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買戻特約付売買の法的性質と譲渡担保

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買戻特約付売買の法的性質と譲渡担保
論
談
買戻特約付売買の法的性質と譲渡担保
近 藤 雄 大
はじめに
目的不動産の占有移転を伴わない買戻特約付売買契約の法的性質に関して、
最高裁平成欝年2月7B判決は、形式が買戻特約付売買契約であっても、目的
不動産の占有の移転を伴わない場合には、債権担保の目的で締結されたものと
推認し、譲渡担保契約の性質を有すると解すべきであると判嚇した㌔さらに、
前記の判決とは異なり動産に関する事案であったが、最高裁は、再売賢予約の
形式を採った売買契約について、債権担保の目的を認めて、その法的性質を譲
渡担保契約であるとした2。このように最高裁は、近時、形式的には売買契約
の形態を採っているものについても、当事者の主張した事実に基づいて債権担
保の目的が認められる場合には、譲渡担保契約であると判断している。これは、
買戻特約付売買契約(または再売買予約3)では、実質的に債権の担保のため
に締結された場合であっても清算に関する規定がなく、このことから与信者が
目的物を丸取りすることが可能であるといった事情が存在することに起因して
いると考えられる。たしかに、合理的な担保制度を用いるべしという要請から
は清算義務を認め、買戻期間徒過後も清算金の提供まで受戻権は消滅しないと
することなどは重要である。しかし、一方でどのような場合に、買戻特約付売
民集欝巻2号磐§頁。
最高裁平成総年7月鱒欝判決(金醗商事判弼鴛騒号23養)。
本稿では、議論の余地もあるが、性質上可能な限りにおいて再売買の予約を買戻特約付
売買とを区擁せずに援う。
一84一
買戻特約付売買の法的性質と譲渡担保(近藤雄大)
買契約を債権担保の目的を有するとし、譲渡担保と判甑できるかという点につ
いて明確にする必要がある。そこで、本稿では、まず売渡担保と譲渡担保の関
係についてなされた議論を通じて、両者を竣則する基準を示す。そして、譲渡
担保と判嚇する基準および具体的な要素について、学説ならびに下級審裁判例
を通じて明らかにし、その後葭掲最高裁平成鰺年2月判決の意義について検討
する。
1.譲渡担保と売渡担保
/潅/ 判 携
権利移転型の担保である譲渡握保と売渡担保の区別は、周知のとおり大審院
昭和8年4月26段判決4によってはじめて示された。この判決によれば「債務
ハ依然之ヲ存続セシメッッ一面当該財産権ヲ譲渡ス場合正すなわち被担保債
権が存続している場合を譲渡担保とし、「爾後何等ノ債務モ残留スルコト無」
い場合、つまり被担保債権が存続しない場合を売渡担保として両者を区濁した。
両者の差異は、一般的に童受戻権の消滅の有無、慧清算義務の有無、撮物的有
限責任などにあるとされているき。
① 学 説
一般に、債権担保の目的を有するものの申で、売買の形式をとり、消費貸倦
上の債権関係(被担保儀権)を存続させないものを売渡担保といい、それに対
して消費貸借上の債権関係(被担保積権)を存続させるものを譲渡担保として
区罰してきた6。ここで、買戻特約付売買とこれらの担保との関係を考察する。
4 民集穏巻8号聡7頁。
5 嶺悌次ζ担保物権法選(有斐閣、欝霧)3緯頁。
6 我妻栄罫新訂擾保物権法曇(岩波書店、i弱8)5欝頁、醗宮和夫律判弼コンメンタール鐘
撞保物権決選〔我妻栄編3(8本評論社、豊郷8)522頁、簿東秀郎「残された売渡揖保の問題
点」判網タイムズ2鶴号(至蟹§〉9頁など。
一85一
行政社会論集第雄藩第4号
判例は、売渡担保を広い機念で買戻特約付売買などを含むとしながら、地方で
債権担保のための信託的譲渡をその内容の中心としている。このため両者の区
別が判例上ではあいまいとなっていた。この点について、三藤教授は、上記昭
和8年判決を次のように分析している。売渡担保なら弁済期後でも債務者は担
保物を受け戻すことができるが、買戻特約付売買ならば売り戻せない、すなわ
ち、揖保物を債権者積務者のいずれに帰属させるべきかを決する場面で機能し
た。そして、売渡担保が買戻約款付売買かという従来の議論を譲渡担保が売渡
担保かという形に切り替えて一応の決着をつけた昭和8年判決も同様の機能を
している7。これによれば、被担保債権の存在の有無によって譲渡担保と売渡
担保を区別した昭和8年判決を前提とすると、譲渡握保では、受け戻しが可能
であるのに対して、売渡担保であれば、期間経過後は受け戻しができないとい
うことになる。そのため、買戻特約は、売渡担保では、期間経過前における担
保物取戻しの方法として位置づけられるであろう8。
このように考えると、売渡担保の場合には、買戻特約で定められた期間を経
遍してしまうと、売主(受信者)はもはや担保物を取り戻すことができなくな
る。裏を返せば買主(与信者)は、売主が買戻期間内に被担保儀権を弁済して、
目的物を取り戻すことができなければ、その目的物を終局的に自己のものとす
ることができる。さらに、譲渡担保の場合に生じる清算義務も売渡担保の場合
には必要ではなく、買主は目的物を丸どりすることができる。このように売渡
担保は給付と清算の関係を欠くものであり、同じ非典型担保であっても清算義
務を認める仮登記担保や譲渡担保に比して、著しく合理性を欠く制度であると
いえる。したがって、そもそもこのような性質を有する売渡担保の概念を積極
的に肯定する必要があるのかという点が問題となる。
7 三藤邦彦「不動産の譲渡撞保・所有権留保」私法34号(欝72)鍛頁。
8 羅旨のものとして、権寿夫「譲渡担保の法的構成・類型論{鎚法律時報65巻爵号(鐙93)
露頁がある。さらに売渡握保と買戻し・再売買予約とを麟鰯の観念・制度として擢擬する
立場について「葬撞保の場合もあることをいうくらいの実益しかあるまい」としている。
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買戻特約付売買の法的性質と譲渡揖保(近藤雄大)
鐸藤英樹教授は、売渡担保概念の不合理性を認めっっも、清算法理を導き鐵
す法的構成に多くの前提的検討課題を残しているとして、清算法理の析出の正
確な根鑓を欠いている段躇では、売渡担保概念不要論は慎むべきであるとして
いる9。また、売渡担保は売買と所有権の理論をどこまで生かして譲渡担保と
異なる独自の効果を認めうるかが課題であること、また当事者が売買形式を選
択するにはそれなりの背景と合意が存在することから、このような契約の特色
を明確に示す意味でも売渡担保には一応不可欠の機能があるとする見解もあ
る欝。この見解によれば、清算義務や受戻しの根撫を民法典の規定に依然しっ
っ譲渡担保とは異なる観点から説明できるのであれば、売渡担保構成は当事者
の意思を尊重した構成であるので、当事者に対して説得力を持つことになる。
これに対して、学説の多くは売渡担保概念を不要であるとしている茎㌔椿教
授は、買戻しが売渡担保と同一物と解する場合には、「売渡担保なるものを真
正売買と譲渡担保に二分し、売渡担保という観念は否定してよいのではないか」
としているi慧。福地教授は、買戻しで担保機能を有するものについては譲渡担
保に包摂させたうえ、担保機能の合理化を進めるべく売渡担保の用語は捨てる
べきであろうとする至3。道垣内教授は、「最高裁レベルで野売渡担保雌という
言葉を積極的な判示のなかで用いているのは、昭和30年の判決が最後となって
いる」こと、「譲渡担保については、当事者間の権利・義務関係を担保の実質
に即して定めることに」努力していること.「そこで確立された合理的な権利
義務内容は、たとえ当事者の合意が買戻ないし売買の一方の予約の形式をとつ
9 簿藤英樹窪売渡担保曇機念は不要か」ゼ民法の争点雄(有斐閣、茎鱈5)算8頁、伊藤英
樹「売渡担保機念の意義について」片山追悼罫凄と法学の購欝を求めて雲(働草書房、
i§8§)尊3マ翼。
鐙 滝沢章代r半ll幾」ジュ蔭スト縫縣号(i鱒7)欝6頁。
雛 醗宮・繭掲注織522頁は、売渡挺保機念は不要であると購書しないものの、「具体的な契
約が謬売渡担深青であるかぜ譲渡撞保雲であるか疑わしい場合には、担保として合理的な
匿譲渡担保選と推定すべきである」として、解釈上譲渡担保を優先させるべきである鴇を
述べている。
鴛 権寿夫「判概」私法判例瞬マークスi号(欝鱒)騒頁。
茎3 福地俊雄ゼ新版 注毅民法{§1盤〔穂木馨雌高木多喜男編3(有斐閣、i弱慧)8欝頁。
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行政社会論集 第雄藩 第4号
ていても適屠されるべきであり、逆に、担保に対する取り扱いとして必ずしも
合理性のない民法の規定の適葦穣よできるだけ擁除しなければならない」こと
から、両者とも「譲渡担保」として一律に処遇すべきであるとする童嫁。また、
前述の伊藤教授の指摘に関して、高木教授は、判例上買戻しに清算・受戻し法
理が確立していない現状では.「担保目的のものは、占有のどちらに存するか
を問わず、譲渡担保に吸収してしまうのが妥当ではないか」とされ、買戻しに
独自の清算法理が確立していない段階でも、それを譲渡担保と解することによっ
て売渡担保概念を不要とすることができるとしているi5。
131小 括
判例は、売渡担保と譲渡損保との区別について大審院時代の昭和8年判決で
「被担保債権」の存続の有無を基準とするとしていた。しかし、判例自体がこ
の基準に沿って区別を行っているかはあいまいであり、基準として機能してい
ないとの指摘もある。これは、売渡握保と譲渡担保を区窮したときに生じる差
異、すなわち受戻権の消滅の有無や清算義務の有無に起因すると考えられる。
つまり、同じ担保であるにもかかわらず、売渡握保の一類型として理解されて
いた買戻特約付売買の場合には、買戻期間が経過してしまうと担保目的物を取
り戻すことができなくなってしまい、また清算義務も課されないことになる。
それに対して、譲渡担保と認定されれば、弁済谿間を経過しても目的物を受け
戻しうるし、また、清算に際して被担保俵権額よりも目的物の癒値が高い場合
には、担保権者はその差額を返還しなければならない。このような担保の性質
として重大な相違が存在するにもかかわらず、その区別を「被担保債権」の存
在の有無という形式的な基準で判断するのは妥当ではないという考慮も働いて
いるように思われる。売渡担保も担保としての機能を果たす以上、被担保債権
が存続していないといった理由で尉異に扱うことは適切ではない。
鍾道垣内弘人置据保物権法雌(有斐閣、第2販、2§蕊)2襲頁。
欝 高木多喜男謬撞保物権法話(有斐閣、第4版、2§馨5)332頁。
一8暮一
買戻特約付売買の法的性質と譲渡担保(近藤雄大)
これらのことから.そもそも売渡担保という概念を積極的に肯定する必要が
あるのかという疑問が生じる。たしかに攣藤教授の指摘するように、売渡担保
は民法典に依挺して解釈する点に特徴があるとするならば、担保物の清算に関
する規定が買戻しの規定.ひいては売買の規定中に存在しない以上、期間経過
後の受戻権行使を肯定し、また清算を認める法理は確立されているとはいえな
いであろう。しかし、譲渡担保の清算に関する法理が判例欝や学説の努力によ
りほぼ確立されたといえる現状においては.民法の規定が買戻しについて期間
経過後の受戻権や清算義務などを想定していないのであるから、俵権担保の目
的を有する買戻しについては、民法に規定のある買戻しの場合と区別して取り
扱うのが合理的であるといえる。すなわち、擾保目的で利矯するのであれば担
保法理として確立された譲渡担保の準則に則って解釈すべきであろうi%
2.買戻特約付売買と譲渡担保の関係
iでみたように、売渡担保に独自の意義を認めずに、債権担保を目的とする
場合には、譲渡担保の法理に基づいて解釈されるべきであるという立場では、
売渡担保の一形態として理解されていた買戻特約付売買をどのように把握すべ
きかが問題となる。つまり、民法で規定している買戻特約付売買であるか、債
権担保を目的としたそれであるかを分類するメルクマールが必要となる。ここ
では、裁判例および学説がどのような基準および要素に基づいてそれらを分類
欝 最高裁紹和鵜隼3月25雲判決(民集25巻2号2総頁)が、譲渡撞保権者の清算義務を確立
したと位置づけられている(由野霞章夫「判幾」騎綴ジゴタスト貿5号2倉§頁(鱒む5)等)。
i7 なお、近時、売渡握保と判藪した裁判擁として高知地裁平成7年7月i媚判決(判例タ
イムズ鱒2号i総頁〉がある。この判決はr本件買戻特約付売買は、融資目的でありながら
貸金績権が存在しないのであるから、譲渡撞保ではなく、売渡撞保と認められる」としつ
つ、仮登記担保契約に関する法律、譲渡握保に関する判鰹理論との整合性、社会的弱者保
護の発地から、信義則上、握保嚢的で提供された不動産の丸取りは許されないとして、融
資金額との差額について清算義務を認めた。売渡握保としながらも清算義務を認めた点に
ついて大変興味深い。判鍵評釈として、滝沢・前掲注麟欝4頁がある・
一89一
行政社会論集 第欝巻 第4号
しているのかを検討していく。
(麟 学説による買戻特約付売買と譲渡担保の区溺
通常の売買と担保の区馨llは、当事者の意思を推測することによって判噺され
てきた。当事者が有している合理的な意思を探求することでなされるが、裁判
で争いとなるように当事者の主張が食い違っている場合には、裁判所は当事者
が主張した事実の中から重要な要素を取り出していずれかを認定することにな
る。この際に採られる方法は、客観的な情況証撚により、その契約の締結され
た事情の下における合理的な当事者意思を推認するというものである欝。それ
では、まず通常の売買と担保、本稿においては買戻特約付売買と譲渡担保を区
別する基準を何に求めるかについて検討する。この点について学説は、占有基
準説と担保目的基準説に分けることができるi§。
① 占有基準説
三藤教授は、譲渡担保を目的物の占有を儀務者の手許にとどめている形態に
限定したのに対応して、買戻しは目的物の占有を債権者に移転する形態として
とらえ、まずは占有移転の有無によって決定し、この基準で麺理しきれない場
合には、被担保績権の存否を基準にして取り扱いを決める余地を残すべきとし
ている2暮。また、来栖博士は、買戻しと譲渡担保の根本的区別は、買戻しでは、
所有権移転のために売買を行ない代金の支払いと引き替えに目的物を引き渡す
ため、売主買主間には債権関係がなく、売主の買主に対する買戻権だけである
のに対して、譲渡担保は債権を担保する目的で抵当権や質権の設定を受ける代
わりに所有権の移転を受けるので、譲渡担保権設定者と譲渡担保権者との間に
債権関係が存続する点にあるとする2i。このことから、買戻しは買主が占有す
鰺 近江幸治「判幾猛判例時報i337号(圭鱒§〉i蟹頁。
欝 学説の類型1こついては、片山直也「判幾」金融法務事情i7雅号(2§§6)鐙頁を参考にし
ている。
臆 三藤・前掲注171聡頁。
2i来栖三郎ζ契約決選(有斐閣、ig7む2雛頁。
一90一
買戻特約付売買の法的性質と譲渡担保(近藤雄大)
ることを予定しているのに対して、譲渡担保はその存在理由から占有の移転を
伴わないと購成すべきであるとする2登。近江教授は譲渡担保の生成過程を考察
した結果をもとに以下のように述べる。譲渡撞保と買戻しは、もともと同一の
制度であるから区別されえない。あえて両者を区別するとすれば、賃貸借法理
を使った抵当形態(非占有担保)が譲渡担保として発展したことに着目して、
本来的な買戻しは質形態の担保方法(占有担保)とする以外にはないとする2%
占有基準説は、買戻しが売買の形式を採っていることから目的物の所有権が
一旦は完全に売主から買主に移転するため、それに伴いその占有も賢主に移転
すると構成するのに対し、譲渡担保は売主が目的物の占有を留保しっっ、買主
に担保権のみを移転させるという担保形態であると理解し、両者の法的構成に
着目して区窮しようとする見解雛である。
この見解に対しては、買戻しにおいて、目的不動産の占有が必ずしも買主の
測に移るとは隈らないとする批判然、買戻しの法的効果を譲渡担保と同一に取
り扱う場合には、与信者への占有移転の有無によって両者を峻別する必要はな
いという続報騰、および占有の有無は目的物の利用に関する特約の有無の問題
とすれば足りるという批判2?などがある。これらに対しては近江教授による反
論がある。第一の幾判に対しては、売却しても売主に目的物の占有権限がある
器 来栖・前掲注⑳222頁。なお、来麺博士は売渡握保を「譲渡握保が売買の形式をとり売
買による所有権移転登記をした場合」と定義している。
23 近江幸治鐘撞保物権決選(域文堂、鎗警む275頁。
鱗 なお、嶺教授は、与信者が所有と占有の講者を先取りする形態を担保のための買戻しと
し、所有だけを先取りする形態を譲渡担保としている。ただし・買戻しの幾定の適購を誹
除する§的から、担保としての買戻しを譲渡担保と認定することも便法として肯定してよ
いとしている(嶺・前掲注嬢3縫頁〉。
器 権寿夫「不動産の譲渡握保と売渡担保(上)」ジュ蓼スト留§号(蓋蟹8)鵬翼、蟹中克志
ゼ新版 注釈艮法1茎蠣〔穂水馨業高木多喜男編)(鳶斐閣、i鯨3)433頁。
2§ 生熊長幸「買戻・再売買予約の機能と効罵垂簾藤一郎篇林良平編ζ撞保法大系第峨巻雲
(金融財政事椿醗究会、i繋5)憾§頁。
2? 道堰内・前掲・注1婚2§6頁。
一9i一
行政社会論集 第聾巻 第4号
とすることは民法理論として承認しえないとする。また、第二の批判に対して
は、買戻しと譲渡担保はもともと同一の制度であるから本来的に性質上の区別
がつくものではないとしながら、買戻し規定の硬直性や買戻しを担保的に構成
することの困難性に鑑みれば現象的な整序作業も意義を有するとしている2霧。
②担保目的基準説
平井一雄教授は、担保の目的で買戻しの形式を採って所有権の移転が約定さ
れた場合には、形式を問わず実質は当該不動産に譲渡担保が設定されたものと
解してよいとする。そして、担保目的であるか否かの判薮に関しては、「どの
ような事情において、いかなる趣旨で、当事者が、買戻ないし再売買予約を約
定したのかの事実の認定によることになる」としている鱒。生熊教授も、買戻
しの法形式をとった契約の法的効力の判薮については、その契約が担保目的を
有するか否かがポイントになるとし.担保目的を有すれば譲渡担保、担保目的
を有しなければ本来の買戻しと認定されるとしている3暮。さらに、裁判瀦の分
析を通して担保目的であるとの認定に際して比較的共通に考慮されている要素
としては「契約を締結するに至った当事者、特に売主の動機、代金懸額と目的
物の時懸との不均衡、買主への所有権移転登記費絹を売主が負担していること
など」があるとしている3i。
担保基準説は、占有のいかんを問わず、消費貸借契約などによる貸付金縫
務の返済を担保するために買戻特約付売買を行っている場合には、債権を担
保する目的を有しているのであるから、譲渡担保と認定すべきであるとして
いる。
28 近江・前掲注㈱276頁G
2§平井一雄「撞保自酌でなされる買戻に関する一考察」窪獨協大学法学部麟設25周年記念
論文集雲(第一法幾、欝92〉欝§頁。
臆 生熊・前掲注㈱妬9頁。
3i生熊・繭掲注鱒解i頁。さらに括彊書きで買戻期間は一般的に短いとされている。なお、
これらの要素は「必ずしも絶対的なものではない」ということを付言している。
一92一
買戻特約付売買の法的性質と譲渡担保(近藤雄大)
① 主張立証責任の当事者
鐙の基準に基づいて買戻特約付売買であるか譲渡担保契約であるかを判漸す
るために各当事者がどのような事実を主張立証する責任があるかを検討する。
まず、占有基準説に立つ三藤教授は、買戻しの登記をしつつ占有を移転してい
ない場合には原則として譲渡担保として擾うとし、被担保債権の不存在すなわ
ち賃貸借のために占有が移転していないと主張する者が立証責任を負うとする。
また、買戻しの登記をして占有を移転したが、売買による権利移転を実際に行
わず被担保債権を存続させる場合には、占有が移転しているので売買による権
利移転を推定するとし、被担保俵権が存続する反証をしたときに限って譲渡担
保に準じて扱うとする32。この見解によれば、前者では買主が立証責任を負う
ことになり、後者の場合には売主が反証を行うことになるであろう。
次に、担保目的基準説に立つと患われる伊東判事は、売買契約が成立し、所
有権移転登記がなされている場合、売渡担保33であることについての主張立証
責任は売主にあるとする。そして「担保」であると主張する売主が立証すべき
間接事実としては、契約前後の事情を通じて売主の意図が与信をうけることに
あったこと、売買代金が契約時に時緬相当額に比して著しく低額であり、その
理由が担保目的以外に合理的理由がないこと、買主が担保目的以外に当該目的
物を取得する必要性に乏しいこと、買戻期間が短期の場合に、売主がその期間
のみ目的物の所有権を買主に移転すべき合理的理由が担保目的以外にないこと
をあげている。飽方、買主が通常の売買であるとするために反証すべき間接事
実としては、売買代金が契約時の評懸額と均衡がとれていること、売買代金が
著しく低額の場合でも、そのことに合理的理由があること、再売買の予約期間
が比較的長期間に定められているか、なんらの定めのないこと、買戻代金額の
32 三藤・前掲注17擁3頁。
33 なお、伊東判事は、売渡担保を譲渡握保と講一に擾うべきとの立場であるので、ここ
でいうr売渡担保」は譲渡担保に置き換えることができよう (葎東・前掲注織9頁参
熊)。
一93一
行政社会論集 第欝巻 第4号
定めが合理的に定められたことであるとしている3達。このような見解に対し、
主張立証責任を売主から買主に事実上転換したとみられる見解もある。平井教
授は、買戻しが金融を得る手段として認識されたうえで民法典に規定されたと
いう経緯から、売主が買戻しの約定の存在を立証し、担保目的でないことの立
証責任は買主にあるとする3蓉。生熊教授も、買戻特約が代金支払俵務の履行確
保を目的とする場合には、通常、綾権担保のためとみるべきであろうとし、売
主が買戻特約の存在を立証すれば、賢主の鍵でそれが担保目的を有していない
ことを積極的に主張立証すべきとしている総。
鱗 裁判例37
① 譲渡担保と認定した裁判例3琶
・東京地裁昭和総年5月25羅判決(判例時報鎗22号77頁)
買主が本件契約を本件不動産の買戻約款付売買契約であると主張したのに対
し、売主は金銭消費貸倦契約に基づく本件不動産の譲渡担保契約であると主張
した。
裁判所は、売主が、貸付金額、および.その他合意された支払金額と同額面
の約束手形2通を振り出して買主に交付していること、買主が金融機関から融
資を受ける便宜として買主が貸付金額と同額で売主から本件不動産を買い受け、
買主名義に所有権移転登記を行っていること、再三返済期Bを延期し、その度
誕 炉東・前掲注織難頁。
勝 平井・離掲注翻焉7頁。
麗 生熊・前掲注㈱葬5頁。
3了 ここで取り上げる裁判例については、昭和56年以降のものとする。それ以蕪の裁判鯵に
ついては生熊教授による詳纏な分析があるので、生熊・前場注懸蕊§頁以下を参照された
い0
38 本稿で取り上げている裁判例は不動産が欝的物となった事鯛であるが、近時、動産に関
して契約の性質が開題となった事籔として最高裁平成馨年7月2§8判決(金融商事判例
i2娼号22頁)がある。この事纒では、第i審および原審が売買契約であると認定したのに
対し、最高裁は、本件契約は再売買が予定されている売買契約の形式を採るものであるが、
占有の状溌、肇権の懇収を目的としていることなどの諸事情を考癒すれば、籏権担保の目
的で締結されたものであるとし、譲渡挺保契約であると認定した。
一94一
買戻特約付売買の法的性質と譲渡担保(近藤雄大)
ごとに約束手形を書き替えていること、などの事実から両者間の契約は「買戻
約款付売買契約ではなく、一・消費貸借とこれを担保するための本件不動産
の譲渡担保と認められる」と判示した。
・静岡地裁富士支部昭和総年6月48判決(判例タイムズ683号206頁)
賢主が抗弁において本件契約を買戻特約付売買契約と主張したのに対して、
売主は再抗弁で仮に買戻特約付売買契約成立の事実が認められるとしても、こ
の契約は通謀虚偽表示によるものであるから無効であると主張した。なお。買
主売主双方とも譲渡担保契約である旨の主張はしていない。
これについて裁判所は、本件土地建物について買戻し特約付売買名目の合意
が成立していると認定した上で、次のように判籔した。代金の授受に関しては
売主作成の代金領収証が交付されたほか、売主から買主に対して額面が代金相
当額である約束手形を差し入れていること、被告のための本件所有権移転登記
手続費罵は原告が支払っていること(さらに売主を権利者とする買戻しの登記
はなされていない)、民法58G条2項により伸長することが許されないものとさ
れている買戻鵡限が2回にわたり延長されていることなどを考慮すると、両者
の「合意は、民法上の賛戻特約付売買でないのはもとより、いわゆる売渡担保
でもなく、・一貸金債権を担保するため、2か年後を弁済期として本件土地
建物の所有権を譲渡する趣旨の譲渡担保契約の合意であると認めるのが相当で
あ」るとした。そして、両者が主張していない譲渡担保契約であると認定した
ことに関しては、括弧書きで「ある合意が、売買であるか、譲渡担保であるか
どうかの問題は、法律行為の法律的性質に関する事柄であるから、右のように
認定しても弁論主義に反するものではないと解される」としている3%
・東京高裁平成元年7月25臼判決(判例時報捻20号99頁)
39このように裁率噺が当事者の主張してい撫盤質に認定できるかについては弁論主義の
観点から問題になる。この点については魏稿「判概」瞬志社法学55巻4号(2騒§3)i3頂以
下参照。また、本件に関する判携評釈として、坂療藍夫「判断」法学醗究62巻登号(董98§)
i鎗頁がある。
一95一
行政社会論集 第欝巻 第4号
本件契約の性質について売主は消費貸借と譲渡担保設定契約である鷺を主張
し、買主は買戻特約付売買契約である旨を主張している。
裁判所は次のような事実を認定した.すなわち、売主が当初本件土地および
本件建物に抵当権を設定して融資を受ける予定であったが、買主の希望によっ
て買戻特約付売買の形式で融資を受けることを承諾したこと、買主は本件契約
に際して本件土地および本件建物を現地で調査することをせず、またそれらの
時懸について専門家に尋ねるなどの客観的な調査は一切行わなかったこと、買
戻期間(弁済期)は3か月問とされ、弁済期までの利息が天引されていること、
また売主は本件契約の手数料を支払い、本件所有権移転登記の登記費用も支払っ
ていること、さらに弁済期に返済できなかったとして利息を支払っていること、
などである。これらの事実に基づいて裁判所は、「本件契約は、買戻しの特約
付売買契約の形式はとっているが、その性質は、… 譲渡担保設定契約であ
り、しかも、契約締結の経緯および契約内容から判織して帰属清算型の譲渡挺
保設定契約である」と判藪した韓。
・福岡高裁平成元年韓月鐙8判決(判例時報欝46号90頁)
事実の機要は複雑であるが、本稿の検討に必要なもののみを取り上げる。売
主は本件不動産について買戻特約付売買ないし譲渡担保設定契約を締結した事
実はない旨主張している。それに対して、買主は本件契約は消費貸倦を担保す
るために締結された譲渡担保設定契約であることを前提とした主張をしている。
裁判所は、本件契約は消費貸借上の債務を担保するため、買主は売主に対し
その所有の本件各不動産を譲渡するとともに貸金の弁済期までに買い戻すこと
ができるが、その占有は買主から売主に移転されていないこと、登記手続きは
所有権移転登記ではなく売買予約を原譲とする所有権移転登記請求権保全の仮
登記を経歯すべきことを約定したことなどから、「その実質は買戻約款付不動
萄 判例評釈として近江構彗鶏注㈱欝6頁、椿・簸掲注麟5董頁、裂欝隆重ヂ買要特約付売買
の仮登記と仮登記担保法の遍羅の脊無」椿寿表編置担保法の肇獅譲諜(有斐閣、欝94)焉頁
がある。
一96一
買戻特約付売買の法的性質と譲渡担保(近藤雄大)
産売買契約という契約証書の文言に拘わらず一種の帰属清算型の譲渡担保設定
契約であり、登記原因を譲渡担保に代えて売買予約としたいわゆる仮登記譲渡
担保の性格を有する」と判籔した戯。
・東京地裁平成2年7月欝欝判決(判例時報捻綴号64頁)
買主は、本件不動産に関する本件契約を買戻しの特約は付しているが績権と
の関連のない単なる売買契約であると主張している。それに対して、売主は、
本件契約は譲渡担保契約である旨の主張をしている。
裁判所は次のような事情を考慮した。すなわち、売主が金銭消費貸借を担保
するために本件買戻約款付不動産売買契約を締結するに至ったという動機、当
事者問に金銭消費貸借契約書が作成されていること、売主の買主に対する利息
相当金の支払状溌、売主が従前どおり本件不動産の占有使用を継続していると
いう現実の占有使購状況などの諸事情である。
そして、これらの事情を鑑みれば「本件契約は売買の形式を装ってはいるが、
いわゆる売渡担保にとどまるものではなく、買戻代金の名の下に、… 金銭
消費貸借契約を隠匿したところの譲渡担保契約」であると判断した。
・東京地裁平成2年8月248判決(判鋼時報捻85号簿頁)
売主は本件不動産についての本件契約を譲渡握保契約であると主張したのに
対し、買主は買い戻しに応ずることを約束して売主から本件不動産を買い受け
たと主張している。
裁判所は、「所有権移転登記の登記原因が売買とされていること、・一契
約書は土地付建物ゼ売買盤契約書となっていること、・…領収書の但書には
ゼ売買代金雌と記載されていること等は、本件の取引が買戻条件付売買である
と主張するのに有利な証拠であるが、… 本件不動産の所有権移転は・一
融資を受けるためになされたものであって、目的不動産の懸額が… (売買
代金相当額)であったためではないことが認められ、この事実は本件不動産譲
璽 本件は仮登記譲渡担保と認定されたため、実行に関しては仮登記担保法2条、3条の類
推適爾が可能かについて検討されている。
一解一
行政社会論集 第欝巻 第4号
渡がその形式にもかかわらず、譲渡担保であって買戻条件付売買ではないと認
定せしめる決定的証槌である」と判慰した。
・浦和地裁平成4年5月2§8判決蓬2(判例時報懇45号i泌頁)
売主は本件契約は売買契約の形式をとってはいるものの、その実質は借入金
債務を担保するための譲渡担保契約であると主張した。それに対して、買主は
農地法所定の知事の許可を得ることを停止条件とした売買契約である旨を主張
した倉
裁判所は、本件契約締結に至った売主の動機ないし目的(債務の返済)、本
件不動産の売買代金額としては時懸相当額に比して著しく低廉であること、売
主が土地について転売のための準備を行っていたこと、本件契約後の本件不動
産の占有使屠状況聰などの諸事情を総合して、「本件契約は、真に単純な売買
をする趣旨のもとになされたものではなく、売買の形式を取ってはいるが、そ
の実質は本件売買代金額を融資金額とする一・金銭消費貸借契約及び右借入
金俵務を担保する趣旨のもとになされた担保設定契約であると認めるのが相当
であ」ると判嚇した。
・東京高裁平成鶏年7月29臼判決(判例タイムズi蟹2号i56頁)
事実の詳細は不明であるが、本稿のテーマに関連する事実は次のとおりであ
る。買主は、売主との問に締結した本件各土地建物についての本件契約を担保
目的ではない買戻特約付売買契約であると主張している。それに対して、売主
は本件契約を譲渡担保契約であると主張して争っている。
裁判所は、まず「自己及び家族の生活拠点となる自宅及びその敷地を含む資
臆 本件は、買戻しに関する定めもなされてない単なる売買契約であった点に特徴がある。
憾 占有使驚状溌に関しては以下のような事実が認定されている。当事者間で欝的物の引渡
しについて合意が存在して“ないことから、買主は本件不動産の墾渡しを予定していなかっ
たと推認され、現に本件契約後も本件不動産について引き続き売主の占有を許していた事
実があること。また、公穏公課の負担についての合意もなく、登記手続費絹を売主が負撞
していること。さらに、買主が本件不動産の辞儀額について特に調査もしていないことな
どの事実である。
一98一
買戻特約付売買の法的性質と譲渡担保(近藤雄大)
産をわずか3か月後に買戻しをしなければこれを失うような売買契約をするこ
とは何か特雛の事情でもないかぎり考えにくい」として、売主は「本件各土地
建物に本件儀権のため担保を設定したとみるのが自然である」と担保目的であ
ることを認定した。そして、買主の関心が本件各土地建物に特警llにあったわけ
ではないこと、買戻期間経遍後に売主に本件各土地建物の明渡しを求めたり、
新たに売主との間で賃貸借契約を締結したとは認められないこと、本件積権に
上乗せして支払うことが約束された金銭は本件債権の利息に当たると解される
ことなどの事情を総合すると、弁済期、利息を定めr損害金は異体的に定めな
いまま本件債権を準消費貸倦に改め、これを担保する目的で本件買戻特約付売
買契約を締結したものと認めるのが相当である」とした。また、「債権撞保を
目的とする買戻特約付売買契約にあってもその実質は譲渡担保である」と判籔
している。
②買戻特約付売買と認定した裁判例鱗
・浦和地裁飛越支部平成2年9月6日判決(判例タイムズ737号焉5頁)
買主は本件契約の実質を買戻特約付で売り渡した買戻特約付売買契約である
と主張し、縫方売主は借入金債務を担保する目的でされた譲渡担保設定契約で
あると主張している。
これに対して裁判所は、「本件契約の実質が譲渡担保設定契約であることを
確認し又は証する目的で作成された書面が証拠として提出されておらず、これ
らの書面が作成されたこと自体も認められないこと」「利息などを支払ってい
たという点もその領収書が作成されていないなど不自然であること」「紛争に
いたるまでの鐙数年の間一・譲渡担保権の弁済ないし実行による消滅を申し
出たり、確認したことがないこと」などといった書類の形式、差し迫った資金
麟 5本住宅公団がマンシ葺ン売却時に締結した売買代金の不払いを理由とする買戻特約に
仮登記担保法の適購があり、買戻しの実行の際に藏法の清算手続きを経る必要があるか争
われた東京地裁平成元隼6月2§醤判決(判溺時報欝38号捻3頁〉では、本件買戻特約は「簾
権を担保することを馨的としてなされたものとはいえない」として、買戻特約付売買契約
であり、仮登記揖保契約の要件を満たさないとした。
一99一
行政社会論集 第欝巻 第4号
調達の必要からやむなく本件不動産を飽に売却せざるを得なくなったために買
戻しの余地を残したこと、さらに借地権の負担(賃貸人の地位)をそのまま買
主に承継させることや公租公課を按分負担することに合意していたことなどの
契約締結に至った経緯、そして買主が本件不動産の所在、広さおよび現況を熟
知していた事実、および上記の契約締結に至る経緯に照らせば売買代金額が特
に不合理ではないこと、などの事情から真のr買戻特約付売買契約であると認
められる」と判薮した。
・大分地裁平成終年3月38判決薇(金融商事判例i2憩号3i頁)
買主は本件土地建物を目的とする本件契約を民法の買戻しの規定が適購され
る買戻特約付売買契約であると主張したのに対し、売主は本件契約は借入金返
還債務を被撞保債権とする譲渡担保契約であると主張している。
裁判所は、本件土地建物を担保に借入をするとの内容の契約書は、買戻特約
付土地建物売買契約書であり、これをもって譲渡担保契約書であるとするのは
不合理であること、また本件土地建物について、所有権移転登記手続きおよび
買戻特約の付記登記手続きをなしたことは、譲渡担保契約が成立したとする事
実に反すること、さらに買主の契約書は従前から倦入でも「買戻特約付売買契
約書」であったとの売主の主張は、貸付の契約書の標題が「買戻約款付譲渡担
保契約書」となっていることから事実に反することなどを理由に売主の主張を
退け、買主の請求を認めた。
③裁判例の分析
譲渡担保と認定された裁判例ではどのような事実が考慮されていたのかを分
45 最高裁平成欝年2月判決の第i審である。なお、原審(福岡高裁平成雄牛警月29嚢判決
(金融商事判纐2鵜号3§頁))は基本的に第i審判決を踏襲し、別件訴訟における契約書は
「買戻約款付譲渡撞保契約書並と記載されているのに難し、本件訴訟における契約書には
「買戻約款付土地建物売買契約書」と記載されていることから、騨件訴訟において、譲渡
担保契約書が締結されたことが認められているからといって、本件訴訟において、買戻特
約付売買契約が締結されたものと認定することを妨げるものではないと判籔し、売主の控
訴を棄翻した。
一欝§一
買戻特約付売買の法的性質と譲渡担保(近藤雄大)
析する。まず、ほとんどの裁判例が債権担保の目的をうかがわせる事実を認定
している憾。直接的なものとしては、消費貸借契約書が存在していること、お
よび売主による約束手形の振り出しがあり、間接的なものとしては、利息相当
額が売主から買主に支払われていること、契約の形式を買主の申し出により抵
当権設定から買戻特約付売買に変更したこと、売主が融資を受けるという動機
を有していることなどがある。これは、譲渡担保が儀権を担保する斜度である
ことから当然のことといえる。次に、占有使用状溌にっき買戻特約付売買契約
後も占有が買主に移転していない事実である解。これについては、契約後も引
き続いて目的物を売主が占有し継続して利矯していること、あるいは当事者闘
で当該目的物について賃貸借契約が締結されていないことがあげられている。
これは、売買であれば、通常目的物が賢主に移転するものであるのに対して、
譲渡担保制度は非占有担保として生成されてきたことに起因している。買戻期
間についても取り上げられているものが多い。買戻期間が3か月と非常に短期
間であること馨、あるいは買戻期闘が延長されていることである嘆%これらの
事情は民法に規定されている「買戻し」の趣旨に合致しないと評懸されるとい
えよう。さらに、目的物である当該不動産自体に関心が薄いことも買戻特約付
売買を疑わせる事情といえる。買主が契約締結以前に現地調査を行わなかった
り、評緬額の調査を行わないことなどがある総。高額となる不動産の購入であ
れば、その目的物に関心を抱くのは当然であるためである。その他、登記費用
や契約手数料などを売主が払っている事実も比較的多くの裁判例で認定されて
馨 東京地判昭和56年、静岡地富士支判昭和63隼、東京高利平成元年、東京地判平成2年7
月、東京地判平成2年8月、浦和地利平成4年である。
47 福岡地利平成元年、東京地物平成2隼7月、浦和地物平成連年、東京高判平成緯年であ
る。なお、東京地利平成元年は、譲渡握保と認定する場合の事実として占有移転のないこ
とを開示していないが、その飽の争点における事実において売主が占有していたことを認
めているG
醤 東京高利平成元年、東京高利平成欝年である。
鐙 東京地戦昭和聡年、静岡地富士支判昭和§3奪である。
鴉 前者にっき東京高利平成元年、後者は浦和地利平成4年である。なお、東京高利平成絡
年も不動産に特溺執着していたわけではないと言及している。
一i懸一
行政社会論集 第欝巻 第4号
いる髄。売買代金が時懸相当額に比して著しく低額であることをあげるものも
ある鎗。
これらの事実と生熊教授が昭和55年以前の判例を分析した結果紹を比較して
みると、比較的共通に考慮されているとしてあげられていた3点、すなわち、
売主灘の動機、代金懸額と目的物の時懸との不均衡、登記費用の売主の負担、
および括彊書きで書かれていた短期の買戻期闘については、今回検討した裁判
例でも同じように考慮されている。それに加えで、買戻特約付売買契約を締結
した後に占有が現実に売主から買主に移転しているかということが重視されて
いるといえる。このことは伊東判事が撞保であるとするために売主が立証すべ
きとしていた間接事実ともほとんど一致している。
次に買戻特約付売買と認定された裁判例が認定した事実について検討する。
買戻特約付売買契約の法的性質が争われた場合に、民法に規定されている「買
戻特約付売買」と認められた事例は非常に少ない.これらの判決では、契約書
の形式が理由とされている。つまり、「譲渡担保契約書」という標題で契約が
締結されていないことがあげられている。浦和地川越支判平成2年は、このほ
かに売主は不動産を担保にして借り入れをするのではなく、売却することによっ
て資金を調達しようとしていたという動機。買主も借地権や公租公課といった
負担を受入れており、目的物について熟知していること、また売買代金は時懸
よりも低額であるものの、不動産の現況や契約に至る経緯を考慮すれば不合理
であるとはいえないことから譲渡担保契約とはいえないとした。これらの事実
は、債権挺保の目的であることを否定するものであり、あるいは買主が真剣に
その不動産を入手する意思を有していることを示すものであるS4。
騒 静岡地富士支判昭和総年、東京高利平成元年、溝和地判平成4年である。
52 浦和地半彗平成4年がある。
53生熊・前掲注㈱縫賢頁。
騒 なお、東京地利平成2年8月は、結論としては譲渡担保と判薮したものの、登記原因が
売買とされていること、契約書の標題が「土地付建物売買契約書」となっていること、領
収書の但書にε売買代金」と記載されていることなどは、買戻特約付売買とするのに有利
な証妻麺であるとしている。
一鎗2一
買戻特約付売買の法的性質と譲渡担保(近藤雄大)
それに対して、大分地判平成欝年は、所有権移転登記および買戻特約の付記
登記の存在は譲渡担保契約とする事実に反するとして、譲渡担保契約とは認め
なかった。しかしながら、登記の存在のみに基づいて判籔することは、当該契
約が実質的にどのような意味を有しているのかという観点からの検討を欠くも
のである。また、実際に登記原因が売買で買戻特約が登記されている場合でも
譲渡担保と認定している裁判例総もあることからすると、十分な検討に基づい
た判漸とはいえないであろう5§。
韓1 小 亨舌
買戻特約付売買と譲渡担保の区購の問題は、そもそも「売買」と「担保」の
区別はどのようにして行うかという問題に遡ることができる。当該契約が「売
買」であるか「担保」であるかについては、当事者の意思を推濾して判甑する
というのが一般的な理解といってよいであろう。重要なのは、どのような事実
に基づいてどの性質を認定するのかということである。学説では、このことに
ついて占有移転の有無によって決定すべきであるとする占有基準説と、当該契
約が担保目的を有しているか否かによって決定すべきであるとする担保目的基
準説が主張されている。前者によれば、占有が売主から買主に移転していない
ことが譲渡担保と認定する決定的な要素となるのに対して、後者では、占有移
転の有無も重要な要素であることは認めっっ、占有移転がないことのみで判嚇
するのではなく、他の事情も考慮して債権担保の目的を有しているかについて
判嚇すべきということになる。この点については、裁判所も、上記の分析およ
び検討から明らかなように、占有のみを手がかりとしていずれかであるかの判
55 前掲東京高利平成元年、福岡高利平成元年、東京高利平成欝隼である。鳥谷部茂彩不動
産譲渡担保の認定と効力」NBL8磐号(2§む7)25頁参照。鳥谷部教授は、登記原因が譲渡
担保でない場合には、担保目的であることの主張立証責任は、譲渡撞保を主張する者が負
い、その認定要素としては、貸付綾権の存在、買戻特約の存在、清算特約の存在、綾務者
に占有があることなどがあるとされる。
総 本件の控訴審である福岡高裁平成欝年響月欝馨判決(金融商事判擁鴛鶴号総頁)も講様
の判懸をしているので、上記のような畿判が妥当しよう。
一欝3一
行政社会論集第欝巻第4号
断をしているわけではない。いずれの性質を認定するにせよ(もちろん、譲渡
担保と認定されているものが多いわけであるが)占有移転の有無以外にも、買
戻期間やどちらが登記費用を負担しているかというような諸般の事情を考慮し
ている。また、担保基準説からの批判にあるように、占有の有無に関しては、
目的物の利用に関する特約の有無の問題として、担保目的を認定する際の要素
のひとつとしてとらえれば足り、占有の有無を判噺の基準とする必要はないと
考える欝。
次にそれぞれの立場から主張立証責任について考察する.占有基準説ではこ
の点に関して明確に述べているものは多くない。三藤教授によれば、占有が移
転しているときには、売買による権利移転が推定されるので、被担保債権が存
続することを主張する売主が反証しなければならない。それに対して、占有が
移転していない場合には、原則として譲渡担保として扱われ、被担保債権の不
存在を主張する賢主がそのことを立証することになる総。ただし、これは、占
有移転の有無という基準だけでは処理しきれない場合については、被担保債権
の存否を基準にして取り擾いを決めるという留保がついているケースである。
したがって、必ずしも占有基準説による立証責任の一般的な考え方であるとは
いえない。担保目的基準説では、考え方が分かれている。すなわち、譲渡担保
であることについての主張立証責任は売主にあるとする見解欝と、売主は買戻
特約の存在を立証すれば足り、買主の測で担保目的でないことを積極的に主張
立証すべきであるとする見解総である。
占有基準説を純粋に貫くならば、買戻特約付売買契約が成立し、所有権移転
登記が済んでいる場合でも、売主が当該不動産を占有していることを立証すれ
57 しかしながら、集注の買戻し規定との整合性に鑑みると占有を基準として両制箋を整序
すべきとする近江教授の指摘にも共感を覚える。この点については、結語で触れることに
する。
58 三藤・前掲注曙馨頁参照。
5§ 拶}東・前掲注懸賞頁。
6碁 生熊・前掲注㈱蘇5頁、平井・前掲注㈱欝7頁。
一i縫一
買戻特約付売買の法的性質と譲渡担保(近藤雄大)
ば譲渡担保であることが認定されることになるであろう。主張立証の観点から
すると売主の負担は軽減されることになる。これに対して、担保基準説では、
上記の事例と同じ状混であれば、売主が担保目的であることを主張立証しなけ
ればならない。なぜなら、買戻特約付売買契約が成立し、所有権移転登記も済
んでいるという状況からは担保目的であることを読み取ることはできないから
である。この場合にはむしろ通常の買戻特約付売買であるとみられるであろう。
そこで、担保目的であるということを示す事実を売主が主張立証する必要が生
じることになる。ただし、買戻特約は通常債権担保のために行われるというこ
とに着目して事実上の推定を及ぼすことができるとする場合には、売主は買戻
特約の存在さえ立証すればよい。その事実によって譲渡担保であると推定され
ることになるので、反対に買主翻が担保目的ではないことを主張立証しなけれ
ばならなくなる。
裁判例では当事者の主張立証の明確な指針は示されておらず、各当事者の主
張した内容から事実を認定しそれらをもとに判漸をしている。このような裁判
例の判騒方法を考慮すると、占有基準説を採篤しているとは言いがたいと思わ
れる⑪
3.最高裁平成捻年2月7日判決磁の意義
(潅1事実の機要と判旨
買主は、貸付けに係る債権について、少なくとも利息を回収するため、売主
との間で、その所有にかかる本件不動産について買戻特約付売買契約を締結す
ることを考えた。平成捻年捻月露8、両当事者は、いったん買戻特約付売買契
約を締結することに合意して契約書(以下、「変更前契約書」という。)を作成
し、司法書士に対し、登記手続を依頼した。しかし、買主は、司法書士が退去
した後、売買代金に不満を述べ、売主も、買戻しをしゃすいと考えてこれに応
磁 民集6§巻2号48§頁。
一欝5一
行政社会論集 第欝巻 第4号
じたことから、両当事者は、本件不動産の売買代金を減額し、売主は平成越年
3月廻田までに売買代金相当額および契約の費用を提供して本件土地建物を買
い戻すことができる旨の内容の買戻特約付売買契約(以下、「本件契約」とい
う。)を締結し、変更前契約書の内容を改めた契約書(以下、「本件契約書」と
いう。)を作成した。買主は、本件契約8に、売主に対し、売買代金の一部を
支払うこととしたが、売主の了承の下、その一部から、買戻権付与の対価、貸
付けの利息9か月分、登記手続費絹等を控除し、売主に交付した。貸付けの利
息として支払われた領収書には、そのただし書欄にr利息」と明記されている
に対し、買戻権付与の対懸として支払われた領収書にはその記載がない.本件
契約日の翌8、買主は、司法書士が本件不動産について変更前契約書の内容で
登記手続を完了したことを確認し、売主に対し、売買代金の残金を支払った。
売主は、平成錘年3月鴛霞までに本件契約に基づく買戻しをしなかった。本件
契約には、買戻期間内に本件不動産を売主から買主に引き渡す旨の約定はなく、
本件不動産は本件契約8以降も売主が占有している。
本件は、買主が売主に対し、本件契約は民法の買戻しの規定が適購される買
戻特約付売買契約(以下、「真正な買戻特約付売買契約」という。)であり、買
主は本件契約によって本件不動産の所有権を取得したと主張して、所有権に基
づき本件建物の明渡しを求めるものであり、売主は、本件契約は譲渡担保契約
であるから買主は本件建物の所有権を取得していないと主張している。
第i審翻および原審暮3はともに前述のように本件契約を真正な買戻特約付売
買契約であるとして、買主の請求を認容した。これに対して、売主鍵は、本件
契約内容について、契約書の標題に「買戻約款付土地建物売買契約書」とある
ことを理由に、金銭消費貸倦契約に基づく譲渡担保契約であることを否定した
ことには、審理不尽の違法があるなどとして上告受理の申立てを行った。
最高裁は次のように判駈して原審を破棄したうえで、売主の主張を認めた。
翻 大分地裁平成欝年3月3警判決(金融商事判例i2鱒号駿頁)。
総 福岡高裁平成露年9月298判決(金融商事判擁i2鵜号3§頁)。
一i総一
買戻特約付売買の法的性質と譲渡担保(近藤雄大)
まず、一般論として「真正な買戻特約付売買契約においては、売主は、買戻し
の期間内に買主が支払った代金及び契約の費罵を返還することができなければ、
目的不動産を取り戻すことができなくなり、目的不動産の懸額(目的不動産を
適正に評慰した金額)が買主が支払った代金及び契約の費吊を上回る場合も、
買主は、譲渡担保契約であれば認められる清算金の支払義務を負わない(58倉
条、583条1項)。このような効果は、当該契約が債権担保の目的を有する場合
には認めることができず、買戻特約付売買契約の形式が採られていても、目的
不動産を何らかの債権の担保とする目的で締結された契約は、譲渡担保契約と
解するのが相当である」として、買戻特約付売買契約が債権担保を目的として
利矯される場合の不合理性を指摘し、債権担保の目的である場合には売買の形
式にかかわらず、譲渡担保契約と解すべきであるとした。
次に、籏権担保の目的を有するか否かについては「真正な買戻特約付売買契
約であれば、売主から買主への目的不動産の占有の移転を伴うのが通常であり、
民法も、これを前提に、売主が売買契約を解除した場合、当事者が別段の意思
を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみな
している(欝9条後段)。そうすると、買戻特約付売買契約の形式が採られてい
ても、目的不動産の占有の移転を伴わない契約は、特段の事情のない限り、債
権担保の目的で締結されたものと推認され、その性質は譲渡担保契約と解する
のが相当である」として、目的不動産の占有の移転を伴わない契約は、原則と
して債権担保の目的であると推定されることになり、そうでない場合には、買
主の測で特段の事情を立証しなければならないという構成を採った。
そして、本件については、本件契約は、目的不動産である本件建物の占有の
移転を伴わないものであることが明らかであること、しかも、債権担保の目的
を有することの推認をくつがえすような特段の事情の存在がうかがわれないだ
けでなく、かえって、①買主が本件契約を締結した主たる動機は、貸付けの利
息を回収することにあり、実際にも、貸付けの元金に対する月3分の利息9か
月分に相当する金額を代金から控除していること、②真正な買戻特約付売買契
一鐙7一
行政社会論集第欝巻第4号
約においては、買戻しの代金は、買主の支払った代金及び契約の費購を超える
ことが許されないが、買主は、買戻権付与の対懸を代金から控除しており、売
主はこの金額も支払わなければ買戻しができないことになることなど、本件契
約が債権担保の目的を有することをうかがわせる事情が存在することが明らか
であるとして、「本件契約は、真正な買戻特約付売買契約ではなく、譲渡担保
契約と解すべきである」と判漸した。
⑦ 学説の反癒
最高裁平成鰺年判決に対しては、最高裁の判例法理から抜け落ちていた買戻
し・再売買予約を補完し、不動産非典型担保における担保法理を確立する画期
的な判決麟と評慰するものや、売主から買主への目的不動産の占有移転の有無
を判断基準とした本判決の登場により、買戻特約付売買契約の法的性質決定の
見通しは格段に良くなった鋳とするものがある。
① 買戻特約付売買と譲渡担保の判籔基準
片山教授は、最高裁判決について「真正な買戻特約付売買契約」以外の債権
担保を目的とする契約は「譲渡担保契約」と解するものであり、これによって
「売渡担保」機念は不要になるとする.そして、最高裁が「目的不動産の占有
の移転を伴わない契約は、特段の事情のない瞑り、債権担保の目的で締結され
たものと推認され」るとした占有の移転に関する部分については、あくまでも
綾権担保目的を推認させるiっの(しかし重要な)事情として取り上げている
にすぎないので、本判決が占有基準説を採題したと分析すべきではない懸とす
る。
角教授は、売主から買主に対して目的不動産の占有を継続していることを決
6蓬 片山・前掲注㈱韓頁倉
縣 矯紀代恵「判概」判携タイムズi2捻号(2§§6)談頁。織鴇のものとして富永浩明「判撹藁
翼BL8器号(2§06)欝頁。
縣 細田勝彦ヂ判幾」銀行法務欝 6簿号(2§馨7)7§頁も同鴇のことを述べている。
一鐙8一
買戻特約付売買の法的性質と譲渡担保(近藤雄大)
め手として、本件契約の法的性質を譲渡担保と決定しているとする。しかし、
これに対しては、下級審裁判所による債権担保目的の認定プ欝セスをみると、
目的不動産の占有を売主の下にとどめる買戻特約付売買契約のほとんどは、債
権担保目的であると言い切ってしまうことには躊躇を覚えるとする。その反面、
従来のように諸般の事情を総合考慮するという手法では、判決まで法的性質が
確定せず売主の保護に欠けるということもあるとしており、最終的には最高裁
の判噺を容認しているようである。そして、高利融資の被害者保護を進めるべ
くきわめて政策的な判噺に立っているものといえないだろうかとしている暮%
これらの見解に対して永石教授は、買戻特約付売買契約と譲渡担保契約の区
騎のメルクマールを「占有の移転の有無」に求めたものであるとしているが§靴
その後の検討方法をあわせてみると、前記のような占有基準説の立場で立論さ
れているわけではないようである。
②立証責任の問題
最高裁判決では、「目的不動産の占有の移転を伴わない契約は、特段の事情
のない限り、債権担保の目的で締結されたものと推認され」と判断されたこと
から、下級審裁判所で従来行われてきた間接事実の積み上げという手法をとる
必要はなくなったといえよう.この判決によって、目的不動産の占有が売主に
とどまる瞑り、原則として債権担保目的が推認されるので、所有権の取得を主
張する買主の測で特段の事情を主張立証することが必要になる。一方で、占有
が買主に移転している場合には、反対に売主の儲で債権担保目的を積極的に主
張立証すべきことになる欝。このことについて、最高裁は、買戻特約が存在す
れば、ただちに買主が績権担保の目的ではないことを立証しない限り譲渡担保
契約と認定すべきであるとの見解を採零せず、債権揖保目的の立証責任は売主
碑 角・前掲注齢鱗頁、継田弁護士も占有移転がないという一つの事実をもって、綾里挺保
の目的であるという推定を及ぼしてよいのかは疑問を生じ得るとしている(織田嘱ll掲注
繍76頁)。
鑓 永石一郎「判幾」金融商事判擁鴛騒号(2暮暮§)7頁。
6§ 片山・薄書暑注{獅壌)頁。
一欝9一
行政社会論集 第拶巻 第鷹号
にあるとした。しかし、下級審裁判例とも異なり、買戻特約付売買に際して売
主から買主への目的不動産の占有移転がないということを立証すると、債権担
保の目的が推認されるとしている。このことから、債権担保の目的に関する立
証責任の所在について、従来の下級審裁判例と平井説や生熊説などの学説との
中間に位置するとの評懸もある灘。また、上記判例の意図を占有の移転がない
ときには「担保目的」であるという経験則を法則化した、すなわち、事実上の
推定を新たに「法律上の推定」として認めたとして、買主側が特段の事清によっ
てその推定を覆すことができるとの見解もある7茎。
131検 討
最高裁平成欝年2月判決は、従来の裁判例や学説が指摘していたような買戻
特約付売買が担保目的で利絹された場合における不合理性を認めたうえで、買
戻特約付売買契約の形式が採られていても、その契約が目的不動産を何らかの
債権の担保とする目的で締結された場合には、譲渡担保契約と解するのが相当
であるとした。そして、目的不動産の占有の移転を伴わない場合には、特段の
事情のない限り債権擾保目的であると推認するとしている.この判駈は、2で
検討した下級審裁判例が譲渡担保として認定する際に考慮していた要素の一つ
である「占有移転の有無」を特に重要な事実として取り上げたものである。前
述のように占有移転の有無はほとんどの事例において裁判所が認定していた事
実であり、また非占有担保として特徴付けられている譲渡担保の性質に鑑みれ
ば、売主から買主へ占有を移転していないことが儀権担保の目的であることを
示す徴表であるとした判漸は妥当なものであるといえる。
しかし、最高裁は当該事件へのあてはめ部分において、占有移転の有無に関
する事実に加えて、①買主測の動機、および利息相当額を売主が負担している
鴨 角・前掲注翻鍵頁、金融商事判例亙2馨号27頁における最高裁平成磐年2月判決の匿名解
説も同様の立場をとっている。
難 永石・醗掲注繍7頁。
一ii§一
買戻特約付売買の法的性質と譲渡揖保(近藤雄大〉
こと、②買戻代金は買主の支払った代金および契約費用を超えることができな
いとする民法留9条前段に反して、買戻権付与の対懸を上乗せする結果となっ
ていること、をも考慮して債権担保の目的を認定している。今回の判示からす
ると、占有の移転がないと認定した以上は、債権担保の目的を有することの推
認を覆すような特段の事情となるような事実のみを考慮すれば足りるのであり、
これらの事実を取り上げることは不要であったといえる。あえてこのような事
実に触れていることには何らかの意味があると考えるべきであろうか。最高裁
が「占有の移転がないこと」という事実のみをもって債権担保の目的を推定す
るとしたことに対しては、このひとつの事実のみで推定を及ぼすことに疑問を
呈する見解があることから、補強する意味合いで付け加えたとも考えられる。
しかし、このように考えるのは適切ではないであろう。というのは、この判決
によって売主は占有が移転していないことを主張立証すれば、自己の責任は果
たしたことになり、買主儲に担保目的を有しないことの主張立証責任が移転す
る。それにもかかわらず、売主に占有が存在している場合に、他の事情の主張
をも求めることは売主に従来の裁判例と同様の主張立証責任を負担させること
になってしまうからである。したがって、本件のような一般論を提示した以上、
後述のような譲渡担保の要件事実を判嚇するために必要な事実でなければ、前
記のような事実について言及する必要はなかったと考える。
主張立証責任については、最高裁の表現を素直に読むと「占有の移転がない
こと」を裏付ける事実を売主が主張立証し、それが認められれば績権担保目的
であることが推定されるので、真正の買戻特約付売買と認定されるためには、
買主がこの推定を覆す特段の事情を積極的に主張立証しなければならないこと
になる。したがって、主張立証責任が転換されたとまでは解するべきでなく、
判例によって事実上の推定が及ぶことが認められたと考えるべきであろう。売
主が立証に際して間接事実を積み上げる必要がなく、かといって主張立証責任
をまったく負わないわけではないという意味において、両者の中間に位置づけ
られるといえる。
一iii一
行政社会論集 第欝巻 第4号
最後に、譲渡担保の要件事実に照らして最高裁判決を考える。まず、譲渡担
保の要件事実は、①被担保債権の存在、すなわち債権を発生させる合意がある
こと、②被揖保債権を担保するために所有権を買主に移転する旨の契約を締結
したことである72。最高裁で取り上げられた「占有の移転がないこと」が関連
するのは、②の申の「被担保債権を撞保するために」という部分である。つま
り、「占有の移転がないこと」が立証されれば、債権撞保の目的が推認される
ことになるので、あとは所有権を移転する合意があれば②の要件事実は充たさ
れることになる。よって、別途①の要件事実に該当するような事実が認められ
ていれば、裁判所は譲渡担保契約であると判籔することができる73。
4.結 語
本稿の主題であった買戻特約付売買の法的性質と譲渡担保の関係を、売渡担
保との比較、両者の区別について論じている裁判例および学説、そして最高裁
平成鰺年2月判決を手がかりに検討してきた。その結果、従来の下級審裁判例
による判漸の積み重ねや学説の考え方をふまえ、譲渡撞保の担保としての機能
の合理性を重視し、さらに高利融資の被害者というべき売主に有利な立証を認
めた最高裁平成灘年2月判決は、その基準および主張立証責任の観点からみて
適切な判籔をしたと評慰することができる。この判決が、この問題に関するこ
れまでの議論の到達点であるといえよう。
しかし、今後考えていく必要があると思われる点も浮かび上がった。まずは、
買主測が桓保目的を有しないこと主張するために立証すべき「特段の事情」の
内容である。この点については、最高裁および下級審裁判所の裁判例の積み重
72継穂・前掲注㈱懇§頁、大江忠蓼要件事実民法 上纏(第一法規出版、i鱒5〉6縫頁。鳥谷
部・前掲注鰍箆頁は、第三者に対する対抗要件として、「所有権移転登記ができる不動産
であること」もあげている。
欝 永石・前掲注㈱7頁以下、、鶏谷部・前掲注欝欝買以下参照。
一ii2一
買戻特約付売買の法的性質と譲渡担保(近藤雄大)
ねを待つことになるが、従来の裁判例や学説で主張されていた内容が基本的に
は踏襲されることになると患われる。この意味で、従来の裁判例で考慮されて
きた具体的な事実を整理し明確にしておくことは重要である。
次に、民法に規定のある買戻し制度の意義についてである。そもそも民法上
の買戻し舗度は、買主が融資の担保として不動産の所有権を取得し、売主は返
済によって不動産を取り戻しうるものである。すなわち買戻しは担保的機能を
想定した調度である。これと同時に、買戻しは、公団や公社が住宅・宅地の分
譲に際し7尋、特定の契約条件を定め、被分譲者がそれに違反したときには公団・
公社が買い戻すという機能も有している蔦。多くの学説や最高裁判決によれば、
礒権担保の目的を有する「買戻特約付売買」は原則として譲渡担保と判噺され
る。そのため、主に判例によって形成されてきた譲渡担保に関する法理に基づ
いて当該契約を解釈することになるので、民法の買戻しに関する規定の適矯は
緋除される。この結果、民法の買戻し規定が適用されるのは、担保的機能を有
していない場合に限定される。しかし、このように解すると、買戻しが担保と
して科絹される場合には、もともと(制限的であるにしても)担保的機能を果
たす制度として設けられたにもかかわらず、その規定の適用がないことになる。
譲渡担保法理を適用することによって導かれる結論自体は妥当なものであるが、
このような規定の運絹にはやはり疑問を感じる。今後は、売渡担保という概念
を用いるかどうかは甥としても、買戻しの担保的な意義を考慮しっっ、譲渡担
保法理との適用関係を明確にする必要があるのではなかろうか。
騒 新住宅市街地騨発注33条参照。
蔦広中俊雄律儀権各論講義選(嘗斐閣、第6版、鰺襲)89頁、近江幸治ζ契約決選(弘文堂、
第3版、泌総)轟6頁参照。裁判鰹として丸東京地裁平成元年6月2§馨判決(判弼時報露38
号鴛3貰)など。
一蓋i3一
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