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循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関する

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循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関する
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007 − 2008 年度合同研究班報告)
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Cardiovascular Emergency(JCS 2009)
合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本小児循環器学会,日本心臓血管外科学会,日本心臓病学会,
日本蘇生学会,日本脳卒中学会,日本麻酔科学会,日本臨床救急医学会,
日本小児集中治療研究会
班長
笠
貫 宏 早稲田大学理工学術院大学院
班員
相
澤
義
房 新潟大学大学院医歯学総合研究科循
木
村
一
雄 横浜市立大学附属市民総合医療セン
源
河
朝
広 済生会川口総合病院循環器内科
住
友
直
方 日本大学 小児科学系小児科学分野
高
山
守
正 榊原記念病院循環器内科
武
田 聡 東京慈恵会医科大学救急医学講座
中
澤 誠 脳神経疾患研究所附属総合南東北病
長
尾 建 駿河台日本大学病院循環器科,蘇生・
環器学分野
協力員 圷 ター心臓血管センター
院小児科
宏
一 日本医科大学付属病院集中治療室
菊
地 研 獨協医科大学心臓・血管内科
小
玉 誠 新潟大学大学院医歯学総合研究科器
児
玉
安
司 東京大学医療安全管理学
清
野
精
彦 日本医科大学千葉北総病院内科・循
髙
木 厚 東京女子医科大学心臓病センター循
田
原
良
雄 横浜市立大学附属市民総合医療セン
官制御医学講座 循環器学分野
環器センター
環器内科
ター高度救命救急センター
救急心血管治療
丹
羽
明
博
野々木 宏 国立循環器病センター内科心臓血管部門
船
崎
俊
一 済生会川口総合病院循環器内科
三田村 秀 雄
横
山
広
行 国立循環器病センター心臓血管内科
東京都済生会中央病院循環器内科
平塚共済病院循環器科
外部評価委員
水
野
杏
一 日本医科大学付属病院内科学第一
丸 川 征四郎 医誠会病院
岡
田
和
夫 日本蘇生協議会
宮
坂
本
哲
也 帝京大学救命救急センター
坂
勝
之 長野県立こども病院
(構成員の所属は 2009 年 10 月現在)
目 次
Ⅰ.緒言…………………………………………………………1362
1.成人の二次救命処置(ACLS)………………………1373
1.ガイドラインの背景と考え方 ………………………1362
Ⅳ.症候からみた心血管救急…………………………………1378
2.循環器救急の現況と課題 ……………………………1364
1.胸背部痛 ………………………………………………1378
3.院外心停止 ……………………………………………1366
2.呼吸困難 ………………………………………………1379
Ⅱ.成人の BLS ………………………………………………1368
3.意識障害 ………………………………………………1381
1.成人の BLS(一次救命処置)について ……………1368
4.ショック ………………………………………………1383
Ⅲ.成人の ACLS ………………………………………………1373
5.動悸 ……………………………………………………1385
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1361
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
Ⅴ.不整脈………………………………………………………1386
8.偶発的低体温 …………………………………………1430
1.頻脈 ……………………………………………………1386
9.成人の先天性心疾患 …………………………………1432
2.徐脈 ……………………………………………………1391
Ⅷ.蘇生後の治療………………………………………………1434
Ⅵ.急性冠症候群………………………………………………1393
1.心停止後症候群
1.急性冠症候群の診療と不安定狭心症・
(Post cardiac arrest syndrome)の治療 ……………1434
非 ST 上昇型心筋梗塞の治療…………………………1393
2.体外循環式心肺蘇生法(Extracorporeal
2.ST 上昇型急性心筋梗塞 ………………………………1400
cardiopulmonary resuscitation; ECPR)………………1437
Ⅶ.その他の心血管救急………………………………………1408
Ⅸ.小児の BLS と ACLS ……………………………………1438
1.急性大動脈解離 ………………………………………1408
1.小児の一次救命処置(PBLS)………………………1438
2.急性心不全 …………………………………………… 1411
2.小児の二次救命処置(PALS)………………………1440
3.急性肺血栓塞栓症 ……………………………………1414
Ⅹ.循環器救急医療に関する提言……………………………1444
4.心タンポナーデ ………………………………………1417
1.心肺蘇生・蘇生科学に対する本学会の役割 ………1444
5.急性心筋炎 ……………………………………………1419
2.循環器救急医療に対する提言 ………………………1446
6.電解質異常 ……………………………………………1422
Ⅺ.本ガイドラインで使用した薬剤・略語一覧……………1446
7.救急心疾患治療における中毒学 ……………………1426
文献………………………………………………………………1449
(無断転載を禁ずる)
ンセントの限界 ⑼患者と医師のインフォメーションギ
Ⅰ
緒 言
ャップ拡大と信頼関係の低下などと多様である.
我が国の救急医療においては,産科救急と小児救急が
破綻の危機に瀕し,社会問題となっている.しかし心血
管救急も表面化していないが,同じ状況下にある.例え
1
ガイドラインの背景と考え方
ば,日本循環器学会救急委員会の調査では,循環器医の
週平均勤務時間は約 69 時間(80 時間以上が 18%)であり,
宿直・当直・自宅待機を含めると仕事のない日が月に全
1
1362
本ガイドラインの背景
くなしは 18.8 %にのぼる(図 1).この循環器医の劣悪
な労働環境を含めて施設の集約化と機能分化等々我が国
高齢社会を迎えた我が国において心疾患は死因第 2 位
における循環器救急の現状は極めて大きな問題を抱えて
を占め,脳卒中を含めた循環器疾患は癌とほぼ同率の死
いる.
亡率となる.成人外来受診患者でも循環器疾患は最も多
エビデンスに基づいた診療(EBM)の重要性が認識
いが,循環器疾患の特徴は突然発症し,致死的になりう
される中で,救急治療においては,ILCOR が専門家に
ることである.これまで我が国における心臓突然死の頻
よるコンセンサス CoSTR を 5 年ごとに作成し,AHA は
度は年間約 3 万人と考えられていたが,昨年総務省消防
CoSTR2005 に基づく AHA ガイドラインを作り,Basic
庁の報告では 2007 年度の心原性心停止は 59,000 人にの
Life Support(BLS) お よ び Advanced Cardiovascular
ぼる.したがって,循環器専門医にとって心肺蘇生の実
Life Support(ACLS)のマニュアルを作成した.2007 年,
践と心血管救急治療の知識と技能は不可欠といえる.し
日本循環器病学会では専門医試験の受験資格として
かし,循環器疾患の発症・急性期における迅速かつ的確
AHA 認定の ACLS 受講を義務付けした.そして一般医
な救急処置・診断・治療は困難なことが多く,処置中に
療従事者による BLS/ACLS 施行後に専門医としての相
増悪し致命的になることもまれではない.それには多く
談・依頼(expert consultation)を受ける立場における循
の原因がある.すなわち ⑴医学の限界・不確実性 ⑵
環器医のための心血管救急全般にわたるガイドラインを
救急医学のエビデンスの限界 ⑶心血管疾患救急の専門
作成することとなった.2004 年には AED の一般市民の
分化と全般研修の問題 ⑷我が国の救急制度の問題 ⑸
使用が認められ,その後 AED は急速に普及し,一般市
地域の格差と医療機関の格差 ⑹循環器医の過酷な労働
民のための BLS/AED 講習会が活発に開催されている.
環境 ⑺患者・家族の過大な期待 ⑻インフォームドコ
心肺蘇生・AED の重要性が注目されるとともに,循環
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
図 1 循環器救急の現状(学会アンケート調査)
夜間宿直(翌日は通常勤務)
週の勤務時間
7∼9 回 : 6.7%
∼50 時間 : 7%
0回
: 15.9%
4∼6 回
: 49.2%
1∼3 回
: 49.2%
オンコール(自宅待機)
13∼15 回
: 7.3% 16∼回
14.6%
10∼12 回
: 11.7%
7∼9 回
: 12.5%
0回
: 25%
1∼3 回
: 12.5%
4∼6 回
: 15.9%
81 時間∼
: 18%
51∼60 時間
: 14%
71∼80 時間
61∼70 時間
: 14%
: 21%
仕事のない休日
7∼回 4.5%
0回
: 18.8%
4∼6 回
: 31.7%
1∼3 回
: 45.0%
図 2 循環器専門医に求められる心肺蘇生・心血管救急の概念図
心血管救急(大動脈解離,心不全,肺
塞栓症,ショック,電解質異常,中毒,
低体温,先天性心疾患等)
専門家としての
ACS 対応
小児
ALS
小児
BLS
専門家としての
不整脈対応
低体温治療
ECPR
ACLS (循環器専門医義務化)
ICLS(研修医,内科認定医義務化)
BLS(医療従事者,一般市民,医学生)
CPR
心停止
AED
頻脈
徐脈
ACS
脳卒中 救急外来
AHA-ACLS の要旨に加えて,ACLS による心肺蘇生
後(心停止後症候群)の専門医へのコンサルテーショ
ンとして循環器医のなすべき心血管救急のガイドライ
ンである.
●心血管救急疾患の急性期初期診療(おおよそ 24 時間)
における診断・治療について取り上げた.
●循環器診療に当たる循環器医が実際に遭遇する種々の
器医は自ら高度な心肺蘇生(ACLS)の実施のみならず
異なる臨床現場でも役立つことを念頭に置いた.その
心拍再開後の救急治療の実践を求められている.さらに
ために疾患や項目ごとの記載だけでなく,症候からの
は,心血管救急疾患の特殊性から ER における初期治療
アプローチや鑑別疾患についても記載した.
から救急治療を担うことが必要となる(図 2).
●循環器救急疾患は極めて広範にわたるが,これまで 9
そうした背景において本ガイドライン作成とその意義
つの関連する各分野のガイドラインが作成されてい
を確認にしておくことが重要である.すなわち本ガイド
る.本ガイドラインでは,既存ならびに現在改訂作業
ラインの目的は循環器医の専門的知識・技能と,我が国
中のガイドラインとの整合性に留意した(表 1).紙
の限られた人的・物的資源のもとで患者の急性病態とお
面の制限から既存ガイドラインと同じの内容はクラス
かれている救急医療環境,患者の価値観や行動およびエ
分 類 等 要 約 の み と し, 引 用 文 献 も 省 略 し た. な お
ビデンス(多くは Best Available Evidence)を統合して,
2005 年以前のガイドラインについては文献を追加し
患者にとって最も望ましい救急医療を提供することにあ
た.
る.換言すれば,医師の意思決定を支援する役割を担う
●循環器救急の現場で医師が心血管救急全般を迅速に理
もので,診療を制限したり拘束するものではなく,まし
解し,重要ポイントを把握し,具体的個別患者に対応
て医療訴訟の判断基準になるものでもない.例えば,急
しやすくするため,できるだけ要約を加え,図表を多
性冠症候群に対する緊急経皮的冠動脈形成術の施行は医
くした.
療機関のみならず地域の格差が大きく,さらに循環器医
●循環器救急の診断,治療,管理に関して一般に容認さ
の技術や労働環境の格差を考慮すれば,本ガイドライン
れる方法をできるだけ根拠に基づいた内容として提供
の推奨度に限界があることは明白である.
するが,救急医療では,地域や時間帯ならびに人員等
2
ガイドライン作成にあたっての考え方
の異なる環境における救急診療のガイドラインとなる
ために専門家のコンセンサスの部分が多く,多分野の
BLS/ACLS およびその後の循環器専門医のための心
専門家の議論による合意を求めた.また,クラス分類
肺蘇生・心血管救急ガイドライン(いわゆるエキスパー
やエビデンスレベルは従来のガイドラインにならって
トコース)作成にあたっての考え方を示す.
記載した.
●日本循環器学会が専門医資格として義務づけしている
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1363
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
表 1 本ガイドラインに関連するこれまでの日本循環器学会ガイドライン
・心房細動治療(薬物)ガイドライン(2008 年改訂版)
・急性心筋梗塞(ST 上昇型)の診療に関するガイドライン(2008 年)
・脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した疾患の管理に関するガイドライン(2008 年)
・急性冠症候群の診療に関するガイドライン(2007 年改訂版)
・大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2006 年改訂版)
・急性心不全治療ガイドライン(2006 年改訂版)
・急性および慢性心筋炎の診断・治療に関するガイドライン(2004 年改訂版)
・肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断・治療・予防に関するガイドライン(2004 年改訂版)
・不整脈薬物治療に関するガイドライン(2004 年改訂版)
クラス分類
天性心疾患の救急の特徴についても取り上げた
(図2)
.
クラスⅠ:手技,治療が有効,有用であるというエ
●我が国において著しく進歩をとげ,ILCOR でも注目
ビデンスがあるか,あるいは見解が広く一
されている蘇生後治療(心停止後症候群)についても
致している.
別項をおいて記載した.
クラスⅡ:手技,治療の有効性,有用性に関するエ
● AHA-ACLS には脳卒中が含まれるが,それは脳卒中
ビデンスがあるか,あるいは見解が一致し
専門医の扱いとして本ガイドラインでは意識障害で触
ていない.
Ⅱ a:エビデンス,見解から有用,有効である
可能性が高い.
Ⅱ b:エビデンス,見解から有用性,有効性が
それほど確立されていない.
れるにとどめた.
●ダイジェスト版の作成においては,ポケットマニュア
ルとしての機能を持たせるように工夫し,薬剤一覧も
付けた.
●心血管救急を担う医師や病院の過重な環境等救急医療
クラスⅢ:手技,治療が有効,有用でなく,時に有害
の抱える問題点について,社会へのメッセージを発信
であるとのエビデンスがあるか,あるいは
するために本学会が取り組むべき課題と解決に向けて
そのような否定的見解が広く一致している.
の提言について言及した.
エビデンスレベル
●本ガイドラインで使用した略語を表として付けた.
レベル A:複数の無作為介入臨床試験または,メタ
解析で実証されたもの.
本ガイドラインは CoSTR2005 に基づく AHA ガイドラ
レベル B:単一の無作為介入臨床試験または,大規
インによる ACLS 実施後(心停止後症候群)の循環器医
模な無作為介入でない臨床試験で実証され
に求められる救急治療および心血管救急疾患全般を網羅
たもの.
した,循環器医のための心血管救急ガイドラインである.
レベル C:専門家および / または,小規模臨床試験(後
今後,ILCOR による CoSTR2010 発表後には世界各国の
向き試験および登録を含む)で意見が一致
ガイドラインは改訂され BLS/ACLS のマニュアルも改
したもの.
レベル D:無作為介入臨床試験ではないが,専門家
の意見が一致したもの.
訂される.したがって,本ガイドラインも 5 年以内には
改訂版が作成されることが必要となる.心肺蘇生・循環
器救急蘇生は新しい学際的科学領域であり,また救急で
あるが故に高いレベルのエビデンスは極めて少ないが,
●我が国においては,使用できる薬剤やその用量・用法
今後よりレベルの高いエビデンスおよび専門家の見解の
は欧米と異なるが,日本循環器学会専門医には AHA-
一致を得るべく努力を重ね,さらに心血管救急システム
ACLS の受講が義務化されており,原則としてそれに
の改革を図ることを望んでやまない.
準拠したが,できるだけ我が国における実情や医療の
特殊性を考慮したうえで,解説を加えた.
2
循環器救急の現況と課題
●これまで本学会のガイドラインで取り上げられていな
い電解質異常,Toxidromes,偶発性低体温について収
載した.
●救急診療において循環器小児科領域の知識も必要であ
り,小児の BLS や PALS の解説を加え,さらに成人の先
1364
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
① 我が国では,複雑外傷・多臓器傷害に重点がおか
れ,一次,二次,三次救急の順次搬送システムが
構築された.
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
図 3 救急搬送重症度
② 1980 年代からは内科疾患重症が増加し,心停止
50
システムの構築が救命率の向上につながる.
1
系
覚
器
系
精
神
器
吸
感
26%
⑤ 心血管救急疾患の適切な早期受診に向けて地域住
民の教育啓発が必要である.
呼
心
脳
死亡・重症
の割合
26%
器
0
④ 心血管救急疾患に対応するために人的物的資源の
革が必要である.
150
100
ない.救急搬送の段階で循環器救急に対応できる
集約化するような心血管救急システムの抜本的改
200
化
わる必要があり,順次搬送システムでは対応でき
250
消
り,心停止や重症化する前に専門医が初期から関
中等症以下
死亡・重症
300
臓
③ 循環器疾患はいつ重症化するか予測が困難であ
搬送人数 千人
の救命率が低いことが問題となった.
350
6%
11%
1%
2%
(総務省 平成18年度データ)
症化するかをトリアージすることが困難な疾患群といえ
る.したがって,心停止前や重症化する前に全症例を循
現状のシステム
環器専門医と連携することが重要である.
そのためには,
我が国の救急システムは,1963 年の消防隊による救
地域でセンター化した基幹病院(総合病院,二次専門病
急搬送業務の法制化,1964 年に救急病院・救急診療所
院,三次救急施設)が全例収容を目指す体制を確立する
の告示制度から始まり,1977 年に救急医療対策事業要
ことが必要である.
綱が発表され,一次,二次,三次救急システムの順次搬
送システムが実施された.これにより重症の複雑外傷・
3
循環器救急システムモデルの提言
多臓器傷害例は,人口 100 万人に 1 施設の割合で設置さ
急性心筋梗塞や脳卒中の発症数からみて,全国で約
れた三次救急医療機関である救命救急センターへの搬送
200 か 所 の 三 次 救 命 救 急 セ ン タ ー で の CCU あ る い は
が勧められた.また,1980 年代からは内科的疾患の重
SCU のみで全症例の収容は困難である.地域医療計画
症例が増加し,心停止の救命率が低いことが問題となっ
やメディカルコントロールにおいて,地域のネットワー
た.そのために 1991 年に救急救命士法が制定され,そ
ク化を検討する必要がある.急性心筋梗塞を収容可能で
の翌年に救急救命士による心停止に対する特定行為〔(気
あり,緊急の冠動脈カテーテル治療が可能となる基幹病
管挿管,電気ショック,静脈路確保とアドレナリン(エ
院と,それを支援する専門病院の連携システムをつくる.
ピネフリン)使用〕が認められ,救命率の向上対策がと
基幹病院は,可能であれば複数のカテーテル治療室を
られてきた.今後の救急救命士制度の課題は,心停止前
24 時間体制で運営が可能となるような診療態勢(交替
と心拍再開後の処置の拡大がある.
制勤務が可能となるスタッフ構成)と集約化をはかる.
2
循環器救急増加に対する課題
人口 100 万人に 1 か所から 2 か所の基幹病院(脳卒中救
急センター,心血管救急センター等)を設置する.これ
近年,疾病救急(急病)が増加し,交通事故の減少と
らの病院は二次あるいは三次を問わず地域ごとに設定す
ともにその比率は約 6 割と増加している
る.広域の場合には,ドクターヘリ搬送を検討する必要
1),2)
.なかでも,
循環器疾患は脳卒中と心臓病をあわせると死亡率は癌と
がある.胸背部痛,呼吸困難,意識障害,麻痺を有する
ほぼ同率であり,かつ死亡例や重症例の比率が高い(図
症例を地域総合病院併設の二次専門病院と三次施設にお
3)
.しかし,疾病,特に循環器疾患の発症時に重症度
いて全例受け入れを行う体制をつくる.基幹病院に必要
の判定は困難なことが多く,搬送中に増悪し致命的にな
な条件は,CCU,SCU 機能を有し,専門医が複数体制
ることもまれではない.心停止例やショック例等の重症
で 24 時間・365 日体制で血栓溶解療法・カテーテル血管
例のみを三次救急施設へ選別することは,重症化してか
内治療・心大血管および脳血管手術が可能であることで
ら高度医療機関へ搬送することにもなりかねないため全
ある.また,通常の待機的診療と急性期から回復期まで
体の救命率向上にはつながらない.特に循環器疾患は,
の高度医療の提供や集中治療(補助循環・低体温療法)
・緊
専門医が初期から関わり救急医との密接な連携のもとに
急外科チームとの連携も理想とされる.そのための人的
一次から三次まで包括すべきであると考えられる.すな
体制には,医師のみならず,コメディカルスタッフも含
わち,循環器疾患は軽症とみえても,いつ何時急変・重
めた交替制勤務が可能となるような支援が必要である.
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1365
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
4
地域市民への啓発:
生命危機管理をアピール
あげられるが,過去 30 年間に再灌流療法等の導入によ
り院内死亡率は低率となり 5%前後となってきた.しか
し,地域発症状況の全国調査では致命率は約 20 %と高
心血管系,脳卒中,胸部症状,四肢の異常等があれば,
率で,死亡の半数は院外死であることが明らかになった.
センター病院へ早期受診を推奨する.それ以外の不急の
現在,我が国における院外心停止は年間に約 10 万人で
症例は,安易な緊急受診を避けるため救急相談等で日中
あり,そのうち 6 万人弱が心原性である.これは米国で
の受診を誘導する.また,後期高齢者や介護施設入所症
も同様であり,急性心筋梗塞症救命対策のフォーカスは
例では,連携先病院との連携を強め,高度救急医療の適
院外にあるといえる 3).院外心停止の救命対策には,米
用となるか,かかりつけ医や担当医と本人・家族とで日
国心臓協会(AHA)が提唱している救命の連鎖の確立
頃から緊急時の対応を十分相談し,在宅医療の適用や機
が重要であり,非医療従事者と医療従事者が連携して救
能等,看取り機能を十分理解しておくことが重要と考え
命に努めることが重要である.
られる.119 番通報の有効な使用方法を啓発し,不急な
症例と緊急例の区別を啓発する等,救急相談やマスメデ
①院外心停止の現状と対策
ィアの役割も重要である.
臨床疫学の立場から院外心停止を定義し,国際的に共
また,国民全員が救急態勢を重要視し,重症例の不幸
通の様式で記録するためのガイドラインが作成され 4),
な転帰についても寛容の精神と死生観を持ち,救急医療
その様式は最初の会議の開催地にちなんでウツタイン様
を担うシステムを地域で守り育てることも必要であると
式と呼ばれている.心停止とは「脈拍が触知できない,
考えられる.
反応がない,無呼吸で確認される心臓の機械的な活動の
3
院外心停止
停止」と定義され,心原性と推測できるものと非心原性
に分けられ,原因が不明な場合には除外診断に基づき心
原性と扱われている.ウツタイン様式の適用のメリット
① 我が国における院外心停止は年間に約 10 万人で
あり,そのうち 6 万人弱が心原性である.
② 我が国では世界に類を見ないウツタイン様式(心
停止の専門用語とその定義を定め,国際的に記録
様式を統一した)を用いた全国の疫学調査が進行
中である.
③ 我が国では市民による心肺蘇生法(CPR)と AED
実施率がともに増加し,社会復帰は年々増加して
いる.しかし,その社会復帰率は 6%にしか過ぎ
ない.
④ 日本循環器学会は日本蘇生協議会(JRC)に参画
し 国 際 蘇生 法 連絡 委員 会(ILCOR) と 連 携し,
は,国際比較が可能となること,経年変化がわかること
があげられる.我が国においても大阪府や東京都でウツ
タイン登録が開始され,大規模データベースとなり,そ
の報告は世界から注目されている.それによると院外心
停止のうち心原性で目撃のある初期調律が心室細動であ
った例の救命と脳蘇生良好(社会復帰)例は年々増加し
)
ている 5(図
4).この要因は市民の心肺蘇生法(CPR)
実施率の増加と通報から除細動実施までの時間短縮であ
る.問題点は,院外心停止のうち心室細動率は約 20 %
と低率であることである.心停止から心電図記録までの
時間が 3 分以内の場合には 50 ~ 60 %と高率に心室細動
が観察されるという東京都の長尾らの報告 6)から考える
循環器救急医療における我が国のエビデンスを国
際的に発信し,さらに米国心臓協会と連携して
BLS および ACLS 講習を実施している.
⑤ 日本循環器学会の循環救急医療委員会は,日本蘇
生協議会(JRC)や国際蘇生連絡委員会(ILCOR)
のエビデンスを発信することが求められる.
総数
⑥ 院内心停止においては,非 ICU 病棟への AED 設
市民による
23.9%
5万人 除細動あり
置と蘇生行為の質の評価が注目されている.
1
院外心停止
循環器救急疾患の代表的なものとして急性心筋梗塞が
1366
図 4 心停止傷病者数と救命率の推移
総務省消防庁救急企画室心肺機能停止傷病者の救命率等の現況
109,461人 社会
傷病者
復帰率
102,738人 105,942人
10万人
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
心原性
56,412人
29.2%
35.5%
40%
20%
57,982人 59,001人
除細動なし 1.2%
1.5%
2.5%
2005
2006
2007
年
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
と,心室細動率が低いことは,記録に至るまでの経過時
ILCOR と AHA から提唱されている 10).その特徴は,大
間が長いこと,市民の CPR 実施率が低いため心静止と
規模試験によるエビデンスに基づき勧告の優先度が決定
なることが大きな因子であると考えられる.
されたこと,AED の実施をはじめとする市民の積極的
心停止後,心室細動の状態を長くするためには,CPR
な関与が謳われていることである.さらに ILCOR が蘇
の実施が有効である.救命の効果を検証した我が国から
生に関する勧告を国際標準化として発表し,それぞれの
のエビデンスにより,発見者による胸骨圧迫(心臓マッ
蘇生協議会が地域の状況を加味してガイドラインを作成
5)
サージ)のみでも標準 CPR と同様 あるいはより効果的
7)
することになった 11).AHA と欧州蘇生協議会(ERC)
である.市民の CPR 実施率が,なお30~40%程度であり,
からガイドライン改訂の発表が同時になされ 12),我が国
その理由として複雑あるいは口対口呼吸に対する嫌悪感
では救急蘇生法の指針(2005)として発表された 13).
が あ る. 成 人 の 突 然 の 心 停 止 に 対 し て は,AHA が
AHA や ERC は,ガイドライン策定とともに,ガイド
hands-only CPR として,我が国のエビデンスから勧告を
ラインに基づいた蘇生教育も実施し,教育方法や教育ツ
強調した 8).しかし,ILCOR でのコンセンサスはまだ得
ールを開発し,その普及に努めている.AHA の国際ト
られていない.ただ日本としては ILCOR の結論をまち
レーニング組織(ITC)として,標準化された質の高い
ながら,自動体外式除細動器(AED)の普及と市民に
一次救命処置(BLS)と二次救命処置(ACLS)の教育
よる CPR,当面は特に胸骨圧迫(心臓マッサージ)実
コース(プロバイダーコース)が行われており,我が国
施率をあげる方向でよいといえる.我が国では,総務省
では 2003 年より始まった.日本では非 AHHA コースも
により全国的なウツタイン登録が実施され,今後の対策
成果を上げている.
に重要なデータが蓄積されている 9).
③日本循環器学会の取り組み
②院外心停止に対する国際的な取り組み
日本循環器学会では,循環器救急医療にまつわる諸問
国際蘇生法連絡委員会(ILCOR)は,院外心停止に
題を検討し,循環器疾患の予後の改善を推進するための
対する国際的登録基準を作成したウツタイン会議のメ
方策を提言,実践する循環器救急医療委員会が設置され
ンバーが母体となり 1992 年に設立され,米国,カナダ,
た(図 5).4 つの小委員会から構成される.
欧州,オーストラリア・ニュージーランド,南アフリカ,
蘇生科学小委員会は,循環器救急医療における我が国
ラテンアメリカの各蘇生協議会が加盟していた,アジ
のエビデンスを国際的に発信し,JRC に加盟し,RCA
アからは,日本蘇生協議会(JRC)が中心となり,日本,
を通じて,国際ガイドライン検討組織である ILCOR と
シンガポール,台湾,韓国により,アジア蘇生協議会
の連携を行い,国際ガイドライン策定にも協力している.
(RCA)が 2005 年に設立され,ILCOR 加盟に加盟して
循環器救急医療制度小委員会は,我が国の循環器救急
いる(図 5).
医療の現状を把握し,その課題を学会として広く提言す
CPR の 標 準 化 を 目 指 す 国 際 的 な ガ イ ド ラ イ ン は,
るための資料を作成する.
図 5 心肺蘇生に関する世界と日本循環器学会の関係
International Liaison Committee on Resuscitation 国際蘇生連絡委員会
(ILCOR)
1992 設立
日本循環器学会
International Training Center
American Heart Association
Heart & Stroke Foundation of Canada
Inter-American Heart Foundation
Australian & New Zealand Committee on Resuscitation
Resuscitation Council of Southern Africa
European Resuscitation Council
Resuscitation Council of Asia
Japan Resuscitation Council
(日本蘇生協会)
NRC Singapore
NRC Taiwan
Korean ACPR
Indonesian RC
日本循環器学会
循環器救急医療委員会
AED 検討委員会
蘇生科学小委員会
JCS-ITC 運営小委員会
循環器救急制度小委員会
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1367
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
AED 検討小委員会は,普及啓発委員会から移行した
ものであり,さらに普及するために必要な事柄を循環器
専門医の立場から提言することを目的としている.
日本循環器学会は,広く蘇生教育を普及させ,救命
率の向上に寄与することを目的に,専門医の必修条件と
して AHA の ACLS プロバイダーコース履修を決定し,
より院内の救命率が高くなったことが報告された 21),22).
Ⅱ
1
2007 年 3 月に AHA と ITC 契約を締結した.JCS-ITC 運
成人の BLS
成人の BLS(一次救命処置)
について
営 小 委 員 会 を 中 心 に, 各 支 部 に お い て,BLS お よ び
ACLS 講習を実施している(図 5).
2
① 心停止の救命を円滑に行うための一次救命処置
(BLS)は,緊急通報と迅速な自動体外式除細動
院内心停止への対策
器(AED)の手配,迅速な心肺蘇生(CPR),迅
心停止をはじめとした院内での急変症例に対する対応
速な電気ショック(除細動)である.これに二次
は施設の安全対策の確立として重要なテーマのひとつで
ある.現在,公共の場だけでなく院内への AED の普及
が進みつつあるが,AED を有効に機能させるためには,
救命処置(ACLS)とあわせて救命の連鎖となる.
② 心停止の患者に対して,胸骨圧迫と人工呼吸によ
る CPR をできるだけ早期に開始し,自己心拍が
職員の認知の向上,心肺蘇生法教育の普及等が必要であ
る.さらに,行われている蘇生処置の客観的評価,それ
に基づく検証と現場へのフィードバックが不可欠であ
再開するまで絶え間なく行う.
③ BLS の手順は
1)傷病者が反応のない場合,大声で人を呼び,
り,院内ウツタイン様式に基づき検証することが必要と
緊急通報と AED を手配する.
なる 14).しかしながら,我が国では標準的な指針はなお
2)頭部後屈あご先挙上法で気道を確保し,呼吸
確立されていない.
を 10 秒以内で確認する.
米国ではウツタイン様式に準じて,全米の病院による
3)呼吸がなければ胸が上がるように人工呼吸を
ウェブを活用した院内心停止登録が NRCPR(NatioNal
2 回試みる.
Registry of CPR)として推進されている 15).院内の VF
4)頚動脈の触知を 10 秒以内に確認する.
に対して,除細動実施までの時間が 1 分遅れるごとに救
5)脈が触知できなければ胸骨圧迫 30 回と人工呼
命率が数パーセントずつ低下することが明らかとなり,
吸 2 回を繰返す.圧迫は強く,早く(約 100/ 分),
除細動実施までの時間の遅れの要因が分析され 16),200
絶え間なく行い,圧迫解除は胸がしっかり戻
病院で 7,479 例の院内心停止登録例が調査され,2 分以
るように行う.
内に除細動が可能だったものは生存退院率が 39 %に対
6)AED のスイッチをいれ,電極パッドを右上前
し,2 分以上の場合は 22%と低率であった.個々の症例
胸部と左下側胸部に貼る.
の要因に加え,心停止の発生時間が週末や時間外の場合
7)AED の心電図解析を待ち,ショックが不要な
には救命率が低く 17),除細動の遅れの要因としてベッド
場合にはただちに CPR を再開する.
数(200 未満),発生場所(ICU 以外)があげられた.
8)ショックが必要であれば電気ショック(除細
訓練された病棟看護師による除細動については,蘇生チ
動)を 1 回行った後にただちに CPR を再開す
ームと比べて救命率には差はなく,非 ICU 病棟では,
る.2 分または 5 サイクルの CPR 後に AED に
AED の適用による救命率が有意に高かった.
また,AED を用いた早期除細動とともに,注目され
ているのが蘇生の質の客観的な評価とそれによる蘇生処
置の改善である.蘇生処置を客観的に評価したところ,
除細動実施直前の胸骨圧迫の中断が 10 秒以上,胸骨圧
迫の速さが 80 回 / 分未満,胸骨圧迫による胸部の沈みが
4cm 以下となると除細動成功率が低くなり,除細動前の
良 好 な 質 の CPR が 必 要 で あ る こ と が 示 さ れ た
1368
18)-20)
.
よる心電図解析することを繰り返す.
●なお,人工呼吸ができない・したくない人は,胸骨
圧迫のみ蘇生を開始する.
1
救命の連鎖
院外で突然の心停止を発症した傷病者の初回のリズム
解析で,心室細動(VF)が 40%に認められる 23),24).VF
CPR の質を評価し,リアルタイムで音声フィードバッ
である間に迅速な救命処置を行えば救命可能であるが,
ク可能なシステム(Q-CPR)が開発され,その利用に
いったん心静止に陥るとその成功の見込みが激減す
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
としない.思春期以降の患者を成人として対応する.図
図 6 救命の連鎖
7 に日常的に蘇生を行う者および ALS を習得した者が行
う BLS のアルゴリズムを示す.
3
心肺蘇生
心肺停止の患者の呼吸・循環機能を維持する目的で胸
①緊急通報と ②迅速な ③電気ショック ④二次救命
(電気的除細動) 処置(ACLS)
AED の手配 CPR
骨圧迫および人工呼吸を行うことを心肺蘇生(CPR)と
Circulation 2005; 112(24 suppl):Ⅳ 1-203 より
いう.心肺蘇生は心停止発生後できるだけ早期から開始
して,絶え間なく行うことが重要であり,良質で絶え間
25)
る .迅速な救命のために必要な行動を円滑に行うのが,
26)
「救命の連鎖」である (図 6).⑴緊急通報と自動体外
式除細動器(AED)の迅速な手配.⑵迅速な心肺蘇生
ない胸骨圧迫こそが心肺停止患者の救命を大きく左右す
る因子である.
①発見時の対応手順(通報と CPR 開始の優先順位)
法(CPR)を行うことで突然の心停止の救命率が 2 倍以
上になる 25),27).⑶迅速な電気ショック(電気的除細動)
:
肩を叩きながら大声で呼びかけても,何らかの応答
倒れてから 3 ~ 5 分以内に電気ショックと CPR を行えば
や目的のある仕草がなければ「反応なし」とみなす.
生存率は上昇する
28)
反応がなければその場で大声で叫んで周囲の注意を喚
.⑷資器材や薬剤を使用した二次救
起する.誰かが来たら,その人に緊急通報(119 番通報)
命処置(ACLS),さらに蘇生後ケアを行う.
2
と AED の手配を依頼し,自らは CPR を開始する.院
BLS(一次救命処置)
内の場合には救急カートも手配する.救助者が一人だ
一次救命処置(BLS)とは,救命の連鎖のうちの最初
けのときは,自分で緊急通報を行い,AED が近くに
の 3 つの要素を包括する概念である.感染防御具や電気
あればそれを取りに行った後に,CPR を開始する.
的除細動のための AED 以外には,特別な資器材を必要
ただし,呼吸の異常による心停止が疑われる傷病者に
図 7 成人の BLS のアルゴリズム
反応なし
大声で叫ぶ,緊急通報,AED
気道を確保し,呼吸を確認
呼吸がなければ,胸の上がる人工呼吸を 2 回行う
脈拍を確信できるか?
(10 秒以内)
脈あり ・5∼6 秒ごとに人工呼吸を 1 回
・2 分ごとに脈拍をチェック
脈がないか不確実
準備ができていれば
胸が上がる人工呼吸 2 回
胸骨圧迫 30 回+人工呼吸 2 回を繰返す
(AED 装着まで,ALS チームに引き継ぐまで,
または傷病者が動き始めるまで)
圧迫は強く,早く(約 100/ 分)
,絶え間なく
圧迫解除は胸がしっかり戻るまで
胸骨圧迫の中断を最小限にする
AED 装着
心電図解析
除細動の適応は?
適応あり
ショック 1 回
ただちに CPR を再開
5 サイクル(2 分)
適応なし
ただちに CPR を再開
5 サイクル(2 分)
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1369
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
救助者が一人だけで対応した場合には,緊急通報や
AED の手配を行う前に 5 サイクルもしくは約 2 分間の
CPR を行う.
②呼吸の確認
⑤ CPR の開始手順
心停止と判断した場合は,胸骨圧迫 30 回と人工呼
吸 2 回の組み合わせを速やかに開始する.ただし,人
工呼吸が実施困難な場合は胸骨圧迫を優先し,人工呼
気道確保のための頭部後屈あご先挙上法,または下
吸は実施が可能になり次第始める.心原性の突発性心
顎挙上法を行い 29),呼吸があるかどうかを 10 秒以内
停止では,まだ肺胞内および血液中に利用可能な酸素
で確認する.反応がなく,かつ呼吸がない場合は心肺
が含まれており,人工呼吸よりも胸骨圧迫を開始する
停止である可能性が高い.心停止直後には死戦期呼吸,
方が良いと考えられる.バッグバルブマスクや感染防
いわゆる喘ぎ呼吸が認められることがあるが,呼吸が
護具が手元にない等,ただちに人工呼吸を行うことが
ないものとして取り扱う.
できない場合には,胸骨圧迫のみを開始すべきであ
回復体位
反応はないが,呼吸および確実な脈があり,かつ
外傷のない場合は,傷病者を回復体位にして専門家
の到着を待つ.
③人工呼吸
る 30).ただし,この肺胞内,血液内の酸素は数分で消
失するために,呼吸の補助を加える余裕ができた時点
で,それを行う体制も考慮する.
⑥胸骨圧迫の方法
胸骨圧迫の効果を発揮するために,傷病者をバック
ボードや床等の硬い平面上に仰臥位に寝かせる.胸骨
呼吸がなければ,気道確保のための頭部後屈あご先
圧迫の位置は,「胸の真ん中」あるいは「乳頭と乳頭
挙上法,または下顎挙上法を続けながら人工呼吸を約
を結ぶ線の胸骨上」のいずれかを目安とする.胸骨圧
1 秒かけて 2 回行う.胸の上がりが見える程度の量を
迫の速さは 1 分間に約 100 回とする.胸骨が 4 ~ 5cm
送気する.なお,口対口人工呼吸を行う際には感染防
沈むまでしっかり圧迫する.ただし,圧迫の強さや深
護具を使用すべきである.可能な場合には,できるだ
さが不十分になりやすいので注意すべきである.圧迫
け高濃度の酸素で人工呼吸を行う.送気量の目安は,
を解除するときには,掌が胸から離れないように注意
人工呼吸の方法に関わらず,すべてで「胸が上がるの
し,しかも胸が元の位置に戻るように充分に圧迫を緩
が見てわかるまで」とする.この送気量は 6 ~ 7mL/
めることが重要である 31).
kg に相当する.1 回目の人工呼吸によって胸の上がり
が確認できなかった場合は,気道確保をやり直してか
胸骨圧迫の評価
ら 2 回目の人工呼吸を試みる.2 回の試みが終わった
胸骨圧迫の効果は圧迫の深さや速さで評価すべき
ら,うまく胸が上がらなくてもそれ以上は人工呼吸を
であり 32),頸動脈では評価すべきでない.
行わず次の手順に進み,心停止が確認されればただち
に胸骨圧迫を開始すべきである.
胸骨圧迫のない人工呼吸
呼吸はないが脈を確実に触知できる場合は人工呼
吸のみを行う.この場合の呼吸数は 10 回 / 分程度と
する.人工呼吸は 1 回につき 1 秒かけて行う.およ
⑦胸骨圧迫と人工呼吸の比
胸骨圧迫と人工呼吸の回数比を 30:2 とする.胸骨
圧迫の連続回数 30 回はあくまで目標であり,30 回を
正確に実施することに固執する必要はない.
⑧胸骨圧迫の役割交代と中断時間
そ 2 分ごとに確実な脈拍が触知できることを確認す
胸骨圧迫の連続回数が増加し,救助者が疲労したこ
る.
とを自覚しないまま,胸骨圧迫の深さが不十分になる
④心停止の確認
反応がなく,呼吸がなく,頸動脈が確実に触知でき
可能性があるので注意が必要である.交代可能な場合
には,たとえ救助者が疲労を感じていなくても,胸骨
圧迫の交代要員がいる場合には,胸骨圧迫の担当を 5
なければ CPR が必要である.脈の確認に 10 秒以上を
サイクル(2 分)おきに交代することが望ましい.交
かけてはならない.
代は 5 秒以内に済ませるべきである.AED を用いて
除細動する場合や階段で傷病者を移動させる場合等の
1370
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
特殊な状況でない限り,胸骨圧迫の中断時間は 10 秒
以内にとどめる.
は低くなる.
②除細動波形とエネルギーレベル
⑨非同期 CPR
心室細動の停止において,単相性波形に比べ安全性,
気管挿管下での CPR では,人工呼吸の際に胸骨圧
有効性ともに優れている二相性波形が推奨される 35).
迫を中断せず,人工呼吸と胸骨圧迫を非同期で行う.
種々の二相性波形を直接比較した報告はまだない.我
この場合の人工呼吸の回数はおよそ 10 回 / 分とする.
が国では二相性 AED が導入され始めているものの,
コ ン ビ チ ュ ー ブ, 食 道 閉 鎖 式 エ ア ウ ェ イ,LMA,
既存の除細動器の多くが単相性である.出力されるエ
Laryngeal Tube が挿入された場合も,適切な換気が可
ネルギー量は装置のタイプにより異なる.
能なら非同期で行う.非同期で CPR を行う場合は,
単相性 AED を用いる場合のエネルギー量について
人工呼吸回数が過剰になりがちなので注意が必要であ
は,初回のエネルギー量としては最大量 360J を推奨
る.人工呼吸回数の増加によって換気量が増加すると
する.二相性 AED を用いる場合のエネルギー量につ
平均胸腔内圧が上昇するため,静脈還流が減少して心
いては,メーカーが既定したエネルギー量(120 ~
臓からの拍出量が減り,冠灌流圧の低下も招き,生存
200J)で電気ショック(除細動)を行う.
率が低下する可能性が指摘されている 33).
⑩胸骨圧迫のみの CPR
③ AED の使用と一般市民向け AED プログラム
市民であれ医療従事者であれ,訓練を受けた者が
ただちに人工呼吸を行うことができない場合や一般
AED を使用することは,心停止傷病者の生存率を向
市民が人工呼吸を躊躇する場合には,胸骨圧迫のみの
上させるために推奨される.有効な対応計画が整備さ
CPR を推奨する.CPR を行わないときよりも胸骨圧
れているなら,心肺停止を目撃する可能性のある場(公
迫のみを行うほうが生存率が高い
34)
.さらに我が国に
共施設,空港,駅,学校,スポーツ施設等)において,
おけるコホート研究では,人工呼吸を加えた方法より
AED を迅速に使用できるよう整備することが望まし
も胸骨圧迫のみの CPR が予後が良いと報告されてい
い.上記の対応計画には,器材のメンテナンス,初期
7)
応答者のトレーニング,地域の救急医療システムとの
る .
連携,プログラムのモニター等が含まれるべきである.
⑪前胸部叩打法
早期の除細動を実現するには,業務として救急蘇生
モニター下で発生した目撃のある心室細動 / 無脈性
にあたる者だけでなく,一般市民によってただちに除
VT で,ただちに除細動器が使用できない場合は,即
細動が行われるシステムを推進することが重要であ
座 に 1 回 だ け 前 胸 部 叩 打 を 行 っ て も よ い. 拳 で 約
る.市民による除細動(Public access defibrillation:
20cm の高さから胸骨の下半分を鋭く叩く.ただし合
PAD)プログラムとして,病院外心停止の発生状況把
併症もあるため,訓練を受けた医療者のみが行う.市
握,AED の配備計画,救助者の育成,結果の検証が
民には指導しない.
4
重要である.PAD プログラムは医学的見地に基づい
AED による電気的ショック(除細動)
て救急医療サービスの質を管理する体制下で実施され
るべきである.我が国においても,製品の誤動作に関
する報告が散見される.設置された AED の情報をモ
①除細動と CPR の組み合わせ
ニターするシステム構築が望まれる.また,AED そ
早期除細動は突然の心停止から蘇生するために極め
のものの研究が必要である.AED に関する検証体制
て重要である.除細動が実施されるまでの時間は様々
の構築・整備も今後の課題である.人工呼吸のタイミ
であるが,AED の使用前に CPR が行われた場合には
ングや胸骨圧迫の早さを音声で案内する器具や CPR
生存率が 2 倍から 3 倍になる
手順の音声ガイド(AED 等)は BLS/CPR を円滑にす
25),27)
.バイスタンダーが
すぐに CPR を実施することで,成人の心室細動の多
くは神経学的機能を損なうことなく蘇生できる可能性
が高くなる.除細動が心停止後,約 5 分以内に行われ
るための補助として有用と思われる.
④電極の配置
た場合は特に転帰が良い 28).CPR と除細動のいずれ
AED の電極パッドは右上前胸部(鎖骨下)と左下
の実施が遅れても,突然の心停止からの蘇生の可能性
側胸部(左乳頭部外側下方)に貼付する.貼付の代替
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1371
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
位置として,上胸部背面(右または左)と心尖部とに
貼付する方法(apex-posterior)も考慮される.パッ
ドを貼る場所に医療用の植込み器具がある場合には,
病院内の早期除細動(目標は虚脱から 3 分以内)を
器具からパッドを 2 ~ 3cm 以上離して貼る.植込み式
実現にするために,AED の病院内設置も検討されて
除細動器の電気ショックが作動している,すなわち,
きた 36).スタッフの技能が不足している施設や,除細
体外式除細動がなされているときのように,傷病者の
動器がめったに使われない部署では特に AED の設置
筋肉が収縮している場合,その作動が完了するまで
が有用である.早期除細動を実現するためには,現場
30 ~ 60 秒待ったあとで AED を取り付ける.時に自動
の職員が AED 使用訓練を受け,その使用を許可され
ICD と AED の解析・ショックサイクルは競合する.
ていることが望ましい.病院は病院内心停止の発生状
電極パッドは経皮的な薬剤パッチ(ニトログリセリン,
況を把握し,AED の配備計画を立て,職員を訓練し,
ニコチン,鎮痛薬,ホルモン薬,降圧薬等)や湿布薬
その効果を検証することが重要である.
等の上に直接貼るべきではない.貼付場所の薬剤パッ
チ等を取り去り,その部位を拭き取った後で電極パッ
⑦除細動器データ収集
ドを貼り付ける.胸毛が多い場合には,パッドが密着
除細動器の機器データ,つまりエネルギー量や波形
しないために AED の効果が半減する.電極パッドを
に関する研究データを収集することは重要である.除
強く押し付けても密着しない場合は,予備のパッドが
細動器使用中の音声・波形等の諸データを収集するこ
あれば,最初のパッドで胸毛を剥がした後に新しいパ
とは必要である.
ッドを貼る.カミソリが入っている場合には胸毛を剃
ってからパッドを貼ってもよい.傷病者の体が濡れて
5
気道異物
いる場合には,胸の水分を拭き取ってから電極パッド
異物による気道閉塞を認識することが蘇生成功の重要
を貼り付ける.AED は,傷病者が雪や氷の上に倒れ
な鍵となる.気道閉塞のサインは.音のない咳,チアノ
ているときも使うことができる.
ーゼ,声が出ない,息ができないといったサインを呈す
⑤ AED の操作
⑴ まず AED の電源を入れる.電源スイッチを押す
か,モニターのカバーを開く.以降は音声と点滅ラ
ンプの指示に従う.
る.傷病者自らが,首をわしづかみすることは,万国共
通の窒息のサインである.喉が詰まっているのですかと
尋ねる.今から窒息を解除することを伝えて安心させる.
①気道異物除去:意識のある場合
⑵ 前述のように電極を貼る.
気道異物による窒息が疑われる場合は,ただちに緊
⑶ AED が心リズムを解析する間は,傷病者から離
急通報(119 番通報)をするよう誰かに依頼し,救助
れる.解析はボタンを押す場合と自動の場合がある.
⑷ 電気ショックが必要と判断すると自動的に充電を
者はただちに以下の方法を試みる.ただし,傷病者が
激しく咳き込んでいる場合には,本人の努力に任せる.
開始する.ショックボタンを押す前に,自分,他者
救助者が一人だけの場合は,緊急通報する前に以下の
に離れるように勧告し目視で確認する.ショックは
方法を試みる.
不要ですという音声メッセージの場合には,ただち
背部叩打法と腹部突き上げ法を併用する 37).その回
に CPR を再開する.
数や順序は問わない.妊婦,極端な肥満者の場合は(腹
⑸ 1 回ショック後の CPR 再開
部突き上げ法は行わず),腹部突き上げ法に代えて胸
対象傷病者に対し,電気ショックを 1 回行った後,
部突き上げ法を行う.
観察なしにただちに胸骨圧迫を行う.2 分(または
5 サイクル)の CPR 後に除細動器で心電図を解析す
②気道異物除去:意識のない場合
る.以後,必要に応じてショック→ CPR →心電図
反応がなくなった場合は,緊急通報(119 番通報)
解析を繰り返す(ただし,院内 CPA で,持続的に
をしていなければ通報し,その後,通常の CPR を行う.
モニタリングされている症例に関しては,医師の判
ただし,気道確保をするたびに,口の中を覗き,異物
断で連続的なショックを行ってもよい).充分な循
が見え,摘出が容易なら取り除く.盲目的指拭法は行
環が戻る,または専門家チームに引き継ぐまで,
わない.可能なら喉頭展開下で異物を除去する.
CPR を継続する.
1372
⑥ AED の院内使用
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
6
その他の参考事項
①電話を通じての心停止確認
通信指令は,通報者が死戦期呼吸(いわゆる喘ぎ呼
ては,各地域の医学的見地に基づいて救急医療サービ
スの質を管理する体制下で今後さらなる検証を行うこ
とが望ましい.
⑥病院内 Medical Emergency Team
吸)を「呼吸あり」と誤認する可能性があることに充
院内救急蘇生チームは,病院内の心肺停止件数,死
分注意する必要がある.通信指令は適切な問いかけに
亡数,予期せぬ ICU 入室を減少させるために有効と
よって,通報者が死戦期呼吸を正常な呼吸と混同しな
考えられる.
いように導くべきである.
②口頭指導による CPR の方法
⑦頸損疑いの気道確保
頸椎(髄)損傷を疑う傷病者の気道確保では,下顎
CPR ができるかどうかを尋ね,できないと答えた
挙上法による気道確保が第一選択である.下顎挙上法
場合には胸骨圧迫のみ(人工呼吸を行わない CPR)
が無効なら頭部後屈・あご先挙上法による気道確保を
を口頭で指導する.その他の状況においても,プロト
試みる.
コルにしたがって胸骨圧迫のみの CPR を口頭指導す
ることを考慮してよい.
③口頭指導の質管理
⑧頸椎の非動化
外傷のある傷病者に対して頭頸部を非働化する場
合,人手がある限り用手的方法を優先する.
通報内容から心肺停止状態が疑われる場合,通信指
令は適切な表現方法を用いて,通報者が正確な状況を
把握できるよう導くべきである.心肺停止状態および
気道異物による窒息が疑われる傷病者からの緊急通報
Ⅲ
成人の ACLS
においては,明文化された手順にしたがった口頭指導
が行われるべきであり,その手順について定期的に訓
練を受けることが望ましい.口頭指導の指導実績およ
1
成人の二次救命処置
(ACLS)
びその効果は指導内容の記録に基づいて科学的に検証
されることが望ましい.
④応答時間その他
心肺停止に対する応答時間をできるだけ短縮するた
めの努力と工夫を継続すべきである.ウツタイン方式
に関わる覚知時刻やバイスタンダー CPR の定義は正
しく統一されるべきである.救急活動に関わる時刻を
正確に把握・記録する体制(時計の同調管理を含む)
が必要である.
⑤救急隊における電気ショックと CPR の優先順位
救急通報から救急隊の現場到着までに 4 ~ 5 分以上
を要した症例で初期心電図が心室細動であった場合に
は,ただちに電気ショックを行う(Shock-first)プロ
トコルに代えて,約 2 分間の有効な CPR を行った後に
電気ショックを行う(CPR-first)プロトコルを採用す
ることが望ましい.CPR-first プロトコルの有用性お
よび CPR-first プロトコルにおいて電気ショック前に
① 二次救命処置(ACLS)では,心停止に対してそ
の背景疾患を鑑別診断しながら,質の高い心肺蘇
生に除細動器や薬剤等を併用する.
② ACLS では電気ショック(除細動)が必要な心室
細動(VF),無脈性心室頻拍(pulseless VT)と
電気ショック(除細動)が不要な無脈性電気活動
(PEA),心静止(Asystole)の 2 つのアルゴリズ
ムがある.質の高い CPR は,BLS での CPR に加
えて高度な気道管理を併用する.
③ 電気ショック(除細動)は,二相性を推奨する.
単相性では 360J,二相性では 120 ~ 200J で 1 回行
う.
④ 静脈路を確保し血管収縮薬(アドレナリン,バソ
プレシン)を使用する.
⑤ 血管収縮薬を含む CPR でも VF が持続する場合に
抗不整脈薬(アミオダロン,リドカイン,ニフェ
カラント,硫酸マグネシシウム)を考慮する.
行うべき CPR の時間,対象とすべき傷病者等につい
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1373
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
⑥ 無脈性電気活動(PEA)は,心臓の電気活動は認
められるが脈拍が触れない状態と定義される.
⑦ PEA,心静止に対して電気ショック(除細動)は
行わず,CPR を行う.
⑧ PEA,心静止に対して静脈路を確保し薬剤を投与
する(アドレナリン,バソプレシン,アトロピン).
ビデンスを吟味して整理したものであり,蘇生を行うも
のは個人がこれを実践できるようにするとともに蘇生に
参加する全員がこれを共有することが重要である.しか
しながら,現実の蘇生現場においては人的資源や機材等
での様々な制限があり,アルゴリズムは状況に応じて臨
機応変に改変され得るものである.
⑨ 心停止の原因を検索し治療する.
二次救命処置(ACLS)の意義
1
ACLS における心停止の 2 つの
アルゴリズム(図 8)
2
脈を触れない心停止は,VF,無脈性 VT,PEA,そし
二次救命処置(ACLS)では,心停止に対して AED
て心静止(Asystole)の 4 つに分けられる.しかし目撃
以外に高度な気道管理や薬剤等の資材を用いて処置と治
された成人 collapse(卒倒)患者では VF・無脈性 VT を
療を行う.その際には心停止の原因と背景疾患を鑑別診
念頭におき対応すべきである.なぜなら目撃された心停
断する.こうして心停止と非心停止が連続性を持つこと
止の多くが VF あるいは無脈性 VT であり,しかも電気
を認識する中で,心停止の予防と心停止からの回帰を図
ショック(除細動)により回復できる可能性が高いから
る方法が学習される.心停止を来たす病態を学び心停止
である 23),24),38),39).大血管で脈が触れない無脈性 VT は
治療の適切なアルゴリズムを示す(図 8).アルゴリズ
VF と同等な病態として扱われその治療方法も同様であ
ムは蘇生行為を迷うことなく確実に行うための手順をエ
る.したがって,心停止リズムはショックが有効な VF/
図 8 心停止へのアルゴリズム
反応なし
無脈性心停止
CPR(30:2)
,除細動器 / 心電図装着
VT・VF
ショックを行う
二相性 120~200J
単相性 360J
ただちに CPR を再開
ショック適応
不要
ショックの適応か?
CPR5 サイクル(2 分)実施
心リズムをチェック:ショックの適応か?
CPR5 サイクル実施
CPR5 サイクル(2 分)実施
心リズムをチェック:ショックの適応か?
いいえ
電気活動あれば脈拍チェック
脈拍触知良好なら,蘇生後ケアへ
いいえ
心リズムをチェック:ショックの適応か?
適応
ショックを行う,ただちに CPR を再開
抗不整脈薬を考慮(iv/io)
アミオダロン初回 150~300mg,追加 150mg
リドカイン初回 1∼1.5mg/kg,追加 0.5∼0.75mg/kg,最大 3mg/kg
ニフェカラント 0.1∼0.3mg/kg
低 Mg 血症が疑われる場合 マグネシウム 1∼2g
適応
CPR5 サイクル実施
心リズムをチェック:ショックの適応か?
1374
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
ただちに CPR を再開 5 サイクル(2 分)
高度な気道確保を考慮
末梢静脈路を確保し薬剤投与
アドレナリン 1mg,3∼5 分おき
徐脈性 PEA,心静止に対して
アトロピン 1mg,3∼5 分おき,3mg まで
いいえ
適応
ショックを行う,ただちに CPR を再開
末梢静脈路を確保し薬剤投与
アドレナリン 1mg,3∼5 分おき
心静止・PEA
適応
VT・VFへ
原因を検索し治療する(6H6T 他)
循環血液量減少 hypovolemia
低酸素血症 hypoxia
低・高カリウム hypo/hyperkalemia
アシドーシス hydrogen ion
低体温 hypothermia
低血糖 hypoglycemia
緊張性気胸 tension pneumothorax
心タンポナーデ tamponade
毒物 toxins
血栓症(冠,肺動脈)
thrombosis
外傷 trauma
心不全,大動脈解離,心筋炎等
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
無脈性 VT か無効あるいは不適な PEA/ 心静止の 2 つに大
下顎角に届く長さを選ぶ.鼻咽頭エアウェイは気道閉
別することが臨床上有用である.また PEA や心静止は
塞状態あるいはその危険性が高い患者において意識が
多くの場合,発生から長く時間が経過した VF の結果で
あり咽頭反射が残っている患者に用い,鼻腔から耳朶
あることを理解しておくことは重要である 25),40)-42).
に届く長さが必要である.
3
VF/ 無脈性 VT への対応
②電気ショック(除細動)
VF/ 無脈性 VT による collapse(卒倒)患者の蘇生行為
VF/ 無脈性 VT に対しては VF 停止に有効性が明から
のアウトカムは CPR の質の高さと電気ショックの早さ
なエネルギー量での電気ショックを実施する.除細動
により左右される.VF 発生 5 分以内に電気ショックが
器には一方向にしか電流が流れない単相性と当初プラ
実施された場合は,除細動効率が高く,脳神経障害を残
ス側に流れその後マイナス側に電流の方向が変化する
さず蘇生される可能性が期待される
43),44)
.一次救命処
二相性がある.二相性除細動器(単相減衰正弦性波形)
置(BLS)にて既述されているように,目撃された collaps
の場合,推奨されるエネルギー量(120 ~ 200J)での
傷病者において,AED が電気ショックの適応があると
1 回目の電気ショックで除細動が成功する割合は 86 ~
判定された場合あるいはモニター付き除細動器にて VF/
98 %であり,単相性波形の場合の成功率は 200J では
無脈性 VT が確認された場合にはただちに電気ショック
77 ~ 91%と報告される 46)-49).ともに有用性が認めら
を実行し(shocK first),引き続いて速やかに CPR を再開
れているが単相性の初回ショックの効果は二相性のそ
する.しかし,倒れていた傷病者を発見したような場合
れに劣る.単相性波形での成効率が低いことから,単
は既に数分間以上経過していることが予想されるため,
相性除細動器を用いるならすべての電気ショックのエ
まず 2 分間(あるいは 5 サイクル)の CPR を行い冠循環,
ネルギー量は 360J で行う.二相性除細動器の場合は
脳循環をサポートし,除細動のチャンスを高めてからシ
120 ~ 200J(有効エネルギーが不明の場合は 200J)で
ョックを行う方法が推奨される(CPR first)44),45).
電気ショックを実施し,2 回目以降ショックが必要な
①質の高い(high quality)CPR
場合は初回と同等かそれ以上のエネルギーで電気ショ
ックを実施することが推奨されている 46),50),51).電気
質の高い CPR の基本は,⑴適切な速さ(push fast),
ショック後のリズムが何であれ,それが十分に生体の
強さ(push hard)と十分な戻し(full recoil)からな
循環を支えるほどのものではなく,電気ショック後の
る胸骨圧迫と⑵過換気回避を主眼とする気道呼吸管理
脈・心電図の確認は胸骨圧迫の中断という不利益こそ
である
44),45)
.胸骨圧迫における問題は実施者の疲労
である.実施者の疲労は適正な胸骨圧迫継続を困難な
ものとし,CPR の質の低下をもたらす.このため複
数の救護者がいる場合には CPR の質を保つため胸骨
あれメリットはないことから,電気ショック後は常に
ただちに 2 分間(5 サイクル)CPR を再開する 48).
③心停止時の薬剤投与経路と方法
圧迫(1 分間 100 回のペース)と呼吸管理(30 回の胸
心停止では循環停止状態である.末梢が確保された
骨圧迫に対して 1 回 1 秒,2 回の補助呼吸)は 2 分間あ
場合,血管収縮薬や抗不整脈薬等が効果を発揮するた
るいは 5 サイクルごとに交代する.Collapse 患者の救
めには薬剤は 1 回急速(ボーラス)静注し,点滴用補
命率は秒分単位で低下するため,気管内挿管等の高度
液 20mL でボーラス後押し注入する.また注入後は静
な気道確保を実施する際にも胸骨圧迫を 10 秒以上中
注に使用した血管が存在する四肢を 10 ~ 20 秒間挙上
断することがあってはならない.気管内挿管を試みる
する必要がある.なお,末梢静脈が確保されない場合
際は胸骨圧迫が挿管手技の妨げとなりやすく,胸骨圧
は骨髄路が推奨されるがこれも困難な場合,効果は未
迫の中断あるいは不十分な胸骨圧迫が余儀なくされる
確認だが気管内投与も考慮する.
ためバッグバルブマスク(BVM)換気で胸郭挙上が
十分であるなら高度な気道確保に時間を割くことはせ
④ VF/ 無脈性 VT のアルゴリズム
ず BVM 換気を継続すべきである.BVM での換気が
⑴ 心リズムをチェックし VF/ 無脈性 VT の場合は電
不十分か安定しない場合には,気管内挿管よりも気道
気ショックの適応となりショックを 1 回行う.電気
補助器具(口咽頭エアウェイ,鼻咽頭エアウェイ)の
ショック後はただちに CPR を再開し,脈の確認や
使用が簡単で推奨される.口咽頭エアウェイは咳・咽
モニターでの心電図評価で CPR の再開を遅らせて
頭反射がない意識不明患者に限って使用し,口角から
はならない(胸骨圧迫の中断は 10 秒未満).
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1375
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
⑵ CPR を 2 分間(およそ 5 サイクル)行った後に,
塩酸ニフェカラント
再度,心リズムをチェックする.VF/ 無脈性 VT が
VF/ 無脈性 VT には 0.1 ~ 0.3mg/kg を 5 分間かけて
継続していた場合は,2 回目の電気ショックを行い,
緩徐に静注後,VF 持続なら電気ショックを行う.
ショック後はただちに CPR を再開する.ヒトの心
追加する場合は同量を同様に投与する.無脈性
停止の蘇生行為においては血管収縮薬,抗不整脈薬
VT の場合は心電図波形に注意し使用.効果が認
いずれの薬剤も CPR に勝るエビデンスを持たず,
められた場合 0.15 ~ 0.4mg/kg/h でその後持続点
VF でのショック治療を除いて,心停止リズムでは
滴,血中濃度の急激な上昇により過度の QT 時間
質の高い CPR に勝る治療法はないと言える.
の 延 長, 心 拍 数 の 低 下 又 は 洞 停 止, 心 室 頻 拍
(Torsade des pointes を含む),心室細動等の催不
⑶ 次のリズムチェックまでの間に,静脈路を確保し,
アドレナリン(エピネフリン)1mg の静脈内あるい
整脈作用発現の可能性がある.QT600ms 以上の
は骨髄内投与を行う.我が国では保険適用外だが,
延長があれば中止する.アミオダロンあるいはリ
バソプレシン 40 単位でもよい.以後,エピネフリ
ドカインの代替えとして我が国のみ使用 52),53).
ンは 3 ~ 5 分ごとに反復試行する.
今後使用経験を重ねて日本発のエビデンスとして
⑷ 抗不整脈薬の考慮;血管収縮薬投与を含む 2 分間
CPR にても VF が持続する場合,次の電気ショック
⑸ 心リズムチェックで心静止 /PEA を認めた際に
の後には抗不整脈薬(アミオダロン,リドカイン,
は,後述のアルゴリズムに移動する.脈拍を良好に
ニフェカラント,硫酸マグネシシウム)を考慮する.
触知する場合は,蘇生後ケアを開始する.
アミオダロン
アミオダロンは,VF/ 無脈性 VT による心停止に
4
PEA・心静止
対して,プラセボおよびリドカインと比較して入
PEA は,心臓の電気活動は認められるが脈拍が触れ
院生存率を改善させる.初回 150 ~ 300mg を静脈
ない状態と定義される.心臓が,電気的活動はしている
路 / 骨髄路からボーラス投与する.その後も VF
が脈拍を生み出すほどの機械的収縮ができていない状態
持続する場合,2 度目は追加 150mg を 1 回だけ 3
である.心電図上で波形(電気活動)は認められても脈
~ 5 分間かけて追加投与,さらに VF が持続する
拍が触れない状態であったり,心エコー上左室収縮はわ
場合は維持療法としての使用方法にしたがって持
ずかに認められるが動脈圧モニター上圧波形を生じない
続点滴,極量 2.2g/ 日である(注記;静注用アミ
状態が存在することが研究によって確認されている.心
オダロンは我が国においては心停止に対してはオ
室細動や無脈性心室頻拍は除外される.この状態には,
フラベルである.使用量,投与方法については
偽性電気収縮解離や除細動後心室固有調律等が含まれ
AHA のガイドラインの推奨および VT に対する
る.心静止は,心臓が電気的にしたがって機械的にも活
我が国の用量を勘案した.我が国でのデータを蓄
動を停止している状態である.
積し検証する必要がある).
PEA と心静止は,疾患ではなく症候である.これら
リドカイン
の心リズムを生じる様々な原因疾患が存在する.救命で
VF/ 無脈性 VT に対するリドカインの有効性もし
き る 可 能 性 の あ る 疾 患 に は, 循 環 血 液 量 減 少
くは有害性のエビデンスはない.初回 1 ~ 1.5mg/
hypovolemia,低酸素血症 hypoxia,低・高カリウム血症
体重を静脈路 / 骨髄路から投与する.その後,必
hypo/hyperkalemia,アシドーシス hydrogen ion,低体温
要に応じて,5 ~ 10 分間隔で初回の半分量を投与,
hypothermia,低血糖 hypoglycemia,緊張性気胸 tension
極量は計 3 回の投薬または総量 3mg/ 体重.
pneumothorax,心タンポナーデ tamponade,毒物 toxins,
硫酸マグネシウム
1376
発信する必要があろう.
血栓症(冠,肺動脈)thrombosis,外傷 trauma があり,
無脈性 VT が多形性で,非発作時心電図にて QT
記憶する方法として英語表記の頭文字から 6H6T とされ
延長が確認できた場合は Torsade des pointes と考
る.これらの心リズムは,その原因疾患が何であれ人が
えられる.治療の第一はショックであるが,その
死に至る時の「状態」といえる.これらの心リズムによ
後の再発予防として硫酸マグネシウム 1 ~ 2g を 5
る心停止の場合,その原因疾患が治療可能である場合に
%グルコース 10mL に希釈して 5 ~ 20 分程度かけ
蘇生が可能となる.しかし,心静止の場合,これまでの
て静脈路 / 骨髄路投与する.
ところその生存率は極めて低い.
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
5
PEA と心静止に対するアルゴリズム
しない.しかし,心停止後の早期使用が自己心拍再開率
を改善するエビデンスはある.PEA に対してアドレナ
PEA と心静止に対する蘇生法はほぼ同様である(図
リン(エピネフリン)とバゾプレシンのどちらかが優れ
8).これらの心停止リズムに対する蘇生法は,質の高
ているというエビデンスはない.心静止に関して,前向
い CPR,高度な気道確保,薬剤投与である.
き大規模試験の post-hoc 解析でアドレナリン(エピネフ
⑴ 蘇生法の中心は,やはり胸骨圧迫の中断を最小限
リン)に対してバゾプレシンの方で生存率が高いことが
にした質の高い CPR である.心停止を確認したら
示されたが,神経学的障害を残さない生存に関しては両
ただちに CPR を開始する.この 2 つの心停止リズム
者に差はなかった 54).徐脈性 PEA や心静止に対するア
に対する電気的除細動は必要ない.
トロピンの使用を支持する前向き比較対象試験はこれま
⑵ トレーニングを積んだ救助者がいれば,早期に高
でのところ存在しない.生存入院率の改善がみとめられ
度な気道確保を行うべきである.高度な気道確保(気
た後ろ向き試験 55)や,心静止から洞調律への復帰を認め
管内挿管,コンビチューブ,ラリンギアルマスク)
た症例集積研究 56)は存在する.アトロピンが有害である
を施行するときも胸骨圧迫の中断は最小限にすべき
とする文献は少なくその質も低い.アトロピンは,3mg
であり,それ以外では静脈路確保も含めて他の手技
の投与で人の迷走神経は 100%遮断される.
を行うことによる胸骨圧迫の中断は避けなければな
⑷ CPR5 サイクルまたは 2 分ごとに心リズムをチェ
らない.いったん高度な気道確保がなされれば,二
ックする.波形が変化しないもしくは心静止であれ
人法 CPR では人工呼吸と胸骨圧迫は非同期で行う.
ば,CPR と薬剤投与を継続する.心リズムが自己
胸骨圧迫は 100 回 / 分のテンポで絶え間なく続け,
心拍再開を示唆する波形に変化したときは脈拍の確
人工呼吸は 8 ~ 10 回 / 分で換気を行う.2 分おきに
認を行う.脈拍が触れなければ(もしくは触れるこ
心電図モニターでリズムと必要に応じて脈拍も確認
とに自信がなければ),ただちに CPR を続行する.
し,疲労による胸骨圧迫の質の低下を避けるため人
脈拍がよく触れるようになれば,蘇生後ケアを行う.
工呼吸と胸骨圧迫の役割を交代する.
⑸ 上記の蘇生法を行いながら,できるだけ早期に心
⑶ 末梢静脈路を確保し,薬剤の投与を行う.静脈路
停止を起こした原因を突き止め,それに対する特異
への輸液は全開で滴下する.PEA と心静止に対し
的な治療を開始する.繰り返すが,これらの心停止
て使用される薬剤は,基本的には以下の 2 種類であ
リズムに対しては,その原因に対する治療が行われ
る.薬剤投与のために胸骨圧迫を中止してはならな
て初めて蘇生に成功する可能性があることを忘れて
い.
アドレナリン(エピネフリン)
心リズムが PEA または心静止であることが確認
できたら可能な限り早期にアドレナリン(エピネ
はならない.
⑹ 予後の改善に対してエビデンスによる支持がない
治療法
1)心静止に対するペーシング
フリン)を投与する.投与法は,一回 1mg を静
いくつかの無作為化比較対照試験において,心静
注ボーラス投与し,以後心停止が持続している間
止に対するペーシングの有効性は認められなかっ
は約 3 ~ 5 分間隔で投与を続ける.欧米の研究で
た 57)-59).
はバゾプレシンもアドレナリン(エピネフリン)
2)炭酸水素ナトリウム
の代替え薬として推奨されているが,我が国では
緩衝液による心停止の予後改善を支持するデータ
保険適用外である.
はほとんどない.細胞外アルカローシスと細胞内
アトロピン
アシドーシス 60)を引き起こす可能性がある.蘇生
徐拍性 PEA や心静止であれば,アトロピンも考
中に投与されたカテコールアミンを不活化する可
慮される.アトロピンは,一回 1mg を静注ボー
能性がある.炭酸水素ナトリウムは,心停止患者
ラ ス 投 与 す る. 以 後,3 ~ 5 分 お き に 総 投 与 量
の第一選択薬としては推奨されない.特殊な状況
3mg もしくは最高 3 回まで反復投与できる.アト
(代謝性アシドーシス,高カリウム血症,三環系
ロピンも心リズムをチェック後,必要と判断すれ
抗うつ薬過量)による心停止に対して有益なこと
ば早期に投与する.
これまでのところ血管収縮薬が,心停止後の神経学的
障害を残さない生存退院率を改善したエビデンスは存在
がある.投与時の初回投与量は,1mEq/kg である.
3)ノルアドレナリン
心停止に関するノルアドレナリンの研究は限られ
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1377
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
ている.人を対象にした唯一の前向き比較対象研
院する急性心血管疾患 14,474 例のうち ACS は 59.0 %を
究で標準量のエピネフリンと高用量ノルアドレナ
占める.なお急性大動脈解離,急性心筋梗塞(AMI),
リンの比較においてノルアドレナリンの有益性は
急性肺塞栓は各々 4.3%,1.4%であった.一方,東京消
示されず,神経学的予後は悪化する傾向が認めら
防庁による胸痛患者の救急搬送は 8,051 例のうち重症・
れた
61)
.心停止に対するノルアドレナリンの使用
は現時点では推奨されない.
アウトカムへの寄与
6
生存退院に及ぼす因子について,Stiell が年齢と 4 つ
の救命の輪の影響を検討した研究がある 62).この中で最
も影響を与えたのは,早期通報(オッズ 4.4),bystander
CPR(オッズ 3.7),早期除細動(オッズ 3.4)であり,
重篤が 29.9%,中等症が 46.5%であった 63).つまり胸痛
を訴える救急搬送患者の約 1/3 は緊急で入院を要し,残
る患者のさらに約 2/3 は中等症以上で循環器的専門診療
や入院観察を要する.
2
胸背部痛の診療
①治療方針の早期確立
2000 年のガイドラインによる ACLS はオッズ 1.1 に留ま
ACS/AMI の疑われる患者への救急部門での診療は,
った.専門医による救命率向上やより良い身体状態での
早期から専門医と協力して行うことが必要である.
退院というアウトカムには市民参加が必須であることを
STEMI のプライマリー PCI までの“door-balloon time”
示すものであると同時に,今後,ACLS がどのようにア
90 分以内,線溶療法までの“door-needle time”30 分
ウトカムに貢献したかのエビデンスの集積が必要であ
以内を実現することを念頭におき,救急部門での治療
る.
方針決定は 10 分以内に行う 64).
②鑑別診断
Ⅳ
症候からみた心血管救急
不安定狭心症(UA)の症状は短時間のことが多く,
症状が消失してから来院する場合も多い.病歴のみで
入院適応を判断する場合もあり,正確な問診が重要で
1
胸背部痛
ある(表 2).ACS の特徴は,胸骨下の広い範囲に数
分の鈍痛または圧迫感を生じることであるが,より強
い痛みや焼灼感を自覚することがある.逆に痛みが
① CCU に入院する急性心血管疾患のうち急性冠症
候群(ACS)が約 6 割を占める.救急搬送された
胸痛患者の 1/3 は緊急入院している.
② ST 上昇型急性心筋梗塞(STEMI)のプライマリ
ー PCI までの“door-balloon time”90 分以内を念
頭におき,救急部門での治療方針決定は 10 分以
内に行う.
③ 鑑別診断に正確な問診が重要である.痛みの部位,
性状,時間,誘引と消失のほかに虚血性心疾患の
既往や随伴症状に留意する.
④ 12 誘導心電図,心臓生化学マーカー,心エコー
CT 等で診断するとともに初期治療を開始する.
1
循環器救急における胸背部痛の意義
米国では毎年 30 万人が,日本では毎年 6 万人が心臓
突然死すると報告され,その最大の原因が急性冠症候群
(ACS)であり内科的救急疾患における胸痛患者の診療
は極めて意味が大きい.東京都の 62 CCU 施設に緊急入
1378
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
30 秒までと短時間であったり,性状が鋭い場合,触
診で再現される場合,吸気や咳で増悪する場合は,そ
の可能性は低い.痛みの部位は,心か部,頚部,背部
等様々で,左肩,左頚部,下顎,歯肉に放散すること
や,時に放散痛のみのこともある.ニトログリセリン
(NTG)がどれだけの時間で効果を発したかも重要な
ポイントである.また,患者が痛みを訴える際の手の
動きにも注目する.心臓が原因の患者では前胸部正中
にこぶしを握ったり,胸の中心に平手を置いたり,両
手を胸の中心から外側に移動させることが多い.胸痛
と背部痛を生じる疾患を表 1,2 に示す.虚血性心疾
患の既往,年齢> 60 歳,冠危険因子の合併,末梢動
脈硬化病変の合併では ACS を強く疑う.また,息切れ,
冷や汗,悪心,めまい等が 15 分以上続く場合は AMI
の発症を強く疑う.意識障害,心不全や一過性の僧帽
弁閉鎖不全症等を伴う場合も同様である.
③初期診断(図 9)
来院後ただちに 12 誘導心電図を記録する.12 誘導心
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
表 2 胸痛の鑑別
胸痛持続
冠動脈疾患
労作性狭心症
冠攣縮性狭心症
急性冠症候群
心筋疾患
急性心筋炎
肥大型心筋症
急性心外膜炎
急性大動脈解離
弁膜症
大動脈弁狭窄症
僧帽弁逸脱症
肺疾患
胸膜炎
気胸
肺炎
肺塞栓症
消化器疾患
食道炎・痙攣
アニサキス症
その他
肋間神経痛
肋軟骨炎
心臓神経症
誘因
改善法
その他
数分~ 15 分
数分~ 15 分
数分~数時間
労作,興奮
前夜飲酒,寒冷
安静 NTG
NTG
閾値が一定
夜間から早朝に多い
ECG 逸脱酵素 心エコー
数時間
不定
数時間以上
数時間以上
感染先行,薬剤
労作ストレス
感染先行
高血圧合併
経時的
不定
鎮痛剤
降圧
発熱 CPK MRI で遅延染影
心音異常 心肥大
吸気増強,マサツ音 ST 上昇 心嚢液
血圧左右差 縦隔拡大 炎症反応 CT 像
数分
不定
労作,努責
不定
安静
経時的
心雑音 遅脈 心エコー
心雑音 心エコー
不定
数時間以上
数時間以上
数時間以上
呼吸,咳
呼吸,咳
呼吸,咳
不定
鎮痛剤
鎮痛剤
鎮痛剤
経時的
胸膜マサツ音,胸部 X 線,炎症反応
呼吸音や胸郭上昇の左右さ,胸部 X 線
発熱,炎症反応,胸部 X 線
頻脈,D ダイマー,酸素飽和度,心電図,心エコー
数分~数時間
数時間
前屈,ストレス,臥位 飲水 制酸剤
鮮魚摂食
ときに NTG
ECG 変化なし
ときに T 波変化,胃カメラ
不定
不定
不定
体動,圧迫
体動,圧迫
不定
圧痛,帯状疱疹
若年,胸肋関節圧痛
飲水や NTG 無効
鎮痛剤
鎮痛剤
経時的
電図は STEMI の診断に感度は比較的低いが特異度は
縮低下,遅延)のみならず,大動脈,右室壁の形態,
高い.心電図を 3 型に分類する 65).
弁膜症,心内圧等をみる.壁運動の評価の際には心
⑴ ST 上昇> 1mm が隣接 2 誘導以上,または新規左
尖部を見落とさない.急性大動脈解離や肺梗塞の疑
いがある場合は,単純ならびに造影 CT を行う.
脚ブロック LBBB パターン(STEMI)→禁忌のな
い限り緊急 PCI の適応と考える.
⑵ 虚血性 ST 低下(> 0.5mm)
・経時的 T 波陰転(UA/
④初期治療
NSTEMI)→原則は CCU にて管理し,ただちに抗
診断を進めながら初期治療を開始する.胸痛患者には,
血小板・抗凝固療法を開始し早期の冠動脈造影へと
心電図モニター,酸素吸入,静脈ライン確保,経皮酸
進む.
素飽和度測定を行う.ACS と診断された場合は,ア
⑶ 正常または非診断的 ST-T 変化→低・中リスクと
スピリン噛み砕き投与,クロピドグレルのローディン
考えられ,24 時間の観察を行い,心臓生化学マー
グ,ニトログリセリン舌下,ヘパリン静注等を行う(→
カー等で診断を進める.
Ⅵ.急性冠症候群へ)
⑷ 救急診療担当医は ACS の疑われる患者のすべて
に心臓生化学マーカー(CK,CK-MB,ミオグロビ
2
呼吸困難
ン,トロポニン I,トロポニン T 等)を測定すべき
である.同時に D ダイマーや炎症反応ただし治療方
針決定と再灌流治療への進展は生化学マーカーの結
果を待ってはならない.経時的な測定や多種マーカ
ー測定が診断の感度を高めるが,初期 4 時間を過ぎ
て陽性化するため 4 ~ 6 時間の評価は心筋壊死を否
定する感度をもたず,陰性の場合は時間をおき再測
定を行う.さらに心エコー検査を行い壁運動異常(収
① 呼吸に際し努力と困難を自覚する不快感を表す症
状の総称が「呼吸困難」であり,動脈血酸素濃度
低下,動脈血 pH の低下,肺うっ血,交感神経系
亢 進, 気 道 閉 塞, 換 気 調 節 に よ っ て VE/VCO2
slope が急峻化(呼吸中枢化学受容体の PCO2 に対
する感受性の亢進)した状態である.
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1379
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
図 9 胸背部痛診断のアルゴリズム
胸部圧迫感・絞扼感・不快感
虚血を示唆する症状
病院救急部門での一般的治療を開始
・O2 投与開始,酸素飽和度 90%以上維持
・硝酸薬舌下,スプレーまたは静注
・硝酸薬が無効ならモルヒネを使用
持続的背部痛
背へ抜ける胸痛
判定困難な
胸背部痛痛
病院救急部門での評価(10 分以内)
・バイタルサイン,酸素飽和度の評価 ・心筋障害マーカー・電解質・血算・生化学の測定
・末梢静脈路を確保
・院内プロトコールに基づき循環器医に連絡
・12 誘導心電図を記録し評価
・ポータブル胸部 X 線写真(30 分以内)
・ポイントを絞った病歴聴取と診察
12 誘導心電図
ST 上昇または新規脚ブロック
心筋障害を強く示唆
STEMI
ST 低下または T 波の陰転
心筋虚血を示唆
UA/NSTEMI
正常または判定困難な
ST-T 変化
中・低リスクの UA・他疾患
血液ガス
D-dimer 等付加検査
造影 CT
救急部門にての緊急心エコー評価
循環器医による緊急 PCI
PCI 遅れは線溶療法考慮
適応に従い付加治療
ヘパリン・NTG・β遮断薬
循環器医による CCU・準じる
モニタ可能病室管理
適応に従い付加治療
ヘパリン・NTG・β遮断薬
循環器医連携し胸痛
観察プロトコール
6∼24 時間経過観察
心電図モニター・心筋障害マーカー
大動脈解離
急性肺塞栓
気胸,その他
・線溶療法チェックリストにて
適応と禁忌の判断
② その発症様式,症状,検査から原因を鑑別する.
1
ある.突発性に起こる呼吸困難では,発語障害があれば
気道内異物を考える.完全な気道閉塞の場合,話すこと
も咳き込むこともできなくなり,胸部,上腹部に動きが
呼吸に際し努力と困難を自覚する不快感を表す症状の
なく,患者の口と鼻で気流が感じられない.発語障害を
総称が「呼吸困難」である.「息切れ」「息苦しさ」「十
伴わず肺呼吸音で左右差を認めた場合には気胸を疑う.
分呼吸できない苦しさ」等と表現されることが多い.呼
緊張性気胸の場合には,血圧低下,チアノーゼ,患側の
吸困難は,動脈血酸素濃度低下,動脈血 pH の低下,肺
頚静脈怒張等を認める.
うっ血,交感神経系亢進,気道閉塞,換気調節によって
肺血栓塞栓症では,呼吸困難の発症と低酸素血症,頻
VE/VCO2 slope が急峻化(呼吸中枢化学受容体の PCO2
脈,第Ⅱ音肺動脈成分亢進,肺高血圧が特徴的であるが,
に対する感受性の亢進)して発症し,換気亢進,すなわ
重篤な例ではショックや突然死に至る場合もあり,早期
ち息切れに関連する.呼吸困難を生じる代表的な原因疾
診断と初期治療が急務とされる.
患の鑑別をあげる.
急性心不全では,起座呼吸,喘鳴,泡沫痰を生じるこ
2
1380
定義
を聴取するものでは,気管支喘息,慢性閉塞性肺疾患が
呼吸困難の鑑別のフローチャート
(図 10)
とがある.湿性ラ音を聴取し,胸部 X 線で肺うっ血を認
める.典型的な急性心不全は,急性心筋梗塞,急性心筋
炎,急性弁機能不全(急性僧帽弁逆流,急性大動脈弁逆流)
急性の場合は,今まで正常であったものが急激に呼吸
等によるものであり,肺うっ血,心拍出量低下を来たし,
困難に陥るもので,発作性に発症し,喘鳴や連続性ラ音
重篤な場合には急性肺水腫,心原性ショックに陥る.
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
図 10 呼吸困難の鑑別
発作性
急性呼吸不全
乾性ラ音
気管支喘息
慢性閉塞性肺疾患
発語障害
気道内異物
発症は?
はい
突発性
呼吸困難は
急性か
胸痛
いいえ
呼吸音左右差,胸部X線
気胸
血液ガス,胸部X線
心電図,心エコー
肺血栓塞栓
手足のしびれ
呼吸性アルカローシス
過換気症候群
意識障害,神経所見
脳血管障害
呼吸音左右差,胸部X線
気胸
起座呼吸,肺うっ血
胸部X線,心電図
急性左心不全
(心筋梗塞)
起座呼吸
湿性ラ音,心拡大,静脈圧↑
うっ血性心不全
意識障害
高血糖,アシドーシス
糖尿病性昏睡
咳,痰
肺機能検査,胸部X線
慢性気管支炎
肺気腫
肺線維症
チアノーゼ
心雑音,心エコー
左右短絡
先天性心疾患
めまい
血液検査
貧血
慢性呼吸不全
糖尿病性昏睡では,高血糖とアシドーシスを生じ,呼
吸が促迫する.
に BLS を開始する.発症状況等の問診,理学所
見と各種検査により診断する.
慢性の呼吸不全の原因として,慢性心不全,慢性閉塞
性肺疾患,肺線維症,貧血,胸郭変形等がある.チアノ
ーゼを認めるときには,右左シャントを疑い心臓エコー
検査を行う.
3
意識障害
1
定義
脳(上行性網様体賦活系と視床下部調節系)の機能が
障害されると,意識のレベルは消失または低下する.循
環器救急における意識障害は,脳への血流量の低下ない
し 消 失 に よ り 生 じ, 重 症 不 整 脈 に よ る 場 合 Adams-
① 脳(上行性網様体賦活系と視床下部調節系)の機
能が障害されると,意識のレベルは消失または低
下する.
② 循環器救急の立場からは,意識障害の機序を循環
障害,脳障害性,それ以外に大別することが有用
である.意識消失が一過性の場合はめまいや失神
となる.
③ 意識障害の定量的診断は,Japan Coma Scale や
Glasgow Coma Scale が用いられる.意識障害に
加え,呼吸や心停止の有無を伴っていればただち
Stokes 発作として知られている.
2
鑑別
循環器救急の立場からは,意識障害の機序を表 3 に示
すように,循環障害(心臓性),脳障害性,それ以外に
大別することが有用である.循環器疾患による意識障害
は,ショック等循環虚脱または重症不整脈の発症に伴い,
急激に発症する場合が多く,胸痛や呼吸困難等の症状を
伴うことが多い.
心室細動や心室頻拍,レートの早い上室性頻拍,10
数秒を超える心静止では,Adams-StoKes 発作を生じる.
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1381
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
表 3 意識障害の鑑別
A 循環障害(心臓/大血管由来)
B 脳障害
C 肺換気障害
D その他
不整脈:心室細動,心室頻拍,房室ブロック,洞不全症候群
急性冠症候群
大血管疾患:急性大動脈解離,動脈瘤破裂
心タンポナーデ
急性肺塞栓
高血圧性脳症
神経血管反射性
脳血管障害脳出血,脳梗塞,クモ膜下出血,硬膜下血腫,硬膜外血腫
てんかん,炎症性脳炎,髄膜炎,脳腫瘍
急性左心不全,気胸,重症喘息,肺気腫,肺線維症等,
気道閉塞
溺水
重症貧血,内分泌代謝障害
血糖異常:低血糖/糖尿病性昏睡
アルコール,薬剤中毒
頻脈では動悸が先行する場合もあるが,しばしば突然意
識消失する.意識消失が一過性で,失神やめまいとして
認められることもある.意識障害としては比較的軽度と
みなされるが,予後の点から重要である(表 4).脳障
害では,意識が高度に低下しても血行動態は保たれてい
ることが多い.麻痺等の神経症状がみられれば診断は容
易となる.脳梗塞が疑われる場合,一刻も早い専門施設
での処置が望まれる.気道閉塞や重症の換気障害でも意
識は低下し消失する.重症の肺線維症等では CO2 の蓄積
のためナルコーシスに陥る.その他に重症貧血,低血糖
あるいは糖尿病性ケトアシドーシス,その他の代謝異常,
薬剤やアルコールによる中毒でも意識障害を来たす.こ
れらによる意識障害の発症時には血行動態は保たれてい
ることが多い.
3
診断
意 識 障 害 の 定 量 的 診 断 に は,Glasgow Coma Scale
(GCS) と 日 本 の 3-3-9 度 方 式 に よ る Japan Coma Scale
(JCS)がある(表 5,6)
.発見者,救急隊員あるいは
家族等の同行者から,発症状況,病歴,飲酒,服薬状況
等を確認し,胸痛や呼吸困難の有無も確認する.意識障
害に加え,呼吸や心停止の有無を確認し,これらを伴っ
ていればただちに BLS を開始する.その他バイタルサ
イン,心臓および肺の聴診所見,浮腫やチアノーゼ,末
梢血管の状態等すばやく全身を評価する.次に心電図,
胸部 X 線,血糖,電解質,血液ガスを含む血液検査,心
エコー,CT 等を行う.
1382
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
表 4 心肺由来の失神の原因
A 解剖学的
心臓
弁狭窄症,大動脈解離,粘液腫,心タンポナーデ
閉塞型肥大型心筋症,心筋梗塞,冠攣縮
肺疾患 肺梗塞,肺高血圧
B 不整脈
徐脈
洞不全症候群,房室ブロック
頻脈
上室性頻拍,心室頻拍,QT 延長症候群,Brugada 症
候群,カテコラミン誘発性多形性心室頻拍
表 5 意識障害の分類 JCS(Japan coma scale)
Ⅰ.刺激しないでも覚醒している状態(1 桁で表現)
(delirium, confusion, senselessness)
1.だいたい意識清明だが,今ひとつはっきりしない
2.見当識障害がある
3.自分の名前,生年月日が言えない
Ⅱ.刺激すると覚醒する状態ー刺激をやめると眠り込む
(2 桁で表現)
(stupor, lethargy, hypersomnia, somnolence, drowsiness)
10.普通の呼びかけで容易に開眼する
合目的な運動(例えば右手を握れ,離せ)をするし,
言葉も出るが,間違いが多い
20.大きな声または体をゆさぶることにより開眼する
簡単な命令に応ずる(例えば握手)
30.痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと辛うじて開
眼する
Ⅲ.刺激をしても覚醒しない状態(3 桁で表現)
(deep coma, coma, semicoma)
100.痛み刺激に対し,払いのけるような動作をする
200.痛み刺激で少し手足を動かしたり,顔をしかめる
300.痛み刺激に反応しない
上記に加えて
あばれているとき(restlessness)R
尿,便失禁しているとき(incontinence)I
自発性がないとき(akinetic mutisum, apallic state)A
などをそれぞれつける.
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
表 6 意識障害の分類 Glasgow Coma Scale (GCS)
反応
開眼
言語反応
運動反応
痛み刺激に対して
成人
自発的
呼びかけで
痛み刺激で
無反応
見当識良好
会話混乱
言語混乱
意味不明の発音
無反応
命令に従う
疼痛部認識が可能
屈曲逃避
異常な四肢屈曲反応
四肢伸展反応
無反応
小児
自発的
呼びかけで
痛み刺激で
無反応
見当識良好
会話混乱
言語混乱
意味不明の発語
無反応
命令に従う
疼痛部認識が可能
屈曲逃避
四肢屈曲反応あり
四肢伸展反応
無反応
乳児
自発的
呼びかけで
痛み刺激で
無反応
適切喃語
易刺激性,啼泣
痛み刺激で啼泣
痛み刺激でうなるもしくは発音
無反応
自発的運動
触ると手足を引く
屈曲逃避
徐脳肢位(屈曲)
徐脳肢位(伸展肢位)
無反応
点数
4
3
2
1
5
4
3
2
1
6
5
4
3
2
1
軽度の意識障害:GCS 13 ~ 15
中等度の意識障害:GCS 9 ~ 12
高度の意識障害:GCS 3 ~ 8
4
ショック
1
定義
生体の循環調節系が最大限に反応するにもかかわら
① ショックとは,生体の循環調節系が最大限に反応
するにもかかわらず,臓器・組織の機能や構造を
維持するために必要な酸素とエネルギー基質の供
給が急激に破綻した急性循環不全の病態であり,
放置すると死に至る臨床症候群である.
② ショックは,⑴血管抵抗低下性,⑵不整脈性(心
拍数の異常),⑶左心不全性(左室ポンプ不全),
⑷循環血液量減少性および⑸右室過負荷性(右室
ポンプ不全)の 5 型に分類される(図 11)
.
③ ショックのプライマリ・ケアは,⑴まず声かけを
しながら外見を観察しショックの有無を評価する
(所要時間;来院から 1 分以内).⑵ショックまた
はショック前状態と推定したならば,患者に最も
楽な姿勢を保持しながら高濃度酸素の投与を指示
する(所要時間;来院から 2 分以内).⑶バイタ
ルサインのチェックと爪床圧迫テストを実施(所
要時間;来院から 5 分以内).ショック 5 型と循環
虚脱の 3 病態(容量・ポンプ・心拍数)を判断の
ため,ベッド・サイドでの検査を進める(所要時
間;来院から 10 分以内).⑷体位を管理しながら
血圧の安定化をはかる(所要時間;来院から 15
分以内).引き続きショックの原因疾患に対する
緊急治療専門治療を開始する.
ず,臓器・組織の機能や構造を維持するために必要な酸
素とエネルギー基質の供給が急激に破綻した急性循環不
全の病態であり,放置すると死に至る臨床症候群である.
2
分類
66)
ショックは,5 型に分類される(図 11)
.血圧はシ
ョックに陥っているかの判断に必須である.この血圧は,
全末梢血管抵抗(SVR)と心拍出量(CO)の積で構成
されている.したがって血圧の低下(ショック)は,⑴
血管抵抗が低下した血管原性ショックと心拍出量の減少
に大別される.心拍出量は,左室一回拍出量(LVSV)
と心拍数(HR)の積で構成されている.したがって,
心拍出量の減少は,⑵心拍数の異常(重症不整脈)と
LVSV の減少に 2 分される.左室一回拍出量の主要規定
因子は,左室心筋収縮能と左室拡張末期容量(LVEDV)
である.つまり,左室一回拍出量の減少は,⑶左室心筋
収縮能が低下し左室拡張末期容量が増大した左心不全性
と右室拍出量が低下し左室拡張末期容量が減少したショ
ックに 2 分される.さらに左室拡張末期容量の減少は,
⑷体循環系の有効循環血液量が減少した循環血液量減少
性と⑸肺循環系または右心機能の破綻により惹起された
右室過負荷性に 2 分される.前者の循環血液量減少性で
は中心静脈圧(CVP)が低下し,後者の右室過負荷性で
は CVP は増加する.
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1383
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
図 11 ショックのプライマリケア
Step 1
ショックの推定
・声かけと外観観察
・5P と爪床圧迫テスト
Step 2
体位と酸素投与
・患者の最も楽な姿勢を保持
・高濃度 O2 の投与
Step 3
診断と緊急処置
・バイタルサインと意識状態
・静脈路の確保,パルスオキシメーター
・身体所見,問診,ベッドサイド検査
5P
Pulmonary deficiency 努力様呼吸
Pallor 顔面蒼白
Prostration 虚脱
Perspiration 冷汗
Pulselessness 脈拍触知不良
爪床圧迫テスト
爪床の圧迫後解除
白色から赤みが戻るまで>2 秒
・陽性:心拍出量低下性
・陰性:血管抵抗低下性
ショックの 5 型
・血管抵抗低下性
・循環血液量減少性
・右心負荷性
Step 4
主要問題点
Step 5
循環管理
・左心不全性
・容量の問題
volume
・ポンプの問題
pump
・急速輸液(1~2L)
・輸血
・原因に応じた救急処置
<70mmHg
ノルアドレナリン
(0.5~30μg/ 分)
収縮期
血圧は?
・徐脈性:アトロピン,ペーシング
・頻拍製:電気ショック(除細動)
70-100mmHg
低心拍出の症状・所見あり
ドブタミン
(2∼20μg/ 分)
急性冠症候群では再灌流療法
ショックのプライマリ・ケア
(図 11)3),31),65)-67)
Step1
ベット・サイドでの検査を進める(所要時間;来院か
ら 10 分以内).
Step4,5
主要な循環虚脱の病態が,容量(Volume)が問題な
まず声かけをしながら外見(努力様呼吸,顔面蒼白,
のか,ポンプ(Pump)が問題なのか,心拍数(Rate)
虚脱,冷汗)を観察し,ショックの有無を評価する(所
が問題なのかのを決定し,体位を管理しながら血圧の
要時間;来院から 1 分以内).
安定化をはかる(所要時間;来院から 15 分以内).容
Step2
量の低下が問題の場合は,下肢を挙上し急速輸液や輸
ショックまたはショック前状態と推測したならば,患
血を行い,原因に応じた救急処置を行う.徐脈性の不
者に最も楽な姿勢を保持してもらい,高濃度酸素の投
整脈ではアトロピンやペーシングを,頻拍性の不整脈
与を指示する(所要時間;来院から 2 分以内).
では電気ショック(QRS 波同期型除細動)を行う.
Step3
1384
・心拍数の問題
rate
70-100mmHg
低心拍出の症状・所見あり
ドパミン
(2∼20μg/ 分)
IABP
PCPS
3
・重症不整脈性
ポンプが問題の場合は,収縮期血圧が 70mmHg 未満
バイタル・サインと意識状態をチェック.同時に,爪
で は ノ ル ア ド レ ナ リ ン を, 収 縮 期 血 圧 が 70 ~
床圧迫テスト(爪床が白色になる程度に圧迫し,その
100mmHg かつ低心拍出の症状や所見があればドパミ
解除後爪床に赤みが戻るまで 2 秒以上かかる場合は末
ンを,収縮期血圧が 70 ~ 100mmHg で低心拍出の症状
梢循環不全を意味し,心拍出量減少によるショックの
や所見がなければ,ドブタミンを第一選択とする.輸
診断に有用)を行う(所要時間;来院から 5 分以内).
液や輸血および薬剤により十分な血圧が得られないと
そして,ショック 5 型と循環虚脱の 3 病態(容量・ポ
きには大動脈内バルンポンプ(IABP)や経皮的人工
ンプ・心拍数)を判断し,循環管理を開始するため,
心肺補助装置(PCPS)を使用する.引き続き,ショ
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
ックの原因疾患に対する緊急治療(急性冠症候群が原
かし既に停止している場合には,病歴が参考となる.
因の場合には早期に冠再灌流療法)を行う(図 11).
心拍数が正常,あるいは軽度増加し,不整がなければ
5
⑵~⑷を疑うが,不整があったり,規則正しくても突発
動悸
性の頻脈や徐脈の場合には⑴と推定される(図 12).こ
れらが混合している場合もあり,注意が必要である.
不整脈による動悸,心血管系に不整脈以外の異変が
生じたための動悸,全身の生体に異変が生じたことに
よる反応性の動悸,不安神経症やパニック発作による
心因性の動悸を鑑別する.
1
不整脈以外で心血管系の異変による動悸で,特に救急
外来を訪れるような急性発症の病態としては,僧帽弁の
腱索断裂による急性僧帽弁逆流,バルサルバ動脈瘤破裂
による左右シャント,あるいはⅠ型急性大動脈解離に伴
う大動脈弁逆流等がある.また心臓に直接起因するもの
ではないが,急性肺性心として発症する肺塞栓も,動悸
動悸の鑑別
の原因として忘れてならない.いずれも身体所見から診
動悸の訴えは極めて多彩であるが,動悸を訴えて救急
断を進め,酸素飽和度,心電図波形,BNP,D ダイマー
外来に来院する患者を目の前にして最初に鑑別すべき
等に加え,心エコー検査によって確定できることが多い.
は,以下のようなものである(図 12).
また生体の異変の中には発熱,貧血,低血糖,甲状腺機
⑴ 不整脈による動悸
能亢進症,褐色細胞腫等のほか,アルコール,覚醒剤,
⑵ 心血管系に不整脈以外の異変が生じたための動悸
β刺激薬(あるいはβ遮断薬の中止),キサンチン製剤,
⑶ 全身の生体に異変が生じたことによる反応性の動悸
抗コリン薬等外因性の原因もある.これらの可能性の確
⑷ 不安神経症やパニック発作による心因性の動悸
認には詳細な病歴の聴取が欠かせない.
不整脈による動悸の場合には,特に瞬時に心停止を来
動悸の鑑別において重要な検査は,心電図であり,動
たす可能性に留意しなければならない.特にめまいや失
悸を訴えて救急外来を受診した患者には,その動悸が続
神を伴う場合には,生命の危機が切迫しているとの認識
いているときはもちろん,消失した後でも,全例,心電
が必要である.来院時に動悸が持続していれば,それが
図をとる必要がある.血液では貧血の有無,低血糖の有
どのような不整脈によるものかの鑑別は容易である.し
無,甲状腺機能の評価,カテコラミン分画,薬剤濃度等
図 12 動悸の診断プロセス
脈の結滞
規則正しい突発性頻脈
規則正しい突発性徐脈
絶対性不整脈
不整脈
心電図
心血管系
心電図
心エコー
BNP
D ダイマー
酸素飽和度
動悸の
自他覚所見
全身性
強い鼓動
整脈でやや速い
心因性
胸部 X 線
酸素飽和度
CRP
ヘモグロビン
血糖
甲状腺機能
カテコラミン
薬剤濃度
・期外収縮
・発作性頻拍
・心房細動・粗動
・急性弁閉鎖不全
(僧帽弁腱索断裂や感染性心内膜炎等)
・急性大動脈解離
・バルサルバ動脈瘤破裂
・急性肺塞栓等
・発熱
・感染
・低酸素血症
・貧血
・低血糖
・甲状腺機能亢進症
・褐色細胞種
・アルコール
・薬剤 β刺激薬,キサンチン製剤
抗コリン薬,覚醒剤等
・不安,緊張,驚愕,疼痛等
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1385
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
の分析が有用である.また心エコーにより,器質的心疾
患の有無,特に急性の弁逆流や,右心負荷所見等を評価
⑪ WPW 症候群の心房細動では,Ca チャネル遮断薬
やジゴキシンは禁忌であり,電気ショック,ある
することも重要である.
いは上述した薬剤かプロカインアミドの静注を試
みる.
Ⅴ
不整脈
⑫ 血行動態の不安定な心房粗動では電気ショックを
行う.血行動態が安定していれば,心房細動に準
じた抗不整脈薬による心室レートのコントロール
または粗動の停止を試みる.
1
頻 脈
① 頻脈の定義は心拍数> 100/ 分である.
② 発作性頻脈で,症状と徴候が不安定であれば同期
下電気ショックを行う.
③ 血圧低下や狭心症等を伴わない安定した頻拍で
は,QRS 幅とリズムから鑑別を行う.
④ 単形性心室頻拍で心機能低下例では電気ショッ
ク,アミオダロン,ニフェカラント,リドカイン
を使用する.心機能正常では上記に加えてプロカ
インアミドを使用する.またベラパミルや ATP
が有効な場合もある.
⑤ 多形性心室頻拍が持続する場合は心室細動に準じ
る.
⑥ 反復する多形性心室頻拍で QT 延長があれば,硫
酸マグネシウム,QT 延長の誘因の除去,徐脈を
伴っていれば心室ペーシングを行う.QT 延長の
ない場合はアミオダロン,ニフェカラントを使用
する.
⑦ 発作性上室性頻拍には迷走神経緊張を試み,無効
では AT P急速静注を行う.なお,持続する例で
はカルシウム拮抗薬を使用する.
⑧ 基礎疾患のある心房細動は,薬剤による洞調律へ
の復帰よりも同期下電気ショックや心拍数の調整
を優先する.
⑨ 心機能良好(LVEF > 40%)な心房細動の徐拍化
にはβ遮断薬や Ca チャネル遮断薬を優先し,不
十分な際にジギタリスを併用する.心不全を合併
している例や心機能の低下した例にはジゴキシン
の静注が推奨される.
⑩ 持続が 48 時間以上の心房細動には 3 週間以上の
抗凝血薬療法を行うか,経食道エコーで左房内血
栓が否定されてから除細動を行う.器質的心疾患
がなく,心機能にも問題がない場合には解離速度
の遅い Na チャネル遮断薬が勧められる.
1386
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1
頻脈の救急
脈拍を触れない頻脈は ACLS の項で扱う.頻脈の定義
は,心拍数> 100/ 分である.心拍数が早いほど血行動
態は不安定になり,動悸,めまい,失神,呼吸困難,胸
痛を報じる.血圧が低下すると四肢冷感および冷汗,意
識低下を来たし,進行性の呼吸困難あるは急性左心不全
症状が出現することもある.このような症候が不整脈に
よる場合は,時に心停止に至ることもあり,不安定な頻
脈とみなして迅速な同期下電気ショックを考慮する(図
13)67)-74).
安定した頻脈の場合,静脈路を確保し心電図をとる.
QRS 幅が 0.12 秒以上の幅が広い場合は心室頻拍(VT)
がほとんどである.リズムが不整の場合には,変行伝導
やデルタ波を伴う心房細動や多形性 VT を疑う.リズム
が整ではほとんどが VT だが,変行伝導を伴う上室性頻
拍の可能性もある.QRS 幅が 0.12 秒未満を狭い場合,
脈拍が整では心房粗動(AF)や発作性上室性頻拍を,
絶対不整の場合は心房細動を疑う.
心筋梗塞や心筋炎等,他の心疾患が原因と考えられる
場合は,それぞれの疾患に対応した処置に移行する.電
解質異常の有無や,薬剤の催不整脈作用の可能性も常に
念頭において,食事や服薬状況,下痢等の有無等も問診
で確認する.
2
心室性頻脈
VT や多形性 VT は心室細動(VF)に移行する可能性
があり 40),75).またレートの速い VT,多形性 VT および
VF は無脈性頻脈を呈する.
①安定持続性 VT(図 14)
VT はヒス束分岐部以下を起源とする.レート 100/
分以上で,30 秒以上持続するかそれ以内でも血行動
態が破綻するものを持続性 VT と呼ぶ.頻拍の QRS 波
形は単形性で,機序はリエントリーが多い 76).基礎疾
患は陳旧性心筋梗塞,心筋症,催不整脈右室心筋症,
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
図 13 頻脈の診断と処置
頻脈
心拍数>100 /分
症候は不安定か?
症状:
徴候:
症状や徴候が不整脈によるか?
意識状態の悪化,失神,呼吸困難,持続する胸痛等
血圧低下やショックの所見(冷や汗,四肢冷感,尿量減少,意識低下等)
心拍数>150 /分
いいえ
はい
迅速な同期下電気ショック
心房細動 : 100,200,300,360J
心房粗動,上室性頻拍 : 50,100,200,300,360J
単形性 VT: 100,200,300,360J
多形性 VT: VF に準じた最大用量
安定頻拍として治療
静脈路確保
心電図
QRS 幅
<0.12 秒
広い(QRS≧0.12 秒)
QRS 幅の広い頻拍:心リズムは規則的か?
狭い
規則的
不規則的
リズムは
規則的?
心房細動へ
規則的
不規則的
変行伝導を伴う
心房細動へ
持続性心室頻拍へ
変行伝導を伴う
上室性頻拍
迷走神経刺激を試みる
ATP10mg 急速静注,無効なら 20mg
デルタ波のある心房細動へ
多形性心室頻拍および
Torsade des pointes へ
発作性上室性頻拍へ
図 14 持続性単形性心室頻拍の停止法
症状と徴候
不安定な心室頻拍
DC ショック
安定な心室頻拍
心機能低下
(LVEF<40%)
心機能正常
再発
―静注―
アミオダロン
ニフェカラント
リドカイン
電気ショック
―静注―
アミオダロン
ニフェカラント
リドカイン
DC ショック
心室ペーシング
停止
̶静注̶
プロカインアミド 20 mg/ 分で静注
総量は 17mg/kg
QRS 幅の延長は 50%以内
アミオダロン
125 mg を 10 分かけて静注
ニフェカラント
0.15mg/kg を 5 分かけて単回静注
リドカイン
0.5∼0.75mh/kg
最大 1.0∼1.5mg/kg まで
2.5∼5mg/2∼3 分で静注
a)ベラパミル*
総量は 20mg まで
10mg ボーラス,無効なら 20mg
b)ATP*
*保険適用外
a)RBBB+LAD 型の特発性心室頻拍
b)LBBB+RAD 型の特発性心室頻拍
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1387
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
静注麻酔下に QRS に同期して通電する.無効な場
心臓手術後(ファロー四徴症,大血管転移),原因不
.抗不整脈薬の催不整脈作用
合は 360J まで出力を漸増して繰り返す.電気的シ
による例もある.基礎疾患を認めないベラパミル感受
ョック後も繰り返す場合は,VF に準じてアミオダ
性の特発性 VT も時に遭遇する.QRS 波形は右脚ブロ
ロンやニフェカラントの静注後に再度の電気的ショ
明のもの等多彩である
76)
ック+左軸偏位型を示す
77),78)
ックを繰り返す.
.右室流出路起源の特
発性 VT は左脚ブロック+下方軸型を示し,運動,不
安,カテコラミンで誘発され,多くは非持続性である.
③多形性 VT(図 15)
アデノシンに感受性である例が多く,機序は異常自動
心電図の基線を中心に QRS が捻転するように変化
能と考えられている 79).左室起源のアデノシンに感受
する特徴的な VT を Torsade des pointes(Tdp)と呼び,
性心室頻拍も知られている 80),81).
QT 延長に伴うことが多い 87).頻拍中は無脈性となる
⑴ 診断:心電図で幅広い QRS(> 120ms)頻拍を
が,しばしば自然停止と発症を繰り返す.停止しなけ
示す.P と QRS の解離,心房からの興奮伝導時に
れば VF に移行する.QT 延長を伴わない多形性 VT は
VF に先行してみられるものが多く,処置は VF に準
QRS に融合波が確認できれば診断は確かになる.
⑵ 処置:血行動態が安定しているかが治療のポイン
トとなる.安定心室頻拍では脈が触れることができ,
じる.
⑴ 診断:心電図で頻拍の QRS 波形は 1 拍ごとに変
意識が保たれていれば停止には抗不整脈薬を用い
化する特徴的な波形を示す.洞調律に戻った時には
る.
QT 延長がしばしば認められる.
プロカインアミド,
アミオダロンを静注する
70),82)-85)
.
⑵ 処置:TdP の停止と出現を繰り返す場合は,硫酸
アミオダロンが使えない場合や心筋梗塞急性期の心室
マグネシウム静注やイソプロテレノール持続静注ま
頻拍では,リドカインも選択される.我が国では,難
たは経皮ペーシング(TCP)や経静脈ペーシングで
治例にニフェカラントも適応となる
86)
抑制する.また,薬剤,徐脈,電解質異常等の原因
.左室起源の発
性心室頻拍と判明すればベラパミルが奏功する
70),77)
があればそれを除去する.持続が長いか VF に移行
.
すれば電気ショックを用いる.
特発性と診断できない場合はベラパミルは禁忌であ
る.右室流出路起源の心室頻拍では ATP,β遮断薬,
Ca 拮抗薬,Na チャネル遮断薬の順に試みる 79),80).リ
エントリー機序の頻拍で繰り返す例では心室ペーシン
単形性 VT や VF を停止させても繰り返す例がある.
グによる停止も有効である.時に,緊急カテーテルア
一日に 3 回以上頻発するものを Electrical Storm と呼ぶ.
ブレーションの適応となる例がある.
ICD 植込み例の 10 ~ 20 %にみられる.虚血,心不全の
抗不整脈薬による停止を試みる時に不安定化するこ
悪化,薬剤の催不整脈作用,電解質異常等要因があれば
とがあり,その場合は不安定 VT として電気ショック
除去に努める.電気ショックを繰り返し要する場合,全
を用いる(図 14)
.
身麻酔管理や 52),β遮断薬,アミオダロン,ニフェカラ
ント等の持続静注が有効である.単形性 VT では,緊急
②不安定 VT
のカテーテルアブレーションが成功する例がある 88).
単形性 VT でもレートが速いと脈が触れにくくな
り,不安定となるため速やかに電気ショックを要す
る
67)-69)
3
発作性上室頻拍
.抗不整脈薬投与により不安定になることが
突然発症し機序はエントリーである.房室結節性リエ
ある.通電後も頻拍が繰り返す場合は,抗不整脈薬を
ントリー頻拍,ケント束を介する房室回帰頻拍,洞結節
併用する
82)-84)
.緊急カテーテルアブレーションの適
応となる例がある.
内リエントリーおよび心房内リエントリーからなるが,
前 2 者が 90%以上を占める 89),90).
⑴ 診断:安定持続性 VT と同様,心電図で幅広い
⑴ 診断:心電図で頻拍は,正常 QRS からなる規則
QRS 頻拍を認める.頻拍レートは早く,血圧は低
正しい 150 ~ 250/ 分の範囲のレートを示す.変行伝
下する.
導 や 脚 ブ ロ ッ ク が あ る と QRS は 幅 広 く な る( 図
⑵ 処置:血圧や意識の低下例では,速やかに電気シ
1388
④ Electrical Storm(頻拍の頻発化)
13).P と QRS の関係から上室頻拍間の鑑別が可能
ョックを与える.
なことがある 90).レートが速いほど血圧は低下し,
2 相性除細動器では 100 ~ 120J,単相性では 200J で
持続すれば心不全を来たす.
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
図 15 多形性心室頻拍
多形性心室頻拍
持続している場合
反復する場合
DC ショック
QT 延長
DC ショック 1 回施行し停止しない場合は,
ACLS 開始,エピネフリン,バゾプレシン静注
DC ショック
停止不能の場合
ニフェカラント静注,
アミオダロン静注,
リドカイン静注
あり
なし
虚血の関与
硫酸 Mg 静注 1∼2g を 10mL の 5%ブドウ糖
液で希釈,ゆっくり(5∼20 分)静注*
*
保険適応外
QT 延長の原因
後天性 QT 延長群
先天性 QT 延長群
DC ショック
なし
虚血の治療
なし
あり
あり
アミオダロン
125mg を 10 分で静注
ニフェカラント 0.15mg/kg を 5 分で静注
β遮断薬静注
例:プロプラノロール 0.1mg/kg
を 3 等分して 2 ∼ 3 分間隔で
原因治療
心室ペーシング
⑵ 処置:停止には,迷走神経刺激 91),薬剤,電気シ
ョックがある(図 16).まず,Valsalva 手技を試み(表
7)
,2 ~ 3 回試みても上室頻拍が続く場合,頚動脈
マッサージを試みる(表 7).両者を組み合わせて
試みる場合もある.停止時に徐脈(洞停止,洞静止,
房室ブロック)の合併があるので,心電図は常にモ
ニターする.頚動脈マッサージは,頚動脈に雑音の
ある例や頸部手術後は試みない.迷走神経刺激が無
効例では,ATP 剤を静注する 92).
迷走神経刺激や ATP 剤が無効例では,ベラパミ
ルまたはジルチアゼムを静注する 70).心室レートは
速く血圧の低下やショックを来たし意識レベルも低
下した例では,電気ショックを要するがこのような
例は少ない.心房からの頻回電気刺激やプログラム
刺激でも停止可能である.また,アデノシン感受性
表 7 迷走神経刺激による上室性頻拍の停止
いずれの手技においても
①静脈ラインを確保
②救急カートの準備,経皮ペーシングがあれば確保
③心電図モニターを装着
④徐脈の発生時は咳をすることを指示
⑤ 1 分後に血圧と脈拍をチェックする
1 Valsalva 手技
①患者は立位または半座位
②深く息を吸って止め,声門を閉じ,力むように指示
③気道内圧を高めたまま,15 ~ 30 秒持続させる
2 頚動脈洞マッサージ
①高齢者には行わない.血管雑音のないことを確認
②患者は座位.頭部を左にむかせる
③右下顎骨角の下で乳頭筋の前の頚動脈を確認
④ 2 本の指を押し付けながらゆっくり 5 ~ 10 秒間上下させる
⑤マッサージは頚椎に向けて後方中央方向に加圧する
⑥ 5 ~ 10 秒休んで 2 ~ 3 回試みる
⑦ 1 回毎に心電図と血圧を確認する
⑧無効の場合には,左側で試みる
の心房頻拍がある.機序は不明であるが房室結節周
囲のマイクロリエントリーが想定されている.処置
は少量の ATP(3.9 ± 1.2Mg)で停止する
4
93),94)
.
心房細動(図 17)
①症候の不安定性と基礎疾患の有無
症候が不安定な心房細動では同期下電気ショックを
緊急に停止を試みるには電気ショックが用いられる
(図17).また,その再発防止は困難であるのみならず,
これら基礎疾患の存在下には抗不整脈薬による危険な
心室性催不整脈作用や,陰性変力作用を示しやすい点
も問題となるために,心拍数の調整を優先する.
②心拍数の調整
行う 95).肥大心,不全心,虚血心といった背景が存在
急性期には心拍数を 90 ~ 100/ 分以下にすることを
する場合には,心房細動により病態が悪化するため,
目標とする.急速に徐拍化を図る際には静注薬が使用
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1389
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
図 16 発作性上室頻拍の停止
症状と徴候の不安定
なし
あり
DC ショック 50∼100J から漸増
高頻度ペーシング
持続
a)迷走神経刺激*
ー急速静注ー
ATP10mg
無効の場合には
20mg を 2 回まで
停止後は
慢性期治療
持続
ー静注ー
2.5∼5.0mg を 2 分かけて静注*
無効例では 5mg を 15∼30 分ごとに総量 20mg.
ジルチアゼム 15∼20mg を 2∼3 分かけて静注*
無効例では 20∼25mg を 3 分かけて追加.
ベラパミル
持続
Na チャネル遮断薬
を考慮
持続
DC ショック
高頻度ペーシング
a)Valsalva 手技,頚動脈洞マッサージ
*保険適用外
図 17 心房細動治療の進め方
心房細動
同期下電気ショック
100,200,300,360J
不安定
症候は安定しているか?
肥大心,心不全,虚血あり
安定
洞調律への復帰
持続時間
48 時間以下
ピルジカイニド
シベンゾリン
ジソピラミド
フレカイニド
電気ショック
1mg/kg まで 10 分かけて
1.4mg/kg 2∼5 分かけて
50∼100mg を 5 分以上で
1∼2mg/kg を 10 分かけて
心拍数の調整
心電図
デルタ波?
なし
あり
48 時間以下
48 時間以上
経食道エコー
左房血栓は?
ヘパリン静注
準緊急電気ショック
抗凝固療法継続 4 週間
なし
あり
抗凝固療法>3 週間
待機的電気ショック
さらに抗凝固療法 4 週間継続
ピルジカイニド
シベンゾリン
ジソピラミド
フレカイニド
プロカインアミド
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低心機能
ジゴキシン
0.25mg 静注
2 時間毎総量 1mg まで
少量β遮断薬
1390
心機能は
EF<40%
正常
Ca 拮抗薬:ベラパミル 5 ∼
10mg/2 分又はジルチアゼム
0.25mg/kg/2 分
Β遮断薬:プロプラノロール
総量 0.15mg/kg を 2mg ずつ
ジゴキシン
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
されるが,β遮断薬や Ca 拮抗薬には弱心作用がある
に右房を回転するリエントリーである 96),97).三尖弁輪
ため,血行動態が悪化した状況では注意が必要である.
を時計方向に回転することもあり,下壁誘導の F 波は陽
またベラパミルの静注は血圧低下に伴う反射性に交感
性となる.心房自由壁,右房の一部,心臓手術後で心房
神経賦活のために,一時的に奇異性頻脈を招くことも
切開部位を旋回する頻拍もある 98),99).
ある.
心房レートがおよそ 240 ~ 440/ 分の規則正しい頻拍で
心機能良好(LVEF > 40%)な例の徐拍化には,ジ
ある.房室伝導が良いと心室レートは早くなり血圧は低
ギタリスよりもβ遮断薬や Ca チャネル遮断薬の投与
下し,持続例すると心不全を来たす.通常型心房粗動は
を優先し,それだけでは不十分な際にジギタリスを併
Ⅱ,Ⅲ,aVF で特徴的な陰性の鋸歯状のフレ(F 波)を
用する(図 17).β遮断薬は日本ではプロプラノロー
認める.それ以外の波形を認める場合非通常型心房粗動
ルの使用が多い.Ca チャネル遮断薬では,ベラパミ
として扱う.心房頻拍との鑑別はしばしば困難である.
ルやジルチアゼムを使用するが,いずれも 2 分以上か
血行動態の不安定例では電気ショックにより,洞調律化
けて使用する.心不全を合併している例や心機能の低
を図る.血行動態が安定していれば,抗不整脈薬による
下した例にはジゴキシンの静注が推奨される.
心室レートのコントロールまたは粗動の停止を試み
③心房細動の停止
心房細動の停止を試みる際にまず考慮しなければい
けないことは,その心房細動の持続時間である.持続
る 100).これらは心房細動に準じる.心房ペーシングも
停止に試みられる.
2
徐脈
が 48 時間以内の心房細動が停止しても,血栓塞栓症
の危険は 0.8%に過ぎないが,それを超えた心房細動
の場合には 5 ~ 7 %と,はるかに高い危険を伴うこと
になる.特に虚血性脳血管障害の既往,糖尿病,高血
圧,高齢,心不全を伴う例ではそのリスクがさらに高
まる.48 時間以上持続している場合には原則として 3
週間以上の抗凝血薬療法が必須であり,さもなければ
経食道心エコーによって左房内血栓が否定されてから
除細動を行うことが推奨される.
器質的心疾患がなく,心機能にも問題がないと判断
されたら Na チャネル遮断薬,なかでもチャネルから
① 徐脈の定義は心拍数 60/ 分未満
② 徐脈によってめまいや失神,呼吸困難等の症状血
行動態の悪化を伴う場合は不安定と判断する.
③ 進行性徐脈性不整脈や,徐脈が心室頻拍・心室細
動の誘因となる場合も治療が必要.
④ 不可逆性の原因・誘因があればそれを除去する.
⑤ 不安定な徐脈や高度房室ブロックではペーシング
を準備する.
⑥ ペーシングの準備中に,アトロピン,アドレナリ
ン,ドパミン,イソプロテレノールを使用する.
の解離速度の遅い強力なピルジカイニド,シベンゾリ
ン,ジソピラミド,フレカイニド等が勧められる.
④ WPW 症候群に伴う心房細動
1
定義と治療の適応
心拍数 60/ 分未満を一般に徐脈と称する.徐脈は洞結
WPW 症候群では,房室結節の不応期よりも短いケ
節の自動能の低下,洞房ブロック,房室ブロック等によ
ント束の不応期が心拍数を規定する.Ca チャネル遮
って生じるが,徐脈そのものが病的とは限らない.健常
断薬やジゴキシンはかえって頻脈化を促進することが
者でも睡眠中等には 50/ 分以下,ときには 40/ 分近い洞
あり,禁忌である.β遮断薬は禁忌とは言えないが,
性徐脈を示したり,Wenckebach 型Ⅱ度房室ブロックを
同様のリスクがあるため注意が必要とされる.まれに
来たすことは珍しくない.治療が必要となるのは,以下
R on T から心室細動を誘発する危険が知られている.
の場合である.
したがってこのような病態においてはレートコントロ
ールよりも心房細動の停止を目指して電気ショック,
⑴ 徐脈によってめまいや失神,呼吸困難等の症状が
出現する場合(図 18)
あるいは上述した薬剤,あるいはプロカインアミドの
⑵ 徐脈によって血行動態の顕著な悪化を伴う場合
静注を試みる.
このような自覚症状,他覚所見があれば,不整脈の
5
心房粗動
通常型心房粗動は三尖弁輪を下方からみて反時計方向
種類を問わず,不安定な徐脈と判断され,速やかな
治療が求められる.
一方,安定しているようにみえても,急変に備え
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1391
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
図 18 徐脈のアルゴリズム
可逆性の原因・誘因
・副交感神経緊張
・高カリウム血症
・低酸素血症
・甲状腺機能低下症
・脳圧亢進
・低体温
・薬剤性
心拍数<60/ 分
症状:めまい / 失神
所見:心不全 / ショック
可逆性の原因・誘因(薬剤等)があれば除去
なし
高度房室ブロック
あり
あり
なし
観察,モニター
1.経皮ペーシングの準備
2.アトロピン 0.5mg 静注,総投与量は 3mg
無効の場合ペーシング
3.アドレナリン 2∼10μ/ 分またはドパミン 2∼10μ/kg/ 分
4.イソプロテレノール(1A=0.2mg)0.01∼0.03μg/kg/ 分
2A / 100mL を 6 mL / hr から開始し,最高 30mL / hr
5.経静脈ペーシングを準備
て薬剤や一時式ペースメーカ等の準備や予防的治療
が必要となることがある.
⑶ 心電図に重篤な進行性徐脈性不整脈の兆候が認め
られる場合
無症状でも QRS の脱落が連続して 2 拍以上起き
る場合や,急性前壁心筋梗塞に Mobitz 2 型Ⅱ度房
室ブロックを認めたとき等である.後者では通常右
脚ブロックに加えて軸偏位(2 枝ブロック)が先行
したり,交代性脚ブロックあるいは束枝ブロックが
出現することがあり,その時点から注意が必要であ
る.このほかサルコイドーシス活動期や大動脈弁無
冠尖に感染性心内膜炎が進行してⅠ度からⅡ度の房
①経皮ペーシング
クラスⅠ
アトロピンに反応しない不安定な徐脈
クラスⅡ a
1. 薬物治療に反応しない補充収縮を伴った徐脈
2. 薬物過量投与,アシドーシス,電解質異常が
原因で起こった重症徐脈や PEA を示してい
る心肺停止患者
3. 心筋梗塞によって生じる以下の不整脈に対す
るスタンバイペーシング
症状のある洞機能不全
室ブロックを合併する場合も要注意である.
Mobitz Ⅱ型 2 度房室ブロック
⑷ 徐脈が致死的心室性頻脈性不整脈の誘因となって
Ⅲ度房室ブロック
いる場合
新しい左脚ブロック,右脚ブロック
典型的には先天性あるいは薬剤性 QT 延長症候群
で徐脈が torsade des pointes の誘因となっている状
況であり,徐脈の改善がその防止に有効なことが多
い.
2
1392
不安定な徐脈への緊急対応
交代性ブロック,2 枝ブロック
クラスⅡ b
1. 薬剤治療や電気ショックに難治性頻脈性不整
脈に対するオーバードライブペーシング
2. 徐脈性心静止
症状や血行動態が不安定な場合には,不整脈の種類
機器がそばにあれば,この非観血的体表ペーシングが
を問わず緊急対応が必要となる.アプローチとして薬剤
最も早く実行可能である.しかし常に有効であるとは
を静注する方法と経胸壁ペーシングとがあるが,より速
限らず,さらに②以下の手段についても即座に準備す
やかに準備ができる方法を優先する.これらはいずれも
べきである.アトロピンを先に用意できるときにはそ
緊急避難的治療であるため,安定した治療を継続するた
れを優先し,アトロピンに反応しないとき,あるいは
めには経静脈ペーシングが行うが,その準備に時間を要
ほかの薬剤にも反応しないときに考慮される.一般手
するため,下記の方法による初期治療下に試みる.
術時等で,徐脈の進行に備えてスタンバイとして準備
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
表 8 経皮ペーシングの手技
① 2 枚のパッチ電極を心臓を挟むように左前胸部と背部に
装着する
②ペーシングモードを ON にする
③心拍数 80/ 分に設定する
④心静止の場合には最大出力から漸減させ,徐脈の場合に
は 10mA より出力を漸増して QRS が捕捉される閾値を測
定する
⑤ペーシング出力を捕捉閾値より 10% 高いレベルに設定す
る
⑥ペーシング捕捉中の脈拍,血圧をチェックする
⑦意識があれば鎮痛のためにモルヒネ,ペンタゾシン等を
投与する
⑧心拍数を調整し,自己心拍があればスタンバイモードに
する
その他の一般的注意
3
徐脈性不整脈がある特定の原因によって起こっている
ことが疑われる場合には,その原病の治療も忘れてなら
ない.高 K 血症,低酸素血症等があれば補整する.ジギ
タリス,β遮断薬,カルシウム拮抗薬(特にジルチアゼ
ム),あるいはモルヒネ等の投与中では薬剤の影響で徐
脈が増強されることがある.右冠状動脈の攣縮の場合に
は冠状動脈の攣縮をとることが不整脈の治療となる.急
性前壁梗塞に Mobitz2 型Ⅱ度房室ブロックが生じたとき
には緊急ペーシングを行うと同時に虚血の改善に努め
る.その他,洞性徐脈では甲状線機能低下症,脳圧亢進,
しておくこともある.具体的な手技は表 8 に示す.な
低体温等の影響も考慮する.ペースメーカの植込まれた
お,経胸壁ペーシング中のモニター心電図波形ではペ
患者にめまいや失神が出現したときにはペーシング不全
ーシングアーチファクトの波形が大きいため,自己心
をまず疑う.
拍の波形を見失うことがあり,注意が必要である.
②アトロピン
薬剤の第一選択として用いられるが,特に迷走神経の
Ⅵ
急性冠症候群
過緊張による徐脈の治療に有効である.下壁梗塞に伴
う房室ブロックにも有効である(図 18)
.1A=0.5mg
の静注を改善するまで繰り返す.半減期はおよそ 4 時
間とされる.狭隅角緑内障や尿閉に注意する.房室ブ
ロックの責任病変がヒス束以下にある場合にはアトロ
ピンの使用によって房室伝導比率がさらに悪化するこ
とがあり,Mobitz 2 型Ⅱ度房室ブロックの存在が明ら
かな場合には本剤を使わずに以下の薬剤を選択すべき
である.
③アドレナリンあるいはドパミン
あらゆるタイプの徐脈性不整脈に有効である.例外と
して 1 型 QT 延長症候群では torsade des pointes を誘発
する危険性があり,また A 型急性大動脈解離が下壁梗
塞を合併して房室ブロックを起こしている状況では,
大動脈破裂を来たす危険があるため使用すべきでな
い.
④イソプロテレノール
明らかな虚血や,上述したアドレナリンやドパミンの
禁忌がなければ,代わりに本剤を使用することができ
る.心拍数が 50 以上になるように量を増減する.
⑤経静脈ペーシング
原則としてほかの方法による治療に併行して,より確
実な方法として,あるいは治療の長期化に備えて行う.
1
急性冠症候群の診療と不安定
狭心症・非 ST 上昇型心筋梗
塞の治療
① 不安定狭心症(UA)と非 ST 上昇型心筋梗塞(非
ST 上昇 MI; NSTEMI)診療方針が同様のために
一括して,UA/NSTEMI に括られる.
② 胸痛患者は 12 誘導心電図による ST 偏位と T 波の
変化により診療指針が区別される.
③ UA/NSTEMI において臨床背景や心電図変化,生
化学マーカー等からリスクの層別化を行う.
④ 胸痛患者において様々な非侵襲的検査を行う.心
エコーの役割は大きい.また,冠動脈CTのエビ
デンスの蓄積が必要である.
⑤ リスクの層別化とともに入院・転院の適応を判断
する.
⑥ 薬物治療抵抗性,症状再燃例,短期リスクの高い
不安定狭心症患者では冠動脈造影を行う.
⑦ 安静と心電図モニター,酸素吸入,胸痛への塩酸
モルヒネの使用,抗血小板薬の投与法,抗凝固薬
の使用,硝酸薬,β遮断薬,カルシウム拮抗薬,
スタチンの投与等を行う.必要な場合は大動脈内
バルーンポンプも選択する.
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1393
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
⑧ 患者背景,薬剤抵抗性,生化学検査所見,冠動脈
造影所見,血行動態等から,PCI や CABG を選択
する.
1
急性冠症候群における不安定狭心
症・非 ST 上昇心筋梗塞 64)
ACS は冠動脈粥腫破綻と局所的血栓形成による急速
な冠動脈閉塞が本態であり,完全閉塞による AMI,亜
閉塞に伴う UA,急激な心筋虚血による不整脈等による
突然死が一連のスペクトラムである.AMI・UA は,診
療方針の差違から STEMI と NSTEMI に分類され,高リ
スクの UA は診療方針が NSTEMI と同一であるため UA/
NSTEMI と一括される.このガイドラインは緊急時の初
期治療での領域にとどめ,詳細は UA/NSTEMI のガイド
ラインに讓る.
2
胸痛患者への初期診療の
基本アルゴリズム
STEMI は緊急冠動脈造影と経皮的冠インターベンシ
12).12 誘導心電図は症状のある患者には全例に記録さ
ョン(PCI)の適応であるが,ST 上昇を示さない場合も
れるべきである.救急診療担当医は ACS の疑われる患
虚血性胸痛を否定できない時は,緊急 PCI 可能な専門施
者のすべてに心臓生化学マーカー(CK,CK-MB,ミオ
設への搬送を推奨される.図 19 は虚血性胸痛と考えら
グロビン,トロポニン I,トロポニン T 等)を測定すべ
れる患者に対する診療指針であり,12 誘導心電図によ
きである.ただし治療方針決定と再灌流治療の実施は生
る ST 偏位と T 波の変化により,UA/NSTEMI は診療指
化学マーカーの結果を待ってはならない.経時的な測定
針が区別される.12 誘導心電図にて,虚血性 ST 低下(>
や多種マーカー測定が診断の感度を高めるが,初期 4 時
0.5mm)・経時的 T 波陰転(UA/NSTEMI)を示す場合
間を過ぎて陽性化するため 4 ~ 6 時間の評価は心筋壊死
と定義され,UA/NSTEMI と診断すれば原則は CCU に
を否定する感度をもたず,陰性の場合は時間をおき再測
て管理し,ただちに抗血小板・抗凝固療法を開始し早期
定を行う.病院前の条件では心臓生化学マーカー必ずし
の冠動脈造影へと進む.なお,心電図が正常ないし非診
も有用でない.救急診療に担当する医師は心エコー図を
断的 ST 変化の場合は低・中リスクと考えられ,24 時間
駆使すべきである.これを用いると左室局所収縮障害部
の観察を行う.
位と心電図部位診断の一致性より,診断はより正確にな
3
UA/NSTEMI の分類と重症度評価
り,かつ切迫心破裂,右室梗塞,僧帽弁逆流等の重大な
合併症の診断が可能である.さらに急性大動脈解離,急
UA について 1989 年に Braunwald は重症度,臨床像,
性肺血栓塞栓症等の初期診断に極めて有用である.UA/
治療の状況を加味した分類(表 9)を提唱し,この分類
NSTEMI では冠動脈 CT も有用であり,その陰性的中率
は予後の予測に優れ,治療戦略の決定に有用である.
が高いが,クラスは未確定である.
UA/NSTEMI 患者の短期リスクの把握については,我
が国の急性冠症候群の診療ガイドライン(表 10)等い
くつかの報告がある.TIMI リスクスコア(表 11)は,
5
緊急入院・転院を決定
救急部門での短期リスク評価は時間を争い,リスク層
7 つの要素によって算出される.スコアが増加するごと
別化により効率的に CCU 収容,緊急冠動脈造影等の方
に短期リスクは相乗的に高くなる.
針を迅速に決定する(図 20).CCU での確実なモニタ
4
非侵襲的検査
ACS 患者に対して様々な非侵襲的検査が行われる(表
1394
表 9 Braunwald による不安定狭心症の分類(1989)
〈重症度〉
クラスⅠ:新規発症の重症または増悪型狭心症
・最近 2 か月以内に発症した狭心症
・1 日に 3 回以上発作が頻発するか,軽労作にても
発作が起きる増悪型労作狭心症.安静狭心症は認
めない
クラスⅡ:亜急性安静狭心症
・最近 1 か月以内に 1 回以上の安静狭心症があるが,
48 時間以内に発作を認めない
クラスⅢ:急性安静狭心症
・48 時間以内に 1 回以上の安静時発作を認める
〈臨床状況〉
クラス A: 二次性不安定狭心症(貧血,発熱,低血圧,頻脈
等の心外因子により出現)
クラス B: 一次性不安定狭心症(クラス A に示すような心外
因子のないもの)
クラス C: 梗塞後不安定狭心症(心筋梗塞発症後 2 週間以内
の不安定狭心症)
〈治療状況〉
1)未治療もしくは最小限の狭心症治療中
2)一般的な安定狭心症の治療中(通常量のβ遮断薬,長時
間持続硝酸薬,Ca 拮抗薬)
3)ニトログリセリン静注を含む最大限の抗狭心症薬による
治療中
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
リングは STEMI の発症や心室細動への迅速対応と救命
の鍵を握る.
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
図 19 非 ST 上昇 ACS への初期診療アルゴリズム
虚血を示唆する胸部不快感
救急隊員による対応と病院選定
・モニター装着,気道・呼吸・循環のサポート
・必要に応じ酸素を投与
・傷病者が求めれば本人の持つ硝酸薬舌下を補助
・緊急 PCI を施行できる施設を選定
初期救急医療機関の対応と救急車の要請
・バイタルサインと身体所見を評価
・12 誘導心電図を記録し評価
・末梢静脈路を確保し,MONA(モルヒネ,酸素,硝酸薬,
アスピリン)を考慮
・緊急 PCI を施行できる病院を選定し搬送を救急隊に指示
病院救急部門での評価(10 分以内)
・バイタルサイン,酸素飽和度の評価
・末梢静脈路を確保
・12 誘導心電図を記録し評価
・ポイントを絞った病歴聴取と診察
・心筋障害マーカー・電解質・血算・生化学の測定
・院内プロトコールに基づき循環器医に連絡
・線溶療法チェックリスト(表14)により適応と禁忌の判断
・ポータブル胸部 X 線写真(30 分以内)
ただちに病院救急部門での一般的治療を開始
・酸素投与を開始し,酸素飽和度 90%以上に維持
・アスピリン 160∼325mg を噛み砕く
・硝酸薬舌下,スプレーまたは静注
・硝酸薬が無効ならばモルヒネを使用
12 誘導心電図
ST 上昇または
新規の脚ブロック
心筋障害を強く示唆
STEMI
循環器医と連携し
再灌流療法を優先
ST 低下または T 波の陰転
心筋虚血を示唆
正常または
判定困難な ST-T 変化
UA/NSTEMI
中・低リスクの UA
循環器医と連携し
CCU またはモニタ可能な
病室へ入室
適応あれば付加治療
・未分画ヘパリン
・ニトログリセリン
・β遮断薬
適応に従い付加治療
・未分画ヘパリン
・ニトログリセリン
・β遮断薬
PCI 可能か否かによる
STEMI アルゴリズムへ
施設の胸痛経過観察
プロトコールに従い
6∼24 時間経過観察
下記を経時的に監視
・心筋障害マーカー
(トロポニン等)
・心電図モニタ
陽性
リスクの再評価
・Braunwald 層別化(表 9)
・TIMI リスクスコア(表 11)
*
高リスク患者*
中リスク患者
低リスク患者
早期侵襲的治療戦略
心原性ショックの治療
適応あれば付加治療**
循環器医が担当し入院継続
心筋虚血評価
適応あれば付加治療**
虚血や梗塞の疑いが
ない場合は,外来で
フォローアップ
高リスク患者
・治療に反応しない虚血性胸痛
・再発性・持続性 ST 変化
・心室頻拍
・不安定な血行動態
・ポンプ不全徴候
**
付加治療
・ACE 阻害薬 /ARB
・経口β遮断薬
・スタチン
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1395
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
表 10 UA/NSTEMI の短期リスクの分類
高リスク
病歴
胸痛
持続時間
亜硝酸薬の有効性
随伴症状
理学的所見
心電図変化
生化学的所見
安静時
48 時間以内に増悪
20 分以上の胸痛
現在も持続
無効
冷汗,吐き気
呼吸困難感
新たなⅢ音
肺野ラ音
汎収縮期雑音(僧帽弁逆流)
血圧低下,除脈,頻脈
ST 低下≧ 0.5mm
持続性心室頻拍
左脚ブロックの新規出現
トロポニン T 上昇
(定性陽性,> 0.1ng/mL)
中等度リスク
安静時,夜間の胸痛
2 週間以内の CCS Ⅲ°
ないしⅣ°
20 分以上,以内の胸痛の
既往があるが現在は消失
有効
低リスク
労作性
2 週間以上前から始まり
徐々に閾値が低下する
20 分以内
有効
正常
T 波の陰転≧ 3mm
Q 波出現
正常
トロポニン T 上昇
(定性陽性,< 0.1ng/mL)
トロポニン T 上昇なし
(定性陰性)
次の既往や条件を 1 つでも有する患者は,ランクを 1 段階上げるように考慮すべきである
1 陳旧性心筋梗塞
2 脳血管,末梢血管障害
3 冠動脈バイパス術および経皮的冠動脈形成術
4 アスピリンの服用
5 糖尿病
6 75 歳以上
入院・転院の決定
クラスⅠ
表 11 TIMI リスクスコア
1. 患者の短期リスクの評価に基づいて入院の適
①年齢(65 歳以上)
②三つ以上の冠危険因子(家族歴,高血圧,高脂血症,糖尿病,
喫煙)
③既知の有意な(>50%)冠動脈狭窄
④心電図における 0.5mm 以上の ST 偏位の存在
⑤ 24 時間以内に 2 回以上の狭心症状の存在
⑥ 7 日間以内のアスピリンの服用
⑦心筋障害マーカーの上昇
応を決定する(レベル B).
2. 高リスク患者は心電図監視が可能な CCU あ
るいはこれに準ずる病室に収容する(レベル
B).
3. 中等度以上のリスクを有する患者は,CCU
およびそれに準ずる病室がない施設や循環器
該当するリスクの数を加算する
専門医のいない施設から,CCU があり緊急
図 20 非 ST 上昇 ACS の短期リスク評価に基づいた治療戦略
中等度リスク
高リスク
アスピリン
ヘパリン
抗狭心症薬
モニタリング
早期保存的治療
症状再燃
心不全
虚血の出現等
安定化
負荷試験
低リスク
1396
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
低リスク以外
早期侵襲的治療
即時冠動脈
造影
12 ∼ 24 時間
以内
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
表 12 UA/NSTEMI 患者への非侵襲的検査
検査
12 誘導
心電図
クラスⅠ
胸部不快感のある患者,症状消失
したが ACS の既往ある患者(レベ
ル C)
生化学 胸痛患者の早期リスク層別化(レ
マーカー ベル B)
ACS 患者への CK, MB, ト
ロポニンの測定(レベル C)
発症
6 時間以内 ACS で陰性例への 6 ~
12 時間での再検(レベル C)
心エコー ACS 全例に行う(レベル C)
胸部 XP
胸部 CT
クラスⅡ a
クラスⅡ b
クラスⅢ
全ての胸痛患者(レベル C) 病院 なし
なし
収容前の救急車内の心電図(レベ
ル B)
発症 6 時間以内の患者でにトロポ CRO および他の炎症マーカーでの
なし
ニンに加えてミオグロビン測定(レ 診断補助(レベル B)
ベル C)
なし
症状が持続し心電図異常が不確か
な ACS 疑患者(レベル B)
心臓疾患,心膜疾患,大動脈疾患 肺,胸膜,縦隔疾患の症候がある すべての胸痛患者に行う(レベル
の症候のある患者(レベル B)
患者(レベル B)
C)
クラス未確定: 冠動脈 CT の有用性を示す報告もあるが,今後のさらなるエビデンスの集積を要する
で冠動脈血行再建のできる循環器専門施設,
またはそれに準ずる施設へ可及的速やかに転
送する(レベル C).
クラスⅡ a
1. 中等度リスク患者の入院は高リスク患者に準
じる(レベル C).
2. ACS と診断できるがリスクの判断ができな
い患者は入院させて経過観察する(レベル
C).
3. 低リスク患者と判断されても,入院が可能で
あれば入院させ経過を観察する(レベル C).
4.ACS が疑わしい患者を入院させる(レベル C).
クラスⅢ
5. 鑑別すべき他の重症疾患を否定でき,かつ
ACS が疑わしくない患者を緊急入院させる
(レベル C).
UA/NSTEMI 患者への緊急入院と転院に関する指針は
極めで重要である.緊急受診時に一見軽症に見える患者
が急に重篤となる可能性があり,確実なリスク評価と急
変への対応が迅速でなければ死亡に至ることがある.
CCU を持ち緊急の冠血行再建が常時できる循環器専門
施設での急性期治療,ならびにこれを判断できる循環器
専門医が在勤していることが必要であり,該当しない医
療機関での診療であれば適切な施設への転院をただちに
行う必要がある.
6
緊急または準緊急に実施する
冠動脈造影の適応
緊急・準緊急冠動脈造影の適応
クラスⅠ
1. 薬物治療に抵抗し心筋虚血発作を繰り返す患
なし
なし
者,あるいは初期治療により一旦安定が得ら
れた後に症状が再燃した患者(レベル B).
2. 短期リスクの高い UA 患者に対する準緊急な
冠動脈造影(レベル B).
3. 初期治療により安定が得られた短期リスクが
高度~中等度の UA 患者(レベル A).
4. 各種非侵襲的検査により高度な虚血所見や左
室機能低下が認められる UA 患者(レベル B).
5. 6 か月以内に PCI を施行している UA 患者(レ
ベル B).
6. 冠動脈バイパス術の既往がある UA 患者(レ
ベル B).
7. 冠攣縮性狭心症が疑われる患者(レベル C).
クラスⅡ b
1. 短期リスクの低い UA で,各種非侵襲的検査
でも高度な心筋虚血所見や左室機能低下が認
められない患者(レベル C).
クラスⅢ
1. 反復する胸部不快感があるが心筋虚血の客観
的所見に乏しく,過去 5 年以内の冠動脈造影
所見が正常である患者(レベル C).
2. 冠血行再建の適応がない不安定狭心症患者,
あるいは冠血行再建により QOL,生存期間
の向上が見込めない患者(レベル C).
3. 合併疾患のため冠動脈造影の危険性がその利
点を上回る患者(レベル C).
心電図診断により UA/NSTEMI と判別された胸痛患者
は,CCU にて酸素ならびに薬物治療により安定化が図
られ,冠動脈造影の実施が推奨される.薬物治療に抵抗
性の再発性心筋虚血発作患者,あるいは症状が再燃した
患者は緊急冠動脈造影の適応である.また,表 10 に示
した短期リスクの高い UA 患者では準緊急に冠動脈造影
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1397
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
を行う.
7
6. 安 静 時 の 心 拍 数 70/ 分 未 満, 収 縮 期 血 圧
UA/NSTEMI への初期治療と
薬物治療(図 21)
UA/NSTEMI への初期治療と薬物治療
140mmHg 未満を目標として管理する(レベ
ル C).
7. 心筋虚血の増悪因子を検出し,これに対する
加療を行う(レベル C).
8. 禁忌がなければスタチンの内服を開始する
クラスⅠ
1. ベッド上安静とし,心電図にて不整脈を監視
し,動脈血酸素飽和度が 90 %未満になった
(レベル B).
クラスⅡ a
1. 充分な薬物療法下でも心筋虚血を繰り返す
ら酸素供給を行う(レベル C).
2. 胸痛が寛解しないか不安が強い場合は塩酸モ
か,循環動態が不安定な患者に,大動脈内バ
ルーンパンピングを使用する(レベル B).
ルヒネを静注する(レベル C).
3. アスピリン 162 ~ 325mg を速やかに咀嚼服用
させる.アスピリン禁忌患者ではチクロピジ
クラスⅢ
1. 心電図上明らかな ST 上昇を認めない,急性
後壁心筋梗塞でもない,また新たに生じた左
ンを投与する(レベル B).
4. アスピリン投与下でヘパリンの静脈内投与を
脚ブロックもない UA 患者に経静脈的に血栓
溶解薬を投与する(レベル B).
行う(レベル C).
5. 硝酸薬,β遮断薬を投与する.β遮断薬が投
与できない場合はカルシウム拮抗薬(ベラパ
ミルまたはジルチアゼム)を投与する(レベ
ル B).
初期治療の目標は病態の安定化である.安静と心電図
モニター,酸素吸入,胸痛への塩酸モルヒネの使用,抗
血小板薬の投与法,抗凝固薬の使用,硝酸薬,β遮断薬,
図 21 非 ST 上昇型 ACS への薬物治療から続く治療フローチャート
以下の薬物を投与し症状の安定化を計る
1.アスピリン
:迅速なアスピリン 162 ∼ 325mg の初回咀嚼服用後の一日 75 ∼ 150mg の長期投与
アスピリンに過敏性があったり,アスピリンが投与できない時のチクロピジンの投与
2.ヘパリン
:アスピリン投与下でのヘパリン静脈内投与
3.硝酸薬
:硝酸薬の舌下または噴霧でも症状の改善が見られない患者に対する硝酸薬の 24 時間以内の静脈内投与
4.β遮断薬
:胸痛が持続していれば静脈内投与し,そうでなければ経口投与を行う
5.カルシウム拮抗薬:硝酸薬とβ遮断薬が禁忌,または硝酸薬とβ遮断薬を十分量投与しているにもかかわらず虚血が持続した
り,頻回に発作を繰り返す患者における非ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬の投与
6.ニコランジル
:胸痛が持続していれば静脈内投与,そうでなければ経口投与を行う
7.モルヒネ
:肺うっ血合併例や精神的動揺が強い状態にある時や硝酸薬でただちに回復しない胸痛発作時の静脈内投与
8.ACE 阻害薬
:うっ血性心不全や左室収縮障害を有した患者への投与
アスピリン経口投与,ヘパリン静脈内投与,経口抗狭心症薬のβ遮断薬,
硝酸薬,カルシウム拮抗薬,ニコランジルを限界用量まで投与している
にもかかわらず狭心症発作がコントロールできない患者
(薬物治療抵抗性狭心症)
大動脈内バルーンパンピング施行
大動脈内バルーンパンピング
クラスⅠ なし
クラスⅡa
1.β遮断薬,カルシウム拮抗薬,硝酸薬なら
びに抗血小板薬,抗凝固薬による徹底した
薬物療法にもかかわらず重症な心筋虚血が
持続または再発する場合に IABP を用いる.
2.重症な心筋虚血の診断のために冠動脈造影
を施行する前後での不安定な血行動態に対
し IABP を用いる.
クラスⅡb なし
クラスⅢ なし
1398
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
ただちに冠動脈造影検査
責任冠動脈に PCI または
冠動脈バイパス術
血栓溶解療法
急性冠症候群に対する血行再建治療として,
血栓溶解療法を単独で施行することは推奨
されない.
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
カルシウム拮抗薬,スタチンの投与等を行う.日本人で
は冠攣縮性狭心症の患者も含まれ,β遮断薬の投与には
2. 左主幹部狭窄や左室機能低下を伴う 3 枝病変
で冠動脈バイパス術の適応例であるが,胸痛
注意を要する.また,シルデナフィル(バイアグラ)内
や血行動態が薬物治療によって安定化が困難
服者への併用は著明な血管拡張から低血圧を生じ禁忌で
あり,病歴聴取に留意する.
血圧,脈拍が十分にコントロールされても胸痛を生じ
る患者,血行動態が不安定な患者,心筋生化学マーカー
と考えられる患者(レベル C).
クラスⅢ
1. 左主幹部狭窄や左室機能低下を伴う 3 枝病変
の冠動脈バイパス術の適応例で,かつ胸痛や
の上昇例は血行再建を考慮する.特に虚血のコントロー
血行動態が薬物治療によって安定化が可能と
ルが困難,血行再建が困難な場合には大動脈内バルーン
思われる患者(レベル C).
パンピングを使用する(図 21)
.
8
UA/NSTEMI への冠血行再建治療
UA/NSTEMI への緊急 PCI の適応
クラスⅠ
1. 十分な薬物治療にもかかわらず,心筋虚血が
原因と考えられる胸痛発作が持続あるいは頻
発し,かつ心筋虚血の存在が非侵襲的検査に
狭心症発作がコントロールできない場合は,薬物抵抗
性不安定狭心症と定義する.心筋虚血の改善には PCI や
冠動脈バイパス術等の血行再建治療が早急に必要であ
る.
UA/NSTEMI への緊急 CABG の適応
クラスⅠ
よって証明されている患者(レベル A).
1. 左主幹部に高度狭窄を有する患者(レベル C).
2. 十分な薬物治療にもかかわらず,心筋虚血が
2. 左主幹部相当の病変(左前下行枝と左回旋枝
原因と考えられる不安定な血行動態または心
不全が持続し,かつ心筋虚血の存在が非侵襲
的検査によって証明されている患者(レベル
A).
入口部の高度狭窄)を有する患者(レベル C).
3. 非手術治療が無効で,持続する胸痛あるいは
心筋虚血を有する患者(レベル B).
4. PCI 不成功例で心筋虚血が持続し,広範囲の
3. 心筋虚血が原因と考えられる胸痛発作があり,
心筋梗塞の危険がある患者,あるいは血行動
心電図にて新たに ST 降下が出現した患者,
態が不安定な患者に冠動脈バイパス術を行う
あるいはトロポニンが上昇している患者(レ
ベル A)
.
クラスⅡ a
1. 十分な薬物治療にもかかわらず,心筋虚血が
原因と考えられる胸痛発作が持続あるいは頻
発するが,心筋虚血の存在が非侵襲的検査に
よって証明されていない患者(レベル C).
2. 十分な薬物治療にもかかわらず,心筋虚血が
原因と考えられる不安定な血行動態または心
(レベル B).
クラスⅡ a
1. 左前下行枝入口部に高度狭窄を有する患者
(レベル C).
2. AMI の血栓溶解療法後に心筋虚血が持続する
PCI の不可能な患者(レベル B).
3. 重篤な心不全を有するが冠動脈バイパス術が
可能な患者(レベル B).
クラスⅡ b
不全が持続しているが,心筋虚血の存在が非
1. 左前下行枝入口部に高度狭窄を有しない 1 枝
侵襲的検査によって証明されていない患者
または 2 枝病変の患者に冠動脈バイパス術を
(レベル C).
3. 薬物治療により安定化が可能と考えられる胸
痛発作あるいは不安定な血行動態を認める患
者(レベル A).
クラスⅡ b
1. 出血性素因や出血性合併症のため,ステント
留置後の抗血小板薬使用に制限のある患者に
PCI を行う(レベル C).
行う(レベル C).
2. PCI 不成功例で心筋虚血範囲が小さい患者
(レベル C).
クラスⅢ
1. 薬物治療の危険性の方が少ないと考えられる
患者(レベル C).
緊急冠手術は,待機的手術と比較して手術死亡率が高
いとされ,初期治療として PCI や薬物治療が選択される
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1399
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
ことが多いが,緊急 / 準緊急手術治療によって得られる
を有意に低下させることができるエビデンス(クラスⅠ,
利益・不利益を十分に検討し治療方針を決定する.手術
レベル A)が報告されている 101)-103).
リスクを高くする要因としては,広範な心筋虚血や左室
等多岐の要因が挙げられる.
2
初期診断・治療・管理 101)-103)
3
機能低下による心不全,腎機能障害,高齢者,脳合併症
初期診断と治療は UA/NSTEMI に準じるが,STEMI
の場合には次の点が異なる.
ST 上昇型急性心筋梗塞
⑴ 右室梗塞の診断のために心電図で右側胸部誘導を記
録する.また,右室梗塞ではニトログリセリンは使
1
用しない.
急性冠症候群の概念
⑵ 酸素投与は低酸素血症がなくても全例に行ってよ
い.
急性冠症候群(ACS)は冠動脈粥腫破綻,血栓形成を
共通基盤として急性心筋虚血を呈する臨床症候群であ
⑶ 再灌流療法前後にヘパリンを積極的に使用する.
り,AMI,UA,心臓性突然死までを包括する疾患概念
⑷ 再灌流療法を早期に行う.場合によって他の施設に
転送する.
である.
⑸ 心筋保護のために,禁忌がなければできるだけβ遮
ACS が発症すると,冠動脈内血栓や側副血行の有無
断薬,ACE 阻害薬を使用する.
等によって様々な程度の心筋虚血が生じる.冠動脈の完
全閉塞により貫壁性心筋虚血を生じれば ST 上昇型急性
①トリアージ
冠症候群,そうでない場合は非 ST 上昇型急性冠症候群
と二分され,治療指針が異なる(図 22)101)-103).
2
1.STEMI の診断(図 23)
クラスⅠ
発症から病院まで
患者到着後 10 分以内に病態評価を行い,短時間
ST 上昇型心筋梗塞(STEMI)の院内死亡率は,CCU
で再灌流療法の適応を判断し治療を行うために
の管理と冠再灌流療法の普及により 7 %前後となった.
個々の施設の救急部で独自のプロトコルを作成し
しかし,この中には,病院到着前,すなわち STEMI 発
活用する(レベル B).
症早期に心停止に陥る患者は含まれていない.この病院
前心停止に陥る STEMI 患者は総 STEMI 患者の 14%以上
②患者の初期評価(表 13)
にも達する.その大多数が VF を併発し死亡している.
1.病歴,身体所見,臨床検査
したがって,STEMI の発症超早期の患者教育と病院前
救護対策が重要な課題である.STEMI では,正しい治
クラスⅠ
療を受けるまでの時間を短縮すれば,死亡率や合併症率
図 22 急性冠症候群の初期診断と最終診断(*治療・自然経過で心筋梗塞に至らない場合)
急性冠症候群(ACS)
胸痛+心電図
ST 低下,冠性T等
初期診断
非 ST 上昇型 ACS
持続性 ST 上昇,CLBBB
ST 上昇型 ACS
治療方針決定 リスク層別,抗血栓・虚血治療
可及的早期再灌流療法
(12 時間以内) 冠インターベンション・冠動脈バイパス術・各種薬物治療
心筋マーカー
(CPK,トロポニン等)
最終診断
(24 時間∼)
*
不安定
狭心症
非 ST 上昇型
急性心筋梗塞
非Q波梗塞
1400
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
ST 上昇型
急性心筋梗塞
Q波梗塞
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
図 23 STEMI の診断アルゴリズム
Door to needle time :病院到着から血栓溶解療法開始までの時間
Door to balloon time:病院到着から初回バルーン拡張までの時間
第 1 段階 問診
身体所見
第 2 段階 12 誘導心電図*
■心電図モニタリング
10 分以内 ■酸素投与
■静脈ライン確保
採血**
第 3 段階 心エコー,胸部X線写真***
再灌流療法の適応の決定,実行
Door to needle time : 30 分以内
Door to balloon time : 90 分以内
患者到着後(10 分以内)の簡潔かつ的確な病歴
聴取,身体所見および簡潔な神経学的所見の診察,
血液生化学検査(レベル C).
■アスピリンの咀嚼服用
■塩酸モルヒネ投与
■硝酸薬(ニトログリセリン)投与
* 急性下壁梗塞の場合,右側胸部誘導(V4R 等)
も同時に記録する
** 診断確定のために採血結果を待つことで再灌流
療法が遅れてはならない
*** 重症度評価や他の疾患との鑑別に有用であるが
必須ではなく再灌流療法が遅れることのないよ
う短時間で行う
には到着後(10 分以内)の 12 誘導心電図の
記録(レベル C).
2. 初回心電図で診断できない場合でも症状が持
続し AMI が強く疑われる患者には 5 ~ 10 分
2.心電図の適応
ごとの 12 誘導心電図の記録(レベル C).
クラスⅠ
1. 胸部症状や他の症状でも急性心筋梗塞(acute
myocardial infarction AMI)が疑われる患者
3. 急 性 下 壁 梗 塞 例 で 12 誘 導 と 右 側 胸 部 誘 導
(V4R 誘導)の心電図記録(レベル B).
表 13 初期評価項目のチェックリスト
問診
身体所見
心電図
採血
心エコー
胸部 X 線写真
・簡潔かつ的確な病歴聴取
…胸部症状,関連する徴候と症状,冠危険因子,急性大動脈解離・急性肺塞栓の可能性,出血性リスク,脳血管障
害・狭心症・心筋梗塞・冠血行再建の既往
・バイタルサイン(大動脈解離を疑う場合は四肢の血圧測定も)
・聴診…心音,心雑音,呼吸音(湿性ラ音の有無とその聴取範囲)
,心膜摩擦音,血管雑音(頸動脈,腹部大動脈,
大腿動脈)
・眼瞼所見…貧血
・頸部所見…頸静脈怒張
・腹部所見…圧痛,腹部大動脈瘤,肝腫大
・下腿所見…浮腫
・神経学的所見
・12 誘導心電図…T 波の先鋭・増高(Hyper acute T),T 波の陰転化,R 波の減高,ST 上昇/低下,異常 Q 波
・右側胸部誘導(V4R 誘導)…右室梗塞の合併
・血液生化学検査
…心筋傷害マーカー:心筋トロポニン,CK,CK-MB,ミオグロビン,
心臓型脂肪酸結合蛋白(H-FABP)
血算,生化学,電解質,凝固
・局所壁運動異常(左室壁運動,下壁梗塞の場合は右室壁運動も)
・左室機能
・機械的合併症…左室自由壁破裂(心嚢液貯留,右室拡張期の虚脱),心室中隔穿孔(シャント血流)
,乳頭筋断裂
(僧帽弁逆流)
・左室壁在血栓
・他の疾患との鑑別…急性大動脈解離(上行大動脈や腹部大動脈の intimal flap,大動脈弁逆流,心嚢液貯留),急
性肺血栓塞栓症(右房および右室の拡大,左室の圧排像)
,急性心膜炎(局所壁運動異常のない心嚢液貯留)等
・心陰影…拡大
・肺野…肺うっ血,肺水腫,胸水
・肋骨,胸膜,縦隔陰影
注)
下線をひいた項目は特に優先度の高いもの
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1401
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
3.画像診断
胸部 X 線写真の適応
クラスⅠ
1. 重症度の評価(レベル C).
2. 急性大動脈解離や他の肺・胸膜疾患,縦隔疾
患との鑑別診断(レベル C).
心エコー法の適応
クラスⅠ
1. 標準的診断法で確定できないが AMI が疑わ
れる患者の診断(レベル C).
2. 心筋虚血領域の評価(レベル C).
3. 急性期における左心機能の評価(レベル C).
4. 右室梗塞の合併の可能性がある患者(レベル
C)
.
5. 機械的合併症の診断(レベル C).
6. 左室壁在血栓の診断(レベル C).
③標準的初期治療
2. 勃起不全治療薬(例えばバイアグラ ® 等)服
用後 24 時間以内の投与(レベル B).
3.アスピリン
クラスⅠ
アスピリン 160(レベル A)~ 325mg(レベル C)
(バファリン ® 81mg 2 ~ 4 錠またはバイアスピリ
ン ® 100mg 2 ~ 3 錠)の咀嚼服用.
明らかに禁忌すなわちアスピリンアレルギーの既
往がある患者を除き,急性心筋梗塞が疑われる患
者全例に,できるだけ早くアスピリンを投与する
(レベル A).
アスピリン坐薬の投与は安全であり,嘔気,嘔吐
症状が強い患者や,上部消化管疾患のある患者に
対しては適応である.
4.鎮痛薬
クラスⅠ
硝酸薬投与後にも胸部症状が持続する場合の塩酸
1.酸素
モルヒネ投与(レベル C).
クラスⅠ
塩酸モルヒネは 2 ~ 4mg を静脈内投与し,効果不
肺うっ血や動脈血酸素飽和度低下(90%未満)を
十分であれば 5 ~ 15 分ごとに 2 ~ 8mg ずつ追加投
認める患者に対する酸素投与(レベル B).
与していく.投与後しばらくは呼吸状態や血圧変
クラスⅡ a
すべての患者に対する来院後 6 時間の酸素投与(レ
ベル C).
経鼻カニュレまたはフェイスマスクにより酸素を
2 ~ 5L/ 分から開始する.
2.硝酸薬
クラスⅠ
1. 虚血による胸部症状のある場合に,舌下また
はスプレーの口腔内噴霧で,痛みが消失する
動や嘔吐等の副作用に注意する必要がある.
5.ヘパリン
クラスⅠ
PCI 施行時の ACT モニタリング下での使用(レベ
ル C)
クラスⅡ a
tPA,pro-UK,mutant tPA 等血栓親和性のある血
栓溶解薬を使用した場合の aPTT モニタリング下
での静脈内投与(レベル C).
か血圧低下のため使用できなくなるまで 3 ~
PCI が施行される場合にはヘパリンのボーラス投
5 分ごとの計 3 回までの投与(レベル C).
与が推奨されている.一般的には ACT が 300 秒を
2. 虚血による胸部症状の緩解,血圧のコントロ
超えるようモニタリングしながら使用する.
ール,肺うっ血の治療目的としての静脈内投
tPA による再灌流治療を受ける患者でのヘパリン
与(レベル C).
投与法は,まず 60 単位 /kg(最大 4000 単位)をボー
クラスⅢ
1. 収縮期血圧 90mmHg 未満あるいは通常の血
1402
合の投与(レベル C).
ラス静注し,その後,活性化部分トロンボプラスチ
ン時間(activated partial thromboplastin time: aPTT)
圧に比べ 30mmHg 以上の血圧低下,高度徐
をコントロール値の 1.5 ~ 2.0 倍(約 50 ~ 70 秒)に
脈(< 50bpm),頻脈(> 100bpm)を認める
維持するように 48 時間持続投与(12 単位 /kg/hr,最
場合,下壁梗塞で右室梗塞合併が疑われる場
大 1000 単位 /hr).
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
6.β遮断薬
①血栓溶解療法(表 14)
クラスⅠ
発症後早期の投与可能で経口β遮断薬に対する禁
忌のない場合の使用(レベル B).
1)血栓溶解療法の適応
クラスⅠ
1. 線溶療法の禁忌がなく,75 歳未満でかつ発
クラスⅢ
症より 12 時間以内(レベル A).
以下の場合の投与
1. 中等度~高度の左室機能不全患者,心原性シ
2. ST 上昇または新規左脚ブロック(レベル A).
クラスⅡ a
ョック(レベル C).
2. 収縮期血圧 100mmHg 未満の低血圧(レベル
1. 発症 12 時間以内の純後壁梗塞(レベル C).
2. 発症 12 時間から 24 時間以内で虚血症状が持
C).
3. 心拍数 60/ 分未満の徐脈(レベル C).
4. 房室ブロック(Ⅱ,Ⅲ度)(レベル C).
5. 重症閉塞性動脈硬化症(レベル C).
続(レベル B).
クラスⅢ
1. 症状が消失し,治療までに 24 時間以上経過
6. 重症慢性閉塞性肺疾患または気管支喘息等
2. 後壁梗塞が除外された非 ST 上昇型 AMI 患者
(レベル C).
4
した患者(レベル C).
(レベル A).
再灌流療法
2)血栓溶解療法の禁忌
STEMI では,線溶療法,PCI を問わず,いかに早期に
① 絶対的禁忌
TIMI-3 の再灌流を得るかが,短期および長期の予後を
1. 頭蓋内出血の既往(時期を問わず)
改善する.重要なことは,線溶療法においては door to
2. 既知の頭蓋内悪性腫瘍(原発または転移),構
needle time を 30 分以内に,PCI では door to balloon time
を 90 分以内を目標とすることである 101)-104).
造的脳血管病変(脳動静脈奇形等)
3. 活動性出血
4. 大動脈解離およびその疑い
5. 過去 3 か月以内の脳虚血発作,非開放性頭部外
表 14 経静脈的血栓溶解療法のチェックリスト
Step 1.
虚血性胸痛(不快感)の持続時間は,15 分以上かつ 12 時間以内?
○ はい ○ いいえ → 適応なし
標準 12 誘導心電図所見の隣接する 2 誘導以上で ST 上昇,または新規に出現した脚ブロック?
Step 2.
Step 3.
○ はい ○ いいえ → 適応なし
以下の 10 項目すべて 『はい』
であれば血栓溶解療法を実施
①収縮期血圧 180mmHg 以下
②収縮期血圧の左右差 15mmHg 以内
③拡張期血圧 110mmHg 以下
④頭蓋内疾患の既往症 なし
⑤ 3 か月以内の明らかな非開放性頭部または顔面外傷 なし
⑥ 6 週間以内の明らかな外傷,手術,消化管出血 なし
⑦出血・凝固系異常 なし
⑧心停止時の CPR は 10 分以内
⑨妊娠していない
⑩進行性または末期の悪性腫瘍,重篤な肝または腎疾患 なし
○ はい
○ はい
○ はい
○ はい
○ はい
○ はい
○ はい
○ はい
○ はい
○ はい
○ いいえ
○ いいえ
○ いいえ
○ いいえ
○ いいえ
○ いいえ
○ いいえ
○ いいえ
○ いいえ
○ いいえ
以下の 1 項目以上を満たす高リスク例は緊急 PCI が直ちに開始できる施設へ救急車で搬送
①心拍数≧ 100 回/分 かつ 収縮期血圧< 100mmHg
②湿性ラ音を聴取(Killip 分類Ⅱ以上)
③ショック徴候・症状あり
④血栓溶解療法が禁忌(Step.2 の①~⑩の 1 項目以上)
○ はい
○ はい
○ はい
○ はい
○ いいえ
○ いいえ
○ いいえ
○ いいえ
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1403
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
図 24 緊急 PCI が施行可能な施設における STEMI への対応アルゴリズム
STEMI 患者
いいえ
12 時間以上
虚血性胸痛と
ST 上昇>1mm 持続
3 時間以内
発症からの時間は?
3 ∼ 12 時間
はい
いいえ
到着‐バルーン時間を
90 分以内にできるか?
はい
原則として緊急 PCI を選択
(長い待機時間,広い梗塞範囲等では
血栓溶解療法+facilitated PCI を考慮)
早期冠動脈造影を考慮(24-72 時間)
さらに残存虚血・心筋生存性を評価し
治療方針を決定
いいえ
到着‐バルーン時間を
90 分以内にできるか?
はい
血栓溶解療法と
facilitated PCI を考慮
緊急冠動脈造影、適応があれば PCI(到着‐バルーン時間 90 分以内を目標)
あるいは CABG
心原性ショック(または進行した左心不全)の場合,発症 36 時間以内かつショック発現 18 時間以内は PCI・外科手術を検討する.
:経皮的冠インターベンション
・PCI(percutaneous coronary intervention)
・血栓溶解療法:表 14 参照
・facilitated PCI:薬物治療(血栓溶解療法)に続いて行われる PCI
図 25 緊急 PCI が施行できない施設における STEMI への対応アルゴリズム
STEMI 患者
いいえ
12 時間以上
虚血性胸痛と
ST 上昇>1mm 持続
発症からの時間は?
3 時間以内
3 ∼ 12 時間
はい
いいえ
はい
搬送時間を考慮し
90 分以内かつ発症 12 時間以内に
バルーン拡張可能か?
原則は緊急 PCI 施設へ搬送
長時間要するなら搬送先と
相談し血栓溶解療法実施を考慮
いいえ
はい
搬送時間を考慮し
90 分以内にバルーン拡張
可能か?
搬送先と相談し、
血栓溶解療法を考慮
あり 再灌流徴候* なし
24 時間以内に PCI が
可能な施設へ搬送
ただちに PCI が可能な施設へ搬送
心原性ショック(または進行した左心不全)の場合,発症 36 時間以内かつショック発現 18 時間以内は PCI・外科手術施行可能施設
へ搬送する.
(*再灌流徴候:胸痛の消失,ST 上昇の軽減,T 波の陰転化等)
1404
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
傷または顔面外傷
② 相対的禁忌
1. 診 察 時, コ ン ト ロ ー ル 不 良 の 重 症 高 血 圧
(180/110mmHg 以上)
2. 禁忌に属さない脳血管障害の既往
3. 出血性素因,抗凝固療法中
4. 頭部外傷,長時間(10 分間)の心肺蘇生法,
または大手術(3 週間未満)等の最近の外傷既
往(2 ~ 4 週間)
5. 圧迫困難な血管穿刺
6. 最近(2 ~ 4 週以内)の内出血
7. 線溶薬に対する過敏反応
8. 妊娠
9. 活動性消化管出血
10. 慢性重症高血圧の既往
②経皮的冠動脈インターベンション(PCI)
1)Primary PCI の適応(図 24,25)
クラスⅠ
1. 発症 12 時間以内で,線溶療法が禁忌の有無
にかかわらず,来院後 90 分以内に病変をバ
ルーン拡張できる場合(ステント留置を含む)
(レベル A).
2. Primary PCI は病院に到着してから責任病変
をバルーン拡張するまでの時間が 90 分以内
(レベル B).
a. 症状の持続時間が 3 時間以内であり,カ
テーテル検査の穿刺から PCI までを
ⅰ)1 時間以内に行うことができる場合
の PCI(レベル B).
ⅱ)1 時間以上要する場合には線溶療法
1. 発症 36 時間以内にショックとなり,ショッ
ク発症後 18 時間以内に血行再建可能な 75 歳
以上の患者(レベル B).
2. 12 から 24 時間前に発症し,次の項目のどれ
か 1 つ以上を満たす場合
a.重症うっ血性心不全(レベル C).
b.不安定な血行動態または心電図所見(レ
ベル C).
c.持続する虚血徴候(レベル C).
クラスⅢ
1. 血行動態が不安定な患者で虚血がないと判断
される非梗塞領域を灌流する冠動脈への PCI
(レベル C).
2. 発症後 12 時間以上経過しており,血行動態
や心電図所見が安定していて症状が消失して
いる患者(レベル C).
3. 厚生労働省の定める施設基準を満たさない施
設や PCI に熟練していない術者が行う場合.
③ Facilitated PCI(血栓溶解療法後の PCI)
クラスⅡ a′*
症状持続時間が 3 時間以内で,来院 90 分以内に
PCI によるバルーン拡張術が困難と予測される症
例における Facilitated PCI(レベル C).
* STEMI に関するガイドラインでは,「エビデンスは不
十分であるが,手技治療が有効・有用であることに我が
国の専門家の意見が一致している」としてのクラスⅡ a′
の記載である.
④ Rescue PCI(線溶療法後も,心筋虚血が持続ま
たは繰り返す患者に対する PCI)
を考慮(レベル B).
b. 症状が 3 時間以上持続する場合の PCI.
病院到着からバルーン拡張は 90 分以内
(レベル B).
3. 発症後 36 時間以内の患者で,心原性ショッ
クを呈し,ショック発症後 18 時間以内に PCI
が実施可能な 75 歳未満の患者に対する PCI.
ただし侵襲的治療を患者が望まない,または
適さない場合を除く(レベル A).
4. 重症うっ血性心不全,または Killip Ⅲ度以上
クラスⅠ
線溶療法を施行した 75 歳未満の患者に対し
て以下の場合に PCI による血行再建を行う.
1. 心原性ショック(レベル B).
2. 重症うっ血性心不全または肺水腫(Killip Ⅲ)
(レベル B).
3. 血行動態が不安定な心室性不整脈(レベル C).
クラスⅡ a
1. 線溶療法を施行した 75 歳以上の心原性ショ
の肺水腫を伴う発症 12 時間以内の ST 上昇型
ック患者.ただし,血行再建に適している場
ACS に対する早急の PCI(レベル B).
合に限る(レベル B).
クラスⅡ a
2. 下記の項目のうちいずれか 1 つ以上に該当す
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1405
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
1. 持続する胸痛を伴うも,血行動態が安定して
る患者.
いる場合の緊急 CABG(レベル C).
a.不安定な血行動態または心電図所見(レ
2. 主要な冠動脈の血行再建が成功した患者にお
ベル C).
ける小血管に対する緊急 CABG(レベル C).
b.持続する虚血徴候(レベル C).
3. 線溶療法開始 90 分後に ST resolusion が 50 %
未満の不成功例で中等度以上の心筋障害が予
想される場合(前壁梗塞,右室梗塞を伴う下
⑥再灌流の評価
クラスⅡ a
1. 再灌流療法開始後 1 ~ 3 時間にわたって ST 上
壁梗塞,前胸部誘導の ST 低下例)
(レベル B).
昇のパターン,心調律,および臨床症状のモ
⑤緊急手術による再灌流ならびに合併症修復術
ニター(レベル B).
2. TIMI グレード,Blush グレードによる評価(レ
クラスⅠ
STEMI における緊急 CABG は以下の場合に
施行される.
1. PCI が不成功に終わり,持続する胸痛または
不安定な血行動態を伴い,冠動脈が解剖学的
ベル B).
⑦再灌流補助薬
クラスⅡ a
再灌流治療を受ける患者でそれに先だつカル
に手術に適している場合(レベル B).
2. 薬物治療に抵抗性の持続的あるいは繰り返す
虚血所見を認め,責任病変により広範な心筋
ペリチドの静脈内投与(レベル B).
クラスⅡ b
虚血を来たすと予測され,PCI や線溶療法の
再灌流治療を受ける患者でそれに先だつニコ
ランジルの静脈内投与(レベル B).
適応がない場合(レベル B).
3. 梗塞後の心室中隔破裂または自由壁破裂,急
クラスⅡ b
性重症僧帽弁閉鎖不全を伴う乳頭筋断裂に対
ヘパリン誘発性血小板減少症を有することを
して修復手術を要する場合(レベル B).
分かっている患者では,ヘパリンの代わりに
4. 発症後 36 時間以内にショック状態が進行し
ており,ST 上昇,左脚ブロック,後壁梗塞
のいずれかを認め,重症多枝病変・左主幹部
病変のいずれかを伴う 75 歳未満の患者.シ
ョック状態となってから 18 時間以内に手術
可能な場合に限る(レベル A).
5. 左主幹部に狭窄度 50 %以上の病変を有する
か,3 枝病変を有し,致死的不整脈を伴って
いる患者(レベル B).
クラスⅡ a
1. 緊急 CABG が初期灌流治療法として有用と
なりうるのは,STEMI 発症後 6 時間から 12
時間以内の患者で,線溶療法や PCI の適応が
なく,特に多枝病変または左主幹部病変を有
する場合の CABG(レベル B).
5
入院後の治療
STEMI に対する補完療法 101)-103)
①抗血小板薬
1.アスピリン
クラスⅠ
STEMI 患者には禁忌がない限り,無期限にアス
ピリンを経口投与する(レベル A).
2.Thienopyridine 系薬剤
クラスⅠ(レベル B)
BMS 挿入後は少なくとも 1 か月間の投与.DES
2. 75 歳以上の発症後 36 時間以内にショックが
挿入後は少なくとも 12 か月間投与.出血のリス
進行しており,重症 3 枝病変または左主幹部
クのない患者,ステント血栓症のハイリスク群で
病変を有する場合.ただしショック状態とな
は無期限の投与.
ってから 18 時間以内に血行再建できる場合
クラスⅡ a(レベル C)
の緊急 CABG(レベル B).
クラスⅢ
1406
アルガトロバンを使用(レベル B).
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
血栓溶解療法を受けている患者でアスピリンが内
服できない患者におけるクロピドグレル,チクロ
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
ピジンの使用.
④レ ニン・アンジオテンシン・アルドステロン系
拮抗薬
②β遮断薬
ACE( ア ン ジ オ テ ン シ ン 変 換 酵 素:angiotensin
STEMI 発症直後にβ遮断薬の投与を開始すること
converting enzyme)阻害薬 /ARB(アンジオテンシ
が梗塞サイズを縮小させ,慢性期の合併症発生率と
ン受容体拮抗薬:angiotensin receptor blocker)
再梗塞発生率を減少させることから,β遮断薬は急
ACE 阻害薬は,特に早期に投与を開始した場合
性期死亡の減少と慢性期の合併症抑制のいずれにも
に STEMI 患者の生存率を改善させている.
ACE 阻害薬 /ARB の適応
有効である.
クラスⅠ
クラスⅠ
1. 禁忌のない,低リスク 以外の STEMI 患者に
*
は経口β遮断薬を投与する.少なくとも 2 ~
3 日以内に開始し可能な限り継続する(レベ
ル A).
1. 禁忌がなければ,経口 ACE 阻害薬を,早期
に開始し可能な限り継続する(レベル A).
2. 既に ACE 阻害薬が投与されており,左室駆
出率が 40 %以下で症候性心不全または糖尿
2. 中等度,あるいは重篤な左室機能不全を有す
病を合併する患者には,禁忌がない限り,ア
る患者には,徐々に増量しながらβ遮断薬を
ルドステロン拮抗薬を使用する(レベル A).
投与する(レベル B).
クラスⅡ a
禁忌のない,低リスク*の患者にβ遮断薬を
投与する(レベル A).
クラスⅢ
3. 左室駆出率が 40 %以下で,臨床的あるいは
胸部 X 線上で心不全の兆候があるか,ACE
阻害薬に認容性がない患者には,ARB を使
用する(レベル B).
クラスⅡ a
冠攣縮の関与が明らかな STEMI 患者に対す
左室駆出率が 40 %以下で,臨床的あるいは
るβ遮断薬の投与(レベル C).
胸部 X 線上で心不全の兆候がある患者に対
*低リスク:左室機能が正常~ほぼ正常,再灌流治療の
成功,重篤な心室性不整脈がない.
③カルシウム拮抗薬
し,ACE 阻害薬の代用として ARB を使用す
る(レベル B).
クラスⅡ b
左室駆出率が 40 %以下で,症候性の慢性心
不全を有する患者の長期管理には,ACE 阻
クラスⅡ a
害薬と ARB の併用を考慮する(レベル B).
1. β遮断薬が禁忌または認容性が不良で,左室
機能不全やうっ血性心不全,房室ブロックの
ない STEMI 患者に対する,心筋虚血の軽減,
または頻脈性心房細動の頻拍コントロールを
目的としたベラパミルまたはジルチアゼムの
投与(レベル B).
2. 他の薬物でコントロールができない狭心症ま
たは高血圧症に対して,長時間作用型ジヒド
ロピリジン系カルシウム拮抗薬を使用する
(レベル B).
クラスⅢ
STEMI 発症後早期の短時間作用型ジヒドロ
⑤ HMG-CoA 還元酵素阻害薬(スタチン)
ACS 発症数日以内にスタチンを投与すると,炎症
指標が低下して,再梗塞,再発性狭心症,不整脈等
の合併症が減少することが様々な試験により一貫し
て示されている.
クラスⅠ
STEMI 患者に対するスタチン投与の早期開
始(受診後 24 時間以内)は安全で,実施可
能である(レベル C).
クラスⅡ b
ピリジン系カルシウム拮抗薬投与(レベル
既にスタチンを投与している患者には,引き
A).
続き投与する(レベル C).
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1407
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
方,分枝血流の低下により臓器虚血が生じと,心筋虚血,
Ⅶ
その他の心血管救急
脳虚血,上肢虚血,対麻痺,腸管虚血,腎不全,下肢虚
血等を生じる.特に腸管虚血は手術症例における急性期
死亡の重要な関与因子である.解離の型によって重症度
および治療の方針が大幅に異なる.表 15 のような分類
1
がある.
急性大動脈解離
2
① 急性大動脈解離では破裂と臓器虚血が問題であ
り,血栓性閉塞の有無と上行大動脈に解離が存在
するかで分類する.
② 診断は病歴,身体所見,心電図,胸部 X 線,エコ
ー検査,炎症反応,D ダイマー,CT 検査等で行う.
③ 収縮期血圧 100 ~ 120mmHg を目標に静注薬で降
圧し,鎮痛,酸素投与,腎不全予防,不穏予防等
に努める.
④ 発症から 48 時間の安静度を下げ,絶食とする.
⑤ 偽腔開存,Stanford 分類,切迫破裂や臓器虚血の
有無,さらに血栓閉塞型では上行大動脈径や偽腔
径で手術適応を判断する.
1
病態と分類 105)
急性大動脈解離(Acute Aortic Dissection:AAD)とは,
“血液が大動脈内膜の破綻部分から外膜方向に向かって
入り込み,中膜のおよそ外 1/3 のレベルで大動脈を長軸
方向に引き裂きながら進行した結果,大動脈が 2 腔にな
った状態”であり,破裂と分枝血流障害が予後を左右す
る.心タンポナーデは急性期の死因の第一位である.一
診断(表 16)105)
①病歴
典型症例は,激しい胸背部痛が突発し移動し,高血
表 15 大動脈解離の分類
1 解離範囲による分類
Stanford 分類
A 型:上行大動脈に解離があるもの
B 型:上行大動脈に解離がないもの
DeBakey 分類
Ⅰ型:上行大動脈に内膜亀裂があり弓部大動脈より末
梢に解離が及ぶ
Ⅱ型:上行大動脈に解離が限局する
Ⅲ型:下行大動脈に内膜亀裂があるもの
Ⅲ a 型:腹部大動脈に解離が及ばない
Ⅲ b 型:腹部大動脈に解離が及ぶ
2 偽腔の血流状態による分類
偽腔開存型:偽腔に血流があるもの.部分的な血栓の
存在はこの中に
(CT 所見で,一部でも偽腔に造影剤の染まりがある)
偽腔血栓閉塞型:偽腔が血栓で閉塞している
(CT 所見で,偽腔に造影剤の染まりが全くない)
3 病期による分類
急性期:発症 2 週間以内.
48 時間以内を超急性期とする
亜急性期:発症 3 週目(15 日目)から 2 か月まで
慢性期:発症後 2 か月を経過したもの
表 16 大動脈解離に関係する検査とその所見
解離を強く
疑う所見
心エコー
血液検査
CT 検査
1408
高血圧の既往,来院時高血圧
突然の発症,引き裂かれ,移動する痛み
血圧左右差> 30mHg
偽腔が確認できることがある
心のう液の貯留,大動脈基部の拡張,大動脈弁閉鎖不全,胸水の有無を見る
D-dimer で正常範囲なら解離である可能性は 5 ~ 10% 以下
最大 CRP 値> 15mg/dL は独立した呼吸不全の関連因子で ある
(1)観察のポイント:
上行大動脈の解離の有無,偽腔が開存しているか
心嚢液の貯留,偽腔の真腔への圧排の程度,分枝への解離の波及,
分枝は真腔からでているか,最大短径および偽腔径,解離の範囲,
ulcer-like projection 等
(2)偽腔内血栓:石灰化部分の外側の辺縁のスムーズな low density
壁在血栓:石灰化部分の内腔側の low density,まれに例外あり
(3)CT は単純,造影ともに必要:
単純 CT は解離腔内血栓と真性瘤+壁在血栓の鑑別に有用
high density(発症数時間から亜急性期まで)→解離腔内血栓
high density でない→新しいものではない→壁在血栓や古い解離の可能性
(4)撮像範囲は大動脈弓部より少し上から骨盤部まで
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
血栓化偽腔
(2)
石灰化
(3)
壁在血栓
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
圧を伴い心電図で有意な ST 変化がない等の所見がそ
ろっている場合である.一方,主訴がはっきりとした
痛みではない頻度は 10%あり,その際の主訴は失神,
心不全,脳血管障害等である.無痛性の AAD は 5.9
~ 6.4%程度存在する.特に意識障害が主訴である場
合,経過中に胸背部痛があれば,本疾患による可能性
を考える.
②身体・血液所見
四肢の血圧差,大動脈弁閉鎖不全の雑音,奇脈,心
不全徴候等がないかに留意する.炎症反応や貧血の有
無もチェックする.D ダイマー測定が高感度(88 ~
100%)であり,本疾患の除外には有用であるが,そ
の感度は必ずしも 100%ではなく,また特異度は低い
のでその利用には注意が必要である.
③心電図,胸部 X 線,心エコー検査
表 17 大動脈解離への初期対応
降圧
ニカルジピン 3mL/hr で持続静注開始.
1mL ずつ bolus しつつ持続量を増量
ブロプラノロール 2mg ゆっくり静注 動脈圧ライン留置.降圧目標は 100 ~
120mmHg と痛みの消失
鎮痛
塩酸モルヒネ 1mg またはブプレノルフ
ィン 5mg 必要なら同量を追加
酸素投与
マスク 4L /分
血圧低下への対応 心タンポナーデ,破裂の確認
輸液,必要なら穿刺やカテコラミン投与
腎機能保持
補液,尿量モニターのためのバルン挿入
は十分に降圧後に
経口降圧剤は代病日で急性腎不全のない
場合に
不穏の予防
家族の協力,睡眠薬や鎮静薬の投与
安静と食事
48 時間は強い安静で絶食.飲水は可
入院翌日の CT 検査 すべての血栓閉塞 A 型,偽腔による真腔
が著しく圧排,分枝血流の低下による臓
器虚血,痛みの持続するとき
ニカルジピン単独で管理が不良で脈拍数が速い場合
急性冠症候群の有無,心嚢液,大動脈弁逆流,剥離
は,禁忌がなければプロプラノロール 2mg をゆっく
内膜の有無をチェックする.
り静注してもよい.臓器血流障害が認められる場合は
④ CT 検査
収縮期血圧で 130mmHg 前後を目標とせざるを得な
い.手術直前の開存A型解離の血圧は,心タンポナー
確定診断は造影 CT 検査によってなされる.発症直
デの発症を回避すべく 80 ~ 100mmHg まで下げる.合
後を除いて亜急性期まで,血栓化偽腔は単純 CT で
併症のないB型解離では,過度の降圧により急性腎不
high density を示し壁在血栓との鑑別に極めて有用で
全 と な る こ と が あ る の で 血 圧 の 管 理 は 110 ~
ある.
130mmHg 程度でもよい.
症状が多彩であり特異度の高い生化学マーカーがな
入院翌日に急性腎不全がなければ,その時点から,
いことが診断を難しくしており,誤診率は 38 ~ 57%
経口降圧剤を開始する.短時間作用型のβ遮断薬を第
と極めて高い.2005 年度の東京都 CCU ネットワーク
一選択とする.静注薬の減量も開始し,第 3 病日には
の報告ではその死亡率(8.5 %)は急性心筋梗塞の死
カルシウム拮抗薬を加え,さらに静注薬を減量する.
亡率(6.5%)より高い.
3
初期治療(表 17)105)
①降圧
一般的に来院時の血圧が高く,特に B 型のほうが A
降圧が不十分で腎機能に問題がなければ同日中に
ACE 阻害薬,アンジオテンシン受容体拮抗薬等を加
えて,静注薬を減量し,3 ~ 4 病日には中止すること
を目指す.静注薬の中止で動脈圧モニターを中止する.
②鎮痛
型に比べて血圧の高い.診断が確定しなくても疑われ
強い痛みは内因性のカテコラミンを誘発して降圧を
れば,その時点で降圧治療を開始する.降圧目標は,
妨げる.降圧と同様に診断確定前であっても鎮痛薬を
収縮期血圧 100 ~ 120mmHg.超急性期は動脈圧ライ
使用する.ある程度血圧が下がっても痛みが持続する
ンを確保して,厳密な血圧管理を行う.速やかな降圧
場合は,塩酸モルヒネまたはブプレノルフィンをゆっ
のために静注薬を開始する.ニカルジピン,ニトログ
くり静注する.不足なら同量を追加する.麻薬性鎮痛
リセリン,ジルチアゼム,β遮断薬等を用いる.ニカ
薬では呼吸抑制および嘔吐による血圧上昇を来たすこ
ルジピン原液(1mg/mL)は 3mL/hr から開始して,痛
とがあり,注意が必要である.
みが消失し降圧目標に達するまで上限なく増量する.
その際に静脈炎の予防に留意する.痛みの持続は解離
が進行している兆候と考え,さらなる降圧をはかる.
③酸素投与
低酸素血症を来たしている可能性があるので酸素投
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1409
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
与を行う.安静臥床による無気肺,麻薬性鎮痛剤や鎮
により昼夜逆転を予防する.安定薬,睡眠薬を予防的
静剤による呼吸抑制,広範な炎症による SIRS(全身
に投与するが,投薬により逆に不穏が悪化することも
性炎症反応症候群)と思われる病態による胸水貯留が
あるため注意する.重度の場合は静注薬による鎮静が
原因となる CRP が高いほど胸水が多い傾向にある.
必要だが,呼吸抑制が出現するので,厳重な管理下で
胸水は発症およそ 3 ~ 7 日をピークとして減少してい
行う.ある程度の夜間睡眠,安静度があがること,食
く.他には急性大動脈弁閉鎖不全や合併する睡眠時無
事の開始が不穏解消されるための要件である.
呼吸が関与していることもある.胸部レントゲン写真
を連日撮影して胸水を評価する.最大 CRP 値> 15mg/
dL は独立した呼吸不全の関連因子であり,CRP 値に
経過中の痛みの出現は,再解離を疑う.鑑別すべき
より呼吸不全を予測する.
は,長時間の臥床による腰背部痛,便秘による腹部違
④突然の血圧低下への対応
診断が確定している患者の突然のバイタルサインの
悪化,特に血圧の低下は,心タンポナーデか,胸腔内
への破裂の可能性を考える.原因は前者が多い(→Ⅶ.
和感,胸膜炎等の合併による胸痛等であるが鑑別は難
しい.痛みの性状で判断することも多いが,CT 検査
が必要となることも多い.
⑧フォロー CT の撮像のタイミング
-4 心タンポナーデ参照).心嚢穿刺に関しては,穿刺
すべての血栓閉塞 A 型,偽腔による真腔への圧排所
により血圧を急激に上昇することがあり,穿刺直後の
見のあるもの,痛みがコントロールされないもの,臓
血液の吸引はしない.すぐに静注降圧薬を bolus 投与
器虚血が疑われるものは不安定であり,入院翌日にも
できるように準備をしておく.その後,血圧が下がれ
CT を施行し手術適応を再検討する.
ば血圧をモニターしながら極めて少量ずつ心嚢液の吸
引をする.穿刺後の目標血圧は 80mmHg 程度とする.
⑨安静度
心嚢液にすでにフィブリン塊が出現している場合は穿
発症から 48 時間以内の予後が不良であることより,
刺時に血液の吸引が確認できないことがある.心タン
ここまでの安静度を低く保ち,その後ゆっくりと安静
ポナーデ確認できなければ,胸腔内への破裂の可能性
を緩めてゆく.
が高く,補液をしつつ手術の準備をする.その間はカ
テコラミンの使用もやむを得ない.
⑤急性腎不全
超急性期の降圧による腎血流の減少,造影 CT 検査
による腎への負担,経口摂取の低下が引き起こす脱水,
解離による腎動脈へ影響等により急性腎不全が発症す
⑩食事
発症 48 時間以内の絶食を原則とする.解離の型,
患者の不穏の程度,腸管虚血の有無等考慮に入れ食事
を開始する.飲水は可とする.
4
治療方針 105)
る.尿道バルーンを留置して厳密に管理すべきである
表 18 に手術適応を示した.一般に,偽腔開存型の A
が,留置時の疼痛により血圧の上昇を来たすことがあ
型解離は手術の適応であり,B 型解離は臓器虚血や破裂
るため,血圧が十分落ち着いてから病棟で留置する.
の所見がなければ保存的に治療する.ただし,腸管虚血
また,心機能に注意しながら,造影剤の wash-out も
は予後不良であり,CPK の上昇やアシドーシスが進行
行う.長時間型の降圧剤は腎不全により排泄遅延から
する以前に,腹痛の持続と造影 CT または腹部エコーに
低血圧の遷延やさらなる腎不全の悪化を生じる可能性
おける上腸間膜動脈の狭窄等の所見で手術を検討すべ
があるために,内服薬は短時間型を入院翌日以降に開
きである.血栓閉塞 A 型の治療方針は施設によって異な
始する.
るが,上行大動脈径や偽腔径の大きなもの,心タンポナ
⑥不穏への対応
1410
⑦胸痛,背部痛の再出現
ーデ症例等を手術適応とする.一方,上行大動脈径や偽
腔径が小さければ保存的に経過観察可能だが,必要時に
厳しい安静や低酸素血症を背景に高率に不穏を生じ
緊急で手術ができる体制が整っており,極めて厳重な管
る.不穏の予防が重要である.家族に対して不穏の可
理ができることである.血栓閉塞 A 型で上行大動脈の最
能性が高いことをよく説明し,付き添いを依頼し精神
大短径が 45 ~ 50mm の場合の手術適応は,偽腔径,年齢,
的不安を減らすとともに日中の患者さんへの話しかけ
痛みのコントロール,基礎疾患等を考慮に入れて総合的
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
表 18 急性大動脈解離の治療方針
Stanford 分類 A 型
手術
(クラスⅠ / レベル C)
下記ならば手術*
(クラスⅡ a/ レベル C)
下記ならば保存的**
(クラスⅡ b/ レベル C)
開存型
血栓閉塞型
Stanford 分類 B 型
臓器虚血,破裂なければ保存的
(クラスⅠ / レベル C)
臓器虚血,破裂なければ保存的
(クラスⅠ / レベル C)
*
血栓閉塞 A 型の手術適応:
入院時上行大動脈の最大短径≧ 50mm,または偽腔径≧ 12mm,または心タンポナーデ症例
**
血栓閉塞 A 型を保存的治療の適応:
上行大動脈の最大短径≦ 45mm,かつ偽腔の径が小さく三日月型であること,かつ緊急手
術ができること,血圧を主とした厳密な患者管理ができること
⑥ 急性心原性肺水腫では酸素投与を開始し,SaO2
に判断すべきである.
2
> 95 ~ 98 %(PaO2 > 80mmHg) を 維 持 す る.
PaO2 が 80mmHg 未満,PaCO2 が 50mmHg 以上,頻
急性心不全
呼吸,努力性呼吸等では NIPPV を開始する.そ
れでも呼吸不全が改善しない場合,人工呼吸管理
① 急性心不全とは,「心臓に器質的および / あるいは
機能的異常が生じて急速に心ポンプ機能の代償機
転が破綻し,心室充満圧の上昇や主要臓器への灌
流不全を来たし,それに基づく症状や徴候が急性
に出現した状態」をいい,6 病態に分けられる.
② 蘇生の必要性,不穏の有無,酸素飽和度,心リズ
ム,収縮期血圧,前負荷の状態を見ながら治療を
開始すると同時に診断を進める.
③ Warm/Cold・Dry/Wet クリニカルプロフィール分
類を活用する.
④ 入院で患者をモニターする.初期治療にあたって
は,心不全の病態と重症度を分析し,まず特異的
な治療を施行すべき疾患を判別していく.
⑤ 利尿薬,各種血管拡張薬,カテコラミン系強心薬,
PDE 阻害薬,アデニル酸シクラーゼ賦活薬等を
使用する.
とする.
⑦ 血行動態に対しては,⑤の薬剤を使用する.重症
例,治療抵抗例では IABP 等の適応を判断する.
⑧ 急性心不全の初期診療の要点をに表記する.
1
定義 106)
急性心不全とは,
「心臓に器質的および / あるいは機能
的異常が生じて急速に心ポンプ機能の代償機転が破綻
し,心室充満圧の上昇や主要臓器への灌流不全を来たし,
それに基づく症状や徴候が急性に出現した状態」をいう.
急性心不全の 6 病態の血行動態的特徴を表 19 に示す.
2
診断と重症度評価 106)
急性心不全の診断手順とそれらに応じた初期治療を示
す(図 26).心不全の程度や重症度を示す分類には,自覚
表 19 急性心不全の各病態の血行動態的特徴
収縮期
平均肺動
心係数
血圧 mmHg
脈楔入圧
低下
低下
上昇 / 低下
軽度上昇
正常 / 上昇 正常 / 上昇
Killip Forrester
分類 分類
通常は上昇
上昇
上昇 / 低下
上昇
Ⅱ - Ⅳ Ⅱ - Ⅲ あり / 低下 あり / なし
③急性肺水腫
上昇
低下
正常 / 上昇
低下
上昇
④心原性ショック
④─ 1 低心拍出量症候群
④─ 2 重症心原性ショック
上昇
>90
低下 / 正常
<90
低下
低下
⑤高拍出性心不全
上昇
上昇 / 低下
上昇
低下が多い
低下
低下
心拍数 / 分
①急性非代償性心不全
②高血圧性急性心不全
⑥急性右心不全
Ⅱ
Ⅲ
Ⅱ
Ⅱ/Ⅳ
利尿
末梢循環
不全
あり / 低下 あり / なし
あり
あり / なし
上昇
Ⅲ-Ⅳ Ⅲ-Ⅳ
低下
あり
上昇
Ⅳ
Ⅳ
乏尿
著明
上昇
Ⅱ
Ⅰ-Ⅱ
あり
なし
あり / なし
低下
Ⅰ
Ⅲ
あり / 低下 あり / なし
重要臓器
血流低下
なし
あり
中枢神経症状
なし / あり
あり
あり
なし
あり / なし
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1411
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
図 26 急性心不全への対応
急性心不全
診断へのアプローチ
診断確定
診断に基づく治療
急性蘇生の必要性
あり
なし
BLS ACLS
不穏状態,疼痛
あり
なし
沈静。鎮痛緩和
動脈酸素飽和度 >95%
低下あり
なし
FiO2 ↑;必要により酸素投与,NIPPV,IPPV
肺うっ血あれば血管拡張薬,利尿薬
正常心拍数および調律
異常あり
なし
ペーシング,不整脈対策他
収縮期血圧 <90mmHg
低下なし
あり
血管拡張薬および利尿薬
適切な前負荷条件
問題あり
なし
不十分 → 補液
過剰 → 利尿薬および血管拡張薬
問題あり
なし
強心薬,さらなる後負荷の調整
経過観察,血行動態の評価を繰り返す
観血的血行動態モニター
心拍出量保持,臓器灌流維持を示す臨床状況
代謝性アシドーシスのあるなし
症状から判断する NYHA(New York Heart Association)
図 27 急性心不全の臨床病型
うっ血の有無
心機能分類,急性心筋梗塞(acute myocardial infarction;
起座呼吸,頸静脈圧上昇
浮腫,腹水,肝頸静脈逆流
AMI)では他覚所見に基づく Killip 分類,そして血行動
により判断する Forrester 血行動態サブセットがある.さ
らの「Warm/Cold・Dry/Wet」クリニカルプロフィール
分類が活用されている.すなわち,起坐呼吸,頚静脈圧
上昇,浮腫,肝腫大,腹水,肺ラ音,第Ⅲ音聴取等の臨
床所見によりうっ血の有無を判断(Dry/Wet),脈圧狭
小化,四肢冷感,意識障害,血圧低下,低 Na 血症,腎
低灌流所見の有無
らに,身体所見から血行動態臨床像を分類する Nohria
機能障害合併から末梢低灌流(Warm/Cold)を判断して,
4 つの臨床プロフィールに分類し,治療指針を決定する.
Nohria の臨床プロフィール分類は,Forrester の血行動
態サブセットを「Dry/Wet・Warm/Cold」により再構築
3
脈圧減少,四肢冷感,傾眠傾向,
血清 Na 低下,腎機能低下
態指標,特に心係数(CI)および肺毛細管圧(PCWP)
なし
あり
Dry-warm: A
Wet-warm: B
なし
あり
利尿薬
血管拡張薬
Dry-cold: L
Wet-cold: C
輸液
強心,昇圧薬
血圧正常: 血管拡張薬
血圧低下: 強心,昇圧薬
機械的補助
急性心不全患者のモニタリング
したものであり,うっ血が主徴である Wet プロフィール
の群に対してはニトログリセリン,硝酸イソソルビド,
カルペリチド等の血管拡張薬や利尿薬を選択し,末梢低
灌流が主徴である Cold プロフィールの群に対してはド
ブタミン,ドパミン,ミルリノン等の強心薬の選択を,
Cold & Wet プロフィールの群に対しては両者の併用を
適宜検討する(図 27)
.
急性心不全患者のモニタリング
クラスⅠ
心電図モニター,血圧,パルスオキシメータ
ー(SaO2)(レベル C).
クラスⅡ a
Swan-Ganz カテーテルによる血行動態の測
定:急性心筋梗塞による心不全(レベル B).
Swan-Ganz カテーテルによる血行動態の測
定:血行動態が不安定な場合(レベル B).
1412
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
動脈圧ライン:血行動態が不安定な場合(レ
高血圧緊急症,大動脈閉鎖不全,僧帽弁逆流
ベル C).
による急性心不全に対するニトロプルシド静
心エコー・ドプラ法による血行動態の推定(レ
脈内投与(レベル C).
ベル C).
著明な高血圧を伴う急性肺水腫に対する Ca
拮抗薬(レベル C).
クラスⅡ b
中心静脈ライン(レベル C).
病態が明らかではない症例や重症例の場合には Swan-
Ganz カテーテルを用いた血行動態の管理が勧められる.
4
治療方針
106)
①新規発症心不全
急性心不全では入院治療が原則であり,自覚症状の
軽減,低酸素血症の改善,血行動態・循環不全の改善
と安定化が急務とされる.初期治療にあたっては,心
不全の病態と重症度を分析し,まず特異的な治療を施
行すべき疾患(AMI に対する責任冠動脈再開通療法,
高度房室ブロックに対する心臓ペーシング,重症心室
性不整脈に対する薬物および非薬物療法,心タンポナ
ーデ,肺血栓塞栓症等)を判別していく.
急性心不全の治療では,利尿薬(フロセミド等)は
浮腫,肺うっ血の軽減と前負荷軽減に,各種血管拡張
薬はそれぞれ,前負荷軽減(硝酸薬),後負荷軽減(ニ
トロプルシド,ヒドララジン,Ca 拮抗薬),前・後両
負荷軽減(カルペリチド)に有効である.心拍出量低
下状態に対しては,カテコラミン系静注用強心薬(ド
パミン,ドブタミン)や,強心作用と血管拡張作用を
併せ持つ PDE 阻害薬(ミルリノン,オルプリノン),
アデニル酸シクラーゼ賦活薬(コルホルシンダロパー
ト)は卓越した血行動態改善効果を示す.しかし,最
近の報告では,従来想定されていた治療目標としての
速やかな血行動態の改善(肺毛細管圧低下と心拍出量
増大)が,必ずしも中・長期的予後の改善をもたらす
わけではないことが報告されている.
②急性心原性肺水腫の治療
クラスⅠ
酸素投与(SaO2 > 95 %,PaO2 > 80mmHg を
維持)(レベル C).
硝酸薬(舌下,スプレー,静注)投与(レベ
ル B).
フロセミド静注(レベル B).
血圧低下例に対するカテコラミン静脈内投与
(レベル C).
著明な高血圧を伴う急性肺水腫に対するルー
プ利尿薬(レベル C).
著明な高血圧を伴う急性肺水腫に対するカル
ペリチド(レベル C).
NIPPV 抵抗性,意識障害,喀痰排出困難な
場合の気管内挿管による人工呼吸管理(レベ
ル C).
クラスⅡ a
NIPPV(レベル A).
カルペリチド静脈内投与(レベル B).
PDE 阻害薬静脈内投与(非虚血性の場合)
(レ
ベル A).
慢性期移行におけるトラセミド投与(レベル
C).
アデニル酸シクラーゼ賦活薬(非虚血性の場
合)(レベル C).
クラスⅡ b
PDE 阻害薬静脈内投与(虚血性の場合)(レ
ベル A).
腎機能障害合併例に対するカルペリチド静脈
内投与(レベル B).
モルヒネ静注(レベル B).
アデニル酸シクラーゼ賦活薬(虚血性の場合)
(レベル C).
クラスⅢ
腎機能障害,高 K 血症合併例に対する抗アル
ドステロン薬投与.
高血圧緊急症に対するニフェジピン舌下(レ
ベル C).
病歴の聴取と左室容量負荷サイン(心室性ギャロッ
プ,肺野:湿性ラ音,胸部 X 線:肺うっ血所見)によ
り治療の開始を判断すべきであり,収容とともに鼻カ
ニューレやフェースマスクによる酸素投与を開始し,
SaO2 > 95 ~ 98%(PaO2 > 80mmHg)を維持するよう
に管理する.それでも PaO2 が 80mmHg 未満,あるい
は PaCO2 が 50mmHg 以上に上昇している場合や,頻
呼吸,努力性呼吸等臨床症状の改善が認められない場
合には,速やかにマスクによる CPAP や,鼻,顔マス
クを用いた BiPAP 等の NIPPV を開始する.このよう
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1413
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
な場合,従来は,気管内挿管による人工呼吸管理が行
われてきたが,NIPPV の導入は自覚症状の軽減と動
急性心不全の初期診療 106)
5
脈血酸素化,血行動態の改善に効果的である.それで
急性心不全の初期診療の要点をまとめて表 20 に列記
も呼吸不全が改善しない場合,人工呼吸管理とする.
する.
さらに肺うっ血を伴う血行動態に対しては,硝酸薬
[ニトログリセリン,硝酸イソソルビド(舌下,スプ
3
急性肺血栓塞栓症
レー,静注)]やフロセミド静注が第一選択とされる.
血管拡張作用と利尿作用の両者を併せ持つカルペリチ
ドも有効である.肺うっ血のみならず心拍出量低下を
伴う場合には,ミルリノン,オルプリノン等の PDE
阻害薬やアデニル酸シクラーゼ賦活薬(コルホルシン
ダロパート)が血行動態改善に奏効する.しかし,前
述のごとく,血行動態改善効果に優れるミルリノンは,
必ずしも入院期間の短縮や予後の改善をもたらすわけ
ではなく,むしろ基礎疾患が虚血性の場合には不利に
なることが報告された.基礎疾患や病態に応じた強心
薬の適応と至適投与量,投与期間の設定が重要と考え
られるものの,血圧低下症例や心拍出量低下症例等に
はカテコラミン製剤の併用が必要である.
さ ら に 重 症 例, 治 療 抵 抗 例 で は 人 工 呼 吸 管 理,
IABP 等の適応を判断する.モルヒネは肺うっ血の軽
減,鎮静に有効であるが,急激な血圧の低下,呼吸抑
制,アシドーシスの進行等に注意する.著明な高血圧
を認める場合は Ca 拮抗薬,ニトロプルシド,硝酸薬
等の点滴投与により降圧を図る.
③心原性ショックの診断
治療はⅣ -4 を参照.
① 急性肺血栓塞栓症(PTE)の診断は,発症状況,症
状,検査による.D ダイマーが正常範囲であれば
PTE は否定的である.心エコーでの右心室の拡大
と心室中隔の扁平化は右室圧上昇を示唆する.
② PTE が強く疑われたら,ヘパリン 5,000 単位を静
注する.抗凝固薬や血栓溶解薬による薬物療法の
他にカテーテル治療や手術治療も考慮する.
③ 日常生活動作が低下している人,検査や術後に安
静解除となった人,心疾患や肺疾患のない人が突
然心肺停止になった場合には,PTE の可能性を念
頭におく.
④ 心肺蘇生例では PTE の身体所見や検査所見が心
収縮能低下,心室内伝導障害等で大きく修飾され
やすい.
⑤ ヘパリン bolus 投与後に tPA(モンテプラーゼ)
を静脈内投与する.血行動態が安定しない場合は,
早めに PCPS を作動する.
⑥ 確定診断は MDCT や肺動脈造影による.診断確
定後の治療方法は薬物治療,カテーテル治療,緊
急肺血栓摘除術となる.
表 20 救急処置室での初期治療
呼吸管理
気道確保:クラスⅠ,レベル C
酸素投与:クラスⅠ,レベル C
酸素投与のみで酸素か不十分な場合の NIPPV
(CPAP,BiPAP)
:クラスⅡ a,レベル A
酸素投与のみで酸素か不十分な場合の気管内挿管:クラスⅠ,レベル C
基礎疾患の治療 急性心筋梗塞に対する再灌流療法:クラスⅠ,レベル A
(可能な場合) 急性大動脈解離に対する外科治療:クラスⅠ,レベル C
徐脈性不整脈に対する一時的ペーシング:クラスⅠ,レベル C
心タンポナーデに対する心膜穿刺ドレナージ:クラスⅠ,レベル C
急性心不全の各 硝酸薬舌下,スプレーまたは静脈内投与:クラスⅠ,レベル B
病態に応じた薬 心停止時のアドレナリン(エピネフリン)静注:クラスⅠ,レベル B
物治療
急性肺水腫に対する利尿薬静注:クラスⅠ,レベル C
著明な高血圧を伴う肺水腫におけるニトログリセリン,Ca 拮抗薬,ニトロプルシド静注による降圧:クラスⅠ,
レベル C
心原性ショックに対するカテコラミン:クラスⅠ,レベル C
薬物治療で循環動態が改善しない場合の補助循環:クラスⅠ,レベル C
救急処置室での初期治療後,急性冠症候群の治療のために速やかに CCU へ搬送:クラスⅠ,レベル C
モルヒネ静注:クラスⅡ b,レベル B
高血圧緊急症のニフェジピン舌下:クラスⅢ,レベル C
心停止時の心腔内注射:クラスⅢ,レベル C
1414
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
図 28 肺血栓塞栓症(PTE)診療アルゴリズム
心肺蘇生後で自己心拍出現
日常診療
発症状況,身体所見,ECG,CXP,
ABG から PTE を疑う
発症状況,身体所見,検査所見
(ECG,CXP,ABG,UCG,静脈
エコー)から PTE を疑う
ヘパリン 5,000U クラスⅠ
ヘパリン 5,000U クラスⅠ
UCG で右室負荷
あり
なし
ヘパリン APTT1.5∼2.5 倍
tPA 13,750~27,500U/kg
D ダイマー 高値
PTE 以外の
原因検索
あり
MDCT や肺動脈造影その他
の確定診断を行う
血行動態
安定
不安定
可能であれば
確定診断
を行う
なし
PTE 以外の
原因検索
深部静脈血栓があれば
PCPS
非永久留置型 IVC フィルタークラスⅡa
可能であれば
薬物療法 クラスⅠ
カテーテル治療 クラスⅡb
肺血栓摘除術 クラスⅡb
肺血栓摘除術 or
カテーテル治療 or
薬物療法
非永久留置型
IVC フィルター
⑦ 発症直後の二次予防は,抗凝固療法と下大静脈フ
ィルターを考慮する.弾性ストッキングや間歇的
空気圧迫法は,血栓を血管壁から剥離する危険性
がある.
よる人口動態調査 109)や剖検例からみた年齢調整死亡数
でも増加 110)している.全国アンケート調査では,PTE
の院内死亡率は 14 %であるが,心肺停止例の死亡率は
52.4 % 111),112)と心肺停止での死亡率は極めて高率とな
る.また,周術期 PTE 発症頻度は医療側の予防意識の
循 環 器 救 急 で 急 性 肺 血 栓 塞 栓 症(pulmonary
向上により低下したが,その死亡率には未だ低下がみら
thromboembolism:PTE)に対応する場面には,通常の
れていない 113).
診療と心肺停止後の自己心拍再開時がある.
1
通常診療時における PTE の診断・
治療の流れ(図 28 右)
3
突然死の病態
PTE による死亡例の時間経過を見ると,PTE の死亡例
は発症早期,特に 1 ~ 2 時間以内で死亡することが特徴
PTE の症状は,無症状から呼吸困難,ショック・失神,
といえる114)-118).突然死例における肺動脈内新鮮血栓は,
心肺停止に至るまで多彩であり,急性心不全,急性呼吸
肺動脈主幹部ないし左右肺動脈の本幹に存在し,ほとん
不全,不整脈,大動脈解離,虚血性心疾患等との鑑別が
どの例で右心室の拡大と心室中隔の扁平化が認められ
必要である
107)
.発症状況や身体所見から PTE が鑑別対
る.これは PTE の死因は,新鮮血栓が突然肺動脈近位
象となり,胸部 X 線,心電図,血液ガス,心エコー,静
部を閉塞して急性右心不全を来たし,左室を圧排すると
脈エコー等の検査により本症が強く疑われたら,ヘパリ
同時に前負荷が減少し,心拍出量が著しく低下すること
ン 5,000 単位の静注が勧められる(クラスⅠ).D ダイマ
が直接死因であることを示している.また,院外突然死
ーが正常範囲であれば PTE は否定的であり,高値であ
例では,肺動脈内に器質化血栓を合併しており,繰り返
れば積極的に MDCT や肺動脈造影等に進む.治療法は
し肺塞栓が生じている 119)ことが報告されている.
抗凝固薬や血栓溶解薬が一般的であるが,カテーテル治
療や手術治療に関する成績も近年向上している.
2
PTE の発症頻度と死亡率
4
救命処置と併行した診断(表 21,図 28 左)
救急現場では蘇生と併行して原因検索が行われる.発
症状況としては,日常生活動作が低下している人,また,
我が国の統計によると 2000 年の一般人口 1 万人当た
心疾患や肺疾患のない人が突然心肺停止になった場合に
りの PTE の発症頻度は 0.32 例
は,PTE の可能性をまず念頭におく.特に検査や手術後
108)
であり,死亡診断書に
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1415
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
表 21 急性肺血栓塞栓症の身体所見および緊急検査所見
身体所見
胸部 X 線
心電図
頸静脈怒張,Ⅱ音亢進,肺ラ音なし,頻脈
肺うっ血なし,炎症像なし
S Ⅰ Q Ⅲ T Ⅲ ,右脚ブロック,V1 − 3 の陰性 T 波,
aVR の r’ 波,V6 の S 波
血液ガス
低酸素血症,低炭酸ガス血症
心エコ−
右心拡大,左室狭小化,右心内血栓,右室圧上
昇
D ダイマー 高値
の安静解除後の院内急変は,PTE によることが多い.
身体所見としては頸静脈怒張,肺ラ音がない頻脈およ
はクラスⅡ a).
血栓溶解薬は心肺蘇生中に使用されなくても,心肺停
止例では自己心拍再開後早期に使用することが勧められ
る.1995 年のショック例に対する無作為試験において,
ヘパリンのみでは全例死亡,線溶療法を加えた群では全
例生存との結果が得られ,8 例施行した時点で倫理的見
地から中止された報告 126)があり,その後ショック例
(massive PTE)に対する線溶療法は欧州のガイドライン
でも推奨 127)されている.穿刺部や手術創部からの出血
びⅡ音の亢進に留意する.心電図では S Ⅰ Q Ⅲ T Ⅲ,完全
は当然起こりうる現象であるが,PTE による心肺停止例
ないし不完全右脚ブロック,V1 ~ 3 の陰性 T 波,aVR の r'
の救命率向上の手段として,線溶療法は選択肢として評
波,SV6,V1 ~ 2 の ST 上昇等が急性右心負荷の際に認め
価 115)されている.ただし,その効果や合併症について,
られやすい.急性冠症候群との鑑別にⅢと V1 の陰性 T
十分に家族に説明しておくことが大切である.
波が有用との報告
120)
もある.胸部 X 線では肺うっ血が
ないこと,血液ガス所見では低酸素低炭酸ガス血症等で,
6
PCPS 使用の場合
本症を疑う.しかしながら,心肺蘇生例では,心音は聴
薬物投与後もショックが遷延して血行動態が安定しな
取し難く,蘇生直後の心電図では急性右心負荷所見は認
い場合は,時機を失せず PCPS を作動する(図 28 左).
め難くなる.また,血液ガスも判定困難となり,最も有
PCPS は循環虚脱・ショック例に対して効果が大きい補
用なベッド・サイドの検査は心エコー図である.経食道
助循環である.PCPS 使用下では肺血流量が低下するた
心エコーが緊急施行可能であれば,肺動脈内に血栓を検
め肺動脈造影が不良となりやすく,効果的な造影剤注入
出することで診断確定となる.急激に右室圧が上昇によ
方法や撮像方法が模索されている.診断確定後の治療方
る右心拡大が認められれば,PTE 疑いとして心肺蘇生中
法は緊急肺血栓摘除術,カテーテル治療,薬物治療とな
であっても,ただちに治療を開始することが望まれる.
るが,この 3 方法の優劣を比較した報告はなく,各施設
において実績のある方法ないし短時間で実施しうる方法
薬物治療(図 28 左)
5
が選択されている.
PTE が疑われた段階でのヘパリン 5,000 単位を bolus
PTE の手術治療が施行可能な施設は我が国では比較的
投与(クラスⅠ)する.これに加えて心肺停止例にも線
限られている.その成績は,1999 年から 2003 年にかけ
溶療法の追加
115)
が考慮される.心肺蘇生術施行例に対
ては 9.3 %~ 31.3 %(平均 20.4 %)の死亡率 128)である.
する血栓溶解薬の使用は,出血性合併症が多く禁忌と考
世界的に見ても PTE に対する手術成績 129)は 1985 年以前
えられていたが,Boettiger らは 14 文献から 34 症例の調
の死亡率は 32%,それ以降は 20%であり,2000 年以降
査を行い,心肺蘇生中にウロキナーゼ 200 ~ 300 万単
のみでみると 12 %と確実に向上している.カテーテル
位の bolus 投与ないし組織プラスミンアクチベーター
治療 107)には肺動脈血栓内にカテーテルを直接入れて行
(tPA)を使用することによる初期救命率が 55 ~ 100%と
う血栓溶解,PCI 用のガイドカテーテルや専用カテーテ
した.さらに,15 分以内に蘇生できなかった心
ルを用いた血栓吸引 130),ピッグテイルカテーテルやガ
原性院外心停止 90 例を対象した前向き試験では,ヘパ
イドワイヤーを用いた血栓破砕等が行われる.また,こ
リン 5,000 単位投与後に tPA50mg を 2 時間かけて静注を
れらを組み合わせた方法 131)も試みられている.カテー
行い 68 %に自己心拍が回復し,対照群の 44 %と比して
テル治療施設は増加しつつあり,今後の評価が期待され
有意に高率であったと報告 122)されている.tPA100mg に
る.これらの方法に比してショック遷延例であっても薬
報告
121)
よる線溶療法は有用性でないとの報告もあるが
1416
ら PTE が強く疑われる場合,蘇生中や直後の線溶療法
123)
,tPA
物療法を第一選択とする施設は多い.FDA は tPA100mg
使用例により自己心拍回復率が上昇するとの報告も多
を 2 時間かけて静脈内投与する方法 107)を承認している.
い 124),125).我が国では PTE に対して保険収載されている
蘇生中ないし直後に tPA が使用されていたら,1,400 単
tPA はモンテプラーゼのみであり,線溶療法としては
位 / 時のヘパリン持続静注を開始し,その後は APTT が
13,750 ~ 27,500 単位 /kg を約 2 分間かけて静脈内投与す
1.5 ~ 2.5 倍になるように調節 107)する方法が一般的であ
ることとなる.(器質的心疾患や肺疾患がなく,状況か
る.これらの治療により血行動態が安定したら,二次予
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
防を考慮した急性期管理へと移行する.
7
PCPS 非使用の場合
① PCPS を常備していない施設の場合
急性期管理中に再発を思わせる症状の発現頻度は,非
永久留置型下大静脈フィルターを使用することにより減
少するとの報告 133)がみられる.また,下大静脈フィル
ターの使用は予後改善に効果があるとの本邦報告 112)も
ある.下大静脈フィルターの永久留置は静脈血栓を生じ
救急現場では物的,人的理由で PCPS を使用できな
やすくすることが知られており 134),かつ,PTE では長
い場合がある.その場合,心肺蘇生後速やかにヘパリ
期留置の必要性がないことが多い.したがって,急性期
ンと tPA を投与し,少しでも血行動態が改善すること
に下大静脈フィルターを使用する際には,回収可能型な
を期待する.ショック例では二次予防のため,できる
いし一時留置型フィルターを使用することが望ましい.
だけ早期に非永久留置型下大静脈フィルターを挿入す
る施設が増えている(クラスⅡ a).その後自施設で
心肺蘇生後超急性期における PTE における我が国の
管理するか,しかるべき専門施設に搬送するかを決定
エビデンスは極めて少ない.心肺停止例においては症例
する.安定しない場合では,設備があり経験を有する
ごとの病態は大きく異なり,対応する病院の状況も様々
術者がいれば早期のカテーテル治療も選択肢となる.
であるため,実際の診断や治療は必ずしもガイドライン
②血 行動態が比較的安定し PCPS を作動しなくて
もよい場合
確定診断を進めるとともに,二次予防を考慮する.
通りとはならず,専門施設への転送含めて現場に即した
柔軟な対応が求められる.
4
心タンポナーデ
心エコー図にて右心内ないし肺動脈内に血栓を認めた
場合,または,MDCT や肺動脈造影で肺動脈内に血
栓を確認した場合には診断は確定する.心肺蘇生後血
① 心タンポナーデでは,心外膜に血液や滲出物等,
心室拡張不全により静脈圧の上昇と心拍出が低下
行動態が比較的安定した場合の治療は,tPA とヘパリ
し,無脈性電気的活動の原因となる.心嚢液貯留
ンを使用する薬物療法が基本となる.全身状態や肺動
の速さと心外膜のコンプライアンスにより少量の
脈圧の改善の状態,また肺動脈内血栓量を鑑みて,各
施設の方針によりカテーテル治療や肺血栓摘除術を選
択する場合もある.診断確定されたら速やかに二次予
防法を検討する.
8
貯留でもタンポナーデを生じる場合がある.
② 静脈圧の上昇,頻脈,奇脈等の所見のほかに心エ
コーが診断に有用である.
③ 補液やエコーガイドの心嚢穿刺を行う.急性大動
脈解離,心筋梗塞後心破裂や外傷等による出血性
二次予防について
のタンポナーデでは,基本的に外科的な修復が必
PTE の発症直後の二次予防に関するエビデンスはな
要である.
い.一次予防法である弾性ストッキングや間歇的空気圧
迫法は,急性期には残存する深部静脈血栓が血管壁から
剥離する危険性があるため使用しない施設が多い.二次
予防法としては,抗凝固療法は,禁忌がなければ全例に
1
心タンポナーデの血行動態と
病態生理
行われるが,下大静脈フィルターについては特にショッ
心タンポナーデは,心外膜に血液や膿性滲出物等の貯
ク例では原則全例に使用すべきとの見解と,MDCT や
留や凝血塊等により,心室拡張不全により静脈圧の上昇
静脈エコーで深部静脈血栓がなければ下大静脈フィルタ
と心拍出が低下し,無脈性電気的活動(PEA)の原因と
ーは不要との見解がある.前者の考えは発症早期には
なる致死的な状態である.その原因として,急性大動脈
82%と高率に残存深部静脈血栓を認める 132)ため,確実
解離,心筋梗塞後心破裂,外傷,開心術後,カテーテル
性の高いフィルターを留置し,全身状態が許す限りでき
治療や人工ペースメーカ植込み等の医原性,悪性腫瘍,
るだけ早期に,日常生活動作(ADL)を上げて静脈う
感染性,自己免疫性,アミロイドーシス,甲状腺機能低
っ滞を回避して,深部静脈血栓の形成を予防すべきとい
下,腎不全等がある(図 29).大量の心嚢液によること
うものである.後者の考えは,十分な抗凝固療法下では
が多いが,心嚢液貯留の速さと心外膜のコンプライアン
深部静脈血栓がなければ肺塞栓の再発は少ないので,フ
スにより少量の貯留でもタンポナーデを生じる場合があ
ィルターは不要というものである.
る.正常の右房内圧の測定では,x,y 下行谷を示すが,
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1417
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
M モードもしく断層心エコーによる評価として⑴心
図 29 心タンポナーデの診療
図B
図A
外膜のエコーフリースペース,時に血腫の存在,⑵拡張
早期の右室の虚脱,⑶下大静脈(IVC)拡張と呼吸性変
動の消失,⑷右心房の収縮期の虚脱,⑸吸気時左室容量
減少,右室容量増加,⑹心臓の振り子様運動(swinging
heart)があるが,最も重要な所見は⑵と⑶である 137).
ドプラ法による評価としては,心室への流入波形の呼吸
性変動を見る.すなわち,僧帽弁流入波形は吸気で減少
し呼気で増加するが,その変動率が 25 %以上,もしく
原因 急性大動脈解離,心筋梗塞後心破裂,外傷,開心術後
カテーテル治療や人工ペースメーカ植込等の医原性
悪性腫瘍(原発,転移性,リンパ腫)
感染性
自己免疫性,Dresslers 症候群,薬剤性,放射線性
甲状腺機能低下,腎不全 ,アミロイドーシス
身体所見 Beck3 徴:動脈圧の低下,静脈圧の上昇 心音減弱
頻脈
奇脈:吸気時の血圧低下≧ 10mmHg
心エコー図診断 1 エコーフリースペース(図 A)
,時に血腫
2 拡張早期の右室の虚脱(図 B 矢印)
3 下大静脈(IVC)拡張と呼吸性変動の消失
4 右心房虚脱
吸気時左室容量減少,右室容量増加
5 心臓の振り子様運動 swinging heart
6 ドプラ法
僧帽弁流入波形:吸気↓呼気↑,変動率≧ 25%
三尖弁流入波形:吸気↑呼気↓,変動率≧ 40%
心タンポナーデでは,平均右房圧の上昇と y 下行谷の消
失示す.右室圧と体血圧の呼吸性変動は正反対となり,
は三尖弁流入波形が吸気で増大し呼気で減少するが,そ
の変動率が 40%以上であれば心タンポナーデとする 154).
ただし,これらの心エコー所見は脱水の状態では欠如す
ることがある.また,開心術や外傷後には心膜の癒着や
特に右心系に限局性した凝血塊がタンポナーデを来た
す.このような場合には心嚢穿刺による解除は困難であ
り,緊急の開心術が必要となる 138).
心電図所見では低電位と交代性に QRS 電位が変動す
ることがある.
3
心タンポナーデの治療
心タンポナーデの治療
クラスⅠ
補液(レベル C).
エコーガイド心嚢穿刺(レベル C).
外科的手術(レベル C).
クラスⅡ a
血圧維持のための昇圧剤投与(レベル
吸気で血圧は低下し右室圧は上昇し,呼気ではその逆と
なる 135).
2
クラスⅡ b
心タンポナーデの診断
非エコーガイド心嚢穿刺(レベル C).
クラスⅢ
心タンポナーデの診断
利尿薬投与(レベル C).
クラスⅠ 身体所見による診断静脈圧の上昇,頻
脈,奇脈(レベル C).
心エコーによる診断(レベル C).
クラスⅡ a スワン・ガンツカテーテルによる心内
圧測定(レベル C).
脱水は,心タンポナーデの状態を悪化させる.また,
十分な輸液をしたうえでカテコラミンの使用も考慮する
が,そのために心嚢穿刺を遅らせてはならない.
非エコーガイドの心嚢穿刺では,剣状突起―肋骨角の
左側から穿刺することが勧められていたが 154),その場
クラスⅡ b 心電図診断(レベル C).
1418
C).
合には致死的合併症が 20 %前後生じるのに比して,エ
古典的な Beck 三徴は,血圧低下,静脈圧の上昇,心
コーガイドとすることで主要合併症は 1.4%まで低下す
音減弱であるが,実際に重要な所見は,静脈圧の上昇(頻
る 139).エコーガイドでは穿刺部位として,傍胸骨や心
度 100%),頻脈(≧ 100 bpm; 81 ~ 100%),奇脈(吸気
尖部を選択することが多い.穿刺針の位置が明らかでな
時 の 血 圧 低 下 ≧ 10mmHg; 98 %) で あ る
い場合には,用手撹拌した生理食塩水等を注入してエコ
136)
. な お,
Kussumal sign(吸気時の静脈圧上昇)は,収縮性心外
ーで確認する.心嚢穿刺用キットも存在するが,中心静
膜炎の所見である.
脈カテーテルキットやピッグテイルカテーテルを用いて
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
もよい.穿刺液は,血球数,ヘマトクリット,細菌染色,
差なくあらゆる年代に発症するが,若年者と小児に多い
細菌培養,細胞診断等を解析する.
傾向がある.感染症あるいは全身性炎症性疾患所見とと
急性大動脈解離,心筋梗塞後心破裂や外傷等による出
もに心筋逸脱物質が上昇する.心筋傷害を反映した心電
血性のタンポナーデでは,基本的に外科的な修復が必要
図異常が短期間に変化することが心筋炎の特徴である.
であり,心嚢穿刺は血行動態の一時的な改善により手術
心不全あるいは不整脈を伴い,重症例はショックあるい
までの時間を稼ぐだけである 140).
は突然死に至る.心筋炎の重症度は様々であり,軽い動
心タンポナーデの状態で心不全と誤診されて利尿薬を
悸を訴えるだけの軽症例から致死的な劇症型心筋炎まで
投与されると急激に血行動態が悪化することがあり注意
幅広く,また軽症例が短期間に重症化することもまれで
を要する.
ない.
5
急性心筋炎
2
症状と経過
心筋炎では,発熱とともに全身倦怠感,悪心,嘔吐,
① 心筋内の炎症によって心筋細胞壊死と心臓ポンプ
機能障害が引き起こされる病態を急性心筋炎と呼
ぶ.
② 感染症あるいは全身性炎症性疾患を反映する病歴
と検査所見を認め,心筋壊死を反映して血中の心
筋逸脱物質が上昇する.心電図所見が短期間に変
化することが特徴である.心不全あるいは不整脈
が現れ,重症例はショックあるいは突然死に至る.
③ 心筋炎の診断には,虚血性心疾患等他疾患の鑑別
と,心筋炎を確認するための心内膜心筋生検が重
要である.
④ 循環を維持する初期治療を行いながら集中治療が
可能な施設への搬送を検討する.特に,ショック,
房室ブロック,致死性不整脈,低血圧遷延,CPK
上昇の持続,R 波減高の持続,心室内伝道障害,
左室壁運動異常の進行を認める場合は集中治療が
必要である.
⑤ 好酸球性心筋炎と巨細胞性心筋炎はステロイド治
療の適応.リンパ球性心筋炎の場合はステロイド
治療の適応はなく,血行動態を管理する.肉芽腫
性心筋炎ではサルコイドーシスを疑い全身検索を
進め,診断が確定すればステロイド治療を行う.
⑥ 劇症型心筋炎によるショックでは大動脈内バルー
ンパンピングに加えて積極的に経皮的心肺補助装
置を装着する.
1
急性心筋炎とは
腹痛,下痢等全身症状が先行し,その後に咳嗽,全身衰
弱,フラツキ等が現れ,続いて胸痛,低血圧,失神,シ
ョック等の心症状が出現してくる 141).劇症型心筋炎で
は発熱からショックまでの期間が 2 ~ 4 日間と短いこと
が多く,全身症状期と心症状期の間に小康期間を認めな
いことが多い.急性期にはショックや心静止等の心臓ポ
ンプ機能障害が数日間(4 ~ 7 日間)続くが,やがて自
然治癒に向かう.炎症の消退とともに不整脈は減少し,
左室壁運動は改善する.心筋傷害の程度によって,後遺
症として不整脈や心機能障害を残すこともある.循環補
助装置を用いて管理された劇症型心筋炎の急性期死亡率
は 40.4 %と報告されている 141).逆に,心筋炎は突然死
の原因疾患として重要である.特に若年者や小児の突然
死では 5 ~ 20%が心筋炎を基礎疾患としていると報告さ
れている 142),143).院外心肺停止から蘇生された症例を診
療するときは,原因疾患の 1 つに急性心筋炎を考えてお
かなければならない.
3
診断
診断法の有用性
クラスⅠ (レベル C)
心筋生検.
クラスⅡ a(レベル C)
67
Ga シンチグラフィー.
造影 MRI.
総合判断(心筋傷害所見と,心電図およ
び心エコー図の経時変化).
心筋内の炎症によって心筋細胞壊死と心臓ポンプ機能
虚血性心疾患,感染症を契機に代償不全に陥った心筋
障害が引き起こされる病態を急性心筋炎と呼ぶ.原因は
症,タコツボ型心筋障害等を鑑別する.患者あるいは家
ウイルス感染が多いが,ウイルス以外の病原体による感
族から病歴を聴取し,全身症状期の有無を探る.心筋炎
染症やアレルギー反応,自己免疫反応,薬物や化学物質
にみられる心電図所見は ST-T 異常,房室ブロック,心
による中毒,放射線障害等でも発症することがある.性
室内伝導障害,R 波減高,異状 Q 波,低電位差,等であ
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1419
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
る 141).急性心筋梗塞と同様に ST 上昇を呈するが,心筋
断して再灌流療法の機会を逸さないことが重要である.
炎では広範な誘導に変化を認め,鏡像変化を認めない.
冠動脈造影で虚血性心疾患が否定できたら心内膜心筋生
また,短期間で刻々と心電図所見が変化する.血液検査
検で積極的に組織診断を確定することが望ましい.劇症
では血中トロポニン T と CK-MB 等の心筋逸脱物質が上
型心筋炎では 2 ~ 3 個の生検標本でも陽性的中率が高い.
昇する.また,心不全による BNP 上昇や炎症所見によ
また,リンパ球性心筋炎,好酸球性心筋炎,巨細胞性心
る CRP や白血球数上昇を認める.重症例で多臓器不全
筋炎,肉芽腫性心筋炎の各組織型によって治療法と予後
を呈すると腎障害,肝障害,播腫性血管内凝固症候群等
が異なる(図 31).
を呈してくる.心エコー図では
141)
,間質の炎症性浮腫
により左室壁厚が部分的に増加する.このとき心電図学
的左室肥大は伴わない.また,左室壁運動はびまん性に
低下し,特に壁厚が増加している領域の壁運動低下が強
い.壁厚と壁運動異常は短期間で刻々と変化する.また,
4
初期診療
劇症型心筋炎の治療法
クラスⅠ (レベル C)
循環補助療法(PCPS,IABP,人工心肺
心嚢液の貯留をしばしば伴う.心臓 MRI 検査では炎症
性浮腫を含む病変が T2 強調画像で濃染されることから
心筋炎の存在診断に利用されている.また,心筋炎では
ガリウムシンチグラムで集積像を認めることがあり,陽
性所見が得られたときは特異度が高いが,感度はあまり
装置),一時ペーシング.
クラスⅡ a(レベル C)
カテコラミン薬,PDE 阻害薬,ヘパリン.
クラスⅡ b(レベル C)
免疫グロブリン療法,カルペリチド.
高くない.急性期に心室頻拍,高度房室ブロック,心室
細動等の多彩な重症不整脈が繰り返し出現することがあ
る.心疾患の既往がない症例に,多彩な重症不整脈が繰
①救急外来での治療
り返し出現するときは,心筋炎を鑑別する必要がある(図
心筋炎に特異的な薬物療法はなく,血行動態の管理と
30).
不整脈の監視が中心となる.安定した静脈補液路を確
急性心筋梗塞と急性心筋炎は鑑別が困難なことがある
保する.意識と呼吸が安定していれば酸素吸入を開始
ので冠動脈造影で鑑別する.急性心筋梗塞を心筋炎と判
し,ドパミン,ドブタミン,PDE Ⅲ阻害薬等で血圧
図 30 心筋炎の診断
発熱,全身症状に続いて心症状が出現
1.新たな心病態(心電図異常,不整脈,心機能障害)の出現
2.心筋壊死を示す所見(CK,トロポニン)
いずれかあり
いずれもなし
虚血性心疾患や心筋炎を疑って入院
他の疾患を鑑別
1.心肺停止からの蘇生
2.ショック状態
いずれもなし 観察と治療を継続
3.房室ブロック,心室頻拍,心室細動
いずれかあり
地理要因,受け入れ態勢,
搬送困難
患者状態により可能であれば
専門病院へ搬送
冠動脈疾患の鑑別
除外できる
1.心臓 MRI で心筋炎を示唆する所見
2.心筋生検で陽性所見
3.ガリウムシンチグラムで集積
いずれかあり
心筋炎の臨床診断
1420
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1.治療後も血行動態が悪化
2.CK-MB が上昇傾向
3.R 波減高,心室内伝導障害が進行
いずれかあり 4.壁運動異状が悪化
いずれもなし
観察と治療を継続
冠動脈疾患確定
冠動脈疾患の治療
いずれもなし
原因検索と治療を継続
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
図 31 心筋炎の治療
心不全の管理,不整脈の監視,全身管理
1.致死的不整脈(心室頻拍,心室細動,心静止)が繰り返
し出現する
2.ショック状態から離脱できない
3.低拍出状態が遷延あるいは悪化し臓器障害が進行する
①意識障害
②尿量減少
③混合静脈血酸素飽和度低下
④一回拍出量係数低下
⑤ 代謝性アシドーシスの進行
いずれかあり
いずれもなく安定
循環補助療法
観察と治療を継続
行う.心筋炎では CK の上昇が数日間続き,最高値を
経た後の下降も緩徐である.この CK の変動は心筋炎
による心筋傷害の程度を反映していると考えられる.
CK が最高値を経て下降に転じてから 1 ~ 3 日後に左
室壁運動が改善し始める.壁運動の改善が確認できる
と心筋炎の極期が過ぎたと判断できる.
⑴ 監視
心電図モニターで不整脈を監視する.除細動器を
が進行する場合や,Ⅰ~Ⅱ度の房室ブロックが新た
成人
観察と治療を継続
心内膜心筋生検による組織診断
好酸球性心筋炎
巨細胞性心筋炎
肉芽腫性心筋炎
ステロイド,免疫抑制薬
集中治療室に収容したら,血行動態と不整脈の監視を
すぐに使えるように準備しておく.心室内伝導障害
年齢
小児
免疫グロブリン療法
③集中治療可能な施設での治療
リンパ球性心筋炎
に出現した場合,早めに一時ペーシングカテーテル
を挿入しておいた方が良い.心室頻拍や心室細動が
間断なく現れて血行動態が維持できないときは経皮
的心肺補助装置を装着する.血行動態の監視には血
圧,尿量,混合静脈血酸素飽和度,心拍出量を用い
観察と治療を継続
る.カテコラミン等の薬物療法を行っても収縮期血
圧を 90mmHg 以上に維持できないとき,末梢循環
不全により尿量が維持できないとき,混合静脈血酸
と心拍出量を維持する.意識が低下している場合と血
素飽和度が 60 %以上を維持できないとき,一回心
行動態が不安定な場合は気管内挿菅のうえ人工呼吸を
拍出量係数 20mL/m2 以上を維持できないときは経
開始する.循環補助装置の装着には両側大腿動静脈が
144)
皮的心肺補助装置の装着を考える(表 22)
.
必要になるので初期治療手技で同部を損傷しないよう
⑵ 心筋炎の診断確定
に注意する.
心臓カテーテル検査,冠動脈造影,心内膜心筋生
②集中治療可能な施設への搬送
検を行って診断を確定する(図 32).組織所見によ
り好酸球性心筋炎と巨細胞性心筋炎の診断が確定す
初期診療時点で心筋炎の重症度を予測することは難し
れば,ステロイド治療の適応がある.リンパ球性心
い.初診時の CK 値の上昇が軽度であっても,持続的
筋炎の場合はステロイド治療の適応はなく,血行動
に上昇し続け劇症型心筋炎に進展する場合がある.ま
態を管理しながら自然治癒を待つことになる.肉芽
た,心エコー図で心機能が保たれていても,心室頻拍
腫性心筋炎ではサルコイドーシスを疑い全身検索を
や心室細動が間断なく現れて血行動態が維持できなく
進め,診断が確定すればステロイド治療を行う.カ
なることがある.したがって急性心筋炎が強く疑われ
テーテル検査を行う際は,穿刺した血管をその後の
る症例は入院が必要であり,可能であれば循環補助療
法が実施可能な施設に搬送することが望ましい.特に,
カテコラミンの持続静注が必要な場合,人工呼吸管理
を要する場合,房室ブロックや心室頻拍が出現する場
合や血液検査での CPK の上昇の持続や経時的に心電
図で R 波減高や心室内伝道障害を認める場合,左室壁
運動異常が進行するときには搬送を急ぐ.房室ブロッ
クがみられたら,可能ならば速やかに一時ペーシング
を開始してから搬送する.
表 22 経皮的心肺補助装置の開始指標
致死的不整脈が繰り返し出現するとき
心室細動
心室頻拍
心静止
ショック状態から離脱できないとき
低血圧
臓器灌流低下を伴う低拍出状態が遷延するとき
意識障害
尿量減少
混合静脈血酸素飽和度低下 60%未満
一回心拍出量係数低下 20mL/ 分 /m2 未満
代謝性アシドーシスの進行
:1231-. より引用
和泉 徹他,Circ J 2004; 68(Suppl Ⅳ)
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1421
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
治療に用いるように配慮する.すなわち,大動脈内
ある.大規模臨床試験はなく,成人では有効性は証明さ
バルーンパンピング(大腿動脈),経皮的心肺補助
れていないが,小児では有効とする報告が多い.
装置脱血カテーテル(大腿静脈),送血カテーテル(大
腿動脈)の挿入に合わせた血管を穿刺する.また,
④小児の急性心筋炎
検査に引き続いて循環補助装置を用いない場合であ
小児の急性心筋炎も劇症型となることがある.診断と
っても,数時間後に緊急で装着が必要となることを
治療は成人と同じであるが,心筋生検,循環補助療法に
想定して,穿刺した血管路を確保しておく.
ついては体格の差に由来する制約がある.経皮的心肺補
⑶ 循環補助療法
助装置は様々な体格に合わせた装置が開発されているわ
劇症型心筋炎によるショックではポンプ機能障害
けではなく,またカテーテル挿入の血管も細いため使用
が著しく大動脈内バルーンパンピングだけでは血行
できないことがある.その場合は開胸下に人工心肺装置
動態を維持できないことが多い.また,大動脈内バ
を装着して血行動態を管理する.小児では心筋炎に対す
ルーンパンピングは心室頻拍や心室細動による血行
る免疫グロブリン大量療法が有効とする報告が多いが,
動態の破綻に対しては効果がない.循環補助療法が
大規模臨床試験で証明されているわけではない.
必要と判断したら躊躇なく経皮的心肺補助装置を装
着すべきである(図 32)
.一方,経皮的心肺補助装
6
電解質異常
1
正常値と計算式
置で管理する際は,後負荷の減弱,組織血流の拍動
流化,補助循環からの段階的離脱を目的に大動脈内
バルーンパンピングも併用する.一時的であっても
血行動態が破綻すると多臓器不全に至り腎不全を合
血清 K,Na,Mg,Ca の異常は,致死的な状況となり
併しやすい.腎不全に対しては持続血液浄化装置を
うる.電解質異常の診断と治療に必要な計算式(表 23)
用いて管理する.循環補助療法が長期化すると様々
を理解することは重要である.
な合併症が出現してくる.特にカテーテル挿入によ
る下肢虚血,出血,感染症,血栓症はコントロール
困難となることがあるため,循環補助療法開始時か
ら常に注意しておく必要がある.
血清カリウム値の異常
①高 K 血症の定義と症状
⑷ 追加治療
血清 K 値が 5mEq/L を超える場合である.脱力,上行
追加治療の有用性
性麻痺,呼吸不全を生じる.心電図変化が血清 K 濃度を
反映する(表 24).
クラスⅠ
なし.
クラスⅡ a(レベル C)
好酸球性心筋炎に対するステロイド治療.
プレドニゾロン 30mg/day.
クラスⅡ b(レベル C)
小児の急性心筋炎に対する免疫グロブリン
大量療法.
完全型免疫グロブリン製剤 2.0g/kg.
巨細胞性心筋炎に対する免疫抑制療法 145).
②高 K 血症の治療(表 25)
⑴ 「軽度」(5 ~ 6mEq/L)上昇では,体内からの
K 除去を目的とする.
ⅰ)利尿薬(フロセミド)静脈投与.
ⅱ)陽イオン交換樹脂をソルビトールに溶解し,
経口投与または保留浣腸する.
ⅲ)血液透析の可能性を考慮する.
⑵ 「中等度」(6 ~ 7mEq/L)上昇では,一時的に
血管内から細胞内へ K を移動させる.
心筋炎は血行動態の破綻を一定期間乗り切れば自然治
ⅰ)グルコース / インスリン療法.
癒が期待できる疾患であり,効果が確実な循環補助療法
ⅱ)重炭酸ナトリウム静脈投与.単独投与は,効果
を機会を逸することなく導入することが重要である.と
が低く,グルコース / インスリン療法やサル
ころが,循環補助療法を続けても心筋傷害が高度な場合
ブタモールの噴霧との併用が推奨される 146).
と自然治癒が遅延する場合は,様々な合併症により多臓
1422
2
ⅲ)サルブタモール 147)噴霧吸入.
器不全に陥ってしまう.急性期の心筋内の炎症を鎮静さ
⑶ 「重度」(7mEq/L を超える,中毒性の心電図変
せる目的で免疫グロブリン大量療法が選択されることが
化を伴う)上昇では,K を細胞内に移動させる
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
表 23 診断と治療のための計算式
計算
式
[Cl −]+[HCO3 −]
)
アニオンギャップ [Na +]−(
(mEq/L)
血清浸透圧較差
測定浸透圧−計算浸透圧
)
+
(
[血糖値]
÷ 18)
+
([BUN]
÷ 2.8)
(2 ×
[Na +]
計算浸透圧
(mOsm/L)
総自由水欠乏量
(単位:L)
コメント
正常範囲:10 ~ 15mEq/L
≧ 15:代謝性アシドーシスが示唆される
正常値≦ 10
> 10 では不明な浸透活性物質を疑う
有効浸透圧を求める簡略式
正常値= 272 ~ 300mOsm/L
高ナトリウム血症の水欠乏補正に必要な水分量の算出に
用いる
(
[Na +]
測定値− 140)
× TBW
140 TBW
(体内総水分量)
(L)
=
(男0.6/ 女0.5)
×体重(kg)
ナトリウム欠乏量 (
[Na +]
目標値−
[Na +]
測定値)
× TBW
(L)
重症低ナトリウム血症に対し,3% 生理食塩水による補
(単位:mEq)
TBW
(L)
=
(男 0.6/ 女 0.5)
×体重
(kg)
正 量 算 出 に 用 い る(3% 生 理 食 塩 水 1L に ナ ト リ ウ ム
513mEq 含有)
× 0.008 =±△(pH 7.4 からの pH 差) Pco2 が 40 から 1mmHg 変化すると pH は 0.008 変化する
予測 pH の測定
(40 − Pco2)
測定 pH が計算 pH より低い場合:代謝性アシドーシスの
存在が示唆される
測定 pH が予測 pH より高い場合:代謝性アルカローシス
の存在が示唆される
表 24 血清カリウム濃度上昇と心電図所見
血清カリウム値
範囲(mEq/L)
5.5 ~< 6
6 ~< 6.5
6.5 ~< 7
7 ~< 7.5
7.5 ~< 8
8 ~< 10
≧ 10
よく認められる心電図所見
尖鋭性 T 波(テント状 T 波)
,初期心電図変化
PR 間隔延長および QT 間隔延長
P 波消失および ST 低下
QRS 幅拡大
S 波下降,S 波と T 波の融合
サイン波出現,心室固有波形と調律.VT 様波
形
PEA(サイン波の外観を伴うことが多い),
VF/VT,心停止
③低 K 血症の定義と症状
血清 K 値 3.5mEq/L 未満である.症状は,中等度(2.5
~ 3.0mEq/L)では全身倦怠感,脱力感,易疲労,便秘,
脚の痙攣,高度(2.0 ~ 2.5mEq/L)では筋崩壊(横紋筋
融解),麻痺性イレウス,腸閉塞,重度(2.0mEq/L 未満)
では上行性麻痺,呼吸障害,不安定な不整脈を生じえる.
特にジゴキシン服用時には症状が発現しやすいため注意
が必要である.
④低 K 血症の治療
とともに,体外へ排出を促進する.血清 K 値の
治療は,K 喪失の抑制と不足分を補充投与である.K
リバウンドを生じることがあり⑴⑵の治療を繰
補充は一般的には経口投与であるが,高度(2.5mEq/L
返す.さらに
未満)な低 K 血症の場合に,不安定な不整脈やジゴキシ
⑷ 心筋細胞膜レベルの K 中毒作用を抑制し,心
ン中毒を伴う場合は,静脈内投与の適応となる.通常の
室細動のリスクを軽減させる治療.塩化カルシ
補 充 は 10 ~ 20mEq/ 時 間, 最 大 投 与 濃 度 は 40mEq/L
ウム静脈投与.
(20mEq/L 以上で投与する場合は中心静脈から)であり,
補充時には心電図モニタリングが必要である.生命を脅
表 25 高カリウム血症の緊急治療および治療手順
治療法
塩化カルシウム
用量
・10% 溶液 5 ~ 10mL(500 ~ 1000mg)静注
効果機序
効果発現
細胞膜におけ 1 ~ 3 分
る毒性に拮抗
重炭酸ナトリウム
・50mEq 投与.最大投与量 1mEq/kg.15 分後に再投与
細胞内移動に 5 ~ 10 分
・必要に応じ 100mEq を 5%ブドウ糖 1L に溶解し 1 ~ 2 時 よる再分布
間で静注
グ ル コ ー ス / イ ン ス リ ン ・50%ブドウ糖 50mL +レギュラーインスリン 10U 静注
細胞内移動に 30 分
療 法 ( グ ル コ ー ス 5g あ ・必要に応じ 10%ブドウ糖 500mL +レギュラーインスリ よる再分布
たりインスリン 2U 使用)
ン 10 ~ 20U を 1 時間かけて静注
フロセミド(利尿薬)
・40 ~ 80mg 静脈投与
体内から除去 利尿開始時
・15 ~ 50g 経口投与またはソルビトールに溶解し併用投与 体内から除去 1 ~ 2 時間
陽イオン交換樹脂
(ケーキサレート)
体内から除去 透析開始時
腹膜透析または血液透析 ・治療実施計画に従う
効果持続期間
30 ~ 60 分間
1 ~ 2 時間
4 ~ 6 時間
利尿終了時
4 ~ 6 時間
透析終了時
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1423
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
かす低カリウム血症の場合は K の急速静脈投与を行う.
る.高度な循環血液量減少と著明な脱水によるショッ
10mEq を 5 分間で投与し,必要な場合さらに追加再投与
ク状態で,生命を脅かす状況では生理食塩水 500mL
する.カルテには「生命を脅かす低 K 血症のため,意図
を急速投与し反応性を評価し,その後 20 ~ 30 分ごと
的に急速静脈投与を行った」旨を記載する.
に状態が安定するまで繰り返し投与する.
3
血清ナトリウム値の異常
③低 Na 血症の定義と症状
血 清 Na が 急 激 に 低 下 し た 場 合, 脳 浮 腫 を 生 じ
定義は血清 Na 値が 130 ~ 135mEq/L 未満である.血清
.一方,血清 Na が急激に上昇すると血清浸透
Na 値 120mEq/L 未満までは自覚症状のないことが多
圧は上昇し,自由水は間質腔から血管内へ移動し,橋中
い.血清 Na 低下が急激な場合は,自由水が血管内か
る
148),149)
心髄鞘崩壊症
150)
,脳出血,横紋筋融解を生じる.この
ら間質腔に移動するため,悪心,嘔吐,頭痛,易刺激
ため血清 Na 値の補正に際しては,神経学的機能を慎重
性,嗜眠,痙攣,昏睡が起こり,脳浮腫を生じ,死に
にモニタリングし,できる限り血清 Na はゆっくりと 48
至ることがある.
時間かけて補正する.
④低 Na 血症の治療
①高 Na 血症の定義と症状
低 Na 血症の治療はまず,循環血液量を評価し,次に
血清 Na 値が 145 ~ 150mEq/L を超えている場合.症状
循環血液量を補正する(表 26).循環血液量の減少し
は,細胞内脱水に伴う意識障害,脱力,易刺激性,局
ている場合は,生理食塩水で補充し循環血液量が増加
所神経脱落症状,さらに昏睡,痙攣等神経症状である.
している場合は,利尿を確保する.次に欠乏 Na 量を
算出し,3%食塩水(513mEq/L)で補正する.その際
②高 Na 血症の治療
に,通常 Na を毎時 0.5mEq/L 補正し,最初の 24 時間
高 Na 血症の治療は,過剰な血清 Na の排泄ではなく,
では最大補正量を 12mEq とする.痙攣や昏睡等頭蓋
不足している自由水を補正し(表 26),1 時間あたり
内圧上昇に伴う神経症状が出現した場合は,3%食塩
0.5 ~ 10mEq/L の速度で血清 Na 値を補正する.はじ
水を点滴投与して,神経所見がコントロールされるま
めの 24 時間に 12mEq/L 以上の急激な低下を生じない
で血清 Na を時間あたり 1mEq の速度で補正する.神
よう,ゆっくり補正し,残りはその後 48 ~ 72 時間か
経所見がコントロールされてからは血清 Na を時間
けて補正する.通常は 1/2 生理食塩水を投与し,血清
0.5mEq/L の速度で補正する.痙攣を生じている場合
Na 濃度を緩徐に補正する.5%ブドウ糖による水分補
には,さらに速い速度(2 ~ 4mEq/L/ 時)での是正を
充は血清 Na 濃度の急激な低下を生じるため危険であ
推奨する専門家もいる.
表 26 血清 Na 異常の緊急治療
1.高 Na 血症の治療
・過剰な血清 Na の排泄ではなく,不足している自由水の補正を行う
/140)
×全身水分量
補正に必要な循環血液量=不足水分量(L)=
((血漿 Na +濃度− 140)
(全身水分量は,男性では除脂肪体重の約 50%,女性では 40%)
・血清 Na 値補正:1 時間あたり 0.5 ~ 1.0mEq/L の速度でする
初めの 24 時間に 12mEq/L 以上の急激な低下を生じない
残りはその後 48 時間~ 72 時間かけて補正する
・安定した無症候性患者:経口または経鼻胃管から補給
・循環血液量が減少している場合:1/2 生理食塩水を投与する(5%ブドウ糖は危険)
2.低 Na 血症の治療
・第 1 段階:循環血液量の評価
循環血液量が増加している所見:肺うっ血,下腿浮腫,頚静脈怒張,湿性ラ音,体重増加,Ⅲ音
循環血液量が減少している所見:頻脈,起立性低血圧,皮膚の張り低下,口腔内乾燥
・第 2 段階:症状の重症度を評価と,循環血液量の補正する
循環血液量の減少している場合:生理食塩水で補充する
循環血液量が増加している場合:水分摂取量を制限し,利尿薬(フロセミド)により利尿を確保する
×体重
欠乏 Na 量を算出 欠乏 Na+ 量=[目標 Na+ 値−現在の Na+ 値]× 0.6(女性では 0.5)
補正に必要な 3%食塩水(513mEq/L)の投与量を決める
通常 Na を毎時 0.5mEq/L 補正し,最初の 24 時間では最大補正量を 12mEq とする
痙攣や昏睡などの神経症状が出現した場合は,時間あたり 1mEq の速度で補正し,神経所見がコントロールされてからは血清
Na を時間 0.5mEq/L の速度で補正する
1424
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
4
血清マグネシウム値の異常
5
血清カルシウム値の異常
細胞外液中の Ca の半分は血清アルブミンと結合して
①高 Mg 血症の定義と症状
おり,残り半分が生物学的活性を持つイオン化 Ca とし
血中 Mg 濃度が 2.2mEq/L を超える場合(正常値 1.3 ~
て存在する.総血清 Ca 値は血清アルブミン値と正比例
2.2mEq/L).症状は神経学的症状,消化器症状である.
し,血清アルブミン値が 1g/dL 上昇すると血清 Ca 値は
中等度の高 Mg 血症(4 ~ 5mEq/L)では筋力低下,筋
0.8mg/dL 上昇する.不安定な低 Ca 血症ではイオン化カ
脱力,重篤な高 Mg 血症(5 ~ 8mEq/L)では血管拡張
ルシウムを測定する必要がある.
と低血圧を来たすことがある.血清 Mg 濃度が極めて
高くなる(8mEq/L 以上)と意識レベルの低下,徐脈,
不整脈,低換気,そして心肺停止に至る場合がある.
①高 Ca 血症の定義と症状
総血清 Ca 値が 10.5mEq/L を超えた場合(イオン化 Ca
濃度> 4.8mg/dL).原因の 90%以上は原発性副甲状腺
②高 Mg 血症の治療
機能亢進症と悪性腫瘍である.症状は総血清 Ca 値が
12 ~ 15mg/dL 以上で出現する.抑うつ,脱力,疲労感,
表 27 に示す.
神経錯乱がみられる.Ca 値がさらに上昇すると,幻
③低 Mg 血症の定義と症状
覚や見当識障害,筋緊張低下,痙攣や昏睡を来たすこ
血清 Mg 濃度が 1.3mEq/L 未満.副甲状腺ホルモンの
とがある 152).高 Ca 血症の胃腸症状は,嚥下障害,
便秘,
機能を阻害し,低カルシウム Ca 血症,低 K 血症を引
消化性潰瘍や膵炎である.腎臓に対する影響により,
き起こす.Mg 摂取量の減少,腎臓や消化管からの喪
尿濃縮能の低下,多尿による Na,K,Mg,リン酸の
失増加.甲状腺機能の異常や,特定の薬剤(ペンタミ
喪失,脱水症を来たすことがある 153).血清 Ca 値が
ジン,利尿薬)やアルコール摂取が原因で,頻度が高
15mg/dL を超えると心筋自動能が抑制され,不応期が
く,全入院患者の 11 %に生じることが報告されてい
短縮することにより不整脈が出現する.高 Ca 血症は
る 151).振戦,線維束性攣縮,眼振,テタニー,神経
ジギタリス中毒を悪化させ,高血圧を起こすことがあ
症状の変化,Torsade des pointes(多原性心室頻拍)
る.多くの高 Ca 血症の患者では低 K 血症を合併し,
等の不整脈を生じる.失調,回転性めまい,痙攣,嚥
ど ち ら の 病 態 も 不 整 脈 に 関 与 す る. 血 清 Ca 値 が
下障害等も生じる.
13mg/dL を超えると,通常は QT 時間が短縮し,PR 間
隔と QRS 幅が拡大する.総血清 Ca 値が 15 ~ 20mg/dL
④低 Mg 血症の治療
を超えると房室ブロックが生じ,心停止へ進展するこ
低 Mg 血症の治療は Mg の補充であるが,重症度に応
じてその量と速度を調整する(表 27)
.また,ほとん
どの低 Mg 血症患者は低 Ca 血症を合併しているので,
通常は Ca を静脈内投与する.
とがある 154).
②高 Ca 血症の治療
治療の対象は,血清 Ca 値 12mg/dL を超え症候を有す
る場合と,無症状でも血清 Ca 値が 15mg/dL を超える
場合である.大量静脈投与用のラインを確保し,循環
表 27 血清 Mg 異常の緊急治療
1.高 Mg 血症の治療
・Mg 摂取の原因除去
・血清 Mg 値が低下するまで心肺蘇生の継続
・補液による血清 Mg 濃度希釈,
・10%塩化カルシウム液 5 ~ 10mL 静脈内投与
・Mg の排泄の促進 腎機能が正常で心血管機能が正常であれば,透析までの間に生理食塩水利尿(生理食塩水とフロセミド
[1mg/kg]
)の投与により Mg の排泄を促進させてもよい
2.低 Mg 血症の治療
・重症,症状を伴う低 Mg 血症患者:1 ~ 2g の硫酸マグネシウムを 5 ~ 60 分かけて静脈投与する
・Torsade des Pointes による心停止患者:1 ~ 2g の硫酸マグネシウムを 5 ~ 20 分かけて静脈投与する
・Torsade des Pointes が間歇性で心停止に至っていない場合:硫酸マグネシウムを 5 ~ 60 分かけて静脈投与する
・痙攣がある場合:2g の硫酸マグネシウムを 10 分間かけて静脈投与する
・ほとんどの低 Mg 血症患者は低 Ca 血症を合併しているので,通常は Ca を静脈内投与する
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1425
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
血液量の回復と,尿からの Ca 排泄を促進する(表
要な場合がある 155).近年,Toxidromes156)という用語が
28)
.心血管機能と腎機能が良好な場合,体液欠乏が
用いられ,薬物中毒により重篤な症状や徴候を呈し,心
補正され利尿がつくまでは 0.9%生理食塩水を投与す
停止や生命の危険に陥った場合,Toxidromes と判断し
る.利尿により K 値と Mg 値が低下することがあるた
て原因薬物が同定される前に,ただちに気道,呼吸,循
め,点滴投与中は K 値と Mg 値をモニターし,正常範
環を補助する治療を開始する.中毒学専門家や公認の地
囲内に維持する.血液透析は心不全または腎機能障害
域中毒センターへただちに相談することも推奨される.
患者の血清 Ca 値を急激に低下させるのに良い治療法
日 本 で は 日 本 中 毒 情 報 セ ン タ ー が つ く ば 中 毒 110 番
である.極端な高 Ca 血症に対しては,キレート剤が
(0990-52-9899,029-851-9999),大阪中毒 110 番(0990-
50-2499,072-726-9923)を開設し,情報提供している.
用いられる.
表 29,30,31 に薬剤による心血管系緊急の徴候とバイ
③低カルシウム血症の定義と症状
タルサインの変化,考慮すべき治療法と禁忌,慎重に行
血清 Ca 値が 8.5mEq/L 未満(イオン化カルシウム<
4.2mg/dL).症状は,通常イオン化 Ca 値が 2.5mg/dL
未満で生じる.四肢や顔面の麻痺,続いて筋痙攣,指
うべき治療について示す.
2
心停止前の気道と呼吸の管理
趾 痙 縮, 喘 鳴, テ タ ニ ー 等 で あ る. 反 射 亢 進,
中毒患者の病状は急速に悪化する可能性があり頻回に
Chvostek 徴候および Trousseau 徴候がみられる.心臓
気道,呼吸,循環の評価を行う.呼吸障害は死因として
では心筋収縮力の低下と心不全がある.またジギタリ
最も多い.意識障害のある患者には,誤嚥の危険性を減
ス中毒を増強することがある.
らすために,胃洗浄の適応がある場合でも,その前に気
管内挿管を実施する.胃洗浄は,致死量の薬物・毒物を
④低 Ca 血症の治療
摂取後,1 時間以内の場合には推奨される 157),158).オピ
10 %グルコン酸カルシウムあるいは 10 %塩化カルシ
エートによる呼吸障害が出現した場合,はじめに高流量
ウムを 10 分間かけて静脈投与し,その後に緩徐に追
酸素を接続したバッグ・アンド・マスクで換気し,拮抗
加する(表 28).4 ~ 6 時間おきに血清 Ca 値を測定し,
薬であるナロキソンを投与 159),160),必要に応じて人工呼
総血清 Ca 値を 7 ~ 9mg/dL に維持し,同時に Mg,Na,
吸管理を実施する.
pH の異常を補正する.低 Mg 血症が存在すると,低
Ca 血症が治療抵抗性になることが多いため,治療初
期の Ca 投与が奏功しなかった場合は,血清 Mg 濃度
を測定する 151).
7
救急心疾患治療における
中毒学
3
心血管系傷害
①血行動態の悪化を伴う薬剤起因性徐脈
薬物過量中毒による血行動態悪化を伴う徐脈を生じた
場合,標準的 ACLS プロトコルに反応しないことがあ
る.このような場合には特異的解毒治療が必要となる.
コリンエステラーゼ阻害薬(有機リン,カルバメート,
1
神経ガス中毒)による徐脈に対しては,アトロピンを
Toxidromes
大量投与する.アトロピンを初回 2 ~ 4mg 投与するが,
中毒患者の治療は緊急性を要し,迅速な加療開始が必
総量として 20 ~ 40mg またはそれ以上となる場合があ
表 28 血清 Ca 異常の緊急治療
1.高 Ca 血症の治療
・大量静脈投与用のラインを確保し,0.9% 生理食塩水を 300 ~ 500mL/ 時の速度で投与する.補正後は注入速度を 100 ~
200mL/ 時に下げる.点滴投与中は K 値と Mg 値をモニターする
・血液透析(特に心不全または腎機能障害患者に)
・極端な高 Ca 血症ではキレート剤(50mmol PO4 を 8 ~ 12 時間かけて,EDTA10 ~ 50mg/kg を 4 時間かけて投与)
2.低 Ca 血症の治療
・10%グルコン酸カルシウムを Ca として 93 ~ 186mg,10 分かけて静脈投与した後にその後 540 ~ 720mg の Ca を 1 時間当た
り 0.5 ~ 2mg/kg の割合で持続投与する
・10%塩化カルシウムを 10 分間かけて Ca として 136.5mg 静脈投与し,その後 6 ~ 12 時間かけて 1g を持続静脈投与する
・4 ~ 6 時間おきに血清 Ca 値を測定し,総血清 Ca 値を 7 ~ 9mg/dL に維持する
・同時に Mg,Na,pH の異常を補正する
1426
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
表 29 薬剤性心血管系緊急の徴候:考慮すべき治療法および禁忌(慎重に行うべき)療法
心血管系の徴候
考慮すべき治療法
禁忌(慎重に行うべき治療)
徐脈
・経皮・経静脈的ペースメーカ
・アトロピン(コリンエステラーゼ阻害剤中毒
・カルシウム拮抗薬中毒:生理食塩水,エピネフリン,塩化カ 以外では有効なことはまれ)
ルシウム,グルコース / インスリン療法,グルカゴン
・低血圧時のイソプロテレノール
・β遮断薬中毒:生理食塩水,エピネフリン,塩化カルシウム,・予防的経静脈ペーシング
グルコース / インスリン療法,グルカゴン
頻脈
・交感神経作動薬中毒:ベンゾジアゼピン系薬剤,リドカイン,・β遮断薬(薬剤誘発性頻脈に有用でない)
重炭酸ナトリウム,ニトログリセリン,ニトロプルシド
・電気ショック(適応となることはまれ)
・三環系抗うつ薬中毒:重炭酸ナトリウム,過換気,生理食塩 ・アデノシン(適応となることはまれ)
水,硫酸マグネシウム,リドカイン
・カルシウムチャネル拮抗薬(適応となること
はまれ)
・抗コリン薬中毒:フィゾスチグミン
・フィゾスチグミン(三環系抗うつ薬を過剰投
与した場合)
伝導障害または ・重炭酸ナトリウム
・三環系抗うつ薬を過剰投与した場合:クラス
心室性不整脈
・リドカイン
Ⅰ A の抗不整脈薬
高血圧緊急症
・交感神経作動薬中毒:ベンゾジアゼピン系薬剤,リドカイン,・β遮断薬
重炭酸ナトリウム,ニトログリセリン,ニトロプルシド,フ
ェントラミン
ショック
・カルシウムチャネル拮抗薬中毒:生理的食塩水,エピネフリ ・イソプロテレノール
ン,ノルエピネフリン,ドパミン,塩化カルシウム,グルコ ・ジゴキシン毒性が疑われる場合,塩化カルシ
ース / インスリン,グルカゴン
ウムは避ける.
・β遮断薬中毒:生理的食塩水,エピネフリン,ノルエピネフ
リン,ドパミン,塩化カルシウム,グルコース / インスリン,
グルカゴン
・最大限の薬物療法が奏効しない時:循環補助装置使用を検討
急性コリン作動 ・アトロピン
・サクシニルコリン
徴候
・プラリドキシム / オビドキシム
急性抗コリン作 ・フィゾスチグミン
・抗精神病薬
動徴候
・他の抗コリン作動性薬
オピオイド中毒 ・ナロキソン
・補助換気
・気管内挿管
る.イソプロテレノールの高用量投与は,β遮断薬過
量中毒に伴う治療抵抗性徐脈に対して有用であるが,
③薬剤による高血圧性緊急症
コリンエステラーゼ阻害薬その他の薬物中毒による徐
薬剤による高血圧に対する第一選択薬はベンゾジアゼ
脈に対しては,血圧低下,心室性不整脈を誘発するた
ピン系薬剤である.薬剤起因性高血圧は,経過ととも
め禁忌である.薬剤起因性の軽度~中等度徐脈には経
に低血圧を生じることがあるため,積極的な血圧コン
皮的ペーシング(TCP)が有効であるが,TCP が無効
トロールが推奨されない場合がある.ベンゾジアゼピ
な場合に経静脈的ペーシングを選択する.
ン系薬剤に抵抗性の患者には,ニトロプルシドのよう
②血行動態の悪化を伴う薬剤起因性頻拍
な短時間作用型降圧薬が推奨される 162).プロプラノ
ロールのような非選択的β遮断薬では,α受容体刺激
血行動態の悪化を伴う薬剤起因性頻拍は,心筋虚血,
が抑制されずにβ受容体のみが遮断され高血圧が悪化
心室性不整脈,高心拍出量性心不全やショックを起こ
することがあるため,交感神経作動薬による中毒には
すことがある.毒物が体内に残存している状況ではア
禁忌である 163).
デノシンや同期下カルディオバージョンの有効性は低
い.境界域低血圧を呈した患者では,ジルチアゼムや
④薬剤起因性の急性冠症候群
ベラパミルは,さらに血圧が下がる恐れがある.ベン
コカインの過量投与では,交感神経系の過剰刺激によ
ゾジアゼピン系薬剤(ジアゼパムやロラゼパム)は,
る頻脈と高血圧,冠攣縮による心筋虚血を生じ,急性
交感神経作動薬による血行動態悪化を伴う頻脈に対し
冠症候群が生じる.血栓溶解薬は重症高血圧を伴う場
て,安全で効果的である
161)
.
合は効果より危険性が高いため,慎重にすべきである.
コカインによる急性冠症候群に対しては,ニトログリ
セリンとベンゾジアゼピン系薬剤が第一選択薬,フェ
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1427
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
表 30 心血管傷害を有する薬物・物質:心肺への影響と考慮すべき治療法
可能性のある薬物
カルシウムチャネル拮抗薬
・ベラパミル
・ニフェジピン(他のジヒドロピリジン系薬剤)
・ジルチアゼウム
心肺への影響
・頻脈
・上室性不整脈
・心室性不整脈
・伝導障害
・高血圧緊急症
・急性冠症候群
・ショック
・心停止
・徐脈
・伝導障害
・ショック
・心停止
β受容体遮断薬
・プロプラノロール
・アテノロール
・ソタロール
・徐脈
・伝導障害
・ショック
・心停止
三環系抗うつ薬
・アミトリプチリン
・デシプラミン
・ノルトリプチリン
・頻脈
・徐脈
・心室性不整脈
・伝導障害
・ショック
・心停止
交感神経作動薬
・アンフェタミン系薬剤
・メタンフェタミン系薬剤
・コカイン
・フェンシクリジン
・エフェドリン
ントラミンが第二選択薬,プロプラノロールは禁忌で
投与し,動脈血 pH を 7.45 ~ 7.55 に維持するようにす
ある 163).
るが,至適 pH に関する十分な研究はない.血清 K 値
⑤薬剤による心室頻拍と心室細動
の低下を予防するため,150mEq/L の重炭酸ナトリウ
ムと 30mEq/L の塩化カリウムを加えた 5%ブドウ糖液
血圧低下を伴う QRS 幅の広いリズムが突然出現した
の維持投与が推奨される.QRS 幅が 100msec を超え
場合,薬剤因性心室頻拍の可能性が高く,カルディオ
る場合や,低血圧が発現した場合は,急性代償不全と
バージョンの適応となる.状態が不安定で多形性心室
して血清 pH を測定することなく重炭酸ナトリウムを
頻拍の場合は,高エネルギーの非同期下ショックを行
静脈内投与する.
う.血行動態の安定している薬剤性心室頻拍は,抗不
整脈薬が適応となる.多くの単形性心室頻拍にはリド
4
薬剤によるショック
カインが第一の抗不整脈薬として選択される.三環系
標準的治療に抵抗性を示す薬剤起因性ショックが起こ
抗うつ薬やナトリウムチャネル遮断薬による中毒で
る原因は,薬剤により血管内容量が減少し,体血管抵抗
は,ナトリウムチャネルを遮断するⅠA 群,ⅠC 群,そ
と心筋収縮力が低下する場合,またはこれらの要因が重
の他の抗不整脈薬は禁忌である.
複し,正常な代償機序が機能しない場合である.肺動脈
⑥薬剤起因性伝導障害
カテーテルによる血行動態モニタリングでの輸液負荷,
ドパミン,体血管抵抗が低下している場合はノルアドレ
ナトリウムチャネル遮断薬(フレカイニドやプロカイ
ナリン等のαアドレナリン作動薬,アムリノン,カルシ
ンアミド)と三環系抗鬱薬の中毒により生じる,QRS
ウム,グルカゴン,インスリン等,陽性変力作用を有す
幅延長,心室頻拍に対して,高張食塩水と重炭酸ナト
る薬を使用する.ドブタミンとイソプロテレノールは体
リウムの静脈内投与は薬剤性伝導障害の予防,停止効
血管抵抗をさらに下げる可能性がある.
果がある 164),165).不整脈と低血圧に対して重炭酸ナト
リウムを使う場合,1 ~ 2mEq/kg を繰り返しボーラス
1428
考慮すべき治療法
・ベンゾジアゼピン系薬剤
・リドカイン
・重炭酸ナトリウム
・ニトログリセリン
・ニトロプルシド
・再灌流療法
・フェントラミン(αアドレナリン遮断薬)
・β遮断薬は使用しない
・生理食塩水投与(0.5 ~ 1 L)
・エピネフリン静注,他のα / β作動薬
・ペースメーカ
・補助循環装置を考慮
・カルシウム点滴を考慮
・グルコース / インスリン点滴を考慮
・グルカゴンを考慮
・生理食塩水投与(0.5 ~ 1 L)
・エピネフリン静注,α / β作動薬
・ペースメーカ
・補助循環装置を考慮
・カルシウム点滴を考慮
・グルコース / インスリン点滴を考慮
・グルカゴンを考慮
・重炭酸ナトリウム
・過換気
・生理食塩水投与(0.5 ~ 1L)
・硫酸マグネシウム
・リドカイン
・エピネフリン静注,α / β作動薬
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
表 31 心血管傷害を有する薬物・物質:心肺への影響と考慮すべき治療法(継続)
強心配糖体
・ジゴキシン
・ジギトキシン
・ジギタリス
・オレアンダー
・徐脈
・上室性不整脈
・心室性不整脈
・伝導障害
・ショック
・心停止
抗コリン薬
・ジフェンヒドラミン
・ドキシラミン
・頻脈
・上室性不整脈
・心室性不整脈
・伝導障害
・ショック,心停止
・徐脈
・心室性不整脈
・伝導障害,
・ショック
・肺水腫
・気管支痙攣
・心停止
・低換気(無呼吸)
・徐脈
・低血圧
・縮瞳(瞳孔収縮)
・乳酸アシドーシス
・頻脈または徐脈
・ショック,心停止
・徐脈
・心室性不整脈
・伝導障害
・発作
・ショック
・心停止
コリン作動薬
・カルバメート系薬剤
・神経作用薬剤
・有機リン系薬剤
オピオイド系薬剤
・ヘロイン
・フェンタニル
・メサドン
イソニアジド
ナトリウムチャネル遮断薬
・プロカインアミド
・ジソピラミド
・リドカイン
・プロパフェノン
・フレカイニド
5
薬剤による心停止
・K+,Mg2 +の体内総量の補正
・血管内容量の補正
・ジゴキシン特異的抗体
・アトロピン
・ペースメーカー
・リドカイン
・フェニトインを考慮
・フィゾスチグミン(要注意)
・アトロピン
・汚染除去
・プラリドキシム
・オビドキシム
・ナロキソン
・補助換気
・気管内挿管
・ナルメフェン
・ビタミン B6
・重炭酸ナトリウム
・ペースメーカ
・α作動薬,β作動薬
・リドカイン
・高張食塩水
態の評価,血糖測定である.大量点滴用の静脈路を確
保し,低血圧に対して生理食塩水 500 ~ 1,000mL を静
薬剤起因性心停止には通常の ACLS を行うが,交感神
脈内投与する.肺うっ血の出現をモニターしながら,
経作動薬による中毒では,アドレナリン(エピネフリン)
心機能抑制と低血圧に対処する.徐脈,血圧低下に対
の投与間隔を広げる.重篤な中毒患者特にカルシウムチ
しては一時的ペーシングを考慮することもある.活性
ャネル拮抗薬の中毒患者では長時間(3 ~ 5 時間)の心
炭による胃洗浄は意識が清明で,血行動態への影響が
肺蘇生を受けた後に回復した症例が報告されている.体
軽度で服薬 1 時間以内の場合に考慮する 169).徐放性
外循環(膜型人工肺)は重篤な中毒患者の蘇生に対する
薬剤を服用し,X 線で錠剤が確認され,腸管蠕動が保
効果が報告されている
6
166),167)
.
特殊な薬剤中毒
① Ca 拮抗薬とβ遮断薬の過量中毒
持されている場合には腸管洗浄を考量する.
Ca 拮抗薬過量中毒により著明な血行動態の障害を
認める場合には,アドレナリン(エピネフリン)
,血
管収縮薬ノルアドレナリンを投与する.容量負荷,ア
ドレナリン(エピネフリン),ノルアドレナリンに反
Ca 拮抗薬とβ遮断薬の過量中毒に共通した症候は,
応 し な い シ ョ ッ ク に 対 す る 塩 化 カ ル シ ウ ム(8 ~
低血圧,心収縮力低下,徐脈,意識障害,昏睡,痙攣,
16mg/kg)の投与はクラスⅡ b である.カルシウムの
中枢神経障害である.β遮断薬では低血糖,高 K 血症,
静脈内投与総量は初期量に反応する場合で 1 ~ 3g で
種々の不整脈を生じ,Ca 拮抗薬では高血糖,突然の
ある.アドレナリン(エピネフリン)やその他のα 1
代償不全,急激に生じる重篤なショック,心停止 168)
刺激薬はカルシウムへの感受性を増加する.追加療法
を生じることがある.共通した標準的治療法は,酸素
としてグルコース・インシュリン静脈投与 170),171),グ
投与,気道換気管理,心電図モニター,血圧と血行動
ルカゴン静脈投与 172),大動脈バルーンポンプ,対外
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1429
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
循環を用いる.
性が報告され,リドカインは 1 ~ 1.5mg/kg 静脈内投与,
β遮断薬過量により低血圧と著明な血行動態の障害
硫酸マグネシウムは 1 ~ 2g を 10mL の 5 %ブドウ糖液
を認める場合に,アドレナリン(エピネフリン),ノ
に溶解し静脈内投与する.
ルアドレナリン,ドブタミン,プロプラノロール,ド
パミンを投与する.グルカゴンは心筋組織の cyclic-
AMP を刺激する強心薬でβ遮断薬中毒への有効性が
173),174)
④オピエート中毒
オピエート中毒(麻薬;ヘロイン,フェンタニル,
.グルカゴンやアドレナリン(エ
モルヒネ等)では,呼吸不全,呼吸停止が起こる.標
ピネフリン)に反応しない場合にカルシウム静脈投与
準的治療として,換気補助を試みる.オピエートの作
を考慮する.追加療法としてアトロピンはまれに有効
用は,拮抗薬であるナロキソンにより急速に消失す
であり,グルコース・インスリン療法,大動脈バルー
る 175).ナロキソンの作用時間はおよそ 45 ~ 70 分間で
ンポンプ,対外循環はクラス未定である.
あるが,オピエートによる呼吸抑制は 4 ~ 5 時間持続
報告されている
②三環系抗うつ薬中毒
することがあり,ナロキソンの反復投与が必要となる
場合がある.緊急時の成人投与量は 0.4 ~ 2mg の静脈
三環系抗うつ薬中毒は最も頻度が高い.中毒作用の
内投与,もしくは 0.4 ~ 0.8mg の筋肉内または皮下投
原因は,カテコラミン分泌刺激作用,カリウムチャン
与が推奨され,必要に応じて反復投与する.
ネル抑制作用,α受容体の刺激作用により,低血圧,
痙攣発作および不整脈を引き起こし,抗コリン作用に
⑤コカイン中毒
より瞳孔散大,発熱,乾燥皮膚,精神錯乱,腸閉塞,
コカインの最も頻度が高い症状は胸痛であり,血圧
尿閉を生じる.幅の広い QRS 波は不整脈の危険性が
上昇,頻脈,高揚感を生じる.痙攣,心筋梗塞,死亡
高いことを示唆する.
は初回使用でも生じ,重篤な心毒性を呈する.β作用
治療として,不整脈と低血圧に対する重炭酸ナトリ
による心拍数上昇,心収縮力増加,α作用による冠血
ウムや高張食塩水の治療効果が報告されているが,
流低下,冠攣縮,血小板凝集亢進,冠血栓のリスク上
QRS 幅の程度と治療開始時期は不明である.重炭酸
昇,心筋酸素需要増大時の冠灌流低下を生じる.低酸
ナトリウムによる治療において 7.45 ~ 7.55 の動脈血
素血症は心毒性を増強し,発熱作用は頻脈と神経症状
pH が一般的である.高張食塩水も三環系抗うつ薬に
を悪化する.標準的治療は酸素投与,体温調節,心電
よる心毒性に対する治療として有効かもしれない.
図と神経所見モニタリングである.上室性不整脈には
③ジギタリス過量中毒
Benzodiazepine を投与する.血行動態の安定した心室
頻拍には Benzodiazepine,リドカイン,重炭酸ナトリ
ジギタリス過量中毒の初期症状は中枢神経症状や消
ウムを投与し,除細動パッドを装着しモニタリングす
化器症状であることが多い.心室性期外収縮と徐脈を
る.心室細動を生じることがある.胸痛を合併した場
多くの症例で認める.高度房室ブロックを伴う心房頻
合,急性心筋虚血の所見を認めないことが多いが,亜
拍,非発作性房室結節性頻拍,多源性心室頻拍,規則
硝酸薬と塩酸モルヒネを投与する.まれではあるが心
的なリズムの心房細動はジギタリス中毒を疑う不整脈
筋梗塞を生じる場合はアスピリンを投与する.β遮断
である.肺うっ血を伴う徐脈,重症心室性不整脈,
薬(特にプロプラノロール,アスモロール)はα作用
Na-KATP への作用による高カリウム血症を生じるこ
が顕在化するため禁忌である.
とがある.長期服用者の場合は,体内の不足したカリ
ウム,マグネシウムを補正し,生理食塩水で体内水分
8
偶発的低体温
量を調整する.服薬 1 時間以内の急性症状の場合は,
活性炭による中和を考慮する.致死量のジギタリスを
服薬し 1 ~ 2 時間以内の場合,意識消失例では迅速気
管内挿管と活性炭による胃洗浄を実施する.この際,
嘔吐により迷走神経反射を介した徐脈の増悪を生じる
ことがあるので,アトロピンを準備する.徐脈に対し
ては,アトロピンを初回 0.5mg 静脈中投与する.心室
性不整脈に対してはリドカイン,マグネシウムの有効
1430
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
① 深部体温が偶発的に 35 ℃~ 36 ℃以下になった状
態を偶発的低体温と定義する.深部体温により軽
度> 34℃,中等度 30 ~ 34℃,重度< 30℃に分類
する.
② まず濡れた衣類等を剥がすが,身体操作は慎重に
行い VF を避ける.
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
③ 深部体温によって受動的復温と体外式復温を選択
する.
④ 低体温の BLS では 30 ~ 40 秒かけて脈拍を確認す
る.電気ショックが無効なときには 2 回目を行わ
ず復温を優先する.
⑤ ACLS では,気管内挿管を行い,加温加湿酸素を
投与し積極的復温を行う.初回電気ショックや初
回投薬が無効であった場合,深部体温が 30 ℃を
超えるまでは追加の電気ショックや薬剤投与は控
える.
1
(もしくは J wave)は有名であるが,その幅と深さは体
温の低下に伴い増強することが報告されている 176).
2
循環を生み出すリズムが残存している場合は,体温の
さらなる喪失を防止するため,濡れた衣服は脱がし,外
環境から絶縁して,蒸発による体温喪失を予防する.気
管内挿管,血管カテーテル挿入等必要な緊急処置を遅ら
せてはいけないが,丁寧に手技を実施しないと心室細動
を生じることがある 177).
3
病態
偶発的低体温とは,深部体温が偶発的に 35 ℃~ 36 ℃
標準的対処法
循環リズムの有無による処置の違い
①循環が保持されている場合
以下になる場合と定義される(図 32)
.偶発的低体温に
循環を生み出すリズムが保持されている低体温の場
よる心停止を生じた場合には,通常の心肺蘇生法に変更
合,34 ℃以上の軽度低体温では暖かい毛布等による
を加えることが推奨されている 6).低体温の分類は深部
受動的復温と能動的体外復温を行う.30 ~ 34 ℃の中
体温により,軽度> 34℃,中等度 30 ~ 34℃,重度< 30
等度では強制温風式加熱 178)や加温した静脈内輸液等
℃に分類する.低体温の心電図所見として Osborn wave
能動的な体外復温を行い 179),afterdrop 現象を生じる
図 32 偶発性低体温における BLS・ACLS アルゴリズム
身体操作は慎重に行い VF を避ける
濡れた衣服をはがす
毛布や被覆で寒冷から守る
深部体温モニター
心リズムのモニター
Osborn(J)波
呼吸脈拍の確認(30∼40 秒かける)
脈拍・呼吸あり
脈拍または呼吸なし
深部体温は?
34∼36℃(軽度)
受動的復温(毛布等)
能動的体外復温(加温装置,
湯たんぽ,
温風等)
30∼34℃(中等度)
受動的復温(毛布等)
能動的体外復温(対幹部のみ)
30℃未満(高度)
能動的体外復温
加温した生理食塩水 43℃
加温・加湿酸素 42∼46℃
腹膜洗浄,胸腔灌流
食道復温チューブ
体外循環
いずれかが見られるまで体内復温の継続
深部体温>35℃
循環の回復
蘇生中止の判断
ただちに CPR を行う
電気ショック(除細動)を 1 回行う
二相性:120∼200J
単相性:360J
高度な気道の確保
加温・加湿酸素 42∼46℃
加温した生理食塩水 43℃
深部体温は?
30℃未満
CPR を継続
投薬は控える
電気ショック(除細動)は 1 度に限定
30℃以上
CPR を継続
必要があれば薬剤を考慮
復温中の VT/VF に電気ショック
(除細動)を繰り返す
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1431
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
ことがあるので能動的体外復温は四肢を避け体幹部の
生理的食塩水を用いた胸腔ドレナージチューブを介した
みを温める.30℃以下の重度では能動的体内復温,膜
胸腔内灌流,部分バイパスを用いた体外血液加温,心肺
型人工肺の使用を考慮する.
バイパス等を用いる.低体温では薬物代謝が遅延するた
め,30 ℃以下では静脈内薬物の反複投与は控える.初
②心停止状態
回電気ショックや初回投薬が無効であった場合,深部体
低体温により心停止を生じ循環リズムのない場合
は,能動的な体内復温に加え
180)
,従来の標準的救命
温が 30 ℃を超えるまでは追加の電気ショックや薬物静
脈投与は延期すべきである.重度低体温では洞性徐脈で
処置に変更を加えた心肺蘇生を行う.30 ~ 34 ℃の中
ある場合,通常はペースメーカの適応とならない.45
等度の低体温で心停止となった場合には,心肺蘇生法
~ 60 分以上低体温であった場合,加温中に血管拡張に
を開始し,電気ショックを施行,静脈路を確保する.
より循環血液量が低下するため,容量負荷が必要となる
薬物投与は比較的長い間隔に変更する.能動的な体内
ことが多い.
復温には,強制温風式加熱 181)等の非侵襲的な加温装
低体温による心停止では,低体温が先か心停止が先か
置や加温処置を用いる.30 ℃以下の重度低体温によ
の判断はできないことがある.臨床的に判断ができない
る心停止では,心肺蘇生法を開始し,電気ショックは
場合,CPR を施行し復温を開始する.明らかな致死的
1 回のみ施行し,復温するまで胸骨圧迫を継続する.
傷害を受けている場合,胸骨圧迫(心臓マッサージ)が
投薬は 30 ℃に復温するまで待つことが推奨される.
できないほど凍り,鼻や口が塞がれている場合は,現場
30℃以下では正常洞調律への回復は見込めないため,
での蘇生を差し控えてもよい(図 32).
能動的侵襲的な体内復温法として,腹膜灌流,食道復
温チューブ,心肺バイパス 182),体外循環の有効性が
報告されている
9
成人の先天性心疾患
1
成人先天性心疾患の現況と
緊急対応を要する病態
183)
.重度の低体温では,薬物過量投与,
飲酒,外傷等の原因が先行する場合が多いため,同時
に,基礎にある異常を探索し治療する.
③偶発的低体温症例に対する BLS
含めると 40 ~ 50 万人と言われ,今後増えていく 186).我
行い,身体の操作による心室細動誘発を予防する.低
が国の先天性心疾患による死亡を人口比でみると,1968
体温による心停止では脈拍数と呼吸数が少なく,医療
年には 10 万人当たり 3.6 であり,1996 年には 1.4 と低下
従事者は呼吸の確認後 30 ~ 40 秒かけて脈拍を評価す
したが,一方で,成人(20 歳以上)期死亡患者の割合
る.呼吸がなければすぐに人工呼吸を実施し,可能で
は増加している 187).すなわち,今後,成人期の死亡罹
あれば 42 ~ 46℃の加湿酸素を用いてバックマスク換
病が増え続けることが確実である.
気を行う 184).脈拍がなく循環のサインがない場合は,
救命救急の視点から,成人先天性心疾患の死因は,突
ただちに胸骨圧迫 CPR を開始する.低体温症例に対
然死,心不全死,再手術,その他の心臓死が 85%を占め,
する適切な電気ショックの方法は確定していないが,
突然死では不整脈が重要な要因とされている 188).また,
30℃以下であれば心室細動が確認されたら 1 回のみ電
緊急入院となった理由は,不整脈,急性心不全,その他
気ショックを施行し,その後はただちに CPR を再開
の突然死に結びつくような病態が並ぶ 189).
する.1 回の電気ショックで復調しない場合にはそれ
以上電気ショックを施行せず,深部体温が 30 ~ 32℃
に戻るまで CPR を継続する 185).
4
偶発的低体温症例に対する ACLS
反応がない患者や心停止患者は気管内挿管の適応とな
る.気管内挿管には加温加湿した酸素を用いた換気と,
1432
我が国には先天性心疾患を持った成人は“治療後”も
利用可能な方法で復温する.すべての手技は丁寧に
2
救急病態とその初期対応
救急に至る病態,そして,その初期対応は,基本的に
は成人の一般的なものと同様で,先天性心疾患特有のも
のではない.
①頻拍性不整脈
誤嚥予防効果がある.積極的で急速な能動的復温のため
⑴ 頻拍への対応
に 42 ~ 46℃の加温加湿酸素投与,43℃の加温した生理
心房頻拍(心房粗細動,心房頻拍)および心室頻拍
的食塩水の輸液,加温洗浄液による腹膜洗浄,加温した
がある.基礎疾患によって既にうっ血性心不全,低心
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
拍出量,拡張障害がある場合には,症状が激しい割に
頻拍中の心拍数が,少ないことがある.“発作”前の
③急性心不全
症状を聞き,病態を推測するとともに,胸部レントゲ
バルサルバ洞の破裂,大動脈弁に関連した細菌性心
ン等を行う.心拡大が著明な場合には,頻拍の停止が
内膜炎による急速な大動脈弁閉鎖不全進行,大動脈狭
急がれる.停止は通常の手順でよい(→Ⅴ.頻脈).
窄,冠動脈奇形,中等度の三心房心等による急性左心
既に抗不整脈薬を服用しているか,を確認する.心拍
不全がある.その他には既診断の先天性心疾患の病態
数に拘らず循環不全症状が強く,緊急を要する場合に
と関連して左心不全が単独ないし主病態になることは
は電気ショックを選択する.
少ない.もしあれば,後天性疾患の合併発症を考え,
治療によって洞調律ないし(心房~接合部)整調律
左心系の疾患を検索してそれに相応の治療を行う.
に復し,一定時間安定が確認されれば応急治療は終了
バルサルバ洞の破裂では,脈圧が広く,心聴診で大
である.ただ,発作停止後の観察時間に関しては定ま
きな連続性雑音ないし to and fro 雑音とギャロップが
った見解がない.発作時の循環動態が重症だった例,
あれば診断できる.重症な場合には,呼吸管理,利尿
治療後の調律が不安定な例では,入院観察が好ましい.
薬静注そして手術となる.中等症以下の場合,一般的
⑵ 原因疾患
な抗心不全療法で安定後,手術とする.
先天性心疾患のうち,心房性頻拍性不整脈を起こし
大動脈弁感染性心内膜炎で大動脈弁が破壊され,急
やすい疾患は,Ebstien 奇形,修正大血管転換(転位),
速に進行する弁閉鎖不全によって急性(~亜急性)左
内臓心房錯位症候群(無脾症,多脾症),ファロー四
心不全となる例がある.発熱の既往,少し時間経過の
徴症術後,Fontan 型手術後等で
190),191)
,特に,Ebstein
ある左心不全進行,聴診上の拡張期雑音とギャロップ
奇形,Fontan 型手術後では循環不全が強い.ただ,救
が診断に手がかりとなる.胸部レントゲンのうっ血像,
急の現場では基礎疾患診断は必須ではない.
心エコー図で疣腫と大動脈弁閉鎖不全を見る.疣腫が
10mm 以上であれば,塞栓のリスクが高くなるので手
②徐脈性不整脈
術を考慮するが,そのリスクも高い 192).基礎疾患と
房室ブロックおよび洞機能不全症候群による心拍停
して大動脈二尖弁症,軽症大動脈弁狭窄症,心室中隔
止があり,救急対応としては一般的な治療法で対処す
欠損等がある.
る(→Ⅴ.徐脈).
房室ブロックは,修正大血管転換(転位),心内膜
④失神
床欠損(房室中隔欠損),多脾症,心室中隔欠損孔閉
既知の先天性心疾患による失神とその機序に関し
鎖術後等に見られる.洞機能不全症候群は,多脾症,
て,Daniels と Chan の総説から表を改変して示した(表
心房内手術後(心房中隔欠損症術後,総肺静脈還流異
32)193).
常術後,完全大血管転換に対するセニングないしマス
基礎疾患に関わらず,初期対応での診断と治療は,
タード手術後)等に見られる.“特発性”洞機能不全
通常の場合と全く同様で,失神の当面の原因の治療,
症候群のなかに心内合併奇形のない多脾症がある.
回復を図る.
このうち,運動と関連して見られるものとして,大
動脈狭窄では運動時ないし運動直後に,洞機能不全で
表 32 成人先天性心疾患術後と失神
診断
心房中隔欠損症
心室中隔欠損症
大動脈狭窄症
Ebstein 奇形
ファロー四徴症
完全大血管転位症
(セニング~マスタード手術後)
修正大血管転位症*
可能性の高い病態
心房性不整脈(頻拍性・洞機能不全)
,肺高血圧
心房性・心室性不整脈,肺高血圧
左室流出路の固定性狭窄,心室性頻拍
心房細動,上室性頻拍(WPW 症候群合併)
心房性・心室性頻拍,洞機能不全
心房性頻拍,洞機能不全
房室ブロック
*心内奇形のない型では手術なしで成人に達するが,房室ブロックが初発のこともある
文献 193 より改変
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1433
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
は運動直後に急速な心拍数の低下から失神となる例も
表 33 先天性心疾患と胸痛
見られる.その他,冠状動脈起始異常があるが,事前
狭心症
冠状動脈奇形,大動脈狭窄
胸痛,背部痛 解離性大動脈瘤
Marfan 症候群,大動脈縮窄,大動脈二尖弁,
ファロー四徴等チアノーゼ性心疾患(特に肺
動脈閉鎖例)術後
肺梗塞
肺高血圧,チアノーゼ性心疾患(非“根治”
手術例)
,Fontan 術後
自然気胸
チアノーゼ性心疾患
には未知なことが多い.
大動脈狭窄では通常は狭窄部での圧較差が 50mmHg
以上の例でリスクがある.これらでは手術適応で,術
前は運動制限が課せられるので,所謂“運動”では起
きないが,電車に駆け込んだような時にリスクがある.
急 性 左 心 不 全 か ら 心 室 細 動 へ と 進 む こ と が 多 い.
AED ないし DC を適用する.
左右冠動脈が対側の冠動脈洞から急角度で起始し,
大動脈肺動脈の間を走行する冠動脈奇形がある.運動
中,心仕事量が増えると同時に,両大血管が拡張して
異常走行の冠状動脈を圧迫して心筋虚血・心室頻拍が
あり,これも AED ないし DC を適用する.突然死が
Ⅷ
蘇生後の治療
初発症状のことが多く,まれながら家族性に見られ
る 194).
⑤胸痛
先天性心疾患そのものによる胸痛は少ない.器質的
疾患としていくつかの病態が挙げられるが(表 33),
診断および初期対応は,別項に述べられる成人と共通
である.
⑥頭痛
チアノーゼ性心疾患,感染性心内膜炎の合併症とし
ての脳血管障害(一過性脳虚血,脳膿瘍,脳血栓塞栓)
がある.また,脳動脈瘤破裂に出血は,大動脈縮窄に
合併することが知られている.強い片頭痛を訴える例
もあるが,基礎心疾患との因果関係は否定的である.
初期対応は,それぞれの病態に沿った一般的なもの
と同様である.
⑦喀血,吐下血
喀血は肺高血圧(アイゼンメンジャー症候群を含
む ), チ ア ノ ー ゼ 性 心 疾 患( 非“ 根 治 ” 手 術 例 ),
Fontan 手術後に見られる.後 2 者では吐血下血も少な
くない.
初期対応は,まずは安静,出血が続く場合は止血剤
投与,喀血吐血が強く呼吸困難がある例では人工換気
を要する場合もある.
⑧呼吸困難
胸痛の病態(表 33)のうち,気胸,肺梗塞では呼
吸苦ないし呼吸困難を訴えることがある.
1434
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1
心停止後症候群
(Post cardiac arrest
syndrome)の治療
① 自己心拍再開後に生じる種々の臓器機能不全を心
停止後症候群と言う.
② 自己心拍再開後には心筋機能不全,脳機能不全,
多臓器不全,敗血症等を高率に併発する.
③ 心停止後症候群に対して,循環の安定化とその維
持を図る.脳血流量の保持のために過換気を避け,
脳の酸素消費量を抑制するために高体温,痙攣を
避ける.
④ 軽度低体温療法は神経学的予後を改善させる.
⑤ 低体温療法の戦略は,より早く冷却を開始し,目
標深部体温(34 ℃以下・1 ~ 3 日間)を正確に維
持し,ゆっくり復温する.
⑥ 低体温療法の手法は,冷たい細胞外液製剤(4℃)
を急速静脈投与(1 ~ 2L)し,引き続き血液を直
接冷却する手法が優れている.
⑦ 蘇生後は,血糖を< 150mg/dL に管理する.
心停止後心拍再開患者に対する軽度低体温療法の適応
クラスⅡ a:院外初回心電図が VF/VT 心停止で心拍
再開後も昏睡状態にある成人は,32 ~
34℃,12 ~ 24 時間の低体温療法を施行
すべきである.
クラスⅡ b :かかる低体温療法は,院外非 VT/VF
心停止または院内心停止成人で,心拍
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
再開後も昏睡状態にある場合も有益・
有用・有効であろう.
1
心停止後症候群(Post cardiac arrest
syndrome)の定義 3),31),65),67),195)
自己心拍が再開した後に生じる種々な臓器機能不全を
3
心停止後症候群(Post cardiac
arrest syndrome)の予後
心停止後症候群により心停止後自己心拍が再開して
も,その大多数の患者は死亡,植物状態,重度障害とい
った不幸な転帰をとる.SOS-KANTO 研究では,これ
ら不幸な転帰は 93%であった 7).
心停止後症候群と言う.
2
心停止後症候群(Post cardiac arrest
syndrome)の病態
自 己 心 拍 再 開 後 の 時 相 に よ り3段 階 に 分 類 さ れ
る 3),31),67),195).
第 1 段階:心筋機能不全
4
自己心拍再開後の主要初期
目標 3),31),65),67),195)
①循環:心・肺・脳への灌流の最適化.
⑴ 輸液と血管作動薬等で循環動態を安定化させる.
自己心拍再開後 24 時間以内は様々な心筋機能不全が
出現し,再度心停止に陥ることが多い
⑵ 脳血流量を低下させないために過換気を避け,動
3),31),65),67),195)
脈血二酸化炭酸濃度を正常範囲に保つ.
.
SOS-KANTO 研究 7)では,自己心拍再開例の 64%が心
⑶ 脳の酸素需要を考慮し,高体温を避け低体温療法
を開始する.痙攣発作には抗痙攣薬を投与する.
筋機能不全で死亡した.
第 2 段階:脳機能不全
自己心拍再開後も,脳機能不全は遷延する.この脳機
②心停止の原因検索とその救急治療
能不全には,一次性障害(心停止により惹起される神経
心停止の主要原因は,40 %が急性冠症候群,20 %が
細胞死;ネクローシス)と二次性障害(虚血と再灌流に
その他の心臓性疾患,10 %が外傷,残り 30 %が脳血管
より惹起された遅発性神経細胞死;アポトーシス)に大
疾患,窒息,呼吸器疾患等である 7).したがって急性冠
別される 196)-198).したがって,自己心拍再開直後に,
症候群に対する冠再灌流療法を視野に入れた救急対応が
神経学的予後を予測することは困難である.神経学的転
必要である.この心拍再開早期の常温下の冠再灌流療法
帰が不良となる規定因子として,常温下では自己心拍再
の 有 用・ 有 効・ 有 益 性 は, 既 に 証 明 さ れ て い
開 24 時間後の⑴角膜反射消失,⑵瞳孔反応消失,⑶疼
る 3),31),65),67),195).
痛刺激に対する逃避反射消失,⑷ 24 時間後または 72 時
間後の運動反応消失,⑸ 72 時間後の正中神経体性感覚
③転帰(良好な神経学的転帰)の改善
誘発電位の反応が両側とも消失等が報告されてい
1.低体温療法の作用機序
る 3),31),65),67),195).
低体温は脳代謝を抑制,エネルギー生成機構を保護し,
第 3a 段階:多臓器機能不全
細胞内 Ca2+ 蓄積を防止,脳温上昇を防止,脳血液関門
次に,多臓器機能不全や血液凝固障害が顕著化する.
を保護,神経伝達物質の放出を抑制,アポトーシスの防
その程度は心停止中の虚血時間,心拍再開後の臓器血流,
止,サイトカイン・ラジカル産生の抑制,脳浮腫の抑制
再灌流障害(微小循環不全を含む),および心停止前の
等の作用により脳を保護する 199)-203).一方,有害な作
各々の臓器の状態等により規定される.特に,消化管の
用として,30 ℃未満または 1 日以上の冷却で,感染症,
血 流 不 全 は, 循 環 動 態 が 安 定 し て も 遷 延 す
血液凝固異常,不整脈等の増加がある 31),67),195),203).
る 3),31),65),67),195).
2.心停止後心拍再開患者に対する軽度低体温療法の適
応
第 3b 段階:敗血症
心停止により免疫制御系も障害と消化管の血流不全の
クラスⅡ a :院外初回心電図が VF/VT 心停止で心拍再
遷延化等により,消化管では粘膜の透過性が亢進し,腸
開後も昏睡状態にある成人は,32 ~ 34℃,
内細菌が血中に侵入しやすくなる.人工呼吸管理では肺
12 ~ 24 時間の低体温療法を施行すべきで
炎等も併発しやすい
3),31),65),67),195)
.
ある.
クラスⅡ b :かかる低体温療法は,院外非 VT/VF 心停
止または院内心停止成人で,心拍再開後も
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1435
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
昏睡状態にある場合も有益・有用・有効で
脈投与する手法が報告された.この方法は簡便で,
あろう.
かつより早く冷却が開始できる利点を有する.しか
2003 年 ILCOR の Therapeutic hypothermia after cardiac
し,この方法のみでは,目標深部体温(34℃以下)
arrest の勧告 203),ILCOR・AHA ガイドライン 2005
に到達させることや目標深部体温の正確な維持が困
31),67)
および 2008 年 ILCOR の Post cardiac arret syndrome の勧
告
195)
では,軽度低体温療法は心停止後症候群に対して
難である 5).
3)血液直接冷却法
31),65),67),195)
.初回心電図リズ
血 液を 体外 循環の 回路を 用い て冷却 する 手法
ムが心室細動または無脈性心室頻拍の院外心停止で心拍
(KTEK-3)や血管内に冷却カテーテル挿入して冷
再開後も昏睡状態にある成人患者は 32 ~ 34℃,12 ~ 24
却する手法等が報告されている 70),220),228).これらの
時間の冷却をすべきであるとした.ヨーロッパ研究で
手法は,目標深部体温到達までの時間の短縮と正確
有用・有効性があるとした
は
,24 時間,32 ~ 34℃に冷却した低体温療法施行群
204)
な深部体温の管理・維持に優れている.
が正常体温管理群より 6 か月後の良好な神経学的転帰が
5.低体温療法の戦略
有意に高値(55% vs. 39%)であった.オーストラリア
図 33 に長尾らの低体温療法の戦略を示す.収容直後
研究 205)でも,12 時間・33℃に冷却した低体温療法群が
に 4 ℃冷却細胞外液製剤を 2L 急速に静脈内投与し,冠
正常体温管理群より退院時の良好な神経学的転帰が有意
再灌流療法を実施.その後,KTEK-3 を用いて目標深部
に高値(49% vs. 26%)であった.
体温(肺動脈血液温を 34 ℃)を正確に管理・維持する
3.低体温療法の患者選択規準
方法戦略を実施している.この戦略の効果では神経学的
一般に,成人の心原性 VF で心拍再開後も昏睡状態に
転帰が 80%と良好である 206)-208).
ある患者は,低体温療法の適応がある 31),65),67),195).
6.低体温療法の有害事象
4.低体温療法の冷却手法
低体温治療期間中は重症感染症,出血傾向,重症不整
1)体表面冷却法
脈等に留意する必要があるが,正常体温管理群と比較す
クーリング・ブランケットやアイスパックを用い
ると有害事象に有意な差はない 195),204),205).しかしなが
て体表面を冷却する手法を用いられてい
ら,冷却期間中は心係数が低下し,体血管抵抗と血糖値
る
195),203)-205)
.この方法は簡便であるが,目標深部
体 温 到 達 ま で に 長 時 間 を 要 す る( ヨ ー ロ ッ パ 研
究
では,目標深部体温到達までに平均 8 時間を
204)
は有意に上昇する 205).
7.低体温療法の今後の課題
今後の課題として,低体温療法の開始時期,目標深部
要していた).また,正確な目標深部体温を維持・
体 温, 持 続 時 間, 復 温 手 法 等 が 挙 げ ら れ て い
管理するには熟練を要し,多くの人手が必要であ
る 31),67),195),203).冷却開始は早期であるほど,その効果
る 31),67),195),203).最近,新たな体表面冷却手法(ベ
は高い 67),195),203).しかし,その冷却開始時期や目標深部
スト型,鼻腔型等)が登場した
195),203)
体温到達までの時間の限界点についての検証は十分でな
.
い.目標深部体温も 32 ℃~ 34 ℃までと施設で異なる.
2)冷たい細胞外液製剤の急速静脈投与冷却法
4℃に冷却した細胞外液製剤を 1 ~ 2L,急速に静
動物実験では,より低い深部体温がより高い効果を有し
図 33 心拍再開に成功した昏睡状態にある患者に対する軽度低体温 のプロトコール
˚C
冷却細胞外液 を急速輸液( 4℃,2L,15 分間以内に静注)
,引き続き
36
血液を体外循環で冷却
深部体温
冠再灌流治療
35
自己脈再開まで
<20min
20 ∼ 30min
≧30min
冷却期間
24hrs
48hrs
72hrs
34
0分
≦3
1436
.5
≦2
時間
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
目標温度での冷却期間
複温期間
1 ∼ 3 日間
2 日以上
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
たと報告されているが 209)-212),至適な目標深部体温の
検証も十分でない.また,心停止から心拍再開までの時
科学的検証
2
,冷
2005 年に改変された CPR と救急心血管治療のガイド
却持続期間の検証も十分でない.通常は 1 ~ 3 日の冷却
ラインでは,ECPR は,血流停止時間の短い心停止患者
後に 2 日以上かけて複温するが,至適な復温の手法につ
で,その原因が治癒可能な場合,もしくは心臓移植や冠
いても,これからの検討課題である 213).
血行再建術により修復可能な場合に考慮すべきである
間で冷却持続時間は異なると考えられているが
5
213)
自己心拍再開後の血糖管理の必要性
蘇生後の高血糖は神経学的転帰に関連,ショック患者
(クラスⅡ b)と報告された 34),68).
標準的心肺蘇生法との比較
3
の 血 糖 管 理 は, そ の 死 亡 率 を 減 少 さ せ る 214)-216).
この ECPR の臨床研究は,我が国・韓国・台湾が先行
ILCOR/AHA は蘇生後(低体温療法施行を含む)の血糖
している.我が国では,院外心停止患者に対して救急隊
管理の必要性を勧告した 31),67),195).
が CPR を施行しても,病院到着時に自己心拍が再開し
蘇 生 患 者 で は 通 常 血 糖 の 管 理 目 標 を 150mg/dL
ている割合は 5%に過ぎない.
(144mg/dL,8mmol/L)以下にする 195),217),218).
2
体外循環式心肺蘇生法
(Extracorporeal
cardiopulmonary
resuscitation; ECPR)
① 標準的な ACLS に反応しない心停止で血流停止時
間が短い場合には,人工心肺装置(PCPS)を用
いる体外循環式心肺蘇生法(ECPR)を考慮する
(クラスⅡ b).
② ECPR は標準的な CPR よりも神経学的な予後を改
善する.
③ PCPS に低体温療法と冠再灌流療法を駆使した
ECPR は,先進的な蘇生法である.
1
定義・手法
残り 95 %の病院到着時も心拍再開が得られてない例
に対し医師が標準的 CPR を行っても 30 日後の良好な神
経学的転帰は 0.4%と極めて不良である 7).一方,ECPR
を行った場合の予後(良好な神経学的転帰)は 10 ~ 30
)
%と良好である 220)-225(図
34).特に PCPS 装着までの
時間が心停止後 1 時間以内では,良好な神経学的転帰で
あった 220)-223).
適応規準
4
ECPR の導入規準は国際的に標準化されていない.
2008 年現在,我が国の多施設共同研究として開始され
た SAVE-J(厚労科研;坂本班)の ECPR の導入規準を
表 34 に示す 226).
低体温療法・冠再灌流療法の
併用療法
5
ECPR は国際的に注目させている新しい CPR である.
しかし,侵襲的蘇生法であり,その適応・効果の検証は
体 外 循 環 式 心 肺 蘇 生 法(Extracorporeal cardio-
今後の課題である.しかし,常温下の ECPR には,限界
pulmonary resuscitation; ECPR)とは,一般的に遠心ポ
がある.そこで,ECPR に低体温療法と冠再灌流療法を
ンプと膜型人工肺を用いた閉鎖回路による人工心肺装置
図 34 心停止に対する ECPR の効果
(percutaneous cardiopulmonary support; PCPS も し く は
cardiopulmonary bypass; CPB)を用いた侵襲的蘇生法で
ある 31),65),67),195).経皮的に脱血用カテーテルを大腿静脈
Chen Y-S , et al. JACC 2003 ; 44 197-203 より改変
適応患者
●年齢≦75 歳
●心原性
●標準的 CPR>10 分
総腸骨動脈まで挿入する.遠心ポンプにより静脈血を脱
血(2 ~ 6L/min)し膜型人工肺で酸素化(動脈血化)し,
総腸骨動脈から逆行性に大動脈血管内に送血する.これ
より脳・心臓等の主要臓器に酸素化血液が人工的に供給
される.その供給量は標準的 CPR の約 1L/min より遥か
に優れている 219).
生存退院率(%)
から右心房まで挿入,送血用カテーテルを大腿動脈から
100%
100
75
50
25
0
57.1%
31.6%
48.4%
11.5%
全体(n=57)
<30 分 <45 分 <60 分 >60 分
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1437
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
表 34 ECPR の適応(SAVE-J 研究;坂本班)
開始規準
1.年齢 20 歳~ 75 歳
2.初回心電図が VF/ 無脈性 VT
3.標準的 ACLS に反応しない
除外規準
1.ER 到着までの時間が 45 分以上
2.ER 到着後も 15 分間の標準的 ACLS に反応した
3.収容時深部体温< 30℃
4.心停止前の ADL が不良
5.家族の同意が得られない
2
小児 BLS のアルゴリズム(図 35)
①発見時の対応
肩を(軽く)叩きながら大声で呼びかけても,何らか
の応答や目的のある仕草がなければ「反応なし」とみ
なし,大声で叫んで周囲の注意を喚起し,CPR を開
始する.
誰かが来たら,その人に緊急通報(119 番通報)と
組 み 込 ん だ, よ り 積 極 的 な ECPR が 注 目 さ れ て い
る
206),208),224)-226)
.
AED の手配を依頼し,自らは CPR を継続する.救助
者が 1 人の場合は,5 サイクル(または 2 分間)の CPR
を行ってから 119 番通報を行い,近くに AED があれ
Ⅸ
小児の BLS と ACLS
ば確保する.ただし,突然の卒倒が目撃された場合で
救助者が 1 人だけの場合は,反応がないことを確認し
たら,まず 119 番通報や AED の手配を行い,その後
に CPR を開始する.
1
小児の一次救命処置(PBLS)
②呼吸の確認と人工呼吸
死戦期呼吸(いわゆる喘ぎ呼吸),または無呼吸の場
① 小児とは,1 歳から思春期以前である.
② 小児では呼吸停止が多く,原発性心停止は少ない.
③ 呼吸の補助は,3 ~ 5 秒に人工呼吸を 1 回行う(成
人は 5 ~ 6 秒ごと).
④ 胸骨圧迫の深さは胸の厚みの 1/3 ~ 1/2(成人は 4
~ 5cm).
⑤ 胸骨圧迫と呼吸の比は救助者が 1 人では 30:2,2
人では 15:2 で行う.
⑥ AED を使用する際の手順は,成人の場合と同様
だが,1 歳以上 8 歳未満の小児に対しては,小児
用パッドを用いる.小児用パッドがない場合は成
人用を代用する.
小児 BLS の概念
1
合は,気道を確保して,
“有効な”人工呼吸を 2 回行う.
人工呼吸が有効でない場合は,頭の位置を変えて気道
の確保をやり直して再施行するが,このために胸骨圧
迫の開始が遅れてはならない.口対口人工呼吸を行う
場合,乳児では口対口鼻法が,小児では口対口法が適
している.呼吸数 10 回 / 分以下の徐呼吸も,呼吸停止
(無呼吸)と同様に対応する.
③心停止の確認
反応と呼吸がなければ心停止の可能性が高い.充分な
速さの脈が確実に触知できる場合を除いては CPR が
必要である.呼吸の観察と脈拍の触知を同時に行うが,
10 秒以上をかけない.10 秒以内に脈の触知を確信で
きない場合は心停止と判断して胸骨圧迫を開始する.
充分な速さの脈が確実に触知できれば人工呼吸のみを
小児とは,1 歳から思春期以前(15 歳までが目安)を
開始する.
指し,乳児は 1 歳未満とする.この年齢の BLS を必要と
脈拍の確認は,乳児では上腕動脈で,小児では頸動脈
する病態は,呼吸原性のものが多いのが特徴で,BLS の
か大腿動脈で行う.充分な酸素投与と人工呼吸にもか
手順も成人のものと異なる.子どもが一旦心停止に至っ
かわらず,心拍数が 60/min 以下で,かつ循環が悪い(皮
た場合の救命率は低いため,予防・CPR・地域救急シス
膚蒼白,チアノーゼ等)場合も胸骨圧迫を開始する.
テムへの搬送等,救命の連鎖を迅速に行うことが求めら
反応はないが,呼吸および確実な脈のある場合は,傷
れる
227)
.
病者を回復体位にして専門家の到着を待つ.
④心肺蘇生法 CPR
心停止と判断した場合は,人工呼吸を 2 回試みた後に,
胸骨圧迫 30 回(二人法では 15 回)と人工呼吸 2 回の
1438
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
図 35 PBLS のアルゴリズム
体動なし,反応なし
119 番通報,AED を確保に行かせる
気道を確保,呼吸確認
*救助者が一人の場合:
目の前で突然倒れた場合は
まず,119 番通報,AED を
確保する。
呼吸停止なら,2 回人工呼吸(胸郭の拡張を確認)
反応がなければ,
脈をチェックする
(10 秒以内)
脈あり ・3 秒ごとに 1 回人工呼吸
・2 分ごとに脈をチェック
脈がない or 不確実
1 人:胸骨圧迫 30 回+人工呼吸 2 回を繰り返す
2 人:胸骨圧迫 15 回+人工呼吸 2 回を繰り返す
心マッサージの中断は最小限に
圧迫は強く,速く(100/ 分)
圧迫解除後に胸郭が完全に戻るように
未だ済ませていなければ,119 番通報,AED を確保
1 歳未満:ALS チームに引き継ぐか,傷病者が動き始めるまで CPR を続ける
1 歳以上:CPR を続ける,5 サイクルの CPR 後,AED/ 除細動器を使用する
(倒れたのが目撃された場合には,できるだけ早期に AED を使用する)
ショック 1 回
ただちに CPR を再開
5 サイクル(2 分間) 適応
心電図解析
除細動の適応は?
組み合わせを速やかに開始する.ただし,人工呼吸の
準備が整っていない場合には胸骨圧迫の開始を優先
し,人工呼吸は可能になり次第始める.
⑴ 乳児の胸骨圧迫
ただちに CPR を再開
5 サイクル(2 分間)毎に
心電図解析,ALS チームに
適応なし 引き継ぐか,傷病者が動き
始めるまで CPR を続ける。
を非同期で行い,呼吸回数は約 10 回 / 分とする.
⑷ 胸骨圧迫なしの人工呼吸
呼吸はないが脈を確実に触知できる場合は,12
~ 20/ 回の人工呼吸のみを行う.およそ 2 分ごと
両乳頭を結ぶ(想像上の)線より少し足側(尾側)
に確実な脈拍が触知できることを,10 秒以内で
の胸骨を指 2 本で(一人法),または胸郭包み込
確認する.
み両母指圧迫法で(二人法)で圧迫する.胸の厚
⑸ 胸骨圧迫の役割交代
みの 1/3 までしっかり約 100 回 / 分の速さ(テンポ)
胸骨圧迫の交代要員がいる場合には,10 サイク
で圧迫する.救助者が 2 人の場合は,4 本の指で
ル(2 分)おきに交代することが望ましい.
胸郭を絞り込むような動作で胸郭包み込み両母指
圧迫法を行う.
⑵ 小児の胸骨圧迫
⑤自動体外電気除細動器 AED
AED を使用する際の手順は,成人の場合と同様だが,
「胸の真ん中」または両乳頭を結ぶ線の胸骨を片
1 歳以上 8 歳未満の小児に対しては,小児用パッドを
腕または両腕で圧迫する.胸の厚みの 1/3 までし
用いる.小児用パッドがない場合,成人用パッドを代
っかり約 100 回 / 分の速さ(テンポ)で圧迫する.
用する.
⑶ 非同期 CPR
気管挿管がなされた場合は,人工呼吸と胸骨圧迫
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1439
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
2
小児の二次救命処置
(PALS)
① general assessment(初期評価)
A;Appearance(外見)
① 小児の二次救命処置(PALS)は,評価,呼吸障害,
ショック,徐脈,頻脈,心停止の評価と治療から
成り立つ.
② general assessment
(初期評価),primary assessment
(一次評価),secondary assessment(二次評価),
tertiary assessment(三次評価)を行う.その際に
小児の正常値を理解する.
③ 小 児 の 神 経 状 態 は Alert-Voice-Painful-Unres-
ponsive(AVPU)小児反応スケールと瞳孔反応で
判断する.
④ 小児の徐脈の原因としては低酸素が最も考えられ
る.循環不全を合併する場合には,気道,呼吸,
静脈路を確保し,酸素を投与する.酸素投与と換
気を行っても,循環不全で心拍数< 60/ 分の場合
は,CPR を実施する.
⑤ 小児の VF/ 無脈性 VT は成人に準じるが,1 回目
の電気ショック(除細動)は 2J/kg で行い,2 回
目以降は 4J/kg で行う.また,小児の心静止 /PEA
(無脈性電気活動)では,アドレナリン(エピネ
フリン)は体重換算で用い,硫酸アトロピンは使
用しない.
⑥ 循環の良好な頻脈において,小児では,QRS 幅
≦ 0.08sec を正常と判断する.洞性頻脈では起こ
りうる原因を治療する.上室頻拍と考えられる場
合 は, 迷 走 神 経 緊 張,ATP 静 注 を 行 う. 広 い
QRS の頻拍は,心室頻拍の可能性が高くアミオ
ダロンまたはプロカインアミドもしくは同期下カ
ルディオバージョンを行う.
⑦ 循環不良な頻脈では,洞性でなければ同期下カル
ディオバージョンを遅滞なく行う.
PALS の概念
1
PALS は BLS では回復不能な小児の高度心肺蘇生法で
乏しい,言葉,泣き方が弱い等は重篤な病態や重体の
徴候である.
B;Work of Breathing(呼吸仕事量)
努力呼吸(鼻翼呼吸,陥没呼吸),徐呼吸,無呼吸,
呼吸音の異常(wheezing,grunting,stridor)は呼吸
障害を意味する.
C;Circulation(循環皮膚色)
皮膚色の異常(蒼白,斑状)は末梢循環不全もしくは
酸素化不良を意味する.出血の有無もチェックする.
② primary assessment(一次評価)
A;Airway(気道)
胸郭と腹部の動きを見る.呼吸音を聴取する.鼻腔と
口腔の空気の動きを感じる.
陥没呼吸を伴う努力性呼吸で,吸気音の異常(snoring,
高調な stridor),努力呼吸にも関わらず呼吸音が聴取
できない場合に上気道閉塞を考える.この場合,頭部
後屈,下顎挙上,鼻腔咽頭吸引,異物除去手技,経鼻
もしくは経口エアウェイ等を行い,改善しない場合に
は,挿管,喉頭鏡による異物除去,持続陽圧呼吸,気
管切開等を行う.
B;Breathing(呼吸)
呼吸数,呼吸努力,一回換気量,呼吸音の異常,経皮
的酸素分圧等で評価する(表 35).
⑴ 呼吸数:60/ 分以上の頻呼吸は小児では異常で
あり,かなり重篤な状態を意味する.呼吸数が
正常上限を超えている場合に頻呼吸と言うが,
発熱,疼痛,代謝性アシドーシス,敗血症等を
除外することが必要である.正常下限を下回る
時に徐呼吸と定義する.疲労,中枢神経障害や
感染,低体温,薬剤等が原因となる.また 20
秒を超える呼吸停止を無呼吸という.
⑵ 呼吸努力:鼻翼呼吸,陥没呼吸,頭部の上下運
あり,評価(初期,一次,二次,三次評価),呼吸障害,
動,シーソー様呼吸は低酸素,低換気を改善す
ショック,徐脈,頻脈,心停止の評価と治療から成り立
るための徴候である.
つ
⑶ 換気量:小児の一回換気量はおよそ 5 ~ 7mL/
228)
2
.
評価
評 価 は general assessment( 初 期 評 価 ),primary
assessment(一次評価),secondary assessment(二次評価),
tertiary assessment(三次評価)の 4 つから構成される.
1440
筋緊張低下,意思疎通性低下,精神的不安定,表情に
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
kg であり,分時換気量=呼吸数×一回換気量
となる
⑷ 呼吸音の異常:stridor(吸気性喘鳴),grunting
(伸吟),gurgling(ゴロゴロ音),wheezing(笛
音,呼気性喘鳴),crackles(捻髪音,水泡音)
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
表 36 Alert-Voice-Painful-Unresponsive(AVPU)
小児反応スケール
等がある
経皮的酸素分圧
室内で 94 %を上回る時には換気が十分であることを
表す.これ以下の場合には酸素投与を考える.90 %
以下では 100%酸素投与を行う.
C;Circulation(循環,皮膚色)
循環では心血管系と末梢臓器機能の両者を評価する.
心血管系としては皮膚色,皮膚温,心拍数,リズム,
血圧,脈(末梢,中心),毛細血管充満時間を,末梢
臓器機能としては脳循環(精神状態),皮膚循環,腎
循環(尿量)等を評価する.小児の正常値を表 35 に
示す.
A
V
P
U
Alert(意識清明)
: 覚醒しており,活動的で,両親や外
部刺激に対する反応が正常である
Voice(声に反応)
: 呼びかけると反応する
Painful(痛み刺激に反応)
: 痛み刺激で反応する
Unresponsive(無反応)
: 刺激しても反応しない
を,腹部膨満は急性腹症を示す.
③ secondary assessment(二次評価)
一 次 評 価 が 終 了 し た ら, 病 歴 と 身 体 所 見 を と る
(SAMPLE).
Signs and Symptoms(自他覚症状)
毛細血管充満時間 capillary refill time は正常では 2 秒
呼吸困難(咳嗽,頻呼吸,努力呼吸,息切れ,異常な
以下であり,延長する時には脱水,ショック,低体温
呼吸パターン,胸痛,深吸気)
,意識状態の変化,興奮,
等を示唆する.敗血症ショックでは正常である.
不安,発熱,経口摂取不良,下痢,嘔吐,出血,疲労,
D;Disability(神経学的評価)
小 児 の 神 経 状 態 は Alert-Voice-Painful-Unresponsive
(AVPU)小児反応スケールと瞳孔反応で判断する(表
36).小児で意識レベルの低下するのは,脳血流障害
(頭蓋内圧亢進等),頭部外傷,脳炎,髄膜炎,低血糖,
薬物中毒,低酸素血症,高二酸化炭素血症である.
正 常 例 で は 瞳 孔 は PERRL(Pupils Equal Round
Reactive to Light;瞳孔は左右差なく,円形で光に反
応する)である.
E;Exposure(全身観察)
症状出現の時間経過.
Allergies(アレルギー)
薬物,食物,ラテックス(ゴム).
Medications(薬剤)
服薬状況,最後の服薬の時間と量.
Past medical history(既往歴)
既往歴,過去の手術歴,予防接種.
Last meal(最後の食事)
最後の食事,ミルクの時間と種類.
Events(イベント)
小児の観察を行うため,衣服を脱がせ観察する.重篤
病状に関係する行事,危険な状況の有無,これまで行
な低体温,出血,点状出血 / 紫斑は敗血症性ショック
った治療,到着までの時間
表 35 小児のバイタルサインなどの正常値
1 呼吸数 年齢
呼吸数(/ 分)
<1歳
30 ~ 60
1~3歳
24 ~ 40
4~5歳
22 ~ 34
6 ~ 12 歳
18 ~ 30
13 ~ 18 歳
12 ~ 16
2 心拍数 年齢
覚醒時心拍数 平均 睡眠時心拍数
< 3 か月
85 ~ 205
140 80 ~ 160
3 か月~ 2 歳 100 ~ 190
130 75 ~ 160
2 歳~ 10 歳 60 ~ 140
80 60 ~ 90
> 10 歳
60 ~ 100
75 50 ~ 90
3 血圧
年齢
収縮期血圧(mmHg)
日齢 0 ~ 28 < 60
1 ~ 12 か月 < 70
1 ~ 10 歳
< 70 +(年齢× 2)
> 10 歳
< 90
4 腎機能 年齢
尿量
乳幼児
1.5 ~ 2mL/kg/h
それより大きな小児
1mL/kg/h
④ tertiary assessment(三次評価)
二次評価が終わったら検査を行う.
呼吸機能
動脈血ガス,静脈血ガス,ヘモグロビン,パルスオ
キシメーター,呼気 CO2 モニター,呼気二酸化炭素
検知(カプノメータまたは比色法),胸部 X 線検査,
最大呼気流量(peak expiratory flow rate:PEFR).
循環機能
動 脈 血 ガ ス, 静 脈 血 ガ ス, 中 心 静 脈 血 酸 素 飽 和 度
(SvO2), 総 血 清 CO2(HCO3 -,H2CO3, 溶 解 CO2),
動脈血乳酸値,ヘモグロビン,観血的動脈圧,中心静
脈圧,胸部 X 線写真,心エコー(心内腔の大きさ,心
室壁の厚さ,収縮能,弁の逆流,動き,心囊液,心室
圧の推定,心室中隔の位置,先天性心疾患の有無)
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1441
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
図 36 脈拍を触知する小児徐脈アルゴリズム
脈拍を触知する徐脈
呼吸循環不全を認める
症候性徐脈とは,心拍数
が年齢の正常以下で,シ
ョック(末 梢 循 環 不 全,
低 血 圧,意 識 低 下 等)
,
かつ / または呼吸窮迫,
呼吸不全を認めるもの
はい
・ABC を確保
・酸素投与
・モニター・除細動器を装着
いいえ
徐脈により依然,
呼吸循環不全を
認めるか?
はい
酸素投与と換気を行っても,
循環不全で心拍数<60/ 分の
場合は,CPR を実施
・ABC を確保:必要なら酸素投与
・観察
・専門医への相談を考慮
いいえ
症候性徐脈が持続するか?
はい
注意を喚起すべきこと
・CPR は,強く,速く(100/ 分)行う
胸郭が完全に戻ることを確認
心マッサージの中断を最小限にする
・ABC を補助
・必要ならエアウェイを挿入:位置を確認
・可能性のある原因を考え,治療する
Hypovolemia(循環血液量減少)
Hypoxia or ventilarion problem
(低酸素,換気不良)
Hydoregen ion(アシドーシス)
Hypo-/hyperkalemia(高 / 低 K 血症)
Hypoglycemia(低血糖)
Hypo thermia(低体温)
Toxins(毒物)
Tamponade, cardiac(心タンポナーデ)
Tension pneumothorax(緊張性気胸)
Thrombosis(心筋梗塞,肺塞栓)
Trauma(外傷循環血液量減少,頭蓋内圧亢進)
3
・エピネフリン(アドレナリン)投与
静注・骨髄内:0.01mg/kg(10,000 倍希釈:0.1mL/kg)
気管内:0.1mg/kg(1,000 倍希釈:0.1mL/kg)
3∼5 分ごとに繰り返す
・迷走神経緊張・原因不明の房室ブロック
アトロピン:初回 0.02mg/kg,再投与可
(最少投与量:0.1mg,最大投与量:1mg)
・経皮的体外ペーシングを考慮
脈拍を触知する小児徐脈
アルゴリズム(図 36)
無脈性心停止が生じた場合には
無脈性心停止アルゴリズムへ
ショック(除細動)は 4J/kg で行う.小児の心静止 /PEA
(無脈性電気活動)では,アドレナリン(エピネフリン)
は体重換算で用い,硫酸アトロピンは使用しない.
徐脈の原因としては低酸素が最も考えられる.もし反
応が鈍い等他の循環不全を合併する場合には,気道,呼
吸,静脈路を確保し,酸素を投与する.酸素投与と換気
を行っても,循環不全で心拍数< 60/ 分の場合は,CPR
を実施する.
4
小児無脈性心停止アルゴリズム(図 37)
循環の良好な小児頻脈
アルゴリズム(図 38)
① QRS 幅が狭い(≦ 0.08sec)場合
頻脈で脈拍を触知し,末梢循環も良好なものには,
ABC を評価し,必要なら確保する.酸素投与,モニタ
小児の VF/ 無脈性 VT は成人に準じるが,1 回目の電
ー / 除細動器の装着,可能なら 12 誘導心電図の記録を行
気ショック(除細動)は 2J/kg で行う.自動体外式除細
う.小児では,QRS 幅≦ 0.08sec を正常と判断する.
動器(AED)は 1 歳以上で使用する.2 回目以降の電気
1442
5
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
⑴ 洞性頻脈を疑う既往歴,明瞭もしくは正常 P 波,
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
図 37 小児無脈性心停止アルゴリズム
無脈性心停止
・BLS アルゴリズム:CPR を継続
・可能なら酸素投与
・可能ならモニター / 除細動器を装着
リズムチェック
除細動の適応か?
はい
いいえ
VT/VF
心静止 /PEA(無脈性電気活動)
1 回除細動
・除細動器:2J/kg
・AED:1 歳以上
(8 歳以下では可能なら
小児用パッドを用いる)
ただちに CPR を再開
ただちに CPR を再開
・エピネフリン投与
IV/IO:0.01mg/kg
(10,000 倍希釈 :0.1mL/kg)
気管内:0.1mg/kg
(1,000 倍希釈 :0.1mL/kg)
3∼5 分ごとに繰り返す
5 サイクルの CPR
リズムチェック
除細動の適応か?
いいえ
はい
5 サイクルの CPR
はい
除細動器の充電中は CPR を継続
1 回除細動
・除細動器:4J/kg
・AED:1 歳以上
ただちに CPR を再開
・エピネフリン投与
IV/IO:0.01mg/kg
(10000 倍希釈:0.1mL/kg)
気管内:0.1mg/kg
(1000 倍希釈:0.1mL/kg)
3∼5 分ごとに繰り返す
いいえ
はい
リズムチェック
除細動の適応か?
はい
いいえ
脈拍触知
5 サイクルの CPR
リズムチェック
除細動の適応か?
いいえ
心静止
PEA
蘇生後ケアを開始
除細動器の充電中は CPR を継続
1 回除細動
・除細動器:4J/kg
・AED:1 歳以上
ただちに CPR を再開
抗不整脈薬投与を考慮
アミオダロン 5mg/kg IV/IO
リドカイン 1mg/kg IV/IO)
Torsade des pointes には硫酸マグネシウム
25∼50mg/kg 最大 2g IV/IO
5 サイクルの CPR
VT :心室頻拍
VF :心室細動
IV :静注
IO :骨髄内
PR は 一 定 で,RR 時 間 が 変 動 す る 場 合, 乳 児:
バルサルバ法と顔面氷冷法等迷走神経刺激を考慮
HR < 220/min,小児:HR < 180/min では洞性頻
する.次に血管を確保し,ATP 0.1mg/kg IV(最
脈と考え,起こりうる原因を調べ治療する.
大 10mg), 無 効 な ら 2 回 目 0.2mg/kg IV( 最 大
⑵ 上室頻拍を疑う既往歴,不明瞭もしくは異常 P 波,
20mg)を急速静注し生食でフラッシュする.
HR が体動で変動しない場合,乳児:HR ≧ 220/
min,小児:HR ≧ 180/min では上室頻拍を考え,
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1443
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
図 38 循環の良好な小児頻脈アルゴリズム
頻脈で脈拍を触知し,末梢循環も良好なもの
・ABC を評価し,必要なら確保する
・酸素投与
・モニター / 除細動器を装着
・可能なら 12 誘導心電図を記録
正常(≦0.08 sec)
QRS 幅は?
リズムを評価
洞性頻脈と考えられる場合
・洞性頻脈を疑う既往歴
・P 波が明瞭 / 正常
・PR は一定で,RR 時間が変動
・乳児:HR<220/min
・小児:HR<180/min
広い(>0.08 sec)
心室頻拍の可能性が高い
上室頻拍と考えられる場合
・上室頻拍を疑う既往歴
(非特異的;突然の心拍数
の変化)
・P 波が不明瞭 / 異常
・HR が体動で変動しない
・乳児:HR≧220/min
・小児:HR≧180/min
起こりうる原因を調べ治療する
迷走神経刺激を考慮
・血管確保
・ATP 0.1mg/kg IV(最大 10mg)
2 回目 0.2mg/kg IV(最大 20mg)
急速静注(生食でフラッシュ)
② QRS 幅が広い(> 0.08sec)場合
心室頻拍の可能性が高く,専門家への相談を考慮;
起こりうる原因を調べ治療する.
薬剤による停止を行う場合は,アミオダロン 5mg/
専門家への相談を考慮;起こりうる原因
を調べ治療する
薬剤による停止を考慮
・ア ミ オ ダ ロ ン 5mg/kg IV 20∼60 分
かけて
・プロカインアミド 15mg/kg IV 30∼
60 分かけて
アミオダロンとプロカインアミドはな
るべく同時には使用しない
・使用していなければ ATP 使用を考慮
カルディオバージョン
・小児循環器医に相談
・0.5∼1J/kg で QRS 同期下にカルディ
オバージョン(初回が効果ない場合
には 2J/kg まで増加)
・鎮静薬投与:カルディオバージョンの
前に
・12 誘導心電図を記録
ることなく行う.
Ⅹ
循環器救急医療に関する提言
kg IV 20 ~ 60 分もしくはプロカインアミド 15mg/kg
6
IV 30 ~ 60 分を使用し,なるべくアミオダロンとプ
心肺蘇生・蘇生科学はこの 10 年間で急速な進歩を遂
ロカインアミドは同時には使用しない.使用してい
げている学際的領域である.また循環器医の過剰労働や
なければ ATP も考慮する.
救急施設の集約化と機能分化等循環器救急の抱える問題
カルディオバージョンは 0.5 ~ 1J/kg で QRS 同期下
は大きい.本ガイドラインの主旨から詳細については言
にカルディオバージョン(初回が効果ない場合には
及しないが,心肺蘇生を含め心血管救急ガイドライン作
2J/kg まで増加)を行う.
成にあたって本学会が取り組むべき課題の解決に向けて
脈拍はあるが循環の不良な
小児頻脈アルゴリズム(図 39)
頻脈で脈拍は触知するが,
末梢循環の不良なものでは,
の提言を述べる.
1
心肺蘇生・蘇生科学に対する
本学会の役割
循環が良好な場合に準じるが,上室性頻拍でも同期下カ
1444
ルディオバージョンを遅延することなく行う.QRS 幅
我が国における心肺蘇生の教育・研修システムに関わ
が広い(> 0.08sec)場合も,薬剤による停止ではなく,
る仕組みはいまだ確立されておらず,普及も不十分であ
心室頻拍の可能性が高いので,同期下カルディオバージ
る. 一 般 市 民 に 対 し て BLS(ABC + AED), 医 学 生・
ョン(0.5 ~ 1J/kg,効果ない場合には 2J/kg)を遅延す
医療従事者に対して BLS(ABC + AED + BVM),研修
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
図 39 脈拍はあるが循環の不良な小児頻脈アルゴリズム
頻脈で脈拍は触知するが,末梢循環の不良なもの
・ABC を評価し,必要なら確保する
・酸素投与
・モニター / 除細動器を装着
症状持続
正常(≦0.08 sec)
QRS 幅は?
広い(>0.08 sec)
リズムを評価
12 誘導心電図もしくはモニター
洞性頻脈と考えられる場合
・洞性頻脈を疑う既往歴
・P 波が明瞭 / 正常
・PR は一定で,RR 時間が変動
・乳児:HR<220/min
・小児:HR<180/min
心室頻拍の可能性が高い
上室頻拍と考えられる場合
・上室頻拍を疑う既往歴
(非特異的;突然の心拍数
の変化)
・P 波が不明瞭 / 異常
・HR が体動で変動しない
・乳児:HR≧220/min
・小児:HR≧180/min
・同期下カルディオバージョン
0.5∼1J/kg,効果ない場合には 2J/kg で
カルディオバージョンの施行を遅延する
ことなく可能なら鎮静薬投与
・使用していなければ ATP 使用を考慮
カルディオバージョンの施行を遅延して
はならない
起こりうる原因を調べ治療する
迷走神経刺激を考慮
(遅滞なく施行)
・血管確保がされている場合
ATP 0.1mg/kg IV(最大 10mg)
2 回目 0.2mg/kg IV(最大 20mg)
急速静注(生食でフラッシュ)
または
・同期下カルディオバージョン
0.5∼1J/kg,効 果 な い 場 合 に は
2J/kg でカルディオバージョンの
施行を遅延することなく可能な
ら鎮静薬投与
医・内科認定医に対して ICLS(BLS +薬剤,特殊機器
を用いた心停止への高度な治療),循環器専門医に対し
専門家への相談を考慮;起こりうる原因を調
べ治療する
薬剤による停止を考慮
・アミオダロン 5mg/kg IV 20∼60 分かけて
または
・プロカインアミド 15mg/kg IV 30∼60 分
かけて
アミオダロンとプロカインアミドはなるべ
く同時には使用しない
⑶ 患者・家族教育・啓発を診療の一貫として捉え,
BLS 講習を実施する.
て AHA ガイドラインに基づく ACLS:薬剤,特殊機器
急性心筋梗塞の病院内死亡率は現在 7%以下へと改善
を用いた心停止,不整脈や ACS への高度な治療となっ
したが,心筋梗塞による死亡例の半数は病院前であり,
ている.今後対象者によってはより高度の心肺蘇生法の
大半が心室細動であったと報告される.そして病院外心
内容が求められ,医療従事者に ICLS,初期臨床研修医
肺停止の約 70 %は家庭で起こり,約 20 %は誰かが居る
に ACLS の修得が義務付けられていくと考えれる.いず
前で起こったとされ,患者家族への家庭での胸痛発症時
れにしろ,本学会は心肺蘇生・AED に直接かかわる学
の対策と一次心肺蘇生法の教育が極めて重要である.一
術専門団体として国民各層に対する講習を積極的に行
般市民に対して心臓突然死・急性心筋梗塞等に関する教
い,その普及において指導的な役割を果たすべきである.
育・啓発を行い,緊急の救急システム始動を教育し,地
すなわち
域社会における院外心停止への心肺蘇生と AED 使用の
⑴ BLS/ACLS の指導者(インストラクター等)の育成,
プログラムを拡げるべきである.
研修システム(AHA-ITC)を充実する.
⑵ 医学生・初期臨床研修医に対する BLS/ACLS の講
習を行う.
⑷ 院内心停止への対策として職員の BLS/ACLS 講習
を実施し,病院内 Medical Emergency Team を立ち
上げる.
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1445
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
⑸ CoSTR2005 に 基 づ く AHA-ACLS に 代 わ る
CosTR2010 に基づく日本版ガイドラインを作成す
る.さらにそれに基づく BLS,ALS マニュアルと,
その教育法を開発をめざす.
⑴ 循環器医の労働環境の緊急改善を図る.例えば,
最低目標を週平均労働時間 60 時間,月平均完全
休日 4 日等の目標宣言を検討する.
⑵ 循環器救急医療システムの再構築(集約化と役割
⑹ JRC のメンバーとして日本の蘇生科学の進歩を推進
分担・ネットワーク)の検討する(Ⅰ- 2 参照).
し,さらに RCA および ILCOR において世界の蘇生
⑶ 救急救命士制度の充実を図る(Ⅰ- 2 参照).
科学の発展に積極的に貢献する.
⑷ 地域市民への教育・啓発を行い,ネットワークを
2
循環器救急医療に対する提言
構築する(Ⅰ- 2 参照).
⑸ 循環器救急医療における医療経済の評価を行う.
⑹ 循環器救急医療における安全対策を検討する.
我が国の救急制度は従来,一次,二次,三次救急の
順次搬送システムが構築されている.しかし産科救急,
⑺ 循環器救急医療における医療事故対策を検討す
る.
小児救急にみられるように現在の救急制度そのものの
限界と考えられる.今後救急制度全体として評価を行
心肺蘇生・循環器救急医療にかかわる問題は医学的
い,21 世紀における心血管救急を包含する救急制度
にとどまらず,経済,法律,行政,倫理等社会科学的
のグランドデザインを作成することが必要である.本
および人文科学的問題を包含する.多くの困難な問題
学会としては心血管疾患の特殊性をふまえて心血管救
解決に向けて,本学会が積極的な活動を展開すること
急にかかわる改善案を作成し,その実現のための方策
を願うものである.
を考えるべきである.
Ⅺ
本ガイドラインで使用した薬剤・略語一覧
一般名
アスピリン
アドレナリン
(エピネフリン)
商品名
組成・剤形
バファリン 81 バイアスピリン等
1T:81mg,
100mg,325mg
ボスミン
● ACS:160m ~ 325mg 経口咀嚼投与
1A 1mg
●心停止:1mg を 3 ~ 5 分ごとにボーラス投与し 20mL 生食で後押しし
上肢挙上 ●高用量:β遮断薬や Ca 拮抗薬の中毒では 0.2mg/kg の高
い用量も可能 ●徐脈には 2 ~ 10μg/ 分で静注する
アトロピン
アトロピン
1A 0.5mg
●心静止 /PEA:1mg を 3 ~ 5 分ごとにボーラス投与,最大 3mg まで ●徐脈:0.5mg を 3 ~ 5 分ごとに,総投与量 0.04mg/kg もしくは合計
3mg まで ●有機リン中毒では大量(2 ~ 4mg,総量 20 ~ 40mg)
アミオダロン
アンカロン
1A 150mg
● VF/ 脈 な し VT: 初 回 150 ~ 300mg,3 ~ 5 分 後 に 追 加 150mg ●
VT:125mg を 10 分かけて静注 アルガトロバン
ノバスタン,スロ
ンノン
1A 10mg 2mL
●ヘパリン惹起性血小板減少症患者の PCI:0.1mg/kg ボーラス後 6μ
g/kg/ 分で aPTT を 2 ~ 3 倍に保つ.PCI 終了後は 0.7μg/kg/ 分で
アルテプラーゼ
アクチバシン,グ 600 万,1,200 万,
● AMI:29 万~ 43.5 万 IU/kg 静注
ルドパ
2,400 万 IU
イソプロテレノー
プロタノール
ル
硝酸イソソルビド
ニトロール,サー
クレス
ATP
アデホス
オルブリノン
コアテック
カルペリチド
ハンプ
塩化カルシウム
塩化カルシウム
グルコン酸カルシ
カルチコール
ウム
1446
用法
1A 0.2mg
●徐脈 : 0.01 ~ 0.03μg/kg/ 分
多種あり
● ACS・心不全:0.2 ~ 2.0μg/kg/ 分
1A 10mg,
20mg,40mg
1A 5mg/5mL 他
● PSVT:10mg ボーラス 無効なら 20mg ●特発性 VT(LBBB,RAD)
10mg ボーラス,無効なら 20mg
●心不全:10μg/kg 初期投与後に 0.1 ~ 0.3μg/kg/ 分
1A 1,000μg
● STEMI:0.025μg/kg/ 分をできれば再灌流前から 4 日間 ●心不全:
0.0125 ~ 0.2μg/kg/ 分
1A 400mg 20mL
●高 K 血症・高 Mg 血症:500 ~ 1,000mg 静注 ●低 Ca 血症:120mg
6mL を 10 分かけて
8.5% 1A 5mL・
●低 Ca 血症 2mL を 10 分かけて
10mL
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
一般名
グルカゴン
商品名
複数あり
複数あり
用法
● Ca 拮抗薬やβ遮断薬の中毒:
●高 K 血症:50% ブドウ糖 50mL+ レギュラーインスリン 10U 静注 も
グルコース 5g に
しくは 10% ブドウ糖 500mL +レギュラーインスリン 10U ~ 20U を 1 時
インスリン 2U
間かけて静注
グルコース・イン
スリン療法
クロピドグレル
組成・剤形
プラビックス
1T25mg,75mg
ポリスチレンスルホ
ル ン 酸 カ ル シ ウ ム ケーキサレート
(陽イオン交換樹脂)
● ACS:ステント治療の可能性あれば,300mg 負荷後 75mg/ 日
●高 K 血症:15 ~ 50g 経口投与もしくはソルビトールに溶解
コルホルシンダロ
アデール
パート
1A 5mg,10mg
●心不全:0.5 ~ 0.75μg/kg/ 分 急性期を脱したら他の治療に変更す
る
ジゴキシン
ジゴシン
1A 0.25mg 1mL
●心不全:0.125 ~ 0.25mg 静注 ● Af:0.125 ~ 0.25mg 静注
ジソピラミド
リスモダン P
ジルチアゼム
ヘルベッサー
シベンゾリン
シベノール
重炭酸ナトリウム メイロン
チクロピジン
パナルジン
ドパミン
イノバン等
ドブタミン
ドブトレックス等
トラセミド
塩酸ナロキソン
1A 50mg 5mL
● Af:50 ~ 100mg を 5 分以上かけてゆっくり
1A 10mg,
● Af:0.25mg/kg を 2 分以上かけて ● PSVT:15 ~ 20mg を 2 分かけ
50mg,250mg. て
1A 70mg 5mL
●頻脈:0.1 mL/kg(1.4mg/kg)を生食またはブドウ糖液で希釈,血圧・
心電図監視下で 2 ~ 5 分かけて
7% 1A 20mL,
92mEq
●高 K 血症:50mEq 投与,最大投与量 1mEq/kg.15 分後に再投与
1T 100mg
● ACS:ステント治療の可能性あれば,200mg 分 2 で
多種あり
●ショック:2 ~ 20μg/kg 分
1A 100mg 5mL
●ショック:2 ~ 20μg/kg 分
ルプラック
1T 4mg,8mg
●急性肺水腫慢性期移行期
塩酸ナロキソン
1A 0.2mg 1mL
●オピエート中毒:0.4 ~ 2mg 投与前にマスク換気を十分に行う.
ニカルジピン
ペルジピン
1A 2mg 2mL,
10mg 10mL,
25mg 25mL
● AAD の降 圧:3mL/ 時で 開 始 し 1mg ず つ ボ ーラ ス を加 え な が ら BP
100 ~ 120mmHg まで増量
ニコランジル
シグマート
ニトロペン,ミオ
ニトログリセリン コール,ミリスロ
ール他
ニトロプルシド
ニトプロ
ニフェカラント
シンビット
ノルアドレナリン ノルアドレナリン
バソプレシン
バソプレシン
パミテプラーゼ
ソリナーゼ
ピルジカイニド
サンリズム
ブプレノルフィン レペタン
フレカイニド
タンボコール
プロカインアミド アミサリン
フロセミド
ラシックス
プロプラノロール インデラル
ヘパリン
多種あり
1A 2mg,12mg,
● AMI:0.2mg/kg を 5 分かけて静注後,0.05 ~ 0.2mg/kg/ 時で調整
48mg
多種あり
● ACS,心不全:舌下,噴霧 0.3 ~ 0.4mg,静注 0.2 ~ 2.0μg/kg/ 分
6mg 2mL,30mg ●心不全の後負荷軽減:0.1μg/kg/ 分から開始し 3 ~ 5 分で漸増し 5μ
10mL
g/kg/ 分まで
1V 50mg
●頻脈:生食またはブドウ糖液で溶解し心電図監視下で単回静注 1 回
0.15 mg/kg(0.1 ~ 0.3mg)を 5 分間,維持点滴 0.4 mg/kg/ 時を等
速度で.
1A 1mg1mL
●ショック:0.5 ~ 30μg/ 分 ●心不全:0.03 ~ 0.3μg/kg/ 分
1A 20U 1mL
● VF/ 脈なし VT/ 心静止 PEA:初回もしくは 2 回目のアドレナリンの
代わりに 40U を 1 回のみ急速静注 / 骨髄内投与
260 万,520 万 U ● AMI:6.5 万 U/kg を単回静注
1A 50mg 5mL
● Af 1 回 1mL/kg(1mg/kg )まで,いずれも血圧・心電図監視下で 10
分かけて
1A 0.2mg 1mL,
● AAD の鎮痛:5mg 必要なら同量の追加
0.3mg 1.5mL
1A 50mg 5mL
●頻脈:0.1 ~ 0.2mL/kg(1 ~ 2mg/kg)
,血圧・心電図監視下で 10 分
かけて,総投与量は 1 回 150mg まで
10%,1 mL,2mL
(1A 100mg
総量は 17mg/kg を 20mg/ 分で.
または 200mg)
1A 20mg 2mL
●心不全:1 回 20 ~ 120mg,持続静注は 2.5mg/ 時 ●高 K 血症:40
~ 80mg 静注
1A 2mg 2mL
●多形性 VT:0.1mg/kg を 3 等分して 2 ~ 3 分間隔で ● Af:2mg ずつ
総量 0.15mg/kg まで ● AAD: 2mg ずつ
多種あり
● STEMI:60U/kg 最大 4,000U ボーラス後 aPTT を 1.5 ~ 2.0 に保つ ● UA/NSTEMI: 60 ~ 70U/kg 最大 5,000U ボーラス,以降は STEMI に
準じる ●肺塞栓症:5,000U ボーラス後 14,000U/ 日持続静注
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
1447
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008 年度合同研究班報告)
一般名
商品名
組成・剤形
用法
ベラパミル
ワソラン
1A 5mg 2mL
● PSVT: 2.5 ~ 5mg を 2 分かけて静注,無効例では 5mg を 15 ~ 30 分毎
に総量 20mg ● Af:5 ~ 10mg を 2 分かけて ●特発性 VT(RBBB+LAD
型)2.5 ~ 5mg を 2 ~ 3 分かけて総量は 20mg まで
マグネシウム
マグネゾール
1A 2g 20mL
● TdP による心停止:1 ~ 2g を 10mL の 5%1 ブドウ糖液で希釈し 5 ~
20 分かけて ●脈のある TdP: 1 ~ 2g を 50 ~ 100mL に希釈して 5 ~ 60
分で静注し,0.5 ~ 1g/ 時で維持する.
ミルリノン
ミルリーラ
免疫グロブリン
多種あり
塩酸モルヒネ
塩酸モルヒネ
モンテプラーゼ
クリアクター
リドカイン
リドカイン,オリ
ベス
10mg/10mL,
22.5mg/150mL
●心不全:50μg/kg を負荷後に 0.25 ~ 0.75μg/kg/ 分を持続静注
●小児急性心筋炎:2g/kg
10mg1mL,50mg
● AMI や AAD 鎮痛:1mg ~ 4mg
5mL,200mg 5mL
40 万,80 万,
160 万 U
● 急 性 肺 塞 栓 症:13,750 ~ 27,500U/kg を 2 分 で ● AMI:27,500
U/kg 静注
1A 100mg 5mL
● VF/ 脈 な し VT: 初 回 1 ~ 1.5mg/kg, 追 加 0.5 ~ 0.75mg/kg, 最 大
3mg/kg ● VT50 ~ 100mg(1 ~ 2 mg/kg)を 1 ~ 2 分間で緩徐に静注
本ガイドラインで使用した略語
AAD
ACLS
ACS
AED
AHA
ALS
aPTT
ATP
AVPU
BLS
BVM
CABG
CCU
CPB
CPR
ECPR
IABP
ICLS
ITC
JRC
1448
Acute aortic dissection
Advanced cardiovascular life support
Acute coronary syndrome
Automated external defibrillator
American Heart Association
Advanced life support
activated partial thromboplastin time
Adenosine triphosphate
Alert-voice-painful-unresponsive
Basic life support
Bag valve mask
Coronary artery bypass surgery
Coronary care unit
Cardiopulmonary bypass
Cardiopulmonary resuscitation
Extracorporeal cardiopulmonary resuscitation
Intraaortic balloon pump
Immediate cardiac life support
International Training Center
Japan Resuscitation Council
Circulation Journal Vol. 73, Suppl. III, 2009
LBBB
MET
NIPPV
NSTEMI
PAD
PALS
PCI
PCPS
PEA
PSVT
PTE
RAD
RCA
SCA
STEMI
TCP
TdP
UA
VF
VT
Left Bundle Branch Block
Medical Emergency Team
Noninvasive positive pressure ventilation
Non-ST elevation myocardial infarction
Public access defibrillation
Pediatric advanced life support
Percutaneous coronary intervention
Percutaneous cardiopulmonary support
Pulseless electrical activity
Paroxysmal supraventricular tachycardia
Pulmonary thromboembolism
Right Axis Deviation
Resuscitation Council of Asia
Sudden Cardiac Arrest
ST elevation myocardial infarction
Transcutaneous pacing
Torsade des pointes
Unstable angina
Ventricular Fibrillation
Ventricular Tachycardia
循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン
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