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05. 「月面クレーターの深さと直径の関係」

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05. 「月面クレーターの深さと直径の関係」
月面クレーターの深さと直径の関係
3 年 A.T
T.T
M.S
N.T
H.T
T.T
1. 概 要
デジタルカメラと天体望遠鏡を使って月面クレーターの画像を撮影し、影の長さと
クレーターの直径の相関を考察した。その結果、クレーターの直径と深さには相関関
係が認められたが、その強さはゆるいものであることがわかった。このことは、衝突
時にできるマグマの量が関係していると考えられる。
2. 目 的
本 研 究 の 目 的 は 、月 面 ク レ ー タ ー の 影 の 長 さ と 、ク レ ー タ ー の 直 径 の 相 関 の 考 察 し 、
クレーターの成因について迫ることである。
3. 本 研 究 に 関 す る 基 礎 知 識
3.1. 月 の 成 因
アポロ計画の一環でアポロが月の石を持ち帰り、酸素同位体の放射性年代測定を行
った結果、月は約45億5000万年前に誕生し、35億年前には微惑星の衝突が多
発していたことがわかった。また、月の石の研究成果を踏まえて1975年に地球と
他の天体との衝突によって飛散した物質によってできたというジャイアントインパク
ト 説 が 唱 え ら れ た 。こ の 説 で は 、4 6 億 年 前 の 原 始 地 球 に 火 星 ほ ど の 大 き さ (地 球 の 質
量 の 約 1 0 分 の 1 )の 微 惑 星 が 斜 め に 衝 突 し 、地 球 内 部 の マ ン ト ル を 弾 き 飛 ば し 、微 惑
星の破片とともに宇宙に飛び散り、その破片が集積して月を形成したとされている。
そして月が形成された当時は今よりも地球に近い場所にあり、時間の経過とともにだ
んだん遠ざかり現在の位置になったと言われている。微惑星は正面衝突ではなく斜め
に衝突したので、多くの破片が地球の周囲を回る軌道上に残り、一時的に土星の環の
ような円盤の形を形成し、やがて破片が集積して月が形成された。この説では地球の
マントルの破片で月ができているとされているので、地球のマントルと月の化学組成
が似ている理由も説明できて、現在ではもっとも有力な説だと考えられている。他に
もかつて有力とされていた兄弟説、捕獲説、分裂説があるが、いずれも解決の難しい
矛盾点を抱えており、現在では有力視されていない。しかしながら、ジャイアントイ
ンパクト説もあくまでも一つの仮説であり、現在コンピューターシミュレーションに
よ る 検 証 が 行 わ れ つ つ あ り 、そ の 裏 付 け と な る 観 測 的 な 証 拠 が 求 め ら れ て い る 。
(参考
文献1∼6)
3.2. ク レ ー タ ー の 成 因
クレーターは38億年前よりも以前にできたとされている。当時はまだ多数の微惑
星が存在したため、衝突が何度も起こりクレーターができたと考えられている。これ
が現在有力視されている衝突説である。それではなぜ同時期には既に存在していた地
球に月のようなクレーターがないのかという疑問が出てくるが、地球には大気、水が
あ り 、そ れ ら に よ る 侵 食 が 起 こ っ た り 、プ レ ー ト テ ク ト ニ ク ス が 起 こ っ た り す る の で 、
1
海 洋 底 の リ セ ッ ト が 行 わ れ 、 痕 跡 が あ ま り 残 ら な い の で あ る 。 そ れ で も 19 60 年 頃 か
ら地球のクレーターで隕石の衝突を裏付ける高圧で変成された岩石が発見されたり、
アポロ計画によって月面で採取された試料の分析が行われたり、より正確な衝突条件
下で高速衝突実験が実施できるようになったりして、衝突説を支持する意見が増えて
きた。実際に、アポロ計画で採取されたクレーター周辺の石から高圧で変成された岩
石 が 見 つ か っ て お り 、そ の 石 に は 直 径 1 ㎜ 以 下 の 小 さ な ク レ ー タ ー が 確 認 さ れ て い る 。
また、大きなクレーターでは月全体に噴出物が散らばっているが、月の質量だけでは
そのような規模の爆発を起こすことのできる火山は存在できず、外からの力が加わっ
たとされている。さらに、クレーターの直径と深さの間に一定の関係式が成り立ち、
衝突によってできたことを示す証拠になっている。また、月のクレーターが円形にも
かかわらず、一方向だけに光条が延びており、そのような現象は斜め方向からの高速
衝突によって起こるという実験結果が出ている。このように衝突説を主張する根拠は
た く さ ん 見 つ か っ て お り 、 か な り 有 力 な 説 と な っ て い る 。( 参 考 文 献 7 ∼ 9 )
4. 観 測 方 法
2
↑ 月 の 撮 影 画 像 ( 2006 年 10 時 31 日 10 時 00 分 26 秒 に 撮 影 )
クレーターの深さをD、影の長さをL、太陽光の入射角をθとする直角三角形を考え
る。太陽光の入射角θとクレーターの影の長さLが分かれば、下の式から深さDが得
られる。
tanθ = D /L
これより、
D = tanθ ×L
***①
以降、L,θの計算方法は
5.1. 影 の 長 さ L の 求 め 方
5.2. 地 球 か ら 見 た 月 が 半 分 以 上 見 え る 時 の 太 陽 光 の 入 射 角 θ
5.3. 地 球 か ら 見 た 月 が 半 分 以 上 欠 け て 見 え る 時 の 太 陽 光 の 入 射 角 θ
の順に説明していく。
4.1. 影 の 長 さ L の 求 め 方
←撮影画像の模式図(地球の正面から見た月)
3
←月の断面図
画 像 解 析 ソ フ ト 「 マ カ リ 」 か ら C 、 R の 値 ( pix) が 求 め ら れ る の で 、
上図より、
θ 1= asin(C/R)
L = l /cosθ 1
L = l /cos{asin(C/R)}
*図 の よ う に 、
(撮 影 画 像 の 影 の 長 さ )= l
(実 際 の 影 の 長 さ )= L
(ク レ ー タ ー が 位 置 す る 月 の 断 面 円 の 半 径 )= R
(撮 影 画 像 の ク レ ー タ ー か ら 縦 軸 ま で の 距 離 )= C
とおく
4.2. 地 球 か ら 見 た 月 が 半 分 以 上 見 え る 時 の 太 陽 光 の 入 射 角
←正面から見た月
4
↑真上から見た、クレーターが位置する部分の月の断面図
クレーターに対する太陽光の入射角を考える。太陽光の入射角は、観測画像の月の満
ち欠けより計算できる。
上図より、黄色で塗られている2つの三角形は(2 角がそれぞれ等しい三角形の)相
似であることが分かるから、
θ=Θ
***α
であることが分かる。
次に、Θを求めていく。
5
上図から、
Θ = θ 1− θ 2
***β
とおける。
6
↑図 x
←正面から見た月
マ カ リ よ り 、 A、 C、 R の 値 ( pix) が わ か る の で 、
図 x より、月の半径と距離 A を用いて、
cosθ 2= A/R
θ 2= ac os(A/R)
***γ
θ 1= ac os(C/R)
***δ
同様にして、
α、β、γ、δより、
太 陽 光 の 入 射 角 θ = θ 1− θ 2 = ac os(C/R)− ac os(A/R) ***②
であることが言える。
7
4.3. 地 球 か ら 見 た 月 が 半 分 以 上 欠 け て 見 え る 時 の 太 陽 光 の 入 射 角
5.2.と 同 様 に し て 、
θ 1= ac os(C/R)
θ 2= ac os(A/R)
θ = θ 2− θ 1= ac os(A/R)− acos(C/R) ***③
ここで②、③式から、
θ = ¦ ac os(C/R)− acos(A/R)¦
とおける。
以 上 、 ○ )、 ⅰ )、 ⅱ ) よ り θ 、 L が 求 ま る 。
このθ、Lを①式に代入すればクレーターの深さDが求まる。
まとめると、
D = l /cos{asin(C/R)}×tan¦ acos(C/R)− ac os(A/R)¦
この式を用いてクレーターの深さを求めていく。
8
5. 解 析
10 月 30 日 か ら 11 月 1 日 の 間 に 撮 影 し た 月 の 画 像 を 用 い て ク レ ー タ ー の 深 さ 、 直 径
を測定した。測定結果は以下のようになった、
直 径 ( km)
深 さ ( km)
アリストテレス
89.4
5.2
アルキメデス
87.4
5.2
ビュルク
31.0
3.9
ユードクソス
64.6
6.4
ティコ
127.8
4.7
マギヌス
74.8
7,2
プラトー
94.7
5.2
コペルニクス
99.7
5.2
エラトステネス
67.8
5.5
デランドル
84.8
4.6
クラビウス
104.7
6.5
アルフォンスス
128.3
16.6
アルバテグニウス
87.4
8.5
プトレマイオス
98.6
9.8
カッシーニ
63.1
5.9
ヒッパルコス
142.3
9.9
こ れ を 散 布 図 で 表 す と 下 図 の よ う に な っ た 。 縦 軸 を ク レ ー タ ー の 深 さ (km)、横 軸 を ク
レ ー タ ー の 直 径 (km)と す る 。( 以 下 、 散 布 図 全 て 同 様 )
18
16
14
深さ(km)
12
10
8
6
4
2
0
0
20
40
60
80
直径(km)
9
100
120
140
160
上図のようにクレーターを緑の枠内と黄色の枠内に分ける。まず、緑の枠内の点に着
目してみる。
18
16
14
深さ(km)
12
10
8
6
4
2
0
0
20
40
60
80
100
120
140
直径(km)
緑 の 枠 内 だ け で 相 関 係 数 を 計 算 す る と 0.95 と な っ た 。こ の こ と か ら 、緑 の 枠 内 の ク レ
ーターの深さと直径に相関関係があるといえる。
次に、黄色の枠内に着目してみる。
10
12
10
深さ(km)
8
6
4
2
0
0
20
40
60
80
直径(km)
100
120
140
160
黄 色 の 枠 内 だ け で 相 関 関 係 を 計 算 し て も 0.7 2 と 相 関 関 係 が あ る と は 考 え に く い 。
黄色の枠内のクレーターは緑の枠内のクレーターと比べると浅い。これは、クレータ
ーの底になにかが積もったと考えられる。積もった物質はマグマと考えられる。その
理由をこれから説明していく。クレーターが形成された後、月内部で放射性元素の崩
壊熱が蓄積したことにより、溶融しやすい物質(玄武石質の成分)が溶融し、マグマ
を 生 成 し た 。そ の マ グ マ は 深 さ 数 km あ る ク レ ー タ ー か ら 噴 出 し た 。
(大量のマグマを
噴 出 し た ク レ ー タ ー は 月 の 海 を 生 成 し た と さ れ る 。) (参 考 文 献 10)
この時、マグマが噴出した一部のクレーターはマグマが底に溜まったまま固まり、底
11
が 浅 く な っ た と 考 え ら れ る 。 黄 色 の 枠 内 の ク レ ー タ ー も 深 さ が 数 km あ り 、 マ グ マ が
噴出した可能性があると言える。
↑クレーターにマグマが溜まる前
↑クレーターにマグマが溜まった後
このようにして、黄色の枠内のクレーターは浅くなってしまったため、直径との相関
関係がなくなってしまったと考えられる。
( 緑 の 枠 内 の ク レ ー タ ー も 多 少 な り と も マ グ マ が 噴 出 し た 可 能 性 は あ る 。)
6. 結 論
月のクレーターの深さと直径の長さの関係はあるが、その相関は強くない。これは、
クレーターの底面から噴出したマグマによって深さが浅くなってしまっているためだ
と考えることが出来る。
7. 参 考 文 献
1)天 文 学 入 門 ― 星 ・ 銀 河 と 私 た ち
岩波ジュニア新書
2)http://neo‐ luna.c side.ne.jp/moon/ml01-2 .htm
嶺重慎・有森淳一/編著
(2006 年 12 月 26 日 現 在 ア ク セ ス
可)
3)http://www.astr oar ts.c o.jp/news/2000/02/ 23moonimpac t/index-j.shtml
(2006 年
12 月 26 日 現 在 ア ク セ ス 可 )
4)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8 %E3%83%A3%E3%82%A4%E3%82%A2
%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%91%E3
%82%AF%E3%83%88%E8%AA%AC
(2006 年 12 月 26 日 現 在 ア ク セ ス 可 )
5)http://moon.jaxa.jp/ja/qanda/faq/faq3/how.html
(2006 年 12 月 26 日 現 在 ア ク セ
ス可)
6)http://www6.plala.or.jp/f-r hythm/c olumn/C5.html
(2006 年 12 月 26 日 現 在 ア ク
セス可)
7)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B
F%E3%83%BC
(2006 年 12 月 26 日 現 在 ア ク セ ス 可 )
8)http://www12.plala.or.jp/m-light/Cr ater.htm
可)
12
( 2006 年 12 月 26 日 現 在 ア ク セ ス
9)http://www.kahaku.go.jp/exhibitions/vm/resourc e/tenmon/space/moon/moon03.h
tml
(2006 年 12 月 26 日 現 在 ア ク セ ス 可 )
10) http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%88%E3%81%AE%E6%B5%B7 ( 2006 年
1 月 21 日 現 在 ア ク セ ス 可 能 )
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