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バーチャルドルビーシステムについて

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バーチャルドルビーシステムについて
バーチャルドルビーシステムについて
− おもな特徴とそのライセンス −
ドルビーラボラトリーズインターナショナルサービスインク
伏木
雅昭
バーチャル技術のインフラストラクチャ
●マルチチャンネル音響
立体音響が映画というメディアの中では長い歴史を持ち、1950 年代から多くの 70mm 大型映画
などでマルチチャンネルサウンドトラックが作られてきたことはすでにご存知と思います。この
マルチチャンネル音響が広く一般的な注目を集め、親しまれるようになったのは 1976 年の『未
知との遭遇』と『スターウォーズ』というふたつの SFX 映画でのドルビーステレオの成功以来と
言っても良いでしょう。ドルビーステレオ方式はマトリックス 4 チャンネルをベースとした技術
で、伝送系が 2 チャンネルであったため、ステレオ機器を活用しての家庭での手軽なサラウンド
音響の展開という道を敷くことを可能にしました。
現在では、市販パッケージビデオの大半はドルビーサラウンド方式を採用しており、デコーダ製
品の出荷累計も 1985 年以来昨年までに 3,000 万台を越えています。ドルビー技術の許諾製品の
内訳を見ても、最近ではカーステレオ、ヘッドフォンステレオに続いてサラウンド機器は第 3 位
のシェアを持つまでに成長しており、家庭でのマルチチャンネル再生という枠組みそのものは少
なくとも認知されたものとなって、市場でも一定の市民権を獲得しているというのが現状です。
近年バーチャルが関心事として上ってきたのも、こうしたマルチチャンネルのインフラが存在す
るからに他なりません。
●デジタル技術
バーチャルを支えるもう一つの側面はデジタル技術です。マルチチャンネル音響も映画では 1992
年、家庭用機器としては 1995 年(レーザーディスク)のドルビーデジタルの導入により新しいステ
ージを迎えました。チャンネル間セバレーションが格段に向上し式を採用しており、デコーダ製
品の出荷累計も 1985 年以来昨年までに 3、000 万台を越えています。ドルビー技術の許諾製品
の内訳を見ても、最近ではカーステレオ、ヘッドフォンステレオに続いてサラウンド機器は第 3
位のシェアを持つまでに成長しており、家庭でのマルチチャンネル再生という枠組みそのものは
少なくとも認知されたものとなって、市場でも一定の市民権を獲得しているというのが現状です。
近年バーチャルが関心事として上ってきたのも、こうしたマルチチャンネルのインフラが存在す
るからに他なりません。
●デジタル技術
バーチャルを支えるもう一つの側面はデジタル技術です。マルチチャンネル音響も映画では 1992
年、家庭用機器としては 1995 年(レーザーディスク)のドルビーデジタルの導入により新しいステ
ージを迎えました。チャンネル間セバレーションが格段に向上し、ステレオサラウンドチャンネ
ルを含むいわゆる『5.1 チャンネル』となって音場空間表現は著しく向上しました。この恩恵は
劇場以上に家庭環境において刺激的なもので例えば DVD ビデオでは映画以外の音楽ソフトのマ
特集:2 チャンネル 2 スピーカーによる 3D 再生
JAS 1998-04: P1
ルチチャンネル化が現実に米国では始まっています。こうしたソフトの今後の充実も、やはりバ
ーチャル製品の立地条件を整備する意味において欠かせない環境と言えるでしょう。マルチチャ
ンネルの伝送方式や処理技術そのものがデジタルに変わったことで、高度なバーチャル処理機能
もデコーダ DSP の中の一部の処理能力を借りることで身近に実現できるようになったのは、デジ
タルなればこそでしょう。
ドルビーから見たバーチャルの特長と定義
ドルビーサラウンド及びドルビーデジタルというふたつの技術によってマルチチャンネルのプロ
グラムを提供してきたドルビー社にとって、バーチャルは明確なマーケティングコンセプトとラ
イセンスポリシーの下で管理すべき対象となる技術です。具体的には、バーチャルドルビーシス
テムは
『パーソナルな機能』で、かつ『再生型プロセス』であるというふたつの特徴でその技
術を捉えることができます。
バーチャルサラウンド最大の利点は言うまでもなくフロントスピーカー2 本だけで 360 度の立体
音場を再現できることにあります。従って通常であれば住環境の制約などから四方にスピーカー
を配置することが不可能なユーザーに対してマルチチャンネルプログラムの醍醐味を提供できる
ことになり、しかもステレオセットと表面上同じシステム構成の中で手軽にそれが実現できます。
このことは新しい『バーチャル』が AV 製品として市場に参入する時、従来の『ホームシアター』
製品に置換的にではなく、これまで直接訴求できなかった購買層に対して拡大的に機能する商品
としての位置づけを可能にします(図 1 参照)。
機能的に見ても、この技術が左右のスピーカーとリスニングポイントとの精密な関係の中で実現
されることから、複数のリスナーにサービスが提供できるマルチチャンネル・マルチスピーカー
による正統派ホームシアター機器とは異なり、あくまでも一人のリスナーがプログラム鑑賞する
環境での適正効果の発揮を特徴とする技術ですから、パソコンやミニコン、さらにはパーソナル
AV など、これまでマルチチャンネル再生そののが対象外であった市場に拡大戦略的にアプローチ
する手段となります。
ドルビーサラウンドとドルビーデジタルはバーチャルドルビーを加えることで初めて、それぞれ
がオーディオ機器の入門層・標準層・究極層を分担する形で網羅する、マルチチャンネル音響の
パラダイムを完成させます。
バーチャルドルビーシステムが他の 3D 方式と大きく一線を画すのは、他方式が通常のステレオ
として作られたプログラムから音場を展開する『再生創造型』であるのに対し、あくまでも映画
や民生用パッケージの形で提供されたマルチチャンネルコンテンツをデコードするドルビーデジ
特集:2 チャンネル 2 スピーカーによる 3D 再生
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タルもしくはドルビーサラウンドの再生プロセスを追って忠実に音場再現を行う点にあります。
バーチャルドルビーは構造的にはドルビーサラウンドまたはドルビーデジタルのデコーダ出力に
付加される回路であり、それらの正規マルチチャンネル出力を受けてそこから信号処理を行いま
す。従ってドルビー社の根幹技術はすべて『記録・再生型』の一環システムである一方、その中
でバーチャル機器は『再生回復型』プロセスと限定して位置づけされます。言い換えれば、バー
チャルはあくまでも最終再生出力段に限定された処理回路であって、バーチャル処理後の信号を
伝送系や記録メディアに乗せることは少なくともバーチャルドルビーとしてはあり得ないことに
なります。
バーチャルドルビーのライセンス
ドルビーのライセンスは特許・ノウハウ・商標の使用などを一括パッケージで契約するシステム
となっています。バーチャルについても基本は同じアレンジですが、再生効果をシミュレートす
る技術であることから、独特な対応も盛り込まれています。リスナーの背後に音像を定位させる
技術そのものは特に新しいというわけではなく、例えばシュレーダー/アタムの研究論文(1963 年)
など、過去に様々な試みが行われています。ドルビーが最低限の効果を再現できる処理方式を完
成してライセンシーに提示するより早く、すでに複数の会社から異なる処理方式が提案されてい
ました。しかも、4 ないし 5 の入力からその音場効果を 2 チャンネルに変換処理する手法は目的
や対象により一様とは限らないことも事実です。路線選択としてはバブリックドメイン技術のみ
でシステムを構築することも、自社の開発技術を盛り込むことで独自性をアピールすることもで
きるでしょう。ただ、多方式が乱立して市場が求心力を失ったケースは 4 チャンネル時代にすで
に経験しています。ドルビー社の立場からはこれらの機能があくまでもドルビーサラウンドとド
ルビーデジタル再生での便宜性を目的とするものである以上、これら商品をひとつの統一ロゴの
下に束ねて市場認知を図ることが総合的にメリットにつながると考えて、ドルビーの技術に限定
せず、技術的な性能評価により方式認定を行い、その効果と性能が基準をクリアしたものについ
ては最終製品にバーチャル・ロゴの使用が許諾されます。現在認定されているプロセスは 11 方
式に上ります。(各汎用方式の詳細は峯岸氏の別稿を参照ください。)
音場感の定量的評価法もまだ確立されていない現状では、効果判定も多分に試聴に頼ることにな
りますが、プロセス認定されたディバイスを実装する最終製品では、パルス系試験信号を使って
処理結果の一致性を確認する簡単な試験が行われ、これを社内では『指紋判定』と呼んでいます。
最近ドルビーではヘッドフォン再生によるバーチャルシステムについても認定を行いました。ヘ
ッドフォン型についてはまだケースバイケースでの対応ですが、正規ホームシアター製品の中に
同居できる合理的理由を持つバーチャル機能であるという点ではスピーカー再生とは異なった意
特集:2 チャンネル 2 スピーカーによる 3D 再生
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味で興味が持たれる技術です。
マルチチャンネル製品のデコーダライセンス実施料はドルビーサラウンド・プロロジツクの場合
2.75 許諾回路、5.1ch ドルビーデジタルで 5.0 許諾回路です。バーチャル製品でも内部的にはこ
れらのデコード出力を必要としていますが、製品出力チャンネル数が少ないことを配慮してバー
チャルドルビーサラウンドは 2.0 許諾回路、バーチャルドルビーデジタルは 3.0 許諾回路とし、
できるだけコスト負荷をステレオに近く抑える計算システムとしています(表 1)。各バーチャライ
ザの専有技術については当該ライセンサーとのアレンジが別途必要となります。
繰り返しになりますが、バーチャル機能をマルチチャンネルが手軽に楽しめる足掛かりと位置づ
けた場合、DAC・アンプ・スピーカーのチャンネル数節約によるシステムコストメリット、機器
調整や接続の簡略化と設置場所の自由度という利便性が消費者の納得に足るものなら、後はソフ
トのサボートを強化していくことで市場は育つでしょう。もともと 2 チャンネル製品の市場規模
はマルチチャンネルとは比較にならないほど巨大ですから、バーチャルのポテンシャルは高いと
言えます。
製品企画の面で注意を要することは、ドルビーデジタルのマルチチャンネル再生機器では原則と
してプロロジック機能の搭載も義務づけられていることです。これはドルビーデジタルが包括的
上位システムであると位置づけられているためで、ドルビーがマルチチャンネルのマーケットに
取り組んできた際の根幹的思想となっています。従って、バーチャルドルビーデジタルについて
も同様にバーチャルドルビーサラウンド機能を包括することが求められています。
バーチャルドルビーのシステム技術
ドルビー社自身が提供するバーチャルアルゴリズムはシンプルな処理規模の中で最低限必要な効
果を確保することを目的として構成しています。その規模は用いる回路の構成により 5∼7MIPS
に収まり、この値は各社バーチャライザの中でも軽い部類に入ります。
バーチャル効果を実現する処理システムの基本形がクロスフィード回路です。一般に 2 本のスピ
ーカー再生ではそれらを結ぶ線上以外での定位は困難とされます。それは遠い方のスピーカーか
ら反対側の耳に届く信号分が自由定位の妨げとなるためで、その信号に一致するキャンセル信号
成分をもう一本のスピーカーから出力させて相殺するのがクロスフィードです。キャンセル成分
を出力すると、そのキャンセル分もさらに他方のスピーカーから生成しなければならず、ちょう
ど鏡の中に鏡を写していくようなループ的構図となりますが、これは IIR フィルター構成では比
較的簡単に実現できます。
特集:2 チャンネル 2 スピーカーによる 3D 再生
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両耳での信号差は基本的には片方の基準音に対して若干の時間遅れとレベル低下を伴った成分と
の差ですが、ある程度距離を隔てた音源からの音響的減衰は周波数依存的であるため、これを補
償する 1 次シェルビングフィルター特性をクロスキャンセル回路に取り込んでいます(図 2 参照)。
クロスキャンセル成分の加算と最大 5.1 チャンネル信号の 2 チャンネルへのダウンミックスには
出力信号のクリップを伴う恐れがあります。浮動小数点著しくは 24 ビット演算などの処理系で
あれば、単純な出力リミッターでも十分ですが、16 ビット演算回路などの場合はクロスキャンセ
ラー出力系と最終ミキシング出力段にそれぞれ周波数依存型リミッターを配すなどしてダイナミ
ックレンジ管理に配慮を要します。例示の回路で、入カプリエンファシス特性をクロスキャンセ
ル部のフィルターと整合させているのもそうした目的のひとつです。
サイドチェーンではクリップ検出を行い最大 20dB までのレベルスケーリングを行うよう可変利
得ディエンファシス回路を制御しています。リミッターのリカバリーは信号振幅の減衰に合わせ
てできるだけ自然に、ゆっくりとした動作設定を選んでいます。
最終段はクロスキャンセルを経由したサラウンド信号を他のフロントチャンネル信号と合成して、
2 チャンネル出力を作るダウンミックス部です。ドルビーデジタルやドルビーサラウンドの場合、
フロント 3 チャンネルの信号には特に処理も必要とせず、至って単純なミキシングだけで定位が
確定できます。(パソコンなどで L/R スピーカーの間隔が狭い場合、若干の位相処理を加えます。
なお、LFE はミキシングに加えていません。)
ダウンミックス部のリミッターもクロスキャンセ
ルと同様の構成で機能します。
特集:2 チャンネル 2 スピーカーによる 3D 再生
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