...

この報告書をダウンロードする

by user

on
Category: Documents
9

views

Report

Comments

Transcript

この報告書をダウンロードする
日機連 15 先端−8
平成 15 年度
排ガス浄化システムに係る技術開発動向に関する
調 査 報 告 書
平成 16 年 3 月
社団法人
日 本 機 械 工 業 連 合 会
社団法人
日本ファインセラミックス協会
序
戦後のわが国の経済成長に果たした機械工業の役割は大きく、また機械工
業の発展を支えたのは技術開発であったと云っても過言ではありません。ま
た、その後の公害問題、石油危機などの深刻な課題の克服に対しても、機械
工業における技術開発の果たした役割は多大なものでありました。しかし、
近年の東アジアの諸国を始めとする新興工業国の発展はめざましく、一方、
わ が 国 の 機 械 産 業 は 、国 内 需 要 の 停 滞 や 生 産 の 海 外 移 転 の 進 展 に 伴 い 、勢 い .
を失ってきつつあり、将来に対する懸念が台頭しております。
これらの国内外の動向に起因する諸課題に加え、環境問題、少子高齢化社
会対策等、今後解決を迫られる課題が山積しているのが現状であります。こ
れらの課題の解決に向けて従来にもましてますます技術開発に対する期待は
高まっており、機械業界あげて取り組む必要に迫られております。わが国機
械工業における技術開発は、戦後、既存技術の改良改善に注力することから
始まり、やがて独自の技術・製品開発へと進化し、近年では、科学分野にも
多大な実績をあげるまでになってきております。
これからのグローバルな技術開発競争の中で、わが国が勝ち残ってゆくに
はこの力をさらに発展させて、新しいコンセプトの提唱やブレークスルーに
つながる独創的な成果を挙げ、世界をリードする技術大国を目指してゆく必
要が高まっております。幸い機械工業の各企業における研究開発、技術開発
にかける意気込みにかげりはなく、方向を見極め、ねらいを定めた開発によ
り、今後大きな成果につながるものと確信いたしております。
こうした背景に鑑み、当会では機械工業に係わる技術開発動向等の補助事
業のテーマの一つとして社団法人日本ファインセラミックス協会に「排ガス
浄化システムに係る技術開発動向に関する調査」を調査委託いたしました。
本報告書は、この研究成果であり、関係各位のご参考に寄与すれば幸甚であ
ります。
平成16年3月
社団法人
日本機械工業連合会
会 長
相 川 賢 太 郎
序
21世紀においては、情報・通信機器の高度化、グローバルな環境エネル
ギー問題、高齢化の進展等、重要かつ複雑困難な課題が山積しております。
ファインセラミックスは、金属や有機材料には見られない独特の優れた機
能や特性を持つ素材のため、小型・高機能電子部品に不可欠のものとして広
く普及しておりますが、我が国はこの分野で強い国際競争力を有しており、
これらの課題解決に寄与できる可能性が期待されております。
経済産業省では、環境・エネルギー、情報家電・ブロードバンド・IT、
健康・バイオテクノロジー、ナノテクノロジー・材料に重点的に投資し、我
が国の産業競争力の再構築を目指しています。その一環として、平成15年
度は、ファインセラミックスによる革新的な排ガス浄化システム開発の実現
可能性を検討し、技術開発課題等を明らかにするための調査研究を行うこと
が決定されました。
そのため、当協会では、社団法人日本機械工業連合会から「排ガス浄化シ
ステムに係る技術開発動向に関する調査」事業の受託を受け、当協会に調査
研究委員会を設置し、この問題に対する現状と課題をとりまとめたのがこの
報告書であります。
当委員会は、委員としてこの分野の産官学の専門家に参加いただき、シス
テム・材料・生体影響まで幅広い調査と討議を行い、とりまとめていただき
ました。
本調査研究を実施するに当たり、調査研究の労を賜った委員各位に深甚な
る感謝の意を表する次第であります。
最後に、本調査研究の成果が、関係各方面のご参考となり、我が国ファイ
ンセラミックス産業の発展はもとより、ファインセラミックスをご利用いた
だく機械産業およびその他産業の発展にも寄与する施策立案のために議論が
更に深耕されることを祈念する次第であります。
平成16年3月
社団法人
日本ファインセラミックス協会
会
長
金
川
重
信
事 業 運 営 組 織
本事業は、下記の委員会を組織して実施した。
排ガス浄化システムに関わるファインセラミックス材料の技術開発等動向調査委員会
委 員 名 簿
委員長
安盛 敦雄
東京理科大学 基礎工学部 材料工学科
助教授
委 員
藤田 修
北海道大学 工学研究科機械科学専攻
教授
後藤 雄一
独立行政法人 交通安全環境研究所 環境研究領域
上席研究員
堀内 真
株式会社 アイシーティー AC研究所
所長
青野 紀彦
株式会社 キャタラー 第1研究開発部 第13開発室
室長
大野 一茂
イビデン株式会社 技術開発本部 技術開発部
グループマネージャー
浜中 俊行
日本ガイシ株式会社 NDF事業推進部
部長
北 英紀
株式会社 いすゞ中央研究所 基盤技術開発部
主幹研究員
武田 好央
三菱ふそうトラック・バス株式会社 開発本部 エンジン研究部 エキスパート
青木 博幸
社団法人 日本ファインセラミックス協会
技術担当部長
西脇 勉
社団法人 日本ファインセラミックス協会
技術担当部長
事務局
排ガス浄化システムに係る技術開発動向に関する調査報告書
目
次
総論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
1.1
調査研究の目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
1.2
調査研究事項 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
1.3
調査研究の実施経過 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
1.4
調査研究の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
ディーゼル排ガスの現状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
2.1
ディーゼルエンジンの現状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
2.2
環境への影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
2.3
ディーゼル排ガス規制の現状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23
第1章
第2章
第3章
ディーゼル排ガス処理技術 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
3.1
排ガス処理装置の必要性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
3.2
DPF ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28
3.2.1
コージェライトDPF及び Si 結合 SiC-DPF ・・・・・・・・・・・・ 28
3.2.2
再結晶 SiC-DPF ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40
3.3
触媒 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55
3.3.1
酸化触媒 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55
3.3.2
DPF触媒技術 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 59
3.3.3
SCR ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65
3.3.4
吸蔵還元型触媒 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65
3.3.5
レトロフィット用触媒 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74
3.4
排ガス処理システム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 80
3.5
関連情報 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 84
第4章
将来のディーゼル排ガス浄化課題とファインセラミックス ・・・・・・・・・・ 107
4.1
はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 107
4.2
触媒材料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 107
4.3
フィルター・担体 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 110
4.4
計測評価技術 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 112
4.5
部品化基礎技術 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 113
第5章
まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 115
第1章
総論
1.1
調査研究の目的
ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンに比べて、燃費に優れ、地球温暖化の要因である
CO2(二酸化炭素)排出抑制に貢献するものと期待される。しかし、排ガス中にPM(粒子状
物質 Particulate Matter)やNOx(窒素酸化物)が多く含まれ、環境や人体へ悪影響を与え
るという問題があり、これからは排ガスに含まれるナノサイズPMの生体に及ぼす影響も考慮
しなければならない。
PMとNOxの排出はトレードオフの関係があり、解決は容易ではないが、エンジンの燃焼技
術や後処理装置技術の研究開発が行われており、特に後処理装置技術では、性能・コスト等か
らセラミックスをキーパーツとして利用したシステムが最も高いポテンシャルを有すると見ら
れる。そのため、ファインセラミックスによる革新的な排ガス浄化システム開発の実現可能性
を検討し、技術開発課題等を明らかにすることにより、今後の研究開発の指針を提示すること
を目的とする。
1.2
調査研究事項
産学官の学識経験者による「排ガス浄化システムに関わるファインセラミックス材料の技術
開発等動向調査委員会」を設置し、以下の項目について調査研究を行う。
(1)排ガス浄化システム技術の現状と問題点に関する調査研究
(2)排ガス中ナノサイズPMとNOxの生体に及ぼす影響及び規制動向に関する調査研究
(3)排ガス浄化セラミックスの可能性・課題に関する調査研究
1.3
調査研究の実施経過
第1回
委員会
日時
平成 15 年 7 月 29 日(火)14:00∼17:30
場所
日本ファインセラミックス協会
出席委員
会議室
議題
9名
・本調査研究の趣旨確認
・調査研究の方法検討
第2回
委員会
日時
平成 15 年 10 月 8 日(水)14:00∼16:30
場所
メルパルク東京
出席委員
議題
薔薇の間
8名
・調査結果確認
・課題に関する検討
−1−
第3回
委員会
日時
平成 15 年 12 月 9 日(火)14:00∼17:00
場所
メルパルク東京
出席委員
議題
桂の間
9名
・課題確認
・報告書作成に関する検討
1.4
調査研究の概要
「環境の世紀」と言われる21世紀の幕開けと共に、環境保全と省資源化を求める声が世界中
で大きくなっている。誕生後1世紀を経た自動車は文明の担い手でもあるその役割から、地域環
境と地球環境への影響が大きい。自動車メーカーは環境との調和を目指して性能向上と同時に低
公害化を積極的に進めてきたが、特に、トラック・バスなどのディ−ゼル車から排出されるNO
x(窒素酸化物)やPM(粒子状物質 Particulate Matter)が、都市部の大気汚染の一因となって
いる。また、これらの排出物は健康への影響も大きいとの報告があり、排出ガス低減が強く求め
られている。翻って、地球温暖化防止のためのエネルギー消費削減に向け、世界中が高効率でク
リーンなディーゼルエンジンの出現を待望している。ここでは、自動車用を対象として、ディー
ゼルエンジンの現状や環境への影響、そして排ガス処理技術課題とファインセラミックスについ
て述べる。
ディーゼルエンジンは熱効率が高いことに最大の特徴があり、また耐久信頼性に優れているこ
とから、自動車だけでなく幅広い産業分野の動力源に使用されている。自動車用機関としては、
日本など多くの国で軽油の市販価格がガソリンより安価で燃料費の面で経済的であることも加わ
って、トラック、バスなどの商用車用は 1920 年代に出現以来、圧倒的な比率で普及している。
また、乗用車用の出現は 1930 年代と遅かったが、その後、欧州を主体に順調に増加してきた。
その結果、ディーゼルエンジン搭載車は、20世紀末に7億台を越える世界の自動車保有台数の
15%近くを占めるまでに至っている。
一方、最近の地球温暖化問題からCO2(二酸化炭素)削減、燃費低減への要求が高まり、その
対応にディーゼルエンジンが有効と考えられている。この様な状況下で21世紀にもディーゼル
エンジンを自動車用として普及・発展させるためには、ディーゼルエンジン本来の特長である高
熱効率をさらに改良しつつ、低公害化に向けて排出ガス対策等を確立し、またガソリンエンジン
を超える出力や低振動・低騒音にする必要がある。
ディーゼルエンジンは熱効率が高く燃費が良い反面、黒煙やPMの排出量が多い。また、排気
ガス中に残存酸素が多いためガソリンエンジンのように三元触媒などの適用が困難でNOxの排
出量も多い。
ディーゼル排ガスの排出抑制にあたっては、NOx低減とPM、スモーク、CO(一酸化炭素)、
HC(炭化水素)などの低減とのトレードオフを克服し、さらにCO2 低減、低燃費化を狙いと
する熱効率向上といった複数の項目を同時に解決する必要がある。
−2−
その対応技術は、
1)エンジン本体に関わる噴射系システム、燃焼系、吸排気系における開発
2)排ガス後処理システム
に大別され、それぞれの最適化とそれを統括する高性能な制御システムの構築に集約される。
それらを個別にみると、これまで効果の大きいとされる前者を主体とする開発が主流であった。
すなわち、噴射圧力と噴射時期の独立制御が可能なCRS(コモンレールシステム Common Rail
System)と高圧噴射を組み合わせ、噴射燃料自体を微粒化する噴射系システム、あるいはEGR
(排気ガス再循環 Eghaust
Gas
Recirculation)で燃焼温度を低減するクールEGRは一般的
になりつつあり、それらを精密な制御でおこなうといったシステムである。
こうした最新技術によってもたらされる効果を、益々厳しくなる排ガス規制値と対応させてみ
ると、次期規制レベルには対応可能と考えられるが例えば、2008 年 Euro5 規制をクリアーする
にはDPF(ディーゼルパーティキュレートフィルター)の装着は必須条件とも言われている。
一方、排ガス中の超微粒子による健康リスクについても議論されており、PMは心肺による死
亡数と関係があり、また喘息の症状悪化と子供の呼吸器系健康の指標と関係があることが分かっ
ている。
質量の大部分は、粒径 0.1∼0.3μm の範囲にあるが、個数濃度では、大部分が粒径 0.005∼
0.05μm の範囲にあり、質量は 1∼20%に過ぎないが、粒子個数では 90%以上を占めるとされて
いる。
こうした議論や結果は粒径あるいは数量規制といった新しい規制に繋がっていく可能性が高い。
地球規模で、二酸化炭素削減が急務となっている中、クリーンなディーゼルエンジンの開発は
最も現実的で有効な手段と考えるが、二アゼロレベルに向けた排出ガスレベルの実現には、エン
ジン本体に関わるアプローチのみでは困難といわざるを得ず、後処理装置システムの開発は不可
欠と考えられている。
以下に、代表的な後処理装置の内容や特徴について概要を述べる。
(1)DPF(触媒担持型)
連続再生式DPFには、ウォールフロータイプのフィルターが用いられており、このフィルタ
ー構造はPMの捕集効率は 80%から 90%程度と高い。
フィルター材料としてはコージエライトセラミックス及び、炭化ケイ素セラミックスが用いら
れている。
PMは主に未燃燃料などのSOF(可溶有機成分)と、すすなどで構成されている。
SOF分は触媒で酸化できるが、すすは固体のカーボンが主であり、DPFで捕集したのちに再
燃焼(酸化)=再生させる必要がある。CRTTM では、排ガス中のNO(一酸化窒素)を触媒によっ
て酸化力の強いNO2(二酸化窒素)に転化させ、酸化反応を利用して再生を可能としている。
ただし低い温度域では触媒が有効に機能せず、DPFの目詰まりが進行して、背圧上昇による燃
費の悪化を生じたり、最終的には溜まりすぎたPMが高負荷時には酸素により着火してDPFが
溶損するなどのトラブルが発生する。この温度の制約は、特に大都市の渋滞領域での走行を中心
とした使用環境ではかなり厳しい問題である。
−3−
(2)NOx吸蔵触媒
通常運転時はNOxを硝酸塩の形で触媒中に吸蔵し、間歇的に還元雰囲気中でNOxを浄化す
る方式の触媒である。浄化率は新品時最大 90%以上であり、実用運転でも 50∼70%程度が期待で
きる。30 秒∼1 分程度の周期で数秒間還元雰囲気にする運転制御が必要であり、この際のスモー
ク増加、燃費悪化、還元雰囲気切り替え時のトルク変動などが問題になる。
NOx吸蔵触媒の最大の問題は、硫黄分による吸蔵性能の低下=被毒劣化である。燃料や潤滑油
中の硫黄分に起因するSOx(硫黄酸化物)は、NOxよりも触媒に吸蔵されやすい。
(3)連続再生式DPFと尿素SCRを組み合わせたシステム
SCR(Selective Catalytic Reduction)は、選択還元触媒を用いて排気中のNOxを浄化す
るものである。尿素水を添加し、加水分解触媒において尿素水をアンモニアに変換し、アンモニ
アを還元剤としてNOxを浄化する。
後処理装置として、最初に連続再生式DPFを、その後に尿素SCRを設置している。前段の
酸化触媒によりNOxをNO2 に変換し、後段に設置したフィルターによりPMを捕集してNO2
により捕集したPMを酸化させる。連続再生式DPFによりすす(C)が浄化されるが、このほ
かに、酸化触媒によりSOF、HC及びCOも浄化される。この工程の後に、尿素SCRにより
NOxを浄化する。
以上のように後処理装置としてファインセラミックスの果たす役割は大きいが、触媒材料、フ
ィルター・担体材料、計測評価技術、部品化基礎技術の 4 分野が、ファインセラミックス材料の
寄与により将来的に排ガスの後処理システムの革新的な技術開発に寄与できる可能性が高いとの
結論に達した。
各分野の技術的な課題と、それを解決するために材料に要求される機能、特性、構造等、さら
にそれらの要求を実現する可能性がある候補材料・プロセスについて以下に述べる。
1.触媒材料:低温始動性・高還元率化(NOx触媒)
日本国内での特に都市部での走行モードは、低中速・低中負荷運転モードが主である。したが
って、エンジン始動時(コールドスタート)から都市部での走行時の排気温度である 100−200℃
までの温度域で高活性を示す材料が必要となる。
低温で高活性を示す触媒材料としては、COの常温酸化が期待される Au 担持 TiO2 や、ペロブ
スカイト系複合酸化物、格子欠陥を用いた新規酸化物触媒、貴金属のナノ分散が可能なマイクロ
ポア材料などが考えられる。
また、NOx吸蔵還元触媒での問題点の1つは硫黄成分による貴金属触媒の被毒であり、現在
600℃前後である再生(吸着硫黄の脱離)温度を、始動時や低速走行時にも再生可能な 50-100℃
まで低温化できることが望まれている。
NOx吸蔵用のファインセラミックス材料としては、現在アルカリ、アルカリ土類、希土類の
酸化物が用いられているが、これらの材料と硫黄が吸着しにくい TiO2、SiO2、ZrO2 などの材料
との複合化や、アルミナ+ゼオライト系でNOxの吸着+酸化を同時に実現する材料の開発が考
えられる。
−4−
2.フィルター・担体:超微粒子捕捉性・捕集効率向上
フィルター・担体材料は、排ガスの後処理システムの中ではPMの捕集と、酸化・還元触媒材
料の担持という重要な役割を担う材料である。特に高温で高い透過性、気孔率、比表面積、機械
的強度などを維持する必要があることから、ファインセラミックス材料の寄与が大きい部材と思
われる。
DPFによるPMの捕集については、現在使用されている材料でも規制に対するかなりの要求
は満足されている。しかし今後その影響に関する調査が進むナノ粒子の捕集や、コールドスター
トやDPF再生時のナノ粒子の放出、フィルター・担体材料の小型化など、新たな要求が生じて
くることが予想される。
DPFによるナノPMの捕集については、10µm 以下の気孔径からなるマイクロポーラスハニ
カム構造、あるいはハニカム壁内に捕集可能な微構造を構築することなどが必要となる。
現在用いられている炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)について細孔分布制御技術を確
立することが考えられる。
3.計測評価技術
触媒、フィルター・担体材料の機能、特性を最大限に発揮させるためには、最適な条件になる
ように精度よく制御する必要がある。また処理すべき物質の物性およびその計測技術、浄化シス
テムおよびその構成材料の評価基準および試験方法の構築を適切に行うことが重要となる。
微粒子計測技術の中で特にPMの粒径分布の把握は、触媒・フィルター材料の双方に非常に重
要な情報となる。現在1ミクロン以下のナノ粒子を含む微小粒子の粒径分布については、走査型
モビリティ粒径分析装置(Scanning Mobility Particle Sizer、 SMPS)が主に用いられている。
しかし、計測に数分程度の時間が必要なため定常走行時外の計測は困難とされている。したがっ
て、過渡的な過程を含む実際の走行モードでの超微粒子計測が可能な技術の開発が求められてい
る。
4.部品化基礎技術
排ガス処理システム内で有効に機能するように部品化する技術も重要となる。
少ない触媒で有効反応面積が確保できるように担体をマイクロポア+マクロポアの複合化、およ
び耐熱衝撃性も含む機械的強度が求められる。またセラミックス多孔質材料の多孔特性を最適な
状態に厳密に制御することが求められる。
CO2 削減による地球温暖化防止と、NOxやPMの削減による大気環境の改善という相反す
る要素の多い課題の克服に向け、高効率でクリーンなディーゼルエンジンを実現するために、エ
ンジン本体に関わる開発と併せて、排ガス後処理システムの開発が極めて重要である。
こうした後処理装置としてキーとなる材料が触媒材料、フィルター・担体材料としてのファイ
ンセラミックスであり、本報告書にて明らかにした技術課題を着実に解決することで、排ガスの
後処理システムの革新的な技術開発につながり、豊かで安心な社会の実現に寄与できるものと考
える。
−5−
第2章
ディーゼル排ガスの現状
「環境の世紀」と言われる21世紀の幕開けと共に、環境保全と省資源化を求める声が世界中で
大きくなっている。誕生後1世紀を経た自動車は文明の担い手でもあるその役割から、地域環境
と地球環境への影響が大きい。自動車メーカーは環境との調和を目指して性能向上と同時に低公
害化を積極的に進めてきたが、特に、トラック・バスなどのディ−ゼル車から排出されるNOx
やPM(Particulate Matter)が、都市部の大気汚染の一因となっている。また、これらの排出物
は健康への影響も大きいとの報告があり、排出ガス低減が強く求められている。翻って、地球温
暖化防止のためのエネルギー消費削減に向け、世界中が高効率でクリーンなディーゼルエンジン
の出現を待望している。ここでは、自動車用を対象として、ディーゼルエンジンの現状や環境へ
の影響、さらには排ガス規制の現状について述べる。
2.1
ディーゼルエンジンの現状
ディーゼルエンジンは熱効率が高いことに最大の特徴があり、また耐久信頼性に優れているこ
とから、自動車だけでなく幅広い産業分野の動力源に使用されている。自動車用機関としては、
日本など多くの国で軽油の市販価格がガソリンより安価で燃料費の面で経済的であることも加わ
って、トラック、バスなどの商用車用は 1920 年代に出現以来、圧倒的な比率で普及している。
また、乗用車用の出現は 1930 年代と遅かったが、その後、欧州を主体に順調に増加してきた。
その結果、ディーゼルエンジン搭載車は、20世紀末に7億台を越える世界の自動車保有台数の
15%近くを占めるまでに至っている。
一方、最近の地球温暖化問題から CO2 削減、燃費低減への要求が高まり、その対応にディーゼ
ルエンジンが有効と考えられている。この様な状況下で21世紀にもディーゼルエンジンを自動
車用として普及・発展させるためには、ディーゼルエンジン本来の特長である高熱効率をさらに
改良しつつ、低公害化に向けて排出ガス対策等を確立し、またガソリンエンジンを超える出力や
低振動・低騒音にする必要がある。
ディーゼルエンジンの熱効率を高めている基本要件が、絞り弁のない希薄空燃比下での燃焼と
高圧縮比であるため、自動車にとって重要な小型軽量・高出力、低振動騒音等への対応が元々困
難であり、これが乗用車への採用が遅れた要因の一つでもあった。このため自動車用機関の普及
の過程で図1に示す種々の燃焼方式が実用化された。この中で現在生産している燃焼室形式の特
徴を表1に示す。
国内のトラック・バスは第2次世界大戦中に予燃焼室式に統制されたこともあり、戦後は予燃
焼室式が一時主流であったが、その後、1970 年代のオイルショックを契機に、ポンプ損失や冷却
損失が少なく燃料消費率が低いうえに、部品の熱負荷も少なく耐久性に優れている直接噴射式機
関に移行し、現在はほとんどの商用車が直接噴射式機関を採用している。
また乗用車用ディーゼルエンジンも、従来は燃料噴射の問題が比較的少ない、燃焼圧力が低い、
低空燃比まで排煙濃度が低いなどの特徴から、最近まで渦流室式が主流であったが、1995 年頃か
ら高出力・低燃費と低排出ガスの両立に有望な電子制御式高圧噴射装置を装備した直接噴射式の
−6−
採用が急速に進み、欧州では 2005 年頃に販売する全ての乗用車用ディーゼルエンジンが直接噴射
式になるとの見方もある。
直接噴射式
渦流室式
燃焼室形式
副 室 式
予 燃 焼 室 式 * *印 : 2000年 時 点
生産車無
空気室式 *
噴射ノズル
噴射ノズル
噴射ノズル
予燃焼室
渦流室
燃焼室
主燃焼室
主燃焼室
直接噴射式
渦流室式
直接噴射式
図1
表1
項目
予燃焼室式
過流室式
予燃焼室式
ディーゼルエンジンの燃焼室形
燃焼室形式の比較(自動車用ディーゼルエンジンの場合)
直接噴射式
渦流室式
最低燃費率
小 型 機 関 : 2 2 0 g /k W h 以 下
大 型 機 関 : 2 0 0 g /k W h 以 下
小型機関が主であり,
2 6 0 g /k W h 前 後
最高爆発
圧力
比較的高い(過給機関では
170bar以 上 も 出 現 )
高速高出力化する程高圧化
す る が , 11 0 b a r程 度
摩擦損失
ポンプ損失
小 (エンジンブレーキの
効きが悪い)
大(主副室間のガス流動に
よる損失が主要因)
冷却水損失
小(ラジエータが小さく
できるので大型車に有利)
大
排気温度
最 高 650℃ 程 度
最 高 750℃ 程 度
燃焼騒音
大(但し,パイロット噴射
による低減が可能)
中 (高 速 高 出 力 化 す る ほ ど
大になる)
圧縮比
比 較 的 低 い (14∼ 21)
高 い ( 18∼ 23)
低温始動性
補助手段無しでは最も良い
(寒 冷 地 で は 補 助 手 段 必 要 )
グロープラグを装着すれば
寒冷地でも問題は少ない
排ガス特性
N O xの 排 出 が 比 較 的 多 い
小 型 機 関 の 場 合 は HCも 多
N O xは 直 噴 機 関 よ り か な り
少ない
製作の難易
吸気ポート形状等による
スワール強さの管理が必要
直噴,予燃焼室と比較して
特に困難な要素はない
燃料噴射系
への要求度
機関性能が噴射系に左右
され易く,要求度は厳しい
噴射ノズルの整備に要注意
直噴機関より低噴射圧力で
よ く ( 30∼ 40M P a程 度 ),
要求度は比較的低い
適する行程
容 積 /気 筒
小型機関では不利(但し,
燃焼速度を増加し易いので
高圧噴射化すれば問題なし) 小型高速機関に最も適する
燃焼室回り
の熱負荷
小 (高 過 給 に 適 し て い る )
−7−
大(但し,小型機関が多い
ので,燃焼室口金等が問題
になる程度)
自動車用ディーゼルエンジンの排気量範囲は 0.8∼30L の広範囲にわたり、気筒配列も直列3気
筒から V 型 12 気筒まで種々の機関が量産されている。多気筒化は、機関の回転変動低減に最も有
効な手段であり、ディーゼルエンジンの課題の一つである騒音低減に寄与するほか、構成部品の
小型化に伴い回転数を高くできるため、高出力化の要求にも合致するが、気筒当たり行程容積の
減少に伴う熱効率の低下、さらに部品点数の増加や車載上の機関パッケージの大きさが、制約条
件となる。
気筒配列は一般に小排気量機関は直列、大排気量機関は V 形が使用されるが、乗用車系は機関
をFF横置きに車載するケースもあるため、全長の短いV形を商用車系より小排気量から採用し
ている例が多い。中大型商用車用機関を例に、同一排気量における直列機関とV形機関を図2に、
その得失を表2に示す。ディーゼルエンジンは筒内噴射で気筒毎に独立して燃料を供給するため、
1気筒の諸元を同じにして種々の多気筒に展開することにより、部品の共用化と開発の効率化を
図っているものが多い。乗用車系では直列 4、5、6 気筒をシリーズ化、商用車系ではV形 8、10、
12 気筒をシリーズ化している例がある。
表2 直列6気筒(L6)とV形8気筒(V8)の得失(同一排気量での比較)
−8−
L6
図2
V8
直列6気筒(L6)とV形8気筒(V8)の構造比
ディーゼルエンジンは熱効率が高く燃費が良い反面、黒煙や PM の排出量が多い。また、排気ガ
ス中に残存酸素が多いためガソリンエンジンのように三元触媒などの後処理装置の適用が困難で
NOxの排出量も多い。排出ガス規制導入とほぼ同時期に直噴(DI)化したディーゼルエンジンの
排出ガス低減技術の歴史は、噴射時期遅延による低NOx化と噴射系の高圧化を主体にした低黒
煙・低PM化の両立の歴史である。1980 年代中頃から噴射系の電子制御化が進み、プレストロー
ク制御式噴射ポンプ(TICS:Timing and Injection rate Control System)と呼ばれる燃料噴射シ
ステムが使用され始めた。1996 年には、全運転域の高圧噴射と、噴射圧力と噴射時期の独立制御
が可能な CRS(Common Rail System)の採用に到る。CRS はディーゼルエンジンのポテンシャルを大
きく引き出し性能向上と排出ガス低減の両立とパイロット噴射による騒音低減が図られた。
1980 年代中頃から高出力低燃費化と低排出ガス化を狙いに過給インタークーラの採用が始まっ
た。4弁化による燃焼改善を進め、1994 年規制からはNOx低減のために EGR(Exhaust Gas
Recirculation)を採用した。可変容量過給機が 1994 年規制頃から採用され始め、EGR の導入と空
気量の確保による低NOx化と低PM化の両立が図られた。国内の硫黄含有量 500ppm 軽油の導入
に合わせ、米国の 1994 年規制に続いてディーゼル酸化触媒が7都県市向けなどの低公害車用に開
発された。1998 年からの長期規制では、噴射自由度の大きな CRS に EGR (一部機種は冷却化)を組
み合わせた対応がとられている。
これまでに述べてきた主要な各要素技術の変遷をまとめる。
図3には噴射系技術の変遷と今後の展望を示す。低排出ガス化と低燃費化の両立を目指し、将
来は 200MPa に達する噴射圧力と噴射波形制御および噴射時期や噴射量の高精度制御と多段噴射
が可能な CRS が求められ、ピエゾ式や増圧式などの新 CRS が主流となろう。
過給技術の変遷と展望を図4に示す。今後は、可変容量過給機(VGT:Variable Geometry
Turbocharger)が主流を占めるようになると考えられるが、排気エネルギー回生による出力向上と
燃費低減を目指したターボコンパウンドエンジンも比率を増やす可能性がある。
−9−
図5には後処理技術の変遷と展望を示す。
DPF はPMの 80∼90%の低減とナノ粒子削減も可能で、PM低減のための根幹技術である。ディ
ーゼルのNOx還元触媒として尿素SCRや吸蔵型NOx還元触媒などが研究・開発され、一部
公道試験中だが、EGR の多量高精度化技術と共に、NOx低減のための切り札である。そして DPF
とNOx還元触媒技術を組み合わせた後処理装置はディーゼルエンジンの進化に繋がる。サルフ
ァーフリー軽油や低アッシュオイルがその実用化のための必須技術となる。さらに DPF の再生制
御とNOx還元触媒の還元や再生制御の協調制御に加え、噴射系や EGR を含む吸・排気系を組み
合わせた燃焼制御と車両挙動制御をも考慮したエンジンの統合制御システムの構築がディーゼル
エンジンの未来を拓くと考えている。
メ イン 噴 射
Next G eneration
CRS
180-200M Pa
ポ ス ト噴 射
噴射率
パ イ ロ ット噴 射
CRS
140M Pa
クランク角
多 段 噴 射 (5回 )
噴 射 時 期 ・噴 射 圧 力 の 独 立 制 御
多 段 噴 射 ( 2~4 回 )
TICS pum p
100M Pa
P pum p
80M Pa
噴 射 時 期 ・噴 射 圧 力 ・噴 射 率 制 御
多 段 噴 射 (4~5 回 )
噴射率制御
噴射時期制御
AD pum p
電 制 タ イ マ ・ガ バ ナ
75M Pa
機 械 式 タイマ・
1990
ガバナ
2020
2010
2000
1980
TICS pum p
図3
CRS
Injector
燃料噴射技術の変遷
−10−
Next generation
CRS
ターボコンパウンド
2段過給
モーターアシスト過給システム
V G T 2020
VGT
可変慣性過給
TCI
動圧過給
2010
ターボコンパウンドシステム
2000
1990
WGT
1980
過給機
パワータービンバイパス通路
パワータービン
図4
動力回収軸
減速ギヤ
過給技術の変遷
酸化触媒
1990
酸化触媒
DPF
SCR
DPF
2000
酸化触媒,DPF
,NOx触媒
酸化触媒,DPF,
NOx触媒
フィードバック制御
2010
高効率触媒
統合制御
モデルベース制御
フィードバック制御
¾アンモニアスリップ量をフィードバック制御
¾ DPFによる排圧変化をフィードバック制御
2020
統合制御
¾ 後処理・EGR・燃料噴射・VGターボそれぞれの影響を加味した制御の最適化
モデルベース制御
¾ 制御対象の物理量をモデルにて算出,実測可能なパラメータを比較し,補正を加えながら
フィードバックまたはフィードフォワード制御
図5
後処理技術の変遷
−11−
2.2
環境への影響
1.大気汚染に係る環境基準
環境基本法第16条第1項による大気の汚染に係る環境上の条件につき人の健康を保護するう
えで維持することが望ましい基準が5物質(SO2、CO、SPM、NO2、Ox)について決められて
いる。表1にその基準を示す。
SO2 は硫黄分を含む化石燃料の燃焼に伴い発生し、呼吸器への悪影響があり四日市喘息などの
原因となったことで知られる。
CO は燃料の不完全燃焼によって生じるもので排ガス対策開始前の自動車が発生源となってい
た。血中のヘモグロビンと結合し、酸素を運搬する機能を阻害する。
浮遊粒子状物質(SPM)は石炭・石油系燃料、廃棄物の焼却、自動車排ガス等の燃焼過程、生
産過程から発生する。また、気体である窒素酸化物や硫黄酸化物が大気中で二次生成粒子として
粒子化する。SPM は大気中に長時間対流し、肺や気管などに沈着するなどして呼吸器に影響を及
ぼし、短期的には病弱者、老人の死亡数の増加、長期的には慢性気管支炎の有症率の増加、学童
の気道抵抗の増加などが見られる。
NO2 は、自動車排ガス、火力発電所、炉作業等の空気が高温で熱せられることにより NO が発
生し、NO が空気中で酸化して NO2 が生成される。高濃度で呼吸器に好ましくない影響を与え、
喘息などの原因と言われている。
光化学オキシダント(Ox)は大気中の炭化水素類と窒素酸化物が太陽光の照射を受け、光化学
反応により生成する。光化学スモッグを引き起こし、粘膜への刺激、呼吸器への影響などの人へ
の影響の他に農作物などの食物への影響も観察されている。
2.自動車排出ガス測定局
道路沿道における大気汚染について、自動車排出ガス測定局(自排局)を設け監視を行ってい
る。平成12年度現在で全国の自排局は 416 局である。また、一般環境大気測定局(一般局)は
1711 局である。
3.大気汚染の状況
(1)二酸化窒素(NO2)
平成 12 年度の二酸化窒素の有効測定局は全国で 1861 局あり、長期的評価による環境基準達成
局(1 日平均値の年間 98%値が 0.06ppm 以下の測定局)は、一般局で 1454 局(99.2%)、自排
局で 316 曲(80.0%)となっており、その割合は前年度比較で一般局、自排局とも増加している。
また、年平均値の推移は、長期的にはほぼ横ばいの傾向が続いている。環境基準非達成局の分布
についてみると、一般局は千葉県、東京都、神奈川県及び大阪府に分布しており、自排局につい
ては自動車 NOx 法の特定地域を有する都府県(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、
兵庫県)に加え、北海道、静岡県、愛知県、三重県、京都府、岡山県、広島県、福岡県、長崎県
の9都道府県にも分布している。(図1)(注:自動車 NOx 法―――自動車から排出される窒素
酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別処置法)
自動車 NOx 法の特定地域における状況は、過去 10 年間継続して測定を行っている 413 の測定
局(一般局:290 局、自排局:123 局)における二酸化窒素濃度の年平均値は、長期的にみると
−12−
ほぼ横ばいの傾向が続いており、関東地域及び関西地域における分布を見ると高濃度が観測され
た測定局は都心部に集中している。
(2)浮遊粒子状物質(SPM)
平成 12 年度の SPM 有効測定局は 1832 局であり、長期的評価による環境基準達成局は、一般
局で 1292 局(84.4%)、自排局で 199 局(66.1%)である。前年度に比べ達成率は減少した。一
方、年平均については僅かながら増加しているが、近年ほぼ横ばいからゆるやかな減少傾向が見
られる。
環境基準非達成率の分布を見ると、関東地域を中心に、東海地方、新潟県、長野県、中国地方
瀬戸内海沿岸、九州地方に分布している。また、自動車 NOx 法の特定地域における環境基準達
成状況は、前年度に比べて一般局で増加し、自排局では減少している。関東地域における SPM
の分布は都心部のみならず内陸部にも高濃度の測定局が分布している。(図2、3)
(3)光化学オキシダント(Ox)
平成 12 年度の光化学オキシダントの有効測定局は 1188 局であり、環境基準達成局(5∼20 時
の 1 時間値の最高値 0.06ppm 以下の測定局)は一般局と自排局を合わせて 7 局(0.6%)と依然
として低い水準となっている。しかしながら、濃度別の測定時間の割合で見ると 1 時間値が
0.06ppm 以下の割合は 93.9%となっており、ほとんどの測定時間において環境基準値以下であっ
た。また、大都市に限らず都市周辺部での光化学オキシダントが 0.12ppm を超える日数も多くな
っており、光化学大気汚染の特徴である広域的な汚染傾向が認められる。
(4)非メタン炭化水素(NMHC)
光化学オキシダントの原因物質の一つである非メタン炭化水素(全炭化水素から光化学反応性
を無視できるメタンを除いたもの)については、緩やかな減少傾向を示している。
(5)二酸化硫黄(SO2)
平成 12 年度の二酸化硫黄の有効測定局は、1597 局であり、長期的評価による環境基準達成率
は一般局で 94.3%、自排局で 93.8%と近年良好な状況が続いている。
(6)一酸化炭素(CO)
平成 12 年度の一酸化炭素の有効測定局は 447 局であり、長期的評価ではすべての測定局で環
境基準を達成している。近年良好な状況が続いている。
(7)有害大気汚染物質
平成 9 年に施行された改正大気汚染防止法に基づき、地方公共団体において有害大気汚染物質
の大気環境モニタリングを本格的に開始した。平成 12 年度に地方公共団体及び環境省が実施し
た有害大気汚染物質の大気環境モニタリング調査では、平成 12 年 1 月から施行されたダイオキ
シン類対策特別処置法による大気環境基準値(0.6pg-TEQ/m3)と比較すると、全測定地点にお
いて環境基準値を下回っていた。ベンゼンについては、平成 9 年 2 月に設定された大気環境基準
値と比較すると、沿道について 87 地点中 37 地点において基準を超過していた。トリクロロエチ
−13−
レン、テトラクロロエチレンについては、いずれも全測定地点において環境基準値を下回ってい
た。
4.健康影響(PM を中心に)
(1)環境 PM でわかっていること
死亡数の面では、環境 PM の測定はすべての死亡とがん・呼吸器系原因の日々の死亡数に関係
があり、何年かにわたる全死亡数と心肺による死亡数と関係があることであり、死亡率の面では、
環境PMの測定は、心肺が原因の日別入院率と関係があること、環境PMの測定は、喘息の症状
悪化と子供の呼吸器系健康の指標と関係があることが分かっている。
(2)PM 10 短期曝露による健康影響(Pope, 2000)
図4に示すようにPMの短期曝露により死亡数の増加、入院や健康介護訪問の増加、症状の増
加、肺機能の減退に関係を持つ。
(3)PM 長期曝露による健康影響 (Pope, 2000)
図5に示すようにPMの長期曝露により死亡数(人口基準、同世代基準)の増加、病気の増加、
肺機能の減退(子供、大人)を示す。
(4)粒子が呼吸器系とどのように作用するかについての説明図(図6)
作業環境、消費者による発生、環境などからの粒子発生源から、放出、散布、輸送メカニズム
によりガス、蒸気、粒子、液滴、繊維の形で大気中に曝露される。これらの粒子状物質は体中に
おける沈着のメカニズムにより鼻咽頭領域(鼻、喉頭)、気管支領域(気管、気管支)、肺領域(細
気管支、肺胞)に入り込む。健康影響としては、損傷や修復メカニズムにより肺疾患やガンが発
生する。
(5)人間の呼吸器系の主な領域に粒子が沈着する粒径ごとの割合
0.05μm以下と 1μm以上の粒径の沈着率が高く、0.1μmから 1μmの間では沈着率が低い。
(図7)
(6)10μg/m3 重量濃度における異なる粒径粒子の個数と表面積 (Oberdorster, 2000)
粒径による 10μg/m3 重量濃度の個数と表面積を示した。個数濃度が個数により大きく変わる
ことが示されている。(図8)
(7)Ultrafine particles の肺への影響
喘息や運動により粒子沈着は増加すること、炭素粒子は心臓血管に影響を与え中央神経系を含
めた外肺組織に転位することが分かっている。また、年齢要因、共存汚染物質、既往の病気によ
り粒子影響は変わる。
(8)Ultrafine particles の健康影響研究の課題と将来の方向性
未知の発生源の特定、粒径分布・化学成分の特定、呼吸領域への沈着と分解、メカニズムなどを
−14−
明らかにすることが課題であり、研究対象器官として肺、心血管、中央神経系などが調べられて
行くだろう。
参考文献
(1) 環境省環境管理局、総務課環境管理技術室、自動車環境対策課:日本の自動
車環境対策、平成 14 年 10 月
(2) Presentation 資料、Workshop on Diesel DPF, 2003,3, 虎ノ門パストラル
−15−
表1 大気汚染に係る環境基準(5物質)
−16−
−17−
−18−
−19−
−20−
−21−
−22−
2.3
ディーゼル排ガス規制の現状
1974 年に始まった日本の重量車用ディ−ゼルエンジンへの排出ガス規制は、PM規制の追加な
どで強化された 1994 年規制、1998∼99 年規制に継ぐ 2003 年(新短期)規制では、ブローバイガス
の排出規制、耐久走行距離の大幅延長や OBD(車載診断)システムの装備も義務付けられた。これ
らの排ガス規制の変遷を、ディーゼルエンジンの進化とともに図1に示す。また、現在のディー
ゼル自動車の排出ガス規制値を表1に示す。
'75
NOx
低 減率
%
'80
100
50
0
PM 100
低 減率 50
%
0
250
噴射
圧力 150
MPa
50
燃焼方式
燃料噴射
シ ステム
吸排気
シ ステム
650
770
ppm
'85
540
'90
470
'95
400
'00
6 g/kWh
4.5
0.7g/kWh
S0.2%
S0.5% 軽油市場導入
0.25
S0.05%
100
75
65MPa
直 噴化
'05
140
3.38
'10
2.0
0.18 0.027
160 180
S10ppm
S50ppm
MIQCS
高圧噴射ポンプ
電子 タイマー /ガバナー
TICS
TCI
4弁化
CRS(
CRS( コモンレールシステム)
VGT
EGR
TCI;
TCI; インタークーラーターボ
クールドEGR
クールドEGR
酸化触媒
後処理
シ ステム
図1 排ガス規制の変遷とディーゼルエンジンの進化
表1 現在のディーゼル自動車の排出ガス規制値
−23−
新燃焼
λ F/B EGR
DPF
NOx触媒
NOx触媒
さらに、低排出ガス車認定制度に加え、2003 年 4 月の 50ppm 低硫黄軽油の全国供給に伴い DPF
などの後処理装置採用のためのインフラが整ったとして、2003 年規制時点で国土交通省の「低 PM
車認定制度」(2003 年規制のPMレベル 0.18g/kWh の 75%と 85%低減)に適合した車両の市場導
入促進が強く求められている。また、2002 年 10 月からの「自動車 NOx・PM 法に基づく車種規制」
や 2003 年 10 月からの首都圏 4 都県の「ディーゼル車運行規制」などへの適合も要求される。2007
年施行が前倒しされた 2005 年の新長期規制では NOx が 2.0g/kWh、PM は 0.027g/kWh と 2003 年規
制値に対して NOx で 41%、PM で 85%と大幅に削減され、併せて都市内走行が主体の過渡モード
が採用された。その時点では世界一厳しい規制であるがさらに中央環境審議会の第7次答申で、
新長期以降の規制検討を求める提案があり、ディーゼル車に対する排出ガス低減要求は一層厳し
さを増している。ディーゼル車の新長期規制値を表2に、また代表的な過渡モードを図2に示す。
欧州では 2000 年の Euro3 規制に続き 2005 年に Euro4、2008 年には Euro5 規制が導入され、NOx
が 2.0g/kWh、PM は 0.03g/kWh に削減される。Euro5 規制の見直しも含め Euro6 規制の検討も開始
された。米国では 1998 規制に継いで 2004 年規制が導入される。2010 年には、NOx、PM とも 2004
年規制の 10 分の 1 である NOx が 0.20g/bhph、PM は 0.010g/bhph と、ディーゼルの究極とも言え
る規制が導入される。しかも 2007 年からは 2010 年規制適合車両の 50%導入が義務付けられた。
日米欧の排出ガス規制値と試験モードを比較し図3、4にまとめた。限りなくゼロエミッショ
ンに向かう方向性と、日本の試験モードは低中速低中負荷運転が主で、欧州が中速中高負荷運転、
米国は高速運転が主体であることが判る。将来に向け重量車用ディーゼルエンジンの世界共通排
出ガス規制が検討され、厳しい OBD や既販車の排出ガス抜取り試験の検討も進みつつある。さら
に最近は PM 中のナノ粒子の健康影響が大きいとの見解もあり、調査・検討が進められている。
表2 ディーゼル車の新長期規制値(2005 年実施)
図2 新長期規制での代表的な過渡モード
−24−
PM g/kWh
0.4
∼2000 Level
0.3
Japan '98
JAMA Voluntary
Plan for Japan’03
0.2
∼2000 Level
∼2005 Level
Japan '03
US'04
∼2010 Level
0.1
0
0
US'98
US'07
Proposal
EUROⅤ
1
EUROⅢ
Ⅳ
Japan '05
2
NOx
3
g/kWh
5
4
6
図3 各国排ガス規制の動向比較
EURO
Japan
US
100
Load %
80
60
40
20
0
0
20
40
60
Engine speed %
80
図4 各国排ガス試験モードの主要運転領域
−25−
100
120
第3章
ディーゼル排ガス処理技術
3.1
排ガス処理装置の必要性
ディーゼル排ガスの排出抑制にあたっては、NOx 低減と粒子状物質(PM)、スモーク、CO、HC な
どの低減とのトレードオフを克服し、さらに CO2 低減、低燃費化を狙いとする熱効率向上といっ
た複数の項目を同時に解決する必要がある(図1)。
図1
NOX,PM のトレードオフと排ガス低減技術 1)
その対応技術は、1)エンジン本体に関わる噴射系システム、燃焼系、吸排気系における開発、及
び 2)排ガス後処理システムに大別され、それぞれの最適化とそれを統括する高性能なマネジメン
トシステムの構築に集約される。それらを個別にみると、これまで効果の大きいとされる前者を
主体とする開発が主流であった。すなわち、コモンレールシステム(CRS)と高圧噴射を組み合わ
せ、噴射燃料自体を微粒化する噴射系システム、あるいは排ガス再循環機構で燃焼温度を低減す
るクール EGR(Eghaust
Gas
Recirculation)は一般的になりつつあり、それらを精密な制御で
おこなうといったシステムである。また排出ガスを大幅に低減する燃焼方式として、予混合気を
圧縮工程により圧縮し自己着火させる HCCI (Homogeneous Charge
Compression Ignition)
などの研究も盛んに行われているが 2)3)、ねらいとする燃焼の制御が難しく実用化を阻んでいる。
こうした最新技術によってもたらされる効果を、益々厳しくなる排ガス規制値と対応させてみ
ると、次期規制レベルには対応可能と考えられるが例えば、2008 年 Euro5 をクリアーするには DPF
(ディーゼルパティキュレートフィルター)の装着は必須条件とも言われている。一方、DEP 超
微粒子による健康リスクについても議論されており、質量の大部分は、粒径 0.1∼0.3μm の範囲
にあるが、個数濃度では、大部分が粒径 0.005∼0.05μm の範囲にあり、質量は 1∼20%に過ぎな
いが、粒子個数では 90%以上を占めるとされている(図 2)4)。
−26−
図2
ディーゼル排気微粒子の粒径分布 4)
こうした議論や結果は粒径あるいは数量規制といった新しい規制に繋がっていく可能性が高い。
地球規模で、二酸化炭素削減が急務となっている中、クリーンなディーゼルエンジンの開発は最
も現実的で有効な手段と考えるが、二アゼロレベルに向けた排出ガスレベルの実現には、エンジ
ン本体に関わるアプローチのみでは困難といわざるを得ず、後処理装置システムの開発は不可欠
と考えられている。
参考文献
1)
中田輝男,自動車技術,56,1,pp49-53(2002)
2)
青柳友三,自動車技術,55,9,pp10-14(2001)
3) 大聖泰弘,自動車技術, 56,1,pp.18-24(2002)
4)
Kittelson D. B.: ENGINES AND NANOPARTICLES: A Review, J. Aerosol Sci. 29 (5/6),
pp.575-588 (1998)
−27−
3.2
DPF
3.2.1
コージェライトDPF及び Si 結合 SiCDPF
1.コージェライトDPF
(1)ハニカム
ウオールフロータイプDPFの設計
PMを除去するDPFの設計としては、網(メッシュ)を基体とするもの、セラミックスフォ
ーム等の多孔材そのものをフィルターとするもの等があるが、ハニカム構造を応用したウオール
フロータイプが最も多く使用されている。
図1. ウォールフロー型DPFの構造
多孔質セラミックスのハニカム構造の両端面を図 1 のように目封じし、排気ガスが壁内の気孔
を通過する際にPMを捕集する。多孔質のハニカムセル壁全面がフィルターとして機能するため、
極めて広いフィルター面積を得ることが可能で、その結果として低い圧力損失で使用することが
できる。ハニカム
ウオールフロータイプDPF設計は古くから提案され、公知技術である。
(*1 佐藤五郎,特開昭 49-38266
*2GM,特開昭 56-96109)
(2)DPF材料
ハニカム
ウオールフロータイプのDPFを構成する多孔質セラミックス材料としては表 1 に
示すように種々の材料が検討されているが、それぞれの特長、欠点を有する。
表 1.各種DPF材料比較
◎:優
コージェライト
•高強度
•低ヤング率
•低熱膨張
•高熱伝導率
•高耐熱性
•高耐蝕性
SiC
○:良
×:劣
アルミナ
ムライト
ZP
Si3N4
AlN
×
◎
○
○
×
◎
○
◎
×
×
X
◎
X
×
◎
X
×
X
◎
X
×
×
◎
○
×
×
○
◎
×
◎
○
○
○
○
◎
○
○
○
○
X
○
◎
−28−
考慮すべき重要な特性としては、①フィルター材料としての捕集効率及び高透過性、即ち低圧
力損失特性
②ディーゼルエンジン排気ガスの温度条件下及び捕集されたPMを燃焼再生する時
に生じる熱衝撃、高温に対する安定性
があげられる。
特に②のPM再生時の熱衝撃、高温、さらに堆積したアッシュへの化学的安定性に関連するセラ
ミックス特性として表 1 の高強度、低ヤング率、低熱膨張、高熱伝導率、高耐熱性、高耐蝕性(化
学的安定性)がDPF材料への要求特性となる。
(PM 再生時の DPF 使用環境)
・PM 再生による高温
(DPF 材料への要求特性)
・高強度
・低ヤング率
・PM 再生による熱衝撃
・低熱膨張
・高熱伝導率
・アッシュの堆積
・高耐熱性
(主としてオイルアッシュ)
・高耐蝕性
現在、DPF材料としては自動車部品として重要なコストの要因を含め大型ディーゼル用途では
コージェライト質材料が又乗用車用途ではSiC質材料が主流で実用化が進められている。
(3)コージェライトDPF
ガソリン車の排気ガス浄化用担体として多くの実績を持つコージェライトは、その低熱膨張特
性により耐熱衝撃性に優れた材料である。この材料を用いたDPFはフォークリフト、建設機械
用途には既に量産されているが、新たな規制に対応するためのDPFシステムに搭載するために
は種々の特性改良が必要になってきている。
このために材料特性とハニカムセル構造の改良、最適化が進められてきた。
図 2-1.に日本
ガイシにて量産中の気孔率 54%及び 60%のコージェライト DPF 材料の微構造写真と細孔分布を、
図 2-2 に気孔率及びセル構造変更した圧力損失特性を示す。
DHC-558 は従来から量産している材料であり、DHC-611 は酸化触媒付きDPF用として
2003 年度新たに量産が開始された材料で、その気孔率は 54%から 60%へ増加している。材料の
高気孔率化によりPM堆積時の圧力損失が約 30%低減されている。
さらにハニカムセル構造を従来のDPFの壁厚 17 ミリインチから 12 ミリインチへと薄く、かつセル密度を
100 から 300 セル/平方インチへと高密度化した場合、さらに 20%減少する。
−29−
DHC-558
Code No.
DHC-611
Cross Section
Wall Surface
70
70
Porosity : 54%
MPS : 15 µm
Pore Size
Distribution
50
Porosity : 60 %
MPS : 25 µm
60
Fraction / %
Fraction / %
60
40
30
20
50
40
30
20
10
10
0
0
∼5
5-10
10-20
20-50
Pore Size / µm
50-100
100∼
∼5
5-10
10-20
20-50
Pore Size / µm
図 2-1.コージェライト DPF の微構造と細孔分布
20
DHC−558:54%気孔率
17mil/100cpsi
DHC−611:60%気孔率
17mil/100cpsi
圧力損失 (kPa)
15
50%
DHC−611:60%気孔率
12mil/300cpsi
10
5
装置 : NGK スート発生装置
ガス温度 : 200 deg.C
ガス流量 : 2.27 Nm3/min
試料サイズ : 5.66“ D x 6
” L
0
0
2
4
6
8
PMの堆積量 (g/L)
図2-2.コージェライトDPFの圧力損失低減効果
−30−
10
50-100
100∼
また、気孔率だけではなく気孔径、細孔分布も圧力損失低減には重要である。図 3-1.にこれら
気孔特性と圧力損失の相関を示す。圧力損失は気孔率と平均細孔径と相関が認められ、高気孔率
化と大気孔径化は圧力損失低減に有効である。しかしながら、図 3-2 に示すように高気孔率化は
強度低下に平均細孔径増大は捕集効率低下につながる。よって、担持する触媒仕様も含め、製品
性能として要求値を満たす範囲での気孔特性最適化が重要である。
(*3
三輪,工業材料,22-26(2002)
)
コージェライトは気孔率や細孔分布をフレキシブルに制御するには有効な材料である。
又、その低熱膨張特性により大型ディーゼルエンジンに使用される大容量のDPFを一体構造の
ハニカム構造体で設計することが可能で大きなコストメリットを有する。
一方で、熱伝導率が小さく、局所的な発熱を起こしやすいという課題があるためコージェライト
DPFを使うシステムにおいては厳密な温度制御、PM堆積量制御が必要となる。図 4 にコージ
ェライトDPFのPM再生時の温度特性を示す。(*4
R.J.
Locker 他,SAE2002-01-1009)
使用されたコージェライトDPFは壁厚 20 ミリインチ、セル密度 188/平方インチ、2 インチ径、6 インチ長さで
DPF インレット端面から 1 インチ、3 インチ、5 インチ中央の PM 再生時の温度が示されているが、PM 量
5g(17g/L)で 1200℃近くの温度上昇が認められている。
酸化触媒を担持するとさらに PM の燃焼が加速されるため再生時の PM 量制御が重要になる。
近年PMとNOxが同時に除去可能なユニークなシステムとしてコージェライトDPFを使用
したDPNRがトヨタから発表され注目されている。(*5 高木信之他,自動車技術,55,59-62
(2001)
,2001 年 9 月号)
2002 年 4 月からトヨタが欧州で試験走行を開始したDPNR搭載
車には日本ガイシおよびデンソーのコージェライトDPFが採用された。また、2003 年 10 月よ
−31−
り DPNR 搭載車は市販されている。
再生効率︵%︶
再生温度 ℃(︶
PM堆積量(g)
図4. コージェライトDPFにおける
PM再生温度と再生効率
PMを焼却、再生するための酸化触媒に加えてNOx吸蔵触媒も付加したシステムであり、
こうした多機能のDPFでは触媒担持量が増加するため、DPF材料気孔詰りが発生し、PM堆
積時の圧力損失が増加しやすい。多機能触媒に対する気孔の最適化には更なる高気孔率コージェ
ライト材料の検討が各方面で開始されている。
2.Si-SiC(Si 結合 SiC)DPF
(1)Si 結合 SiC 材料について
SiC 材料は耐熱性、耐蝕性に優れ、高強度、高硬度で、高い熱伝導率を有した材料である。緻
密体としては各種るつぼ、窯材、メカニカルシール等、耐熱部品の用途に以前から使われてきた。
最近、
DPF 用の多孔材料として新たな姿で実用化され、
見直されている。SiC の特徴である 2500℃
以上の分解温度を有する耐熱性と、高い化学耐久性が DPF 用の材料として適していた背景はあ
るが、非酸化物セラミックスにあって、比較的安価な原料を使えることも自動車部品への適用に
重要な要因と考えられる。
そして高いヤング率がある。
メリットになる。
SiC のもう一つの特徴として、DPF として使うには高い熱膨張率、
これらの特性は DPF の重要特性である耐熱衝撃性という点でデ
このため SiC-DPF の開発では、設計や材料面からの耐熱衝撃性向上のため
の改良がなされている。DPF 用の SiC 材料には、最初に再結晶 SiC が導入されている。
(*6 大
野他,SAE 再結晶 SiC は高強度、高熱伝導率のメリットを有するが、SiC の特徴でもある高いヤ
ング率を有するため、耐熱衝撃性において懸念がある。
SiC の特長を生かした上で、ヤング率
に対して改良を図る方策として、SiC と Si の複合材料の多孔体材料(Si 結合 SiC)が開発された。
Si 結合 SiC の材料設計の考え方を図 5.に、材料特性の再結晶 SiC との比較を表 2.に示す。
−32−
材料設計
Si結合
SiC骨材
・耐熱性
・熱伝導
・柔軟性
・熱伝導
SiC
Si
50μm
図5.Si結合SiCの材料設計
表2. 再結晶SiCとSi結合SiCの特性比較表
再結晶SiC
材料特性
気孔特性
熱的特性
気孔率(%)
45
46
平均細孔径(μm)
10
15
熱伝導率(W/mK)
50
30
熱膨張係数(x10-6/K)
機械特性
耐食性
Si結合SiC
4.1
4.3
ヤング率(GPa)
49
20
曲げ強度(MPa)
50
26
3
3
耐酸化性(%)
(1200℃、24時間後の重量増加)
各材料の水中急冷による耐熱衝撃性の評価結果を図 6.に示す。試験方法としては試験片を電気
炉中で所定温度に加熱、昇温後に水中に投下し、その強度低下を評価した。
SEM 観察写真を図 7.に示す。(*6
P207)
試験後の破断面の
内田他,日本セラミックス協会第15回秋季シンポジウム予稿集
(2002)
Si 結合 SiC では強度低下が起こる温度差ΔT が 500℃以上と再結晶 SiC の 300℃に比較
して大きい。 この理由として、再結晶 SiC が試験後のクラックが複数の SiC 粒内を進展してい
ることからも亀裂が進展しやすいのに対して、Si 結合 SiC はクラックの進展がなく、ヤング率の
小さい結合部の Si により応力が緩和されている効果によるものと考えられる。
−33−
強度比(熱衝撃試験後/試験前)
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
Si結合SiC
0.2
再結晶SiC
電気炉加熱、水中投下後の強度を測定
0.0
0
100
200
300
400
500
600
700
800
炉加熱温度と投下水温の温度差: ∆ T / °C
図6.耐熱衝撃性の比較評価
S i結合S iC
再結晶SiC
図7.耐熱衝撃試験後の破断面微構造
∆T = 600℃
Si 結合 SiC の基本プロセスは焼成以前の工程はコージェライト DPF と全く同じで、原料粉末
(SiC と Si)をニーダー混合、土練、ハニカム体成形、乾燥、端面目封じ、焼成するシンプルな
プロセスである。 焼成は 1400℃大気雰囲気で焼成できるコージェライトとは異なり、他の SiC
質セラミックスと同様にアルゴン雰囲気での焼成が必須となる。 焼成温度は 2200℃以上の温度
が必要な再結晶 SiC と比較してかなり低い 1600℃以下の温度で焼成できる。
工程のシンプル
さゆえに、原料粒径や焼成条件の工夫で比較的に容易に微構造を変更することが可能である。 微
構造の制御はコージェライト DPF で述べたように触媒付きシステム用途に適用するために、望
ましいレベルまで気孔率を高くしたり、コーティングする触媒仕様に適する細孔分布の調整が可
能である。図 8.に Si 結合 SiC 材料のバリエーションを示す。
うな材料が適していると考えられる。
−34−
各再生方式に対して図に示すよ
また Si 結合 SiC は結合タイプの多孔体であるため、結合部の径や組成を改良することで熱
伝導率や機械的強度をさらに改良できることもメリットである。
各種Si-SiC材料
(再生方式)
(燃料添加剤方式)
(触媒付方式)
(触媒付方式:高気孔率)
微構造
100µm
100µm
100µm
46 %
52 %
60 %
平均細孔径
15µm
20 µm
20 µm
熱伝導率
30 W/mK
18 W/mK
11 W/mK
気孔率
図8.Si結合SiCのバリエーションと特性
(*7 市川他,セラミックス,38[4]96-300(2003)
)
(2)Si 結合 SiC
DPF について
Si 結合 SiC DPF 特性でフィルターとしての捕集性能、圧力損失についてはコージェライト
DPF と近似した特性を示す。
表 3.に示す気孔率、気孔径の異なる DPF について触媒コーティ
ング量を増加させた時の初期圧損(PM 堆積なし)及び 4g/L の PM 堆積圧損を図 9.、図 10.に
示す。(*8 市川他,SAE2003-01-0380)
表3. 評価したSi-SiC材料
−35−
触媒コーティング量(ノミナル値)
図9. 初期圧損と触媒担持量の関係
触媒コーティング量(ノミナル値)
図10. PM堆積圧損と触媒担持量の関係
初期圧損については DPF の気孔率はほとんど影響しないものの、4g/L の PM 堆積圧損では触
媒担持量が増加するに従い、60%の高気孔率材料が 52%材料に比較して大幅な低圧損特性を示し、
コーティング量の必要とされる NOx吸蔵触媒付き DPF への適用に有利なことがわかる。
ィルター特性として重要な捕集効率について、SMPS の測定例を図 11.に示す。
また、フ
高気孔率材料
でも 90%以上の捕集効率が確保されている。(*9 結城他,SAE2003-01-0383)
一方、Si 結合 SiC の PM 再生時の特性については、触媒付き DPF では触媒の耐熱性を考慮す
る必要がある。
コモンレール方式の直噴ディーゼルエンジンでのポストインジェクションを主
体とする PM 再生方式では PM が確実に焼却再生する温度条件と触媒の耐熱温度以下での PM 量
制御が重要となる。
図 12.、図 13.、図 14.に DPF インレット温度と PM 堆積量を変化させた
時の DPF の PM 再生効率、DPF 内最高温度、制御条件を示す。エンジンによる PM 再生は温度
条件の最も厳しくなる PM 再生開始と同時にアイドリング状態に回転数を落し、いっきに PM を
再生させる条件での測定値である。(*9 結城他,SAE2003-01-0383)
−36−
図11. SMPSによる触媒付きSi-SiC DPFの捕集性能
図12. DPFインレット温度と再生効率
図13.DPFインレット温度とDPF内最高温度の関係
−37−
図14.PM再生効率とDPF内最高温度
(アイドル落し条件)
Si 結合 SiC は圧力損失、PM 捕集効率、
触媒付きシステムでの再生特性とも優れた特性を示し、
欧州の複数自動車での採用及び国内でもマツダのボンゴ商用車の触媒付きシステムで採用され、
量産が開始されている。
(3)コージェライト DPF 及び Si 結合 SiC
DPF の今後課題
図 15.にコージェライト及び Si 結合 SiC-DPF の外観写真を示す。 これら二つの DPF 材料は
おおまかに分類すると 5 リッター以上のエンジンを有するトラックなどの大型車にはコージェラ
イト、乗用車や SUV など5リッター未満のエンジンには特に欧州のメーカーにおいて SiC が主
流といったすみわけがなされるものと考えられている。
表4にコージェライト及び Si 結合 SiC の DPF 材料としてのメリット、デメリットをまとめた。
SiC は原料、プロセスの低コスト化が図られつつあるものの、コージェライトに比較すればま
だまだ高く、普及促進のためには更なる低コスト化、また市場の急拡大に対応する十分な量産技
術を整えていくことも重要な課題である。
なお、ここでの DPF に関する記述は全て現在提案されている、燃料添加材 DPF システム(FA
システム)、酸化触媒担持 DPF システム(触媒システム)、NOx吸蔵触媒担持 DPF システム(NO
x触媒システム)をベースとした DPF の考え方について述べた。しかし今後さらに強化される
排ガス規制に対応するためには、新規の PM/NOx浄化システムが数多く開発、提案されるだろ
ここでの DPF はそれぞれのシステムに適応する材料、設計が要求され、特に採用される
う。
PM 再生方式により DPF 材料は大きく変化する可能性がある。
DPF の市場ニーズにフレキシ
ブルに対応できるよう材料及びプロセス技術を高めてこれらの新しい流れに対応して行く必要が
ある。
−38−
乗用車、小型ディーゼル用
Si結合SiC-DPF
表4. DPF材料の選択
メリット
デメリット
コージェライト
・フィルタ温度が上がりやすい
・触媒コートが容易
・コストが安い
・溶損しやすい
Si結合SiC
・ススが燃える際にフィルタ
温度の暴走が少ない
・ススを多くためられる
・フィルタ温度が上がりにくい
・ススが燃えにくい
・コストが高い
大型トラック、バス用
コージェライト-DPF
コージェライト
SiC
図15. SiCおよびコージェライトDPFの外観
−39−
3.2.2
再結晶 SiC-DPF
1.はじめに
地球環境保護の観点から、近い将来、ディーゼルの排気ガス規制は、益々、強化されていく。
一方、DPF を使用したディーゼル排ガス浄化システムは、2000 年に実用化されて以来 PM 処理の切
り札として、急速に拡大しており、様々なシステムの提案がある。中でも R-SiC(Re-crystallized
Silicon Carbide)を用いた DPF は、その耐久性により 2000 年に実用化されて以来広く普及した
[1]。
この DPF は、SiC という高温耐熱性が非常に高い材料を選択したことに加え、線膨張係数が
大きい脆性材料である SiC フィルタを小さく分割し、かつ、セラミックスファイバーで強化した
特殊な接着材で、弾性支持をする構造を採用している。この構造によりセグメントフィルタに応
力許容限界を越えクラックが生じても、隣接するセグメントにクラックが伝播することを抑制し、
致命的なリングオフといわれる破壊モードを軽減することに成功した[2]。
こ の 構 造 を 採 用 す る こ と に よ り 、 SiC-DPF は 、 す す の 堆 積 量 検 知 の 不 確 実 性 な ど
uncontrollable な側面を含むシステムに対し、高いロバスト性を与え、市場にて認知されている。
2.SiC-DPF の構造
(1)
要求される機能
現在の DPF システムにおいてフィルタに要求される機能には、
1)粒子状物質をろ過する機能
2)再生に耐え得る機能
3)圧力損失を低く保ち、エンジン運転を妨げない機能
などが代表的な機能として挙げられる。
EuroIV(2005 年)、EuroV(2008-10?年)などの将来における厳しい規制に適合するため、1)の
粒子状物質をろ過する機能として 90%以上のろ過効率が求められている。ハニカムを交互目封止
したウォールフロー型のフィルタの場合、初期の特性としては、比較的容易にろ過特性の目標値
を達成することができる。しかしながら、20 万kmとも 30 万kmとも言われる長いディーゼル
のサービスライフにおいて安定したろ過機能を維持することは一般的には難しい。
2)に示される再生に耐え得る機能こそが、フィルタのロバスト性ともかかわる DPF にとっ
て重要な機能であると考えられている。ろ過捕集された PM は、燃焼により再生されるため、そ
の際発生した熱によりフィルタ内部に温度場を形成する。それ故その温度場により生じる熱衝撃
によるクラック生成や繰り返しの熱応力によるクラック進展に耐えうる設計が必要である。また、
発生した熱によって高温になることにより基材そのものやコーティングしてある触媒が劣化する。
そのため、耐熱衝撃とともに耐熱性、耐反応性が要求される。その他の重要な特性として、意外
に認識されにくいことだが、熱を拡散する能力がある。後述するが、同じすす量負荷による燃焼
においても、フィルタの熱容量、熱伝導率によりフィルタが達する最高温度、最高温度勾配が異
なってくる。
最後に3)の低圧力損失を保つ機能がある。DPF は、PM をろ過により捕集するため、時間と
もに圧力損失が上昇する経時特性をもつ。通常、PM が捕集されたときの圧力損失は、捕集され
ていないときのそれに比較して、6−8倍にもなる。この変化こそ、DPF の設計を複雑にしてい
−40−
る大きな要因である。なぜなら、PM 層を通過する抵抗は、PM 層の気孔構造によるが、それは
エンジンの運転状況や PM の再生率や局部的な燃焼により大きく左右されるからである。さらに
は、PM の中には、エンジンオイルや燃料添加剤に含まれる金属成分から生成されるアッシュと
よばれる燃え残り成分がある。アッシュのコントロールは、アッシュ耐久性と呼ばれ、DPF 設計
にとって最も重要な設計因子であることは、一般的にはあまり知られていない。アッシュは、フ
ィルタ内に残留し、フィルタの容積を占有していく。そのため、フィルタは、ろ過のためのフィ
ルタ面積を減少するので、圧力損失が走行距離とともに上昇していく。この現象は、PM を完全
に燃焼再生しても生じるため、非常にやっかいな問題である。さらには、アッシュがフィルタ内
のどの部分に残留するのかにより圧力損失上昇の様子が変わったり、フィルタ表面にこべり付き
さらに状況を深刻にしたりする。一般的なフィルタ容積では、ディーゼルエンジンのサービスラ
イフ全てをカバーすることができず、途中でフィルタは交換される。欧州では、すでに DPF の
フィルタ洗浄ネットワークが確立されており、第一世代の SiC-DPF は、約 8 万 km にて取り外
され交換されている。取り外された DPF は、洗浄された後、X 線写真と超音波診断により、ク
ラックやその他の破損状況を検査され、健全であることが証明されたものは再び市場に戻されて
いく。このような還流システムに耐えられる特性もロバスト性の一つであると考えられ、
SiC-DPF は非常に良い特性を示す。
(2)多孔質体形成方法
SiC を用いて多孔質体を形成する方法には種々の方法があるが、代表的な方法として、R-SiC:
Re-Crystallized SiC(再結晶 SiC)と Si-SiC:Si bonded SiC がある。図1に再結晶 SiC の焼結
技術を示す。再結晶 SiC とは、融点を持たない SiC を 2000℃近辺まで、不活性雰囲気にて昇温
し、原料である SiC 粒子間の相互拡散により、粒子間ネックを形成し、残った粒子間の空間を気
孔とする方法である。そのため、SiC 粒子の大きさ、焼結方法、焼結助剤(B:ボロン、Al2O3:ア
ルミナ、YAG:イットリアアルミナガーネット)
、造孔材を適当に選ぶことにより、気孔径、気孔
率、気孔分布、焼結温度を広範囲に制御できることが特徴である。DPF の基本特性である、流れ
特性(ろ過捕集効率と圧力損失)ならびに触媒のコーティング均一性等、システムに合わせた最
適設計と量産が可能である。
ここで、再結晶という言葉の定義について、述べておく[3]。冶金学者における再結晶とは、冷
間加工された材料の変形したマトリックス中での新しく発生した歪みのない粒子の核生成および
それに続く粒成長を言うが、セラミストにおける再結晶とは、結晶質あるいは大部分が結晶質の
固体中で、原子がさらに安定な位置へ移動するときに起こる微構造の変化に対し、“再結晶”な
る語を用いている。言い換えれば、固体状態での相変化、焼結、粒成長および析出または固溶体
の分離などの現象を含める。
SiC grain
Diffused
Boundary neck
mutually b/w
SiC grains
(a) SEM 像
(b) モデル図
図1
再結晶 SiC 焼結技術
−41−
図2に R-SiC の気孔分布図を示す。これより細孔径による気孔分布の違い、気孔率による細孔
容量の変化等、を知ることができる。近年では、60−70%の超高気孔率の R-SiC-DPF の製
5
1
[構造]-気孔径/気孔率
S-9/42
S-20/50
M-20/60
M-30/70
4
3
0.8
0.6
2
0.4
1
0.2
図2
0
1
図2
再結晶 SiC-DPF の気孔分布
10
100
気孔径 /um
積算細孔容積 /(mL/g
log微分細孔容積 /(mL/g logD
作が可能となっている。
0
1000
様々な気孔構造の再結晶 SiC 細孔分布
(3)R-SiC の特長と欠点
再結晶 SiC 多孔質体の特長と欠点を以下に示す。
・ 組成は、95%以上の SiC からなる
・ 特長:高熱伝導率、高強度、化学的安定性、耐熱性、耐高温疲労特性
・ 欠点:腺膨張係数が大きい。セラミック特有の脆性的な破断を示し、限界値を越えると
一気に粒内クラックが進展し、強度低下を引き起こす
古くから、SiC は、共有結合性が高い材料で、高温耐熱性材料として使われている。DPF のよ
うに、内部にて PM が燃焼し高温を発生する用途には、元来、好適な材料である。
SiC の特長は、数多くあるが、最も最初に述べるべき特長は高い熱伝導率である。電気ヒータ
ーなどによる部分加熱方式においては、前面からの局部加熱により、高温部をつくり、PM に着
火をさせ、火炎の燃焼伝播により再生を完了させる。そのため、熱伝導率は低い方が再生時間は
短くなる。しかしながら、現在主流であるポストインジェクションと呼ばれる再生方式において
は、高温になった大流量の排気ガスが流れてくる。そのため、温度上昇はガス熱流が壁を通過す
る際に、ガスからフィルタ多孔質材へ熱伝達することによって生じる。式(1)に示されるよう
にフィルタの温度上昇はガスの持つ熱量とフィルタの比熱、重量のみによって決まる。
∆T =
Qin-Qout
Cp・ W
(1)
∆T[K]:フィルタの温度上昇
Qin[J]: フィルタ上流のガス熱量
Qout[J]: フィルタ下流のガス熱量
Cp[J/Kg・K]:フィルタの比熱
W[Kg]:フィルタの重量
そのため、PM 再生中の最高温度や部分的なヒートスポットの影響を軽減するため、熱伝導率
は高ければ高い程良い。とくに、触媒をコーティングした場合、安全に再生できる PM 量を決め
−42−
るのは、クラックではなく、触媒の許容温度となる場合が多い。そのため、同量の PM を溜めて
も、温度が上がりにくいという特性は、非常に重要であり、R-SiC は、その特性を持ち合わせて
いる。それに加え、高強度、化学的安定性、耐高温疲労特性など、本来 SiC の材料特性は、
R-SiC-DPF が長期に渡り、その特性を発揮できるというロバスト性に繋がっている。しかしなが
ら、R-SiC には、欠点がある。それは、上記の特性の背反事項であり、共有結合性が高いセラミ
ック特有の破壊モードを示すことである。それは、脆性的な挙動であり、熱応力が限界を越え破
壊が生じるとクラックは進展し、急激な強度低下を引き起こす。金属材料のような、いわゆる、
ねばさはない。
(4)セグメント分割構造
セグメント分割構造は上記 R-SiC の特性を生かし、かつ上記の欠点を克服するために開発され
た手法であり、次のような特長がある。
・ SiC フィルタを小さく分割し、かつ、セラミックスファイバーで強化した特殊な接着材
で、弾性支持をする構造であること。
・ 接着材の構造は、熱伝導材、無機接着材をセラミックファイバーにより強化したコンポ
ジット材料であること
・ セグメントフィルタ内の応力が許容限界値を越え、クラックが生じても、円筒軸に対し
直角の円筒面内における連通が抑制されているので、致命的なリングオフクラック(円
筒軸直角方向に分断されるクラック破壊)という破壊モードになりにくいこと
図3にセグメント分割構造を示す。R-SiC フィルタは、34.3mmの直方体にて、製造され
る。接着材は約1mm の厚みがある。セグメントは、それだけで独立したフィルタ要素を備えて
おり、接着材は様々な大きさや形のフルサイズフィルタを提供するために必要な組数のセグメン
トを連結し保持する。外周壁を内部とは異なる接着材にて形成しフルサイズフィルタを形づくる。
(a) セグメントフィルタ
図3
(b) フィルタ
セグメント分割構造
このように、セグメントフィルタと接着材は、機能を分離してその役割を果たしている。その機
能について下記に示す。
1)セグメントフィルタの機能
・ 粒子状物質をろ過する
・ PM を燃焼する場所を提供し、その燃焼再生に耐えうる
・ ハニカム構造にて広いろ過面積を提供し、ろ過 PM 層を薄くすることにより、低い圧力
損失特性を提供する
−43−
2)接着材の機能
・ セグメントフィルタを弾性支持することにより、隣接するセグメントからの応力伝達を
軽減する
・ 隣接するセグメントからの熱を有効に伝熱し、熱衝撃を軽減する
・ PM がセグメント間を通過しないよう隙間なく埋め、かつ、接着材自身が受ける熱衝撃
に耐える
などが挙げられる。上記より理解できるように、セグメントはそれ自身ですでにフィルタの役割
をしており、接着材はフィルタを形づくることのみでなく、フィルタとして重要なロバスト性を
提供できるような設計を目指したものである。
図4に開発された接着材の構造写真とモデル図を示す。(a)は、ファイバーで強化していない接
着材を(b)はファイバーで強化した接着材を示す。内部でセラミックの粒子がファイバーにより、
架橋されている様子が分かる。
(c)のモデル図に示すように SiC 粒子は熱伝導材料として、SiO2
は接着材として、ファイバーはマトリクス強化材として入れられている。背反事項を考慮の上、
それぞれの機能、役割を十分に発揮できるように、材料の組成、比率、製作条件を求めてある[2][4]。
Ceramic fiber
SiO2
SiC
(a) ファイバ強化無し接着材
(b)ファイバ強化無し接着材
(SEM 像
(SEM 像
倍率 x1000)
図4
(b) モデル図
倍率 x1000)
接着材構造
図5にファイバー強化の効果を示す。熱処理条件:700℃20 分にて単純に温度を昇降温したの
みで条件としては緩いものである。ファイバー強化が無いものでは、接着材全体にクラックが生
じることが分かる。
(a) ファイバー強化接着材(クラックが現れない)
(b)ファイバー強化無しの接着材(クラックが生じる)
図5
フ ァ イ バ ー 強 化 の 効 果 ( 熱 処 理 条 件 : 700 ℃ 20min )
−44−
図6にクラックの伝播を分断し、リングオフクラックを抑制する効果を確認した実験を示す。再
生条件は、エンジン排気ガスライン内に φ143.8x150mmL のフルサイズフィルタを挿入し、ポス
トインジェクションによりコントロール再生したものである。PM 条件は、30g/L であり、セグ
メントフィルタにクラックが入る条件の2−4倍の過剰負荷条件である。切断面を見れば分かる
ようにクラックは、この条件において、セグメント間を連通する様子は無かった。不連続構造の
ため、このような状況になっても高いろ過効率が維持できることが想像できるであろう。また、
背面からの観察においても、PM はまったく観察されず、接着材にもクラックが見当たらず設計
の狙い通りになっていることが確認できる。
(a) クラックが分断されている様子
(b) 背面の様子
(クラック位置を分かり易いよう
マーキングして示してある)
図6
セグメント分割構造の効果
(30g/L 超過剰 PM 捕集
ポストインジェクションによる
コントロール再生、
排気ガス温度600℃
エンジン条件 3000rpm, 50Nm)
3.DPF 基本設計と R-SiC-DPF の性能
(1)ウォールフロー型 DPF 構造
ウォールフロー型の DPF 構造を図7に示す。この構造は、ハニカムを交互に目封止したもの
で、入り口より流入した流体は必ず壁を通過し、出口へ出て行く。その壁により流体中の PM:
Particulate Matter 粒子状物質はろ過捕集される。図8にろ過壁の構造を示す。多孔質体より形
成され、用途、要求される機能により気孔構造は設計される。図8の DPF は、製品名:SD991
と呼び、主な用途は燃料添加剤 DPF システム用である。
−45−
図7
ウォールフロー型 DPF 構造
図8
ろ過壁の構造
(製品名:SD991
粒子径:11μm
気孔径:9±2 μm
気孔率:42±3%)
*設計値であり保証値でない
図9にセグメントフィルタに PM をろ過捕集した様子を示す。写真に見られるように、PM は、
壁上に一様にろ過堆積しながら捕集される。また、入り口側のセルと出口側のセルがセル壁によ
り分断され、ろ過が完全に行われていることが分かる。図10に SiC 上に堆積した PM を観察す
るためにクロスカット断面を拡大した写真を示す。このタイプの気孔構造でのろ過形態は、SiC
壁内に全く PM が浸入しない表面ろ過(⇔深層ろ過)と呼ばれるろ過形態である。
封口部
Soot
SiC
ろ過壁
図9
捕集 PM
ろ過捕集の様子
図10
(壁厚:0.4±0.03mm
SiC ろ過壁上に堆積
された PM の様子
セルピッチ:1.89mm
セル密度:178cpsi)
*設計値であり保証値でない
このようなウォールフロー型 DPF の歴史は古く、特許上では、1979 年にまでさかのぼる[5]。
この特許によると DPF の基本的な設計要件や特性は、ほとんどこの時期に考えられていたと言
−46−
っても良い。様々なセル構造やろ過特性、後述するが PM 入り口側のセル容積や面積を出口側よ
り大きくするという考え方もすでに詳細に記述してある。しかしながら、やっと近年になり実用
化した理由は、環境に対する負荷が増大し、排ガス規制が強化されたことと CO2 の排出量が低い
という観点よりディーゼル機関が見直されていること、新しいインジェクション方式や制御法、
燃料添加剤などの開発が進んだこと、ロバスト性の高い DPF が開発されたことによる。DPF は
日本ではもとより、世界中で開発されているため、DPF の呼び方も様々である。このことからも
DPF に対する認識も様々であることが伺い知れる。参考までに、各国での DPF の呼び方の例を
下記に示す。
DPF: Diesel Particulate Filter;
日本、韓国など
FAP: Filtre(s) à particles; フランス
Ruß filter:すすフィルタの意; ドイツ
Trap; 米国
(2)PM とろ過効率
DPF によりろ過捕集する対象である PM について述べる。図11に PM の模式図を示す。PM
は固体の炭素、炭化水素、硫酸などからなる。炭素は無定形炭素が大部分であり、黒鉛化率は5%
程度あることが知られている。また、結晶子の大きさは、2−3nm 程度であり、それらが、エ
ンジンの気筒内で凝集してディーゼル PM が生成される[6]。図12に PM の TEM 像を示す。よ
く観察すると凝集体の様子が分かる。図13に PM の組成の一例を示す。SOF とは、Soluble
Organic Fraction のことであり、未燃焼の燃料分(炭化水素が主成分)のことで、分解温度は、
300-400℃程度である。エンジンの運転条件や触媒によりその分量は異なる。SOx 分は燃料中の
硫黄分が酸化したものである。SOx は触媒の硫黄被毒の原因や水と結びついて硫酸を形成し、排
気管等の腐食の原因となる。金属分は、オイル中に含有されている Ca, Mg, Zn など、エンジン
の清浄剤、潤滑剤に起因するものや、PM の燃焼再生を促進するために燃料中に添加する Ce 系
や Fe 系の燃料添加剤に起因するものもある。その設計や成分により大きくその量は異なる。残
りが IOF: Insoluble Organic Fraction と呼ばれ固体の炭素であり PM の主成分である。燃焼温度
は約600℃とされる。
炭化水素
硫酸
固体炭素
図11
PM の模式図
図12
ディーゼルエンジン
より排出された PM の
TEM 像(16万倍)
−47−
図14に PM の SiC-DPF(気孔径 9 μm/気孔率 42%)のろ過性能を示す。評価装置は、SMPS:
Scanning Mobility Particulate Sizer と呼ばれるもので、粒子の数をカウントするものである。
この装置によるとろ過効率は、98%以上の高い数値を示す[7]。また、PM の平均中心粒子径は、
100nm であり、その径は 10-1000nm の間に分布している。また、フィルタをすり抜ける PM の
中心粒子径も約 100nm 近辺であり、それより小さい粒子も大きい粒子もろ過効率は向上する[7]。
一方、現在のところ規制は、PM の重量により規定されている。重量法によるろ過効率では、気
体状でフィルタをすり抜け希釈トンネル上にて凝縮し、粒子として計測されるものがろ過効率よ
り差し引かれるため、一般的に粒子カウント法に比較して低くなる。その効率は、エンジンや燃
料の性状により大きく左右されるが70−95%の間で大きく異なる。さらにろ過効率は、ろ過
時間により全く異なる。初期においては、PM のケーク層が形成されてないため、比較的低いろ
過効率を示すが、PM が 0.1-0.2g/L 程度堆積した状態になれば、急激にろ過効率は向上し、95%
以上を示すようになる。このように、ハニカムを目封止したウォールフロー型 DPF においては、
装着直後の初期におけるろ過効率は、十分に要求を満たすと言える。
70,000
SOX:
11.3%
Metals:
5.3%
C (IOF): 74.6%
粒子数 / #/cm3
SOF:
8.8%
60,000
50,000
w/o DPF
40,000
30,000
20,000
10,000
with DPF
0
10
図13
PM の組成分析結果の一例
図14
100
PM粒子径/ nm
1000
フィルタによる PM のろ過捕集
(3)圧力損失性能
図 15 に圧力損失の要因を示す。P3 は、PM 層によるガス通過抵抗であり、圧力損失の大きな
要因である。PM が無い状態に比較して、PM 堆積が進むと初期の何倍にもなる。ハニカムフィ
ルタにおいては、フィルタのろ過面積を向上し、PM 堆積を如何に薄くし、低圧力損失を保つか
ということが再生の頻度を低減するという点から重要となる。エンジンを効率的に運転するため
に許容できない圧力損失に達した場合、通常、燃焼による PM 除去が行われる。DPF においては、
“再生”という言葉が使われる。図16に再生の概念図を示す。
図15
フィルタの圧力損失要因
図16
−48−
フィルタの再生
PM の燃焼速度は、化学動力学的にアレニウスの式により表される。それは、酸素分圧と活性
点の数に比例し、活性化エネルギーおよび温度は、自然対数の肩に指数として表される。これよ
り、最も大きなファクターは、温度であることが分かる。PM の場合、堆積した状態においては、
550-650℃近辺になると燃焼速度が大きくなる。また、PM 層が形成されない連続再生(PM が壁
上に到達すると同時に燃焼していく形態)と呼ばれるときの温度あるいはバランス温度(NO2 に
よる再生時の連続再生温度)と呼ばれる温度は、おおよそ 300-400℃の間である。
(4)再生限界
再生前に PM をどれだけフィルタに溜められるかを示す限界量を再生限界と呼ぶ。その値が高
い程、再生頻度が低くなり、燃費悪化の低減や、ポストインジェクションによるエンジンへの負
担を軽減することができる。再生限界には様々な定義があるが、おおよそ、下記のようなものが
ある。
・ フィルタのろ過効率が低下する PM 量
・ フィルタにクラックが入る PM 量
・ フィルタが溶損する PM 量
・ フィルタの強度が低下する PM 量
・ 触媒が劣化する PM 量
これらの中より、もっとも低いものを選ぶという考え方より、再結晶 SiC の場合は、フィルタ
にクラックが入る PM 量を限界量として定義している。再生限界試験は、予め所定の PM 量を担
持したフィルタを、不活性ガス中で昇温し、720℃に達したとき常温の空気を流入することによ
って行われる。図17に再生ガスの流速と再生限界の関係を示す。図17より分かるように流速
が約 0.4m/s より低い場合は、再生限界が急激に高くなる。これは、酸素の供給が律速となり PM
の酸化反応が抑制されるからである。また、約 0.4m/s より大きくなる場合は、序々に再生限界
が高くなる。これは、フィルタが冷却されるため、温度が反応速度を決定している。通常、フィ
ルタ断面積とエンジン流量の関係においては、最低流速は、約 1-2m/s の間になるのが普通であ
るが、エンジン始動時などには、もっとも反応速度が大きくなる 0.4m/s の流速なることも考え
られる。そのため、再生限界試験では、0.4m/s を評価条件とした。
この図より、SiC のもっとも大きな特長は破壊モードとしてクラックのみを考慮に入れればよ
いいうことが分かる。その限界はコージェライトの約2−3倍となる。さらにコージェライトに
おいては、常用流速において、溶損という破壊モードが見られる。常にコントロールされた状況
においては、問題にならない。しかしながら、PM の不均一再生や、高温でのエージングにより
排ガス成分中の金属分などと反応が進んでいる状況では、問題となってくる。
−49−
35
30
PM weight (g/Li ter)
×
××
×
25
20
S i C Non crack
S iC Cracked
Cord. Non crack
Cord. Cracked
or Me l ted
×
×
×
15
×
×
10
×
×Cord. Melted
SiC-DPF Safty Area
×
5
×Cord. Cracked
Cord.-DPF
Safty Area
×
0
0.2
0.4
0.6 0.8
1.0
1.2
1.4 1.6
A i r ve l oc i t y
図17
1.8
2.0
2.2 2.4
(m/ sec )
流量と再生限界の関係
再生条件:Uncontrolled regeneration 700℃より急冷
サンプルサイズ:34x34x150 セグメント
また、再生限界試験は、熱衝撃試験とも言える。この試験においてはフィルタ内に熱伝対を挿
入することにより、温度変化や温度勾配などの情報を入手でき、設計情報として役立てることも
出来る。
図18に一般的な熱衝撃試験である水中投下試験と、PM 再生時にフィルタに負荷される温度
履歴の比較を示す。
quenching
Furnace
300-700deg.C
water
5000
4000
800
3000
600
2000
400
1000
200
0
0
2
4
6
8
10
12
14
Time(min)
(a) 水中投下試験
図18
(b) 再生中におけるフィルタ内温度の熱履歴
水中投下と PM 燃焼による熱衝撃の違い
水中投下試験においては、外表面より一瞬に冷却されるため、材料の熱伝導率が熱衝撃耐性に
関与しない一次の熱衝撃破壊抵抗係数により評価される(式2)。一方、PM 再生は、2−5分程
度を要する十分に速度の遅い現象であり、材料の熱伝導率が関与する二次の熱衝撃破壊抵抗係数
により評価される(式3)
。
−50−
Engine speed(rpm)
Temperature (deg.C)
1000
σ (1 -ν )
R=
αE
R′ =
σ (1 -ν )k
αE
R : first thermal shock resistance
R' : secondary thermal shock resistance
(2)
σ : strength
ν : poison ratio
k : thermal conductivity
α : thermal expantion coefficient
E : young modules
(3)
このような観点より、材料の熱伝導率と PM 再生中の最高温度の関係を整理したものを図19
に示す。同量の PM を再生した場合においても、同じ材料であれば、気孔率が高い方が、同じ気
孔率であれば、熱伝導率が低い方が最高温度が高くなることが分かる。この指標は、触媒やフィ
ルタの熱劣化を抑制するために重要なシステム設計要素となる。使われる触媒の種類、量により、
フィルタの気孔率、熱伝導率が選択される。
Maximum temp. /deg.C
1200
PM量 : 10g/L
Full-size
Φ143.8*150mm
1100
Segment
□34.3*150mm
1000
900
触媒劣化が著しくなる温度
800
Cordierite
700
20um/55%
Si-SiC
20um/50%
Si-SiC
R-SiC
15um/45% 20um/50%
R-SiC
9um/42%
600
0
10
20
30
40
50
60
thermal conductivity at 25 ℃ /(W/mK)
図19
熱伝導率と再生中のフィルタ最高温度の関係
(Uncontrolled regeneration)
4.R-SiC-DPF のさらなる耐久性の向上
(1)アッシュキャパシティーの向上
従来の DPF システムは、アッシュ堆積によるフィルタの交換を前提したが、昨今、燃料添加
剤の工夫[8]やフィルタの革新により、メインテナンスフリー化された例がある[9]。そのフィルタ
技術は、入口側の容積を出口側より大きくするというものであり、その考え方は古くからある
[5][10]。しかしながら、最近、特定の形状が非常に良い特性を示すことが分かった[9]。表 1 に様々
な入口側が出口側より大きいフィルタの設計を示す。図20にそれらのフィルタの圧力損失特性
を示す。この結果より、八角四角形状(OS: Octo Square 形状)において PM 堆積時の圧力損失が
非常に低いことが分かる。これは、図21に示すように、入口セルが共有している斜めの壁も PM
の体積とともにろ過能を示し、PM 層を従来セルに比較して薄くすることができるからである。
−51−
表1
従来のセル構造と様々な入口側の容積が大きいフィ
ルタの設計
yp
g
(in/out)=
(in/out)=
(in/out)=
(Hexagon/Triangle) (Square/Rectangle) (Octagon/Square)
conventional
cell design
cell density
wall thickness
178cpsi
0.4mm
0.30L/L
(1)
0.72g/cm3
30.6%
30.6%
172cpsi
0.4mm
0.50L/L
(1.67)
0.71g/cm3
53.3%
7.0%
b
b
a
a
178cpsi
0.4mm
0.39L/L
(1.30)
0.72g/cm3
39.6%
21.5%
178cpsi
0.4mm
0.46L/L
inlet volume
(1.53)
honeycomb density
0.70g/cm3
aperture ratio (inlet)
37.0%
(outlet)
24.2%
0.63m2/L
(w/o slanted wall)
filtration area
0.80m2/L
0.58m2/L
0.80m2/L
0.84m2/L
(with slanted wall)
e.g: a/b=1.5
e.g: a/b=2.5
* filter length:150mm, plug length:3.5mm was used by this calculation
18
SR1
16
SR2
pressure loss /kPa
14
conventional
cell
12
図20
OS1
OS2
8
入口側の容積が出口側の容
積より大きいフィルタの圧
10
力損失測定結果
6
SR: Square/Rectangle cell
4
OS: Octo/Square cell
2
0
0
1
2
3
4
5
soot mass /(g/L)
conventional cell
6
7
8
9
OS2
図21
PM = 10g/L
pic.
soot layer
thickness
捕集された PM の観察
0.135mm
0.130mm
図22にアッシュ耐久性向上効果を示す。開発された八角四角セル(OS:Octo Square セル)に
おいては、アッシュ量に対する圧力損失の上昇が著しく低減されていることが分かる。圧力損失
の限界の設定にもよるがフィルタライフを約1.5倍に向上できる。
−52−
35
150
Pressure loss /kPa
30
Conventional
cell
25
100
20
15
50
10
Ash length /mm
OS2
5
0
0
50
100
150
0
200
Ash mass /g
図22
OS セル構造によるアッシュ耐久性向上効果
Engine: 1.9L diesel,
CeO2: 25ppm
PM accumulation 6.5-7.5g/Le 3,000rpm/50m
PM regeneration 1,250rpm/60Nm
(2)再生限界の向上
3-2-2 項にて再結晶 SiC の欠点を述べた。それは、セラミック特有の脆性的な破断を示し、限
界値を越えると一気に粒内クラックが進展することであった。この欠点を改良する方法が最近、
開発された[11]。図23に概念図を示す。ネックを SiC 微粒子で結合し、厚くすることにより、
ヤング率を低減した。この方法によると限界を越えても、目視観察できるクラックは進展しなか
った。粒子間のネック部にマイクロクラックが観察され、このマイクロクラックの生成により応
力緩和がされていると推定される。また、このマイクロクラックが入る限界も従来型に比較して
高い。再生限界の比較試験結果を図24に示す[11]。
SiC grain
Diffused
Boundary neck
mutually b/w
SiC grains
Developed neck
By new technique
(b) Newly developed R-SiC
(a) Conventional R-SiC
図23
SiC grain
従来の R-SiC と新しく開発された R-SiC の粒子間ネック
−53−
Visible
crack limit
14.5g/L
Visible
crack limit
9.4g/L
Soot mass limit [g/L]
15
Visible
crack limit
Visible
crack limit
13g/L
>15g/L
Micro
crack
limit
10
Micro
crack
Limit
10.0g/L
5
0
SD991
R-SiC
9μm/42%
図24
Conventional
R-SiC
20μm/50%
Developed
R-SiC
20μm/50%
Si-SiC
20μm/50%
新しく開発された R-SiC の再生限界向上効果
5.あとがき
以上のように再結晶 SiC-DPF は、その欠点を解消し特長を生かすことにより、量産 DPF シス
テムの重要な要素となっている。今後も、システムの変遷、進化に合わせて革新して行くものと
考えられる。
参考文献
1. K.Ohno, K.Shimato, et al.,”Characterization of SiC-DPF for Passenger Car “ SAE paper
No.2000-01-0185
2. A.Itoh, et al., “Study of SiC Application to Diesel Particulate Filter (Part 1): Material
Development” SAE paper No.930360
3. 宗宮、守吉著、「焼結-ケーススタディ」、内田老鶴圃(1987)、p.355
4. イビデン社、SiC-DPF 用ファイバー強化複合材料の接着材に関する特許、特許番号、JP3121497,
US5914187, EP816065、出願 1994 年 7 月
5. GM 社、ハニカムを交互目封止したウオールフロー型に関する特許、特許番号、US4276071、出
願 1979 年 12 月
6. 井上、辻村編集、「自動車原動機の環境対応技術」、朝倉書店(1997)、p.89
7. K. Ohno, N. Taoka, et al., “Characterization of High Porosity SiC-DPF” SAE paper
No.2002-01-0325
8. G. Blanchard and T. Seguelong, et al., “Ceria-Based Fuel-Borne Catalysts for Series
Diesel Particulate Filter Regeneration” SAE paper No.2003-01-0378
9. K. Ogyu, K. Ohno, et al., “Ash Storage Capacity Enhancement of Diesel Particulate
Filter” SAE paper No.2004-01-0949
10. Corning 社、ハニカムを交互目封止したウオールフロー型に関する特許、特許番号、US4416676、
出願 1982 年 2 月
11. K. Ohno, K. Yamayose, et al., “Further Durability Enhancement of Re-crystallized
SiC-DPF”SAE paper No.2004-01-0954
−54−
3.3
触媒
3.3.1
酸化触媒
北米’94HD 規制で、PM 中の SOF 成分を分解浄化するフロースルー型の酸化触媒のディーゼ
ルエンジン車(トラック、バス)への本格的な装着が始まって以来10年の歳月が経った。今日
まで、フロースルー型の酸化触媒は、日米欧のディーゼル車の排ガス後処理技術として認知され、
広く普及するに至っている。
図1に、SOF 低減触媒の概要を示した[1]。SOF 低減触媒は、低温域でミスト状の SOF を捕捉
し、高温域で燃焼浄化しており、高い SOF 浄化率を得ることができる。また、flow-through 型
の担体を用いていることから、アッシュや Soot は通り抜けるため、約 60 万 km に渡って連続使
用が可能であることが確認されている。
図1
Problem
•White smoke
•Sulfate formation
Reductant Injection
PM
SOF
Sulfate
Soot
Gas
HC
CO
NOx
SO2
H2O
etc.
Flow-Through type
Catalyst
Reduce PM
Oxidation of HC, CO
Reduction of NOx
Gas
Oxidation
Reduction
Adsorption
Desorption
CO2
N2
H2O
これらフロースルー型酸化触媒の改良も順次進展しており、SOF の捕捉効率の向上、低温着火
性(SOF、HC、CO)の改良、さらにはサルフェート生成の抑制技術の改良が進み、その結果、
PM 浄化率の向上がはかられてきた。しかし、現状においては、SO2 の酸化に起因するサルフェ
ートの生成による PM の増化が一つの課題であり、特に排気温度の高いトラック系ではその影響
が顕著で、サルフェートの生成を抑制した触媒が必須となっている。
現状の酸化触媒による PM の低減率は 20-60%で、車種によるばらつきが見られる。これは、
エンジン特性による PM の排出量、燃料中の S 含有量、SOF 比率並びに排気温度に依存してい
る。
図 2 に㈱アイシーティーにおける各種触媒の性能を示した[2]。使用される排ガス温度、燃料性
状、対象とする規制モードに合わせて、各種車輌への適合がはかられている。
その他、フロースルー型酸化触媒の発展系として、排ガス中の HC を用いて NOxを浄化する
(HC-NOx)触媒の開発も進んでいる。これらは、酸化触媒の性能を有しかつ HC-NOx の性能
−55−
を付与した物で、その NOx性能は、排ガス中の HC 濃度ならびに排温に依存しており、エンジ
ン制御とのマッチングが、その性能を引き出す key となっている。
図2
各種フロースルー型酸化触媒の性能試験例
A (Pt1g/L)
B (Pt0.1g/L)
C (Pd0.4g/L)
D (Pd0.06g/L)
E (Pd0.12g/L)
F (Pd0.06g/L)
Diesel Engine test
Engine: 3.1L, IDI, NA, 2000rpm
Catalyst:2.5L, 400cpi
Fuel:JIS-2 (S=0.18wt%)
100
80
60
40
20
0
100
100
200
300
400
500
600
100
50
0
-50
-100
100
600
200
300
400
500
600
4
SO Conv. [% ]
PM Conv. [% ]
SOF Conv. [% ]
80
70
60
50
40
30
20
10
0
-10
-20
200
300
400
500
HC-deNOx 性能
NOx-Conversion [%]
Engine bench test, HC/NOx = 5
70
60
Precious Metal Type
Base Metal Type
50
40
30
20
10
0
100150200250300350400450500550
Temperature [°C]
その他、図 3 には、㈱アイシーティーにおいて実施した、気孔率の高いフロースルー型のハニ
カム担体を用いた触媒のエンジン試験結果の一例を示した[3]。これらの気孔率の高いハニカム担
体を使用した触媒では、従来の物見比べて高い Soot の浄化率を示す事を確認している。この事
は、ミスト状、またはガス状の SOF だけでは無く、固体状の Soot もフロースルー型の触媒で捕
捉しかつ浄化可能であることを示している。今後、エンジンからの PM 排出量が低減され、かつ
−56−
燃料の低硫黄化が進めば、より酸化能力の高い触媒の適用が可能となり、Soot 特にナノ粒子の
燃焼浄化も含む PM 低減率の向上が期待されている。
図-3 PM 低減性能に及ぼす触媒形状の影響
500℃ 定常評価結果
Rate of PM emission [-]
Engine : 3.1L
Fuel : 30ppm.S
SOF
SOOT
Sulfate
The Substrate SEM image for
Catalyst B and C
1.00
100μm
0.00
Raw Emission
Catalyst B
Catalyst C
Catalyst D
Catalyst E
The Substrate image for
Catalyst D and E
以上、フロースルー型酸化触媒の現状ならびに開発状況の概要を示したが、酸化触媒は、各種
PM 低減システムならびに NOx低減システムの構成触媒としても今後も必要とされている。そ
れぞれのシステムでの、要求性能の概要を以下に示す。
DPF 前段 DOC に特に求められる機能
•
大量の HC を速やかに酸化して後段 DPF に熱を供給する機能
•
上記高温条件での耐久性向上
•
再生時の HC スリップ抑制
•
コンパクト化
•
CRT 特性のための NO2 生成機能、もしくは低 NOx 仕様エンジンにおける deNOx 機能
LNT 前段 DOC に特に求められる機能
•
LNT 再生のための Rich スパイクを緩和しない
•
HC をできるだけ LNT 再生に有利な CO に転換する(システムによる)
•
Rich 時の必要以上の HC,CO スリップを抑制
•
低温からの着火特性
•
排気温度の安定化(LNT の温度をできるだけ一定に保つ)
SCR 前段 DOC に特に求められる機能
•
NO の一部を NO2 に酸化して SCR が最適に作動する NO/NO2 比を維持
•
低温からの HC,CO の浄化
•
排気温度の安定化(SCR の温度をできるだけ一定に保つ)
−57−
SCR 後段 DOC に特に求められる機能
•
アンモニアを酸化してスリップを抑制
一言に酸化触媒といっても、NOx 浄化能(HC-NOx、NOx 吸蔵能)を兼ね備えたいわゆる 4
元機能を有する触媒も酸化触媒の発展形であると考えている。また、上述の酸化触媒の各種フィ
ルター担体への応用が、いわゆる Coated-DPF としてディーゼル排ガス低減技術に応用されてい
くと考えている。今後も、信頼性のあるディーゼル排ガス低減技術の構築に向けて、ディーゼル
排ガスの酸化触媒技術の更なる進化が期待される。
−58−
3.3.2
DPF触媒技術
DPF はディーゼル排気微粒子物質(DPM)を物理的にろ過する装置である。高い DPM 除去率が
期待できる一方、以下の課題があり現在検討されている。
・ 圧力損失と捕集効率のバランス
・ 捕集した DPM 再生
・ 耐久性、メンテナンス
1.DPF の形態と材質
様々な形態、材質の DPF が提案されている。
(ア) ウォールフローモノリス
多孔質材料からなるハニカム構造体の流路を交互に目封じし、多孔質材料の壁体で DPM
を濾過するものである。材質としてはコーディエライト、SiC、SiN などが提案され、コー
ディエライト及び SiC 製は既に市場で使用されている。コーディエライト製は、比較的気孔
率が上げやすいため圧力損失を抑えることができ、触媒担持も容易であるが、耐熱性に懸念
がある。SiC は耐熱性が高いが、気孔率では今のところコーディエライトに劣る。
(イ) セラミック繊維
セラミック繊維をシート状に固め、束ねたり巻いたりして成型したもので DPM を濾過す
るもの[4][5]。
(ウ) セラミックフォーム
軽石のように無数の孔の開いたセラミック構造体[6]。
−59−
(エ) 金属繊維、金属スポンジ
耐熱性のある金属材料を繊維化して成型したもの[7]、スポンジ状に多孔質をもった構造に
したもの、またメッシュワイヤーのようなもの[8]も DPF として使用される。触媒化も検討
されているが、多くは単独もしくは酸化触媒と組み合わせて使用することが検討されている。
2.再生方法とシステム
DPF は通常再生して使用される。DPF の再生は通常捕集した Soot の酸化(燃焼)を指す。Soot
以外の DPM 成分のうち、SOF は酸化触媒で酸化できるが、サルフェート及びアッシュは除去で
きず、現状では系外に排出するしかない。
様々なシステムが提案されているが、主なものは燃焼または酸化剤により再生するものである。
使用過程車向けには車体から取り外して過熱再生することも検討されているが、今後は車体に取
り付けたまま再生することが中心となるであろう。
燃焼による再生は、DPF を Soot の着火温度以上に昇温して燃焼させるものである。熱源とし
ては、電気ヒーターや燃料バーナーで直接加熱するもの、筒内噴射や排気管噴射で余剰の未燃燃
料を供給し、DPF 上の触媒成分または DPF の前に設置した酸化触媒で燃焼させて熱を発生させ
るものが提案されている。DPF 上に触媒成分を担持した場合、接触反応で蓄積した Soot を触媒
で酸化する効果も期待されている。また、Soot の着火温度を引き下げるために燃料添加剤を併用
することも実用化されている。Soot の着火には 600℃以上の排気温度が必要だが、燃料添加剤の
併用及び DPF への触媒成分への担持で着火開始に必要な排気温度が引き下げられることが確認
されている[9]。
−60−
mittlere
Rußabbrandgeschwindigkeit
[g/h]
average
soot burning rate [g/h]
300
additive supported
250
200
catalytic coated filter
150
100
50
uncoated filter
0
200
300
400
500
600
Filter of
[°C]
exhaust Abgastemperatur
gas temperaturevor
in front
filter [°C]
Soot の燃焼の際には発熱が伴い、異常昇温によって DPF そのものを溶損・破壊してしまう
可能性も指摘されている。したがって、DPF として SiC のような耐熱性のある担体を使用
するか、昇温する際に必要以上に Soot の燃焼が進行しないように制御する必要がある。
酸化剤による再生は、NO2 などの酸化剤を用いて低温で Soot を酸化するものである。代
表的なものは DPF の前に酸化触媒をおき、排気中の NO を NO2 に酸化して DPF に供給し
Soot を酸化する CRT 方式と呼ばれるものである。400℃以下の低温から連続的に Soot を参
加することが期待されているが、反応速度が遅い、高温では化学平衡により NO2 生成量が
低下してしまう、SO2 共存で性能が大きく低下する、などの課題が指摘されている。
そのほか、低温プラズマや電磁波などを用いて再生する方式も検討されている。
実際の実用化には、上記再生方法に様々なデバイスやエンジン制御を組み合わせて検討さ
れている。以下に公表されている代表的な DPF システムを示す。
方式
Active
再生
事例
交互再生方式
(トヨタなど)
概要
特記事項
再生時は別の DPF に流路
を切り替える。DPF 前段
にヒーターなどを置き、熱
で交互に再生。
[10]
ポスト噴射で HC を供給、
貴金属系酸化触媒で燃焼
させて SiC 製 DPF を過熱
する。Ce 系燃料添加剤を
併用。アッシュの蓄積によ
り 8 万 Km でメンテナン
ス必要。
燃料添加剤併
用強制再生
[11]
−61−
ポスト噴射で HC を供給、
貴金属系酸化触媒で燃焼
させて DPF を過熱する。
再生温度は 600 度以上と
なるため、基本的に SiC
製 DPF が使われる。
強制再生、酸
化触媒+触媒
なし DPF
[12]
ポスト噴射で HC を供給、
貴金属系酸化触媒で燃焼
させて触媒を担持した
DPF を過熱する。
強制再生、酸
化触媒+触媒
担持 DPF
[13]
軽油噴射、
HC-deNOx
触媒+触媒担
持 DPF
Passive
再生
HC-deNOx のために排気
系に軽油噴射、その結果
DPF も昇温して再生。レ
トロフィット用に実用化。
[14]
NO2 を用いた
連続再生、酸
化触媒+触媒
なし DPF
[15]
3.触媒との組み合わせ
以上の様に様々なシステムが検討されているが、触媒との組み合わせとなると以下の組み合わ
せが考えられる。
(ア)酸化触媒 + 触媒なし DPF
前段にヒートアップ用もしくは NO2 生成用の酸化触媒をおき、後段の触媒なしの DPF
を再生する。
触媒を担持しないことにより DPF そのものの圧力損失を抑えられる一方、
燃焼再生の場合は Soot 再生に 600℃以上の温度を要する。
(イ)酸化触媒 + 触媒担持 DPF
前者に加えて、DPF にも触媒を担持する。担持する触媒としては、Soot を NO2 で酸
化もしくは接触燃焼できる材料が検討されてきたが、結局のところ貴金属系触媒に収束
する傾向にある。これは、触媒と接触させて Soot を燃焼する場合、接触形態により燃
−62−
焼挙動が大きく変わること、Soot 燃焼を促進させる物質自身の耐熱性が低いと実用性に
欠く、などの理由による。[16]
また、触媒のコート状態も重要である。DPF での DPM 捕集モデルとしては、以下の
2 つが考えられている。
すなわち、フィルターの深層でろ過するタイプと、表層でろ過するタイプである。触
媒担持 DPF の場合、深層ろ過タイプのほうが Soot と触媒の接触がよく、再生に有利と
考えられてきた。しかし、完全な連続再生が果たせない場合、Soot はフィルター表層に
蓄積される。蓄積した Soot を強制再生する場合は、表層ろ過タイプの方が Soot 再生に
有利との見方もある。特に、貴金属を分散担持した触媒をフィルター表面にコートした
ものは、貴金属が安定化していることにより耐熱性も向上し、耐久後も速やかに Soot
を低温から燃焼できる。問題は表層に触媒をコートすることにより、初期の圧力損失が
増大することである。低圧損タイプの担体を使用することが好ましい。[17]
Balance Temperature Examination
750
表層ろ過タイプ
深層ろ過タイプ
600
450
temperature in front of DPF
300
balance point: 325 °C
balance point: 290 °C
150
5,50
6,50
7,50
8,50
time [h]
−63−
9,50
10,50
0
11,50
pressure drop [relative]
temperature infront of DPF [°C]
900
(ウ)触媒担持 DPF
前者から DOC を外した場合、酸化触媒分の容量を削減でき、エンジンにより近接し
た位置に DPF を配置できる。前段酸化触媒で熱を発生させる場合と比較して、DPF 上
でダイレクトに発熱が起こる分、再生に要する期間を短縮できる可能性がある。このケ
ースでは、DPF に酸化触媒の機能を兼用させるため、通常走行時の HC,CO などの除去
も DPF 上で行うこととなり、より高い触媒性能が期待できる表層コートタイプが望ま
しい。
以上のように、DPF システム及び触媒との様々な組み合わせが検討されており、実用化レベル
まで達しているものもあるが、更に市場で普及するためにはサルフェート及びアッシュの問題を
克服する必要がある。サルフェートに関しては燃料の低 S 化が有効である。アッシュについては
定期的なメンテナンスしか有効な手段が無い。アッシュが結晶化しない温度に DPF を維持し、
フィルターをすり抜けさせて排出する方法も考えられるが、DPF の速やかな再生及び高捕集効率
の確保と二律背反になる。低アッシュオイルなども含めて更なる検討が必要である。
−64−
3.3.3
SCR
SCR は Selective Catalytic Reduction の略で、触媒と還元剤の組み合わせで排気中の NOx を
浄化するものである。固定発生源ではアンモニアを還元剤としたものが実用化されているが、車
載用としては安全性の観点から尿素を還元剤として使用するシステムが検討されている。下図は
尿素 SCR システムの一例である[18]。一般的に SCR は、NO/NO2 比率を最適に保つことにより
高い NOx 浄化率が得られるので、SCR 前段に酸化触媒を配置し、また SCR 出口にも尿素分解
で生成した余剰のアンモニアを酸化するための酸化触媒を配置している。
触媒としては、様々なものが検討されているが、固定発生源用に一般的に使われている
V2O5-TiO2 系や、ゼオライトを主体としたベースメタル系触媒が検討されている。このうち
V2O5-TiO2 系は、固定発生源用に実績のある押し出し成型の一体型ハニカム触媒を転用すること
が検討されている。性能面での実績はあるが、車載した場合の強度に懸念が残る。一方、ベース
メタル系触媒は酸化触媒などと同様にハニカム担体にコーティングしたものが検討されているが、
低温での性能及び触媒活性の耐熱性、耐被毒性が課題である。以下に代表的な触媒の特性を示す
[19]。
−65−
Supplier
Catalyst Type
Operating Temperature, °C
Japan
Babcock Hitachi
Hitachi Zosen
Ishikawajima-Harima Heavy Industries
Base metal/metallic substrate
Base metal/ceramic monolith or
wire mesh
Base metal/ceramic monolith
250 - 416
330 - 421
204 - 400
Kawasaki Heavy Industries
Base metal/ceramic monolith
300 - 400
Mitsubishi Heavy Industries
Base metal/ceramic monolith
204 - 400
UBE
Base metal/ceramic monolith
250 - 400
W.R. Grace
Noble metal/metallic substrate
225 - 275
Engelhard
Base metal/ceramic monolith
302 - 400
U.S.
Johnson Matthey
Base metal/metallic substrate
343 - 427
Norton
Zeolite
221 - 521
Europe
BASF
Siemens
Steuler
Haldor Topsoe
V2O5-TiO2-WO3/homogeneous
monolith
V2O5-TiO2-WO3/homogeneous
monolith
Zeolite
V2O5-TiO2/homogeneous
monolith
300 - 521
-
いずれにしても、尿素の添加システムや供給インフラなどが整うことが前提となるが、理想的
に運用されれば高い NOx 浄化効率が期待できる。以下にディーゼルエンジンでの尿素添加時の
ベースメタル系 SCR 触媒の浄化挙動を示す[20]。理想的な尿素添加制御を行えば、実用的な走行
条件で高い NOx 浄化率を確保できることが示されている。
Test Cycles: ESC, ETC, US HDD FTP
emission measurement system:
HORIBA MEXA
heated analysis line
SCR
V-cat
LDS3000
measuring line: 1m
urea injection
temperature measuring
point
4.2 l TCI DI ( 1 liter/cylinder )
Diesel fuel: 30 ppm S
−66−
93%
Space Velocity *1000 [1/h]
84%
95%
91%
84%
84%
95%
85%
80%
77%
160
61%
120
100
94%
81%
80
Engine: 1 l/cylinder (VH: 4.2 Liter)
SCR-Volumen: 4.6 Liter
Optimized Urea Injection Strategy
60
80
40
Space Velocity
NOx conversion
40
NOx conversion [%]
200
20
NOx conversion: 83%
0
0
0
400
800
1200
1600
time [s]
[1]
堀内 真, 2001, “ディーゼル排ガス低減触媒の開発動向”, ペトロテック 9 月号
[2]
M. Kawanami et al.,1996, SAE 961129
[3]
T. Nakane et al.,, 2003, JSAE 20030052 / SAE 2003-01-1862
[4]
H.Y. Chung, et al., 1993, U.S. Patent #5,250,094
[5]
R. Miller, et al., 2002, SAE 2002-01-0323
[6]
G. Mann, et al., 1981, U.S. Patent #4,264,346
[7]
S. Ban, et al., 1999, U.S. Patent #5,908,480
[8]
Purem,
2002,
"Sintered
Metal
Filter
For
Commercial
Vehicle
Exhaust
Aftertreatment", Purem GmbH, Menden, Germany, February 2002
[9]
P. Spurk, et al., 2003, SAE
2003-01-3177
[10]
DECSE Program, 2000, Phase I Interim Data Report No. 4
[11]
Salvat et al., 2000, SAE 2000-01-0473
[12]
武田
好央, et al., 2003, JSAE20035155
[13]
細谷
満, et al., 2003, JSAE 20035692
[14]
Cleaire, 2003, Press Release “LongView System”
[15]
A. P. Walker, et al., SAE 2002-01-0428
[16]
B. von Setten, et al., 2001, “Development of a Liquid Catalyst for Diesel Soot
Oxidation”
[17]
P. Spurk, et al., 2003, SAE
2003-01-3177
[18]
Cho S.M., et al., 1994, Chem. Eng. Prog., Jan. 1994, pg. 39-45
[19]
Hug, H.T., et al., 1993, SAE 93036
[20]
J. Gieshoff et al., 2001, SAE 2001-01-0514
−67−
3.3.4
吸蔵還元型触媒
ガソリン用の触媒として、最もポピュラーなのが、三元触媒と呼ばれるHC,CO,NOxの
3種類の有害成分を同時に低減する排ガス浄化用触媒があげられる。HC,CO,NOxの3種
類の有害成分を同時に低減する機能から、三元触媒又は3way
catalystと呼ばれて
いる。
三元触媒は、ハニカム担体と呼ばれる多数のガス流通孔を持つセラミック製の基材に、表面積
が数十∼数百m2/gの活性アルミナを、数十ミクロン∼数百ミクロンの厚さで塗布し、Pt,
Pd,Rhなどの貴金属を非常に細かく分散担持した物が使用される。
また、除触媒として酸化セリウムや、その化合物が添加されている。
しかし、三元触媒は、図11)に示したように理論空燃費(ストイキ)とよばれる、きわめて狭い
領域でしか、HC,CO,NOxを高い効率で除去する事が出来ない。
図1.空燃比と浄化特性
実際のエンジンでは、高度なエレクトロニクス技術を駆使して、理論空燃費に排気ガス組成をコ
ントロールする事が行われている。
近年、CO2 低減の要求や、燃費向上のニーズから、希薄燃焼エンジンや、ガソリン直噴エンジン
が実用化されている。これらのエンジンでは燃費を良くするために、希薄燃焼領域(リーン領域)
で一部運転されている。
前述の様に、リーン領域では三元触媒のNOx浄化率は著しく低下してしまうため、リーン雰囲
気でNOxを浄化できる新しいコンセプトの触媒が必要になっている。
現在リーン雰囲気で実用化されている自動車触媒には、選択還元型触媒と吸蔵還元型触媒の 2
種類がある。選択還元型触媒はリーン雰囲気下で、通常はHCと酸素が反応して燃焼してしまう
酸化反応を抑制し、HCによりNOxを選択的に還元する事が可能な触媒である。
ガソリンエンジンの場合、排気ガス中に未燃のHC成分が多く含まれる運転条件が多い、このた
め、ある種の触媒では、選択的にNOxを還元できる事が知られている。
貴金属としてはIrが主に使用される、例えばIr−Pt/ゼオライトや、Ir/BaSO4な
どの触媒が開発及び実用化されている 2)3)。
もう一方の吸蔵還元型触媒は、三元反応が低いリーン領域では、NOをNO2に酸化して、触
媒上に硫酸塩の形でNOxをいったん蓄え、リッチ雰囲気で触媒にたまったNOxを一気に還元
するメカニズムを用いている。図2に吸蔵還元型触媒の原理を示した。
−68−
図2.吸蔵還元型触媒のNOx浄化原理
触媒は一般的に、三元触媒をベースにBaなどのアルカリ土類やNa,K等のアルカリ金属を
吸蔵材として添加している。
吸蔵還元型触媒はもともと希薄燃焼エンジンや、ガソリン直噴エンジン用に開発されてきたが、
近年ディーゼル車用に適用するべく、トヨタ自動車や
4)、米国EPAなどで、研究発表や実用化
の検討が行われてきた。
DPNR(Diesel Particulate Nox Reduction System)の構造とその浄化メカニズムを図3,4
に示した。
NOxは前述と同様なメカニズムにより、フィルターに塗った吸蔵還元型触媒にトラップされ、
リッチ時に還元浄化される。PMはPtがNOを酸化してNO2にするときに生成する活性酸素
で、連続酸化させる機構を用いている。PMとNOxの浄化反応を促進するためにDPFの壁内
面まで触媒を高分散に分布させる事を特徴としている 4)。
図3.DPNR の構造
図4.DPNRの PM,Nox 浄化機構
吸蔵還元触媒を用いる場合、空燃比をリッチ側にして触媒にたまった、NOxを浄化しなくて
はならない。このためトヨタ自動車では「スモークレスリッチ燃焼(低温燃焼)」と呼ばれる方法
を採用している。これにはコモンレール式電子制御燃料噴射システムと、大量EGR,EGRク
ーラー、噴射時期の制御の組み合わせる事により、スモークを発生させないでリッチ燃焼を可能
にしている。
昨年JCAP(Japan Clean Air Program)で報告された結果を図5に示した。5)図に示したよう
にDPNRを装着した車両で大幅なPM,NOxの低減効果が得られている。
またDPNR装着車は昨年欧州でモニター走行を行いデータを蓄積し、2003年 9 月より、
−69−
中型乗用車「アベンシス」に搭載され欧州にて販売が開始されている。
図5.JCAPの結果
また、トヨタ系の日野自動車は小型トラック・ダイナデュトロでDPNRを装着した、車両を’
03年10月1日より販売したと発表している。
国内ではディーゼル商用車に対して、‘05年新長期規制、’07年にポスト新長期規制と呼ば
れる非常に厳しい規制が施行される予定になっている。
特にポスト新長期規制では、エンジンから排出される PM 及びNOxを大幅に低減しなくては
ならず、現在最も有望な手段としてDPF及び、吸蔵還元型触媒の組み合わせが検討されている。
一方米国でも‘07年に非常に厳しい規制の施行が予定されている。この場合も何らかの後処
理装置によりNOx・PMを浄化する事が必要になってくる。現在EPAはNOxAdsoob
erを本命に検討を進めている。
図6にシステムの概要を示した、CDPFs(Catalized DPF)の後方にNOxAdsorber
を配置し、排気管に還元ガスを生成するためのインジェクターを設置している。EPAは、本シ
ステムをヘビーデユーティーディーゼル車への適用を中心に、その可能性の検討を進めている。
−70−
図6
U.S EPA のシステム
6)
NOx吸蔵還元型触媒は、燃料中の硫黄に起因する、微量のSO2により被毒される。排ガス
中に含まれるNOx、SOxは吸蔵材にそれぞれ硝酸塩、硫酸塩の形でトラップされるが、硫酸
塩はより安定でNOxを還元する短いリッチスパイクではほとんど除去する事が出来ない。その
ため、ある程度触媒上にSOxが蓄積したら、触媒を600℃以上で還元雰囲気にさらして、S
Oxを除去しなくてはならない。生成した硫酸塩は吸着している間に一部還元困難な安定な結晶
へと変化してしまう、従って、燃料中の硫黄の量が耐久性に大きな影響を及ぼすとされている。
図7は燃料中の硫黄分の違う燃料で走行した場合のNOx触媒の、NOx浄化性能と耐久性の関
係を示した。燃料中のSの量で触媒の劣化が依存する事を示している。現在燃料中の硫黄分は5
0ppm以下の物が、東京を中心に出始め、すでに全国でも大半が低硫黄軽油になったようであ
る。
図 7 燃料 S とNOx性能 4)
−71−
しかし、耐久性、特にトラックなどの商用車の耐久距離は25万 km 以上であり、燃料中の S
は実質10ppm以下が必要になると考えられている。
三菱自動車はディーゼルエンジンへのNOx吸蔵触媒への適用の検討
7)の中で、触媒の硫黄の
被毒の回復について検討を行っており、硫黄の被毒は触媒を通過する硫黄の総量で決まるとして
おり、商用車の耐久性を考えると、サルファーフリーの燃料が好ましいと述べている。
耐サルファー被毒に対する改良は、燃料のサルファーを低減するという方向だけでなく、材料
面からのアプローチも積極的に行われている。三好らは
8)コート材料のサルファーの被毒を調査
しており、SiO2>TiO2>Al2O3 の順にサルファーが吸着しにくく、コート材に Pt/TiO2 を混合す
ることで、吸着したサルファーがより低い温度で除去出来、サルファー被毒を低減できると報告
している(図8)。また、サルファーを還元除去するのに、下式(1)のように HC と水を反応
させ H2 を生成させ、この H2 が非常に効率良く触媒に吸着した S を除去する事ができるとしてい
る。
CnHm +
2nH2O
→(2n
+m)/2H2 +
nCO2 …(1)
この反応にはRhを担持したZrO2 が適していると報告している。
一方三菱自動車の岡田らは
9)、吸蔵材のKが使用中に基材の中に移動し、性能が低下するのを
抑制するために、コート材の中にKの移動を抑制する目的でゼオライトを添加している。
吸蔵還元触媒のディーゼル車への適用は、燃料中による硫黄の被毒の問題や、エンジンの制御
など解決すべき課題は多くあるが、これを超える有効な手段が無く、今後ますます精力的に研究
開発が行われていくと思われる。また、サルファー被毒には材料面の改良も必須であり、サルフ
ァーに強いセラミック材料の触媒への展開が行われるものと思われる。
具体的にはTiO2、やZrO2,SiO2用いて耐S被毒の向上、つまりサルファーをコート
材に付きにくくするとともに、付着したサルファー速やかに脱離させる検討が進むであろう。
また、SiO2,ゼオライトを用いた吸蔵材の反応や移動の抑制、ZrO2を更に改良しH2生
成能を向上させる等が考えられる。
以上吸蔵還元型触媒の改良にはセラミックの複合材料の開発が非常に重要になるものと思われ
る。
図8.サルファーの脱離プロファイル
−72−
参考文献
1)青野
エンジンテクノロジーvol 17 2001
2)A.Tanaka,T.Takemoto,H.Iwakuni,F.Saito
and
K.Komatsu:SAE
Technical
Paper,
950746,(1995).
3)H.Hori,A.Okumura,H..goto,M.Horiuchi,M,Jenkins
and
K.
Tashiro:SAE
Techinical
Paper,972850,(1997)
4)田中俊明,低エミッションのための最新排気浄化技術、
‘03自動車技術会春季大会
5)佐々木他、JCAP第三回成果発表会予稿集
6) Charles.S and Christopher.L,U.S.EPA:SAE Paper ,2003-01-0042
7) 高橋他、自動車技術会
学術講演会刷集
NO.25-03
2003
8) N.Miyoshi, TOYOTA Technical Review Vol.50 No.2 Mar 2001
9)岡田他、自動車技術会
学術講演会刷集
NO.2-01
−73−
2001
3.3.5
レトロフィット用触媒
最近のディーゼル車の規制で特に注目されるのが、東京都が導入した「都民の健康と安全を確
保する環境に関する条例」として、既存車を対象にした規制が初めて導入される事である。
新型車の規制が厳しくなる一方、‘93年以前の排気ガスが規制される前に販売された、ディーゼ
ル貨物車車の割合が依然として高く(図 1)、新型車の規制を強化しても、都市部の大気汚染の改
善につながらないというのが実情であった。
図1.貨物自動車のPM規制に適合している
割合(資料川崎市)
H10
H9
H6
H5
未規制
この様な状況のなか東京都は独自に、2003年 10 月以降、現在の最新の PM 規制値を満足
しないディーゼル車は、都内を走行できなくなる、「都民の健康と安全を確保する環境に関する条
例」を施行した。但し大型トラックの場合最初に発売されてから7年経つまでは、規制を満足し
なくても使用する事が可能である、いわゆる猶予期間が設けられている。猶予期間を過ぎた車両
は東京都が指定した PM 除去装置を装着しなくてはならない。東京都で始まったディーゼル車の
PM規制は、首都圏の8都県市に広がって条例化されている。
一方国は、七都府県の指定地域に、
「自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量
の削減等関する特別措置法の一部を改正する法律」(自動車NOx・PM 法)を施行している。実
施時期であるがトラック・バスは2002年の5月、ディーゼル乗用車は2003年10月。規
制値は、PM は新短期規制の1/2(3.5t以下)、NOxはガソリン車並に(例えば2.5t
−3.5tは平成7年規制のガソリン車並)適合させる事を要求している。NOx規制値につい
ては、東京都の条例による規制値よりも厳しい値になっている。
ただし、新車への買い替えの集中を防ぐため、猶予期間は9年、規制が施行される2002年
4月以降も一回は車検を通すことが出来、実際の施行は東京都の条例より長くなっている。
既販車への排気後処理いわゆるレトロフィット装置は、東京都が定める、カテゴリー別のPM
低減率を満足する事が定められている。現在メーカーが試験を行い東京都が認定する制度を取っ
ている。
一般的にカテゴリー1、3はそれぞれPMの低減率が60%以上、70%以上必要で、後処理
装置はDPFが必要とされている。また、カテゴリー2,4,5はPM低減率がそれぞれ30%
以上、40%以上、30%以上であり、酸化触媒で対応出来るケースが多くなっている。
PMを減少させる装置及び方法で主に以下の様に大別される。
−74−
1)酸化触媒方式:オープンフローのハニカム担体に、酸化触媒を担持して、PM中のSOF(未
燃の高沸点HC)を酸化除去する
2)連続再生方式:捕集したPMを触媒により連続的に酸化しフィルターを再生する。
3)強制再生方式:PMを電気あるいは、バーナーの様な熱源により、燃焼させフィルターを再
生する方式
4)非再生方式:運転していないときにフィルターをメンテし、たまったPMを処理する方式。
平成15年10月現在、酸化触媒の既販車対応として、カーメーカー7社、民間2社が実施し
ている。酸化触媒は新型車で使用されているタイプと同様にPt系を主体とした、酸化力の強い
ものを用いている。またコート材にゼオライトなどの材料を入れ、SOFの酸化性能を向上させ
たタイプも見られる。
日野自動車が発表したレトロ向け酸化触媒とPM低減機構を図2、3に示す。HC吸着材を添加
しいったんSOFをトラップし、SOFが燃焼したときの熱で、IOF(カーボン)を同時に除
去するとしている。図4に酸化触媒を装着したときの13MのPM低減値を示した。PMで20%
以上、IOFで約10%低減出来ている。触媒はHC吸着材の他、金属酸化物を主体にSOF,
IOFを浄化し、貴金属を極力少なくすることでシンタリングを抑制している。
図2.日野自動車の酸化触媒マフラー1)
図3.浄化メカニズム2)
図4.13モードのPM浄化性能1)
一方、既販車対応のあとづけDPFは現在民間13社が実施している。
株式会社コモテックのコモビーは、カセット式のDPFにより、走行中はPMを捕集し、自動車
を使用していないときに外部電源を用いてフィルターのPMを燃焼させ、フィルターを再生する
−75−
方法を用いている。DPFには触媒は担持されておらず、ヒーターの熱でフィルターを再生する。
(図5)
図5.コモビーCTシステムの構成 3)
同様な方式に株式会社アペックスディーピーエフシステムのA
PEX
DPFも電気式ヒータ
ーによりフィルターを再生する方法を採用している。
三井物産は大手触媒メーカーのジョンソンマッセー社のCRT触媒を販売している。この方式
は前段の酸化触媒により、排気中のNOをNO2に酸化させ、後段のフィルターにたまっている
PMと反応させ、連続的にPMを除去するものである。燃料中のSが多いとNO2生成反応が阻
害されるため、低硫黄軽油(50ppm 以下)を前提としている。(図6)
株式会社ナブコ(エンゲルハード)は DPXTM シリーズを販売しており、DPF に担持した触媒の
酸化作用により PM を酸化除去している。(図7)
図6.JM社CRT触媒コンバータ 4)
図7.株式会社ナブコ(エンゲルハード)
DPXTM の構成図 5)
同様に東京濾器の100%子会社のユニバーサルキャタシステムズ(ユニキャット)も、酸化
触媒の酸化作用によりPMを再生する方式をとっている。UCSの構成は前述同様酸化触媒と触
媒付きDPFの 2 段構成になっており、前段の酸化触媒では、排ガスに含まれるNO2の酸化反
応の時に生成する活性酸素(NO+O2→NO2+O)がPMの酸化に有効で、通常触媒が活性
化しない低温域でも80%以上と言う高いPM低減率を達成している。フィルターにashが堆
−76−
積して圧損が高くなると、バルブを切り替えて逆側から排気ガスを流してashを除去する構造に
なっている。UCSも同様に低硫黄軽油(50ppm 以下)を前提としている。(図8)
図8.ユニキャットUCSのシステム 6)
酸化触媒は温度が低い領域では有効にPMの酸化に作用しない。そこで温度が低い運転領域で
は、エンジンの近くに設置した小型のDPFに排ガスを流し、温度が上昇したときに、床下の大
型DPFに排ガスを切り替え、全領域でPMを連続酸化させようというシステムガ徳大寺自動車
文化研究所から発表されている。(図9)
いずれの触媒も基本的には酸化力の最も強いPt系の触媒を使用しているものと考えられる。
図9.徳大寺自動車文化研究所あとづけ DPF 7)
一方NOx・PM法ではPMに加えて、NOxも低減しなくてはならず、その対応はいっそう
厳しいものになっている。表は対象となるディーゼル車の台数を示したものである。従来都の条
例はあとづけPM装置で対応可能であるが、国のNOxPM法は買い換え以外対応が無いとされ
ていた。
しかし、エスアンドエス
エンジニアリングから発表されたデュエット
バーン
システム(D
BS)はPMとNOxの同時低減を可能としている。(図10)
このシステムの原理は、燃料と水を乳化材によりエマルジョン化して燃焼室に噴射し、燃焼温度
を低減することで、NOxの発生量を低減している。水エマルジョン方式は水によりエンジンに
錆が発生するなどの問題があるが、燃料に混合する水の量を制御したり、エンジンを停止すると
−77−
きに燃料だけ供給するようにしている。PMは独自に開発した天然石を溶融・発泡させた基材に、
触媒として卑金属触媒を担持したものを採用している。
PMは98%、NOxは60%低減できるとしている。
図10.デュエット
バーン
システム(DBS)8)
下表にNOx・PM法による不適合車の発生台数の状況を環境省資料をもとに示した。
不適合車は2005年をピークに徐々に減って、2011にはほぼ無くなるとしている。
資 料
自動車NOx・PM法の車種規制。8都府県対策地域における車種別不適合車台数 (14年9月末現在)
埼玉 千葉
乗用車 132253 79423
バス
6897
4327
トラック 288446 159291
合計
427596 243040
東京
神奈川
愛知
三重
142654
134465
225085
21979 182649 87621
11149
8400
430565
295103
584369
8516
965
447928
681567 681529
大阪
7600
兵庫
4003
合計
1006128
51856
45182 344153 151416
2162083
68126 534401 243039
3220067
トラックには特種自動車を含む。5月20日、瀬古議員の質問に提出した環境省資料
不適合車322万台の内訳 (各年別不適合車の発生台数) 5月20日、瀬古議員質問に対する政府答弁から
作成
2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度
不適合車台数
6万5000台 64万4000台 117万9000台 80万3000台 21万1000台
注・不適合車は2011 年度まで発生しますが、大きな影響が出るのは2008 年までです。
−78−
前述したような後処理装置により、更にディーゼル車の使用年数が延びる事が望ましいが、平成
12年9月に東京で行われたJCAPの第2回の成果報告会で、ディーゼル車WGより“既販デ
ィーゼル車にDPFを装着した場合の効果と課題”について報告された。連続再生式DPFとし
てジョンソンマッセー社のCRTTMとエンゲルハード社のDPXTMの2種類の触媒の評価が行
われた。評価項目はPMの低減率とフィルターの再生能力を中心に実施され、その結果、既販車
への適用は、温度が上がる条件下の車両では適用の可能性が残されているが、都内走行を模擬し
たパターンでは排気温度が低く、フィルターが十分再生されず圧損が上昇してしまうという結果
であった。この様に、あとづけDPFは排気温度が低いケースが多い実走行を考えると、まだま
だ改良の余地があるといえる。
また、国のNOx・PM法に対するNOx低減技術については、耐久性も含めて更に検討が必
要であろう。
コージェライト製の大型酸化触媒の担体、及び大型用DPF担体はNGK,米国コーニング新
たに日立金属などが参入し基材を供給しているが、現在、供給が需要に追いつかず逼迫した状態
になっている。
今後レトロフィット向けの担体の需要は徐々に減っていくであろうが、新型車の規制は‘05
(新長期)、
’07?(ポスト新長期)と更に厳しくなり、DPFや大型担体の需要は益々増加し
ていくものと予想されている。
ディーゼル車に用いられる貴金属は、活性及び耐久性から、Ptが主体であり、現在Ptの貴
金属市況価格は徐々に上がっている。今後の使用量によっては更に上がるのではないかと懸念さ
れている。現在の耐久性を維持しながらPt量を低減した触媒の開発が今後の課題となっている。
参考文献
1) 日野自動車カタログより
2) 舟橋他
HINO TECHNICAL REVIEW No.54 MAY 2002 p56-61
3)株式会社コモテックカタログより
4)JM 社カタログより
5)エンゲルハルド社カタログより
6)ユニキャット社カタログより
7)徳大寺自動車文化研究所より提供
8)エスアンドエスエンジニアリング社カタログより
−79−
3.4 排ガス処理システム
表11)に現時点で期待される後処理装置の排気温度の有効範囲、NOx、CO、HC、PM については除去率、
また燃費は悪化させる割合を示す。なお、ここでの性能値はまだ実験室における結果であり、今後耐久
性の向上が必要であるから、実用化にはまだ時間がかかるとされる。
表1 各種後処理システムの江ミッション除去性能 1)
また以下に、代表的な後処理装置の内容や特徴、課題について概要を述べる。
(1)DPF(触媒担持型)2)
連続再生式 DPF のフィルタ部には、ウォールフロータイプのフィルタが用いられており、このフィルタ
構造は従来の交互再生方式のフィルタ構造と基本的には変わらないため、PM の捕集効率は 80%から 90%程度
と高い。PM は主に未燃燃料などの SOF と、すすなどで構成されている。SOF 分は触媒で酸化できるが、す
すは固体のカーボンが主であり、DPF で捕集したのちに再燃焼(酸化)=再生させる必要がある。CRTTM では、
排ガス中の NO を触媒によって酸化力の強い NO2 に転化させ、次式による酸化反応を利用して再生を可能と
している。
C+2NO2→CO2+2NO
連続再生式 DPF の特徴は、装置が簡素な構成ですむことであり、また比較的低温(300℃程度)でも再生が
可能とされている。ただし排気温度は重要な因子であって、低い温度域では触媒が有効に機能しない(表
2)
。温度が不足する応用では、結局、DPF の目詰まりが進行して、背圧上昇による燃費の悪化を生じたり、
最終的には溜まりすぎた PM が高負荷時には酸素により着火して DPF が溶損するなどのトラブルが発生する。
この温度の制約は、特に大都市の渋滞領域での走行を中心とした使用環境ではかなり厳しい問題である。
どうしても排気温度が不足する場合、バーナなどの補助装置によって排気ガスの全量を昇温させる必要が
ある。また CRTTM の使用に際しては燃料として硫黄分 50ppm 以下のものを使用するよう装置メーカーが推奨
している。これは DPF 前段の酸化触媒において NO2 を生成する機能が硫黄によって阻害されるためである。
表3には各種DPFの試験結果概要を示す 3)。
−80−
表2 連続再生式DPFの再生に影響を与える要因 2)
表3 各種DPFの試験結果概要 3)
−81−
(2) DPF (燃料添加型)
燃料中に加えたセリウムなどの添加剤の触媒作用を併用し、PM 堆積時にエンジン制御で排気温度を上げ
て、PM を燃焼させる方式である 4)。フランス PSA 社がイビデン製炭化珪素 DPF を用いて 2000 年より DPF 付
き乗用車の市販を開始した。昇温に補助装置を必要とせず、構造は簡単である。イビデン製炭化珪素は粗
い粒子と細かい粒子を混合、成形後、高温で焼成する方法で生産されているとされる。なお、セラミック
ス系のフィルター材料としてはコージエライトの他、珪素と炭化ケイ素の混合粉末を使用して作製した炭
化ケイ素(日本碍子) 7)や、ケイ素を固めて窒素中で焼成し窒化ケイ素に転化させる反応焼結窒化ケイ素(旭
硝子)が知られている。焼成時に不可避的に気孔が生成し、また気相反応を介して進む反応を利用してウィ
スカーが発生しやすいことを利用するとも言われている。またセラミックス以外で、ボッシュでは焼結金
属製フィルターで市場に参入することを表明している。
(3) NOx吸蔵触媒 5)
通常運転時は NOxを硝酸塩の形で触媒中に吸蔵し、間歇的に還元雰囲気中で NOxを浄化する方式の触媒
である。浄化率は新品時最大 90%以上であり、実用運転でも 50 70%程度が期待できる。30 秒 1 分程度の
周期で数秒間還元雰囲気にする運転制御が必要であり、この際のスモーク増加、燃費悪化、還元雰囲気切
り替え時のトルク変動などが問題になる。
NOx吸蔵触媒の最大の問題は、硫黄分による吸蔵性能の低下=被毒劣化である。燃料や潤滑油中の硫黄分
に起因する SOx は、NOxよりも触媒に吸蔵されやすい。SOxの離脱=被毒再生には触媒を 600℃程度で数分
間保持する必要がある。米国 DOE は被毒再生の累積による NOxの浄化率の劣化を報告しており、超低硫黄
軽油でも被毒劣化するとのことで、NOx吸蔵触媒の実用化には、燃料、触媒、制御の各方面から課題解決
が必要である。
(4) 尿素 SCR6)
DeNOx 触媒としては、
尿素 SCR のほかに、
NOx 吸蔵触媒、
リーン NOx 触媒
(passive)
、
リーン NOx 触媒
(active)
等がある。passive リーン NOx 触媒は還元剤を供給しないタイプであり、active リーン NOx 触媒は還元剤
を供給するタイプである。 SCR には、選択還元触媒が用いられている。このアンモニアを還元剤にした選
択還元触媒は NOx 浄化率も高く、従来からボイラー用脱硝装置等として利用されてきた。SCR の後には、ア
ンモニアを浄化するため酸化触媒が設置されている。
(5)連続再生式 DPF と尿素 SCR を組み合わせたシステム 1)
連続再生式 DPF と尿素 SCR を組み合わせたシステムを図1に示す。後処理装置として、最初に連続再生
式 DPF を、その後に尿素 SCR を設置している。連続再生式 DPF の PM を燃やす原理は、前段の酸化触媒によ
り NOx を NO2 に変換し、後段に設置したフィルターによりPMを捕集して NO2 により捕集したPMを酸化さ
せるものである。連続再生式 DPF によりすす(C)が浄化されるが、このほかに、酸化触媒により SOF、HC
及び CO も浄化される。この工程の後に、尿素 SCR により NOx を浄化する。SCR の前に尿素水を添加し、SCR
前段の加水分解触媒において尿素水をアンモニアに変換し、SCR においてアンモニアを還元剤として NOx を
浄化する。 連続再生式 DPF と尿素 SCR を組み合わせたシステムの排出ガスに対する浄化性能を高めるた
めには、エンジンとのマッチングをとる必要がある。すなわち、連続再生式 DPF において、NO2 によるすす
(C)の酸化性能を高めるには、NO2/PM 比を高めた排出ガスを連続再生式 DPF に供給することがポイントと
なる。そこで、ディーゼルエンジンにおいて燃料噴射時期を進めたり、燃料噴射圧力の高圧化などにより、
−82−
PM 排出を抑えて NOx 排出を暖めることが考えられる。
図1 SCRと酸化触媒組み合わせ 1)
参考文献
1) 青柳友三,自動車技術,55,9,pp10-14(2001)
2) 杉山元,自動車技術,55,9,pp53-58(2001)
3) 横田久司,環境技術,29,11,pp843−847(2000)
4)
大野一茂,早稲田大学モビリティ研究会講演会資料,(2003)
5)
高木信之ほか,自動車技術,55,9,pp59-62(2001)
6) 原真治,自動車技術,57,9,pp.88-92(2003)
7) 三輪真一,工業材料, 50,13,pp22-26(2002)
−83−
3.5
関連情報
(1)車両排出微小粒子の生成メカニズム
(㈱豊田中央研究所 久保修一氏 寄稿)
ま え が き
1.
ディーゼルエンジンは、高い熱効率により CO2 排出量が少なく地球温暖化抑制の有効な動力源であり、
高い経済性と耐久性を有するため、輸送手段として広く使用されている。その反面、粒子状物質(以下、
PM)の排出が多く大気汚染や生体への影響が危惧されている。また、生体影響の観点から、PM の重量
に加え粒径及び粒子数が注目され始め、沿道大気及び車両排出 PM の粒径及び粒子数の計測が日米
欧で精力的に実施されている(1)(2)。
これらのことより、自動車メーカにおいては、PM 低減が緊急の課題となっている。近年、車両から排出
される PM の重量濃度は大幅に低減されてきている。しかし、100nm 以下の微小粒子の数濃度は、一般
大気レベルに比べると、まだ1桁以上高い値である。
図1に沿道大気における PM 粒径別数濃度計測の一例(3)を示す。100nm 近傍に粒径ピークを持つ粒
子群と 30nm 以下に粒径ピークを持つ粒子群が存在する。また、低粒径側の数濃度は、時間、交通量、
車種構成などにより大きく変化する。これまでの欧米における研究機関及び自動車メーカの検討におい
て、100nm 近傍にピークを持つ粒子群は主に炭素状粒子で構成され、低粒径側にピークを持つ粒子群
は主に揮発性物質で構成されていることが解ってきている。(この揮発性物質で構成される極微小粒子
は、ナノ粒子と呼ばれている。) しかし、これらの粒子が車両から排出されるメカニズムや粒子物性に関
しては、十分な検討がなされていないのが現状である。
豊田中央研究所では、2002 年度よりナノメートル(nm)サイズの微小粒子に着目して、ディーゼルエンジン
dN/dlogDp (105 part./ cm3)
車両から排出される微小粒子の生成メカニズム解明を行ってきた。
1.5
14:00-14:30 (∼0.5m/s)
14:30-15:00 (∼1.9m/s)
15:00-15:30 (∼1.5m/s)
1.0
環七
Wind direction
0.5
Route 246(上馬)
0
1000
100
10
Electrical mobility diameter Dp (nm)
Measuring point
図 1 Changes at time of particle size and number conc- entration in road-side atmosphere
本稿では、以下に示した当所の解析検討結果について述べる。
i.
エンジン筒内における結晶子(Soot の最小構成単位)生成から排気管に至るまでの Soot 形成メカ
ニズム
ii.
ディーゼルエンジンシステムを用いた揮発性物質から構成されるナノ粒子の生成メカニズム
−84−
2.
結晶子サイズ & Soot 生成メカニズム(4)
Soot の生成過程は、大きく次の 4 段階に分けられると想定される。
① 燃料分子が熱分解・酸化、重合によりベンゼン分子、さらには多環化により多環芳香族炭化
水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbon、以下、PAH)へと成長する。
② PAH が凝集し、Soot 結晶子を形成する。
③ 結晶子が凝集し球形の一次粒子を生成する。
④ 一次粒子が凝集し、鎖状の凝集体 Soot を生成する。
ここでは、①及び②について、Monte Carlo 法を用いた計算モデルにより、PAH から Soot 結晶
子を作り始めるサイズがどの程度になるかを予測する。上記の③及び④については、ブラウン運
動及び van der Waals 力による凝集を考慮した計算モデルにより、エンジン筒内及び排気管内にお
ける Soot の粒径の変化を予測する。
2.1. 結晶子サイズ予測計算モデル
PAH は、サイズが小さいうちは分子間力が弱いために凝集は起こらず、多環化による成長過程
が支配的であり、サイズが大きくなると分子間力が強くなり、凝集が始まると考えられる。ここ
では、凝集過程の開始となる二量体を作り始める PAH のサイズがどの程度になるかを予測するた
めの理論計算の考え方を説明する。
PAH 分子の凝集は、熱平衡状態を仮定した場合には、成長反応における反応熱に比べて、凝集
による van der Waals エネルギーの利得の方が大きくなり始める分子のサイズで始まると考えられ
る。以上のことより、ある PAH 分子に着目したときに、その分子がアセチレンと反応して成長す
るか、他の PAH 分子と凝集して二量体を作るかを、熱平衡状態を仮定して Monte Carlo 法を用い
たアルゴリズムにより、PAH サイズを決定した。
2.2. Soot 生成予測計算モデル
ここでは、Soot 結晶子から直径が 25nm 前後の一次粒子を形成し、さらに一次粒子から凝集体
である Soot が形成される過程を凝集理論で考える。
Soot 結晶子を k 個含む粒子の数濃度を Nk とすると、凝集による Nk の変化は(1)式で表される。
∞
dN k 1 k −1
= ∑ β k − j, j N k − j N j − N k ∑ β k, j N j
dt
2 j =1
j =1
(1)
ここで、βi、j は Soot 結晶子を i 個含む粒子と j 個含む粒子の凝集速度定数である。この(1)式
を用いた計算モデルを作成した。なお、作成した計算モデルでは、Soot 結晶子数を用いる代わり
に粒径を区分して用い、それに伴って(1)式に若干の変更を加えた。また、粒子は常に球形であ
ると仮定した。凝集速度定数には、ブラウン運動による凝集を考慮した Fuchs の凝集速度定数(5)
に、van der Waals 力による Soot の凝集促進定数 2.2(6)を乗じたものを用いた。
ディーゼルエンジン燃焼を考慮した計算を実行するために、上死点(着火時)から下死点、そ
して上死点(排気終了時)に至るまでの時間、温度、圧力、容積の変化及び Soot 生成領域の不均
一性(上死点では濃縮した初期濃度を与え、燃焼がほぼ終了するクランク角 30 度までの間で徐々
に希釈)を考慮した計算を実施した。
2.3. 計算結果
はじめに、燃焼過程で生成する PAH がエンジン筒内の温度・圧力場において凝集を開始するサ
イズを予測した結果について説明する。
図 2 に PAH 中の炭素数に対する各 PAH と Acetylene(C2H2)との反応熱 E1 の変化と同サイズ
−85−
PAH による dimer の分子間相互作用エネルギーE2 の変化を示す。
反応熱 E1 と dimer の分子間相互作用エネルギーE2 とを比較すると、炭素数が 100 から 150 の間で
ほぼ等しくなることがわかる。すなわち、PAH が凝集を開始する炭素数は、100 程度であり、そ
の PAH の直径は、C-C 間距離を 1.4Å、PAH の形を 2 次元対称とすると 2nm∼3nm である。
-0.02
10 nm
Energy (eV/C-atom)
-0.00
Interaction energy E2
-0.04
-0.06
Heat of reaction E1
-0.08
-0.10
0
50
100
150
Number of C-atoms
200
図 3
High-resolution transmission electron
micrograph showing the details of diesel soot
図2
Relationship between heat of reaction and
interaction energy for various PAH molecules
図 3 に透過型電子顕微鏡で観察したディーゼルエンジンから排出された Soot の詳細画像を示す。
この画像から Soot 中に存在する結晶子サイズを測定すると 2nm∼3nm であり、上記の理論計算
による凝集し始める PAH サイズと一致していることがわかる。
次に、上記の理論計算から算出した Soot 結晶子サイズ(2nm)を基にして、凝集理論を用いた
エンジン筒内における Soot 生成過程についてシミュレートした結果について説明する。
Soot 生成領域の不均一性を考慮した計算により、予測された数濃度の粒径分布の変化を図 4 に
示す。予測した排気管内での粒径分布と、排気管内で実測した Soot 粒径分布がほぼ一致している
ことより、Soot 結晶子(2nm)から凝集体である Soot(約 60nm)が形成するメカニズムは凝集理
論で説明できることがわかる。30°ATDC において、既に Soot 数濃度ピークが 60nm 付近まで成
長し、排気管で観測される Soot 数濃度ピークと同程度まで成長している。これは、Soot 形成のた
めの凝集がエンジン筒内でほぼ終結していることを意味している。
3
dN/dLogDp (1/cm )
1E+16
1E+15
TDC
(Initial)
1E+14
1E+13
1E+12
1E+11
1E+10
1E+09
Crank
deg. 30
TDC
M easuring
point
図 4
Predicted evolution of number size
distribution from TDC to the measuring point
considering non-uniformity inside a cylinder
(Engine condition: 2500rpm-109Nm)
Experiment
1E+08
1E+07
1E+06
1
10
100
1000
Electrical mobility diameter Dp (nm)
−86−
また、各種エンジン運転条件に対して、同様の計算を実施したが、図 1 で観測されるような
bimodal 形状を示す粒径分布は得られなかった。
以上のことより、沿道で測定される bimodal 形状における 30nm 以下のピークは、Soot ではな
く、Soot 形成の凝集過程進行後から大気に至るまでに生成・成長する Soot 以外(揮発性物質)の
粒子から成ることが本シミュレーション結果から説明することができる。
3. 揮発性物質ナノ粒子生成メカニズム解析(7)(8)
図 1 で見られる 30nm 以下の極微小粒子(以下、ナノ粒子)の数濃度ピークは、オイル成分の
高沸点炭化水素や硫酸(H2SO4)などの揮発性物質の凝縮体であると報告されているが、それら
の生成条件やメカニズムに関しては十分に把握されていない。
本章では、ディーゼルエンジン車両から排出される揮発性物質の凝縮体と考えられているナノ
粒子の生成メカニズム解明に関する検討結果について説明する。
3.1. 実験装置及び方法
エンジン実験および粒子計測の概要を図 5 に示す。エンジンシステムは、4気筒直噴ディーゼ
ルエンジン(排気量:2ℓ)に白金系酸化触媒(容量:1.96ℓ)が装着されたものであり、エンジ
ン回転数およびトルクはダイナモメータで制御(回転数:750 rpm∼2500 rpm、トルク:0 Nm∼206
Nm)した。 全エンジン実験は、回転数及びトルク一定の定常で実施した。粒子計測の基本構成
は、NanoMet 希釈器(Matter Engineering、 MD19-2E)と SMPS(TSI、 DMA 3080、 CPC 3025A)の組
み合わせである。微小粒子の蒸発特性は、希釈ガスを Thermodenuder(DEKATI)に導入して揮発成
分を蒸発・捕集した後に SMPS で粒径分布の変化を Thermodenuder 温度が室温の時の結果と比較
して評価した。 希釈条件の影響は、希釈率を 65 倍∼200 倍(基準:65 倍)、希釈温度を室温∼150℃
(基準:120℃)
に変化させて検討した。
ナノ粒子生成に及ぼす燃料性状の影響を検討するために、
表 1 に示した 3 種類の燃料を使用した。Fuel 1 は、高硫黄燃料(昨年まで実市場軽油相当)、Fuel
2 は、硫黄含有量を 30 ppm 以下に抑えた低硫黄燃料(現在の市販軽油相当)、Fuel 3 は、欧州に
おいてクリーン燃料として位置づけられている Sweden 軽油である。粒子計測は、図 5 の触媒前後
の位置において、排気管内とメイン排気管から排ガスの一部を分流し、図 6 に示した計測用排気管内の
ガス又はこの排気管の末端から大気に放出した時の排気流内のガスを対象にして行なった。
燃料中の炭化水素成分は、ガスクロマトグラフ法により分析し、排気中の Soluble Organic
Fraction(以下、SOF)は、ジクロロメタンを用いたソックスレー抽出を行い、ガスクロマトグラ
フ法及び液体クロマトグラフ法により分析した。
4 cylinder, 2L
Diesel Engine
Engine-out
Sampling Positions
Oxidation Catalyst
Heated Air
Catalyst-out
図 5
experimental apparatus
NanoMet Dilutor
SMPS
Schematic diagram of
*SMPS: Scanning Mobility Particle Sizer
−87−
表 1
Specifications for the fuels
Density (15deg C)
Fuel 1
Fuel 2
Fuel 3
0.8312
0.8323
0.810
Cetane Index
55
53
51.9
Aromatics (vol%)
27.6
18.5
2.4
Sulfur (wt ppm)
430
28
4
Engine-out or Catalyst-out
Exhaust
Gas Sampling Probe
Main Exhaust Pipe
0∼12cm
Distillation (deg C)
10%
214.5
210.0
209.2
30%
248.0
239.5
216.2
50%
271.5
264.5
224.9
70%
297.5
299.0
236.3
90%
331.5
333.5
255.0
End point
370.5
358.5
280.4
Exhaust Pipe for Gas Sampling
図 6
3.2.
to NanoMet Dilutor
Gas sampling system
エンジンの排気管内におけるナノ粒子生成
燃料として Fuel 1 を用い各種エンジン運転条件下でターボ直下の排気管内からサンプリングし
た微小粒子の粒径分布を比較した結果を図 7 に示す。
無負荷(idle)条件でのみ 30nm 以下と 70nm 近傍に数濃度のピークを持つ bi-modal 粒径分布を
示し、それ以外の運転条件では 60nm 近傍にピークを持つ log-normal 形状を示している。60nm 近
傍の数濃度ピークは、2 で示したように Soot によるものであると言える。
このことより、 idle 条件で観測される 30nm 以下のナノ粒子は、 bi-modal 粒径分布を示すため
Soot とは異なる時期に生成し、排気温度が低く、Soot の数濃度が少ない条件で核形成が進行する
揮発性物質で構成されていると考えられる。
(1) idle 条件で生成するナノ粒子の性状:
idle 条件で生成するナノ粒子の性状を明らかにする
ために、Thermodenuder を用いた蒸発特性を評価した。
idle 条件における Thermodenuder を用いたエンジン出ガス中のナノ粒子の蒸発特性を図 8 に示す。
温度上昇と共にナノ粒子の数濃度が徐々に低下し粒径が小さくなっている。これは、ナノ粒子
が単一成分の揮発性物質から構成されているのではなく、広範囲の沸点成分から成る揮発性物質
の凝縮体であると考えられる。
次に、三種類の燃料を使用した時にエンジン出ガスで観測される微小粒子の粒径分布を比較し
た結果を図 9 に示す。
これらの燃料の比較において、20nm 近傍にピークを持つナノ粒子の数濃度が大幅に変化してお
り、ナノ粒子が燃料性状の影響を強く受けていることがわかる。
これらのことより、燃料成分中の多成分物質、すなわち高沸点炭化水素が無負荷条件で観測されるナ
ノ粒子に寄与していると推察することができる。
−88−
7
3x10
Thermodenuder temp.
3
dN/dlogDp (1/cm )
8
3
dN/dlogDp (1/cm )
10
10
10
7
6
10
5
10
4
750rpm- 0Nm
1250rpm- 37Nm
1650rpm- 39Nm
1800rpm- 67Nm
2500rpm-109Nm
25 degC
7
2x10
100 degC
150 degC
200 degC
275 degC
7
1x10
0
1
10
100
1
1000
10
1000
Electrical mobility diameter Dp (nm)
Electrical mobility diameter Dp (nm)
図 7
100
図 8
Particle size distributions for light-duty
Vaporization characteristic of nanoparticles
DI diesel engine
6.0x10
7
10
13
11 12 1415
16
17
18
19
20
3
dN/dlogDp (1/cm )
500
4.0x10
9
Fuel 1
7
Fuel 3
2.0x10
7
Intensity
500
Fuel 2
15
16 18
17 19
20
Fuel 2
500
19
20 23
21
22 24252627
Fuel 3
0.0
0
1
10
100
1000
4
6
8
10
12
14
Fuel 1
16
18
20
22
Retention time (min)
Electrical mobility diameter Dp (nm)
図 9
Effect of fuel properties on nanoparticle
図 10
Gas chromatograms of three fuels
formation
無負荷条件で観測されるナノ粒子の性状をさらに詳細に解析するために、燃料のガスクロマトグ
ラフ法による分析を実施した。図 10 に三種類の燃料のクロマトグラムを比較して示す。図中の数
字は、軽油特有の直鎖状飽和炭化水素の炭素数を表している。
Fuel 2 及び Fuel 3 は、Fuel 1 に比べて炭素数 19 以上の炭化水素が非常に少ない。さらに、炭素
数 19 以上の含有量を比較すると、Fuel 1>> Fuel 2 > Fuel 3 となっており、図 9 に示したナノ粒子
の生成特性と一致している。
また、図 9 のナノ粒子の生成特性が大きく異なる結果を示した Fuel 1 と Fuel 3 を用いた実験に
対して、エンジン出ガス中の SOF(Soluble Organic Fraction)成分の分析を実施した。
図 11 に Fuel 1 と Fuel 3 を使用した時の SOF 分析結果を示す。
Fuel 1 を使用した時の SOF 成分は、図 10 の燃料成分のクロマトグラムに見られる直鎖状飽和炭
化水素のピークが明確に現れているが、クロマトグラム形状については燃料に比べ相対的に炭素
数 18 以下が大幅に低下し、炭素数 19 以上が主成分となっている。また、Fuel 1と Fuel 3 との比
較において、ナノ粒子の数濃度ピークが明確に存在しない Fuel 3 では、Fuel 1 に比べ炭素数 19 以
上の炭化水素が極端に減少している。図 9 と図 11 より、Fuel 1 使用時の SOF 成分が炭化水素起
因ナノ粒子生成に寄与していると考えられる。
−89−
19
20
21
22
18
23
Intensity
100
80
60
40
4
6
8
Fuel 3
25
16
15
14
20
Fuel 1
24
17
26
10
12
27
14
16
18
20
Retention time (min)
図 11 Gas chromatograms of SOF contents
(2) 無負荷条件で生成するナノ粒子:
when Fuel 1 and Fuel 3 were used
小型ディーゼルエンジンの idle 条件で観測されるナノ
粒子は、主に未燃燃料成分である炭素数 19 以上の炭化水素の凝縮体であると考えられる。
この結果は、Kittelson らが報告(1)している炭化水素起因ナノ粒子の起源がオイル成分であると
いう結果とは異なっている。本研究において、ナノ粒子生成へのオイル成分の寄与は完全には否
定できないが、寄与は非常に低いと考えられる。
(しかし、オイル消費量の多い車両では、確実に
オイル成分からのナノ粒子生成への寄与は増すと考えられる。)
idle のような無負荷条件では、少量の燃料を非常に希薄な条件で燃焼させるため燃焼に寄与し
ない燃料成分の残存割合が増加し、そのうちの高沸点炭化水素は、排気バルブが開くことによる
温度及び圧力低下により、過飽和状態となり核形成が進行しナノ粒子を形成すると推測される。
また、このナノ粒子は、燃焼終了後に生成すると考えられ、Soot の生成時期と異なるため、粒径
分布は bi-modal となる。
3.3.
大気放出過程におけるナノ粒子生成
前節において、揮発性物質によるナノ粒子生成は、温度低下によって揮発性物質の過飽和状態が作
られ Soot の数濃度が少ない条件で核形成が進行することを推察した。
上記の生成条件を満足する排ガス存在領域として、前節で示した筒内から排気管への放出過程
以外に排気温度が高い運転条件におけるテールパイプから大気に放出される過程が挙げられる。
この節では、酸化触媒前後において図 6 に示したガスサンプリングシステムを用いて大気放出過程の
排気流内に着目して解析した。
図 12 及び図 13 にエンジン出ガス及び酸化触媒出ガスを大気放出した時の排気流内の粒径分布変化
を示す。
エンジン出ガスでは、大気との混合において微小粒子の数濃度は拡散希釈により単調に減少するだ
けであるが、触媒出ガスでは、大気との混合希釈により、10nm 近傍に新たな数濃度ピークが出現してい
ることがわかる。
これは、触媒出ガスと大気が混合する過程において揮発性物質が凝縮し粒子形成が進行したと
考えられる。また、酸化触媒を通過したガスからナノ粒子が生成していることより、炭化水素の
ような触媒で酸化される成分でなく、NOx、SOx、H2O のような物質がナノ粒子生成に寄与してい
ると考えられる。
−90−
10
8
8
10
9cm
10
3
7
dN/dlogDp (1/cm )
3
dN/dlogDp (1/cm )
0cm
3cm
6cm
7
10
3cm
6
10
6
10
5
10
10
4
10
10
0cm
5
4
1
10
100
1
1000
10
100
1000
Electrical mobility diameter Dp (nm)
Electrical mobility diameter Dp (nm)
図 12
12cm
6cm
Change of size distribution in engine-out
図 13
Change of size distribution in catalyst-out
exhaust plume ( Fuel: Fuel1, Engine condition:
exhaust plume ( Fuel: Fuel1, Engine condition:
1800rpm-209Nm )
1800rpm-209Nm )
(1) 大気放出過程で生成するナノ粒子の性状:
触媒出ガスが大気との混合過程で生成するナノ
粒子の性状を把握するために、Thermodenuder を用いたナノ粒子の蒸発特性を評価した。
触媒出ガスの大気放出後 6cm 位置における排気流内に対して Thermodenuder 温度と微小粒子の
粒径分布との関係を図 14 に示す。
100℃までは、微小粒子の粒径分布は全く変化しないが、100℃を超えると 20nm 以下のナノ粒
子の数濃度ピークのみが完全に消失する。このナノ粒子の蒸発特性より、水が関与する単一成分
の揮発性物質の影響が考えられる。
ナノ粒子生成に寄与している酸化物を特定するために、三種類の燃料(硫黄含有量の異なる燃料、表 1
参照)を用いてナノ粒子の生成特性を比較した結果を図 15 に示す。(触媒出ガスの大気放出後 6cm 位
置における粒径分布計測である。)
燃料中の硫黄含有量が低下すると排気流内でのナノ粒子が観測されなくなることより、SOx がナノ粒子
生成に寄与していると考えられる。
7
Thermodenuder temp.
50 degC
75 degC
100 degC
10
150 degC
200 degC
5
10
10
3
6
Fuel 1 (S=430ppm)
dN/dlogDp (1/cm )
3
dN/dlogDp (1/cm )
10
7
Fuel 2
(S=28ppm)
10
6
Fuel 3
(S=4ppm)
10
5
4
10
1
10
100
1
1000
100
1000
Electrical mobility diameter Dp (nm)
Electrical mobility diameter Dp (nm)
図 14
10
Vaporization characteristic of nanoparticles
図 15
Effect of fuel sulfur level on nanoparticle
formation
−91−
以上のことより、高硫黄燃料である Fuel 1 と酸化触媒との組み合わせによるナノ粒子の生成は、以下に
示した酸化触媒での Sulfate(反応 1)形成後、大気との混合過程における H2O との反応による硫酸の形
成(反応 2)が進行した結果と推察される。(反応式中の n は係数であり、大気との混合希釈条件で変化
する。)
触媒反応:SO2 + 1/2O2 → SO3 (sulfate)
------- 1
大気混合:SO3 + nH2O → H2SO4・(n-1)H2O ----- 2
この結果は、高硫黄燃料を使用するとナノ粒子が生成するというこれまでの欧米の報告を裏付けるもの
である。
(2) Sulfate 起因ナノ粒子生成への影響因子:
Sulfate が関与するナノ粒子の生成に及ぼす Soot 数
濃度の影響について検討した。実験は全て 1800rpm-209Nm で実施し、触媒出ガスの大気放出後 6cm
位置における排気流内を対象としたものである。
Soot 数濃度の影響を評価するために燃料噴射圧を制御し 60nm∼100nm に数濃度ピークを持つ Soot
の数濃度を変化させた。
燃料噴射圧を 3 条件変化させた時の Sulfate 起因ナノ粒子の生成特性を比較した結果を図 16 に示す。
Sulfate 起因ナノ粒子の生成は Soot の数濃度増加(燃圧低下)により、大幅に抑制される。Soot 数濃度
の増加は、揮発性物質の Soot 表面への吸着割合を増加させ、触媒で生成した Sulfate や大気との混合
過程で生成した硫酸の粒子化を抑制すると考えられる。
以上のことより、エンジン燃焼での Soot 生成抑制は、ナノ粒子の生成を促進すると考えられる。この結
果は、揮発性物質から生成するナノ粒子全般に言える結論である。
8
10
100MPa
3
dN/dlogDp (1/cm )
Fuel pressure
7
10
75MPa
6
10
50MPa
図 16
Fuel 1 (S=430ppm)
10
4.
nanoparticle formation
5
1
Effect of soot number concentration on
10
100
1000
Electrical mobility diameter Dp (nm)
ま と め
本研究では、エンジン燃焼から排気システムを通して排ガスが大気放出される間において、ナノメートル
サイズの PM(Soot、揮発性物質ナノ粒子)が生成するメカニズムを解析し、以下の結果を得た。
1.
Soot 生成メカニズム <理論計算による検討>
•
燃料炭化水素の熱分解から多環化反応により生成した PAH が凝集し始める炭素数は、100
程度であり、その PAH の直径は 2nm∼3nm である。
•
実際の Soot 中に存在する結晶子サイズを TEM 観察すると 2nm∼3nm であり、上記の
理論計算による凝集し始める PAH サイズと一致。
•
Soot 結晶子(2nm)から凝集体である Soot(約 60nm)が形成するメカニズムは凝集理
論で説明できる。
−92−
•
2.
Soot 結晶子の凝集による Soot 形成は、エンジン筒内でほぼ終結する。
揮発性物質ナノ粒子生成メカニズム <エンジン実験による検討>
2-1. 排気管内におけるナノ粒子生成
•
無負荷(idle)条件において粒径 30nm 以下に数濃度ピークを持つ bi-modal 形状を示す。
•
idle 条件で観測される 30nm 以下に数濃度ピークを持つナノ粒子は、主に未燃燃料成分で
ある炭素数 19 以上の炭化水素の凝縮体であり、オイル成分の寄与は非常に低いと考え
られる。
2-2. 大気放出過程におけるナノ粒子生成
•
中・高負荷条件の酸化触媒出ガスと大気が混合する過程において揮発性物質が凝縮し粒
子形成が進行し、粒径 10nm 近傍に数濃度ピークを持つ bi-modal 形状を示す。
•
軽油に含まれる硫黄成分の酸化により生成した Sulfate(SO3)は、大気との混合過程において
以下の反応の進行によってナノ粒子を形成する。
粒子化反応:SO3 + aH2O → H2SO4・(a-1)H2O
2-3. 揮発性物質起因ナノ粒子生成
•
揮発性物質によるナノ粒子生成は、温度低下によって揮発性物質の過飽和状態が作られ核
形成が進行することによる。
•
エンジン燃焼での Soot 生成抑制は、ナノ粒子が生成し易い環境を作り出す。
以上のことより、ディーゼルエンジン車両から排出されるナノメートルサイズ PM の生成メカニズムから、沿
道で観測される bi-modal 形状の粒径分布(図 1)を定性的に説明できると考えられる。しかし、車両排気
と沿道大気の関係を明確にするためには、両方の粒径別詳細性状を把握する必要がある。
今後は、車両排出ナノ PM 低減を目的とした燃焼改善及び排気浄化技術の確立に関する研究開発
が非常に重要となると考えられる。また、揮発性物質のナノ粒子生成は燃料性状の影響を強く受けるた
め、超低エミッション車両の開発において燃料性状(蒸留特性、硫黄含有量、芳香族炭化水素含有量
など)は非常に重要な因子であり、燃料のあるべき姿についても考えていく必要がある。
5.
参考文献
(1) D. B. Kittelson, et al., CRC E-43 Final Report (2002)
(2) M. M Maricq, et al., Environ. Sci. Technol.,36, 283 (2002)
(3) 石油産業活性化センターJCAP 推進室, 平成 13 年度技術報告書, PEC-2001JC-05, p.176-180
(2001)
(4) 茶谷聡ほか: Soot 生成・凝集過程シミュレーション, 自動車技術会 2003 年春季大会前刷集,
20035127
(5) Fuchs N.A., Mechanics of Aerosols, New York, Pergamon, (1964)
(6) Harris S.J. et al., Combust. Sci. Technol. 59, 443 (1988)
(7) 中野道王ほか:ナノ粒子生成特性解析 第 1 報,自動車技術会 2003 年春季大会前刷集,20035130
(8) 久保修一ほか:ナノ粒子生成特性解析 第 2 報,自動車技術会 2003 年春季大会前刷集,20035132
−93−
(2)電気化学セルによる高温排気ガス中の NOx 直接分解*1
(*1:藤代芳伸,片山真吾,セルゲイ・ブレディヒン,淡野正信,「新技術・新材料
2003 年
8月号」より)
1)電気化学セルによる NOx 浄化の課題
NOx は高温では熱力学的に分解反応が進む方向に働くため、適当な反応活性メカニズムさえあ
れば、理想的な NOx 浄化方法としての「直接分解」が可能となる。一般に多くの金属及び酸化物
材料の表面は、NOx 分子に対して吸着サイトとして働くため、本来なら容易に分解反応が進行す
るはずである。しかし、共存する酸素分子により触媒活性点が占有され(酸素被毒)
、分解反応は
それ以上進まなくなってしまう。理想的な直接分解方式である「電気化学セル」(図1)5)では、
いわゆる燃料電池(SOFC)の逆反応を行う。
電気化学セルによるNOx浄化
電気化学セルによるNOx浄化(酸素共存下)
(酸素共存下)
クリーンガス
高温排ガス
NOx
高温におけるNOx高選択性
N2
反応を邪魔
する酸素
O2
e
ガス分子吸着サイト
多孔質触媒電極層
O2e
固体電解質
(酸素イオン 伝導体 )
多孔質電極
熱電変換による電力供給
O2
酸素分子を取り除くために大量の電流を消費→実用化不可能?
図1:電気化学セル方式による NOx浄化の模式
イオン化した酸素をイオン伝導体の「中へ」取り込み、それを別の場所で酸素ガス分子に戻して
放出する。このため、前述の吸蔵・還元分解による浄化と異なり還元剤を必要としないので、燃
費の悪化を避けられる。その一方で、酸素分子を取り除く(吸着酸素分子をポンピング除去する)
ために、電力を消費する
6)
。従って、その実用化は如何に消費電力を下げられるかにかかってい
る。電気化学セルは、NOx 浄化反応を行うための触媒層、反応場へ通電し吸着酸素をイオン化す
−94−
る電極層(触媒層−電極層はしばしば一体化される)、酸素イオンをポンピングして系外に排出す
るための酸素イオン伝導層(固体電解質)及び反対側の電極層(イオンから分子に戻った酸素を
放出する役割を果たす)により構成され、既に 20 年以上前に提案された方法である。しかし、実
際に排ガス浄化を行おうとすると NOx 分子の吸着分解に伴い生成する酸素分子を活性点から除
去することにではなく、排ガス中に多量に存在する共存酸素分子を直接ポンピングすることに電
気が費やされる。その結果、リーンバーンやディーゼル排ガスのような酸素リッチ状態ではセル
消費電力が膨大になり、実用化が不可能であるとほぼ結論づけられてきた。NOx または酸素分子
を吸着分解する触媒反応サイトは酸素空孔であるため、本来 NOx(高温排ガス中では通常NO)
分子より O2 分子の方が吸着しやすく、かつ排ガス中の量比も酸素の方が数 100 倍多いため(例え
ばディーゼル排ガス中では酸素 10%−NOx500ppm)、電気化学セル作動で触媒反応活性点をリフ
レッシュしても、共存酸素分子によって直ぐ反応失活する。その結果、共存酸素分子を十分に除
去してから初めて NOx 分子の吸着分解反応が行われるので、全体として膨大な電力が必要となる
訳である(乗用車の排ガス浄化で数∼10kW 程度)
。従って、セル作動電力低減の方法として、①
触媒材料自体の NOx 分子選択性を向上させ、共存酸素分子の影響を抑えるか、②電気化学セルで
触媒反応を行う前に予め何らかの方法で共存酸素分子を取り除き、残った NOx 分子に対する触媒
反応を行うことが有効と考えられる。
2)メゾ構造制御による NOx 浄化反応効率の向上
一般的には、燃料電池のような電極反応効率の向上には多孔体構造が望ましいと考えられてい
る。しかし、酸素共存下の NOx浄化の場合、多孔体構造では酸素分子がほぼストレートに触媒
反応場に達して、次から次へと触媒反応場に到達する共存酸素分子の除去に、専ら電流が消費さ
れてしまう。ここで、共存酸素分子が触媒の表面に選択吸着することは、NOx 浄化だけを考える
と障害であるが、上記②の方法により酸素分子の除去を行う際には逆に好都合となることが、分
かってきた。
すなわち NOx 浄化反応部分と酸素除去を行う部分を役割分担させることで、予め浄化反応部分
に排ガスが到達する前に酸素分子を大幅に減らし、結果的に酸素被毒の影響を少なくして吸着酸
素の除去に要する電力を減らすことが可能である。この「逆転の発想」に基づき、メカニズムを
最適条件で働かせるために細孔を含むセラミックスの「高次構造制御」を行った。
まず電気化学セルのマクロな構造制御を行い、さらにナノ∼ミクロスケールでの構造制御を同
時に行った。触媒−電極層を上部層と下部層の2層構造として、上部層で酸素分子を取り除いて
しまい、下部層で NOx 浄化反応を行うための構造制御を検討した(図2左部分)。
電気化学セ
ルの高温熱処理を行うと、当初のミクロン∼サブミクロンサイズのポーラスな構造から、ナノ(メ
ゾ)細孔が3次元的に貫通し上部層全体に広く分布するようになる。また、マトリックスではミ
クロンレベルから∼数 nm のオーダーで、酸化ニッケル(NiO)とジルコニア(YSZ)がネットワ
ーク状に相互に連結した構造が発達した(図2右上)。イオン伝導体であるYSZの骨格構造中に、
YSZと電子伝導体である NiO がサブミクロンサイズでネック部分に主として分布している。熱
処理温度の上昇と共に両者の微細ネットワーク構造が発達し、最終的にはナノコンポジット化し
たイオン伝導体−電子伝導体のマトリックスが取り囲む、3次元的に広がるナノ(メゾ)貫通細
孔が、触媒電極層に数ミクロン厚で広がることになる(図2右下)。
−95−
酸素の吸着
NOxの吸着
イットリウム
イットリウム部分
安定化ジルコニア
安定化ジルコニア
酸化ニッケル
触媒−
電極層
イオン伝導体−電子導電体ネットワーク
(電子伝導のネットワーク構造を点線で示す)
ナノ細孔
ナノ細孔の貫通方向
電源
(排ガスの通路となる)
100nm
3次元貫通ナノ細孔(骨格構造の破断面)
図2:電気化学セルの触媒 ―電極層におけるメゾ構造制
ナノ(メゾ)細孔は、平均孔径 30nm 程度で孔径が揃っており上部層から下部層まで3次元的
に連続している。ガス分子に対してナノ(メゾ)細孔径は高々30∼50 倍で、ガス分子の平均自由
行程(この場合数 10nm)からも、またラダー(梯子状)構造で3次元的に広がって貫通している
ことからも、ガス分子が拡散して行く場合は壁面に接触する確率が非常に高くなった結果、吸着
反応効率が高くなる。その際、前述のように数的にも選択性としても NOx 分子より酸素分子の方
が遙かに先に吸着しやすく、その結果、触媒電極層下部での浄化反応場への到達ガス分子は、ほ
とんどNOx 分子のみとなる。電気化学セルに加えた電流が NOx浄化により効果的に使われるこ
とで、世界最高となる NOx 浄化電流効率が達成された 7)-10)。
3)ナノ空間のイオニクスを利用した飛躍的な高効率浄化反応のメカニズム
ここまでの結果は、メゾスケールの3次元貫通細孔による、
「見かけの」分子選択性向上による
ものであった。そこでさらに、ナノスケールの制限空間におけるイオン化反応により、
「真に」分
子の高効率選択反応を可能とする構造制御を行い、飛躍的な浄化効率の向上を目指した 11)12)。
ここで重要な役割を果たすのは、イオン伝導体(YSZ)−電子伝導体(NiO)の結晶粒界
面である。熱処理によりメゾポアがネットワーク状に張り巡らされている状態から、セルへの通
電処理により、界面で還元反応が生じ、体積収縮により界面に数 nm 程度の空隙が生成する。こ
の空間を挟んで還元生成相である金属NiとYSZ(界面側で多量の酸素欠損を含むことが、T
EMの電子線回折及び元素組成分析より明らかとなっている)が対を形成する。このようなナノ
空間において、以下のイオニクス反応場が形成されているものと考えられる。
一般に Ni 等の遷移金属表面は窒素原子に対する高選択吸着性を有している。一方、YSZ中の
−96−
酸素欠損は酸素原子の選択吸着サイトとなるため、メゾ貫通孔を通じて導入されてきたガス分子
は、制限空間といえるナノ空間の反応場において、極めて効果的に選択吸着されることになる。
吸着された NOx(高温排ガスでは主に NO)分子は、以下のように熱力学的に容易に N2 として分
解脱離する。また、吸着サイトは電気化学的に再活性化される。その結果、反応効率が飛躍的に
向上する。
NO + Ni → Ni−NO
2Ni−NO → 2NiO +N2
NiO + VO(ZrO2) + 2e → Ni +O2-(YSZ)
最終的には NOx 浄化時のセル消費
電力を実用レベルまで低減し、自動車
80
0
やガスエンジン等の排ガス浄化用の省
目指している。その際、供給電流の低
減と同時に作動電圧を抑制することも
重要である。ここでは詳細は省略する
が、触媒−電極層の低抵抗化を図るた
めに、2種類の導電体(イオン伝導体
−電子伝導体)の組織制御(パーコレ
ーション=粒子複合体のネットワーク
構造)13)や、低抵抗材料の適用、さら
には電極部分でのガスの拡散抵抗の低
減等
14)15)
についても最適化を実現
した。これらの結果、従来技術で排ガ
ス浄化に消費されているエネルギーに
対して十分な性能優位性を示す、大幅
な消費電力の低減が可能となっている
(図3)。これを基に例えば、1500cc
クラスの自動車の排ガス浄化を想定し
70
NOx NOx浄化効率
Conversion(%)
(%)
エネデバイスとして実用化することを
oxygen 2%
t=600C
oxygen 2% 1000ppm-NO
EC electrode
0
t=700C
1000ppm-NO
0
Pt-1300C
触媒方式の
エネルギー
効率
ナノ構造
制御セル
60
50
0
Ag-800C
0
Pd-800C
0
Pd-1300C
0
Pd-Pt-1300C
Literature
メゾ構造
制御セル
40
30
従来の電気
化学セル
20
10
0
0
50
100
150
200
250
Current (mA)(mA)
セルへの通電電流
て、浄化反応表面積からセル作動時の所
図3:従来型の電気化学セル,メゾ構造制御による
要電力を見積もったところ、500W 以下の
世界最高の直接浄化効率を示したセル,及びナ
電力で NOx 浄化が可能であること、さら
ノ空間反応場により触媒方式の浄化エネルギー
に浄化セル作動条件の最適化により、数
効率を超えるナノ構造制御セルの,各々につい
10Wレベルへの所要電力低減が可能とい
ての通電電流 ―NOx浄化効率の関係.
うことも最近分かってきた。
4)実用性能の評価へ向けて
現在、プロジェクトでの研究成果をさらに実用化へと進めるための検討を行っており、排ガス
浄化のニーズを踏まえた大型化や耐久性能評価等、実証化へ向けた検討に着手している。例えば
ディーゼル排ガスを想定した酸素共存量(10%程度)における NOx 浄化性能や、希薄 NOx 条件で
どのように変化するかを調べた。従来の電気化学セル方式では、共存酸素分子と NOx 分子の量比
−97−
に従って、酸素分子の妨害により消費電力が増大してしまうが、今回開発されたセルは高度の分
子選択性を有するため、酸素量の増大に対しても性能劣化の程度が従来比1/3以下、希薄 NO
x側では浄化効率がむしろ向上する等、大幅な性能改善が認められている。さらに、実際の排ガ
ス中には、10%程度の高温水蒸気、炭化水素やCO、数∼数 10ppm の SOx が共存しているが、こ
れらに対する耐久性評価の結果、例えば高温水蒸気中でも性能劣化しない等、実用的に期待され
る結果が出つつある。さらに実用モジュール化のプロセスにも見通しが得られている。
<参考文献>
1)岩本正和,現代化学,vol.9,36-42(1998).
2)T.Hibino, Y.Kuwahara, T.Otsuka, N.Ishida, T.Oshima, Solid State Ionics 107,213-216(1998)
3)小松一也,触媒,39,216-221(1997)
4)松本伸一,ニューセラミックス,11,13-19(1998)
5)S.Pancharatnam, R.A.Huggins, D.M.Mason, J.Electrochem.Soc.122,869-875(1975)
6)E.D.Wachsman, P.Jayaweera, G.Krishnan, A.Sanjurjo, Solid State Ionics, 136,775-782(2000)
7)S.Bredikhin, K.Maeda, M.Awano, Solid State Ionics, 144,1-9(2001)
8)S.Bredikhin, K.Maeda, M.Awano, Ionics, 7,109-115(2001)
9)S.Bredikhin, K.Matsuda, K.Maeda, M.Awano, Solid State Ionics 149,327-333(2002).
10)淡野正信,S.Bredikhin,前田邦裕,マテリアルズインテグレーション,15,23-28(2002)
11)A.Aronin,G.Abrosimova,S.Bredikhin,K.Matsuda,K.Maeda,M.Awano, J. Ceram.
Soc. of Japan, 10,722-726(2002).
12)K.Matsuda, S.Bredikhin, K.Maeda, M.Awano J.Am.Ceram., in print.
13)K.Matsuda,S.Bredikhin,K.Maeda,M.Awano,Solid State Ionics, 156, 223-231(2002).
14)文志雄,黄海鎮,淡野正信,前田邦裕,神崎修三,日本セラミックス協会論文誌,110,
479-484(2002).
15)黄海鎮,文志雄,松田和幸,淡野正信,前田邦裕,日本セラミックス協会論文誌,110,
465-71(2002).
−98−
(3)NOx 浄化用酸化物系触媒の開発*2
(*2:Md. Hasan Zahir, 片山真吾,
「EXTENDED ABSTRACT OF THE 7TH SYMPOSIUM ON
SYNERGY CERAMICS (2003)」より)
1)目的
NOx 浄化を目的として進めてきた自立作動セラミックスの研究開発にける NOx 選択層の検討
過程で見出した Zn-Ga-Al-O 系の deNOx 触媒作用について、その高活性化・高耐久化を図かり、
実用化を進めている。
100
酸化物系の deNOx 触媒は、白金や
金属酸化物系
金属- ゼオライト系
conversion (%)
パラジウムなどの貴金属を使用しない
ので低コスト触媒として期待できる。
γ- ア ル ミ ナ 構 造 を 有 す る
A u/A l2 O 3
貴金属系
A g/C o-ZS M5
Maximum NO
く、酸素共存下でも活性を示すことが
知られている(図1)。しかし、 γ- ア
ルミナ構造は数百℃以上から α− ア
In-C o-A l2 O 3
A g/A l2O 3
C o 3 (P O 4 )3
P t/ZSM5
60
P t/MO R
x
Ga2O3-Al2O3 は、deNOx 触媒活性が高
Ga2 O 3 -Al2 O 3
C o-β
A u/A l2 O 3 +M n2 O 3
80
P t/W O 3
C o-ZS M5
In-Ga 2 O 3 -A l2 O 3
Mn2 O 3 +S n-ZS M5
P d/In/TiO 2 -ZrO 3
P t/S iO 2
C u-P -ZS M5
In-C o-A lO x
C o-MOR
P t/Zn(IA R )
C u-S A P O34
P d/H-M OR
P t-MF I+
In-MF I(IA R )
P t/A l2 O 3
P t-silicate
P t・B /YP O
40
C u-ZS M5
P d/A l2 O 3
A l2 O 3
Ni/A l2O 3
C o/A l2 O 3
In-Ga 2 O 3 -A l2O 3
A g/A l2 O 3
C o-silicate
Ga/H -ZS M5
C oA lO x
Ir/A l2 O 3
4
20
In/A l2 O 3
P t/C o 3 (P O 4 )2
Fe-MF I
In-TiO 2 -ZrO 2
P t-B /LaP O 4
S n/A l2 O 3
S n-Ga 2 O 3 -A l2 O 3
A l2 O 3
P t/S iO 2
P t/A l2 O 3
C o/A l2 O 3
P t-C o-silicate
A lP O 4
Rh/A l2 O 3
ルミナ構造に相転移するために安定性
Ir/In-ZS M5
0
や耐久性の乏しさに問題がある。
100
200
300
400
500
600
Temperature of maximum NO x conversion ( ℃)
Zahir らは相転移を起こさず高温まで
安定なスピネル構造に着目し、
図 1
Ga2O3-Al2O3 の γ−アルミナ構造から
Map of deNOx activity under the lean
condition for various catalysts.
スピネル構造にできる添加金属イオン
を検討し、その deNOx 触媒活性を評
価した。
2)
手段および結果
硝酸塩を出発原料とした共沈法で種々の金属イオンを添加した Ga2O3-Al2O3 を合成した結果、
Zn を添加した Zn-Ga-Al-O 系がスピネル相(図 2)となり、deNOx 触媒活性も高いことを見出
した。合成した Zn-Ga-Al-O スピネル粉末は、粒径 20nm 程度の微粉体(図 2)であり、約 50m2/g
の比較的大きな比表面積を有していた。
さらに、水蒸気存在下で 100 時間の連続評価試験を行った結果、水蒸気下では活性が低くなる
ものの 100 時間連続試験でも触媒活性の劣化が見られなかった(図3)
。
一般に、リーンバーン条件の炭化水素による NOx 還元では、酸化物系触媒は、固体酸・塩基
点が活性点として(1)∼(3)の反応に作用している。(2)の反応よる中間体{CxHyOz}の生成が NOx 還
元の鍵となるが、触媒の塩基点の塩基性が強すぎると完全に酸化されてしまって中間体{CxHyOz}
が形成されない。よって、酸化物系の触媒設計では酸点と塩基点の共存およびそれらの強度バラ
ンスが重要となる。
NO + O2
Solid Base
C2H4 + O2
→
NO2
Solid Base
→
NO2 + {CxHyOz}
・・・・・(1)
{CxHyOz}
Lewis acid
→
Solid Base
→
CO2 + H2O
N2 + CO2 + H2O
−99−
・・・・・(2)
・・・・・(3)
前記反応を考えると、本触媒の deNO 高活性は、ルイス酸点を有して(3)の反応を促進し、かつ適
度な塩基点も共存して NO2 および中間体{CxHyOz}の生成を促しているためと推測される。
30000
31 1
25000
強度
20000
15000
22 0
20nm
10000
44 0
51 1
5000
42 2
40 0
hkl=111
22 2
33 1
0
10
20
30
40
2θ/deg. (CuK)
50
図 2 XRD pattern and TEM image of
60
70
Zn-Ga-Al-O spinel.
100
◇ NOx conv.; × C2H4 conv.
NOx & C 2H 4 conv.
80
3ppm SO2
30ppm SO2
60
40
20
0
0
50
100
150
200
250
300
Time (h)
図3
Durability of deNOx catalytic activity of Zn-Ga-Al-O spinel.
(Temp.: 500oC, NO: 500ppm, C2H4: 500ppm, O2: 10%, H2O: 10%, SV: 20,000h-1)
−100−
(4)火炎で発生したすす粒子の壁面への付着挙動
1.はじめに
すす粒子は、直径 20-40nm 程度の一次粒子が連
続的に連なった凝集構造を有している。図1は、著
者(藤田)らがエチレン噴流拡散火炎を対象として
採取したすす粒子の電子顕微鏡写真の例であるが、
約 20nm の粒子が連なり、全体で 0.5 μm 程度の大
きさとなっている。ここで採取された凝集体は、通
常採取されるものより大きく、実際には一次粒子が
数個連なった 0.1 μm(100nm)程度の凝集体も多数
存在する。このような粒子を捕集する場合に、当然
ながらこの粒径に対し高い捕集性能を有する粒子ト
ラップが必要である。
微粒子の捕集の原理は様々であるが、代表的なも
のとしては、重力集塵、遠心力集塵、バグフィルタ
図1エチレン噴流拡散火炎で生
成されたスス凝集体の例
ー(遮り効果・拡散)、電気集塵、などが知られてい
る。これらの集塵法は、それぞれ適する使用条件や粒径が異なる。図2は、捕集原理の違いによ
る流速と捕集限界粒径を示しており、多くの捕集原理では、粒子を含むガスの流速が大きくなる
ほど分離できる下限の粒径が大きくなることを示している[1]。例えば、重力集塵は簡便な粒子の
分離技術であるが、粒径は静止環境でも5 μm、流れが存在すると数十 μmの大きさがなければ
分離することができない。物理的な粒子分離方式としては、遠心力集塵(サイクロン)があるが、
これにしても数 μmが分離の限度である。また、工業的に広く利用されている電気集塵は、極め
て粒径の小さいものに対して高い集塵性能を有しているが、0.1-0.5μm 程度の粒子範囲に対して
不利な条件が存在している。このように、多くの粒子の捕集原理において粒径の大きいもの、極
端に小さいものに対しては粒子の分離捕集技術が存在するが、中間の粒径条件において捕集率の
低くなる条件の存在することが知られている。
微粒子を分離捕集するうえで、最も代表的な手法はバグフィルターによる補集である。図3は、
バグフィルターを用いた場合の粒径に対する捕集効率の変化を示している[2]。バグフィルターの
場合は、基本的に遮り効果により粒子を補修するのであるが、結果として粒径の大きいものは完
全に捕集されるのに対し、特定の粒径以下のものは堆積粒子層あるいはフィルターそのものを通
過してしまう。一方、粒径が極端に小さいと拡散(ブラウン運動による壁面への付着)の効果で、
堆積層やフィルター繊維に付着するので高い捕集率が確保できる。この結果、やはり 0.1-0.5 μm
付近に粒子の捕集率が低下する条件が存在している。
先にも述べたように、ディーゼルエンジンなどの燃焼場から排出されるすす粒子は、20-40nm
の一次粒子が凝集したものであり、その外径の多くはちょうど 0.1-0.5μm に分布している。した
がって、すすの捕集効率を向上させる技術としてこの粒径に効果を発揮するものが望ましい。本
報告では、この粒径領域に対し効果的な捕集原理になりうる熱泳動効果によるすす粒子の輸送特
性について調査した結果を報告する。
−101−
図2捕集原理の違いによる流速
図3バグフィルターによる粒径と捕集
と分離限界粒子径[1]
効率の関係[2]
2.熱泳動効果による粒子の輸送
(1) 熱泳動効果について
温度勾配のある場に微粒子が置かれると、粒子が周囲気体の分子運動により受ける運動量は、
温度の高い側の面で大きく低い側で小さくなる。この温度の高い側と低い側で受ける運動量の違
いにより、粒子が高温側から低温側に輸送される現象を熱泳動効果と呼ぶ。この現象は気体粒子
の分子運動により引き起こされる現象であるため、周囲の平均的な流れが静止していても、微粒
子のみが移動するいわゆるドリフト速度が発生する。ドリフト速度は、熱泳動の原理から、温度
勾配が大きいほど、また、粒径が小さくなるほど大きくなる。ただし、粒径が分子レベルになっ
てしまうと高温側と低温側の運動量の違いを受けることがなくなってしまい、その効果が小さく
なる。結果として、適当な粒径において最も熱泳動効果が顕著に現れることになる。
(2) 熱泳動効果によるすす粒子の
輸送特性
図4は、Toda らによって実験的に調
べられた熱泳動の効果をクヌーセン数
(Kn= λ/R,λ:周囲気体の平均自由行
程、R:粒子直径)に対し、相対値とし
て示したものである。大気圧中では、
気体分子の平均自由行程は 0.1 μm 前
後であるから、粒子径が 10 μm から
0.1 μm(100nm)の範囲では粒径が小
さくなるほど、その効果が指数関数的
に増大することがわかる。
Kn≡λ/R (λ:mean free path, R:particle diameter)
図4
Kn 数と熱泳動効果(相対値)の関係[3]
−102−
Waldman らによると、熱泳動力はv( ΔT/Tm) に(v:動粘性係数、 ΔT :温度勾配、Tm:粒子
周囲の平均温度)比例することを指摘している[4]。この点と図4の結果をあわせると、熱泳動力
Ft は(1)式、また、熱泳動力と粒子が受ける粘性力の釣り合いから、熱泳動力によるドリフト速
度 Ut は(2)式のように書くことができる。
ト T
Tm
ト T
Ut = −Ct ( Kn)
6π g Tm
Ft = −Ct ( Kn)
――――( 1)
――――( 2)
ここで、Ct(Kn)はクヌーセン数で決定される比例定数、 ρg は、周囲ガス密度、rは粒子半径で
ある。比例定数に関して、Dobashi らがすす粒子に対して実験的に測定を行った結果では、Ct(Kn)
はススの一次粒子の粒径に基づくクヌーセン数に強い依存性を持ち、その値は 8×10-12 程度であ
るとしている[5]。
(3) すす粒子の壁面の付着現象
上述のように熱泳動効果は、温度勾配が存在する場で、しかも粒径がナノスケールの時に極め
て顕著に現れる。すす粒子は、この熱泳動効果を強く受ける代表的な粒子であると考えられるが、
すす粒子が熱泳動効果により輸送される様子を直接観察することは必ずしも容易ではない。これ
は、熱泳動効果が温度勾配場で生じるものであり、直接観察が可能なスケールで実験を行おうと
すると自然対流による乱れの影響が大きく、現象そのものの観察が不能となってしまうためであ
る。そこで、著者らは、微小重力環境を利用することで自然対流の影響を取り除き、すす粒子が
熱泳動により輸送される様子の観察を試みた[6,7]。
図5 円筒状バーナの概念図
図6 円筒状バーナ周囲に形成された火炎
図5は、実験に使用したバーナの概念図である。先端をなめらかな形状にした円筒バーナを低
速の一様空気流中に流れに平行に置く。なめらかな先端の直後に、周囲流れに直交して燃料を噴
出できる多孔質部分が取り付けられている。ここから燃料を噴出し着火を行うと、図6に示す円
筒バーナを取り囲むような火炎が形成される。燃料にはエチレンを使用しており、火炎の内部に
すすが発生する。すすは、火炎帯とバーナ壁面の間に挟まれた領域に発生するため、大きな温度
勾配場に置かれることになる。バーナの下流側壁面は電気ヒータで温度調節ができるようになっ
ており、壁面温度を調節することですすの存在位置の温度勾配を変化させることができる。火炎
−103−
中すす粒子の観察は、火炎の背後からレーザ光
を照射し、その透過光を撮影することにより行
った。
図7は、壁面温度を変化させすすの分布を観
察した例である。背景に火炎発光より強いレー
ザ光を置くと、映像に火炎自体は写らず、火炎
中のすすのみが影として撮影される。これらの
(a)Tw=300K
映像は、図6に示す直接火炎の上半分だけを撮
影範囲としている。また、いずれも周囲空気が
流速 5cm/s で左から右に流れている。図中黒い
影となっている部分がすすの存在位置であるが、
いずれの条件でも壁面に沿ってすすが分布して
いる。また、この図では比較できないが、目視
で観察される火炎はこのすすの存在位置より外
(b)Tw=600K
側(上側)に存在しており、すすの分布は火炎
と壁面に挟まれる領域に存在している。
ここで注目されるのは、壁面温度の違いによ
るすすの分布の違いである。写真の比較からわ
かるように、壁面温度が低いほどすすは壁面近
くに分布し、温度の上昇とともに壁面から離れ
ていく。実際に実験を行った後のバーナを直接
(c)Tw=800K
観察すると、壁面温度を低くした条件では、多
図 7 火炎内に生成されたすす粒子挙動
量のすすが壁面に体積していることも観察され
に対する壁面温度の影響(周囲酸素濃
ている。
度 35%、周囲空気流速 5cm/s、燃料噴出
流速 8mm/s)
図8
各壁面温度での
火炎面位置とすす最大
濃度位置の関係
(O2=35% N2balance,
Ua=5cm/s, Uf=0.8cm/s,
Ta=300K)
−104−
図8は、実験から得られたすすの最大濃度の位置と目視で観察した火炎位置の壁面温度による
変化を示している。縦軸が壁面からの距離(=r)、横軸が燃料噴出口前端からの距離(=x)である。
火炎位置は、壁面温度の低下とともにわずかに壁面側に近づく傾向を示すが、その影響は極めて
小さい。一方、すすの分布は壁面温度の影響を強く受け、壁面温度の低下とともに分布は壁面側
へ大きく偏る。
図9は、ここで対象とした火炎に対
し、x=90mm の断面における温度分布
を各壁面温度に対し求めた結果である。
図に見られるように、火炎の存在する
位置(r=20mm 付近)で最高温度を示し、
それよりいずれの方向に離れても温度
は低下していく。このとき、最高温度
位置より右側(火炎外側)はいずれの
壁面温度条件でもほぼ同様な温度分布
を示しているのに対し、左側(火炎内
側)では、壁面温度分布に大きな違い
図9 x=90mm の位置における温度に
あることがわかる。とくに、壁面温度
およぼす壁面温度の影響
を 300K としたときには、壁面近傍で
大きな温度勾配を示しており、壁面近傍で粒子を壁面方向へ輸送する熱泳動効果が顕著に現れる
ことが予想される((2)式参照)。
さらにもう一つ考慮すべき点は、このような場における流速分布である。図 10 は、図 9 と同
じ x=90mm の断面における軸方向速度分布(W- velocity:バーナ壁面に平行な方向の流速分布)
である。ここで、r=0mm の位置がバーナ壁面であり、r=40mm の位置がダクトの外側の壁とな
っている。
速度分布は、バーナ壁面温度によ
り若干差はあるもののほとんど同じ
分布を示している。ここで重要な点
は、壁面近傍の速度である。壁面近
傍では、速度境界層が形成され、壁
面に近づくほど速度が低下する。一
方、温度分布を見ると、壁面近傍の
温度勾配が大きくなり、結果として
壁面近傍における微粒子の輸送は、
温度勾配に起因する熱泳動効果が支
配的となる。この結果、壁面温度が
異なる条件で、壁面へのすす付着状
図 10 バーナ近傍の流速分布
況を比較すると、温度の低い場合が
大幅に付着量を増大することになる。一方火炎帯近傍にも、大きな温度勾配が存在するが、この
位置では軸方向流速が大きく、熱泳動による輸送効果はそれほど顕著には現れない。
−105−
3.まとめ
火炎中に発生するすす粒子の壁面近傍における挙動を観察し、熱泳動効果が壁面付着に対して
支配的な因子となりうることが示された。とくに、壁面近傍では周囲流れが存在する場合でも速
度境界層が形成され、熱泳動効果が粒子輸送に対して支配的な因子となる。これらの結果を考慮
すると、熱泳動効果はすす粒子の捕集原理になりうるものであり、特に狭い流路に温度勾配が存
在するような状況はすす粒子捕集に有利であると考えられる。
参考文献
[1]5訂公害防止の技術と法規-大気編-(経済産業省産業技術環境局監修、公害防止の技術法規編
集委員会)、(1998)、丸善、p.258.
[2]ウィリアム,C.ハインズ:エアロゾルテクノロジー、(1985)、井上書院.
[3] Toda,A., Ohnishi,H., Dobashi,R., Hirano,T., and Sakuraya,T., Int. Journal of Heat and Mass Transfer,
(1998), vol.41, pp.2710-2713.
[4]Waldmann, L.,”On the motion of spherical particles in nonhomogeneous gases” Rarefied Gas Dynamics
(ed. by L.Talbot), Academic Press Inc,. NewYork, 1961, pp.323-344.
[5]Dobashi,R., et al., Proceedings of the 6th International Symposium on Fire Safety Science, 1999,
pp.255-264.
[6] 対木、藤田、伊藤、2002 年度日本機械学会年次大会講演予稿集、(2002), 東京.
[7] 崔、藤田、対木、伊藤、41 回燃焼シンポジウム講演論文集, pp.249-250、(2003), つくば.
−106−
第4章
将来のディーゼル排ガス浄化課題とファインセラミックス
4.1
はじめに
第 2 章および第 3 章において、ディーゼル排ガスの現状および現在から 2005 年までに実施が
予測されるディーゼル排ガス処理技術についての調査結果を述べた。そこで本章では、それらの
調査結果を踏まえて、2005 年以降に必要となると考えられるディーゼル排ガス浄化の課題と要求
される要素技術を再確認するとともに、それらの技術課題に対するファインセラミックス材料の
寄与の可能性について総括することとした。
はじめに、第 2 章および第 3 章の各調査結果を基に、ファインセラミックス材料の寄与できる
技術分野を検討した。その結果、ディーゼル排ガス浄化技術の中でエンジン本体の燃料噴射・燃
焼・吸排気を制御するシステム系よりは、排ガスの後処理システムの革新的な技術開発に寄与で
きる可能性が高いとの結論に達した。その中でさらに検討を進めた結果、触媒材料、フィルター・
担体材料、計測評価技術、部品化基礎技術の 4 分野を、ファインセラミックス材料が寄与するこ
とにより将来的に技術革新が行える分野として取り上げることとした。さらに4分野において、
解決が必要とされる技術的な課題を検討した結果を表1にまとめて示す。
次節以降で、各分野の技術的な課題と、それを解決するために材料に要求される機能、特性、
構造等、さらにそれらの要求を実現する可能性がある候補材料・プロセスについて、順に述べて
いくことにする。
表1
分野
課題
・低温始動性
触媒材料
・貴金属使用量の低減
・高還元率化(NOx 触媒)
・複合機能化
・超微粒子捕捉性
・捕集効率向上(高効率低圧損)
フィルター,
担体材料
・信頼性向上
・低温始動性
・形状
・低コスト高性能
計測評価技術
・PM 超微粒子サイズ,数量の計測技術
・制御精度
・触媒の担持技術,アッセンブリー化技術
部品化基礎技術
・酸化触媒,NOx 触媒の配置技術
・比表面積増大
−107−
4.2
触媒材料
触媒材料は、排ガスの後処理システムの要素材料であり、第3章で先に述べたように現在は白
金・パラジウム系を中心とする貴金属触媒が主に SOF(Soluble Organic Fraction)
、HC(Hydro
Carbon)、CO(一酸化炭素)などを浄化するための酸化触媒として用いられている。その技術的
な課題として、表1に示した以下の5項目について材料に要求される機能,特性,構造および可
能性のある候補材料と手法について述べていくことにする。
(1)低温始動性
<材料に要求される機能,特性,構造>
日本国内での特に都市部での走行モードは、低中速・低中負荷運転モードが主である。したが
って、エンジン始動時(コールドスタート)から都市部での走行時の排気温度である 100−200℃
までの温度域で高活性を示す材料、また始動時に生じる水や吸着質による触媒被毒や活性阻害を
抑制できる材料が必要となる。さらに触媒活性前に吸着により排ガス成分を除去できる材料、触
媒担体を含む材料そのものを低熱容量化し温度上昇時間の短縮を図る手法、なども有効であると
考えられる。
<可能性ある候補材料と手法>
ファインセラミックスが寄与できる可能性がある材料および手法の中で、低温で高活性を示す
触媒材料としては、CO の常温酸化が期待される Au 担持 TiO2 や、ペロブスカイト系複合酸化物、
格子欠陥を用いた新規酸化物触媒、貴金属のナノ分散が可能なマイクロポア材料などが考えられ
る。また吸着材料としては HC トラップ用のゼオライト、NOx トラップ用のアルカリ、アルカリ
土類、希土類含有化合物などがある。また低熱容量化に対応するためには触媒担体の高強度・薄
壁化が望ましいが、同時に高い気孔率・比表面積が維持されて W/C(Wash/Coat)量が減少でき
ることが要求される。
(2)貴金属使用量の低減
<材料に要求される機能,特性,構造>
上記で述べたとおり、酸化触媒としての貴金属の使用は現状では必須であるが、材料コストを
考えると、できる限り貴金属の使用量を低減することが求められる。そのためには、貴金属の超
高分散化および耐熱性(特に高温での分散性の維持)の向上が可能となる基材と分散手法の開発、
さらに貴金属担持基材の高温でのシンタリングの抑制を行う必要がある。また貴金属に代替する
触媒活性物質の探索も重要となる。この代替材料には初期活性温度が低く、低温での反応速度が
高いことも当然要求される。
<可能性ある候補材料と手法>
ファインセラミックスが寄与できる可能性がある材料として注目されているのは、貴金属に代
替できるペロブスカイト系酸化物による酸化触媒反応の実現である。またペロブスカイト系酸化
物と貴金属のインテリジェント化(ベロブスカイトの格子への貴金属とりこみ)も実用化が進め
られており、今後の展開が最も期待される分野である。一方、担体材料としては従来よりも耐熱
−108−
性・機械的強度が高い複合酸化物の開発も重要である。
(3)高還元率化(NOx 触媒)
<材料に要求される機能,特性,構造>
NOx の低減は、PM(Particulate Matter)、HC、CO の低減と一般にトレードオフの関係にあ
るが、この両者の低減を両立するための試みは、3章で示したようにエンジン本体の制御システ
ム系からのアプローチである CRS(Common Rail System)
と EGR(Exhaust Gas Recirculation)
との複合化が進められている。一方、後処理技術としては、CR-DPF(Continuously Regenerating
Diesel Particulate Filter;連続再生式 DPF)と NOx 吸蔵還元触媒が主要なものである。NOx
吸蔵還元触媒での問題点の1つは硫黄成分による貴金属触媒の被毒であり、現在 600℃前後であ
る再生(吸着硫黄の脱離)温度を、始動時や低速走行時にも再生可能な 50-100℃まで低温化でき
ることが望まれている。また触媒担体の小型化のためには、NOx を現在よりも多く吸蔵できる材
料との複合化が必要である。一方、尿素を用いた SCR(Selective Catalytic Reduction, 選択触
媒還元方式)や、排ガス中の HC、CO を利用した還元反応、低温での NOx の直接分解反応など
が高効率で可能となる触媒の開発が期待されている。
<可能性ある候補材料と手法>
NOx 吸蔵用のファインセラミックス材料としては、現在アルカリ、アルカリ土類、希土類の酸
化物が用いられているが、これらの材料と硫黄が吸着しにくい TiO2、SiO2、ZrO2 などの材料と
の複合化や、アルミナ+ゼオライト系で NOx の吸着+酸化を同時に実現する材料の開発が考え
られる。
(4)複合機能化
<材料に要求される機能,特性,構造>
機能の複合化では、先に述べられているように一般にトレードオフの関係にある NOx と PM、
HC、CO の同時除去を実現するための材料・システム開発が、最も重要と考えられる。その場合、
複合化による他機能への阻害防止(SOx のトラップなど)や全走行モードに適応が可能な低温型
と高温型システムの複合化なども検討項目となる。
<可能性ある候補材料と手法>
セリア系酸化物セラミックスを用いた OSC(Oxygen Storage Component;酸素貯蔵材)と、
酸素イオン伝導体との複合化などがその候補材料として考えられる。
(5)その他
<材料に要求される機能,特性,構造>
上記以外に早急な解決が望まれているのはスートを含む固体 PM の除去であり、CR−DPF シ
ステムの他に固体 PM、スートを高速かつ高効率で酸化できる材料が求められている。また現行
の SCR 触媒で多く用いられている有害なバナジウムを用いない触媒の開発も望まれている。
−109−
<可能性ある候補材料と手法>
候補材料としては高酸素放出材料となる可能性が高い CaO-Al2O3 系や、CeO2-ZrO2 系セラミッ
クスが検討されている。また CRT−DPF システム用としては、高濃度の NOx を確実に NO2 に
酸化できる貴金属触媒用の担体材料も求められている。
4.3
フィルター・担体
フィルター・担体材料は、排ガスの後処理システムの中では PM、スートなどの固体粒子の捕
集と、酸化・還元触媒材料の担持という重要な役割を担う材料である。特に高温で高い透過性、
気孔率、比表面積、機械的強度などを維持する必要があることから、ファインセラミックス材料
の寄与が大きい部材と思われる。
DPF による PM の捕集については、現在使用されている材料でも規制に対するかなりの要求は
満足されている。しかし第2章で示されているように、今後その影響に関する調査が進むナノ粒
子の捕集や、コールドスタートや DPF 再生時のナノ粒子の放出、フィルター・担体材料の小型
化など、新たな要求が生じてくることが予想される。そこで、これらの材料に対する技術的な課
題として、表1に示した以下の5項目について要求される機能,特性,構造および可能性のある
候補材料と手法について述べていくことにする。
(1)超微粒子捕捉性・捕集効率向上
<材料に要求される機能,特性,構造>
特に DPF によるナノ PM の捕集については、10µm 以下の気孔径からなるマイクロポーラス
ハニカム構造、あるいはハニカム壁内に捕集可能な微構造を構築することなどが必要となる。そ
の場合、粗大気孔による粒子の「スリ抜け」の抑制も重要である。これらの構造を持つ材料に対
しては、捕集効果と一般にトレードオフの関係になる低圧力損失も同時に要求されることから、
高パーミアビリティ(ハニカム壁の通気性)、気孔の連通性の確保も実現する必要がある。
一方、PM と SOF の同時捕集できる材料、PM とスートの燃焼に耐えられる高耐熱性と高気孔
率、高機械的強度を併せ持つ材料などが求められている。また超微粒子の自己造粒(大粒子化)
が可能な材料や、電気的な捕集効果を発現する材料なども検討に値する。
<可能性ある候補材料と手法>
既存の多くのファインセラミックス材料について、上記の要求を実現できる可能性があるが、
特に現在用いられている炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)について細孔分布制御技術を
確立することが考えられる。またメンブレン装着ハニカムや導電材料なども開発目標の材料とし
て考えられる。
(2)信頼性向上
<材料に要求される機能,特性,構造>
将来的な排ガス削減目標に対しては、(1)で示したような次世代型の材料の探索、開発が必要
不可欠である。一方、現行の規制に対する DPF によるナノ PM の捕集については、データ上の
能力的にはかなり満足すべき特性が得られている。しかし、材料の信頼性、長期耐久性をさらに
−110−
向上させることは、現在用いられている材料に対する重要な課題となっている。その中でも特に
低弾性率、高強度、高熱伝導、低線膨張係数、高耐熱性といった物性に関する信頼性の向上を、
(1)で示した細孔制御と同時に実現することが最も求められている。また、PM 堆積量が多い
場合でも再生可能となるフィルターの実現や CR-DPF における連続再生性能力の向上も重要な
課題である。
<可能性ある候補材料と手法>
現在用いられている炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)セラミックス材料に対しては低
弾性率化、ネック形成による高強度化、ファイバー化によるクラックレス多孔質体の作製などが
考えられる。また金属−セラミックの複合材料の開発も有効である。また信頼性の向上とともに、
特性の向上を図るためには、低熱容量(低温時)と高熱容量(高温時)の両立、あるいは低熱膨
張と高熱伝導の両立できる材料の探索が必要となっている。
(3)低温始動性
<材料に要求される機能,特性,構造>
触媒の項でも示したように、国内都市部での低中速・低中負荷運転モードにおいて、微粒子の
捕集できるフィルター材料および高触媒活性を発現させることができる触媒担体材料、さらにそ
れらの複合機能を有する材料が必要となる。そのためには PM と触媒が高い頻度で接触ができる
構造の実現、触媒担持層+ナノ PM ろ過層+強度保持層の複合構造、材料の低熱容量化による温
度上昇時間の短縮を図る手法、SOF の着火によるすすの燃焼補助を行いフィルターの再生を行う
手法なども有効であると考えられる。
<可能性ある候補材料と手法>
マクロな構造形態としては、二層構造や傾斜構造を持つハニカム材料などが考えられる。低熱
容量化に対しては現用の炭化ケイ素(SiC)系、窒化ケイ素系、コーディエライト系セラミック
ス材料の高気孔率化(気孔率 60%以上)やハニカムの薄壁化、層状構造のセラミックシート材料
の応用などが考えられる。再生補助としては、半導体セラミックス材料を用いた EHC(Electrical
Heated Catalyst:電気加熱型触媒)や低温プラズマ法の応用などが考えられる。
(4)形状
<材料に要求される機能,特性,構造>
フィルター・担体材料に要求される形状には上記の(1)∼(3)の機能、特性を満足すると
ともに、圧力損失を可能な限り低くすること、マニフォールドへの装着性やエンジンルーム内へ
の搭載を前提とした小型化・形状のフレキシブル性が求められる。
<可能性ある候補材料と手法>
上記に対応可能な材料としては、これまで述べられてきたウォールフロータイプのプラグドハ
ニカム材料、セラミックフォーム、セラミックシート材料の改良や、ヘリボーンタイプの新規構
造材料、マクロな形状を従来の円筒形状から異型あるいは長方形形状に変更すること、などが考
えられる。
−111−
(5)低コスト高性能
<材料に要求される機能,特性,構造>
これまで述べたフィルター・担体材料に要求される機能については、同時に低コストでの実現
が求められる。そのためには、例えばハニカムの高セル化・多孔質化および表面の粗密化など傾
斜機能の付与、アンプラグタイプでありながら壁面への衝突回数を多くできる構造、新規の触媒
一体型担体構造の開発などを、いかに低コストの原料+低コストプロセス(特に焼成プロセス)
で実現できるかが当然求められる。また、PM フィルターの場合は特に再生時に必要な高耐熱性
と低圧力損失特性が、フィルターの長寿命化によるコスト削減と燃料エネルギーコストの削減に
直接繋がることから、低コスト高機能の実現には重要な因子となると考えられる。
<可能性ある候補材料と手法>
候補材料としてはやはり、セラミックフォーム、セラミックシート、ヘリボーンタイプ材料な
どが考えられる。材質についてはコーディエライト系材料の高機能化とともに、炭化ケイ素/窒
化ケイ素系材料の低コスト化も重要な課題となる。
4.4
計測評価技術
触媒、フィルター・担体材料の機能、特性を最大限に発揮させるためには、最適な条件になる
ように精度よく制御する必要がある。また処理すべき物質の物性およびその計測技術、浄化シス
テムおよびその構成材料の評価基準および試験方法の構築を適切に行うことが重要となる。
その中で排ガスの後処理システムとして重要な対象物質である PM、スートなどの固体微粒子
については、NOx、SOx などの気体成分物質と比較して、いまだに十分な物性評価、計測技術が
確立されているとは言えない。したがって、それら固体微粒子のサイズ・数量のセンシング技術
についてファインセラミックスが寄与できる分野について述べていくことにする。
(1)PM 超微粒子サイズ、数量の計測技術
<材料に要求される機能,特性,構造>
微粒子計測技術の中で特に PM の粒径分布の把握は、触媒・フィルター材料の双方に非常に重
要な情報となる。現在1ミクロン以下のナノ粒子を含む微小粒子の粒径分布については、走査型
モビリティ粒径分析装置(Scanning Mobility Particle Sizer, SMPS)が主に用いられている。し
かし、計測に数分程度の時間が必要なため定常走行時外の計測は困難とされている。したがって、
過渡的な過程を含む実際の走行モードでの超微粒子計測が可能な技術の開発が求められている。
<可能性ある候補材料と手法>
SMPS 以外の超微粒子を測定する手法としては、レーザー等を使った光学的な測定手法の開発
が進められている。例えばレーザー誘起白熱法(Laser Induced Incandescence, LII)を用いた
粒子測定も考案されており、過渡的過程での微粒子計測も可能とされている。SMPS を含めてこ
れらの装置の改良を進めるとともに、簡便・高精度・低コスト・車載可能な小型化など相反する
要求を実現できる新システムの考案が重要であるが、その中で、構成部品の材料として軽量・高
−112−
強度、耐熱・耐食性を持つセラミックス材料の寄与できる範囲は広いと考えられる。
(2)制御精度
<材料に要求される機能,特性,構造>
特に PM の後処理に対しては、触媒、フィルター・担体材料への PM の過大堆積による圧力損
失や急激な燃焼によるフィルター・担体材料の破損などが大きな問題となる。したがって、それ
らの機能、特性を有効に利用するためには、直接的に PM の堆積量が測定できるセンサーや、高
精度の圧力センサーやそれらの複合センサーを利用して間接的に堆積量を測定できる手法が求め
られている。これらのセンサーからのリアルタイムな情報が得られれば、より精密なエンジンコ
ントロールが可能になり、フィルター内での PM の局所的な堆積を防ぐことができ、また排ガス
の流量の一定化も実現できる。その結果、メンテナンス期間の長期化や燃費の向上が期待できる
ことになる。
<可能性ある候補材料と手法>
高温でかつ酸化・還元状態が複雑な環境の中で、高精度のセンシングが可能な材料としてはセ
ラミックスが最も適していると考えられる。圧電・焦電材料系や共振特性などを利用した新規の
小型・高速応答センサー材料の開発を進める必要がある。
4.5
部品化基礎技術
これまで示した排ガス後処理に必要な各要素技術とともに、それらを排ガス処理システム内で
有効に機能するように部品化する技術も重要となる。ここでは部品化のために特に重要と思われ
る4項目について述べていくことにする。
(1)触媒の担持技術,アッセンブリー化技術
<材料に要求される機能,特性,構造>
ここでファインセラミックス材料が寄与できる部分としては、有効な触媒担体としての機能で
あり、これまでも示されてきたように、少ない触媒で有効反応面積が確保できるように担体をマ
イクロポア+マクロポアの複合化、および耐熱衝撃性も含む機械的強度が求められる。
<可能性ある候補材料と手法>
セラミックス多孔質材料の多孔特性を最適な状態に厳密に制御することが求められる。
(2)酸化触媒・NOx 触媒の配置技術
<材料に要求される機能,特性,構造>
後処理システムに合うようなエンジン制御の動作ウインドウを明確化することが必要であるが、
その中でリーン、リッチ両方の雰囲気下、あるいは低温、高温両方の状態において触媒活性が発
現できるように配置を制御できる技術・材料が求められる。また触媒配置のエンジンへの近接化
も求められることから、材料の強度、耐熱性が高いことも重要となる。
−113−
<可能性ある候補材料と手法>
HC/NOx 吸着能を持つ多孔質材料、空気/燃料比の精密計測が可能なガスセンサー・温度セ
ンサーなどが必要な機能を持つ材料となるが、同時にそれらの材料は高温での耐熱性と機械的強
度を有していることも求められることから、当然セラミックス材料を用いることが必要となる。
また、複合機能化の項で挙げた酸素貯蔵材料(OSC)も特に触媒機能を活性化するための支援材
料の候補となる。
(3)比表面積増大
<材料に要求される機能,特性,構造>
これまで述べてきたように、触媒動作温度の高温化や DPF の異常燃焼などを考えると、フィ
ルター・担体材料には特に高温領域での高比表面積の維持が重要となる。その多孔質物性の1つ
の目安は、DPF 燃焼温度付近と考えられる 1000℃で比表面積 400m2/g の維持であり、そのよう
な特性を持つ高耐熱セラミックス触媒担体の開発が必要となる。
<可能性ある候補材料と手法>
上記の多孔質物性の実現には、適切なセラミックス耐熱材料の選択とともに、ハニカム構造体
における高セル密度化、セルの薄壁化、セル形状の制御(六角や円形)、セル自体のミクロポア化
など、マクロな構造の制御を行うことが重要となる。
−114−
第5章
まとめ
冒頭で述べた通り、「環境の世紀」である21世紀において、環境保全と省資源化を求
める声が世界中で大きくなる中で、特に、トラック・バスなどのディ−ゼル車から排出さ
れる大気汚染物質の低減が強く求められている。一方で、ディーゼルエンジンは熱効率が
高く、かつ耐久信頼性に優れていることから、最近の地球温暖化問題に対する二酸化炭素
の削減、省エネルギーに有利な動力源であるとも言える。したがってディーゼルエンジン
の排ガス処理問題が解決できれば、高効率でクリーンなディーゼルエンジンが実現でき、
地球の環境保全と省資源化に対して極めて有望な動力源となると考えられる。このような
背景を基に本調査研究では、ディーゼルエンジンを自動車用として普及・発展させるため
の最大の技術的課題である排出ガス後処理技術を確立するために、特に材料面のキーマテ
リアルと考えられるファインセラミックス材料について調査を行ってきたものである。
本報告書では、始めに車載用ディーゼルエンジンの排ガス処理技術に大きく関係する、
エンジン技術、排ガスの環境への影響、排ガス規制についての現状を調査し、それらを概
観することで排ガス処理技術に関する様々な課題を明らかにした。次に、現在すでに実用
化されている排ガス処理技術および 2005 年までに実現できると思われる技術についての
調査を進め、特に排ガス後処理の要素技術となるDPF(ディーゼルパティキュレートフ
ィルター)および触媒の開発状況、またそれに関連する技術情報について詳細な調査およ
び検討を行った。さらにそれらに関する検討、議論を通じて明らかにされたディーゼルエ
ンジンの排ガス処理に関する技術的な課題について、特に 2005 年以降に必要となると考え
られるディーゼル排ガス浄化の課題と要求される要素技術を再確認するとともに、それら
の技術課題に対するファインセラミックス材料の寄与の可能性について検討した。
本調査研究を実施するに当っては、排ガス処理技術を包括的に調査・検討することを第
一義的に考え、委員として産業界からはディーゼルエンジン搭載自動車メーカー、触媒材
料・フィルター材料メーカーの第一線の研究・技術者、官学からは自動車エンジン燃焼技
術および排ガスの環境への影響を研究している研究者に依頼した。調査研究の実施に当っ
ては各委員の精力的な調査、検討および各企業の協力により、排ガス処理技術に関連する
詳細な調査データが得られたとともに、委員会においてそれら調査データを基にした活発
な議論が委員間で行われた。このようにディーゼルエンジンの排ガス処理技術に携わって
いる研究・技術者が一堂に会して、詳細なデータを基に積極的な議論を行った例はあまり
なく、このことが本調査研究活動が実質的に大きく機能することとなった要因の一つであ
ると考えられる。
大気汚染防止、地球温暖化防止のためのエネルギー消費削減に向け、世界中が高効率で
クリーンなディーゼルエンジンの出現を待望している中で、本調査研究の報告が有効に活
用され、近い将来に排ガス処理技術の課題をクリアするためにファインセラミックス材料
が大きく貢献することを期待するものである。
−115−
この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。
非 売 品
禁無断転載
平成15年度
排ガス浄化システムに係る技術開発動向に関する
調査報告書
発
行
発行者
平成 16 年 3 月
社団法人 日 本 機 械 工 業 連 合 会
〒105-0011 東京都港区芝公園三丁目 5 番 8 号
電 話 03−3434−5384
社団法人 日本ファインセラミックス協会
〒105-0001 東京都港区虎ノ門二丁目 6 番 7 号
電 話 03−3503−3320
Fly UP