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チェルノブイリ原子力発電所事故等調査報告書 表紙~第一章

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チェルノブイリ原子力発電所事故等調査報告書 表紙~第一章
チェルノブイリ原子力発電所事故等
調査報告書
平成 27 年 11 月
新
潟
県
目
はじめに
次
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
第1章 調査概要等
1
調査目的
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
2
調査メンバー
3
調査日程
4
調査結果総括
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
第2章 調査結果
1
チェルノブイリ原子力発電所事故関係
(1)
チェルノブイリ原子力発電所
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
(2)
チェルノブイリ立入禁止区域
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
(3)
国立チェルノブイリ博物館
(4)
事故処理作業者(リクビダートル)との懇談
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22
・・・・・・・・・・・ 26
2 事故の健康影響関係
(1)
国立放射線医学研究センター
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30
(2)
ウクライナ政府立入禁止区域管理庁
(3)
ナロジチ地区行政庁
(4)
ナロジチ地区中央病院及び救急医療センター
(5)
ナロジチ地区おひさま幼稚園
・・・・・・・・・・・・・・・ 46
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52
・・・・・・・・・・・ 56
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 60
【資料編】
1
調査時の放射線量の状況(参考) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 62
2
チェルノブイリ原子力発電所事故の概要
・・・・・・・・・・・・・・ 65
はじめに
平成 27 年(2015 年)10 月 18 日から 23 日まで、知事以下7名の訪問団がウクライナ
を訪れ、チェルノブイリ原子力発電所事故及び事故によるウクライナでの被害や対策
の状況等を調査した。
まず、現地視察した同原子力発電所については、来年4月で事故から 30 年経過する
ことになるが、今も厳重な立入規制や放射能管理の下で、事故の影響を低減・除去す
る作業が国際的な支援も受けながら、粛々と行われていた。
また、国立放射線医学研究センター、立入禁止区域管理庁、ナロジチ地区行政庁な
どにおいては、専門家や実務担当者から住民等の健康被害とその対策、除染の状況な
どについて、説明を受けた。
限られた時間で、通訳を介しての聴取であったため、関心事項の全てを網羅できた
わけではなく、曖昧な回答しか返ってこなかったものもある。
また、国の体制そのものも、かつてのソビエト連邦が解体し、現在のウクライナに
変わってしまっているので、当時のゴルバチョフ政権がグラスノスチ(情報公開)を
打ち出したとはいえ、事故の真相については未だ闇に包まれている部分もある。
とはいえ、今回の訪問でかなり詳しく現況を知ることができた。史上最悪の原子力
発電所事故と云われ、その影響は今も色濃く残っているが、地下水対策や被害者認定
基準など、国全体でその拡散防止や収束あるいは救済や補償に関し、戦略的に大胆か
つ統制のとれた対応を行ったと思われる点も多い。
チェルノブイリ原子力発電所事故を文字どおり「他山の石」として、その教訓を福
島第一原子力発電所事故の今後の収束作業や我が国の原子力政策に活かしていくこと
が必要である。
1
第1章 調査概要等
1
調査目的
チェルノブイリ原子力発電所事故及び事故によるウクライナでの被害状況や対策
状況等の調査
2 調査メンバー
氏 名
役 職
泉田 裕彦
新潟県知事
坂井 康一
新潟県危機管理監
前田 奉司
新潟県知事政策局参与
山﨑 理
3
新潟県福祉保健部副部長
堀井 淳一
新潟県福祉保健部健康対策課長
小島 寛之
新潟県知事政策局秘書課副参事
飯吉 栄輔
新潟県防災局原子力安全対策課副参事
調査日程
月/日
10/18
(日)
10/19
(月)
10/20
(火)
10/21
(水)
10/22
(木)
10/23
(金)
日程
12:00
16:10
18:05
19:40
10:30
11:00
11:30
15:15
19:00
09:30
11:30
12:10
14:10
11:50
13:30
15:30
14:05
15:45
19:00
10:35
備考
成田空港発(SU261 便)
モスクワ・シェレメーチエヴォ国際空港着
同空港発(SU1818 便)
キエフ・ボルィースピリ国際空港着
チェルノブイリ立入禁止区域 30km チェックポイント着
チェルノブイリ立入禁止区域 10km チェックポイント着
チェルノブイリ原子力発電所視察
プリピャチ市視察
在ウクライナ日本国大使と会食
国立放射線医学研究センター訪問
国立チェルノブイリ博物館視察
事故処理作業者との懇談
ウクライナ政府立入禁止区域管理庁訪問
ナロジチ地区行政庁訪問
ナロジチ地区中央病院及び救急医療センター訪問
ナロジチ地区おひさま幼稚園訪問
キエフ・ボルィースピリ国際空港発(SU1807 便)
モスクワ・シェレメーチエヴォ国際空港着
同空港発(SU260 便)
成田空港着
※日本とウクライナの時差は-6時間
2
会食は知事ほか
3名出席
知事ほか1名は
立入禁止区域管
理庁訪問後ミラ
ノへ移動
ウクライナ及びチェルノブイリ原子力発電所の位置
キエフ市内調査先
※その他調査先の詳細な位置は 62~64 ページ参照
3
4 調査結果総括
(1) 調査でわかった事実
ア 事故の状況と直後の対応
①
チェルノブイリ原子力発電所の説明によれば、現在に比べ、当時の技術水準
は相当劣っていたにも拘わらず、下流域への影響を防止するため、炭鉱夫等も
動員して地下水汚染防止対策が行われ、汚染水問題は生じなかった。鉛、砂利、
スラリー等を投入して冷やし、その後、炉の周りの部屋をコンクリートで埋め、
鉄板で上部を覆った。
②
事故当時のオペレータから、出勤時まで事故発生を知らなかったこと、KG
B(ソビエト連邦国家保安委員会)が秘密保持のため電話を遮断したこと、結局
事故対応は消防や軍隊に委ねられたことなどの体験談を聞いた。
③
事故直後に、30km 圏内の住民約 11 万6千人を強制的に避難させた。風向きの
影響で、主として北東部(ウクライナのほか、ベラルーシ、ロシア)に拡散し
た。他方、110km 南にある首都キエフは 30μSv/h 程度にとどまった。
イ
チェルノブイリ原子力発電所の現状と今後の対応
①
事故の現場では、今でも立入禁止区域の車や人の出入りについて、放射能管
理が厳格に行われている。
②
事故から約 30 年が経過し、施設が老朽化しているため、事故を起こした4号
機を新たに覆う巨大なシェルターを隣地で建設中であった。幅 257m 奥行き 150m
高さ 108m、総工費は 20 億ユーロ以上で、G7の支援を受けて 2017 年完成予定
である。
③
視察時におおよその放射線量を測定したところ、4号機石棺から 250m ぐらい
の地点で 15μSv/h、3号機建屋内で最大 19μSv/h、立入禁止区域で発電所から
4km のプリピャチ市で 0.5-2μSv/h だった。
なお、10 月 19 日の一連のチェルノブイリ原子力発電所等視察における積算の
被ばく量は、個人で差があったが平均で8μSv 程度であった。
④
ウクライナ政府立入禁止区域管理庁では、核燃料等の最終処分先は未定なが
ら立入禁止区域内となる可能性が高いこと、原発事故被害者数は約 200 万人で、
その判断基準は 1991 年の法律に基づき居住年数や事故処理実績等によることな
どの説明を受けた。
⑤
チェルノブイリ発電所は、4号機の事故後、他の号機を順次運転再開し、最
終的に 2000 年に停止したが、ウクライナ全体では、現在でも総発電量の 45%を
原子力発電に依存している。
ウ 被害者等の状況と対応
①
国立放射線医学研究センターでは、事故の被害は白血病、甲状腺がん、心臓
血管系の疾患が主なものであり、特に原発事故処理作業者でがん発生のリスク
が高いという説明を受けた。
②
リクビダートルと呼ばれる事故処理に関わった作業員は約 60 万人で、医療費
支援や住宅の提供など様々な支援制度があり、国家の英雄として顕彰されてい
4
る。
③
具体的には、長期的影響として、(ⅰ)がん、(ⅱ)白血病、(ⅲ)心臓疾患があ
る。(ⅰ)-(ⅲ)とも被ばく者に一番影響が出ている。がんについては、特に甲
状腺がんが子ども、リクビダートル、避難者に見られる。白血病は、リクビダ
ートルについて統計上 2011 年まで続いて現れている。
④
ナロジチ地区中央病院では、小さな子どもより思春期の子どもの体の方が、
甲状腺被害を受けやすい結果が出ており、アメリカのプロジェクトチームが長
期間検査を実施し、継続的に関わっているとの説明があった。
エ 住民の健康管理等
① 出生率がいったん減少したのち回復しているが、その原因について尋ねたと
ころ、事故とは関係がなく、ソビエト連邦崩壊後の経済混乱であるとの答えだ
った。
②
被害者への補償は、避難者、リクビダートル、汚染地域居住者、被ばくした
両親から生まれた子どもの4つのカテゴリーに分けられ、光熱費、検診費、薬
剤費、治療費などが措置される。
③
事故直後は、旧ソビエト連邦政府が対応措置のために年間約 40 億 US ドルも
の多額の予算を措置していたが、1991 年のウクライナ独立後、大幅に減り現在
は約1億 US ドル程度となっている。
オ 除染、検査等の状況
①
10km 圏内の全ての木造住宅は、火災による放射性物質の拡散を防ぐため、壊
した上で地中に埋められた。
②
森も被ばくしたので、伐採し埋めた後、新たな植林を行ったが、一部奇形が
見られた。
③
全ての汚染地域に検査場がある。1990 年代には汚染野菜はほぼなくなり、現
在は肉と牛乳のみ問題がある。現在は 2006 年に決めた基準で判断している。
④
現在も発電所周辺の地下水の検査をしているが、汚染されていない。
⑤
汚染地域は、第1ゾーン(立入禁止区域)
、第2ゾーン(強制移住区域
5mSv 超相当 )
、第3ゾーン(任意移住区域
(放射線管理区域
年間
年間1mSv 超相当)
、第4ゾーン
年間 0.5mSv 超相当)に区分されていたが、2014 年に第4ゾ
ーンは廃止された。
⑥
原発の西側に位置するジトーミル州は、州面積の約4割が放射能汚染地とな
っている。その最大の汚染地がナロジチ地区で、当時約3万人いた人口が、現
在は登録者数で約9千人に減少している。しかし、ほかに3千人の未登録者が
おり、登録者数分の予算措置しかされないため財政が逼迫しているとの説明が
あった。
⑦
ナロジチ地区では、汚染した農地は放置している。除染作業としては水をま
き洗浄したほか、屋根は葺き替え、出入り口はコンクリートに変えた。また、
暖房も薪をやめ、ガス配管化した。
5
(2)
所見
ア 事故の状況と直後の対応
①
旧ソビエト連邦は核保有国のため、核に対する専門的な知識を持った部隊、
組織があり、情報公開等の点で問題はあったが、事態の悪化防止を最優先に統
制のとれた対応をしていたと思われる。
②
放射性物質が出ないように放射線レベルをコントロールしながら対処し、か
つ水を汚さないことを基本に、最初から戦略的に行っていたと思われる。
イ
チェルノブイリ原子力発電所の現状と今後の対応
①
現在でも、厳格な放射能管理を行うともに、新たなシェルターを巨費を投じ
て建設するなど事故の影響を最小限に抑えている一方で、本格的な除染や廃炉
作業は、後世の技術開発等に委ねるとしているところに現時点での限界を感じ
た。
②
最も心がけているのは何かと尋ねたところ、
「職員の教育・訓練である」とい
う答えが、即座に返ってきたことが印象的であった。
ウ 被害者等の状況と対応
①
リクビダートルを国家の英雄として称えるとともに、様々な支援制度を作る
など、社会全体で支える仕組みができていた。
エ 住民の健康管理等
①
1991 年の法律で、明確な基準により補償範囲を定めていること、対象資格は
症状によるのではなく、居住年数や従事作業経験など客観的基準で判断してい
ることは参考になると思われる。
②
ナロジチ地区行政庁や幼稚園では、メンタルストレスの原因として、原発事
故よりも、最近の内外の紛争・混乱やドル高を挙げていた。過去の原発事故以
上に、最近の諸情勢が影を落としていると思われた。
オ 除染、検査等の状況
①
除染や検査も地域の実情に応じて行われているが、国土が広いことや元々原
子力発電所が人口の少ない地域に立地していることもあり、無理に原状回復な
どを目指さず、現実的な範囲で対処していると感じられた。
6
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