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Vol.2 No.6
environment Update
−海外環境関連情報誌−
第 12 号
Vol.2
No.6
(2001.3)
CONTENTS
WEEE& ROS/EEE の最新動向
WEEE & RoHS/EEE を巡る動向
EEE 新 1.0 次版
2
作業ペーパー
8
EUの環境政策
IPP(包括的製品政策)に関するグリーン・ペーパー
22
EU における排出権取得の検討状況について
頓宮裕貴(JETRO ブラッセルセンター/日機輸ブラッセル事務所)
44
モニタリング
欧州
米国
・連載 欧州環境規制動向
∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
46
・連載 米国における環境関連動向
∼在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報⑨
70
「米国・アジア・EU 通商問題弁護士情報」の紹介
78
環境・安全グループニュース
環境・安全グループ担当委員会活動状況
事務局便り
80
82
WEEE & RoHS 指令制定の動向
WEEE & RoHS
指令制定を巡る動向
∼欧州議会、産業委員会修正意見と環境委員会審議始まるから
環境・安全グループ
既報のとおり、欧州委員会が提案した指令案に対する欧州議会の議論が始まっている。組合ブラ
ッセル事務所からの情報を基に審議の動向を整理すると次のとおりである.なお、有害物質し様制
限指令の略称はこれまで ROS が産業界で使われてきたが、欧州議会産業委員会の意見では RoHS
と略しているので、今号からこれを使います。
1. 現在の審議と位置付けと今後のスケジュール
欧州委員会提案 → 欧州議会:産業委員会 → 環境委員会 → 本会議
理事会: 審議開始
共通立場採択
• 欧州議会産業委員会は 2 月 27 日に修正意見を採決。
• 欧州議会環境委員会で審議中、3 月 22 日に第 2 回審議、4 月 24−26 日には修正意見を採決予
定。
• 欧州議会・本会議(第一読会)は 5 月 15−16 日で修正意見を採決予定。
• 環境相理事会は 3 月 8 日の会合でも論議、次回 6 月 7−8 日会合で「共通の立場」を採択か。
• これ以降の欧州議会と理事会による共同決定手続きは、修正意見をうけての欧州委員会の修
正提案、欧州議会と理事会の修正提案の審議(第二読会)
、理事会と欧州議会の意見が異なる
場合両者の調停、などを経て法制化されるので、指令成立までにはまだ時間を要する。
2. 欧州議会における審議の概要
(1) 産業委員会
• 議会本会議の審議の前に、実質的に意見の集約を行う「環境委員会」への助言的役割を果た
す「産業委員会(正式には産業、対外貿易、研究・エネルギー委員会)
」は、ドラフトウーマ
ンであるアハーン議員(アイルランド・緑の党)の下、去る 2 月 27 日に修正意見(opinion)
を採決した。
• その概要は次のとおりであり、産業委員会の審議において同意見を指令に取り入れるよう要
求するものである。
• なお、修正意見には JBCE が精力的に展開した欧州議会議員への働きかけ用に焦点を絞り込ん
だ具体的なイッシューのうち、① substance ban の適用除外リストに高温度ハンダ用鉛と電
子部品用ガラスの中の鉛が追加、② 2008 年以前に販売した製品用のスペアパーツが
substance ban の適用除外、が盛り込まれ、活動成果をもたらした。
(注:修正意見の基になる欧州委員会提案テキストは、昨年 6 月に採択したテキストそのもので
はなく、昨年 12 月に官報告示されたテキストで、一部条項順序の変更や規定文の表現の
変更がなされている。なお、官報告示版テキストは environment Update Vol.2 No.5 に掲載、
和訳は近刊の環境法規専門委員会報告書「WEEE ハンドブック(仮題)
」に収載予定。
)
JMC environment Update
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Vol.2 No.6 (2001. 3)
WEEE & RoHS 指令制定の動向
WEEE
前文
95 条を根拠法規
第 2 条 対象範囲
<追加∼中小企業の配慮>
• (加盟国は)従業員 50 人未満、年間売上げ 700 万 EUR 未満の独立事業を営む EEE 製造者に
対しファイナンシングの要求事項の除外可能
第 4 条 分別回収
<追記∼時期を明記>
• (加盟国は)最終所有者・ディストリビューターが WEEE を無料で返却できるシステムを指令
発効から 3 年後に構築
<変更∼shall を may に>
• 加盟国は、
ディストリビューターが新製品を供給する時に同種の WEEE を無償で引取ることを
確保できる
<追加∼取引業者(trader)の適用除外>
• 取引業者(trader)が生産者または輸入者として EEE を直接上市しない場合、引取り/処分の
義務から除外
第 6 条 再生
<追加∼>
• 明白な環境上の有利性を有する技術革新的な製品については、重量ベース再生率 75%の規定
可
<追記>
• (2008 年以降の再生、再使用・リサイクル目標の確立)材料/技術開発により改善された
resource efficiency のように使用時におけるEEEの環境上の便益を配慮されるべき
• 加盟国は、新たな再生/リサイクル/処理技術の開発を奨励すべき
第 7 条 ファイナンシング
<変更∼実施時期の前倒し>
• 生産者は遅くとも 2004 年 6 月 30 日から 3 年後に WEEE の処理、再生、環境に健全な処分の
費用負担
<変更∼分担方法の明確化>
• historical waste は費用発生時に市場で活動する生産者によりマーケットシェアに比例して分
担
<削除>
• 個別責任システムを選択する生産者は、historical waste の公平な分担の責任立証ができない場
合別のシステムによるファイナンシングの提供義務
<追加∼電子商取引も対象>
• 通信技術手段により機器を他の加盟国に上市するディストリビューターは回収・再生関連要求
事項に対応
JMC environment Update
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Vol.2 No.6 (2001.3)
WEEE & RoHS 指令制定の動向
付属書Ⅱ 分離処理
<追記>
• 埋立てまたは焼却となる WEEE 材料・部品の分離処理
<表現などの変更、>
• RoHS 指令、オゾン層破壊物質、地球温暖化効果ガスの対象物質を refer
付属書 Ⅳ シンボルマーク
<削除>
RoHS
第 2 条 範囲
<追記∼スペア/リペアパーツ、電池の除外>
• 2008 年 1 月 1 日以前に上市された機器のスペア/リペアパーツと指令 91/157 EEC 付属書Ⅰ
で定義された電池は、物質の代替要求の適用除外
第 4 条 (予防)
<表現変更∼「代替」を「含有しない」に>
• 加盟国は、2008 年 1 月 1 日以降上市される新 EEE には鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、
PBB、PBDE を含まないことを確保
<追加∼スペアパーツと消耗品を除外>
• (上記規定)は、2008 年 1 月 1 日以前に上市した EEE 用のスペアパーツと消耗品には適用し
ない。ただし、2023 年 1 月 1 日に失効
付属書
<追加>
• 高温度ハンダに含まれる鉛
• 電子部品に含まれるガラスの中の鉛
(2) 環境委員会
• 環境委員会の本格的な審議は既に始まり、3 月 22 日には第 2 回の審議が行われる。同委員会
のラポータ(rapporteur)として欧州議会の意見を集約する立場にあるフローレンツ議員(独・
キリスト教民主同盟・保守)のレポートが論議のたたき台となっている。
• フローレンツ・レポートの主な事項は、両指令の根拠法規を別にして分離の上、RoHS では
substance ban を 2006 年に前倒し、スペアパーツを適用除外に追加など。 一方、WEEE では、
再生率を CRT 内蔵機器(不変)を除き一律 10%上乗せ、費用負担の開始時期を前倒し、費用
負担は原則個別責任方式、経過期間の visible fee 表示オプションの追加などである。
• 現在議員から様々な修正意見が出され、提出期限は過ぎた模様である。
• JBCE が働きかけたキーイッシュー(内容は既刊号に掲載)について、産業委員会と同様に環
境委員会で取上げられるか今後の論議が注目されている。
JMC environment Update
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WEEE & RoHS 指令制定の動向
<フローレンツレポートの主な修正意見>
WEEE
第 2 条 対象範囲
• スペアパーツを含め対象範囲を拡大
• 医療用機器、監視・制御機器、自販機は、分別回収関連の無償返却、回収、システム構築、運
搬、分別回収量、費用負担、ユーザーへの情報の条項の適用除外規定を削除 → 医療用機器、
監視・制御機器、自販機も適用へ変更
第 3 条 定義
• 生産者の定義:機器上に生産者ブランドがある場合の販売者は生産者とみなされない ← 追記
第 4 条 分別回収
• 加盟国は、指令発効から 30 ヶ月以降 WEEE と分別しない都市ゴミと一緒に処分できない。全
ての WEEE は分別回収 ← 新規追加
• 加盟国は、最終所有者・ディストリビューターが WEEE を無料で返却できるシステムを指令発
効から 30 ヶ月後までに構築 ← 時期明記
• (ディストリビューターが新製品販売時に WEEE を無償で引取ることについて)
加盟国は当該
規定を外すことも可能 ← 追記
• 2005 年 12 月 31 日までに一人当たりの年間回収目標量を 6 ㎏に ← 4 ㎏を変更
• 過去に家庭用に販売された量を基に、2008 年以降の新たな回収目標を策定 ← 追記
第 5 条 処理
• 生産者は、再生/リサイクル技術について発展段階にある技術の現状(state-of-the-art)を用
いて WEEE 処理システムを構築 ← 追記
• 処理業者の環境マネジメントシステムの認証を取得 ← 新規追加
第 6 条 再生
• 全ての分別回収 WEEE は再生化、最も高い再使用/リサイクル率の達成(機器そのものの再使
用を除く) ← 新規追加
• リサイクル率の引上げ
カテゴリー
再生率(←原案)
1:大型家電
2:小型家電、4:民生用機器、6:電気工具、
7:玩具(ブラウン管を内蔵する機器を除く)
3:IT、遠隔通信(ブラウン管を内蔵する機器を除く)
ガス放電ランプ
ブラウン管を内蔵する機器
再使用/
90%(← 80%)
リサイクル率(←原案)
75%(← 75%)
70%(← 60%)
50%(← 50%)
85%(← 75%)
―
75%(←75%)
65%(← 65%)
80%(← 80%)
70%(← 70%)
• 2008 年以降の目標は、再生、製品/材料、産業界から得た経験を配慮して定める ← 追記
JMC environment Update
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WEEE & RoHS 指令制定の動向
第 7 条 ファイナンシング
• (生産者の費用負担責任は)指令発効から 30 ヶ月後 ← 5 年を変更
• 費用負担は個別責任方式、困難な場合加盟国は全体責任方式を認可可能 ← 変更
• historical waste は、費用の発生時の現存生産者が機器毎の数量ベースのマーケットシェアによ
り分担費用を負担(全体責任方式)← 表現変更
• 生産者は経過措置期間において新製品販売時にユーザーに対し、historical waste について機器
のライフサイクルに基づき、自主的をベースに環境に適合した方法による回収/処理/処分の
費用を通知することが認められる。コストは実際のリサイクル費用を反映したもの ← visible
fee を新規追加
第 9 条 ユーザーへの情報
• ユーザーへの情報:分別しない都市ゴミと分別回収した全ての WEEE とを一緒にで処分できな
い ← 追加
• 指令発効から 18 ヶ月以降上市される電気電子機器にはマーキング、識別を明確化 ← 時期明
記
第 11 条 必要な情報
• 加盟国は必要な情報を 2006 年 1 月 1 日まで委員会に提出←2007 年 1 月 1 日を変更
第 12 条 報告義務
• 加盟国は報告義務について 2005 年 1 月 1 日から始める← 2006 年 1 月 1 日を変更
第 13 条 科学的技術的進歩への適応
• 付属書ⅠB、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳの科学的技術的進歩への適応を導入するための修正←ⅠB(カテゴリ
ー表示リスト)を追記
第 15 条 国内法への転換
• 指令発効から 18 ヶ月以内に ← 遅くとも 2004 年 6 月 30 日までを変更
【付属書ⅠA カテゴリー】
• 付属書ⅠA:照明(lighting)
(電球(light bulbs)以外のもの)← 変更
• 付属書ⅠB:エアコン(組込まれていないもの(not built in)← 変更
【付属書Ⅱ分離処理】
• 付属書Ⅱ:PCB---ケーシングされた製品に統合された場合は除外
RoHS
第2条 対象範囲
• WEEE の対象製品に電球を追加
• 適用除外:カテゴリー8(医療用機器)
、9(監視・制御機器)←カテゴリー10(自販機)を削
除=対象範囲に含む。
• 2006 年 1 月 1 日以前に上市された機器のスペアパーツを対象範囲から除く ← 追記
JMC environment Update
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Vol.2 No.6 (2001. 3)
WEEE & RoHS 指令制定の動向
第 4 条 予防
• 代替実行時期は 2006 年 1 月 1 日 ← 2008 年を前倒し
第 5 条 科学的/技術的進歩への適応
• (適用除外リストから削除されることを)技術的/科学的な見地から回避されることができる
条件で ← 追記
• (適用除外リストの修正)電気電子機器生産者、環境/消費者団体と協議 ← 追記
第 8 条 国内法への転換
• 指令発効から 18 ヶ月以内に ← 遅くとも 2004 年 6 月 30 日までを変更
【付属書】
• 付属書(適用除外リスト)から、研究所機器用水銀、放射線保護用鉛、セレン光電管表面の酸
化カドミウム、原子吸収型分光機器などのカドミウム、水銀、鉛の4つを除去する(理由:関
連するカテゴリー8(医療機)
、9(監視/制御機)はいずれにせよ RoHS の対象範囲から除か
れる)
3. EEEの動向
• 電気電子機器の環境に与える影響指令・EEE については、去る 2 月に欧州委員会企業総局がこ
れまでのドラフトをなかったこととして新たな作業ペーパー(新 1.0 次版)を提示し、3 月 6
日にステークホルダーとの会合を開催した。現在関係者から様々な意見を求めている (和文
仮訳は本誌次ページに掲載)
。
• 我が国においては、電気電子機器関連 4 団体(電子 JEITA、電機 JEMA、事務機 JBMA、通信
CIAJ)で校正する EEE 対応検討会(事務局 JEITA)で対応を検討中。
• また、ニューアプローチ方式による環境規制である EEE 指令を含め、製品関連の総合的な戦
略政策が欧州委員会からグリーン・ペーパーとして提示され、現在関係者の意見を公募してい
るところ、和文仮訳を併せて本誌 22 ページに掲載した。
□
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日本機械輸出組合
仮 訳
(version 1.0)
2001 年 2 月
作業ペーパー
電気電子機器(EEE)の環境に与える影響に関する
欧州議会及び理事会指令
欧州連合の欧州議会と理事会は、
欧州共同体設立条約、ならびに特にその第 95 条を尊重し、
欧州委員会からの提案を尊重し、
経済社会評議会の意見を尊重し、
条約第 251 条に規定された手続きに従って行動し、
以下の事項に鑑み:
(1)
域内市場は、物、人、サービスおよび資本の自由移動が確保されている域内において国境のない
領域である。
(2)
環境を保護するために電気電子機器に対する設計要件を定めた法律、規則、行政令が一部加盟国
において施行されている。その規定は異なり、かつ製品の自由移動に影響を与え、共同体内の貿
易障壁を構成する可能性がある。
(3)
加盟国国内法の調和は、
域内市場に見出されるこのような貿易障壁や不公正な競争を除去する唯
一の手段である。この目的は個々の加盟国によっては満足に達せられない。本指令に定められた
措置は、指令が適用される電気電子機器の自由流通に対する必須要求事項だけを規定する。
(4)
持続可能な開発を促進するためには、
さまざまな共同体の活動に環境保護の要求事項を統合する
ことが今や必要である。このような規定は、既に産業競争力と環境保護との関係に関する 1992
年 12 月 3 日付理事会決議1の主題になっており、1999 年 4 月 29 日の産業相理事会の結論にお
いても再述された。
(5)
長期的にみた電気電子機器の持続可能な開発は、これらの製品の環境に対する全体的な影響、お
よび資源消費において継続的な改善を奨励することによって支持される。
(6)
設計段階において製品のライフサイクルを通じて環境要素を配慮することは、
製品の全体的な環
1
OJ C 331, 16. 12. 1992, p. 5.
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EEE 新 1.0 次版 作業ペーパー
境影響を改善することに重要な可能性を持っている。
(7)
本指令は、電気電子製品の自由移動を確保する目的をもって、これら製品の設計に関する環境法
規を適用するための首尾一貫した枠組を制定する。
(8)
環境保護ニーズを技術的および経済的な考慮とバランスさせることが求められるであろう。
一方、
本指令に対して 1999 年 6 月 28 日付理事会決定 1999/268 EC に従って委員会を設置の上、全体
として市場と公衆のニーズを満たすために、
規定の調和と均整のとれた適用を達成することにつ
いて欧州委員会を援助するために、電気電子機器の環境適合設計規則の施行に直接かかわる関係
者を委員会に招くことが望まれる。
(9)
監視当局は、
市場監視を改善する観点で本指令の範囲内で考察された措置に関する情報を交換す
べきであって、このような協力は電子通信手段と関連する共同体プログラムを最大限に利用すべ
きである。
(10)
本指令の運用状況については、設計、エネルギー消費、廃棄物の処理、リサイクルなどの改善を
含む製品についての環境側面、
および本指令に規定された必須要求事項と適合性評価手順の適用
から得た経験についての環境側面の発展に照らして、施行後 5 年以内に見直さなければならな
い。
(11)
これらの措置は、技術的整合化と規格へのニュー・アプローチに関する 1985 年 5 月 7 日付理事
会決議2において規定されたニュー・アプローチ、および欧州整合規格への言及についての施行
の原則に従ったものである。一方、1999 年 10 月 28 日付理事会決議では、欧州委員会は、可能
な限り法規を改善し、単純化する手段をもって、まだカバーされていない分野にニュー・アプロ
ーチ原則を拡大適用することができないか検討すべきであると勧告した。
(12)
整合規格とは、技術標準と規則の分野における情報提供の手順を定めた指令 98/34/EC に沿い、
また 1984 年 11 月 13 日付の欧州委員会と標準化機関の間で署名された協力のための一般ガイド
ラインに従い、欧州委員会により与えられる委任に関する欧州議会と理事会の修正指令
98/34/EC3付属書Ⅰに定められている欧州標準化機関によって採択された技術仕様である。
(13)
本指令に対する整合規格を策定すべく欧州標準化機関への要求を採択する前に、
欧州委員会が指
令の施行に関連する質問を考察すべく協議しうる分野別委員会を設置することは望ましいこと
である。であるがゆえに、機器の製造者、ユーザー、消費者、環境 NGO の代表は適宜協議の対
象にしなければならない。
本指令を採択した:
第1条
範囲
本指令は、電気電子機器の環境に与える全体的な影響を改善することを目指し、かつ持続的な開発と両
立する資源の効率的な利用と高水準な環境保護を規定して、域内市場における電気電子機器製品の自由
2
3
OJ C 136, 4. 6. 1985, p. 1.
OJ no L 204 of 21. 07. 1998
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移動を確保するため、当該製品の設計に関する要求事項を調和するものである。
第2条
定義
本指令においては、
a)
「電気電子機器 (Electrical and Electronic Equipment)
(EEE)
」とは、正しく作動するために、電
流または電磁界に依存する機器、ならびにそのような電流と電磁界を発生、転換、測定するための
機器のうち交流 1000 ボルト、直流 1500 ボルトを超えない定格電圧で使用するように設計された機
器であって付属書Ⅰに定めるカテゴリーに分類されるものを意味する。骨董品として供給された輸
入中古品は含まない。
b) 「構成部品とサブアセンブリー(components and sub-assemblies)
」とは、電気電子機器に組み入
れられることを意図し、最終製品として消費者への直接販売のために上市されるものではない部品
を意味する。
c)
「製造者 (Manufacturer)」とは、ある製品を自らの名前で上市するいう観点で製品の設計と製造に
責任をもつ自然人または法人を意味し、これらのオペレーションがその者自身によって実施される
か、または代理人によって実施されるかを問わない。
d) 「製造者の認定代理人 (Authorised representative)
」とは、共同体内に設立された自然人または法
人であって、明確に製造者に指定されて、その代理人として行動する者、あるいは本指令の下に課
せられた製造者の義務に関して、その製造者に代って共同体内の諸当局や諸機関によって指名され
た者を意味する。
e)
「材料(materials)
」とは、原材料、中間材料、補助材料および化学材料を意味する。
f)
「製品設計(product design)
」とは、要求事項を製品仕様に転換する一連のプロセスを意味する。
g) 「環境側面(environmental aspect)
」とは、環境と相互に作用しうる製品の要素や機能を意味する。
h) 「環境影響(environmental impact)
」または「環境に与える影響(impact on the environment)
」と
は、全面的にあるいは部分的に製品から生じる環境に対する不利または有利の変化を意味する。
i)
「ライフサイクル
(Life cycle)
」
とは、
製品の設計から最終処分に至る連続的または連結した諸段階、
および全ての直接的に関連する重要なインプットとアウトプットを意味する。
j)
「ライフサイクル・アセスメント(life cycle assessment)
」とは、製品のライフサイクルを通じて
その使用に直接起因する材料、エネルギーならびにそれにかかわる環境影響のインプットとアウト
プットを収集し検討するための一連の系統的な手続きを意味する。
k)
「最終寿命 (End of life)」とは、製品が最終的に使用を終えた状態を意味する。
l)
「再使用(Re-use)」とは、電気電子機器またはその構成部品が最終寿命に達した時に最初に考えら
れたと同じ目的に使用されるオペレーションでを意味する。「再使用」は、回収地点、ディストリビ
ューター、リサイクル業者または製造者に返却された電気電子機器の継続使用ならびにリファービ
ッシュ後の機器の再使用を含む。
m) 「リサイクル(Recycling)
」とは、廃材料を本来の目的あるいはエネルギー再生を除く他の目的の
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EEE 新 1.0 次版 作業ペーパー
ために生産工程において再加工すること意味する。エネルギー再生とは、可燃廃棄物を、他の廃棄
物と一緒に燃焼するか否かを問わず熱の回収を伴う直接焼却によってエネルギーを発生させる手
段として使用することを意味する。
n) 「再生(Recovery)」とは、修正指令 75/442/EEC の付属書Ⅲ. B∗に規定されているいずれかの適用
されるオペレーションを意味する。
o) 「廃棄物(waste)
」とは、所有者が破棄するか、または破棄するつもり、ないしはそのように求め
られている電気電子機器を意味する。
p) 「エコロジカル・プロファイル(ecological profile)
」とは、ライフサイクルを通じて製品にかかわ
る環境的なインプットとアウトプットの大きさと重大さを述べることを意味する。
第3条
構成部品およびサブ・アセンブリーの要求事項
1.
電気電子機器の構成部品またはサブ・アセンブリーの製造者は、電気電子機器の中に構成部品また
はサブ・アセンブリーを使用している別の製造者が、当該構成部品を含む製品についての環境に係
わるインプットおよびアウトプットの大きさを確認し推定するために、全ての必要な情報を提供し
なければならない。
2.
特に、これらの構成部品またはサブ・アセンブリーの製造者は、構成部品またはサブ・アセンブリ
ーについての材料の組成とエネルギーおよび/または資源の消費量に関する情報を提供するととも
に、可能であれば、構成部品またはサブ・アセンブリーの使用に関する環境アセスメントの結果お
よび/または最終寿命(end of life)管理に関する参考調査の結果を提供するものとする。
第4条
上市およびサービス供与
加盟国は、本指令の規定を遵守した場合のみ電気電子機器を上市および/またはサービス供与できること
を確保するために、すべての適切な措置を講じなければならない。
第5条
自由移動
1.
加盟国はその領域内で、第 7 条に従い適合性評価を受けたことを示す、第 13 条で言及するCEマ
ーキングを貼付した電気電子機器について環境保護設計の側面という見地から、その領域内におけ
る上市やサービス供与に対していかなる阻害をも設けてはならない。
2.
加盟国は、見本市、展示会、実演会などにおいて本指令の規定に適合していない第2条で定義され
た電気電子機器の展示については、適合していないことと、適合するまで本製品を販売できないこ
とをはっきりと明示してあれば阻止することができない。
第6条
必須要求事項
∗
訳者注:付属書Ⅱ.B の誤りと思われる
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EEE 新 1.0 次版 作業ペーパー
電気電子機器は、付属書Ⅱに定められた関連する必須要求事項を適用することにより設計されなけれ
ばならない。
第7条
適合性評価
1.
電気電子機器を上市する前に、製造者は本指令の関連する規定をもって電気電子機器の適合性評
価を実行しなければならない。製造者は次のいずれかを選択する:
(a) 付属書Ⅲに定められた内部設計管理を適用することを確実にする手順に従う、もしくは
(b) 付属書Ⅳに定められた環境保証システムを適用することを確保する手順に従う。
2.
電気電子機器を上市した後、製造者は当該電気電子機器の最後の製造から 10 年間、加盟国が検査
できるよう実行された適合性評価に関連する適切な文書および発行した適合宣言書を保管してお
かなければならない。
製造者も製造者の認定代理人も共同体内に設立されていない場合、適合文書を保存する義務はそ
の機器を共同体に上市する者の責任となる。
3.
適合性評価に関する文書と適合宣言書は、共同体の公用語の一つで作成されなければならない。
第8条
見做し適合
1.
加盟国は、第 12 条に規定された CE マーキングを貼付した電気電子機器について、本指令の関連す
る規定に適合しているものとして見做さなければならない。
2.
欧州共同体の官報で公表された文書番号を有する整合規格に従って諸規定が適用されている電気
電子機器は、第6条で言及した必須要求事項、または第7条で言及した適合性評価手続きに適合す
るものと見做さなければならない。
加盟国は、整合規格を準備しおよび監視する過程において、利害関係者が国家レベルで影響を持ち
うるよう適切な措置が講じられることを確保しなければならない。
3.
2000 年 9 月 21 日付 EU 官報 L237 P.1 に告示された 2000 年 7 月 17 日付理事会規則 1980/2000 に
従いエコ・ラベルを授与された電気電子機器は、エコ・ラベルが必須要求事項をカバーする限りに
おいてそれを満たすものと見做されなければならない。
4.
1993 年 7 月 10 日付 EU 官報 L168 P.1 に告示された 1993 年 6 月 29 日付理事会規則 1836/93 によ
り構築された共同体の環境マネージメントおよび監査スキームに従って登録された組織により設
計された電気電子機器は、設計機能が登録の範囲内において含まれているという条件で、必須要求
事項を遵守しているものと見做されなければならない。
5.
規則 XXXX/XX に従って制定され、欧州共同体の官報において公表された共同体の環境協定の規定
を遵守している電気電子機器は、付属書Ⅱに定める必須要求事項への対応に適合していると見做さ
れなければならない。
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EEE 新 1.0 次版 作業ペーパー
第9条
技術規格と規則に関する委員会
1.
欧州委員会は、権威ある分野別委員会により答申された意見を考慮の上、本指令および指令98/
34に準拠する欧州標準化機関に関連するすべての要求を採択しなければならない
2.
加盟国または欧州委員会は、それを適用することで本指令の具体的な規定を満たすはずとされる整
合規格が上記の規定を完全には満たしていないと考えた場合、関係加盟国または欧州委員会は、指
令98/34/EC の第6 条によって設立された常任委員会にその理由を付して通報しなければならない。
欧州委員会は緊急事項としてその意見を開示しなければならない。
3.
欧州委員会は、この常任委員会の意見を考慮して、これらの規格やその一部を第8(2)条に述べた発
表から取下げるか否かに関して加盟国に通報しなければならない。
4.
欧州委員会は、関連の欧州標準化機関に対し必要な場合には新たな要求を通報しなければならない。
第 10 条
電気電子機器の環境に与える影響に関する委員会
1.
欧州委員会は、加盟国代表により構成され、欧州委員会の代表が議長を務める IMPEC と称する委
員会により援助されなければならない。
2.
欧州委員会の代表が、本指令第 11 条に従って講じられた措置の草稿を提出する場合、決定
1999/468/EC の第 6 条に定められた規制の手続きにより、第 8(3)条第および第9条に従って適
用しなければならない。決定 1999/468/EC の第 6(6)条に規定された期限は、3 ヶ月としなけれ
ばならない。
第 11 条
特別措置
欧州委員会は、第 10(2)条に規定された手続きに従い、技術的知識の発展および新たな科学的証拠に
照らして本指令の付属書 I および付属書Ⅱを適用し、または、さらなる要求事項の詳細な仕様を適切に
規定するための措置を採択しなければならない。
第 12 条
上市の制限
1.
加盟国が、CE マーキングを貼付し、意図された用途に従って使用される電気電子機器が、第 6 条
で定められた環境設計の要求事項を遵守していない場合、および/または第 13 条で言及する CE マ
ーキングが不適当に貼付されていることを確認した場合、製造者もしくは製造者の認定代理人に対
し、その電気電子機器を本指令の規定に遵守させること、および/または加盟国により課された条
件に対する違反状態を終息させることが義務づけられなければならない。
2.
不遵守が続く場合、加盟国は問題の製品が上市されることを制限もしくは禁止するための、または
市場から確実に撤退させるための適切な措置を講じなければならない。当該加盟国は、ただちに欧
州委員会に対しその決定の理由を示した上で、および特に次のような不遵守の場合、いかなる措置
も通報しなければならない。
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EEE 新 1.0 次版 作業ペーパー
(a) 第 6 条で言及する必須要求事項を満たすことに失敗
(b) 第 8(2)条で言及する整合規格の適用が不正確
(c) 第 8(2)条条で言及する整合規格に対し不備
3.
欧州委員会は、遅滞なく関係者との協議を始めなければならず、また独立した外部の専門家からの
専門的な助言を参考にすることができる。欧州委員会は、協議後当該措置が正当であると考える場
合、イニシアティブをとった加盟国およびその他の加盟国にその旨通報しなければならない。
欧州委員会は、協議後当該措置が正当でないと考える場合、イニシアティブをとった加盟国および
製造者、または共同体域内で設立された認定代表者に対し速やかににその旨通報しなければならな
い。
(1)項で言及する決定が規格の不備がもとの場合、および決定のもとの加盟国がその立場を維
持する場合、欧州委員会は第 9(2)条で言及する手続きを始めるため第9条に従い速やかに当該
委員会に通報しなければならない。
4.
CE マーキングの貼付を遵守していない電気電子機器の場合、加盟国当局は当人(達)に対し CE マ
ーキングの貼付を行うよう適切な行動をとらなければならないし、かつ欧州委員会および他の加盟
国に対し通報しなければならない。
5.
欧州委員会は、加盟国がこの手続きについての進捗と結果が通報されるよう確保しなければならな
い。
6.
加盟国および欧州委員会は、上記情報に関する守秘性が保証されるよう必要な措置を講じなければ
ならない。
第 13 条
マーキング/適合宣言書
1.
上市する前に、電気電子機器には CE 適合マーキングを貼付し、適合宣言書を発しなければならな
い。それによって製造者または製造者の認定代理人は、電気電子機器が本指令のすべての関連規
定を遵守していることを確保し、宣言する。
2.
CE 適合マーキングは、決定 93/465 EEC の付属書パラグラフⅠ.B(d)に定められたデザインに従
いCE文字で構成される。
CEマーキングは高さが最低5mmであって、
電気電子機器上に見え易く、
読み易く、かつ消えにくいフォームで示さなければならない。また実用的かつ適切な場合には取
扱い説明書上に示さなければならない。
またCEマーキングは販売包装にもつけなければならない。
3.
適合宣言書は付属書 V に規定された事項を含まなければならない。
4.
CE マーキングの意味や形に関して、ユーザの混乱を招くマーキングを電気電子機器に貼付するこ
とは禁止されなければならない。
5.
加盟国は、機器が最終ユーザーに届いた時に、加盟国の公用語により付属書Ⅱパート 5*に従い供給
された情報を要求できる。加盟国は、本件を一つまたはそれ以上の他の共同体公用語で提供される
よう認定することができる。本規定の適用において加盟国は、比例原則(the principle of
proportionality)および、特に、次に掲げる次項を配慮しなければならない。
(a) 情報が調和されたシンボルまたは認識コードもしくは他の措置により供給されることができ
るかどうか;
*
訳者注:付属書Ⅱパート 5 は存在しない
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(b) 予想される機器のユーザーのタイプおよび与えられる情報の性質
第 14 条
拒否または制限を伴う決定
本指令に従ってとられた電気電子機器の上市とサービス供与を制限するいかなる決定も、その根拠とな
る正確な背景を述べなければならない。そのような決定は直ちに関係者に通報されるとともに、併せて
当該加盟国の法律で施行中の法律下における救済手段について知らされ、その救済の受ける時間的制限
について知らされなければならない。
第 15 条
行政の協力
加盟国は、互いに協力すべく本指令の実施に対する当局の責任を奨励するため適切な措置を講じなけれ
ばならないし、本指令が機能することを支援するために互いに情報を提供しなければならない。行政の
協力と情報交換は最大の利点を有する電子通信手段をとるべきであり、関連する共同体のプログラムに
より支持されることができる。
第 16 条
見直しおよび報告
理事会および欧州議会は、本指令の運営を見直しそして欧州議会および理事会に対し報告すべく、本指
令の発行後 5 年以内を第 1 回目として欧州委員会に求める。報告は、関連する規格ならびに執行上に生
じた問題点を盛り込んだ進捗状況をカバーしなければならない。また報告は当該委員会の活動概要およ
び EU 市場における電気電子機器の製品設計に環境側面を統合することの動向と影響の評価を行わなけ
ればならない。
第 17 条
国内法への転換と過渡期間規定
1.
……………..4 以前に、加盟国は本指令を遵守するのに必要な法律、規則、行政令を採択し、告示し
なければならない。そしてその旨委員会に直ちに通報しなければならない。
加盟国が最初のパラグラフに述べた措置を採択する時は、本指令への言及を含めること、あるいは
公表の場合にはそのような言及を付さなければならない。そのような言及を行う方法は、加盟国が
定めなければならない。加盟国は……………..5から当該規定を適用しなければならない。
2.
加盟国は、本指令によって適用される分野で採択する国家法の条文を欧州委員会に通達しなければ
ならない。
3.
加盟国は、本指令の適用日において、その領域内で有効な規則を遵守している電気電子機器の上市
を…………………6.まで認めなければならない。
4
5
6
[本指令の採択から 24 ヶ月に一致する日付]
[本指令の採択から 36 ヶ月に一致する日付]
[本指令の採択から 60 ヶ月に一致する日付]
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第 18 条
罰則
加盟国は、本指令に従い採択された国家規定の違反に対して罰則を決定しなければならない。この罰則
は効果的で、均整のとれたそして抑止力のあるものでなければならない。加盟国は、これらの規定を遅
くとも第 17 条の最初のサブパラグラフに特定する期日までに欧州委員会に通報しなければならないし、
かつ規定に影響するような修正を遅滞なく通報しなければならない。
第 19 条
指令の宛先
本指令は加盟国に宛てられる。
第 20 条
発効
本指令は、欧州共同体官報に公表された日に発効するものとする。
ブラッセルにおいて制定、[…]
欧州議会
議長
[…]
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理事会
議長
[…]
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付属書 I
本指令でカバーされる EEE のカテゴリー
次に掲げる製品のカテゴリーが、共同体の工業生産調査の確立に関する 1991 年 12 月 19 日付理事会規
制 3924/91 により定められた PRODCOM リスト(1998 年 2 月修正)の中で定義されている。
•
•
•
•
•
•
家庭用電気機器(NACE サブヘディング 29.71 に該当する製品)
事務機械およびコンピューター(NACE ヘディング 30 に該当する製品)
電気機械および装置(NACE ヘッディング 31 に該当する製品)
ラジオ、テレビジョンおよび通信機器(NACE ヘディング 32 に対応する製品)
医療用、精密および光学器械、腕時計および時計(NACE ヘディング 33 に対応する製品)
ゲーム機および玩具(NACE サブヘッディング 36.50 に対応する製品)
付属書Ⅱ
必須要求事項
A)
一般規定
電気電子機器の製造者は、意図された条件および目的のために使用されるという想定に基づいて、製品
のライフサイクルを通じての環境影響(impact)に関するアセスメントを実施しなければならない。
製造者は、すべての関連法規を遵守しつつ、環境ファクターと技術的側面と経済的側面のようにそれ以
外の適切な考慮との間において最適なバランスをとれるような、製品の設計ソリューションを選ぶため
当該アセスメントを利用しなければならない。特に、電気電子機器の設計プロセスは次項 B)で定める要
素を含まなければならない。
製造者は、その製品が環境適合設計に従って製造され、使用され、最終寿命をもって処理されることが
できるように 、 特定の設計の選択とその背景の理由を文書化する。EEE の環境適合設計分析
(characteristics)に関する製造者の提供情報は、特に、C)で述べる要素を含まなければならない。
B)
1.
電気電子機器の設計に対する要求事項
製造者は、製品のライフサイクルにおいて次に掲げる段階における電気電子機器にかかわる環境イ
ンプットとアウトプットの大きさを明らかにし、推定しなければならない。
•
原材料の取得
•
製造
•
包装、運送および流通
•
据え付けおよび使用
•
最終寿命
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各段階に対して、以下の側面が適宜評価されなければならない。
•
予測される材料、エネルギーおよびその他の資源の消費量
•
予想される排気、排水または土壌への排出
•
予想される騒音、振動、放射能、電磁界などのような物理的影響による汚染
•
予想される廃材の発生
•
材料の再使用、リサイクルおよび再生の可能性
この分析の深度は、個別の製品の環境影響(impact)と製品の予定製造量を考慮の上、製品の全
体的な環境影響(influence)を反映しなければならない。この分析の結果は、製品設計によって
影響を与えることができるファクターに集中し、優先して、重大な環境影響(impact)を記述す
る製品に関するエコロジカル・プロファイルでなければならない。
2.
製品設計を策定する際に、製造者はその製品の環境パフォーマンスを改善する機会を評価すべく、
このエコロジカル・プロファイルを考慮に入れなければならない。具体的な設計ソリューションの
選択は環境ファクターとその他の関連する配慮事項、すなわち安全と健康、機能性、品質およびパ
フォーマンス対する技術的要求事項および製造コストと市場性を含めた経済的局面のような事項
との間の合理的なバランスを達成しなければならない。
3.
最も適切な設計ソリューションおよび技術的オプションを選択するのに、製造者は以下に掲げる原
則を適用しなければならない。
a) 製品のライフサイクルを通じて汚染を防止し、資源を保護する努力をする。
b) 製品のライフサイクルを通じてエネルギーと材料を最も効率よく使用する。
c) リサイクルされた材料の使用および構成部品、サブシステムならびにシステムの再使用を促進
する。
d) 危険物質および調剤に関する上市と使用の制限に係わる共同体法規を遵守し、有害物質の環境
への排出を最少化する。
e) 耐久性、信頼性、モジュール性、グレードアップ性、修理性、再使用性のための設計により製
品の有効寿命を最適化する。
f) 最終寿命のマネージメント――リサイクル、再生、解体を容易にする。特に、再使用とリサイ
クルに適した構成部品と材料の認識を容易にするため、共通部品および共通材料のコード化標
準を利用する。
g) 製品のライフサイクルのさまざまな段階または異なる製品間における環境問題の移転を避ける。
h) 継続する世代の製品に関する全体的環境影響(impact)の改善の前進を目指す。
4.
C)
製品設計の見直しにつながる製品関連の法的、組織的、経済的ないしはその他の要求事項に変更が
あった場合、製造者は製品設計の環境側面も見直さなければならない。特に、環境に優しい設計に
おける新しい知識ないしは科学的発見ならびに最近の技術的発展の適用により環境保護を改善す
る機会を認識し生かさなければならない。
電気電子機器の環境適合設計側面に関する情報とラベリングの要求事項
製造者は、製品の環境適合設計側面に関する情報および/またはラベリングが、設計段階以後の製品に
責任のある者に対し次に掲げる事項が適宜提供されるようにしなければならない。
:
―
製造工程に関する指示。
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―
製品が上市された時に消費者が製品のこれらの側面を比較できるよう、製品に付属した
製品の重要な環境分析(characteristics)およびパフォーマンスについての消費者への情
報。
―
環境への影響(impact)を最少にし、最適な寿命への期待するかを確保するため、製品を
どのように据え付け、使用しそして保守するか、さらに処分のためにどのように製品を
返却するかに関する消費者/ユーザーへの説明。
―
最終寿命における解体、リサイクルないしは処分に関する処理施設の情報。基本的な情
報はできれば製品そのものに表示していなければならない。
付属書Ⅲ
内部設計管理
1. ここでは、本付属書第 2 項に定められた義務を果たす製造者または製造者の認定代理人が、電気電
子機器が適用される指令の関連規定を満たすことを確保し、宣言する場合の手続きを定める。製造
者または製造者の認定代理人は第13条に規定された CE マーキングをそれぞれの電気電子機器に
貼付し、適合宣言書を作成しなければならない。適合宣言書は一つまたはそれ以上の製品をカバー
することができ、さらに製造者により保管されなければならない。
2. 書類は、電気電子機器が適用される指令の要求事項に適合しているかどうかを評価できるようにし
なければならない。
書類は特に次の掲げる事項を規定しなければならない:
―
製品ライフサイクルを通じて予想される環境インプットとアウトプットの大きさの明確化と
見積り
―
製造者によって実施された関連の環境ライフサイクル・アセスメント調査の結果、および/ま
たは製造者が製品の設計ソリューションの決定に使用した環境ライフサイクル・アセスメント
の文献やケース・スタディーへの言及
―
電気電子機器とそれが意図される使用についての一般的説明
―
製品の環境適合設計側面に関係した製品設計仕様の要素
―
付属書Ⅰ第 5 条*に定められた必須要求事項に従って提供された製品の環境適合設計側面に関
する情報のコピー
―
全面的または部分的に適用された第 8 条に述べた適切な文書のリスト、ならびに第 8 条に述べ
た文書が適用されなかった場合は指令の要求事項を満たすべく採択されたソリューションの
記述。
3. 製造者は、製造工程において、機器が第 2 項に定めた設計仕様、ならびに適用される当該指令の要
求事項を確実に遵守するために、必要なあらゆる措置を講じなければならない。
*
訳者注:付属書Ⅰに第 5 条は存在しない。
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付属書Ⅳ
環境保証システム
1.
ここでは、本付属書第 2 項の義務を果たしている製造者が、電気電子機器が適用を受ける指令
の要求事項を満たしていることを確保し、宣言する場合の手続きについて定める。製造者また
は製造者の認定代理人は、それぞれの電気電子機器に第13条に規定された CE マーキングを貼
付し、適合宣言書を作成しなければならない。適合宣言書は一つまたはそれ以上の製品をカバ
ーでき、製造者により保管されなければならない。
2.
製造者は、本付属書第 3 項に規定されている環境保証システムを実行しなければならない。
3.
環境保証システム(EAS)
EAS は、製造者の環境製品パフォーマンス方針を定め、その電気電子機器が適用を受ける当該指令の要
求事項を遵守していることを確保するために、その方針がどのように製品の環境製品パフォーマンスを
決定するかを定めなければならない。
3.1
環境製品パフォーマンス方針
製造者は、全体的な環境製品パフォーマンスの改善を達成することと、環境製品パフォーマンスの目的
および指標の設定と見直しのための枠組を提供することに傾注しなければならない。
ライフサイクルを通じて製品にかかわる環境インプットとアウトプットを分析し、製品設計においてこ
の分析を考慮に入れるべく製造者により採択されたすべての規定は、系統的かつ秩序ある方法で手順書
や指示書の形で文書化されなければならない。
それらは特に次に掲げる項目の適切な記述を含まなければならない:
―
環境製品パフォーマンスの目的および指標、ならびにその実行と継続に関する組織体制、責任なら
びにマネジメント権限
―
環境パフォーマンス指標に対する製品パフォーマンスを検証するため製造後に行われるべきチェ
ックとテスト
―
管理文書が定期的に見直されているということを示すために要求される文書の管理手順
―
環境保証システムの効果的な運営を検証する方法
3.2
計画
製造者は次の事項を確立し、維持しなければならない。
a)
製造者が環境製品パフォーマンスの目的を決めるのことに影響を与えることをコントロー
ルできる製品についての環境インプットならびにアウトプットの大きさを認識し推定する
手順
b) 技術的および経済的要件を考慮に入れ技術上のオプションを考慮した、
環境製品パフォーマ
ンスの目的および指標
c) これら目的を達成するためのプログラム
3.3
実施
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EEE 新 1.0 次版 作業ペーパー
a)
効果的な環境製品パフォーマンスおよびその見直しと改善の運用報告を確保するために、
責
任と権限が定義され文書化されなければならない責任と権限が定められ、
文書化されなけれ
ばならない
b) 実施された設計コントロールと検証技術、
ならびに機器の設計にあたって使用された工程お
よび系統的施策を述べた文書が作成されなければならない
c) 製造者は、特に適用された規格、ならびに第8条に述べられた規格が適用されない場合は、
関連の必須要求事項を遵守するため使われた手段を述べた仕様書を確立しなければならな
い
d) 製造者は、環境保証システムの核心をなす要素と、ならびに必要な文書すべてを管理する手
順を述べた情報を確立し、維持しなければならない
e) 製造者は、不適合状況を調査し取扱う手続きを確立、維持し、是正措置から生じた手順書の
変更を実施しなければならない
f) 製造者は、定期的に内部環境保証システムの監査を実行しなければならない
付属書Ⅴ
適合宣言書
EC の適合宣言には次の事項を含んでいなければならない:
― 製造者または共同体内に設立された製造者の認定代理人の名前と住所
― 電気電子機器の説明
― 適用された適合性評価手順
― 該当する場合、適用した整合規格の言及
― 該当する場合、使用したその他の技術規格と仕様
― 該当する場合、CE マーキングの貼付のために適用したその他の共同体指令の言及
― 製造者または共同体内に設立された製造者の認定代理人に代わって法的拘束力のある宣言
書に署名する権限を与えられた署名者の詳細
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Vol.2 No.6 (2001.3)
包括的製品政策に関するグリーン・ペーパー
日本機械輸出組合
仮訳
欧州共同体委員会
ブラッセル、…….
COM (2001)……final.
包括的製品政策に関するグリーン・ペーパー
(欧州委員会によって提示)
目
次
1. 序文 ......................................................................................................................... 23
2. 包括的製品政策アプローチ.......................................................................................... 24
3. ステークホルダーの役割と地方イニシアティブ ............................................................. 25
4. IPP アプローチを実施する戦略 ................................................................................... 27
4.1. 価格メカニズム...........................................................................................................28
4.2. よりグリーン消費のためのツールとインセンティブ .......................................................29
4.2.1. グリーン消費者需要 ................................................................................... 29
4.2.2. 公共調達 ................................................................................................... 31
4.3. よりグリーンな生産におけるビジネスのリーダーシップを強化するためのツールとインセン
ティブ ......................................................................................................................32
4.3.1. 製品情報の作成.......................................................................................... 33
4.3.2. 製品設計のためのガイドライン ................................................................... 35
4.3.3. 標準化とニュー・アプローチ ...................................................................... 35
4.3.4. 製品パネル ................................................................................................ 37
4.4. 他のサポート手法 .......................................................................................................38
4.4.1. 環境マネジメント/監査システム ................................................................ 38
4.4.2. 研究、開発および技術革新.......................................................................... 38
4.4.3. LIFE......................................................................................................... 39
4.4.4. 環境会計と環境報告書 ................................................................................ 40
5
次のステップ............................................................................................................. 40
JMC environment Update
22
Vol.2 No.6 (2001. 3)
包括的製品政策に関するグリーン・ペーパー
1. 序文
製品は我々の社会の富と我々すべてが享受している生活の質の基本である。しかしながら、増大する製
品の消費は、直接的にないしは間接的に汚染の大部分の元ともなり、我々の社会の基盤である資源の破
壊にもつながっている。我々の直面する挑戦は、1992 年のリオの環境と開発に関する宣言に求められて
いるように、地球環境を保全する一方で、未来の世代を含めた人類の均衡のとれた開発を達成すること
である。そのための一つの方法は、よ
よりグリーンな製品を基盤として富の創造と競争によって新しい成
長のパラダイムとより高い質の生活を目指すことである。未来の製品はより少ない資源を使い、環境に
与える影響とリスクを低くし、既にコンセプトの段階で廃棄物の発生を予防しなければならない。
このグリーンペーパーは、よりグリーンな製品の市場開拓を促進するために製
製品関連の環境政策を強化
し、再び焦点を当てる戦略を提案するものである。この戦略で進められる構想は、製品をグリーンにす
ること、特にその実施と推進のための実際的手段において、ステークホルダーと政府に対し開かれた展
望に関する公
公の議論を活発化させることを意図している。
この戦略は、包括的製品政策(the Integrated Product Policy)アプローチに基づいており、原材料の採
取から生産、流通、使用、そして廃棄物管理までの全
全ライフサイクルを通じて広範囲に及ぶ製品とサー
ビスを改善すべく、今のところ未開発の可能性を用いて、現行の環境政策を補完することを意図してい
る。その中心的課題は如何にしてよりグリーンな製品が開発され、消費者による理解が最も効率的に達
成されうるかという問題である。よって単一な望ましい IPP の手法というものは存在しない。むしろ最
大の効果を確保すべく注意深く使用され、うまく調子を合わせなければならないミ
ミックスした手法であ
ろう。
製品の環境影響(impact)に関する主な決定は設計段階と使用現場でなされるのであるから、より環境
に優しい製品を作るという挑戦は真っ先に事
事業者と消費者によって取り上げられなければならない。ひ
とたび製品が上市されれば、環境特性分析(environmental characteristics)を改善する余地は相対的に
ほとんどなくなってしまう。同様に消費者がよりグリーンな製品を買わないとか、環境に優しいやり方
で使用しなかったら、全ての設計の努力はみな無駄になってしまうであろう。従って、包括的製品政策
アプローチは、一義的に製品の環
環境設計と、よりグリーンな製品を効率的に手にしてくれることと使用
してくれることに対する情
情報とインセンティブを創造することに焦点を合わせることになろう。
包括的製品政策アプローチと、環境とビジネスの発展の双方に対する環境効率的な解決を明らかにすべ
く強力なステークホルダーとの協調で結ばれた製品のライフサイクルに焦点を合わせることは、第
第6次
環境行動計画の主要な革新的部分をなすであろう。環境改善とビジネス発展の共同作用によって、それ
はスウェーデンで行われるイ
イエーテボリ・サミット用に欧州委員会が現在作成しつつある持続可能な開
発戦略(the Sustainable Development Strategy)の目標にも寄与できる。
何故共同体 IPP アプローチなのか?
ほとんどの製
製品は地球規模であるいは地域規模で取引され、域内市場を自由に流通する。従って、製品
関連の環境政策を、地方で創業された企業のための小規模ベースに関するもののみならず、共同体内で
操業し取引きしているすべての事業者のためにも策定することは意味あることである。共同体の IPP は、
地方と加盟国のイニシアティブから得られた経験を取り上げ、統合し、それを一般の事業者と政府の慣
行に拡大してこそ成功といえるのである。
従って、共同体の包括的製品政策は加盟国、地方自治体、事業者そして NGO がそのアイディアを発展
させ、製品のグリーン化に関する肯定的な経験を拡散する枠
枠組であると同時に、最も有望である具体的
な共同体の政策イニシアティブにより原
原動力となるものである。このためには、イニシアティブの最大
限の効果が達成されうるよう、共同体、加盟国国家、地域、地方レベルの異なるレベル、さらには政府
とビジネス主導のイニシアティブが手に手を取り合って働くことが求められる。
JMC environment Update
23
Vol.2 No.6 (2001. 3)
包括的製品政策に関するグリーン・ペーパー
ボックス1: これまでの共同体 IPP へのステップ
1997 年に、欧州委員会は、加盟国における IPP アプローチの展開と、産業界と消費者による製品ライフ
サイクル概念の使用に関する調査を実施した。ステークホルダーによるワークショップが 1998 年末に組
織された。加盟国における展開に関する最新の調査が 2000 年に行われた。
(詳細は付属書Ⅰ)
1999 年 5 月に、議長国ドイツの下、環境閣僚はワイマールでの非公式理事会で IPP を討議した。議長決
議1で、「以下の同意がなされた:欧州における持続可能な開発の達成を目指して、製品の生産前工程、
製造、流通、使用及び処分にかかわる環境影響がますます重要であること。
[…]環境政策[…]は、製
品の全ライフサイクルにかかわる統合的なアプローチの作成と実施にさらに集中しなければならないこ
と。
[…]環境に優しい製品を開発し、そのような製品の欧州市場においての成功の条件を改善する努力
は、欧州産業の競争力を高めることにも役立つであろうということが強調された。この認識から、そし
て単一の欧州市場と共通通貨領域の中での製品とサービスに求められる規格をできるだけ整合させなけ
ればならないという観点から、以下のような見解がとられた:
[…]環境製品政策は共同体レベルで正当
化された。[…]この新しい革新的政策アプローチは必ずしも追加的な法規制措置に結びつくものでな
く、現行の規定を考慮に入れて手法と措置を知的に統合することを意味するものであることが明らかに
された。
[…]包括的環境製品政策作成の提案を含んだグリーンペーパー[…]
。
」
2. 包括的製品政策アプローチ
包括的製品政策は、原材料採取から生産、流通、使用ならびに廃棄物管理に至る製
製品のライフサイクル
における環境影響を減少させようとするアプローチの一つである。これを動かす考え方は、製品のライ
フサイクルの各段階における環境影響を統合することは必須であって、かつステークホルダーの決定に
反映されるべきというものである。
IPP は、製品のライフサイクルにおける環境影響に強く左右し、改善の可能性、とりわけ製品の環
環境設
計、情報に基づく消費者の選択、製品価格における汚染者負担原則をオファーする決定点に焦点を当て
る。それはまた、製品の全ライフサイクルを目標にした手法とツールを促進する。
包括的とは…
これは、ステークホルダーとの協力に基づいて製品のグリーン化の目標を達成するために様々な手法を
統合した広いアプローチであることと同時に、原材料採取から生産、流通、使用、リサイクルおよび/
または再生ならびに最終処分に至る全段階をカバーする製品のライフサイクル全体(ボックス 2 を比較
せよ)の考慮のことである。
ステークホルダーの視点からは、もし彼らの決定が製品のライフサイクルの上流とか下流とか、どこか
別のところで製品の環境影響に左右するなら、彼らはその行動の結果を知り、責任をとらなければなら
ない。政策の視点からは、特定のライフサイクル段階に焦点を合わせた政策イニシアティブは、ただ単
に環境負荷を別の段階にシフトするだけではだめである。ライフサイクルの考え方は、機能性、健康お
よび安全などの他のクライテリアとともに製品に関するすべての決定の一部として、経済全体にわたっ
て推進される必要がある。
…製品とは…
すべての製品とサービスは、原則として、製品の環境影響の全体的な改善の達成を目指している当該政
1
ワイマールにおける EU 環境閣僚の非公式会合の結果に関する議長決議、1999 年 5 月 7∼9 日
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包括的製品政策に関するグリーン・ペーパー
策の範囲に含まれる。実際の行動は、すべての製品に対して取られるか、あるいはその重要性と改善の
範囲についてステークホルダーとの討議に基づいて選ばれた一部の製品のみに対して取られるであろう。
IPP アプローチが、サービスに関しての環境影響を改善することに有効に適用される限りにおいて、サ
ービスは IPP の一義的な焦点でなくとも除外されてはならない。それどころか、サービスは部分的にあ
るいは完全に製品に取って代わって重要な役割を演ずる可能性がある(例えば、自動車の相乗り、留守
番電話の代りのボイス・メール、
「ニュー・エコノミー」の非物質化効果)
。
…政策とは
IPP アプローチの中での公共機関の役割は直接的な介入でなく、多くの場合簡易化されていなければな
らない。一般的な考え方として、政策は主要目的をセットし、この目的を達成すべく様々なステークホ
ルダーに手段とインセンティブを提供することに焦点を当てるべきである。場合によっては、IPP アプ
ローチはステークホルダーとの議論と協力で環境問題のビジネス指向的な解決を発見すること、および
/または法令の作成にも有用であろう。
法規は IPP の主要な焦点となるものではないが、もし適切ならば、行われるべき手法をミックスしたも
のに関与していなければならない。これは、自主的行動に関する法律の枠組、例えばエコ・ラベル;ニ
ュー・アプローチ法規;自主的アプローチが期待した結果をもたらさなかったり、競争の歪みを避ける
ため法的保護が必要な場合の法規;そしてより全体的かつライフサイクル志向のアプローチを他のタイ
プの法規に統合することなど、に影響するかも知れない。
ボックス2: 製品のライフサイクルの図
資 源
輸
送
リ サ イ ク ル
材料+エネルギー処理
マーケティング
製品概念
製 品
流
と 設 計
製 造 工 程
包
通
消費/使用
最 終 使 用
保守/修理
/再使用
装
サプライ・チェーン
廃棄物
再
生
処
焼
却
分
エ ネ ル ギ ー
3. ステークホルダーの役割と地方イニシアティブ
製品のグリーン化を支援する可能性のある対策について極めて広い範囲に対処しうるために、戦略は行
行
動の全ての潜在的レベルに関し全てのステークホルダーの強力な関与に依存している。関連する決定に
一般的なライフサイクルの考え方を適用するための開かれた対話とインセンティブを創出することが、
包括的製品政策アプローチが構築されるべき主たる基盤をなす。
消費者は、製品の環境特性分析に関するさらなる情報と高度な透明性によって利益を得る。消費者は分
り易いフォーマットでのより良い信頼できる情報によって環境に優しい製品を選択できるであろう。よ
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包括的製品政策に関するグリーン・ペーパー
りグリーンな製品とサービスは、消費者に対して高品質と長寿命、そして(環境影響が正確に製品価格
に反映されたら)全体的な低コストをオファーするはずである。
非政府組織(N
NGO)は、問題の認識および製品の環境影響削減に向けた実際的な解決法の作成における
パートナーとして貢献する機会が与えられるであろう。
包括的製品政策は、産業界と小売業者にとって革新と経済成長をベースに、よりグリーンな市場に向け
たビジネス指向のアプローチを促進すべく自らの経験を持ち込む機会を提供してくれる。事業者は行政
当局や NGO と協力するとともに、企業や産業分野の中で環境問題の解決をもたらすことに積極的な役
割をになうことが求められる。先進企業は市場の変化するプロセスに導くことをチャンスと捉えるとと
もに、その経験を市場参入機会に転換するであろう。特に加盟国の国境をまたいでオペレーションを展
開している企業や欧州企業にとって、共同体の枠組は欧州市場についてのより大きな整合性をオファー
することになる。
欧州市場で得られた経験はのちのち発展途上国を含め地球規模に移って行くであろう。
中小企業は、製品の環境影響を削減する方法に関する情報およびツールをより簡単なアクセスで利用で
きるだろう。また、中小企業にとって環境改善に役立つ支援として製品チェーンに特別に焦点が注がれ
ることになるだろう。
多くの経験が示すように(ボックス4を比較のこと)
、環境リーダーシップと事業の発展は手を取り合っ
て進む。事業連合の言を引用すると、
「環境効率は、ビジネスを、環境上の利益をコストとバランスさせ
るところまで導く以上のことをする。それはリーダーシップの実行である。それは流れを抜きん出よう
とし、社会の将来のニーズ、天然資源の入手可能性および公の展望に注目しようとするリーダーに役立
つ。
」2それは、この考え方を規範とするために産業内ならびに企業、NGO、および国と地方当局の間の
さらなる一般的な協力の上に組織的に構築し広げる必要のある慣行である。
ボックス3: ビジネス慣行としての製品のグリーン化3
家庭用電気機器のメーカーであるエレクトロラックス社は、その製品の環境設計の進展をモニターする
ために環境パフォーマンスのシステムを作った。特に、同社は環境特性分析に関して製品の上位グルー
プを明らかにし、「グリーン・レンジ(Green Range)」と名づけた。1996 年に、グリーン・レンジの販
売は全販売の 5%、粗利益の 8%を占めた。1998 年にはそれぞれ 16%、24%に達した。
3M 社は「汚染予防ペイ・プログラム」というものを採択したが、1975−96 年の期間に 75 万トンの汚
染物質を防止し、9 億 2 千万ユーロを節約した。同期間に同社は生産単位あたり、ないしは、米国のオ
ペレーションの事務所と倉庫スペースの平方米あたり 58%のエネルギー効率改善を達成した。1996 年
に、同社は医療用粘着テープの製造工程の現状打開を発表したが、これによってエネルギー消費を 77%
削減し、溶剤の使用を 110 万 kg カットし、製造コストと製造サイクル・タイムを 25%減らした。
ランク・ゼロックス社は、複写機を再製造する技術を開発し、需要は供給を 50%上回っている。年間
回収される 8 万台の複写機のうち、75%が再製造され、残りはバラして再使用とリサイクルに廻され
る。1995 年に、資産の再生によってランク・ゼロックスは原材料と部品の購買を 9300 万ユーロも回
避できた。
地方のイニシアティブは、実務指向のボトムアップ・アプローチを可能にするので、共同体政策の主要
な土台材(building block)となるであろう。これらイニシアティブは実際的な経験の上に効率的なコミ
ュニケーションを築き上げるよう、お互いの間にリンクしている必要がある。大きな規模に転換できる
肯定的な事例(ボックス4を比較せよ)は、共同体戦略の将来の発展の主要な閃きとなりうるものであ
る。
2
3
プロディー・グループに対する WBCSD/EEEI/EPE メモ、2000 年 5 月
http://www.wbcsd.ch/ee/EEMprofiles/index.htm; JUSTUS, Debra (2000)、
「グリーン」企業:持続可能な開発と産業、OECD 科学
技術産業総局、パリ OECD へのレポート、環境マネジメントに関する事業産業政策フォーラムへの背景レポート:産業の挑戦。
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包括的製品政策に関するグリーン・ペーパー
IPP はより少ない資源と環境影響により人類のニーズを満足させる新たなソリューションを与えるべく
研究・開発への挑戦させる。これは、とりわけ第 5 次研究枠組計画の中の研究基金も意味する。
ボックス4: 21世紀の一撃。事業者と地方政府の協力による現行 IPP イニシアティブの一例
ドイツのニュールンベルグ市は「21世紀の一撃」という先行企業のネットワークを始めたが、これは
アジェンダ21の目標を地方レベルで実施するステップを策定するものである4。このネットワークはま
た、以下のような目的をセットした包括的製品政策に関する作業グループからなっている:
・
・
・
・
選ばれた産業セクター/企業のためにパイロット・プロジェクトを実施する
小売と消費者に焦点を合わせた IPP のチェックリストを伴った持続性ガイドラインを作成する
IPP 製品のマーケティング概念を策定する
企業による政策提言を突合せる
4. IPP アプローチを実施する戦略5
この章ではライフサイクルの展望における物とサービスの環境品質の漸増を促進する目標を掲げた戦略
を述べている。この戦略は、一方では戦略そのものと、他方では固定されていない全ての要素や今後の
公の議論の結果として変更されるかもしれない全ての要素について、広範囲な議論を意図して双方につ
いてまとめたものである。この議論に適応させることを意図して、各セクションの最後に質問を想定し
た。しかし、コメントはこの構造に縛られなくていいし、このグリーン・ペーパーおよび IPP アプロー
チ実施への戦略に関連するどんな見解をも対象とすることができる。
提案された戦略の内容から、物とサービスの環境品質の推進は最大限の市
市場の力の使用を意味している。
実際、挑戦の大きさを考えステークホルダーのかかわりの深さを考えると、この目標は様々な参加者が
このアプローチの可能性を認識し、その達成にコミットしてこそ見えてくるし、到達できるのである。
従って、製品指向の環境政策の成功は、域内市場の枠組み内に存在する製品の環境特性分析の連続的な
改善を確保するため、実践戦略と最も関連の深い原動力と対応する手法を明らかにし使用することにか
かっている。
経済的利益が主な原動力であるので、おそらく最も効果的な手法は税金や補助金のように「
「価格を正し
くつけ」
、外部コストを内部化するのを手助けするものであろう(セクション 4.1)
。しかしながら、こ
れが当てはまらない場合は、製品の環境特性分析を消費者により良く知らせ、生産者が製品のより良い
設計を開発するよう奨励する補完的な行動が必要となる。
この関係で最も影響力のある補完的手段は「
「グリーンな要求(green demand)
」であろう(セクショ
ン 4.2)
。企業に関しては、それが彼らの商業的関心事である場合には、製品の環境品質を含め彼らが環
境パフォーマンスを改善されることが期待できる。直接的な財政的コスト節減、ブランド・イメージの
向上、新市場の展望、そして高いマーケット・シェア、それに加えて結果的に規制措置の予想が主な関
心事であろう。
イメージとマーケット・シェアは両方とも、
消費者が私的分野にいるか
(セクション 4.2.1)
、
公的分野にいるか(セクション 4.2.2)にかかわりなく行使できる影響力である。公的分野の重要性を考
えると、その購買活動は最も影響力のあるファクターの一つであり、著しい「グリーン・マーケット」
の発展に結びつくものである。一般的に需要サイドを「グリーン化」するには情報が決定的な役割を果
たす。
4
5
DSTI/IND (2000) 10
詳細は、http://www.coup21.de参照
IPP アプローチ実施の戦略にみられる主な行動の概略は付属書Ⅲに書かれている
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包括的製品政策に関するグリーン・ペーパー
要求の「グリーン化」、即ち消費者行動の変化は供
供給サイドの措置で補完できるし、されなければなら
ない(セクション 4.3)
。これらは、企業が積極的にその製品にライフサイクル・アプローチを適用する
手法をカバーしている。標準と製品指令(セクション 4.3.3)ならびに製品設計に対する支援(セクショ
ン 4.3.2)はこの範疇に入る。強制的な製品情報も然りである(セクション 4.3.1)
。具体的な問題に対す
るビジネス指向の解答を作り上げるべく様々なステークホルダーを連れてくることによって付加価値が
得られる場合には、具体的な案件に適応する可変的なフォーマットをベースにした製品パネル(小委員
会)が提案される(セクション 4.3.4)
。
加えて、この戦略が実施されるようにするためには、何か新しいか改善されたツールが必要かもしれな
い(セクション 4.4)
。例えば、特に中小企業に対して製品の環境影響を素早くチェックできる使いやす
いライフサイクル・ツールをさらに開発し、普及させることが必要であろう。製品チェーンに沿ったラ
イフサイクル環境情報フローの管理のためのツールもさらなる開発が必要であろう。戦略のための他の
サポート手法は環境マネジメントと監査システム(セクション 4.4.1)および環境会計と環境報告書(セ
クション 4.4.4)である。この新しい政策アプローチはまた、環境に優しい製品とサービスの開発におけ
る革新を支援するとともに、製品のグリーン化に至るメカニズムのより良い理解をも与えるという、焦
点の定まった研究/開発政策によって支援されるべきである(セクション 4.4.2 および 4.4.3)
。
4. 戦略およびその要素に関するステークホルダーの総合的見解は?
グリーン・ペーパーは包括的製品政策アプローチおよび対象となる事項を的確に記述しているか?
提案された総合的な戦略は包括的製品政策アプローチを効果的に実践するのに妥当か?総合的戦略の
改善および補足するのにどんな意見が考えられるか?
様々な戦略要素に関してステークホルダーはどんな見解を持っているかそしてどのようにそれらの見
解を改善できるか?
4.1. 価格メカニズム
製品の環境パフォーマンスは、すべての価格が製品のライフサイクル中の真の環境コストを反映するな
ら市場によって最適化される。しかしながら、いつもそうとは限らないのであって、市場の失敗(market
failures)
(「外部コスト」)というものがある。すなわち、製品およびその使用者は代金を払わずに環境
影響を生じさせることによって「ただ」で利益を得ることができるということである。もし生産者が自
社製品の環境影響を削減し、その結果環境コスト社会(society)が全体として費用負担するのなら、生
産者が税制や国庫助成等に関する優遇措置によって利益を得られることは唯一公正であるいえる。
環境に優しい製品とサービスに有利になるよう市場を変える最も強力な手法は、製品のライフサイクル
中の真の環境コストが製品価格に統合されるよう汚
汚染者負担原則に従ってこれら市場の失敗を直すこ
とである6。
これら外部コストの評価をくだすために、製品の環境パフォーマンスを評価すべく目標値が設定される
ことは絶対必要なことである。欧州委員会は、これらの基準を基に、汚染者負担原則に合致せず、企業
の環境努力が製品価格に正しく反映されないような主要な価格要素を調査するつもりである。関連する
外部コストはできる限り明示化されるべきである。これら調査は、輸送も含め、外部コストが生じる製
品のライフサイクルの主要な段階を識別することにおいて、そして新製品価格および/またはその新製
品使用に係わる要素の外部コストをより考慮すべき手法を考え出すことにおいて支援すべきである7。
6
7
アムステルダム条約 174 (2)条
例えば、新車購入税、ガソリン税、および有料道路の形で乗用者に課せられた現在の慣行のように類似の手法を指す
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包括的製品政策に関するグリーン・ペーパー
にもかかわらず、製品の真の外部コストやそれのインプットを明らかにするのはすんなりとは行かない
し、汚染者負担原則を実施するような広く受け入れられた政策の選択肢を設計することはいつも簡単で
はない。したがって、処理可能な市場失敗を修正するための有効的かつ単純な手法の広範囲な目標達成
のために簡素化することが必要とされる。
「包括的製品政策」の土台材を形作り、議論に対する意見とし
て取り上げられるアクションは数多くある。すなわち、この枠組で考えられる主な解決法は製品の環境
パフォーマンスに対応した差別的な課税制度(differentiated taxation)である。最初のステップは、例
えば、ヨーロッパ・エコ・ラベルを貼付した製品には低い付加価値税(VAT)率を適用することである。
そうする可能性は「新 VAT 戦略」の枠組の中で調査される。本件は政府レベルで他の環境税や賦課金、
取引許可証などの策定や使用によって補完されるかもしれない。これらの手法は明らかに、より一層の
評価と推敲が必要されるし、中長期間のみ適用するかもしれない。製品と直結した外部コストの違いを
適切に反映するような手段をとるべきであり、域内市場の競争を阻害するかもしれない不自然な価格決
定構造をもたらさないように気をつけなければならない。
生産者責任の概念は、製品が販売された時に発生するコストを新製品の価格に統合することに関係して
いる。これは、設計段階での予防を奨励し、消費者が寿命の尽きた製品を無料で返却できるようにする。
それは最近「使用済み自動車に関する指令」8と「廃電気電子機器指令の委員会案」9に統合された。こ
の概念は、製品設計に環境上の関心および統合することがこの方法により有効に達成できる時はいつで
も共同体および加盟国の立法の領域に及ぼされるべきである。デポジット-リファンド・システムのよう
な、寿命の尽きた製品の返却に対する消費者へのインセンティブを与える方法もさらに調査されるべき
である。
欧州委員会は、欧州法の枠組みの中で、国
国家助成(state aids)を通じて環境に優しい製品の開発を経
済的に支援すべきである。反対の効果を有する補助金はできるだけ削減されるべきである。2000 年 12
月 21 日に、欧州委員会は「環境保護のための国家助成」に関する新しいガイドラインを採択した。こ
れらのガイドラインは、条約と両立して環境目的に援助措置を講じる可能性を明らかにしている。計画
中の「環
環境責任に関する指令」は、企業がのちのち責任をとらされる損害を予防する強いインセンティ
ブを企業に与えるはずである。
4.1. どのように IPP は「価格を正しくする」ことに寄与するか?
ステークホルダーは、製品の環境インパクトとの関係における市場失敗について何を知っているか?
製品関連の経済的手法はこれら市場失敗を修正することにどう寄与できるか、そして他にどんな選択肢
が「包括的製品政策」アプローチに提案されるか?
4.2. よりグリーン消費のためのツールとインセンティブ
消費者はよりグリーンな製品を買うことによって違いを示すことができる。環境に優しい製品に対する
彼らの選好は、企業が技術革新とより良い設計によってその製品をグリーン化し、マーケットシェアを
勝ち取る方法を思案する原動力となる。重要なキックオフ効果は公共調達からももたらされうる。当局
は責任に任じて、よりグリーンな製品に対する需要を最初に喚起する必要がある。このような需要が強
ければ強いほど、さらなる持続可能な消費へのシフトはより速くそして大量なものとなるであろう。
4.2.1. グリーン消費者需要
よりグリーンな製品に対する需要は、産業がその環境上の努力を強め、製品およびサービスのライフサ
8
9
2000/53/EC
COM (2000) 347 final
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包括的製品政策に関するグリーン・ペーパー
イクルパフォーマンスを改善する原動力である。そのような需要は、環境情報を積極的に促進しようと
する企業と、製品の環境特性分析の改善を強く企業に求める消費者の間において、互いの教育プロセス
を通じて創造され強化される必要がある。また、このようなプロセスは明日の消費者になる子供たちを
巻き込む必要がある。彼らは両親、幼稚園、学校を通じて製品の環境特性分析を考慮に入れた情報に基
づく製品選択を行う実際のやり方を学ぶ必要がある。
目標は、消費者の選択の力が製品の市場原理の働きにより継続的な環境改善の可能性を活発化すべきで
ある。このような情報によって誘発された継続的な改善の一例としては、強制的 EU エネルギー・ラベ
ル制度である。それは、製品情報が消費者に対してより良い環境記録をもった製品の発見と選択を手助
けするのみならず、白物メーカーが最高のエネルギー効率の機種を販売し、パフォーマンスの悪い機種
をやめることを刺激することについて効果的となりうる。
消費者は、製品のラベリングを通じて、ないしは直ぐにアクセスできる情報源(例えば、消費者/環境
NGO、ウェブサイト、公共機関)から、理
理解し易く、適切な、信頼できる情報に簡単にアクセスでき
なければならない。
製品特性分析に関する情報はメーカーの主張、消費者団体からの情報、第三者が検証したエコ・ラベル
などを含め、様々な形や様々な情報源から入手できる。ほとんどの消費者用製品についての関連する環
境情報は製品そのものからは入手できない。多くの場合、消費者は一生懸命情報を探す必要があり、ど
こで見つかるかを知らなければならないだろう。
今のところ、
熱心な消費者だけがそれを実行している。
環境ラベルの明瞭な
ISO10においては、なかんずくライフサイクルの考え方と方法論の程度で大別される環
11
タイプの枠組を既に作成した 。これは、制度にとって、特にエコ・ラベル制度にとって重要で有用な
基本となっている。ラベルのタイプを明確にしたことは互換性を促進し、一つのラベルのタイプから別
のタイプへ進歩させることを推進することになる。
第三者に認証された製品ラベル(ISO タイプⅠ)による製品情報は、
欧州エコ・ラベル制度12のような第
製品カテゴリーのあるレンジに対して入手可能である。加盟国のものであろうと、EU レベルのものであ
ろうと、エコ・ラベルは市場にある製品について環境的優秀性を表わすものである。このようにして、
エコ・ラベルは、環境に対する優しさに劣る製品からと環境に対する優しさに勝る製品とを識別するこ
とについて、信頼でき、透明性のある方法で敷居値を決めているので、持続可能な消費の中で重要な役
割を果たしている。エコ・ラベルは、一定のカテゴリー中の全製品について、他の製品の測定にも評価
される高い標準を設定している。このようにして、エコ・ラベルには製品の全レンジについてさらなる
策定に影響を与えるという二次的効果を有する。エコ・ラベルの標準が後になって一般的な製品標準に
なるという場合がある。従って、エコ・ラベルが最も効果的であると思われる製品のカテゴリーを目標
に、エコ・ラベルの範囲はできるだけ多くの製品をカバーするよう拡大されるべきである。
しかしながら、
これらの制度は複雑であって、
市場に影響を与える充分な可能性をまだ発揮していない。
試験が実施されなければならないし、申請がなされ承認されなければならないし、料金が払われなけれ
ばならない。加盟国と EU のレベルでエコ・ラベル制度の利用を後押しするために、これらのスキーム
がもっと公的な資金援助を受けるべきである。これは料金が下がることになるだけでなく、もっと大事
なことは、メーカー、小売業者側と、消費者側の双方にこれらのラベルの知識と使用を促進すべく極め
て大きなマーケティング努力を可能にすることにもなろう。
市場における製品情報量を増やす一般的考え方は、柔軟で費用効果の高い解答を必要とする。例えば、
ライフサイクルを考慮した透明性を持った調査に基づき、製品グループ用に策定された環境パフォーマ
10
11
12
ISO とは、International Organization for Standardization 国際標準化機構
ISO 14021, 14024, 14025
エコ・ラベル、ヨーロッパ・サイト
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包括的製品政策に関するグリーン・ペーパー
ンスの基準はより広範に利用可能であろう。これはラベルだけでなされうるのではなく、市場がよりグ
リーンな製品とよりグリーンでない製品とを識別する必要があるという情況(例えば、公共調達、ベン
チマーキング、エコ・ファンド、インジケーター、自己宣言、必須要求事項)からもなされうる。有効
な影響のためにこれらの可能性を発展させる手順やその他の側面が考慮されなければならない。
消費者が環境影響がより少ない製品を選べるよう助けてくれる方法で、適切で理解しやすく信頼できる
環境情報をどうやってより多くの消費者製品に持ち込めるかという問題は依然として未解決である。こ
の関連で、欧州委員会はより広範囲のラベリング戦略を策定する観点で、エコ・ラベル戦略を見直す意
向である。
グリーン主張/自己宣言の領域、ISO タイプⅡ、は近い将来に大規模に使用される可能性が極めて高い
と思われる。実際、製品に関する多くの環境情報が自己宣言の形で提示される。
欧州委員会は、紛らわしい主張を排除して良い主張を奨励する目的を持った ISO 14021 標準に基づき、
生産者による環境自己宣言の作成と査定のガイドラインを準備中である。この自主規格に対する言及は
現在改定中の「不当宣伝に関する指令(Directive on Misleading Advertising)
」の中で行われるであろう。
加盟国とステークホルダーによる主張についてのモニタリングが不可欠である。
製品環境宣言は、市場ではまだ稀であるが、特にビジネス同志のコミュニケー
ISO タイプⅢ13に沿った製
ションなどで使用され始めている。その使用を支持する欧州規模の協力が必要かもしれない。
情報の一つの局面は、情
情報を知らされた消費者の慣行に関係している。製品の使用中における環境影響
は、その製品が生産者や消費者団体の勧告どおり使用されれば多くの場合、削減可能である。EU エコ・
ラベル製品にとって、環境影響を最少化する製品の正しい使い方に関する情報はしばしば鍵となる要件
である。一部の産業とその業界団体は本件について公共情報キャンペーンを始めたところである。
通信技術は、インターネットを含めて情報へのアクセスがもっと可能になる道を開くものである。それ
はまた、高度に差別化されたユーザー指向の製品の現在の脈絡の中で、消費者と共にメーカーに価値を
与え、双方向の情報移転の可能性をオファーする。これは一つの最良の慣行と評価の交換のテーマかも
しれない。
4.2.1. 消費者の需要は如何にして最も効果的に「グリーン」にできるか?
製品の環境特性分析に関する消費者情報は、如何にして改善できるか? どうやって消費者情報が消費
者の「知識」と「意識」に貢献するようにできるか?
環境ラベリング・スキームのインパクトと費用効果はいかにして増大できるか?
製品の環境上最も望ましい使用に関していかにして消費者の意識および行動を改善できるか?
4.2.2. 公共調達
公共調達は EU の GDP の平均で 12%を占めており、ある加盟国、例えばフランスでは 19%にも上る14。
これらの数字は当局の購買力を強調している。当局はグリーン・マネージメントのプロセスと、よりグ
リーンな製品への消費の転換においてリーダーとして責任をもって行動すべきである。もしも当局の多
くの部分がよりグリーンな製品に対する需要を増大させるなら、これは環境に優しい製品の市場に莫大
13
14
もっと正確に言えば、ISO タイプⅢ/TR 14025 は、例えば、環境マネジメントシステムやあるいは適宜社会的局面に関する適
切な追加情報を伴った、ライフサイクル・スタディーからの手順と結果に基づくすべての著しいインパクトに関する定量的な環
境データからなっている
OECD、1999 年、
「グリーンな公的購買:問題点と実際的解決」
、p. 11
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包括的製品政策に関するグリーン・ペーパー
な効果をもたらすであろうし、産業はグリーンな製品の生産を著しく増大させることになるであろう。
EU 公共調達規則は本質的に経済的性質のものだが、EC 条約第 2 項の持続可能性の要求事項を考慮して
理解されるべきでもある。契約の金銭的価値で特定の敷居値を超えると欧州指令が適用される。本指令
は、公的購入の環境的配慮を考慮する非常に多くの可能性を与える一方、他方では一定のケースにおい
てもっと環境的に有効な商品やサービスを支援しつつ差別に制限を設けながら、明確な義務と手続を定
めている。委員会は、購入前に、許認可の必要事項を満たす異なった選択肢の環境影響アセスメントを
実施するための義務を紹介することによって、グリーンな購買を推奨できる可能性を見守ることにもな
る。この方法において、環境的重要性の十分な認識のある決定が下されることになる。アムステルダム
条約の発効と準備中の新立法により、
ある程度までこれを変えてくれる可能性がある。
条約の他の規定、
特に物の自由移動に関する規定は守る必要があるが、敷居値以内なら購買担当者が割合自由にグリーン
な製品を選べることを明記すべきである。
しかしながら、公共調達をグリーンにする上でもっと大きな障害がある。即ち、公共購買の担当者は与
えられた製品に対してどのような環境特性分析を求めるべきかについて具体的な情報を持っていないの
である。これは重要なことである。なぜなら、環境製品に対する製品基準が契約の中味にはっきり規定
されていれば、公的分野は遠慮しないで環境製品を買うことができるからである。
調達当局の組織的な意
意識向上計画が必要である。この関係で、欧州委員会は、特定の生産工程の使用を
求める、または製品のライフサイクル中に発生したすべてのコストを考慮に入れることがどの程度可能
かという質問に対処した公共調達と環境に関する解説的なコミュニケーションを採択するであろう。EU
法に沿って入札の際にグリーンな要求をどのように作成するかの実例を伴ったハンドブックおよび/あ
るいはグリーンな公共調達に関するコミュニケーションも考慮中である。
入札に対する製品基準へのアクセスを容易にするために、当局に対するエコ製品の基準のデータベース
の最良の慣行を交換しあうネットワークが、加盟国の現行のイニシアティブならびに現行の EU エコ・
ラベル基準に基づいて議論される可能性がある。欧州委員会は、インターネットを経た特にこのような
情報交換をコーディネートし容易にするかもしれない。
欧州委員会は、その調達活動のグリーン化を主導し、環境に優しい製品の普及と発展を活発化させる意
向である。欧州委員会はできるかぎり公共調達規則の枠組み内で EU のエコ・ラベル基準の要求事項を
満たした製品を選好するつもりである。欧州委員会は EMAS15スキームに基づく登録を意図しており、他
の当局もこの例に従うよう促進する。このプロセスは環境にやさしい製品の購買数を次第に増やすとい
う観点で評価されなければならない。この経験からくる評価は、加盟国と地方当局に公開されかつ入手
可能にしなければならない。
4.2.2. 「グリーンな」公共調達は如何にして推進できるか?
IPP アプローチの「グリーンな」公共調達の役割はどうすべきか?
公共調達を「グリーン化する」ためにどんな障害を乗り越える必要があるか?
4.3. よりグリーンな生産におけるビジネスのリーダーシップを強化するためのツールとインセ
ンティブ
成功したビジネスは市場参入機会を始める上で将来の展開について先行している。良好な環境マネジメ
15
共同体環境マネジメント/監査システム
JMC environment Update
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Vol.2 No.6 (2001. 3)
包括的製品政策に関するグリーン・ペーパー
ントと製品設計は、持続可能な経済における将来のマーケットシェアの鍵である。従って、ビジネスの
発展を主導している会社がその製品をグリーン化することにおいて最も進んでいる会社であるというこ
とは驚くにあたらない。1993 年 12 月から 2000 年 8 月まで、ダウジョーンズ持続可能性グループ指標
(Dow Jones Sustainability Group Index)に含まれる企業が一般のダウジョーンズ世界指標(Dow Jones
Global Index)を 86.5%も上回った16。包括的製品政策アプローチにとっての挑戦とは、グリーンな製品
に向かっての急速な変化を確かにするために持続可能性へのこの動きを強化し拡大することである。そ
うするために、製品の環境パフォーマンスを改善し、ビジネスが持続可能な企業になるよう主導するた
めのインセンティブを強化するツールの開発と入手可能性を促進する措置がもくろまれている。
4.3.1. 製品情報の作成
市場において環境側面の配慮に向けた持続的なシフトのためには、ステークホルダーが製品や部品の決
定に際しライフサイクルの環境影響の情報を持ち利用することが重要である。一般的に、正確で紛らわ
しくない情報について市場における入手可能性、ユーザー指向性および利点が増進される必要がある。
―
―
―
―
メーカーは、その製品に組み込まれる部品の環境的側面を知るべきである。
設計者は、その選択についてライフサイクル・インパクトを調査し、現存のライフサイクル・デー
タに容易にアクセスし、またそうする方法論を持つべきである。
生産者は、消費者とバイヤーのチェーンに簡単にアクセスできる形で情報を渡すべきである。
小売店、消費者およびバイヤーは、どちらがよりグリーンな製品かを認識すべきである。
製品のライフサイクルパフォーマンスを改善するためには、それを理解する必要がある。従って、経済
を通じてライフサイクルの考え方を広げる最初のステップは、製品のライフサイクル環境影響に関する
情報の創出と照合である。
このような情報はライフサイクル・インベントリー(LCIs)に集め、ライフサイクル・アナリシス17(LCAs)
で説明できる。LCIs と LCAs を一緒にすることは単純でもなければ、簡単なものでもない。ある部分は
公的なものであるが、そうでない部分もある。その価値は品質やユーザーのニーズとオプションとの関
連次第である。
欧州委員会は簡単に入手できるライフサイクル情報の策定と照合を優先して考えている。
そうする方法は、調和させることであり、結局は既存のライフサイクル情報をリンクさせ、適宜合意さ
れたデータ基準に順応する新しいデータベースを構築することであろう。消費者および業界団体や加盟
国の環境保護庁および欧州環境庁のような関連機関も同様に協力して、現行の標準ライフサイクル・デ
ータのデータベースを通じた公共機関からの入手可能性が促進される。他の関連情報(例えば、製品グ
ループ間のライフサイクルパフォーマンスの最良の慣行、環境上の新しい技術)へのリンクももっと簡
単にアクセスできるようにしなければならない。
特に、自分でライフサイクル・アナリシスを実施する専門性も資源も持たない中小企業のような参画者
に対しては、製品の環境インパクトを素早くチェックできるツールが策定され利用可能にされるべきで
ある。類似のツールが策定されて、製品のチェーンに沿ったライフサイクル環境情報フローの管理に対
応しなければならない。ベンチマーク、最新技術、キーとなるパフォーマンス・インディケーター、設
計ガイドライン(セクション 4.3.2 参照)、標準(セクション 4.3.3 参照)が開発されて、生産者と消費
16
17
DJSGI は、多くのクライテリアによって持続可能性のあるリーダーとして識別される(製品およびサービス)企業の経済的パフ
ォーマンスに基づいている。それらクライテリアは細部において議論の余地があるかもしれないが、プロアクティブ(第一次学
習に影響された)企業の識別および一般株式市場へのパフォーマンスを比較するための世界的に数少ない試みの一つといえる。
DJSGI の一部である企業は、1993 年 12 月から 2000 年 8 月にかけて一般の DJGI がシェアを + 174.1%上げた間に+ 240.6%も
上昇した。
ライフサイクル・アセスメント(LCA)は、当該システムの関連のインプットとアウトプットのインベントリーを編集し、これ
らインプットとアウトプットの環境インパクトの可能性を評価し、結果を解釈することによって、製品の環境的側面とインパク
トの可能性を査定する方法である。実際上、LCAs は故意に単純化し、その範囲は限定できるが、原則として、それは包括的で、
組織的なツールである
JMC environment Update
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包括的製品政策に関するグリーン・ペーパー
者が特定製品の環境特性分析を比較できるも
ものさしとして役に立つよう策定されなければならない。
欧州委員会は、実際的なオプションとニーズに関する一つ以上の専門家ワークショップを主催する意向
である。
IPP アプローチの目標は必ずしもすべての決定に対して完全なライフサイクル分析を必要としていない。
もっと大事なことは、鍵となる情報を明らかにし、それを一般的なライフサイクルの考え方に翻訳する
ことである。
情報の創出と入手可能性を増進することについて考えられる手法は、製品のチェーンに沿って消費者に
生産者に義務づけること、および、または奨励することである。このような
キーデータを供給するよう生
義務づけ/奨励ならびにその実施の詳細は、費用効果の基準に照らして作成され、評価されなければな
らないだろう。現存の生産者やステークホルダーのイニシアティブはこのような措置に対する閃きの源
として使用可能であろう。そのようなイニシアティブの例を以下に述べる:
•
EICTA(European Information and Communications Technology Industry Association:欧州情報通信
技術工業会)のサプライ・チェーン管理のイニシアティブは、供給品目の環境改善を行う一方、依
頼人および供給者双方のためにデータ収集を単純化し、電気産業に対しては共通の欧州サプライ・
チェーン管理アプローチを展開させることを目的としている。これは、製品情報提供のために報告
可能な材料の共通リストおよび共通テンプレートを保証することになる。供給者間での批判的な材
料の比較を可能にすることになる。
•
自動車分野おいて、使用済み自動車指令は、国際材料データシステム(International Material Data
System:IMDS)と呼ばれる製品材料に関するデータ収集するための共通の IT システムを奨励する
ために戦略的な協定を策定するよう自動車製造業者に勧めた。この核となるデータベースは、サプ
ライ・チェーンの各部門に自己製品に関するデータのインプットを認めることになる。したがって
乗用車製造業者は、ピラミッド型の階層式データベースとして、乗物自体の多様な部品全体の構成
に関するリポートを裏づけできるような情報をそれぞれのレベルで照合できる。全ての構成部品デ
ータは、データベースとの直接的な相互作用により階層が上になればなるほど非公開である。レポ
ートへのアクセス料金でシステムのメンテナンスを賄うことになる。EICTA はスキームを IMDS シ
ステムに組入れるかかどうか調査中である。
IPP 枠組内での創造および/またはさらに展開されるべきイニシアチブの役割には様々な選択肢がある。
一つの選択肢は環境政策目標と確立された設計ガイドラインによって導かれ一組の広く適用可能なクラ
イテリアに関する情報に基づくことであろう。もう一つ別の選択肢は、期待される製品寿命、予想され
る処分費用、修理の保証、予想されるランニング・コストのような、生産者に比較的良く知られ、消費
者によって理解され検証され得る情報にピントを合わすことであろう。
4.3.1. 製品の環境特性分析に関して信頼できる情報は如何にして作られるか?
情報の供給は IPP アプローチを実行するためにどんな役割を果たすことができるか?
ライフサイクルに関連した情報の産出、フロー、入手可能性、使用を推進するためにどんなイニシアテ
ィブをとることができるか、そしてそれは自主的あるいは強制的に行われるべきか?
これらイニシアティブをさらに発展させ、リンクするのに IPP はどう貢献できるか?
義務的な鍵となるデータ/情報は自主的なスキームに価値を加えることができるか?
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包括的製品政策に関するグリーン・ペーパー
4.3.2. 製品設計のためのガイドライン
企業間でライフサイクルの考え方を推進するのに特に効果的と考えられる情報の一つの形は、環境設計
ガイドラインである。ISO/TC 207 を含め様々なフォーラムで、一般的および製品グループ別に特有の設
計ガイドラインに関する作業が行われた。
設計プロセスに環境を統合するための一般的戦略の策定には、製品の複雑性と多様性ならびに設計分野
で急速に発展している知識とノウハウを考慮に入れる必要がある。
そのような戦略は、以下に適合しなければならない:
―
―
―
―
―
製品によって与えられるサービスの最適化
資源の保全
廃棄物の削減
汚染の削減
有害性とリスクの削減
これらゴールを追及する設計概念は、以下のようなものである:
―
―
―
―
―
―
―
―
よりクリーンな生産と使用のための設計;
(例:発生源での削減、大量を減らすよう導くこと、よ
り少ない廃棄物;最少限のエネルギー消費)
削減/代替のための設計;
(製品において、または消費に伴う有害、有毒など環境に優しくない材
料の)
再生可能な材料の使用のための設計;
耐久性設計;
(例えば、修理性、保守性)
超寿命のための設計;
(例えば、グレードアップの可能性、クラシック・デザイン、将来のニーズ
の取り込み)
機能拡張のための設計;
(例えば、多機能性、モジュール性)
再使用/リサイクル対応設計;
(例えば、単純分解、材料の複雑性の削減、リサイクル可能な、ま
たはリサイクルされた材料の使用、循環型(closed loop)における再製造による部品の再生と二次
的適用)
単純化設計;
(製造コストの引き下げ、大量材料を抑えること、耐久性の増大、保守や資産再生の
ための分解の容易化を導くべき)
欧州委員会はこのようなガイドラインの作成、普及および適用を奨励しようとしている。またガイドラ
インは、共同体イニシアティブによる策定に統合される。例えば、ニュー・アプローチ(セクション 4.3.3)
や具体的な製品規則と環境ラベル(セクション 4.2.1)の枠組の中で。
4.3.2. 環境的側面がどのように製品設計の主要点になるか?
環境設計ガイドラインに関してどんな活動が存在するか?共同体は如何にしてこのようなガイドライ
ンの作成、普及および適用に寄与できるか?
如何にして環境設計ガイドラインは現行と将来の共同体イニシアティブに統合できるか?
4.3.3. 標準化とニュー・アプローチ
今日実施されている 5000 もある欧州規
規格のうち多くは製品規格である。いくつかは法律的背景なしに
適用され、またいくつかは規則をサポートするもの、例えば、ニュー・アプローチである。今日では、
具体的な欧州規格に従った製品認証は「使用への適合」と「ユーザーの安全性」を確認している。近い
JMC environment Update
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包括的製品政策に関するグリーン・ペーパー
将来、「環境的健全性」の考え方が欧州規格を満足する製品にも組織的に結びつくことが強く望まれる。
規格18はすべての関係者に開かれたコンセンサスをベースに決定されるプロセスの結果である。規格は
一般的に拘束的でないが、それは、多くの場合市場を通じて適用される重要な規則をセットする。規格
は製品の環境影響に影響する重要な要素になり得る。
標準機関によって正式の規格を超えてコンセンサスの代りの形(例えば、ワークショップ協定)が作成
された。これらの「ニュー・デリバラブル(New Deliverables)
」は正式な規格の手続的要件を経ていな
いが、急速に展開してきた市場ニーズないしは不安定な技術革新に対する同意の上での解決として急速
に策定されうる。
IPP アプローチの脈絡でのより良い用途の標準化案には次のようなものがある:
・ 環境保護に関連した規格または他のコンセンサスをベースに決定される製品の作成
・ 欧州の製品標準化のプロセスにおける環境的側面の組み入れ、例えば、新しい製品規格を策定およ
び現在の製品規格を見直す場合
・ 新しい製品規格の形成と現存製品規格の再形成のための環境ガイドラインの策定と適用
欧州委員会は、環境特性分析を製品規格に統合するメカニズムを策定すべく、標準化機関ならびにステ
ークホルダーと協力する意向である。民間からの参画により標準化のグリーン化を進める道を見つけな
ければならない。さらに、CEN の環境ヘルプ・デスクの役割を如何に改善し、拡大するかという議論が
現在行われつつある。
もう一つの標準化に密接に関係した行動の見込みのある分野は、環境設計を推進するためのニ
ニュー・ア
プローチ法規の可能性である。ニュー・アプローチ指令とは、拘束力のある必須要求事項を定義する総
合的な整合手法である。
生産者は、
製品が必須要求事項の遵守を示すことによって方法を自由に選べる。
その一つは、欧州委員会の委任に従った CEN, CENELEC および ETSI19が策定したいわゆる「整合規格」
を適用することである。
「整合規格」の適合は、関連する法規への見做し適合を与え、そしてその製品が
域内市場を自由に流通できるようにする。
ニュー・アプローチと標準化は、製品設計の健康と安全の側面に関する中心的なものとして成功例の柱
となった。今までに具体的に製品の環境設計にニュー・アプローチの技術を使った唯一の経験は、
「包装
と包装廃棄物指令」20である。この指令のニュー・アプローチ的要素の完全性と適切さについては議論
のあるところであるが。同様に、これを基に策定された規格は多くの論争を巻き起こした。包装と包装
廃棄物指令に関する混ざり合った経験は、計画中の電気電子機器(Electrical and electronic Equipment:
EEE)指令案のような新しいイニシアティブにニュー・アプローチが如何にして一番うまく適用できる
かについての論議を始めるベースとして捕らえられるべきである。この計画中の指令の目的は、域内市
場での自由な商品流通を確実にする一方、環境思考に製品開発プロセスに全体観のアプローチを統合し
て、EEE の総合的環境影響の継続的かつ持続可能な改善と資源消費を保証することである。
ニュー・アプローチ枠組内のエコ・デザインの特殊性を扱う選択肢に関していくつかのアイディアが付
属書Ⅱに述べられている。
18
19
20
「製品やサービスを提供するすべての企業が検証可能で測定可能な一組の技術的/職業的規範の範囲内で行動するよう、規格は
公衆の健康、安全、環境ならびに製品/工程/サービスの品質をカバーする集合的関心の分野で競技場を平らにならすことがで
きる。このようにして多くの規格は規制的意図の表現として、またもっと自発的に市場の力(即ち、技術規制及び「事実上の」
強制規格)の相互作用によって、強制的となる。OECD 1998,「環境マネジメントシステムのための規格は何をオファーするか?」
、
p. 17
CEN, CENELEC 及び ETSI はそれぞれ、以下のとおりである:European Committee for Standardization, European Committee for
Electrotechnical Standardization, European Telecommunication Standards Institute
94/62/EC
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包括的製品政策に関するグリーン・ペーパー
4.3.3. IPP は如何にして標準化プロセスをグリーン化するのに貢献し、ニュー・アプローチ
立法の可能性を最適に使用するのに貢献できるか?
環境特性分析は如何にして標準化プロセスの欠くべからざる部分になり得るか?
ニュー・アプローチ立法は如何にして製品の環境特性分析の推進に貢献できるか(付属書Ⅱとも比較
せよ)?
4.3.4. 製品パネル
一般的に、経済体はそれが彼らの競争的立場を害さない限り、製品の設計と製造に環境的配慮を抱き込
む用意がある。同じく、消費者は不釣合いな価格差がない限りよりグリーンな製品を選好する。従って、
多くの場合ステークホルダーの間で論議が始まることによって、製品の環境的改善にはずみがつけばそ
れで充分である。これは迅速で一層のビジネス指向の反応を惹起し、法制化が必要になる前に環境問題
を解決できることになる。
この目標に向かって考えられる一つのルートは、如何に環境上の目標が達成されるか、ないしは特定の
製品グループに関連する障害を克服できるかについて作業するステークホルダーのグループを設置する
ことであろう。IPP アプローチの目的のため、このようなステークホルダーのグループは製品パネル(訳
者注:小委員会)と呼ばれる。このパネルは様々なフォーマットで作ることが出来るし、考慮すべき問
題に合わせる必要がある。このような問題は、特定の製品または製品グループの全体的な環境パフォー
マンスにかかわるかもしれないが、また同時に一つあるいはいくつかの製品グループの具体的な問題に
かかわることもできる(例えば、特定の製品または製品グループの有害物質の削減)
。ある場合には、こ
れらのパネルは広範にわたって自分達で組織化されるが、また別の場合には当局や欧州委員会が密接に
かかわるかもしれない。また、欧州標準化機構21に利用されたワークショップ協定のメカニズムに関し
て類似点もある。そのようなワークショップ協定が状況によって類似目的として利用されることもある
かもしれない。
しかしながら、資源の効率的な使用を確保するために、このようなパネルは EU の環境目的に向って著
しい進歩の可能性がある場合にのみ設置される必要がある。その他の条件としては、ステークホルダー
が共同作業を行う用意があること、透明性、関与、情報の質などの合理的な条件を受入れること、なら
びにパネルの作業が終わった後にステークホルダーが行動を起こす用意があることを示す何らかのしる
しがあること、と言ったようなことがあげられる。類似のイニシアティブの例としては、自動車オイル
やデンマークで組織化されたその他の様々なパネルがある。
効率的な討議には準備が必要である。取り上げるべき問題についての初期の分析は、議論が共通の理解
に基づいて行われるように準備されなければならない。パネルの課題ははっきりと実際的に定義される
べきである。期限は、明白な結果なしに議論が長引くリスクを避けるために、設定されるべきである。
最後に、結果の適切な評価がなされなければならない。はっきりした結果が出なかった場合には、パネ
ルの作業は規則のような他の手法を準備することに用いることができる。
4.3.4
製品の設計プロセスは、環境ファクターを配慮する上でどう影響されるか?
製品パネルは適切な解決であろうか?また製品パネルは実際上どう組織化されるか?
類似のイニシアティブから経験は得られるであろうか?
21
付属書Ⅱを比較せよ
JMC environment Update
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包括的製品政策に関するグリーン・ペーパー
4.4. 他のサポート手法
一義的に製品に関する焦点を合わせていなくとも多くの手法があって、オペレーターがライフサイク
ル・アプローチに従うよう刺激することができる。これらの手法には、環境マネジメント/監査システ
ム、ISO 14001 と EMAS、環境報告書、LIFE 手法、研究/開発のようなものがある。
4.4.1. 環境マネジメント/監査システム
環境マネジメントシステムは、企業が製品、活動およびサービスのライフサイクルパフォーマンスを含
む環境パフォーマンスを改善することを助けるように作られている。それは、組織がその環境影響のは
っきりした絵を描けるようにし、目立ったものに目標を定め、それをうまく管理することができるよう
にする。また、環境マネジメントシステムは企業の日常的なマネジメントに環境問題を持ち込むことに
よって、マネージメント・スタイルに変化をもたらす手助けをする。
1993 年 6 月 29 日に採択された欧州の EMAS 規則22ならびにそれに続く国際標準 ISO 14001 はますます
多くの企業やその他の組織体によって適用されている。
EMASⅡは、ISO 標準と同様産業分野だけでなくすべての分野をカバーし、経済活動の環境影響だけでな
く製品やサービスの環境影響にもかかわることになろう。
従って、このような環境マネジメントシステムは欧州連合を通じて IPP アプローチを広げるのに役立つ
ことができる。第一に、これらのシステムはマネジメントの変化を主導するからであるし、第二に、環
境情報を提供し、IPP アプローチに充分対応した情報を管理するやり方を提供するからである。
これの条件は、これら自主的な手法が高い比率を占める経済活動をカバーするところの広範なベースで
適用されることである。組織体にとって、環境マネジメントとは環境面の改善、ならびに財政的利益と
イメージの向上を意味するものである。関心のある人や公衆にとって、それは組織体が環境問題に関し
て真剣に責任をとろうとしていることを物語るものである。加えて、EMAS は関与している組織体に対
して将来の「規則上の利益」をもたらすはずである。加盟国は、環境法規の施行と執行において如何に
EMAS の登録を考慮に入れることができるかを考えなければならない。これは、軽減された頻度ないし
は行政による EMAS の施行、すなわちもっと柔軟性をもった報告と認証手続、そしてある場合には、管
理システムの実施と登録料に対する補助金を考慮に入れた環境マネジメントに導かれるものである。
当局が EMAS 登録のインセンティブの可能性をもっと良く概観できるよう、欧州委員会行政は EMAS 規
則が採択されたら加盟国間で意見交換の場を組織する意向である。またセクション 4.2.2.に述べたよう
に、欧州委員会は自らを EMAS 規則に登録するつもりである。
4.4.1 環境マネジメントシステムは如何に製品のグリーン化に貢献できるか?
4.4.2. 研究、開発および技術革新
IPP アプローチは、生産者がその戦略的思考と製品設計に環境的側面を含めるべきインセンティブを見
出すという新しい力学があり得るという考え方に基づいている。技術革新に対するこのビジネス内部の
22
産業セクターの企業が共同体環境マネジメント監査システムに自主的に関与できる理事会規制(EEC)No 1836/93。まもなく採
択される現行の EMAS 規制の改定版(EMASⅡ)は、EMAS の環境マネジメントシステム要素として国際標準 ISO 14001 を採用
するので、将来両システムは両立する。
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包括的製品政策に関するグリーン・ペーパー
はずみは研究/開発プログラムによる補助によって強化されるべきである。
進行中のプログラムとして、
例えば第 5 次共同体研究枠組計画の中の成長計画(Growth Programme)のようにもっと環境にやさし
い電子電気機器の調査をとりわけ支持するものを含む。このような研究計画は、資源使用が少なく環境
影響が少ない社会の将来のニーズを満たす概念的、組織的そして技術的革新を支持している。包括的製
品政策アプローチとそのような計画との間のつながりは、調査が資金提供を受け、そして第 6 次共同体
研究枠組計画の優先事項のよりグリーンな製品およびサービスの発展を目的に、全てのレベルで強化さ
れ且つ拡張されるなければならない。
革新をさらに推進するために、環境製品設計を駆動するもの、市場の変化、システム・レベルの変化、
将来のシナリオなどは、良く理解される必要がある。ライフサイクル・アナリシスの手法を発展させ、
調和させ、そして普及させ、その適用を特に中小企業がやりやすいようにするために一層の努力が払わ
れなければならない。小規模企業でのライフサイクル・アセスメントを促進するために、研究はさらに
単純化された方法論の開発に及ぶだろう。その上、環境にかなりの影響を与える製品カテゴリーの識別
に寄与し、そのような製品の詳細なライフサイクル・アセスメントの実施することに貢献するだろう。
共同体などの当局は、研究/開発計画が新しい、環境に優しい製品とサービス・システムの革新を誘発
するのに影響を与えることができる場合は、プロジェクトとネットワークに資金援助する利便を提供す
べきである。
政策的展望から、進歩の手法と指標の有効性の評価は継続的要件である。IPP アプローチによって求め
られる製品と消費における広範囲の変化は挑戦に違いない。例えば、研究は指標の開発を援助すること
ができる。
4.4.2. 共同体の研究/開発プログラムは如何に IPP に貢献できるか?
4.4.3. LIFE
LIFE23は、共同体の行動計画シリーズに述べられたように、共同体環境政策の発展を財政的に支援する
唯一の手法である。新しい LIFEⅢ規則は、2000 年 7 月に公表され、IPP アプローチの施行のための実質
的で非常に実際的な機会をもたらした。
LIFEⅢは、持続可能な開発を推進するように作られた革新的なデモンストレーション・プロジェクトな
らびに共同体政策を策定または改定するように作られた予備的措置の範囲を拡大した。
LIFE−環境の具体的な目的は、革新的で統合された技術と方法を策定することに貢献することである。
LIFE のデモンストレーション・プロジェクトに関するガイドラインは、土地利用開発、水と廃棄物管理
ならびに経済活動の影響とともに、5 つの具体的目的の一つとして IPP アプローチと取り上げている。
環境設計、環境効率およびグリーンな金融製品(環境基準にリンクした投資資金、信用あるいは保険施
設)ならびにエコ・ラベリングにかかわるデモンストレーション・プロジェクトに特別に焦点が合わさ
れた。
4.4.3 LIFE プログラムは如何に IPP に貢献できるか?
23
LIFE は、環境、自然および第三国という3つの主要な行動領域に対する共同体の財政手段である
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包括的製品政策に関するグリーン・ペーパー
4.4.4. 環境会計と環境報告書
環境会計と環境報告書は企業にとってますます関係の深いものになってきた。しかも、企業の環境パフ
ォーマンスが如何にその財政的健全に影響するかは、投資家、債権者、政府、一般大衆の関心の的であ
る。企業の年度/財務報告は、ステークホルダーが企業の活動、進歩および将来計画についての情報を
得る一義的な方法である。しかしながら、今のところ、環境情報を提示する標準的な方法がなく、解釈
のための分析的標準もない。これは財務報告のインパクトを弱めている。
欧州委員会は、企業の年度/財務報告に提示される環境情報の標準化と互換性を可能にする開示を明ら
かにするためにある調査を委託中である。企業の年度会計に環境コストと利益をどう組み入れるかに関
するガイドラインが出来るであろう。
4.4.4. 財務報告システムは如何に製品の「グリーン化」に貢献できるか?
5
次のステップ
このグリーン・ペーパーの目的は、ステークホルダー、政府および製品のグリーン化と IPP アプローチ
についての環境問題に対しての開かれている展望と同様に提案された戦略およびその要素に関して、公
公
の議論を引き出すことにある。この議論は、どのように欧州共同体の枠組みが組立てられるかという方
法およびそのような枠組み24の施行に必要な実際的な手段の双方を対象としている。
これは、欧
欧州の諸機関、特に、包括的製品政策アプローチおよびその要素のさらなる策定に密接にかか
わっている理事会と欧州議会におけるこのペーパーの議論を特に含んでいる。また、欧州委員会はグリ
ーン・ペーパーおよび包括的製品政策一般のテーマに関する議論と経験の交換のためのフォーラムとし
て、加
加盟国の専門家による非公式の欧州 IPP ネットワークを使用し支持する意向である。
地方自治体、ビジネスと消費者団体、NGO 等この議論に参加しようという関心のある者のようなすべて
のステークホルダーに対して、欧州委員会はこのグリーン・ペーパーの主なトピックスに焦点を合わせ
た数多くのス
ステークホルダーによる協議イベントを組織する予定である。これは欧州委員会のウェブ・
サイトに発表される:http://www.europa.eu.int/comm/environment/ipp/home.htm。このようなステー
ク ホ ル ダ ー の イ ベ ン ト へ の 参 加 の 申 し 込 み 25 は 以 下 の e メ ー ル ・ ア ド レ ス に 宛 て る :
[email protected]。
ステークホルダーの書
書面によるコメントは、遅くとも 2001 年 6 月 30 日までに送付すること。宛先は、
Mrs. Marianne Klingbeil, Head of the Unit on Industry, Internal Markets, Products, Voluntary Approaches
(DG Environment E. 4), 200 rue de la Loi / Wetstraat 200, B-1049 Bruxelles/Brussel, Belgium。もしくは、
コメントは以下のアドレスに e メールで送っても良い: [email protected]。グリーン・ペ
ーパーの多国語バージョンならびに関連の文書は、以下のインターネット・アドレスにある:
http://www.europa.eu.int/comm/environment/ipp/home.htm。
論争の結果は、IPP アプローチがどのように環境政策に一番良く統合できるかについての洞察を与えて
くれる。論争は 2001 年の後半に計画されているコ
コミュニケーションの基礎となろう。このコミュニケ
ーションは論争のまとめを含め、欧州委員会の IPP アプローチの施行に対する結論を述べることになろ
う。
24
25
IPP アプローチを施行する戦略野の中でもくろまれた主なアクションの概観は付属書Ⅲにある
この申し込みは、ステークホルダーの名称及び包括的製品政策に関するその特別の関心が述べられていること。場所の数に従っ
て招待状が発送される。原則として、団体から一人だけが受け入れられ、具体的な理由がなかったら、資金援助はない
JMC environment Update
40
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包括的製品政策に関するグリーン・ペーパー
包括的製品政策アプローチは現行のイニシアティブの範囲に基づいているので、手法についての作業は
継続して行われることになろう。このペーパーに述べられているように、特に、製品パネルに対して限
定的な数のテスト・ケースを始める意向もある。
付属書Ⅰ: IPP スタディーとステークホルダーの協議
1997 年に欧州委員会は包括的製品政策(IPP)についての調査を委託し26、それを製品の全ライフサイ
クルに沿った行動、参画者、そしてインパクトに対応した包括的アプローチと特徴づけた。この調査は
加盟国における IPP の策定ならびに産業と消費者による製品ライフサイクル概念の使用に注目した。報
告者は、廃棄物、技術革新、市場、情報、責任という政策イニシアティブの5つの「土台材」を巡って
構築された IPP の全般的な分析を前面に打ち出した。報告者は、EU 政策の役割を、IPP が達成しようと
しているものについての共通のビジョンを明確に表現し、最良の慣行を広め、EU 政策の概念を統合し、
具体的な EU の IPP 措置を講ずることであると見た。
この調査を基礎に、欧州委員会は 1998 年末にステークホルダーのワークショップを組織した。そこで
取り上げられたトピックスは広範囲にわたっていた。一般的な結論は、製品ライフサイクル・アプロー
チの関心と関連のステークホルダーのかかわりを巡るコンセンサスを強調した。製品チェーンに沿った
情報は基本的に重要なものと見られた。多くの手法が適切なものと認識された。即ち、産業における環
境マネジメントシステム、製品の環境ラベリング、環境配慮の製品規格への統合、公共調達のグリーン
化、環境協定などである。IPP ビジョンならびにその全体的な目的と目標の明確化の必要性が表明され
た。
加盟国における最近の IPP 政策の策定と EU 政策に対する意味合いのフォローアップ調査27は、加盟国の
大部分がまだ積極的な政策を持っていないことを確認した。積極的な政策を持っている国々の場合、根
幹の原則については合理的な合意がなされているが、施行に関しては大変なバラツキがある。多くの加
盟国は、欧州委員会がリードを取り、まだアクションを取っていない加盟国を援助し、共同体全体に一
貫して適用される枠組を定めることを熱心に希望している。
26
27
Ernst & Young/SPRU for the European Commission 1998, 「包括的製品政策」
。この調査のエグゼキュティブ・サマリーは欧州委
員会の IPP ウェブサイトからダウンロードできる(http://www.europa.eu.int/comm/environment/ipp/home.htm)
Ernst & Young for the European Commission 2000, 「EU における包括的製品政策の基礎を作る」
。この調査は欧州委員会の IPP
ウェブサイトからダウンロードできる(http://www.europa.eu.int/comm/environment/ipp/home.htm)
JMC environment Update
41
Vol.2 No.6 (2001. 3)
包括的製品政策に関するグリーン・ペーパー
付属書Ⅱ: 環境設計の特異性にニュー・アプローチを適応させる選択肢
包装指令に対してニュー・アプローチを適用するにあたって直面した困難が製品の環境設計に関する将
来のニュー・アプローチ法規において如何に回避できるかについての論争に対する実際的なアイディア
として、次のような選択肢が考えられている。
1) 考えられるライフサイクル改善に関するアイディアを出すため執行システムに連動した環境マネ
ジメントシステムおよび/または環境設計ガイドライン
包装指令の経験が示すように、製品の適合性についてのイエス/ノーの決定に使用しうるはっきりした
疑いのない必須要求事項と規格を定義することは困難である。従って、一つのアイディアは、管理が難
しい最終製品に対する具体的な要件でなく、必須要求事項として設計上の決定のプロセスに関連した基
準を使用することであろう。設計プロセスに関連した要求事項は、例えば ISO 14000/EMAS および/ま
たは環境設計ガイドラインのような環境マネジメントシステムをベースに確立できる。
執行当局は製品の適合に関して直ちに決定するのではなく、製品の環境特性分析がどこで直接生産者と
ともに改善できるかという問題を提示できる。また場合によっては、このような問題は業界団体内の広
範囲な討議に付すこともできるし、あるいは当局の注意を引くように持って行き、最も適切なフォロー
アップが行われるようにすることもできる。
2) ワークショップ協定のような「ニュー・デリバラブル(New Deliverables)」の使用
製品の環境特性分析の改善は継続的であって進行中のプロセスであるべきである。従って、正規な規格
の手続き的要件によるよりも、より多くの場合は環境規格を技術的発展に合わせて更新した方が適切で
あると考えられる。このような手っ取り早いアプローチは、ワークショップ協定のような「ニュー・デ
リバラブル」の形を取り得る。類似のアプローチが、例えば、情報技術のような急速に発展している分
野で開発されたところである。
3) 適合を推定するものとしてのエコ・ラベル基準の使用
エコ・ラベルのついた製品はその環境特性分析に関して特に進んでいる。従って、そのような製品が、
製品の環境設計に関する法規に適合しているという自動的な推定から利益を得るのは唯一論理的である。
4) 必須要求事項を定義するための鍵となるパフォーマンス指標(indicators)の使用
このアプローチには2つの可能性がある。一つは、当該製品に対して鍵となるパフォーマンス指標はど
んなものであるかについての明確化が、必須要求事項の定義の前に行われ、要件の形成に直接反映され
ること。2つ目には、必須要求事項がかなり柔軟なやり方で形成され、鍵となるパフォーマンス指標に
関する同意がその後の何らかのメカニズムで形成され、それが翻って標準の形成と施行に助けになり得
るというものである。このアプローチは、当該製品グループ全体に適用される有効な指標の認識を必要
としている。
5) 様々な要素の結合
上述の選択肢は、ニュー・アプローチ法規の従来通りの方法と同様、お互いに互換性のないものと考え
る必要はない。一つの選択肢は、例えば必須要求事項、規格および/またはワークショップ協定の中に
製品の環境特性分析の合格/不合格要件をはっきり定義することである。環境設計ガイドラインはその
後で同じ法規の他の局面に使用することができる。しかも、このようなニュー・アプローチ法規は、特
に標準化機関のようなコンセンサスをベースとして決定する組織体が扱いにくい政治的な争いになりそ
うな問題に対しては従来通りの法規で補完するのが適切であろう。
JMC environment Update
42
Vol.2 No.6 (2001. 3)
包括的製品政策に関するグリーン・ペーパー
付属書Ⅲ: 主な手法とアクションのまとめ
手 法
アクション案
経済的手法 •
•
グリーンな製品を市場で取上げるのを阻害する価格要因を明らかにする
差別税制(例えば、新 VAT 戦略内でのエコ・ラベル製品に対する低減 VAT 税率)
を調査する、等
生産者責任 •
•
この概念を共同体法規のさらなる領域に拡大する
加盟国のイニシアティブを奨励する
エコ・ラベル •
•
製品の範囲を拡大する
マーケティングと料金に対する公的資金援助を増大する
•
共同体エコ・ラベル戦略を見直す
•
エコ・ラベルの基準を他の適用に使用する(例えば、調達、ベンチマーキング、
エコ・ファンド、指標、必須要求事項)
環 境 宣 言 •
•
公 共 調 達 •
ISO タイプⅢに沿って、環境宣言を支持する枠組を作る
公共調達と環境に関する解説的コミュニケーションを採択する
•
グリーンな公共調達のハンドブックを作成する
•
GPP(グリーンな公共調達)に関する情報交換を調整し容易にする
•
欧州委員会自身の公共調達をグリーン化する
製 品 情 報 •
•
製品のライフサイクル・インパクトに関する現存の情報をリンクする
製品のライフサイクル影響を評価(特に中小企業のために)し、製品チェーンに沿っ
た情報フローの改善に使えるツールの作成と普及を支持する
•
この目標を達成する最も効率的な方法に関するワークショップを主催する
•
環境製品特性分析に関する鍵となる情報を与えるよう生産者を義務づけ/奨励す
るスキームの可能性を調査する
エ コ 設 計 •
ガイドライン
標
環境自己主張の使用を監視する準備を行う
準 •
このようなガイドラインの作成、普及、適用を推進する
環境適合設計に関する標準の作成をサポートする
•
「環境的健全性」が組織的に全ての欧州標準とかかわるよう、全てのステークホ
ルダーと協力してその方法と手段を見出す
ニ ュ ー ・ •
アプローチ •
グリーンな製品設計を奨励するニュー・アプローチ法規の可能性を見直す
電気電子機器指令案のような法規におけるニュー・アプローチの最適使用を確実
にする
製品パネル •
•
サポート手法 •
製品パネルの枠組を策定する
2001 年に1つか2つのパイロット・プロジェクトを立ち上げる
EMAS とリンクさせる
•
グリーン製品の技術革新が共同体 R&D 計画(成長計画(Growth Programme)を
含む第 5 次研究枠組計画、第 6 次研究枠組計画)の基幹部分であるようにする
•
製品のグリーン化に関して LIFE プログラムに焦点を置く
•
環境報告書の可能性を調査する
JMC environment Update
43
Vol.2 No.6 (2001. 3)
EU における排出権取得の検討状況について
JETRO ブラッセルセンター/
日機輸ブラッセル事務所
頓宮裕貴
(本稿は、当組合会報「JMC ジャーナル」2001 年 2 月号に掲載されたブラッセル駐在員レポートをその
まま転載したものである。
)
欧州委員会が発表した最近のグリーン・ペーパーでは製品政策にかかる「IPP グリーン・ペーパー」
(本
号にて紹介)が新しいところですが、ここでは昨年 3 月 8 日に「EU 域内における排出権取引について」
グリーン・ペーパーについて、同ペーパーに対する各界からの意見を中心にご紹介しております。
ご存知のとおり、昨年 11 月の COP6 については、残念ながら合意には至りませんでしたが、EU の主要
各国においては排出権取引を含め温室効果ガス削減に向けて具体的な政策を検討している模様です。ま
た我国においても排出権ビジネスを視野に入れて、試験的に実施しているとの一部報道もなされていま
す。同グリーン・ペーパーを含め、今後の欧州動向については注視していかなければならないでしょう。
年に開始されるより前、具体的には 2005 年まで
に EU 域内に排出権取引システムを導入すること
を期待し、本 Paper を作成しています。主要ポイ
ントは以下の通りです。
・企業間の排出権取引システムを想定。
・EU 排出権取引システムは、将来的に EU 域外の
締約国とも取引することを念頭。
・段階的アプローチ:最初は主要 CO2 排出源のみ
をカバー。
・排出権取引システムを EU がコントロールする
のか、それとも各加盟国がコントロールし EU
は監視のみをするのかについては、両論併記。
去る 2000 年 3 月 8 日、欧州委員会は、
「EU 域内
における排出権取引についての Green Paper
(COM(2000)87)
」を発表しました。その後、
2000 年 9 月 15 日を期限としてこの Green Paper
に対する意見を公募していたのですが、寄せられ
た意見は膨大な数にのぼるため、ここではこれら
意見をすべて紹介するのではなく、欧州産業界や
欧州議会等の反応を御紹介しようと思います。
御承知の通り、ここでいう排出権取引とは、地球
温暖化の原因となる温室効果ガスについて、各国
の余剰枠を売買することで、効果的かつ効率的な
温室効果ガスの削減を達成しようというアイディ
アであり、2000 年 11 月の COP6 で内容が決定す
るはずだったものです。
その他の課題として Green Paper が取り上げてい
るものは以下の通りです。
・排出枠の設定方法
・新規参入者の扱い
・自主合意・環境税との整合性
残念ながら COP6 は失敗し、排出権取引導入に対
する機運は低下したように見えますが、一方で、
英国を代表としたいくつかの EU 諸国は、排出権
取引市場の設立に向けて粛々と準備を進めており、
この加盟国の動きを受けて EU レベルでの排出権
取引に関する検討も徐々に進んでいくはずです。
したがいまして、今後とも欧州の動きは注視して
いくべきだと思います
<各界の反応>
当該 Green Paper に対して、2000 年 9 月 15 日、
UNICE ( Union of Industrial and Employers’
Confederation of Europe: 欧州経団連)は Position
Paper を発表しましたが、当該 Paper は以下の点
を指摘しています。
<Green Paper(COM(2000)87)の概要>
欧州委員会としては、国際的な排出権取引が 2008
JMC environment Update
・エネルギー多消費産業部門のみを対象とするの
44
Vol.2 No.6 (2001.3)
EU における排出権取引の検討状況について
ではなく、個々の消費者を含む、社会のあらゆ
る主体を対象とし、効果的かつ公平なものとす
べき。
・個々の企業だけでなく、各産業セクターベース
も取引に参加できるようにし、かつ参加は自主
的なものとすべき。
・国際取引システムと整合性の取れたものとすべ
き。
・取引コストは最小にすべき。
いが、経験を積みつつ、徐々にカバーする部門
や対象ガスを拡充していくべき。
・既存の EU 各加盟国のシステムや国際的システ
ムとの整合性を取ることが重要。
・原単位目標値は採用すべきではなく、排出量そ
のもので取引を行うべき。
・排出枠の設定については、既に効率化努力をし
てきた企業が不利な立場にならないように、
Grandfathering(過去の排出実績を踏まえた割当
方法)ではなく、競売システムを採用すべき。
また、2000 年 9 月 21、22 日に開催された経済社
会委員会1(ESC)は、欧州委員会 Green Paper を
支持しつつ、以下の意見を表明しました。
最後になりますが、Green Paper(COM(2000)87)
は下記の Address で入手可能です。
http://europa.eu.int/comm/environment/docum/0
087_en.htm
・欧州排出権取引は国際的排出権取引システムと
整合性を取るべき。
・欧州排出権取引は(欧州指令ではなく)欧州規
則で規定し、システムへの参加は自主的なもの
とすべき。
・個々の排出枠は欧州指令において確立される
Best Available Technology との差異に基づいて
計算されるべき。
・個々の企業/セクターの排出量自体に上限値を
設けることは解決困難な問題を生じる。
さらに、2000 年 10 月 26 日、欧州議会は欧州委
員会 Green Paper に関する決議書を採択しました。
概要は下記の通りです。
・2005 年までに EU 排出権取引システムを導入し
ようという欧州委員会の考えを歓迎。
・柔軟性措置の活用は、対策の 50%を超えないべ
き。
・EU 各国の温室効果ガス削減目標値を、罰則も含
め法的に拘束する欧州指令を、COP6 後早急に
提案すべき。
・排出源によっては、下流に着目した排出権取引
システムのみに固執しないべき。
・Green Paper には運輸部門などが含まれていな
1
欧州閣僚理事会の全回一致決定により選ばれた222人
のメンパーからなる委員会。任期は 4 年であり、メン
バーは非雇用者、労働者、特定業種代表者(農民、消
費者団体、科学者、教員、等)の 3 つに分類される。
雇用、社会、健康問題、等について諮問を受け、欧州
議会から諮問を受けることも有り得る。
JMC environment Update
45
Vol.2 No.6 (2001.3)
連載
欧州環境規制動向
∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 ⑬
I.
EU
・ 焼却あるいは併用焼却プラント新設許可申込
に関する情報への公開アクセス
・ 同指令の規定に違反した場合の懲罰
1. 欧州委員会指令、廃棄物焼却施設の排ガス
規制を強化
2000 年 12 月 28 日、EU は、廃棄物焼却業者に対
する規制を強化する指令を公表した。1
同指令は焼却プラントの一日あたり排ガス規制値
を以下のとおり定めている。
指令 2000/76/EC は現行の 3 指令を替える。すな
わち新地方自治体廃棄物処理プラントに関する指
令 89/369 および地方自治体有害廃棄物焼却に関
する指令 89/429 を含めて、2005 年末に廃止とす
る。廃油処理に関する指令 75/439/EEC の第 8 条)
第 1 項および付属書も同時に廃止とする。
・ 総粉塵量: 10 ㎎/m3
・ 気体状および蒸気状の物質、総有機炭素量で表
記:10 ㎎/m3
・ 塩化水素:10 ㎎/m3
・ フッ化水素: 10 ㎎/m3
・ 二酸化イオウ: 50 ㎎/m3
・ 二酸化窒素、毎時 6 メトリックトン以上の新
設焼却施設の場合: 200 ㎎/m3
・ 二酸化炭素、6 トン以上の既存焼却施設の場
合: 400 ㎎/m3
EU は、同新指令の前文で「廃棄物焼却に関する文
書の統一化によって、法的明確性および執行力が
改善される」と述べている。
同指令は、廃棄物焼却専用設備および装置ならび
に「併用焼却施設 (co-incineration)
」という 2 種
類の焼却を対象としている。後者は、エネルギー
あるいは製品の生産を主要目的とする施設であり、
設備では廃棄物を通常の燃料または補足的燃料と
して使用するか、あるいは廃棄物を処理目的で取
扱う施設である。同指令に規定される措置は、
2002 年 12 月 28 日時点の新プラントおよび 2005
年 12 月 28 日時点の既存プラントに適用される。
同指令が対象とする領域の一部を以下に示す。
・
・
・
・
・
・
・
1
廃棄物取扱い施設に対する許可
廃棄物の受渡し
焼却プラントの作業条件
大気中への排出制限値
排ガス浄化廃液の排出
残留物
モニタリングおよび制御
達成すべき結果に関して、指令は加盟国に対する
拘束力を有している。しかし、結果を出す方法に
ついては、加盟国に選択枝がある。
2. フタレート類をめぐる EU 膠着に、テスト
方法による打破の可能性
EU は、3 歳未満の乳児が口にいれる玩具へのフタ
レート使用禁止提案をめぐり膠着状態にあるが、
子供向け玩具から溶出するフタレートを測定する
テスト方法によって、この状態が打破される可能
性がある。EU 加盟国は、現行の EU 緊急禁止措置
(三ヶ月毎に更新)を恒久化させるという提案を
めぐり対立している。
)
子供が口に入れる可能性のある子供向け玩具およ
びその他の用品から溶出するフタレートを測定す
る方法はないが、EU 各国政府は、1999 年 11 月に
OJL 332、2000 年 12 月 28 日
JMC environment Update
加盟国は、2002 年 12 月 28 日までに同指令を国
内法に置き換えなければならない。
46
Vol.2 No.6 (2001.3)
欧州環境規制動向∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
導入された「緊急禁止措置」の定期更新に全会一
致で賛成している。ドイツおよびスウェーデンな
どの国は同禁止措置の恒久化を望んでおり、欧州
委員会の同提案を支持している。
実施するというものである。
妥協が成立するかどうかは、テスト方法を認可す
る CSTEE 次第である。CSTEE がテスト方法にはさ
らに微調整が必要であるとして差し戻してくれば、
理事会で話がまとまるのに何年もかかるかもしれ
ない。スウェーデンは、2001 年 1 月 1 日から始ま
った EU 議長国任期の半年間にこのフタレート問
題を優先事項にすることはない。
しかし、オランダおよび英国などの他国は、プラ
スチックを軟化するのに使用されるフタレート類
の危険性の根拠となる科学的証拠がほとんど無い
として、欧州委員会による同提案の支持には消極
的である。むしろ、実際に唾液中にフタレート類
が溶出した玩具だけを禁止する方がよいとしてい
る。しかしながら、その測定が現在不可能である
ため、これらの国は、禁止措置を予防措置として
支持してきた。
ベルギーは 7 月 1 日以降議長国を引き継ぐが、ス
ウェーデンよりこの問題に注目している。ロマー
ノ プロディ(Romano Prodi)EU 委員長は、フタ
レ ー ト 問 題 に は 遺 伝 子 組 換 え 組 織 ( GMO :
genetically modified organisms)級の政治的重要性
があるとの見解をすでに明らかにしている。同委
員長は、この点に関して、2000 年 11 月の Ispra
訪問中にテスト方法については 2001 年始めに完
了する予定であると言われ、演説した。
イタリアの Ispra にある欧州委員会の共同研究セ
ンターは、英国およびオランダの科学者が開発し
た各種テスト方法に関する研究を 2001 年 1 月末
あるいは 2 月初めまでに完了する予定である。そ
の後、毒性・生態毒物学・環境科学委員会(CSTEE:
EU’s Scientific Committee on Toxicity, Ecotoxicity
and the Environment)が同方法を認可することに
なる。このプロセスは 2001 年 4 月あるいは 5 月
までかかるはずである。実証作業が完了すれば理
事会作業グループ内の現状の膠着状態から抜け出
せるかもしれない。
2000 年 12 月 6 日、EU は、3 歳未満の乳児が口に
入れて使用する子供向け玩具その他の用品への 6
種類のフタレート類の使用禁止する緊急措置を再
び 3 ヶ月更新した。6 種類のフタレート類とは、
di-iso-nonyl phthalate(DINP)
、フタル酸ジ−2−
エチルヘキシル(DEHP)
、フタル酸ジ−n−ブチル
(DBP)
、フタル酸ジイソデシル(DIDP)
、フタル
酸ジノクチル(DNOP)およびフタル酸ブチルベ
ンジル(BBP)である。
フタレートの溶出を測定する科学的テストが受入
れられ、承認され、フタレート類が子供の口中に
溶出しないことが示されれば、EU が玩具および口
に入れる用品にフタレート類の使用を禁止する根
拠がほとんどなくなる。しかし、一部の EU 加盟
国は依然として納得していない。
オーストリア、デンマーク、ドイツ、ギリシャ、
イタリアおよびスウェーデンは、全面的禁止の保
持を望んでいるが、フィンランド、フランス、ア
イルランド、オランダ、ポルトガル、スペインお
よび英国はむしろ、承認されたテスト方法を使用
してフタレート類の溶出が確認された製品の規制
を希望している。双方は何ヶ月も膠着状態にある。
フランスは、2000 年後半、半年間の EU 議長国任
期中に禁止反対派の支持を得て妥協案を提出した。
同妥協案は、3 歳未満の乳児を対象とする口に入
れるすべての玩具および用品についてはフタレー
ト類の使用を禁止するが、他の製品については対
象外とし、承認された方法にしたがってテストを
JMC environment Update
47
3. 電気・電子製品廃棄物をめぐり膠着状態
EU 環境閣僚は、2000 年 12 月 18 日∼19 日にブラ
ッセルで開催された会合で、
(i)電気・電子製品
の廃棄物、
(ii)かかる廃棄物に含まれる有害物質、
に関する指令案について予備的な政治的合意を取
付けるための試みを続けた。専門家がまる一日こ
の問題に取組んだ後、議長国フランスは、近い将
来に解決を要する問題があまりにも多く、次の議
長国スウェーデンに委ねなければならないことを
認識した。その間、欧州議会は意見(Opinion)を、
理事会は共通の立場(common position)を採択し
なければならない。
2000 年 12 月 18 日月曜日の[調停]手続の開始
時に、理事会は、電気・電子廃棄物問題を前進さ
せるという困難な任務を専門家グループに委任し
た。専門家は終日さらには夜までこの問題に取組
んだが、相違点をすべて解決するには至らなかっ
Vol.2 No.6 (2001.3)
欧州環境規制動向∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
た。理事会が火曜日(2000 年 12 月 19 日)の朝
再開した時点で、議長国は、政治的合意に達する
のは困難という状況および事実を留意した。多少
の進展はあったものの、また一部の問題(廃棄物
分別回収、廃棄物処理、再生およびリサイクル率)
についてはコンセンサスも形成されていたが、シ
ステムを構築するのにどれくらいの時間を要する
かという問題が大きな障害として残っている。一
部には、業界、経済および業界団体等の論点から、
議長国案である 30 ヶ月という妥協日程の延長に
対する支持を主張する代表もいた。議長国フラン
スは、同指令の採択および実際の施行に必要な期
間(18 ヶ月から 2 年)を考慮に入れ、この日程は
ほぼ 2 倍の 60 ヶ月超まで延長が可能であると判
断している。つまり、必要なインフラの整備に 5
年から 7 年あるということである。
としては、政府の体系的な関与を避けるという
ものであった。いかなる国家的措置も除外しな
い限り、各国閣僚はいかなる介入であろうと個
別的に判断する方が良いと考えた。
• 保険:各国代表の大半は、資金的保証を提供す
る保険制度を支持した。一部の国は、特定セー
フガード付き強制保険制度賛成論を展開した。
5. 欧州委員会、新環境行動計画を提案
欧州委員会は、2001 年 1 月 24 日に意欲的な内容
の新環境戦略案を採択した。これには、向こう 5
年∼10 年間の環境に関する優先行動事項の概要
が示されている。
「環境 2010:私達の未来、私達
の選択」では、
(i)気候変動、
(ii)健康および環
境、
(iii)自然、そして(iv)生物多様性および(天
然資源管理の 4 分野を主要行動分野として重視し
ている。また、この新計画では、革新的な方法で、
市民および企業を参加させていくことに重要性を
強調している。
Dominique Voynet 環境相は、
「別の機会に、そし
て別の状況であれば、フランスの環境相として、
寛大すぎるとはいわないまでも非常に寛大である
と思ったであろう」として、妥協策についてコメ
ントしようとしなかった。この問題は今後議長国
スウェーデンに引き継がれる。
同戦略を提示したマルゴット・ヴァルストレム
(M.
Wallström)環境コミッショナーは「環境政策は
EU の成功談の一つである。例えば、EU 法のおか
げで大気および河川の浄化に大きな前進が見られ
た。しかし、私達は依然として主要な問題に直面
しており、環境が実際に悪化しているケースもあ
る。市民は自分たちの環境に対する不安を抱いて
いる。したがって、私達は、緊急に行動しなけれ
ばならない。そしてこれこそ私達が新計画を意図
している内容である」と発言した。
4. 理事会、環境責任指令に関するガイドライ
ン設定を求める
前記 3.の環境相理事会が「枠組み指令」として期
待する内容について欧州委員会に明確なガイドラ
インを示すという目的で、環境責任に関する白書
について長時間にわたる政策論議を展開した。こ
の過程で解決を要した様々な問題を以下に示す。
EU 環境政策の新たな青写真は、1992 年の「第 5
次環境行動計画」および 1998 年のその「レビュ
ー」に次ぐものである。この「第 6 次環境行動計
画」では、総合的な達成目標を定め、優先的行動
リストを明らかにしている。2 今後これは、共同
決定手続により理事会および欧州議会の採択を必
要とする。
• 適用範囲:各国代表はすべて、各種法律がいず
れも密接に結びついていることに同意し、また
ここでは簡潔に言及するだけで十分であると
いうのが大方の感想であった。圧倒的多数の代
表が、本指令の適用分野に GMO を含めること
を支持した。
• 環境被害の定義:各国代表は、欧州委員会に対
して Natura 2000 ゾーンの限界(フランス、デ
ンマーク、スペイン、フィンランドおよびギリ
シャが強く擁護する立場)を超える一段と詳細
な定義をするよう求めた。
• 国家責任:デンマークは、政府当局自身が運営
する場合には政府当局が対象となるべきであ
るという意見であるが、他国はその必要なしと
考えている。汚染者が破産した場合にどうする
かという問題については、理事会の一般的傾向
JMC environment Update
この新計画は、第 5 次行動計画のグローバル・ア
セスメントに関して3 1999 年 11 月に欧州委員会
が開始した協議を土台としている。一方、このグ
ローバル・アセスメントの土台となっているのは
2
第 6 次計画の要旨については下記を参照すること。
http://www.europa.eu.int/comm/environment/newprg/index
.htm
3
欧州環境:将来の行方は?、COM(1999)543 final、1999 年
11 月 24 日
48
Vol.2 No.6 (2001.3)
欧州環境規制動向∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
欧州環境庁がまとめた環境の現状に関する主要報
告書である。グローバル・アセスメントによると、
EU の環境政策効果に関する状況は一様ではない。
加盟国による EC 環境指令の実施状況が不完全で
あること、そして環境目標のステークホルダーに
自分の問題として受け止める所有者意識が薄弱で
あることを批判している。
に取るべき行動を列挙している。いくつかの環境
問題については、いわゆる「テーマ別戦略」が発
表されている。これは、最もコスト効果の高い方
法で環境目標を達成するために種々の対策を組合
せようというものである。
このような状況のもと、本計画は、加盟国による
現行の環境法実施状況を改善する必要があると強
調しており、そして欧州委員会は実施の怠慢につ
いては広く公表することで加盟国に対する圧力を
強めると発表している。
1. 気候変動: 京都議定書に定められた共同体の
2008 年∼2012 年に 8%の排出削減目標の達成
が、今回提案された新計画の焦点である。し
かし、欧州委員会はまた、2020 年までに 20%
∼40%という一段と広域なグローバルな排出
削減を求めており、より長期的には 1990 年と
比較して 70%のグローバルな温暖化ガス削減
が必要であるという科学的試算に言及してい
る。
重点分野:
本計画のもう一つのテーマは、企業および消費者
と協力して、さらに環境に優しい形態の生産およ
び消費の実現に取り組んでいる。この点において、
欧州委員会は、包括的製品政策、環境責任から財
政的措置、市民に提供する情報の向上に及ぶ多く
の新手法に頼ろうとしている。
特に輸送およびエネルギーセクターにおける
構造変革の必要性を指摘し、エネルギー効率
および省エネに関する取組みの強化、EU 全域
における排出権取引制度の確立、研究および
技術開発の一層の推進、そして市民が排出削
減に貢献できる市民意識の向上を求めている。
同時に、ある程度の気候変動が生じると予測
され、EU は適応する対策を採る必要である。
同コミッショナーは、これを本人自身の取組み課
題の礎として捉えている:
「私は、市場の「グリー
ン化」は持続可能な開発の鍵であると考えている。
また、高い環境基準を適用してすでに経済的便益
を得ている行動的な企業が多く存在すること、そ
して消費者の期待がますます高まっていることも
知っている。
」
同コミッショナーは次のように強調した:
「科
学者が明言しているように、私達は気候変動
に勇敢に立向かわなければならない。さもな
ければ、劇的な結果を受入れるしかない。周
知のとおり、京都議定書の実現は容易なこと
ではないが、実際のところ最初の一歩にすぎ
ない。
」
「環境 2010:私達の未来、私達の選択」の中で強
調されている別の側面として、輸送、エネルギー
および農業などの他の政策に環境への配慮を統合
していく必要性、そして持続可能な開発を促進す
るための国内および地域レベルにおける空間設計
および行動の重要性がある。
2. 自然および生物多様性: 欧州は、多くの種と
その生息地の存続に対する驚くべき脅威を目
の当たりにしている。Natura 2000 ネットワー
クおよび一連の生物多様性に関するセクター
別行動計画の完全な確立は、これらの脅威を
回避する方策の基礎となる。さらに、農業お
よび地域政策を通じてより一般的な景観保護
にも一層の配慮が必要である。
今回提案された環境行動計画は、多くの分野にお
いて定量化が可能な目標を定めるというより、一
般的な目標を掲げるにとどまっている。
「私にとって、明確な目標数値をどうすべきかと
いう議論に多くの時間を費やすよりも、状況の前
進につながる具体的な行動について論じる方が重
要である」と同コミッショナーは述べた。
「私達は、
後に、現在より多くの科学的情報に基づいて定量
化できる目標を設定するつもりである。
」
同計画では、4 つの重点分野のそれぞれについて
問題点を説明し、目標を明確化し、そして優先的
JMC environment Update
49
海洋環境を保護するための新イニシアチブお
よび産業・鉱業事故を防止するための提案も
公表されている。土壌保護のためのテーマ別
戦略は、共同体の環境政策に新たな領域を開
くものである。
3. 環境および健康: 人間の健康に及ぼす環境汚
染の影響に対する認識が高まり、共同体立法
も多くの問題を対象としてきた。様々な環境
Vol.2 No.6 (2001.3)
欧州環境規制動向∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
関連の健康リスク相互間の問題に対処するた
めにより全体的な政策アプローチが必要とさ
れる。例えば、子供など特に影響を受けやす
い集団に対しての一層の配慮が必要である。
めにもなる」
。
EU 拡大および国際的視野: 新計画は、EU の拡大
を見据えて新加盟国にも適用される。また、加盟
候補国に対して現行の EU 現行環境法を全面的に
適用するよう求め、各国政府、環境 NGO および企
業との対話を深めていくと発表している。例えば、
貿易協定に関する持続可能性の影響評価
(sustainability impact assessments)の方法およ
びクライテリアを開発したり、国際環境政策立案
において EU が効果的な役割を果たすことによっ
て、EU 対外政策への環境目標の統合を強化してい
くことも、もう一つの優先分野である。
今後何年間か「環境と健康」分野における重
要な議題となるのは、化学物質リスク管理に
対する共同体のシステムの根本的な整備であ
る。同様に、殺虫剤のリスク削減を目的とす
るテーマ別戦略にも同等に特別の注意が払わ
れる。2000 年の水に関する枠組み指令および
その他現行の法律の実施がEUにおける水質保
護対策の中心となり、同じような実施に関す
る焦点は、理事会および欧州議会が騒音に関
する枠組み指令を採択した場合の騒音につい
ても適用される。大気質に対するテーマ別戦
略は、現行基準の効果をモニターし、ギャッ
プおよび今後優先的に取るべき行動を識別す
る。
ステークホルダーとの協力および健全な科学的根
拠の尊重: 初期段階からの幅広い対話と参加が環
境に関する新政策提案の特徴である。同じことが
健全なる科学的および経済的評価についても当て
はまる。この点については、指標に基づくモニタ
リングをさらに開発し、欧州委員会は欧州環境庁
と緊密に協力していく。欧州委員会はまた、今後
も環境 NGO に財源を提供するとともにその支持
を取付けていくことであろう。
「環境および健康は、私の個人的な優先課題
でもあり、子供をはじめとする影響を受けや
すい集団の存在は特に懸念される」と同コミ
ッショナーは述べた。
4. 天然資源および廃棄物の持続可能な使用: EU
環境政策にとって最も困難な問題の一つは、
容 赦 な く 増 加 す る 廃 棄 物 で あ る 。「 環 境
2010:私達の未来、私達の選択」は、経済成
長からくる廃棄物発生の緩和を求めている。
リサイクリングの強化に特別の努力がはらわ
れるであろうし、特に包括的製品政策を通じ
て廃棄物発生防止目標が実行されるべきであ
る。その他、スラッジや生分解性廃棄物など
特定廃棄物を対象とする提案が含まれている。
資源効率の改善が、第 6 次環境行動計画が新
たに切り開こうとしている別の資源領域の持
続可能な使用に関するテーマ別戦略の主要目
的である。欧州委員会は、他の領域と同様に、
この点において高い環境目標を掲げることに
よって少なからず欧州産業の競争力を促進す
ると考えている。
1998 年 11 月に公表した共同体の化学製品法の実
施に関する報告書の中で、いくつかの欠陥、同法
の少なからず複雑な側面(修正が多く、したがっ
て過度になる傾向がある)および同分野での適用
状況に見られる非常に多くの欠点を強調したこと
を想起している。簡素化、一貫性の向上、効果的
同コミッショナーの発言によると、
「これは、
コスト削減と新市場をもたらすなど企業のた
めになり、処分する廃棄物が減るという意味
では消費者のためになり、もちろん環境のた
JMC environment Update
6. 欧州委員会、協議文書に化学製品政策に関
する戦略の概要を示す
欧州委員会は、2001 年末までに化学製品に関する
共同体戦略にかかる一連の提案を上程しようとし
ている。2000 年 12 月 6 日に同委員会が検証した
協議文書では、新アプローチの主要目的は、ヒト
の健康および環境そして産業界の競争力を保護し、
意思決定プロセスの透明性を改善し、消費者によ
り良い情報を提供することと記述されている。現
行制度の不備を修復するために、同委員会は、主
要項目として既存製品および新製品のリスク評価
を重視する新規制パッケージを展開、業界の責任
を明確化、そして健康および環境のハイレベルな
保護ならびに正当な情報提供の必要性を損なうこ
となく革新および競争を推進することなどを望ん
でいる。
50
Vol.2 No.6 (2001.3)
欧州環境規制動向∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
• 最も危険な物質の厳重な管理が保証されるよ
うな目的および対象にさらに合わせたリスク
アプローチの導入。
な実施をめざしてた同制度の見直しの必要性があ
ると結んでいる。また、一般社会が健康および環
境への影響に関して表明している新たな懸念にも
一層留意すべきであるとしている。
同委員会は、その評価の微調整および様々な関係
者との協議の結果、今回の協議文書を利用して同
制度に関する主な問題点を次のとおり挙げている。
• 入手可能な物質に関する知識という点に関し
ての主要な欠点(テストあるいはリスク評価プ
ロセスが実施されていない製品が市場に多す
ぎる)
。
• 知識および保護という点においてレベル差を
生じる結果を招く新物質および既存物質に関
する 2 つの併行した規制の存在。
欧州委員会によると、新戦略に関する多くの基本
的なニーズおよび主要な要素については一般的合
意がある一方、さらに検討を要する問題および
様々な選択肢のある問題が依然として多くあると
いう。選択肢の言及が可能な未解決の問題を以下
に四件示す。
• 単一システム対二重システム(現行システム通
り)
:
単一システムは正当なる長期的目標であるが、
問題の本質ならびに既存製品および新製品に
ついて同等の知識レベルに達するのに必要な
時間(20 年と推定)から、近い将来に向けて個
別的且つ具体的解決策を選択する場合がある。
• リスク評価およびリスクマネジメントに関す
る複雑で資源集約的プロセス。
• 情報収集およびリスク評価における業界と公
的機関の責任分担における不均衡。
• 新機軸の欠如、特に比較的有害性が低い物質に
おいて。
• テスト対象範囲(長期的効果かどうか)
、敷居
値(量)
、製品コンポーネントとしてのみ販売
される物質、および/または輸出向けおよび社
内使用を目的とする物質に関する現行のテス
ト免除措置を維持するかどうか:
欧州委員会は、新制度について、情報が信頼で
きるリスク評価を基準とし、当該物質の本来の
特性、意図された使用法、量および曝露を考慮
に入れたものであることを示唆すべきである
と断言している。また、効率の保証には、毒性
およびエコ毒性に関する特性テストを目的に
応じて実施しなければならない。また、インビ
トロ手法(動物を使用しない)を重視し、動物
を使用する手法ではその数を最低限にとどめ
なければならない。今後、当該手法、その目的、
情報の記録および普及のための条項などを明
確化しなければならない。
たとえこのような状況を改善するための解決策を
提案する前でも、同委員会は、新戦略は特定の主
要原則――すなわち、予防の原則(precautionary
principle)
、危険性の低い物質による危険物質との
代替、域内市場、競争力、産業界の円滑な機能―
―の適用を基準にすべきであるという立場を明ら
かにしている。また、新技術革新機軸および持続
可能な化学物質の開発への道筋をつけ、一般開放
および情報公開を保証すべきであるとしている。
現行制度の欠陥を修復するために、新政策は以下
の内容を含まなければならないと考えている。
• 効率的且つ一貫性があり、また保護の程度に一
貫性をもたせるために新物質および既存物質
の危険性ならびにその使用に関して同等の知
識が提供できる新しい規制の枠組み。
• 認可制度あるいは制度にもとづく制約規定の
継続を選択:
共同体の現行制度は、問題の物質が健康あるい
は環境にとって容認できないリスクを与える
ので保護措置を講じるべきであると、政府機関
が納得できなければならないという考え方を
基本にしている。委員会は、将来的には 2 つの
解決策が可能であると示唆している。それは、
危険と認識される物質の使用に先立ち許認可
• テスト要件に関して新物質および既存物質と
の均衡改善。
• 業界への責任を強化(化学物質のテスト、評価
および管理責任)
。
• 高度の保護を犠牲にすることなく、新技術革新
機軸および競争力の促進。
JMC environment Update
• 根本的な公約および法的要求事項を確実に守
る適切な優遇措置および罰則の導入。
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Vol.2 No.6 (2001.3)
欧州環境規制動向∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
制度を整備する(したがって、必要な特定の予
防措置を適用した場合、物質が極めて安全に使
用できると証明するのは業界の責任となる)か、
あるいは規制措置を講じる前にリスク評価を
基にした現行の販売規制制度を維持および強
化するかのいずれかである。
• 責任分担:
業界および当局の責任分担を更なる明確化の
必要性については全般的な合意がある。化学物
質の製造業者、業界の加工と流通部門のユーザ
ーおよび輸入業者は、化学物質本来の特性につ
いて必要とされる知識を創出し、各自が寄与す
るライフサイクルの相当部分に対してリスク
評価を行うなど、大変な責任を担っていく必要
がある。
7. EMAS に関する調停で合意
調停委員会(つまり、
「共同決定」手続の最終段階)
に参加した欧州議会および理事会の代表は、2000
年 11 月 22 日に、環境管理・監査スキーム(EMAS:
the Environmental Management and Audit
Scheme)の第 1 改訂版に関する折衷案に合意した
と発表した。
欧州委員会はここでさらに 2 つの選択肢を定義し
ている。まず、非常に多くの化学物質を取扱うに
は、行政の枠組みとして迅速かつ信頼性の高い意
志決定システムを整備しなければならない。経験
的に、共同体の手続がどんなに簡単でも時間がか
かりすぎることは明らかである。加盟国はかかる
権限を国の機関に委任できる。しかし、現在の条
約ではこれができない。規制権限を有する中央機
関の創設は可能かもしれないが、それは条約の変
更を意味する。別の形で早急に実施可能な方法は、
加盟国当局が業界によって提供された情報の適合
性を確認し、テストプログラムを決定するという
方法である。化学物質の評価とは対照的に、認可
は EU レベルに集中できる(但し、特定の影響し
かない化学物質の使用の認可については例外とす
る)
。欧州化学物質局(ECB:European Chemical
Bureau)の拡大が中央データベースの管理、加盟
国の活動の調整を目的とする技術的支援の提供、
そして認可に関する予備的技術的枠組みの提供を
することになる。特に、認可にあたって異論のあ
る事例については、欧州委員会の科学委員会など
による個々の peer review を検討する。域内市場
の機能に潜在的に影響を及ぼす決定はすべて共同
体レベルで行われることになる。
EMAS スキームはもともと産業企業活動の環境的
側面を監査するための共通基準の確立を目的とし
て 1993 年に設立された。今回の改定の目的は、
特に工業系の中小企業および非産業企業の同スキ
ームへの参加を拡大することである。新たな特徴
の一つは‘EMAS’のロゴである。これは、同スキ
ームで承認を受けた企業がレターヘッドや広告に
使用できるものである。7 月の第二読会で、欧州
議会は、特に環境監査制度およびロゴの信頼性を
高めるために 27 の修正を採択した。
欧州議会は、調停プロセスを経て同スキームの透
明性および信頼性の確保に焦点を置いた。理事会
との合意に基づき、環境声明書は、利害関係者の
情報ニーズを考慮に入れたものでなければならな
い。また、情報が明確且つ一貫性をもって書面で
提示をしなければなれない。欧州委員会は、EMAS
の機能を欧州議会および理事会に少なくとも 3 年
毎に報告しなければならない。関連する環境法と
の適合性の確認(欧州議会にとっての優先事項)
もプロセスの一部に含まれる。
第二の選択肢として、非常に多くの追加的な化学
物質を検証しなければならない場合、そして特に
EU 拡大後、多くの加盟国が関係業務を適切にこな
す体制をもたない場合、リスク評価責任の焦点を
絶対必要な管理におくというものである。同委員
会によると、この選択肢の場合、加盟国によって
JMC environment Update
規則の適用にムラが生じる危険性が回避される。
同様に、既存の物質領域について EU が現在もつ
能力が失われるような著しい弱体化も回避できる。
業界の責任はリスク評価にまで及ばねばならない
が、一部の評価は ECB が自身の裁量で常に引き継
ぐ。ECB は公的あるいは民間の研究機関にその業
務を自由に委託できる。共同体の手続は変わらず、
ECB にはリスク評価の通報および検討するシステ
ムの運営権限が与えられる。これは、毒性、エコ
毒性および環境に関する科学委員会の支援を受け
て行われる。加盟国の機関および試験機関の関与
については、ECB に代ってリスク評価を実施する
委託機関として存続可能である。
中小企業の参加を容易にするために、欧州議会は、
登録料は妥当なものとすること、また同システム
では不必要な行政的負担の回避に努力しなければ
ならないことという条項の追加に成功している。
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Vol.2 No.6 (2001.3)
欧州環境規制動向∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
もう一つ欧州議会が主張を通したのは、会社の環
境監査の策定および実施に参加できるよう適切な
研修を受けなければならない被雇用者とその代表
の積極的参加を求める要求である。欧州議会は、
新年の本会議での第三読会で最終的判断を示すは
ずである。
に則し、且つ恣意的あるいは正当性を欠く差別的
措置になるような適用をしてはならないことに合
意している。また、同様の事例においてすでに採
択されている手法と整合性があり、それを講じる
場合と、講じない場合の効果と費用の検証を前提
としなければならない。最後に、同理事会は、
precautionary principle に従って下された決定は、
科学的知識の動向に照らして見直すべきと考えて
いる。
8. 欧州理事会、Precautionary Principle に
関する決議を採択
EU 首脳は、2000 年 12 月 7 日∼10 日までニース
で開催された欧州理事会に集い、特に
precautionary principle に関する決議を採択した。
これは、欧州委員会の同分野における取組み、よ
り具体的にいうと 2000 年 2 月 2 日のコミュニケ
ーションを承認するものである。
したがって、同理事会は欧州委員会に対して、各
分野の特殊事情を考慮しながら precautionary
principle の使用条件に関するガイドラインを、体
系的に提供し、必要に応じて、同委員会の法案策
定および行動に precautionary principle を統合す
るよう求めている。さらに、加盟国および欧州委
員会に対して、科学的知見の進歩および制度間で
必要な調整を特に重視すること、関係する国際討
議の場、特に WTO での precautionary principle に
対する認識が十分に徹底されることを求めている。
加盟国はまた、科学的知識の状況、争点となって
いる問題、そして国および環境が直面するリスク
についてできるだけ十分な知識が一般人および関
係者に提供されるよう強く求められている。
同理事会の決議は、共同体の行動は人間の健康、
消費者および環境を高いレベルに保護することを
目的としなければならないこと、これらの目標を
EU のすべての政策および行動に統合しなければ
ならないこととする EU 条約の規定を想起させる
ものである。この原則が各種の国際文書、特に
1992 年のリオ宣言、1992 年の気候変動枠組み条
約、1992 年の生物学的多様性に関する条約、2000
年の生物安全性に関する議定書、GATT 関連文書、
衛生植物検疫措置の通用に関する対策(SPS:
Sanitary and Phytosanitary Measures)協定、そし
て米国およびカナダとのホルモン紛争に関する
WTO パネルの宣言にも含まれていることを想起
させた上で、同理事会は、EU が適切と判断する保
護レベルの決定権について再確認する。
9. 欧州理事会、エコ税に関する特定多数決を
認める提案を拒否
EU 加盟国は、前記 8.の EU サミットにおいて、理
事会の特定多数決方式(QMV:qualified majority
voting)による環境税承認案を頓挫させた。
同理事会は、健康または環境に有害な影響を及ぼ
す可能性が確認された場合、また、入手可能なデ
ータにもとづく予備的科学評価によってリスクレ
ベルの評価ができない場合には、precautionary
principle を利用すべきであると考えている。リス
ク評価を実施するために、公的機関は適切な研究
施設をもたなければならないこと、そして科学的
リスク評価の実施機関とリスクマネジメント機関
は機能的に分離されなければならないこと、但し、
両機関の交流は継続するなどの点を主張している。
さらに、リスク評価はすべての段階にわたり透明
性を確保して処理しなければならないこと、市民
社会を参加させなければならないこと、特にでき
るだけ早期にすべての利害関係者と協議するよう
配慮しなければならないとしている。各国首脳は、
手法は、プロポーショナリティー原則(比例原則)
JMC environment Update
53
同提案に反対したのは英国とスペインで、EU サミ
ットで、
グリーン課税は 15 加盟国による満場一致
の同意を得るべきであると主張した。
欧州委員会、ベルギー、ドイツ、デンマーク、ス
ウェーデンなど一部の EU 加盟国および欧州の主
要環境団体は、10 ヶ月間に及ぶ政府間会議(IGC:
Intergovernmental conference)を通じてグリーン
課税に関する採決の変更を通そうとしてきた。当
地での交渉は 4 日間半にわたり難航を極めたが、
ようやく結論が出た。
環境税に対する特定多数決方式採択の失敗は、EU
指導者がこの問題でコンセンサスを得られなかっ
たケースとしてはこの 3 年間で 2 度目のことであ
る。前回は、1997 年のアムステルダムでこの問題
が取り上げられたときにも同じように拒否されて
Vol.2 No.6 (2001.3)
欧州環境規制動向∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
いる。
企業、支援地域に立地する企業および島など地
域全体のニーズを満たす再生可能エネルギー
への投資については、さらに 10%の特別援助
が加算される場合がある。つまり、当該案件に
よっては、投資援助の割合が 50%に達する場
合がある。
特定多数決方式は、各 EU 加盟国の人口にもとづ
く加重システムによるものである。現在、EU 環境
法案のほとんどは、理事会の特定多数決方式で承
認できる。環境税は、アムステルダム条約の第 175
条に規定されているように、全員一致を原則とす
る唯一の環境法である。
b) 運営への援助。以下に示す 4 つの選択肢がある。
欧州委員会および環境税に関する制限的多数決の
その他の支持者は、なぜグリーン課税に特定多数
決方式が必要なのかを示す例として、理事会で 8
年以上も阻止されてきた各種エネルギー税のこと
をこれまでも指摘してきた。欧州委員会は、EU が
京都議定書に定められた温暖化ガス削減目標を達
成しようというのであれば、エネルギー税の承認
が不可欠であるとしている。
i) プラントが完全償却されるまで、再生可能
エネルギーの生産コストと電力の市場価格
との差額を補償する援助。投資を誘致する
ため、適正な資本利益も援助で充当できる。
ii) 「グリーン認証」(過剰補償リスクを回避
する)などの市場メカニズムに頼る。
iii) 回避できた「外部コスト」の補償。多くの
場合、再生可能エネルギーは今や定量化で
きる高額な社会への外部コストが回避を可
能にする。再生可能エネルギーへの投資は、
社会が回避できたコストに比例して得られ
る(過剰補償の回避)
。
全体として、IGC は環境団体にとって大きな後退
となった。
環境団体が過去 10 ヶ月間にわたり求め
てきたもう一つの重要な要求は、欧州司法裁判所
(ECJ)を左右する規則の変更である。環境 NGO
は、
「法的地位」に対する権利を求めている。これ
により、規則の執行および資金の配分に関して、
ECJ に欧州委員会など EU 機関の違反を申立てる
ことができるのである。
iv) 通常の運営援助。同分野の現行規則の元で
提供される(期間は 5 年間、
「逓減[ていげ
ん]課税」
)
。
減税:これはエコ税に関係がある。つまり、エコ
税に関して最も先進的な加盟国は、他の加盟国の
競争相手には課税されない税を課すことで自国の
産業を危険にさらす可能性がある。一方、欧州委
員会は、受益企業が環境保護に関する改善を約束
する場合には、最長 10 年間、特定企業について、
エコ税免除を認める可能性を規定した。
10. 加盟国環境保護援助に関する新 EU ガイド
ライン
欧州委員会は、環境保護に関する国家助成につい
て、かかる援助を合法とする条件を定めた新たな
枠組みを採択した。4 競争政策と環境政策は矛盾
しないという原則に従って、当該支援への全体的
に極めて好意的な姿勢を取っているが、同時に、
どんな措置でも正当と認めるわけではない。持続
可能な開発という視点から援助の効果を検討し、
「汚染者負担」原則の適用を考慮し、そして競争
の歪曲を回避しなければならない。
中小企業に対する特別条項:中小企業は、共同体
の新基準に適応するための投資援助の恩恵が受け
られる。これは一般原則からの逸脱であり、通常
は援助の提供にが法律による正当化を認めないも
のである。
新規則は以下の内容で構成されている。
汚染地の復元:汚染の責任者が分かる場合には汚
染者負担の原則が適用される。しかし、汚染者が
分からない場合には、援助は合法的となり、100%
の適正コスト(eligible costs:作業費用から土地価
格の増加分を差し引いたもの)に加え作業価額の
15%までカバーできる。
a) 投資への援助。正式に認められている基本割合
は、以前のガイドラインでは 30%であったが、
再生可能エネルギー、省エネ、および熱電併給
システム(コージェネレーション)を支援する
投資に対しては 40%に引き上げられた。中小
4
企業の移転:最後の可能性は、特に都市部に立地
する企業に関係しており、その存在が地域の住民
OJ C37、2001 年 2 月 3 日
JMC environment Update
54
Vol.2 No.6 (2001.3)
欧州環境規制動向∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
ないかぎり進展の余地はないとして、米国が参加
する意味がないと発表した後のことであった。
に大きな問題を呈している場合である。欧州委員
会は、これらの企業が都心から離れた所へ移転す
るのを助ける援助には正当な根拠があるとしてい
る。適正コストの 30%までカバーされ、中小企業
には特別加算がある。
モンティ(M. Monti)欧州競争担当コミッショナ
ーは「1994 年に成立した現行規則の効果は実証さ
れているが、加盟国は、例えばエネルギーセクタ
ーに特に税の減免など最近まで一般的ではなかっ
た形態の援助を提供するなど、頻繁に介入してく
るようになった。同様に、新形態の運営援助が増
えている。したがって、欧州委員会は計画中の援
助が共通市場に適合するかどうかを判断する際の
適用基準を加盟国および企業に周知させるために、
新たなガイドラインを必要とする」と宣言した。
11. EU および米国、気候変動をめぐる膠着状況
の打破に失敗
EU と米国は、
「オフィシャルではあるがインフォ
ーマルな」会談を 1 週間以上続けた後、意見の相
違を解決することができず、クリントン政権が終
わるまでに京都議定書の実施に関する取決めをま
とめるに至らなかった。これは、2000 年 11 月 25
日にハーグで開催され失敗に終わった国連気候変
動 枠 組 み 条 約 ( UNFCCC : UN Framework
Convention on Climate Change)
第 6 回締約国会議
(COP6:Sixth Conference of the Parties)後の会
合であった。
ジョン プレスコット(John Prescott)英国副首相
も同様に、15 カ国の EU 陣営は比較的理解あるク
リントンチームとの合意成立という貴重な機会を
逸したと発言し、EU 加盟国の中ではどちらかとい
うと孤独な批判者という自らの役割を演じつづけ
た。しかし、同副首相は、EU が決して受入れない
ことを知りながら、長年の立場に固執するに至っ
たとして同じように米国を強く批判した。
二つの主要な争点が常に合意成立の脅威となった。
米国は依然として、EU が容認していく以上に、排
出権取引の利用に関する規制の緩和を必要として
いる。米国その他のアンブレラ・グループの加盟
国も、排出削減目標を達成する方法として、海外
における植林(吸収効果のある森林(sink forest)
の育成)の自由を求めている。
オタワでは結論が出ず、オスロでの会合も取りや
めとなり、行き詰まった COP6 会談はブッシュが
新交渉チームを任命するまで再開しない。今後の
行方に関する支配的な見方は、石油が生み育て米
国化石燃料ロビーの資金的バックアップで大統領
選を闘ったブッシュは、気候変動に関する重大な
活動の検討を拒絶するというものである。
2000 年 12 月 10 日∼11 日にオタワで開始しその
後ニースの EU サミットに場所を移した、3 日間に
わたる集中討議は何の成果も見ずに終わった。さ
らに悪いことに、米国の交渉責任者フランク ロイ
(Frank Loy)によると、EU とアンブレラ・グル
ープ側とは COP6 の交渉が決裂したときよりさら
に溝を深める結果になったという。
一方、ブッシュは大方の見方より交渉しやすく敵
対的ではないという意見など、少数ながら異なる
見方も示唆されている。例えば、同副首相は、EU
交渉者は新交渉チームと一から出直すことになる
ので遅れが生じると予想しながらも、ブッシュ元
大統領が「リオの地球サミットの指導的存在」で
あったこと、当時の主要な職員の多くが新政権に
再び任命されている点を指摘している。
この時点でカナダと英国には合意に向けての見通
しについて話合う意欲が見られたが、欧州委員会
は、問題の明確化およびテクニカルな相違点の解
決など問題が山積していることを確認し、明るい
ことばかりではないことを示唆した。一週間後、
EU 環境閣僚は、ブラッセルでの理事会後も新たな
譲歩を提示することはできなかった。その結果、
クリスマスの前の週にオスロで予定されていた閣
僚会談の再開がキャンセルされた。これは、EU が
主要問題に関して「一段と合理的な立場」を示さ
JMC environment Update
合意を強引に成立させて新ブッシュ政権の誕生を
阻止するなどということは終止考えられないこと
であった。それでもやはり、退陣する米国政権は、
合意の成立に失敗したことをとにかく EU のせい
であると、京都議定書のルールに一層の柔軟性を
求める米国の要求を EU が断固として拒否したせ
いにしようとしていた。
しかし、むしろ問題が大きいのは、米国の立法ペ
ースが遅いことである。そのため京都で定められ
た日程で変更を実現するのは実質的に不可能であ
り、排出削減に関して、共和党支配が優勢な米国
55
Vol.2 No.6 (2001.3)
欧州環境規制動向∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
果」として、さらに「CO2 排出量の 50%は石油が
原因であり、残りが固体燃料および天然ガスであ
ることから、このような状況にはより急進的な解
決策が必要である」と述べている。
上院の合意を取付ける必要があるということであ
る。
12. 欧州委員会、欧州はエネルギー使用量を削
減すべきと警告
欧州はエネルギー供給の外部依存を減らし、気候
変動目標を達成するつもりであれば、輸送、電力、
および家庭暖房セクターでのエネルギー使用量を
削減しなければならない。これは、欧州委員会が
2000 年 11 月 30 日付のエネルギー供給確保に関
するグリーン・ペーパーに示された厳しい内容で
あった。
同ペーパーによると、供給政策と明確な需要対策
とのバランスが必要である。そして、以下のとお
り、五つの主要分野における長期的エネルギー戦
略の概要を示している。
• 消費者の行動における「真の変化」による無駄
の排除:欧州委員会は、省エネ政策および無公
害エネルギーへの転換を公約している。これは
消費を管理し、より環境に優しい行動を奨励す
るエネルギー税の利点を明確にするものであ
るという。
「エネルギー供給確保のための欧州戦略に向け
て」と題するグリーン・ペーパーでは、欧州が現
在の消費増加を抑制できなければ、エネルギー依
存は「ますます危機的なものとなる」と警告して
いる。5 EU は現在エネルギー需要の半分しか生産
していない。仮に何の対策も講じなければ、20 年
∼30 年で EU は需要の 70%を輸入に依存すること
になると、同委員会は述べている。
問題の根底には、EU による大規模な化石燃料の使
用がある。現在、エネルギー消費需要の 41%は石
油、22%は天然ガス、16%は固体燃料(石炭、リ
グナイト、ピート)
、15%は原子力によってまかな
われ、再生可能エネルギーはわずか 6%である。
グリーン・ペーパーでは、2030 年までに石油が
38%、天然ガスが 29%、固体燃料が 19%、原子
力が 6%、
再生可能エネルギーはわずか 8%となり、
エネルギーバランスにおける化石燃料への高依存
度はほとんど変化しないと予測している。
石油消費における重要な要因は、拡張を続け、石
油消費量が 18%であった 1973 年と比べ今や 47%
を占める道路交通である。が、
。このセクターの石
油依存度を変えることが「生態学的ニーズ且つ技
術的課題」と見なされている。
•
共通の問題に共通の解決策を見出すこと。
13. EU 加盟候補国、まもなく欧州環境庁へ参加
今後 10 年間に EU 加盟を果たすべく準備を進めて
いるいわゆる「加盟候補国」13 カ国がすべて欧州
環境庁(EEA)にまもなく参加する予定である。
欧州委員会は、
2000 年 1 月 16 日に 13 カ国の EEA
加盟を認める一連の提案を採択したと発表した。
これによって、コペンハーゲンに本拠を置く同庁
グリーン・ペーパーについては以下のサイトを参照すること。
http://www.europa.eu.int/comm/energy_transport/library/
livre-ve.htm
JMC environment Update
• 新エネルギーおよび再生可能エネルギーの開
発:エネルギーバランスに占めるこれらの割合
を 6%から 12%へと倍増させ、電力生産につい
ては 14%から 22%へと移行させることが、現
在から 2010 年までに達成すべき意欲的な目標
である。現在の状況では、2010 年に 7%あたり
で低迷するだろう。免税措置や補助金などの財
政措置を講じないとこの目標を支えることは
できない。一つの可能性として、石油やガスな
ど収益性のあるエネルギーに再生可能エネル
ギーの開発をファイナンスさせる方法がある。
• 相対的な自律性の維持:中期的な原子力の寄与
を分析しなければならない。
グリーン・ペーパーでは、EU は 2000 年に温暖化
ガス排出量を安定化させたが、最近の欧州環境庁
の予想によると、2010 年までに 5.2%上昇するこ
とにも触れている。そして、上昇の主な理由は経
済成長、電力および交通分野での消費の増加であ
るといっている。「私達の生活様式がもたらす結
5
• 真に代替的な交通政策の必要性:現在の傾向が
続くならば、排出ガスは 2010 年までに 1990
年レベルの 40%増大する。欧州は「鉄道の再活
性化」
、道路交通の再編成、自家用車使用の合
理化、そして「環境に優しく効率的な交通手段
の促進」を進めなければならない。
56
Vol.2 No.6 (2001.3)
欧州環境規制動向∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
多少検討している。そして、
「緻密な」アプローチ
を採用して各種の技術的・非技術的削減オプショ
ンのコスト効果および予測される成果を評価して
いる。
は、候補国を受入れる初の欧州機関となる。13 カ
国は 2000 年 10 月 9 日に開催された候補国と EU
環境相との会合の場ですでに参加の署名を済ませ
ている。同委員会は、EEA に 13 カ国を受入れるこ
とは、候補国にも 15 カ国の現 EU 加盟国にも利益
をもたらすものであるとしている。特に、同庁は、
欧州全域の環境の現状について詳しく報告できる
ようになり、候補国はモニタリング・システムの
設立と運営に EEA の支援が得られるようになり、
EEA は候補国の EU 法実施を支援できるようにな
る。今後、理事会および候補国はそれぞれ 13 の提
案を批准しなければならない。すなわち、1 ヶ国 1
提案で、ブルガリア、チェコ共和国、キプロス、
エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、
マルタ、ポーランド、ルーマニア、スロバキア共
和国、スロベニアおよびトルコが含まれる。
同調査で適用された費用の多くは、研究員が「カ
ナダ国家気候変動プロセス(Canadian National
Climate Change Process)−運輸小委員会」のため
に実施した研究を反映している。但し、可能な限
り、欧州における自動車の条件および慣習を反映
するようにデータを調整している。コスト効果を
測定する二つの手法が採用されている。一つは「ガ
ソリンスタンドおよび販売店」で燃料および自動
車の価格(すべての税を含む)を目にする消費者
が感じる手法であり、もう一つは「生産」コスト
(税抜き)を基準とする手法である。
研究員は、乗用車部門では通常のビジネスシナリ
(Mt
オで 2010 年までに最大 7,300 万 CO2 換算トン
CO2 eq:million tonnes of CO2 equivalent)削減が
可能であり、7,300 万トンすべてを削減する平均
コストは 1 トン当たり 92 ユーロという結論を示
している。この数字は、他の排出削減努力に関す
るこれまでの数字よりかなりコスト高に思われる。
例えば、欧州委員会が昨年 3 月に EU 気候戦略を
明らかにしたときにはポテンシャルのある欧州全
域スキームである排出権取引制度について 1 トン
当たり 33 ユーロというコスト予測をしている。
14. EU 輸送排ガス削減に伴うコスト高を報告
EU がスポンサーとなって実施した最新の研究報
告は、ガソリンおよびディーゼル車の改変という
技術的手段による輸送の温暖化排ガス削減コスト
には、以前の試算をかなり上回り、経済全体の排
出削減努力と比べても相当のコスト高になるとい
う結論づけている。
AEA テクノロジーの調査で研究員は、欧州自動車
工 業 会 ( ACEA : European Automobile
Manufacturers Association)の長年の主張、つまり
欧州委員会と締結した輸送排出削減に関する自主
協定はコスト効率が良くないことを裏付ける結果
を出している。
1990 年の 6 億 9,500
EU 輸送機関の CO2 排出量は、
万トンに対して 1995 年は 7 億 5,200 万トンであ
り、今後も増加していくと予想される。環境運動
家は、この調査結果をすでに利用している。この
研究で検証された措置のコスト効率が良く、本格
的に実施されたとしても輸送機関の排出は 2010
年までに 20%の増加が予想される点を強調する
一方で、交通需要の削減に財政的そして他の非技
術的な措置を強く求める主張を展開している。
今回の研究成果は、「気候変動によるセクター別
排 出 削 減 目 標 に 関 す る 経 済 評 価 ( Economic
Evaluation of Sectoral Emission Reduction
Objectives for Climate Change)
」という同委員会
がスポンサーとなっているプログラムに従って実
施すべき一連の研究の 1 つは EU の「輸送セクタ
ー 排 出 削 減 に 関 す る 経 済 的 評 価 ( Economic
Evaluation of Emmission Reductions in the
Transport Sector)
」である。同経済評価では、乗
用車および貨物車ならびに航空機に起因する温暖
化ガス排出削減の選択肢について検討している。
同評価では、二酸化炭素(CO2)排出を重視して
いるが、触媒に起因する酸化窒素(N2O)排出お
よび自動車のエアコンおよび保冷車に起因するハ
イドロフルオロカーボン(HFC)排出についても
JMC environment Update
廃棄物に起因する温暖化ガス排出に関する同様の
調査は、ゴミ埋立て地から発生するメタンガスは
少なくとも 3 分の 1 ほど(1990 年の 1 億 5,600
万 CO2 換算トンに対して 2010 年には約 9,000 万
CO2 換算トン)削減可能という結果を得ている。
但し、実施して収益性のでる削減オプションはど
ちらかというとほとんどない。このような結果は、
EU の「気候変動防止セクター別排出削減に関する
経済評価」プログラムに基づく別の調査にも表わ
57
Vol.2 No.6 (2001.3)
欧州環境規制動向∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
れている。これは EU における廃棄物セクターに
起因するメタン排出削減に関して AEA テクノロジ
ーのコンサルタントが実施した。同調査では、三
つの主要なメタン削減措置について、1 トン当た
りのコストと削減効果を検証している。その措置
とは、ゴミ埋立て地の生分解性廃棄物を別の方法
で処理し、ゴミ埋立てガスに含まれるメタンを回
収および焼却し、そしてゴミ埋立て地のエアレー
ション(炭酸ガス飽和処理)を改善するというも
のである。
なる進展、そしてイエテボリ・サミットでの強化
が展開される。
議長国はまた、以下のとおり、焦点となる重要問
題をいくつか提案している。
• 第 6 次環境行動計画:スウェーデンは、共同体
の第 6 次環境行動計画の検証を確実に進展させ
る。この計画は持続可能な開発に関する活動の
エコロジー面の中核を形成するものであり、持
続可能な開発に関する総合戦略の基礎の 1 つと
ならなければいけない。同計画は今後 10 年間
に及ぶものであるが、明確且つ動機の裏付けら
れた環境目標および指標を基準としなければな
らない。欧州委員会は今年早々に通知文書を提
案する見込みである。
メタンの温暖化影響は二酸化炭素のおよそ 20 倍
である。廃棄物管理施設、主にゴミ埋立て地から
発生する排出量は、EU 全体の温暖化ガス排出量の
4%すなわち 6,700 万 CO2 換算トンに相当する。
再生紙化、ゴミ埋立て地から発生する熱の補足、
およびゴミ埋立て地から発生するガスを利用した
発電などはいずれも収益を出せるであろう。しか
し、予想される総削減量 6,700 万 CO2 換算トンの
約 10%にすぎない。
• 気候変動:ハーグ会議の失敗に続き、気候変動
問題は、共同体の議題の中で引き続き中心的位
置を占めることになる。同問題は、スウェーデ
ンが議長国を務める間は重要な優先課題となる。
2000 年 11 月の気候変動枠組み条約締約国会議
(COP6)後に、未解決問題の検証を完了させ、
地球温暖化に関する EU 域内行動を前進させる
取組みが進められる。
15. 議長国スウェーデン、
「3E」を優先
スウェーデンは、2001 年 1 月 1 日より半年間の
EU 議長国の任務を引き継いだ。
その間、
3つの
「E」
、
すなわち拡大(enlargement)
、雇用(employment)
、
環境(environment)に焦点を置いた提案を行って
いく。特にこの点において、同国は、共同体の長
期的政策をエコロジー、経済および社会という観
点から見た持続可能な開発に適合させていくため
協力体制の強化を提案していく。また、2001 年 6
月にイエテボリで開催されるサミットで持続可能
な開発に関する真の共同体戦略を採択することに
よってこの目的の定着をめざしている。
• 化学製品その他の製品:スウェーデンは、化学
物質に関する新戦略についてコンセンサスの形
成をはかる。欧州委員会がまもなく白書という
形でその概略を提示するであろう。
precautionary principle および代替(可能な限り
有害物質を有害性のより低い代替物質に置き換
えていくこと)が同措置の重要な基本をなす。
特定の製品が健康および環境に及ぼす害を軽減
するためには、製品のライフサイクルに適用す
べき環境クライテリアについて熟考する必要が
ある。エコロジカル・サイクルを基準とするア
プローチが望ましい。したがって、環境重視の
包括的製品政策(IPP)の策定作業が議長国スウ
ェーデンのもとで継続される。
欧州が協力することで、環境保護および持続可能
な開発の促進に大きな利益をもたらす可能性があ
る。したがって、議長国スウェーデンは、新目標
の達成およびアムステルダム条約に規定される同
分野への新規則導入をめざす EU 措置を一層推進
すべきであると強く主張している。共同体の長期
的政策をエコロジー、経済、および社会という観
点から見た持続可能な開発に適合させていくこと
をめざす戦略は、欧州委員会が提案するガイドラ
インに基づきイエテボリで開催される欧州理事会
で採択される。持続可能な開発に関する一連の重
要な措置は、共同体政策の全領域に環境配慮を統
合していくことである。この春には同措置のさら
JMC environment Update
• 環境に関する国際行動:スウェーデンは、リオ
の環境開発会議の 10 年後、そしてストックホ
ルム環境会議の 30 年後にあたる 2002 年に最高
レベルで開催される国連の会合で、EU が実質的
且つ建設的な貢献をすべき立場に確実に立てる
よう努力する。議長国スウェーデンはまた、特
に森林政策に関しての国際協力の強化を目指し
58
Vol.2 No.6 (2001.3)
欧州環境規制動向∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
て努力する。そして、経済的、生態学的、社会
的に将来性のある林業を世界のすべての地域に
導入することをめざしていく。さらに、EU は再
生可能な原材料源として森林が果たす役割にも
っと注目し、その林業戦略を前進させていく必
要があると主張している。
―
―
―
議長国スウェーデンは、2001 年 3 月と 2001 年 6
月 7 日∼8 日に公式の環境相会議が 2 回、非公式
会議が 1 回(2001 年 3 月 30 日∼4 月 1 日)招集
することを提案している。また、2001 年 6 月 15
日∼17 日にイエテボリで開催される欧州理事会
の議題に幅広い「環境」問題を含める予定である。
また、2 回の環境相理事会の議題にすでに含まれ
ている項目を以下に示す。
―
―
―
水政策分野における優先物質リストの作成(共
通の立場)
持続可能な開発のための戦略に関するイエテ
ボリ・サミットで議論する第 6 次環境行動行動
(共通の立場)
化学物質戦略に関する白書(理事会の結論ある
いは決議)
包括的製品政策 IPP に関するグリーン・ペーパ
ー(理事会の結論)
気候変動 − COP6 の結果に関する議長国から
の情報
GMO のラベル表示および追跡可能性
最後に、2001 年 3 月 30 日と 4 月 1 日に北極圏の
Kiruna で開催される理事会の非公式会合では、北
の問題に焦点が当てられると思われる。
2001 年 3 月 8 日の環境相理事会の議題:
―
―
―
―
―
―
―
―
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
市民の環境情報へのアクセスに関する指令を
求める提案(共通の立場)
二輪車および三輪車に関する指令を求める提
案
第 6 次環境行動プログラム(オリエンテーショ
ン的討議)
化学物質戦略に関する白書(オリエンテーショ
ン的討議)
リオ +10 のレビューに向けた準備。すなわち、
欧州委員会の通知文書の根拠に関する議論
気候変動。すなわち、COP6 再開および EU に
よる京都議定書の批准に向けた準備。
包括的製品政策 IPP に関するグリーン・ペーパ
ー
水政策分野における優先物質リスト
II. ドイツ
1. エネルギー製品に増税
2001 年 1 月 1 日、ドイツは、ガソリンのエコ税を
1 リットル当たり 6 ぺニヒ、電気のエコ税を 1 キ
ロワット当たり 0.5 ペニヒ引き上げた。しかし、
ドライバーは、原油価格下落およびユーロ上昇の
ためクリスマス前に比べて新年第 1 週の小売価格
が上昇しなかったため、この増税にほとんど気づ
かなかった。
1999 年エコ税法に基づき、
2003 年 1 月 1 日まで、
新年になるとガソリンおよび電気ののエコ税が前
述の割合で引き上げられることになっているため、
今回の増税も意外なことではなかった。政府は
1999 年にも天然ガスに 1 キロワット当たり 0.32
ペニヒの(熱)税、暖房オイルに 1 リットル当た
り 4 ペニヒを課税することにしたが、これらは導
入後引上げされていない。
電気・電子機器における特定有害物質の使用制限
に関する欧州議会および理事会指令(RoHS)提案:
―
―
―
レクリエーション用飛行機から発生するガス
および騒音
一般参加に関する指令を求める提案
GMO のラベル表示および追跡可能性に関する
イニシアチブを求める提案
しかし、クリスマス休暇の前に合意した遠距離通
勤者を対象とする所得税控除はエコ税の原則と矛
盾している。これは、職場から遠く離れたところ
に住む人に対する減税であり、したがってスプロ
ール現象に寄与することになるからである。この
ような税制上の優遇措置は、2000 年秋の燃料価格
高騰に対する野党の激しい攻撃および運送業者の
抗議行動に直面したことから政治的に必要な措置
となった。
2001 年 6 月 7 日∼8 日の環境理事会の議題:
―
―
―
二輪車および三輪車(共通の立場)
WEEE および RoHS(共通の立場
自動車の排ガスによる大気汚染(軽量車両の低
温時スタートの排ガス)
JMC environment Update
59
Vol.2 No.6 (2001.3)
欧州環境規制動向∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
企業より特定の国内企業を免税措置により優遇す
る場合、欧州委員会は、共同体域内の貿易および
競争が歪曲される可能性があると考える。
」
通勤者は、通勤距離が 10km 以上の場合には 1 労
働日につき職場からの距離1km 当たり 80 ペニヒ、
10km 未満の場合には 70 ペニヒを課税所得から一
括控除できる。この減税措置は、旧制度と 2 点ほ
ど相違点がある。まず、ドライバーだけではなく
バスや自転車で通勤する人も恩恵を受けられる。
次に、遠距離通勤者の恩恵が以前より増える。
しかし、同委員会はまた、複合サイクル・ガスター
ビン発電所への国家助成制度には、免税措置を 5
年間に規制する以外反対するつもりはないと述べ
ている。その理由として、同逸脱措置は、環境保
護を目的とする国家助成に関する共同体ガイドラ
インに適合するものであるとしている。
エコ税による税収はドイツ年金基金に組込まれ、
したがって社会保険税が引き下げられる。権威あ
る経済研究所 RWI の試算によると、このエコ税が
ドイツの高い労働コストを緩和し、2005 年まで年
約 75,000 人の新規雇用を創出するという。
発電および地域温水暖房を担うことから、従来の
発電所よりエネルギー効率がはるかに高いと考え
られる発電所に対するドイツの免税措置は、現在
の社会民主党および緑の党による連立政権が導入
した国家エコ税改革の一環として認められた。
2. 欧州委員会、独 Combined cycle power
Plant=複合サイクル発電所について 5 年
間のオイル税免税措置を承認
2000 年 11 月 22 日、欧州委員会は、ドイツの複
合サイクル発電所について 5 年間のオイル税免税
措置を承認した。これは、かかる逸脱が環境保護
を推進する国家助成に関する EU 規則の基で認め
られているからである(前述のⅠ.EU の項目 10
を参照)
。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
III. 英国
1. 新措置、エネルギーラベル表示要件を更新
家電製品を対象とする現行エネルギーラベル表示
規定を更新する新提案が環境・運輸・地域省によ
って公表された。
この件、および特定バイオ燃料生産に関してフラ
ンスに認めた免税措置について、欧州委員会およ
び独仏各国政府は、EU が京都議定書に定められた
温暖化ガス削減義務を達成するのに役立つ省エネ
技術の促進に寄与するという点から重要と考えて
いる。
エネルギー情報およびエネルギー効率に関する
(修正)規則が、今回提案された新規制(SI:
statutory instrument)である。この修正には、現
行のエネルギー表示および最低基準に関する新規
制が実施された後に起きた様々な動向が反映され
ている。また、今回の新規制案は英国全土に適用
される(イングランド、ウェールズ、スコットラ
ンド、北アイルランド)
。6
ドイツの場合、同委員会は、効率の高い複合サイ
クル・ガスタービン発電所への免税措置は競争を
歪めるものであり、したがってドイツが当初要求
していた 10 年間の逸脱措置ではなく、たった 5
年の免税措置しか認めないという判断を下した。
ドイツ政府は、同逸脱措置は「競争という点では
中立的な方法ですべての経済事業体に利益をもた
らす」と主張し、10 年間の免税措置要求を正当化
した。
家電製品がエネルギーラベル表示で A∼G までラ
ンク付けされるので、消費者は製品のエネルギー
消費量および効率に関する明確な情報を得られる。
これによって、消費者は、よりエネルギー効率の
高いブランドを購入できるようになる。
納入業者は、納入段階ですでにエネルギーラベル
表示を済ませていなければならない。さらに、D
ランク以下の家庭用電気冷蔵庫または冷凍庫を市
販してはいけないという責任がある。
欧州委員会は次のように述べている。この免税措
置は「グリッドに供給する電力を発電する企業に
対する優遇措置であり、したがって国家助成とな
る。他の加盟国に鉱油あるいは天然ガスに関する
類似の…税制措置が存在するかどうかにかかわら
ず、加盟国間貿易が存在するセクターにおいて他
JMC environment Update
6
60
同文書については下記のサイトを参照のこと。
http://www.environment.detr.gov.uk/consult/si3076/index.
htm
Vol.2 No.6 (2001.3)
欧州環境規制動向∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
を対象とする国際 EMS 基準の根拠として同ガイ
ドラインの評価作業を実施しており、その一環と
して受入状況を注意深くモニターしていく。
同規制案により、冷蔵庫、冷凍庫、洗濯機、ドラ
ム型乾燥機、乾燥機付き洗濯機、照明および自動
皿洗機のエネルギー表示、ならびに冷蔵庫および
冷凍庫の最低基準が規制される。
英国保険会社の中には、近年、環境変化の影響に
関するリスク評価方法を抜本的に改革しはじめた
ところもあるが、厳格な EMS をそれぞれの戦略管
理問題の一部として策定および実施しているとこ
ろはほとんどない。また、銀行業界は、融資活動
を含めて、環境へ及ぼす影響の見直しとその報告
が遅いとして、ミーチャー(M. Meacher)環境大
臣に厳しく非難されている。
修正事項の目的を以下に示す。
・ 納入業者と販売店の義務を明確化し、執行措
置の意味を説明する。
・ 定義の一貫性を確保する。
・ 1998 年3 月に公表された政府の執行に関する
協約に照らして、執行に関する規定を修正す
る。これは、規制対象となるビジネスその他
に対して規制の執行の意味を説明するもので
ある。
・ かつて EU エコラベル表示制度にもとづく英
国の「コンピテント・ボディー」としての機
能を果たしていた英国エコラベル表示委員会
(the U.K. Ecolabelling Board)が 1999 年に廃
止されたことを考慮に入れる。
・ 執行報告に関する執行当局および国務大臣の
全責任を取り除く。
・ 即決判決による罰金の一貫性を全面的に確保
する。
3. 廃棄物に関する責任および補償を定めた
議定書に調印
バーゼル条約締約国による初の採択から 1 年が経
過したところで、英国は、有害廃棄物の国際的移
動および処分に対する規制の強化における他国と
の協力を向上させる最新の動きとして、責任およ
び補償に関する新議定書に調印した。8
有害廃棄物の越境移動およびその処分に起因する
被害に対する責任および補償を定めた同議定書は
バーゼル条約第 12 条を実施するものであり、
(少
なくとも 20 ヶ国によって)
全面的に批准された場
合には、廃棄物の越境移動による被害に対する(か
かる移動を開始した人に対する)厳格な責任体制
を確立することになる。同議定書は、有害廃棄物
の輸出者に対して、リサイクル施設あるいは処分
施設への移動中に発生する可能性のある被害をカ
バーする保険への加入を義務づけ、有害廃棄物の
越境移動に起因する被害に対して適切かつ迅速な
補償を行うための包括的体制を確立するものであ
る。
2. 政府、金融サービス部門に環境指針を提供
政府は、「金融サービス部門における環境管理と
報告」に関するガイドラインを初めて提示した。7
同ガイドラインは実践的な行動指針を提供すると
ともに、環境マネジメント・システム(EMS:
environmental management systems)および開示
に関する同セクターのレベル向上を目的としてい
る。
同ガイドラインは、貿易・産業省が支援する独立
機 関 で CGNU 社 の ア ンソ ニ ー ・ サン プ ソ ン
(Anthony Sampson)氏が委員長を務める FORGE
と Abbey National、
Barclays、
Lloyds TSB、
Prudential、
Royal Bank of Scotland お よ び Royal & Sun
Alliance など英国の銀行の代表が 18 ヶ月間の協議
の末にまとめたものである。
同ガイドラインの遵守は義務ではないが、英国銀
行協会(the British Bankers Association)は同分野
7
8
同ガイドラインについては以下のサイトを参照のこと。
http://www.bba.org.uk/business
JMC environment Update
英国では、今後、同議定書の要求事項を満たすの
に十分な責任体制を確立するための新たな法律が
必要となる。ただし、日程は未定である。同国は、
EU その他の多くの加盟国とともに、1994 年 2 月
7 日のバーゼル協定を初批准した。現在 143 ヶ国
が参加する同協定は、有害廃棄物輸出に関する十
分な説明にもとづく事前同意制度を規定し、輸出
物質に関する環境に優しい廃棄物管理責任を輸出
国に課している。
61
同議定書の全文については以下のサイトを参照のこと。
http://www.basel.int/pub/Protocol.html
Vol.2 No.6 (2001.3)
欧州環境規制動向∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
4. 協議文書により各種セクターに統合的汚染管
理規則を適用
政府が 2000 年 12 月 29 日の協議に含まれた提案
を採択した場合、2007 年までに段階的導入が予定
されている統合汚染防止管理対策(Integrated
Pollution Prevention and Control measures)に基
づき、同国のいくつかの業界に対する環境規制が
強化される。
・ 木材加工
・ 処理能力毎時 50 ㎏未満の屠殺体焼却装置
同協議文書は、各産業セクターがすでに分類変更
に同意したことを示唆している。同文書によると、
「A2 分類規制に伴う追加費用の発生はあるが、こ
れらのコストより A2 ステータス移行により気候
変動防止税(CCL:the Climate Change Levy)80%
減税の適応対象となる利益の方が大きいというの
が関係セクターの判断であると思われる。
」気候変
動防止税は四月に実施される予定であるが、企業
のエネルギー使用に対する課税措置である。
「汚染防止管理(イングランドおよびウェールズ)
規則 2000、SI 1973 協議文書の修正提案」は、産
業排ガスを対象とする体制の完成を目的としてい
る。9 同措置は、どの業界が IPPC「A2」カテゴリ
ーに該当するかを示している。これは、すべての
排ガスについてモニターを義務づけられるカテゴ
リーである。これらの企業は旧統合的汚染管理制
度では「B」カテゴリーに含まれていたが、これは
段階的に廃止される。
5. 政府、環境問題の決定における監査証跡の
必要性に言及
王立環境汚染委員会の第 21 次報告
「環境基準の確
立」に対する政府の回答によると、英国政府機関
は、環境問題に関する決定を下す場合には監査証
跡を残し、環境問題の取扱いにおける開放性を高
める必要があるという。
新 A2 カテゴリーは、
旧 B カテゴリーとは異なり、
大気、地中、水系へのすべての排出を対象とする
統合的カテゴリーである。旧 B カテゴリーに分類
された企業は大気中への排出だけをモニターして
いた。地方自治体は、旧 B カテゴリーの場合と同
様に、引き続き A2 カテゴリーの排出を管理して
いく。しかし、旧Bカテゴリーから A2 に移動す
る必要があるとされた対象業界の企業は、今後、3
種類すべての汚染について業界別の排出目標を満
たさなければならない。
2000 年 11 月 21 日に発表された同回答で、政府
は監査証跡の必要性を認めたものの、「基準が
[EU]域内あるいは国際交渉で定められる場合には
難しい」と付言した。
1998 年 10 月に公表された 21 次報告の中では、
環境基準制定機関は分析結果を科学学会による
「ピアレビュー(peer review)
」に提供するよう
要求されたが、政府はこれを拒否した。10
1999 年汚染防止管理法に規定される英国 IPPC プ
ログラムは、統合的汚染防止管理に関する EU 指
令 96/91 を実施する目的で設けられた。
政府の回答では次のように述べられている。「ピ
アレビューは科学的プロセスの中で重要な位置を
占めている。しかし、科学的研究に関する具体的
なコメントを要求するような正式のピアレビュー
が、統一見解を形成するために広範な専門家がす
でに参加している基準制定機関にとって適切なの
か、さらには可能なのか明らかではない。重要な
点は、様々な手法や視点が同機関に反映されるこ
と、同機関の審議や提言を前述のように開放的で
あること、そして基準の根拠となる科学的知見を
ピアレビューすることである。
」
協議文書によると、現在は旧 B カテゴリーに該当
するが、今後は新 A2 カテゴリーとして規制され
ることになる業界には以下の業界が含まれる。
・ 銅管製造業者。特に焼入れ
・ 木材ベース合板製造業者
・ アルミニウム圧延、押出し、アルミ・パウダ
ーおよびアルミ・ペースト製造
・ 大規模ゴムタイヤ製造工場
・ 粒状溶鉱炉スラグ粉砕施設
・ ジルコンサンド湿式粉砕
9
第 21 次報告では、
「環境基準を制定するにはより
確かな根拠が必要である」と論じている。さらに、
同協議文書については以下のサイトを参照のこと。
http://www.detr.gov.uk/environment/consult/ppc2000/
si1973/01.htm
JMC environment Update
10
62
同回答については以下のサイトを参照のこと。
http://www.environment.detr.gov.uk/rcep/21/index.htm
Vol.2 No.6 (2001.3)
欧州環境規制動向∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
「技術、経済性、リスクおよび実践面の問題点に
関する科学的評価および分析によって政治的決定
を性格づけなければならないが、政治的決定を阻
止することはできない。
」と結んでいる。
率いるフランスの緑の党は、議会は原案を採決に
かけるべきであると主張した。原案では、フラン
スの気候変動防止に関する国際的義務の履行に役
立つ一方、民間企業のエネルギー消費に課税する
ことで、年間 40 億仏フラン(5 億 3500 万ドル)
の税収を確保できたであろうという。
同報告は、「基準あるいは目標を設定するという
ことは、関連要因をすべて考慮に入れて下される
実際的な判断である。
」と述べている。
「問題の特
定、対象とすべき問題点の提起など、終始一貫し
て人々の価値観を考慮に入れなければならない。
」
という。
政府が欧州委員会の提言の多くを受入れる一方で、
環境パフォーマンスを向上させる技術販売企業に
「基準強化を奨励する」という要求については認
めていない。
政府の回答文書では、「技術サプライヤーが直接
的に基準強化を奨励できるようにすべきであると
いう点については、これはできる限り基準設定の
客観性および公平性を確保するという必要性に反
するものであり、政府としては受入れられない。
」
と述べられている。
政府と、同税に反対する緑の党および社会党との
間で何時間にも及ぶ交渉が重ねられた後、下院で
ある国民議会が同税の修正案を承認した。修正案
では、2001 年の税収は 25%減少して約 30 億仏フ
ラン(4 億ドル)が見込まれる。
エネルギー税の主な要素はそのまま残されている。
同税は、ガソリンおよびディーゼル燃料を除くあ
らゆる形態のエネルギーについて課税され、フラ
ンスの民間企業 280 万社のうち約 44,000 社に影
響を及ぼす。主としてエネルギーを大量使用する
企業に影響があるが、
従業員 30 人以上のすべての
企業にも適用される。ただし、農業、漁業、林業
については今後も同税が免除される。
「しかし、統合的汚染管理の枠組みの中では、利
用可能な最善の技術(Best Available Technique)
という概念を通じて、新技術の開発が間接的に基
準を変えることができる。効果的な新技術が利用
可能になり法外に費用が高くなければ、規制業界
にはかかる技術の使用が義務づけられるであろ
う。
」
国民議会が採用した主な変更は、同税によるエネ
ルギー高度集約型企業への影響を制限するために
策定された複雑な免税・控除事項に関するもので
ある。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
まず、政府の承認を得て議会は、2001 年のエネル
ギー税の支払総額に、申告した付加価値の 0.3%
という制限を規定している。原案では支払総額の
上限は定めていなかった。
IV. フランス
1. 議会、エネルギー税を緩和
仏議会は、2000 年 12 月 8 日に閉会した国会審議
で新エネルギー税を緩和した。潜在的支払額に上
限を設け、例外適用企業の数を増やすなど、政府
の初案を修正した。
次に、議会は、エネルギー集約度の最も高い仏企
業に適用する特別制度の範囲を拡大した。エネル
ギー集約度が高いというカテゴリーに分類される
と、総エネルギー消費量の 50%から 95%の課税
控除が受けられる。
2001 年 1 月 1 日に施行されたエネルギー税法は、
2000 年 10 月 3 日に法案が明らかになって以来、
社会党率いる連立政権の各派閥間で激しい論争の
的となった。
政府原案のままであれば、税務当局に報告される
付加価値 100 万仏フラン($133,335)当たり 50
PET(ガソリン等価トン)以上のエネルギーを消
費すると定義されるエネルギー集約度の高い企業
ドミニク・ヴワネ(Dominique Voynet)環境大臣
JMC environment Update
社会党および共産党議員は純粋に政治的理由から
政府案に反対し、
フランスの現行エコ税 TGAP(the
Tax General sur les Activités Polluantes)の延長と
して計画されている同案による最大の負担を選挙
区の企業が回避できるよう多くの提案を出してい
る。
63
Vol.2 No.6 (2001.3)
欧州環境規制動向∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
約 1,000 社にこの制度が適用されたであろう。
の政府助成金に 15 億仏フラン(2 億ドル)以上が
計上され、再生可能なエネルギーおよびエネルギ
ー管理活動への新規投資は 150 億仏フラン(20 億
ドル)に達するはずである。
議会が承認した文言では、エネルギー集約型ラベ
ル、すなわち特別税制の範囲を付加価値 100 万仏
フランあたり 20 PET 以上を消費する全企業にま
で拡大している。
定量的あるいは定性的な省エネ目標を設定するの
ではなく、同計画は 2010 年までに同国の二酸化
炭素排出量を年間 1,600 万トン削減することを目
指している。
原案では、2010 年までにさらに低い排出水準を達
成することを目指して、エネルギー集約型企業が
2001 年度中に自主的な温暖化ガス排出削減協定
を政府と交渉するよう求められていた。2002 年以
降、政府と自主協定を締結した企業は、2010 年の
目標を超えた排出量にしか課税されない。
フランスは、国連気候変動防止枠組み条約の京都
議定書の遵守に向けた EU の負担共有アプローチ
の一環として、2010 年に温暖化ガスの排出量を
1990 年の水準で安定化させることを公約してい
る。同国の現在の年間排出量は約 3 億 4,000 万ト
ンであるが、新エネルギー計画に盛り込まれた
CO2 の 1,600 万トン削減はこの 5%弱に相当する。
これは、1990 年の水準を若干上回る。
議会が承認した法律はこのような内容を残してい
るが、エネルギー消費および温暖化ガス排出の削
減を目的とした環境投資については企業の税控除
を認めている。
最後に、議会は、一切の手続を年 1 回の申告およ
び年 3 回の支払いに簡略化するなど、エネルギー
税務行政に関連する事務手続の簡素化に成功した。
新炭素税による税収はすべて、現在進められてい
る法定週労働時間の短縮(39 時間から 35 時間へ)
の財源に充当される予定である。
実施の第一段階として政府は、2001 年に 5,000 万
仏フラン(665 万ドル)を支出し、全国 500 ヶ所
に「エネルギー情報ポイント(Energy Information
Points)
」を設置する。このスタッフ 1 名の事務所
が、個人および小規模企業を対象とするエネルギ
ー消費量削減支援事業におけるフランス環境エネ
ルギー管理庁(ADEME)との調整機関となる。
一部の議員および政府職員の中には、
当初 70 億仏
フランから 125 億仏フラン(9 億 3,500 万ドルか
ら 16 億 5,000 万ドル)
の税収が見込んでいたエネ
ルギー税を修正したことで、
週労働時間 35 時間実
現の財源確保にマイナスの影響がでる可能性があ
り、結局は政府は今年承認された修正を再検討す
ることになるとして懸念する向きもある。
このコミュニケーション・プログラムの 2 番目の
要素は、今のところ明確には定義されていないが
全国紙および地域紙に掲載予定の省エネ広告キャ
ンペーン用の 3,000 万仏フラン(400 万ドル)で
ある。
2. 仏、GHG 排出削減対策のテコ入れを目指し
て新省エネ計画を発表
2000 年 12 月 6 日、フランスは新省エネ計画を明
らかにした。政府高官は、同計画によって、気候
変動の原因となる温暖化ガス削減に関する国際的
公約の実現に向けた取組みが進展するという。
対策パッケージには、2000 年 12 月 5 日の会議で
EU エネルギー担当者が再生可能なエネルギー源
による電力の推進に関する指令案のために定めた
一般原則にしたがって、再生可能なエネルギー源
の普及を振興するねらいがある。指令案が政府の
新プロジェクト助成という現在の慣行を受入れて
いるため、フランスは再生可能なエネルギープロ
ジェクトを助成する追加財源として ADEME に 2
億仏フラン(2,660 万ドル)提供することを決定
した。
ヴワネ環境大臣を中心に各省横断的なメンバーか
らなるチームが示した同プログラムでは、再生可
能なエネルギー源の役割の強化ならびに企業、市
民および政府行政機関のエネルギー使用習慣変更
を目的とする対策に焦点を置いている。2001 年に
は各種プロジェクトを対象とする新規および現行
JMC environment Update
プログラムは、環境に優しいエネルギー投資に対
する支援および様々な経済セクターの廃棄物を抑
制するエネルギー需要を削減する、6 つの特定要
素に分かれている。
64
Vol.2 No.6 (2001.3)
欧州環境規制動向∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
エネルギーミックスに占める再生可能なエネルギ
ーの割合を現在の 15%から同指令で求められて
いる 21%に引き上げるため、国営電力局(EDF:
Electricité de France)は、小規模水力発電所、地
方自治体焼却施設、風力農地が発電した電力を事
前に設定された助成価格で購入することが義務づ
けられる。EDF は、電力消費に課せられる小額使
用税を財源とする国家再生可能エネルギー基金か
ら一部補償を受ける。
共交通およびインフラ整備プロジェクトの財源に
5 億仏フラン(6 億 6,500 万ドル)を計上する。
ADEME はこれらの PDU の財源にさらに 6,000 万
仏フラン(800 万ドル)拠出する。
3 番目に、同省は鉄道を利用した積荷トラックの
国内輸送による交通量削減を目指す、いわゆる混
合輸送計画に 7 億 4,000 万仏フラン(9,850 万ド
ル)を計上する。ADEME は、混合鉄道プログラム
の開発にさらに 9,000 万仏フラン(1,200 万ドル)
を拠出し、その手始めとして、2002 年初めフラン
スのリヨン市とイタリアのトリノ市間での貨物輸
送が予定されている。
この強制的購入協定は、風力分野に大きな影響を
与えることが予想されている。生産者が基金から
年間 40 億仏フラン(5 億 3,500 万ドル)以上の助
成金を得られれば、同分野の設備発電能力は、現
在の30 メガワット∼40 メガワット オンラインか
ら 2010 年までに推定 5,000 メガワットに増大す
ると、Christian Pierret 産業相はいう。
エネルギー消費の抑制努力は、2001 年 6 月 1 日か
ら住宅セクターにも及ぶ。エネルギー効率基準の
強化により、新築住宅は 20%、新築の商用建築物
および事務所は 40%消費量を削減しなければな
らない。
EDF は、風力発電施設と 15 年間の購入計画を締
結する。当初の高額な補助金には、生産者が長期
的に収益性のある操業を維持しながらを早く原価
償却できるようにするという目的である。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
水力発電セクターの購入協定は、契約期間は 20
年となるが同じ方針に基づくものとなり、年間コ
ストは 5 億仏フラン(6,650 万ドル)
、設備能力は
2010 年までにさらに 600 メガワット増えるはず
であると、同産業相は述べている。
V. デンマーク
1. グリーン税:デンマークにおける産業用温
暖化ガス消費量削減を目的とする新税
クリスマス直前デンマーク議会は、特定産業用温
暖化ガス(HFC、PFC、SF6)の消費に課税する新
法を採択した。
また、廃棄物焼却分野の購入協定は発電条件によ
って異なるが、年間コスト 2 億仏フラン(2,650
万ドル)で、設備能力は 2010 年までにさらに 400
メガワット増えるはずであるとも述べている。
HFC、PFC および SF6 は、京都議定書の温暖化ガ
ス排出削減リストに含まれており、CO2、CH4、N2O
と同じように扱われている。デンマークおよび他
の EU 加盟国は、京都議定書に基づき EU 総合削減
義務の各国間における分担方法について合意に達
した。同国は、2008 年∼2012 年の自国の温暖化
ガス排出量を 21%削減すると公約している。
ヴワネ環境相と Jean-Claude Gayssot 運輸相はま
た、輸送セクターでも再生可能エネルギーの推進
およびエネルギー消費の削減を目的とする重要な
措置をいくつか公表した。
まず、政府は、個人および企業を対象に、液化ま
たは圧縮天然ガスを燃料とする車、あるいはこの
2 つの燃料のどちらかと通常のガソリンを組み合
わせて使用するハイブリッドモーター塔載車など、
いわゆるクリーン車を1 台購入すると10,000 仏フ
ラン(1,335 ドル)の所得税控除を認めることに
なる。
次に、運輸省は今年初めに明らかにされた一連の
都市交通再生計画(PDU)に基づき承認された公
JMC environment Update
この目標を達成するには、あらゆる形態の使用を
対象とする広範な対策が必要である。
同税は、HFC、PFC および SF6 より環境に優しい
物質を使用するインセンティブを高めることにな
る。同様に、同税は、同物質を回収およびリサイ
クルし、代替物質の開発を促進させるために現行
制度の不備を改善することになる。
同税によって、新製品への同物質の使用禁止措置
65
Vol.2 No.6 (2001.3)
欧州環境規制動向∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
が施行される前に、これらの工業用温暖化ガスが
段階的に使用されなくなることが期待されている。
2. ダイオキシン:ダイオキシン汚染に関する
新調査
デンマーク環境保護庁の大量流出分析により、国
内の有害物質ダイオキシンの循環および発生源に
関する全体像が初めて明らかになった。11
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
VI. スウェーデン
「私達はこれまでダイオキシン排出量および発生
源の評価にこのアプローチを採用したことはなか
った。したがって、大気中への放出に関する私達
の総合的推定値は以前の評価よりも高くなってい
る。私達は今や 5 年前より多くのことが解った。
したがって同調査は、私達の今後の作業において
貴重な手段となる。
」と、Helge Andreasen 副環境
保護相は述べている。
1. 政府、大気汚染その他の環境問題に関する
法案を立案中
政府は、大気汚染管理および他の分野に対して特
別委員会が提言したいくつかの目的、目標、行動
戦略を制定するために、議会の審議に向けた法案
を立案中である。
同法案は、春の審議再開時にスウェーデン議会
Riksdag に送付される予定であり、議会の各政党
の代表が委員として参加する環境目標委員会の提
言が含まれている。
同国の大気中への総排出量は年間 19 g∼170 g と
推定される。これは、最も優れた推定中間値であ
る年 95g に符合している。ダイオキシンの主要発
生源はやはり周知のとおり廃棄物焼却施設とスチ
ールおよびアルミニウム再生工場である。
同委員会は、1997 年の政府法案(1997/98:145)
に盛り込まれた 15 環境目標のうち 14 の達成を提
案するために、政府によって任命された。これら
の環境目標は 1999 年春に議会によって採択され
ている。その後、議会は、これらの目標に取組み、
「下位目標」および中間目標を提案するよう同委
員会に求めた。2000 年 6 月 7 日に最終報告書を政
府に提出した。
「廃棄物焼却施設からのダイオキシン放出を削減
するためのかなりの努力がすでに施されている。
これにより、新規施設にはフィルターが取付けら
れ、現在焼却能力全体の 46%にまでダイオキシン
は除去されている。今回の調査は、ダイオキシン・
フィルターおよび利用可能な最新技術をできる限
り早く導入する必要のあることを明らかに示して
いる。
」と、同副環境保護相は述べている。
また、薪を燃やす家庭用ストーブ、小規模農場用
ボイラー、建築物・車両・倉庫などの不慮の出火
を主要なダイオキシン汚染源として確認している。
別の汚染源には、PCP 処理木材からのダイオキシ
ン蒸発がある。
「薪を燃やす家庭用ストーブに関しては、問題は
クリーン木材の使用ではない。むしろ、有害な化
学物質を含む木材、紙、ボール紙、牛乳パックを
いまだにストーブで燃やす人がいるということで
ある。私は、一般への、より正確な情報公開がこ
11
議会に上程された同法案は、同委員会が取り上げ
る次の 14 分野を対象としている。すなわち、大気
浄化、地下水の質、持続可能な湖および水路、湿
地保護、海洋環境保護、富栄養化、自然酸性化、
持続可能な森林、農村の景観、山の景観、都市環
境、
「無害環境」
、放射能、そしてオゾン層保護で
ある。15 番目の分野である「気候変動への影響制
限」は、気候変動対策に関する政府委員会という
別の委員会が取り上げている。
環境目標委員会は、
「未来の環境:私達の共通の責
任 ( The Future Environment: Our Common
Responsibility)
」と題する報告書の中で次のように
述べている。
「スウェーデンの環境の質に関する
目標への取組みには 5 つの基本原則がある。人間
の健康の促進、生物学的多様性の保護、文化遺産
の保護、生態系の長期的生産能力の保全、そして
天然資源の適切な管理である。これが私達のいう
ダイオキシンの大量流出分析については以下のサイトを参
照のこと。
http://www.mst.dk/udgiv/publications/2000/87-7944-295-1/
pdf/87-7944-297-8.pdf
JMC environment Update
の種のダイオキシン発生源を減らすのに役立つと
確信している。したがって、当 EPA は、2001 年 2
月にこの問題に関する啓蒙活動を展開する。
」と、
同副環境保護相は述べている。
66
Vol.2 No.6 (2001.3)
欧州環境規制動向∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
生態学的に持続可能な開発の意味である。
」12
とを提言している。
同委員会は「環境問題の関連コストは相当なもの
である」とし、
「生産の損失や物質の破壊だけでは
なく、健康被害および文化遺産や生物学的多様性
の損失によるものもある。私達は、現在起きてい
る環境被害を経済的に評価するよう努力した。コ
ストを詳しく推定するのは容易ではないが、私達
の見解では年間 200 億スウェーデンクローネ(19
億 7,000 万ドル)を上回る。したがって、私達は
これ以上対策を先送りするのは得策ではないと思
う。
」と述べた。
地表のオゾンについては、2010 年までに濃度が 8
時間平均値で 120μg/m3 を超過しないようにと提
言した。そして、2010 年には 1995 年水準と比較
してメタンを除く揮発性有機化合物の排出を
55%削減して、22 万トンまで引き下げるよう提案
した。さらに、遅くとも 2005 年までに 2.5 ミクロ
ン(PM2,5)未満の大きさの微粒子についても中間
達成目標を定めるよう求め、同様に、同年に大気
質に関する長期目標の初回レビューも実施するよ
う求めている。
また、同報告書の中で、目標、中間達成目標、戦
略および政策手段を詳述した広範囲な提案を提示
し、
「私達は、包括的アプローチをもって取組んだ。
そして、文化環境および環境の健全性に関る問題
がかつてない程重視されてきた。
」と述べている。
また、同委員会は以下のレベルを提言した
・ ベンゼン: 1 年間の平均測定値が 1μg/m3
・ ベンゾアピレン:1 年間の平均値が 0.0001μg
/m3
・ ホルムアルデヒド: 1 時間の平均値が 10μg
/m3
・ 10 ミクロン未満の粒子: 24 時間の平均値が
30μg/m3、1 年間の平均値が 15μg/m3
・ スス: 1 年間の平均値が 10μg/m3
例えば、大気浄化に関する Riksdag スウェーデン
議会の国家目標を次に示す。
「大気は、健康および
動植物あるいは文化遺産に危険を及ぼすことがな
いよう十分にきれいでなければならない。
」議会に
よると、この環境目標は、大気中の汚染物質の濃
度が「ガン、過敏症、アレルギーあるいは呼吸器
系疾患に対して定められている低リスクレベルを
超えてはならない」ことを示唆するものであると
いう。同時に、対流圏のオゾンレベルは、健康お
よび植物を保護するために定められた制限値を上
回ってはならないという。
しかし、このようなレベルを提言する中で、同委
員会は、大気質が提案された達成目標にしたがっ
て改善しても、「大気質に対する世代目標を達成
しようとするならばさらに対策が必要である。特
に酸化窒素、粒子、発癌物質の排出制限に関して
は、地方レベルの対策がますます重要になる。健
康リスクとアレルギーとの関連性の立証を目的と
する研究開発ももう 1 つの重要分野である。
」
同委員会は、国家目標の 2 つの記述を次のように
変更するよう提案した。「大気中の汚染物質の濃
度は、ガンに対して定められている低リスクレベ
ル、あるいは呼吸器系疾患から保護するため、ま
たは植物、物質および文化遺産を悪影響から保護
するために他の指針で定められているレベルを超
えてはならない。過敏症およびアレルギーにも十
分配慮してレベルを定めるものとする。
」
自然酸性化問題に関しては、議会の国家目標は次
のとおりである。「酸性沈殿物および土地の酸化
影響は、土壌および水が許容できるレベルを超え
てはならない。酸化物質の沈殿物は、工業的な物
質あるいは文化的な人工物および構造物の腐食率
を高めてはならない。
」
議会によると、これは自然に反する酸化には「対
抗」して自然の生産能力および生物学的多様性を
保全しなければならないという意味であるという。
スウェーデンは、長期的には、酸化物質を土壌お
よび水の臨界負荷量以下に維持するよう努力しな
ければならない。また、大気中の二酸化硫黄の水
準は年間 2μg/m3、二酸化窒素の水準は年間 20
μg/m3 以下にいずれも維持しなければならない。
また、二酸化硫黄の目標値を 2005 年の年間平均
値として 5μg/m3 に設定すること、二酸化窒素を
2010 年までに、1 時間の平均値が 100μg/m3、年
間平均値が 20μg/m3 を超過しないようにするこ
12
同委員会の報告書「未来の環境:私達の共通の責任」の要約
については以下のサイトを参照。
http://www.miljo.regeringen.se/propositionermm/sou/pdf/
sou2000_52sumeng.pdf
JMC environment Update
67
Vol.2 No.6 (2001.3)
欧州環境規制動向∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
同委員会は、
「土地利用による土壌および水の酸
性化に対しては、当該生息環境が酸化の影響を受
けやすいことを考慮に入れ、林業の実践方法を改
善して対抗する必要がある」と提案している。中
間達成目標として、同委員会は、2010 年までに、
人為的酸性化の割合が、湖の場合は 5%、流水全
体の場合は 15%を超過しないようにすること、そ
して 2010 年までに、スウェーデンは人為的行為
が原因となっている地域における「酸性化進行傾
向」に歯止めをかけ、
「回復が始まっている」よう
にすることを提案している。
で広く使用されている商品および製品の特定を命
じ、排除・廃棄対象品目をリストアップした計画
を作成するよう提言する。
」と述べている。
「かか
る計画を基に、地方自治体、製造業者、その他責
任を有する関係機関は、工業、輸送、建設セクタ
ーから発生する廃棄物などのオゾン枯渇物質を処
分または破棄しなければならないものとする。
」
無害環境という目標について議会は、健康および
生物多様性に脅威を与える人工的あるいは抽出物
質、および金属が存在しない環境を求めている。
委員会は二つの下位目標を定めている。まず、屋
外の作業環境および屋内環境における総曝露量を
「特に有害な物質の場合にはゼロに近づける」と
いうことである。もう 1 つの下位目標は、汚染地
域の処理および修復手段を講じるということであ
る。
また、2010 年までに、スウェーデンの二酸化窒素
の排出を 1995 年の水準から少なくとも 25%削減
し、72,000 トンを超過しないように、そして同年
までに大気中での酸化窒素の排出を 1995 年の水
準から 55%削減し、155,000 トンを超過しないよ
うにするよう提案した。同委員会は、スウェーデ
ンがこの中間目標値を達成するためにすべきこと
を以下のとおり挙げている。
中間達成目標として、委員会は、2010 年までに慎
重に製造または抽出された市販の化学物質はすべ
て「新物質に求められる内容に相当するデータの
提供が必要となる」と示唆している。また、同年
までに健康・環境に関する情報を製品に掲載しな
ければならないこと、新製品は既知の発癌性物質、
分解しにくい生体間蓄積物質、水銀、カドミウム、
そして鉛の排除日程を提案している。
・ エネルギー税制全体の調整が必要である
・ 地方自治体に道路利用料徴収の導入を認める
べきである
・ 酸化窒素排出税を他のセクターに拡大するか
どうか検討すべきである
・ 「現行の強制的要求事項より排出量の少ない
車両および燃料の利用を使用者に促すために」
車両税および購入税率を見直すべきである
・ 「有効な環境的手段にするために」ディーゼル
燃料使用の重量トラックに対する変動コスト
率を調整すべきである
・ 再生可能燃料の許容レベルを引き上げるため
に EU 自動車オイル指令の変更を推進すべきで
ある
2. 廃車に対する割戻し金引上げ
廃車に関する新規則を施行のプロセスは現在
Riksdag(スウェーデン議会)に場所を移した。政
府法案は、自動車解体業者はすべて認可制にすべ
きと提案した。さらに、スウェーデン EPA が自動
車解体業者に環境規制をより強化する権限を与え
たいとしている。
同時に、廃車する古い自動車の引取に対する財政
的優遇措置を強化する。経済的に製造者責任負う
自動車については、引取り割り戻し金を 500 スウ
ェーデン・クローネ(約 60 ユーロ)から 700 ス
ウェーデン・クローネへと引き上げる。その他の
自動車(つまり、1998 年以前の登録車)について
は、割り戻し金が 1,500 スウェーデン・クローネ
に引き上げられ、そのうち、800 スウェーデン・
クローネが解体業者に、700 スウェーデン・クロ
ーネが自動車の所有者に支払われる。
オゾン層保護という目標について同国は、塩素、
臭素およびその他のオゾン枯渇物質の量が自然発
生レベルを超えないようにするための対策を講じ
なければならないというのが議会の見解である。
委員会は、かかる物質の使用を一世代以内に段階
的に禁止するという下位目標を提案している。そ
して、中間達成目標として、オゾン枯渇物質の排
出を 2010 年までにおおむね中止できるようにす
るための対策を求めている。
同委員会は、
「オゾン枯渇物質の放出を防止する
ために、私達は、スウェーデン環境保護庁が社会
JMC environment Update
新たな特徴は、よく道路脇に見られる廃棄された
登録抹消車も引取り割り戻し金の対象となる。長
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Vol.2 No.6 (2001.3)
欧州環境規制動向∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑬
年にわたり所有者が判明しない車は登録が抹消さ
れる、そうするとその車は存在しないものとみな
される。登録抹消車は現在、認定解体業者に運び
込まれても引取り割り戻し金の対象にはならない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
VII.オランダ
1. オランダ議会、業界との環境協定を承認
最近、オランダ議会の承認が得られたことで、
2000 年 12 月 22 日の政府およびゴム・プラスッ
ク業と精肉業の 2 つの産業セクターとの環境協定
締結への障害が取り除かれた。
2000 年春、業界団体は、業界が引き起こした環境
汚染を 2010 年までに実質的に削減する協定を政
府と結んだ。議会の承認を得たことで、2 つの協
定は 2001 年 1 月に実施される運びとなった。
担当国務大臣が同協定に調印した。また、公共事
業局および各州および市町村も共同調印している。
プラスチック・ゴム業界を代表する主要団体のオ
ランダ・ゴム・プラスック業界連合(NRK)は、
ゴム・プラスチック産業協定(Covenant Uitvoering
Milieubeleid Rubber-en kunstof-verwerkende
Industries)に調印した。さらに、同業界の 1,200
社のうち、同業界による汚染の主な原因となって
いる 100 社が個別に同協定に調印している。これ
らの 100 社は EBP を策定する必要があるが、残り
の 1,100 社には一連の標準的対策の導入が義務づ
けられる。1,100 社のうち NRK は、同業界の売上
の 70∼80%に相当する 650 の加盟企業を代表し
ている。
環境相および経済相、さらに水管理担当国務相は、
他の政府機関のいくつかと共に、ゴム・プラスチ
ック業界協定に調印した。
この協定により、政府が現行の国家環境政策計画
(NEPP:National Environment Policy Plan)およ
び 水 管 理 に 関 す る 覚 書 ( Water Management
Memorandum)に基づき、環境への悪影響が最も
著しい 10 のオランダ産業界と締結した一連の協
定が成立する。
協定を通じて、業界はある程度、環境目標への適
合に対する責任と柔軟性が与えられる。通常同協
定に調印する企業は、4 ヶ年環境ビジネスプラン
(EBP: environmental business plan)を策定しな
ければならない。その中で、企業の環境目標およ
び将来的な環境投資の概略を示す。企業は、段階
的な環境対策の導入や優先順位の設定など、ある
程度の自由が与えられる。地方自治体や、時には
水管理局が EBP の結果を管理し、その結果に基づ
いて認可を与えたり、停止したりする。
業界協定に調印しない企業は、現行の法律および
規則を守らなければならない。この場合、自由裁
量は一切与えられない。
精肉業界の半数以上となる 170 社以上のほかに約
15 の業界団体および商品評議機関が精肉産業協
定 ( Covenant
Uitvoering
Milieubeleid
Vleesindustrie)に調印した。同業界には、屠殺場、
精肉業、肉製品製造業者が含まれる。政府を代表
して、環境、農業および公衆衛生の各省、水管理
JMC environment Update
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連載
米国における環境関連動向
∼在ワシントン/コンサルタントによるモニタリング情報 ⑨
● はじめに
本報告書は、2001 年 1 月中旬から 2001 年 3 月上旬までの最新の米国の環境関連動向を包括的にまと
めている。今回は、新しく誕生したブッシュ政権の環境政策の包括的な分析を進めており、ブッシュ
氏の議会での施政方針演説の中でふれられた環境政策と、現時点で明らかになっている環境関連予算
の動向などをまとめている。また、カリフォルニア州の電力不足をめぐる環境規制論争や EPA の大気
汚染防止基準をめぐる最高裁判決についてもふれている。
ポイント
・ 2 月から 3 月にかけて、少しずつ明らかになってきたブッシュ氏の環境政策は、環境保護を強く
訴えたクリントン政権時代とは大きく方向性を変えるものとなりそうである。
・ 大統領の連邦議会の上下両院合同本会議での演説のうち、環境政策に関しては「環境保護なども
重視する」ほどの非常に簡単で漠然とした表現だけであったが、はっきりと明示している。一方
で、「政府の役割は重要だが、過剰になると民間の活動を抑圧する」とし、規制緩和を打ちだし
ているのも注目される。
・ EPA に配分予定の予算総額は 73 億ドルであり、前年の 2001 年度会計(2000 年 10 月∼2001 年
9 月)の実質予算の約 78 億ドルよりも、6.4%減(4 億 9900 万ドル減)となっている。しかし、
この数字を「微減」「前年度とほぼ同額」「前年以上」のいずれととらえるかは意見が分かれてい
る。
・ エネルギー省に配分予定の 2002 会計年度予算総額は前年に比べ、3%減となっている。特に削減
が検討されているのが、環境負荷が少ない代替エネルギー研究予算であり、太陽熱発電、風力発
電、バイオマス・エネルギー開発などが削減の対象となっている。
・ 内務省の予算ではブッシュ政権は州への環境規制権限委譲に重点を置いており、これまで連邦予
算が大半を占めていた「土地水質保全基金(Land and Water Conservation Fund)」は、州への委
譲を目的に州と連邦で半々に分配される。
・ カリフォルニア州の電力危機が深刻な問題に発展する中、「電力危機の原因の一つは、厳しい環
境規制にある」として、同州の環境規制をめぐる批判が強くなっている。
るものとなりそうである。
● 動きだしたブッシュ政権と環境政策
(1)総論
2 月から 3 月にかけて、少しずつ明らかになって
きたブッシュ氏の環境政策は、環境保護を強く訴
えたクリントン政権時代とは大きく方向性を変え
JMC environment Update
ブッシュ大統領の就任当日の 1 月 20 日、米政府
職員の倫理基準を定める大統領令などと共に、就
任最初の執務の一つとしてクリントン前大統領が
70
Vol.2 No.6 (2001.3)
米国における環境関連動向∼在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報⑨
任期切れ前に相次いで行った各種の積極的な環境
規制(2001 年 1 月号参照)の凍結を行った。凍結
の対象となる環境規制には、1)全米国立公園の 3
分の 1 に相当する総面積 6、000 万エーカーの「国
定記念物(national monument)
」指定、2)サン
ゴ礁保護区の新設、3)ヨセミテ国立公園の保全
――などが含まれている。規制の多くが米国西部
の開発を規制するもので、産業界から強い反発を
受けていた。
ブッシュ大統領の議会演説のうち環境政策に関し
ては、
「環境保護なども重視する」
程度の非常に簡
単で漠然とした表現だけであったが、はっきりと
明示しているのが注目される。選挙中の公約であ
ったが、民主党からの反対が非常に強いスクー
ル・バウチャー制度推進(一般的に公立よりも教
育の質が高いものの、学費が高い私立学校へ通う
生徒に直接、学費補助を行う制度)については具
体的に一言もふれなかったのとは対照的である。
この環境規制の凍結はクリントン政治への決別宣
言であり、前政権との環境政策の明らかな方向性
の違いを象徴しているといえる。
ブッシュ氏は、選挙戦術の一環として国民の支持
が大きい政策を維持強化する方針を貫いており、
「 思 い や り の あ る 保 守 ( compassionate
conservative)
」のスローガンの下、教育改革を最
優先課題とし、メディケア(高齢者医療保険)
、社
会保障も維持すると公約した。議会での施政方針
演説でわずかだが環境についてふれたのも、
教育、
福祉などと共に、環境政策についても決して軽視
しないという姿勢を示したといえる。
ブッシュ氏は選挙中、1)環境浄化は民間企業の
力を重視する、2)環境規制は元々国よりも州が
対応すべきであり、州に権力委譲する――の 2 点
を環境政策の公約として常に強調しており、議会
での施政方針演説、2002 会計年度(2001 年 10
月∼2002 年 9 月)の環境政策予算動向をみても、
この 2 点を裏付けるものが少なくない。
しかし一方で、前述のように、ブッシュ氏は環境
政策の公約として民間活力の重視と州への権力委
譲を公約としてきたため、環境政策の重点がクリ
ントン政権とは大きく異なるとみられている。
● 動きだしたブッシュ政権と環境政策
(2)議会での施政方針演説
毎年、2 月に行なわれる大統領の連邦議会の上下
両院合同本会議での演説は国家の現状を述べ、今
後の政策を明らかにするもので、通常「一般教書
演説(State of the Union Address)
」と呼ばれ、日
本の首相による施政方針演説にあたる。しかし今
回の場合、合衆国の現状よりも今後の施策方針を
訴えたため「一般教書演説」という呼称を使って
おらず
「議会に対する演説
(Address to Congress)
」
という名称になっている(クリントン前大統領の
就任時の 1993 年の議会演説も、一般教書という
形式を避け経済だけに絞った「経済計画」演説と
いう名称を使っている)
。
例えば議会演説の中では、「政府の役割は重要だ
が、過剰になると民間の活動を抑圧するため、能
動的だが限定的で、関与はするが支配的にならな
い政府を目指す」と強調しており、ブッシュ氏が
環境政策の公約として挙げた民間活力の重視と州
への権力委譲が環境政策にも反映されるとみられ
る。
また、演説の中で「これまで 3 年間、毎年 6%程
度伸びてきた裁量的支出(国債費など義務的な支
出を除く政策的な支出)は、インフレ率を上回る
程度の 4%に留め、歳出全体の伸びを抑える。そ
の一方で、教育、医療、社会保障、国防などには
重点的に予算を配分する」と具体的な重点分野を
指摘したが環境政策は含まれておらず、歳出全体
の伸びを抑える中、環境関連政策の各種プログラ
ムの見直しなども検討されていくとみられている。
特に演説の中で、カリフォルニア州の電力危機や
ガソリン価格の全米的な高騰を受けて「エネルギ
ーの国内生産強化や電力供給の増強が必要」とす
ブッシュ氏の今回の演説は、通常の「一般教書演
説」の内容と非常に近い。しかし「一般教書演説」
の場合、演説の前後に連邦議会議員のほか一般に
各省庁の予算のかなり詳しい内容をまとめた「予
算教書」が発表され、それを踏まえた演説となる
が、今回の「予算教書」
(発表翌日に議会に提出さ
れた)は概略がまとめられているだけであり、演
説の中心が施政方針に絞られている。
JMC environment Update
71
Vol.2 No.6 (2001.3)
米国における環境関連動向∼在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報⑨
るエネルギー価格の上昇問題解決を強調している
ため、環境問題に直結するエネルギー関連政策に
は大きな変化が予想される。
また、環境での国際交渉を含む大統領の外交関連
の通商法案審議を加速するための「ファストトラ
ック権」を議会に求める点も演説の中に含まれて
いる点が注目される。一方で、ブッシュ氏は温暖
化防止条約京都議定書に盛り込まれた温暖化ガス
の排出削減目標には批判的であるといわれており、
演説では一言もふれなかった(後述)
。
ブッシュ大統領の議会演説の直後、民主党上院の
トム・ダシュル(Tom Daschle、サウスダコタ州
選 出 )、 下 院 の デ ィ ッ ク ・ ゲ ッ パ ー ト ( Dick
Gephardt、ミズーリ州選出)両院内総務らを中心
とする民主党の 2 大リーダーが反論テレビ演説を
したが、反論の中心は目玉の減税案であり、環境
政策には全くふれられなかった。
一方、
「青写真」
には環境政策に関するブッシュ政
権の取り組み方が記載されており、クリントン前
政権と比較した環境対策に対するアプローチや重
点項目の変化などを読み取ることができる。例え
ば、
「青写真」の中で環境関連予算を総括する「環
境保護」の項目の文頭には、
「州、地方自治体(郡・
市町村)
、民間企業、連邦政府のそれぞれの多大な
努力でここ 25 年の間、米国の大気、水質の保全
が可能になった」と謳い、
「民間企業の努力」や州
への環境規制権限の委譲(devolution)が強調さ
れているのが特徴的である。
1)EPA 予算概要
これまでに報道などで解っている EPA 予算概要か
ら判断すると、EPA に配分予定の予算総額は 73
億ドルであり、前年 2001 会計年度(2000 年 10
月∼2001 年 9 月)の実質予算の約 78 億ドルより
も 6.4%減(4 億 9,900 万ドル減)となっている。
1996 会計年度(1995 年 10 月∼1996 年 9 月)の
65 億 2,295 万ドル以来、EPA の実質予算は 5 年間
着実に伸び続けていたクリントン政権時代とは一
線を画している(下図参照)
。
● 動きだしたブッシュ政権と環境政策
(3)環境政策予算
ブッシュ氏が民間企業の力の重視し、経済活動へ
の政府の介入をできるだけ排し、行き過ぎた規制
緩和を唱えているため、
環境関連政策については、
一部で大幅な削減が予想されている。特に施政方
針演説で強調した減税・財政政策を達成し、
「歳出
全体を抑え、教育、医療、社会保障、国防などに
は重点的に予算を配分する」ために、商務省(先
端技術研究費など)
、農務省、中小企業庁などと共
に環境対策予算は削減の対象に上るとみられてい
る。実際これまでに明らかになっている環境関連
予算を総合すると、今のところ大幅とはいえない
もののやや減額に方向性が向けられつつある。
EPAの予算推移
90
80
70
60
予 50
算
案 40
これまで、各省庁の 2002 会計年度(2001 年 10
月∼2002 年 9 月)の詳細な予算内容については、
例年よりも発表が遅く明らかになっておらず、各
省庁ごとに「青写真」が発表されているだけであ
る。環境関連予算も例外ではなく、米国の環境政
策の要となる EPA の予算についても 3 月 10 日現
在、EPA のウエブサイトや連邦議会の総合情報サ
イト「トーマス(Thomas)
」にも予算についての
詳しい説明は全くなく、ホワイトハウスのウエブ
ページに「青写真」を基にした概略が発表されて
JMC environment Update
いるだけである。議会情報誌「コングレッショナ
ル・クオータリー」や公共ラジオ放送 NPR による
と、詳しい予算については、ブッシュ政権から議
会に対する各省庁の予算概要説明は 4 月に入って
からであるといい、議会での公聴会もそれ以降に
なる。
30
20
10
0
'91
'92
'93
'94
'95
'96
'97
'98
'99
'00
'01
'02
会計年度
(予算額は 1991 会計年度から 2001 会計年度まで
は実質。2002 年度は要求額。いずれも単位は億ド
ル。EPA の資料を基に作成)
72
Vol.2 No.6 (2001.3)
米国における環境関連動向∼在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報⑨
制を強化するという方針も謳われており、柔軟な
姿勢を貫いている。例えば、前述の州政府に対す
る総額 10 億ドルのブラウンフィールド浄化助成
に加え、ブラウンフィールド浄化のための税控除
も恒久化されることが決まっている。また、州へ
の環境規制権限委譲を象徴するように、州政府に
対する汚水処理補助予算も、2001 会計年度予算要
求額よりも 5 億ドル多い 13 億ドルとなっている。
しかし、この数字を「微減」
「前年度とほぼ同額」
「前年以上」のいずれととらえるかは、意見が分
かれている。実質ではなく、2001 会計年度予算要
求総額は、約 72 億 5,659 万ドルだったため、要
求総額に比べれば、2002 年の要求総額も、数字の
上では 4,000 万ドル以上多くなっている(厳格な
三権分立の下、行政部と議会はチェックアンドバ
ランス原則上の敵対関係であり、大統領の予算案
は半年以上かけて細部まで検討される。特に大統
領の所属政党と議会の与党が異なっている「分断
政府(divided government)
」の場合、予算案は大
規模に変更されるケースが多く、元々の予算要求
から、減額・増額のいずれにもなる)
。また、EPA
の中核的な活動である、規制のための調査研究と
規制執行活動予算は 37 億ドルであり、EPA が発
足した 1970 年以来、史上 2 番目の額となってい
る。
さらに、従来規制の対象になっていなかった二酸
化炭素排出なども排出汚染物の規制監督の対象と
し、多くの汚染物の環境負荷を総合的に分析する
「 マ ル チ 汚 染 物 ア プ ロ ー チ ( multi-pollutant
approach)」の導入も検討していると触れられて
いる。
「マルチ汚染物アプローチ」については、上
院環境公共事業委員会(Senate Environment and
Public Works Committee)のロバート・スミス
(Robert Smith、ニューハンプシャー州選出)委
員長が熱心に導入を訴えてきた経緯があり、今後
の動向が注目される。
さらに、環境汚染が激しく問題となっている放置
された工場跡地・有毒廃棄物投棄場(ブラウンフ
ィールド)の対策の一貫として、5 年間で総額 10
億ドル(毎年度 2 億ドル)のブラウンフィールド
浄化助成を州自治体や原住民居住地に対し、提供
する可能性もあり、正式な予算説明や今後の議会
での予算承認過程で予算総額が大きく変わってく
る可能性がある(これまでも EPA 予算の中では州
への補助金が 6 割以上と大きな割合を占めてい
た)
。いずれにしろ、一部で削減が予想されていた
EPA 予算の大幅削減という事態にはならないとい
える。
環境保護団体のシエラクラブのエグゼクティブ・
ディレクターのカール・ポープ(Carl Pope)氏は
「具体的な規制の詳細が明らかになっていないた
め、マルチ汚染物アプローチがどれだけ効果があ
るか不確定だが、
注目すべきアプローチではある。
このアプローチを導入したとしても、全体的にブ
ッシュ政権が環境政策にどれだけ熱心に取り組む
のかはまだ不透明な部分が多い」
と指摘している。
2)エネルギー省予算概要
一方、エネルギー省に配分予定の 2002 年度会計
予算総額は 190 億ドルで、2001 年度会計実質予
算に比べ、3%(700 万ドル)減となっている。特
に削減が検討されているのが、環境負荷が少ない
代替エネルギー研究予算であり、太陽熱発電、風
力発電、バイオマス・エネルギー開発などが削減
の対象となっている。エネルギー省のほか、商務
省の先端技術研究費など、明確な効果が現れにく
いプログラムは削減の対象に挙がっている。
一方、予算額だけなくブッシュ政権が発表した
EPA 予算の青写真では、クリントン政権時代との
環境対策に対するアプローチそのものの変化を強
調している。特に強調しているのが、市場原理に
乗っ取った環境保護コストの負担である「市場主
義(market-based)アプローチ」と、州への環境
規制権限の委譲である。EPA 予算の青写真では、
「従来の指令統制型アプローチ(command and
control approach)は、環境政策の上でもはや有効
なアプローチとはいえない」と述べられており、
「地元のニーズに合った環境対策をするよう EPA
は柔軟になるべきだ」とまとめられている。
これについて民主党からは批判の声があがってい
る。例えば、上院歳出委員会エネルギー水源開発
小 委 員 会 ( Senate Appropriation Committee
Energy and Water Development Subcommittee)
の民主党側のランキング委員(委員会や小委員会
このように、EPA 予算の青写真には規制緩和を強
調した部分が多いものの、一部には従来よりも規
JMC environment Update
73
Vol.2 No.6 (2001.3)
米国における環境関連動向∼在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報⑨
98 億ドルで、2001 年度会計実質予算に比べ、4%
減となっている。
での野党側のトップとして野党側の委員の意見を
まとめるほか、与党の議員のトップ=委員長=と
の折衝を行う)であるハリー・リード議員(Harry
Reid、ネバダ州選出)は「予算の数字合わせのた
めに将来的にますます重要になる再生エネルギー
の研究費を削減するのは愚の骨頂である」と発言
している。
内務省の予算についても、ブッシュ政権は州への
環境規制権限委譲に重点を置いており、例えば、
これまで連邦予算が大半を占めていた「土地水質
保全基金(Land and Water Conservation Fund)
」
は、州への委譲を目的に州と連邦で半々に分配さ
れる。
「土地水質保全基金」
を通じた環境規制権限
委譲は選挙中の公約の 1 つであり、
2001 年実質予
算(5 億 4,400 万ドル)に比べ、2002 年度会計予
算要求額では 9 億ドルと約 40%増額しているの
も特筆される。
また、上院エネルギー天然資源委員会(Senate
Energy and Natural Resources Committee)のラン
キング議員であるジェフ・ビンガマン議員(Jeff
Bingaman、ニューメキシコ州選出)は「まだ青写
真の段階なので、良く検討しないと解らないが、
エネルギー問題が関心を集めている中新エネルギ
ーの研究費は削減してはならない部分であり、さ
らなる増額が必要である」などの批判の声があが
っている。
一方、
国立公園の維持・建設費として青写真では、
1 億 4,000 万ドルを要求しており、これは 2001
年実質予算に比べ約 30%増額している。しかし、
増額のポイントが維持・建設費であり、国公園内
の動植物の環境保全に重点を置いていない。その
ため、環境破壊につながる可能性を指摘する声も
少なくない。
一方ブッシュ政権は、
エネルギー問題対策として、
選挙公約の一つであるアラスカの北極国立野生動
物保護地区(Arctic National Wildlife Refuge)の油
田開発研究費は 2004 年度から、エネルギー省の
予算に加えたいと指摘している。
下院歳出委員会内務委員会(Senate Appropriation
Committee Interior Subcommittee)のランキング
委員であるノーム・ディックス議員(Norm Dicks、
ワシントン州選出)は「連邦政府所有地の管理に
は、青写真で示した額以上の予算が必要であり、
増額できなければ歳出委員会内務委員会での予算
通過を阻止する」と強く非難している。
また、今回エネルギー省予算の青写真の中で、エ
ネルギー省のプログラム運営に対して痛烈な非難
を行っており、
「会計検査院(GAO)の調査では期
日どおりに終わったプログラムは 10%しかなく
非常に問題である」
「重点とされる政策の多くは、
国益の観点からみれば重要度が低い」と指摘して
いる。
「重点とされる政策の多く」とは、代替エネ
ルギー開発などを指しているとみられている。
● 動きだしたブッシュ政権と環境政策
(4)環境外交ブッシュ政権の環境政策
ブッシュ大統領の外国首脳との初めて直接会談と
して 2 月初めホワイトハウスで開かれたカナダの
クレティエン首相との会談では、選挙公約の一つ
であり、カナダと隣接するアラスカの北極国立野
生動物保護地区(Arctic National Wildlife Refuge)
の油田開発が争点になった。
一方、エネルギー省予算の青写真の中で、火力発
電所から排出される噴煙に含まれる有害物質を削
減する技術開発に今後 10 年間で、20 億ドルを割
り当てるとしており、ブッシュ政権の狙いはなか
なか開発・普及が進まない代替エネルギーではな
く、従来型のエネルギーをより環境に与える負荷
が少ない形で利用するという現実的なアプローチ
をとっているものと考えられる。
ブッシュ大統領がエネルギー自給促進の面からア
ラスカ州での石油採掘の必要性を訴えたことに対
しクレティエン首相は、「アラスカの北極国立野
生動物保護地区の問題は米国だけの問題ではな
い」とし、環境保護の観点から強い反対を表明し
た。2000 年 10 月に開かれた 1 回目の大統領選デ
3)内務省予算概要
国立公園など国土の約 3 分の 1 を占める連邦政府
所有地を管理規制するため、環境政策で重要な役
割を占める内務省の 2002 年度会計予算要求額は
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米国における環境関連動向∼在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報⑨
体などの反対によって合意内容が変更され、合意
内容全体が崩れるのを防ぐのが「ファストトラッ
ク権限」の狙いである。
ィベートでブッシュは、カナダ、メキシコともエ
ネルギー政策で協調することを強調し、環境にお
ける他国との協力を訴えており、同盟国重視を打
ち出しているブッシュ新政権にとっては隣国カナ
ダとの首脳会談で主要議題で見解の相違が表面化
したことで、厳しい滑り出しとなっている。
また、温暖化防止条約京都議定書に盛り込まれた
温暖化ガスの排出削減目標については、今のとこ
ろ全くといえるほど話題にのぼっていない。ブッ
シュ政権は、国内産業界の意見のバランスもクリ
ントン政権以上に重視するという見方が強いため、
議定書の早期批准・発効の可能性は低いとみられ
ている。昨年 11 月にハーグで開かれた気候変動
枠組み条約の第 6 回締約国会議(COP6)は、森林
による二酸化炭素吸収量の削減値への算入方法な
どをめぐって欧州と米国、日本が対立したまま中
断しており、
ボンで 7 月に予定される会議再開に、
今後最大の排出国である米国がどのような立場を
示すかどうか、明らかになっていない。
一方、ブッシュ大統領就任直後に上院で承認され
米国通商代表部代表(USTR)のポストに正式就任
したロバート・ゼーリック(Robert Zoellick)はベ
ーカー元国務長官と近く、豊富な対外交渉経験を
持っている自由貿易派として知られている。クリ
ントン政権時代の通商政策についてゼーリック代
表は、
「リベラルイデオロギーを反映し、
環境や労
働と絡めて交渉したため、政策自体が過度に政治
化した」と何度も強く批判し続けており、今後の
環境問題が含まれる通商交渉では、全政権との政
治的立場の違いが徐々に明らかになっていくとみ
られている。
同権限の延長を失効した 1994 年の際には、当時
のクリントン政権が「通商交渉の際、環境や労働
問題に関する要求事項を含めるべき」
と訴えたが、
「環境問題を通商問題に含めるのはリベラルなイ
デオロギー色が強く、自由貿易を阻害する」とし
て、
共和党側を中心に猛反発にあった経緯がある。
今回も環境外交が同権限の復活に大きな影響を及
ぼしているといえる。しかし今回の場合は、クリ
ントン政権が延長を求めた’94 年とは逆の現象が
起こっており、議会民主党側の中でもリベラル派
を中心に
「ファストトラック権限復活の条件には、
環境や労働問題に関する要求事項を含めるべき」
と訴えている。
● EPA の大気汚染防止基準をめぐる最高裁判決
連邦最高裁は 2 月末、環境保護局(EPA)が環境
保護のための規制を策定するに当って規制を受け
る側のコストを考慮に入れるべきだとする産業界
の訴えを、裁判官全員一致で棄却する判決を言い
渡した。現在の最高裁では保守派の判事が多数派
であり、環境規制をめぐりここ数年、連邦政府の
企業活動への介入に対して違憲とするケースも少
なくなく、今回の判決も注目されたが、今回の場
合 EPA の規制の合法性を認める形となっている。
具体的な環境外交政策については、現在行政府の
通商交渉権限を大幅に強化する「ファストトラッ
ク(早期一括審議。fast track)権限」を議会から
得ることを外交の目標に打ちだしている。「ファ
ストトラック権限」は「1974 年貿易法(1974 Trade
Act)
」の一部として成立し、大統領が外国と合意
した貿易自由協定を議会が批准・承認する際に合
意内容の部分的な修正を認めず賛否だけを問う手
続きで、大統領は多国間交渉によって協定が提携
される 90 日前に議会に協定締結の以降を通知し、
議会と協議する一方で議会は 90 日以内に採決す
ることが決められている。国内の特定の業界・団
JMC environment Update
同権限は、時限立法の形で’79、’88、’91、’93 年に
延長されたが、クリントン政権下 1994 年に失効
した。その後クリントン政権は何度か権限復活を
試みたが議会の反対で復活できないままに終わっ
ており、ブッシュ政権では「通商交渉にあたって
他国の信頼を得るにはこの権限が不可欠」と訴え
ている。
EPA は 1997 年、健康被害が問題になっている、
すすなどの浮遊粒子状物質や光化学スモッグのも
とになる地上オゾンの濃度を大幅に規制する大気
汚染防止基準を発表した。これは,それまで事実
上野放し状態だった直径 2.5 ミクロン・メートル
以下の浮遊粒子状物質などの排出量基準を策定し
たものであり、’90 年代でも最大の大気汚染政策
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Vol.2 No.6 (2001.3)
米国における環境関連動向∼在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報⑨
の 1 つである。この基準が達成されれば大気汚染
による死者がこれまでの半分の、年 2 万人に減る
と EPA は指摘していた。
● カリフォルニア州電力危機をめぐる環境規制
論議
カリフォルニア州の電力危機が深刻な問題に発展
する中、ブッシュ政権は、「電力危機の原因の 1
つは厳しい環境規制にある」として、同州の環境
規制を厳しく批判し続けている。シリコンバレー
を抱えるカリフォルニア州は情報技術(IT)産業
の成長で電力需要が急激に伸びたが、厳しい環境
規制に加え巨額の資金負担が必要なため発電所の
新設が進まず供給が追いつかなくなっているとい
われている。そのため、昨年夏からの電力不足で
電力の卸売価格が前年の 10 倍になり、地元の大
手電力 2 社は経営危機に陥っている。
これに対し、産業界側にとってこの基準を達成す
るにはコストが掛かる。そのため、全米トラック
運送業界などが当時の EPA のブラウナー長官を相
手取って訴訟を起こしていた。産業界側の主張を
まとめると、1)規制基準は、立法府である議会
の権限を侵害する越権行為である、2)EPA は規制
基準を作るに当たり、規制を実行する側のコスト
も考慮に入れるべきである――という 2 点だった
が、産業界側の訴えは退けられた。クリントン政
権下の遺産である大気汚染防止基準について、今
後共和党政権下の EPA がどのように規制運用して
いくか注目されている。
2 月上旬の CNN とのインタビューの中で、ブッシ
ュ大統領は、1)カリフォルニア州の厳しい大気
品質規制が電力生産を阻害している、2)州政府
の規制で発電所が 100%のフル稼働ができないな
ら、
規制緩和を行わなくてはならない――と述べ、
環境政策関係者の間で論議が起こっている。特に
論点となっているのが、この発言が州政府への強
い圧力を意味し、州権の尊重や、環境政策での州
への権力委譲を常に訴えてきたブッシュ大統領の
政治姿勢とは大きく異なるためである。
● ワールドウオッチ研究所の「地球環境白書」
民間の環境問題シンクタンクとして世界的に知ら
れているワールドウオッチ研究所は 1 月、
「2001 年版地球環境白書」をまとめた。これによ
ると、
「生態系の破壊が地球規模で加速する一方、
環境保護運動の政治力が衰えつつある」としてお
り、地球環境問題は大きな岐路に立たされている
とまとめている。
また、共和党保守派の多くがカリフォルニア州の
環境規制を批判しており、例えば、カリフォルニ
ア州サンディエゴを選挙区としているランディ・
カニンガム(Randy Cunningham)下院議員は「規
制を求める環境保護団体がエネルギー開発を妨害
している」と指摘している。
白書によると、地球温暖化によって北極の氷の厚
さは数十年前に比べ 42%も減ったほか、世界のサ
ンゴ礁の 27%が既に破壊されており、
「地球の生
命を支える生態系の破壊が始まっている」と指摘
している。また、化石燃料の消費を劇的に減らさ
ない限り、
「2100 年には地球の平均気温が最高約
3 度上昇する」としており、それに伴う水不足、
食糧生産の減少、マラリアなどの疾病の拡大も懸
念されると述べている。
一方、
ブッシュ政権や共和党内からは今のところ、
電力不足の要因の一つである 1998 年に行った電
力完全自由化に対する非難は少ない。エネルギー
規制委員会のリチャード・オニール氏らは「自由
化に踏み切ったのは評価できるが、電力会社に長
期の供給契約を禁止するなど自由化の方法に問題
があったほか肝心の規制緩和が伴わないため、市
場メカニズムがうまく効果を発揮しない」と指摘
している。
また、環境保護運動の政治力が衰えについては、
2000 年のオランダ・ハーグでの気候変動枠組み条
約締約国会議が決裂した点を例証し、「環境破壊
を食い止める歴史的機会を逃した」と指摘してい
る。経済情勢が不安定な時代に入ったため、「数
10 年間積み上げてきた環境保護に逆行する政策
が進む可能性もある」として、ブッシュ新政権を
暗に非難している。
JMC environment Update
カリフォルニア州の規制当局は、ブッシュ大統領
の発言に強く反発している。ロサンゼルス地区の
大気品質管理を担当しているサウスコースト大気
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米国における環境関連動向∼在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報⑨
ター(Metcalf Energy Center)は現在、近接する
IT 大手のシスコから概観などを巡って操業開始
中止を要請されている。
品 質 管 理 地 区 ( South Coast Air Quality
Management District)代表である、サム・アトウ
ッド(Sam Atwood)氏や、カリフォルニア エネ
ルギー委員会(California Energy Commission)の
クローディア・チャンドラー(Claudia Chandler)
女史らは、1)既にロサンゼルス地区の大気は全
米で最悪の汚染状態である、2)旧式で汚染対策
が全く進んでいない発電所が長時間稼働している
のがカリフォルニア州の現状である、3)発電所
の環境規制は不可欠であり、電力不足に直結する
ようなものではなく、的外れである、4)発電を
促進するために規制は既に緩和する傾向にあり、
例えば、本格的な規制準拠から簡易汚染防止装置
を発電所に備え付ける指導を行っている、5)そ
のため、規制が特に厳しいということは絶対にな
い、――などと指摘している。
電力不足を受け、カリフォルニア州のグレー・デ
ービス知事(Gray Davis、民主党選出)は 2 月、
新発電所建設の際の規制を簡素化し、2001 年夏ま
でに送電を開始できる段階の発電所に対しては、
特別助成を行う知事令(executive order)を発し
ている。
また、
発電所に関しては州だけではなく、
連邦環境規制も対象となっており、今後 EPA など
の連邦規制当局の動きも注目されている。□
1980 年代には電力が余剰気味であったため、実際、
カリフォルニア州や近接する州では過去 10 年間
に主要な発電所は一つも建設されておらず、ほと
んどの発電施設が旧式のものになっており、噴煙
の環境に対する影響は長年注目を集めてきた。
一方で、一般的に発電所建設には性質上規制申請
にかなりの時間や費用が掛かるのも事実ではある。
カリフォルニア州の場合、
カリフォルニア エネル
ギー委員会が新規発電所建設申請のワンストップ
ショップ的な役割をしているものの、ある発電会
社の場合、申請から認可まで 14 カ月掛かったほ
か、2,500 ページもの規制申請データ・書類作成
のためだけに 100 万ドルは必要であったという。
また、カリフォルニア州の場合、新規発電所建設
申請のプロセスの中で、規模や概観、噴煙などに
ついて、第三者が意義申し立てをすることができ
る「介入(intervene)」制度を認めている。米国
の場合、規制策定のプロセスは一般的に非常にオ
ープンであり、例えば連邦規制の場合、ほとんど
のケースで第三者がコメントを寄せることができ
るものの、
あくまでも規制の内容についてであり、
概観などにも意義申し立てができるカリフォルニ
ア州の制度は、ユニークなものであるといわれて
いる。この「介入」制度を利用して、環境保護団
体が新規発電所建設の反対運動を起こしたことも
あるほか、シリコンバレーの中心であるサンノゼ
に建設予定であるメットカッフ・エネルギーセン
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Vol.2 No.6 (2001.3)
「米国・アジア・EU 通商問題弁護士情報」の紹介
当組合国際業務部門・通商国際協力グループのモニタリング情報に環境問題に関連する米国および
EU の動向について記事が掲載されていますので、前号に引続き以下に紹介いたします。
1. 2001 年 3 月 9 日
EU、ハンガリー及びチェコ共和国との貿易を円滑化する「適合性評価に関する欧州協定のプロ
トコル」に調印
・2 月 26 日、欧州委員会はハンガリー及びチェコ共和国と貿易円滑化協定に調印した。この協
定は、
「適合性評価に関する欧州協定プロトコル(PECA's)
」として知られているもので、工
業部門における欧州単一市場の利益の一部を加盟候補国に敷衍し、これら候補国の法制度を
EU のそれに連合させようとするもの。本協定は、加盟申請中の中東欧との間で、この種の
ものとしては、最初に結ばれた。
2. 2001 年 3 月 6 日
米国、貿易関連労働・環境の最近の動き
・G8 環境大臣、COP6 会合再開に合意
G8 環境大臣は、3 月 4 日にイタリアのトリエステで、昨年 11 月にハーグで開催された気候
変動枠組み条約第 6 回締約国会議(COP6)で一時停止されていた温室効果ガス排気に関す
る交渉をドイツのボンにおいて 7 月 16-27 日の日程で再開する旨のコミュニケを採択した。
・米国環境保護庁、ディーゼル硫黄規則導入を延期せず
環境保護庁は 2 月末にディーゼル燃料に含まれる硫黄の削減とヘビィー・デューティ・ディ
ーゼル・エンジンからの排気を制限することを義務付けた最終規則の実施を遅らせることは
無いと発表した。ホイットマン環境保護庁長官は、同庁に予定通り規則を実施するよう指示
した。この最終規則は本年 1 月 18 日の官報で告示(FR5001)されており、3 月 19 日に発効
することになっている。
・政府機関、
「ブラックリスト規則」の実施を延期
1 月 31 日、文民機関調達評議会(Civilian Agency Acquisition Council)は、各連邦機関に、
政府調達請負業者(Government contractors)に対する倫理基準を確立する論争となってい
る規則を 6 ヶ月間延期する権限を与えるメモランダム(レター、通達)を発行した。それ以
降、連邦調達庁、NASA 及び内務省を含むいくつかの政府機関は、個々の「集合逸脱(class
deviations)
」を発行することによって同規則の実施を延期している。連邦調達庁は、7 月或
いは連邦調達規則の変更が発行されるまでのどちらか早い時期まで実施を延期している。連
邦機関はこの規則の実施を更に延期することも出来る。
3. 2001 年 2 月 21 日
欧州委員会、環境責任に関する枠組指令の提案を予定
・欧州委員会は一年前に環境責任に関する枠組指令の提案に備えて本件に関するホワイト・ペ
ーパーを公表している。環境責任に関する EU の新たな立法措置は、生物多様性に対する損
害に関して加盟国間でその責任範囲に隔たりがあり、且つ加盟国の法律では国境を超えた損
害を効果的にカバーできないという事実から必要になってきた。本年 2 月 6 日に開かれたコ
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Vol.2 No.6 (2001.3)
「米国・アジア・EU通商問題弁護士情報」の紹介
ンファレンスでは、欧州委員会、欧州議会、産業界及び NGO が来るべき指令の主要点につ
いて議論した。
4. 2001 年 2 月 28 日
米国最高裁、環境保護庁は、大気浄化法の下、業者側の実施費用負担を考慮しなくて良いと裁
定
・最高裁は、大気浄化法及びその実施規則に従うために生じる事業者側のコストを環境保護庁
が考慮しなくても良しとする、産業界及び環境保護主義者にとって重要な裁定を下した。
5. 2001 年 2 月 27 日
共和党上院議員,によるエネルギー法案、CAFE(企業平均燃費)基準条項を外す
・2 月 26 日、上院エネルギー・天然資源委員会委員長の Murkowski 議員(共和党、アラスカ)
は、
「2001 年国家エネルギー安全保障法」と題したエネルギー法案を提案したが、この法案
には CAFE(企業平均燃費)基準を変更する条項が含まれていない。CAFE は、重量 8,500 ポ
ンド未満の量販乗用車及び軽トラックに対する、1ガロン当たりの走行マイル数で表された
燃費基準。この法案は、(i)代替エネルギー源を利用し、(ii)国内の原油及びガス生産を増加さ
せるインセンティブを提供することによって、米国が海外石油への依存から脱却することを
目指したもの。
6. 2001 年 1 月 23 日
米国と EU、通信及び電子製品の大西洋間貿易に係る障害低減のための相互承認協定の付属書
を実施
・1 月中旬、
米国と EU は、
1998 年 12 月 1 日に発効した米-EU 相互承認協定
(Mutual Recognition
Agreement, MRA)の通信及び電磁環境両立性(Electromagnetic Compatibility, EMC)付属書
の条項を実施すると発表した(⇒USTR のプレスリリース)
。このイニシアティブは、重複す
る製品試験要件を無くすことによって、年間約 300 億ドルにのぼる通信及び電子機器の米
-EU 間貿易に対する障害を低減する。通信機器に関する付属書は無線送信機を含む通信端末
機器及び情報技術製品を、EMC に関する付属書はラジオやビデオ等ほとんどの電子・電気機
器を含む無線干渉及び両立性を要件とする機器を、カバーしている。
これらの情報は、当組合ホームページ(http://www.jmcti.org/trade/bull/)から検索できます。但し、
記事へのアクセスにはユーザー名とパスワードが必要になります。詳細につきましては通商・国際
協力グループ(e-mail: [email protected])までお問合下さい。
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環境・安全グループ担当委員会の活動状況
1. 貿易関連環境問題対策委員会
<通算第 62 回委員会(1/30;組合会議室)>
・環境政策の動向について
―― 環境省総合環境政策局環境計画課企画官 小木津 敏也氏より新生環境省として 21 世
紀初頭における環境政策の展開の方向について説明を伺った後、意見交換ならびに質疑
応答を実施
・地球環境問題と企業について
―― 慶應義塾大学経済学部教授 山口 光恒氏より OECD における EPR(拡大生産者責任)の
論点、および環境保護規制と貿易への影響について説明を伺った後、意見交換ならびに
質疑応答を実施
<通算第 63 回委員会(3/22;組合会議室)>
・グリーン購入法について
―― グリーン購入ネットワーク(GPN)事務局次長 佐藤 博之氏より本年 4 月からのグリ
ーン購入法施行を控え、その基本方針および運用、GPN の取組みについて説明を伺っ
た後、意見交換ならびに質疑応答を実施
・WEEE & RoHS/EEE の最近の動向について
――事務局より組合ブラッセル事務所の情報を基に WEEE & RoHS の審議の動向および EEE
を巡る最近の動きについて説明があった後、意見交換ならびに質疑応答を実施
2. 貿易と環境専門委員会
<平成 12 年度 第 9 回委員会(1/30;組合会議室)>
・ IPP GREEN PAPER について
―― EU における製品関連の環境政策についてさまざまな手法が提案されており、EEE 指令
案とも密接に関係することからそのコンテンツについて意見交換を実施
・貿易と環境に関する海外動向について
―― WEEE & RoHS/EEE を巡る最近の動きを中心に欧州環境規制動向について情報交換
<平成 12 年度 第 10 回委員会(2/28;組合会議室)>
・IPP GREEN PAPER について
―― IPP GREEN PAPER 最終版が提示されたためその修正版を配布し、あらためて EU にお
ける製品関連の環境政策について対象範囲、価格メカニズム等、気になる点について意
見交換を実施
・貿易と環境に関する海外動向について
―― WEEE & RoHS/EEE を巡る最近の動きを中心に欧州環境規制動向について情報交換
・
「OECD の EPR(拡大生産者責任)ガイダンスマニュアルについて」
―― 経済産業省産業技術環境局リサイクル推進課課長 田辺 靖雄氏より OECD の「拡大生
産者責任、対各国政府ガイダンスマニュアル」の最終稿の内容について説明を伺った後、
質疑応答ならびに意見交換を実施
<平成 12 年度 第 11 回委員会(3/22;組合会議室)>
・IPP GREEN PAPER について
―― IPP において提案されているさまざまな環境負荷低減の手法について我国国内の手法と
比較し IPP の現状について把握すべく意見交換を実施
・貿易と環境に関する海外動向について
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Vol.2 No.6 (2001.3)
環境・安全グループ担当委員会の活動状況
―― 事務局より組合ブラッセル事務所の情報を基に WEEE & RoHS の審議の動向および EEE
を巡る最近の動きについて説明があった後、意見交換ならびに質疑応答を実施
3. 環境法規専門委員会
<平成 12 年度 第 6 回委員会(1/25;組合会議室)>
・欧州環境規制に関する定期レポートの内容分析
・環境法規に関する情報交換
―― WEEE & RoHS/EEE を巡る最近の動向、デンマーク鉛規制における対象製品の定義、
電池修正指令案、スウェーデンの WEEE 等について情報交換を実施
<平成 12 年度 第 7 回委員会(3/2;組合会議室)>
・欧州環境規制に関する定期レポートの内容分析
・ 環境法規に関する情報交換
―― WEEE & RoHS に関する欧州産業委員会での投票結果、今後のスケジュール等、最新情
報について説明した後、意見交換を実施
4. 環境問題関西委員会
<平成 12 年度第 9 回委員会(2/1:大阪支部会議室)>
・松下グループ、事業場省エネの取組みについて
―― 松下電器産業㈱ 環境本部環境審査室副参事 茂森 繁氏より松下グループの省エネの
すすめ方、エネルギー消費の現状、省エネ諸施策等について説明を伺った後、質疑応答
を実施
・各社の環境方針、活動・課題等について
―― 21 世紀幕開けにあたり委員より各社の環境方針、活動等について説明後、質疑応答を
実施
・ 欧州の動向について
―― WEEE/RoHS 指令案についての欧州議会関係委員会、理事会での動き、今後の審議ス
ケジュール等について説明し、情報交換を実施
<平成 12 年度第 3 回委員会社会事業場見学会>
―― ㈱島津製作所 三条工場における分析機器の用途、分析内容の紹介、医用機器の組立工
程、汚水処理設備および島津創業記念資料館を見学、懇談を実施
5. 海外 PL 問題対策委員会
<平成 12 年度第 4 回委員会(2/23:大阪支部会議室)>
・ロシアを中心とした PL 制度等の調査結果(最終報告)について
―― ロシア、ポーランド、ハンガリーの PL 制度等の調査の最終報告について委託先の㈱住
友海上リスク総合研究所 本島副主任研究員より報告があり、内容の検討を実施
・欧米の PL 関連の動きについて
―― 欧州委員会の「PL 指令の適用に関する第 2 次報告書」等について情報交換を実施
6. 貿易関連環境問題対策委員会施設見学会
<第 3 回見学会 1/30;㈱高和)>
・㈱高和 RC センター(焼却、溶解)およびリサイクル施設(解体、選別、破砕)の見学
―― 日本電気㈱のご協力により多彩な廃棄物処理への対応に取組んでいる㈱高和(品川区八
潮)の解体・リサイクル施設の見学会を実施
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Vol.2 No.6 (2001.3)
事務局便り
◇関東地方は 3 月に入っても寒波がやってきて、朝の冷え込みも厳しい日が続いていたのですが、
彼岸を境に一気に暖かくなり、今号の編集締切り日には近所の増上寺境内の桜が開花しました。
平成 12 年度(Vol.2)の最終号(No.6)が皆様のお手元に届く頃にはソメイヨシノも多くの場所
で満開を迎えることでしょう。
◇さて、桜前線も駆け足なら、EU における電気電子機器などを巡る環境政策や環境規制の動きも早
い動きを示しております。懸案の WEEE&RoHS や EEE のという個別テーマに係わる欧州議会と理
事会における論議の動向のみならず、製品に関連する総合的な政策に関する戦略ペーパーも欧州
委員会から提示されています。これらの動向把握に資するべく記事に取上げましたのでご活用下
さい。なお、EEE に関しては本誌(Vol.2 - No.4
)に収載した「環境に対するニューアプローチ
による法制化」をご一読されることをお勧めします。
◇WEEE&RoHS を巡る欧州議会の審議に対しては、既報のとおり JBCE が積極的なロビーイング活動
を行い、先ずは議会・産業委員会で substance ban に関する「適用除外リストの追加」や「指令
発効以前販売製品のスペアパーツの適用除外」が修正意見に盛り込まれるという具体的な成果を
もたらしたことを多いに評価します。そもそも海外相手国における立法化の論議の過程において、
行政プロセスから政治プロセスに至るまで、現地企業としての日系企業が具体案をもって直接関
係者と交渉し、日系(日本)企業の声に耳を傾けてもらいことだけでなく、代替提案を受入れて
もらうことに至ることはまだ最終審議までプロセスを要するとはいえ、初めてと思われるし、快
挙であると考えます。関係者の並みならぬ努力とご苦労に深謝します。
◇これらの早い動きをフォローするのに隔月刊行の本誌では情報が陳腐化する恐れもあることか
ら、当面環境関連委員会委員宛に、本年1月から不定期に environment Update 速報版を e-mail
による案内で試みています。軌道に乗れば当組合ホームページに収録すべく検討中です。本件の
ご意見やご希望をお待ちしております。
◇ところでもうすぐスキーシーズンも終わろうとしていますが、今季は全国的に積雪が多く、東北、
上信越、北アルプスのと山々にはまだまだ相当の雪がかぶっています。山スキーヤーにとっては
これからが本格的なシーズン・インで一通り雪崩が落ちたあとの尾根や谷筋は絶好の滑降コース
です。ただし板を担ぎそれなりの装備を背負って海抜 2,500 ∼ 3,000
米の頂まで登攀しなけれ
ばならないので問題は体力です。年々衰える体力の補いを工夫しつつ、「辛さ」と「悦び」を味
わうためその準備に余念のないこの頃です。
(TI)
□
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Fly UP