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第69回日本泌尿器科学会東部総会 イブニングシンポジウム

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第69回日本泌尿器科学会東部総会 イブニングシンポジウム
第69回日本泌尿器科学会東部総会 イブニングシンポジウム
座 長
演 者
頴川 晋 先生 (東京慈恵会医科大学 泌尿器科学 教授)
斉藤 史郎 先生 (国立病院機構東京医療センター 泌尿器科 医長)
John L. Lederer M.D.(Medical Director, Radiation Therapy,
The Queen's Medical Center, Associate Professor,
Department of Surgery, University of Hawaii)
篠原 克人 先生 (Professor, Department of Urology, University of California, San Francisco)
三木 健太 先生 (東京慈恵会医科大学 泌尿器科学)
座長あいさつ
頴川 晋
先生 (東京慈恵会医科大学 泌尿器科学 教授)
2003 年 9 月、東京医療センターで本邦初のブラキテラピーが施行された。
以来、わが国では 1 年余りが経過したが、米国では 30 年ほどの歴史がある。 そういった意味で、ブラ
キテラピーは古くて新しい治療法と言えるであろう。
そこで今回は、日米のエキスパートを 4 名迎えて、さまざまな観点からブラキテラピーについて語ってい
ただいた。 パネルディスカッションでは、ケーススタディを提示して論じられている。
ここに記されたことが、これからの臨床で実際に役立てていただければ幸いである。
共 催 第 69 回日本泌尿器科学会東部総会、日本メジフィジックス株式会社
∼ブラキテラピーの現状∼
篠原 克人
日米での現状など
日米での現状など
先生
Professor, Department of Urology, University of California, San Francisco
米国では1996年あたりからブラキテラピーが急速
どで放射性物質の所持をチェックされる場合があり、
1 - 1 )。 2 0 0 2 年 に は 年 間 お よ そ 5 8 , 0 0 0 例 に 、
そうしたことからブラキテラピーを受けた患者には、
1,000∼1,100施設でブラキテラピーが行われたと
治療の行われた旨を記載した証明書が発行される。
する報告もあり、現在では、かつて前立腺全摘術の適
また、わが国では、術後に何年が経過してもシード
応となった症例のおよそ半数に施行されていると思わ
はradioactivityとして扱わなければならないが、米国
れる。
医 療 物 理 学 会( A m e r i c a n A s s o c i a t i o n o f
近年、わが国でも行われるようになったが、これに
第69回 日本泌尿器科学会東部総会 イブニングシンポジウム
そのほか、テロ対策が厳しい米国では空港の税関な
に普及し、前立腺全摘術の施行数が減少している(図
Physicists in Medicine:AAPM)は勧告のなかで、
は2つの法律による規制が設けられている。まず、医
術後の尿濾過、あるいは尿に排泄される脱落したシー
療法では放射線照射器具使用室の設置が義務付けられ
ドの医療施設への届出は必要ないとしている。さらに、
ている。米国ではこうした規制はなく、手術を行う部
5半減期を過ぎたシードは、radioactivityのラベルな
屋はどこでもよい。放射線障害防止法では施設ごとの
しで普通ゴミとして廃棄しても構わないとも記載して
放射線同位元素の使用許可取得を定めているが、この
いる。これらは、環境への影響が低いというエビデン
点は日米ともに同様である
(図1-2)
。
スに基づいての内容である。
退出基準については、わが国ではⅠ-125シード線源
を用いた場合1,300MBq以下もしくは患者から1mの
距離での測定で1.8μSv/h以下とされ、シードをあま
り多くは挿入できない。米国では、患者から1mの距
離での放射線量は5μSv/h以下とされ、線源量の制限
はない。また、わが国では脱落防止のために1日入院
が必要とされるが、米国では術後即時に退院が許可さ
れる。ただし、線源挿入後の一定期間内(日本は1年以
内、米国は5半減期≒300日以内)に患者が死亡した
場合は、日米ともに剖検による線源摘出が勧告されて
いる
(図1-3)
。
退院時には、患者はわずかではあるがradioactivity
日本と米国の規制の違い
を発しているために、放射線障害の防止について、あ
るいは周囲に対する注意を指導する。たとえば、以下
の項目などである。
・術後1半減期
(およそ60日)
以内はなるべく妊婦や
小さい子供に長時間近づかない
・一定期間内に死亡した場合は、線源を取り出す必
要がある
・術後1年以内にTURP(経尿道的前立腺切除術)や
前立腺切除術などの手術を受ける場合、activity
日 本
米 国
密封線源 施設許可 二重規制
・医療法
放射線照射器具使用室の設置・・・・・ 特に規制なし
・放射線障害防止法
放射性同位元素の使用許可・・・・・・ 米国も同じ
があるシードは処理をしなくてはならない
図1-2
Permanent seed implant in US
I-125 永久挿入患者の退出基準の違い
45000
40000
日 本
米 国
・I-125≦1300MBq(35.1
mCi)or 1.8μSv/hで退出
・脱落防止の為の一時的に管
理区域とした一般病室へ 1
日入院
・挿入後一定期間内に死亡し
た場合剖検にて線源を摘出
・患者から1mの距離で5μSv
/h以下で退出
・線源の量に制限なし
・入院の必要なし
・挿入後一定期間内に死亡し
た場合剖検にて線源を摘出
(5半減期)
35000
30000
Radical
prostatectomy
Brachytherapy
25000
20000
15000
10000
5000
0
1994 1995 1996 1997 1998
(Medicare 1994∼98年データより)
1
図1-1
図1-3
∼ブラキテラピーの現状∼
斉藤 史郎
わが国の現状
わが国の現状
先生
国立病院機構東京医療センター 泌尿器科 医長
2003年7月、わが国でも法的基盤が整い、Ⅰ-125
3∼6ヶ月間行い、体積を縮小させた後に治療を行う。
シード線源による永久挿入密封小線源療法(ブラキテ
われわれは今までに70mL以上の症例を2例ほど経験
ラピー)が認可され、その年の9月から治療が開始され
したが、半年間のホルモン療法で40%程度縮小した。
た。Ⅰ-125シードは4.5mmのチタン製のカプセル
挿入するシードの放射能は単独療法の場合平均
で(図2-1)、わが国では日本メジフィジックス社が
900MBqほどで、EBRT(外照射療法)併用例では
発売しており、MICKアプリケータを用いて1個ず
600MBq程度である。ときおり1,300MBqを超える
つ挿入される。
場合もあるが、このような症例の1センチメートル線
2004年9月現在、全国では19施設(2005年5月
量当量率を実測すると1.8μSv/hよりも下回っている
現在32施設)で治療が行われ(図2-2)
、通算症例数は
ことが多く(図2-3)
、これはおそらく患者の骨や脂肪
465例に達した。今後も施設数と症例数は急激に増え
の厚みによる相違があるものと推測される。もし1.8
る見込みである。
μSv/hを超えてしまえば計算して退院日を延ばさなけ
実施にあたり、わが国ではいくつか規制が設けられ
ればならない。
米国の退出基準では、放射線に対する意識の差もあ
必要で、日本泌尿器科学会専門医と日本放射線腫瘍学
ってか挿入するシード数の制限はなく、被曝線量もわ
会認定医がともに常勤し、治療従事者は学会と日本ア
が国の3倍ほどが許容されている。わが国では
イソトープ協会による講習会を受講しなければならな
1,300MBqという基準があり挿入総放射能をこれよ
い。手術室は、診療用放射線照射器具使用室として登
り下に抑えるためには前立腺の体積が35mL以下が望
録 さ れ た 部 屋 か 、 あ る い は R A L S( R e m o t e
ましい。これを超えるものではやはりホルモン療法に
Controlled After Loading System:遠隔操作式後
よる縮小が必要となる。
充填法の装置)を設置した部屋のいずれかに定められ
以上のように、わが国のブラキテラピーは安全に向
ている。術後1日間、患者は入院しなければならない
けた厳しい規制が設けられているが、それにも増した
が、その部屋は特別である必要はなく、基本的には個
有用性が期待されるため、現在は多くの施設で治療へ
室で施設長が一時的管理区域と定めればよく、ドアに
向けた準備が行われている。
管理区域の標示を掲げる。ただし、入室者は制限され、
入る度に線量計での被曝量測定と記帳が義務付けられ
ている。
治療実施施設(32施設)2005.5現在
退出基準については、挿入するシードの放射能が
栃木がんセンター
1,300MBq以内、あるいは患者の体表から1mの位置
群馬大
伊勢崎市民
で測定される1センチメートル線量当量率が1.8μ
京都府立医大
Sv/h以下であることとされている。これは、たとえば
13.1MBqのシードでは約100個まで挿入できるとい
うことであるが、それ以上のシードを挿入したい場合
ヨウ素125シード線源による早期前立腺癌の治療
ている。まず、治療を行う施設はⅠ-125を扱う登録が
長野市民
大阪大
岐阜大
岩手医大
岡山大
広島大
九州大
は、上記1センチメートル線量当量率が1.8μSv/hを
超えると退院できなくなるため注意を要する。
前立腺の体積については、あまり大きいと穿刺針の
名古屋大
徳島大
挿入が恥骨弓にはばまれ困難となり、実際には40mL
高知大
奈良医大
四国がんセンター
以下が望ましい。それを超える場合はホルモン療法を
北海道がんセンター
札幌医大
東京医療センター
東京慈恵会医大
癌研究会有明病院
国際医療センター
東京大
順天堂大
慶應大
千葉がんセンター 東京医科歯科大
昭和大
関東中央
横浜市立大
多摩北部医療センター
北里大
図2-2
1cm dose equivalent rate(μSv/h)
Relationship Between Total Radiation
Activity of the implanted Seeds and 1cm
Dose Equivalent Rate at 1m Distance
I-125 Seeds
2
1.8
1.6
1.4
y=0.001x-0.0731
R2=0.2106
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
200
400
600
800 1000 1200 1400 1600
Radiation activity of seeds(MBq)
図2-1
図2-3
2
∼シード挿入のテクニックと使用ソフトウエア∼ 米国でのソフトウエアの概略
米国でのソフトウエアの概略
篠原 克人
先生
Professor, Department of Urology, University of California, San Francisco
ブラキテラピーに用いられるソフトウエアとして、
術後においても、CT画像によって、挿入されたシー
米国ではVariSeed system
(Varian社)
、Interplant
ドの位置や数が自動的に再確認され、線量分布の評価
s y s t e m( C M S 社 )、 S t r a t a s y s t e m( R o s s e s
が可能であるが(図3-3)
、新しいソフトウエアではさ
medical社)
、Spot system(Nucletron社)の4種類
らに前立腺の輪郭を明確に確認できるMRI像とのフュ
が発売されており、現在ではVariSeed systemがト
ージョン機能を有している。
ップシェアにある。それぞれ多少の違いはあるが、い
ずれも術前や術中のプランニング、あるいは術後の照
射線量の評価が可能で、機能面では大差がない。
CMS社のInterplant systemは経直腸超音波
(TRUS)
と連動しており、超音波プローブを動かすと、
う 特 徴 が あ る 。 ま た 、 VariSeed system、
Interplant system、Strata systemには、術中に
シードを事前の計画と外れた位置へ落とした場合で
も、それに合わせて線量を自動計算する機能を有して
いる。一方、Nucletron社のSpot systemはソフト
ウエアだけではなく、ニードルを刺入してシードを自
動的に挿入するハードウエアとTRUS装置がセットで
発売されている。
米国でトップシェアにあるVarian社製のVariSeed
7.1については、先述のように術前のみならず、術中
にも麻酔下でプランニングが可能である。実際にみら
れる画像を図3-1に示すが、ディスプレイには前立腺
の3Dモデルが表示され、それに基づいて前立腺内に
万遍なく144Gyの線量を照射する計画を立てること
ができる。さらに、Dose Volume Histogram
Evaluation - DVH
(DVH)の作成機能も付加されており、144Gyの線量
が前立腺内の全体に照射され、なおかつ尿道や直腸付
近の照射線量が低くなるような線量分布の計算も行え
る
(図3-2)
。
最近のソフトウエアの特徴として、まず術中のプラ
Cumulative DVH
■Cumulative DVH
■Differential DVH
■Natural DVH
ンニングでは、線量分布の計画を実際の術中MRI像に
重ねて表示できることが挙げられる。術中はニードル
Prostate
Urethra
Rectum
Seminal Vesicles
PTV
の刺入などにより、前立腺の位置が事前の計画とずれ
ることもある。しかし、この機能を用いれば術中にあ
る実際の前立腺の位置と、事前に立てた線量分布の計
画を自動的に合わせることができる。
100
90
% Structure Volume
第69回 日本泌尿器科学会東部総会 イブニングシンポジウム
その部位の照射線量が自動的に画面で表示されるとい
80
70
60
50
40
30
20
10
0
0
100 200 300 400
% Prescription Dose
500
図3-2
Evaluation - 3D View
■Visualize:
・Structures
・Dose
・Surface Dose
3
図3-1
Source Identification - Seed FinderTM
■Automatic Source
Identification
・Multi-level Threshold
・Shape Constraints
図
図3-3
■Set Prostate Bounding Region
■Set Number of Seeds
■Identify Seeds
■Check Results
∼シード挿入のテクニックと使用ソフトウエア∼ 米国における臨床テクニック
米国における臨床テクニック
John L. Lederer
M.D.
Medical Director, Radiation Therapy, The Queen's Medical Center, Associate Professor, Department of Surgery, University of Hawaii
(和訳監修 昭和大学医学部 泌尿器科学 森田 將 先生)
われわれの施設では、pre-loading technique(事
前充填法。わが国ではまだ行われていない)という手
たとえば図4-4右の画像ではニードルが前立腺底部ま
で刺入されていることがわかる。
法でブラキテラピーを行っている。術前には患者の前
このように刺入されたニードルの外筒を引き抜きな
立腺体積を計測してプランを立て、通常、シードは牛腸
がら、オブチュレーターを一定の位置に保つと、シー
糸製のスペーサーと交互に配置されるようニードル内
ドは所定の位置に留置される(図4-5)
。しかし、シー
へ装填される。このとき、尿道への照射を最少限とす
ドの挿入位置によっては容易に視覚的な確認ができる
るために、より多くのスペーサーを用いることもある。
とは限らない。
もうひとつ、吸収性縫合糸にシードを埋め込んだもの
以上、われわれの行っているpre-loading
(Strand)を挿入する方法もあり、これはシードが静
techniqueの概略を述べたが、この方法はすばやく効
脈系を通って移動するのを防ぎ、さらに前立腺内への
率的で、照射線量プランをより忠実に実現させること
均一な挿入に有用である。
ができ、術後の患者管理にも優れている。
図4-1に、シードとスペーサーの典型的な配置を示
す。充填されたシードの数は、ハブからテンプレート
までの距離か、もしくはニードル内のスペーサーの数
ヨウ素125シード線源による早期前立腺癌の治療
RadioBox
でわかる。このほか、さまざまな長さの異なる
source linkを用いて挿入する方法もある
(図4-2)
。
手術にあたり、シードは遮蔽された容器に入れてお
く。また、シードを挿入するためのニードルは、テン
プレートの座標に従って会陰部より刺入される(図43)
。ニードルを刺入した深さは、事前に作成した座標
システムで計測できる。たとえば、図4-4左のTRUS
像では、この位置のAxial像でニードルが矢印で示す座
標(C3)にあることがわかる。また、ニードルのハブ
∼テンプレート面まで距離を計測することで深さを確
認できる。われわれはSagittal像をよく利用するが、
図4-3
Preloaded Needles
Needle Flash in TRUS
# cm =# seeds *
spacer
A
seed
* Eq.: 4.0cm. measurement=4seeds
ultrasound
target
図4-1
図4-4
Source Link
Seeds Dropped in Sagittal View
1.0cm
1.0cm Standard SourceLink
0.5cm
finger
0.5cm Seed-to-Seed SourceLink
1.5cm
fingers hold
ultrasound
1.0cm Standard SourceLink
seed
prostate
rectum
0.5cm Extension SourceLink
Special Load
図4-2
図4-5
4
∼シード挿入のテクニックと使用ソフトウエア∼ わが国のソフトウエアの概略
わが国のソフトウエアの概略
斉藤 史郎
先生
国立病院機構東京医療センター 泌尿器科 医長
わが国では、VariSeed(販売:ユーロメディテック
DVHで前立腺・直腸・尿道それぞれの放射線量を検討
社)
、Interplant(販売:CMS Japan社)
、SPOT(販
するが、ここで算出されるV100とD90がプラン評価
売:千代田テクノル社)といった3種類のソフトウエア
の基準となる。そして、それらに問題がなければそれ
が用いられている。いずれも機能的に大差はないが、
を術前計画とし、その数のシードを発注する。
VariSeedはマージン距離の任意設定や、Anisotropy
図5-3の青線は、米国のMount Sinaiのグループら
(線源異方性)
、すなわち線源からの複雑な線量分布を
により示された、前立腺の体積と放射能の理想的な相
考慮した線量計算が可能である。VariSeedと
関ラインである。わが国の退出基準は1,300MBqで
Interplantによる術前プランでは、図5-1のように前
あるため、このデータに基づけば約35ccが適応の限
立腺辺縁を赤いライン、治療設定マージンを青いライ
界となる。われわれの施設でのデータを丸印で示すが、
ンで示すことでニードルの刺入位置とシードの挿入位
Mount Sinaiの基準にほぼあてはまっている。
ができる。
術後1ヶ月ほどは前立腺浮腫を生じるので、それ以
降に前立腺のCTを撮像してシードの挿入位置を確認し
シードの挿入にあたり、米国ではニードルにシード
( 図 5 - 4 )、 D V H を 算 出 す る 。 こ れ に よ り 最 終 的 な
とスペーサーをあらかじめ充填しておくpre-loading
V100とD90を評価し手術記録となる。ブラキテラピ
方式も行われているが、わが国ではスペーサーが薬事
ーの治療効果をみるには、5年あるいは10年の期間を
承認されていないため、全てMICKアプリケータを用
要するが、短期的な技術評価であればこのV100など
いてシードを1個ずつ挿入する方法で治療が行われて
によって可能である。
ちなみに、われわれの施設では、治療開始時の1∼
いる。
術前のプランニングでは、TRUSで前立腺の5mm
160例目までのV100を評価しているが、成績は上が
ごとの横断面像をコンピュータに取り込む。各断面像
っている。およそ、術者1人あたりで20例以上を経験
の前立腺辺縁はマウスで型どり、3次元的に前立腺の
すると技術的にも落ち着いてくると考えている。この
形をつくりあげる。われわれの施設では左右3mmの
ことは、術式を実際に行う泌尿器科医だけではなく、
マージンを設定し、ニードル刺入やシード留置の位置
プランニングに携わる放射線科医の技術の向上にもよ
をコンピュータで算出し、その後データを適宜修正し、
ると考える。
3D像でシードの配置を確認する(図5-2)。その後、
Transverse Figure of
TRUS & Needle Position
Relationship Between Prostate Volume and Radiation
Activity Compared with Mount Sinai Group
MBq plan
medical systems
1600.00
43.2
1400.00
37.8
1200.00
32.4
1000.00
27.0
800.00
21.6
600.00
16.2
400.00
10.8
10.00 20.00 30.00 40.00
us vol
図5-1
図5-3
Pre-planning with TRUS
5
図5-2
図5-4
mCi plan
第69回 日本泌尿器科学会東部総会 イブニングシンポジウム
置が決定され、DVHでプランの妥当性を検討すること
Mount Sinai Group
D90 =160Gy
∼適応と限界∼ 症例選択の観点から
症例選択の観点から ―大きな前立腺、小さな骨盤の問題について―
―大きな前立腺、小さな骨盤の問題について―
三木 健太
先生
東京慈恵会医科大学 泌尿器科学
各先生方が述べられたように、大きな前立腺では挿
状態では、それ以前と前立腺の大きさに微妙な違いの
入するシード数の制限が問題となるため、ホルモン療
あることも経験的に把握されてきたので、現在は手術
法により縮小させる。改めて、図6-1のようにボール
直前に再び体積のチェックを行い、最終的な線源の配
を前立腺と見立てて位置関係を考えると、恥骨に隠れ
置を決めている。
て正面からは見えない部分が生じる。ブラキテラピー
また、このとき同時にPubic archの位置も確認で
では正面から前立腺へニードルを刺入するが、こうし
きる。したがって、直前のプランニングにおいて、ど
た見えない部分には刺入できない。そこで、こうした
のような体位をとってもニードルを刺入できない部分
観点からも前立腺を小さくする、あるいは刺入しやす
の把握が可能である。
図6-5に、挿入されたシードの放射線量と前立腺体
い体位をとるという検討課題が生じる。
図6-2はTRUSによる前立腺像であるが、矢印で示
積の関係を示すが、こちらも先に先生方が述べられた
す箇所が恥骨、すなわちPubic archで、ここより外
のと同様、1,300MBqでの前立腺体積はおよそ30cc
側にはニードルを刺入することができない。したがっ
後半∼40ccではないかと思われる。
て、術前にはTRUSによって正面からみられる前立腺
とPubic archの位置を把握する必要がある。
ヨウ素125シード線源による早期前立腺癌の治療
たとえば、図6-3上の黄円で囲まれた座標
(J4)
には、
矢印で示すPubic archの外に位置するためニードル
を刺入できない。しかし、体位を変えて足を高くさせ
ると、図6-3下で示すようにPubic archが上がり、座
標J4にもニードルを刺入することができる。この方法
を横から示したイメージを、図6-4に示す。
現在、われわれの施設では、ブラキテラピーを行う
患者の前立腺体積を手術の1ヶ月ほど前にチェックし、
各症例に合わせてシードをオーダーする。オーダーか
らシードが届くまでの期間は3週間ほどであるため、
このチェックは必ず行うべきである。また、麻酔下の
図6-3
pubic arch interferes with
anterior needle advancement
Pubic bone
pubic arch
template
prostate
pelvic tilt with
extended lithotomy
prostate
図6-1
図6-4
Prostate volume and radiation
Pubic arch
radiation (MBq)
1600
1400
800
400
0
0
図6-2
図6-5
10
20
30
prostate volume(cc)
40
50
6
∼適応と限界∼ 東洋人、西洋人における解剖の違いおよび工夫について
東洋人、西洋人における解剖の違いおよび工夫について
篠原 克人
先生
Professor, Department of Urology, University of California, San Francisco
ブラキテラピーは、 一 般的に前立腺体積が40cc以
刺入しやすくなる(図7-3)
。しかし、直腸の位置も上
下であれば問題なく施行できるとされるが、40∼
がるため、前立腺の前面に直腸が出てきてしまうこと
60ccの症例では前立腺とPubic archの位置関係が影
がある。
響し、60cc以上ではホルモン療法による前立腺の縮
たとえば、Pubic archの真上にニードルを刺入しよ
小治療が必要であろう。
西洋人と東洋人の解剖学的な所見を検討すると、前
第69回 日本泌尿器科学会東部総会 イブニングシンポジウム
そこで、われわれは次のような工夫も行っている。
うとすると、そこには骨膜があるために予定の位置よ
立腺体積は明らかに東洋人のほうが小さい傾向にあ
りもやや内側に入ってしまう(図7-4左)
。このような
る。Pubic archについては、 一 般的に日本人は狭い
時は無理をせず、ニードルの刺入位置を1座標分内側
とされるが、アメリカ人でも狭い例を見受けるので何
かつ下側にし、Pubic archぎりぎりの所にニードル
とも言えない。また、わが国では挿入できるシードの
を押し付けて計画通りの位置へ向けて刺入する。こう
放射線量が1,300MBq以下と制限されているため、
すると、予定と近い位置へニードルを入れることがで
この点も大きな前立腺の症例では特に問題となる。
きる
(図7-4右)
。
しかし、臨床においては次のような症例に遭遇する
こともある。たとえば、図7-1は前立腺体積が69cc
と大きな症例であったが、Pubic archが非常に広い
ためにホルモン療法を行わずにシードの挿入が可能で
あった。前立腺とPubic archの位置関係を考えると、
前立腺辺縁の位置がPubic archの上5mm程度であれ
ば、どうにかそのままニードルを刺入できるが、これ
が10mmより上であるとやや困難な印象がある。
一 方、図7-2は前立腺体積26ccと 一 般的には問題
なしとされる症例であったが、Pubic archが非常に
狭く、一部のニードルをプラン通りに刺入することが
困難であった。こうした症例では、骨盤の位置をやや
上向きにすると、Pubic archが広がってニードルを
Wide pubic arch
Technique to clear pubic arch
Pubic arch
Pubic arch
69 cc prostate with wide pubic arch. Seed implantation is feasible.
図7-1
図7-3
Narrow pubic arch
Pubic arch clearance
Pubic arch
Mid gland
Prostate
Apex
Pubic bone
Only 26 cc prostate, but very narrow pubic arch
7
図7-2
Prostate
図7-4
∼適応と限界∼ ―治療成績―
―治療成績― どのような症例には良く、
どのような症例には良く、どのような症例にはいけないか
どのような症例にはいけないか
三木 健太
先生
東京慈恵会医科大学 泌尿器科学
ブラキテラピー施行例を追跡調査した報告による
低リスク群の治療では、待機療法や手術、ホルモン
と、術後7年でbiochemical failureを認めない割合は、
療法、さまざまな放射線治療といった選択肢があるが、
術前PSA値4∼10ng/mLの群では83%(n=159)
、
これらの可否を年齢で評価するケースはない。しかし、
術前PSA値0∼4ng/mLの群では87%(n=88)であ
ブラキテラピーでは、治療を避けたほうがよいとされ
った 。また、Gleason score≦6の症例で前立腺全
る例で若年者が挙げられることもある。また、広範な
摘術とブラキテラピーの7年生存率を比較した報告で
領域でのTURPの既往歴がある症例は、高度な尿路障
も、それぞれ84%、79%と大差はない 。
害を発症する場合があるために禁忌となる。
1)
2)
そこで、ABS(米国密封小線源学会)
は、前立腺癌の
以上より、ブラキテラピーの最適応例を検討するに
症例を術前のPSAとGleason scoreによって低・
あたっては、まずPSA・Gleason score・T stage
中・高リスク群に分類し、ブラキテラピーの最適応例
をしっかり把握することが重要と考えられる。前立腺
は低リスク群であるとしており(図8-1)
、一方で高リ
体積は、日本人では40cc以下がよいであろう。通常
スク群には行うべきではないとしている。
時でも排尿の状態の悪い例では、より症状を悪化させ
たとえばAnthony V. D'Amicoらの報告による
ることもあるので注意を要する。TURPの既往歴のあ
と、低リスク群ではどのような治療を行っても生存率
る例も、充分な検討をすべきである。一般に、前立腺
癌のperformance states(PS)も重要とされる。ま
では明らかにブラキテラピーの成績は不良である(図
た、若年例への施行については、患者との充分な相談
8-3)3)。中リスク群については、図8-4のデータを示
の上で検討すべきであろう。
す。ここでは、Gleason score 7の群をGleason
score 3+4と4+3に分けて非再発率を比較している
が、両者には明らかな差がみられる 4)。
では、ブラキテラピーの適応に年齢は関係するので
あろうか。ブラキテラピーはおよそ10年の生命予後
や性機能の維持が期待できるとされ、比較的若年者が
希望する場合を見受ける。しかし、われわれはそうし
た患者の再発時のことを考慮し、あまり推奨しない。
Best indication
High risk patients(PSA ≧20 or GS ≧8)
ヨウ素125シード線源による早期前立腺癌の治療
にほとんど差がみられないが(図8-2) 、高リスク群
3)
100
90
American Brachytherapy Society (ABS) recommendation
Low risk
: PSA<10 and GS 2∼6
!
Intermediate risk : PSA10∼20 or GS 7
Prostate-Specific
Antigen Survival,%
80
60
50
40
30
20
: PSA ≧20 or GS ≧8
High risk
70
10
0
0
1
2
3
4
5
Time , y
Radical Prostatectomy
External Beam Radiation Therapy
図8-3
Low risk patients(PSA<10 and GS 2∼6)
100
90
Prostate-Specific
Antigen Survival,%
80
The prognostic significance of Gleason grade
in patients treated with permanent prostate
brachytherapy
Biochemical Freedom from Recurrence
図8-1
70
60
50
40
30
20
10
0
0
1
2
3
4
5
Time , y
Radical Prostatectomy
External Beam Radiation Therapy
図8-2
Implant and Neoadjuvant Hormonal Therapy
Implant
Implant and Neoadjuvant Hormonal Therapy
Implant
1.0
.9
.8
.7
.6
.5
.4
0
12
24
36
48
60
72
84
96
108
Time
図8-4
8
∼適応と限界∼ ―治療成績―
―治療成績― どのような症例には良く、
どのような症例には良く、どのような症例にはいけないか
どのような症例にはいけないか
篠原 克人
先生
第69回 日本泌尿器科学会東部総会 イブニングシンポジウム
Professor, Department of Urology, University of California, San Francisco
ASTRO(米国放射線腫瘍学会)では前立腺癌のリス
善されるという報告もあり(RTOG 9413)
、したが
ク分類にコンセンサスが得られておらず、施設ごとに
ってリンパ節転移の可能性の高い症例に対するブラキ
なされている。 一 般的には図9-1に示す通りである。
テラピーは、ホルモン療法+小骨盤照射療法を併用す
このうち高リスク群については、Stage T3を含める
るのが理論的であろう。
(Fox chase)、生検での陽性率が組織の60%以上
しかし、中リスク群の症例でもGleason scoreや
(Cleveland Clinic)
、中リスク群でも生検の陽性率
PSAの評価によっては、ブラキテラピー単独療法でも
60%以上は高リスク群
(Mayo Scottsdale)
などとす
よいのか、あるいは外照射療法を併用すべきかの判断
る施設もある。
に迷う場合もある。そこで、現在行われているRTOG
ブラキテラピーは、一般的に低リスク群では単独で
0232という研究では、中リスク群を無作為抽出して
行う。高リスク群では、ネオアジュバントホルモン療
ブラキテラピー単独療法群と外照射療法併用群で比較
法の後に外照射療法(特に小骨盤照射療法)を行い、そ
し、治療成績に外照射療法が影響を与えるのか、それ
れからブラキテラピー、さらにアジュバント療法を行
による副作用の発現頻度はどうか、生存率はどうなる
うというのが米国でのコンセンサスであろう。
のかを検討している(図9-3)
。この研究の成果によっ
ここで問題となるのは中リスク群である。ブラキテ
ラピー単独か、前立腺への外照射療法を併用するか、
て、中リスク群への治療コンセンサスにひとつの結論
が出ると思われる。
あるいはホルモン療法+小骨盤照射療法+ブラキテラ
ピーとすべきか。さまざまな方法が交錯する。これに
関して、Pottersらによるブラキテラピー単独例と外
照射療法併用例をリスクごとに比較した報告がある。
結果的に、各群間に大きな差は認められず、外照射療
法を加えたメリットはみられなかった5)。
一 方、Blaskoらは低リスク群と中リスク群(PSA
>10ng/mL、Gleason score≧7、Stage≧T2c)
にⅠ-125によるブラキテラピー単独療法を行い、その
後15年間にわたって PSA-RFSを調査した。その結
果、中リスク群で85%、低リスク群で86%とほとん
Roach‘s formula
ど差がみられず、Minimum GS7の症例ではブラキテ
ラピー単独療法でもよいのではないか、と彼らは結論
N%=2/3(PSA)+10(GS-6)
付けている 6)。
また、放射線治療医のRoachは、図9-2のような
RTOG 9413
Roach's formulaを提唱している。前立腺癌がリンパ
15>N% benefits from neoadjuvant
hormone therapy plus whole pelvis
radiation
節 転 移 し て い る 可 能 性( N )% は P S A と G l e a s o n
scoreから評価できるとする公式で、たとえば
PSA20ng/mLでGleason score 7程度の症例では、
リンパ節転移は25%ほどということになる。この
Roach's formulaで15%以上の症例にホルモン療
法+小骨盤照射療法を行うと、明らかに生命予後が改
図9-2
Risk classification
Commonly used one
■Low-Risk:
・T1b, T1c, T2a, GS ≤ 6 and PSA ≤ 10 ng/mL.
■Intermediate-Risk:
・T1b, T1c, T2a, GS ≤ 6 and PSA >10 ng/mL but ≤ 20
・T2b, GS ≤ 6 and PSA ≤ 20ng/mL.
・GS 7 and PSA ≤ 20ng/mL.
■High-Risk:
・GS 8-10 or PSA >20ng/mL.
9
図9-1
RTOG 0232
A phase III study comparing combined external beam radiation
and transperineal interstitial permanent brachytherapy with
brachytherapy alone for selected patients with intermediate
risk prostatic carcinoma
・cT1c-T2b
・GS 7, PSA<10
・GS ≤ 6, PSA 10-20
・AUA symptom score ≤15
・Randomized between brachy alone and brachy+XRT
・Primary endpoint:overall survival
・Secondary endpoints:biochemical failure, disease
specific survival, disease free survival, local failure,
metastatic disease, morbidity and QOL
図9-3
∼適応と限界∼ リスクという観点から
リスクという観点から
John L. Lederer
M.D.
Medical Director, Radiation Therapy, The Queen's Medical Center, Associate Professor, Department of Surgery, University of Hawaii
(和訳監修 昭和大学医学部 泌尿器科学 森田 將 先生)
低リスク群へのブラキテラピーが単独でも有効なこ
MRIやMRSによるリスク評価の方法も開発されてお
とは繰り返し述べられてきた。そこで、中∼高リスク
り(図10-1)
、ブラキテラピーのプランニングにも応
群に対して検討する。中リスク群に分類されるのは
用される可能性がある。UCSFの研究グループは、こ
PSA>10ng/mL、またはGleason score≧7以上の
れに関する多くのデータを蓄積してきたが、技術的な
症例で、さらに前立腺生検での癌組織の陽性率も重要
役割はこれから明確になるところであろう。一方、わ
なパラメータである。
れわれはCholine-PETによる方法を検討している。図
中リスク群では、外照射療法とブラキテラピーがよ
10-2に画像を示すが、矢印の箇所に前立腺がみえる。
く併用される。外照射は小骨盤照射と前立腺照射のい
この方法は明確に前立腺癌を検出するが、より正確な
ずれかで、通常は5週間で4,500cGyが照射される。
把握のためにCT画像とのフュージョンも可能で(図
はっきりとした有用性は示されていないが、ブラキテ
10-3)
、とくに外照射のプランニングで有用である。
高リスク群、たとえばPSA>20ng/mL、または
を少し多く取り、前立腺のマージンを通常5∼7mmと
Gleason score 8-10、または++coresという症例
することが多い。ホルモン療法もよく行われるが、こ
ではブラキテラピー単独は不十分であり、外照射療法
のリスク群でのブラキテラピー併用での有効性は明確
が適応となる。また、アンドロゲン除去もきわめて重
ではない。
要な治療法であり、アジュバント療法やネオアジュバ
前立腺被膜外に癌が浸潤した症例では、シードの挿
入量を増やす、あるいは外照射併用により対処する。
ント療法については、現在、有用性が検討されている。
前立腺癌は局所的療法のみを検討するのではなく、
リンパ節転移のある症例は、明らかにブラキテラピー
浸潤・転移がみられる症例に対してより良い治療を行
単独では対処できないが、Roach's formulaで15%
うことも重要である。
以上の転移が予想される症例に対する外照射+ホルモ
ン併用療法は、篠原先生も述べられたように有効性が
認められている。また、検出されない遠隔転移は、常
につきまとう問題であることはいうまでもない。
患者のリスク評価については、Partin tableが使わ
れ て い る 。 Partin tableは 、 Memorial Sloan
Kettering Cancer CenterとSeattle Prostate
Institute、Arizona Oncologyにより共同開発され
Choline-PET w/ Diffusely Positive Prostate
た。腫瘍のT stage・PSA値・Gleason scoreに
ヨウ素125シード線源による早期前立腺癌の治療
ラピーを単独で行うこともある。この場合、治療体積
A
より被膜外浸潤や精嚢・リンパ節転移を予測するが、
多くの研究結果と同様、実際の被膜外浸潤(EPE)は
通常1∼1.5mm以下の範囲で、それを超えるのはま
れなことに私は注目している。また、これによりブ
ラキテラピー後5年間の非再発率をある程度予測でき
る。さらに、Partin tableよりもRoach's formula
B
のほうがリンパ節転移を高く予測するということは
C
念頭に置くべきであろう。
Courtesy; Hamamatsu / Queens PET Imaging Center
図10-2
MRI with Seminal Vesicle Involvement
Fusion of Choline-PET with CT
Coakley, F. V. et al J Urol (170): 569-76.
図10-1
Courtesy; Hamamatsu / Queens PET Imaging Center
図10-3
10
∼術後の合併症∼
斉藤 史郎
Morbidityについて
Morbidityについて
先生
国立病院機構東京医療センター 泌尿器科 医長
われわれの施設でのブラキテラピーのプロトコール
術前あるいは術後プランニングでは90%以上となる
数ずつで、併用療法は手術の1ヶ月後に行われる。前
のが望ましい。D90は、前立腺全体の90%で最低ど
立腺体積40mL以上では、3∼6ヶ月のホルモン療法
の程度の線量が照射されているかを示す。処方線量以
後に治療を行った。外照射療法併用例では40mLでも
上が推奨され、米国では160Gy程度で治療成績が良
よいが、1,300MBq以下という制限を考えると単独
好とする報告もある。処方線量については、140Gy
療法では35mL以下が望ましい。退院後、外来では
以上がそれ未満よりも治療成績が優れるとされる
LENT-SOMAに基づき尿道や直腸の合併症について問
また、先ほど提示したMount Sinaiグループのデータ
診する。性機能は文書で尋ねる。
通常、晩期の合併症は術後1∼2年にみられるため、
第69回 日本泌尿器科学会東部総会 イブニングシンポジウム
(145Gy)が前立腺体積の何%に到達するかを示す。
を図11-1に示す。単独例と外照射併用例はおよそ半
(図5-3)は160GyのD90を実現させる相関ラインで
あり、それ以下では治療効果が小さく、それ以上では
まだ国内データはない。そこで、最長9ヶ月後まで経
合併症が増えることを示唆している。したがって、わ
過 観 察 し た 、 早 期 の 合 併 症 デ ー タ を 紹 介 す る( n =
れわれは処方線量を145Gy、D90は160Gyとする
150)
。排尿障害のうち尿流低下は、シード挿入後の
ことを目標に治療を行っている。
初期は単独群で強い症状をみるが、外照射療法後は併
しかし、放射線量を多くすると尿道への照射も強
用群が悪化する傾向にある。治療後には全例α遮断薬
くなり合併症は増える(図11-3)。直腸に対しても
を投与し、その後は必要と判断されれば継続する。継
同様な報告があり 8),9)、性機能についても放射線量
続投与は初期には単独例に多いが9ヶ月後でほぼ必要
の増加に伴う合併症がみられるとされている。した
なくなるが、長く投与が必要となるケースは併用群に
がって、ブラキテラピーのプランニングや実際の治
多くみられる
(図11-2右上)
。頻尿は、3ヶ月後あたり
療にあたっては、直腸や尿道への線量を抑えるよう
で併用群のほうが多くなるが、9ヶ月後には両者とも
にすべきであろう。
症状が消失する(図11-2左下)
。疼痛は単独群ではす
ぐ消失し、併用群でもしばらく続くが9ヶ月後になく
なる(図11-2右下)
。尿閉は前立腺が大きく、IPSSの
高い症例にみられるとされるが、われわれの経験
(9例)
では必ずしもそうではなかった。
直腸症状としては、低い率であるが肛門痛があり、
頻便や出血も見られるが頻度は少ない。これらのこと
から、短期的にみてブラキテラピーはきわめて患者に
優しい治療という印象がある。
これらの合併症の要因としては、シードの放射線量
と外照射療法の有無がまず考えられる。そのほか、排
Short Term Morbidity of the Treatment
Monotherapy 79 Cases
EBRT Combination 71 Cases
% 100
% 100
EBRT 45Gy
80
EBRT 45Gy
80
Weak Stream
60
60
40
40
20
尿障害には前立腺体積・年齢・IPSSなども関係する
であろう。性機能に関しては術前のホルモン療法施行
例が多く、経過観察の期間も短いので解析できるのは
先になるであろう。
0
1
3
6
9
M
1
3
6
9
M
% 100
% 100
EBRT 45Gy
EBRT 45Gy
80
80
Pollakisuria
60
60
40
40
20
Voiding Pain
20
0
術前のプランニングや術後1ヶ月の治療評価では、
Administration of
Alpha - blocker
20
0
1
3
6
9
M
0
1
3
Monotherapy
6
9
M
EBRT Combination
V100やD90が指標となる。V100は、処方線量
図11-2
Clinical Stage T2
Risk Factor for Urinary Tract Morbidity
− Maximum Urethral Dose −
800
Max urethral dose(Gy)
Treatment Protocol
Low risk: PSA ≦ 10ng/mL and Gleason sore ≦ 6
Monotherapy of I-125(145Gy)
High risk: PSA > 10ng/mL or Gleason sore ≧ 7
EBRT Combined(I-125 100∼110Gy+EBRT1.8x25=45Gy)
700
600
500
400
300
200
Neo-Adjuvant hormone therapy is usually not performed
unless prostate volume is larger than 40 mL.
11
。
7)
図11-1
0 1 2 3
Urinary morbidity(RTOG)
MSKCC I-125 alone,140-160Gy,1988-1994
図11-3
∼術後の合併症∼
三木 健太
尿閉の問題について
尿閉の問題について
先生
東京慈恵会医科大学 泌尿器科学
われわれの施設においては、2004年7月までに32
ちなみに、図12-5下の尿道造影像は、プランニン
例のブラキテラピーを施行した。平均年齢68歳(53-
グ時のTRUS所見で尿道が非常に変形していることが
77)で平均PSA値は9.66ng/mL(2.9- 34.6)、
わかり、シード挿入時に困難が予想されるため、その
Gleason scoreは6∼7が最も多いが8の症例も3例
対処のために撮像したものである。このような症例で
ほど経験した。
のシード挿入において、何か良策はないものかと検討
中リスク群はGleason score 3+4と4+3に分類
している。
し、前者にはブラキテラピーを単独で行った。後者に
は外照射療法を併用しており、2004年7月までに6
例で行った。図12-1に、そのプロトコールを示す。
治療評価は、術後1ヶ月で撮像したCT像でシードの
位置を確認して行った。それぞれの位置をコンピュー
タに入力すると、前立腺内の線量分布が算出されディ
スプレイに表示される
(図12-2)
。
また、図12-3に、全31例に対するV100とD90
ブは右上がりとなっているかと思う。PSAの経過につ
いても、今後も観察を続けていくが、現在のところは
%
120
Evaluation V100 D90
Gy
200
180
160
140
120
100
80
下降している
(図12-4)
。
尿閉については、31例中2例でみられた。これらの
60
症例では術後に尿道カテーテルを抜いたが、その直後
40
に尿閉になったために再び尿道カテーテルを留置し、
20
1週間後に抜去となった。尿道への照射線量は特に多
0
くはなかった。IPSSも少し高めであったが際立って
100
80
60
40
01
3
5
20
0
9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29 31
cases
V100(%)
はいなかった。ただし、ピークフロー値(PF)が低い
ことは特に目立った所見である
(図12-5)
。
7
D90(Gy)
図12-3
Indication(PSA<20 and ≦T2a)
PSA interval in months
ヨウ素125シード線源による早期前立腺癌の治療
のランニングカーブを示す。経験を積むごとに、カー
14
GS≦3+4
I-125 SI 144Gy.
monotherapy
12
10
8
GS=4+3
EBRT 45Gy + I-125 SI 105Gy
Combination therapy
6
4
GS≧8
No indication
2
0
図12-1
i-PSA
PSA3
PSA6
図12-4
Side effects
Acute Urinary retention (2 cases)
case
1 62y
2 67y
Prostate volume
31.69
24.58
#seed
85
69
IPSS
13
14
qol
4
4
PF
7
5
RV
72
12
case 1
図12-2
図12-5
12
∼術後の合併症∼
篠原 克人
尿閉と直腸症状の問題について
尿閉と直腸症状の問題について
先生
Professor, Department of Urology, University of California, San Francisco
尿閉の症例では、尿道が湾曲状あるいはS状にシフ
直腸障害はまれであるが、ときに尿道直腸瘻をみ
線量が高くなり、その部分に浮腫を生じて尿閉となる
ることがある。図13-3では広範な潰瘍を認めるが、
と考えられる。
これが次第に拡大し瘻となる。また、図13-4の症
ブラキテラピーではこうした尿路症状が問題となる
例は直腸壁がかなり盛り上がっている。 一 般に前立
が、頻尿に代表される急性期の症状が術後7∼10日に
腺頂部では直腸は盛り上がるが、たとえばF1(朱色
みられる。こうした場合にはα遮断薬を投与し、症状
の矢印)ではニードルが直腸の筋層より内側に刺入さ
が強ければメチルプレドニゾロンを短期投与する。ま
れる。シードは、前立腺内に留置されれば問題ない
た、通常は痛みがなくともNSAIDsを投与する。
が、直腸に落ちるとかなりの線量を与える。さらに、
2,124例を対象としたブラキテラピー後の尿路症状
第69回 日本泌尿器科学会東部総会 イブニングシンポジウム
たがって、この部分は数mm外しておくのが好ましい。
トしていることが多い。このような尿道は一部で照射
前立腺正面に直腸が上がる症例をみることもあり、
に関する報告によると、14.5%という高い確率で尿
いずれにしても正中線近辺のニードル刺入は充分に
閉が生じ、6.6%に尿失禁がみられたとしている 10)。
注意すべきであろう。
UCSFでも治療開始から尿閉の発症率を調査している
直腸症状を呈したら、出血時にはなるべく軟らかい
が、初期では尿道の位置に注意することなく行ってい
食事とし、抗炎症薬としてメサラミンやステロイドの
たため20%程度という高率でみられていた。現在は
坐薬を投与する。大量出血時にはアルゴン凝固法やホ
1%程度まで低下している。
ルマリンアプリケーションを行うが、なるべく避ける
術後1∼3年でみられる尿道狭窄は術後に尿閉とな
べきであろう。生検は潰瘍を生じることがあるため、
った症例に多く、尿閉が治癒しても1∼2年後に前立
それは絶対に避ける。潰瘍を認めたら、ただちに高圧
腺頂部や膜様部尿道で狭窄を認めることがある。図
酸素療法を保存的に行う。
13-1に膀胱鏡所見を示すが、強い放射線照射による
いずれにしても、合併症の予防にあたっては、ニー
尿道障害が明確で、このような症例では狭窄は避けら
ドル刺入時、特に前立腺頂部や膜様尿道部の位置を充
れない。図13-2の矢印で示す正中線に近い4本のニー
分に考えることが重要である。
ドルは膜様部尿道を挟む位置にあり、これらで挿入さ
れたシードが前立腺の外側、しかも尿道の真横へ落ち
るときわめて高い線量が膜様部尿道に照射される。し
Urethral stricture
図13-1
Pay attention to the anterior needles!!
Rectal ulcer after brachytherapy
図13-3
Rectal wall elevation at apex
These needles may leave seeds near the
membranous urethra!!
Rectum
13
図13-2
図13-4
John L. Lederer
∼総括∼
M.D.
Medical Director, Radiation Therapy, The Queen's Medical Center,
Associate Professor, Department of Surgery, University of Hawaii
(和訳監修 昭和大学医学部 泌尿器科学 森田 將 先生)
われわれの施設では1998年12月から2004年6月
モン療法を術前に行った症例が多いことを反映してい
まで、506例に対してブラキテラピーを単独あるいは
る。挿入したシード数は、平均して約100∼110個で
外照射療法と併用で行ってきた。そのうち132例が日
あった。
系人で、これらの症例を5年以上にわたって追跡調査し
初 期 P S A 値 を 治 療 法 別 に み ると、 単 独 群 で 平 均
ている
(追跡調査期間の中央値は約3.5年)
。ほとんど
7 . 5 n g / m L 、併 用 群 で 平 均 1 0 . 3 n g / m L で あった
はⅠ-125シードによって治療されたが、開始当初の 一
(図14-3)
。 一 方、初診時PSA値ごとに症例数をみる
部の症例にはPd-103シードを用いている。132例中
と、≦4.0ng/mLが10例、4.1∼10.0ng/mLが68
単独群は53例で、併用群は79例である(図14-1)
。
例、>10ng/mLが54例で、単独群は低く併用群は高
患者は低・中・高の3リスク群に分類され、それぞれ
い傾向があった(図14-4)
。
Gleason scoreについては、行った治療法別にみる
70歳で、初期PSA値は低リスク群で低く、高リスク群
とこちらも平均して併用群のほうが高かった(図14-5)
。
ではかなり高い。臨床病期のT stageはだいたい同様
Gleason scoreごとの症例数をみると6以下が61例、
で、Gleason scoreは中リスク群と高リスク群で高く
7 以 上 が 7 1 例 で あった が 、 単 独 群 の ほ と ん ど が
なっている。また、高リスク群における平均前立腺体積
Gleason score≦6に分類され、逆に併用群のほとん
は30.7ccと他のリスク群よりも小さいが、これはホル
どがGleason score≧7に分類された(図14-6)
。
Distribution of Patients by Risk Groups
Distribution of Initial PSA Levels
# of patients
68
70
Treatment group
Monotherapy
EBRT+Boost
No. of I-125 patients
No. of Pd-103 patients
No. hormone Tx.
44
9
19
59
20
55
No. of overall patients
53
79
50
31
30
15
20
10
7
0
39
37
40
10
図14-1
54
60
Primary
Boost
Total
3
4.1-10
≦4
>10
Initial PSA level ( ng/mL )
図14-4
Characteristics by Risk Groups
Gleason Score by Implant Type
ヨウ素125シード線源による早期前立腺癌の治療
のプロファイルを図14-2に示す。平均年齢はおよそ
Mean Gleason Score
Risk Group
Parameters
Age at Implant ( yrs. )
initial PSA Level ( ng/mL )
Gleason Score
Tumor Stage
Ultrasound Volume ( cc )
No. of Seeds used
Low
n=40
Intermediate
n=57
High
n=35
68.9
6.1
5.1
T1c-T2a
38.9
113
69.0
9.5
7.1
T1c-T2b
36.8
109
72.1
18.8
8.0
T1c-T3
30.7
99
7.0
7.0
6.8
6.6
6.4
6.0
6.2
6.0
5.8
5.6
5.4
図14-2
Primary
Boost
Implant type
図14-5
Initial PSA Level by Implant Type
Distribution of Gleason Score
Median PSA level
(ng/mL)
12
61
70
10.3
62
Primary
Boost
Total
60
7.5
# of patients
10
71
80
8
6
50
44
40
30
17
4
20
2
10
9
0
0
Primary
図14-3
Boost
≦6
Implant type
図14-6
≧7
14
Gleason score≧7に分類された単独例も少数あるが、
それらは重度な合併症があるなどの理由によるものや、
あるいはGleason score 3+4という症例である。
ここまで検討してきた日系人の症例ついて、2004
年9月現在の成績がまとめられている。低リスク群の生
臨床病期T stage別の症例数では、全体2/3に相当
化学的非再発率は術後1,800日で100%であり、前立
する87例がT1c
(触診や画像所見で検出されない)
で、
腺癌死症例は1例もない。非再発率は中リスク群で
残りの大多数はT2a
(触診や画像所見で検出され、前立
98%、高リスク群で92%であるが、高リスク群では
腺片葉の1/2以下に限局する)
であった(図14-7)
。行
ホルモン療法により障害の 一 部がみえないという可能
った治療法ごとに各リスク群の割合をみると、単独療法
性もある(図14-11)
。
の半数以上は低リスク群で、中リスク群は36%、高リ
結論として、ブラキテラピーは安全であり、前立腺癌
スク群は少数であった。一方、併用療法では中リスク群
に対する有効な治療であるとわれわれは確信している。
や高リスク群が多くを占める傾向があった(図14-8)
。
先述のように、行うにあたって医療側は泌尿器科医と放
図 1 4 - 9 は 、 治 療 法 別 の V 1 0 0 と D 9 0 を 示 す。
第69回 日本泌尿器科学会東部総会 イブニングシンポジウム
べたが、明確な解答は得られていない。
射線腫瘍医、医学物理士を含む専用のチームを常駐さ
V100は平均87.5%で、単独群と併用群で大きな差は
せなければならない。日本と同様に米国でも患者の治
みられなかった。D90は、単独群で処方線量の93%
療QOL向上を求める声は大きい。そして、これがブラ
に相当する134.8Gy、併用群では処方線量の96%に
キテラピーを促進する原動力となっている。
相当する105.4Gyであった。これらの治療パラメータ
V100
の分析には前立腺体積も用いたが、20cc未満、20∼
D90
50cc、50cc以上のいずれも術者の能力に違いはみ
られなかった。
Mean V100
尿道への線量については、われわれは処方線量の
Primary
Mean D90 for I-125 Implants
87.7
120∼130%とすることを目標としており
(図14-10)
、
かつては150%としていた。術後の尿路症状の予測は、
Boost
87.3
きわめて難しい。これには、尿道の画像所見を得る場
合、留置したカテーテルで尿道がまっすぐになってしま
い、本来の位置を把握しにくくなるためと考えられる。
134.8
(93% Rx dose)
Primary
105.4
(96% Rx dose)
Boost
Total
87.5
85 85.5
86 86.5
87 87.5
88
0
20 40 60 80 100 120 140 160
ニードルの刺入数も重要かもしれない。ほかにも、前
立腺の体積や術前後で移動してしまう領域などを全て調
図14-9
Distribution of Clinical T stage(AJCC 1997)
Urethral Dose
# of patients
Mean Urethral Dose
87
90
80
70
60
50
Primary
48
Boost
42
39
181.3
(125% Rx dose)
Primary
Total
40
30
29
20
13
141.6
(129% Rx dose)
Boost
1 2 3
10
0
T1c
T2a
T2b
T stage ( AJCC 1997 )
図14-7
0
50
100
150
200
図14-10
Primary Implants
6%
Biochemical Survival Rates
with Japanese Patients
Percent Survival ( % )
36%
58%
100
80
Boost Implants
11.4%
Low Risk
Intermediate Risk
High Risk
40.5%
48.1%
15
図14-8
60
Low risk group;100%
Intermediate risk group;98%
High risk group;92%
40
20
0
図14-11
Time post implant ( days )
200
400
600
800
1000 1200 1400 1600 1800
ケーススタディ
CASE 1-PCA
頴川先生:CASE 1とほぼ同じプロファイルでT2bの
症例ですが、ブラキテラピーの適応となる
◇ 76歳、男性
◇ T1c
◇ Gleason score 6(3+3)
、
2/8 cores(組織を8ヶ所で採取。2ヶ所が癌)
◇ PSA 5.3ng/mL
◇ 前立腺体積 34cc
◇ IPSS 8、ED(勃起不全)
症例でしょうか?
斉藤先生:ブラキテラピーは放射線が前立腺全体に均
一に照射されるので、基本的に被膜外転移
がなく前立腺内に癌が限局していれば、適
応になると思います。ただし、再発のリス
クはやや高くなると考えられます。
頴川先生:米国ではASTROがoverall survivalを基準
としたリスク分類を提唱しているとうかが
頴川先生:ブラキテラピーの適応となる低リスク例で
すが、follow upはいかがでしょう?
Lederer先生:ブラキテラピーを行った低リスク群の
症例では、追跡調査はPSAだけで充分です。
調査は、最初の2年は約3ヶ月ごと、その
いましたが、この症例はその分類ではどう
位置付けられるでしょう?
篠原先生:人によって意見も異なるでしょうが、低リ
スク群だと思われます。
Lederer先生:私も低リスク群でよいと思います。
後は問題がなければ6ヶ月ごとでよいでし
頴川先生:もし、年齢が52歳ならいかがですか?
篠原先生:やはりPSAだけで充分でしょう。PSA上
昇を認められてlocal failureが疑われるな
らば、生検をしたほうがいいかもしれませ
ん。このとき、PSA flareとの違いをよく
見極める必要があります。通常のfollow
upでは生検はめったに行いません。
頴川先生:52歳でも、積極的にブラキテラピー単独
CASE 3-PCA
◇ 76歳、男性
◇ T1c
◇ Gleason score 6(3+3)
、
8/8 cores
◇ PSA 5.3ng/mL
◇ 前立腺体積 34cc
◇ IPSS 8、ED
を勧めるのですね?
篠原先生:患者さんが望めば、もちろん行います。
頴川先生:では、CASE 1の患者さんの生検結果で
頴川先生:医学的な適応についてはどうでしょう?
8ヶ所とも陽性、つまり癌がある程度大
篠原先生:構わないと思います。
きいと予測されます。この場合はいかが
頴川先生:三木先生のご意見はいかがですか?
でしょう?
三木先生:長期の成績を経験していないので多くを語
Lederer先生:前立腺内での癌の大きさを評価するこ
れませんが、5∼10年後に前立腺癌が再発
とは重要ですが、この症例はそれをよく示
しても、わが国ではホルモン療法しか選択
しています。PSA5.3ng/mLとGleason
肢がないでしょう。その場合にどうするか
score 6という所見だけをみれば低リス
を患者さんとよく相談し、それでも希望さ
クと評価されますが、8/8 coresですか
れるのであればブラキテラピーを行っても
ら癌は広範囲に及んでおり、私なら中リ
いいのではないでしょうか。
スク例と評価します。また、この症例の
篠原先生:おっしゃっているのは、ブラキテラピー後
コア数に基づくと前立腺被膜外浸潤の疑
の局所再発ですね。しかし、そうしたこと
いもあり、高リスク例である可能性も強く
はきわめてまれですから、ほとんど局所治
考えられます。そうなると、いずれの治療
療は必要とはなりません。
法を用いても前立腺と周辺組織がターゲ
ヨウ素125シード線源による早期前立腺癌の治療
ょう。
ットとなるでしょう。したがって、この症
CASE 2-PCA
例には外照射療法とブラキテラピーの併
用が推奨されます。
◇ 76歳、男性
◇ T2b(癌が前立腺片葉に限局している)
◇ Gleason score 6(3+3)
、
2/8 cores
◇ PSA 5.3ng/mL
◇ 前立腺体積 34cc
◇ IPSS 8、ED
篠原先生:私は、8ヶ所すべてで陽性であっても、そ
れが1mm以下の癌である場合と大きな固
形癌である場合では、だいぶ治療の選択
が違ってくると思われます。
頴川先生:先ほどのご講演で、生検での陽性率60%
以上を高リスク群とする施設もあるとうか
がいました。生検の陽性率と癌病変の関連
16
性について、コンセンサスはありますか?
篠原先生:おそらく、ないと思います。
篠原先生:適応にはならないでしょう。仮に陰性であ
っても、この段階で踏み切って局所治療を
行うのはリスクがあると思われます。
CASE 4-PCA
◇ 76歳、男性
◇ T2b
◇ Gleason score 7(4+3)、
2/8 cores
◇ PSA 5.3ng/mL
◇ 前立腺体積 34cc
◇ IPSS 8、ED
Lederer先生:この症例は、いくつかの点で興味深く
思います。まず患者の年齢です。以前、若
年患者に関してDr. Blaskoは私とのディス
カッションで、現在までにブラキテラピー
後のリスクを上昇させる新たな要因は見当
たらないので、年齢の下限を設けず行って
いる、と述べていました。しかし、この患
者の余命は長いと予想されますから、私は
慎重に治療法を選択します。また、PSAの
第69回 日本泌尿器科学会東部総会 イブニングシンポジウム
上昇も興味深い点です。われわれがブラキ
頴川先生:今度は、Gleason score 7
(4+3)
の症例
です。いかがでしょう。
テラピーを行った日系人の症例のうち、
14例でPSAが3回以上連続して上昇しま
三木先生:われわれは、Gleason score 7を3+4と
したが、そのうち12例はその後単に経過
4+3に分けて、4+3群は中リスク群と判
観察するだけでPSAが再下降しました。術
断してブラキテラピーに外照射療法を併用
後かなりの期間が経過した後にみられた状
しています。
態でしたが、これはいわゆるPSA bounce
頴川先生:Gleason score 7を4+3と3+4に分け
る、という考え方にご意見はありますか?
です。
また、局所療法を行おうとするのであれば、
斉藤先生:われわれはどちらもGleason score 7と
少しでも疑問があるのなら生検をすること
しています。Gleason scoreのとらえか
が重要でしょう。もちろん、PSAがまだ比
たにもよるでしょうが、Gleason score
較的低くて生検が陰性であっても、再発し
7の症例には外照射療法を併用しています。
ているかもしれません。しかし、画像診断
はリンパ節転移や遠隔転移を完全に評価し
CASE 5
◇ 術後4年でPSAが上昇
きれるわけではありませんし、まして本症
例で原発巣に対する局所療法を検討するの
であれば生検をするべきでしょう。
篠原先生:生検の結果が陰性の場合はいかがですか?
◇ 現在は56歳(男性)
Lederer先生:私でしたら、陰性か陽性かということ
が決め手ではないと患者に説明します。
◇ PSA最低値 0.2ng/mL
PSA nadirが低い症例では、PSA再上昇
が比較的低い値で生検結果が陰性でも局所
◇ 現在のPSA 3.5ng/mL
再発が考えられます。また、治療から長期
間後の再発では、PSA上昇は比較的低い値
頴川先生:CASE 1では、提示した症例が52歳だった
で始まります。したがって、患者が再発時
ら、という前提でのディスカッションをし
の治療について理解していれば、必ずしも
ましたが、今回のケースはその症例が4年
癌を局所的に立証する必要はないでしょう。
後にPSA failureを起こしたというもので、
このとき患者に説明すべき内容は、再発時、
現在のPSAは3.5ng/mLです。どのよう
通常は経過観察の後にホルモン療法を行
な治療の選択肢が考えられるでしょう?
い、他の治療法は長期データが不足してい
篠原先生:PSA flareは術後2年までに多いのですが、
ということです。しかし56歳でPSAが良
このケースでは、まず良性のflareであるか
好であれば、私も積極的な治療を選ぶでし
どうかを確認します。明らかに生化学的な
ょう。漫然とホルモン療法を行って結果的
flareであれば、何が原因であるのか、そし
に効果なし、ということにはしないと思い
て局所再発か転移か見極めなくてはいけま
ます。したがって患者が状況を理解してい
せん。そうなれば生検の必要があります。
る限り、生検が陰性であっても局所療法を
頴川先生:生検の結果が陰性だったら局所治療の適応
になりますか?
17
るため、
現時点ではある程度実験的である、
何年経過しても生じる可能性はあります。
行うことは可能だと思います。
〈メ モ〉
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ヨウ素125シード線源による
早期前立腺癌の治療
日本
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