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早稲田大学大学院 理工学研究科

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早稲田大学大学院 理工学研究科
早稲田大学大学院 先進理工学研究科
博士論文審査報告書
論
文
題
目
A STUDY OF THE FUNCTION OF CDK5 IN
OLIGODENDROCYTES DIFFERENTIATION BY USING
CONDITIONAL KNOCKOUT STRATEGY
条件付きノックアウト法を用いたオリゴデンドロサイト
の分化における Cdk5 の機能に関する研究
申
請
者
Xiaojuan He
何 暁娟
生命医科学専攻
2011年
1
分子神経科学研究
7月
Cyclin-dependent kinase (Cdks)は、細胞分裂を制御するプロリン指向性セリン・
スレオニンキナーゼファミリータンパク質である。Cdk5 はこの Cdk のメンバーであ
り、すべての細胞に発現しているが、最終分裂を終えた神経細胞に高い活性が認めら
れるユニークなキナーゼである。これまでに多くの研究が Cdk5 の神経細胞における
機能解析として行なわれてきた。Cdk5 欠損マウスでは、神経細胞の移動が障害され、
大脳の層構造が逆転するという異常を呈する。Cdk5 はその他さまざまな神経細胞の
発達の過程で重要な働きを行なっている。近年、神経細胞以外の細胞においてもその
機能が推定されている。本研究ではオリゴデンドロサイトにおける機能を個体レベル
で解析している。
オリゴデンドロサイトは、脊椎動物の中枢神経系の有髄神経線維において、ミエリ
ンを形成する細胞である。絶縁体であるミエリン鞘で軸索を取り囲み、跳躍伝導によ
る速い神経伝達を可能にしている。オリゴデンドロサイトの発達は胎生後期より、生
後の早い時期に起きる。Cdk5 欠損マウスが出生直後までの致死であるために、Cdk5
欠損マウスを用いて、オリゴデンドロサイトの発達への Cdk5 の関与を検討すること
は不可能である。そこで本研究では、条件付きノックアウト法を用いて、Cdk5 のオ
リゴデンドロサイトの発達への関与を検討している。本研究では、大脳皮質の神経細
胞、アストロサイト、オリゴデンドロサイトの Cdk5 を欠損させた条件付きノックア
ウトである Emx1-cKO マウスと、神経細胞だけの Cdk5 を欠損させた条件付きノック
アウトである CaMKII-cKO マウスのオリゴデンドロサイトの増殖、分化などを検討す
ることにより解析を行っている。
第1章では、研究の背景、これまで報告された事柄について述べている。Cdk5 は神
経細胞に高い活性があり、神経細胞の発達や機能発現において重要な働きを行なって
いることを、これまでの研究報告をもとにまとめている。引き続いて、オリゴデンド
ロサイトの発生・分化について、最近の知見をまとめている。オリゴデンドロサイト
は、その前駆細胞から Oligodendrocyte precursor cells (OPCs)となり、OPCs が増殖
して、また大脳皮質へと移動するが、その起源には胎生 11.5 日目からの medial
ganglionic eminence (MGE) および ventral anterior entopeduncular area (AEP) 、
胎生 15 日目からの lateral and caudal ganglionic eminences (LGE and CGE) があ
り、さらに生後の大脳皮質の subventricular zone (SVZ) からのものがあることが知
られていおり、これらが、OPC より分化し、未熟なオリゴデンドロサイト、成熟した
オリゴデンドロサイトとなる。Olig2 は OPC、PDGFRa は未熟なオリゴデンドロサイト、
MBP, PLP, MAG は成熟したオリゴデンドロサイトのマーカーであることを示している。
さらにヒト疾患での、ミエリン形成不全と脱髄疾患の違いを説明し、それぞれの代表
的な疾患について言及した。以上研究の背景が適切に説明されていた。
第2章では、本研究の目的が述べられている。オリゴデンドロサイトの培養系で、
分化とともに Cdk5 の活性が上昇すること、Cdk 阻害剤により移動や分化が障害され
るなどの先行研究により、Cdk5 がオリゴデンドロサイトの増殖、移動、分化に関係
しているとしながらも、実際の個体レベルではまだ検討されていない状況であること
を明らかにしている。本研究で、in vivo での機能を明らかにすること、そのためには
Cdk5-/-の胎生致死を解決する条件付きノックアウトを用いることの必要性が明確に示
された。
第3章では、具体的な実験方法が示された。Cdk5KO マウス、Emx1-cKO マウス、
CaMKII-cKO マウスの作成法、その他の in situ hybridization や免疫染色法などの組
織学的実験方法、ウエスタンブロットなどの生化学的実験方法が詳細に示されている。
第4章では実験結果について述べられている。最初に Emx1-cKO マウス、CamKIIcKO マウスの大脳皮質と小脳の成熟したオリゴデンドロサイトのマーカータンパク質
2
である CNPase のタンパク質量を野生型のそれと比較し、Emx1-cKO の大脳皮質で低
下しているものの、CaMKII-cKO の大脳皮質では野生型と差がないことが示された。
次に Cdk5 欠損マウスにおける大脳皮質の一定面積あたりの Olig2, PDGFR陽性細
胞数について in situ hybridization 法で野生型と比較検討し、差がないことを確認してい
る。さらに Emx1-cKO でもこれら OPC、未熟なオリゴデンドロサイトの数に差がない
ことを、生後3日目と12日目で確認している。これらの結果から、OPC の増殖や移
動には障害がないことを明らかにしている。次に14日目の Emx1-cKO の大脳皮質や
脳梁における、成熟したオリゴデンドロサイトの面積あたりの数を MBP, PLP, MAG,
CNPase などのマーカー遺伝子の in situ hybridization 法で検討し、これら成熟オリゴデ
ンドロサイトの数が Emx1-cKO で著しく低下していることを明らかにしている。詳細
な定量化したデータについて統計的な比較を行ない、確実な結果としている点が評価
される。さらに電子顕微鏡像での比較も行い、ミエリン形成不全を確認している。こ
のように複数の手法により、遺伝子改変マウスにおける表現型を確認している点も評
価される。これらの結果から、オリゴデンドロサイトの分化が障害されている可能性
が強く示唆されたが、さらにそれを確認するため、BrdU ラベルで5日間で成熟型のオ
リゴデンドロサイトになった数を比較検討し、Emx1-cKO でのオリゴデンドロサイト
の分化障害を確認している。さらに、Cdk5 欠損がなぜオリゴデンドロサイトの分化の
障害を来すのかを、先行研究で示されたパキシリンのリン酸化の関与を検討している。
Cdk5 欠損マウスにおけるパキシリンのリン酸化レベルの検討を行なったものの、差が
認められなかったことから、in vitro 実験の報告とは異なり、マウス生体脳でのパキシ
リンのリン酸化低下がミエリン形成不全の原因となっている可能性は低いと結論づけ
ている。これらの結果は、in vitro で示された、Cdk5 が OPC の増殖、移動とオリゴデ
ンドロサイトの分化に関与しているとした先行研究に対して、初めて in vivo では
Cdk5 欠損が、オリゴデンドロサイトの分化に重要な働きを有することを示した実験結
果であり、その意義は大きいと考えられた。
第5章では、これらの結果をまとめ、先行研究などとの関連で考察している。先ず、
Cdk5 欠損マウスや Emx1-cKO マウスにみられる大脳皮質の層形成異常とそれに伴う
軸索の走行異常がオリゴデンドロサイトの分化に与える影響について考察している。
同様に大脳皮質の層形成に異常を示す変異マウスにおいてはミエリン形成不全は認め
られないとの報告をもとに、オリゴデンドロサイトの分化障害が軸索走行の異常の2
次的な結果ではないと考察した。また、in vitro の実験結果との関連を議論している。
第6章では、今後検討すべき課題や想定される実験などについて言及している。パ
キシリンのリン酸化が低下していなかったものの、Cdk5 の基質である Wave1, Fak な
どのリン酸化がオリゴデンドロサイトの分化に関与している可能性が議論された。
Wave1, Fak の欠損マウスがそれぞれミエリン形成不全を起こすことが報告されてい
ることから、今後は Cdk5 欠損マウスでのこれらのタンパク質のリン酸化レベルの低
下の有無を検討する必要性を指摘しており、具体的な実験方針を示したものと考えら
れた。
本研究で使用されている条件付きノックアウト法は、従来のノックアウトマウスに
おける発達期の致死により解析出来ない遺伝子機能を解明する際に有用な方法であり、
その有効性が活用されている。2種類の異なる条件付きノックアウトマウスの解析を
行ない、研究結果が裏付けられている。研究のアプローチにおいても、Emx1-cKO の
ミエリン形成不全を複数の手法により明らかにしており、さらにその原因がオリゴデ
ンドロサイトの分化障害であることを明確に示している。本研究内容は、当該分野に
おいて初めてオリゴデンドロサイトの分化に Cdk5 が重要な働きを有することをマウ
ス個体レベルで明らかにしたものであり、優れた研究成果であるとかんがえられた。
3
よって本論文は、博士(理学)に相応しいと評価した。
2011年7月
審査員(主査)
早稲田大学教授 医学博士(山梨医科大学)
早稲田大学教授 博士(医学)大阪大学
早稲田大学教授 博士(医学)横浜市立大学
4
大島
井上
南沢
登志男
貴文
享
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