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合併症妊婦に行われる検査とその意義
Journal Article / 学術雑誌論文 合併症妊婦に行われる検査とその意義 Clinical and laboratory evaluation of high-risk pregnancies 山本, 稔彦; 豊田, 長康; 西山, 真人; 中, 淳; 菅谷, 健; 田窪, 伸一郎; 杉山 , 陽一 Yamamoto, Toshishiko; Toyoda, Nagayasu; Nishiyama, Masato; Naka, Atsushi; Sugaya, Ken; Takubo, Shinichiro; Sugiyama, Yoichi 産婦人科治療. 1987, 54(6), p. 633-640. http://hdl.handle.net/10076/2774 ` 産婦人科治療 V。 1,54 No.6(1987:6) 特集 ・産 科の検査 とそ の意義 合併症妊婦 に行われ る検 査 とその意義 * 山本 稔 彦 豊田 長 康 中 菅谷 淳 健 西 山 真 人 由 窪伸一 郎 杉山 陽 ニ は じ ibに Ⅱ:心 疾患合併妊婦 近年,合 併症 を有す る婦人の妊娠 0分娩を管理する機 会が頓に増 えてきている。 これは,以 前 には妊娠の継続 を断念せざるを得なからた症例が,医 学の進歩 と相侯 う て挙児可能 とならてきてぃるた:めと考えられる。 ・ 1.妊 娠継続可否の決定 : ●疾患を合併した妊婦では,妊娠による循環動態の変 イ しに基づき,代償不全に陥る危険性を学んでいる。殊に 循環血液量が非妊娠時の約1,5倍となる妊娠8カ月や, しか し,減 少 して きているとはいえ,依 然 として母体 合併症が妊産婦死亡や周産期死亡の起因 となってぃ るこ とは否 めない事実 であ り,わ れわれ産科医は,さ らに診 静脈還流 の増加 によ り心臓 に急激 な容量負荷 がかかる分 ` 療技術 の向上 に努力 しな ければな らなし 。 基準 としては, 二 般的 に①NYHA(New Y6rk tteart ■ SOCiatiOn)分類 がⅢ度 またはⅣ度 (表 2)で あるもの, ②心不全の既往 があった り,チ アノーゼが著明である も 妊婦合併症は,当 然ながら多岐に渡り,そ のすべてを 網羅することは,紙 面の都合上不可能に近い。そこそ本 稿では,主 なものだけを取り上げ,ど のような検査をい つ行い,い かに妊婦 0胎児管理に役立てるかを述べたい。 I ・ ハ イ リス ク妊娠 の ス ク リー ニ ング 妊婦の合併症ilは,① 妊娠前よ りその存在が知られて いるもの,o産 婦人科を受診して初めて発見されるもの, ③妊娠経過中に妊娠が負荷 となって出現するものがある。 いずれにしても,早 期診断を計 り,適 切な対策を講 じる ことが大切であろう。 表 1に われわれが用いているリスクファクタニ ・チi 1)を ックリス ト 掲げた。このようなチェックリス トを利 ことによ 用する り,多 忙を極める外来診療においでも, 個々の症例の持つ問題点を効率よく浮 き彫 りにすること ができると考えている。 娩時は,最 も危険 と考 え られ る。 したが って,時 には妊 娠 の継続 を断念せざるを得 ない場合がある。妊娠 中絶 の の,③ 2か 所以上 の弁 に異常 を認 める もの,① 心肺係数 が60%以 上 の もの,0酸 素摂取回復率が50%以 下 の もの, ⑥他 の合併症 (妊娠中毒症,糖 尿病,申 状腺疾患 など) を有す るものなどが考 えられ る (図 1). 2.妊 娠 0分 娩の管理要綱 : 妊娠 の継続 を許可 した場合であって も,① CRP,自 血 球数,自 血球分画,熱 型等 を適宜検討 し,細 菌性心内膜 炎の防止 に留意す る。②頸静脈怒張度の観察,中 心静脈 圧の測定,さ らに聴診による diastoliO gal10pゃ 肺野湿 性 ラ音のキキッチによ リウッ血性心不全の早期診断'こ 努 める。③分娩は産科的適応のない限 り,原 則 として経腟 Fowler pOsi_ 分娩 とするが,必 要 に応 じて産婦 を Semi― tiOnで管理 し,ECGを 千二ターしつつ,適 宣中心静脈 圧の測定 ・動脈血ガス分析を行 うなどの配慮が必要であ る (図1)。 *Clinical and laboratory evaluatiOn Of high― risk pregnancles. TOttihikO Yamamoto(講師), Nagayasu Toyod二 帝王切開術の適応 については,産 科的な もの以外 に, ①大動脈弁狭窄または脈なし病,② 動脈瘤,③ 完全 AV ブロックなどが考 えられるが,麻 酔科医 :循環器専門医 Masato Nishiyama,∼ Sushi Naka,Ken Sugaya, に相談 して決定すが きであろう。 表3に Uelandによる心疾患別母体死亡率を示したが, S h i n i c h i l o h T a k u b o , Y o u i c h ai 五aS (u 教 g サ授) : 三 重大学医学部産科婦人科学教室 われわれ産科医は,心疾患合併妊婦がいかに危険性を学 Vol.54 NO.6(1987:6) 産 婦人科 治療 表 1 リ ス クフ ァクター ・チ ェ ック リス ト / / / / 決 決 定方法 :I 定 方法 : :LNMP,そ 既往 妊娠 特記事項 の他 ( 診 妊娠 認 中期 ) 娠期 ノ 妊後 ノ 患者名 : 分娩予定 日 : 補正予定 日 : 入院 時 年 // ﹄﹂ 齢 高年初産 (予定) │ 表 2 New York Heart Association(NYHA) l 適応 :_ 原因 : 種類 : 分娩所妻時間 ; 部位 : : : ヒ 丁 ゼ │ _ class lf 不 胸 全 痛 │ ) 表 3 心 疾 患別母体死亡率 (Ueland, K。 :Clin.Obstet.Gynecol., 21:430, 1978よ り) 大 動脈狭窄症 主 と し て今 回 の 経 娠 経 過 コ ー□ 日 )匿 、 社 /1で 表示) 会 歴 警 躍悟 │二李 ,量 : 常用薬 (種類 : 近親結婚 (4親 等以内) の 未婚,内 緑,離 婚 または離811中 妊娠 名 Marfan症 候群 . ) 週数:clnと 表示) 常〈 言房魔テ 串い 籠帷 護 護 護 家 族 歴 疾 ) ) ) ) 華 囀 莞 ) 担 当医印 一 十﹁Jlコ141 ) 9 50 12 Eisenmenger症 候群 33 原 発 性 肺 高 血圧 症 53 o NYHA Ⅲ 度,Ⅳ 度 ⑤ 心房細動有 り ◎ 弁切開術後 心筋症 __ 「 1母体死亡率 F a l 1 0 t 四徴症 僧 帽 弁 狭 窄 症 ( 平均) ) 皿 骰型 STS HBs トキソプラズマ 風疹 CBC その他 ( ― ′ き ] ﹁ 体 型 査 呼 吸 困 難 チ ア ノー : 心疾忠 (NYHA I,I,日 ,Ⅵ 度) 全 肺疾患 (TB:結 核,BA:喘 息,そ の他 : ) 糖尿病 (程度 : ) 身 腎疾患 (種類 : ) 甲状腺疾患 (種類 : 疾 出血性 素国 (種類 : ) ) 精神疾患 (種類 : ) 患 ア レルギー (原因 : 既往手術 ( ) その他 ` ) 項 動 class III 原因 : 種類 : 標 L_ 疲 │ 不適合,Rh:Rh不 適 働 儀 麹 鍾 露 語 以 上 様 霊 撃 七 TB:結 核 ,BA:喘 息 アレルギー (原因 : 出血性疾患 (種類 : 精神病 (種類 : その他 ( 摯終月継ハ llI確 月経同期30日以上 eln後 服薬 (種類 : 性器出血 異常な し class II │ 重症新生児黄疸 (ABO:A30式 間接 ター ムス (x借 数) 羊水穿刺 (遭応 : △ 450■m 検 class I 腫) 新生児寄形 胎児奇形 ・ SFD(10%以 下) LFD(HFD,90%以 上) /甲 以 ■ )(す に よ る心 機 能 分 類 瞭凍 治治 産 科 歴 巨巨L 巨 間 ・ 期 ユ │ 頻雇難 (5回 以上) 不妊 (2年 以上)` 自然流産 (2日 以上) 早産 頸管短縮 (M:McDo■ ald,S:Shむ odkar) PROM 過期産 1 帝工切開術 ` 遅延分焼 場餃分娩 (吸,!また は鉗子) 急産 (4時 間以内) 分娩外侮 妊娠 ・分娩時 多量出血 白尿,E:浮 妊娠中毒症 (H:高 血圧,P:蛋 感染症 (種類 : , △ 性器奇形 (種類 : , △ 卵巣饉瘍 (種類 : 死産 /新 生児死亡 ′ 弁置換術後 1 4∼ 5 14‐ψ17 4∼ 6 15-60 2 635 産婦人科治療 Vol.54 No.6(1987:6) t*^t*.(t) , < +#.) 'u'tfi#. NYHA分 減塩 食,体重 の コン トロー ル ン 柔竺 ワ'リ 与 投 類 ジギ タリス投与 ) (必要I時 人工妊娠中絶 を考慮 しなければならない場合 CPDの 除外 甲状 腺疾患 など) ≒ 刷鋼 と 乳 論 脇 準 X轟 医 郎喘の 細菌性 心内膜 炎の防止 (ぺ三 シリン投与) %理櫂 几 “ ECGモ ニ ター ン ① 分娩第 1期 の遷延には合成オキシトシ を 点滴静注する 外麻酉 午または 硬1莫 全身麻酔下 に行 う ② 覇 娩を 子 分 館 品 曽 晶 覆 l笹 ][産 3: て は っ の 多 剤 使 劣 こ 麦 替 角 筆 島 1憾炉 写 8貫 は いけ をヽヽ 図 1 心 疾患合併妊婦の管理 . 〔山本稔彦著 (杉山陽一 監修) : 産科 ・婦人科臨床 マ■ ュアル, 第 1 版 , p . 1 3 7 , 金原出版, 1 9 8 6 より〕 んでいるかを再認識す る必要がある。 Ⅲ.糖 尿病合併妊婦および妊娠糖尿病妊婦 1.病 態生理および診断 妊娠中の耐糖能異常 には,基 礎疾患 として糖尿病が合 妊娠中 に増量す る hPL,,strOgen,proge`terone,glu‐ cocorticoidなどが insulin抵抗性を発揮 し,相 対的 に insulinの供給不足状態 に陥 ったために発症す るもので, 妊娠中期 以降 に発見 され ることが多 い。 表 4に 妊娠時にお ける糖代謝異常 のス ク リニニ ングの 併 している場合 (糖尿病合併 妊婦 )と ,妊 響状態が負荷 となって惹起 される場合 (妊娠糖尿病)が ある。前者 は 要点 と,本 邦 の妊娠糖尿病(GDM:gestational diabetes mellitus)の判定基準2)ぉょび white3)に よる糖尿病妊 非妊娠時 よ り内科管理 を受 けているか,産 科初診時 に施 行 された検尿 にて発見 されることが多 い。■方後者 は, 婦 の分類 を掲げた。 2.妊 娠中の検査および管理方針 │ │ 636 産婦人科治療 Vol.54 NO.6(1987:6) 表 4 妊 娠糖尿病 ,糖 尿病合併 妊婦 の診 断 妊 娠 時 に お け る糖 代 謝 異 常 に 関 す る 不 ク リァ ニ ング 下記 の 場 合 に は 75g GTTを 行 い ,検 討 す る こ とが望 まし い。 ︱ ︱ ﹁ 行わぬときは,空 腹時血糖値および食後血糖値を検査する。空腹時値 100 mg/dl以 上あるい は平常食後 2時 間値 120mg/dl以 上のときは GTTを 行う ` [憂 憂 壷 ≡ 至 亜 亜 亜 憂 萎 ∃ 判 定 : 3 点 の うち, 2 点 以 上 を み た す もの を G D M と する 注 1 : 空 腹時値が 1 4 0 m g / d l 以 上あるいは2 時 間値が 2 0 o m g / d l 以 上のような場合には, 日本糖尿病学会 の「 糖尿病の診断に関する委員会報告」の糖負荷試験による判定基準を参考として判定する 注 2 : 測 定値の3 点の うち, 1 点のみをみたすような症例についてば, 以 後の妊娠経過に注意 し, 必 要に応 じて G T T を 行 つて 検 討 す る 注 3 : 妊 娠 中 に施 行 した G T T に よ って, G D M を 含 む糖 代 譲 異 常 を 見 出 した症 例 に お い て は , 産 褥 1 週 あ るいは 4週 において 75g GTTを 行 い,そ の成績を 日本糖尿病学会 の F糖尿病 の診断に関する委員会 報告」 の糖負荷試験 による判定基準に もとづいて検討する。 この産褥糖負荷時 の血糖値が正常となれ ば,壕 娠 中の糖代謝異常 は GDMで ぁったと確定診断 される。境界型など異 常血糖値を認める症例 につ いては,さ らに長期 間にわたって追跡を行 う必要がある (須川 倍 ほか :妊娠糖尿病 0糖 尿病合併妊娠 の管理指針,日 産婦誌 ,37:473,1985。) 2)Whiteの 糖 尿 病 妊 婦 の分 類 Gestttion4 diabe"s(GDM) 1)GTTで 異常を示すが,食 餌療法のみで正常血糖を保つ もの 2 ) 食 餌療法 の みで コ ン トロール が不 十 分 の ときはィ ンス リンが 使用 され る c l a s s A 食 餌療法 の みで コ ン トロー ル され る。 発症 年 齢, 罹 病期 間を とわ な い c l a S S B 2 0 歳 以上 で表症 し, 罹 病期 間がl o 年末 満 の もの c l a s s C l o ∼ 1 9 歳で 発症, も し くは罹病 期 間が1 0 ∼1 9 年の もの c l a s s D l o 歳 未満 で 発症, 罹 病期 間2 0 年以上, 非 増殖性 網膜症, 高 血圧 のい れかの ず 条件 をみたす もの c l a s s 、 増 殖性網膜症 あ るいは硝 子体 出血 を もつ もの c l a s s F 5 0 0 m g / 日 以上 の 蛋 白尿 を伴 った 腎症 を もつ もの c l a s s R F R と F の 基準が共 存す る もの C l , S S H 臨 床 的に明瞭な動脈梗化性心 疾患を もつ もの こl a S S T 腎 移植 の既往を有 す る もの 注 1 : B 以 下 のす0 て のクラスはイ ンス リン治療を必要 とする 注 2 :R,F,RF,H,Tは 発症 年齢や罹病期 間をとわない。 これ らは通 常長 い罹病 期 間 の もの においてお こる 注 3 : 合併症が進展 した もので は分類を変えてよい (Po White:Diabetes care,3:394,1980よ り) ︱ ︱ ︱ ︱ ︱ ︱ ︱ = ︱ ︱ 1 1 1 1 1 1 l J l l l l l ロ ロ ー 日 日 日 目 日 田 田 日 ■ 層 = ロ ロ ロ ロ 旧 日 日 ︱ ︱ 旧 旧 日 旧 = ■ I 旧 ■ ■ ■ ■ ■ 日 月 日 日 日 旧 櫃 日 日 日 日 旧 日 口 旧 旧 日 日 日 旧 旧 日 旧 旧 日 ■ 注 1:GTTを ︱︱ ︱ ︱ ( 1 ) 3 5 歳以上 の高年 齢妊婦 . ( 2 ) 糖 尿病家族歴の ある もの。 ( 3 ) 原 因不 明 の 習慣性流早 産歴 の あ る もの. ( 4 ) 原 因不明 の周産 期 死亡歴 の ある もの。 ( 5 ) 先 天奇形 児 の分娩歴のあ る もの。 ( 6 ) 正 期産 で 3 . 8 k g 以 上 の児 の分娩 歴のある もの. ( 7 ) 強 度 の尿 精 陽性 もしくは 2 回 以上尿 糖 陽性 を示 す もの. ( 8 ) 羊 水過 多症 を伴 う妊 婦 . ( 9 ) 妊 娠 中毒症 妊婦 . t O 肥 満 妊婦 . 産婦人科治療 Vol.54 NO。 6(198716) 637 糖尿病合併妊婦 においては下記のよ うに管理する. 妊娠中の管理 食事療法 1)摂 取エネルギ=量 (kcal) +妊 娠鳳争の付加量 標準体重(k♪X25∼ 30〕 〔 `期 15okcal,妊娠後半期 350kcalとす る. 注 :妊娠時の付加量は妊娠前月 蛋白は80g/日以上 とする。 2)身 長層 1体重基準値を参考として, 妊娠 前体重値 か ら肥満 と考 えられる場合 は 体重調節 を行 う。 (この場合,妊 娠 による生理的体i重増加 を10kg以下 とし,250g/週以下 にお さえる) 1 1 ー コ ント ル ロ 標1審 ロ 『 曹 蹴鬱 以 讐 下 堰 緯 毎検診時 必要 に応 じて 日沐変 動 チ ェ ック コン トロール ロ標 :9%以 下 (■イクロカラム法) Hb Al 超音波断層 胎児発育 のチェ ック 催恣 0 11111 要 必 1卜可︱ 耐﹁ 毎月 1回 測定 胎児胎盤機能 るいはOCT ど) :査(L/S比,phosphatidJ Jycerolな 尿中あ るいは血中E3,血 中HPL,NSTあ 千 小" 囮 合併症の予防 母体合併症 1)妊 娠中毒症 2)感 染症 感染防御能の低下 が認められること が多いので感染症 ことに尿路感染lii に注意する ‐ 3)内 服薬は使用 しない 胎児 。新生児合併症 図 2 糖 代謝異常妊婦 に対する検査 と管理方針 〔山本稔彦著 ( 杉山陽一監修) : 産 科 ・婦人科臨床 マニ ュアル, 第 1 版, P . 1 3 7 , 金原出版 , 1 9 8 6 より〕 1 糖尿病合併妊婦 および妊娠糖尿病妊婦は,い ずれ もハ イ リスクとして妊娠 ・分娩 を管理 しなけ ればな らない。 に,い かなる検査 を行 い,い か に管理す るかの要点 を図 2に 示 した。 治療 としては食事療法が基本 であるが ,食 事療法 のみで │ン トロールで きない場 合 にインス リンを使用す る。経 口糖尿病治療薬 は周産期死亡率 の増加 や催奇形性がみと 血糖のコン トロールが良 く,産 科学的 にも異常がなけ め られているので妊娠中は使用 してはな らない。妊娠中 れば,正 期 に経腟分娩を行わせることを原則 とす るが, 糖代謝異常妊婦より生まれた新生児には,合 併症の発生 頻度が高いので,図 3に示 したような方針で検査を行い 産婦人科治療 Vol.54 No.6(1987:6) 638 新生児の管理 原則 と して保育器 に収容 30℃,湿 度90%以 上 低血糖 の予防 検査 ― 診断 ・ 治療 呼吸障害 (RDS)の 有無 膳帯血,生 後 1,2,4,6:12時 間 に血糖測定 (全血) 下: 未熟児201,/dl以 下は低血糖 と 診 爵肇 暑10mgイll以 ー 1 0 % グ ル コ ス6 0 ∼7 0 m g / k g / d a y を 点滴静注 す る。 生後 2時 間以後 か らの発症 が多ぃ . 生後24時間た って も発症 しなければ, R D S の 危険性 はない と考 え られる 低 Ca血 症 の予防 ― 症状 振 せん,け いれん,頻 回呼吸,陥 凹呼吸 ,無 呼吸発作 診断 血清 Ca:4.mEq/1以 下 CalcitOl (Calcium ⑥ glucOnate)を 心電図 モニ ター しな mν 。 黒1ゞ ど 冒 組堪難彗爾鼈″∬糧・ り 以後 は経 口投与 に切 り替 える。 先天奇形 および分娩外傷 のチ ェ ック 高 ピリル ビン血症 の有無 早期経 口摂取 の 開始 感 染 予 防 1)四 肢 の奇形,心 奇形 の頻度 が 6∼ 15%に 増カロす るので 注意 を要 す る。 2)巨 大児で肩甲娩出困難 を伴 ったものは鎖青 または上腕 骨の骨折の有無 についてチェ ックす る。 適宜血 清 ビウル ビン値 を測定 し,必 要 に応 じて加療す る。 全例 4時 間以内 に10%グ ルコース または さらに高濃度 の グル コース液 を経 口摂取 させ ることが望 ま しい。 感染防御能の低下 が認 め られるので感染 を予防す る。 また感染症 の発症 が疑 われる時 は早期 に治療 を開始す る。 図 3 糖 代謝異常妊婦 より出生 した新生児に対する検査 と管理方針 〔山本稔彦著 ( 杉山陽一 監修) : 産 科 ・婦人科臨床 マニ ュアル, 第 1 版 , p . 1 3 7 , 金原出版 , 1 9 8 6 より〕 ハ イ リスクベ ビー として管理す る必要 がある. Ⅳ .腎 炎合併妊婦 腎機能障害 のある妊婦では,妊 娠経過中 に病状が悪化 す る可能性がある。われわれ産科医は,時 として,妊 娠 の継続 を許可す るか否 かの判断 を追 られ,苦 慮す ること があるが,判 断基準 の 1例 として,Katoぉ ょび尼崎 の 基準 を表 5に 示 した, 現在 では,人 工透析療法 を行 いつつ分娩 に もってゆ く ことも可能 であるが,産 後 に果 して人工透析 か ら離脱 し 得 るかど うか とい う問題 を伴 い,患 者 0家 族 の挙児希望 の程度 と照 らし合わせて,妊 娠 の継続 について判断 を下 す ことが必要 であろう。 図 4に 妊娠継続例 の管理方針 を示 したが,肺 浮腫や心 上,血 清 クレアチ 不全を来 した り,BUN:loOmg/dl以 ・ エ ン :8mg/dl以 上, ク レァチニ ン ク リアランス :20 m1/min以 下 となれば,直 ちに人工透析療法 を開始す る 必要 がある。 産婦人科治療 Vol.54 No.6(198716) 639 表 5 腎 疾 患合併 妊婦 にお ける妊娠継続基準 妊 娠 許 可 条 件 ① GFR 70m1/分 以上 ② 急 性 腎炎 で 治癒 して いる もの ③ 慢 性 腎炎 の 固定期 (潜在 期)に あ る もの 注 1:① を必須 と し,過 去 に 腎炎 の既往 の あ る もの 妊 娠 中 絶 基 準 ① ② ③ ④ は②,0の 状態が 3年 以上継 続 して い る こ と が望 ま しい│こ の こ とは血圧 が 150/90以 下 で ある こ とを意 味す る . ー ー ン 2:ボ ライ ダ は 注 の症例 腎生検所 見を参考 に 腎 炎症状 が持続 的に悪化する時 GFR 50m1/分 以下 に低下 PSP 15分 値15%以 下に低下 血 清 ク レアチニ ン 1.5mg/dl以上に上昇 注 1:① ∼④ の うち,い ずれか の項 に該当すれば早 急に中絶が必要 注 2:③ は経時排泄試験で 2時 間まで追い,尿 路死 腔 のない ことを確認 ` す る ことが望 ま しい は GFRが 80m1/分以上 で ,腎 生検 で 注 3:SLEで ・ び まん性増殖性 ル ー プス腎炎 で ない こ とを確 認す る KKatO, E.et al.」ap.J.Nephrol.lo:57,1968よ ■) 正 常 妊 娠 分 娩 を 期 待 で き る基 準 ① 急 性 腎炎 の 治癒 よ り 1 年 以上経過 ② 安 定 した慢性 腎炎 で 前 回分娩 よ り 1 年 以上経過 ③ 妊 娠 中毒症後 の分娩 よ り 1 年 以上経過 上記 の症例 で下 記 の 1 , 2 , 3 の 条件 を満 たす こ と L妊娠 前Cttξ ヒ鑓.1lg/d以 簿尋 キ 2 . 妊 娠 中, 血 圧 を 1 4 0 / 9 0 m m H g 以 下 に保 つ 3 . 腎 生検所見 下 IF20%以 │§ [「 ] I[I量 膜性 腎炎, 増 殖性糸球体 腎炎, I g A 腎 炎 で ( 尼ケ崎安紘, 他 : 日 腎誌, 26:762, 1982よ り) 2 ) 異 常 妊 娠 分 娩 を きたす 可 能 性 が 大 き い 基 準 1 . 妊 娠 中, 安 静 臥 床 , 抗 凝 固 療 法 な どを行 つて も GF耳 50m1/分 以下 ン値 1 、 5mg/dl 血清 ク レアチニ・ 血清尿酸値 6 . o m g / d l 以上 妊 娠 中, 降 圧1 剤を使 用 して も血 圧 腎生 検 所 見 )膜 性増殖性糸球体 腎炎,硬 化性糸球体 腎炎 1)そ の他 の糸球体 腎炎 で , 上 Y20(以 │][I[1[][曹 ( 尼ケ崎安紘, 他 : 日 腎誌, 26:762, 1892よ り) り) 産婦人科治療 V91.54 No。 6(1987:6) 過労をさけるよう指導する 食塩摂駆量 0∼ 5g/dayとする 憲 露 ヒ 蒻 ける ↑ ‐ 潔 雪 愛 驚 :町 盟 鷲 島 層 む 『 ξ 奮 富 議 ぶ ま 横 寝 選 二 毅 Ъ を 行江 れば 1日 量200mgま で増量 する: 効果 がなけ、 ? 驚 斃霧 贔 :'1撫 ②崎興琴藁 せ ,岬嚇じ て 響さ 誘 曇酒 吾 島 鰭オゴ .を 曇 妊婦に対する血液透析施行上の注意点〕 〔 ①肺浮腫 ② 心不全 Ψ 颯ン 8譜 8 mg/dJ ⑤ クレアチニ ン・タリテラ ンス20m″ /min以下 0大 量除水には限外濾過法を併用すること Oァ ルプミンによって血圧 ど維持すること Oグ ル7-ス を含む透析液を使用すること O重 炭酸透析を行うこと O少 量ヘパ リン化法 を用いること ° 下に に 保つ│う g/dJ以 ,頻 効 率 甲に 層 唇 島 塁 需 詈 霜 ぢ ツ 0外 プログス ロン 因性 テ を使用す ること( ? ) (折田義正,他 :産 婦治療,47:41011983よ り) 図 4 腎 疾患合併妊婦の管理方針 者 IF焦点 を絞 り,施 行すべ き検査 と管理方針 について, 主 としてフローチ ャー ドを用 いて述べ た。 お わ りに 妊婦合併症の うち,心 疾患,糖 代謝異常,腎 疾患の 3 文 1)山 本稔彦 (杉山陽二 監修):産 科 ・婦人科臨床 マ三 ュアル.第 1・ 版,金 原出版,東 京,1986。 2)須 川 倍 にか :妊 娠糖尿病 ・糖尿病合併妊娠 の管理 指針 (案)。 日産婦誌,37:473,19851 ‐ 献 : 3)HarO,Jo W.and white, P.:Gestational diabё tes and Ⅲ e White。 lassiicttiOn.Diabttes care,3: 394, 1980。