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【海外リポート】【研究会・学会リポート】【図書紹介】【その他】 (PDF 1723KB)

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【海外リポート】【研究会・学会リポート】【図書紹介】【その他】 (PDF 1723KB)
職リハネットワーク 2006.9 No.59
目 次
【視点・論点】
ジョブコーチ支援/援助付き雇用の進化:障害のある人を隔離しようとする圧力に対抗して
………………………………………………………………………………………Paul Wehman 03
【特集/ジョブコーチ】
1 職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業の動向
…………………………………厚生労働省 高齢・障害者雇用対策部 障害者雇用対策課 05
2 米国における援助付き雇用の変遷 ………………………………………………八重田 淳 11
3 米国における精神障害がある人への「援助付き雇用」 ………………………春名由一郎 17
4 職場適応援助者養成研修の現状について
……………………………障害者職業総合センター 職業リハビリテーション部 研修課 22
5 知的障害者の雇用を進めるための事業主に対する支援の取り組み
…………………………三重障害者職業センター 27
6 ジョブコーチ支援の実際
−障害者就業・生活支援センター ワーキング・トライの取り組みから−
…………………………………………八木原律子 00
清家 政江 33
7 企業におけるジョブコーチ支援 …………………………………………………黒田 紀子 38
【研究ノート】
ナチュラルサポートに関する文献を概観する ………………………………………若林 功 43
【海外リポート】
フランスにおける障害者差別禁止法の整備と雇用施策の動向 ………………………指田 忠司 50
【研究会・学会リポート】
1 日本デザイン学会第53回大会 ……………………………………………………星加 節夫 54
2 日本発達障害学会第41回大会 ……………………………………………………向後 礼子 55
【図書紹介】
「高次脳機能障害ポケットマニュアル」 ……………………………………………小池 磨美 56
【そ の 他】
1 独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構からのお知らせ
第14回職業リハビリテーション研究発表会 ……………………………企画部企画調整室 58
2 障害者職業総合センター研究部門刊行物
3 編集後記
視点
論点
ジョブコーチ支援/援助付き雇用の進化:障害
のある人を隔離しようとする圧力に対抗して
The Evolution of Supported Employment: Rolling Back Segregation
ポール・ワーマン Paul Wehman
バージニア・コモンウェルス大学リハビリテーション研究研修センター所長
Director, Rehabilitation Research and Training Center, Virginia Commonwealth University
米国において、ジョブコーチ支援/援助付き雇用が、重度障害がある人々の一般雇用を
可能にする支援方法として一般に報告されるようになってから25年がたった。我々はこの
四半世紀の間に、ジョブコーチ支援/援助付き雇用について、どのような実践が有効で、
どのようなことが有効でなかったかということについて多くのことを学んだ(Mank, Cioffi,
& Yavanoff, 1997)。また、その実施にあたっての多くの課題、さらに、これを完全に実施
することを妨げる最も大きな原因として、根深い基本的理念の対立があることも学んだ。
この間に米国では一般社会から障害のある人々を隔離する様々な事業が縮小されてきた。
すなわち、脱施設化が大きく進み(Hayden, & Albery, 1994)、州立の入所施設が閉鎖され
(Stancliffe & Lakin, 1999)、授産施設や作業所の規模縮小があり、また、障害のある人を
地域から隔離するような事業から地域へ統合しようとする事業へと公的資金の分配状況も
変化してきた。障害のある人々の発言権の法的な拡大、また、権利擁護の動き(Wehmeyer,
& Lawrence, 1995)も見ることができた。援助付き雇用、あるいは、援助付き教育や援助
付き生活がもっている潜在的な力とは、それらが哲学的な理念(自己決定)と実践的戦略
(支援)を一体化した強力な手段になりうるということであり、それは自己決定と自由選択
の理念と結び合わされた時に発揮される。
過去28年間の米国での経験から我々が学んだことは何か? ジョブコーチ支援/援助付き
雇用やそれに関連する事業の進化が我々の社会にどのような貢献をもたらしてくれたのだ
ろうか? 最大の貢献だと私が感じていることは、それらが「障害」という言葉にこびりつ
いた古い考えを打破し、障害がもたらす影響を軽減するための方法があることを示したこ
とである。現在の社会では、あまりに多くの人々が、「障害」といえば、「ハンディキャッ
プ」とか、
「機能障害」とか、
「できない」とか、
「要件を満たしていない」などの言葉をす
ぐに思い浮かべてしまう。しかし、ジョブコーチ支援/援助付き雇用の素晴しいところは、
たとえ仕事についている8時間の間に限られるにしても、その間は障害が軽減されるとい
うことである。一旦、職場を出てしまえば、身体障害あるいは知的障害のレベルに引き戻
されてしまうような状況を強いられている人であっても、仕事をしている間は障害の影響
から解放され得るのである。
例として、重度の身体障害と認知的な障害を重複している女性、マーラのことを考えよ
う。マーラはほとんど話すことが出来ず、また、一日中、個別支援サービスを必要として
いる。しかし、マーラは、地元のデパートの電気製品売り場でCDに防犯読取装置の取付け
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
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視点
論点
係として働き、時給7.20ドルを稼ぎ、健康保険を受給し、利益分配制度にも参加している。
この仕事をしている時には、マーラの障害レベルは軽減あるいは解消されている。実際、
マーラはこの仕事では全くできないことがなく、同僚や管理者もその仕事ではマーラに頼
っているのであり、彼らから見てマーラには障害はないのである。しかし、仕事が終わる
と、彼女は地域の身体障害者用の交通制度に完全に依存せざるをえず、それに翻弄されて
いる。実際、マーラは車いすで店をいったん出ると、「レッテルを身につけ」、依存的にな
らざるを得ない。
米国における過去20年間以上のジョブコーチ支援/援助付き雇用における進歩を見直す
際には、いつでも我々の基本的価値観に立ちもどる必要がある。そもそも援助付き雇用を
定義し、また、その重要な波及効果として障害を軽減させてきたものは、我々が守ってき
た基本的価値観にほかならない。誰も一人では生きられない。我々全ては互いに依存しあ
っている(Condeluci, 1991)。「真の自立」というコンセプトは、実際には成立しえない。
人生のある時期には自分が完全に自立していると感じるかもしれないが、そのうちに我々
の誰もの人生に押し寄せてくる様々な身体的、感情的、知的な障害に直面した時、必ず他
人の助けが必要となるのである。人々がより高いレベルに向上できるような支援制度をデ
ザインしようとするなら、まず、我々全てが依存しあっていることを理解することが必要
である。そのことが、より具体的な支援の役割や影響を理解するための前提条件である。
それでは、ジョブコーチ支援/援助付き雇用の全体を貫く我々の基本的価値観とは何だ
ろうか? それは、一般就業への統合、消費者選択、本人の主体的関与、キャリア発達、差
別のない賃金や時間手当、仕事の仕方についての差別のない選択肢と選択、そして、可能
な限り最も素早く最も効率的なやり方で雇用機会を提供することである。それは、長期の
通所プログラムや施設その他の入所プログラムなどの活動とははっきりと対立する。確か
に、そのような活動の多くは善意から出たものではある。しかし、そのようなサービス提
供のやり方は、意図された成果を生んでいるというデータもなければ、それらのプログラ
ムの対象者自身が思っている将来展望とも一致していない。障害のある人を社会から隔離
するような事業サービスを取りやめ、一般就業の機会を拡大すること。このことに猶予は
ない。もうその期限はとっくに過ぎている。
<文献>
Condeluci, A. (1991).Interdependence: The route to community. Del ray Beach, FL: St. Lucie Press.
Hayden,M. &Albery, B. (1994) Challenges for a service system in transition, Baltimore: Paul Brookes Publishing
Co.
Mank, D., Cioffi, A. & Yovanoff, P., (1997) An analysis of the typicalness of supported employment jobs, natural
supports, and wage and integration outcomes. Mental Retardation, 35d, 185−197.
Stancliffe, R.J. & Lakin, K.C. (1999). A longitudinal comparison of day program services and outcomes of people
who left institutions and those who stayed. The Journal of The Association for Persons with Severe
Handicaps, 24a (1999), 44−57.
Wehmeyer, M.L. & Lawrence, M., Whose future is it anyway? Promoting student involvement in transition
planning. Career Development for Exceptional Individuals, 18s (1995), 68−84.
(翻訳:春名由一郎、障害者職業総合センター研究員)
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職リハネットワーク 2006年9月 No.59
特集
ジョブコーチ
職場適応援助者(ジョブコーチ)
支援事業の動向
厚生労働省 高齢・障害者雇用対策部 障害者雇用対策課
1 我が国におけるジョブコーチ支援の歩み
始した(資料1参照)。
我が国において、職場適応援助者(ジョブコ
本事業は、地域センターに配置したジョブコ
ーチ)による支援が国の施策として本格的にス
ーチによる支援(配置型ジョブコーチ)だけで
タートしたのは、平成14年の障害者雇用促進法
はなく、地域の社会福祉法人等を協力機関とし
改正により職場適応援助者制度が設けられたと
て連携して支援を行う形(協力機関型ジョブコ
きからであり今年で5年目を迎えたところであ
ーチ)で全国展開され、その成果が着実にあが
るが、その歴史は10年以上前にさかのぼる。
るにつれ、ジョブコーチという名称や支援手法
平成4年に、地域障害者職業センター(以下
が広く知られ、社会的関心、評価も高まり、利
「地域センター」という。)において、生活支援
用ニーズが一層高まってきた(支援対象障害者
パートナーという専任のスタッフを配置し、障
害者を雇い入れる前の一定期間職場に出向き、
数の推移は資料2参照)。
しかしながら、障害者福祉施策の事業体系の
技術的な指導を行う事業所の担当者と連携しな
見直しにより、福祉施設において企業での就労
がら障害者本人への支援を行う「職域開発援助
を支援するサービスが開始されることに伴い、
事業」が開始された。
障害者雇用の分野においても、福祉分野との連
本事業は、職場実習段階から常用雇用へのス
携の下、障害者の円滑な就職及び職場定着を促
ムーズな移行を図ることを目的としており、高
進するための施策の一つとして、ジョブコーチ
い就職率など一定の成果を上げたものの、就職
支援の拡充を図ることが求められる中で、これ
後に生じる不適応に対しても支援を行うことの
までの各都道府県に1か所ずつの地域センター
必要性が指摘された。そこで、平成12年から13
とその協力機関による支援では、マンパワー、
年にかけて、
「ジョブコーチによる人的支援パイ
支援体制として十分にニーズに応えられるとは
ロット事業」を立ち上げ、一部の地域センター
言い難い状況になってきた。
において、ジョブコーチが事業所に出向き、雇
こうした背景を踏まえ、厚生労働省において
入れの前だけでなく雇入れ後の支援も併せて試
は、現行のジョブコーチ支援事業について見直
行実施するとともに、学識経験者、福祉施設、
しを図ることとした。
事業主団体、行政機関等から構成されるプロジ
ェクト委員会において、効果的なジョブコーチ
支援の方法や支援体制、ジョブコーチの養成の
2 職場適応援助者助成金の創設
障害者の就業機会の拡大を図るため、平成17
あり方に関する検討を行った。これを踏まえ、
年に、精神障害者の雇用対策の強化、在宅就業
平成14年より全国の地域センターにおいて「職
障害者に対する支援制度の創設、障害者福祉施
場適応援助者(ジョブコーチ)による支援事業」
策との有機的な連携を内容とする障害者雇用促
(以下「ジョブコーチ支援事業」という。)を開
進法の改正を行ったところであるが、この中で
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
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【資料1】
職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援について
知的障害者、精神障害者等の職場適応を容易にするため、職場にジョブコーチを派遣し、きめ細かな人的支援を行う。
地域障害者職業センターにおいてジョブコーチを配置して支援を実施するとともに、就労支援ノウハウを有する社会福祉法人等や事業主が自らジ
ョブコーチを配置し、ジョブコーチ助成金を活用して支援を実施。
◎支援の契機
・就職時(雇用前又は雇入れと同時に支援を開始)
・職場環境の変化等により職場適応上の問題が生じたとき
◎支 援 内 容
・作業遂行力の向上支援
・障害特性に配慮した雇用管理に関する助言
・職場内コミュニケーション能力の向上支援
・配置、職務内容の設定に関する助言
・健康管理、生活リズムの構築支援
事 業 主
障 害 者
(管理監督者・人事担当者)
ジョブコーチ
上司 同僚
同僚
家族
・障害の理解に係る社内啓発
・障害者との関わり方に関する助言
・安定した職業生活を送るための家族の
・指導方法に関する助言
関わり方に関する助言
◎標準的な支援の流れ
集中支援
フォローアップ
移行支援
不適応課題を分析し、集中的に
支援ノウハウの伝授やキーパーソンの育成により、支援の
改善を図る 週3∼4日訪問
主体を徐々に職場に移行 週1∼2日訪問
数週間∼数ヶ月に一度訪問
支援期間1∼7ヵ月(標準2∼4ヵ月)(地域センターの場合)
◎ジョブコーチ配置数(平成18年6月現在)
計778人
地域センターのジョブコーチ 304人
第1号ジョブコーチ(福祉施設型)454人
第2号ジョブコーチ(事業所型)20人
◎支 援 実 績(平成17年度、地域センター)
支援対象者数 3,050人、職場定着率(支援終了後6ヵ月) 83.6%
【資料2】
地域障害者職業センターにおける職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業の実施状況
★支援対象者数の障害種類別の推移
支援対象者数の推移
身体障害
14年度 186
知的障害
1,719
精神障害
175
その他
40
計 2,120人
15年度
277
16年度
261
2,384
275
17年度
305
2,263
380
0
2,204
1,000
238
2,000
40
計
40
2,759人
計 2,960人
102
計 3,050人
3,000
4,000
(人)
★ 事業利用者(障害者、事業主)の声
○ ジョブコーチに職場環境の整備や作業マニュアルの作成等の支援を受け、作業がスムーズになった。(事業主からの声)
○ 長期間支援を受けることで少しずつ改善がみられたこと、具体的な手立てや手順がよく考えられていること等、センターでの支援があったから
こそ社会復帰ができたと思う。(精神障害者からの声)
○ 障害者と社員相互のコミュニケーションがよくなった。(事業主からの声)
○ 職場における人間関係や仕事の内容について、とても不安でしたが、ジョブコーチが私と職場の人たちとのコミュニケーションの間に立って
いただき、とても早く職場環境に慣れることができ、今は楽しく仕事をしています。(知的障害者からの声)
○ 問題発生時に速やかに連絡が取れ、対応してもらえたことで職場として信頼感がもてた。
(事業主からの声)
※ 障害者及び事業主に対するアンケート調査から
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職リハネットワーク 2006年9月 No.59
障害者雇用納付金制度に基づく助成金制度とし
て「職場適応援助者助成金(ジョブコーチ助成
を狙いとし、次の2種類の助成金を創設した
(資料3及び4参照)。
a
金)」を創設した(平成17年10月施行)。
ジョブコーチ支援事業を見直すに当たっては、
①
「第1号職場適応援助者助成金」
協力機関型ジョブコーチを前身とし、障害者
の身近な地域において就労移行支援機能を果た
コーチ支援を助成金制度に移行させることに
す福祉施設等が、そのノウハウを活かして地域
より、ジョブコーチ数の拡充を図るとともに、
においてより機動性を発揮して行うジョブコー
より主体的に取り組めるようにすること
チ支援を行う場合にその費用を助成。
②
支援ニーズの増加に対応するため、ジョブ
ジョブコーチを担う人材の裾野を拡大する
s
「第2号職場適応援助者助成金」
障害者を雇用する事業主が、当該企業の業務
経験、ノウハウを有する福祉分野や企業の人
内容を熟知している職場適応援助者(ジョブコ
材を有効活用すること
ーチ)を自ら配置し、当該企業内で効果的な職
③
ため、障害者の就労支援や雇用管理に豊富な
障害者福祉施策において就労に着目した事
業が開始されることに伴い、広く就労支援ノ
ウハウを普及させること
【資料3】
場適応援助を行う場合にその費用の一部を助成。
なお、助成金によるジョブコーチ支援の実施
に当たっては、支援の質が確保されるよう、地
職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業の見直しについて
◎見直しのねらい
① 支援ニーズの増加への対応 → 助成金化によりジョブコーチ数の拡充を図り、柔軟な運用を可能に
② ジョブコーチの裾野の拡大 → 福祉分野や企業における人材を、それぞれの得意分野を活かして有効活用
③ 福祉施設の就労支援機能の強化 → 施設体系の見直しとあいまって、福祉施設に就労支援ノウハウを普及
◎見直しの内容
法改正前(17年9月まで)
法改正後(17年10月∼)
ジョブコーチ支援事業
ジョブコーチ支援事業
専門特化
配置型ジョブコーチ
ジョブコーチ(地域センター型)
高度な専門性
・地域障害者職業センターに配置
~~~~~~~
・地域障害者職業センターに配置
・職業カウンセラーの指示の下、社会福祉法人等の
協力機関と 連携し、専門的な支援を実施
・職業カウンセラーの指示の下、支援難度の高い障害者(精
神障害者、発達障害者、高次脳機能障害者等)を中心に
支援
ジョブコーチ助成金
助成金に移行
協力機関型ジョブコーチ
第1号ジョブコーチ(福祉施設型)
生活支援と一体
・地域障害者職業センターと連携して支援を行う福
~~~~~~~~
・福祉施設が行うジョブコーチ支援に助成金を支給
祉施設に所属
・職業カウンセラー、配置型ジョブコーチと連携し
・障害者をよく知る身近な福祉施設の支援者が生活面の支
て支援を実施
援とあわせて支援を実施
助成金を創設
第2号ジョブコーチ(事業所型)
職場に精通
ジョブコーチ助成金
の創設
~~~~~~
・事業主が自らジョブコーチを配置する場合に助成金を支給
・職場や業務内容を熟知し、指導経験が豊富な企業内の人材
が支援を実施
(民間機関においても、ジョブコーチを養成)
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
7
【資料4】
職場適応援助者助成金の概要
<職場適応援助者助成金>
職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援を受けなければ、事業主による雇入れ又は雇用の継続が困難と認められる障害者に対して、円滑に職場に適
応できるようにジョブコーチ(高齢・障害者雇用支援機構が行う第1号職場適応援助者養成研修又は、第2号職場適応援助者養成研修若しくは厚生労働大
臣が定める研修を修了し、援助の実施に関し必要な相当程度の経験及び能力を有すると認められた者)による援助の事業を行う社会福祉法人等並びにジョ
ブコーチを配置し援助を実施する事業主に対して、その費用の一部を助成する制度。
その概要は次のとおり。
(詳細は、http://www.jeed.or.jp/disability/employer/subsidy/sub01.htmlを参照。
)助成金の内容、申請手続き等についての問い
合わせは、aに関しては地域障害者職業センターに、sに関しては各都道府県障害者雇用促進協会等まで。
a
第1号職場適応援助者助成金
① 支給対象法人の要件
法人格を有していること、第1号職場適応援助者養成研修を修了した者を雇用していること、障害者雇用に係る支援の実績があること、地域障害者
職業センターとの業務連携関係があること等を満たす社会福祉法人等。
② 第1号職場適応援助者の要件
法人に雇用されており、機構が行う又は厚生労働大臣が定める第1号職場適応援助者養成研修を修了した者であって、障害者の就労支援に係る業務
を1年以上行った者
③ 支援対象となる障害者
身体障害者、知的障害者、精神障害者、発達障害者、その他第1号職場適応援助者による援助を行うことが特に必要であると機構が認める障害者
④ 支給対象費用等
・第1号職場適応援助者による援助の実施に要した費用、日額14,200円
・雇用前支援における事業主の受け入れに係る費用、日額2,500円
・研修の受講に係る旅費
・支給期間:1年8ヶ月(フォローアップ期間を含む)
⑤ その他
・地域センターが策定、又は認定法人が作成し地域センターが承認した支援計画に基づき援助を実施。
・原則として、1人の支援対象障害者に対し複数の職場適応援助者が担当。(職場適応援助者の支援技術の向上・維持、職場適応援助者の交替への対
応、職場適応援助者自身のストレスへの対処等のため。)
s
第2号職場適応援助者助成金
① 対象事業所
雇用する障害者の職場適応援助を行うため第2号職場適応援助者を配置している事業所
② 第2号職場適応援助者の要件
法人に雇用されており、機構が行う又は厚生労働大臣が定める第2号職場適応援助者養成研修を修了した者であって、一定の経験及び能力を有する
と認められる者(※)
※ 次のいずれかに該当する者
・障害者職業生活相談員の資格取得後、5年以上障害者の雇用に関する指導等の業務に就いていた者
・特例子会社・重度障害者多数雇用事業所において障害者の就業支援に関する業務を3年以上行った者
③ 支援対象となる障害者
身体障害者、知的障害者、精神障害者、発達障害者
④ 支給対象費用等
・第2号職場適応援助者による援助の実施に要した費用
・助成率3/4(上限 月15万円)
・支給期間:最大6ヶ月
⑤ その他
第2号職場適応援助者による援助は、単独で行うことを基本とする。但し、必要に応じて、地域センターの配置型ジョブコーチや第1号職場適応援
助者と連携して支援を行うことも可能。
域センターにおいて専門的な助言・援助等のバ
る雇用管理上の課題の解決に必要な支援を行う
ックアップを行うこととしている。例えば、第
こととしている。
1号職場適応援助者による支援の実施に当たっ
て、地域センターは障害者職業カウンセラーに
3 民間機関によるジョブコーチの養成
よる助言・援助、配置型ジョブコーチとのペア
支援ニーズの増加に対応するには、その担い
による支援、ケース会議等のOJTを通じて、支
手であるジョブコーチを広く育成・確保するこ
援に係るノウハウ、技術、知識等の移転、伝授
とが不可欠である。しかしながら、これまでの
を行い、支援技術の向上等の人材養成を図るこ
ジョブコーチの養成は、国のジョブコーチ支援
ととしている。また、第2号職場適応援助者に
事業とは別の枠組みにおいて地方自治体や民間
よる援助についても、ジョブコーチによる支援
機関が独自に取り組んでいるものを除き、独立
計画に係る助言・援助をはじめ、支援の各段階
行政法人高齢・障害者雇用支援機構(以下「高
において必要な助言を行うなど、事業主が抱え
障機構」という。
)がジョブコーチ支援事業を担
8
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
うジョブコーチを対象として行う養成研修のみ
労に移行する障害者のうち5割の者が活用でき
であった。
るようにすることを目指すこととしている。そ
一方で、ジョブコーチ支援の手法を学びたい
という支援者側のニーズも一段と高まっており、
のためにも、支援を担うジョブコーチの数を計
画的に増やしていくことが必要である。
ジョブコーチの手法に関するセミナー、講習会
を主催する民間機関も増加している。
そこで、職場適応援助者助成金の創設に伴い、
4 今後の展望
今後、障害者自立支援法による就労移行支援
養成ノウハウを有する民間機関を活用してジョ
の強化や、障害の重度化・多様化が増す中で、
ブコーチの養成を進めることとし、職場適応援
障害者の就職及び職場定着を効果的に進めるに
助者助成金の対象となるジョブコーチの要件と
当たって、ジョブコーチ支援の重要性はますま
して、
「独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構
す高まり、それに応えられる体制が求められる。
の行う養成研修を修了した者」という要件の外
これまでは、地域センターと、その協力機関と
に、
「厚生労働大臣の定める養成研修を修了した
して登録されている一部の支援機関がジョブコ
者」という要件を新たに加えたところである。
ーチ支援事業の担い手となっていたが、今般の
ジョブコーチの養成に当たっては、支援の質
制度見直しにより、企業や福祉の分野にジョブ
を維持するために養成内容の質を確保する必要
コーチの裾野を広げ、今後増大するニーズに応
があることから、
「厚生労働大臣が定める養成研
えうる基盤整備の一歩を踏み出したといえる。
修」について一定の基準を満たすことを求める
制度創設からまだ1年足らずであるが、第1号
こととした(厚生労働大臣が定める研修の指定
ジョブコーチは454人(協力機関型からの移行者
基準及び指定手続を策定。http://www.mhlw.go
を含む。)、第2号ジョブコーチは20人と着実に
.jp/bunya/koyou/shougaisha01/pdf/tuu0510b.p
その数を伸ばしており、配置型ジョブコーチを
df参照。)。これに基づき、平成18年6月に、民
含めると、その数は800人近くにのぼる。今後
間の2団体が行う養成研修を厚生労働大臣が定
も、より多くの障害者が身近な地域で必要な支
める研修として告示したところである(資料5
援を受けられるよう、地域センターとジョブコ
参照)。
ーチ支援を担う機関及び人材が地域において密
今後も、一定の基準を満たす養成研修の指定
接に連携・協力していく中で、支援技術の向上
を通じて、質の高いジョブコーチの養成を促進
を図り、地域におけるジョブコーチ支援の質及
し、マンパワーの増大を図っていきたいと考え
び量を充実させていきたい。
ている。
厚生労働省においても、時代のニーズに即し
なお、障害者福祉の分野においては、本年10
た支援が行えるよう、新たな制度によるジョブ
月からの障害者自立支援法の本格施行に向け、
コーチ支援の成果についてしっかりと検証して
福祉施設から一般就労に移行する障害者につい
いきたい。あわせて、福祉、教育等との連携に
て、年間1%、実数にして約2,000人という現状
よる障害者の就労支援の推進に関する検討を行
を、平成23年度には4倍の約8,000人にすること
うため、先般、厚生労働省において有識者から
を目標として掲げている。これを実現させるた
なる研究会を立ち上げたところであり、ジョブ
めに、就労支援施策に関して具体的な目標をい
コーチを含む障害者の就労支援を担う人材の育
くつか掲げており、そのうちの一つであるジョ
成及び確保のあり方についても幅広く検討して
ブコーチ支援については、福祉施設から一般就
いきたいと考えている。
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
9
10
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
ットワーク
(NPO)大阪障害者雇用支援ネ
ワーク
(NPO)ジョブコーチ・ネット
厚生労働大臣が指定する研修
(独)高齢・障害者雇用支援機構
実施主体
○第2号職場適応援助者養成研修
ットワーク
(NPO)大阪障害者雇用支援ネ
ワーク
(NPO)ジョブコーチ・ネット
厚生労働大臣が指定する研修
(独)高齢・障害者雇用支援機構
実施主体
○第1号職場適応援助者養成研修
(独)高齢・障害者雇用支援機構
実施主体
○配置型職場適応援助者養成研修
【資料5】
年2回
年2回
年3回
回数
年2回
年2回
年4回
回数
年4回
回数
/回
15名程度
/回
20名程度
/回
40名程度
定員
/回
15名程度
/回
40名程度
/回
40名程度
定員
50時間(7日間)
42時間(6日間)
(地域研修4日間)
大阪府
東京都、神奈川県
職業センター
地域研修:地域障害者
(本部研修5日間)
実施地域
本部研修:千葉県
大阪府
東京都、神奈川県
44時間以上
研修時間
50時間(7日間)
42時間(6日間)
職業センター
地域研修:地域障害者
(本部研修5日間)
(地域研修4日間)
本部研修:千葉県
実施地域
職業センター
45時間以上
研修時間
(地域研修4日間)
地域研修:地域障害者
(本部研修5日間)
実施地域
本部研修:千葉県
研修時間
45時間以上
※第1号と同時受講
−
定員
受講対象者
(平成18年6月現在)
受講対象者
受講対象者
る者
定している者で、ジョブコーチに関する専門性の習得を希望す
障害者の就職支援に携わっているか、近い将来携わることを予
望する者
予定している者で、ジョブコーチに関する専門性の習得を希
障害者の就職支援に携わっているか、近い将来携わることを
される職員で第2号ジョブコーチとなる予定の者
第2号ジョブコーチ助成金に係る認定を受けた事業主に雇用
る者
定している者で、ジョブコーチに関する専門性の習得を希望す
障害者の就職支援に携わっているか、近い将来携わることを予
る者
定している者で、ジョブコーチに関する専門性の習得を希望す
障害者の就職支援に携わっているか、近い将来携わることを予
に雇用される職員で第1号ジョブコーチとなる予定の者
第1号ジョブコーチ助成金に係る認定を受けた社会福祉法人等
新たに委嘱された者
地域障害者職業センターにおいて配置型職場適応援助者として
職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修の概要
特集
ジョブコーチ
米国における援助付き雇用の変遷
筑波大学人間総合科学研究科 助教授 八重田 淳
1 はじめに
援助付き雇用「supported employment(以下
た、年表の内容については、本文で説明してい
ないものもあるのでご容赦頂きたい。
「SE」という。)」は、米国でどのように推移し
てきたのか?この設問に対する答えを探ること
2 SEの変遷
は、決して簡単な作業ではない。それはSEが何
Rose(1963)は、クライエント就職後のサー
かの流行のようにいきなり始まったものではな
ビスを「厳密に」執行することの大切さを
く、障害児教育と職業リハビリテーションにお
“rigorous postemployment services”という言
けるサービス実践者、教育者、研究者、政策立
葉で説いた(Rubin & Roessler,2001)
。雇用さ
案者、そして何より重度障害をもつ人自身と本
れたクライエントにとって大切なのは、就職後
人を支える家族による努力の結晶であるからだ。
の生活である。果たして本人はその仕事を生き
したがって、単純に法制度の流れを把握すれば
生きと続けられるのか?生涯発達という長い視
よいというものではない、また、どのくらい昔
点で見た時に、本当に職業が自立とQOLへ展開
まで時を遡ればよいのか、についても明確な線
していくのか?肝心なのは、
「その後」なのであ
引きをする根拠が不明確である。法律は理念を
る。そのためには、まずクライエント就職当日
具現化したものであるし、理念は一個人の哲学
から迅速かつ長期的に本人の生活を見守ってい
を社会通念まで発展させたものである。つまり
く必要がある。大切な就業初日をどう迎える
SEの変遷を語るためには、一個人の哲学まで遡
か?そこで、Roseは「クライエントが新しく働
らねばならないことになる。筆者がなぜ哲学に
き始める最初の一時間、最初の一日、最初の一週
こだわっているのか。それは、米国でSEの基本
間はスタッフの誰かを付けるべきである」とした
理念を長年提唱し実践を積み重ねてきた多くの
のだ(Rose,1963,p13)。Rubin & Roessler
人々、SEの実現を見る前に志半ばで世を去った
(2001)は、これをSEの初期概念のひとつとし
人々に対し、一研究者として深い敬意を表した
て紹介している。実際の職場でこの就職後の役
いという想いがあるからだ。
割を誰が行うべきかについては、スタッフの
本稿では以上を踏まえ、まずSEの変遷の始点
を1963年のある研究者の哲学に見る。年表には
「誰か」と表現されているが、それが現在のジョ
ブコーチということになる。
SEが法制度化された1986年を経て2002年までの
ジョブコーチという用語がリハビリテーショ
軌跡を示してある。したがって、本稿で紹介す
ン領域で使われ始めたのも今から40年近く前で
るSEの変遷は網羅性に欠けており、不完全なも
あり、例えば、Ferman(1969)はジョブデベ
のである。どちらかといえば、SEに感化されて
ロップメント(職場開拓)を効果的に行うため
きた筆者自身の体験を織り交ぜたひとつの物語
の“job-coaching”のあり方を3つ述べている
として眺める程度に留めて頂けたらと思う。ま
(Wright,1980)。Ferman(1969)は、それら
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
11
をa雇用主を理解したうえで事前に綿密な調整
SEがノーマライゼーションの具現化であるな
を行うこと、sジョブコーチ自身がクライエン
らば、まずその理念を勉強しなければならない。
トの成育環境や人間性をよく知っていること
Wolfensberger(1972)によるPrinciple of
(近所の地域住民がジョブコーチとしてリクルー
Normalization in Human Servicesの5章分を次
トされることが多い)
、dジョブコーチが、クラ
週までに読んでくること、これが初日の宿題で
イエント・サービス機関・雇用主・地域サービ
あった。私が学んだことは、
『ある程度の危険を
スの間を取り持つ連結役であること、としてい
冒してでもあえてそれにチャレンジするという
る。一方、Hershenson(1974)は、ジョブコー
本人の“dignity of risk”を尊重し、重度障害を
チはクライエントに対して、a通勤方法を教え、
もつ人々自身が競争的雇用を通じ自己実現を果
それを援助し、s時間を守り、人として信頼さ
たす、これが援助付き雇用の哲学だ』というこ
れることを教え、d職務をきちんと遂行できる
とだった。
よう体系的に援助し、f給与等の金銭管理まで
SE講義に使われた教科書は、Wehman &
面倒を見る、などの役割を責任を持って遂行で
M o o n 編 著 ( 1 9 8 8 ) に よ る Vo c a t i o n a l
きるサービス機関従事者のひとりである、とし
Rehabilitation & Supported Employmentと
た。さらに、Usdane(1976)は、重度障害を持
Mcloughlin,Garner,& Callahan編著(1987)
つ人の雇用に際しては“Placement Worker”と
によるGetting Employed,Staying Employed:
いう高度専門性を持つ専門職をきちんと配置す
Job Development and Training for Persons with
べきであるとし、その人材養成は経済学あるい
Severe Handicapsであった。これらの優れた著
はビジネスアドミニストレーションの大学院で
作は、SEに関わる多くの先人達による長い実践
行うべきであるとした。これらのことは、筆者
と研究の成果のひとつであり、職業リハビリテ
が1985年にUniversity of Wisconsin-Madisonの
ーションサービス受給の権利と機会を奪われて
Paul Lustig教授やGeorge N.Wright教授の講義
きた数十万の重度障害者の希望となったSE発展
から学んだことである。参考までに当時使用さ
初期の学術書である。Wehman & Moon(1988)
れた教科書は、前者がPlacement in Rehabilitation
は、SEを「置き去りにされていた重度障害者の
(Vandergoot & Worrall,1979)、後者がTotal
市民権運動」として位置づけており(p.xi)
、こ
Rehabilitation(Wright,1980)である。
SEの理念的発展に欠かせないのは、1960年∼
のことからもSEがノーマライゼーションの具現
化であることがわかる。Mcloughlinら(1987)
70年代で提唱されたBengt Nirje(1969)やWolf
による著書は、Try Another Wayアプローチ
Wolfensberger(1972)によるノーマライゼー
(後のシステマティック・インストラクション)
ションの原理であろう。筆者が1989年に
を開発し伝説の人となったMarc Goldによる実
Southern Illinois Universityで受講したSEの講
践と研究(1972,1980)を故人の成果として引
義でも、ノーマライゼーション原理を学ぶこと
き継いで編集したもので、SEで使われる基本テ
から始まった。『SEとは何か?』からではなく
クニックがその哲学とともに余すところなく紹
『ノーマライゼーションとは何か?』から始まっ
介されている素晴らしい本である。
たこの講義で、Hanley-Maxwell教授は「ノーマ
SEが米国で本格的に動き出した1980年代当時
ライゼーションは、理念というよりもテクニッ
でも、職業リハビリテーション関係者はSEを慎
クです。なぜなら、ノーマライゼーションは実
重に見守っていたようだ。SEが対象とするの
践しなければ意味がないからです。そのテクニ
は、従来まで職業リハビリテーションサービス
ックのひとつとして、特に重度障害者雇用に効
から除外されてきた多くの重度障害者である。
果的なのが、援助付き雇用です。」(八重田,
サービス提供側の人材は質的にも量的にも十分
2001,p.46)と熱っぽく語っていた。
なのか、州政府予算の財源は確保されているの
12
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
か、家族側からの反対や不安(競争的な職場環
在・有効性・制限に関する理解を、教育、職業
境に対して)はないのかといった疑問を持つ
のみならず、福祉、保健、医療領域、そして企
人々が少なからずいた。しかし、SEは家族への
業側に広めるということだ。なぜなら、企業に
アドボカシーを特に大切にしており、重度障害
よる雇用がなければ、SEは成立しないからであ
だから無理という前提を真向から否定し、除外
る(Cimera,2002)。
ゼロ(Zero Exclusion)の理念を具現化するも
のである。障害という偏見を取り除く
“demystification”
(非神話化)がSEの成し得た
3 おわりに
大学院の英語にほとんどついて行けなかった
最大の功績であるといえる(Wehman et al,
1984年当時、ひとつだけとてもわかりやすい授
2003)。SEによって競争的職場では次々と就業
業があった。それは重い障害をもつ子供たちの
するケースが増えるにつれ、その有効性は認め
力をどう引き出すかという指導教育方法論で、
られ、1986年には1万人であったSE参加者は、
その方法のひとつがTask Analysis(作業分析あ
1995年には14万人と報告されている(Wehman
るいは課題分析)だった。授業中に我々が与え
et al,1997)。 SE発祥の地ともいわれるイリノ
られた課題は、ひとつの単純な作業(例えば、
イ州における1990年のSE費用効率は1.09で、SE
机の上にあるコップを手でつかむ)を最低10個
利用者の収入も57%増である(Rusch et al,
のTaskに細分化するというものだったが、シン
1993)。ヴァージニア州やイリノイ州等は、SE
プルな英語しかわからない筆者にとっては願っ
への取組みを大学で実施していることもあり、
てもない授業課題だった。Task Analysisは学校
その成果も顕著である。しかし、SE利用者数は
だけでなく職場でも使えるという応用の話を聴
州による格差が大きく、州人口10万人あたりの
いた時「これは面白いな」と感じた。そして
SE利用者の最大数は88人だが、最小は1人とい
Task Analysisを筆者自身がサービス現場で体験
う州もあり、全米平均は8人である(Rogan,
したのが、翌年1985年の実習先だった。
2002)。さらに、 SEのメインユーザーであるべ
その実習先は、Vocational Industriesという
き重度障害を持つ人々のSE利用は統計的にも満
名称のリハビリテーション施設で、重い発達障
足な状態とはいえない。施設の重度障害者13万
害を持つ青年たちがダンボール箱の組み立てと、
人のうち、SE利用者はわずか15%である(West
ねじを小さなビニール袋に仕分けするという作
et al,2002)。SEを利用しているのは知的/発
業を企業の下請けとして行いながら、一般就労
達障害者の4人に1人に満たないという報告も
に移行するための職業準備訓練をしていた。
。たしかに、SE利
ある(Braddock et al,2002)
我々実習生は実際の場面でTask Analysisを用
用者の収入は保護雇用利用者の約2倍であり、
い、クライエントがつまずいている箇所を見つ
職場は当然ながら94%が統合的な環境である
け、今度はそこに焦点を当てて作業を援助する。
(Novak et al,2003)
。しかし、SEが標榜してい
時には「ジョブプレースメント・スペシャリスト」
る重度障害者雇用の実効性を検証する必要があ
(これは、現在のJob Developer,Job Development
り、その認識を新たにする必要もある
Specialist,Employment Specialist,Job Coach,Job
(Wehman et al,2003)。
Training Specialist等の職名とほぼ同じ。
)に同行
SEのプログラム評価研究を今後さらに綿密に
し、地域の企業で職場開拓の実際を学ぶ。
「我々
実施する必要性があることは、多くの研究者に
のクライエントがこの企業に提供できる仕事は
よる共通見解である(Cimera,2000;Kregel et
何だと思う?」というのがこのスタッフの言葉
al,2000)。また、雇用主あるいは企業にSEが
だった。
「Jun、会社の中を隅々まで見渡すんだ。
及ぼす影響に関する事業評価研究も今後さらに
どんな小さなことでもいい。見つけられるか
必要とされている(Cimera,2002)。SEの存
い?」というスタッフの投げかけに対し、まと
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
13
もな返事ができない。苦し紛れに「掃除…」と
ていたのか?それは「出口をしっかり見ろ」と
つぶやくと「じゃ、まず君がやってごらんよ」
いうことだったのだと思う。つまり、学校教育
と来る。筆者はその後、職業リハビリテーショ
の出口となる社会や職場の現実を見て、あるべ
ンを本格的に勉強するようになった。そして
き教育を考えよということだ。米国におけるSE
「そうか、あの時の実習はTransition
は、歴史的に見ても障害児教育と職業リハビリ
Coordinator的な要素を含んでいたのか」と感動
テーションの連携なしには、あり得なかったの
した。障害児教育専攻の大学院で、なぜ職業リ
かもしれない。
ハビリテーションの先端に触れる機会を提供し
米国における援助付き雇用の変遷
年
特 記 事 項
1963
クライエント雇用後の初日から付き添いスタッフを配置し厳密な就業後サービスを(Rose,1963).
1965
全米リハビリテーション協会の組織として職業評価・職場適応協会(VEWAA)が発足.
1968
職業リハビリテーション法改正,Project With Industries(PWI)でジョブコーチングによるフルタイム雇用を.
1969
効果的な職場開拓のためのジョブコーチングのあり方を提唱(Ferman,1969).
1969
重度知的障害者の雇用アプローチとして作業グループ(Work Crew)を提唱(Hansen,1969).
1969
全米リハビリテーション協会の組織として職場斡旋・職場開拓協会(JPD)が発足.
1969
企業内に作業所を設置するアプローチ(Greenleigh Associates,1969)
.エンクレーヴモデルの発祥(Barbour,1999)
.
1972
ノーマライゼーション理念が施設から地域・職場への移行を促す(Nirje,1969; Wolfensberger,1972).
1972
Try Another Wayアプローチ(後のSystematic Instruction),SE実践の基礎となる(Gold,1972,1980).
1973
リハビリテーション法.重度障害,消費者主体,事業評価,研究,権利尊重を重点化.
1974
ジョブコーチの役割(通勤,勤務態度,職務遂行,金銭管理等)を提言(Hershenson,1974).
1974
保護雇用(Sheltered Employment)の場を地域の企業内に置くべき(Brickey,1974).
1975
.
企業内作業ステーション(Work Stations in Indsutries)の方法(McGee)はSEの土壌を作った(Barbour,1999)
1975
全障害児教育法におけるLRE(最も制約の少ない環境)の概念とZero Exclusion(除外ゼロ)の原則.
1978
リハビリテーション法改正,自立生活リハビリテーションサービスがプログラムとして動き出す.
1978
訓練-雇用-訓練-フォローアップ(TPTF)の提唱.中・軽度知的障害者134名の雇用率80%(Lagomarcino,1986)
.
1978
ヴァージニア・コモンウェルス大学リハ研究訓練センター(VCU-RRTC)設立.SEの研究が本格的に始動.
1979
重度障害者雇用にPlacement Workerを専門的に配置し,専門職養成はビジネス系大学院で(Usdane,1979).
1981
VCU-RRTCがジョブコーチ養成マニュアルを開発(Wehman,1981).
1981
能力とニーズに適合する職場環境の選び方の大切さを説くselective placement アプローチ(Pati&Adkins,1981)
.
1983
障害児教育・リハビリテーション局,職業準備モデルから援助付き雇用モデルへの変換を提唱(Will,1983).
1983
全障害児教育法改正,学校から職場,成人生活への「移行」概念を導入.
1984
発達障害者権利法(DDA),「職業関連の活動」を促し,SEを促進した最初の法律に.
1986
雇用-訓練-フォローアップ(PTF)方式によるSEアプローチの提唱(Wehman,1986).
1986
リハビリテーション法改正によりSEが定義付けられ,重度障害者の新たな雇用形態として動き出す.
1990
ADA,障害による雇用の差別化を全面禁止.社会への完全参加と自立を掲げる.
1990
障害者教育法,移行サービス(Transition Services) を定義化.その中にSEが含まれる.
1991
ナチュラルサポートは,ジョブコーチの人件費削減としても有効(Fabian & Luecking,1991).
1993
イリノイ州のSE費用効率1.09[SEに$1投資で$1.09ドルの納税],SE利用者収入57%増(Rusch et al,1993).
1994
ジョブデベロッパーが企業コンサルタントとして障害者雇用を成功させるビジネスモデルの提唱(Bissonnette,1994)
.
1995
1986年に1万人であったSE参加者は,1995年14万人となる(Wehman,Kregel,& West,1997).
1998
州人口10万人あたりのSE利用者数の格差は大[最小1.1人∼最大88.5人,平均8.8人](Rogan,2002).
1999
施設の重度障害者13万人のうちSE利用者は15%[2万人弱](West et al,2002).
2000
知的障害/発達障害の108,000人がSE利用者,361,000人は保護雇用等のプログラム利用者(Braddock 他,2002)
.
2001
SE利用者の平均時給$5.75[保護雇用$2.30],平均月給$455.97[保護雇用$175.69](Novak 他,2003).
2002
SE雇用者側から見たビジネス経営上の費用効果研究が必要(Cimera,2002).
14
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
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八重田淳(2001).リハビリテーションの哲学.法律文化社
16
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
特集
ジョブコーチ
米国における精神障害がある人への
「援助付き雇用」
― ジョブコーチ支援から進化した新たな社会的支援と就業支援 ―
障害者職業総合センター 研究員 春名由一郎
はじめに
の形が根付き始めている。もう一方では、就業
ジョブコーチ支援とは、つきつめれば、障害
支援専門家の「まず仕事に就ける」という技術
のある人への「就職後の職場適応」に焦点をお
の進化により、今や障害状況や求人状況に拘ら
いた就業支援と言える。これは「就職前の職業
ず、求職者と事業主の両方を満足させる職探し
準備」の壁が高すぎた知的障害がある人たちに
が可能になり、これが、
「就職後の職場適応」に
対して、米国でもわが国でも画期的な成果をも
焦点をおく社会全体の取組の大前提になってい
たらしてきた。しかし、統合失調症や気分障害
るのである。
などの精神障害がある人の場合では、医療等と
の密接な連携が必要になるなど、ジョブコーチ
1
保健・医療・福祉と連携した援助付き
支援だけで劇的な効果を上げるというわけには
雇用
いかないようである。
精神障害の治療やケースマネジメントと就業
一方、わが国のジョブコーチ支援のモデルと
支援の両立について、米国では既に1990年代か
なった米国の「援助付き雇用」についてみると、
ら多様な支援方法の比較検討が行われ、成果の
それは精神障害のある人に対しても成果が認め
ある実践を採用し、成果のない実践はそれまで
られ、さらに、保健・医療・福祉等の関連分野
の経緯に拘らず取りやめるというプラグマティ
でもその重要性が共通に認識されつつある。そ
ックなアプローチが重視されてきた。その結果、
の成功の秘密を探るため、筆者は援助付き雇用
これまで「就業や社会復帰を目指して」行われ
研究で定評のあるバージニア・コモンウェルス
てきた多くの実践が捨てられ、保健・医療・福
大学リハビリテーション研究訓練センター
祉・労働が一致して「仕事についてからの継続
(VCU-RRTC)が提供する「精神障害がある人
への援助付き雇用」のインターネットによる研
的支援」に取り組む共通基盤ができた。
a
成果を生む「援助付き雇用」のエッセンス
修コースを受講した。これは、米国の就業支援
精神障害がある人の、就業と症状の安定の両
者の生涯学習の手段でもあるため、得られた情
立の課題に対して突破口を開いたのは、医療機
報は米国の最先端の動向である。
関に属するチーム全員が就業支援と臨床的なケ
4ヶ月間のコースを修了して得た結論は、米
ースマネジメントの両面を担当するPACTモデ
国の援助付き雇用は、これまでの実績を踏まえ
ルや、就業支援者と医療チームが分業しながら
て、2つの方向に大きく進化を遂げているとい
医療機関内でチームアプローチをとるIPSモデ
うことである。一方では、支援時期の重点を
ルなどであった1)。従来の就業支援であるデイ
「職業準備」ではなく「就職後の職場適応」にお
ケアや職業準備訓練、様々なジョブコーチ支援
く実践が保健・医療・福祉分野にも拡大し、職
モデルなどを含めた比較検討により、現在、次
場適応援助と疾患管理の統合による新たな支援
の6原則が「根拠に基づく実践」と認められて
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
17
いる。
24時間対応や医療的専門性が必要であることか
①
ら医療専門職が担当することが重視されている。
就業を希望する者を全て支援対象とする
(職業準備性の判定を行わない。)。
②
一般就業を目指す(デイケアや作業所など
ではなく)。
③
就業後の精神障害の再燃の大きな原因は服薬の
中止であることから、服薬の順守の指導や場合
によっては薬の処方を変えるなどの医療的支援
本人が就業への興味を示したらすぐに職探
が就職後もきめ細かく実施される。また、精神
しを行う(職歴や職業訓練などの要件はな
障害がある人の退職理由の多くは、仕事とは関
い)。
係のない、転居、人間関係、育児、交通などの
④
本人の興味を重視する(仕事と支援は本人
の選択と判断による)。
⑤
理由によるため、期限を設けない生活面での支
援も極めて重要である。
医療的支援と就業支援が統合される(詳し
い内容は次項sdに述べる。)。
⑥
フォローアップ支援に期限を設けず継続さ
従来、就労はストレス要因であり、精神障害
にとっては危険因子であると考えられてきた。
しかし、「根拠に基づく実践」を前提とすれば、
せる。
就業は精神障害にとって危険因子ではないばか
この6原則の社会的インパクトは非常に大き
りか、精神障害の治療や生活機能の改善効果が
なものである。わが国ではこの6原則は先端的
明らかになっている。
「仕事に就く」ということ
な医療機関内でのチームアプローチとして既に
自体が、精神障害のケースマネジメント、ソー
2)
紹介されてきたが 、米国では、現在、米国薬
シャルスキルトレーニング、デイケア、クラブ
物乱用精神保健局(SAMHSA)の精神保健サー
ハウスなどの実践に比較してすら格段に高い効
ビスセンター(CMHS)が「根拠に基づく実践
果なのである。したがって、現在では、むしろ、
3)
リソースキット」 の普及によって社会全体の精
すぐに仕事に就け就職後に継続的に支援を行う
神保健全体のあり方を変え始めている。また、
ことが、医療の観点だけからしても「根拠に基
米国労働省が、日本のハローワークにあたるワ
づく実践」となっており、これが医療と労働の
ンストップキャリアセンターでの地域の精神保
新しい連携のあり方に関する認識の最も大きな
健センターとの密接な連携による「Customized
変化だろう。
Employment」を実施する際にも、これらの原
d
就業支援と医療的支援の補完的関係
則に準拠している。さらに、地域支援サービス
わが国の常識とは大きく異なり、米国の援助
の再編成のインセンティブとして、地域サービ
付き雇用では、陽性症状や陰性症状、職歴がな
スへの行政補助を成果主義にすることや、従来
いこと、入院歴があること、薬物乱用等、その
福祉の対象であった精神障害のある人や家族の
人の検査や評価結果に拘らず、本人が就業を希
変化の不安への相談サービスを強化したりする
望すれば直ちに復職や職探しを行う。これが可
など、社会全体の変革にもつながっている。
能になるのは、就業にあたって、医療的支援か
s
ら切り離されず、むしろ、医療や福祉の専門家
医療や福祉分野でも「就職してからの支援」
へ
が、就業してからより一層、服薬の調整や症状
医療や福祉分野での診断・評価・治療・支援
についてのケースマネジメントや生活支援に、
が「仕事に就いてから」へとシフトすることで、
就業支援と一体になって取り組むためである。
「職場適応援助」がジョブコーチの専売特許では
また、逆に、就業支援によって医療的支援の
なくなり、医療・福祉のケースマネジメントを
限界を克服することも可能である。職場への同
含んだものとなる。わが国は、ジョブコーチが
行や職場適応といった狭義の「ジョブコーチ支
このような役割もあわせて担当することもある
援」
、疾患別の精神障害の特性に応じた合理的配
が、米国では効果的なケースマネジメントには
慮などはその好例である 4) 。さらに米国では、
18
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
薬物がなかなか効かない統合失調症で顕著な陽
や福祉等の専門性と連携した「根拠に基づく実
性症状(妄想、幻聴)が残っている人でも就業
践」が実行可能なのである。
支援が有効であるという。例えば、
「会社に悪い
a
創造的職探し
想念が入り込んでいる。
」との妄想をもっている
米国では、企業における従業員の採用の85%
とすれば、朝の「魔よけ」の儀式を認めるよう
以上は口コミや人脈を通して一般求人以外で行
に事業所と打ち合わせ、さらに、幻聴に応える
われ、半数以上は職務内容すら明確でない段階
ことによる独語を同僚に奇異に思われないため
で採用されているという。この事実に基づき、
に、少し騒がしい職場に配置するなどすれば、
症状も安定して仕事が十分にできるという。
「創造的職探し」ではこの「隠れた労働市場」に
切り込む。その実施のためには、企業を就業支
米国においては、就業支援と医療や福祉など
援サービスの顧客として明確に位置づけること
の密接な連携については、医療機関内での就業
による、企業ニーズに応える職務創出と企業の
支援専門家も含めた他職種のチームアプローチ
メリットになる雇用関係の構築が重要となって
によってはじめて可能になるという考え方が強
いる。
い。しかし、最近では地域関係機関が利用者中
ア 企業のニーズに応える職務創出
心の統合的支援を行うOne-Stopアプローチでも
隠れた労働市場に効率的にアプローチするコ
成功するようになってきている。その場合、関
ツは、特定の求職者からスタートして、その希
係者の症状チェックリストや回覧日誌の活用な
望や強みに適合する企業に狙いを定めることで
どで、その人の支援に関わっている全ての関係
ある。この際、支援者あるいは求職者の人脈
者による記録や意見等を1ページにまとめるな
(口コミやコネなど)をフル活用する。さらに、
どの実践的方法もあるようである。いずれにせ
求職者の売り込み前にその企業のニーズを知る
よ、医療専門家と就業支援専門家の「統合的」
ために個別の企業の訪問調査まで行う。このよ
といわれる密接なコミュニケーションが不可欠
うな周到な準備を踏まえ、個々の企業のニーズ
であることで認識は一致している。
にぴったりの新しい職位や関連条件の提案がで
きて初めて創造的職探しは成功する。
2
障害重度や求人状況に拘らず成功する
創造的職探しをスムーズに行うためには、個
就業支援
別企業の調査だけでなく、常日頃からの総合的
これまでは就業支援の対象にはなり難かった
な企業社会へのマーケティング活動も不可欠で
重度の精神障害のある人の「素早い職探し」が
ある。地域の各企業の事業内容の理解、ニーズ
社会的原則になってきた。しかし、一方で、条
調査と予測に努めるとともに、企業の立場で考
件にあう求人はなかなか見つからず、企業は何
え、援助付き雇用の業界用語を企業の用語であ
故わざわざ重度の精神障害がある人を雇用する
る「目的による管理」
「継続的な品質改善」とい
必要があるのか、と問うてくる。そのような状
う言葉に置き換えて説明するなどがその例であ
況では、
「本人の興味を活かした」職探しは、も
る。さらに、マーケティング活動は広報だけで
はや枕詞以上のものではなくなってくる。就業
なく、企業が自分で地域にアピールしたくなる
支援専門家にとって悪夢であろう。ましてや、
ような支援成功がさらに他の企業からの人材ニ
米国には雇用率制度もない。
ーズについての相談を呼ぶなどの、組織全体で
米国の援助付き雇用の進化のもう一面は、こ
のような限界の打破にある。高度な専門性とし
の好循環を作り出していくことが重要である。
イ 企業にメリットがある雇用関係の構築
ての、求人に依存しない「創造的職探し」と発
「精神障害がある人の雇用は企業にとって負
達した「キャリア支援」があって始めて、医療
担」という先入観を払拭するためには、就業支
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
19
援者自身の意識を「福祉サービス」から「経営
通りに理解して、支援者がそれを「非現実的」
支援サービス」へと転換させることが強調され
として否定したり、軽んじたり、変更させたり
ている。
「福祉サービス」としての意識では、求
しようとすることは、基本的な誤りである。例
職者の病気や障害、仕事ができないことや企業
えば、「ボストン市長になりたい。」という希望
の負担になることの説明が主になり、支援や最
は必ずしも具体的な職種の希望を言っているわ
低賃金除外などの話も求職者が「仕事ができな
けでなく、その本意は「
(現在の狭い孤立した場
い」との認識を強めるだけである。さらに、障
所での仕事でなく)広いスペースで多くの人と
害関連の専門用語を多用する傾向もあり、そも
関わる仕事がしたい。」ということかもしれな
そも、企業関係者とのコミュニケーションが成
い。このようにしてコミュニケーションを深め
立しないことが多い。
ることによって、多くの選択肢や可能性を示す
一方、「経営支援サービス」としての意識と
ことができる。
は、企業を顧客として扱い、企業の製品やサー
また、キャリアの方向性は発展していくもの
ビス、経営上の課題に関心をもち、求職者の企
であり、これまで職歴がない人などは仕事の失
業への「貢献」に集中して説明し、企業の問題
敗を経験として活かしながら次の仕事を考える
を解決する最適な人材として自信をもって求職
ことや、昇進や転職などの可能性も含めた継続
者を推薦する。その上で、各種支援制度・サー
的なフォローアップが必要である。
ビスを、企業との条件交渉にフル活用する。例
イ 自己決定による個別的支援
えば、スクリーニング済みで離職率が低い求職
重度の障害があっても自己決定は可能である。
者、新規採用者への個別のオンザジョブトレー
例えば、ある仕事への意欲がない場合、それを
ニング、障害や雇用に関連した教育的資料やコ
「意欲がない」とレッテル貼りするのではなく、
ンサルテーションの無料提供などは、就業支援
本人が興味のないことや嫌いな仕事の把握とし
サービスによる明らかな企業へのメリットとな
て役立てることもできる。これまで仕事のこと
りうる。わが国では、当然、雇用率制度や各種
も考えていなかったような人に対しては、まず
助成金の存在も強力な交渉カードになるだろう。
夢を語ることを励まし、そこからステップを辿
s
って「最初の行動」につなげていく方法論もあ
進化したキャリア支援
自己決定や個別支援は援助付き雇用の大原則
る。また、本人を知るために本人が希望する場
であるが、従来の求人主導型の就業支援では限
所で時間をかけくつろいだ雰囲気で本人と話を
定されがちであった。しかし、「創造的職探し」
したり、あるいは友人や家族などを集めてブレ
の確立に伴って、これらは援助付き雇用の不可
インストーミングを行ったりすることで、本人
欠な要素として再認識されている。適切なキャ
や家族も認識していなかった強みや方向性が明
リア支援を行うことによって、重度の精神障害
らかになることも多い。
に拘らず、全ての人は社会に貢献する強みや価
最新の援助付き雇用においては、このような
値があることを見出すことができ、キャリアの
キャリア支援が就業支援の専門的な評価や支援
方向性について自己決定できるのである。
計画の基礎と位置づけられており、評価室等で
ア
の障害や「できないこと」の評価には価値が置
目の前の「職」を超えた「キャリア」の視
点
かれておらず、時間もほとんどかけないという
本人の希望や興味にそった職探しを行うため
のが大きな変化となっている。むしろ、それら
のポイントは、具体的な職種として希望を明ら
は連携する医療的ケースマネジメントの課題で
かにしようとするのではなく、価値観や興味、
ある。また、精神障害がある人では、認知障害
好みや嫌いなことなどの「キャリアの方向性」
やそれまでの失敗経験等から自分に自信が持ち
を明らかにすることである。本人の希望を文字
難い人も多いため、第三者の立場から優れた点
20
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
などを見い出していくことは重要な支援となる。
義、講師と受講生を交えたディスカッション、課
題と小テストがあった。このウェブコースは内容
ウェブコースについて
なお、本稿の情報源であるウェブコースは
2006年1∼5月のもので以下の6課からなる。
を少しずつ更新させながら年2回のペースで実施
されており、http://www.worksupport.comで申
し込むことができる。
・第1課:概要と援助付き雇用の研究的基盤
(根拠に基づく実践、IPSモデル)
・第2課:ビジネスとの関係構築(マーケティ
まとめ
わが国でも、ジョブコーチ支援の実践上のノ
ング、マーケティング分析、事業主教育)
ウハウや知見は多く蓄積され、今回紹介した方
・第3課:キャリアの方向性の確立(公式・非
法論についても現場では既に実施されている例
公式の評価戦略、本人の関与、異文化理解)
もあると聞く。一方、わが国の精神保健分野で
・第4課:職場開拓(本人の関与、職務分析、
も「根拠に基づく実践」や援助付き雇用に注目
面接・開示等、自営の選択肢)
が集まってきている。米国ではこの2つの流れ
・第5課:就業支援(代償戦略、ナチュラルサ
が合流して、精神障害のある人への社会的支援
ポート、ジョブコーチ、職場内外の支援)
のあり方を変革しつつあることを知り、現在の
・第6課:給付カウンセリングその他(障害給
わが国の「ジョブコーチ支援」の取組みにある
付、仕事の動機付け、成果指向の資金提供)
大きな可能性を再認識させられた次第である。
各課2週間の中に内外の講師による3∼4の講
<文献>
1)Becker, D.R. & Drake, R.E.: A Working Life for People with Severe Mental Illness. Oxford University Press, 2003. (大島巌
他監訳:精神障害をもつ人たちのワーキングライフ∼IPS:チームアプローチに基づく援助付き雇用ガイド. 金剛出版,
2004.)
2)小嶋ひかるほか:ACT-Jにおける就労支援活動の取り組み,職リハネットワーク No. 57, 24−26, 2005
3)SAMSA: Evidence-Based Practices: Shaping Mental Health Services Toward Recovery:
http://www.mentalhealth.samhsa.gov/cmhs/communitysupport/toolkits/
4)春名由一郎:精神疾患のリハビリテーション:職業リハビリテーション,総合リハビリテーション 33h, 525−530, 2005.
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
21
特集
ジョブコーチ
職場適応援助者養成研修の現状について
障害者職業総合センター 職業リハビリテーション部 研修課
1 はじめに
として援助を行う上で必要な知識及び技術を付
平成17年に「障害者の雇用の促進等に関する
与する内容のものとし、障害者職業総合センタ
法律」が改正され、これまでの地域障害者職業
ー(以下「総合センター」という。
)が実施する
センター(以下「地域センター」という。
)にお
研修(以下「本部研修」という。
)及び地域セン
ける「職場適応援助者(ジョブコーチ)による
ターが実施する研修(以下「地域研修」という。
)
支援事業」
(以下「ジョブコーチ支援事業」とい
により体系的に実施するものとする。
」とされて
う。
)に加え、障害者雇用納付金を財源として社
いる。本部研修では職場適応援助者による支援
会福祉法人や事業主等が実施する職場適応援助
に関する一般的な知識や支援技法の習得、地域
者による援助の事業に係る助成金制度(以下
研修では個別・具体的な事例や場面を活用して
「職場適応援助者助成金制度」という。)が創設
理解や技法の習得を図るものとし、講義を中心
されたことにより、ジョブコーチによる支援の
とした本部研修と本部研修で習得した知識・技
裾野が拡がった。これまでジョブコーチ支援事
法を地域の実際の現場での演習等を通しての習
業と職場適応援助者(ジョブコーチ)の養成に
得を図る地域研修とに区分することで、より一
先導的に取り組んできた当機構は、職場適応援
層の研修効果の向上を目指している。
助者助成金制度における第1号職場適応援助者
a 研修の概要
及び第2号職場適応援助者についてもその養成
イ 本部研修
の一端を担っているところである。
法改正後の職場適応援助者の養成研修は、
「機
職場適応援助者による支援は、障害者、事業
主、家族と支援対象が広範囲であることから、
構が行う研修」と「厚生労働大臣が指定する研
本部研修では職場適応援助者による支援に関す
修」があるが、当機構が行う研修は、研修修了
る一般的な知識や支援技法の習得を図るため、
後直ちに職場適応援助者として活動することが
下記sのカリキュラムに基づいた内容で実施し
予定されている者(
「配置型ジョブコーチとして
ている。
委嘱された者」、「第1号及び第2号職場適応援
具体的な講座としては、職業リハビリテーシ
助者助成金の受給資格を得た法人もしくは事業
ョンの概論、ケースマネジメント、障害特性と
主に雇用されている者」)を対象に実施してお
職業的課題の理解、課題分析の手法を活用した
り、ここでは「機構が行う研修」の現状につい
作業指導の進め方、事業主支援の理解、家族支
て説明を行う。
援、記録作成の方法、ケーススタディ等いずれ
も職場適応援助者としての職務を遂行していく
2 養成研修の内容
機構が行う職場適応援助者養成研修について
定めた要領では、
「養成研修は、職場適応援助者
22
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
上での基本的な知識、理論である。
ロ 地域研修
地域研修では個別・具体的な事例や場面を活
用して理解や技法の習得を図るものであること
以下、養成研修のカリキュラム等具体的な内
から、本部研修で習得した知識、理論を基に、
容について、第1号職場適応援助者養成研修、
演習を中心に職場適応援助者の職務内容の具体
第2号職場適応援助者養成研修に分けて説明す
的な理解を図り、実務の理解を進めるものであ
る。
る。
s
第1号職場適応援助者養成研修について
ここでは、具体的な事例に基づき、支援計画
研修の申請が行えるのは、第1号職場適応援助
の内容を理解し、実際に支援を実施している事
者助成金の受給資格認定を受けた法人等に限ら
業所に同行して支援方法についての具体的理解
れる。
を図り、さらには地域センターでのケース会議
第1号職場適応援助者養成研修カリキュラム
にも出席することで支援方策の考察、検討を図
における本部研修、地域研修の講座名、趣旨等
ることを学ぶ、いわば職場適応援助者による支
は以下に示す表1のとおりである。
援のOJTとも言える内容となっている。
表1 第1号職場適応援助者養成研修カリキュラム
区分
講 座 名
形態
実施場所
趣 旨
職業リハビリテーション概論
講義
総合センター
・障害者雇用対策の概要に関する理解
・職業リハビリテーションの基本概念と体系の理解及
び現状と動向についての情報提供
100
職場適応援助者の職務Ⅱ
講義
総合センター
職場適応援助者の職務及び職場適応擾助者による援助
の事業の理解、地域センター業務と職場適応援助者の
職務との関連の理解、職業リハビリテーション計画及
び職場適応援助者による支援計画の活用の理解
120
ケースマネージメントの取り組み
講義
総合センター
障害者のケースマネージメントの概念及び方法論につ
いての理解
60
障害特性と職業的課題Ⅰ
(知的障害、発達障害)
講義
総合センター
知的障害及び発達障害の障害特性と職業的課題、対応
方法の理解
120
障害特性と職業的課題Ⅱ
(精神障害)
講義
総合センター
精神障害の障害特性と職業的課題、対応方法の理解
講義
総合センター
身体障害及び高次脳機能障害の障害特性と職業的課
題、対応方法の理解
120
講義
総合センター
課題分析の概念、内容、実施方法及び活用等の理解
150
作業指導の実際
講義
・
演習
総合センター
課題分析技法を活用した作業指導及び作業環境へのア
プローチの方法の理解
240
事業主支援の基礎理解
講義
総合センター
地域センターにおける事業主支援のあり方、職場適応
援助者による事業主支援の心構え、効果的支援方法、
対応方法の理解
90
職場における雇用管理の実際
講義
総合センター
企業側から見た障害者雇用管理の現状と就労支援にお
ける企業ニーズの理解
60
ケース
スタディ
総合センター
具体的支援事例の検討を通じての、職場適応援助者の
職務及び支援技法の具体的理解
240
家族支援と生活支援
講義
総合センター
・職場適応援助者による家族への支援の考え方と支援
方法の理解
・職業生活を支える生活支援の考え方と支援方法の理解
100
支援記録の作成Ⅰ
講義
総合センター
支援記録作成に関する基礎的事項の理解
障害特性と職業的課題Ⅲ
本 (身体障害、高次脳機能障害)
部
研 課題分析の理論
修
職場適応援助者による援助の実際
時間(分)
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
90
50
23
区分
講 座 名
形態
実施場所
趣 旨
講義
地域センター
職場適応援助者の職務について、その意義と実際につ
いて理解
90
講義
・
見学等
地域センター
事業所における指導の際の心構え、留意事項及び具体
的支援方法についての基礎理解
150
支援計画について
講義
・
演習
地域センター
職場適応援助者による支援計画及びフォローアップに
関する支援の計画の意味、内容、活用方法等について
の理解
120
事業所での支援の心構えと支援技
術Ⅱ
演習
地域センター
事業所における指導の際の心構え、留意事項及び支援
方法についての具体的理解
420
支援記録の作成Ⅱ
演習
地域センター
支援記録作成の具体的な理解
150
ケース会議
演習
地域センター
ケース会議の目的・位置付け、観察・聴取事項の報告、
報告に基づく支援方策考察、検討内容についての理解
120
ケース
スタディ
地域センター
具体的支援事例の検討を通じての、具体的支援方法・
技術及び支援上の課題等の的確な整理方法の理解
120
職場適応援助者の職務Ⅰ
事業所での支援の心構えと支援技
術Ⅰ
地
域
研
修
ケーススタディ
d
時間(分)
合 計 時 間 (分)
2710
うち、総合センター実施分
1540
うち、地域センター実施分
1170
第2号職場適応援助者養成研修について
研修の申請が行えるのは、第2号職場適応援
における本部研修、地域研修の講座名、趣旨等
は以下に示す表2のとおりである。
助者助成金の受給資格認定を受けた事業主で、
第2号職場適応援助者については、事業主が
かつ、第2号職場適応援助者助成金の認定通知
自ら職場適応援助者を配置するものであるから、
を受け取る際に、当機構で行う研修の受講が可
能なことを確認している事業主である。
「職リハ機関の活用方法」等の講座が第1号職場
適応援助者とは異なっている。
第2号職場適応援助者養成研修カリキュラム
表2 第2号職場適応援助者養成研修カリキュラム
区分
本
部
研
修
24
講 座 名
形態
実施場所
趣 旨
職業リハビリテーション概論
講義
総合センター
・障害者雇用対策の概要に関する理解
・職業リハビリテーションの基本概念と体系の理解及
び現状と動向についての情報提供
100
第2号職場適応援助者の職務
講義
総合センター
第2号職場適応援助者の職務の理解
120
ケースマネージメントの取り組み
講義
総合センター
障害者のケースマネージメントの概念及び方法論につ
いての理解
60
障害特性と職業的課題Ⅰ
(知的障害、発達障害)
講義
総合センター
知的障害及び発達障害に関する障害特性と職業的課
題、対応方法の理解
120
障害特性と職業的課題Ⅱ
(精神障害)
講義
総合センター
精神障害に関する障害特性と職業的課題、対応方法の
理解
90
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
時間(分)
区分
講 座 名
形態
実施場所
趣 旨
講義
総合センター
身体障害及び高次脳機能障害に関する障害特性と職業
的課題、対応方法の理解
120
課題分析の理論
講義
総合センター
課題分析の概念、内容、実施方法及び活用等の理解
150
作業指導の実際
講義
・
演習
総合センター
課題分析技法を活用した作業指導及び職場環境へのア
プローチの方法の理解
240
家族支援と生活支援
講義
総合センター
・職場適応援助者による家族への支援の考え方と支援
方法の理解
・職業生活支援の考え方と支援方法の理解
100
支援記録の作成Ⅰ
講義
総合センター
支援記録作成に関する基礎的事項の理解
雇用管理の実際と第2号職場適応
援助者による援助
ケース
スタディ
総合センター
障害者を雇用する事業所の雇用管理の方法及び第2号
職場適応援助者の役割の理解
職業生活継続のための企業の役割
講義
総合センター
企業が行う職業生活支援のあり方の理解
60
職業リハビリテーション機関の活
用方法
講義
総合センター
職業リハビリテーション機関の機能を理解し、職場適
応援助者による援助の実施のためのネットワークの構
築方法の理解
60
支援計画の作成Ⅰ
講義
・
演習
地域センター
職場適応援助者による支援計画作成のためのアセスメ
ント、プランニングの方法の理解
180
第2号職場適応援助者による作業
指導の実際
演習
地域センター
課題分析の手法を活用した事業所内での作業指導等に
ついての理解
420
支援記録の作成Ⅱ
演習
地域センター
支援記録作成の具体的な理解
120
地域の社会資源の活用
講義
地域センター
ネットワークの利用方法、福祉制度・機関の役割の理
解
60
事業所内調整の方法
講義
・
演習
堆域センター
事業所内での各種調整内容、方法の理解
90
支援計画の作成Ⅱ
講義
・
演習
地域センター
ケース会議等を活用し職場適応援助者による支援計画
について関係者と合意形成を図る方法の理解
90
ケース
スタディ
地域センター
具体的支援事例の検討を通じての、具体的支援方法・
技術及び支援上の課題等の的確な整理方法の理解
180
障害特性と職業的課題Ⅲ
(身体障害・高次脳機能障害)
本
部
研
修
地
域
研
修
ケーススタディ
時間(分)
50
240
合 計 時 間 (分)
2650
うち、総合センター実施分
1510
うち、地域センター実施分
1140
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
25
4 研修体制
研修効果を高めるためには、講師の選定と教
ンター間での研修の均質性の確保及び効果の向
上に役立てている。
材作成は重要な要素である。
a
講師の選定
5 おわりに
総合センターは、職リハサービスにおける高
当機構でジョブコーチ支援事業が導入されて
度で先進的な研究を行う部門、先駆的な職リハ
以来、職場適応援助者養成研修を修了した者は
サービスの開発フィールドである職業センター
1,231名(平成18年8月現在)に及び、就労支援
部門及び地域センターが実施する職リハ業務の
へのニーズの高まりと相俟って着実に増加して
企画及び指導を行う部署を有していることから
きている。
研修の実施に当たってこうした機能をフルに活
用している。
就労支援に携わる人材育成においては、支援
者の知識、技術の段階に応じた的確な研修の実
各講座における講師については、総合センタ
施を踏まえ、日々の支援業務の現場での実践を
ーの研究員や障害者職業カウンセラーを中心に
通して、経験を積んだジョブコーチ、障害者職
実施しており、その他にも、ケーススタディで
業カウンセラーなどからの指導助言を受けなが
は、地域センターと第1号職場適応援助者が連
ら支援技術の向上、スキルアップを図っていく
携して支援に取り組んだ事例の発表や、事業主
ことが必要不可欠であり、研修後の支援現場に
からの職場における雇用管理の実際についての
即したフォローが十分でなければ研修効果の向
講義など、外部講師も一部導入したものとなっ
上も期待しにくいことは論を待たない。
ている。
職リハを取り巻く環境が大きく変化している
現状も踏まえ、ジョブコーチも含め就労支援に
s
教材作成
携わる者へ求められる役割やニーズの変化など
職場適応援助者による支援は、支援対象が広
へも対応した、より質の高い支援技術、専門的
範囲であることから、多岐にわたる専門的知識
知識を持つジョブコーチの養成に向けて、研修
と実務技術が求められている。また、全国展開
ニーズの把握とともに、従来の養成研修の研修
をしている事業であることから、各地域におい
効果も十分に分析し、実効性ある研修カリキュ
て一定の質を確保して実施される必要性もあり、
ラムの開発に取り組んでいるところである。
ガイドブック、マニュアル等を作成して地域セ
26
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
特集
ジョブコーチ
知的障害者の雇用を進めるための
事業主に対する支援の取り組み
― ジョブコーチ支援事業の活用を通して ―
三重障害者職業センター
1 はじめに
知的障害者の雇用経験がはじめての企業に対
しては、障害者、事業主双方に如何にしてきめ
細かく支援を行っていくかが課題となっている。
3
対象者支援を中心にした事業主支援の
実施
① 導入期の取り組み
平成16年12月から平成17年3月にかけて、2
そこで本稿では、日立金属株式会社 配管機
名の知的障害者に対して、ジョブコーチ支援計
器カンパニーの子会社である株式会社桑名クリ
画に基づく3ヶ月間の雇用同時ジョブコーチ支
エイト アサヒ機工事業所(以下「アサヒ機工
援事業(トライアル雇用併用)を実施した。
事業所」という。
)で地域障害者職業センターが
イ 対象者の定着支援
行う職場適応援助者による支援事業(以下「ジ
まずは、2名が当該事業所で定着していける
ョブコーチ支援事業」という。
)を活用したはじ
実績をつくることが最優先目的であり、最初の
めての知的障害者の受け入れから、5名の(う
目標は、
「初めて雇用した知的障害者を事業所に
ち3名重度障害者)の定着までの約1年半の体
定着させる」ことであった。そこで、ジョブコ
系的支援の取り組みについて紹介する。
ーチが中心となり、作業手順の定着や基本的ル
ールやマナーの習得に係る支援を行い、当該事
2 知的障害者の受け入れ準備
業所における対応力の向上を図った。
知的障害者を受け入れるにあたり、桑名公共
具体的には、作業遂行時に求められる基本動
職業安定所(以下(ハローワーク」という。
)及
作を確認しながら、各障害者の理解度に合わせ
び三重県障害者雇用促進協会(現:三重県雇用
て基本的な作業動作(手順)をパターン化した。
開発協会)にアサヒ機工事業所の採用担当者と
また、工場内(敷地内)をフォークリフトなど
障害者職業カウンセラー(以下「カウンセラー」
が行き交うことから、移動経路の固定化と横断
という。
)が一緒に訪問して、各機関の担当者と
の際の「指さし確認」などを繰り返し指導して
の顔合わせを行い、障害者の求職状況、障害者
安全教育にも力を入れた。
求人の申込み手続き、トライアル雇用、助成金
ロ 現場担当者の不安感の軽減に係る支援
制度等の各種援護制度の活用方法について説明
を行った。
加えて、カウンセラーがアサヒ機工事業所に
現場担当者は、知的障害者と接するのは全く
はじめてであり、
「どんな接し方をすればよいの
か」
「仕事をうまく教えられるか」など様々な不
出向き、管理職、各職長、現場担当者等に対し
安感を抱いていたことから、ジョブコーチは、
て、
『知的障害者を職場へ』というテーマで、知
現場担当者と密にコミュニケーションを取るこ
的障害者の一般的特性や配慮事項について研修
とに意識しつつ、具体的な接し方の助言と肯定
を実施するとともに、ジョブコーチ支援事業の
的なフィードバックを心掛け、心理的なサポー
概要説明を行った。
トに重点をおいた。
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
27
また、管理職や現場担当者からの疑問や要望
5から6種類に増やすこととした。
には可能な限り迅速に対応して信頼関係の形成
ロ 個別作業支援ツールの開発支援
に努めた。
ハ 対象者毎の特性理解に係る支援
作業種目の増加に伴い、個々の特性に応じた
個別作業支援ツールの開発が必須となったこと
知的障害者の特性といっても、個々人の性格
から、最初はジョブコーチが中心となり職務分
や障害程度、生活経験などにより、身体的持久
析、課題分析を行い、治具作りの視点を助言し
力や精神的耐性、作業の得手不得手(職務適性)
ながら、支援ツールを作成していった。その後、
には大きな個人差がある。
ジョブコーチから現場担当者へ段階的に作成の
そこで、基本的な対応方法(例えば、注意の
ノウハウやコツを伝授していった結果、現場担
仕方や誉め方、指示の出し方)については、ジ
当者が主体的に支援ツールを開発するようにな
ョブコーチが現場担当者に助言しつつも、対象
った。
障害者毎の支援課題については、現場担当者と
<例1>
ジョブコーチで一緒に模索した。
計数を正確に行うための工夫(写真1)
また、例えば、生活場面でのストレスが職場
多種多様な規格の部品を注文数に合わせて、
において、
『注目獲得行動』のような形で表面化
数を間違えずに袋に詰めることが求められる作
するなど、一般的な理解では対処が困難な事象
業であったが、時折数え間違えもあったことか
については、ケース会議の場などでカウンセラ
ら、ミスを防止するため2名での2重チェック
ーや管理職も交えて、行動の意味を説明し改善
体制をとっていた。そこで、部品の規格毎に計
方法を検討した。
数補助パレットを作成したことで、数え間違い
② 雇用拡充期の取り組み
がなくなり、単独作業が可能になった。
平成17年7月と8月に各1名、平成18年2月
に1名ずつ計3名の知的障害者にジョブコーチ
支援事業(トライアル雇用併用)を実施した。
障害者数が増えたことにより、現場担当者の
負担が増したことから、各障害者の作業自立度
(確実性と効率性等)の向上が一層必要になっ
た。
そこで、各障害者の特性と能力に応じた作業
環境の構造化や作業治具(補助具)の作成が必
写真1
要になり、ケース会議を開催して全体で検討し
た上で、現場担当者とジョブコーチが、お互い
<例2>
にアイデアを出し合い、創意工夫と試行錯誤を
正確性と能率の向上のための工夫(写真2)
しながら支援を展開した。
イ 職域拡大の必要性 前述の導入期のプロセスを通じて、2名の障
次工程の作業を効率的に行うために、結束用
のビニール紐を規定の長さ(3メートル)に切
断して、10本ずつの束にする作業である。金具
害者の作業遂行能力が向上したこと、新たに雇
にビニール紐を順番に引っかけていくことで、
い入れたことで、従来の作業種目のみでは、作
規定の長さ(3メートル)になるように工夫し
業量が不足することが明らかになってきた。
た。その結果、動作に迷いがなくなりスムーズ
そこで、アサヒ機工事業所は、親会社である
な作業動作が可能になった。
日立金属株式会社桑名工場にも協力を求めて、
また、当該作業に従事するようになってから
職務創出、職域拡大に取りかかり、作業種目を
は、対象障害者の集中力が持続するようになり、
28
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
別の作業に従事していた時に頻繁に見られてい
間関係の調整方法など、全体(作業面と心理面
た作業中の居眠りやケアレスミスは全く見られ
等)のマネージメントスキルの習得も必要にな
なくなり、現在では仕事に対する自信や責任感
ったことから、ジョブコーチはその点を中心に
も育まれてきている。
相談、助言を行った。
<例4>
作業意欲を喚起するための工夫(写真4)
それぞれの作業種目における各障害者の作業
自立度(黄色:見習い中、青:1人でできる、
赤:他者に教えることができる)と分かりやす
く表示することで、作業意欲や向上心の喚起に
努めた。
写真2
<例3>
健康面や安全面確保のための作業設備改善(写真3)
対象障害者の障害特性を踏まえて、作業遂行
に係る安全性の確保と作業能率の向上に資する
ために、三重県雇用開発協会に申請して、障害
者雇用納付金制度に基づく障害者作業施設設置
写真4
等助成金により作業設備の改善を行った。その
結果、身体的負担が軽減するとともに機械操作
また、各障害者の技能習得状況を視覚化した
が単純化し安定した作業遂行が可能になった。
ことにより、現場担当者が各障害者の作業の得
手不得手や上達度を客観的に把握する指標にも
なり、個別的、計画的な支援にも役だった。
4
企業全体としての知的障害者雇用推進
に向けた支援の実施
① 企業内組織化行動計画の作成(資料1)
平成16年12月にスタートしたアサヒ機工事業
所での知的障害者の雇用は平成17年10月には4
名を雇用(ジョブコーチ支援事業継続中含む。)
写真3
ハ
現場担当者のマネージメントスキルの向上
するまでに至ったが、アサヒ機工事業所として
は、今後も計画的に知的障害者の雇用を推進し
に向けた支援
ていきたいという意向であった。そこで、①人
2名の障害者が職場に定着して「職場に来る
材の確保と育成②就業環境の一層の整備③生活支
のが楽しい」と表現するようになったことで、
援体制の整備を目的とする障害者雇用推進及び定
現場担当者も自信を持って各障害者に接するこ
着のための企業内組織化行動計画を作成した。
とができるようになった。
そこで、次のステップとして、現場担当者が
各障害者の作業上達度の管理や障害者相互の人
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
29
目 的
人
材
の
確
保
と
育
成
就
業
環
境
の
整
備
生活支援
体制の整備
その他
具体的行動及び支援方法
事業所側主担当
支援機関
①障害者雇用のコンセプト作成
M課長・M部長
ハローワーク・職業センター
②採用スケジュールの作成
M課長・M部長・O課長
ハローワーク・職業センター
③職務開発・職務再設計
M部長・O課長
職業センター
④障害者の募集
M部長
ハローワーク
⑤面接(作業見学含む)
M部長・O課長
ハローワーク・職業センター
⑥職務選定(必要に応じて職務試行法)
O課長
職業センター
⑦ジョブコーチ支援事業・トライアル雇用
O課長・M、S指導者
職業センター・ハローワーク
⑧定期的フォローアップ
O課長・M、S指導者
職業センター・ハローワーク
障害者雇用に係る社内啓発
障害者雇用の理念、コンセプト・行動計画等プレゼン
M部長・O課長
職業センター
物理的作業環境の改善・整備
第1種作業施設設置等助成金
M部長・O課長
三重県雇用開発協会
障害者雇用推進者の配置
M課長・M部長
ハローワーク
職業生活相談員の配置
O課長
三重県雇用開発協会・ハローワーク
業務遂行援助者の配置
M指導員
三重県雇用開発協会
職場定着推進チームの設置・運営
全員
職業センター・ハローワーク
家族交流会の実施
職場定着推進チームメンバー 家族・福祉施設
家族と事業所との情報交換(連絡帳の活用)
O課長・M、S指導員
家族・福祉施設
特定求職者雇用開発助成金
M部長
ハローワーク
募集∼選考∼採用∼
適応∼定着
事業所内サポート体制の整備
家族との連携体制の整備
賃金助成
資料1 企業内組織化行動計画
② 障害者雇用の理念の作成(資料2)
機工事業所における知的障害者雇用推進に向け
アサヒ機工事業所における知的障害者雇用の
た取り組みの理念的に共通するものを感じ、障
理念の作成にあたり、アサヒ機工事業所の親会
害者雇用の理念の基礎になると考えた。
社である日立金属㈱のコーポレートステートメ
なぜなら、それまでの支援過程において、各
ントを参考にした。
障害者が『どうすれば少しずつでも成長するの
そこには、「社会貢献を念頭に、意識、知
だろうか』というプラス思考で議論を重ね、現
恵、行動、製品、サービス、あらゆる面からの
場担当者とジョブコーチが協同して、創意工夫
変化(自己変革)の必要性を謳い、
『アッと驚く
と試行錯誤を実践してきていたからである。
解決策や製品、価値を生み出すことを目指す』
と記されていた。
用の理念は、
「人間の可能性への信頼と挑戦」に
この日立金属㈱のコーポレートステートメン
決定した。
トの精神は、
「物づくり」の原点であり、アサヒ
資料2
30
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
そこで、アサヒ機工事業所における障害者雇
③ 職場定着推進チームの立ち上げ
「はじめは不安感でいっぱいでした。でも、上司
−愛称:スマイルグループ−
の激励や承認、同僚の障害者雇用に対する理解
長期的な知的障害者雇用の推進と定着には、
と協力があったこと、そして、ジョブコーチが
一部の従業員の熱意や努力のみに頼るのでは限
親身になって相談にのってくれて、困ったとき
界があり、企業全体で直接、間接的に障害者を
には具体的に助言してくれたことで、次第に不
支える仕組みを作ることが必要である。そこで、
安感が軽減していきました。」と述べていた。
職場定着推進チームの編成を提案した。
活動目的は、「障害者と他の従業員の双方が、
はじめての障害者雇用の場合、対象障害者と
同様に現場担当者も緊張感、不安感、戸惑いを
職場において能力(個性)を十分に発揮しなが
抱く。したがって、ジョブコーチやカウンセラ
ら、生き生きと働ける職場環境を整備すること
ーは、そうした現場担当者の心理的プレッシャ
で、障害者の職場適応と定着を図ること」とし
ーやストレスの軽減に重点をおくことが有効で
た。
ある。加えて、事業所全体に現場担当者を支え
活動内容は、①職務適性の把握と適正配置に
ていく雰囲気を醸成し、具体的にサポートする
関する支援②職務習熟のための指導方法等に関
仕組みをつくっていくことも大切である。
する支援③作業施設・設備改善に関する支援④
② 試行錯誤と創意工夫の大切さ
職域拡大のための作業種目の確保に関する支援
ジョブコーチと現場担当者は、各障害者に応
⑤人間関係・コミュニケーションに関する支援
じた誉め方や注意の仕方からはじまり、治具の
⑥安全衛生管理に関する支援⑦家族との連携・
作成や作業工程の改善、新しい職務開発などの
生活に関する支援⑧他の従業員に対する障害者
支援過程で、悪戦苦闘、創意工夫、試行錯誤の
雇用への理解の促進⑨その他、職場適応・定着
連続だった。しかし、そうした取り組みを通じ
に関する支援である。
て、各障害者の作業遂行能力や作業態度等がゆ
構成メンバーは、日立金属㈱桑名工場の総務
っくりではあるが着実に向上したことで、現場
課長(障害者雇用推進者リーダー)
、㈱桑名クリ
担当者に「障害」を「個性」として捉える意識
エイトの管理部長(障害者雇用推進者サブリー
が育まれていった。
ダー)
、アサヒ機工事業所長、同課長(職業生活
また、それを可能にしたアサヒ機工事業所の
相談員)
、同障害者指導担当2名(職業生活相談
企業的背景には、物づくり企業としての日常的
員・業務遂行援助者)及び障害者全員である。
な改善・改革意識が浸透していることも一因と
また、事業所からの要請により必要に応じて、
考える。
ハローワークや三重障害者職業センター、その
③
他の支援機関が参集することにした。
チーム支援によるナチュラルサポートの形
成
今回のジョブコーチ支援事業の活用を通して、
5 おわりに−事業所との振り返りから−
アサヒ機工事業所、三重障害者職業センター、
現在、アサヒ機工事業所では5名の知的障害
ハローワーク等の関係機関に所属するメンバー
者が働いている。管理部長は「5名の障害者は
が、
「障害者雇用の推進と定着」という共通目標
当社にとって欠かすことのできない貴重な戦力
の達成に向けて、コミュニケーションを重ね、
に育ちました。今後も積極的に障害者を雇用し
共同作業を実践したことにより相互の信頼関係
ていきたい。」と述べている。
が生まれたこと、それぞれの役割を自覚し、他
最後に、今回のジョブコーチ支援事業による
人任せにすることなく責任を持って主体的に行
体系的支援を次のとおり整理する。
動したことで、一つの支援チームとして有機的
① 現場担当者を支える重要性
に機能して、ナチュラルサポート形成につなが
現場担当者が受け入れ当初を振り返りながら、
ったと考える。
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
31
〈参考文献〉
1)牧研一・中西克之:株式会社万代における障害者雇用の取り組み①
「第9回職業リハビリテーション研究発表会 発表論文集」
p259∼262,2001
2)高瀬修一:株式会社万代における障害者雇用の取り組み②
「第9回職業リハビリテーション研究発表会 発表論文集」
p263∼266,2001
3)藤村真樹・臼井奈留美・溝口昌代・山口久尚:株式会社万代における障害者雇用の取り組み③
「第9回職業リハビリテーション研究発表会 発表論文集」
p267∼270,2001
4)大阪障害者職業センターにおける企業支援について「職リハネットワーク」№54,2004,3
5)ナチュラルサポートの形成:3つのステージ,5つのポイント「職リハネットワーク」№57,
2005,9
32
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
特集
ジョブコーチ
ジョブコーチ支援の実際
−障害者就業・生活支援センター ワーキング・トライの取り組みから−
社会福祉法人JHC板橋会 ワーキングトライ 所長 八木原律子
清家 政江
1 はじめに
せん型雇用支援センター改め障害者就業・生活
障害者就業・生活支援センターは平成14年5
支援センター ワーキング・トライ(以下
月の障害者雇用促進法改正で誕生した事業であ
「WT」と記す。)が活動を展開しているところ
る。障害者の身近な地域で雇用・保健・福祉・
である。JHC板橋会の創設からもわかるように
教育等関係機関の連携の拠点として、障害者の
利用者の大半が精神障害者ではあるが、徐々に
職業生活における安定と自立を図る目的で就業
他障害をもつ人の利用も増えてきている。
面(相談支援や準備訓練・職場実習のあっせん、
WTの支援活動で最も重要視しているのは、
求職活動、職場定着、事業所に対する雇用管理
障害をもつ人たちの主体性である。換言すれば、
に関する助言、関係機関との連絡調整等)と生
障害をもつ人たちの働きたいという意思がある
活面(基本的生活習慣・自己管理に対する助言
かどうか、働くための動機を持って相談に来所
や地域生活及び生活設計に関する助言、関係機
されるか否かである。その上に立って、WTの
関との連絡調整等)を一体的に包括的支援を行
利用を希望される方のアセスメントに十分な時
なうセンターである。対象としては障害分野を
間をかけることになる。個別のニーズは十人十
問わず、就労希望者はもちろんのこと、在職中
色で、資料1のフローチャートを基に利用希望
に発病し職場復帰を目指す人や何らかの形で職
者と確認のうえ、何度も変更を繰り返しながら
場に不安を持つ人たちの相談も行なうこととな
定着へと進んで行くのである。
っている。
現在全国の設置箇所数は平成14年度当初の36
資料1)就労支援の流れ
箇所から年々増加し、平成18年7月現在で110
申し込み・問い合わせ 面接・相談・アセスメント
箇所が設置されている。
(体験参加 併設施設にて利用確認)
*就労支援プランの作成・契約
2
社会福祉法人JHC板橋会 障害者就業・生
活支援センター ワーキング・トライの取り組み
JHC板橋会は、1983年に精神障害をもつ人達
*就労基礎訓練(準備訓練)開拓
*職場体験 評価
*雇用・定着支援
*今後のサービスの検討
の地域の拠点作りを目指して11人の専門家の共
同出資により設置され、地域生活自立支援を展
開して今日に至っている。授産施設(5箇所の
小規模授産施設を含む。
)や地域生活支援センタ
3 ジョブコーチ支援の実際
WTで用いている資料1のフローチャートは、
ー、グループホーム、クラブハウス等を併せ持
1990年にカリフォルニア州サクラメントで行な
つ複合施設で、それらの地域生活自立支援のネ
われていたクロスロードの援助つき雇用が原点
ットワークを基盤にして平成14年5月よりあっ
である。当時のクロスロード所長のエキストロ
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
33
ーム氏から多くの学びを得た。招聘した研修で
IT企業のB社でメール配信の仕事を請け負って
『「働きたい」と思って相談に来所された時が支
くれる人を募集しているという情報を掴み、B
援のチャンスさ。』『相談から定着までがジョブ
社に実習依頼を行なった。
コーチの仕事だ。
』という学びの中で、一貫した
B社からは在宅でとの希望が出されるが、WTの
支援をモットーに、ケアマネジメントの方法を
スタッフによる①A氏を職場体験させたい、②
用いている。
B社の社員らと職場内対人スキルを獲得させた
今回は、障害特性を理解したうえでスタッフ
が介入したケースを紹介したい。
い、③在宅では、再び引きこもりがちになる可
能性がある等の理由を伝え、④在宅ではなく出
社して仕事の実習をさせて欲しいことをお願い
事例1 初回雇用につながったケース
した。A氏はB社の要求に応えることができ、配
○ WTに登録するまでの経緯
信作業を請負い、出社して仕事を行なうことと
A氏は高校時代に統合失調症を発病し引きこ
なったのである。
もりとなり、退院後に病院デイケアの参加を経
この間、心配していた職場内対人スキル、特
て共同作業所に通所していた。就労体験は発病
に社員との会話に不安をもっていたA氏は、作
前に短期間のアルバイトの経験がある。就職し
業所スタッフに相談して会話の仕方をアドバイ
たいというA氏の希望で、共同作業所スタッフ
スしてもらっていたようである。
同伴で来所となる。
○ WTでの取り組み
A氏はWTでの初回面接で、「職業訓練校で、
2ヶ月ほど実習を経て、配信の仕事だけでは
なく、B社の販売機械の組み立て作業やホーム
IT関連の勉強をして就職したい。」という希望
ページ作成の仕事等、作業範囲が拡大されパー
をもっていた。アセスメントを行なう中で、①
ト採用となった。
訓練校受験のための勉強が進んでいない、②働
○ 採用後の支援
いた体験が少ないということで、
「自分自身の力
WTでは、A氏への支援を実習の場や就労時
が発揮できる事務系のアルバイトに就きたい。」
間、及び日数等の枠組みの調整を中心に行ない、
という希望に変更となった。しかし、A氏には
仕事の業務内容や遂行状況に関しては、社員と
就労の具体的なイメージがなく、パソコンは好
の対人スキルを獲得してもらう目的で、社員の
きだがそれを仕事に生かせる自信はないと不安
方から直接指導をいただくこととした。その後、
を募らせたため、A氏と共同作業所スタッフ、
契約更新時には必ずA氏、B社社長、上司、WT
WTのスタッフとの合同面接で、委託訓練事業
のスタッフ合同で振り返りを行うことにした。
(知識・技能訓練コース)のパソコン基礎コース
B社のA氏に対する評価は高いが、A氏自身は
の参加を提案し、3ヶ月間の訓練に耐えられるか
「仕事はまったくできていない。障害者だから雇
どうかの確認作業を行なった。A氏は睡眠障害
ってくれたのではないか?」と自己評価は非常
で朝に弱いという生活状況下にあったが、週5
に低く、自信がもてるような意識改革を必要と
日間(10:00∼15:00)の電車通いを共同作業
した。
所スタッフに励まされ、また主治医のアドバイ
平成18年8月でB社に雇用されてから1年6
スを経て、3ヶ月間を遅刻や欠席もなく無事修
ヶ月が経過し、社会保険加入者となった。社長
了することができた。
は、
「Aさんは与えられた仕事にこれまで1度も
穴を開けることなくこなしている。それに仕事
そこでA氏が訓練で得た技能に、自信がもて
の範囲も広がり、社内で言葉かけもよくできて
るように実習先を探すこととなった。東京中小
いる。
」と良い評価が並ぶが、A氏からは「ぜん
企業家同友会に設置されている障害者委員会で、
ぜん駄目です。
」と相変わらずの低い評価が返っ
34
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
てくる。
担当保健師を交えた3者面接では、発作が起
今後も半年毎の更新契約時には、B社の評価
きても差し支えのない職場探しを行なうことが
をA氏に直伝できるような振り返りの場を設定
確認された。そこでハローワークに同行し、検
していく予定である。
索した職場に電話をかける等をSSTを活用しな
○ 振り返り
がら求職支援活動を行なう。
A氏は、思春期に発病したことで社会性を学
求職活動を進めていく一方で、脳の外科手術
習するチャンスが得られなかったのか、あるい
という転機が起こり、C氏は葛藤の末、手術を
は持っている能力を発揮することができなかっ
受けることとなった。無事に手術は成功したも
たケースといえる。短期間のアルバイトの経験
のの、記銘力障害をもつことになり就職に大き
はあっても、常勤職の経験がない今回のケース
な不安を残すこととなった。
で注意を払うのは、A氏に適した温かな職場環
C氏にWTのOB会(就労に至っている利用者
境と職種であり、継続雇用させるには自己評価
が集うグループ)への参加を呼びかけたところ、
の低いA氏に、不安を取り除き自信を獲得させ
「記憶力の悪い私にどんな仕事ができるだろう
るための方策であった。そこで定期的な振り返
か?」と利用者に相談された。仲間が真剣に考
りの場をマネジメントし、そこに直接職場の社
えてくれる姿に「気持ちが楽になった。
」という
員からポジティブ評価が得られるような配慮を
体験が得られ、月1回の例会に継続参加となっ
することであった。また若いA氏に入退院を繰
ている。徐々に就労意欲が見えてくる中で、記
り返させない配慮として、障害特性を職場に理
銘力障害を抱え実際の職場で本当に働けるかど
解させ、孤立しない職場体験を依頼するという
うかといった不安を覗かせるようになってきた。
こともジョブコーチ支援として重要なポイント
そこで職場での実習からスタートしようと提案
だといえる。
してみた。
先日企業の雇用促進セミナーにA氏、B社社
長、WTのスタッフによる体験報告をしたとこ
ろである。
実習先開拓では、職能団体の例会で出会った
D社(カイロプラクティックセンターと、親会
社である健康食品取り扱い事務所)が受託して
事例2 再就職に至ったケース
くれた。そこで用意された掃除や洗濯、事務補
○ WTに登録するまでの経緯
助の仕事をWTのスタッフが最初に、作業と環
C氏は20歳代にてんかんと診断され、長年障
害を隠しながら就労を続けていたが、転職をき
境のマッチングを行なった。またC氏の障害に
ついて、本人の了解を得て説明を行なった。
っかけに症状が悪化し解雇となった。それにも
同時並行で、主治医と手術後の経過観察と職
めげずに独力で3年程求職活動を行なってきた
場実習に臨むにあたって留意点の確認を行なっ
が思うように探せず、区の情報誌でWTを知り
た。実習先を訪問し、3者による面接を行ない
来所となった。
実施へと踏み切った。実習初日は緊張の高いC
○ WTでの取り組み
氏の見守り役としてスタッフが同行した。
初めて家族以外の者(WTのスタッフ)に、
自分の障害のことを打ち明けたC氏は、併設し
1ヵ月経過の振り返りではD社から「役立っ
ている社会就労センターを見学したり、体験実
ている。時給を払いましょう。
」という評価を得
習の場や就労ミーティング(職場体験をされて
て、パート採用となる。この間、D社では、傘
いる方たちのグループ)を見学してみて「自分
を忘れたり、スリッパのまま外出しかけるC氏
とは少し違う方たちの集まる場所」と感じたよ
に「忘れずに」と声をかけてくれたり、指示す
うだった。
るコピーの部数のメモを添えたり等の配慮があ
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
35
った。ここでWTのスタッフからトライアル雇
通所した。授産施設での訓練が終了に近づき、
用の利用を提案して活用された。
求職でハローワークを訪ねたときにWTを紹介
○ 採用後の支援
され来所となる。約7年間のブランクがあった。
1年を経過する頃になると、経理関係の入力
○ WTでの取り組み
作業を任されるようになるが、人の名前や仕事
E氏は、
「背広を着て通勤したい。障害をオー
の手順や伝言内容が伝えられず、同じ質問を何
プンにせずに、パソコンを使ってする仕事で、
度も繰り返す自分自身に、自信を失い「給料を
事務職希望。
」であった。そこでWTのスタッフ
頂戴して申し訳ない、仕事をやめたい。
」と相談
は、状況把握のために通所中の授産施設を訪問
があった。
し、これまでの情報収集を行なう。同時に、
メモの取り方の工夫や職場訪問を行ないD社
WTの提携施設で体験参加をしてもらい、職業
からの評価を確認し、仕事を継続することとな
生活に必要な基本的スキルの状況を把握するこ
る。C氏は現在も仕事を継続されているが、こ
ととした。
の間、発作の再発や母親の認知症を受け止めな
事務職にこだわるE氏に、毎日の訓練をパソ
ければならないという困難に直面されたが、保
コンに打ち込む作業や表を作成してもらうこと
健師や地域生活支援センター、病院ソーシャル
をしながら希望の職種が適正であるかどうかを
ワーカーとの連携で克服することができた。
お互いに確認することとした。また、障害者職
平成18年4月よりグループホームを利用する
業センターで職業評価を受けるよう勧めた。結
こととなる。硬直していた父親との関係も、距
果は、事務職よりも軽作業に向いているという
離を置くことによって母親の介護の協力者とし
ことがわかった。E氏は基本的職業スキルには
て理解し合えるようになっている。職場では直
問題はなく、基礎訓練をせずに職場体験を通し
属の上司が退職するということもあったが、困
て自分自身の確認作業を行なうことを提案した。
ったときはWTや関係者や仲間に支えられなが
5社(園芸、製造業、清掃、事務補助)の職場
ら生き生きと生活されている。
で体験を行なう。職場からは、E氏の真面目な
○ 振り返り
働きぶりや根気のよさを高く評価された。しか
「働きたい」という思いがあらゆる障害を克
し、E氏の事務職へのこだわりは強く、クロー
服できた原動力であろう。記銘力障害という職
ズで面接を受けては不採用の繰り返しであった。
場の対人関係を疎遠にしてしまうような課題を
そういった中、除々にではあるが、多様な仕事
持ちながらも、職場への障害理解を伝えること
を経験し、職場からの評価を得ることで、オー
や現状判断を見落とさないで即対応したり、見
プンで仕事をする安心感と他職種にも目が向く
守りに徹したりというジョブコーチ支援に必要
ようになっていった。
な柔軟な対応が要求されたケースであったとい
える。
ハローワークの一般求人票からオープンでF
社(伝票を見て商品を仕分ける仕事=商品管理)
事例3
7年間のブランクを経て就職に至った
ケース
○ WTに登録するまでの経緯
E氏は、大学在学中に統合失調症を発病。卒
を探した。WTのスタッフは、面接やその後の
実習にも同行し、職務試行法を利用しパート採
用となった。週3日、9:00∼18:00(忙しい
時は残業有り)
、F社社長と配属先部署の上司に
業後クローズで就職するが長続きせず、1年ほ
障害について伝え、職業生活を歩み始める。
どで転職ということを3回ほど繰り返していた。
○ 採用後の支援
その後、体調を崩して入院し、退院すると同時
WTでは、職場訪問やOB会に参加したE氏を
にデイケアを経て、保健師の勧めで授産施設に
支援している。特に母親が入院するという出来
36
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
事では、E氏の食事や掃除、洗濯を中心とした
み、その都度面接のリハーサルを試みたことも
日常生活支援はもちろん、退院して戻ってくる
あった。こういったケースは、働きたい希望を
母親の介護の件で、保健師や生活支援センター
理想から現実に戻す作業においてお互いに忍耐
のスタッフ等とネットワーク支援を行ない、E
力を要求されるものだといえる。
氏は仕事をやめることなく乗り切れた。
E氏のまじめな仕事ぶりが評価され、F社から
4 おわりに
は就職希望者がいれば雇用するという嬉しい依
3事例とも「振り返りの場の設定」を行なっ
頼が舞い込み、E氏の友人が雇用された。F社に
てきた。それは、利用者本人の一方的認識では
採用され3年となるが、授産施設職員、ハロー
なく職場から直接に評価を得ることで、認知の
ワーク相談員、職業センターカウンセラー、
ずれを修正し、職業人として等身大の自分自身
WT等に相談しながら、着実な生活を送ってい
を受け入れる作業が必要だからである。障害の
る。
ある人が相談の窓口にたどり着くまでには、多
○ 振り返り
くの挫折や自信喪失を体験している。それらを
E氏は、プライドも高く、背広を着て出勤す
受け止め本人たちの希望がかなえられるように、
る事務職に憧れ、学生時代に習得したパソコン
ジョブコーチ支援には、介入したり見守り等の
の技術を生かして仕事をしたいということに固
柔軟な対応がせまられている。
執していた。しかしE氏が以前使っていたパソ
WTでは障害のある方の「働きたい」をかな
コン性能は、現在のパソコンにはそぐわないも
えるパートナーとして、彼らから学ぶという姿
ので、要求される内容についていけなくなって
勢を崩さずに、最善の目標設定と実施を目指す
いた。つまり、できていたことが現在もできる
ように心がけている。
ことには繋がらずその差を認めることに時間が
施策や事業が改革され理念だけが先行してい
かかったケースである。現実認知を理解してい
く昨今であるが、どんなに施策が変更され新事
くことのために、障害者職業センターの職業評
業が生まれようとWTにきた障害のある方の
価や毎日の活動をパソコンに記録していくこと、
「働きたい」は普遍である。WTのジョブコーチ
地域のパソコン教室に通うことを承知してきた
支援は周囲の状況に惑わされずに、引き続き障
し、現実認知の必要性からオープンにした体験
害のある方の希望を大事に支援活動を展開して
実習を数多くE氏に要求していった。就職活動
いきたいものである。
では事務職にこだわり何度もクローズ面接を試
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
37
特集
ジョブコーチ
企業におけるジョブコーチ支援
有限会社トモニー 統括主任/第2号職場適応援助者 黒田 紀子
1 当社の概要
年齢構成 身体障害者 40歳~67歳(平均年齢)54.6歳
有限会社トモニ−は、障害者と健常者が「と
もに働きともに生きる」という願いを込めて
知的障害者
22歳~58歳(平均年齢)37.4歳
国際障害者10年の中間年の昭和62年4月に設立
されました。従業員は当初、障害者4名を含む
精神障害者
16名全員が女性でした。モットーは「笑顔で挨
57歳(平均年齢)57歳
拶、笑顔で応対」です。このことは設立から20
健常者
32歳~73歳(平均年齢)54.5歳
年近く経た今日も引き継がれています。
設 立 昭和62年4月1日
当社におけるこれまでの障害者雇用の
資 本 金 300万円 取り組み事例
年 商 約2億9千万円
当社の1日は7時50分頃からのラジオ体操で
事業目的 重度障害者の雇用
始まります。続く朝礼は業務説明だけでなく一
施設の利用者職員に対するサービ
人一人の顔を視診する機会です。その日の体調
スの提供
を知りみんなにひと言ずつ声をかけて、各部署
事 業 所 岡山市祇園地先
に元気良く送り出します。表情・体操・挨拶の
岡山市表町3丁目
一挙一動に細心の注意をはらい観察することは
岡山市平田407
健康管理に繋がり、何より職場での事故を起こ
事業内容 飲食喫茶店 3ヶ所 さないための衛生管理に繋がっていると思いま
日用品食料品販売 1ヶ所
す。その後、部署ごとの朝礼があり、最後に全
環境設備 2ヶ所
員が声を揃え「いらっしゃいませ、ありがとう
室内清掃 5ヶ所
ございました、いつも笑顔のトモニーです、皆
洗濯・汚物洗濯(ベントリー)
さんがんばりましょう」と元気良く唱和して、
給食運搬
一斉に「ヨッシャ」のかけ声とともに仕事が始
従業員数 61名 うち障害者 31名
(男性22名 女性9名)
・身体障害者 4名
(重度2名 中軽度2名)
・知的障害者 26名
(重度24名 中軽度2名)
・精神障害者 1名
38
2
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
まります。
設立時より今日まで約50人の障害者と働き、
その中で教育、訓練、指導、躾などの職場定着
支援をしてきました。ここで、当社におけるこ
れまでの障害者雇用の取り組み事例についてご
紹介します。
○ 事例1(重度知的障害者:女性)
重度知的障害者の女性で、創立2年目の昭和
63年に28歳で入社し、今年で18年を迎えました。
年目を迎えました。当初より祖父母が保護者で
す。
入社時23歳、養護学校卒業後約5年間は、通
入社当時は、とにかく負けん気が強く、上司
所授産施設に通っていました。室内清掃、室外
の指示は聞かない、一緒に働いている人とは対
の環境整備など3年経過してもここならできる
等に喧嘩はする。そのことで注意をすると、
という部署が見つかりませんでした。どうにも
延々と言い訳し物事を素直に聞き入れることが
立ち行かなくなった時、本人に何が好きと聞い
できない。このような状況が6ヶ月以上続いた
たところ、「車が好き」との答えがありました。
中、彼女の長所は何なのか、何が上手くできる
ならば、洗濯物運搬車での運搬助手の仕事をさ
のかと考えた時、人より何倍も時間はかかるが、
せてみたところ、荷の積み込み等は一人前とし
整理整頓ができること、また、本当にゆっくり
てできるものの、狭い車内で、独り言、同じ言
ではあるが掃除も丁寧にできるし、そして新人
葉のくりかえし、大声でわけのわからないこと
に対してはおせっかいが過ぎるほど非常にやさ
を叫ぶなどが続き、運転している身体障害者が
しく接していることが分かりました。そこで、
精神的に不安定になったため、ここが最後の思
この部分は認めて誉めよう、しかし社会人とし
いで、洗濯工場に配属しました。工場内は広く、
てやってはいけない部分では絶対に妥協しない
機械の音が一日中している所です。これは、う
という態度で接し、このような状態が約2年続
まくいきました。彼の独り言を気にする人はい
きました。また、その間は、彼女の生いたちを
ません。物を持ち上げる力はある、素直に指示
考え、私(筆者)が生活、職場の中で彼女のこ
には従うことができる彼は、今ではこの工場で
とをかばっていこう、心の支えになろうと思い
重要な役割を担っています。彼の場合は、常に
続けました。彼女は徐々に心を開き、自分は信
家庭、病院と連携をとり、生活支援を欠かさず
頼されているのだ、自分のことを理解してくれ
行ってきました。このことも生活面はもとより
ているという思いが芽生え、少しずつ変化して
仕事面での安定が図られたひとつの要因ではな
きました。
いかと思われます。
その後、一つの転機が起こりました。美容室
当社には彼以外に自閉症の人が4人勤務して
の仕事で障害者の方を介助する仕事が必要とな
おり、それぞれ適した職種を見つけ出していま
った時です。専門の職員の方にも安心して身を
す。そうすることで自閉症の強みがいかんなく
まかせなかった重い障害者が、彼女になら身を
発揮できます。また、一つの事だけでなく臨機
任せたのです。この仕事を通して、自分は必要
応変に動けるよう訓練することで、徐々に様々
とされている、この仕事は私にしかできないと
なところで仕事ができるようになります。自閉
いう思いが、彼女に自信と誇りを持たせ、成長
症の特長としてコミュニケーションはとりにく
させたと思います。また、結果として、自信と
いと言われていますが、私どもの職場の中では
誇りを持つことで、会社の中に自分の仕事場を
自閉症者同志でコミュニケーションをとりなが
確保することに繋がったのではないかと思いま
ら心地よく仕事をしている姿を多く見かけます。
す。
私達はそれに接することが大きな楽しみであり
私達は、常に、人として、仕事をする者とし
ます。当社の社長に常々「定説を疑え」と言われ
て、彼女達に接しており、長年かけて培われる
てきました。正にこのことであり、これからも
信頼感が職場定着の大きな要因にあたると感じ
色々な可能性を見出すべく支援をしていきます。
ています。
○ 事例3(精神障害者:男性)
○ 事例2(重度知的障害者:男性)
自閉症の男性でてんかんがあります。入社10
健常者として採用した57歳、男性、採用時に
本人が現業を望まれたことが不思議なほどの高
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
39
学歴でした。当社での仕事は洗濯の前処理でお
た就業が大変困難であったことを思うと、周り
しめの便落としの作業を担当しております。
の人の理解そして企業内でどのように対応する
入社当時は、仕事中に居眠りする、定時を超
のかが、いかに重要であるか考えさせられます。
えても全く仕事が片付いていないなど回りから
そして、今後も継続的な支えが必要であり、行
苦情が続きました。本人から常に体調不良を訴
政や医療機関との連携の必要性も感じています。
えられ、寝不足の上怒りっぽく、何かあるとし
3 障害の特性・支援上の課題
つこく電話をしてくることが幾度もありました。
3つの事例を挙げましたが、それぞれ一人一
イライラしてこれから先のことを心配したり、
精神的にも特に不安定な状態でしたので、一緒
人の支援がすべて違うということであり、同じ
に働く仲間からは好奇の目にさらされていまし
ようなものは一つとしてありません。一人一人
た。そこで、本人に会ってよく話を聞くと、今
をよく見極め、その人にあった支援が特に必要
まで勤務した会社では、病気のことを話したこ
であると思います。障害者の職場定着には、職
とで職を失って来たということでした。また、
場と家庭(生活)との連携が大事な要因であり、
うつ病とてんかん発作があり、薬を服用してい
また、余暇をどのように過ごすかということが
ること、総合病院へ通院していることが分かり
重要であると感じています。働くことは、家庭
ました。
「この会社は様々の障害の方が助けあい
と余暇の連動が必要であり、効果的に余暇を過
ながら働いているのだから、上司に病気のこと
ごすということが働くための意欲に繋がります。
を正直に話すことであなた自身のことを守れる」
そして、会社で働くということは、単に金銭だ
ということを伝えました。その後、うつ病とて
けでなく、生きがいに通じていると感じていま
んかん発作がある場合の対処方法やどのような
す。一般に知的障害者は、晩熟傾向で加齢が速
仕事が向いているのかなど確認のため、通院し
いと言われていますが、全員が楽しみにしてい
ている総合病院に本人と相談に行きましたが、
る親睦会・出張・研修旅行等、さまざまな経験
アドバイスは特に無く、手帳の取得等に無理解
を重ねることで、非常にゆっくりではあります
でしたので、保健所・ケースワーカー・福祉事
が、確実に成長してきていると思います。
務所等を本人と共に訪問した結果、精神病院で
当社では、既に述べたように、障害者31名を
の診察と保健福祉手帳の取得をすすめられ、半
雇用し、うち8割が知的障害者です。また、そ
年ほどかけ手帳を取得しました。このことで、
のほとんどが、重度知的障害者(うち自閉症が
精神的にも安定し、仕事にも身が入り、周りの
4名)ですので、これまでの経験や本年5月に
仲間の理解も得られ、意欲的に仕事ができるよ
障害者職業総合センターで受講した第2号職場
うになっています。今では、
「これからもずっと
適応援助者養成研修の内容を参考にして、知的
ここでがんばりたい」と強く本人は望んでいます。
障害者、軽度発達障害者、自閉症者の特性及び
今までの会社では、理解が得られず、安定し
支援上の課題点を次の表にまとめてみました。
知的障害者
障害の特性
・全体的な知能の発達が遅れた状態
・情緒については障害の無い人と
変わらない
的相互性の障害
・こだわりの問題
・恐れや喜びの表現は遅れが見ら ・注意
れる
・記憶力の問題
・作業的能力は獲得しているが、
障害の無い人に比べると幅の広
さ等において異なる
・注意点の差
40
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
自閉症者
軽度発達障害者
・コミュニケーションを含む対人 ・社会的相互反応における質的障
・衝動性のコントロール
・認知の偏り
害(人間関係のやりとり)
・意志伝達(コミュニケ−ション)の
障害
・反復的で常同的な行動(こだわり
行動)(オウム返し)
知的障害者
支援上の課題
軽度発達障害者・自閉症者
・情
・能力よりも障害を強みとしていかに認めてもらい支援を得るか
・認知
・長所に焦点をあてる
・注意力
・適した職種の開拓
・モチベーション
・生活面・仕事面での配慮の必要性
・知的障害者の原因に起因する課
・不適応行動への個別支援の必要性
題
・職場の人間関係
4 企業内ジョブコーチとして
きがいを得られるような支援を心がけていく努
5月の研修終了後、
「職場適応援助者」として
力、換言すれば、障害者自身の側に立ち、指導
初めての支援対象者は、設立以来勤務している
する職員に対して、障害者支援に関する私の思
重度知的障害者の女性でした。19年間様々な職
い、考え方を直接伝えていく努力が必要である
場定着支援を行いながら今日まで続いてきたの
と感じています。
ですが、最近は加齢に伴い体力・集中力・順応性
また、知的障害者の雇用の継続、職域の拡大
等が著しく低下し、継続雇用が困難になってき
に関しては事業所の配慮が課題となってくると
ている状況でした。彼女への支援をどのように
思われ、当社は、できるだけ本人にあった職場
したら、少しでも長く継続雇用ができるか悩ん
を見つけ、定着するように支援をしているとこ
でおりました。そこで、彼女自身が惰性で仕事
ろです。第一号職場適応援助者の場合、対象の
をするのではなく、彼女のこれまでの経験の中
障害者に助言、指示、支援はできても、企業自
から、内面的な感性に訴え、今までとは違った
体に対しての支援には一定の限界があると思い
興味あるものを彼女自らが見つけ出せるような
ますが、第二号職場適応援助者(企業内ジョブ
スタンスで支援をしました。その後に、仕事を
コーチ)のメリットとして、職場内での体制づ
離れても老人や子供に対して想像を超える優し
くりや職務等の指示ができ、事業主に対し組織
さで接している彼女が見受けられました。また、
の一員として助言もできる利点があると思われ
一緒に仕事をしている実習生に誰よりも親切で
ます。
優しく接しており、次第に実習生からも尊敬さ
れ、私の代わりにしっかりと実習生に仕事を教
えている姿を見かけることもたびたびでありま
5 おわりに
障害者が一日でも長く企業で働くためには、
した。今まで、表現もできなかった、すぐに返
家庭やグル−プホ−ム、就業・生活支援センタ
事も返せなかった、自分の意志を上手く表すこ
ー等との連携や他企業との交流、行政、医療機
とも出来なかった人とは到底思えないほどの変
関との連携が必要と思われます。それが職場定
わりようです。実習生に日々接することで、彼
着の大きな要因と感じます。
女は誇りを持って仕事ができるようになったの
ではと思います。
今後、企業内ジョブコーチとして、私自身の
今後、関係機関等と連携を取りながら、障害
者が働く喜びを感じ、誇り高く一日でも長く企
業で働けるよう、指導と様々な支援を繰り返し
今までの経験と今回の職場適応援助者養成研修
行います。そして、設立時の当社の理念である、
を受講して得た専門的な知識をもとに、障害者
障害者と健常者が『ともに働きともに生きる』
のスキルアップの手助けはもとよりですが、そ
と言うノーマライゼーションの実践を心がけて
れにも増して、障害者自身が働くことで日々生
参りたいと思います。
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
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事業主
上司同僚
行政機関
障害者
家 庭
企業内ジョブコーチ
医療機関
グループホーム
障害者就業・生活
支援センター
障害者への支援…作業能力支援、職場内コミュニケーションをはかる、健康管理・体調管理の構築
事業主への支援…障害者の特性に配慮した雇用管理への助言、配置・職務内容に関する助言
同僚・チーフへの支援…障害者との関わり方への助言、指導方法に関する助言
企業内ジョブコーチの役割
42
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
研 究 ノ ー ト ナチュラルサポートに関する文献を概観する1)
障害者職業総合センター 研究員 若林 功
はじめに
近年、障害者就労支援において、障害者本人
ないが、言語化され、系統的に議論が十分にさ
れてきたとは言えないであろう。
のスキル習得や行動変容をいかに支援するかと
それでは現在までにNSに関しどのような研究
いう従来からの議論に加え、障害者を取り巻く
が行われてきたのであろうか。小川(2000)や
環境側のサポート体制をいかに構築するか、と
東明・堀(2004)は海外のNSに関する先行文献
いう議論が盛んに行われるようになってきてい
を概観しているが、これらの概観の視点は「NS
る。特に職場における上司や同僚からの、障害
の定義はどのようなものか」「NSとは何か」で
のある従業員へのサポートは「ナチュラルサポ
ある。確かにNSの定義の問題は重要であり、定
ート」(以下、「NS」と略記する。)と呼ばれ、
義が曖昧なままであれば、研究や実践を進める
職場定着を目指す際等の重要な要素であること
にしても似て非なるものを対象にすることにな
が認識されるようになってきている。
ってしまうことになろう。
しかしながら、NSは実践が先行しており、特
一方で実践や政策立案の観点からは、「NSの
にわが国ではNSに関する知見はあまり蓄積され
定義」問題だけでなく、実際にどのような内容
てきていないように見受けられる。確かに、NS
のNSの研究が行われているのかを概観すること
を形成するために支援者はどのような内容を職
も重要と考えられるが、わが国でなされたNSに
場の方に伝えたらよいのか等の知見(例:知的
関する文献の概観では、(概念的検討ではなく)
障害のある人には少しずつ繰り返し具体的な指
研究者が実際にデータ収集を行った研究の内容
示を出してほしい等)は整いつつあるのかもし
はあまり紹介されてこなかった。そこで、本稿
れないし、実践場面でもあまりその職場の人た
はNSに関し事例研究や調査を行った文献を中心
ちに抵抗感や違和感を感じさせることなく配慮
に取り上げ、そこではどんな内容が扱われてい
してほしい内容をうまく伝えている名人的な就
るか概観することを目的とする。
労支援担当者も相当いるのであろう。が、ジョ
ブコーチ支援等の結果、その職場がどのような
状態になればNS形成に成功したと言えるのか、
方法
インターネット上の文献索引サイト(国会図
職場の雰囲気・文化に合わせて配慮内容を伝え
書館、ERIC、Pub-med)で「ナチュラル」「サ
NS形成を図るにはどうしたらよいのか、NS形
ポート」「natural」「support」「employment」
成が困難な場合はどうすればよいか等に関し、
「disabilities」といった語を入力し、文献を検索
何となく支援者間で共通理解はあるのかもしれ
した。また、文献レビューを行っている小川
1)本報告は障害者職業総合センターの経常研究「ナチュラルサポート形成の過程と手法に関する研究」の一部として行わ
れた。
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
43
(2000)や東明他(2004)等に引用されている
文献にあたった。
量など様々なものが考えられる。Chadsey &
Sheldan(1999)は、NSと近い概念である「社
検索した文献は要旨を読み、本稿の目的に合
会的統合」
(この場合は職場に溶け込んでいるか
致しているものを選択した。そして、
否か)の程度に、支援機関の特徴、職場の特徴
Butterworth他(1996)に示されたNSや社会的
などの5つの要因のうちいずれが影響を与えてい
統合に関する要因間のモデル(p.109)を参考
るのかを調べた。そして、
「職場の特徴」と「支
に、文献を内容により整理した。
援方法」が特に影響を与えていることを報告し
た。また、Hagner(2003)は、頻繁ではないに
結果
図1に文献の分類結果及び文献の概要を示し
しても同僚が障害者を拒絶する場合が見受けら
れることを指摘し、そのようなことを予防する
た。
ための障害者支援・事業主支援等の方策につい
a
て考察している。支援者の技量もNS形成に重要
NSの概念整理の文献
NSという用語は、Nisbet & Hagner(1988)
と考えられるが、McHugh他(2002)はスーパ
においてジョブコーチ支援の文脈の中で始めて
ーバイザーがジョブコーチにNS方略(同僚から
登場し、障害者へのジョブコーチの直接的サポ
サポートのアイデアを引き出す、障害者本人に
ートに加え、もともと職場の同僚や上司も様々
分からないことが起きた時などには同僚に聞き
なサポートを担うことができるのではないか、
に行かせるようにする等)を使用するよう系統
という主張が行われた。
的に指導し、その結果ジョブコーチのNS方略の
その後、NSの研究や実践が進む中で、NSの
使用頻度は増え、支援対象障害者と同僚との交
定義や範囲が論者によって様々であることが問
流頻度が増加したことを報告している。
題となり、NSの定義が試みられている。
d
NS実施状況把握の文献
Butterworth他(1996)は、サポート内容(人
NSが実際にどのように行われているのかを把
的か、手続き的か、道具か)、サポートの契機
握するため、支援者から聴き取り等を行った文
(同僚の自発か、ジョブコーチが促し同僚が実施
献が見受けられた。Hagner他(1995)やRogan
か等)、職場文化との関係(その職場に典型的
他(2003)では実際に使われているNS方略の内
か、職場から見ると多少異なるか等)の3つの
容やNS実施上の障壁を聴いている。また、
観点から職場におけるサポートを捉えることを
Trach & Mayhall(1997)は、NSの内容を6つ
提案した。また、Ohtake & Chadsey(2001)は、
に分類し(組織的NS、訓練的NS、物理的NSな
Butterworth他(1996)のサポートの契機をさらに
ど)
、どれがよく使われているのかを聴き取りや
細かく6段階に分類した。一方、小川(2000)は
記録から集計した。West他(1997)は、NSを
米国の文献における定義の混乱ぶりを紹介した
用いることは支援上有効だと思うか支援者にア
上で、実践に役立つよう、NSを「一般の従業員
ンケートを行い、8割以上の回答者が有効と答
が職場において、障害のある人の就労継続に必
えた。NSの状況について伝える文献は国内でも
要な様々な援助を自発的または計画的に提供す
あり、陳(2004)はある事業所におけるキーパ
ること」とした。これらのような定義に関する
ーソンである同僚と障害者の二者関係について
議論は、NS研究や実践の土台となるものであり
詳細に記述した上で、二者関係の相互作用等に
重要である。
ついて分析している。また、埼玉障害者職業セ
s
NS形成に影響を与える要因に関する文献
ンター(2005)は、特に適応上の問題のある状
NS形成にはどのような要因が影響を与えてい
況にジョブコーチが入りNS形成するために段階
るのだろうか。NS形成の要因には、職場の文
化、障害者本人のパーソナリティ、支援者の技
44
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
があることを解説している。
事業主や同僚がNSをどう捉えているのかを調
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
45
・ジョブコーチに対する
NS方略使用技能の指
導<McHugh, Storey &
Certo
(2002)
>
・障害者に対する同僚の
拒絶・怒りを予防する
にはどうしたらよいか
(文献研究)<Hagner
(2003)
>
・何が社会的統合の程度
に影響を与えているか
(支援実施機関、職場
の特徴(シフト制の有
無など))<Chadsey
& Shelden
(1999)
>
ナチュラルサポー
ト形成に影響を与
える要因
・ジョブコーチも関係しながら同僚が障害者に
行った支援事例紹介< Shafer 他 i(1989)>
・事業主、ジョブコーチ、就労支援に直接携わっていない施設指導員のNS実施の程度に対する意識の比較
<Trach, Beatty & Shelden
(1998)
>
図1 ナチュラルサポート関係の論文の内容
Nisbet & Hagner(1988)
NSの概念を提唱
・NSの概念整理を試みる、NSは計画が大事<小川(2000)>
・NS開始契機等における職場同僚とジョブコーチの関わりの比重からNSを6つに分類
<Ohtake & Chadsey(2001)>
・NSは支援源・過程・職場の文化との関係の3つから捉えられる、NSと他の変数の関係
<Butterworth他(1996)>
NSの概念整理
・ジョブコーチの障害者のニーズに基づいた NS 調整方法の実態< Unger 他(1997)
>
・4 つの事例を提示、NS 志向のジョブコーチは、
直接支援からコンサルティング的な方向に役割が変わって
くることを考察< Rogan, Hagner & Murphy(1993)
>
支援者の役割とNS
・NS 形成のプロセスに段階がある<埼玉障害者職業センター
(2005)
>
*Trach他(1997)の言う6種のNSの分類と、
Ohtake他(2001、2003)の言うNS開始
契機等から見たNSの6分類は異なる。
Trach他(1997)は、NSの内容から6種
類に分類している(訓練、組織的<スケ
ジュール変更等>、物理的<補助具開発
等>)。Ohtake他(2001、2003)は、NS
がどの程度同僚からの自発性で行われて
いるのか(逆に言えばJCによる直接支援
がどの程度占めるか)で分類している。
・精神障害者の給与等に対するNSの効果
<Banks他(2001)>
・長期的にNSを受けてきた人と、ジョブコーチ
による支援を受けてきた人の在職期間、給与、
勤務時間の事例的比較
<Weiner & Zivolich
(2003)
>
・NSが障害者の給与や統合の程度等へ及ぼして
いる効果
<Mank, Cioff & Yovanoff
(1997;2000)など>
・NSにより勤務時間・給与・行動がどうなった
か、プロジェクトの結果報告
<Curl & Chisholm
(1993)
>
・援助付雇用提供者の NS の有効性に関する意識< West 他
(1997)
>
・献身的に NS をしている事例の研究、NS の内容を把握、キーパーソンの二者関係の作用等<陳(2004)
>
NSの成果
・6つの NS 方略 *(組織的・訓練・物理的など)の何がよく使われているのか< Trach & Mayhall(1997)
>
・NS の方策及び実施上の障壁は何か< Hagner, Butterworth & Keith(1995)
、Rogan, Banks& Herbein(2003)
>
NSの実際の状況
・同僚による支援の社会的統合(会話の頻度など)
への効果< Storey & Garff(1997)、Chadsey
他(1997)
、Mautz, Storey & Certo(2001)>
・同僚による支援が作業習得・効率に及ぼす効
果< Likins 他(1989)
、Hood 他(1996)>
NSの障害者の行動レベルでの効果
同僚等のNSに対する意識
・6種類のNS開始契機*について事業所の同僚がどのようなニーズを持っているか(問題別)
<Ohtake & Chadsey(2003)
>
ナチュラルサポートの効果
ナチュラルサポート実施状況の把握
べている研究もある。Trach他(1998)は、事
の頻度(休憩時間の会話の頻度など)がNSによ
業主のNSに対する意識をジョブコーチや就労支
って増加するか否かを検証したものも見受けら
援と直接関わっていない施設職員のNSに対する
れた。
意識と比較した。そして事業主やジョブコーチ
もう一つは、NSの給与や在職期間などに対す
の意識は似ており、NSはよく行われていると考
る肯定的な影響を検証した文献群である。Curl
えている一方で、就労支援と直接関わっていな
& Chisholm(1993)は、同僚によるサポートに
い施設職員はNSがあまり行われていないと考え
より就労を目指したプロジェクトについて報告
る傾向にあることが示された。また、Ohtake&
し、プロジェクトの効果を評価する指標として、
Chadsey (2003)ではジョブコーチを受け入れ
同僚からの対象者に対する評価に加え、給与や
たことのある事業所の同僚のサポート提供の意
労働時間も用いている。また、Mank他(1997,
志の程度(Ohtake 他(2001)で示されている
2000)は、NSと関連が深いと思われる典型性
6分類)が、支援対象障害者の問題の種類や頻
(typicalness:他の同僚と同様に扱われるこ
度等により異なることが示された。
NSが実施されることに対応し、支援者(ジョ
と)
」や同僚との交流の程度や同僚から作業指導
等の有無が、給与や統合の程度等に関連してい
ブコーチ)の役割も変わってくると説明する文
ることを示した。また、Banks他(2001)は、
献も見受けられる。Rogan他(1993)は、4つ
Mank他の研究方法を精神障害者に適用し、同
のNSを用いた支援事例を紹介し、NSを支援方
僚との交流の程度が給与等と関連していること
略とすることにより、ジョブコーチの役割が直
を示した。Weiner & Zivolich(2003)は3人の
接的支援的なものからコンサルティング的なも
長期的なNSを受けた事例を取り上げ、在職期
のに変わっていくことを考察している。Unger
間・給与などのデータからNSが有効であること
他(1997)はバージニアコモンウェルス大学の
を示した。
「NS移行プロジェクト」により就業した36人の
事例から、NSを考慮した支援者の活動・役割が
考察
どのようなものであるかを分析し、障害者本人
本稿で取り上げた研究報告はNSに関する文献
のニーズを基にNSを調整すること等について論
の一部であるが、それでもかなりの数のNSに関
じている。
する報告が(特に海外では)なされていること
f
が確認された。また、それらの文献は、「NSの
NSの効果に関する文献
それでは、NSによりどのような結果がもたら
概念整理」
、
「NS形成に影響を与える要因に関す
されているのだろうか。NSの効果に関する文献
る文献」、「NS実際状況の把握の文献」及び
については、大きく二つの領域に分けることが
「NSの効果に関する文献」の4つの領域に整理
できた。
できることが示された。NSに関する文献の分類
一つは、障害者の行動レベルでの変容に関す
方法は様々に考えられるだろうが、この本稿の
る文献群である。Shafer他(1989)は、同僚が
分類方法もNSに関する文献を見ていく際の一つ
チェックリストをつけたり指導を行うことで作
の視点になりうるのではないかと考える。
業上の改善が見られた事例などを報告し、
さて、Test & Wood(1996)はNSに関する文
Likins他(1989)やHood他(1996)は、同僚の
献レビュー論文において、NS文献には変数間の
指導により作業手順の正確性が向上したことな
関係を探る実証的研究が少なく、さらに研究が
どをシングルケーススタディ法により詳細に報
必要であることを指摘した。今回の文献概観か
告している。また、Storey & Garff(1997)、
らは、その後、少しずつ報告は集まってきてお
Chadsey他(1997)
、Mautz他(2001)といった
り、特にNSの効果(図1上段右方の内容)、す
報告のように、作業面ではなく、同僚との交流
なわちNSにより作業面が向上したり交流の程度
46
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
が増加したり給与等もよくなるといったことに
は、例えば、同僚の受容や反発、それに対しジ
ついて、十分とはいえないものの立証されつつ
ョブコーチは悩んだり迷いながら支援を行うな
あるということが、指摘できよう。
ど感情的な要素もかなり含まれている。これら
一方で、NS形成に影響を与える要因は何かと
の要素を入れずに理論化を図ったり検証するこ
か、NSの実際状況の把握といった、図1の上段
とにより、NS研究が現場の実感とかけ離れたも
左から中央の領域に関しては、まだ蓄積が十分
のになってしまうおそれがあるのではないだろ
とはいえないように思われる。例えば、本稿の
うか。その点で、陳による事例研究(2004)は、
最初に示した問いである「同僚の人たちがどう
キーパーソンと障害者の二者関係を「アタッチ
反応することがNS形成に成功したことだと言え
メント」
「コンピテンス」といった概念で表した
るのか」、「職場の雰囲気・文化に合わせて配慮
り、NSの内容として「受容」
「身分保障」
「社内
内容を伝えNS形成を図るにはどうしたらよいの
の理解の促進」等を挙げており、情緒的反応も
か」及び「NS形成が困難な場合はどうすればよ
含めて概念化していることが窺え、貴重な研究
いか」は、NSの形成要因やNSの実際の状況と
であるといえる。今後このような現場での実感
関連しているが、現存する文献からはこれらの
や感情面の要素を含めた概念化・理論化やその
疑問に十分な回答を得るのは難しいように思わ
検証が必要であると考える。
れる。おそらくこれらに答えるには、今までの
報告で行われたような大づかみな研究方法では
まとめ
NSに関する先行文献を概観し、NSの結果・
なく、現場の状況をより詳細に分析し仮説を生
成していくような研究がまず必要であろう。
効果に関する知見は特に海外で進みつつあるも
また、特に海外のNS文献では、客観的指標
のの、感情的な側面も視野に入れてNSの形成要
(給与や行動の頻度)を用いた分析は多いもの
因やNSの実際の状況を把握した報告は、わが国
の、同僚や支援者はどう感じたのかといった、
でも海外でも不十分なことが窺えた。今後は米
主観的な感情面の記述やその要素を含めた概念
国等の研究動向も参照しつつも、わが国独自の
化はあまりなされていないように思われる。し
視点を持ったNSの研究を進め、発信していくこ
かしながら、支援現場でNS形成を目指す際に
とが重要であろう。
<文献>
Banks,B. Charleston,S., Grossi,T. & Mank,D.: Work supports, job performance, and integration
outcomes for people with psychiatric disabities, 「Psychiatric Rehabilitation Journal」,24f,
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and job coaches in work settings, 「Education and Training in Mental Retardation and
Developmental Disabilities」,32,pp.281−292 (1997)
Chadsey, J.G. & Shelden, D.L.: Description of variables impacting successful and unsuccessful cases of
social integration involving co−workers,「Journal of Vocational Rehabilitation」, 12, pp.103−111,
(1999)
停: 知的障害者の一般就労継続に対する職場同僚の支援活動について,「社会福祉学」
陳麗姻
, 45s,pp.56−
66,(2004)
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
47
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cooperative approach, 「Journal of Vocational Rehabilitation」, 3, pp.72−84, (1993)
Hagner, D.: What we know about preventing and managing coworker resentment or rejection,
「Journal of Applied Rehabilitation Counseling」, 34a, pp.25−30, (2003)
Hagner,D., Butterworth, J. & Keith, G. : Strategies and barriers in facilitating natural supports for
employment of adults with severe disabilities,「Journal of the Association for Persons with
Severe Handicaps」, 20, pp.110−120, (1995)
Hood,E.L., Test,D.W., Spooner,F., & Steele,R.: Paid coworker support for individuals with severe and
multiple disabilities, 「Education and Training in Mental Retardation and Developmental
Disabilities」, 31, pp.251−265 (1996)
Likins, M. Salzberg, C.L., Stowitschek, J.J., Lignugaris/Kraft, B. & Curl, R.: Co-worker implemented
job training: The use of coincidental training and quality-control checking procedures on the food
preparation skills of individuals with mental retardation,「Journal of Applied Behavior Analysis」,
22 ,pp.381−393 (1989).
Mank, D., Cioffi, A. & Yovanoff, P.: Analysis of the typicalness of supported employment jobs, natural
supports, and wage and integration outcomes,「Mental Retardation」, 35d pp.185−197, (1997)
Mank, D., Cioffi, A. & Yovanoff, P.: Direct support in supported employment and its relation to job
typicalness, coworker involvement, and employment outcomes,「Mental Retardation」, 38h,
pp.506−516, (2000)
Mautz, D., Storey, K. & Certo, N.: Increasing integrated workplace social interactions: The effects of
job modification, natural supports, adaptive communication instruction, and job coach training,
「Journal of the Association for Persons with Severe Handicaps」, 26f, pp.257−269, (2001)
McHugh, S.A., Storey, K. & Certo, N.J.: Training job coaches to use natural support strategies,
「Journal of Vocational Rehabilitation」, 17, pp.155−163, (2002)
Nisbet, J. & Hagner, D.: Natural supports in the workplace: A reexamination of supported
employment,「Journal of the Association for Persons with Severe Handicaps」, 13f, pp.260−
267, (1988)
小川浩:ジョブコーチとナチュラルサポート,「職業リハビリテーション」, 13, pp.25−31, (2000)
Ohtake, Y. & Chadsey, J.G.: Continuing to describe the natural support process,「Journal of the
Association for Persons with Severe Handicaps」, 26s, pp.87−95, (2001)
Ohtake, Y. & Chadsey, J.G.: Facilitation strategies used by job coaches in supported employment
settings: A preliminar y investigation,「Research & Practice for Persons with Severe
Disabilities」, 28f, pp.214−227, (2003)
Rogan, P., Banks, B. & Herbein, M.H.: Supported employment and workplace supports: A qualitative
study,「Journal of Vocational Rehabilitation」, 19, pp.5−18, (2003)
Rogan, P., Hagner, D., & Murphy,S. : Natural supports: Reconceptualizing job coach roles, 「Journal of
the Association for Persons with Severe Handicaps」, 18f, pp.275−281, (1993)
埼玉障害者職業センター:ナチュラルサポートの形成:3つのステージ,5つのポイント −地域障
害者職業センターにおけるジョブコーチ支援事業−,「職リハネットワーク」57, pp.27−29, (2005)
Shafer, M.S., Tait, K., Keen, R. & Jesiolowski, C.: Supported competitive employment: Using
coworkers to assist follow-along efforts,「Journal of Rehabilitation」55s, pp.68−75, (1989)
48
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
Storey, K. & Garff, J.T.: The cumulative effect of natural support strategies and social skills
instruction on the integration of a worker in supported employment,「Journal of Vocational
Rehabilitation」, 9, pp.143−152, (1997)
Test, D.W. & Wood, W.M.: Natural supports in the workplace: The jury is still out,「Journal of the
Association for Persons with Severe Handicaps」, 21f, pp.155−173, (1996)
東明貴久子・堀宏隆:ナチュラルサポートを構成する要素―米国援助付き雇用に関する諸研究の文献
レビューより―,「第12回職業リハビリテーション研究発表会発表論文集」, pp.153−156, (2004)
Trach, J.S., Beatty, S.B. & Shelden, D.L.: Employers’ and service providers’ perspectives regarding
natural supports in the work environment,「Rehabilitation Counseling Bulletin」, 41f, pp.293−
312, (1998)
Trach, J.S.,& Mayhall, C. D.: Analysis of the types of natural supports utilized during job placement
and development,「Journal of Rehabilitation」, 63s, pp.43−48, (1997)
Unger,D., Parent,W., Gibson, K., Kane-Johnston, K. & Kregel,J: An analysis of the activities of
employment specialist in a natural support approach to supported employment, <http://www.
worksupport.com/resources/viewContent.cfm/242> (1997)
Weiner, J.S. & Zivolich, S: A longitudinal report for three employees in a training consultant model of
natural support,「Journal of Vocational Rehabilitation」, 18, pp.199−202, (2003)
West,M. Kregel,J., Hernandez,A. & Hock,T.: Everybody’s doing in: A national survey of the use of
natural supports in supported employment,「Focus on Autism and Other Developmental
Disabilities」, 12d, pp.175−181, (1997)
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
49
海外リポート
フランスにおける
障害者差別禁止法の整備と雇用施策の動向
―2006年3月の訪問調査の結果から―
障害者職業総合センター 研究員 指田 忠司
1 はじめに
s
雇用・社会統合・住宅省障害者雇用部
フランスでは2005年2月11日、「障害のある
この部署は、障害者雇用施策を所管する政府
人々の権利と機会の平等、参加及び市民権に関
機関として、2005年の労働法典改正法の施行令
する法律」
(以下「2005年2月11日法」という。
)
及び施行規則等の素案を作成し、2006年1月1
が制定され、障害認定制度、割当雇用制度、所
日から順次改正法を施行している。
得保障など各分野における改正と制度改革が行
d AGEFIPH(障害者職業編入基金)
1987年改正の労働法典に基づいて設立された
われた。
障害者職業総合センターでは、
「障害者差別禁
団体で、割当雇用制度による拠出金(わが国の
止法制下での障害者の雇用促進施策の動向に関
納付金に相当)を原資として運営されており、
する研究」(平成16∼18年度)を実施している
障害者雇用に取組む企業、団体等への啓発、支
が、ここでは、その一環として、今年3月に実
援及び各種補助を行っている。
施した訪問調査の結果をもとに、新法の概要と
f MEDEF(フランス経団連)
割当雇用制度を中心とする雇用施策における改
革の状況について報告する。
各県ごとに組織された企業団体の連合体であ
る。2001年に、障害者雇用に関する情報交換と
啓発活動を目的に「障害と雇用ネット」が発足
2 訪問先の概要
今回の調査では、3月6日∼10日の5日間、
し、現在13のクラブ組織があり、それぞれ50社
程度が加盟している。また、2003年から障害者
次のような関係機関を訪問し、それぞれ約2時
雇用トロフィー表彰制度を始め、障害者雇用方
間、担当者に対して面接調査を実施した。まず
針、中途障害者の雇用継続などの部門で優良企
はじめに、これら関係機関の概要について紹介
業を表彰している。障害者雇用に力を入れてい
しておきたい。
る業界としては清掃業界があり、仕事に就くた
a
めの資格取得のための支援なども行っている。
障害者省間調整委員会
障害者施策全般に関して省庁間の連絡調整を
政府の審議会、AGEFIPHなどの組織に、事業
行う機関であり、2005年2月11日法が雇用部分
主団体として代表を送り、フランス全土におけ
だけでなく他の分野についても規定しているこ
る障害者雇用施策の策定・実施にも関与してい
とから、法制定に際してその全体について調整
る。
を行ってきた。わが国の内閣府に設置された障
g
CGT(労働総同盟)
害者施策推進本部は類似の機能を果たしている
フランスにおける労働組合のナショナルセン
が、わが国の場合、本部長が内閣総理大臣であ
ターの一つで、1895年に設立された。企業内組
るのに対して、この委員会に対する指揮は担当
合が地域ごとに連合し、その後産業別に設立さ
大臣が行う点で組織的な位置付けが異なる。
れた組合と合併した。県ごとの組合が連合して
50
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
CGTを構成している(組合員80万人)。障害者
l
雇用については、政府の審議会に委員を送ると
者職業リハビリテーションセンター
1889年に設立された視覚障害者のための福祉
ともに、AGEFIPHにも理事を送っている。
h
OHE-PROMETHEE(障害者職業斡旋機関)
バランタン・アユイ盲人福祉協会視覚障害
団体で、点字図書館、点字出版、視覚障害者労
イルドフランス州内における企業と障害労働
働住宅の提供、職業訓練、作業所の運営などの
者の関連付けに関する事業を行っている非営利
事業を行っている。職業訓練については国(社
団体。障害労働者に対する支援は、雇用準備に
会保障部門)からの予算で運営されており、理
関するもので、オリエンテーション、研修、求
学療法師養成課程(3年)が中心であるが、他
職先に応じた技術的支援のうちから障害者に応
に、秘書業務、椅子修理、旅行営業などの訓練
じて選択的に実施している。企業に対しては、
課程(1∼2年)もある。
障害者雇用の関心を高めるためにカウンセリン
¡0
CTNERHI(国立障害者問題研究センター)
グを行っている。年間予算は約100万ユーロで大
1964年に設立された非営利法人で、当初は知
部分はAGEFIPHから出ており、ANPE(国立雇
的障害児の福祉等に関する指導業務を行なって
用局)からも小額の予算措置を受けている。
いたが、1975年の障害者基本法の制定に伴い組
j
織が変更され、研究活動が加わった。現在、文
FAGERH(障害者リハビリテーション施
設事業連合会)
献資料・情報提供事業、出版事業、研究事業の
1944年に組織間の連携を図る目的でUNAPEI
3つが主な事業である。予算の80∼90%は福祉
(知的障害者家族・友の会)などフランスの大団
省から出ている。フランス及び海外のフランス
体により設立された障害労働者を受け入れてい
語圏地域をネットワークで結び、障害者関係の
る80施設が加盟する連合体。24部門に分かれた
福祉、教育、雇用全般にわたる情報提供及び交
約200コースの職業訓練・研修課程があり、総計
換の要としての役割を果たしている。
4千人の職員が訓練・研修に従事している。フ
ランスでは労働災害その他の事故、あるいは病
3 2005年2月11日法の概要
気で毎年25万人が新規に障害認定を受けている
a
2005年2月11日法の背景と目的
が、職業を変える必要のある人を80施設で毎年
今回の法制定は、シラク政権のマニフェスト
1万人受け入れている。訓練・研修では、職業
に盛り込まれており、大統領の意思が強く働い
適性証明書や職業バカロレアの取得が目標とさ
ていたと言われている。
れる。またプレオリエンテーション段階でも、
2005年2月11日法では、ICF(国際生活機能
医療リハ後の能力評価、職業訓練にいたるまで
分類)に基づく障害の定義を採用し、障害認定
の支援を提供している。
制度の見直し、所得制限のない障害者手当ての
k
新設、統合教育の原則、建築物その他交通機関
UNAPEI(知的障害者家族・友の会)
フランス全土に750の会員団体を擁する連合組
へのアクセシビリティーの保障、放送における
織で非営利団体。会員家族は全国で16万世帯。
文字放送・音声解説放送の実施、選挙における
各会員団体の自立性が強く、本部の機能は会員
アクセシビリティーの保障など、障害者の生活
団体への広報サービス、研修事業、社会啓発活
全般にわたって障害者の権利と機会を実質的に
動及び政府や議会とのロビーイングが主な役割
保障する施策を規定している。雇用分野におい
とされている。予算は国からの補助もあったが、
ては、割当雇用制度における改正のほか、障害
近年減額が続いており、自主財源確保のため、
労働者の老齢年金受給資格の緩和なども規定し
研修事業、出版・広報活動のほか、啓発事業に
ている。こうした改正を通じて、2000年EU指令
おける募金などを行っている。
(雇用と職業における均等待遇の一般的枠組を設
定する2000年11月27日の理事会指令)に合わせ
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
51
て、国内法的に障害者の権利と機会を保障し、
従来、障害程度や有期雇用かパートかにより
差別禁止に向けた関連法の整備を図ったものと
拠出金算定に用いるカウント数を変えていた。
理解できる。
新法では、これらによらず原則としてすべて
s
雇用分野における改正の概要
ア 差別禁止の強化
(12ヶ月間に6ヶ月以上勤務していれば)1とカ
ウントすることにした。
障害労働者の待遇に関する平等の原則を保障
重度判定を公的機関でなく、企業が行うよう
するため、雇用主は労働者の個々の状況に合わ
に変更した。それに伴い、企業は環境整備の状
せて、資格に合う雇用への就業・継続、職務の
況や労働生産性の低下の証明などの説明資料を
遂行、向上のため、必要に合わせて法外な額で
作成することが必要になる。
ない範囲内で適切な方策を講じなければならな
重度障害者の重複カウントを廃止した代わり
い。これを拒んだ場合には差別として扱われる
に、①当該企業が6%未達成の場合、重度障害
場合がある。
者を雇用しているときは、拠出金を減額する。
イ 雇用義務の対象事業所等の拡大
また②6%に達している場合、重度障害者を雇
事業所の人数算定上の除外職種(36職種)を
用しているときは、その努力に対して助成金を
廃止する。ただし、拠出金の算定上これを減額
支払う。
する措置がある。
カ 受益者の算定方法に関する特例措置
公的部門についても新たに雇用率未達成の場
重度障害者を雇用した場合、長期失業障害者
合の拠出金制度を設けた。その拠出金は、新た
を雇用した場合など、受益者の算定に際して加
に設立される基金に集められ、AGEFIPHと同
算される場合の要件が変更され、適用範囲が拡
様に運用される。
大された。
ウ 雇用義務の受益者範囲の拡大
また、企業が、障害者団体にコンピュータを
従来の対象者であった①COTOREP(職業指
寄贈したり、障害労働者の住居を設置した場合
導・職業再配置専門委員会)により障害ありと
などには、拠出金について、さらに10%引き下
認定された労働者、②労働災害・職業病により
げることを認めている。
労働不能程度が10%以上の者、③年金受給資格
キ 労働組合との協議の義務付け
のある者、④疾病年金受給資格者、⑤軍人疾病
新法では、企業と組合が必ず話し合わなけれ
年金受給資格者、⑥戦争寡婦で軍人疾病年金受
ばならなくなった。その際、障害者の雇用と訓
給資格者等に加え、⑦廃疾カードの持ち主、⑧
練を議題として取り上げなければならず、産業
成人障害手当受給者も対象に加えた。
別の交渉においても3年に一度取り上げなけれ
エ 拠出金額の増額
ばならない。労働協約の中にも障害者雇用を盛
従業員20人以上の事業所は6%の雇用率が適
用され、その達成方法には各種の便宜が認めら
り込むことが必要になった。
ク 所得保障の充実
れているが、雇用率未達成の場合には、不足人
従来の制度では、雇用されて給与所得が発生
数に時間当たり最低賃金額を乗じ、さらに企業
すると、障害年金(月額700ユーロ)が減額又は
規模に応じて300、400又は500を乗じた金額を
打ち切られていたが、改正後は、障害年金とは
拠出金としてAGEFIPHに納めることになって
別に、新たに、障害から生じる経済的負担を補
いる。新法では、この値をそれぞれ100ずつ引き
填するための所得制限なしの手当て(月額550ユ
上げた。また3年を超えてもまったく雇用努力
ーロ)が設けられた。
が認められない場合には、1500時間分の最低賃
ケ 障害者担当機関の変更
金を支払わなければならないとされた。
オ 受益者の算定方法の変更
52
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
従来、成人対象のCOTOREP(職業指導・職
業再配置専門委員会)と未成年者対象のCDES
(県特別教育委員会)に分かれていた障害者担当
された。
窓口を、県単位に設置されるMDPH(障害者セ
一方、障害者団体は、企業の罰則が強化され
ンター)内のCDAPH(障害者自立・権利委員
たが、拠出金を払うだけで雇用しない企業は依
会)に一本化するとともに、担当者を公務員の
然として存在するだろうから、企業の姿勢を変
みから非公務員も可とすることにより柔軟な対
える抜本的対策とはいえない。また拠出金の算
応が出来、人手不足の解消を狙っている。
定方法が複雑で、小規模企業では雇用後の手続
コ その他
きの負担が大きく、雇用機会の減少につながり
リハビリテーション休暇ができた。以前は退
職しないと職場復帰訓練が受けられなかったが、
かねない、という意見が聴かれた。
これらを踏まえて、政府機関では、重度障害
新法の下では勤務を中断して訓練を受けること
者の雇用に関して、障害の重さは拠出金の計算
ができるようになる。
や雇用のための援助に反映されており、重度障
障害者職業訓練政策に関する協議を国、州、社
会保障機関の3者で行うこととなった。
害者に合わせた職場改善がなされていれば、職
務上の障害を軽減したことになるから、こうし
フランスのすべての訓練所が差別なく障害者
た改善に要した費用(経済的負担)の面は評価
を受け入れるための、ハーフタイム(半日)の
されている。新法では、障害に合わせた職場の
研修や非継続研修の実施。
改善が期待できる、とする。
d
新法に対する関係者の評価
企業側からは、障害者の重複カウントが廃止
4 まとめにかえて
されたことから、雇用率を達成することが困難
以上でみたように、フランスでは、割当雇用
に感じられる。また未雇用状態が長期間続いた
制度を維持しつつ差別禁止法制の実をあげるべ
場合の拠出金は企業にとって過重な負担である、
くさまざまな工夫がなされている。個々の制度
との評価がみられた。
をみるかぎり、関係者の利害を調整するための
これに対して、労働組合からは、重度の評価
複雑な手続きになっているが、全体としては、
を労働監督官が行わず、雇用主が行う点が問題
所期の目的を達成するための枠組みが整いつつ
である。結果的に、理念よりも生産性が重視さ
あるものと考えられる。
れることになるのではないか、との懸念が表明
<謝辞>
本調査では、面接調査における関係機関の担当者のほか、準備及び実施に際して下記の方々にご協
力いただいた。ここに記して謝意を表する次第である(敬称略)。
大曽根寛(放送大学)、ドミニク・ヴェルシェ(国立障害者問題研究センター)、犬飼直樹(障害者職
業総合センター)、杉田史子(障害者職業総合センター)
<参考文献>
指田忠司・杉田史子(2005)フランスにおける障害者差別禁止法制の動向と障害者雇用施策の展開―
2005年改正法の概要と障害者雇用施策の変化を中心に―「第13回職業リハビリテーション研究発表会
論文集」, pp.120−123
佐野竜平(2005)変わりゆくフランス障害者事情―欧州最新レポート 2005年法の採択「すべての人
の社会」No.298(2005.04), pp.6−8
http://www.agefiph.asso.fr/htm/infos/fr_1.htm
http://www.legifrance.gouv.fr
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
53
研 究 会 ・ 学 会 リポート
日本デザイン学会第53回大会
発表では、上肢障害者のパソコン入力補助器具
の研究やバリアフリー調査に基づく環境設計、
第53回日本デザイン学会は6月30日f∼7月
また障害に配慮した製品開発支援の評価システ
2日a金沢で開催された。会場は街の中心地に
ムに関する研究及び背景因子等の研究について
ある21世紀現代美術館並びに北陸先端技術大学
の発表等が注目されるものであった。ユニバー
院大学で行われた。北陸先端大学は金沢の街か
サルデザインの製品開発においては技術的なア
ら遠く離れた、山の中に位置した研究所である。
プローチ同様、障害に起因する心理面や嗜好性、
人間の感覚領域を工学的アプローチで研究して
生活観といった感性に関する客観把握と検証が
いる認知科学という分野があり、そこでは痴呆
重要な要素であり、利用者のニーズを多角的に
老人や徘徊する高齢者の介護支援のための“も
捉える評価尺度やシステム化は避けて通れない
の置忘れ発見装置”等の開発に取り組んでいる。
製品開発の課題である。加齢状況や障害特性な
分野を超えた学際的な研究が行われている研究
らびに環境要因等の背景要因は互いに影響しあ
機関である。
うものであり、評価指標の検討は計量化以上に
時間のかかる研究である。一部これらの文科省
の委託研究事業の発表等も大いに目を引くもの
であった。重度障害者のQOL向上や雇用の幅を
広げる追い風になる新たな研究領域ではないか
と感じられた。
このデザイン学会の舞台金沢は誰もが安心し
金沢21世紀現代美術館
基調講演テーマは「心あるデザイン」である。
て暮らせる街づくりを行政指針として進めてい
る街である。新たに築城した金沢城資料館から
「量産化ベースのものづくりから高齢社会に立脚
伝統的建造物保存地区を通り、一巡の観光を車
した、より高品位なデザイン性追求こそが、グ
椅子使用者はじめ誰もが楽しめるようにバリア
ローバル化の中で生き残る、日本のものづくり
フリー化に配慮と工夫がなされている。歴史的
の進むべき方向性である」との講演内容である
価値の保存とバリアフリーという両立しがたい
が、印象に残るメッセージであった。
難問を抱えながらも、金沢は街並みの調和と漆
現在、ものづくりにおける「技術」と「デザ
や焼き物等の伝統工芸が息づいた、活気ある文
イン」は福祉機器や住環境のユニバーサルデザ
化情報発信の街でもあった。障害者業務に関わ
インの流れが加速し、同じ土俵で、取っ組みあ
るものとして、ここでの見聞は周辺知識として、
いしながら知恵を出し合っている状況にある。
障害者の職場環境設定や雇用のミスマッチ解消
今回のデザイン学会でも、感覚的な要素の数値
等の何らかのヒントになるものと考えている。
化が争点の柱である。使い勝手の良し悪し、快
適さの数値化等は障害者支援機器の開発に大き
く関わっている。この感性的領域の数値化を進
めているのがデザイン工学の分野である。研究
54
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
障害者職業総合センター 研究員 星加 節夫
日本発達障害学会第41回大会
後、さらにデータが蓄積されることにより、活
用可能性が拡がることが期待されます。
日本発達障害学会は、知的障害をはじめ、学
その他に、一般演題に関し、2日間にわたり
習障害、広汎性発達障害、注意欠陥多動性障害、
53のポスター発表が行われました。発達障害者
脳性まひなどの発達障害を対象に、医療、福祉、
支援法並びに障害者自立支援法の施行に伴い、
教育、保育、心理、職業リハビリテーションな
地域において発達障害に関する理解が進み、適
どの専門家並びに関係各者が集まる学際的な学
切な支援が行われることが期待されている中で、
会です。また、対象とする年齢も乳幼児期から
法に関連する報告に加え、
「不適応症状を示した
老年期までの広い範囲にわたります。
発達障害者の実態に関する研究」など、具体的
第41回大会は「発達障害学を深める」をテー
にどのような支援が必要とされているのか、な
マとし、発達障害への多岐にわたるアプローチ
どについて検討した結果に関しても報告がなさ
の視点が提示されました。
れました。
例えば、特別講演では、
「自閉症児への積極的
発達障害に関しては、知的障害、学習障害、
アプローチ」と題して1960年代後半から続く行
注意欠陥多動性障害、広汎性発達障害などのい
動療法を中心とする一連の取り組みを踏まえた
ずれの障害においても、より早期の診断とその
今後の課題についての報告がなされました。一
後の適切な支援が学校から職業への移行を円滑
方で、実行委員長講演としては「神経疾患に対
にするための重要な要因の1つといえます。ま
する遺伝子治療の可能性」という現代の医療に
た、発達と共に変化していく特性の評価を適正
おける最先端の取り組みが紹介されました。
に行うことが、学校時代の支援においても、就
また、
「軽度発達障害への認知科学的接近」と
労支援においても重要です。しかしながら、一
題したシンポジウムでは、学習障害、注意欠陥
方で、診断を学齢期に得ないまま卒業し、就職
多動性障害、自閉症の各障害について、生理心
の困難、あるいは就職後の適応困難によって、
理学的な視点から、その困難を明らかにしよう
青年期以降に発達障害の診断を受ける場合もあ
とする試みについての報告がなされました。
ります。こうした発達障害のある青年の就労支
いずれも非常に興味深い報告ではありました
援に関しては、職業リハビリテーションへのア
が、今回、個人的に最も関心が高かったのは、
クセスを支援することが重要と考えられます。
教育講演「科学的根拠に基づくPDDの支援ニー
また、早期診断とその後の支援の充実によって、
ズの把握:日本自閉症協会PDD評定尺度」でし
必要に応じて、職業リハビリテーション・サー
た。この講演では、広汎性発達障害日本自閉症
ビスへの円滑な移行がなされることが期待され
協会評定尺度(PARS:PDD-Autism Society
ます。
Japan Rating Scale)の標準化の過程について、
今回の学会では、適正な早期診断と時期にあ
データに基づく詳しい報告がなされました。
った支援の必要性に加えて、関係各機関の連携
PARSは「PDD(広汎性発達障害)の特徴に基
の重要性がさらに明確になったと思われます。
づいた支援ニーズをライフコースに渡って把握
すること」を目的としており、幼児期・児童
障害者職業総合センター 研究員
期・思春期成人期の3つの段階に関して、それ
向後 礼子
ぞれ評価ができるように工夫されています。今
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
55
図 書 紹 介
「高次脳機能障害ポケットマニュアル」
アプローチ方法についての医学的な専門用語が、
日常生活で使われている言葉で言い換えられな
著者 相澤病院総合リハビリテーションセンター
がら説明されています。非医療職である職リハ
監修 原寛美
従事者にとって医学用語はなじみの薄いもので
発行 医歯薬出版株式会社(2005年12月)
あり、また、当事者や家族、事業所の方々にこ
の障害の状態、対処方法などを説明する場合、
専門的な用語を用いることが必ずしも理解を促
すとは限りません。日常語をベースに専門的な
知識を的確に伝えるための内容と表現が詰まっ
ているこのマニュアルを読み直すことで、わか
りやすく、印象深い説明ができるように思われ
ます。このマニュアルが当事者をはじめとする
非専門職の目線を意識しながら専門職に向けて
書かれているおかげだと思います。
構造的なアプローチを目指す
このマニュアルが高次脳機能障害者のリハビ
一人の人が複数の認知障害を持ち、その人の
リテーションに携わる方々の現場や机に置かれ
状態や環境によってその障害の現れ方が異なる
ているのはもう当たり前のことになっているの
ことがあるというのは、高次脳機能障害を持つ
かもしれません。出版されてから1年近くが経
人の特徴であり、支援者にとっては悩みのタネ
過し、書評としての旬は過ぎているのですが、
でもあります。障害を持つ当事者の障害や行動
職業リハビリテーション(以下「職リハ」とい
を分析し、必要な行動や思考様式の修得に向け
う。)における高次脳機能障害へのアプローチ
て適切な方法論を用いて学習・訓練を行い、そ
は、今後より一層の的確さを求められることが
の習得・活用状況に応じて、職務や工程、環境
確実であり、経験の少ない方であってもこのマ
の改善、補完方法の確立、人的支援におけるノ
ニュアルをもとにケースについてより深く理解
ウハウの適正化など、実際の就労場面・職業生
し、その上で支援を構造化する手掛かりを得ら
活に応じた様々な支援を構造的に展開できるよ
れると確信し、ご紹介します。
うにコーディネイトするのが職リハ従事者の職
「見えないと思われている障害」を「見える障
害」に
務です。その展開の基本となる考え方は、この
マニュアルの「4 高次脳機能障害に対するリ
「見えない障害」という冠を付けられること
ハビリテーションの骨子」にある「新しいスキ
が多い「高次脳機能障害」について、
「日常診療
ーマの修得」と「リハビリテーションストラテ
における高次脳機能障害の診断とアプローチが
.......
難しいものであるという認識が払拭されていな
.
い点があります」
(傍点筆者)とまえがきに書か
ジー(方法論)の実際」の中に示されています。
れています。
「高次脳機能障害」は「見えない障
た支援の構造化に必要な「理論的枠組みに依拠
害」ではなく、見極める視点とスケールを持つ
したストラテジー」と医療的なリハビリテーシ
ことで、的確な「診断」と、適切な「アプロー
ョンの現場で行われている具体的な方法が示さ
チ」が可能になるという著者の思いを感じます。
れており、これらを踏まえ、職リハにおける新
当事者や家族、当事者をめぐる人たちの目線
たな行動・思考様式の獲得に向けた訓練や環境
このマニュアルでは、高次脳機能障害とその
56
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
このマニュアルには、一人ひとりの障害とそ
の人の職務と職場の把握、そしてそれらに応じ
調整・補完方法の確立といった支援を検討する
ことができると考えます。
最後に、このマニュアルは新書判で220頁余、
れました。付箋が貼られ、走り書きがなされ、
赤線が引かれたこのマニュアルが、皆さんのお
片手で操れ、表紙は水に濡れても折り曲げても
手元で活躍するだろうことは想像に難くありま
跡が残らず、本文にはメモ欄があり、余白に水
せん。
性ペンでメモを書いても滲みません。これらの
障害者職業総合センター 研究員
配慮はこのマニュアルが現場で使い込まれて欲
小池 磨美
しいという著者の願いが表れているように思わ
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
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独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構からのお知らせ
第14回職業リハビリテーション研究発表会
当機構では職業リハビリテーション研究の成果を広く関係各方面に周知するとともに、参加者相互
の意見交換、経験交流を行う場として、
「職業リハビリテーション研究発表会」を毎年開催しておりま
すが、今年度も以下のとおりに開催いたします。障害者の雇用・職業問題に携わる方等のご参加をお
待ちしています。
詳細につきましては、
「ご案内」を作成しておりますので事務局にご請求ください。また、障害者職
業総合センターのホームページにも掲載いたしておりますので、ご覧ください。
開催日時及び場所
平成18年12月5日c
12月6日d
海外職業訓練協会(OVTA)(千葉市美浜区ひび野1-1)
障害者職業総合センター(千葉市美浜区若葉3-1-3)
内 容
a
研究発表 口頭発表(79題)及びポスター発表(19題)
s
特別講演 「発達障害・精神障害についての理解と支援」(仮題)
東京都立梅が丘病院院長 市川 宏伸氏
d
パネル・ディスカッション
「ジョブコーチ支援の現状と今後の展望」
f
ワークショップ
「障害者の就労支援と関係機関の役割」
「医療リハと職業リハの連携による就労支援」
g
基礎講座
「発達障害の基礎と職業問題」
「高次脳機能障害の基礎と職業問題」
※ 基礎講座は研究発表会に先立って行われる公開講座です。
お問い合わせ・お申し込み
<第14回職業リハビリテーション研究発表会事務局>
独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構
障害者職業総合センター企画部企画調整室
〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3
TEL 043-297-9067
FAX 043-297-9057
e-mail [email protected]
障害者職業総合センターHP http://www.nivr.jeed.or.jp
58
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
障害者職業総合センター研究部門刊行物
調査研究報告書
【№70】
精神障害者の職業訓練指導方法に関する研究
−技能訓練と職業生活支援− (2006)
本研究は、精神障害者の職業訓練の現状について、その概要を把握すると共に、精神
障害者の職業訓練の実態を踏まえながら、職業リハビリテーション施策として望まれる
精神障害者の特性に応じた効果的な職業訓練のあり方、指導方法について明らかにする
ことを目的として、平成13年度から17年度にわたって実施した。
報告書の構成は二部構成となっており、第Ⅰ部では、精神障害者の職業訓練の現状に
ついて、その実態を全国調査によって把握した。第Ⅱ部では、職業訓練モデル(作業仮
説)を立て、このモデルと国立職業リハビリテーションセンターの実践結果との比較検
討から効果的な訓練方法を検討した。
【№71】
軽度発達障害のある若者の学校から職業への移行支援の課題に関する
研究 (2006)
学習障害、軽度の知的障害に加え、高機能広汎性発達障害その他の軽度発達障害のあ
る若者のための就労支援について、
「学校から職業への移行」に焦点をあてた検討を行っ
た。現在、若者の「移行」に何が起こっており、どのような議論がなされているか、そ
れが軽度発達障害のある若者の「移行」にいかなる影響を及ぼしているか、
「移行」の課
題として何を議論すべきか、について158名の事例による職業評価の結果と進路並びにそ
の後の移行について検討した報告である。
【№72】
重複障害者の職業リハビリテーション及び就労をめぐる現状と課題に
関する研究(最終報告書) (2006)
これまで福祉や労働の分野において障害者の実態を把握する場合、その主障害に着目
するものが多く、障害が重複する場合の実態や課題は、必ずしも明らかにされてこなか
った。一方、盲・ろう・養護学校の児童・生徒の4割以上が重複障害を持つとされてお
り、それら生徒の卒業後の就労が労働施策において課題となりつつある。また、重複障
害者を受け入れる施設や支援団体等がネットワークを形成する動きがみられるなど、重
複障害者の就労を取り巻く条件が以前に比べ整いつつある。そこで、重複障害者の就労
及びそれを支える生活の実態や課題を把握・考察することとした。
先ず現行法制度において重複障害がどのように位置づけられているかを整理し(第1
章)
、これまで行われてきた重複障害関係の研究の動向や調査結果を文献調査によって取
りまとめるとともに(第2章)
、障害者就業・生活支援センター及び授産施設等を対象に
実施したアンケート調査結果を分析・考察し(第3章及び4章)
、加えて、訪問調査の結
果を紹介しながらアンケート調査からは把握しきれない点を取りまとめた(第5章)
。終
章の第6章ではそれら各種調査結果をふまえて、重複障害者の自立生活、就労、福祉施
設の動向と課題、支援のための情報共有、障害の状況の把握・理解について取りまとめ
た。
【№73】 職業リハビリテーションにおける課題分析の実務的手法 (2006)
就労支援者のために職業リハビリテーションの事業主支援で課題分析を活用する方法
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
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を検討し、事例への適用を行った。適用にあたっては、障害者の雇用・職場復帰に取り
組んでいる事業所へ訪問し、事業主支援の各段階における課題分析の適用内容と方法を
示した。事例は、
「障害者の雇用促進のための新規採用」での職務創出・職務設計の2事
例と「高次脳機能障害者の職務復帰」での個別の障害状況に合わせた訓練カリキュラム
の作成と職務再設計を提供した3事例である。これらの事例への適用により、課題分析
が事業主へもたらすメリットとして、作業工程の課題分析結果は、障害者だけでなく、作
業に従事する全ての対象者に適用できること等が明らかとなった。
資料シリーズ
【№34】
米国における障害者雇用への社会的支援の動向に関する資料 (2005)
障害のあるアメリカ人法(ADA)制定から10年たって、その具体的運用や課題が明ら
かになってきた段階での米国連邦政府の障害者雇用に関する資料を翻訳した。
「障害のあ
る成人の雇用に関する大統領タスクフォース最終報告書」は、14省庁合同で米国の障害
者雇用の政策や事業の問題点の整理と提言をまとめた報告書である。
「ADAに基づく合理
的配慮及び過度の負担に関する施行ガイダンス」は雇用機会均等委員会(EEOC)によ
る資料であり、具体的な事例を示しながら、合理的配慮と過大な負担について説明して
いる。また、大統領による「New Freedom Initiative」は、米国の新しい諸政策の概略を
まとめている。
【№35】
視覚障害者雇用の拡大とその支援
−三療以外の新たな職域開拓の変遷と現状− (2006)
「視覚障害者の職業的自立支援に関する研究」サブテーマⅠ“視覚障害者の働く場の
確保・拡大のための方策及び必要な就労支援策に関する研究”
(平成14年度∼16年度)に
おいて収集した文献その他の資料を中心に簡単な解説を付してとりまとめたものである。
視覚障害者が伝統的に従事している三療(あんまマッサージ指圧、はり、きゅう)以
外の分野における職域開拓の変遷と現状について、統計その他の関係資料を収録すると
ともに、三療以外の職域における視覚障害者雇用の発展の経過を踏まえながら、公務員、
教職、福祉職、図書館員などの雇用の現状、民間企業におけるITの活用、専門職への参
入の現状と課題について解説する。
※
上記刊行物につきましては、当機構障害者職業総合センター研究部門ホームページよりPDFファ
イルにてダウンロードが可能です。どうぞご利用ください。なお、上記刊行物の問い合わせ、送付
を希望される方はこちらまで。
独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構
障害者職業総合センター企画部企画調整室
〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3
TEL 043-297-9067
FAX 043-297-9057
e-mail [email protected]
障害者職業総合センターHP http://www.nivr.jeed.or.jp
60
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
編 集 後 記
本号では、
「職場適応援助者(ジョブコーチ)
」による支援を特集として組みました。近年、
「ジョブコーチ」
による支援は積極的な広がりをみせています。当機構をはじめとして、地方自治体、福祉施設や企業等におい
て、それぞれ独自のスタイルで取り組みがなされておりますが、障害のある方の雇用促進という大きな目標
は共通しています。本号の特集が、「ジョブコーチ」に携わる方々の目標達成への一助として、また、「ジョ
ブコーチ」に関心をもつ方々の参考として、お役に立てれば幸いです。
さて、本号より従来のB5判からA4判へ変更し、文字のサイズを大きくしております。今後においても、
読みやすい紙面づくりはもとよりですが、更なる内容の充実を図り、皆様への有益かつタイムリーな情報提
供を心がけて参りたいと思います。
職リハネットワーク 2006年9月 No.59
61
●職リハネットワーク No.59
2006年9月発行
編集・発行人
独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構
障害者職業総合センター
企画部長 塚田 滋
〒261-0014 千葉市美浜区若葉3-1-3
TEL.043-297-9067 FAX.043-297-9057
e-mail:[email protected] http://www.nivr.jeed.or.jp
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