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1 視覚障害に関して

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1 視覚障害に関して
1
視覚障害に関して
「NEW エッセンシャル眼科学」医歯薬出版
- 1 -
Q1
見えにくいって、どういうことでしょうか?
A
ご自身が弱視で『視力0.06の世界 』(ジアース教育新社)を著された、故 小林
→
一弘先生は著書の中で 、「自分の弱視の状態を聞かれても、一言二言では説明しきれない
ので、実は大変困ります 。」と書かれています。見ることは大変複雑な仕組みの上に成り
立っていて、見えにくい子どもの見え方や見えにくさは個々様々であり、簡単に説明する
のは難しいのです。
見えにくさは視力の問題だけではありません。薄暗い所が苦手な人もいれば、明るい所
だと眩しくて見えにくい人もいます。また、一部の視野が欠けているなど、視野に障害が
ある人もいます。色の識別が難しい人や、自分の意に反して眼球が揺れてしまい一点を見
つめることが苦手な人もいます。さらに、これらの見えにくさの要因を複数抱えている場
合もあります。
見え方や見えにくさは、体調や天候、場所によっても違います。
そのため、以前は見えていたものが見えなかったり、物を探せな
かったりすることもあります。そんなとき、ふざけているとか、
怠けていると思われてしまうこともあるようです 。「見えている
ようで案外見えていない 」「見えていないのかと思うと意外に見
えている」と言われたり、極端な場合には 、「見えないふりをし
ているのではないか 」「都合のいいことはよく見えて、都合の悪
いことは見えなくなる」といったことまで言われてしまうことさ
えあると聞きます。
私たちは先の見通しがあり、予測できるからこそ安心して行動ができます。見えている
私たちでも、初めての場所に行ったときや、どこから入ったらいいのか分からないときな
ど、緊張したり不安になったりすることがあると思います。見えにくい子どもは、なおさ
ら初めての場所や知らない物に対して不安になります。
このように見えにくい子どもは、状態を正しく理解してもらえないために誤解を受けた
り、見えにくいために慣れない所で緊張したり、不安になったりします。見えにくさは一
人ひとり異なることを理解していただかないと、本人が傷ついたりつらい思いをしたりす
ることもあるのです。
先の著書の中で、小林一弘先生が通常に見えることのすばらしさ
を知ったのは社会人になってからで、少し遅かったと書いておられ
ます。
「 これからの若い弱視の人たちには、中学生くらいまでの時期に、
- 2 -
通常に見えるということのすばらしさ、効率の良さについて気づかせてあげてほしいと思
っています 。」と述べられています。拡大コピーだけでなく、単眼鏡( 黒板など少し離れた
所を見るときに使うレンズ )
、ルーペ( 近くのものを見るときに使うレンズ )、拡大読書器( 本な
どを 、カメラを使ってモニターに大きく写し出す機器 )やタブレット型多機能端末( iOS(iPad)、
Android(Nexus)、Windows(Surface)など)等の補助具の活用により、見えることのす
ばらしさや効率の良さを小さいうちから伝えていただけると、大きな喜びにつながると思
います。また、視経験を増やすことにつながると思います。
見えにくい子どもには、言葉は知っていてもそのものを知らないということがときどき
見られます。周囲の状況などをイメージがわくように、分かりやすく言葉で説明してあげ
ることが大切になります。
弱視児の見えにくさは、大きく分けると次の8項目にまとめられます。
①細かい部分がよくわからない。
②大きいものでは、全体把握が困難である。
③全体と部分を同時に把握することが難しい。
④境界がはっきりしない。
⑤立体感や遠近感に欠ける。
⑥運動知覚に困難なものが多い。
⑦知覚の速度が遅い。
⑧目と手の協応動作がぎこちなく難しい。
また、学校生活の中で、見えにくさのある子どもが出しているサインをいくつか紹介し
ますので参考にしてみてください。
○見ようとするものに、極端に目を近づけてみようとする。
○床に落ちた物をなかなか見つけにくい。
○足下の障害物や多少の凸凹につまずく。
○物の位置が変わるとつまずいたりぶつかったりする。
○眼鏡をかけて教室の一番前に座っても、黒板の字が読めない。
○横から近づいてくるものに気付かない。
○衣服の汚れに気付かないでいることがある。
等
このようなサインは、見えにくさのある子どもに適切な支援をしていくための出発点と
なります。担任や身近にいる先生方が「変だな? 」「どうしてかな?」と気付くことが、
つまずきや困難を把握することにつながります。そして、どのような支援や対応をしたの
か、そのときの子どもの反応はどうだったのか、関係者が連携して対応を考えていくこと
が大切だと思います。
- 3 -
Q2
A
→
視機能の障害に対する基本的な配慮事項には、どのようなことがありますか?
視機能には、細かいものを見分ける力である 「視力 」、色を見分ける 「色覚 」、
目を動かさないで見ることができる範囲を示す 「視野」、明るさや暗さに目が順応してい
く力である 「光覚 」、二つの目をチームワーク良く動かして距離感や奥行きをはかる 「両
眼視機能」などたくさんの働きがあります。
視力が低いと、形を細部まで認識することが難しくなります。遠く離
れたところのものや近くでも小さいものが認知しにくかったり、色のコ
ントラストが低いと見分けにくくなったりします。ケースによっては、
単眼鏡やルーペ、タブレット型多機能端末などを日常生活における補助
具として活用していくことで、生活の質の改善が図れる場合があります。
視野 とは、眼球を動かさないで見える範囲のことです。
視野障害には、視野の周辺が見えにくくなってくる「求心性視野狭窄(きゅうしんせい
しやきょうさく )」、視野のどこかに見えない部分のある「暗点 」、一眼の視野のうち、鼻
側または耳側のどちらかが半分見えなくなる「半盲」などがあります。視野の中で、もっ
とも視力の良い中心部に暗点がある「中心暗点 」では 、見ようとするところに暗点があり 、
小さい文字は暗点の中に入ってしまうので認知は難しくなります。日常生活や歩行におい
ては、周辺部の視野でカバーできることもあります 。「求心性視野狭窄」の場合は、広い
範囲を見渡したり、歩行中に足下の障害物を認知できないなどの困難感があります。です
から、安全に留意して環境を整えることが必要といえます。
また色覚 に関しては 、明度( 色の明るさ)の近い色の識別が困難なケースも見られます。
明度の近い赤と茶色と緑、ピンクとグレーなどを見間違う場合が多いようです。板書や掲
示物などでは使用する色について配慮が求められます。
光覚 に関しては、眼疾患により、暗いところが見えにくい場合と、明るいところが眩し
くて見えにくい(羞明:しゅうめい)場合とがあります。弱視者は、一般的に暗いところ
が見えにくい場合が多いので、夕方や明るいところから急に暗くなるところなどでの歩行
や活動には、十分な注意が必要です。
また片眼しか見えなかったり、両眼の視力に大きな差があるなど 両眼の視機能 に違いが
あったりすると、遠近感や立体感に困難がある場合もあります。また、
見続けることが難しかったり、疲れやすかったりする場合もあります。
そのことが学習に影響を及ぼすこともありますので、配慮が必要です。
- 4 -
Q3
A
→
主な眼疾患と見え方の特徴を知りたいのですが、教えてください。
盲学校及び弱視学級の子どもたちに見られる眼疾患には、先天性白内障、緑内
障、白子症(アルビノ )、網膜色素変性症、黄斑変性症、視神経萎縮、強度屈折異常、未
熟児網膜症、等々があげられます。
以下に、代表的な眼疾患についてまとめてみます。
◇症状
眼疾患名
及び
◆教育的配慮と視覚管理
◇白内障は、カメラのレンズに相当する水晶体に濁りが生じます。カメラ
のフィルムに相当する網膜上に鮮明な像ができず、視覚中枢を刺激する
先
形態覚は遮断されてしまいます。
天
◆手術をして無水晶体眼になると、眼内レンズ挿入眼でも調節がないので
性
眼鏡が必要になります。成人と異なり、視力向上に時間がかかります。
白
また片眼性の場合、良好な視力を得るのは難しくなります。視覚管理面
内
として、網膜剥離を起こす危険性もあるので、普段と違った様子が見ら
障
れたら眼科受診をすすめることが望ましいです。
無水晶体眼の場合、拡大読書器等を使用するとき白黒反転画面が見やす
い場合もあるので、どちらが見やすいかを尋ねてください。
◇眼圧の上昇により視神経萎縮が進行し、視野の異常、視力の低下が起こ
ります。
◆牛眼(乳児にみられる先天性緑内障で、眼圧が高くなり眼球が拡大した状
緑
態。牛の目のようにほとんど黒目で大きく濡れたように見えます。治療
内
は手術が必要です。)の場合、眼部の打撲だけでなく、全身的衝撃など全
障
ての外力に関する眼球の保護が必要です。
痛みや違和感を訴えた場合、すぐに医療機関への受診が必要です。
◆読書時の前屈みのような姿勢や倒立、鉄棒での逆さの状態も配慮が必要
です。
◆眼圧のコントロールと他の眼疾患への配慮が必要です。
白
◇白子症は先天性のメラニン形成の異常がもとになっている疾患です。色
子
素が欠乏するため、眼内に入った光が乱反射し、ハレーションを起こし
症 ア
て見えにくくなっています。皮膚や体毛、眼など全身的に無(低)色素
ル
となる全身性の眼・皮膚白子症と眼に症状が限局される眼白子症があり
ビ
ます。
ノ
◆色素欠乏により、肌が白く毛髪が金色や白色になりますので、見た目で
- 5 -
いじめの対象にならない配慮が必要です。
◆常時眩しさや紫外線への対応(目を保護する遮光眼鏡・帽子、皮膚の日
よけ対応:日焼け止めクリーム、長袖・長ズボン、等)が必要です。
◆周りの正しい理解が、本人の活動のしやすさにつながります。
◇網膜色素上皮の病気で、進行性で視野が狭くなります。
◇個人差が大きく、早期に視力低下や視野の狭窄が進行し始める場合や、
網
視野は狭窄するが成人になっても比較的良好な視力を保持する場合もあ
膜
ります。
色
◇全身的な疾患に合併して発症していることも多く見られます。
素
◆夜盲(暗順応が悪く、うす暗い所では視力が低下します)に対する配慮
変
が必要です 。また暗から明への環境変化への順応にも問題が見られます 。
性
◆個人差はありますが、視野の狭さへの配慮が必要です。特に視野が狭く
症
なると、周囲のものの判断が困難になるので注意が必要です。中心視力
が低い場合、拡大読書器が役立ち、白黒反転が効果的である場合があり
ます。
◇黄斑変性症( おうはんへんせいしょう)とは 、網膜の黄斑部に変性や萎縮が生じ、
黄
中心視力が低下する疾患です。中心視力の低下がみられ、色覚障害が起
斑
こります。
変
◆照明は明るくした方が見やすいですが、眩しさを感じる人もいますので、
性
部屋全体を明るくするより、机上を本人の望む明るさにしたほうが良い
症
場合もあります。明るい戸外では、帽子や遮光眼鏡を使用することが望
ましいです。中心暗点や眼振のある強度の弱視の場合、視神経萎縮にお
ける配慮が役立ちます。
◇視神経に何らかの障害がおこった場合に、視神経が機能しなくなる状態
のことです。
◇幼児期から中心暗点がある場合には、視線が正しく目標に向かいません。
視
わずかに横目の状態で見ている(偏心固視)子どもたちも多いです。視
神
力が0.1以下の場合、色覚にも異常をきたす場合があります。
経
◆小さな文字では暗点部に入ると判読するのが困難なので、読書や書写が
萎
非常に大変な作業になることを理解していただけたらと思います。拡大
縮
読書器の活用が有効です。また照明とコントラストへの配慮が重要にな
ります。照明が明るすぎると眩しさが強まります。戸外では遮光眼鏡の
装用が望まれます。また色彩に関する配慮としては、赤色領域の弁別能
力が低下していることが考えられます。赤の色がわからないというより、
色の鮮やかさが失われるため、地図の高低など同系色の変化で表される
ものには、色の境界に線を引くなどの配慮が必要です。
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◇屈折異常とは、遠視や近視のため、網膜の中心窩へ像がはっきりと結ぶ
ことができない状況です。屈折異常が先天的に強いと、視機能の発達過
程にある乳幼児段階ではピンぼけ状態で外界を見ることになります。
◇強度遠視の場合、近方はもちろん遠方を見るときも常に調節しないとは
っきり見えません。屈折異常が先天的に強いと内斜視や屈折性弱視にな
屈
る場合が多いと言われています。
折
◇遠方は見えにくいが、近方は見えるのが一般的に言われる近視の状態で
異
すが、強度近視の場合は近づいても鮮明に見えず屈折異常性の弱視にな
常
る可能性が高いと言われています。
◆矯正眼鏡の装用をしたり、照明を明るくしたり、網膜映像を大きくする
など早期からの適切な対応や支援が必要です。
◆早期からの矯正眼鏡の装用や、コントラストの良いものを提示したり、
照明を明るくしたり、拡大してできるだけ近くでしっかり見せたりする
などの配慮が必要です。強度近視では、網膜剥離を起こすこともあるの
で、ぶつける等の強い外力を与えないように心がける必要があります。
こども病院眼科外来の患者さんには、上記以外に以下のような眼疾患も見られます。
○虹彩欠損、脈絡膜欠損、視神経、黄斑含む巨大コロボーマなど。
○眼球の閉鎖不全によりおこる先天異常です。網膜がない部分で暗点や
コロボーマ
視野欠損となります。黄斑を含めば視力障害も強くなります。進行は
しませんが、境界部から網膜剥離を合併することもあります。
○常に眼が一定方向に揺れていますが 、ものが揺れる自覚は少ないです。
先天眼振
揺れが少ない方向で見るため、顔を斜めにして見ることがあります。
そのため、ふてくされているように誤解されることがあります。
○心理的な要素から学校での視力測定で著名な視力低下を示すことがあ
心因性
視覚障害
ります。返信の記載で病名を書くこともありますが、生徒の年齢によ
っては本人が読めてしまうので家族に別途病名を知らせることもあり
ます。家族、学校、本人の性格などさまざまな要因がありますが、心
因性難聴、腹痛、頭痛、不登校なども起こすことがあります。検査の
視力低下の値ほど生活上に支障はなく、本疾患のみで視力が出なくな
ることはありません。
- 7 -
Q4
A
→
斜視と弱視、遠視について教えてください。
物を見る時、人は左右両方の視線を向けて見ます。ところが片方の目だけが違
う方向を向いてしまう斜視 という病気があります。斜視には幾つか種類があり、片目が内
側に寄ってしまう内斜視、外側をむく外斜視、上下にずれる上下斜視、通常は正常で時々
斜視の症状を起こす間歇性外斜視 (かんけつせいがいしゃし) などがあります。
斜視の子どもたちは 、片方の視線がずれているために両目で像を見て1つにとらえる「 両
眼視機能」に困難さがでます。両眼で物を見ることができないので、遠近感がつかみにく
かったり、立体視ができにくくなったりします。また幼児期の子どもの場合、片方の目を
中心に使っていると使わない方の目の機能が低下して弱視になってしまうこともありま
す。
子どもの視力は、成長と共にものを見ることで向上し発達すると言われています。とこ
ろがこの成長期に 、何らかの障害があり正常な環境で物を見ることができなくなった場合 、
弱視 が起こります。弱視とは、眼鏡やコンタクトレンズをしても、ものを鮮明な像として
捉えられず、矯正しても視力が0.3未満の状態のことをいいます。
弱視は、教育的弱視と医学的弱視に大きく分けられます。教育的弱視とは、先天性白内
障、緑内障、小眼球、視神経萎縮、網膜色素変性症、白子症、無虹彩、未熟児網膜症など
の疾患のために、治療をおこなっても0.3以上の視力が出ない場合をいいます。医学的
弱視は、医学的な治療や訓練を行えば視力の回復が期待できる場合をいいます。
弱視は原因別に次の種類があります。
①斜視弱視…片眼が斜視の場合で物を見るとき、見やすい方の
目だけ使うようになります。すると使わない反対の目の機能
が発達しなくなります。
②不同視弱視…左右の度が違う遠視で、遠くや近くを見るとき
に遠視が軽い方の目だけ使うようになります。使わない反対
側の目の機能が発達できず、弱視を起こします。
③屈折異常弱視…強度の近視や遠視では、調節しても像がうま
く結べないために見えにくい状態になり、視力はそのまま発達しなくなるため、両眼
共に弱視になってしまいます。
近視 は、遠くはよく見えませんが、近くはよく見える目で、凹レンズを掛けると遠くも
よく見えるようになります。しかし、遠視 は単なる近視の逆というわけではありません。
近くも遠くも見える目と誤解している方もいるかもしれませんが、遠視は、近くを見ても
遠くを見てもピントが合わないので、常に調節しなければならないので目が休まりません。
そのため読書や細かい作業が苦手で、根気が続かず集中力に欠けやすくなると言われてい
ます。
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