?
• 間隙水は百万年も前のもので、海水の典
型的な組成を有しています。海水は、例え
ばオパリナス粘土の中に、ずっと保存され
ていました。⇒これは、水が長い間閉じ込
められていて、水の循環がなかったという
ことを示しています。
• 水密性のある粘土質岩の上下の水は、年
代、化学的組成、支配的な圧力条件によっ
て大きく異なっています。⇒これは、その間
にある粘土質岩にどれほどの水密性があ
るのかということを示しています。
• 自然に溶けた物質は、水密性のある粘土
質岩の中では均等に混合していません。
⇒間隙水は長い時間にわたって流れるこ
とができませんでした。
何百万年も前の「海
水」を含む母岩
下層岩盤
帯水層
地下水層
地下には、水が流れることができる透水性の地層があります。
これらの帯水層は飲料水の貯水池として機能し、地層処分場
の建設の際には特に保護しなければなりません。しかし、非透
水層(母岩と周辺岩盤)にも水は存在しますが、そこでは流れ
ることはできません。閉じ込められている間隙水は、何百万年
も前のものです。
23
ガスの発生とその結果
長寿命容器の寿命は限ら
れています
容器の材料(例えば鋼
鉄)は、ゆっくりと間隙水と
接触して腐食します。その
際、水素ガスが発生しま
す。高レベル放射性廃棄
物のための最終処分用
キャニスタは、腐食しても
1000年間は水密性を持ち
続けるように設計しなけ
ればなりません。
間隙水
ガス
処分用キャニスタの周囲のガス圧
は上昇します
キャニスタの腐食の際に発生す
るガスは、ある圧力を超えるとベン
トナイトの外被を通り抜け、母岩と
の境界に集まります。
ガスは間隙水に溶けます
集まったガスは母岩の
間隙水に溶け始めます。
間隙水に溶けたガスは拡
散によって外へ移行しま
す。
埋設された廃棄物からは、金属の腐食と有機物の分解により、時間の経過とともにガスが発生します。
ガスの約95パーセントが水素であり、ガス混合物の最大の割合を占めます。水素は鉄と間隙水の反応に
よって発生し、放射性ではありません。さらに微生物が有機廃棄物(例えば操業廃棄物に含まれる樹脂や
充填材のビチューメン)を分解することがあり、その際、ガスとして二酸化炭素とメタンが発生します。二酸
化炭素は反応によりセメントと化学的に結合するので、メタンがガス混合物の第2の主要な構成要素となり
ます。ガスのうち、トリチウム、ラドン、炭素14のような、非常に僅かなものが放射性です。ただし、トリチウ
ムとラドンは短寿命です。従って炭素14のみが、安全解析の対象になります。
高レベル放射性廃棄物処分場と低レベル放射性廃棄物処分場において発生するガスの量は似ていま
す。主な違いは、ガス発生の時間的経過にあります。NAGRAは、高レベル放射性廃棄物については、20
万年にわたってほぼ一定の割り合いでガスが発生することを前提としているのに対し、低中レベル放射性
廃棄物については、ガスの発生は、特に最初の1万年に起こると想定しています。ガスが発生すると、地
層処分場内部の圧力は上昇します。この圧力の上昇は、部分的には、間隙水が押しのけられるだけでは
なく、既存または新たに形成された微小亀裂によって吸収されます。地層処分場は、ガスの発生が母岩の
バリア特性に影響をあたえないように設計されねばなりません。
24
母岩
填充
ガスは間隙水を押しのけ、微小亀裂に沿って漏れ
出します
流入したガスが(飽和に達したために)間隙水に溶
けることができない場合、間隙水はガスによって押
しのけられます。地層処分場の周囲の狭い領域に
おいては、さらに極めて微細な亀裂が開くか、新た
に形成されることがあり、そこを通ってガスが移動し
ます。
粘土鉱物は膨潤し、微小亀裂は塞がれます
ガスの発生が減少すると、ガス圧は低下し、
微細な穴は徐々に再び水で満たされます。膨
潤性の粘土鉱物は、発生した微小亀裂を塞
ぎます。
ガスの発生を抑制するにはいくつかの方策があります。ガスを防止または減少させる材料を使用するとか、ガスに多
くの空間を与えるというような、最適の処分場設計を行います。さらに、ガスは通すが水は通さない、適切な密閉材料を
使用することもできます。
(参考文献)
•
•
•
NTB 04-06: オパリナス粘土中に位置する使用済燃料、高レベル廃棄物及び長寿命中レベル廃棄物処分場における処分後のガ
ス発生の影響 (Effects of Post-disposal Gas Generation in a Repository for Spent Fuel, High-level Waste and Long-lived
Intermediate Level Waste Sited in Opalinus Clay)、NAGRA、ヴェッティンゲン (Wettingen)、2004年。
NTB 08-07: 北部スイスのオパリナス粘土中に位置する低中レベル廃棄物処分場における処分後のガス発生の影響 (Effects of
post-disposal gas generation in a repository for low- and intermediate-level waste sited in the Opalinus Clay of Northern
Switzerland)、NAGRA、ヴェッティンゲン (Wettingen)、2008年。
ENSI 33/070: 地質学的立地地域の提案に関する安全技術鑑定書、ENSI、ブルック、2010年。4
地層処分場の横坑内の最大許容ガス圧はどのくらいでしょうか? また圧力はどのように「制限」されるのでしょうか?
(安全技術フォーラム、質問第29番)
母岩のバリア特性に影響を与えない最大許容ガス圧は、母岩の深さ、強度、透過性によって異なり、サイトによって
異なります。ガスを発生させる材料を削減するか、最小化することによって、地層処分場における圧力は抑制されます。
例えば地層処分場の適切な設計により、またはガスを通す砂/ベントナイト混合物を緩衝材として(安全弁のように)特
定の場所に使用することにより、ガス圧は抑制されます。NAGRAは実験と安全解析により、母岩のバリア特性に影響を
与えないことを示さなければなりません。
25
地上施設の自然災害
回避するのか、持ちこたえるのか
地下数百メートルにある処分場とは対照的に、地上施設は自然災害に直接さらされています。地表における自然
災害は、2つに分けて考慮することができます。洪水または崖崩れのような危険は回避し、暴風雨のような既存の
脅威には、これに耐えるように施設を建設するのです。
処分場は、地上と地下の施設で構成されています。地上施設は、操業段階の間、幅広く多様な自然
災害にさらされています。それは、洪水、地滑り、崖崩れ、雪崩、暴風雨や地震にまで及んでいます。し
たがって、地層処分場の操業中は、地上施設は、これらの潜在的な危険に備えなければなりません。
洪水、雪崩、崖崩れ、地滑りのような、地上施設にとって重要な多くの自然災害は、限られた場所で発
生します。浸水地域は、地形や河川の流れに左右され、雪崩と崖崩れは、斜面の傾きに依存していま
す。これらの危険区域は、大部分が知られており、州の自然災害地図に表示されています。地上施設
のためのサイト選定の際には、これらの地域を避けることができます。
26
地層処分場に対する地震、洪水や地滑りなどの自然災害の影響に、
どのように対処するのですか?(安全技術フォーラム、質問第56番)
地層処分場
地層処分場は原子力施設です。原子力令により、原子力施設にお
いては、施設の内部または外部に起因する偶発事故に対して防護
措置を講じなければなりません。施設の外部に起因する偶発事故
は、例えば地震や洪水によって引き起こされることがあります。指針
ENSI-G03により、操業段階のために、どのような確率で事象が起こ
るかを示して安全解析を行わなければなりません。NAGRAは、操業
段階と閉鎖後段階における地上施設と地下施設に対するこれらの
影響を管理するため適切な安全証明を提出する必要があります。
当局の規準が遵守されるように、すべての影響を抑制しなければな
りません。
回避できない場合(例えば、風、落雷や地震の際には)地上施設は、建築対策により、該当する危険から
保護されなければなりません。特に地下施設への通路は、地表から処分場へ水が浸入するのを妨げるよう
に設計する必要があります。
操業終了後には、地上施設は取り壊され、地下施設への坑道は、地表の危険への対策として確実に閉鎖
されます。
(参考文献)
• ENSI-A05: 確率的安全分析 (PSA = Probabi¬listi-sche Sicherheitsanalyse): 品質と規模、ENSI、ブルック、
2009年。
• ENSI-G03: 地層処分場の設計原則とセーフティケース(安全証明)に関する要件、ENSI、ヴューレンリンゲ
ン、2009年。
27
地震が起きた場合
アフリカ大陸プレートは、巨大な力によって、毎年数ミリメートル、ヨーロッパに向かって動いています。
この衝突を目に見える形で表しているのが、例えばアルプスです。スイスの地震は、この衝突と関連し
ています。長い時間にわたって地殻中に緊張が作り上げられ、これは地震の形で解消されます。その
際、2つの岩盤部分が、突然、衝撃的に、局所的に弱い区域、つまり断層に沿って、相互にずれます。
スイスにおける地震の分布は、この緊張の解消を反映しています。例えば、バーゼル、ヴァレー、中
央スイス、ザンクト・ガラー・ラインタール、ミッテルビュンデン、エンガディーンのように地質学的に活発
な地域では、他の地域より多くの地震が起こっています。
「地層処分場特別計画」は、サイト選定に際して、長期安定性(サイトおよび岩盤特性の安定性)と地
質調査結果の信頼性(探査可能性、長期変動の予測可能性)という基準により地震の危険を考慮しま
す。例えば、サイト選定の際には断層は避けられ、できる限り安定した条件と良好な予測可能性のあ
る地域が優先されます。 将来の地震に関する予測は、機器によって記録された、歴史的に記録され
た、または土砂流出の際に文書に記録されている地震発生の経験、並びに既知の活性および不活性
断層の位置に基づいています。専門家は、地震活動度の大部分は、将来も既知の地震と断層のパ
ターンに従うということを前提としています。
それにもかかわらず、百万年の間に地層処分場が激しい地震により揺さぶられる可能性があること
を排除するべきではありません。この非常にありそうにない事例については、適切な母岩(例えば自己
修復特性を持つ粘土質岩)や地層処分場の施工法(隙間を塞ぐ充填材と緩衝材の使用)を選ぶことに
より、放射性物質の漏出を防ぐことができます。埋め戻された施設では、緩衝材の支持作用により、
最小限の損傷しか生じないと予想されます。
連邦原子力安全検査局の指針(特にENSI-G03)は、地層処分場の地上施設は、操業段階中の地震
の影響に耐えることができ、それに対応できるよう設計されねばならないとしています。地上施設は原
子力施設であり、耐震安全性に関し、原子力発電所と同等の厳格な要求の対象となっています。地上
施設は、1万年に1度発生するような激しい地震にも耐えられるように設計されなければなりません。
(参考文献)
• HSK 35/99: 使用済燃料集合体、ガラス固化された高レベル放射性廃棄物及び長寿命中レベル放
射性廃棄物のためのNAGRAによる処理証明に関する鑑定書(オパリナス粘土プロジェクト)、第
2.5.5章、HSK、ヴューレンリンゲン、2005年。
• NTB 08-04: SMA処分場とHAA処分場のための地質学的立地地域の提案――地質学的基礎、解説
の部、第2.7.4章、NAGRA、ヴェッティンゲン、2008年。
• NTB 99-08: 北部スイスの地質学的推移、ヴェッティンゲン、2002年。
• スイス地震局: www.seismo.ethz.ch
28
震動実験
2つのガラス瓶が、1つは包み込まれずに、1つはしっかりと拘束さ
れて、地表に立っています。地下の深いところで地震が発生した後、
地震波が地表に達します。拘束されていない瓶は倒れて壊れます。
それに対して、しっかりと拘束されていたガラス瓶は、自由に震動す
ることはできません。地震波は瓶を横切り、瓶は損傷を受けません。
同じ原理が、地下に閉じ込められている放射性廃棄物についてもあ
てはまります。
マグニチュードと震度
地震の影響について、主に関連しているのは、地震のマ
グニチュードではなく、観察場所における地震動の強さで
す。マグニチュードは、地震の際に発生するエネルギーの
値を表しており、震度は、潜在的な損害の尺度です。した
がって、距離が大きい強い(大きなマグニチュードの)地震
は、近くの弱い地震よりも影響が小さいことがあります。
地層処分場で超長期にわたり断層の領域に変化が起こらないことをどのように確保することができるの
でしょうか?(安全技術フォーラム、質問第37番)
岩盤中に存在する断層は、地質学的過去に、地震によって地殻中に作り出されました。断層は、将来
の広域にわたる地質学的変化の際に、再び活動する可能性がある弱い領域です。非常に長期間にわ
たって断層に変化が起こる可能性は排除できません。したがって、断層の影響領域においては透水性が
大きく高まることがあるため、適切な地質学的なサイト決定の際に、そのような断層は基本的に避けなけ
ればなりません。このような断層に対しては、安全な離間距離を確保しなければなりません。
29
保護範囲
特別計画手続の完了後に地層処
分場のサイトが確定すれば、処分
場の保護範囲が定められ、地下の
利用が制限されます。これは、母
岩の封じ込め能力が損なわれるの
を回避するためです。
地層処分場
資源
岩石の採掘 (1)、石油の採掘 (2)、ま
たは温泉の利用 (3) は、保護範囲の
外側では、これまで通りに行うことがで
きますが、保護範囲の内側の利用は
制限されます。
利用の可能性:
•
•
•
•
•
建築用石材、岩塩、鉱石の採掘
石炭、天然ガス、石油の採掘
鉱水と温泉水の採取
(例えば地熱交換器による)地熱の獲得
二酸化炭素の地下への注入(二酸化炭素貯留)
30
距離による安全確保:
地層処分場のための保護範囲
地層処分場の安全にとって、母岩が地質学的バリアとして、できる限り損傷を受けないことが重要
です。これは、地下の将来の利用に関係することがあります(左を参照)。したがって、「地層処分場
特別計画」によるサイト選定に際しては、そのような利用が長期間にわたって予想しにくい地域の方
が適していると判断されます。
鉱物や温泉が存在しているような、既に今日利用が行われている地下の場所は、サイト選定の際
には避けられます。さらに長期安全性にとって重要なのは、 将来の利用を最小化するために、でき
る限り地層処分場用地の直接的な周辺部に資源が存在しないことです。これは、将来の世代が、長
い時間が経った後でも(つまり、場合によっては地層処分場に関する記憶がずっと前に失われてし
まった後で)資源の獲得によって脅かされるのを防ぐためです。
資源が地表近くで広い面積にわたって採掘されたり、トンネルが建設されることによって、さらに深く
にある岩盤が損傷を受けることがあります。この損傷は、岩盤の透水性を高め、そのことによって放
射性物質が拡散されやすくなります。結果として地層処分場の長期安全性に対する負の影響が生じ
ます。
地層処分場の安全を保証するために、特別計画手続の終了時(概要承認)におけるサイト確定とと
もに、必要な保護区域が定められ、それにより地下の利用可能性が制限されます。保護区域には、
地表からの坑道を含めて、地層処分場のすべてが含まれています。地質学的バリアが損傷され、異
なる地層間での放射性物質の移行経路が開かれる可能性があるので、この保護区域では、深い地
下への侵入は許可されません。したがって、既に特別計画の第2段階の開始によって、サイト候補地
域の地下への侵入は制約されます。例えば、特定の深さを超えるボーリングは許可されません。
(参考文献)
• HSK 33/001: 地層処分場特別計画: 立地評価に関する安全技術基準の由来、説明、適用、HSK、
ヴューレンリンゲン、2007年。
• NTB 08-04: SMA処分場とHAA処分場のための地質学的立地地域の提案、地質学的基礎、NAGRA、
ヴェッティンゲン、2008年。
• ENSI 33/070: 地質学的立地地域の提案に関する安全技術鑑定書、地層処分場特別計画、第1段
階、ENSI、ブルック、2010年。
地層処分場のために提案された立地地域においては、現在から利用制限を通告しなければならな
いのでしょうか?(安全技術フォーラム、質問第36番)
提案された地質学的立地地域の保護は、それらの地域がサイト選定から除外されるまで保証され
るべきです。各州は土地利用計画を管轄しており、地下の利用に関して適切な認可を発給します。
地質学的立地地域の安全が阻害されるのを避けるために、第1段階の終りの立地地域の確定ととも
に、各州は、連邦評議会によって、認可の際に、該当する保護区域を考慮することが義務づけられ 31
ました。
地層処分場の長期間な放射線リスク
地層処分場は、数千年単位で見れば、放射性物質の漏出をすべて阻止することはできないでしょう。
放射性廃棄物の直接的な放射線は、2、3メートルの岩盤の被覆によって遮蔽されていますが、個々の
放射性核種はゆっくりと放出され、その非常に僅かな量が人間の生活圏へ運ばれることがあるからで
す。放射性物質の放出は、地層処分場概念において想定されています。長期間にわたって完全に閉じ
込めることは、確かに可能ではないものの、必要でもありません。その放射能は時間とともに減衰して
いくとともに、岩盤がほとんどの物質の漏出を防ぐからです。
人間の健康と環境を保護するために、地表における追加的放射線による影響が一定の値を超えては
なりません。連邦原子力安全検査局は、地層処分場から出る放射性物質によって受ける1人あたりの
最大許容放射線量を年間0.1ミリシーベルトと定めています。すべてのスイス人が受けている放射線の
影響と比較すれば、0.1ミリシーベルトは小さな値です。スイス人の現在の平均放射線被曝量は、年間
約5.5ミリシーベルトです(右図を参照)。
計算が示しているように、この防護目標は、提案されている立地地域では達成できます。これらの計
算は、例えば処分用キャニスタからの早期の漏洩、または地層処分場の周囲の岩盤に地震により生じ
た間隙のようなさまざまな事象を考慮しています。
年間0.1ミリシーベルト追加される放射線の影響は、癌の危険にどのように影響するのでしょうか?ス
イスで一生涯に癌を発症する確率は、現在、約25パーセントです。専門家は、0.1ミリシーベルトの追加
線量が加わると、この危険が年間0.0006パーセント高まるとしています。人が100年間にわたって1年間
に0.1ミリシーベルトの最大許容線量を浴びると仮定するならば、人はその生涯に10ミリシーベルトの追
加の放射線の影響を受けます。癌を発症する危険性は、推定では、計算上、0.06パーセント上昇します。
(参考文献)
• BAG (2010): 環境放射能と放射線量に関する年次報告書、連邦健康庁、ベルン。
• NTB 10-01: 地層処分場特別計画 (SGT) 第2段階における暫定的安全分析のための地質学的基礎資
料の評価、ENSI、ブルック、2010年。
• Canupis (2011): 原子力発電所の近隣における児童の癌罹患: CANUPIS研究の成果、ベルン大学
(www.canupis.ch)。
最終処分場により、子供たちの白血病のリスクは高まりますか?
(安全技術フォーラム、質問第39番)
地層処分場の直接的放射線は、その上にある岩盤層によって遮蔽されます。したがって、放射線の影
響は、ゆっくりと放出され水を経由して地表に達する放射性核種によるものです。この放射線の追加的
影響が年間自然放射線量の一部であることを説明することを法的に求めています。幅広いデータに
よって実証されている研究である「スイスにおける小児癌と原子力発電所 (Canupis = Childhood Cancer
and Nuclear Power Plants in Switzerland) に関する研究」において、スイスの原子力発電所の周辺にお
ける小児癌の危険が調査されました。放射線によって引き起こされる白血病のリスクの高まりを示す信
頼できる証拠は見つかりませんでした。地層処分場の最大許容放射線量によっても、白血病のリスクは
32
有意に増加しないと予想しています
ラドンと副産物
3.20 mSv/年
その他
< 0.1 mSv/年
宇宙放射線
0.40 mSv/年
地球放射線
0.35 mSv/年
体内放射性核種
0.35 mSv/年
医療による利用
1.2 mSv/年
人は常に放射線を浴びています
人は常にいたるところで放射線にさらされています。スイス国民の平均年間被ばく線量は、5.5ミリシーベ
ルト (mSv) です。その最大の割合を占めているのは自然界に存在する放射性不活性ガスであるラドンとそ
の崩壊生成物です (3.2 mSv)。1.2 mSv は医療による利用(レントゲン、断層放射線写真、等)に起因します。
宇宙放射線と地球放射線は、スイスにおける年間線量のうち0.75 mSvを占めます。自然に存在する体内
放射性核種は、年間0.35 mSvの線量になり、0.1 mSv未満が原子力発電所からとなります。地層処分場は
年間0.1 mSvの値を超えてはなりません。
33
安全性を優先します
安全への要求の度合いは人によって異なります。人の行動の利益と危険性を各人が自分で判断
します。例えば、煙草を吸う楽しみのために癌のリスクが高まるのを受け入れる人、ヘルメットなしで
自転車に乗る人もいれば、慎重にそのようなリスクを回避する人もいます。社会は民主的プロセス
で自らの行動を決定します。すべての利害を一つにまとめることは決して可能ではないものの、残っ
たリスクを許容可能な程度に軽減しようとするでしょう。例えば、煙草はフィルターをつけて吸われ、
受動喫煙は規則により制限されます。
地下処分場のサイト選定と実施に関しては、人間と環境の安全が最優先されます。社会的、政治
的、財政的な考慮事項よりも安全要件を優先します。地層処分場の基本的要件は、原子力法と原
子力令に定められています。必要な保護を受動的に実現するには、自然と技術相互によるバリアを
使用しなければなりません。将来の世代がもはや地層処分場のことを気にかける必要がないことが
求められているからです。多重バリアの原則は、セーフティーネットのように機能し、バリアの個々の
欠陥や弱点は、他のバリアによって補完されます。
地層処分場の安全に対しては、事業者が責任を負っています。連邦原子力安全検査局は指針に
おいて、要求されている安全をどのように達成しうるのかを定めています。連邦原子力安全検査局
は法規が遵守され、安全が保証されているかどうかを監視し確認します。「地層処分場部門別計
画」のために、サイトの提案を判定するための安全技術基準が策定されました。 連邦原子力安全検
査局は、特別計画手続の第2段階についても、サイトの安全性の比較をどのように行うべきである
のかを予め定めています。
34
安全は相互に作用します。深層処分場を有害な影
響から保護することで、人間と環境に対する深層処
分場の有害な影響から保護するのです。しかし、安
全はプロセスでもあり、継続的に改善され、さらに改
善されなければなりません。地層処分場への長い道
のりは、分割された多くの中間的ステップでこれに対
応しています。科学技術から得られる新たな知見を
継続的に考慮することができるからです。
(参考文献)
• HSK (2003): 中心にあるのは安全です、原子力施
設安全本部の小冊子、ヴューレンリンゲン。
• HSK 33/001: 地層処分場特別計画: 立地評価に
関する安全技術基準の由来、説明、適用、HSK、
ヴューレンリンゲン、2007年。
• ENSI 33/075: 暫定的安全分析と安全技術の比較
に対する要求、地層処分場部門別計画第2段階、
ENSI、ブルック、2010年。
将来の地層処分場の立地地域を決定する際に、なぜ地上施設の安全に関する問題が故意に無
視されたのですか?(安全技術フォーラム、質問第9番)
地上施設の配置は、特別計画の第1段階の枠内では、潜在的立地地域の指定に含まれていま
せんでした。地層処分のための立地地域の確認は、第1段階においては、安全技術と地質学上の
基準のみに基づいて行われました。これは、特に地質学的な地下の長期安定性から生じる安全に
関連しています。地上施設の安全性は、以降の段階で具体的な地上施設が提案されれば、繰り
返し確認されます。
35
ENSI, CH-5200 ブルック (Brugg)、インドゥストリーシュトラーセ (Industriestrasse) 19番地、
電話 +41 (0)56 460 84 00、ファクス +41 (0)56 460 84 99, [email protected], www.ensi.ch
Fly UP