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情報家電によるユビキタス・ネットワーク市場の創造

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情報家電によるユビキタス・ネットワーク市場の創造
特集 ユビキタス・ネットワーク時代の幕開け
2
情報家電による
ユビキタス・ネットワーク市場の創造
大塚 玲
UBIQUITOUS
情報家電は、高度なネットワーク機能を提供しながらも専用化を追求するもの
で、家電のようにわかりやすく、だれでも使えるデバイス(装置)である。情
報家電を起点とするユビキタス・ネットワークの特徴は、①特定のサービスや
コンテンツ(情報の内容)向けに最適化され、ストレスなく利用でき、②デジ
タル放送やさまざまな通信ネットワークに接続可能であり、③著作権保護など
の規制を組み込みやすく、デジタルコンテンツの普及に適し、④操作が家電並
みに容易なのでデジタルデバイド(情報弱者)問題の解決につながる――とい
った点にあり、ネットワーク人口やネットワーク利用機会を著しく拡大させる
決定打となる。
ただし、情報家電でも魅力的なコンテンツが不可欠である。一刻も早くユビ
キタス・ネットワークに移行するために、官民を上げて魅力的なサービス・コ
ンテンツを核としたユビキタス・ネットワーク市場の創造を急ぐべきである。
24
知的資産創造/ 2000 年 2 月号
Ⅰ 大規模な環境変化とユビキタ
ス・ネットワークへの潮流
電子政府や電子マネーが順次整備されよう
としている。
しかし、次の 10 年間で日本が米国に対し
2000 年を機に、情報通信分野での大規模
て優位に立つためには、パソコンを中心と
な環境変化が矢継ぎ早に起こり(表1)、
したネットワークコンピューティングの開
日本でも米国が先行するネットワークコン
発に固執せず、思い切ってユビキタス・ネ
ピューティングの分野で急速なキャッチア
ットワークへの移行を早急に進める必要が
ップが始まる。
ある。そこで本稿では、ユビキタス・ネッ
2000 年には、まず家庭からのインターネ
ット接続が定額料金制に移行し、ADSL
トワークでの主役となる情報家電について
考えてみたい。
(非対称デジタル加入者線)などの技術を
現在のネットワークコンピューティング
用いて、アナログモデムのそれの約20 倍に
の主役であるパソコンは、主要な半導体部
相当する1 Mbps(メガビット/秒)の通
品の集積度が2年で倍になるという「ムー
信容量を獲得する。また、同年末には BS
アの法則」を 18 ヵ月で倍へと上方修正させ
(放送衛星)デジタル放送が開始され、デ
るほどの勢いで急速に進化し、1990 年代初
ータ放送とインターネットの融合が本格的
頭にはメインフレームコンピュータから情
に模索され始める。
報処理の中心的な役割を奪うに至った。そ
2001 年から 2002 年には、ITU(国際電気
の際のメインフレームコンピュータに対す
通信連合)が規格の標準化を進めてきた、
る優位性は、デスクトップメタファー(仮
2 Mbps 程度の高速性を有する次世代の移
想的な事務机)を中心にしたエンドユーザ
動通信システム「IMT−2000」の登場によ
ー・コンピューティングにあったと考えら
り、モバイル通信における通信容量が爆発
れる。
的に拡大するほか、オンライン契約や電子
だが、この優位性は、インターネットの
決済の基盤が整い始め、自動車も電子商取
利用を主な購買動機とする今日のパソコン
引に組み込まれる。さらに、2003 年以降は
利用者にとっても、最適のツールではなく
表 1 情報通信関連の大規模な環境変化
時期
環境変化
2000 年
定額インターネット接続(ADSL、WLL、CATV)
1Mbps で月額数千円に
BS デジタル放送
データ放送と通信の融合
2001 ∼ 2002 年
2003 年∼
インパクト
IMT−2000
384Kbps ∼ 2Mbps のモバイル通信
デジタル署名関連法の施行
身分証明、契約がネットワークで可能
IC カード型クレジットカードのネットワーク決済
電子決済が爆発的に広がる
ETC(ノンストップ自動料金収受システム)
カーナビゲーションに決済機能
電子政府
行政サービスのネットワーク化
電子マネー
ネットワーク決済インフラが完備
地上波デジタル放送
アナログ放送時代の終焉
注)ADSL :非対称デジタル加入者線、BS :放送衛星、CATV :ケーブルテレビ、IC:集積回路、IMT−2000:次世代の移動通信シ
ステム、Kbps :キロビット/秒、Mbps :メガビット/秒、WLL :固定式無線電話網
情報家電によるユビキタス・ネットワーク市場の創造
25
なりつつある。
Ⅱ 現在の情報家電
他方、ほんの数年前に出現したばかりの
デジタルカメラの市場は、1999 年上半期で
71 万台、売上高 337 億円に達する市場に成
1 情報家電の胎動
(1)MP 3プレーヤー
長してきた。減少が続いている従来のスチ
音声圧縮技術である MP 3(MPEG 1の
ルカメラ全体の国内出荷は年間 438 万台
レイヤー3)は、インターネット標準の技
(売上高 775 億円)であるから、デジタルカ
術として公開されていた(MPEG 1は ISO
メラ市場が猛烈な勢いで成長しながら、一
〈国際標準化機構〉が定めた国際標準の画
方でスチルカメラ市場を侵食しつつあるこ
像圧縮技術の1つ)。MP 3を利用すれば、
とがわかる。
CD で1曲 40 ∼ 50 メガバイトを要していた
携帯電話も音声通話からデータ通信へ急
ものが、音質を維持しながら1曲4メガバ
速に移行しており、DDI ポケットではコー
イト程度に圧縮される。これならば、現在
ルの 50 %以上をショートメッセージが占め
のインターネット接続環境でも、15 分もあ
ているという。同時に、NTT ドコモの
れば1曲分のデータのダウンロードが可能
「ポケットボード」に代表される電子メー
ル専用端末の進展が目立っている。
デジタルカメラも、電子メールも、パソ
である。
意図せずして、この技術は音楽の不法流
通手段としてインターネット利用者の間に
コンに適切な装置を付加することによって
急速に広がっていった。これに目を付けて、
実現可能だが、利用場面を特定して専用化
1997 年1月に設立されたばかりの韓国セハ
することによって、きわめて便利なツール
ン情報システム社が、「MP−MAN」とい
(情報家電)に変化を遂げた。情報家電は
う名の世界初の携帯型 MP 3プレーヤーを
当初、パソコンとの共生によって利用価値
発表し、大変な反響を呼んだ。これは図1
を高めるが、やがてパソコンから独立して
のような携帯用音楽プレーヤーである。フ
独自のネットワーク(ユビキタス・ネット
ラッシュメモリー(一括消去・再書き込み
ワーク)を構築し始める。
が可能な読み出し専用メモリー)に音楽情
報を記録するため、可動部分が一切なく、
電池1本で長時間の再生が可能である。
図1 MP3プレーヤーの外観
フラッシュメモリーは、急速にバイト単
価が低下しており、現在でもすでに CD 1
枚分の記憶容量である64 メガバイトのもの
を3万円前後で入手可能な状況にある。こ
のため、多くのインターネットユーザーが
MP−MAN を購入し、不法にダウンロード
してきた音楽データを MP−MAN で聞くよ
セハン情報システム社の
「MP−MAN」
ダイアモンド・マルチメディア・
システムズ社の「RIO500」
出所)韓国セハン情報システム社、米国ダイアモンド・マルチメディア・システムズ社
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知的資産創造/ 2000 年 2 月号
うになった。
MP 3の CD や MD(ミニディスク)に対
する優位性は、次の2点に集約される。
●ネットワークで音楽データを転送する
図2 パーソナル・ビデオ・レコーダーの外観
ことができる。
●パソコン内に大量に音楽データを蓄積
リプレイ・ネットワークス社の
「リプレイTV」
し、音楽ライブラリーを構成すること
ができる。
事実、10ギガバイト(1ギガは10億)超
ティーボ社の「ティーボ」
もの大容量ハードディスクを装備した最近
のパソコンであれば、100 枚以上の音楽 CD
のデータを蓄積できる。MP 3プレーヤー
出所)米国リプレイ・ネットワークス社、ティーボ社
を購入する消費者は、家庭にパソコンを持
ち、パソコンの膨大な音楽ライブラリーか
ら選曲して、MP 3プレーヤーに入れて持
ち歩く。
た機能も実現されている。
近年のハードディスクのコストパフォー
マンスは年率 100 %に迫る勢いで急速に向
1999 年末には、日本の大手家電メーカー
上しており、記録時間が 100 時間を超える
数社からも著作権保護機能を組み込んだ
パーソナル・ビデオ・レコーダーが出現す
MP 3プレーヤーが発売され、新しい展開
る日も近い。
が始まっている。
パーソナル・ビデオ・レコーダーに特徴
的なのは、モデムを標準装備しており、電
(2)パーソナル・ビデオ・レコーダー
話回線につなげると最新の番組表が配信さ
1999 年4月、米国のティーボ社とリプレ
れるという点である。ティーボ社はこのサ
イ・ネットワークス社から特徴的な2つの
ービスに月間 9.95 ドルのサービス料を設定
製品が発表された(図2)。ビデオテープ
している。衛星放送や CATV(ケーブルテ
を持たないビデオデッキである。10∼30ギ
レビ)による超多チャンネル時代には、番
ガバイト程度のハードディスクを内蔵し、
組の選択にも多様な助けが必要である。
MPEG 2で 14 ∼ 30 時間(高画質モードで
大量の情報のなかから個人の好みや目的
は4∼9時間)の映像を記録する。価格は
に合わせて情報を厳選し、ネットワークを
499ドルから999ドルまでで、録画時間によ
通じて提案する情報サービスが、今後、情
り異なっている。
報家電の利便性を決定する大きな要因にな
パーソナル・ビデオ・レコーダーの主な
りそうである。
用途は、あらかじめ指定した番組をハード
ディスクにすべて録画しておき、好きな時
に見るといったタイムシフト視聴である。
2 情報家電の基盤技術
多様な情報家電を有機的に結合するネッ
加えて、ハードディスクの高速ランダムア
トワークと OS(基本ソフト)が整備され
クセスの特徴を活かし、たとえばドラマの
つつある。
開始時刻に 10 分遅れて帰宅したとしても、
情報家電のネットワークに対しては、次
録画しながら同時に先頭から再生するとい
ページの図3に示すように多彩な方式が提
った、従来のビデオデッキでは不可能だっ
案されている。これらは技術特性や提案主
情報家電によるユビキタス・ネットワーク市場の創造
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トから電源をとるすべての家電をネットワ
図3 情報家電の通信ネットワーク
ーク化できるメリットがある。クーラーや
携帯情報端末
冷蔵庫といった白もの家電の制御に利用さ
ブルートゥース
れる可能性が大きい。
白もの家電 エコーネット
無線系の規格では、「ホーム RF」と「ブ
IEEE1394(iリンク)
AV機器
ルートゥース(Bluetooth)」が有力である。
ホーム RF は、無線 LAN の廉価版であり、
ホームPNA
パソコン接続
家庭内のコンピュータネットワークに利用
ホームRF 無線LAN
される。ブルートゥースは、半径 10 メート
イーサネット
10K
1M
100K
10M
100M
通信速度
(bps)
注) AV:音響・映像、bps:ビット/秒、IEEE1394:国際標準の高速デジタル・シリ
アル・インタフェース、LAN:ローカルエリア・ネットワーク、ホームPNA:家
庭内パソコンネットワークの規格、ホームRF:家庭内無線コンピュータネットワ
ークの規格
ルの範囲内にある機器と1 Mbps の速度で
通信する能力があり、当初は「IrDA」(赤
外線データ通信の規格)を代替して、携帯
電話、デジタルカメラ、PDA(携帯情報端
末)といったモバイル機器の通信手段とし
図4 情報家電のアーキテクチャー
て利用されることが見込まれている。
ジニー、UPnP、
HAViなど
サービス
サービス
一方、大半の大手家電メーカーが採用し
ている IEEE(米国電気電子学会)の国際
標準の「IEEE1394(iリンク)」は、有線
情報家電OS
ネットワークだが、100 ∼ 400Mbps と非常
物理ネットワーク
に高速な通信能力があり、AV(音響・映
デジタルカメラ
プリンター
ブルートゥース、
エコーネット、
IEEE1394(iリンク)
など
注)HAVi:ホーム・オーディオ・ビデオ・インターオペラビリティ、OS:基本ソフト、
UPnP:ユニバーサル・プラグ・アンド・プレイ
像)機器間とコンピュータを結んだ映像の
伝送に利用される。
情報家電のアーキテクチャーは、図4の
ようにとらえられる。最下層にデジタルカ
メラ、プリンターといったハードウェアと
体などの差異で利用場面に特徴がある。
家庭内パソコンネットワークの規格であ
り、その上部に米国サン・マイクロシステ
る「ホームPNA」は、家庭内でLAN(ロー
ムズ社が開発中の分散オブジェクト技術
カルエリア・ネットワーク)を利用してい
「ジニー(Jini)」に代表される情報家電 OS
るヘビーユーザーが LAN 配線を電話線で
の層がある。それぞれの情報家電は固有の
置き換えたり、古いビルにすでにある屋内
サービスを持ち、ネットワークに対して一
電話網を使ってLAN環境を実現し、ビルの
定の機能を提供する。
付加価値としたりする利用が主体となる。
28
それらを接続する物理ネットワーク層があ
情報家電 OS は、物理ネットワークの違
また、日本の家電メーカーや電力会社が
いを吸収し、物理的に直接配線されていな
手がける、電灯線を利用する規格「エコー
い離れたデバイス(装置)同士でも、他の
ネット」は、通信速度が 9600bps(ビッ
デバイスを中継して1つの論理的なネット
ト/秒)程度と低速だが、家庭用コンセン
ワークとして構成する能力がある。これに
知的資産創造/ 2000 年 2 月号
より、目的に応じて無線、有線を組み合わ
せたネットワークの構築が可能になる。
Ⅲ ユビキタス・ネットワーク 市場の創造
情報家電 OS の重要な機能は2つある。
1つは「デバイスの発見」、もう1つは
「サービスの実行」である。
ここではボトムアップとトップダウンの
2つのアプローチを考える。ボトムアップ
デバイスの発見は、新しいデバイスがネ
アプローチでは、すでに実績のある情報家
ットワークに追加されたときに、そのデバ
電の特徴を分析し、共通にみられる特徴を
イスの存在を迅速に認識し、それが提供す
ユビキタス・ネットワークと結びつけるこ
るサービスを他のデバイスから利用するた
とで、新しい情報家電の探索を試みる。ト
めの準備を行う機能である。
ップダウンアプローチでは、大規模な環境
サービスの実行は、個々の情報家電が有
変化や官民共同で推進されているプロジェ
するサービスをネットワーク全体で共有
クトについて、ユビキタス・ネットワーク
し、どこからでも利用できるようにする機
という観点から見直しを試みる。
能である。たとえば、ジニーではサービス
がジャバ(Java)言語で記述されており、
1 ボトムアップアプローチ
サービスの実行はジャバコードを実行する
すでに製品化されており、ある程度の成
ことで行われる。具体例をあげると、プリ
功を収めた情報家電を次ページの表2のよ
ンターのサービスの1つに画像の印刷があ
うにまとめてみた。
り、デジタルカメラの写真をプリンターで
技術要素という点から考えると、デジタ
印刷する場合には、プリンターから画像の
ルカメラ、MP 3プレーヤー、パーソナル
伝送に必要なジャバプログラムがデジタル
・ビデオ・レコーダーには競合する既存製
カメラに転送され、デジタルカメラの側で
品が存在する。これらは、進歩の速い半導
ジャバプログラムを実行することで、一連
体技術を多用して、既存製品とは全く異な
の処理が実行される。
る技術構成にし、かつ情報技術による付加
この方式は、ジャバコードの優れたポー
価値を訴求している。
タビリティ(移植性)を利用できる点に強
表2でネットワーク指向型と分類した情
みがあり、古いデバイスで新しい未知のデ
報家電は、写真、メール、音楽といった情
バイスをコントロールすることも可能とな
報をインターネットを介して友人あるいは
る。
不特定の視聴者と交換するという利用方法
情報家電の形態は非常に多様だが、パソ
が背景にあり、それを携帯可能なデバイス
コンでいうディスプレイ、キーボード、ハ
として実現して、いつでもどこでも利用可
ードディスクすらない。あるのは多様な物
能なように発展させたものである。一方、
理ネットワークと、情報家電 OS による情
アプリケーション指向型と分類した情報家
報家電同士の相互作用に際しての基本手順
電は、ゲームやカーナビゲーションという
だけである。しかしこれが、情報家電の設
目的に特化してハードウェアを最適化した
計に大きな自由度を与え、創造力を発揮す
ものととらえることができる。
る機会を保証している。
ユビキタス・ネットワークの観点からこ
情報家電によるユビキタス・ネットワーク市場の創造
29
れらを見直してみたい。ネットワーク指向
このように考えれば、他にも普及している
型情報家電は、インターネット上で流行し
アプリケーションは多数あり、これらを同
ているアプリケーションを独立したハード
じアプローチで情報家電化することが可能
ウェアとして情報家電化したものである。
である。その例を表3に示す。
表 2 実績のある情報家電
類型
情報家電
特徴的なハードウェア
ネットワーク
指向型
デジタルカメラ
CCD、フラッシュメモリー
ネット利用
メリット 放送利用
メリット
大
小
主な利用目的
●画像の編集・アルバム化
●電子メールによる画像の交換
●ホームページでの発信
ショートメッセージ
携帯電話
大
小
●電子メール
ポケットボード
フラッシュメモリー、小型キ
大
小
●電子メール
小
●音楽データの交換
ーボード
MP3 プレーヤー
アプリケーシ
ョン指向型
フラッシュメモリー
パーソナル・ビデオ・レコーダー
ハードディスク、チューナー
家庭用ゲーム機
操作パッド、DVD、フラッシ
ュメモリー
カーナビゲーション
大
(現在)
●音楽の再生・ライブラリー化
中
大
●放送番組のタイムシフト視聴
小
小
●ゲーム
大
●現在位置・地図の閲覧
(現在)
GPS、DVD、VICS 受信機
小
(現在)
●渋滞情報の閲覧
注)CCD :電荷結合素子、DVD :デジタル・ビデオディスク、GPS :全地球測位システム、VICS :道路交通情報通信システム
表 3 ユビキタス・ネットワーク上の情報家電の例
サービス例
収入モデル例
情報家電
概要
パソコンアプリケーション
掲示板端末
掲示板の発見、閲覧、書き込み
ホームページ上の掲示板を見る
●掲示板開設お知らせサービス
広告料、情報サ
ができる
ためのブラウザー(検索・閲覧
●入力・表示形式などの調整
ービス料
ソフト)
●検索サービス
●オンライン情報の集配信
インスタント
スイッチを入れると友達あるい
イスラエル・ミラビリス社の
メッセンジャー
は不特定多数の人に自分がオン
「ICQ」、米国アメリカ・オンラ
ラインになったことが知らされ、 イン社の「AOL メッセンジャ
双方向ページャーとしてメッセ
広告・通信料
●出会いの場、会議室の提供
●友人の検索
ー」など
ージをやりとりできる
ジャバ(Java)
ジャバベースのネットワークゲ
ジャバ実行環境と、インターネ
●ゲーム場の提供
広告料、サービ
ゲーム機
ーム機
ット上のジャバゲームのホーム
●対戦相手の組み合わせ、ラン
ス利用料
ページ
キング表示など
電子商取引ショ
店舗と商品の比較・選択ができ、 ブラウザーと、多数の電子商取
●お買い得情報の提供
広告料、仲介手
ッピング端末
注文・決済が簡単に行える
引のホームページ
●注文・決済の仲介サービス
数料
オークション
商品の選択、取引相手の信用照
米国の「e ベイ」に代表される
●オークション場の提供
広告料、仲介手
端末
会、オークションの進行状況の
オークションのホームページ
数料
通知、入札・決済ができる
ネットワークラ
世界中に存在するネットワーク
米国リアル・ネットワークス社
ジオ、ネットワ
上の放送局の放送を受信できる
の「リアルプレイヤー」など
ークテレビ
30
知的資産創造/ 2000 年 2 月号
●最新の放送局リスト、番組リ
ストのデータベースの提供
広告料、情報サ
ービス料
このアプローチのメリットは、個人間の
ン・プロトコル)対応の携帯電話で、電気
情報交換など通信相手が必要なアプリケー
の消し忘れや戸締まりを外出先からチェッ
ションでも、すでにパソコンとインターネ
クないし確認できる製品を開発している。
ットの世界での利用者が多数存在してお
これらの製品が実際に市場を獲得できる
り、新しい情報家電であるにもかかわらず、
かどうかは未知数であるが、いずれも単に
当初から多数の既存利用者の存在を情報家
パソコンを家電製品に搭載するのではな
電自体の付加価値とすることができる点に
く、ユビキタス・ネットワークならではの
ある。
情報家電の利用法を開発している。真のユ
ボランティアが主体となり、自然発生的
ビキタス・ネットワーク化にはこのような
にコンテンツ(情報の内容)が拡大する掲
アイデアの積み重ねが必要であり、その積
示板のようなアプリケーションの場合に
み重ねが壮大なユビキタス・ネットワーク
は、大規模かつ最新のコンテンツデータベ
市場を構成する。
ースの構築と分類・検索などのサービスと
を組み合わせた情報サービスを、情報家電
2 トップダウンアプローチ
の販売に際して提供することが重要な決め
事前に市場創造の構想を打ち出し、官民
手になると考えられる。また、電子商取引
の協力体制のもとに大規模な社会システム
やオークションなど、営利企業が主体とな
を構築するアプローチをトップダウンアプ
ってコンテンツを開発している場合には、
ローチと呼ぶ。次に、このアプローチによ
加えて電子商取引を行っている企業との提
るユビキタス・ネットワーク市場の創造に
携が不可欠となろう。
向け、以下の3つを例に考えてみたい。
表2に戻って、アプリケーション指向型
情報家電を考えよう。これをユビキタス・
ネットワーク化するのは簡単ではない。
(1)放送のデジタル化
2000 年末には BS 放送のデジタル化が開
たとえば、象印マホービンの「安否確認
始され、2000 年夏に打ち上げられる CS
ポット」は、老人が一日に何回もお茶を飲
(通信衛星)が BS と同じ東経 110 度上に並
む事実を応用して、電気ポットを情報ネッ
び、受信アンテナを共通化できるようにな
トワークに接続し、外部から老人の安否確
る。これらを機会にデジタルテレビを一気
認を可能にする試みを提案している。スウ
に普及させ、国内の家庭のユビキタス・ネ
ェーデンのエレクトロラックス社は、冷蔵
ットワーク化を推し進めることが期待され
庫の内部にカメラを設置し、外部から庫内
る。問題は、特にデータ放送で魅力的なサ
の在庫状況を確認する試みをインターネッ
ービスを構想できない状況が続いているこ
ト上でデモンストレーションして話題にな
とである。
った。
第Ⅱ章で紹介したパーソナル・ビデオ・
また、同じスウェーデンのベンチャー企
レコーダーは、ほぼそのままの形でもデジ
業イージーリビング社は、無線でコントロ
タル放送時代の有望な情報家電となりうる
ールできる電気タップやセンサーを開発
が、ここではさらにインターネットと放送
し、WAP(ワイヤレス・アプリケーショ
を融合した新しいサービスの開発を提案し
情報家電によるユビキタス・ネットワーク市場の創造
31
たい。
ド、無線通信を行う車載機器などから構成
たとえば、米国のオンセール社やeベイ
され、有料道路の料金徴収の他にも、駐車
社のそれに代表されるネットワーク上のオ
場やガソリンスタンド、ドライブスルーな
ークション取引では、価格決定の過程で同
どでの利用も検討されている。
報性が要求される。オンセール方式では、
また、カーナビに通信機能を持たせる動
企業が商品をオークションに出品し、多数
きも活発化している。事故発生時に自動的
の消費者による入札によって価格を決定す
に事故発生の位置、車台番号などの情報を
る。一方、eベイ方式では、個人が商品を
センターに通報するダイムラー・クライス
オークションに出品し、入札によって価格
ラーの「E コール」サービスや、トヨタ自
を決定する。
動車の「MONET(モネ)」サービスでは、
これらはいずれも、多数の消費者から情
カーナビに携帯電話を使った通信機能を搭
報を吸い上げ、これを配信する必要がある。
載して、目的地の天候や自車の位置の情報
現在はインターネットの通信容量などの制
の交換、地図情報を起点にしたホームペー
約から実現できていないが、放送を利用す
ジへのアクセス、電子メールなどの機能を
れば動画を利用した商品説明や、リアルタ
付与している。今後も、前述の IMT−2000
イムのオークションも可能になる。
などの広帯域移動通信サービスの開始や
オークションは単に一例にすぎない。一
般に、広く消費者から通信ネットワークを
利用して情報を収集し、これを(データ)
ETC の普及によって、さらに進化すること
は間違いない。
さらにユビキタス化を進めるとすれば、
放送を使って配信する需要はかなりある。
①車載情報機器をネットワークへ常時接続
デジタル放送では、従来の一方向型の放送
する、②車内情報ネットワークのオープン
とは全く異なる発想での番組編成が必要で
化による他の情報家電との組み合わせによ
ある。異業種の企業との提携などによって、
る相乗効果を追求する、③交通・旅行情報
デジタル放送を軸にしたユビキタス・ネッ
の利用をコニビニエンスストア等に配備さ
トワークの構築を早急に行うべきである。
れている情報キオスクや家庭のネットワー
クからも可能にする、④ETCの決済手段に
(2)ITS(高度道路情報システム)
汎用的なICカード型クレジットカードや電
日本におけるカーナビゲーション機器
子マネーを採用する――など、ITS に閉じ
は、出荷台数が 1992 年からの累計で 480 万
て考えるのではなく、広がりのある施策を
台を超え、世界一の自動車を中心とした情
打ち出すべきである。
報インフラを構成している。
渋滞情報を提供する VICS(道路交通情
32
(3)デジタルデモクラシー
報通信システム)に加えて、2000 年からは
政府が 2003 年の実施を目標に計画してい
首都高速道路の一部で ETC(ノンストップ
る「スーパー電子政府」構想が実現すれば、
自動料金収受システム)の実験が開始され、
デジタル署名の基盤となる認証局が設置さ
いよいよ自動車情報インフラに決済機能が
れ、すべての行政手続きをインターネット
追加される。ETCは、IC(集積回路)カー
を通じて行えるようになる。これは、ユビ
知的資産創造/ 2000 年 2 月号
キタス・ネットワーク化を進展させるきわ
送、③街頭やコンビニエンスストアに設置
めて有力なコンテンツとなりうる。具体的
された情報キオスク、④家庭内・車内・モ
には、高齢者でも利用可能なインタフェー
バイル情報家電――を構成要素とした新し
スを持った行政サービス向け各種情報家電
いネットワーク環境である。いまだ多くは
の開発や、情報キオスクなどでの利用方法
未知の世界にあり、新しく創造すべき世界
の検討があげられる。
が広がっている。
さらに、絶大な効果が見込まれる政府系
今後の数年間で、日本の情報環境には急
コンテンツに「デジタルデモクラシー」が
激な変化が起きる。情報家電は日本の得意
ある。一気に直接民主制に移行するのでは
分野であるが、変化を上回るスピードで新
なく、まず市町村単位の地域コミュニティ
しいサービス・コンテンツを創造し続けな
を核としたオンラインコミュニティを形成
ければ、日本はユビキタス・ネットワーク
し、意見・陳情の募集にとどまらず、政策
においても米国の後追いに終始することに
・議案の審議状況を放送したり、重要な政
なろう。
策の決定については電子投票により直接市
本稿では、情報家電の現状と考え方を述
民の声を反映することを含めた、真のデジ
べ、情報家電によるユビキタス・ネットワ
タルデモクラシーの確立に向けた検討を開
ーク市場の創造に対するアプローチを検討
始すべきである。
した。情報家電はネットワークビジネスと
この際、デジタルデバイド(情報弱者)
密接にかかわっている。製造業だけでなく、
問題が最大の障害となるが、情報家電の出
少なくとも消費者にかかわるすべての産業
現によりこうした問題も過去のものとなる
で、今から情報家電の活用方法を検討する
だろう。
必要があろう。
Ⅳ ユビキタス・ネットワークの
発展に向けて
著者―――――――――――――――――――――
大塚 玲(おおつかあきら)
情報技術調査室主任研究員
1991年大阪大学大学院工学研究科修士課程修了
ユビキタス・ネットワークは、①固定
専門は情報社会論
系・移動系の高速通信網、②デジタル放
情報家電によるユビキタス・ネットワーク市場の創造
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